涼宮ハルヒの七夕


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2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/07(水) 21:30:47.58 ID:FS89wyry0

北高を卒業した後、俺とハルヒは家から歩いてでも通える関西じゃそこそこ名の知れた大学へ進学した。
ハルヒならもっと上の国立にでも行けた筈だが、どういう訳だか俺とハルヒは同じ大学の同じ学部へ進むことになった。
1年先に卒業した朝比奈さん、鶴屋さん、そして長門、古泉も同じ学内にいる。文学部に進んだ長門は既に図書館の主となっているようだ。
結局の所、高校の頃から生活パターンはほとんど変わらず、集合場所が部室から時計台前の中央芝生や学食なんかに移動しただけでSOS団の活動は続いている。
とはいえ二十歳を超えるようになってハルヒの行動には落ち着きが見え始め、徐々にではあるが確実にSOS団の活動は地味になっていった。

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/07(水) 21:33:15.84 ID:FS89wyry0

そんな平和な日々が続いていたある日、珍しく2人だけになった学食で古泉が妙に真剣な表情で話を切り出してきた。

「涼宮さんの力が弱くなってきているんですよ。」
「ハルヒの力がか?」
「ええ。高校生の頃をピークにずっと弱体化を続けています。以前はよく出現していた閉鎖空間でさえ、ここ1年ほど全く発生していません。」
「平和になっていいことじゃないか。前ほど無茶な注文もしなくなったし、俺にはいい傾向だと思えるんだが。」
「それはそうなのですが…世界には良くても、涼宮さん本人に悪影響が出る可能性があるんです。」
「ハルヒ自身に?」


5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/07(水) 21:36:32.92 ID:FS89wyry0

「ええ。これまで涼宮さんは自らの力で願望を実現させてきました。彼女の力の素はその発想と願望にあった訳です。
しかし、この数年で、涼宮さんの精神構造の中で常識という意識の割合が大きくなってきています。
元々常識というものを涼宮さんはよく理解された人でしたが、その傾向はますます強いものになってきています。
そのようにして涼宮さんが社会的な常識を意識すればするほど、自らの欲望を実現したいという願望は薄くなり、それに比例して世界を変える力も弱くなってきてしまっているんです。」
「仮に涼宮さんに何か実現したいことが出来たとしましょう。今までの彼女なら自らの力でその願望を実現させてきました。
ですが、今の涼宮さんにはそれを成し遂げられるほどの力はありません。そうなると必然的に、彼女がどう願っても自分だけでは実現させることの出来ない壁にぶつかってしまいます。
その場合、涼宮さんの心に問題が出てきます。力が弱くなってしまったということは、これまで涼宮さんの感情のある種捌け口だった閉鎖空間を出現させることも出来ません。
涼宮さんはこれまでに無いほど不安定になる恐れがあります。」


7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/07(水) 21:38:54.46 ID:FS89wyry0

「いろんなものを抱え込む、ってことか。」
「そういうことになります。それがどのような結果を生むのかは僕にもわかりません。弱くなった力が何かのきっかけで暴走することもありえます。
僕たちだけでなく、涼宮さん本人でさえも制御不可能な形で。」
「…。」
俺は困惑した。

ハルヒが普通の人間に近づくことで、あいつの持っている力が無くなる。
平和になるのは結構だし、今でも十分平和なのだが、力を失うことでハルヒの精神の均衡が崩れてしまうかもしれないというのは聞き捨てなら無い話だ。
しかも力が暴走する可能性もある。その原因となるものに俺は心当たりがあった。もちろん古泉も気がついていたはずだ。
だからこそ遠まわしにではあるが俺にわざわざこんな話をしたのだろう。

それはハルヒの就職活動だった。現に就職活動を始めてから数ヶ月、日に日にハルヒの機嫌は悪くなっている。
世界を改変する能力は別にしても元々のポテンシャルの高いハルヒが内定を得られないまま、季節は夏に差し掛かろうとしていた。


9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/07(水) 21:44:58.66 ID:FS89wyry0

7月7日。

気だるい夏の昼下がり。4回生の今の今まで取りこぼしていた必修科目の講義を終え、甲東園の駅前のカレー屋で遅い昼食を取っていると、
カウンターの上に何気なく置きっぱなしにしていた携帯が鳴り出した。

着信:涼宮ハルヒ

いつもの如くあまりいい予感はしないが、電話を取らなかった時のことを考えると余計に面倒なので素直に電話に出る。
しかし、ハルヒは会社の面接があるとかで東京に行っているはずなのだが…。

「もしもしキョン?これから飲まない?」
「飲まないってお前、今東京じゃないのか?」
「これから帰る所。新大阪に6時頃着くから、6時半にビッグマンの前でね。」
「お、おいっ!」


11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/07(水) 21:51:49.57 ID:FS89wyry0

無論、既に電話は切れていた。
自分の用件だけを伝えて電話を切ってしまう癖は高校の頃から何にも変わっていない。
まあ待ち合わせ場所を大阪駅ではなく阪急に乗る俺の行きやすいビッグマンの前にしてくれただけでも進歩した方だ。

特に予定も無かった俺は勘定を済ませ、ハルヒとの待ち合わせまで時間を潰すために北口のジュンク堂へ向かった。

駐輪場に自転車を置き、ACTA西宮の中に入る。少し変わった配置のエスカレーターを何度か昇ると4階にジュンク堂西宮店はある。
いつもの決まった雑誌を読み、店内をぶらついていると文学コーナーに見知った人物がいた。

長門だった。


12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/07(水) 21:58:51.38 ID:FS89wyry0

「おっす長門。今日は図書館じゃないのか?」

「新刊は図書館じゃ待たないといけない。」

「なるほど。確かにそうだな。」

しばらく他愛無い会話、といってもいつものように俺が話しかけて長門が短く返す、というのを続けた後、長門がおもむろに話を切り出してきた。

「あなたに話しておきたいことがある。」


13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/07(水) 22:05:31.15 ID:FS89wyry0

書店内に併設されたカフェで俺と長門は向き合っていた。

「涼宮ハルヒの力が不安定になっている。」

「それは古泉から聞いた。」

「なら話は早い。」

「どういうことだ?」

「涼宮ハルヒをコントロール出来るのはあなたしかいない。あなたが9年前の7月7日に涼宮ハルヒと接触してから彼女は力を持つようになった。」

「確かにそうかもしれないが…俺に何が出来るって言うんだ?」

「それはわからない。でも1つだけ言えることがある。」


14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/07(水) 22:10:00.80 ID:FS89wyry0

「一体何だ?」

「あなたと彼女が出会った場所に鍵があるのかもしれない。」

「俺とハルヒが出会った場所?」

「そう。織姫と彦星。」

しばらくの沈黙の後、俺は思い切って長門に問いを投げかけた。

「古泉はハルヒの力が無くなってしまうかもしれないと言っていたが…もしハルヒの力が無くなったらどうするんだ?」

「涼宮ハルヒを観察し、その情報を情報統合思念体に送る任務が終わる。」

「そうなったらお前はどうなる?」

「わからない。」

「そうか…。」

「わからない」という長門の言葉の意味を考えあぐねたまま、またしばらくの沈黙が訪れた。


15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/07(水) 22:13:07.40 ID:FS89wyry0

「結局10年も俺たちに付き合わせちまったな。」

「構わない。私は楽しかった。本もたくさん読めた。あなたに助けてもらった。」

「大したことじゃないさ。」

長門からこんな言葉が出るとは予想していなかったが、考えてみればハルヒや俺達と出会って一番成長したのは長門なのだ。
その事実に俺は改めて気が付いた。

すっかり氷の解けてしまったアイスコーヒーを飲み干し、時計に目をやってから俺は長門に聞いた。

「そろそろハルヒに会いに行かなくちゃいけないんだが、お前はまだここにいるのか?」

「ここにいる。村上春樹の新刊を探さないといけない。」

「そうか。じゃあまた学校でな。」

長門は小さく頷いた。


19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/07(水) 22:16:27.53 ID:FS89wyry0

ACTA西宮を出て、阪急西宮北口駅へ向かう。

幸い、阪急梅田行きの特急はすぐにホームに滑り込んできた。
夕方ではあるがまだ学生・サラリーマンの帰宅時間とはずれているために車内の乗客はまばらだった。
発車のベルがなり、ドアが閉まると夏特有の冷房の効いたけだるい空気が車内を満たし始めた。

梅田へと向かう車内で俺は考えていた。それはもちろんこれから会うハルヒのことだ。
就職活動を始める前は俺もハルヒなら持ち前の能力でどこか良い所に行けるだろうと思っていた。

しかし、世の中それほど甘いものではなかった。
古泉や長門には機関や情報統合思念体が後ろに控えている分それほど心配することはないし、今までやってきたことを考えれば彼らの望む道へ優遇して貰う権利は十分にある。
だが俺とハルヒは事情が違う。俺は全くの一般人だし、力を失いかけているハルヒは言わずもがなだ。

古泉と長門が話していたハルヒの力ことが思い返される。


21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/07(水) 22:18:43.38 ID:FS89wyry0

そんなことをぼんやり考えていると、突然俺の名を呼ぶ声が聞こえた。

「あれ?キョン君?」

「朝比奈さんじゃないですか。」

隣の車両からのドアを開けて現れたのは、俺達より先に卒業した朝比奈さんだった。


22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/07(水) 22:22:20.73 ID:FS89wyry0

朝比奈さんは俺の隣の座席に腰を下ろした。
朝比奈さんの容姿は朝比奈さん(小)から朝比奈さん(大)のようになり、大人の色気を振り撒き始めている。
だがそれは同時に、未来からやってきた朝比奈さんがハルヒとの日々をそれだけ長い間過ごしたということの証明にもなっていた。

「最近会えませんでしたけど、お変わりありませんか?」

「ええ。相変わらずですけど、なんとかやってます。」

「えっと…何というか…進路は決まりました?」

「いえ…俺もハルヒもまだ何も。」


23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/07(水) 22:25:25.04 ID:FS89wyry0

朝比奈さんは俺達より1年早く卒業し、鶴屋さんの家が経営する西宮市内の企業に就職した、ということになっていた。
それが毎週日曜日に開かれているSOS団の集まりに社会人の立場になっても参加することの出来る無理の無い設定だったからだ。

もっともここ最近はハルヒが忙しくなったためにその会合さえ開かれなかったから、朝比奈さんと会うのは久しぶりだった。

「涼宮さんの力の話はもう聞きましたか?」

「ええ、長門と古泉から。」

「そうですか…。」

「ハルヒの力が消えたら朝比奈さんは未来へ帰るんですか?」

「ええ、おそらくそうなると思います。まだ決まった訳ではありませんが。」

予想していた答えが返ってきた。車内のつり革だけが規則正しく揺れていた。


24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/07(水) 22:30:31.67 ID:FS89wyry0

「いろいろありましたけど、私は楽しかったです。いろんな服を着たり、いろんな所に行ったり。
涼宮さんの力が消えてもその思い出が消える訳じゃありません。」

朝比奈さんは更に言葉を続ける。

「今まで私はあなたを導く役割を担ってきました。
でもこれからはあなたがあなた自身、そして涼宮さんを導いていく番です。これまでの規定事項とは違う、まっさらな地図の上を。」

「…なんて、なんだか偉そうなこと言ってしまってごめんなさい。今まで散々迷惑かけてきちゃったのにごめんね。」

「いいや全然OKですよ。俺も楽しいこと一杯経験させてもらいましたから。」

「そう言って貰えると嬉しいです。」


25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/07(水) 22:34:15.17 ID:FS89wyry0

アナウンスが十三駅への到着、乗り換えの案内を始め、電車は混み合いはじめた十三駅へ入る。

その時俺の心を見透かしたように朝比奈さんは言った。

「これから涼宮さんに会うんでしょ?」

「そうです。」

「涼宮さんによろしくね。」

そう言うと朝比奈さんは開いたドアから十三駅の人混みに消えていった。

俺の意識とは裏腹に電車のドアは容赦なく閉まり、電車は混み始めた梅田駅へと進んでいったのだった。


26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/07(水) 22:39:12.51 ID:FS89wyry0

梅田駅はあらゆる年齢、あらゆる職業の人で溢れていた。

地下鉄へ続くエスカレーターの列は途切れることは無く、紀伊国屋は店の許容量を超えるような人でごったがえしている。

それはビッグマン前も例外ではなく、俺と同じように誰かを待っている人が大勢屯している。

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/07(水) 22:42:18.05 ID:FS89wyry0

俺が到着して数分後、ハルヒが現れた。
おそらくJRからの連絡通路を通ってきたのだろう。

梅田駅の階段を下りてくるリクルートスーツ姿のハルヒにはいろいろなものを掻き立てられる思いがしたが、
周囲に漂わせているいつも以上に不機嫌なオーラを前に俺はその言葉を胸の奥底にしまい込んだ。

これが高校時代なら特大の閉鎖空間が発生していたに違いない。

おそらく東京からの新幹線の車中でもこのオーラを周りに撒き散らしていたのだろう。
隣り合わせた客の心中を察せずにはいられないが、まあそもそもサラリーマンだらけのビジネス特急と化した東海道新幹線の客にそんなことを気にする奴はいないのかもしれない。

「待った?」

「いいや。俺も今来たとこだ。」

「よかった。じゃあ行くわよ。」


28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/07(水) 22:47:11.67 ID:FS89wyry0

梅田の飲み屋で、俺はハルヒの愚痴の聞き役に徹した。

通らない面接、出ない内定。
もうキャンパス内には早々と内定を貰い、残り少ない学生生活を謳歌する集団も存在する。

名の知れた大手企業が採用活動を終了し、その枠から零れ落ちた学生が他の中小企業へと選択肢を広げていく。
それが典型的な大手病を患ってしまった学生の顛末というやつだ。
7月において内定を1社も持っていないということは、世界を変える力を持っているはずのハルヒをも追い詰める強大な力を持っていた。

高校の時に飲まないと宣言していたはずのハルヒだったが、今は酒の力も借りて溜まりに溜まった愚痴を吐き続けている。
大学生になってほんの少しは飲めるようになったようだが、ジョッキのビールは半分ほどしか減っていない。
その姿を見るだけで、ハルヒが相当無理をしているのが見て取れた。

それと同時に、そんなハルヒに気がついてやれなかった自分の無神経さに嫌気がさす。
俺だって7月になってもまだ1件も内定を貰っていない。

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/07(水) 22:52:20.34 ID:FS89wyry0

SOS団団長のハルヒではあるが、学生時代のエピソードとしてサークルリーダー、
バイトリーダーが大増殖する新卒採用試験においてそれは何の役にも立たなかった。

あくまでもそれは自らの履歴書を補強する1つのエピソードに過ぎず、中身はそれほど重要視されないのだ。

真面目な奴ほど馬鹿を見る。

そんな現状に、ここ数ヶ月間、俺より遥かに酷いレベルで晒され続けているハルヒは更に毒づいていた。

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/07(水) 22:57:03.81 ID:FS89wyry0

「言葉では自分で考えて行動できて尚且つコミュニケーション能力のある人材を、

なんて言ってるけど、結局その会社のために文句言わず自分の全てを投げ出して働いてくれる奴隷を求めてるだけなの。

それに女なんて出産までの腰掛か男の社員の結婚相手候補の選考でしかないのよ。

タバコと酒とストレスにまみれていやらしい目付きをしながら人の足を引っ張る馬鹿しかいないわ。」

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/07(水) 23:02:02.60 ID:FS89wyry0

「人事が話してたのを偶然聞いたわ。

「あの涼宮みたいな気の強そうなのはいらんな。いろいろ問題を起こすだろうし、第一利口な女はいらない。扱い辛いだけだ。」だって。

もう最低よ。どの会社もこんなもんなのかしら。そりゃ会社の言い分もわからない訳ではないわ。

教育した奴がすぐ居なくなるのはその分損失だからね。

だけどいかにもノリだけでやってきたようなズルイ奴が勝ち残っていくなんてどう考えても不合理だわ。

そんな奴に限って何にも知らないの。底の浅いつまらない話を延々と繰り返してただから騒ぎするだけ。

そんなままで歳を取っていくなんてゾッとする。」

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/07(水) 23:07:04.76 ID:FS89wyry0

「40、50にもなったいいおっさんが一気コールなんて馬鹿げてる。もう大学出て何年経ってるのよ。

そんな醜態を晒しておいて二言目には「若い奴には常識がない」ですって。

常識が無いのはあんたたちよ。常識の欠片もない、これっぽっちも尊敬出来ない奴の話を聞くなんてまっぴら御免よ。

それがサラリーマンの常識ですって。じゃあなんなの常識って。

サービス残業に文句を言わず、上司が黒いものを白いと言ったらそれは白です、って答えること?これが常識だなんて笑わせるわ。

みんながおかしいと思っていることを常識の2文字で片付けるなんて思考停止以外の何物でも無い。

本当に最低よ。」

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/07(水) 23:12:05.79 ID:FS89wyry0

一般企業への就職活動を続けるハルヒだったが、
探究心が強く独創的で、尚且つ強気なハルヒの才能を見込んで大学院への道へ誘ってくれている教授がいるのは知っていた。

ハルヒもその道に興味を持っていた。だがハルヒは迷っていた。

この不景気の最中に大学院へ進むことは大きな賭けになる。
ストレートに修士課程、博士課程をパスし博士号を取り、大学の専任教員となるのがその道のセオリーなのだろうが、
文系の大学院においてその過程を通過することは容易なことではない。

もしそこで歯車が1つでも狂ってしまえば高学歴ワーキングプア状態へ即叩き落されてしまう。

そんなリスクを負ってでも夢を追いかけるのか、
それとも新卒という日本社会において大きなカードを持っているうちに就職し、とりあえずの安定を得るのか。

理想と現実の狭間でハルヒの心は揺れ動いていた。

高校の時にSOS団を結成し、気ままに動き回っていた頃とは訳が違う。

自らの人生を決めてしまいかねない大きな決断をハルヒは下せないでいた。

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/07(水) 23:17:04.39 ID:FS89wyry0

そんなハルヒとは裏腹に、就職活動戦線は容赦ないスピードで迫ってくるようになる。

就活サイトが活動を始め、大手各社のセミナーが活発になる11月、12月頃から戦いの幕は上がることになる。
少しでも早く望む学生を確保しようと各社はあらゆる手段で学生を集め、ふるいにかける。
リクルーターからの深夜の非通知電話などその最たるものだ。

自分がどんな人間であるかなんてまだわかるはずのない20そこそこの人間が自己分析をし、
それらしいエピソードを添えたエントリーシートを仕上げ、学歴フィルターやSPIテストを潜り抜け、
そこでようやく面接官と対峙出来るようになる。

その面接ですら数回繰り返され、基準に満たない人間は容赦なくふるい落とされていく。

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/07(水) 23:22:02.55 ID:FS89wyry0

こうして学生はようやく内定という社会への切符を手にする。

しかしそれはあくまでも社会の入口への切符なのだ。もし選択を間違えたと思ってもやり直しは効かない。
するにしても多大で困難な回り道を要求される。

しかも失われた20年と言われるこの経済情勢の中では間違った選択肢であるとわかっていても最初からその道に突っ込んで行かなければならない。
「そこしか内定が出なかった」という理由で、である。

どちらにせよ待っているのは茨の道なのだ。

就職活動に対する疑問、将来への不安、人生を決めかねない決断への葛藤。

その全てがハルヒの心理状態、行動に悪影響を及ぼしているのは決定的だった。


38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/07(水) 23:27:09.85 ID:FS89wyry0

グラスが何回も空き、追加注文を繰り返したテーブルの上の料理もあらかた片付いた時、妙な胸騒ぎがして俺はハルヒに聞いた。

「今何時だ?」

「12時過ぎ…ってもう終電無くなっちゃうじゃない!」

「やべえ。俺が会計しとくからお前は先に走れ!」

「いいの?」

「ああ。とにかく先に行け!」

俺とハルヒは慌てて会計を済ませ、梅田の夜の街へ飛び出した。


39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/07(水) 23:32:15.43 ID:FS89wyry0

閑散としたビッグマン前の広場を横目に、俺とハルヒは梅田駅の階段を駆け上がった。

もう甲陽園連絡の終電は行ってしまった後で、俺たちは辛うじて西宮北口行きの最終電車に飛び乗った。

こんなに走ったのはハルヒに会うために光陽園学園まで坂を駆け下りた時以来だ。

切れ切れになった息を整えている間に電車は十三から三宮方面へと進んでいく。


40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/07(水) 23:37:10.97 ID:FS89wyry0

「なんとか間に合ったな。」

「こんなに走ったの久しぶりだわ。ヒールってほんとに走りにくいんだからね。」

「でも今日中に帰れるからマシじゃないか。お前も疲れてるだろ?」

「それはそうだけど…あんたも気配りなんて出来るようになったのね。」

「ひどい言い様だな。俺だってもう4回生だぞ。それぐらい出来るさ。」

強めに効いたクーラーが大粒の汗を徐々に乾かしていった。


41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/07(水) 23:42:10.22 ID:FS89wyry0

武庫之荘を過ぎると車内には一気に静けさが訪れる。もう車内にはポツポツとしか人影が見えない。

終電の緩みきった雰囲気を保ったまま、電車は武庫川を越え、西宮北口駅に止まるために減速し始める。

西宮北口の駅前の風景も大きく様変わりした。

ここ何年かの間に南にあった野球場は今では映画館を併設した巨大なショッピングモールになり、周囲には背の高いタワーマンションが乱立するようになった。

以前は映画を見ようと思えば梅田か三宮に出るのが当たり前だったのに、ここ数年での変化の具合には長年この街に住んでいる俺でも驚いてしまうぐらいだった。


42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/07(水) 23:47:05.39 ID:FS89wyry0

全ての電車が行ってしまい閑散とした西宮北口駅の北西改札を出て、階段を下りる。

タクシー乗り場には帰宅を急ぐ長蛇の列が出来ていた。

深夜になってしまえばこの駅直結のタクシー乗り場にさえ待機しているタクシーはいなくなってしまう。

「今日ぐらいは歩こうぜ。タクシー代も勿体無いしな。」

金が勿体無いというありきたりな理由を付けてみたが、実際の所なんとなくこのままタクシーであっさりと帰りたくない気分だった。

あまりに荒れていたハルヒのことも気になっていたし、古泉、長門、朝比奈さんの言葉が脳裏に浮かんでいたからだった。


44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/07(水) 23:52:02.87 ID:FS89wyry0

いつも集合場所にしていた駅前公園はこの数年の間に一度撤去され、地下に駐輪場を備えた新しい公園へと生まれ変わった。

未だにこの公園と駅前の喫茶店を休日の活動拠点に据えている俺たちだったが、ここまで遅い時間にこの公園に来るのは久しぶりだった。

そんな駅前公園を抜け国道171号線へ突き当たり、ステーキレストランの横を抜け、長門の力でホームランを量産した野球場の前を通り、甲陽園方向へと歩く。

朝比奈さんを落とした池も、真夏に着ぐるみを着たスーパーも全部この道にある。

俺たちにしてみれば高校時代の思い出が全て詰まった場所だ。


45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/07(水) 23:57:07.30 ID:FS89wyry0

「この辺り通るといろいろ思い出すな。」

「何をよ?」

「高校の時のことだよ。お前のおかげでいろんなことに付き合わされて。」

「みくるちゃん池に落としちゃったり…ちょっとやりすぎたわね。」

「反省してるのか?」

「当たり前よ!もういい歳になったんだから。」

「でも思い返してみればあの無茶苦茶な頃が一番楽しかった気がするわ。」

「…」

「何にも考えなくてよかったあの頃がね。」

47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 00:02:03.68 ID:7MM/YROW0

お前の行動の裏で俺達はいろいろと考え走り回ってたんだぜ、と言いたい気もしたが、
あのハルヒからこのような言葉が出るように、ハルヒ自身もこの居心地のいい空間の終わりを意識しているのだろうということに気がついた。

就職や卒業以上に、このSOS団という空間が無くなってしまうことへの不安をハルヒも感じていたのだ。

大学生というモラトリアムを抜けて普通の大人になる。

この世の中がつまらないと言ってSOS団を作ったハルヒ本人が、つまらない、何もわかっていないはずの普通の人になる。

しかも、それまで築いてきたSOS団の関係も崩れてしまうかもしれない。

49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 00:07:03.24 ID:7MM/YROW0

卒業してもずっと友達、なんてことはよく言われるが、その関係をずっと維持するのは簡単なことではない。

今は週1回開かれているSOS団の会合だって、それぞれが離れ離れになってしまえばもうそんなペースで開くことは出来なくなってしまう。

そんな場所を無くしたくない、しかしそんなモラトリアムの期限は容赦なく迫ってきている、なのに先の進路を決めかねている。

普通の人にはなりたくない、だが普通の人にならなきゃならない、大切なことを諦めなければならない、いろんなことを諦めて、責任や義務、世間の常識を背負っていかなければならない。

その不安感が積もり積もった結果、ハルヒの力にまで影響を及ぼすことになったのだ。

(俺はいつまで傍観者のままなんだろうな)

一度はハルヒを巡る馬鹿騒ぎの当事者になる決意をした筈なのに、いつの間にかまた鈍感な傍観者側に回ろうとしている。

結局何にも成長してないのは俺じゃないか。


50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 00:12:03.20 ID:7MM/YROW0

次の言葉が見つからないまま、俺とハルヒは坂を上り、東中の前の通りに出る。

遠くに長門の住むマンションが見え、誰かが植えた向日葵が咲いているのが目に留まった。


「あなたと彼女が出会った場所。織姫と彦星。」


その瞬間、長門の言葉と共にこれまでの出来事が俺の中でフラッシュバックしたような気がした。


53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 00:17:03.35 ID:7MM/YROW0

ハルヒの力の行く末を決められるのはおそらく自分だ。

今日は7月7日。ハルヒと出会って丁度10年目。しかも今は東中の前。
おそらくチャンスはここしかない。

消失事件以来その言葉を今まで封印してきたが、ようやくその言葉をハルヒ本人に伝える時が来たのだ。
なんとなくではあるが俺はそう思った。

このハルヒだけが真実を知らないゲームを永遠に続けることは出来ない。そのゲームに一区切りを付け、ハルヒにその真実を伝えてやる。
それがハルヒの行動に対する最も根本的な当事者となってきた俺の役目なのだ。

脳裏に朝比奈さんの「涼宮さんを導くのはあなた」という言葉がまた甦る。

東中の校門は目の前に迫っていた。

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 00:22:04.86 ID:7MM/YROW0

「ハルヒ。」

覚悟を決めた俺は、ゆっくりとハルヒの方へ向き直った。

「覚えてるか?お前が東中の校庭に絵を書いたこと。」

「私はここにいるってな。」

「あの時のジョン・スミスは俺なんだ。」





57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 00:27:04.26 ID:7MM/YROW0

「わかってたわ。」

「もう7年も一緒にいるのに気がつかない訳ないじゃない。」

街灯に照らされたハルヒの姿が何故だか大人びて見えた気がした。



58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 00:32:03.35 ID:7MM/YROW0

「北高、話し方、それだけじゃない。私の宇宙人だ未来人だなんて夢みたいな話を聞いてくれたのはキョン、あんたが初めてだった。

あんたがあの日私の話を聞いてくれたから、私はSOS団を作ろうと思ったの。

でなきゃ、あんな中二病丸出しのことを今の今まで大真面目に実行出来る訳がないでしょ。」

それからの説明は早かった。この近所のファミレスで光陽園学院のハルヒにしたものとほぼ同じ内容だったが、
初見の者には絵空事にしか思えないこれまでの話をハルヒは驚くほどのスピードで理解していった。


60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 00:37:06.87 ID:7MM/YROW0

「しかしハルヒ…こんな話を信じるのか?高校の時のお前にこの話をした時は全く取り合って貰えなかったんだが。」

「今まで上手く事が運びすぎよ。少し疑問に思ってたこともあったけどやっとこれで辻褄が合ったわ。」

やれやれ。ならもっと早くネタばらししても良かったんじゃないか、とも思ったが、それでもタイミングはここしか有り得なかったのだろう。

10年、卒業、七夕。全ての区切りが揃うのが今この瞬間だったのだ。

古泉の機関も、長門の情報統合思念体も、朝比奈さんの未来人もそれを全て許容したからこそ俺にヒントを与えてくれたのだろう。


62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 00:42:03.13 ID:7MM/YROW0

だが、まだ事が終わった訳ではない。ハルヒに全てを明かしただけでは問題が解決したことにはならない。

朝比奈さんの言う通り、今まで道に迷った時にはあらゆる人に導いてもらっていた俺が、今度は道に迷ったハルヒを導いてやる時がやって来たのだ。

「なあハルヒ。」

「何よ?」

「お前がこの先どうするか悩んでいるのは知ってる。俺が偉そうに言える話じゃないが、俺はお前のやりたいようにやって欲しいと思ってる。」

「…。」


64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 00:47:02.88 ID:7MM/YROW0

「俺はお前が進みたい道を進むのが一番だと思ってるってことさ。

せっかくその道への切符が目の前にあるんだ。その道に飛び込んで、お前の夢を実現させてくれ。

それに、悩んでるお前をこれ以上見たくないんだ。」

「世の中はつまらない。なら面白いことを見つけよう。俺はお前にそう教えられたんだ。」



「…そうよね。言いだしっぺの私が一番弱気になってどうするのよ。このままじゃ団長失格だわ。」

聞き覚えのある、俺達に無茶な注文を繰り返していた頃のトーンのハルヒの声が辺りにこだました。


65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 00:52:02.80 ID:7MM/YROW0

「じゃあ行くぞ。」

「えっ?行く、って何処へ?」

「何処って、この中だよ。」

俺はそう言って校門に手を掛けた。

門をよじ登り、東中の中へ入る。体育倉庫の横にはまるで俺達の行動を予想したかのようにライン引きが置かれていた。

俺は苦笑いしつつ、ハルヒに声をかけた。

「もう1回書いてみるか?」


66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 00:57:03.10 ID:7MM/YROW0

「いくらなんでもさすがに捕まるわよ?」

「あの時お前に急かされてあれだけ騒いだってどうってことなかったんだ。大丈夫だよ。」

そして俺はライン引きに手をかける。

「それに今日はお前と初めて会った日だからな。今日でちょうど10年目だ。」

「もうとっくに日付変わってるわよ。」

そう言ってハルヒは笑った。久々に見たハルヒの笑顔だった。


67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 01:02:02.86 ID:7MM/YROW0

「私はここにいる」

東中の校庭にメッセージが広がる。

そしてその瞬間、再び大きな情報フレアが時空を揺さぶったのであった。




69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 01:07:02.14 ID:7MM/YROW0

東中を出た後、なんとなく帰るタイミングを逃した俺達だったが、
この際だから懐かしい場所を巡ろうというハルヒの提案に従って我が母校、北高へ向かうことにした。

卒業以降初めて歩いた北高への道は懐かしくもあったが、あまりの険しさに途中でへこたれそうになる。

よくこんな坂道を毎日登って登校していたものだ。雨の日に電気ストーブを抱えて往復したこともあった。

そんな芸当は今の俺じゃ確実に無理だ。

ハルヒに急かされるまま、やっとの思いで正門の前に着く。

この正門の前で長門の起こした時空震を見て、その後朝倉に刺された記憶も未だ鮮明に残っている。


70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 01:12:02.97 ID:7MM/YROW0

校舎に変化は見受けられないが、ここに来る途中の上り坂にあったコンビニは既に閉店し、
その代わりに坂の下にこの辺りじゃ珍しい広い駐車場を備えた新しいコンビニが出来ている。

それ以外は大きな変化はないように見えるが、月日は確実に思い出の風景を変化させていた。

いつの間にか夜は明け、東の空が白み始めていた。

昇った朝日が眼下に広がる西宮の町を照らす。


71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 01:17:02.06 ID:7MM/YROW0

「あの頃は何にも思わなかったが俺達綺麗なとこに通ってたんだな。」

「そうよね。その当事者になってる時には気がつかない。

その環境から別の所に移って初めて今までのことが大切だったってことに気がつくのよね。」

「その環境が変わっちまう前に気づけてよかったじゃないか。なかなか出来ることじゃないぜ。」

大学生活はまだ半年残っている。

いつぞやのように夏休みを繰り返す訳にはいかないが、その半年の間悔いを残さないよう目一杯楽しむことは出来る。

それに、その半年が過ぎた所で人生が終わる訳でもこれまでの関係が消える訳でもない。


73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 01:22:04.26 ID:7MM/YROW0

「それぞれが別の道に進むようになっても、今まで俺達がやってきたことは消えやしないさ。

それに、集まろうと思えばいつだって集まれると思うぜ。みんなお前のSOS団の団員だからな。」

「じゃああんたも早く決めなさいよ。私に偉そうなこと言えないじゃない。」

「そりゃごもっとも。俺もそろそろ本気出さないといけないな。」

そう言って俺は朝日に一瞬目を向け、ハルヒの方へ向き直った。

「まさかここで結婚してくれ!なんて言うんじゃないでしょうね?」

「どっかで聞いたような話だな。まあでも…俺は構わないぜ。」

「な、な、何言ってるのもう!」

みるみるハルヒの顔が赤くなる。




75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 01:27:03.80 ID:7MM/YROW0

紆余曲折の末、ハルヒは大学院へ進学した。

初めから薄々感づいてはいたが、ハルヒを許容出来る一般企業など端から存在しないのだ。

ハルヒが取った選択肢は至極妥当なものだった。研究にしても学会にしても、ハルヒなら十分やっていけるだろう。

ただ、大晦日に世界的映画監督と一緒に超常現象スペシャルに出るようにだけはなってほしくないが。



76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 01:32:02.14 ID:7MM/YROW0

長門によるとハルヒの力は無くなった訳ではなく、真の意味で安定したものに変化したらしい。
長門の言葉を借りるならば自律進化の一段階を完了した、ということになるようだ。

それに従ってハルヒの行動を監視・観察するという情報統合思念体、機関、未来人の目的は達成され、
ようやく俺達はそれぞれの思惑から解放された。

そんな中、古泉も長門もハルヒとの関係を断つことを選択せず、関西に留まることを選んだ。
彼らの任務からすればハルヒは監視対象ではなくなったのだからどこに行こうが問題なかったはずだが、彼らはそれをしなかった。
その理由はおそらく俺達と同じだ。

今となってはSOS団というのはハルヒが望んだ人材を集めた団体ではなく、居心地のいい、決して無くしたくない空間になっていたのだろう。

朝比奈さんだけは未来に戻っているが、それでもしばしば調査のために時間跳躍をすることがあるらしく、俺達の近くに来る時は必ず連絡をくれる。

以前のように毎日集まるようなことは出来ないが、繋がった関係は決して切れることはない。


77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 01:37:03.52 ID:7MM/YROW0

ハルヒの大学院進学が決まって程なくして、俺は地元のアパレル関係の企業からの内定を貰った。
しばらくは売り場での勤務になるようだ。

別にさほど興味があった訳ではないが、これからもハルヒの傍にいてやりたい、と思ったのが地元での就職を選んだ理由の1つであった。

何にせよ、ハルヒは俺を選び、俺はハルヒを選んだのだ。

その事実が消える訳ではないし、第一それを消したいなんて毛頭思っていない。

ひょっとしたら規定事項だったのかもしれないが、これが俺達が選んだ未来なのだ。


79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 01:42:03.44 ID:7MM/YROW0

俺はこれまでの出来事を書きとめておくことにした。

いずれは世に出るかもしれないが、誰も現実の話だと思う奴はいないだろう。

それぐらい奇想天外で面白い体験を俺たちはしてきたんだ。たまに思い返して懐かしい気持ちに浸るのも悪くは無い。

80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 01:47:03.01 ID:7MM/YROW0

今になって、長門や朝比奈さんが言っていた「そのうちあなたにもわかる時が来る」という言葉の意味がなんとなくではあるがわかる気がする。

決して昔に戻りたいという訳ではないが、俺達を形作ってきたこのSOS団は他では代用できない唯一無二のものであるのは事実だ。

いずれはSOS団の面々も、SOS団の形も変わっていくことになるだろう。

だが、俺達そのものが変わる訳ではない。

何年経とうがどこに行こうが何が起ころうがハルヒはSOS団の団長様であり、俺たちはその団員であることに変わりは無いのだから。



81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 01:48:08.23 ID:7MM/YROW0

涼宮ハルヒの『10年目の七夕』

-おわり-

82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 01:55:04.66 ID:7MM/YROW0

こんな稚拙な駄文にお付き合い頂きありがとうございました
消失を見て、ハルヒと耳をすませばのエッセンスと妄想を膨らませた結果がこれでした
いろいろと破綻した所もありますがご容赦下されば幸いです



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