こなた「やっちまった……」


メニュー
トップ 作品一覧 作者一覧 掲示板 検索 リンク SS:シンジ「綾波のブラジャー、いい匂いだな…」クンカクンカ

ツイート

1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/17(日) 01:08:50.44 ID:/TffZV0J0

「そんな……嘘だよ……」

信じられない。
まさか、こんなことが起こるなんて。


私達が体育を終えてグラウンドから玄関前まで戻って来た時、
辺りが、いや、学校中がどよめいていた。

それは4校時目を終えた生徒達がこれから訪れる昼休みに胸を弾ませているから、
という華やかな理由によって齎されたものではない。


もっと別の、それも望まれるべきではない要因。


地面にはブルーシートによる青一色。
そこらには野次馬、教師、そして呆然と眺める私達2人。

そのそれぞれが驚愕、困惑、動揺、悲観。
様々な表情を露わにしている。


自殺だ。


柊かがみが屋上から飛び降りたのだ。

4校時目の体育という、その僅かの間をついてだ。

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/17(日) 01:11:30.87 ID:/TffZV0J0

 − 前日 午後22:00 過ぎ −


それは私が2月の寒さに震えながらも、
自室でネットゲームに勤しんでいた時のこと。


――硝子の少年時代の〜♪


すぐさま片手を携帯へと滑らせる。

「かがみんから……?」

ピッ

「もしもし、どったの?」

声を掛けるが返答が無い。

やば、敵に囲まれちゃったよ。
片手じゃスキルが使えないじゃん。

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/17(日) 01:13:39.82 ID:/TffZV0J0

「ねぇ、かがみんでしょ? どうしたの?」

早くしてほしい。
その一心で声を掛けるが、やはり返答が無い。

「悪戯? 切っちゃうよ?」

苛立ちより、何かのリアクションを期待して私はそう口にしていた。
しかしそれからまたも暫くの沈黙。

やがて、
「ごめん、やっぱりいいわ……ごめんね」
暗く、短い返答の直後、通話は一方的に終わることとなった。


そしてそれが、私が彼女の口から聞いた最後の言葉。
つまりは遺言となったのだ。

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/17(日) 01:21:12.61 ID:/TffZV0J0

刑事「飛び降り自殺!?」
探偵「また……事件ですか……」
助手「そう」


1分後。
陵桜学園。


刑事「どうやら屋上には上履きと遺書が綺麗に並べられていたらしい。
    動機は柊かがみがセンター試験に落ちた事を悔いて飛び降りたとの事だ」

刑事は呟くと、踵を返そうとした。

探偵「待ってください」

それを即座に探偵が呼び止める。

刑事「どうした?」
助手「……」

探偵「この事件、まだ終わらせる訳にはいきません」
助手「……そう」


探偵「この簡単な事件、俺が33レス持たせてやる」


その言葉を皮切りに、事件は真相へと向け歩を刻み始めたのである。

17 名前:残り33レス[] 投稿日:2008/08/17(日) 01:35:54.11 ID:/TffZV0J0

探偵達は屋上に来ていた。

刑事「広いな……高いフェンスに囲まれてはいるが、昇降口の扉に鍵は付いていないようだ」
助手「つまり誰でも侵入可能」

探偵は怪訝に辺りを窺い、そしてあることに気が付いた。

探偵「これは……」

フェンスの一部が腐食によって折れていたのである。

探偵「なるほど、ここからフェンスを越えて落下した……と」
刑事「学校側の安全管理は杜撰のようだな」
助手「隣のフェンスに針金がついている。恐らく、これで結いつけて状態を保っていた模様」

刑事「しかしこの通り上履きは綺麗に並べられているし、遺書も見つかったんだ。
    これは自殺で――」


探偵「果たして本当にそうでしょうか?」


刑事「どういう事だ?」
探偵「何者かが彼女を叩き落とし、その後で上履きを並べて偽装したとしたら……?」

刑事「……」
助手「……」

探偵「まだまだ時間はあります、落ち着いて動きましょう」

19 名前:残り32レス[] 投稿日:2008/08/17(日) 01:53:51.60 ID:/TffZV0J0

探偵「センター試験に落ちた……ふむ」
刑事「どうかしたのか?」

探偵「いえ、案外身近にも細かい探偵が居るものだなと」
助手「適当に、進路が決まらなかった程度か不合格としておくべきだった」

刑事「そうだな、別にトリックでもミスリードを誘っているわけでもないもんな」

探偵「そういう事です」

刑事「よし、これでまた潰したな」
探偵「はい」
助手「そう」

探偵「では気を引き締めてかかりましょう」

20 名前:残り31レス[] 投稿日:2008/08/17(日) 01:56:12.96 ID:/TffZV0J0

― 放課後 B組教室―

こなた「それで、どうして私達が集められているんですか?」
つかさ「お姉ちゃん……ぐすっ……」

探偵「亡くなられた柊かがみさん……それと近しい存在にあったのが貴方がたです」

みゆき「どういう事なんですか?」

刑事「警察というものはね、ありとあらゆる可能性を潰さなくてはならないんですよ。
    というわけで話を窺うだけですので協力を願いたいなと」

黒井先生「まるで生徒達を疑うてるような言い草やな?」

助手「貴女もその容疑者のうちの一人」

黒井「なっ……!」

みさお「でも私が柊を恨む理由なんてある訳ねーよぉ!」
あやの「……みさちゃんの言う通りです」

探偵「君達二人は帰って頂いて結構です。何かあれば追って連絡しますので」

あやの「……」
みさお「……そ、そういえば」

探偵「結構です」
みさお「……」

そのまま、みさおとあやのは帰って行った。

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/17(日) 02:08:39.85 ID:/TffZV0J0

「では泉さん」

探偵が私に目線を合わせて来た。

黒塗りのスーツに身を包み黒縁メガネでぴっちりと決めたその出で立ちは、
探偵というより若いやり手のサラリーマンといったものに近く感じられる。

「なん、ですか?」

急なフリに若干動揺しつつも私は言葉を返した。

「昨夜の柊かがみさんとの電話のこと、聞かせて頂けませんか?」
「どうしてそれを!?」

私の言葉に割って入るように、小柄な銀縁メガネの助手が紙切れを差し出し、
「通話記録を調べた」
短く答えていた。
紙切れには昨日どころか1週間分もの私の通話記録が事細かに書きだされている。

勝手すぎる。

「そんなことをやって――」
「タダで済むんですよ、我々警察は捜査に置いて利用できる権限を持っていますからね」

ふくよかな体格の刑事がドスを利かせて告げてくる。

「さぁ、話して頂きましょうか?」

続けるように探偵が腕時計を見遣りつつ、鋭い眼光を私へと向けて来た。

27 名前:残り29−1レス[] 投稿日:2008/08/17(日) 02:25:20.91 ID:/TffZV0J0

「昨日、私がネットゲームをしていた時――」
「”どこで”ですか? そしてそれは”いつ”ですか?」

すかさず探偵が詳細を求めてくる。
煩い奴だと思いつつも、潔白である私が”偽証”などで疑われたりしたらとんでもない。
いや、もしかすると通話記録表との相違点を探るのが目的なのか?

などの思い当たる理由によって、それなり必死に昨夜の事を思い返していく。

「えっと、確か22時ちょっとくらいで、その時私は自室でネットゲームで狩りをやってて……
 その時、携帯電話からガラスの少年が――」

ピクリ、と探偵が反応を示した。

「え、どうかしたんですか?」
「いや、続けてください」

なんだこいつ。

28 名前:29 − 2[] 投稿日:2008/08/17(日) 02:26:35.10 ID:/TffZV0J0

私は続けていく。

「その後かがみんからの電話だと気付いて取ったんですけど……
 その、こちらから問い掛けても反応してくれなくて……」
「それで?」

「それで、2、3回ほどまた問い掛けて……
 ようやく声が返って来たと思ったら、かがみが『ごめん』って言ってて……そのまま電話が切れて」
「掛け直さなかったんですか?」

「その、ネトゲやってたし……こんな事になるなんて……」
「他に、気になる点は?」

こいつ、私を疑っているのか?
かがみが死んで悲しんでいるのは私だというのに?

……ふざけるな。


「私は、何も知らないよ!」


自分の感情を抑えきれず、気付いた時には隣に居た刑事に筆箱を投げつけていた。

29 名前:残り28レス[] 投稿日:2008/08/17(日) 02:39:30.77 ID:/TffZV0J0

つかさ「こなちゃん……」
みゆき「落ち着いてください」

こなた「……酷過ぎるよ、この人達」
黒井「ウチも同感や」

探偵「おっと黒井先生、まるで御自分だけ蚊帳の外といった面持ちですね?」
黒井「……どういう意味や?」

探偵「屋上のフェンス、御存知ですか?」
黒井「……っ!」

刑事「どうやら御存知のようですね」

みゆき「先生、一体どういうことなのですか?」

黒井「ウチの責任や……ウチが悪いんや……
    フェンスが脆ぅなっとることは一週間前の職員会議でも話に上がっとった。
    しかしまさかこんな事になるなんて思わなかったんや……
    あん時、校長の銅像の補修よりも早くフェンスの補修を行うよう強く推しとけば……」

探偵「それがもし、意図的だったとしたら?」
助手「……そう」

黒井「なんやて!?」

探偵「では回想に入りましょう」

31 名前:残り27レス[] 投稿日:2008/08/17(日) 02:49:44.09 ID:/TffZV0J0

探偵「ちょっと待ってください」


黒井「なんや?」


探偵「これから俺が話す回想が長くなる場合に備えて、飲み物を用意しておくべきです」


刑事「そうだな、頼むぞ助手くん」


助手「……そう」

33 名前:残り26レス[] 投稿日:2008/08/17(日) 02:56:29.89 ID:/TffZV0J0

〜回想その1〜 −職員会議の日の出来事−


私、黒井奈々子。
こなた達のクラスであるB組の担任教師や。

育ち盛りな生徒どもの相手をするのは面倒やけど、
これはこれでやりがいがあって満足しとる。

小学生の頃、関西弁の教師を見た時から憧れとった職業やしな。

「さあ今日も頑張ろう!」

背伸びなんか決めつつ朝のホームルームに備えて職員室へと向かう途中の事や。

「独り言ですか」

背後からの声。

「なんや柊?」
「独り身は寂しゅうございますね」

「え……?」
「それに関西弁って……ここ埼玉ですよ?」

柊かがみはそれだけ言うと、嘲笑を交えつつ歩き去って行ったんや。


そしてこの時、私は殺意を抱いた。

36 名前:残り25レス[] 投稿日:2008/08/17(日) 03:06:34.33 ID:/TffZV0J0

探偵「こうして殺意を抱いた黒井さんは、職員会議でフェンスの事を黙秘します」

みゆき「何の為にですか?」

探偵「考えても見てください、学校と言う人の目の有る場所でわざわざ自殺をする理由を」
刑事「遺書には”思い出の詰まった陵桜学園で”って書いてあったぞ?」

探偵「偽装です」
刑事「なるほど」

探偵「敢えて人の目の多い場所で自殺に見せかける事で、
    自身の身の潔白を他人から証言してもらう事が出来るようになるからですよ」

こなた「でも、仮に黒井先生が犯人だったとしても、どうやってかがみを?
     真昼間の屋上、それも授業中にですよ?」

探偵「なんやかんやのトリックを使ったんですよ」
黒井「なんやかんやって、なんなんや?」

探偵「なんやかんやは、なんや――」
つかさ「でも、わたしとお姉ちゃんはいつも一緒に登校してるから黒井先生の話は有り得ないよ」

探偵「……そうです、これでまた一つ可能性が消去できましたね」
助手「消去法は推理において非常に有用」

刑事「振り出しか……しかし大分稼いだな」
探偵「はい」


探偵は再び、腕時計に目を落としていた。

38 名前:残り24レス[] 投稿日:2008/08/17(日) 03:14:42.93 ID:/TffZV0J0

つかさ「お姉ちゃん……どうして……」

探偵「つかささん、でしたよね?」

つかさ「へっ!? は、はい!」

探偵「貴女は、柊かがみさんと双子なんですよね」

つかさ「そうです、けど……?」

探偵「泉さん、昨夜の電話の内容をもう一度確認します」

こなた「え? う、うん」

探偵「柊かがみさんは”一言しか喋らなかった”。これに間違いはありませんね」

こなた「間違いないです……
     それ以外には答えようともせず、一方的に切れましたから。
     でもそれが何か?」

探偵「時間差トリック」

助手「……そう」
刑事「なんだと?」
みゆき「それは一体!?」


探偵「つまり――

40 名前:CM[] 投稿日:2008/08/17(日) 03:22:45.83 ID:/TffZV0J0

快晴。

そして波打ち際の崖上。

「頑張れ……頑張れよ!」

男が日の丸を大きく振っている。

「熱くなれ……熱くなれよ!」

荒れ狂う波のような強風に耐えつつ、

「諦めんな! もっと、もっと出来る!」

腹の底からの叫び声をあげている。


やがて国旗を両手に掲げ挙げた。

「頑張れ! ニッポン!」

デカデカとテロップ。

『私達○○製菓は、お菓子で選手たちを応援しています』


という訳で、33レス探偵は暫くCMに入ります。

チャンネルはそのままで。

47 名前:残り23レス[] 投稿日:2008/08/17(日) 05:41:24.58 ID:/TffZV0J0

 〓 33レス探偵は日本 対 韓国 の延長により2時間遅れでお送りしております 〓


探偵「柊かがみさんは、泉さんが電話を受けた時点で既に亡くなられていたのですよ」

こなた「で、でも私は現に電話を受けたんだよ……」

探偵「それが予め何らかの手段で録音されたモノだったとしたら?」

みゆき「えっ!?」

刑事「なるほど、だから必要な会話以外には返答出来なかった……と?」
探偵「そうです、そしてその音声を入手可能なのは彼女と最も近しい存在の柊つさささんしか居ません」

こなた「でも遺書が……」

探偵「そんなもの、姉の部屋からノートを漁って真似ればどうとでもなります」

みゆき「ですが、かがみさんをどうやって屋上から……」
探偵「かがみさんが落下した4時間目、つかささんは何処へいたんですか?」

つかさ「わたしは、その、具合が悪かったから保険室で……」
こなた「確かに体育に出ていたのは私とみゆきさんの二人だけだけど、つかさがそんな事するはずないよ!」

50 名前:残り22レス[] 投稿日:2008/08/17(日) 05:50:52.59 ID:/TffZV0J0

探偵「昨晩のうちに殺害し、予め屋上へと運んでおく。
    この学校の管理が杜撰なのは明らかですから、何とか頑張れば可能でしょう」

黒井「いや、そこまで杜撰ではないけどな」

探偵「そして4時間目に保険室を抜け出し、一瞬の隙を見計らい突き落とす。
    さらに”毎朝姉と共に登校している”という偽証を用いて捜査をかく乱する」

刑事「……見事に繋がったな」

刑事が手錠を取り出している。

つかさ「……なんだか、わたしもそんな気がしてきたよ」

こなた「つかさ、しっかりして!」
みゆき「騙されてはいけませんよ!」

助手「しかし、そうなると遺体の死亡推定時刻の矛盾や、自由落下以外による外傷が出来るはず。
    私の調べによると遺体にそのような跡は見受けられてはいなかった。
    そもそも、そこまで手の込んだ用意をするのならば、突き落とすのにも何らかのトリックを用いるはず」

探偵「そう、つまりつかささんは犯人ではない。
    保険の先生も、つかささんが寝ていた事を証言されていました」

刑事「思った通りだ」

探偵「……そろそろ、現場の検証に入りましょうか」

黒井「今さらかい」

53 名前:残り21レス[] 投稿日:2008/08/17(日) 06:05:36.46 ID:/TffZV0J0

玄関前、中央通り。


探偵「校門があそこで、玄関がここ。で、落下地点はこの校舎脇すぐの位置。
    改めて考えてみると、校舎屋上が丸見えですね」

刑事「ああ、ここから屋上の破れたフェンスが見えるくらいにな」

探偵「ふむ……何か、引っ掛かりますね……」

助手「……犬」

刑事「犬? ……本当だ、こんな所にワンコが居るじゃあないか」

探偵「真っ白ですね、シロとでも名付けましょう」

助手「犬種はシベリアン・ハスキー。とても賢く、優秀」

刑事「犬は媚びるから嫌いだな、猫のほうがいい」

探偵「しかし首輪をしているという事は飼い犬でしょうか?」

刑事「そうかもしれないな……」

探偵「まあいいでしょう、次は泉さん達の体育の様子について窺いに行きましょう」

54 名前:残り20レス[] 投稿日:2008/08/17(日) 06:24:33.25 ID:/TffZV0J0

 − 運動場 −

体育教師「4時間目? ああ、3年B組の授業だな」

探偵「種目は?」
体育教師「体力測定だ。
       何日かに分けて測るんだが、今日はボール投げと短距離走だったか?」

探偵「その様子は?」
体育教師「様子……と言われてもな。
       いつも通りだったよ、B組には優秀な学級委員長が居るからな」

刑事「いいんちょ?」
体育教師「高良みゆきだ、出来の悪い新米教師より役に立つと言ってもいい」

助手「その様子は?」

体育教師「様子?
       うーん……普通に生徒達を誘導したり用具の準備をしたり……
       短距離走のスターターを担ってくれてもいたようだな、笛を持ってな。
       おいおい俺はサボりじゃないから勘違いしないでくれよ?
       俺がゴール際でタイムを見てなきゃハジかれる可能性もあるから手が回らないんだよ。
       あ、ちなみに用具はあそこの体育倉庫に入ってるぞ?」

探偵「そうですか、ありがとうございました」
体育教師「おう……犯人、見つかるといいな。本心を言えば、居ないで欲しいんだが……」

助手「……」

刑事「腹減らない?」

55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/17(日) 06:33:50.10 ID:/TffZV0J0

 − 体育倉庫 −

刑事「おい、こんな所を漁って何か見つかるのか?」

探偵「わかりません」

刑事「わからないってお前な……」

探偵「しかし何か引っ掛かるんです」

刑事「はぁー……お、金属バット。懐かしいなぁ、甲子園。
    俺も高校生の頃は炎天下の元をいっちにっ! いっちにっ! ってな、ハハッ」

助手「貴方は少し空気を読むべき」

刑事「お前は無口すぎんだよ」


――ゴスッ


刑事「ぐふっ」

ドサッ

探偵「事件を探っている間に、新たな事件を発生させないでください」

助手「……」

探偵「おや、これは……」

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/17(日) 06:42:10.61 ID:/TffZV0J0

探偵「笛、ですね」

助手「それも普通の笛ではなく、犬笛」

探偵「どうしてこんなものがここに……?」

助手「……」

探偵「……」

助手「……」

探偵「……」

刑事「どちらか片方くらい喋るべきだと思うぞ」


探偵「これはもしかすると、もしかするかもしれませんね」

助手「そう」

59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/17(日) 07:06:54.07 ID:/TffZV0J0

 − 校内 −

探偵「柊かがみさんが落下したのは授業中。
    もし犯人が直接的に彼女を屋上から突き落としたとするならば、
    犯人は授業を抜け出した上に教室の前を横切る必要がある」

刑事「とは言え柊つかさが保険室を抜け出した様子は無いし、泉や高良達は運動場に居た。
    あそこから人目を忍んで屋上まで走るなんて1、2分どころか万全を期すなら10分は必要だぞ」

助手「泉こなたの全力疾走でなら3分と24秒で到着可能」

探偵「往復も考慮するならばやはり不可能ですね」

助手「そう、必要以上に息が上がっていれば当然不信がられる」

刑事「では誰がどうやって屋上まで辿りつけたんだ?
    それとも時限式の罠やトリックなのか?」

探偵「屋上に高度な仕掛けを施したような形跡はありませんでした。
    犯人が証拠を持ち去ったのならば話は別ですが、
    その場合も万全を期すには屋上に行く必要が出来てしまうので本末転倒です」

刑事「じゃあ、やはり自殺か?」

探偵「いや、この事件、まだまだ終わりませんよ」

62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/17(日) 07:16:02.63 ID:/TffZV0J0

「探偵の人達、遅いですね」

現場へ行く、の言葉のあと教室に残るよう指示を下され、そのまま放置プレイ。
そんな手持ち無沙汰状態の私が黒井先生に話しかけると、

「そやな……」

暗い顔でぽつりとした言葉を返された。

黒井先生は先ほどからずっとこの調子だ。
俯いたまま視線を合わせようともしない。

つかさも同様に、自身の席に力無く腰掛けている。

みゆきさんはというと……


「あれ?」


教室を見渡した時、みゆきさんの姿が無いことに初めて気が付いた。

64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/17(日) 07:35:13.63 ID:/TffZV0J0

喉が渇いた事もあって、私はそっと教室を抜け出し購買部まで来ていた。
その時だ。

「ええ……」

みゆきさんの声?

悪いとは思っている。
けれども何となく気になってしまい、通路の角に身を隠して耳を澄ませてみた。

「はい、そうですよ」

やけに明るい声だな。

「お気になさらずに、問題ありませんから」

相手の声が聞こえない。
という事は誰かと電話で話しているのか。

「ええ、ええ……はい……」

相手は誰なのだろうか?

「わかりました、こちらでなんとかしておきましょう」

パタン。
携帯電話が閉じられる音。

やばい、こっちへ来る……
何故だか言い様のない焦燥感を感が襲ってきた。

65 名前:残り14レス[] 投稿日:2008/08/17(日) 07:47:25.99 ID:/TffZV0J0

「泉、さん?」
みゆきさんがいつもの様子で驚きの色を見せている。

「やあ」
私も何となく言葉で濁してみる。

「どうされたのですか?」
「いや、ちょっと喉が渇いたからさ」

ハハッ、と笑って見せてから、

「そう言えばみゆきさんこそ何を?」
その調子でさも日常会話を交わすかのように振る舞う。

「少々用事が入ったもので、お電話を」
折りたたんだままの携帯電話をチラリと見せてきた。

「へぇ、どこから?」
「母からです」

その後、再び暗い表情へと戻ったみゆきさんは、
「それでは先に教室へと戻っておきますね」
それだけを残して足早にその場から去って行ってしまった。

67 名前:残り13レス[] 投稿日:2008/08/17(日) 08:00:41.63 ID:/TffZV0J0

 − 屋上 −

刑事「結局ここへと戻って来たな」

探偵「……当然ですが、ここからだと下が良く見えますね」

助手「それは当然、そして逆に下からもここが良く見える」

刑事「お、あのワンコまだあんな所に……」


ガシャ


探偵「危ない、そこのフェンスは――」


直後、助手が凄まじい速度で刑事の身を引き戻していた。


助手「今度は刑事である貴方が投身するつもり?」
刑事「……お、お、お、おおお俺はただワンコが気になって」

探偵「下に居るワンコが気になって……」

探偵が顎に手を当てる。

探偵「そして、身を乗り出した?」

意味深に何度も頷く。

69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/17(日) 08:13:43.41 ID:/TffZV0J0

刑事「ま、ままままさかワンコを使って気を惹くなんてトリックじゃないだろうな?」

助手「貴方じゃあるまいし、そんなものに引っ掛かる相手は先ずいない」

探偵「ただ、このフェンスが脆い事を知らない人間が寄りかかったりする可能性は十二分に考えられます。
    その際、前もって何者かが針金に細工をしておけば……」

助手「そう、さらに気を惹く為の”道具”が犬などでは無く、
    思わず身を乗り出してしまいそうな”何か”だった場合……」

刑事「ど、どどどどういう事?」

探偵「つまりこういう事ですよ。
   予め柊かがみを屋上まで呼び出しておけば、
   屋上まで上る必要などなく、下からのワンアクションだけでも殺せたかもしれない……と言う事です」

助手「運動所からここまで大目に見積もっても約1分。
    何らかの合間を縫って移動するのには十分可能な距離。
    教室の前を移動するのではないのだから人目を気にする必要もなく、むしろ外なので校内へ物音が届き難い」

刑事「……」

探偵「さてさて、そろそろ情報屋の出番でしょうか?」

95 名前:残り11レス[] 投稿日:2008/08/17(日) 14:30:36.61 ID:/TffZV0J0

探偵「残り11分か……」

刑事「頃合いだな」

助手「そう、頃合い」

探偵「では少し出掛けてきますので、皆さんも適当にそこらへんを調べておいてください」

刑事「わかった、俺は運動場を洗い直す」

助手「私はシロを」


探偵は駆けた。

暮れなずむ黄昏を背に受けながら、ローラースケートで。

やけに立体感と臨場感が感じられないが、

実際の速度的には高速を走り抜ける車両ほどの速度は出ていたりする。

そういうば真冬って日没が物凄い早いよなだとか、

この風速ではガンガン体温を奪われてしまうなとか……


このようにして様々な不安要素を振り撒いている間に、探偵はバーまで来ていたのだ。

99 名前:残り10レス[] 投稿日:2008/08/17(日) 14:47:29.94 ID:/TffZV0J0

カランカラ〜ン


男「いらっしゃいあっせぇー!」
探偵「自殺の件だ」

男「マティーニでも如何でしょうかぁ〜? おっと、ミルクは置いてはいな――」

そっと1000円札を差し出す探偵。

男「陵桜学園の柊かがみか」
探偵「……そう」

男「先ずは柊かがみ自身についてだが……彼女はプライドが高く、意地を張るタイプの人間だったらしい」
探偵「ツンデレか?」

男「そうだ、ツンデレだ。そして何でもそつなく熟し、同時に成績も優秀だった。料理は苦手だったがな。
  だから仲間同士からの信頼も厚く、泉こなた、柊つかさ、などからは宿題を解決する切り札としても活躍していたようだ。
  勿論、親友である高良みゆきや、クラスメイトの日下部みさお、それ以外の人間からも慕われていたのは言うまでも無い。
  だが彼女は他の面々が希望通りに進路を決めていく中で、一人だけ大学受験に失敗してしまった。
  『滑り止めなんてあたしには必要ないわ』と笑っていたのが仇となったと知ったのは、取り返しの付かない結果が出てからだったな」
探偵「他には?」

男「カクテルでも御作り致しましょうかぇーい!?」


探偵は再び1000円札を取り出し、今度はカウンターに叩きつけるようにして渡した。

103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/17(日) 15:26:11.21 ID:/TffZV0J0

男「実は一件和やかに見える人間関係も、一たび皮を向けば醜さが露呈することがあるものだ」
探偵「……どういう?」

男「先ほども言った通り柊かがみはプライドが高い。
  その為、不意に相手を傷付けてしまう事が多々あったようだ」
探偵「実例を」

男「泉こなた……彼女は柊かがみを慕ってはいたが、
  その心中では柊かがみに対する別の感情も持ち合わせていたのかもしれないな。
  何かにつけて自分を駄目人間呼ばわりする彼女に対し、
  些かの鬱憤も抱えていなかったと言えばそれは嘘になるだろう。聖人君子なら別だろうが」
探偵「ふむ」

男「柊つかさについても同様だ、彼女は双子という正に相対評価の物差し的な存在たからな。
  出来の良い姉を前にして自身を失墜してしまう事もあったようだ」

探偵「……それで?」
男「実はぁー、ただいま日本酒がぁー……コホン。
  ああ、それじゃあ次は高良みゆきについてだが……
  彼女は3人の中では柊かがみと一番最初に知り合った人物のようだ。
  その為に何かにつけて友好的な状況が度々見受けられたが、
  それは同時に特別な秘密を共有していたからという話がある。詳しい事は解らないが、
  他人には知られたくない高良みゆきの個人的な事情についてだったと独自の調べでは出ている。
  もし、そこから何かをネタに脅そうとした……要は仲間割れだな、の末に……」

探偵「……」
男「あとは日下部みさおと峰岸あやのについてだが、これは省略する。
  この二人については柊かがみ自身もまあそういう扱いだったらしい」

探偵「そうか、ありがとう」

106 名前:残り8レス[] 投稿日:2008/08/17(日) 15:38:46.41 ID:/TffZV0J0

男「……ところで、犬を見掛けなかったか? 真白い毛並のシベリアン・ハスキーなんだが」

探偵「犬?」

男「実は別の依頼主からの頼みでな、どうも度々失踪するようで今回も探しているらしい。
  ああそうだ、今ちょうど話に上がった高良みゆきだが、
  その高良家の向かいに住む岩崎さんという方からの依頼だ。
  話によれば陵桜学園に住む娘さんを追って学校まで付いて行ってしまう事が過去何回もあったようで、
  それらから学び慎重に鎖を付けるようにしていたらしいんだが……今回は不注意からか外れていたらしいな。
  ちなみに、その娘である岩崎みなみと高良みなみは割と古い間柄だと聞いたな」

探偵「犬……ねぇ。果て……?」

男がレジで1000円札を割った後、500円を差し出した。

探偵「見ましたよ。陵桜学園に校門から入ってすぐの玄関前辺りでね。
   ちなみにシロと名付けました」

男「名前はチェリーというんだが……まぁ礼を言っておく」

探偵「こちらこそ、では」

探偵は椅子から立ちあがると、そのまま急ぐように店を出て行った。
それと入れ替わりに男子中学生が入って来る。

中学生「助けてください……尾けてくるんです……足音が……でも姿が見えなくて……
     振り返っても誰もいないのに俺が歩くと後ろからヒタヒタと……」

男「先ずは落ち着け、今ミルクを出してやるからな」

110 名前:残り7レス[] 投稿日:2008/08/17(日) 15:54:38.75 ID:/TffZV0J0

「探偵さん方、遅いですね」

僅かな斜陽が注ぎ込むだけとなった教室内で、
席にも着かずに立ったままでいるみゆきさんが静かに呟いていた。

「そうだね、もう忘れちゃってるのかも」

私も相槌のように返し、そろそろ電灯でも点けようかと前へ歩き出ていく。

……みゆきさんは先ほどから時間を気にしている。
それは心なしか落ち着かない彼女の態度からも見て取れる。
疑う訳ではないが、何かが引っ掛かるという気持ちは消す事が出来ない。

そのような思考を巡らせつつ、私は電灯のスイッチを入れた。

「はうっ!?」

直後、机に伏していたつかさが声と共に顔を上げていた。
目が赤く腫れている……余程ショックだったのだろうな。

黒井先生の方へ視線を滑らせると、
無言のままで腕を組み、壁に背を凭れて床の一点を見つめていた。
コンコンコン、という方足踏みの音が静かにリズムを刻んでいる。

結局……事件の真相はなんなのだろうか?
かがみんは本当に自殺だったのだろうか?
それとも偽装したうえでの殺人だったのだろうか?


だとしたら本当にこの中に……この中に殺人犯が……

112 名前:残り6レス[] 投稿日:2008/08/17(日) 16:09:07.05 ID:/TffZV0J0

探偵「わかりましたよ、事件の真相が」

こなたが思考に耽っていた正にその時、教室の扉が勢いよく開かれた。

助手「……そう」

コツコツと床を鳴らす助手の隣には真白い毛並のシベリアン・ハスキー。

刑事「ようやく、だな」

刑事は野球のユニフォームに着替え、額に大粒の浮かべていた。

みゆき「あっ……その子は……」
助手「シロ」

みゆき「チェリー」
助手「……そう」

こなた「それで一体、何が分かったんですか?」
つかさ「真相って何なんですか?」

探偵「まあ、ゆっくりいきましょう」

黒井「……」


探偵は犬笛を取り出すと、それを静かに教卓の上へと置いていた。

115 名前:残り5レス[] 投稿日:2008/08/17(日) 16:26:26.96 ID:/TffZV0J0

「柊かがみさんが4時間目まで生きていた。
 これは柊さんのクラスメイトの根岸さんからも証言が取れています」

探偵が教卓に両手を預けながら語り出した。
暗い室内を点す蛍光灯の白い光が、その眼光を強く輝かせている。

「その後彼女はトイレへ行くと言い残し、途中で教室を抜け出しています」
「日下さんからです」

横から刑事が補足した。

「しかし彼女はトイレへは向かわず、屋上へと向かい……」


やがて、落下した。


そこまでは知っている。
「だったら、やっぱり――」
「その前に一つ、話があるんですよ」

私の言葉を遮った探偵が犬笛を見せつけるように掲げていた。
そして……

「高良みゆきさん。
 貴女は4時間目の体育の間、本当にずっとグラウンドに居たんですか?」

身を乗り出すようにして、探偵がみゆきさんを睨みつけていた。

118 名前:残り4レス[] 投稿日:2008/08/17(日) 16:48:43.55 ID:/TffZV0J0

探偵「体育教師の話によると、貴女は用具の準備も担っていたようだ」
助手「そして競技内容は短距離走の後にボール投げ、体育倉庫は校舎の影。
    運動場から見ると視覚的にも影となっている」

探偵「競技内容の変更による用具の準備を理由に、
    2、3分程度の時間を稼ぎ、死角に入る事は十分に可能とも言えます」
刑事「なるほど、短距離走を終えた人達はその場で息を整え、まだの人はその場で体力を温存するはずだ」
助手「体育教師もその場を離れられなかったと証言している」

こなた「……何が言いたいんですか?」

探偵「可能性ですよ、あくまでね」

そこで一旦言葉を切った探偵は、腕時計を確認した後、再び語り出した。

探偵「その僅かな時間ですが、
   合間を縫って柊かがみさんが落下した地点の真下まで往復するには十分な余裕があります」
助手「いつも準備の役を担っていた貴女になら、予め用具を纏めておくという手段も事も可能。
   これによりロスした時間の短縮を行い、結果的に”時間の貯金”を行うことが出来る」

つかさ「でも、真下からどうやってお姉ちゃんを……!」

刑事「屋上のフェンスが脆くなっている事を柊かがみさんは知らなかった……」
助手「そして校舎の真下……そう、敢えて屋上から見難い位置から呼びかけた……」

探偵「するとどうなるでしょうか?
    勿論ただ呼びかけるだけではなく、ある秘密を暴露する、という名目の元にです」


その言葉を聞いた瞬間、みゆきの眉がピクリと動いていた。

120 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/17(日) 17:10:55.29 ID:/TffZV0J0

沈黙。
探偵側からの鋭い視線と、私達側からの戸惑いの視線。
それらを一頻り集めきった時。

「くっくっくっく……あっはっはっは!」

みゆきさんが静寂を破り、高らかに笑いあげていた。
これは一体、どういう事だ?
何故みゆきさんは笑っている!?

それぞれからの疑惑を集めたみゆきさんが一先ずの呼吸を置くと、
「これはとんだ名探偵が居たものですね、そこまで行くと調べは付いているのでしょう?」
口元を皮肉に歪め、威嚇にも似た目付きで探偵を射止めていた。

探偵はみゆきさんをただ見つめ返している。
鋭い、眼光を携えたままで。

「そうさ、私はかがみを愛していた。
 ただの友人としてではなく、それ以上の存在としてね」

口調が違う。それにみゆきさんが、かがみをだって……?

「そんなこと……」
私の思考が思いとは裏腹に口を割って出てしまった。

「知らなかったでしょう?
 それはお互い隠していたからさ、表向きに出すと世間の風当たりというものは辛いもんだ。
 かがみも私も、今の状態には満足していたからね」

再び、みゆきさんが口元を押さえ笑いを堪えていた。

122 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/17(日) 17:27:10.95 ID:/TffZV0J0

「そう、だったんですか……」

探偵が若干動揺しているようにも見えた。
しかし直ぐに体制を整えると、
「やはり……」
深々と頷いていた。

「そやけど、柊が不慮の事故で落下したとなると上履きはどうするんや?」
すかさず黒井先生が口を挟む。

そうだ、不慮の事故だったのならば上履きが綺麗に並べられているというのはおかしい。
下に居たみゆきさんが屋上へと赴いて並べたというのならば、そもそもトリックの意味が無い。

「そこで犬笛ですよ」
疑問を振り払うように探偵が続ける。
「短距離走のスターターを担っていた高良さんは、ホイッスルを吹くと同時に犬笛を吹いていた。
 それで近くに居たこのポチを指定の場所へ呼び寄せ、その後校舎下へと移動したんです」
「飼い主である岩崎さんが注意していたのにシロの鎖が放されていた事は既に調べがついている」
助手が口以外を動かさずに淡々とした補足。

「落下した柊かがみさんの上履きと偽装遺書を持たせ、ポチを走らせる」
「後は靴を隠す要領で犬が頑張ってくれる訳だな」
刑事が続け、
「シロに限らず犬というものは非常に賢い動物」
助手が締めた。

え、まさか本当にみゆきさんが?

不安に駆られて私がみゆきさんの方を振り返ったとき――

123 名前:残り1レス[] 投稿日:2008/08/17(日) 17:43:59.11 ID:/TffZV0J0

「いや、それ無理ですから」

彼女が片手を振りつつきっぱりと告げていた。

「そもそも用具の準備は体育委員の仕事ですし、その補佐であるわたくしは彼等と共に行動していました。
 それは体育委員の二人に聞けば証言してくれるでしょう。
 それから犬という生き物が幾ら賢いとはいえチェリーさんはわたくしの飼い犬ではありません。
 命令を聞いて頂ける可能性は低く、さらには土足である動物は校内に無数の足跡を残す筈です」

まさかそれを拭いて廻るのですか、と首を傾げている。

「彼女の言う通りだな」
刑事が寝返っていた。

それを期にまたしても室内には沈黙が拡がっていき……

やがて――


「そう、柊かがみさんは自殺したんです」


探偵が見廻しながらハッキリとした口調で結論を下した。

126 名前:ラスト[] 投稿日:2008/08/17(日) 18:06:36.73 ID:/TffZV0J0

風が吹き抜けて行く陵桜学園屋上。
それは体を攫う際に耳元で巻き上げ、啜り泣きにも似た音を轟かせている。
探偵と刑事、そして助手は間もなく山の陰に沈みゆく斜陽を眺めていた。

刑事「結局、自殺だったな」
助手「そう……」

刑事「しかし何故、こうもお前は事件を引っ掻き廻すんだ?」
斜陽から眩しそうに目を逸らし、刑事が探偵に問いを掛ける。
探偵は一旦俯いたあと、再び夕陽を直視してから答えた。

探偵「この事件、便宜上では自殺でありますし、警察側の処理も同様にして行われることでしょう。
   しかし俺には、これはもしかすると殺人では無いのかと今でも思わざるを得いのです……」
刑事「どういう事だ?」

探偵「真相を明らかにした瞬間の皆さんの表情、そして泉こなたさんの”やっちまった……”という一言。
    同様に高良みゆきさん、柊つかささん、黒井奈々子先生。それぞれが何かを抱えていました」
助手「……」

探偵「あのような素敵な仲間達に囲まれていたというのに、柊かがみさんは些細な……
    いえ、本人からすれば致命的な理由だったのでしょうが、皆さん方は”そんな理由で”と漏らしていました」
刑事「そういうことか、つまり柊かがみさんは……」

探偵「長い長い時間を掛け、そして周りや柊さん本人すらも気付かぬうちに……
    どうしようもない袋小路へと追い込まれていたのかもしれません。
    その辿り着いた先が屋上からの逃避行だった……」
もう一度言葉を切ったあと、探偵は息と共に言葉を吐いた。

探偵「悲しい、事件です」
落ち行く光と時間の中で、三人はいつまでも夕陽を眺めていた。

130 名前:CM[] 投稿日:2008/08/17(日) 18:17:26.48 ID:/TffZV0J0

薔薇を加えた紺スーツの男。

軽快なBGMが流れ出すと、

「ぬーぼー!」

それに併せて軽やかステップ。

膝と上半身をフルに活用し、回転を決める。

「ぬーぼー!」

またも一声。

高度な合成による黄色い何かと共に踊り続け……

短いジングルと共に決め台詞。


「ふわふわ美味しいエアインチョコ、○○、ぬーぼー!」


やがて商品と共に50円という値段が表示されていた。

133 名前:Cパート[] 投稿日:2008/08/17(日) 18:25:51.14 ID:/TffZV0J0

探偵「眩しいんですけど……」

刑事「動くな、まだ声が掛かっていない……」

助手「……」

探偵「なんでここで止め絵じゃないんでしょうか」

刑事「知らん、俺に聞くな上に訊け」

助手「……」

探偵「そう言えば助手が前回の事件の容疑者の一人なのは何故ですか?」

刑事「解らん、しかし予算の都合だとか数字の都合だと耳にしたぞ」

助手「そう……」

探偵「……」

刑事「……」

助手「……」


――はい、カァーット!

134 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/17(日) 18:33:09.22 ID:/TffZV0J0

『この番組は、御覧のスポンサーの提供でお送りしました』


              らき☆すた

            涼宮ハルヒの憂鬱

              33分探偵

               ○○製菓

               松岡修造


『この後も――』


そこでテレビのスイッチを切った。

一瞬の発光を見せた後、ディスプレイは黒一色に染まっていた。


                                        終



ツイート

メニュー
トップ 作品一覧 作者一覧 掲示板 検索 リンク SS:キョン「長門にスイッチ…?」