みくる「王様の命令は…絶対、ですよ。キョンくん」


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1 名前:るぅ ◆lwelxCMmVU [] 投稿日:2008/12/28(日) 14:30:18.52 ID:9Dfe1TmC0

「じゃあねえ〜…そうだ!1番が4番にキスする!」

ハルヒの声が高らかに、秋も深まり寒さの増した文芸部部室に響く。

「1番…は僕ですが、4番は誰です?」

ハルヒ王の命を受けた1番、古泉がいつものファニースマイルフェイスに困りの成分を含ませ挙手し、立ち上がった。

「…ちっ、俺だよ、4番は!」

3 名前:るぅ ◆lwelxCMmVU [] 投稿日:2008/12/28(日) 14:34:12.38 ID:9Dfe1TmC0

舌打ちし、半ばキレ気味で名乗り出る俺。
お気づきの方もいらっしゃるではあろうが、俺達SOS団の面々は只今一昔前のコンパの定番、王道も王道キング・オブ・コンパ。
王様ゲームに興じている。
先程から何、故、か、王様になるのは我等が団長さまばかりで、
朝比奈さんが生着替えをする、だったり長門が胸部の激しく余ったメイド服姿で「おかえりなさいませご主人さま」、だったり古泉が三回回ってワンだったりと、目の保養になったり大爆笑できたりと
そこそこ楽しかったのだが。
まさか自分がこんな辱めを受けねばならぬ時がくるとは。
しかも相手が古泉だとは。
これが女子ならばまだ救いがというかむしろ今日一番の思い出となっていただろうに。


5 名前:るぅ ◆lwelxCMmVU [] 投稿日:2008/12/28(日) 14:35:41.76 ID:9Dfe1TmC0

「す、涼宮さん?本当にやるんですか?」
「あったりまえじゃないの!さあ古泉くん!オトコを見せて頂戴!」
「ちょっと待てハルヒ!お前はこんな男同士でチッスなんて無惨な光景にお目にかかりたいのか!?」
「別にそこまで見たいわけじゃないけど面白そうじゃないの?」
「面白くないッ!断じてだッ!」
「えー?」

8 名前:るぅ ◆lwelxCMmVU [] 投稿日:2008/12/28(日) 14:37:42.07 ID:9Dfe1TmC0

ぷー、と可愛らしく唇を尖らせるハルヒ。
言っておくが全く全然キュンともドキともしないぞ。

「やあねえ、そんなに意識されたらこっちまで恥ずかしくなるじゃないの」
「寧ろお前はもっと恥ずかしいという感情を持て!」

ぎゃんぎゃん喚き散らす俺に、何故だか気の毒そうな視線を向けてくるハルヒ。
正しいのはこっちだ、こっちだからな!
未だ食って掛かる俺の後ろで、古泉ががたん、と椅子の音を立てて立ち上がった。
顔は既に悟りの境地へと達し、いつもの微笑みも仏陀のそれへと変貌している。

12 名前:るぅ ◆lwelxCMmVU [] 投稿日:2008/12/28(日) 14:43:22.61 ID:9Dfe1TmC0

「古…泉…?」
「さあ、こちらを向いてください。王様の命令ですから、絶対です」
「ちょ、待て古泉!!うわあああ!待て!待たんかい!待…顔を近付けるなあああ!」

古泉はいっそ爽やかすぎて開き直りになってしまっている満面笑顔で俺の顔を両手で挟み、唇を寄せてきた。
空間限定超能力者の唇は、一見女の子のそれと見紛うほどの素敵色艶で、リップクリームのCMに出たらその商品はもう馬鹿売れ大ヒット確実だろうとまで思わせる。嗚呼、この唇にならば俺のファーストを捧げても構わない…、

うわあああ今何を考えたんだ俺は!チキショウ目を覚ませえい!

14 名前:るぅ ◆lwelxCMmVU [] 投稿日:2008/12/28(日) 14:49:08.44 ID:9Dfe1TmC0

「考え直せ、古泉!な?落ち着け!」
「いえ、…いきます」
「行くなああああ!」
「ゴーよ古泉くん!行きなさい!ブッチュー行きなさいっ!」
「こらテメエふざけんなああ!!?ちょま、ま、待って下さいお願いします!」
古泉は俺の必死な泣き喚く声を見事にスルーし、自らのビュリホーなマウスと俺のそれをスペシャルインスパイアジェネレーションした。ちなみに言っておくが俺の英語の成績は言わずもがな、だ。
朝比奈さんが息を飲んだ。長門の本をめくる音が聞こえた。
俺の意識は遠のいた。

17 名前:るぅ ◆lwelxCMmVU [] 投稿日:2008/12/28(日) 14:52:38.17 ID:9Dfe1TmC0

それより向こうのことはよく覚えていない。
ハルヒのピューウイ!という口笛が響き朝比奈さんが顔を真っ赤にして卒倒し長門は相も変わらず無表情で部室の惨状を眼前に捉えていたそうな。
ああ、思い出したくないくわばらくわばら。
そういえば最後に一度だけ、朝比奈さんが王様を引き当てたらしい。
部活終了を告げるチャイムのおかげでなにも命令はしなかったようだが。

18 名前:るぅ ◆lwelxCMmVU [] 投稿日:2008/12/28(日) 14:57:45.29 ID:9Dfe1TmC0




真上を見上げる。
今日も、素晴らしい晴天だった。
今さっきの王様ゲームと一昨日のSOS団恒例の不思議探しの疲れが抜けていなくてぐったりモードなオレは先程まで一緒にゲームに興じていた面々と下校していた。
いつもの嫌になるくらい急な坂道も、下りならば幾分かマシに思える。

本当に、いつも通りの風景だった。


20 名前:るぅ ◆lwelxCMmVU [] 投稿日:2008/12/28(日) 15:02:28.11 ID:9Dfe1TmC0

ハルヒは相変わらず朝比奈さんにくっつくようにして歩いているし
朝比奈さんはそのプリティフェイスを困ったように歪ませているし
長門は歩きながらだというのに読書に夢中。二宮さん状態だ。
古泉はオレの耳元で最近仕入れたのか、今までに聞いたことのないウンチクを披露してくれていた。
麓に着くと、オレを含めたSOS団の面々は、各々の帰路に着くべく適当な別れ文句を言って散々になり始める。
オレもその中の一人だ。

「さて、帰って妹の相手でもするかな」

そう言って、軽く伸びをするとハルヒがめざとく

「妹ちゃんと遊ぶならあたしも呼びなさいよ!」

ときゃんきゃん喚いた。
はいはい、じゃあオレも帰るぞ。
一年間の付き合いで、こういう図々しい手合いの流し方を習得していたオレは言って、手を振った。

22 名前:るぅ ◆lwelxCMmVU [] 投稿日:2008/12/28(日) 15:08:09.21 ID:9Dfe1TmC0

すると、朝比奈さんが気付いたように

「あ、知ってますかぁ?今の季節は紅葉がすごく綺麗なんですって!涼宮さんと、今日は違う道から帰ったらどうです?」

にっこり、と笑って仰った。
あの顔だと自分は既に見ていて、オレ達にも見てほしいのだろう。
何てお優しいお方なのだろうか!

23 名前:るぅ ◆lwelxCMmVU [] 投稿日:2008/12/28(日) 15:12:39.43 ID:9Dfe1TmC0

「へぇ、そうなんですか。そうだな…ハルヒ。行ってみるか?」
「ぅえっ!?…い、いいの!?」
「?何をそんなに狼狽してるんだ?」
「べっ、別に!あたしは紅葉が見たいだけなんだからねっ!?それ以上は何もないんだからねっ!?」
「いや…分かってるが」

よく分からないが、行きたいようだな。
オレは朝比奈さんにお礼を言うとハルヒの手を引いて教わった方へ歩き始めた。
…5分程歩いただろうか。
オレ達の横には、赤や黄色に色を変えた街路樹がたくさん並んでいた。

26 名前:るぅ ◆lwelxCMmVU [] 投稿日:2008/12/28(日) 15:18:39.37 ID:9Dfe1TmC0

「うわ…!すごいわね!こんなとこあるなんて知らなかったわ!」
「さすが朝比奈さんだな」

感嘆を素直に表現しているハルヒは言いたくはないし認めたくもないが子供のように可愛いらしかった。
ふ、と口許が緩むのが分かる。
ハルヒは夕日を背にしていた。
肩にかかる黒髪がきらきらと、光を反射して。
知らず知らずのうちに―全く以て不本意ながら―オレは目を奪われていた。

「いいわね、明日もこっちから帰るわよ!こんな素敵なとこあったなんて知らな―」



―言いかけたハルヒの綺麗な朱唇は、最後まで言葉を紡がなかった。


29 名前:るぅ ◆lwelxCMmVU [] 投稿日:2008/12/28(日) 15:25:38.05 ID:9Dfe1TmC0

甲高い大音量が、耳に届いた。
目の前にいる、腰に手をあて人差し指を立てたハルヒのいつもきらきらと眩い瞳が、大きく見開かれる。

ひゅ、と。
どちらのものか。薄く開いた唇の隙間から息が鋭く漏れた。

「ハル―」

叫んで、手を掴んだ。
こちら側へ、引き寄せる。
目を見開いたままのハルヒの細い腕を。
熟れたトマトが潰れたような、不愉快な音がした。
テレビの中、それもドラマやアニメでしか聞いたことのないような、車のタイヤとアスファルトが擦れて奏でる不協和音は限りなく耳障りで、



目の前にいる団長を助けたい、ただそれだけだったのに。

33 名前:るぅ ◆lwelxCMmVU [] 投稿日:2008/12/28(日) 15:31:57.03 ID:9Dfe1TmC0


オレの掴んだ腕は、それの数倍はあるはずの胴体分の重さを伴っておらず簡単に引けた。

「―ハ」

肩から綺麗に千切れた腕が、オレの手の中、だらり、とぶらさがっていた。





36 名前:るぅ ◆lwelxCMmVU [] 投稿日:2008/12/28(日) 15:36:25.57 ID:9Dfe1TmC0






「―PM6時30分46秒。涼宮ハルヒ17歳。即死。計画に狂い無し。報告します」


県立北高校の屋上に、彼女はいた。
ピ、と通信機のようなものを切ると溜め息を吐く。
ふわふわと柔らかい茶髪と白い肌、大きな女性の象徴が眩しい彼女はレポート用紙と見られる何かにボールペンで忙しく書きつけていた。
以前の幼く鉛筆を握り、絵本の制作に精を出していた影は微塵も感じられない。

全ては、計算だった。
今、この瞬間のための。


46 名前:るぅ ◆lwelxCMmVU [] 投稿日:2008/12/28(日) 15:43:03.97 ID:9Dfe1TmC0

うわ、急にすごい伸びたww
知識が至ってない点はスルーか脳内補完でwww



「…はぁ、終わり。これで、私たちの未来が脅かされる心配もないはず…」

ぱたん、と教師の持っているようなバインダーを閉じると。大きく、溜め息を吐いた。

「命令は遵守した。もう此で…」

いつもの柔和な瞳はどこへやら。鋭い眼光を放って、冷酷な雰囲気を纏う彼女。

SOS団萌えキャラ兼マスコット。
朝比奈みくるその人だった。


48 名前:るぅ ◆lwelxCMmVU [] 投稿日:2008/12/28(日) 15:49:39.59 ID:9Dfe1TmC0


いつもの北高校の制服を身に纏ったみくるは、ひとつ、伸びをすると先程まで凝視していた方向に再び目線を向けた。

「キョンくんには…悪いことしたわね」
「朝比奈さん」
「分かってるわ」

心配そうに声を掛けてきた背後の部下を手で制し、風で乱れた髪を撫でつける。


53 名前:るぅ ◆lwelxCMmVU [] 投稿日:2008/12/28(日) 15:54:05.09 ID:9Dfe1TmC0

「涼宮…ハルヒ」

声に出してから、思った。
私は、殺したいほど彼女を憎んでいなかったはず。
おかしな服を着せられて憤ったこともあった―。
横暴だった―。
けれど、でも。
私は好きだった。
彼女が。
なのに、彼女を殺した。
そうなるように、仕組んだ。
私が、手にかけた。

55 名前:るぅ ◆lwelxCMmVU [] 投稿日:2008/12/28(日) 15:59:31.20 ID:9Dfe1TmC0

「…涼宮さん」

“ごめんなさい”
声にならない声は、かすれた吐息となって唇の隙間から流れ出た。
なにかが頬を、濡らしたのが分かった。

「朝比奈さん…貴方が気に病む必要はありません」
「な、何を言っているの?私は別に…」
「泣いているじゃないですか」

58 名前:るぅ ◆lwelxCMmVU [] 投稿日:2008/12/28(日) 16:04:07.64 ID:9Dfe1TmC0

人から断言されたことで気付かないようにしていた何かが、ぷつり、と切れた。
溜め込んでいたものを吐き出すかのような絶叫。

「っ…ぁあ…あああああああああ!」

漏れだすのは、止めどない嗚咽。
人目を気にせずに、大きな声で叫ぶみくるを細めた眼でじっと見つめて、彼は謝った。

「すみません。私にもっと力があれば」
「…いいのよ…、いいの」

泣きながら、みくるは思った。

“いけない、このまま上官の命令に従うだけじゃ、いけない”


59 名前:るぅ ◆lwelxCMmVU [] 投稿日:2008/12/28(日) 16:11:17.09 ID:9Dfe1TmC0





―この命令が下されたのは、数日前。
SOS団土曜日恒例の不思議探しの最中だった。

いつもの喫茶店で、キョンくん持ちになっているピーチティーをちびちび飲む私の携帯が、突如として呼び出しを始めた。

「ん?みくるちゃん、携帯なってるわよ?」
「あ、すみません。ちょっと失礼します」

言いながら席を立って店の外に出る。
耳にかかる髪を払い、通話ボタンを押して応答する。

60 名前:るぅ ◆lwelxCMmVU [] 投稿日:2008/12/28(日) 16:15:33.55 ID:9Dfe1TmC0

「はい」
『私だ』
「!」

電話の相手は上官だった。
今までいろいろな時間軸に私を飛ばして様々な任務をさせた―。
今回もそれ絡みだろうか。
思考を一巡させてから、次の言葉を紡ぐ。


61 名前:るぅ ◆lwelxCMmVU [] 投稿日:2008/12/28(日) 16:21:04.42 ID:9Dfe1TmC0

「あのぅ、何でしょう?」
『その気色わるい喋り方を止めろ。今、周囲に涼宮ハルヒはいないはずだ』
「…すみません。ただ、常に周りには気を配らねばならない状況なので。いつ彼女が店から出てきて現れるか分かったものでは―」
『御託はいい』
「…はい」

冷酷な上官の言葉。
部下であり、今まで大した手柄も挙げられていない自分は素直に返事をするしかない。

『―命令だ』
「はい」
『率直に伝える。
―涼宮ハルヒを殺せ』
「…え?」


63 名前:るぅ ◆lwelxCMmVU [] 投稿日:2008/12/28(日) 16:25:47.50 ID:9Dfe1TmC0

頭がついていかなかった。

コ ロ セ ?

「な…何故?理由を説明頂けねば納得―」
『黙って履行しろ』
「―ッ!」

私は唇を噛んだ。
ぎり、と音がして、血の味が広がる。

『詳細は後々連絡する』
「…」
『頭の片隅においておけ』
「…はい」


64 名前:るぅ ◆lwelxCMmVU [] 投稿日:2008/12/28(日) 16:30:44.60 ID:9Dfe1TmC0

一方的に切れた携帯電話を右手に持ったまま、私は立ち尽くしていた。
まだ、頭がついていかない。聞いた内容は真実味を帯びていなかった。
そういえば…この携帯は涼宮さんが選んでくれた物だったっけ。
ピンク色が私に似合うと言って…。
嬉しかったのを覚えている。

そんな涼宮さんを…

コロセ?
何故?
理由は?
どうして?
そんな。
無理だ。

あり得ない。

66 名前:るぅ ◆lwelxCMmVU [] 投稿日:2008/12/28(日) 16:36:14.39 ID:9Dfe1TmC0


「っ…!」

私は、その場に崩れ落ちるようにして座りこんだ。

道行く人たちの視線など、気にもならない。

吐気がした。


70 名前:るぅ ◆lwelxCMmVU [] 投稿日:2008/12/28(日) 16:41:15.58 ID:9Dfe1TmC0

こんなに私が狼狽したのは、上官の命令は絶対であることを知っていたから。
笑い飛ばせる冗談ではないと、頭が理解していたから。
体が知っていたから。
未来で、自分の上司の命令を履行せずに罰として極刑になった友人を、見たことがあった。
いろいろなコードのついた椅子に強制的に座らされ。
あるボタンを押せば熱で酷い火傷を負わされ
あるボタンを押せば電気で感電させられ
あるボタンを押せば水攻めに遭い
どれもこれも、いっそのこと死んでしまった方が楽だと思わせる程のものだった。
しかし、威力は死なない程度に設定されたそれらは何度も、何度も友人の体を蹂躙した。
5回の水攻めに耐え、4回の熱に耐え、そして7回目の電気で―
未来の過去派遣部隊の仲間は、劈くような悲鳴を上げ、白目を剥いてその場に崩れ落ちた。
私の目の前で。


74 名前:るぅ ◆lwelxCMmVU [] 投稿日:2008/12/28(日) 16:44:27.22 ID:9Dfe1TmC0

必死に立ち上がると、そのまま私は帰路についた。

後ろから名前を呼ぶ声がした気がしたけれど…。
とても気にしている余裕はなかった。



一晩眠った私は、何故だか驚く程冷静になっていた。
「涼宮さん…きっと、彼女を殺すことに何か意味があるのよ…きっと…」

鏡で見た私の目には、光がなかった気がした。


77 名前:るぅ ◆lwelxCMmVU [] 投稿日:2008/12/28(日) 16:48:00.56 ID:9Dfe1TmC0



―月曜日。
涼宮ハルヒをいつもと違う帰り道へと誘導した。
そこへ速度オーバーした車がくるのは必然だった。
即死。
それが私の望んだ死に方。

私が殺った。

家に帰って、吐いた。


79 名前:るぅ ◆lwelxCMmVU [] 投稿日:2008/12/28(日) 16:52:09.81 ID:9Dfe1TmC0






「はぁ…」

北高校へと続く、嫌になる程急で長い坂道を歩きながら、私は大きく溜め息を吐いた。

「頭が痛い…」

額に手をやる。
まだ、胃に違和感がある。
気持ち悪い…。
私がそんなふうにしていると、複数の男子生徒が心配そうな眼差しを向けてくる。
この時代に潜入すべく作ったキャラクターは、意外にも好評だった。
同じクラブに所属するキョンとあだ名される後輩男子も例外ではない。
と、一人の髪の長い女生徒が騒々しく走ってきた。
急な坂道を気にした風もなく、息も荒げないで手をぶんぶん振り回し、大きな声を上げた。


81 名前:るぅ ◆lwelxCMmVU [] 投稿日:2008/12/28(日) 16:55:04.46 ID:9Dfe1TmC0



「みっくるー!おっはよー!!」

同学年の鶴屋という生徒だ。下の名前は何故か聞いたことがない。

「あ…おはようごさいますぅ」

キャラクターを意識しながら微笑んで挨拶を返す。
彼女にはこの時代で、よくお世話になっているのだ。

「やあやあ、今日も暑いねえ!朝から制服びしょ濡れだよっ!汗が気持ち悪いな〜っ!」
「そうですねぇ」
「んっ?」

89 名前:るぅ ◆lwelxCMmVU [] 投稿日:2008/12/28(日) 17:33:58.03 ID:MQtpLAhYO

保守どうもです
携帯から>>1です



鶴屋さんは少しだけ形の良い眉をぴくり、と動かすと私の目を覗き込んできた。

「おやおやっ?みくるっ?何かなあ、顔色悪いぞ?だいじょぶかなっ?」
「!」

心を読まれたような気がした。
ドキン、と。
動悸が早まる。

「だ、大丈夫ですよう!気にしないでくださいっ」

手をばたばた振って、可愛らしく否定した。
この勘の鋭い友人の前では、絶対にボロは出せないと思った。



91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/28(日) 17:45:11.97 ID:MQtpLAhYO


鶴屋さんは少しだけ形の良い眉をぴくり、と動かすと私の目を覗き込んできた。

「おやおやっ?みくるっ?何かなあ、顔色悪いぞ?だいじょぶかなっ?」
「!」

心を読まれたような気がした。
ドキン、と。
動悸が早まる。

「だ、大丈夫ですよう!気にしないでくださいっ」

手をばたばた振って、可愛らしく否定した。
この勘の鋭い友人の前では、絶対にボロは出せないと思った。



93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/28(日) 17:46:10.66 ID:MQtpLAhYO

しまった誤爆した


「…そっかな?ならいいけど、さっ」

そう言った鶴屋さんの大きな瞳は、探るような光を宿していた、と私は感じた。侮れない。
直感的に、思った。

そのまま鶴屋さんと一緒に校門をくぐると、校内は騒然としていた。

きたか。

乾いた唇を舐める。


97 名前:るぅ ◆lwelxCMmVU [] 投稿日:2008/12/28(日) 18:20:26.32 ID:9Dfe1TmC0

再びパソからww
何かいろいろすみません
コテについては携帯からだとめんどいのでIDで判別願います



「…んんっ?どったのかなあ?」

鶴屋さんが不思議そうに首を傾げた。
私には分かっていたが、この“朝比奈みくる”が分かっていてはおかしいので分からない振りをしておく。

「どうしたんでしょう…?皆さん忙しそうです…」

口に手を持ってきて困った顔をする。
こんな風に天然で間の抜けたキャラを演じるのも板についてきた。
と、向こうから忙しく走ってくる人影が見えた。

「朝比奈さん…っ!」

キョンだ。


99 名前:るぅ ◆lwelxCMmVU [] 投稿日:2008/12/28(日) 18:22:14.42 ID:9Dfe1TmC0

ぜえぜえ、と息を荒げる彼は私の前まで来ると言った。

「ハ…ハルヒが…!」
「…っ」

キョンの顔は今にも泣きそうで、苦しそうで。

ああ

私が彼にこんなカオをさせている。

「す、涼宮さんがどうしたんですか?」
「ハルにゃんになんかあったのかい!?」

鶴屋さんはキョンの肩を掴んだ。かなり焦った様子で、いつもの彼女には見えなかった。
キョンは、強く唇を噛み締めて

「…昨日…車に挽かれたんです…俺の目の前で…ッ…即死で…」
「…!」

鶴屋さんの大きな瞳が見開かれる。
私のしたことが、
二人分の重さへと倍加し
のしかかる。


100 名前:るぅ ◆lwelxCMmVU [] 投稿日:2008/12/28(日) 18:25:45.12 ID:9Dfe1TmC0

「…」

廊下では、教師が慌ただしく駆け回っていた。

ところどころで 涼宮ハルヒ という単語が聞こえる。
皆、昨日のことで忙しく動いているのだ。
少しだけ、側にいる教師の話に耳を傾けてみた。

「まあ、問題児がいなくなってよかったんじゃないのか?」
「しかし…まあ、それは否めませんが…」

それ以上聞いていたら自分のしたことを自分で正当化しそうで、嫌で、怖くて

私は無意識の内にその場から走って逃げ出した。

私のしたことは決して正しいことなんかじゃないんだ。―ないんだ!

走っている内にまた、頬が濡れていた。

と、その時だった。

103 名前:るぅ ◆lwelxCMmVU [] 投稿日:2008/12/28(日) 18:29:09.75 ID:9Dfe1TmC0

「!」

ポケットの携帯の震えが、着信を知らせた。
画面に映る文字は、非通知。

立ち止まって、動悸動悸と高鳴り震える心臓を抑えて

「…はい」

やっとのことで空気に振動を与えることができた。

『何をそんなに狼狽している?』

上官の声は相も変わらず冷酷な響きを含んでいて、私は背筋に異様な寒気を感じた。

予想はしていたのに。
頭が真っ白になる。

ま さ か
 ま た ?


104 名前:るぅ ◆lwelxCMmVU [] 投稿日:2008/12/28(日) 18:30:31.75 ID:9Dfe1TmC0

連投規制とかってどんくらいのペースでなるっけ?



「…用件は」

できるだけ、声で動揺を悟られぬよう配慮して、未来での…本来の私を
ダセルヨウニ。

『命令だ』
「…ッ!」

やっぱり、だ。

『長門有希を殺せ』

109 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/28(日) 18:41:53.80 ID:MQtpLAhYO

…長門さんを?

「…な、長門有希ですか?しかし彼女は…」
『アンドロイドだ、と言いたいのだろう。安心しろ。今長門有希は思念体との交信を自ら絶っている。殺す、とまではいかんが、再起不能くらいにはできるはずだ』
「…」
『殺し方については涼宮ハルヒ同様お前に任せる』
「…」
『分かったな?』
「…はい」

いやだいやだ、
いやだいやだいやだ。
もう、あんな鮮紅は見たくない…。
見たくない…!
でも…

でも…!!

やるしかない。
私がやることで、私達の未来が救われるなら―!




112 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/28(日) 18:47:25.82 ID:MQtpLAhYO



昼休みになった。
朝は、涼宮ハルヒの死を悼んだ黙祷があった。
皆、意外そうな顔をしていたけれど、中には嬉しそうに綻んだ顔もあったのに驚いた。
上官の考えが読みきれない私は、主を無くした文芸部室―SOS団団室へと足を運ぶ。
ここへ来た理由は一つ。

TPDDを使って未来へと向かうためだ。

一つ、呼吸をすると私は私の中の時空移動装置を起動した。

113 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/28(日) 18:51:44.23 ID:MQtpLAhYO

向かうのは、今から6時間後。
下校する長門有希がどのルートを通るのか確かめるためだ。
彼女は規則的な行動をとるため、帰りの道順は分かってはいるが、今日に限って別の道を通らないとも限らない。

無事時空を移動し終え、長門有希のマンションの近くに降り立った私は早速短髪の宇宙人を探す。

「…!」

見つけた。



114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/28(日) 18:59:12.52 ID:MQtpLAhYO

途中で買ったのか大量のたい焼きをぱくつきながら歩いていた。
顔はいつもの淡白な無表情。

私は、少しだけ行動を観察した後、もとの時間軸に戻った。

これで、今日の6時台、普段と変わらぬルートで帰宅するという証明はできた。あとは―。
授業そっちのけで練った作戦を実行するだけ。


これで未来が救われるなら。

小さな、犠牲だ。


116 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/28(日) 19:07:42.29 ID:MQtpLAhYO

元の時間軸に回帰した私は、後の5限6限全く集中できなかった。
全てが上の空、授業は真面目に聞く、という朝比奈みくるの設定を完全に忘れていた。
何度か当てられたような気がしたが、これからやる大事の前には陳腐な事にしか過ぎない。
6限終了のチャイム。
と同時に駆け出す私。

行き先は、前々から連絡しておいた部下と落ち合うための秘密の場所。

117 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/28(日) 19:13:59.35 ID:MQtpLAhYO

「朝比奈さん」

暗がりから出てきた彼は低い声音で呼んだ。

「ごめんね。待った?」
「いえ。そんなことは。では、実行しますか」
「ええ。そうね。

長門さんを



殺しましょう」
「御意に」


118 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/28(日) 19:18:05.78 ID:MQtpLAhYO


部下は恭しく片膝をつき頭を垂れた。
姫に付き従う騎士のようだ。

彼は私がこの時代へと派遣されるエージェントに決まった時、私付きの部下になった。
彼には妹がいる。
彼の家は比較的1家庭が裕福になっている未来でも、かなりの貧しい部類に入る。
なのに、いつでも私のことだけを考えてくれる。
だから…。
彼だけは失いたくないと思えた。
彼の未来が明るくなるならば、
私が今からすることで
彼の妹が裕福な生活を送れるなら。

私は闇に堕ちても構わない。


そう、思った。



119 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/28(日) 19:22:15.45 ID:MQtpLAhYO


長門有希が、道から現れた。
寸分変わらぬ歩幅。
白い無表情。
揺れる赤いリボンと銀の髪。スカートの青。
それらが今から真紅に染まると思うと。

嗚呼


心を、消せ。




120 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/28(日) 19:26:34.03 ID:MQtpLAhYO





「…今!」
「はっ」

部下の乗った車がT字路から飛び出す。

「…!」

彼女の虎珀の瞳が、大きく見開く。
瞳に映る白いワゴン車がだんだんと大きくなって
そして―


ぐしゃり




124 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/28(日) 19:32:27.60 ID:MQtpLAhYO

一体の対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェイスは。

「…ァさ、比な―みク/@-°%る」

小さく、赤い水溜まりに、沈んだ。

「ごめんなさい…長門さん」


125 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/28(日) 19:37:40.27 ID:MQtpLAhYO




部下の車はその場に乗り捨てた。
部下の戸籍はこの時代にはないし、指紋も辿られない。
況してや身に着けているものの素材なんて未来のものだから例え残っていたとしても見つかる筈もない。
私はその場から離れて遠くにいたから容疑はかけられない。

完璧な計画だった。



127 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/28(日) 19:47:13.04 ID:MQtpLAhYO

私は辺りに人がいないことを確認すると、車から降りた部下に近寄った。
ポケットから通信機を取り出す。

「PM6時30分25秒。長門有希3年製。即死。計画に狂いなし。報告します」
通信機を切ると、部下に向き直る。

「ありがとう。また気持ちの良くないことをさせたわね」
「いえ。貴方が気に病むことではありませんよ」
「…うん…。でもありがとう」

部下は優しく微笑んでくれた。

しかし―。


129 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/28(日) 19:56:02.57 ID:MQtpLAhYO

「…朝比奈、さん…!?」
「…!?」

部下のものではない声がした。
振り向く。
そこにいたのは。


「…こい、ずみくん…」
「どういうことです、何故長門さんが…!」

古泉一樹は目を見開いてぜえぜえと息を荒げていた。
なぜ、彼がここに…。


130 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/28(日) 19:59:17.97 ID:MQtpLAhYO

見てくれている人はいるのだろうか…




「…貴方に言う必要はないわ。機関には関わってほしくないの」
「黙って下さい!今は―!今は機関なんて関係ない!何故長門さんが死なねば…っ!」
「…そうだったわね。貴方、長門さんのことが好…」
「煩いッ!」

古泉一樹は珍しく激昂した。
顔を真っ赤にして、私に対峙している。
古泉一樹の長門有希に対する好意は知っていた。
よくもまあ、あれだけ無視を食らっても諦めずに話しかけられるものだ、と思ったのを覚えている。


(また、誰かが

傷付イタ。)



135 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/28(日) 20:07:31.67 ID:MQtpLAhYO

見てくれてる人ありがとう超嬉しい




「…ごめんなさい、古泉くん」
「謝って済む問題じゃないッ!」
「…でも、ごめんなさい。私は…貴方の大切な人を奪ったわ…」
「ぐ…っ!」
「…」

古泉一樹は静かにその場に崩折れるように座り込むと嗚咽を漏らし始めた。
いつもは笑っているだけの彼のいろいろな面を、たった一瞬で目の当たりにした。

「あ…ぅぐぅううッ、うああ、うああああああッ!」

136 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/28(日) 20:11:34.24 ID:MQtpLAhYO

周りの空気をピリピリ振動させる彼の叫び声は、悲痛で、哀しかった。
私なんて視界に入っていないかのように泣き叫ぶ古泉一樹。
と、そこに場違いな電子音が鳴り響く。

画面は非通知。
古泉は、気づかない。

ごくり、と生唾を飲み込んで声を絞り出す。


―――――――――
ちょっくら風呂入ってきます

155 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/28(日) 21:11:28.63 ID:MQtpLAhYO

保守ありがとうございます!
一応ハルヒは憂鬱から分裂まで読んだんだけど細かいとこ覚えてなくてすみません;;






「…はい」
『私だ』
「…はい」
『私が何を言うかは分かっていると思う』
「…」
『命令だ。古泉一樹を殺せ』
「…了解しました」
『いやに聞き訳がいいな』
「…今すぐに、実行に移します」
『朝比奈…。分かった。できるならばやれ。報告を待っているぞ』
「はい」

携帯電話を閉じた私はスカートの下の太股に巻き付けたベルトを外し、小型ナイフを取り出した。
右手に握り、軽く振る。
ひゅ、と。風切音は軽く。

158 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/28(日) 21:15:55.78 ID:MQtpLAhYO

「朝比奈さん…私が」
「いいの、貴方は休んでいて」

コツコツ、と。ローファーの軽い靴音が路地に響き。
私は人を殺めるには十分すぎる得物を右手に持ったまま地べたに這いつくばる超能力者へと近付いた。
振り下ろせば、首が飛ぶ。
そんな距離まで。
あと一歩。

「さよなら、古泉くん」

私は冷酷な仮面を外せぬままの心でただ、機械のように右手を振り上げ


下ろした。


162 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/28(日) 21:19:18.71 ID:MQtpLAhYO

辺りに赤い飛抹が飛び散った。
ごろり、と球体が転がる。


しかし


「…危ないですね」
「…!?」

古泉一樹は私の後ろから何事もなかったかのように現れた。
にっこり、と微笑む彼の笑顔はいつも部室で見ていたものと相違ない。
両手を体の後ろで軽く組んで街を散策するような身軽さで歩いてくる。

164 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/28(日) 21:21:44.55 ID:MQtpLAhYO

「何故…!」
「ふふ、やはり森さんの調査結果は間違いなかったようですね」
「…?」

彼は口元を歪ませると、全く笑っていない目で私を見た。

「我々は最近、未来に不穏な動きがあることに気付きましてね」
「…」
「涼宮さんと長門さんを亡き者にしたのもあなただと判明しています」
「…ッ!」

予想外だった。
まさか機関が手を出してくるなんて!

165 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/28(日) 21:25:45.45 ID:MQtpLAhYO

「まあ、僕は信じていなかったのですが…残念です。今の行為で100%あなたで決まりですね」

くつくつ、と耳障りな笑い声を喉の奥で鳴らし、

「涼宮さん、長門さんとくれば次のターゲットは僕かもしれない…これは調査した森さんの読みですが、ちょっとした予防線を張らせてもらっていたわけです」

さっき殺した筈の古泉の首を見る。
真っ赤に染まった動脈から覗くのは、赤や青のコード。
やられた。


170 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/28(日) 21:32:58.26 ID:MQtpLAhYO

「ふふ、機関の財力と技術力をもってすれば可能なんですよ。―そうですね、古泉2号とでも名付けましょうか」

昨日見たお笑いの面白いネタを思い出したみたいに一人でくすくすと笑う古泉。
薄ら笑いに腹が立つ。

「さて…朝比奈さん、いや、朝比奈過去特派員。貴方にもう一度問います」
「…」
「諦めて投降しては頂けませんか?」

178 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/28(日) 21:40:33.19 ID:MQtpLAhYO

私を見る古泉の目線が、明らかに豹変した。
口元は相変わらずとってつけたような笑みが張り付いているが目は全く笑っていない。
獲物を見つめる獣の如き眼光が、私を射抜く。
1つ、呼気を外へと逃がす。
ろくに吐き出していなかった、二酸化炭素を多分に含んだ気体は秋の空に、白くなって霧散した。
瞬きを、1、2、3回。

「断るわ」



180 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/28(日) 21:53:03.57 ID:MQtpLAhYO

古泉は、きっぱりと言い放った私を睥睨して

「…ほう。そうですか。あくまで、未来を信じると?」
「ええ。私はSOS団、などという集団の前に未来から派遣されたエージェント。今、私がなさなければならないことは一つ」

スカートを捲り上げ、内に隠された暗器を探る。

「ふふ、仕方ありません。僕も機関の一員という立場があります。科せられた命も、恐らく貴方と似ている」

私の手が、短刀の柄を握った。
古泉が、懐から銃を取り出した。
狭い路地で場違いな制服に身を包んだ二人が対峙する。

「古泉一樹
「朝比奈みくる

貴方を、



殺します」」



184 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/28(日) 22:01:42.25 ID:MQtpLAhYO

前のめりになって疾駆する。
ローファーで、地を蹴る。
砂が飛び散る。
普段はキャラクター朝比奈みくるとして運動ができないことにしているが、未来と、今では根本的に違う。
私のいる時間では、科学的に筋肉量を増加させる法がある。
古泉一樹などとは、全くもって、話にならない筈だった。
しかし。
「甘いですね」

189 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/28(日) 22:21:19.38 ID:MQtpLAhYO

古泉が、私に向かって何かを投げた。

「!?」

目に鋭い痛みが走った。
視界が奪われた。
一瞬にして瞳から水分が失われたように錯覚する。
気づく。
―砂か!

「っう、ああっ!!」

目元を抑えて立ち止まる私に

「―ぁあああっ!」

古泉が跳んだ。
背中に鈍い痛みを感じる。
押し倒された。
―ああ。
観念して目を瞑る。
数秒後には、私の心臓は止まっているのだろう。
古泉が、叫んだ。


192 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/28(日) 22:25:43.34 ID:MQtpLAhYO

「朝比奈みく…―!?」

しかし、古泉の声は、鋭い音によってかき消された。
パアン!!

覚悟していた痛みは全くやってこない。

「…?」
「朝比奈さあん!!」
「!?」

地面に押し付けられた状態で横を見ると、部下が拳銃を構えたままこちらを見ていた。
私の上に乗っていた古泉一樹はチッと舌を打つと

「…ここは一端退いた方が得策ですね…!」

転がるように立ち上がって、走り去った。

193 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/28(日) 22:34:36.79 ID:MQtpLAhYO

「…はあ、はあ…」
「大丈夫ですか!?」

部下は私の傍に駆け寄って、言った。

「ええ、平気。でも…最悪だわ。古泉一樹を逃がすなんて…」
「今はとりあえず連絡しておきましょう。古泉のことはまだどうにでもできますが…キョンに伝われば厄介です」
「…そうね」

私は懐から通信機を取り出す。

『私だ』
「朝比奈です」
『どうした?』
「申し訳ありません。古泉一樹を取り逃がしてしまいました…」
『…そうか』
「如何いたしましょう」
『…』
「上官?」
『そろそろ話した方がいいのかもしれんな』
「何がですか?」
上官は十分に時間をおいて、重々しく言った。


195 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/28(日) 22:39:45.85 ID:MQtpLAhYO

『この計画は、その時間軸においてSOS団と名乗っている団体の人員を全て抹消することだ』
「…?」
『抹消すべき人員の中には朝比奈みくる。お前も入っている』
「…な…」

私は、一瞬脳の回路が凍りつきでもしたのかと思った。
抹消?
私も?

「上官…!?」

通信機は、切れていた。



197 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/12/28(日) 22:42:11.40 ID:MQtpLAhYO

すみません、寝させて下さい。
とりあえずあとちょっとで終わりです。


次回キーワード_部下

2 名前:るぅ ◆lwelxCMmVU [] 投稿日:2009/01/02(金) 11:27:36.48 ID:2+ym+KD70

続きからじゃなかった…誤爆しました。

ホントの続きはこっち↓



「はぁ、はぁっ…!」

がらりとSOS団が使っている文芸部部室の扉が大きな音を立てて開いた。
そこから現れたのは、俺もよく知っている爽やかスマイルがトレードマークの副団長だった。

「…ん?どうしたんだ古泉。ハルヒのやつぷりっぷり怒ってどっか行っちまってるぞ。朝比奈さんも長門もいないし―」
「よく聞いてください!!」
「!?」

古泉は、いつもの笑顔など微塵も感じさせない切羽詰まった表情を浮かべていた。






6 名前:るぅ ◆lwelxCMmVU [] 投稿日:2009/01/02(金) 11:32:52.58 ID:2+ym+KD70

俺の脳内も反射的に真面目モードへと切り替わる。

「ど、どうしたんだ…?」
「朝比奈さんのことを忘れてください」
「は!?」
「彼女はもうすぐ僕を殺しに来ます」
「え?は?どういう…つうかお前、腕!」
「僕のことはいいですから、早く屋上へ!」

俺の肩を掴み、すごい剣幕でまくし立てる古泉の右腕からは真っ赤な血が流れ出ていた。
ただ事ではないという実感がわいてくる。

「な、何で屋上?」
「僕の読みが正しければ…」

そこまで言うと古泉は弾かれたように顔を上げると言った。

「―ッ、くそ!あなたは早く、死にたくなければ屋上へ!!詳しい理由を説明している時間はありません!!」
「…ぁ、ああ」

俺は古泉の只ならぬ雰囲気に押し切られ、首肯していた。
全然状況を飲み込めていなかったのだが。


7 名前:るぅ ◆lwelxCMmVU [] 投稿日:2009/01/02(金) 11:34:55.73 ID:2+ym+KD70





「ふふ…そっかあ」

私は力なく呟いた。
手から離れたナイフが透明な音を立てて、アスファルトにぶつかった。
涙が、頬を伝う。

「はは…」

乾いた笑いが唇から洩れる。
そっか、そうだったんだ。
やっぱり、私は必要のない人間だったのか。
未来で、過去エージェントに任命されたときすごく嬉しかった。
同時に、責任感というものを背負わされた。
あいつに務まるのか、計画を台無しにするに違いない。
そんな風に言われていたことを、私は知っている。
けれど…
やってやる、と意気込んでこの時代に来たというのに
このザマだ。
結局使い捨てだった、という訳か。
だから、大した成績も挙げられていない私を使ったのか。
納得がいった。

「あは…」

馬鹿みたいじゃないか。

8 名前:るぅ ◆lwelxCMmVU [] 投稿日:2009/01/02(金) 11:39:31.95 ID:2+ym+KD70

「ふふ…っく、へへ、あはは…」

涙を流しながら、私は膝を抱えこんだ。
結局使い捨てられる運命だったのに
心を痛めて
必死で働いて
未来のためだなんて。
そっか。そっか。そっか。

「―はは」

なら、もういいの。

「抗う」
「朝比奈、さん…」
「行きましょう。もう、アイツの命令なんて従う必要なんてない」
「…しかし、それでは…」
「…計画…。SOS団全員を抹消すること、だったわね」
「はい」
「なら…古泉一樹はだめでもキョンくんぐらいなら生きていても問題ないはず」
「しかし…」
「いいわ、行きましょ…」
「いいわけねえだろうが!!!」
「!?」

10 名前:るぅ ◆lwelxCMmVU [] 投稿日:2009/01/02(金) 11:47:48.55 ID:2+ym+KD70

部下が突然叫んだ。
いつも温厚で、私に付いて従ってくれる彼が。
鋭い視線を私に向けている。

「え…?」
「さっきから黙って聞いてりゃバカじゃねえのか?」
「…な」
「お前みたいなボンクラだってこの任務ぐらいこなせるだろうと思って見てた俺がバカだったようだな。
てめえがこの任務をボイコットすりゃあ、俺の家族は何も食えねえんだよ!!」
「…あ、う…」

正論だった。
私はずっとそれを糧にしてきたんじゃないか。

「もういいよ。てめえには幻滅した。俺が達成させる」
「え…!?」
「俺が代わりにやってやるってんだよ!!」


12 名前:るぅ ◆lwelxCMmVU [] 投稿日:2009/01/02(金) 11:53:33.16 ID:2+ym+KD70

そういうと、部下は走り去った。
私は彼の背中をただ呆然と見ているしかなくて。
また、頬が濡れたのがわかった。
彼を信用していたのに。
私は、どうすればいいんだろう。

「そ、そうだ。キョンくん…!」

気づく。
部下が向かうとすれば、所在がすぐにわかるキョンからに決まっている。
北高―!!

「ッ!」

私は弾かれたように立ち上がると、ナイフを手にとって走った。

「お願い、間に合って…!」

心の底から祈った。


14 名前:るぅ ◆lwelxCMmVU [] 投稿日:2009/01/02(金) 11:57:46.07 ID:2+ym+KD70

>>13あぎゃあああああ!!!!!
すみませんそこ直すの忘れてたあああ!!!!!
脳内補完お願いしますすみませんあwせdrftgyふじこlp;



「朝比奈さんが…ハルヒと長門を…?」

古泉から聞かされた話はぶっ飛んでいた。
朝比奈さんが未来から派遣された未来人だということはつくづく実感させられていたから知っていたが、
あのかわいい彼女が
ハルヒと長門を手に掛けた?

「おいおい、古泉冗談も大概に…」
「そんなタチの悪い冗談を言うと思いますか?」
「…ッ」

二人で屋上に逃げて、やっと時間ができた今、古泉は真顔で話してくれた。
自分も殺されそうになったこと。
長門が既に殺されたこと。

そして
俺ももうすぐ―…

ということ。



16 名前:るぅ ◆lwelxCMmVU [] 投稿日:2009/01/02(金) 12:05:08.86 ID:2+ym+KD70


「…にしても、なんでだよ…?どうして…」
「おそらく、未来からの命令でしょうね」
「未来からの…?」
「ええ。彼女たちの―」

古泉の言葉は中断させられた。

「ッハハ!こんなとこに逃げてたんかよ!超能力者さん!!」

黒色の服を身に纏って、手に何か持った男が扉を開け放って乱入してきたからだ。
あれは…黒く鈍い光を放っている。
…拳銃?

「うわああ!!」
「っく…貴様、朝比奈みくるの!」
「バァカ。あんな未来の命令に従うだけのボンクラと一緒くたにすんじゃねえよ」
「な…っ!?」

19 名前:るぅ ◆lwelxCMmVU [] 投稿日:2009/01/02(金) 12:14:28.73 ID:2+ym+KD70

鋭い光を放つ瞳は、俺たちを見下していた。
人の談笑中に図々しく入ってくるマナー知らずのそいつは手の中で
リボルバーーという種類だと思う―をくるくると弄んで残虐な笑みを浮かべた。

「お前らSOS団?っての?全員殺すのが朝比奈さんの任務でさあ」
「…!」
「まあSOS団っつったら朝比奈さんも入ってるだろ。それ知らなかったらしくてさあ。
急に泣き出したから俺が代わりにやってやろうっての」

へへ、と下品に笑うそいつ。
古泉が懐に手を入れ、素早く拳銃を引き抜いた。

「古泉…!?」
「驚かないでください。それより…朝比奈さんは!?」
「はは、今頃まだ泣いてんじゃねえの?自分は使い捨てだったのに仲間殺して、心痛めて、最悪最低だぁー…ってな」


21 名前:るぅ ◆lwelxCMmVU [] 投稿日:2009/01/02(金) 12:18:54.56 ID:2+ym+KD70

心底許せない、俺はそう思った。
未来の朝比奈さんは知らないが、優しい根本の部分は変わらないはずだ。
きっと、きっと、上司の命令に逆らえずに泣いていたんだろう。
心も病んでいたに違いない。
必死で、心を殺して、それで…
なのにそんな彼女を笑い飛ばすこいつが…。

「うわあああああああ!」
「…ッ!?」
「ハハハ!何!?どうしたんだよ!」
「あああああ!!」

俺は発狂していた。
古泉が面食らったような顔でこっちを見ている。
おかしいかよ。
あの人の痛みを想像して切なくなるのは笑えるかよ。
俺の頬を、一筋の涙が伝った。

「!!…泣いてんのかよ?バカじゃねえの?」

俺の顔を見たそいつは口端をしならせた。


22 名前:るぅ ◆lwelxCMmVU [] 投稿日:2009/01/02(金) 12:22:25.03 ID:2+ym+KD70

「はは、朝比奈さんを想って…ってか?笑わせるなあ!」
「…あなた…」
「じゃあさあ、朝比奈さんもどうせ死ぬんだし、アンタからまず逝くかァ!?天国で待ってますってな!!」

そいつは、高校一年の男子としてはあまりに無様に泣き叫ぶ俺を鼻で笑って、俺の額に拳銃を向けた。
拳銃で額を貫かれても人間は即死しないらしい。
一番苦しい死に方じゃないか…頭の何処か冷静な部分が思う。

「っキョン君!」

古泉が俺のダサいニックネームを呼んだ。
そういえば、こいつが俺を三人称で呼んだのは初めてかも分からない。

「死ね!!」

パン!!

23 名前:るぅ ◆lwelxCMmVU [] 投稿日:2009/01/02(金) 12:30:44.68 ID:2+ym+KD70

秋の晴れた高い空に、似つかわしくない音が響いた。
しかし、自身の何処にも痛みはない。

「っ、この野郎!!」
「!?」

ぎゅ、と知らぬ間に強く瞑った瞼を上げる。
そこには、

「…あ」

可愛らしい上級生とは思えない上級生…
SOS団に置けるポスト未来人―
朝比奈みくるさんが、立っていた。

25 名前:るぅ ◆lwelxCMmVU [] 投稿日:2009/01/02(金) 12:35:00.03 ID:2+ym+KD70

「っ…キョンくん、平気?」

にこ、と。
朝比奈さんは弱々しく微笑んだ。
腹部が赤い。
赤い…
血?

「朝比奈さ…!?」
「朝比奈みくる…!」


古泉が警戒したように、朝比奈さんに拳銃を向けた。
勿論朝比奈さんの部下だという男への牽制も忘れてはいない。

「古泉くん…ごめんなさい」

朝比奈さんは、静かに明らかに多い吐息の中、呟いた。


27 名前:るぅ ◆lwelxCMmVU [] 投稿日:2009/01/02(金) 12:39:34.27 ID:2+ym+KD70


「私のせいで、こんな…」
「…朝比奈、みくる…?」

古泉は、戸惑っているようだった。
さっき言っていた態度と異なるからだろうか。
今の朝比奈さんが人を殺すなんて考えられない。

「キョンくん…逃げて」

朝比奈さんは言った。
それを遮るように、黒づくめの部下は叫ぶ。

「おい朝比奈!!お前ふざけるなよ…!任務を失敗すれば俺の家族は…!」
「分かってる…!」

苦痛のために、あえぎあえぎ朝比奈さんは一言一言言葉を紡ぐ。


28 名前:るぅ ◆lwelxCMmVU [] 投稿日:2009/01/02(金) 12:47:13.48 ID:2+ym+KD70

「だから、皆死ねば問題ない、でしょう」
「朝比奈さん…!?」

俺は驚愕した。

「ハハァ!分かってんじゃねえか朝比奈ァ!そうだよ、皆死ねばいいんだ。どっちにしろお前がこいつとこの超能力者を殺した後に俺がお前を殺す予定だったんだ。さっさと殺れよ朝比奈ァ!」
「…死んだことに、すればいいのよ」

朝比奈さんは静かにもう一度言った。

「キョンくん、逃げて」
「朝比奈…さん」
「朝比奈ァァア!」

パンパンパン!!

拳銃が何回も火を吹く。
朝比奈さんの細い体が、何度も痙攣した。
腹部が真っ赤になる。


29 名前:るぅ ◆lwelxCMmVU [] 投稿日:2009/01/02(金) 12:52:46.85 ID:2+ym+KD70

「あ、うああ…」
「はあ、あ…キョン、くん…。前、王さまゲーム。やりましたよね…」

朝比奈さんは小さく笑う。
俺は静かに首肯した。

「あのとき…はぁ、あたし、命令しませんでした」
「…はい…」
「命令です…逃げて下さい。今すぐ、北高の敷地内から外に出て」
「オイ…朝比奈!」
「早く!」

朝比奈さんが叫んだ。
俺は、目線をさ迷わせる。
古泉…は自力で大丈夫か?
でも朝比奈さん…は。

「あたしは平気。未来人は丈夫だから」

にっこりと笑う朝比奈さん。
腹部から流れた血液が麗しい足を伝って、地面に赤い水溜まりを作っていた。

31 名前:るぅ ◆lwelxCMmVU [] 投稿日:2009/01/02(金) 12:57:35.83 ID:2+ym+KD70

「大事な人を奪って…ごめんなさい」

朝比奈さんは、大きな目いっぱいに涙を浮かべていた。
いつか見た、悲しい涙。

古泉が叫ぶ。

「キョンくん、僕からも言います、逃げて下さい!」
「お前らふざけんなアアア!!逃がすかよ!お前らが死なねえと困んだよ!!」

部下が半狂乱に言った。
拳銃は、弾切れのようでもう、引金を引いても虚しい音しか出ない。

「チ…!」

舌打ちして拳銃をその場に捨てる部下。
朝比奈さんは言う。

32 名前:るぅ ◆lwelxCMmVU [] 投稿日:2009/01/02(金) 13:01:43.78 ID:2+ym+KD70



「逃げて、キョンくん…!」
「朝比奈…さん」
「王様の命令は、絶対ですよ。キョンくん」

何処か悲しげに、彼女は笑った。
俺は覚悟を決めた。

「必ず助けに来ます!」

素早く扉を開け放ち、外に出る。
助けに来ます?
俺に何ができるってんだよ。
朝比奈さんにはもう会えない。
そんな予感があった。
またも涙が、伝った。


34 名前:るぅ ◆lwelxCMmVU [] 投稿日:2009/01/02(金) 13:06:13.18 ID:2+ym+KD70

「待ちやがれ!!―っくそ!」

部下は激昂した。
大きく充血した眼を見開いて、吠える。

「ここにいる奴らは全員死ねばいいんだよ!!俺の手を煩わせるな!!」

取り出したのは

小さな手留弾。

部下は、屋上から身を躍らせると―用意周到な奴のことだ、何か落ちても平気な策でもあったのだろう―
落ちていきながら上に、手に持った殺人兵器を放った。

「な…!」
「皆死ねええええ!!!!」

県立北高校の屋上。
小さな爆発が起こった。

35 名前:るぅ ◆lwelxCMmVU [] 投稿日:2009/01/02(金) 13:09:28.88 ID:2+ym+KD70



「…!」

建物全体が揺れる。
俺は、立ち止まると何事か、と周りを見渡した。
ぱらぱらと粉塵が立ち込める。
気づけば時間は7:00。
運よく、部活動で残っていた人間もいなかった。

「…朝比奈さ…」

大粒の涙が年甲斐もなくぽろぽろ流れ出て、止まらなかった。


37 名前:るぅ ◆lwelxCMmVU [] 投稿日:2009/01/02(金) 13:16:41.42 ID:2+ym+KD70



「すみません」

森園生さんが、ぺこりと会釈をした。

「…いえ」

頭が付いていかない俺は、静かに言った。
あの日から1週間が経った。
―俺の周りにいた、スーパーでミラクルな力を持った連中。
涼宮ハルヒ、長門有希、朝比奈みくる、古泉一樹は全員この世から消えてしまった。
訳が分からなかった。
いきなり現われて、いきなりいなくなった。
突然すぎた。

『王様の命令は…絶対、ですよ。キョンくん』

そう言って微笑んだ彼女の表情が頭から離れない。


41 名前:るぅ ◆lwelxCMmVU [] 投稿日:2009/01/02(金) 13:20:13.92 ID:2+ym+KD70


「未来に不穏な動きがあるのは分かっていました」

森さんは言った。

「古泉一樹も、それは知っていました。けれど…この、死んでもおかしくない任務古泉一樹は自分から引き受けたのです」
「古泉が…」

けれど、あいつも死んでしまった。
俺は、一人だけ残ってこの先どうすりゃあいいんだよ。
おもむろに空を見上げた。
屋上の崩壊や、ハルヒのことは機関が…どうやったのかは知らんが根回しして、
もとからいなかった、みたいな話になっていた。
中学も一緒だった谷口ですら「誰だそいつは?」と言い出す始末だから
全校生徒…いや、地球上の人間全ての記憶から消えているのだろう。
もう、これ程度じゃ驚かないさ。

42 名前:るぅ ◆lwelxCMmVU [] 投稿日:2009/01/02(金) 13:28:05.83 ID:2+ym+KD70

「…けど、なんで俺の記憶はそのままなんです?」

訊ねてみた。

「あなたからも奪ってしまえば…古泉のことを覚えていてくれる人もいなくなってしまう」

森さんは、切なげに溜息を吐いた。

「ここまで、命を賭して戦ってくれたのに」
「森さん…」
「…どっちにしても、涼宮ハルヒが居なくなった時点で機関は解散。…今までありがとうございました。いろいろ迷惑をかけましたね」
「…いえ」

43 名前:るぅ ◆lwelxCMmVU [] 投稿日:2009/01/02(金) 13:29:12.94 ID:2+ym+KD70


森さんは小さく手を振ると、黒色の―新川さんが運転しているように見えた―リムジンに乗って行ってしまった。
手を振る森さんが、いつだったかの朝比奈さんにかぶって見えて…

「朝比奈さん…」


未来の言いなりだったあなたは…
あなたは…

一度でも、幸せと呼べる時を過ごせたのだろうか。
俺は、ただただ、それだけが気掛かりだった。




end

46 名前:るぅ ◆lwelxCMmVU [] 投稿日:2009/01/02(金) 13:32:35.00 ID:2+ym+KD70

ありがとうございました支援…!!
ほんと嬉しかった…!!
微妙な終わり方でも牛わけないです。牛年だけに。
アイデアは結構出てくるんだけど、それを文にする文才がないので泣けてきます。



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