朝倉「ね、私なんかどうかな?」


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1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/20(木) 06:47:08.12 ID:KDdecNzK0

高校生活一年目。
この時期にどう頑張るかで、三年間の運命が決まってしまうようなものだ。
お馴染みである自己紹介の時に、奇人変人っぷりを披露した涼宮ハルヒ。
黙っていれば美少女であるアイツに、多少なりとお近づきになろうとした俺。

何がどうズレ込んでしまったのかは知らんが、ともかく俺の安易な行動によって周囲を巻き込んでしまっているのは確かなようだ。
そして、わざわざ面倒事に巻き込まれたがる珍しい人間もいた。
朝倉涼子。
まぁこいつの場合は少々事情アリだったんだが。

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/08/20(木) 06:48:44.01 ID:KDdecNzK0

「私も、涼宮さんとどうやって喋ってたのか気になるなぁ…」
「分からん」
「そうなんだ……残念ね」

そう言われても分からんものは分からん。
委員長気質を持つのは大変良い事ではあるが、ハルヒでは相手が悪いだろうな。

「実はね、私涼宮さんと仲良くなりたいの。
 だからキョン君にちょっと協力してもらいたいなって」
「確かに一番まともな会話をしているのは俺だろうからな。
 協力はする」
「ホント?ありがとうキョン君」

微笑みを向けてくれた。
ハルヒから拝むことは一生不可能な表情だ。

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/20(木) 06:50:40.12 ID:KDdecNzK0

「それじゃ」

女子の輪へ戻る朝倉。
一斉にこちらに向けられていた群れの視線が輪の中心に収まり、元の喧騒へと戻る。
やれやれ、姦しい。

「けっ、羨ましい口実が出来たな」
「おめでとうキョン。頑張って」

何をだ。

「北高の全男子を敵に回したも同然だ」
「悪いがそんなつもりは一切ない」
「その役を俺に譲って欲しいね」

俺はとりあえずあの美少女の願いを叶えてやりたかっただけだ。
厄介事は真っ平御免だが。

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/20(木) 06:52:47.93 ID:KDdecNzK0

翌日。
相変わらず頬杖を突いて窓の外を見ているハルヒと、懸命に話しかけている朝倉が居た。
約束もしたことだし、少し助け舟を出してみようか。

「よう」
「あ、キョン君、おはよう」
「何の話をしていたんだ?」
「涼宮さん、お弁当をいつも自分で作っててね、すごく上手なの。
 私一人暮らしだし、料理を教えてもらえたらな……って思ってるんだけど」

ハルヒの仏頂面を見る限り、あまり会話は弾んでいないらしい。
まぁ分かりきっていることなんだが。

「だったら今日は三人で食べるか?
 俺もハルヒの弁当に興味が湧いた」
「私はいいけど……えっと、涼宮さん……?」
「勝手にすれば」

ちょっとぐらい、まともな応対をしてやれよ。

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/20(木) 06:54:55.36 ID:KDdecNzK0

実を言うと、俺も少々浮かれ気味だった。
生まれて此の方女っ気のある生活はしたことがないんでな。
それがなんと、完璧の権化であるクラス委員長と、黙っていれば美少女高校生。
そんな二人と机を囲んで食事が出来ると来たもんだ。
喜ばない訳が無い。

「じゃあキョン、ご飯にしようか」
「悪い、俺はちょっと約束がある」
「誰と?」

「朝倉とだ」
「ごめんね、谷口君、国木田君。
 今日はちょっとキョン君と涼宮さんと食べるから……」
「あが……お前……」

ちょっと誇らしい気分になる。
谷口より優位に立てるこの小さな快感。

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/20(木) 06:57:26.35 ID:KDdecNzK0

「何だよよりによってアイツばっかりどうなってんだこの世は」

「俺も良いか?」と入ってこようとしないのは如何な物か。
そんなんじゃ、この高校生活に華は咲かないぜ。


「まさか本当に来るなんてね」
「そう言うな。クラスメイトと親睦を深めるのは、決して悪い事じゃないさ」
「……ふん」
「よろしくね、涼宮さん」

パンドラの箱かと思われたハルヒの弁当箱も、蓋を開ければ見事なものだった。
食材のバランスは取れているし、見た目も完璧だ。
確かにこれは理想の弁当だな。
お袋には悪いが、俺の目の前の弁当は地味に見えてくる。

「ね、すごいでしょキョン君」
「あぁ、本当に何でも出来るんだな」
「……」

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/20(木) 07:00:07.66 ID:KDdecNzK0

「朝倉のはどうなんだ?」
「ちょっと……恥ずかしいな……」

そう言ってみせてくれた物は、ハルヒと比べても遜色のない出来だ。
おそらく『料理を教えて欲しい』というのはハルヒと話す口実なんだろう。

「どうかな、涼宮さん……?」
「……色。緑が足りないわ。野菜少ないわよ。
 女の子のお弁当にしては、随分重たそうよね。」

言いたい放題だなおい。
しかし朝倉は……

「そっかぁ、次は意識してみる。ありがとう涼宮さん!」
「……アンタ喜び過ぎよ」

大丈夫みたいだな。

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/20(木) 07:02:29.35 ID:KDdecNzK0

「それじゃ結局全部の部活に仮入部しちゃったんだ?」
「どこも面白くなかったけどね」
「もう、また面白いかどうかで判断しちゃって……」

この様子じゃ、二人は何の問題も無さそうだな。
ハルヒの表情は「つまらない」要素が含有率90%を占めているものの、若干ではあるが会話が成立しつつある。

「といってもね……無かったら仕方無いかぁ……
 部活動をどうするかは本人の自由だもんね」
「ホントつまんないわ」
「まぁそんなものだろう」

それからハルヒは結局、何かを思案するように黙り込んでしまった。
しかし小さな、それでいて確実な一歩を踏み出せた俺達だった。

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/20(木) 07:04:43.21 ID:KDdecNzK0

さっきの昼食で、涼宮さんとお話が出来た。
これからも毎日一緒に食べよう。
そうすれば涼宮さんともっと分かり合える。

午後の授業。
教室に鈍い、椅子や机が動く音が響いた。

「何しやがる!」

あれ、キョン君?

「気がついた!クラブが無いんだったら自分で作ればいいのよ!」

すごい。
涼宮さんのあんなに活き活きとした顔は初めて見た。
でも、今は授業中なんだけど……

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/20(木) 07:07:10.15 ID:KDdecNzK0

二人共どうしたのかな……?
先ほどの騒ぎから、しきりに後頭部を擦るキョン君の元へ行く。

「ちょっと来なさい!朝倉アンタもよ!」
「え、ちょっと、涼宮さん!?」

キョン君と共に腕を引っ掴まれ、涼宮さんに引き摺られていく。

「悪いな朝倉。厄介事に巻き込まれそうだ」
「いいわよ。退屈は、しなさそうだしね」

内心、涼宮ハルヒの行動に興味が湧いていた。
一体何をしてくれるんだろう。

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/20(木) 07:09:30.18 ID:KDdecNzK0

「協力しなさい」
「何をだ」
「クラブ作りよ!」

アホかコイツは。
人に対するお願いが全くなっちゃいない。

「具体的には何をすれば良いの?」

おい朝倉。いきなり協力態勢じゃないか。

「私は部室と部員を探すから。
 アンタ達は部発足の為の手続きをよろしく!」
「それ確か生徒手帳に書いてあったわ……あ、あった。
 ――これなら何とかなりそうね」
「さすが、話が分かってるじゃない!
 じゃあ今日の放課後までによろしく!」


俺達を置き去りにし、ハルヒは教室まで駆けていった。

「……いいのか朝倉?」
「とっても楽しそう。
 こういうのは楽しまなきゃ損じゃない?
 涼宮さんに付き合うと、面白いことばかり起きそうだし」

やれやれ、お人よしなこった。

教室に入った途端、女子は朝倉の元へ、男子は俺の元へ一斉に集まった。
どれだけ好奇心で一杯なんだお前らは。鬱陶しい。

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/20(木) 07:11:43.52 ID:KDdecNzK0

放課後。終業のチャイムと同時に、ハルヒは俺の首根っこを引っ掴んで教室を飛び出す。

「涼宮さん、今日はどうするの?」
「部室を見つけたわ!」

朝倉はハルヒに掴まれずに、その隣をキープしている。

「朝倉、アンタ分かってるじゃない!それでこそよ!」

旧校舎。文芸部とプレートが貼り付けられている部屋へと辿り着いた。

「どこがだ。現在使用中じゃないか」
「だから貰うのよ。
 さぁ、ここが私達の新たな活動の場よ!」

どばん、と荒々しく扉を開ける。
頼むから落ち着きを持ってくれ。見た感じ、旧校舎の建物は新しくない。当然だ。『旧』校舎なんだからな。
その開閉で壊れたら、それに目の前に人が居たりしたら、どうするつもりだ。

「この文芸部は消滅寸前。そこを私達が吸収するのよ。
 あの子は文芸部員の一年生なんだけど、この部屋は貸してくれるみたい」
「えーっと……本当か?」

その小柄な少女は無駄が一切無い動作でこちらを見据え、消え入りそうな音量で声を発した。

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/20(木) 07:13:58.31 ID:KDdecNzK0

「長門有希」
「長門さんとやら、良いのか?
 こいつは滅茶苦茶し放題やるだろうし、迷惑も掛かるぞ」
「別にいい」
「アンタ何失礼なことばっかり言ってんのよ。
 これで証明されたでしょ?というわけで早速明日から活動スタートよ!」
「それはいいんだけど……まだ生徒会への提出書類が完成していないわ」
「そんなものは後でよし!
 とりあえず今日はこの辺で終わりにしておくわ!
 部員はまだ足りないから集めるとして……明日からも来ないと死刑よ!それじゃあ!」

何だ、長門さんとやらももう頭数に入れているのか。


「まさに嵐ね、涼宮さん」
「全くだ」
「長門さん、明日からよろしくね?」
「……」
「面倒事に巻き込んですまないな」
「いい」
「じゃ、帰ろっか。キョン君」

波乱ありまくりの一日は無事終わり、朝倉と共に帰路につく。
これは、相当にラッキーじゃないか?
朝倉のような美少女と帰れるんだぜ?
谷口辺りが知ったら発狂しそうじゃないか。

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/20(木) 07:16:15.91 ID:KDdecNzK0

「ふふっ、今日は何だか疲れちゃったね」
「全くだ。朝倉も、随分とタフなんだな」
「涼宮さんと居ると本当に退屈しないんだもん。
 振り回されて疲れても、その分充実した時間だったわ」

朝倉涼子という人物は、完璧なガチガチ真面目人間……というわけではないらしい。
こうして見ると、立派にはしゃいでるじゃないか。

「キョン君」
「何だ?」
「一番のキッカケはキョン君ね。ありがとう」
「感謝されるような事は一切していない。
 惨事に巻き込まれたようなものじゃないか?」
「素直じゃないな。キョン君だって、これからが楽しみなんでしょう?」

バレたか。
……確かにハルヒの行動に興味が無いわけではないな。

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/20(木) 07:18:49.88 ID:KDdecNzK0

「それに、長門さん、だった?
 あの人とも仲良く出来たら良いね?」
「なかなか難しそうな子だけどな」
「そうね。でもきっと大丈夫よ。
 明日からの部活、楽しみにしてるわ。ばいばいキョン君!」

それじゃ、と夕日に映える極上の笑顔を見せてくれた朝倉と別れる。
明日から部活というものに参加しなくてはならないらしい。

しかし全く悪い気はしなかった。
ハルヒ、朝倉、長門。そしてまだ見ぬ誰か。
少なくとも、無気力な生活とはお別れすることになるな。

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/20(木) 07:20:52.36 ID:KDdecNzK0

翌日。
教室の自分の席に座り、本日の学業の準備をしていると、ふらふらとゾンビのような足取りで谷口がやってきた。

「キョンお前なぁ……
 昨日朝倉と一緒に帰ったとはどういうことだよ!?
 目撃証言が出るわ出るわ!」
「どうも何もな」
「同じ部活に入ることにしたし、一緒に帰ろうって事になったの」

朝倉もいつの間にか会話に参加している。

「俺と朝倉はこれっぽっちもそんな関係になってない。
 朝倉に失礼だぞ」
「……それだけはっきり言われると……」
「朝倉?」
「え、あ、うん、そうね!」
「もう俺はどうでも良くなってきた……じゃあなキョン。
 刺されないようにしろよ」

縁起でも無いことを言うな。

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/20(木) 07:23:09.07 ID:KDdecNzK0

昼食。

「涼宮さん、はい、どうかな?」

弁当審査。

「うん、良いんじゃない?
 私は野菜類多めの方が彩りが良いように感じるから」
「ありがとう」

覗かせてもらうと、確かに昨日よりさらに良く見える。
俺は昨日のものでも完璧だと思っていたんだけどな。

「美味そうじゃないか」
「その、キョン君、食べてみる?」
「お、どれでも良いのか?」
「うん。
 あ、えっと、じゃあね……」

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/20(木) 07:26:00.83 ID:KDdecNzK0

待て待て、自分で取る。
玉子焼きに箸を伸ばし、口へ。

「あ……」
「美味いな。
 ……もしかして食っちゃいけないヤツだったか?」
「う、ううん!そんなことないから!」

何を焦っているんだ?
さ、食べようぜ。
ハルヒはさっきから一言も喋らずに黙々と口に物を運んでいるぞ。

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/20(木) 07:28:13.88 ID:KDdecNzK0

「涼宮さん、部員の方はどうなの?」
「目はつけているわ。
 これ食べ終わったら勧誘に行ってくるわよ」

勧誘か。誘拐、あるいは恐喝の間違いじゃないだろうか?
朝倉は朝倉で頑張ってね、なんて応援している。

「手荒な真似はするなよ」
「安心しなさい。安全に、確実に確保してくるわ」

その言葉は全く信用できん。
ご馳走様!と弁当を片付け教室を出て行くハルヒだった。

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/20(木) 07:30:20.79 ID:KDdecNzK0


「ふぅ……」
「どうしたの?まだ昼休みでしょ?」
「あれがハルヒの本来の姿なんだな。
 まるで嵐だ」
「うん、すごく明るいわよね」

度が過ぎるけどな。
俺は最後のオカズを口の中に放り込んだ。

「ねぇキョン君。
 お弁当は母親に作ってもらってるの?」
「あぁ、俺は料理なんて出来ない」
「そうなんだ。ねぇ、私が作ってきても良い?」

……なんという嬉しい提案。

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/20(木) 07:34:37.00 ID:KDdecNzK0

しかしここでがっつくのはよくない。

「でも朝倉も大変だろ?」
「大丈夫!一人も二人も変わらないよ。
 よく言われてることなんだけど、本当なの」
「そうなのか……?」
「私は、作りたいって思ってるんだけど……あ、もちろん無理にとは言わないから」
「なら、頼んで良いか?
 朝倉の弁当が食べてみたい」
「本当?嬉しいな」

頬を赤らませて微笑む朝倉。
この反応……いや、まさかな……

あぁ谷口他男ども。
言いたい事は分かるから今この空間の邪魔だけはしてくれるなよ。

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/20(木) 07:37:40.62 ID:KDdecNzK0

「先に朝倉と部室に行っておいて」

そう言って教室を電撃のような勢いで飛び出すハルヒ。
これから首根っこ掴まれて引き摺られるであろう人物の無事を祈りつつ、朝倉と部室へ向かった。

「どんな人なのかな?」
「それが分かれば、先に注意して警戒を呼びかけることも可能だろうけどな」
「きっとまた、素敵な人を連れてきてくれるはずね」

「おっまたー!」

また扉を蹴り開けやがった。
そちらに目をやると、満面の笑みのハルヒと、やけに可憐な美少女がそこにいた。

47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/20(木) 07:40:06.22 ID:KDdecNzK0

「話はつけておいたわ!新しい部員の朝比奈みくるちゃんよ!」
「初めまして、朝比奈みくるです〜……」

か……可愛い。

「初めまして、朝倉涼子です。」ギュウッ
「よろしくお願いしま……って、いたたた……」
「……何やってるんだお前は。」
「ううん何でもないよ。はい次キョン君の番!」
「えっと、○○です。宜しくお願いしますね。朝比奈さん。」

初対面の女性にいきなり握手を求めるのは少々恥ずかしいものがあった。
朝比奈さんから差し出された右手を柔らかめに握る。
俺汗ばんでないだろうな?

「はい。宜しくお願いします。」

くぅ〜堪らん!

51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/20(木) 07:45:03.38 ID:KDdecNzK0

そして部室の奥へ。
長門だ。

「……こ……こんにちは……」
「……」
「えっと、朝比奈、みくるです……」
「長門有希」
「よろしくおねがいしますね……?」
「よろしく」

長門は苦手なのか?
確かに極端に発言数が少ないし、近寄り難い雰囲気があるが。

「さぁ、一通り挨拶が終わったとこで!部活の名前を発表します!」

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/20(木) 07:49:21.13 ID:KDdecNzK0

「SOS団……かぁ。さすが涼宮さん、良いセンスしてるね?」
「お前のセンスは相当ズレ込んでるんだな?」
「あ、失礼だなぁ。まさか、団で来るとは思わなかったから」
「……まぁな。」

帰路につく。朝倉と一緒だ。

「なぁ朝倉。本当にこのままで良いのか?」
「もちろん。涼宮さんに付いて行こうかな」
「そうかい」
「キョン君も一緒に来てくれる?」
「……ハルヒに逆らったら死刑なんだろ」
「キョン君はもうちょっと素直にならないとね」

俺の本音だよ。退屈しなさそうだからもう少し付き合ってやるだけだ。

58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/20(木) 07:54:42.61 ID:KDdecNzK0

「それじゃあね、キョン君」
「ああ」

朝倉と別れ、一人寂しく家へ向かう。
SOS団……か。
これからのことを思うと、自然と笑みがこぼれてくる。

「気をつけて」
「おわあっ!!!」

後ろにいつの間にか長門がいた。
びっくりさせるな。

「朝倉涼子とあまり仲良くしないで」
「えーと……何故だ?」
「忠告はした」

出現時同様、気配が薄いまま去っていった長門。
なんだ?朝倉に気をつけろ?
どういうこったよ。

118 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/20(木) 19:38:27.78 ID:KDdecNzK0

朝倉に気をつけろ……か。
あの無口少女と挨拶以外でまともに会話が出来たと思えばこれだ。

「はい、キョン君♪」

思わずくらくらしてしまいそうな笑顔を浮かべ、藍色に包まれたお弁当を渡す朝倉。
目の前の少女とは全く無縁のような話じゃないか。

「……どうしたの?」
「いや、朝倉の弁当が楽しみだったからな。つい感動しちまった」
「そ、そうなんだ。頑張って作ったから、喜んでもらえたら嬉しいな…///」
「……さっさと食べるわよ。アンタ達見ててイライラするんだけど」

123 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/20(木) 20:17:47.55 ID:KDdecNzK0

包みを開けると色取り取りの料理が並び、料理人の腕前が分かるようだ。

「見た目はどうかな?」
「ああ、まさにプロレベルと言って良いな」
「本当?ありがとう///」
「それに美味い。毎日食べたいぐらいだ」

本当に美味い。
この世の物とは思えないくらいの出来だ。
さらに味付けも完璧に俺好みである。

「……団員探してくるわ。キョン、アンタも来なさい」
「待て、食べたばかりにつれ回されるのは勘弁してくれ」
「良いからさっさと来なさい!」
「おい朝倉は!?」
「留守番!」
「キョン君、私は良いからいってらっしゃい。お弁当は片付けておくから」

125 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/20(木) 20:26:25.70 ID:KDdecNzK0

「なによ、デレデレしちゃって馬鹿じゃないの!?」
「作ってもらったんだぞ、感動して何が悪い」
「……分かったわよ!もうお昼は勝手にしてれば!?」

ハルヒに引き摺られつつ、各教室を見て回る。
すると、ハルヒがいきなりブレーキをかけたせいで前に吹っ飛ばされた。
ふざけるな。

「あれ……?」
「なんだよ?部員候補か?」
「あの男子……前は居なかったわね」
「転校生か?」
「らしいわね。決定よ」

おいおい、そんな安易に決めていいのか?

126 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/20(木) 20:34:19.30 ID:KDdecNzK0

「この時期に転校生なんておかしいと思わないのアンタ?」
「まぁ、確かに妙ではあるが……家の都合か何かじゃないのか?」
「そんな嘘っぱちは私には効かないわ」

向こうは嘘をつく気も、お前を陥れる気も無いだろう。

「あ、お帰りキョン君、涼宮さん」
「部員一人勧誘するわ。まだ欲しい?」
「涼宮さんが欲しい、って思うなら私は何人でも大丈夫」
「そう」
「もう休み時間が終わるから、私は席に戻るね」

二つの弁当箱を抱え、朝倉は戻っていった。

「……何であんなに、心が広いのかしら」
「単純に性格、ってことだろ」
「……ふん」

135 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/20(木) 22:09:06.32 ID:KDdecNzK0

放課後。
ハルヒが言うに、いよいよ本格始動らしいが……

「何するんだろうね?」
「キョン君知ってたんじゃないの……?」
「俺は知らないさ。ハルヒの考えてることなんて分からん」
「ふふっ、私も予想出来ないなぁ」

言う間に部室に到着。

「失礼します」
「あ、こんにちはキョン君、朝倉さん」

特に期待はしないが聞いてみる。

「朝比奈さんは、今日何をするか聞いていますか?」
「えっと、何も分からないです。それに、この団が何をする団なのか分かりませんから……」

ごもっともです。

137 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/20(木) 22:16:07.06 ID:KDdecNzK0

「さぁ連れてきたわよ!」

ズガンとドアを蹴り開け、我等が部長……団なんだから団長か。とりあえずご登場だ。

「彼が我がSOS団の新メンバーとなる人物!自己紹介どうぞ!」

ずばばーん!と効果音を自身の口から発しながら一気に隣の男子生徒を仰ぐ。

「どうも、古泉一樹です」

爽やかな笑顔を振りまき、綺麗な御辞儀を一つ。
なかなかの好青年が現れた。

「さぁ、皆も自己紹介なさい!」
「初めまして、朝倉涼子です」
「長門有希」
「あ、朝比奈みくるっていいます」
「俺は「コイツはキョンでいいわ」

……お前なぁ。

138 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/20(木) 22:21:17.01 ID:KDdecNzK0

「……まぁ宜しくな、古泉」
「はい。こちらこそ、何卒よろしくお願いします」

朝比奈さんの時と違い、緊張は無い。
自然な動きで差し出した手をにこやかに握り返してくれた。

「さて、顔合わせも済んだ所で活動開始、と言いたい所なんだけど、今日私用事があるのよね」
「なんだ、今日はもう終わりか?」
「ええ、じゃあ解散!」
「ちょっと待てハルヒ!せめて今度からの活動内容を言っていけ!」
「……ああ言ってなかったわね」

139 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/20(木) 22:25:50.11 ID:KDdecNzK0

「宇宙人、未来人、超能力者……ですか。さすが涼宮さんですね」

何がどうさすがだよ。
一人でうんうん頷く古泉だった。

とりあえず活動は無しのようで、帰路についている。
そして何故俺がコイツと一緒にいるかというと、

「さて、本題に移りましょうか。大事なお話なのでよく聞いてください」

どうやら話があるようだったんでな。俺のことは既に知っていたようだ。
それまでのスマイルを剥がした古泉は、俺の方をじっと見据え、言った。

「朝倉涼子さんについてです。彼女と必要以上に仲良くするのは控えて頂きたいのです」

……なんだ?お前もか?

144 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/20(木) 22:47:16.72 ID:KDdecNzK0

「お前も……とは?」
「長門も同じようなことを言っていたな」
「そうですか……おそらく僕と長門さんの目的は別にあるでしょうが……」
「それだ、目的を話せ。何故俺が朝倉と居たら良くないんだ?」

いきなりそんなことを言われても返答に困る。
朝倉がどう思ってるかは分からないが……
俺にとって朝倉は大切な友人だ。
そう簡単に縁が切れる訳が無い。

「ただ、言ってあなたが納得するかどうか……」
「納得出来ないからな。せめて言うだけでもしてくれ」
「……分かりました」

146 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/20(木) 22:52:48.59 ID:KDdecNzK0

「確か、教室ではいつも涼宮さんと朝倉さんと、三人で居ますよね?」
「ああ」
「あなたと朝倉さんの仲が良いと、涼宮さんが疎外感に悩まされることになります」

つまり簡単に言えばハルヒにもっと優しくしてやれと?

「まぁ、非常に分かり易くするなら。どうでしょう?」
「アイツが悩むだって?何を言ってる。とてもそうは見えないぜ」
「女性の繊細さ、もう少し理解していただけると助かります」
「…ああ、分かったよ」
「詳しいご説明が出来ず、申し訳ありません」

表情を沈ませ、頭を下げる古泉。
何故かは分からないが……コイツとハルヒは何かあったのだろうか?

147 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/20(木) 23:01:41.80 ID:KDdecNzK0

「僕からの話は以上です。余計な手間を取らせてしまい、申し訳ありませんでした」
「気にするなよ」

ハルヒの身を案じているのだろう。
悪い印象を持つことなんてないさ。

「次は私」
「な、長門!?」
「ええ。それでは僕はこれで」

またしてもいきなり背後に現れる長門。
心臓に悪い。

「来て」

148 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/20(木) 23:10:05.22 ID:KDdecNzK0

「どこ行くんだ?」
「私の家」
「何故だ」
「話がある。とても重要な話」
「長門の家じゃないと駄目なのか……?」
「そう」

「入って」
「……家族の人が居るだろ?」
「居ない」
「そうなのか…?」

しかし全く生活感の無い家だな……
そんな失礼なことを考えつつ、奥へ。
そこに意外な人物がいた。

「え、キョン君!?あれ、どうして!?///」

朝倉涼子だ。

187 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/21(金) 12:07:26.67 ID:CthUoFVY0

一体どうして朝倉が?
俺は説明を求めるべく、長門に視線をやった。すると。

「わたしが呼んだ」

……で、説明終了とのことらしい。
仕方がないので俺は朝倉へと訊ねる。情報交換による事実確認を行おうと考えたのだ。

「俺は学校帰りに古泉と会って、そのあと長門に連れてこられた。そっちはどうだ?」
「私は……帰宅途中に朝比奈さん、長門さんとお話して、そのときに長門さんからここに来るように言われてて……」

なるほど。
古泉のあとにひょっこりと長門が現れたってのは、直前まで長門が別所にいたためか。
いや待てよ。そうなると……

「朝倉はここまで一人で来たのか?
 地元とはいえ、口頭の説明でよく場所がわかったものだな。いくら目を引く高級マンションといえど迷いそうなもんだが」

俺が若干の違和感を述べると、朝倉はいたってシンプルな回答をよこした。
飾り気のない壁のほうを……正確に表現するならば壁の向こうのほうを指差し、

「だってここの隣、私の自宅だから。
 本当に驚いているのよ、まさか隣に長門さんが住んでいたなんてね。
 物音もぜんぜんしないし、生活臭や気配もないし、ずっと無人だと思っていたくらい」

言っている自分が一番驚いている、といわんばかりの表情。
同じ学校、同じ部活動、ではなく団活動に従事している人間が見知らぬ隣人同士だったとは、やれやれ奇遇なものだ。

191 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/21(金) 12:25:41.78 ID:CthUoFVY0

そして朝倉が続ける。

「ねえ長門さん、お話ってなんなの?
 私はてっきり隣人としてのお近づきパーティでもやるのかと思っていたんだけど」

どうしよう、これ余計だったかな。
と朝倉がテーブル上の鍋を指差した。

「なんだそりゃ?」
「おでん。鍋物って、こういう場合にはいいと思うじゃない?」
「ま、まあな」

おでんというチョイスはさておき、親睦を深めるさいには食事会というものが効果的ではありそうだ。
同じ釜の飯を云々とか、鍋がどうとかいう言葉もあるくらいなのだから。

「ところで長門、話ってのはなんなんだ?
 朝倉もここにいるってことは……先日のアレについてなのか?」

疑問をぶつけても微動だにしない、まるで人形のような人物。長門有希。
その唇が唐突に、そして俊敏に動きだしたのは、ゆうに数秒の沈黙が流れたあとのことだった。

193 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/21(金) 12:43:07.99 ID:CthUoFVY0

第一句はこうだった。

「涼宮ハルヒは、未知の可能性を秘めている」

その時点で、俺の思考は遥か彼方のアルプス山脈まで飛んでいった。
まるで修学旅行の観光地点からバスに乗り遅れ、なす術もなくそれを見送っている小学生のように、
俺は口をあんぐりと開けたまま長門の言葉に耳を傾けていた。
さながら、読経でも聴いている気分だったさ。
しかそれも時間の経過と共に翳りをみせ、やがては数分間にも及んだサイエンス・ファンタジー譚も幕を下ろした。
ちなみに最後の一言は以下の通りだ。

「対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース。それが、わたし」

はあ、そうですか。
俺にはそう答えるほかなかったね。
新手の新興宗教勧誘にしたって、もう少し現実味のある物言いをするはずである。
それがどうだ。
私は宇宙人です。涼宮ハルヒは進化の可能性です。

そんなの、理解もできなきゃ到底、納得もできない。
だよな、朝倉?

196 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/21(金) 13:12:34.82 ID:CthUoFVY0

「ということはつまり、長門さんは一般的概念上における宇宙人なの?」
「そう」
「なるほどなぁ……だから涼宮さんに……」

ちょっと待て。
そこの二人、どうして話が通じている?
俺には長門の言など、日本語にすら思えなかったというのに。

「そう難しいことでもないように思えるけど?
 確かにキョンくんが言うように納得はできないけれど、概念的な部分は掴めないこともないわ。
 でも、ひとつだけ重要な前提が抜けてはいるよね」

朝倉が形のいい唇に人差し指をあてる。

「やっぱり物質的な証拠って重要じゃないかしら。別に証明と言い換えてもいいけどね。
 だって、いくら話に筋が通っていたとしても、それが真実であるとは限らないんだし。
 逆説的に言うなら、よくできた嘘って可能性を捨てきれない以上、相手に信じろというのも無理な話よね?」

朝倉は表面上では好意的に接しつつも、つまるところ俺と同じで、長門宇宙人説を鵜呑みにはしていないようである。
というより、『よくできたフィクションね』という意味合いで理解と興味を示しているようだ。
おそらくは長門が文芸部員であったため、これもそれの活動の一環と判断して、この機に親睦を深めようとしているのだろう。
そういう機転は俺には利かないので、この場では大人しく口をつぐんでおく。
しかし……もしも俺一人でこういう話を聞かされた場合、『ねーよ』としか答えることができなかったのだろうな。
そういう意味合いでも朝倉がいてくれて本当に助けられた気がする。

198 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/21(金) 13:28:44.78 ID:CthUoFVY0

「さーて、そろそろ夕食にしない?
 腕によりをかけて作ってきたんだから。せっかくだしキョンくんも……ね、どう?」
「あ、ああ、それじゃあ頂こうかな。いいかな、長門?」
「いい」

珊々と笑顔を振りまく朝倉と、坦々と沈黙を振りまく長門。そして黙々と食器類を割り振る俺。
その若干の気まずさのなさ、朝倉が閉じられていた鍋蓋に手をあてた。
するとその顔色が残念によって塗られる。

「冷めちゃってる……温めなおさなきゃね」

と、立ち上がろうとした朝倉の手を長門が掴んで制止させた。
残像がみえそうなくらいに素早かったその動作についで、

「証拠」

短く呟き、再び鍋蓋を閉じ、その直後だった。
カセットテープを早送りしたかのように長門が何かを唱え……どうしたことだろうか。

「これでいい?」

長門が俺に視線を戻した時には、鍋からもうもうとした湯気があがっていた。
不審に感じた俺がすぐさま蓋をあけてみると。

「……沸騰してる」

妙だ。ありえない。これはマジックの一種なのだろうか、と朝倉に無言で訊ねてみる。
けれども朝倉は俺と対照的なほどに満面の笑みを浮かべて、「最近の宇宙人って便利なのね」と目を輝かせるばかり。
すまん、俺に少しでいいから思考時間をくれ。

202 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/21(金) 13:46:46.35 ID:CthUoFVY0

それからの長門は、口は開けど無言だった。
さっきので一日分の語りは使い果たした、もう仕事は終わりだ……といわんばかりに、
凄まじい橋捌きでおでんをみるみる口へと運んでいく。
うかうかしていると俺や朝倉のぶんは枯渇してしまいそうだ。

「どう、美味しい?」

朝倉が長門に微笑みかける。
長門は一瞬だけ手を止め、こくり、とだけ頷いた。

「キョンくんは?」
「うまい」

これにつけられる文句など、世界中を探してもみつからない。

「そう、よかった。これも涼宮さんのお陰なのかな」

その一言で鍋を観察してみると、確かに色とりどりな食材が並んでいる。
見ているだけで食欲を刺激される、見事な配色としかいいようがない。
そしてそれが……そう、昼時のあの一時と同じようなこの空気が、俺に平常心をもたらしたのだろう。
訊いておかなければならないであろうある質問に、俺は行き当たったのだ。

「長門。どうして俺に……いや、俺と朝倉に、お前の正体を明かしたんだ?」

先ほど長門が披露したインスタント・レンジな技がトリックかどうかの問題は留保しておくとして、
長門が本当に宇宙人であるとするなれば、それはそれで俺たちに明かす必要性が見当たらない。
どう考えても一般人である俺に伝えておくメリットがないし、そればかりかデメリットしかないように思える。
何がデメリットかと問われれば回答に窮してしまうが、こういうのは黙秘しておくのがセオリーなはずだ。
だって、俺がハルヒのやつにお前の正体をバラす危険性があるだろう?

206 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/21(金) 14:30:27.26 ID:CthUoFVY0

「問題ない。もしあなたが……涼宮ハルヒにこの……事実を伝えたところで、涼宮……ハルヒはそれを信じない」

箸を置け。

「あなたは――」

僅かに間をあけた長門が俺、朝倉の順番で視線を滑らせ、

「知っておかなければならない。あなたは現時点においての不確定要素。イレギュラー因子。
 ならびに、必要不可欠な条件。あなたは不可測ながらも重要である、鍵のようなもの。
 我々ヒューマノイド・インターフェースのなかにも派閥という概念は存在している。
 一部には過激な発言や危険な行動を取るものや、独断による意思決定を行うもの、
 さらには破滅的な思念を有しているものさえいる。だからこそ」

長門が箸を置き、

「危機が迫るとしたらまずあなた」

それは深々とした言葉だった。
現実味のない、けれど予言にも似て、運命とやらを想起させられるような宣告。不可思議な圧力。
思い出したように、それでいて間が抜けたように、鍋がカラリと鳴った。長門一人でほとんどを持っていったのだ。
つまり粛々とした食事会も、それをもって閉会となった。
それが無くなってしまえば、俺がここにいる理由も特には失くなってしまうからだ。
俺は二人と適当な別れの挨拶を交わし、その場をたった。
あとには、尾を引くような漠然とした不安だけが残った。

しかしだな……やれやれ、長門さんとやらは宇宙人で、俺には危険が迫る可能性があるとはね。
まいったまいった、こりゃまいった。俺が亡くなってしまわなければいいんだが。
だが、その時は誰かが代わりに参ってくれるのかね。俺の仏前で。
いや、笑えないな、これ。

235 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/21(金) 19:57:45.11 ID:CthUoFVY0

そして翌日。
前日の眠りが浅かったせいか、俺は早めの登校を果たしていた。
まだ教室内の人はまばらであり、不真面目なクラスメイトや、
渦中の人といえる涼宮ハルヒも姿をみせてはいない。
そんななかで俺に声を掛けてくる人物がいるとすれば、それが誰なのかは言うまでもないだろう。

「おはよう。今日は早いのね」
「まあね。もう歳なのかもしれないな」
「あら、逆じゃないの?
 私はてっきり、キョンくんが昨日の話の影響で子供のように震えてさ、眠れなかったのだと思ったわ」
「まさか」
「だってほら、眼の下にクマができてる」

そんな馬鹿な。しかし家を出るまえ、入念に鏡を見たわけではないので否定もできない。

「手鏡が必要かしら?」

ひょいと差しだされたそれを手早く受け取る。
それから眉をひそめて覗き込んで見ると……

「どこにクマがあるんだ。どうにもなっていないように思えるが?」

そこまでやっておいて気がついた。
これは古典的なジョーク、いわゆる引っかけ。現に相手もクスクスと笑っているじゃないか。
いまどきこういうのに引っかかる輩がいるとは、我ながら情けない。

「ごめんね、朝の挨拶代りにでもと思ってちょっとした冗談のつもりだったの。
 でもいまのキョンくんの行動を見た限りじゃ、実は昨夜のことを気にしていたりするんじゃない?
 だとしたら気負いすぎはダメよ。そういうのって、得てしてうまくいかないから」

237 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/21(金) 20:03:00.72 ID:CthUoFVY0

余計な御世話だ、とは言えなかった。
現に朝倉の言っていることは大方、正解だったからだ。

「そうそう、私なりに考えてみたんだけど」

朝倉が教室内を見渡し、近場に生徒がいないことを確認するとそれに伴った音量、
まあ要するには隣り合ってのヒソヒソ話ってやつを始めた。

「あのね、長門さんが言ってたでしょう。宇宙人だとか未来人だとかさ。
 そして涼宮さんがそれを寄り集めたってことも……ねえ、昨日のことちゃんと覚えてる?」

その時の俺の思考はアルプス山脈を登っていたような気もするが、かすかには覚えているので首肯する。

「ということになると、つまり朝比奈さんと古泉くんもそういうもののお友達ってことになるわよね。
 昨日だってアヤシイことを私たちに言ってきたんだから……だよね?」
「それは……そうなるんだろうが、しかし、」
「そんなものは信じられないってこと?」

朝倉に先を読まれ、俺の口は閉ざされた。

「キョンくんって否定的側面から考えるタイプなのね」
「そっちはどうなんだ?」
「私は……そうね。だったら逆。肯定的側面から考えるってことで、どう?」
「希望的観測の間違いじゃないのか?」
「そうかしら?」
「そうだ。とにかく俺は宇宙人もなにも信じちゃいない。そういう見解だ」

239 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/21(金) 20:08:42.47 ID:CthUoFVY0

再び朝倉。

「なーんか勿体ない気がするんだけどなあ、そういうの」

茶化すようなハニかむような、そんな面持ち。
時々ふと感じていたことではあるが、こいつは案外子供っぽいようだ。
そんな朝倉をフォローするわけではないが、俺も一応付け足しておく。

「とはいえ長門がコンロ並の働きを見せてくれたことは事実だ。
 あれが奇術だとかなんだとかそういう面倒なことはとりあえず措いておくとして、
 少なくとも、あいつが変わった奴だってことには頷ける。そういう意味では朝倉と同意見だな」

なるほどね、と楽しそうに朝倉。しかし突然その表情が真剣なものになる。

「でね、私が言いたいことはそこじゃなくて……その後なの」
「というと?」
「キョンくんは古泉くんから聞いたんでしょう、私とは仲良くするなって」

確かに聞いた。ついでに長門からもだ。

「私のほうでは朝比奈さんからだったし、その内容はキョンくんと仲良くするなってものだったわ。
 ここで引っかかるのは、あの三人って別々に独立していそうなのに、その言動は一致してるってこと」

つまり?

「それほどまでに重要だってことなんじゃないのかしら。詳しいところは良くわからないけれども。
 まあ、それについては今日の時間があるときにでも訪ねてみればいいのかな。だからお昼の――」

その時、思わぬ邪魔者が入ってきやがった。

243 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/21(金) 20:21:23.67 ID:CthUoFVY0

「朝から親密そうですねぇ、お二人さぁ〜ん」

谷口である。それにしても、こういうときに限って早くから姿をみせるとは間の悪いやつめ。
とうとう指を咥えているだけでは飽き足らず、茶々まで入れるようになりやがったか。

「おはよう谷口くん」

そんな俺の内心を知ってか知らずか、朝倉は委員長スマイルで歓待している。
こいつには勿体ないほどの代物だ。
こうなりゃ早々に追っ払ってやろう。

「いいか谷口。俺はいま朝倉と大事な話をしているんだ。だったら、あとはわかるな?」
「なら、その話とやらに俺も混ぜてくれよ。三人寄れば文殊の智恵ってな!」
「やかましい。船頭多くして船山に登るともいうだろう。お呼びでない」
「あらあら、お二人とも楽しそうね。それじゃあ私は委員の仕事もあるし、お暇させてもらうわ」

朝倉が颯爽と身をひるがえし、あとには睨み合う俺たちだけが残される。
なんてこったい。無益だ。実に無益だ。朝っぱらからこんな野郎と顔を突きつけ合うなんて。
と、そんな俺たちのところへまたも割り入ってくる人物。

「なにやってんのアンタたち。ほら、そこあたしの席だからしっしっ!」

不機嫌そうな表情を隠そうともしない、涼宮ハルヒだった。
その顔をみていると俺の機嫌もダダ下がりになりそうではあったが、
憐れにも追い払われてしまった谷口を目にしては、不平不満を漏らすことすら躊躇われる。
触らぬ神に祟りなしというし、こういう時には適宜な距離を保つに限るのだろう。

244 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/21(金) 20:29:41.42 ID:CthUoFVY0

俺の背後でウンウンと唸り続けるハルヒを尻目に、
退屈な授業時間というものは流れるように過ぎ去っていく。
そしてお待ちかねのランチタイムだ――と思いきや。

「悪いんだけど、お昼は用事があるから。だからキョンくんと涼宮さんだけで食べてね」

朝倉からの衝撃的な一言は、俺の思考を五秒間ほどは奪ったことだろう。
俺が反論しようと思った時にはすでに朝倉が教室から消えていたくらいなのだ。
まさかあいつ、長門や古泉や朝比奈さんら不思議トリオの言葉を真に受けての対策のつもりなのだろうか。
いやそんなことよりもだ。

「なあハルヒ、弁当を半分わけてはくれないか?」
「なんでそうなるのよ。あの子に頼り切りだったアンタの責任じゃないの。いい気味だわ」
「卵焼きだけでもいい。なんなら福神漬けでも」
「いーやーよ。ま、バランくらいならあげてもいいけど」

食えるか。まあ最初からお前に期待はしていなかったがな。
そもそも朝倉に頼り切っていたのは否定しがたい事実なんだし、
それの補填を周りに期待するのも横着だろう。今のは単なる冗談だ。

「じゃあ俺は学食にでもいってくるからな」
「勝手にいけばいいじゃない」

こんな険悪な関係なのに、同じ課外活動に属している間柄とはなんだか釈然としない。

247 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/21(金) 20:34:47.28 ID:CthUoFVY0

廊下にでると、室内からは死角となる位置に朝倉がいた。

「キョンくんには謝らなくちゃね。
 朝に言おうと思っていたんだけど、言いそびれちゃってさ。
 ほら、涼宮さんがいる前で二人で話すのって……ね?」

まあ、言いたいことは十二分にわかる。
そしてそのことについては何ら気に病む必要もないさ。
単なる俺の自業自得なんだから。

「そっか、ありがと。意外にキッチリしているのね。
 そもそも昨日の時点で私が連絡していればよかったんだけど、キョンくんの電話番語わからなくて……」

互いに入学したてだし俺は携帯電話を持っていないから仕方がない。
ともかく、そんなことよりもだ。そっちはそっちで用事があるんじゃないのか?

「うん、ちょっとね。昨日のことについて色々考えはしたんだけど……
 やっぱり気にかかったことを訪ねたいし、早いうちに長門さんのところまで」
「だったら俺もついていこうか?」
「それだとキョンくんが昼御飯を抜いている意味がなくなるでしょう?」
「……そりゃそうだけど」
「だいじょうぶ、私のことは気にしないで」

とのことで、俺は朝倉の後ろ手を見送った。

248 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/21(金) 20:42:57.92 ID:CthUoFVY0

それから俺は学食にて昼食の品定めをしていたのだが。
ここでまたもや横槍を入れられることとなった。

「やあどうも。奇遇ですね。
 ついでといってはなんですが、静かなところで昼食でもいかがでしょう?」

完璧なスマイル。
とはいえ古泉のそれは、朝倉のものとは別の意味で完璧さを備えている。

「拒否権は?」
「行使されても構いませんが、おすすめは致しません」
「何故だ?」
「僕の誘いを受けてくださればわかることです」

それはつまり、事実上の拒否不可能条件下ってことじゃないか。

「わかった。従おう」
「話が早くて助かります」

250 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/21(金) 20:47:00.28 ID:CthUoFVY0

中庭に向かい適当な場所に腰かけるなり、古泉が口火を切った。
その内容は前日、長門が俺や朝倉に向けて放ったものと同質の意味不明さであり、
かつ同程度の理解不能さを併せ持っていた。

「――端的にいうなれば超能力者です。そう呼んだほうがいいでしょう」

そうですか。

「おや、もう少しリアクションを頂けるものかと期待していたのですが」
「こちらはこちらである程度、予測はしていたからな。
 ワンクッションあったのだからそんな反応にもなるさ」

それを予測していたのは俺ではなく、朝倉ではあるが。
そしてその朝倉の受け売りを、俺は古泉へと投げかけるのだ。

「証拠などは示せるのか?
 たとえばこのジュースをお前がいう超能力で沸騰させたりとか」
「いえ……残念ながら今この場でというのは無理ですね。
 僕は特定条件下においてのみ、その並外れた能力を発揮できるのですから。
 なので今この場にいる僕は、あなたと大差のない一人間と同じです。
 ご心配なさらずとも結構。その点についての証明等は、追々あなたの目の前で実演してみせますので」

251 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/21(金) 20:50:30.95 ID:CthUoFVY0

語るのが好きなのか、終始愉しげな古泉。
そんな古泉に俺は質問を重ねる。

「確か、以前言ったよな。俺と朝倉が親しくするのは良くないと」
「ええ、確かに言いましたね」
「どうしてだ?」

涼宮が疎外感を受けるとはいうが、
だったら全くもって相手にしていなかった以前のほうが、より疎外しているんじゃないのか?

「それについては相対的な感覚といいますか、いわゆる体感温度差のようなものです」
「温度差?」
「たとえば全世界から隔絶された厳冬、或いは極寒の地を想像してみてください。
 そしてそこに、あなたは住んでいます。それ以外にはどこにも行き場がありません。
 さて、あなたがその地のなかで一生を終えると考えた場合、あなたはその境遇を恨みますか?」

そりゃ恨むだろ。寒いし辛そうだ。

「おっと……そういう質問ではないのですが、まあいいでしょう。
 要は『今のあなた』にとってのそのような土地は寒いし辛い場所だということですが、
 それはあなたがこの世界における常識や観念というものを既知としているからにすぎません」

なにが言いたい。

「回りくどくいうのも面倒そうなので単刀直入に申し上げましょう。
 要は涼宮さんをあまり刺激しないで頂きたいということです。僕としてはね。
 そうそう、それから先の学食での件についてですが……こちらは場合によっては別件ともなります」

古泉が上着のポケットに手をやる。

252 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/21(金) 20:55:36.15 ID:CthUoFVY0

「これをどうぞ」
「なんだこれは?」
「携帯電話ですよ」
「見りゃわかる。しかしなぜその携帯電話を俺に差し出すんだ?」
「必要だと判断したからです。こちらも少々、切迫していましてね」

古泉がふっと息を吐く。
その出来のいい顔で切迫といわれても、いま一つピンと来ないのが実情である。

「僕の番号は前以ってメモリーに登録してあります。
 もし何かあったり、何か不穏な気配を感じた時にはご遠慮なく」
「これはお前を呼ぶという用途以外にも使っていいのか?」
「どうぞご自由に」

……盗聴器などが仕掛けてあるんじゃなかろうな。

「ご安心ください。そのような瑣末な仕掛けを施す必要性はありませんから。
 仮にあなたがその携帯電話を拒絶し、恣意的に別の携帯電話を選択、使用したとしても、
 その内容を盗聴することはいとも容易いものです。ええ、児戯に等しいとでも表しましょう」

俺はきっと、凍りついたような表情をしていたのだろう。
古泉がよりいっそう愉快そうな笑顔をのぞかせ、そしてサラリと述べた。

「冗談ですよ。ですが、気をつけてください。
 僕がそれを手渡したということは、つまりそういうことなんですから」

では、と古泉が片手を振って歩き去っていく。
俺はその背中を見送り、しばらく考え込み、しかし何も掴むことができずにその場を後にした。



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