佐々木「・・・。ペラッ」長門「・・・。ペラッ」キョン「・・・。」


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3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/06/24(水) 20:27:31.47 ID:7slR7lpa0

それは秋もいよいよ深まりを見せ始めた11月のある日の事だった。

パタン。

長門が本を閉じる。それが何を意味するのか分からないメンバーは最早いない。
その証拠に朝比奈さんはお茶道具をいそいそと片付け始め、
俺の対面に座る古泉はボードゲームをしまう。もちろん今日も俺の勝利に終わったのだが・・・。

そんないつも通り過ぎる放課後。
しかしハルヒの放った一言はいつもとは180度違うものだった。

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/06/24(水) 20:28:12.33 ID:7slR7lpa0

「そういえば、今週末の不思議探索はないから」

朝比奈さんがきょとんとした顔でハルヒの方に振り向く。
俺もしかり。長門はちらりと我らの団長様を見ている。

「ほう、何かご用事でもおありですか?」
「そうなのよ。両親とちょっと出かけなくちゃいけないのよね」

それは、また珍しいな。

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/06/24(水) 20:28:55.41 ID:7slR7lpa0

「まあね。あ、ちなみに金曜の学校が終わったら団活出ないで帰るから、古泉くん、鍵閉めよろしくね」
「かしこまりました。その任務、謹んでお受けします」

古泉よ、お前はいつもなんでそう大仰に物事を言うのかね。

「おっと、僕らがいては朝比奈さんが着替えられませんね」
「そうだな。さっさと退室するか」

すいません、と頭を下げ、申し訳なさそうに言う朝比奈さんに
いえいえと手を振りながら部室を後にし、廊下で待機する。

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/24(水) 20:30:23.95 ID:7slR7lpa0

「古泉」
「なんでしょう?」
「さっきのハルヒの用事とやらは――」

ええ、といつもの営業スマイルを振りまきながら

「特に問題はなさそうです。閉鎖空間が出るような事はないでしょう」

さらっと言ってのける。涼宮家のプライバシーもプライベートもあったもんじゃないな。
その辺は軽く同情しないでもない。

などと話していると部室から女性陣のお出ましだ。

「さっ、帰るわよ」

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/24(水) 20:31:04.87 ID:7slR7lpa0

そして金曜夜。

さて、明日はなにをするか・・・。
というか週末に何も予定がないって久しぶりじゃないのか?
うーむ。せっかくだし最も贅沢な時間の使い方をしようか。
そう、寝て過ごす。これに限る。


8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/24(水) 20:31:46.66 ID:7slR7lpa0

しかしそんな俺の願いを文字通り容易く蹴破ったのは妹だ。

「キョンくーーん! 朝だよ! 起きてー!」

ああ、うるさい。今日は起きる必要がないんだ。ほっといてくれ。

「おかーさんが、朝ごはん食べちゃいなさいって言ってるよー?かたづけるからーって」

それはちと困る。仕方ないな。
ところでお前は今日、何も予定がないのか?

「んーん、今日はミヨキチとミヨキチのおかーさんと一緒にお出かけだよー」
「そうか、気をつけて行ってこい。あちらのお母さんを困らせるんじゃないぞ」
「はぁい」

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/24(水) 20:32:32.50 ID:7slR7lpa0

つまりこれで俺の惰眠を妨げるものは何1つないという事か。
などと考えながら味噌汁をすする。はぁ。日本人の朝はこれに限るな。

「じゃあいってきまぁす!」
「おう、いってらっしゃい」

さて、うるさいのがいなくなったところで部屋に戻るかね。

窓の向こうに気持ちいいくらいの青空が広がっている。秋晴れってやつだ。
つい誘われてカラカラと窓を開けてみる。

さぁっ。

おお、風がなんとも心地よいじゃないか。
そして部屋に入る日差しの暖かさ。
布団はまだ俺のぬくもりを保っていた。うむ、大儀であった。

あー、最高だ。こりゃ素晴らしい2度寝が期待できそうだ。

目を閉じると俺の意識はあっという間に深い闇の底に落ち熔けていった。

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/24(水) 20:33:54.26 ID:7slR7lpa0

さぁっ。

布団の中より少し冷たい風が頬をくすぐる。
俺としてはこれ以上の組み合わせはないのだ。
雪が降りしきる中で入る露天風呂のようなもの、と言えばご理解頂けるだろうか。
単に暖かい部屋で温かい布団の中にいるのは、サウナの中で煎茶を飲むようなものさ。

と、なんの脈絡もなく思考が働くこと自体、意識の浮上を意味する。
風のせいだろうか、と深く考える間もなく、あー寝よ寝よ、などと意識をまた落とそうとした時であった。

ペラッ

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/24(水) 20:34:41.88 ID:7slR7lpa0

・・・ん? なんだ、今の紙がめくれるような音は?
カレンダーか?それとも机の上の教科書が風に吹かれてページをめくっているのか?

ペラッ

何かおかしい。それに人の気配がするような気がしなくもない。

「――ん、ん?」
「おや、ようやくお目覚めかい、キョン」

くつくつと喉を鳴らして笑う声。って、おい!

「佐々木――それに、長門まで!? な、なにしてんだ!」
「ご挨拶だね、キョン。見て分からないかな、読書だよ」
「確かにそれは見れば分かるな。愚問だった。質問を変えよう、2人ともどうしたんだ?」
「君はつれないな。女の子2人が部屋にいるのにそんな事を聞くのかい?」
「ええい、はぐらかすな」

また佐々木は、くつくつと笑う。寝ぼけていた頭が一気に覚醒した。

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/24(水) 20:35:26.01 ID:7slR7lpa0

「僕は長門さんに誘われて来ただけだよ。ねえ、長門さん?」
「そう」

長門が?一体なんでまた――。

「今日は団活がない。貴方は家にいると確信していた」

いや、俺が聞いているのはそういう事じゃないんだ、長門よ。

「?」

そこで首を傾げられても困る。
この超高性能ヒューマノイドインターフェイスは時々ニュアンスを汲み取ってくれないのが難点だ。

「邪魔だった?」

だから、違う。そういう事じゃないんだ。

「ではなぜ?」

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/24(水) 20:36:16.23 ID:7slR7lpa0

ああもう、なんて説明したら良いんだと言葉を選んでいたが、
そこでとうとう佐々木が我慢しきれなかったように吹き出して笑った。

「佐々木、お前この状況を楽しんでやしないか?」
「うむ、その通りだ。よくわかったね、キョン」

わからいでか。

「僕から経緯を説明しようか?」
「是非そう願いたいね」

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/24(水) 20:37:00.04 ID:7slR7lpa0

佐々木の説明はこのようなものだった。

昨夜、長門からメールにて明日――つまり今日だ――の団活がない事を知らされた。
メールの中で長門は、高確率で俺が自宅にいるであろう事が予想される旨を通告。
佐々木は速やかに我が家の急襲作戦を立案。二の句もなく長門もそれに同意。
そして今朝、長門は俺が自宅にいる事を感知。
連絡を受けた佐々木はただちに作戦の実行にうつった。という次第らしい。

「で、それは分かったが、なぜ俺の家を急襲しようなどと思ったんだ?」
「ちょっと驚かせてみようかと思ったのさ。それとも、本当に邪魔だったかな?」
「ったく、意地の悪いヤツだ。そんな訳はなかろう。単に不思議に思っただけさ」
「くっくっ、それを聞く君こそ意地が悪いと僕は言うね」

ん、そういえば母親がいなかったか?

「ああ、いたとも。この部屋まで通してくれたのは他ならぬ君の母君だからね。」

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/24(水) 20:37:41.17 ID:7slR7lpa0

そりゃそうだ。いくらなんでもこの2人が知った仲とはいえ他人の家に忍び込むような真似を
するとは考えられない。そんな常識も良識も欠如してるのはどこぞの団長様くらいだ。

「しかし、悪いが何も俺はもてなしができんぞ?」
「良いんだよ。そのためにこうして2人とも本を持ってきたんだ」

確かに2人の手には凶器にできそうなハードカバーの分厚い書籍がのっている。
あんなに重そうなのに小さな手でよくも持てるものだ。

「じゃあ、何か? 本当に読書をするためだけに、わざわざウチに来たってのか?」
「ああ、そうだよ」
「そう」
「じゃあつまり俺は―――」

特に何もすることがないのか。

「ってなんじゃそりゃ!」
「くっくっ、君も何か本を読んでみてはどうだい?読書の秋と言うじゃないか」
「ふむ」

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/24(水) 20:38:47.46 ID:7slR7lpa0

それも悪くはない。

「っと、来客なのに俺がパジャマのままというのはどうにも落ち着かんな」
「そうかい? 僕は初めて見るからなかなか新鮮だよ」

いや、そういう訳にはいかんだろう。

「・・・で、着替えようと思うんだが」
「うん、どうぞ」
「そう」
「待て待て。花も恥らうとは言わないがさすがにそれはなかろう」
「それは君が恥じるという事かい?それとも僕たちの事を考慮しての発言かい?」

両方に決まっている。

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/24(水) 20:39:32.32 ID:7slR7lpa0

「長門さん、彼はこう言っているが構うかな?」
「構わない」

即答ですか。いや、だから俺が気にすると言うに。

「見られて恥ずかしいような体つきには見えないが?」
「同感」

だからそういう問題じゃないだろう。
さっきから朧気ながら分かりかけていたのだが

この2人、相手にまわすとかなり手強い。ハルヒとはまた違う意味でだ。
三国志で言うならハルヒが呂布、この2人は諸葛亮孔明と司馬懿と言って良いだろう。
それに比べて俺の凡庸なことと言ったら・・・。

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[支援ありがてえ] 投稿日:2009/06/24(水) 20:40:48.50 ID:7slR7lpa0

「で、着替えないのかい?」
「早くするべき」

どうしても部屋から出て行かないってんなら俺にも考えがあるぞ。佐々木、長門。

「おや? 怒らせてしまった、か・・・」
「覚えてろよおおぉぉぉ」
「な・・・え?」

言うやいなや俺は着替えを片手に部屋から脱兎の如く飛び出した。
ああ畜生。なんで部屋の主が着替えをするのに部屋から出ねばならんのだ。
半ば乱暴に、半ば捨て鉢にドアを閉める。

部屋の中から佐々木の笑い声が聞こえてきたような気がするがここは徹底無視だ。
俺は足早に1階の風呂場の洗面所兼更衣室へと駆け込み、服に着替えた。

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[でもあっさり終わるぜ!ぜ!] 投稿日:2009/06/24(水) 20:41:33.76 ID:7slR7lpa0

「ふう」

着替えを済ませてトイレから出ると、ふと気づく。母親が、いない?
かわりにテーブルの上の置き手紙と壱万円札が目に入った。

『キョンへ 二股はダメよ 夜まで出かけます ご飯はこれで 母より』

・・・母上、あなたは何か著しく勘違いをしておられるようです・・・。
しかしまあ、この厚意はありがたく頂戴しておこう。感謝感謝。

さて、さすがに何も出さない訳にはいくまい。
冷蔵庫を開けるといかにも無難にりんごジュースがあった。
特にお菓子は見当たらないが、まあ仕方ない。
予告しておいてくれればポテトチップスなりなんなり準備しておくものを。

ジュースを3人分、コップに注いで盆に載せ、自分の部屋へと戻る。

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[書き溜めは最後まで。] 投稿日:2009/06/24(水) 20:42:38.37 ID:7slR7lpa0

「ただいま―――」

「―――って、何してんだ!」
「やあおかえり、キョン」
「おかえり」

俺のベッドの上に長門と佐々木がいる。
長門はちょこんとベッドの端に座っているのだが、問題は佐々木だ。

「・・・俺が言うのもなんだが、汗臭いだろうし、あまり清潔でもないぞ?」
「くっくっ・・・いや、なかなかどうして、悪くない寝心地だよ。」

完全にリラックスしている。俺のベッドの上でうつ伏せになって肘を立てて本を読んでいる。
それもスカートで、だ。佐々木はこちらを向いているからその中身が見える事は万が一にもないと思うが
にしたっていささか無防備すぎやしないか?

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/24(水) 20:43:19.50 ID:7slR7lpa0

「ベッドの上にはジュースは置けないから、俺の机の上に置いてお・・・おい、ちょっとまて!」
「ん?どうかしたかい?」
「なに」

俺のマル秘印の書籍がなぜここに!ベッドの下などという定番過ぎる場所には隠していない。
母親にも妹にも見られたらマズイからだ。しかしそれが今ココにある。

「一応、聞くぞ」
「なんだい?」
「なに」

佐々木は案の定ニヤニヤしてやがる。長門は・・・心なしか楽しそうだ。

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/24(水) 20:44:08.90 ID:7slR7lpa0

「これはどうやって掘り出した」
「貴方の部屋の情報分析はすでに完了している。造作もないこと」
「だそうだよ、キョン。くっくっ」

あーなんか頭痛くなってきたぞ。

「読書の秋だからと言ってそのような本をここで読むような真似はしないだろうね?」

くつくつと笑いながら、そして実に楽しそうに訊ねてくる。
する訳あるか。誰が好き好んでこの状況でそんな真似を・・・。

しかし長門にはこの部屋の全てを把握されてしまったのか。
今ならハルヒの置かれた状況を心底可哀想だと思えるね。

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/24(水) 20:44:54.47 ID:7slR7lpa0

「とは言え、何を読もうかな。家にある本は大方読みつくしてしまったからな」
「ほう、そうなのかい?」
「ああ。もともと俺はインドア派だ」
「―――なら」

と長門はベッドから降りると自分のカバンに手をかけた。

「これを読んでみて」

そう言って手渡されたのはやはりこちらも鈍器として通用しそうなハードカバーの本だった。
タイトルから察するにSFファンタジー系のようだ。

「おう、ありがとな。ありがたく読ませてもらうよ」

長門は小さく頷くとまたベッドにちょこんと座る。
さて、とここで困ったのが俺の座るべき位置だ。

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/24(水) 20:47:00.90 ID:7slR7lpa0

前述のようにベッドは長門と佐々木に占領されている。
となると勉強机の椅子が無難ではあるか・・・。

「キョン、そんなところでどうしたんだい?」
「いや、どこに座ったものかと決めかねていてな。」
「ああそうか・・・ベッドは僕たちが占領してしまっているからね」
「そういうことだ」

まあ床でも構わないか。背もたれがないのは少々厳しいが、この際贅沢は言ってられんだろう。

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/24(水) 20:47:42.83 ID:7slR7lpa0

「キョン」
「ん?」
「はい、どうぞ。」
「え?」

そう言って佐々木はその細い身体をベッドの奥へとずらした。

「佐々木、すまん。どういうことだ?」
「確かに僕はベッドの上にいるが、君のベッドの全ての面積を覆うほどではない。
 これなら君も横になって読書にいそしむ事ができるだろう?」

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[さくっと終わらせるからね!] 投稿日:2009/06/24(水) 20:48:54.43 ID:7slR7lpa0

確かにそれはそうかもしれんが・・・。
と、長門がこちらを向く。

「どうした、長門?」
「どうぞ」

そういってベッドをぽふぽふと叩いている。え?催促されてる?

「長門さんもこう言っているんだ。女性に恥をかかせるのはあまり感心しないな」

その日本語の使い方は少し間違ってやしないか? などという疑問があるが
どうやら断れる雰囲気ではなさそうだ。

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[さくっと終わらせるからね!] 投稿日:2009/06/24(水) 20:50:02.94 ID:7slR7lpa0

「じゃあすまないな、失礼するぞ」
「くっくっ、元々ここは君のベッドなのだがね」
「今の主人は佐々木と長門さ」

ギシッと音をたててベッドに乗る。

「いらっしゃい」
「なんだそれは」
「さあね、なんだろう」

そう言うと佐々木は視線を本に戻す。
他人、しかも異性と同じ布団の上にいるのは当たり前ではあるが経験がない。

だからしてここで変にあたふたしたり、挙動不審な真似を取ってみろ。
長門からすぐにSOS団の面々に言いふらされてしまうやもしれん。
最近は口数も増えてきたからな・・・。いや、それは良い傾向なのだが。

少なくとも表面上は冷静を装い、長門に渡された本を読み始める事にした。

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/24(水) 20:51:05.33 ID:7slR7lpa0

暖かい日差し、爽やかな風、そして居心地の良いこの部屋。
そう、俺はこの部屋にこの上ない居心地の良さを感じていたのだ。

もちろん自分の部屋なのだから、最もリラックスできて当たり前ではある。

しかし、こうして客人が2人、それも同年代の異性がいるという状況で
こんなにリラックスできるものだろうか?その事に俺は少々驚いていた。

この2人だから、なのだろうか?ハルヒと朝比奈さんだったら?
考えてもわからないから考えないけどな。

そうしてどのくらい時間がたっていたのか。

ぐう。

静寂に急ブレーキをかけたのは他ならぬ俺の腹の虫だ。


35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/24(水) 20:51:47.08 ID:7slR7lpa0

「くっ・・・くっくっくっ」
「あー・・・」

いかにも罰が悪い。ふと時計に目をやるともう12時も30分も回っていた。

「もうこんな時間か」
「早いものだね」

読書は休憩にして昼飯でも食べるか。
うちの母親がお金をおいてったから何か頼むか?それとも外食するか?

「いや、それには及ばないよ、キョン。お金があるのは良いことだが、あるもの全て使う事はない」
「ん、じゃあどうする?悪いが俺はあまり料理が得意では―――」
「くっくっ、キョン、僕のカバンを見たまえ。読書するだけにしてはやや大きすぎやしないかな?」

言われてみると確かに大きい。

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/24(水) 20:52:27.91 ID:7slR7lpa0

「君の先輩である朝比奈さんには遠く及ばないだろうが、準備してきたんだ」

なんと。佐々木はベッドからゆっくり降りてカバンを開けた。
出てきたのはバスケットだ。

「このテーブルの上に広げても構わないかな?」
「ああ、それは問題ないが―――」
「では失礼するよ」

バスケットの中に入っていたのはサンドイッチとから揚げ、それに厚焼きたまごだ。

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/24(水) 20:53:09.25 ID:7slR7lpa0

「こりゃまたずいぶんなご馳走じゃないか。佐々木が作ってきたのか?」
「ああ、そうだよ。驚いたかい?」
「まあな。お前の手料理なんて初めてだ」
「そういえばそうだったね。君の口に合うと良いんだが」

そう言う佐々木の頬に少し朱が走っていたように見えたのは目の錯覚だったであろうか。
と、長門は興味深そうにじっとバスケットの中身を見ている。

「なんだ長門、腹減ってるのか?」
「おいしそう」
「そうだな、ありがたく頂くことにしようか」

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[さる出たら仕方ない] 投稿日:2009/06/24(水) 20:54:19.90 ID:7slR7lpa0

サンドイッチの具はバリエーション豊かだった。たまご、ポテトサラダ、ハムとトマトとレタスなどなど。
長門は、佐々木に美味しいかなと聞かれると、サンドイッチを咀嚼したままこくりとうなずいた。

「どうだい?」
「ああ、うまいな。このから揚げは・・・なんか良い香りがする」
「分かるかい? 鶏肉の下味をつける時に柚子胡椒を入れてみたんだ」
「柚子か、なるほど。爽やかな香りがしてなかなか良いもんだな」
「何よりだよ」

などと昼食に舌鼓をうっていると瞬く間にバスケットの中身が減っていく。

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[支援が少ない=そゆ事] 投稿日:2009/06/24(水) 20:55:01.46 ID:7slR7lpa0

「―――長門よ」
「はひ」
「・・・飲み込め」

こくんと口の中に詰め込んだサンドイッチを胃へと押しやると長門が

「なに」

と真面目な声と顔で言い返してきた事につい吹き出してしまう。佐々木も同様だ。

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[支援が少ない=そゆ事] 投稿日:2009/06/24(水) 20:55:47.02 ID:7slR7lpa0

「あまり食べ過ぎるなよ? 俺だって食べたいんだ」
「そう」

しかし長門は止まらない。もぐもぐと頬張り続ける。そして厚焼き玉子を飲み込んで一言。

「早い者勝ち」

そう言って次はから揚げに手をのばす。
よろしい。ならば戦争だ。

43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/24(水) 20:56:42.16 ID:7slR7lpa0

俺は長門に負けじとサンドイッチとから揚げを取り、あまり噛む事もないまま
りんごジュースで流し込む。

「くっくっ、まるで子どもだね、2人とも」

ため息混じりの声だったが、その視線はどこか柔らかく、温かく思わずその笑顔に見ほれてしまった。

「隙あり」
「ぬあっ! 最後の玉子焼き!」

長門の表情が――目が、口元が――なにか楽しそうに見えたのはきっと間違いではあるまい。
それに免じてその玉子焼きは、まぁ、ゆるしてやるとするか。

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[>>42 IDがERO] 投稿日:2009/06/24(水) 20:57:41.99 ID:7slR7lpa0

ランチタイムはかくして和やかに終わり、各自位置に戻って読書を再開、するかと思ったのだが
なぜかベッドの横には長門がつっ立ってこちらを見ていた。

「どうしたんだ、長門?」

しかし長門は沈黙を守ったままだ。別に俺や佐々木のどちらかを注視している訳ではない。
単純にこちらを見ているようだ。なんだと言うのだろう。

「長門さん、もしかして、一緒に横になりたいのかい?」

耳は佐々木の言葉を疑ったが、目は長門の頷きを疑った。

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[みんなムリすんな!] 投稿日:2009/06/24(水) 20:58:26.77 ID:7slR7lpa0

「佐々木、何を言ってるんだ」
「いや、なんとなくそうなのではないかと思っただけだったんだが、僕の勘も捨てたものではないようだね」

それはおいといて、だ。

「長門、横になりたいのか?」
「そう」
「そう、か・・・。」

読書中の長門といえば、椅子に姿勢良く座り、
ページをめくる手以外は不動で何時間も、という姿しか思いつかない。
その長門が寝っ転がって読書・・・だと・・・?

47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[みんなムリすんな!] 投稿日:2009/06/24(水) 20:59:09.57 ID:7slR7lpa0

うーむ、しかしこのシングルベッドに佐々木と俺だけでも相当つらいんだが・・・。

「よし、そういう事なら仕方ないな」

ここはやはりレディーファースト、俺がベッドから退くべきだろう。
ギシッと音をたててベッドから降りる。

すると長門はベッドに横になろうとはせず、俺の方へ視線を向けてきた。
佐々木も今ひとつその真意を汲み取れていないようだ。

50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[うれしいけどね!] 投稿日:2009/06/24(水) 20:59:54.16 ID:7slR7lpa0

「長門、俺は良いからベッド使ってくれ。あまり良いものではないがな」
「そうではない」
「ん? どういうことだ?」
「―――3人一緒」

この一言には長門と時間を共有して1年半以上経った俺ですら度肝を抜かれたのだ。
いわんや佐々木をや、だ。まるでこの部屋はいつぞやのTHE 七夕時間旅行よろしく
『空間ごと時間凍結』したかのような空気になった。

53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/24(水) 21:00:35.36 ID:7slR7lpa0

どれくらいの時間が流れたのか、状況を理解した俺はひとまず考えた。

「長門、お前の言いたい事は分かった。だが現実問題としてこのベッドを見てくれ、これをどう思う」
「―――小さい。3人で横になるには不十分な面積」

それが分かっているなら話が早い。いやそんな事は長門も分かっていたはずだ。

「でも、したい」

54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/24(水) 21:01:16.57 ID:7slR7lpa0

あの長門がこうまで何かやりたいと言った事がかつてあったか?いや、ないね。
それなら何とかしてやりたいと思うだろう?

ただでさえ長門には日ごろから助けられているし、大変な恩義があるのだ。
その長門の、ハルヒの泣き顔よりも珍しい、ワガママなんだ。

「よし、長門。ちょっと待ってろ」

俺は部屋を飛び出し掃除機を引っつかみ、返す刀で部屋に戻る。


56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/24(水) 21:01:58.12 ID:7slR7lpa0

「佐々木、ちょっとベッドから降りてくれるか」
「あ、ああ、うん。」
「悪いな。よっ、こい、せっ、と」

ベッドの片側を持ち上げて壁に立てかける。

「あー予想通りきったねえなあ」

掃除機のコンセントを電源に差しスイッチオン。
長門は微動だにしない。佐々木は俺の考えが読めたのかニヤニヤしている。

57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[安心しろ、エロなしだ] 投稿日:2009/06/24(水) 21:02:40.52 ID:7slR7lpa0

長年ベッドの下に溜まっていたホコリやらなんやらをあらかた綺麗にする。
このままカーペットの上に雑魚寝という訳にもいかんからな。
俺の敷布団と、来客時に使う敷布団を持ってきて床に広げる。

「これで3人で横になれるだろ。急ごしらえではあるが、長門、これで良いか?」

長門はうんともすんとも言わない。ただ少し頷いて、俯いたまま

「ありがとう」

そう言った。

「ふっ、気にするな。俺がやりたかったから、こうしただけさ」

こうして午後の読書タイムが始まった。ちなみに並びは右に長門、左に佐々木。
なんというか、コレ、端から見たらかなりおかしな光景なんではなかろうか。

58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[安心しろ、エロなしだ] 投稿日:2009/06/24(水) 21:03:40.32 ID:7slR7lpa0

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気がつくと横から寝息が聞こえた。視線を本から移すと横にはキョンの寝顔があった。
長門さんも彼を見ると、こちらを向いた。『どうする?』とでも言いたそうな視線だ。

「ふふ、私たちみたいな女の子を両隣に置いといて寝ちゃうなんて、キョンらしいね、長門さん」
「そう」

私は彼を起こさないようにゆっくりと身体を起こし、隅に寄せられていたタオルケットを手に取った。

「おやすみ、キョン」

彼にタオルケットをかけ、また横になる。するとどうしたことか。自分まで眠気がしてきた。
あまり普段は昼寝なんてしないんだけどな。そんな私ですら眠気を感じるんだ。
きっとこの部屋は何か特別な空気で満ち満ちているのかもしれない。

60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/24(水) 21:04:24.92 ID:7slR7lpa0

「私も、寝ようかな」
「そう」
「長門さんは?寝ないの?」

一瞬の間。

「寝る」
「そうこなくっちゃ」

本を置き、布団に顔をうずめる。キョンの匂いがする。
程なくして長門さんからも小さい寝息が聞こえてきた。さすがに無駄な時間がない。
そういうところはちょっと羨ましいかな。
おやすみ、キョン。心の中でもう一度そうつぶやいて目を閉じた。
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63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/24(水) 21:05:08.34 ID:7slR7lpa0

------------------------------------------------------------------------------
パチ

彼女と共に睡眠を開始してから1時間30分が経過した。
いまだ彼も彼女もまだ目を覚ましそうにない。

本来私は必要以上の睡眠を必要としていない。
しかし先ほど彼女からの問いかけに反応する際、タイムラグが生じた。

原因はすでに解明済み。
対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェースとしての回答はNO。
しかし、個である『長門有希』という存在はYESと判断し、私は後者を選択した。

私の横で彼と彼女が寝ている。自分もそれに加わってみたかった。
そしてその考えは、きっと、正しかった。
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64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[>>62 後半の発想は中田] 投稿日:2009/06/24(水) 21:06:04.38 ID:7slR7lpa0


「んん・・・あれ?いつの間にか寝ちまってたのか・・・?」
「おはよう」
「おお、長門、おはよう。って佐々木も寝てるのか。随分気持ち良さそうだな」
「貴方も」
「ん?」
「気持ち良さそうに寝ていた」

なんだかそういう事を指摘されると妙に恥ずかしい。

それもそうだ。本来なら寝姿や寝顔など家族である身内か
はたまた修学旅行で同室になったクラスメイトくらいにしか見せるものではないものだからな。

65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/24(水) 21:06:45.20 ID:7slR7lpa0

「ん、おやキョン、起きていたのかい?」
「ああ、ついさっきな。おはよう、佐々木」
「おはよう。くくっ」
「どうした?」
「いや、目を覚ました時に誰かいるというのは思っていたものとはだいぶ違うと認識を改めたのさ」

などとよく分からないことをのたまう佐々木は長門にも目覚めの挨拶をした。
―――と、やけに外が暗い。

66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/24(水) 21:07:30.74 ID:7slR7lpa0

「って、もう18時じゃないか!」
「おやおや、もうそんな時間なのかい?」
「つー事はなにか?俺たちは午後をほとんど寝て過ごしたって事か?」
「正確には貴方達2人だけ。私は1時間半で覚醒し、読書を続けていた」

うーん、それなら途中で起こしてくれても良かったんだぞ?

「・・・気持ち良さそうだった」

それを言われると何も言い返せない。横ではくつくつと佐々木が笑っている。

68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/24(水) 21:08:17.58 ID:7slR7lpa0

「さて、さすがに夕食の準備はしていないし、ご母堂も帰ってこられるだろう。そろそろ帰ろうか」
「この際、ウチで食べていっても良いんだぞ?」
「いや、そこまで甘える訳にはいかないよ、キョン」

妙なところで遠慮をするやつである。

ちなみにまだ母親も妹も帰ってきてはいない。もしかしたら妹は夕飯をご馳走になってくるかもな。
佐々木と違って、あれは全くもって遠慮というものを知らない。

70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/24(水) 21:08:58.83 ID:7slR7lpa0

「送っていこうか?」
「いや、玄関までで大丈夫さ。暗くなったとは言え2人だし、時間もまだ早い。それに―――」
「ん?」
「長門さんと一緒なら大丈夫さ」

それもそうだ。佐々木と長門の信頼関係に心の中で軽く感嘆しつつ階段を降りる。

71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/24(水) 21:09:40.72 ID:7slR7lpa0

「そういえばキョン」
「なんだ?」
「ウチはもうそろそろ期末試験なのだが、君たちの北高はどうなんだい?」

「あーそういえばそんなものもあった気がするようなしないような・・・。」
「来月、12月の第1週の木曜からスタート」
「・・・この調子では全く準備していなさそうだね?」

ご明察。さすが佐々木だな。付き合いが長いだけの事はある。

72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/24(水) 21:10:22.30 ID:7slR7lpa0

「キョン、そろそろ卒業後の事を真剣に考えたまえ。ご母堂が心配する」
「自慢ではないが、テストの成績はだいぶ良くないからな。
 さぞかし頭を痛めているだろうよ。申し訳ない限りさ」
「そう思うならもう少しだね―――」
「勉強会」

長門が意外な発言をする。勉強会?

73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/24(水) 21:11:03.38 ID:7slR7lpa0

「そう。明日もSOS団の活動はない。有意義に使うべき」
「それは名案だね。僕も一枚乗る事にしよう」
「では明日の朝9時に集合」
「ということだ。ちゃんと起きて、明日は顔くらい洗って出迎えてくれたまえ」

なんてこった。しかし長門は言うに及ばず、佐々木も成績優秀だ。
確かに俺のあまりに心許ない学力をこのままにしておくのも不憫だしな。
せっかくだしご厚意に甘えよう。

74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/24(水) 21:11:44.13 ID:7slR7lpa0

「ああ。じゃあ今夜はしっかり寝ることにする」
「あんなに寝たのに、かい?」
「佐々木もな」

くつくつと喉をならして笑う。長門は靴を履き終わり佐々木を待っている。


75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/24(水) 21:12:32.99 ID:7slR7lpa0

「それじゃあキョン、また明日」
「また明日」
「ああ、また明日な」

勉強会、か。あまり良いイメージはないが、あの2人となら楽しく勉強できるかもしれん。
などとお気楽に俺は考えていた。なぜなら―――

―――今日の昼寝は今まで最高に気持ちが良かったのだからな。

〜fin〜

77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/24(水) 21:14:11.11 ID:7slR7lpa0

うわー一回もさるくらわんかった!
支援してくだすった皆さん、ありがとう!
ほんとにアッサリですまん!

125 名前: ◆7MiYo0fRys [さっきより短い] 投稿日:2009/06/25(木) 00:31:46.94 ID:FnUBxb/+0

翌日。今日の天気は曇り、か。
昨日のような秋晴れには恵まれなかったのが些か残念ではあるが・・・。

しかし過ごしやすい気温ではあるし、湿度も高くなく、すっきりとした朝だ。

この俺が真面目に勉強すると聞いて神様が良い環境づくりをしてくれたのだろうか。

あ、神様ってハルヒだっけ。まぁいいか。

「あれー? キョンくんめずらしー。もう起きてたの?」
「ああ。今日も佐々木と長門が来るんだ」
「えー! ゆきちゃんとささにゃん? どうしたのー?」
「勉強だよ、勉強。もうすぐテストがあるからそのためだ」

妹は遊びたいーと駄々をこね始めたが、まぁこれは予想の範疇内だ。

126 名前: ◆7MiYo0fRys [さっきより短い] 投稿日:2009/06/25(木) 00:32:30.81 ID:FnUBxb/+0

「ほれ、腰にしがみつくと歩きにくい。朝飯食べに行くぞ」
「はぁーい。今日は何してあそぼっかなー?」

コイツはまだどうにも良く分かってないらしい。
将来が多少不安だ。大丈夫なのだろうか、こんなので。
ああ、せめてミヨキチなみの深慮があればと切に祈るね。


127 名前: ◆7MiYo0fRys [さっきより短い] 投稿日:2009/06/25(木) 00:33:17.65 ID:FnUBxb/+0

「おかーさーん、今日ねー ゆきちゃんとささにゃんが来るんだってー!」
「あらまあ、2日連続で? どうしたの?」
「昨日は単に読書会だったんだけどさ、今日は期末試験が近いからって勉強見てくれるんだ」
「ホント!? たすかるわ〜。佐々木さんは進学校行ってるのよね?」

ああ。学校の外で勉強のために勉強しているとか言ってたしなあ。

「それに長門さんも頭良いのよねえ。そんな良くしてもらっちゃってなんだか悪いわ〜」
「そこで相談なんだけど―――」

128 名前: ◆7MiYo0fRys [さっきより短い] 投稿日:2009/06/25(木) 00:33:58.28 ID:FnUBxb/+0

ピンポーン

「はーいよっと」
「やあキョン、おはよう」
「ああ、おはよう」

ちょうど9時きっかり。外でちょっと待って時間調節でもしていたのだろうか。
まあそんな事を詮索するのは無粋だよな。

「長門も、おはようさん」

コクリと小さくうなずいて

「おはよう」

と短く挨拶。最近ではこういう挨拶を口頭で返してくれるようになった。
小さい事かもしれないが、俺にとっては1つの、確かな長門の成長だと感じる。

130 名前: ◆7MiYo0fRys [さっきより短い] 投稿日:2009/06/25(木) 00:34:44.00 ID:FnUBxb/+0

「お邪魔します」
「あら、佐々木さんに長門さん、今日はうちのバカ息子が勉強を見て頂けるとか」
「ええ、出過ぎた真似かとも思ったのですが」
「とんでもない。放っておくと全然勉強しない子で・・・」

その辺にしてくれ。同級生に勉強のことで泣きつく親というのはかなり切ないものがある。

「わーい、ささにゃんとゆきちゃんだー!」
「おはよう。今日も可愛らしいね」
「ありがとー♪」


131 名前: ◆7MiYo0fRys [ねみぃ] 投稿日:2009/06/25(木) 00:35:25.71 ID:FnUBxb/+0

じゃあ、母さん、あとはよろしく。

「ええ。しっかり勉強するのよ。佐々木さんと長門さんに失礼のないようにね」

あなたの息子はそこまで信頼できませんか、母上。

「じゃあいってきまーす」
「おう、気をつけてな」
「いってらっしゃい。お母様もお気をつけて」
「いってらっしゃい」

ふう、一陣の嵐だな、さながら。

132 名前: ◆7MiYo0fRys [ねみぃ] 投稿日:2009/06/25(木) 00:36:07.34 ID:FnUBxb/+0

「ところでキョン、ご母堂と妹さんはどうしたんだい?」
「ああ、今朝だけどな、頼んだんだよ」
「・・・なるほど、確かに必要な措置だったかもしれないね」

つまりこういう事だ。妹が家にいれば、佐々木と長門の2人にじゃれつかない訳がない。
勉強会を行う旨を母親に伝えるとともに、妹がいては確実に勉強の邪魔になり、
忙しい時間をぬって来てくれる2人にも申し訳がないと直訴したのだ。

妹に勉強会を邪魔されるのも気に入らなかったが、もっと嫌だったのは―――

―――嫌だったのは、そう、この『3人きり』を俺は今、大変気に入っているのだ。

母親は一も二もなく、妹を連れて一両日中出かけることを決めてくれた。
我が母親ながらあの決断力には頭が下がるね。

いや、それはつまり母親の俺の学力に対する心配の裏返しに繋がる訳だが・・・。


133 名前: ◆7MiYo0fRys [ねみぃ] 投稿日:2009/06/25(木) 00:36:49.40 ID:FnUBxb/+0

それはさておき勉強会だ。
2人の厚意を仇で返すような真似はすまい。

「さて、さすがに今日一日で全科目をカバーする事は難しい」
「そうだな、さすがにそこまでは頼めん」
「で、だ。君の苦手な科目からやろうと思うんだがどうかな?」

苦手科目、か・・・苦手科目、ね・・・。

「まさかとは思うが、キョン」
「みなまで言うな」
「ふむ・・・」

さすがに佐々木も黙り込んでしまった。だがムリもない。
苦手科目というより『得意科目がない』のだ。

134 名前: ◆7MiYo0fRys [ねみぃ] 投稿日:2009/06/25(木) 00:37:30.92 ID:FnUBxb/+0

佐々木が思案顔になる、が、ふとひらめいた様に

「長門さん、貴方はどう思う?彼の学力について」
「貴方の言う『学力』が、この1年半あまりの彼の高校生活における
 定期試験の結果のみが当てはまると仮定して場合、
 彼の弱点となるのは英語、数学UB、物理、化学が現在の彼の問題として挙げられる」
「なるほど、つまり理数が主に苦手という事だね」
「そう」

・・・いつのまにそんな事を調べられていたのだろう。
いや、長門なら造作もないことか。


135 名前: ◆7MiYo0fRys [ねみぃ] 投稿日:2009/06/25(木) 00:38:11.35 ID:FnUBxb/+0

「でも長門さん。貴方の分析を疑うつもりはないけれど、彼は全部苦手と言っているよ?
 この点についてはどう思う?」
「彼は数多くの書籍を読んできている。現代国語、古文はまず問題がない」

確かにそれは言えている。現国と古文では大体平均点は取れているしな。

「また世界史、日本史についても本から知識を得ている」
「うん、確かにキョンは中学の頃も国語と社会はある程度得意としてたね」
「まあ、そうだな。」
「なるほど、そうなると残るは理数と英語、か。うん、ありがとう、長門さん」

理数は鬼門だ。それこそアホの谷口といつも底辺の争いをしているくらいだからな。

165 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 06:48:17.44 ID:FnUBxb/+0

>>135の続きから

「英語は私に案がある。任せてほしい」
「うん、わかった。お願いね、長門さん」

長門はコクリと小さく頷くと

「問題は、理数」
「そうだね。キョン、この参考書の後ろの方に小テストがあるんだ。ちょっとやってみてくれないかな?」
「ん、わかった」

まずは数学Uからだ。うーむさっぱりわからん。微分?積分?三角関数?なんのこっちゃ。
お、これなら分かるぞ、確かここをこうして・・・。


166 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 06:49:12.66 ID:FnUBxb/+0


――20分後――

「「「・・・。」」」

「ぐうの音も出ないよ、キョン」

お恥ずかしい限りだ。

「どうやら君には根本的に公式や定理などが欠落しているようだ。
 この分だと物理や化学も似たような理由からなんだろうね。」

なるほどそうか。俺はそういう類の暗記がからっきしなのか。


167 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 06:50:33.60 ID:FnUBxb/+0

「とりあえず詰め込めるだけ詰め込もう。それ以外の選択肢はなさそうだね」

とはいえ、始めなければどうにもならん。
佐々木が使用している参考書と北高の教科書を使い、説明を受けながら
普段はあまり使ってない脳みそに公式やら何やらを叩き込んでいく。

基本的には佐々木が説明役だ。
しかし佐々木が上手く説明できなくなると長門に振る。
すると長門はいつものあの調子でそれについて説明してくれる。

俺にはかえって分かり辛くなったようにしか聞こえないのだが、そこはさすがは佐々木だ。
それにヒントを得たように再度説明し直してくれる。

168 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 06:51:28.85 ID:FnUBxb/+0

「ふむ、数学はこんなもので良いかもしれないね」

三角関数、指数関数、対数関数・・・昨日まではまるで俺とは無関係だった単語だが
少なくとも今はしっかり頭の中で理解できている。

「・・・お昼」
「おっと、もうそんな時間か」

時計を見ればもうすぐ13時になろうとしていた。

「長門、腹へったか?」
「へった」

佐々木がぷっと吹き出して笑う。つられて俺も笑ってしまった。

169 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 06:52:11.26 ID:FnUBxb/+0

「なに?」
「なんでもねーよ。さ、昼飯食べよう。」

今日は母親が家を出る前に準備しておいたカレーが昼食だ。
いかにも急いで作ったようなメニューだが、
長門の目は心なしか、いや確実にきらきら輝いているように見える。
1.5倍(当社比)ってところか。

「やあ、良い香りだね」
「おいしそう」
「んじゃ頂きますか」
「うん、いただきます」
「いただきます」

171 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 06:52:57.17 ID:FnUBxb/+0

俺にしてみれば取り立てていつもと変わらないカレーだ。
しかし2人にとっては違ったらしい。

佐々木はちょっと驚いたような、それでいて何やら納得するような表情だし
長門は目をきらきらさせたまま、また昨日のように猛然とぱくぱく食べている。

「長門、そんなに急がなくてもカレーは逃げやしないぞ」

ごくんと飲み込むと

「でも、他人に食べられたら、減る」
「大丈夫だって。まだ十分残ってるし俺も佐々木もそんな大食いじゃないしな」
「くっくっ、その通りだよ、長門さん」
「・・・そう」

172 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 06:53:39.57 ID:FnUBxb/+0

納得したのか長門の食べるペースは少し遅くなったようだ。
それでも十分俺より早いのだが。

「どうだ、佐々木。口にあうか?」
「うん、非常に美味しいよ。君の家ではいつもこのカレーが出てくるのかい?」
「ああ、そうだよ。多少の違いはあるだろうが、だいたいこんなものだと思う」
「そうか。考えてみたら君の家庭の味を知るのはこれが初めてだね」

そう言われてみればそうか。
付き合いは2年以上になるのに我が家で佐々木がご飯を食べる光景を見た事はなかったな。

173 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 06:54:20.38 ID:FnUBxb/+0

「くっくっ」
「なんだよ?」
「いや、涼宮さんは、ご母堂のカレーを食べた事はあるのかな?」
「んー・・・俺の知る範囲では、ないと思うが?」
「そうか。くっくっ」

なにが嬉しいのか佐々木は妙にご機嫌だ。

「どうしたんだ?」
「いや―――1歩リードかなと。ね、長門さん」

急に話を振られた長門だが、コクリと頷くとこちらをじっと見つめて言った。

「おかわり」

174 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 07:10:10.24 ID:FnUBxb/+0

昼食も終わり午後の部スタートとなった勉強会だが、はっきり言おう

「かなり眠い」
「堂々と言われても困るよ」
「困るといわれても睡魔が遠慮なく俺のまぶたを下にひっぱるんだよ・・・」

働き者で困るね、どうも。

177 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 08:10:14.51 ID:FnUBxb/+0

「長門さん」
「わかった」

「えっなにそれこわい」

「痛くしない」
「痛いのか?」

「大丈夫」
「ヤバイのか?」

「えい」
「ガッー!!」

178 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 08:10:57.74 ID:FnUBxb/+0

その時、俺に電撃走る・・・!
ってレベルじゃねーぞ、これは・・・。

「・・・気分はどうだい?キョン」
「すこぶる痛い」

しかしおかげで眠気は覚めた、というか飛んで逃げた。

「・・・午後はどうする?」
「うん、午前に覚えた事を忘れないうちにテストをしようと思う。
 一夜漬けだけではテストまで覚えておけないだろう?」
「よしわかった。いっちょやってやるか!」

179 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 08:11:39.47 ID:FnUBxb/+0

とにかく数学のみを集中していくつかのテストを反復して消化する。
朝、最初にやった時よりするするとシャーペンが動く。
なるほど、これは楽しいな。できなかった事ができるようになるというのは。

「よっし、できたぞ」
「あ、ああ。お疲れ様。じゃあ答え合わせをしよう」

佐々木が解答をチェックしていく。今回はさっきより手ごたえがあるんだ。

180 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 08:12:20.92 ID:FnUBxb/+0

「うん!50点中43点!上出来だろう」
「おっし!」

思わずガッツポーズだ。

「おめでとう」
「佐々木と長門のおかげさ、本当に感謝してるよ。」
「くっくっ、願わくば感謝の言葉は君の期末試験が終わってから聞きたいね」
「ああ、俺もそうできる事を願わずにはいられないね」

心底そう願うね。これで明日になったら頭からすっぽり抜け落ちてた日には
俺は自分を殴ってしまうやもしれんぞ。

181 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 08:13:01.58 ID:FnUBxb/+0

「長門さんから見てどう思う?」
「上出来。物理と化学の問題こそあるものの本日のノルマは達成されたと考えるべき」

長門にこれだけ言ってもらえれば及第点なのだろう。ん?『本日の』?

「そういえば、英語に関しては案があると言っていたよね」
「これ」

そう言って長門が差し出したのは1冊のノートだ。

「開けてみて」
「こ、れ、は・・・・・・」
「ん、なんだい・・・こ、これは・・・」

182 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 08:13:42.38 ID:FnUBxb/+0

佐々木も驚くほどの内容だ。
ノートにびっしりと書き詰められた英単語やら熟語、例文、和訳などなど。

「まずはそれだけ覚えて」
「これを全部、か」
「そう。来週の日曜、テストする」
「なん・・・だと・・・」

そうは言ってもこれ、かなりの量だぞ?

「貴方の能力に合わせた内容。大丈夫」

どうやら弱音は許されないらしい。たまには俺も頑張ってみるのも良いだろうさ。

「わかった。長門の信頼に応えられるよう最善を尽くすよ」

183 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 08:14:24.27 ID:FnUBxb/+0

さて、もう19時か。今日は外で夕飯食べないか?

「そうだね。どこにしようか」
「駅前に新しい店ができていたな。」
「ああ、あそこか。良いね、行ってみよう」

「ところで、今日は俺の勉強をずっと見てもらった訳だが・・・」
「うん、なんだい?」
「いや、2人とも自分の勉強は良かったのか?」
「キョン、1つ教えておこう。」

というと、佐々木は2,3歩スキップするように前へと進み、くるりとこちらを向いた。

「日ごろから備えている人間はこんな長い時間をかけずとも十分なのだよ」

返す言葉が見つからないね。なるほど。お前の言うとおりだよ、佐々木。

184 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 08:15:06.95 ID:FnUBxb/+0

駅前

さて、何を食べようかねえ。長門は即決でオムライス大盛りだ。
佐々木は・・・エビのリゾットとコンソメスープか。身体が温まりそうだな。

「じゃあ、俺はペペロンチーノを1つ」
「かしこまりました」

「しかしキョン、今日は本当によく頑張ったね。なかなかどうして、大したものだよ」
「そうか?まあ確かにいつもより断然勉強した気はするが」
「朝の小テストを見た時は・・・ねえ、長門さん」
「暗澹たる気持ち」

そこまで言われるとキツイな。

185 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 08:15:47.99 ID:FnUBxb/+0

「だが、最後にはあそこまで点数を伸ばせたんだ。今日はしっかり集中できてたようだね」
「ああ、母親にもあとで礼を言っておくさ。それにしても―――」
「ん?」
「佐々木って教え方うまいよな」

首を少し左に傾げ、目線は右上。ふむ。と考え中のスタイルだ。

186 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 08:16:39.91 ID:FnUBxb/+0

「キョンにそう言われるって事は、いつもより分かりやすかったかい?」
「ああ。いつもなら数学の授業なんて始まって3分で寝るからな」
「もうちょっと頑張りたまえ。でもまあ君にそう言われて嫌な気はしないな。
 それに長門さんのおかげでもある。彼女がわかりやすく説明してくれたおかげさ」

俺にはあんなたくさん漢字のつまった長々とした説明は理解できないが
長門とはそういった面でも気が合うのだろう。良いことだ。


188 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 09:09:45.26 ID:FnUBxb/+0

ご飯も食べ終え、店を出る。

「さて、解散しようかね」
「ああ。今日は―――」

「あれ?キョン?それに・・・」

「は、ハルヒ。どうしてこんなとこに」
「親と出かけるって言ったでしょ。今帰ってきたのよ」
「そ、そうか。お疲れさん」
「うん、ありがと。で、なんで佐々木さんと有希と3人一緒にいるの?」
「・・・内緒」
「えっ!?」

な、長門っ!何を言ってるんだ!下手に誤解を招くような事を言うな!
勉強会だよ!俺の成績はお前も知っているだろ?


189 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 09:10:26.44 ID:FnUBxb/+0

「そりゃまあね。でもそれなら有希がいれば済む事じゃない。
 佐々木さんは頭が良いって聞いたけど、学校が違うんだし
 いろいろ大変なんじゃないの?」
「涼宮さん、お気遣いありがとう。でもま、おかげさまで数学はだいぶマシになってると思います。
 その目でしっかり見てやってください」
「え、ええ、そりゃ、まあ・・・」
「それじゃキョン、僕らはこの辺で」
「また来週」
「あ、ああ・・・じゃあな」

・・・さて、この場をどうしたもんかね。

190 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 09:11:10.57 ID:FnUBxb/+0

「ホントは何してたのよ」
「だーかーらー、勉強会だと言ってるだろう!」
「あやしい・・・」
「お前が心配しているような事は一切ねーよ。んじゃまた明日な!」
「え、あ、ちょっと!待ちなさい!キョン!キョンったら!」

〜今度こそ終わり〜

191 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 09:13:01.95 ID:FnUBxb/+0

という事でキョンと佐々木長門同盟の週末の過ごし方でした。
なんとなく空気が描写できてれば良いなーと思ってまふ。

こんな朝から支援くだすった皆さんありがとうありがとう。

198 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 12:09:44.99 ID:FnUBxb/+0

なんか安価で話を考えてみようかな。

>>210 誰が (ただしキョン・長門・佐々木の3人から選ぶ)

>>220 どこで

>>230 どうした

※注
・非エロ限定
・安価を1つ取ったら他の安価は自重する
・書き溜めるから早く投下しろとか言わない

あと面白いのかどうかは分かりません。

210 名前:電波王を崇拝する者 ◆yGTlIgbjgU [] 投稿日:2009/06/25(木) 12:56:59.77 ID:kDONlBJVO

佐々木さん

220 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 13:38:09.30 ID:0+HO6X0q0

北高で

230 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 14:07:28.41 ID:E5//uJph0

キョンが朝倉と付き合ってるのを目撃した

236 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 14:12:52.76 ID:FnUBxb/+0

>>210 佐々木さんが

>>220 北高で

>>230 キョンが朝倉と付き合ってるのを目撃した

最後の最後に鬼畜安価ktkr

じゃあ話を考えて書き溜めてきます。のちほど。

254 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 16:16:37.07 ID:FnUBxb/+0

HRも終わり、惰性によって部室に行こうとしていた俺とハルヒを止めたのは
他ならぬクラス委員長こと、朝倉涼子だ。

「涼宮さん、今日の放課後なんだけど、キョンくんをちょっとお借りできないかしら?」
「あん?」

ちょっと待て、なんだそりゃ。俺は何も聞かされちゃいないぞ。
それになぜ俺に予定や都合を尋ねたりせず、ハルヒに許可を求めるんだ?
俺はレンタルDVDじゃないんだ。
まあ、確かに部室で朝比奈さんが手ずから淹れてくださるお茶を飲む事以外の
用事などありはしないのだが。

256 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 16:17:17.70 ID:FnUBxb/+0

「別に、構わないけど。何か用?」
「彼、今日日直なのよね。それでさっき集めたプリントを先生の所へ持っていくんだけど
 その前に、内容ごとに分けなくちゃいけないの。それを手伝ってほしいなぁって」
「ふーん。ま、そゆ事ならガシガシ使ってやって。大して役に立たないだろうけど」

大変な言われようだ。

こうして、俺の人権や発言権などはかるーくなかった物にされ、俺は今
朝倉と俺以外、誰もいない教室で地味ーな作業を行っている。

「はあ、しかしこりゃ面倒な作業だな。なんで担任がやらないんだ?」
「それは、岡部先生だって面倒だからやりたくないのよ」
「・・・ズバリと言い切ったな、お前」

257 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 16:17:58.29 ID:FnUBxb/+0

そもそもコイツには浅からぬ因縁がある。
そう、1年の初夏に起きた俺殺人未遂事件だ。
我ながら寒気がするような事件名だね、くわばらくわばら。

朝倉は、俺を殺してハルヒの反応を見る、とか言いながら
谷口あたりが非常に興奮して恋に落ちそうな笑顔のまま俺にナイフを刺そうとした。
のだが、長門のおかげで幸い俺は今日も生きている。ありがたいね。

「ねえ」

今のコイツには長門のような、いわゆる宇宙的パワーはほぼないらしい。
長門は朝倉の存在そのものを危険と判断し、消滅させようとしたが
上司である情報思念統合体とやらが、その能力を減らして存在を維持する事にしたらしい。

「ねえったら!」

長門はあの後、だいぶ不満があったようだ。

258 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 16:18:41.98 ID:FnUBxb/+0

俺としてもあんな事は御免こうむりたいが、何、万が一の時は長門がなんとかしてくれるだろう。
それに―――。

「ちょっと、キョンくん、聞いてる!?」
「おわっ、ななななんだ?」
「今、全然聞いてなかったでしょ」
「あー悪い、ちと考え事でな」
「もー・・・ちゃんと聞いててよね」

とほっぺたを膨らませつつ怒ったような表情をしている。
―――それに、もうあんな事はしてこないだろう。きっと。
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259 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 16:19:22.64 ID:FnUBxb/+0

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「やっほー」
「あ、涼宮さん、おはようございます。今、お茶淹れますね」

みくるちゃんは今日も可愛い、いつものメイド服で出迎えてくれた。
我ながら良い買い物したわね。

「ありがとー。」
「あれ?キョンくんはご一緒じゃないんですか?」

あ、やっぱり気づくわよね。

「うん、なんかクラス委員の手伝いだって。日直なんて嫌なもんよねえ」

前半は事実。そして後半はアタシの素直な感想。
実際日直なんてものは一月に一回回ってくるかどうかだけど
ホントにその日だけは休みたくなるわ。


260 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 16:20:18.00 ID:FnUBxb/+0

「はい、どうぞ」

そう言ってみくるちゃんがアタシの湯飲みを丁寧に机の上においてくれる。

「ありがと、今日も美味しいわ」
「ふふっ、ありがとうございます」

と、ここで部室の中の違和感に気がついた。

「あれ?そう言えば有希は?」
「長門さんでしたら、何か御用があるとかで。先に帰られましたよ」

打てば返るように古泉くんが説明してくれる。それにしても。

「へー、あの有希がね。珍しい事もあるもんねぇ」

最近は有希も昔に比べて社交的になった―――気がする。
ちょっと寂しくもあるけど、団員一人一人の事を大切に思いやる器が
SOS団の団長として必要な素養なのよ。

あ、雑用係その1の事は、また別なんだけど。
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262 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 16:21:01.75 ID:FnUBxb/+0

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「お待たせ」
「ううん、ちっとも待ってないよ、長門さん」

長門さんはいつも時間に生真面目だし、何より自分が相手を待たせる事をよく思っていない。
それが美徳である事に違いはないが、それも過ぎるとあまり良くない。

「じゃあ行きましょ」

今日、こうして長門さんに呼び出されて駅前に来たのは他でもない。
ある重大な計画の実行のため。バレでもしたら末代まで恥を残す事になるかもしれない。

でも、それでも、ちょっと楽しそうだったんだ。
ましてそれを、『あの』長門さんが提案してくれたという事も含めて、ね。

「着いた」

連れてこられたのは長門さんの住むマンション。

263 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 16:21:46.06 ID:FnUBxb/+0

「上がって」
「お邪魔します・・・」
「邪魔じゃない」

・・・時々こうして長門さんに常套句が通じないのは困るけれど、そんな長門さんはとても可愛らしい。
のであくまで秘密にしている。私ながら悪趣味かな?

「これ」

おぉ、と小さく感嘆の声を漏らしながら『それ』を見た。

「サイズはピッタリのはず」

うん、見た目はちょうど私のサイズにあいそうだ。
ん?私のサイズ?

267 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 17:13:31.98 ID:FnUBxb/+0

「えっとさ、長門さん?」
「なに」
「・・・私のスリーサイズとか・・・知ってる、の、かな・・・?」
「・・・」
「・・・」
「内緒」

絶対知ってる!うわぁぁぁ!最近ちょっとウエストが・・・とか、もう少し胸が・・・とか
そういうのも全部知られちゃってるよぉ。うぅ。

「大丈夫。秘密」

秘密にしてくれるのはありがたいけど、でも何が大丈夫なんだろう・・・。

「着てみて」

その長門さんの発言ではたと我にかえる。そうだ。これが今日の目的だった。
奥の和室を借り、私は着替えを始めた。
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268 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[さるってました] 投稿日:2009/06/25(木) 17:14:19.38 ID:FnUBxb/+0

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「「失礼しましたー」」

やっと地味な作業から解放され首をぐるりと回してみる。

「あー疲れた」
「ふふ、お疲れ様。ありがとう、おかげで助かっちゃった」
「感謝しているならジュースの1つでも奢れ」
「良いわよっ、じゃあ中庭行きましょうか」

あれ?冗談半分だったんだが・・・ま、良いか。
せっかく奢ってくれるというんだ。ありがたく頂こう。

「これでよかった?」
「ああ、サンキュな」
「ううん、お礼の印だから、気にしないで」

笑顔でそんな風に言われるとまるであの時、俺を殺すと言った事が嘘みたいだね。


269 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 17:15:15.20 ID:FnUBxb/+0

「ねぇねぇ、それ美味しい?」
「ん、まぁ、それなりかな。人に強く勧めはしないが、なんとなく自分はコレみたいな」
「ふーん、そうなんだ。ちょっと味見ちょうだいっ」
「あっ、てめ!」

しかし言うが速いか、さすがは元(?)宇宙人だからなのか
アッサリと俺のジュース缶は奪い取られてしまった。

「ふうん、まあ、不味くはないけど・・・キョンくんってこういうの好きなんだ?」
「ん、ああ、まあ・・・。」

というかこれ、間接キスってヤツじゃないのか?
いや、そんなもん気にしないやつは気にしないしな。
ここで俺1人がアタフタしてもかえって厄介だ。

だが俺はこの時、アタフタしてでも缶を死守すべきだったんだ。

しかし、未来の事なんて俺にはわからん。そうだろう?
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270 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 17:15:57.19 ID:FnUBxb/+0

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「これが北高かぁ・・・」
「そう」
「なるほど、キョンが嘆くのもムリないわね、坂道が長いし大変じゃない?」
「慣れれば問題ない」

北高に来るのは、実は初めてじゃない。
でもあれは中学の時だし、『多分自分は入らないであろう高校』だったから
特に気にして何かを見る、というような事はしなかった。

ましてや―――。

「・・・バレたりしないかな?」
「大丈夫。似合っている」

いや、そういう事じゃないんだけど・・・ね。
あろうことか私は今、北高の制服を着ている。
長門さんが準備してくれたのだ。

私がぽろっと漏らした一言がきっかけだった。


271 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 17:17:47.50 ID:FnUBxb/+0

「長門さんやキョン、SOS団のみなさんの日常を見てみたいな」

すると長門さんは即行動にうつしてしまった。あれからわずか2日。
北高の先生たちは月に一回の大きな職員会議があるとかでほとんど部活などにもいない。
長門さんはリスクを最低限に抑えるためにこの日を選んだのだった。

「自然体でいれば怪しまれない。平気」
「そうね。ふふっ」

なんとなく楽しい気持ちになる。いつもと違う日常。とりたてて何かが面白い訳じゃない。
なのになぜか心がスキップしている。そんな気持ち。

「校舎の向こうに、中庭を挟んでSOS団の部室がある旧校舎がある」
「ふふっ、緊張するなぁ」
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272 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 17:18:28.74 ID:FnUBxb/+0

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「全く味見って・・・しかもあんまり美味しくないって言ったわりに随分減ってるぞ、これ」
「もうー、キョンくんって結構細かいことを気にするタイプ?」
「うるさい。なんでお礼にもらったジュースをガッツリ味見されなきゃならんのだ」
「分かったわよ。悪かったから、これあげる。ね?許して?」

そう言って朝倉は自分用に買った紅茶の缶をよこした。
・・・これもお前が口をつけた缶じゃないか、などと言える訳はない。

「はあ、わーったよ。これでチャラな」

平静を装ってコクリと紅茶を飲む。

273 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 17:20:46.33 ID:FnUBxb/+0

「ふふっ」
「?」
「これって、『間接キス』よね?」

         ___
        /⌒  ⌒\         ━━┓┃┃
       /(  ̄)  (_)\         ┃   ━━━━━━━━
     /::::::⌒(__人__)⌒:::: \         ┃               ┃┃┃
    |    ゝ'゚     ≦ 三 ゚。 ゚                       ┛
    \   。≧       三 ==-
        -ァ,        ≧=- 。
          イレ,、       >三  。゚ ・ ゚
        ≦`Vヾ       ヾ ≧
        。゚ /。・イハ 、、    `ミ 。 ゚ 。

「きゃっ!汚い!」
「お前がおかしな事を言うからだろうが!あーもう・・・ったく」
「だ、だってそんなに反応するとは思わなかったから・・・。ごめんごめん」
「謝ってる割に、顔が笑ってるぞ」
「だって、キョンくん、おかしいんだもの」

・・・やれやれだ・・・。

274 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 17:22:49.23 ID:FnUBxb/+0

「はい、拭いてあげる」
「いや、それくらい自分で・・・」
「良いから良いから」

くっ、拭かれるのが困るんじゃなくて、朝倉の顔が近いのが困るんだよっ・・・!

「ねえ、キョンくん」
「な、なんだ・・・?」

「間接じゃなくて、直接キスしてみても、良い?」

な―――


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276 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 17:26:32.89 ID:FnUBxb/+0

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私を案内している長門さんの足が、止まった。

「長門さん、どうしたの?」
「―――」

彼女が無言になるなんて珍しい。
長門さんは口数が少ない。しかしこちらの問いかけには何かしらの反応を見せていた。
なのに、今はその反応が、表情にも、言葉にも、仕草にも、見えない。

「長門さん?」

近寄ってみる。

「どうしたの?」

長門さんは中庭の一点を凝視していた。その先を辿ると―――。
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277 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 17:28:18.88 ID:FnUBxb/+0

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朝倉の口唇は柔らかかった。

朝倉は良い匂いがした。

朝倉の髪がふわっと俺の頬をなでた、その髪の向こうには ありえない 人影 が―――

「なが、と・・・」

1人じゃない、その横には、

「さ、さき・・・?」

俺の言葉に 朝倉が 振り返る

長門が 駆けてくる

そして佐々木は―――反対方向に、駆け出していた。
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285 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 18:06:06.36 ID:FnUBxb/+0

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理解できない。状況が分からない。自分の心が把握できない。

彼の気持ちはもっと把握できなかった。

でも今はなにも考える事ができなかった。

ただ走った。北高なんてどこに何があるのかなんてわからない。

「佐々木!!」

身体が一瞬こわばる。この声は―――
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287 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 18:07:41.53 ID:FnUBxb/+0

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「佐々木!!」

呼び止めてどうするんだ、俺は。
だがこのまま行かせる訳にはいかない。そんな事はしたくない。

しかし佐々木は一瞬こちらを見たかと思うとまた走り出してしまった。

「くそっ!」

悪態をついた。

自分の不甲斐なさに。
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288 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 18:08:50.41 ID:FnUBxb/+0

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ただ走った。ひたすら走った。まっすぐ走ったら
追っ手を撒けないって昔ドラマでやってた。

見える角、見える角、全力で右、左、右・・・めちゃめちゃに走った。

速く早く、ただどこか

どこか1人になれる場所へ―――。
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289 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 18:09:38.51 ID:FnUBxb/+0

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佐々木め、さすが才色兼備、じゃなかった。
いや、それもそうだが、文武両道を地で行くやつだ。

こんな時に引き合いにだすのは気が引けるが
ハルヒ並みの人間が鶴屋さん以外にまだいるなんてな。

ハッ ハッ

息が、切れる。

なさけねぇっ、男の俺が先にバテてたまるかよ!

「佐々木ぃっ!!」
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290 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 18:10:28.04 ID:FnUBxb/+0

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まだ、彼が追ってくる。

まだ、キョンが追ってくる。

まだ、キョンが追ってくれている。

どうしよう。自分はどうしたら良いんだろう。

「はい、そこまでですよ」

突然、自分の真後ろから声がする。

「誰・・・」

・・・誰も、いない?

「後ろですよ、佐々木さん」

えっ―――。
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291 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 18:11:36.81 ID:FnUBxb/+0

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俺は肩で息をしながら、目の前を見ていた。

「・・・黄緑さん」
「こんにちは」

黄緑さんの表情は変わらない。

「いったい・・・?」
「それは私のセリフですよ。全く、こんな事になるなんて」

イマイチ、状況がつかめない俺は視線で説明をお願いした。

「・・・もし先ほどの、朝倉とのキス、見たのが涼宮さんだったらどうするんです?」
「―――!」
「そして佐々木さんも涼宮さんと同様の可能性を持つ方。気をつけてくださいね」

そりゃ気をつけるさ。ハルヒ云々をおいといても、だ。

292 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 18:12:27.25 ID:FnUBxb/+0

「もっとも、今回はこちらの不手際でもあります。」
「え?」
「まさか朝倉があんな行動に出るとは・・・迂闊でした」

はたと気づく。

「そういえば、長門は朝倉のところへ・・・」
「ええ。すでに朝倉は長門に捕縛され、マンションへ移送中です。
 私も行かねばなりませんが・・・」
「佐々木は・・・?」
「そうですね、一緒に連れていきましょうか。このままでは話もしづらいですから」
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293 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 18:13:20.31 ID:FnUBxb/+0

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「朝倉涼子。説明を要求する」
「そうよ、あれはいくらなんでも軽率過ぎる行動よ」
「別に、そんなに深い意味はないけど?」
「それでは済まされない。彼女もいまや我々の重要な観察および保護の対象」

朝倉も苦しみながら言い返す。

「それは分かってるけど・・・まさか北高に佐々木さんがいるとは思わなかったもの」

それはまぁ、言えているな。


294 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 18:14:10.51 ID:FnUBxb/+0

「あのね、キスは好きな人同士で行うものよ。
 貴方、もしかしてキョンくんが好きなんですか?」
「違うけど?ただキスって行為に興味があっただけよ。どんなものかなって」

つまり、あのキスは俺への好意〜なんてものからではなく、
純粋に行為に対する興味からって事で良いんだな?

「ええ、そうよ」
「わかった、佐々木には俺から説明する」
「お願いします。それでは起こしますね」
「はい、お願いします」


295 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 18:15:22.24 ID:FnUBxb/+0

―――。

―――――。

「と、いう訳なんだ」
「はぁ、そ、そうか・・・」
「納得いかないって顔してるな」
「いや、確かに彼女たちは実際年齢は4歳だものね。
 他意なくキ、きき、キスもできるのかも、しれないね」
「ああ。まあ、された方は全く困るだけなんだけどな」

「・・・あんな美人にキスされて困る?それはいくらなんでもないだろう?」

佐々木は調子を取り戻したのか、いつものようにくつくつと喉を鳴らしている。

298 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 19:07:07.01 ID:FnUBxb/+0

「ということでな、あれはノーカウントだ」
「そ、そうか・・・いや、あんなに取り乱してすまなかったね」
「あー、それなんだけどな」
「ん?」

と、佐々木が俯いていた顔を上げる。そこに

―――――。

「な、なななな!」
「あー。なんだ。これでおあいこだ。良いか?」
「ばっ・・・バカだ、な・・・君は・・・っ」

佐々木の服に雫がはたりと落ちる。

「え、な、泣くほど嫌だったか・・・?」

佐々木は北高の制服の袖で顔をぬぐうと

「ホントに、君はバカだな」
「なっ」

そう言って、笑顔でキスをした。

〜fin〜

299 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 19:07:48.06 ID:FnUBxb/+0

やっとさるおわった。そして話もおわった。おつかれさま。

もう猿きらい。むしろ早漏でごめん。

304 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 19:18:38.74 ID:FnUBxb/+0

みんなありがとうよー。安価でSSなんて初めてだったがなんとかまとめられた、気がする。
朝倉とのラブあま展開を期待してた人、すまんな。

こ こ は 佐 々 木 と 長 門 が ヒ ロ イ ン だ

311 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 19:32:15.21 ID:FnUBxb/+0

安価ねえ。これ結構キツイんだよ?

>>320」が「>>330」で「>>340」した

注意:
エログロなし
クロスオーバーなし
投下は書き溜め終わってから
それなりに早い流れになるなら同じ人が安価複数げっとでもおk

さーいってみよー

320 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/06/25(木) 19:43:37.54 ID:Qa0BxCbU0

ミヨキチ

330 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 20:12:47.20 ID:WAn0KNyXO

キョンのいえ

340 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/06/25(木) 20:30:56.84 ID:G4dv69aQO

佐々木と遊んだ

363 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 22:34:55.75 ID:FnUBxb/+0

ミヨキチとキョンの家で、佐々木と遊んだ「よう、佐々木。待ったか」
「いやそうでもないさ」

今日は珍しく長門がいない。なんでも急用があるとの事だが・・・。

「ああ、それなんだがね」

佐々木がくつくつといつものように喉を鳴らして笑っている。
なにか知っているのか?

「うむ、聞いたところによると、朝倉女史に対して何やら『お仕置き』が必要だそうだよ」
「・・・それはまた随分・・・聞こえが悪いな」
「なにせ長門さんの『お仕置き』だ。一体朝倉さんは何をしたんだろうね」

364 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 22:35:40.30 ID:FnUBxb/+0

それは聞かぬが花、ってヤツだろうな。
朝倉はあれでいて精神年齢がだいぶ低いようだし。

「くっくっ、そうだね、何せ君にキ―――むぐっ」
「・・・佐々木・・・まだそれを根に持ってるのか?」
「ぷはっ・・・けほけほ。いやなに、この反応が楽しくてつい、ね」

まったく、タチが悪いな。

「さて、今日は本屋に参考書を探しにいくんだったよな」
「ああ、君もそろそろ必要だろう?」
「残念な事にな・・・」

366 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 22:38:38.29 ID:FnUBxb/+0

本屋

「うーむ、あまりに種類が多くて、どれを選んだら良いのかサッパリ分からん」
「そうだね、最近は出版社も多いし、有名進学塾が参考書を出すケースもある」
「なにか分かりやすい参考書を選ぶコツとかないのか?」
「ないね、残念ながらその答えを僕は持ち合わせていない」

少なくとも全科目を浅く広くカバーしたものか、はたまた苦手な科目のものに特化したものか
くらいは決めなければならないな。

「そうだね。全科目をやっても苦手科目を丁寧に説明してはくれないだろう。
 どうかな、キョン。今日のところは理数のものを選んでみては」

ふむ、そう言われるとそんな気がしてきた。
どうせ一気に全部はムリだ。うむ、ムリだな。

367 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 22:39:25.55 ID:FnUBxb/+0

「よし、数Uのを買うか!あとは・・・うーむ、物理か?」
「良いんじゃないかな、集中的にその2つをやってみるというのも」

佐々木先生の後押しももらえた事だし、一安心だ。

「キョン、この参考書は僕が通う塾でも分かりやすいと評判だよ。どうかな?」
「おお、そりゃ助かる。やっぱ口コミは大事だよな」

そんな調子でもう一冊の参考書も選び終わったところで、意外な人物と出会った。

「お、お兄さん・・・?」

368 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 22:40:37.26 ID:FnUBxb/+0

隣にいた佐々木が感嘆の声を小さく発したのが聞こえた。

「ミヨキチじゃないか、久しぶりだな」
「は、はい。ご無沙汰しております」

と挨拶もそこそこにミヨキチは俺の横に視線を移していた。

「ああ、佐々木っていうんだ。俺の中学の時の同級生でな。時々勉強を見てもらってるんだ」
「そうなんですか、はじめまして、吉村美代子と申します」

「で、だ。こちらの吉村美代子さんはうちの妹の同級生でな。いつも妹が良くしてもらってる」
「そうなんですか。はじめまして、吉村さん。佐々木と呼んでください」
「佐々木、さん、ですか・・・」

なにやらミヨキチが変だが・・・気のせいか?

371 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 22:41:33.28 ID:FnUBxb/+0

「あ、えっと、その、私の事はミヨキチと呼んで下さい」
「わかりました、ではミヨキチさんと呼ばせて頂きますね」
「は、はい!宜しくお願いします!」
「こちらこそ」

なにやら女性2人で世界が出来上がってしまったようだ。
俺は完全に空気。ま、良いんだけどね。
しかしまぁ、なんというか。谷口あたりが見たらそれこそ歓喜して鼻血でも吹きかねん光景だ。
佐々木はもとより、ミヨキチも小学校6年生とは(そう、妹の同級生とは)決して思えないルックスだ。
少なくとも中学生くらいには見えるし、あどけない高校生と言われても疑う人はいないだろう。

372 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 22:42:26.67 ID:FnUBxb/+0

うちの妹の発育が良くなさ過ぎるのだろうか、家庭環境か?それとも食生活だろうか?
などと半ば真剣に思いを巡らせ始めたところで

「キョン、また意識を飛ばしかけていたね?」

佐々木の一言で戻ってきた。

「ミヨキチ、今日はこの後、何か予定でもあるのか?」
「い、いえ、帰って買った本を読もうかと思っていたぐらいで他には何も・・・」
「そうか、なら一緒に昼飯でもどうだ?」
「ほう、キョンにしては気が利くね」

まるで普段は全く気が利かないヤツみたいではないか。半分くらい当たりだが。

373 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 22:43:09.82 ID:FnUBxb/+0

「えっと、その・・・よろしいんですか?」
「ああ。せっかく久々に会ったし、いつも妹がお世話になってるからな」
「いえ、そういう事ではなくて・・・その・・・」

ん?なにやらもごもごしているな。聡明なミヨキチが珍しい。

「無理強いはしないぞ?」
「あ、あの違うんです、そうではなくて・・・えっと・・・」
「キョン、あまり女の子を、しかもこのように可憐で可愛らしい年下の女性を困らせるのは感心しないよ」
「いえ!ち、違うんです!そ、その、えっと・・・!」

どうしたんだ?うーむ、誘って悪かったのだろうか。

378 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 22:51:11.93 ID:FnUBxb/+0

「えっと、そのお兄さんと佐々木さんの、デートの邪魔をしては悪いのではと・・・」

さすがに佐々木も俺も一瞬固まってしまった。・・・デート?

「くっ、くっくっくっ・・・」

佐々木、笑うな。

「い、いや、確かにミヨキチさんの言うとおり。本屋とは些かムードはないが年頃の男女が2人で
 出歩いていればそのように見えるのは至極当然だよ、キョン」

・・・言われてみると確かにそうだな。というかこんなやり取りを中学の頃もしたような・・・。

380 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[さるでしたとも!] 投稿日:2009/06/25(木) 23:06:06.37 ID:FnUBxb/+0

「で、キョン。僕らはデートをしていて、ミヨキチさんは昼食の、いや僕らの邪魔となってしまうのかな?」
「まさか、だ。ミヨキチ。そう見えるのは仕方ないかもしれんが、これはデートに分類するものではない」
「そう、なんですか?」
「ああ、だから遠慮せずに昼飯食べないか?」

ミヨキチは少し考えて深々とお辞儀をして、俺たちの提案を受け入れた。

「さて、佐々木。どこか良い店知ってるか?」
「任せてくれたまえ。評判の良い穴場を知ってるんだ」
「そいつは頼もしいな」

381 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[さるでしたとも!] 投稿日:2009/06/25(木) 23:09:22.88 ID:FnUBxb/+0

他愛もない話をしながら目的の店へと向かう。
ふと気づくとミヨキチは俺たちの後ろにいる。
歩くのが速すぎたか?佐々木もミヨキチもいたから速度は抑えていたつもりなんだが・・・。

しかし速度を少し落としてミヨキチが横に並ぶように調整する。

「おや、白梅か、良い香りだね」
「梅も良いが俺は桃の花も好きだな」
「桃は来月かな。桃も甘くて良い香りだ。」
「ああ。」

と、気づくとまたミヨキチがまた少し後ろに下がっている。
ミヨキチ、疲れているのか?それとも何か遠慮しているのだろうか?

382 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[さるでしたとも!] 投稿日:2009/06/25(木) 23:12:38.79 ID:FnUBxb/+0

「さ、着いたよ、2人とも」

佐々木が案内した店はややレトロなレンガ造りの店構えだが
小奇麗に整えられたプランターの花壇や、ツタの葉のゲートなど
なかなかに良さそうな雰囲気の店だった。

「3人で。禁煙席をお願いします」

ミヨキチは少しぽーっとしている。大丈夫か?
さて、メニューは、と。

「おすすめはキッシュだよ」
「キッシュ?すまん、あまりこういう店は来ないから分かりやすく説明してくれ、佐々木」
「そうだな、パイやタルトは分かるだろう?あれに甘いものではなく、野菜や肉、卵なんかが乗ったものさ」
「ほほう、美味そうだな」
「ああ。この店のお勧めだからね。ミヨキチさんも何か気になるメニューがあったら遠慮なく注文してね」
「はっ、はい!」

383 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 23:14:39.42 ID:FnUBxb/+0

注文してから焼くという店のスタイルのためか、注文から30分ほどしてから熱々のものが出てきた。

「へえ、こりゃなかなかうまいな」
「そうかい、連れてきて良かったよ。ミヨキチさんはいかがですか?」
「あ、と、とってもおいしいです!」
「良かった。遠慮せず食べてね」

こうして佐々木とミヨキチを見ながら食事というのも乙なものだ。
初めてのキッシュに舌鼓をうち、デザートに出てきた
クレームブリュレに惜しみない賛辞を送ったミヨキチはやや興奮気味だ。
ここまで反応が良いと奢り甲斐があるというものだ。

385 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 23:16:32.47 ID:FnUBxb/+0

「さて、ミヨキチはこれからどうする?」
「そうですね・・・」
「なんならウチにくるか?妹もいるだろうし・・・」
「あ、もしお邪魔でなければ」

邪魔な訳がない。それなら行こうか。
ちなみにミヨキチは俺たちと昼食を取る事を決めた時、そして今もしっかり親に連絡している。
うーむ。我が家の妹と比べてしまうのは仕方ない事だよな・・・。


386 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 23:17:52.66 ID:FnUBxb/+0

「ただいまー」
「お邪魔します」
「お邪魔します」

と、返事がない。ただのしかばね・・・な訳はない。しまった、妹も留守か?
テーブルには例によって例のごとく書置きがある。

「言って聞かないのでデパートへ連れていきます 母より」

うーむ、こういうところでうちの妹とミヨキチは本当に同級生なのかと悩んでしまう。

387 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 23:20:12.74 ID:FnUBxb/+0

「ミヨキチ、スマン。朝はいたんだが、どうやら妹は母親と出かけちまったらしい」
「え、そうなんですか・・・?」
「ああ、まいったな」

まいったというのは本音だ。せっかくここまで来てもらいながら帰すと言うのはミヨキチに悪い。
かと言って俺たちと小学生が遊ぶとか話すとか・・・うーん、どうなんだ?

388 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 23:21:51.46 ID:FnUBxb/+0

「ミヨキチさん」
「は、はい!なんでしょうか!」
「良かったら私と話でもしていかない?もしかしたらキョンの妹さんも意外とすぐ帰ってくるかもしれない」

「い、いいんですか?お兄さんは・・・」
「大丈夫、キョンは今日買った参考書に手をつけるし、私は後で彼が分からなかった事を
 説明してあげるだけだから」
「そうなんですか」

「それともこんな年上の女性とはあまり話したくないかな?」
「い、いえ!そんな事ないです!・・・えっと、お兄さん、よろしいですか?」

もちろんだ。俺が相手できない分、話し相手になってくれ、佐々木。

390 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 23:23:08.84 ID:FnUBxb/+0

「ああ。君も勉強、頑張ってくれたまえ」
「おう。じゃあお茶とお菓子は出していくから、あとは適当にくつろいでくれ」
「うむ、ありがとう、キョン」

「どういたしまして。何かあったら呼んでくれ。それじゃな、2人ともごゆっくり」
「はい、勉強頑張ってください」

さて、佐々木のみならずミヨキチにも応援されてしまっては手をぬけない。
がっつりやるか。

391 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 23:24:46.80 ID:FnUBxb/+0

参考書は佐々木の言ったとおり、授業の半分以上を寝て過ごしたであろう俺にも
分かりやすい設計で、ミスしたところをしっかり反復できた。なるほどこれは良いな。

時折、階下のリビングから笑い声が聞こえる。
もちろんその声の主は佐々木とミヨキチだ。

そういえばミヨキチとは俺が中学から高校進学する春休みに一度一緒に映画を見に行った。
あの時は小学生にしては俳優が好きで映画を見に行ったり、
お洒落なカフェに行くといった大半の小学生とは少し違った考えで行動する子だった。

442 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/26(金) 12:05:33.48 ID:RKYYf3AZ0

ネタ募集!
12時15分までについたレスの中から書きやすそうなの選びます。

231 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/25(木) 14:07:51.90 ID:tq4CgOvY0

長門と文化祭デート

443 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/06/26(金) 12:09:46.44 ID:3JmX2N7c0

>>231

444 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/26(金) 12:10:28.21 ID:y5xT0/4JO

長門が

445 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/26(金) 12:11:57.80 ID:wjEtLcEd0

佐々木と

446 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/06/26(金) 12:12:45.00 ID:psHU6NeN0

尻相撲

447 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/06/26(金) 12:12:47.30 ID:jAs9wQ/RO

佐々木と長門の露骨なキョンへのアプローチにキョンは全く気付かず二人がヤキモキするオーソドックスな話で

448 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/26(金) 12:21:20.20 ID:RKYYf3AZ0

・長門と文化祭デート
・長門が佐々木と尻相撲
・佐々木と長門の熱烈アタック

この豪華3本立てでお送りします。

455 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/26(金) 13:07:41.51 ID:RKYYf3AZ0

SSS長門と文化祭デート

今回で2回目となる北高文化祭。
今年も『去年同様』つつがなく涼宮ハルヒ超監督のもと新作映画の制作を終えた。
もちろん俺は雑用全般であるからして、またも徹夜での編集作業を行い
これまた去年同様なんとか完成にこぎつけ、映研にフィルムを渡した。

ちなみに今回は去年より勝手が分かっていたのか
ハルヒの考えたストーリーは少なくとも破綻はしていなかったし
そこそこ見れるものが仕上がっていた。
大した超監督ぶりであった事はここで言い添えておこうと思う。

456 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/26(金) 13:08:41.01 ID:RKYYf3AZ0

もっとも、生徒会長からはなぜ文芸部が映画を制作し、文化祭で発表するのかと
抗議にこそきたものの、ハルヒにとってはそれはただの燃料にしかならなったようだ。

さて、今日は天気にも恵まれ、見事な秋晴れだ。
ハルヒは朝比奈さんと共に校門で映画と、そしてまさかのバンドライブの宣伝に回っている。

俺のクラスは今年も大したことをやっておらず、特に任された役割もないので
校内をぶらぶらとあてもなくうろついていた時に

「よう、長門」

長門と出くわした。
今年は魔法使いの格好はしていない。いつもの制服姿だ。

457 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/26(金) 13:09:52.20 ID:RKYYf3AZ0

「長門のクラスは今年、何してるんだ?」
「おばけ屋敷」

ほう。これまた定番だが・・・お前は何か役割分担はないのか?

「小道具。もう特にする事はない」

へえ、具体的にはどんなものを作ったんだ?

「衣装とマスク」

そりゃ相当凝ったものが出来上がっただろう。さぞかし怖いんだろうな。


458 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/26(金) 13:10:58.44 ID:RKYYf3AZ0

「それで、今日はどうするんだ?」
「演奏まで特に予定はない」

そっか、リハは一応早朝のうちに終わらせたしな。

「良かったら」

ん?

「文化祭、一緒に」

459 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/26(金) 13:11:41.41 ID:RKYYf3AZ0

かくして長門と一緒に俺たちの演奏までの間、校内を回る事になったのだが

「なあ、長門」
「なに」
「・・・食べすぎじゃないか?」
「そのような事はない。ありえない」

と長門は言うがすでにアイス、焼きそば、お好み焼き、りんご飴、チョコバナナ・・・
今は片手に焼き鳥を持ったまま俺の横を歩いている。

460 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/26(金) 13:12:24.09 ID:RKYYf3AZ0

「・・・うまいか?」
「とても」

相変わらず表情こそ変わらないが、だいぶ満足しているようだ。何よりだ。
さて、どこか行きたいところはあるか?

「特にはない」
「そうか」
「貴方と」
「ん?」

やや間をおいて、少しうつむいた様子で長門はつぶやくように言った。

「一緒ならどこでも良い」

461 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/26(金) 13:13:12.22 ID:RKYYf3AZ0

一瞬言葉に詰まってしまった。なんて真っ直ぐ言いやがるんだ、コイツは。
まだ顔はうつむいたままだ。どんな表情をしているんだろうね、今。

「ああ、そうだな」

そう言って俺は長門の手を取った。

優しく、長門は俺の手を握り返してくれた。

〜fin〜

463 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/26(金) 13:14:18.08 ID:RKYYf3AZ0

という事でだいぶ短いけど1本目終了。

SSならぬSSS。スーパーショートショート。
うん、長門と文化祭でってシチュは結構難しかったんです。すみません。

さて2本目いってきます。

471 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/26(金) 14:38:25.86 ID:RKYYf3AZ0

長門と佐々木の尻相撲

「くっ・・・んんっ!」
「・・・っ」

なんでこんな事になってしまったんだろうね。
今、俺の眼前では佐々木と長門による尻相撲が行われている。

ところで尻相撲、という競技を知っておられるだろうか?
その形式は至ってシンプルなものだ。
「お互いの臀部だけを相手にぶつけ、相手を倒した方の勝ち」
ただ、それだけ。もちろん手を使ったり、足をひっかけたりしてはいかん。

上半身のバランス感覚、下半身の強靭な土台が必要とされるのだが・・・。

472 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/26(金) 14:39:25.53 ID:RKYYf3AZ0

「長門さん・・・なかなか、手強い、ね・・・」
「貴方こそ・・・」

2人とも軽く息を切らしている。相当本気だ、この2人。
長門は恐らく背格好から予想されうる平均的な肉体的パラメータに改変しているのだろう。
そうでなければ佐々木など尻どころか全身が吹っ飛んでしまうに違いないからな。

さて、ここでシーンを少しばかり巻き戻したいと思う。


―――――。

473 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/26(金) 14:40:09.27 ID:RKYYf3AZ0

「お、佐々木じゃないか」
「やあキョン、それに長門さんも」

佐々木は北高に来た事はなかったからな。
もし暇なら来てみてはどうかと誘ってあったのだ。

「なかなか賑やかで良い雰囲気だね。やはり祭りはこうでないと」

そうだな。せっかくだから楽しまなければ損というものだろう。

「ところで」
「ん?」
「なぜ2人して仲良さそうに手を繋いでいるのかな?」

はっと手を引っ込めた。長門の手が少し名残惜しそうだったのは気のせいだったか。

474 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/26(金) 14:40:53.94 ID:RKYYf3AZ0

「ほう。僕の事を誘っておきながら文化祭は2人きりで楽しむつもりだったのかい?」
「い、いや、佐々木、誤解だ。決してそのような・・・」
「くっくっ・・・良い度胸だ、キョン。まさか君が女性に恥をかかせるような甲斐性を持っていたとはね」
「待て、誤解だ、佐々木」

「勝負あり!おめでとうございます!」

俺たちがいた廊下に面するクラスからだろうか。歓声と共に男の声が聞こえた。
目を向けるとそこには

【3-2 尻相撲 日ごろの鬱憤を晴らしましょう】

「尻・・・」
「相撲・・・?」
「ほう、面白そうじゃないか・・・」

佐々木の目が光っている。

475 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/26(金) 14:41:34.96 ID:RKYYf3AZ0

「長門さん、どうかな。尻相撲で勝った方が、明日一日、キョンと2人で文化祭を回る、というのは」
「お、おいおい佐々木。そんな」
「私に勝負を申し込むとは良い度胸。今のうちに湿布とハンカチを用意すべき」
「くっくっ・・・言うね、長門さん」

まさしく竜と虎。2人の間に火花が見えるのは果たして俺の幻覚なんだろうか?

「それでは申し込みをしてこようか、行こう長門さん」

長門はコクリと頷き佐々木の後を追って3年2組へと入っていく。

「・・・やれやれ・・・なんでこんな事に・・・」

476 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/26(金) 14:42:22.12 ID:RKYYf3AZ0

俺も2人の後を追ってクラスへと入った。中は驚くほど人がいる。
まさに『盛況』の2文字がふさわしい。現代人はストレスを持て余しているからなのだろうか。
などと、軽く現実逃避をしたのは、佐々木と長門のことだ。

特に長門はあれで負けず嫌いなところがある。
向きになって宇宙的なパワーと使うほどお子様ではないと願いたいのだが・・・。

「キョン、申し込みをしてきたよ。今やっている組を含めて4組目に僕たちのようだ」
「そうか・・・。しかしなんでこんな事を言い出したんだ?」
「それは・・・」

佐々木が急に視線をそらす。

477 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/26(金) 14:43:14.17 ID:RKYYf3AZ0

「説明の必要はない。この後、勝者と敗者がわかる。それだけ」
「結構。ところでルールはご存知かな?」
「見ていてわかった。勝負が楽しみ」
「くっくっ、僕もこのように血が滾るなんて初めてだよ。フェアに頼むよ」
「当然。フェアに勝ってこそその勝敗に意味がある」

・・・すでにこの一角で勝負は始まっているようだ。正直頭が痛い。


478 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/26(金) 14:43:58.62 ID:RKYYf3AZ0

「それにしても」

リングらしきものに目をやると今まさに闘っているのは女性2人だ。

「意外と女性の方がこういうの好きなのか?」
「いや、冷静に分析するなら、いわゆる国技たる相撲では耐えがたい姿を衆目に晒しかねない。
 これなら倒れるくらいで女性的大惨事には至らないだろう」
「・・・なるほどね」

そこで冷静になれるなら、なんでもっと先に冷静にならないんだ、佐々木よ。

「キョン」
「うん?」
「いや、なんでもない。そこもまた君の魅力の1つかもしれないからね」
「む?」

わっと声があがる。どうやら勝負が決まったらしい。

479 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/26(金) 14:44:43.10 ID:RKYYf3AZ0

「それでは次の試合を始めます!赤コーナー、佐々木さん!」

がんばれーなどと見知らぬ人から歓声が上がっている。
いや、このクラスの人だろうか?

「そして青コーナー、長門さん!」

うーむ、気が気でないぞ。なんだこの焦燥感は。

「それではお尻を合わせて・・・はっけよい、のこった!」

試合が始まった。

480 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/26(金) 14:45:28.31 ID:RKYYf3AZ0

「いくわよ、長門さん!」

先に動いたのは佐々木だ。先手を取る気か。

「お見通し」

しかし佐々木の尻ツッパリを予測していたかのように長門はさっと尻を引く。

「うっ・・・!?」
「もらった」

たまらず佐々木がバランスを崩すとそこに長門がカウンターで尻ツッパリ。これは決まったか!?

「・・・っ!」
「あまいっ!」

それすらも佐々木の仕掛けた罠だったのか、長門の強烈な攻撃を華麗にかわし
長門の突き出た小さい尻を横から押しやる。

「・・・っ」

「そこまで!佐々木さんの勝利!」

483 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/26(金) 15:01:27.96 ID:RKYYf3AZ0

わーきゃーなどとクラスに一際大きな歓声が上がる。
なんてヤツだ。長門と駆け引きで、まさしくフェアに勝つとは・・・佐々木、恐ろしい子・・・!

「長門さん、これで明日は私が―――」
「―――3回勝負。」
「は?」
「へ?」

俺まで素っ頓狂な声を上げてしまった。

「3回勝負の申し込みをしておいた。万事ぬかりはない」

な、何てヤツ・・・そこまでするか!

「まさかそこまで石橋を叩くとは・・・良いわよ、私が2連勝する!」
「貴方の攻撃パターンは見切った。残りの2つは私がもらう」

484 名前: ◆7MiYo0fRys [さる連発] 投稿日:2009/06/26(金) 15:02:51.85 ID:RKYYf3AZ0

もはや俺は空気と化している。
だがしかし、長門は吸収が早いからな・・・これは、どうなるか展開が分からん。

「それでは第2試合はじめます!はっけよーい・・・のこっとぅあ!」

試合が始まった。佐々木は長門を警戒したか動かない。
長門も真剣な面持ちで背後の佐々木の気配を読もうとしている。
先ほどとは打って変わって静かな戦いになった。
いつしかクラスの中は生唾を飲む音さえ聞こえそうなくらい静寂に包まれていた。

しかしここで先手を取ったのは長門だ。
その尻を右へ―――。

485 名前: ◆7MiYo0fRys [すまんねー] 投稿日:2009/06/26(金) 15:04:08.86 ID:RKYYf3AZ0

気がついた佐々木は『左からの攻撃』に備えるために『右半身』に力を込める。弾き返す気か。

しかし長門はまさしく目にも留まらない速さで尻を右から左に切り返すと、
佐々木の右から尻を弾いた。『右半身から左半身方向に』荷重移動していた佐々木は
その急激な動きの変化についていかず、倒れた。

それこそ『どっ』という効果音が似合いそうな歓声がクラスに響いた。

「つつ・・・まさかフェイントとはね・・・」
「あと1つ。私がもらう」

またもリング上で火花を散らす2人に会場のテンションは最高潮だ。まさにガチンコ。これぞセメント。
いつしか俺までその2人の勝負に見入っていた。
いや、決して尻に魅入っていた訳ではない事は明言しておくべきだろうか。

「それではファイナル!はっけよーい・・・・・・のこっとぅは!」


486 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/26(金) 15:04:51.97 ID:RKYYf3AZ0

お互い最初の2戦で手を見せている。佐々木は縦方向のフェイントなのに対し、長門は横だ。
どちらもムリせず、そしてそれゆえに決めの一手を欠いていた。

という事でこの第3試合はすでに5分を過ぎていた。会場はいつの間にか超満員だ。
外にも観客がいるようだ。考えてみれば長門は谷口いわくAAランクとか何とか言うほどの
美少女であることについては俺も疑いがないし、佐々木もまた古泉曰く、魅力的な美少女、だ。
その2人がなりふり構わず尻相撲で戦っている様は確かに絵になる・・・。

絵に・・・?

「しまった!2人とも、その試合、ストップだ!」
「えっ!?」
「隙あり」

ドシン。

「っ!やっちまったか!」

俺は慌ててリングに上がって佐々木をかばうような位置をとり、座り込んだ。

487 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/26(金) 15:07:14.21 ID:RKYYf3AZ0

「キョン、なんで真剣勝負の最中に声をかけるような・・・」

「え、えー、ファイナルは長門さんが取りましたので、2勝1敗、長門さんの勝利です!」

多少戸惑いを残しつつも美少女2人が見せた試合に惜しみない歓声が送られていた。

「ふう・・・とりあえず出るぞ、良いな、2人とも」

途中ジュースを買って屋上に出る。

「で、なんであそこで声を上げたのか、説明してくれるかい?」
「真剣勝負・・・」

長門も佐々木もおかんむりだ。とは言え俺は後悔なぞ微塵も感じていない。

488 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/26(金) 15:09:03.59 ID:RKYYf3AZ0

「あのな、確かに2人の勝負に水をさした事は謝る。だがな、2人とも自分の格好を良く見てみろ」

「え?」
「・・・」

長門と佐々木が揃って自分の格好を見る。佐々木は赤くなったし、長門も気まずそうだ。

「わかったか?」

そう、長門は制服で佐々木は私服。しかして2人の共通点はと言うと

「長くもないスカートをあんなに揺らしてちゃ・・・ダメだろ?」
「迂闊」

佐々木はぐうの音も出ない。佐々木の方がスカートが短いしな。
どうやら納得してくれたようだ。

489 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/26(金) 15:10:45.43 ID:RKYYf3AZ0

「で、でも・・・」
「ん?」
「キョンと北高を一緒に回りたかったんだ・・・」

・・・そんな事を涙目で上目がちに言われたら男として何か言い返せる訳がない。

「明日は貴方に譲る。」

と長門が譲歩した。

「だって、勝ったのは長門さんだし・・・」
「私は平日毎日北高にくる。しかし貴方は別。この時点でフェアではなかった」
「・・・」
「だからあの勝負も無効。明日はゆっくり回ると良い」

と佐々木に優しい表情で譲られた佐々木は長門を聖母か何かを見るようなまなざしで見上げている。

490 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/26(金) 15:12:24.95 ID:RKYYf3AZ0

やれやれ、なんとか丸く収まったようで何よりだ。

「おっと、もうすぐ講堂にいかにゃならんな」
「ああ、そういえばSOS団のライブがあるんだったね」

良かった。佐々木はもう調子を取り戻したようだ。

「おう。俺と朝比奈さんはともかく、ハルヒと長門、それに古泉の演奏はなかなかのもんだ。
 よかったら聞きに来てくれ」
「もちろんさ。今日の一番の目的だったのだからね」
「よし、じゃあ行くか」


491 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/26(金) 15:13:07.52 ID:RKYYf3AZ0

「キョンはどんな楽器を担当するんだい?」
「ベースだよ。ギターは長門とハルヒ、ドラムが古泉。朝比奈さんはなんちゃってキーボードだ」

「なんちゃって?どういう意味だい?」
「・・・あの人に音感とリズム感を求めるのは間違いなんだ・・・。だからなんとなく弾いてるような格好はする」

「後ろでキーボードの録音された音源を流す手はず」
「くっくっ・・・なるほど、確かにそれなら問題は起きなさそうだ」

去年はなんとも意外な形でSOS団から2人が軽音部に飛び入り参加したが
今年はあくまでSOS団としての参加だ。
もっとも、去年の事を知っている人間は3分の2が残っている訳で。

「結構人が入ってるじゃないの!SOS団の面目躍如ね!」
「そうですね。さらに名を知らしめる良い機会になるでしょう」
「分かってるわねぇ、古泉くん!さすがは副団長ね!」
「お褒めに預かり光栄の至りです」

492 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/26(金) 15:15:14.94 ID:RKYYf3AZ0

朝比奈さんはかなり緊張しているが、まぁなんとかなるだろう。
佐々木は・・・おっ、いたいた。結構前の方に席が取れたようだ。

「じゃっ、いくわよ、みんな!」

ステージに出ると、わっと会場が沸くと同時にえっと戸惑いの声も広がる。それはそうだ。
ハルヒはチャイナ、朝比奈さんはメイド服、長門は看護服というコスチュームだからな。
ちなみに男2人はなぜか学ランだ。ハルヒ曰く「男は女の引き立て役よ!」だそうだ。

「それじゃ一曲目、『止マレ』。聞いてください!」
http://www.youtube.com/watch?v=aGCzsJ0PbH4

大歓声が上がった。

〜つづく〜

504 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/26(金) 17:09:23.49 ID:RKYYf3AZ0

やっぱり佐々木と長門(最終回)

昨日のライブは無事盛況のうちに終わった。
映研の話によれば、映画のほうもなかなか評判が良いようだ。
もっともハルヒは

「これくらいで浮かれていてはダメよ。勝って兜の尾を締めろってね!」

という事で今日も元気に映画の喧伝に回っている。
こういう時は率先してやってくれるから助かるね。
なんせあの声の大きさと格好と容姿だ。
まさしく走り回る宣伝塔といったところか。

さてと、もうそろそろ約束の時間なのだが・・・。

505 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/26(金) 17:10:05.93 ID:RKYYf3AZ0

「やあキョン」

来た来た。佐々木だ。
そう。昨日の壮絶な尻相撲の結果・・・ではないが今日は佐々木と一緒に文化祭を回るのだ。
佐々木は今日も落ち着いた色を基調とした服で全体をまとめている。

「佐々木」
「ん?」
「その格好、その、なんだ。似合ってるな」
「・・・っ!」

うむ、我ながらかなり恥ずかしい。
佐々木も俺がこんな事を言うとは思わなかったのだろう。
不意を突かれて固まってしまったようだ。

506 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/26(金) 17:11:22.75 ID:RKYYf3AZ0

「そ、それじゃあ行こうか?」
「う、うむ。」
「行く」

「「えっ?」」

「な、長門!?なんでここに!」
「そうだよ、今日は私がキョンと・・・!」
「確かに私は昨日、そのように言った」
「う、うん・・・」
「私が同行しないとは言っていない」
「なっ・・・!」

さすがにこの長門の言い分は苦しいものがあると思うのだが・・・。

507 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/26(金) 17:12:52.47 ID:RKYYf3AZ0

「・・・勝負に勝ったのは私」
「うっ!」

確かに俺が止めに入ろうとした際、長門は佐々木を倒していた。
だが長門は佐々木に『譲ってやった』のだ。その引け目が佐々木にはあった。

「わ、わかった。確かに長門さんには恩がある」
「分かってくれたら良い」

という訳で長門と佐々木と3人で文化祭を回る事になった。

「だが長門。お前は昨日ほとんどの食べ物回りつくしたんじゃないか?」
「美味しかったものは何度食べても美味しい」

なにかもはや意地になっている気もするがそんな事を指摘したら
長門はさらに輪をかけて意地になるだろうからな。

508 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/26(金) 17:14:35.41 ID:RKYYf3AZ0

「キョン」
「ん?」
「先ほどから長門さんばかりを見ているね」
「えっ」

そんなつもりはなかったんだが・・・。

「・・・」

佐々木は黙ってうつむいてしまった。
これはご機嫌を取った方が良さそう、か?

「おっ、佐々木。焼きそば食べないか?ここのは美味しかったぞ」

509 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/26(金) 17:16:50.67 ID:RKYYf3AZ0

「ん・・・じゃあ食べるよ」

かくして焼きそばをゲットした俺たちは手近な座れるところを探した。

「へえ、なかなか美味しそうじゃないか」
「だろ?ちゃんとキャベツと豚肉も入ってるからな」

長門は早くも横でもくもくと焼きそばを食べる作業を始めている。

「あ、キョン、ちょっと貸したまえ」
「ん?」
「良いから良いから」

くつくつと喉を鳴らして笑う。

511 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/26(金) 17:17:48.71 ID:RKYYf3AZ0

「はい」
「ん?」
「ほら、あれだよ。あーん、と・・・」
「ぶっ」

こ、こんなところで伝説のアベック(笑)17の必殺技の1つを使えと!?

「くっくっ、早くしたまえ」
「し、仕方ない、な・・・」

これはかなり恥ずかしいが・・・ええいままよ。

「あーん」
「はい、どうだい?」
「ん・・・う、うまいぞ・・・」
「はは、やはりこういうのは恥ずかしいね」

ならなんでやった。

513 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/26(金) 17:19:12.67 ID:RKYYf3AZ0

と反対方向から視線を感じたので振り向く、と。

「・・・」

無言で焼きそばを箸でつまんで俺の方に差し出している長門がいた。

「・・・」
「・・・・・・」

これは、ようするに・・・そういう事だよな。

「あ、あーん」
「どう?」
「ああ、うまいよ。ははは」
「そう」

恥ずかしさというかもう何だかどうでも良くなってきた。

514 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/26(金) 17:20:01.72 ID:RKYYf3AZ0

「おっとキョン、ほっぺたが汚れているよ」
「えっ」

慌てて制服の袖で拭おうとしたが

「それでは制服が汚れてしまうよ、動かないでくれたまえ」
「ん?」

ハンカチかティッシュでも持っているのだろうか。やはりこういうところは女の子なんだな。

ペロッ

―――――――。

516 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/26(金) 17:21:49.70 ID:RKYYf3AZ0

「ぬあああああっ!?」
「ひどいなキョン。そんなリアクションを取られるとは僕も流石に傷つくよ」

「いや、佐々木、おま、今・・・!」
「ああ、綺麗になったよ」
「違うだろうが!俺は青酸カリじゃないぞ!」
「当たり前だろう?そんなものを舐めたら、ドラマやアニメじゃないんだ、死んでしまうよ」

それにしたって年頃の娘さんが不用意に同年代の男の頬をなっ、舐めるなどというのは・・・。

「あまり何度も言わないでくれたまえ。僕だってその・・・恥ずかしいんだ」

524 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/26(金) 18:07:35.30 ID:RKYYf3AZ0

だからなんでそれをやった!無性に身体が熱くなってきたぞ。
佐々木は佐々木で顔を真っ赤にしているし・・・。
はたと、そこで長門と目があった。

「・・・」

さきほどの佐々木の『あーん攻撃』に対抗するように同じ行動を強要された俺の少ない経験値が
長門の視線、いや凝視の意味に気づくのに時間はかからなかった。

が、しかし。あれをもう一度やれと・・・?

長門はいまだ俺から視線を外さない。佐々木はジト目でこちらを見ている。
古泉、お前ならこんな時どう切り抜ける?教えてくれ・・・!

『んっふ、困ったものです』

つ、つかえねぇぇぇぇえ!

526 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/26(金) 18:08:44.99 ID:RKYYf3AZ0

「長門、佐々木」
「なんだい?」
「なに」
「焼きそば食べてのど渇いたよな?俺なんか飲み物買ってくるわ」
「あっ」
「逃げた」

ヘタレと言われても結構。大体が、だ。
佐々木は不意打ちなのに対し、長門の場合は俺が腹をくくらねばならんのだ。
この差はそれこそ月とスッポンというものだぞ。

缶ジュースを持って戻った俺を待っていたのは不機嫌の色を隠さない長門と佐々木だ。
まったく、ほんとに困ったもんだよ、古泉・・・。

527 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/26(金) 18:09:33.93 ID:RKYYf3AZ0

「はい、ジュースをどうぞ」
「ありがとう、キョン」
「ありがとう」

「あの、さ」

そこで一言区切って2人の反応を待った。

「せっかくの文化祭なんだ。2人と楽しい思い出を作りたいと思うのは間違いか?」
「!」
「・・・」
「高校の文化祭なんてのは1年に1回こっきりのイベントだ。
 だからハルヒはああやって全力で楽しんでるだろ。
 俺も、長門と佐々木と、一緒に全力で楽しみたいんだ」

2人は表情を変えない。

528 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/26(金) 18:10:18.97 ID:RKYYf3AZ0

「「・・・」」
「・・・ダメか?」

重い沈黙が流れるかと思いきや

「くっくっ」
「佐々木」
「僕とした事が情けない。そうだったね、キョンの言うとおりだ」
「私もムキになっていた。申し訳ない」

2人とも分かってくれたようで何よりだ。

「いや、それなら良いさ。それじゃ気を取り直して文化祭を楽しもうぜ」
「ああ」
「もちろん」

529 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/26(金) 18:11:06.74 ID:RKYYf3AZ0

その後は文字通り文化祭を満喫した。

長門のクラスのおばけ屋敷はさすがに長門が小道具を担当しただけの事はある。
こういう類のものでは全く動じなさそうな佐々木が『ひっ』と声を出すほどだったからな。

古泉のクラスはホストクラブ風な雰囲気の店だ。
美少年が多いと評判になるだけの事はあって、古泉を筆頭とした男子が
スーツをキッチリと着こなし給仕している。
しかし出される飲み物はとんでもないものばかりだった。

「古泉、これはどういう意味だ?」
「メニューの通り、このクラブには決まったメニューがないのですよ」
「なるほど、これはなかなか面白い趣向だね」
「佐々木さんにお褒め頂くとは至極光栄ですね」

530 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/26(金) 18:12:11.54 ID:RKYYf3AZ0

つまり、どういうことかと説明すると、ミックスジュースは分かるだろうか?
誰しも一度はりんごジュースとオレンジジュースを混ぜて飲んだりした事はあると思う。
あの要領で、コーラとグレープフルーツジュース、牛乳とサイダーなどというように
混ぜる飲料を客のオーダーで作るのだ。

「じゃあ俺は・・・サイダーとオレンジとパインのミックスだ」
「キョン、感心しないな。男子たるものここは冒険すべきだよ」
「同感。お勧めはコーラとりんごと牛乳」

想像するだけで胸焼けしそうだが2人に言われては仕方ない。

「はい、承りました。オーダー入りまーす!」

裏では女子たちが飲料を混ぜており、それをホストが運んでくる仕組みだ。

532 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/26(金) 18:12:58.20 ID:RKYYf3AZ0

「うん、だいたい予想通り美味しい」
「私のも悪くない。試すべき」
「お2人に喜んで頂けたようで何よりです。それでは楽しい文化祭を」

そういってにこやかに俺たちを送り出した古泉とは対照的に気持ち悪くて仕方のない俺なのだった。

「くっくっ、コーラと牛乳かい?」
「多分な・・・あれは相当なもんだったぞ」
「予想通り」
「・・・飲ませるべきだったな、言いだしっぺに」
「だが断る」

その後俺たちはせっかくなのでSOS団Presentsの映画を見に行った。
なかなかどうして人も入っている。
去年と違うのは男ばかりが観客ではないという事だ。

前回は朝比奈さん目当ての男ばかりだったが、今回は古泉目当ての女子もいる。
おっと訂正。男の中には長門目当てで来ている客がいた事も申し添えておこう。

533 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/26(金) 18:13:53.54 ID:RKYYf3AZ0

「おっ、キョンくんに長門っち、それに佐々木さんまで!よく来たねっ!」
「鶴屋さんどうも。今年も盛況ですね」
「まぁねっ!それにしてもキョンくん羨ましいねぇ、両手に花じゃないのさっ!」
「ははっ。過ぎた幸せですよ」

鶴屋さんはカラカラと笑いながら列の最後尾に案内してくれた。

「んじゃ、ちょろっと待っててね〜」
「はい」

「相変わらず元気な先輩だね」
「ああ。鶴屋さんを見ると多少凹んでても元気になっちまうな」
「違いない。まるで太陽のような人だ」

534 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/26(金) 18:14:59.10 ID:RKYYf3AZ0

さて、30分ほど待ったであろうか、ようやく俺たちの番になった。

「あ、キョンくん、いらっしゃい」

今年も朝比奈さんはチケットのもぎり役のようだ。

「ええ、どうも。お邪魔します」
「それに長門さんと佐々木さんも。ご来店ありがとうございます」
「ご丁寧にありがとうございます。その衣装、よくお似合いですね」
「えへっ、ありがとうございます♪」

今年は去年のメイドと違い、南国を髣髴とさせるデザインのワンピースだ。
先ほどの鶴屋さんと言い、朝比奈さんと言い。
こうもスタイル抜群の2人に着てもらってさぞや衣装も本望というものだろう。


535 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/26(金) 18:16:11.31 ID:RKYYf3AZ0

待ち時間の間に決めておいた注文の品が運ばれてくる。

「ごゆっくりどうぞ〜」

2年連続で北高における最高の喫茶店で頂くのはジェラートだ。
昨日今日といろいろ食べたがやはりここの店が一番だな。
長門はもくもくと冷たい幸福をかみ締めているようだ。

「ほう、これは美味しいな」
「だろ?」
「うむ。うちの文化祭ではこんなものは出なかったな」
「そういえば、佐々木の学校の文化祭はいつなんだ?」

日程が合うなら是非とも行ってみたいものだが。

541 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/26(金) 19:00:26.77 ID:RKYYf3AZ0

「残念ながら今年度はもう終わってしまってね。5月だったんだ」
「そうか、それは惜しいことをしたな」
「良ければ来年の文化祭に来たまえ。僕が案内しよう」
「ああ、その時は頼むぜ」
「・・・私も行く」

佐々木がぴくっと反応する。

「・・・長門さんは案内がなくても迷子になったりしないよね?」
「1人は不安。怖い。案内が必要」
「それなら私の友人を紹介してあげるね」
「人見知りなのですでに知った仲の方が良い。つまり貴方」

まーた始めちゃったよ・・・と言っても、この2人にはなんでもない言いあいなんだろう。

今日1日一緒に行動していて分かったが、佐々木も長門も、お互いにどこまでなら
相手を傷つけないで済むかがしっかり分かっているようだった。

ホントに、いつの間にこんなに仲良くなったんだろうねえ。

542 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/26(金) 19:01:08.31 ID:RKYYf3AZ0

「あっ、いたわね、キョン!」

と、聞きなれた声がする。

「ようハルヒ。映画の宣伝の方はどうだ?」
「バッチリよ!さっき最後の回が始まったけど満員だったわ!」

そりゃ何よりだ。お前も超監督冥利に尽きるってもんだな。

「まあね。あら、有希と佐々木さんと一緒に回ってたの?」
「ああ。そうだよ」
「ふーん、佐々木さん、有希、あらかた校内は回れた?」
「ええ、おかげさまで。楽しい1日になりましたよ」
「同感」

ふう、どうやら2人には満足してもらえたみたいだな。何よりだ。

543 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/26(金) 19:02:08.22 ID:RKYYf3AZ0

「それじゃ、2人とも、もうキョンはいらないわよね?」

「えっ」
「!」

「さっ、いきましょ!キョン!アタシ全然回ってないからお勧めをピンポイントで案内して頂戴っ!」
「こ、こら引っ張るな!ハルヒ!」
「良いから良いから!ほら早く!」

「・・・長門さん」
「・・・なに」
「どうかな、ここは一時休戦といかない?」
「全面的に同意」

「ふふっ、じゃあ行きましょうか」
「迅速においかけるべき」
「そうね」

「キョン待ちたまえ!また今日は終わっていないぞ!」

今度こそ終わり。

546 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/26(金) 19:04:27.66 ID:RKYYf3AZ0

ああ 母さん もう おさるさんは しばらく見たくありません・・・

保守&支援くだすった皆々様ありがとうございました!
うまく雰囲気をお伝えできていたか分かりませんが
この辺でそろそろこのスレでのSSは終わりにしようかと思います。

また機会があったらお目にかかりましょうぞ。合言葉は佐々木と長門で!

556 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/26(金) 19:53:15.20 ID:RKYYf3AZ0

おまけ

なんやかやでドタバタとした文化祭も終わり、SOS団の面々は各自後片付けに奔走している。
俺はというと、佐々木を1人で帰すのもあれなので一緒に帰ろうと言う事になった。

「こうしてキョンと電車に乗るなんて、なんだか新鮮だね」
「そうだな」

電車に揺られる佐々木を横目に見る。
・・・ホントに、人形みたいに端正な顔立ちだよな・・・。

「ん?どうかしたかい、キョン?」

いや、なんでもないぞ。横顔に見とれてたなどと口が裂けても言えん。

「くっくっ、おかしなキョンだ」

557 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/26(金) 19:54:01.96 ID:RKYYf3AZ0

電車を降りて改札を抜ける。

「おや」
「おぉ」

すっかり目の前はピンクがかったオレンジ色になっていた。

「綺麗だな」
「うん、綺麗だね」

どちらからともなく手を繋いで帰る夕暮れ。
駅前の喧騒もどこか遠く聞こえた。

「――――よ、キョン」
「え、なんか言ったか、佐々木?」

「なんでもない」

その笑顔は夕暮れなんかよりもっと綺麗に見えた。
頬が紅く見えたのは、夕日のせいだったろうか、あるいは―――。

おまけおわり。

588 名前: ◆7MiYo0fRys [sage] 投稿日:2009/06/26(金) 23:46:44.01 ID:RKYYf3AZ0

「長門よ」
「なに」
「寝たらどうだ?」
「眠くない」

そういう長門は確実に舟をこいでいる。なんでそう意地になるかね。

「長門」
「寝てない」
「そうか、俺の膝が偶然にもあいているんだが・・・」
「寝る」

こてん

先ほどまでの抵抗が嘘のように長門は俺の脚の上にその小さい頭をのせた。

「寝心地はどうだ?」
「・・・」

無視か、と思いきやもうスースー寝息を立てて寝てやがる。
全く。たまにはこうして誰かに甘えろよ、長門。

そう、例えば俺とかな。


という事で眠くなったの寝ます。
お付き合いありがとうございました〜。

594 名前: ◆7MiYo0fRys [sage] 投稿日:2009/06/27(土) 00:01:55.34 ID:YvhuxcbZ0

「ほい、お待たせ。コーヒー淹れてきたぞ」
「ありがとう。ミルクは入っているのかい?」
「ああ、砂糖とミルクが1つずつだったよな?」
「正解だ。よく覚えてたね、キョン」

そりゃな。俺がコーヒーを淹れる相手はお前しかいないんだよ。

「温まる・・・」
「そうかい。そりゃよかったな」

不意に会話が途切れる。
それはちっとも不快じゃない、むしろ心地よい沈黙だ。

「もうすぐ、クリスマスだね」

ああ、そうだな。今年もSOS団で何かやるのかな。

「くっくっ、羨ましいよ。僕はそこへは行けないからね」
「なら別に時間とって会おうか」
「・・・え、それって・・・」

照れくさくなって視線をそらした。

「くっくっ、君にしては上出来だよ」
「そうか?」
「ああ。今から楽しみだよ、クリスマスデートがね」

どうやらコーヒーは体だけじゃなく、心まで温めてくれたようだ。

こんなおわり。

624 名前: ◆7MiYo0fRys [sage] 投稿日:2009/06/27(土) 11:09:49.70 ID:YvhuxcbZ0

〜残暑お見舞い申し上げます〜

「・・・」
「あー・・・」
「・・・」
「暑い」
「・・・そうだね」
「言うと余計暑くなるぞ、長門」

うだるような暑さだ。
今日も例によって例のごとく我が家にいる3人なのだが
季節は9月。あまりにも厳しい残暑であった。

625 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/27(土) 11:10:37.30 ID:YvhuxcbZ0

これほど暑くてはどうにもならない。
.先ほど近所のコンビニでカキ氷を買ってきたのだが
それすらも焼け石に水だったようだ。

「さすがにこれでは読書も、ままならないね」
「・・・だな・・・」

ちなみにクーラーは故障中である。
昨日までは問題なく動いていたのだが・・・。

「キョン、これならいっそ図書館にでも行かないか?」
「ああ、それも良いかもしれんな。空調効いてるだろうし」
「止めた方が良い」

どういう意味だ、長門。

626 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/27(土) 11:11:27.91 ID:YvhuxcbZ0

「現在図書館には想定以上の利用者がおり、空調がほぼ効果を発揮していない」
「人間が多すぎて涼しくないってことか」
「そう、むしろ蒸し暑い。室温31℃はこの部屋の室温34℃より低いものの、湿度は81%。異常」

じゃあどうすりゃ良いんだ。

「情報統合思念体は判断を保留している」
「ようするにわかんないって事かよ」

心なしか長門も困っているようだな。

「・・・うだうだしてても余計に暑くなるね」
「佐々木、なにか妙案はないか」
「任せたまえ、我に策あり、だ」


627 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/27(土) 11:12:11.76 ID:YvhuxcbZ0

外はまさしく炎天下で、蜃気楼でも見えるのではないかと思うほどの暑さであったが
佐々木の、『そこ』に着けば快適だ、という言葉を信じてひたすら歩いていた。

ふと、空気が変わる。確実に質量さえともなっているような、身体にへばりつくような空気から
涼やかで軽い空気になった。風も穏やかながら吹いているようだ。

「なるほど、さすが佐々木だな」
「そうだろう?まさしく穴場というヤツだよ」

連れてこられたのはちょっと小高い木の生い茂った丘だ。
そばにはわずかではあるものの水の流れる川もある。

「涼しいだろう?」
「ああ。こりゃ確かに快適だな」
「新情報。情報統合思念体にフィードバックする」


629 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/27(土) 11:13:05.03 ID:YvhuxcbZ0

外はまさしく炎天下で、蜃気楼でも見えるのではないかと思うほどの暑さであったが
佐々木の、『そこ』に着けば快適だ、という言葉を信じてひたすら歩いていた。

ふと、空気が変わる。確実に質量さえともなっているような、身体にへばりつくような空気から
涼やかで軽い空気になった。風も穏やかながら吹いているようだ。

「なるほど、さすが佐々木だな」
「そうだろう?まさしく穴場というヤツだよ」

連れてこられたのはちょっと小高い木の生い茂った丘だ。
そばにはわずかではあるものの水の流れる川もある。

「涼しいだろう?」
「ああ。こりゃ確かに快適だな」
「新情報。情報統合思念体にフィードバックする」


630 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/27(土) 11:14:00.09 ID:YvhuxcbZ0

「あー、お茶がうまい。最高だ」
「む、キョン。僕にも分けてくれたまえ」
「え、お前もさっき自分の―――あっ」

イタズラ小僧のような顔で俺からサッとペットボトルを奪うとすかさず口をつけた。

「うむ、美味いね。ご先祖に感謝を申し上げたくなるよ」
「大げさだな・・・って、あ!」

横から淡々と狙っていたのか今度は長門が俺のお茶を奪取せしめた。
こくこくとかなりの勢いで飲んでいるが大丈夫か?

「美味しい・・・けふっ」
「ぶっ」
「くっくっ」

世にも珍しい対有機生命体ヒューマノイドインターフェイスのゲップだ。
もちろん当の本人は恥じているんだろう、

「・・・迂闊」

顔を赤らめている。

631 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/27(土) 11:15:00.09 ID:YvhuxcbZ0

「ほら長門、それは俺のだ。返せ」
「もう一口」

まだ飲みたいかね。まぁ、かまわんけどな。
返ってきたボトルからはだいぶお茶が減っていたが、まぁ良いさ。

お茶をまた一口飲んで俺は地面にごろんと横になった。
草や土の上に寝転がるのは気持ちいい。アスファルトとは違って熱をためないからな。

佐々木は喉をならしてくつくつ笑いながら俺にならって横になる。
どうやら長門もその横で寝転がったようだ。

632 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/27(土) 11:16:17.15 ID:YvhuxcbZ0

「キョン」
「ん?」
「腕を貸してくれないか?」

なんのことかと思っていたら佐々木は俺の右腕を取って横にのばした。ああ、そういう事か。

「うむ悪くないよ、キョン」
「そりゃ良かったな」

いわゆる腕枕というヤツだ。佐々木の頭は小さいし軽い。
いや中身が詰まっていないという訳ではない。そういう意味ではないぞ。
くつくつと笑いながら佐々木は心地良さそうにしている。
すると、長門がむくりと起き上がった。


633 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/27(土) 11:17:13.47 ID:YvhuxcbZ0

「どうした?」
「・・・」

長門は答えない。ぺたぺたと俺の左側にくると

「・・・」

その視線に苦笑する。長門よ、お前もか。
黙って俺は左腕を横に伸ばした。

「ありがとう」

短く感謝を述べた長門はこてんと俺の左腕に頭を預けた。

「・・・どんなもんだ?」
「不思議。落ち着く」

そうかい。そりゃ良かったよ。俺は身動きが取れなくなっちまったけどな。

634 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/27(土) 11:18:37.73 ID:YvhuxcbZ0

「地球温暖化のせいなのかねえ」
「この猛暑のことかい?」
「ああ、まあな」
「どうだろうね。安易に空調に頼るせいでもあるとは思うよ」

確かに冷房を作動させている時の室外機はクソ暑いからな。

「さすがに来年は俺たちは3年、受験だから気軽に遊びになんていけないだろうが」
「うん?」
「?」

長門が視線だけで続きを促す。

「再来年の夏は、北海道でも行ってみるか」

639 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/27(土) 12:04:05.24 ID:YvhuxcbZ0

佐々木は目を2、3回ぱちくりさせた後、喉を鳴らして笑った。

「くっくっ、突拍子のない話だね。それに全員が受験に現役合格するとは限らないだろう?」
「む」
「特に貴方」

それを言われると辛いものがあるな。

「まあ―――」

木陰の隙間にちらちらと覗く青空を見上げる。

「―――なんとかなるだろ」

そよそよと涼しい風が流れる。涼感をかもし出す流れる水の音。
いつしか俺たちは静かにその目を閉じて、つかの間の休息にその身を委ねた。

〜残暑お見舞い申し上げます 終わり〜

640 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/27(土) 12:06:04.40 ID:YvhuxcbZ0

あーやっと書き込めた・・・もうホントさるやだ・・・。
なんか二度寝して起きたらやたら暑かったのでこんな内容。
1時間かけてこんなんですが許してちょんまげ。

644 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/27(土) 12:15:47.05 ID:YvhuxcbZ0

もう昨日のおまけで終わりだったんだよ!
つかネタがないんだよ!あと長い文も書けないんですよ!

だから終わり、ね?

649 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/27(土) 12:49:22.27 ID:YvhuxcbZ0

キャッキャウフフだと・・・シチュが思い浮かばない・・・。
ていうか具体的に何をさすのかわかんね。
俺の童貞妄想力が働かないぜ!

でもちょっとトライする。また短いけど文句なしね!

653 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/27(土) 14:10:44.30 ID:YvhuxcbZ0

〜おっととっと夏だね〜

生い茂る松林。打ち寄せる波音。照りつける太陽。巡る喧騒。
まさに海だ。

―――話は一学期の最後の日までさかのぼる。

終業式を終え、ありがたくもない成績表を頂いた俺は
目の前に山のように積まれた夏期休暇の課題をどのように消化すべきかと
頼りない頭で必死に考えていた。

しかし、下手の考え 休むに似たり という言葉を思い出した俺は
とりあえず自分の部屋に戻るとクーラーを入れて着替え、横になった。

それにしても暑い夏である。もちろん夏はすべからく暑いものであり
近年の異常気象により涼しい夏を期待していた訳ではないのだが。

654 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/27(土) 14:11:43.75 ID:YvhuxcbZ0

ちなみに今年の夏休みのSOS団予定表は去年の如きハードスケジュールが組まれている。
来るべき文化祭に備え、映画撮影に加え、バンドの練習までするハメになっていたからだ。
とは言え、やはり学生の身であるし、全員課題を抱えているので
さすがの団長様も夏休みの前半はあまり予定を入れないでくださった。

「キョン!休みだからってぼけっと過ごすんじゃないわよ!
 後半になってもまだ課題を終わらせてなかったらタダじゃ置かないわ!死刑よ!」

いやーなんてありがたいお言葉なんだろうね。嬉しくて涙が出る。

しかしまあ、今日くらいは良いだろ。そうさ、そうに決まってる。半日くらいゆっくりしよう。
そう思って目を瞑ろうとした時の事だ。

ピリリリ

携帯が鳴った。メールだ、誰からだ?

655 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/27(土) 14:12:33.43 ID:YvhuxcbZ0

佐々木か。どうしたんだ?

『件名:やあ 本文:一学期お疲れ様。今もし問題ないなら電話したいのだが大丈夫だろうか?』

電話一本するのにメールで事前確認を取るあたり佐々木らしいな。
すぐに俺は折り返し電話を入れた。

「もしもし、佐々木か?」
「おや、キョンじゃないか。君から電話をしてくれるとは助かるよ」
「何言ってんだ。俺とお前の仲だろう。どうかしたのか?」

ああ、実は、と前置きしてから佐々木は続けた。

「明日、海に行かないか?」

海か、去年は古泉の―というか機関の、か―離島に行ったな。
今年はその手のイベントはなさそうだし。海は俺も嫌いではない。

656 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/27(土) 14:14:04.71 ID:YvhuxcbZ0

「良いな。よし行こうか」
「即断とは君も気前が良いね」
「他に誰か誘うのか?」
「ああ、すでに長門さんを誘ってあるよ。それとも、僕と2人きりが良かったかい?」

最近佐々木はなかなか大胆な発言をするようになった気がする。

「ありがたいが、それはまた次の機会にしよう」
「くっくっ、社交辞令として受け取っておくよ」

それで、待ち合わせ場所はどうする?

「駅前で良いんじゃないかな」
「了解。時間は何時くらいだ?」
「そうだね、電車で2時間だから、8時に駅前でどうかな?」
「わかった。んじゃ今日は早めに寝る事にするよ」
「ああ、そうしたまえ。それじゃ明日」

佐々木と長門と海、か。
って、去年長門はひたすらパラソルの下で読書に耽っていた気がするが・・・良いのだろうか?
だがアイツが行くと言ったんなら良いんだろうな、きっと。多分。

657 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/27(土) 14:15:24.71 ID:YvhuxcbZ0

母親に明日、佐々木と長門と3人で海に行く事を告げ
(もちろん妹がいない時を見計らって、だ)
明日を楽しみに早めに布団に潜ったのであった。

という事で海に到着した訳なのだが、今俺は1人だ。
なぜかって?女性は何かと時間のかかる生き物なのさ。

今日は夏休み初日でもあり、また天気も最高に良いためだろう
浜辺も海もかなりの人で溢れている。

パラソルを海の家で借りたが、さて、どのへんに陣取ろうかね。
などと人の群れを眺めていると、突然視界をふさがれた。

「誰だとおもう?」
「ふん、分かるに決まってるさ、佐々木だろ?」

そう言って手を取り後ろを振り向くとそこにいたのは長門だった。

658 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/27(土) 14:17:32.69 ID:YvhuxcbZ0

「え?あれ?」
「くっくっ、キョン。僕の声だったからと言って、その手が僕のものとは限らないだろう?」

してやられたな。確かに言うとおりだ。・・・っと。

「ん?どうした、キョン?」

はっとさせられてしまった。長門の水着姿は去年見たが佐々木のそれは初めてだ。

「ぼーっとして、大丈夫かい?」

と心配しするように近づいてくる。

「いや、大丈夫だ。その、あれだ。佐々木」
「ん?なんだい?」

当人は全く気づいてないらしい。

「・・・水着、その、似合ってるな」
「っ!」

しまった、つい顔をそらしてしまった。
見ろ、俺がそんなアクションを取ったばかりに佐々木もちょっと困ってしまったようだ。

659 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/27(土) 14:19:28.95 ID:YvhuxcbZ0

「う・・・あ・・・あり、がとう。恥ずかしいね。ははは」
「そうだな・・・あぁ、長門は新しい水着か?よく似合ってるな」
「ありがとう」

なんとか話題の切り替えに成功したようだ。

「そういえば、君と海はおろか、プールにも一緒に行った事がなかったね」
「ああ、そうだな。中学のプールの授業は男女別だったからな」

そう、つまり佐々木のそういう姿を見るのは初めてだったのだ。
なんというか、佐々木って意外と着痩せするタイプなのかもしれん。

「場所はこの辺にしようか。更衣室や海の家にもそこそこ近い」
「ああ、良いな。んじゃ、よっ・・・と」

パラソルを張って、簡易の折りたたみイスを設置。
あっという間にインスタントリゾートの完成だ。

長門はさっそく椅子に座り、本を取り出している。
やはりこいつは読書なんだな。

661 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/27(土) 14:21:33.16 ID:YvhuxcbZ0

「さてキョン。頼みがあるんだが」
「なんだ?今ならまだ体力がありあまってるから何でも言ってくれ」
「大丈夫、体力はさほど使わないよ」

と言って佐々木はカバンから一本の小さなボトルを取り出した。

「日焼け止めオイル。塗ってくれるかい?」

なん・・・だと・・・。

という事で佐々木にオイルを塗るという天国と地獄がいっぺんに来たような苦行の始まりだ。
佐々木はうつぶせになっている。

ちなみに、佐々木の水着は俗に言うタンキニというヤツだ。
上がタンクトップのようなキャミソールのような形状で下はビキニようなタイプで
どうやら最近の流行らしい。

「じゃあ、塗るぞ」
「ああ、頼むよ」

と言っても手順がとうとか全くそういうのは分からん訳でだな。
とりあえず水着に覆われていない肌の部分、つまり腰と背中だ。

662 名前: ◆7MiYo0fRys [>>660 それはないわ] 投稿日:2009/06/27(土) 14:23:27.25 ID:YvhuxcbZ0

「脚とか肩は大丈夫なのか?」
「そうだな、肩はムラができると困るからキョンが塗ってくれたまえ」
「わかった」

透き通るような柔肌とは良く言われるが、至言だと俺は思うね。
佐々木の肌がまさにそれなのでは思うくらい、佐々木の背中は白かった。
そこに触れる、と。いかいかん緊張してきてしまった。

だがこのまま固まっている訳にもいかない。意を決して手にオイルを取る。

「んじゃいくぞー」
「ああ、よろしく」

―――佐々木の肌は見た目以上に、思った以上に柔らかくスベスベだった。

「んっ・・・キョン、上手・・・」
「バカ。変なこと言うんじゃない」
「・・・くっくっくっ」
「佐々木、髪の毛上げてもらって良いか?」

うなじにもオイルを塗った方が良いだろう。

663 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/27(土) 14:26:34.49 ID:YvhuxcbZ0

「良く気づいたね。僕も忘れていたよ」

佐々木はそう言って肩にかかるか、かからないかぐらいの長さの髪を左右に分けてうなじを出した。

「これで大丈夫かい?」
「あ、ああ。問題ない」

思わず生唾を飲んでしまったが聞かれていないだろうか。
うなじにもオイルをムラなく塗っていく。気分は神風特攻隊だ。

「んっ・・・気持ちいいよ、キョン・・・」
「だからお前な・・・」
「くくっ・・・本当の事だよ。ああ、それから」
「なんだ?」
「肩紐の中と、それから水着の内側も頼んだよ」

・・・・・・なん・・・・・・だと・・・・・・。

669 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/27(土) 15:15:22.17 ID:YvhuxcbZ0

そこから先のことはほとんど覚えていない。
ハッキリ言おう。何か別のことを考えていては、どこかが何とかなってしまいそうだったからだ。

「お、終わったぞ」
「ありがとう、うん。助かったよ」
「なら良かったよ」

「おや」
「ん?」

佐々木は俺の後ろを見ている。何かあるのか?

670 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/27(土) 15:16:29.57 ID:YvhuxcbZ0

「塗って」
「・・・長門は、パラソルに入ってるから紫外線対策は必要ないんじゃないか?」
「紫外線は日陰にいても反射光などにより常にその脅威に晒される。防御策が必要」

佐々木は後ろでくつくつと笑っている。どうやら逃げ場はないらしい。
まだ海について1時間と経っていないんだが・・・、佐々木。
さっきのお前の言葉は珍しく間違っていたぞ。

・・・オイルを塗るってのは、とてつもなく疲れる作業だぞ。

おっととっと夏だね おわり。

671 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/27(土) 15:18:33.11 ID:YvhuxcbZ0

まーた、さるくらったよ・・・たははー。
もうなんなの?僕はさると切っても切れない関係なの?
あと1時間くらいで出かけなくちゃならんのでとりあえずストップ。

もし帰ってきてまだ残ってるならなんぞ書きますが・・・ネタ考えといてくだしあ。

720 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/27(土) 23:42:47.57 ID:YvhuxcbZ0

〜こちら長門。遊園地の潜入に成功した。〜


12月24日、日曜。午前9時。
私はUSO(ユニバーサルスタジオ大阪)という遊戯施設に来ている。

なぜこのような状況になったのか。説明が必要だと思われるため簡潔に述べる。

佐々木。下の名前は不明。恋敵にして戦友でもある。
3日前、彼女と携帯電話の電子メールにてコンタクトをとっていた時のこと。

――― 今週の日曜。一緒に彼の家に行く?

私はちょっと用があるんだ、ごめんね。―――

これは珍しい事態。いつもならどんな予定があっても
彼の家に行く事を最優先事項にしている彼女。

721 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/27(土) 23:43:45.85 ID:YvhuxcbZ0

しかし彼女にも都合がある。だから今回は無理。
なので私は彼の家に1人で行こうと計画。彼に予定を尋ねた。

「ん?すまんな、長門。日曜はどうしても外せない用事があるんだ」
「そう」

仕方ない。無理強いする事はできない。しかし引っかかる。
『彼』と『彼女』が2人とも『用がある』と言う。

そして昨日。帰り際の彼に1つ尋ねてみた。

722 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/27(土) 23:44:44.84 ID:YvhuxcbZ0

「明日、彼女とゆっくり楽しんでくるといい」
「ああ、ありがとな。・・・って長門、なぜそれを・・・?」
「彼女から聞いた。とても楽しみにしていた。」
「そ、そうか。まぁ、佐々木が楽しめるよう尽力するさ」

私は彼女と言っただけで名前は出さなかった。
つまり日曜、2人は一緒にどこかへ出かける。

・・・間違いがあって警察沙汰になっては大変。
それに涼宮ハルヒに目撃されて自律進化の可能性を失うのも非常に痛手。

―――結論。日曜は2人の後をつけるべき。世界のために。

情報統合思念体もこれに満場一致で可決。朝倉、黄緑のバックアップも配備させる。

あくまで観察。世界のために。それだけ。異論は認めない。


723 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/27(土) 23:45:31.17 ID:YvhuxcbZ0

と、こんな感じのを書き溜めてくる。いらんかったら今度こそ落としておk

長門目線は難しい・・・。

739 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 01:34:47.84 ID:nMNknPtB0

>>722
彼らは駅で落ち合うと電車に乗り込んだ。

彼も彼女も今までに見たことのない服装。
特に彼女はうっすら化粧をしているように見える。

「待ったか?」
「ううん、ちっとも待ってないさ」
「佐々木、今日は、ポニーテールなんだな」
「え、あ、ああ。キョンはこの髪型が好きだと聞いてね。試しにやってみたんだがどうだろう?」
「最高に似合ってるよ。今日はいつにも増して綺麗だぞ」
「・・・ありがとぅ・・・」

・・・おかしい。彼はあのような台詞を言わない。
私たち3人でいた時も、それに涼宮ハルヒや、彼が敬愛するとされる年増女にも
あのような賛辞の言葉を送った事はない。異常事態。

740 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 01:36:10.09 ID:nMNknPtB0

「長門さん、まだ手を出しちゃダメですよ。もう少し様子見しましょう」
「黄緑・・・あなたはただのバックアップ。引くべき」
「いいえ、情報結合の解除はまだ早計というものですよ」
「私もそう思うなー」
「朝倉涼子。貴方から情報結合の解除をすべき?」
「・・・ごめんなさい」

朝倉涼子はともかく黄緑江美里からも反対されたのでここは判断を保留。
引き続き彼らの監視を継続。

「それじゃ、行こうか」
「うん」

手を繋ぐ様は非常に自然。人ごみをかきわけて駅の改札を通り抜けていく。

741 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 01:37:24.91 ID:nMNknPtB0

「私たちも移動する」
「わかりました」
「はーい」
「・・・朝倉涼子には緊張感が足りない」
「だって、長門さんが不可視フィールドを展開しているんですもの。どうせバレやしないわ」

そういう問題ではない。

移動中の電車内でも彼らは非常に親しげに話をしている。
これは当然。彼らは親友同士。ここで私の精神に大きな揺れが生じた。

・・・エラー発生。朝倉涼子の左腕に、とりあえずしっぺしておいた。

「いたっ!な、なんで・・・?」

742 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 01:39:47.27 ID:nMNknPtB0

目的地に到着。これほどの人ごみに遭遇するのは非常に稀。
これでは彼らを見失ってしまう可能性がある上に、彼らがお互いを見失う可能性も―――。

「佐々木!しっかりつかまってろよ!」
「う、うん!」

前言撤回。すぐに見つかった上に彼らは離れ離れになりそうにない。
・・・なんとなく朝倉涼子にデコピン。

「きゃっ!?・・・なんで私だけ・・・?」
「日ごろの行いじゃないですか?」
「江美里・・・貴方ね・・・」

彼らは雑踏にまぎれながらもそこを目指していた。
初めて見る場所。データにない。検索開始―――データの一致する項目を発見。
名称ユニバーサルスタジオ大阪。2年前開園。大迫力のアトラクションや豊富なイベントを有する。
ターゲットとなる客層は主にファミリー、中高生、大学生、カップル。広さは甲子園球場7つ分。

情報は把握した。

744 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 01:41:36.84 ID:nMNknPtB0

「ね、長門さん。こんな情報、追跡になんの役に立つの?」
「・・・」
「うぐぅっ」
「お見事な回し蹴りでした」

このままでは効果的な追跡及び尾行は不可能。
役割分担を提案する。

「はい、どうしましょう」
「黄緑江美里は園内監視カメラにアクセスしてリアルタイムに居場所をチェック。万が一に備えて」
「了解しました」
「それじゃ私は?」
「朝倉涼子、貴方には重大な任務を任せようと思う」

彼らが向かっている先は―――いわゆる『オバケ屋敷』と判定。追跡を再開する。

「了解です。くれぐれもご注意を」
「りょーかい。なんで私がこんな役を・・・」

朝倉涼子の文句を無視し、私は彼らを追った。

745 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 01:43:35.47 ID:nMNknPtB0

「へえ、なかなか凝った作りだな」
「そ、そうだね、キョン」
「ん?もしかして苦手なのか?てっきりこういうのは大丈夫なタイプだと思ったぞ」
「もちろん、これらのものは作り物だし、そんなものを怖がったりはしていないさ」
「・・・その割にはコートの袖をやけに強く握っているようにみえるが?」
「君は本当にイジワルだな・・・」

彼らがこのアトラクションに入って10分が経過した。そろそろ例の地点に着くはず。

「ばぁっ!」
「ひゃあっ!?」

作戦成功!よくやった朝倉涼子!

747 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 01:45:35.36 ID:nMNknPtB0

「お、おい、大丈夫だって。そんな怯えるなよ佐々木」
「・・・キョンはすごいな・・・。僕もまだまだ精進が足りないね」
「そんな事ないさ。このオバケの眉が太くなかったら俺も驚いていたかもしれん」

・・・作戦失敗。朝倉涼子を不要と判定。

「そ、そんなぁ・・・」
「長門さん、盛り上がっているところ悪いですがターゲットはすでに移動していますよ」
「迂闊。方向は?」
「そこから北西。どうやらジェットコースターに向かっているようです」
「了解」

黄緑の連絡を受けて急ぎオバケ屋敷を出て彼らを追う。

750 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 01:47:24.05 ID:nMNknPtB0

「ホントに乗るのか?」
「キョンはこういった絶叫系が苦手だったかい?」
「ああ。どうにも仲良くなれそうにないね。佐々木は大丈夫なのか?」
「もちろんさ。先ほどは不甲斐ない姿を見せてしまったからね、今度は君に大声を出してもらうよ」
「いや、怯える佐々木も新鮮で可愛かったけどな」
「えっ・・・」
「あ、いや・・・その・・・うん」

・・・冬だというのにあの周りだけ春のような空気。とりあえず朝倉涼子を蹴っておいた。

「はい、それではこちらより後は次回になりまーす」

尾行に集中していていつの間にか同じアトラクションに並んでしまっていた。
しかし抜け出すにも場所が非常に混雑しており抜けるに抜けられない。非常事態。

「今から抜けるより、アトラクションに乗った方が早いんじゃない?そんなに時間かからないだろうし」
「やむをえない。その案を採用する」

ここにいてはアトラクション中の彼らを観察できないが仕方ない。

753 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 02:03:22.82 ID:nMNknPtB0

「はい、それでは次の組の方、座席につかれましたらアームでしっかり座席に固定してください」
「本アトラクションはまず時速160キロで地上200メートルまで上昇します」
「直後80度で落下するような間隔を味わえます。是非気持ちよく絶叫してください!」

「朝倉涼子」
「なに?」
「この手のものに乗ったことは?」
「ないに決まってるわ。そんなの長門さんもでしょ?」

コクリと頷こうとした瞬間。

初速160キロで打ち出された身体は斜角40度で200メートル上昇。
そして一気に落ち―――

754 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 02:05:26.37 ID:nMNknPtB0

「―――――――――」
「っきゃああああああああ!!」

「ん?」
「どうかしたかい、キョン?」
「いや、聞き覚えのある声がしたと思ったんだが・・・多分気のせいだ」

「はーなかなか人間も面白いものを作るわねぇ!・・・って、あれ?長門さん?」
「―――――」

ボソッ

「え?」
「――――かった・・・」
「もしかして長門さん、こわkんがっ!」

気を取り直して、尾行を再開する。

「黄緑江美里、彼らの現在地は?」
「ターゲットはそこから西にいるわ」
「了解」

755 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 02:06:16.37 ID:nMNknPtB0

しばらく歩くと、いた。彼らは大きなコップに座っている。

「・・・あれはなに?」
「コーヒーカップね。真ん中のハンドルを回すとカップの回転が速くなるのよ」
「そう」
「あ、良かったら長門さん、一緒に―――」
「死にたい?」
「ごめんなさい」
「分かればいい」

やがてこのアトラクションから離れた彼らの向かった先は―――。

――――。

――。

756 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 02:07:27.68 ID:nMNknPtB0

USOに来て8時間が経過。現在の時刻は17時03分。
彼らは今また新しいアトラクションに乗ろうとしていた。
黄緑江美里によると、観覧車というらしい。そして怖くないらしい。

外観から察するに彼らの近くのカゴに乗らないと2人の観察はできないと判断。
不可視フィールドの効果を最大限に発揮し、彼らの後ろに並ぶ事に成功した。

「今日は一日歩き回ったな」
「ああ。もう疲れたかい?」
「さすがにな。だが楽しかったぞ?」
「僕もさ、キョン。そして締めが観覧車とはなかなかベタだね」

「何とでも言うが良いさ。俺はそんなに場数を踏んでいる訳じゃないんでな」
「くっくっ、そう卑屈になる事はないさ。僕はとても感謝してるんだ」
「ん?」

「・・・今日の事は忘れないよ、きっと、ずっとね」
「そうだな・・・。俺も忘れないと思う」

私も忘れない。そして二度と絶叫マシーンには乗らない。誓っても良い。
やがて彼らが先にカゴに乗っていった。そしてすぐに私と朝倉涼子が続く。

757 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 02:09:26.23 ID:nMNknPtB0

「長門さん、これじゃ音が聞き取れないわよ?」
「可聴域並びに集音力のパラメータを最大まで改変する。これで大丈夫」
「・・・他の音まで拾っちゃうけどね・・・」
「静かに」

彼らが2人きりの空間で何を語るのか。その内容によっては世界の崩壊もありえる。
聞き逃すわけにはいかない。

「見ろよ佐々木。夕焼けだ」
「ああ。綺麗だね。・・・もしかしてこの時間に観覧車に乗るのは君の計画通りかい?」
「ん、まあな。」
「くっくっ、君は意外とロマンチストなんだね」
「かもな。そうでもなきゃ、SOS団なんてやってらんなかっただろうよ」

彼がロマンチストでなければ世界は崩壊する可能性がある?
これはやはり聞いておくべきだった。引き続き盗聴、ではなく観測を続行。

758 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 02:11:40.20 ID:nMNknPtB0

「ねえ、キョン」
「ん?」
「―――――――」

彼女が目を閉じ、頬を赤らめ、彼に向かって顎を上げている。
それに対して彼は一瞬戸惑うような素振りを見せたが―――彼女の肩をつかんだ。

「あら、もしかしてキョンくんってば・・・」
「黙って」

彼が目をつむる。そして顔を少しずつ彼女の方へと―――。

「なかなか大胆ねぇ、彼。こっちが照れちゃうわ」
「・・・うるさい」
「ひでぶ!!」

上段蹴り。我ながら見事。花丸。
対象の観測を続、行―――――。

彼も彼女も、こちらを見ていた。気づかれた?何故?

759 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 02:13:11.87 ID:nMNknPtB0

「いったぁぁ・・・い・・・ひどいわ長門さん。不可視フィールド解けちゃったわよ」
「・・・迂闊」

対有機生命体ヒューマノイドインターフェイスにあるまじきミス。痛恨。
やはり朝倉涼子を連れてくるべきではなかった。

「で、いつから尾けてたんだ?」
「朝から」
「・・・入場した時か?」
「・・・待ち合わせから」

はあ、と彼がため息をつく。

「ま、良いさ。隠してた俺たちも悪かったんだしな」

諦めたように笑って私の頭をポンポンと叩く彼に、今さらながら自分の過ちを悔いた。

「・・・すまない」

彼も彼女もちょっと驚いたような表情を見せたが

「気にすんな。今度はちゃんとみんなで来よう」

2人きりでなどと言える訳はない。
当然のこと。私は一瞬、何を考えそうになった?

・・・エラー・・・。私の心の底に暗く沈むものは、なに?

760 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 02:13:54.98 ID:nMNknPtB0

「んじゃ帰るか。途中どこかでメシ食ってくか?」
「あ、じゃあ私はハンバーグが良いな!」

「朝倉!?お前、全身ボロボロじゃないか・・・」
「半分以上貴方のせいだからっ♪」
「はあ!?なんだそりゃ」

「あーキョン、僕の事をほっぽってそれかい?」
「さ、佐々木・・・そういう風に見えるか?これが!」
「くっくっ、冗談だよ」

「長門」
「―――?」
「はやくこいよ」

・・・エラー・・・。私の心の底まで照らすように光るものは、なに?

〜こちら長門。遊園地の潜入に成功した。 終わり〜

762 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 02:15:17.07 ID:nMNknPtB0

この中に僕以上にさるさんと遭遇した人がいたら僕のところまで来なさい!以上!

そろそろ・・・ゴールしてもいい?

763 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 02:15:58.07 ID:nMNknPtB0

※この作品はフィクションです。実在する団体、個人などとは一切関係ありません。ほんとに。

786 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 07:36:54.22 ID:nMNknPtB0

〜埋め合わせ〜

今年もさまざま出来事があった訳だが無事、ここに終わろうとしている。
母親が口うるさいので大掃除を手伝い、ようやく雑巾がけから解放されたのは
夜も19時を回ってからの事だ。

俺がもっと計画的に且つ献身的に掃除をすればもっと早く終わったと思ったりするが
過ぎた事をウジウジ言っていても詮無き事だ。そうだろう?

さて、そんな訳で大晦日まで慌しく過ごした俺なのだが、どうにも心の中でしこりとして
残っているものがあった。

それは、そう。一週間前のクリスマスイブの事であった。

「で、いつから尾けてたんだ?」
「朝から」
「・・・入場した時か?」
「・・・待ち合わせから」

佐々木と2人でクリスマスに遊園地へと出かけていたのだが
長門はそれを知って朝倉や喜緑さんたちと尾行するという暴挙にうってでたのだ。

787 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 07:37:56.60 ID:nMNknPtB0

内面が成長してきたとは言え、未だに感情をハッキリと表に出さない長門が
あの時はかなり違っているように、俺は感じた。

だから俺がこう思うのも無理からぬ事だと思う。

長門と―――。

自転車をこいで目的地を目指す。場所はそう、長門たちの住むマンションだ。
到着した俺はロビーで長門の部屋番号を押して呼び出した。

どちらさまですか?などという言葉は長門にはない。そんな事は知っていた。

「長門、俺だ」

無言のままオートロックが外されドアが開いた。
長門は俺が部屋の前に着くタイミングが分かっていたように玄関のドアを開けた。

「入って」
「ああ、サンキュな」
「良い」

朝倉や喜緑さんたちはいないようだ。
長門が熱いお茶を出してくれた。

「飲んで」

ありがたい。冷えた身体にはよく効く。

788 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 07:38:52.68 ID:nMNknPtB0

「それでな、長門」
「なに」
「大晦日に食べる年越しそばって知ってるか?」
「・・・?」

首を傾げている。どうやら知らないらしい。まぁ無理もないよな。

「12月31日の事を『大晦日』と言うんだがな、1年の締めくくりとして、そばを食べるんだ」
「なぜ?」
「確か長いものを食べる事で長寿、健康を祈願するとかそんなもんだな」
「そう」

といっても、対有機生命体ヒューマノイドインターフェイスにはサッパリだろう。

「それでだ」

コンビニの袋からガサガサとインスタントのカップそばを2つ取り出した。

「一緒に食べようぜ、長門」
「いいの?」
「もちろんだとも」

長門が少しだけ早足でお湯を沸かしに行く。ちょっとは喜んでくれているのだろうか?
イマイチ分からないが、困ってはいなさそうだ。

数分後、蒸気を発するやかんを片手に戻ってきたので、そいつを借りる。

789 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 07:40:03.11 ID:nMNknPtB0

「こうやって、内側の線の高さまで入れるんだ」
「ユニーク」
「あとは3分待ったら出来上がりだ」

なんとなく長門がそわそわしている。

「長門」
「なに?」
「もしかして、こういう食べ物は初めてか?」

長門はコクリと頷いた。まぁそれもそうだよな。

「よし、んじゃ食べようか」
「了解」

そばをすする音だけが静かな部屋の中に響く。

「ごちそうさまっと」
「ごちそうさま。美味しかった」
「それならよかった」

少し遠くから鐘の音が鳴り始めた。

791 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 07:41:02.73 ID:nMNknPtB0

「除夜の鐘が鳴ってるな」
「それはなに?」
「人間の煩悩ってのは108に分類されるらしいんだが、
 それを打ち払って新年を迎えられるよう108回、鐘を鳴らすんだ。まぁ日本の文化だな」
「そう」
「ついでに言うと、初詣と言って、1年の無事を願ってお参りするという行事もある」
「ユニーク」

確かにユニークっちゃユニークだ。
意味は特にわからんが新年って響きだけでテンションが上がるからな。

「でだ、長門。一緒に―――」

ピンポーン

間の悪いところで呼び出しのチャイムが鳴る。

「待ってて」

しかし長門がインターホンに応対する前に玄関の方でガチャガチャと音がする。
おいおい、なんだなんだ?穏やかじゃないな。


792 名前: ◆7MiYo0fRys [おはよー] 投稿日:2009/06/28(日) 07:42:03.35 ID:nMNknPtB0

「長門さーん、明けましておめでとー♪ ってあら?キョンくんもいたの?」

なんと朝倉涼子のお出ましだ。

「あっ、年越しそば!2人だけで食べてたのね!ずるーい!」
「・・・朝倉涼子」
「なに、長門さん?」
「情報連結の解除を申請する」
「え、ちょまっ!」

言うや否や長門が高速で小さな口唇を動かす。まさかここで一戦おっぱじめる気か?

「大丈夫」

なにがだ。

「すぐ終わる」

いや、なにも大丈夫じゃないぞ。

「あ、こんなところにいたんですね」

と相変わらずゆっくりとした感じで登場したのは喜緑さんだ。

「手出し無用」
「大丈夫ですよ。今すぐふんじばって持って帰りますから」
「そうしてくれると助かる」
「はい。それではお邪魔しました」

793 名前: ◆7MiYo0fRys [おはよー] 投稿日:2009/06/28(日) 07:42:57.18 ID:nMNknPtB0

一体いつ朝倉を緊縛したのか。目にも留まらぬ早業で朝倉を縄にかけると
喜緑さんは笑顔のままでズルズル引きずっていった。
まるで一陣の嵐だったな。

「それで」
「ん?」
「さっきの続き」
「あ、ああ。長門、一緒に初詣にでも行かないか?」

長門は少し間をあけてコクリと小さく頷いた。
すぐに踵を返し、コートを持ってくるか―――と思いきや少々時間がかかった。
どうかしたのか?と思ったがその謎はすぐに解明された。

「長門、お前―――」
「おかしい?」
「いや、そんな事ない。似合ってて良いと思うぞ、すごくな」
「そう」

滅多にお目にかかれない長門の私服姿に胸が大きく脈打った。

「じゃ、じゃあ行こうか」
「うん」

長門の手をとる。やんわりと長門が手を握り返してくれる。

―――今年も、良い年になりますように―――

そう心の中で一足早く願わずにはいられなかった。

〜埋め合わせ 終わり〜

800 名前: ◆7MiYo0fRys [おはよー] 投稿日:2009/06/28(日) 09:09:23.95 ID:nMNknPtB0

佐々木と長門とキョンの本気のポーカー・・・ねぇ・・・。

キョン「フルハウス!」

佐々木「くっくっ、甘いねキョン。ストレートフラッシュだ」

キョン「なんですと!?」

長門「ロイヤルストレートフラッシュ」

佐々木「えっ」

キョン「えっ」

多分ガチでやったら長門ですよね・・・。
佐々木はブラフ得意そうだけど長門には通用しない感じ。

843 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 16:26:11.24 ID:nMNknPtB0

投下数はそんなに多くならないと思いますが
バレンタイン編を一区切りずつ落とします。

もうさる食らいたくないので・・・。

余ったら別ネタとかやると思います。

844 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 16:27:58.82 ID:nMNknPtB0

〜決戦は日曜日〜


街が、店が赤く染まっている。もちろん大量猟奇殺人事件がおきた訳じゃない。
時は2月。そう、世間ではバレンタイン一色なのだ。

谷口は数日前から妙にそわそわして、髪型を変えたり、眉を整えたりしている。
だがまあ、それしきの事ですぐにチョコがもらえるとは決して思わないが・・・。

その谷口が去年と同じような事を口走っている。

「キョンは良いよなあ・・・」

SOS団は5名からなり、その内の3名が女子だ。
去年はなぜか山で土を掘ったりするという奇妙な趣向の後
3人からの義理チョコを有難く頂戴した訳なのだが。


846 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 16:30:06.25 ID:nMNknPtB0

あのハルヒが去年と同じ手段を選ぶとは考えにくい。
きっと今年はまた訳の分からない事をさせられたりするのだろうか。
それとも少しは手加減してくれるのだろうか。

などと考えている時だ。携帯が鳴った。う、これは・・・。

「あー、もしもし」
「ちょっと!すぐに出なさいよ!何をもったいぶってんのよ、バカキョン!」
「まあまあ良いじゃないか。それでどうしたんだ?平日の夜に電話なんて珍しいじゃないか」

大抵ハルヒから電話がある時というのは休日の前日だ。
つまり突然不思議的な何かを探しに行くわよ!みたいな事を決めた時だ。

「まあ別にたいした用事じゃないんだけどね」

ならなんで電話した。と言いたくもなるがここでそれを言うほど俺もバカじゃない。

847 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 16:31:41.06 ID:nMNknPtB0

「ほう、なんだ?」
「アンタ、甘いのと苦いのどっちが好き?」

なんというベタなヤツだ。この季節にそんなものを聞くなんてな。
でもそれを口に出すのは野暮ってもんだ。そうだろう?

「そりゃどっちかで言えば甘いものかな」
「へえ、じゃあついでにもう1つね。ヨーグルトはプレーン派?それともフルーツ派?」
「うーん・・・フルーツが入ってる方が好きだな」

へえ、とか興味なさそうに言っているが、多分まあ、そういう事だろう。
夜更かししてないで早く寝なさいよとか言いながら一方的に電話を切りやがった。
まあアイツが自分勝手なのはいつもの事さ。


だが今年のバレンタインは去年のそれとはどうやら一線を画していたらしい事を
俺はまだその時、全然気づかないでいた。

851 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 16:36:03.35 ID:nMNknPtB0

前述した通り、SOS団は5名で構成されており、内4名が2年生。
そしてこの3月で卒業してしまう3年生が1人いる。

そう、我が砂漠のオアシス、朝比奈みくるさん、その人だ。
あと一ヶ月強で彼女は卒業してしまう事は、ハルヒがどうあがこうと、変えようのない事実であり
古泉曰く『非常に繊細且つ複雑なバランスの上に成り立っている』SOS団の
根底から覆しかねない『事件』なのだ。

「確か同好会はもとより、文芸部としても4人では学校から認められないでしょうね」
「あの生徒会長にはこの上ない実弾って訳か」
「あんなヤツの思い通りにはさせないわよ!決まってるじゃない!」

そうは言ってもな。新入生に期待するのか?

「それか、もしくは現2年生を洗いなおすかどっちかね」

852 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 16:38:23.94 ID:nMNknPtB0

とは言え、新入部員が入ったとしても、決してその誰かは朝比奈さんの代わりにはならない。
今と同じ日々にはならない。ハルヒも心なしか複雑そうな表情をしている。

そう、いつかは来るべき時がきたのだ。

SOS団の発足より、あまりにドタバタで、あまりに騒がしかった日常。

この騒がしい団長と、ニヤけ顔の超能力者
俺を心身ともに潤す未来人、いつも窮地を救ってくれた物言わぬ宇宙人、そして俺。

永遠に続くとさえ無意識に思っていた非日常的日常の生活が、終わろうとしているのだ。

―――そして俺と佐々木、長門の関係も。

853 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 16:41:32.02 ID:nMNknPtB0

2月7日。日曜日の夜。
俺は特に見るべきテレビ番組もなく、どうせならと部屋で参考書とにらめっこしていた。
佐々木の意見をもとに購入した参考書もすでに5冊を超えた。

そのおかげか俺の2学期の成績表は1学期と比べて緩やかながらも右肩上がりのカーブを描き
母親も以前よりは心配が減ったようで何よりだ。

「佐々木さんにはそのうち何かお礼しないといけないわねえ」

とは母親の弁ではあるが、それについては俺も同感だ。

時計が21時を回った頃のことだ。佐々木から一本のメールが入った。
どうやら話がしたいらしい。勉強を始めて2時間が経過していたし、丁度良い。
休憩がてら佐々木の携帯を鳴らす事にした。

「もしもし、キョンかい?」
「ああ。元気か?」
「もちろん。それで早速だが用件に入っても良いかい?」

相槌をうって先を促した。

855 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 16:44:01.94 ID:nMNknPtB0

「来週の日曜。何の日かくらい分かっているだろう?」
「そりゃな。クラスの連中も男女構わずそわそわしてる」
「くっくっ、そうだろうね。尤も、僕にとっては去年までは全く気にもとめないイベントだったんだがね」

佐々木は、恋愛感情を精神病の1種だとどこかの誰かさんと同じように定義づけている人間だ。
バレンタインなどというイベントはまさに対極の位置にあるだろうな。

「だがね、今年はチョコをあげてみようかという気分になったのさ」

「キョン、君にね」

佐々木からバレンタインの話題を切り出した時点で、実はある程度予測できていた。
いつもなら動じていたかもしれんが今は何故か誰もいない屋内プールの水面のように落ち着いていた。

「そりゃ楽しみだな」
「全く驚かないとは意外だな」
「そんな事はないさ。冷静さを保つのに一苦労してるところだぞ」

くつくつと喉を鳴らして笑う。

856 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 16:47:41.16 ID:nMNknPtB0

「それに佐々木からチョコをもらえるなんて思ってもなかったし、嬉しいもんだぜ?」
「そう言ってくれると正直、安心するよ。しかし、残念ながら少々事情があってね」

事情?日曜は他の予定が入っているから別の日に渡すとか、そういう事だろうか?

息を 呑む音が 聞こえた 気がした。

「僕と長門さん。どちらか一方のチョコ、
 あるいは僕たち以外の誰か、1人だけのチョコを受け取ってほしい」

何を言われたのか、一瞬理解できなかった。

858 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 16:51:10.57 ID:nMNknPtB0

「どういうことだ?」
「そういうことだよ、キョン。この話は長門さんと2人で話して決めた事だ」
「長門と?」
「うむ、つまりこういう事さ。」

一拍の間を置いて静かに佐々木が告げる。

「僕らのチョコは、本命1つだけという事だよ」
「俺に、お前か、長門のどちらかを選べってことか?」
「いや、違うねキョン。僕か長門さんじゃなくても構わない。
 涼宮さんでも朝比奈さんでも、それ以外の女性でもだ」
「・・・」
「きっと、いや間違いなく涼宮さんは君へのチョコを用意する。」

そうだろうな。すでにある程度の好みを聞かれている。

「そして彼女は口では義理だと言うかもしれないが
 その裏に隠された気持ちに気づかないほど君も鈍くはあるまい?」

無意識的に、半ば意識的に。俺はそれを見て見ぬフリをしていた。

「もし涼宮さんのチョコを受け取るなら、それでも構わない。
 しかしその際は僕たち2人のチョコを断ってほしい」

864 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 17:23:40.01 ID:nMNknPtB0

淡々と、佐々木は続けた。

「別に僕らは、チョコを断られたと言って友人関係を破棄する気はない。
 しかし、そういう気持ちとは、決別せねばならない」

言葉の端々が、弱く聞こえる。

「君もいい加減、僕たちの、いや、私たちの気持ちに、気づいてるでしょ?」

心臓に矢をナイフを突き立てられたような感覚。
初めて佐々木が俺に対して、『私』という一人称を使って話したフレーズ。
そこにどれだけの佐々木の決意が込められているのか。

865 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 17:24:35.12 ID:nMNknPtB0

「・・・急ですまないね。しかし僕らも3年になる。受験の備えも益々本格化する」

言うとおりだ。さっきまで俺ですら勉強していたのだから。

「多分、僕らのモラトリアムにも似たこの日々はもうすぐ―――終わって、しま、う」
「佐々木・・・」

佐々木は、泣いていた。
必死に何かをこらえる子どものように。

様々な思い出が頭をよぎる。
1年ぶりの再会を果たしてもうすぐ1年。

あの最高に心地よかった空気は、もう戻ってきやしない。

きっと何もせずに待っていても、時間は無情に今を押し流していく。
ならばせめて、俺たち一人一人が選ぶものに答えを出して
選んだものと選ばなかったものへの感謝を持って、未来へと踏み出す。

佐々木が望んだ道は、きっと長門も、そしてきっとあのハルヒも、望んでいる事なんだ。

そして、俺も。


867 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 17:26:08.37 ID:nMNknPtB0

「ありがとな、佐々木」
「・・・え?」

まだ声が上ずっている。

「あと一週間。長いか短いかは分からないが、俺も俺なりの答えを出すよ」
「キョン・・・うん、ありがとう。せめて美味しいチョコを準備しておくさ」
「ああ、それじゃな、佐々木。おやすみ」
「うん、おやすみ、キョン」

結局その日は、勉強なんて手がつかなかった。

日曜 完
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869 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 17:33:53.07 ID:nMNknPtB0

翌日、ハルヒは朝からどうにも元気がなく、俺とは目線もあわせない。

放課後、なんとなく部室に行くのが躊躇われた俺は、9組から出てくる古泉を中庭に誘った。

「どうしたんです?あなたの方から誘ってくださるとは珍しいじゃありませんか」

コイツは分かってるのか分かってないのか。
だが今、俺の抱えてる悩みをぶちまけられるのはコイツしかいないのだ。

「実はな、昨日―――」

俺は少しずつ語りだした。佐々木との電話の内容。
ハルヒからもすでにチョコに関して質問があった事など。
もっと簡潔に述べる事もできたはずだが、なぜか舌はそんなに賢く動いちゃくれなかった。

「なるほど・・・非常に難しい問題ですね」

コイツは大概の事をしっかり聞いてから自分なりの意見を述べてくれる。
それが非常に助かるし、一種の才能だとも思う。
そのアドバイスがどのようなものかは置いといて、な。

「まず1つ1つのケースについて考えてみましょう」

870 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 17:34:58.89 ID:nMNknPtB0

「長門さんのチョコを断った場合、彼女はエラーにより自己の消滅を願うかもしれません」

「佐々木さんを断っても、世界に影響が出ることはないでしょう。彼女は未だ器のままですから」

「そして涼宮さんのケースですが、説明するまでもないでしょう。世界は崩壊するかもしれません」

悔しい事にその分析は恐らく全て正解だろう。俺もそこまでバカじゃない。

「確かに、涼宮さんは以前に比べて精神的に成長しており、世界の崩壊に至らないかもしれませんが」

そこで一回区切った古泉は俺から視線を外して続けた。

「・・・機関としては、涼宮さんのものを受け取って頂きたい、というのが回答になるでしょう。
 僕たちはそのためにいるのですし、その可能性が少しでもあるならできる限り排除したいのです」

正論だな。お前は自分の立場上、マズい事は何も言っちゃいねえよ。


871 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 17:35:43.33 ID:nMNknPtB0

「・・・ありがとうございます。少々意外でしたが」

だが、お前の本心はまた別にあるんじゃないか?
でなきゃ人の目を見て話すお前が目をそらしたりはせんからな。

「ええ、もちろん」

「可能性という話では佐々木さんのチョコを断っても世界が崩壊しないとは言い切れません。
 彼女には涼宮さんのような願望を実現させる能力はない、と我々の機関や他の組織も考えています。
 しかし、何かの大きな精神的ショックにより、何らかの力が目覚めないとも限らない」

古泉は話すのを止めた。冷え切ったホットコーヒーに口をつける。

「・・・どれを選んでも選ばなくても、新たな問題は起きるだろうな」
「恐らくは。間違いないでしょう」
「どうしたら良いんだろうねえ。まったく」

ここまで真剣な、いや、強張った表情の古泉だったが、笑顔を見せた。

「貴方はそのように面倒くさがったフリをなさいますが、僕とてそれなりの時間を
 付き合ってきました。その僕が断言します。」

872 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 17:36:39.48 ID:nMNknPtB0

なんだよ?

「貴方は決して、選択の放棄は行わない。決して」

なぜ、そう言える?

「貴方が誠実な心優しい青年であるくらいは分かっているつもりです。それに―――」

それに?

「僕の、私個人としての意見を言わせてもらうと。貴方が誰かを選び、誰かを選ばなかった事で
 この世界に何らかの異変があるとしても、誰も貴方を責められません」

「古泉」

「ですからせめて、貴方が後悔しない選択をしてください。それなら誰かが貴方の事を避難しても
 僕だけは絶対に貴方の味方です。―――あまり頼りないかもしれませんが」

そう言って苦笑いをする。バカ野郎。お前ほど頼りになるヤツは、そうはいねえさ。


875 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 17:37:27.79 ID:nMNknPtB0

「願わくば、来週の月曜。貴方とこうして再びお目にかかりたいものです」

そういうと表情を引き締めて、短く、古泉は言った。

「ご武運を」

ああ。つかんでみせるさ。例えそれが茨の道でもな。

その日は古泉と一緒にSOS団の部室に行き、いつものようにボードゲームで遊んだ。
いつまでも続かない『いつも』をかみ締めるように。

月曜おわり
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877 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 17:47:42.15 ID:nMNknPtB0

翌日。俺は昼休みに朝比奈さんを屋上へ呼び出した。

「キョンくん、お話があるって・・・」
「すいません、朝比奈さん。ご足労頂いて」
「ううん、あたしで良ければ何でも聞いてください。禁則以外の事ならなんでもお答えしますから」

「実は―――」

話を始めようとした直後だ。いつの間にか朝比奈さんの背後に朝比奈さん(大)が立っており、
現代の朝比奈さんは気を失ったように倒れそうになった。

「緊急事態だったので、来てしまいました」

現在の朝比奈さんを抱えながら朝比奈さん(大)が言う。

「キョンくん、今、未来は非常に不安定な時空間になっているの。
 かろうじて現在と繋がっているような、風前の灯のようなか弱さ。」

俺の選択次第で、未来が大きく変わるから、ですか。

「そう。もしそうなればその瞬間から、朝比奈みくるという存在は消滅します」

それも、分かっていた事だ。そうならないために、朝比奈さんは未来からやってきたのだ。

878 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 17:49:55.82 ID:nMNknPtB0

「朝比奈さんは、ハルヒを選べって言いに来たんですよね」
「半分正解。実はね、すでに私たちの未来での規定事項とは異なる事項が起きているのよ」
「どういうことですか?」

つまりね、と朝比奈さん(大)は分かりやすく説明してくれた。

朝比奈さんのいる未来に繋がるタイムラインには起こらなかった事が起こった事。
にもかかわらず、朝比奈さんのいる未来が存在を続けている事。
ある程度の時点で、現在の朝比奈さんへの未来からの指令は意味をなさなくなった事。

「要は、もう何が起こっても、どうなるか予測がつかなくなっているって事ですか?」
「そういう事。だからさっき言った私が消滅するかもっていうのも、本当は分からないの」

なんてこった。

「だからせっかくこの子に相談しようとしてくれたのは嬉しいんだけど、何も答えてあげられません」
「そうですか・・・」

未来人ならもしやと思ったが、やはりそう上手くはいかないよな。


881 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 18:02:16.61 ID:nMNknPtB0

「でもねキョンくん」
「はい」
「だからこそ選んで。君だけの答えを」
「―――!」
「迷うと思うし、傷つくと思う。でもキョン君なら大丈夫」
「朝比奈さん・・・」

朝比奈さんが俺を優しく抱きしめる。

「こんな事しか言ってあげられなくてゴメンね」

いえ、そんな事ないです。

「無責任な事しか言えないけど、頑張ってね」

はい。

―――そこで俺の記憶は途切れた。

883 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 18:03:21.92 ID:nMNknPtB0

「あ、起きましたか、キョンくん?」

気がつくと俺は朝比奈さんに膝枕されていた。

「朝比奈さん・・・」
「大丈夫?なんだか気を失っていたみたいだけど・・・」
「ありがとうございます。大丈夫です」
「そっか、良かった」

笑顔がまぶしい。今の俺にはもったいない位だ。
チャイムが鳴っている。どうやら昼休みは終わりらしい。

885 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 18:06:12.78 ID:nMNknPtB0

「そろそろ戻らなくちゃね」
「はい、ありがとうございました」
「キョンくん」
「はい?」

朝比奈さんは笑顔だった。

「元気出してね」

不覚にもこみ上げてくるものがあった。

いつもハルヒが起こすトラブルの周りであたふたしているだけだった朝比奈さん。
いつも笑顔でお茶を出してくれた朝比奈さん。
いくつもの笑顔が頭の中を巡っては消えていく。

ありがとうございます。朝比奈さん。
心の中で深々とお辞儀して、俺たちは屋上を後にした。

886 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 18:08:16.89 ID:nMNknPtB0

教室に戻る、時間ギリギリだ。

「どこいってたのよ」
「天気が良かったからな。屋上で昼寝だよ」
「・・・寒いでしょ?」
「まあな。でも風さえ当たらなければ問題なかったよ」
「あっそ・・・」

いまだにいつもの元気が回復していない。

「どうかしたのか?」
「別に」

そういえば去年のこの時期もハルヒはあまり元気ないように見えたっけな。
コイツはコイツなりに色々考えるところがあるのだろう。

放課後。今日は久しぶりに真っ直ぐ部室へ向かおうとしたのだが、厄介なヤツに出くわした。

「あらキョンくん」

890 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 18:16:48.96 ID:nMNknPtB0

朝倉涼子だ。2つ隣のクラスなので滅多に学校で顔をあわせる事はなかったんだが・・・。

「ねえ、バレンタインの事なんだけど」
「なんだ?」
「もう誰を選ぶか決まったのかしら?」

さあな。

「その様子じゃまだ決めかねている感じね」
「・・・何が言いたいんだ?」
「―――長門さんと誰かを天秤にかけるなんて事自体間違ってる―――
 って言おうと思ったんだけど気が変わっちゃった」

そうかい。てっきり俺は長門の応援に来たのかと思ったけどな。

「もし、長門さんが自己の存在を消滅しようと願っても、そうはさせないわよ」
「・・・朝倉?」

満面の笑みだ。穢れを知らない。人を殺す事を悪とも思わない、知らない。無垢で凶暴なな笑顔。

891 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 18:18:31.26 ID:nMNknPtB0

「私の能力はかなり制限されてるけど、喜緑さんと情報統合思念体のバックアップがあるからね。
 消滅なんてさせやしないわ」
「お前・・・」
「別に、貴方のためじゃないの。ただ知りたいだけ」
「・・・何にだ?」
「私たちのような存在がどのくらい人間に近づけるのか、よ」

良く分からないな。

「最初私たちは涼宮ハルヒの観察だけを目的に作られた事は分かってるでしょう?」

ああ。

「その存在理由は即ち、涼宮ハルヒの持つ能力による自律進化の可能性」

そういやそんな事を言っていたな。

892 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 18:20:32.76 ID:nMNknPtB0

「でも、対象の観察を続けていくうち、情報統合思念体の中である変化が起きた」

黙って先を促す。

「無駄の一切を省いて作られた長門さんに感情の芽生えが確認された事。
 そのフィードバックは『上』に新しい情報をもたらしたの」

だからなんだよ。

「長門さん自体が既に『新たな観察対象』なのよ」

・・・。

「だから私も喜緑さんも上も、どんな事になっても長門さんを消させはしない。
 ただ、それを貴方に伝えておくわ」
「・・・感謝なんかしないぜ」
「されたくて言ったんじゃないわ。ま、せいぜい頑張るのね、キョンくん」

そう言うと朝倉は背を向けて去っていった。

「・・・ありがとな。朝倉」

水曜 おわり

896 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 18:33:23.02 ID:nMNknPtB0

「やあっ、キョンくんじゃないかっ」
「鶴屋さん・・・お元気そうで何よりです」
「そんだけが取り得みたいなもんっさー」

仮にそうであっても、それは素晴らしい取り得ですよ、鶴屋さん。

「キョンくんキョンくん」
「はい?なんでしょうか?」

ちなみに鶴屋さんは東京の四大に入るため、4月からは会えなくなる。

「アタシはねぇ、みくるのことが大好きさ。」
「え?」
「みくるだけじゃなく、ハルにゃんも、有希っちも、古泉くんも、それにキョンくん、君もさっ」
「あ、ああ、ありがとう、ございます」

どうしたんだろう?

897 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 18:35:18.66 ID:nMNknPtB0

「キョンくんは、どうにょろ?」
「えっ?」
「みんなの事が、好きかなっ?」
「・・・はい、みんなの前では、恥ずかしくて言えませんけどね」

あっはっはと豪快に笑い飛ばす鶴屋さん。
しかしこの笑い声に一体何人の人が救われてきたんだろう。

「キョンくん、その気持ちをよく覚えておくんだよ」
「・・・鶴屋さん?」
「君は君の正義を貫ける子さっ。最後までやり遂げるんだよっ」

この人は一体ホントに何者なんだろうか。

「それじゃっ、まったね〜」

ありがとうございます。鶴屋さん。

木曜 終わり

898 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 18:37:14.73 ID:nMNknPtB0

金曜はいつものように過ごした。

ハルヒは虚勢かもしれないがいつものように元気に見えた。
古泉はにこにこと微笑をたたえながら俺とボードゲームに興じている。
長門も普段通り、指定席で黙々と読書に耽っており
朝比奈さんも美味しいお茶を淹れてくれた。

つつがなく日々が過ぎていく。

何事もなかったように、何事もないかのように。

何より尊く、何にも変えがたい時間が、まるで何でもないかのように過ぎていく。
それがどんなに幸せな事だったのか。噛み締めながら俺は家路についた。

金曜終わり

902 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 18:48:01.23 ID:nMNknPtB0

さて、とうとう決断せねばならぬ日が明日へと迫っている。

世界の命運が文字通り俺の手に委ねられている

―――などという荷物は重たくて仕方ない。

古泉の所属する機関が調べたとおり、俺は一般人であり、主人公ではない。
いつも世界は涼宮ハルヒを中心に回ってきた。

それがなんの因果か、明日だけは俺を中心に回る。

これも『誰か』が望んだ事なのだろうか。

不意に携帯が鳴った。佐々木だ。

「やあ、キョン」
「よう。なんだか久しぶりだな」
「そうかい?こないだの日曜に話したばかりじゃないか」
「まあそれはそうなんだけどな」

くつくつと鳴る笑い声がとても心に温かい。


903 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 19:03:48.42 ID:nMNknPtB0

「それで、明日の件なんだけどね」
「うん?」
「待ち合わせの場所と時間をお伝えしてなかっただろう?」

そういやそうだ。日曜とだけしか聞いてなかった。

「うむ。午後3時、光陽園駅前公園に、2人で待ってるよ」
「佐々木」
「ん?」
「悪いんだが、それ、『3人』に変更できるか?」

佐々木が一瞬言葉を失った。

「・・・君は、それで良いのかい?」
「ああ。頼む」
「わかった。では長門さんから伝えてもらおう」

ありがとな。

「それでは、キョン。また明日に」
「ああ。明日な」

土曜終わり

914 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 20:15:11.86 ID:nMNknPtB0

朝起きるとメールが1通入っていた。ハルヒだ。

『有希から言われたわ。明日、駅前で待ってるから。』

ああ、待ってろよ、ハルヒ。

決着を、つけてやる。

不思議と心は落ち着いていた。

空はどんより曇り空。まるで俺の心の中の色みたいだ。

光陽園駅前公園。15時きっかりに着くと、そこには3人が待っていた。
それぞれに表情が硬い。まあ無理もないか。

916 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 20:15:54.21 ID:nMNknPtB0

「よっ」

「やあ」
「来たわね、キョン」
「・・・」

「で、決めてきたんでしょうね」

ハルヒはなんとポニーテールだ。あいつなりの意気込みなのだろうか。

「僕はキョンの意思を尊重するよ」

佐々木はいつもの抑え目な色のインナーに茶色のコートを羽織っている。

「私も同じ」

長門は恐らく制服姿なのだろう。もちろんコートを着てはいるが。

視線をめぐらせ一呼吸。
3人の顔が一段と引きしまる。

917 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 20:16:40.41 ID:nMNknPtB0

「長門」
「なに」
「ありがとうな。いつもお前には助けられてばかりだった」
「別に良い。気にしていない」

そんな事はない。文字通りお前は命の恩人だからな。

「佐々木」
「なんだい?」
「お前にも、ありがとうな。勉強もおかげで右肩上がりだ」
「くっくっ、何を言うかと思えば・・・大したことじゃないさ」

お前のおかげで俺はいろんな事に気づかされた。
いつかは分かっていたかもしrないが、きっとお前がいなければもっと先になっていただろうな。

「ハルヒ」
「なによ」
「お前にも礼を言わにゃならん」
「・・・何よそれ」

お前のおかげで俺の高校生活は世界で一番大変で、世界で一番盛り上がったよ。きっとな。

918 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 20:17:30.02 ID:nMNknPtB0

「それでな、ハルヒ。お前に伝えたい事があるんだ」
「な、なによ・・・」

ハルヒの頬に朱が入る。

同時に佐々木と長門の顔に影が差した。

心の中で、腹を決めた。―――いくぜ、古泉、朝比奈さん。

「ハルヒ、聞いて驚け。朝比奈さんは未来人なんだ」
「は?」
「そして古泉はな、なんと超能力者なんだよ」
「え、ええ?アンタ何言って・・・」

ハルヒも長門も佐々木も動揺を隠せない。

「キョン、今はそんなこと―――」
「ここにいる長門にいたっては宇宙人なんだぜ」
「―――」
「そ、そんな事を聞きに来た訳じゃないわ!あ、アタシは・・・」

ハルヒに冷静になる間を与える訳にはいかない。ここが勝負だ。

919 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 20:18:14.01 ID:nMNknPtB0

「何言ってるんだよハルヒ。お前の探してたものが全部揃ってるんだぜ?」
「そんなの信じられる訳ないでしょ!?」
「なんで信じられないんだ?」
「だ、だってアタシが適当に選んできた団員が全員そんなのだなんて―――」

「ああ、偶然にしちゃ出来すぎてるよな。でも事実には違いない」
「もう!そこまで言うからには何か証明できる訳!?」

ようやっと食い付いてくれたか。やれやれだな。

「できるんだ、それが」
「え?」

佐々木も長門も黙ってこちらを凝視している。

「ハルヒ、お前、中学の時に東中の校庭に石灰で謎のメッセージ書いたよな?」
「それがなんだってのよ。そんなの誰でも知ってるわよ、新聞にも出たんだもの」
「でもさ、ハルヒ」
「なに」

「それ、実際やったのはお前じゃなかったよな」

921 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 20:18:56.83 ID:nMNknPtB0

「―――え」
「古泉、朝比奈さん、長門。それぞれが超能力者、未来人、宇宙人だと言ったがな、俺は普通の人間だ」

「でもな、1つだけお前に隠してる事がある」

「な、に?」

「俺のもう1つの名前はな、―――ジョン・スミスっていうんだ」

「ジョン―――スミス―――!?」

どんよりとしていた雲の隙間から光が差す。

不審の色に満ちていたハルヒの顔に輝きが戻る。

当惑で鈍っていたハルヒの瞳に光が戻る。

ハルヒが、世界が、急激に色と力を取り戻す。

922 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 20:19:52.94 ID:nMNknPtB0

「ハルヒ、俺はお前の事が好きだ」

「―――ョン―――」

どちらの名で俺を呼んだのか。分からない。

「そして俺は佐々木も長門も、古泉も朝比奈さんも好きなんだよ」

「俺はみんなが好きなんだ。この世界が、好きなんだ」

「―――ン―――」

光の洪水が全てを押し流していく。

「だから誰か1つなんてまだ選べない。」

「俺は全ての可能性と未来を選びたい、違う。まだどんな可能性も未来も切り捨てたくないんだ」

「―――それが、アンタの選択なの?」

「ああ、そうだ。それがようやく分かったんだ」

「そっか・・・アタシにもようやく分かった事があるわ」

「―――なんだ?」

923 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 20:21:50.20 ID:nMNknPtB0

「アタシはアンタが好き」

「!」

「だから―――」

くるっと周り、驚く佐々木と長門を一瞥して、快哉を叫んだ。

「これからはアンタたちにも負けないからね、覚悟しなさいよ!」

佐々木と長門が目を大きく開き、転じて笑顔になる。

「望むところだよ、涼宮さん」

「私も、負けない」

意識が、遠のく。

結局俺は何か1つなど選べやしなかった。
だってそうだろ?何も今全てに決着をつける事はないんだ。

気がつくとそこは俺の部屋であった。
出かけた時の格好で布団に横になっていた。

「・・・世界は、どうなったんだ?」

924 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 20:22:53.65 ID:nMNknPtB0

携帯のカレンダーは2/15を表示している。時刻は朝6時47分。

前にもこんな事があったな。ハルヒと閉鎖空間に閉じ込められた翌日だ。
奇妙な夢、という事に暗黙のうちになっていたが、今度はどうなっているのか。

制服に袖を通し、朝食をとり、学校へと急ぐ。

2年5組。俺の席。その後ろにはポニーテールのハルヒがいた。
俺を見つけるなり不敵に笑った。

「よう」
「おはよ」

「やあキョン、おはよう」
「佐々木!?」

「あらおはよう佐々木さん。でもアンタの席はアッチよ」
「担任の先生が来るまではどこにいて誰と話していても良いでしょ?」

これは、どうなってるんだ?

930 名前: ◆7MiYo0fRys [さるったー] 投稿日:2009/06/28(日) 21:07:50.46 ID:nMNknPtB0

「昨夜、世界改変が行われた」
「長門!?」
「世界は歪みを修正及び矯正された。
 これにより朝比奈みくるの存在する時間平面まで繋がる可能性も元通り」
「・・・じゃあ朝比奈さんが消える事はないのか?」
「ほぼないと断言できる」

そうか、その世界改変の影響で佐々木は進学校から
北高に『最初から編入していた』事になっていると。

「ちなみに私の席はあなたの前」
「ちょっと有希!何してるのよ!」
「あ、キョン。僕は君の隣だ。よろしく頼むよ。なにせ見知らぬ学校だからね」

「佐々木さん!手を握って何してるのよ」
「単なる握手さ」
「それにしちゃ随分長いじゃない!」

931 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 21:10:21.91 ID:nMNknPtB0

「おや、随分と賑やかですね」
「よう、古泉。なんだかとんでもない事になっちまったよ」
「・・・まさか誰も選ばない、という選択肢を選ぶとは夢にも思いませんでしたよ」
「ご都合主義だと思うか?」
「いいえ、誰も失われていない。それどころか得た物があるならそれは――」

―――それはハッピーエンドと、言えるんじゃないでしょうか?


〜決戦は日曜日 終わり〜

937 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 21:13:57.29 ID:nMNknPtB0

賛否どころか否しかないかもわからんのですが
4時間で考えたという言い訳を残します・・・(´A`;)

940 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 21:17:44.40 ID:nMNknPtB0

残り的にも、ちっとSS落とすのは難しいかなーと思いますが
超短編ならいけるのかな

943 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 21:23:03.35 ID:nMNknPtB0

次スレ作っても仕方ないですよー。
このスレがそうだとは言いませんが、良スレ良SSとの出会いは1つの幸運だと思ってます。
落ちないパー速が悪いという訳ではありませんけども!

950 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 21:41:40.88 ID:nMNknPtB0

一緒にショッピング編


駅前にショッピングモールが出来たらしいという事で
佐々木からメールがあった。

『今度の土曜、長門さんと買い物に行くんだが一緒にどうかな?』

買い物か。丁度俺も夏物が欲しいと思っていたところだ。
ご一緒させてもらうことにしよう。

「キョン、遅い遅い」
「悪い、待たせたか?」
「問題ない。お互い5分12秒前に到着した」
「な、長門さん・・・」

さて、2人とも何を買うんだ?

「まぁまぁ、見て回るのもショッピングの醍醐味さ」
「そうだな」

951 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 21:42:38.57 ID:nMNknPtB0

モールはさすがに出来たばかりという事もある、かなりの人手だ。

「離れたら危険だね」
「ああ、そうだな。ほら、2人とも―――」
「うん、ありがとう」

2人と手を繋ぐ。

だがしかし、これが既に2人の罠だとは思わなかったのだ。


「さぁ、キョン。これなんてどうかな?」
「・・・」

目が痛い。

「あ、長門さん、それ可愛いね。似合うんじゃないかな」
「・・・・・・おい」

頭が痛い。

「これは貴方に似合う色。良い」
「・・・・・・・・・佐々木、長門」
「なんだい?」

ええい、ニヤニヤしおって!

952 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 21:43:28.45 ID:nMNknPtB0

「なんで女性用下着専門店に入らにゃならんのだ!」
「買い物だと言ったろう?」
「俺が店に入る必要はないだろう?外で待ってれば良いじゃないか、な?」

長門がじっと俺を凝視する。

「―――いつか、貴方が見ることになるかもしれない」
「っ!」

なっ、なんて事を言いやがる、長門!

「だね、その時にキョンを幻滅させるような下着を身に着けていては問題だ」
「だから貴方の意見が必要」

いやいやいや。どっから突っ込んで良いのかわからんぞ!

「お、これも可愛い。そうだな。長門さん、試着してみるかい?」
「全面的に賛成」

「じゃあ俺は外で―――って、いい加減、手を離せ!」
「もちろん、君にも査定してもらわねば」
「義務」

「かっ、勘弁してくれえっ!」


ショッピング編 終わり。

956 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 22:04:11.25 ID:nMNknPtB0

耳レイプ


今日も今日とて我が家で読書に耽るいつもの3人。

つまり俺、佐々木、そして長門なのだが
ちょっと今、俺は特殊な状況に置かれている。

時間を10分ほど遡ろう。

「うーむ」
「? どうしたんだい、キョン?」

「ああ、いや大したことじゃないんだがそろそろ耳掃除をすべきかなと思ってな」
「なるほど、ではせっかくだ。僕にやらせてもらえるかい?」

いや、さすがにそれは申し訳ない。綺麗なもんじゃないしな。

「気にする事はないさ。ほらほら」

そこまで言われては断りづらい。

「それじゃよろしく頼む」
「ああ、優しくするよ」
「・・・それはなんとなく違う」

くつくつと笑う佐々木を見上げる。いわゆる膝枕だ。

957 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 22:05:33.18 ID:nMNknPtB0

「それじゃ、入れるよ」
「・・・お前、シラフか?」
「失礼な。当たり前だろう」

と、耳かきが入ってくる。

「ふむ、確かに少々汚れているね・・・おや、ここに大きな耳垢が」
「お願いしている身で悪いが実況は勘弁してくれ。恥で死ぬかもしれん」
「それは困ったな。では自重しよう」

で、長門さん?なんでそんなにこっちを凝視しておられるんでありましょうか?

「初めて見る。ユニーク」
「お前たちは耳垢って出ないのか?」
「出ない」
「そうか、そりゃ便利だな」

会話の間にも佐々木は丁寧に耳掃除をしてくれる。

「上手いな、佐々木」
「そうかい?よくわからないな」

くつくつ笑う佐々木はなんだか楽しそうだ。

「よし、あとは綿棒で周りをきれいにして終わりだ」
「ありがとな。助かったよ」
「くっくっ、どういたしまして」

佐々木の膝枕に名残惜しさを感じつつも身体を起こす。

959 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 22:06:28.34 ID:nMNknPtB0

「・・・」
「佐々木?」
「ちょっとキョン、動かないでくれたまえ」

真剣な声だ。耳にゴミが残っていたのだろうか?

「はむっ」
「#$*%□&*?ωΩ△!?」
「あっ」
「佐々木、何すんだ!」

耳を、噛んだだと!?

「いや、我ながら綺麗にできたのでつい」
「真顔で言うな!驚いたじゃないか!」
「ああ、驚かせてすまないね」
「いや謝るのそこかよ!」

俺は佐々木の不意の攻撃に対する抗議に必死で
この部屋にもう1人いる事をこの時ばかりはすっかり失念していた。

変なところで負けず嫌いなアイツだ。

「はむっ」
「ソ〆凵пネ↓▲ →≒∠∽∫!!」

長門っ!おまっ!

「不公平」
「だからそういう問題じゃ・・・」

960 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 22:07:30.93 ID:nMNknPtB0

「はむっ」
「さっ、佐々木ぃ!」
「なかなか柔らかくて良い噛み心地だよ。思いのほかハマってしまうかもしれない」

はっ。

「な、長門、落ち着け」
「不公平」
「いやだから」
「不公平」

「こら佐々木っ、見てないで・・・」
「ははっ、そうだね」

これで地獄(兼天国)から解放される・・・。

「じゃあ僕は右耳を頂こう」

やめれえええええっ!


耳レイプ 終わり

962 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 22:08:48.84 ID:nMNknPtB0

次々とよくもまぁネタが出るな・・・皆さんすげえです。
今度さるくらったらもう諦めてください。
残りのレス数的に考えて・・・。

971 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 22:46:43.24 ID:nMNknPtB0

傘を忘れた


パタン。

長門が本を閉じる。部活の終わりを告げるチャイムの代わりだ。
外はあいにくの雨。ま、梅雨だしな。傘の準備もぬかりなしだ。

「では帰りますか」
「ああ」

と、不意に袖を引っ張られた。

「長門?」
「傘がない」

長門の後ろに綺麗に2つに折られた傘があるのは気のせいか。

「相合傘というものをお願いする」

また珍しい単語が長門から飛び出したもんだ。

「構わんぞ、マンションの前までで良いか?」
「ありがとう」

972 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 22:47:28.09 ID:nMNknPtB0

校舎の玄関口まで降りてきてハルヒが長門の傘がない事に気づいたらしい。

「あら、有希。傘ないじゃない」
「大丈夫。彼と一緒に下校する」
「えぇっ!?キョンと?」

なんかまずいのか?

「あ、当たり前じゃない!有希は繊細でか弱いのよ。キョンが襲ったりでもしたら・・・!」
「お前な・・・団員をもうちょい信用できんのか」
「良いのよ、アンタのことは。有希、アタシと帰る?」

そんなに心配か。

「大丈夫。彼なら雨に濡れても平気。貴方では心配」
「有希・・・」

いやそこ感動するとこじゃねーぞ。

「ま、良いわ。有希の顔と心遣いに免じて許してあげる。
 でもキョン。有希に何かあったら承知しないわよ!」

お前のその思いやりを1割で良いから俺の方にも向けてくれんかねぇ。

という事で長門と雨の帰り道を相合傘で帰る。
この傘は男性用で広げた時の幅が大きいから、ほぼ長門の方もカバーできている。はずだ。

973 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 22:49:46.29 ID:nMNknPtB0

「・・・長門」
「なに」
「あー、相合傘なんだがな。その、良いもんか、これ?」
「良い」
「そっか。なら良いか」
「そう」

実際そこまで良いものかどうかは分からんが、まぁ、長門がそれで良いと言うなら良いのだろう。

長門は黙って横を歩く。

心なしか、寄り添ってきたような気がする。
表情は見えない、が。

なんとなく、口元が緩んでいるように見えた。

なんとなく、な。


傘を忘れた 終わり。

975 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 23:00:43.92 ID:nMNknPtB0

そろそろ人がいなくなったっぽいかな・・・

まさかここまでスレが伸びるとは思いませんでした。
マジでみなさんありがとう!
みんな大好きだぁぁぁぁああ!

977 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 23:03:22.70 ID:nMNknPtB0

またスレは立てると思いますよー。いつとかどんなんってのは全く決めてませんけども!

982 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 23:07:33.39 ID:nMNknPtB0

今度は趣向を変えてハルヒ話書いてみようかなぁ・・・

985 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 23:10:24.64 ID:nMNknPtB0

佐々木と長門は良いコンビだと思うんですよねぇ。
今回のバレンタインではあーいう形になりましたけど
長門はもう1歩後ろのポジションでも良いかなと。

大本命 ハルヒ
対抗  佐々木 (騎手 長門)

みたいなね!

987 名前: ◆7MiYo0fRys [] 投稿日:2009/06/28(日) 23:13:20.51 ID:nMNknPtB0

自分が一番好きなのは佐々木なんですが
やっぱハルヒって存在あってこその佐々木だと思うんです。
ハルヒを上手に描写できるようになれば
自然と佐々木の魅力ももっと上手に書けるんじゃないかなと。

999 名前: ◆7MiYo0fRys [sage] 投稿日:2009/06/28(日) 23:18:44.69 ID:nMNknPtB0

やった!完走!純粋に嬉しいです!みんなありがとう!



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