長門「協力してよ、涼子」


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1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/12(木) 20:39:19.90 ID:nuwqb06o0

長門さんがあたしに頼みごとをするときは、大抵ろくでもない用件であることが多い。
今回もそうだった。
あたしが所属している一年五組の男子――キョン君に関することで、長門さんはあたしに協力を求めてきたのだ。

「……いやよ、なんであたしが」

あたしはいつものように最初は否定の言葉を口にする。
しかしあたしにはわかっている。
この後、いつものように長門さんの口車に乗せられてしまうのだ。

2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/12(木) 20:43:46.81 ID:nuwqb06o0

ことの始まりは何であっただったろうか。
そう、長門さんが所属している文芸部が、涼宮ハルヒという破天荒なクラスメイトの作った謎の団体に乗っ取られたことがすべての始まりだ。

「涼子、わたしは涼子のこと親友だと思ってるから、頼んでいるんだよ?お願い!!」

彼女の懇願する姿はもはや見慣れたものとなっている。
カレーを腐らせた、洗濯物をたためない、ごきぶりを倒してなど、数え上げればきりがないほどあたしの部屋にきては所用を持ち込んでくる。

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/12(木) 20:47:27.02 ID:nuwqb06o0

そんな中で、今回の長門さんの頼みは異彩を放つものであった。
いや、年頃の女の子なら至極当然のことではあるが、こと長門さんに限っては珍しい相談だっただけだ。

彼女の頼み……ずばりキョン君との仲をとりもって欲しいとのことだった。

「わ、わたしの好みのタイプなんだよ……。今までは絶対に付き合えなかった感じの男。でも、今のわたしなら……」


6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/12(木) 20:48:40.66 ID:nuwqb06o0

中学時代、男関係が派手なことで有名だった長門さんは、地元から離れた高校へ進学するのを機にイメージチェンジを行うことにしたらしい。
伊達メガネをかけ、文学部に入部し、口数の少ない読書少女というキャラを学校では演じているのだ。
しかし、同じマンションで、同じ一人暮らし、同学年のあたしにだけは、その本性……いや、本来の姿で接している。

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/12(木) 20:50:33.84 ID:nuwqb06o0

「涼宮がいきなり連れてきたキョンくん……最初はぱっとしない男だと思ったよ。でも、なんていうかな、今までに感じたことのないような
 不思議な温かみを彼からは感じるんだよ。涼子、キョンくんと同じクラスだろ?なんとか二人っきりになれるようにとりはからってくれない?」

「それを言うなら、同じ部活……SOS団の団員同士なんだから、あたしなんかよりも長門さんのほうが二人っきりになれるチャンスは作りやすいんじゃないの?」

「むぅ、それができないから涼子に頼んでるんだよ。涼宮がちょろちょろしてるせいで話しかけるタイミングを見計らうのも大変なんだよ」
「それに、朝比奈っていう二年の人まで入団しちゃって、ますます二人っきりになるのは難しいんだ」

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/12(木) 20:52:40.28 ID:nuwqb06o0

はてさて、物静かな少女というキャラを演じるにあたって数々の弊害があるのは彼女の話を聞くだけでもじゅうぶんわかる。
男に対し、積極的に話しかければ周りから不自然に見られるだろう。
それにあたしの見た感じでは、涼宮さんはキョン君に対して少なからず好意を寄せているようだし、長門さんが彼に気がある素振りを見せれば厄介なことになりそうだ。

「うーん、じゃあ彼にだけわかるように待ち合わせ場所に呼び出す……っていうのはどうかしら」

ほら、結局長門さんに協力しようとしている自分がいる。

「でも、どうやって?」
「まだキョン君とはメアドも交換してないよ……」

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/12(木) 20:54:03.90 ID:nuwqb06o0

「本を貸すとかなんとか言って、その本の間にメッセージ入りの栞でも挟んで置けばいいんじゃない?」
「本好きって設定なら、べつに不自然じゃないわ」

あたしの提案に、長門さんは目から鱗といった様子で喜ぶ。

「それだ!!それでいこう!!さすが、涼子!!伊達に学級委員をやってないな!!」

まあそれは関係ないし、こんなのちょっと考えれば思いつくんじゃないかしら?

「さっそく明日、キョン君に本を渡してみるよ!!」

本に挟む栞も忘れちゃダメよ?

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/12(木) 20:55:19.24 ID:nuwqb06o0

数日後、クラスの友人の付き合いで街中をぶらぶらした後にマンションに帰ると、あたしの部屋の前で腕を組んだ長門さんを発見。
えらく不機嫌そうに口をへの字に曲げ、眉間に皺を寄せている。

「遅い!!涼子!!」

若干涙ぐんでいるわよ、長門さん。

「聞いてよ!!涼子!!今日ね、今日ね……!!」

長門さんの話をまとめると、本日の放課後に涼宮さんは朝比奈先輩と共にバニーガールに扮装してビラ配りをしました。

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/12(木) 20:56:35.78 ID:nuwqb06o0

「……それだけ?」

「違う!!わたしにはバニーガールの格好をさせようとしない涼宮に腹が立ったんだよ!!」

ああ、なるほど。

「おっぱいか!?このおっぱいがダメなのか!?」

うーん、たしかにバニーガール向きのスタイルではないかも。

「涼子にはわからないよね、わたしのこの哀しみの深さは」

「わからないし、わかりたくないよ」

「むきーっ!!胸のあるやつなんか大きらいだ!!」

結局あたしがカレーを作り終えるまで、長門さんの機嫌は悪いままだった。

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/12(木) 20:58:02.96 ID:nuwqb06o0

キョン君に本を渡して以来、ずっと公園で待っている長門さんは健気で可愛らしくもあった。
しかし、日を追うごとにあたしへの八つ当たりがひどくなってきているので、いい加減キョン君には気づいてほしいものだ。

「ああ、もっと読みやすそうな本を渡せばよかった!!キョン君、絶対めんどくさがってページを開いてもいないよ!!」

「自業自得じゃない」

「うるさい、そもそも涼子のアイディアじゃないか!」

「な、なによそれ。そんなとこまで責任持てないわよ」
「もっと読みやすそうな本を渡すとか、色々アレンジはできたでしょ?」

「なんだよー、それじゃあわたしがバカみたいじゃないか!!」

「……だったら、キョン君に早く本を読むように催促すればいいじゃない?」

「!?そ、そうか!!その手があったか!!」

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/12(木) 21:00:08.35 ID:nuwqb06o0

まったく、世話が焼ける。
こんなことならわざわざ無口キャラを装う必要なんてないんじゃないかしら?
あたしがそういうと、長門さんは決まって「だめ!!素を出すと他の男が寄り付いてくるから!!」と返す。
すごい自信じゃない。

「自信じゃないよ、今までの経験から言ってるだけ」
「今まで色んな男と付き合ってきたけど、それってわたしの意思じゃなかったんだよね」
「流されるまま、なんとなく告白されて、なんとなく気が合うと思って、なんとなく付き合ってきたんだよ」

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/12(木) 21:01:46.18 ID:nuwqb06o0

「ふーん、でもそれって普通じゃないかしら?」

「そうかもしれないけど、わたしは納得いかなかった。単に、わたしの容姿や性格が気に入った男がわたしの周りに集まっていただけで」
「わたし自身が、気に入った相手を見つけようとしていなかったって」

だから、そういうのが普通だと思うわけ。
自分を慕ってくれる人の存在はありがたいと思うわよ?

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/12(木) 21:04:10.46 ID:nuwqb06o0

「わかってるよ、でも、そこんとこに疑問を持っちゃったんだから仕方ないじゃない」
「だから!わたしは今までの自分を封印して、本当にわたしが傍にいたいと思う人を探したいと思ったわけだよ!」

その相手がキョン君ってわけか。
理解できないわけじゃない。
でも、本当の自分を隠し、偽ることは、キョン君に失礼だと思う。
長門さんはあたしのほっぺをつねってくるので、そんなことは絶対に言わないようにしてるけどね。

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/12(木) 21:05:54.76 ID:nuwqb06o0

学校では「そう」とか、「いい」とか、一言ですむ様な言葉を選んで話している長門さんにとって、
マンションでするあたしとの会話はストレスを発散させるのに最適らしい。

「聞いてよ、涼子!!今日転校生がきたんだよ!!」

知ってるわよ。
涼宮さんがそのことで騒いでたからね。

「そいつが結構イケメンでさぁ」
「涼宮がようやくSOS団の活動目的を発表したんだけど」
「まさか本気で宇宙人とか」
「それに今日はキョン君とオセロしちゃった♪」

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/12(木) 21:08:22.59 ID:nuwqb06o0

……長門さん、そんなに喋りたいなら、無口キャラやめれば?

「何度も言わせいでよ、わたしは今のキャラのままで卒業までいくからね」
「そしてキョン君と……えへへ」

はあ、やれやれ。

「そうそう、今日キョン君に本を読むように催促したから、今夜こそくるかもしれない!!」
「じゃあ待ち合わせ場所にいってきまぁす!」

これで八つ当たりの日々から脱却できるかしらね。

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/12(木) 21:12:38.51 ID:nuwqb06o0

数十分後、キョン君を部屋へ入れたというメールを受け取ったあたしはひどく興奮……じゃなくて驚いた。
いくらなんでも大胆じゃないかしら。
それについていくキョン君もキョン君だわ。
まあ、部屋の趣味で無口キャラの化けの皮がはがれない様にと、私物をすべてあたしの部屋に移動させておいたのは正解だったのかもしれない。

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/12(木) 21:16:54.62 ID:nuwqb06o0

『今キョン君がお茶飲んでる!!』
『こ、このまま襲っちゃってもいいかな!?』
『ああ!!キョン君がわたしの部屋で息してるよ!!』

メールからも彼女が尋常でないほど興奮しているのは伝わってくる。

「……そうだ……」

こんなに慌てふためいている彼女をからかわない手はない。
あたしはメールで長門さんにある指示を与えることにした。

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/12(木) 21:18:49.73 ID:nuwqb06o0

(涼子からのメール?……!?)
(あ、あんまり携帯いじってるとキョン君に失礼なんだけどな……)
(ひゅ、ひゅーまのいどいんたー……なに?)
(まさか、これを言えと!?)

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/12(木) 21:29:39.90 ID:nuwqb06o0

涼子から送られてきたメールには、じょーほーなんたらとか、ゆーきなんとかだとか、小難しい漢字の羅列ばかりが書いてあった。
何?これ全部わたしが言うの?

(しかもなんで涼宮の名前がここで出てくるんだ?こんなこと言ったら電波な女だと思われておしまいじゃないか?)
(で、でも今のままじゃあ、お茶飲んでおしまい、って雰囲気だよね……)
(お、男の子の相手なんて慣れっこのはずなのに……いったいどうして!?)
(ああ……頭がくらくらしてきたよ……)

「学校ではできないような話ってなんだ?」

「涼宮ハルヒのこと」

わたしは、自らがヒューマノイド・インタフェースであるという戯言を、たんたんと説明し始めてしまった……。

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/12(木) 21:43:12.73 ID:nuwqb06o0

「ま、まさか全部そっくりそのまま喋っちゃったの?」

こくりと精気のない顔で頷く長門さん。
まさか一言の狂いもなく、あたしが書いたデタラメをキョン君に話してしまうとは……。

「もう後にはひけないよ、涼子……どうしてくれるんだよ!!」

「そ、そんなこと言ったって……ちょっとからかっただけなのよ……まさか全部喋っちゃうとは思わないじゃない……」
「頭真っ白になってたとはいえ、メールの内容でキョン君の興味を引こうとしたのは他でもない長門さんなのよ」

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/12(木) 21:44:44.61 ID:nuwqb06o0

「全部お前のせいだよ、バカヤロウ!!」

まあ、たしかにちょっと困らせてやろうとあんなこと書いたのは悪かったと思うわよ。
でも、まさか一度メールの文面に目を通しただけでスラスラと話せるほどの記憶力を長門さんが持っているとは思わないじゃない。
キョン君に悟られないように携帯のメールに目を通して、例の戯言をペラペラとつっかえずに喋ったってことはそういうことでしょ?

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/12(木) 21:46:24.45 ID:nuwqb06o0

「昔から記憶力だけは自信があるんだよ!!」
「今回はそれが裏目にでちゃったよ、このアンポンタン!!」

泣かないでよ、あたしが全面的に悪かった、ごめんなさい。

「ひっぐ……あ、謝ればいいってもんじゃ……うわああああん!!」

やれやれ、この埋め合わせは高くつきそうね。

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/12(木) 21:53:00.70 ID:nuwqb06o0

あたしとしては、全部長門さんの嘘でした、それを言わせたのはあたしでした、ごめんなさいとキョン君に謝っておしまいにするつもりであった。
しかしことは簡単には進まない。
キョン君は四六時中涼宮さんに振り回されていてなかなか誤解を解くチャンスがめぐってこないのだ。
長門さんの名誉もあるので、他の人には聞かれたくないし、なんとかして二人っきりにならなくてはならない。
長門さんにアドバイスしておいてなんだが、いざ自分が彼と二人っきりになろうとするとなかなかいい手が思い浮かばないものだ。
たとえ思いついても実行に移すとなると話は別。愛の告白をするわけでもないのに、妙に緊張してためらってしまう。
そうやって時間が経てば経つほど、長門さんは「キョン君は朝比奈ばっかり見てる」だとか言ってあたしを相手に憂さ晴らしのための愚痴を延々ともらし続ける。

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/12(木) 21:55:03.18 ID:nuwqb06o0

「まだキョン君の誤解とけてないし、変な目で見られているような気がするよ…」

そう言われちゃ返す言葉もない。
でも、キョン君があんな与太話を真に受けているとも思えないけどな。

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/12(木) 21:56:33.28 ID:nuwqb06o0

楽観しすぎていたあたしが悪いのだろうか?
とある休日、不思議探索という名目でSOS団一行は街中を歩き回っていたらしい。
午前、午後とそれぞれグループを決めて行動し、午後にはなんと長門さんはキョン君と同じグループになることができた。
そのときのことだ。

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/12(木) 21:59:25.75 ID:nuwqb06o0

『少しは信じてもいいような気分になってきたよ』

「は?」

長門さん、それは本当ですか?

「本当だよ……何でか知らないけどキョン君、あの話を信じようとしている……」

長門さんがまたもや涙ながらに話す。
嘘でしょ、あんな話を信じるなんてどんな神経してんのよ。

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/12(木) 22:02:08.69 ID:nuwqb06o0

「ど……どうしよう……今更キョン君に嘘だなんていえないよ……」

すっかり泣き顔が定番になってしまった長門さん。
早くなんとかしなければ……。

「でも、最初に話したときは全然信じてない様子だったんでしょ?」

なのにいきなり信じ始めるなんておかしい。
なにか原因があるんじゃないかしら?

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/12(木) 22:03:42.14 ID:nuwqb06o0

「そういえば……」

長門さんの顔から涙が消えた。
表情がみるみる満面の笑みに変わっていく。
しかし口元は笑っているが、目は怒りの炎で滾っている様子。

「午前は朝比奈のやつと一緒だったんだよね、キョン君……」
「まさかそのときに何かあったんじゃ……」

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/12(木) 22:04:47.18 ID:nuwqb06o0

朝比奈先輩まで長門さんみたいな……。

「わたし?」

いえ、あたしです。あたしみたいな電波話をキョン君に話し、信憑性が増して信じてみる気になり始めたとか……。

「なんだよ、涼子、その推理は」

すみません、またてきとうに言いました。

「とにかく、朝比奈と一緒のときになにか吹き込まれたってのは可能性あるよ」
「涼子、調べといて」

「え?」

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/12(木) 22:06:31.59 ID:nuwqb06o0

「誰のせいでこんな……」

「わ、わかったわよ」

元はといえば長門さんのキャラ作りが原因のような気もするけど、そこにふれたらダメなのよね。

「むぅ、朝比奈とキョン君が午前中一緒じゃなければ……あの夜のことがなければ……わたしにとっては最高の日だったのに……」

新品の図書カードをかざしながらつぶやく長門さん。
しょうがない、朝比奈先輩に探りを入れるとしますか。

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/12(木) 22:17:58.04 ID:nuwqb06o0

最悪のパターンを考えてみる。
長門さんの話をキョン君が朝比奈先輩に話し、朝比奈先輩とグルになって長門さんをからかっているパターンだ。
いや、まさかそんなことはないとは思うが、朝比奈先輩がどんな人か、どのようなことをキョン君に話したかによって状況は変わってくる。
涼宮さんの言いなりになって、バニーガールの格好でビラ配りをする人。
部室では、強制的にメイド服を着せられ、しかしいつの間にか気に入っている人。
ふふ、長門さんの件を別にしても、朝比奈先輩がどんな人か、個人的にも興味がわいてきちゃった。


40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/12(木) 22:18:29.26 ID:nuwqb06o0

「朝比奈先輩、ちょっといいですか?」

二年の教室におっかなびっくりで突撃し、目当ての人物に声をかける。

「えっと……どなたですか?」

近くで見る朝比奈先輩は、どう見ても年上には見えない。
くわえてあたしが先ほど考えていたように、長門さんをからかうようにも思えない。

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/12(木) 22:19:46.40 ID:nuwqb06o0

「一年五組の朝倉涼子と申します」

「ああ……キョン君と同じクラスの……」

「お話があるんです、キョン君のことについて……」

あたしがそう言うと、朝比奈先輩は少し目を泳がせた後、「わかりました」と席を立った。

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/12(木) 22:20:51.89 ID:nuwqb06o0

人気のない場所がいいんですけど。
あたしがそう言うと、朝比奈先輩は文芸部室もといSOS団本拠地へと案内してくれた。

「キョン君の話ってことは……涼宮さんか長門さんのお話ですか?」

なぜここで涼宮さんの話がでてくるのだろう?
まああながち無関係とはいえないけどね。
あたしから長門さんを通してキョン君に伝えた宇宙人の話は、涼宮さんがいかにも好みそうだし、
涼宮さんを中心に世界が回っているようなSF設定を長門さんに喋らせてしまったのだから。

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/12(木) 22:28:13.30 ID:nuwqb06o0

「長門さんから聞いたんですけど、キョン君と昨日二人っきりで不思議探索とやらをしていたそうですね」
「そのとき、キョン君に何か……たとえば涼宮さんが好みそうな話をしましたか?」

予想通りの質問だったのか、朝比奈先輩は「ええ」といってあたしをまっすぐに見つめる。

「朝倉さん、あなたも長門さんと同類なんですね?」

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/12(木) 22:29:48.52 ID:nuwqb06o0

「ど、同類って?」

「とぼけなくても大丈夫です。あたしは未来人、古泉君は超能力者、そして長門さんは宇宙人なんでしょう?」
「あなたも長門さんと同類……宇宙人だってことはわかってますよ」

「……」

ああ、ダメだ。この人、おかしな人だったのか。
キョン君もこんな感じで告白を受け、長門さんの話まで信じ始めてしまったんだ……。

48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/12(木) 22:33:29.44 ID:nuwqb06o0

「おっしゃる通り、あたしは昨日キョン君に自分が未来人であると告白しました」
「どうやらすでに長門さんも告白済みだったようですね」

意味が分からない、話が見えてこない。
朝比奈先輩もキョン君に電波話をしたとして、一体どんな目的があるというのか。

49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/12(木) 22:39:28.17 ID:nuwqb06o0

「でも、あたしに近づいても何のメリットはありませんよ?」
「あたしは末端の人間ですから、朝倉さんがいくらコンタクトをとってきてもこちらの情報は提示することはできませんし」
「直接的な協力もできません」

朝比奈先輩の口から次々と飛び出す意味不明な単語。
話の最中にときどき放たれる「禁則事項」というのは、どうやら言葉にブロックがかけられているらしい。
そんな馬鹿な、じゃあこの人は本物の……?

51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/12(木) 22:40:23.21 ID:nuwqb06o0

よくわからなかったが、とにかく朝比奈先輩は、涼宮さんを監視する役目を担っている……という設定でキョン君に接しているらしい。
まんまあたしが適当に考えた話じゃないの。
一体どういうつもりなのか、あたしにはてんで見当もつかない。

「あ、そろそろチャイムが鳴っちゃう」

そういって部室から出るように促す朝比奈先輩。
いったい、あなたの目的は?

「ふふ、みんな目的は似たようなものだと思いますよ?」
「涼宮さんが中心の世界であるとキョン君に信じ込ませる……そして……」

52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/12(木) 22:42:32.63 ID:nuwqb06o0

長門さんにすべてを話した。
いつの間にかあたしたちは宇宙人になっていたわよ。

「なんだそれ?」

当然の反応だろう。
長門さんはあたしの妄言と受け取ったようで、疑いのまなざしをむけてきている。

「引くに引けなくなって、そんなこと言ってるんじゃないのか?」

まさか、全部朝比奈先輩から聞いた本当の話よ。

「信じられない。それに、実際そんなことを朝比奈言ったとしてもさ、わたしたちが宇宙人じゃないって否定することはできたんじゃない?」

ごめんなさい、言い出せる雰囲気じゃなかったのよぅ。

「はあ……なんだか余計に話がややこしくなったって感じ」

長門さんの言うことはもっともだ……。
そして次の日、あたしは古泉一樹から呼び出され、本当に抜け出せない泥沼にはまってしまうことになった……。

54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/12(木) 22:46:41.17 ID:nuwqb06o0

「朝比奈さんから聞きましたよ、あなたも長門さんと同じヒューマノイド・インターフェース……すなわち宇宙人のようですね」

あたしの考えた造語を恥ずかしげもなく使う古泉君。逆にあたしが恥ずかしくなるじゃない。
そもそもどこからその単語を……。

「僕も先日、彼に自身の秘密を話したところです。どうやら僕が最後だったようですがね」

違う、長門さんは違う。あれは間違いなんです。

55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/12(木) 22:48:41.43 ID:nuwqb06o0

ヒューマノイド・インターフェース……ああ、恥ずかしい!!
これを信じるに値する根拠がどこにあるっていうの?

「いまさら隠すこともないでしょう。すでに『機関』のほうでは複数のヒューマノイド・インターフェースと接触しています」
「もちろん朝比奈さんたち未来人側もね」

「……もしかして本当に」
「宇宙人……いるの?」

「……おや、これは」

古泉君は朝比奈先輩と違い、あたしの態度の違和感に気づいたようだ。
これはチャンス。

57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/12(木) 22:50:33.03 ID:nuwqb06o0

「はっきり言うわ。ヒューマノイド・インターフェースと長門さんに名乗らせたのはあたし。しかもあたしたちは本当は宇宙人でもなんでもない、唯の人間なのよ」

「……ちょっと待ってください」
「しかし『機関』はたしかにヒューマノイド・インターフェースの存在を確認しています」

「そこがわからないのよ」
「それってあたしが適当に考えた名称と設定よ?」
「そんなものが本当に存在しているの?」

58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/12(木) 22:52:24.62 ID:nuwqb06o0

「……なるほど、これはこれは」

古泉君はしきりに頷き、考えをめぐらしているようだ。

「まさか、こんなイレギュラーが存在していたとは」

なによ、自分ひとりで納得してないでちゃんと話してちょうだい。

「いいでしょう、では長門さんにも同席していただいて、一からすべて話しましょう」

59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/12(木) 22:56:15.75 ID:nuwqb06o0

放課後、古泉君が用意した高級そうな車に乗せられるあたし、長門さん、そして涼宮さん。

「なんで涼宮さんまで?」

「一応、彼女がこの『プロジェクト』の鍵を握っていますので」

「そういうこと」
「有希、あなたもここではそんなキャラを演じる必要はないのよ?」

涼宮さんに指摘され、長門さんは驚いた表情をしつつ伊達メガネをはずす。

「……知ってたの?」

61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/12(木) 22:57:22.32 ID:nuwqb06o0

「当然、あたしも『天上天下唯我独尊涼宮ハルヒ』のキャラを演じているのよ」
「あなたの無口が演技だってことは、とっくの昔に見抜いていたわよ」

「そのわりには、長門さんが一般人であることは見抜けなかったようですね」

「う、うるさいわね、古泉君……」

どうなっている?
まさか、校内での涼宮さんの奇行もすべて?

「そう、演技よ。すべてはキョンを騙すためのね」
「単刀直入に言うわ。キョンにはあたし『涼宮ハルヒ』が世界を改変する力を持っていると思い込ませているけど」
「実際にその力を持っているのはキョン自身なのよ」

63 名前: ◆p777rsrFAU [] 投稿日:2009/03/12(木) 22:59:27.75 ID:nuwqb06o0

書きだめ終わったから一時間休憩
一応酉

76 名前: ◆p777rsrFAU [] 投稿日:2009/03/13(金) 00:01:03.13 ID:z+4txZAH0

『ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、超能力者がいたらあたしのところへ来なさい。以上』

あの涼宮さんがしょっぱなに発したぶっ飛んだ自己紹介。
あれこそが、キョン君の中に眠っていたとんでもない力を呼び起こす起爆剤となった。

「彼は、常軌を逸した人物……ここでは彼にとっての『涼宮ハルヒ』像を指します。その人物には何か秘められた力があると
 意識させることによって、彼の中に眠る力は目覚めるのです」

78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/13(金) 00:03:10.54 ID:z+4txZAH0

「あたしの奇行はキョンに『あたしが世界を思い通りにできる能力を持っていても不思議ではない』と思い込ませるための布石なのよ」
「日常に不満を持つ者が非日常を作り出す能力を持っている……一見、もっともらしい設定じゃない?」
「実際に、キョン自身が日常に不満を持ち、ひそかに非日常に憧れているわけなんだけどね」

79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/13(金) 00:04:45.57 ID:z+4txZAH0

「僕や朝比奈さんがSOS団に入ったのも涼宮さんが無意識に呼び寄せた……ということになっていますが、実際には意図的に勧誘したわけです」
「涼宮さんはすべてを知っておられますからね」
「しかし、長門さんがSOS団に入るのは想定外でした」
「本来なら、部室を乗っ取った時点で退場していただくはずだったのですよ」

「キョンの力が、まだまだ発達途上の未完成な能力って証拠じゃない、あたしのせいじゃないわよ」
「だからあたしたちが育てていかなければならないんでしょ」
「そうしないと…あたしたちは存在することもできないんだから」

80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/13(金) 00:06:00.03 ID:z+4txZAH0

キョン君が存在を認識したものしかこの世には存在できない
これがこの世界の絶対にして、唯一のルール。

『超能力者』としての使命を与えられた『機関』のメンバーの大半は、まだほとんどこの世に存在していない。

「僕が『機関』のメンバーを彼に紹介しない限り、『機関』に所属しているとされている者はこの世に最初から存在しないのと同義です」
「僕は『超能力者』の代表ですから、SOS団を介して存在できていますがね」
「とはいえ、すでに何人かは、この先彼と接触することは確定していますので、『機関』のメンバーとして存在はしていますが」
「ようするに、彼が存在を認識するための前ぶりやきっかけが必要なのですよ」

東中出身の涼宮さんのインパクト大きさは、同じ東中出身の谷口君の存在を確立させたことを古泉君は例に挙げる。

81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/13(金) 00:09:16.02 ID:z+4txZAH0

『未来人』としての使命を与えられた朝比奈みくる。
彼女は名目上、組織的なものに所属していることになってはいるが、その実たった一人で活動している。
さまざまな時間軸上に存在する『朝比奈みくる』が時間を超えて自分自身とコンタクトをとっているにすぎないのだ。

「今SOS団にいるみくるちゃんが本当に本来くるべき未来の人間なのかはわからないけどね」
「それこそ神のみぞ知る……ってやつよ」
「キョンの思い描いた曖昧な未来像からきた、おっぱい大きくてロリ顔の美少女……ってのがみくるちゃんが存在できている理由でしょうね

88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/13(金) 00:16:43.01 ID:z+4txZAH0

そして『宇宙人』としての役割を与えられた『情報統合思念体』。
これはあたしが考えた、単なる妄想、戯言、虚構にすぎないはずであった。

「先ほど『機関』はすでにインターフェースと接触したといいましたが、それは数ヶ月も前の話です」
「となると、最近になって朝倉さんが思いついたことは、けっして偶然ではありえないのですよ」
「もしかしかたら彼の能力によって、あなたも長門さんも変化しているのかもしれない」
「宇宙人に」

89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/13(金) 00:18:56.96 ID:z+4txZAH0

自分で考え出したと思っていた、長門さんに言わせてしまったあのデタラメ。
しかし、それは本当に存在する情報統合思念体があたしにアクセスしてその情報をあたしの頭に直接与えたのではないか。
そう古泉君は推測する。

「あ、あたしの頭にそんなわけのわからない電波を送ってきたってこと!?」

「そもそも、わたしや涼子は元々一般人で関係ないじゃない。なんでそんなことに巻き込まれちゃったの?」

91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/13(金) 00:25:12.77 ID:z+4txZAH0

「だからあなた方はイレギュラーなんです」
「元々、彼の能力は外的刺激がなければ発揮されることはない」
「この世に人間を存在させているのは、彼自身の本能のようなものですが」
「非日常……宇宙人、未来人、超能力者の存在は実際に彼が目の当たりにしないと存在は確定しないのです」
「ですが、長門さんと朝倉さんは、彼の能力を介さずに『宇宙人』として存在しているのだとすれば?」

「?よくわからないけど」
「あなたたちだって、キョン君が存在を認識する前から『超能力者』として存在していたんじゃないの?」
「仮にあたしたちが『宇宙人』になっちゃっとしてもね、あたしたちだけが例外とはいえないんじゃないのかしら?」

「涼子……こんなアホな話に付き合うことないよ……もう帰りたい」

ぐずらないでよ、長門さん。
こうなったらとことん付き合ってやるんだから。

92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/13(金) 00:27:26.79 ID:z+4txZAH0

「それはいずれ話しますよ」
「今はそれより、見せたいものがありますので」

車はいつの間にか止まっていた。
交差点のど真ん中で。

「ちょっと、こんなところに止めて危ないじゃない!!」

93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/13(金) 00:29:47.66 ID:z+4txZAH0

周囲からはクラクションの嵐。
無駄にでかい車に進路を塞がれ、運転手たちはすごい形相でこちらをにらんでいる。

「怖いですか?」

「当たり前よ!!迷惑だからどけないさいよ!!」

「涼子…わたしなんだか怖い…」

長門さんは小動物のようにカタカタと震えだす。
意外と臆病なところがあるのね。

96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/13(金) 00:37:43.60 ID:z+4txZAH0

「彼らはこの車を認識しているから怒っている……ではこの車を認識できないとしたら?」
「そこには確かに存在しているのに、認識できずにぶつかり、ケガをさせて死なせてしまう」
「あるいは逆に、ケガを負わされ死んでしまうか」
「互いの車は大破し、両方とも死んでしまうでしょうね」

「な、何が言いたいのよ」

「いえね、今のこの世界のようだといってるのですよ」

瞬間。
世界は色を失う。
まるでモノクロ写真の世界に入ったような、灰色の空間。
周囲の建物や車などはあるのに、人の気配は感じられない。
まるでここは……

「死の世界」

長門さんがぽつりとつぶやく。

「その通り、我々は閉鎖空間と呼んでいますが、ご覧の通り死の世界と呼ぶにふさわしい場所ですよ」

98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/13(金) 00:43:39.78 ID:z+4txZAH0

「しかし同時に、ここは我々人類のふるさとでもある」

「ふるさと?」

「そうよ、なんだか懐かしい感じがしない?行ったこともない田舎の風景を見て、切なくなるみたいな、そんな感じよ」

「……」

言われてみれば。

「この閉鎖空間は、彼がいまだ存在を認識していない人たちの待機場所のようなものです」
「この空間から抜け出すには有色の存在となる……すなわち彼に存在を認めてもらうか」
「あるいは僕のように『超能力者』として選ばれるしかないというわけです」

「……それが、古泉君が存在できている理由というわけ?」

101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/13(金) 00:52:42.68 ID:z+4txZAH0

「実際のところはよくわからないのが本音です」
「彼の有する能力についても、その出所が曖昧すぎて、我々も半信半疑というのが現状なのですよ」
「しかし、実際にこのようなものを目の当たりにしては、彼でなくても信じてしまいますよ」
「だから朝倉さん」
「我々の手伝いをしてくれませんか?」

「手伝い?」

「あなたと長門さんは、彼によって『宇宙人』と認識されるのがすでに確定されているようです」
「ですから、もう後戻りは出来ません」
「彼に自分たちは『宇宙人』であると、アピールするのですよ」

「アピールって…どうやって?」

「最初は立体映像などを駆使して、いかにも宇宙人的な力を行使できると彼に思わせるのです」
「それさえうまくいけば、あとはどうにでもなりますよ」

102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/13(金) 01:00:32.33 ID:z+4txZAH0

そしてあたしはキョン君にラブレターまがいの手紙を出すハメになったのである。

なれないナイフを持たされ、古泉君が用意したホログラフィでキョン君を惑わす。
いったい、あたしはどうなってしまうのだろうか。

「わ、わたしがキョン君を助ける役……わたしがキョン君を助ける役……」

長門さんは長門さんで、キョン君と接近できる役割なものだから妙にはりきっているし。

「じゃ、あとは頼んだわよ」
「あたしはキョンが来やすい様に、もう帰るからね!」

涼宮さん、ずるい……。

「なにいってんのよ。いつもキョンと一緒にいるこっちの身にもなってみなさいよ」
「毎日騒がしい演技、退屈そうな演技と使い分けていたら、こっちの身がもたないんだから」

104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/13(金) 01:06:00.99 ID:z+4txZAH0

「あー……どきどきしてきた……」

もうすぐ指定の時間。
演技とはいえ、男の子を待っているこの状況、二重の意味で心臓ばくばくだ。

うまく騙せるか。
ちゃんと演技ができるか。

最初の立体映像さえ信じこませれば、あとは勝手にキョン君が状況を盛り上げてくれるみたいだが、そう簡単にいくのだろうか。

「でも、結構面白いかもね」

あたしは浮かれていたのかもしれない。
生まれて二度目だ、誰かに必要とされることは。

106 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/13(金) 01:13:05.77 ID:z+4txZAH0

両親はあたしのことを疎ましく思っていた。
父の愛人の娘という、フィクションでは使い古され、現実でも厄介なこの身の上。
父は社会的地位の高い人だった。
いや、一度も話したこともなく、あたしの存在を認識してくれなかったあの男を、父と呼ぶべきではないのかもしれない。
母は多額のお金をもらいあの男と縁をきらされた。



110 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/13(金) 01:16:04.29 ID:z+4txZAH0

心労で急逝した母が残してくれたお金と、あの男がくれたお金をあわせれば、学生でありながら生活にはまったく困らなかった。
一応母方の親戚が保護者ということになっているが、あたしは一人で生きていくことを決めた。
お金ならある。一人でも大丈夫だ。
あたしは進学した高校の近くのマンションで暮らし始めた。
そんなときだった。
長門さんと出会ったのは。

111 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/13(金) 01:21:35.38 ID:z+4txZAH0

「あ、その制服、同じ北高だ」

初対面なのに馴れ馴れしい。
あたしはべたべたされるのが嫌いだった。

「あなた誰よ。いきなり失礼じゃない」

「な、なんだよ、わたし、そんな失礼だったかな?」
「まさかこのマンションに同じ学校の生徒がいるとは思わなくてさ、ごめんね」

なによ、この子。
おっぱい小さいくせに生意気よ。

「あ!!それわたしが一番気にしてることなのに!!」

やば、声出ちゃってた!?

「きーっ!!なんだよこのふと眉毛!!」

「ふと眉毛!?あ、あたしが気にしてることを……」

112 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/13(金) 01:25:16.93 ID:z+4txZAH0

感情にまかせて口げんかをするのも初めてだった。
それからお互いに一人暮らしであると知ると、部屋を行き来し合い、なかば共同で生活するようになっていった。

「長門さん、またカレー?」

「いいじゃん、わたし好きだよカレー。何日も作り置きができるもんね」

「もう…そんな頻繁じゃ飽きちゃうじゃない」

「そういう涼子だっておでんばっかじゃん」

「こ、これはカロリーが低くて安くて簡単だから……」

「人のこと言えないよね」

「…ふふ、そうね」

117 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/13(金) 01:44:55.02 ID:z+4txZAH0

「ねえ、長門さん」

「うん?」

「あたしたち、友達よね?」

「…あんまりそういうこと言わないで欲しいよ」

「あ…ごめんなさい」

「照れくさいじゃん……」
「友達に決まってる」

「!!…うん」

「涼子がいないと朝も寝坊しちゃうし」

「もう!あたしは長門さんのお母さんじゃないのよ!」

あたしは、幸せだった。

119 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/13(金) 01:48:59.50 ID:z+4txZAH0





「お前か……」

キョン君が教室に入ってきた。
いよいよ演技開始だ。

手はず通り、ドアも完全に閉め切り、立体映像も気づかれていない。
キョン君はパニックを起こしている。

(これでいいのよね)

そして、例の長門さん登場シーンだ。

「一つ一つのプログラムが甘い」

121 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/13(金) 01:55:25.42 ID:z+4txZAH0

この時点で、あたしは身体の中に沸き起こる『力』の存在を感じていた。
キョン君があたしを完全に『宇宙人』であると認識し、それに見合った能力が実際に身についたのだ。

頭にイメージを描くだけで、それは具現化し、長門さんとキョン君を襲う。
もちろん殺すつもりなんかない。
打ち合わせでは、長門さんが適当にあたしを気絶させ、気がついたあたしと仲直りして終わり。
だからあたしは、長門さんが反撃しやすいように、攻撃パターンを単純化している。

なのに……

「長門!」

あたしの生成した槍は、長門さんの小さな体躯を貫いた。

123 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/13(金) 02:02:27.98 ID:z+4txZAH0

「へいき」

長門さんの目は、憎悪に満ちていた。
あたしに向けられた、目。
それはまるで、あの男のような……。

(ちがうの長門さん!!これはちがうのよ!!)

必死に訴えかけようとするが、あたしの口はまったく別の台詞を放つ。

「死になさい」

ちがうちがうちがう!!
あたしは長門さんを傷つけるつもりは……。










死           ね

125 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/13(金) 02:07:40.38 ID:z+4txZAH0

あたしの身体は今ぼろぼろと崩れ落ちている。
これがキョン君の望んだこと?
あたしは人間としてではなく、化け物として朽ちて死ぬの?
長門さん、ごめんなさい。
あたしのミスで、こうしなければならなかったんだよね?

(ちがう)

頭の中に声が響く。
長門さんの声だ。

(わたしは初めからあなたを殺すつもりだった)
(あなたがこの世に存在したから、わたしのパパとママは不幸になった)

何の…こと?
わけがわからないよ…。

(わたしのパパの愛人、その娘)
(それが、あなた)

!!
そんな…でも名前が。

(偽名)
(あなたはわたしを知らないかもしれないけど、わたしはあなたのことをよく知っている)
(ドロボウ猫の娘、その末路としてお似合い)



126 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/13(金) 02:10:25.74 ID:z+4txZAH0

あたしは結局、長門さんの友達じゃなかったんだね。
悲しいけど、しかたないよね。

あたしは、それでも満足してるよ。

長門さん、あなたがあたしを認識してくれた。

たとえ憎悪の対象だとしても、あたしを見てくれた。

だから長門さん。

ありがとう……。






130 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/13(金) 02:14:30.77 ID:z+4txZAH0

読んでくれた人は乙

朝倉の出番は消失までないよね
だからここで終了



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