古泉「致し方ないですね…変身っ!」


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8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/24(日) 21:34:45.77 ID:2ovCUYAVO

「ここの問題は………」

カツカツとチョークの音が響く、僕はその音を聴きながら空を見ていた。

白、青、赤、黒。
いろんな色がある。
空には不可能な色はないように思えた。

「はぁ………」

おっといけませんね。
思わずため息が出てしまいました。

空から目線を外し、黒板を見る。
それと同時に授業の終了を告げるチャイムがなった。

「今日はここまで、しっかり復習するんだぞ」

チャイムが鳴り終わると、教壇に立っていた教師はそう言って、教室を出ていった。

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/24(日) 21:38:46.88 ID:2ovCUYAVO

教師が出ていくと、教室の中は少し騒がしくなった。
僕はそれを聞きながら、用具を仕舞いはじめる。

最近、部活……
いえ、団活に行くのが少し楽しみになっている自分がいた。

「ふふ……これはいけませんね」

日常が楽しくてたまらない。
そう思える自分に少し苦笑が出た。

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/24(日) 21:43:56.96 ID:2ovCUYAVO

荷物を仕舞い終わり、ふと黒板の上の時計を見る。
3時半。

「おや、これは僕が一番乗りかもしれませんね」

もしかしたら、物静かに読書をし続ける少女はいるかもしれませんが。

「さて、行きますか……」

昨日の彼とのオセロが楽しみだ、とか、今日涼宮さんはどんな突拍子のないことを言い出すか、とか………

そんなことを思いつつ、文芸部室へと向かった。

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/24(日) 21:51:36.00 ID:2ovCUYAVO

ガチャ、とノブを捻り、ドアを開けた。

「……今日は早いんだな」

彼が昨日、途中で終わったオセロを準備しながらそう言った。

「あなたこそ、早いんですね」

「今日はたまたまだ、ほら早く続きやるぞ」

準備をし終わった彼が、僕をせかす。
面倒くさそうにしていても、勝負事には真剣なようだ。

僕は笑顔を浮かべながら、彼と正反対の席に座る。
座ると同時に彼は盤に白を置いた。

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/24(日) 22:19:24.73 ID:2ovCUYAVO

「終わりだな」
盤上が見事に白く染まっている。
ふふ…やはり彼は強いですね。
「完敗です」
「お前はどうして、そんなに弱いんだ」
「弱いと言われましても」
彼は自分が普通だと言い張っているので、どうやら本当に僕が弱いだけと思っているようだ。
まぁ、僕はそう思っていませんが……
「まぁいい、罰ゲームは覚えているな」
「さぁ、なんのことでしょう」
罰ゲームはわかっているが、ここはとぼけてみる。
すると、彼はあきれた顔をしながら「おい」と言った。
「冗談です、覚えていますよ」
「わかってる」
たしか、罰ゲームは食べ物、または飲み物をおごる、というものだったはずだ。
まぁ彼なら無理なものは頼みませんよね。
「今からで、よろしいですか?」
「ああ、おにぎりかなんか買ってきてくれ。小腹が減ってな」
そんなことを言いながら、彼はお腹をさすりながら、苦笑いをした。
「わかりました、では行ってきますね」
「おう、気をつけてな」
「はい」
彼がオセロを片付け始めるのを見て、僕は鞄から財布を取り出し、校外に1番近いコンビニに行こうと考えながら、部室を出た。

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/24(日) 22:29:36.57 ID:2ovCUYAVO

コンビニに着いたはいいものの、一体何を買っていけばいいんでしょうか…
そんなふうに考えながら、コンビニのおにぎりのコーナーを見ていた。
「財布の中も心配ですしね」
お金はあまり持ち歩くほうではないので、あまり多くは買えなそうだ。
いくらあったか確認しようと思ったところで、財布の中から、チャリン、と小銭が落ちてしまった。
「おっと……」
拾おうと、自分が手を伸ばすよりさきに、別の手が落ちた硬貨をとった。
「落ちましたよ」
「あ、はい。ありがとうございます」
だいたい自分と同じくらいと思われる少女が、硬貨を渡してきた。
「あれ?あなた、その制服……あなた北校の生徒さん?」
少女が僕の制服を見て、どこか懐かしそうにそう言った。

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/24(日) 22:45:33.28 ID:2ovCUYAVO

「はい、そうですが」
この人は卒業生か、なにかなのでしょうか。
それを問おうと僕が口を開く前に、彼女の口が開いていた。
「私ね、少しの間だけど、あそこの生徒だったのよ」
「へぇ、そうだったんですか」
少し、というのが気になったが、それを聞くのは不粋というものだろう。
「楽しかったなぁ…まぁ仕方なかったんだけどね」
「そうですか」
「あ、ごめんなさい、引き止めちゃって」
彼女は少し慌てながら、恥ずかしそうな顔をした。
「いえ、お気になさらずに」
「そう?あ、私用事があったから、もう行くわね」
彼女はそう言うと、慌ててコンビニを出ていった。
どうやら、忙しい人みたいだ。
「おっと、そんなことより早く食べ物を……」
時計を見ると、思ったより時間をくってしまっていた。
これでは彼に怒られてしまいますね。
手に持ったままだった小銭を財布にもどし、少し迷ったあげく、おにぎりを二、三個手にとりレジへと向かった。

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/24(日) 22:57:16.27 ID:2ovCUYAVO

パタン、と本の閉じた音がして、今日の団活が終了をつげる。
「じゃあみんな、今日は解散!気をつけて帰るのよ」
涼宮さんの元気な声が部屋に響く。
「じゃあキョン!今日はこれからサイトをもっとよくするわよ」
「なんで今からなんだよ」
どうやら、彼と涼宮さんは今日は少し残って行くらしい。
なら早く出ていったほうがいいですね。
そう思い、僕は席を立つ。
「では、僕はこれで」
そしてSOS団の、また明日、さようならを聞きながら、部室から出た。

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/24(日) 23:07:55.14 ID:2ovCUYAVO

校門から出たところで、コンビニで会った少女を見つけた。
少女は透視でもしてるかと思うくらい、じっと学校を見つめていた。
「どうしましたか?」
「え?」
自分でもビックリしたが、気がつくと、僕は声をかけていた。
「あぁ、あなたはコンビニの」
「はい、そうです」
ポンッと手を合わせ、彼女は近づいてきた。
「部活が終わったのかしら?」
「そう、ですね」
部活ではないが似たようなものなので肯定をしておく。
もし部活なら、本当に楽しい部活ですけどね。
「あなたは、ここで何を?」
「私は……」
僕の質問に、少女は少し困ったような顔をする。
何か悪い質問だったのだろうか…

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/08/24(日) 23:15:53.55 ID:2ovCUYAVO

「答えにくいのでしたら、別に………」
「うん、そうしてもらえると助かるかな」
どうやら、あまりよくない質問だったようだ。
いけませんね、これからは言葉を選ばなくては。
「えっとあなたは………」
「あ、古泉一樹です」
「古泉くん、すこし付き合ってもらえない?」
「えぇかまいませんよ」
急なバイトが入らない限り、大丈夫だろう。
「じゃあ公園で少し話しましょ」
「わかりました」
「あと、私は朝倉涼子。あなたの好きなように呼んでかまわないわ」
朝倉涼子と名乗った少女は、「いきましょ」と言うと、公園に向かって歩きだした。

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/24(日) 23:27:03.90 ID:2ovCUYAVO

「何を話そうか」
公園のベンチに座り、朝倉さんはそういった。
「なに、といわれましても」
困ったものです、どうやら彼女は何も考えずに僕を連れてきたようだ。
「うふふ、ごめんなさい。誘ったのは私だったね」
困った僕の顔がおかしいのか、彼女は笑った。
その笑顔に少しだけ、ドキッとしてしまう。
おかしいですね、こんなことは初めてですよ。
「どうかした、古泉くん?」
「いえ、なんでもありません」
そんな感情が少し恥ずかしく思い、彼女と少し間を開けてベンチに座った。

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/24(日) 23:33:54.32 ID:2ovCUYAVO

「さて、何を話しましょうか」
「ごめんなさい。私、何も考えてなかったわ」
「お気になさらずに」
女性としゃべることがなかったわけではないが、しゃべった内容がほとんど勉強の内容だった。
彼に、女性と話すときの話題を聞いておけばよかったですね。
そんなことを考えて、少し苦笑してしまう。
「どうかしたの、古泉くん?」
「いえ、なんでもありません。よろしかったら、僕の部活の話でもかまわないでしょうか?」
正直、あまり面白いことを話す自信はないが、このことなら大丈夫だろう。
「面白そうな話ね。聞かせてほしいな」
彼女は興味を持ったように、僕を見た。
「では、これは少し前の話なんですが………」

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/24(日) 23:45:03.88 ID:2ovCUYAVO

「そんな面白い部活があったのね」
「いえ、まだ同好会のようなものです」
僕の話が面白かったのか、それとも活動の内容が面白かったのか…
それはわからないが、彼女は僕の話を、ときおり笑いながら、真剣に聞いてくれていた。
「涼宮さん……か」
「涼宮さんをご存知で?」
「うん、友達だったの………かな?」
「聞かれても困ってしまいます」
どうやら、彼女は涼宮さんを知っていたようだ。
それに、友達かどうか疑問系で聞くとは……
「私ね、あの学校好きだったのよ」
「それはなによりです」
「まぁ、引越しちゃったんだけどね」
引越し………
どこの家庭にもよくあることだ。
「では今日はどうされたんですか?」
「ん〜……気分、かな」
気分ですか。
まだあまり話してはいないが、なんだか彼女らしい理由だ。
「まぁでも、仕方ないんだけどね」
「引越しでは、仕方ありませんね」
「……………うん」

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/24(日) 23:56:21.86 ID:2ovCUYAVO

ぴぴぴ、ぴぴぴ…
鞄の中の携帯が鳴り響く。
どうやらメールが来たようだ。
「少し、すみません」
鞄から携帯を取り出し、彼女に見られないようにメールを開く。
閉鎖空間が発生したらしい。
やれやれ、また彼が何かしたんでしょうか。
「すみません、急なバイトが……」
「ううん、気にしないで。私が誘ったんだもの」
「そうですか、では僕はこれで」
携帯を鞄に仕舞い、ベンチから立ち上がる。
「それでは」
公園を出ていこうとすると、彼女が後ろから「待って」と声をかけてきた。
「どうかしましたか?」
「よかったら、明日も話さない?」
彼女は少し寂しそうに、そう問い掛けてきた。
「僕なんかでよければ、いつでもかまいませんよ」
「そう?ありがとうね。じゃあまたこの公園で」
僕が返事をすると、彼女はどこか嬉しそうにそう言った。

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/25(月) 00:46:43.92 ID:kffcdqH/O

団活も終わり、僕は昨日の約束を果たすために、公園に向かっていた。
「なんか話題を作っておかないといけませんね」
どんなことを話そうか…
今日の学校の出来事?
それとも、季節の話とか…
「ふふ…なんだか僕らしくもありませんね」
思わず苦笑がこぼれる。
まぁいいでしょう、なんとかなることでしょう。
そんなことを考えながら、公園への道を歩いた。

48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/25(月) 00:53:32.36 ID:kffcdqH/O

公園に入ると、彼女は昨日のベンチに座っていた。
よかった、いてくれた。
なぜか、そんなことで安心していた。
そうだ、いたずらをしてみよう。
いつもなら考えるはずもないことが頭に浮かぶ。
本当に僕はどうかしているようだ。
彼女に見つからないよう、少し回り道をして、彼女の座るベンチの後ろに立つ。
「だーれだ」
「きゃっ」
後ろからいきなり彼女の目を塞ぐ。
少々これは古かったでしょうか。
「えっと……古泉くんでしょ」
「正解です」
目から手をどけると、彼女は振り向き、僕を見た。
「そんなことするんだね、古泉くんって」
「いえ、たまたまです」

49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/25(月) 01:00:40.37 ID:kffcdqH/O

普段ならこんなことはしない。
実際、こんな気分になったのは初めてだった。
「それはいいとして…いつまで立ってるの?」
「おっと、これは失礼しました」
ベンチの前に回り、彼女の隣に座る。
昨日より、少しだけ間をつめて。

「では今日は何を話しましょうか」
「今日は、私が話題を考えてみたの」
彼女はニッコリと笑顔をつくり、そう言った。
やはり、その笑顔にドキリとしてしまう。
一体どうしたんでしょうね。

51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/25(月) 01:07:16.67 ID:kffcdqH/O

「カレーおでん、ですか?」
「うん、そうなの」
彼女の話は、ある友達の話だった。
その友達は無口で、あまり感情を顔に出さずに、そしてカレーが大好き。
彼女の話でわかったことをまとめると、こんな人物像だった。
「なんだか、僕の部活にいる人に似ていますね」
「…………うん」
僕が言った言葉に、彼女は少し暗く答えた。
「どうか、しましたか?」
今の発言がまずかったのだろうか。
少しだけ心配になってくる。
「ううん、なんでもないわ」
そう言った彼女の顔は、笑顔だったけれど、どこか無理しているようにも見えた。

53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/25(月) 01:17:02.48 ID:kffcdqH/O

「朝倉さん?」
「なにかな?」
「よろしかったら明日、僕とどこか遊びに行きませんか?」
明日は土曜日だ。
ちょうど団活もない。
だから少しでも彼女といたくて、いつの間にかそんなことを口走っていた。
「明日、か……」
「いえ、用事などがあるのなら、そちらを優先して下さい」
たぶん無理だろう。
出会ってまだ二日だ、まだそんな仲ではない。
でも、彼女の返事は意外にも「いいえ」ではなく「はい」だった。
「よろしいのですか?」
「いいわよ。私も明日は暇だから」
「そ、そうですか」
胸の中が安心で埋め尽くされる。
本当によかった。
「では明日、駅前に10時でよろしいでしょうか?」
「うん、わかったわ」
そして、この約束をしたあと、空が紫がかるまで話していた。

55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/25(月) 01:23:56.27 ID:kffcdqH/O

正直に言うと、その日の夜はあまりよく眠れなかった。
まるで遠足前日の小学生か、修学旅行中の中学生のように。
全く、僕もまだまだ子供なのかもしれませんね。

そして朝、寝不足ではあったが、目はパッチリと覚めていた。
何故だろう、と疑問に思いながら、朝食を食べ、出発する準備をした。

57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/25(月) 01:33:19.18 ID:kffcdqH/O

駅前に着くと、集合時間よりも30分早く着いた。
余裕を持って来たのだが、どうやら余裕を持ちすぎたようだ。
とりあえず駅前のベンチに座り、彼女が来るのを待った。


数分後、ほんとに二、三分後に彼女が来た。
「古泉くん、早いのね」
「あなたこそ、まだ二十五分ほどありますが」
その会話で、なぜか同時に笑いがこぼれた。
「あはは、私たちバカみたいね」
「全くです」
それから少しの間、一緒に笑いあっていた。

59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/25(月) 01:42:12.11 ID:kffcdqH/O

「古泉くん、寝られなかったの?」
「ええ、少し」
今朝のことや昨夜のことを話ながら、街の中を二人で歩く。
まさか、涼宮さん、長門さん、朝比奈さん以外の女性と一緒に出歩くことになるとは思いもしなかった。
「今日はどこへ行くの?」
「そうですね、遊園地、というのも考えたんですが………やはりウインドウショッピングなんかでどうでしょう」
「つまり……何も考えてなかったってことね」
「あはは…ばれましたか」
鋭いですね。
昨日の夜はそれどころじゃなかったので……
「でも、ブラブラするのも悪くないわ。行きましょ」
「はい」
男として、僕がリードをしなくちゃいけないはずなのに、彼女はどんどんと進んでいく。
まるで涼宮さんのようだ…
やれやれ、困ったものです。

60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/25(月) 01:47:55.84 ID:kffcdqH/O

「ねぇ古泉くん?」
「なんでしょうか」
お昼を食べ終わり、またウインドウショッピングを始めた、すぐに彼女は立ち止まった。
「あそこ、入ってみない」
彼女が指差したその店は、たくさんのゲーム機が並ぶ、ゲームセンターだった。
実際、僕もあまり入ったことはないので、とても興味があった。
「ね?行きましょ」
「え?あ、その」
彼女は僕の手をとり、半ば強引にゲームセンターへと引っ張っていった。

61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/25(月) 01:58:17.71 ID:kffcdqH/O

ポロッ……
「あ………」
「おしかったですね」
彼女と僕はクレーンゲームをしていた。
交代でやって、かれこれ五回はやっているのだが、狙っているものは全くとれない。
「かなり難しいわね」
「そうですね」
「もう一回!」
どうやら彼女は、どうしてもあのヌイグルミが欲しいようだ。
もしも僕が得意だったら、すぐに取ってあげれるんですがね……
このときばかりは、自分の勝負運のなさを呪った。
「あ、また……」
中を見ると、クレーンは捕まえていたヌイグルミを落としていた。
「残念でしたね」
「うん………」
「では、次は僕が……」
ここで決めたいものです。
まぁ、そんなことが出来るとは思えませんけど……
そう思いながら、百円玉を機械の中へと入れた。

62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/25(月) 02:06:21.41 ID:kffcdqH/O

「♪〜♪〜」
ヌイグルミを抱え、満足そうな顔をして、僕の隣を歩いている。
「取れてよかったですね」
「うん。あれは奇跡よね」
クレーンゲームで奇跡が起こるというのも、むなしいものだ。
ヌイグルミは結局とれず、最終的には上手なおじさんに取ってもらった。
「あのおじさん、本当に上手でしたね」
「そうね。一発で決めちゃうんだもん」
本当にビックリした。
僕たちが何回やっても取れなかったものを、おじさんは一回で取ったのだ。
あまり納得はできなかったが、彼女の笑顔を見ると、そんなことはどうでもよくなってきた。

70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/25(月) 05:57:01.23 ID:kffcdqH/O

ポケットからプリクラを取り出す。
あのヌイグルミを取ってもらったあと、彼女はプリクラをしたいと言ったのだ。
まさか、僕がプリクラね…
今度、彼や涼宮さんたちを誘って見るのもいいかもしれません。
「なに見てるの?ってプリクラか」
「はい」
彼女が僕の手元を覗きこむ。
「綺麗にとれてるわね」
「ええ…」
そういえば彼女がやりたい、と言ったはずなのに、彼女はできたプリクラを全部僕に渡した。
「本当によかったんですか?」
「まだ言ってるの?もう!ほら貸しなさい」
「え、はい」
彼女は僕からプリクラを奪うと、じっとプリクラを見つめた。
ふふ、よく分からない人だ。
「ん〜〜………よし、これね。古泉くん携帯を出してもらえる?」
僕は彼女が言った通りに携帯を出す。
すると、彼女はプリクラの一枚を取り、それを「えい」と言いながら僕の携帯へつけた。
「おやおや、恥ずかしいことをするものですね」
「いいでしょ?こういうのも」
「そうですね」
急によく分からないことを思いつく人だ。
僕は、携帯に貼付けられたプリクラを見る。
するとなぜか、顔が緩んでしまった。

71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/25(月) 06:05:11.98 ID:kffcdqH/O

「なぁ古泉」
団活中、彼と将棋をしていると、急に彼が話し掛けてきた。
「どうかされましたか?」
「お前、最近は本当に楽しそうだよな」
飛車を進めながら、彼はぶっきらぼうにそう言った。
「そうですか?」
「ああ、本当の笑顔ってやつが出てる気がする」
おや、驚きました。
彼がここまで僕を見ていたとは……
「本当の笑顔…とはなかなか恥ずかしいことを言いますね」
「うるさい」
でも、たしかに彼の言うことは正しいのかも知れない。
今までは、仮面の笑顔…まではいかなくても、あまり本気で笑うことはなかったからだ。
全く……興味なさそうにして、実はよく見ている。
彼はそういう人でしたね。

72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/25(月) 06:11:25.28 ID:kffcdqH/O

通い慣れた道を通る。
もちろん公園に向かうためだ。
いつからか、これは日課になっていた。
放課後、公園で彼女と話す。
「……ふふ」
考えると笑いがこぼれる。
これは、すでに僕の新しい楽しみの一つだ。
非日常な僕に訪れた日常。
そんな普通の日々が楽しいのだ。

73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/25(月) 06:25:03.03 ID:kffcdqH/O

「あら、もうこんな時間ね」
「そうですね」
空は黒に近い紺色だった。
最近体験したことだが、どうやら楽しい時間は早く過ぎるというのは本当らしい。
まさか自分がこんな体験をするとは思いもしなかった。
「じゃあ今日はこれくらいにして、帰りましょうか」
「わかりました」
彼女は立ち上がると、二、三歩前に出て空を見た。
空というよりも、それよりもっと遠くを見ているように思えた。
そんな彼女が遠くにいるように思え、僕は「どうかしましたか?」と聞いた。
「ねぇ、古泉くんはさ……」
「はい」
彼女は空から目を下げ、真剣な表情で僕を見た。
「古泉くんは………もしやらなくちゃいけないことがあって、それをするには大切な人を捨てなければならない……そんなとき、どうする?」
なかなか難しい質問だ。
昔の僕ならば、やらなければならないことを優先しただろう。
でも、今は大切なものが出来過ぎた。
「えぇ……そうですね…僕なら」

75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/25(月) 06:38:14.19 ID:kffcdqH/O

ぴぴぴ、ぴぴぴ……
ベットに座り、手に本を持ってウトウトしていると、自分の部屋に機械的な音がなった。
「ん……メール、ですか」
座ったままベットの上を移動し、机の上の携帯を手にとる。
携帯を開き、メールを見ると、宛先不明のところからのメールが来ていた。
こんな時間に一体誰でしょう。
怪しく思いながらもメールを開く。
そこには、『公園で待っています』と書かれていた。
公園?
公園と聞いて思いつくものは一つしかない。
僕は行く決心をし、ベットから起き上がった。

77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/25(月) 07:24:39.72 ID:kffcdqH/O

月明かりが照らす中、彼女は公園のベンチへ座っていた。
下を向き、どこか悲しげに。
ずっと見ているのもおかしいと思い、僕はそっと彼女に近づいて行った。
だんだんと近づいて行って、彼女との距離が五メートルほどになったとき、彼女は唐突に話を始めた。
「私は本当はここにいてはいけないの……」
どういう意味だろう。
そんな彼女の言葉に足が止まる。
「一回は消えたはず……なのに、どうしてまたここにいるのかしら」
やはり意味が分からない。
それでも僕は黙って聞いていた。
「私の作戦は失敗して…私は消えて……またここにいる………私はこれがチャンスだと思ったの」
彼女が顔をあげる。
その眼は暗く、何も映ってはいなかった。

78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/25(月) 07:32:02.22 ID:kffcdqH/O

「あなたは言ったわね。大切な人を犠牲にしないで、目的を達成する方法を考えるって」
たしかに、僕はあの問いにそう答えた。
綺麗事だけど、それが1番だと思ったから…
「でもね、それ無理。私には思いつかなかった」
「そうですか」
彼女はポケットから何かを取り出す。
ナイフだった。
「長門さんは彼の監視、さすがにここには来ない」
彼女が下を向き、何かをぶつぶつとつぶやいた。
そして、笑顔で僕を見る。
「あなたには悪いんだけど、ここで死んでもらうね」
あは、何の冗談だろう。
っと思ったが、彼女はナイフをこちらに向け、走り出した。

79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/25(月) 07:45:45.01 ID:kffcdqH/O

僕は動けなかった。
なぜかは分からない。
彼女の行動にショックを受けたのか、それとも恐怖か…
彼女はいつの間にか目の前にいて、「さよなら」っと言いながらナイフを振り下ろそうとしていた。
だが、その手が振り下ろされることはなかった。
「……なぜあなたがここにいるかは知らない……でも、それでも勝手な行動は許されない」
聞き慣れた声、と言っても、滅多に聞くことはなかった声が近くで聞こえた。
「なん……で…」
「数日前からずっと、彼と同時に古泉一樹も観察していた」
僕は目の前の光景をただ見ていた。
なぜ、長門さんがここに?
という遅れた思考が頭を巡る。

81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/25(月) 08:06:43.60 ID:kffcdqH/O

「パーソナルネーム………」
長門さんが何かを言っている。
僕はそれを、ただ止まった思考で見る。
「うふふ、さすが長門さんね……私また負けちゃった」
いつもの調子の彼女の声が聞こえ、僕の思考がもとに戻る。
「どうして、あなたは……」
「ごめんなさい古泉くん。これも私の意思だったの」
彼ではなく、あなたを殺しても涼宮さんは行動を起こすかもしれない。
彼女はそう言った。
「そうでしたか」
さっきから疑問に思うことがある。
目の前の少女の名前がわからない。
どうして、なぜ。
「あとごめんね。あなたの記憶から私の名前だけ消したから」
「え?」
なんでそんなことを?
その疑問は口に出ることはなかった。
「あぁ……もうお別れね。あなたとの時間楽しかったわ。もう会わないと思うけど、バイバイ」
そう言って彼女は音もなく、夜の闇に消えていった。

82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/25(月) 08:15:54.60 ID:kffcdqH/O

彼女が消えてからベンチに座っていた。
隣には長門さんが座っている。
「長門さんは、何故おわかりになったんですか?」
僕の問いに、彼女の黒く澄んだ目が僕を捕える。
そして静かに「………彼のおかげ」と言った。
「……彼は、最近のあなたは何だか幸せそうだ、と言って笑っていた」
どうやら、今日の彼の問いにも意味があったようだ。
全く、彼にはかないませんね……
「…その発言を、私という個体は不思議に思い、数日前からあなたの観察を始めた。そこで発見したのが彼女」
わざとなのか、それが普通なのか、長門さんは彼女の名前を出さなかった。

83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/25(月) 08:22:19.17 ID:kffcdqH/O

「あなたの記憶を消すことができる」
記憶を消す、ですか…
あまりいい気分ではないですね。
「彼女はあなたの記憶から名前だけを消した………私は彼女に関するあなたの記憶を消すことができる」
まぁ、そうですよね。
長門さんならそれくらい簡単にやってしまうだろう。
「それは、強制ですか?」
「判断はあなたに任せる」
消すか消さないか……
消したほうが楽になれるだろう。
名前の分からない少女との楽しい思い出なんで虚しいだけだ。
「いえ、消さなくて構いません」
でも、僕はそれを拒否した。

84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/25(月) 08:31:22.84 ID:kffcdqH/O

「それは……何故?」
彼女は不思議そうに聞いてきた。
たしかに普通ならばそう思うだろう。
「彼女が"名前だけ"消した、というのには意味があったと思うんです」
「………………そう」
忘れないでほしい。
でも、忘れてほしい。
そんな悩みの末、出した結論なのだと思った。
「少々寒くなってきましたね」
そんな僕の問いに、長門さんは数ミリ頷いた。
よく見ないとわからなかっただろう。
だが、そういうところが長門さんらしい。
「では帰りましょうか」
「了解した…」
ほぼ同時にベンチから立ち上がる。
「送りましょうか?」
「………気にしなくていい」
「おや、そうですか」
まぁ断られると思っていましたが。
「………また明日」
「え?」
気を使っているのだろうか。
まさか長門さんからそんな言葉を聞けるとは思わなかった。
「えぇ、また明日」

86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/25(月) 08:35:52.51 ID:kffcdqH/O

帰り道の途中、ふと時間を確認しようと携帯を取り出した。
結構遅い時間だ。
やれやれ、彼女もこんな夜中に呼ばなくてもいいじゃないですか。
そう考えてながら携帯を閉じ、なんとなく裏をみる。
いつか撮ったプリクラが貼ってあった。


幸せそうに笑う二人が映っているプリクラが………


おわり

87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/25(月) 08:38:09.20 ID:kffcdqH/O

ほとんどgdgdですみません……
朝倉×古泉って需要ないよね?

たまには古泉は真面目なキャラでやってみたかったんだ

91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/25(月) 09:01:37.55 ID:kffcdqH/O

読んでる人いたんだね
嬉しいよ

たまにはガチホモじゃない古泉を思い出してほしいんだ
あいつはSOS団の中で1番頑張ってると思うよ

まぁ前回、ガチホモでロリコンでメイド好きな古泉をやっちまった俺が言うのもあれだが



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