佐々木「いつの日かまた会おう、キョン」


メニュー
トップ 作品一覧 作者一覧 掲示板 検索 リンク SS:コナン「10月になったし歩美の家へ侵入して安価で行動する」

ツイート

1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/08/24(水) 21:23:53.30 ID:2bCGClTo0

いつも雨ざらしにしていたせいだろうか。
明け方の、まるでこの世界に二人だけしか存在しないかのように静まり返った街中を
空気を読まずにひたすら悲鳴を上げている俺の愛車の荷台に乗っているのは佐々木だった。
向かっている先は中学生の頃の場所とは違う。
嫌々勉強しに(佐々木はどうだったか知らんが)ビルの形をした収容所に一緒に向かっていた頃も
懐かしく感じられるくらいにまで年をとったのだなぁと自転車を漕いでいると、

「よくこうやって塾へ向かったよね、キョン」

佐々木も同じ事を考えていたようだ。

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/08/24(水) 21:24:52.10 ID:2bCGClTo0

「ああ、…だが、俺はあまり思い出したくないけどな」

あんな閉塞感を形に表したような場所になんて
出来ることならもう二度と行きたくないね。
思い出したくもない。

「それはキョンの成績がご母堂を心配させるほどのものだったからさ。つまり、自業自得だよ」

と、佐々木はくつくつ笑いながら言ってのけた。
…確かにそうだな。

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/08/24(水) 21:25:24.58 ID:2bCGClTo0

佐々木の言うことはいつも間違っていなかった。
それは佐々木の頭がいいからってだけでなく
佐々木の人間性から生み出されていく言葉、文章の数々は
俺を素直に納得させるものばかりだった。

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/08/24(水) 21:26:32.20 ID:2bCGClTo0


線路沿いの長い緩やかな坂を上ってるとき
佐々木が腰に回した腕に力を少しこめて

「さあ、もうちょっとだよキョン、頑張ってくれたまえ」

と楽しそうな声をかけてきた。
…そうだ。あと少しだ。…あと少し。

相変わらず人っ子一人見当たらないこの街の駅に俺達は向かっている。
なぜかって?
そんなの大体予想がつくだろう?


「世界中に二人だけみたいだね」


佐々木が漏らした言葉に俺はとっさにあの閉鎖空間を思い出した。
あの世界は俺にとって嫌な思い出しか無いのだが、今はそんな寒気がするようなところではない。
現実の、れっきとしたちゃんとした世界だ。
それだけに俺はなんとも言えない気持ちになった。

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/08/24(水) 21:27:27.98 ID:2bCGClTo0

佐々木が放った言葉に対して何か言ってやろうと思ったが
俺は声を出すことができないどころか
佐々木の方を見ることすらできなかった。
坂を上りきった俺を迎えた朝焼けが目に染みたのか、
それともこれからのことを思ってなのかは俺にも分からん。

俺はいつの間にか泣いていたのだ。

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/08/24(水) 21:28:26.02 ID:2bCGClTo0



駅にチャリを停め、券売機に向かった。
俺が買ったのは今いる駅から次の駅までの切符。
無論俺はそんなとこで降りる予定はない。
そればかりか電車に乗る予定すら無いのだ。俺はな。

佐々木は俺がチャリを置いている間に買ったらしい。
見てはいないがおそらく一番端の一番高い切符を買っただろう。
俺はそんなことを考えながら隣町行きの切符をポケットにしまい込んだ。

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/08/24(水) 21:29:13.78 ID:2bCGClTo0

佐々木は改札で一昨日買ったばかりらしい新品の鞄背負っていた。
曰わく「新しい地へは思い入れの無い物のほうが心情的に救われる」そうだ。
今思えば佐々木がネガティブになっている風な言葉を聞いたのは初めてだったな。

その何も思い入れのない、まっさらな鞄を改札に引っ掛けてしまい、
佐々木は無言で俺の方を見た。
俺は目を合わさず頷き鞄の紐を外そうとしたが、なかなか外せなかった。
ただ引っかかってるだけなのに頑なに感じたのは、俺の中のモヤモヤが邪魔したからだろうか。

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/08/24(水) 21:29:54.79 ID:2bCGClTo0

駅のホームに立ち、もうすぐ電車が来ようとしている中、
明るく見送ろうとしたはずだったが
なぜかうまく笑えずに俺は佐々木を見ていた。
「どうしたんだい?キョン、そんな今生の別れのような顔をして」
と、佐々木独特の笑い方でくつくつ笑った。
しかし、俺はそんな佐々木の気の紛らわしを聞きながら
サヨナラに代わる言葉をひたすら俺の貧相なボキャブラリーの中から探していた。

佐々木の手を引くのが俺の役目だと、
自惚れではないがずっとそう思っていた。
だが、今わかった。
数え切れないほどの時間と場所を共にした俺らならもう、
そんな役割に捕らわれずに重ねた日々が向かうべき場所に勝手に導かれて行くんだ。
佐々木が所謂『大人』と言われるものになってく間に
隣で、ではないが俺も同じ時間を過ごしていく。

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/08/24(水) 21:30:37.67 ID:2bCGClTo0



例えばそこには『二人はいつも、いかなる時も繋がってゆける』なんて歌がぴったりだろう。




17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/08/24(水) 21:31:27.27 ID:2bCGClTo0

突然ベルの音がホームに響いた。
佐々木だけが乗る電車が滑り込んできた。
俺は焦る。
何か言わなければならない。
佐々木だけがくぐるドアが開く。
いつの間にか繋いでいた手がほどけ、佐々木が俺から離れた。

しかし、なんとも悲惨な俺の頭は
佐々木にかける言葉を思いつくどころか

「佐々木っ!!」

俺にしては珍しいが、我を忘れて夢中で佐々木を呼び止める事しかできなかった。

俺の叫び声ともとれなくもない悲痛そのものの声がホームに響く。
自分でも情けなく思うが
今の俺にはこれくらいしかできることがなかった。

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/08/24(水) 21:32:06.15 ID:2bCGClTo0

佐々木がドアの前で振り向く。
「約束だ。必ず。」
と、前置きして改めて佐々木は


「いつの日かまた会おう、キョン」


あっさりとした言葉で別れを告げた。

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/08/24(水) 21:32:45.48 ID:2bCGClTo0

だが俺は佐々木の言葉だけで見ればあっさりとした別れの挨拶に
応えてやることができなかった。
俺は何も言えずに、俯きながら手を振り、佐々木を見送り、
ドアが閉まっていくのを視野に入る分だけで確認した。


俺の見間違いなんかではない。
あの時、あいつは、佐々木は…


20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/08/24(水) 21:33:15.09 ID:2bCGClTo0



駅から飛び抜けた俺は
今までの記憶にないくらいのスピードでチャリにまたがり、
線路沿いの下り坂を飛ばしていた。
カレンダーの上ではもうすぐ春だってのに空気はやけに冷たく、
風を切るかのスピードで走っていた俺の露出した肌に刺さるほどだった。


佐々木、あん時泣いてただろう?
ドア一枚を挟んだ向こう側でな。


俺は必死になってチャリのペダルを踏んでいた。
空気を読まない俺の愛車は最期まで空気を読まないつもりらしい。
チャリがあげる悲鳴を無視して
佐々木の乗っている電車に追いつこうと
精一杯こいでいた。

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/08/24(水) 21:34:39.78 ID:2bCGClTo0

ふと電車のほうに視線をやると
佐々木はまだドアに手を置いたまま俺の方を見ていた。

「佐々木っ!!」

電車と並んだ。
しかし、それも一瞬のことだった。
死に物狂いとはこのことを言うんだろうな。
俺は本当に全力で自転車をこいでいたが、ゆっくりと、佐々木は俺から離れていく。

佐々木、お前、ドアの向こうで泣いていたんだよな。
顔を見なくたって分かったさ。
お前の声が震えてたんだからな。
佐々木の言葉がリフレインする。

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/08/24(水) 21:35:11.88 ID:2bCGClTo0


『約束だ。必ず。』
『いつの日かまた会おう、キョン』

「ああ、いつの日かまた会おうぜ、佐々木…」

あの時応えるべきだったかもしれない俺の返答は、
佐々木のあの時の声色と同様、震えていた。

佐々木は路面図の一番端の駅へと向かう電車に揺られながら離れて行く。
佐々木に見えるように、俺は大きく手を振ることにした。


街は人っ子一人いなかった状態から少しの変化を見せ、
だんだんといつもの生活を始めていた。
街は賑わいだしたのたが、なぜだか俺は

「世界中に一人だけみたいだなぁ」

と小さくこぼしてしまった。


錆び付いた車輪は悲鳴をあげ、
さっきまで後ろに座っていた佐々木の
微かな温もりを感じながら俺を運んで行った。

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/08/24(水) 21:35:33.41 ID:2bCGClTo0



おわり



27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/08/24(水) 21:41:35.03 ID:2bCGClTo0

すげえ恥ずかしい

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/08/24(水) 21:44:39.07 ID:2bCGClTo0

バンプの車輪の唄とスキマスイッチの奏のパクリでした。



ツイート

メニュー
トップ 作品一覧 作者一覧 掲示板 検索 リンク SS:長門「有機生命体のエネルギー変換方式は非常に原始的」