佐々木「バレンタイン……か………」


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44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 15:11:56.41 ID:X5hYErD7O


「……言ってる意味がわからないな」

 咄嗟に嘘をついた。
この状況、佐々木の普段見せない紅潮した表情。
2月14日。バレンタイン。俺と佐々木。男子と女子。微かに香る甘い匂い。
誰でもわかる構図だった。

「…キョンは、嘘をつくのが昔から下手だったね」
「…そうか?」

47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 15:24:00.00 ID:X5hYErD7O


 白を切る。こういう腹芸スキルはハルヒのおかげでかなりあがったと思うのだが。
聡明で付き合いの長い佐々木には一目瞭然なのだろうか? 多分そうなのだろう。
わかって嘘を俺はつく。片っ端から看破される感覚が居心地良い。

「ねぇキョン」
「なんだ? そろそろハルヒ達も来そうだが見られてもいいのか?」

 話を逸す。逃げて知らん振りをして逸して、
でもそれすらもきっと佐々木の予想通りで、静かに微笑んでいた。

「まったく、君は成長しないね。変わったのに成長はできてないなんて、
本当に君らしいよ。でも、僕も多少焦る位はするよ?」

 女心の事に関する鈍さは成長どころかさらに磨きがかかってるね。
と佐々木はくっくっくっと小さく笑う。
誰も居ない部室にそれがやけに響いて聞こえた。

53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 15:36:51.95 ID:X5hYErD7O


 ひとしきり笑うと佐々木は嘆息し、俺の目をじっと見つめる。

「さて、確かに部外者である僕がこの場に居続けるのは良くない。
それに僕はそんなこと無いが、涼宮さんは僕のことを好いてないようだしね。
そろそろ目的を果たしてお暇しようかな」

 言って、ずいっと俺の眼前5cmにまで顔を寄せる佐々木。
長い睫毛に桃色の唇、それに頬紅を塗ったかのような頬に俺はくらくらする。

「はいキョン、これをあげよう」


55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 15:44:09.28 ID:X5hYErD7O


 先程から漂っていた甘い香りの発生源と思わしき四角い箱。
青い、花柄の可愛らしい包装紙で包まれ、ピンクのリボンが結ばれたそれは、
多分佐々木の器用なその細い指先によってほどこされたのだろうことは想像に難くない。

「これがなにか、なんて聞かないでくれよ?」
「あぁ…、ありがとな佐々木」
「……君は愉快にも不愉快な勘違いをしてるようだから言っておくけどねキョン。
それは僕の手作りでたった一つの本命だ」

 佐々木は最後にそう言い残して、部室を足早に去った。


59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 15:59:36.01 ID:X5hYErD7O


 残された俺は、部室の入口で佐々木から渡された箱を持って硬直していた。
本命、それがなにを意味する物なのかはいとも簡単に理解できる。

 ノックが俺の思考を遮り、俺はその状態のまま箱を隠すこともなく。
「…どうぞ」と言った。

「おや、あなただけですか。珍しいですね……、っとそれはチョコですか? 羨ましい限りです」

 似非笑顔の古泉が入ってきて、愉快そうに話しかけてくる。
そこでようやく俺は我に帰り。ハルヒでなく古泉で助かったと胸をおろしながら、
箱を鞄に隠すように仕舞い込む。いまは佐々木に対する返事は忘れるべきだ。
っていうか古泉、お前なら本命チョコの一つや二つ当然貰ってるのだろうが。
羨ましいだと? 舐めてんのか。

「いや、そんなことはありません。
確かにいくつかチョコはいただきましたが…、拳を握らないでください。どうも。
…こほん、確かに貰いましたがそれはあくまでも他人です。僕の外見に対するチョコですよ。
あなたのそれはそうではないでしょう? だから羨ましいのです。しかし涼宮さんもなかなか積極的ですね」

62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 16:09:45.63 ID:X5hYErD7O


 古泉は、自分の椅子に座りながら身振り手振りを交えて語る。
合わせて俺も鞄を引き寄せて自分の指定席に座る。ふぅ、人心地がつく。
だが古泉、一つ勘違いしてるようだがこのチョコはハルヒに貰った訳じゃないぞ。

「おや失敬、ではどちらから貰ったんでしょう。朝比奈さんですか? それとも長門さん?」

 先刻までの笑顔に影が差しやや顔つきが真剣になる古泉。
残念だが連続不正解だ。

「……では坂中さんや鶴屋さんですか? まさか意表をついて喜緑さん?」

 違う、と言うか何故そんなに俺のチョコの創造主をそんなに知りたがる?
顔を近付け過ぎだ馬鹿者。

「これはすみません。しかし、これは割合マジな話ですよ。
素直に答えてください、そのチョコは誰から受け取ったんですか?」

「……佐々木だが」

67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 16:26:02.40 ID:X5hYErD7O


 古泉の態度は不審と表すに足るものであったが、
しかしさして隠すことでもなかったので素直に言ったのだが。
チョコを寄越したのが佐々木と知るや否や古泉は頭を抱えだした。

「おい古泉どうした?」
「…どうしたじゃありませんよ、あなたはわからないんですか?」
「なにがだ、毎度の事だがお前はまだるっこしい。共感を得たいならわかりやすくかつ簡潔に話せ」


70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 16:39:07.34 ID:X5hYErD7O


「あなたが佐々木さんにチョコを貰った事を知って涼宮さんがどんな反応するかを考えてみてください」
「あぁ、そういうことか…」

 確かに部室に部外者を入れた事にあいつは不満を言うだろうし。
それが佐々木となれば閉鎖空間の一つもできる…、か?
まぁハルヒが佐々木を好ましく思ってないのは流石の俺も感じてるしな。ま、黙ってればいいだろ。

「あなたって人は…、つくづくお気楽な人ですね」

 どういう意味だ。

「そんなことを言ってる訳じゃないんですよ。わかってるでしょう?
この場合問題なのは、むしろ誰にでもどこででもなく、誰が、が問題なんですよ」

 俺がチョコを誰かに貰ったと言う事がハルヒの機嫌を損ねると言いたいのか?

「その通りです。この場合の誰かとはSOS団以外の誰か、となります」

 ふざけるのも大概にしてもらいたいね。

「ふざけてはいません。実際、僕が佐々木さんにここでチョコを貰った所で
彼女精神には欠片も影響を及ぼさないでしょうね」

75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 16:53:01.21 ID:X5hYErD7O


「とにかく、受け取ってしまったものは仕方ありません。
そこはあなたの言ったように隠し通してください。
しかしこれ以降、今日中にチョコを渡されそうになっても決して受け取らないでください、
……言ってる意味はわかりますね?」

 わかるかそんなこと。
相思相愛の彼女相手ならともかく、
なにが悲しくてハルヒのおたんこナスの機嫌を気にしてチョコを断ったりしなくてはならんのだ。
全身全霊お断りだ。
お前には悪いがそこまで俺はハルヒのために自己を犠牲にするほどハルヒ教信者じゃないんだよ。

「……でしょうね」

 諦めたようにため息をつく古泉。
おいおいそう疲れた表情するなよ、こういう時こそチョコだぞ。
友チョコとして板チョコやるから元気だせ。

「これはどうも、…とにかくあなたは佐々木さんから貰ったチョコは隠し通し
これから来るであろう彼女達女性陣からのチョコを受け取り。
涼宮さんの機嫌を損ねないようにしてください」
「あいよ」

 その程度なら俺も芝居をするさ、妥協案って奴だ。お互いにな。


78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 17:03:43.21 ID:X5hYErD7O


 話が終わってから。
俺と古泉は女性陣が来るまでカードゲームに興じた。
第一試合を俺の快勝で終え。続く第二試合ももうすぐ俺の白星で飾れそうになった頃に

「お待たせー! いやぁ遅れちゃってゴメンね古泉君」

 騒々しい団長以下二名の到着となった。
ハルヒはなぜか古泉にだけ待たせた事を詫びて、ズカズカと団長席に座りパソコンの電源を入れる。
こんな奴が俺のチョコの如何を気にするとは毛頭思えんのだがな。

「いえ、僕達も先程きたばかりですよ涼宮さん」
「あら、それはよかったわ。ほらみくるちゃん、お茶淹れて頂戴!
あっ、ちゃんと着替えなきゃダメよ」
「はい、わかりました〜」

 という事で俺と古泉はカードゲームを手早く片付けて、
一旦室外に退散する。

86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 17:22:41.99 ID:X5hYErD7O


 2月14日。それはまだまだ寒い冬真っ盛りであり。
いままで比較的温かかった部室からいきなり廊下にでれば、息は白く凍り付き、
肌が粟立つ気温一桁。
衣擦れの音が聞こえてしまわぬように少し離れた位置でたたずむ俺達は明らかに凍えていた。

「先程の話ですが」
「まだなんかあるのか?」
「涼宮さん、今朝から様子はどうでした?」

 こいつはなんなんだ。
こんどは朝からのハルヒの調子? そんなのを聞いてどうするのだろうか。

「別にいつも通りだったぞ」
「いつも通り、ですか」
「あぁ」
「おかしいとは思いませんか?」

 お前はこの誘導尋問のような、曲がりくねった会話の起こし方を一度矯正した方がいいな。
もっとわかりやすく話せ。もしくは話したい事を箇条書きにして書き起こせ。

「そう言わないでください。さっきのは謝りますから」
「…わかったから顔を近付けるな」
「すみません。で、涼宮さんです。あんなにイベントごとに敏感な彼女が
朝からそれを匂わさずいつも通り。おかしいですよね」
「恋愛沙汰が嫌いだからなあいつは、さっきのお前の言ってた女性陣からのチョコも
怪しいもんだぜ? 何事もなく終わりそうだな」

98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 18:11:21.62 ID:X5hYErD7O

>>86

 古泉は俺がそう言うと眉間に似合わぬ皺を少し寄せた。

「…そうではないですよ。仮にそうだとしたら涼宮さんはバレンタインと
言う日そのものになんかしら発言しそうなモノです。もしくはまったく方向性を変えた、
自分も楽しめるイベントを発案するでしょう」

 ……確かにな。節分なんてあんな面白みのないイベントですら。
あんなに腹にたまる祭りに変えたハルヒだからな。

「なのにあえてまったく触れないと言うことは、
本人が無意識にもこの日を意識してるという事でしょう」

99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 18:23:58.10 ID:X5hYErD7O

――

「はい、どうぞキョン君」

 天使級メイドにクラスチェンジした朝比奈さんからお茶を受け取り、
礼を言って一口啜る。あぁ身体が暖まる。

 そして古泉が動かした桂の意図を読みながら、ハルヒを横目で盗み見る。
朝比奈さんのお茶を一気に飲み干して椅子にあぐらをかくあいつは古泉の言うような感じは見れなかった。

「長考ですか?」
「将棋、の事じゃないがな」

 盤に視界を戻して歩を進める。将棋の指し筋には性格がでる、
古泉は些か消極的、保安的なきらいがある。それを知ってるのも古泉の言う事を素直に受け取れない理由かもしれない。

104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 18:30:40.49 ID:X5hYErD7O


 ……まぁ別に俺はハルヒのチョコが欲しくてたまらない訳じゃないので、
貰えなくても構わないのだが。できれば朝比奈さんから貰えたら嬉しいなとは思う。

「…今日はよく考えますね」
「誰のせいだ」


107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 18:51:41.21 ID:X5hYErD7O


 その後、朝比奈さんのお茶を何度もおかわりしながら、ハルヒや古泉と雑談を交わし。
将棋にチェスに碁にと連勝を重ねて。
たまに長門をぼんやり眺めたりしたりと、別段なにもない日常を謳歌して。

 夕陽が部室をオレンジに染め上げ、暖かげな光が眼に眩しい頃。
長門が本を大きく音をたてて閉じた。
いつもより少し早い気がした。


112 名前:飯の仕度なり[] 投稿日:2009/02/21(土) 19:12:15.54 ID:X5hYErD7O


「じゃあそろそろ解散しましょう」

 いけしゃあしゃあとそう言い放つハルヒ。
ふん、確かにここまで無関心を装っていると、逆にわかりやすいな。
古泉に言われたからかも知れないがな。



117 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 19:51:32.41 ID:X5hYErD7O


 やっていたゲームのシートを片付けていると側頭部にハルヒの視線が刺さる。
はいはい、気付いてないですよ。貰えなくて残念ですよ。

「こほん…」

 俺の大根芝居になにを思ったのかは知らないが、ハルヒは普段なら考えられない
ひどく控え目な咳払いを一つついた。

「さて、古泉君。今日がなんの日だか知ってる?」
「いやはや、僕にはわかりかねます」

 白々しい笑みでよくもまぁ。



119 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 19:57:32.09 ID:X5hYErD7O

ご飯

134 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 21:01:05.51 ID:X5hYErD7O


「まったく、古泉君も迂闊ね。女の子が可哀相よ?
いい? 今日はバレンタインデーでしょ!」

 鬼の首を取ったかのような、晴々とした表情で宣言するハルヒに
俺は危うく吹き出しかけ、無理にこらえた結果喉を痛めた。

「まーね、古泉君はともかくキョンは特に無縁だしね、
SOS団の団長としてはそんな団員に対して施しをしないと思う訳よ。
だから二人に私達からチョコのプレゼント、ありがたく食べてホワイトデーにしっかり返しなさいよ!」

 立て板に水の如く喋るハルヒに、苦笑と同時に素直な笑みも浮かぶ。
やはりなんだかんだ言っても貰えるのは嬉しいし、必死なハルヒは
……少しは可愛かった

141 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 21:41:39.62 ID:X5hYErD7O


 ハルヒは、その後一人百面相をした後に、「はい、義理」と
ぶっきらぼうに古泉と俺に四角い箱を一つずつくれた。

「みくるちゃんが材料買って来て、有希の家で作ったのよ。
その中に入ってるから、どれを誰が作ったか明日聞くからね?」

 意地悪そうな笑みを浮かべて朝比奈さんと長門と無理矢理肩を組むハルヒ。
どれを誰が作ったか当てろ…、か。存外簡単そうに思うのだがね。

「涼宮さん、ありがとうございます。美味しく頂きますよ」

 古泉が腹の立つ柔和な笑みで礼を言い、俺をチラと見遣る。
…わかってる。

「あーハルヒ」
「あん? なによ馬鹿キョン、ホワイトデーは三倍返し。絶対に負けないわよ?」

 そうじゃない、お前にホワイトデーの金額をどうこう言っても
しょうのない事なのは重々わかっている。

「ありがとう、な。チョコ、大事に食うよ」
「へ? あ、うん。…そうしてちょうだい」
「朝比奈さん、ありがとうございます。長門もありがとう。
二人がどれを作ったか。絶対に見抜けると思う。二人ともホワイトデー、楽しみにしててな」

 芝居じゃなくて素直に口をでた言葉だ。
谷口に見せてやりたい気分だ。

146 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 22:29:03.37 ID:X5hYErD7O



 予想外の反応とばかりに、ハルヒは頬を掻き。
 朝比奈さんは感極まって俺に抱き付こうとしてくる。
 長門は、その黒目がちな瞳をこちらに向けてじっと俺を見つめている。
三者三様のその対応に俺はまたも苦笑を見せつつ、しかし現状をうまく切り抜けて安心した頭は、
すでに佐々木のことを考え始めていた

154 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 22:54:54.18 ID:X5hYErD7O

 それじゃまた明日、もし誰がどれを作ったか間違えたらホワイトデーは100倍返し。
とハルヒの声を背中に受けて、部室からでる。

「いやぁ、名演技ですね。あなたの台詞は聞いていて恥ずかしくなりましたよ」
「やかましい」
「……で、どうするんです?」

 冷える廊下、マフラーをキツくしめて古泉と二人帰る。
朝比奈さんは着替え、ハルヒは戸締まり、長門は……なんとなく一緒に
部室に残っている。

「なにがだ?」
「佐々木さんの方ですよ」

 またその話か? もうハルヒとも別れたし関係ないだろ。

「そうは行きません、彼女の精神状態が安定してるのはいまだけかもしれません」

 どういうことだ。チョコの制作者問題か?
間違えるとは思ってないぞ俺は。

「えぇそれもそうです。が、それよりも問題なのは佐々木さんの告白に対して
あなたがどういう反応をとるかですよ」
「…おい、お前はなにを」
「だてに人間観察を日々行っていませんよ。そのあなたが貰ったチョコが本命であり
あなたがそれを自覚してるの位はわかります。……と言うのは嘘でいま確信しましたが」

 この野郎…。
まったく笑顔でなにしてくれてんだ。性質の悪い詐欺師みたいな真似を。

156 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 23:12:07.29 ID:X5hYErD7O


「ははっ、そう言わないでください。僕もこんな行動を好きでやってる訳ではありません」
「……で、そんな好きでもない行為を行ってまで言いたい事とはなんだ?
くだらない事だったら殴るからな」

 カンカンと渡り廊下を歩きながら拳を握って見せると、古泉は慌てて手を振り笑う。

「えっとですね。話は明快です、佐々木さんを振ってください」

 笑顔で古泉はそう言った。俺は黙って歩みを止める。

「佐々木さんと付き合うようになったら、当然その内涼宮さんの耳にもそれは入ります。
そして付き合う理由が今日、チョコを貰ったからで、それをあなたが隠していたとわかれば
当然涼宮さんはショックを受けます。付き合ってる事と嘘をつかれた事で二重にね」

 俺は黙っていた。
なにかを口にしたら、……なんだろうよくわからない。

「涼宮さんは少なからずあなたに好意を抱いてあます。
しかし性格上素直になれず、あなたが佐々木さんと付き合うことを言葉の上では応援するでしょう。
それは大きなストレスとなり、巨大な閉鎖空間を発生させる、
だからあなたには佐々木さんを振っていただきたいのです。これも世界のためです」

162 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 23:29:36.42 ID:X5hYErD7O


 思わず。と言うかもはや反射的とも言える勢いで、
俺は古泉の似非笑顔の頬を思いっきりぶん殴っていた。

「言ったぞ、くだらないことを言ったら殴るとな」

 古泉は受け身もとらず、ずしゃっと地面に勢いよく倒れこむ。
その勢いに気を削がれそうになるも、止まらない。息は、荒い。

「つまりお前は、俺に、ハルヒの馬鹿な思考に怯えるお前達に付き合って、
たった一人の親友を、一言の元に切り捨てろと、言うのか?」
「つぅ…」
「答えろ古泉、ハルヒが比較的俺を好いてるからと言う理由で、
俺から自由を奪い、拘束し、ハルヒに縛り付けるのか」

 誰もいない学校の渡り廊下。
俺は倒れ伏せる古泉を引き上げ問詰める。

「……えぇそうです。パイロンの言葉の逆転ですが、あなた一人の自由のために
我々は世界を失う訳にはいかないのですからね。これはお願いではありません。
佐々木さんを振ってください」


164 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 23:32:56.58 ID:X5hYErD7O

三角コーンじゃない
バイロンだった

168 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/21(土) 23:46:08.52 ID:X5hYErD7O


「却下だ。佐々木に対しての返答は俺の自由意思で行わせてもらう
お前達の機関と友好関係になった覚えもない、そんなことでハルヒが閉鎖空間を作ろうが
俺には知った事じゃねぇ。お前達一般人外があくせくしてろ」

 膝をつき、俺に引っ張りあげられてる古泉を突き飛ばし。
俺はハルヒや朝比奈さん達が追いついてこないうちにと早々にその場を去る。
ボケットから携帯をとりだし、電話帳の一つに電話をかけながら。





「もしもし、明日会えないか? 佐々木」

172 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/22(日) 00:00:33.32 ID:HfL57IcTO

そろそろ日付変るな…

――

「キョン君おかえりー!」

 帰宅直後に腹部に愛しい妹が全身で体当たりをかましてきた。
兄としては避ける訳にもいかず甘んじてそれを受けて、ようやくただいまの一言を告げる。

「キョン君、チョコもらったー?」

 それが目的か妹よ。

「ん、一応」
「誰からー? ハルにゃん? みくるちゃん? 有希?」
「全員から」
「へー……、頂戴!」
「ダメだ」

173 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/22(日) 00:06:30.87 ID:HfL57IcTO


 ケチー、ケチー、と騒ぎ立てる妹をなだめて自室に戻る。

「…はぁ」

 チョコの他に中身のない鞄を机に置いて、ベットに腰掛ける。
やたら今日は疲れた気がする、原因はわかりきってるが…。
制服も脱がずにそのまま横になり、天井を眺めつつ今日の出来事を想起していく。

176 名前: ◆7SHIicilOU [] 投稿日:2009/02/22(日) 00:12:12.47 ID:HfL57IcTO

ちと遅いが酉


179 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/22(日) 00:26:06.05 ID:HfL57IcTO


 佐々木が北校の制服を着て部室にいて、俺に本命だと言ってチョコをくれた事から始まり。
俺になすがままにされる古泉の姿までが一気に浮かび、消えていった。

「…さて、と。もらったチョコを開けて見るか」

 どうにもまだ頭が冷静になりきれてなく、古泉に対してさらになにかを
この場で吐き捨てようとする俺を見つけて、慌てて思考を逸す。

 鞄から小さな箱と大きな箱を一つずつ取り出す。
まるで玉手箱のようだと、少し思った。ならば俺はこの場合どちらを選ぶのが正解なんだろうか?
大きな方はハルヒ達三人の箱、束縛と引き換えに世界の安定を。
小さな方は佐々木がくれた箱、自由と引き換えに皆との距離を。

「……」

 どちらを選ぶか? と言われれば迷う。
俺は決してハルヒ達側にいるのが嫌な訳じゃない。断じて違う。
ただ強制されたくない、それだけなんだ。佐々木と付き合って、平日は部室でハルヒと遊び。
不思議探索のない休日は佐々木とデートしたり、そういう事をなぜしてはいけない?
なぜハルヒのもしかしたらに恐怖して、自分を制限しなくちゃいけないんだ?


 俺は欲張りなのだろうか?

185 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/22(日) 00:40:40.92 ID:HfL57IcTO


 しゅるりとリボンのほどける音。
 結局俺が先に手をつけたのは、佐々木の箱だった。
青い包装紙を可能な限り丁寧に剥がしていくと、甘いチョコの香りが強く漂う。

 そっと机に置いた箱のふたを開けて中を確認して見ると。
佐々木らしいというか、本命だと言っていたのにハートやLoveなどの文字は欠片も見受けられず。
代わりに非常に手の込んだ、力作である事が伺えるトリュフチョコがいくつも詰まっていた。
俺は佐々木の万能さに感嘆しつつ、一つを口に運ぶ。

「あま…」

 そのチョコは非常に甘く、柔らかく、優しい味がした。
と、ふたの裏にこっそりと隠れるように貼られたメッセージカードを見つけた。


195 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/22(日) 01:11:04.96 ID:HfL57IcTO


『キョンへ
今回突然こんな事を言って君はそれなりに混乱してるだろうと思う。
謝るよ、ゴメン。ただもうこれ以上自分の中の気持ちを抑えられそうになくて。
どうせ君の事だから渡す寸前まで気付いてなかっただろうけど、
僕は君の事が実の所相当前からずっと好きだったんだよ? 僕なりアプローチもしたつもりだったんだけど
キョンにはことごとく無視されたっけね。まったく酷い奴だよ君は。
いままで僕がどれほどやきもきしたと思ってるのかな?
……いや、それはまぁ僕が素直に言えない意気地無しだった所為もあるかな。
ねぇキョン、君がいま色々と大変な事になってるのは知ってるよ。涼宮さん関係でね。
それでも、言っておきたかったんだ。僕は君が好きだよって伝えたかったんだ。

ははっ、迷惑なのもわかってるよ。いや僕の自己満足に巻き込んで悪かったね。
これからも僕達は親友だよね?   佐々木』


 以上が、佐々木からのメッセージだった。

「あの馬鹿…」

 なんで最初から諦めてるんだよ。
だから、お前は俺にチョコを渡してすぐいなくなってしまったのか?
自分には他の道が無いみたいな言い方はよしてくれ。頼むから…。
そんな事を言われて、ほっとけるほど俺は…。

239 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/22(日) 07:33:47.06 ID:HfL57IcTO


―――

 翌日、昨日が金曜でなければ当然この日も基本的には休みである筈がなく、
俺は静々と登りだけのジェットコースターを朝から心行くまで満喫させてもらった。
天気は快晴とは言い難く、なんとも嫌な雰囲気を醸し出していた。

「……」

 本日な懸案事項は二つ。
 一つは当然古泉の事、嫌でも部室で顔を合わせる以上はなにかしらの言を
用意しておかなくてはなるまい。
次に来るのがハルヒか佐々木か怪しい所だが、今日は佐々木では無い。
つまりはハルヒだ。佐々木に対する返答も問題だが、
それは古泉に対するそれと同一視して、いまは構わないはずだ。



241 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/22(日) 07:48:04.59 ID:HfL57IcTO


 昨日あれからつらつらと考えていると、妹が忍び寄るジャガーのような目をしながら
お茶を入れてくれたと言って部屋に進入してきて、その後の攻防も含めて、考えは霧散してしまい。
気を取り直してSOS団の女性陣より頂いたチョコを開けたのだが。

 そこには3種類の小さなチョコが所狭しと詰められていた。
完璧な立方体(計った訳じゃないが俺は完璧な立方体だと疑わなかったね)の形をしたもの。
一つ一つが微妙に形状の違うスペードのかかれた(なぜスペードなのかは推し量るべしか)短い円筒状のもの。
そして最後に、たくさんの上記のチョコに囲まれた、一際目立つ中心のチョコ。
たどたどしい文字で『キョンへ』とかかれた歪なチョコレート。

 もうどれが誰だか考えるまでもない。意図的に間違えようとしない限りは初対面でもわかりそうな
個性を全面にだしたチョコだった。

244 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/22(日) 08:06:49.62 ID:HfL57IcTO


 ここまで問題はなさそうに見受ける。今日のハルヒのチョコに関する問いには
意図も簡単に正答できるだろうし、まさか佐々木と同じように誰かに告白を受けた訳じゃない。
確かにそれぞれからのメッセージカードは同封されていたが…。
しかしとんでもない話だ。ハルヒに告白なんかされたら、むしろその場合の方が大問題だ。
その後一週間は最大級の懸案事項として頭に在り続けるだろうことは明らかだ。

 だからこの場の問題とはつまり、誰がなにをの部分で、
あの完璧超人の呼び声の高いハルヒがこんなに歪に作ったチョコがなにを象ったのかと言う話だ。
正直なににも見えない。あいつには芸術的才能に関してのみ、その力を発揮できないのだろうか?
そういや、いつかSOS団のシンボルを書いた時も意味不明の宇宙情報だったか。
今回もそう言うパターンじゃないだろうな?


 などなど、螺旋の如く派生し続ける思考が俺の昨日からのハルヒチョコに対する感想だった。
味は普通に美味しく、そこは流石と言う感じだったが。いつまでも造形美からは程遠いそれから意識は離れなかった。

 あぁ、食ってしまったから仮に宇宙言語チョコだとしても、もう関係ないか。ごちそうさま。

334 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/22(日) 17:37:36.01 ID:HfL57IcTO

>>244

「よっキョン」

 校舎も見え始め、坂も緩やかになってきた所で谷口と合流した。
いつものように無駄話をされる前にこちらから話を降って見る。
当然話題は昨日の事。

「お前はどうなんだよ?」

 ん、俺か?
意外と核心だな。

「どうせ涼宮達にもらったんだろ?」
「まぁな」
「いいな〜朝比奈さんの手作りチョコかよ…」
「まぁな」

372 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/22(日) 20:22:56.15 ID:HfL57IcTO

>>334

 それから谷口のチョコなし記録更新に関しての、非常に無益な愚痴をひたすらに
右から左に受け流しながら、俺は教室についた。
ハルヒの俺を見つけた瞬間の笑みがまた喜色満面と呼ぶにふさわしく、俺に少し分けてもらいたいと思う。

 やたら軽い鞄を机に引っ掛けて、先手必勝とハルヒに向かって声を掛ける。
谷口の話をスルーしてる間も考えていたが結局わからずじまいだったしな。

「よぉハルヒ、あのオブジェなチョコは一体何星人を象ったんだ?」

 先んじてそう茶化し気味に言ってみる。
流石のハルヒもこれだけで憤慨するとは思わんしな。

「はぁ?」
「いや、中心にあった奴がお前の作品だろ? 四角いのが長門でスペードが朝比奈さんだよな?」
「へぇ、マヌケなあんたにもそれぐらいの判断力はあったようね」

 そりゃそうだろう。あからさまだったからな。


390 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/22(日) 20:59:36.44 ID:HfL57IcTO


 とりあえず俺の勘違いによる判断ミスの可能性はこれで無くなった。
あとはハルヒのチョコ像の問題だが…。

「で、キョン」

 それに関してもどうやら解決らしい。


「私のチョコがなんだって? 何星人?」
「あぁ、奇抜なデザインだったな。なんの形かはわからんかったが……。
まぁ美味かったぞ、流石だな」
「ふん、なんか面白い形なしようと思ったんだけどね〜。
ま、あんたにはあれで十分でしょ?」
「はいはい、欲しい物あるなら言っとけよ?
…当然そんな高い物は無理だがな」

 期待しないで待ってるわよ、と言ってハルヒは眼を窓の外に向ける。
同時に岡部教諭が扉を開けて入室。今朝の会話はこれにて終了と相成った。

392 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/22(日) 21:10:51.36 ID:HfL57IcTO


 つらつらと今日の予定を口頭にて連ねる担任の言葉に軽く耳を傾けながら。
一時間目の教科書を机からとりだす。ハルヒは話をやめてから
まだ5分も立っていないのに机に突っ伏して寝息を立て始める。
成績優秀の理由がわからないぜまったく。

「礼」

 いつの間にか担任の話は終わっていたらしく、クラス委員長の号令に遅れながら合わせる。


394 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/22(日) 21:16:41.53 ID:HfL57IcTO


―――

 授業中、なんてのはこの際描写する必要はないだろう。
俺が起きていようと、惰眠を貪っていようと。特筆することがないのは同じだし、
この場にこの日の授業内容を書き留めた所で誰かの関心も引ける訳でもない。
よって手抜きだろうとなんだろうと、俺はいきなり時間を放課後。
つまりは部活の時間まで早送りしようと思う。

 と言う訳で、場面は部室棟廊下に移る。

399 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/22(日) 21:46:39.90 ID:HfL57IcTO


 昨日のこともあり、些か以上に部室のドアノブが重く感じる。
この後の予定を考えるに、ハルヒに休みを告げてもよかったのだが。古泉の事が気になる。
あいつだってハルヒに変な力を植え付けられた被害者だし、
昨日の事はきっと機関とやらの考えなのだろう。あいつはただ、俺の近くに居たから早くそれを知って、だから―。

 わかってる、そうだったら良いのになの思考だ。
でも、超能力者以前のあいつ自身は俺の味方だと、そう思いたい。
だから。

 俺は扉を開く。

404 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/22(日) 22:16:07.95 ID:HfL57IcTO


 いつもの席で本を読む長門が無言で存在して。
メイドの朝比奈さんが俺を見て、はいはい、とお茶を入れてくれて。

「おや、おはようございます」

 古泉が一人で棋譜を見ながら将棋をやっている。いつもの光景。
ただ一つ、古泉は唇の端に絆創膏を貼っていた。

「おぉ」

 ハルヒはまだきて居ない。あいつが掃除当番なのを同じクラスの俺は知って居る。
古泉と話す時間はありそうだ。

405 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/22(日) 22:23:45.76 ID:HfL57IcTO


「キョン君、どうぞ」
「すみません朝比奈さん、いつもありがとうございます」

 自分の専用湯飲みに注がれたお茶を啜る。
日本茶なのだが仄かに感じる甘さに心落ち着かせて、一息つく。

「古泉、少し外で話せるか?」
「…構いませんよ」


413 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/22(日) 22:43:43.76 ID:HfL57IcTO


 朝比奈さんと長門に断りを入れて、ハルヒが来たらすぐ分かるように
少しだけ離れた階段の所に古泉と座り込み話し始める。

「昨日は、感情的になって済まなかったな」
「いえ、殴られて当然なことを言ってるのはわかってますから」
「……痛むか?」
「この位なら神人相手にしょっちゅうですよ。お気遣いなく」
「そうか……」

 運動部のランニングの掛け声、野球部のバットの音。
会話の続かない俺達の合間に軽快な声が割り込む。

423 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/22(日) 23:22:44.95 ID:HfL57IcTO


 寒い。と思い手を擦りポケットにしまう。
古泉は、変わらずに穏和な笑みを浮かべて黙っている。

「考えは、変わりませんか?」

 ぽつり、と古泉が呟く。
野球部のホームラン音にかき消されそうなか細い声。
見れば、やや斜に構えた面構えでこちらを伺うようにしている。

「…お前には悪いが、変わらん」
「……残念です」

 演出過剰な身振りでため息をつく。
こんな時ですら、自身のキャラを演じる古泉に苛立ちが先んだつ。

428 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/22(日) 23:39:20.22 ID:HfL57IcTO


「おい古泉、お前は、お前自身はどう思ってるんだ」
「と、言いますと?」

 細い目を開いて、少し笑みを抑える。

「機関とは関係なく、お前自身の考えを――」
「同じですよ、涼宮さんを最優先としてください。佐々木さんと関わるのをできるだけ避けてください、
世界を考え大のために小を殺す。個人の考えなどありません、全は一、一は全。
申し訳ないですがあなたの期待には答えられません」

 ……それがお前の答えか。

「そうです」
「………」

 俺はなにをしようとしたのか立ち上がり、古泉に向き直る。
が、俺がなにかをするよりも早く。


「あら、キョンに古泉君。なにしてるの?」

432 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/22(日) 23:49:48.95 ID:HfL57IcTO


 ハルヒはいつの間にか足音もなく接近して来たらしい。

「おや涼宮さん、いえ彼と少し話していただけですよ。男同士の話ゆえ、少々場所を変えただけです」

 ねぇ。と、目で語りかけてくる古泉の表情はすでにいつも通り、
微塵も濁りのない、いつもの飄々とした笑顔だった。
俺はできるだけ平静を装って、それに同意する。

「ふぅん…ま、いいけどさ。なに? やらしい事じゃないでしょうね?」

437 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/23(月) 00:00:05.23 ID:8ysY19qpO


「まさか、そんな不純な物ではありませんよ。もっと単純で複雑な話です」
「はいはい、わかったわ。とにかくその話の続きは後にして頂戴、寒いんだからさっさと部室行くわよ」

 ハルヒに急かされ、部室に戻る。長門や朝比奈さんに頭をさげて自席に座る。
……気まずいどころではない、が、帰る訳にも行かない。特に理由もなく帰るなんてハルヒが
認める訳がない。仕方なしに朝比奈さんのお茶を貰い、無言でそれを啜る。
長門の本でも借りるか? と長門に目を向ける。

「どうです? 今日はチェッカーでも?」

 それを遮る様にチェス盤を掲げて、先程までのやりとりがなかったかの様に振る舞う古泉。

「……あぁ」
「では、負けませんよ?」
「……あぁ」

 ハルヒに勘付かせないため、なんだろうかね?

444 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/23(月) 00:24:41.37 ID:8ysY19qpO


 パチリパチリと赤と黒の丸い駒がチェス盤の上を行き交う。
会話はない、古泉も見ない。ただ平坦に勝利宣言のみを重ねていく。

「あ、そういえば」

 肘をついてパソコンをいじっていたハルヒがふとなにかを思い出したような口振りで喋り出す。
またくだらない事でも思いついたのだろうか?

「聞きもしないでくだらないとか言わないでくれるかしら?」

 お前の発案が俺達にとって朗報であった事など、実際ほとんどないのだ。
つい、そういう言葉が口をでても仕方ないだろうが。

「行ってくれるわね。…まぁいいわ、いまは大目に見てあげる。機嫌がいいのよ私はいま!
次回の不思議探索の事なんだけど…」
「あー、悪いが」

 特に意味はない、なんとなくだ。あえて言うなれば古泉に対する当てつけか。
俺は喜々として話そうとしてるハルヒの台詞を遮って、

「今週末は予定が入ってるんで、市内探索は欠席させてもらいたい」

 そう告げていた。
視界の端の古泉の顔を確認して少し清々しくなる。が、古泉だけでなく長門も朝比奈さんも
ハルヒ自身も全員俺を見ていた。まるで理解できない事があるかのように。

451 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/23(月) 00:48:14.43 ID:8ysY19qpO


「えっとキョン君どうしてですかぁ?」

 朝比奈さんが、おずおずと俺に声を掛ける。
相変わらず可愛らしい声であるのだが、すみません朝比奈さん、
あなたにも理由を教える訳に行かないのですよ、だって俺にもわからないんですから。

「ちょっと野暮用があるんですよ」

 そう誤魔化す。当然古泉と長門は騙せないだろうが、長門はなにも言わないだろうし、
古泉も言った所で事態が好転しやしないのを悟ってか黙っている。今夜辺りに電話が来そうだな。

「あんたねぇ! 大事な団活と自分のくだらない用とどっちを優先するわけ!?」

 そう怒鳴るな。
どっちを優先するかなんて、俺の先の発言で明白だろう。
そもそも、大事だくだらないだはお前の基準であって俺の基準じゃない。
人の用事をくだらないよばわりするな、お前だって聞きもしないでくだらないとはなんだと先程
俺にご高説垂れたばかりだろうが、自分の発言には責任を持てよハルヒ団長閣下。

464 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/23(月) 01:00:27.35 ID:8ysY19qpO



 ぐっと息を止めて、なにかしら俺に不平不満をぶつけようと思案していたハルヒだったが、
結局なにも浮かばなかったのかなんなのか、「勝手にしろ馬鹿キョン」
と言い残して文芸部室を飛び出してしまった。

「やってくれましたね…」

 古泉が恨めしそうな声色と表情で俺を睨む。
俺はそれにとりあわずに自分の鞄を引き寄せて、朝比奈さんと長門にだけ別れを告げて部室をでた。
外は一層寒かったが、非常に爽やかな気分だった。

「帰るか…」

470 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/23(月) 01:10:39.71 ID:8ysY19qpO



 雪でも降るんじゃなかろうか? むしろ降ってくれれば気分も盛り上がると言うのに。
鞄を脇に抱えつつ坂をくだりながら空を見上げる、分厚い雲が太陽を隠して白く発光している。
雲の切れ目からは光が筋となって長く煌めき、カメラを構えたい衝動に駆られる。

 思わず笑いだしそうだった。
 苦々しそうな古泉の声も、
 困惑する長門の表情も、
 慌てる朝比奈さんの態度も、
 すれ違い様に見えたハルヒの切なそうな瞳も、
俺の高揚感を邪魔できやしなかった。初めてハルヒにした完全に個人的な拒絶は、俺を大きく変えた。

476 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/23(月) 01:24:00.01 ID:8ysY19qpO


――

「キョン君今日ははやーい!」

 と言いながら、俺に突撃してくる妹。
危うく後ろにひっくり返る所を靴棚を掴んで耐えきり、可愛い妹を身体から引き剥がす。

「どうしたのキョン君? 今日なにかあったの〜?」

 足に再度しがみつきながら上目遣いに質問をしてくる妹。
なかなか鋭い奴である。

「べつになにもない。ほら、女の子ならもう少しそういった行動は慎みなさい」
「やだー」

 妹を足に絡ませたまま自室に向かう俺。片足にのみ重りがあるので自然片びっこになる。
ん? これ差別発言か? …まぁいい。

「こら、階段は危ないから離れろ」
「やーん」
「やーんじゃありません」


481 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/23(月) 01:35:15.63 ID:8ysY19qpO


 妹から逃げてバタンと部屋の扉をしめて一息。時計を一瞥してから、すぐに着替えを行う。
黒のジーンズにTシャツ、上着にダウンを羽織り、携帯と財布を持ってすぐ部屋をでる。
目的地は毎度お馴染みの駅前の公園のベンチ。

「あれ? キョン君どこいくのー?」
「ちょっとそこまで」
「じゃあアイス買って来てよ!」
「お腹壊しても知らないぞ?」
「大丈夫だもーん」

 軽く妹と会話を交わして家をでて、自転車に跨がる。
時間はまだ余裕があるが、早い分には問題ない。
目指せ公園。

486 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/23(月) 01:48:14.56 ID:8ysY19qpO



「おや、まだ待ち合わせ時間より30分も早いと言うのに君がもう来るとは。
しばらく待つだろうと買った缶コーヒーが無駄になってしまったじゃないか」

 自転車を不法駐輪して公園のベンチにて寛ぐ佐々木に呼び掛けた際の、
佐々木の第一声がそれだった。なぜ早く来たのに俺は責められてるのだろうか?
まったく不当な非難だが、なぜか不快感は微塵もない。
しかし寒いな、とりあえずどこか入るか?

「そうだね、この寒空の下わざわざ立ち話する理由もない」

 ベンチから立ち上がりながら佐々木はそう言い、
暖をとり、落ち着いて話をするために近くの喫茶店に入る事になった。

 駅前公園付近の喫茶店、と言うと嫌でもSOS団御用達のあの喫茶店を想起しがちだが、
今回は違う喫茶店だ。佐々木の進めだが、……わざと違う喫茶店にした、のだと思う。

496 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/23(月) 02:03:12.57 ID:8ysY19qpO


 カランと涼やかなベルが鳴り、店員が音に反応して近付いてくる。
人数と喫煙と禁煙の席の如何を聞いてから俺と佐々木は席に案内される。

「しかし、昨日の今日でいきなり呼び出されるとは思わなかったよ」

 席に着き、お手拭きで両手を丹念に拭いながら佐々木はそう始めた。

「どういうことだ?」
「メッセージカード、を君は読んだかな?」
「……あぁ」
「あそこに書いた文面で君は察しただろうが、僕は君と恋仲になるつもりであのチョコを渡した訳じゃない」

 注文をとりに来た女性店員に佐々木は紅茶、俺はコーヒーを頼む。
周囲にはバレンタインの翌日と言う今日の位置付けの所為か若い男女の二人組が結構見受けられた。

「そうだろうと思ったさ」
「それは僕が君に対し嘘の本命を渡したと言う意味じゃない。
そりゃ君と恋人同士になれたらこれ以上は無いと思っていたし、それを勿論望んでいた」

 店内はシックな雰囲気の洋風造りで、
クラシックがBGMとして気に触らない程度の音量で流れている。
そして微かに香ばしい珈琲の匂いが漂い、「あぁ良い店だな」と素直に俺は思った。

503 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/23(月) 02:28:25.75 ID:8ysY19qpO


 店内は前述の理由からかそれなりに混雑しているのだが、店側もこの時期は人数を増やしているのか
俺と佐々木が頼んだモノは対して待たずにテーブルに運ばれて来た。

「僕はカードに書いてあった通り、君に気持ちを知ってもらうためにチョコを渡したんだよ」
「なるほど……」

 テーブルに置かれて小さな瓶から砂糖とミルクを少量ずつカップに入れる。
よくある描写の様に、ミルクがクルクルと円を描くことはなかったが、
しかしふんわりと広がる白は美しかった。

「でだキョン、いまの僕はこうして普段通りを装ってはいるけれど内心ドキドキなんだよ。
それは当然だよね? つまり僕は予想外にもこの瞬間
君に告白の返事を面と向かって告げられようとしてる訳だから。
これが緊張せずにいられるかい? チョコを持って君の学校で君を待ち伏せした時よりも
いまの僕の心臓は飛び跳ねてるよ」

 佐々木はミルクをたっぷり入れた紅茶を一口。
音も無く啜る、にっこりと笑ってみせた。

「だからキョン。もうチョコの最初の意図なんかもういい、
君の返事を、君の心が誰に向いてるのか、僕とこれからどういう関係を築いて行くのか、
はっきり聞かせて欲しいんだ」

 やや大きな声で喋る佐々木を見ながら、どうやら緊張してると言うのは事実らしい。
そう周囲の視線が集まるのを感じながら、理解した。

517 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/23(月) 02:47:19.35 ID:8ysY19qpO


 時間稼ぎに、コーヒーにゆっくりと口をつける。
熱くほろ苦い液体を口に含み、二度三度口の中を転がして。
カップを皿にゆっくりと戻す。

 その一挙手一投足を佐々木は沈黙を保ったまま見つめ続ける。
またこの動作によって周囲の客に注目を受けてる事はほぼ確定的になった。

「佐々木…」

 もったいぶって、話始める。
答えはもう、決まってるくせに。

「……なんだい?」
「お前が、最初から諦めた本命チョコを渡そうとした理由にハルヒは関係してるか?」

 俺の発言に戸惑いを見せる佐々木。これは隠そうとしていたのだろうか?
でも少し考えれば、想像に難くない。
佐々木はしばらく逡巡していたが、躊躇いがちに頷いた。

「そうか…」

 もう一口、コーヒーを飲む。やたらと唇が乾くのは俺も緊張してるからか。

520 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/23(月) 02:52:02.15 ID:8ysY19qpO



 軽く、深呼吸をし。
佐々木に向き合い、真剣な瞳を真直ぐ見据える。

「佐々木」

 耳鳴りがする、低く高くノイズが流れるが、惑わされない。

「……うん」

 小さく、呟く佐々木に向かって俺は。

「俺と、……付き合ってくれるか?」

 運命の一言を発した。

528 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/23(月) 03:07:55.22 ID:8ysY19qpO



 それからの事はダイジェストで語ろうと思う。
俺の発言に泣き出しながら、「はい」と答えてくれた佐々木、
そしてそれに胸を撫で下ろす間も無く、客から店員から拍手喝采を浴びた。

 羞恥の頂点を極めた俺は慌ててコーヒーを飲み干して、嬉し涙を浮かべる佐々木と店を後にした。
ただ会計の際、店員の善意により店側に奢ってもらったことは追記しておく。

 そして、ある程度店から離れて落ち着いた所で、佐々木に熱い抱擁を受けた。
こうして俺と佐々木はめでたく、恋人同士になったわけで。

538 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/23(月) 03:24:21.64 ID:8ysY19qpO


 ただ、これでめでたしめでたしにならない事は俺が一番理解していた。
俺は佐々木と次の土曜に出掛ける約束をしてから、家まで送りとどけ。帰路に着いた。

 そして、

「なんのようだ?」

 佐々木宅ど我が家の中間地点。電柱に凭れるように古泉が立っていた。

「あなたが行けないんですよ」

 古泉は独り言のように呟く。
俺は先程まで押していた自転車に跨がるべきかどうか迷った。

「あなたが僕達の話を聞いて頂けないから、悪いのです」


545 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/23(月) 03:39:51.16 ID:8ysY19qpO


 俺の、この一年間で鍛えられた第六感が危険信号を発している。
にも関わらず、俺はこの場から動かない。
自らの意思でこの場にとどまった。

「あなたが佐々木さんと会っている間、我々は最大級の閉鎖空間内部で神人と戦っていました」

 ……俺は沈黙を保つ。
なにも言わずに古泉を見つめる。

「僕は軽傷で済みましたが、重体の人間もでました」

556 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/23(月) 03:54:11.64 ID:8ysY19qpO



「なにが、言いたい」
「あなたには失望しました」
「……だからどうした」
「佐々木さんとも付き合う事になったそうで」
「…監視も大概にしろよ、そう言う所が不愉快なんだよ、俺を監視する必要がどこにある」
「……あなたには失望しましたよ」
「だから、それがどうした!?」


「涼宮さんは恐らくその事を既にある程度知ってしまってます」

「……なんだって?」

「あなたが彼女を拒絶してから、閉鎖空間の発生にはタイムラグがありました、
正確には34分42秒程。そして閉鎖空間が発生したのは駅前の公園を中心とした広域。
空間の規模、場所、神人の強さ、発生のタイミング。
全てではないでしょうが、ある程度は悟ったでしょう。彼女は聡明だ。
もう、あなたが彼女に謝ろうとなにをしようと意味はなくなってしまいました。
……呼び出しですね。言いたい事はまだあるのですが、
彼女はこの期に及んであなたが傷つくのを見たくないそうで。
もう部室にはこない方がよろしいかと、僕もあなたと再度顔を合わしたくありません。
……では」

564 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/23(月) 04:14:51.64 ID:8ysY19qpO



 自転車を押して段差を越え、柵を開けて自宅の敷地にin、
自転車の鍵を抜いて、籠からビニール袋を手に取り玄関を開ける。

「キョーン君、おかえりー! ……あれ? キョン君?」

 いつもの強烈な出迎えを受けてから、妹にアイスの入ったビニール袋を渡す。

「え、あっ…うん。ありがとうキョン君」

 なんだ歯切れの悪い、嫌いなアイスだったか?

「ううん、そうじゃないけど…」

 けど、なんだ?

「キョン君、怪我したの? なんか痛い顔してるよ?」
「……そんな事ない」
「本当に…?」
「あぁ、本当だ。安心しろ」
「…うん」

 妹の髪を何度か乱暴に撫でてから、俺は自室戻った。

568 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/23(月) 04:22:42.51 ID:8ysY19qpO



―――

「ですから、SOS団から除名されたいま、あなたは佐々木団にこそ入るべきなんですよ」

 ですからじゃねぇよ。
筋が通ってないだろ全然、アホかお前は?

「失礼ですねキョンさん、可愛い女の子には優しく対応しないといけないんですよ?」
「黙れ超能力者ならぬちょい能力者」
「酷い! 確かに私はスプーンも曲げられないですし、変身もできないですけど、
そんな言い方ないじゃないですか!」

 黙れ、頼むから。妹が来襲したらどうやってお前達を隠せばいいんだよ。

「お友達でいいじゃないですか。隠す必要ないですよ」
「能天気お気楽キャラはしゃべるな」
「ひどいです〜」

574 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/23(月) 04:33:24.78 ID:8ysY19qpO



「大体なんでお前ら居るんだよ? どうやって入ったんだおい?」
「それは私の超能力で……」
「周防、お前の仕業だろ?」
「――そう―――空間を――少し、いじった―」

 少しいじったってなんだよ。
俺の部屋を異次元空間にしやがったのか? そんなのは部室だけで十分だろ。

「――大丈夫―――一時的、だから」
「そうかい」
「くすん、キョンさんが冷たいですよーう」



576 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/23(月) 04:44:17.11 ID:8ysY19qpO


 俺の部屋は決して広くはない、が狭くもない。
三人程度なら普通に談笑できるスペースは日々の整理整頓により確保されている。
…と、今更だが俺が佐々木、そして古泉と別れて自室に入るとすでにこいつらがいた。
こいつらとは即ち、ハルヒでなく佐々木を神とする超能力者組織に属する橘京子と、
長門と同様、天蓋領域と呼ばれる情報生命体に作られた周防九曜の二名だ。

「ったく、これにさらに藤原までいたら即刻退場だぜ」
「キョンさんがそういうだろうと思って藤原君は今日不在なんですよね」
「あぁそうかい」

637 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/23(月) 12:10:15.47 ID:8ysY19qpO


 一人で二杯も三杯も同時に飲む訳ないので、お茶の一つもだして場を濁す事もできない状況。
詰まれた気分だ。昨日から色々ありすぎる。

「キョンさん」

 ベットに腰掛けて笑顔で話描けて来る橘、
男の部屋でベットに上がるとはなにを思っての所業なのか。
押し倒されても文句は言えんぞ? 俺はそんなことしないが。

「いつかお話したことを覚えてますか?」
「……愛?」
「それは覚えていてもいなくてもいいですよ。…ほら佐々木さんが正規の神であり、
涼宮さんの超常の力を佐々木さんに移行させると言う話をしましたよね?」

 あぁ、そんなこともあったかね。当時はまともにとりあわなかったし曖昧だがな、
俺がキーだのなんだの騒いで居たのは覚えてるさ。

641 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/23(月) 12:28:32.54 ID:8ysY19qpO


「はいそうです、あの時は断られましたが……。いま、同じ事を提案したらあなたはどうします?」
「いまいち話が見えないな」
「つまり、あの時あなたが力の移行の手伝いをすることを拒否したのは、
結局私達に協力する必要性がないからですよね? ですが、いまのあなたには協力する理由がある、そうする利点がある。
あなたの立場の変動による意志の変化の是非を問うてるわけです」

 なんだろう、超能力者はなにか物事を説明する際にはできるだけややこしく話を捩じるのがデフォなのだろうか?
非常に迷惑な所にニュートラルがかかってやがる。

「お前の考える俺の利点、理由とはなんだ?」
「ずばり佐々木さんと恋愛関係ですよ」

651 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/23(月) 13:11:04.42 ID:8ysY19qpO


 指を立てて愉快そうに空中に円を描く橘。
なんとなく目を逸して周防を見てみる。

「―?」
「……」

 首を僅かに傾げただけだった。こいつは長門以上に感情が未発達だからな。

「ちょっとキョンさん聞いてます?」
「あぁ、続けてくれ」
「ですから、今日がそうだったように。あなたと佐々木さんが付き合うようになったことを
涼宮さんは気に食わない。だから巨大な閉鎖空間を作り出し、
あなた側の超能力者は奔走しそこに確執が生まれます」

 知ったようなことを言う。見ていたのかおい。

658 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/23(月) 13:35:56.85 ID:8ysY19qpO


「まさか、ただの推測ですよ。そんなに難しいことではありません。
さて、あなたは佐々木さんとこのまま上手くやっていきたい。しかし涼宮さんの機嫌しだいでは
明日にも世界は改変されて全てがなくなる、もしくは佐々木さんの存在が
消されたりするかもしれないわけです、それはマズい。明らかに誰の利にもなりません。
しかし涼宮さんから力を奪い佐々木さんに移行させればその可能性は潰えます。
彼女は力の制御ができる、力の存在を知った上でコントロールできますから」

 だから俺は手伝うと?
それがお前の言う利点で理由か?

662 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/23(月) 13:46:54.14 ID:8ysY19qpO


「まぁそんな所です、あなたは涼宮さんと言う神様から、それを取り巻く環境から、
あなたは逃げ出したい訳でしょう? 涼宮さんがただの一少女に成り果てれば、もうあなたは
涼宮さんのご機嫌とりをする必要も彼女の一喜一憂にビクビクすることもありません。
普通の学生生活に戻れますよ?」

 橘はのべつ幕無しに語る。
俺はその口を手でふさぐ、もごもごと暴れる橘を無視してこんどは俺の番だと話出す。

「俺はな橘、ハルヒに愛想を尽かした訳じゃない。
古泉や朝比奈さん達との毎日に嫌気が差した訳でもねぇ。
ただ少し一般人の俺は超常に居続けた所為で少し息苦しくなったから、息継ぎに通常に戻っただけだ。
それに僅かな反発心がこの結果なだけで、抜けるのも閉鎖空間も俺の意思や意向じゃない、
ハルヒが俺に好意を持ってくれるのもありがたいし嬉しい。ただ答えられないだけだ」


666 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/23(月) 14:05:56.68 ID:8ysY19qpO


 俺の手を両手でどうにか退して、してやったような顔でまた話始める。

「だからですよ。涼宮さんが自身の気に食わない事があるように、
あなたにも自分の考えややり方がある。それは当然です、
思想の自由は法律によって万人に認められている。なのに涼宮さんは他人に自分の主張を押し付け
他人の行為を捩じ曲げ、変質させる。だと言うのに自分の思い通りに
物事が進まなければ世界を壊そうとする。
そんな彼女があなたの答え、"答えられない"と言う答えを受けて、あなたが自身以外の女性と
親しくしているのを見て平静でいられるわけがない」

「…だからって、俺はハルヒをどうこうしたいとは思わない。
ハルヒに対して俺以外のSOS団の連中がいるように、佐々木にはお前らがいる。
力を移行させて佐々木といても、結局状況は変わってないんじゃないのか?」

「しかし不可思議な事件に巻き込まれることはありませんし、
涼宮さんが暴れる心配がなくなれば古泉一樹さん達ともゆっくり仲直りもできるでしょう?」

「……」

671 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/23(月) 14:16:00.85 ID:8ysY19qpO


「どうしますか? 私は向こうの機関の人達と違い強制はしません、お願いするだけです」

 『これはお願いではありません』
古泉の台詞が無意識に反芻される。

「…わかった、協力する」
「本当ですか!?」
「あぁ、…だがお前の口車に乗せられた訳じゃない」

 俺は俺の意思で。

「ふふっ、わかりました」
「……自分の存在をちっぽけだと感じた事はあるか?」
「はい?」
「いや、なんでもない…帰ってくれ」

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/23(月) 14:45:53.14 ID:8ysY19qpO


 佐々木の常時発生している黄のかかった閉鎖空間。
そこでハルヒを連れて行き、俺が一対一でハルヒと会話を行う。
その先のことはわからんが俺の役割はそれだけだった。

 一体なんと言ってハルヒを連れてくるつもりなのか?
そもそもあいつらがハルヒに接触できるのか、そんな余念がつらつらと、
……少し早い晩飯にしよう。

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/23(月) 15:19:27.36 ID:8ysY19qpO


――

 次の日、俺は学校を休もうかと思ったが。
しかしこれ以上ハルヒのフラストレーションを溜める訳にはいかず、
多分ハルヒ自体が来てないんじゃないかと思いながらも一応登校した。

 この鬱々の頂点の中、それでも救われるのはハルヒ以外はクラスが違う事か、
古泉に言われるまでも無く部室には行かずじまいになるだろう。

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/23(月) 15:32:25.06 ID:8ysY19qpO



 やたら重い教室の扉をあける。

「……はぁ」

 予想通り、窓際最後尾の席は空っぽだった。
出鼻を挫かれた気分だ。
俺は少しその場で立ち止まり、自席に向かい腰を下ろす。
話す相手がいないと時間をもてあますな。

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/23(月) 16:40:58.95 ID:8ysY19qpO


 自分でも知らない内に早足にでもなったのか、いつもより時間が多く余ってる。
一時間目の授業の用意をするにはまだ早いし…と、いないハルヒの代わりに
俺が肘をついて窓の外をなにくれとなく眺めていると、珍しい人物に声を掛けられた。

「今日は涼宮さん休み?キョン君が退屈そうなのはその所為なの?」
「……坂中か、ハルヒは多分休みで間違いないな」

 何時かの犬事件で親しくなったクラスメートの女子、
間延びした喋り方が可愛らしい少女だが、俺単体に声を掛けてくるとは思わなかった。

「えと、迷惑だったかな?」
「いや、ハルヒとは別の次元ではあるが退屈なのは事実だ。
まぁ席も空いてるし座ったらどうだ?」


49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/23(月) 17:05:33.80 ID:8ysY19qpO


「ん、いいのかな?」
「持ち主不在だからな、どうしてもってんなら俺が許可するよ」

 俺の言葉を聞いて、坂中は微笑をたたえてハルヒの座席に遠慮がちに座った。
俺はいつもハルヒと会話してるときにするように、窓に寄り掛かり後ろに顔を向ける。

「あっ」
「どうした?」

 じっとこっちを見て来たかと思ったら、急に声をあげる坂中。

「えと、いまさらだけどおはようキョン君」
「……おはよう」

 どこかテンポがずれてるのだ坂中と言う少女は、
またそれが余計に可愛らしいと思うのは坂中に対する男子の共通認識だったりする。

「キョン君と二人で話すの実は初めてだよね」
「そうだっかな、いつも騒がしいのがいたからな。今日は鬼の撹乱だ」


62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/23(月) 17:52:07.88 ID:8ysY19qpO


 クスクスと微笑み続ける阪中にささくれだつ精神を癒しながら、
たまにはこうやってクラスメートと普通に交流することがこんなに楽しいのかとも思った。
いままで俺はクラスメートとはあまり接して無かったが、これを期にもう少し交友を広げるか。

「なぁ阪中」
「? なにかなキョン君」
「そういや携帯のアドレスハルヒしか知って無いし、交換しないか?」

 いまクラスでアドレス帳に乗ってるのはハルヒと谷口と国木田だけだったりする。
切ないなあ。

「いいよ、じゃあ赤外線で送るのね〜」
「応」

 こうして、携帯の電話帳に記名されてる名前が一人増え、
俺から阪中にメールを返すと同時に担任のご登場となった。

79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/23(月) 19:11:17.34 ID:8ysY19qpO

――

 昼休みは、ハルヒも不在。文芸部室にもいけないということで
久し振りに国木田、谷口と机を寄せて弁当を食べた。
谷口の馬鹿の話しに突っ込みを入れ、国木田と苦笑をして飯を終え。

 午後の授業もつつがなくこなし、ホームルームが終わればクラスメートとしばらく雑談し別れる。
そのうちこれがデフォルトと化すのかと思うと少々寂しく、多少切なかったが。
それは多大な愉悦がかき消した。

 これは、これでいいと思えた。

83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/23(月) 19:21:19.85 ID:8ysY19qpO


 教室から部室に寄らずに直接下駄箱に向かうのは一体どれだけぶりになるだろうか?
昨日に続いて早い時間に帰宅した俺に妹はさてなんと言って来るかね。

 明日は金曜で休日、次いで土日と3連休。
橘はその間に力の移行を行うと言っていた。土曜は佐々木とでかける予定だし、
充実した休みになりそうだ。

88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/23(月) 19:48:35.23 ID:8ysY19qpO


 自分のために時間を使い、自分のやりたいことを好きにやるなんてのも
やはりいつ振りになるだろう。バイトでもしようか、
基本的に俺はあまり金を使わないから奢らされなければ金もたまるだろうし。

 そしたら最近ご無沙汰だったゲームや漫画を買い集めようか、
谷口達と遊びに行くのも良い、カラオケとかボーリングをやったり。

「……やりたいこと多いな俺」

 つまりそれはいままでやってこれなかった、我慢してたと言う事なのか。
SOS団の活動は確かに楽しんでいた、昨日橘と話してた時に言った。
戻れることなら戻りたいと言う気持ちも仲直りしたいという思いも嘘じゃない。

 なのに一日行かないだけで思いではこんなにも色褪せて見えるのはなぜだろう。
たった一日で、こんなにもSOS団から気持ちが離れてる。

91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/23(月) 20:00:29.21 ID:8ysY19qpO


 腹筋に力を入れて玄関をあける、俺にも学習能力がある。

「……おや?」

 しかしいくら待っても妹は飛んでこなかった。
訝しみながらもとりあえず靴を脱ぐ、と見慣れた我が家のでは無い靴があった。
なるほど、そう言う事なら妹が特攻してこなかった訳を把握できる。

「キョン君おかえりー!」
「お帰りなさいお兄さん」
「あぁ、ただいま。…久し振りだなミヨキチ」
「はい」


99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/23(月) 20:19:40.82 ID:8ysY19qpO


 今日は久し振りばかりだな。
妹の横に立つミヨキチは本当に同級生なのかと不思議になる程大人びていた。
「キョン君今日は昨日よりも早いねー」などと言ってる幼い妹とは比べられん。

「いまミヨキチとUNOやってたのー」
「お兄さんも如何ですか?」
「ん〜、そうだな久し振りにミヨキチと遊ぶのも――」

 ピリリと携帯が鳴る。
手を翳して、待ってくれとジェスチャーをして電話にでる。
一瞥した画面には佐々木の名前、でないわけにはいかない。

112 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/23(月) 21:06:22.27 ID:8ysY19qpO



『もしもし?』
「なんだ突然」
『いや、昨日は橘さんが邪魔したようで、色々とすまなかったね』

 長くなりそうな上内容がややこしくなりそうなので、断りを入れて二階にあがる。

「その事か…あぁ、気にするな。突然で驚きはしたが、
大して気にして無いぞ。用件はそれだけか?」
『まったくせっかちだな君は、まぁそれだけじゃないよ。
土曜の予定を明日に繰り上げたいと思ってね』
「…別に構わないが、何故だ?」
『橘さんから、昨日キョンと彼女の会話の内容はすでに聞いた。
そして土曜、だそうだよ。決行の日は』

 

115 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/23(月) 21:18:29.30 ID:8ysY19qpO


 早いな、まぁ不必要に時間をかける方が確執は広がり、
そしてその状態で固定される。
俺とハルヒはすれ違ったって話すことも無くなるだろう。
閉鎖空間で面と向かって会話を行うのが条件なその辺りがタイミングが良いのだろう。

『キョン、どうかしたかい?』
「…いや、わかった明日だな」
『無理を言ってごめんよ』
「気にするな、愛する恋人のためならへでもない」
『馬鹿』

120 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/23(月) 21:35:42.41 ID:8ysY19qpO


 通話終了を意味する電子音が流れる。
それを三回まで聞いてから、ポケットに携帯をしまう。
バレンタインを皮切りに怒濤の展開だ、ついていけない。

「お兄さん?」
「おぅ、どうしたミヨキチ。妹が暴れてるのか?」
「いえそうじゃありません」

 二階の廊下、自室のドアの前で。朝比奈さんと並べば同い年と言えそうな美少女は
暗い表情を顔に張り付けて立っている。

「えっと、……なんでもないです」
「…そっか」
「はい」

 なんでもある表情のまま頷いて、階下に戻ろうとするミヨキチに

「ミヨキチ」
「なんでしょう?」
「笑った方が可愛いから、笑っとけ」

 そう言い捨てて俺は部屋に戻った。
明日はどんな服を着ていくか、ね。

133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/23(月) 22:14:04.12 ID:8ysY19qpO



―――

「すまん佐々木、待たせた」
「いや、今来た所だよ。……と言えば恋人同士らしいかな?」
「恋人同士らしいかはわからないが、佐々木らしくはあるな」

 短いスカートをはいて、ウエーブをかけた新鮮な佐々木と言葉を交わす。

「そもそも、さっきのは男であるキョンが先にいた場合の会話だろう?」
「まだ待ち合わせ時間の前なんだけどな…」

 対して俺は赤のカットソーに黒のジャケットを羽織っている。
一応髪も普段使わない整髪剤を使って整えて、それなりに外見に気をつけたが。
いまの佐々木と並ぶと若干気後れするのは仕方なかろう。

「ほらキョン行こうか」
「あぁ…」

141 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/23(月) 22:37:28.13 ID:8ysY19qpO


 デートの内容は至って普通。
ハルヒが言った飽き飽きする程まともで代わり映えの無いルート。
映画館に美術館、ファーストフードで食事をとり見て回った場所の感想を言い合う。

「ねぇキョン、僕は一つだけ解せない事があるんだ」

 店内最奥の席、食事中に佐々木はそう語り始める。

「橘さんから又聞いた話でどうこう言うのも嫌だけれど
しかし君が彼女に協力する理由がわからない、橘さんが君に言った事は確かに一理あるが、
しかし君がそれに言いくるめられた訳じゃないだろう」

 デート中になんとも色気の無い話だ。
まぁなにもかも忘れて楽しむなんてのは無茶難題だが。



143 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/23(月) 22:47:25.18 ID:8ysY19qpO


「橘さんは協力さえしてくれれば意図はなんでもいい訳だから
大して気にしてないみたいだけど、僕は君の恋人だからね。正直な所が聞きたいんだ」

 照れるくらいならわざわざ恋人と言わなければ言いのに、
まったく可愛い奴だ。
紙コップのコーヒーを飲み時間稼ぎをしながらそう思う。
正直な所……か、いま思ったことを正直に言ったら佐々木はどんな反応を見せてくれるだろう?
想像するだけで顔が緩む。

「なんとなく…かな」
「なんとなくかい?」
「あぁ、それじゃ駄目かな?」

 佐々木は怪訝そうにこちらを伺う。
俺は続ける。

「佐々木は自分のことをちっぽけな存在だと思ったことがあるか?」


153 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/23(月) 23:12:04.28 ID:8ysY19qpO


 佐々木はイチゴシェイクを置いて俺の話しに耳を傾ける姿勢を作る。
話上手に聞き上手が佐々木のアビリティには備わってる。

「これはいつかハルヒに言われた台詞だ」

 踏切前で淡々と自身の過去の記憶を語るハルヒに俺は「そうか」としか返せなかった。

「だがな佐々木、この数日で俺はわかった。俺はちっぽけだ。
ハルヒのおまけとして周囲の注目を集め、いつの間にか巻き込まれて選んだ場所は
超能力者や宇宙人に未来人に神様の集まり、俺自身にはなにもないのにハルヒの前の席で
つい話しかけた結果、俺は神に気に入られて。
気に入られた所為で知らなくていい事実を知らされ、右往左往させられて、
対処する力も無いのに、気に入られてしまった所為でいつも超常の中心で苦労して。
知ってるだけで理解はしてないのに、選ばれたからハルヒに付き合って、振り回されて、
挙げ句には自身の我が儘を一つ通した結果、散々振り回して来た異能者には切り捨てられ用済み扱い。
世界のためだとハルヒのご機嫌を取り続け、一度嫌われれば世界のためだとハルヒに近付くな我々に近付くなと言う。
……佐々木、俺は疲れたんだよ」

163 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/23(月) 23:38:41.61 ID:8ysY19qpO


 佐々木と向かいあっていた筈の俺はいつの間にか両腕を机について俯いていた。
指先が白くなるほど拳を握り締めて、言いたい事を言ったあとに残ったのは後悔だった。
佐々木に、もしこれで佐々木に拒絶されたらどうしようかと、俺は恐怖していた。
だから顔をあげて佐々木を見る事ができず、俺は佐々木がなにかを言い出すのを待っていた。

 ガタッと佐々木が立ち上がる音に、肩が竦んだ気がした。
佐々木がこのままどこかへ行き、取り残される錯覚を見た。
でも佐々木はどこに行く訳でも無く、
ただそっと俺の傍らに立ち、そっと抱き締めてくれた。

「大丈夫だよキョン、僕は君の事が好きだ。心から愛している。
辛かったね、苦しかったね。僕が全部受け止めるよ。
僕が君を必要としてるのは君が君だから、それだけだよ?
見捨てない、愛してるよキョン」

 俺は、恥も外聞も無く、佐々木の胸に抱かれて何年ぶりかはわからない涙を流した。

175 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/24(火) 00:01:57.12 ID:pYrSCIO9O

―――

「じゃあまた明日キョン」
「…あぁ」

 恥も外聞も無く、等と言ってもことが終わり冷静になればあんなもの恥以外の何物でも無く、
俺は気恥ずかしさから佐々木の目を見れないでいた。

「ねぇ、キョン」
「…なんだ?」

 腰に手を当てて少し頬を膨らませる佐々木。
動作は可愛らしいが、まともに見れないことに変わりはない。

「別れ際なのに君は顔も見せてくれないのかい?」
「…悪い」

 呼吸を整えて、佐々木を正面から見る。
佐々木は悪戯っぽく笑いそんな俺を見つめてくる。穴が開きそうだ。

「それじゃキョン、今度こそバイバイ」
「あぁ」

 別れの挨拶、をしてからもまだ佐々木は動かず。
やがて意を決したのか、一歩俺に接近し、一瞬のキスをした。


178 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/24(火) 00:04:06.00 ID:pYrSCIO9O

唇が軽く触れ合う短いキス、なのに佐々木は暗がりの中でも分かる程酷く紅くなり、
照れた様にはにかんでみせた。その表情は、俺の心を強く打って―。

「あはは、いまのは僕のファーストキスだったりするんだよね」

 頬を掻き、そう言う佐々木に、

「……"俺もだよ"」

 そう答えていた。

「ありがとう佐々木、お前のおかげで少しは吹っ切れた」
「ふふっ、気にしなくていいよ、僕達は恋人同士だからね」

 ウインクしてみせるご機嫌な佐々木に、今度は俺から、
先程よりも少し長いキスをして、




「俺もお前を愛してるよ佐々木」

 佐々木の耳元でそう囁いた。


189 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/24(火) 00:22:45.60 ID:pYrSCIO9O


―――

 頭が痛い。
 えっといまは何時だ?
 身体がやけに重い、全身に倦怠感が…。

 あれ、ここはどこだ?
 ベットも自分のじゃない。
 見慣れない部屋。
 頭に霧か靄がかかってる。
 状況の認識が円滑に行われない。

199 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/24(火) 00:38:28.22 ID:pYrSCIO9O


「うぅ…ん」

 声がして、自分の身体にかかっていた布団がもってかれた。
見れば、俺が現在最も愛してる人が全裸で布団に包まれて寝息を立てていた。

「あぁ…」

 刺激的な物を見たおかげか思考が一気にクリアになる。
霧は晴れて、明瞭だ。
見慣れない部屋で当然、ここは俺の部屋でも佐々木宅でもない、
一人暮らしでない学生の恋人達が愛を語らう場所だ。

 俺は離れた位置に置かれた携帯をとり時間を確認する。
まだ朝早い、寝た時間を考えれば早すぎる時間だ。頭が痛くなってもやむかたなしだ。
頭を振り頭痛を払いシャワーを浴びに立ち上がる、チェックアウトするにはまだ早い。

「ふぁ…、キョン?」
「あぁすまん、起こしちまったか?」
「ん〜、眠い」
「もう少し寝てていいぞ? まだ早いからな」
「……いや、起きる」

 起き上がり、かかっていた布団が落ちて上半身を露出させるも寝ぼけてる佐々木は気付かない。
絵画のようなその光景をこのまま眺めていてもよかったが、朝から疲れるのも
なんというか、アレなので早々に目を逸してシャワールームに入る。

210 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/24(火) 00:56:26.42 ID:pYrSCIO9O


 熱いお湯が頭の天辺から足先までを流れ落ちる。
全身の毛穴が開いて、身体中の悪い物を流してくれるような感覚が、好きだ。

「今日の正午、か」

 橘との口頭約束など守る必要性はないが、
これからも佐々木と共にいたいから、俺は、ハルヒを常人に戻す。
そう決めると気が軽くなった。ただひたすら高揚感が溢れる。

 蛇口を閉める、シャワーが止まる。
ガラス戸を開いて身体を拭いてバスローブに羽織る。
佐々木は裸のままだった。

「お前もシャワー浴びとけ」
「うん、そうさせてもらおうかな」

 てくてくと入れ違いにシャワールームに入る佐々木を見送って、ベットの縁に座る。
見れば携帯が緑の光を発していた、メールの受信を知らせる物だ。

 BGMに流れる水音を聞きながら携帯に手を伸ばす。
『古泉一樹』

 パチン。
俺は読まずに消した。

215 名前: ◆7SHIicilOU [] 投稿日:2009/02/24(火) 01:09:40.47 ID:pYrSCIO9O


 …閉じた携帯を再度開き、メールを打つ。宛先は橘。
『今日は大丈夫なのか?』とだけ送る。
シャワーの音は続く、女の子はシャワーが長いのは一般常識。

 ピリリとすぐに返事が来る。
以下内容、
『苦労しましたけど涼宮さんを捕獲しました、現在は薬で眠ってますから安心してください。
予定通り今日の正午から作戦開始です。…と言ってもそこからはキョンさんの手腕しだいですけど。
一応私達も万一に備えて、即刻涼宮さんを抑えられる様に待機してますけどね。
では後ほど。


PS. 佐々木さんと幸せになれるといいですね♪』

 以上。

222 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/24(火) 01:23:22.94 ID:pYrSCIO9O


 捕獲とは少々不穏な響きを持っているものの、状況は把握できた。
このメールに返信する必要はなし、なので携帯はまた机に畳んで置かれる。

 現在時刻は七時半、佐々木がシャワーから上がって一息ついたらここをでて、
朝飯でものんびり食ってれば大体時間は潰せるな。


 キュッと蛇口を捻る音がしてシャワールーム佐々木がでてくる。
バスタオルで頭を拭きながらそのままこちらに歩いてくる佐々木に俺の方が恥ずかしくて顔を逸す。

224 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/24(火) 01:30:47.76 ID:pYrSCIO9O



 くっくっくっと笑い声が聞こえてから衣擦れの音。
服を着てるのは即座にわかったので逸した目線はずっと壁を行き来する。

「キョー、ン」

 俺の名を甘えたような声で呼びながら、
唐突にに後ろから抱き付いてくる佐々木。昨日からやたらとスキンシップをとってくる。
…決して嫌じゃないが、最初は少し驚いたのも事実。

「なんだ?」
「少し君と触れ合いたくて」
「……そっか、気の済むまでくっついてていいぞ」
「勿論そうするよ」

 ぎゅうと胴に回された腕に力が籠る。

238 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/24(火) 01:49:32.68 ID:pYrSCIO9O


 しばらく、会話もなくそのままの体勢でお互いじっとしていた。
佐々木が触れてる所だけが、凄く暖かくて、心地よかった。

「キョンは、怖くないの?」

 沈黙を破ったのは、やはりと言うか佐々木だった。
…しかし怖い? 意味がわからないな。

「僕が涼宮さんの力を受け取った後のことについて」

 …どういうことだ?

「僕は力を認識してる、だから力をコントロールできてる。
涼宮さんの力が加算された僕は完全な意味で全知全能になれる、
意識的にその圧倒的な力を扱えるようになる。怖くないの?」

 なにを言ってるんだ、怖い訳がないじゃないか。

「なんで? 僕は怖いよ、君を強く想う気持ちが君の嫌う拘束になりはしいかと不安でしょうかない。
意識的に力を扱えることが無意識に力を使わないと言う訳じゃないんだ」

 佐々木の腕が微かに震えてるのを感じる。
昨日と立場が逆だな。

「そんな事いったら俺だってお前を束縛するぞ? ずっと一緒に居て欲しい、俺だけを見て欲しい、
それは結局普通の恋人が思う感情とそう居ない物だ佐々木」

255 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/24(火) 02:56:49.44 ID:pYrSCIO9O


 振り向き頭を撫でる。

「…それに、そうやって不安になれる佐々木なら大丈夫だ」
「…だといいね」
「大丈夫だ、…腹減ったな。飯食いに行こうぜ」
「そうだね、…とりあえずキョンには服をきてもらわなくちゃだけど」
「そういえば……」

 

257 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/24(火) 03:12:32.61 ID:pYrSCIO9O


―――

 二度目の佐々木の閉鎖空間訪問。
橘に手を引かれて俺は薄ぼんやりと発光するその空間にインした。
橘は、ハルヒを捕まえる際の抗争が原因なのか所々に包帯やらガーゼやらが巻かれて居て。
少し、消毒液の匂いがした。

「この先の広場に眠っている涼宮さんがいますから、行って彼女を起こしてきてくださいね」
「……お前は?」
「ここで有事の際に備えて待機なんですよ」

 繋いだ手を離し、背中を軽く押されて俺は歩き出す。
三日ぶりのハルヒの顔を拝むために。

「すぅー…」

 一人で歩いたのは50メートル程度。
一つのベンチにハルヒは横たわっていた。
最後に見た時より少し痩せた様に見える。

259 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/24(火) 03:22:54.88 ID:pYrSCIO9O


 如何なる理由か、肌は青いまでに白く。痩身と相俟って、呼吸してなければ
死体とも見紛う程だった。
数秒逡巡してから、ハルヒの肩を揺らす。

「おいハルヒ、起きろ馬鹿者。風邪を引くぞ」

 起きる気配は無し。
ため息してから、頬をたたく。
二度三度、さらに続けて何度もたたく。

「ん〜、なによ一体」

 久しいハルヒの声、やっと起きたか…。

「キョン? ………キョン!?」

 そうだが声量を落とせ。お前の声で鼓膜がやばい。
大体起きて早々なんて元気なんだ。

「あんたなんで、……てかここどこよ?」
「さてね」

 ハルヒと会話をしろ、と言われたが。一体どうしたらいいんだろう?
なにか特定のワードを言わせるのか? それともこの環境がキーで俺は時間稼ぎか?
イマニほど状況を把握してない、不親切だ。

261 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/24(火) 03:30:46.26 ID:pYrSCIO9O



「前にも似た様なことがあった気が…」
「ほぅ」

 と言うか、この異常事態(ハルヒ的)でのんびりと談笑する流れにはならないだろ。
どうすんだよ?

「…あー、ハルヒとりあえず落ち着け。そこに座ってくれ」
「なによあんた、馴々しいわね。あんたはもうSOS団員じゃないんだから
私に話しかけないで頂戴」

 いいつつも、一応さっきまで横になっていたベンチの端に座るハルヒ。
俺は反対の端に腰掛けて少し黙る。
さて、どうしようね?

324 名前: ◆7SHIicilOU [] 投稿日:2009/02/24(火) 12:56:51.49 ID:pYrSCIO9O

右手の親指の爪が剥れた
書くのが著しく遅くなる予感

335 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/24(火) 13:24:30.66 ID:pYrSCIO9O


 意外や意外、この無言の時間を破ったのはハルヒで、
思ってたよりも穏やかな口調で話しかけてきたのだった。

「ねぇあんたさぁ」

 そっぽを向いて、視線をキョロキョロとあちこちに巡らせながら独り言のようにしゃべる。
まぁ相手をみないでしゃべるのはいつも通りか。
「これって、また夢なのかしら…? どう思う?」

 夢、そういえばいつかハルヒの暴走により世界が作り替えられようとした時、
あれも俺とハルヒの二人で閉鎖空間にい。それは最終的に夢だと言う事になったが、
ハルヒは似た様なこの状況も夢だと思ってるのだろうか? なら好都合だが。

「さて、ただの登場人物Aにはわかりかねるな。ただこれが現実でないのはわかるが」

 現実の確執を一時的に排除して話し合うには、ご都合主義の通る夢幻としたほうが楽だ。

「……そっか」

 ハルヒもこの環境を調査するよりも、俺とのいざこざを見ない振りをする方を選んだのか、
質問責めにしたりするわけでもなく、すんなりと俺の言葉を受け入れた。

「これが夢か、なら色々あんたと話したかったのよね。良い機会」
「話したい事?」
「市内探索を休んだ理由は? その予定ってなんだったのよ」

351 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/24(火) 14:41:34.05 ID:pYrSCIO9O


 前言撤回、どうやら忘れるのではなく解決、ないし追求するのに都合が良いと
どうやらハルヒは考えた様だった。

「ムカつくけど、それだけじゃダメじゃない。あんたの用事もキチンと聞いて
納得させてみなさいよね…」
「あ〜…」

 どうすっか、なにも考えていなかった。
と言うより今日がその市内探索の日なのだが、ハルヒの中での時系列はどうなってるのやら?

356 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/24(火) 15:13:07.45 ID:pYrSCIO9O


「そのだな、妹と田舎に行くんだよ…」

 咄嗟に嘘をつく、嘘の上塗りだ。
だがどうすればいい、なにもない、ただ行きたくなかっただけと言うか?
そんな訳には行かない、佐々木と遊ぶ予定の事は?
考えるまでもない、アウトだ。

「ふぅん…、なんで最初からそう言わなかったの? 家族での用事に私が口出しするとでも?」
「いや、忘れててさ」
「………き」
「…は?」

 ボソボソとして聞こえないぞ。

「嘘つき」


363 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/24(火) 15:30:26.09 ID:pYrSCIO9O


 …え?
ハルヒがなにを言ってるのかわからなかった訳じゃない。
たがおかしい、ハルヒはだってこの世界を夢と認識…。いや、気付いてるのか?
だが都合いいから見て見ぬ振りをしてた、そうだ俺もさっきそう判断した。
しかし、ハルヒはなぜ嘘だと? ハルヒを拒絶した日に佐々木と遊んでるのは知られてる。
だが今日の事は知られてるはずが…。

「2月18日土曜日」

 ハルヒは憤怒の表情でこちらを睨む。

「昨日の10時からあんた今日の朝まで家に帰ってなかったでしょ」

 なんだ、どういう事だ? 橘達はなにも言ってなかった。
情報はどこから? またハルヒが俺達を見掛けて?
いや、それは理由にならない。時間の把握はできない筈だ。じゃあ尾行でもされてたのか?
そんなまさか、だったらわかる。なら、どうやって? 古泉達が吹聴するとも思えん。

「私ね、昨日あんたと話そうと思ってあんたの家行ったの。
私も悪い部分あったし、内容によっては明日は市内探索なしにするからって言おうと思って。
そしたらあんたのお母さんが出かけてるって、仕方ないからその日は帰って、
次の日、今日の朝また行ったの。そしたらまだ帰ってないって言われたわ」


366 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/24(火) 15:42:32.79 ID:pYrSCIO9O


 ハルヒの追求を交わす事がいまの俺にはできない。
こんな会話で本当に大丈夫なのか? 世界の寿命が果てない加速度で削れてる気がする。
だが、周りからの干渉も慌てる様子もないから大丈夫なんだろう。
俺は大丈夫でないが。

「あんた、あの佐々木って子と付き合ってるの?」
「……あぁ」

 他に言い様がなかった。
はいかいいえの二者択一の質問をいなせる程詐欺には向いてない。

375 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/24(火) 16:04:31.09 ID:pYrSCIO9O


「やっぱりそうなんだ…、あんたは気付いてないだろうけど。あの日あんたが
あの子と公園で会って喫茶店に向かうのも見てたのよね。あれからもしかしてと思ってたけど…。
昨日からでかけてたのも?」
「お察しの通りだよ…」

 そして沈黙、この佐々木の閉鎖空間の外でハルヒの閉鎖空間が出没してないかを
心配する権利はきっといまの俺にはない。

「ねぇキョン聞いて、私、あんたのことが、多分…」
「ハルヒ」

 続きが予想できたので遮る。

「お前はいつだったか俺に自分のちっぽけさを語ったな」
「…うん」
「俺も感じた事ある。感じ続けてる、いつもいつも俺の周りで流れてく物語に俺は毎度取り残されてた。
古泉に長門に朝比奈さんにお前、たまたま紛れた文芸部室だけじゃない。
中学時代のクラスメートの一人は古泉のお仲間でたった一人の親友はお前と同じ神様で…」
「あんたなにを言ってんの?」
「聞けハルヒ、世界は辛辣だ楽しくあってもその裏は痛みだらけだ。
俺もお前の事は結構好きだったんだ、だがお前は明るすぎたんだ。太陽は与えない、欲しい物は与えない。
ただ善も悪もない良も不もなく全てを一方的に放つだけなんだよハルヒ。
ただの一般人な俺は沈まぬ太陽の下じゃ生きられないんだ。
そうわかっているのに、俺はたまたま太陽に好かれたから、太陽が機嫌を損ねて落ちない様に自ら太陽を持ち上げてた。
古泉達超能力者の、与えられた蝋の羽根すら持たない俺が太陽の一番近くにいるなんてそもそも無理だったんだよハルヒ。
……俺は月が見たかったんだ、それだけなんだ」


379 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/24(火) 16:12:20.08 ID:pYrSCIO9O


 長々と喋った言葉を、
ハルヒはなんどかこちらと地面を見ながらゆっくりと理解して、聞く。

「つまり、どういうこと?」
「俺と佐々木は恋人同士でお前とは友達同士ってことだハルヒ」

 そう言った時のハルヒはこれまで見たどんな表情よりも悲痛で沈痛で切なかった。

「なんで、よ」
「悪いがハルヒ、俺はお前とは仲良し以上になれない」
「どうして、よ」
「どうしてもだ」
「嫌だよ、キョン、もうこんなじゃ一緒に話すのもできない。
こんな気持ちを抱えてあんたと仲良くなんかできるわけない!」

386 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/24(火) 16:23:21.96 ID:pYrSCIO9O


 ぶわっと全身の毛が逆立つかと思った。
この感覚を俺は知ってる、ハルヒによる世界の再構成が、行われようとしてる。

「おいハルヒ! 落ち着け馬鹿!」
「………………」

 ハルヒは立ったまま動かず、目を見開いて小さくなにかを呟いている。
ハルヒを中心に風がふき、閉鎖空間の壁面がちらつき明度が変わる。

 どうしたら、これでいいのか? それとも橘達はもう消されたのか?
作戦は失敗なのか? 俺は俺は、……だから無力は嫌なんだ。

「――情報構成力―――解析終了、分解――再構成を―――行う」

 声が聞こえて、ハルヒがその場に崩れ落ちる。
駆け寄りはしない、振り向き俺のすぐ後方にいる橘と周防を見る。

「ご協力ありがとうございます、キョンさん」
「―――」

 …説明しろ。

394 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/24(火) 16:35:57.07 ID:pYrSCIO9O


「つまりですね、あなたと涼宮さんを会話させる。
その結果彼女はかなりの規模の閉鎖空間とさらに情報操作による世界の改変を行いました。
我々はそれを観察し、周防さんと協力して分析、解析して彼女からその能力を分解し排出、
そして涼宮さんの体外で力を物質として再構成した訳です。
あっ、キョンさんはコーヒーのおかわりは? あっじゃあ両方お願いします。
…まぁ最後のタイミングはかなりギリギリでしたけどね」

 以上が橘による今回の事の説明。
ことを行った周防は黙って橘の奢りのアイスティーを飲んでいる。

「…で、これが神様の元か」

 俺の手の平には一錠の薬剤、現実に再構成されたハルヒの力の塊がある。
これを飲めば、望めば叶う神様の力を即日ゲット。どんな違法な薬物通販だよ。

「でもそれは実物で真実神の元ですよ、だからそれを佐々木さんに飲ませればオールコンプリートです」
「そうかい…」

397 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/24(火) 16:42:52.82 ID:pYrSCIO9O


 青白い一粒の錠剤に姿を変えたハルヒの迷惑超パワー、
なんとも感慨深いじゃないか。

「これで涼宮ハルヒはただの人間となりました。…満足ですか?」
「実感がわかないな、あっさりし過ぎてる。が、それなりに満足なんじゃないかね」
「なら、よかったです」
 砂糖もミルクも入れないコーヒーを飲む橘。
俺はまた手の平に視線を戻して、ため息をつく。
佐々木に連絡を取らなくちゃな。

403 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/24(火) 16:54:25.81 ID:pYrSCIO9O



―――

 公園の時計の下、青天の空を見上げながら俺は佐々木を待つ。
前は待たせてしまったからな、今日は相当早く家をでた。
佐々木の編んでくれたマフラーに顔を埋めて息を吐く。春遠からず、けれども今日も寒い。

「やぁキョン待たせたね」
「いや今来た所だ」
「嘘つき、こんなに冷えてるじゃないか」

 頬を柔らかい手のひらで包まれて俺は困った様に笑う。
相変わらず佐々木には嘘がつけない、二秒でバレる。

「ねぇキョン、来週はどうするの?」
「ん、来週は市内探索だな。また佐々木も来いよ、ハルヒも歓迎するぞ」
「ふふっそうだね、SOS団、佐々木団合同探索も最近してないしね」
「佐々木の所は土曜も授業あったりするしな」


406 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/24(火) 17:02:06.58 ID:pYrSCIO9O


 手を当たり前のように繋いで、いつもの喫茶店に向かう。
カランと涼やかなベルがなってクラシックの流れる店内に入ると店員がにこやかにやってきて、
即座に座席に案内してくれる。俺と佐々木は珈琲と紅茶をそれぞれ頼む。

「それで学校はどうだい?」
「最近は大した事はないな、男女合同の体育でハルヒに思いっきり負けたのが悔しかったが」
「ははっ、相変わらず涼宮さんはバワフルだね」
「パワフルすぎる、セーブする事を知って欲しい」
「ふふっ」

414 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/02/24(火) 17:19:35.06 ID:pYrSCIO9O


 あの日から、約一年が経った。
俺と佐々木は仲睦まじく恋人を続けている。

 ハルヒは橘の言った通りあれからただの人間になり、
昔の佐々木のようにいまの俺の親友みたいな感じで同じクラスで過ごしている。
席は、まぁ窓際の後ろ二つではないけれど。

 古泉達も力は消えてただの人としてこの世界で生きてる。朝比奈さんも含めて。
SOS団は毎週のように今も市内探索をしたりと活動してる。

 佐々木団も、同じく活動してる。
やはり力を無くした橘と周防と一応藤原も合わせてな。
この二つの団はたまに合同で活動したりもする。市内探索とは名ばかりで電車使ってあちこちに言ったり、
よく遊び惚けて居る。

 しかしなぜ橘達も能力が無くなったのか? ハルヒと関係のない佐々木団が能力を無くしたのは
佐々木もまた力を無くしたからだ。

 何故か? 俺が望んだからだ。
全ての異能力者がいなくなるように、俺が望んだからだ。

 今日も俺は佐々木と共にこの事も無き世界を歩いている。

418 名前: ◆7SHIicilOU [] 投稿日:2009/02/24(火) 17:23:45.54 ID:pYrSCIO9O


というお話だったのさ
終わりって事で一つ

449 名前: ◆7SHIicilOU [] 投稿日:2009/02/24(火) 18:01:50.92 ID:pYrSCIO9O


えっと前スレで終わったらと言う事で過去の自スレをあげようかと思ったのだけど
乗っ取りばかりだなぁと思うばかりで
仕方ないのでいままで投下した事のあるスレを揚げて見る


長門「エヴァには私が乗るわ…」 現在進行形
ハルヒ「ちょっと!かがみ!」 SSスレ

ローゼンスレ 少々
ギアススレ 多少
ブーン系 ちびっと
三題囃スレ たまに



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