佐々木「キョン、セ・リーグCSファイナル第二戦が始まるよ」


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1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/21(木) 17:47:45.42 ID:K8l4AUdM0

 試合開始を待ってる時間ってものは、何となく手持ち無沙汰である。

 今日の試合展開に予想をめぐらせても、数分後にはどうしようもなく既定事項となった現実を見せつけられるのだからな。

 することもなくリビングに目を向けると、今日も今日とてよくぞここまで集まったと褒めてやりたくなるような大人数が詰め掛けている。

 俺や古泉は当事者だからいいとして、ハルヒや、それに強制連行されたであろう長門と朝比奈さん、そして佐々木と橘、お前ら相当ヒマなんだなとツッコミを入れてやりたくなるぞ。

 そんなぼんやりとした時間を、いつものように佐々木の抱き枕となりながら過ごしていると、おもむろに古泉が口を開いた。

「みなさん、どうしてこちらにいらっしゃっているのですか?」

 あにはからんや、俺がツッコミたかったことを古泉が代弁しやがった。おい、ハルヒに嘆願して読心術でも体得したんじゃないだろうな?

 ハルヒの前でそんな指摘を口にすることもできるわけもなく、事態の推移を見守っていると、ハルヒの大声が口火を切った。

「あ、あたしはSOS団団長として、この賭けを見届ける義務があるもの。みくるちゃんや有希だってそうよ。SOS団のメンバーなんだからね!」

 早口でまくしたてたのは、何か後ろ暗いところでもあるのだろうか。やれやれ、ハルヒが何か良からぬことを考えてなければいいが。

「あたしは佐々木さんの付き添いです」

 次に回答を示したのは橘だった。まあ佐々木のガーディアンである橘としては、順当な理由であるような気がしないでもないかもしれない。

「なるほど。涼宮さんや橘さんの言い分はご尤もです。では、佐々木さんはどうしてここにいらっしゃるのでしょうか」

 古泉からの質問を突きつけられた佐々木は、驚いたように身をすくめてしまった。佐々木、どうかしたのか?

2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/21(木) 17:48:56.41 ID:K8l4AUdM0

「我々が彼の友人であることに配慮頂いているとしても、連日連夜大人数で詰め掛けるのはいささか失礼に当たるかと思いましたので」

「なるべくであれば、ご家人の迷惑にならないよう自制を心がけるのも、我々に課されたルールなのではないでしょうか」

 おい古泉、お前の言い方はいちいちご尤もだけどよ。せっかく来てくれてるやつに失礼だろ。見ろよ、佐々木が怯えてるじゃないか。

「あなたが迷惑に感じなくとも、ご家族がそう思っているかもしれません」

 うちの母親だって、こんだけ友達が来てくれてる嬉しいって言ってたぞ。

 なあ古泉、俺にはお前の言葉が要らんやつを追い出そうとしてるようにしか聞こえないんだが。

「おや、邪推をされるとは困りましたね。僕はあなたを含めたご家族の迷惑にならないようにという配慮から申し上げたのですが」

「そうだね。古泉さんの言う事は尤もだ。キョンのご家族の迷惑になるのであれば、僕は――」

 佐々木の温もりが離れようとしている気配を感じ、とっさに口を開いてしまった。なぜここまで焦ったのか、未だにわからん。

「さ、佐々木は巨人ファンなんだよな? こいつは熱心な日ハムファンだが、セ・リーグじゃ巨人を応援してるんだ」

「え? あ、うん……。僕はキョンが……キョンの応援するチームが好きだよ」

 我ながらこじつけもいいところだ。打ち合わせなしで合わせてくれた佐々木にも感謝せねばなるまい。

 ハルヒがずるいとか喚いていたが、騒動は治まりそうだ。安心した俺に、なぜか古泉が耳打ちをしてきやがった。顔が近いぞ。

「涼宮さんや佐々木さんに助け舟を出すつもりだったのですが、危ないところでしたね。助けていただいてありがとうございます」

 なぜお前にまで感謝されなければならないのか意味がわからん。まあいい、おかげで佐々木という味方を得たわけだしな。今回のことは不問にしてやるよ。

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/21(木) 17:50:31.44 ID:K8l4AUdM0

※このスッドレは『涼宮ハルヒの憂鬱』シリーズに登場したキャラクターが、キョンを賭けて担当チームを応援するスレです。
※原作『涼宮ハルヒの驚愕』までのネタバレがあるかもしれません。アニメだけしか観ていない方はご注意下さい。
※話の流れは実際の試合展開に順じます。
 → TBS系列の地上波、NHK BS1、CS「J sports 2」などで視聴できます。

【主な登場人物】
 ・キョン:読売ジャイアンツファン
 ・古泉一樹:中日ドラゴンズファン

 ・佐々木さん:北海道日本ハムファイターズファン

【お知らせ】
 ・当スレの佐々木さんとキョンは、2009年日本シリーズに登場したキャラクターと同一ではありますが、
.  諸事情により(一年間の時間遡行を受け)二人で試合観戦した記憶を失い、親友という関係に戻っています。

 ⇒『諸事情』について知りたい方は、2010年パ・リーグ開幕カードをご参照下さい。
   三回戦:ttp://www.vipss.net/haruhi/1269230814.html
   ※「ハルヒSSまとめサイト+α」さんより

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/21(木) 17:59:17.16 ID:K8l4AUdM0

先発:吉見−内海

「ようやく内海投手が出てきましたね」

「ケガでもしたのかと心配したが、登板回避は原の奇策だったみたいだな」

「坂本選手は腰痛でスタメンを外れていますし、そちらとしては一安心といったところでしょうか」

「まあな。ただ、内海を温存した試合はどっちも流れが悪かった。素直に出した方が良かったんじゃないかって思っちまうよ」

「奇策に溺れれば運が細ると、どなたかの言葉にもありましたね」

 古泉、俺の記憶違いならいいんだが、それは周囲からざわざわと声が漏れるような漫画じゃなかったか……?

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/21(木) 18:03:19.20 ID:K8l4AUdM0

一回表 竜0−0巨 無死一塁 P:吉見
脇谷 左安

「吉見かよ、やれやれ、こいつには5勝も献上してるからな。今日も厳しくなりそうだ」

「キョン、悲観するものでもないよ。一度は巨人の打棒によって打ち崩したではないか」

「ああ、そんな試合もあったか。それじゃせいぜい期待するとでも――お、脇谷が初球ヒットか」

「ふふ、幸先のいい立ち上がりではないか。期待しているよ、キョン」

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/21(木) 18:10:33.44 ID:K8l4AUdM0

一回表 竜0−0巨 チェンジ P:吉見
亀井 遊ゴ(進塁打)
小笠原 二ゴ(進塁打)
ラミレス 一邪飛

「しっかし、亀井は送れねえな……」

「エンドランがかかっていなければ、併殺の場面だった。けれど、結果的に送れたのだ、喜ぶべき場面だよ」

「内容云々いってる場合でもないし、結果オーライだな」

「ふふ、キョンもわかってきたようだね」



「お二人で盛り上がってるところ大変申し訳ないのですが、後続は吉見投手が抑えましたね」

「ええっ!?」

 タイムリー欠乏症は相変わらずかよ。

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/21(木) 18:18:30.53 ID:K8l4AUdM0

一回裏 竜0−0巨 チェンジ P:内海
荒木 右飛
英智 中安
森野 みのさん
和田 三邪飛

「先発の内海だけれど、好調であるように見受けられるね」

「まあな、ここまで出し惜しみするくらいだから、故障でも抱えてるのかと思ったんだが」

「ふむ、その心配もないようだね。巨人ベンチとしては一安心と言ったところだろうか」

「ランナーは出しちまったが、いい立ち上がりだったな。がんばれよ内海」

「うん! このまましっかりと抑えて欲しいね」



「……古泉くん、あの二人を凹ませなさい。これは団長命令よ」

「はっ、仰せのままに」

 ハルヒから黒いオーラを感じるんだが、気のせいだよな……?

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/21(木) 18:21:41.81 ID:K8l4AUdM0

二回表 竜0−0巨 一死 P:吉見
慎之助 みのさん

「さすが吉見投手ですね。あの阿部捕手を三球三振ですか」

「いいわよ吉見! そのままじゃんじゃん投げなさい!」

 ハルヒが中日の応援をしているのはなぜだ……。

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/21(木) 18:26:52.35 ID:K8l4AUdM0

二回表 竜0−0巨 二死一塁 P:吉見
由伸 二ゴ
長野 左安
古城 敬遠(長野盗塁)

「お、長野が打ったか」

「吉見投手も抑えてはいるけれど、昨日のチェン投手と比較するとつけいる隙はありそうだね」

「古城は敬遠か。長野もよく走ったんだがな」

「次が内海だからね。一塁が空いていれば、投手と勝負するのは定石さ」

 まあ、何気に内海も打点あげてるからな。期待しておくか。

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/21(木) 18:30:15.85 ID:K8l4AUdM0

二回表 竜0−0巨 チェンジ P:吉見
内海 からさん

「さすが吉見投手と言ったところですね。ランナーを背負っても落ち着きがありました」

 古泉がほっとしてやがる。やれやれ、バッター内海とはいえ、これで何打席タイムリーが出てないんだよ。

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/21(木) 18:25:44.45 ID:ZvpXVL4NO

おー1年ぶり!!
ダルがメジャー行かなくてよかったね佐々木さん

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/21(木) 18:32:19.05 ID:K8l4AUdM0

>>19
「ダルビッシュは元々メジャー移籍に否定的なスタンスを取っているからね」

「シーズン終了から様々な報道があったが、それに惑わされることなく、僕は彼を信じていたよ」

 佐々木、建山だけなじゃくダルビッシュまでいなくなるって泣いてたのは俺の幻覚だったのか?

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/21(木) 18:37:16.77 ID:K8l4AUdM0

二回裏 竜0−0巨 一死一二塁 P:内海
ブランコ からさん
藤井 よんたま
谷繁 右安

「ふむ、内海投手はずいぶんとテンポのいい投球をされますね」

 ビシビシとキャッチャーミットに投げ込む内海の姿に、古泉が声を上げた。

 確かにテンポはいいがな、俺には投げ急いでいるようにも見えるぞ。

「そういう見方もあるかもしれませんね。おや、藤井選手にはフォアボールですか」

 ブランコはうまく抑えたんだがな。やれやれ、やっかいなランナーを出したもんだぜ。

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/21(木) 18:43:06.24 ID:K8l4AUdM0

二回裏 竜1−0巨 二死一三塁 P:内海
堂上直 からさん
吉見 中タイムリー!

「おい、なんでピッチャーにタイムリーなんて打たれてんだよ……」

「無得点かと思っていたのですが、吉見投手が打ってくれましたか。まさに僥倖ですね」

 しかも次は当たってる荒木かよ。内海、一点は仕方ない。次は抑えろよ。

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/21(木) 18:45:27.90 ID:K8l4AUdM0

二回裏 竜1−0巨 チェンジ P:内海
荒木 遊ゴ

「荒木選手は倒れてしまいましたか。しかし先制点は大きいですね」

 業腹だが、先制点の重要性には同感だよ。やれやれ、今日も完封負けなんて展開はやめてくれよ。

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/21(木) 18:48:40.29 ID:K8l4AUdM0

三回表 竜1−0巨 無死一塁 P:吉見
脇谷 中安

「キョン……」

 さっきから佐々木が大人しいと思っていたが、中日の先制で気落ちしちまったみたいだな。

 やれやれ、そこまで肩入れしてくれるのは嬉しいが、そんな顔してくれるなよ。

「佐々木、そんなに凹むんじゃない。ほら見ろよ、脇谷が先頭で出たぞ」

「うん、そうだね。僕もしっかりと応援しなくては」



「古泉くん、一点じゃまだまだ足りないわ。十桁得点しなさい」

「涼宮さんの仰せのままに」

 古泉、十桁得点にはつっこまないのか?

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/21(木) 18:55:27.43 ID:K8l4AUdM0

三回表 竜1−0巨 チェンジ P:吉見
亀井 二飛
小笠原 右飛
ラミレス 左飛

「亀井は本当に送れないね。さすがに二番というポジションはまずいのではないだろうか」

 佐々木、お前が心配するのも尤もなんだがな。坂本が離脱して、ますます内野が手薄なんだ。

 由伸が一塁って手もあるが、原は亀井が大好きだからな。なかなか代えられないだろ。

「なるほど、坂本離脱の影響がこんなところにまで波及しているのだね……」

 やれやれ、そんな暗い顔をしてくれるなよ。なるべくなら、笑ってる顔の方を眺めていたいんだ。

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/21(木) 18:59:03.13 ID:K8l4AUdM0

三回裏 竜1−0巨 無死一二塁 P:内海
英智 投安(内海グラブで弾く)
森野 中安

「あっ、惜しい」

「一度は内海のグラブに入りかけたんだがな」

「森野の打球もセンター前に落ちてしまったね。流れが良くない証なのだろうか……」

 佐々木が指摘するように、流れが悪いことは否定しないけどな。やれやれ、このまま試合が決まらないことを祈るのみだ。

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/21(木) 19:01:46.87 ID:K8l4AUdM0

三回裏 竜1−0巨 無死満塁 P:内海
和田 死球

「そ、そんな……、ノーアウト満塁なんて……」

 佐々木がえらく怯えている。巨人の応援に引き込んだのは早計だったかもしれないな。



「いいわよ、古泉くん。佐々木さんが凹んでいるわ」

「お褒めに預かり恐縮です」

 ハルヒと古泉は何のコントをやってるんだ?

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/21(木) 19:06:00.60 ID:K8l4AUdM0

三回裏 竜2−0巨 一死一二塁 P:内海
ブランコ 左犠飛

「点が入っちゃった……」

「まあ犠牲フライだからな。アウト取れただけでも良しとするさ」

「うん、そうだね……」



「古泉くん、まだ押しが足りないわよ。追加点いきなさい」

「はい、涼宮閣下」

 古泉、口調がいつぞやのコンピ研との一件みたいになってるぞ。

51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/21(木) 19:09:21.39 ID:K8l4AUdM0

三回裏 竜2−0巨 チェンジ P:内海
藤井 三併殺

「ちょ、ちょっと古泉くん! ゲッツーってなんなのよ!」

「涼宮閣下、お言葉ではありますが、ここで一気に勝負を決めては情緒に欠けるというものです」

「ふうん、そう言うなら別にいいけど」

 古泉の操縦手腕には相変わらず舌を巻いちまうな。

55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/21(木) 19:13:04.41 ID:K8l4AUdM0

四回表 竜2−0巨 チェンジ P:吉見
慎之助 二ゴ
由伸 一ゴ
長野 みのさん

「いくらなんでもあっさりすぎるだろ」

「吉見投手も本来の調子を取り戻したようですね」

 やれやれ、こんなピッチング見せられたら、古泉の指摘を茶化すこともできねえぞ。

61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/21(木) 19:23:16.31 ID:K8l4AUdM0

四回裏 竜2−0巨 チェンジ P:内海
谷繁 中飛
堂上直 からさん
吉見 遊ゴ

「三者凡退か。下位打線とはいえ、流れのない場面でよく抑えたぜ」

「ファイターズは堅牢な守備で流れを呼び込んでいるからね。巨人にも期待したいところだよ」



「佐々木さんも意外と毒を吐くのね」

「涼宮閣下、今の発言は決して揶揄ではないかと」

 ハルヒ、せっかく流そうとしてたんだ。お前がまぜっかえすな。

66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/21(木) 19:31:01.61 ID:K8l4AUdM0

五回表 竜2−0巨 チェンジ P:内海
古城 二ゴ
内海 みのさん
脇谷 からさん

「キョン……」

 佐々木がこちらを見上げている。やれやれ、涙目じゃねえか。

 ――どこかでこんな顔をする佐々木を見たような気がする。

 それがいつどこであったことなのか思い出せないのがもどかしい……。

70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/21(木) 19:35:41.91 ID:K8l4AUdM0

五回裏 竜2−0巨 チェンジ P:内海
荒木 左飛
英智 二ゴ
森野 一ゴ

「試合が落ち着いてきたようですね。こちらとしては嬉しい展開ですよ」

 やれやれ、三者凡退だってのに余裕あるじゃねえか古泉。

 まあ、あれだけの投手陣が居ればそんな感想も出てくるのかもしれないけどよ。

 打撃中心のチームからすれば、ロースコアゲームは厳しいぜ。

77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/21(木) 19:46:31.48 ID:K8l4AUdM0

六回表 竜2−0巨 チェンジ P:吉見
亀井 中飛
小笠原 三邪飛(森野好捕!)
ラミレス 遊ゴ

 二番から打順だってのに三凡かよ。やれやれ、溜息しかでないぞ。

「佐々木、悪かったな。とっさのこととはいえ、お前まで巻き込んじまって」

「そんなことないよ。こんな風にキョンと観戦できて、僕は嬉しいよ」

 お世辞だとわかっちゃいるがな。そんなこと言われると、妙な気分になりそうだ。

 佐々木が、これだけ熱心に応援してくれてるんだ。こいつに敗退の憂き目を二度も味あわせるわけにはいかないよな。

78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/21(木) 19:48:41.60 ID:K8l4AUdM0

六回裏 竜2−0巨 一死一塁 P:内海
和田 左安
ブランコ からさん

「さすが和田選手ですね。彼の打棒には光るものがありますよ」

 おい古泉、それは揶揄じゃなくて褒め言葉なんだよな?

85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/21(木) 19:58:01.98 ID:K8l4AUdM0

六回裏 竜2−0巨 チェンジ P:内海
藤井 中飛
谷繁 三ゴ

「谷繁捕手もよく粘ったのですが、さすがに追加点とは行きませんでしたか」

「今でさえ厳しいんだ。これ以上離されたらたまんねえぞ」

 やれやれ、簡単にいくとは思っていなかったが、これほど苦しむとは想像してなかったぞ。

 ナゴヤドームに何か呪いでもかけられちまったのかって的外れなことを信じたくなっちまうな。

89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/21(木) 20:01:58.72 ID:K8l4AUdM0

七回表 竜2−0巨 一死一二塁 P:吉見
慎之助 遊ゴ
由伸 左二
長野 死球

「キョン、ツーベースが出たよ」

「ああ、そうだな。しかし、ここまでタイムリーが0なんだ。一点でもいいから点が欲しいところだぜ」

「そうだね。ここが正念場だ」

 佐々木にも元気が戻ってきたみたいだな。やれやれ、こいつがはしゃぎまわる姿を拝みたいところだ。

95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/21(木) 20:07:53.78 ID:K8l4AUdM0

七回表 竜2−0巨 二死一三塁 P:吉見
古城 投ゴ(二塁封殺)

「ひぃっ!」

 佐々木の引きつった悲鳴が聞こえてきた。

 辛うじてゲッツーは免れたが、打球が飛んだ時にはさすがに終わったと思ったぞ……。

「佐々木、大丈夫だ。まだ終わってないぞ」

「うん、応援しなきゃね……」

 どうして佐々木がここまで応援してくれるのかはわからない。

 けれど、心強いのは確かだ。頼む、打ってくれ。

106 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/21(木) 20:13:40.08 ID:K8l4AUdM0

七回表 竜2−0巨 チェンジ P:吉見
内海 → 矢野 三ゴ

「そんな……」

 やれやれ、好調だった矢野も凡退かよ。まさにお手上げだな。

「キョン、ごめんね。力になれなくて……」

 なんでお前が謝るんだよ。一緒に応援してもらって心強いんだ。

 無理強いはできないが、良かったらまだ付き合ってくれ。

「うん、僕がんばるからね……」



「これ以上ないくらい佐々木さんを凹ませているのに、イラつくのはどうしてかしらね……」

「涼宮閣下、それについてはさすがにわかりかねます」

111 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/21(木) 20:18:32.29 ID:K8l4AUdM0

七回表 竜2−0巨 チェンジ P:久保
堂上直 → 堂上剛 からさん
吉見 みのさん
荒木 三ゴ

「吉見続投かよ」

「球数も抑えていますし、代える理由がないですね」

 調子が悪いのはドアラくらいとはな。やれやれ、本当にこのまま終わっちまうぞ。

122 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/21(木) 20:23:27.45 ID:K8l4AUdM0

八回表 竜2−0巨 無死二塁 P:吉見
脇谷 左二

※堂上剛 → 岩崎(二)

「これで脇谷は三安打なのだね。一番バッターとしてこれ以上ない仕事ではないか」

「脇谷が仕事してくれている分、亀井の悪さが目立っちまうな」

「そうだね。最低限ランナーが進めばいいのだけれど……」

 ここは代えてもいい場面だと思うんだがな。やれやれ、交代はなしかよ。

135 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/21(木) 20:29:55.22 ID:K8l4AUdM0

八回表 竜2−0巨 一死二塁 P:吉見
亀井 からさん

「…………」

 佐々木も言葉がないようだ。

 亀井もいい当たりのファウルなんかがあったんだが、結局は三振か。

 やれやれ、原じゃねえけど、ここは切り替えていくしかないか。小笠原、打ってくれ。

154 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/21(木) 20:38:44.70 ID:K8l4AUdM0

八回表 竜2−0巨 チェンジ P:吉見 → 高橋
小笠原 遊ゴ
ラミレス からさん

「ノーアウト二塁の場面ですから、一点は覚悟していたのですが。まさに望外の展開ですね」

 普段から中日を応援してる古泉が言うんだから、まさに完璧な出来なんだろうな。

 やれやれ、こっちは完璧なんて言わねえよ。せめて最低限の仕事くらいしてくれ。

170 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/21(木) 20:46:36.93 ID:K8l4AUdM0

八回裏 竜2−0巨 チェンジ P:久保
英智 遊直
森野 二ゴ
和田 からさん

「おや、高橋投手は続投のようですね」

 高橋の出来を見る限り、岩瀬と代わりなく仕事ができそうだしな。

 二戦連続完封負けなんてするんじゃねえぞ。

180 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/21(木) 20:49:45.99 ID:K8l4AUdM0

九回表 竜2−0巨 一死 P:高橋
慎之助 一ゴ

 やれやれ、慎之助も気のないバッティングだったな。

「おや、ここで浅尾投手ですか」

 いいように試合を動かされちまってる気がするぞ。せめて意地を見せて欲しいもんだ。

210 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/21(木) 20:58:40.83 ID:K8l4AUdM0

九回表 竜2−0巨 試合終了 P:高橋 → 浅尾
由伸 二ゴ
長野 左飛

 やれやれ、二試合連続完封負けかよ。ぐうの音も出ねえぞ。

「キョン……」

 佐々木が不安そうにこちらを見上げている。その大きな瞳に涙が滲んでいるのを見るのは正直辛い。

「佐々木、悪かったな。せっかく応援してくれたのに、こんなことになっちまって」

 佐々木は声をあげることもなく、俺の胸に顔を埋め、かぶりを振っている。

 そんなことはないって言いたいんだろうか。

 しかし、巨人は最悪の形で王手をかけられちまったな。やれやれ、せめて一矢を報いて欲しいもんだぜ。

229 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/21(木) 21:06:16.51 ID:K8l4AUdM0

お疲れ様でした!

中日が連夜の完封と、自慢の投手陣を見せつけるような試合でした。
ホームランはおろか、タイムリーさえ出ていない巨人は、いよいよ追い詰められましたね。

明日もまた18時頃にスレ立てしようと思っております。
スレッドの立ちにくい状況が続いておりますので、時間に遅れるかもしれませんが、
もし見かけましたときは、お付き合い頂けますと幸いです。

中日がこのままCS優勝を決めるのか、巨人が一矢報いるのか、明日の試合も楽しみです。
本日はお付き合い頂き、ありがとうございました。

253 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/21(木) 22:08:28.08 ID:K8l4AUdM0

 連夜の完封負けに呆然としたいところだったが、胸で落涙する佐々木の世話をしていたらそんな気分でもなくなっちまった。

 俺の代わりに泣いてくれてるのかと思うと、面倒を見ないわけにもいかないよな。やれやれ。




 まあ、そんな俺を見咎めてハルヒが暴れるなんて場面もあったが、古泉に促され、不承不承ながらも帰宅の途についたようだ。

 ハルヒたちSOS団女子メンバーは昨日と同じく、古泉の呼び寄せた例のタクシーに同乗して帰っていった。

 運転手の顔は見えなかったが、新川さんではなさそうだった。まあそれもそうだ。慇懃な執事がタクシー運転手なんてやってたらハルヒでなくとも驚くだろう。

 俺はといえば、橘の呼び寄せたタクシーに、佐々木と共に乗り込んでいた。

 自分の家から出歩くような非行まがいの行動をしているのには理由がある。橘に一緒に来るよう言われたのだ。

 佐々木絡みで話があるらしい。その名前を出されちゃ断れないよな。まあ、橘が真顔だった時点で断るつもりなんかさらさらなかったけどよ。

254 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/21(木) 22:09:56.46 ID:K8l4AUdM0

 そういや、パ・リーグのクライマックスファイナルは、ロッテの劇的な逆転優勝によって幕を閉じたんだったな。

 圧倒的優位にありながら、また早々に王手をかけながら、クライマックス敗退という憂き目を味わった橘の心境はどんなものだったんだろうか。

 試合終了直後、橘は何でもなさそうな様子でいたが、佐々木に声をかけられたとき、抑えていたものが決壊したのだろう、しきりに「ごめんなさい」と繰り返しながら涙を流していた。

 橘は佐々木に何を謝っていたのだろうか。俺に思いつくのは一つくらいだが、それはこの賭けに無関係だしな。

 そんな下らない事を徒然なるままに考えていると、いつの間にかタクシーは目的地に到着していた。歩いても十分程度の距離だからな、車ならあっという間か。

 そして橘は、固辞する佐々木を制して、玄関のドアが閉まる様子をタクシーの外から見守っていた。

 この超能力者がどれだけ自分の神様を大切にしているか、見せつけられたような光景だった。まあ俺も橘に倣ったけどよ。

256 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/21(木) 22:11:31.78 ID:K8l4AUdM0

 佐々木の見送りも終わり、橘に促されるまま後部座席へ腰を落ち着ける。

 それを待っていたかのように、超能力者はおもむろに口を開いた。

「佐々木さん今すごく落ち込んでるでしょ。でもあたし最近まで気づかなかったんです」

 おいおい、大丈夫か? お前の組織にとって佐々木は重要な監視対称なんだろ。あんな劇的な変化も見逃すようじゃ――

 橘はややいらだたしげに、俺の言葉をさえぎって、

「佐々木さん、あなた以外の前では普通なんです」

 どういうことだ? 佐々木の普通ってのは、めそめそしたり、しょんぼり落ち込んだりってのを指してるのか?

「違います」

 やけにキッパリと言い切った。俺にとっては冗談にしか聞こえない内容なのだが、どうやら本当のことであるらしい。

258 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/21(木) 22:13:13.21 ID:K8l4AUdM0

「佐々木さんがこの賭けに熱心だったことは知ってました。だからあたし、日ハムが負けてから本当に注意してたんです」

「……彼女、本当にいつも通りだったの。学校も休まなかったし、友達とも明るくお話してて、勉強もがんばってて」

「あなたの家に通いつめてるのはちょっと気がかりだったけど、でも佐々木さん落ち込んでないんだなって安心してた」

 ここまで一気に話した橘は、ふうと短いため息を漏らした。自嘲するような響きが混じっていたのは、俺の気のせいであればいいと思う。

「だからあたし、すごく驚いたんです。佐々木さんがあなたの前で子供みたいに泣いてるのを見て」

「なんであなたなんだろうって思いました。どうしてあたしを頼ってくれなかったのかなって」

「この半年、あたしそれなりにがんばってきたつもりだったんです。最初の《神人》が、あんなことになったし……」

 佐々木の生み出した最初の《神人》――その結末を思うと、今でも頭の芯がズキズキと熱を帯びる。

259 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/21(木) 22:14:04.65 ID:K8l4AUdM0

 今年の春先のことだ、ハルヒのアホがどういうわけだか世界を二つに分裂させちまった。

 分裂した世界は、ごく僅かな例外を除き、合わせ鏡のようにそっくりだった。俺もハルヒも佐々木も居たし、シャミセンや谷口だって居た。

 そんな世界で、分裂した俺の片割れ――そうだな俺(β)としておくか――がとんでもないチョンボをしでかしやがった。

 ハルヒの能力をそっくりそのまま佐々木に移したのだ。

 このことを思い出すたびに、自分のこめかみに銃口を向けたくなる。

 SOS団がどうしようもない窮地に立たされてたって状況を考えても、絶対にやっちゃいけないことだったんだ。

 俺(β)の大チョンボのせいで神にされちまった佐々木(β)は、その後ひどい苦しみを背負うこととなったのだから。

260 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/21(木) 22:15:59.42 ID:K8l4AUdM0

 ある日、学校へと向かうために電車に乗ろうとした佐々木は異様な光景を目にする。

 日ごろ満員電車に辟易していた佐々木が、今日も憂鬱な気持ちで電車に乗り込むと、そこには一人の乗客もいなかったのだ。

 利用客で溢れかえるホームからも、誰一人として乗り込む人間はいない。間違えて回送電車に乗ったのかと戸惑う佐々木を尻目に、電車はゆっくりと駅を出発した。

 そして混乱する佐々木に、電車のアナウンスが決定的な言葉を投げつける。「本日は佐々木様専用列車をご利用いただき誠にありがとうこざいます」



 ハルヒは破天荒な性格をしちゃいるが、能力に対して確信的な自覚はなかった。

 佐々木は常識的で謙虚な真人間だが、俺や橘から自分の能力がどのようなものか説明を受けてしまった。



 そんな佐々木に、何でも願いが叶うなんてふざけた能力を押し付けちゃいけなかったんだ。

 橘は佐々木にこそ相応しいと言っていた。だったらどうして、俺や橘は能力の説明なんかしちまったんだよ。

 あいつが世の中に全くの不満もなく生活してるとでも思ったのか? 突然の土砂降りも、笑顔で受け入れるような人間だとでも思ってたのかよ!

 能力の危険性に気付いた佐々木は、翌日から学校を休んだ。外界との接触を断ち切るため、自分の部屋に身を潜めたのだ。

 今でも言うぞ。どうして俺(β)は、佐々木に能力を移しちまったんだよ。この程度の結果が予想できなかったのか?

 神社の鳩が白ければ良いのに――そんな程度の願いでも叶えちまう能力がどれだけ危険であるか、把握してなかったとは言わせないぜ。

 責任を感じた俺は、橘と共に佐々木の見舞いに行った。そして、そこであれを目撃した。佐々木の生み出した最初の《神人》だ。

261 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/21(木) 22:17:04.15 ID:K8l4AUdM0

 日本が銃社会でなくて良かったと思っている。もし俺が銃を手にできるのなら、あの日のことを思い出すたびに死ななくてはならない。

 だが、俺が死んだところで何が変わるわけでもない事もまた理解している。例え百万回死ねるような身体であっても、佐々木の苦しみは拭い去れないのだから。



 最初の遭遇から約一年、俺が《神人》を見たのはこれで二度目だ。ただし、今回の《神人》は街を壊すようなマネなどせず、ただじっとしているだけでなのある。

 《神人》と遭遇した瞬間、橘は少しばかり嬉しそうだった。その横顔は、長い長い前フリを経て、ようやく出番が回ってきた新人女優のように見えた。

 しかし、橘の表情は見る間に曇っていく。いつまで経っても、古泉のような赤い発光体になるでもなく、目からビームを出す気配もない。

「どうして……、どうして何も力も与えてくれないの?」

 呆然と立ちすくむ橘の独白に、俺は深刻な事態に陥ったことを知った。《神人》は現れた。しかし、それを退治する人間がいない。

 ハルヒの閉鎖空間から類推すれば、この閉鎖空間もやがては世界を侵食するだろう。だがそれを阻止するヒーローが不在という緊急事態なのだ。

「佐々木、前にも説明しただろ。あれはお前のストレスの権化なんだ。だから橘に倒してもらえばいいんだ。だから、だから――」

 俺は天に向かって叫んだ。この閉鎖空間は佐々木の内面に作り出された世界なのだから、俺の声は佐々木に届くだろうと。

 果たして、俺の予想は的中した。叫び声に呼応するように、佐々木の声が天から響いてきたのだ。

 しかし、その穏やかで優しい声は、俺と橘を凍りつかせた。佐々木は、本物の女神であるかのように慈愛に満ちた声で、

「キョン、あんな怪物に橘さんを立ち向かわせるなんてこと、僕にはできないよ。もしものことがあったら……」

 じゃあ……、じゃあどうするんだよ! あの《神人》は閉鎖空間を広げていくんだ。それにこの閉鎖空間はお前の中に広がっている。それがお前の全て包み込んだらどうなるんだ?

262 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/21(木) 22:19:31.51 ID:K8l4AUdM0

 外向きに広がるハルヒの閉鎖空間は世界を変えちまう。じゃあ内向きに作られた佐々木の閉鎖空間は何を変えるんだ? 佐々木を別人に作り変えちまうのか?

 ぐるぐると頭を巡る断片的な思考が多重衝突を繰り返すなか、佐々木の《神人》はゆっくり動き出した。

「こうすれば全て丸く治まるではないか」という、神にさせられた少女の言葉と共に。

 《神人》は、その両手を自分の首にあてがった。そして苦悶の雄叫びを上げながら、自らの首を締め上げていったのだ。

 空からは、佐々木が苦しみに呻く声が降り落ちる。それが途切れ途切れであるのは、呻吟の声さえ自らの内に殺そうとしているためなのだろう。

「やめろ佐々木……。そんなことはしちゃいけない……」

 自分では何もすることができないくせに、よくもまあこれだけ無責任なことをいえたものである。

 俺(β)が引き起こした人災であるにもかかわらず、その当事者が責任を負う機会さえ与えられずに呆然と立ち尽くすだけなのだ。

 やがて変化が訪れた。このままでは絶命できないと悟ったのだろう。《神人》はその左腕を引きちぎると、かすかな逡巡を経て、胸に突き刺した。

 すぐ隣で橘の引きつった悲鳴が聞こえたような気がした。俺も何かを叫んだ気がする。

 けれど、俺の耳には何の音も届かなかった。俺の神経回路はとっくにショートしていたのだ。

 《神人》が絶命した瞬間、灼けつく様な痛みが全身を覆い尽くした。まるで、全身の血が一刻も早く外へ飛び出そうと、沸き立っているようだった。



 こうして、佐々木の生み出した最初の《神人》は退治されたのだ。

 生み出した当人によって手を下されるという、凄絶な自殺をもって。

263 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/21(木) 22:20:23.23 ID:K8l4AUdM0

「あなたにも思い出させちゃったみたいですね。ごめんなさい」

 橘がこちらにハンカチを差し出していた。別に構わない。俺だって共犯だ。それにハンカチが必要なのはお前のほうだろ。

「あたしはいいんです」

 頬を伝う涙もそのままに、橘は言葉を続ける。

「あたしはあんなことをしちゃった。自分が持つべきはずだった役割欲しさに、佐々木さんを苦しめちゃった」

「だからすごくがんばってがんばって、佐々木さんを一番に考えるようになって、……佐々木さんも最初はあんな感じだったけど、今では《神人》退治を任せてくれるようになったし」

「でも、佐々木さんが本当に辛いとき、頼ったのはあなたでした。やっぱりあなたが一番なんだなって思うと、本当に悔しかった。どうしてあたしじゃないのかなって」

「だからあたし、あなたと佐々木さんを引き離してやろうって思いました。もしホークスが優勝したら佐々木さんに近づくなって言うつもりだったんです。最初は」

264 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/21(木) 22:22:11.59 ID:K8l4AUdM0

「日曜日の夜、古泉さんから電話がかかってきました。あたしが何かたくらんでる事に気づいたのかもしれません」

「古泉さんね、電話口で『その考えは本当に貴女の神に有益なのか、今一度考えてみてください』って言ったんですよ? 何様だよって思っちゃいました」

 だからあの人って嫌い、そう言い放つ橘の顔はどこか嬉しそうだった。

「それで、お前は考え直したのか?」と尋ねた俺に、橘は、

「ふふ、そんなことするわけないじゃないですか」と、ようやく笑顔を見せた。

「敵対勢力のくせにこっちを気遣うようなこと言っちゃって、しかも妙に大人ぶったこと。これじゃあたしが子供みたいじゃんって」

「それにあの日のホークスは、サブマリンさんに翻弄されまくってムカついてたし、何言ってんだコイツって八つ当たりしそうになりましたよ」

「そしたら結局ホークスは敗退しちゃって、すっごくショックでした。佐々木さんみたいに人に縋りついて泣いたのなんて初めてです」

 ここ二日ほど橘はひどく落ち込んでいた。けれど今は、そんな事など吹っ切れたように快活である。

「でもね、そのおかげで佐々木さんの気持ちがわかった気がするんです。どうして佐々木さんがあなたを頼ったのか」

 俺にはどういうことだかさっぱりだ。何か明確な答えを期待していたのだが、橘の口から飛び出した言葉はとんでもないものだった。

「ふふ、残念でしたね、あたしが負けちゃって。もしあたしが優勝してたら、佐々木さんとお付き合いできたかもしれないんですよ?」

271 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/21(木) 23:00:16.04 ID:K8l4AUdM0

 お前の言う事はさっぱりわからんぞ。第一、どうしてそこで佐々木が出てくるんだよ。

「それはあたしの口からは言えないですね」

 いたずらっぽく唇を歪める橘は、小悪魔のようだった。どっかにしっぽでも生やしてるんじゃねえだろうな。

 まあいい。お前にはまだツッコむべきところが残ってるんだ。

「お前はさっき、負けて気づいたって言ってたよな。それじゃ、ロッテに負けずに優勝してたら、結局佐々木に近づくなって言ってたんじゃねえのか?」

「あら、あなたって意外と失礼なんですね。こう見えてもあたしそんなにバカじゃないですよ」

「例え無敗で日本シリーズを制したとしても、絶対に気付いてました。だってあたしは佐々木さんの第一人者なんですから」

 古泉みたいなことを言いやがる。やれやれ、超能力者ってのは似たもの同士なのかね。

 頭を抱えたくなる衝動を我慢して、俺は最後のツッコミを敢行した。

「確かにお前の敗退は、俺にとって残念だったかも知れない。それは認めてやるよ」

「だがな、仮にお前が優勝して俺と佐々木が付き合うことになったら、お前の神様は幸せになったのか?」

 最も根本的で根源的な疑問だ。お前は佐々木を幸せにするなんて言っていたが、そんな願いなんざ俺が喜ぶだけだろ?

 これ以上もないくらいキッパリと言ってやった俺に返ってきたのは、なぜか橘の大爆笑だった。

272 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/21(木) 23:01:36.24 ID:K8l4AUdM0

「あははははは! 噂には聞いてたけど、あなたって本当にそうなんですね。ここまでひどいとは思いませんでした」

 橘は心から笑っているようで、笑い声を噛み殺すのに苦心しているようだった。……おい、俺はボケた覚えもないんだがな。

「単なるボケだったらこんなに笑いませんよ、あはは。ホントにこれじゃ、佐々木さんも涼宮さんも苦労しますね、あー苦しい」

 どうしてハルヒまで出てくるんだとツッコミを入れたかったが、ひいひいと引きつけを起こす橘を前にしては、さすがに口を噤むしか手はなかった。



 タクシーはいつの間にか、俺の家の前で停車していた。橘の話も終わったようだ。

 大笑いされた俺は憮然とした表情だったのだろう。橘が申し訳なさそうな表情で、窓から顔を出した。

「今日は話に付き合ってくれてありがとでした。なかなか機会がないから、悶々としてたんです」

 うら若き乙女が悶々としてるなんて言わないほうがいいぞ。まあ、おっさんくさい言動だから口には出さないが。

「負けたあたしが言うのもなんですけど、賭けに勝って下さいね」

 お前は試合を観てなかったのかよ。連敗したうえに、どっちも完封なんだぞ? そういうのは勝つ見込みがあるときに言ってくれよ。

「それをなんとかするのが男ってものでしょ? まあ、あっさり負けちゃっても責めたりしないですから」

「佐々木さんのこと、よろしくおねがいします。あたしのお願いはそれだけ」

 どうして橘によろしく頼まれなきゃならないのかはわからない。だが、俺は自分でも意外なほど素直に了承してしまった。

 やれやれ、佐々木も応援してくれてるんだ。せめて明日は勝ってくれよ。そんな俺の願いは、小雨の降る冷たい夜空に吸い込まれていった。
                                        <セ・リーグCSファイナルステージ第三戦につづく>

273 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/21(木) 23:02:53.14 ID:K8l4AUdM0

途中さるさんを食らってしまい、長時間レス投下を規制されてしまいました。申し訳ありません。
なお、佐々木さんの《神人》についての話は、佐々木さんが能力を受け取ったらというifを基にした妄想です。
驚愕の展開を予想するものではありません。



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