橘「あっ、キョンさん。待ってましたよ!」


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6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/07(土) 19:37:54.23 ID:DJANO7iSO


「あっ、キョンさん。待ってましたよ!」

 橘は、自前のツインテールを揺らしてそう言っていた。
俺はと言えば、敢えて歩調を緩めてのんびりと橘の元に向かう。
ぴょんぴょんと跳ねる姿に苦笑を浮かべ、片手をあげる。

「よっ、京子」
「おっそいですよ!」

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/07(土) 19:42:53.43 ID:DJANO7iSO


 少し頬を膨らませて橘はまだ離れてる距離を小走りで詰めて来る。
俺より頭一つ分以上小さい橘の額を人差し指で小突いてやり、
その後髪を乱暴に撫でる。

「行こうか?」
「もうキョンさん!」
「なんだ?」
「……むぅ」
「あぁ、………大好きだよ京子」

 俺は、幸せだった。

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/07(土) 19:50:18.58 ID:DJANO7iSO



―――

 日常的風景である放課後の部室。
いつであろうと、季節や曜日に関わらず同じ事をやってるこの団。
そのためどうにも日にちの感覚が薄らいで来るのだが。
それでも最近の事なので一応記憶はしていたその日は水曜日、
一週間を半分も過ぎたあたりのことだった筈だ。

「ん、……メールか」

 古泉の石を大量死させた際にポケットの携帯の脈動に気付いた。

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/07(土) 20:07:04.28 ID:DJANO7iSO


 古泉に断ってから携帯を取り出す。
普段俺の携帯にメールを送ってくるのはいま現在同じ部室内にいるので、
国木田もしくは谷口だろうと思っていたのだが。

「……橘?」

 ずいぶん前に佐々木関連で知り合った、古泉のお仲間の超能力者もどきからだった。
メールが来てる事自体はあの時交換したから不思議ではないのだが、
何の用なのかと考えればあまり好ましくないな。


13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/07(土) 20:18:23.35 ID:DJANO7iSO


 橘という一人格に対しての感情を率直に言うならば、
それは嫌いでは無い、むしろ好ましい、一般的な女子高校生なのだが。
こいつとその仲間が過去にしやがったことを思えば警戒も致し方あるまい。
それに俺は藤原が嫌いだ。

「どなたからです?」
「ん…、谷口だな。カラオケに誘われた」

 咄嗟に古泉に嘘をついた。
それは互いの立場を考えれば当然のことだと自分では思うし、
ハルヒのいらん追及も避けたかったからだ。
ただ、伺うようにこちらを見た長門が気になりはしたが。

 俺は文面は見ず携帯を畳み、再度古泉とのゲームに意識を戻した。

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/07(土) 20:27:09.57 ID:DJANO7iSO


『次の日曜日、二人でお会いできますか?』

 橘からのメールは上記のような、非常に簡潔なものであった。
そこには遊びに誘う様な雰囲気は無く、朝倉に放課後の教室に呼び出された時に
下駄箱に入っていたノートの切れ端を想起させる。
……いや、橘はいきなり俺を刺しはしないだろうと思うがな。

「キョン君、お風呂あいたよー」

 考えが纏まらない内に妹が部屋に侵入して、風呂上がりのストレートでそんなことを言って来る。
俺はとりあえずある時間に判断を任せて、妹に言われるままに風呂に向かう事にした。

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/07(土) 20:55:55.04 ID:XblH5Ne6O


「はぁ…」

 湯船に浸かり、ため息をつく。
風呂に入って想起するのはあまりよくない思い出が多い。
目を閉じて、息を止めると酷く静かで、たまに落ちて来る天井からの雫の音を感じる。

 佐々木団だの言って、ハルヒにある力を佐々木に移そうとする
佐々木を神と論じた橘京子。
あの時は完全に拒絶したそれの話をまたするつもりなのだろうか?
それともまたべつの話か。なんにせよ、俺がいなければ進まない話だから俺を呼んだのだろうし。

「…ま、しつこく携帯が鳴るよりかは一回付き合った方がいいか」

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/07(土) 21:20:47.52 ID:XblH5Ne6O



―――

 次の日、学生のいつも通りの極致である学校で、のんびりと授業を受けてる俺。
課目は世界史、比較的得意課目なので一応真面目に受けてるが、
微妙に焦点が合わないのは迫り来る眠気の所為か。

『了解。日曜の正午にあの喫茶店でいいか?』

 そう送ったのは日付が変わってから一時間以上経過した頃だった。

25 名前:風呂入ってた[] 投稿日:2009/03/07(土) 21:35:01.62 ID:XblH5Ne6O


 うつらうつらとしながら、ノートに黒板の文字を移しながら、
後ろで豪快に寝息をたてながらも成績不振からは程遠いハルヒに呪詛を吐く。
あぁ忌々しい、国木田にまた勉強を教えてもらえばいいか……。

 そう言い訳をしつつ、俺はいい加減読めない板書を続けるのをやめて、
腕を枕に少々の惰眠を摂取させてもらう。
窓際最後尾前の俺の睡眠を叱ろうとすれば必然的にハルヒの前にも教師は接近せざるを得ず。
上記の理由から教師は俺を放置してくれるので。

「おやすみなさい」

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/07(土) 21:50:03.18 ID:XblH5Ne6O


 俺が起きたのは昼休み。
実に四時間近くも寝てた計算になる。寝過ぎだとも思うのだが、しかしまぁそれも過ぎた事だ。
俺は欠伸を一つ、弁当を鞄から取り出して谷口、国木田の元に歩いてく。

「おうキョン!」
「今日は一日寝てたみたいだねキョン」
「昨日は遅くてな」

 軽く言葉を交わし、近くの椅子を借りて座る。


30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/07(土) 22:03:39.14 ID:XblH5Ne6O


「涼宮もまだ寝てんな」
「また部活の方で夜中まで遊んでたの?」

 言われて振り向けばハルヒはまだ寝ていた。
俺が言うのもどうかと思うがこいつは一体どれほど寝れば気が済むのだろうか?

「知るか、あいつの生態など欠片も興味ないね」

 すぐに目を逸して弁当を開き早速箸をつける。
寝てようが起きてようが腹は減る、不経済だなおい。

「そう言えばさ、キョンって今度の日曜暇?」

 シャケをほぐしていると国木田がふとそんなことを言い出した。



31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/07(土) 22:04:56.27 ID:XblH5Ne6O


「最近あんまり学校外でなにかしてないからさ、土曜はSOS団でしょ? だからさ」

 べつに毎週あの馬鹿に貴重な休日の内一日を献上してるわけではない。
実際今度の土曜はフリーの筈だ。あいつの気が変わらなければな。


「あっ、じゃあどっちでもいいけど、カラオケとか行かないかな?」
「たまには俺達と交友しろや」

 そうやけに絡む二人。
そんなに前遊んでから期間が経ったかと思い出して見ようとしたが、
覚えていなかった。これは相当しばらく振りらしいな。

「日曜は予定あるから土曜なら平気だ」
「ならそっちにしよっか」
「よっしゃ、喉潰れるまで歌え!」
「無茶言ってんじゃねぇよ…」


32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/07(土) 22:15:01.02 ID:XblH5Ne6O

あっ、さっきの騒動の所為かIDが変わったな

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/07(土) 22:32:25.52 ID:XblH5Ne6O


「にしても、男三人ってのも華がねぇよな…」

 谷口がミートボールを箸の先に刺したまま行儀悪く言う。
タレが机に垂れそうなのが気になって仕方ない。

「………そうかな? 僕は気兼ねなくていいと思うけど」

 対する国木田は一旦口にしていた物を飲み込んで、
箸を置いてから行儀よく続ける。

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/07(土) 22:38:53.81 ID:XblH5Ne6O


「だがよ、たまには女子と一緒したいじゃねぇか!」

 大声で言うな、明らかにクラスの女子はいまの一言で少し身構えたぞ。
それに誘っても、主にお前の所為で断られる。

「どういうことだよキョン」
「自分で考えろ自称ナンパし」

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/07(土) 22:56:35.05 ID:XblH5Ne6O


「じゃあ、俺が少し声を掛けてみるか…」

 あまりにも谷口がうるさいので、弁当を食べ終え、
蓋を閉じながらそんな事を言ってみた。

「……涼宮とその仲間達は勘弁な。あっ、朝比奈さんなら可だが」
「舐めんな馬鹿、朝比奈さんをお前なんぞに接触させるか。
大体なんで団と関係ない休みでの遊びに団員連れてくんだよ」
「なら誰を誘うんだよ?」

 言ってやおら乗り出してくる谷口。
なんだかその必死さに哀しくなってくるのは俺だけか?

「僕も同じ気持ちだよキョン」
「そうか…」

 袖で目を擦り、少し身体を逸して離れた所にいる知り合いに声を掛ける。

「おい阪中、今度の土曜日暇か?」

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/07(土) 23:11:40.85 ID:XblH5Ne6O

どうなってるんだ今日のVIPは

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/07(土) 23:18:03.74 ID:XblH5Ne6O


「ふぇ?」

 なにやら変な声で返されたが、気にせず続ける。

「暇なら今度の土曜日にカラオケ行かないか?」

 そう言うと、何故か阪中は少し頬を紅潮させて頷き、
女子は意味ありげな目線を俺と阪中とに交互に向ける。
……なんだ一体?

「キョンは罪深いね」
「突然どうした?」

 国木田にしみじみと肩を叩かれた。
次いで反対の肩を谷口が、

「一応言っとくが、誤解は解いて置いた方がいいぞ。多分二人で行くと思ってるだろうから」

 と、言った。
そんな訳なかろう、だって先程の谷口の発言はクラスに響き渡って…。

「それでも言っておいた方がいいと僕は思うな」
「国木田がそう言うなら…」

43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/07(土) 23:35:01.39 ID:XblH5Ne6O


 女子との雑談に戻った阪中にもう一度声を掛けるべく近付く。
狭い教室内だ、離れてると言ってもすぐ阪中の背後につく。
肩に手を置き呼び掛ける。

「な、なにかなキョン君?」
「一応言って置くが、あれだぞ? そこの二人―」
「あっ、わかってるのね」

 言い終わるかどうかの言葉尻にかぶせて喋る阪中。
なにやら焦ったような張り切ったような感じが見え隠れするが、……多分気の所為だろ。

「あ〜、でも男三人に女子一人じゃ嫌だろ? やっぱやめて――」
「あっ、なら私も行こうかな」
「私も行きたーい!」

 またも言い終わらない内にかぶせられた。
なんだこの女子の元気の良さは…。ハルヒが伝染したのか?



46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/07(土) 23:43:08.04 ID:XblH5Ne6O


「別に構わんが…、いいよな?」

 振り向いて谷口と国木田に聞いておく。
谷口は喜ぶだろうが国木田はどうだかわからないしな。

「ナイスだキョン!」
「僕もべつに構わないよ、しっかしモテてるねキョン」

 と言う事で。

「今度の土曜日の昼に駅前集合な」

 そう言ってその場を離れた。
あと国木田、誰がモテてると? やめてくれよそういうのは…。
面倒事が近付いてくるぜ。

 なにしろ見ればハルヒの席はいつの間にか空席になってるんだからな。

47 名前:明らかに今日は終わらない[] 投稿日:2009/03/07(土) 23:50:50.91 ID:XblH5Ne6O


 その後、チャイムギリギリに戻ってきたハルヒは傍目普段通りで、
俺は安堵して午後の授業に望んだ。

 あれから結局カラオケには男子は俺達三人、女子は四人とむしろ女子の方が多くなってしまった。
友人の女子が来てくれると言うのに阪中は複雑そうな表情で
こちらを見ていたのをやけに鮮明に記憶している。


48 名前:芋 ◆7SHIicilOU [] 投稿日:2009/03/07(土) 23:54:30.78 ID:XblH5Ne6O



51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/08(日) 00:05:52.15 ID:kK11EQMqO


―――

 放課後、担任の言葉を聞き流し、委員長の号令と共に空の鞄を持って立ち上がる。
やたらフレンドリーな女子達と谷口・国木田に別れを告げて、向かうは文芸部室。
朝比奈さんの着替えを覗きたいけど万一にも覗く訳にはいかないのでノックは三回。
そして朝比奈さんの舌ったらずなお声に誘われて扉をあける。

「どうも朝比奈さん」
「キョン君こんにちは、いまお茶淹れますからね」

 なんとも心安らぐ一時だろう。
ハルヒだけはまだきてないようだし、お茶を啜りながらなにか一勝負行こうかね。

「ではチェスでも?」
「いや、茶を飲みながらなら将棋とか和風のものだろ」

 いつもの席で、いつものマイ湯飲みでいつもの朝比奈さんの美味しいお茶を飲み。
トコトンSOS団が日常に染み込んでる俺であった。

55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/08(日) 00:16:23.81 ID:kK11EQMqO


 長門は相変わらず黙々とハードカバーを読んでいて。
朝比奈さんも黙って俺と古泉の駒が動く盤を見つめている。
ただこの部室に、パチリパチリと言う音だけが小さく響きを持って流れていた。
ハルヒが居ないだけでこんなにも世界は平和で静かなんだと思うと逆にあいつが凄く感じるね。
あいつ一人で何十人分の騒々しさなのかとか考えたら飽きれるさ。

「おっまたせー!」

 だからって訳じゃないが、蝶番を破壊せしめる勢いでハルヒがきたとき、
いつもなら倦怠感が先立つのに、珍しく俺はハルヒに対し

「やっときたか、遅かったな」

 などと、まるどハルヒを待ち侘びて居たかのような発言をしていた。

58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/08(日) 00:30:39.93 ID:kK11EQMqO


「あら、私が来るのを待遠しく思うなんて珍しいじゃない。
ふふん、あんたも少しは私の団に置ける重要さが理解できたようね」

 なにやら機嫌良さげに人差し指を振ってから団長席に座るハルヒ。
鼻歌なんぞ歌ってインターネットサーフィンに精をだしてるご様子、
俺は自分の口走った言葉になにやら顔をしかめて、また盤に集中した。
朝比奈さんはハルヒにお茶をやるついでに全員分作ってくれてるが、
あれだけ俺達のプレイを見てるのだ、
門前の小僧なんとやらで少しはゲームに詳しくなってしまっただろうし
たまには彼女ともやってみたいとも思う。


63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/08(日) 00:47:04.16 ID:kK11EQMqO


 そういや、昼休みに感じた面倒事の予感は杞憂に終わった様だな、
ハルヒは機嫌良さそうだし、あのやり取りを聞いて土曜日になにか全員を連れだそうともしてる様子はない。
なによりこのニヤけ面が平気で将棋をやってる時点で世は事もなしだ。

「おや、僕の顔になにかついてますかね?」
「いや? ただたまには勝ってみせろとか思っただけだ」
「ははっ、なら手加減してくださいよ。僕だっていつも勝とうとはしてるんですよ?」

 話しながらも手は動かす、盤上は刻一刻と移り変わり。
俺の二つ目の飛車が龍王になり王手を指した所で勝負は決した。

「参りました」
「ありがとうございました」

 将棋と囲碁だけ、始めと終わりに礼をする。
なんとなく日本人だからか、その辺ついどちらからともなくやり始めたのだ。
そして、その対局の反省会を少し行う。

「攻撃の要とも言える桂馬が早々に退場したのが痛かったですね」
「桂の高飛び歩の餌食ってな、まぁ歩頭の桂に妙手ありとも言うが」
「しかし本当にお強いですね」
「お前以外とやったことはほとんどないからイマイチわからんな」

70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/08(日) 01:07:13.12 ID:kK11EQMqO


 その後、古泉と三連戦してから朝比奈さんと古泉、
そして朝比奈さんと俺が一回ずつ将棋を指した辺りで長門が大きめな音を立てて本を閉じた。

 いつから長門の本の音を解散の合図にしだしたのかは覚えてないが、
携帯を取り出して時計を見る限りはやり長門の体内時計は原子時計より正確だと一人納得した。

「ん?」

 メールがまたも来ていたようだ、気がつかなかった。
各々使ったゲームを片付けたり、ヤカンや湯飲みを洗ったり、
パソコンの電源を落としたりしてるなかでメールを確認する。

『今日は誘ってくれてありがとう、土曜日を楽しみにしてるね』

 と言う、阪中からのメールだった。
実際は少々絵文字も交ざっているのだが、まぁそれを細くて描写する必要性を
まったく感じないので省略する形になった、ご了承いただきたい。

77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/08(日) 01:18:24.30 ID:kK11EQMqO


「解散!」

 扉に鍵を締めて、渡り廊下を談笑しつつ通り、下駄箱で靴に履き替える。
門を出て下り坂になる帰路に五人揃ってつき、そして傾斜がほぼなくなる辺りでハルヒは
俺達の鼓膜どころか脳までも揺さぶる大声で解散を言い渡した。

 三々五々散らばって帰る団員、ハルヒの所為で集めた視線を振り切るように歩き、
いつもの駐輪場で自転車に跨がり家に向かう。
明日学校に行けば土日、いまから少し気分が高まっている自分を認識する。
橘の方はまだやや懸念してはいるものの、少なくとも土曜日の事だけでも高揚するには足るのだ。



80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/08(日) 01:31:49.01 ID:kK11EQMqO


「たっだいまー」

 玄関を開けるなり元気に帰宅の挨拶をしてみた。
誰も居なかった赤っ恥だが、鍵も開いてたしいるだろう。

「キョン君おっかえりー!」

 と、思ってたら案の定妹がさらに元気良く抱き付きタックルを仕掛けて来た。
腰辺りに抱き付く愛すべき妹を持ち上げて、靴を脱ぎ廊下にあがる。

「今日は良い事あったの?」
「ま、そんな所だ」
「やったねキョン君!」

 やたら激しい妹のスキンシップにも今日は付き合ってやる。
無邪気な年を重ねるごとに無くなる笑顔が眩しい。
しかしいつまでも遊んでる訳にも行かず、

「一回着替えるから離してくれるか?」
「はーい」

 そう言ったら、妹はすんなりと離れた。
普段は足に付いたのを離れさせようとすると抵抗されるのだが、なるほど適当に構ってやると
素直になってくれるのか、思わぬ発見だ。


83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/08(日) 01:46:38.87 ID:kK11EQMqO


 二階の自室に入って一番に視界に入ったのは図々しくもベットに居座るシャミセンだった。
その真ん丸に肥えた身体をぐいと伸ばしてベットの真ん中に俯せになる雄の三毛猫に
嘆息を付きつつ、当面はそのままにしてやることにした。

 ここでさらに新事実を述べる、あの時来て居たメールは阪中だけでないのだ。
実は他の参加するクラスの女子からも数通来ていたのだが、
部室で突っ込まれるのを避けるためまだ返信してないので、いましなくてはならない。
あとは明後日着て行く服装をどうするかと言う問題もある。

「とりあえずいまは適当に着替えて…」

 いくつかのジャケットを見比べたりしながらそこそこに良さそうな物を選び終了、
財布の中身もまだゆとりはある方だし問題なしと判断し、
俺は三毛猫シャミを起こしてやる作業な移行した。

88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/08(日) 02:11:16.56 ID:kK11EQMqO


「ご馳走さま」
「ごちそうさまー!」

 夕食も終わり、食器を流しに片付けた俺はテレビを見ながら携帯を弄っていた。
基本的に前から知り合いで仲のよい阪中とメールを繰り返し、
その合間に別れ際、席に戻る時にアドレスを交換したカラオケに誘った、彼女達に返信する。

 複数人相手にメールしてるので、内容がごっちゃにならないように気をつけながらキーを打つ。
余り早い方でないので、女子高生の返信の早さには目を剥くばかりだ。

91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/08(日) 02:27:56.27 ID:kK11EQMqO


「キョン君お風呂沸いたよー」

 阪中によく聞く好きな曲やアーティストを、
クラスの女子にハルヒと付き合ってるのか否かの返事を入力している途中で妹に呼ばれた。

「先に入ってなさい」
「一緒に入ろー」
「無茶言うな小学五年生」
「キョン君の意地悪!」
「……」

 俺はメール中断とおやすみの一言を文面に添えて阪中とクラスの女子の双方に送り。
今日だけだと言い聞かせて、妹と一年振りに風呂に入った。

96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/08(日) 02:50:13.02 ID:kK11EQMqO


―――

「すまん待たせたか?」
「いや、まだ約束の時間まであるよキョン。早かったね」


 国木田と阪中、そして女子が二人待ち合わせの場所に既にいた。
俺はその集まりに合流し、また来ぬ谷口ともう一人の女子を待つ事にした。

「キョン君ってGLAY歌える?」
「たまに聞くが怪しいな」
「キョンの声なら合いそうだよー、できれば歌って欲しいかな!」
「善処する」

 女子が間も無く合流し待ち合わせの時間を少し過ぎた頃に
ようやく谷口が来るまで歓談していた俺と女子達。
阪中以外の女子はストレートの子とセミロングでウェーブをかけた子、
そしてときめきのポニーテールの三名だ。
昨日メールしてたのはウェーブの子とポニーの子、少し遅れたのはウェーブの子。



97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/08(日) 02:51:58.74 ID:kK11EQMqO


「悪い、遅れた!」
「遅刻、罰金」

 言って見たかった。
ので、谷口に向かって言って見た。

「げっ、冗談だろキョン!?」
「当たり前だ。が、まぁ飲み物おごるくらいはしてもいいんじゃないか?」
「ちぇ、わかったよ…。じゃあとりあえず喫茶店行こうぜ」

 なんとも女子の前だと気前のいい谷口だった。
しかし普段のお前を知ってるクラスメートに如何ほど効果があるかは不明だがな。

104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/08(日) 03:17:09.64 ID:kK11EQMqO


 初入店の喫茶店、俺は当たり障りの無い珈琲を選んで店員に頼む。
国木田と阪中は紅茶、谷口はコーラを頼んだ。
他の女子はストレート娘がアイスティーでウェーブ娘がオレンジ、ポニーさんはコーヒーだった。

「しかし谷口、この人数だが大丈夫なのか?」
「僕が予約しておいたよ」
「近くのBIG ECHOだ。キョンも知ってるだろ?」
「あそこか…」

 七人だしやっぱその辺りだな。
俺としてはシダックスを推したい所だが、少々遠いし、予約したならそこに行くしかない。

「お待たせしました」

 店員の持ってきたコーヒーに少量のミルクだけを入れて飲む。
カラオケか、久方振りだしなにを歌おうかね…?

108 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/08(日) 03:38:52.24 ID:kK11EQMqO


 照明は暗くしてあり、防音性に長けた部屋で流れる音楽と少女の高い声。
それぞれ椅子に座り、話したり曲を決めたり、飲み物を飲んだりしている。

「阪中さん歌上手い!」

 伴奏がなくなり、マイクを置いた阪中にみんなが声を掛ける。
少し照れた様にはにかみながら俺の隣りに腰掛け、そしてこちらを見上げて
軽く上目遣いで微笑む阪中。

「みんな大袈裟なのね…」
「いや、素直に上手かったぞ」

 烏龍茶の氷をストローでつつきながら話す。
新しい曲が流れてストレートの子がマイクを取る、次の次が俺だ。

「ねぇキョン君」

 ふとウェーブ娘が俺に机越しに話しかけて来る。

「涼宮さんとは付き合ってないんでしょ?」
「あぁ、友達には言いが異性としてはタイプじゃないからな」
「ふぅん……、なら阪中さんとは? 最近仲良いみたいだし、付き合ったりとか考えたりは?」


112 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/08(日) 03:59:52.57 ID:kK11EQMqO


 俺の隣りで阪中が肩を震わせたのを感じた。
なにかに怯えたのか、驚いたのか、とにかく身を竦ませて俺の言葉に耳を傾けてる雰囲気を感じる。
俺は強いて阪中を意識しない様にして会話を続ける。

「どういうことだよ?」
「そのままよ、涼宮さんはタイプじゃない。なら阪中さんは? タイプ?」

 はて、どうにも阪中に対する印象なりなんなりを
この場で本人の聞こえるように言わせたいようだな。
……意図はわからないが。

「さてな、嫌いなタイプはハッキリわかるが好きなタイプはいまいちわからないんだが…、
そうだな阪中の事は女の子として好きだが、付き合いたいとかはわからない」
「可能性は?」

 やたら食い下がるな。
なんなんだろうか? やはり女子高生は恋愛話が好きなんだな。
あまり周りを巻き込まないで欲しいが。

「そりゃあるだろ、少なくとも魅力的だとは思うさ」

117 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/08(日) 04:24:01.78 ID:kK11EQMqO


 視界の端で、肩が触れ合う程近い阪中を伺うと、
カラオケに誘った時よりも尚、これ以上ない程に顔を紅潮させていた。
ウェーブは、一人得心いったとばかりに頷いてから、

「じゃあ私はどうかな?」

 と満面の笑みで聞いて来た。

134 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/08(日) 07:21:28.89 ID:kK11EQMqO



 喧騒から少し離れて息を付く。

「しかしキョンも大変だね」
「ほっとけ」

カラオケ店の、男子トイレの洗面台に国木田と二人駄弁っていた。
次の自分の曲までいましばらくあるからな、女子の再度侵攻を遅らせるために時間をトイレで稼いでいる。

「ははっ、でも久し振りに歌ったのに全然変わってないね。上手いよキョンは」
「お前だって中々のもんだろ? 俺なんか曲調が似た物ばっかだぞ」

138 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/08(日) 07:55:25.63 ID:kK11EQMqO


 二人でしばらく話したあとルームに帰還、
谷口が熱唱していたのを一瞥し先程の位置に座る。

「おかえり」
「ん、ただいま?」

 氷が溶けて薄まった烏龍茶を飲み干し曲順を確認、
阪中と話しながら先程の自分の発言を想起する。
なんで、阪中のわざわざ真横であんな事を言ったのだろう?
変に意識してるようじゃないか…。

「キョン君?」
「いや、なんでもない」



141 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/08(日) 08:21:00.46 ID:kK11EQMqO


 ま、そんな感じで、今日と言う日は終えていったのだった。まる。
……いや、表記の手間を惜しんでると思われるのも嫌なので誤解を避けるために
少々弁解、もしくは弁明、もしくは釈明めいたことを述べさせてもらう。

 いやだって実際問題、誰がどんな順番でどんな歌を歌い、何点なのかなどは、
無駄知識にもならない不要な情報である事は誰の目にも明らかなのだからな。
ただ一人頭の金額が二千をちょっと超えるくらいになる程度には飲み食いしたとだけ。

143 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/08(日) 08:36:59.84 ID:kK11EQMqO


「今日はありがと、楽しかったよ」
「またなにかあったら誘ってね!」

  集合した待ち合わせ場所に一回移動し、解散。
クラスの女子は電車で帰る子もいるため少々早い時間なのだが、

「それじゃキョン君、今日はありがとね。カラオケなんて二回目だったけど楽しかったのね」
「そうか、ならまた一緒に行くか?」
「あ、うん!」

 阪中とも別れて、残った男三人。

「どうする?」
「ま、男同士コーヒーでも飲みながら話でもどうだ?」
「僕は賛成」
「なら行くか」

 

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/08(日) 23:57:52.13 ID:kK11EQMqO


 昼と同じ喫茶店。
出入り口である扉には厳かな感じの古めかしいベルが涼やかな音を鳴らす。
店内は何処かで聞いた覚えのあるクラシックがBGMに流れ、
微かにする珈琲豆の薫りが肺を満たす。

 良い店だ。

「そういやキョンよ、今日は涼宮に連れずに済んだからこれたんだろ?」
「まぁな、ハルヒがなにか今日と言う日になにか予定を決めてたら俺はここには居まい」

 案内されたテーブル席に座り、店員に珈琲を三つ頼んで一息。
店内奥のその場所は何故か郷愁をかき立てる。

「だから、俺達も最初は日曜にしようって言ってた訳だが…」
「そうだったな、まったく変な気を使わせたな」
「いや、それはいいんだが。明日は結局どんな用事があったんだ?」

13 名前: ◆7SHIicilOU [] 投稿日:2009/03/09(月) 00:04:10.64 ID:R3CpsWmoO


 さして待たずに珈琲が運ばれてくる。
まずはそのままで一口、そして砂糖とミルクを少しずつ入れてもう一口。

「いや、大した事ではないんだが、外せない野暮用でな。
今日が休みでなかったらまた断る所だった」
「涼宮さん絡みじゃないの?」
「違うな、学校関連じゃない。いや、一種ハルヒ絡みと言えない事も無いが…」
「ま、ナイスタイミングでよかった、また期を見て行こうぜ。
今度はボーリングなりなんなり」
「あぁ」

 カランとベルが鳴って来客を控え目に告げる。
ちらりとそちらを伺い、俺はマグカップを口に付けたまま硬直した。

「橘…」

 呟きに谷口・国木田両名が入口に目を向ける。
橘も、こちらを見て驚いたように目を大きく開く。

「キョンの知り合い?」
「さっきの野暮用の相手だよ…」



15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/09(月) 00:04:53.25 ID:R3CpsWmoO



「どうも初めまして橘京子です」

 店員にこちらを指差して何事か話した後、
橘は俺達の座る席に歩いてきて、そう言いながら空いてる椅子の一つに腰掛けた。
四角いテーブル、四人席に俺は先程まで谷口・国木田と向かい合う形で座っていたので、
必然的に俺の隣りになったが、…まぁ他の二人と初対面だしと沈黙を通した。

「キョンさん、今日は涼宮さんの市内探索はなかったんですか?」
「まぁな、クラスメートとの遊びに徹した一日だったよ」

 テーブルにはグラスが一つ増え、なんとも形容し難い、名状し難い雰囲気が醸し出されてる。
橘と俺が適度に会話をこなし、たまに谷口・国木田が相槌を入れたり質問を返したりしている。



16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/09(月) 00:13:06.11 ID:R3CpsWmoO


「キョンと橘さんはどこで知り合ったの?」

 どことなく、恋人の馴れ初めを聞かれたようなニュアンスを感じる。

「佐々木の知り合いでな、そこからだ」
「あぁ佐々木さんの…」
「おい国木田、佐々木ってのは誰だ?」
「キョンの昔の彼女だよ」
「クラスメートだ」
「じゃあそこの橘はその佐々木と同じ高校とかなのか?」
「まぁ…、そんな感じだ」

 珈琲を口に含んで時間を稼ぐ。
そんな俺をよそに橘は平気の平左で笑顔を振りまいている。



17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/09(月) 00:13:45.91 ID:R3CpsWmoO


「しかしキョンよぉ、お前は本当に向こう岸の住民になってしまったんだな…」

 谷口は少し冷めたマグカップの中身を一気に飲み干すと、
しみじみとそうぼやいた。…意味が分からんな。

「お前は俺と同じだと思ってたのによ…」
「だからわからん」
「成績も悪いし、体力に自信があるわけでもなく。モテないから彼女もいない、
そんな仲間だと思ってたのによ…」
「さらば谷口、お前と過ごした時間はそれなりに楽しかったぞ…」

 言って空になったカップを振りかぶる。

「いや、ストップストップ! 冗談だってキョン!」
「言わぬが華、知らぬが仏、口は災いの元だ」

 カップをソーサラーに戻して店員を呼び止めておかわりを頼む。
そして谷口に向き直る。

「でだ谷口、先程の口振りだとまるで俺がそうでなくなったような言い方だが?」


22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/09(月) 00:32:25.35 ID:R3CpsWmoO


「いやだって、キョンって付き合ってるんでしょ? 橘さんと」

 ちょっと待って、今国木田が横から何か言った。
俺が橘と付き合ってるだと?

「何故そうなる」
「だって明日橘さんとデートなんでしょ?」
「はぁ、それでよくも阪中にあんな事言えるなキョンよ。
いつからお前はそんな軽薄な奴になった? 俺は哀しいぜ」

 今度は止めずにストレートに谷口の頬に拳を入れた。
大袈裟に騒ぐ谷口に二杯目の珈琲を啜りながら懇切丁寧に説明してやった。
橘とは友人だし、明日会う事にしてもそんな浮ついた雰囲気は無く、
個人的な思想で他人を色眼鏡で見る事は非常に好ましくない行動であり。
谷口、お前はその行為を平然と行った重罪人である。
阪中に関することもお前の誇大妄想がもたらした空想で色恋沙汰とは程遠い、
自身に縁が無いからと他人にそれを求めるのは不実であると。

「そうかな? 橘さんとは初めましてだからどうこう言えないけど、
阪中さんに関してはあながち谷口の間違いじゃないと僕も思うよキョン」

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/09(月) 00:52:17.58 ID:R3CpsWmoO


「おい国木田、お前までなにを…。橘と俺は付き合ってないしその予定も無い!」
「……まぁ確かに部外者の僕達は口出しはしないけど、
谷口の誇大妄想ってばかりじゃないよキョン」

 なにやら言い聞かせるような感じで言い切られてしまった。
どう返答したものか悩み、また珈琲に手を伸ばす。
するとしばらく黙っていた橘が、

「阪中さんって誰?」

 と聞いてきた。
アイスティーのグラスの縁を指でなぞりながら、橘はこちらを見上げている。

「クラスメートだ」
「ふ、ううん?」

 怪訝そうな感じであるのは流石にわかるが、
嘘はついてないし、真実を隠してもないので押し黙る。



28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/09(月) 00:55:03.83 ID:R3CpsWmoO

「ま、いいですけど。
あぁ谷口君、国木田君、私とキョンさんはほんっとうに付き合ってませんから。
ではまた明日お会いしましょうキョンさん」

 台風とは行かない低気圧が明らかな造り笑顔をして去って行った。
……疲れた。

「お前って…、やっぱキョンだな」
「流石にさっきの発言はどうかと思うよキョン」
 どうやら低気圧が去った後は快晴と言う法則は適応されず、
なにやらこの場に少々の禍根が残ったようだ。
発つ鳥があとを濁して言ってしまった。

 その後微妙の空気のまま解散し、俺は橘の飲んだアイスティーの代金を払う羽目になった。

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/09(月) 01:08:42.91 ID:R3CpsWmoO


―――

 自室のベットに転がり、もはや癖のように天井を見上げる。
今日はシャミセンが腹の上で丸くなっていて、その暖かさが眠気を誘ってくれる。
いや、実際ただ仰向けになってるだけなら束の間の安眠を享受していたのだろうが。
いまは携帯でメール中、寝落ちする訳には行かないので起きている。
これが谷口辺りなら気にせず寝るのだが、相手が最近親しくなった女子ではそうはいかん。
それに単純に普段話さない人間とのやり取りが面白くもあったしな。



32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/09(月) 01:25:00.60 ID:R3CpsWmoO


 カチカチと携帯のキータイプの音だけしかいまこの部屋ではしない。
…いや、時々ごろごろとシャミセンの喉を鳴らす音もするが。

『今度は二人でどこか行けたらいいね!』
「……」
『俺と二人じゃ退屈させるかも知れんが機会があったら行こうか』

 送信。
 ウェーブの子からのメールだ。なにやら強烈に押して来る。

「ん、今度は誰だ?」

 絶え間なく鳴動する携帯の画面に目をやる。
メール受信の画面エフェクトが終わった後に受信ボックスがでる。

『Fm涼宮ハルヒ』

 愉快な予感が欠片もしないのは俺だけじゃなかろう。

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/09(月) 02:06:06.15 ID:R3CpsWmoO


 鏡を覗くまでも無くいまの俺が面倒を全面に押し出した表情をしているのがわかる。
一瞬開かないで削除してやろうかと思ったが、
放置してれば今度は直接電話をかけて来て俺の鼓膜が破損の危機になるので、
渋々嫌々メールを開封させてもらった。

『明日朝十時に駅前集合。来なかったら死刑、遅れたら罰金』

 はい、予想通りの大当たり。
こいつに人の予定や希望を聞くような殊勝な心がないのはとっくに承知の助だが、
これはまたピンポイント爆撃だな。しないと言ったなら次の週まで待つ事くらいしろ。
俺は当然断りのメールを送るために指を動かす。
俺だって暇なら付き合うが、三日も四日も前に決まってた予定を
土壇場でキャンセルしてまで付き合う程ハルヒの重要性を高く設定していない。
ただでさえ、明日会う相手が相手なんだ。
わざわざ日をずらして貰って借りを作るのも宜しくない。


40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/09(月) 02:08:32.09 ID:R3CpsWmoO


『無理だ、明日は予定がある。
……先んじて言っておくがSOS団の日常的な活動よりもそれは大事な用事だ。
キャンセルはできないしするつもりもない、明日は俺抜きでやってくれ』

 あんたの用事とSOS団、どっちが大事だと思ってるの!?
過去に俺が不参加の旨を伝えた際にハルヒが放つ言葉は毎回上記の言葉。
今回もそうだろうと先に文面に書き記して送信する。
メールだと言葉に大声で重ねられてかき消される事がないので非常に便利だ。
その上、いつの間にか俺も賛成や肯定の位置に立たされる事もなく、
しっかり、キッカリ、バッチリと意思を伝える事ができる。ビバ電子メール。
異議を唱えてあの強烈な視線を浴びせられる事も理不尽な屁理屈を叩き浴びせられる事もない。


42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/09(月) 02:18:59.87 ID:R3CpsWmoO


 まぁ結果的にはあんま変わらなかったけれど。
俺はハルヒのフルネーム映る携帯を指先で持ちながら、
苦虫を噛み潰したようなまさに苦々しい顔をしていたことだろう。

 画面には着信中の文字が踊り、着信音が延々なっている。
寝ていたシャミセンが不快そうにこちらを見ている。はやく止めろとの意思表示だ。

「もしもし」

 なんて俺が言うのをあいつが待つ訳もなく。
通話状態にした途端に騒がしい声が立板に水で流れて来る。
着信音に続いてこの怒声にシャミセンは完全に愛想を尽かしたとばかりに、
のそのそと部屋からでていく。なにやら不遜な態度に思う物もあるが、それよりは団長だ。

「おいハルヒ、少しは文脈を整えて会話を成立させる努力をしろ」


43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/09(月) 02:30:41.65 ID:R3CpsWmoO


 喧々囂々たる非難を浴びせるハルヒに俺は耳から離して、
再度冷静に落ち着くよう話しかける。
相手がヒステリーになっていると自身は非常に冷めた気分になるものだ。

「……落ち着いたか?」

 しばらくして静かになった電話の向こう側に問い掛ける。
まったくあいつはいま何時だと思ってるのか…、
電話越しでこの声量ならハルヒ当人の周囲は相当なデシベルになっているだろう。
ガラス等が割れてなければ良いのだが…。

『あんた、なんの権限があってSOS団の活動を欠席しようとしてるわけ?』

 まるでこちらの非を追及するかのような言い方に、少々カチンと来た。
俺は短気ではないが、気が優しい訳でも気が弱い訳でもない。
怒るときは人並みに怒る。

「ならお前はなんの権限があって俺の休日を束縛しようとしてるんだ」
『私は団長なの! 団員は従えばいいのよ』

 また無茶を言ってやがる。
脳内花畑は彼岸花でいっぱいですかこの野郎。

「それはあくまでも常識の範囲内だ。先にしていた約束を優先するのは人間として当たり前のことだ」
『平社員が一ヶ月前から同僚と約束してようが社長の前日の一言でその日の予定は決まるのよ!』


48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/09(月) 02:49:49.89 ID:R3CpsWmoO


 一瞬納得仕掛けたが、結局横暴を言ってる事に変わりない。
俺は一旦携帯を離して深呼吸を数度し、ハルヒによく聞けと前フリをしてから話出す。

「確かに縦社会の会社ではそうだろう、だけどなハルヒ。
相手の言い分を聞かず、理解せず、理解する努力を放棄し、そして自らの意見を押し付ける。
……それじゃお前の言う大嫌いなつまらない大人、代わり映えしない社会そのものじゃないのか?
お前は結局そんな風に俺を、他の団員も抑えるのか?
お前が作ったSOS団が一緒に楽しむんじゃなくて付き合わせるだけの組織だったなら、
悪いが俺は抜けることにする、べつに嫌だから行かないんじゃないんだぞハルヒ。
俺は道理を通しただけで、お前なら理解できるだろそれくらい」

 一拍、二拍位沈黙が続く。
まったくこんな事を俺に言わせやがって迷惑な団長様だ。

『本当に用があるのね? 嘘だったら承知しないからね』
「お前は人の台詞をちゃんと聞いてたか?」
『わかったわよ! 説教くさいわね、いつからそんな親父になったのよ』

 お前みたいな手のかかる奴がいる所為だ馬鹿。

『じゃあ勝手にしなさい、あんたにそんな事言われるとは思わなかったけど、
確かに少し私も悪かったわよ。日曜は無しにするわ』
「そりゃどうも、俺だってこんな事言うとは思ってなかったよ」

54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/09(月) 03:11:41.35 ID:R3CpsWmoO


「ま、とりあえずそんな訳だから」

 あのまま切るのは決まりが悪いと、しばらく先のやり取りを忘れて
談笑に時間を割いて。そろそろ明日に差障る頃合にそう締めくくった。

『ん、どんな用かは知らないけど、ついでに不思議にも目を光らせて起きなさい!』
「了解」
『それから、なんかごめんね』
「気にすんな、らしくないからな」
『……キョン、あんたはSOS団辞めないよね?』
「お前がまたさっきのようなことになり、しかもその行為を良しとした場合以外は、
まぁ辞める事はないさ、団員その1だからな」
『そ、……じゃ、おやすみ』
「へいへい」

 通話終了のピープ音を聞いて携帯を閉じる。
眠さが半端ないことになっているのを良い事にそのままの体勢で俺は瞼を閉じた。

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/09(月) 03:29:22.34 ID:R3CpsWmoO



―――

「ふはっ!?」

 いきなり落ちる夢を見て目が覚めた。
酷く寝汗をかいていて不快指数が缶コーヒーも驚きのMAXレベル。
時計を見るとまだ目覚ましの鳴っていない時間で、
折角どんな形でも早起きできたのにあの無機質なベルを
ジリジリと鳴らされては敵わんと目覚ましのスイッチを切る。

「日曜のこんな時間にすでに行動してるなんて、なんと珍しいじゃないか俺よ」

 起こしに来た妹の反応を見て見たい気もするが、それより着替えなくては…。


57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/09(月) 03:33:42.04 ID:R3CpsWmoO


 そうだ、シャワーを浴びよう、
時間もあるし寝癖のついた髪の毛に教育的指導もついでに行えばいい。
不快感も夢の内容もさっぱりさせるのに丁度いい。
あの手の夢に限って鮮明に記憶に残るからたちが悪い。

 俺は思い立ったが吉日と、脱ぎかけていたワイシャツのボタンを戻して
階下の風呂場に向かうことにした。


59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/09(月) 03:41:26.35 ID:R3CpsWmoO



「あー! キョン君が起きてるよお母さん!」

 一階に降りるなり妹に酷い台詞を言われた。
まるで起きてる事がこの世の破滅を意味してるかのような物言いだ。
渋面の俺を置いて妹は居間の母の元に行ってしまったので、
この思いをぶつけることもできずに俺はシャワーを浴びるために脱衣所の扉を開いた。

「バスタオル…、バスタオル…」

 タオルをだしながら洗面台でうがいをする。
寝起きの口は菌の宝庫だ。気持ち悪いことこの上ない。


60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/09(月) 03:52:06.04 ID:R3CpsWmoO


「キョン君お風呂入るのー?」

 いつの間にか戻ってきてた妹が聞いてきた。

「そうだ、熱いシャワーでも浴びようかと思ってな」
「ふぅん…あっ、お母さんがいま朝ご飯作ってくれてるから!」
「お、そうか、わざわざすまんな」

 などとやり取りをしつつ、風呂場にイン。
熱いシャワーを頭から浴びて髪を洗う、朝シャンすると髪が痛むからお湯だけだけど。

 顔を洗って、汗を流してシャワーを止める。
バスタオルで身体を拭いた所で着替えを用意するのを忘れてたことに気付く。

「タオル一丁で部屋までダッシュか…」




 妹になにしてるの?
と聞かれてしまった。

64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/09(月) 04:16:49.40 ID:R3CpsWmoO




 ガムを噛みながら待ち合わせ場所で俺は橘を待っていた。
べつにガムを噛んでいるのは、頭の悪い高校生を演出してるのではなく、
エチケットの問題として噛んでるだけだ。フーセンできないガムだ。

 現在時刻正午を五分ばかし過ぎた辺り、どうやら橘は遅刻をしている模様だ。
俺も人の事を言えないが、最後だろうと待ち合わせ時間には着いているのを常に意識してる。
待ち合わせの目印になってる時計を見上げる、もうすぐ橘の遅れは十分を超える。

 ガムをティッシュに吐き出しゴミ箱に捨てるため少し場を離れる。
常緑樹の並木の間にあるベンチ脇のゴミ箱にティッシュを捨てて、時計の方を向く。
まだ橘は来ていない。

「遅いな…、なにかあったのか?」

 ぽつりと呟くと、

「ご心配ありがとうございます、でも大丈夫ですよ?」

 非常に近くから声がした。

66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/09(月) 04:34:58.67 ID:R3CpsWmoO


 俺の立っているすぐ近くのベンチに座っているこの少女が
俺の待っていた橘だと気付くのに俺は幾許かの時間を消費した。
それも致し方なし、いつものツインテールはどこへやら、
野球帽を目深にかぶり、白のパーカーにジーンズというラフな格好のボーイッシュなこの少女には
橘の過去の女子高生テイストとは似ても似つかなかったのだから。

「……居たのか」
「はい、ずっと居ましたよ。キョンさんがキョロキョロしてるのを観察させてもらいました」

 クスクスと笑う姿を見て、ようやく本当に橘だと納得して橘の隣りに腰掛ける。
しかしまたけったいな服装をしているな…。

「どうです? 少し趣向を変えてみたんですけど」
「まぁ悪くはないと思うが…」

 元が良ければなにを着ても似合うという良い見本である。
だが、俺の趣味じゃないな。

67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/09(月) 04:57:13.22 ID:R3CpsWmoO


「ふむぅ、これは失敗ですか…、まぁいいです」
「なにがいいんだよ?」
「これなら恋人には見えないでしょう? まったく予定のない人と一緒にいて
勘違いされたらキョンさんが困るだろうと思って選んだんですけど、
キョンさんも気付かなかったみたいだし目的は達成できそうです」

 …もしかしなくても昨日のことを根に持ってる橘の発言だった。
参ったな…、これから共に過ごす相手の機嫌が悪かったらしたら
一緒にいる俺が楽しく居られる訳がない……。

「あぁ〜、橘」
「なんでしょうか?」
「昨日のを気にしてるなら謝る、あの場ではあぁやって言わざるを得なかったとは言え、
気配りに欠けた発言だった。橘は魅力的だと思うし可愛いとも思ってる、
昨日の発言はまったく俺の本心ではないんだ!」

71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/09(月) 05:18:23.80 ID:R3CpsWmoO


 通行人にみられてるのを感じる。
台詞の最後の方、力が入って声が大きくなってしまったからな。
痴話喧嘩の類と思われてるのだろうと思うが、橘から目は離さない。

「すまなかった橘」

 きょとんとして静止してる橘にもう一言謝って頭を下げる。

「あっ、キョンさん! 頭なんかさげないでくださいよ!
私は全然なにも全く気にしてませんから」

 顔をあげてみた橘の顔は、先刻までの膨れっ面とは打って変わって、
向日葵のような満面の笑みに戻っていた。

「さぁ行きますよキョンさん、とりあえずは喫茶店でお茶でも飲みましょう!」

 機嫌の戻った橘が一人で歩いて行くのに付いて行き安堵のため息をつく。
しかし待ち合わせのあとは喫茶店に行くのがこの街のローカルルールだったか?

78 名前:眠いやん[] 投稿日:2009/03/09(月) 05:53:10.49 ID:R3CpsWmoO


 昨日も二度寄った喫茶店に入店。
珈琲豆の薫りが心安らぐ、本当この店が気に入ってしまった。

「で、今日俺を呼び出したのはなんのためだったんだ?」

 注文を終えて、本題に入る。
メールを見てから今までずっと解けなかった疑問、橘はそれを受けて実に簡単そうに。

「キョンさんと遊びに行きたかっただけです」

 俺の最初の予想を木っ端微塵にしてくれる発言をしてくれた。


81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/09(月) 06:13:37.45 ID:R3CpsWmoO


「は?」

 吐息となんら変わらない様な疑問詞を口にしていた俺。
いや、だったら普通に誘ってくれよ…。あの簡潔かつ感情のない事務的なメールを見たら
裏があるだろうと勘ぐりたくなるじゃないか…? ただでさえ俺とお前の立場が…。

「そう思ってくれるようにあんな書き方をしたんですよ。
普通に誘ったらキョンさんの事ですから、あっさり無視しそうですし」
「……まぁ確かに」

 いきなり橘から遊びに誘われた所で俺はやはり裏を勘ぐって無視、
もしくは拒否していただろうと簡単に想像できる。
どうやら俺は橘の思い通りに動いてしまったらしい。

「次からは普通にメールしますよ」

 まぁ、そうやって笑顔で楽しそうに言う橘を見たら、怒りもなにも起こりはしないけれど。

134 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/09(月) 16:29:57.23 ID:R3CpsWmoO


 クルクルと表情を変えて喜色を浮かべてる橘に釣られて、
いつの間にやら自然に笑っていた俺。
気付いて慌てて口元を隠すためにカップを持ち上げてすでに飲み干していたことを思い出す。

「じゃあそろそろ行きましょうか?」

 それを見てくすっと小さく微笑んで、言いながら立ち上がる橘。
俺は伝票を素早く拾いあげて、精一杯かっこつけて、

「奢るよ」

139 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/09(月) 16:59:38.62 ID:R3CpsWmoO



 喫茶店をでた外は晴天と呼ぶにふさわしい好天で、
日曜日と言うこともあり同年代の男女がちらほらと姿が見える。

「そういえば、キョンさんは私を魅力的と言ってくれましたね?」

 商店街に向かって肩を並べて歩きながらやおらそんなことを言い出した。

「唐突だな…」
「と言う事は、キョンさんは私とこうやって恋人同士に見られても良いって事ですか?」

 ふいに接近して腕を絡ませてくる。
パーカーの前は開いてるし、Tシャツ一枚のみで遮られたそれはやたらと存在を主張している。
天国と地獄。合わせて天獄とでも名付けるか…と現実逃避。

「落ち着け橘、魅力的だと言った事に嘘はないが、嘘でないからこそ色々と問題がだな…」


143 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/09(月) 17:25:30.34 ID:R3CpsWmoO


 女難の相がでてるのではないかと思う。
何故俺は橘とこんなバカップルさながらの行為を衆目の中で行ってるのだろう?

「あれ? キョンさん照れてますか?」
「うるさいぞ馬鹿、早く離してくれ…」

 力強く組んだ腕を引っ張る橘に辟易しつつ苦笑が浮かぶ。
あまり知り合いに見られたくない絵だった。

「キョンさんは今日一日付き合ってくれるんでしょ? 私の我儘にも付き合ってもらいます」
「…そうかい」

 見慣れた道がやたら新鮮に映る中、連れてかれたのはゲームセンター。


145 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/09(月) 17:41:41.91 ID:R3CpsWmoO


 そのゲームセンターはこの辺りで一番でかい場所で、
俺も個人的に、またはSOS団の市内探索での暇つぶしとして度々足を運んだものだ。

「なにがやりたいんだ? そんなに金に余裕はないぞ」

 咄嗟に財布の入った方のポケットをたたく。
諭吉さんが一人と野口が数人しかいない、今月の残り期間を考えるとあまり無駄は無くしたい。
そう思っての発言だったのだが、橘は余裕の表情で

「いえ、私がやりたいのは一つだけですよ」

 と言った。
札を両替機に通そうとしていた手を止め、橘にまた腕を引っ張り目的の場所に連れて行かれた。



146 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/09(月) 17:54:55.14 ID:R3CpsWmoO


「なんだなんだ?」
「いいから来てください」

 橘が足を止めたのはいわゆるプリントクラブ。略してプリクラの機械の前でだった、
明らかに女の子を対象に絞った華やかな装飾を施された四角い機体を指差して橘ははしゃぐ。

「これ、やりましょうよ」
「プリクラ…ね、初めてだなこんなのやるの」
「あっ、そうなんですか? なら初めての相手は私と言う訳ですね」
「言い方を変えてくれ…」

151 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/09(月) 18:28:21.33 ID:R3CpsWmoO


 プラスチックでできたファンシーな暖簾をくぐって、照明の眩しい機内に入る。
なるほどこれは未知の世界だ。訳が分からん。

「……300円っと、フレームどれにしましょうか?」

 小銭を投入しながら画面を操作する橘。
後学の為によこから覗いてみると四角い枠を縁取るような装飾が多種多様に並んでいた。
ハートやら花やら植物やら星やら水玉やら、エトセトラエトセトラ。

「これはまた凄いな…」

154 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/09(月) 18:51:15.09 ID:R3CpsWmoO


「これはどうですか?」

 大きなハートの中に人が入るタイプのフレーム。
なんだ、狙ってるのか? 今日はそう言う日なのか?

「いや、別に構わないが俺としては他のが…」
「違うフレームで同時に三回位撮れますから! じゃあ最初はこれで行きましょうか!」

 どうやら決定事項らしい。

「やれやれ…」

157 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/09(月) 19:14:47.09 ID:R3CpsWmoO


 言われるがままに二度三度とカメラに向き合って写真を撮った。
撮った写真に落書きしたりできる機能もあるらしいのだが、
今回はなにもせずに外にでて、吐き出されたプリクラのシートを受け取った。

「よく写ってるじゃないですかキョンさん」

 シートをこちらに向けて小さな写真に写った俺を指差す。
ややぎこちない笑みである、それよりも橘の方がその明るさが前面にでててよく写ってると思える。

「えっとハサミハサミ…」

 バックからソーイングセットの小さなハサミを取り出してシートを半分に切り、
その片割れを俺が貰った。三つのフレームの写真が二つずつ貼られたそのシートを眺めてから、
財布にシートを収めた。

「必ずどこかに貼ってくださいね?」
「わかったよ…」

159 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/09(月) 19:29:18.77 ID:R3CpsWmoO


 早速橘が自分の携帯に貼ってるのを見て、俺も携帯と財布を取り出して。
財布の定期などを入れる無色のプラの部分に二枚目に撮ったポップな模様のを、
携帯の電池蓋の裏側には最初に撮った奴を爪を駆使して貼り付ける。

「えへへ〜、さっきはあんな事言いましたが男の人と一緒にプリクラ撮るのは初めてだったり」

 照れたように頬を掻く橘になんだか胸の辺りがカーとなって顔を逸す。

「ようが済んだなら行くぞ」
「あ〜、待ってくださいよう!」

172 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/09(月) 21:23:53.89 ID:R3CpsWmoO

>>159

「次はどこに行きましょうかね〜?」

 様々なゲームの騒がしい音から解放された道端。
のんびりとした調子で呟く少女を眺めていると、少し天候が悪くなっていく空に気付く。
こりゃ明日は雨かもな。

「じゃあ次はあっちに行きましょう!」
「わかったよ、……やれやれ」

 軽く頭を振って先に行く橘を追う。
橘と付き合ったら毎日こんな感じなのだろうか? とか考えてみながら。

179 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/09(月) 22:20:14.31 ID:R3CpsWmoO



―――

 夕暮れ、夕刻。
一日をフルで橘に付き合うことに使用したと思える今日がそろそろ夜の帳に包まれる。
集団や同性同士からともかく、男女一対一の場合あまり遅くなるのはよろしくない。
と言う訳で橘の言の元に解散と相成った。

「今日はありがとうございますキョンさん、楽しかったです」

 ぺこりと頭をさげる橘。
楽しんだのはお互い様なので、感謝されるのはなにか違う気がした。
気がしたので言って見た。

「いや、俺も楽しかった。また誘ってくれ、今度は普通にな」
「はい!」

184 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/09(月) 22:45:41.94 ID:R3CpsWmoO


 手を振り跳ねる姿に微笑を返し、自転車を使い帰路に付く。
今日はいい日だった、素直にそう思う。

 この時間になっても虫も騒がぬ寒冷期。
冷たい風に吹かれて手も凍え、息は白く濁り散る。
ゆっくりと移動してきた雲に空は覆われ、いまかいまかと不安にさせる曇天は
今まさにこの瞬間に白い妖精を吐き出して舞わせる。

 シンシンと、とか。
 チラチラと、とか。
 そんなありがちな形容が浮かんでは消えていった。
そして携帯が鳴り、無意識に止めていた自転車から一旦降りて通話ボタンを押す。


185 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/09(月) 22:53:42.22 ID:R3CpsWmoO


『キョンさん! 雪降ってるの見えますか!?』

 弾む、はしゃぐ声で愉快そうに聞いてくる、先程まですぐ隣りで聞いてた声。
そんなに離れた訳ではないと言うのに天候に違いがそんなある訳なかろうと思いながら、俺は答える。

「あぁ、降ってる」
『綺麗ですね…』
「……あぁ、そうだな」
『……あの、キョンさん。ちょっと聞いてもいいですか?』

 急にトーンのさがった声。

「どうした?」
『私達って、いまは友達…でいいんですよね?』

 真剣そうにそんなことを聞いてきた。

187 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/09(月) 23:08:56.54 ID:R3CpsWmoO


 いまは、という所にさり気ないメランコリーさを感じる。

「…当たり前だろ? 俺は赤の他人と楽しく一日過ごせる人間じゃない、実は結構人見知りでな」
『そうですか? キョンさんらしくない発言に思えますが、でも安心しました。
キョンさんは優しいから、少し今日はしゃぎすぎたかなって思ってたんです』

 クスクスと電話越しに聞こえる声がこそばゆい。

「ま、あれだ。いまは友達だが、その内変わるかもな」
『へ? それはどういう…』
「自分で言ってたじゃないか、誤解じゃなくて真実になる日もくるかもな」
『…っ!? キョ、キョンさ――』

 言い終わるより先に通話を切ってやった。
愉快痛快奇々怪々、俺は再度かかってくる橘からの電話を無視して自転車に跨がった。
雪は、うっすらと積もり始めていた

189 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/09(月) 23:22:15.51 ID:R3CpsWmoO



 チャポンと湯船に張られた湯に浸かる。
冷えた身体に熱い湯が染み渡り、自然と低い声がでる。

「キョン君、おじさんみたーい」
「失礼な…」

 頭を洗い泡だった髪に手を突っ込みながら、こちらに顔を向ける妹。
「目に入るぞ」と言って洗髪に集中させる。

「今日はデートだったんでしょ?」
「違う」
「え〜、じゃあ誰と遊んでたの? 国木田君?」
「違う、頭流すから目を瞑って」
「はーい」

 桶で頭を大雑把に流してやり質問を遮る。
妹は意外に長いその髪を振ってから湯船に入ってくる。

195 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/09(月) 23:41:10.88 ID:R3CpsWmoO


 妹が入った分湯の嵩が増えて湯船から溢れる。
滝の様に流れる水音を聞き、ちゃっかり膝の上に陣取る妹の髪を手櫛で整える。

「キョン君、帰ってきてからずっと機嫌良いんだもん」

 髪を引っ張られてるため背を向けたままで話だす妹。
なにがだってなのかわからん、文脈をハッキリとさせてくれ。

「本当にデートじゃないの?」
「くどい、いい加減にしないとお前の顔を湯面に漬ける」
「やー」

198 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/09(月) 23:57:14.50 ID:R3CpsWmoO


 手で水面を叩き水飛沫をあげる妹に手刀を食らわして黙らせる。
その後なんとなく妹の後ろ髪を三つ編みに編んでいく。

「キョン君はさー、彼女とか好きな人とか居ないの?」
「……」

 今日一日を共にした笑顔の橘と、昨日の紅くなった阪中が浮かんだ。
すぐにかぶりを振って意識から消した。

「いまは居ないな、それがどうした?」
「ん〜、キョン君は好きな人とかできて結婚したらどっか行っちゃうの?」
「かもな、高校でてしばらくしたら自分で家借りてここからはでてくさ」
「でもキョン君はいまは私だけのお兄ちゃんだよね?」

 妹に兄と呼ばれたのはいつぶりだろう…。
少し感慨に浸りたい気分だ、前はいつもそう呼んでくれてたのにな。

「家をでても結婚しても俺がお前の兄で、お前は俺の妹だよ」
「えへへ〜、ならいいや。早く彼女さん作りなよお兄ちゃん」

207 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/10(火) 00:40:25.81 ID:uMBHVBG3O


 濡れた髪にフェイスタオルをかぶせ、脱衣所前の階段で妹の話に付き合う。
もう呼び方は"キョン君"に戻っていたけれど、身振り手振りで話す妹の会話を
こうしてちゃんと聞いてやるのも久し振りだと思い階段に腰をおろして、神妙に聞いてやっていた。

 「それでねそれでね…」と話すことは主に学校でのことや、友達のことなど微笑ましい毎日。
俺は喋るのと欠伸の割合がとんとんになり、妹が眠るために部屋に戻るまで話に付き合った。

209 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/10(火) 00:51:32.70 ID:uMBHVBG3O


 バタンと自室の扉を閉めて、ベットのすみっこで寝てる毛むくじゃらを視認。
少し邪魔に思いつつどうにか布団に潜り込み掴んできた携帯を開く。
この所の日課であるメールのチェックと返信を行うためだ。

 案の定橘から一件とクラスの女子からも二件着て居た。
帰宅したばかりの時にはなにも受信してなかったので、今さっききたのだろう。
あっちもこの時間帯を狙ってメールを送ってくるので相手が楽で助かる。

「阪中からはきてないか」

 落胆なのかなんなのかそう呟いて、橘にだけメールを送り携帯を閉じる。
ゆっくり寝よう。

212 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/10(火) 01:13:23.78 ID:uMBHVBG3O



―――

「おはようございます。週末はお楽しみでしたか?」

 部室に入るなり古泉のそんな台詞に迎えられた。
そんな宿屋の親父のような台詞を言われても対応に困るだけなんだがな、
どいつもこいつも俺にアドリブで捻った発言を求めすぎだ。

「失敬、いやしかし実際週末は予定が色々あったようで」
「まぁな、……金曜夜にバイトはあったか? あったなら多少は謝る姿勢を見せても構わんが」
「結構ですよ、呼ばれはしましたがすぐに雲散霧消したとの報告をもらいました」
「そりゃよかった」

223 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/10(火) 02:11:03.05 ID:uMBHVBG3O


 懸念していたことは解消された。古泉が苦労してるのは理解してるし、
俺としてもできるだけ閉鎖空間は起きないでいて欲しいと思う。
…まぁそのバイト代から俺への賭け金が支払われてるのでたまには発生しても構わんが。

「今日はなにをしましょうか? 基本に戻ってトランプでも?」

 言いながら手付きだけは一流のディーラーの様にトランプを素早くきる。
俺は頷いて、お茶を朝比奈さんから受け取りながら、「ブラックジャックでもやるか。
…朝比奈さんもどうですか? いつも見てるだけですし」と言ってみた。

「あっ、いいんですか?」

 勿論ですとも、いつも横で見ている朝比奈さんは少し寂しそうでしたし。
たまにはみんなでやるのも一興ですからね。

「えっと、配られたカードの数字が21に近い程強くて、21以上になったらダメなんですよね?」
「えぇ、その通りです」
「朝比奈さんもいますから最初はノーレートで」


225 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/10(火) 02:24:29.14 ID:uMBHVBG3O


「あっ長門さんもやりませんか?」

 朝比奈さんがふとそう言った。
見れば長門は本から目を離してこちらを伺っていた。
…長門はバランスブレイカーだからな、今日は最後までノーレートの日に決まりだな。

「ほら長門、お前もこっちきてやろうぜ。ルールはわかるだろ?」

 真っ黒い瞳をこちらに向けたまま長門は小さく頷いて、本を閉じた。
早々に古泉が自分を除いた三人にカードを表で一枚裏で一枚配る。
朝比奈さん、長門、俺の順に表になっているカードの数字は9、Q、6。
自分の裏のカードの数字はA。17か7…どちらにしても微妙な数字だな。



227 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/10(火) 02:44:01.86 ID:uMBHVBG3O


 机を二度指先で叩き、古泉からカードを一枚追加でもらう。
追加されたカードの数字は3、これで合計20。堅実にここでストップしておこう。
21、もしくは二枚での20が相手でなければ負けないのだから、
そう悪くは無い手札であるのは間違いない。

「あわわ…、バーストですぅ」

 …何故最初のカード9の裏カードKでヒットしたのだ朝比奈さん。
そのままスタンドしても良とできただろうに…。

「ヒット」

 ひんやりとした声に振り向けば、すでに手元に四枚。
そしていま五枚目を受け取っていた長門。


228 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/10(火) 02:53:47.55 ID:uMBHVBG3O


 五枚目で長門がスタンドし、古泉が後から配った自分のカードを
華麗にバーストさせて俺と長門の勝利。
なんて感じでしばらくハルヒがくるまでの間連戦した。

 ハルヒが来たのは大体両手で数えられない程度にゲームをこなした辺り。
掃除当番の遅延に文句を言いながらやってきた。

「あら、なにやってんのあんた達。面白そうだからまぜなさい」

 以降ルール無用の謎カードバトルに発展しながらその日の活動を終えた。
本当にお遊びサークルのような集まりだ。有閑倶楽部にはいつ改名するのだろうね?

231 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/10(火) 03:03:25.40 ID:uMBHVBG3O


 校門のすぐそばに、そいつは居た。
待ち伏せと言うとやや語弊があるかも知れないが、ともかく俺を待っていたのだろう
俺が気付いたと同時に向こうもこっちに気付いて駆け寄ってくる。


234 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/10(火) 03:26:06.37 ID:uMBHVBG3O


「阪中、どうしたこんな時間まで?」
「えっと、一緒に帰ろうと思って…」

 控え目に告げる阪中。
何度か記したようにいまは寒冷期で、帰りのHRが終わってから待っていたとすれば、
かなりの時間をこの寒空のしたで過ごしたことになる。
少し注視すれば指先や耳が紅くなっているのがわかる、
頬なんて物凄く紅くなっていて罪悪感が浮かんでくる。

「…いいぞ、阪中は電車通学だったよな?」
「うん、この間集まった時のとは逆の…、一回一緒に行ったことあったよね?」

 ルソー氏の幽霊騒動の際にな。
巫女服の朝比奈さんも合わせた非常に目に付く集団だったのを覚えてる。
しかしいまさらだが、一昨日の待ち合わせ場所は少しどうにかするべきだったな。
遠かっただろう。

「ううん、全然遠くなんかないよ。平気平気」
「そうか、……俺は自転車なんだが、後ろに乗せてこうか?」

 何気なく青い制服の諸君に怒られそうな事を言ってみた。

235 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/10(火) 03:39:47.55 ID:uMBHVBG3O


 カラカラカラ…。
 自転車のシャフトの軽い音。

 腰に軽く回された腕を意識してしまうのは男の性。

「阪中は軽いな、普段と変わらない」
「そ、そうかな? あはは…」

 先程から話かけてもしどろもどろな今の様な返答ばかりである。
前カゴに入った二つの鞄を見て小さく嘆息。

「あっ、ちょっとキョン君早い!」

 無意識にペダルを踏む力を強めていたのかスピードが結構でていた。
回された阪中の腕の力も強くなっていて、体温がやたら熱く感じる。

「すまん、つい」

 軽くブレーキをかけて減速。
自分一人ならまだしも女の子を乗せてる時に事故るわけには決していかない。
ただでさえ慣れない道なのだからしっかりしないと…。

237 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/10(火) 03:52:01.85 ID:uMBHVBG3O


「んっ?」

 制服の上着ポケットに入れていた携帯が震えてるのに気がついた。
メールだしほっとこうと放置しそのまま自転車を走らせる。

 その内にローカル線の小さな駅が見えて来て、阪中はここでいいよ、
と言ってひょいと荷台から降りた。

「なんかただ送ってもらったみたいでごめんね?」
「いやいや、俺でよければ毎日送ってやるよ。阪中みたいな娘を後ろに乗せてたら
それだけで気分は絶好調ってなもんだ」

 少し茶化してそう言い、小さく笑う阪中に心癒される。

「じゃ、また明日な」
「うんキョン君」

239 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/10(火) 04:08:38.01 ID:uMBHVBG3O


 駅に入って姿が見えなくなるまでその後ろ姿を目で追って、
そして携帯を取り出しメールの確認をする。

『キョンさん、今度の日曜日も暇でしたら遊びに行きません?』

 橘からの誘いのメール。

「……ん」

 俺は二つ返事で承諾した。

241 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/10(火) 04:25:52.24 ID:uMBHVBG3O


 ここらで少し早送りさせていただく。
この先語る様なエピソードがでるまで日にちがあるからだ、こんな一日一日を細かに描写していては
俺が全てを語り終える頃には一年位は平気の平左で経ってそうだからな。

 ただこの頃から今現在の関係の下地はできはじめていた気がする。

 平日は学校で阪中や周囲の女子達と歓談、食事の時には谷口・国木田と談笑し、
放課後は文芸部室でハルヒ達と騒ぎあい、
古泉から金を巻き上げ朝比奈さんのお茶を長門を眺めつつ啜る。
そして阪中を毎日後ろに乗せて10分程度のサイクリングをして帰宅。

 休日だと土曜日、二週間にいっぺんの市内探索で金を消費して振り回され、
無い時にはクラスメートとたまに遊びに行ったり家でのんびり本を読んだり、
日曜日にはほぼ毎週の様に橘と会い、今日はこっち、次はあっちとデート未満な一日を過ごす。

 そんな風に日常は変わっていったのがこの辺り。

278 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/10(火) 13:28:15.48 ID:uMBHVBG3O

>>241

「キョンさんはなにを読んでるんですか?」
「漫画」

 図書館に連れられて、本を読んだりした、
図書館だと言うのに元気よく声を掛けてくる橘。


279 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/10(火) 13:31:25.89 ID:uMBHVBG3O


「キョン君、お昼一緒にどうかな?」

 学校では阪中と共に過ごす時間が日に日に増えていった。
谷口はやたらと薄い友情を嘆くし、国木田は祝辞を述べる。


281 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/10(火) 13:44:29.08 ID:uMBHVBG3O


 元気陽気な橘と、のんびりしたお嬢様みたいな阪中。
俺はこの二人に少しずつ、しかし確実に惹かれていった。
そう自覚したのは意外にも早く、一月もしない内に俺はその事実に至っていた。

 日曜日を待望み、阪中との時間に安らぎを覚えるこの感情が、
友愛ではなく、慈愛でも博愛でも情愛でもなく、ただのありふれた恋愛感情であると、わかった。

 そのことに気付くと急にその姿を目で追い、目で探してる自分にも気がつく。
まさか俺がこんなロマンチシズムを内包してるとは思わなかった。


282 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/10(火) 13:50:55.58 ID:uMBHVBG3O


「驚天動地だ」

 喫茶店、谷口・国木田と三人だけで遊んでいた時に寄ったいつもの店で
詳らかとまでは行かないまでも、いまの俺の本心を語った際の谷口の発言だ。
ハルヒが俺と会話を成立された時ぶりのその台詞に微苦笑を浮かべて答える。

「いや、俺としても意外だ。まさか俺がこんなに早く精神疾患になるとはな」
「どういうこと?」
「佐々木やハルヒ曰く、恋愛感情は精神病の一種なんだとさ」

 語ってる間に冷めた珈琲を飲み下して肩を竦めてみせる。
谷口はいまだに変な顔をしてこちらを見ていた。

285 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/10(火) 14:00:36.49 ID:uMBHVBG3O


「いや、阪中がお前のことを好きなのはあからさまだし、
それをお前も悪く思ってないだろうとは思ってたが…」
「キョンがそこまで積極的な感情を持つとは正直思ってなかったよ」

 交互に話し、言いたい事を言ってくれる二人。
まったく良い友人を持ったね俺も。

「だから俺もそう思ってなかったし、そういう一切合切の計算を無視しちまうのが恋愛で
故に恋愛は精神病なんだろ?」

 真面目に語ると悶絶しそうだがしかし本心。
厄介だな精神病ってのは。

「ま、お前が先に彼女持ちになるのは億歩譲っていいとして…」
「そうだね、それだけなら素直に告白して付き合えばいいんだけどね」


287 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/10(火) 14:17:17.33 ID:uMBHVBG3O


 ズズッと同時に谷口と国木田がカップに口をつける。
毎度の店員を片手をあげて呼んでおかわりをもらう。

「まさかキョンが二人同時に好きになるなんてね」
「お前が誰かを本気で好きになるって時点で驚きなのに、しかも二股かよ…」

 いまにも呪詛を吐きそうな谷口の面。
お前はナンパなりなんなりして頑張れよ、俺は素直な恋愛をする。
ってか谷口、二股とはなんだ。俺はどちらとも付き合ってなどないぞ。

「でも阪中さんとキョンは半ば公認カップルみたいになってるじゃん?」

 初耳だった。

「この間会った橘ってのも、多分同じ様な感じだろ?」
「少なくともキョンに好意は抱いてるよね」

 う〜むと俺以上に唸る二人を見ながら、珈琲を一口。


291 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/10(火) 14:47:59.13 ID:uMBHVBG3O


「まぁ結局キョン次第なんだけどね」

 悩んだ挙句の結果が丸投げだった。
間違ったことは言ってないのだが腑に落ちない。

「あれだ、一生に一度のモテ期だな。
どっちかは知らんが逃げられない様にしっかりしろよ、優柔不断もほどほどにな」
「あのなぁ…」

 大口を開けて笑う谷口にチョップを進呈し話はそこで終わった。


296 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/10(火) 15:12:13.61 ID:uMBHVBG3O


―――

「あんた阪中とは最近どう?」

 部室、オセロを古泉としているとハルヒがパソコンのモニターと睨めっこしながら
そんな事を言って来た。

「どう、とはなんだ?」
「そのまんまよ、上手くやってんの?」

 お前は親類のおっさんか?

「イマイチ意図が読めないな」
「あんた達付き合ってるんでしょ?」

300 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/10(火) 15:43:26.31 ID:uMBHVBG3O


 確認、一昨日の谷口達の言ってた認識は少なくともクラス全体には広がっているらしい。
しかしハルヒさん、それは違うんだよ。俺は誰とも付き合ってない。

「あら、まだ告白してないの? ハッキリしなさいよ、男でしょ」

 なぜか辛辣な言葉を投げ掛けられた。
人の恋愛沙汰にこういった形で口を挟むとは、ハルヒも変わったな。

「毎日一緒に下校して、弁当食って付き合ってないはないでしょう?」
「おや、貴方にそんな人がいたとは初耳です」

 いう必要ないからな。


303 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/10(火) 16:06:07.38 ID:uMBHVBG3O


「あんたは阪中のこと好き?」

 …まぁ嫌いとこの場で嘘を言う必要性は皆無だし。
必要があったとしてもいいやしないだろう。

「あぁ、好きだな」
「ならなんで告らないの? 断られる可能性はほぼゼロよ?」

 その辺は細い心の機敏があるんだよ。

305 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/10(火) 16:11:56.37 ID:uMBHVBG3O


 なんて会話をしてたからか、阪中に「今日は歩いて帰らない?」と言われた時には
結構動揺した。付き合いたくない、と言う訳じゃないがどっち付かずのこの状態を俺は好んでいた。

「それもたまにはいいな」

 そう受けて自転車を押しながら十数分の道のりを歩いた。
肩を並べて歩く空気にはいつもと違う香りがして少し焦った。


308 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/10(火) 16:20:37.51 ID:uMBHVBG3O


「ねぇキョン君」
「…なんだ?」

 こちらを見上げる表情がやけに艶っぽい。
俺は足を止めて、阪中を見やる。


311 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/10(火) 16:30:08.46 ID:uMBHVBG3O


「キョン君には…、いつも助けてもらってる」

 ぽつりと呟きを落とす。
思わず拾い上げ損ねる程に小さき声に俺は集中して耳を傾ける。

「初めてちゃんと話した時はルソーのことだったよね」
「あぁ」

 春一番、強風が吹き目を瞑る。

「それからこの間のカラオケに誘ってもらってから仲良くなって、
少しキョン君の事が気になってたの…。ううん、気になり始めたのは入学してすぐから、
涼宮さんと一緒に色々やってるの見てて、楽しそうだなって。
でね、最近はよく一緒にいる時間もできて、キョン君のことを少しは知れたかなって思うの。
少しは近付けたかなって」

 少なくとも、今現在俺の心に一番近い人間の一人だそ阪中。

320 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/10(火) 17:18:31.66 ID:uMBHVBG3O


「段々私の中でキョン君が大きくなってくのがわかったのね」

 照れてはにかみ阪中。
その先にどんな台詞が続くのか、俺はわかってる。

「私はキョン君が好きです、…付き合ってください」

 俺がなんと台詞を吐くのか。
俺は知っている。

「俺も阪中が好きだ」

327 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/10(火) 17:30:08.06 ID:uMBHVBG3O



―――

 後日知った話になる。

「あの日、キョン君に告白した日の放課後にね。実は涼宮さんに呼ばれたの。
サッサと告白しないと焦れったくて仕方ないって、
どうせ今日も一緒に帰るならその時に告白しちゃいなさいって。背中を押してくれたの」

 阪中の手製の弁当を食べながらの昼休みにそんなことを知らされた。
勿論ハルヒには次の日に報告したし、会話もしたのだが、そんな素振りはまったくなかった。
あの野郎、俺に対する発破も含めて芝居うってやがったのか…?


331 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/10(火) 17:53:39.73 ID:uMBHVBG3O


 なんと言うか、この場合あいつに礼を言うべきなのか?

「ふふっ、涼宮さんは素直じゃないから多分知らん振りすると思うのね」
「確かに…」

 まぁ心の中で少し感謝しておきますかね。
俺はいまは教室にいないハルヒの席に目を向けてすぐに戻した。


333 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/10(火) 18:10:00.78 ID:uMBHVBG3O


「よぉキョン、仲良さそうで結構なことだな」

 教室の窓際の最後尾から一個手前。
つまりは俺の席で弁当を食べていた俺達に、先に食べ終わった谷口が近付いてくる。

「なんだお前か」
「ひでぇな、親友じゃなかったのかよ」
「俺からそれを口にした覚えはない」
「ひでぇな…」

334 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/10(火) 18:15:21.90 ID:uMBHVBG3O


 谷口はクスクスと笑う阪中をチラリと目の端で見て、俺を手招きした。

「すまん阪中、少し離れる」
「いってらっしゃい」

 断りを入れてから立ち上がり、谷口について廊下にでる。

「なんだ?」
「結局阪中を選んだのか? って聞きたくてな、やっぱり一緒にいる時間が長い方なのかね」


337 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/10(火) 18:38:49.94 ID:uMBHVBG3O


 谷口の発言は的外れだ。
元から二人に言い寄られてた訳じゃないし、片方を切って片方を選んだ訳でもない。
俺は、そうはしなかった。
ただこの時俺は非難されたくなかったのかなんなのか、黙って首肯した。

「かーっ! 羨ましいなおい! 誰か紹介しろよ」
「やだね、お前に紹介したら俺の感性が疑われる」
「ひでぇ!」

348 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/10(火) 19:43:56.53 ID:uMBHVBG3O


―――

「また来週ね、キョン君」
「あぁ、また来週」

 いつもの様に自転車に乗せて駅まで送り、別れ際。
なんとなく自転車から降りて駅構内まで隣りを歩き、改札前での会話。
少し付き合うようになってから前より明るくなった阪中、
切符を入れる直前、足を止めて振り返り。

「えへっ…、バイバイ!」

 咄嗟に置いてかれた俺は少し間を開けてから、
感触残る頬を指先で触れ、駅に背を向けた。

353 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/10(火) 20:06:20.34 ID:uMBHVBG3O


 出発して、加速していく電車を見送り。
停めておいた自転車の元に行き、
サドルに腰掛けながら携帯を取り出して記憶した番号を素早くプッシュする。

「もしもし橘か? 明日会えるか?」



361 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/10(火) 20:49:12.78 ID:uMBHVBG3O



―――

 古今東西、女性の涙には魔力が存在してる。
それは女性が若い女の子であるなら尚更で、
その女の子が可愛い美少女であればその威力は推し量るべしと言ったところで。

「えっと、お、落ち着け橘!」

 その破壊力の前に、俺はこうも容易く陥落している。

366 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/10(火) 21:14:51.42 ID:uMBHVBG3O


「あはっ、すみませんキョンさん…、どうにもとまらなくて…」

 とめどなく流れる涙を手の甲で拭いながらそれでも笑って見せる健気な少女。

「すまん、いきなり…」
「なんで謝るんですか? 私はこんなにも素敵な気持ちなのに」
「い、いやなんか泣かせてしまったし」
「涙にも色々あるんですよ?」

 まだ止まらない涙に構わず笑い、静かに俺の胸に顔を埋めた。
一瞬の躊躇の後、その華奢な身体に腕を回す。

370 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/10(火) 21:32:06.83 ID:uMBHVBG3O


「キョンさん、我儘言っていいですか?」
「なんでも言え、付き合うって言ったからにはお前の全てに付き合ってやる」

 もぞもぞと腕の中で身動ぎしてから潤んだ瞳でこちらを見上げてくる。
橘は少し逡巡を見せてから、「京子って呼んで欲しいです」と
俺の喉辺りを見つめながら控え目に言葉を紡いだ。
それを受けて、俺は悪戯心も半分に橘の髪に顔を近付けて
耳元で囁く様に京子と呼んでやった。

381 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/10(火) 22:23:41.54 ID:uMBHVBG3O



―――

 あれからしばらく経ち、
 俺を中心にした、
 俺だけが知る奇妙な関係は変わらず続いて居る。

「はいキョン君お弁当」
「ありがと」

 手製の弁当を受け取って中庭で二人昼食を取る。
阪中の作る弁当は彩りよく、美味い。

「今度の土曜日は暇でしたよね?」
「確かに市内探索はないが…、なんで知ってるんだ?」
「涼宮さんが教えてくれたの」

 ハルヒはやたらと阪中の肩を持つ。

「だから…」
「そうだな、デートしようか」
「うん」

384 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/10(火) 22:44:18.66 ID:uMBHVBG3O


 純粋に喜ぶ阪中にやや後ろめたいものがあるが、表情におくびにもださず笑顔を返す。

「ご馳走さま」
「お粗末様でした」

 こんな小さなやりとりを幸せそうに行う阪中を眩しく思い教室に戻る。


385 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/10(火) 22:44:59.96 ID:uMBHVBG3O


―――

「あっ、キョンさん。待ってましたよ!」

 橘は、自前のツインテールを揺らしてそう言っていた。
俺はと言えば、敢えて歩調を緩めてのんびりと橘の元に向かう。
ぴょんぴょんと跳ねる姿に苦笑を浮かべ、片手をあげる。

「よっ、京子」
「おっそいですよ!」



386 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/10(火) 22:46:15.90 ID:uMBHVBG3O


 少し頬を膨らませて橘はまだ離れてる距離を小走りで詰めて来る。
俺より頭一つ分以上小さい橘の額を人差し指で小突いてやり、
その後髪を乱暴に撫でる。

「行こうか?」
「もうキョンさん!」
「なんだ?」
「……むぅ」
「あぁ、………大好きだよ京子」

 俺は、幸せだった。


389 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/10(火) 22:49:29.94 ID:uMBHVBG3O


終わり
正直、ながら投下の限界を感じた
橘とのラブラブが書きたかっただけなのに、阪中との二股ENDになっていた
なにを言ってるか(ry

長い上に遅くてごめんなさい、くどくてすみません、最後駆け足で申し訳ないです


401 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/10(火) 23:12:29.06 ID:uMBHVBG3O


ウェーブ娘は俺も書きたかった
けど3スレ目には行かない方がいいかと思って端折った

次はきちんと話を考えてやりたいと思う


その前に台詞だけのなにか軽いのを書きたい



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