朝倉涼子の消失Fe


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3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 21:12:09.79 ID:MLUXNqwxO

「ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしのところに来なさい。以上」
このクラスの自己紹介でそんなことを言った奴がいたのだというのを知ったのは、入学して二日目だった。
隣の席の友達作りに必死なクラスメートから聞いたのだ。
「え!あれを聞いてなかったのか?そいつは残念だったなー、すっげー真面目な顔して言いやがったんだぜ」
オレはそのとき寝ていたからな。



4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 21:13:06.23 ID:MLUXNqwxO

自分の自己紹介をした記憶もない。
担任がオレの名前を呼んだ気はするのだが、どうでもよくて相手にしなかった。
「それでな、知り合いから聞いた話だと、中学の頃から、」
「なあ」
話しを続けようとするクラスメートに視線を向ける。
「ん、なんだ?」
「オレ、そんな話に興味ないから、黙ってくれないか」

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 21:14:02.70 ID:MLUXNqwxO

「……え」
「どうでもいいんだ。くだらないことで話しかけないでくれ」
オレの性格を察したのであろうクラスメートは、すこしムッとした表情をしたものの、
「あぁ、そんなんだ、悪かったな」
とだけ言って離れて行った。
オレはそのまま、教室の中央に視線を移した。
ロングストレートな髪にカチューシャをつけた女が、ふてぶてしい表情で席についていた。
涼宮ハルヒと言う名のクラスメート。
一瞬、目を奪われた。しかし、
「どうでもいい」
オレには関係のない事だ。

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 21:14:50.09 ID:MLUXNqwxO

笑わない、話さない、起きてすらいない。
新学期が始まってからずっとそんな調子のオレに話しかける者は段々といなくなっていった。
しかし、特別目立ってはいなかった。幸か不幸かオレなんかより、よっぽどな奴がいたからな。
クラスの誰が話しかけても相手にしないばかりか、意味不明なくせに積極的な行動までしてる奴が。

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 21:15:53.62 ID:MLUXNqwxO

「涼宮さん、このアンケートなんだけどね」
「……」
今日も涼宮ハルヒは相変わらずだ。クラスの女子が話しかけても返事ひとつしない。
相手の女生徒も諦めれたようで、ため息をついた後、その場から離れた。人のことを言えないのだが、愛想のカケラもない。
「どうして、反応してくれないのかしらね」


8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 21:16:40.83 ID:MLUXNqwxO

一瞬、自分に向けられた言葉だと気が付かなかった。いや、気付けなかった。オレの脳が止まってしまったからだ。
「あたし、なにか怒らせることいったかな。自分じゃそんなことないと思うんだけど、どう?」
頭を振り、脳に血液を循環させる。なんだっけ?
そうだ、その女生徒がオレに話しかけてきたのだ。

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 21:17:44.43 ID:MLUXNqwxO

「さぁな、オレが知る訳ないだろ」
オレのそっけない返事の何が楽しいのか、その女生徒は笑顔を作り、
「あなたと涼宮さん、なんとなく雰囲気がにている気がするから、わかるかなって思ったんだけど。うん、けどそうね、勘違いだったかも。あなたはちゃんと答えてくれるものね」
「………」
オレはならばと言わんばかりに押し黙る
しかし、女生徒はそんなオレの態度が尚更面白かったようで、口に手を当ててクスクスと笑いだした。


10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 21:18:29.78 ID:MLUXNqwxO

「ふふっ。やっぱり涼宮さんと違ってわかりやすいわ。彼女だったら逆に話しをしてくれそうだもの。怖い顔で怒鳴られるだけでしょうけどね」
その女生徒は、じゃあね、と一言残し友達なのであろう数人の女生徒の輪に戻っていった。
「……あ〜、眠い」
オレはそのまま机に額をつけた。

朝倉涼子。
のちにわかるその女子生徒の名だ。
そしてそれはオレが一生忘れないかもしれない文字の並びでもあった。

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 21:19:24.67 ID:MLUXNqwxO

オレは別に高生生活の間、誰ひとり親しい友人が出来なくてよかった。
他人に興味がないと言うのが正しい表現かもしれない。
加えて自分でもわかるほどの無気力症状が出ているのだから、人とのコミュニケーション能力は皆無だ。
入学してから一ヶ月、ゴールデンウイークが明けた頃になるとクラスメート達も扱いかたに馴れたようで、事務的な用事がない限りオレを相手にしようとはしなくなっていた。
一人を除いて。

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 21:20:18.91 ID:MLUXNqwxO

「ほら、起きなさい。もう授業終わってるよ」
閉じたままの瞼を擦りながら、オレは顔を上げた。
「終わったのなら、起こさなくていいだろうが」
差し込む日の光を欝陶しく思いながら目を開く。
そこには、見慣れた顔があった。
といってもクラスメートの中で区別するなら1番という意味での見馴れた顔だ。
「それ、本気でいってるの?授業中だって、休み時間中だって、学校は寝る場所じゃないの。ここは学び屋なんだもの。委員長として見過ごせないわ」
朝倉涼子だ。


13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 21:21:11.30 ID:MLUXNqwxO

オレはあくびを間に入れてから、
「学び屋にだってな、真面目な生徒ばかりが来てる訳じゃないんだ。何割りかは出来損ないが必ずいる。その何割りかがオレだ。だから、同じような割り合いでいる優等生側の人間が気にする必要はない」
「優等生だって言ってくれるのはいいけど」
朝倉涼子は教科書でコツッとオレの頭を叩く。
「自分を出来損ないだって断言する人に褒められても嬉しくないな。はい、これあなたのでしょう」


14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 21:22:04.50 ID:MLUXNqwxO

よく見ると頭を小突いた教科書はオレのものだ。授業中のまどろみの中で机から落とした記憶が微かにある。
それを、こいつがまた拾ったのだろう。
「何度も言ってるだろ。自分の教科書ぐらい気付いたときに自分で拾う」
「そう言われたから、あたしも迷ったんだけど。あなた、いつまでたっても気付かないんだもの。これ、1時間目の教科書よ?」
「……いま何時だ?」

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 21:23:11.17 ID:MLUXNqwxO

朝倉涼子は見るからに呆れた表情で、
「それも本気で言ってるの?もう4時間目が始まるところじゃない」
つまり丸々2時間も床にほってあったのか。
この前おこなった席替えの結果、朝倉はオレの真後ろの位置になった。
つまり床に落ちた教科書が嫌でも目についてしまい気になってしまったのだろう。
こいつのようなお節介な人種には特にな。
オレは教科書を受け取り小さく礼を言うと、その教科書を机にひき、額をつけた。
「……もう」
その声の後、朝倉涼子の気配は離れていった。


16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 21:24:18.08 ID:MLUXNqwxO

その後も朝倉涼子は何かとオレに話しをかけてきた。
本人が言うには、委員長だから、クラスの問題児 の世話をやくのは当然なのだそうだ。
因みに付け足すと、朝倉涼子は頭もよく、同性から好かれるようで友達も多い。
まるで絵に書いたような優等生っぷりだ。
容姿に関しても、周りから抜きん出て端麗なのだから、ちょっとした完璧人間だ。
朝倉涼子という題名の絵画をかいた奴はよっぽど達者なのだろう。


17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 21:25:02.57 ID:MLUXNqwxO

「よく、出来てるな」
そう。
オレの朝倉涼子へ率直な感想はこうだった。
作り物。
よく出来た人形のような女だ、と。
どうしてこんなふうに思うかはわからない。オレとは違い何でもそつなくこなす彼女への嫉妬なのかもしれない。
しかし、それはここ数年忘れていた他人への興味という感情でもあった。

良い物を取って付けたような彼女にオレは関心を持つようになっていった。


18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 21:25:52.88 ID:MLUXNqwxO

「なあ朝倉、ちょっといいか」
「なーに?」
上半身だけ後ろにそらしたオレを朝倉涼子が不思議そうに見つめる。
「他の奴らが続々と教室からいなくなっていくが、次の授業は何処の教室だっけか?生物室か?」
「違う。理科実験室よ。先週の授業寝てたから、そんなことになるのよ」
「理科実験室……あぁ、あそこか。なら早めにいって寝ておくとするか」
「こら。あたしの目の前でそんなこと言うなんて、いい度胸ね。あ、そうだ!」

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 21:27:16.98 ID:MLUXNqwxO

鞄から次の授業に必要な物を取り出し終えた朝倉涼子は、笑顔で立ち上がった。
「なら、あたしも早めに行って、あなたが居眠りしないように見張っててあげるね」
「うぇ、まじかよ。言わなきゃよかった」
心境の変化もあってか、一週間もしないうちにオレは朝倉涼子と友人程度の会話をするようになっていた。
まあ、オレの態度の変化に合わせられる程の、人付合いな良さを朝倉涼子が持っていた、というほうがこの場合は大きいだろう。

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 21:28:14.89 ID:MLUXNqwxO

「もう一人の問題児の面倒をみなくていいのか?」
オレの準備ができるのを待っている朝倉涼子の後、教室の隅を指す。
今は、誰も座っていないが涼宮ハルヒの座席だ。
「彼女は彼に任せてるから、大丈夫じゃないかしら。あ、けどあたしも話しかけてはいるのよ?あんまりいい反応してくれないけどね」
「彼ってのは涼宮の、前の席の奴か?」
鞄から出した手を、机の中に入れながらオレは尋ねる。

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 21:28:58.92 ID:MLUXNqwxO

「そ、二人とも何か一緒にやってるみたい。なにをしてるかは分からないんだけど、涼宮さんはともかく、彼は常識がありそうだし、ブレーキ役になってくれてると思うわ」
「へー、そうなのか」
ブレーキ役ね。
常識があるなら、あんな女と係わり合いにならないと思うがな。
その男子生徒とは話しをしたことがないから、どんな人物かは知らないが。
「……ねえ、その机の中から全然出てこない手のことなんだけど」
……ばれたか。
「もしかして教科書忘れたの?」

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 21:30:01.32 ID:MLUXNqwxO

「いいって、教科書ぐらい」
オレの手を引き歩く、朝倉涼子は、振り返りもせず。
「だめよ。あなたはそうでなくても、眠ってばかりいるんだから。忘れものなんてしたら、成績に響くことになるんだからね」
だからって他のクラスの奴にわざわざ借りなくてもいいだろ。それに、
「オレ、他のクラスに知り合いなんていないぞ」



24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 21:30:56.92 ID:MLUXNqwxO

「そこは心配しないで。大丈夫、あたしの友達に貸してくれるように頼むから、あ!ちょっとそこのキミ、呼んで欲しい人がいるんだけど、」
他のクラスに着いた朝倉涼子は、適当な生徒に声をかけ、友達を呼ぶように頼んでいる。
世話焼きにも程がある。
不本意ながらも借り物をすることになるかもしれない見ず知らずの人物を確認しようと、教室の中を覗きこんだ。
そして、とある生徒が視界に入った途端、グラリと視界が歪んだ。

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 21:32:53.38 ID:MLUXNqwxO

「ほら、あなたも何か言って」

オレの意識が回復したのは、朝倉涼子の声を聞いてからだった。

「あ……あぁ、よろしく頼む」

朝倉涼子に急かされ、とっさにそう口にだしたのには、我ながら驚いた。

言葉を発してから今の状況、朝倉涼子に連れられて教科書を借りにきたことを思いだしたのだ。

いつのまにか、オレと朝倉涼子の前に女子生徒がたっている。

朝倉涼子の友達だろう。

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 21:34:13.99 ID:MLUXNqwxO

驚く事にオレはこの女子生徒が呼ばれて、ここにくるまでの記憶がない。

しかし、そんなオレの心境を知るよしもない女子生徒は、快く貸し出しを承諾してくれて、教科書を席に取りに戻り、オレに手渡してくれた。

オレは、

「ありがとう」

と言ったあと、一拍おく。

そして意を決して女子生徒に声をかけた。

「それと、あそこにいる生徒って」

そうオレが指をさした先には一人の女子生徒が静かに座っていた。

髪の短い眼鏡をかけた少女だ。

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 21:35:57.99 ID:MLUXNqwxO

朝倉涼子の友達である女子生徒はオレの視線の先を見て首を傾げた。

「長門さんのこと?」

「あの眼鏡かけた女の子。髪の短い」

オレは口で容姿を説明する。

「あぁ、やっぱり長門さんのことだね」

どうやら、あの眼鏡をかけた少女は長門という名前らしい。

「彼女がどうかした?知り合いなの?けど知り合いはいないって言ってなかった?」

朝倉涼子が長門という名の少女を見ながら言う。

「あ、いや。やっぱりなんでもない」

まさか、彼女は何物だ?と聞く訳にもいかない。



30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 21:37:08.89 ID:MLUXNqwxO

朝倉涼子とその友達は不思議そうな表情をしたが、次の授業がまじかに迫っているのもありそれ以上余計な話しはしなかった。

「ほら、早く!チャイムなっちゃうわよ!」

朝倉涼子に急かされながらオレは理科実験室に向かった。

長門という生徒の無表情な白い顔を思いだしながら。



31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 21:38:11.51 ID:MLUXNqwxO

日が重なるごとにオレは朝倉涼子とよく話しをするようになっていった。

あぁ、確かに人見知りしないときのオレはこんな奴だったなと、昔のことを思いだしてしまうほどだ。

しかし、それに比例して朝倉涼子への興味も大きくなっていく理由は自分でもよくわからなかった。

たいした会話はしていないはずなのにな。

今してるのもそうだ。



32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 21:39:17.08 ID:MLUXNqwxO

地理担当の教員に頼まれて、朝倉涼子と教材の片付けに向かっている最中なのだが。

「不思議なことを探してるみたいね」

この学校ではもっともポピュラーな世間話、涼宮ハルヒのことだ。

「自己紹介のときの、超能力とか未来人みたいなやつ。ホームページにもそう書いてあったから」

隣を歩く朝倉涼子の言葉を、オレは右肩に地球儀担ぎ、左脇にはクラスメート半数分の資料集を抱えながら聞いていた。



33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 21:40:29.91 ID:MLUXNqwxO

「校門でビラを配ってすぐのときは、トップページしかなかったんだど。最近かしら。ビラに書かれてた文章と同じようなのが追加されてたの」

「あの時のビラか」

オレは数日前に門の前で手渡された藁半紙を思い出した。

涼宮ハルヒから直接受け取って、すぐ道端に捨てたのだが、内容を一読はした。

全てを覚えてはいないが、SOS団という名前で、不思議を募集していて、パソコンのメールアドレスが載っていたのは記憶している。

それしか思い出せないのは、別のことのインパクトが強すぎたせいもあるだろうな。




34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 21:41:30.01 ID:MLUXNqwxO

「ブレーキ役は余り働いてないみたいだな。知り合いがバニーガール姿でビラを配ろうとしたら、止めるぞ。常識人なら必死にな。止まってくれなかったら縁を切るしかなくなる」

「言えてるけど。彼も疲れてるみたい。きっと彼の常識より、涼宮さんの非常識のほうが上回ってるんじゃないかしら」

「なるほどな。ならそろそろ、そいつも涼宮に愛想つかすんじゃないか?精神を擦り減らしてまで付き合っていてもしょうがないだろ」

「どうかしらね。涼宮さんはこのごろ凄く楽しそうだから。彼を離さないんじゃないかと思うな」



35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 21:42:45.97 ID:MLUXNqwxO

「そう言えば仏頂面は近頃見ていないな。なら話しかけてみたらどうだ。今なら良い反応が貰えるんじゃないか?」

「そうよね、そう思うよね。けど全然だめ。怖い顔しないだけで、返事は代わり映えしないもの。最近はあたしもあきあきしてきちゃった。あ、ここ、ここ」

朝倉涼子は、教員から預かっていた鍵を使い、準備室の扉を開いた。

準備室の中に入った朝倉涼子は、自分が抱えていた分の資料集をダンボールにしまい、

「はい」

とオレに向かって手を差し出した。

「悪いな、頼む」

オレは抱えていた資料集を手渡した。



36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 21:43:53.87 ID:MLUXNqwxO

この地球儀は何処に置けばいいんだ?と辺りを見回すと調度いいスペースが目に入った。

「飽きたんなら、涼宮なんて気にしなければいいだろう。担任達も諦め初めてるんだ。委員長のお前が涼宮をほっといても、誰も何も言わないさ」

地球儀を台の上に乗せながら、何気なくそう言った直後、

「そういう訳にはいかないの」

その声が耳に届いた瞬間、ゾクリと背筋が震えた。



38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 21:44:59.06 ID:MLUXNqwxO

これはここ最近、頻繁に感じる悪寒のようなものだ。

朝倉には背を向けていたため、どんな表情をしているかはわからない。

いや、そもそも今聞いた声だっていつもと変わらない朝倉涼子のものじゃないか。

教室で会話してるときと何処が違うのかと言われればオレは押し黙るしかない。

しかし……。

「……委員長だからか?」

そう言ってオレは自然に振り返った。



39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 21:46:04.76 ID:MLUXNqwxO

「そ!」

笑顔だ。

屈託のないそれはいつもと何らかわりない。

ふぅ。

自分でもよくわからない安心感に包まれたオレは、いまだに地球儀から手を離していなことに気付き、握っていた手の力を抜いた。

「さあ、速く戻りましょう。次の授業が始まっちゃう」

そう言ってオレの前を朝倉が通り過ぎる。



40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 21:47:27.25 ID:MLUXNqwxO

「なあ」

資料室から出ようする朝倉をオレは呼び止めた。

朝倉は振り返り、何も言わずにオレのことを見つめる。

「放課後ちょっとオレに付き合わないか?」

返事はすぐにかえってきた。

「いいよ」

いつもとなんらかわりのない笑顔だった。



41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 21:48:22.83 ID:MLUXNqwxO

その日の放課後。

北口駅前でオレは1人ポールに寄り掛かりっていた。

時折辺りを見渡すが目的の人物は見当たらない。当然だ。時計を見れば時間まで40分もある。

朝倉とはこの場所で、待ち合わせの約束をした。

学校から一緒に行動を共にすればいいじゃないか、とも思うが。

やはり。やめておいて正解だっただろう。変な噂になったらお互い困りそうだしな。



42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 21:49:35.75 ID:MLUXNqwxO

もう一度、制服のポケットから時計を取り出す。

懐中時計だ。携帯電話を持ってなく、腕時計の嫌いなオレはいつもこれを持ち歩いている。

パチンとバネ仕掛けの蓋をあける。

時間はさっき見てから、5分しか進んでいない。

当たり前だ。5分しかたってないのだから。

どうやら、オレは緊張しているようだ。

相手が相手だ。無理もない。

それから10分もたたずに朝倉涼子は姿を表した。



43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 21:51:42.54 ID:MLUXNqwxO

「あなたより先に来ようと思ってたのに。ずいぶん、早いのね。待った?」

「いや、オレも今来た所だよ」

「ふふっ、こんなドラマみたいなやり取りをすることになるなんて、思ってもなかったなぁ」

「下手な恋愛ものなら逆だろ。男が遅く来て、女が待ってるんだよ」

「そうかもね!」

悪戯っぽく笑う朝倉からオレは目をそらす。理由はわからない。

「それで?どんな所に連れてってくれるの?」

「映画とかどうだ?一人でよくいく映画館があるんだ。ポイントが貯まってて安くなるから、払ってやるぞ」

「ふ〜ん。映画館ね〜」



44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 21:53:05.78 ID:MLUXNqwxO

何か考えこんでしまう朝倉を見て、オレは急に不安になる。

深く考えずに提案してしまったが、オレは女の子と二人で何処かに行った事などないのだ。

映画館はまずかったのか?けど、それ以外に思い浮かぶ場所もない。

「いいわね。あたしも調度みたい映画があったから」

助かった。

「そ、そうか」

間を開けたにしては、あっさりと承諾してくれた。

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 21:54:33.94 ID:MLUXNqwxO

北口駅から歩いて数分のデパート。そこの上階は割と大きな映画館になっている。オレは朝倉をそこに連れてきた。

「あの上から二番目。あたし、あれが観たかったの。あれにしましょう」

朝倉の視線の先、チケット売場の上部にある一覧表をオレも見上げる。

朝倉が観たいと言ったの日本の恋愛映画だった。

「たしか小説が原作の純愛ものだろ、お前こんなの観たいのか?」

「こんなのとは失礼じゃない」

「いや、そうゆう意味じゃなくてな。なんつうか以外でな。もっと別のを想像してから」



48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 21:55:34.03 ID:MLUXNqwxO

「別のって?SFでも見ると思ったの?」

「え!いや……」

「とにかくあたしはこれが見たいの。参考にしたいしね」

「参考って。なんの?」

「秘密」

「……まあ、いいや。お前が見たいならそれでいいよ。時間は……4時15分からか」

時計を取り出し時間を確認する。4時調度だ。



49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 21:56:49.32 ID:MLUXNqwxO

「おお、ナイスタイミングでもうすぐやるな」

「随分センスのいい物持ち歩いてるのね。それ、懐中時計だっけ?」

オレがポケットに戻そうとした物を朝倉が興味深げに見つめる。

「まあな。オレ携帯電話持ってないし。これをいつも持ち歩いてるんだ。どうだ!いい物だろう?」

「うん、そうね」



50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 21:57:56.57 ID:MLUXNqwxO

「だろう!?これはな、一年ぐらい前に露店で見つけたんだ。形が最高にオレの理想でな。多少値がはったんだけどそのばで即買いしたんだよ。

けどなぁ、これ手巻きタイプじゃなくて、電池で動くほうなんだ。電地だとな、ゼンマイと違ってカチカチとあのいい音がしないんだ。

残念だよな〜、この形で手巻きなら、生涯の相棒になったのに。同じタイプの手巻きがないか探してるんだけど、なかなか見つからないん……だ……」

と、そこまでいってオレは我にかえった。

……なにをいきなり力説してるんだオレは。

「ん?どうかしたの?」

急に黙りこみ、俯いたオレを朝倉が不思議そうに覗きこむ。



51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 21:59:08.78 ID:MLUXNqwxO

「あ、いや悪い。突然、懐中時計の話しされても困るよな」

そんなオレの言葉を聞いた朝倉はクスッと小さく笑った後に、まんべんの笑みを浮かべた。

「懐中時計好きなのね」

「あ、あぁ、まあな。数少ない趣味の一つだ」

「理想の懐中時計が見つかったらあたしにも見せてね。あなたの理想がどんなものか見てみたいから」

「え、あぁ……わ、わかった」

予想外の朝倉の反応に戸惑いながらも、オレは頷うた。

「約束ね」

朝倉は小指を少し上げるポーズをしたあと、チケット売り場に歩きだした。



52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 22:00:11.49 ID:MLUXNqwxO

チケットを買ったオレ達は、薄暗い劇場に入り、階段状になってる座席の中央に腰を下ろした。

こんなベストポジションに座れたのは、客がオレ達以外に数人しかいないおかげだろう。平日だしな。

「あたし、こんなに空いてる映画館は初めてだわ。休みの日とかに友達ときたら人の数が凄いもの、ゆっくりと見れそう」

薄暗い中でも解るほど朝倉は瞳を見事に輝かせていた。本気でワクワクしてるような表情だ。



53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 22:02:24.88 ID:MLUXNqwxO

「オレは逆に混んでる映画館に来た覚えは殆どないな。空いてそうな日にちと時間を狙うからだけど」

「一人でだっけ?」

「まあな」

「寂しくないの?一人で映画見て。あたしだったら嫌だな。見る前に友達とどんな内容なのか期待しながら話をしたり、終わったらお互いの感想を言い合ったり。そういうのも映画の楽しみじゃない」



54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 22:03:44.76 ID:MLUXNqwxO

「そういう楽しみ方もあるだろうな。けど一人で映画だけに集中するのもいいだろう。せっかく金払ってまで見るんだ。余計なものを楽しみにプラスしなくても充分だ楽しめる………とか言いたいところだが、単に一緒に映画を見るような仲の人間がいないだけだな」

「いないの、中学の同級生とか?」

「ああ、いないな。中学に入学したときぐらいから極端に、他人に興味を持たなくなったからな」

「ふーん。こんなに普通に話せるのに。不思議ね」

上映のブザーが鳴ったので、オレ達は会話やめた。

あまり話したくない内容だったので助かった。



55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 22:04:51.82 ID:MLUXNqwxO

真っ白で巨大なスクリーンに、上映中の注意、映画の予告に続き、本編が流れ始める。

男女が恋に落ち結ばれる。しかし、男は重い病にかかり、死んでしまう。

よくある悲劇的な恋愛模様を題材にした物語だ。

しかし、この映画が他と違うのは、男が中盤辺りで息を引き取ってしまうところにある。男の死による、女の心の葛藤が、話しのメインのようだ。



56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 22:05:49.93 ID:MLUXNqwxO

映画が終わり、エンディングのスタッフロールが流れる。

予想外に楽しめたな。

隣にいる朝倉を見ると、

ラストの展開の影響か目を潤ませていた。その表情はとても女の子らしい顔だった。



57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 22:06:58.34 ID:MLUXNqwxO

「楽しめたわね」

スクリーンの幕が下り、すっかりと明るくなった場内で朝倉が微笑む。

「そうだな。思ったより……かなりよかったのは認める」

オレは鞄を手に取り席を立ち上がった。

「さあ、出ようぜ。いつまでも場内にいたら、清掃員に睨まれる」



58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 22:07:52.33 ID:MLUXNqwxO

客席と客席の間を歩きながら、朝倉を振り返る。

朝倉はまだ座ったままだ。

そして先程とまったく同じ表情で微笑んだまま、こう言った。

「そうね。そろそろ本題を始めましょうか」

ゾクリとまた背筋に寒気が襲う。

いままでとは比べものにならない嫌な予感とともに。



59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 22:12:53.78 ID:MLUXNqwxO

「な!?」

途端に場内が暗くなり始めた。天井からの照明が光りを失い続ける。

上映が終わったばかりの今、館内の照明が消えるなんてあるわけない。

いや、照明の故障に誤作動、理由なんていくらでもある。

けど、多分違う。これは自分でもよくわからない感のようなものだ。

「朝倉っ!」

視界の全てが少しずつ、そして確実に闇に近づく中、オレはすぐ目の前にいる朝倉に手を延ばした。



60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 22:14:12.50 ID:MLUXNqwxO

「じゃあね」

しかし延ばし手のすぐ先にいた朝倉は館内の景色と共に真っ暗闇に消えていった。

笑顔のまま。

「………なんなんだ」

暗闇。

目を開けているはずなのにオレの視覚が光をまったく捕らえない。

手をいくら目に近づけようと輪郭すらつかめない。そして気付けば音すら聞こえていなかった。

完璧な無音だ。

「オレは今、どうなってる?」

地に足がついているのだから立っているはずだが、なにも見えないとそれすらも怪しく思えてくる。



62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 22:15:21.11 ID:MLUXNqwxO

残りの感覚を頼りに一歩、足を前にだす。

靴の裏が床を擦る音さえも聞こえない。オレ以外の時間がと止まっているかのようだ。

何歩か進み、周りの客席がなくなっていることにも気付いた。手で周囲を探ってもなにも触れるものはない。

オレの中のなにかが警笛を鳴らす。ここはやばい。これ以上ここにいたらいけない。この空間から抜け出さないと。

「……向こうか?」

空間を抜け出す、という意識をしだすと不思議な事に足がある方向をむいた。



63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 22:16:23.38 ID:MLUXNqwxO

一歩、一歩ゆっくりと進む。

目と耳はなにも捉えないのだが、別の感覚が光と音がこっちにあると言っている。

立ち止まり、両手を前にだす。なにも触れはしないのだが。

「ここだ。ここから外に出れる」

なにもない空間に手をかける。そして押す。

扉を開いたかのように、光と音が漏れだした。



64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 22:17:30.14 ID:MLUXNqwxO

雑踏と天井の電灯、気付けばそこは通路だった。

オレはまるで劇場の扉を開け、通路に出たかのような状況なのだ。

後ろを振り返る。なんの変哲のない劇場が、力無く閉まっていく扉の隙間から見えた。

「遅かったのね」

「!」

再び正面をむくと、ある人物が目に飛び込んできた。

「なにしてたの?あなたが早く出たほうがいいって言ったんじゃない」



65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 22:19:06.27 ID:MLUXNqwxO

「……朝倉」

壁に寄り掛かりながら朝倉涼子はオレを見つめ、僅かに頬を膨らませる。

「女の子を待たせるのはよくないと思うな」

「え……あ…」

思考が状況に追い付かない為、オレはうまく返答ができない。そんなオレに朝倉は首を傾げる。

「大丈夫?寝ぼけてるの?」

「いや、寝ぼけては……ない……大丈夫だ」

「そう?ならいいけど。さ、出ましょう。清掃員さんに睨まれないうちに、ね」

朝倉は笑顔で歩きだした。
「ほら、いきましょ」

「……あ、あぁ」

オレはゆっくりと足を動かし、朝倉の後を追った。



66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 22:27:46.83 ID:MLUXNqwxO

外に出ると辺りはすっかりと暗くなっていた。

夜道を朝倉と今見たばかりの映画の話しをして歩く。人と話しをしながら外を歩くなんて今思えば随分と久しぶりだった

再び西口駅前まで来た俺と朝倉は、近くの喫茶店に入った。

朝倉がもう少し話しをしたいと言ったからだ。

「そういえば、隆弘が死んだ後の晴美は凄かったわね。半狂乱っていうかしら?ああいうの」

運ばれてきたばかりのアップルティーをストローですすりながら朝倉はオレに尋ねてきた。

「あれか……」

朝倉が言っているのは、映画の主人公が恋人を失った直後の描写のことだ。



67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 22:29:31.77 ID:MLUXNqwxO

「あれじゃ半狂乱というより完全にイカレてただろう。いくら、恋人と死別したからってあれの演出はやり過ぎだ」

「そう?あたしはよく出来た心理描写だと思ったわ。人間なんて、本当に拒絶したい事が起きれば、すぐあんなふうに壊れてしまうんじゃないの?」
「そうなのか?まあ、そんな状況になった事がないからわからないな」

「ふーん。そっか……わからないのね」

ストローでグルグルとアップルティーを掻き交ぜる朝倉は、何か考え事をしているようだ。

そんな朝倉を見ながらオレは、さっきの事を思い出していた。



68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 22:30:52.86 ID:MLUXNqwxO

あの暗闇は何だったのか。正直、朝倉と会話している最中もこの事はずっと頭から離れてはくれなかった。

不可思議な体験過ぎて夢でも見ていたのかとも思うが。そんな事では片付けられないほどの現実感があれにはあった。

「なあ、朝倉。ちょっと聞きたいんだけど」

「ん、なに?」

朝倉が手を止め、オレを見る。

「さっき、映画が終わった後、朝倉はオレより先に劇場をでたよな。なんでだっけ?」



69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 22:31:59.34 ID:MLUXNqwxO

「なんでって……なんのこと?」

朝倉の不思議そうな表情に戸惑いながらも、オレは言葉を続ける。

「映画が終わって、オレ達ちょろっと会話した後、オレのほうが先に席たっただろ?なのに朝倉が先に外出てたのはなんでだったんだっけ」

端から聞けば意味がわからない質問なのは自分でもわかる。

しかしオレが聞きたいは間違いなくこのことだ。ごまかしてもしかたがない。



70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 22:33:10.89 ID:MLUXNqwxO

「……」

オレがなにかジョーダンを言っている訳ではないと気付いた朝倉は怪訝な顔で黙りこんでしまった。

ストレートすぎたか。

「あぁ、なるほど。そういう事ね」

なにを納得したのか、朝倉はオレに鋭い目付きを向けてきた。

「あなた……寝てたんでしょ」

「は?」

朝倉は呆れたようにため息をつきながら、

「劇場から出て来た時、なにか変だと思ったのよ。映画見ないで寝てたんでしょ?それで寝ぼけてたんだ」



71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 22:34:07.58 ID:MLUXNqwxO

「い、いや……そんなことは」

「もう。女の子を誘っといて居眠りはないんじゃないの?それともやっぱり、あたしとじゃつまらなかった?」

「そ、そんな事はない。出来ればまた来たいぐらいだ!……って」

オレはどさくさに紛れてなにを言ってんだ。



72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 22:35:15.73 ID:MLUXNqwxO

「その言葉を聞いてちょっと安心したかな」

「え」

いつのまにか朝倉は先程までの拗ねた表情から、いつもの笑顔に戻っていた。

「あなた、映画終わってから上の空だったから。あたしとじゃつまらなかったのかなって、ちょっと本気で考えちゃってたのよ」

「上の空だったか?」

「うん。まあ、けど確かに学校終わってすぐ映画って疲れるわね。あたしも結構くたくた。次は休日にしましょう。人がいっぱいいてもいいから」

ね?と笑いかけてくる朝倉。オレは自然に、

「あぁ」

と笑顔で返事をしていた。

こうやって他人に笑った顔を見せるのも随分と久しぶりだった。



73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 22:36:27.54 ID:MLUXNqwxO

そこからまた、少し映画の話しやら世間話しをしてから、オレと朝倉は喫茶店を出た。

「家はどの辺なんだ?」

「送ってくれるの?けど大丈夫よ。それほど遠くないし」

「そうか、ならここで。明日学校でな」

「えぇ。また明日」

小さく手を振った後、朝倉は遠のいていく。

「……」

オレはその小さくなっていく、背中を見つめた。

「朝倉!!」

そして見つめていた背中が完全に遠のいてしまう前に、オレは朝倉を叫び止めた。



75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 22:37:32.47 ID:MLUXNqwxO

振り返った朝倉は驚いた表情をしていた。

「さっきの話しの続きなんだが!」

オレは躊躇わず叫ぶ。

「あのまま、ごまかされようとも思ったが、やっぱ駄目だ!気になるもんは気になる!」

「……」

オレの言葉を朝倉は、黙って聞いている。

「朝倉!お前、何者だ!?」

言ってしまった。イカレタ事を言っているのはわかっているが……朝倉、間違ってはいないんだろう?

「……」

朝倉とオレの間にしばらく沈黙が続いた。



76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 22:38:40.23 ID:MLUXNqwxO

そしてその静寂を崩したのはオレではなかった。

「次の土曜日、午前10時に光陽園駅前公園で待ってるわ」

それだけ言うと、朝倉はきびすを返し、駅入口の人込みに姿を消した。

朝倉のその言葉は、どこか淡泊でいつもの朝倉とはやはり、雰囲気が違っているように思えた。

もしかしたら、オレ以外ではわからない変化なのか。



77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 22:39:42.98 ID:MLUXNqwxO

そうだ。

あの笑顔の裏に何があるのか。

オレはすでに知っているのかもしれない。



79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 22:56:46.71 ID:MLUXNqwxO

次の土曜日の朝倉との約束。約束とはいっても、あの時オレは返事をしていないので、約束とは言えないのかもしれない。

返事をするまもなく朝倉はオレの前から姿を消した。あれは、必ずこいと言う意味なのか?それとも、来たくなければ来なくていいという意味なのか……どちらにしてもオレは行くしかない。だからあのとき朝倉の裏の顔へ一歩踏み込んだのだ。

それが随分に前に放棄した道への一歩だと気付いていながら。



80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 22:57:42.72 ID:MLUXNqwxO

今日の朝倉はやはり普段とかわりない。昨日の別れぎわに見せた、妙な感じを微塵も感じさせないほどの優等生顔だ。

いや、もともと表情や態度に変化なんて見られないんだ

。時折感じるのは、上手く言い表せない雰囲気のようなもの、一般人じゃわからない。




81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 22:59:09.81 ID:MLUXNqwxO

オレと朝倉が前より話すようになったとはいえ、きっかけがないときはまる一日会話をしないこともある。

朝倉に注意されるようになってからは、授業も比較的真面目にうけるようになったから、委員長と問題児という接点も随分と薄れていたしな。

だからこの日、朝倉と一言も話しをしなかったのは特別珍しい事ではない。

ないのだが。



82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 23:00:09.18 ID:MLUXNqwxO

「はぁ」

帰りホームルームが終わり一人、昇降口に降りてきたオレはため息なんてものをはいていた。

いったい何にたいしてのため息なんだかな。

自分でも恥ずかしくなるほどにオレは朝倉を意識しているようだ。

「疲れているようですね。それとも何か悩み事でも?もし僕でよろしければ相談にのりますよ」

そんなオレへいきなり後方から声をかけられた。



83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 23:01:13.08 ID:MLUXNqwxO

「……?」

振り向くと一人の男子生徒が立っていた。

「誰だ?おまえ」

細身でさわやか印象をうけるその男子生徒の顔に見覚はない。

クラスメートじゃない。

当たり障りのない笑みでその男子生徒は言葉を続ける。

「おっと、失礼しました。随分と深いため息でしたので。先に挨拶をしたほうがよかったですね。僕とあなたは初対面どうしなのですから」

男子生徒は穏やかに細めた目を崩さずに、

「僕の名前は古泉一樹です。つい先日にこの学校に転校してきました。クラスは九組なのであなたが、僕に見覚えがなくても無理はないでしょう」



84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 23:02:10.57 ID:MLUXNqwxO

「んで、その転校生がオレになんかよう?まさか、ため息ついてる人はほっとけないとか?」

「いえ、僕はそれほどお節介ではありませんよ。あなたに用があったので、声をかけさせていだだいたんです。それもごくごく私的とも言える用事です」

オレが名乗らないことには、何も言わない男子生徒。恐らくオレの事はすで知っているのだろう。



85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 23:03:05.98 ID:MLUXNqwxO

「その用ってのはなんだ。さっさと言え」

「そうですね。これ以上無駄話をするとあなたに話しを聞いてもらえなくなってしまいそうです。単刀直入にいいます。朝倉涼子と必要以上に関わるのは控えてください」

「……なんだそれ。おたくは朝倉の彼氏かなにか?」

あからさまに機嫌の悪そうに答えるオレに対して、古泉一樹と名乗った男子生徒は態度を微塵も変える様子はない。



86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 23:04:06.09 ID:MLUXNqwxO

「そのような恋愛小説の修羅場的なわかりやすい状況なら、どんなによかったでしょうか。しかし事態はそれよりも複雑です。僕が機関の者だと言えば大体の察しはついていただけるかと思いますが」

「……」

……なるほどな。あれの仲間か。

「つまりお前は何年か前、オレにトンチキな話しをした連中と同類って訳か。なるほど、大体察した。お前も頭がイカレた一人か」



87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 23:05:08.26 ID:MLUXNqwxO

古泉一樹は笑顔をわざとらしい程に苦いものにかえ、

「手厳しいですね。確かに我々の頭がどうにかなってしまったと言う事は否定できません。しかし僕達は出来る事をするしかないのです。仮に間違っていたとしても、我々が使命とすら感じているのは紛れも無い真実なのですから」

古泉一樹はオレを見据えてもう一言つけたした。

「まあこれに関しては、説明は無用でしょう。あなたも紛れもなく僕達の同志なのですから」



88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 23:07:01.84 ID:MLUXNqwxO

「ふん。それで、そのことと朝倉がなんの関係がある」

「本当にお分かりでないのですか?」

芝居がかった古泉一樹の驚いた表情。

「その笑顔とオーバーアクションは、作りか?不自然だぞ」

「おや、そのように見えますか。以後気をつけるとします。話しを戻しますが我々機関はあなたと朝倉涼子との接触は、転びようによっては悪い方向に行くのではないかと見ています。具体的なものは何もありません。あくまで可能性の段階です」

そこで古泉一樹は、しかし。と付け加えた。

「これは忠告ではなく警告と受け取っていだだきたい」

その表情に先程までの笑顔はない。



89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 23:08:21.25 ID:MLUXNqwxO

「わざわざ、そんな事を言いに来たのか」

「えぇ、そうです」

笑顔に戻ったさわやか男子生徒がそう答えた。

「それはご苦労様だな。警告とやらは承知した。話しが終わりなら、オレは帰る」

オレは自分の靴箱から、外履き出し、履きかえ、上履きをしまった。

「それと、同志なんて呼ぶな。数年前オレはお前のお仲間に、そんな団体に入らないときっぱり言ったはずだ」

オレは背中越しにそれだけ言い昇降口を出た。



90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 23:09:14.83 ID:MLUXNqwxO

朝倉との約束の土曜日。

光陽園駅はオレが通っている高校に1番近い駅だ。学校へは電車通学である為、高校生になってからは当然毎朝使用している。だからまず、光陽園駅までは、平日通りの道準でいけばいい。自宅に1番近い西口駅から、電車に乗ればすぐだ。

そう考えて西口駅の北側改札口まで来たところでとある一団が目についた。



91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 23:10:25.89 ID:MLUXNqwxO

改札口前のちょっとした広場に若い男女が五人。

一人は今、到着したところのようだ。

「なんの因果もないはずなんだがな」

その一団の中には、顔と名前が一致する人間が三人も混じっていた。

涼宮ハルヒ、古泉一樹、そして長門。あとは名前をしらないが、幼い出で立ちの女性が一人と、クラスメートの男子が一人。あいつは確か涼宮の前の席の奴だ。



92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 23:11:16.63 ID:MLUXNqwxO

涼宮と到着したばかりのクラスメートの男子生徒が少しばかり会話をした後、その一団は近くの喫茶店に入っていった。オレが朝倉と入った喫茶店と同じ店だ。

オレは五人の最後尾を歩く、長門が喫茶店の入口に消えるのを見届けてから、立ち止まっていた足を動かした。

長門はなんで休日なのに制服なのか、という素朴な疑問を思い浮かべながら。



93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 23:12:20.97 ID:MLUXNqwxO

光陽園駅前公園には行ったことはなかったが、駅近くにそのような場所があることは知っていたので、駅から公園へは迷うことなく来る事ができた。

少し早くつきすぎたな。

しかし、そんな心配をする必要はなかった。

公園に入って少し道なりに歩くと目的の人物が街灯の下の木製ベンチに座っていたからだ。

オレに気付いた朝倉は立ち上がり、手を振ってきた。



94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/20(土) 23:13:18.20 ID:MLUXNqwxO

「ふふ、今日はあたしのほうが早かったわね」

「早過ぎだろ。何十分前からいんだよ」

「9時ぐらいからいたかな。もうあなたがいたらどうしようかと思ったけど、さすがに大丈夫だったみたい。これで少しは威厳が保てたかな」

「威厳って。この前遅刻した訳じゃないんだ。いやまあいい、確かに恐れいったよ。内心またオレが先に到着かな、と考えてたからな」

「ふふ、あまいわよ!」

100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 00:11:43.13 ID:SoTqqyrjO

朝倉と談笑出来ている自分自身に少し安心した。最近話してなかったこともあるが、この前、映画を観た後の別れ際に感じた、いつもと違う朝倉の雰囲気を思いだすと多少緊張してしまうからだ。

「それじゃ、こっち。ついて来て」

手招きをした朝倉は、オレに背を向け歩きだした。

「こっちって、何処いくんだ?」

「あたしの家」

「!?」

とりあえず朝倉を追い掛けようとしていた足が停止する。

「家って……」

困惑するオレのことなど振り返りもせず、朝倉は歩を進め続けていた。



101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 00:12:59.37 ID:SoTqqyrjO

朝倉に連れられて行き着いた場所は、駅からさほど離れていない分譲マンションだった。

そこの505号室の扉を開け、朝倉がオレに笑みを向けた。

「どうぞ、入って!」

どうやらここが朝倉の家らしい。

「おじゃまします」

朝倉の後に続き扉をくぐった。

通されたリビングには背の低いガラスばりテーブルと、薄ピンク色をした2、3人座れそうなソファー、そして画面が大きめのテレビが置かれていた。



102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 00:14:05.29 ID:SoTqqyrjO

その他、家の中にあるものも新築マンションの一室に相応しい家具ばかりだ。しかし、どうも違和感を覚える。これではまるで、

「一人暮しの部屋みたいだな」

オレは辺りを見渡した後、朝倉にそう言った。

「あら、やっぱりわかる?そ、あたし一人暮ししてるの。それにしてはちょっと部屋が広すぎるけどね。あ、お茶は冷たいのと、熱いのどっち?」

いつのまにか、台所にいる朝倉がそう聞き返してくる。

「熱いので」

「りょーかい。座って待ってて」

朝倉が戻ってくるまでリビングで待機することにした。

うん、なかなか座り心地のいいソファーだ。



103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 00:15:24.48 ID:SoTqqyrjO

朝倉はすぐに二人分の湯飲みをトレーに乗せて持ってきた。オレの前とその反対側に湯飲みを置く。

そしてオレのほうに近づいてきた。

「?」

なんだ?

「ほら、そっち詰めて」

「??」

言われた通りにオレはソファーの端に寄った。

すると朝倉はオレが座ってないほうに、手をかける。

「なるほど」

ソファーが二つに別れた。一人用には少しばかり広いと思ったら、そうゆう機能がついてる訳か。



104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 00:16:25.44 ID:SoTqqyrjO

朝倉はソファーの片割れを押し、自分の湯飲み前までもっていく。

「よし!」

朝倉はソファーに腰をかけるとオレに満面の笑みを向け、自分の湯飲みに手を伸ばした。

「さあ、あなたも飲んで。せっかく熱いの煎れたんだから、冷めたら勿体ないじゃない」

「それもそうだな。いただきます」

ズズッ。

「おいしい?」

「ああ、うまい」

「そう、よかった」



105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 00:18:01.40 ID:SoTqqyrjO

お世辞ではなく、本当にうまかった。もしかしたら使ってる茶葉が高級なのか。いやいや、ここは朝倉の煎れ方が上手いのだと思う事にしよう。

ズズッ。

オレは黙々とお茶を飲む。

朝倉はそんなオレを眺めながら、時たま自分の湯飲みに口をつけていた。

「………うぅ」

ちょっと飲み過ぎた。朝倉にすすめられるがまま、四杯も飲みほしてしまった。

「もっとおかわりいる?まだあるよ?」

オレとは違い、一回しか使ってない湯飲みを目の前に放置している朝倉が、笑顔を向けてくる。心なしか笑い声を堪えているような笑顔だ。

こいつ……。

「もういいよ。それより………話をしてくれるんだろ?」



106 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 00:18:59.78 ID:SoTqqyrjO

「そうだったわね。今日はその事でわざわざ、家に来て貰ったんだった。あなたが、すすめれば、すすめるだけお茶を飲むのが面白くて忘れる所だったわ」

「お前……」

「ふふ、冗談よ。話しねわかってる。じゃあ、そろそろ始めるとしようかな」

そこから朝倉は表情を真面目なものに変えた。

「あたしの事、それとあなたの事。そして……涼宮さんの事をね」

今、目の前にいるのは時折見せていた、普段と違う雰囲気の朝倉だった。



107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 00:20:22.59 ID:SoTqqyrjO

「まずあたしの事だけど、あたしは普通の人間じゃない」

なんの感慨もなく朝倉はそう切り出した。

「情報群かなら、この宇宙を統括する存在、情報統合思念体に作られた対有機生命体専用のコンタクト・インターフェイス

そしてそのコンタクトの対象が涼宮ハルヒ、及び涼宮ハルヒの力に影響を受けた周囲の有機生命。

主な観察は別のインターフェイスが行っているから、得に今のあたしに特別な役割はないの。



108 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 00:22:20.65 ID:SoTqqyrjO

そして最後にあなたのことだけど、自身の事を、おそらくあなたは分かっているんじゃないの?認めたくない、認められない。そのどちらか」

ただ黙って耳を傾けていたオレを、朝倉の視線がいぬく。

あぁ、その通りだ。けど、
「それでも朝倉の口から聞きたい。だめか?」

その言葉を聞いて朝倉は少し眉を潜めた。

予想外の返答だったのだろうか。しかし朝倉はすぐに薄い笑みを浮かべた。

「いいけど?」

「頼む」



109 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 00:23:28.48 ID:SoTqqyrjO

朝倉は急須に手を伸ばし、自分の湯飲みに傾けた。しかしどこかの誰かがお茶を四杯も飲んだせいで急須の中身はかなり少なきなっており、朝倉の湯飲みの半分も満たせなかった。

朝倉は気にせず、急須を置き、湯飲みに口をつけ、そして話しを続ける。

「涼宮さんの力をもう少し解りやすく言うと、周囲の環境情報を自由に変化させることができるの。


113 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 01:14:24.61 ID:SoTqqyrjO

つまり、涼宮さんは、小さい所を言えば夏に雪を降らしことも出来るし、大きい所を言えば限定的な別次元空間も作ることもできる。それどころか望めば世界をも作り替えられる。

ようするになんでもできるのよ彼女は。今の所は自分の力に気付いていないから、無意識でだけど。場合によっては情報統合思念体以上の力を発揮させる。



114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 01:15:58.10 ID:SoTqqyrjO

その彼女が無意識で発揮させた力の影響の一つに、特定数の人類に超常な力、及び断片的記憶情報を与えたと言うものがある。それがあなた」

「超常な力か、ははっ、つまり涼宮が言う所の超能力者な訳だな、オレは」

「えぇ、そうゆう事になるわね」

茶化すようなオレの言動等気にもせず、朝倉は説明を続けた。

「けど、あなたに与えられたの力だけじゃなかったはずよ。

断片的記憶情報。涼宮さんの力の詳細、彼女の存在の核心、自分と同じ境遇の人間の存在、それらの事柄が全て知識として与えられた。そうでしょう?」

その通りだった。



115 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 01:17:07.84 ID:SoTqqyrjO

三年前のある日突然、自分にある力に目覚めた。

その力自体、訳が解らなかったし、何故力に目覚めたと気付いたのかさえ、理解できなかった。朝倉のいった通り知識だけを唐突に与えられたのだ。涼宮ハルヒの事や、涼宮ハルヒの力が世界に及ぼす影響についての知識が。

当時のオレは恐怖と混乱で頭がどうにかなりそうだった。

そんな時、転機が訪れた。

「力と知識を与えられた大多数の人間達はその知識のもとに集い、組織だった活動を開始したけれど。あなたは例外」

直も続く朝倉の言葉。



116 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 01:18:10.39 ID:SoTqqyrjO

そう。確かに『機関』を名乗る者がオレの前に現れた。オレの状況を理解し、自分達もオレと同じ境遇の同士だと言った。

しかし、オレの転機はその前の日に行っていた。

どうでもよくなったのだ。

涼宮が世界を壊すかもしれない事にも、おかしくなった自分にも興味が失せた。周りの全てに愛想がつきた。

だから、機関への誘いも断った。世界が滅びようが、己の使命がなんだろうが、機関の連中の話しは微塵も興味がわかなかったのだから仕方がない。



117 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 01:19:20.01 ID:SoTqqyrjO

だけど、なんでだろうな。

今は違う。朝倉に関係する事柄に、オレも多少なりても関わりがあったことが嬉しかった。

「なるほどな」
湯飲みに口をつけ、一息ついている朝倉を眺めながら、オレはソファーに寄り掛かった。いつのまにか前の身になっていたようだ。

「お前は宇宙にいる情報群からの刺客で、オレは超能力者。いや、だったらお前は宇宙人といったほうがわかりやすいな。オレが超能力者でお前は宇宙人か、面白いな。なんだか今更ながらそう感じる。それで?オレの超能力はどんなのだ?」

ソファーの背もたれから離れ、オレは朝倉に問い掛けた。



118 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 01:20:33.52 ID:SoTqqyrjO

「それもあなたは知っているでしょう。またあたしに説明させるつもりなの?」

「そんなことないさ、何年も前にどうでもいいと思ったことだぞ?とっくに忘れた。頼む、いいだろ、勝手にオレの事を調べてたんだからな。授業中とか、前の映画館とか、」

我ながら、驚いてる。自分がこんな雰囲気で喋る人間だったとはな。

けど、確かに全てに興味を失う以前のオレは厚かましい奴だったのだ。

朝倉は呆れたように、

「……情報干渉にやっぱり気付いていたのね。確かにあなたの力の解析は数回行ったけど、殆ど失敗に終わったわ。

あなたに干渉しようとすると強力なジャミングに見舞われる、あたしの思考経がショートさせられるほどのね。まあ、あなたは殆ど無意識で妨害していたようだけど」



119 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 01:21:35.32 ID:SoTqqyrjO

「映画館の時は違うだろ、お前のいう解析とやらが少なからず出来たはずだ」

「まあね。あなたを、あたしの情報制御空間に隔離することで、力の片鱗を垣間見ることは出来た。けど解析とは程遠いわ。

結局あなたの力がどんな効力をもっているかの予想がたてられた程度のものだもの。

力の情報形態は以前謎のまま。涼宮さんが生み出す他の情報同様のジャンク情報にしかみえない」



120 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 01:22:33.46 ID:SoTqqyrjO

「オレはその効力が知りたいんだよ。逆に情報がどうのこうの言われても、さっぱりわからないからな」

「あれだけの高密度情報を操作しておいて、そんなこと言うのね。ま、いいわ。あたしの仮設だけどそれでいいなら」

「いい」

「……わかったわ」

間髪入れないオレの返答に朝倉はため息混じりで話しを再開した。



121 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 01:23:50.63 ID:SoTqqyrjO

「涼宮さんによって与えられたあなたの力は、対宇宙人用の超能力と言えるものね。あなたには、あたし達の情報操作による干渉が一切通用しないの。反則的な程にね」

「それは、凄いのか?」

朝倉はオレの言葉に首を振った。

「あたし達にとっては凄いというより、驚異ね。情報統合思念体そのものを脅かす程の力ではないけれど、あたしみたいなインターフェイスに危害を加えるには十分すぎる能力だから。

予想だけど、攻勢的な力も持っているんじゃないかしら。情報操作に逆干渉するような」

「つまり、お前と戦ったら勝てる訳か。いいこと聞いたな」

「ふふっ。怖い。けど完璧ではないのよ」

「なんでだ?」



122 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 01:24:42.71 ID:SoTqqyrjO

「力そのものがね、とても不安定なの。力の発動にはおそらく条件が必要。ようするに好きなときに力を使えないの」

「そうなのか」

「これも予想だけれど、そのことに関しては涼宮さんの意識に関係してるんじゃないかと思うわ。彼女は宇宙人と友好な関係を望んでいるの。だから、あなたの攻戦的な力をあまり必要としていない。力が不完全な理由はこのへんが関係してる可能性が高いわね」



124 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 02:06:18.13 ID:SoTqqyrjO

「つまり、オレはどんなときにその超能力を使えるんだ?」

朝倉は顎に指をあて、少し考えた後、

「わたしのようなインターフェイスから先に情報干渉的アクションをあなたに起こしたとき。あなたはそれを無効することが出来る。そして、その攻性情報に逆干渉できるはずよ」



126 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 02:20:02.75 ID:SoTqqyrjO

朝倉が説明してくれた事はどれも常識を無視した話しだらけだったが、いきなり頭の中に叩き込まれたものより、よっぽど信頼出来る情報だ。

与えられた知識で理解していてもオレは納得してなかったのだろう。

しかし、第三者である朝倉から話しを聞いてオレは納得した、そして面白いと思った。退屈な日常が急に輝きだしたように見えたのだ。



127 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 02:21:40.43 ID:SoTqqyrjO

「お茶入れなおしてくるわね」

そう言い、朝倉は急須を手にとると台所に消えていった。

リビングに一人になったオレが思うことは、この力について、そして朝倉について……

この超能力を朝倉の為に使う事が出来ないだろうか。

涼宮についてなんて、今でもかわらずどうでもいいし、情報思念体の進化の可能性なんてのも興味ない。

ただ、朝倉の手伝いをしたい。それだけだ。



128 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 02:24:32.16 ID:SoTqqyrjO

「という訳で、涼宮の観察とやら、オレも協力する」

「という訳って……どういう訳?全然話しが見えないんだけど」

朝倉はオレの湯飲みに5杯目のお茶を注ぎながら呆れた表情をしている。

「言葉通りだ。お前の仕事をオレに手伝わせてくれ」

「どうして?そんなことしてあなたになんのメリットがあるの?あなた相変わらず、涼宮さんの力が世界に与える影響にも興味がないようだし、自分の使命を認めたようでもない。そんなあなたが、あたしに協力する目的が解らないわ」



129 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 02:28:49.94 ID:SoTqqyrjO

「理由が必要なのか?微力ながら協力員が増えるんだ。そっちにしたらいい事だろ」

「知能を持った生物の行いには例外なく理由があるわ。それは情報生物体も有機生命体もかわりない。

あなたになにか思惑があって、それがあたし達に不都合であるようなら、あなたの申しでを受ける訳ないでしょう?」

「そりゃ……そうだが」

「そもそもあたしはそんな事をさせる為に、あなたの立場を自覚させた訳じゃないの。

あなたの無意識に使う力が、あたし達の邪魔になる可能性が無視できないレベルであったから、直接説明するという手段を余儀なくした。

力に無自覚な状態よりも、力を自覚させて状況も理解させれば、障害にはならないとあたしが判断したからよ」

朝倉の表情が今まで見たことのない程冷徹なものにかわる。



132 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 03:01:12.10 ID:SoTqqyrjO

「関わらせる為じゃなくて、関わらせない為。あなたには対あたし達用のプロテクトがかかってるから、力だけを消去することが出来ない。

だからあたしの言う事が聞けないのなら、生命に関わる強行手段も検討されることになる。

これはあなたの安全の為なの、有機生命はなによりも死を恐れるのでしょう?」

「言うことを聞けないのなら、殺すってことか?」

「えぇ、殺すわ」



133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 03:02:08.30 ID:SoTqqyrjO

「まあ、そこをなんとか頼む」

「……あたしの話、聞いてた?」

「ああ、聞いてた。だからそこの事情をなんとかしてくれって頼んでんだろ」

「………」

朝倉は黙ってオレを見ている。いや、睨みつけてる?

あれほどはっきり、逆らうなら殺すと言われたのに逆らったんだ。オレの言動はある意味自殺になるのか。

しかし、命をかけてでもこの一件から手を引くわけには行かない。



134 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 03:07:53.13 ID:SoTqqyrjO

「朝倉、オレは三年前に世界の全てに興味を失ったんだ。

道行く他人にも、学校の友達にも、家族にも、住んでる街にも、この国にも、世界にも、どうなろうが、なんとも思わない。

そんなオレが毎日何を思って生きてたかわかるか?」

「そうね……淋しい、とか?」

「いや違う」

オレは朝倉から目をそらさず、瞬きもせず、

「つまらない、だ。関心のない物で埋めつくされた世界は、なによりも退屈だった。確かにお前言う通り死ぬのは怖い。だから今まで死なないようにして来たんだからな。

けど、退屈の中じゃ生きている実感は微塵も湧かなかった。生きていたのは確かだ、けど、そう感じたことはない。

オレは動いてるだけの存在。自分自信のことをそう感じていた。それほどにオレは荒んでたんだ」



135 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 03:09:35.36 ID:SoTqqyrjO

「つまり、死にたいの?」

「違うさ、死にたくない。生きていたい。しかし、ただ生きているだけは嫌だ、退屈にもあきた。生きている実感が必要なんだ。

そしてオレは朝倉と朝倉を取り巻く状況に興味を持ったんだ。面白いと思った。機関の連中の話しにすら、オレは見向きもしなかったのにな。

つまりそれは朝倉に関わる事でオレは生きている実感が湧くということだ」

「……」

朝倉は黙ってオレの話しを聞いている。

いいさ、オレは言いたい事を言うだけだ。



136 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 03:15:58.55 ID:SoTqqyrjO

「お前の言う事を聞いたら、裏の顔どころか、朝倉とも縁が切れるかもしれないだろ。そしたら、オレはあの生き地獄に逆戻りだ。

それだけは、なんとしても回避したい。しいて言うならそれがオレの目的だ。情報思念体とやらが理解出来るか………知らないけどな」

「………」

部屋に沈黙が続く。

オレの言い分はもうない。これでだめなら、覚悟するさ。無理矢理、首を突っ込んで強行手段を甘んじて受ける覚悟をな。




137 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 03:21:10.08 ID:SoTqqyrjO

重苦しい空気の中、朝倉が静かに口を開いた。

「たくさん話してくれたところ悪いんだけど。何言ってるかわからないわ」

「……あー、まじで?」

「えぇ、さっぱり」

情報思念体どころか、朝倉にすら伝わらなかったらしい。

「そ、そうか。わかんないか。そうか……結構気合い入れて説明したんだがな」

自分の伝達能力のなさを恨む。オレは肩と顔を落とした。そんなオレに朝倉は、こう付け加えた。

「けど、一つだけは共感出来るかもしれないわね」



142 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 03:36:53.55 ID:SoTqqyrjO

「……え」

オレが顔を上げると同じに朝倉は立ち上がり、背を向けた。

「協力員その1でいいなら、ね」

「そ、それはつまり!?」

「どうなの?」

「もちろん!その1でも、2でも何だっていいさ!」

「そ、……じゃあ、話しもまとまった事だしお昼にしない?お腹空いちゃったわ、あたし」

そう言い朝倉はまた台所に消えていった。



143 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 03:55:33.74 ID:SoTqqyrjO

その後、しばらくして朝倉が運んできたのはスパゲッティだった。

有り難く頂戴し、食後。オレと朝倉はこの前一緒に見た映画の話しや学校の授業の話し等をして時を過ごした。しまいには、朝倉がオレの勉強を見ると言い出し、オレは思わぬ所で数学の教科書をひろげるはめになった。

互いに午前中の続きは口にしなかった。

オレが超能力や宇宙人の話しをなかった事にとくに意味はない。

朝倉はオレを協力員と認めてくれたようだし、手伝えるような事があれば向こうから言ってくれるだろう、オレからふる話題ではない。

朝倉が関わりを認めてくれた時点で、オレは満足だったのだ。



145 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 03:57:03.90 ID:SoTqqyrjO

「ん、もうこんな時間か」

朝倉が書き記す公式から目をそらし時計を見ると、時間は3時半をまわっていた。

シャーペンを起いて朝倉も壁にかけてある時計を見上げる。

「こんな時間って、まだ4時前よ?なにか用事でもあるの?」

「用事というか、この前、朝倉言ってだろ。次は休みの日にしようって」

「ああ、映画のこと?確かに言ったわね。なら今から行く?」

「時間を予め調べてきたんだが、今からだと多分、たいしたもん上映しない。だから映画はまたの機会にしよう」

「そう……残念ね」

「それにオレはそろそろおいとまする」



154 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 05:03:06.88 ID:SoTqqyrjO

「家はここから近いの?」

西口駅まで来た朝倉がオレに尋ねる。

「そうだな、わりと近いな。歩いて10分ちょいだ」

「ふーん、そうなんだ、っとあたしはここで、デパートあっちだから」

立ち止まった朝倉が、オレの家とは反対の方角を指差した。

「そうだな、」

それじゃ朝倉明日な、と言葉を続ける間際、ある光景が目に入った。

「また、あいつらか………因果ぐらいはあるのかもな」



155 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 05:04:14.36 ID:SoTqqyrjO

それは朝に見た五人組の一団、涼宮達だった。
「………」

朝倉もオレの視線の先に気付いたらしく、同じ方角を見ていた。

その表情は心なしか険しいものように思える。

涼宮達はもう解散する所だったようで、それぞれ散り散りになって行った。

しかし、涼宮と、クラスメートの男子生徒が残り会話を始めた。涼宮のほうが食ってかかっている感じだ。

声を荒げている涼宮の声だけが、少し離れた場所にいるオレ達にも聞こえてきた。



156 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 05:08:00.31 ID:SoTqqyrjO

『あんた今日、いったい何をしてたの?』

『そんなことじゃダメじゃない!』

『明後日、学校で。反省会しなきゃね』

そこまで言った涼宮は、きびすを返し、振り返ることなく人込みに紛れていった。

クラスメートもそんな涼宮を律儀に最後まで見つめ、立ち去ったいった。



157 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 05:09:41.66 ID:SoTqqyrjO

「涼宮の奴、最近には珍しく不機嫌そうだったな」

「………長門さんよく平気ね。かわらない観察対象に」

「朝倉?」

朝倉は珍しい表情で涼宮達がいた場所を見つめていた。しかし、すぐにいつもの表情になる。

「さーて、あたしは買い物、買い物。それじゃあ明後日、学校でね」

朝倉はオレに笑顔で向き直った。
「ああ、学校でな」

手を振り歩きさる朝倉をオレは見送った。

朝倉の今まで見せたことがない表情、あれは………そうか、だからオレはお前に惹かれたのかな。

朝倉が見えなくなってもオレはずっとそこに立ち尽くしていた。



158 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 05:11:01.68 ID:SoTqqyrjO

週明け月曜日。

オレと朝倉の関係は代わらない。機会があれば友人程度の会話をする。

しかし、それは周りから見た時の話だ。

朝倉はオレの協力を認めてくれた。友人関係から協力関係になったのだ。

ただそれだけで、世界は格段に輝いて見えた。

と言っても朝倉から何も言われなければ、オレがする事はない。

勝手なことをして、殺されるのはさすがに嫌だからな。



159 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 05:12:09.89 ID:SoTqqyrjO

それでも何かをしたかったオレは朝倉の目的である『涼宮ハルヒの観測』に乗っ取り、涼宮の様子に気をつけることにしていた

。まあ朝倉の言う観測は、視覚的に眺めていても出来るようなことじゃないだろうがな。

「……不機嫌だな」

涼宮ハルヒの観測一日目にして、そんな事を思った。
最近の涼宮は入学当時とは比べものにならないほどに、表情を輝かせていることが多かった。

なのに、まるで時が戻ったかのように当時の不機嫌なオーラを周囲に撒き散らしていた。



160 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 05:13:43.46 ID:SoTqqyrjO

いつも親しそうに話しをしている男子生徒とも、朝に少し会話してそれっきりだ。

そして終業のチャイムがなると、その涼宮と仲のいい男子生徒は涼宮とまったく会話をせず、そそくさと教室を出ていった。

そんな男子生徒を、涼宮はちらりと横目で見て、よりいっそう不機嫌な顔になった。

「………そんな顔……するな」

咄嗟にでたこの一言は涼宮に対してではない。

そんな涼宮の様子を伺っていたオレ以外の教室内の人物。

朝倉はあのときの表情をしていた。



162 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 05:19:17.29 ID:SoTqqyrjO

オレは教室を出た。涼宮と仲の良い男子生徒を追う為だ。

涼宮の力についてはオレも知っている。朝倉に説明されたし、三年にも与えられたからな。

そして、涼宮の心情についての予想もだいたいつく。涼宮は不思議を求めているんだ。だから自己紹介で、宇宙人や未来人や異世界人や超能力者に呼び掛けた。

涼宮の作った部活、SOS団に集まった人数は四人。この前、北口で見た奴らだ。

長門はおそらく朝倉と同じだ、感覚でわかる。

そして古泉はオレと同じ。涼宮が自己紹介で欲していた内の宇宙人と超能力が涼宮の周りにいる。

いや、おそらく全部いる。



163 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 05:23:28.23 ID:SoTqqyrjO

残り二人の団員も十中八九、未来人と異世界人だろう。ならあの男子生徒はそのどちらか。

朝倉はこの前話してくれたこと以外は多分教えてくれないだろうし、古泉一樹も、機関にぞくさないオレに情報を与えるとは思えない。

新しい情報が欲しい。
あの男子生徒と話しをすれば、それが叶うかもしれない。

そうすれば、朝倉があんな表情をしなくていい方法がわかるかもしれない。



164 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 05:27:22.75 ID:SoTqqyrjO

男子生徒の姿は既に見えなかったが多分あそこだ。前にちらりと聞いたことがある、部室棟、文芸部室。そこがSOS団の部室だ。

渡り廊下を通り、一階まで降り、いったん外に出て別校舎に入る。ここがクラブや同好会が集まっている部室棟。旧館とも言われているらしい。ここのどこかに文芸部室がある筈だ。



166 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 06:06:37.94 ID:SoTqqyrjO

一階を見渡す。ないな。

二階に上がる。

廊下を歩きながら、一つ一つ、部室名を確認していく。

ガチャ。

「!」

突然前方のドアが開いた。そして出て来たのは二人の男子生徒。

「場所をかえるって、どこか怪しげな場所に連れていくじゃないだろうな」

「まさか。学校から出たりはしませんよ。そうですね、食堂の屋外テーブルでいかがですか?あの場所なら今の時間、人目もないでしょう」

それは古泉一樹とオレが探していた男子生徒だった。



167 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 06:08:12.53 ID:SoTqqyrjO

とっさに隠れなくてはと思ったが、廊下に身を隠せそうな場所はない。オレは歩みを止めず、平然を装い二人とすれ違う。

古泉一樹がすれ違いざま、ちらりとこっちを見たがそれ以上のことはしてこなかった。

背中越しの二人の気配が階段を降りていったことを確認したオレは、歩みを止め身を翻した。

食堂の屋外テーブル。古泉一樹が言っていた場所に行くと、二人の男子生徒がテーブル越しに座り、会話を開始していた。オレは姿を隠せるギリギリの距離まで近づき、聞き耳をたてた。



168 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 06:10:36.62 ID:SoTqqyrjO

話しの内容はどうやら涼宮ハルヒについて、それに古泉一樹の正体や機関についてのようだ。
「世界を自らの意思で
創ったり壊したり出来る存在、人間はそのような存在のことを、神と定義しています」

古泉の説明を男子生徒は、茶化しながら聞いていた。が古泉の熱心さに影響されたのか、非常識なその話しを信じているようだった。

その説明の中で古泉はこう言った。

「あなたについては色々調べさせてもらいました。保証します。あなたは特別何の力も持たない普通の人間です」と。そして、

「ひょっとしたらあなたが世界の命運を握っているということも考えられます」とも。

二人の会話を聞く限り、男子生徒は本当に事情もよくしらない一般人のようだった。



169 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 06:14:15.75 ID:SoTqqyrjO

どうやらあいつは、未来人でも異世界人でもないらしい。ならどうして涼宮と一緒にいる?なぜ涼宮に気に入られている?

古泉も言っていたが、まったくの謎だ。

「長々と話したりしてすみませんでした。今日はもう帰ります」

と締め括り古泉一樹が立ち上がる。男子生徒は引き止めず、黙って見送った。

「立ち聞きとはあまり、趣味がよくないのではありませんか?僕と彼が秘密の話しをするのだと、あなたも察しがついたしょう?」

古泉一樹がオレの前で立ち止まった。気付かれてたか。まあいい。

「あいつは何もんだ?なんで普通の人間が涼宮に気にいられている」



170 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 06:20:51.30 ID:SoTqqyrjO

「なるほど。彼に興味があるのですか。どうやら涼宮さんの力についても認めたようですね。いったいどんな心変わりですか?あれほど、我々の話しに聞き耳を持たなかったあなたが」

「世界が意外に面白いって事に気付いてな。涼宮の周辺に興味深々だ。だから、教えてくれないか。あの男子生徒はなんだ?」

古泉は小さくため息をつく。

「僕があなたに教えるとお思いですか?」

「お前が教えてくれないのなら、本人に直接聞くぞ」

「無駄ですよ。彼がなにものなのか、彼自身も知りはしない。もちろん我々もね。知ってる者がいるとするなら彼女だけでしょう」

涼宮ハルヒか。



172 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 07:03:54.55 ID:SoTqqyrjO

「我々は彼が涼宮さんの鍵なのではないか、と考えています。良い意味でも悪い意味でもね。なので接触は慎重に行っています。なのであなたに下手なことされると困るんですよ」

「………鍵?」

「ええ、それ以上はなんとも言えません。我々も恐る恐るなんです。涼宮さんの周りはわからないことが多過ぎる」

涼宮は心から、不思議を求めている。普通の人間なんか見向きもしないほどにだ。

古泉一樹や長門にたいしてだって、潜在的な所では、異様な存在だと理解しているはずだ。だからこそ、SOS団に入れたのだろう。

だが、あいつは違う。絶対的な意思で集められた異様な面々の中で、一般人という異色を放っている。

あの男子生徒は涼宮にとって何か重要な意味を持っているんだ。



173 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 07:04:55.66 ID:SoTqqyrjO

「これで二度目になりますね」

古泉一樹は威圧的な口調で、

「どうやら、あの時は言い方を間違えたようです。朝倉涼子に、ではなく。全てに、と言っておくべきでした。今一度、あなたに警告します。

これ以上、余計な詮索をなさらないでください。我々も遊びでやっている訳ではない。

邪魔をすると言うのならあなたに対して強行手段もとります」

似たような事をつい最近に聞いたな。

「解ってる。ちょっと気になっただけだ。これ以上は聞かない」



174 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 07:05:57.88 ID:SoTqqyrjO

「本当ですか?まあ信じる他ありません。我々とて、手荒な真似はしたくないのですから。

それに興味が出たというなら機関に所属してはいかがですか。同士は多いほうが心強いですからね」

「考えとく」

「そうですか。それではまた」

そのまま古泉はあっさりと、歩き去った。もっといろいろ言われるかと思ったが。

まあ、それはいいとして、情報は手に入った。
あの男子生徒が涼宮の鍵である。重要な情報だ。

しかしこれをオレはどう使えばいいのだろう。
……朝倉だったらどう使うのだろう。



175 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 07:07:19.41 ID:SoTqqyrjO

オレは古泉一樹達がいたテーブルに座り、日が落ちかけるまで、思い悩んでいた。

オレに出来ることはなんなのか。協力員として朝倉の助けになることはなにか。

どうすれば、朝倉があんな表情をしなくなるのか。

しかし結局、なにも思い浮かばない。なにをどうすれば朝倉の観測とやらが捗るのか、予想もできない。

いっそ、涼宮ハルヒに接触してみるか?鉄の棒でも持って殴りかかれば、力とやらを使うかもしれない。

「ははっ、馬鹿かオレは。そんな事をする勇気もないくせに。しかもそれが朝倉の助けになるかも解らない」

駄目だった。オレには解らない事が多すぎる。
自分の無力差が異様に悔しく感じ、しかしそれ以上に、

「朝倉……オレに出来ることはなんなんだ?」
悲しかった。



184 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 11:18:21.97 ID:SoTqqyrjO

オレは椅子から立ち上がる。気がついてみればもう夕方だ。

一般生徒の下校時刻はとっくに過ぎている。教員に見つかったら何かとうるさいだろう。

オレは早々に帰宅する事にした。

「……そういや、内履きのままか」

放課後、教室から直でここに来たからな。下駄箱までいって外履きにはきかえなくてはならない。

「とりあえずは」

オレはゆっくりと足を動かして、下駄箱に向かった。



185 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 11:19:37.08 ID:SoTqqyrjO

目的地についたオレは意外な人物に出会うことになった。

靴箱の真ん前で佇んでいる人物。あれは。

「朝倉。なにしてんだ。こんな時間にこんなところで」

そう、朝倉涼子だった。

「靴箱ですることなんて限られてるでしょ?」

背を向けていた朝倉が、驚きもせずに振り向く。

「自分の靴を履き変えてようにみえないから言ったんだ」

「ザンネン、それはハズレ。今ラブレターをね、入れたところなの」

「ラブレター?」

「えぇ、靴箱に入れるのは定番でしょう?」



187 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 11:21:30.47 ID:SoTqqyrjO

そういや、熱心に誰かの靴入れを見つめていたな。誰のだ?

オレは朝倉が先程まで見つめていた、場所に近づく。確か、ここらへんだった。

そこには、とある名前が書かれていた。誰だ?知らない名だ。



188 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 11:25:12.46 ID:SoTqqyrjO

「彼よ。涼宮さんの前の席の」

「………そいつは」

さっきの古泉の相手であり、涼宮の鍵だという男子生徒だ。

「こういう形で呼び出せば、高い確率で来てくれるかなって思ったの。差出人の名前を書かないところがポイントね。

相手がわからないから興味がわく。どう、なかなかいい作戦でしょ?」

無邪気に笑う朝倉。

「呼び出してどうする?愛の告白でもするのか?」

「あなたに言う必要はないんじゃないの?」



189 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 11:26:58.79 ID:SoTqqyrjO

「………協力員だろ?協力させろよ」

「あら、涼宮さん絡みだとは限らないでしょ?あなたの言う通り、愛の告白かも?」

「いや、違うな。あいつを呼び出して、おまえは何かする。今までのことを払拭するなにかだ」

オレにはその確信がある。そのことを察した朝倉は、浮かべいた笑みを消した。

「………ふーん。どうやら、彼が涼宮さんにとっての特別だって知ってるみたいね」

「ああ」

「それで、あたしに協力したいの?あたしがなにをするかも解らないのに?」

「ああ」

朝倉の視線から、目線を逸らさずにオレは頷く。

命も投げ出す覚悟なのだ。なにをしようと、

「あたしは明日、彼を殺す」

昇降口にそんな無関情な声が響いた。




190 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 11:28:27.12 ID:SoTqqyrjO

「ころす………?」

オレの思考は一瞬止まった。ころす?ころすってのはあの殺すか?

朝倉は楽しそうに、

「彼の身に何かあれば、涼宮ハルヒは少なからず動揺するわ。なら、死ねば?彼が死ねば、涼宮ハルヒの動揺は量りしれない。
彼女の感情と力には確実に相互関係がある。なら彼の死によって、大きな情報爆発が観測出来るはず。またとない機会を得る事が出来るわ」

オレは言葉を失った。

朝倉は本当に嬉しそうなのだ。本気であの男子生徒を殺した後を想像して、胸を高鳴らせている。

「あたしが怖い?」

冷ややかな目がオレに向けられた。朝倉の表情は薄く笑んでいる。



192 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 11:30:33.82 ID:SoTqqyrjO

「当たり前ね。有機生命にとって死は恐怖の対象。例え、死を迎えるのが自分でなくても、その死を与える者に、恐怖感を抱くものだものね?

あなたはあたしが本気だと知っている。あたしが目的のために、一人の人間の死を選んだこと。

それを知ってもあなたはあたしを手伝いたいの?」

オレは答えることが出来なかった。自分の命ならかけた。その気持ちに嘘はない。

しかし……それと他人の命を奪うのとは、次元が違う。違いすぎる

黙り込むオレに朝倉は笑顔向けた。しかし、発した言葉は意外なものだった。

「あたしはどうして、このことを話したのかしらね……」




193 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 11:32:24.81 ID:SoTqqyrjO

「この行動はね。あたしの独断なの。情報思念体は殆ど、現状の維持を保ちつつの観測で考えがまとまってる。

もし他のインターフェイスにこのことが知られたら、あたしはたちどころに消されてしまうはず。

だから誰にも知られる訳にはいかない。なのにあなたに話しちゃった」

朝倉はまるで悪戯でもしてしまったかのように、舌をだしておどけてみせた。

「知ってしまったあなたには、少なくても明日の放課後まで眠っていてもらいたいんだけど。おそらく無理ね。

あなたの力が、あたしのいかなる情報操作も許してはくれないでしょうし」

朝倉は自分の爪先をみながら、

「あなたが、彼に、もしくは他のインターフェイスに話しちゃったらおしまい。あーあ、一大決心だったんだけど。失敗しちゃった。

まさか、こんな時間にあなたがいるなんて思わなかったもの。これで、変化のない対象の観察に逆戻りかぁ」



194 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 11:34:00.27 ID:SoTqqyrjO

「わからない。朝倉、オレは……どうすればいい」

オレは朝倉を手伝いたいけど、それによってあの男子生徒が死ぬことになったら、この先オレはその罪に堪えられるか?

こんな時になって、初めて思い知らされる。他人に興味がないなんて、言っていても所詮はただの人間だ。興味がないはず命に躊躇いを感じているのだから。

いくら近づきたくても朝倉とは、生きている世界が違う。

「………迷っているの?どうして?」

朝倉が語りかけてきた。

「当たり前だ!」

オレは不思議そうな表情の朝倉に叫び反した。



195 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 11:35:21.96 ID:SoTqqyrjO

「オレは朝倉に恩返しがしたかったんだ。退屈な日常という地獄から、お前が抜け出さしてくれた。

だから朝倉の手伝いをもうしでた。涼宮にとっての特別があの男子生徒なら、オレの特別は朝倉、お前なんだよ!」

「……なんだか愛の告白されたみたいで、照れ臭いわね」

しかし言葉とはうらはらに朝倉は、教室で誰にでも見せる笑顔を作っていた。

「もし、あたしが普通の人間の女の子だったら嬉しく思ったのかな。それとも、インターフェイスである存在でも、嬉しく思うことが出来たのかな。

わからないわね。あなたと接触するようになってからは、自分の行動の意味さえもわからなくて、あたしの中のエラーは蓄積しっぱなし」

朝倉の笑顔が弱々しくなる。



198 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 12:11:19.03 ID:SoTqqyrjO

「バックアップであるあたしより、あらゆる機能が上回る彼女に報告すれば、あなたの力を消滅させることができたのに、なぜそうしなかったのかな?

まだあなたが残っているのを知っていたのに、見つかる可能性がある危険な時間帯に手紙を彼の靴箱に入れたのかな?

知らなかったとあなたに嘘までついて。

なぜ、あなたに全て正直に話したのかしらね。いくらでごまかすことはできたのに。

もしかしたら自分の意思で決めたと思っていたこの一世一代の独断行動も、膨大なエラーの蓄積による、たんなる異常動作なのかもしれない」

そこまで、言うと朝倉は笑顔を満面のものにした。



199 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 12:12:39.42 ID:SoTqqyrjO

「だから、あたしはあなたに選択肢を委ねようとおもう」

「オレに……委ねる?」

「えぇ。インターフェイスの役割をもつ、朝倉涼子も、普通の女子高生である朝倉涼子も全部あたしだもの。

今たんなるエラーの影響で暴走してるにしても、それも紛れもないあたし。

今までのあたしの行動が、あなたをこの場に呼び寄せた。そしてすべてを話して、阻止するすべを教えて、あなたに束縛するつもりもない。きっとあなたに判断を任せたかったんだと思う」

「オレに選べってのか?人の生き死にを?」



200 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 12:13:58.23 ID:SoTqqyrjO

「なら、あたしを止めて。あなたなら力ずくでも止めることが出来るし、彼に知らせるだけでも他のインターフェイスに届くだろうし。

けど、一つだけ言っておくわね。あたしに迷いはない。あなたが止めなかったら、あたしは、目的を叶える。

ふふ、いろいろ矛盾してるわね。やっぱりたんなる異常動作なのかな」
朝倉が背を向け、靴箱に手を伸ばした。そして自分の靴を外履きに履き変える。

「あたし、もう帰るね。彼は明日の放課後、誰もいなくなった教室に呼び出したわ。期限はそれまで。

あなたの意思で止めるか、止めないか決めて。それがあたしの意思でもあるから……」

朝倉はそのまま昇降口を出ていった。一人残されたオレはいつまでも立ち尽くしていた



201 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 12:16:31.32 ID:SoTqqyrjO

一晩がたった。

オレはいつも通りの時間に、いつも通りに学校に登校していた。いつも違うのは、いつも以上に眠気が酷いぐらいだ。

あの後、重たい足どりで帰宅したオレは、なにもする気が起きず、しかし、寝ることも出来なかった。一晩中頭から離れなかったのだ朝倉の表情が。

朝倉に選べと言われた選択肢。協力員になると決めたあの瞬間に朝倉がやれと言えばなんだってしてやろうと心に誓ったはずだった。

しかし朝倉はオレにしたい事を選べと言う。予想以上に協力員って奴は難しいものだったようだ。覚悟が足りなかった。

朝倉は目的の為に人を殺す。今思えばオレに向けた、殺すと言う言葉が状況しだいで他の者に向くと容易に考えつく事が出来きた。




202 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 12:18:17.23 ID:SoTqqyrjO

………朝倉はなにを考えてるんだろうな

朝倉は言っていた。インターフェイスである自分も、普通の女子高生である自分もどっちも朝倉涼子だと。

しかし男子生徒を殺すことは命令違反だという。なら普通の女子高生である朝倉はもちろん、インターフェイスとしても朝倉ですら、そんな事は望まないのではないだろうか。

しかし朝倉は迷いがないとも言っていた。

朝倉が何を思い、何を考えてあの男子生徒を殺す決意をしたのか。ばれれば消されるというのに、命まで賭けて。

それが解らなければ、止めるか止めないか、決める資格すらないのではないだろうか。

「多分解るよ、朝倉」

学校へと続く長い坂道を昇りながら、呟く。

「だから、一晩なやんで決めたよ。止めるか止めないか、どうするか」

オレは少しずつ確実に学校へと近づいていった。その足どりに迷いはなかった。



203 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 12:20:42.43 ID:SoTqqyrjO

教室につくとすぐに二人組が目についた。

涼宮ハルヒと前の席の男子生徒だ。

涼宮は机に顎をつけて突っ伏しながら男子生徒と会話をしていた。

涼宮はどこか疲れているようで、機嫌もよくはなさそうだ。そこから七十度視線を横にずらす。朝倉涼子が友達と楽しそうに談笑していた。

「おはよう」

オレに気付いた朝倉が笑顔をに向けた。

「ああ、おはよう」

挨拶だけ、すませるとそれ以上余計な話しはせず自分の席についた。すぐに担任が来て、ホームルームを始めた。



204 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 12:23:37.08 ID:SoTqqyrjO

この日のオレは、いつもより少しだけまじめな生徒に見えていたかもしれない。

物思いにふけってしまうのが怖くて、授業に集中していたからだ。時間は早々と過ぎていった。すくなくてもオレにはそう感じられた。

放課後。ホームルームを終えるとクラスの連中は続々と、教室から出ていく。それでも、暇な奴はいるようで、帰る様子を見せない生徒が少なからずいた。楽しそうに談笑する生徒の中には朝倉涼子の姿もある。

誰もいなくなった教室。このシチュエーションが出来上がるには少し時間がかかりそうだ。

鞄を持ち、立ち上がる。そして教室を出た。オレがここいても、そのシチュエーションは完成しないのだから。



205 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 12:25:06.48 ID:SoTqqyrjO

しばらくは校内を練り歩いて時間を潰していたが、さすがにまわる所もつきてしまった。なんの考えもなく階段を昇りつめ、突き当たった扉の取っ手を捻る。

ガチャリと音を立てて、光が差し込んだ。

屋上に来たのは初めてだ。この学校自体が山の上に建てられているだけに、屋上からの景色はなかなかの眺めだった。

景色ごときを綺麗だと感じるのはやっぱり、久々だった。悪くない気持ちだ。昔の荒んだ自分では到底味わえなかっただろう。

こんな気持ちも朝倉がオレに取り戻させてくれたものの一つだ。朝倉がもし失敗して、他のインターフェイスに消されでもしたら、オレはまた何物にも興味を持たない退屈に叩き落とされてしまう。

そんなのは堪えられない。なに者にも堪え難い。

そうだ。だからこそオレは行動を起こさなくてはならない。

誰になんと思われようが。


206 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 12:26:17.64 ID:SoTqqyrjO

西空からの光が段々とオレンジ色に変わり始めた。オレは今だに屋上で景色を眺めている。

まだ事は起きていない。朝倉があの男子生徒を殺すときに情報操作とやらを行うだろう。そして使ったならおそらくオレは感知出来る。

力を自覚した事による影響か対宇宙人用の力とやらの扱いが頭に浮かぶ。

朝倉が言うように力付くで止めることは可能かもしれない。

「そろそろか」

こう思ったのは超能力を使ったからではない。ただの感だ。

オレは差し込む夕日を背に屋上を後にした。



207 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 12:28:06.77 ID:SoTqqyrjO

階段を下りて廊下にでようとすると男子生徒が目の前を横切った。涼宮ハルヒの鍵である男子生徒だ。オレの事になど気付かず通り過ぎる男子生徒は心なしか緊張した面持ちだった。

向かっている先にあるのは教室。紛れも無くオレ達の教室だ。

「………」

遠ざかっていく背中を見つめる。あの男子生徒が目指す先になにがあるのか。

オレは知っている。

オレは男子生徒を助ける事が出来る。一声かければいい。

そう。

だからオレは………。



212 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 13:05:45.36 ID:SoTqqyrjO

オレは見送った。

死地に向かう男子生徒に声をかけず。ただ黙って見つめ続けた。

そして夕日に照らされている静寂な校舎にガラガラと、扉を開く音が響く。

『遅いよ』

『お前か………』

『そ。以外でしょ』

聞こえてくる朝倉と男子生徒の会話。

しばし続くそれをオレは教室の外から聞いていた。
そして教室内からガタッと大きな物音。



213 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 13:07:30.84 ID:SoTqqyrjO

『意味が解らないし、笑えない。いいからその危ないものをどこかに置いてくれ』

男子生徒のうろたえる声。

『うん、それ無理。だって本当に貴方に死んで欲しいのだもの』

感情のこもっていない無慈悲な朝倉の声。

その瞬間、教室が閉じられていくのを感じた。もちろん扉の話しではない。空間そのものがだ。

「さて、やるとするか」

空間が完全に隔離される前にオレは教室内に足を踏み入れた。



214 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 13:09:38.49 ID:SoTqqyrjO

オレが中に入った瞬間。廊下側に面した壁から窓と扉が消えた。それは校庭側に面した壁も同じでコンクリート一色になっている。映像が切り替わるように一瞬で。

「やっぱり止めに来たのね、当然かな」

突然の来訪者であるオレを朝倉は笑顔で向かいいれた。

「いらっしゃい。ようこそあたしの情報制御空間へ。いくらあなたでも、ここであたしと戦うのは骨が折れるわよ、下手したらあたしが勝っちゃうかな?」

ナイフを手で遊ばせながら、朝倉は無邪気な表情でオレと向き合った。

男子生徒は、現状が理解出来ていないらしく、オレと朝倉を交互に見る。

「なんなんだ、おまえらは」

「クラスメートだ。今のところはな」

朝倉から目をそらさず、男子生徒の問い掛けに答える。



215 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 13:11:11.26 ID:SoTqqyrjO

「それ、軍用ナイフか?随分、物騒なものでヤルんだな。もっとスマートなやり方をするのかと思ったぜ。指をパチンとならして心臓を止めるとかな。案外、原始的だ」
「そう?」

朝倉は首を傾げて

「それも出来なくはないけど、ナイフで刺すのと情報操作で心臓を止めるの、どっちも対して手間は変わらないと思うのだけど。それにあたしがほしいのは彼の死という結果だから、そこまでの過程にこだわりはないわ」

「そうか」

朝倉は昼間、教室でクラスメートと談笑する時のように微笑み、オレの問い掛けに答える。

「さてと、あまり時間をかける訳にもいかないの。あなたから来ないならあたしからいこうかな」



216 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 13:12:17.11 ID:SoTqqyrjO

ナイフを構え、向かってこようとする朝倉。そんな朝倉にオレは昨日問われた事に対す答えを伝える事にした。自分で考えた結果を。

「オレは朝倉を止めない。ここにはそんな理由で来たんじゃない」

ピタリと朝倉の動きが静止した。

「ほんき?」

そこに笑顔はなかった。

「もちろん」

対象的に俺はいつもの朝倉のように口の端を上げて答えた。



217 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 13:14:52.16 ID:SoTqqyrjO

「どうして?あたしが言うのもなんだけど、あたしは今、彼を殺そうとしてる。有機生物にとって死は恐怖と嫌悪の対象でしょう。それを降すあたしを、あなたは何故止めないの?死についてなにも感じないというの?」

無表情になった朝倉は、そうオレをまくし立てる。

「理由は簡単だ。オレは朝倉の味方でいたいからだ」

「みかた?」

怪訝な顔で朝倉が尋ねる。

「ああ、朝倉のやる事に対する味方、朝倉の思いに対するの味方だ。オレには朝倉の気持ちが少しだが解る気がするんだ。朝倉、お前は退屈なんだよな?」



218 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 13:18:04.01 ID:SoTqqyrjO

「………」

朝倉は黙り込み答えない。

「涼宮の観察を義務づけられ、それが最重要だと思う事さえも強要されて、使命から逃げることも出来ない。けどお前は人間だ。

思い、感じるヒトなんだ。変化のない日常を嫌だとおもってしまうんだ。意思のないロボットじゃないから、同じ事の繰り返しには飽きてしまう。自分で考えて周りを変化させたくなるんだ」

「……」

朝倉はなおも口を開かない。

「考えたら、オレも同じなんだ。三年前、おかしな力と記憶を与えられて、その後全てに興味が失せてしまった。

それは全部涼宮からうけた使命だったんだ。オレは言うなれば宇宙人を探すレーダーだったのさ。レーダーを対象物以外に反応させてもしかたがない。

つまりはそういう訳だ。オレも興味を持つものを強要されたんだ。だから今まで退屈だった。言葉のあやなんかじゃなく、死ぬ程に。毎日が詰まらなくて狂いそうだった。

オレは朝倉に出会ったことで変わったけど、あの生き地獄の真っ只中に今お前がいるのならオレはお前を助けたい」


219 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 13:21:02.14 ID:SoTqqyrjO

いつのまにか、教室内はまともな空間ではなくなっていた。至る所が歪曲して幾何学模様が渦を巻いている。

その向こうの違和感をオレは感じていたが朝倉は気付いていないようだ。

「あなたは、なんなのかしらね」

深いため息の後、朝倉が呆れたように、

「言いたい事はわかったけど。行動論理は、そうねかなり特殊だわ。

この前あたしに協力する言い張って命を投げ出したときといい。理解していると思っていた有機生物の死の概念が最近こんがらがってきたわ」

「いいことさ。世の中解らないことがないとつまらないからな」

肩を竦めて眉を潜める朝倉にオレは笑顔でそう言った。

「……そうかもしれないわね」

オレに呼応するように朝倉も微笑み返してきた。



220 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 13:23:14.95 ID:SoTqqyrjO

「どうやら、おまえは俺を助けに来たって訳じゃないみたいだな」

今まで黙ってオレと朝倉の会話を見守っていた男子生徒が声をかけて来た。

「すまないけどな」

出来るだけ冷淡に言ったつもりだ。冷徹な奴と未練がましい奴のどちらに殺されたほうが良いのか解らないが、オレはそんな反応しかできない。

そもそも誰に殺されようか良いこと等ではない。
全部わかっている。しかし気持ちが揺らぐことはない。決意してここにきたのだから。

「けどわざわざこの場所に来なくてもよかったんじゃない?止めないと選んだのなら、あなたはのんびりしていればよかったのに、後はあたし一人で全てを行えた」

「いや、止めないを選んだ時点でオレは共犯だ。朝倉にだけ汚れ役をまかせる訳にいかない」

「優しいのね。けどやっぱりこれはあたしが決めた事だから、あたしが実行する」

ナイフを構えた朝倉は、男子生徒を見据える。


221 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 13:25:00.03 ID:SoTqqyrjO

瞬間、男子生徒は身体をビクッと奮わせた。

そのまま男子生徒指一つ動かさない。いや動かせない。朝倉が封じたのだ。確実に仕留める為に。

「それなら見てるさ。ここで」

「……そう」

短く返事をしたあと朝倉はゆっくりと男子生徒へ近づいていく。

「あなたが死ねば、必ず涼宮ハルヒは何らかのアクションを起こす。多分、大きな情報爆発が観測出来るはず。またとない機会だわ」

そう宣言されても男子生徒は身動きはもちろん、反論することもできない。

「じゃあ死んで」

朝倉は躊躇なくナイフを振り下ろした。オレは目をそらさない。選んだのは自分自身なのだ。それから逃げはしない。男子生徒の死をオレは見届ける。

その時。



224 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 14:01:16.19 ID:SoTqqyrjO

空間をぶち破る音とともに瓦礫の山が降ってきた。

天井の破片が雨のように降り注ぎ周囲に白い煙りをたちこませる。

瓦礫を腕で払いのける。煙りは一瞬で晴れた。そしてそこにいたのは。

「一つ一つのプログラムが甘い」

朝倉によって振り下ろされ、男子生徒の首筋に今にも触れそうなナイフの刃を素手で掴む少女。

長門有希の姿だった。



225 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 14:03:26.41 ID:SoTqqyrjO

そして平坦な声で、

「天井部分の空間閉鎖も、情報封鎖も甘い。だからわたしに気づかれる。侵入を許す」

「邪魔する気?」

しかし朝倉もさも平然と言葉をかえした。

「この人間が殺されたら、間違いなく涼宮ハルヒは動く。これ以上の情報を得るにはそれしかないのよ」

「あなたはわたしのバックアップのはず。独断専行は許可されていない。わたしに従うべき」

「いやだといったら?」



226 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 14:04:54.75 ID:SoTqqyrjO

挑発するような朝倉の言葉。

「情報結合を解除する」

「やってみる?ここでは、わたしのほうが有利よ。この教室はわたしの情報制御空間。それに」

「情報結合の解除を申請する」

長門が言葉を遮りそう言うと、握っていた刃が輝きだした。そして光が細かい結晶となってサラサラと崩れ落ちていく。

「させるかよ」

オレはその崩壊する光に手を触れる。すると巻き戻すように光の結晶が朝倉の手中に集まり、もとのナイフを形作った。

「!」

無表情だった長門に僅かの驚きの色が混ざる。



227 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 14:07:39.97 ID:SoTqqyrjO

「それに、ここにはこの人もいる。どう長門さん、びっくりした?」

朝倉は笑顔でそう言い捨て、ナイフを振りかぶる。そしてまっすぐと長門に振り下ろした。

しかし長門はそれを人間の動きとは思えないスピードでかわすと、男子生徒の腕を掴み後方へ5メートル程ジャンプした。

一気に距離を離した長門は教室の後ろにふわりと着地。男子生徒もなんとか体制を崩さずに着地していた。

「ありがとね、助かっちゃった」

長門との睨み合いを続けながら朝倉がオレに声をかけてきた。笑顔を絶やさない朝倉を見てオレはため息をつく。

「あんまり余裕かますなよ。正直いってお前より長門のほうが力は上だろ。情報制御下ってのをプラスしても安心出来ない」

朝倉から長門へ視線を移す。無表情な顔からはなにを考えているかさっぱり予想できない。

「さて、それはどうかしら」

面白そうにニコリと笑う朝倉の周りの空間が途端に歪みはじめた。

空間は周囲を巻き込みながら凝縮して槍を形作る。次の瞬間、その槍は長門へ向かって高速で飛んでいった。



235 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 16:04:20.14 ID:SoTqqyrjO

しかしさすがと言うべきか長門は目に見えな速度の槍を、同様の速度で腕を動かし防いでみせた。

槍は次々と創られ襲い掛かるが長門はその全てを迎撃していく。

長門は槍攻撃の隙をつきチラリと上を見上げる。それと同時にオレと朝倉の頭上で情報収縮が起きる。

オレは反射的に長門の攻性情報を解析。

「氷の柱か……」

逆干渉能力を使いその情報が物質へ変化する端から分解していく。

オレと朝倉に無害な光の粒が降り注いた。



236 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 16:06:04.99 ID:SoTqqyrjO

「この空間であたしと、この人を相手するのは、いくらなんでも無理だわ長門さん」

朝倉は光の粒を浴びながらの余裕の表情で、数メートルを挟んで向かい会っている長門にそう宣言した。

しかし長門は全く反応せずこう呟いた。

「パーソナルネーム朝倉涼子、及びイレギュラー因子の敵対行動を確認。双方共に敵性と判定。当該対象の有機情報連結を解除する」

教室内はよりいっそう不可思議な空間へ変貌していく。



237 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 16:08:14.42 ID:SoTqqyrjO

「イレギュラー因子か」

「あなたの機能停止のほうが早いわ」

多方面に響きわたる朝倉とオレの声。その声に被さるようにヒュン、と風切り音。

数本の槍が男子生徒のぎりぎりを通過した。

当たらなかったのは長門が男子生徒を蹴り飛ばすという荒療治で移動させたからだ。

「そいつを守りながら、いつまで持つかしら。じゃあ、こんなのはどう?」
涼しい顔で言い捨てられたその言葉は勝敗を決める攻撃開始の合図だった。
ドスッ、と重く生々しい音が離れた場所にいるオレの耳まで響く。



238 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 16:09:52.18 ID:SoTqqyrjO

長門の身体は十数本の茶色い槍に貫かれていた。

鮮血が長門の足音に小さな池を作る。

「それだけダメージを受けたら他の情報に干渉する余裕はないでしょ?じゃ、とどめね」

決着をつけにかかる朝倉はオレへナイフを手渡すと腕をまばゆい光に包ませる。

「死になさい」

朝倉の光る腕は触手のように唸り一気に長門へ伸びた。左右からの同時攻撃。長門に避けるすべはない。

ドスッと先程より低く重い音が教室内にこだました。



239 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 16:11:50.71 ID:SoTqqyrjO

長門の脇腹を貫いた朝倉の左腕と、胸を貫いた右腕は壁までいってようやくとまっていた。

長門の身体から血が噴き出す。それは誰が見ても致死量だ。決まった。オレはそう思った。

しかし長門は、

「終わった」

自分を貫く触手を握りながらそういった。

「終わったって、何のこと?」

朝倉は余裕の表情で首を傾げる。

「あなたの三年あまりの人生が?」

「違う」

血まみれの長門はなおも無表情を崩すことなく言い放った。

「情報連結解除、開始」

途端に教室の全てが光りだし、キラキラと粒になって崩れ落ち、

「悪いがそうはさせない」



240 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 16:15:11.57 ID:SoTqqyrjO

オレは現象を一喝するように宣言をした。

砂のように形を失った教室内が巻き戻るように元に戻っていく。

一秒後には、何事もなかったかのような静けさが広がる。

「………」

長門はゆっくりとオレのほうに顔を向けた。

「侵入する前に崩壊因子を仕込んでいたのは気付いてた」

オレは、静かな口調で、

「だから、その攻性情報を朝倉と長門が戦っている最中に解析させてもらった。この空間に割り込ませようとしていたプログラムは消去した」



241 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 16:16:33.43 ID:SoTqqyrjO

「………」

「長門!!」

長門がとすんと膝をついたところで男子生徒がそれを支える。長門はオレを見つめ続けていた。その闇色の瞳が何を訴えているのかはわからない。

けどオレはこの少女の奥の手を破った。それだけはわかる。

「驚いたわね」

朝倉が安堵の声で、消えかけていた自分の両腕を見つめていた。

「どうも長門さんが弱すぎると思ったら、あらかじめ攻性情報を使い果たしていたわけね。もしあたし一人だったら今のでやられてたわ」



243 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 16:20:03.23 ID:SoTqqyrjO

「だから、あんまり余裕かますなっていっただろ」

「そう見えた?あたしは考えられる限りの全力で挑んでいたのだけど」

朝倉は眉を潜めつつ長門のほうを向いた。

「ごめんね長門さん。そういう訳でやっぱりあたしの勝ちみたい。あなたの敗因はこの人の力を見抜けなかったこと。情報への逆干渉能力をね」

「知っていた」

血だらけで膝をつく長門は無表情にそう呟いた。

「その男子生徒が所有する対インターフェイス用の情報逆干渉能力がいかに危険なものであるか」

間近まできた朝倉と長門が見つめ合う。



244 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 16:21:47.77 ID:SoTqqyrjO

「だけどいくら長門さんでもこの短期間では対策をたてられなかった。でしょ?」

勝ちを確信した朝倉は長門を見下ろしながら微笑んだ。

しかし長門は何事もなかったように。

「その男子生徒の解析は既に終わっている。その結果生み出された対インターフェイス能力用のプログラムトラップ」

長門は後方にいるオレへ目線を移した。

その冷たい視線を受けた瞬間、凄まじい悪寒を感じる。そして長門は以下の言葉は紡ぎだした。

「それが今あなたが分解したプログラム」



246 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 16:28:48.43 ID:SoTqqyrjO

「っ?!」

長門のその言葉が終わるのとほぼ同時に、オレの意識と身体が大きく揺らいだ。

「……な、なん……だ?」

オレは堪えきれず、朝倉から預けられたナイフを床に落とし、両手をつくようにして倒れこんだ。

身体が思うように動かせない。まるで自分の身体ではないかのような感覚だ。

「……彼になにをしたの?」

朝倉の声が聞こえてくる。顔どころか目玉すらろくに動かせないオレには表情を確認することはできないが、その言葉には怒気のようなものが感じられた。



251 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 17:00:21.07 ID:SoTqqyrjO

「その男子生徒の逆干渉能力専用の攻性プログラムが発動した。この空間に割り込ませた崩壊因子はある一定のパターンで解析、及び分解されることでまったく別の攻性情報に変異する特質をもっていた。

その男子生徒の制御系統では対応不可能な超高密度多式増殖情報」

オレには言葉の意味は到底、理解できやしない。

しかし、いったい、

「いつ彼の能力を解析したの?」

「能力に気付いたのは偶然だった」



252 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 17:02:08.51 ID:SoTqqyrjO

オレの質問を代弁するかのような朝倉な問いに長門は冷静に答えていく。

「私の教室に教科書を借りに来たとき、彼の力の一端を垣間見た。それは無意識では変化に気付く事すら難しい極小な情報の乱れ。本来なら見逃していた」

「けどあたしと一緒にいたから、気付いたって訳ね。あのときから既にあたしは長門さんにマークされてたのかしら、そしてそのプログラムトラップは彼の動きを封じるだけではないんでしょう?」

「そう。逆干渉能力を私の制御下に置くことが出来る」

たんたんと言う長門に対して、朝倉の声にはもう諦めような雰囲気が漂っている。

「情報連結解除、再開」

もう長門の言葉を遮る者はいなかった。



253 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 17:05:30.16 ID:SoTqqyrjO

途端に教室内は輝きだす。砂のように崩れる全て。それは決着を意味していた。

「あーあ、残念。膠着状態をどうにかするいいチャンスだと思ったのにな」

オレの意識はぼんやりとしていて声を聞くことぐらいしか出来なくなっていた。

「あたしの負け。よかったね、延命出来て。でも気をつけてね。あたしみたいな急進派が来るかもしれない。それか、長門さんの操り主が意見を変えるかもしれない」

しかし、朦朧とする思考でも、理解出来ていた。オレ達は長門にまけた。そして消されてしまうのだろう。せめて朝倉だけでもなんとかしたいが。オレにはもう何も出来ない。



254 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 17:06:46.63 ID:SoTqqyrjO

「それまで、涼宮さんとお幸せに」

しかし、それも悪くない。

最善は朝倉もオレも生き残る事だったが。朝倉が消され、オレだけが残されるような現状よりはいくらかマシだ。

「それと、差し出がましいかもしれないけど、この人だけは消さないであげて」

だから向けられた朝倉の言葉にオレは背筋を凍らせた。



255 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 17:09:10.96 ID:SoTqqyrjO

「解析ができているのなら、能力と記憶の消去は可能でしょ?ならそれで充分現状を維持できる………そう、ありがと長門さん」

長門の返事は聞こえなかったが、頷くなりなんなりしたのだろう。

能力と……記憶の消去。それはつまり、朝倉の事を忘れるということ。

「いや、だ」

搾り出すようにではあるがオレは声をだすことはできた。



256 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 17:15:25.67 ID:SoTqqyrjO

「朝倉、オレも一緒に、もうあんな退屈な日々になんて、戻りたく、ない」

か弱く懇願するオレに、朝倉は優しく諭すように、
「大丈夫、安心して。能力が消去されれば興味を強要されることはないから。あなたはきっといろいろな物が楽しめるようになる」

朝倉の声は俯せに倒れるオレのすぐ上から聞こえる
「あ、あさくらっ」
顔を上げて朝倉を見ようとするが、身体は動いてくれなかった。

「あなたのそのあたしへの思いも強要された、言うなれば偽りの気持ちだから。あたしの事を忘れてもなんの問題もない。涼宮さんの力から開放されるあなたには必要のないものよ。だからそんなに泣かないで」

朝倉に言われて、自分が泣いている事に気付いた。もう頬を伝う涙さえも感じないほどに、感覚が薄れているのかもしれない。



257 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 17:19:03.11 ID:SoTqqyrjO

しかし、意識を失う訳にはいかない。まだ朝倉には言うことがある。

「『インターフェイスの役割をもつ、朝倉涼子も、普通の女子高生である朝倉涼子も全部あたしだもの。今たんなるエラーの影響で暴走してるにしても、それも紛れもないあたし』なんだろ?」

いつかの朝倉の言葉をオレは復唱した。

「同じだ。涼宮の影響を受けていようが、いまいが、オレはオレだ。オレが朝倉の事を好きになったんだ。だから必要ない訳ない!」

「……そっか。そうよね」



258 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 17:22:22.13 ID:SoTqqyrjO

朝倉はオレのすぐ前に落ちている崩れかけの光の塊を掴んだ。先程までナイフの形をしていた光だ。それをとった朝倉の手もほのかに輝いていた。

「それなら」

朝倉によって握らされた光は、オレの手の平の中である形になっていく。円状でひんやりと硬く、カチカチと振動を伝えるそれ。

そこまでが限界だった。オレは抗えない眠気に、飲み込まれる。

「それなら、あたしの事、忘れないでね」

それが意識を失う直前に聞いた言葉であり。

朝倉の最後の言葉であった。



259 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 17:27:03.65 ID:SoTqqyrjO

エピローグ。

「あー、朝倉くんだがー、お父さんの仕事の都合で、急なことだと先生も思う、転校することになった」

朝のホームルームで、担任がそんなこといった。

「えーっ?」

「何でーっ?」

仲がよかったのであろう、女子生徒達が騒ぎ立て、そのほかの連中もザワザワとしていた。

そんな雰囲気は納まらないままホームルームは終了した。



260 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 17:30:30.04 ID:SoTqqyrjO

「ねぇ、朝倉さんから何か聞いてない?転校した理由とか」

それは数人の女子生徒だった

「オレ?なんで?」

先程、騒いでいた奴らのようだ。

「だって、朝倉さんと結構仲良さそうだったから」

「……そうだっけ?

「なにか聞いてない?それっぽい悩み事とか」

「んーいや。特には」

「そう。分かった」

そう言って女子生徒は離れていく。



265 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/21(日) 18:00:38.17 ID:SoTqqyrjO

「……」

オレの制服のポケットからは、カチカチと規則ただしい音が響いていた。

この理想の懐中時計は、ある人からの送り物だ。

それが誰であるか思い出すことは出来ない。

けどオレは覚えている。

その人物がオレにとって掛け替えのない大切な人だった事を。

そのことをオレは忘れていない。

朝倉涼子の消失(END2)



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