【涼宮ハルヒSS】 涼宮ハルヒの共学


メニュー
トップ 作品一覧 作者一覧 掲示板 検索 リンク SS:キョン「なんだ、岡部か」

ツイート

1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/09/11(金) 20:43:15.61 ID:X4OzucLU0

この物語はフィクションであり、実在する人物、団体、その他の固有名詞とは何の関係もありません。
嘘っぱちです。どっか似ていたとしてもそれはたまたま偶然です。他人のそら似です。

初めての長編SSです。
知識の乏しさと文章力のなさは容赦願います。
ここに立てていいものかすら分かっていませんが、とにかくやります
どうぞ冷めた目でお付き合いいただければ光栄です。

それでは始めます。

3 名前: ◆iPZ3/IklKM [] 投稿日:2009/09/11(金) 20:45:23.09 ID:X4OzucLU0

涼宮ハルヒの共学 プロローグ

何か胸騒ぎがする
それもものすごくイヤなヤツが
ゆっくりと窓の外を流れる見慣れた景色を眺めながら、
俺は安易に単独行動をしてしまった
相変わらず行き当たりばったりの自分の行動力を悔んでいた

俺は今、鶴屋家差し回しの車の助手席に乗っていた
運転しているのはあまりよく顔を知らない、鶴屋家の使用人だった
これが新川さんならばものの1分もかからずに到着できるぐらいの近距離なのだが
鶴屋家の運転手さんはひたすらゆっくりと、
まるでリムジンでも運転するような丁寧さで車を走らせていた

鶴屋邸から長門のマンションまでは車ならそう遠い距離ではない
なだらかな下り坂を下りていると、見慣れたレンガ造りのマンションが見えてきた

もうすぐだぞ長門
ハルヒに古泉、朝比奈さん
早くみんなの顔が見たくて焦る
横道に逸れてしばらく走れば長門のマンションの入り口だ

少し安心してシートに座り直すと突然
全体にフィルターでもかけたように、長門のマンションがぼやけだした

?????

5 名前: ◆iPZ3/IklKM [] 投稿日:2009/09/11(金) 20:47:10.70 ID:X4OzucLU0

これはいったい?

運転手さんもその状況に気付いたようで
「あれ?」とつぶやいてブレーキを踏んだ
その直後だった

バアーン!

激しい音がして車のボンネットに何かが叩きつけられた
思わず自分の顔を両手で覆ってしまう
狭い道なのでそんなにスピードが出ていなかったこと
既にブレーキを踏んでいたこともあって
ボンネットに叩きつけられてそのままゴロンと転がり落ちたその物体を車は跳ね飛ばさずに済んだ

慌ててドアを開けて外に飛び出した俺の前で倒れていたのは
北高のセーラー服を着て髪に黄色いリボンを巻いている女子
短いスカートがまくれ上がり、死んだようにピクリとも動かないそれは・・・

涼宮ハルヒだった

ハルヒ?

何でお前がこんな所にいるんだ?

どこから落ちてきたんだお前???


その1へ

7 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/11(金) 20:50:10.75 ID:X4OzucLU0

すみませんsageるの忘れてました

話は少しだけ過去にさかのぼる

俺たちが無事に2年生に進級し
我がSOS団は無謀にも新入部員募集などという不届きなイベントを繰り広げていた

ハルヒの豪放磊落というのか、それとも傍若無人というのか
相変わらずコイツを現す四字熟語には不自由しないある日
部室にいつもいるはずのメンバーが一人足りないことに気付いたのもやっぱりハルヒだった

SOS団の初期メンバーでもあり、唯一のまともな文芸部員で
元眼鏡っ子で無口で色白の薄幸の美少女、しかしその実態は
この銀河を統括する統合情報思念体が調査のために派遣した対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェイスである(ちょっと一息)
要するに宇宙人が作ったアンドロイドの長門有希が欠席していた

慌てて長門に電話をかけるハルヒ
古泉も朝比奈さんも不安な表情で俺の顔を見ていた

「キョン!行くわよ!」

ああもちろんだとも
言われなくてもそうするさ
あの長門が発熱して寝込むなんてあり得ない
いや、あるとしたら理由ははっきりしている
例の天蓋領域とやらの侵略がまた始まったのだ

メイド姿の朝比奈さんを大急ぎで着替えさせ
長門を除くSOS団一行は、足音も激しく北高を後にした

8 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/11(金) 20:52:17.48 ID:X4OzucLU0

先頭をずんずん歩く団長の後を、俺たちが一団になって追いかける
かわいそうな朝比奈さんはなかなか追いつけずにフゥフゥと息を荒げているが
それでも泣き事などは全く言わない
朝比奈さんにもこの異常事態は十分分かっているはず

そんな朝比奈さんの携帯がプルルルと鳴った
走りながら携帯を開いた朝比奈さんは小声でボソボソと話していたが
すぐに電話を俺に渡してきた

「キョン君、電話です・・・」

ん?俺にですか?
いぶかしく思いながらも携帯を受け取って何ですかと聞く

「ああキョンくん?ごめんだよっ忙しい所を!
 キョンくんの番号を知らないんでみくるにかけたわけさっ
 手短に用件だけ言うね
 あのさ、例の超合金があったろう?うっとこの山に埋まってたヤツさ
 あれが今日なくなってるんだよっ!使用人が見つけたんだけど
 どうしようかなって思ってたんだけどさっ
 キョンくんにまずは連絡した方がいいと思って」

例の超合金?まさかオーパーツの事ですか?

「そうだよっ!あれあれ
 でも様子が変なんだよねっ
 土蔵の鍵は開いてたけど別に壊された形跡もないし
 他の物には一切手も触れてないみたいだしさっ
 最初からあれだけを狙ってたような感じなのさっ
 だから警察に届ける前にキョンくんに知らせたってわけだ」

9 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/11(金) 20:54:19.40 ID:X4OzucLU0

分かりました、俺がすぐ行きます
その・・・警察に届けるのは少し待ってもらえますか?

「うん!いいよっ!最初からそのつもりだったからさっ」

俺は電話を切って朝比奈さんに返し、古泉に話しかけた
ちょっと気になるんで鶴屋さんの家に行くから長門の事を頼む

「緊急事態ですか?」

いやまだ分からん
それを確かめてくる

「僕もご一緒しましょうか?」

いやお前はハルヒと一緒にいてくれ
まだ何が起こるか分からんし
起こるとしたらまずは長門の所だ

「分かりました。何かあったらすぐに連絡を下さい」

もちろんさ
おいハルヒ

「あ?」

ちょっと俺は後から行くから

10 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/11(金) 20:56:06.66 ID:X4OzucLU0

「どうしたの?」

ちょっと野暮用だよ
すぐに合流するから

「あんた!有希よりも大事な急用なの?」

そんなことはない
長門も心配だけど、もしかしたら関係があることかもしれないから

「1人で大丈夫なの?」

ああ
ちょっと見てくるだけだ
鶴屋さんの所だから1時間で往復できる
それまで長門をよろしく頼む

「ふーん。よし分かったわ、早く行ってきなさい」

おいハルヒ

「何よ?」

SOS団を頼んだぞ

「あったりまえじゃないの!バカじゃないの?」

頼むぞ

11 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/11(金) 20:58:10.99 ID:X4OzucLU0

「キョン!早く戻ってきてね」

思い返せば、このハルヒの一言もまた、何かの予感をしていたのだろうか
珍しく眉を伏せて、今駆け下りてきた道をまた走り出した俺の背中を見つめていた

アップダウンの多いこの街の地形にもずいぶん慣れたつもりだったが
イレギュラーな出来事にはすぐには対応できない
北高までの登り道を半分ほど登り、途中で折れてまっすぐ行った所にある
相変わらず犯罪的なお屋敷の長い塀を回り込み
ようやく鶴屋邸の玄関に着いた時には俺の息は上がり、びっしょりと汗をかいていた

「ごめんねーこんな時に電話しちゃってさ、長門っちが熱出してるんだって?大丈夫かなー」

俺はハアハアと荒い息をつきながら、とりあえず状況を聞いた

「さっき話したとおりなんだけどさっ、犯人はまるで最初からそれだけを狙ってたみたいなんだよねっ。
他の物には手も触れてないし、何であんなものに興味があったのかなー」

鶴屋さんに案内されて、鶴屋家先祖代々の貴重な品が眠っている大きな土蔵の前に立った。

「何も動かしてないよっ、全部そのままにしてあるからっ」

確かに鶴屋さんの言うとおり、一見しただけでは泥棒が入った後とは思えない
乱雑に積み上げられた木箱やつづらなどがこじ開けられた形跡はなかった
しかし入口付近にある小さな木箱だけが開けられていた
目撃者とかいなかったんですか?

「うん、使用人に聞いてみたんだけど、このあたりはあんまり誰もうろうろしないからさ。
鍵はおやっさんの金庫の中だし、おやっさんは夜まで帰って来ない から、誰かが鍵を持ち出す事もないと思うのさっ」

12 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/11(金) 21:00:09.12 ID:X4OzucLU0

俺はしばらく考えたのちに鶴屋さんに頼んだ
心当たりはない事もないんですが、今はまだ話せないです
でももしかしたら、何かの手がかりが見つかるかもしれないんで
俺が戻るまでは警察には知らせないでもらえますか?

「うん、分かったよっ!」

じゃあ後で電話します
必ず今日中に連絡入れますから

「うん。キョンくん」

はい?

「ハルにゃんをよろしくねっ!」

は?

「ハルにゃんはああ見えてもすっごく心配性なんだよっ
 みんなが元気でいられるように、ハルにゃんは必死なんだ
 そんなハルにゃんを元気にさせてあげられるのはキョンくんだけなんだからさっ」

はい

「頼んだにょろっ!」

13 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/11(金) 21:02:18.54 ID:X4OzucLU0

いきなりの鶴屋さんの不思議発言だがこの人にはある程度の予知能力のようなものが備わっているみたいだ
顔は明るく笑っているが、口調は真剣だった
それが分かるので、俺も正直に答えた

しばらく現場の状況をざっと確認してから、俺は鶴屋邸を後にした
だんだん悪い胸騒ぎがしてくる

犯人は明らかにオーパーツだけを狙っている
そしてオーパーツを狙うってことは、それがどんな機能を持っているかが分かっているはず
そんな犯人の心当たりと言えば・・・

長門が危ない
俺は直感的にそう思った
長門を寝込ませて力を封じ、その隙にオーパーツを使ってとんでもない事をやらかそうとしている
そんな事をしそうな輩は地球上にそんなに多くはいない

俺はあの奇妙な長い髪をした不気味な少女
周防九曜の事を思い出していた

さっき駆け上ってきた道を再び走り出してしばらく
ようやく鶴屋邸の長い塀を抜けて住宅地を走っていると
人気の少ない交差点に止まっていたシルバーのワンボックスカーが静かに俺に近寄ってきた
ただ長門のマンションに急ぐことだけを考えて他に頭脳が回らなかった俺は
そのワンボックスカーが目の前に停まってスライドドアが開くまで、まさか自分の身に危険が迫っているとはよもや考えてもいなかった

15 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/11(金) 21:04:30.75 ID:X4OzucLU0

(同時刻、別の場所で)

「有希!有希!起きてるの?ねえ有希!開けてってば!」

涼宮ハルヒは鉄製のドアをガンガン叩き、近所迷惑な大声でわめいていた
玄関のオートロックの暗唱番号はあらかじめ聞いておいたものの、ドアを開けるには鍵が必要だ
ドアを叩きながらわめくハルヒと、その横でオロオロする朝比奈さん
そして少し遅れて古泉がエレベーターから出てきた

「今日は本当の緊急事態です、事情を説明して管理人から鍵を借りて来ました」

「古泉くん、早く開けて!」

古泉が長門の部屋の鍵を開け、ハルヒを先頭にドッとなだれ込んだ

「有希!有希!いるの?」

いつもの居間には長門の姿はなく、ハルヒは迷わずに奥の和室の襖を開けた
そこには長門がいた
ちゃんと布団を敷いて、静かに眠っている

「有希!大丈夫?熱はどうなの?ちゃんと薬飲んだ?」

「・・・・・・・問題ない、一過性のもの。寝てれば治る」

「みくるちゃん」

「ハイっ!」

17 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/11(金) 21:07:03.23 ID:X4OzucLU0

「氷枕とか何でもいいから探して来て。それと古泉くん、もっとたくさん布団出して」

「承知しました」

「有希、どうなの?つらくない?」

「・・・・・・・」

長門は力なく横たわったまま、布団の胸の部分だけが静かに上下している
すぐに古泉が何枚かの布団を引っ張り出し、小さな長門に積み上げた
朝比奈さんはビニール袋に冷蔵庫の氷を詰め、濡らしたタオルも持ってきた

「有希、しっかりしなさいね。みんなここにいるから」

長門は薄く目を開き、ゆっくりと左右を見た

「・・・・・・」

その仕草でハルヒはすぐに、長門が探しているものを理解したようだ

「キョンならすぐに来るわ。ちょっと寄り道してるだけだから」

「・・・危険・・・彼が危険・・・」

「有希?」

「・・・・・・行かないと」

「有希!ダメよ動いちゃ!キョンはすぐに来るから
 もうしばらく寝てなさい!」

18 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/11(金) 21:09:51.66 ID:X4OzucLU0

「・・・・・・」

長門は無理やり体を起こそうとしたが、すぐに力なく崩れ落ち
ハルヒの手で再び寝かされた

「古泉くん、どう思う?」

「かなりの高熱ですね、救急車を呼んでもいいのじゃないでしょうか?」

「そうね、みくるちゃん、119番して」

朝比奈さんが居間にとって返し、受話器を持ち上げてプッシュボタンを押した


(再びキョンの時間に)

俺のすぐ脇に停車したワンボックスカーのスライドドアが開き、声を上げる暇もなく、何本かの腕が俺を車内に引きずり込んだ
何事かをわめこうとしたがすぐに口をタオルのようなもので抑えられた
精一杯の抵抗のつもりで肘を張って暴れてみるが、その腕は誰にも当たらなかった

「じっとしてな。危害は加えん。ただちょっとおとなしくしてくれたらいいんだ」

俺の足がまだ空中にあるうちに車は再び走り始め、その後でスライドドアが閉められた

何だ?この展開は?
誘拐?この俺が誘拐だと?

19 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/11(金) 21:11:35.02 ID:X4OzucLU0

今年の冬に朝比奈さんが誘拐されかけた、あのおぞましい経験がよみがえっていた
まさかこの俺が誘拐されるとは?

俺に押し付けられたタオルはただの猿轡で、麻酔薬がしみこませられたりはしていない
走っている車の外の景色がすさまじい速さで流れていく
その時、ドバーンと大きな音がして、俺は前方に投げ出された
前の座席のシートに叩きつけられ、肺じゅうの空気が一気に絞り出された
車の足元にゴロゴロと力なく転がっていると、2回目の衝撃が来た
今度は後ろから何かが追突し、俺を襲った誰かの足に体当たりした

「村上だけ残れ、後は出て応戦しろ」

誰かのそんな声が聞こえ、再びスライドドアが開いた
俺は座席の足元にうずくまり、外の様子が全く理解できない
苦労して起き上がろうとすると、誰かに頭を押さえつけられた

「いいからじっとしてろ」

ドスのきいた声でそう言われ、固い靴の底で頭をグリグリと転がされる
いったいどうなってるんだ?
この状況は?
アドレナリンが強烈に噴出する頭の中で必死で考える

俺は誘拐されかけていた
その車に何かが衝突した
そして何人かが飛び出して行った

20 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/11(金) 21:14:10.49 ID:X4OzucLU0

ようやく自体が飲み込めてくる
俺を誘拐するグループと言えば心当たりは少ない
いつぞや朝比奈さんを誘拐してカーチェイスをした時の連中だ
ということは、衝突した車に乗っているのは俺を助けようとしてくれている連中

まさか?
混乱する状況を必死でまとめようとしていると、突然外から声が聞こえた

「彼を放しなさい!」

この声は・・・やっぱり・・・

俺を見張るように言われていた村上と名乗る男がすかさず反応した
固い金属の棒のようなものを俺の後頭部に押し当て

「動くとこのガキを撃つぞ」

撃つってまさかおい
俺の頭に突きつけられているのは・・・銃?

外からの声はさらに続く

「撃ちたいのならお好きにどうぞ。でもその後どうなるかを理解していますか?
こちらも武装はしています。彼を守るためなら発砲は辞しません」

「くそっ」

21 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/11(金) 21:16:26.55 ID:X4OzucLU0

ようやく自体が飲み込めてくる
俺を誘拐するグループと言えば心当たりは少ない
いつぞや朝比奈さんを誘拐してカーチェイスをした時の連中だ
と言うことは、衝突した車に乗っているのは俺を助けようとしてくれている連中

まさか?
混乱する状況を必死でまとめようとしていると、突然外から声が聞こえた

「彼を放しなさい!」

この声は・・・やっぱり・・・

俺を見張るように言われていた村上と名乗る男がすかさず反応した
固い金属の棒のようなものを俺の後頭部に押し当て

「動くとこのガキを撃つぞ」

撃つってまさかおい
俺の頭に突きつけられているのは・・・銃?

外からの声はさらに続く

「撃ちたいのならお好きにどうぞ。でもその後どうなるかを理解していますか ?こちらも武装はしています。彼を守るためなら発砲は辞しません」

「くそっ」

22 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/11(金) 21:18:30.79 ID:X4OzucLU0

間違えて2重投稿しましたすいません

村上という男は俺の頭を引きずり上げ、おかげで俺は外の情景を見ることができた
開け放たれたドアの前に立っているのは、予想通り古泉の所属する機関のグループ
そのリーダー格と思われるスーツ姿の美しい女性、森園生さんだった

やはりあの時の艶然とした微笑でひたと村上に視線を据え、その手に持っているのは拳銃だった

「撃たないのですか?」

俺の頭を鷲づかみにしている村上の手はぶるぶると面白いように震えている
やはりこんなチンピラと森さんでは全く格が違う

森さんは無造作に車内に踏み込んで来て村上の銃を奪い取った
最後の抵抗とばかりに村上は手を振り上げるが、すさまじい笑みを浮かべたままの森さんは軽くその手を捻り
グギッという鈍い音とともに村上を車の外に投げ飛ばした
合気道か何かの奥義なのか、右手で拳銃を構えたままで、森さんは村上を一瞬で気絶させてしまった

「さあ早く、まずは脱出です」

森さんに手を取られて俺は必死で車から降りた
車3台による壮絶な衝突事故の現場で、数人が取っ組み合いをしていた
おそらくこいつらは機関のメンバーと、そして俺を誘拐しようとした橘京子の所属する集団だろう
多丸兄弟とおぼしき2人もいた

23 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/11(金) 21:21:04.73 ID:X4OzucLU0

「ひとまず鶴屋邸へ」

そう言って森さんは俺の手を取ったままで走り出す
俺より速い森さんの俊足に必死でついて行ったが、すぐに俺の背後でダアーンと鋭い銃声が響いた
俺の耳元を熱い空気がかすめ、1発の銃弾が森さんの背中に命中した
もんどりうって森さんは倒れ、俺も釣られてゴロゴロと地面を転がった

も、森さん!

倒れ込んだ2人の後ろからタタタタと駆けてくる足音が聞こえる
俺は起き上がろうと必死でもがく
森さんは倒れたままピクリとも動かない
迫る足音が目前に迫った時、頭上から鋭い声がした

「ちょい待ち!そこまでなのさっ!」

それは鶴屋さんの声だった
事故の音を聞きつけたのか、それとも銃声を聞いたのか
まだ北高の制服を着たままの鶴屋さんが走って来る賊をにらみつけていた
追いかけてきた2人は鶴屋さんを見てピタリと足を止めた

「ここで騒ぎを起こすとはいい度胸だね、それなりの覚悟はしてるのかなっ?
 それとも私を知らないにょろか?」

「・・・・・・」

「車は放っといていいからさっさと失せた方が身のためだよっ
 すぐに警察がやってくるのさっ」

24 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/11(金) 21:23:17.55 ID:X4OzucLU0

男2人は顔を見合わせていたが、やがて来た方に走って逃げた
ようやく起き上がった俺の目に、新たに近づく人影が見えた

「あなたも早く逃げるがいいさっ」

その人は機関の人間、新川さんだった

「すでに全員撤退の指示は出しました
 森の様子を見たいのですが」

「じゃああんただけ許そうっか
 ここに置いとくわけにもいかないしね
 うちまで運ぶの手伝って」

鶴屋さんと俺、そして新川さんの3人で、動かない森さんを担いで運んだ
ようやく鶴屋邸に入り、新川さんがすぐに処置を始めた
すでにパトカーのサイレンが狂ったように走り回っている

新川さんは森さんのスーツの上着を脱がせ、無造作にブラウスも引きちぎった
森さんの真っ白な柔肌がむき出しになり、
おびただしい出血とともにむごたらしい傷跡が・・・・・・残っていない

森さんは防弾チョッキを身に着けていた
上着とブラウスを簡単に突き破った銃弾だが、防弾チョッキにはかなわなかった
平べったく潰れた銃弾は紺色の繊維質に阻まれて
森さんの素肌は青いアザができているだけだった

25 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/11(金) 21:25:18.02 ID:X4OzucLU0

「ただの打撲ですね、もしくは骨にヒビが入った程度でしょう」

すぐに森さんが大きく息を吐き、意識を取り戻した

「無事・・・でしたか」

すみません森さん
俺のせいでこんなことに
新川さんに助け起こされた森さんは透き通るような微笑を浮かべたままで言った

「大丈夫です。万一に備えてありますから
 私たちはあなたと涼宮さんを守るためならいつでも覚悟はできています
 さあ、もうここには用はないはずです
 涼宮さんを守ってあげて下さい
 古泉とともに・・・」

分かりました
俺が立ち上がると森さんは最後にこう言った

「涼宮さんはあんな性格だからあなたにはまだ理解できないでしょうけど、 あなたをとても頼りにしているはずです
 今あなたと離れて一番心細いのは涼宮さんです
 早く行ってあげて下さい
 そして、大事にしてあげて下さい」

ちょっとドキッとする森さんの言葉だったが
今はその意味について深く考えている場合ではない

鶴屋さんと森さん、そして新川さんに頭を下げると、俺は走り出そうとした

26 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/11(金) 21:27:40.26 ID:X4OzucLU0

「ちょい待ちキョンくん!うっとこの車に乗っていくといい
 さっきみたいなことはもうないと思うけどね、でもその方が早いからさっ」

鶴屋さんはてきぱきと使用人に指示を出し
森さんを部屋に運ぶことと車を用意すること
そしてさっきの銃撃戦についてきつく緘口令を言い渡した

玄関の前に現れた高級車に乗せられた俺はもう一度鶴屋さんに頭を下げた

「キョンくん、ハルにゃんをよろしくねっ!
 それと・・・言っていいのかどうか分からないけどね・・・
 ハルにゃん、結構いろんな事知ってるよっ」

えっ?

「みんなの事だよ
 何か不思議な事がめがっさ起こってるって
 ハルにゃんの知らない所で
 みんなが何かしてるんだろうなって」

本当ですか?鶴屋さん?

「後は直接確かめたらいいさっ!ハルにゃんにねっ!」

鶴屋さんはそう言ってドアを閉め、車は走り出した

その2へ続く

27 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/11(金) 21:30:52.74 ID:X4OzucLU0

その2

(再び同時刻、別の場所で)

「涼宮さんっ」

「どうしたのみくるちゃん?」

「電話が・・・電話が通じません・・・」

「ん?それはどういうことでしょう?」

古泉が素早く立ち上がり、朝比奈さんから受話器を受け取った
通話ボタンを押しても発信音がしない

「これは・・・?」

その時、部屋の中が一瞬真っ黒になり、まるで夜の闇のようになった
部屋の内外で聞こえていた雑音も消え、長門の部屋は沈黙に閉ざされた

「ふわぁぁぁっ」

「ななな何よこれは?古泉くん?どういう事?」

古泉が口を開くよりも早く、暗闇に何かが浮かび上がった
ぼんやりとした影はすぐに凝集し始め、やがて4つの人間の形を作った

素早く古泉が前に出て、ハルヒと朝比奈さん、そして眠っている長門をかばうように立った
いつものニヒルな笑顔の面影は全くない
古泉のこめかみからタラリと汗が流れ落ちた

28 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/11(金) 21:33:38.29 ID:X4OzucLU0

現れた4人はもちろん
あの時突然出現した集団だった

「・・・・・・・・・ここは・・・・・・暗い・・・・・・気持ちが悪い」

いち早く口を開いたのは周防九曜だった
実体化するが早いか、長門が寝ている和室に踏み込み、ひたと視線を長門に据えた

「かわいそうな寝顔・・・・・・こんな世に生まれなければ、1人の姫として暮らせたものを・・・・・」

「それ以上近づかないで下さい」

古泉が素早く割って入る

「周防さん、まずは話し会いましょう」

そう声をかけたのは4人組のリーダー、勝手に神に祭り上げられてしまった佐々木だった

「・・・・・・かわいそう・・・食べてあげたい・・・・・・」

周防九曜は長門から視線を放さずにそうつぶやき
他のメンバーの横に戻った

「ちょ、ちょ、ちょっと何なのよあんたら
 どうやってここに入って来たのよ?」

「お久しぶりです涼宮さん、いつぞやは突然現れてすみませんでした
 あれ?キョンは?」

29 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/11(金) 21:36:24.76 ID:X4OzucLU0

「まずは私の質問に答えなさいよ
 無礼でしょう?」

「ごめんなさい。実は私たちにもよく分からないんです
 周防さんが突然ここに行かないとって言って
 何かに運ばれてきたみたいなの」

「全然説明になってないわよ
 あんたたちいったい何者なの?」

ハルヒが鋭い視線で闖入者たちを睨みつける
穴でも開けてしまいそうなぐらいの激しい視線だった

「私が代わりに説明するわ」

そう言ったのは古泉と敵対する組織の一員、橘京子だった

「周防さんはね、時が満ちたと言っているの
 つまり我々と佐々木さんの力があなたたちのものを上回る
 今日のいま、この場所で何かが起こると」

「あわわわ・・・・・・」

あたふたする朝比奈さんをかばいながら、ハルヒは口から泡を飛ばして叫んだ

「ふざけんじゃないわよっ!ここはあんたたちがいる場所じゃないの!
 見て分かるでしょう、病人がいるのよ!
 さっさと出ていきなさいっ!!」

30 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/11(金) 21:38:53.26 ID:X4OzucLU0

「ふん・・・まるでボス猿みたいだな」

そう口を尖らせてうそぶくこの男は
朝比奈さんの組織と対立している未来人組織から派遣されてきた
自称藤原という男だった

「ボ、ボ・・・・・・」

古泉がハルヒの横に立った

「涼宮さん、今怒ってしまえば向こうの思い通りになります
 ここはひとまず冷静に、まずは話を聞きましょう」

「古泉くん、悪いけどね
 あたしは人の家に土足で踏み込んでくる野蛮人の話なんか聞く耳持ってないの」

ハルヒは両の拳を握りしめている
最初は誰に殴りかかろうかと品定めしているようだ

「・・・・・・あなたは・・・汚ない・・・」

「何ですって?」

「その顔、その声、全てが汚らしい・・・・・・」

「ハァ???」

ハルヒは最初にぶちのめす相手を決めたようだ
握り拳を振り上げて周防九曜に突進しようとした
慌てて古泉が止めに入る

31 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/11(金) 21:41:14.10 ID:X4OzucLU0

「古泉くん!放しなさい!」

「涼宮さん、ひとまずは落ち着きましょう」

古泉はハルヒを無理やり引きずって闖入者から少し遠ざけ
声を潜めて囁いた

「・・・僕たちの戦力はいささか不足しています
 全員揃うまではとにかく様子を見ましょう
 今のところは、何が目的でやって来たのかも分かりませんので」

「古泉くん」

「はい」

「あんた、何か知ってるのね」

「何かと申しますと?」

「私の知らない事よ
 こいつらが何者で、何が目的なのかをね」

「それを説明してくれる方が現れるまで、ここは1つ、穏便に」

「キョンの事ね」

「はい」

「・・・・・・分かったわ」

32 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/11(金) 21:43:23.65 ID:X4OzucLU0

ハルヒはようやく拳を緩め、闖入者たちと対峙した

「んで、話を聞こうじゃないの」

「ようやく落ち付いてくれましたか
 やはり調査通りの人ですね、あなたは」

橘京子が楽しそうに言った

「実は私たちにもまだここに来た理由は分からないのです
 こちらの周防さんが言った通り、まもなくここで何かが始まります
 それを確かめるために来たのです」

「それでは全然説明になっていませんね
 皆さんのやっている事は明らかな住居不法侵入です
 警察を呼ばれたくなかったら、今すぐ退散すべきです
 ここには病人がいます、わきまえて下さい」

「・・・・・・来る」

「何が?」

「・・・・・・終わりの世界が来る・・・・・・それは私たちを待っている・・・・・・もうすぐ」

ハルヒがまたブチ切れそうになった

「もう我慢できないわ!今すぐここを出ていきなさい!さもないと」

「お待たせしましたー」

33 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/11(金) 21:45:22.98 ID:X4OzucLU0

突然部屋につむじ風が巻き起こり、目を開けてられないほどになった
激しい旋風はあたりをなぎ払い、全てを持ち上げてぐるぐると回転した

「あひゃぁあああーっ!」

朝比奈さんのか弱い悲鳴とともに、全てが吸い込まれていった


(再びキョンの世界)

俺を乗せた鶴屋家の車は静々と走り、やがて長門のマンションが見えてきた頃
視界が急にぼやけてきた

長門の高級マンションがぼんやりかすみ、俺は目をごしごしこすった

「おかしいですね」

運転していた鶴屋家の男性がそう言ってブレーキを踏んだ直後、激しい音がして車のボンネットに何かが叩きつけられた

見慣れた水色のセーラー服、そんな気がした
セーラー服はボンネットの上を弾んで転がり落ち、急ブレーキをかけた車の前方に倒れた

ハルヒ!

俺はドアをもぎ取るように開け、車から飛び出した
予想した通り、空から降って来たのは涼宮ハルヒだった
いったいどこから落ちてきたのか、まさか長門の部屋のある7階から落ちたのか?

急いでハルヒを助け起こし、その顔を覗き込んだ

34 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/11(金) 21:48:02.34 ID:X4OzucLU0

「ったあぁーっ」

見ると車のボンネットは大きく凹んでいる
7階かどうかは分からないが、かなりの高さから落ちてきたようだ
運転していた男性も、車から降りてハルヒを見ていた

おいハルヒしっかりしろ
何が起こったんだ?

ハルヒはしばらく目を白黒させていたが、ようやく焦点が定まってきたのか、俺に気付いて大声を上げた

「キョン!キョンじゃないの!どうやってここに来たの?」

えらい元気そうだなハルヒ
車をこれだけ凹ませるほどの高さから落下したのに
何かのフォースでも働かせたのかそれともただ尻が異常に固いのか
どうやって来たのかは俺が聞きたいぞハルヒ
いったい何で空から降ってきたんだ?

「空から?え?あれ?ここはどこなのよ?有希の部屋じゃないの?」

おいハルヒ
長門の部屋でいったい何が起こったんだ?
長門はどうなんだ?体の具合は?
それに朝比奈さんと古泉は?

「そうだ!キョン!大変よ!有希が・・・変な4人組が入ってきて
 それからあの、あの子が入ってきて」

35 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/11(金) 21:50:08.17 ID:X4OzucLU0

もういいぞハルヒ
とにかく長門の部屋に行こう
長門が心配だ
他のみんなもな

俺はハルヒを抱き起こして立ち上がった
鶴屋家の運転手にとりあえず帰ってもらう事にして、ボンネットの件は後で謝りに行くからと伝えた

そして振り向くと・・・

???

その3に続く

38 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/11(金) 21:52:08.19 ID:X4OzucLU0

その3

空から降ってきたハルヒを抱き起こし、とにかく長門の部屋に入ろうと、玄関があるはずの場所に駆け込むんだ俺だが
マンションの入り口には何もなかった
玄関もなければオートロックの操作盤もない
というかマンション自体が消えてなくなっていた
レンガ造りの高級マンションがそっくりそのまま消えてなくなっていた

「ちょっとキョン、これどうなってるの?」

どうって、俺にも分からん
落ちつけ俺、よく考えろ
マンションがあったはずの平面には全く何もなく、むき出しの地面だけが広がっていた
向こう側にあるはずの、シャミセンを拾った空き地がここからそのまま見えた

どうなってるんだこれは
ハルヒの手を掴んだまま、強引にマンションがあったはずの空間に踏み込んでみた
やっぱりか
予想通りだ
俺とハルヒの前にはぐんにゃりした白い壁が立ちはだかった
マンションが消えてなくなったわけじゃないんだ
誰かがここにバリヤーを張っているんだ
それはお前かハルヒ?

「はあ?私が何でこんなことするのよ?」

すまんハルヒ
ちょっと考え中だ

39 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/11(金) 21:54:31.35 ID:X4OzucLU0

俺はハルヒの手を放し、ダッシュで突入を試みた
チリチリと小さな火花のようなものが散り、俺の体は押し戻された
痛みも衝撃もなく、ただやんわり跳ね返された

「キョン、これって・・・前のあれかしら?」

ああ
あれに近いものだ
お前の仕業じゃないとしたら
こんな事ができるのは他には・・・
けっこうたくさんいるな

「ちょっとキョン」

何だよもう
今考え事してるんだから

「キョン!」

ああ?

「ちゃんと説明しなさい!
 あんたが何か知ってることぐらい、あたしにはお見通しなんですからね!
 あんたはこんなに不思議な物が目の前に現れても、顔色ひとつ変えないじゃないの!
 何か知ってるんでしょう?包み隠さず全て話しなさい」

さっきの鶴屋さんの声が耳によみがえる
ハルヒはいろいろ知ってるっていうのか
今ここで説明するしかないのか
ついに切り札を出すしかないのか?

40 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/11(金) 21:56:30.08 ID:X4OzucLU0

今ほどここに古泉がいてほしいと思ったことはなかった
あいつのアドバイスが聞きたい
しかしハルヒ、説明してる暇はないぞ
早く長門の部屋に行かないと

「だから説明しなさいって言ってるのよ!
 有希がおかしくなったことにも関係あるんでしょう?
 あの4人組の事だって」

4人組だと?
あいつらに会ったのか?
あいつらが来てるのか?

「そうよ
 あの4人組が来て
 髪の長い女が私に汚いとか言い出して
 ブン殴ってやろうと思ったら急に空に放り投げられたのよ!
 ああムカつくわーあいつったら」

待て待てハルヒ、ちょっと整理させてくれ

俺と別れた後であいつらに会ったのか?
それとも長門のマンションに入った後か?

「入ってからよ
 有希がひどい熱だったから氷枕と布団たくさん用意して
 救急車を呼ぼうとしたら電話が通じなくて
 どうしたんだろうと思った時に入ってきたのよ
 ドアも開けずに土足で入ってきて
 ねえキョン、あいつらいったい何なのよ?」

41 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/11(金) 21:58:11.90 ID:X4OzucLU0

おいハルヒ
あいつらの目的とか何か聞かなかったのか?

「聞いたけど全然意味分からないわよあんなの」

思い出せハルヒ
あいつらは何と言ってたんだ?

「どうでもいい事ばっかりよ」

いいから思い出せハルヒ!

「何よもうキョンってば・・・ちょっと待って
 周防とかいう女が他のヤツらを連れてきたとか言ってたわ
 時が満ちたとか、今から何かが始まるとか
 終わりの世界がどうとか言って、そしたら・・・
 そうだ!あの子が来たのよ!」

あの子って誰だ?
また他の人間が来たのか?

「そうよ!思い出したわ。あの新入生よ!
 新入部員候補の1年女子よ」

はあ?
何だと?

「新入部員候補の中に小柄な女の子がいたでしょう?あの巻き毛の子」

42 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/11(金) 22:00:15.37 ID:X4OzucLU0

ああそんなのがいたな確かに
何となく不思議な印象だったな
覚えてるぞ
しかし何でその子が来たんだ
あいつらの仲間なのか?
まさかスパイだとか?

「分からないけどたぶん違うと思う
 来たのは別々だったし、あいつらも驚いた顔してたから」

その時突然
俺の背中に鳥肌が立った
ものすごく嫌な予感がした

おいハルヒ
良く聞け
その1年女子は何か持っていなかったか?

「何かって?」

金属の細長い棒みたいなものだ
ピカピカ光ってるヤツだ

「そこまで覚えてないわよ!
 その子が出てきた途端に部屋に嵐が起こって、気がついたら外に放り出されてたんだから」

待て待て待て待て
くっそう古泉に会いたい
俺はどうもこういう複雑な事態には対処できない
あいつの的確な状況分析がとても恋しい

44 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/11(金) 22:03:49.12 ID:X4OzucLU0

「そうだ」

何だハルヒ?何か思い出したのか?

「お2人にはまだ登場してほしくないからって聞こえたような気がする」

お2人?そう言ったのか?その新入生は?

「違うかもしれないけどそう聞こえた」

お2人って事はもしかして・・・
俺はハルヒの肩を抱いたままで後ろを振り返った

目の前にあるマンションはすでに消滅していたが、後ろの景色も違うものに変わっていた
いやちょっと違うぞ
景色はさっきと一緒だが何か空気の匂いが違う
それにこの不思議な色はいったい何だ・・・?
何だか安心感を与えてくれるような落ち着いたベージュの空
そよとの風も吹かず、じっとりとしているが不快ではない
この空は覚えているぞ

ハルヒといっしょにあいつが飛ばされたとしたら
この空を作り出したのは
この閉鎖空間を作ったのは
やっぱりお前か
佐々木・・・・・・

「申し訳ないキョン。今はまだ君たちをあそこに入れるわけにはいかないようだ」

その4に続く

45 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/11(金) 22:07:55.01 ID:X4OzucLU0

その4

俺とハルヒの前に姿を現したのは佐々木だった
ニッコリ微笑みながら、静かに歩いてきた

おい佐々木、お前がこの閉鎖空間を作り出したのか?

「僕は閉鎖空間とは呼ばないがね
 君がそう呼びたいのなら否定するつもりはない」

お前が作った閉鎖空間の中にどうやって自分が入れるんだ?

「はっはっはっ
 キョン、君は何でも自分を中心に考えてはだめだよ
 僕もあれからいろいろ話を聞いて、それなりに勉強したんだ
 君たちの事も、僕の事も、そして橘さんや藤原さん、周防さんの事もな
 僕と涼宮さんがあそこから飛ばされたのにもきっと理由があると思う
 涼宮さんをあの中に入れない方がいいのなら、 それができるのはおそらく僕だけだろうからね」

俺は無意識にハルヒをかばうように立っていたが、俺の腕のすり抜けてハルヒがわめいた

「ちょっとあんた、これはいったい何よ?
 あんたの仕業だって言うの?」

「涼宮さん、私はあなたに何も恨みはないの
 でもね、あなたのただ一つの欠点は、 自分が何も分かってないという事なのよ
 キョンや他の人たちに守られているだけでは何も生み出せない
 何も作り出せない
 ただ破壊するだけの空間なんて
 私には理解できない」

46 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/11(金) 22:10:32.52 ID:X4OzucLU0

「何を言ってんのよあんた
 いいからあたしとキョンを有希の所に連れていきなさい、今すぐに!」

「そう願うならご自分で行けば?できるものならね」

「ちょっとキョン!説明しなさい!」

だから俺に話を振るなよハルヒ
えーっとこんな時、古泉ならどう説明するだろう
いや長門でもいいか
ダメだ長門の話は電波話にしか聞こえないし、朝比奈さんなら・・・禁則事項か

「じゃあ僕から説明しようか?キョン
 涼宮さん、あなたは自分の力について何も理解していない
 自覚していない所でさまざまな現象を発生させる」

「はぁ???」

「あなたはとても面白い人。才能もあるし、きれいだし
 でもね、あなたにその力は荷が重すぎる。 だから私に白羽の矢が立ったの」

おい佐々木、それ以上言うな

「だってキョン、その通りじゃないか
 だから君や仲間たちがひどい目に会ってきたんだろ
 君だってそう思っているはずだ
 涼宮さんが普通の女の子に戻ってくれたらって
 それで僕が選ばれたんだ
 僕も正直迷惑を隠せない気持ちだけど
 涼宮さんを見ているとやっぱりそう思うね」

47 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/11(金) 22:12:47.73 ID:X4OzucLU0

佐々木、もう黙れ
ハルヒにそれ以上わけの分からん事を吹き込むんじゃねえ

「涼宮さんには荷が重すぎるから
 その重い荷物を全て僕たちが引き受けようとしてるんだ
 君にとっても悪い取引じゃないと思うのだが」

荷が重い?迷惑だ?
いったい誰がそんな事を言ってるんだよ
誰もそんな事は一言も言ってねえぞ
いい加減な事を言うんじゃねえよ

ハルヒは俺たちのリーダーだ
SOS団の団長だ
そして俺たちは仲間なんだよ
かけがえのない仲間なんだ
俺たちの仲間に傷一つつけてみろ
俺はお前を絶対に許さないぞ

「ほう、キョンがかい
 君も変わったものだな
 ずっと平凡に人生を送りたいって
 中学の頃からそうぼやいていたのに
 ただの思いつきで君たちを引っ張り回す変人が
 君にとっての大事な仲間なのかい?」

佐々木
お前は何も知らない
高校に入ってからの俺を知らない
SOS団で楽しく遊んでいる俺を知らない

48 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/11(金) 22:15:19.55 ID:X4OzucLU0

そしてお前は
ハルヒの事を何も知っていない
もうそれ以上言うな
俺がお前をブン殴らないうちに
さっさと俺とハルヒを長門の部屋に送り込め

「それは僕にはできない相談だね
 マンションをシールドしているのは僕の力じゃない
 行きたかったら自力で行く事だね
 そこまでは僕も止めはしないよ」

「キョン、何なのよこの女は
 全然意味分からないわ
 さっきからいったい何言ってんのよあんたたち
 私がバカだって言いたいの?」

ハルヒ
よく聞け
お前の力で長門を助けに行こう
お前ならそれができる
俺とお前を長門の所まで連れて行ってくれ
頼むハルヒ

「?????」

「ふふふ
 はたしてあなたにそれができるかしらね
 破壊しかできないあなたに
 人を助ける事ができるのかしら」

49 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/11(金) 22:17:39.60 ID:X4OzucLU0

黙れ佐々木、あと5分だけ黙ってろ
おいハルヒ、この1年で何かに気付いたことはないのか?

「1年で?」

ああ
SOS団を作ってからいろんな事があっただろ?お前の知らない所で起こったことが多かったけどな
お前にも薄々気付いた事ぐらいあるだろ

「え・・・?」

お前は長門が普通の女子だと思っているのか?
古泉はただの転校生だと思ってるのか?
朝比奈さんは・・・ちょっと分かりづらいけど、お前にだって何か気付いたことがあるだろ?

「キョン・・・」

思い出せハルヒ
俺たちの事だ
SOS団全員で作ってきた歴史だ
楽しい事や、不思議な事がいっぱいあっただろ
それは偶然起こった事だと思うのか?
宇宙人や未来人、超能力者は本当にいないと思ってるのか?

「・・・・・・」

ハルヒの瞳が不思議な輝きを放ってくる
ここか?
ここでいいのか古泉?
今ここで使ってもいいのか?

50 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/11(金) 22:19:45.92 ID:X4OzucLU0

「キョン」

何だハルヒ?

「1つだけ教えて」

ああいいとも

「あんたの本当の名前は何?」

名前?

「そう、キョンの他にもあるでしょう?あんたの名前が」

あああるともハルヒ。俺の名前がもう一つな
お前が中学生の時に聞いたはずの名前がな

「ある・・・のね・・・やっぱり」

ああそうだよ。あの時に名乗った名前だ

「キョン・・・」

もうどうにでもなれと思った
このくそったれな状況を脱するために、今ここで使うしかないと思った

言うぞ
ついに
ハルヒ
俺の名前は・・・・・・

51 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/11(金) 22:22:56.32 ID:X4OzucLU0

その5

ついにその時が来たのか
俺の持っている切り札
世界がとんでもなくややこしい事態になってしまった時のために
俺がずっと隠してきた切り札を
ついに使う時が来たのか
分断されているSOS団を救うために
今ここで使ってもいいよな古泉よ

ハルヒ
俺の名前はな

「あんたの名前は」

一緒に言うぞ

「いいわよ」

グオオオオオオオオオオと激しい地鳴りが響いた
巻き起こった突風に俺とハルヒは吹き飛ばされそうになるが
必死で足を踏ん張って立った

ハルヒの目を見つめたまま、ハルヒも俺を見つめたままで
俺は禁断の6文字を言おうとした

「・・・・・・」

「・・・・・・」

52 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/11(金) 22:25:06.86 ID:X4OzucLU0

あれ?
何だ?
声が・・・
出ない・・・・・・

振り向くと佐々木はまだ立っていた
俺とハルヒのパントマイムを楽しそうに眺めていた
すさまじい旋風は収まろうとしない
あああとしか声が出ない俺もハルヒも
その風のうなりに飲み込まれそうになっていた

佐々木
声を出なくしちまいやがったのか?

「それは分からない
 さっき言った通りだよ
 もう少し時間を稼ぎたい
 だからこうやっている」

ハルヒ
何とかしてくれ
もう分かってるだろ
声に出さなくても
俺の正体を
中学1年の時に東中の校庭に
あの奇妙キテレツな地上絵を描いた時の事を
あの時にお前を手伝った哀れな高校生を

「・・・・・・」

53 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/11(金) 22:27:34.71 ID:X4OzucLU0

ハルヒも懸命に口をパクパクさせているが
もちろん声は出ていない

俺の顔に恐怖が走る
今まで一度も見た事がなかったハルヒの表情
自己中心で傍若無人な爆弾女
このいつ発火するかも分からないとんでもない時限爆弾が
なぜか自己消火しようとしていた

ハルヒは今
明らかにおびえた表情をしている
今にも泣き出しそうになり
俺のシャツの袖を掴んでいる

こんなハルヒは初めてだ
あまりの急速な展開と
自分の無力さにおびえているのか
鶴屋さんと森さんにかけられた言葉が再び蘇る

ハルヒはこう見えても神経の細い女なんだ
ハルヒはいつもみんなに気を使っているんだ
この女を知る人間が聞いたら腹を抱えて笑うようなセリフだが
今目の前にいるハルヒは明らかにその通りだった

どうするんだよ俺
考えろ、考えろ
どうすればハルヒに思い出させることができるのか
いやもうとっくに思い出してるはずだ
後は何をすればいい?
何をすればハルヒが怒れる獅子に変身できるんだ?

54 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/11(金) 22:29:42.23 ID:X4OzucLU0

ええい
もうこうなればあれしかないのか?
1年前にハルヒに巻き込まれた閉鎖空間を思い出した
大人の朝比奈さんに言われた言葉
パソコンのか細い糸で長門に教わった言葉
もう一度あれをやればいいのか?

「キョン
 君はそれでいいのか?」

後ろから佐々木の声が聞こえる

「君はそれで満足するのか?
 そんな目的のためだけに
 自分を犠牲にするつもりなのか?」

犠牲?
犠牲だって?

俺は佐々木を振り返った
面白そうに眺める佐々木の目を
穴が開けとばかりに睨みつけた
佐々木は動じる事もなく話し続けた

「彼女のお守りをして
 これからもずっと振り回されて
 危険が迫るたびにそうするのか?
 それじゃ君の気持はどうなるんだ?
 一生そんな事を続けるつもりなのか?」

56 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/11(金) 22:32:23.49 ID:X4OzucLU0

佐々木
やっぱりお前は何も分かっちゃいない
俺の事を何も理解していない
自分を犠牲にしてハルヒの面倒をみるって?
バカ言ってんじゃねーよ

お前は確かに頭のいいヤツだよ
よく考えてると思うよ
ハルヒの行動パターンも俺の事も
よく研究したもんだよ

けどな佐々木
お前が1つだけ見落とした事があるぞ
俺も成長してるって事だよ
この1年で大きく変わったよ俺は

俺が変わったことはたくさんあるけどな
その1つがこれだ

俺はいやいややってるんじゃない
自分がしたいからするんだよ
俺は
ハルヒと
キスしたいからするんだ

口をパクパクさせてもがくハルヒにそっと顔を近づけた
ギョッとした目で俺を見上げていたハルヒは
俺の行動を理解したのか
そっと目を閉じた

57 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/11(金) 22:34:11.13 ID:X4OzucLU0

俺は
自分の意志で
ハルヒにキスをした

時間が止まった
吹きすさぶ風の音も聞こえなくなった
佐々木が何かを叫んでいたが
その声すら耳に入らなくなった
ハルヒの体から力が抜け
そして・・・・・・


(同じ時間に、別の次元で)

新しい登場人物を見て
古泉と朝比奈さんは腰を抜かしそうに驚いていた

「ごめんなさーい
 こんなに早く来るつもりはなかったんですけどー
 あちらの皆さんがちょっとお急ぎだったみたいなんで
 そろそろ始めさせていただきまーす」

「あなたは・・・・・・?」

「はい先輩、その節はどうも」

「あわわわわ・・・」

「先輩にもお茶をご馳走になって、ありがとうございます
 本当はちゃんとSOS団に入って、 たくさん冒険したかったんですけど・・・」

58 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/11(金) 22:36:09.47 ID:X4OzucLU0

「ちょっとあんた、こないだの新入生じゃないの」

「はい!涼宮先輩!
 だけどちょっと待ってて下さいね、場所を変えますから」

その北高の新入生はニッコリ笑って
手にした小さな金属の棒を振った
幾何学模様の入った細い棒がキラリと輝き
ハルヒと佐々木の姿がポンと消えた

「何をしたんですか?」

「ご心配なく、後でまた来られると思います
 でもまだ主役の登場には早いので
 先にみんなで行くことにします」

「あなたはいったい?」

古泉の質問には答えず、新入生は再びオーパーツを振った
今度は空間がグニャリとねじれ、全員の姿が消えた

「く・・・・・・・」

ズキズキするこめかみをさすりながら古泉が起き上がった
そして周囲の景色を見てギョッとした

周りは一面の宇宙空間で、真っ黒な地面がはるか先まで広がっていた
星空以外に何のディテールも見分けられない
ただの真っ黒な平面だった

59 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/11(金) 22:38:15.31 ID:X4OzucLU0

そこには全員がいるようだった
ピクリとも動かない長門の側には朝比奈さんが横たわり
少し距離を置いて橘京子、藤原、そして周防九曜がいた
全員が気を失っているのか、黒い地面に突っ伏していた
立っているのはただ1人、まだ名前も覚えていない新入生1人だった
素早く意識を取り戻した古泉が詰問した

「まずはあなたの事を聞かせてもらいましょうか」

「ふふふ先輩、さすがですね
 こんな時にも理性的です」

「質問に答えて下さい」

「ここは皆さんの地球とは別の世界です
 そしてご覧の通り、何もありません」

「別の惑星という事ですか?」

「別という表現がふさわしいのかは分かりません
 でも地球から宇宙船に乗ってもたどり着けない場所です」

古泉は長門をチラリと見た
長門ならもう少し詳しく解析してくれるかもしれないが
長門はまだ気を失ったままだった

「銀河系の1惑星ではないと?」

「たぶんそうです。どう説明したらいいのか分かりませんけど」

61 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/11(金) 23:00:26.12 ID:X4OzucLU0

「まさか、異世界だとか」

「言葉の意味ではそれが一番近いですね
 とにかく、普通の手段では行き来する事はできません」

「僕たちをここに引き込んだ理由は?」

「それは皆さんが目を覚まされてからご説明します」

「長門さんと朝比奈さんの様子を見ても構いませんか?」

「もちろんです、早く起こしてあげて下さい」

古泉は素早く移動して朝比奈さんを揺り起こした
朝比奈さんはすぐに目を覚まし、置かれている状況を見て予想通りの悲鳴を上げた

「ひゃぁぁぁこっこここここどこなんですかぁーっ?」

「落ち着いて下さい朝比奈さん、僕にもまだ分かりません
 とにかく落ち着きましょう」

「ふわぁぁぁ」

「長門さんはどうですか?」

長門はずっと変わらない姿勢で眠っている
布団はもうなかったが、几帳面に制服姿だった
その格好のままで寝ていたのか
さすがに靴は履いていないが、靴下はちゃんと履いていた

62 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/11(金) 23:03:41.64 ID:X4OzucLU0

古泉が揺り動かしても全く動かない
その体はまだ熱く、呼吸も浅く小さかった

「長門さん・・・さっきと変わりませんね」

ようやく落ち着き始めた朝比奈さんがつぶやく

「涼宮さんもいなくなってしまいましたし、これは厄介です」

その頃には敵の集団も目を覚ましており、頭を振りながら起き上ってきた
周防九曜は起き上がるなり長門にひたと視線を向けている
何か呪詛でもしているように、人差し指を小さく振っている
古泉がさりげなく長門をかばうように立ち、新入生に目を向けた

「1人を除いて全員目を覚ましました」

「はい、それでは説明させていただきます
 ここは地球がある銀河系とはまた別の空間にある世界です
 詳しい事は分かりません
 異次元とか異世界とか、たぶんそういう世界だと思います
 そしてここは私の生まれた世界です」

「あなたの世界?」

「はいそうです
 ここには私1人しかいません
 そしてご覧の通り、ここは死に絶えた世界です
 原因は分かりませんが、植物も生えず、何の生命もない世界です
 生命どころか、それを誕生させるエネルギーすらない世界なのです
 私はここで1人で生まれ、1人で暮らしてきました」

63 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/11(金) 23:06:16.63 ID:X4OzucLU0

「ちょっと待って下さい
 生命のない世界でどうしてあなたが生まれたんですか?」

「それは私にも分かりません
 ただ、生命をはぐくむエネルギーが枯渇したのは
 たぶんそんなに昔ではないと思うんです
 私は最後の生き残りなんじゃないのかなって」

「それと僕たちが集められた事との関係は?」

「もう少し聞いて下さいね
 私が生まれた時に、側にこの棒が転がっていたんです」

「そのオーパーツですか?」

「オーパーツって言うんですかこれ?
 名前なんかつけたことなかったんですけど
 一人ぼっちで生まれた私にこの棒がいろいろ教えてくれました
 成長するのに必要なエネルギーも与えてくれました
 そして、別の世界には豊富なエネルギーがあるという事も教わりました
 皆さんに集まってもらったのは、そのエネルギーを分けてもらいたいからなのです」

「分かりませんね」

「でしょうね先輩
 だって私にも何も分かってないんですから
 この棒に指示されて私は別世界への旅に出かけました
 そうするより他に方法はなかったのです
 ここにいつまでいても一人ぼっちだし
 そして長い旅の後に、あの地球に到達したんです」

64 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/11(金) 23:11:04.31 ID:X4OzucLU0

「どうして地球に?」

「それも分かりません
 この棒の指示通りに進んでいくと地球に着いたのです
 ただ・・・地球に着くとこの棒は消えていて
 私は何も覚えていませんでした
 何の記憶もないままに、私はただこの棒を探しました
 この棒を探す事だけが記憶に残っていたのです」

「北高に入ったのはそれを見つけてから?それとも記憶が戻ったから?」

「棒を見つけたのはつい最近です
 北高の近くにあることが分かったので、私は北高に入学しました
 いろいろ情報を操作するのは大変でしたけど、何とか合格して、腰を据えて探そうと思ったのです
 そしてSOS団の事を知りました
 とっても面白いグループだって聞いて、しかも部員を募集するって言うから
 さっそく入部希望しました
 今さらこんなこと言うのも変ですけど、本当に入部したかったんです
 だけど・・・そちらの皆さんが動くのが早すぎて、遊んでられる状況じゃなくなってきたんで、それで申し訳ないんですけど、大きなお屋敷に忍び込んでこの棒を取り戻し、あのマンションに行ったってわけです」

「あっ・・・あのっ・・・キョンくんと離れちゃったのもあなたの操作ですか?」

「キョン先輩って、あの面白い方ですよね
 うふふふ、ごめんなさい。そんなつもりじゃなくって
 キョン先輩の事は私は知りません
 ここにおられないんであれって思ったんですけど」

「そろそろいいでしょう、ここに連れてきた目的を教えて下さい」

「それはそこの先輩次第です」

66 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/11(金) 23:14:13.17 ID:X4OzucLU0

新入生が声をかけた瞬間、周防九曜がビクリと動いた

「・・・・・・ここは・・・楽しい空間・・・・・・心が・・・躍る・・・」

周防九曜はそうつぶやいて、長門に歩み寄った

「待って下さい、長門さんは意識不明です
 彼女を回復する方法はありませんか?」

「・・・・・・あなたの・・・瞳も・・・きれいね・・・・・・」

周防九曜の指先がぼんやり光り、1本の光の矢が長門に向かって走った
古泉が素早く回り込んでその矢を叩き落とした

「ん・・・これは?」

古泉の体が赤く輝き始め、閉鎖空間にいるような球体に変化した

「ふえぇぇぇー、古泉くぅーん」

「ここでは僕の力が有効に使えるようですね」

赤い光球と化した古泉は、地面からフワリと浮かび上がった

「それでは説明になっていませんね周防さん
 挨拶もなしでいきなり攻撃ですか?」

「・・・・・・ここで戦えば・・・この世界は生まれ変わる」

「それはどういう意味なのでしょうか?」

68 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/11(金) 23:18:22.89 ID:X4OzucLU0

「ごめんなさい古泉先輩
 つまり皆さんにここで戦ってもらい、そこで生じる膨大な生命エネルギーを少し分けていただきたいのです
 もちろんそれによって皆さんの戦いに影響はないと思います
 私は余剰エネルギーをいただくだけですから」

「つまり、ここで僕たちを意味なく戦わせて生体エネルギーを放射させ、それをそのオーパーツが吸収してこの世界を再生するとでも?」

「ごめんなさい、私にちゃんと説明できる知識はないんです
 ただ、佐々木さんのチームが皆さんと戦うという話を聞いたので、それならぜひここを使って下さいと申し上げただけなんです」

「それでははっきり申し上げましょう
 我々SOS団は戦いなど望みません
 こんな事をしても無駄です」

一瞬殺意を盛り上げた古泉だったが、すぐに冷静になり元の姿に戻った

「ケンカはダメですぅ!危ないですぅ
 それに・・・それに・・・涼宮さんもキョンくんもいないし
 長門さんがこんな状況では戦えません」

「朝比奈さんのおっしゃる通りです
 我々には戦う意志も戦力もありません
 あなたには申し訳ないのですが、こんな事を受けるわけにはいきませんね」

「・・・・・・うるさい・・・・・・口が多すぎる・・・」

周防九曜が再び攻撃を仕掛けた
人差し指から数本の小さな矢が飛び出し、長門に命中する寸前に古泉が叩き落とした

「待って下さい、戦うつもりはありません」

69 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/11(金) 23:21:07.77 ID:X4OzucLU0

「こここ古泉くん、もはや話しても無駄、かもしれませんね」

「朝比奈さん?」

「古泉くんは長門さんを守って下さい。 私も・・・・・・戦いますっ」

朝比奈さんの声に反応して、今まで黙っていた2人も前に出てきた

「ふっ、やっと俺の出番か」

そう言ったのは藤原だった

「わ、わ、わ、あんまり近づかないでくださぁい!」

「あんたにどれほどの事ができるのか、見せてもらうとするか」

「朝比奈さん!」

「おっと、あなたの相手はここにもいるのよ」

「橘京子・・・」

「キョンくんだけを別行動させたのは私たちの作戦よ
 今ごろ彼は私たちの組織に捕らえられてるわ」

「何ですって?」

「涼宮さんは佐々木さんが抑えているはず
 まあ抑えるほどの事もないでしょうけどね
 長門さんは周防さんが封印しているし、さあどう戦うつもりかしら?」

70 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/11(金) 23:23:28.39 ID:X4OzucLU0

「ですから僕は戦いませ・・・」

橘京子の全身がぼんやり青く輝き始め、いくつかの光点に分かれて宙に浮いた
古泉も赤い光球に変わり、橘京子とにらみ合った

「ほら、早く攻撃してみろ」

「うわっ、こ、こ、こ、来ないで下さーい!」

「朝比奈さん!」

「・・・・・・・べらべらしゃべる男は・・・美しくない」

周防九曜の攻撃が古泉に集中し、危うくかわしたその横から小さく分裂した橘京子の光球が襲いかかる
藤原はめんどくさそうに朝比奈さんの目の前に立ちはだかっている
おびえる朝比奈さんの姿がチカチカと点滅し、やがて空間から消滅した

「朝比奈さん!」

朝比奈さんはしばらく消えていたが、すぐにまた姿を現した

「あれ?」

「どうしましたか?」

「禁則が・・・・・・消えました」

「と言うと?」

「TPDDの使用制限が消えちゃいましたぁ・・・」

71 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/11(金) 23:26:08.38 ID:X4OzucLU0

「それは、ここが異世界だからでしょう
 未来からの干渉がなくなったのではないですか?それとTPDDはまだ使えますか?」

「はい・・・ちゃんとスイッチは入っています」

「それはよかった。朝比奈さん、あなたのその力で僕たちを守って下さい」

「わ、わ、わ、分かりましたぁっ!」

朝比奈さんはこめかみに指を当てて、小声でボソボソとつぶやいた
周防九曜の攻撃が動かない長門を襲ってくる
古泉が急いで防御するが間に合わない
小さな数本の光の矢が長門に命中する寸前、長門の姿がパッと消え、数秒後にまた姿を現した
光の矢はその間に空間を空しく貫いただけだ

「こここ、これでいいんですか?」

「さすがは朝比奈さんです、素晴らしい作戦です」

「・・・・・・それは何?・・・・・・認められない・・・・・・」

周防九曜は今度は朝比奈さんに向けて矢を放つ
朝比奈さんの姿がパッと消えて、少し離れた場所にまた姿を現した

「すごい・・・TPDDにこんな使い方ができるなんて・・・」

「・・・・・・・気に入らない・・・・・・それは・・・美しくない・・・・・・」

周防九曜は狂ったように矢を連射してくる
そのたびに古泉が防御に飛び回り、朝比奈さんは姿を消し続けた

72 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/11(金) 23:29:09.12 ID:X4OzucLU0

「ふっ、面白くなってきたな」

藤原がやおら腰を上げると、手のひらを朝比奈さんに向けた
姿を消そうとしていた朝比奈さんがグラリとバランスを崩し、その胸に数本の矢が突き刺さろうとする
その寸前に危うく古泉が飛び込んできた

「大丈夫ですか朝比奈さん?」

「ふえぇぇぇ、大丈夫ですぅ
 でもこれをずっと続けるんですか?」

「続けるしかないでしょう
 長門さんが目覚めるまで、そして・・・・・・」

その6に続く

74 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/12(土) 00:00:06.98 ID:6ems7T+30

その6

硬直するハルヒの唇に俺はキスをした
ハルヒの体がぐったりと弛緩し、そしてガタガタと震え出した

おいハルヒ
大丈夫か?どうしたんだ?

「ョン・・・・・・」

えっ?

「ジョン・・・・・・」

ああ

「ジョン・スミス」

ああ
あれ?
声が出るぞ
おいハルヒ!しっかりしろ!

「ジョン・・・・・・あんただったのね」

ああそうだ
俺がジョン・スミスだ

「やっと会えたんだ・・・
 やっぱりあんただったのね」

75 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/12(土) 00:04:41.28 ID:6ems7T+30

気付いてたのか?

「ううん、何となくそんな気がしてただけ
 そうだったらいいのになって」

悪かったな
こんなに報告が遅くなっちまって

「いいの・・・嬉しいから」

いいかハルヒ、よく聞け
俺は確かにジョン・スミスだ
あの時東中に行って校庭にあの絵を描くのを手伝った
それから、俺がその時背負っていたのは朝比奈さんだ
朝比奈さんが俺を3、いや4年前に連れてってくれたんだ

「みくるちゃんが?」

そうだ
朝比奈さんは未来から来た
TPDDっていう装置を使って時間を自由に行き来できる
ついでに言うとあの後『世界を救うためのどうたらこうたら』と言ったのも俺だ

「マジで?」

ああ
まだあるぞ
実はあの時ちょっとした手違いがあって未来に帰れなくなった
その時に俺たちを助けてくれたのが長門だ

76 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/12(土) 00:07:08.02 ID:6ems7T+30

「有希が?」

そうだ
長門の魔法みたいな力で3年間時間を止めてもらって
俺と朝比奈さんは現代に帰って来れたんだ
長門の不思議な力はお前も覚えがあるんじゃないか?
あいつは宇宙人が作った俺たちとのコンタクト用インターフェイスだ

「コンタクト用?」

ああ
ちょっと説明すると長くなるけどな
この銀河系の真ん中で俺たちの事をずっと見ているような存在だ

それから去年、お前と一緒に不思議な空間に閉じ込められた事があっただろ
あの時に出てきた青い怪人だけどな
あれが暴れ出すとこの世界がとんでもない事になっちまうから
退治するって言うか、あれを消すための組織がある
超能力者集団って言うのか、そのメンバーが古泉だ

「・・・・・・」

つまりだ
宇宙人も未来人も超能力者もみんなお前の側にいるってことだよ
いつでもお前の側にいて
いつでも一緒に遊んでたじゃないか

呆然としていたハルヒの目がギラギラと輝いて来る
もう少しだ
頑張れ俺!

77 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/12(土) 00:10:24.96 ID:6ems7T+30

俺はまたあいつらと一緒に遊びたいぞ
全員俺たちの大事な仲間だ
だけどなハルヒ
俺が一番心配なのは
お前の事だ
お前がみんなの事を心配し過ぎてフラフラになってる所なんか見たくないんだよ

お前はSOS団の団長だ
いつも何でも好きな事をやればいい
後は俺たちがいくらでも後始末してやるから

「キョン・・・」

長門の事も古泉も朝比奈さんも
もちろん心配だけどな
今俺が見たいのは、お前の元気な姿なんだよ
俺が大好きな
涼宮ハルヒの突拍子もない姿なんだよ

頼む!ハルヒ!
長門を助けてくれ
朝比奈さんも古泉も
今ごろお前がいなくて不安なんだぞ
さあ、早く行ってみんなを助けてやろうぜ

「キョン・・・」

目をらんらんと輝かせたハルヒの全身から不思議なオーラが広がりだし
たちまちのうちに佐々木が作ったベージュの空間を吹き払った

78 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/12(土) 00:14:23.02 ID:6ems7T+30

「行くわよキョン」

ああいつでもいいぞハルヒ

「有希を助けにね!」


(同じ時間、別の世界で)

「古泉くぅーん・・・ちょっと厳しいですぅ」

「朝比奈さん、もう少し頑張りましょう!
 きっと涼宮さんが助けに来てくれるはずです」

「うぇーん、涼宮さーん・・・」

朝比奈さんは藤原の妨害を乗り越えながら古泉と長門を次々に時間移動で防御し、古泉は襲い来る周防九曜の矢から長門をガードしている
そのすきをついて橘京子はひたすらゲリラ攻撃を続け
古泉一人では防げなくなってきていた
朝比奈さんが泣きながらハルヒの名を呼んだ瞬間に
長門の前にまばゆく白い光が輝いた

「あいやーっ!」

朝比奈さんが叫んで長門のもとに駆け寄ろうとしてつまずいて転んでしまうが
その白い光の中から現れた人影を見て
朝比奈さんも古泉も驚きに目を丸くした

「うふっ、お久しぶり」

79 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/12(土) 00:17:03.81 ID:6ems7T+30

その人物は登場するが早いか、襲ってきた周防九曜の矢を握りつぶし、逆に周防めがけて撃ち返した

「あなたは・・・・・・」

「長門さんが危険だって聞いたから助けに来たの
 ごめんね遅くなっちゃって」

「朝倉さん・・・・・・」

「覚えててくれたのね、嬉しい!」

「・・・・・・お前は・・・・・・美しくない・・・・・・」

「あら、ご挨拶ね。せっかく1年ぶりに登場したっていうのに」

光の中から現れた朝倉涼子は、次々と襲い来る光の矢を素手で握りつぶしながら、分裂して攻撃してくる橘京子の赤い光をまるでハエでも叩いているかのように楽々と落としている

「朝倉さん、情報統合思念体に戻ったのではなかったのですか?」

「そうよ、向こうにいるのよ
 でも今のこの私はまたそれとは別の存在
 私をここに呼んでくれたのはね
 涼宮さんよ」

「涼宮さん?」

「そう、彼女ももうすぐここに来るわ
 もちろんキョンくんも一緒にね」

「本当ですか?」

80 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/12(土) 00:20:30.61 ID:6ems7T+30

「もう少しよ、今ごろはここへの抜け道を探しているはず
 だからそれまで頑張るのよ」

「はい!」

古泉は久しぶりの笑顔を見せた
かなりやつれた表情だが、朝倉涼子の登場と、ハルヒがもうそこまで来ているという情報に
新たな力を得たように、朝比奈さんを助けて明るく輝き出した

その光景を少し離れた所から見ている女子高生がいた
北高の制服を着た新入部員は、手に持ったオーパーツが輝きを増すのを嬉々として見つめていた

「うふふふふ
 やっぱりすごいエネルギーですね
 地球を選んで正解だったかな?
 こんなにたくさんの異人種の戦いが見られるなんて」


(またもやキョンの世界)

ついに覚醒した涼宮ハルヒ
そのハルヒの目にもう涙はない
キッとまっすぐ佐々木を睨みつけて

「もういいでしょうこれで
 私は有希の所に行くから
 あんたも来るんでしょ?
 それとも何よ
 部下を放っとくのがそっちのやり方なの?」

81 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/12(土) 00:23:16.30 ID:6ems7T+30

「いいえ
 そうじゃないわ
 私はあくまで時間稼ぎだから
 あなたがついに目覚めた以上は私もあちらに合流します
 では後ほど」

おい佐々木!
向こうでいったい何が起こってるんだよ

「それは自分の目で確かめてね」

チッ
佐々木のやつ、どうなっちまってるんだ
まさかあいつらに言いくるめられて
本気で神様になろうなんて思ってるんじゃないだろうな
ん?
という事は
本気で戦うつもりなのか?

「ちょっとキョン」

あ?何だ

「これからどうやったらいいのよ?」

へ?

「あんたがジョン・スミスであたしに何かの力があるんでしょ?
 じゃあそれをどう使ったらいいのよ?」

82 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/12(土) 00:26:13.22 ID:6ems7T+30

ああそれか
何でもいいんだよ
お前が心で思うだけで
たいがいの事はかなうからな

映画撮った時の事を思い出せ
朝比奈さんの目からビームが飛び出したり、秋に桜が咲いたり
あんまり思い出したくない過去だけどな、全部お前の力でやった事だ

「本当なの?」

ああそうですよ
それがお前の力だ

「くっ・・・
 何でそれをもっと早く教えてくれなかったのよ!バカキョン!
 そんな楽しい事があるのなら、もっとやりたい事がいっぱいあったのに!」

だからお前には教えなかったんだよ
お前が自覚して何か始めてしまったら、お釈迦様でもびっくりってもんだからな

「しないわよそんな事!ちゃんと地球の平和を祈ってるわよ!」

まあとにかく終わってから好きなだけ祈ってくれ
まずは長門を助けるのが先だ
とにかく長門の部屋に入るぞ

「だって、有希のマンションは消えてるじゃないの」

だからそれをお前が何とかするんだよ

83 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/12(土) 00:29:18.84 ID:6ems7T+30

「どうするって言うのよバカキョン!」

知らん
お前が考えろ
そのバリヤーの向こうに長門の部屋があると思って押してみろ
もしかしたらバリヤーがビリッと破れて
そこには長門の寝室が

「あったわよキョン!早く入んなさい!」

って本当に押したんかい!
マジかよこいつ
ハルヒが両手をバリヤーにかけてメリメリと引き裂いたら
そこに開いた空間から見慣れた長門の部屋につながっていた

おいハルヒ
長門の部屋は7階のはずだぞ
なんでこの1階から行けるんだよ

「あんたがそうしろって言ったからじゃないの!」

目を逆三角形に釣り上げるハルヒに引っ張られ、俺は開いた隙間から長門の部屋に侵入した
ハルヒはズカズカと居間を通り抜け、和室の扉を開いた

「いないわよキョン!」

部屋の中央に布団が一組敷かれていたが長門の姿はない
もちろん古泉と朝比奈さんもいない
そして侵入してきた佐々木の仲間たちもいなかった

84 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/12(土) 00:32:15.01 ID:6ems7T+30

「どこに行ったのかしらね?」

さあどこだろう
次にハルヒに何をさせればいいのか

俺はもう一度居間に戻ってみた
北高の通学カバンがいくつか置かれていた
おそらくハルヒ達のだろう
あれ?そう言えば俺のカバンはどこに置いたっけか?
きっと鶴屋さんの家に忘れてきたに違いない

「ちょっとキョン!」

ハルヒに呼ばれて部屋に入ると、ハルヒは1枚の大きな額の前に立っていた

「あんたこんなの見覚えある?」

その額には奇妙な絵が飾られていた
黒い画用紙の真ん中に、グラデーション模様のアメーバのような絵が1枚入っている
長門にこんな趣味があったのか?

「おっかしいわねー、さっき来た時はこんなのなかったような気がする」

おい
本当かハルヒ?

「はっきり覚えてないんだけど
 こんな気持ち悪い絵があったら絶対記憶してるはずよ」

という事はおいハルヒ

87 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/12(土) 01:00:19.28 ID:6ems7T+30

「何よ?」

いつぞやの事件を思い出せ

「事件?」

そうだ
去年の暮れの事件だ
雪山で遭難した時のあのお屋敷だ

「あっ!」

あれと同じだ
もしかしたらこれは、長門が作ってくれた入口かもしれない
あいつらがいるどこかにつながってるのかもしれないぞ

「そうね!思い出したわ!あのクイズみたいなのね」

そうだ
どっかに方程式か何かのヒントが書いてないか?

2人でその額の周りを調べてみたが
メッセージのようなものはなかった
長門の布団もひっくり返してみて、何か手紙でも出て来ないかと思ったのだが
やはり何も出て来ない
和室を探索しているハルヒを置いて、俺は居間に戻った
何冊か置いてある本をパラパラとめくってみて栞などを探しているうちに
ハルヒが大声を上げた

「キョン!キョン!あったわよ!」

88 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/12(土) 01:03:13.41 ID:6ems7T+30

急いで和室に戻ると、ハルヒは額の周囲を指差していた

「これよこれ!」

何だこれ?

黒い画用紙のような額の周囲の金属の縁には、小さな数字が無数に並んでいた
0から9までの数字がデタラメに書いてある
虫眼鏡が欲しくなるぐらいの細かい文字だった

この数字の羅列に何か意味があるのか長門?
しかしお前のヒントはいつもこんなのばっかりだよな
オイラーの定理だとか何だとか
俺が数学苦手なのを分かってての事なのか?

それとももしかするとこれもまた長門流のジョークなのか
細かい数字を読んでるだけで頭が痛くなってくる

「これはキョン用の問題ね」

何だよハルヒ
お前まで俺をいじめるのかよ

「有希に感謝しなさいキョン!簡単な問題にしてくれてありがとうってね」

どこが簡単なんだよお前
俺にはまだ問題の意味すら理解できてないのに

「アホキョン!小学校で習ったでしょ!
 ゆとり教育でもこれぐらいは習ってるはずよ!」

89 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/12(土) 01:06:08.87 ID:6ems7T+30

俺はハルヒに首根っこをつかまれて額の数字を口に出して読んだ
額には小さな菱形の模様が付けてあり、その一つ一つに数字が書いてある

28620899862803482534211706793141592653589793238462643383279502884197169399375105820974944592307816406
数字はどんどん続いている

何だこれは?
ハルヒはニッコリ笑って俺を見ている

「この数字に見覚えあるでしょ?」

何かの乱数表か?
2つか3つ置きに飛ばして読んだらメッセージが浮かび上がるとか

「違うわよ!もっとちゃんと読みなさい!」

ハルヒ、もうダメだ
こんな細かい数字をじっと見ていると眠くなってくる
お前と算数クイズやってる場合じゃないんだから

「もう!バカねまったくあんたは!あと10秒だけ時間をあげるから考えなさい」

うるさいハルヒ
こんな数字で人間の一生が決まるわけないんだから

「有希の命がかかってるでしょう!」

それでも分からんものは分からん
俺は何とかの定理などはさっぱり理解できん
それともこんなにたくさん数字が並んでいるのは円周率か何かか?

90 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/12(土) 01:09:09.53 ID:6ems7T+30

連投規制が厳しいですね


「ピンポーン!大正解っ!」

えっ?本当に正解なのか?

「そうよ、こんなの5秒で気付きなさいよキョンのくせに」

くせには余計だ
それでこの円周率がどうしたっていうんだよ

「円周率の最初の数字は?」

3.14だから3だろ

「そう!普通数字はどっちから書く?」

どっからって左上からか?

「そういう事!
 この額の数字はバラバラだけど
 この314の所を左上に置き直すと・・・・・・」

ハルヒが額を回転させ、円周率の最初の314が左上に来るようにセットすると
ブルンと音がして黒い画用紙が震えた

「ほらねキョン。頭は生きてるうちに使わないと毛が抜けちゃうのよ」

画用紙と思っていた黒い絵は、向きを変えた途端にプルプルと震え出し、まるで羊羹かコーヒーゼリーのような表面に変わっていた

91 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/12(土) 01:12:48.60 ID:6ems7T+30

「さあ行くわよキョン!」

ちょい待ちハルヒ!
行くってどこに行くんだ?

「決まってるじゃないの、ここに飛び込むのよ」

ちょ、ちょっと待て
確かにこの感じじゃ向こうに何かがありそうだけど
一応調べてみてからの方がいいんじゃないのか?

「そんな暇があるわけないでしょう!
 あんたがモタモタしてる間に有希に何かあったらどうすんのよっ!
 あたしは行くからね
 あんたは動物実験でも人体実験でも何でもやってから来なさい」

ハルヒは少し後ろに下がり、距離を計って助走しようとしている
待てハルヒさん
分かったよ俺も行きますから

プルプルと震える額はかなり大きく、二人同時でも入れそうだった
俺とハルヒは部屋の反対側まで移動し、呼吸を合わせて助走した
そして頭から飛び込んだ

「イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」

その7に続く

92 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/12(土) 01:15:39.08 ID:6ems7T+30

その7

2人の絶叫だけが長門の部屋に残り、俺たちは奈落の底に落ちていった
永遠とも思える落下の後、ドスンと落ちた俺は腰を打ちつけていた
しかし思ったほど衝撃は少ない
やれやれと思って立ち上がろうとしたら
上からハルヒが落ちてきた

ぐえっ

「あいたたた・・・・・・」

おいハルヒ、早く下りてくれ
かなり重いぞお前

「ハァ?女子に向かって重いだって?
 あんた、全地球人類を敵に回すつもり?
 それとも何よ、あたしが重いって言うの?
 重い女は嫌いって事?」

いや
ハルヒさん
それとこれとは別でしょう
ただ上から落ちてきただけですから

「やっぱちょっとダイエットすべきかなー
 あたしさー、最近もしかしたらみくるちゃんより重いかも知れないのよね
 ねえキョン、どう思う?
 あたしもうちょっと痩せた方がいいの?
 まあ・・・あんたがそう言うんなら、頑張ってみないこともないけどさ」

93 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/12(土) 01:18:09.67 ID:6ems7T+30

ハルヒ
頼む
悩み事はとりあえず俺の上から下りてからにしてくれ
じゃないと
お前のいい匂いで卒倒しそうだ

「ふふーん
 キョン
 あんたもだいぶ正直に物が言えるようになってきたわね
 団長として嬉しいわよ
 やっとあんたが真人間になりつつあると思うとね」

ああ
もう好きに言ってくれ
こうやってるのも悪くない気分だけど
今はそんな場合じゃないだろ

「分かってるわよもう」

ハルヒは俺の上から飛び降りて制服のスカートを直した

「ねえ。見てキョン!あれ!」

ハルヒが指さす方向には
何人かの男女が見えた
もちろんすぐに正体は分かる
SOS団と佐々木の1派が争っているのだ

「行くわよキョン!急いで!」

94 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/12(土) 01:21:12.99 ID:6ems7T+30

ハルヒは猛ダッシュで駆け出し、俺は慌てて後を追いかけた
30秒ほど走ってかなり近づいた

「有希!今助けるからね!」

そう叫んで走り寄ったハルヒの体は
ゴーンという音を立ててまたもや跳ね返された

ハルヒ大丈夫か?
吹っ飛んできたハルヒを危うく受け止め、そっと横たえた

「いったぁーっ・・・」

鼻を押さえてうずくまるハルヒを抱きかかえながら
俺はあらためて、自分が来た世界を眺めた

空にはまばゆいばかりの星空がきらめき、地面は真っ黒で何も起伏がない
明らかに地球人の常識からはかけ離れた場所だ

ここから15メートルほど離れた場所で戦う者たちの姿が見えた
激しく動き回っている赤い光はあれは古泉か
この世界じゃあいつの能力も使えるらしいな

少し離れた場所で右往左往している朝比奈さんは、なぜか時々点滅していた
数秒間消えたかと思うとまた現れる

そして横たわっているのは長門だ
まだ意識が戻ってないのか
ピクリとも動かないその長門の足元に立ちはだかり
周防九曜と思われる長い黒髪の女子と激しい攻防を繰り返しているのは・・・

95 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/12(土) 01:24:09.21 ID:6ems7T+30

俺の背中にまた鳥肌が立った
振り下ろされるナイフの鈍い光沢、そして脇腹に突き刺さった冷たい金属の感触が、俺の全身から冷や汗を絞り出させた

あ、あ、朝倉涼子がどうしてここにいる?
しかも長門を守るようにして
そうか、あいつは長門のバックアップだったっけ
長門がピンチなのを見て駆けつけたのか?

周防九曜は両手の指先から次々と光線のようなものを出し、朝倉を貫こうとする
朝倉涼子はまるでそれを割り箸でも掴んでるかのように手づかみにして、さらにはボキッと折っていた

両者の攻防は互角に見えたが、なかなか朝倉は攻勢に転じられないようだった
朝比奈さんから少し離れた所には、いた
あいつがいる
顔を見ただけで殴りつけてやりたいぐらいにムカつく野郎が
あの藤原が朝比奈さんに手のひらを向け、朝比奈さんの動きに合わせて小さく振っている
そのたびに朝比奈さんはあちこちに逃げ回り、時折りピカッと光って姿を消す
未来人同士の戦争がどんなものなのか、もちろん俺に知る由はないが、おそらくおれはあれでものすごい戦闘を繰り広げているのだろう

赤い光と化した古泉の周囲には分散した青い光が取り囲んでいる
あれは橘京子のものなのだろうか
その1つが時々古泉に向かって突進し、古泉は全身でそれを跳ね返す
青い光は力を失って地面に落下するが、古泉からも光の破片がキラキラとこぼれ落ちており、多少はダメージを負っているのが分かった

予想していた通り、激しい戦闘の真っ最中だったが、俺にとっての気がかりはいまだに目を覚まさない長門と、そして彼らから少し離れた所にいる1人の少女だった

ハルヒの言った通り、やはりあの新入生だった
クルッと巻き毛の天然パーマなのか、繰り広げられる戦闘に目を輝かせながら
手に持っているオーパーツを軽く左右に振り回している

96 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/12(土) 01:27:07.08 ID:6ems7T+30

俺はハルヒを地面に横たえて、ぶち当たったバリヤーを調べてみた
長門のマンションを覆っていた柔らかいものとは違って、ガラスのように固い物体だった
手で叩いてみてもガンガンと響くだけで向こう側には届かない
どうやらあっち側からはこちらは見えないようだ
大声で古泉の名を呼んでみても何の反応もない

俺は再びハルヒを抱え起こし、揺さぶってみた
おいハルヒしっかりしろ、大丈夫か?
鼻を真っ赤に腫れ上がらせたハルヒがウーンとうなる

「いったぁー、何よ今度はいったい」

またバリヤーみたいだな
しかも今度はえらく固いぞ

「またこじ開けて入ればいいじゃないの」

ハルヒは鼻に手を当てながら立ち上がり、俺がやったようにドンドンとそれを叩いてみた
横たわったままの長門に懸命に声をかけるが当然反応がない

「うーん、ダメねえこれじゃ」

ハルヒは何事かをわめきながらひたすらバリヤーを殴りつけ
地面との隙間に指を突っ込んでこじ開けようとしている
何とかならないかハルヒ?このバリヤーをぶち破る方法は

「それは無理だよキョン」

また後ろから佐々木の声がした
こいつもついてきやがったのか

98 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/12(土) 02:00:30.40 ID:6ems7T+30

「どうやらあっちで起こってる事はこっちからはどうしようもないみたいだね」

おい佐々木
もういい加減にしろよ
こんな無駄な争いをして何になるんだよ
お前はこれで満足なのか?
あいつらに戦わせて
お前はここで高見の見物かよ

「だってそうしろって言われたんだからしょうがないじゃないか
 大将はのこのこ敵前に出ていくことはないって
 それが仲間の意見ならば、僕は喜んで従うね」

仲間だと?
何なんだよその仲間ってのは
こんな変な世界で
ハンディがある相手を叩きのめすのがお前らの戦いなのか?
それがお前らの仲間なのか?

「ふふっ
 キョン
 僕にとっては彼女たちはまだあまりよく知らない存在だ
 突然目の前に現れて神様になって下さいとか言われて
 いくら僕でもそんな事を真に受けたりはしないさ
 だけどねキョン
 そんな事を言っている連中でも
 僕を慕ってくれてるんだ
 それを仲間と呼んでどこがいけないのかい?」

99 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/12(土) 02:03:22.26 ID:6ems7T+30

だったらお前も中に入って堂々と戦えよ
俺もハルヒもこの中に入れろ
それから長門を目覚めさせてやれ

お前らの下らん神様理論なんかはどうでもいい
条件を対等にしろ
何だかんだ言いながら結局お前らのやってることは卑怯以外の何物でもないじゃないか

長門の能力が怖いから眠らせて
ブチ切れたハルヒを恐れて中に入れようともしない
それがお前の仲間とやらのしてる事じゃねーか
何が仲間だよアホらしい
俺たちの団長を見てみろよ
アホで向こうみずで後先を考えない事ばっかりしてるけど
あいつの仲間を思う気持ちはお前なんかには負けはしない
何が大将は奥でじっとしてろだよ
うちのハルヒを見てみろ
あいつなら、団員を助けるために核融合炉にでも飛び込む覚悟はあるぞ
それが俺たちの団長だよ
SOS団の自慢の団長だよ

「そしてキョンの大好きな彼女だってのか?」

そうだよ
俺はハルヒが大好きだ
あんなバカな女だけど
俺たちを思ってくれる気持はこの銀河系の誰にも負けはしない
あれが俺の大好きな女だ
俺は1人では何もできないけどな
ハルヒと一緒ならどこにだって行けるぞ

100 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/12(土) 02:06:50.73 ID:6ems7T+30

佐々木はちょっと遠い目になった

「変わったな・・・キョン」

当たり前だろ
もうお前を自転車に乗せて塾に通ってた頃の俺とは全然違うんだよ
見つけたからな
一生かけて守ってやりたいと思う相手を

「うらやましいよ、キョンが
 そんな風に自分を変えられた君が」

お前は自分を変えようとは思わなかったのか?

「思わなかったよ
 だって変える必要がなかったからね
 このみんなに会えるまではね
 チームSOSの仲間に出会うまでは」

チームSOS?
何だそれは?

「ははは
 君にはまだ言ってなかったかな?
 恥ずかしいんだけどちょっとインスパイアさせてもらったよ
 僕たちのチームだ

 『静けさを大いに楽しむための佐々木のチーム』だ」

それならSOSチームなんじゃないのか?順序が逆だぞ

102 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/12(土) 02:14:48.68 ID:6ems7T+30

「細かい事はいいんだよ別に
 何となく語呂がよかったからさ」

SOSの名を聞きつけたハルヒが佐々木を見つけ
両腕をブンブン振り回しながらやってきた

「ちょっとあんた、いつまでこんな卑怯な事やってんのよ
 あたしを中に入れなさい。もちろんキョンもね」

「それはできないわ涼宮さん
 みんなにきつく言われてるから
 あなたが入れるのは最後の仕上げだけ」

「いいから早く入れなさい!今すぐに!」

「ご自分でお入りになったら?」

「ええそのつもりよ。キョン!もうそんな女は放っといていいから
 体当たりしてでも突入するわよ」

はいはい団長さま

「キョン!本気でそんな事するつもりか?」

当たり前だろ
俺は団長のボディガードだ
団長の行く所ならたとえ地獄にでもお供するぜ
ましてや仲間を助けるためなんだ
SOS団に不可能はないんだよ

103 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/12(土) 02:17:13.83 ID:6ems7T+30

「キョン!そんな優等生の分からずやに何言っても無駄よ
 まあ同級生のよしみもあるんでしょうけどね」

「待って!それはさせられない」

佐々木の体が大きく震え、クリーム色をしたモヤモヤした物体がハルヒの体を包み込んだ

「ちょっと!何よこれ!動けないじゃないの!キョン!助けて!」

俺は急いでハルヒを包んでいる靄の中に飛び込んだ
と思ったらハルヒの体を通り抜け、反対側に出ていた
もう一度やっても同じだった
俺の指先はハルヒに触れる事もなく、そのまま通過して飛び出してしまう
何だこりゃ?ハルヒ?

「キョン・・・・・・」

待ってろハルヒ
すぐに助け出してやる
おい佐々木、もうやめろ
ハルヒに手を出すんじゃねえ
他のヤツラならともかく
お前にこんな事をさせたくない
だから
ハルヒに手を出す事だけはやめてくれ

「じゃあ君が身代わりになるかい?」

ああ
それでいいのなら俺は構わない

105 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/12(土) 02:20:43.03 ID:6ems7T+30

「キョン!あんたいったい何言ってんのよっ!」

ハルヒ
みんなを助けてくれ
長門を助けろ
お前ならできる
長門さえ起こしてしまえばこっちのもんだ

「ちょっとキョン!」

さあ佐々木
さっさとやれ
俺を好きにしていいからハルヒを助けろ

「ふっ
 君が代わってくれても意味はないんだよ
 あくまで団長は涼宮さんだからね」

いいから変われ
俺とハルヒを入れ替えろ

「それはできない
 今の時点での危険因子は涼宮さんだからね」

くっそう
引っかからないかさすがに
俺の背後にはクリーム色の靄にからめられたハルヒがもがいている

「キョン!キョン!」

106 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/12(土) 02:23:06.34 ID:6ems7T+30

バリヤーの向こうでの戦いはいったいどれぐらいの時間に及んでいるのか
古泉も朝比奈さんも、もちろん朝倉涼子も、もうかなりのダメージを受けているはず
ほとんど防戦一方の戦いにはたして勝ち目はあるのか
仮に長門が目を覚ましたとしてあの調子で戦いに参加する事はできるのか?
幾つもの疑問が頭を駆け巡る
俺とハルヒはこのまま
仲間が必死で戦ってるのを見殺しにしてしまうのか・・・

「キョン、キョン」

ハルヒの声も苦しそうだ
俺は佐々木に背中を向け、ハルヒの方に向かった
ハルヒどうした?苦しいのか?

「大丈夫よ、動けないだけ
 だけどキョン、こんな悔しい想いは初めてよ
 何もできないで負けちゃうなんて・・・
 有希・・・ごめんね・・・一番つらい時に一緒にいられなくて
 みくるちゃん・・・あんなに頼りなかったのに、必死で戦ってるのに何もしてあげられなくて
 古泉くんも・・・いつもわがまま聞いてくれたのに、最後はこんな形になるなんて
 ごめんね・・・これじゃ団長失格だよね
 偉そうな事ばっかり言ってたのに
 結局何もできないだけだなんて」

俺の目の奥で何かがはじけた
何か真っ赤なものがパーンとはじけた
俺はゆっくり向き直り、佐々木に静かに告げた
佐々木・・・ハルヒを出してくれ、今すぐに

107 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/12(土) 02:26:35.20 ID:6ems7T+30

「それはできないと言っただろ
 君に代わっても何の意味もない事ぐらい分かっているはず」

そうか・・・
俺は肩を落とし、力なくうなだれた
そして次の瞬間、全速力で佐々木に向かって走っていた

もう何も考えられない
ただ無性に腹が立っていた
どうせ何もできないのなら
せめてこいつだけにはひと泡吹かせてやりたい
俺をバカにしたいのならいくらでもすればいい
だけどこれだけは絶対に許さん
ハルヒをバカにする事だけは許さない
俺たちの団長を、俺の大好きなハルヒをバカにする事だけは許せなかった

「ちょ・・・キョン?」

俺は上体を丸めて佐々木に襲いかかった
何かを叫んでいたような気がするが覚えていない
ショルダータックルをぶちかますつもりだったのだが
予定した場所に佐々木はいなかった
空気が漏れるようなシュッという小さな音が聞こえたような気がする
俺は勢い余ってそのまま突進し、バリンという音とともにもんどりうって倒れ込んだ

「キョン!」

その8に続く

108 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/12(土) 02:31:59.71 ID:6ems7T+30

その8

気がつくと空気の匂いが違っていた
血なまぐさい臭いが鼻をついた
誰の血の臭いなのかと頭を上げると、目の前には小さな女の子が倒れていた
これは?
どんなカラクリなのか、俺はバリアーを抜けたようだった
そして俺が体当たりしたのはこの子なのか
俺の横に転がっている新入生の手に握られたオーパーツを見て、俺は本能に任せて行動した
素早くその手からオーパーツを奪い取り、バリヤーの外にいるハルヒに向かって走り出した
いったい今日はどれぐらい走ってるだろうか
少しは運動能力の向上に役立つだろうか
そんな事を考えていると耳元に誰かの声が聞こえた

「・・・・・・とうとう来た・・・私のきれいな・・・その瞳・・・・・・」

横目でちらりと見ると周防九曜が俺の動きを追っていた
長い黒髪がブラリと横に拡がり、次の瞬間、それが一斉に俺を目がけて飛んできた
追いつかれる前にバリヤーの外にたどり着こうと必死で走ったが
恐ろしいスピードで追いかける槍のような黒髪の方がはるかに早かった

「キョン!」

「キョンくん!」

誰かの悲鳴が聞こえたような気がした
俺の耳元にシュルルルといううなりが聞こえ、今にも無数の槍に貫かれるかと覚悟した瞬間、ブシュブシュブシュと何かが突き刺さる音が聞こえた
ハルヒ・・・
ハルヒ・・・
俺は・・・もう・・・・・・

109 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/12(土) 02:34:32.03 ID:6ems7T+30

あれ?
痛みがない
呆然とする俺に何か柔らかいものが覆いかぶさった

「早く渡して!」

誰かにそう言われてハッと気がついた
聞き覚えのあるこの声は
朝倉涼子!

「あなたならあのバリヤーを貫通できるはず!走って!」

俺は異を唱える事もせず、ハルヒに向かって走った
再びシュルシュルといううなりが後ろから聞こえ、俺は首をすくめた
ブシュブシュブシュ

「キョンくん・・・」

朝倉・・・

俺の体にかぶさるようにして朝倉涼子が倒れ込んできた
暖かい液体が俺のシャツを濡らす
これは・・・血?

「キョンくん・・・あの時は本当にごめんね
 自分が間違っていたことがやっと分かった
 長門さんの気持ちもね」

朝倉!

111 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/12(土) 03:02:15.43 ID:6ems7T+30

何とか8話までは終わろうと思っていたのですが、たび重なる連投規制でうまくいきません
次に規制がかかったら、今日はここまでにします。残りはまた別の機会に。
お付き合い下さった方、本当にありがとうございました。


「せっかく戻って来られて、キョンくんにちゃんと謝ろうって思ってたのにまたこうなっちゃった
 しょせん私はやっぱり、ただのバックアップにすぎないって事かしら?
 さようなら、キョンくん。でも、できたら私の事はあまり悪い思い出にしないでほしいな」

朝倉!
体中を周防九曜の長い槍で貫かれた朝倉涼子は
やがていつかのようにサラサラと砂になって崩れ落ちていった

俺はオーパーツをまだ持っている事を確かめた
バリヤーの側にいるハルヒからはあと少しの距離だ
俺は残りの距離を猛ダッシュに賭けた
バリヤーの向こうにいるハルヒに手渡す
これが突き破れなかったら、その時は俺も終わりだ
周防九曜の槍に貫かれて、朝倉のようにサラサラと消滅する事もできず
血にまみれた無残な死体を晒すのか
オーパーツを持った右手をバリヤーの向こうにいるハルヒに必死で突きつけた
ハルヒ、これを持ってこっちに入って来い!

不思議な事に、オーパーツは苦もなくバリヤーを突き抜けた
佐々木が作ったクリーム色の靄すらも通り抜けて、ハルヒはしっかりとそれを握りしめた
また背後からシュルシュルと唸りが聞こえてきた
身を隠せるものは何もない。助けてくれる朝倉ももういない

俺は目を閉じた
そして・・・・・・

112 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/12(土) 03:05:50.41 ID:6ems7T+30

何も起こらなかった
体中を串刺しにされる感覚も、焼けるような激痛もなかった
そして俺の後ろに誰かが立っている感覚を感じた

こわごわ目を上げてみるとそこには
見慣れた制服姿の小柄な女子が立っていた
周防九曜が放った長い黒髪の槍を片手で鷲づかみにしていた

「ああ・・・・・・あなたは・・・ここにいてはいけない存在・・・・・・不快な・・・とても不愉快なもの・・・・・・」

周防九曜は次々と槍を繰り出し、その女子はそれを片手で受け止め続けた
見上げる俺の全身に安堵感が広がる
あまりの安堵に体中がガタガタと震え出すほどだった

長門・・・・・・
ついに復活したのか長門・・・

長門は氷のような無表情を崩さないまま
あの懐かしい淡々とした口調で

「・・・・・・お待たせ」

そうつぶやいて、九曜の攻撃を跳ね返し続けていた

「離れないで」

長門は右手で攻撃を受けとめながら左手をバリヤーの外に伸ばした
長門の左腕が5メートルぐらいに伸び、ハルヒの腕を掴んだ
バリバリバリと激しい音を立てながら
バリヤーごとハルヒを中に引きずり込んだ

113 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/12(土) 03:09:07.61 ID:6ems7T+30

俺は転がり込んでくるハルヒをしっかり受け止めた
これでついに役者が全員揃った
SOS団の勢ぞろいだ
どんな仕組みになってるのかなんて俺には分からない
だけど今、団長以下5人のSOS団メンバーがついに終結したのだ

形勢が一気に逆転した
長門はめまぐるしい動きで周防九曜の攻撃を防ぎながら詠唱し
古泉に群がっていた赤い光を叩き落とす
さらには朝比奈さんと藤原との間に白い光の壁を作った

古泉は力を回復して再び橘京子に襲いかかり
朝比奈さんは変な悲鳴を上げながら

「わ、わた、わたたたたたーっ!」

と叫んで藤原と一緒に姿を消した

ハルヒがバリヤーの中に入ったのを見た佐々木も中に入ってきて、クリーム色の靄を俺たちに向かって放ってきたが
オーパーツを握りしめたハルヒが無造作にそれを踏みつぶした

俺はしっかりとハルヒの手を握りしめていたが、ハルヒはその手をそっと放した
俺たちの前でガードしていた長門の前に出た
すかさず周防九曜が槍を放つが
それらは全てハルヒの手前で力なく失速して落ちた

ハルヒの全身から不思議な光が発光している
古泉が最も恐れていた事態がついに訪れたのか
自分の力を自覚したハルヒが、怒りのあまりにとんでもない大暴走を引き起こそうとしているのか?

114 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/12(土) 03:12:22.77 ID:6ems7T+30

おいハルヒ
危険だぞ長門の後ろに戻れ

「・・・・・・やめなさい」

ん?
ハルヒ?

「もうやめなさいって言ってるのよ」

初めて聞くハルヒの低い声だ
腹の底から響くようなハルヒの重低音だった

俺はこの時初めて気がついた
本気で怒った時のハルヒは口数が少なくなるのだと

「有希、もういいわ。無事で何より」

長門も攻撃を収めた

「古泉くん、元の姿に戻りなさい
 みくるちゃんも、もう帰ってきなさい」

古泉は赤い光球から人間の姿に戻り

「ふぇぇぇぇぇーっ
 7億年前まで遡っちゃいましたぁ」

と言う朝比奈さんは気絶した藤原の手を掴んで戻ってきた

115 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/12(土) 03:16:08.09 ID:6ems7T+30

佐々木率いるチームSOS(この名前は使いたくないな)も攻撃の手を休め
じっとハルヒを見つめている
オーパーツを奪われた新入生はキョトンとしていたが
ニッコリ笑って立ち上がった

ハルヒはゆっくり歩いて古泉の前に立った
さすがの古泉も疲れた表情で肩で息をしていたが
近づいてきたハルヒを見てわずかに頬を緩めた
しかし次の瞬間、俺の心臓も凍りついた
パンと乾いた音がして、ハルヒが古泉の頬を叩いていた

「副団長がこんなつまらない争いごとに巻き込まれてどうするのよ!
 私の指図もなしに独断専行は許さないわよ!」

古泉は呆然としていたが、ハルヒの目に浮かんでいた大粒の涙を見て顔をこわばらせた

「申し訳ありません、団長」

ハルヒはそのまま朝比奈さんの元に向かい、やはり頬を叩いた

「みくるちゃんはあたしのかわいいマスコットなんだから
 こんな危険なことしちゃダメじゃないの!」

朝比奈さんは目をくるくるさせていたが、ハルヒに抱きしめられて大声で泣き出した

「みくるちゃん、ごめんね、無理させて
 あたしが早く来れなかったばっかりにこんなひどい目にあわせちゃって」

「すっすっすっ涼宮さーん」

116 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/12(土) 03:19:19.18 ID:6ems7T+30

しばらく抱き合っていた2人だったが、やがてハルヒが体を離した
再び俺と長門の前に戻ってきて、やはり長門の頬もパンと叩いた
長門なら軽く避ける事もできたのだろうが
黙ってハルヒの平手打ちを受けた

「有希、有希、あんたはね、何でも1人で抱え込んでるんじゃないの
 つらかったら、1人でいるのがつらい時は電話しなさいっていつも言ってたでしょ?
 あたしたち仲間なんだから、どうして今まで何の相談もしてくれなかったのよ!」

抱きしめられてもまだ無表情の長門だったが
大きく見開かれたその両目から、大粒の涙がぽろりとこぼれた

「・・・・・・申し訳ない」

そしてハルヒは俺の前に戻り、俺をグーで殴りつけた
おいハルヒ、何で俺だけグーパンチなんだよ

「うるさいバカキョン!
 あんたは全部知ってたんでしょっ!
 知ってるくせに何で私に何も言わなかったのよ!
 あんたの責任が一番重いんだからね!
 一番下っ端のくせに!一番あたしと一緒にいたくせに!
 あんたがもっと早く話してくれたらこんな事にはならなかったのに!
 有希も古泉くんもみくるちゃんも
 こんな目に会わずに済んだかもしれないのに!」

いやハルヒ
これにはいろいろと事情があってだな

「黙りなさいっ!!!」

117 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/12(土) 03:23:11.58 ID:6ems7T+30

ハルヒは再び俺をグーで殴った
そしてハルヒはくるっと体を反転させて佐々木に指を突きつけた

「神さまになりたいのなら好きにすればいいわ
 世界を作り変えたいのならいつでもどうぞ
 ただし、1つだけ言っておくわ
 あたしの大事なSOS団員に指一本でも触れたら
 今度はただじゃおかないからね!
 あんたがどこの世界のどんな神さまだろうと
 あたしが必ず探し出してこの世から消し去ってやる!」

佐々木はしばらく呆然とハルヒを見ていたが
やがてクスクス笑いだした

「さすがは涼宮さんね
 やっぱり私はかなわないわ
 ちょっとだけだけど神さまなんて言われて
 いい気になってたのかもしれないわね
 ごめんね涼宮さん
 あなたの大事な仲間をこんな所にまで連れて来てしまってごめんなさい

 でも1つだけ分かってほしいの
 あの子は全然悪くないから
 あの子のために、この世界を作り直すエネルギーを分けてほしいって頼まれて
 それで周防さんにも協力してもらって今回の作戦になったの
 責任は全て私にあります
 憎むなら私を憎んで下さい
 だけどこの子は別だから
 一人ぼっちでここで生きていくのがかわいそうだと思ったから
 だからこの子だけは許してあげて」

118 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/12(土) 03:26:11.30 ID:6ems7T+30

ハルヒは無邪気に笑う新入生をじっと見た

「あなた、名前は?」

「名前はまだありません」

「もう北高はやめちゃうの?」

「えっと、まだ決めてません」

「そう、じゃあいいわ
 でもこれはもうしばらく預かっとくから
 後で学校に取りに来なさい」

「はい!」

ハルヒはそれ以上何も言わずに戻ってきた
呆然とする古泉と、泣きじゃくる朝比奈さん
そして無表情のままで涙をこぼす長門を俺の前まで引っ張ってきた

「さあキョン、帰るわよ」

ああ
これだけ暴れりゃ充分だろ
暴れ足りないのはハルヒだけじゃないのか?

「・・・キョン」

え?

119 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/12(土) 03:29:08.66 ID:6ems7T+30

「マジで殺されたいの?」

・・・・・・

「帰るわよ」

俺たちは輪になって手をつないだ

「みんな、目を閉じて元の世界を念じるのよ
 有希のマンションのあの部屋をね」

「・・・・・・それでは不足・・・・・・終わらせない・・・・・・」

後ろから小さな声が響き、長い髪の毛を狼のように逆立てた周防九曜が襲いかかってきた
ハルヒの持っているオーパーツを目がけてギラギラした光の束が襲いかかる
すぐに反応したのは長門だった
高速呪文を唱える余裕はなく、長門は瞬間移動でハルヒの前に立った

「有希!」

長門は小さな体を太い光に貫かれ、その目を大きく見開いている

「有希!」

「長門さん!」

長門!

「・・・・・・いい・・・・・・肉体の損傷は無視できるレベル」

120 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/12(土) 03:32:09.99 ID:6ems7T+30

周防九曜はその長い髪が大きく膨れ上がり
小柄な体を5倍ほどの大きさに見せていた

「・・・・・・ここで終わる事はできない・・・・・・あなたは美しくない・・・・・・」

長門が素早く詠唱し、俺たちを包むように、白い光の壁が発生した

「早く戻った方がいい」

「・・・・・・あなたは美しくない・・・・・・この場所にはふさわしくない」

周防九曜の体もオレンジ色の光に包まれ、ゆっくりと空中に浮かびあがった
すかさず長門が追従し、同じように空中に浮かんだ

「有希!もうやめなさい!もういいのよ!」

「このインターフェイスを残しておくのは危険。私が始末する」

おい長門、もうやめよう
こんなの放っといてみんなで帰ろうぜ

「それはできない。このインターフェイスは暴走を始めている」

暴走?

「そう」

「・・・・・・私は今日、習いました。言葉の意味を・・・・・・これはお花です。とても美しい・・・・・・あなたが好きです・・・・・・」

長門、こんなの相手にして大丈夫なのか?

128 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/12(土) 08:22:16.54 ID:v1hulqyE0

「勝算はある。早く退避を」

おい佐々木、ここは危険だ
お前も全員連れて帰れ
ハルヒ、俺たちも帰ろう

「でも有希が・・・」

長門が勝算があるって言うんだから信じようぜ

「有希・・・」

「・・・・・・私は、歩きます。遠くのお空に。明日は、お肉を、食べました」

見守っているうちに周防九曜の様子が明らかにおかしくなっていた
第1形態が指からの光線の矢、第2形態は髪の毛の槍
とするとこれが第3形態なのか、オレンジ色の球体に包まれたその体から
次々と光の束が長門に向かってほとばしった

長門は素早く詠唱しながらその光を直前で跳ね返し
返す刀でオレンジ色の光に切り込んでいった

「キョン、私たちはこれで戻る事にするよ」

ああ佐々木、ここは危険だ

「君たちも無事帰ってきてくれよ」

もちろんだとも
気をつけてな

129 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/12(土) 08:26:16.57 ID:v1hulqyE0

佐々木と橘京子、そして藤原の姿が消えた

おいハルヒ、俺たちも帰ろう

「でも・・・有希が・・・」

帰ろうとしないハルヒの気持ちは俺にもよく分かる
ようやくハルヒにも今までの俺たちの行動が読めてきたのだろう
自分の知らない場所で行われてきた壮絶な出来事に目を丸くし、
また長門を1人残しておけないという気持ちは俺たちももちろん一緒だ
上空で繰り広げられるすさまじい戦闘に、俺たちは目を奪われていた

周防九曜は次々と攻撃を繰り出し、長門はそれを防ぎながら何やら光を出して攻撃もしていた
下から見ている俺たちには戦況はさっぱり理解できない
やがて飛び道具では埒が明かないと見たのか周防九曜は距離を詰め
再び黒髪の長い槍を四方八方から突き立ててきた
何本かずつまとめて払い落していた長門だったが
そのうち数本が無残に体を貫いた

「有希!」

「私は大丈夫。それより早く帰還すべき」

「あんたを置いて帰れるわけないでしょう!」

「置いて行っていい。必ず戻る」

「本当?」

「本当」

130 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/12(土) 08:29:51.34 ID:v1hulqyE0

「絶対に帰って来なさいよ!有希!」

「約束する」

まだ名残惜しそうなハルヒをせきたて、俺たちは再び手をつないだ
するとまだあの新入生が残っているのに気がついた
おい、お前はこっちに来なくていいのか?

「ここが私の世界ですから」

こっちは今から危険な状態になるかもしれないんだぞ

「構いません。その時はそちらの世界に行きます」

絶対生きろよ、こっちでもあっちでもいいから

「はい!ありがとうございます先輩」

「さあみんな祈って!向こうに帰れますように
 ・・・・・・有希が無事に帰って来れますように」

足元が激しく揺れ、時間移動とも次元震ともまた違う感覚の後で、
俺たちは再び固い地面に立った

「ほわーっ」

朝比奈さんの溜息とともに、ようやく地球に帰ってきた事を実感した
出発点と同じ、長門のマンションだった
そこにはまだ佐々木たちがいた

131 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/12(土) 08:33:03.72 ID:v1hulqyE0

「無事帰ってきたね」

ああ

「どんな様子だったの?」

まだ長門と周防が戦ってるよ
どうやら異常動作を起こしたらしい

「本当に申し訳ない。我々の仲間なのに何もできなくて」

まあしょうがないだろ
何しろまともに会話もできないヤツだったからな

「古泉くん」

「はい?」

「みんなを連れて帰って」

「えっ?」

「みんなを家まで送ってあげて」

「しかし長門さんがまだ・・・」

「いいから!」

「はい、では後はよろしくお願いします」

132 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/12(土) 08:36:06.91 ID:v1hulqyE0

古泉はまだ泣きじゃくっている朝比奈さんを抱き起こし、佐々木たちも連れてマンションを出ようとした

「ふん、結局規定事項の確認のみか、骨折り損とはまさにこの事だな」

藤原がつぶやいて立ち上がった

「俺はここで失礼するぜ。どうやらこれ以上の展開はなさそうだしな。ところであんた」

こいつは俺の朝比奈さんをあんた扱いするのか?許さん
朝比奈さんがビクッと体を震わせた

「は、はいっ?」

「つまらない任務だったけど、あんたと戦えてよかったよ」

「ふぇっ?」

「まさか7億年前に連れていかれるとは思わなかった」

「あっ、あっ、あれはその涼宮さんの・・・」

「途中で時間の流れについていけなくなった。気絶するとは時間移動員失格だな
 おかげさまですごいものを見せてもらった
 さすがは歴史にその名を残している人物だけの事はある
 これは禁則だけどな」

「えっ?えっ?」

「あんたに出会えてよかったよ、朝比奈みくるさん
 今度会う時は・・・その・・・禁則だ」

133 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/12(土) 08:39:55.46 ID:v1hulqyE0

「へ?」

「ありがとう、大先輩」

藤原は意味不明な禁則事項を連発しながら朝比奈さんと握手を交わし
佐々木に軽く頭を下げ、俺たちを一瞥してその場から消えた

「何なのよあいつはいったい」

「わわわわたし・・・・・・」

どうやら藤原ってのは朝比奈さんよりもまだ未来の人間なのか
しかしちょっと聞こえたけど
朝比奈さんが歴史に名前を残すとか

「じゃあ、あとで必ず連絡を下さい
 何時になっても待ってますから」

古泉はそう言って残りの全員をまとめ、マンションを出ていった
俺は別に帰れとも言われなかったのでそのまま残っていたが
誰もいなくなるとハルヒが口を開いた

「さあキョン、もう一度行くわよ!有希を助けに」

へっ
そう言うと思ってたよ団長さま
どこまででもついていってやるぜハルヒ
地獄の底まででもな

その9に続く

134 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/12(土) 08:44:39.21 ID:v1hulqyE0

その9

俺とハルヒは手をつないで、再び長門の部屋の額の前に立った

「行くわよキョン」

ああもちろんだとも

呼吸を合わせ、まさに飛び込もうとする寸前に

「・・・・・・行かなくていい」

背後から小さな声がかかった

「有希!」

長門!帰って来れたのか?

「帰ってきた」

長門は布団をすっぽり首までかぶっていた
黒い瞳は大きく見開かれたままだ

「有希!よかった!帰ってきてくれて」

「帰って来ると約束した」

長門・・・
無事だったか
周防はどうなったんだ?

135 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/12(土) 08:47:19.96 ID:v1hulqyE0

「・・・・・・周防九曜は消滅した。暴走を止めることはできなかった」

あの新入生は?

「まだあそこにいる。でもまたこの世界に来たいと言っていた」

「本当に?有希?」

「そう。そのオーパーツを取り戻しに来る」

「これ?」

「そう。それは彼女にとってとても大事なもの」

「ふうん・・・・・・」

なあ長門

「何?」

ちょっと布団めくってもいいか?

「ちょっとキョン!こんな時に何エロ目線になってんのよっ!」

違うぞハルヒ
ちょっと心配だったから
長門が傷ついてるんじゃないかと思ってな

「・・・・・・見ない方がいい」

136 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/12(土) 08:50:25.43 ID:v1hulqyE0

ん?
どうしてだ長門?

「通常の神経構造を持っている人間にはこの状態はかなりショックを受けるはず
 だから見ない方がいい」

「有希!あなた怪我したの?どうなの?」

「肉体の損傷はすぐに再生できる。でも少し時間がかかる」

「有希・・・・・・」

ハルヒは構わずに布団をめくり上げようとする
俺は・・・すまん長門・・・
ちょっと耐えられそうになくて、思わず目を背けてしまう

「万が一にもこれを映像化しようなどという野望があるならここは自粛すべき」

長門は内側から布団を押さえ、ハルヒに抵抗していた

「医療技術者でもこの状態は正視に耐えないレベル・・・見ないで」

「有希、本当に大丈夫なの?」

「大丈夫」

おいハルヒ
長門が嫌がってるんだ、もうやめておけ

「分かったわよ・・・」

137 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/12(土) 08:55:28.26 ID:v1hulqyE0

「頼みがある」

「何?有希」

「・・・・・・もう帰ってほしい」

「ん?」

「・・・・・・肉体の回復がうまく進行しない。エラーが発生している」

何か問題があるのか長門?

「情報処理にエラーが頻発している・・・・・・原因は・・・・・・禁則」

長門?

それまでまっすぐ上を見つめたままの長門が首だけを横に曲げた
その寸前に、大粒の涙が頬を流れ落ちるのが見えた

「・・・・・・お願い・・・・・・帰って・・・」

長門・・・・・・
ごめんな
お前の気持ちに・・・・・・俺は応えてやれなかった
それが・・・お前の禁則なのか?

俺の目の奥が、なぜかじんわりと熱くなってきた
長門の禁則の理由が何となく理解できる
すまん長門

138 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/12(土) 09:00:08.03 ID:v1hulqyE0

それでもまだ長門の布団を引っぺがそうとしているハルヒを引きずるようにして、俺は長門の寝室を出た

「有希!来週には絶対学校に来るのよ!」

「・・・・・・それは約束できる」

「じゃあね!絶対よ!」

長門

「・・・・・・・」

また部室でな

「・・・・・・・ありがとう」

俺とハルヒは長門の部屋を後にし、黙ったままでエレベーターに乗った
マンションの玄関を出ると、そこには佐々木が待っていた

「ごめんなさいね涼宮さん
 いろいろ迷惑かけて」

「もういいってば」

「長門さんは帰ってきたの?」

「今帰って来たわよ」

「周防さんは?」

139 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/12(土) 09:03:33.96 ID:v1hulqyE0

「・・・・・・戻らなかった」

「ふうん、やっぱりか。結局私は仲間を守れなかった
 あなたはちゃんと全員を無事に連れて帰ってきたのにね
 やっぱり私はリーダー失格か」

「そんな事ないわよ、どうしようもない事もあるし」

ああそうだよ佐々木
周防は暴走していた
ああするしか方法はなかったみたいだからな
あの長門がそう言ってたんだから

「だけどキョン、僕がもっとうまくやれば、その暴走を食い止められたかもしれない」

それは結果論だろ
周防は帰って来れなかったけど、後は全員無事だったんだから
もうそれでいいんじゃないか?
あの新入生もまた帰って来るよ
オーパーツを受け取るためにな

「そうか・・・・・・君がそう言ってくれるのなら・・・納得するよ
 ねえ涼宮さん?」

「ん?」

「周防さんはいなくなっちゃったし、藤原さんは元の世界に戻った
 だけど私と橘さんはまだこの街にいるわ
 もしかしたら、また私たちが出会う事もあるかもしれないんだけど
 その時は・・・・・・」

140 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/12(土) 09:06:33.06 ID:v1hulqyE0

「その時は?」

「友達として会ってくれるかな?」

ハルヒはまだ怒りを含んだ目で佐々木を見ていたが
しばらくしてその目が柔らかく光った

「もっちろんよっ!
 一緒に冒険した仲間なんだから!
 これからもまた、不思議探しの旅に出るのよ!」

おいハルヒ
これだけものすごい体験をしておいてまだ足りないのかよ
それに北口周辺なんかに不思議が落ちてるはずないって
これだけやってもまだ学習してくれないのかお前という女は

「当たり前じゃないのバカキョン
 これからは不思議を発見するだけじゃなくて作りだすのよ
 誰かが言ってたでしょう!
 『待ってるだけでは冒険は訪れてくれない』ってね!」

ほう
その誰かってのはもしかしたら
頭に黄色いリボン巻いて
仲間を危険にさらすのが得意な北高の女子の事じゃないでしょうね?

「それは今までの話よ!これからはね、あたしがあんたたちを守ってあげるんだから!」

やれやれ
このバカの脳下垂体を解剖して、一度長門に学術調査でもしてもらいたいもんだ

141 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/12(土) 09:09:28.56 ID:v1hulqyE0

「佐々木さん!あんたたちもこれからは準団員として認定してあげるから
 たまには不思議探索に加わる許可を与えるわ」

「本当に?ありがとう」

「その時は新人として十分にこき使ってあげるから
 覚悟しときなさいねっ!」

「はい!団長!」

何だこの2人はいったい
完全に意気投合してるじゃないか
史上最悪の神様のツートップだ
1958年ワールドカップのブラジル代表チームでも勝ち目はないだろう

ハルヒと佐々木はしばらく盛り上がっていたが

「じゃあ帰るね涼宮さん」

「うん、またね」

「じゃあねキョン、涼宮さんをお願い」

これ以上何をお願いするんだよお前は?もう勘弁してくれ

マンションの前で佐々木と別れ、俺はハルヒと手をつないだ
7階の窓から誰かが見下ろしている気配も感じたのだが、残念ながら俺にはどうする事もできない
銀河系中の長門マニアに殺意を持たれてしまったのか
それとも喜んでもらえたのか
やれやれだよ全く

142 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/12(土) 09:12:38.39 ID:v1hulqyE0

さすがのハルヒもめまぐるしい出来事に疲れを見せていたが、俺にはもう1つだけやる事があった
通りがかったタクシーを呼び止め、鶴屋さんの家に向かった
車の中で初めて知ったのだが、もう夜の11時を回っていた

ハルヒがうとうとしかけた頃、タクシーは鶴屋邸の前に止まった
俺は代金を払ってハルヒを車から降ろし、悪代官の象徴のような玄関に立った
チャイムを鳴らしてしばらく待つと、着物姿の鶴屋さんが出てくれた

「やっほーハルにゃんにキョンくん、ずいぶん遅かったにょろね」

はい、遅くなってしまいました。これ何とか見つけましたのでお返しします
俺はハルヒが握っていたオーパーツを鶴屋さんに返した

「ほーっ、探してくれたんだーありがとうねキョンくんっ!」

いえあの、探してたって言うか偶然見つかったって言うか

「まあいいさっ!無事に見つかったんだし、これで一件落着だねっ」

あの鶴屋さん

「なんだい?」

このオーパーツですが、その・・・本当の持ち主が見つかったって言うか
どう説明すりゃいいんだろ
鶴屋さんの理解力に賭けるしかないか

「いいさっ、こんなのうっとこに置いといても何の意味もないしね
 ちゃんと使い道の分かってる人が使ってくれた方がいいからさっ
 でもこのまま預かっててもいいのかな?」

143 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/12(土) 09:15:23.37 ID:v1hulqyE0

はいもちろんです
そのうち本当の持ち主が取りに来ると思いますから

「委細承知っ!さっ早く上がりなよ!」

いやもう遅いですから、ハルヒも眠そうだし

「おんやーハルにゃん?何だか世界を救ってきたみたいな顔してるねー
 いい顔だよっ!キョンくんも」

「え?あ、ああ・・・そうね」

「いいから気にせず泊まっていきなよ!部屋も布団もあるし」

本当にいいんですか?

「もっちろんだよっ、ただし部屋は別々なのさ!まだ高校生だからねっ!」

俺も疲れ果てて朦朧としていたので、考える暇もなく鶴屋さんに部屋に案内された

「キョンくんはこっちでハルにゃんはその隣、すぐに布団敷くから
 それからお風呂は男女別で後で夜食持ってくるからねっ
 でもその前にちゃんと家に電話しなさいっ
 あたしは自分の部屋にいるからさ、何かあったら内線の2番に電話するがいいにょろ」

部屋に通された俺はとりあえず家に電話をかけた
突然の俺の外泊に母は怒り狂い、妹は電話の向こうで誰と一緒なのかと必死で叫んでいる
俺は正直に鶴屋邸に泊まる事を申告した
すると突然母の態度が変わり、丁寧な口調に変わった
ちゃんと敬語で話しなさいとか鶴屋さんに迷惑かけないようにとか

144 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/12(土) 09:18:22.18 ID:v1hulqyE0

やはり鶴屋さん、さすがと言うか何と言うのか
いったいどれほどの悪事を働けばこんな名士になれるのか

電話を切ってから風呂に入り、戻るともう布団が敷かれていた
ボロ雑巾のようにぐったりと眠りこもうとすると、部屋の襖が開いた

「ちょっとキョン、こっちに夜食が届いてるわよ」

ハルヒの部屋に呼ばれて入り、おにぎりと漬物の軽食をいただいた
風呂上がりのハルヒは鶴屋家の浴衣に着替えており
ほんのりピンクに上気したほっぺたが以外とかわいい

2人とも疲れきっているのでほとんど会話もなく、食い終わった俺はおやすみを言って立ち上がった

するといきなり浴衣の帯を引っ張られた
ハルヒの馬鹿力に引き倒され、俺は布団に崩れ落ちた
何するんだよハルヒ

「・・・・・・」

布団の上に転がされた俺をハルヒの目がじっと見下ろしている
それは、俺が初めて見る優しい目だった

「キョン」

ハルヒ・・・・・・

「・・・・・・しょに・・・て」

はい?

145 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/12(土) 09:21:08.08 ID:v1hulqyE0

「いっしょに・・・て」

はぁ?

「もう!バカキョン!」

ハルヒは俺の頭に腕を巻きつけ、ヘッドロックで締め上げてくる
これだけ疲れてるのにまだ暴れたいのかこのアホゥは
素早くハルヒを振りほどいて抜け出す
身構えているとハルヒがまた優しい目に変わった
小さい頃の母を思い出すような優しい目を俺は見つめ
ハルヒが言いたい事をすぐに理解した

ハルヒ・・・

「キョン・・・」

結局用意された俺の布団は使われずしまいだった
翌朝になって飛び込んできた鶴屋さんはすぐに状況を察知して

「うんうん・・・・それでいい、それでいいのさ。世界平和が一番だよっ」

と悟りを開いた僧侶のようにありもしない顎鬚をなで
ニコニコしながら朝食を用意してくれた
白いご飯に豆腐の味噌汁、アジの干物にだし巻き、海苔と梅干という
素晴らしきかな和風の朝食を平らげた俺とハルヒは、鶴屋家差し回しの車でそれぞれの自宅に送ってもらった
ハルヒは朝からほとんど口を利かかなった

146 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/12(土) 09:25:04.95 ID:v1hulqyE0

ありがたい事に昨日は金曜日、つまり今日と明日は休みだ
俺はこの2日間は全力で眠ることにした
さっそくのように妹が昨夜の俺の行動について詳細な報告を求めてくるが
悪いが妹よ、お前が大人になるまでは倫理上話す事はできない
すでに妹と変わらないぐらいに大きく成長したシャミセンを抱かせ、俺は部屋のドアを閉めた
階下では母親が大騒ぎしながら鶴屋家に出すお礼状の書体について頭を悩ませている

まだ朝の時間帯だし、体は疲れているのに眠気は訪れない
俺は昨日の事をぼんやりと考えていた
あの誘拐未遂事件から始まって、空から降ってきたハルヒを助け
あの異世界で古泉と朝比奈さんのすさまじい戦いをこの目で見た
復活した長門の超高速攻撃を目の当たりにし、最後に長門の涙も見た

そして鶴屋家でのハルヒとの一夜
目を閉じたハルヒの美しい顔
無防備な姿で俺の全てを受け入れてくれたハルヒ
俺の背中にしがみついて爪を立てたハルヒ

くそっ
なぜここで長門の涙が浮かんでくるんだ
あの時長門は二度、涙を見せた
初めはハルヒに頬を叩かれた時
そして二度目は長門の部屋でだ

長門・・・・・・お前の涙は
この俺に向けたものなのか?
肉体再生にエラーが頻発すると言ったのは、俺がハルヒとこうなってしまったからなのか?

だとすると長門・・・もしかしたらお前はやっぱり
俺の事を?

147 名前: ◆iPZ3/IklKM [sage] 投稿日:2009/09/12(土) 09:37:24.66 ID:v1hulqyE0

・・・・・・・・・・・・

「キョンくーん!ごはんだよー!ごっはん!ごっはん!」

うるさい妹に飛び乗られて目が覚めた
まさしく世界で一番悪い目覚めだ
もし長門ならどんな起こし方をしてくれるだろうか
ハルヒだったら・・・・・・いややめておこう

結局土日をずっと眠ったままで過ごした
飯を食う時とトイレ以外、俺はほとんど布団を離れなかった
そして日曜の深夜になり、突然携帯が鳴りだした

「やあどうも古泉です
 ちょっと今から出られませんか?」


その10には続きません
今回はここまでにします
数あるハルヒSSを読みましたが、キョンと長門のハッピーエンドが多く
もちろんかくいう私も長門の旦那の1人でもありますが
やはり長門は脇役でひっそりとキョンを見つめる方が絵になると思います
ならば思い切って自分で書いてみようと思ったのですが
やはり難しいものですね
以降は古泉くんとの回想シーンとエンディングです
長門の本音がチラリと見えたりもします
もしかしたらどこかにまとめるかもしれませんので
見つけられましたらぜひ読んでいただきたいです
最後までありがとうございました



ツイート

メニュー
トップ 作品一覧 作者一覧 掲示板 検索 リンク SS:つかさが巨乳になってこなたが…