古泉「戦場カメラマン!?」


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1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/31(火) 01:28:53.87 ID:hygVUlkp0

今日の神人は手強い。
果たして大きな怪我無く倒せるだろうか。

僕はそんな思いを胸に、僕は攻撃を続ける。

ふと、目が人影を捉える。

仲間ではない。

まさか。
この閉鎖空間に誰かが紛れ込んでいる?

……彼、なのか?

僕は全力で人影へと飛んだ。

そこには、髭を生やしカメラを持った中年男性がいた。

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/31(火) 01:35:08.48 ID:hygVUlkp0

「誰ですか! ここは危険です!」

どうやって閉鎖空間に入ったのだろう?
機関の資料でも見た事がない人物だ。

「僕は……戦場……カメラマンの……渡部、陽一と……言います」

神人の壊したビルの瓦礫が降り注ぐ。

「逃げてください! 早く!」

「僕は……君のような……戦う……運命を……背負わされた……少年を」
「……撮り……たいのです……」

どうすればいい?
無関係な人間を巻き込んでは……。

その時、神人が僕らに向けて腕を振り下ろした。

痛み、そして地響き。

「くっ……あの男性は……?」

「……お怪我は……大丈夫……ですか……?」

何故か男性は。ピンピンしていた。

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/31(火) 01:39:34.54 ID:hygVUlkp0

神人を倒した後、男性と話をする。

「貴方は、どうしてこの場所に?」

「僕は……戦場……カメラマン、ですから……」
「戦場に……行くのです」

「死ぬところだったんですよ?」

「遺書を……書いてあります……戦場……カメラマンの……ジンクスで……」
「……遺書を……書けば……生きて帰れる……と……いうものが……あります」

僕は唖然とした。
こんな人物に出会うのは初めてだ。

「……あ……しまった……」

「どうかしましたか?」

「写真を……撮るのを……忘れて……しまいました」

正直、どうでも良かった。

間延びした口調が何故か苛立つ。

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/31(火) 01:44:17.80 ID:hygVUlkp0

男性を機関のサポートメンバーに引渡し、家へと帰る。

泥のように眠り、起きる。
身支度を整え、学校へ。

長い坂道は辛い、しかし神人との戦いより何倍もマシだ。

 カシャ…… カシャ…… カシャ……

横を見ると、戦場カメラマンがいた。

「……」

「……」

「……」

「……おはよう……ございます……」

「何で貴方がここにいるのですか!?」

「日常と……いう名の……戦場で……戦う少年達を……写真に……収めたい」
「それが……僕の……生き様です……」

頭がくらくらしてきた。

携帯で森さんに連絡をする。

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/31(火) 01:48:48.16 ID:hygVUlkp0

『つまり、機関では渡部さんを認めることにしたの』

「それはどういう……」

『自力で閉鎖空間に入る能力。これは私たちに近い』

「確かにそうですけど!」

『彼女……涼宮ハルヒの力なのかは、まだ不明』
『しかし放置するわけにもいかない』

「なら、機関で保護してくださいよ」

『……正直、間が持たないの。じゃ』プッ

 ツーツー

「……」

「……」

「……」

「……宜しく……お願い……します……」

「こちらこそ、どうぞ宜しく」

一体、僕にどうしろっていうんだ?

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/31(火) 01:54:35.70 ID:hygVUlkp0

放課後。

何故か団室には戦場カメラマン、渡部陽一がいた。

「どうも……ご厄介に……なります……」

僕の膝は砕けた。

「な、何故……」

「古泉君! 新しい団員を紹介するわ!」

「涼宮さん!?」

「渡部陽一君よ! SOS団専属、戦場カメラマンね!」

果たしてSOS団に戦場カメラマンが必要なのでしょうか?

「お前、このおっさん、どっから連れて来た」

彼が的確なツッコミを入れる。

「女子更衣室の近くでカメラ持ってうろついてたから連れて来たの!」

……何をしてるんですか渡部さん。

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/31(火) 02:01:34.13 ID:hygVUlkp0

「とりあえず、みくるちゃんの撮影会をしましょ!」

……それでは戦場カメラマンではなく、扇情カメラマンですよ涼宮さん。

「そぉーれ! とっとと着替えた着替えた!」

「ふぇぇぇぇぇん!」

僕と彼はすぐに団室から出ようと歩き出したが、渡部さんは朝比奈さんを凝視していた。

「おや……おや……無理やり……は……いけませんね……」

貴方、わざとでしょう、わざとやってるんでしょう?

僕と彼は渡部さんを団室から引きずり出した。

 カシャ…… カシャ…… カシャ…… カシャ…… カシャ…… カシャ……

この状態でシャッターを押しますか?

「……渡部さん。後で焼き増しをお願いします」

貴方も何を言ってるんですか?

……。

「僕にもお願いしますね」

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/31(火) 02:11:47.63 ID:hygVUlkp0

それから朝比奈さんのコスプレ撮影会が始まった。

多くの、どこから入手したのか分からない衣装を着せられた朝比奈さんを取る渡部さん。

無言かと思いきや時折、

「いい……ですね……」

とか、

「もっと……胸を……強調……してください……」

とか言っていた。

やっぱり扇情カメラマンじゃないですか?

とうとう、その日は撮影会で団活は終わった。

「渡部君! 明日の不思議探索、来るわよね?」

「……もちろん……行かせて……いただきます……」

明日は土曜日。
不思議探索にまで来る気ですか渡部さん。

彼は焼き増しの事を念入りに渡部さんに頼んでいた。

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/31(火) 02:18:35.39 ID:hygVUlkp0

次の日。

僕が集合場所にやってくると、渡部さんは既に来ていた。

「……ですから……戦場は……とても……厳しい場所……なのです……」

「……そう。有意義な話か聞けた。感謝する」

長門さんとは折り合いが良さそうだ。
何だか仲良くなってる。

僕の次に朝比奈さん、涼宮さんがやってきた。

「おはようございますぅ」

「おっはよー! みんな!」

 カシャ…… カシャ…… カシャ……

「おはよう……ござい……ます……」

「何故今、写真を撮ったのですか?」

「若い……躍動感が……僕の……青春を……想起させ……私服が……眩しかった……ただ……それだけです」

つまり女子高生の私服姿を撮りたかったと。

何となく貴方という人間が分かってきたような気がします。

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/31(火) 02:24:44.55 ID:hygVUlkp0

最後にはもちろん、彼。

彼は封筒を渡部さんに渡し、代わりにファイルケースを受け取った。

「それは昨日の?」

「ああ。ハルヒには提出しない、極秘アングルが入っているそうだ」

「貴方という人は……」

僕も封筒を渡し、ファイルケースを受け取る。

シャツの下にそれを隠した僕らは、何食わぬ顔でみんなの所へ戻る。

「まずお茶ね! 例によってキョンの奢りよ!」

「へいへい」

喫茶店に着くまで、渡部さんと長門さんは何事かを熱心に話していた。

千切れた肉片だとか、そういう単語が聞こえたのは気のせいだろう。

お腹のファイルケースが邪魔で仕方がない。

しかし捨てられない。

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/31(火) 02:29:46.30 ID:hygVUlkp0

喫茶店でのくじ引きの結果、グループ分けは下のように決まった。

涼宮さん・朝比奈さん・渡部さん。

僕・彼・長門さん。

長門さんは何故か悔しそうだった。

涼宮さんと朝比奈さんが、今日は宜しくと挨拶をしている。

途中で援助交際と間違われてしょっ引かれればいいのに。


何故か喫茶店を出た後、渡部さんが僕、彼、長門さんの写真を撮った。

「いきなりどうしたんです?」

「これで……お別れに……なる……可能性も……ありますから……」

不吉な事を。

長門さんが焼き増しを頼んでいた。

分かってますか?

軽く馬鹿にされてるんですよ?

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/31(火) 02:35:01.98 ID:hygVUlkp0

図書館でファイルケースを開く。

……。

……。

……。

「むふぅ……古泉。渡部さんに御礼を言わなければな」

「そうですね。ここまでとは正直、思いもしませんでした」

「……何?」

な、長門さん。
本を読んでいたのではなかったのですか?

「いや、渡部さんは凄いなって話してたんだ」

「そう。……確かに彼は凄い人」

そう言って長門さんは本棚へ向かう。

分かってませんね、長門さん。

貴方の極秘アングルも入っていたというのに。

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/31(火) 02:42:39.99 ID:hygVUlkp0

お昼。

昼食を彼の奢りで食べた後、またくじ引き。

今回のグループ分けは下のように決まった。

僕、彼、渡部さん。

涼宮さん、朝比奈さん、長門さん。

長門さんが、珍しく感情をあらわにし、くじ引きの楊枝をへし折ったのには驚いた。

しかし、グループ分けは変わらない。

またしても渡部さんが写真を撮る。

これでお別れかもしれないから、と言いながら、涼宮さんグループの写真を。

 カシャ…… カシャ…… カシャ…… カシャ…… カシャ…… カシャ……

多い。
多すぎます。

「女性の……写真は……いくらあっても……いいもの……ですから……」

本当に戦場カメラマンですよね?
扇情カメラマンじゃありませんよね?

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/31(火) 02:48:10.31 ID:hygVUlkp0

男三人でどうすることもなく、街をぶらぶら歩く。

渡部さんは所々で写真を撮る。

「ここは戦場ではありませんよ?」

彼が苦笑いをしながら言う。

「……果たして……そう……でしょうか……」

人生は戦いだとか、そういう事を言いたいのだろうか。

僕としては本当に命がけで戦っている経験もあり、
そのような一般論を真っ向から受け止める事はできない。

彼は、分かったような分からないような顔をしている。
多分分かってない。

一度、渡部さんが迷子になり、一生懸命探し出すと、
なんと彼は野良猫の写真を撮っていた。

「猫ちゃん……可愛い……可愛い……」

キャラではないが言う。

大丈夫かこのおっさん。

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/31(火) 02:52:55.34 ID:hygVUlkp0

不思議探索終了。

三々五々、別れて帰る。

彼は涼宮さんに、もう一軒奢らされるらしい。
どうやら長門さんがファイルケースをばらしたらしい。

僕は例によって詭弁で逃れた。

何とも疲れた。

帰ろう。


その時。

世界が変わった。
いや、変わりつつある。

閉鎖空間の出現だ。
それもかなり大きい。

僕は森さんに連絡を入れ、閉鎖空間の場所まで走った。
そう、すぐ近くだった。

僕の戦場に、入る。

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/31(火) 02:58:09.57 ID:hygVUlkp0

風景は変わらないが、世界が変わる。

ここは紛れも無い僕の戦場。

神人が建物を壊している。

また彼が涼宮さんの感情を逆撫でしたのか。

今はどうでもいい。

力を使い、宙に浮く。

赤い光は僕の力だ。


 カシャ…… カシャ…… カシャ…… カシャ…… カシャ…… カシャ…… カシャ……

この音は。

「渡部さんっ!?」

「やあ……どうも……お久しぶりです……なんて……言ってみたり……」

「何を悠長な事を! 早くここから出てください! 出られるんでしょう!?」

「……それは……お断りします……」

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/31(火) 03:03:58.28 ID:hygVUlkp0

「何を……!」

苛々する。
この人には危険性がまるで分かっちゃいない。

戦場カメラマンだか知らないが、ここではここのルールがある。

閉鎖空間の中は、僕のフィールドだ。

「もう一度言います! 早く避難を!」

渡部さんは微動だにしない。

「……ですよ」

「何ですって?」

聞き取れない。
神人の破壊音で耳に届かない。

間延びした、渡部さんの、しかしよく通る声。

僕は神人へと向かった。

倒せば問題ない。
渡部さんに危険はない。

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/31(火) 03:08:37.66 ID:hygVUlkp0

攻撃。攻撃。攻撃。

回避。回避。回避。

 カシャ…… カシャ…… カシャ……

シャッター音が聞こえる。

そんなはずは無い。

戦いの最中、あの小さな音が聞こえるわけがない。

左からの攻撃を、何とか受け流す。

気づくと、他に赤い光が飛んでいる。

仲間だ。

僕は一人じゃない。

だから戦える。
戦う。

戦う。

「何故……戦う……のですか……?」

それが僕の務めだからです。

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/31(火) 03:12:24.96 ID:hygVUlkp0

閉鎖空間が崩壊する。

いつ見ても、この光景はいいものだ。

渡部さんにはこれを撮ってもらいたい。

そうだ。

渡部さんはどこだ?

探す。

見つからない。

「古泉? どうかしたの」

「わ、渡部さんの姿が……」

「ああ。彼は、帰ったわ」

「え?」

「現像をするんですって」

……どこまでも自由な人だ。

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/31(火) 03:21:33.38 ID:hygVUlkp0

閉鎖空間の原因は、やはり彼の失態だった。

といっても彼に自覚がないから言っても無駄だろう。
彼女の前でファイルケースを広げるなんて、馬鹿な真似をするのは、死んでも治らない。

日曜日のお昼。

僕は渡部さんと出会った。

彼は小鳥を撮っていた。

「……おや……昨日は……どうも」

「お元気でしたか」

「ええ……しかし……貴方と会うのは……これが……最後かも……しれません……」

「どう、いうことです?」

「僕は……僕の……戦場に……行かなければなりません……」
「……戦場……カメラマンですから……」

渡部さんは僕に紙袋を手渡した。

「これは?」

「……写真と……色々です……記念に……どうぞ」
「では……お気を……つけて……」

それが、僕が渡部さんと喋った、最後の時間だった。

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/31(火) 03:28:05.25 ID:hygVUlkp0

紙袋の中身を検める。

不思議探索の時の写真。

コメントが添えてある。
『平和な……風景……』

コメントまで間延びしなくともいいだろうに。

奥には、閉鎖空間での写真があった。

そこには、戦う僕、そして仲間たちの姿が映っていた。

そして書類。

格個人の戦闘の癖、コンビネーションの奇抜なアイディア。
それは、素人のものではなかった。

機関の戦闘部門に提出すれば、劇的に戦いは楽になるだろう。

これが、戦場カメラマン……。

僕はいつの間にか泣いていた。

あの、間延びした喋りを、もう聞く事が無いのかと思うと、涙が止まらなかった。

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/31(火) 03:42:03.06 ID:hygVUlkp0

ある昼下がり、団室で。

「渡部君、なんでいなくなっちゃったのかしら」

「さあな。しかし残念だ」

「ねえ、その拾ってきたTV、つけてみてよ!」

「へいへい」

 ピッ

『……そうですね……僕が……戦場に……行くのは……知って……欲しいから……なんです』
『年端も……いかない……少年兵が……戦っている事を……誰かに伝えたい……』
『……平和な……世界は……素敵なものですが……そうでない世界も……あるんだって事を……分かって欲しいのです』

『その写真は何ですか?』

『これは……日本の……平和な……子供たちの……写真です……』
『……これを……持って……僕は……戦場に……向かいます……。生き残る……新しい……ジンクス、ですかね……』
『帰ってきてこその……戦場カメラマンですから……』

「渡部君、TVに出てる……」

「古泉。お前、何で泣いてるんだ?」

「何でも……ありません……」

 -End-

31 名前:南部十四朗 ◆pTqMLhEhmY [] 投稿日:2010/08/31(火) 03:42:50.53 ID:hygVUlkp0

 思いつきで……書いたら……この有様です……。
 まあ……自分にしては……珍しく、変態でもマジキチ系でもなかったので……良しとします。
 見て下さった方に……渡部さんの加護が……ありますように……。



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