長門有希の酩酊


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1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/06(土) 22:56:42.02 ID:I8+kgYus0

長門有希の酩酊



怒濤のような俺の高校一年も、もう終わりに近付いてきたある日のことだ。

午後の授業の終わりを知らせるチャイムと同時に、さながら会社員が辛い労働から開放された後のような一抹の開放感と疲労を同時に感じながら、
俺は大きく伸びをした。思わず口からは間抜けな声が出る。

キョン「ふああああああああぁぃっと…」

国木田「キョン、寝息が大きくてハラハラしたよ」
童顔の級友が立ち上がってこちらを振り返りながら笑う。

キョン「ん? ああすまんすまん」

朝倉「ふふっ、今日は涼宮さん、起こしてくれなかったのね」

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/06(土) 23:02:10.27 ID:I8+kgYus0

キョン「あー、いつもなら蹴ったりシャーペン攻撃で…」
そう言って俺はいつものようにカバンに道具を押しこみながら、後ろの席を
振り返った。

キョン「んー? ハルヒの奴、いつの間に出てったんだ?」

朝倉「さあ…。あの人の行動は本当、予想がつかないから」
そう言って、我がクラスの委員長殿はにっこりと微笑んだ。

ああ、朝倉涼子はもちろん、俺を二度も刺殺せんとした殺人鬼であり、特に二度目は死にかけたわけで。


5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/06(土) 23:05:45.95 ID:I8+kgYus0

俺としては一ヶ月ほど前に再びカナダから戻ってきたと突然知らされた時は、驚愕のあまり椅子から転げ落ちるという失態をやらかしたさ。

まあ俺がそういう過剰なボディアクションをしても、「あの涼宮ハルヒ率いるSOS団の一員であるから」というただそれだけの理由で、クラスでだぁーれも不思議には思わなくなったのは有り難かったがな。

俺にとって朝倉という存在は、そりゃああいつの眉毛を見ただけで震えが来るほどだった。

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/06(土) 23:10:22.48 ID:I8+kgYus0

ああそうだ、いわゆるトラウマってやつかも知れないな。

しかし、あいつが戻ってきた後すぐ、長門のマンションに呼ばれた時、あいつは「ごめんねキョン君」と何度も謝ってくれた。

涙を浮かべながら手を合わせるあいつの顔を見てるうち、何だか俺の方が悪い事でもしてるような気になっちまった。

それからお詫びのしるしと言って朝倉が作ったおでんを食べた。

あの時、俺を本気で殺そうとナイフを脇腹へねじ込んだ世界…の時…もおでん食ったな。

いそいそとエプロンをして、長門の母親のように支度をするあいつを見ていると、不思議な感覚に襲われたものだ。


9 名前:7取り消してくだせえ・・・[sage] 投稿日:2010/03/06(土) 23:19:49.17 ID:I8+kgYus0

それでもグツグツと煮えるおでんのいい匂い、もちろんとびきりうまいダシの味、長門の食欲、食卓に響く団欒の声…。

そんなものに包まれているうち、俺は朝倉の笑顔に何となくこいつはもう、悪いやつじゃないんだな、なーんて思うようになっていたんだから、俺ってけっこう寛容な人間なのかも知れん。

そして食後の片付けが終わったあと、あいつは俺に向き直って、こう言った。
朝倉「本当にごめんなさいね、キョン君。あなたを殺そうとしたわたしは今のわたしではないの」

朝倉がそこまで言うと、長門があとを続けた。

長門「…朝倉涼子はいったん情報統合思念体に…解りやすく言えば『再吸収』されることによって有機情報連結を解除、すなわち空間より存在を消された。しかしわたしのバックアップとサポートの空白を放置しておくことは、得策でないと判断された」

まあ、要するに解りやすく言えば、急進派が俺を殺すことでハルヒが起こすであろう「何か」を観測しようとした暴挙…つまりその意を受けた朝倉の行動は長門のお陰で失敗したわけで、その後提案は引っ込めたらしい。
そして長門のサポートのために、主流派が構成情報を新たに作り直して、朝倉涼子のかたちにして配置した、ってことらしい。

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/06(土) 23:24:42.43 ID:I8+kgYus0

キョン「まあ命の危険がないのは有り難いが…。おまえの記憶はどうなってるんだ?」

朝倉「全て保持しているわ…。だってデータ量的にはほんのちょっぴりだもの、だからこうして謝ってるんじゃない…」

朝倉はそう言って済まなそうに、しかしちょっとだけ微笑んだ。

朝倉「ただ、あたしは長門さんのサポート・バックアップとしての行動しか許されないようにロックがかかってるの。長門さんを守る以外には情報操作も使えないの。だから安心して、改めて…よろしくね、キョン君」

俺はやれやれ、そう思いながら朝倉の差し出した右手を握り返したのさ。


13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/06(土) 23:29:48.56 ID:I8+kgYus0

長門によれば、自分の世話とバックアップを埋めるインターフェイスの派遣にあたり、長門が「朝倉涼子」というかたちでの着任を強く希望したという。

俺がその理由を問うと、長門はポツリと「うまく言語化できない」とだけ、言った。
だからそれ以上、俺も聞かなかった。

ちなみに朝倉の転校・再編入に至る諸々は、例によって「情報操作」ってやつを施したのは、言うまでもあるまい。

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/06(土) 23:34:14.47 ID:I8+kgYus0

――――

さて、まあ団長様がすでに居られないということは、先に部室へ向かったという推理が大きく成り立つかも知れないが、その場合は俺に何らかの声をかけるか、ネクタイを引っ張り先導するであろう。
それもなく居なくなったということは、何か天の啓示を受けてどこかへ走り去った、ということがオッズの高い回答だ。

とにかく俺はどっちにしても先に部室へ向かい、我らがSOS団の団長様の到着を黙って待ってなきゃいかん、というわけだな。

そんなことを考えながら国木田や谷口と声を交わしたあと、俺はカバンをかつぎ、部室棟へ向かう。

部室棟は老朽化しているため、階段を上がって部室のドアに手をかける頃には割合体がひんやりとしてくる。夏はあれだけ暑いってのに、やれやれ。

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/06(土) 23:40:12.11 ID:I8+kgYus0

コンコン――

応答がない。

ドアを開けて中に入ると、そこには窓際の椅子に行儀良ぉーく腰掛けた一体の美しい人形…ではなくて美少女が顔を上げ、静かに俺に目線を合わせた。

キョン「…よう長門。いつも早いな」

長門「……」

長門は俺の声に反応しこちらを向いたまま、1ミクロンだけ頭を傾けた。
俺以外にはそうだな、世話役として面倒を見ている朝倉涼子くらいだろう、こいつの表情を読み取れるのは。

俺はカバンをいつものテーブルの上へ置いて、頬杖をついて何気なく長門を見る。
長門は視線を膝上に開いた本に戻し、静かに読書を続けている。


16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/06(土) 23:46:19.50 ID:I8+kgYus0

部室の窓からはやわらかい、早春というにはやや早い時期特有の陽射しが射していて、長門の左側面を輝かせていた。

ふと、ダイヤモンドダスト…という単語が脳内の記憶領域から再生される。

目からの情報が脳細胞を刺激して、ええと…早い話がランダムに保存されている単語や映像、音楽を勝手に再生しちまうらしいが、俺にはよく解らない。

ただ、こいつを見ていると、何だかとてもはかなくて、消えちまいそうな不安と、であるがゆえに大切にしたい…なんておかしな気持ちがこみ上げてくるんだよ。

触れたい、でもこの手で触れたら、消えちまう…というような。


17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/06(土) 23:51:46.11 ID:I8+kgYus0

校庭の方からはかすかにどこかの部活の声だろう、女の子の元気のいいかけ声が聞こえてくる。そしてこの部屋の中では、長門が一定間隔で本のページをめくる音しかしない。

放課後の部室に男女たった二人で居るってのに、まあ何にも会話がないっていうこの状況はだな、普通は気まずい雰囲気って表現される空間だ。

でも俺たちの場合は、いや長門はどう思っているのか解らないが、とてもこの時間が心地良いものに感じられるんだ。

――俺が、長門を、見ている。ただそれだけで。

長門「……あなたは」

突然長門が口を開いた。

キョン「……ん?」

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/06(土) 23:56:34.12 ID:I8+kgYus0

長門「先ほどからずっと私を見ている。なぜ」

長門は本の内容を目で追ったまま、静かにそう言った。
とがめる口調ではないことは、もう解っているから、俺は表情を変えずに答える。

キョン「ん、いやあ、特に意味はないんだ。…気に障ったか? すまん」

長門「…不快だから聞いたのではない」

長門は本から顔を上げて、俺をじっと見ながら言った。

長門「…私を長く見ていた、その理由が何か、知りたい」

…って長門さん、そう改まって言われてもね…。

(ああ、日があたったところがキラキラして、色白の長門の肌がまるで
溶けているように輝いているなあ)
と思って目を奪われていたとか、

(「ハルヒや朝比奈さんのような健康美もいいが長門の強く抱きしめたら壊れてしまいそうな繊細な美しさも…)
っておい! そんなことをまさか言えるわけがねえ。

キョン「えーと、特に…意味はないん、だ。ごめんな」

長門「……そう」


19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/07(日) 00:01:47.17 ID:I8+kgYus0

長門「別にいい。理由が聞きたかっただけ」ペラッ

長門はそう言うとまた本に視線を落とした。

その表情は…長門表情読み取り検定名誉八段の俺が見ても…

落…胆?

何だ、ちょっとがっかりしているように見えたが、これは俺の気のせいか。

それとも、いつぞやの長門のマンションで、朝倉にあのとびきりの笑顔で言われた
「…キョン君にはもう、名誉八段をあげるわ」
なんて言葉にすっかり慢心しちまって、眼力が落ちちまったのか、いやそうだそうに違いない。

それにしても古泉の野郎も、朝比奈さんも、それよりハルヒのやつもなぜ来ない?

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/07(日) 00:07:41.01 ID:HFZsQ8lo0

…ハルヒはあの通りの奴だ、何か面白いことを見つけて捲土重来猪突猛進的にどっかへ突っ走っちまった、なんてことはよくある話だ。

朝比奈さんは…3年に進級するにあたって、進路指導だのナントカ模試だのとあれこれ用事があるようで、遅れたり休んだりすることも仕方のないことだ。
いやしかし古泉、お前はどうなんだ、いくら特進コースのエリート学級とはいえいくら何でももう掃除くらい終えているだろう。

…でも、長門とこうして何もせずに同じ空間で過ごす…
何だか一番、落ち着くといえば落ち着くのも事実なんですなあ…。

長門が本を読んでいる姿をいつまでも見ていたかったのだが、さっきあんなことを言われてしまった後では、さすがに遠慮してしまう。

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/07(日) 00:12:49.07 ID:HFZsQ8lo0

俺は部室の長テーブルに突っ伏して入口のドアの方へ顔を向けた。

朝比奈さんのお茶、飲みてえな。
さっき寝たばっかりだから眠くもないんだが…こんなに落ち着いた空間に置かれると…眠くなっちまうのが悲しい性ってやつだ。

そんな他愛もない思索に貴重な脳細胞のエネルギーを消費しつつ、俺は再びテーブルに伏せた顔を窓側に向けると…

長門「……」

長門が俺の横に立っていた。


24 名前:一人でも支援が居れば続ける![sage] 投稿日:2010/03/07(日) 00:17:18.34 ID:HFZsQ8lo0

キョン「おぉっびっくりしたぁ! ど、どうした長門?」

長門「座ってもいい」

キョン「あ? もちろんいいぞ。ほら」

俺は隣のパイプ椅子を引き出し、長門に方へ押す。

長門は黙ってそこへちょこんと腰掛け、俺と並ぶかたちでテーブルの方を向いている。
それからおもむろに俺の方を向いてこう言った。

長門「…あなたに聞きたいことがある」

キョン「あ? …なんだい改まって。俺より遥かに物知りのお前に聞かれて
俺が答えられることなんか限られてはいるが」

長門「生み出された時、情報統合思念体…人間にとってはわたしの親とも言うべき存在によって、この世界で暮らすために必要な情報はほぼ与えられてきた」


27 名前:長門と時間をできるだけ共有しましょう[sage] 投稿日:2010/03/07(日) 00:23:13.75 ID:HFZsQ8lo0

長門は普段しゃべらないだけに、一度話し出すと堰を切ったようだな。こいつなりにいつも内側で何かを考え、そうしてまた一人で、溜めているんだろうか。

長門「情報…データ…記憶、あなたにわたしにとってのそれらを的確に伝えるのは困難」

キョン「そう、だよな。それを『うまく言語化できない』って言ってたことがあった」

長門「そう。…わたしが生み出された時にすでに与えられていた情報というのは、あくまでデータであって、わたしは行動のたびに、それらを組み合わせて最も適切と思われる言動をとった」

キョン「…そう…なのか」

長門「…そう。こちらから何かをする場合はあまり齟齬は発生しない。けれど他者から意見を求められたり、逆にこちらの見解、説明、理解を求める行動をとる場合は、言語化の技術が必要」

キョン「ああ、ええと、すまん。何だっけ…『齟齬が生じる』? ってやつな」

長門「言語でさえそう。しかもその上、有機生命た…人間が他者とコミュニケーションを取る場合、表情や身体的行動その他の補足がとても重要」

キョン「…だなあ」


29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/07(日) 00:26:52.11 ID:HFZsQ8lo0

長門は再び視線を本棚の方へ戻す。
相変わらず一分の隙もない綺麗な座り姿ですことよ。

長門「わたしの場合、そういったコミュニケーション能力において、若干の経験と実践不足がある」

キョン「若干の…?」

長門「………若干、ではないかも知れない」

キョン「いや、ははは、あんまり気にしなくても…」

長門「いい。わたしはそれを自覚している」

キョン「……」

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/07(日) 00:31:27.99 ID:HFZsQ8lo0

長門「情報統合思念体から生み出された時に与えられた情報は全地球上の歴史、地理から高度な医学、数学、物理学の分野まで多岐に及んだ。けれど」

長門はそこで言葉をいったん切り、再び俺の方に顔を向けて言った。

長門「人間の感情や思索…それら
『ゆらぎ』
の大きなものが含まれる情報…については優先順位が下げられていた」

キョン「どういう意味だ?」

長門「つまり文学に代表される表現、それから宗教、死生観から超常現象と呼ばれるものまで、エビデンスのないものなどの不確定要素全般…」

キョン「ああ、だからお前はそれを読書で補完しているってわけか…」

今さらながら俺は我が意を得た思いで言った。

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/07(日) 00:37:18.12 ID:HFZsQ8lo0

長門「…そう。全てが情報として新しいもので、特に人間の『感情』の振幅を学ぶにはとても有意義なこと」

キョン「うん、わかるぞ。俺もラノベくらいしか読まんが、それなりに感動して泣いたり笑ったりするからな」
うう、喩えが我ながら貧弱だなー! くそう。

長門「…わたしは一年間あなたたちと日常生活の行動を共にする過程で、そうした新しい情報の蓄積、分析、解析によって最も的確な行動を瞬時に選択し実践することだけで、対人コミュニケーションが充分なのではないと考えるに至った」

キョン「無表情で用件だけ言えばいいってことじゃない…って?」

長門「そう」


33 名前:俺も全力で長門を支援する[] 投稿日:2010/03/07(日) 00:44:36.39 ID:HFZsQ8lo0

…ていうか長門さん、それ自覚していながら、今のあなたがまさしくそういう無表情…ていうかそんな態度だぞ。

キョン「ん、まあ長門はそれでこそ長門という気もするんだ…が」
俺は左の腕で頬杖をつく形で、体を長門の方へ向けて言った。

キョン「長門がもっと人間らしくなるのは、俺も賛成だ」

長門「…人間らしい」

キョン「そうだ。朝倉式長門表情読み取り検定・名誉八段の俺としては」

長門「それは何」

キョン「いやっ、それはこっちの話だ。…お前のクラスのみんなからも何だか近寄りがたい的に思われているらしいしな、それはマイナスだと思う」

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/07(日) 00:50:59.94 ID:HFZsQ8lo0

俺としてはそうは言いつつも、長門の繊細な感情の変化を、せっかく一年かけて読み取れるようになったわけで、ちょっとした優越感というやつがあったのさ。

それが他の人間にも容易に伝わるようになっちゃあ少々悔しい気もするが、それでも長門のことを考えれば、そっちの方がいいに決まってるだろう。

長門は改まって、頭だけではなく体も少し俺の方へ向けて言った。

長門「それであなたに聞きたいことというのは」

キョン「ああ、そうだったな。何だ?」

長門「私に対して好意を持っているかどうか」

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/07(日) 00:54:55.61 ID:HFZsQ8lo0

キョン「…ああ、そん……ええっ!?」

長門さん、お前は何を言っているんだ。

突然真顔で、真顔も何もいつもの無表情のまま、その整ったという表現では余りにも言葉の足りない、けれども愛らしいとしか言いようのない両の瞳に俺を写して。

長門「あなたは先ほど、読書をしている私を凝視していた。その時のあなたの表情はとてもリラックスしており、快適だと思われた」

キョン「あ、ああ。その通りだよ嘘じゃない」

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/07(日) 00:58:58.01 ID:HFZsQ8lo0

長門「色々な文学や随筆などの創作物から得た情報によれば、あなたの年齢の男子はこうした状況下で好意を寄せる異性を凝視することは 余りないはず」

キョン「むっ…確かに、まあ目が合ったら恥ずかしかったり…チラ見はするかも知れんが無遠慮に見つめたり…はしないか、な、は、ははは」

長門「ということはつまりあなたは私に何ら関心を持っていない、部室の備品と同室のものだと考え、無配慮に視線を送り続けたということになる」

ああ、長門さん違う、違うんですよ。

ていうか…ん、長門…怒っている…のか?

長門は俺にそう告げると、視線だけを逸らし本棚をじっと見ている。

おそらく漫画なら「プイッ」という擬音が描かれだな、どこぞで見かけるSSとやらならば、さしずめ「////」なんて風に顔を赤らめるサインが添えられたり、何より長門自身が口を膨らませて拗ねたりしていればこれほど解りやすいことはないのだ…が。


39 名前:しばらくにやにやしましょうね[] 投稿日:2010/03/07(日) 01:03:29.73 ID:HFZsQ8lo0

キョン「えーと悪い、長門。済まん、そういうことじゃなくて…だな」

長門「ではどういうことか説明して欲しい」
長門は俺の目を見ずにそう言った。

キョン「お前のことを…遠慮なしにじっと見ていたってのはだな、つまり俺がお前のことを好きだからで…」
って俺何か言っちゃった今? …いや好きといってもつまりはその

長門「あなたがわたしを好きだと今」
長門はゆっくりこちらへ顔を向けた。長門表情読み取り試験中かよオイ。

ん…長門さん、ちょっと…よろこんでいますか?

キョン「俺が今おまえのことを好きだ、と言った。それは本当さ。ていうか、お前と俺が同じ空間に居る。話をするわけでもなく、ただ静かに過ごしている。お前は…静かに本を読んでいて、俺は黙ってその姿を見てる、ただそれだけで…何というか…幸福だ、って思った」


41 名前:////いい。わたしも好き。[] 投稿日:2010/03/07(日) 01:08:18.28 ID:HFZsQ8lo0

長門「それが幸福…」

キョン「幸福、幸せって概念? は人によってさまざまだし、一つじゃない。
他にもあるぞ、学校帰って妹にちょっかい出されて、メシ食って風呂入るだろ、その時にお湯をすくって顔にかけて『あぁ〜!』ってな、そんな時も『俺は幸福だ』って思うんだ」

長門「……わたしはもっと、そういう概念を知りたい。感情というものを理解したい」

長門は少し目を伏せて、そう言った。
心なしか寂しげに見える。


43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/07(日) 01:13:26.56 ID:HFZsQ8lo0

長門「けれど何が必要なのかは理解できた気がする。…感謝する」

そう言って改めて俺に向き直った長門は、一瞬間を置いてつぶやいた。

長門「こういう時、どうすればいいか解らない」

キョン「ん…。笑えばいいと思う、って何かのアニメで言ってたぞ」

長門「そう…。ありがとう」


それはほんの少しの変化だった。

けれど間違いなく、長門が無理につくった、ぎこちないけれど
俺にとっては、  最高の笑顔だった。

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/07(日) 01:19:54.66 ID:HFZsQ8lo0

そうして、長門はぽつりぽつりと話を始めた。

さっきまでの、効率だけを考えた説明的な口調より、いくぶん柔らかくなったのは気のせいではない、かな。

長門が俺に見せた、笑顔というには余りに小さな表情の変化で、俺は去年のクリスマスの事件、ああそうだ、また、長門がハルヒの力を使って世界を改変しちまったことを思い出した。

もちろん、あの世界の長門も素晴らしく可愛かったわけだが、俺はやっぱり「本当の長門有希」とSOS団がいる世界に戻ることを選択し、今に至る。

長門はあれ以来、ごく当たり前のように再び無表情のまま、必要最低限の言葉しか話さず、それも極めて論理明快な説明口調を崩さないでいた。

けれどあの一件…それを俺たちはいつからか「消失」と呼ぶようになった…は少なからず、現在の長門の心境に何らかの影響を及ぼしている、と思う。

47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/07(日) 01:26:05.03 ID:HFZsQ8lo0

あの一件のあと、長門の家で朝倉が謝罪してくれた時。

朝倉によると、長門が日常を人間と同様に暮らし、俺たちと接している間に、あいつには少しずつ、確実に「感情」が生まれていった。

そうして澱が溜まるように蓄積された感情…を、長門は「不必要なもの」「エラー」と認識し、溜め込んでフタをし続けた。

しかしエラーと呼び消去するには、あまりに大きくなりすぎたそれら…「感情の萌芽」は、やがてあいつを暴発させた。

それが「消失」だったというわけで、もちろんその理屈は俺もよく理解している。

それが親玉の言う「自律進化の可能性」とやらに則してるとかどうかはともかくとして。


49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/07(日) 01:31:04.84 ID:HFZsQ8lo0

「消失」世界の長門はとても人間らしく、ごく普通の可愛らしい少女だった。
ああ、長門の用意した脱出プログラムを使うことが正直、ためらわれたほどにな。

しかし「今の長門」はというと、もちろん「元の長門」であるからして、俺の表情読み取り能力をフル活用せねば解らぬほど、無表情に戻っている。

一時は、むしろ「消失」事件前よりももっと…そうだな、無表情になってしまったようにさえ思えた。

けれど長門は自分が人間らしい「感情」「気持ちのゆらぎ」を持つこと、喜怒哀楽その他の普通の感覚、感性を持つことが「この世界において好ましいこと」だと思ったという。

長門「わたしは…感情というものをもっと知りたい。出来れば表現方法も」


51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/07(日) 01:36:57.84 ID:HFZsQ8lo0

キョン「…そういうものは普通、成長していく過程で…自然に身につくものなんだよ。でもおまえの場合は効率的ではないと切って捨てていたんだからなあ―――」

長門「自然に得られるもの」

キョン「あ、とりあえず疑問の場合は、言い方を変えようか?」

長門「…言い方」

キョン「そう、それそれ! そういう場合は『言い方?』って。言ってみ?」

長門「言い方?」

おお〜! 長門さん、いいじゃないか、やればできる子だなおまえは。何だか俺は凄く、嬉しいぞ。

52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/07(日) 01:47:58.32 ID:HFZsQ8lo0

キョン「そうだそうだ、昨今疑問形じゃないのに過剰な語尾上げもあるから、ややこしいかも知れないが…とりあえず人にものを尋ねる時は、フラットに言い捨てちゃダメだぞ?」

長門「了解した」

キョン「…おっと、それもやめようか…。親しい間では『うん』でいいぞ」

長門「……うん」

ああ、いいじゃないか長門〜。
何だか小さい子に教育する親みたいな気持ちになってきたぜ。

キョン「なんだか新鮮でいいなあ。長門が『うん』って。いいなあ…」

長門「なぜあなたはそんなに喜んで…喜んでるの?」

53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/07(日) 01:54:14.04 ID:HFZsQ8lo0

キョン「…ていうか、今のでいいんだよ長門!」

俺は思わずパイプ椅子の向きを座ったまま、長門の方へガタガタと向けた。

キョン「抑揚ってのは同年代の子らの話し方を参考にしたらどうだ?」

ああ、そう言えばこいつの部屋にはテレビも無かったな。
接する人間は限られているし、まるで、まさに本に書かれた文章をただ、抑揚なく読み上げるだけのような受け答え…。

長門「でも言葉遣いは難しい。わたしが他の同年代の女子生徒の口ぶりを真似ても、それはわたしの個性にはならないと思う」

キョン「…あっ……」

俺が次は何を言わせようかと、勝手に昂揚していると、長門は俯いて静かにそう言った。


57 名前:( ゚∀゚)o彡゚ゆきりん![] 投稿日:2010/03/07(日) 02:00:12.28 ID:HFZsQ8lo0

ああ、何だか風呂上がりのほっこりした体に後ろから冷水を浴びせられた思いがしたってもんだ。

キョン「……ん! ああ…すまん。――おまえに無理をさせるつもりはなかったんだ」

長門「そ…、…うん」

キョン「だがな、感情を持つことはいいことだし、他人の感情を斟酌することも大事なことだ。そして感情ってもんは抑えこみ過ぎてもいけない。かといって放出してばかりじゃ周囲が迷惑する」

チラッとハルヒの顔が頭を過ぎる。

長門「…それはもう経験済み…」

キョン「……」

長門「今のわたしが、ほんとうのわたし…? そのわたしが居る世界をあなたは選択した」

キョン「…ああ」


58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/07(日) 02:05:49.92 ID:HFZsQ8lo0

長門「今のわたし…は、感情を抑制して、人間らしい気持ちを持つことで生じるエラーは全て、不必要・非効率的と見なされ消去するべきか」

キョン「…それは…」

長門「それとも、喜怒哀楽、愛情、死生観、というようなものを消去せず蓄積するとすれば、じゃあそれをどう処理したらいいのか」

キョン「…親玉は何て言ってんだ?」

長門「情報統合思念体は今のところ、何も教えてくれない。ということは自己判断で処理せよということになる。わたしは、…どうすればいいの?」

そう言うと長門は顔を上げ、また真っ直ぐに俺の顔を見上げた。


61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/07(日) 02:12:18.67 ID:HFZsQ8lo0

キョン「あ、ええと。無理して疑問形つくらなくてもいいんだぞ。おまえがそこでまた無理をしちゃ何もならん」

長門「う…、…そう」

キョン「人はな、そうだなあ。鬱憤を晴らすにゃあ酒を飲んだり…、好きな仲間とワイワイ騒いだり。スポーツする…と…か、ははっ」

長門「……」

キョン「……」

長門「飲酒でエラー…抑圧が解放されるのなら、試してみる価値はある」

キョン「…えっ? あ、そうだな。といっても俺たちは未成年だから飲めないけど」

長門「この国の法律ではわたしたちの飲酒は違法」

キョン「まあな。でもたいがい今どきはちょっとくらいは飲んだりするぜ?」

64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/07(日) 02:17:11.13 ID:HFZsQ8lo0

長門「アルコール摂取が生体へどう影響するかは有機生命体の個体それぞれによって異なる…わたしの場合どのような影響が出るかは未知数」

キョン「んー、やばくなったら情報操作? なんとかすればいいんじゃ?」

長門「それは不可能ではない…けれど」

長門は少しだけ、俺がわかる程度の表情の変化を見せた。
目を逸らしてはいるが、1ミクロンほどの期待、そして遠慮。

66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/07(日) 02:24:12.02 ID:HFZsQ8lo0

俺はこの健気な…何だっけ、対有機生命体コンタクト用…ヒューマノイド・インターフェース? いや、一人の少女が、再び全てをその小さな胸に抱えて誰にも知られずに自分でそれを解決する、それがとてつもなく残酷なことに思えたんだ。

だから、思わずこんなセリフを言っちまった。

キョン「…よしっ、じゃあさ、長門、パーッと行くかっ!」

長門「『パーッと』とはどこ」

キョン「…いや、『パーッと』ってのは場所じゃなくて…抑圧、鬱憤を放出・解消するために酒でも飲んで騒ごう、ってことだよ」

68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/07(日) 02:31:56.89 ID:HFZsQ8lo0

長門「アルコールを体内に摂取することで抑圧の解消になると」

キョン「いや普通はそういうものだろうし…」

長門「何度かそういう経験はしている。でも情報操作で摂取したアルコールが中枢神経や情動に影響を及ぼすことのないようにしていたので、抑圧の解放という経験は未知数」

キョン「…うん、だからさ、操作とかじゃなくて、おまえもタガを外せってことさ」

長門「…了解した。では、わたしの自宅で試験的に実行することを提案する」

69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/07(日) 02:39:14.79 ID:HFZsQ8lo0

キョン「じゃあハルヒやみんなにメール…」

長門「それは推奨できない」

キョン「何で? パーッと騒ぐんだぞ、みんなで」

長門「わたし情報操作を行わずにアルコールを摂取した場合、自分にどのような影響を及ぼすのか想定できない。なのでその場面を観測対象である涼宮ハルヒに見せるのはあまりに危険」


キョン「…あ、いや…。まあ確かになあ、どうなるのか俺にも予想がつかん」…と、言うより酒盛りでより一層テンションの上がったハルヒと、一体どういう酔い方をするのか解らない長門がどういう空間を醸し出すのか、考えても悪い方にしか想像が向かない…。

72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/07(日) 02:46:17.36 ID:HFZsQ8lo0

俺は携帯を開いたまま、長門に向き直った。
キョン「じゃあおまえんちで、俺と二人で…ってことになるんじゃ?」
長門「わたしは構わない…」

キョン「……」

とにかく部室には誰も来ない、着信もメールもない。
よく考えりゃおかしな話なんだが、俺はそろそろいつもなら解散の時間だと思いながら、携帯を開いてハルヒに電話をかけた。

キョン「ん…? 留守電かあ…まあいいや」

しょうがない、メールしておくか。
だいたい俺からあいつに連絡が取れなくても何もないが、アイツからこっちに連絡がつかないとなったら何を言われるか解らん。
ああそうだ、念のため、古泉にも同送しとこう。

<部室で待っていたが 誰も来ないので帰宅する 今日は家族で食事&カラオケ予定>

送信、と。

73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/07(日) 02:52:36.62 ID:HFZsQ8lo0

待っていたのは事実だが、家族と出かけるというのは嘘だ。

まさか「長門と酒盛り」なんて言えるはずがねえ。

キョン「一応メールしといた。じゃあ…買い物していこうか」

長門「わかった。わたしはよく解らないから…」

キョン「ああ、大丈夫だ、おまえはソフトドリンクとかスナック菓子とか適当に買ってくれよ。酒は俺が買っていくよ」

俺は長門にそう言って、カバンを取って立ち上がった。
長門も本を閉じ、カバンにしまうと席を立った。

それから、俺たちは並んで校門を出た。

腕時計の針は5時を過ぎたあたり、もう空は夕焼けと夜の薄紫が綺麗なグラデーションを見せている。


76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/07(日) 02:57:36.56 ID:HFZsQ8lo0

長門は俺と並んで歩いている間、何も喋らない。

「あの事件」…「消失」の時をどうしても今でも思い出してしまうのだが、違うのは、今の長門は「今の長門」であるということだ。

つまり、照れているような切ないような、そういう長門ではない、無表情で何も言わないが、それが普通だ、ってことだ。

考えてみれば男と女が同じ部屋に居たり、こうして並んで歩いていて、何も話さずに居られる時間というのはどうなんだろう。

77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/07(日) 03:01:08.89 ID:HFZsQ8lo0

長く暮らした夫婦なら、その沈黙さえ安寧というか、安らぎと感じるかも知れないだろう。

俺が部室で、長門が本を読んでいる佇まいを見ながら静寂の中感じていたのは、そんなことかも知れないな…。

俺は学校から下る長い坂道を歩きながら、少しだけ遅れてついてくる長門を振り返る。
長門は俺が時おり振り返るたび、俺に目線を合わせる。

二人とも無言。
けれどそれがとても自然で、安らぎみたいなものさえ感じる不思議。


80 名前:偶然 今のBGMが優しい忘却でした[] 投稿日:2010/03/07(日) 03:07:03.85 ID:HFZsQ8lo0

――――

俺たちは一度それぞれの自宅への道でいったん別れ、酒やつまみは俺が調達し、長門はソフトドリンクを用意してマンションで待つという段取りだ。

長門は「散らかっているので片付けておく」と言っていたが、あいつの部屋が散らかるということが想像出来ないんだがな。

俺が自宅へ戻り、妹がまとわりつくのを丁重に構いつつもこれをいなしてから、部屋で私服に着替える。

それから妹には今日は遅くなるから、親より先に寝る場合は戸締まりを忘れるなとしっかりと言い聞かせた。

妹は例によって頬を膨らませ、「ええ〜キョン君最近ちっとも遊んでくれないんだから〜」なんて拗ねていたが。


85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/07(日) 03:14:51.71 ID:HFZsQ8lo0

自転車で長門のマンションに行く途中、いつも利用するコンビニではなく、少し回り道をしたところにある方へ向かう。
暗くなってくると、風が冷たい。

しばらく走ると、「酒」と書いたスタンドのあるコンビニの灯りが見えてきた。
長門は「操作」のない飲酒ははじめてだから、アルコール含有量は低い方がいいのだろうか…。でもそれじゃ酔えないしなあ。

任せろと言ったものの、俺だって一高校生だ、それほど酒に詳しいわけもない。
カゴを持って酒のコーナーにずらりと並ぶボトルを前に、俺はしばらく視線を泳がせるばかりだった。

とりあえずそこで焼酎のボトルを2本と、日本酒の小さな瓶をがちゃがちゃと適当に放り込む。
あとはつまみ類にスナック菓子や乾き物の袋をいくつか取って、最後に冷蔵ケースから缶ビールを数本と、カクテル類の瓶を適当に選んだ。

まあ、余る分にはそれでいい、足りないのは悲しいしな。

たちまちカゴはずしりと重くなり、同時に財布が心配になる。

87 名前:もちろんカルーアも買いました>キョン[] 投稿日:2010/03/07(日) 03:19:16.95 ID:HFZsQ8lo0

俺がどう見ても未成年に見えることはともかく、会計が足りるだろうかという心配の方が大きくハラハラしたものの、どうやら俺の最後の諭吉先生でお釣りが貰えたので、安堵の溜息を吐く。

元々酒店だったコンビニの店主のオッサンは、何も言わず愛想よく会計をしてくれた。

二袋に別れた酒とつまみの袋をカゴに入れ、俺は長門のマンションへ向かった。

――――
長門をインターフォンで呼び出し、施錠を解除してもらってエレベータを7階で降りると、ドアが開いたところに長門が立っていた。

キョン「お、おう。買って来たぞ」
俺はそう言って両手に提げたビニール袋を少しだけ上に上げる。

長門「ありがとう。一つ持つ」
そう言って長門は右手を差し出したが、俺はそれを「重いし、大丈夫だ」と制して部屋へ向かった。

長門は薄手のピンク色のセーターに、下はデニムのミニというラフなスタイルだったのが新鮮だった。


88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/07(日) 03:24:37.81 ID:HFZsQ8lo0

長門「入って」

部屋のドアを開け、両手のふさがっている俺はそのまま靴を脱いで部屋へ上がる。相変わらずカーペットの上にコタツ以外何もない殺風景な部屋…のはずが、少し様子が違っていた。
といっても、AVボードみたいなものが壁面に置かれ、そこには割合大きめの液晶テレビ、ブルーレイと思しきデッキや、ゲーム機などが置かれている。

俺は長門に買って来たビールやカクテルなど、冷蔵するものを冷蔵庫に入れるよう指示し、コートを脱ぎながら声をかけた。

キョン「長門…テレビ買ったのか?」

長門「…そう。あなたに今日、相談するまで色々考えた結果、とりあえず書籍から得られる情報だけでは不完全と思い、導入した」

キョン「……最新機器…だな」

長門「朝倉涼子の意見も取り入れ、現状ではそれが最も高性能と判断した。けれどあまり試聴する機会がない」

91 名前:やばい、眠いけど頑張る[] 投稿日:2010/03/07(日) 03:29:12.12 ID:HFZsQ8lo0

そう言いながら長門はカチャンカチャンと音を立てて、グラスやタンブラのようなのを2組と、取り皿などをお盆に載せて戻ってくるとコタツに座る。

それから、俺が持って来た中から缶ビールを2本、それぞれの前にコトンと置いた。

キョン「あ、ビール…でいいのか?」

長門「『最初はビール』という慣用句がある」

キョン「オッサン臭いけど…まあアルコール度数は一番低いからなあ」

長門「原材料:麦芽、ホップ。アルコール分5.5%…」
長門は珍しそうに500ml缶ビールの側面の細かい文字を読んでいる。

キョン「ははっ、ま、せっかく冷えてるんだから飲もうぜ」

93 名前:みなさんビールの用意はいいですか[] 投稿日:2010/03/07(日) 03:33:52.82 ID:HFZsQ8lo0

俺は缶の栓を開けて、長門に差し出す。

長門は一瞬キョトンとしていたが、俺が「それ」と言って缶を持って促すと、タンブラの方を右手で差し出した。

キョン「女の子は、左手を添えると可愛いんだが」
俺がそう言いながら小ぶりのタンブラにビールを注ぐと、長門は何も言わずにそっと左手を添えて、じっと琥珀色の液体が満たされているのを珍しそうに見つめている。

注ぎ終えて、俺が自分の分を注ごうとすると、長門が自分の前に置かれた缶の栓を開けた。
プシッ

長門「…あ」
ちょっと驚いたような、しかし俺以外には誰も解らないであろう表情のまま、長門は少しだけ飛び散った泡を目で追う。
それからその缶を俺に向けた。

長門「あなたのはわたしが」


96 名前:かんぱい![] 投稿日:2010/03/07(日) 03:37:52.76 ID:HFZsQ8lo0

コポコポ…長門のお酌で俺のコップにビールが注がれていく。
俺たち、高校生なんだけどなあ。まあいいわな。

キョン「じゃあ、…何だろ、長門の初飲酒?に…かんぱーい!」
長門「かんぱい…」

長門の差し出したグラスに俺のグラスがカチン、と触れ合う。

ごくんごくん、と喉が鳴る。喉が渇いていたせいか、よく冷えたビールの喉ごしがたまらん。

キョン「くぁーーっ! うまいっっ!!」

長門「……ぷぁっ」

驚いたねえ、長門は小ぶりのタンブラとはいえ、グラスに注いだビールをなんと、一気に飲み干しちまった。

101 名前:Lost my musicすか…いいテンションだ…[] 投稿日:2010/03/07(日) 03:42:35.97 ID:HFZsQ8lo0

キョン「…おい。一気にっておま、大丈夫…か?」

長門「……だいじょうぶ…けぷっ」

長門は自分が飲み干したグラスを右手に持ったまま、左手で口を抑えて…ん、それ…ゲップですか?

…俺は乏しい人生経験ながら、世の中でこれほどまでに可憐なビールゲップを見ることは、恐らくこれからの長い人生でもそう多くはないことを瞬時に悟った。

キョン「まあ、いい飲みっぷりじゃないか。はいはいおかわりを」
俺はそう言って缶から長門の空になったグラスにビールを注ぐ。
こぽこぽこぽ…

キョン「まあ、夜は長いんだからゆっくり飲もうや…な?」

長門「……うん。こくん…」
長門はそう言って、今度は一口だけビールを飲んだ。


102 名前:継続はパワー・・・[] 投稿日:2010/03/07(日) 03:47:43.06 ID:HFZsQ8lo0

キョン「…ふふっ、…長門、おまえ可愛いなあ…」
俺はビールを飲みながら、思わずつぶやいてしまう。

長門「…あなたは何を言っているの」

キョン「あ! すすすまん。思わず声に出しちまった。は、ははっ」
俺は取り繕うために笑ってしまい、残っていたビールを飲み干す。

キョン「いやー何つうか、そのぉ。げっふぅうう!」
阿呆みたいなゲップが出て、何も言えなくなってしまった俺。
長門がそれを見て、グラスにまたビールを注いでくれる。

105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/07(日) 03:52:15.44 ID:HFZsQ8lo0

キョン「あっ。サンキュ…って何か、あれだな」

長門「なに」

キョン「……いいな、こんなのって……」
思わずにやにやしてしまう自分が止められない。

長門「……わたしも初めての体験。うまく言語化できない…」コクッコクッ

キョン「しかしアレだな、いける口なんだな長門って」グビリ

長門「いける口とは」

キョン「ああ、酒が飲めるっていうか…強いっていうか」

長門「アルコールが取り込まれると、体は酵素が活性化してそれを分解しようと…」

語り始めた長門を俺は手で押しとどめるように制する。
キョン「…そういうのを無粋、っていうんだよ。いいじゃないか、今日は理屈は」

107 名前:( ゚∀゚)o彡゚無礼講![] 投稿日:2010/03/07(日) 03:58:18.93 ID:HFZsQ8lo0

長門「…そう」

キョン「あのさ、いざって時はあれだ。情報操作? つか自分の酔い具合はどうにでもなるんだろ?」
俺はコタツの脇に置かれた袋からポテトチップやポッキーなどの菓子を開けながら聞く。

長門「だと思う。ただ酩酊状態を体験したことがないのでわからない」
長門はそう言うと、立ち上がって冷蔵庫から缶ビールを2本取って戻ってきた。

キョン「何かペース早くないか?」

長門「どういうペースが適切なのかわからない…」プシッ

キョン「……まあ、そうだろうけどなあ」

俺は一抹の不安を感じながら、しかし、長門のことだからきっと大丈夫なんだろうという気持ちがあった。それと、何より今日は長門と差し向かいで酒を口にするという場に居られることが、気分を高揚させていたねえ。

108 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/07(日) 04:03:03.10 ID:HFZsQ8lo0

――― 2時間後

長門は俺が買ってきた缶ビール4本のうち、約3本を一人で飲み、そのあとカルーアをグビグビ飲んだあとに日本酒の一合瓶、さらに名前はよくわからんが赤や黄色のカクテル瓶を2本飲んでいる。

そのうえ、ふらふらと台所まで歩いて行ったかと思うと焼酎のボトルをガサゴソと袋から取り出して、コーラとオレンジジュースなどで割って飲み始めたのだった。

もう耳まで真っ赤になって、表情は俺の基準だと、普段が俺や朝倉にわかるレベルを1として、6くらい…だろうか? ってそんな基準誰も認定してくれまいが。


109 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/07(日) 04:09:57.80 ID:HFZsQ8lo0

キョン「…いい気分なのはいいがその…大丈夫なの…か?」

長門「大丈夫。とても気持ちが良い」
そう言いながら長門は今、焼酎を加えた氷入りのコーラが入ったグラスをカランカラン鳴らしながら、俺に笑顔を向けた。

あの、放課後に部室でぎこちなく俺に見せたのとは違い、5割り増しの…そうだな、見慣れない分、ハルヒの満面の笑みに比しても全く遜色がない。

言葉だけ抽出すれば何でもないやりとりのようだが、長門のトーンは明らかに、確実に普段より上がっている。

長門「ぷふうう…。ねえ」

キョン「は、はい? なんだい?」

長門「…キョン君、って呼んでもいい?」

113 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/07(日) 04:15:01.98 ID:HFZsQ8lo0

キョン「はい? それ…あんまり気に入ってないんだけど…別に長門が呼びたいならいいぞ」ゴクンゴクン

長門「…ありが…とう」

長門はそう言って、明らかににやにやしている。

長門「キョン君」

キョン「ん? 何だ?」

長門「…なんでも、ない」フフッ

キョン「なんだい」
そうは言ったものの、明らかに長門は今笑った。いや俺の長門検定が酔いで鈍っていなければ、間違いなく笑ったはずだが。

114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/07(日) 04:21:44.41 ID:HFZsQ8lo0

長門「あああ、たのしいなぁっ」
長門はそう言ってポッキーをこりこりとかじり始めた。
えーと何だっけ、げっしるい? 俺も少し酔っぱらっているようだ。

キョン「…そうか。俺も楽しいぞ、長門…」

そんな長門を見ていると、俺も正直、幸せな気持ちになる。
酒を飲ませてどうこうしようとか、正直ヨコシマな気持ちなんてこれっぽっちもなかった。
今はそりゃあ、俺だって正常な若い男子だからして、こんな状態の長門を見れば、純粋に異性として可愛いと思う。

でも、あの長門が、蓄積された日常の「抑圧」を、アルコールという触媒によって少しづつではあるが解放している。
そしてそれが俺の前だけである、ということに…そうだな、ある種の優越感と安堵を感じるというのが適切かも知れない。

116 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/07(日) 04:24:49.87 ID:HFZsQ8lo0

長門「キョン君、キョン君っ…ふふっ」
長門は薄く笑いながら、割り箸で空き缶とグラスをチンカン叩き出した。

いや長門よ、場末の焼き鳥屋のオッサンじゃないんだから…と一瞬思うが、よく考えればこれは「長門有希の酩酊」という極めてレアな場面なわけで。

キョン「長門。お前…そうとう酔ってないか?」

長門「んっ? お酒飲んだら…酔うよね?」

キョン「あれっ、情報操作…とか? 酔う前にナントカするって言ってなかったか?」

長門「ああ…気が付いたら酔っぱらってたの…だから…」


長門「もう、無理」
長門は頬杖をついてにっこり笑った、ああ。間違いない、今度は満面の笑みだった。

117 名前:ねむ…い[] 投稿日:2010/03/07(日) 04:30:17.21 ID:HFZsQ8lo0

キョン「…でもな、酔っぱらうってことは…自分で自分の制御を外すことでもあるから、お前の…今の状況? は正しいことでもあるんだぜ」グビッ

長門「なにーもみーてなーいふーりーで、せなーかーみてーたー♪」
チンカンチンカン

キョン「えっ?」

長門「つらくなってーはーしりーだーすー、あいみっしゅーべいびー♪」
カンケンカンケン
長門「しったこいはーじぇーらしーいーの、くやしさーだけー♪」

キョン「……」

長門「おいてーーー、にげーてーいいったーけどー、もうー
ぐっばばいふぁーすらーーーぶ!♪」カン!

120 名前:朦朧[] 投稿日:2010/03/07(日) 04:42:22.93 ID:HFZsQ8lo0

キョン「ふふっ、なんだその童謡みたいな歌。ははは、…長門よう?」

長門「……なぁに? キョンくん」

キョン「ご機嫌だなあ!」

長門「うんっ…いい、気持ち!」

キョン「ははっおまえ…酔っぱらうと一段とまた…カワ」

長門「なあに? 今なんて言おうとしたのキョン君?」

長門が俺の言葉尻を捉えて、こちらをじっと見つめる。
普段の長門から比べたら、何という変化だろうか…。
あの「消失」世界のこいつならまだ想像できないこともないが、今の長門が酔ってこんな様子になるって…正直、萌える。


122 名前:がんばる[] 投稿日:2010/03/07(日) 04:48:01.41 ID:HFZsQ8lo0

キョン「んぐっ…その、なんだ。かわいい、な、って…ははっ」ゴクンゴクン

長門「もうっ! …でも…うれしいな」

長門はそう言うと、真っ赤な顔をして焼酎の入ったコーラのグラスをじっと見ている。

キョン「ふふっ、なんだか俺も嬉しいぞ長門」
長門のあまりのハイペースに、無意識にセーブしてはいたつもりだが、俺も酔った。
ああ、酒を飲んだら酔っぱらうもんなんだ。
こいつの、人知れず内側に溜め込んだエラーだか何だか知らないが、それをこうして発散させてやることが出来るんなら、俺も本望だよ。

そんなことを思いながら、俺も自分のグラスを見ながらにやにやしていると、割り箸を振り回していた長門が突然、俺の顔を覗き込む用にしてこう言った。
長門「……ねえキョン君。愛ってなに?」

124 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/07(日) 04:54:46.43 ID:HFZsQ8lo0

キョン「はいい? なんですとぉ?」

俺は思わず口に含んだ焼酎の水割りを吹き出しそうになった。

長門はグラスのふちをなでながら、俺の方を見ずにうつむきがちに、上目使いでこちらをちらちらと見ている。

長門「…部室で話したこと。その『不確定要素』について、憶えてる?」
長門は真っ赤な顔をして、俺を見つめながらそう言った。

キョン「…ん、ああ。感情とか、何だその…ゆらぎってやつだろう?」

長門「そう。その、一番解らない概念が、『愛』なのね」

キョン「……そう、なのかあ」

俺は自分のグラスに視線を落とし、液体の水面を見つめた。
『愛』か…。

なんだろう、愛って。

125 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/07(日) 04:59:31.15 ID:HFZsQ8lo0

キョン「………」

長門「……ねえ、キョン君」

キョン「…ああ!? 何?」

長門「あなたは、『あの時』のわたしと、今のわたし。

どっちが、いい?」

…長門、それは…!

これまで蓄積された俺の酔いが、一気に醒める気がした。

キョン「……俺は」
喉がグビリと鳴る。

言わなきゃ、言わないとダメだ。

127 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/07(日) 05:06:17.82 ID:HFZsQ8lo0

キョン「今のおまえが、いいに…決まってるじゃない…か」

長門「…ふっ……」
長門は一瞬、俺の顔に向き直ったかと思うと、すぐに自分のグラスにサッと視線を落とした。

相変わらず、顔から耳まで真っ赤っかだなあ。
ああ…俺も傍から見たらそう…かも知れないな…。

長門「……ありがと、ぅ…」
長門はグラスを見たまま、つまり視線を少し下げたまま、小さくそうつぶやいた。

先ほどの満面の笑みとは違い、うっすらと微笑を浮かべ、手元のグラスを見つめる長門。

キョン「俺はだからこそ、お前が差し出した手を握ったんだ。だから今、ここにいるんだろう?」
俺は長門の方へ向き直り、そう告げる。

129 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/07(日) 05:13:15.03 ID:HFZsQ8lo0

キョン「さっき『愛』ってなんだろう、って言ったけど」

キョン「その…」
長門が顔を上げ、俺の目をじっと見つめる。

そこまで言って、真っ直ぐに俺を見つめる長門の顔を見ていたら、急に照れが来た。
でもダメだ、逃げちゃダメだ!

キョン「俺が今、ここに居る理由。そして、おまえがここい居る理由、
それが…そうなんじゃないのかな…」

ああーっ、酒の勢いだ、そうだ、こんなクサいセリフ、普段なら絶対言えねえ! 古泉だって無理だろうぜっ!!!!

でも…でも俺は。
自分でわかっている、さっき長門に「どっちの私が好きか」と問われた時、一気に酔いが醒めちまったことを。
そして、あの問いの答えは二人ともよくわかっていたことも。

それでも長門は俺の口から聞きたいと思ったから、それこそ「酔った勢い」で聞いたんだ。


130 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/07(日) 05:24:02.73 ID:HFZsQ8lo0

長門「……嬉しい。ほんとうに、ありがとう…」
長門は今度は目を逸らさず、じっと俺を見つめながらそう言った。

キョン「礼を言うのは俺の方…だな、長門」
俺は長門にとってつけたような笑顔を向ける。

キョン「…だいたいさ、パーッとやろうって言って、はは、おまえに盛り上げ役やらしちまって、ザマぁないよ俺」

長門「…ふふふ、キョン君も歌えば?」
長門がようやくまた、微笑んだ。

キョン「俺は歌はダメだ、知ってるだろ?」

コタツに足を突っ込んだまま、俺は両手を枕に仰向けに天井を見る。
真っ白な俺の視界に、長門がゆっくりと入ってきた。

133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/07(日) 05:39:22.53 ID:HFZsQ8lo0

――――
その後どうなったか?

何もなかったさ。
ああ、いわゆる男女のそういうようなことは…な。
なぜって、あの後すぐに朝倉がおでん鍋を持ってちん入したんだからな。

後で解ったんだが、実は長門が俺と酒を飲むということは、密かにあいつ自身が計画していたことらしかったんだ。

ハルヒがどこかへ出かけたこと、古泉も部室へ現れなかったこと、朝比奈さん…は本当に鶴屋さんと勉強だったらしいが、ともかく、すべて計画済みだったというわけだ。
「酩酊した場合の感情表現の変化を観測する」とかなんとか、そういう理由をつけて情報操作の許可をとったという。

長門は保護者的存在になった朝倉にだけは操作をしていなかったので、どうやら本当に何にも考えなく入って来たらしい。

朝倉は愉快そうに笑いながら「ごめんね、お邪魔だったかしら」なんて言っていたが、いっぺんに酔いが醒めた俺と改めて朝倉も交えて飲み直し、真っ赤になった長門をからかって遊んだわけさ。

長門は週明け、月曜の放課後に部室で、俺に計画だったことを説明してくれた。

いつもの無表情で、パイプ椅子に座った俺の前に立って、いつもの口調で。
長門「…あなたを騙すかたちになって、申し訳ないと思っている」

キョン「…何言ってんだ長門。また飲み会やろうぜ、今度はみんなも一緒に」
長門「……そう」

キョン「いや、二人がいいかな。あの状態の長門は…俺にだけ…」
思わずそう言ってしまってから、俺は大いに照れてしまい、笑って誤魔化そうとして顔を上げると、俺をじっと見下ろしていた長門の頬が、ちょっとだけ赤くなった…気がした。

いや、それが気のせいじゃないってことはもう、解ってるけどな…。

――――おわり

135 名前:1 ◆8JJfvTJa6A [sage] 投稿日:2010/03/07(日) 05:43:20.20 ID:HFZsQ8lo0

終わりました…
本当はもっと酔った長門デレデレを書くつもりだったんだけど
眠くて…折れた…。

消失長門ではなく、消失後長門をどうしたらデレさせられるか、
必死で妄想した結果、酔わせるという結論で…orz

すんません、こんな時間まで読んでもらって感謝です!

146 名前: ◆8JJfvTJa6A [sage] 投稿日:2010/03/07(日) 11:00:40.47 ID:HFZsQ8lo0

あらあ残ってましたねー
乙ありがとうございました

147 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/07(日) 11:27:55.78 ID:HFZsQ8lo0

長門「……わたしも…できれば酩酊状態は他人には見せたくない」

俺にだけ解る程度、頬を赤らめた長門は、視線を逸らしながらぼそっとそうつぶやくと、

長門「…また、マンションで」

そう言ってくるりときびすを返し、『定位置』である自分の椅子へ戻る。

キョン「…他人にはって俺にはい…ぃノカ…」
まともに聞こうとしてしまい、慌てて語尾を吸収する。

長門は椅子の手前でくるりとこちらを向き、静かに座り直す時、ほんの一瞬だけチラと俺の顔を見た。
それから、テーブルの上に置いたカバンから分厚いハードカバーを取り出して、読み始めた。

ああ、こないだの光景(>>17)とまったく同じ光景、俺がもっとも好きな、安らぎのシーンってやつだ。

長門が「読書する長門」鑑賞を続けていると、部室のドアが開いた。

148 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/07(日) 11:33:34.05 ID:HFZsQ8lo0

古泉「すみません、遅くなりました。あれ、お二人だけ…ですね」

古泉はそう言うと、いつもの笑顔のまま俺の向かいに腰を下ろした。

キョン「遅かったな。何かあったのか?」

古泉「今日はですねえ……んふっ…いや、どうしましょうか」

キョン「何だよ言えよ、気持ち悪いな」

150 名前:保守御礼[] 投稿日:2010/03/07(日) 11:38:04.72 ID:HFZsQ8lo0

古泉「ではご報告までに。実は…放課後、ある女子生徒に告白をされてしまいまして」
古泉は右手を顎にあて、笑顔のままでそう言った。

キョン「ええ? マジかよ?」

古泉「えらく、マジです。もちろんすぐ丁重にお断りしたのですが…。周囲から数人の女子生徒が駆け寄ってきましてですね…」

151 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/07(日) 11:50:49.39 ID:HFZsQ8lo0

キョン「ああ、何となく解るぞ、その構図…」
勇気を出してお前を呼び出し、ラヴレタアというやつを両手でうつむきながら差し出したと思ったらお断りします、か。

お前に速攻で断られた友達の様子を見て、陰から見守っていたその子の親友とやらがわらわら走り出てきては口々にその子へ慰めやらお前への非難やらを浴びせる…。

キョン「…修羅場ってやつか、大変だったなあ」

古泉「いえ、それが違うんですよ。その子たちも皆さん、告白だっ」

キョン「死ね」

152 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/07(日) 11:58:58.86 ID:HFZsQ8lo0

古泉「おっとこれは手厳しい」

一瞬でもこいつに同情した俺がバカだった、ああバカだった大バカだ。
一気に古泉の話への興味を失いかけた俺に、あいつは少しだけ表情を曇らせてこう言った。

古泉「…しかしですね、結局は全てお断りしたのですよ…?」
古泉はにやにや笑いをやめ、上目使いで俺を見てそう言った。

キョン「…ああそうかい」

古泉「僕は…機関からそういう類のことは全てNGだと厳命されていますからね」
そう言うと古泉は溜息を一つ漏らして、笑顔に戻ると頬杖をついて窓の方を向いた。こんなポーズを取るのは珍しい。


153 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/07(日) 12:05:30.94 ID:HFZsQ8lo0

古泉はしばらく窓の外をアンニュイな雰囲気で眺めてから、そのままの視線でつぶやく。
古泉「…それにしても、僕たちには普通の学園生活など、最初からあり得ないんですからね…長門さんも」

長門「…たまには飲酒、コンパなどと言われる行為で抑圧を解放すべき」
長門は本から視線を外さずにそう言った。

古泉「おやおや、長門さんからそんなアドバイスをいただくとは。幸甚です」

155 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/07(日) 12:11:28.82 ID:HFZsQ8lo0

キョン「お? そう…だな。たまにゃあ酒でも飲んでパーッとハメを外す時があって…も…」

俺は古泉にそう言いながらちらりと長門に視線を送ると、長門はうつむいたままホンの1ミクロンだけ視線を俺に合わせた。
古泉は全く気付かなかっただろう。

古泉「んっふ。長門さんの口から飲酒やコンパなんて、ミスマッチなセンテンスです」
そう言うと奴は俺の方を向いて上半身を乗り出し、こう囁いた。

古泉「僕はあなたが羨ましいです、よ。ふふっ」
よせ、顔が近い。ずいぶん以前にお前の笑顔のことを「人畜無害」と評したことがあるが訂正する。

157 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/07(日) 12:26:21.67 ID:HFZsQ8lo0

キョン「俺はお前の方がけっこう羨ま…」
と言いかけて、元の位置に座り直した古泉の表情を見て、言葉を切る。

古泉の顔には明らかに、笑顔と同時に寂寥感が浮かんでいた。
何しろ俺は長門表情読み取りの達人だからな、こいつの笑顔95%の残りを読み取るなんてことは、造作もないことだ。

キョン「…お前も大変だな」
代わりに出たのはそんな言葉だった。

古泉「ふっふ、いいんです。全て了解済みで今の僕があるんですから」


159 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/07(日) 12:37:37.53 ID:HFZsQ8lo0

古泉「そうそう、朝比奈さんはさっき部室棟の手前でお会いしました。鶴屋さんと一緒でしたが、もうちょっと遅れるそうです」

キョン「あ、そうなの?」

そう思ってあからさまに落胆した俺の表情を見たのか、古泉が立ち上がって言う。
古泉「僕でよろしければお茶を淹れましょうか?」
にっこりと笑って執事のようなポーズでお辞儀をする。

キョン「…いや、いい」

古泉「そうですか、それは残念」

キョン「…それより、最近は例の『バイト』はどうなんだ?」

161 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/07(日) 12:42:48.92 ID:HFZsQ8lo0

古泉「比較的安定していますね。
ここしばらく、小規模な閉鎖空間が出来たことは何度かありましたが、ほとんど僕が到着した頃には終わってました。
まあ現場到着はだいたい森さんが一番ノリですし」

この二週間ほど、ハルヒは冬はスケートよっ、なんて叫びながら校庭で大量に放水を行ってリンクを作ろうとしては季節はずれの田んぼのような状態にしたこともあった。

あとは週末の不思議探索と称した散歩&お茶会も続いていて、いつものテンションを維持して何事もなく、過ごしている。

今のところご機嫌うるわしゅうて、ようございました…なんてな。

162 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/07(日) 12:50:38.87 ID:HFZsQ8lo0

古泉「…ですから比較的平和ですよ、われわれ機関も。まあ涼宮さん次第なんですし、予測がつきかねますから結局待機状態なんですがね」
古泉はそう言ってお手上げ、のポーズをする。全くこうしたオーバーアクションをさらりとやって様になるのは、「イケメンに限る」ってわけか。

キョン「…おまえもさ、たまにはパーッとやってみたくならないか?」

古泉「はい? 何をです?」

キョン「さっきの話じゃないが、酒でも飲んでってこと」
黙って本を読んでいた長門をチラ、と見やると、長門もまたほんの一瞬だけ俺に目を合わせる。

古泉「いいですねえ。あこがれます。アルコールは弱いですが、雰囲気に」
古泉はにこにこ笑いながら、両手を顎の下にあてて、そう言った。

164 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/07(日) 12:58:54.22 ID:HFZsQ8lo0

キョン「おまえ酒強かったじゃないか。ほら、あの島に行ったとき。あん時ゃ長門もうわばみのようだったが…(情報操作ってやつでな)」

ちらりと長門を見ると、長門は先日の自分を思い出したのだろう、また俺にしか解らぬ程度、頬を染めた…気がした。

古泉「ホスト側は、ゲストより酔うわけにいきませんからね。控えてたんですよ」

キョン「お前って…つくづく他人に気ぃ遣いなんだな…。…そうだ、今度団活が休みになったりしたら、飲み会やらないか?」

古泉「…嬉しいですね、あなたがそんなことを言ってくれるなんて」
古泉は俺の唐突な提案に一瞬珍しく驚いたような表情になり、それから今度はにっこり笑った。

古泉「ぜひぜひ。参加させていただきますが…僕を酔わせてどうするつもりなんでしょう?」

キョン「…やっぱ来なくていいわ」

167 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/07(日) 13:09:35.34 ID:HFZsQ8lo0

古泉「…んふっ、冗談、です。それにしても今日のあなたは、なんだか優しいですね…何かあったんですか?」

キョン「んん、…その――。やっぱりな、人って抱え込んじゃダメなんだって思うわけよ。お前らってその、任務だか仕事だか解らないけど普段縛られてるんだから、たまにはさ。…なっ、長門」

長門「……そう。アルコールによる酩酊状態は度を超せば健康上に悪影響を及ぼすこともあるが、適度な飲酒は血流を良くし、その場は対人関係を円滑に進める補助にもなり得る」

長門は今度は本から顔を上げ、なぜか俺の方をじっと見ながらそう言うと、再び本に視線を戻した。


168 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/07(日) 13:18:04.80 ID:HFZsQ8lo0

そのとき、バーン! という轟音と共に部室の扉が開いた。
ハルヒ「やっほー、団長様のおなぁりいー」
ドアの音だけで誰が来たかは視認するまでもなく、俺はそのまま視線を我らが団長様に向ける。

ハルヒ「渡り廊下でみくるちゃん拉致ってきちゃったわ!」
よく見ると、ハルヒの脇には朝比奈さんが米俵でも抱えるような体制でがっしりとホールドされている。

みくる「あのぉ…あたし…遅れるって言ったんですけどぉ、これから鶴屋さんと参考書を買いに行くことになっちゃってぇ…」

朝比奈さんは、最初に書道部から無理矢理連れて来られてきた時のように、目尻に少し涙を浮かべ、怯えたような顔でハルヒを見上げている。

169 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/07(日) 13:27:39.78 ID:HFZsQ8lo0

ハルヒ「あっ…そうだったの? ごめんね、みくるちゃん」
みくる「…え…?」

朝比奈さんの言を聞いたハルヒは、あっさりと朝比奈さんを抱えていた手を離し、解放した。
ちょっと前までなら「却下!」なんて言いながら新しい騒ぎを起こすための「会議」とやらを強制的に開始、なんてこともしょっちゅうだったのだが。

ハルヒ「…みくるちゃんたち。今度三年…だもんね…」

そう言いながら憂いの表情を0.5秒ほど見せたハルヒは、すぐに満面の笑顔に戻ると、いつものようにズンズン奥の「団長席」へ向かってドシンと腰を下ろし、パソコンを起動させた。

みくる「じゃあ…皆さん…ごめんなさいですぅ…」
朝比奈さんは腕時計をチラと見て、困ったような笑顔で手を振り、出て行った。

171 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/07(日) 13:35:58.72 ID:HFZsQ8lo0

朝比奈さん…も鶴屋さんも、当然ながらもうすぐ受験生なわけで、ということは俺たちとの高校生活も残り一年を切ったわけで、つまり一年後には…別れが来るのだろうか。
そして…二年後の俺たちはどうなるのだろう。

いや考えたくない、今は。考えるのは…何だ、さっき古泉に提案した飲み会だ。

ええと、ハルヒを呼んだんじゃ普段と変わらないわけで、こいつらは仮面を被り続けなきゃならんし、そもそもぶっちゃけトークが出来ない。
…そう考えると、なかなか難しいな。

俺は目の前で所在なげに微笑んでいる古泉の顔を眺めてながら、考えていた。

ハルヒ「あっ、次の土曜日、集合は無しよ」
パソコン画面を見ながら何ならクリックしていたハルヒが、モニタからひょっこり顔を出して俺の方を見つめ、いつもの笑顔で宣うた。

172 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/07(日) 13:43:06.45 ID:HFZsQ8lo0

キョン「なんで?」

ハルヒ「ハカセ君って知ってるでしょ、うちの近所の賢い子。バカキョンと違って将来はきっと成績優秀、東大間違いなしって子。その子に今高校の勉強を教えてるのよ」

キョン「…英才教育だな」

ハルヒ「土・日にちょっと集中してやることになっちゃって。しょうがないのよねえ、親レベルで決まった日程だし」

キョン「お前もお前で大変なんだなあ」

ハルヒ「あんたと違って優秀な人間はね、頼りにされるのよいろいろ。あんたは…間違ってもそんな依頼はないでしょうし…」

キョン「……うるせえよ」


173 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/07(日) 13:49:58.96 ID:HFZsQ8lo0

ハルヒ「まっ、たまにはあんた…はともかく古泉君は有希も休ませてあげるわ。みくるちゃんも…受験生だし」

古泉「いえいえ、僕は団の活動も楽しいですよ。ねえ長門さん」

長門「……そう」

お前らも大変だなあ本当に。

古泉「では僕は週末、実家にでも帰ることとしましょうか。久しぶりですし」古泉はにこにこ笑いながらそう言って、俺の方を見た。
それから間違いなく、俺に右目でウインクをした。…そういうことをするから、お前はあらぬ噂が立つんじゃないのか?

ハルヒ「みんな有効に使いなさい!」
ハルヒはそう言うとパソコンをシャットアウトし、「じゃあ解散!」と元気よく宣言し、部室を飛び出していった。

175 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/07(日) 13:59:03.05 ID:HFZsQ8lo0

――土曜日

結局、この日の「飲み会」はまた俺と長門のふたりで、ということになった。
今度は連休なので、午後からめいめい少し早めに買いだしをして、長門のマンションへ集合、それらの準備が整ってもまだ3時だった。

キョン「あれから何かゲームとか買ったのか?」
買って来たものをしまったり、一通りの雑事が終わって、俺は暖房のよく効いた部屋でくつろぎながら、俺の右手に座った長門に声をかける。

長門「…今はゲームはやっていない。図書館から映画のDVDを借りてきて見たりはする」
長門はグラスや皿、割り箸の載ったお盆から二人に振り分ける。

キョン「読書と映画か…例の『感情のゆらぎ』みたいなものの勉強になるか?」

長門「なる」

キョン「どんな映画見てんだ?」

176 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/07(日) 14:04:12.68 ID:HFZsQ8lo0

長門「…………主に、…恋愛…映画と呼ばれるもの」
長門は言い終える前にそそくさと立ち上がって台所へ行き、何やらやり始めた。

キョン「…恋愛ものねえ。れんあい…」
そう口に出して突然、この前の飲み会の時のことを思い出しちまった。
あああ、俺ってずいぶんクサいこと言ってなかったっけ?
やべえ、マジで思い出すと恥ずかしさで死にたくなる…かも…

長門「あなたはなぜクッションを抱えて転げ回っているの」


177 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/07(日) 14:15:15.88 ID:HFZsQ8lo0

キョン「…あ、すみません」
振り返ると、戻ってきた長門の手にはスモークチーズや生ハム、ポテトサラダといったオードブルのようなものが盛られた皿があった。

長門「…どうぞ」
長門は皿を置いて元の場所に座ると、おしぼりを差し出してきた。

キョン「ああ、ありがとうな。…んん、冷たくて気持ちいい」

長門「よかった」

キョン「じゃあ、飲もう、か」

長門「最初はビール」

キョン「最初は…か。いったい今日はどれくらい飲むんだか…」

178 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/07(日) 14:23:05.80 ID:HFZsQ8lo0

最初にビールで乾杯したあと、長門はつまみを食べながら、前回よりは落ち着いた調子で飲んでいるようだった。

長門「やはり同じ創作物から得られる『感情』『情緒』『心理』のような不確定要素に関しては、活字から想像するだけでは不十分といえる。けふっ」

キョン「(お前のゲップは天使のゲップだなあ)…そうだよな、だって共感できなきゃ書かれてることの意味が不明だもんなあ」

長門「日本語という言語はとても難しい。『いわく言いたげな表情』って何」
いやそんなことを言われてもねえ。
長門「『やきもきする』ってどういうこと」
んん、ええと…。
長門「『嫉妬に狂った表情』とは」
イジメ?


179 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/07(日) 14:30:05.50 ID:HFZsQ8lo0

長門「とにかく活字で著された人間のさまざまな感情…けふっ」
長門「…それを読むたびにわたしは理解に苦しむ…想像で補うには情報不足」コクッコクッ

長門「それで最近は映画など映像で補完されているものも、見ることにした」
キョン「なるほどねえ。んん? このスモークチーズうまいな。NYORON印…」
長門「ねえ聞いてる?」

キョン「ああもちろん。聞いてるよ」ゴクンゴクン
…長門のペースがちょっと上がってきたような。気のせいかな。あとこないだと違って…ちょっと怖いな。

181 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/07(日) 14:35:20.08 ID:HFZsQ8lo0

キョン「あの、長門? 今日は少し情報操作してもいいんだぞ…ほら、島の別荘の時みたく」

長門「あの時は全く酔わないようにしていたの…」

ん? もうけっこう赤くなってんだな。
…でもいいぞ、長門。
酔っぱらって言いたいことを吐き出す、お前にはそれが必要なんだからな。

長門「あの時あなたはさっと酔っぱらってしまった…」コクンコクン
そう言いながら長門は小さな手でコップの酒を飲み干して、たん! とテーブルに置くと、こちらを向いてこう言った。

長門「つ・ま・ん・な・かっ・た!」

183 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/07(日) 14:41:30.09 ID:HFZsQ8lo0

キョン「…!」

――長門よ、はじまったな。

長門「わたしがドア開けなかったの、ジョークってわかった?」
長門は小皿に載せたスモークチーズのスライスに爪楊枝をぷすぷす刺しながらそう言って、チラリと横目で俺を伺う。

キョン「あっ、もちろん! すぐにわかったとも。ナイスだったっぜ!」
俺がそう言って笑顔で親指を突き出すと、長門はにっこり笑いながら、正座した体を前後にゆらゆらと揺らしている。

長門「へへ…そっか。ふふ」
長門は何かを思い出したらしく、小さくくすくすと笑い出した。

185 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/07(日) 14:50:43.52 ID:HFZsQ8lo0

キョン「何笑ってんだ?」

俺がそう聞くやいなや、長門は真顔に戻りボソッとこう言った。

長門「『誰が来ても開けるなと言われている』」
次の瞬間、長門も俺も同時に吹き出してしまった。

キョン「ぶは! あっはっは! あったなあったな!」
長門「ぷぅ、ふふっ、うふふふ」
長門は右手の拳を小さく丸めて口にあてて、体を小刻みに震わせている。
ご機嫌だ。

長門「あのあとのあなたの『俺が上書きする』、…ちょっと嬉しかった」
そう言うと、長門はちょっと向こうへ顔を逸らし、空いた缶を下に下ろしたりしている。耳まで真っ赤になっちまったな。

187 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/07(日) 14:59:14.87 ID:HFZsQ8lo0

長門「…ねえ」

キョン「ん?」

長門「…またキョンくん、って呼んでもいい…?」
長門は缶の整理は終わったのに、顔を向こうへ向けたままそう言った。

キョン「何だよ、いいって言っただろ、こないだも」

長門「…んふふぅー。キョンくんっ。きょーんくん…」
何だそのにやにや顔。

キョン「おまえにそのあだ名呼ばれるのって複雑だけど」ゴクッゴクッ

長門「嫌!?」
長門ははじかれたように俺の顔を見上げる。


188 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/07(日) 15:04:28.48 ID:HFZsQ8lo0

キョン「嫌なわけないさ、そうじゃなくて…新鮮つうか、いいなって」

長門「へへ、そうかぁ…良かった…」
長門は再び笑顔にもどると、スモークチーズに爪楊枝攻撃を再開した。

長門「あとさ…。わたしが初めて、告白されたじゃない…」

長門は視線を穴だらけになったチーズにさまよわせたまま言った。
告白…? あ、ああ、…ええと中河の一件か。

キョン「えっと、お前あの時、ちょっと残念だって言ってたな」

長門「……」
長門は俯いたままだ。

190 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/07(日) 15:11:11.70 ID:HFZsQ8lo0

キョン「ほら、結局あれは思念体への…ナントカでさ、告白はまちが」

長門「…ん…か」

キョン「…どうした?」

長門「キョンくんのばかっ」
長門は小さな声で、ぼそりとそうつぶやいた。

キョン「でもおまえそう言ったよな、確かに。正直意外だったよ」

長門「…わたしが残念だって言ったのはね」
長門は穴が開いたのはその視線のせいであったかと思われるほど、じっと見つめていた顔を上げ、俺に向かって言った。

191 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/07(日) 15:16:31.40 ID:HFZsQ8lo0

長門「最初の告白が、どうでもいい人からだった、ってこと」
長門さん顔真っ赤…です。

長門は俺にそう言ったあと、割り箸を両手に持ち、目の前の日本酒の小ぶりのコップと、脇に寄せてあったビールのタンブラを叩き出した。

長門「きょんくんはどんかん、きょんくんはぼーくねーんじん♪」
チンカントン
適当な節回しで、小さな手を振り回して変な音を立てて歌う長門。

歌の文句は納得いかないが、この光景はとてもレアで映像に記録したいほどだ。

192 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/07(日) 15:24:09.65 ID:HFZsQ8lo0

トンテンカン
長門「なにーもみーてなーいふーりーで、せなーかーみてーたー♪」
長門「つらくなってーはーしりーだーすー、あいみっしゅーべいびー♪」

おいおいまたですか、その歌。本当におまえが歌うと童謡にしか聞こえないのが不思議だぜ。

キョン「なあ、こないだ飲んだ時さあ、俺言わなかったっけ?」

長門「…なぁに?」
チンカン叩いていた手を止め、長門は小首を傾げてこちらを見る。

キョン「『こっちのお前』が好きだから、戻ってきたって」

長門「うふふふぅー。うんっ。嬉しかった」
長門は満面の笑みだ。ああー、無表情で無口なキャラ作りはもうすっかり脱ぎ捨てて、何だか楽しそうだな長門。

198 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/07(日) 15:37:17.72 ID:HFZsQ8lo0

キョン「『愛』ってなんだ、ってお前に聞かれてさ、真っ先に思い出したのがあのことで」

長門「…んふっ、うん」

キョン「おまえがいて、ハルヒや朝比奈さん、古泉や朝倉…。みんながみんなであるという、当たり前の、こっちの世界を俺は愛してるって…」

長門「ひどーい!」
長門が突然ヘソを曲げたかのような口調で頬を膨らませた。

長門「それって逃げだよう、きょんくんっ」
長門、目が座って…る?
アレ、日本酒いつの間に2本…空いてますね。

長門「ぜったい、あれは勘違いするもん!」
長門は頬を膨らませたまま、プイとまたアッチを向いてしまった。

200 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/07(日) 15:49:56.01 ID:HFZsQ8lo0

長門「わたしはさ、普段さ、そういう気持ちをさ、…全部隠して、隠して、ただ観測した情報を淡々と思念体に報告してさ」
長門は顔を背けたまま、真っ赤な耳たぶをぷるぷると震わせている。

長門「こういう時しか言いたいこと言えなくってさ。それも…いちばん、聞いて欲しい人に…さ。…好きだって言ってくれたしさ…」

キョン「長門…えっと。あーその、『好き』とか『愛』ってのは色々な意味を持っててだな」

長門「知らないもん」

キョン「でな、当たり前だが俺は長門のことを好き、だぞ」

長門は黙って向こうを向いたまま何も言わない。

201 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/07(日) 15:56:40.63 ID:HFZsQ8lo0

キョン「おまえは…俺のこと好きか?」
長門は向こうを向いたまま、間髪を入れず首肯する。

キョン「ありがとな。ところで……おまえは朝倉のことをどう思う?」

長門はこちらを振り返り、驚いたような顔でこう言った。
長門「…!?…なんで?」

俺が何も言わずに見つめていると、長門はちらりとこちらを伺うような目をして、小さくつぶやく。
長門「…好き。大好き」

キョン「おまえさ、自分のバックアップとサポートに新しい端末を派遣される時にさ、朝倉涼子をわざわざ再構築してもらったって言ったよな」

長門「…そうだよ」

キョン「何でって俺が聞いたら、あの時おまえはうまく言えない、って」

長門「…そうだよ」

キョン「朝倉っておまえにとって何だい?」

202 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/07(日) 16:01:25.32 ID:HFZsQ8lo0

長門「何でそんなこと聞くの? …彼女は…優しくて、いつも笑顔で、わたしを…一番に心配してくれて。とても、…大好きという言葉でも足りないくらい…だから…うまく言語化できないって…」

キョン「上の都合だか急進派だか知らないが、あんなことをさせられちまったあいつのこと、どう思った?」

長門「……あ…。かわ…いそう?」

キョン「居なくなってどう思った?」

長門「…あ……、さみ…寂しい?」

キョン「それまで、あいつに色んなことを教えてもらた、って言ってたじゃん」

長門「うん…、そう…たくさん、のこと…を」
長門はさっきまでのニヤニヤ顔から、少し呆然とした表情に変わっている。相変わらず真っ赤っかではあるが。


203 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/07(日) 16:05:48.11 ID:HFZsQ8lo0

キョン「たくさんの『感情』も教えてくれたんだな」

長門「…あ、…あ…ぅ」
長門の大きく見開かれた両の瞳から、つう、と涙が伝わった。

長門「…これ…は、何で?」

キョン「うん、嬉しくても涙は出るんだよ、人間はな」

長門は頬に伝う涙をぬぐうこともせず、じっと俺の目を見ている。

キョン「だからまた、朝倉と一緒にいたいって、思ったんだな」

長門「…そう。それが…『愛』なの?」

キョン「そうだな。それも、『愛』だと思う」

205 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/07(日) 16:10:02.67 ID:HFZsQ8lo0

俺は長門の左に座り直し、長門の肩を…そっとつかんだ。
長門がびくっ、としてこちらを見返す、表情は呆然としたままだ。

キョン「そして、俺は…その、おまえを愛している」

長門「……!!!!……」

キョン「その、これも『愛』に間違いないんだ」

長門「その『愛』とはいわゆる」俺はそれを制して続ける。

キョン「とにかく、ずっと一緒に居たいな、一緒に居ると安らぐな、大切にしたいな、そんな気持ち、感情…思い? そういうことだ」

長門は頬に伝う涙をそのままに、満面の笑みを浮かべて、こう言った。

長門「だったら、わたしもきょんくんのこと、愛してる!!!」

209 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/07(日) 16:21:57.12 ID:HFZsQ8lo0

長門はそう言うと、俺の首に両腕を廻すかたちで、飛びついてきた。
長門は軽い。けれどその勢いで、俺は思わず後方へ倒れてしまった。

ゴン!
鈍く大きな音がして、俺の後頭部はしたたかに打ち付けられてしまった。
床暖房の上に敷かれたカーペットが無かったら、フローリングに直接行ったところだぜ。
キョン「いっで………ぇ」

長門「あっ、きょんくん…ごめっ」
長門はそう言って赤い顔のまま、俺の手を引っ張り起こしてくれる。

キョン「いてて。やれやれ…。慣れないこと言うもんじゃないな」

長門「ごめんねっ、ごめんねっ、大丈夫? 血、出てない?」
長門は赤い顔で困り眉をしておろおろしているのが可愛い。

よく考えて見りゃあこんな状態の長門を見るのも久しぶりというか、いや、『本当の長門』ではこうして酒でも飲まなきゃ見られないんだった。

210 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/07(日) 16:32:17.12 ID:HFZsQ8lo0

長門「…でも……気持ちは嘘じゃな…いから…」
長門はここではじめて、頬の涙をそっと両手でぬぐった。

キョン「うん。俺も、嘘じゃない」
酒の力…なのか、俺にとってもうそんなことはどうでもいいわけだが、長門がこうしてオタオタしたり、デレデレしたり、泣いたり笑ったりする…のは、こいつにとってもいい事だ。

長門「でも…何だかちょっと納得いかないなっ」
長門はそう言いながらも、口元には微笑みを浮かべて座り直し、自分のコップを見つめている。

そ、そうだな。俺も何となく詭弁を弄してはぐらかしたような気がせんでもない。だが決して嘘は、ついていないんだぞ長門。

キョン「さっ、次は何を飲む?」

長門「焼酎を…ロックにしよっか…な」

キョン「よし、長門。やっちまえ」

215 名前:1  ◆8JJfvTJa6A [sage] 投稿日:2010/03/07(日) 16:44:18.98 ID:HFZsQ8lo0

〜長門有希の酩酊 続く(?)


どうもですー、
前編は>>85あたりまでが書き溜め投下で、あとは睡魔との戦いで…

後編?は今日になって残っていたことに感謝の意味をこめて続けてみました。
皆さん支援保守などどうもでした、
読んでいただきありがとうございますー。

朝倉を交えてとか、ご要望あればまたお会いするかもしれません、ではーノシ



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