キョン「直死の魔眼?」人識「ひひっ」


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1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/04(土) 16:27:17.99 ID:h3JkMdXuO

 キョンは朝比奈へと駆ける。もしもそれを見ることの出来る人間がいたのならば、それは人ではなく獲物を狩る野生動物の動きのような印象を与えただろう。
 その哀れな獲物の右腕上腕部、左手首、左肩口から右脇腹にかけて、右足首とその指全てに「視える」線をナイフでなぞる。
――刺し、
――切り、
――通し、
――走らせ、
――ざっくざくに切断した。
 腹から内臓がごそり、と零れ落ちる。血飛沫が顔に付く。

――――という所で目が覚めた。

「今時夢オチなんて流行らないだろ……」

 そう呟いてみるが、夢で観た朝比奈さんのピンク色の屍肉、プリンのような脂肪、酸化して黒くなった血液、その全てが何故か頭からは離れてくれなくて吐き気を催した。

「キョンくんー! お母さんが朝ごはんだって!」

 階下から妹の声が響く。ああわかった。と、気の抜けた返事をしてから急いで学生服に着替えた。
正直吐き気は拭え無かったが、朝を抜くと貧血を起こすかもしれないので腹に詰め込んでいく。

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/04(土) 16:32:20.19 ID:h3JkMdXuO

今思えば、いつも朝食時にはニュースを見ていたのに何故今日に限ってニュースを点けなかったのだろうか。
この時にニュースを見ていればあるいはなんとかなったのかもしれない。然るべき所で然るべき措置を受けるだけで済んだかもしれない。
あるいは、ニュースを点けていれば。
あるいは、新聞を読んでいれば。
あるいは、朝早く起きることができていれば。
あるいは、夢なんて見なければ。
あるいは、■さなければ。
――しかし、そうはならなかった。ならなかったのだ。
つまり、それは、その時点で、代替不能になってしまっていたということ。
これ以上は無く、完璧に最高に至高に究極に完全に最上に絶対に、取り返しがつかなくなっていた。

何故なら、零崎は既に始まっていたのだから――。



8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/04(土) 16:37:33.19 ID:h3JkMdXuO

 時間はギリギリ。急がねば確実に遅刻という名の気まずいイベントが待っている。
 HRの静まった教室に入るという事は、まだ高校に入学したばかりでクラスメイトと不慣れな俺にとって余り心地好いとはいかないのだ。

「よおキョン。急いでますねぇ」

 駆け足をしていると横から声が響く。ちらと顔を確認するが、それが学校生活においてどうでもよい人間だったので、軽い挨拶に留める。

「なんだアホの谷口か。さっさとしないと遅刻するぞ、じゃあな」

 何か喚く谷口の横をすり抜ける。

「ちょ、待てよキョン! どうせ遅刻だし一緒に行った方が負担は少ないだろ?」

 一体何の負担なのかと訝しんでみるが、谷口の言う事も間違いではなし、横に並んでやる事にする。

「しかし珍しいな。優等生のキョン様がなんでこんな時間にこんなトコにいるわけ?」


10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/04(土) 16:41:16.72 ID:h3JkMdXuO

 瞬間、夢の内容をを思い出しキモチ悪くなる。
 それを乾いた笑顔で押さえつけ、

「いや、少し夢見が悪くてさ」
「へえ。夢見が悪くなるといやあ、なんだっけ? ニュースでバラバラ死体がどうとか言ってたぞ」
「……」

 背筋に冷たいモノが走る。

「お前ニュース見ないのか? なんでもこの街で殺人事件があったらしいんだよ。しかも女子高生らしい。ウチの学校の生徒だったりしてな」

 谷口は冗談混じりに言うが、正直笑えないし、今の俺の精神状況によると冗談だと思い込む事も無理な話だった。
――ズキン。と、頭に刺すような痛みが走る。


13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/04(土) 16:46:30.69 ID:h3JkMdXuO

「え――と、ちなみにそれ何処で起きたんだ?」
「確か――商店街の方だったか。まさか見に行く気か?」

 ニタニタと笑う谷口を尻目に、なにか厭な予感が身体を駆け巡る。
――もしかしたら、

「……ああ、遅刻しそうだしそうさせて貰おうかな」

 ふっと谷口から笑みが消える。

「オイ、キョン、顔色悪いぞ大丈夫か? 気を悪くしたんなら謝るぞ」
「いや、お前のせいじゃあないが、ただ気分がな……悪いが谷口。岡部に体調不良って言っといてくれ」

――もしかしたら、俺が■したのかも


15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/04(土) 16:50:59.26 ID:h3JkMdXuO

「オイ!! ちょっ、キョン待てよ!!」

 気付くと俺は頭痛を押さえながら街へと駆け出していた。

 夢の記憶だけを頼りに商店街を練り歩く。
 そうして30分程探した結果、ついに青いビニールシートで覆われている一角を見つけた。
――そこはどう見ても夢に出てきたあの場所で。
 信じ切れない俺は近くでビニールシートを見ていたおばさんに問い掛けてみた。

「あの、すみません。ここで一体何があったんですか?」
「ああ、今朝例の殺人事件がここであったんだよ。ホラ、バラバラ死体のねぇ。そんなことより君、学校は?」
「あ、今から行く所でして」

 アリガトウゴザイマス。と、乾いた返事をし、来た道を戻る。
 ……おばさんには悪いとは思ったが、とてもじゃないが学校に行く気にはなれなかった。



19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/04(土) 16:57:23.99 ID:h3JkMdXuO

 朝比奈さん……死んでしまったんですか……
 と自分でやっておきながら全く責任感の無い発言を自分の中で反芻する。
 おそらく学校では今頃騒ぎになっているだろう。ハルヒは一体どうするんだろうか? 朝比奈さんを生き返らせる事とかは……無理だよな。
 しかし今は我が身が大事だ。ヤバいぜキョンくんマジヤバだよ。ほんとに人殺しちゃってたよ。どうするか殺人だが未成年だしなんとかなるのか?
 いやもうここは逆に暗殺者として生きよう。もしくは長門に頼んで完全証拠隠滅。あるいはその両方。ムテキの殺し屋だ。

「ちょっと兄ちゃん、いいか?」

 と、妄想していると背後から一声。
 その声だけでもキョンは『ぎょっ』としたのだけれど、その声の主の身なりにさらに『ぎょっ』とする。
 見た目は自分より少し年上な感じだけれど、髪は染めているし、サングラスをかけている。
 ここまでなら、他の子よりもちょっとやんちゃな男のコで通るだろうが、いかんせんその先が駄目だった。
 耳に携帯のストラップをつけている。
 いや、もしかしたら携帯のストラップみたいなピアスなのかもしれないが、それでも奇抜である事に変わりはないだろう。そしてなにより極めつけに――、

――――顔面に刺青が彫ってある、三日月を三つ重ねたような。

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/04(土) 17:02:05.99 ID:h3JkMdXuO

「はろろーん、人識ちゃんだよー。」

 空気読め、何のための伏線もどきだったんだよ今のオイと思わず言いそうになるのを堪え、人識と名乗る彼に疑問をぶつけてみる。

「あのー」
「おう、どうしたサボリくん」
「いや、今から学校行くつもりなんですけど」

 勿論嘘だった。

「それより、そのとてもイカしたピアスはどこで買ったんですか?」
「ああこれ? おとといあたりDOCOMOショップで貰ったんだが、誰もイカしてるって言ってくれないんだよな」

 当たり前です奇抜過ぎますと言いそうになるのを堪える。
 しかしマジで携帯ストラップだった。しかもドコモダケ。

「ま、それは別にいいとしてだな」

 そんな問答をしていると、不意に思い出したかのように、にたり。と彼は笑って、

「オマエ、そこの奴を殺した感触はどうだったよ?」

――っ! いきなり登場した彼のある種冗談のような雰囲気に呑まれすっかり失念していた。
――即ち、ここは殺人現場で、どうやら俺がその実行犯であると何故かバレているということだ。



22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/04(土) 17:07:20.19 ID:h3JkMdXuO

「え? うわ、いやいや、違いますよ! 別に俺が殺したわけじゃなくてですね! たまたま通りかかっただけ――、」

――ズキン。頭に奔る痛み。
 違う、本当はオマエも分かっているハズだ。と、頭の中で自分のようで自分じゃない誰かの声が響く。オマエが朝比奈さんを殺したんだ、と。
 ホラ、あんなに楽しそうだったじゃないか。視える線を片っ端から切って、血と腐臭にまみれながらも憧れの先輩をバラバラにするのは。

 そんな心の葛藤を知るか知らずか、人識とやらは喋り出す。

「んなわけねえだろ。手前が殺したに決まってる。『見た』とかじゃなくて『感じた』んだからな。
――全く、やんちゃな妹を探しに来て『感じた』と思ったらこんな優男だとは。傑作だぜ」

 感じた? なんだコイツおかしいんじゃないのか。ゲイなのか? とか思ったが、そんなことはそっちのけで、感覚の中心でキョンもまた『奇妙』を憶えていた。
 なんかこの人には十年来の友人、もしくは家族のような繋がりを感じる――と。


24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/04(土) 17:13:50.09 ID:h3JkMdXuO

「……ったく、割に合わねえな。一賊の事は滅んだところでどーでもいいんだが、後続の零崎を見つけて保護しなきゃいけないとは――」

 しかし繋がりの相手はなんだがブツブツと独り言を言っているので、取り敢えず古泉なら何か知っているだろうし連絡をつけてみる。

「あー、もしもし古泉か」
「はい古泉です。ニュースは聞きましたか? 大変な事になってしまいましたね」
「そっちも大変だと思うが、こっちも今大変でな。話を聞いてくれると嬉しいんだが」
「大変……ですか? こちらはこちらで朝比奈さんは死んでしまい、その上フォローする貴方がいないという事でバイトの方が忙しいんですよ」

 珍しく古泉の口調に若干の苛立ちが見える。が、それよりも朝比奈さんの死に動揺すらしていない風貌に驚いた。



25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/04(土) 17:18:23.19 ID:h3JkMdXuO

「悪いな……だが朝比奈さんが死んだのに驚かないのか? 少し意外だ」
「ええ、まあ仲間の『死』には慣れてますからね……朝比奈さんは行動を共にした友人でしたが、『組織』の仲間はプライベートでも付き合いがありますから。今更って感じですかね」
「朝比奈さんを殺したのが俺だ、――って言ってもか?」
「……冗談なら怒りますよ?」

 おお、流石古泉だキャラを崩さない。

「自分でも残念だがマジな話だ。どうやら俺には殺人の才能があったらしい」
「そう、ですか――。真偽は別として少し詳しく話してくれませんかね」


26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/04(土) 17:24:53.14 ID:h3JkMdXuO

 俺は古泉に顛末を話す。夢で朝比奈さんを殺したと思ったらそれは現実で、現場に行ったら変な兄ちゃんに絡まれたという所まで。

「ふむ……些か情報不足な感が否めませんね。その『ひとしき』さんは何か言っていないのですか?」
「さっきからブツブツと独り言を言っては周りのモノにナイフを突き立ててるぞ。確か……『ぜろざきいちぞく』みたいな事とか、弟がどうとか言っているな」
「……っ!」

 古泉が息を呑む音が聞こえる。
 ……何故だ?

「どうした古泉」
「まさか『零崎一賊』が生き残ってたとは……しかも貴方の口から聞くなんて正直一番びっくりですよ」
「? 人識さんはそんなに凄いのか」
「凄いと言えば凄いですが……まあ、我々の業界では有名ですね。
 零崎が絡んでいるのなら貴方が朝比奈さんを殺害してしまったと云うのも納得ができます」

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/04(土) 18:19:50.61 ID:h3JkMdXuO

「詳しく教えてくれ」
「零崎一賊って云うものは、所謂殺人者の集団で血の繋がってない家族のような繋がりを持つと言われています」

 繋がり……というのはまさか――

「呼吸をするかのように人を殺すという事で忌み嫌われて来た集団ですが、数ヶ月前に全滅した、という報告が入ってきています」
「生き残りが居るとは思いませんでしたが、貴方が零崎になってしまうとは……」
「何故その、零崎一賊とやらに俺が入ったとわかるんだ」

――心の奥では理解していたが、理性が説明を求める。

「先程も言いましたが、零崎は呼吸をするように殺人をします。逆に言えば殺人をしないと生きていけない。生活の一部ですから。そんな彼と二言以上喋って生きている時点で同胞なんですよ
 加えるなら朝比奈さんを殺して微塵も動揺していない貴方の態度も怪しいですしね」


37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/04(土) 18:27:36.51 ID:h3JkMdXuO


「……」

 驚きで言葉が出ない。
 ――否。慄きで、だ。
 昨日までの少し不可思議でそれでいてまるでファンタジィのような普通の日常。
 古泉は超能力者。長門は宇宙人。朝比奈さんは未来人。
 そして我らが団長、涼宮ハルヒは――、神様。
 そんな常人からしたら頭がオカシイと思われても仕方がないような「日常」に囲われて生活してきた俺が、
 そんな異常な俺からしても明らかな、「非日常」に壊されて仕舞うことに、慄きを感じていた。

 ――いや、
 非日常に囲われて終う事に、
 「しょうがない」と感じる事に慄きを感じていたのだ。
 「またハルヒの仕業か」といったお決まりの文句、それすら出てこない。
 古泉の言葉で殺人者と自覚させられたからだろうか――、
 そんなレベルの低い事はどうだっていいと感じていた。
 只、ただ人を殺したい――。
 今電話をしている古泉でさえばらばらにしてしまいたいと云う感情が自分の中に渦巻く程、
 俺の中身が「なにか」に変貌してゆく事に、諦めが伴うほどには、俺は狂っていた。

――ズキン。と、頭痛が迸った。


38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/04(土) 18:35:45.11 ID:h3JkMdXuO


 くらり、と目眩がする。視界が歪む。
 まるでフィルターをかけたかのように視える景色に何かが侵入り込む。
 それは、単なる線。
 何処に目を向けても、何処にある物にも、その線は走っている。
 刹那、理解する。これは、死そのものだと。
 クク、と笑いが洩れる。なんて素晴らしい力だろう――!

「――丈夫ですか? 何かありまし――」
 電話口で古泉が喚いている。少し煩かったので携帯に走る線を爪でなぞると、まるで初めからそうであったかのように携帯が半分に切断される。

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/04(土) 18:54:43.71 ID:h3JkMdXuO

「――へえ、中々良いモノ持ってんじゃねえか」
 横から人識さんが話し掛けてくる。
「魔眼の類か? そんな奇妙な技持ってるヤツなんて未来視のクソアマくらいしか知らないが、缶詰を開ける程度には便利そうだな」
「技? これって技なんですか?」

 思わず口に出る。
 よかった、どうやら日常会話は出来るようだ。

「ああ――。全ての音が音符として聞こえる絶対音感やら、全ての味を区別できる絶対味覚みたいな技だな
 ただ単に全ての死に易い部分が視えるってだけだ。死に意識が集中してんだよ」

「人識さんもなんかそういった技を持っているんですか?」

「俺か? 俺にゃそんな大層なもんはねえよ。すこーしばかり特殊な『技術』はあるけどな。企業秘密だ」

51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/04(土) 20:42:16.01 ID:h3JkMdXuO

 ひひっと笑うと、人識さんはいつの間にか手に持っていた無骨なナイフで携帯をコマ切れにしてしまった。
 俺の手からはみ出た部分だけ。
 目に見えない早業とはこの事だろう。

「それに、そんな技に頼らなくたって人ぐらいこれ以上無いって程に殺せるしな。
 俺達は殺そうと思って殺してるわけじゃあねえんだぜ? 殺した奴が結果として死ぬだけだ。ま、お前はやる気があるだけ、おてんばな妹よりゃあマシだ。
 じゃ、自由にお好きに随意に勝手気ままに――、」

 ――零崎を始めてくれよ。

 それが、俺の人生の始まりだった。

59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/04(土) 21:07:54.74 ID:h3JkMdXuO

「じゃあな、親愛なる弟よ。俺は妹を捜す旅に出るんでな」

 あでゅー。と手を振って歩き出す人識さん。
 正直わけがわからん。弟? 妹? なんじゃそりゃ。

「ちょ、待って下さいよ! もう少しくらい付き合ってくれたって良いじゃないですか」

 こんな風になってしまった以上にはついて行こうと思っていた俺にとって、いきなりの自立通知は思いの他精神にクるものがある。

「はっ、甘ったれてんじゃねえぞ。俺は零崎だが、手前らみたいな零崎じゃあねえ。お前の世話なんて御免なんだよ」
「でも俺はその、殺し? の世界なんてよくわかんないんですよ!」
「曲がりなりにもお前は零崎なんだから死ぬこたあねぇだろうから安心しろよ」

 いかん、拉致があかねえ。

「でも何をすればいいのか、とか」
「後続の零崎を見つけ出して育てりゃあいいじゃねえか。
 つーかソレ名案だな。そうしろ」
「しかしですね人識さん……」

 周りを気にもせずに口論をしていると、どこからか車のエンジン音が聞こえてきた。

62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/04(土) 21:25:06.64 ID:h3JkMdXuO

 黒塗りの高級車が姿を見せる。俺にとってよく知った『機関』の車だ。
 おそらく連絡が途絶えたのを心配した古泉がこっちに寄越したのだろう。よく出来たヤツだ。
 急制動をかけ、その車は俺達の横に停まると、助手席からメイド服の女性が顔を覗かせた。機関の一員かつ古泉の同僚、森さんだ。

「古泉から聞いた時は何のジョークかと思いましたが……まさか本当に零崎一賊――、しかもその秘蔵っ子がこんな所に居るなんて」
「お、姉ちゃん裏の人間か? 俺の事知ってるヤツなんて中々いねえんだぜ?」
「元同僚が『愚神礼賛』と死合いましたから、噂はかねがね聞いてますよ」
「へえ、そいつ可哀相にな。ミンチだろ」
「いえ――、」

 森さんが頬を吊り上げて、にい。と笑う。

「――仕合には勝った、といっておりましたよ」


66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/04(土) 21:53:47.53 ID:h3JkMdXuO

 ぴきり、と擬音を充ててもおかしくは無いほどに空気が性質を変えた。
 人識さんから発せられる殺気が尋常ではない。
 空間に線が滲み出ているのが視える。便利な技だ。

「手前、冗談も休み休み言えよ? 死んじまってもしょうがないからな」

 ――ま、もう遅えがな。
 瞬間、辺りに音が木霊する。
 何かが風を切る、ひうんひうんと云う音。
 人識さんがなんらかの技術で音を出しているらしい。背筋が凍るようなその死の音色にしかし森さんは

「曲弦糸ですか。今時そんなのは時代遅れですよ、ジグザグじゃあるまいし」

 微笑みながら余裕の態度だった。

72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/04(土) 22:22:36.65 ID:h3JkMdXuO

「何なら受けてみるか?」
「いえ、遠慮させて頂きます。曲弦糸と云うものは基本的に静かに罠を張る受け身の技。そんなあからさまに向かって来られては喰らいたくても喰らえません」
「言うじゃねえか。でもな、零崎の俺が策もなしに真っ正面から向かうと思うか?」
「策が在るのにわざわざ漏らす馬鹿がいます?」
「どう思おうが勝手だがな、痛い目を見る事になるぜ」
「……もうお喋りは良いでしょう。そろそろ死合いましょうか」

 気合いたっぷりの森さんに対して不敵な微笑みを浮かべる人識さん。

「――やっぱりここまで上手くいくなんて、アイツじゃあないが癖になっちまったかもな。……はっ、傑作――いや、戯言だぜ」
「一体何を……? そちらが来ないのならこちらから――っ!?」

 俺には森さんへの怨みはないが、どうやら兄貴からの命令には逆らえないらしい。
 何より体が森さんの身体に走る線を欲していた。

「古泉から聞いてませんでしたか? ま、俺も零崎なんで、そういう事なんです。すみませんね森さん」


75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/04(土) 22:53:06.28 ID:h3JkMdXuO


「なっ――、貴方まさか」

 軽口を叩いていてもやはり相手はあの人識さんだ、精神は張り詰めていたらしい。
 俺への反応が一瞬遅れる。そして、その一瞬があれば俺は森さんの線を軽々となぞる事が出来る。
 ならば結果は知れたものだ。

――俺に線をなぞる余裕があれば、の話だが。

 より正確に線をなぞろうと握っていたポイントカードを持つ右手の上腕部に激痛が迸る。
 耳に響く、パァンという銃声。初めて聞いたそれは用途とは違い、案外軽い音だった。

77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/04(土) 23:25:40.18 ID:h3JkMdXuO

「友達でありSOS団の仲間でもある俺に対して酷い仕打ちじゃあないのか? 古泉よ」

 スモークガラスで分からなかったが、どうやら車の後部席には交渉を森さんに任せていたのか、古泉が待機していたらしい。
 俺の行動に危険を感じたのか武力制裁に出たってところだろう。

「まさか貴方がここまでするとは……少し貴方を買い被りすぎていたようです」
「冗談だろ古泉? 零崎は息をするように人を殺すって言ったのはお前だぜ」
「そうですね……非常に心苦しいですが、機関に仇なす者は例え『鍵』たる貴方でも抹殺しなければなりません。
 上の意見では『鍵』は代用可能と云う結論が出ています。ですので――、」

 貴方を、殺害します――。

 と、我が友人であった古泉一樹は、俺に純然たる殺意を向けた。

80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/04(土) 23:50:09.24 ID:h3JkMdXuO

「俺はお前を殺したくは無かったんだがな。何だかんだで良いヤツだし。でも、まあ――。
 この俺に殺意を向けたんだ。悪いな古泉。指命を半ばで、死んでくれ」

 無言で言葉を受ける古泉。どうやら本気らしい。

「人識さーん、俺こっち殺るんでそっち頼みまーす」

 未だ問答をしていたらしい人識さんに森さんの対処を任せる。

「了解したぜ弟よ。ま、お前の発舞台だ。気張れよ」
「わかりました」
「そんじゃあまぁ、ちょっくら――、」
「そうですね、身体に力いれて――、」

「「――零崎でも、始めるか」」

103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/05(日) 07:40:11.13 ID:U8Qnkv/lO

 古泉はゴツくはないが決して小さくもない、スタンダードな拳銃を俺に向ける。
 そんな古泉の全く的外れな行動に思わず嘆息してしまう。

「あのな、古泉。そんな子供騙しのオモチャが初見のさっきならともかく、二度通じるワケがないだろう」
「やってみなきゃ、わかりませんよ」

 あくまで意地を通すつもりなのか、古泉は頑なに言う。
 さっきは拳銃なんてモノの存在自体を失念していたために喰らってしまったが、そもそもそんな殺気の固まりのような武器は撃ってからでも避けられる。
 例え眠り込んでいる時に不意撃ちされたとしても、決して当たらないだろう。

「短い間でしたが、貴方と過ごした日常は悪くありませんでした」

 こっちもな。そう返す前に銃声。
 避けるまでも無く検討違いの方向へ飛んで行く。
 続けて二発、三発。全て俺に当てるつもりはないようで、脇を掠めるのみ。
 ――成る程。誘導か

108 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/05(日) 08:58:57.12 ID:U8Qnkv/lO

 今のままではハンデが在り過ぎて可哀相なのでその誘いに乗ってやる事にする。

「無駄な足掻きだぞ、古泉」
「さて、どうでしょうかね」

 例えどんな殺気のないブービートラップが待っていようと、この眼があれば何の問題はない。
 策が通用せずに絶望した古泉をバラすのも――悪くない。



109 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/05(日) 09:20:06.53 ID:U8Qnkv/lO


 一方人識。
 森との口論をひとしきり終え、完全な臨戦体制へと移行する。

「御託はいーからさ、早く戦ろうぜ」

 ひうん、と空気が裂ける。

「そうですね。早く終わらせなければ古泉もきついでしょうし」
「ひひ、余裕なこった。
 ――じゃ、行くぜ」

 ひうんひうんと、死の音色を奏で、電動鋸さながらに人識が駆ける。


110 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/05(日) 09:45:45.59 ID:U8Qnkv/lO


「させません!」

 自殺覚悟か、森がその糸の嵐へと突っ込んで――、
 ――ぱしり、と人識の腕を掴んだ。

「なっ――」
「曲弦糸と云うのは基本、シングルアクションで攻撃する事が可能です。
 しかし、それは罠に掛かった獲物を切断する時の話。
 糸というモノは引いて切るのです。なので貴方のような方法であれば、糸を巻き付け、切断するというダブルアクションが必要。故に――、
 引き切る動作の前に行動すればよいのです」

112 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/05(日) 10:12:30.81 ID:U8Qnkv/lO

 人識の拳をぎり、と森の指が抑えつける。

「正々堂々と肉弾戦をしませんか?」
「けっ、徒手空拳なら自信があるってか。悪いが、俺もだ」
「それは重畳」

 革の手袋と共に眼に見えぬ糸を外す。
 代わりに無骨な片刃ナイフを取り出し、構える。

「ちーっとばかし怪我するかもしれねーが、勘弁な」
「そちらこそ文字通り骨が折れる仕事になりますけど、構いませんよね」

 対する森は右拳を前、左拳は後の半身になり、重心は低く構える。

「っ――!」

 人識が一瞬で距離を詰め、横薙ぎの一閃。
 それを森は右足を下げスウェーのみで回避すると、伸び切った人識の腕を下から左手でいなし、回転運動かのように右拳を無防備な腹に叩き込む――!



115 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/05(日) 10:32:05.70 ID:U8Qnkv/lO

 しかし拳は空を切る。人識は身体を横に捻り森の左手を軸に側中気味にジャンプ。
 そのまま遠心力を利用した蹴りを左手に繰り出す。
 森はそのアクロバティクな動きに反応出来ずに回避動作を取らない。
 完璧に二の腕の骨が複雑骨折コース。
 しかし、蹴りが当たった瞬間、人間の腕には有り得ない金属音を人識は足を通じて感じる。

「鉄甲!?」
「メイドの嗜みです――っと!」

 鉄甲に足を阻まれ不自然に空中で動きを停める人識のボディに、今度こそ森の拳がめり込む。

118 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/05(日) 11:07:23.09 ID:U8Qnkv/lO


「け、結構効いたぜ……」

 着地した人識が言う。

「あら、手加減はしたつもりなんですが」

 嫌なヤツだ。そう漏らして、再度距離を詰める。
 フェイントを織り交ぜての首筋を目指すナイフ。
 しかし到達する前にやはり森の手に阻まれる。
 森はナイフの刃を掴むと、力任せにへし折った。

「気に入ってたナイフを! つーか手袋は防刃かよ」

 モーションはそのまま。蹴りを森の背中に叩き込もうとするが、これもまた阻まれ、代わりに一撃を受け取る。
 森は完全な受け身の姿勢。太極拳の典型的な挙動である。

122 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/05(日) 11:32:07.42 ID:U8Qnkv/lO


「どうです? 降参というのもありますが」
「んなもんねえよ。しかし鉄甲に防刃手袋に太極拳とは人間凶器びっくりショーかお前は」
「スカートに手榴弾なぞは入っていませんのでご安心を」
「こんな姉ちゃん相手だとは厄介になっちまったぜ
 ――と、言っても別にアンタに世話をして貰おうとかそういうワケじゃあねえぞ?」
「言葉遊びは別に良いのですが」
「かかっ、ウチの排水溝みたいな性格だな」
「つまらないってワケですか。イマイチですね」

 そして、再開する戦闘。

185 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/05(日) 23:04:41.20 ID:U8Qnkv/lO

 そして、再開する戦闘。

 ベストの内ポケットから新しいナイフを取り出す。
 それを右手の指先のみでくるくると回転させながら、左手はズボンのポケットをまさぐる。

「あーあ、全然ナイフの予備ねえじゃんか。どっかから仕入れねーとな……よっ」

 ――瞬間、投擲。
 左手のナイフを。
 森の顔面へと向かうナイフは、やはり腕の鉄甲で防がれる。
 人識もそれは承知、と上がったガードに合わせ逆手に持ったナイフで腹部を斬りつける。
 しかし森の膝によって右腕は軌道をずらされる。痺れる手。

「あれだけ痰可を切って起きながらその程度ですか」
「最後まで良く体験してから言えよ。負けたらだっせえぞ」

 人識は右腕を蹴り上げられてはいるものの、予想の範囲内。
 しかし森はガードは上がり、片足で立つというかなり不安定な体制。
 状況は若干人識に分がある。
 踏み込んだ右足を軸に半回転。上がったガードのせいで完全な死角に入る下腹部を後ろ回し蹴りじみた蹴り上げで狙う。
 虚を突いた完璧な一撃。
 ガードされる事を想定し、初めから三連撃で攻める事を考えなければ入らなかった必殺の一撃。

 それを森は、
 めくれたスカートを押さえるという動作で停める、


188 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/05(日) 23:17:22.42 ID:U8Qnkv/lO

「オイ……スカートは何製だこんにゃろ流石に引……ってうお!」

 ――のみならず、スカートを人識の足に巻き付けて固定し、一気に伸ばす。
 堪らず足ごと回転する人識。
 なんとか地面を転がり受け身を取る。が、

 上から森に覆い被される。
 仰向けのままナイフを持った右手、足の間接を極められ、半ば抱き合うかのような状況だが全体重が掛かっており左手一本しか身動きが取れない。

「メイドは寝技も得意ってか? あいつが聞いたら泣いて喜ぶだろうな――っぐ!」
「女性のスカートをめくる事といい、少々下品ですね貴方は」

 ぎちぎちと徐々に腕を極められる。

「ですが殺すのは勘弁しましょう。貴方は身動きが取れないまま……そうですね、呪い名あたりに引き渡して兵器の実験台にでもなってもらいましょうか
 今では珍しい零崎の肉体ですから重宝されますよ」
「勘弁してくれ! あんなもんは二度と御免だ!」



194 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/05(日) 23:29:43.75 ID:U8Qnkv/lO

 ガリガリと左手で足掻く。が、脱ける気配はない。

「いえ、死なない程度に抑えて貰いますから安心して下さい」
「そこは地獄だ! ってか、あー、どっかで見た光景だと思ったら、アイツとの特訓か」

 左手の動きが――止まる。

「何を――、」
「俺はさ、アイツみたいに腕は長くないし反動に耐える胆力もねえから誰かに押さえて貰わねえと出来なかったんだよな」
「この状況で何が出来るんですか――、」

202 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/05(日) 23:53:55.51 ID:U8Qnkv/lO

「でもさ、それって意味ねえだろ? だから忘れてたんだがな。今はアンタが親切にも押さえてくれるもんだから思い出しちまったぜ
 アイツは何つってたかな、無銭飲食? 違うな……ま、いいや――、」

 口唇の端を吊り上げ、にたり。と笑う。

「――赤い姉ちゃんとの約束だ。殺さず解さず並べず揃えず晒さない程度に済ませてやんよ」
「――っ!!」

 圧倒的に有利な状況にも関わらず、森の肌が粟立つ。
 ここでどうにかしないと必ずまずい事になる。
 強迫観念じみたそんな思いから、人識の頸動脈を締め上げる。

「そろそろ黙りなさい――っ!」

 しかしそれは、余りにも遅すぎた。
 森は寝技に持ち込んだ時点で人識の意識を奪うべきだったのだ。
 だがそれも全て後の祭。後悔は先に立たない。
 奇しくも、ぎゅう。と上から押さえ付けられる形になった人識がぐぐ、とのけ反る。

210 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/06(月) 00:23:39.13 ID:052uEvUSO


「――『一喰い』!!」

 吹きすさぶ暴風かと思える程の衝撃。
 森の両足が大腿部より下を『喰い』千切られ、あらぬ方向へ飛散する。
 勿論放った人識も被害を受ける。左手は脱臼し、反動によってごろごろと3メートルほど転がる。

「つつ……やっぱオリジナルにゃ出力は及ばず、反動も半端ねえな」

 ガゴッと腕の骨を嵌めながら、気絶しているらしい森に近づいてゆく。

「あー、出血がひでえ。スカートは防弾繊維だよな? なら刃物で切れやすいハズだ……これで足を縛って――っと。
 メイドのスカートひん剥いたっつったら戯言のヤツ羨ましがるだろうな、かかっ」
「取り敢えずコレで出血多量で死ぬこたあ無いわな。運がよけりゃ足がくっつく。悪くても義足くらい調達出来るだろ」
「さて、弟は上手くやってるか? 疲れたから手伝ってやんねーぞ」

 どすり、とその場に座り込む。

「いつかアイツにゃ感謝のちゅーをしてやんねえといけねえな――は、傑作だぜ」


212 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/06(月) 00:48:24.22 ID:052uEvUSO

 時は戻ってキョン。
 人識達より少し離れた路地裏に誘導されて、古泉と対峙する。

「いいかげん場所決めは終わったか? 古泉よ」
「ええ、概ね良好ですよ」
「で、何を始めるんだ? お前じゃあ俺にゃあ勝てないぞ。諦めろ」
「そう焦らないで下さい。らしくありませんよ」

 もはや慣れた風にキョンに銃を向ける古泉。
 辺りには空となったマガジンが転がっている。

「今更俺を狙ったってしょうがないぞ――、」

 やはり先程から聞き慣れた銃声が響く。
 それは真っすぐにキョンへと向かってゆき――、
 ――しかしそれは着弾目前で分断される。

「――っと、こんな斬鉄剣みたいな真似まで出来るようになっちまったからな」

 キョンの左手にあるのは、ありふれたプラスチックのポイントカード。
 それで銃弾を半分に割るなんて、夢物語でしかない。

214 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/06(月) 01:19:17.01 ID:052uEvUSO

 しかしそれは実際問題として現実に起こっていた。それを可能とするのはキョンの持つ「技」所謂、直死の眼と呼ばれるモノである。
 物の死に易い場所を見る事の出来る技術。その線をなぞるのみで、一切合切万物が死に至る。卑怯以上の何物でもない。

「その技を見る度、本当に感服させられますよ」
「そうか? 斬鉄剣と違う所は蒟蒻も斬れるって位だぞ」

 ぶんぶんと左腕を回す。
 右腕は最初の解后時に受けた銃創が有り、鈍痛が走るので力無く下がっている。

220 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/06(月) 01:40:53.39 ID:052uEvUSO

「ま、いかんせん飽きたしな。そろそろ終わらせようぜ」
「そうですね。そろそろ、頃合いです」

 姿勢を低く、地を這うような前傾姿勢。
 音もなく古泉へと向かう。
 対して古泉は回避動作もせず、手に握り込んだ物のスイッチを入れる。

「!」

 真っ直ぐ古泉の線を見据えていたキョンの眼に、限度以上の光が侵入る。
 古泉の手にあるのはペンライト。その思惑通り、キョンは眼をつむり、

 そして、開ける。

「これは――!」
「ふふっ。上手くいきましたね」

 開いた眼に映った景色は、何もかもが色を持たない、反転したセカイ。

「――閉鎖空間か!」

226 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/06(月) 02:08:30.31 ID:052uEvUSO

「そうです。ここなら僕も本気を出せますからね」
「しかし、一体どうやったんだ?」
「簡単な事ですよ。我々超能力者はある程度なら閉鎖空間の場所を探知できるのですが、
 ただでさえ朝比奈さんが死に涼宮さんにストレスが溜まっている所を、鍵たる貴方が欠け団員たる僕が欠ければ、爆発的に閉鎖空間が発生します。
 後は発生するとおぼしき閉鎖空間の境まで貴方を誘導し、発生を確認したら貴方の眼をつむらせれば自動的に閉鎖空間の中ってワケです」

「策士だな古泉よ」

 状況はこれでどっこいどっこいだ。なんせ赤玉状態の古泉はビルをも軽く貫く超能力の塊だからな。
 すれ違いざまに線を斬るしかない。

「ああ、そうでした。本気を出す為には赤い球状になる必要が在るのですが、それだと線を斬られかねませんので、姿はこのままで」
「なっ――、」


230 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/06(月) 02:41:11.45 ID:052uEvUSO

「出力は大分落ちますが、遠くから嬲り殺すには最適でしょう」

 先手を恐れてか、ふわりと宙に浮く古泉。
 そのまま俺の手の到底届き得ない高さまで上がると、いつぞやの時のように手の平に赤い光弾を創り出す。

「いきますよ――っふ!」

 あの頃よりは上達したのか、直接ビームのように弾を撃つ古泉。
 反射で避けてはみるものの、着弾点にはかなりの衝撃とコンクリートの破片が舞い、喰らえばダメージは大きいと容易に推測出来る。

「まだまだいきますよ!」
「畜生が――!」

 二発、三発と続けて放つ古泉。
 ワケのわからん力だろうと、所詮はエネルギーの塊。線は存在しているのでそれをカードで斬ってゆく。

「俺は伊達男じゃないんだが――!」

 段々と手数が多くなる。
 今はなんとかいなしてはいるものの、いずれ反応の限界が訪れ沈む事になる。
 古泉の陰湿さに舌打ちをしつつ、非常にまずいと客観的な意見を感じる。

234 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/06(月) 03:15:24.18 ID:052uEvUSO

 どうしようもないので、弾を殺しつつ場所を移動する。
 ここがいつも通りの閉鎖空間ならば、神人を倒してしまえば元の世界へ戻るはず。
 なれば神人を捜し、線を斬ってしまえば解決する。取り敢えずの目標は神人捜しと決める。

「どうしたんですか? さっきまで余裕だったのに急に逃げ出して」
「うるさいぞ古泉! 後でゆっくり殺してやるから黙ってろ」

 商店街を駆ける。
 見晴らしが良い場所に行かねば神人が何処にいるかわからないからだ。

245 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/06(月) 07:57:24.23 ID:052uEvUSO

 広い交差点に出る。
 辺りを見回すと、意気込んだ割には案外近くに神人は居た。
 少し前長門と行った図書館付近だ。
 だが近いというのは日常での話。この状況ではそれなりに遠い距離。
 赤い弾をいなすのも割と手一杯になってきており、地面に弾が当たり砕けた破片が体に襲い掛かる。
 ダメージは小さいものの確実に体力を奪っている。

「逃げ回ってばかりで貴方が何を企んでいるのか知りませんが、何をしようと全く関係の無い処刑方法を思いつきました」
「何をしようが全て殺し尽くすだけなんだがな」
「ふふ、流石の貴方でも全方位同時に対応は出来ないでしょう」
「!」

 瞬間、古泉の周囲に浮かぶ数十の光弾。
 にこり。と、並の女子なら黄色い声を上げかねない微笑みと共に、その全てが押し寄せ、回り込み、取り囲み、一つの必殺空間となって迫る。
 少しマズいかな、と思う暇も無しにその光弾の壁の一点に集中し、線を斬り穴を開け必殺の空間から跳び出す。
 前転気味に受け身を取ろうとする身体の背後で、大きな爆発が起きる。
 爆風に煽られもんどり打って転ぶ中、古泉の声が降りかかる。

「中々やりますね。ですが次は弾を一つ残しておき――、」

 古泉の右手が異様に赤色じみて光輝く。

「――貴方が抜け出した所を狙い撃ちにします」

302 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/06(月) 20:27:46.65 ID:052uEvUSO


「なっ、」

 死刑宣告にも等しい言葉。
 戦いでは制空権を握った方が勝つと言うが、今の俺の立場上、迎撃に使い得る武器が無い時点で負けは必至。
 これで弓やそれこそ拳銃でもあればまた違っただろうが、無いものをねだった所で状況は好転しない。
 故に、今できる事はたったひとつ。
 神人を消し、閉鎖空間を破壊し、古泉を殺す。
 3ステップの初め。神人を消さねばならない。

 神人まで直線距離で500メートルほど。
 近いがとても遠い距離。――だが、
 否。「だからこそ」辿り着ける。
 500メートルもある。その余裕から慢心が生まれる。
 決して無理。もし神人に辿り着いたとしてもそこで殺せばいい。その楽観視から綻びが生じる。

 そういった風に、古泉を誘う。
 必死に、怯えへつらうかのように逃げ出す準備は完了済み。
 後は足を動かすだけ

308 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/06(月) 21:27:44.11 ID:052uEvUSO


 ――征くぞ!
 心の中でゴーサイン。
 瞬間、躍動する筋細胞、駆ける両足。

「また逃げ回るつもりですか、懲りませんね」

 完全な無視を決め込み、余裕を持たない風を演出する。
 ただ神人のみを見据え、後から迫る弾幕は殺気を察知し避ける。

 ――速く疾く、ただ一直線に駆け抜ける。
 自然と体勢は倒れる程の前傾姿勢になっている。足音は何故かない。
 人として不完全な走り方は、しかし、殺人鬼へと堕ちた身にとっては心地好かった。

359 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/07(火) 06:37:42.29 ID:qjtHUAeyO

 走る。ただ駆ける。
 傍を通る光弾も、舞い散るガレキも、全てを意に介さず走る。
 頭が地面に付く程倒れ込み、残る距離は200メートルを切る。
 ――今、この時。どんな妨害も意味を為さない。
 俺にとってスピードとは、止まらない事だったからだ。

「いつまで逃げるつもりですか? 面倒ですね、神人に辿り着く前に殺しましょうか」

 古泉は何やらハイになっている。
 超能力モードになるとそうなってしまうのか、戦闘の雰囲気に当てられてしまったのか。おそらく後者だろう。
 個人的な俺への恨みもあるハズだ。森さんという仲間を殺そうとした俺への。
 俺が「こんなモノに」なる以前からハルヒ関係で迷惑を掛けっぱなしで、さらに今回古泉自身にまで凶刃が向いてしまったのだから、いくら元友人としても殺意を抱かざるを得ない。
 積もった鬱憤を殺意で発散させる。
 その姿が余りにも憐れ過ぎて、きっちりと殺してやろう。と、心に決めた。

395 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/07(火) 19:45:26.95 ID:qjtHUAeyO

 神人までもはや数メートル。
 脚に力を込め、一息に距離を詰める。
 しかし、

 ――ズキン。収まったと思っていた頭痛がぶり返す。

「く――そ、こんな時に!」

 ――ズキン。足は止めない。代わりに眼が霞む。

 15メートルはあろうかと云う光輝く巨人が図書館の屋根を破壊しようと拳を奮っている。
 その足元に着地し、神人の足首にかろうじて視える線に凶器を走らせ切断。
 いつの間にか古泉からの光弾は飛んでこない。疑問を覚えるが振り返る暇なぞ元々無いので目の前の作業に集中する。

 ――ズキン、

 脛、膝、腿。バランスを崩し倒れる神人の上に跳び乗り解体してゆく。
 しかし、あまりにも質量が膨大過ぎて作業は全く進まない。これでは古泉の光弾を喰らって終わりだ。

「ふふ、」

 そして、不気味に笑う古泉の声。



401 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/07(火) 20:09:00.46 ID:qjtHUAeyO

 ――ズキン、

「ふふふ、滑稽ですね」
「――っ!」
「いくらモノがちょっとばかし斬りやすいからといって、我々超能力者が数人の一斉射撃でようやく倒せるサイズの神人を殺す事なんて出来ませんよ」

 ――ズキン。視界が白一色に染まる。
 古泉の声が耳の奥に反響する。

「大体、閉鎖空間に招き入れたのは僕ですよ? その僕が神人の存在を忘れると思います?」
「……」

 古泉の演説が激しくなる。完全な興奮状態と、安全な絶対優位から為る慢心。
 そこまで俺が憎いか、古泉よ……

「つまり、この閉鎖空間に侵入った時点で貴方の死は確定していたんですよ。後はじわじわと嬲り殺しに……っと!」

 まだ痛ぶる気なのか、二三の光弾がこちらに向かう。

 ――ズキン。

 脳髄に広がるような痛みを圧し、無理矢理身体を動かし避ける。その先にあった図書館のレンガが爆砕された。


402 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/07(火) 20:26:13.79 ID:qjtHUAeyO

「ここまで来たら消耗戦ですね。ふふ、まあ貴方が一方的に消耗するか否かなんですけれど」

 尚も飛んで来る光弾三発。
 もはや為す術もないのか……?

 ――ズキン。

 死の危機かはたまた頭痛のせいか。視界の総てがスローモーション。思考が肉体を超えてフルで稼動する。
 ――本当に、何も出来ないのか?
『否。断じて否。オマエにはまだ出来る事があるだろう?』
 頭蓋骨の中でナニカが喋る。

 ――ズキン。頭痛がその声に脈動する。



405 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/07(火) 20:57:21.32 ID:qjtHUAeyO


『オマエは死の表面しか見ていない。死の本質、死「そのもの」を視極めろ』

 ――ズキン!

 すう。と、頭が冴える。ソレは夢か現か、死の間際の妄想か。何だっていい。ただ唐突にこの『眼』を理解する。
 理屈ではない、本能で。

――視てやろうじゃあないか。死とやらを。

 視界が晴れる。頭痛もいつの間にやら綺麗に消えている。
 飛んで来る光弾は未だスローで線も健在。ただひとつ、違うところは――、

 ――点。線を束ねた様な、漆黒で吸い込まれるかの様な、点。
 それが視界のかしこに文字通り点在していた。
 これが、死の本質。死そのもの。

 一つの区切りかのように眼を閉じ、開ける。瞬間、速度を取り戻す世界。
 何も変わっちゃいない。
 飛び荒ぶ光弾も、古泉のニヤケ顔も、足元で倒れている神人も、何も変わってはいない。
 俺の頭の中身以外は。

408 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/07(火) 21:41:00.20 ID:qjtHUAeyO

 早く新技を試したいという欲求に素直に従い、飛び来る弾の点を突く。
 ヒュボッという音と共に光弾は消滅する。
 これまでのような霧散でも分断でもなく、消滅。
 余りの素晴らしさに思わず口笛を吹いてしまう。しかし古泉には違いが解らかったのか、相変わらずニヤニヤしている。

「案外粘りますね。いつまで続くんでしょうかねえ」

 ウザい。ウザすぎる。
 一つ、びっくりさせてやろうか。
 ニヤニヤと喋り続ける古泉を尻目に、足元に転がる神人の、脚の付け根に存在する点を突く。

「――に逃げ場は無……!?」

 神人は消滅し、塵芥のような、神々しい光る埃のような物体が辺りを漂う。

460 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/07/08(水) 02:41:15.66 ID:LfPufVDfO

いーちゃん「君のところのメイドは駄目だ。まず、お茶汲むくらいしか出来ないってのはなんだ。
メイドというのはどれだけ幅広く御主人様に奉仕出来るかがメイドのメイドたる存在意義、あれじゃただのコスプレだな。全く響かない」

キョン「やれやれ、機能美ばかりに捕われて真のメイド心を見失っているようだな。メイドとは最早現代では御主人様が愛でるべき存在、そこに愛おしさがあればお茶を汲むだけで御主人様は喜びを覚える。
その時点で奉仕は成立してるんだよ。そして、その愛おしさを最大限に放出しているのが朝比奈さんなんだよ」


いーちゃん「詭弁だな、僕には君がただ、好みの女性にコスプレさせて喜ぶ変態としか思えないぜ」
キョン「変態の何が悪い。そしてあれが、朝比奈さんのメイド姿が、ただのコスプレだと思えば大間違いだ。彼女にはメイドとしての素質は既に備わっている」


みくる「お茶をどうぞ」
ひかり「あら、どうも」


森さん「あらあら」
あかり「うふふ」


長門「………」
てる子「………」

463 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/08(水) 03:13:52.06 ID:LfPufVDfO

いーちゃん「聞いたか? >>461を、やはり歴史を重ねたメイドは格が違うということなんだよ、圧倒的経験値の差、オーラの違い。これでも解らないのかい」

キョン「……だが、やはり愛は捨てきれん。愛し愛されがメイドだろうメイドは職業なんかじゃない。生き様なんだと俺は思うんだ。仕事ではなく、奉仕なんだ。そこには愛は必要だ」

いーちゃん「君は四神一鏡の一角である、名家中の名家、赤神家のメイドをなんだと思っているんだい? 何でも出来て全てがトップクラス。この素晴らしさが解らないというのか」

キョン「ぐう……、だが、俺の朝比奈さんへの愛は本物だ。メイドの、奉仕という面では負けても、これだけは負けてたまるか……っ」

いーちゃん「ああ、負けを認められるというのは素晴らしいことだ、立派な勇気だ。負けを認める勇気。だが、僕のひかりさんへの感情は愛ではない……」

キョン「な……、メイドを愛さず、何が御主人様だというんだ! 愛でられ愛でる、それがメイドと御主人様ではないのか!?」

いーちゃん「それが駄目なんだよ。いいかな? 僕の場合はメイドを、ひかりさんを、尊敬しているのだよ」

キョン「……なん、だと」



古泉「やれやれ……平和なものですね」

人識「おいおい、あんた……なんでオセロで全面一色負けしてんだよ……初めて見たぜ」


ひかり「お茶を煎れるときはですね……」

みくる「ふえー。なるほど……」

長門「………」

てる子「………」

464 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/08(水) 03:38:21.44 ID:LfPufVDfO

キョン「尊敬……なんと……尊敬か……」

いーちゃん「確かに、そこに至るまでには愛も必要だろう。時には愛で、時には愛でられることもあるかも知れない。
そう、だから君は朝比奈さんを愛しても構わない、だが一つ言わせて貰おう、僕はメイドを人で、見たり選んだりしない。僕が愛でるのは人ではなく、君の言う、メイドという生き様、これを愛しているのだよ」

キョン「生き様を……愛す。いや、つまりそれは……メイドという生き様をしている全ての人を、愛している……と……」

いーちゃん「解ってきたようだね、そう、それこそ愛を越えた、尊敬、メイドに全信頼を置き、メイドという全ての生き様を愛した結果辿り着いた答……」

キョン「……嗚呼、駄目だ。はっきり解りました。俺は、貴方には、到底敵わない……。俺が愚かでした。これからは、俺も、生き様を愛でることの出来る人間になります……!」

いーちゃん「いいさ、人の生き様は無限にある。僕の言った全てが正しいだなんて補償は何処にもない、小さな戯言なのだから、だが、ただ知っておいて欲しかっただけなのさ……メイドの素晴らしさ。その全てを、信じる心を」

人識「の割にはお前すぐ裏切るけどな」

古泉「あなたも、自分の発言がどれだけ人に迷惑をかけるか考えるべきですよ」

キョン、いーちゃん「…………」

467 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/08(水) 04:22:52.75 ID:8S668KIyO

いの字「メイド? そこにおわす、朝比奈さんの姿格好。それが奇しくも中世イギリス最大である文化の結晶、メイドだって?」

キョン「ああ、そうだ。可愛らしいだろう」

いの字「駄目ですよ。あなたは何もわかっちゃあいない。ミニスカートを穿いたメイドなんて、ただの性欲の対象でしかないんだ」

キョン「あんたは何を言い出すんだ!」

みくる「ふええー」

いの字「何をって、事実をですよ。いいですか? メイドたるもの紺のロングスカートだと決まっているんです。
    それを、やれミニスカだ、ゴスロリだ、フリフリだって、舐めてんのかこの僕を――!」

キョン「!」

いの字「メイドと云うのは家事を基本として、接客や雑事を仕事とするんですよ? それをミニスカートって、汚れが飛ぶし客人の眼を引いてしまったりしたら本末転倒。
    あんなもんは邪道ですよ。コスプレに過ぎないんです。メイドをメイドたらなくしているのは、一重にミニスカートです
    本当にメイドなら、紺もしくはワインレッドでチェックが入ったロングスカートに、白いフリフリは最低限のエプロンのみ。それが基本なんですよ。理解してくれますか?」

ながと「わわっ、いーくんが怒ったよっ珍しい! 普段全く怒らない凄いおとなしい人、ただし植物状態。みたいなっ」



468 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/08(水) 04:25:09.84 ID:8S668KIyO


 閉鎖空間は、消えない。

「……何をしたのかは知りませんが、史上最大規模の閉鎖空間ですよ。神人を一体殺したところで、まだ何体か別の場所に居る奴らも殺さなければ閉鎖空間は消えません」
「なるほどな」

 流石に何か予想外な事が起きたと理解したのか、古泉の顔に若干の焦りが見える。

「何を余裕ぶっているんですか! 神人は元より数体います。やはり最初から貴方に勝ち目は無いんですよ
 それとも、諦めがついたのですか?」

 にたり。と笑いを取り戻す古泉。戦闘の興奮で頭に花が咲いたのか知らんが、それはとんでもない勘違いだ。

「まあ、そうかもな」
「ふふ、そうですか。ならばお望み通りっ――!」

 古泉の眼に狂喜の炎が宿る。この瞬間を心待ちにしていたのだろう。俺を殺す、瞬間を。
 両手に十数の光弾を纏わせ、叫ぶ。

「――殺してあげましょう! ……っふ!」

 飛び交う段幕。
 四方八方、上下十方より絶対不可避の弾の壁が押し寄せる。
 古泉必殺の、逃げ場のない赤い光弾で構成された惨殺空間。
 俺の周りを取り囲み、視界が赤に染まる。
 ――嗚呼、滑稽過ぎて笑いが漏れちまう。

501 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/08(水) 19:05:54.39 ID:8S668KIyO

 怒涛の勢いで迫り、俺を爆砕せんとす素晴らしき惨殺空間。
 まず逃げ場なんてものはなく、結果としてただ死を待つのみの一種の閉鎖した空間。
 ――だが、
 結果がただ一つに決まってしまった、待つのは死のみと云う『概念』に成り果てた惨殺空間は、殺せる。
 死と云う概念は則ち生が存在しないと定義出来ない。
 生きては出られない段幕の壁を、しかし必ず存在する生をこじ開け、抜ける。
 点を、突く。

「――っ!?」

 その瞬間、光弾数十が消滅する。
 宣言通り赤い弾を一つ、その手に残したまま、古泉が信じられないという顔をして突っ立っている。
 ざまあないな、古泉よ。
 口の端を釣り上げ、ニヤリと嘲ってやる。

「なっ、一体、一体なんなんですか『ソレ』は――!」

 数を撃てば当たるかのように、がむしゃらに弾幕を張る古泉。
 しかしそれを放った刹那、俺は予め検討を付けていた『点』を思い切り突き刺す。

508 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/08(水) 20:32:50.46 ID:8S668KIyO

 則ち、閉鎖空間そのものの点。

 それは、神人の居た部分に在った。
 閉鎖空間の線自体は、地面を這うように走っている。地脈、あるいは地下水脈のように。
 その線が交わり、集まり、集中してゆく点。そこに神人が生まれるのだろう。
 つまり閉鎖空間における線とはハルヒのストレスで、それが集合した点から神人が耐え切れず出現する。奇しくも古泉の仕事を手伝ったワケだ。
 文字通りストレスを「発散」させてやった事により、ガラスが割れるかのように閉鎖空間は消滅してゆく。
 それと同時に、閉鎖空間内限定だった古泉の超能力、光弾も霧散。後に遺されたのは俺と、絶望した表情の古泉のみだった。



513 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/08(水) 21:16:15.33 ID:8S668KIyO

「――で、何だ? 閉鎖空間におびき寄せたからお前の勝ちなんだよな?」
「有り得ない、閉鎖空間が破られるなんて、そんな事が」

 成る程、こいつは楽しい。古泉が演説をする気持ちがよく分かる。
 敗者を見下す事のなんと快い事か。

「お前さあ、死を視るって事を理解してないんだよ
 物が斬れ易いだけだと勘違いしてないか? 違う、殺すんだ。跡形もなく、空間、概念、存在さえも全てな」
「そんな……そんなのって、卑怯じゃないですか」

 まあ、俺もさっき気づいたんだが。とは口には出さない。

「卑怯? 卑怯だよ、元からな。それでこその零崎、それでこそのハルヒだ。それに、
 ――それを言ったらお前だって卑怯だろ?」
「ふふっ、言うじゃないですか」

 俺のように隙を突かれたらまずいので、もう簡潔に終わらせる事にする。

「お前等機関の人間はハルヒを神様とした一神教だろ? 何か言う事はないんか?
 神様にお祈りは? 暗い路地裏でガタガタ震えて命ごいをする心の準備はオーケイ?」


514 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/08(水) 21:17:52.38 ID:8S668KIyO

「もう諦めましたよ。貴方とは良い友人でした。一思いにやっちゃって下さい」
「なら、何か言い遺す事は」
「恨みますよ――、」

 遊び半分で聞いたつもりが、頭にガツンと衝撃が走る。最後の最期にやられた――。

「――恨んで、貴方を苦しめます。一足先に。常世の彼岸で、怨みつづけます」
「それで、充分か?」
「ええ」
「そうか」


 余りにあっけない、幕切れ。
 生まれて初めての自主的な殺人は、しかし蚊を殺すよりも簡単で、素っ気なかった。
 朝比奈さんの時とは違う。首を落とし、膝から崩れて鮮血を零す古泉を見て、普通の人間と変わってしまったと実感する。
 俺は手に入れてしまったのだ。

 ――生きていれば、神さえも殺せる能力を。

 そして、俺は生きた神様を一人知っている。
 口元が緩む事を、自分でも感じていた。

532 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/08(水) 22:50:11.61 ID:8S668KIyO

 場所は変わってキョンと人識の出会った殺人現場。

「あれ、人識さんも終わったんですか」
「かなーり前にな。待ちくたびれちまったぜ」

 後方に目を向けると、脚を失って美しくなった森さんがいる。

「森さん、生きてますね。やっときましょうか?」
「俺が殺さなかったんだからいいんだよ。赤い姉ちゃんに殺すなって言われてるし
 それに、元から俺ぁタイプの女は殺さない主義だからな」
「成る程、人識さんがそう言うなら、まあ気にしませんが」

「ところで、ワケわかんねーパワーアップ成し遂げたな、弟よ」

 目つきが鋭く、さっきまで呑気してた人識さんとは別人のように、スイッチがきりかわった。
 そこまで、ヤバい力なのかコレは。

「ああ、眼の事ですか。レベルは上がりましたけどね」

 興味本意で人識さんの死を見据える。
 右腿、左脇腹、顔。三日月の、中心。

540 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/08(水) 23:28:05.24 ID:8S668KIyO

 彼程の人間でも死ぬ事が有るのか、と安堵に似た気持ちを抱く。と、

「その眼、止めろ」

 お叱りを受けてしまう。

「カンに障るな、その眼。さっきまではそんな事なかったんだが。見透かしてる感じが最高に素敵でムカつくぜ」
「いや、自分で止められないんで」
「はっ、お前が視てんのは最高級のプライバシーだぜ? ヒトゲノム並の個人情報だ」
「でも、故意じゃないんですよ?」
「覗かれた方に故意も偶然もあるかバカヤロウ!」
「すみません!」

 少し納得いかないが、あながち間違いでもないので仕方がない。



541 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/08(水) 23:29:04.22 ID:8S668KIyO


「ところで、いつまでこの街に?」
「ま、この街は何か『臭う』からな。妹の手掛かりもありそうだし暫くは滞在するだろーな
 いや、いつもながらでいくと滞在『させられる』ってトコか」
「そう、ですか。実は奇怪な人間を数人知っているんですが……」
「詳しく言え。出来る限り綿密にな」

  ――実は、俺の友人に『神様』が居るんですが……


 ――宴はまだ続く。何故なら、零崎はまだ始まったばかりだからだ。
 今、かたや漆黒の無邪気な殺人鬼と、かたや無色の飄々たる殺人狂が解后を果たした。

 そして、狙ってか否か。間もなくこの街に迫り来るのは、目にも鮮やかすぎる、暴虐無尽たる――鮮辣な、赤。

 何かが、起ころうとしていた。

542 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/08(水) 23:30:50.97 ID:8S668KIyO

やったッ! 第一部完!

547 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/08(水) 23:35:06.23 ID:8S668KIyO

二部は……まあ、パソコンで書き溜めたらスレ立てます……4日?くらいスレ立ってますね
携帯で書くのは凄く難しいです。そして遅漏です。文章を見直せないから変な日本語になります。
もはやこのスレすでに黒歴史です

549 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/08(水) 23:41:43.14 ID:8S668KIyO

スレは使いたいなら戯言小説スレにしてもいいです。
二部(?)は今書いてるサンホラSSをやったら書きます。
つまりいつになるかわかんないです。

長い間保守してくれた人ありがとう。正直50位で落ちるかと

以上で、終わります。

553 名前:永久立体 ◆Lc7XRBz9Bk [] 投稿日:2009/07/08(水) 23:52:19.75 ID:8S668KIyO

トリこれで



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