佐々木「キョン! セパ交流戦がいよいよ開幕するよ!」


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1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/12(水) 18:00:22.48 ID:dQ0WJOCP0

 ――ピンポーン

 いつも通りのチャイムが通いなれたマンションに響いている。

 そして俺はいつも通り豪奢な佇まいを見せる長門のマンションの廊下に一人で突っ立っている。

 SOS団の集まりでここに来たのか? 答えはノーだ。

 では、長門に用事があってここを訪れたのか? それもノーである。

 そんな自問自答を吹き飛ばすようにして、その部屋の住人が俺を迎え入れてくれた。

「あら、いらっしゃい。意外と遅かったのね」

 長門の住む階層から二段下。

 外見は快活な女子高生にして、正体は猟奇的な宇宙人。

 俺に取っちゃ虎穴にも等しい魔窟へと、招待されたのだ。

 何のためにだって? そりゃ、野球観戦だとさ。

2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/12(水) 18:01:20.69 ID:dQ0WJOCP0

※このスッドレは『涼宮ハルヒの分裂』に登場した僕っ娘『佐々木さん』がファイターズを応援するスレでした。
※原作『涼宮ハルヒの分裂』までのネタバレがあるかもしれません。アニメだけしか観ていない人はご注意ください。
※話の流れは実際の試合展開に順じます。
  → CS「日テレG+」などで視聴可能です。

【主な登場人物】
 ・キョン:読売ジャイアンツファン
 ・朝倉涼子:埼玉西武ライオンズファン

 ・佐々木さん:北海道日本ハムファイターズファン

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/12(水) 18:06:43.61 ID:dQ0WJOCP0

一回表 巨0−0猫 チェンジ P:ゴンザレス
片岡 みのさん
栗山 一ゴ
中島 みのさん

「へぇ、先発はゴンザレスなのね」

「まあな」

「ずいぶん調子が悪かったみただけど大丈夫なの?」

「去年の勝ち頭なんだ。ちゃんと抑えてくれるだろ――ほらな?」

「あら、そうみたいね」

 こころなしか朝倉がむくれている。

 滅多なことはないと思うが、正直いい気分じゃないな……。

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/12(水) 18:10:00.44 ID:dQ0WJOCP0

一回裏 巨0−0猫 二死 P:岸
坂本 からさん
脇谷 二ゴ

「そっちの先発は岸か」

「ふふ、そうよ。一昨年の日本シリーズを思い出すわね」

 俺としてはあまり思い出したくない話だな。

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/12(水) 18:12:38.72 ID:dQ0WJOCP0

一回裏 巨0−0猫 チェンジ P:岸
小笠原 からさん

「岸も調子良さそうじゃないか」

「ここまで五連勝してるのよ。何より岸はナイトゲームに強いからね」

「そういや夜王とか呼ばれてるらしいな」

「そうみたいね。本人が気に入るか微妙な呼び方だけど……」

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/12(水) 18:16:24.91 ID:dQ0WJOCP0

二回表 巨0−0猫 一死一塁 P:ゴンザレス
中村 からさん
ブラウン 右安

「ゴンザレスだけど、本当に調子が良さそうね……」

「今日はスライダーの制球がいいみたいだな――っておい!」

「ふふ、ブラウンにヒットが出るなんて、意外と早く攻略できるかもしれないわね」

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/12(水) 18:19:40.07 ID:dQ0WJOCP0

二回表 巨0−0猫 チェンジ P:ゴンザレス
高山 三ゴ(ブラウン盗塁死)

「ちょ、ちょっと! ブラウンってば何やってるのよ!」

「単独スチールか、なんつーか助かったな」

「あら、そう……」

 なぜだろうか、チームは助かったのだが、今の発言で俺の身に危機が迫っているような気がしてならない。 

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/12(水) 18:22:23.55 ID:dQ0WJOCP0

二回裏 巨0−0猫 一死一塁 P:岸
ラミレス 捕邪飛
阿部 右安

「なんかさっきと同じような展開になってるな」

「そう、じゃあ阿部も走るのね」

 阿部を走らせたら、ある意味原を尊敬するぞ……。

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/12(水) 18:24:33.07 ID:dQ0WJOCP0

二回裏 巨0−0猫 一死一三塁 P:岸
由伸 右二

「なんで走らせないのよ……」

 アホか、エンドランかかってたら点が入ってた場面だぞ……。

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/12(水) 18:31:36.17 ID:dQ0WJOCP0

二回裏 巨1−0猫 チェンジ P:岸
李 右安タイムリー!
長野 三併殺

「もう、何なのよ……」

「スンヨプの粘り勝ちってところか」

「前進守備の間を抜けてっちゃったわね」

 なんというか、朝倉の凹んだ表情を見るのも久しぶりだな。

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/12(水) 18:39:06.60 ID:dQ0WJOCP0

三回表 巨1−0猫 チェンジ P:ゴンザレス
石井義 遊飛
細川 からさん
岸 みのさん

「……」

 ぐうの音も出ないような抑えられ方だな。

「……何?」

 朝倉、チームが負けてるからって俺に当たるな……。

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/12(水) 18:43:09.32 ID:dQ0WJOCP0

三回裏 巨1−0猫 無死一塁 P:岸
ゴンザレス 中安

「ピッチャーとは思えないスイングね」

「ゴンザレスはバッティングもいいぞ。マエケンと並んで強打のピッチャーだな」

「なにそれ、反則じゃない……」

 お前の存在の方がよっぽど反則だと思うんだが、それはツッコミ待ちなのか……?

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/12(水) 18:46:23.08 ID:dQ0WJOCP0

三回裏 巨1−0猫 一死一塁 P:岸
坂本 捕邪飛(バント失敗)

「おい! 何やってんだ坂本!」

「あら、残念だったわね」

 朝倉が涼しい顔で笑っている。

 朝倉、まさかと思うが何かしたんじゃないだろうな……?

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/12(水) 18:51:41.72 ID:dQ0WJOCP0

三回裏 巨1−0猫 チェンジ P:岸
脇谷 からさん
小笠原 一直

「ゴンザレスに打たれた時は驚いちゃったけど、ちゃんと抑えてくれたみたいね」

「そうだな」

「あれかしら、やっぱりバント失敗で勢いが削がれちゃったのかしらね?」

 ゴンザレス、頼む。朝倉を凹ますようなピッチングをしてくれ……。

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/12(水) 18:56:31.55 ID:dQ0WJOCP0

四回表 巨1−0猫 一死三塁 P:ゴンザレス
片岡 左二
栗山 一ゴ

「同点にするには絶好のシチュエーションね」

 ここで中島とオカワリくんかよ……。最悪じゃねえか……。

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/12(水) 19:03:44.32 ID:dQ0WJOCP0

四回表 巨1−1猫 チェンジ P:ゴンザレス
中島 右犠飛
中村 からさん

「ふふ、まあ最低限ってところかしら」

「あの状況じゃ、一点は仕方ねえだろ」

「首位攻防戦らしい、いい試合になってきたわね」

 お前の指すいい試合がどんなものかなんてわからんが、ここは同意しておいてやるよ。

 ……別に朝倉を怖がってるわけじゃないからな。

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/12(水) 19:13:00.65 ID:dQ0WJOCP0

四回裏 巨1−1猫 チェンジ P:岸
ラミレス 三ゴ
阿部 からさん
由伸 一ゴ

「岸もいいピッチングしてるみたいだな」

「あら、このくらい彼にしてみれば普通よ」

「さすが夜王ってところか」

「ねぇ、その言い方止めてくれないかしら、じゃないと――」

 朝倉すまん、俺が悪かった。だからそんな顔をしないでくれ。

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/12(水) 19:19:04.33 ID:dQ0WJOCP0

五回表 巨1−2猫 チェンジ P:ゴンザレス
ブラウン 右ホームラン!
高山 二ゴ
石井義 左安
細川 遊併殺

 おい、ちょっと待て……。

「あら、あれだけ不調だったのに、今日のブラウンはよく打つわね」

 なんというか雲行きが怪しくなってきたな……。

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/12(水) 19:26:58.33 ID:dQ0WJOCP0

五回裏 巨1−2猫 チェンジ P:岸
李 一ゴ
長野 二ゴ
ゴンザレス からさん

「どうしたの? そんなに難しい顔して。こんなにいい投手戦なんてなかなか見られないわよ?」

 そうだな。一つワガママを言わせてもらえるなら、リードしてる場面で見たかったよ。

「あら、あなたって意外と即物的なのね。もう少し余裕を持った方がいいんじゃない?」

 ああ、そうさせてもらうよ。

 宇宙人に諭されるとは思わなかったがな……。

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/12(水) 19:34:48.91 ID:dQ0WJOCP0

六回表 巨1−2猫 チェンジ P:ゴンザレス
岸 からさん
片岡 右飛
栗山 二ゴ

「ゴンザレスってもう少し隙のある投手だと思ってたのに」

 なんだよ、唐突だな。

「今年のコンザレスは調子悪いって聞いてたから、少し期待してたのよ」

「まぁ制球乱して崩れるって場面もあったがな、今日はかなり調子がいいみたいだぞ」

「そう、つまんないの」

 朝倉の面白い試合ってのはどんな試合なんだ?

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/12(水) 19:39:22.92 ID:dQ0WJOCP0

六回裏 巨1−2猫 チェンジ P:岸
坂本 二飛
脇谷 三ゴ
小笠原 からさん

「朝倉が面白いって感じるのはどんな試合なんだ?」

「そんなの決まってるじゃない」

 朝倉は嬉しそうに唇を歪めながら、

「一方的に相手を叩くワンサイドゲームよ」

 満面の笑みで答えて下さった……。

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/12(水) 19:47:08.13 ID:dQ0WJOCP0

七回表 巨1−3猫 チェンジ P:ゴンザレス
中島 右ホームラン!
中村 右飛
ブラウン 左飛
高山 からさん

「逆方向にあれだけ飛ばすのかよ……」

「ふふ、さすが中島ね。トリプルスリーも夢じゃないわ」

 やれやれ、そういやお前の応援してるチームはトリプルスリー達成者が多かったな。

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/12(水) 19:56:13.98 ID:dQ0WJOCP0

七回裏 巨1−3猫 チェンジ P:岸
ラミレス 遊ゴ
阿部 二ゴ
由伸 からさん

「ふふ、二回はどうなるかと思ったけど、岸は普段通りの投球をしてくれたわね」

「なんだ、岸は完投しないのか?」

「八回九回は、藤田太陽とシコースキーがいるのよ。これ以上投げさせる必要もないわ」

 シコースキーか、あいつはいろんなとこでがんばってるんだな。

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/12(水) 19:59:24.62 ID:dQ0WJOCP0

八回表 巨1−3猫 チェンジ P:ゴンザレス
石井義 中飛
細川 からさん
岸 みのさん

「なんだ、岸は続投なのか」

「わ、わたしだってまちがえることくらいあるわよ!」

 顔を真っ赤にする朝倉も意外とかわいいもんだな。

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/12(水) 20:04:34.16 ID:dQ0WJOCP0

八回裏 巨1−3猫 一死 P:岸
李 左飛(ブラウン好捕!)

「よっしゃ、ナイスだスンヨ――って、おい!」

「あら、今の良く捕ったわね……」

 味方に驚かれるくらいなんだから、よっぽどなんだろうな……。

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/12(水) 20:09:07.59 ID:dQ0WJOCP0

八回裏 巨1−3猫 チェンジ P:岸
長野 右邪飛
ゴンザレス → 谷 投ゴ

「反撃の糸口さえ掴めない感じだな……」

「こういう展開っていいわね。なんだかゾクゾクしちゃう」

 朝倉、お前が言うと猟奇殺人犯みたいだからやめろ……。

 ってそのまんまだったか。

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/12(水) 20:15:31.71 ID:dQ0WJOCP0

九回表 巨1−3猫 二死 P:福田
片岡 右飛
栗山 二飛
中島 中二

「中島の打率が四割超えってマジかよ……」

「怪我で離脱したけど、調子を維持してるみたいね。いいことだわ」

 こっちにしてみれば悪いニュースでしかないんだがな……。

43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/12(水) 20:18:50.13 ID:dQ0WJOCP0

九回表 巨1−3猫 チェンジ P:福田
中村 からさん

「中村は不発だったか」

「オカワリくんはいいのよ、やるべき時にやってくれるから」

「彼はね、塁が埋まってる時ほどホームランを狙って、相手の息の根を止めるのよ。ふふ、すごくいい四番打者でしょ?」

 そうだな、お前と気が合いそうだよ。

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/12(水) 20:28:14.20 ID:dQ0WJOCP0

九回裏 巨1−3猫 試合終了 P:岸
坂本 からさん
脇谷 からさん
小笠原 一ゴ

 ぐうの音も出ないとはこの事を指すんだろうな。

 二順目からパーフェクトに抑えられちまったんだ。

「首位決戦だけど、まずはこちらの勝ちね」

「そうみたいだな」

「なによ、もうちょっと褒めてくれてもいいんじゃない?」

 敵チームを褒められるほど、俺は人間ができちゃいないんだ。

 それに明日だってある。次に期待するとするさ。

 やれやれ、せめてこいつの鼻を明かして欲しいもんだね。

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/12(水) 20:39:34.29 ID:dQ0WJOCP0

お疲れ様でした!

久しぶりのスレ立てでしたが、覚えていてくださる方もおり、
とても勇気付けられました。ありがとうございます。

明日もまたスレ立てしようと思います。
よろしければお付き合いいただけますと幸いです。

最後になりましたが、ご支援ありがとうございました。

49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/12(水) 20:58:45.88 ID:dQ0WJOCP0

「ねえ」

「ねえってば」

「なんだよ」

「あなた、夕食は摂ったの?」

 朝倉に問われて気付いたが、そういやまだ食ってなかったな。

 これからチャリを飛ばしても、家に着くのは九時半を過ぎるだろう。

 ハルヒの恫喝にも等しい罰ゲームで近くのファミレスに寄れるような資金もない。まぁ我慢するしかないか。

 しかし、朝倉はそんな俺を見て、嬉しそうに顔を綻ばせていた。

「よかった。じゃあ少し待っててね」

50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/12(水) 21:02:00.02 ID:dQ0WJOCP0

 数分後、朝倉は美味そうな匂いを発している物体を運んできた。

 俺の視覚が正常ならば、これはロールキャベツという料理だろう。ご丁寧にも白米とサラダ付きだ。

「ねえ、食べてみてよ。これ自信作なんだから」

 ころころと鈴のように笑う朝倉に屈したわけではないのだが、芳醇な匂いに惹かれて自然と箸が伸びてしまった。

 武士は食わねど高楊枝なんて言葉があるみたいだが、この料理を前にして空腹を我慢できるほど俺は高潔じゃないんだよ。

 その様子に、朝倉は満足そうな笑みを浮かべながら、

「あら、あなたって意外と無用心なのね。それとも学習機能に問題でもあるのかしら?」

 なんだよ、お前は俺に絡むのが趣味なのか?

「そういうわけじゃないけど。あなたはこの料理に毒が入ってるとか思わなかったの?」

「あほか」

51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/12(水) 21:07:46.43 ID:dQ0WJOCP0

 口の役目を会話に費やすのが面倒になってきたので、返事とばかりにロールキャベツを嚥下してやった。

 朝倉が毒殺などという回りくどい手段をとるはずがない。

 俺を殺すことが目的ならば、台所から包丁を持ってくればいいだけの話ではないか。

 それにそんなことを企てていたら、このマンションの七階に住んでる奴が黙っちゃいないだろ?

 長門の不在が何よりの安全証明になってるんだよ。

「なによ、少しくらい驚いてくれてもいいじゃない」

 朝倉の不服そうな表情を眺めていたからというわけでもないのだろうが、宇宙人お手製のロールキャベツは美味かった。

53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/12(水) 21:12:08.24 ID:dQ0WJOCP0

 やれやれ、俺はいったい何をやってるんだろうね。

 かつての殺人未遂犯と食卓を囲んでいるのだから、危機管理能力がないという指摘も不承不承ながら同意してしまいたくなる。

 春先のあの騒動でこいつと三度目の邂逅を果たした今、『二度あることは三度ある』という格言にまで戦々恐々としてるってのに……

「あら? わたしがあなたを殺すはずないじゃない」

 ツッコミを入れるのも面倒になるようなボケだな。朝倉流のコズミックジョークか?

「あのなぁ……、俺の記憶が改竄されていなければ、お前は二度も俺を殺そうとしたんだぞ」

 からかい半分に殺そうとした数を含めれば(迷惑千万な話だが)、更に上積みせねばなるまい……。

「ああ、そのことね。でもそれはあなたが悪いのよ」

 朝倉は俺の指摘に動じた様子もなく、それどころか優美なカーブを描く唇を軽く歪めながら、

「だって、あなたは長門さんを傷つけたじゃない」

 と言い放った。

54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/12(水) 21:18:22.29 ID:dQ0WJOCP0

「……なぁ、朝倉」

「なぁに?」

「去年の五月、お前が俺を殺そうとしたことを覚えてるか?」

 長門を傷つけたから、という動機を朝倉は述べた。

 二度目について釈明するつもりはない。あの文芸部室で風もなく揺れていた入部届を、俺は一生忘れないだろう。

 だがな、俺がツッコミたいのはそこじゃない。

 あの時のお前は、夕焼けに染まる教室を情報閉鎖空間に仕立て上げ、俺を護ろうとした長門に瀕死の重傷を負わせたじゃないか。

 そんな奴がどうして『長門を傷つけたから』という大義名分を挙げられるんだ?

「わたしが有機生命体の死の概念を理解できないように、あなたたちもわたしたちの死というものが理解できないのね」

 朝倉は俺の疑問に回答するでもなく、出来の悪い生徒を前にした進路指導教官みたいな溜息を吐きやがった。

55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/12(水) 21:25:22.12 ID:dQ0WJOCP0

「あなた、情報生命体ってなんだと思う?」

「知らん」

 ハルヒや佐々木なら、人類を代表してお前の満足するような回答を導くかも知れんが、標準的な高校生には土台無理な話なんだよ。

「わたしたち情報生命体は、今の人類には観測できないけれど存在するの」

 そんな様子を見た朝倉は、バカな俺でも理解できるよう配慮してくれたのだろうか、噛んで含めるように説明して下さるご様子だ。

「あなたたち人間の言葉を借りるなら……、そうね、星間物質ではないのだけれど『ダークマター』みたいなものになるのかしら」

 ダークマターか、そういえば聞いたことがあるな。あれは確か……

 ――今から二年ほど前になるだろうか、放課後を迎えた二人きりの教室で、あいつの講釈に聞き入っていた場面を思い出す。

 曰く、天文学において光学観測できないが存在するもの、それらを総称して暗黒物質(ダークマター)と呼んでいるらしい。

『観測できないから暗黒と名付けるとは安直にも程があると思わないかい?』

 そう言ってくつくつと笑う姿が今でも鮮明に思い起こされる――

「……どうしたの?」朝倉が不安そうな……というよりは不審そうな視線を俺に投げかけていた。

「考え込んだと思ったら急にニヤニヤしちゃって……。あなたの情報処理能力が飽和して、自律機能が停止したのかと思っちゃったわ」

「すまん、そっち関係については明るくないんもんでな。もう少しわかりやすい表現をしてもらえると助かる」

 何かをごまかすように真面目ぶる自分が滑稽でならなった。

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/12(水) 21:32:23.65 ID:dQ0WJOCP0

「そうね、あなたの貧弱な知識でも理解しやすい表現をするなら『魂』に近いかもしれないわ」

 魂ね……。よりによってお前が言うのか。

 科学とオカルトは紙一重だと思うが、ここまで話が飛躍してしまうと、朝倉なりのボケであるようにも思えてくる。

「あの時――二度目のときもそうだけど、わたしは長門さんによって肉体を消滅されたわよね?」

 そうだな。お前が砂時計のように零れ落ちる様を、確かにこの目で見た。

「じゃあさ、そのわたしがどうしてまたここに居られるのかって、あなたは疑問に思わなかったの?」

 それは……、長門が何か特別な力を使ってお前を生き返らせたんじゃないのか?

「人間はさ、自分の理解できない事象を解釈する時、得てして未知の力を信じたがるものよね」

 なんだそりゃ、古代における宗教の存在意義について討論でもするつもりなのか?

「あなたたちとは大きく異なる形態をとっているけれど、わたしたちも生命体なの。死が訪れれば、生き返ることはできないわ」

 じゃあ何だ? あの時、粉々になったお前は死んでなかったとでも言うのかよ。

「そうよ、わたしたちの本体は『魂』そのものなの。だから、この肉体が失われたとしても死ぬわけじゃないのよ」

58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/12(水) 21:36:20.26 ID:dQ0WJOCP0

「だからわたしは、長門さんの有機インターフェースを破壊することで、彼女自身を助けようとしたの」

「朝倉、俺の記憶によれば、お前は長門のバックアップだったよな? なんでそんなことをする必要があったんだ」

 俺は、長門が朝倉に助けを求めるような弱い人間であるようには思えなかった。

 けれど、朝倉の回答はそんな甘っちょろい考えを吹き飛ばすには充分な衝撃を持っていたのだ。

「長門さんはね、苦しんでいたの」

59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/12(水) 21:42:56.66 ID:dQ0WJOCP0

「去年の五月、長門さんは苦しんでいたの」

 それは初耳だな。

「正確には、あなたに連れられて図書館へ行った日から」

「…………」

「その原因は特定できたけれど、わたしには長門さんの心理が理解できなかった。どうしてそんなことであの長門さんが思い悩むのか」

 朝倉はずっと溜め込んできた想いを吐露するように、言葉を紡ぎ出していた。

 仮に、俺が朝倉の長広舌を止めようとしても無駄だっただろう。それほどの意思が、朝倉の言葉には満ちていたのだ。

「あなたを殺せば大きな情報爆発の発生が予想されたわ。そうすれば涼宮ハルヒを観察するという任務も終わる」

「そして長門さんも、彼女が抱える悩みから開放されるはずだった」

 伏し目がちだった朝倉が、射るような視線を投げかける。

 去年の五月、あの改変された教室で見せた無機質な瞳とは、まるで違う光を放っていた。

60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/12(水) 21:46:16.47 ID:dQ0WJOCP0

「ただ情報爆発を誘発するだけなら、他にいくらでも方法はあったわ。例えば涼宮さんの目の前で情報改変能力を使うとかね」

「でも、わたしはあなたを殺すという方法を選択したの。……どうしてだと思う?」

 俺は何も答えることができなかった。

「わたしがあなたを殺そうとした最大の理由は、大規模な情報爆発を誘発するためだったけど、個人的にもう一つ大きな理由があったの」

「長門さんを苦しめるあなたが許せなかったから」

61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/12(水) 21:51:38.94 ID:dQ0WJOCP0

「……そうか」

 長い長い沈黙の経て、全脳細胞をフル活動させた結果、出てきた言葉がこれだ。我ながら情けない……。

「朝倉はずいぶんと長門に優しいんだな」

「長門さんはね、傷つきやすいの」

「だからわたしは、彼女を元の世界に帰したかった。仮初の肉体を破壊してね」

「肉体が破壊されれば、再び情報統合思念体の一部としてストレージされることになるの」

 だから、この有害な環境から長門さんを助けられると思ったんだけどね。

「他ならぬ長門さんに阻止されたのは、さすがにショックだったわ……」

 朝倉の言い分を要約すると、こうであるらしい。

62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/12(水) 21:55:41.70 ID:dQ0WJOCP0

 自らの分身とも言える長門が、任務の途上でトラブルに陥った。

 朝倉は長門を大いに心配し、長門のトラブルを解消するために奔走した。

 その甲斐あって原因は特定したものの、対処がわからない朝倉は強硬手段に出た。つまり原因の強制排除だ。

 しかし、それを阻止すべく張本人の長門がやってきた。朝倉は大いに動揺したが、次善の策として長門を元の世界へと戻そうとしたのだ。

 その結果が、朝倉の退場というのだから、なんというかこいつも不憫な命運を巡っていたのかもしれないな……。



 黙考する俺をどう思ったのか、朝倉はポツリポツリと言葉を紡ぎだした。

「やっぱりわたしには理解できないもの。あれほど苦しい思いをして傍に居ようとする気持ちが」

 訥々と語る朝倉は寂しそうに目を伏せている。

 誰の傍に、とは聞けなかった。

63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/12(水) 22:03:13.89 ID:dQ0WJOCP0

「ねぇ、明日はどうするの?」

 すっかり冷めてしまったロールキャベツを平らげた頃、朝倉から声がかかった。

 『明日』というのは、交流戦の第二戦を指しているのだろう。

 生命の危機に晒される――というよりは、長門の手を煩わせることがないと判明した今、断る理由もない。

 ただ、ここで素直に『はい、行きます』と答えてしまうのも、なんだか朝倉にビビっていたことを白状するようで格好がつかないよな。

 なにか妙案はないだろうか……

「そうだな」

「明日はシチューがいい。うん、エビとかホタテが入ってるシーフードシチューだ」

 一瞬呆れたような顔をした朝倉だったが、

「なによそれ、カレシ面でもしてるつもり?」

 頬を膨らませ、咎めるような視線を送ってきた。

 ごく普通の高校生がやったにしては、高性能の宇宙的暗黒物質生命体を相手に効果があったと認めていいだろう。



 この程度の冗談が、こいつの慰みになればそれでいい。

 常識外れだが、友達思いの宇宙人に――
                                       <つづく>



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