最終兵器つかさ


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1 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/16(木) 15:19:12.77 ID:9u4Ked2f0

これは 滅び行く世界で かけがえのない『絆』で結ばれた姉妹の

悲しくも 切ない 物語である

3 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/16(木) 15:20:14.09 ID:9u4Ked2f0

私とあの子の通う高校は、この長い並木道を超えた先にある。
私は、一年中衣替えを繰り返すこの道がひそかに好きだった。
イナカで、駅近まで出ないと特に面白味のないこの街。

「ちょっとぉ、とろいわよつかさ」
「ごめんなさい…はぁ…ごめん…」


私の妹の、つかさだった。
そんな風に謝ってばっかりのつかさ ちょっとかわいい。


しかし、とろい(距離にして約40M)


兎に角気が弱い。おまけにドジっこで
成績も中の下。家庭科だけが無意味にいいのが癪に障る。

口癖は「ごめんね」

座右の銘は「バルサミコ酢」


なんだか、不器用な妹だと思う。

6 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/16(木) 15:24:26.11 ID:9u4Ked2f0

「だからあんたさぁ、明日からバスで通学しなさいよ。
早起きすればいけるでしょ」
「ご、ごめんね…でも、やっぱり歩かないと…
私…運動音痴だし…その、最近太っちゃったし」

つかさが「バス通学を止める」と言い出したのは5日前。
でも、私はいまだにわからないでいる…

「バカ」

しまった…

「あんたはいいかもしれないけど、付き合わされるあたしの身になってみなさいよ。
ほんとはあんただけですればいいかもしれないけどさ、お父さんお母さんは
『姉妹なんだから、かがみも付き合ってあげたら?』って言うし。
こんなことで遅刻したらどうすんのよ?」

違う、違うのつかさ…

「ご、ごめんね…お姉ちゃん…」
「ま、まぁわかればいいのよわかれば」

ホントに言いたかったコトバは、こんなコトバじゃなくって…

7 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/16(木) 15:28:48.90 ID:9u4Ked2f0

「柊ってー、ほんっと不器用だよなー」
「そ、そう…?」
「妹さん、泣かしちゃダメよ、柊ちゃん」
「いやいや!泣いてはいないっしょあれは!」
「あたし見たんだぜ。柊の右斜め後ろで顔真っ赤にして涙
をためている妹を!」
「いやだから!始業始まっちゃうから走っただけだって!」

だから―

だからムリしなくていいのよ
私は大丈夫だって
ホントはそう言いたかったのに

「しかし、わかんないのよね。18にもなって未だに姉っこっていうのもさ」
「いいじゃない、可愛いわよ」
「付き合わされる身にもなってほしいわ」
「いやでもさ〜、パシリくらいにはなるだろ?」
「お前がいるから無用だ」
「で、でも、双子なんだから、仲良くするのは悪くないわよ?」
「生物学的にでしょ。結局他人には変わりないわ」

みさお・あやの(まずその口をどーにしかしろ・しなさい)

「…なによぉ、もう」

8 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/16(木) 15:33:02.10 ID:9u4Ked2f0

一方つかさは…

「まーたかがみんのツン期が始まったんだね」
「つかささん、あまりお気になさらないほうが」
「で、でも…私のせいでお姉ちゃんに迷惑かかってるのは正しいし…」
「でもさー、産まれたときから一緒なんでしょー?あんまり気を使うのもお互い悪いっしょ」

そう…
こなちゃんの言うとおり。
私とお姉ちゃんはずっと一緒だった。
でも、いつかは離れるときがくる
それはまるで、雛が巣立ちするような…
でも…それでも…

「もう、煮え切らないなー!よし!」
「どしたの、こなちゃん」
「はいこれ!」
「泉さん、それは?」
「映画のチケット!ペアだから使い道に困ってたんだよね〜。
二人で双子水いらずで行ってくるといいさ!」
「う、うん…わかった…」
「あ、ちなみにそれホラーだから」
「ひぃぃ!そんなぁぁ!」


でも、こなちゃんの厚意がとても嬉しかった。

10 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/16(木) 15:36:20.40 ID:9u4Ked2f0

―放課後

「お、お姉ちゃん!」
「ん?どうしたの?」
「あ、あの、あの…これ」
「…映画?私にくれるの?」
「う、うん!久しぶりに二人で観に行こうよ」
「へ〜。ってこれホラーじゃない。あんたホラーダメだったんじゃないの?」
「あう!そ、それは…それは…」

…わかってる。つかさがわざわざ苦手なジャンルの映画に誘うような子だとは。
本当は勇気いっぱい出してるんだろうなぁ。健気というかなんというか。

「…わかってわよ。行けばいいんでしょ行けば」
「あ、ありがとうお姉ちゃん!」


…妹なのに、ちょっと可愛いと思ってしまった

11 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/16(木) 15:40:05.27 ID:9u4Ked2f0

「う、うう…」
「だからあんた…ムリするなって言ったでしょ?」

つかさの顔が、酷いくらいに青い。
まぁ結構グロいシーンもあったし、ホラーというよりサイコサスペンスだったけど。
エチケット袋を何個消費したかもう忘れてしまった

「大丈夫?歩ける?」
「う、うん…」
「そ。じゃあ、ちょっと来て」

映画を観終わったあと、私は密かにあることを考えていた。
いつまでもこうじゃだめだ。つかさも、私も―
だから、つかさに伝えないといけなかった


「お、お姉ちゃん…ここ坂が…」
「うだうだ言わないの。ほら、あそこにベンチがあるでしょ?
そこまで上る!」
「ふえええ…」

下に、人がいないか気になってしまった…

12 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/16(木) 15:42:34.82 ID:9u4Ked2f0

「ふぁ…」
「どう?ここの夜景」

そこは、学校から少し離れた丘。ここからは私達が住む世界を見渡すことができる
夜であれば、その美麗さにも拍車がかかるのだ

「きれ…いだね」
「でしょ?……つかさ、話があるんだけど…」
「う、うん?」

「もうさ、私に頼らないでほしいんだ」


「……え」


つかさの大きな瞳に、何かが滲んだ。

13 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/16(木) 15:47:28.77 ID:9u4Ked2f0

また、だ
なんでいっつもこうやって妹をキズつけて
なんでももっとうまくできないんだろ…なんで

「…やだよ」
「え?」
「嫌だよぉ!そんなの!」


…なん…だと?


「ちょっつかさ!ワガママ言わないの!あんたもう18でしょ!?
これからはもう自分のことは自分でやってよ!」
「無理だよぉ!私…お姉ちゃん無しじゃ無理だよぉ!」
「何小学生みたいなこと言ってんのよ!」
「お姉ちゃんは、お姉ちゃんはずっと私より凄いんだもん!
運動だって!勉強だって!私だってたまには『お姉ちゃんに勝ちたい』
って思ってたんだよ!?」
「そ、それは…あんたの努力が…」
「お姉ちゃんにわかる!?双子なのに全然違うの!
そのせいで何度色んな人に比較されたか!『お姉ちゃんのほうは優秀なのに、妹さんはダメねぇ。双子なのに』って!
お姉ちゃんが頑張れば頑張るほど、私はどんどんミジメになるんだよ!」
「だ、だからそれは…」
「それでもいいと思ったよ!そうすれば、最初から楽になるもん!
最初からお姉ちゃんに敵わないって思ってれば気持ちも落ち着いたもん!」

14 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/16(木) 15:50:24.38 ID:9u4Ked2f0

「……つかさ」
「……」

こんなつかさ、初めて見た。そんな、そんなことが、あったなんて…
私だって、つかさにこんなこと言いたくない。だけど、今私の言葉をつかさが受け入れたら、つかさはどうなってしまうのか。
そう考えると、言葉が続かない。

「……ごめん、ごめんねお姉ちゃん」
「つかさ…」
「こんな、こんなダメな妹でごめんね…。お姉ちゃんにこんな酷いこと言って…私、ほんとダメな妹で…」
「違う!違うのよつかさ!」
「でも…でもね

色々言ったら、すっきりしちゃった♪」


「………」


こいつ、どついたろか

15 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/16(木) 15:55:21.88 ID:9u4Ked2f0

「ごめんね、お姉ちゃん。ワガママになっちゃうけど、もうちょっとだけ、お姉ちゃんに甘えて、いいかな?」
「あんたねぇ…」


結局、話はふりだし。でも、つかさのことを考えるとやっぱり無碍に断ることもできない。
甘えてるのは、むしろ私なのかもしれない。


「か、勝手にしなさいよね!た、ただあんたが好きにやって何かあっても、そこまで面倒見切れないからね!」
「お姉ちゃん…いいの?」
「だだ、だから勘違いしないの!好きにしろって言ってるのよ!まったくもう…!」

我ながら恥ずかしい。キチンと素直に言えばいいのに。
でも、私だって不器用なんだ。つかさを許してあげたんだから、いいじゃない。


こんなふうに 姉妹としてやっていこう
イナカのこの街で、別段楽しいことなんてないけど。
バカだし不満ばっかで、なにひとつ将来のこともわからなくて、
でも一つだけ二人で決められたから。


私達は、私達なんだ、って。

16 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/16(木) 15:58:05.86 ID:9u4Ked2f0

「お姉ちゃん、ジュース買ってきたんだけど〜」
「あ、ありがとう」
「あ…」
「ん?何?あ、黒酢ジュース飲みたかった?」
「う、ううん、どっちでも」
「いいって!私むしろ酢ダメだし!」


結局あれから一週間。あいかわらずこんなんですが…
一つ、違和感を発見した

「つかさ、そのヒザ、どうしたの?」
「え、あ…その、か、階段で…」
「気をつけなさいよね〜。あんただって女の子なんだから」


―今、思えば

あの時、気づくべきだった

17 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/16(木) 16:01:41.95 ID:9u4Ked2f0

「で、なんで私達はこんなとこにいるの」
「ほらかがみ〜ん、ゼロ使の新刊出てるよ〜」
「え、ほんと!?」
「かがみさん、泉さん、ハルヒの新刊また延期だそうです…」
「なにぃぃぃ…いつまで待たせるんだよまったくもう…」
「こなた、あんた何してんのよ?」
「いや〜?私はラノベじゃなくてコッチ、に興味あるから」
「…またけったいな」
「泉さん、どうしてこの男性は裸で抱き合ってるのですか?」
「みゆきに見せるなぁぁぁ〜〜〜〜!!」


ズッ…


「…!地震!?」
「ええ!?こ、こんなとこで!?」

19 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/16(木) 16:06:00.46 ID:9u4Ked2f0

「最近多いですね〜」
「おぉ、みゆきさんナイス揺れ♪」
「どこ見てんだお前は!いいから外出るわよ外!」


階段を急いで降りて、私達は外に出た
上空を見上げると…何かが飛んでいたのがわかった

「なにあれ…?と、鳥?」
「んう…あれはF-22、ラプターだね」
「な、なにそれ!?つーかあんた軍オタ!?」
「最近のこと考えれば普通にわかることだよかがみぃ。みゆきさんも知ってるでしょ?」
「い、いえ…」
「ガガーン…」
「もう…バカはほっといて逃げるわよ!」


そう言葉にしたのに、私はそれとは逆のことをしでかしてしまった…

20 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/16(木) 16:09:10.36 ID:9u4Ked2f0

それは、F-22とかいう戦闘機の編成から外れた、何かだった。
UFO?んなバカな。ただ、それがとても『速い』ことはわかった。
まるでキャンパスを彩る筆のような軌跡を描き、次々と敵機を撃墜していく。

「すごいですね…泉さん、あれはなんでしょうか?」
「え!?あ、あれはねぇ…えーと、キングゲイナーかな?」
「………」

おふざけはそこまでだった。
そのナンタラが打ち落とした機体が、こちらへゆっくりと落下していくのがわかった。

来る。
落ちる。
爆発する。


その三つの単語を思い浮かべた頃には、私の立っていた場所に爆風が吹き荒れていた。

21 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/16(木) 16:12:13.85 ID:9u4Ked2f0

ゴォッ―!


音にしたらそんなもんだろうか。目の前が真白になったかと思うと、私の腕に生暖かいものが乗っていた。
なんだろう?これ?長い…曲がる…五つの突起…


「…ゲフッ!」


把握した瞬間、胃の中に溜まったものが一気に吐かれた。
腕。
腕だ。
さっきまで何気なく稼動していただろう、誰かの右腕。
根元からざっくりと切断されたいた。

ザワッ―

そして、私のありとあらゆる毛が逆立つのがわかった。
予感。悪寒。そして…寒気。

気が付いたとき、私は落とされたソレめがけ走り出した。

「かがみィ―!」


こなたの声は、半分聞こえなかった。

23 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/16(木) 16:17:32.94 ID:9u4Ked2f0

ドォォォンッ―!!!


落ちた。爆発した。
伊勢丹のビルが、その分欠けた。
巻き起こる風で、私は思わず後方に転びかけた。

「…はぁ、はぁ…―!」

白煙が場を包み込む。周りにはまだ温かいであろう血液がびっしりとこびりついていた。

「はぁ……ッ?」

ふと、頬に何かが垂れるのを知った。指で拭うと、私の指は真っ赤になっていた。
頭に何か刺さったのかもしれない。だけど、今はそんなことどうでもいい。
白煙は徐々に風に攫われ、その中で一つの影がゆっくりと蠢いていた。

25 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/16(木) 16:19:29.39 ID:9u4Ked2f0

煙が消えた、その先には―


「……おねえ…ちゃん」

いつもドジで、いつもバカで、


「ごめんね」

いつも迷惑かけて、いつも泣いてる…


私…こんな体になっちゃった……」


私の妹―柊つかさが立っていた。

抱きしめたつかさの心臓は、音がしなかった。

27 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/16(木) 16:25:58.28 ID:9u4Ked2f0

「おはよ、お姉ちゃん」
「ごめんごめん!寝坊しちゃった!」
「だいじょぉぶだよ。ちょっと急げば…

私、がんばるから」


「あの日」からつかさは―

あいかわらずトロかった。

学校に着くには、(つかさが勝手に決めたことだけど)この長い並木道を歩かないといけない。

「ごめん…ごめんね」
「大丈夫よ。無理しないの」


「おはよ〜かがみん」
「おっす」
「みゆきー、おはよう」
「……」
「みゆき。お・は・よ・う!」
「…っ!おはようございます、かがみさん」

みゆきは「あの日」以来、耳が遠くなった

29 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/16(木) 16:31:48.36 ID:9u4Ked2f0

「いや〜、そろそろ私らも進学だぁね」
「そだね〜。こなちゃんはどうするの?」
「私?私バカだから〜、義勇兵にでもなろーかな」
「あはは、こなちゃん女の子じゃない」
「あ、でも今はこのご時勢ですから、女性の方でも正式な軍でなければ試験は受けれるそうですよ」
「そ、そうなんだ…」
「今戦争中だしね〜。私も一応格闘技できるし、割と天職な気がしてならないのだよ」
「そっかぁ、こなちゃん強いもんね」
「つかささんはどうするんですか?」
「私?私は…お姉ちゃんと同じ大学行きたいな…」
「…つかさ、かがみ結構偏差値いいよ。K義塾狙ってるみたい」
「えぇぇ!?」
「つかささんでは、少し厳しいかと…」

「おーっすつかさ、ちょっと屋上行こ」
「あ、わかった〜。じゃあ二人とも、またあとでね」
「あぅ〜、私の嫁が最近シスコンになってってるよ〜」
「ま、まぁいいじゃないですか…」

私とお姉ちゃんは、「あの日」以来、一緒にいることが多くなりました。

30 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/16(木) 16:41:27.19 ID:9u4Ked2f0

■規制防止の時間つぶしのらきすた読んでおります。。。

「でね、私最終兵器になっちゃったんだけど」
「そ、そう…。それで、なんなの、それ?」
「ごめんね…偉い人に説明してもらったけど…難しいコトバが多くて…ごめんなさい」
「いやいや、ってゆーかつかさ、あんたそれ治るんでしょうね?」

「……ッ!    きくのわすれちゃった」

「忘れるなよ」
「今度編隊時に聞いてみるね」
「…教えてくれるんだ」
「わかんない。でもみんなイイ人だから…」
「―つーか、なんなのよそれ!?説明いい加減で勝手に人の妹兵器にして!!ふざけるのもいい加減にしてほしいわよ!」
「だだ、だって…軍の人は親切なんだもん…
きっと偉い人の命令で仕方なく私に良くしてくれてると思うの。
私、気が付いたらもう自衛隊のほうに移されてて、直接私の体こんなにした人、会ってないから…」
「そ、そう…ごめん」

まただ。一番キズついてるのはつかさなのに…
いつものこの子の様子を見てるとつい忘れてしまう

「でね、兵器になるには多少身体を作っておかなきゃいけないって言われたの。
だから、バス通学止めて歩こうって決めたの」
「そう、なんだ…」

31 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/16(木) 16:52:07.47 ID:9u4Ked2f0

結局、それ以上は聞けなかった。
つかさも言いたくないだろうし、言えないだろうから。

そのまま、私とつかさは下校の時間を迎えた。


♪♪♪

「つかさ、携帯携帯」
「あ、はい。あ…」
「あれつかさ、あんたの携帯、そんなだったっけ?」
「え、あぁ…これ支給品なの。有事のとき連絡取れないと困るっていうから。迷彩カラーなんだよ♪」
「あぁ…会社員も持ってたりするわよね」

そうやって、一例を持ち上げて現実を拒絶する。
そう、専用の携帯なんて今時珍しくないのだ。
つかさは…普通なんだ、そうだ、そうに決まってるんだ。

「じゃあ、お姉ちゃん

    ちょっと、いってくるね」

「ちょっと」何をしてくるんだろう

「心配しないで」

どうすれば「心配しない」でいることができるのだろう
誰も答えては、くれなかった―

32 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/16(木) 17:03:12.76 ID:9u4Ked2f0

「粕日部空襲」から一週間がたった

死者 二万三千五百十一人
行方不明者 五万六千百七十八人

自衛隊戦闘機 12機墜落
国籍不明爆撃機 21機墜落
護衛戦闘機 7機墜落

いずれも市内におちた


爆撃機とかの墜落のまきぞえで、亡くなった人の数は
どのくらいになるか、見当はつかない

そのすべては つかさが おとした

私以外誰も知らない。あとおそらく、国の偉い人と
自衛隊の一部の人、それに、あやののお兄さんは入っているのか…

この空襲は、しばらくTVの放送を支配した
明らかに非現実的な現実に、私は無気力感を脱せなかった
今まで映画の中だけかと思ってた日常が、今現実に現れている

あの日つかさと観た映画だけは、現実にならないで欲しい
そんな下らない欲求が、私の胸の中に残っていた

35 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/16(木) 17:13:43.58 ID:9u4Ked2f0

つかさが海外派遣にいった。「あの日」からあわせて2週間後のことだった。
それから3日くらいか…なんの音沙汰もない。
受験勉強なんかに身が入るわけもなく、私はただただベッドを寝転がる日々を過ごしていた。

「…はぁ、私、何してるんだろ」

寝ぼけ眼を擦り、携帯を手探りした。久々に触った気がする。
……つかさからメールが届いていた。日にちは昨日の晩。
相変わらず、こういうことは忘れないのよね。

『こんにちはお姉ちゃん。この前は色々聞いてくれてありがとう。
アサもチコクしそうになったのに、やさしくはげましてくれてうれしかったです。
いつものお姉ちゃんなら怒るかと思いましたが、お姉ちゃんは最近優しいです。
あと、毎日私のお弁当を食べてくれてありがとう
でも、明るく振舞うお姉ちゃんを見てると心配です

消えてなくなってしまいたくなります―』


心臓の鼓動が、少し早くなった。


『なんで私、こんなことになっちゃったんだろう。私、何か悪いことしたのかな?
何かのバチが当たったの?例えばみんなに優しくしてもらってばかりいて、何一つ返せない弱い私へのとか。
最終兵器のことは誰にもヒミツなので、誰にも相談できなくてつらかったです。
そのせいでバス通学をやめて、お姉ちゃんに迷惑かけちゃいました、ごめんね』

36 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/16(木) 17:24:47.74 ID:9u4Ked2f0

『ほんとは、私お姉ちゃんに期待してたんだ。こんな弱音ばっかり言って、悪いことしてる私のことをしかってくれるって。
でも、お姉ちゃんは優しいから、あの日ウソをついたよね。ごめんね、嬉しかったけど、悲しかった…

だから

もういい

です


何書いてるんだろ、私…こんなこと書きたくないのに…
ごめんねお姉ちゃん。私強くなるから。もっともっと、強くなって、だから…

私のお姉ちゃんでいてくれて ありがとう』


「…つかさぁッ!!!」


私は、どこへともなく走った。最後の一文『ごめんなさい』を見ずに…。

38 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/16(木) 17:33:12.28 ID:9u4Ked2f0

「はぁ…っ、はぁ…っ!」

どれだけ走っただろう。わからない。
いつもは見慣れた道のはずなのに、夜の闇が私の先を閉ざす。
それと同時に、私と「つかさ」の未来も閉ざしてしまいそうで、尚更恐かった。


ヒィィィン…


耳鳴りがした。耳で感じるものではなく、脳に直接送られるナニカ。
これは…なに?なんなの?
私は走るのを止めて、歩いた。

ヒィィィン…

ヒィィィィン…

音が段々と大きくなる。それにあわせて、私のいる位置が、公園に近づいている。

ピキィィィンッッ!!

「―くっっ!!」

痛い。風鳴りのような音だったソレは、刀を研ぐような耳障りなものになった。
―と、頭上に何かを感じ取った。何かが私を撫でる感覚。
風か?わからない。だけど、何かが上にある。
躊躇わなかった。私は、見上げた。

39 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/16(木) 17:43:28.68 ID:9u4Ked2f0

…とりはだが立った。
背中から突き出ている金属の…板のようなもの。それらは何本も重なって斜線のように生えており、さながら羽を模倣したかのような形だった。
傍にある電柱の上から、音もさせず、降りてくることのできる、ナニカ。
すべてが、つかさの肌を突き破って「生えて」いた。
瞬間、私は、理解した―

ガスッ

あ、落ちた。

「や、やだお姉ちゃん…、見たのっ!?」
「いや、見て、ないけど…(ピンク、だったような)」

背中を丸めて、つかさは恥ずかしそうに顔をそむけ―

血まみれだった。つかさの華奢な背中は、何かで染め上げたように真紅に染まっていた。
この独特な嫌な臭い…血、だろうか。解けかかった肩のブラ紐のところだけ、少し肌色をしていた。

「…た、ただいま」

振り返りながら、つかさはそう呟いた。
いや、しかし…その。なにも言いたくなくなってしまった。
あんなたかだかメール如きで、あんたの姉をやめるなんて、さらさらないとか、心配したとか、

私、つかさに何を言えばいいんだろう?

41 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/16(木) 17:53:44.73 ID:9u4Ked2f0

「  バ  カ  !」


そんな言葉が、出た。あとは、感情に任せたからあんまり覚えていない。

「あんたねぇ!そんな格好で何出歩いてるのよ!
不審者に見つかったらどうするの!?」
「ご、ごめ」
「ごめんじゃすまない!」
「ごめんなさい!門限に間に合わないと思って…つい飛んで帰って来ちゃったの…」

…確かにその通りだが。

「ごめん、まだスピード調整がうまくできなくて、でもでも、今日はマッハ2くらいで」
「つかさ!」
「うっ…!ご、ごめんなさ…」

「…お、おかえり」


「た…ただい…まぁ…」


ただその言葉を言ったのは、覚えていた。

42 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/16(木) 18:03:33.49 ID:9u4Ked2f0

「つかさ…落ち着いた?」
「うん、ごめんね…」

しばらくつかさは泣いてしまい、仕方なく胸を貸してやることにした。
ひとしきり服を濡らしたあと、つかさがゆっくりと顔を上げた。
そして、つかさの落ち着かない表情を見て、やっとわかった。

「最終兵器って、結局どーゆーことなの?」

私が現実から逃げることは、つかさをキズつけ、ひとりぼっちにすること。

「詳しくはヒミツなんだ…」
「そりゃそうよね…」
「ただね、お父さんお母さんとか、上のお姉ちゃんとかにも中々言い出せなくて、それで毎日家族と過ごすのが凄いつらかったんだ」
「そっか…。そうよね。それでつかさ」
「…言わないよ」
「え?」

46 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/16(木) 18:13:15.77 ID:9u4Ked2f0

「言わないよ。お姉ちゃん以外には。
だってこれ以上知られると…みんな殺されちゃうもん」

そう静かに言ったつかさの目は、笑っていなかった。
改めて私は、自らが知った禁忌の重大さに気が付いたのだ。

だから、私はつかさをぎゅっと抱きしめた。
知ってしまった。事によっては私の口が塞がれるかもしれない。
だけど、それがなに?そんなの、恐くなんかない。
知った以上、これは私とつかさの「ヒミツ」だ。
二人で共有していくんだから、ふたりで生きていこう、そう決めた。

「ごめんなさい…お姉ちゃん…うっ…くひっ…」

つかさは家の前で、もう一度泣いた。

48 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/16(木) 18:23:08.50 ID:9u4Ked2f0

それから私とつかさは、二人だけのルールを作った。

たとえば
「こなた達や家族に知られないようにするにはどうするか?」
とか
「出撃のときの服や下着の換えはどうするか?」
など。
私のを使えば?と提案したら、なぜか赤くなって「サイズが合わないよ…!」
と何故かキレてた。乙女心はよくわからん(私も一応乙女だが)。

あの日から私は、つかさからのメールをちゃんと読むことにした。
口ベタなつかさにとっては、あのほうが本音であると認識したからだ。
前のメールには、絶対口からは言えない大切なことが書いてある。

笑ってもいいです。
ほんとは、もっとこの幸運の星の人にとって重要なことを
ただ不器用に 前向きに考えて生きていこうと決めた…


どうか
笑ってください―


『お姉ちゃん
私、成長している。』

49 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/16(木) 18:27:31.36 ID:9u4Ked2f0

「お姉ちゃん〜、おふぁよう…」
「成…長?」
「ん?どかした?」


成長ねぇ…。意味わかんないのでこなたにでも聞いてみるか。


「ほほう、つかさがそんなことを…」
「って言っても、もう18なんだし成長するとこなんてないでしょうに」
「いえいえ、女性は20代からでも背が伸びたりするんですよ、それには」
「成長っていったらそりゃ〜

おっぱいだね」

「お、おおおおおぱ!!?」

…なななな何言ってんだこいつは!!!

「だってさ〜、つかさって小ぶりじゃん。18でももう少し成長する兆しがあってもいいじゃん」
「こ、小ぶりて!見たのかい!」
「海行ったときに、うん」
「あぁ、あのときですね。楽しかったですね〜」
「いやそこ、同調するとこじゃないから」

つかさが…?ま、ままさかねぇ…あ、でもうちの家系みんな着やせするし…
いやいや!姉としては負けるわけには…って!なんの勝負だなんの!

■飯の時間なんでちょっと時間置きます。

53 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/16(木) 19:16:44.32 ID:9u4Ked2f0

昼休み―

「あれーつかさ?お弁当残してるよ?」
「どうかしたんですか?最近食が細いようですが…」
「だだ、大丈夫だよ二人とも〜」
「そうは見えません…。さきほども立ちくらみで保健室でお休みになられていたじゃないですか」
「そうだよ無理はいくないよ。最近かがみと食べないしさ〜。ケンカでもした?」
「ち、違うのこなちゃん…。ちょっと、ダイエット中なの」

我ながら、苦しい言い訳に聞こえました…。

「むぅ…」

こなちゃんの顔が、ちょっと恐いのは黙ってました。

54 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/16(木) 19:27:02.30 ID:9u4Ked2f0

「あーあ」

私はこんなところで何やってるんだろう。
よくわからないあ。ただ、なぜかつかさの前に出にくい。
やっぱり今朝のことがあったからかな?
いやでもなぁ…つかさだって女の子なんだし、自分の身体のことくらいしっかりしてるだろうし。

……
モヤモヤする。どうしたものかな。

「かがみぃ」
「どぁぁっ!?」
「こんなとこで何してんのさ〜?」
「あ、あんたには関係ないでしょ!そっちこそ、何の用よ?」
「あれれ〜?そんなぞんざいな態度しちゃっていいのかなかな?
愛しい妹のことを教えてあげようと思ったのに…♪」
「つかさの…こと?」
「うむっ!かがみ…つかさに何か言ったっしょ!?」
「え…な、なにを?」
「どーせ『つかさのデブーデブー。この丸太体型!』とか言ったんでしょー!?」
「…ちょっと待て。お前私にケンカ売ってんのか?」
「いやだってさ、つかさ『ダイエットしてるの』とか言い出したんだよ?かがみと違って余分な肉ついてないのに」
「な・ん・だ・と(ギリギリ)」
「痛い痛い!アイアンクローはやめてぇぇぇ!!!」

55 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/16(木) 19:37:12.81 ID:9u4Ked2f0

「はぁ…助かった。兎に角さぁ、つかさ最近変なの。
最近ずーっとご飯食べないんだよ?フラフラするわ顔色悪いわで。
最近一緒にいるのに気づいてなかったの?ダイエットにしちゃ変だと思うわけよ」
「……そ、そうなんだ」

ゴォォォォ……ッ

「おほー、自衛隊の編隊だ。この前あんなことあったから警戒してんのかなぁ」
「あ、あぁ…そうかも、ね」
「この前さ〜、その戦闘機ですっごいの見たの。
一つだけ独自で動いててさ、しかも単機で敵機をフルボッコにしてんの」
「え、ああ〜ああ。どのくらいだったっけ?確か私くらいじゃなかったかなぁ?」
「いや〜?私が見たときは…そうだなぁ、岩崎さん?いやいや、それ以上に大きかったんだよね」


…ドクン。
何かが、心臓を掴んだ。その、こなたの何気ない一言で。
昨日見たメールが、頭の中を駆け回る。

『お姉ちゃん 私、成長してる』

56 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/16(木) 19:47:23.55 ID:9u4Ked2f0

悪い
予感がした。

こなたによれば、つかさは教室にいるって。
一人にして欲しい。そう言ったらしいので、こなた達は先に帰った。
つかさの教室。そのやけに広く感じた部屋の片隅で、つかさが机に突っ伏してた。

「……ッ!!お姉ちゃん!その…ごめんなさい…我慢、できなくて…」
「あ、あ、あんたねぇ!」
「お姉ちゃん私ね…経験すると成長するの…」

上目遣いでそう言った。だから、…こなたのせいじゃないけど、視線が胸に行ってしまった。
つかさはすぐに気づいたのか、

「はぅ、ごめんね!こういうところは全然育ってなくて!」
「いやいや!別に謝らなくていいから!」
「お姉ちゃん、聞いて。
…私、強くなってるの…。どんどん、どんどん、
兵器として。この前お手伝いに行った戦争で私…ほんの一撃で…」

嫌な予感は、これだった。だけど、話してくれたおかげで、私の緊張もどこかへ消えてしまった。
だから、つかさを不安になさせないよう、私はつかさをきつく抱きしめた。

「もういいって。黙ってなさい」
「お姉ちゃん…私、何も食べなければ…成長止まるんじゃないかって」
「もういいの!」
「どうしていいかわからなくて…バカだから、私ができそうなのってこんなことしか…」
「つかさっ!」

57 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/16(木) 19:57:11.74 ID:9u4Ked2f0

「自分の身体なのに…一体、なんなんだろ…」

夕方の教室で、私達は抱き合った。
せいいっぱいしがみついてくるつかさの力は、やっぱり弱くって…
小さく壊れそうな気がして…鼻をくすぐるつかさの髪の匂いを吸い込むと、
胸がギュッと苦しくなった。なんだか…

(どうすりゃいいんだこういう時…)

「…お姉ちゃん、ごめん、ちょっと離して」

つかさが、優しく私の胸を押す。
やっぱり、この雰囲気に耐えられなくなったとか?

「私…かっ、監視されてるの」
「……は?」
「なんか最近わかるようになったの。相手は気づいてないかもしれないけど、私わかっちゃうんだ」
「どど、どこの誰が!?」
「ん〜。あっちの500m先に三人くらい」
「そんな精密に!?なな、なんでよ!?」
「だって私…最終兵器だし」
「監視されて、なんでそうあっけらかんとしてるのよ!?」
「べべ、別にそんなことないよ。お風呂入ってるときとかさ。死角にいるようにしてるから平気。多分相手も仕方なくやってると思うし」
「仕方なくって…あんた」

58 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/16(木) 20:07:14.77 ID:9u4Ked2f0

「だって、戦争だもん。私が我慢すれば、いいの」
「バカ!それで良くなっても、あんたがそうやって泣いたんじゃ意味ないでしょうが!」
「お姉ちゃん…」
「…逃げるわよ」
「え?」
「監視されてるんなら逃げる!これ鉄則よ!」
「う、うん…でも、どこに逃げるの?」
「そりゃ勿論!」

私はつかさの手を引いて、駐輪所まで連れていった。
そして、つかさを後ろに乗せると、気合を入れてサドルに跨った。


「あんたが監視されないとこまでよ!」


ついハズミで出た言葉が、私達の運命を少しだけ変えた。
今思えば、この時が最後のチャンスだったんだ…

59 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/16(木) 20:18:09.49 ID:9u4Ked2f0

私が思っていた以上に―
事態は想像以上にシンコクで…
それ以上に…

ザンコクだった―


「相手の位置確認。43°11'14.8"N 140°59'45.1"E
南南西に53.4km/hで移動中。お姉ちゃん、250m先一通を右折ね」
「りょ、了解!」

私達は、「何か」から逃げていた。私にはそれがなんであって
どこにいるのかなんてわかりはしないけど、つかさは「わかる」と言った。


(つかさ、本当に成長してるのね…)

最初は信じられなかった。だけど、逃げるにつれつかさの精度は
どんどん緻密になっていった。そんなことより、さっきから
つかさの様子がおかしいことに、気づいた。


(どうしよう…やだ、やめて…こんなときに自動防衛弾が…)

「つかさ!どうかしたの!?」
「ううん!なんでもない!それより前前!車来てる!」

60 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/16(木) 20:28:21.40 ID:9u4Ked2f0

いつも監視されてる自衛隊の人ならなんとか逃げ切れると思ったのに…
監視してる人、多分日本の人じゃないかも…
もうやめて…私に近づかないで…我慢できなく…

「くっ…あっ…ああっ……!」
「つかさ!?」
「だめぇっ!後ろは見ないで!…おね、がい」

ビキッ…ボゴッ…

「みな…い…で…」

カラン……

―ズァァァァァッ!!!!!


――――――――ドンッ


「な、なに今の!?」
「逃げて、お姉ちゃん!振り返らないでそのまま逃げて!」
「う、…うん!」


そして私は、息が切れても、止まらずに走り続けた。
結局、あの爆発の音がなんなのかは、今でもはっきりとはわからないでいる。

62 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/16(木) 20:38:17.84 ID:9u4Ked2f0

「はぁ…はぁ…つか、さ…」
「お姉ちゃん…あ、ありがとう。大丈夫…もう、いなくなったから…」
「どうする?この後…海外にでも逃げよっか、あはは」
「あ…お姉ちゃん、私もう海外は…ん」
「なに、どうかしたの?」
「ごめんお姉ちゃん、ヘリさんが来たみたい」
「えっ…!ヘリ?」
「まだ気づいてないよ。…殺られる前に、殺らないと…」
「つか、さ?あんた今、なんて?」
「…………――ッ」
「つ、つかさぁ!」

つかさの瞳孔が、一瞬開いたように見えた。あれは人には出来ない業かもしれない。
そしてなにより…

つかさから、紛れもない『殺気』を感じてしまったから。

「あんた…今何しようと…!」
「何って…だって、私、兵器だよ?兵器は…破壊して、殺すモノ、なんだよ?」
「……ッッ!!」

「私…もう… 死んだほうが いいのかな…」

65 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/16(木) 20:49:00.07 ID:9u4Ked2f0

「…お姉ちゃん、いきなりぶつなんて酷いよぉ」
「バカ!バカバカ!死ぬなんて簡単に言わないの!」
「…ごめん、なさい」
「……わ、わかればいいのよわかれば」
「ねえお姉ちゃん?」
「この街、きれいだよね。
平和だよね。生まれてずっと住んで、好きに友達がたくさん住んでいて…
でもちょっと切なくて…。この街だけだったら、どうする?…なんてね」


パンッ

―おねえ、ちゃん?
―っく、うっ……うっ…
―おねえちゃん…ごめんなさい…ごめん、なさい…
―うわあああっっっ!!!
―泣かないでよ…お姉ちゃん…
―私ね…お姉ちゃんのこと、ううん、私達の街に住むみんな、守りたいんだ
 こんな妹で、ごめんなさい
 でも、好きだから。ごめんね。もう、心臓の音しないけど、
 …さっきなんて頭がボーっとなって、泣いちゃいそうなくらいドキドキしてたの
 本当は、あんなこと言いたくなかったの。でも、そうでないと消えてなくなっちゃいそうで、
 それでも…私は…『生きて』るの。生きていたいの。お姉ちゃんの妹として…

67 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/16(木) 20:58:16.41 ID:9u4Ked2f0

―…私が、私が仕事から帰ってきて
―…??
―いつものように、あんたがお母さんと料理作ってさ
―うん、うん
―いのり姉さんとまつり姉さんと、お父さんと、みんなでご飯食べてさ
―うん
―それで、あんたと、私の、彼氏見せっこしてさ。彼氏の悪口言い合ってさ…
―あはは
―それで、お互い大変だねーって、それで気分晴らしに、ここ来て
……あの頃が懐かしかったなぁって、あの頃は戦争で大変で、
それに比べたら今は幸せだなーって、…ここで、言いたい
―うん、そう、だね…。…お姉ちゃんの心臓、トクントクンって鳴ってる。お姉ちゃんの心臓ね、普通の人とちょっと違うの
―…どう、違うの?
―…かわいいの
―なによ、それ

そして、私達はそこを降りた。いつか、このドタバタも、
大人になって笑って話し合えるような、そんな未来を、二人で想像しながら…

私達の、ちょっとした冒険は、終わった。

68 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/16(木) 21:08:14.71 ID:9u4Ked2f0

「…ん、どうかしたの」
「あのね、勢いでこんなとこまで来ちゃったけど…どこで泊まればいいかなって」
「あ〜。こなたじゃないけど、ネット喫茶とかかなぁ」
「着替えとか…」
「着替え?」
「制服も汚しちゃったし…その、下着も…」
「……はぁ」
「い、今すごい私のことバカにしたでしょぉ」
「うん、した」
「はっきり答えたし!」
「確かに、制服のままだと何かと困るわね。私は普段着だからいいけど」
「それに…それにね。
 みんなに…さよなら…したいから…」

私達は、2時間後に駅の前で待ち合わせた。


そして、つかさと別れた―

69 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/16(木) 21:18:39.38 ID:9u4Ked2f0

ある日、つかさがこんなことを聞いてきた。

「あのね、お姉ちゃんの初恋って誰??」
「…は?」


…何を言ってるんだあんたは…


「おう、柊の妹じゃねえか」
「こんにちは、つかさちゃん」
「こんにちはぁ。あのあの、お姉ちゃんの初恋って、誰だか知ってます??」
「柊の初恋?あ〜、そうだなぁ。誰だったかなぁ」
「みさちゃん…」
「ぁんだよあやの」
「………」
「…ん?わーってるよ。あー、なんだっけ、初恋だっけ?」
「は、はい!」
「それはな…妹…柊の初恋は…実はあたしなんだ!」
「……え!!?」

70 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/16(木) 21:28:45.38 ID:9u4Ked2f0

「そ、そそそ、そうなん…」
「なわけねーじゃん!あはははは!!」
「みさちゃんったら、もう」
「……えぇぇ」
「まーでも、妹って結構姑くせーとこあんだな」
「ええ!?ななんで姑?」
「だってよー、彼氏ならわかっけど、姉の初恋聞きに来るなんて、なーんか陰謀を感じるしなぁ」
「別に…単なる好奇心かもしれないわよ?」
「ま、そういうことだからよ!ンなこと気にすんなって!な?」
「は…はい」
「個人的には〜、あたしはお前の初恋が気になんだけどな〜」
「…あは、あははは…」


「なぁ、あやの、やっぱり」
「ダメ!…もう、あれは終わったことなんだから…」
「わわ、わかったよもう…。はぁ」

71 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/16(木) 21:38:22.71 ID:9u4Ked2f0

最近、つかさの「出撃」が多くなった。
なので、「出撃」じゃあんまりだろうから、代替の言葉を二人で考えていた。

「ん〜、仕事とか」
「なんか違和感があるような…」
「お勤め…」
「なんだか、水商売に聞こえなくもないよね」
「ワーク、ジョブ、ビジネス」
「ええ、英語はやめて〜。私英語苦手なの〜…」
「じゃあどうしろっていうのよ」
「う〜ん…そうだなぁ……そうだ!」
「なに?」
「ゆたかちゃんのお友達…みなみちゃんだっけ?あの子犬飼ってるよね?」
「そうね。それがどうかした?」
「それで閃いたの。『お散歩』ってどうかなぁ?」
「…あのねぇ…遊びに行くわけじゃ…」

♪♪

「あ…ごめんお姉ちゃん『お散歩』行かなきゃ」
「そ…そう。頑張ってね」
「うん。行ってきます」

双子として…姉妹として過ごしてきたつかさ。
だけど、私はあの子のこと、何にも知らない。
カチューシャが好きで、料理以外は何でも不得意で、
ちょっと負けず嫌いで、白い色が好きで、最終兵器で、心臓の音がしなくて、
つかさが見てる戦場とか、成長してるつかさの身体のこととか、そして…

―私のたった一人の、妹。

73 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/16(木) 21:48:23.36 ID:9u4Ked2f0

銃弾。それだけがそこに鳴り響いていた。
名前など知る必要のない一つの国。そこでは今起きている大戦の真っ只中だった。
あるものは撃ち、あるものは撃たれ、あるものは散っていく。
疲弊と硝煙だけが渦巻くこの戦場で、戦士達は束の間の休息を待つ。

……ィィン

音がした。何かが、風が、過ぎ去っていくような無機質な旋律。

…ィィン

「……ここ、かぁ」

彼女は、そこに舞い降りた。

「Goddes...?」

名も無き兵士が、ソレに呼びかける。

「Shall I shoot it!?」
「Wait...She's crying」
「Hey! Are you a DEVIL or GODDESS!?
I'm going to shoot you!You hear!?」
「No,No!You'll die!!!」

ソレは、兵士達の喧騒に、涙を流して答えた。

「……ごめんなさい。英語、わからないの…」

74 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/16(木) 22:00:09.55 ID:9u4Ked2f0

そして、ソレが見ていた景色は、灰になった。


先ほどまで喚いていた兵士は消え、
宅地の残骸も、砂すら残さず、

ソレが放った光で、すべては無になった
無に還った
存在がかき消えた


全部、死んだ。


ソレ以外が。

75 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/16(木) 22:08:09.25 ID:9u4Ked2f0

「はぁ…」

ここんところ、暑さが続くせいかどうにも気だるい。
それもこれも、つかさが以前言ったことが理由だ。
初恋?私の?そんなもの知ってどうしたいんだか?
好きな人でも出来たのだろうか?
それで私を参考にでもしたいんだろうか?はて…
さっぱりわからない。
確かに、そりゃまぁ私だって恋の一つや二つ経験はある、が―

「…思い出させないでよ」

忘れたい思い出だ。今思えば、よく今も仲良くしていられるものだ。
それ以来、恋愛に億手になったのはいうまでもないんだけども…

「お姉ちゃん、帰ろ?」
「あ、うん。そういえば、こなたは?」
「なんか、用事があって先に帰ったって」
「あぁ、そう…」

こなたがいないのが、ちょっと残念だった…。

76 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/16(木) 22:17:38.23 ID:9u4Ked2f0

「それでね…自衛隊に新しい人が配属されるんだって。女性みたいで」
「へぇ…女性も駆り出されてるんだ」
「っていっても、こなちゃんが前言ってた義勇兵っていうみたいだけど」
「直接戦争に関わらない人ってこと?」
「んー、わかんない。情報とかを自衛隊に教えるとかそんなかんじだったかなぁ」
「それ義勇兵って言わなくない?」
「え、そ、そうだっけ…」

交差点まで、他愛のない話をしていた。
ただ、気づいてなかった。すぐ目の前に大きな水溜りがあることを。
ようやく知ったのは、トラックがそこを横切るときだった。

「危ないつかさ!」

咄嗟に私は、つかさを引き寄せた。間一髪…つかさに水はかからなかった。
そして…

私の目の前を…
あの人が、通り過ぎた。

「……あ」

―なんて、他人の空によね、きっと。

(お姉ちゃんの心臓、早くなったような…)

77 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/16(木) 22:32:30.78 ID:9u4Ked2f0

「かがみちゃん…だめだよ、こんなこと」
「お兄さん…わたし、わたし…」
「俺には…好きな人が…」


―ッ!!!

その日、起きたときに顔が熱かったのは、夏の日照りのせいなんかじゃなかった。
ってええええええ!!!なんつー夢を見てるんだ私は…

「はぁ…未だにあのこと引きずってるのか、私は…」

もうあれは、終わった恋なんだから。
忘れてしまったはずなのに。あの妹のせいで。

「ったく…女々しいったらありゃしないわ」

「お姉ちゃーん、ご飯〜」
「はいはいー!今行くわよー!」


でも、やっぱり夢のことが気になってしまった。

78 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/16(木) 22:42:22.08 ID:9u4Ked2f0

「おぉ、柊、何見てんだー?」
「うわわわわわ!!?」
「おぉー懐かしい。これあたしの中学の陸上の大会のやつじゃん!」
「それって、4年くらい前だったかしら?」
「いや、その…」
「おーおーなんだぁ?ピチピチだったあたし見て欲情してんのかー?」
「4年経っても全然女ッ気のないあんたにどうやって欲情すんのよ」
「あやの〜、柊が心無い言葉を浴びせる〜〜!!」
「まぁまぁ、よしよし。それ…みさちゃんの応援のときの集合写真よね?」
「う、うん…。押入れ整理したら…出てきちゃってさ…」
「…柊ちゃん、誰、見てたの?」
「え…!?」
「そこには、みさちゃん、私、柊ちゃん、それに…」
「なななな何言ってんのよ!?別に誰か見ようとして見てたわけじゃないんだからね!」
「…なら、いいんだけど」

「…やっぱり、峰岸は鋭いな…はぁ」

80 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/16(木) 22:52:55.40 ID:9u4Ked2f0

あぁ…もやもやが消えないまま放課後。
忘れようとして、忘れようとして、気が付いたらあの写真を手に取っていた。
あの人と私が写っている、唯一の写真。
この人の顔を見る度に、胸が痛くなる。
あのとき、あの横断歩道で見かけたのは、やっぱりあの人だったんだろうか。

「…ぇちゃん」

なんでこんな終わったことでウジウジ悩まないといけないんだろう。
私が不安な顔してたら、つかさに感づかれちゃうかもしれないのに。

「…ねえちゃん」

「お姉ちゃん!」

…ッ!!

「な、なに?どうかした?」
「もう…さっきから上の空だよ。大事な話があったのに…」

♪♪

「あ…『お散歩』の時間みたい…行かなきゃ。はぅ、スクランブルだよ…」
「は、早く!あの空家のところで!」

82 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/16(木) 23:04:30.81 ID:9u4Ked2f0

「わ、わかった…ただ、は、恥ずかしいから…見ないで、ね」
「う、うん…」

こんなときでも、どっか女の子っぽいのが少し羨ましい。
つかさが空家まで走った瞬間―

ドシュッ―!

まるでミサイルでも打ち上げたかのように、つかさは飛躍した。
辺りはつかさの放った衝撃で軽い爆発に巻き込まれた。

「…だ、誰か倒れてる!」

煙の中心地か。爆発の衝撃で倒れたのだろうか。
蹲る一つの影に、私は駆け寄った。

「だ、大丈夫ですか?ケガは?」
「…く、…痛ぇ〜」
「……ッ!!」

その声は、聞き覚えがあった。忘れようとして、最近また思い出してしまった―

「あ、かがみちゃんじゃないか」
「お兄…さん…」

その人は、あやのの彼氏でもあり…私の初恋でもあった。

■あ、そういえば兄の名前なかったよorz

84 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/16(木) 23:13:31.87 ID:9u4Ked2f0

「いや〜、久しぶりだね、かがみちゃん」
「お、お久しぶりです…」

胸がドキドキいってた。おまけに顔もまともに見れない。
どうしちゃったんだ、私は…

「しばらく見ないうちに大きくなったなぁ。うん」

そう言ってはにかんでみせた。
やめて、笑いかけないでください…

「お兄さんこそ、大学はどうしたんですか?」
「うん?あぁ、そういえば言ってなかったか。
実は俺ね、自衛官に志願したんだよ」
「自衛…官ですか」
「勿論、みさおやあやのには話したよ。かがみちゃんだけ
最近会ってなかったから言えてなかったんだ」
「そう、なんですか…」
「まぁ自衛官っていってもさ、直接戦場に行くのかもわかんないしね。
そういえば…妹さんいたよね?…えっと」

ここで、私は邪なことを考えた。自衛官であるなら、
つかさと接触する可能性が高い。それに、つかさとお兄さんは
小さいときに一度しか顔を合わせていない。だから…

「まことです」
「あぁ、まことちゃんだったっけ?もう明日から行くから挨拶できないけど、よろしく言っておいてくれるかな?」
「はい、わかりました…」

そこまで話して、私はお兄さんと別れた…

87 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/16(木) 23:23:00.88 ID:9u4Ked2f0

「お姉ちゃん、ゲーム一緒にやろうよ」
「あぁ、いいわよ。首領蜂-大復活-、シューティングだけど、どう?」
「やってみるね〜」

……ドカーン

「はぅ〜」
「…3秒で撃墜ておい。あんた兵器でしょうが…」
「むむ、難しいよぉ」
「じゃあ、これは?ガンダムVSガンダム」
「私、この赤いのでやるね」
「ジャスティスねぇ…じゃあ私はフリーダムで…」

……ドカーン

「はぅはぅ…」
「私ノーダメなんだけど…。あんたゲーム下手ねぇ」
「も、もっと簡単なの、ない?」
「もう…ミンサガでいい?」
「うん!RPGなら得意だよ〜。こなちゃんに経験値上げに数時間やらせてもらったのぉ」
「鬼かあいつは…。あとサガは無闇に能力上げちゃダメだからね」

89 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/16(木) 23:32:54.42 ID:9u4Ked2f0

…力がアップ! 魅力がアップ! 器用さがアップ!

「…楽しい?」
「うん、たのしい」

…こんな作業のどこが面白いのかわかんないけど、こんなんでいいのね。

「あ、これ知ってる!下の選択選ぶと武器もらえるんだよね」
「あぁ、それはリメイクで改変され…!ちょっ!待て待て!」
「はぅ…吹雪で全滅…」
「ったくもう…ちょっとジュース持ってくるわ」
「うん」

1時間の労力がパー。まぁつかさは気にしてなさそうだったな。
えっと、つかさはウーロン茶でよかったかな…と
上げすぎで最終試練出さなきゃいいんだけどね…


「つかさー、入るわよー」

91 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/16(木) 23:43:08.47 ID:9u4Ked2f0

扉を開けたとき、つかさは泣いていた。
手にコントローラを持ち、相変わらず能力上げを繰り返しながら。

「…つかさ!?どうしたの?」
「え?あ、あれ??どーしたんだろ、なんで涙が…
ご、ごめんね、ビックリしたよね。私もビックリしたけど…
なんか、なんかね、これ…私と、同じみたいで…」


画面上では、戦いにより強くなっていったキャラが、
沢山のモンスターを1ターンくらいで倒していた。
もっと強い技を閃いて、連携もして、どんどん、強くなっていった…
つかさの温度は、ほんとうは 悲しいほど冷たかった。

『つかさは今 どこまで 人なんだろう?』

瞳はこんなに綺麗で、肩幅なんかとっても華奢で、
女の子特有の、丸みのある肢体で、髪の毛もいい匂いがするのに…

♪♪

「…ッ!『お散歩』、行かなきゃ…」
「一人で、行ける?」
「うん…というか…一人で行きたい。今日は、偉い人が、いるから」


…つかさの言葉で、私は、つかさより早く、飛び出していた。

93 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/16(木) 23:52:04.36 ID:9u4Ked2f0

「お姉ちゃん!?」

完全に頭に血が上っていた。
あいつらが?あいつらがつかさをこんな身体にした!?
ふざけないで。人の家族を、なんだと思ってるのよ!
いい加減にして。あんたたちのせいで、私が、つかさが、どれだけつらい思いをしたのか!

「お姉ちゃん!!!!」
「…っ!!」

つかさの、悲鳴にも似た声がした。
それは、私の火照った頭を冷やすには充分なものだった。

「お姉ちゃん…私は大丈夫だから、だから…」
「つかさ…」
「お姉ちゃんは、家で待ってて。すぐ帰ってくるから」

つかさはニッコリと笑うと、偉い人に引率され、去った。

「…つかさが悪いわけじゃないのに…なんで私はっ!
つかさをキズつけるようなことしかできないのっ!
なんで、なんでつかさを守ってあげられないのっ!!
私は…私は…どうしたら…いいの……」

声に出したそのコトバは、部屋の暗闇にいとも簡単に吸い込まれて消えた。
私は、ザンコクだろうか?
つかさは今も、どこかで泣いているのだろうか?

94 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 00:01:27.51 ID:/kH0q+sc0

つかさが、出かけようって言い出したのは晩夏に近づいた頃だった。
夏休みももうあと少し、ということで、私も少し暇を持て余していたところだった。

「で、どこ行くの?」
「えっとね、この前偵察で飛んでたら凄いいい景色見つけたの。そこがいいな」
「…どこよそれ」
「えーっと、あっち」

地平線に向かって指をさす我が妹…期待した私がアホでした

「とりあえず、西に行けばいいのよね、うん」


そんなわけで、つかさと二人で、どこかもわからないところへ繰り出したのだった。


「ほらほらお姉ちゃん!あそこあそこ!」
「あ〜。確かに綺麗ね。あれはなに?」
「水族館みたい。ほら、あそこでイルカショーしてるよ!あ、向こうでは飼育員さんがえさあげてる」
「…むぅ、ちょっと見えないわ」
「私の目ね、ズ…」
「ズ?」
「ずず、ずいぶん、いいから…」

96 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 00:08:46.83 ID:/kH0q+sc0

「そうだ、こんな綺麗なんだから、これバックにして写メにしよっか?」

私は携帯を開いてみせた。が、つかさは、

「…写真は嫌だよ」
「どうして?」
「だって…写真があったら、安心しちゃうの。ホンモノの私でいられるうちは、私を見ていてほしいから。
わ…私がここにいることを…お姉ちゃんに、教えてほしいから…
私に…

一人ぼっちじゃないって、信じさせてほしい…」


「そういえばつかさ」
「うん?」
「今日は『お散歩』しないの?」
「実は…あの携帯、今日置いてきたんだ。邪魔、されたくないから…私、怒られちゃうかも」
「だだ、大丈夫よ。今日一日くらいサボっても、バチ当たらないって。
全く、大変よね、つかさの『お散歩』は」
「ううん…     もう    慣れたよ    」

愛しい妹が、愛しい家族が、変わらないことを望むのは、ダメなの?
私がまだ、こどもだから?でも、まだ私達は学生で、普通の普通の…
この胸騒ぎの正体を…もう少し後になって、私は、一番信じたくなかった方法で知る

最後のお出かけが  終わった―

108 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 08:08:48.94 ID:/kH0q+sc0

【幸星通り】

かつてここは、多くの販売店で賑わう商店街だったが、
昨今の空襲により、今では自衛隊の駐屯地として利用されている。
恐らく店であったであろう宅地は、自衛官が腰掛けられる程度の瓦礫でしかない。
そして、ここにはもう一つの二つ名があった。

『悪魔が住む場所』

自衛官の間では、そんな風に呼ばれていた。

「……あの」

何者かが、自衛官に歩み寄る。凡そ、屈強な男共に混じった異質な存在。
華奢な肢体。やや垂れた大きな瞳。少し欠けてしまったカチューシャ。
小さい背丈。ばっさりと裂かれた制服。


どう見ても、女子高生にしか見えなかった。

110 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 08:35:28.89 ID:/kH0q+sc0

その女子高生は、おずおずと自衛官の人間の顔を見回すと、屈託のない笑顔を浮かべ、言った。

「あの、お水、ありますか?」

―ッ!!

自衛官に走ったのは、かつてない戦慄だった。
考えてもみろ。軍隊の駐屯地に、場違いのように在るその少女。
異常としかいえなかった。しかし、その少女の笑みは、自衛官ですら慄く「視」を持っている。
あどけない顔が、その恐怖心をかきたてるのだった。

「お、おい!あれが噂の…」
「『悪魔』だろ?『悪魔』!単機で各国を灰にしたっていう!」
「で、ででも、某所では『勝利の女神』っていわれるみたいだぞ?」
「確かに、アレのおかげで戦争には勝っちゃいるがよぉ!」

それら全ては。どこぞの漫画でいう「ざわざわ…」という音でしかないのだが、
彼女の「耳」は、はっきりと一字一句間違いなく脳内に取り込まれていった。

「あの…お、お水……」

111 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 08:48:46.11 ID:/kH0q+sc0

「こらお前達ィ!」

背後から、男の怒号がした。
つかさはサッと振り返ると、そこには大柄な男が立っていた。

「貴様ら、上官に対して何をそんなに怯えている!?」

まだ若いだろう。胸の章を見るに、階級は二尉だ。

「小隊長殿、自分の部下が失礼いたしました」

男はピシッと敬礼した。少女―つかさもそれに応えるように、右手の指を額に当てた。

「小隊長、水が要りますか?」
「は、はぁ…。いつものお薬飲まないといけないので…」
「そうか…、おい、そこの貴様!」
「は、はい!」
「…見かけない顔だな、名前は!?」
「はい!自分は、日下部と申します!階級は三等陸士であり…」
「馬鹿もん!そんなことはわかってる!すぐに水を持ってこい!」
「はいっ!了解であります!」

峰岸と答えた自衛官は、そそくさと幸星通りを走り去った。

(…もしかして、みさおさんの…お兄さん…?)

112 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 08:55:48.10 ID:/kH0q+sc0

「しょ…小隊長殿!お水でございます!」
「あ、どうも…」

つかさは日下部三士からそれを受け取ると、近くにあった残骸へ腰掛けた。

「キヨさん!」

ヒゲの生えた二士が、キヨという男に声をかけた。
どうやらキヨとは、知り合いのようであった。

「…あのな、仮にも俺は上官だぞ、それ相応の」
「やはりレーダーです。ジャミングが結構強力らしく、敵がどれだけいるかもわからないようです」
「ふん…ここ一世紀遡ってるんじゃないか?」
「柊隊長、そういえば前の戦いで、敵部隊殲滅できたんじゃないですかね?」
「だといいが」
「…い、いえ、違いますよ」
「またまた〜、謙遜して」

二士が、からかうようにつかさに言う。周りの自衛官と違い、彼は隊内では気さくな人間のようだった。

「いいえ、違うんです…その、今囲まれてます」

「…へ?」
「なん…だと?」

113 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 09:05:24.51 ID:/kH0q+sc0

「だいじょーぶです。また、私がヤりますから」

そう言って、つかさは薬を水で嚥下した。

「だ、大丈夫です?」
「あ、お水どうもです。実は、さっきの戦闘で、わざと敵さん逃がしちゃったんです。今日は敵が多いんで、出力間違えると、ここも敵さんみたいになりそうだったので…、じゃあ、私試験勉強しますね」

物騒なことを笑って言うつかさの様子に、多くの自衛官が身震いした。

彼女は柊つかさ。別名『戦場の女神』 別名『天空の悪魔』 別名『麗しき女帝』
などなど…通称が多いことで有名だ。

「小隊長殿、受験生なのですか?」

自衛官の一人が、つかさに聞いた。顔は笑っているが、ヒザも笑っている。
恐れてはいるのだろう、しかし…

「はい…。お姉ちゃんと…同じ大学に行きたいので…」
「お姉さんがいらっしゃるんですか」
「はい…私バカなんで、こんなときでも勉強くらいしないとなんで」
「こらそこ、小隊長殿に軽々しく話しかけるな!」
「キヨさ〜ん、もしかして隊長狙ってんすか?やけに気かけてるじゃないっすか」
「馬鹿か貴様はっ!大体俺は妻帯者だっ!!」

キヨは、二士に向かって赤くなりながら怒鳴り上げた。

114 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 09:15:51.11 ID:/kH0q+sc0

(ほんと、馬鹿言うなよ。こいつ、兵器なんだぞ…
さっきの攻撃見ただろ。こんなお嬢さんが、一瞬にして敵一個隊を殲滅したんだ。
恐ろしいぜ全く…)

「それで隊長殿ぉ、お姉さんってどんな人なんですか!?」
「っておいい貴様ぁ!」
「キ、キヨ二尉、いいんです!」
「…っ?」
「皆さん…多分私のこと恐いと思います。私も正直…こんな自分が恐くて仕方ないです。
でも、それじゃ私がここにいる意味がありません。だから、私皆さんとできるだけ仲良くしたいです。
そうして…そういう勇気をくれたのが、お姉ちゃんなんです」
「姉さんが…ですか」
「ちょっと恐いけど、とっても優しいんです。
私最終兵器になってからすっかり『不良さん』みたいになって、
でも家族は知らないんです。でもあまり心配してなさそうで…
私、家族に嫌われてるのかなって思っちゃって。…でも、
お姉ちゃんだけは時々電話とかして励ましてくれるの。怒られもします。
とっても嬉しいんです。友達がいうには『ツンデレ』っていうみたいですけど、
それでもいいって。私バカだから…お姉ちゃんに甘えてばっかり。
でもお姉ちゃんはいいよって言ってくれて…」
「その…お姉さんは兵器であることを…」
「はい…前の空襲で見られちゃいました。でも、二人っきりのヒミツです」
(ここにいる連中はみんな知ってるけどな…)

115 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 09:25:40.10 ID:/kH0q+sc0

「お姉ちゃんに怒られるたびに、思うんです。
まだ私は人間なんだって。まだ生きていいんだって…まだ独りじゃないって。
…す、すいません…勝手なこと言って」
「そんなことは、ありません!」

名も無き三士の兵が、つかさの声を制止した。

「自分の身体を、見てください!先ほどの戦闘で受けたものです!」

そう言って着衣を脱いだところには、幾重にも巻かれた包帯があった。
しかし、赤く滲むその色は決して軽傷とはいえない大きなキズだった。

「それでも…自分は生きてます。隊長が戦ってくれたおかげで、自分もまだ生きてます!
隊長殿が戦ってる意味…絶対無駄ではありません!」
「戦う…意味…」
「おい、貴様、言葉を慎…」
「大丈夫です、ありがとうございます…そう言ってもらえると、不安がなんか小さくなります。
それと、最近少しずつなんですが、力の調整が出来るようになってるんです。
最初は戦闘に入ると、意識が朦朧として、兵器に『使われてる』かんじなんですけど、
意識でこんとろーるできるような…ええと、なんて言ったらいいかなぁ」
「もういい。余計なことは慎んでください。小隊長殿!」
「余計なことって…」
「いいですか、我々自衛隊は感情では戦えないのです。そういった雑念は捨てて、ただ任務を遂行…」
「あ…ま、まずいかも」
「…何か?」
「ステルス…私を狙ってます…こっちに…来ます。に、逃げて…」

言い終わらぬ内に、流星群のような弾道が、つかさに降り注いだ。

118 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 09:35:22.53 ID:/kH0q+sc0

バシュッ―

一発。


バシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュ


それから、沢山。全て受け止めた。逃げてはいけない。
地面に触れたらここも灰になってしまうから。

(痛い…)

バシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュ

(痛いよ…)

背中が焼けるようだった。本当に痛いときは、その部分が熱くなるというが、
今のつかさには、ただ 痛い としか認識できなかった。

ビキッ…ビキビキッ…

やがて、つかさの目が、背中が、羽が、―覚醒し始めた。

121 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 09:46:50.68 ID:/kH0q+sc0

だったら 私は守りたいかな
お父さん お母さん お姉ちゃん 街のみんな
ううん。この星の、できるだけ多くの、たくさんの人を、
私の力で、守りたいな
そしたらお姉ちゃん また誉めてくれるかな?
よくやったわねって
そしたらあの日以来…
―私が兵器になる前のように 戻れるかなぁ?

またお姉ちゃんと 映画観に行けるかなぁ

今度は… ホラーじゃなくて あたたかい ファミリー映画だったら

いいなぁ    うん  もうちょっと  もうちょっと


がんばろう


―――――――――――――――――――――…‥・   

123 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 09:56:55.32 ID:/kH0q+sc0

バラバラバラバラ
バラバラバラバラ
バラバラバラバラ

ヘリの音で、つかさは目を覚ました。
ぼやけていた視界も、徐々に正常になる。

「…敵は、敵は?へり…へりさんどいて!やられひゃうよぉ!
わひゃひが…わひゃひがみんあをたひゅけうの…!
おれえひゃんに…なえなえしえもらうの!」

呂律の回らないつかさを、キヨが撫でた。そして、

「もう 終わった」

静かにそう告げた。
つかさは辺りを見回した。
何もない。何も。
さっき試験勉強をしていたダンボールも。
さっき自衛官と談話したあの瓦礫も。
一昔前には賑わっていたであろう、通りの面影も。


全部 全部


つかさが灰にした。

125 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 10:06:15.57 ID:/kH0q+sc0

「あ、つかさからメール来てる。今日もまた『お散歩』してるのかなぁ…
全く、あの子ったら私と同じ大学行きたいっていうから、驚いたわよ全く…
使い古しの参考書、ちゃんと使ってるのかしら?」


「作戦、終了です…」
「お疲れ様です…、小隊長殿」



……

「ありがとうございます…」


「私を    殺して    …ください」


『お姉ちゃんへ 今度の日曜日、また映画観に行こうネ^−^
楽しみにしてます♪』

127 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 10:16:31.12 ID:/kH0q+sc0

「もう、私嫌なんです…。兵器のくせに、何かを守ろうとか言って。
そんなことばっかり言ってるからお姉ちゃんに嫌われて…
私が生きていていい理由なんか、どこにもないのに…破壊するしか能のない…ダメダメな子なんです。
所詮…私は兵器なんです。人間なんかじゃ…ないんです」

ジャキッ―

キヨが、ライフルをつかさに向けた。
その銃口はつかさの額に向けられており、いつでも発射できるよう、直立不動のまま構えた。

「き、キヨさん!何を!」
「…キヨさん、痛く…しないでくだ…さい」

ボロボロと、涙が零れた。言葉とは裏腹に、つかさの身体は一回り小さくなった。

「これでも射撃科で主席を取ってました。…妻はあまり得意じゃありませんでしたが、外しはしません」

殺してって 言ったけど ほんとは イヤなんだ
死にたくなんか ない 死にたく ない もっと もっと殺すかもしれない
もっと もっと壊すかもしれない でも でも
でも―

「イヤぁぁぁ!!!イヤだぁぁぁ!!!死にたくないよぉ!死ぬのはイヤぁぁぁ!!!
やめて…やめてよ…!やだよ、こんなのぉ…私はいっぱい人殺してるのに、
自分だけ死にたくないなんて…どんだけ勝手なの…!私は…っ!!
でも…生きていたいの!生きたいの!人見知りで、臆病で、根性なくて、
お姉ちゃんより人気なくて、こなちゃんにはバカにされてばっかだけど…!でも、私はまだ生きていたいのっ!!」

130 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 10:26:15.38 ID:/kH0q+sc0

「まだ私…18年しか生きていないの…まだまだ、人生これからなのに。
これから、恋をして、人を好きになって、子供作ったり、楽しいことしたり、
したいことが沢山あるの…まだまだやりたいことが沢山あるのに…
ごめん…ごめんなさい…こんなに、こんなしょうのない子で…」
「小たい…、いや、つかさ」

キヨが、静かに言った。

「君はもう、死なない。恐らく、ありとあらゆる兵器を使っても、
貴女を殺すことはできない。君を殺すこともできないし、止めることもできない。
だから…」
「あ…う…」
「よかったな、つかさ」
「自分も、妻がいます。正直マイペースで、自己中で、警官なのにすっごくだらしないです。
ずぼらだし、料理も下手です。でも、愛してます。電話で話す妻の声を聞くと、
『俺も死ぬわけにはいかない』って、思います。でも、自分はいつか死ぬかもしれません。
我々は戦争をしていますから。だから、女房とその家族に、先日遺書を送りました。
ここにいる者、全員それを済ませました。でも、正直自分も無駄死にする気は毛頭ありません。
死ぬときは妻の胸の中で死にます。…よかったな、生きてて…」

キヨは最後に優しく微笑むと、つかさの頭を抱いた。
途端に、せきを切ったかのようにつかさが泣き出した。

「うう…うぁぁぁぁ……っ!!あああ…あっ…ああぁぁぁっっ……!」
「…鼻水だけは、勘弁してくださいね」

135 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 10:36:13.07 ID:/kH0q+sc0

『お姉ちゃんへ また街を消しちゃいました。
それで、私、こう思ったんです。私、そのことを忘れないようにしようって。
私が消した街の風景を。私が来たときは、もう人はすんでいなかったけど、
それ以前はきっとたくさん住んでたはずです。つらいけど、頑張って覚えていきたいって思いました。
歴史の成績はちょっと良くないけど、人間が築いて、失ってきたその歴史の中に…
試験には出ない、私が消したその風景を加えておきたいって思うんです。


そして、いつか…


私だけは、自分を許してあげたいと思ってます。もう世界中の誰一人、
私のことを許してはくれないから。お父さん、お母さん、こなちゃん、みゆきさん、
そして…きっとお姉ちゃんも、許してはくれないから。ただ…

「守りたい人がいます」 「生きていたいです」

せめてそれだけは、私だけは、許してあげようって思いました。
お姉ちゃん、ごめんね。私、もっともっと 強く なるから』

136 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 10:36:38.50 ID:/kH0q+sc0

―バレーの合同試合―
「すぅーぱぁーファイナル…みさおあたーっく!!」

ベシィッ!!!

「はぅ」

23-20

「くっそー、みさ吉卑怯だぞー、つかさばっか狙ってー!」
「へっへーん、勝ちゃいいんだよ勝・て・ば♪」
「くっそー、よしかがみ!一発でかいのよろしくぅ!」
「言われなくても、そのつもり…よっ!」

バシィッ―!

「うぉ、あやの行ったぞー!」
「えいっ!」
「ナァイスあやの!よし、あたしに任せ…っておいぃぃ、なんでボールがあっち行ってんだよぉ!?」
「だめっ!とれませぇんっ!」

…トントントン…ころころ

23-21

「やったぁ!」
「おぉう、あれこそ神風ってやつだねぇ」
(もしかしてつかさ…力使ったの…?)

138 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 10:47:09.95 ID:/kH0q+sc0

―その後

「ちょ、ちょっとつかさ!」
「ん?なぁにお姉ちゃん」
「さっきの、あんた、あれ!」
「え…違うよぉ。私何にもしてないよ?」
「そ、そう…なら、いいんだけど…」
「うん。でもでも、
  あのボールの軌道上に、突風が来るのは感知したから、もしかたらボールの軌道が変化するかも、とは思ったよ〜
大体の時間も予想したからあやのさんがトスする時間帯を計算してみたんだ」


…あっけらかんと言った。風が来るのを感知した…
あのとき、確かに体育館の窓は開いていた。…まぁ夏だし暑いし。
そして、峰岸がちょうど上空にトスする時間と、突風が来る絶妙なタイミングをはかっていた…!?

つかさは にんげんなんだ

思わずそう言い聞かせた自分を、叩いてしまいたかった。
でも、そんな私の不安は、ある意味無駄になるのだった。

「いや〜、相変わらずかがみの弁当はアジがあるね〜」
「きょ…今日は時間が無かったのよ!」
「お姉ちゃん、大丈夫だよ。私気にしてないよ」
「そうですね。あ、でもつかささん…それはフォローになってない気が…」
「……」
「つかさ?どしたの?」

140 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 10:56:27.22 ID:/kH0q+sc0

「……くる…てき…が」
(つかさ…、まさか、今…!?)
「おーい、つかっちゃーん、どしたのー?」
「え?え?あ、あれ…」
「つかささん、どうかなさいましたか?」
「そ、その…そろそろ避難したほうがいいかなぁって」
「あ〜、つかさもしかして、自分だけ助かろうと思ってる〜?」
「ちち、違うよ…!」
「んもう、そうならそうと言えばいいのに」
「…え??」
「おしっこでしょ、お・し・っ・こ♪」
「い、泉さん…!!///」
「う、うん…ちょっとトイレに…」
「じゃあ、私も行くわ」
「かがみ〜、つかさは一人でトイレくらい行けるっしょ?」
「私も普通にトイレよっ!!」
「あ〜はいはい。いってくるといいさ」


「お姉ちゃん…その」
「…ふんっ!」

ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリ!!!!

「お姉ちゃん!?勝手に警報機鳴らしちゃ…!」
「…何が来るの!?つかさ!逃げなきゃ!」
「違う…違うのお姉ちゃん…おっきい、おっきい地震が…来るの」

144 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 11:06:46.21 ID:/kH0q+sc0

「つかさ…逃げるのよ!」
「だめ…お姉ちゃんだけ…逃げて!」
「あんた、何言って!」

バキッ…ビギッ…ビシッ…

つかさの小さい背中から、殻を破るような音がした。
発動する。つかさの『兵器』が―

「見ないで…!見ないでぇぇぇ!!!!!」

激しく脈動する廊下を、私は苦虫をかみ締めながら走った。
私は…私は…あの子の姉なのに…でも、あの子が逃げろって…言ったから…
だから、私は逃げた…
この避けようのない現実と、
彼女の人ならぬ進化の片鱗から…


やがて、校舎の一角から、柱が建立した。

146 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 11:16:37.43 ID:/kH0q+sc0

それから、どれだけ経っただろうか。
何度足をすくわれたかわからず、何度お尻を打ったかもわからない。
地震が収まった頃には、もう私達が通っていた学園は、ただのコンクリートの塊と化していた。
ほとんどの生徒は、避難訓練様様に校庭で整列していた。
私はそんなことよりも、あの光が気になって仕方なかった。

「あれはきっと…つかさ…」

だけど、妙だった。つかさの言葉。そして、この地震。
敵に狙われていたとは考えにくい。
そしてもう一つ、しきりに私に訴えた、「逃げて」という言葉。
全てが腑に落ちない。だから私は、もう一度あそこへ走った。


「…あ…あぁ」

忘れるものか。警報機が、つかさと別れたところ。
そこは、多くの瓦礫が積み重なっていて、まともに前に進むのもままならない。
ただ、ただ。ある一箇所、警報機のあった場所からすぐのところ。
そのそこにだけ、瓦礫がなかった。私の周りには鬱陶しいほどあるっていうのに。
やがて私は、探検家になったような気分で、そこを目指した

149 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 11:26:36.11 ID:/kH0q+sc0

「あ…」

思わず声を失った。そこにいたのは、間違いなくつかさだったから…
いや、問題はそこじゃない。つかさは、なぜか素っ裸だった。
華奢だとは思っていたけど、裸だとそれが顕著に表れる。
白い透き通るような肌。重力に引かれ、すこし平べったくなってる乳房。
そんなに長くない太ももからのぞくうっすらと生えるヘア。
細身ではあるものの、ちゃんと女らしい身体つきではある。

「って…なに凝視してんだよ私は」

カーッと顔が赤くなった。全く…小さいときはお風呂に一緒に入ったんだし…
いやいや!そんなことよりも服服…ジャージでいっかな。
…息はしてるようね、って、そうじゃないと大変だってば。

「とりあえずそこの教室まで運ばないと。…よいしょ」

つかさの身体を抱き起こしたとき、見たくないものが背中にあった。
赤い、とても朱い切り傷。それも一つではない、五つ。
五つの痛々しい傷が、つかさの背中に刻まれていた。
血が滲んでいるような色で、それがまたなんとも痛々しい。

「…偉い人が、つけたのかな。…女の柔肌に、酷いことするわね」

愚痴を吐きながら、つかさを背中に乗せた。…軽いので少し妬けたのは内緒だ。

151 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 11:36:26.86 ID:/kH0q+sc0

「こんなんでいっか。…下着は我慢してもらうしかないわね」

教室で拝借したジャージを着せて、とりあえず私はそこでやり過ごした。
せめてつかさが目覚めるまではここに留まろうと思っていた。
ところが、目覚めて欲しかったというのに、私は、その時…恐怖したのだ。

……ガグンッ

つかさが、身を起こした。まるで機械のような直線的な動き。
そして、これまた機械のような奇異な動きでこちらを見ると、瞼を大きく開けた。

「つか…さ」

敵を捕捉したような、そんな視線だった。瞬き一つせず、
私をジッと見つめている。ダメだ…こんなの…こんなの…!

…考える前に、つかさを抱きしめていた。

「お、おおおお姉ちゃん!?じし…地震はどうなったの?」
「ごめん!ごめんねつかさっ…!」

つかさは一人っきりじゃないって…。そう言ってくれたつかさを…私は…
そんな風に見てしまっていた。こんなんで姉を気取っていた私が、憎たらしかった。

つかさは 人間で 私の 妹なんだから

153 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 11:46:54.10 ID:/kH0q+sc0

泣いてた私を、つかさが優しく頭を撫でててくれた。いつもと立場が逆だな。
本当はつかさは、この世界で一番悪いのは自分なんだ―そう思ってるのかもしれない。
そんな風に考えたら、なんか胸が苦しくなって、涙を目に戻そうと上を向いたら、ひゃっくりが出た。
バカなことしてる私を見て、つかさは笑った。

しばらくしてつかさは、「下着…また減っちゃう」とぽつりと呟いた。
困ったようで、泣きそうで、でもやっぱり笑顔で、そう言った。
つかさはコテン、と私の胸に頭を乗せた。
そして…あまり時間をかけずに寝息を立ててしまった。
つかさが開けた穴から吹く、静かな風が優しくつかさの髪を撫でる。
今はまだ、優しい風かもしれない。
これから私達に降りかかるのは、あのバレーのときのような突風かもしれない。
でも、幸せだった。当たり前の存在が、当たり前のように私の胸の中にいる。
そんな当たり前の妹が、私の胸で眠っている。

当たり前にあったことが、当たり前でなくなってることで、そんな気分になったのかもしれない。
その現実に、私は少し悔しくなった。

155 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 11:56:56.00 ID:/kH0q+sc0

「はぅ…」

これで三度目だ。校庭に戻ろうと思ってつかさと歩いているのだが、
しきりにつかさは転んでいる。確かにあちこちコンクリートの残骸が
散らばってて、歩きにくいのは否めない。
つかさはまぁ、ドジだ。結構何もないところで転んだりはする。
そう思って気にしないでいたのだけど、

「はぅ…ううん、やっぱりさっきので少し壊れちゃったかな?」

…クンッ

心臓が、少し跳ねた。そして、身体が熱くなっていくのがわかった。

「さっきね、地震のとき誤作動しちゃったの。恥ずかしいから、見ないで欲しかったんだけどね。
最近結構制御できるようになって…さっきも暴発しただけで済んだんだけど」

ドクン…
やめて…それ以上、言わないで…お願い

「でもそのせいで、どこか壊れちゃったかも…あはは、私、ほんとドジだね、ごめ…」
「あ、謝らなくていいわよ!」
「ご…ごめんなさい…」

またやっちゃった。そうじゃないの…つかさ。私は…私は…ね
そんなことを言いたいわけじゃ…なかったの……

157 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 12:07:10.98 ID:/kH0q+sc0

「お姉ちゃん、自衛隊の人がいるから、そっち行くよ」
「え…」

少し歩いたとき、つかさが言った。どこに?
自衛隊?いないじゃん

「裏山で待機してるの。…ごめん、実は黙ってたんだけど…」

『わたし めんてなんすしないと しんじゃうの ごめんね』
『わたし へいきだから めんてなんすもするし おくすりものんで いろいろしないと』
『もう わたし だけじゃ いきていられないの』

つかさは消えるように窓をすり抜け、走っていった。
残された私は、やっぱり小さかったその背中を、見送ることしかできなかった。

「柊!今までどこに行ってた!」

校庭に戻って言われたのは、担任の叱責だった。

「か、かがみ…無事だったんだね」
「その…ケガしたので…つかさは、柊つかさは自衛隊の人に保護されました」
「いいか!お前らみたいな無責任な連中が!有事のときにこうして迷惑かけるんだ!わかってるのか!?」
「ま、まぁまぁ先生、ここはウチの顔に免じて許してやってください」
「黒井先生…、なんだ?その目は?文句でもあるのか?」

あんたなんか…あんただってつかさに助けてもらったくせに…偉そうに…
そう言ってしまえば、楽になれただろうか。

159 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 12:16:42.09 ID:/kH0q+sc0

こなたが、見ていた。ジッと…睨むような目で。
静かに寄ってくると…突然

パンッ

と私の頬を叩いた。私は、空っぽになった頭で、こなたにやり返した。

パンッ―

こなたは赤くなった頬を擦りながら、涙を流した。
そして…

「バカ…かがみの…バカッ!」

そう言って泣きじゃくった。
そんなこなたを見ていられなくなって、私は帰った。
振り向きもせず。みゆきと日下部の声も無視して。
だって振り向いたら…泣いてるのが見えてしまうから。
泣きたいよ…私だって。だけど、つかさはもっと、泣いてるんだから―

■昼飯なので、ちょっと時間置きます

160 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 12:38:05.15 ID:/kH0q+sc0

結局家にも帰れず、私はその辺をブラついていた。
こなたを叩いた手が、まだジンジンとする。
あいつの肌…あんなに柔らかかったんだな。
暴力は、言葉以上に人を傷つけてしまう。身体的にも。
いや、言葉よりも、心に傷を入れるものなんだ。殴られた私が一番わかっていた。
それと、殴った人も、傷つく。だから、結局暴力なんて傷しか生まないものなんだ。
だけど、つかさは…
暴力なんてもんじゃない。破壊。多分、つかさの攻撃では、人間の心もろとも破壊しているだろう。
つかさは何度も人を殺した。死んだ人間は、何も考えず何も悩まずに済む。
だけど、生きているものは?それが、殺した本人だとすれば?
そう思うと、つかさの重圧がはかりしれないものだって改めてわかる。
想像に絶するものなんだろうか。私なんかが、慰めてやれるものなんだろうか。
泣きたくなった。さっきも少し泣いたけど、また泣きたい。
逃げでもいい、泣いて少しすっきりしたい。だけど…だけど…

「柊ィーーー!!!」

誰かの声で、私は涙を止めた。

161 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 12:45:11.58 ID:/kH0q+sc0

「え、誰?」

バコンッ

殴られた。しかも、グーで

「……ったぁー!くく、日下部っ!何すんのよ!?」
「柊にはわかんねーよ!全く…すっげー心配したんだぞ?
チミっこも、あやのも、黒井先生も…!」
「……う、うん」

なんかこっぱずかしくなってきた。面と向かってそんなこと言うなよ…。

「そういやさ、前から気になってたんだけどよぉ、妹とうまくいってねーのか?」
「…それは、私にもわかんないの。そういう以前に、わからないの。
ただ、ただわかってることは…」

前に二人で逃げたあの日―
あの子が自衛隊の人にペコペコしてるのを見て、
すごく、すごく腹が立ったこと そいつらを睨んでいた私を

つかさは ほんのいっしゅんだけ いままでみせたことのない
すごく すごくかなしいかおを したこと

そしてさっき わたしはつかさにいった
こんや あのおかにきてって せいいっぱい きえていくつかさにむかって
でもつかさは さいごまで ふりむかなかった

163 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 12:54:59.72 ID:/kH0q+sc0

「まーよ、なんにしてもさ、妹とは仲良くしとけよ」
「言われるまでもないわよ!」
「ん、じゃあもうヘーキだな。あとでチビっこに謝っとけよ」
「…わかったわよ」

時々、こんな日下部が凄いと思う。今時珍しい、暑苦しいくらいの体育会系。
こいつが「もっと熱くなれよぉぉぉー!」とか
「なんで諦めんだよ!Never Give Up!」とか言っても違和感を感じない。
今まで、ほんと今までただのバカだとは思ってたけど、あいつはあいつなりに私達のこと想ってくれてるんだ。


「それに比べて…私は」
「ん?かがみちゃんじゃないか」
「…!お兄…さんっ!?」
「今ちょっと休憩時間でさ、もしよかったらお茶しないか?」
「いや、その…あやのに、悪いような…」
「…うん、あやのさっき、地震でケガしたっぽくてね、お見舞いに行ったんだけど、
面会謝絶とか言われてさ…」
「……」

164 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 13:04:20.72 ID:/kH0q+sc0

「そういえばさ、最近俺が入った隊なんだけど」

『柊ちゃん…どうして彼と一緒にいるの?』

「可愛い子が一人いてさ〜。髪はかがみちゃんと同じだったかな?高校生くらいなんだけど」

『もう二度と…近づかないでって約束したわよね?』

「でねでね、そのキヨ二尉ってのがかっこよくてさ。もう射撃の腕がピカイチで」

『あのとき柊ちゃんは言ったのに。約束を破るの?私がいないのをいいことに?』

「最近じゃ別の部隊に新しい人が入るみたいでね。しかもまた女性らしいよ」

『嘘つき…柊ちゃんの嘘つき…そんな人だったなんて…』

「…あ、そろそろ集合の時間だ。またね、かがみちゃん」

『お姉ちゃん…嘘つきは死なないとダメだよ♪』


「―――――――――――ッッッ!!!!」


私は…何をしてるんだろう…

165 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 13:14:48.49 ID:/kH0q+sc0

「…ここだったかな。あ、自衛隊の携帯持ってきちゃった。…お姉ちゃん、来てくれるかな…」


「なんですと?」
「今日は『お散歩』しませんから」
「いやその、そんなご勝手なことは…」
「しませんから。メンテナンスが終わったら隊長さん呼んでください。
指示を出します。…もしこのことで家族や友達に何かしたら…

 殺しますから」


「あはは…ははは…悪い子だな、私…」


パンッ―


私の手の中で、携帯は弾けとんだ。
ガラスの破片が飛んで少し血が出たけど、まぁいいや…

「急がないと…」

166 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 13:25:15.68 ID:/kH0q+sc0

「き…キヨさん…」

戦いは終わった。キヨは事後処理として
周辺を歩き回っていた。そのとき、あの気さくな二士がいないことに気づいた。
数分ほどか。じゃりじゃりと焦土を歩いて、その二士が自分を呼んでいるのを確認した。

「き…キヨさん…おわった…すか?」

ただし、二士の顔は、半分なくなっていた。
何度もそんなことは見てきた。そして、自分がすべきことは…

「今、逝かせてやるからな」
「へへ…キヨさん…覚えて…ますか。俺とあんた…初めて会ったとき…」
「…」

167 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 13:34:31.61 ID:/kH0q+sc0

「キヨさん…すっげぇぶっちょうずらで…俺のこと…殴り…ましたよね…
あんときの…パンチ…まだ覚えてるん…すよ」
「…」
「でも…俺がやり…返したら…キヨさん…すげえ…おどろいて…ましたね。
じょうか…んに…暴力なんか…コレですもんね…」
「…」
「それから…っすよね…おれと…キヨさん…の…ゆ…じょぉ…
俺が…女もってきて…も、キヨさ…ん、目もくれねえ…で、
ほんと…おくさん…おもいの…いい…おと…こ…だっ…って」
「もう、喋るな」
「奥さ…んに…ちょいと…しっ…と…しまし…たぜ。へ…へへ…
俺も…じもと…に…かの…じょ…いるん……す。戦争…おわ…たら…
けっこ…しよ…って……あは…はは……」
「……」
「俺…死ぬ……すよね……死ぬなら……しょ…たいちょぉ…に…られたかっ…った」
「バカ…なんでもあいつに背負わせるなよ…」
「は……はは…あ…キヨ…さ…どこいっ…た…みえ…ねぇ…みえ…ね…ぇよ…
あ…っ…が………れ…だ、…にたく……ね…」

―タンッ

静かに、弾は放たれた。死に行くものを、キヨは逝かせた。
二士の身体を抱き起こしながら、キヨは泣いた。

「死にたく…ねぇ…」

月が、二人を照らしていた。

168 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 13:44:59.68 ID:/kH0q+sc0

「……はっ、はっ……むぅ」

やっぱり…追いかけてきてる。
もうプライバシーなんかあったもんじゃないよね。

「あの、邪魔しないでね」

ガサガサ、と草むらがざわめく。ばれる程度の尾行なら、最初からしなければいいのに。
その中から、二士の自衛官が前に出てきた。

「小隊長殿!報告致します!現在粕日部付近における戦況は…」
「…な、なんですかそれ。あ、今衛星の情報から聞いたんで。
なんで、私の指示に反したんですか…?」
「上のものが…独断で…仕方なかったのです」
「それじゃ…あの辺にいた人たちは…」
「…上の、命令でしたので」
「はぁ…兎に角、私はあそこに行かないと…」
「小隊長殿!   …現在あちらには『かがみ様』はいらっしゃいません」
「……それでも、行かないと。私、行かないといけないから」
「ま、待て!止まれぇ!!」

ジャキジャキジャキッ

…バカなのは、私だけじゃ、なかったみたい。お姉ちゃん…

169 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 13:54:42.50 ID:/kH0q+sc0

「そんなことして…どうするんですか?攻撃したら…消えますよ。あなたも、この街も」
「ですが!このままでは味方がっ!」
「この戦況を覆すには、小隊長殿お力が必要なのですっ!!」

「…同じだよ。私が行ったら、もっと死ぬ。私の知ってる…
私の好きな人たちや…たまたま同じ国で生まれた…私の国の…
なんだか愛しい人たちの代わりに…この星の私が殺さなきゃいけない
人が、代わりに死ぬ…それだけ」

バキッ…ビギッ…ボゴッ…

「どこが、どう違うの?同じじゃないですか…
悲しくて辛いってこと以外、変わらないじゃないですか…
行かせてください…お姉ちゃんが…待ってるから……
お願いします…この街で、人を殺したくないから……」

涙と翼が、同時に流れた。

170 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 14:04:22.66 ID:/kH0q+sc0

「……はぁ、はぁ…お姉ちゃん…」

いない。ここ。ここであの日、お姉ちゃんと見た夜景。
それだけが、ここにはあった。だけど、お姉ちゃんはいない。
どうしようかな…うう、お腹空いた…
カバンから、薬を取り出す。本当は飲むと危ないんだけど、
この際、仕方な…

「もう…ないんだ…」

空になったケースを、ポイッと捨てる。
…寒くなってきた。おかしいな、まだ少し夏なのに。
なんでこんなに寒いんだろう。早く…早く来てよ…お姉ちゃん

「今日、『お散歩』サボったんだよ。お姉ちゃんに会うために。
もっと話そうって。ここで約束したのに…お姉ちゃん…お姉ちゃんの声が聞きたいよ…
……はむっ……」

―…‥・

「味…しない。あれ…おかしいなぁ。今日のおにぎり…ちゃんと
塩水で握ったのに…あれ、だめだよ…味見ができないよ…お姉ちゃんに…ご飯作ってあげられ」


ゴトンッ―


つかさはそのまま、倒れた。

171 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 14:14:41.23 ID:/kH0q+sc0

一番古い、私の中のお姉ちゃんは、いくつのときだったかな?
雨の日だった。お友達と遊んだ帰り、突然雨がざーざーって降ってきた。
ビショヌレになりながら、私は公園のベンチに逃げた。
傘なんかない。でも、このまま動けない。その時、凄く寒かった。
雨のせいもあるけど、暗くなってきた景色で、たった一人孤独に震えながら、ただ雨の音だけが聞こえる。
私は、世界で一人ぼっちなんじゃないかって。
すごく…恐かった。不安で、どうしようもなくて…
もう家に帰れないんじゃないかって…。どのくらいそうしていたかな。
雨の音が、変わった。ザーって音から、ボタボタって音に。
目を開けたら、傘を差したお姉ちゃんが立っていた。

―何やってんのよ、つかさ。お母さん心配してたわよ。帰りましょ

ちょっと厳しかったけど、その瞬間、私はすごく安心しちゃった。
優しいお姉ちゃんに…飛び掛るように抱きついた。お姉ちゃんはアタフタしてたけど、
私の頭を優しく撫でてくれた。その時のお姉ちゃんは、とってもあたたかかった。
今、そんなあたたかさを感じている。これはなに?なんなんだろう…


「ごめん、つかさ…遅れて…」


「……うそつき……」


私はゆっくりと、目を、開いた―

172 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 14:24:40.55 ID:/kH0q+sc0

「つかさ…聞いて」
「……いい、聞きたくない」
「私ね…さっき」
「いいってば、いいの!」
「私ね…峰岸のお兄さんと…いたの」
「……ッッ!!」

『つかさ、わたし、みねぎしのおにいちゃんに、すきっていってきていい?』
『おねえちゃん…その…それは…』
『いいでしょ?ね?』
『……うん』

「やめて、言わないで」
「後からだけど、あんたも好きだったんでしょ?お兄さんのこと」
「そんなことない!そんなこと、ないもん!もう、忘れてたもん!」

173 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 14:34:29.34 ID:/kH0q+sc0

『おにいちゃん、わたし、おにいちゃんのことがすきなの…』
『ごめんな、かがみちゃん。昨日あやのに告白されて、それで、付き合うことにしたんだ』
『……え……』
『気持ちは嬉しいけど、…そうだ、じゃあお詫びに、一緒に遊びに行こうか…』
『う、うん!』

『柊ちゃん、昨日、どこにいってたの?』
『え…おにいちゃんと…動物園に…』

パンッ―

『あの人は私の彼氏なのよ!?付き合った翌日でよくそんなことできるわね』
『ちがう…おにいちゃんが…』
『言い訳しないで!約束して。もう彼と会わないで。柊ちゃんとは、こんなことで仲違いしたくないの。
でも私だって、彼氏と遊ばれていい気分はしないんだから』
『…ごめん…なさい』

『おねえちゃん…おにいちゃんと、あそんできたんだ』
『ごめん…その』
『ひどいよおねえちゃん…私の気持ちを知ってたくせに…!』
『ちち、違うの!違うのよ!これは…』
『おねえちゃんなんか、大ッ嫌いッ!』

174 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 14:44:09.36 ID:/kH0q+sc0

「やめて!もう、いいのあのことはっ!」
「あんたはずっと待っててくれたのに…私はあの人と会ってたの…最低でしょ」
「もうやめてよぉ!そんなこと、もう忘れたよ!」
「怖かったの…」

恋をするっていうことは。
恋は人を変えてしまう。人をこんなにも無力にしてしまう恋という存在が、
私は凄く怖く感じた。同時に、あの時逃げ出したい気持ちを
なんて都合よくマヒさせる薬が…この体にあるんだって、
あの時、知ってしまったのかもしれない。

「お姉ちゃん…何も、何も、無かったんだよ、ね?」
「……何も無かったわけじゃ、ないわ」
「……ッッ!!」
「あんたが…今泣いてる……何も無いこと、ないの。あんた、凄く辛そうにに…してたから」

「……お姉ちゃんのバカッ!」
「…つか、さ…」

176 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 14:54:11.59 ID:/kH0q+sc0

「辛そうに見えるのは、むしろお姉ちゃんのほうだよ!私を見るときの顔なんか、まさにそんなかんじだもん。
私は兵器じゃない。お姉ちゃんの妹なんだよ?お姉ちゃんばっかり言いたいこと言って、
私も辛いこと言いたいのに言葉にならないんだよ。私が『辛そう』に見える?
そんなの生まれつきだもん!涙は勝手に出てくるの!背中の傷は、まだ人間だって証拠なの!
私は…生まれたときからお姉ちゃんと一緒なんだよ?
誰よりも、誰よりもお姉ちゃんのこと理解してるんだよ!?
……見てよ、お姉ちゃん」

つかさは、後ろを向いて服をはだける。むき出しになった背中には、前と同じ赤い裂傷があった。

「まだね…まだ私人間なの。まだ人間でいた…あっ」

そっと、優しく、私はその傷に触れた。温かい。ドクンドクンって、血液が波打ってる。
きっとつかさは…今本当の自分を曝け出したんだろう。
きっとつかさは…知りたいのだろう。自分も、私も…みんな。

「また、一緒に学校行こ」
「…うん」

そして私達は、帰った。

177 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 15:04:07.96 ID:/kH0q+sc0

「じゃあつかさ、先帰るわね」
「うん、また家でね〜」

「でさ〜、最近じゃ同人誌もあんまり手に入らなくてさぁ」
「こなた、あんた進学どうすんの?私は大学受験するけど」
「ん?ふっふっふ、よくぞ聞いてくれました。なんと私はっ!
自衛隊の情報班に内定したのだよっ!」
「…はぁ?なんで?ていうか自衛隊って簡単になれないでしょうが」
「甘いなかがみん。この戦時下だとね、結構庶民から公募することがあるんだよ。
私は本当は最前線がよかったんだけど、女ってことで情報科に入ることになったのさ」
「あんたがお国のために働くって、なんか性に合わないわね」
「まぁね…でも、私だって家族がいるんだもん。守りたいじゃん?」
「ゆたかちゃんとか?」
「ゆうちゃんは、最近具合が良くないんだ。ほんとは傍にいてあげたいけど、お父さんもいるし」
「そっか…頑張りなさいよ」
「おぅよ!ではまた〜おつ〜」

「ただいま…あれ、お母さん、テレビ直ったの?」
「おかえりなさい。なんかね、お隣さんとお話してたら、テレビついたっていうから」
「かがみ、ご飯ありあわせのものでいい?お腹空いたでしょ?」

…そう微笑むお母さんの顔は、どこか疲れてるように見えた。
若作りしてるから意識してなかったけど…お母さん、こんなにやつれてたっけ…

178 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 15:15:37.57 ID:/kH0q+sc0

「ほらかがみ、映ってるでしょ?」
「あ、うん…」
「これ、日本なの?」

その映像は、音声もテロップも字幕もなく、
ただ淡々と戦場の記録を放映していた。そして、その中で一つ光る物体が見えた。

それは、つかさだった

最初に見たときと同じように、圧倒的な機動と圧倒的な火力で、
次々に敵機を撃墜していく一筋の粒子。


「もう戻れるわけ…ないじゃない…」


時間はちゃんと、ザンコクに動いていた…

179 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 15:24:14.23 ID:/kH0q+sc0

「お姉ちゃん、行ってきます…」


ドン―

つかさの放った砲撃が、敵部隊に炸裂した。
今まで生きたものだったそれらは一瞬のうちに肉塊と化した。

「ごめんなさい、遅れて」
「小隊長殿!お待ちしておりました!」
「ご指示を!お願いいたします!」
「ん、大丈夫。あとは私がしますから。皆さんは逃げてください」
「は…はっ!了解であります!」

「さてと…行こうかな…」


つかさは敵機に向かって飛んだ。
彼女が交差した敵機は、全て夜の星になり、消えていった…

180 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 15:34:21.42 ID:/kH0q+sc0

「おーっすこなた、みゆき」
「お、授業終わった?帰ろうか」
「今日もつかささんはご欠席のようですね…」
「つかさ、前の地震のときのケガ酷いのかな…」
「…大丈夫よ。この前見舞いに行ったら、ピンピンしてたから」
「ええ!?かがみずるーい!私もお見舞い行くー!」
「こらひっつくな!大体もうすぐ治るんだし…!」

つかさは、今日も『お散歩』。ただし、遠征らしく、粕日部にはいないみたい。
一応休みの口実として「ケガで入院と銘打ってるけど、いつまでこのウソが通じるか不安だった。

「じゃあ、今日はつかささんのお見舞いの品を買いにいきませんか?」
「おぉ、みゆきさんナイスアイデーア!」
「結局出かけたいだけだろ…」
「そんな連れないこと言わないの。さ、行くぞー!」
「ちょっと!手離せっ!」


考えてみれば、この時ついたウソは、本当にどうしようもないウソだったんだ。

181 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 15:45:11.73 ID:/kH0q+sc0

「さて、どこから回るか。アドアーズにゲマズにメイト」
「待て。お前みゆきが言ったこと聞いてなかったのか?」
「いや〜甘いよかがみ。そういうお店ではちゃんと小説とかあるんだよ。ラノベだけど」
「つかささん、ベッドで退屈そうにしてらっしゃるかもしれません。ご本を贈るのはいいかもしれませんね」
「…くっ、まぁいいけどさ」
「ようし、じゃあまずは……あれ?」

こなたが、空を見上げた。嫌な予感だった。
空は、数え切れない戦闘機で埋め尽くされていた。

「げげぇ!?こんな日に限って空襲!!?」
「泉さん!かがみさん!逃げ…」

182 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 15:54:46.21 ID:/kH0q+sc0

ドォォンッ―

私達がさっきまで歩いていた道に、大きな穴が開いた。
地響きで、私達はもんどり打つ。

「ここ危ないよ〜。どっか避難しないと」
「向こうの公園へ!早く!」
「……」

二人が行く中、私は呆然と空を見上げていた。
つかさは…今ここにいない。そうすると、ここはどうなる?
また戦争の傷痕が刻まれるのか?

「かがみ!何し…」

ドォォォン――ッッ

こなたの声は、爆発の音でかき消された。

183 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 16:04:06.19 ID:/kH0q+sc0

「……ッ?え…?」

空をもう一度見て、私は目を疑った。
雲を覆うほどあった戦闘機はおろか、空には一片の曇りもなくなっている。
聞こえたのはさっきの爆音だけ。

「おろろ!?何今の…」
「これで…助かったんでしょうか…」
「……」
「かがみ?お〜い」
「私、ちょっとトイレ…!」

空を通る光を、私は追った。
急降下したかと思うと、光は街から少し離れた草原で消えた。

「あそこね…!」

ちょっと距離はあったが、気にしなかった。
あれは多分、つかさだ。でも、どうして?なんで日本に?
本当に聞きたいのはそんなことじゃないんだけど、そんなことしか頭に浮かばなかった。

185 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 16:14:50.81 ID:/kH0q+sc0

いた…あれだ。草原で佇んでいる、小さな少女。
服装がちょっと軽装なのは、暑さのせいか、それとも服諸々の事情からか。
つかさはしばらく眼下に顔を伏せていたが、私の気を察知すると、グルンと物凄い速度でコチラを見た。

無機質だ。人間の目とは思えない。
それはつまり…つかさが…

「…なた、…だ…れ」

「―つかさッ!!」

はっきりとは聞こえなかった。幻聴であってほしかった。
お願いだから…これ以上つかさから奪わないで。
兵器になっても、いくら弱音を吐いて泣いても、いい。
だけど、それだけは…それだけはやめて。懇願するように私は、つかさの胸に顔を埋め、泣いた。

「………ぇちゃん、お姉ちゃん?」
「つかさっ!」

『つかさ』が、戻ってきた。しかし、焦点が定まらずに、ボヤァっとしている。
見なくちゃいけない。つかさを…真っ直ぐに。

「大丈夫…アレ、落ちる前に即死だと思う…。苦しまないで、逝ったよ」

淡々と、そう教えてくれた。

186 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 16:24:08.10 ID:/kH0q+sc0

「……あ」

思い出したように、つかさはカバンのカプセルを取り出して、嚥下した。

……そんな苦しむつかさを、見ていられなくて、

「お姉ちゃん、私…私ね…!」

「……っ」


目を、反らした。ずっと見ていようって決めたのに。
つかさは、私に見ていて欲しかったのに。
私はつかさから目を反らしたのだ。

「なんでもない…から。帰るね…一人で…行けるから…」

踵を返すときに見えた光るソレは、涙だったのだろうか。
それから、私はつかさと少し疎遠になった…。

187 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 16:34:11.83 ID:/kH0q+sc0

「ぼ〜」

以前つかさが開けたところ、そこはちょうど校庭を一望できる簡易のベランダのようになっていた。
放課後、何もする気になれないので、こうして日向ぼっこしてたわけだ。
…あぁ、ほんと気だるい。

「お姉ちゃん?」
「…つ、つかさ!?」
「はい残念あたしでした〜」

…こいつ、殴ったろか。

「そんな恐い顔すんなよ。どうした若人、あたしでよければ相談に乗るぞー」
「…まずはパンツを隠せ」
「うわわ!このエッチ!ド変態!」


「…妹とケンカしたのか」
「ケンカってわけじゃ…」
「でも、最近全然顔合わせねーじゃん。妹は妹で学校休みがちだしよー」
「……」
「まぁ、話しにくいんだったら無理には聞かねーけどよ」
「待って日下部…。…聞いて欲しいんだけど」

ちょっと素直に、なってみた。

188 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 16:44:15.98 ID:/kH0q+sc0

「私ね、最近わからないんだ」
「何が?」
「つかさのこと。自分の気持ちだって曖昧なのに。
姉としてこんなんでいいのかなって思って。わかろうって頑張れば頑張るほど、
あざ笑うようにあの子に酷いこと言っちゃって…難しいんだよね。
家族だし、妹だから、尚のこと。触れていいときと触れちゃいけないってこととか…」
「柊、お前ぇエスパーか何かか?」
「は??」
「他人の気持ちなんてよーわかるわけねーだろ。そんな簡単に他人の気持ちなんか
わかりっこねーって。もしあたしに妹がいたら…その妹に
あたしの気持ちを見られたら…そりゃ、恥ずかしくて死にたくなるよ。
別にな、わかってもらえなくてもいいんだ。ただそいつを心配してやりゃそれでいいんだ」
「…そう、だよね。そんなに人に気持ちって、単純じゃないもんね…」
「おう」
「お前は結構わかりやすいけどな」
「酷っ!訴えてやる!」
「…ふふ、だってあんた、体育会系だしね」

そう、問題は結局『私自身』。無闇に知ろうとしたって、どうにもならない。
下らない考えは捨てて、裸の心であの子に接してあげればいいだけなんだ。

189 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 16:54:16.44 ID:/kH0q+sc0

下校の道。
見知った子が、座って何かを覗き込んでいた。

「…猫?」
「うん、子猫さん」
「……そう」
「ごめんね、猫ちゃん。私兵器だから、何もしてあげれないよ。味覚もなくなっちゃったから、お料理も作ってあげれない…
ほんと、何も出来なくてごめんね…」
「つかさ、あんた味覚って…!」
「大丈夫だよお姉ちゃん。戦う分には小さいことだし」
「小さいって、あんたねぇ」
「…前の戦い、あれ私がやったんだ。数が多かったから、上昇気流で巻き上げて、大気圏すれすれで…ボンって」
「……」
「最近はね、ミサイルも無人で動く戦闘機も少ないの。でも、数十人くらいかな、死んだ人。私よりは年上だけど、きっと若い人だと思う。苦しませないで、殺ったから」

何も言えない私に、昔話を聞かせるような口調で、言い続けた。
そして、

「こんな子でも、妹でいいの?」

190 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 17:04:08.12 ID:/kH0q+sc0

「……当たり前じゃない」
「……でも、でも」
「ここで待ってなさい」
「え?」
「牛乳、持ってくるから!どうせ誰も飲んでないし、この子達にあげるのよ。
きっと、きっと喜ぶよ、ね?」

……つかさは、少しキョトンとしてから

「  うん  」

笑った。

「お姉ちゃーん、ネコさん用の牛乳じゃないと下痢するからねー」
「……わ、わかってるわよ!多分…あ、あるかわかんないけど…持ってくるって!」
「待ってるからー!」

私は急いで、家へ走った。

191 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 17:14:23.14 ID:/kH0q+sc0

『お姉ちゃん ごめんなさい
急にお散歩に行かなきゃいけなくなったので、行ってきます
この前はありがとう 安心しました
子猫ちゃん達に、牛乳をあげておいてくださいね
さっきも行ったけど、ちゃんと猫さん用のミルクでね
約束です

じゃあ、またね お姉ちゃん』


戻った時には、つかさはもういなくって、
戻った瞬間に、そんなメールが来ていた。


それっきり、つかさが学校に来ることはなかった。

192 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 17:24:16.23 ID:/kH0q+sc0

「泉さん、だっけ?自衛隊は初めて?」
「は、はぁ…」
「あんまりそう硬くならないでいいわよ。私も初めてだし、同じ女の子で、頑張りましょう」
「う、うん。えーと、名前はなんだったっけ?」
「永森やまと。やまとでいいわ」
「よろしく、やまと」
「とは言ってもこの後すぐ派遣先を言われるから、コレ以降はもうお別れだと思うけどね」
「あら、そうなんだ」
「ほら、配られてるでしょ?あれに配属先が書いてあるんだ」
「ほうほう…」

「泉 こなた!」

「は、はい〜。ええと…『第七情報管理部』かぁ」

「永森 やまと!」

「はい。…『第二中央情報部』。え、これって…」
「永森、運がいいな。そこは『天使』がいる部隊だぞ」
「はぁ…」
「ねねやまと、『天使』って何さ?」
「さぁ…ただ、人の形をした何か、とは聞いたことがあるわ」
「人型兵器!?おぉ、ロマンだぁ」
「ふふ…そうね。あ、もう行かないと頑張ってね、こなた」
「やまともね!」

193 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 17:36:33.28 ID:/kH0q+sc0

「情報班はこの場で待機!……『天使』がご帰還される!全員整列!」

上官の指示で、私達は輪になるように整列する。
何度も練習させられた敬礼を、早くしてしまいたかった。
あれが…天使なんだ。少女だった。どっからどう見ても、年端も行かないくらいの。
でも、確実に異質である「ソレ」が彼女には生えていた。
無機質のようで、どこか生物じみた、ハネ。
天使と呼ばれる所以なのかもしれない。天使はゆっくり降下すると、ハネを雲散させた。

「全員敬礼!天使指令!任務ご苦労様であります!」

…ほんとに天使って名前なのか?そうでなくても、笑える呼称だ。

「H司令官殿も天使指令のご活躍にはご満足いただいております!」
「…次の予定は?」
「はっ!先ほど東区域の中隊長殿よりご要望がございまして、
本日1600において選抜隊員及び新入隊員へ一言ご挨拶をと」
「…聞こえなかったのかな」
「…はっ!?」

「次の戦闘、いつなの?」


寒気がした。その言葉、その視で。天使…いや違う。こいつは…

悪魔―だ。

196 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 17:45:15.15 ID:/kH0q+sc0

情報班だから楽かな、って思ったのは甘かったのかもしれない。
編隊されて、早速10kmのマラソン。なんでも、情報班というのは
色々な部署で情報を共有させる役割があるため、ある程度の体力が必要とされるらしい。
私の部隊は、幸か不幸か、女性のみだった。

「岩崎みなみです…」
「八坂こうでーすってやまと!?あんたもこっちだったんだ?」
「奇遇ね、こう。これからよろしく」
「あ、うん。よろしく」


自己紹介も程々に、早速マラソンを始めた。
「…お知り合い、なんですか」
「そうだよ。昔っから大の仲良しさぁ!」
「…こう、下らないこと言わないの」
「下らなくてないよーもう」
「…その、永森さんは、『天使』を見たんですか」

岩崎さんが、私に聞いた。ズシリと、またあの悪寒が甦った。

197 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 17:55:14.09 ID:/kH0q+sc0

「えぇ。貴方達は?」
「私は見てないな〜。やまとって、結構運が良かったと思うよ」
「そうなのかしら」
「どう、でしたか…『天使』は…」
「そうね…クールさでは私も岩崎さんも負けてないけど、『天使』はそれ異常だったわ」
「おい、私は!?」
「…どこが。そうね、クールというよりは、『コールド』。凄く冷たい目をしていたわね」
「冷たい…目」
「えぇ。言葉では言いにくい存在感があったわ」
「人型と、聞きましたが…」
「ロボットものではお馴染みだよね〜」
「というよりは、人間が羽を移植されたようなかんじだったわ」
「そそ、それって生物兵器じゃないの??」
「さぁ、どうかしらね。情報班としては、結構私は有益な情報を知れたからいいけど」
「……そう、ですか」

199 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 18:08:14.73 ID:/kH0q+sc0

「…『お散歩』、したいな…」

つかさが、物欲しそうに空を見上げた。
つかさが見ていた部分、そこにあった雲が、抉られるようにして消えた。
今のつかさの、『暇つぶし』であった。

「……次の『お散歩』、いつかなぁ…」

ぐるんぐるんと、首を回す。
つかさの見える空だけが、快晴になった。


「まぶしぃ…」


滲まない瞳を薄めて、そう呟いた。

200 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 18:18:44.26 ID:/kH0q+sc0

季節は冬―
桜並木で知られ、いつもつかさと歩いて道は、今じゃ雪景色みたいだった。
みたいというか、そのまんまだけど。

「お、柊。また早退か?」
「日下部…そうだけど」
「なんだぁ奇遇じゃん。あたしもとっとと帰ろうと思ってたんだ。学校サミーじゃん?
勉強はかどんねぇんだよ」
「お前が勉強する姿が想像できん…」
「それ暴言もいいとこだって!」
「はぁ…」
「しかしさー、チミっこもバカだよなー。こんな状況なのに自衛隊行くとかよ。
あいつオタクだから、自衛隊を遊園地とか何とか勘違いしてんじゃね?」
「……バカ!あいつを…あいつをそんな風に言わないで!」
「ど、どうしてだよ。だって…」
「あいつには従妹がいるの。あいつは…その子、家族を守るために志願したの。
家族を守るために、あいつは行きたくもない軍に行ったのよ!」
「…くそぉ、お前らかっこよすぎんだよ!でもよぉ!
それでいいのか!?お前は!あたしなんかとは違う、親友が軍に行っちゃうの!
さびしくねーのか!?妹とだって最近全然会ってねえじゃん!」
「さびしいわよ…会いたいわよ。止めたいわよ。でもね!親友だから!
笑っておくってあげなきゃいけないのよ!あんただって…そりゃ…親友であることに変わりないんだしさ…」
「…ひ、柊ぃ…」

202 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 18:28:29.13 ID:/kH0q+sc0

「あーもう、そんな顔するな!」
「ははは、照れるな照れるな〜」
「照れてないっ!…ったく、怒鳴ったらお腹空いちゃったわ」
「そだな〜ハラ減ったぞ〜らーめんでも食いにいくか〜」
「そうね、行こうか」

…と、日下部の足音がしない。

「…日下部」
「…っく、ひっく…」
「なに、泣いてんのよ…」
「うっせー…ひくっ…ハラ…減ったからだ…っく」
「…ったく」

少しだけ、胸を貸してやった。
日下部が濡らしたところだけ、ちょっと温かかった。

205 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 18:39:56.58 ID:/kH0q+sc0

キヨは、教会前で待機していた。
元つかさと小隊を組んでいた好なのか、伝達を受けた。

『教会前にいます。』

「ったく…まぁ今は待機中だから別にいいがね」

教会のドアで、つかさは座っていた。
体育すわりをして、俯きながら。

「また、泣いてるんですか。司令官殿」
「キヨ…さん、来てくれたんですか」
「お久しぶり」
「キヨ…さん…うっ……うあああああっっっ……っっ!!!」
「っと、司令官ともあろう方が、みっともないですぞ」
「うわああああっ!!ああああぁぁぁっっ!!!!」
「…辛かったんだな、つかさ」


時同じくして、つかさもまた泣いていた。

204 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 18:39:07.95 ID:/kH0q+sc0

ところかわって、つかさ

「ん……んんっ。あれ?ここは」
「お目覚めですか、司令官殿」
「き…キキヨさん!!?」
「よくお眠りで。そこにお手洗いがあるのでどうぞ使ってください」
「…キヨさん、今は別に、司令官で見ないでいいですよ…」
「そう、か。じゃあとっとと顔洗ってきな、つかさ」
「はぅ、いきなり普通にされるとそれはそれで違和感が…」

ひとしきり顔を洗うと、キヨが呼ぶように言った。

「済んだら外に出るぞ」
「あ、ふぁーい…あぷっ…!」
「顔洗いながら律儀に返事すんな…」

半ば飽きれながら、キヨはタバコをふかし始めた。

206 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 18:49:40.85 ID:/kH0q+sc0

>>204の続きがこちら

「さ、行こうか」
「行くって…どこへ?」
「ん、まぁどこでもいいんだけどな…あ、タバコ切れちゃった」
「でもキヨさん、私といると…その」

ダーンッ!!

「ひぃぃ!なななんですか今の!て、敵ですか!?」
「いや、タバコ。切れたんで」
「だめですよー!そんなことしちゃ〜!」
「誰もいないし、別にいいだろ…って、羽出てる」
「はわわわ!さっきの銃弾で反応しちゃったのかも…あぅ、最後の私服が…」
「…ま、不用意にぶっぱなした俺も悪いか。そこにいけば服屋がある」
「はい、すぐ行きましょう〜」
「…ゆいもこれくらい、恥じらいを持ってくれるといいんだがな」

217 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 20:55:48.05 ID:/kH0q+sc0

「…シャッター閉じてるな」
「…閉じてますね」
「どうすんだよ。また銃で開けるか?」
「ダメですよぉ、それに銃じゃ敵に見つかるかもしれないじゃないですか」
「じゃー服の換えはなしだな。破けた服でいるか?」
「むぅぅ…私が開けますっ!」
「おいおい…開けるってどうやっ…」

パキッ―ッ

つかさが腕を掲げると、シャッターに大きな丸い穴が出来た。


「……」
「ほら、開きましたよ」
「…お前のほうがよっぽど物騒だっての」
「服のためですもん…」
「はいはい。とっとと着替えて来い」
「は〜い」


「…ったく」

219 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 21:06:39.76 ID:/kH0q+sc0

「じゃあ次はこれな、それ終わったらこれ。あぁ、先にこれも」
「キヨ先輩…私、着せ替え人形じゃないんですが…」
「別にいいじゃん。女の買い物って長いよな、しかし。ゆいもそうだったわ」
「ゆいさん?」
「あぁ、俺の女房なんだけど。まぁいい。早く着替えて来い」
「…はぁい」

シャッ

(ゆい、ごめんな。今女子高生とデート中。あんま性格は似てねーけど、
どっか寂しがりやで手がかかるところがお前に似てたんでな。言い訳じゃないからな)

…ッ、…キッ…

「なんだ…?おいつかさ、どうした?」

バギッ…ビヂッ…グジョッ…ブシュゥッ…

「…かふっ、痛い…痛いよ…あっ…あっ…だめ…嫌っ…はぁっ…」
「つかさ…!!」


キヨは、赤く染まっていくカーテンを乱暴に開けた。

220 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 21:16:20.05 ID:/kH0q+sc0

「キヨ…さん…とまらない…よぉ」

つかさの背中から、突き破るようにして羽があらわになっていく。
もはやそれは、『侵食』といっても過言ではない惨状だった。
突き破られた皮膚からは夥しい血が流れ、それに比例するように、つかさの目からポロポロと涙が溢れ出た。

「つかさ…!つかさしっかりしろ!」
「キヨさん…痛い…痛…い…よぉ…たす…け…」

バグンッ―!

一際大きな音がした。巨大な砲弾だ。
ゆうに成人男性のそれと同じほどの大きさ。
銃口は、キヨに向いていた。

「キヨ…さ……逃げ……ガフッ…」
「つかさ…つかさぁぁぁっっ!!!!!」


キヨはきつく抱きしめたつかさの唇を、唇でふさいだ。

221 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 21:26:06.06 ID:/kH0q+sc0

「…すまんな、いきなりあんなことして」
「い、いいんです…。おかげで、落ち着いたから…」
「……(そういう意味で言ったわけじゃないんだが)」
「はぁ…もう歩くの疲れましたよ…キヨさん」
「飛んでばっかで体力落ちてるんじゃないのか?」
「ひ、ひどいですよ〜もう」

「もう、帰るんだ」

「どこに…帰るんですか」
「また付き合うからさ、な?」
「『また』なんてないですよ…そんな、約束もう、嫌です…」
「つかさ…」
「もう大体わかるんです…あと三日くらい、かな。上の人が私をお荷物扱いしてる間に、
もう手遅れになったんです。この間に向こうと和平みたいな、そんな約束したみたいですけど、
向こうの人はそんな気全然ないんです。強くなりすぎた私を
殺す方法は、簡単ですよ…一番バカなことをすればいいんです。
補給ルート、退却ルート…全部消しました。もう、この星の人口は20億もありません。
大丈夫ですよ…あと数日で、この平和も終わります。ありもしない
和平公約を探してた上の人も、もう考えていた戦争がないって気づきます。
……キヨ二尉、命令です」
「…はっ!」

キヨは、習慣づいてしまった敬礼を咄嗟に取った。

222 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 21:33:15.88 ID:/kH0q+sc0

「私、まだ帰りたく、ないです…」

小さな司令官は、寂しげにそう告げた―


束の間の時間が過ぎた―

つかさは、キヨと同棲のような生活をし、現実から少しだけ逃げた。
かがみは、今出切ることだけを模索し、あてもなく生きていた。
今の世界で、進学が何か意味を成すのかは不明瞭だったが、それでもかがみは、勉強を続けた。
やまとは、情報処理班として、日々戦場を駆け回っていた。
そして―こなたは―

223 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 21:42:44.65 ID:/kH0q+sc0

「…泉さん、ここよ」

同じ班員が、こなたに教えた。

「ここが、天使が駐留してるアパート、ですか」
「そうよ。話によれば、軍を一時抜けた二尉と同棲してるって話よ」
「私達は、あそこを抑えればいいんですよね?」
「そう。だけど相手は天使よ。油断しないで。あまり時間は残されてないけど、
慎重にね。これは極秘任務だから」
「…了解です」

これは、第七部隊にだけ与えられた特殊な任務だった。
それは『天使』の居場所を割り出し、軍部に報告する、というものだった。
ただし、あくまで「極秘」というだけであって、それ以外の意図は何も伝えられていなかった。
それにこなたは何も疑問は感じなかったし、むしろやりがいある仕事を与えられ、意欲が沸いてくるものだった。
しかし、この任務は、少し時間がかかってしまうのだった。


作戦開始と同時に、地震が発生したからだった…。

225 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 21:53:08.52 ID:/kH0q+sc0

「はぁ…今時コンビニなんて開いてるのかしら」

私は、お母さんに頼まれて買出しに向かっていた。
というよりも、さっきの地震で結構建物が損壊したらしく、被害もそれなりに出たって話を聞いた。
幸い私達は出かけてて、被害自体は軽いもので済んだ。
お母さんは、「こんなときにだからこそ」って言って私を諭した。
でもねぇ、今じゃ支給品で生活するのが精一杯で、お金なんてもの何の役にも立たない。
そもそもコンビニが正常に働いてるかどうかも疑問だった。

「あ、柊ちゃん」
「峰岸…」

峰岸が、立っていた。いつものように…落ち着いた物腰…で…

「あの、あのね柊ちゃん、さっきね、みさちゃんが…柊ちゃんを…呼んでてね…」
「え〜?あいつが?今私買い物に行かないといけないんだけど」
「えと…すぐ終わる用、だから…ね?」
「とか言って、いっつも長話するから信用ならん…」

いつもの調子で、話しかけてしまった。峰岸の異様な態度に気づかないで。

「…お願いっ!すぐに来てっ…!!みさちゃんが…っっ!!!」


峰岸の悲鳴のような声で、やっと私は理解した―

227 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 22:03:02.53 ID:/kH0q+sc0

日下部は、ベッドにいた。いつものように、飛んだり跳ねたりできるような状態じゃないってことは、すぐにわかった。
身体中を包帯で巻かれ、小うるさい声は

「…よぉ…いらぎ…」

火が消えたような、か細い声に変わっていた。

「ありがと…な。…てくれ…て」
「いいわよ、別に」
「頼みたい…こと…あん…だ」
「な、なによ…」
「そのまえ…に、手、握って…くれねえ…か」

そう言って手を差し出す。だらん、と力のない手。
それを両手で包み込む。とても、冷たかった。

「あたしの…こと…忘れないで…ほし…いから…」
「……うん」
「握ってて…くん…ねぇ…か…いらぎ…」
「わ、わかったわよ!…って!忘れるわけないでしょ!あんたみたいな…
あんたみたいに…バカでアホで単細胞でがさつで……」
「…へへ、…でぇな…」
「……とても優しい、私の…親友なんだから…」
「………りがと…な、…らぎ…あた…し、…まえと…んゆうで…れし…か…た…ぜ」

228 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 22:12:33.11 ID:/kH0q+sc0

「ふ、ふざけないでよ!まだ死ぬわけないでしょ!!」
「…めんな…もう…からだ…ごかね…ぇんだ…」
「やめてよ!もっといつものように、私に構ってよ!私をバカにしてよ!バカなこと言って私を呆れさせてよ!死なないで!日下部ぇぇぇ!!!」
「……い、ら、ぎ…さ…さいごの……のみ…き…てくれ…か」
「な、最期なんて言わないで!お願い!お願いだからぁっ!!」
「あたし…の…こと……『みさお』…ってよ、よ…でくれ…ねか…」
「あ、あああああ…、み…みさ……」
「ひいらぎ………ずっと……っと…もだち…だ…ぜ…」

「みさおおおおぉぉぉぉッ!!!!!!!」


「だい……すき……だ………か…が……―…‥・」


みさおは、二度と目を開けることはなかった。

229 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 22:20:16.41 ID:/kH0q+sc0

「もう、いいだろ」

キヨが、つかさに言った。
同棲して二日目だった。いきなりそんなこと言われて、つかさは

「…や、やっぱりダメですか」
「俺も一応妻帯持ちだし、妻に悪いことしてるような気がしてならないしな」
「…うぅ、私…どこ行けばいいんだろ…」
「一度軍に戻れ。メンテナンスもしないとなんだろ」
「……はい」
「ほら、俺が変な気起こす前に行った行った」
「わ、わかりました…よ」
「飛んではいくなよ……」
「はいはい…わかりました」


つかさは、キヨのアパートを出て行った。
それ自体はなんの問題もなかった。問題なのは、
そのときの情報を、第七班が逃していたことだった…

230 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 22:36:12.02 ID:/kH0q+sc0

「司令官殿!」
「す、すいません。戻りました…」
「ど、どちらへ!?メンテナンスもしないで!?」
「その…服を買いに…」
「(盗んだのね…)とと、兎に角ですね、すぐに検査を…」
「検査…そう、ですね…けん…さ…しな……きゃ…」


ドッ―


「…!?司令!司令ぃぃ!!」

落下するように、つかさは倒れこんだ。
すぐに、つかさのメンテナンスが開始された。

「くっ…『天使』はいつ再起動するのだ!」
「局長…ちょっとよろしいですか」
「な、なんだ!」
「いいですか、私達は彼女を徹底的に検査しました。
そして、生態的にも科学的にも、一つの事項が確立されております」
「な、なんだそれは!?」

「彼女は、既に『死亡』しています…」

232 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 22:46:42.74 ID:/kH0q+sc0

「いいわね、この時間なら、『天使』は活動を停止してるわ。
この新型の小型爆弾で先制したら、一気に突撃するわよ」
「はい」
「泉さん、ごめんなさいね。情報班員なのにこんなところに加わってもらって」
「大丈夫です。世界を守るためなら…」
「殺してはだめよ。貴重なサンプルとして、一時仮死状態にしておくの。5秒後に突撃するわよ。
ただし、同居してる男の生死は問わないわ。国家重要機密兵器を隠蔽してたのだからね」
「了解っっ!!」

「いくわよ。5…4…3…2…1……ふっ!」

隊長が、キヨのいるアパートめがけ、爆弾を投げ込んだ。
すぐに爆発が引き起こった。

「突撃ぃぃぃーーー!!」
「うおおおおぉぉぉぉ!!!」

班員含めた、全ての小隊員が、部屋へ突撃した。
爆弾というのは、一時的に四肢の神経を麻痺させるもので、
生物全てに有効であると、一応の保障はついていた。

233 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 22:54:39.41 ID:/kH0q+sc0

ズガガガガガッッ―!!!!

銃弾

ズガガガガガガガガガガガガガガガ

銃弾

ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ

銃弾

ありとあらゆる部分が、弾幕に包まれていった。
こなたも、支給されたマシンガンを撃ち続ける。


……

「撃ち方やめ!どうやら『天使』及び関係者は移動した模様!
直ちに再捜索を開始!」
「了解っ!!!」

班長の言葉で、各員は散っていった。

「……ガフッ…、グフッ……」

235 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 23:03:45.59 ID:/kH0q+sc0

「へへっ…情けねぇ…な。便所にこもってたら…いきなり…銃の雨あられとは…な、グハッ…」

びちゃびちゃっ―

「は…はは…ゆい……すまねぇ…帰れそうに…ない…わ」

キヨはプルプルとアゴを震わせながら、愛する妻の名を呼んだ。


・・・
・・


「……なんで私、生きてるんだろ…わかんない」

意識を取り戻したつかさは、止まった自分の心臓に手を当てながら、基地を出た。
心臓は動いてないが、嫌な胸騒ぎがしたのだ。まるで、人間が感じるような、理屈では言い表せない不安を。

「キヨ…さん、まだ、いるのかな…」

236 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 23:04:58.45 ID:/kH0q+sc0

「…キヨさ〜ん」

こんこん。

こんこん。

「いない…キヨさーん、開けますよ?」

ガチャッ

「あれ、鍵開いて……っっ!!」

すぐにつかさは、口を抑えた。
血の匂い。それも、大量の。
闇夜に紛れてはっきりとは見えなかったが、ある肉を中心に、畳を血が根こそぎ流れている。

「キヨさんっっ!!!!」
「ゆ…がふっ!ゴボッ!ゴボッ!!!」
「……キヨ…さん」
「ゆい…くる…しい…もう、いやだ…殺して…くれ……
殺してくれ…………ゆいいぃぃぃっっ……痛い…痛いっ、痛いっ……!!」
「……できない、無理だよぉ…っ!私には…っっ!!」

237 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 23:14:46.37 ID:/kH0q+sc0

「ごめん…ゆい…ごめ…ん……」
「……きよたかさん、泣かないで。ほら…」

『ゆい』になった『つかさ』はそう優しく言うと、きよたかの手を自らの胸に押し当てた。

「きよたかさん、甘えん坊なんだから…いつもこうして、まったりしてるよね」
「ゆい…なんか…ぼりゅーむが…」
「ば、バカ!きよたかさん、ずっと帰ってこないで!いつも…いつもこんな若い奥さんほっといてさぁ!
さみしかったんだよぉ!出番だってないし!」
「げほっ…げほっ…ゆい……好きだ……愛…して…る…………‥・―」
「……お疲れ様、きよたかさん。ゆっくり眠って……
う…う…うわああああああっっっ!!!キヨさああああん!!!!
ああああぁぁ……ぁあああああああっっ!!!!!」


成実きよたかは、『ゆい』の腕の中で、静かに息絶えていた。

238 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 23:25:36.49 ID:/kH0q+sc0

「くそっ、一体ヤツらはいつまで戦争を続けるつもりだ!」
「兎に角だ、シロート部隊を盾に、『天使』を起動させる」
「了解だ。それで、『天使』の所在は…」
「今第七部隊が捜索に…」

ズズンッ…―ッ!!

「なんだ!敵襲か!?」
「て…『天使』…か
「こんばんは、歩兵の人たちは、もう引き上げたんですか?」
「そうだ。ここにいるのは我々司令部のみだ」
「うん、了解です。でもね…あなたたちが余計なことするから…
死ななくてもいい人たちが死ぬんですよ…。あなたたちの理屈通りに、
戦争が動くわけないのに。兎に角…あとは私がします。その、第七部隊でしたっけ」
「そ、それが…どうした?」

「それを発見後、即時殲滅します」

240 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 23:35:49.16 ID:/kH0q+sc0

「……キヨさん、せめて、あなたを殺した敵だけは、取らせてください…いいですよね」

つかさは、衛星と通信を開始した。

…ピ
……ピ

「………第七情報管理部、拠点…位置……確認、完了」


片目に表示させたモニターを頼りに、つかさは空を駆けた。

「距離三千メートル。方角、北北西……そこだ」

つかさは、静かに砲撃を構えると、躊躇わずに放った。

243 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 23:42:46.61 ID:/kH0q+sc0

「泉さん、ちょっといい?」
「はい?」
「ちょっとさ、地下倉庫からメモに書いたの持ってきてくれない?」
「いいですよ。結構多いんですか?」
「まぁ口で言っても覚えきれないくらいかな。泉さん腕っぷしは強いから、任せたくなるのよ」
「…なんか誉められてる気がしないんですが」
「あはは、誉めてる誉めてるって!じゃ、お願いね」
「はいはいっと…
はぁ、ここ無意味に深いよねぇ。おかげで行き来がめんどくさ…」


ズンッ――――――ッッ!!!


「な、なに!?何が起きたの!!?」

突如鳴り響いた揺れに、こなたはすぐに降りた階段を駆け上った。

246 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/17(金) 23:55:30.53 ID:/kH0q+sc0

「なに、これ…」

荒野だった。
さきほど話していた班長はおろか、まるで何も無かったような、荒地と化していた。

「何が…起きたの」

ざくっ、ざくっ と、こなたはクレーターを歩き回る。

「砂漠…いや、みんなは!?みんなは!!?」

ようやく、こなたは現状を把握した。
何かが、ここを破壊したのだ。それも、秒未満の間に。

「こんなことできるなんて…『天使』以外、ありえな―」


ストッ―

こなたの言葉が終わる前に、『天使』が舞い降りた。

247 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 00:02:55.39 ID:Tnp2y3o50

「……つか、さ?」
「こなちゃん…こんなところで…何してるの?」
「それは…私のセリフだよ!つかさ…つかさがこれ、したの?」
「そうだよ。だって、こなちゃん達は、私の大切な人を、奪ったから…」
「な…つかさだって!『天使』として沢山人を殺したじゃん!」
「戦争だよ?当たり前じゃない…」
「それじゃあ、こっちだって戦争だよ!自分だけ正当化するなんてずるい!」
「じゃあ『これ』も戦争だよね?」
「……ッ!!」
「正当化させたいのは、こなちゃんのほうじゃないの?」
「つかさは!私怨で私達を殺したんじゃないか!」
「それが、悪いの?」
「え…」
「私…ずっと独りぼっちだった。でも、私を安心させてくれた唯一の男の人がいたの。
好きだったの、その人のこと…殺したじゃない。私の…好きな人を…」
「それが、私怨っていうんだよ!そんなこともわからないの!?つか…」

バスッ―

つかさの銃弾が、こなたの胸を貫いた。

249 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 00:09:25.73 ID:Tnp2y3o50

「かはっ…」
「やっぱり、こなちゃんもわかってくれない…」
「つか…さっ…」
「こなちゃんならわかってくれると思ったけど、やっぱり、こなちゃんも、私の気持ちをわかってくれない」
「つかさ…まって……っ」
「友達だから、それで許してあげるよ。手当てすれば、死なないだろうから」
「つかさ…は、それでいい…の?」
「…なにが?」
「殺して…破壊して…それはつかさの意志なの!?つかさはそんなこと望んでないはずだよ!私にはわかるよ!」
「…わかったようなこと、言わないでよ」
「私は知ってる!つかさは虫だって殺せない臆病な子で!誰よりもヘタレで、料理くらいしか取り得がなくて!」
「やめて…やめてよ!」
「でもつかさは!誰よりも優しい心を持ってるって!私は!知って…」

パンッ―

「…お姉ちゃん、頑張ってるかなぁ。ごほっ、ごほっ。こなたお姉ちゃんのために、
カレー、作ったよ。おいしくできたかわからないけど、早く帰ってきてね…」

「もういいよ…こなちゃん…。私は、もう『私』じゃないから…
もう、こんな私、見ないで…」

額を撃ち抜かれたこなたは、音もなく崩れ落ちた。

251 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 00:19:41.11 ID:Tnp2y3o50

『お姉ちゃんに会わなくなってどれくらい経ったかな?
二週間?一ヶ月?戦ってると忘れちゃうんです。
最近、あまりメールをしなくなって、お姉ちゃんはどうしてますか?
今日、私はお散歩で、また国を一つ消しました。
特に意味もなく大きな戦いがあって、いっぱい人が死にました。
そのちょっと前に、優しくしてくれた、大切な人が死にました。
たくさん人を殺して、独りぼっちだった私を、一人の女の子としてみてくれたんです。
いっぱい名前を呼んで、そして…みんな、死にました。
もうちょっと、もうちょっとだけ国を消したら、帰ってきます。
わたしたちの町は、どうですか?

大好きなお姉ちゃんへ』

254 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 00:37:20.71 ID:Tnp2y3o50

学園が自衛隊に撤収される。
その報せを受けたのは、今から一週間前だった。
それで、最後の学園生活を締めくくるため、学園で後夜祭を開催するという案がのぼった。
反対派がいるわけもなく、私達はその作業をすることになった。

「…ふぅ、これでいいかな。峰岸ー、そっちはどう?」
「問題ないわ、柊ちゃん」
「はぁ…戦争がなければ、ちゃんと卒業できたのになぁ」
「…ひ、柊先輩ぃぃ〜」
「ゆたかちゃん、どうしたのよ?」
「あの、あのあの、自衛隊の方がいらっしゃって…」
「自衛隊?なんでこんなときに…?」

256 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 00:48:07.36 ID:Tnp2y3o50

「今すぐこんな下らん作業を止めろ!いいか?
我々は貴様らのために日々戦っているのだ。そして毎日同胞が平和のために
死んでいくのだ。なのに、貴様らはなんだ?生死を賭けて国に命を
捧げてる日本軍に申し訳ないと思わんのか?」
「すいません、後輩からお話はお聞きしました」
「責任者か?なら今すぐ」
「文化祭は、やりますから」
「なっ…貴様!忠告を聞いていなかったのか?」

私だって…私の親友だって、死んでいったんだ。
死なずに済んだはずなのに、20もいかずに死んでいったんだ。
自衛隊の人の気持ちもわかる。だけど、私達だっていつ死ぬかわからない。

「なんだ小娘?」

日下部に…苦しんだみさおに、何かしたの?

「私達…まだこどもだけど、意地があるんです…お願いします!文化祭、やらせてください!」

恥も外聞も捨てて、私は額を地面に擦り付けた。

258 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 00:52:03.62 ID:Tnp2y3o50

今は、今だけはいい
お願いだから、この文化祭まで奪わないで
お願いだから…
そう願って、私は何度も懇願した
みっともないくらいに
ただのお遊びに過ぎないのに
でも、絶望の中で、少しでもこれがみんなの『希望』になるんだったら…
安っぽいプライドなんてかなぐり捨ててやる

だから―


「はぁ…ださいわね、私…」

後夜祭のキャンプファイアーを見下ろして、私は自嘲気味にぼやいた。

261 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 01:00:39.87 ID:Tnp2y3o50

「ったく〜、日下部もつかさも〜、おまけにこなたもなんでいないのよ〜。
あたしを独りにしおってからに〜。ううう…あたしは不幸だ…
未だに彼氏出来ないし、ちくしょぉぉぉ…」

酒がいいかんじに回ってきて、私は酔いに任せて下らないことを言い散らかした。

「なによなによフォークダンスなんてぇぇ、へったくそで見てらんないわよ!
何!?あのカチューシャつけた子、輪から外れてるじゃないの!」

……カチューシャ?

「いや、まさか、ね…そんな、ありえないわ…で、でも…」

酔いが、一気に冷めた
気が付いたら、階段を駆け下りていた

263 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 01:10:39.91 ID:Tnp2y3o50

つかさは不器用だった
何をやらせても上達しないで、中学のときだったかな
一緒にキャンプファイアーのフォークダンスを練習したんだけど、
何度も何度も足踏まれて私、思わずキレちゃった
あの独特なフォームは、一度見たら中々忘れられない
あのヘタクソな踊りは、それによく似ていた

「はっ、はっ!」

近づく
あと4メートル
あと3メートル

「はぁっ…!はぁっ、はぁっ…!!」

あと2メートル
あと1メートル

あと……

「…お姉ちゃん!」

つかさの手が、私の手に重なった。

265 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 01:20:34.20 ID:Tnp2y3o50

「えへへぇ、逃げちゃった」
「あ、あんたねぇ、いいのそんなんで」
「いいの、だいじょぉぶだよ」
「……おかえり、つかさ」
「ただいま。お姉ちゃん…私ね、お姉ちゃんに言わなきゃいけないことがあるの…」
「…え?」
「その…そのね」

せーいんっさんぴー、そりゃまるってちゅーちょだ、やん♪

「あわ、あわわ」
「ほらつかさ、踊る踊る」

がんばって♪(イエーイ)はりきって(イエーイ)んまだーりんだーりんふりーず♪


「……楽しいわね」
「うん…うん…うん・・、ぐすっ」
「バカ、泣かないの」

267 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 01:30:52.31 ID:Tnp2y3o50

「で、話って?」
「うん…ちょっと前の『お散歩』で、ある部隊を殲滅しなきゃいけないことがあったの」
「そう」
「それでね……その…そのね」
「ん?」
「こなちゃんが…いたんだって…」

「……ッッ!!!」

その時、時間が止まったように見えた。
まさか…つかさが…こなたを……!?

「あんた、まさか…」
「…こなちゃんがいたなんて…知らなかっ…た…だけど…だけど…わた…わたひ…っく、うわあああああっっ!!」
「つかさ…」


つかさは、どんな気持ちでこなたを撃ったのか。
親友だったこなたを、殺すとき、つかさは何を想ったんだろうか。
空っぽになった。私も、あいつの親友だったから…

「ごなぢゃぁん!ごめんねごなぢゃぁんっ!うわああああっっっ!!!!!」
「……」

泣くしか、なかった。下手な言葉なんか言えない。泣いた。私は、声を殺して、涙を流した。
あいつのことを、絶対忘れないように…涙で…こなたの思い出を胸に刻み込んだ。

269 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 01:38:22.46 ID:Tnp2y3o50

……明けて翌朝。
まばゆい光が、寝ぼけ眼を強かに焼く。
これはきっと、希望の光。
これはきっと、未来への後光。
そう信じたい。そう思いたい。

きっと、戦争は激しくなるかもしれない。
辛いことが沢山あるかもしれない。
だけど、もう私は、独りにはならない。
だって、なぜって、


「おはよ、お姉ちゃん」
「おはよう、つかさ」
「色々、あったね」
「色々、あったわね」
「ぶっちゃけたよね、いっぱい」
「うんそうね。   …いこ、つかさ」

私達は、その未来(さき)へ走った。

271 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 01:42:46.74 ID:Tnp2y3o50

「はぁ…はぁ…お姉ちゃん…待ってぇ」
「またぁ?これで三回目よ?」
「疲れ…ちゃった…。はぁ…はぁ…」
「全くもう…。あ、車!つかさ!隠れなきゃ!」
「え?ヒッチハイクしよーよお姉ちゃん」
「な、なんで!?あんた、ばれないの?」
「だーいじょーぶだよお姉ちゃん。だって、戦場で私見た人で、生きてる人いないから」
「……」

何気ないこの言葉で、さっきまで息切れしてた少女が、普通に見えなくなってしまう。
でも、いいか。好都合と考えよう。…つかさは兵器だけど、私の妹なんだから。

「お姉ちゃん、街の近くまで乗せてってくれるって!」
「おお〜、やったじゃん。お言葉に甘えましょっか」
「うん!」

その時、私達は迂闊だったのかもしれない。
その車に、自衛隊の人間が乗り込んでるなど、どうやって予想できただろうか。

274 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 01:49:10.02 ID:Tnp2y3o50

「おじさん、海、海が見える港町目指してくださいっ」
「ん〜?姉妹で旅行かい?いいねぇ、かわいこちゃんだからオジさんサービスしちゃうぞ」
「ちょっとつかさ、なんで海なの?」
「え?そ、それは…前に二人で、海見に行ったから…ね?」
「あ…そ、そっか」
「よーし、飛ばすぜ。シートベルト忘れんなよー!」

車は、勢いよく発車した。

「うわー、はやいね〜」

これからどうなるんだろう。
つかさは、どうなるんだろう。
今もその不安は完全に捨てられないけど、兎に角、すぐ先のことを考えよう。
悩むのはその後でいい。

つかさの笑顔は、私にそうさせる力があった。

276 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 01:58:07.40 ID:Tnp2y3o50

「ほいよ、到着!」
「おぉ〜〜〜」

二人して、唸ってしまった。そこはまるで、半世紀くらいタイムスリップしたような、ホンモノの田舎町だった。
だけど、街から望む大きな海は、日差しを浴びてキラキラとまばゆい光を放っていた。

「…着いたわね」
「うん、おじさん、ありがとうございました」
「はいよ!道中気をつけてな!」

「さて、と。どうしよっか…」

グギュルルルル…

「……」
「……お、お姉ちゃん?」
「ご飯よご飯!まずは腹ごしらえよ!」
「ま、待ってよお姉ちゃ〜ん」

ある意味、前途多難だった。

■スーパー眠いです…

280 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 02:07:09.60 ID:Tnp2y3o50

「お姉ちゃんお姉ちゃん、喫茶店喫茶店!」
「ん?」

つかさが指差した先には、「喫茶:Tweeny」と書かれた看板があった。

「見つけたはいいけど、お金ないわよ、私達」
「大丈夫、私に任せて♪」
「……え、えぇ」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ズバッ―ッッ!!

喫茶店が、突如炎に包まれた。慎ましい佇まいは、鮮やかな赤で染め上げられ、
しばらくすると、つかさが外に出てきた。

「言う事聞かないから、殺しちゃった。これで、食べ放題だよ、お姉ちゃん」
「あ、あ…」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「……なんてね」

282 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 02:16:42.21 ID:Tnp2y3o50

「もういいかな?失礼しまー」

「お帰りなさい、お嬢様」


…ブーッ
つかさ、なんでメイド服なんか着てるんだ…

「あんた、なんて格好してんのよ!?」
「え?ここのマスターね、バイト募集してるんだって。
それで、働いてもらう代わりにご飯ご馳走してくれるって」
「いや〜、君が姉のかがみちゃんかい?いいねいいね〜。若い子にしか出来ないピッタリの仕事だからね〜」
「あ、あのねぇ!ここただの喫茶店でしょ!?なんでメイド服なんか」
「店の名前見てないのかい?『Tweeny』ってのはメイドさんのことさ」
「う、うそーん…」
「お姉ちゃん、やってみよ、ね?」
「わ、わかったわよ…ったく」

そして。

「うわー、お姉ちゃん似合うよ〜」
「いいねいいねぇ!ツインテールがいい味出してる!」

……ほんと、前途多難だわ。

284 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 02:23:56.60 ID:Tnp2y3o50

「じゃあ明日からよろしくな!つかさちゃんにかがみちゃん!」
「はーい!」「ういーす」


マスターは、両足が無かった。この街は、それほど人は多くない。
大体が年寄りだし、コンビニすらない。
でも、そこそこ活気があったし、街の真ん中には銭湯があった。

「ごめんねお姉ちゃん。無理矢理付き合わせちゃうようなことして…」
「え、べべ、別にいいわよ。お金のためなんだから」
「ほら、私達、バイトとかしたことなかったじゃない?こなちゃんみたいにうまくは
できないかもしれないけど、あぁいうお仕事してみたいなって、ちょっと思ってたんだ」
「…そっか」

つかさはつかさなりに、この現実で生きていく術を探していたんだ。
『ヒト』として。なのに私ってば、つかさの何気ない言葉で動揺しちゃって、ほんと情けない。
姉としてこんなんでいいのだろうか。いや、後ろ向きになるのはやめよう。
今はただ、生きるために、できることをやろう。
そう決意して、その日は床についた。つかさの寝息が、少し心地よかった。

286 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 02:30:43.26 ID:Tnp2y3o50

「おーい、三番さん、カルボナーラ!」
「はーい!」
「かがみちゃん!お客さん四番テーブルに案内して!」
「は、はぁい!ご主人様、どうぞこちらへ…ひゃっ!」

こ、この糞親父…どさくさに紛れてお尻触ったなこのやろぉぉぉ

(かがみちゃん!笑顔笑顔!)
「くっ……いけませんわ、ご主人様ったらぁ♪」

グギィッ

「い!いっ!!」
「お触り禁止ですから、ね?」
「は、はひぃぃ」

忙しかった。いくらお客さんをさばいても、次々にやってくる。
そうこうしてる内、いつの間にか閉店の時間を迎えた。

「はぁー、お疲れ様、二人とも!いや〜こんな忙しいの初めてだよ!」
「そ、そうなんですか?」
「お役に立てて嬉しいです〜」
「きっと二人の美しさに男共が群れてきたんだろう、そうだ!きっとそうだ!俺だって客として行きたい!」

…苦笑いすらできんぞ、その手のギャグは。

289 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 02:38:59.53 ID:Tnp2y3o50

それからは、毎日が充実だった。朝7時に起きて、喫茶店で下ごしらえの手伝い。
9時に開店。夕方の4時までうんと働いたら、その日の日給をもらってつかさと買い物。
少しお金が余ったら、街にある小さな映画館で古典のクラシックを観て、
夜の10時前には就寝。
変わり映えしない毎日だけど、幸せだった。
働いて、自分のお金で生活して、つかさと一緒に過ごして、とても、とても楽しい毎日だった。

そう…国の『偉い人』が、つかさを突き止めるまでは。


「『天使』は、この街にいるのか…、あ…ここでいいです」

バタン…

「…見つけましたぞ、『天使』…」


ドンッ―――――――!!!!!

瞬間、男の背景にあった山が、吹き飛んだ。やったのは、無論つかさだった。

クルナ ツケルナ オウナ サガスナ デナケレバ コロス

つかさの視が、男にそう訴えていた。男はそのまま、腰を抜かして怯えていた。

292 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 02:47:05.97 ID:Tnp2y3o50

それから―

「つかさー起きなさいー」
「…むにゃ」
「ほらつかさー、起きろっての」
「ごめんおねえちゃん、もちょっと…」
「ったくしょうがないわね、すぐに来てよね?」
「うん…むにゃむにゃ」

仕方ないな…マスターになんとか言っておくか。
元々体力がないんだから、ちょっと疲れてしまったんだろう。

…なんて、考えれるわけなかった。つかさは、もう薬を摂っていない。
あれがなんなのかは全然わかんないけど、つかさが生きていくのに必要なものってのはわかる。
それが、断たれたとなると…

「かがみちゃん?お客さんお客さん」
「あ、はい!…お帰りなさいませご主人様…」
「おろ、今日はショートの子いないの?」
「申し訳ございません…」
「ええ、いやいやいいよ。君だって可愛いし…」
「……」
「かがみちゃん、今日はもう、上がっていいよ」
「え…でも」
「つかさちゃんの、傍にいてあげな」
「…はい、ごめんなさい」

295 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 02:55:21.51 ID:Tnp2y3o50

「つか…さ?」

うつ伏せのまま、つかさは朝と同じ格好で寝ていた。
いや、寝ているのか…これは。

「つかさ、いい加減起き…」
「…お、おへえひゃん…」

つかさ…だった。頬はげっそりとこけ、瞳は半分にも満たないくらい閉じかけていて、
口端からはだらしなくヨダレが流れ、そして、呂律が全く回ってなかった。

「おへえひゃん…ふぉめんね…おひごと…さおっちゃっれ…」
「つかさ…っ!?」

視線を感じた私は、思わず窓を向いた。

…あいつだ!『偉い人』…!なんで、どうして…!
…!?私を、呼んでる?なんなの…一体…
少し悩んで、私は、そいつの元へ歩いた。

297 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 03:02:30.55 ID:Tnp2y3o50

「あんた…今更どの面下げて来たのよ!?」
「落ち着いてください!薬を…薬を渡しにきたのです!」
「…くすり?」
「『天使』…いや、つかさ様は、このままでは生体組織が急激に老化し、最悪死亡に至ります。
この薬はそれを防止する作用があります。ですので」
「なんで、わざわざこんなことを…」
「……」
「あの子をまた、軍事で利用するため?」
「……」
「またあの子に全て背負わせる気なの!?」
「……」
「くっ…!!」

私は、そいつから薬を引ったくり、家に帰った。
すぐに薬を飲ませた。……たっぷり10分かけて、つかさをそれを飲み込んだ。

…つかさの具合は治ったが、それが私には腹立だしかった。

299 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 03:09:24.74 ID:Tnp2y3o50

無念だ。風邪を引いてしまった。
つかさは凄く心配したけど、風邪じゃ仕方ないよね。
そういうわけで、今日はつかさだけバイトに行ってもらった―

「お姉ちゃん、風邪引いちゃったみたいで…」
「そっかぁ。無理しないでくれって言っておいてくれよ」
「はい」
「さ、かがみちゃんの分まで今日も頑張ろう!」
「はい!」


……

正午近くだろうか。その男は、何の前触れもなく入店した。

「お帰りなさいませごしゅ―」
「……」

(局長…さん…)

300 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 03:15:07.79 ID:Tnp2y3o50

「つかさちゃーん、これ八番さんにお願い」
「は〜い。お待たせしましたご主人様。

(ペペロンチーノでございます)
 来るなって、前に警告しましたよね?」

ビキィッ―――――!!

「ぐぅっ…!!」

つかさの言葉が、二重になって局長の鼓膜を抉る。

「(申し訳ございません。こぼしてしまいましたか?)
  音大きかったです?それとも聞きにくかったです?

 (こちら、本日のセットメニューのマロングラッセでございます)
  安心してください。あなたにしか解読できない暗号ですから

 (では、ご注文は以上でございますね?ごゆっくりお寛ぎ下さい)
  何しに来たんですか?返答次第では音もなく殺しますよ?」

318 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 08:17:56.13 ID:Tnp2y3o50

「『お散歩』だから、仕方なかったんです。
相変わらずみたいですね、そっちは。もう意味なんてないのに」
「…薬は、どうしたんですか」
「もうないですね。でも、生きてます。どうしてだろう。
幸せだから、かなぁ?」
「し、しかし、いずれ…その…」
「生き物は、長くても短くても、一生で同じ数だけ心臓が動くって聞いたことがあります。
それが本当かどうかは置いておいて、ただ…」
「ただ?」
「私は、お姉ちゃんと一緒に過ごしてきて、その…まだたくさん生きたとはいいがたいですけど、
充分生きました。…生きていて、本当に良かった…ご主人様、冷めてしまいますわよ?」
「おっとと、すみませn」
「あなたたちが開発したあの毒薬、入れておいたのに」
「……ッ!!」
「私もたくさん人を殺しました。あと一人殺しても、同じでしょう?
みんな苦しんで死んでいきました。私は、せめて覚えておこうって思いました」
あなたのことも…覚えてておいてあげます。……くす、ウソですよ」

そう一言言うと、局長の皿は砂になった。

320 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 08:24:29.99 ID:Tnp2y3o50

「マスター、ちょっとおトイレ行ってきますね」
「はいはい〜!」


「だめだよ…だめだってわたし。もうこれ以上殺しちゃ…
許してあげなきゃっ…もう…お願い、局長さんも…来ないで…!
もう、放っておいてください……もう、もうっ……!!!」


「はぁ…」

風邪が少し落ち着いたので、潮風に当たろうと散歩に出かけた。
そんなことぶり返すかもしんないって?まぁそりゃそうかもしれないけど…
じっと寝てられなくなっちゃったんだから、仕方ないじゃん…
……っ!まさか…

「よろしいですか、かがみさん」
「……偉い人ですか」
「局長、でいいですよ」
「何の、用ですか」
「もうあの方には時間がありません。あの方を救えるのは…
戦争だけです。…仕事ではなく、私はあの方、いや、つかさ様を救いたい。
それだけは、信じてほしいのです。日本には彼女が必要なように、
彼女にも我々が必要なのです」

321 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 08:34:46.68 ID:Tnp2y3o50

私は、こいつから受け取った薬を、突きつけた。

「これは、つかさの何なの?」
「それは…その…出切るだけ延命させるなら、という意味であって、もうあまり強い効果は…」
「説明なんていらないわ。答えて、これはつかさの何なの?」
「彼女を救うには…もう戦うしかないのです!いつ力が暴走するかわかりません。
もはやつかさ様の脳は組織に侵されていて…」
「…話にならないわね。帰っていいわ。いい?つかさは私の家族で、
たった一人の妹なの。もう、あの子には誰も殺させない。
もし、もしあんたのいう暴走が起きたとしたら……


つかさは 私が殺す 」

局長は、諦めたような顔になると、そのまま消えた。

そう、もう、あの子に、人を、殺させちゃ、だめ、だから…

322 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 08:42:09.46 ID:Tnp2y3o50

「ねぇつかさ」
「なに??」
「いっつも働いてばっかじゃ何だからさ、今度この辺りで遠足でもしましょうよ」
「そ、そうだね。うん!じゃあ張り切ってお弁当作らないと!」
「味見は任せてね」
「うん……!」
「あ、そうそう、これ」

結局、あの時飲ませてしまった薬を、つかさに渡そうか悩んだ結果、
私は見せることにした。そんなもの、もう役に立つ保障なんてなかったけど、
つかさには、一日だけでも笑って、バカやってほしかったから。

「……こ、これ…」
「局長さん、て人にもらった。それで…どれくらいもつ?」

つかさは嬉しいような、悲しいような顔をして、

「…ちょびっと」

そんな頼りない言葉を言った。
当然、遠足になんて、行くことはなかった―

324 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 08:56:22.71 ID:Tnp2y3o50

「おー、そうだそうだ!今日は久々に有線でも流そうか!」
「え?配信されてるんですか?」
「いやね、政府がなぜかサービスしてくれるんだってさ。ほらほら、これでも聴いて仕事効率アップだ!」

マスターは、ラジオのチャンネルを適当に回し始めた。

『わたしのニーソックスかえ、してよね〜 だれーがはぁい、ちゃぁったんだ〜♪』

「あぁ、これ、前に友達と歌ったことありますよ」
「へぇ!かがみちゃんの歌かぁ!マスターも聴いてみたかったなぁ。ねぇつかさちゃん!」
「……え?」
「つかさ、ぼーっとしないの!」
「ご、ごめんなさい…あの、お姉ちゃん、マスター

『何の歌、聴いてるの?』」
「あぁんもう、お客さん来たわよ、今日はホール任せたからね!」
「う、うん……あ」

まるで壊れたテレビのようだった。色合い、明度、テクスチャ、
全てが狂っていた。お客さんが、男か女なのかもよくわからない。

「お、お帰りなさいませご主人様」
「つかさちゃん!お客さん女性だって!」
「あ、あぁぁ〜、ごめんなさい〜」

325 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 09:04:53.29 ID:Tnp2y3o50

ザーーーッ!ザザーーーッッ…

そして、今度は視界全体が歪み始めた。
深夜の砂嵐のように、つかさの見るものがどんどんなくなっていく。

(だめ、今は…バイト中なのに……お願いっ!)


……プツン

電源がOFFになった。
もう、何も見えない。
もう、何も聴こえない。
もう、何も感じない。
もう、何も なにも ナニも ナニモ … ‥ ・ ―

326 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 09:12:15.05 ID:Tnp2y3o50

…あ、あぁ……聴こえる
聴こえるよ…そっか…そうだったんだ…
機嫌がいいとき、お姉ちゃんが…口ずさんでいた…
歌詞とかは…私にはわかんないけど…
覚えてる
そう、これだ…このメロディーだ…
これが これが うたなんだ


聴こえるよ、お姉ちゃん…
胸に、足に、背中に、お姉ちゃんが好きだったあのうたが
全身に行き渡るのが…わかる…


そのうたのなは―


ラッキースター 〜この星の元で産まれて〜

327 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 09:22:11.77 ID:Tnp2y3o50

唐突に、幸せなんて崩壊する。
これだけは、何度経験しても慣れることがない。
私達が住んでいた、あの街が、襲われた。
朝から昼、たっぷり傷めつけられた。
炎が昇り、地元の人の断末魔があちこちに木霊し、
地面は血と肉で埋め尽くされ、もはや『地獄』に相応しい光景だった。

「かがみちゃん!早く!逃げるんだ!」
「マスター!マスタァァァァーーー!!」
「そんな顔すんな…実の娘が出来たみたいで…うれし…かった…ん」

ズシャァッ―

マスターの声は、天井が崩れてかき消された。
私は、逃げた。つかさを、つかさに会うために。

「…つかさぁ!今、今かえっ…!!」


そこにいたのは、『天使』だった。

329 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 09:35:24.30 ID:Tnp2y3o50

「つか…さ?」

私は、今にも壊れそうなその子に、近づいた。

「  来   る な
 敵 か?
   お  姉    ち ゃ ん
  うれ    し い
       助    け て 」
「…くっ!!!」

今のは何だろう?一度に何個もの声が聞こえたかと思ったら、
耳をナイフで抉られたような痛みが…

「   殺  し て
見 な    い で
   大 丈  夫 だ   よ
 ご め   んな   さ い
逃   げ て」
「つ、つかさ…」

330 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 09:43:18.50 ID:Tnp2y3o50

「さ わ   る な
   殺す  ぞ
 だ  め!
   帰 れ
  嫌 だぁ !
    来 な  い で !」
「くっ……!!」

つかさに、殺される。……ここで、今。
と、私の感情が全て溢れ出た。
恐怖、悲哀、怒り、憎悪、優しさ   そして
どうしようもない 愛

私は、つかさを抱きしめた。

「がああああ!!ぐがぁぁっっ!!!あ、あああああっっ!!!」

声にならない悲鳴が、聞こえる。これ以上辛い痛みってあるのかな。私は今、兵器を抱いてるんだから…

331 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 09:51:10.45 ID:Tnp2y3o50

「おねえぢゃああん!!!私……私…飛べないの!戦わなきゃ、いけないのに!!
マスター、私のせいで、死んじゃっだのぉぉぉ!!!」
「うん…知ってる…よ」
「なんで…なんでわだじ…肝心な時にこうなんだろう…っ!ほんとわだじ…だ、だめな…」

ビギッ…!ブヅッン…!!
ドンッ!ドーンッ!!

生々しい音が、ずっと続く。この空襲の音で、この星に生きる誰かが、死んでいる。
たまたま同じ住民だっただけ。あまり親しいわけでもない。でも、なんでだろう。
目の前で死んでいくのは、悲しい。とりかえしのないものを喪ったからだろうか。
つかさは、こんな光景を、毎日毎日、見てきたんだろうか?
こなたも、そんな想いで殺したのだろうか。
こんなにも激しい痛みに耐えて、生きてきたんだろうか。

「バチが…当たってんだよね…罪をおかしておいて…お姉ちゃんとのうのうと生きてきたから…
私…強くなったのに、大切な人すら守れない…あ、あ、来たよ…行かなきゃ…あっあっ…」
「もういい、もういいのよ!つかさぁぁ!」

332 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 10:00:30.33 ID:Tnp2y3o50

「私が、殺してあげるから、ね?殺して、あげるから…」
「ありがとう…お姉ちゃん…お姉ちゃんのこと、絶対忘れないから…!

 私 は だ い じ ょ う ぶ
  あり  が と   う
殺  し て   あ げ  る
  痛く し    な  い か   ら
    お   姉 ち  ゃ  ん  大 好 き
 も   う 楽     に な  ろ」

―そして、消えた。つかさも、私も。
見えるものは何一つない。白い、白い世界が広がる。
意識はすぐに落ちて、思考が停止した。
つかさの声も、音も、温もりも、全部…


もう、終わってしまったのだろうか。

333 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 10:08:23.77 ID:Tnp2y3o50

        最終章


   ―この幸せな星に産まれて―

334 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 10:17:25.46 ID:Tnp2y3o50

「…ふぅ、良かった。食べ物まだ残ってた」

あの空襲から数日経った。あれからどうやって生き延びたのか
全然覚えていないけど、目が覚めたら全て終わってた。
外は、空襲でほぼ街は全壊。人っ子一人見当たらなかった。
だから、しばらくここで、もう少し生活しようと決めた。

「ただいま、つかさ」
「……」
「ほら、お弁当落ちてたから拾ってきたわよ」
「      」
「あぁ、だから大丈夫だって。腐ってなんかないわよ」
「      」
「うん、わかってるわよ」
「      」
「そういえばそうね、あら、あんた髪伸びたわね、切ってあげよっか?」
「      」
「な、なによそれ!確かに私ぶきっちょだけど、髪くらい切れるわよ!」
「      」
「そうそう。大船に乗った気でドーンと構えてなさい!」

336 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 10:25:20.27 ID:Tnp2y3o50

……ジョキッ(バサバサッ)

「      !!!!」
「こら暴れるな!前みたいなショートにしてあげようって思ってるんだから」
「      」
「わかってるわよ。ちょっとずつね。私…髪の毛なんて切ったことないし」
「      」
「それに鏡もないし、正直カンに頼ってるような気も」
「      〜〜!!」
「冗談よ冗談」

そう会話しながら、私はつかさの柔らかい髪を丁寧にカットしていった。
カバーは落ちてたシーツを。ハサミもさっき拾ったやつを使って。

「ほんと…綺麗な髪…」
「      」
「なな、なんでもないわよ!!」

338 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 10:35:22.22 ID:Tnp2y3o50

「      ♪」
「どうよ、私だってやればできるでしょ!」
「      」
「あー大丈夫大丈夫、後ろもちゃんとなってるって」


-----


「ごちそうさま。ごめんね、いつも落ちてた弁当ばっかりで」
「…、…、…」
「つ・か・さっ!」

パンッ―!

反応の薄いつかさに、私は猫だましをして目を覚まさせた。

「      !!?」
「ほら、歯みがいて寝ましょ。また身体拭いてあげるから」
「      」
「…薬?もう一個しかないけど、飲む?……そう、そうだよ、ね」

339 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 10:44:47.47 ID:Tnp2y3o50

背中から露出した翼。そこから流れる赤黒い液体を拭きながら、私は感慨にふけっていた。

もう、つかさの声は誰にも聞こえなかった。
私は、つかさが話してるつもりの声をしっかりと聞き、理解した。
その方が、つかさの気持ちがより判ると思ったから。
つかさに気づかれないよう、ゆっくりと話を聞いた。
つかさが想うこと、全てを受け止めた。
つかさが笑うと嬉しくて、泣くと苦しくて、怒ると切なくなった。

つかさは、私に「歌」をうたうように伝える。

この日は、雨が酷く降った。
嵐にもなり、この街の残り少ない電気を揺らした。
雨は…朝になるまで降り続けた。


つかさの、命のように。

340 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 10:54:45.69 ID:Tnp2y3o50

寝る前に、またつかさは鼻血を出した。夜になると、身体バランスが不安定になるんだろうか…
つかさを寝かせて、部屋が静かになると、外の雨が余計にうるさく感じた。
小さいとき、つかさが独りで公園のベンチにいたことを思い出した。
あの意味もなくただただ不安になるような、やるせなさにも似た感情。
いずれ訪れるであろう、つかさの死を、私は受け止めてあげると決めた。
雨音がつかさの死を包んで、少しでも痛みを忘れさせてくれればいい。
ぼんやりと、そう思った。

そんな都合のいい最期なんか、やはり幻想だったんだろうか?

ガリッ…ガリガリッ…

「…つ、つか、さ…」

ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリ

無数の針金が、つかさの身体を突き破って、暴れ始めた。
私はただ…無心にそれを引きちぎろうと…した。

341 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 11:04:08.64 ID:Tnp2y3o50

「      」
「ばっ!あんた!仕方ないなんていわな…!」

なんで!なんで!?こんなの酷すぎるよっ!
酷い?何が酷いって?同じだ。
つかさは、死ぬ。私が何もしてあげれないまま、みさおが死んだように。
つかさも、死ぬんだ。

「お姉ちゃん、どうして、来てくれたの?」
「……!?」
「こんな雨の日に…どうして?」
「………ッ」
「ごめんね…私が傘忘れちゃったせいで…お姉ちゃんに迷惑かけちゃって…」
「つか…さ?」
「大丈夫だよお姉ちゃん。私、口固いから」
「……」
「そうだ、私こなちゃんにメールしなきゃ」
「………」

342 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 11:15:09.36 ID:Tnp2y3o50

そっか…これが、つかさなんだ。
いつも自信なさげで、弱気で臆病で、こなたが言う以上にヘタレで、
ナイーブで、ちょっと負けず嫌いで、だから私、この子を傷つけてしまう気がして…
でも本当は…

「ま…待ってつかさ、…違うの…違うの違うの…
ぜぜ…絶対あいつになんか…いい、言っちゃ…ダメ…なんだか…ら」

……

パキッ―

つかさを締め付けていた羽が、消えた。

「おさまった…いや……これが、死……ッ!」

嵐が吹き荒れてようと、関係なかった。
私はつかさを抱き上げ、外に出た。

「いるんでしょ!?出てきて!出てきなさいよっっ!!」

345 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 11:25:51.94 ID:Tnp2y3o50

物陰から、局長が姿を現した。
悲しい目をしていた。私は、局長に縋るような思いで、伝えた。

「生きてる…つかさはまだ…生きてるのっ!!!!」


私は、罪を犯した
この星の、すべての生きているものに


私は、罪を犯した


―ただ利己的な衝動でつかさを裏切り、
この星に、つかさを放った

「知りたいですか。この戦争のこと、本当の、『彼女のこと』を」

347 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 11:34:01.93 ID:Tnp2y3o50

「人には知らなければ良かったと思うことがたくさんあります。
知らなければ本当に大切なものだけ見ていられたのに、と思うからです」
「つかさは…つかさは生きられるの!?」
「おそらく、しかし、私のような下の者には、詳しいことはわかりません。
ある研究所の人間はこう仮説を立ててました。
彼女の体の、ある細胞は「人類」そのものだ、と。生き返るために、
人類が始まってからの歴史を繰り返しているようなもの。生きるために、
戦いを繰り返し、それをエサにどんどん成長する。その先に待っているものは…
わかりません。研究所は戦争開始直後になくなりました。ですから、
もう今となっては誰も知りません」
「つかさは…生きられるの…」
「…生きます。……そうそう、先日、私の家族が空襲で死にました。
娘は…あなたと…つかさ様と、同い年でした。仕方なかったんです。誰も、悪くないのです」


局長は、そう言い残して去っていった。

349 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 11:44:21.01 ID:Tnp2y3o50

もう何もする気が起きなかった。
一日一日を、何もせずに過ごす日々。
おかげで、微妙に痩せた気もする。
こんなことで痩せてもちっとも嬉しくなんかない。
徐に、マクラの傍にノートのようなものが置いてあるのに気づいた。

「日記…帳?」

それは、携帯が使い物にならなくなった日から、
最期の薬を飲んだ、あの日までの記録だった。

生きていた。私たちは、確かにあの時を生きていた。
つかさの綺麗な字を読むたび、あぁ…生きてたんだって実感できる。
強く
    強く

必死に強くなろうとして、笑って、泣いて、怒って、
不安におしつぶされて、罪にもがき、懺悔して、
せめて 生きることだけを許して欲しいと願いながら
私達は、生きていた。

ただそれだけを許された 小さな生命が……

351 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 11:54:34.78 ID:Tnp2y3o50

「お嬢ちゃん、どうしたんだいこんなところで?」
「えっと…」
「嬢ちゃんも、『天使の街』行きたいのかい?」

最近人に出会うとそんな単語をよく耳にする。
思い当たる節がありすぎで最初は戸惑っていたけど、徐々に聞き慣れていった。

「その…なんなですか?天使って」
「ん〜。神サマみてーなもんかな?俺ぁただ『天使』のご加護がある
街があるって聞いたんでな、こんな世の中だからそれにすがってみるかなって思って目指してるんだ」

……つかさは、もう私の妹じゃなくなったのかもしれない。
もうつかさは、私なんかじゃ触れられないところまで行ってしまったのかもしれない。
でも…つかさの日記を思い返して、そんな下らないことをかなぐり捨てる。

『お姉ちゃん、もし、もし粕下部に戻ってこれたら、お願いがあります。
一緒に、あの日見た綺麗な夜景が見える、あの場所に、来てください』


だから私は、もう一度『つかさのいた街』に、戻ろうと決めた。

356 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 12:04:30.54 ID:Tnp2y3o50

……行こう。
約束を、果たしに行こう。

見慣れた風景はもうそこにはなくて、
薙ぎ倒された木や、自重で押しつぶされた家屋、銃撃によって削られた通学路。

それでも、ここは私の故郷だった。
そして、あの日、あの時、あの場所で交わした約束を果たしに。


「……はぁ、はぁ」

少し歩いたのに、もうフラついていた。
運動不足かな?元々運動は得意ってわけでもないけど。
あぁ、それを言ったらつかさはどうなるのやら。
そういえばあの子、私のバレーのサーブ顔で受け止めたっけ…
あはは……はは……

「うっ…ううっ…つかさぁ…はやく…来てよ…
もう逃げないから……会いたいの…あんたがなんだっていいの…
もう一度……ここで語り合いたいの……あの丘でもいい…
ううん、どこだっていい…あんたとの思い出…こんな程度じゃ…
語りつくせないんだから…うっっ…うああああっっっ!!!」

360 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 12:14:09.72 ID:Tnp2y3o50

ふと、夜空に浮かぶ星が、何かに遮られた。
すぐ上。頭上。

トン、と、それは降り立った。間違いなくそれは、
―つかさだった。

「つかさ!つかさぁっ!」
「…誰、ですか?」
「……え」
「なんで私、こんなところにいるの。ここ、どこ?」
「つかさぁ…」
「どうして、泣いてるの?」
「つかさ、私よ、かがみよ!」
「か…あ、また出た。あなたが、つかさの事考えてるの観てたら、
こんな水が目から出たの。なんで、出るの?あなた、誰?
どうしてつかさは、ここに来たの?あなたがここに来たら、
つかさもここに来るように設定されてたの。『お散歩』が多くて、凄く大変だったのに。
どうして?どうしてつかさは待ってたの?つかさはずっと、あなたを待ってたんだよ!」
「…あ、もしかして、敵さん?」
「なな、んなわけないでしょが!」
「あなたも、この水、出てたよね。どうして?今のあなた、
心拍数、呼吸数、アドレナリン濃度、…全部異常値だった。
つかさも…そう。そして、言葉じゃ言えない、意味わからない情報が頭に流れ込んだの」

363 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 12:23:19.08 ID:Tnp2y3o50

「それは…『悲しい』『苦しい』『泣きたい』『かわいそう』
感情ばっかりなの。最後に…『知ってくれてうれしい』『ずっと、ずっとさみしかった』って…」

つかさは、どこかつかさっぽくなかった。
けど、この子は間違いなくつかさだった。
臆病で、ナイーブで、負けず嫌いで、そして…とってもとっても可愛い…私の妹…

抱きしめた。きつく、潰してしまうくらい、抱きしめた。

「なっ…やめて…!なにするのっ…!!」
「いいじゃないっ…!別に…したいからしてるだけよっ!…それに、私はあんたの『姉』なんだから、
泣いてる妹をあやすのは、姉の役目なのっ!」
「姉、だから…。それで、今の行為に説明がつくの?」
「そ・・そうよ!」
「じゃあ…このつかさにある『もやもやしたもの』、どうやったら取り除けるの?」
「もやもやした…もの?」
「『一番、お姉ちゃんを感じられること』だって」
「…一番、私を感じられること…」
「なんなの?それって?」

…なんだったっけ。

365 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 12:33:15.18 ID:Tnp2y3o50

あぁ、そうだ。一緒にお風呂に入った日だ。
あれはそう…中学の卒業式だったかな。
中二くらいから、恥ずかしいのでもう別々に入ろうって言ってたんだけど、
その日に限ってつかさが『一緒に入ろうよ』って言ったんだ。
つかさは、正直頭が悪い。私と同じ学園に、落ちる可能性のほうが高かった。
だけど、つかさは頑張った。徹夜したし、私と部屋でかんづめしたりして、
奇跡的に同じ学園に合格した。
箍が外れたのか、安心しきったのか、肩の荷が取れたのか、そんなワガママを言い出した。

湯船で二人は、さすがに狭い。それに、身体つきも
女らしくなってるので、色々と恥ずかしい。
だけど、つかさは気にしてなかったのか、いきなり抱きついてきた。
そして、転寝をしながらこう言ったのだった。

「こうしていると…一番安心できる…一番お姉ちゃんを、身近に感じられるから…」

367 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 12:44:41.51 ID:Tnp2y3o50

要するに、また一緒にお風呂に入ればいいわけ?
いやまて、このご時勢で易々と風呂に入れるかっての…
うーむ…どうしたもんか。

「ねえ、どうしたの?」
「むぅ…むむ」

と、ここで私は閃いた。お風呂に限らなくてもいいんではないか?
私を一番肌で感じるっていうのは、つまりは素肌で触れ合えばいいっていう話で。

…あ、それって、なに?ここで裸になれってこと?

「どうしたの?ねえ?」
「……しっかたないわね…恥ずかしがってる場合じゃないしな…
よし、つかさ。  服 脱 ぎ な さ い 」


もう、色んな意味で死にたい…

370 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 12:53:38.73 ID:Tnp2y3o50

「なっ、何するの?」
「ほら、さっさと脱ぐっ!恥ずかしいんだから早くしなさい」
「え…はぅ…なんか、強引じゃない?」
「私だって脱ぐんだもん。仕方ないでしょ」

…この脱いでる時間が、妙に長く感じられた。
そして、今この場で、私とつかさは、一糸纏わぬ姿で対峙した。

「これで…どうするの?」
「…ほら、おいで」

つかさをぐいっと引き寄せると、つかさの顔を胸に押し付けた。
素肌にかかるつかさの髪の毛が、すこしくすぐったかった。

「……あっ」
「どう…?さっきと、違う?」
「うん…なんでだろう。裸になっただけなのに…あなたの心臓…トクントクンって、動いてる」
「そうよ…生きてるんだから、当たり前じゃない」
「でも、私は動いてないよ?」
「バカね…そんなの関係ないわよ…私の腕の中で、こうして息して話してるじゃない。
それだけで、充分『生きて』るの」
「うん…温かいよ……ねぇ、お姉ちゃん…」
「うん?」
「もうちょっと、こうしてていい?」
「うん…」

372 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 13:03:50.28 ID:Tnp2y3o50

…チチチ

「ん…あ、あれ」

眠ってしまったらしい。朝の光で、タオルケットがかけられてるのがわかった。
つかさは、軍服を着ながら、こちらを見た。

「つかさ?」
「行って来るね、『お散歩』」
「ど、どうして!?」
「だって私、兵器だし…。あの時ね、声出なくなったときから、
やっと終われる、やっと死ねるって思ったの。だけどね?
お姉ちゃんがいたから、出来なかったんだよ。そしてまた、ここに帰ってきたの。
本当は、お姉ちゃんの妹に戻らないほうがよかったんだよ?
だけどね、もうここまで来ちゃったの。もうこの星は…滅びるの」
「…滅び…る」
「だから、その最期が来るときは、一緒にいて欲しいの。放っておいてもやってくるなら、
私が『お散歩』して早めたほうがいいでしょ?」
「……」
「ごめんね…でもお姉ちゃん。これだけは信じて。
最期の最期まで、私を信じて…」
「…うん」
「ごめんね…い、行ってきます」

つかさは、敬礼の姿勢を取ると、彼方へ飛んでいった。

■昼飯のため時間置きます

375 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 13:20:56.10 ID:Tnp2y3o50

「こんにちは、今戻りました」
「つ…つかさ総司令官殿!!」
「いつお戻りに!!?」
「あれ、私総司令になってたんだ…じゃあ事実上、軍の責任者だね」
「き、貴様ら!つかさ総司令官殿に敬礼!」

腐っていた士官達は、跳ねるようにして立ち上がると、力のある敬礼を取った。

「総司令!なんなりとご指示を!お願いいたします!」
「…指示…うーん、じゃあ、皆さん!命令です。
皆さんが、愛してる、皆さんが大切にしてる、皆さんが守りたい、
そんな人たちのところへ、行ってください」
「…は、はぁっ!?」
「もう、お終いにしますから、最期だけは、貴方達が本当に守りたい人の
傍に、いてあげてください。お願いします」

小さな総司令は、部下に頭を下げた。
逆らうものなど、誰一人いなかった。

376 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 13:30:57.96 ID:Tnp2y3o50

明日死ぬとしたら誰と一緒にいたい?

「やまと、これからどうしよっか?」
「こうの行きたいところに、行けばいいわ。付き合うから」

好きな人?愛する人?家族?

「みなみちゃん…帰ってきてくれて、ありがとう」
「もう離れない…ずっと、ずっとゆたかの傍にいるから…」

守りたい人?それとも一人のほうがいい?

「あやの…もう、ずっと一緒だからなっ!」
「うんっ…!うんっ…ずっと、いつまでも…っ」

そして、あなたはその人と何をしたいですか?
愛し合いますか?語り合いますか?それとも、一緒に夢を見ますか?

「かがみ!」
「かがみ…よく帰ってきたわね…つ、つかさは…」
「はぁ…はぁ…」

その人を 大事にしてください この星で 幸せになってください

「つかさなら、絶対連れて帰るからっ!だから、行ってくるわね!」

せめて、その時が来るまでは、その人のことだけを 想っててください

378 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 13:39:47.31 ID:Tnp2y3o50

以前つかさに言われたことがあった。

「お姉ちゃんにだけ教えておくけど、『その時』がくる合図ね。
夕方の4時くらいに、夕日が出るの。その夕日をなぞる様に私が飛んだら、
地震が来るから。だから…それまで夕日はこまめに見ておいてください」


…で、今そんな時間。それで、水平線に向かって伸びる光の粒子。
あ、あれつかさか。あれが夕日の弧を描くように飛んだら…地震が…


―ズシッ―


…きたっ!立ってられない。まるで地面が生きているかのように蠢いて、私を翻弄する。
ぐねぐねと動く地面を蹴って、私は走った。兎に角、走るしかなった。

「……っ!!!」

稲妻?いや、なに、あれは?高層ビルのように太いエネルギーの塊が、
いくつも天上から地上へ降り注いでいる。
そう、ついに来たんだ。  終末が―

380 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 13:48:13.96 ID:Tnp2y3o50

誰かを守ろうとしたとき
たった一人しか守れない自分に気づいたとき
あのつかさが兵器になった日以来、
私達は何度も遠回りをして、何度も泣いて悩んで
ようやく ここまでたどりついた

もうこの星は死ぬ 免れない
だけど、今は、つかさのことだけを想っていたい
私のたった一人の妹   つかさ

時を越えてあの約束をした日が蘇る
「世界が終わるとき」
その意味を体で理解できるハズのないまま 私はあの丘へ走った
つかさと交わした 約束の丘へ

「…そん、な」

丘は消えていた。丘を盛り上げていた山が、崩れていたのだ。
そんなバカなことって…この丘で、つかさと…約束したのに…っ!!

383 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 13:59:45.28 ID:Tnp2y3o50

人は気づいていない。だましてだまして、この星を追い詰めた。
誰のせいでもない。この星の全ての人たちが、何度も何度も過ちを繰り返した。
生きるために。
誰もが思うことだ。なんで、この星は壊れてしまったのか。
世界は死んだ。あっけなく。人間は、星を壊すことはしても
星を治したことなどただの一度もない。
そして、無数に存在する戦争を完全に終わらせたことも、ない。
いらないはずの兵器が、どんどん使われていく。
それはある意味、この星を癒していく行為ともとれた。
もう一度始まった日に、こどもがおもちゃを片すように、
泣きながら後片付けをするように。


一つ

一つ

385 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 14:07:38.94 ID:Tnp2y3o50

人がいた。人で溢れていた。
黙するものだった。
誰一人、呼吸をしていない。
誰一人、私を見ていない。
骸だった。死骸だった。
ここが、本当の


       地獄


だった。

「ああ…あああああああっっっ!!!!!!」

目の前の、愛する人を好きでいること。
地球に生きる全てのものの責任。
知らなければ、こんなつらい気持ちになることなんてなかった。
目をふさいで、誰とも知り合わずに生きていたら、一人で生きていけたなら…

387 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 14:16:37.69 ID:Tnp2y3o50

だけど、知ってしまった。私達は精一杯行き過ぎて、
その全てを台無しにされてしまった…
だけど、つかさはこんな光景を、数え切れないほど見てきた。

ごめん ごめん ごめんなさい ごめんなさい … …


目覚めると、そこには一枚の羽があった。
他には何も見えない。大きな大きな、天に向かって伸びる片翼。

「つかさなの…?」

触れた。無機質だった。冷たかった。硬かった。けどそれは…

「おつかれさま、つかさ。苦しかった?辛かった?悲しかった?
もういいの…もういいのっ!私達は、最期まで、こうして一緒にいられたんだから!
ねぇ…もういいでしょ…お願い…答えてっ!!……つかさぁっ…!!!!」

389 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 14:24:48.55 ID:Tnp2y3o50

■ここからオリジナルの展開です

その時、真白だった光景が、黒に反転した。
まるで宇宙を漂う遭難者になったようだった。
私が見てる方、そこに、おぼろげに光るものがいた。

「つかさ…なの?」
「おねえ…ちゃん」
「つかさ…つかさ!」

すぐに駆け寄ってあげたかったけど、つかさとの距離は縮まらなかった。

「どうして?なんで…!?」
「お姉ちゃん、来て…」

つかさが向こうへ行くと、私も呼応するようにつかさと同じ速度で進んでいった。

391 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 14:33:57.28 ID:Tnp2y3o50

しばらく進むと、丸い、光の塊が見えた。
私はつかさに連れられて、その光の前に立った。

「つかさ…これは?」
「この星が…生まれたばかりのころの姿だよ」
「じゃあこれが…地球なの?」
「ちょっと、違うの」
「え?」
「平行世界ってあるの。私達の世界でいえば、今は『戦争が始まった』世界で、
この星の歴史は『戦争が始まらなかった』未来の世界なの」
「つまり、ここは戦争を回避できた、地球のこと?」
「うん。見つけたんだ。私が実体を無くしたときに。
それで、お姉ちゃんにお願いがあるの」
「な…に?」
「お姉ちゃんは、この地球のお姉ちゃんとして、やり直して」
「それって…どういうことよ?」
「この地球にも、お姉ちゃんはいるの。今のお姉ちゃんが、この世界に介入して、
平和な日本にいるお姉ちゃんとして、もう一度生きていくの」
「そんなこと…出来るわけ」
「お姉ちゃん、私、最終兵器なんだよ?このくらい、簡単だよ」
「それなら…またこなた達と、会えるのね?」
「……うん」

393 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 14:41:18.26 ID:Tnp2y3o50

「でも、この力を使ったら…私、消えるかもしれない」
「…!な、なに言ってんのよ?さっきは簡単だって…」
「もう私、実体がないから…お姉ちゃんを送ったら、私は存在そのものが消えちゃうかもしれない」
「嫌よ!ダメ!そんなのダメェェ!!!」
「……お姉ちゃん、丘で抱き合った日のこと、覚えてる?」
「え……」
「『私を信じて』って。私だって嫌だよ。お姉ちゃんと別れたくない。
だから、私も絶対お姉ちゃんのところに帰るよ」
「ほんとよね…?ほんとのほんとね?」
「うん、ほんとだよ」
「ほんとのほんとのほんとのほんとのほんとのほんとのほーんとね?」
「うん、約束」

つかさは小指をちょこんと差し出した。
私も、同じように小指を出し、交わらない指きりをした。

「ゆーびきーりげんまん…」
「うそついたらはりせんぼん…」
「のーま……す……うっ、うわああああっっっ!!!」
「お姉ちゃん…ありがとう………    さようなら」


そして、今度こそ本当に、全てが消えた。

396 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 14:50:48.78 ID:Tnp2y3o50

…ジリリリリリ

「ふぁ…朝かぁ」

んーっと伸びをする。私、柊かがみ。陵桜学園高等部の3年D組。
といっても、3年にはなったばかりで、これから受験のことを考えると朝から憂鬱だ。

「いってきまーす」
「いってらっしゃ〜い」

家を出て、電車で隣駅まで移動。
そこで、、、

「お早うかがみ〜」
「お早うございます、かがみさん」
「おっす」

いつもの二人と合流する。泉こなたと高良みゆき。
そして私の、いつもの(自分でいうのもなんだけど)仲良しトリオだ。

「いや〜…また深夜アニメ観ちゃって眠いったらありゃしないよ」
「泉さんは、毎晩違うアニメをご覧になってるんですよね」
「毎晩かい…その努力をもっと別のことに活用しろよ…」

397 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 14:59:01.40 ID:Tnp2y3o50

「おーっす柊」
「おはよ、柊ちゃん」
「おっす」

そんでこいつらは、小中高と同じクラスの日下部と峰岸だ。
さっきの仲良しトリオより仲が長い。なんで苗字で呼び合ってるかって?
…なんか昔っからそうだったから、今更変えにくいからよ。

「いや〜、柊、ニュース見た?」
「え?芋堀のこと?」
「ちっげーよ!世界新記録だよ!」
「なんか出たっけ?」
「おめーボルト知らねーのかよ!?三種目で新記録作ったんだぞー!陸上部員としては、おちおち負けてらんねぇぜ」
「…つーか情報古いし。そもそもあんたじゃ色んな意味で無理だし」
「んがー!あやのー!柊が冷たいっっ!!」
「よしよし…もう、あんまりそんなこと言っちゃだめよ、柊ちゃん」
「…あのなぁ」

仲の良さは、……まぁ見ての通り。あいつらとは変わりなし。

401 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 15:07:09.87 ID:Tnp2y3o50

「さて…そろそろ帰るか」
「おーい柊ー。ちょっといいか?」
「はい?」

桜庭先生が呼んだので、小走りで先生の元に向かった。

「なんですか?」
「あー、大した用じゃないんだが、明日の実験の薬品で足りないものがあってな。
持ってくるのは明日でいいから、ちょっと買ってきてくれないか?」
「いいですけど…」
「欲しいのはこれだ。よろしく頼むぞ」
「はーい」

桜庭先生が(多分また保健室だろうけど)去った後、私は渡された紙を見た。

「…結構量があるし…はぁ…なんかいいように使われてるなぁ、私」

そうぼやきながら、私は教科書をカバンに積み込んだ。

404 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 15:12:22.33 ID:Tnp2y3o50

「よーし、今日も張り切ってゲマズを散策するかー!」
「あーこなた、私今日用事があるからパス」
「ええー!?連れないぞー連れないよーかがみ〜ん」
「身体をすりすりさせるな!いいから一人で行ってこい!」
「ふふ〜ん、いいもんいいもんね〜。ガーゴイルの新刊出てても教えてあげないもんね〜」
「ぐっ…!卑怯な……ってノせられるなよ私」

いつもの調子でこなたと別れると、近所のスーパーに入った。


-------


「ふいー、やっぱりそこそこ重いわね〜。学校には持っていく必要ないし、
とっとと家に帰るかぁ」


ぎりぎりと重みで指が締め付けられるのは勘弁被りたいので、少し早歩きで帰路を目指した。

408 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 15:19:10.33 ID:Tnp2y3o50

「…あれ?」

おかしい。家に帰るはずなのに、方向とは逆に足が進んでいる。
なによこれ?私リモコンで操られてるの?
いや、違う。これは私の意志で歩いてるんだ。
なんでこんなことをしてるのか、わからない。理解できない。
だけど、大切な何かを忘れてしまったような、そんな錯覚に陥りそうになっている。

胸が、痛い。本当は指が痛むはずなのに。
桜がそろそろ散ってしまう。夏を迎える青い葉が、私の目の前に現れた。

「ここ…上るの…?」

誰に訊いているんだろう。答えを知らないまま、私は
舗装されてない坂道を登り始めた。

…ほんと、一体何をしてるんだ、私は。

412 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 15:28:24.41 ID:Tnp2y3o50

「はぁっ…はっ…」

ただでさえ急な坂なのに、両手には数キロの荷物がある。
なんの罰ゲームだ、これは。まだ夏じゃないけども、
これだけの運動をすれば汗もかくものだ。

「これは、新しいダイエット方法なのかしら…?」

などとバカなことを考える。そろそろ指が危ない。
日下部みたいに鍛えてるわけじゃないから、
ヒザも少し笑い始めてきた。

「はぁ…なによ、私、何してるのよ…」

そして…ようやく坂を登り切った。


「…綺麗」

416 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 15:36:57.02 ID:Tnp2y3o50

そこは、小さな丘だった。丘から望む風景は、街を一望できる絶好の一等地だ。
夜だったら、ネオンなどの蛍光でより綺麗になることだろう。

…だけど、私はこの光景に違和感をかんじた。
私は、 コ コ を 知 っ て い る。
初めて来たはずなのに、だ。知らない、こんなところ、知らない。
なのに、頭の片隅には、夜のこの情景が浮かび上がってくる。
とても鮮明で、とてもリアルに。

ドサッ―

胸が、痛かった。そして、悲しかった。
ツ…、と、涙が流れた。なんで?たまたま見つけただけなのに、なんで私、泣いてるの?

「あはは…なに泣いてるんだか…お母さんやお姉ちゃんが心配しちゃうよ…
早く帰らなきゃ…」

しかし、足が動かなかった。そこにいなければいけないと、誰かに言いつけられたように。
そして、涙は止まらなかった。拭うこともせず、ポタリポタリと、コンクリートを濡らす。

「どうして…こんなとこ知らないのに…初めて来たのに…
どうしてこんなに胸が痛いのっ!?どうしてこんなに、切ないのっ!?
どうしてこんなに……懐かしいのっ………」

419 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 15:44:20.13 ID:Tnp2y3o50

ふわっ   と、暖かい風が吹いた。
今まで感じたことのない、人肌のような匂いもしていた。
なんだろう、これ。
ずっと、ずっと知っていたハズのような気がした。
だけど思い出すことができなくて、私は風に顔を向けることしかできなかった。

光だ。
生き物のようにうにょうにょと動いているのが少し奇妙だった。
だけど、やっぱり、あれを私は見たことがある。
あれは、なんなの?
教えて…教えてよ…知ってるのに、思い出せない…このもどかしさを…誰か…なんとかしてよっ…!!

光は、少し大きくなっていく。
棒状になったかと思うと、五つの突起が突き出てて、それはヒトガタのような形を形成していく。

そして、光は白く発光した。思わず目を背ける。

…どれだけそうしていただろうか。
目が落ち着いて、私はそこに立ったモノを見た。

421 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 15:53:26.33 ID:Tnp2y3o50

それは…
私と同じくらいの背丈で、陵桜の制服を着ており、特徴的なカチューシャを身につけていて、
少し垂れた大きな瞳をしていて、どこか不安そうな顔をしていて、

とっても臆病で
とってもヘタレで
とってもドジで
とってもバカな…


私の…

「……―――っ!!!」
「―――っ…!」


私の、たった一人の…


「……おかえり」
「……ただいま、お姉ちゃん」


私の妹    ―つかさ、だった。

423 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 15:55:07.14 ID:Tnp2y3o50

       ―私達の未来に、永遠の幸せを―


           最終兵器つかさ

             終

430 名前: ◆AFHdzMaE2Y [] 投稿日:2008/10/18(土) 16:05:15.08 ID:Tnp2y3o50

■長らく読んでいただいた方、ありがとうございました
■誤字文字ズレが多くて申し訳ありませんでした
■保守、支援いただいた方々、本当に感謝してます
■原作ファンの方、色々ごめんなさい
■あとひよりとゆい姉さんとそうじろうとパティファンの方、マジで申し訳ありませんでした
■最後まで読んでくださいまして、ほんっとーーーーにありがとうございました

リアルタイム投下って凄いハードなんだと実感しました

434 名前: ◆AFHdzMaE2Y [sage] 投稿日:2008/10/18(土) 16:20:18.41 ID:Tnp2y3o50

また何かあったらSS書きますので、そのときもヨロシクお願いします


では、ご縁があったらまたお会いしましょう



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