泉こなたが欝病になった。


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1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/26(日) 20:23:52.30 ID:PTX50AvRO

私、柊かがみにとって、いつもと変わらない日常、のはずだった。
下校途中、双子の妹である柊つかさの言葉を聞くまでは。

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/26(日) 20:34:55.29 ID:PTX50AvRO

「やっと冬服でも暑くなくなってきたよね〜」
「……うん」
いつもの帰宅路、私は双子の妹であるつかさと喋りながら歩いていた。といってもほとんど私が一方的に話し掛けているに等しい。
いつもは『えへへ〜、そうかな〜』と、イラッと来るかホノボノさせるか微妙な返答をするつかさが変に言葉少ななのが、いつもと違っているところだった。

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/26(日) 20:44:38.43 ID:PTX50AvRO

「……ねえ、つかさ」
トーンを落とした私の声に、さすがにつかさが反応する。
「え?な、なあにお姉ちゃん」
「あんた、私に何か隠し事してない?」
いつものつかさなら、この程度のブラフに単純に引っ掛かり、慌ててある事無い事喋りまくり……になるはずだった。
しかし、次に出てきた妹のセリフは私の予想を遥かに越えていた。
「お姉ちゃん……気が付いてた?最近のこなちゃん、変だって」

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/26(日) 20:51:46.86 ID:PTX50AvRO

「はあ!?」
我ながら間の抜けた声だ。
「こなたが変って……むしろ変じゃないこなたが想像できないわよ?」
つかさは珍しくきっぱりと顔を横に振る。
「お姉ちゃんの言いたいことはわかるよ。だけどそうじゃなくて……なんて言うか、最近のこなちゃんは前のこなちゃんと違う」
自信無さげなようで、しかし確信ありげな妹の横顔に、ひどく厳しいものを見て、なぜか私の心の中に不安が沸き上がってきた。

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/26(日) 20:58:40.36 ID:PTX50AvRO

自然と歩調もゆっくりとなり、なぜか私たちは囁く口調で会話を交していた。
「つかさ、具体的に教えてほしいんだけど、こなたのどこがおかしいの?今日も昼休みいっしょにいたけど、おかしな所なんてなかったわよ?」
「お姉ちゃんは隣のクラスだから、昼休みのこなちゃんしか見てないだろうけど……」
つかさが言い淀む。どう表現しようか迷ったような表情。

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/26(日) 21:07:24.31 ID:PTX50AvRO

まずね、表情が違うの。
いつもこなちゃん、授業中は居眠りしてるか、私に変顔見せて笑わせるか、とにかく表情が豊かだったでしょう?

それがね……最近違うの。眠そうなのは前と同じなんだけど、ずっと同じ姿勢でずっと同じ場所を見つめてる。

違う。あれは『見て』るんじゃない。単に目が動いていないんだよ。

体も目も、顔も固まってるの。なんだかこなちゃんの仮面をつけた別の人がいるみたいだよ……。

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/26(日) 21:18:22.49 ID:PTX50AvRO

「な、何言ってるのよつかさ」
私は笑い飛ばそうとした。自分の中に芽生えつつある何かをいっしょに吹き飛ばそうとして。
「多分ネトゲで徹夜が続いて、疲れてるだけだって!それに、昼休み会ったけどいつものこなただったじゃない。『いつもよりお弁当のオカズ頑張ってるかがみん萌え〜』な〜んて言ってたりさ」
あはは、と自分でも空虚とわかる笑いが口から流れる。

「お姉ちゃんも薄々感じてないかなぁ?」

つかさの声はいつものように間延びしていて、そして響きは暗かった。

「あれはこなちゃんが努力して明るく振る舞ってるんだよ。気がついてた?こなちゃんの目が、全然笑ってないこと」

私の双子の妹は、私が漠然と目を背けていた事実を、いとも簡単につきつけた。

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/26(日) 21:36:32.72 ID:PTX50AvRO

「……わかった。確かに最近のあいつは変よ。前とは違うベクトルでね」
私は表情を改めた。いつの間にか私達の足は、自宅の神社まで五分という場所で止まっていた。
『ベクトルって何だろう?』と顔に書いてあるつかさに向けて話を続ける。

「で、つかさ、あんたこなたに何か特別な事があったと思ってる?何か本人からも聞いてない?」

「特別にこなちゃんの周りで変わったことがあったとは思わない」

珍しくつかさはきっぱりと私の言葉を否定した。

「この前こなちゃんの家に遊びに行った時だって、おじさんはいつも通り面白かったし、ゆーちゃんも普通だったもん。お姉ちゃんだっていっしょに行ったでしょ?」

「んん、まあ……」

つかさの言う、こなたのお父さんの面白さに若干の認識のズレは感じるが、かがみも内心同意した。
特にこなたの家に変わった所は無かった。

「多分、変わったのは……こなちゃん自身な気がする」

秋の夕焼けの、赤と紫の狭間の中、私達姉妹はお互いの顔が黒いシルエットになるまでそこに立ち尽くしていた。

何か悪いモノが、私達に近づいてくる。そんな予感を感じながら、だけど自分の力ではどうすることもできない。

私達はまだ不安定な子供に過ぎなかったのだ。

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/26(日) 21:51:15.37 ID:PTX50AvRO

その夜私、柊かがみは夕食を手早く済ませた後、「あら?オカワリ無し?」という母のノンビリした声に生返事し、すぐ自分の部屋にもどった。

今から電話をする相手は眠るのが早い。時間が惜しかった。視界の端に不安そうなつかさの顔が映っていた。

携帯のカーソルを手早く目指す相手の番号に合わせ、ボタンを押す。

「まだ寝てないわよね……」

という私の不安は、思いがけずコール二回で出た相手の声で解消された。

『もしもし、かがみさん?高良です』

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/26(日) 21:59:05.64 ID:PTX50AvRO

「みゆき?夜遅くごめんなさい」

正直夜の八時が『夜遅い』とは思い辛かったが、相手は学年トップの成績を維持しつつ11時には就寝する人物である。

『かまいませんよ。正直に言いますと、私、かがみさんからの連絡を待っていたんです』

ドクン、と心臓が妙な鼓動を打ち、私は携帯を無意識に握り直した。

「話たかったのは……」『泉さん、の事ですね』

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/26(日) 22:08:26.48 ID:PTX50AvRO

みゆきの返答に、またあの嫌な予感が胸をよぎる。
おかしい。神社の娘でありながら、私は予感なんてものを信じない現実主義者だ。
そのはずだった。

「長くなると悪いから、単刀直入に聞くわ。みゆき、今あなたたちのクラスで何か変わった事は起きてない?」

イジメ。最初に浮かんだ、しかし陳腐にすぎる考えをまず聞く。

『……私が把握してるかぎり、ありませんね』

相手が学校の校長でも疑えるセリフだが、相手は3年B組を(先生も含め)まとめる学級委員長、高良みゆきである。多分信用に足る言葉だ。

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/26(日) 22:16:25.51 ID:PTX50AvRO

「ごめん、変な事聞いて」

『いいえ……。かがみさん、つかささんから泉さんの事を聞いたのですね?』

相手の頭の回転の早さが、こういう時は恨めしい。私の方が肝心な話をする心の準備が整っていない。

「みゆき……こなた、何かおかしい?」

自分の弱気を叱咤する意味も兼ねて、私は敢えてストレートな質問を放った。

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/26(日) 22:25:00.54 ID:PTX50AvRO

無言。
沈黙が胸を圧迫する。リビングからかすかに聞こえてくるテレビの音と姉達の笑い声が、まるで別世界からのものに思える。

『……私も正直、正確な事はわかりません。それに勘違いかも知れません』

みゆきが慎重に言葉を選んでいるのがわかる。同時に事の重大さも。

『だからこれはあくまでも私の推測だと思ってください』

どうしてこんなに喉が乾くんだろう?唾も飲み込めないんだろう?

『私は泉さんは、今欝病にかかっていると思います』

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/26(日) 22:38:20.88 ID:PTX50AvRO

「こなたが……欝病?」

どんな不吉な言葉が来るかと身構えていたら、不意に背中をナイフで刺されたような、そんな意外に過ぎる言葉。

「ちょっ、ちよっとまってよみゆき、こなただよ?あのこなただよ?有り得ないよ、何言ってるの?」

笑い半分、動揺半分の裏返った声で、私は迫る現実を否定する。

『かがみさんは欝病の事を誤解してるみたいですね……』

みゆきの声が、平静を通り越して冷たく響く。きっと携帯電話のせいだ。

私は顔を合わせず電話に頼った自分を呪う。

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/26(日) 22:44:41.28 ID:PTX50AvRO

欝病は『心の風邪』と言われるくらい、誰にでもかかる病気です。

かがみさんが、泉さんに限って有り得ないとおっしゃったのは、普段の泉さんが、いわゆる欝というイメージと正反対な人物だと思っているからですよね?

明るく、マイペースで、自由奔放、好きな事はとことん追求して、嫌いな事は一切しない、ストレスさえ楽しみに変えるポジティブな女の子。

それがかがみさんから見た泉さんなんですよね?

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/26(日) 22:53:21.48 ID:PTX50AvRO

「……そうよ、そう思ってるわ。」

オタクで、それを隠さずむしろ積極的にそれをアピールする変人。

スポーツ万能な癖に部屋の中でネトゲやアニメに明け暮れている快楽主義者。

物欲が強くて、そのためならあっさりコスプレ喫茶のバイトを始める行動力の持ち主。

私をいつもからかう、あの眠たげな目と、猫のように笑う口。

かがみんはツンデレだね〜。

宿題見せてかがみさま〜。
かがみ、かがみ、かがみ、

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/26(日) 22:59:25.68 ID:PTX50AvRO

『そんな人でも、欝にはなるんです』

受話器越しのみゆきの声が、私を現実へ引き戻す。

「でも、でも……なんで?こなたに何があったの?」

携帯を握り締める手が、自分の声が、細かく震えている。その無様も、今は気にする余裕が無い。

『理由は必ずしもあるとは限らないんですよ』

みゆきの声が気のせいか、私を哀れんでいるように聞こえた。

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/26(日) 23:04:35.06 ID:PTX50AvRO

・・・・・・

「おーい、こなたー、晩御飯食べないのかー」

「ごめ〜んお父さん、今日なんか食欲なくてさ〜。当番なのに悪いね〜」

「お姉ちゃん……体の調子大丈夫?なんならお薬あるよ?」

「心配ないよ、ゆーちゃんお風呂先入っててくれたまへ〜」

「うん……」

・・・・・・

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/26(日) 23:13:32.61 ID:PTX50AvRO

先ほど私は、欝は『心の風邪』だと言いましたよね?

あれは例えでは無いんです。感染こそしないものの、欝病は科学的な『病気』なんです。

かがみさん、セロトニンという物質を知ってますか?

これは脳の中で分泌される物質で、これが脳内神経のレセプターと結合することにより、ヒトは快感や幸福感を感じることができます。

ところがそのセロトニンが理由も無しに分泌されなくなってしまう事があるんです。

人が落ち込むのには理由がありますよね?
親兄弟に怒られる。
勉強がうまくいかない。
恋愛が成就しない。
食事が取れない。
欲が満たされない。

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/26(日) 23:27:32.76 ID:PTX50AvRO

『そんな特別な理由も無しに、なってしまう場合もあるんです。それが欝病です』

携帯の向こう側から淡々と聞こえてくるみゆきの声に、私は応えることすらできず、いつの間にか部屋の床に座り込んでしまっていた。

『実は私、以前から泉さんに変化があった事には気づいていたんです』

『……何ですって?』

汗で滑る携帯を、力を入れて握る。

『黒井先生は薄々気づいていたようでした。最近まったくネットに接続してなかったそうですからね。パティさんにも、最近アルバイトに行ってない事は確認済みです』

『……ぅして』

『保健医の天原先生にも相談済みです。専門だけあって、私の話が正しければ間違いないだろうと。近々家族の方に……』

『……どうして…』

『もちろん専門的な診察は必要でしょうが……どうしました?かがみさん』

『どうしてアンタは……いえ、こなたは……』

『……かがみさ『どうして私に何も、何も言ってくれなかったのよぉ!!』

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/26(日) 23:53:13.04 ID:PTX50AvRO

・・・・・・

フトンの中に潜りこんで何時間たつだろう。心も体も疲れきっているのに一向に眠気が訪れない。

苦痛だ。朝フトンから出るのも、学校へ行くのも、友人に笑顔を作るのも、授業を受けるのも電車に乗るのも家に帰るのも。

「はぁ……、どうしちゃったんだろうねぇ、私……」

そしてこれからどうなってしまうのだろう。頭を抱えて体を丸める。世界中からなにかの罰を受けているようだ。

助けて、誰か助けて。

つかさ、みゆきさん、ゆーちゃん、先生、ゆい姉さん、お父さん、

お母さん、

かがみ……

・・・・・・

52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/27(月) 00:44:06.17 ID:FPQFvS95O

私は携帯のスイッチを切ると、服もそのまま、サイフをポケットにこじ入れ部屋を飛び出した。
「どうしたのかがみ?」
「お姉ちゃん!?」
母の怪訝そうな、つかさの悲鳴のような声を後にして玄関を出る。

こなたに、こなたに会わなくては。今すぐにでも。

私は駅に向かって走りだした。

・・・・・・

「……かがみ?」

54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/27(月) 00:54:36.14 ID:FPQFvS95O

秋も夜は冷える。薄い部屋着では震えがくるほどだったが、私は構わず走って走って走り続けた。

息が荒い。受験勉強のせいで最近運動不足だ。汗が目に染みる。

……汗?

違う。涙だ。

私は泣いていた。泣きながら走っていた。

わかっていた。私にみゆきを責める資格なんてない。
どうしてこなたの異変に気がついてあげられなかったんだろう。
朝の通学路で、行き交う車を見つめる虚ろな目。いつもの猫のような笑顔とは違う、気弱な笑み。帰り道、別れたあと、ふと見せた不安定な後ろ姿。
みゆきも先生も、つかさも気づいていたのに、どうして私だくが気づいてあげられなかったんだろう。
泣きながら走る私は、何度もみゆきからかかってくる携帯電話に気が付かなかった。

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/27(月) 00:59:55.37 ID:FPQFvS95O

・・・・・・

「……出ない」
みゆきは携帯電話を不安気に見つめていた。
「かがみさん、もしかして泉さんの所に……」
ガタン、と音をたててみゆきはイスから立ち上がった。
「今は、今は会ってはダメです!!」

みゆきの顔は蒼白になっていた。

・・・・・・

60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/27(月) 01:08:49.72 ID:FPQFvS95O

・・・・・・

私はまだフトンの中で丸くなっている。
眠れなくても、まだ部屋の中のほうが、フトンの中のほうがマシだ。

笑顔を作らなくて済む。元気な振りをしなくて済む。『泉こなた』でいないで済む。
少し休もう。
休んで、また明日から元気な泉こなたにならなくては。
お父さんやゆーちゃんや、つかさやみゆきさんや、かがみに心配かけないよう、元気にならなくては。

『すいません!!夜遅くにすいません!!』
『あれ?柊先輩』

「……かがみ!?」

61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/27(月) 01:13:54.21 ID:FPQFvS95O

私は戸惑った表情のおじさんとゆーちゃんを追い越す勢いでこなたの部屋の前に立った。

走り通しで荒げた息を、深呼吸で落ち着かせる。

「……こなた、入ってもいい、かな?」
多分、普通の声を出せた、と思う。


『……どうぞ、かがみ』

63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/27(月) 01:23:19.69 ID:FPQFvS95O

私が扉を開けて見たのは、泉こなたの『残骸』だった。
乱れてクシャクシャになった長い髪、ヨレヨレで皺だらけの服、落ち窪んだ眼。青ざめた顔で、無理な笑顔で、それでもこなたは私に話しかけた。

「どーしたんだい、かがみん?急に私に会いたくなっちゃったのかな?」

その声だけがいつものこなたで、それが逆に痛々しくて、そして腹が立った。

「こ、この……」

「うん?」いつもの口調でこなたが聞く。

「この……バカじゃないのアンタ!!」

後ろで、おじさんとゆーちゃんの息を飲む声が聞こえた。

67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/27(月) 01:37:25.98 ID:FPQFvS95O

笑顔のままで固まっているこなた。
私はその意味もわからず駆け寄って、同い年にしてはあまりにも頼りない華奢な肩を掴んで想いを爆発させた。
「なんで、なんで私に言ってくれないのよ!!
友達でしょ!?親友でしょ!?心が辛い時に頼らないでどうするのよ!!
みゆきだって、つかさだって心配してたのに!!わ、私は今日まで気づいてあげられなかったけどさ!!
私はニブいかもだけど、アンタの力になって……」

そこまで一気に言って、そして気がついた。

もうこなたは笑っていなかった。虚ろな瞳で、私と、そしておじさんとゆーちゃんを見ていた。
つかさの、『こなちゃんの仮面をつけた他人』という言葉を思いだし、私は僅かに身を引いた。

こなたは肩を掴んだ私の手からゆっくりすり抜けると、今まで聞いた事の無い、他人の声で告げた。

「ゴメン、帰って」

そしてゆっくりした動作で、フトンに潜りこんだ。
おじさんもゆーちゃんも、そして私も、一言も喋れなかった。

69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/27(月) 01:59:02.31 ID:FPQFvS95O

・・・・・・

自分と世界の合間に半透明の膜があって良く見れないし良く聞けない

『先生、こなたは、こなたは今どうなっているです?』

『お嬢さんは現在、亜昏迷という、自分の意思を表出できない状態にあります』
白い服を着たおじさんとおとうさんが白い部屋でお話ししているけどわたしはここで何をしてるんだろう

『な、治るんでしょうか?』

『入院加療が必要ですね』

『入院、ですか…』

『ご本人の意思が確認できれば任意入院という形態もとれるのですが、お嬢さんのような状態ですと、本人の同意が得られないので、医療保護入院という…』

白い服を着たおじさんが難しいお話しをしてるけどわたしは入院なんてしたくないなぁでも看護婦さんがわたしのうでにちゅうしゃをしていたいけどこ ころがらく に な っ て

70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/27(月) 02:18:03.41 ID:FPQFvS95O

・・・・・・

気がつくと私は奇妙な部屋の中で横になっていた。
リノリウムの床に、カバーの掛けられていないフトン。
体に力が入らないので目を動かすと、鉄性の頑丈そうな扉と、部屋の隅のほうにやはり頑丈そうな洋式便器。そして壁の南側全面が鉄格子。
牢屋?……違うな、病室かな?服がなんだか病院っぽい服だ。
とにかく静かでよく休めそうだ。私は再びフトンに顔を埋める。
以前と違い、すぐに眠気がやってきた。
ゆっくり休まなくっちゃ。また、かがみやつかさやみゆきさんたちと遊ぶために。
私は再び目を閉じた。

・・・・・・

72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/27(月) 02:29:46.40 ID:FPQFvS95O

「どうして、こなたと会えないんですか!!」
私は思わず声を荒げた。
「か、かがみさん、落ち着いて」
「お姉ちゃん……」
みゆきとつかさが後ろでなだめるが、私は止まらなかった。
精神病院の看護婦…女性看護師は困ったような表情で私を説得する。
「今、泉様は保護室という隔離病室に入っておりまして、家族の方でも精神状態の安定のため、面会できないんです」
「声をかけるくらい、一目見るくらいいいじゃないですか!!」
「申し訳ありませんが、泉様と今現在面会や手紙を出せるのは弁護士だけになります」
「でも!!」

「お姉ちゃん!」
つかさの聞いたことのないほどの大声が、私を止めた。
唇を強く噛む。
「……わかりました、ご迷惑をおかけしました」
私は看護師に頭を下げると、すぐ病棟を後にした。
後ろで、みゆきとつかさも挨拶している声がした。

76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/27(月) 02:40:41.71 ID:FPQFvS95O

秋の風が落ち葉を巻き上げ、髪の毛を揺らす。もう厚着しないと外を歩けない季節だ。
私とつかさ、そしてみゆきは病院前のバス停のベンチに座っていた。
「……こなたがこんな風になっちゃったのは、私の責任ね」
「それは違います」
待っていたとばかりにみゆきがフォローする。
私はそれでも言葉を止められない。自分を傷付ける言葉を発するのはこんなに甘美だとは。
「こなたは危ういバランスを保ってたのよね。自分の状態を正直に言えば、私たちやおじさん、なによりも、ゆーちゃんに心配をかける事になる。だから無理をして隠していた」
みゆきも黙る。その通りだからだ。
「みゆきは黒井先生や天原先生と相談して、もっとソフトに解決するつもりだったんでしょう?」

77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/27(月) 02:51:43.73 ID:FPQFvS95O

みゆきが重い口を開く。
「……この病院の、神経内科外来に通院を薦めるはずでした。だれでも精神科、というだけで抵抗があるでしょうし」
神経内科と精神科がほぼ同じである事を、私はこの件で初めて知った。
「それが私の考え無しな特攻でパァ、ね」
私は偽悪的な口調で自嘲する。
「かがみさんがそう考えて楽になるなら、そう思っていたほうがいいです」
しかしみゆきの独り言のような遠回しな非難の言葉に、私はキッと顔を上げた。
しかしみゆきの顔にあるのは疲労と憂いだけで、私はまた言葉を失った。

つかさがポツリと言う。
「こなちゃん、早く退院できるといいなぁ……」

80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/27(月) 03:21:26.30 ID:FPQFvS95O

「あったりまえよ!早く退院してもらわなくちゃ。私こなたにゲーム貸したまんまなんだから!」
気分とは裏腹に、次から次へと言葉が溢れ出す。
「ま、深夜アニメの録画は私がやってあげるけどさ、どんだけあるっていうのよね。
みゆきは授業のノート担当ね!アイツ一夜漬け得意だからね。
つかさは差し入れ担当よ!病院の食事じゃ満足できないだろうし、売店じゃチョココロネも」
「……お姉ちゃん」
「何よ?勘弁してよ。こんな所で泣き出すのは」
「違うよ……泣いてるのはお姉ちゃんだよ」

・・・・・・

「あ、かがみに借りたゲーム、まだクリアしてないや。早く全クリしてデータ渡さないとなぁ。待っててね、かがみん」

「でも、今は……」

「……少し、眠りたい」

・・・・・・

145 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/28(火) 01:11:17.64 ID:zLHwy6RTO

・・・・・・

「……さん。泉こなたさん」
(……)
「おはようございます、主治医の××です。気分はどうですか?よく眠れてますか?」
(……)
「看護婦さんに聞いたんですけど、昨日の夜ご飯も、今朝の朝御飯も召しあがらなかったみたいですね。食欲ないですか?」
(……)
「お薬も飲みたくないですか?多少、今より辛いのは良くなると思うんですが」
(……)
(……うるさいなぁ)

148 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/28(火) 01:17:49.13 ID:zLHwy6RTO

「泉さん、一応病院としてはですね、入院されてる患者様が、栄養失調になるとか、ちょっとご家族の方に言えない訳なんですよ」
(……)
「栄養も採れない、薬も飲めないでは入院してる意味も無いですしね」
(……)
「で、このままだと、泉さんをベッドに寝てもらって、ベルトみたいなもので体を固定して、点滴で全部血管から入れないといけなくなるんですよ」
(……)
(……?)

151 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/28(火) 01:30:02.56 ID:zLHwy6RTO

「点滴を無意識に抜かないよう、手足も固定するようになりますし、おしっこも寝たままできるように、バルーンカテーテルっていう、チューブみたいなので出すようになるんですね」
(……)
「ただね、これは僕たち、できるだけやりたくないんですよ。関節や筋肉も固まってしまうし、苦痛も多いし。聞いた事ありますかね?エコノミークラスシンドローム、あれにかかるリスクも高いですしね」
(……)
「どうでしょう、泉さん。頑張って口から栄養と薬取ってみませんか?それとも点滴入れて、おしっこもチューブから出すようにしますか?」
(……)
(……ヤダ)
(……それは、嫌だ)
「まいったな……、どうする?」
「そうですねー、今からご家族に電話して許可もらいますか」


「……ます」

「え?泉さん、何ですか?」

「口……から……食べま……」

153 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/28(火) 01:39:31.49 ID:zLHwy6RTO

・・・・・・

「お姉ちゃん?」
つかさの声で私は目を覚ます。
「……あ?つかさ?おはよ」
「また机に座ったまま寝ちゃったの?風邪ひくよ」
心配顔のつかさ。最近朝はいつもこのパターンだ。
以前はいつも朝弱い双子の妹を起こすのは私の役目だったのに。
「……ゴメンつかさ、毛布掛けてくれたのね、ありがとう」
朝一番の声にしても、自分でも弱々しいとはっきりわかる。

こうして私、柊かがみの最近の日常はまた始まった。

154 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/28(火) 01:52:43.77 ID:zLHwy6RTO

「また勉強したまま机で寝てたの?」
朝の食卓、六人がひしめく部屋で、お母さんが心配そうに私に声をかける。
「うん……」
たっぷりジャムを塗った割りに味気無く感じるパンを無理矢理呑み込んで、私はうなずく。
「受験近いから無理ないけどさ〜、体壊しちゃったら本末転倒だよ〜」
まつり姉さんが正論を語るが、なんだかいつも間違ってる人から正しい事を言われると、妙にカンにさわる。
「……ごちそうさま、いってきます」
パンを半分残して、私は立ち上がった。

「あ〜、かがみがパン残してるー!またダイエット?」
まつり姉さんの声にカチンと来た私は振り返ったが、目に入ったのは、心配そうなつかさの顔。
私は何も言わず、部屋から出た。

155 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/28(火) 02:03:02.46 ID:zLHwy6RTO

朝の通学路。
駅までの道を、つかさと二人で歩く。
吸い込む空気は冷たく澄んで、もうじき吐く息も白くなりそうな、そんな季節の変わり目。
「ちょっと寒いねぇ、お姉ちゃん」
私より半歩後ろを歩くつかさが、相変わらず間延びした口調で話しかける。
「……」
「あ……ご、ごめんお姉ちゃん、今頃寒いのは当たり前だよね〜」
えへへ〜と独りで話題を完結させる妹。

私は最低だ。自分の事でいっぱいいっぱいで、母や姉や、妹の気遣いにも無言でしか応えられない。

自分はこんなに嫌な、弱い人間だったのだろうか。

157 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/28(火) 02:14:43.90 ID:zLHwy6RTO

・・・・・・

「泉さん、朝ご飯もって来ましたよ。自分のペースでいいので、ゆっくり召しあがってくださいね」

(……)

トレイに乗った、発泡スチロール性の容器。プラスチックのスプーン。
お粥にペースト状の副菜らしきもの。

(……こんな、元が何かもわからないモノ、食べたくないよ……)

「大丈夫ですか、泉さん?もし食べにくければ、お部屋の中に入って、お手伝いしますよ?」

(……めんどくさい……食欲ない……)

「やっぱり、食べたくありませんか?」

(……食べないと……ベッドに縛られる)
(それは……嫌だ)

「……食べます」

・・・・・・

159 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/28(火) 02:30:24.62 ID:zLHwy6RTO

「おはようございます、かがみさん、つかささん」
電車を降りて高校まで歩く私達二人に、おっとりとした声がかけられる。
「あ、おはよ〜、ゆきちゃん」
「……おはよう、みゆき」
なんでもっと元気な声を出せないんだろう。まるで誰かに心配してもらうのを待っているみたい。
最低だ。
「ゆきちゃん、いつも早いのに、朝いっしょになるなんて珍しいね〜」
「ええ、最近寝坊してしまう事が多くて」
うふふ、と笑う声。
私は知っている。高良みゆきは寝坊するような人物ではない。
わざと遅れて、私達を待っているのだ。いつもは三人で、今は二人だけの私達を。
「……大丈夫なの?委員長が朝遅いと色々マズイんじゃない?」
「大丈夫ですよ」
私のとがった声も柔らかく受け流す。

160 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/28(火) 02:40:43.63 ID:zLHwy6RTO

・・・・・・

「なんとか三分の一は食べられましたね。頑張りましたね」

(……食べないと、縛られるじゃん)

「じゃあこれ、朝御飯の後に飲む薬ですね。袋破っておいたので、そのまま飲んでくださいね」

(……)

「泉さん?……やっぱり、飲みたくないですか?」

(当たり前だよ……)
(薬を飲むと、もっと体がダルくなる。考えもまとまらないし、ロレツも回らなくなる)
(……飲みたくないけど……)

「えーと、納得できないなら、無理には勧めませんけど」

「……飲みます」

(……縛られるのは……嫌だ)

・・・・・・

162 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/28(火) 02:50:23.27 ID:zLHwy6RTO

校舎までの短い道を、三人で歩く。
周囲には同じ学校の生徒達が、賑やかに笑いながら歩いている。
そんな中で、私達、柊かがみ、つかさ、みゆきの三人だけが無言だ。

『おっはよー、かがみん〜』

『いんや〜、レアアイテム探すのに、朝までかかったよ〜』

『ところで昨日の世界史の宿題、見せてくれまいか?』

『えー、冷たい事言わないでくれたまへ、かがみさま〜』
『お願いかがみん』『かがみ』「かがみさん?」「お姉ちゃん?」

気がつくと、知らない間に立ち止まっていた私を、つかさとみゆきが心配そうに見つめていた。
その二人の輪郭が歪む。

「……私、こなたに会いたい……」

163 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/28(火) 03:01:32.49 ID:zLHwy6RTO

自分の顔がくしゃくしゃに歪むのがわかる。目から涙が溢れている。肩が震えている。
恥ずかしい。
でも、胸の奥から大きな何かがせりあがって来るのを止められない。

「お、お姉ちゃん!?」
「か、かがみさん、ちょっとこちらへ……」

歩道の真ん中で突然泣き出した私を、つかさとみゆきが慌てて道端の方へ誘導する。
まるで迷子の子供のように、私は手を引かれながら泣き続ける。

「こなたに会いたい、会いたいよ……会って、会って……」

会って、どうしたいのだろう?

あの眠たげな目を、泣きボクロを、猫のような口を、長い髪を、華奢な体を。

「つかさ、みゆき……私、こなたに会いたいよぅ」
涙がアスファルトに落ちて、丸い黒い染みを作った。

168 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/28(火) 03:21:34.00 ID:zLHwy6RTO

・・・・・・

「泉さん、今日はお風呂に入りましょう?女の子は清潔にしないとダメですよ」

(関係ないよ……)

「一人用のバスだし、体洗うのもお手伝いしますよ?女性ばかりだから恥ずかしくないですよ」

(お風呂ってなんで入らなくちゃいけないのかな……)

「私といっしょに行きましょう?泉さん」

「……わかりました……」

(……看護婦さんのペースに逆らえないや……)

・・・・・・

169 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/28(火) 03:39:58.36 ID:zLHwy6RTO

「おっはよー、柊ぃー」
「おはよう、柊さん」
「お、おはよう、日下部、峰岸」

通学途中の道端で泣き出した私を、つかさとみゆきは体でかばいながらなんとか校舎まで連れてきてくれた。
つかさは自分まで泣きそうな顔をしながら、「わかってる、わかってるよお姉ちゃん」と私の手を握りながら繰り返していた。
まるで自分にも言い聞かせるように。

なんとか落ち着きを取り戻した私を、二人のクラスメイトが迎える。

「およ〜?目が赤いぞ柊ぃ、寝不足かぁ〜?」
「アンタの方が、受験生の割りに睡眠に満ち足りすぎてるのよ」
軽口を適当に受け流せるほど、私は余裕を取り戻していた。
(だけど、みんなは……)

そうだ。みんなはどうやって心の平静を保っているのだろう。
あんなに泣き虫だったつかさも、私の前では泣かない。
みゆきも、いつものように落ち着いた雰囲気だが、平気であるはずがない。
もっとこなたに近しい人は?
こなたのお父さんは?ゆたかちゃんは?
泣いて感情を晒け出して、ガス抜きしているような自分の幼稚さに、また自己嫌悪した。

170 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/28(火) 03:54:33.85 ID:zLHwy6RTO

「……どうしたの?柊ちゃん」
また自分の中に入り込みそうになった私を、峰岸の声が連れ戻す。
「な、なんでもないわよ?」
無理矢理笑顔を見せて、安心させようとする。

こなたもこんな風に、みんなに心配をかけまいと、一生懸命笑っていたのだろうか。
自分以外の全ての人に。

それは、世界中に向けて独りで演技をしているような、孤独だったのではないか?
「そう言えばよ〜、最近あのちびっ子見ないよな〜」
「!!」
「そういえば柊ちゃんも、最近お弁当、B組に食べに行かないわね。どうしたの?」
「し、心境の変化ってヤツよ」
「ま、アタシは柊といっしょに弁当食えて嬉しいけどな〜」
あはは、と屈託無く笑う日下部。私は力無く、「そうね……」と小声を出すことしかできなかった。

174 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/28(火) 04:23:12.10 ID:zLHwy6RTO

(やっと終わったよ……)
入浴を済ませて、長い髪を看護婦に乾かしてもらった後、やっと安住の地であるフトンの中に頭から潜り込む。
軽く編んでもらった髪は横になっても邪魔にならず、乾いた布の生地が肌に心地好い。
後の今日の義務は、二回の食事と三度の服薬だけだ。
(それが一番めんどうなんだけどね)
モゾッとフトンの中で、僅かに体を動かす。
ふと、ある人物の顔が頭をよぎる。
自分の肩を抱き、涙を浮かべて怒鳴るツインテールの美少女。

「……かがみには見られたくなかったな……」

もう、どうでもいいけどさ
・・・・・・

175 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/28(火) 04:39:12.74 ID:zLHwy6RTO

「なんだよ柊ぃ〜、今日はいっしょに弁当食べないのかぁ〜?アタシは寂しいぞー」
「みさちゃん、たまにはいいじゃない。最近ずっといっしょに食べてたんだし、ね?」
援護してくれる峰岸の柔らかい笑顔に視線だけで感謝を伝えると、私はC組の教室を出た。
しかしB組に行くつもりは無い。私は一人、屋上に向かった。
お弁当も持ってきていなかったし、学食も売店も面倒だ。何より、邪魔されず考え事がしたかった。

「……ふう」
屋上の床に寝転び、両手を頭に回して私は空を見上げた。
視界いっぱいに広がる秋の空。高く早い雲。涼しいと言うには、少し気温の足りない風。
「こなた、今なにしてんのかな……」
この綺麗な空が見える場所にいるのだろうか?それとも、やはりフトンの中の暗闇にだけ安らぎを見い出しているのだろうか?

176 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/28(火) 04:51:28.87 ID:zLHwy6RTO

「……そんなの、淋しすぎるじゃない」
だからむりやり、こなたをフトンから引きずり出そうとした。
私に何も隠すなと、応援すると、力になると言った。
でも、こなたにあの言葉はどう響いたんだろう?
みゆきは言った。鬱病は『心の風邪』のようなものだと。
風邪が励ましや、言葉で治るだろうか?必要なのは安静と治療だったのではないだろうか?
私のした事は、単にこなたに自分の正しさを押し付けただけ?それとも、私に秘密にしてることがあるのが許せなかっただけじゃないの?

「バカは……私じゃない」
秋の空がまた涙で滲んで見えた。私は今度は声も上げず、ただ涙だけを流し続けた。
ツインテールに結んだ髪と耳の間を、風で冷えた涙がたくさん流れて、消えた。

178 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/28(火) 05:21:42.11 ID:zLHwy6RTO

・・・・・・

昼ごはんも無理矢理半分ほど口に押し込み、薬も嫌々だが、飲めた。
「頑張って食べましたね」って看護婦さんは言ってたけど、ご飯って頑張って食べるモノだったっけ?
またフトンの中に潜り込む。
相変わらず薬は嫌いだけど、何も考えないで済むのだけはありがたい。

「私、これからどうなるんだろ…」
考えない事はありがたいと思った瞬間、皮肉にも一番考えたくなかった事で頭の中がいっぱいになった。
精神病院に入院したって、学校のみんなは知ってるの?先生も知ってたら、ネット仲間にも伝わってる?
これからずっと、『精神科に入院した事のある女の子』って思われるの?
ネットで『メンヘラ』と言われる人達が、罵詈雑言を浴びてたのを、他人事のように見ていた。
(今度は……私の番?)
いやだ、いやだ、いやだ。体から汗が吹き出し、動悸が激しくなる。違う、違う私は違う。助けてお父さん。助けてお母さん。助けて、かがみ……。
・・・・・・

236 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/28(火) 22:06:29.89 ID:zLHwy6RTO

昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴っても、私は教室に戻る気にならず、フラフラと廊下を歩いていた。
最近の私はいつもこんな風にアンバランスだ。
家ではいつ眠ったのかわからないほど机に向かい勉強する癖に、学校では平気で授業をサボッたりする。

「……これでも、一年の時は学級委員長だったんだけどね……」
日下部と峰岸は、戻らない私を不審に思っているだろうか。

当てもなく歩いていた私は、不意に後ろから声を掛けられた。
「あら?貴女は……3年C組の、柊かがみさん?」

243 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/28(火) 22:19:10.04 ID:zLHwy6RTO

五分後。

私は保健室の椅子に腰掛けていた。

「大丈夫ですか?もう気分は良くなりました?」
「……いえ、別に調子が悪くなった訳では」
「でも顔色が悪かったですよ?夜はよく眠れてますか?」
黒くて長い、ストレートの髪の毛を日本人形のように切り揃えた養護教諭、天原ふゆき先生は柔らかな口調で私に語りかけた。
「あの……今はゆーちゃ、いえ、一年の小早川さんは……」
「彼女ですか?今は来ていませんよ」
ホッとする自分を自覚する。あれから彼女やおじさんには会っていない。

244 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/28(火) 22:29:32.68 ID:zLHwy6RTO

「小早川さんの事を確認するということは……柊さん、まだ泉さんの件で、自分を責めているんですか?」
天原先生が、おっとりとした口調で話す。雰囲気やタイプはみゆきに似ているが、不思議に意地を張る気分にならない、穏やかさを漂わせている。
「あれは柊さんの責任ではありませんよ。高良さんや黒井先生から相談を受けて、すぐに動かなかった私のミスです」
はい、と日本茶が入った茶碗を私に渡す。
私は茶碗から上る湯気を見ながら、ポツリとつぶやいた。

「こなたを、壊したのは……やっぱり私だと思います」

245 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/28(火) 22:42:47.21 ID:zLHwy6RTO

・・・・・・

フトンの中でピクリとも動かないまま、それでも頭の中で思考だけが暴走している。

学校のみんなは今何をしているんだろう?
お父さんやゆーちゃんは心配しているだろうか?
ネトゲ仲間は、全然ログインしない私をどう思っているだろう?
バイト先の喫茶店のシフトは大丈夫だろうか?

やらなくちゃいけない事がたくさんあるのに、何もやる気にならない自分が情けなくて恥ずかしい。

いったい何が悪かったんだろう?私は甘えているのだろうか?それとも、本当に頭がおかしくなってしまったのだろうか?

「嫌だ……もうこんな私、嫌だよ……」

いつの間にか食い縛った歯の間から、か細い声が漏れた。

・・・・・・

250 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/28(火) 22:56:13.16 ID:zLHwy6RTO

「……つまり柊さんは、自分が泉さんを問いつめたせいで、具合を悪くさせてしまったと思ってるんですね?」
私のたどたどしい説明を黙って聞いた後、天原先生はそうまとめた。
「私……こなたがそんな風になってるなんて、全然気づいてあげられなくて……みゆきに話を聞いたら、じっとしてられなくて……」
湯気に顔を埋めながら、自分の声にビブラートがかかるのがわかる。
でも、泣いちゃダメだ。
きっと天原先生は、私が泣いても黙って優しく受け止めてくれるだろう。
だからこそ私は、唇を噛み締めて涙を出すまいとしている。
上手に慰めてくれるのを期待して泣くなんて、それこそ最低だ。本当につらい思いをしている友人は、今恐らく独りでいるのだろうから。
「落ち込んで、頑張ってるこなたにあんな事言うなんて……考え無しでした」
私の言葉に天原先生は目を細めた。

252 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/28(火) 23:07:22.69 ID:zLHwy6RTO

「こんな事を言うのは教師失格だと思われるかも知れませんけど」
天原先生は意外な言葉を口にした。
「私は柊さんの一件は、泉さんにとって、逆にいいタイミングだったのかも知れないと思ってたんですよ」

「え……?」
思わず耳を疑って、私は茶碗から顔を上げて天原先生の顔を見た。
「泉さんは頑張りすぎてたんです。柊さん、過剰適応と言う言葉を聞いた事がありませんか?」
「過剰……適応……?」
何かの本で読んだ記憶があるが、具体的な内容までは思考の表面まで浮かんでこなかった。

天原先生はゆっくりと、諭すように私に語り始めた。

256 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/28(火) 23:22:17.35 ID:zLHwy6RTO

人はそれぞれ、意識的にも無意識的にも、色々な役割を自分に課してますよね?

例えば私なら、陵桜学園の養護教諭、天原の跡取り娘、桜庭先生の友人、生徒達の優しい相談相手。
柊さんなら、受験生、柊つかささんの双子の頼れる姉、友人達のツッコミ役。

泉さんの場合は?
やはり受験生、買いたい本、やりたいゲーム、そのためのアルバイト、パソコンの中で待っているゲーム仲間。
それだけじゃなく、現実でも、家の家事、お父様の面倒、小早川さんの体調の心配、そして……

「みゆき、つかさ、そして……私……」

そう、一番大切で、心配をかけたくない、貴女達の『友人』

260 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/28(火) 23:31:45.04 ID:zLHwy6RTO

「泉さんは体こそ小さいものの、とてもバイタリティ溢れる子のようですね。小早川さんがよく話してくれていたので知っているのですけど」
「はい……アニメが大好きで週に十何本も観て、ゲームも得意で、パソコンでもずっと……」

「それが全て、ストレスになっていたとしたら?」

「ストレスって……?」
私はまだ天原先生が何を言おうとしているのか理解できなかった。
ゲームもアニメもネットも、みんなこなたの大好きな趣味で、なぜそれがストレスになるのだろう?

264 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/28(火) 23:45:15.26 ID:zLHwy6RTO

「それが、なるんです」
天原先生は言い切った。
「どんなに元気な人でも、持っているエネルギーは限られているんです」

小さな体で、誰よりも早く校庭を走り抜けた。

「普通、趣味や娯楽は費やしたエネルギーを補充するためのものです。でも、いつの間にか目的と手段が逆転してしまう事があるんです」

私と二人、本屋に買い物に行った。ポイント目的だよ、と笑いながら。

「アニメ好きな自分、漫画好きな自分、ゲーム好きな自分、ネット好きな自分、そして何より、明るく脳天気で、元気な自分」

かがみ。怒らないでかがみん。ねえ、機嫌治してよ、かがみ様。

「それがいつの間にか、全部演技になっていたとしたら?自分でも気づかない間に」

272 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/29(水) 00:05:49.82 ID:qGRDG4iWO

「過剰……適応」
私の呟きに、天原先生は「そうです」と応える。
「例えばですが……インターネットなどは、本来生活のためのツールの一つに過ぎないはずですよね?」
「はい……」
「それがいつの間にかツールに振り回されてしまう。パソコンや携帯電話がなくても、自分は自分であるはずなのに、いつしかそれが確信できなくなる」
アニメ好きなこなた、ゲーム好きなこなた、ネット好きなこなた。
「いつの間にか、ネットに接続されていないと、アイデンティティすら保てなくなる」
そんな自分に、依存していた?あのこなたが。

281 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/29(水) 00:21:45.15 ID:qGRDG4iWO

「要するに、こなたさんは全てに誠実でありすぎたんだと思います」
天原先生は、どこか哀しそうに話を続けた。
「普通の人なら、疲れたり飽きたりした時点で妥協したり、諦めたりします」
私のダイエットと同じ?と空気を読まない比喩が頭をよぎる。
「こなたは……多分、何かを失うのが怖いんです」
自分の手の中で、すっかり冷めきってしまったお茶を見つめながら、私は呟いた。
「一度手にしたものを失うのが怖いから、頑張りすぎちゃうんだと思います……」

声が、自分でもそうとわかるほどに頼りなくなっついた。
天原先生は、少し迷ったそぶりを見せたが、その言葉を口にした。

「……お母さんを失った時、多分泉さんは悲しかったんでしょうね……」

たとえ赤ん坊だったとしても、いや赤ん坊であるからこそ、その喪失感はどれほどのものだったんだろう。

287 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/29(水) 00:36:31.59 ID:qGRDG4iWO

「天原先生」
私は顔を上げて、そして胸を張った。
泣くのは独りになってからでも遅くない。それより、今は自分が知るべきことを知り、出来るべきことをやりたい。
「なんでしょう?」
「今、私がこなたのために出来ることは何か無いでしょうか」
「……それは、友人として、ですか?」
「はい」
言い切った私に、天原先生は僅かに唇を綻ばせた。
「言い遅れましたけど、あんな風に入院して、結果的に良かったと言ったのは、柊さんのそういう所のお陰だ、と思ってるんですよ」
「はい?」肩透かしを食らった気分になって聞き返す。
「私や黒井先生がいくら説得しても、泉さんは絶対自分の弱さを見せなかったでしょうね。貴女が怒鳴り込まなかったら、今頃もっと悪い結果になっていたかも知れませんよ?」

290 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/29(水) 00:49:35.03 ID:qGRDG4iWO

「わ、私怒鳴りこんだり……!」あ、してた。
赤くなって黙りこんだ私を、天原先生は優しい目で見つめた。
「柊さんが、泉さんの本当の友人なら、力になりたいなら、できる事はありますよ」
「そ、それって」「待って上げることです」
即答されて、とっさには言葉がでない。
「簡単すぎると思いますか?でも、これが一番難しい事なんです」
真面目な表情になった天原先生が続ける。
「どんなに入院が長引いても、状態が良くならなくても、焦らず、待っていてあげられますか?以前と同じ、友人として」

泉こなた。オタクで、ちっちゃくて、すぐ人をからかって、宿題も私頼みの、面倒で厄介な、私の、親友。

「……待ちます。焦らずに」

292 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/29(水) 01:05:57.96 ID:qGRDG4iWO

「……天原先生、どうもありがとうございました」
「いいのよ柊さん。ちゃんと教室の先生には、保健室で休んでたって言ってくださいね?」
「はい、失礼します」
ガラッ、バタン。

「……ふう」
ゴソゴソ
「ふゆきー、終わったかー?」
「学校では先生をつけてください、桜庭先生」
「固いことを言うな」
「それを言うなら、堅いこと、です」
「発音は同じだろう」
「よく眠れました?」
「ああ、途中から教え子の悩みを聞く羽目になったがな」
「それも担任の仕事の内でしょう」
「あとな、ふゆき」
「先生をつけてください」「その……ありがとう」

298 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/29(水) 01:22:18.95 ID:qGRDG4iWO

・・・・・・

少し前に寝る前の薬を飲まされた。時計はまだ夜の9時を指している。
「小学生じゃあるまいしねぇ……」
いつもならこれからが夜の本番、と言う時間だが、すでに睡眠導入剤が体に回っているのか、眠気がゆっくりと意識を覆う。
「……いつまで、ここにいなきゃいけないのかな……」
それでも眠気に逆らい、思考を試みる。
昼間散々考えても、やはり思い付くのは不安と将来だ。
受験も近い。お父さんもゆーちゃんも心配してるだろう。
「……それに」

大切な、友達がいる、ような気がする。
意識が眠気に負けて消える寸前、3人の女の子と自分が遊んでいる場面を思いだし、今日初めてとても幸せな気持ちになった。
みゆきさん、
つかさ、

「……かがみん」

・・・・・・

344 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/29(水) 11:57:47.40 ID:qGRDG4iWO

「面会!?」
『はい、今日、おじさんと言って来ました』

携帯ではなく、家電にゆーちゃんから電話がかかってきたのは、こなたが入院してから一週間後の夜のことだった。

「も、もうこなたと面会OKになったの?」
『はい、昨日、えっと、保護室?っていう所から出られて、普通の病室に移ったみたいで』
「そ、そう……よかったわ」
私の隣で耳を澄ませているつかさも、安堵と不安の入り混じった複雑な表情を浮かべている。
「それで……その、どんな感じだった?こなたは」
何気ない風に聞いたつもりだったが、語尾が震えるのが自分でもわかってしまった。
『はい。その事なんですが……かがみ先輩、明日、お姉ちゃんの所へ面会に行っていただけませんか?』

346 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/29(水) 12:10:30.56 ID:qGRDG4iWO

「面会!?わたしが!?」
思わずつかさがビクッとするほど、大きな声が出てしまった。慌ててトーンを下げる。
「えーと、入院してる人への面会って、家族以外の人でも大丈夫なのかしら?」
『ケースにもよるみたいですけど、お医者さんはいいって言ってました』
ゆーちゃんの声は抑揚がなくて、感情が読み取り辛い。
「何人で行ってもいいのかしら?」
『あまり大人数だと刺激になるらしいですけど……三人ぐらいなら全然平気だと思います』

三人……。
『一番ご心配かけたのは先輩達にですし、良かったらでいいんですが、かがみ先輩とつかさ先輩、高良先輩でお姉ちゃんに会ってあげてくれませんか?』

350 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/29(水) 12:23:05.86 ID:qGRDG4iWO

こなたに会える。
隣で表情を輝かせているつかさ。
でも、私は、私はこなたに会う資格があるの?
近くにいながら何も気づいてあげられず、知った途端にこなたを追い込んだ、私は。

「お姉ちゃん?」
受話器を握ったまま固まっている私に、つかさが不思議そうに声を掛ける。
「も、もちろん喜んで行かせてもらうわ!ええと、面会は何時まで大丈夫なのかしら?」
慌てて続けた私の声は、不自然に大きく明るくなっていた。
『遅い場合、五時ぐらいまでは平気みたいです』
「わかったわ。明日の放課後、私とつかさとみゆきで行かせてもらいます」
勢いにまかせて、私は言い切った。

351 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/29(水) 12:37:23.57 ID:qGRDG4iWO

チン、と、自宅以外では見る事の無い、ダイヤル式黒電話の受話器を置いて切る。
「よかったねお姉ちゃん!面会できるってことは、こなちゃんきっと良くなったんだよね!」
隣で無邪気に声を弾ませる双子の妹。
「お見舞いとか持っていっても大丈夫なのかな?今からクッキー焼こうかな。こなちゃん私のクッキー大好きだもんね」
「……」
「ゆきちゃんにも今から教えてあげなくちゃ!きっと喜ぶよ。えへへ、私もだけどね」
「……」
「学校終わってからすぐ病院に行けば、四時くらいには……?」
「……」
「お姉ちゃん……どうしたの?何で震えてるの?」
「つかさ……」
声を振り絞る。

「私……こなたに会うのが、怖い」

353 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/29(水) 12:50:09.42 ID:qGRDG4iWO

「こなちゃんに会うのが、怖いって?」
鳩が豆鉄砲を食らった時はこういう顔になるのか、という見本のような、つかさの表情。
最初に膝から来た震えは、今や私の肩と顎にまで上がって来た。
「私、私……こなたに酷いこと言ったの。バカだって。友達なのに、何で打ち明けてくれないのって」

しばらく我慢していた涙が、また私の目から流れ出した。
「お姉ちゃん……」
つかさも釣られて泣きそうな表情になるが、私の肩を抱えるようにして部屋まで連れて行ってくれた。

両親と姉達が心配そうに私達を見送っている事には、その時は気づけなかった。

355 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/29(水) 13:04:51.93 ID:qGRDG4iWO

つかさは私を部屋へ入れると、私をベッドに座らせて、自分も横に座った。
「お姉ちゃん、考えすぎだよ。確かに色々言っちゃったかも知れないけど、その時は何もわからなかったんだし、しょうがないよ」
必死に私を元気づけようとするつかさ。
だけど、私の体の震えはもう全身に及んでいて、歯までカチカチと鳴らせていた。
「天原先生は……ちょうどいいタイミングだったって言ってくれた。早めに入院して結果的に良かったって」
うわごとのような私の声。つかさに言っているのか、自分に言い聞かせているのか。
「でも、でも……こなたは?こなたは私の事をどう思ってるの?」
つかさの目が丸くなる。

「私、こなたに嫌われてたら……会いたくないって言われたらどうしよう……怖い、怖いよ、つかさ……」

357 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/29(水) 13:21:24.15 ID:qGRDG4iWO

その時だった。
あの泣き虫で、でもこなたが入院してからはけっして私の前では必死に我慢していた、涙をつかさが流したのは。
「お姉ちゃん……そんな事言っちゃヤだ。こなちゃんはお姉ちゃんを嫌ったりしない、絶対しないよ」
私に負けないほど、次々流れるつかさの涙。
私に心配かけまいと、今までどれだけ我慢してたんだろう。
「つかさ……で、でも私」
「そんなこと言わないでぇ!!」
不意につかさは私に抱きついた。痛いくらいに腕に力が入っている。
「こなちゃんはお姉ちゃんを嫌ったりしない!!絶対そんなことない!!こなちゃんは、お姉ちゃんのこと大好きだもん!!」
「……つか」
「私だって!!私だってこなちゃんが大好きだよ。ゆきちゃんもきっとそうだよ」

358 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/29(水) 13:39:59.56 ID:qGRDG4iWO

「だから、こなちゃんも、こなちゃんも絶対お姉ちゃんのこと、待ってる!私のことも、ゆきちゃんのことも!!嫌ったりなんて、絶対してない!」
私は初めて気がついた。
つかさも不安だったんだ。こなたの事を理解してあげられず、後悔してたのは私だけじゃなかったんだ。
恐らく、みゆきも、おじさんも、ゆーちゃんも、先生も。
「お姉ちゃんがそんなこと言ったら、ほ、本当になっちゃう!私、嫌だ!!こなちゃんに嫌われるなんてイヤだよ。だから、だから、お願いだからそんなこと言わないでぇ!!」
「……つかさ、ゴメン」
「うわああああああああぁぁぁん!」

抱き締め返した私の腕の中で、つかさはいつまでも哭き続けた。

360 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/29(水) 14:01:23.26 ID:qGRDG4iWO

翌日、放課後。
私、つかさ、そしてみゆきの三人は、病院の玄関の前に立っていた。
「あの日以来、ですね」
みゆきが呟く。私が面会を断られた日。信じられない。あれから一週間ちょっとしかたってないなんて。
「……行こう、二人とも」
私は玄関をくぐった。
外来はもう夕方になったためか、ほとんど人影が無い。
所々に木目をあしらい暖かさを表現しながら、しかし病院以外ではけっして感じる事の無い清潔感とある種の冷たさを体で感じつつ、私達は『面会窓口』と書かれたプレートの矢印に従い歩いた。
ローファーの底と床が、廊下に三人分の足音を響かせた。

361 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/29(水) 14:18:49.19 ID:qGRDG4iWO

ナースセンターと病棟の中間に、その部屋はあった。扉を閉めた瞬間にカチャッと鳴る電子ロックの音が、いわゆる『普通の』病院との違いを、嫌でも教えてくれる。
「はい、お名前と患者様との間柄を書いていただいて……お友達ですね?」
「はい」今でも、そう思っている。
「何か、泉様に渡す荷物とかはありますか?」
「え、えっと、クッキーなんですけど……」
おずおずとつかさが、ラッピングされた袋を示す。
「私は、漫画を」
「私は、パズルの本を」
私とみゆきがそれぞれ袋を見せる。

「何か、危険物は入っていませんか?」

362 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/29(水) 14:38:42.60 ID:qGRDG4iWO

危険物。
普段の生活ではまず聞かない不穏な響きに、私の敏感になっている心がビクリと反応する。
「危険物、と言いますと?」
みゆきが疑問型の言葉を口にするのは珍しい。
「ここは閉鎖病棟で、物の出し入れには注意させていただいております」
女性看護師が職業的な優しい口調で説明する。
「一番注意しているのが、自傷他害……自分や他人を傷つける事ですね」
つかさが小さく息を飲む音が聞こえた。
「ですから、火のつく物、ライターやマッチ、服についていたり、充電に使うようなコード、いわゆるロープのような長い物も制限させていただいています」
こなたが今いる環境を想像し、私はますます神経をザワつかせた。
「後はもちろん……剃刀やハサミのような、刃物、ですね」

364 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/29(水) 14:56:37.18 ID:qGRDG4iWO

「ありません……」
私が代表して、力なく呟いた。
女性看護師は、職業意識以外の何らかの感情を感じさせる声で、
「では、今からご本人をお連れしますね」
と柔らかい口調で私達に告げた。
「あの、看護師さんは面会に立ち会わないのですか?」
みゆきが不思議そうに尋ねる。以前、何かそんな情報を仕入れていたのだろうか。
「患者様のプライバシーは尊重させていただいています……もし何かあった時は、そちらのブザーを押していただければすぐナースが伺いますので」
と、壁についたスイッチを指す。

「では、少々御待ちくださいね?」

看護師の姿が扉の向こうに消え、部屋の中に私達三人が残された。

366 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/29(水) 15:15:35.29 ID:qGRDG4iWO

重苦しい静寂。
三人が並んで座っているソファー。その向かい側に、もう一つのソファーと扉。
もうすぐあそこから、こなたが現れる。
こなたはどんな風になっているだろう?
あの部屋で見た、虚ろな瞳が頭の中をよぎる。
あの、焦点の合わない瞳のままだったら?あの他人のような声を、また聞かされたら?

ゴメン、帰って。

「……かがみさん」「お姉ちゃん?」
ダメだ、ダメだ、ダメだ。
私はこなたに会わなくてはいけない。逃げてはいけない。
私は、柊かがみは、こなたの親友なのだから。
「……大丈夫だから」
そう笑顔を作り言った時、向かい側の扉の電子ロックが外れる音が、小さく、しかし部屋の隅々まで響いた。

369 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/29(水) 15:43:06.66 ID:qGRDG4iWO

「やあやあ、かがみん、つかさ、みゆきさん、来てくれたんだねぇ〜」

こなたが、そこにいた。

「こなた……」「こなちゃん……」「泉さん……」
三人三様に絶句しつつ、私達はこなたを見つめた。
「んにゃ〜、そういう風に呼ばれるのも久しぶりだねー」
少し照れくさそうに猫口で笑うこなたは、私の記憶の中のこなたそのままだった。
もちろん細かい違いはある。無地で地味な色の上下のスウェットは見た事が無いし、元々痩せ気味の体が更に一回り細くなっている。
ほほから首にかけてのラインなど、まるで折れそうなぐらいだ。
しかし女の目線で、肌の張りや髪の艶で、こなたが身体的には健康であることは明白だった。
「あんまり見つめないでくれたまへ。照れるじゃまいか」

372 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/29(水) 15:53:36.22 ID:qGRDG4iWO

最初に我慢できなくなったのは、予想通りというのか、つかさだった。
「こ……こなちゃあんッ!」
まだ立ったままのこなたに、飛び付いて抱きつく。
「わっ、ちょっ、つかさ……」
こなたが少しフラつく。
「こなちゃん、こなちゃん、こなちゃん……」
昨日よりは声を押さえているが、それでもポロポロ涙を流しながらしがみつくつかさ。
少し困った表情で、「ここで百合に目覚めるのもアレだよ……」とかいいつつ、自分より背の高いつかさの頭を撫でるこなた。
私が次に飛び付かなかったのは、単に安堵のあまり膝に力が入らなかっただけ、だった。

374 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/29(水) 16:11:23.33 ID:qGRDG4iWO

つかさがようやく落ち着いて、こなたがソファーに座れたのは5分後だった。
「繰り返しになるけどさ、わざわざ面会に来てくれてありがと。心配かけたね〜」
珍しくペコッとこなたが頭を下げる。
「今はお加減は、よろしいのですか?」
つかさの顔をハンカチで拭いている私の横で、みゆきが遠慮がちに尋ねる。
「ん〜、どうなのかな……あんまり考えてもしょうがないことは、考えないようにはなった。ただ、眠くてねぇ」
言われてみると、いつも眠たげな目のまぶたが、更に落ち加減だ。
「先生は薬の副作用だって。ん〜、エスエス製薬、じゃなくて、あれ?何だっけ」
「SSRI薬かSNRI薬ですか?」
「あ〜そんな感じだったような」
この辺は相変わらずアバウトだ……。

376 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/29(水) 16:24:39.43 ID:qGRDG4iWO

「それから、かがみ」
こなたは、真っ直ぐ私の方を見た。
……言わなくちゃ。謝らなくちゃ。気づいてあげられなかったこと。追い詰めたこと。
用意しつきたセリフは、しかし胸の真ん中辺りで詰まってしまったように口から出てこない。

「ごめんね」

先に謝ったのは、こなたの方だった。
え?
何で?
どうしてあんたが謝るの?

377 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/29(水) 16:33:15.94 ID:qGRDG4iWO

「あの日、家まで走ってきてくれたんだよねぇ。自転車でも30分ぐらいかかるのに、疲れたでしょ?」
「あ、あれは、最初電車に乗るつもりで、でも電車がなくて」
私は何を言ってるんだろう。そんなことより、他に言うべきことがあるはずなのに。
「心配して来てくれたのに、帰れなんて言ってわるかったねぇ」
謝らないで。謝るのはこなたじゃない。あんたはただ頑張りすぎただけ。
「別に……いいわよ」
ああ、何でこんな肝心な時に言葉が出ないのよ!

380 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/29(水) 16:49:04.05 ID:qGRDG4iWO

その時、遠慮がちに扉が開かれ、看護師が申し訳なさそうに顔を出した。
「すいません、そろそろ…」
え?もう?まだこなたに何も話せてないよ。
「泉さん……入院はどれくらいになりそうなんですか?」
みゆきが腰を浮かせながら聞く。
「予定だけど、後一週間ぐらいだって。そっからは通院でいいみたい」
「こなちゃん、学校は?」
「退院して、一週間ぐらいは様子見るみたいだね。とんだ秋休みだよ」
みんなに釣られて、私も立ち上がる。
ダメだ。このままじゃ何も言えないままだ。どうしよう。どうすればいいの。
軽くパニックになったまま、面会室を出るこなたを見送る。
「かがみ、みゆきさん、本の差し入れありがとう。つかさもクッキー嬉しいよ。ホントにどうもね〜」
そしてこなたは反対側の扉に歩いていった。

382 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/29(水) 17:04:24.82 ID:qGRDG4iWO

・・・・・・

「こ、こなたぁッ!!」

悲鳴にも似た声が面会室に響き、私は驚いてお見舞いの品を落としそうになった。
振り向くと、真っ赤な顔をしたかがみが、私を睨みつけるようにして、肩を怒らせて立っている。
「……お姉ちゃん?」「かがみさん……」
両脇のつかさもみゆきさんも、呆然とした顔でかがみを見ている。
「……どしたの、かがみ?」
私の問いかけに、かがみは、『あ〜』とか『う〜』とか、口をパクパクしながら何かを言おうとしていた。
そして言った。
「わ、私……待ってるわよ。焦らなくていいのよ。私は……いつまでも待ってるから。友達だから」
真っ赤な顔で涙目な友人をしばらく見つめたあと、私は心の底からの笑顔を浮かべ、そして得意のセリフを言った。
「かがみんはツンデレだね〜」

・・・・・・

387 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/29(水) 17:21:44.62 ID:qGRDG4iWO

病院前のバス停。
私達は以前と同じく、ベンチに三人で座っていた。
違うのは前よりも日が落ちていること、風の冷たさが増していること。
そして……
「かがみさん?」
「何?みゆき」
「泉さん……本当に嬉しそうな顔でしたね」
「そうだった?」
「そうだよ、お姉ちゃん。私、久しぶりにこなちゃんの本当の笑い顔、見たような気がする……」
「なら、いいんだけどね」
「あの言葉が、一番泉さんが聞きたかった言葉だったんですね……」

高校三年の時間の流れは早く。受験、授業、若い内にしかできない事、今しかできない事。
だけど、それは誰が決めた事なんだろう?自分のペースで、自分のスピードで、自分だけの場所で。他人のペースに惑わされず、好きな事をしても良いのではないだろうか。
いつでも自分を見守り、待ってくれている人がいるのなら。

389 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/29(水) 17:35:06.04 ID:qGRDG4iWO

「私ね、こなたが退院しても、学校に来るようになっても、焦らせないようにしたいの」
「焦らせないっ……て?」
「授業には遅れるかも知れないけど、受験も不利になるかも知れないけど」
「はい……」
「こなたはこなたのペースで行けばいいと思う。私はそれを見守りたいのよ」
「お姉ちゃん、凄いね〜」
「べ、別に凄くないわよ」
「うふふ、私もかがみさんを見習って、泉さんを見守っていくことにします」
「ま、あんなヤツでも、『友達』だからね〜」

三人の姿はやがてシルエットとなり、お互いの表情も見えなくなった。
でも、三人それぞれが僅かだけど、笑顔を浮かべていることが、なぜか私にはわかっていた。

391 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/29(水) 17:45:12.79 ID:qGRDG4iWO

・・・・・・

個室のベッドで独り横になっていた。
相変わらずつかさのクッキーは美味しい。みゆきさんのパズルの本も、いい暇潰しになった。かがみの持ってきたマンガには意表を突かれた。
「表紙が羽海野チカで、中身が三浦健太郎ってビックリだよ……」
けど、今日一番嬉しかったのは。
『私、待ってるから』

フトンに顔を擦り付け、肌触りを楽しんだ後、私はクスリと笑った。
「ちゃんと治して、帰るよ……みんなの所へ」

だから、待ってて。かがみ。みんな。
私は久しぶりに幸せな気分で、眠りに落ちていった。

・・・・・・
終わり

394 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/10/29(水) 17:53:09.62 ID:qGRDG4iWO

>>392
終わり。
反省点
一、初めてSSを書いたが、その瞬間に文才の無さに気づくべきだった。

二、保守してくれる人を待たせるのが申し訳なくて、ほとんど即興でストーリーを作っていったこと。

三、やっぱり自分で書くより他人の文を読んでたほうが楽であることに気づいてしまったこと。

つーワケで、お粗末様でしたノシ



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