こなた「……」


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トップ 作品一覧 作者一覧 掲示板 検索 リンク SS:ハルヒ「キョン! ……頭撫でなさいよ……」

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1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/07(金) 00:35:46.56 ID:b+lKZh5B0

私達4人が教室でお昼を食べていたときのこと。

みゆき「よって、スパゲティーが赤方偏移していないという証明に至ります」
かがみ「なるほどー!」

つかさ(なにやら難しそうな話だなぁ……私にはさっぱりわかんないや……)
こなた「……」

つかさ(こなちゃんもずっとだんまり)
こなた「……」

つかさ(そういえばこなちゃん、食事もぜんぜん進んでいないみたいだけど……)
こなた「……」

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/07(金) 00:38:30.75 ID:b+lKZh5B0

つかさ「こなちゃん?」

気に掛かった私は、こなちゃんの肩に触れてみた。

こなた「……」

ドサリ。

つかさ「こな……」

呼吸をしていない。

つかさ「死んでる」

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/07(金) 00:40:30.67 ID:b+lKZh5B0

かがみ「どうしたのよ?」
つかさ「こなちゃんが……」

かがみ「どうせまた寝不足かなんかでしょ?」

お姉ちゃんがこなちゃんに触れた。

かがみ「死んでる」

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/07(金) 00:42:53.91 ID:b+lKZh5B0

みゆき「お二方による新手のご冗談でしょうか?」
つかさ「違うよ、ぜんぜん違うよ」
かがみ「みゆきも確かめてみればわかるって!」

みゆき「またまた、そんなことが有るわけ……」

ゆきちゃんが曖昧に笑いながら、こなちゃんに触れた。

みゆき「死んでる」

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/07(金) 00:46:13.39 ID:b+lKZh5B0

つかさ(目立った外傷はない……だとしたら病気?
     でも、さっきまでは元気だったのに突然どうして……)

かがみ「どうして急にこなたが……あれ?」
みゆき「どうかなさいましたか?」

かがみ「こなたの喉にパンが詰まってる……」

お姉ちゃんがこなちゃんの口の中を覗き込んでいる。

つかさ(まさか窒息死? そんな簡単に人が……?)

だから私はこう答えた。

つかさ「こんなの有り得ない」

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/07(金) 00:50:22.95 ID:b+lKZh5B0

―― キーンコーンカーンコーン

こなた「じゃあ私、パンを買ってくるね」

慌ただしくなり始めた教室内の空気に倣って、こなちゃんも席を立った。

つかさ(12時50分……ということは、今から昼休み?)
みゆき「あの、つかささん?」

つかさ「……え、なに?」
みゆき「如何なされましたか?」

私、授業中に寝ちゃってたのかな……。

つかさ「別に、なんでもないよ」
みゆき「そうですか」

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/07(金) 00:54:28.63 ID:b+lKZh5B0

かがみ「いよっす!」

お姉ちゃんがやってきた。

つかさ(それにしても後味の悪い夢だったな……)
かがみ「どうしたの、つかさ?」

つかさ「え? うーんと……別に何も……」
かがみ「このお姉ちゃんには、何もないって顔には見えないんだけど?」

つかさ(まぁ隠すほどのことじゃないよね)
つかさ「実はさっきね……」

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/07(金) 00:58:54.92 ID:b+lKZh5B0

端的に内容を伝えた。

かがみ「窒息?」
みゆき「パンを喉に、ですか?」
つかさ「うん……」

二人が顔を見合わせる。

かがみ「いくらこなたとは言っても、まさかそんな簡単に、ねぇ?」
みゆき「そうですよ、いくら泉さんといえど……あ、別に泉さんのことを悪くいっている訳では……」
つかさ「そうだよね……」

そのとき、教室へ男子生徒が駆け込んできた。

男子生徒「泉が階段から落ちたって!」

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/07(金) 01:03:13.35 ID:b+lKZh5B0

踊り場には既に人だかりが出来ていた。

かがみ「ちょっとどいて! 通して!」

先導して割入るお姉ちゃんに続き、そして見えた。

つかさ「……え?」

こなちゃんが居た。
地面に仰向けとなって倒れ、首が……。

みゆき「これは……」

お姉ちゃんがこなちゃんに触れた。

かがみ「死んでる」

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/07(金) 01:08:35.32 ID:b+lKZh5B0

つかさ(どうして? だって夢だとパンを喉に……)

かがみ「嘘よ……いくらこなたでも、そんな簡単に……」
みゆき「……」

こなちゃんは左耳がベッタリと肩にくっつき、右首部分が不自然に隆起している。

みゆき「頚椎、でしょうか……」
つかさ「有り得ないよ……」

こなちゃんが死ぬなんて絶対。

つかさ「こんなの有り得ない」

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/07(金) 01:11:18.40 ID:b+lKZh5B0

―― キーンコーンカーンコーン

こなた「じゃあ私、パンを買ってくるね」

慌ただしくなり始めた教室内の空気に倣って、こなちゃんも席を立った。

つかさ(12時50分……またしても夢……?)
みゆき「あの、つかささん?」

つかさ「……え、なに?」
みゆき「如何なされましたか?」

二重仕掛けの夢……?

つかさ「別に、なんでもないよ」
みゆき「そうですか」

あの光景は、食事前にはとても口に出来そうにない。

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/07(金) 01:16:03.89 ID:b+lKZh5B0

かがみ「いよっす!」

お姉ちゃんがやってくるのは、もう三度目の光景。

つかさ(だったとすれば、次に訊ねられるはず……)
かがみ「どうしたの、つかさ?」

やっぱり。

つかさ「別に何も……」
かがみ「このお姉ちゃんには、何もないって顔には見えないんだけど?」

つかさ(正夢になっちゃう可能性もある。ここは誤魔化しておこう)
つかさ「授業中、眠くって……まだ頭がぼーっとしてるだけ……」

かがみ「ふふっ、そんなことだと思った」

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/07(金) 01:21:34.67 ID:b+lKZh5B0

こなた「ただいまー」
かがみ「お前はまたパンか」
こなた「まぁーねー」

こなちゃんが席につく。

つかさ(なんだか嫌な予感がする……)
つかさ「ねぇ、こなちゃん」

こなた「んー?」

つかさ「私のお弁当とこなちゃんのパン、取り換えっこしよ」
こなた「……え?」
かがみ「急になに言ってんのよ?」

43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/07(金) 01:26:02.31 ID:b+lKZh5B0

つかさ「ほら、パンばっかりじゃ栄養偏っちゃうしさ……」
こなた「でもお昼はチョココロネってのが私のアイデンティティーで存在価値だし」
みゆき「そうですよ」

つかさ「そんなの関係ねぇ! 私がパンを食べたいの!」
こなた「あ……ごめん……」

つかさ「どう? お願い!」
こなた「ま、まぁ、普段我儘を言わないつかさの頼みとあらば」

交換する。

つかさ「……ありがとう」
こなた「いいよいいよ、たまには愛の籠ったお弁当というものも食べたいからね」

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/07(金) 01:29:26.39 ID:b+lKZh5B0

これで大丈夫……なのかな?
アレは夢だろうけど、もし喉に何か詰まらせたときに備えて、
すぐにでも殴れるように準備を、

こなた「うぐっ……!」
つかさ「危ないっ!」

ゴスッ。

こなた「……」

ドサッ。

つかさ「こなちゃん……?」
こなた「……」

かがみ「こなた!」
みゆき「泉さん!」

こなた「……」

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/07(金) 01:35:22.10 ID:b+lKZh5B0

かがみ「つかさ! あんた、いきなり何を!?」
つかさ「だって、あのままじゃ……!」

こなた「……」

みゆき「泉さん! しっかりしてください!」

ゆきちゃんがこなちゃんを抱き起こした。

こなた「……」
つかさ「こなちゃんっ!」

こなた「ごほっ……こほっ……」
つかさ「良かった!」

こなた「ちょ、急にキツいツッコミは入れないでよ……けほっ……」
つかさ「ほんとに良かった……」

こなた「カマボコが詰まって死ぬかと思った……」

50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/07(金) 01:44:50.69 ID:b+lKZh5B0

結局、こなちゃんが気に掛かった私は、パンを食べそびれてしまった。
そして何事もないままに5時間目が近づいてくる。

こなた「次は体育だね」
かがみ「うちと共同でグラウンドだっけ? なら、早目に動くとするか」
みゆき「そうですね、用具の準備もありますし」

ここまでは問題なし。
でも一応、釘は刺しておこう。

つかさ「ねぇ、こなちゃん」
こなた「なに?」

つかさ「着替える途中、首に制服を巻き付けて窒息したりはしないでね」
こなた「そんなコントみたいなこと、狙っても出来ないって」

つかさ「ううん、ユダンタイテキ。シンボウエンリョ」
こなた「えーと……よくわかんないけど気を付けておくよ」

53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/07(金) 01:53:33.01 ID:b+lKZh5B0

更衣室で着替え終えた私達は、
残り時間に反比例して慌ただしくなり始めた校内を抜け、
玄関からグラウンドへ向かっていた。

かがみ「心地いい天気ってやつね」
こなた「そだねー」
みゆき「気温も、運動するには適していますね」
つかさ(私は、落ち着いて世間話なんかしていられないよ……)

こなた「よーっし、なんだか久し振りにやる気出てきたー」

こなちゃんが、ぴょんぴょんっと兎のように二、三歩前へ出た。

こなた「今日はニューレコードを弾きだせそうだっ――」

ガシャッ!

ドサリ。

54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/07(金) 01:59:45.29 ID:b+lKZh5B0

かがみ「こなたぁ!?」

倒れ伏したこなちゃんの周りには茶の陶器片と土、花が散っていた。

みゆき「花瓶……?」
つかさ「まさかまた……」

見上げる。

つかさ(窓が空いている……あそこは図書室……?)
かがみ「こなたっ! しっかりして!」

こなた「……」

すり寄ったお姉ちゃんがこなちゃんを探り、そして。

かがみ「死んでる」

55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/07(金) 02:05:43.19 ID:b+lKZh5B0

つかさ「何度目だ……」
みゆき「なうしか……」
かがみ「こなた……」

こなた「……」

ひょっとするとカマボコの時のように息を吹き返すかもしれない。
私がそんな淡い期待のもと、こなちゃんを揺すってみると、
返事がない代わりに潰れた頭部から中身が溢れだしてきた。

つかさ「こんなの……」

信じるものか。

つかさ「こんなの有り得ない」

58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/07(金) 02:11:54.44 ID:b+lKZh5B0

―― キーンコーンカーンコーン

こなた「じゃあ私、パンを買ってくるね」

慌ただしくなり始めた教室内の空気に倣って、こなちゃんも席を立った。

つかさ(12時50分……思った通り戻ってこれた)
みゆき「あの、つかささん?」

つかさ「大丈夫、授業中にちょっと眠かっただけ」
みゆき「はぁ……そうだったんですか」

そしてお姉ちゃんが来るはず。

かがみ「いよっす!」
つかさ「いよっす!」
みゆき「いよっす……」

これでよし。
なら、次は食事のあとに図書室へ行かなくちゃ。

60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/07(金) 02:21:28.14 ID:b+lKZh5B0

つかさ「私、ちょっと用があるから。すぐ戻ってくるし、皆は動かずに待っててね」

カマボコ事件を乗り切り、
その後の見張っていた時間を割いて図書室へと走る。

つかさ(静かだけど……奥のほうが煩いな……)

入口すぐのカウンター内に居た図書委員へ会釈をして、室内奥の方に位置する窓際へ歩いていく。

男子生徒A「パネェ!」
男子生徒B「メントスとコーラも危ないぜ?」
男子生徒C「梅干しとウナギも結構アレらしいよ」
男子生徒D「それ迷信だろ?」

煩い男子生徒達の横の窓。
どうやら、そこに花瓶があるようだ。

63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/07(金) 02:30:04.53 ID:b+lKZh5B0

私が構わずに窓を閉めると、すかさず声をかけられた。

男子生徒A「暑いんすけど?」
男子生徒B「折角の秋風が台無しだぁー」

つかさ(このまま花瓶をどかして帰っても、たぶん図書委員が元に戻してしまう。
     それからこの人達がまた窓を開けて……繰り返すことになるのかな)

男子生徒A「あの、聞いてる?」
男子生徒C「あと天ぷらとアイスとかも」
男子生徒D「お前うるSAY YO」

つかさ(だとしたら、この人達をなんとかしなきゃ)

68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/07(金) 02:38:32.03 ID:b+lKZh5B0

時間は限られている。
こなちゃんの傍を長くは離れられない。
離れれば、それが新たな火種となってしまう。

つかさ「少しだけでいいので聞いて貰えますか? そこの窓にある花瓶を、」
男子生徒A「聞いてるのはこっちだろ?」

スネオなヘアーが先手を打ってくる。

つかさ(駄目だ、この人達とはまともに話し合えそうにない)
男子生徒A「窓、開けろよ」
男子生徒D「おい、お前言いすぎだ。それより拙者とお茶でも……」

つかさ(見たところリーダー格以外は中立に近いのかな……だったら)

70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/07(金) 02:52:21.72 ID:b+lKZh5B0

だったら、

男子生徒A「あのさ――」
つかさ「話を聞け」

リーダー格を潰せばいい。

つかさ「こちとら、人の命が掛かってるんだよね」

椅子の背を使い、座っていた相手の首を思いきり反らし、反撃を封じる。
もっとも、女生徒である私に手出しは出来ないだろうけど。

男子生徒A「なにっ……するっ……」
つかさ「べつに何をしようってわけでもないよ。
     そっちが簡単な約束ごとさえ守ってくれたらね」

男子生徒A「約束……?」
つかさ「そこの窓を開けない。花瓶を落とさない。この二つだけ。簡単でしょ?」

73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/07(金) 02:57:08.88 ID:b+lKZh5B0

私に首を絞められている男子生徒が、やや苦しそうに呻く。

男子生徒A「そんな……勝手な……」
つかさ「勝手で結構。それに上級生には敬語を使え、なんてことは言わないから。ね、わかってくれたかな?」

男子生徒A「……」
つかさ「返事は?」

男子生徒A「はい」
つかさ「うん、ありがとう」

礼を述べてから解放する。
あとは教室に戻らなくちゃ……あ、その前に。

つかさ「図書室では静かにしようね」

男子生徒一同「押忍!」

つかさ(あー怖かった……こんなことなら、お姉ちゃんを連れてくれば良かったよ……)

男子生徒B「後の図書室番長である」

76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/07(金) 03:02:56.17 ID:b+lKZh5B0

こなちゃんが無事であるようにと祈りつつ、教室へ入る。

こなた「あ、おかえりー」
つかさ「ただいま」

良かった。

こなた「次は体育だね」
かがみ「うちと共同でグラウンドだっけ? なら、早目に動くとするか」
みゆき「そうですね、用具の準備もありますし」

よし、繋がった。
あとは前回と同じように行動すれば切り抜けられるはず。
まずは更衣室で着替えて、それからだ。

80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/07(金) 03:15:01.29 ID:b+lKZh5B0

かがみ「心地いい天気ってやつね」
こなた「そだねー」
みゆき「気温も、運動するには適していますね」

更衣室で着替え終えた私達は、
残り時間に反比例して慌ただしくなり始めた校内を抜け、
玄関からグラウンドへ向かっていた。
皆が呑気に歓談するなかで私が一人、念を押して図書室の窓に注意を払っていると。

つかさ(あ、あの人達は……)

男子生徒B「姉御ー!」
男子生徒D「こっちはバッチリだYOー!」
男子生徒C「体育頑張ってねー!」

手を振られた。

男子生徒A「お前ら恥ずかしいからやめてくれ。あと図書室では静かにしろ」

かがみ「なにあれ……?」
みゆき「さ、さぁ……?」
こなた「かがみのファンじゃないの?」
つかさ(きちんと話せば分かって貰えるものなんだね)

こなちゃんが、ぴょんぴょんっと兎のように二、三歩前へ出た。

こなた「状況を今一つ飲み込めないけど、なんだかやる気が出て来た!
     今日はニューレコードを弾きだせそうだっていう予感もね!」

84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/07(金) 03:28:13.41 ID:b+lKZh5B0

グランド。
窮屈な授業から開放されるためか、多くの生徒達が授業開始前だというに気勢よく活動している。

かがみ「前回とは競技交代だから……」
みゆき「私達女子がソフトボールで、男子のみなさんがサッカーですね」
こなた「だったら、私がピッチャーをやれば完封ーっ!」

つかさ「それは困る!」

サラリと怖いことを言わないでよもう。
デッドボールが文字通り命を奪いかねない今、
ピッチャー返しなんかを受ければ1回表にしてゲームセットになっちゃうよ。

つかさ「それは困る!」
かがみ「どうしたのよ二回も繰り返して」

つかさ「とにかく、こなちゃんはベンチを温めてて!」
こなた「え……どうして?」
みゆき「泉さんのベンチウォーミングには定評がありまが……」
かがみ「サボってると怒られちゃうでしょ?」

こなた「そうだよー」
つかさ「……」

考えなきゃ。
次への対策を。

89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/07(金) 03:40:16.81 ID:b+lKZh5B0

チーム分けの性質上、私のクラスとお姉ちゃん達のクラスで別れることになる。
つまり、こちらのピッチャーを私が担い、あちらのピッチャーをお姉ちゃんに任せ、
あとは互いに手を抜くよう画策すれば……。

みゆき「では、私は用具の準備がありますので」
かがみ「私も手伝うよ。どうせ日下部も委員で駆り出されているだろうし」

やれる。
お姉ちゃんやゆきちゃん、こなちゃんに敵わない私でも、四度目ともなれば必ずやれるはず。
努力さえすれば結果は実るんだ。
こんなところで負けてたまるか。

こなた「じゃあ私も手伝うよ」
つかさ「待って、こなちゃんは私の傍に居て。ごめんねお姉ちゃんとゆきちゃん」

みゆき「いえ、私の仕事なのでお気になさらずに」
かがみ「その代わり、あんた達はチーム決めでもやっといて」

つかさ「うん、ありがとう」
こなた「え……つかさ、どうしてなの?」

どげんかせんといかん。

つかさ「私達は、運命共同体なんだよ」

未来は僕らの手の中にあるはず。

94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/07(金) 03:51:40.68 ID:b+lKZh5B0

360°から襲い来る未知の可能性に備え、私は辺りを窺っていく。
花瓶の件で学ばされた通り、不意の飛行機墜落でさえも察知できるように上空も監視。

こなた「FPSゲームでもやってるような動きだ……」

つかさ(男子は遠くでサッカーのパス練習。女子は女子でキャッチボール。
     危険性から考えれば、硬球が飛び交うソフトボールのほうに――)

つかさ「危ないっ!」
こなた「うわっ!?」

パシッ。

つかさ「いたたたっ……」

硬球を素手でキャッチした為、私の手に痺れと鈍痛が走った。

こなた「だ、だいじょぶ?」
つかさ「だいじょぶだぁ〜。それより、こなちゃんは?」

こなた「私は何ともないけどさぁ、つかさの手」
つかさ「いいっていいって」

女子生徒「ごめーん!」
つかさ「スポーツをする時には周りに人がいないかよく確かめて、安全にだよっ!」

釘を刺してからボールを投げ返した。

99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/07(金) 04:05:28.42 ID:b+lKZh5B0

やることを済ませると私とこなちゃんは安全地帯と思えるバックネット裏へと移動し、今は待機している。
ハラハラするなぁホント。
まるで奈落へと続く谷の上を、僅か十数センチの細い鉄橋で渡らされている気分だ。

―― キーンコーンカーンコーン

こなた「……む? それじゃ、ぼちぼち始めよっかい」
つかさ「そうだね」

既に工作はしておいた。
こちらのチームメイトに温厚そうな生徒達を選り抜き、事故の発生率を抑えてあるのだ。
問題は相手クラスのメンバーだけど……。

みさお「よーう!」
あやの「よろしくね」

こなた「なんだ、みさきちか」
みさお「なんだ……だと?」

つかさ「お願いだから張り合わないでー!」

先が思いやられる。
早くも眩暈がしてきた。

102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/07(金) 04:27:47.96 ID:b+lKZh5B0

「よろしくおねがいしまーす」

チーム同士で通過儀礼的な挨拶を交わしてから定位置につく。
状況は端的。
私達の先攻で、相手ピッチャーはお姉ちゃん。
そのお姉ちゃんには、こなちゃんの時にだけ手を抜いてもらえるようにポッキーとトッポ、
他にもチョコを主体としたお菓子類で先物取引を交わしている。
余談だけどさ、勝負に賄賂は汚い、なんてプロに言うのは愚の骨頂というものだよね。
お相撲さん達の間では仕来り的にまかり通っていたって聞いたことがあるし。

つかさ「とはいっても、私はプロじゃないけどね」
こなた「なんの話?」
みゆき「本日のつかささんは、一段と張り切っておられますね」

打順は私が7、こなちゃんが8、ゆきちゃんが9番。
これは極力、私達が塁へと出ないようにしつつ、他の打者が凡退して試合が早く終わるのを狙った作戦だ。
そして必要時以外は、安全地帯のバックホーム裏で待機。完璧。

などと対策の術を再確認している間に、早くも守備交代となった。
どうやらお姉ちゃんは僅か3球でこちらのバッター群を仕留めたらしい。

106 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/07(金) 04:39:46.52 ID:b+lKZh5B0

打順と守備位置が関連している、なんてことは知らぬ存ぜぬで貫き、
こなちゃんがライト、私がセンター、ゆきちゃんがピッチャーとの役割。
あくまで便宜上は。

こなた「で、なんでセンターのつかさが私の隣に居るの?」
つかさ「こういうスタイルが欧米辺りで流行っているって聞いてね」

こなた「欧米か……」

釈然としないこなちゃんには悪いけれど、気を取られてはいられない。
だけどピッチャーのゆきちゃんには加減なしで相手を潰すように頼んでおいたから、
並の相手であれば三振、もしくは凡打で終わらせてくれるはずだ。

問題は4番に来るはずのあの人か……。

225 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/08(土) 04:00:11.60 ID:snK9zOUj0

相手チーム3人目の打者。
ゆきちゃんはここまで見事に抑えていたんだけど、
今回はとうとう打ち返されてしまったらしい。
それでも鈍った音と共に高い放物線を描く、のんびりな内野フライ。
早くもセカンドがキャッチ態勢を整えて余裕の、

こなた「あ、落とした」

くそっ! やられたッ!!
なにをやってるんだよ、そんなもの素手でも十分でしょうが!
その程度、その程度……ちくしょう、私だったら……。

こなた「……つかさ?」

あっ。

つかさ「ま、まぁしょうがないよね、えへへっ」

いけないいけない取り乱してしまいました。
焦ることなかれ、私っ!
大体さ、こなちゃんさえ守れれば試合の運びなんてどうでもいいんだから。

そうやって私が先走る心を深呼吸で落ち着かせてから考えてみると、
攻撃面しか考えずに温厚そうなチームメイトを選んだことは失敗だったのかもしれない、
という思いが脳裏を過ぎっていった。

228 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/08(土) 04:12:21.53 ID:snK9zOUj0

私達からほど遠く離れたバッターボックスに、不敵に笑う黒い人が立った。
片手で風車のようにバットを振りまわしているその人は、
お姉ちゃんと大の仲良しを自負しているらしい日下部さんだ。
とまぁ、言ってしまえば日下部さんの人脈構図なんて正直どうでもいいんだけど、
注意すべきなのはあの人の性格と運動能力。

みさお「おっしゃ来ーい!」

ここまで聴こえてくるほどの咆哮と共に、バットが遥か後方を指していた。

こなた「やると思ったよ……」
つかさ「予告ホームランだよね、あれ」

ホームランになるのならまだいいよ。
だけど、どうにもこうにも今現状で大飛球が生じれば、
不思議な風の流れ或いは、超常現象的な何かの力でここへとボールが飛んできそうな気がする。
いや、ここではなく、こなちゃんに、だね。

つかさ「ゆきちゃーん! 頑張ってー!」

頼みの綱はゆきちゃんだけだ。
お願い、ゆきちゃん!

234 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/08(土) 04:33:17.04 ID:snK9zOUj0

審判役「チェーンジ!」

完全に取り越し苦労だった。

こなた「みゆきさんの球相手にあんなに強振してちゃあね」
つかさ「ふぅー……」

大勝負と銘打っておきながら、
実際はかすりもせずに僅か3球で終了してしまった勝負を前にしては、
緊張しきっていた私もなんともいえない溜息をつかざるを得ないというもの。
大晦日の格闘技じゃあるまいにさ。

つかさ「これがあと6イニングかぁ」
こなた「ん〜? 今日のつかさは何だかしんどそうだけど、体調でも悪かったりするの?」
つかさ「そんなんじゃないんだけど、ちょっとだけ気になることがあってね。
     あ、全然大したことじゃないから!」
こなた「……ほんとにー?」

こなちゃんがグローブを外しながら、のんびりと笑顔をのぞかせた。

こなた「ま、困ったことがあったら言ってよ。ビビっと解決したげるからさっ!」

たぶん、今私が抱えている問題を口にしたとすれば、
こなちゃんはまた階段から転げ落ちることになるんだろう……。

つかさ「うん、ありがとう」

だけどそれはさせない。
私が起こさせない。
例え一人きりでだって、ちゃんと解決まで導いてみせるんだから。

235 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/08(土) 04:53:00.65 ID:snK9zOUj0

つかさ「ナイスバッチィーン!」
みゆき「ドンマイですっ」

三振して帰ってくるチームメイトに私が笑顔を送り、
お釣りとして困惑を受け取っているともう攻守交代。ここまでは計画通り。

こなた「えと、私はどっちを応援すべきなのかな?」
つかさ「両方のチームのピッチャーだよ、ピッチャー。
     進塁さえさせなければどっち側のチームでも今は私達の味方なの」
こなた「どゆことー?」

試合さえ早々に終わってくれれば、こちらとしては助かるというものだしね。

みゆき「チームとしてではなく、戦っておられる皆さんを万遍なく応援するという意味ではないのでしょうか?
     どちらの皆さんがたも頑張っておられますから」

ゆきちゃんのポジティブ解釈。

こなた「なーるほど。だったら、次はかがみでも応援してあげようかな。
     こっちのチームに入れなくて寂しがってるだろうし」

この一言がまさか、後にあんな事態を生むなんて……
ということはないよね。
ここまで特に致命的なミスは犯していないはずだし。

つかさ「さぁ、次の守備も気を引き締めていこう!」
こなた「おー!」
みゆき「おー……」

きっとそれぞれが別々の心情の元に一致団結しているんだろうな、なんて感慨に耽ってしまった。

237 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/08(土) 05:05:02.43 ID:snK9zOUj0

こなた「だからなんで、つかさが私のすぐ隣に居るの?」
つかさ「今の私が追いかけなくちゃいけないのは、白球じゃなくて――」

こなた「白球じゃなくて?」
つかさ「……」

こなた「ねぇねぇー、白球じゃなくてぇ、なぁ〜にぃ〜?」
つかさ「メソっ……」

上手いこと言おうとして失敗したという実例。

つかさ「あ、交代だよ交代!」
こなた「……?」

どうやらゆきちゃんが、またも3人続けて抑えてくれたらしい。
心強い味方がいて助かったよ。

こなた「メソ……?」
つかさ「それはもういいから、私達は早くバックネット裏に避難しなきゃ」

私はこなちゃんの手を強引に引いて定位置へと歩いていった。

239 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/08(土) 05:22:56.15 ID:snK9zOUj0

私はエールを仲間達に送り、
こなちゃんはお姉ちゃんに、ゆきちゃんは見境なく、
といった奇妙に絡み合うような状況のなかで、私は人知れず思いを巡らせていた。

ひょっとすると真面目に授業を受けるという考え自体が過ちで、
実は授業自体を休んだり、早退するなりすれば、結末を楽に回避できるんじゃなかろうか。
なんてことに今更ながら気が付いちゃったのだ。

でもなんでだろう。
それじゃあいけない気がするのは。
その理由としては二回目のとき、お姉ちゃん達にこなちゃんのことを喋っただけで、
あの場から離れていたこなちゃんには何の影響を及ぼしていないはずなのに、
どういう訳か命を落としてしまうという結果だけが引き起こされたことが挙げられる。
そこに私が引っ掛かっているから、私はこういう行動しか採れないのだ。

たぶんだけど、なにかの『流れ』のようなものが存在している予感がする。
強引に逆らえば、間違いなく激流に飲み込まれるという不可解な確信と共に。

とにかく今は、最善を尽くすだけだ。
それだけに集中して努めよう。
うん、そうしよう。
頑張れば、きっとなんとかなるはずだから。

243 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/08(土) 05:31:12.81 ID:snK9zOUj0

ouch!
打順ミスってた

245 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/08(土) 05:51:33.48 ID:snK9zOUj0

などなど頭を捻っていた私だったのだけど。

こなた「次、つかさの番だよ」

そうだそうだ。
3回表だから7番打者の私がバックネット裏に退避している場合じゃなかったんだ。
でも……。

つかさ「こなちゃん……」
こなた「なに?」

私が離れなければならないこのタイミングだけはどうしようもない。
焼け堕ちていく家屋内で「待ってて」と言い残すくらいに、
容易に次なる危機的状況へと繋がりかねない。

つかさ「その、気を付けてね」

それだけしか言えない。
もどかしいけれど、余計なことを口走るわけにもいかないから。

こなた「私のことは気にしないでいいから、先へ行きなよ」

こなちゃんが儚げに苦笑う。
その背後には揺れる光のエフェクトが差して見える、
ような錯覚を本気で抱いてしまいそうなくらい、私は重い不安に駆られてしまった。

みゆき「頑張ってくださいね」
つかさ「うん……」

頑張って早いところ三振して戻らなきゃ。

247 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/08(土) 06:05:39.99 ID:snK9zOUj0

私がバッターボックスに立ったところで、
ピッチャーのお姉ちゃんなんかに構っている暇は全くない。

つかさ(大丈夫かな、こなちゃん……)
こなた「つかさー! 前を見なよー!」
みゆき「ファイトです」

瞬きした合間に死んでたりしないよね?

かがみ「投げるわよー?」
つかさ「いいよー! どんどん投げて! 早く!」

お姉ちゃんが構える。
ゆったりと上から下へと至り、一旦溜めてから、

かがみ「そぉい!」

掛け声はともかくとして、フォーム自体は綺麗な弧を描くウィンドミル投法。
無駄な運動神経。

審判役「ストライーック!」

私は手を出さない。
というと敢えてのように思えるけれど、もし私が本気で打ち返そうと画策したところで、当てれる自信は微塵もない。

つかさ(よかった……まだ生きてる……!)

一分一秒、ただそこに友人が立っているというだけの事象。
けれどそれは、今の私にとっては何物にも換え難い奇蹟なのだ。

250 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/08(土) 06:16:53.96 ID:snK9zOUj0

順調に三振した私は、次なるバッターこなちゃんの守備にまわる。
お姉ちゃん、わかってるよね?

かがみ(わかってるわっ……我が可愛い妹よ!)

という声が聴こてきそうなほどに深い頷き。

こなた「で、どうしてつかさが私の隣に居るの?」
つかさ「そんなことはどうだっていいよ」

こなた「気になってしょうがないなぁもう……」
つかさ「あのね、自分が振ったバットで自分の頭を打たないように気を付けてね」

こなた「つかさ、ひょっとして私のことを馬鹿にしてない……?」
つかさ「ううん、そんなことない!」

こなた「ほんとに?」
つかさ「うん! うんっ!」

こなちゃんの溜息。

こなた「なんだろうこれ、背後霊にでも憑かれちゃった気分っていうのかな」

253 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/08(土) 06:30:19.61 ID:snK9zOUj0

つかさ「三振だよぉ〜さんしぃ〜ん……当てちゃ駄目だよぉ〜……」
こなた「うぅー、怨霊みたいな声はやめてぇー」

かがみ「じゃあ投げるわよー?」
つかさ「うん、頑張らないでね!」

お姉ちゃんが構えた。
先程私が目にしたものとは明らかに違う投球ホーム。
というより完全に別物な上投げでの緩々ボール。

つかさ「三振だよぉ〜……」
こなた「うへぁ」

ブンッ。

審判役「ストライク!」
つかさ「オッケーイ!」

よぉ〜し、安全球だね。
万が一デッドボールになりそうなら、私が叩き落とすだけだけど。

こなた「つかさの囁きを聞いていると、なぜか力が奪われていくような……」

順風満帆!

263 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/08(土) 08:24:58.40 ID:snK9zOUj0

審判役「ットライーク! バッターアウッ!」
つかさ「流石こなちゃん!」
こなた「どうも納得できないような複雑な気分になるのは何故なのだろう……」

息の詰まる展開もないままに三振。
続くゆきちゃんもやんわりとしたスイングで三振。

みゆき「お恥ずかしながら」

かと思いきや小手調べとでもいった様子でツーベースヒットを放っていた。
ゆきちゃんの胸は伊達ではないらしい。
けれども一巡したバッターのナイスプレイにより攻撃が続かず、

こなた「打ちあげちゃったかー」

観戦ムードのこなちゃんの呟きで攻守交代となって、

つかさ「ゆきちゃーん、頑張ってー!」

守備では例によってピッチャーを応援する。
そのまま8番打者のお姉ちゃんが始球式並の接待スイングを行い、
9番打者の峰岸さんが可愛らしくキャッチャーフライを打上げ、1番打者も空気を読んだことで難なく交代。
4回表のこちらの攻撃も凡退の連続となり、

そして――

264 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/08(土) 08:45:22.29 ID:snK9zOUj0

みさお「今度こそ、かっ飛ばす!」

無駄に声が大きい。

こなた「体育の時だけ元気になる人の典型例みたいだ」
つかさ「一人だけ気迫が違うもんね」

こなた「そしてまた予告してるし」
つかさ(あの人が打者の時には油断できない)

ここからだと遠目にしかみえないものの、
どうやら日下部さんはカウントをフルに使ってアウトとインを見定めているらしい。

こなた「プロの試合でもやるつもりなのかな……」

やがてカウントが2ストライク3ボールになった次の球で、
可能ならば耳にしたくはなかった痛快な快打音が辺りに響き渡った。

267 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/08(土) 08:57:56.29 ID:snK9zOUj0

大きく上空へ。

つかさ(こっちへ来る!)

予め読んでおいたので球筋を追おうと見上げ、
そこで問題にぶちあたった。

つかさ(逆光で見えない)

雲一つない秋晴れ。
当然、日中の間は太陽が輝いている。
その降り注いでくる直射日光の中へ見事にボールが紛れ込んでしまい、
ただでさえ白色で見難かった物が完璧に姿を消していた。

こなた「ありゃー、これは参ったねー」

参ってたまるか。
このままじゃ私がこなちゃんの遺影に参らなければならなくなってしまう。

つかさ「そんなの御免だから!」

でもどうすればいいの?
私がどうやれば、これを超えられるの?

268 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/08(土) 09:09:34.58 ID:snK9zOUj0

こなた「よっし、私がやったるでー!」
つかさ「駄目! こなちゃんは動かないで!」

悠長に考えている暇はない。
動かなきゃ!

つかさ「こなちゃんは伏せてて!」
こなた「えっ、どうして――」
つかさ「いいから!」

こなちゃんの反論を力任せに捻じ伏せ、
肩を掴んでその場に伏せ落とす。

こなた「痛いって」
つかさ「これを被ってて!」

私のグローブを頭に乗せ、

つかさ「絶対に動いちゃ駄目だからね」

一気に捲し立ててその勢いで動きを封じた。
これで気休め程度にはなるはず。
あとは……少し痛いかもしれないけど……。

269 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/08(土) 09:24:45.92 ID:snK9zOUj0

私が盾になるしかない。
怖いけど……
でもボールが当たったくらいじゃ普通は死なないはずだから。
少なくとも、よっぽど運がなくて当たりどころが悪かった場合を除けばだ。
この場においてそれが絶対的に起こり得るのは、こなちゃんに措いてだけ。

こなた「なにやってんの、つかさ? グローブは?」
つかさ「お願いだから動かないで!」

角度的に考えれば、
私の真後ろに居るこなちゃんにボールが当たることは先ず考えられない。
小柄なこなちゃんが伏せた状態ならば、私の陰に完璧に隠れられるからだ。
もし打球が魔球のように複雑怪奇な軌道を描けばどうしようもないけれど、
そんな不条理なことが起きるとするならば、とっくの昔にホラー映画並みの手口でこなちゃんは倒れているはず。
つまり、それも起こり得ない。

故に、私がここへ立っている限りこなちゃんの死は回避できるんだ。
ボールが当たって命を落とすなんて、絶対に有り得ない。

つかさ「大丈夫、絶対に」

私は自分に言い聞かせて覚悟を決めると、
太陽に潜んだ見えない敵を威嚇するように睨んだ。

271 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/08(土) 09:50:05.44 ID:snK9zOUj0

歯を食いしばる。
痛い思いをしなければならないと分かっている恐怖が、
私の目を閉じさせるべく重厚な圧力を掛けてきているのが体感できる。

けど、負けない。
私が一瞬たりとも目を離せば、不条理が起こったのかすらの認識もできなくなる。
これからの為にも、ここは退けない。
退く訳にはいかない。

「つかさ?」

背後からの呼びかけ。
私は無言で答える。
来い、来い……来い。
どこからでも掛かって来い。
ボール如きに友達を奪われてたまるか。
こなちゃんは私の大切な――

ゴトッ。

「あっ」

こなちゃんの声と鈍い音に私は振り向かされた。
一瞬直撃したのかと胆を冷やしたものの、こなちゃんはまだ生きていた。
どうやら私の真横数メートルの地点にボールが落ちた……ということなのかな?

「あーこれは、スリベースかなー」

予想外にもなにも起こらなかったという展開に呆然としている私には構わず、
こなちゃんは余裕の表情でボールを投げ返していった。

276 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/08(土) 10:05:38.60 ID:snK9zOUj0

こなた「ほら、みゆきさんのグッジョブで交代だよ」

こなちゃんに語りかけられていた。

つかさ「はぁー……」

それでようやく安堵感を得ることが出来た。

こなた「なんかやけに疲れてない?」
つかさ「ううん、そんなことないよ」
こなた「それに今日のつかさは色々と変だし」
つかさ「こういうのが欧米では流行っているらしいから」

取り敢えず欧米のせいにして追及をやり過ごしておく。
にしてもボール一つにきりきり舞いなんて、昔の歌でしか聴いたことがないよ。
今回は運が良かったのか、元々当たらない球だったのか、
とにかくなんとかして乗り切れはしたけど、
こんなことがいつまでも続くのだとしたら、とても身が持ちそうにないと思う。

あれ……?
いつまでも続くのだとしたら……?
そういえばこれ、いつになったら安全になるんだろう?
どこまでいけばゴールテープを切れるんだろう?

こなた「ほら、戻るよつかさ」
つかさ「う、うん」

まさか、どうやったところで逃げ切れないなんてこと……ないよね?

278 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/08(土) 10:27:58.48 ID:snK9zOUj0

バックネット裏に戻った私は、
こなちゃんのすぐ隣に立って考えを整理していた。
というより、漠然と忍び寄ってくる抗いようのない不安を跳ね除けようとしていたのだ。

私は肝心な部分を見落としていた。
解決策だ。
この事態から抜け出す為の術。
それを一切持ち得ていないじゃないか。

ここに来るまでにも三回、こなちゃんは犠牲になった。
一回目はパンによる窒息で。
二回目は私が夢のことをお姉ちゃんとゆきちゃんに話した直後、階段から落下して。
三回目は図書室の窓から落ちて来た花瓶で。
そうだ、私が機転を利かせて回避したところで、相手は次なる手を打ってくるのだ。

これだけの状況から推測してみても、
私の先導によってこなちゃんが目先の危険から逃れられた所で、
僅かに結果が先延ばしになっているだけ。

だとしたら。
これは一体、いつまで続くんだろう?

279 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/08(土) 10:43:07.89 ID:snK9zOUj0

みゆき「つかささん」
つかさ「え……?」

思考が混迷の一途を辿っていくなか不意に呼びかけられたことで、
私は周囲への警戒を怠っていたことを自覚させられた。

つかさ(いけない……しっかりしなきゃ……)
みゆき「あの、本当に体調のほうはよろしいのでしょうか?
     もし気分が優れないのでしたら、無理に授業を受けないほうがよろしいかと」

ゆきちゃんの深刻そうな表情から深い配慮の念が伝わってくる。
そう思われるくらい、私の身ぶりに出ているのかな。

つかさ「気にしないで、ちょっと考えないといけないことがあっただけだから」
みゆき「そうですか」

ゆきちゃんは納得いかなそうにも一応は頷いてみせ、

みゆき「何か力になれることがあれば、仰ってくださいね」

そう付け加えて身を引き、
私がそれ以上の詮索を入れられることはなかった。

282 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/08(土) 11:02:39.90 ID:snK9zOUj0

試合は何事もなく進んでいった。
涼しさはを通り越して冷たさが漂い始めた秋だというのに、
真夏日に匹敵するほどの汗を掻かされたあの外野フライ。
けれどもそれ以外には特に寿命が縮むような思いをすることもなく、
私の働きが功を奏したのかすら不明なまま平穏無事にイニング数を重ねていき、

「ありがとうございましたー」

ようやく、お決まりの挨拶を交わしたことで試合は終わった。

こなた「まだ授業の残り時間があるみたいだね」
みゆき「そうですね」
こなた「やることはやったし、あとは適当に眺めてようよ」

疲れた。

かがみ「よっ! お疲れさまー!」
こなた「お疲れぇー」
みゆき「見事な投球でしたね」
かがみ「みゆきもね」

体が重い。

かがみ「……つかさ?」
つかさ「運動は苦手だからちょっとだけ疲れちゃった、えへへっ」

でも5時間目もじきに終わる。
今は深く考えず、良い方に動いていると信じて頑張ろう。

285 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/08(土) 11:24:57.50 ID:snK9zOUj0

次はどこから来るの?
それとももう、安全なの?

体育倉庫の陰に隠れていても気は抜けない。
というより、気を抜くことができない身体になってきた。
打球音が響けば私が意識するよりも先に、
自然と体が振り向いて警戒してしまうし、
男子がサッカーボールを蹴る音にしたってそれと同じ反応が起きる。
近くで生徒の声があがればそれに注意を払わなきゃならないし、
それでいて、一つのことだけに気を取られないように匙加減を与えた制動もしなくちゃならない。

お姉ちゃん達が楽しげに話をしていても、
そこに混ざるどころか相槌を打つのさえ難しい。
違う、怖いから出来ないのだ。
気が逸れた一瞬の隙。
それが生じるのが、とてつもなく恐ろしいから。
その一瞬に何が起こるのか分からないから。

お姉ちゃん達の笑い声。
普段ならそこに私もいるはずなのに、この場に限っては一段と羨ましく感じてしまう。
そしてちょっとだけ妬ましい。
私だけがこうやって日陰から支えなくちゃならないなんて。
辛い思いをしなくちゃならないなんて。
不公平だ。
どうして私だけが……。

あ、いけない、いけない。
そこは考えても仕方のないことだよ。
愚痴る暇があるのなら、こなちゃんをより安全に守り抜く方法を考えるのがお得だというもの。
うん。いけない、いけない……。

401 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/09(日) 19:11:45.63 ID:Vg2XDWjB0

―― キーンコーンカーンコーン

こなた「5時間目しゅーりょー」
かがみ「それじゃあ、ぼちぼち戻るとするか」
みゆき「そうですね」
つかさ「……」

グラウンドには高層の建物はないから上方向は大丈夫。
用具も、もう片付けも終わってるんだから投擲物などの心配もない。
だったら気を付けるべきなのは、こなちゃん自身が引き起こす事故や怪我、でいいのかな。
転倒でぽっくり、なんてあからさまなのはないよね?

402 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/09(日) 19:20:53.00 ID:Vg2XDWjB0

校舎へと近づくと否応が無く花瓶の出来事を思い出してしまう。
だけど戻らないわけにはいかないので、
私は万策を尽くしてこなちゃんを送り届けようと努めるしかないのだ。
周囲には私達と同じく体育上がりの人達が追い越して行くし、
休み時間になったこともあって逆にすれ違う人なのでごった返している。

そしてその誰しもが、こなちゃんに危害を加える要因に思えてしまう。
それが思い違いであって欲しいと私は願っているものの、恐らく、この勘は外れてはいない。
私達4人以外は信用できないような気がする。
信じちゃ駄目な気がする。

それだけに、全てに気を配らなくちゃ。

404 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/09(日) 19:38:08.81 ID:Vg2XDWjB0

私が着替えを終えて教室に戻ってくるのを待っていたようにチャイムがなり、
黒井先生も入ってきたことが6時間目に備えて教室内の生徒達が席に着き始めていく。
私は室内の生徒全てが着席し、事故の起こりようがないことを確かめてから、

つかさ「またね」
こなた「運動後って、眠いよね。水泳よりはマシだけどさ」

大きな欠伸をしてみせたこなちゃんの席を離れて自席へと戻った。

これは単なる授業だ。
ここで何かが起こるなんてことは絶対にない。
……ない、よね?

黒井先生「つかさー、なにキョロキョロしとんのやー?」
つかさ「……すみません」

怒られちゃったよ。
そんなこと言われたって、こっちは目が離せないというのに。

その後も私は再度注意を受けないように隙をみつけては、こなちゃんの様子を窺い続けた。
こなちゃんは先の宣言どおりに欠伸を噛み殺しつつ、次第にうつらうつらと船を漕ぎ出し、
器用にも勉強しているような姿勢のままに居眠りをしていたようだった。

405 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/09(日) 19:52:55.13 ID:Vg2XDWjB0

いつまで続くんだろう?

疑問は絶えない。
恐怖は消えない。
6時間目が終わっても、掃除が終わっても、帰りのホームルームが終わっても。

かがみ「帰るわよー」

私一人だけが張り詰めるような緊張性の気体に纏わり付かれるなか、
お姉ちゃんが放課という自由時間に胸を躍らせる様子で迎えに現われ下校となった。
私はちっとも笑えないけど。

階段を一つ下るのも、角を一つ曲がるのも、誰か一人とすれ違うのも、何か一つ物音がするのも。
全部がぜんぶ綱渡り。
私一人の橋渡し。

だけども私は密かな希望を抱いていたりもする。
ひょっとしたら学校が終われば……校門を抜けたら……。
そこで区切りがついたということで、私の勝ちになるんじゃないかって。

大体、花瓶を最後にこなちゃんは生き永らえているんだ。
もしかしたら、もう既に逃げ切れているのかもしれないよね?
だよね?

407 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/09(日) 20:09:43.56 ID:Vg2XDWjB0

玄関を抜けて空を仰ぐと、
下校時の開放的気分に任せて笑い合っている生徒達ばかりが目に付いたので、
私との対比の差に掴みどころのない寂しさを感じてしまった。
でも、もうすぐなんとかなるはずだから。
今は辛抱の時期なんだよ、きっと。

かがみ「どうしたの、そんなにキョロキョロして?」
つかさ「え……? うーんと、皆帰ってるんだなって」
かがみ「当り前じゃない」
つかさ「……そうだよね」

そうだよね。
皆はそうだよね。

こなた「今日のつかさは挙動不審だからね。悪性電波でも受信しちゃってたりして」

意味不明な単語を羅列してこなちゃんが笑ってみせる。
私は笑えない。

みゆき「確かに、今日はお忙しそうですしね」

相槌も打てない。

だけど希望はある。
校門は、目と鼻の先だ。

412 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/09(日) 20:28:45.08 ID:Vg2XDWjB0

つかさ「やった!」

抜けた!
外に出れたぁー!
はぁー……えらく長かったよー……。

かがみ「どうしたのよ急に?」
つかさ「やっと終わったなって」

こなた「確かに6時間授業は長いからねぇ」
つかさ「うん、そうだね!」

ところで、ファンファーレなんかは鳴らないのかな?
別に音楽でなくてもいいからなにかこう……そう。
チャイムのような判り易い合図なんかがさ。

みゆき「季節がらか暗くなるのが早くなると、
     日中に活動できる時間帯が相対的に長く感じてしまう気もしますね」

ねぇ、終わったの?

415 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/09(日) 20:41:36.72 ID:Vg2XDWjB0

改めて考えてもみれば、街中は危険だらけだ。
まず、忙しなく行き交う車。
次に自転車。そして人。
他にも雑多な物や段差や、私では予期すらできない何かも潜んでいると思わされる。

まるでそこかしこで煌めく抜きだしのナイフが、
間の抜けた獲物を求めて剣山のように地面から突き出しているようだ。
躓けば全身を貫かれる。
今までの経験から考えて、そのくらいに気構えておくべきだと自戒させる。

私は極力人を避け、物を避け、危険を避けてジグザグ歩きでこなちゃんを先導していく。
刺されないように。
こなちゃんやお姉ちゃん、ゆきちゃんに変な目で見られたって構うもんか。
こうでもしないと私が落ち着けないんだから。

418 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/09(日) 20:58:13.29 ID:Vg2XDWjB0

駅ではゆきちゃんと別れ、
私達が乗車すべくのホームでは「黄色い線までお下がりください」、
と喚かれるまでもなく、どう考えても落下しようのない十二分な距離を保って待機し、
乗り込む際にも細心の注意を払って行動した。
今の私なら30段のトランプタワーだって作れるんじゃないのか、
と8割方は冗談でもない大口を叩けそうなほど、人生最高潮の集中力を発揮していることを自負してもいい。

かがみ「あんた忍者でも目指してんの?」
つかさ「背後を取らせないところとか、ゴルゴみたいだね。ん、ワムウかな?」

二人のジョークは右から左へ受け流し、高まっている精神をそのままに保つ。
と、このようにして最大限の努力を重ねていたつもりの私だったが、
この電車が脱線事故を起こしたりするんじゃ……?
などと極めて不吉な予感に襲われたのは、電車が滑りだし、搭乗口が塞がれたあとだった。

419 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/09(日) 21:12:02.31 ID:Vg2XDWjB0

揺れたっ!?

こなた「うわっ! なに!?」
かがみ「こら落ち着け、ただの揺れでしょうが。
     それにこなたにしがみ付いたところでどうにもならないから。
     そう、こんな時はむしろお姉ちゃんである私を頼るべきね」
こなた「かがみんが新たなキャラを開拓しはじめた模様です」

私はしがみ付いた訳ではなく、反射的に庇っちゃっただけなんだけどね。
でも安心したよ。
脱線事故や横転事故なんかが起こっちゃったら、私じゃどうしようもないから。

それからも電車が揺れるたび、人が乗り降りする度、
私は心臓が飛び出しそうな思いに駆られつつも、
着々と帰るべき場所へ向けて運ばれていった。

こなちゃんのお姉ちゃんの二人といえばやっぱり、
オドオドする私を弄っては終始笑いの華を咲かせていたけれど。

425 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/09(日) 21:28:34.28 ID:Vg2XDWjB0

電車を降り、帰途を歩き、そして……。

かがみ「じゃあね、こなた」
こなた「じゃあにぃー」

二人が早めの挨拶を交わし、T字の岐路へと差し掛かった。
こなちゃんは右に、私達は左にという別れの場所。

つかさ「あのさ、こなちゃん」

ここまでは難なく辿りつけた。
この順調さは校内での出来事を考えれば本当に不思議なくらいなので、
あのとき私が考えた通り、実は校門を抜けた時点で勝っていたのかもしれない。
いや、そもそもこなちゃんが死んだというあの体験自体が夢で、
私が何かの拍子にデジャビュ……だっけ?
そんな感じで勝手に世界が繰り返していると信じ込んでいただけなのかもしれない。
たぶん、「君の勘違いだよ」と白衣を着た紳士的なオジサンに一言添えられれば、
私はそれを真実だと捉えて疑わないだろう……というのは、ちょっと誇張しすぎかな。
大体さ、不条理すぎるからね。
こなちゃんが何度も死ぬなんて。
だけどね。

つかさ「家まで送っていくよ」

だけどね、もしかしたらという気がかりが未だに晴れないから、
私はこなちゃんに、かのような言葉を掛けないわけにはいかなかったんだよね。

430 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/09(日) 21:49:27.90 ID:Vg2XDWjB0

かがみ「あんたやけに絡むわねぇ」
つかさ「その、なんとなく……ね?」
こなた「おやまぁ、かがみには飽きちゃったのかな?
     よしよし、私の妹として可愛がってあげようぞー」

これでばっちり。

つかさ「じゃあ、ゆっくりと――」

遮り、

こなた「なーんてねっ! ごめーん、夕方からみたいアニメがあるからさ!
     録画もしてないし急いで帰らなきゃいけないんだよね! じゃ、そういうことでバイバイ二人ともっ!」

言うなり駈けだしていた。
怖すぎる。そんな軽率な行動。

つかさ「待って、せめて走らないで!」

私が走ったところでこなちゃんには追いつくのは不可能。だからまずは叫んだ。

かがみ「なーんかお腹空いたわねぇー」

背後でお姉ちゃんが私の心境とはあまりに場違いな呟きを残し、
それに気をとられた私がもう一度振り返ったとき。

こなちゃんが死んだ。

437 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/09(日) 22:04:23.24 ID:Vg2XDWjB0

サンドイッチだ。
角から出現した白のトラックと、渇いた鼠色のブロック塀による調理。
具はこなちゃん。
トッピングは鮮血。
ブロックがガラスのように破砕し、そこにトラックが減り込み、
肝心のこなちゃんの姿は埋もれてしまい目にすることが叶わない。
ミンチにでもなったのかな。

私が音を認識したのは、
その一部始終を奇妙な冷静さを持ったままで観察したあとだった。
次いで、ドサリと背後からの音。
お姉ちゃんが鞄でも落としたのだろう。

かがみ「どうして……」

こっちが訊きたいくらいだ。
どうして。
こなちゃんは角から引いた位置で止まっていたというのに、
まるで狙いすましたかのような角度でトラックが突っ込んできていた。
おかしいよ、こんなの。
ここまで折角やってこれたのに。
勝てたと思っていたのに。

かがみ「は、早く……こなたを助けなきゃ……」

そんな震える声を出したって無駄だよ。
こなちゃんはもう死んでる。
間違いない。

444 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/09(日) 22:23:16.78 ID:Vg2XDWjB0

恐怖とは違う感情だった。
ここまで緻密に最善を尽くして築き上げてきたものが、
たった一手の失策によって砂上の楼閣のよう崩れ去ってしまったという、
どうしようもない脱力感。
それが何倍もの重力となって圧し掛かってきたせいか、
私は事故に巻き込まれた友人のもとへ駆け寄る、
という一般的行動を採ることすらも考えとして浮かばなかった。

代わりに巡っていたのは、
「もう私はこなちゃんの死自体には慣れてしまったんだろうな」
などという常識から逸脱した自嘲気味の見解だった。

「こなた、が……こな、たが……」

お姉ちゃんが途切れ途切れに名前だけを呼んでいる。
既に走る気力すらも失っていた私だったが、
お姉ちゃんの後を追うことは生まれたときからの習性だったこともあってか、
そのよろける背中を無心のままに追い掛けていき、
牛歩のように車両と、そしてこなちゃんが命を落とした現場へと導かれていった。

450 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/09(日) 22:42:22.61 ID:Vg2XDWjB0

すぐ傍まできた私が最初に驚いたのは、
派手に吹き飛んだブロック塀でもなく、こなちゃんのものであろう血についてでもなく、
それらを引き起こした原因でもある、フロントがひしゃげたトラックの車内で、
目を見開き驚愕した面持ちのままに硬直していた運転手の初老のおじさんについてだ。
エアバッグがあるとはいえ、運転席まで歪んでいるこの状況に措いて意識があるようだし、
さらに言えば、

「なんで……まさか俺が……悪いのか……?」

などと弁解がましくも降車してきたのだ。
そう、おじさんは自力で降車していた。
あれだけの衝突にありながら、目立った出血すら見受けられないのだ。

加害者はおじさん。
被害者はこなちゃん。
犠牲者は、こなちゃんのみ。

何か繋がりがあるんあるんだろうか。
何らかのルール、それが見えそうな気はする。

だけど……。
それだけでどうなるの?
私はまた戻るの?
例えあの手この手を尽くしたところで、
どうしようもなく不可能なことが、世の中にはあるんじゃないのかな?

452 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/09(日) 22:50:10.41 ID:Vg2XDWjB0

例えば……ここで私がこなちゃんのことを諦めて何も対策を取らなかったとしよう。
すると当然、こなちゃんは交通事故に巻き込まれて死んでしまったことになる。
でもそうなったところで、こなちゃんが何度も変死していることを知っているのは私だけだし、
何も知らないほかの皆はこれが偶然にして起こった不幸な事故、だということで各々納得してしまうんだろう。

考えてもみれば思いもよらなかった事故や不可解な事件で死亡してしまうなんてこと、
ニュースでも定期的に流れているよね?
例えば現状のように居眠り運転なのか車の故障などなどで、無関係の通行人が運悪く巻き込まれて。
夏になれば台風などの風に煽られたり、海の潮に嵌って流されたり、気勢を得た動物に襲われたりで。
他にも建築物が崩壊したり、お隣さんの火事が飛び火したり、酷い時には有毒ガス自殺に巻き込まれてしまったり。
まだまだあるよ。
安全だと思ってお店で購入した食べ物が、実は危ない物だった……なんて具合に予想外で防ぎようのない事故なんて数多の如くだ。
学校においてだって、運動部の練習中だとか組み手の最中だとかに死亡事故に発展した前例もあるらしいし、
プールに頭から飛び込んで頭蓋陥没したり、廊下を走ってガラスに突っ込み大失血の末に……
なんてことが実例としてあったんだと先生達に聞かされたこともある。

要するに食事を喉に詰まらせるのだって、階段から転げ落ちるのだって、落下物が直撃するのだって、交通事故だって、
日本全国規模という広い目で考えてみれば、何時、何処かで起こっていたとしてもおかしくはないんだ。
そう、事故の統計でもとってパーセンテージで表せば毎年決まったような数字が出るはずだけど、
それはある意味、次に誰かが選ばれなければならないということの証明だとも言える。

つまり、こなちゃんがそこに当たってしまったんじゃないのかな?

そうだよ、確率によって選び抜かれた運命の人。それがこなちゃん。
だとしたら、私が何をしようとも無駄なんじゃないかって……。
現に何度もやり直したのに失敗しちゃってるし、行けるところまで行っても結局、またあの場所へと戻っちゃう。

不幸な事故。
私さえ口を噤めば、世間的にはただそれだけのこと。
仕方の無いこと。

457 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/09(日) 23:15:10.96 ID:Vg2XDWjB0

お姉ちゃんがすすり泣いている。

逃げ出したい。
この場から目を背けて、面倒なことは全部投げ捨てて、
自分だけが辛い思いをし続ける終わりのない悪夢からなんて、一刻も早く醒めてしまいたい。
私はそれなりに頑張ったんだよ?
こなちゃんを救えればと思って、
普段は仲間内でも一番ダメだけど、ダメはダメなりに努力はしたんだよ?

お姉ちゃんが崩れた瓦礫を掘り返している。

でもやっぱり私はダメだったんだから。
それに学校を出て終わりかと思えば、結果はこれ。
せっかく上手く出来たと喜び掛けた瞬間に、これ?
いつもそうだ。
いつだってそうだ。
上手くいきそう、やり遂げられる。
そう確信しかけた時に限って、狙い澄ました鷹のように見事なまでの邪魔が入る。
まるでそうするほうが私によりダメージを与えられると、どこかの誰かが意地悪をしているかのようにだ。

お姉ちゃんが亡骸を掘り当て、一層激しく嗚咽を漏らしている。

だから無駄なんじゃないかって。
これもまたその誰かの術中に嵌るのが見え透いているから。
どれだけやったところで、これは逃れられない宿命みたいなものなんじゃないかって。
どこまでも終わらない雁字搦めの罠、鋼鉄製の檻で囲われているほどに強固で揺るぎないものなんじゃないかって。
そう思うから私は……

462 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/09(日) 23:32:58.08 ID:Vg2XDWjB0

「こなたぁー……」

私は。

「起きてよぉ……こなたぁ……」

いい加減、頭にきた。だから言ってやった。

「黙れ! 泣くなっ!」

お姉ちゃんのくせに妹よりみっともなく泣いてどうするの!?
……え? それでも私よりは良く出来た姉だって?
煩いうるさい! わかってるよ、そんなこと!
私は昔から駄目な子なんだ。要領の良いお姉ちゃんとは違って、物解りの悪い、駄目な子。
そんなことは自分が一番よくわかってるから!

どれだけ御託を並べてみても、どれだけ納得させようと理由を並べてみても、
自分が頷けないことくらいわかってるよ!
こんなところで諦めて、こんなところで投げだすなんて、
そこんところにゃ頷けない、これまたどうにも譲れない。
第一、やり遂げらるのが私だけだというこんな状況じゃ、
他に任せられる人間も、頼れる姉ちゃんもいないんだから……。
そもそもお姉ちゃんが泣いているのが気に喰わないんだよ! そんな顔、今まで見たこともないから!

だから駄目じゃん、やっぱり駄目じゃん!
どこのどいつのルールかは知れないけれど、こんな結末、

「こんなの有り得ない」

認めてたまるか。

475 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/09(日) 23:53:12.66 ID:Vg2XDWjB0

―― キーンコーンカーンコーン

こなた「じゃあ私、パンを買ってくるね」

慌ただしくなり始めた教室内の空気に倣って、こなちゃんも席を立った。
これで五度目ともなるこの光景。
それが夢などではないということは、これまでの経験から言うまでもなくの既知である。
などと見渡していると、ゆきちゃんが声を掛けてくるはずなので伝える。

つかさ「夢を見たんだ、こなちゃんがパンを喉に詰まらせて死ぬ夢」
みゆき「えっ……?」

つかさ「お姉ちゃんにも伝えておいて」
みゆき「一体――」

その返答を待たずして、教室へ入ってくるお姉ちゃんの横を無言で通り抜けて廊下へ飛び出し、
すぐさま遠くを睨み見ると、前方にこなちゃんの小さな背中を見つけることができた。
こなちゃんは目当てのパンを求めてなのか走りに近い急ぎ足のまま、
ドリフトするF1カーのように廊下角の階段へと差し掛かり、
そこで突如、飛び出してきた男子とぶつかった。

こなちゃんには気の毒だけど、これも勝つ為の手段。
そもそも一回で勝とうとするのが間違いだったんだ。
際限なく繰り返すことが可能ならば、その時間を有効に用いて、
先ずは切り抜ける為の手掛かりを見つけることが先決なのは自明。
要は予習と復習みたいなものだ。
そして無限に時間があるということは、即ち私が諦めない限りは勝ちは確実。

よし、何度でも挑戦してやるから。

482 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/10(月) 00:10:10.80 ID:pS6/K+f+0

―― キーンコーンカーンコーン

こなた「じゃあ私、パンを買ってくるね」

慌ただしくなり始めた教室内の空気に倣って、私も席を立った。

ドサリ。

こなた「……つかさ?」

つかさが倒れている。

気に掛かった私は、つかさの肩に触れてみた。

こなた「つか……」

呼吸をしていない。

こなた「死んでる」

484 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/10(月) 00:11:51.89 ID:pS6/K+f+0

かがみ「どうしたのよ?」
こなた「つかさが……」

かがみ「どうせまた寝不足かなんかでしょ?」

かがみがつかさに触れた。

かがみ「死んでる」

487 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/10(月) 00:13:22.66 ID:pS6/K+f+0

みゆき「お二方による新手のご冗談でしょうか?」
こなた「違うよ、ぜんぜん違うよ」
かがみ「みゆきも確かめてみればわかるって!」

みゆき「またまた、そんなことが有るわけ……」

みゆきさんが曖昧に笑いながら、私に触れた。

みゆき「死んでる」

488 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/10(月) 00:14:03.78 ID:qN00JTYl0

人だかりが出来てぶつかった男子を見失わないうちに階段へ急いでいると、
途中で、慌ててこちら側へと走り来る別の男子生徒とすれ違った。
それに構っている暇はない。
素通りした私が曲がり角から階下を臨むと、
予想通り、こなちゃんが二度目の時の光景のままで倒れていた。

これもルール。
死ぬことを告げると、死に方が変わる。
ということは、この禁忌を破ってしまえば予習が全くの無駄になってしまうということなのか。

始点に戻ればメモなども消え去って残らないので、
そのことを留意しつつ、得られた情報を頭の中へと刻み込んでおく。
そして次に訊ねるべくは、おろおろと慌てふためき、こなちゃんを見下ろしている男子生徒のほうだ。

「ねぇ、どうしてぶつかったの?」
「し、知らないよ! それより、首がアレ、首、曲がってない!?」
「でも急いでたよね?」
「だって、階段を走るのくらい普通だろ!?
 いつもやってるし、その、あっちからぶつかって来たんだし俺は悪くないって!」

故意じゃない。
ということは、これは過失の事故だ。
それも”いつもなら大丈夫なのに”この時に限って起こった不幸な事故。
だから、加害者がこなちゃんを狙っているわけじゃなく、
いつか起こるかもしれない不注意による事故が、たまたまここで起こっただけなのだ。

ツケが回ってきたということなのかな?

499 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/10(月) 00:34:46.56 ID:qN00JTYl0

6度目へと越えて昼食のとき。
こなちゃんのパンと私のお弁当を取り換える。

念の為、私がこなちゃんのパンを齧ってみた。
しかし特に異変はない。
しいて言うなら、なんだかやけに湿り気があるくらいかな。
もしかすると保存状態が悪かったのかもしれない。
パン自体は水気がないと喉に詰まりそうだけど、
普通ならば窒息率はゼロコンマのパーセント以下だと思う。

だけど絶対とは言い切れない。
現に、こなちゃんは窒息していたのだから。
この場合の過失はどこにある?
販売者? 購買部?
そういえばゼリーを喉に詰まらせる云々ってのを最近やってたっけ。
まあいいや、ここの問題は既に解決済みなんだから深く考えないようにしよう。

それらを確かめた私は、今度はこなちゃんが私のお弁当を頬張るさまを観察していく。
なんだか友達を実験に使っているようで気が引けちゃうけど、
最終的に勝つにはこれしか方法がないんだから仕方がないよね。
甘いことを言って疲弊し最終的には勝負に負けちゃったら、それまでのこなちゃんに示しが付かないし、
そこまで頑張ってきた私自身にしたって、なんの為に奔走したのか元も子も無いってものだし。

「うぐっ……」

カマボコが喉に詰まったらしい。しかし私は動かずに、観察だけに務める。
心が痛むし本当は今すぐ助けてあげたいけれど、
半端に優しさを掛けたりすれば、最後の最後で躓いてやり直すことになりかねないから。

だから我慢するんだ、私。

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/10(月) 00:54:37.76 ID:qN00JTYl0

こなた「ごほっ……こほっ……」

こなちゃんが咽ていた。
やっぱりそうだ、いくらなんでもカマボコで命を落とすなんて有り得ない。
いや、それとも何か別の要因があるのかな?

かがみ「ちょっとこなた、何やってんのよ?」
みゆき「あの、大丈夫ですか?」

カマボコが詰まって死ぬかと思った、だっけ?

こなた「カマボコが詰まって死ぬかと思った……」

うん、そうだね。
私の記憶力も案外頼りにはなるみたいだし、
これで私が手を出さないでも当然のように繋がることが証明されたことにもなる。

そういえば3回目のとき、私はこなちゃんを殴り付けてカマボコを吐かせたんだっけ?
あの時はこなちゃんが沈黙しちゃったので焦ったものだけど、
考えようによってはあの状況で窒息しなかったってことは、これはもしかすると……。

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/10(月) 01:14:49.76 ID:qN00JTYl0

昼食を終えると花瓶の件の交渉を行わないまま、
5時間目の体育に備えて玄関からグラウンドへと歩いて行く。

その途中で私は新案を試すことにした。
さて、花瓶が落ちてくることは想定済みなので、
今度は校舎から離れた位置へとこなちゃんを誘導し、用心深く構えておこう。
その考えのもとある程度距離がとれたことを確認した私は、
花瓶が落ちてくるはずの図書室、空いている窓を窺った。

うん、ここでなら遠投でもしない限りは花瓶の当たりようもない。
絶対に安全な地点だね。

間もなくして、図書室の窓際で数人の男子生徒達がじゃれ合うように縺れ、
窓際にある花瓶がグラいて……。

ガシャッ!

陶器片と華が地面へと舞った。
あの時回避できたように、加害者はあのとき交渉した男子生徒達で間違いない。
そして今回は被害者もなし。

それでも花瓶が落ちるという事象だけは残るらしい。
そして”不幸にも当たって”犠牲になるのは、こなちゃんのみのようだ。

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/10(月) 01:28:04.55 ID:qN00JTYl0

グラウンドでは授業開始を待ち切れない生徒達の一部が、各々で用具を持ち出して活動していた。
ちなみに男子がサッカー、女子がソフトボールである。

かがみ「前回とは競技交代だから……」
みゆき「私達女子がソフトボールで、男子のみなさんがサッカーですね」
こなた「だったら、私がピッチャーをやれば完封ーっ!」

ここも変わってはいない。
確かここで否定しても、教師に叱られることを理由に拒否されたんだっけ。
まいいや、敢えて別な行動を採る意味は今のところ見出せない。
行動が変わればパンによる窒息を話した時同様、恐らく事故の形が変わってしまうだろうから。

みゆき「では、私は用具の準備がありますので」
かがみ「私も手伝うよ。どうせ日下部も委員で駆り出されているだろうし」

こなちゃんを引き止めなきゃ。

こなた「じゃあ――」
つかさ「じゃあ、私とこなちゃんで先にチームでも決めとくね」

こなた「ちょっ――」
かがみ「私がそれをちょうど言おうとしていたのに。それじゃ頼むわね」
つかさ「うん」

こなた「……」

繰り返しによる先読みも、こういう場合に限ってはスムーズにことが運ぶので便利ではある。
尤も、この現象が収まってくれるのが一番だけど。

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/10(月) 01:50:27.30 ID:qN00JTYl0

グラウンドを歩いていると、女子生徒の投球したソフトボールが逸れ、こちらへと飛んできた。
あれだけ痛い思いをしたせいでそれも読めていたので、
こなちゃんを私の後ろへと隠してボールをかわし、地面に転がり慣性が消失してからゆっくりと拾い上げる。

今の様子からして、ボールは私に当たらないように飛んできている。
もしあの時みたいに私が土壇場で手を出せば当たってしまう、
というより私自らが当たりにいったんだから当然なんだけど、それを除けばこなちゃんが狙われるようだ。

その根拠としては、私があの時と全く一緒の場所を歩けているはずもないのに、
寸分の違いもなく、こなちゃん目掛けてボールが飛んできたことが挙げられる。
ってことは、不自然で無い範囲内では、事故はある程度揺れ動いてしまうらしい、ということかな?
ならばついでだ、次はカマボコの件で引っ掛かってたことを試さなきゃ。
これはあんまりやりたくないんだけど……ごめんね、こなちゃん。

つかさ「こなちゃん、ちょっと後ろへさがってみて」
こなた「……ほぇー?」
つかさ「いいからいいから」

えっと、そろそろいいかな?

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/10(月) 01:56:55.03 ID:qN00JTYl0

こなちゃんに警戒されないよう、蝶が群がってきそうな笑顔を頑張って作り、
やがて、こなちゃんが15歩ほど離れた瞬間、

つかさ「手が滑ったー!」
こなた「うおわぁー!?」

一昔前に流行ったサイバーチックな映画の弾丸避けシーンのように、
こなちゃんは華麗な身のこなしで私が全力で投げたソフトボールをいなしていた。

……あれ、この距離でボールを避けられた。
もちろん、こなちゃんの普段の運動神経から考えればそれは当然なんだけど、
この不幸が降り続くなかでその力が発揮できたということは……。

やっぱりそうだ、私は『偶然にして必然な事故』を起こさない。
冷静に考えてもみれば身近に居た私がその素質を持っていたとすれば、
こなちゃんは既に数倍量の災難に巻き込まれていた筈だしね。
とはいえもし、私が故意的に事故を起こそうとすればそれは当然受理されてしまうだろうけど、
そうでない場合、私は揺るぎない中立、ということなのかな。

こなた「つかさ! 恐ろしい子!」
つかさ「えへへっ……ごめんね」

本当にごめんなさい。
でも今は理由を言えないから、もう少しだけ私の我儘に付き合ってください。

61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/10(月) 03:14:31.32 ID:qN00JTYl0

それは突然だった。
私達がそろそろソフトボールの試合を始めようかと思っていた矢先、
藪から棒に飛んできたバットが私の頬を掠めるような形ですり抜け、
後ろに立っていたこなちゃんの後頭部を直撃したのだ。
加害者である女子生徒が手元を確かめている仕草から考えると、
どうやら素ぶりの最中に抜けてしまったらしい。

どうして?
こんな事故はなかった筈だけど?

その疑問を元に原因を探ろうと考えていき、やがて二箇所に思い当たった。
花瓶の件と、こなちゃんにボールをぶつけようとした件かな。
うん、それしか考えられない。
やっぱりどこかを変えれば、後の手筈も変わってきてしまうんだ。
それとも、決まっている正答の道を辿らなければ、
どうやっても避けられない事故が起きてしまうんだろうか?

ごめん、こなちゃん。
私がふがいなくて。

だけど次に同じ過ちは繰り返さないから。
本心から、そう約束する。

67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/10(月) 03:24:18.67 ID:qN00JTYl0

えっと……これで7回目、だっけ?
メモが残せない以上、今が累計何時間経過後なのか、
はたまた何回目の再出発なのかという判断に今一つ確証が持てない。
しかしノウハウは頭の中にしっかりと積み込んできているので憂慮する必要もないし、
今までよりも遥かにスムーズに昼休みを抜けて、今度は花瓶の件を解決してから5時間目の体育へと戻ってこれたのだ。

「よろしくおねがいしまーす」

私とお姉ちゃんのクラスで通過儀礼的な挨拶を交わし、またもソフトボールの試合が始まった。
状況は前回と同じく、お姉ちゃんに手を抜いて貰えるようにとの工作も済ませ、
こちらのチームも事故率を極力抑えられる、とあの時の私が思っていたままの構成に留めている。
これについては、上手くいった箇所をわざわざ改変する必要もないと踏んだからだ。

そう、切り抜けれられることろは同じ解答で済ませ、
駄目な所にぶち当たったら次は同じ過ちを犯さぬよう学習し、二度目に活かす。
私は昔からこういうコツコツとした勉強法が苦手で嫌いだったのだけれど、
この事態に措いてはこれが最適のアルゴリズムであることは変わりないし、
何より、お姉ちゃんが常日頃から行っていた勉強法でもあるので信用もできるし成果も実証されている。
出来が違うからね、私とお姉ちゃんじゃさ。

なので今はそれを信じて頑張るしかない。
努力すれば結果は実る。
それも無闇な方向へではなく、ちゃんとした目標と手筈があれば、きっとだ。

さあどうだろうか。
この試合では構成自体が同等だとしても、一つだけ異なる点がある。
私が守るポジションがライトのこなちゃんの隣ではなく、普通にセンターを守っているのだ。

あの日下部さんの大飛球は、いったいどう動くのか。
この結果次第では道が開けるのかもしれない。

73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/10(月) 03:46:29.50 ID:qN00JTYl0

試合の流れは全く以って同一だった。
まるで録画していたビデオのように、
1回裏でゆきちゃんが2人を好調に抑えるも、3人目で内野フライを打ち上げられ、
守備のセカンドがエラーで落とす。

その際、私からだいぶ離れているこなちゃんの表情を窺っていたら、
「あっ」という顔をみせたので、大方「あ、落とした」と呟いたのだろうと悟った。

で、次は自信満々でバットを操る日下部さんが凡退していくのを見送り、
攻守交代した私達の攻撃を早々に終えて、またも交代して……。

やがて3回裏の私の打順では頑張って三振を貰い、
こなちゃんの打撃を妨害して出塁をさせず、
ゆきちゃんがツーベースヒットを放って、その攻撃が続かずに交代。

そうやってついに巡って来たのが4回裏、日下部さんの打順。
彼女の本気の眦が見せ掛けでないことは、既に前回見せつけられている。
あの逆光のなかでのライトフライだ。

本当のところを述べれば、現在の私の心境は非常に複雑そのものである。
私はこなちゃんが無事でいて欲しいと願いつつも、
一方では望んでいるのだ、こなちゃんが事故に遭うことを。
そしてそれにより、問題を解決させるための貴重な情報が得られることをだ。

無事でいて欲しいというのは目先だけを考えた願い。
こなちゃんが事故に遭って欲しいというのは、
問題を解決して元の日々を取り戻したいという、長い長い先を見据えた願い。
今は心を鬼にして情を捨てるしかないのだ。

全てが終わったらまとめて謝ることにして、この瞬間だけは冷徹にいくしかない。

80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/10(月) 04:12:26.40 ID:qN00JTYl0

カウントが2ストライク3ボールを回ったところで快打音が響いた。
大きく上空へと飛んだボールの行方は逆光と見事に重なり、
私の位置から目視しようとしても太陽の眩しさから上手く捉えられない。

次に私は視線を落とし、ライトのこなちゃんを観察する。
どうやらこなちゃんは左手で簡易的な日除けを作りつつも、
懸命に落下地点を割り出そうとしている思惑が、フラフラと定まらない動きから伝わってくる。

やっぱり見えないんだ。

嫌な予感がする。
今すぐ行けば間に合うのだろうか。
だけど……だけどダメだ。
今助ければ例えここをやり過ごせたとしても、
下校時点すぐを越えた先までの延命にしかならない。

でも怖い。
やっぱり、やっぱり恐ろしい。
何度経験していても目の前で友人が倒れるところを目撃するのは、全身全霊を以って願い下げたい。
それも、それが今から起こることが予め推測出来てしまう為、まるで私が動物実験を行う科学者のように、
友人を見捨てているようで余計に心がキリキリと音をあげそうになる。

私の掌にじっとりと汗が浮かんできた。呼吸と心音も逸って仕方がない。
その拳をぎゅっと握りしめて、こなちゃんがこれから挑むことになる結末から目を逸らさないように自分へ喝を入れる。

無駄には出来ない。
一度だけで覚えればいい。
最低限の回数だけで解決を図るようにする。
それが私にできること。
それが私がやるべきこと。

86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/10(月) 04:38:18.08 ID:qN00JTYl0

石臼が呻くような鈍く重く沈むような音が、
不気味なことに運動場の喧騒の隙間を縫うような形で私の元まで届けられ、
さらにそれが耳元で囁くような感触を残していくくらいに、
私の頭のなかに強く鮮明にこびり付いた。

そこで一気に震えがきた。
ぞくりとするという表現がこれほどまでに合う場面はない、
というほどに錯覚ではすまされない、嫌に実体的な冷たさを持った悪寒が背筋を走り抜けていった。

落ち着かなくちゃ。
落ち着かなくちゃ。

「落ち着かなくちゃ。状況を頭に刻み込まなきゃ」

口に出したことでようやく次に自分がすべき行動と役目を取り戻し、頭が回り始める。
どうやら私が今までこなちゃんの死について動揺してこなかったのは、
あまりに突発的過ぎて認識が追い付かなかった為だと、別段喜ばしくもない発見が出来るほどに冴えている。

わかったうえで見捨てる。
今までのなかで、私が取ったこの行動が最高に堪えた。
でも……だからこそなんだ。

バクバクと煩い心臓を規則正しい呼吸で無理矢理に制動し、
こなちゃんが倒れるまでに至った状況を頭の中で事細かに描いていく。
メモは取れない。なので最大限に集中して、頭に刻み込むしかない。

状況は以下の通りだ。
視界が利かなかった為か、キャッチするタイミングを完全に逃し頭に直撃を受け、
例の鈍重な音が響き、バッタリと倒れて今は羽をもがれた虫のように痙攣している。
怖いけれど眼は絶対に逸らさない。最後まで見届け、貴重な情報の一欠片すらも落とすものか。

92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/10(月) 04:53:24.18 ID:qN00JTYl0

憶え終わった所で整理していく。
情報が錯綜したままでは、後になって忘れかねないからだ。
そう自分に言い聞かせ、心音が遠く消えるほどに強く集中する。

今回もっとも収穫だったこと。
それは、ボールがこなちゃんに直撃したという点。

6回目、つまりは前回のソフトボールが始まる前、
こなちゃん目掛けて投げられたボールが、
4回目とは異なる軌道を描いて飛んできたことは既に察知済みだ。
そう、あれにより不自然でない範囲内ならばブレが生じるということを実証できた。

ところがどうだ。

今回、日下部さんが打ったボールがこなちゃんに命中したということは、
4回目の時に日下部さんが打ったボールも、
必然的にこなちゃんへと当たっていなければならないはずだ。
何故ならば打球に多少軌道のブレが生じたところで不自然でない範囲内だから、
4回目の時、例え私がこなちゃんの動きを止めていたとしても、
私のすぐ隣に落ちるくらいならばこなちゃん目掛けて飛んで行く、
つまりは、こなちゃんの前に立っていた私に命中することが十二分に可能だったはず。

しかし実際のボールは、私の真横数メートルの地点へと落ちていた。

……見えてきた気がする。
朧げではあるが、この状況を打破するに必要なルール群が。

108 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/10(月) 05:34:06.05 ID:qN00JTYl0

それからも私は幾度となく繰り返す時間を過ごしていき、
現在がもう何回目なのか、或いは何日目で累計何時間目なのかも解らなくなった頃に、
ようやくにしてある程度の信頼性と確証を持つ情報を得ることができた。

恐らく、ルールは以下の通り。

1.大前提として、超常現象的で不可解な事態が引き金となって命を落とすことは有り得ない。
  例えば、誰も触れていない筈の包丁が突如ポルターガイストのように飛んできたり、学校の壁が急に崩れたり、
  などという現象などが是に含まれる。

2.被害者のこなちゃんが居て、加害者の誰かが居る。
  加害者からすればそれは偶発的な事故で、故意ではなく過失の末、こなちゃんの命を奪ってしまう。
  つまり、人の意志が介在する場所に限って事故が引き起こされることになる。

3.以上から、こなちゃんは何らかの事故の末に命を落とす。
  こなちゃんが一人でに命を落とすという自殺めいたものは、今のところ存在していない。

109 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/10(月) 05:34:26.94 ID:qN00JTYl0

4.私は事故を引き起こさない。つまり、直接的な加害者にはなり得ない中立的な立場を保てている。
  つまり、私が差しだした食事や私が生んだ過失では、直接的に死へと繋がらないことを示している。
  ただし私の判断ミスなどによって致命的な連鎖が起こり、新たな加害者を生み出す要因にはなり得る。
  また補足として試してはいないことであるが、私が殺意を持つなどで故意的に挑んだならば話は別なのかもしれない。

5.こなちゃんが巻き込まれる事故に、赤の他人が巻き込まれることはない。
  また事故が起こっても加害者は無傷、もしくは軽傷で済むことがここまでの通例となっている。
  是を逆手に取れば、電車やバスなどの多くの人と乗り合わせる公共交通機関に搭乗している間は、
  衝突事故などを引き起こさないことになり、敢えて私が事故に巻き込まれる立ち位置を取れば、事故は避けられる。

6.同じ行動を採れば展開も固定されるが、違う行動を採れば展開が覆される。
  展開が覆っても、花瓶が落ちたりなどという事象は残る。
  また、こなちゃんの死について誰かに語ると大きく流れが崩される為に、ここでは禁忌としておく。

7.事象は不自然でない範囲内では揺れ動く。

121 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/10(月) 06:00:21.31 ID:qN00JTYl0

これだけのルール群を会得してさえいれば、無闇矢鱈と奔走していた最初の頃に比べ、
一回で辿りつくことのできる地点が遥かに引き延ばせるし、労力の消費も少なくて済むようになってきた。
さらには失敗したところで失敗した点についてはその時点で解決策を得たも同然なので、
そこまで繰り返さなければならないというペナルティさえ支払えば、次は確実に一歩先へと進める。

事態は、確実に前進している。
けれどもここまで来ても未だに不明な点があるのも事実。

どうして、私だけがこう何度も繰り返し続けなければならないのか。
どうして、こなちゃんは何度も死に続けてしまうのか。

そうなのだ、対処法がわかっても根本的な部分が不鮮明なのだ。
そしてもう一つ致命的なのが、次なる一点。

これは何処まで行けば勝ちなのか。
或いは、何処まで行けばこの絡め捕られたような時間の束縛から逃げ切れるのか。

ゴール地点がわからない。
これがどうにも辛くて痛くてどうにも孤独で、
さながら一筋の光もない完璧な暗闇に堕ちたトンネルを、延々と歩き続かされている気分だ。
失敗して始点へと戻る度にじりじりと首を真綿で締めるかのように、
視認できない絶対的な力が私の意志と決意を削ぎ落としに掛かってくるし、
これではまるで背中に取り憑きか細い声で囁き続ける怨霊を背負っているようなものともいえる。

だけどね。
私は決してあきらめないから。

130 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/10(月) 06:49:20.71 ID:qN00JTYl0

―― キーンコーンカーンコーン

こなた「じゃあ私、パンを買ってくるね」

慌ただしくなり始めた教室内の空気に倣って、こなちゃんも席を立った。

私はそれを見送りつつ、お父さんにアニメの録画と宿泊の許しを乞う旨のメールを送り、
それからこなちゃんが帰ってくるまでの空いた時間でゆるりと教室内を見渡した。
ちなみにこの行動に特に意味は無く、これは私の単なる癖のようなもので、
そもそも教室内に置いてあるオブジェクトの位置なんて私が毎回見回すものだから、
目を閉じても目を開けたままでいるのと同等な象を描きだせるし、皆の動きだって手にとるように分かる。
生徒達が開いている教科書やノート類のページ数と内容や、黒板に消し残った文字、次に誰が何を口にするのか。
その全てを憶えてしまった。

正直、飽きたなどという言葉どころか、
あらゆる語彙を用いたとしても表現しきれないほどに見続けてきた光景。
私はまたも、ここへと戻ってきている。

それにしても温かいな、この時間は。
季節の移ろいが激しいとはいえ、一瞬にして冬の最中から引き戻されればその差は歴然となるようだね。

私は軽く屈伸で体をほぐし、自身の心意気を確かめてみる。

さあて、これで何回目だったかな。
ま、考えたところでわからないけどね。
取り敢えずは、今回も前回地点まではのんびりとやっていこうかな。

135 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/10(月) 07:01:35.81 ID:qN00JTYl0

すまん!全力で書いてはみたが朝までに終わらなかった
途中から設定に凝りたくなって資料を漁りだしたのが敗因だったようだ
もうじき出なきゃならんので、続きは帰ってきてからにさせてください

それからオチはちゃんと分かりやすい形でつきます
「俺達の戦いは〜」ってことはありませんが、初期案と後期案の二つあるのでラストカットだけ二通り書くかも
ともかく4日間も引っ張ってしまい心苦しい限りです

140 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/10(月) 07:16:36.81 ID:qN00JTYl0

あぁぼーっとして言い忘れてた
保守ありがとうございます
前スレの方も未だに生き長らえさせて頂いているようですが、
黄泉手側の方も無理はなさらないでください
それではまた

297 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/11(火) 03:30:31.05 ID:AazOP2iF0

おはようございます
早く寝て0時には起きようと思ってたが、体がついていかなかったみたいです

それから上の方の>>130で比喩か事実かで議論が割れてますが、答えは”事実”ですね
だからこそ柊つかさがメールで宿泊とアニメの予約という”対策”を即座に打てているわけで、
他にも風景を見飽きる程に暗記したり、心身的余裕を保てる力が身に付いているわけです

行間を空けまくるのは俺の癖ですし、日数を端的に書くよりは時間の流れに深みが出るかなと考えた故の描写なので、
このような文章になっていますが、労力的な関係で描写不足が否めないのも正論なので間違いではありませんね
だけどこれ、一日一日を描写してたら終わりが見えないのでマジで勘弁して

というわけで再開していきます

307 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/11(火) 03:55:12.71 ID:AazOP2iF0

こなちゃんとお弁当を取り換えての昼食と歓談。

みゆき「よって、スパゲティーが赤方偏移していないという証明に至ります」
かがみ「なるほどー!」

赤方偏移、かぁ。
確か光のドップラー効果によって赤方偏移は起こるわで、
つまるところ遠ざかる天体から発せられた光は波長が引き伸ばされて長波長側へとシフトし、
波長が長い色、要するに赤色の方へと近づく、というのが赤方偏移だったはず。
そこから発展して「何故、天体が遠ざかっているのか」という観点に目を付け、
宇宙が膨張しているという理論を導き出すための要素にもなっているとか。
まあスパゲティーを例えに使うのは、ゆきちゃんなりの冗談なんだろうけど。

ちなみに、これは前に読んだ科学雑誌によって得た知識だ。
もう数える気にもならないほどに時間を繰り返していくなかで、
私は自我を保つ為の手段の一つとして、読書に興を注ぐという方法を編み出したのだ。
最初の頃はこなちゃんの護送だけで手一杯だったのだけれど、
何度も繰り返せば割と自由な時間はあるものだし、本を読むのに場所は選ばないしね。
それにゆきちゃんに訊ねれば色々と面白い本を教えて貰えるから。

つかさ「それじゃ、私は図書室に行ってくるね」

昼休みにやるべきことは、お弁当の交換と図書室で騒ぐ男子との交渉。
そのついでにまた本を借りなきゃね。
前回読み掛けていた推理小説の続きも気になるし、また長い時間が空いちゃったんだからさ。

あ、勘違いしちゃ駄目だよ?
私がこなちゃんのことを蔑にしている訳じゃないんだからね。
不必要な部分ではのんびりと構えて、必要な場面が来るまでは温存しておかなきゃ私が持たないもん。
それにもともと、私はのんびりしているって言われてたわけだし、少しは大目に見て欲しいな。

313 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/11(火) 04:10:35.51 ID:AazOP2iF0

カウンター内の図書委員に会釈を送り、
室内の奥で騒ぐ男子生徒達との交渉を手早く済ませる。
実はこの男子生徒達、後にお世話になるんだよね。
これから先、私がこなちゃんと一緒に居る為の理由付けとして、
私がこなちゃんのアルバイト先で働くことになるんだけど、
アルバイトから夜遅くに帰る羽目になって不良っぽい人達に絡まれちゃったとき、
偶然にも遭遇して助け出してくれることになっている。
もし彼等が来るのを待たずして不良に驚いた私とこなちゃんが慌てるように逃走すると、
結果的に不慮の事故に巻き込まれてこなちゃんが命を落としてしまうのだ。

つかさ「図書室では静かにしようね」

というように私が伏線の確認を行っている間に、この件は一件落着した。
次は推理小説、推理小説っと……。

つかさ「あったあった」

前回は上巻を読んだので今度は下巻だね。
小説の内容は超能力を持って生まれた主人公が、
ふとしたことから法で裁けない相手を独自に裁いていくというものだけど、
何やら不穏な空気が漂っていたので結末が気になっていたんだよね。

つかさ「これ貸してください」

届けを提出してまたも図書委員に会釈を送り、私は屋上へと向かう。

319 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/11(火) 04:34:01.39 ID:AazOP2iF0

屋上は程よい冷たさを孕んだ涼風と、秋晴れがもたらす穏やかな陽光に満たされていた。
私が景色を楽しむようになったのも大分前からだ。
昔の私はそのような余裕すら持てていなかったのだけれど、
人工物だと創りが単調な為かどうにも見飽きてしまので、
このようにして自然が創りだした風景を息抜き程度に楽しむことにしている。
流体力学だったかな。
風の流れを完璧に予測するのは現時点では不可能とされているらしいので、
そういった傍目には解らない非常に複雑な理の恩恵が、
いくら眺めても飽きない力を与えているのかもしれない。

「Oh!」

私が景色を楽しみつつ、こなちゃんから貰ったパンを齧っていると、
昇降口から独特の抑揚が響いてきた。
パティちゃんと、その隣にはひよりちゃんが居ることになっている。

「あ、こんにちは」

振り向いて挨拶。
屋上へ来たのは彼女とここで会っておくことで、
後々のアルバイトの時に影響するという理由も含まれている。
まさか私が景色を楽しむ私欲のためだけに、こなちゃん達の傍を離れるのは怠慢というものだから。

それに、ちょっと変な話なんだけど。
何だかこの二人と話していると……不思議と元気が湧いてくるんだよね。

324 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/11(火) 04:48:41.25 ID:AazOP2iF0

パティ「悩みごとデースカー?」

この二人がここに居るのは、ひよりちゃんがパティちゃんを誘ったからで、
何やらゆたかちゃんとみなみちゃんをテーマにした自作漫画の打ち合わせをしたい、との為だ。

つかさ「そんなんじゃないよ」
ひより「屋上で一人、遠くを見つめる姿……」
パティ「マンガにおいては大抵、ジサツの前兆ですネ!」

ひより「ちょっ、先輩に向かってそんなことを言っちゃ駄目ッス!」
つかさ「あはは、心配しないでー。私はパトリシアさんの思ったようなことはしないよ」
パティ「リアリィ? ま、アメリカンジョークですからネ。
     それから、ワタシのことはパティと呼んでください」

つかさ「うん、そうするね、パティちゃん」
パティ「good!」

パティちゃんの快活な声は元気を分け与える特性があるのかもしれない。
そう思えるくらいに、底なしな明るさに満ち溢れている。

ひより「ですけど、一人で居るなんて珍しいですね?」
パティ「悩みごとナーノ?」

326 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/11(火) 05:03:58.05 ID:AazOP2iF0

ずっと前に初めてここを訪れた時、私は本当に悩んでいた。
パティちゃんのジョークが、間もなくの現実として起こり得るくらいに。
もしかすると、あの時に送られた言葉を耳にしたくて、
私が始点に戻る度、何度もここへと足を運びたくなるのかもしれない。

パティちゃんは、かつては本当に何も言えなかった私の行動を今回も目にするなり、
ハキハキとした声で語りだしていった。

パティ「ニホンジンはなんでも一人で抱え込みすぎるネ。
    パティはニホンジンのそういうとこ、良くないと思いマース。
    もっとカイホー的に、Openデス!
    ナサケはヒトのためナーラズ、困ったトキはお互いさまダトおもいマスからネ」

つかさ「ありがとう、でも話せないんだ」

こなちゃんの線が崩されてしまう為に、パティちゃんには喋れないのだ。
しかし慣れたとはいえ、相手を拒絶しなければならないルールには未だに納得がいかない。
私が辛いのではなく、手を差し伸べてくれる相手を突き放さなければならないから。

パティ「ソーデスカ、残念でーすネ」

パティちゃんは表情を曇らせたものの、一瞬で快晴へと至ってから宣言した。

「悩み事なんてササイ、ようはハートの持ちようデス。
 始まりがあるものには終わりがあるように、いつかきっときっとカイケツしマス!
 でも、諦めたらそこで試合シューリョーかもしれまセン」

330 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/11(火) 05:14:23.31 ID:AazOP2iF0

大空で輝く太陽のような声に耳を傾けながら、
私は過去、初めてここを訪れた時のことを回想していった。


『でも、どうやったって勝てない試合だってあるんじゃないの?』

反射的に返した言葉は、他者を威圧してしまいかねない自嘲気味で高圧的なニュアンスを存分に含んでおり、
私は今になってそれを下級生にぶつけてしまったという自分自身に気付き、嫌気が差した。
けれどもパトリシアさんは笑顔に一滴の翳りも交えずに、独特な抑揚で述べていく。

『ノーノー、違いますヨ。バイオリズムみたいなものデス。
 浮いては沈み、沈んではまた浮いてくるイッテーのシューキみたいなやつネ。
 一日という時間、地球のコーテン、波のオーライ。
 それらはキソク正しいものデスが、いつもいつも全部がゼンブ、perfectな正弦波を描くとは限りマセン。
 デコボコのスッタモンダなものだってありまスシ、むしろそういったもののホーが私達の身の回りには多いとパティは思いマス。
 カンソクが不可能で長期的なものなんかだと、タイテーはそうなんじゃないかとカッテにナットクしてマスカラ』

ドーデスカー?
と、パティちゃんは私を覗き込んでから続けた。

『ですが、バランス。ゼロサムゲーム。プラスとマイナスでゼロなんデスヨ。
 幸福の水と不幸の水はジンセーにおいて等量だと聞かされたことがアリマセンカ?
 ソーデス、足し合わせればゼロになるようにできてるハズ。ずっとマイナス続きなんてことアリエマセン。
 ダカラ悩みなんていつかカイケツするものネ、元気だしてクダサイ!』

334 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/11(火) 05:32:46.08 ID:AazOP2iF0

気が引き締まるようだ。
あの時と寸分違わぬ状況だというのに、今でもこのひと時には励まされる気がする。

パティ「運のようなものですヨ! 今は悪いとき、ダイサッカイというヤツね!」
ひより「運気とは流れ紛れ移ろうものッス。明日には明日の風が吹くかと思いますから」

ひよりちゃんも眼鏡を正しながらパティちゃんに加勢しているが、
少しだけ早口で、どことなく焦っているようにも見える。
あの時の私は、二人にこうまで言わせてしまうほど落ち込んでいたのかな。
などと冷静な感慨に浸れるのは、今の私が表面上だけの演技を施しており、
内面は落ち着き払っているからだ。
二人を騙しているようで申し訳ないけれど、これもこなちゃんの為だからどうしようもないんだ。

パティ「ジブンの為だと信じてガンバッテくだサーイ!」
ひより「うんうん!」

温かな声援を存分に受け取った私は、

つかさ「ありがとうね、二人とも」

本心からの礼を述べ、改めた気持ちと共に昇降口を下っていく。
直射日光が注いでいた場所から室内へと戻ると相対的に暗くなるので、
その静かな中で自分へと強く言い聞かせた。

次こそは、この時間を抜け出してやる。
こなちゃんを助け出してみせるから。

338 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/11(火) 05:56:19.82 ID:AazOP2iF0

後はいつも通り、決まりを破らないように過ごしていく。
5時間目の体育を越え、6時間目が過ぎ、掃除と帰りのホームルームを終えて、
やがては下校となって駅でゆきちゃんと別れて、電車で私達の住む場所へと移動。

そして幾らか歩くとT字路が見えてくるので対処を施す。

つかさ「最近のことなんだけどー」
こなた「ん、どうしたの?」

つかさ「実は私、アニメに嵌ってるんだ」

この一手だけで後の複数手へと繋ぐことができる、今のところ最良の策だ。
先ずは交通事故を回避しなきゃ。

かがみ「え、いつから?」
こなた「へぇー、つかさがねぇ。それで、どんなものを見てるの?」
つかさ「今日の夕方に放送される物で、タイトルは――」

伝える。

こなた「私も見てる見てる!
     そういや、今日は録画し忘れてたから急いで帰らねばと思っていたんだっけ。
     しかしつかさがアレに興味を示すとは……案外、女性向けのものが好みなのかな」

343 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/11(火) 06:06:48.35 ID:AazOP2iF0

つかさ「だったら私の家においでよ、録画もしておいたからね。
     それから……私が途中から見始めたせいもあると思うんだけど、
     話の内容が私には難しくて一度みただけじゃちょっと分からないし……。
     こなちゃんに解説してもらえたなら嬉しいかなぁって」

こなた「任せんしゃい!」

あとは見終わった後に、
”途中から見始めた”の伏線を用いてこなちゃんの家へ原作漫画を借りに行き、
そこで読み嵌ったフリをしてついでに宿泊すれば万事問題なかったはずだ。
私のお父さんには既に宿泊する旨のメールも送っていたから了承は手早く貰える。
ついでに最近アニメに嵌っているという線も、後のアルバイトへ入るための動機として繋げられる。

……よし、ここまで抜かりはないみたい。
あとは、こなちゃんが巻き込まれないにせよ交通事故は防がなきゃね。

手筈を整えつつも私はT字路を右に折れ、

かがみ「つかさー、そっちじゃないでしょー? 通学路で迷子になる気ー?」

お姉ちゃんから囃されるものの気に留めずに交差点に立つ。
すると丁度、目の前をトラックが通過していった。
これでお互いに回避完了。

つかさ「あ! うっかりしてた〜」

こうして私達は、こなちゃん連れで自宅へと戻ることになる。
うん、全てはシナリオ通りだ。

354 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/11(火) 06:30:23.73 ID:AazOP2iF0

黒々とした実をつけた榊の木が見えて来た。
それは自宅の庭に植えてあるもので、風流を取り入れるという目的のみならず、
時折、お父さんが枝を折っては神棚に供えたり、祭事に用いたりしている。
いわゆる神木に値するものなのだと、お父さんに教えられたっけ。

私は小さな頃からその榊を眺めて育ってきたためか、
今ではそれを目にすることでようやく、自宅へ帰り付いたという実感を抱くようになっている。
ひょっとすると神木というだけあって、神通力じみた何かを備えていたりするのかな、
などと思えるくらいに不思議と落ち着けるのだ。
だから好きなんだよね、榊は。

かがみ「しっかし、つかさがアニメに嵌るとは信じ難いな」

お姉ちゃんがボヤきつつも、玄関扉を開いて私達を招きいれた。

つかさ「けっこう面白いよ?」
こなた「とかなんとかいいつつ、かがみもこっそり見てるんじゃないの?
     ああいうの、好きなんでしょ?」
かがみ「なーに適当なこと言ってんのよ。
      ま、あんた達が観るんなら付き合ってあげてもいいけど」

このように髪をくるりと巻き取っているのは、お姉ちゃんが照れを隠す時の癖だ。
にしても、周りを観察することに徹すると、本当に色々と見えてくるものらしい。

360 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/11(火) 06:50:03.18 ID:AazOP2iF0

こなた「だぁー違うって! だから、ここであそこでアイツを操ったのは……」

僅か30分程度の鑑賞会。
先の約束通り、こなちゃんが流暢にストーリーを語ってくれてはいるが、
私は曖昧で微妙な相槌を打ち続けるように努め、理解できていないようなフリをしておく。

かがみ「これ、確か漫画もあるんでしょ?
     口で説明するんじゃなくて、こなたが貸してあげたらいいじゃん」
つかさ「そうななんだー」
こなた「ほほぅ、よく御存知ですね」

かがみ「余計な詮索はやめい」

一呼吸。

こなた「かがみの言う通りかもしれないねぇ、良かったら貸そうか?」
つかさ「あ、じゃあ今からこなちゃんのお家に行ってもいい?
     時間がたつと説明してもらったのも忘れちゃいそうだし」

こなた「そう? つかさがいいのならいいよー。
     かがみはどうするの?」
かがみ「なぜ私に振った?」

こなた「寂しそうだなーって」
かがみ「そのくらいで寂しがったりしないわよ。私は遠慮しとくから」
つかさ「ええっと、それじゃあ私は私服に着替えてバッグを取ってくるよ」

数えきれない程に経験してきたため、ここまでのやり取りで過ちが生じるはずもなく、
私は皆に内緒でお父さんへ宿泊の許しを貰うと、
漫画を詰めるはずのバッグに着替えと日用品を叩き込んでからこなちゃんと共に家を出た。

365 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/11(火) 07:07:52.65 ID:AazOP2iF0

季節がらか早くも眠る準備を始めた夕暮れの街。
私とこなちゃんの二人は、ぽつりぽつりと言葉少なに歩いている。

途中、電信柱の上で作業中のお兄さんが目に付いたので、

「お疲れでしょうけど、お仕事頑張ってくださいね!」

と声を掛けて落下物を防いでおく。
こんな労いの言葉一つだけでも、事故という結果が変えられるのだ。

「知り合い?」
「ううん、全然。大変そうだなって思ったから」
「まぁー、力仕事だしねぇ」

こなちゃんが深々と頷き、
またも私達は穏やかな街並みを楽しんでいく。
そういえばいつからだったんだろう。
相槌どころか、自然に会話を交わせるほどの余裕が身に付いたのは。

ふと思い返そうとしても、膨大な経験量に埋もれてしまった小さな数字など、
掘り当てることは到底叶わなく、そして意味すらもないと溜息が出そうになったので、
私はやっぱり必要なこと以外は考えないようにと、こなちゃんとのアニメ議論に勤しんでいった。

369 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/11(火) 07:29:07.07 ID:AazOP2iF0

つうかすまん、続きはまた夜にさせてください
かなり話が込み入り地味になってきましたが、
さながら、時間があると拘りたくなるタチのせいでして、
最大限の努力はしてみるつもりなので、
高良みゆき

今日はちゃんと寝たので、今夜は昨日より早く再開するつもりです
本日やった所は元々1レスですっ飛ばす気でいた部分なので、全然動きがなくてすまんかった
次は善処してみます、では

500 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/11(火) 22:59:00.80 ID:AazOP2iF0

山影に斜陽が過半をうずめ、幻想的で温かみのある朱を織りなす頃、
十字路を直進するべくこなちゃんと共に歩いていた私は、
やはりこの場の景色に目を奪われてしまった。

十字路の右手方向。
そこに架かっている橋の向こう、遠く遠くで、輝き爆ぜる真赤な太陽。
ここからそれが臨めるのは、奇蹟的にも長い直線が続く道の造りとなっている為であり、
射してくる柔らかな光が住宅街という建物に捕われることもなく、私達をまざまざと照らしだし、
さらに路傍には季節はずれの彼岸花が一本だけ添えられており、
紅の華と朱の光が混じり合っているそれは一層に美しく彩られ、
味気ない人工物だらけの世界に、文字通り紅一点の際立つアクセントを生み落としている。

「綺麗だよね、ここ」

そう漏らさずにはいられなかった。
或いは、誰かによって私がそう言わされたのだと表現してもいいくらいに自然に口から零れた。

景色を楽しむのは大好きだ。
そのなかでもここの景色が一番、心惹き付けられる。
この瞬間が一番だ。
それはもう、ずっとずっと眺めていたいくらいに……。

「つかさ?」

不意なこなちゃんの呼びかけによって、私は辺りを窺いなおした。
いけないいけない、そうだよね。現を抜かしている場合じゃないよね。

「ごめんね、それじゃ行こっか」

再び、肩を並べて護送の役目を担い始める。

508 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/11(火) 23:19:21.86 ID:AazOP2iF0

「ただいまー」
「お邪魔します」

鞄をくるりと回すこなちゃんに続いて、私も敷居を跨いだ。

「何か飲む? お茶でも入れるね」

返答も待たずに靴を雑多に脱ぎっぱなして台所へと姿を消したので、
私は自分の靴を並べるついでにそれも揃えて後を追った。
今の私がこうも落ち着き払っているのは、
この時点では事故が起こらないことが分かっている為だ。

今日こなちゃんの家に泊まるのはアルバイトへの布石の為であり、事故の防止が目的ではない。
そもそも、こなちゃんの自宅で引っ切り無しに事故が起こるとすれば、
流石の私も毎日一緒に過ごすことは不可能なので、手の打ちようがないというものであり、
結果的に詰み状態となってしまう。この点については、不幸中の幸いというものだろう。

といっても事故が絶対に起こらない訳でもなく、現に過去では、
調理中のゆたかちゃんの手からすり抜けた包丁が、こなちゃんの頸動脈を切り裂いたこともあった。
つまり、そういう日だけ何らかの対策を施せばいい。

この場所で事故率が低い理由としては、事故を起こす因子が希薄な点が挙げられる。
そう、事故が起こるには何らかの過失が条件となるからである。
例えば廊下を走る男子だったり、気が逸れたのか運転を誤った車だったり、疲れた仕事従事者だったりだ。
ゆたかちゃんもそうじろうおじさんも温厚な為に騒ぎ立てる真似などを頻繁には起こさないし、
火事などの事象は家族が巻き込まれる為に発生せず、
強盗犯などの荒唐無稽なものは、”故意には起こらない”というルールに縛られるので有り得ない。

つまり、私が家にさえ送り届けてしまえば、後は睡眠時間を削って毎朝迎えに来るだけで大抵は乗り切れるのだ。
だからこそインドア派なこなちゃんがアルバイトという危険に乗り出す点を防ぐことは、絶対なのである。

515 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/11(火) 23:34:48.88 ID:AazOP2iF0

居間でお茶を頂いていると、

――のまのまイェイ、のまのまイェイ

扉が開き、

「のまのまのまイェイ!」

イヤホンを耳に嵌めていたゆたかちゃんと目が合った直後、
そのまま巻き戻すかのように厳かに扉が閉まっていった。

「恥ずかしいーっ!」

扉越しの悶絶。
こなちゃんしか居ないと踏んだ上での行動だったんだろうな。
そしてこれから先も私がこなちゃんの家を訪れる度、
ゆたかちゃんはこういったことを繰り返していくので、
何度目にしても思わず吹き出しそうになってしまう。
そんな私の様子を見取ったこなちゃんが、苦笑い気味に申し出てきた。

「あー……私が懐メロ集をゆーちゃんにプレゼントしたら嵌っちゃったみたいでさ……。
 まあその、見なかったことにしてあげて」

私も笑いを堪えながら、それに頷いた。

521 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/11(火) 23:59:35.15 ID:AazOP2iF0

こなちゃんの部屋へ招かれるなり、矢継ぎ早に手渡された漫画を眺めていく。
この漫画も幾度とない時間の流れのなかで復習してきたので、
ストーリーどころかコマ割りやセリフの一字一句すらも憶えてしまった。
それでも読むという事象は伏線の為にも固定しておかなければならないので、
パラパラと機械的に捲り風景として楽しみつつも、
隣の部屋から聴こえてくる鼻歌に身を委ね続けていた。

やがてこなちゃんが時計を気にするようになり、
「夕食を作らなきゃいけないからさ」
屈伸運動をしてみせたので、
「それじゃあ手伝うよ」
すかさず私も次の手を打ちに掛かる。
これはギブアンドテイクを利用した駆け引きなのだ。

本当は嫌だ。
利得を狙いすました交渉なんて、この事態になるまで意識したこともなかったから。
けれどもここで私が調理を担い、そうじろうおじさんに貸しを作らなければ、
私がこなちゃんにすら秘密裏に進めていた宿泊という計画が崩れてしまう。
もし今夜宿泊するという流れが逸れれば、連鎖的にアルバイトの提案にまで漕ぎ付けられない。

「でも、いいの?」

再度訊ねられる。

「うん。私って料理好きだし。それに漫画を借りるだけだと、なんだか気が引けちゃうしね」
「う〜ん、つかさは良い子だなぁ〜。嫁にしたいくらいだよ」

……ごめん。

525 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/12(水) 00:24:11.03 ID:vkNgaNQQ0

こなちゃんがシチューの調理に取り掛かり、
私は合びき肉や卵を取り出してハンバーグの作成に就いた。
手間は掛かるもののシチューとの相性も悪くはないし、
明日のお弁当に持ち越せるので労力を減らせるし、
なにより、料理工程がそれなり複雑な為に、
私自身が作業を楽しめるというささやかなオマケも付いている。

料理は好きだ。

いくら時間を繰り返そうとも、
私自身に染み付いた腕と勘と経験だけは持ち越せる。
だからより美味しいものを作ろうと努力することは決して無駄ではなく、
それを毎回、口にするこなちゃん達が前回以上に喜んでいるように見えるのは、
私の思い過ごしではないと思う。

もしかすると。
私がそう思い込みたいというだけなのかもしれない、という考え方も否定はできないけれど。

「ほんとに家庭的だね、つかさは」
「お母さんに教えてもらったからね」

思い込みじゃないはずだ。
でも確証はない。
ここはそういう場所だから。
形としては何も残せないから。

この不安は、やはり完璧に拭い去ることができない。
それはもう、私が毎回同じ思いに駆られることからも歴然だから。

537 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/12(水) 00:55:39.91 ID:vkNgaNQQ0

それから一時間後。
沸々と食べごろ告げるシチューに合わせて、
私もハンバーグを焼き上げ終えた。

狭いキッチンにはシチューの甘い香りとハンバーグの食欲をそそる香ばしい匂いが立ち込め、
私とこなちゃんは味見と称した一足先のつまみ食いを行い、
その出来栄えと健闘をハイタッチとして称えあった。

「お、なんだか美味そうな匂いがするじゃあないか」

密に誘われる蟻のように登場したのは、こなちゃんのお父さん、そうじろうおじさんで、
こなちゃんによれば毎回、夕食の完成した瞬間にふらりと忍び寄っては一番に席に着くという。
おじさん曰く、お父さんの威厳にして特権というものらしい。

「って、つかさちゃんも作ったの?」
「はい、遊びに来ていたので少しだけ手伝わさせて貰いました」
「そうかぁ〜、もうずっとうちに居てもいいぞぉ〜」

冗談を飛ばすおじさんに、こなちゃんが犯罪者予備軍との烙印を押した。

「こ、こら、父親に向かってそんなことを言うもんじゃないぞ」
「だって目が危ないんだもん」
「生まれつきだ」
「皿は運ばないから、そのくらい自分で並べてね」
「断る」
「なら食べなきゃいいじゃん」

賑やかな家族だと心から思う。
私のうちも変わらないんだけどね、今が大変なだけでさ。

540 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/12(水) 01:21:51.40 ID:vkNgaNQQ0

「いただきまーす」

未だに気不味そうなゆたかちゃんも加わり4人での夕食。
最初は食器の用意を渋っていたおじさんも、
結局は小躍りしながら並べていたあたりから、地の温かさという性格が滲み出していた。
なんとなく本質的な部分は私のお姉ちゃんに似ている気もするな。

それにしてもこの後に私は宿泊を願い出るわけだけど、
了承を得る前の段階にして全ての準備を済ませているなんて、まるで押し掛け女房みたいだよね。
こなちゃんは笑って許してくれるけれど、逆に私がそういうことをされたら少し怖いと思っちゃうかも。

「料理、上手なんですね」

ゆたかちゃんが小分けしたハンバーグをリスのように齧り、遠慮がちに微笑みかけてきた。
その顔を見ていると先の出来事を蒸し返してみたいという衝動に駆られたものの、ここは我慢するべきだと自戒させる。

「俺の作るものとは雲泥の差だな……」

おじさんの食中毒ハンバーグには注意が必要だ。
もっとも、大抵の料理当番はこなちゃんが担うので、
自害禁止ルールによって大方の安全は保たれている訳だけど。
と、そのこなちゃんも口を開く。

「冗談抜きで、プロになれるんじゃないの、これ?」

やっぱり、人に料理を食べて貰えるのは嬉しいな……。
各々の感想に満足感を覚えたので私も一口含んでみると、
滑らかに拡がった肉汁の旨味とソースの絡みが、
今までで最高の出来栄えであることを私に確信させてくれた。

548 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/12(水) 01:42:37.13 ID:vkNgaNQQ0

食事を済ませ食器を片付け、
晩という時間を泉家総出で楽しんでいるうちに夜も更けてきたので、

つかさ「あの、よかったら今夜、泊めていただけませんか?」

極めて自然な流れを装って、不自然な交渉を試みる。

つかさ「なんだか凄く楽しそうなので、帰りたくなくなっちゃって」
こなた「私は別にいいよー」
ゆたか「うん、私も」
そうじろう「俺も別に構わないけど、つかさちゃんのご両親には?」

つかさ「既に断ってます」
こなた「へぇー……え、いつの間に!?」
そうじろう「なら一応、俺からも連絡は入れておくから」

言い残すなり、おじさんが親の務めとばかりに電話口へ向かった。
一見には難もなしのスムーズに進んでいるようにも思えるが、
過去、ここに辿り着くまでで膨大にして物凄い計算の繰り返しだった。
さらにこの後も何度となくこなちゃんの所へ泊まり込まなければならないので、
その辺りに繋ぐ調整にも辛酸を舐め続けさせられる結果となっていたのだ。

これからの家庭内での事故を防ぐための料理と交渉。
よし、これでこっちのほうは大丈夫なはずだ。

つかさ「ごめんね、突然言い出しちゃって」
こなた「ぜんぜん構わないよ。むしろ楽しそうだしさ」

やがて、こなちゃんの提案により泉家に私を含めた4人で、
多人数参加型ゲームに没頭していくこととなった。

554 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/12(水) 02:06:16.24 ID:vkNgaNQQ0

走り抜けるように夜が加速していき、
ゆたかちゃんが目を擦り始め、おじさんがお開きを宣言し、
私がお風呂を頂いてこなちゃんの部屋へと戻った頃には日付が変わっていた。
元から夜型であるこなちゃんは依然として陽気なままで趣味に勤しみ、
私は暫く適当なグッズや漫画を手にして足場を固めたあと、ようやくにして切りだそうと決意した。

「こういうのを集めるのって、凄くお金が掛からない?」

私が戦うウェイトレスのフィギュアを手にしながら訊ねたところ、
こなちゃんがそれを受け取り、フィギュアの腕をくの字に折ってポーズをとらせてから述べた。

「まあ、それなりにね」
「そうかー……」

私は意味ありげに視線を泳がせる。

556 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/12(水) 02:12:59.84 ID:vkNgaNQQ0

「どうしたの?」
「私も集めてみたいかなって」
「そりゃどういう風の吹き回しでぇい!?」

ちょっと訛った言動と共に、こなちゃんの瞳がキラリと輝きだし、
未知のものでも観測する探求者のような眼光をまき散らした。

「あのね、最近になって嵌ったっていってたよね? 実は――」

私が適当に見立てた情熱を語るのに比例して、こなちゃんの気迫も高まっていくのが伝わってくる。
これらも全て、寸分違わぬ手筈通りに進んでいるのが嬉しく、そして安心もできる。
だけど同時に虚しくもあるのは偽りではない。

それでもこなちゃんが前回辿り着いた48日目の地点まで生き永らえるのなら、
私の小さな心情の解れなど、この状況に変化を加えるべくの動機としては不十分だ。
何があっても諦めないと、私に、こなちゃんに、お姉ちゃんに、そして皆に誓ったのだから。

こんなところで投げだしてたまるか。
不条理なんかに負けてたまるか。
私は絶対に諦めない。
望まれない結末なんか認めない。

そう、何度も宣言したのだから。

568 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/12(水) 02:38:58.52 ID:vkNgaNQQ0

私の熱意を受け取ってくれたのか、こなちゃんが結論を下した。

「だったらさ、うちのコスプレ喫茶で働いてみない?
 時給も結構いいしさ、つかさなら何の問題もなく入れると思うよ」

これで残る手順は、こなちゃんとパティちゃんの二名による推薦だけで、
それによって面倒な手筈をすっ飛ばして仕事に就ける。
つまり、即座にこなちゃんの護衛を担えるということに繋がっているわけだ。
パティちゃんと遭遇していなければその推薦手順に時間が掛かり、
結果として1日目に働けなかったことが災いし、こなちゃんが事故に巻き込まれるのだ。

しかし一旦、中へと潜り込めれば、あとは指導員にこなちゃんが付いてくれるので、
言うまでもなくシフトも同一に組めることになり、
従って自然を装って常に一緒に居ることが可能となる。
無論、店内だけではなく、行きと帰りの送迎も含めてだ。
さらにはアルバイトで貯めたお金も色々な使い道が望める。
パティちゃんには屋上で悩んでいた私の理由が”お金のこと”だと思わせれば、
何の疑いもなく私の肩を持ってもらえる。
こうやって他者の心を利用するのは辛いけれど、背に腹は代えられないんだ。

……うん、やっぱりこれ以上にいい方法はないよね。

「ほんと? でも私に出来るかな……面接とか苦手だし……」
「だいじょーぶだよ、だったら推薦してあげるからさ」

よし、アルバイトへと繋がった。
これで今日やるべきことは一通り終了かな。

ようやくにして一日分の肩の荷が下りたことで、自然と溜息が洩れてしまった。
前回地点まで、あと47日か。焦らず気長に行こう。

577 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/12(水) 02:52:22.04 ID:vkNgaNQQ0

お腹すいたので少し休憩します
それからオチの推測についてですけど、例えるならばミステリーの犯人当て
登場人物が10人居たとして読み手が同数いた場合、
各々が別々の犯人を指せば、一人は確実に犯人を当てることが可能です

今までそういった物語を書いたこともありましたが、
俺としては根拠なき当て推量よりも、根拠ありきの誤謬をしてもらいたいかなと
それなり必死に世界観を作り込んででも、そこは結末に比べて軽視されるから悲しいんですよね

という独り言です
オチの先読みより、物語の意味を探って欲しいかなというのは俺の我儘かもしれませんけれど
そういった意味では>>561は面白いと思いますよ

596 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/12(水) 04:48:07.91 ID:vkNgaNQQ0

こなちゃんが命を落とし、私が始点へと戻されるたびに焦りが募るものの、
初日さえ乗り切れれば頭で考えるまでもなく体が勝手に動いていくので、
そこから先は単なる流れ作業でしかない。

こなちゃんと共に学校へ通い、リスクの高い場所では必要時だけ事故の流れを逸らし、
下校路を共に歩き、家に送り届け、その日が問題のない日ならば私も自宅へ戻って早寝し、
翌日ともなれば今では当たり前ともなった早起きでこなちゃんを迎えに行き、登校し、
またもグルグルグルグルと廻り続けるベルトコンベアのように日々を過ごしていく。
かつては欠陥だらけだったそれも、今では殆ど滞らずに進み続けるようになったし、
その精度も見違えるほどに上昇している。

アルバイトでは適度に手を抜き、失敗を重ね、アニメ等の知識が不足していることを演じ、
意欲ある新人を装ってはこなちゃんに教えを乞う呈で護衛の理由付けとし、
こなちゃんが遠出する際には私も共に出掛けることで様々な困難を乗り越え続けいき……

次第に気温が下がり、街が活気を失い、手が悴むようになり、
こなちゃんがカタログを眺める頻度が増していき、
ようやくにて前回地点の48日目まで辿り着くことができた。

そう、48日目なのだ。
前回、ここまできた私がどうしてミスを犯したかといえば、48日目が12月30日に当っていたからだ。
即ち、こなちゃんは冬のコミックマーケット75へと赴いたのである。
それを避けるべく、私は前2日をアルバイトやら引っ張りだした理由やらで半ば無理に引き留めることは出来たものの、
最終日だけはどうしても止めることが叶わず、というよりこなちゃんの目的は端から3日目の男性向け同人だったようで、
私の制止を振り切って逃げるように会場へと向かい、ようやくにして追い付いた私が目にしたのは、
突如停止したエスカレーターの揺れによって雪崩と化した人波に押しつぶされた末、ぴくりとも動かなくなっていたこなちゃんだった。

大勢を巻き込む事故は起きない。
そう思っていた私が唯一にして読み違えた点が、全ての人間が過失を抱いている場合、
要するに全員が加害者になり得る場合、これが覆されてしまうという点だった。

602 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/12(水) 05:18:18.62 ID:vkNgaNQQ0

詰んだ
完全に冬コミの存在を忘れていたから今日はここまでしか書けそうにない
誤魔化そうとも思ったが、こなたが居る以上は避けて通れない道だからどうしようもなかった
それで連鎖的に今年分の資料漁りをしなければならず、時間が掛かるので続きは夜にさせて欲しい
というか本当にすまん、自分自身でもこんな軽率な見落としをしているとは予想外だった

858 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/12(水) 23:18:59.75 ID:vkNgaNQQ0

こんばんは、そしてごめん
かついだ仕事を片付けなきゃならないので今日は書く時間がない
それに眠い

それから上の方の推量云々で波浪警報出てますけど、
俺が望んでいたのは「鏡に立つ少女」っていう物語を書いてた時のスタイルなんですよね
あれの現行スレでの雰囲気を探って貰えれば俺が言わんとしている事が伝わるかと思います
しかし、このスレでは要らぬ火種を注がぬよう、これ以降の先読みは禁じらせてください
どっちみち、現時点で世界観・オチ・意味を根拠付きで見通すことは不可能に近いですしね

>>577で書いたのは鏡の時に話を理解して貰えたのか今一つハッキリしなかったという反省点と、
上の方での比喩/事実議論による描写不足を受けての発言です
というわけで考察や予想を書きたい人には悪いけど、それらは禁じらせてね、ごめんね

それから絵師の人もありがとうございます、後でお礼述べようと思って忘れてました

887 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/11/12(水) 23:58:43.72 ID:vkNgaNQQ0

ぶっちゃけ最初の数レスだけで終わるつもりで
あとは惰性で適当に書きつつ、舐めた態度で放置してたものが保守されるとは思わんかった
じゃあそれなりに納得のいく物語に軌道修正するのが礼儀だよね、と真面目に書いたら今度は長引く
難しいもんだね

まあコミケ問題すら無かったら残りはそんなに長くないし、
残りは書いてからvipにでも建てます、またまた保守して貰う訳にもいきませんから
パー速はいつまでも残るから恥ずかしいしね



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