キョン「ビッグ・ユキ、ショータイム!」


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1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/04/22(水) 18:34:23.03 ID:ufoTqxJI0

CAST IN THE NAME OF SOS YE NOT GUILTY
俺の名前はキョン。この記憶喪失の街には必要な仕事をしている。
「Kyon the Negotiater」

2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/04/22(水) 18:38:50.89 ID:ufoTqxJI0

「お願いです。妹を探してください」
その日、俺達がいつものように文芸部室に固まってとりとめもない雑談にふけっている所に、その人は現れた
その人は喜緑さんという、翠がかったウェービーなセミロングをたたえた穏やかな表情をした女性であった。
喜緑「先々週まではお互いに連絡を取れていたのに最近は家の電話はおろか携帯の電源まで切っている始末で」
喜緑さんは形のよい眉を歪ませ喘ぐ様な息を吐いた

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/04/22(水) 18:43:55.70 ID:ufoTqxJI0

古泉「ふむ、朝倉涼子さん、ですか。あなたのクラスメイトですよ。何かご存知じゃないんですか」
無茶言うな。今の俺はクラスメイトはおろか自分の本名さえ思い出せないんだぞ。他人の始末まで頭が回せるか
喜緑さんが帰った部室で写真に写る快活そうに笑う女性との写真を見ながら俺は頭を抱える。そうこうしているうちに傍らに日本茶が置かれる。そろそろと見上げてみると部専属の執事…もとい、メイドさんである朝比奈みくるさんが心配そうに俺を見つめていた
みくる「ふええー、キョン君大変ですぅ」
妹「はさみー」
古泉「でも、あなたはそういう仕事を自分の「役割」にしているじゃないですか。いまさらすっぽかすのはごめんですよ」
妹「はさみー」
ところで何で俺の妹がここにいるんだ?でもってお三方ともなんで黒い服着てるんですか?
みくる「え? これってキョン君の指示じゃないですか。文芸部室では黒い服以外着るなって」
そうだっけ?
妹「はさみー」
いまいち記憶がはっきりせん。何か、こう、重要なことを忘れているような…
古泉「何はともあれ、頼みましたよ、キョン・ザ・ネゴシエイター」

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/04/22(水) 18:45:24.92 ID:ufoTqxJI0

この街は記憶喪失の街。この街には1週間のある日を境に記憶がすっぽり抜け落ちている。
どんな天変地異が起こったのか知れないが、それでも驚くべきは人は案外こんな異常な状況にもすんなり対応していくことである。
一週間分のメモリーから、俺たちは何とかその記憶にすがりながら自分らの「役割」を認識して生活している。それはそれで穏やかなりし日々って感じで思ったほど悪くはない。
もっとも、俺の場合、キョンって言う間抜けなニックネームと自分に与えられた「役割」、それからこの学校と文芸部を取り巻く情報以外一切を失っちまっていてそれなりに苦労はしているが。
だが、そういう時に限って地下からやってくる亡霊のようにメモリーの断片が浮かび上がってくることがある。
その記憶を捜し求める本人が意図していようが、いまいが…
しかし、人という存在はそんな不確かな記憶でも時には狂おしく求めることがある。
そんな時は、ネゴシエイターである俺の出番となる。

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/04/22(水) 18:50:10.08 ID:ufoTqxJI0

俺のIDガチホモ。しかも人イナス。死にたい

古泉「やはり、ここ2週間程度朝倉さんは学校に来ている気配はありませんね。僕達の記憶が消えたのがちょうど1週間前でしたからあなたが朝倉さんを知らなかったのも無理はありません」
下校路を下りながら俺たちは喜緑さんに依頼された「朝倉涼子」なる女性についてあれこれ情報を交換しながら彼女が住んでいたというマンションへと足を運んだ。
キョン「フム……流石に病欠って名目では説明できない期間だな。マンション自体にも帰った気配がない。こりゃ本格的に警察に相談した方がいいかも知れないよなぁ」
みくる「でもぉ、警察に相談できないからキョン君にネゴシエイトを頼んだんじゃないんですかぁ?」
妹「はさみー」

…………
マンションの出口で沈黙に包まれながら俺たちは立ち尽くす。
そんな時に限って俺の脳裏にチリチリと去来する者がある。
キョン「なぁ、俺たちって前にもこんなことしてなったか?」

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/04/22(水) 18:52:57.56 ID:ufoTqxJI0

古泉「おや奇遇ですね。実は僕も同じ事を言おうと思っていた所なんですよ。コンピュータとカマドウマがどうとか…」
みくる「あ、あたしもです。でも、何か一番大事な所が欠けてる感じがしますねぇ。一番の便利屋さんがいないって言うか、率先して引っ張っていく人がいないって言うか…もどかしいですぅ」
妹がはさみを振り回しているのを何とかなだめすかしながら、
俺はとりとめもない過去のメモリーを夢想する。
過去の俺は一体何をしていたのか……案外今と同じように古泉と朝比奈さんと連れたって探偵の真似事をして遊んでいたのかもしれない。
キョン「ビッグ・イヤーに情報の提供をしてもらうとしようか…」


14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/04/22(水) 18:56:28.89 ID:ufoTqxJI0

翌日――食堂。
壁際の指定席に座って雑誌を広げる人物の斜向かいに座り、俺は缶ジュースのタブを開ける。
俺の存在に気付きカサリ、と音を立てて鶴屋さんは雑誌から顔を上げる。
鶴屋「珍しくめがっさ難航しているようじゃないかいっ?ザ・ネゴシエイター」
キョン「朝倉涼子という生徒についての情報はあるか」
鶴屋「ご令嬢を助けてやらないのかいっ?白馬の王子様」
キョン「助けるも何も…まだ誘拐と決まったわけじゃない」
鶴屋「さぁて…あたしが知っているのはねっ、朝倉涼子がメモリーの断片を手に入れたって言う噂と、
後は二重生活を送っていたって言う情報だけさねっ」
鶴屋さんはいたずらそうに笑うと、手馴れた様子でそこまでの住所を書いた紙片を差し出してきた。
鶴屋「お代はツケといてあげるよっ!アタシも常連がいなくなっちゃご飯のタネと自分の「役割」がなくなっちゃうっからねっ」

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/04/22(水) 19:01:47.81 ID:ufoTqxJI0

鶴屋さんから教わった住所をおとずれた俺を待っていたのは、郊外の寂れたアパート、そして、生活観のない部屋に馬鹿みたいに積み上げられた膨大な量の紙タイプであった
これは…?演劇か映画の草案か。
一介の高校生が劇の資料のためにひとつのアパートを借りるなんて不自然だ。ましてやこの量である、ただの演劇マニアの言い訳としてはちょっと苦しい。
そんなことを考えながら紙片をあさっていると、どうやら彼女の自筆と思しき日記帳を発見した。殆ど何も書かれていないそれをパラパラめくっていると、最後の方のページに、酷く乱暴に殴り書きされたメモを発見した
『私は一人の情報端末として生きてきた。この世界の情報を掘り起こしながら情報統合思念体へと報告する。
本来の目的から外れた、それこそどうでもいい情報にまで。「彼女」の飛びつきそうな情報ならば何でも検索したし、場合によっては快く提供してやることもやぶさかではなかった。
しかしこの街で所詮バックアップでしかない私が真実に触れるなど出来ない事もよく分かった。
それに、本当に知らなければならない情報をこの街の住人は誰も知ろうとはしない。
いや、知る術すら持たない。私は知りたい。知らなければならないことを』

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/04/22(水) 19:09:05.45 ID:ufoTqxJI0

知らなければならないこと…
薄暗い朝倉涼子の隠れ家に、謎の決意表明。電撃のような天啓が俺を貫く。
朝倉涼子は誘拐されたんじゃない、自らの意思で自分の痕跡を消そうとしたのだ!
ところどころに踊る意味不明な文字をきちんとした明かりがある所で再び確認しようと振り返った瞬間、
鋭い刃の横薙ぎが一閃、部屋の暗闇を引き裂いた。
???「この世界に飼われた、哀れな道化さん。そのまま死んでればあれこれ思い悩まずに済んだのに」
あわてて飛び退った俺の視線に、濃紺の長髪が踊る。
キョン「朝倉涼子か!」
再び鈍い銀色の応酬が襲ってくる。とは言え、今度は俺もいささかの余裕がある。
闇に踊る小柄な女性との姿を確認しながら、慎重に距離をとった。
朝倉「へぇ、またあなたなのね。因果なものだけど、一体誰に依頼されたの?
私のパパ? いや、もしかしたら姉さんかしら」
俺と同じ高校の制服を身に着けたその女――朝倉涼子は陽だまりの中でひなげしの花でも摘んでいるような人畜無害然とした顔のまま、
ごついナイフをぺろりと舐める
キョン「契約上の守秘義務って奴でね。朝倉涼子、一緒に来てもらおう」

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/04/22(水) 19:13:47.32 ID:ufoTqxJI0

朝倉「ふぅん。ネゴシエイターか。随分と面倒な遊びをしているのね。
ホント有機生命体の思考概念ってよく分からないわ」
じりじりと距離をつめてくる朝倉に用心して俺も部屋を回りこむ。
その度に、雑然と詰まれた演劇の草書が崩れ、地面に散らばる。
キョン「これは遊びではなく正式な依頼だ。撤回して欲しいね」
朝倉「あら?どうしてそんなことが言い切れるの?もし依頼主が、いえ、この世界に住むすべての人が、
遊びで自分の「役割」をこなしているんだとしたらあなたがいくら気張ったところでそれは遊び以外の何なの?
それともこの世界そのものが出鱈目な気まぐれから作られた存在だったとしたら、いくら正論を吐いたところでそれは砂上の楼閣よ
ねえ、あなたの言う「正式」の基準って何?」

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/04/22(水) 19:22:20.58 ID:ufoTqxJI0

朝倉「まぁそんなことどうでもいいわ。どこの誰だか知らない依頼主さんにお伝えなさいな。
心配しなくても私はもうこのくだらない舞台からは一足先に抜けさせてもらうってね。じゃあね」
笑顔を絶やさず軍隊で使うような仰々しいナイフを撫でていた朝倉涼子はそれだけ言うと闇に溶けるように、消えた。
たった一言、不吉な捨て台詞を残して。
朝倉「それにしてもあなた自身が彼女のことを忘れちゃうなんてね。彼女自身が仕組んだことなんだろうけど、
案外あなたも素っ気無い人なのかもね」

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/04/22(水) 19:27:41.35 ID:ufoTqxJI0

『正式』な『役割』…か… 緊張から解き放たれて大きく息をついた俺は自ら口に出して呟いていた。
それにしても…
朝倉の台詞を反芻しながら俺は考える。
『彼女』って、一体誰だ?

思いあぐねる事態すら与えず、右手の通信機がけたたましい着信を告げる。
みくる「キョ、キョ、キョ、キョン君大変ですぅ!街中に、街中に巨大なロボットが現れたんですぅ!」

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/04/22(水) 19:30:17.09 ID:ufoTqxJI0

北校、校庭――
古くより、とかく女の嫉妬は恐ろしい。
古くはギリシャ神話の女神は嫉妬のあまり実の息子を又裂きにしたとか、近代ヨーロッパでの謀殺陰謀の類など枚挙に暇がない。
その他現代版が御所望の方は昼時にやっているドラマでもご覧になることをお勧めする。
だが、まぁ、こんなにも壮大な者にはなかなかお目にかかったことはないが。
天を衝くような巨大ロボット。それは突然地下より現れて、そしてまっすぐに俺たちの高校を目指しているらしい。
古泉「これはまた、ずいぶんとご立派なご伴侶を連れてお帰りになったんですねぇ。
でもこれは自主的に戻ってきたんですから結果的にはネゴシエイト失敗ってことになるんでしょうか」
屋上で呑気そうに感嘆の息を吐く小泉から双眼鏡をひったくった俺はその巨大ロボットの上に、朝倉涼子が仁王立ちしている姿を捉えた。

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/04/22(水) 19:33:09.73 ID:ufoTqxJI0

見てる奴いるのか?

???「メガデウス…」
声のした方を振り返ると、いつの間にか屋上には喜緑さんがたたずんでいた。
喜緑「…まさか、昔から過激なことをする子だったけど、ここまでとやるとは…」
古泉「喜緑さん。「あれ」はいったい何なんですか?」
古泉の質問も耳に入らないように呆然と北校の校庭へと乗り込みつつある巨大ロボットを見つめている喜緑さん。その表情は重く何かを思いつめているようだ。朝倉涼子が従えたロボットが地をゆるがせる音が、だんだん近づいてくる
喜緑「ネゴシエイター、契約の変更をお願いします。あの子を――涼子が今から行おうとしていることを止めて下さい」
やがて向き直った喜緑さんは短く、だが断固としてこういった。その決意に恭しく礼をする俺。
キョン「……承りました。マドモアゼル」
みくる「えっえっえ?でもあんなのどうやって相手するんですか」

決まっているだろう?俺は右手のリストウォッチを構え、叫ぶ。
「ビッグ・ユキ、ショウタイム!」

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/04/22(水) 19:38:12.05 ID:ufoTqxJI0

地の底から響く轟音と、天すら揺さぶる振動を伴って、「それ」は現れる。
暗く深い亡霊さまよう過去という世界を貫く蒼い機体。巨大なる機械仕掛けの神。青のザ・ビッグ。
メモリーに刻まれたパスコードを入力し、操縦桿を握りこんだ瞬間にコンソールに浮かぶ文字を見るたびに、
俺は奇妙な感覚に襲われる。
「CAST IN THE NAME OF SOS  YE NOT GUILTY(我、SOSの名において此れを鋳造する。汝ら罪無し)」
懐かしいような頼もしいようなもどかしい様な何かが足りないような……
そもそもこの「SOS」とはなにか?汝らとは俺を指しているのか、それすら俺には知る術はない。
額面どおりに救難信号というわけではないだろうが……
いや、考えたところで仕方がない。今の俺にある唯一の真実、それは、
「ビッグ・ユキ!アークション!」
俺がこのビッグ・ユキという名のメガデウスを操縦出来るメモリーを持っている事。
そして過去から現れたこの世界のルールから外れた存在を、俺は許さないということだ。

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/04/22(水) 19:40:34.84 ID:ufoTqxJI0

二つの鋼鉄の巨人が組み合い、吼える。軋む鉄の咆哮が辺りを震わせ、地を割る豪腕が渦巻く空気を切り裂く。想像を絶する神の戦いを見上げるしかない人々は、ある者は祈り、ある者は嬉々と囃したてながら、その行く末を見守るしかない。
キョン「何故だ!何故こんなことをする、朝倉!」
朝倉「まだ分からないの?この世界はまがい物よ。私達はお膳立てされた舞台の上で決められた役割をこなすしかない哀れな役者に過ぎない。そんな中にわざわざしがみつく理由はない」
キョン「わけの分からないことばかり言って!」
ビッグ・ユキのパンチを巧みにかわしながら、朝倉は人形のように不自然に貼り付けた笑顔のままでロボットを介して適切なカウンターを見舞ってくる。その度にコックピットを通して大きな振動が俺にも伝わってくる。
朝倉「この世界に私を再生してくれたことは正直感謝しているわ。でもね、今までがそうであったように、「この」世界においても私の存在は主役を引き立たせる為の『脇役』でしかなかった。この苦しみ、あなたに分かる?」
キョン「ッ!?」
カウンター気味に炸裂したビッグ・ユキの攻撃に朝倉が乗ったロボットが大きく傾ぐ。そのまま押し切ろうとした瞬間突然朝倉のロボットの腕が発光したと思った瞬間、蛇のようにのたくって突出。それにビッグ・ユキの下腹部が貫かれていた。

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/04/22(水) 19:48:56.23 ID:ufoTqxJI0

朝倉「この世界の私はヒューマノイドインターフェイスですらなく、本当にただの『脇役』でしかなかった。このメガデウスを操縦するメモリーを除いて。
せっかくだから使わせてもらうことにしたわ。こんな馬鹿馬鹿しいお遊戯にはもううんざり。だから、ね。全部壊しちゃうのよ」
キョン「そうかい、あくまで屈しないというんだな…」
右の操縦桿を目一杯振りかぶって俺は安全装置を解除する。気配を察知した朝倉がいち早く回避の姿勢をとろうとたたらを踏むが、一足遅い。
すでに左手ががっちりと発光した腕を捕縛している。
キョン「ならば先に君が眠っていたまえ!」
グリップを握りこんだ瞬間インパクト。ストライクパイルが縮動し、熱風が地を這う。圧縮空気が鉄の装甲を食い破り、
やすやすと朝倉のロボットに黒々とした巨大な穴を穿つ。轟音を響かせながら、巨神が崩れ落ちる。
朝倉「そんな…!」
呆然とした表情の朝倉の姿を黒煙が覆い隠し、ヒューズが飛び、各推進が誘爆を起こす
その瞬間、声が聞こえた…気がした

???「バカキョンなんか永遠に物語の中で夢見ていればいいのよ!」

そして俺の視界は光に染まった。

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/04/22(水) 19:56:43.07 ID:ufoTqxJI0

夢を、見た。俺のメモリーにはない、俺の記憶の断片。
陽光が差す教室――俺や、古泉や、朝比奈さんや見慣れない二人の少女に囲まれている風景――
黄色のカチューシャが印象的な活発そうな少女と、寡黙にハードカバー本に目を落とし続ける少女。
皆は文化祭の出し物について話し合っているらしい。
???「でね!文化祭用の映画、「朝比奈みくるの冒険エピソード2」なんだけどさ、今回は前回のスケジュール調整の甘さを改善する為に脚本を先に作ろうと思ったわけよ」
嬉々としてノートの走り書きを見せる少女に、うんざりしたように耳を貸す俺。ニコニコと終始胡散臭い笑顔を振りまきながら首肯する古泉。
おろおろしながらスカートの裾をふんずけてこける朝比奈さん。そしてそんな様子を無表情を崩さぬまま傍観するショートカットの少女。
そんな情景を見ていると俺の心にえもいえない暖かな感覚が広がっていく。それは、その場面において俺がネゴシエイターなどという面倒な役職から確かに解き放たれているからだろうか
それとも、躁状態のように部室内を我が物顔で蹂躙するカチューシャの女の子がいるからだろうか。
多分、それが本来の俺の日常だった為だろう。

そして再び情景は飛ぶ。きれぎれの記憶が乱舞し、その度に俺の目には黄色いカチューシャの女が立ち現れる。

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/04/22(水) 20:00:53.86 ID:ufoTqxJI0

???「キョン!」ジャージ姿でバットを振り回す少女。
???「何やってるのよこのバカキョン!」眉を吊り上げて何処か楽しそうに怒る少女
???「鼻の下伸ばしてんじゃないわよエロキョン!」朝比奈さんを見つめる俺に、横合いから怒鳴りつける少女
笑い、怒り、しょんぼり。クルクルと表情が変わる。こんなに人ってのはいろんな表情が出来るんだな、なんて俺は考えながらその女の子の表情を見る。
そしてある場面が甦る。

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/04/22(水) 20:07:02.12 ID:ufoTqxJI0

薄暗い部室。散乱した映画の台本と思われるキャンパスノート。イラついた様子の俺と、眉根を寄せながら俺を睨み付けるあの女。
部室の傍らにかけられたカレンダーはどうやら、俺たちがメモリーを喪失する以前、即ち、ちょうど1週間前の日付を差している。
???「何よ!こんなに一生懸命脚本作ったのよ。何が気に食わないって言うのよ!!バカキョンのわからずや!」
キョン「いいも何もお前本位で物事を進めるなって言うんだよ!朝比奈さんはお前のおもちゃじゃねぇんだよ!いい加減にしろこのバカ×××!!」
俺が叫ぶと、ウッと言葉に詰まる詰まるカチュ−シャの女。部屋の隅では半裸に剥かれた朝比奈さんがガタガタ震えながら事態の行く末を見守っている。
???「うるさい!もういい!!」女が叫ぶ。
???「そんなに文句言うならあんたが脚本を書けばいいじゃない!バカキョンなんて永遠に「物語の中」で夢見ていればいいのよ!」
その瞬間世界がぐらついたような気がした。赤い玉に変貌しながら駆け寄る古泉や花柄の栞を差し出すショートの無表情女、グラマーに変貌した朝比奈さんの姿なんかがないまぜになり――
世界が灰色に変貌し、俺は地面という支えを失い、バランスを崩す――
浮かぶ「Sleeping Beauty」の文字――
泣きそうな顔で俺に手を差し出すカチューシャの女の姿――

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/04/22(水) 20:11:41.49 ID:ufoTqxJI0

駄目だ、立っていられない。卒倒する俺の身体に差し出された手はむなしく空を切る
何やってんだ。捨て台詞を吐いた瞬間にその張本人が一番さびしそうな顔するなよ。
何がしたいんだお前は。あべこべだ。
……ふん、知ってるぜ俺は。お前はいつもそうやって正反対の行動を取って俺を心配させたがるんだろ?いちいち行動がワンパターンなんだよ、ホントバカな女だぜ
お前について行けるのは俺ぐらいのもんだぜ。だろ?ちったぁ感謝してくれても罰は当たらないと思うぜ?
なあ、涼――ハル――――

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/04/22(水) 20:19:23.91 ID:ufoTqxJI0

――……
古泉「もしもし、無事ですか」
我に返った俺はビッグ・ユキのコックピット内にいた。モニターは鉄くずと化しまだブスブスと燻っている朝倉のメガデウスの残骸を映している。
キョン「契約は全うする。それが俺の流儀だ…」
むなしく呟いてから、操縦桿を離して脱力する。
あのメモリーは俺自身の記憶か。それともビッグ・ユキのメモリーか。どっちにしろ、俺はついに見つけたのかもしれない。俺自身が対峙しなければならない、本物のネゴシエイションの相手と。
古泉「心配しましたよ。何度呼んでも返事がなかったから。依頼は達成ですね。おめでとうございます」
安堵する古泉にぞんざいな返事を放りながらコンソールをふと見ると、消えうせそうな薄い文字が表示されていた。

YUKI.N>補足完了。見えてる?

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/04/22(水) 20:21:30.26 ID:ufoTqxJI0

見えてるか、だって?勿論さ。
少し苦笑しながら、俺はあのカチューシャの女の子を思う。
なぁ、君は一体誰だ?
なぁ、この世界のどこかに君はいるのか?
なぁ、もう一度俺にチャンスをくれないか。もう一度お前と『交渉』するチャンスを
なぁ、涼宮ハルヒ――

例え依頼人がどうなろうとも契約は全うする。それが俺の流儀だ。
このビッグ・ユキと共に。

47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/04/22(水) 20:25:40.44 ID:ufoTqxJI0

俺の名前はキョン。この記憶喪失の街に、そして俺自身には必要な仕事をしている。
「Kyon the Negotiater」

(終わり)

50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/04/22(水) 20:28:34.26 ID:ufoTqxJI0

ありがとうございました。正直マイナーなのは理解している
バイトが決まらずいらいらしていたから立てた

正直すまんかった



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