みくる「ふぁい……朝比奈です」


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1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/18(金) 20:37:38.21 ID:6MUzKX7m0


突然の着信音にわたしは寝ぼけながら電話に出た。。

「おはようみくるちゃん!買い物に行くわよ!」

十二月二十三日。

肌寒い空気になかなか布団から出れずにいると、基本的に元気な団長から電話が来た。

電話の内容にぼーっとしながら返事をすると、涼宮さんは他の人に連絡すると言って電話を切った。


駅前に十一時に集合、半日は掛かるからそのつもりで、とのことだった。

半日も外を歩いていたら歩道されちゃうんじゃないかなぁ、わたしはそんなことを思いながら暖房のスイッチを入れ、もう一度布団に潜り込む。

寝起きは寒い。寒いから布団に包まる。暖かいから眠くなる。悪循環。だけどそれが心地いい。

たとえ室内でも吐く息は白くなる、そんな年の瀬の朝。

時計を見る。朝の八時。集合まで三時間。

わたしは部屋が暖まるのを待ってから行動する、そう決めた。


5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/18(金) 20:43:27.48 ID:6MUzKX7m0


何度かウトウトとして二度寝をしそうになる。

だめ、起きなきゃ、遅刻しちゃう。

眠い目を擦りながら洗顔をして、朝食を食べる。

鏡に向かって化粧を整え、最近買ったばかりのこの時代の流行ものの服に袖を通す。

必要なものを持ち、靴を履いていざ外へ。

眩しい太陽とは正反対に、吹く風はとても冷たい。

北風と太陽の話を思い出して、北風では絶対に勝ち目がないと一人で納得し、薄い青色のマフラーに顔をうずめた。

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/18(金) 20:48:52.94 ID:6MUzKX7m0

時刻は十時三十分。

「おはようございます」

わたしが集合場所にたどり着くと、そこには長門さんと鶴屋さんの姿があった。

長門さんはいつものように本を読みながら、ベンチに腰を下ろしている。

鶴屋さんはわたしを見ると目をまんまるくして、

「あっはははは、みくるなにそれ!モッコモコのフッワフワだよ!」

と、第一声で笑う。

肌を刺すような寒さに耐えられなかったわたしは、体温をなるべく逃がさないように普段より暖かい服を着込んできた。

「だ、だってこの冬一番の冷え込みだ、ってTVで言ってたんですよぉ?」

「おおげさ、おおげさだって!あははは!それじゃ着ぐるみじゃんか」

からかわれて顔が耳まで熱くなる。

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/18(金) 20:54:08.56 ID:6MUzKX7m0


「もう。そんな鶴屋さんは寒くないんですか?」

そう言いながらわたしは、手袋をしていない鶴屋さんの手をポッケから出した自分の手で握る。

「うひゃー、みくるの手はめっがさ暖かいね」

鶴屋さんはそう言ってわたしの手を握り返す。

想像より冷たい手に思わず驚いた。

「へ、平気なんですかぁ?」

心配するわたしをよそに、満面の笑みの鶴屋さんは、

「平気平気。あたしにはみくる印のマフラーがあるしね!この冬のマストアイテムっさ!」

と、以前わたしが作ってあげた桃色のマフラーを触った。


15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/18(金) 21:00:29.03 ID:6MUzKX7m0


そろそろ集合時間になる。

雑談していると、駅のほうから聞き覚えのある声がした。

「あれ?もうみんな揃ってたのね」

今日は女子だけが集まる。だからわたし達四人で全員になる。

「おはよ、有希」

白いうさぎの柄が施された黄色いマフラーをした涼宮さんは、そう言いながら長門さんから本を取り上げた。

見上げた長門さんは小さく頷くと、本を取り返そうと立ち上がる。

そして本に手を伸ばす。涼宮さんはそれをかわす。手を伸ばす。かわす。


16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/18(金) 21:06:13.66 ID:6MUzKX7m0


「朝っぱらから元気だよね」

攻防は徐々にスピードを上げていき、

「鶴屋さんだって朝から大きな声で笑ってたじゃないですかぁ」

迫る長門さん、弄ぶ涼宮さん。

「もしかしてさっきの怒ってるの?」

追い詰める長門さん、逃げ場を失う涼宮さん。

「怒ってません」

わたし達の視界の先の光景は、まさに年貢の納め時という感じだった。

「終わったね」

「はい」


18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/18(金) 21:11:38.80 ID:6MUzKX7m0


「さぁ、バカなことに時間つぶしてないでやることやるわよ」

息と服を整えた涼宮さんがわたし達にそう言った。

それに反して長門さんは、何事もなかったように薄い緑色のマフラーを巻きなおしてベンチから立ち上がる。

そして、今日の日程を涼宮さんが発表する。

内容は、今から面白いものを探しに出かける。

こうして聞いてみるといつもの不思議探索に聞こえるけど、そのいつもとはは違う。

明日はクリスマスイブ。

その日はSOS団のメンバーと鶴屋さん、キョンくんのお友達の二人(涼宮さん曰く、予算を増やすためらしいです)でクリスマスパーティーをする。

そしてパーティーのメインとして、みんなでプレゼント交換をする。

つまり今日はそのためのプレゼント探しに集まった。


19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/18(金) 21:17:23.96 ID:6MUzKX7m0


「面白いものじゃなきゃダメなんですかぁ?」

わたしはどうせ貰うんなら可愛いものが欲しい。

「そうよ!どうせみくるちゃんのことだから、わたしは可愛いの欲しいですぅ、とか思ってるんでしょうけどそうは問屋がおろさないわ!」

一瞬で考えを当てられた。

「あっはっははは!みくるのマネもう一回やって!」

「しかたないわね、いくわよ……ここどこですか、何であたし連れてこら」

わたしと長門さんは、目の前で繰り広げられ光景をただ無言で眺めていた。


21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/18(金) 21:24:07.79 ID:6MUzKX7m0


「って、またくだらないことに時間をかけちゃったじゃない!」

笑っている鶴屋さんを脇に置いて涼宮さんが言った。

「みくるちゃん!」

涼宮さんはニヤっと笑う。

「可愛いものならどっか別の男に貢いでもらいなさい」

「そそ、そんな人いませんよぉ」

わたしは両手を振りながら否定した。

「これは神聖な団活の一部よ。楽しくて面白いことが重要なの」

腰に片手を置き、もう片方の腕を上げて空を差す。

「というわけで、男連中が度肝を抜くような不思議アイテムを探しに行くわよ!」


24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/18(金) 21:29:56.81 ID:6MUzKX7m0


集合場所の駅前から移動を始める。朝方は明るかった空は徐々に雲が広がり、なんというか冬らしい雰囲気をかもしだしている。

クリスマス本番を控えた商店街は、色とりどりの飾りつけと煌びやかな電飾に身を包み、人が溢れていた。

すでに冬休みに突入している時期でもあり、辺りには小中学生や同年代の人達も多数いる。

そんな喧騒の中でわたし達が最初に見つけて寄ったのは、最近出来たばかりの美味しいと噂のお菓子屋さんだった。

「お兄さん、あたしそのクリスマス限定ウルトラスーパースペシャルDXがいいわ!有希は?」

「同じ」

どうやら二人は朝食を食べていないらしく、クリスマス限定の特大クレープを注文した。

朝食を済ましてきたわたしと鶴屋さんはトライデント焼きというのを注文し、それぞれが商品を受け取った。

「いただきま〜す」

最近少しだけお腹周りに余計なお肉が付いてきた気がする。とはいってもこういう間食は止められない。

鶴屋さんと、別のものを食べれば交換できたのに、と互いに笑って反省した。

店頭にある全ての食材を詰め込んだようなそのクレープを、長門さんと涼宮さんはぺロリと平らげ、いざ次の目的地へ。


25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/18(金) 21:35:45.83 ID:6MUzKX7m0


「そういえばみくるちゃん知ってる?」

唐突に涼宮さんがそう言った。

わたしは首を捻って応える。

「実は元来日本で言うところのクリスマスっていうのはね、『苦理済ます』っていって、己の心を一人っきりで見つめる修行の日なの」

苦理を済ます、知っている起源と違う。でも日本は元々仏教の国だからそういうのがあるのかもしれない。

わたしはしきりに頷きながら続きを聞いた。

「そしてそれが出来ない子供達のところには地獄よりの使者、サタン様が現れるのよ!」

と、涼宮さんはなにやらおどろおどろしいポーズをとりながら、わたしに力説をした。

「へぇー、そうなんですかぁ〜」


30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/18(金) 21:41:04.02 ID:6MUzKX7m0


その話を黙って聞いていた長門さんが、

「そのような事実は存在しない」

とだけ言って前を歩いていく。

「なによー、ちょっとネタばらし早すぎるんじゃない有希」

「あれ?ウソなんですかぁ?」

「そう」

危うく信じるところだった。

「なに?もしかしてまだ朝の怒ってるの?」

「違う」

「もう、なに拗ねてんのよ」

と言って涼宮さんは後ろから長門さんに飛びついた。

未来のみんな、今日も世界は平和です。


32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/18(金) 21:46:22.13 ID:6MUzKX7m0


「ハルにゃんハルにゃん」

辺りのお店見回しながら鶴屋さんが声をかける。

クリスマス商戦真っ只中の商店街は飾りつけの他に、たくさんのセールや割引の文字が躍っている。

「なに鶴ちゃん、面白いもの見付かった?」

「まだだけどさ、せっかくだから色々見て回ろうよ。っていうかあそこのランジェリーショップ行こうよ」

そう言って鶴屋さんが指差した先には、

本日限定全品五十パーセントOFF!!!

そう大きく書かれた張り紙。わたし達は少しの迷いもなくその入り口に吸い込まれていった。


33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/18(金) 21:51:49.80 ID:6MUzKX7m0


「いやー普段この店の商品高くて手が出せなくてさー」

と、鶴屋さんがどっちかというと派手な下着を手に取って言った。

鶴屋さんの言うことも一理ある。可愛いものを買おうと思うと、わたしのお給料では手が出しづらい。

「そんなに高いもの着けても仕方ないじゃない」

わたしはここぞとばかりに財布と相談しながら、以前から目に付けていた下着を選別していった。

「でもいざってときに安っぽい女だと思われたら癪だろ?」

可愛いフリル。あぁこれはサイズがない。

「い、いざって……べ、別にそんな相手いないし、だいたい鶴ちゃんだってそんな相手いないじゃない!」

店内は外の張り紙に釣られた女の人がたくさんいた。


34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/18(金) 21:57:26.06 ID:6MUzKX7m0


「相手?ハルにゃんが何を想像してるか分かるけど、あたしが言ってるのは同姓のことだからね?……もう、ハルにゃんスッケベー」

あっ、これは前から欲しかったやつだ。値段も随分お手頃に。買っちゃおうかなぁ。

「な、な!」

不意に袖を引かれると、長門さんがそこにいた。

「だいたい男なんかに下着の価値が理解できるわけないじゃん」

話を聞くと、何を選べばいいか分からないと言う。

「知らないわよそんなの!」

わたしは後ろで会話をしていた二人に相談することにした。


36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/18(金) 22:02:41.23 ID:6MUzKX7m0


「あの、長門さんが選ぶのを手伝って欲しいって」

二人は同時にわたしを見て、次いで長門さんを見る。

「有希をコーディネートか……楽しそうね!」

「そうだね!ゆきんこ、サイズはいくつ?」

満面の微笑み(にやつき?)の二人は、長門さんからサイズを聞くと腕を引いて行ってしまった。

一緒に行こうとすると、わたしが来ると嫌味になるからダメ、と二人に釘を刺された。

わたしは仕方なく一人で自分のを選ぶことに。

せっかくだからわたしの選ぶやつの意見も聞きたかったのに……。


37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/18(金) 22:08:09.17 ID:6MUzKX7m0

この機会に下着以外にも買い込んだわたし達は、買い物袋を持って次の場所へと向かった。

「まったくこんなときにあの二人がいれば荷物持ってくれるのに」

と、不満そうに涼宮さん。

「わぁお!大胆発言だねハルにゃん!」

と、驚く鶴屋さん。

「なにがよ?」

不思議そうな顔をした涼宮さんにわたしが言った。

「そ、それって、男の人にそ、その、し、下着を持ってもらうってことですよねぇ?」


39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/18(金) 22:13:31.60 ID:6MUzKX7m0

想像したら恥ずかしくなってきた。

それは涼宮さんも同じらしく、みるみるうちに顔が真っ赤になっていく。

「違う、そうじゃなくて、『荷物』を持たせるって意味よ!?」

あたふたしている涼宮さんを尻目に鶴屋さんが追い討ちをかける。

「さっきの下着の件といい、ハルにゃんは以外にむっつりなんだね」

なんだか鶴屋さんが生き生きしている。

「知らないわよ、もう次行くわよ!」

と、こちらを振り返らずにズンズンと先に行ってしまった。

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/18(金) 22:18:57.78 ID:6MUzKX7m0


先に行った涼宮さんに追いつき、行き先を聞く。

「商店街抜けた先に新しい小物屋さんが出来たのよ」

話を聞くと、可愛いものからオカルトチックなもの、そしてパーティグッズまでなんでもござれらしい。

今日の予定をクリアするにはうってつけの場所だ。

「事前に下見も済ませてるから問題無しよ!そこ終わったらご飯でも食べ行きましょ」

わたし達はそれに賛成して足を進めた。

進めようとした。だけど進められなかった。

なぜなら、進めようとした途端に後ろから呼び止められたからだ。


41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/18(金) 22:24:24.55 ID:6MUzKX7m0


わたし達は反射的に振り返る。

「っち」

涼宮さんがおもむろに舌打ちをする。

「いきなり舌打ちとかさすがに傷ついちゃうんだけど」

わたし達と同じ、ちょうど四人組のヘラヘラした男の人達が声をかけてきた。

「はぁ」

鶴屋さんが溜息をする。

男の人達は見た目、大学生くらいの小奇麗な身なりの人達だった。

「ねぇ今暇ぁ?」

その中で一番背の高い人が進行方向に先回りして、先頭を歩いていた涼宮さんに声をかける。


44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/18(金) 22:30:37.53 ID:6MUzKX7m0


「これから行くとこあんのよ、だから邪魔よ」

涼宮さんは小さな虫でも払うかのように手を振る。

「じゃあ俺達暇だから一緒に行ってもいい?荷物持ちでもなんでもやるよ」

ナンパ慣れしているのか、その程度ではめげずに食い下がる。

「ごあいにく様、あんたたちが暇とかどうでもいいから」

そう言って正面の男の人の脇を通ろうとする。

「えぇ〜でも女の子四人でしょ?男連れの方が箔つくぜ。とりあえずそれ持ってあげるよ」

そう言って男の人が涼宮さんの荷物に手を伸ばす。


45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/18(金) 22:36:29.26 ID:6MUzKX7m0


「い、いてててて!」

涼宮さんが手を払うより早く、長門さんがその伸びた手を捻り上げた。

「ちょ、まじで痛い!痛いから!」

「邪魔」

無表情の長門さんは小さな体で男の人を簡単に捻じ伏せた。

すぐに違う男の人が長門さんをなだめにはいる。

「マジ勘弁してやってよ、こいつも悪気があったわけじゃないしさ」

「邪魔」

「分かったよ、俺らも諦めて帰るから」

長門さんが手を放すと、男の人は手を擦りながら言った。

「でもさ、せっかくだし連絡先教えてよ。袖擦りあうも、っていうしさ」

転んでもただじゃ起きない。最近のナンパはなんだかしつこい。


47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/18(金) 22:41:59.07 ID:6MUzKX7m0


「あんましつこいと大きな声出しちゃうよ?ね、みくる?」

と、鶴屋さん。

「え?」

と、わたしと男の人達。

鶴屋さんは次の瞬間、わたしのスカートのすそを持ち上げた。

「っっっっっっ、ひぃやぁぁぁぁぁあぁぁ!!!!」

わたしはスカートを抑えながら、その場に座りこんで叫んだ。

それはまさしく大きな声で、知らず知らずのうちに涙まで出てくる始末。


48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/18(金) 22:47:33.99 ID:6MUzKX7m0


わたしが目を開けると男の人達はもうそこにいなかった。

「あいつら一目散に逃げていったわよ、みくるちゃんナイス!」

と。涼宮さんが親指を立てる。

「大丈夫、パンツまでは捲ってないから」

と、同じく親指を立てながら鶴屋さんが言う。

「つ、鶴屋さんヒドイですよぉ〜〜!!!!」

わたしは鶴屋さんの肩を両手で掴んで涙目でゆすった。

「ごめんね、ほら悲鳴上げるとかあたしたちの柄じゃないしさ」

涼宮さんに鶴屋さんに長門さん。確かにそうかもしれない。でも、

「そ、そんなの知りませんよぉ〜!」

半べそのわたしは涼宮さんと長門さんに手を引かれ、そのまま目的のお店まで連れて行かれた。


53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/18(金) 22:54:32.26 ID:6MUzKX7m0


そこはまるで、涼宮さんのために作られてようなお店だった。

入ってすぐの場所は、プライベートでもまた来よう、そう思いたくなるくらい可愛い小物がいっぱいある。

右を見れば大小様々なぬいぐるみが、左を見れば初めて見るコスメがたくさん。

そして奥に進むと、被り物やビンゴにボードゲーム。

さらに奥に進むと、古今東西の呪術グッズがてんこ盛り。

「どう?なかなかいい感じでしょ」

胸を張りながら、まるで自分のお店のように涼宮さんが言う。

「そうだね。これなら明日遊ぶものがよりどりみどりだよ」

「それじゃあ解散!二十分以内に面白いもの持ってここに集合よ」


56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/18(金) 23:03:52.24 ID:6MUzKX7m0

店内は広い。周りを見渡しても直接レジは見えなくて、天井から吊るされているレジの看板を探さないとたどりつけない。

わたしは最初にぬいぐるみコーナーを見ることに。

可愛いライオンのぬいぐるみから、クマのようなぬいぐるみ、他にもたくさんあった。

熊野ぬいぐるみにシールが貼ってある。そこには、ここを強く握ってね♪、と書いてあり、わたしは試しに握ってみた。

「ふもっふ」

わぁ可愛い〜。もう一回。

「ふもっふ」

どこかで聞いたことがある掛け声だけど、多分気のせいだと思う。

「みくる、なんかあった?」

「ふもっふ」

わたしはぬいぐるみで答える。

「なにその人形、ネズミ?」

「えぇ?クマさんじゃないんですかぁ?」

「ネズミっぽいけどなぁ……あっ、そうだ面白いのやってるからちょっと行こうよ」

人形を元の場所に戻し、わたしは鶴屋さんの背中を追った。


58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/18(金) 23:09:34.46 ID:6MUzKX7m0


鶴屋さんに連れられていったのは、マジックグッズのコーナー。

どうやら試しにいくつか体験できるらしく、店員さんがマジックを披露していた。

簡単なマジックというけど、わたしにはまるで魔法のように不思議なものにしか見えない。

鶴屋さんはそれを見て、トランプを手に取った。

「お兄さん、これ練習すれば明日までに出来るようになるかな?」

「きっと出来ますよ」

「じゃあこれ買った!みくる、明日の宴会芸はあたしにまかせてね」

そう言って、鶴屋さんはプレゼントとは他にトランプを買った。

わたしは自分の分をまだ買っていなかったから、そこで鶴屋さんと別行動をとって奥に進んだ。


61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/18(金) 23:15:28.95 ID:6MUzKX7m0

少し奥に行くと長門さんを見つけた。そこは外国語の本が置いてあるコーナーだった。

「なに見てるんですかぁ?」

「本」

横から覗くと、そこには明らかに英語ではない見たこともない言語が書かれていた。

「えっと、何語の本なんですか?」

「分からない。解析中」

そう言いながら、ページの上から下までものすごいスピードで視線を下ろしていく。

やっぱり長門さんはすごい。わたしはそれ以上の邪魔をしないようにその場を静かに離れた。

63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/18(金) 23:20:09.08 ID:6MUzKX7m0


最後に涼宮さんを見つけた。わたしが近づこうとすると、

「ちょっとみくるちゃんダメよ。何を買ったかは明日になってのお楽しみなんだからね?」

とダメだしをされてしまった。

その場を離れる際に振り返ると、黒い笑顔をした涼宮さんが商品を見ながら、なにやら思案していた。

悪い予感しかしない。

時間になって集合して、それぞれが思い思いのプレゼントを買った。

中身はやっぱり内緒で、明日の夜まで口外はなし。

時刻は午後の五時半をまわったところ。最初の予定通り、みんなで夕食を食べに行くことにした。


64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/18(金) 23:25:45.93 ID:6MUzKX7m0

空もすっかり暗くなり、風邪はさらに冷たくなる。

わたし達は最寄のファミレスに入り、そこで夕食を食べることに。

窓際の席に座り、店員さんにドリンクバーを頼んだ。

「今日はいい収穫があって良かったわ」

下着が入った袋を叩きながら涼宮さんが言う。

もうちょっとデリカシーがあったほうがいいと思うけど。……とはいえそんなことは言えない。

「そうだね。面白そうなプレゼントも買えたし」

コップから伸びるストローを咥えながら鶴屋さんが言う。

今日は鶴屋さんにヒドイ仕打ちをされた。でもそれは後日ケーキを奢ってくれるというので、チャラにした。

それまでもっと運動をしないと!

長門さんは楽しんでいたのかな?

何を考えているか分からないけど、プレゼントのほかに何語か分からない分厚い本をさっきのお店で買っていた。

それに少しだけどわたしを頼ってもくれた。非常時でなければわたしも少しは役に立つんだ。


65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/18(金) 23:31:33.46 ID:6MUzKX7m0


メニューを見て注文を決める。

わたしはグラタン。涼宮さんと鶴屋さんはパスタ。長門さんは大きなWハンバーグ。

みんなでそれぞれ少しずつ交換しながら食べる。

その後は冬休みの予定や、昨日の夜やっていたTVの話、学校のことや今日のナンパの話、色々なことを話した。

涼宮さんのする話の大半はあんまり中身があるものじゃなくて、改めて普通の女の子でもあるんだと実感した。

ずっと黙りっぱなしの長門さんも、話を振られると相槌をして反応する。

鶴屋さんは涼宮さんと馬が合うから、くだらないことを言っては二人でお腹を抱えて笑っている。

わたし?わたしはひたすらいじられてます。はい。


68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/18(金) 23:39:16.29 ID:6MUzKX7m0


結局ファミレスで二時間くらい話していた。

「今日は疲れましたぁ」

一日を思い出し、溜息がちに言う。

「なに言ってるのよみくるちゃん!本番は明日よ」

「そうっさ!明日はオールだかんね!」

オールかぁ、正直起きていられる自信がない。

すると、鶴屋さんがわたしの考えてることを見透かしたのか、

「あんま早く寝ちゃうと、ほら、男の子が四人もいるからいたずらされちゃうよ?」

「ふぇ〜!」

「そうね、明日は無礼講ってことで、それくらい大目に見ましょうか」

「えぇぇ〜!!」

「なははは、ウソウソ、あたしのみくるにそんなことさせないっさ!」

今日の鶴屋さんじゃ説得力がありませんよ。

わたしは絶対に寝ないと心に誓った。


69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/18(金) 23:44:50.50 ID:6MUzKX7m0


「明日は何時ごろ行けばいいんですかぁ?」

「飾りつけもあるし、料理もあるし……有希、何時頃ならいい?」

会場は長門さんの部屋。料理のための材料や夜更かしのためのお菓子やジュースも買わなくちゃいけない。

「何時でも」

「じゃあ昼過ぎに随時集合よ」

キョンくん達には涼宮さんからメールをすることになった。

もし明日キョンくんが一番来るのが遅かったら、また奢りになちゃうのかな?

さすがにそれはないよね。


70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/18(金) 23:50:09.43 ID:6MUzKX7m0

「じゃあここまでね」

今日は一日遊んだ。恥ずかしいこともあったけど楽しかった。

わたしは満足して空を見上げる。夜の黒と雲の白で灰色っぽい空から立体的な白が降ってきた。

「わぁ!雪ですよぉ、雪が降ってきましたぁ〜」

それぞれが空を見上げる。

深々と、というわけではないけど、多くもなく少なくもない雪が静かに降ってくる。

感嘆の声と共に、わたしたちの吐いた白い息が空に昇っては消えていく。

71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/18(金) 23:54:37.62 ID:6MUzKX7m0


「今年中に雪合戦とかできるかしら」

「どうだろうね、でもめがっさやりたいね」

「雪だるまも作りたいです」

「そうね、でっかいやつ作りましょ」

「かまくら」

「いいねゆきんこ、風流だね。中でお餅とか焼いちゃったりしてね」

「それで最後にキョンを中に入れてかまくらを崩すの」

「キョンくんが可哀想ですよぉ」

「まさかみくるちゃんが自分から立候補してくれるなんて……」

「わ、わたしは嫌ですぅ」

「じゃあキョンくんで決まりだね」

うぅ、とりあえずキョンくんごめんなさい。


73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/19(土) 00:02:19.49 ID:6MUzKX7m0


しばらく空から降る雪を眺めた後、お別れを言ってその場を離れた。

誰もいない部屋にただいまを言って、部屋の暖房を入れる。

芯まで冷えた体を温めるために浴槽にお湯を溜める。

服を着替えて暖房の前に腰を下ろす。

楽しかったけどこれもお仕事の一環。どうしても疲れる。

かじかんでいる足先をマッサージしながら目をつぶる。

そして自分に労いの言葉を。

今日も一日ご苦労様。

77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/19(土) 00:08:05.10 ID:gbitVIlV0


翌日のクリスマスイブは恙無く進んだ。

SOS団の五人と鶴屋さん。それにキョンくんのお友達の国木田君と谷口君。

合計八人で行われたクリスマスパーティー。どんな内容だったかはまた別のお話です。

えっ?プレゼント交換はどうなったかですか?

それは内緒です。

少なくともわたしにとっては、とってもとっても楽しいハッピークリスマスでした。



「これでおしまいになります。皆さん、ここまで読んでいただきありがとうございました。ヤマなしオチなし、まったりといかせていただきました」

「男性陣の台詞がない?んふ、僕の台詞がここにあるじゃないですか。それで満足してください」

「だって誰も僕のこと気にしてないんですよ!?名前すら一度も上がらないし……はぁ」

「それではここで失礼させていただきます。僕としても名残惜しいんですが、実はクリスマス当日は森さんとの約束がありまして、その下準備に忙しいんですよ」

「何のかって?野暮なことは聞かないで下さいよ。では少し早いですが、皆さん、ベリーメリークリスマス。ではいずれ」


〜Fin〜



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