涼宮ハルヒたちの夜 「黄昏症候群」


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1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 01:57:09.98 ID:gc1gskJs0

小鳥のさえずりが聞こえてくる。

その音色は爽やかな朝の雰囲気を作り出そうと働いているはずではあるが、
実際問題として今の状況はそんな空気とは甚だ言い難い。

暑い。
いや、熱い。

時刻はまだ朝の7時を少々回った程度のはずなのに、
この焼けつくような熱気はなんなんだ?

などと考えていても仕方がない。
刻々と時間は迫っており、そろそろ身を起こさねば俺の無遅刻記録に瑕が付いてしまう。
それにこのまま布団にくるまっていれば人間の蒸し焼きの完成だ。


俺は――

「今日も面倒そうな一日の始まりか」
と呟き、ベッドから身を起こすことにした。

2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 01:57:51.22 ID:gc1gskJs0

それから時間が飛んでその日の放課後の事である。

「みくるちゃんがメイド服着たらすごくかわいいと思うんだ!」
無駄な元気と弾む声を振り撒いているのは涼宮ハルヒ、いや、自称ハルヒちゃんらしい。

「そうだなー、確かに朝比奈さんなら似合いそうだ」
これが俺。

「でしょでしょ! それでね、あの……あたしが着たら……どうかな?」
再びハルヒ。

朝比奈さんはこの光景を微笑ましげに眺めている。

さて、先ずはこれがどういう状況なのかを説明せねばなるまい。
となるとまたもや時間軸が動いてしまうわけだが、
時間が前後してしまうのは色々な理由があるからなのだと察して頂きたい。

まあともかくこれから先の出来事は、昨日、俺が一番に部室へ到着した時点からの話となる。

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 01:59:54.53 ID:gc1gskJs0

「……」

長門ばりの三点リーダを浮かべて部室備え付けのパソコン画面を凝視していた俺。
ディスプレイ上にはメイド服やバニー服姿に身を包んだ朝比奈さんが、
実に魅惑的なポーズをキメていらっしゃる。

「”mikuruフォルダ”ねぇ……」
「どわぁッ! ハルヒ!?」

自分でも驚くほどに大げさなリアクションだなと思った。
多分、打ち合わせの上で熱々のおでんを顔に突きつけられたとしても俺はここまでは驚けないだろう。
それくらいハルヒの登場に意表を突かれたのだ。

「これには色々訳があってだな」
言い訳、
「見苦しいわね」
即座に看破。

不味い、こんな俺の変態性が朝比奈さんに露呈したりすれば、あらゆる人類を敵に回し兼ねない。

「す、すまん! 謝るから、朝比奈さんだけには黙って――」
と謝罪と交渉を同時に繰り出した俺の言葉を遮り、
「”haruhiフォルダ”はないの?」

なんていう突拍子も無い事をこいつは言い出したのだ。

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 02:03:11.54 ID:gc1gskJs0

そして翌日、つまりは今日の放課後で”今”の時間から半時ほど前のこと。
またもや部室へと一番乗りしていた俺は、
昨日の反省などまるで忘れたかのようにパソコンの電源を入れていた。
そう、mikuruフォルダによって眼福にあずかろうと目論んでいたからだ。

カチカチ

「……な、何だこりゃ?」


Cドライブ上の奥の奥に仕舞われていたはずの場所へ”haruhiフォルダ”が新設されていた。

あいつまさか自分で作りやがったのか?

それだけではない、
俺の御神体にして最高の宝物”mikuru”フォルダが無くなっている。

ハルヒのやつ削除しやがったな、ちくしょうめ。
USBか何かに保存しておけばこんなことには……って、ん?

反射的にというべきか、人間の知的好奇心の賜物というべきか、
思わずharuhiフォルダを開いた俺は絶句した。

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 02:06:27.90 ID:gc1gskJs0

ハルヒの写真がびっしり詰まってやがる。

「こんな写真、いつ撮ったんだ?」
と思わず声に漏らしてしまうほどに驚いたのだと補足しておく。
というより、まさかあいつ自分で……?
何気なく一枚一枚の写真を眺めていく。

バニーガールにナース服にメイド服。
これらは朝比奈さんが着ていたものと同等であるが、興味を惹かれたのはその次。
スクール水着に中学時代の制服……果ては幼稚園時代のものまで。
というより、それらの服に身を包んでいるハルヒは年相応の年齢である。
つまりはハルヒの成長記録がまるまる収められていたのだ。

これは……。
高校時代の暴風を巻き起こし続けるハルヒしか知らなかった俺にとって、
その写真のなかに収められていたハルヒは新鮮であり、なかなか愛らしくも思えてくる。

興味本位でその先を覗こうとしていた時、
「おっ待たせー!」
写真の中の人物、要するに暴風ハルヒによって部室の扉が乱暴に開け放たれた。

しまった、足音を聞き洩らしていたのか。

などと考えている間に、
「あんただけなの?」
の不機嫌文句と共に一歩一歩にじり寄ってくる。

やばい、何か分からないがこの状況は不味い!

神速で”×”ボタンにカーソルを合わせ……

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 02:14:09.78 ID:gc1gskJs0

あ、ネタ元張り忘れた
ttp://mobile.seisyun.net/cgi/read.cgi/yutori/yutori_news4vip_1216927331

もともと上のスレで突発的に便乗してやってたものと同等の内容ですが、派生シナリオの為に出だしを追加しています
ついでに色々あって前回の部分まではオートで進行となります

これ以降の話は、誤字・脱字や言い回し以外の部分を敢えて修正していないので、
喜緑さんの所まで知っている方は読み直す必要はありません
それ以降はまた選択肢性となります

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 02:16:13.12 ID:gc1gskJs0

消えろ、早く消え去れぇ!

俺は心の中でエクスプローラーに向かって叫んでいた。
すると……

『このプログラムは応答していません。
 Windowsに戻ってプログラムの状態を確認するには、[キャンセル]をクリックしてください。

 プログラムをここで終了した場合は、保存されていないデータが失われる可能性があります。
 プログラムを直ちに終了するには、[すぐに終了]をクリックしてください。』


何故どうでもいい所で凍ってるんだこいつは!?
ええいままよ、すぐに終了だ。

カチリ

直後、ハルヒがパソコン画面上を覗き込んできて、
「ねぇねぇ、なにやってたのー?」
小鳥のように首をかしげている。
「マインスイーパーの上級レベル、しかも爆弾数MAXでハッスルしててな……」
しらじらしいにも程があるぞ、俺。

ハルヒはそんな俺の心境など意にも介さない様子で、
「ふーん、だったら一緒にやろうよぉー」
俺の肩へと寄りかかって来たのだった。

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 02:18:47.64 ID:gc1gskJs0

「お、おいハルヒ。どうしたんだ?」

ハルヒの仕草、そして言葉遣いとその抑揚に俺は違和感を感じていた。
どこかで聞いたことがあるような……
いや、普段聴きなれているこの感触。

そうだ、まるで俺の妹のもののように幼く、柔らかいような。

「それじゃあ替わりばんこにやろうね! まずはあたしからだよぉー」

カチリ

「あぁー、爆弾引いちゃったぁ!」
画面上へ向かって思いっきり顔をしかめている。

ハルヒのそんな表情なんて見たことないぜ?
最近流行りのあれか? 夏の大気にでもやられたのか?

「次はキョンくんからやってよー」
「ん、ああそうだな……」
その笑顔に思わず返事を返して適当にクリックすると、結果はどうやらセーフだったようだ。

「じゃあ、次はあたしのばーん!」

カチリ

「あぁー! またやっちゃったー!?」
彼女は再び、感情露わに顔を歪めていた。

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 02:23:26.96 ID:gc1gskJs0

その後も俺達は交替でマインスイーパーを続けていた。
正直言ってゲーム自体には古泉と俺が時間つぶし代わりに行っている一般的なボードゲーム並の面白さしかなく、
仮にこれをこの暑さのなか一人でやらされていたのならば、
『現代においてこのような拷問は非人道的だ!』と誰にともなく訴えていたであろう。

しかし勘違いしないで頂きたい。
別に全国に一千万人ほど居るらしい爆弾職人を侮辱しているわけではないのだと。
この暑さの中でこういう地味なゲームをやらされているというその行為が……

いや、話を戻そう。

そんなこんなで俺は適当に爆弾処理を行っていた訳であるが、
隣で唸ったり喜んだりコロコロと変わり行くハルヒの表情や、
その度に上げられる歓声や落胆を観察しているうちに、気付けば見とれてしまっていたようだ。

こいつってこういう表情も出来たんだな。
なんてことを考えちまっていたのさ。

その時の部室内には緩く、
それでいて心地の良い空気が流れていたのを俺は実感していた。

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 02:25:51.17 ID:gc1gskJs0

「こんにちはー……」
控え目な表情と声を併せて、歩く御神体である朝比奈さんが部室へとおいでなすった。

「こんにちは」
俺が極めてノーマルな返答を行ったのに対し、
「みくるちゃーん! こんにちはっ!」
ハルヒは実に俺が一日を掛けて消費するであろう元気を込めて手を振っていた。


「はい、えっと……あれ? えっと、その、涼宮さん……?」
朝比奈さんは表情一杯に拡がっていた困惑を眼差しに込めてハルヒへと送っている。
「涼宮さんじゃないもん、ハルヒだもんっ!」
それに対し困惑の意など微塵も受け取らないと言った様子で、ハルヒは駄々を捏ねた。

朝比奈さんは恐る恐る、
「そ、それじゃハルヒさん」
「違うもん。あなたはみくるちゃん、あたしはハルヒちゃん」
「ハ……ハルヒちゃん、こんにちは」
「こんにちはっ!」

凄い良い笑顔で答えるハルヒと、
逆に凄い微妙な表情で顔を見合わせ会う俺と朝比奈さんであった。

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 02:27:52.40 ID:gc1gskJs0

そして冒頭部、つまりは今現在へと戻る訳である。

「みくるちゃんがメイド服着たらすごくかわいいと思うんだ!」
ハルヒは相変わらずのハイテンションで腕をパタパタとさせている。
「そうだなー、確かに朝比奈さんなら似合いそうだ」
この空気に大分慣れた俺も、普通に会話を楽しんでいた。
朝比奈さんも同様なようで、お茶を片手に微笑みながら頷いている。

ハルヒが腕を机に叩きつけるようにして、
「でしょでしょ! それでね、あの……あたしが着たら……どうかな?」
キラキラとした効果音でも響いてきそうな笑顔で疑問を投げかけていた。

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 02:31:37.61 ID:gc1gskJs0

それからも普段とは気質の異なる雰囲気を楽しんでいた俺達であったが、
ハルヒは次第に大人しくなっていき、やがては両腕を枕代わりにして寝息を立てていた。

「よしよし……」
母性本能を擽られたのか、朝比奈さんが母親よろしくハルヒの頭を撫でている。

この光景、最高級のデジタルカメラで撮り収めて、
新しく作ったharuhi&mikuruフォルダのTOPに無圧縮ビットマップで収めておきべきだな。

などと考えついた俺は、
早速パソコンへ向かっていきスクリーンセーバを解除して画面を覗き込んだ。

カチカチ

このフォルダの中のこのフォルダ、さらにこの奥にあるmikuruフォルダ跡地とharuhiフォルダ――

――あれ?

無い。
haruhiフォルダが見当たらない。

何故だ?
あのスクール水着がだとかナース服がだとかそんな物を期待していた訳ではないが、
いや、そりゃまあ有ったら有ったで活用法を考えるが……とそんな事はどうでもいい。

とにかく、これは強制終了した影響で消えたというのか?
あまりパソコンには詳しくないが、そんな事は起こり得るのだろうか?

などと些かの疑問を浮かべつつも、俺はちゃっかりharuhi&mikuruフォルダの新設作業へと取り掛かっていた。

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 02:33:22.49 ID:gc1gskJs0

「可愛いです……」
うっとりとした表情でハルヒの寝顔を眺めている朝比奈さん。
その朝比奈さんの表情を見てうっとりとしている俺。

「そしてその俺の表情を見てうっとりとしている古泉が登場した」
「何の話なのか全く意味が解りませんよ」
鞄を抱えていた古泉は肩を竦め、その後に続けて、
「おやおや珍しいですね、涼宮さんが居眠りとは」
興味津々という面持ちでハルヒの寝顔を眺めていた。

「涼宮さんじゃ……ないもん……」
ハルヒは何やらぶつぶつと呟いている。

古泉はその様子から何かを察したのか、
「取り敢えず、説明していただけませんか?」
と割かし真剣な表情と小声で、俺に訊ねてきたのだ。

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 02:35:27.09 ID:gc1gskJs0

そんな事を俺に聞かれても自分自身にだって訳がわからない。
少なくとも今朝の教室でハルヒと顔を合わせた時には、
普段通りの強気で冷酷で自己中心的なままであったはずだ。

となると原因はそれ以降に起こり得たのだろうか?


俺は――


A.「しかし特に、これといって思い当たる節はないんだ」
  と本音のままに答えた。

B.「そういえばさっき、パソコンの中にあったharuhiフォルダが消えちまってな」
  何故かその事が思い浮かんだ。

◆C.「夏の大気にやられたに違いない」
    俺は訝しげに窓の外の風景を見渡した。

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 02:38:39.69 ID:gc1gskJs0

「夏の大気にやられたに違いない」
俺はそう告げると、窓から外の風景を見渡した。

頬を凪いで行く風すら熱気を孕んでいるな。
もしもこの日差しの下で小一時間オーブンされていれば確実に頭はやられちまうだろう。

ああ、間違い無いな。

俺はそれを見越していたから体育は室内競技を選択していたのだが、
何事にもハッスルマッスルを志しているハルヒは、今日も元気に運動場で必殺シュートを放っていたはずだ。

いや待てよ?

となるとだ。
被害者は一人だけでは無い可能性もあるよな。

カチャリ――

その時、突如として開かれた部室の扉。
同時に響き渡った、
「みんなっ、お待たせしちゃったね!」
という声。

そこに居たのは俺の記憶によると文学少女で限りなく大人しかったはずの人物、
長門有希が片手を前に突き出す形で笑顔を浮かべていた。

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 02:41:10.51 ID:gc1gskJs0

一瞬にして一同が絶句。
ハルヒ以上に別人すぎるその仕草、その言葉遣い、そして雰囲気。
さらには名は体を表すと言わんばかりに雪のような白さを兼ねていた肌が、健康的な小麦色に焼けている。

つまりは、思う存分に日差しを浴びられておられるようだ。

「なーにしけってるのよ皆、梅雨はとっくにあけちゃったよん?」

軽やかな足取りで鞄を振りまわしつつ、
「朝比奈みくるちゃん、お茶をちょうだいな」
と言うなり指定席へと腰を落ち着けていた。

朝比奈さんは長門の言葉で自身の役目を思い出したのか、
「ひゃ、ひゃい!」
間の抜けた声と共にそそくさと茶を淹れる準備を始めている。


あー……そうだな、まあアレだな。

「これはどこからツッコミを入れるべきなんだ?」

俺はこの場で唯一頼れそうな人間、古泉一樹に向けて首を傾げていた。

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 02:45:14.10 ID:gc1gskJs0

「んっふ、照れますよ……」
わざとらしく頬を染め俯く古泉に俺は、
「ふざけている場合かよ、それに気持ち悪い」
一切の情を含ませずに吐き捨ててやった。
「冗談ですよ、どんな時にも心にゆとりを持つべきです」
「ああそうかい、だが御陰さまでいつものツッコミ役としての俺を取り戻せたような気もするな」

俺達が一房の実すら成らないような会話を交わしていると、
「はい、ど、どうぞ」
朝比奈さんがどもりがちに長門へと茶を差し出していた。
「ありがとう、いつもすまないね!」
やはり違和感どころか別人な長門は、
普段の口数少ない彼女が放つ約一日分の文章量を既に口にしている。

ハルヒとは異なった方向で壊れたか。
だが一応、これからの対策も兼ねて原因の究明を行っておくべきだろう。

「なぁ、長門」
「なに?」
長門は茶をコトリと置き、テーブル越しに顔を近づけるような仕草を見せた。
「お前、何かあったのか?」
「何かって何? あと、名前は有希って呼んでね」

何故、呼称に拘る? まあいいさ。
「じゃあ、有希」
なんだか照れるな畜生。
「なに?」

「お前、最近何か変わった事でもあったか?」
俺は長門の眼を直視しながら訊ねた。

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 02:50:46.43 ID:gc1gskJs0

「変わった事って?」
僅かに首を傾げ、疑問の色を眼に浮かべている。

ああ、確かにこの仕草には本来の長門の面影が垣間見えるな。
俺はそういった感覚を覚えつつも、

「その、変わった事だよ……何か気になる点とかなかったのか?」
いやに緊張するな。
現に古泉や朝比奈さんは完璧に目を逸らし、我関せずの呈で傍観者に成り果てている。

人知れず俺一人だけがプレッシャーを感じていると、
「気になる事? それってもしかするとー……?」
長門が見た事も無いようなニヤニヤとした表情を浮かべ、
「大丈夫だって、私はフリーだよ!」

ガタン!

古泉と朝比奈さんが同時に湯呑みを落とした。

おい、やっぱりこの小麦色の人はドッペルゲンガーだとか生き別れの双子とかじゃないのか?

俺は目のやり場に困って窓の外、遥か遠くを眺めることにした。
どうやら真相は未だ夏の大気の中で揺れ動いているらしいな。

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 02:53:28.81 ID:gc1gskJs0

そこで俺は発想の転換を行うという考えに至ったのだ。
大事なのはこの現象が何なのか、ではないのだと。
そう、大事なのはこれからどうするかという事。

つまり俺は――


◆A.やはり時間が解決してくれるのを待とう、なるようになるさ。
    俺は現状を受け止めて新たな日常を楽しむこととした。

B.逃げちゃ駄目だよな、ここで投げるようじゃSOS団の名が廃るぜ。
  俺は原因究明のために奮闘すると誓いを立てた。

C.待て待て、もし原因が夏の大気だとすればだなまだ被害者が居る訳で……
   俺は全くの異次元から訪問者が来るような気配を感じた。

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 02:57:18.98 ID:gc1gskJs0

「フッ……太陽の野郎、いま最高に輝いているぜ……」
俺は再び窓辺に立つと、直射日光を手で防ぎつつ空を見上げた。

もう、何というか面倒くさい。
夏の訪れと共に皆がこうなってしまったというのならば、
夏の去り際と共に事態も自然と終息へと向かうだろう。

誰だって夏になると開放的になるものさ。
きっと、長門だってハルヒだって普段とは違う自分を演じてみたくなる時もあるだろうよ。

ならば、やはり時間が解決してくれるのを待とう、なるようになるさ。
それにこのハルヒも長門も新しい発見がありそうで、今の俺は密かな興味すら抱いている。

ならば、このまま静観するのも有りというものだろう。
うん、そうしよう。


このようにして、俺は現状を受け止めて新たな日常を楽しむことにしたのだ。

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 02:58:05.89 ID:gc1gskJs0

               ― 真夏の大気篇 ―

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 03:07:48.25 ID:gc1gskJs0

「見てよ古泉くん、冷蔵庫の奥に何故か消費期限が1年も過ぎたバターがあります!」
「ナイスネーチャーですよ朝比奈さん。おおっとぉ……こちらの食パンはそろそろ生えそうですね」

いかん、まともだったはずの二人が気まずさに耐えかねて壊れ始めている。
どげんかせんといかん。

「朝比奈さん、すみませんが麦茶を頂けませんか?」
「あ、はーい」
「古泉、俺と将棋でもしようぜ」
「ええ、構いませんよ」

よし、平時通りの行動を取らせれば落ち着いてくれるだろう。
これ以上まともな人間が居なくなっちまうと流石に俺も危ないからな。

しかし、
「ねぇねぇ、折角だから皆で遊びに行こうよー!」
小麦色の有希、いや夏美とでも改名するべきか?
まあともかくイケイケな長門が普段からは信じられない単語を紡ぎ出したのだ。

「むにゃ……?」
あ、ハルヒの奴も目を覚ましやがった。

そして俺は再び選択を迫られることになるのである。

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 03:08:55.99 ID:gc1gskJs0

さてと、どうしようかな。


A.「そうだな、夏だしな!」
  俺は自身が持てる最高比率のギアへと切り替えた。

◆B.「ああ、しかし外は暑い。どこかの屋内施設に向かおう」
    提案に乗りつつも安全を確保するという華麗なる妥協案を打ち出した。

C.「その件については前向きに検討させて頂きます」
  曖昧な態度で大人っぽい対応をしてみることにした。

D.「いや、今のハルヒを連れまわすのは酷というものだろう」
  俺はハルヒを理由に、真っ向から否定することにした。

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 03:12:37.41 ID:gc1gskJs0

「……わかった」
俺は静かに一言だけで長門に同意した。
「よっし、それじゃあ――」
すぐさま飛び出そうとする長門を抑え、
「まあ待て、俺は長門の意見を聞き入れ――」
「有希だよ」
「有希の意見を聞き入れ――」
「ハルヒだよ!」
うるさい、割って入るな紛らわしい。
「ごめんなさぁーい」
しゅんとなるハルヒを、あらあら可哀想に、と朝比奈さんが諫めてくれていた。
古泉に至っては、おやおやハルヒちゃんはお茶目でちゅねーなんて言ってやがる。
お前等三人で家族でも作ってやがれ。

ええと、それでは話を戻そう。
「俺は有希の意見を聞き入れたんだから、今度は俺の提案を聞くべきだ」
長門は俺の言葉に瞼を大きく開き、口元をきゅっと上げて、
「いいよ、何でも聞いてあげる。その代わりいきなりハードなのは駄目よ?」
どんな会話だよこれ。
いや、落ち着け俺。ペースを乱されるな。

そして俺は目的地を告げた。

36 名前:安価でのフリー選択の結果、プ−ルに[] 投稿日:2008/07/28(月) 03:18:32.43 ID:gc1gskJs0

「やっぱり夏だし泳ぎに行こう、シュプールでどうだ?」
そこ、俺に下心がある訳じゃないぜ?
俺は唐突にして浮かび上がった啓示……もといアイデアを実行しているだけなんだからな。

いや待て、俺は何を考え誰にツッコミをいれているんだよ。
落ち着け、まだ俺はまともだ。たぶん。

などというふうに長々と黙考している間に長門は、
「置いてくよー」
既に扉を開け放ち部室の外へ駆けていった。

「ほらほらハルヒちゃん、プールへ行くそうですよー」
猫なで声の朝比奈さんに続き古泉が、
「これは楽しみだなーパパ頑張っちゃうぞー」
とうとう亭主宣言までしてやがる。
これはもう手遅れなのかもしれない。

しかしまあ、毎回悩みの種でもあるハルヒはというと、
「わーい! あたし泳ぐの得意なんだよー?」
なんて喜んでいるから良しとしよう。
その姿は素直に愛らしいしな。いや、そういう意味ではないぜ?

「やれやれ、どうなることやら」
俺はひとり呟くと、点けっ放しとなっていたパソコンの電源を落とし部室を後にした。

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 03:22:18.58 ID:gc1gskJs0

夏の日差し、草の香り。
どうしてだろうな、夏はどうもあらゆる匂いが強く香ってくる。

逆に冬には冬の匂いがあるけれども、
冬と比べて夏のそれは自ずと気持ちが高まって来るというか……
なるほど、これが夏の大気の正体なのかもしれないな。

そんなこんなで放課となっていた学校を抜け出した俺達は、
耳にこびりつくほどに喧しいアブラゼミの大合唱を受けつつ坂を下っていた。

お前等一週間しか生きられないんだからもっと自堕落に生きろよ、
なんてまたもやどうでもいい事を考えている俺とは裏腹な様子で、

「街が揺れてるー!」
元気一杯のハルヒは笑顔の朝比奈さんに手を繋がれており、
「そうだね、陽炎だね」
その横で古泉が解説を行っていた。

「やーっぱり、夏はいいねぇっ!」
両手を天高く伸ばし、同時に爪先立ちを兼ねて長門が空を見上げている。
「暑いのは嫌いなんだがな、雰囲気は割と好きだ」
俺は思っていたことをそのまま口にしてみた。
「なんだかんだで自然が一番だよ、不自然いくない」
言いつつ長門は上げていた手を俺の顔の前へと滑らせ、人差し指を立てていた。

正直、インチキマジンガーのお前が言うな、
という言葉を飲み込めた俺は自分を褒めてやりたいね。

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 03:25:06.23 ID:gc1gskJs0

話し合いの結果、それぞれが一旦別れ家へと戻り、水着やタオルを取ってくる手筈となった。

別れる直前に長門は、
「面倒だし、空間繋いじゃおうか?」
などと極めて超常現象的な何かを引き起こそうとしていたが、
俺の断固とした反対意見と古泉の、
「アレは酔うからやめてください」
の一言で見事に否決されたようだった。

俺はいま、一人で帰路についている。

別れを告げて一分とも経過していないのにやけに静かに感じるな。
昨日まではこのテンションが普通だったというのに。
全く、人間の慣れと適応力と言う物は案外にして凄いものらしい。

さてと、早く皆に会いたいし家まで走るとするかな。

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 03:29:23.81 ID:gc1gskJs0

玄関の扉を開け放つと同時に、
「あ、キョンくんおかえりー!」
我が妹は相変わらずのようなので若干安心しつつ、
「ただいま、学校はどうだったか?」
軽く世間話でも交わしてみようという気になった。

「うーんとねぇ、楽しかったお!」
「そうか、それは良かったな」

なんだ、普通すぎるな。
そう考え二階へ向かおうとしていた俺の背中へ向けて、

「クラスの皆がね、どんどん消えていくの。
 朝の会の時は40人くらい居たのに、2時間目の休み時間までに2人消えちゃってね、
 5時間目の授業中なんて先生が消えちゃったんだよ?
 それからは後ろを振り向いて前を向く瞬間とか、瞬きをした合間に消えていってぇ……
 それで最終的に無事帰ってこれたのが15人だったよ!」

ああ、全然普通じゃないな。
そしてお前も苦労しているんだな。

「頑張れよ、我が妹よ」
「うん、任せて!」

片手を挙げた威勢の良い返事の後、
妹はパタパタと足音を響かせ玄関から駈け出して行った。

43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 03:33:41.36 ID:gc1gskJs0

俺が駅前喫茶店へと辿り着いた時には、
メンバー一同は既にその一角に陣取っており、さらにはパフェを平らげた後だったようだ。

「遅くなってすまん」
俺は肩で息を吐きつつ右手で謝罪の意を表す。
「遅いわよキョン!」
眉を吊り上げ腰に手を当てキツく怒鳴るその姿は、紛れも無く本来のハルヒそのもの。
事態を飲み込めない俺は、
「え、ああっと……ハルヒちゃん?」
とりあえず名前を呼んだところ、
「ハルヒ、ちゃん? なんなの気持ち悪いわね」
見事に一蹴されてしまった。

「見てください朝比奈さん、このミルク消費期限が一年も過ぎてますよ」
「ナイスネーチャーです古泉くん。あれれぇ……この砂糖も大分しめってますね」
あの二人はまたも視線を逸らして小芝居。
というかそのネタは何なんだよ。

俺が困惑し立ちつくしていると、
「大丈夫?」
長門がぽつりと一言だけ呟いて、疑問色の瞳で俺を覗き込んでいた。

あれ、ちょっと待て。
これは俺があれか? 俺が悪いのか?

ともかく喫茶店の会計は遅刻した俺が済ませる事となり、一同はその場を後にしたのであった。

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 03:39:14.69 ID:gc1gskJs0

カランカランと鐘の音を響かせる喫茶店のドア。
次いで背後からの、
「ありがとうございましたー」
という声で爽やかに見送られる。

しかしその爽やかさとは裏腹に、外は変わらずムッとした熱気に包まれていた。

俺はその熱気に当てられながら浮かび上がった一つの疑問に頭を悩ませていた。

喫茶店の中のハルヒ達の様子は明らかに違っていた。
端的に表すならば元来のハルヒや長門そのもののような……
となると確証は無いがこう考えるべきなのではないのだろうか。

そう、確証は無いが――


A.何らかの原因でハルヒ達が自我を取り戻したのだろう。
  俺はほっと胸を撫で下ろした。

◆B.いや、今の一瞬だけまともに見えた事象こそが幻だ。
   俺はいいように解釈し、気を取り直した。

C.もしかすると、俺はまともじゃないのかもしれない。
  俺は次第に自分自身が恐ろしくなってきた。

D.やれやれ、真夏の太陽は罪な奴だぜ、しかし大事には至らなくて良かったな。
  俺はしれっと長門の胸を撫で回した。

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 03:44:58.67 ID:gc1gskJs0

そう、確証はないが、
先程の一瞬だけまともに見えた事象こそが幻に違いない。
大気だって揺らぐ、事象だって揺らぐ、ならば辿り着く結果にもゆらぎ補正が出てもおかしくない。
流体力学だがなんだかのカオスの領域と同義だなきっと。

俺は自論を展開し、いいように解釈した。

「あっついわねぇ……」
ハルヒが胸元をパタつかせながら唸っている。
「そう」
長門も同じく口数が少ないまま。

「いやぁー朝比奈さん、これはやばいんじゃないですかー?」
「ええ、これはやばいですねぇー!」
そして何故かノリノリのまま脱線車両に絶賛搭乗中の二人。

俺はそんな団員達の様子を探るように見回してから、
「で、どうするんだ?」
一応聞いてみる事にした。
もしかすると素に戻った事で予定が変わるかもしれないと思ったからだ。

しかし俺の懸案などなかったかのように、
「あたし泳ぎたーい!」
と言うハルヒに続き、
「私も泳ぎたい……かも」
長門が不安定な面持ちで答えていた。

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 03:47:14.39 ID:gc1gskJs0

結局は当初の目的通り屋内プール施設を目指す事となったようで、
俺達は再びジリジリと照りつけてくる太陽の元を歩きだしたのであった。

「それにしても参りますね、この気温は……」
古泉が額に汗を浮かばせている。
「あたしもどうにかなっちゃいそうですよぉ……」
朝比奈さんも耐え兼ねたのか口と肩で息をしている。

ふと長門の様子を窺ってみると、彼女はただじっと太陽を直視していた。
「有希、眩しくないのか」
「え……?」
俺の方を向き首を傾げる。
そうか、今は”長門”なのか。
「いや長門、そうやっていると目がぁー、目がぁー……とならないのかと思ってな」
「有希って呼んでよ」

いきなり入れ代わりやがった。
直後、
「やっぱり夏っていいよねっ! 日光を浴びているだけで元気になっちゃうよ!」
どうやら完全に元に戻った……いや、有希になったようだ。

「どうしちゃったのよ有希?」
ハルヒは怪訝な顔で窺っている。

そしてそのハルヒを朝比奈さんと古泉が怪訝な顔で窺っていた。

47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 03:51:15.45 ID:gc1gskJs0

「あのー、ハルヒ……ちゃん?」
朝比奈さんが恐る恐る声を掛けると、
「なによ?」
「ご、ごめんなさいっ」
思いっきり不機嫌な顔で睨まれていた。
「まだ”涼宮さん”のようです……」
古泉が小声で朝比奈さんに耳打ちすると、
「そのようね」
朝比奈さんはまたもや距離を置いて獲物を狙う目のまま、高みの見物の態勢に入っていた。

もうアレだ、今さらなのかもしれないがこいつ等全員手遅れなのかもしれない。
俺がうんざりしながら傍観していると……
「キョンくーん!」
パタパタと俺の名を呼び駆けてくる人物が居た。
すぐさま俺は、
「こんな所で何をやってるんだ?」
「良かった! まだ大丈夫だった!」
「何がだ?」
「こっちの話だよ。ねぇ、私の名前を呼んで!」
「はぁ?」
「いいから早く!」

頼まれるままに、俺は妹の名を呼んだ。
「ありがとー!」
そう言葉を残し、妹は手を振りながら揺れる街の中へと溶け込んでいった。

「何をやってるんですか?」
目を白黒させている朝比奈さんの問いに、
「それはあいつに聞いてくださいよ」
と答えると、俺達は再び熱気にうんざりしつつ歩きだしたのだった。

48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 03:56:10.82 ID:gc1gskJs0

ようやくして――

『流れるプールあります −シュプール−』

という簡素な看板が立てられている駐車場まで辿り着いた。

「早く早くぅー!」
「こらこら、ハルヒちゃん待ちなさい」
朝比奈さんが楽しそうに追いかけている一方で古泉は、
「み、水……」
瀕死だった。

俺の隣をずっと付添って歩いて来た長門は、
「うっわぁー地味だなぁ、やっぱり私は海で遠泳でもしたいよ」
などと愚痴っている。
「おいおい酷いこと言うなよ、これでもこの街では数少ないレジャー施設なんだぜ?
 ウォータースライダーがあるから我慢しろ。嫌ならドーバー海峡にでも行って来い」
俺は何となくシュプールの肩を持つことにした。
思わず地元を応援したくなる心理が働いた訳だ。

しかし長門は真顔のまま、
「それじゃ空間繋いじゃうねー」
と言いだしたので、気付けば俺が平謝りする羽目になっていたのである。

無言の長門も長門ではあるが、この長門も長門でクセが強いようだ。

……うん、何言ってるのかわからないぞ、俺?

49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 03:59:21.39 ID:gc1gskJs0

「ようこそ、水の館シュプールへ」
受付に居たおばさんに声を掛けられた。
すぐさま俺は、
「高校生5人です」
というふうに各々から入場料を徴収し話を付けていたところ、
突如として朝比奈さんが、
「この子、子供料金ですよ!」
ハルヒを指差して訴えていた。

「確かにそうですよね」
おばさんは即座に納得していた。

おいおい、それでいいのか。

「やった、半額だって! これで浮き輪を借りられるね!」
満面の笑みでハルヒの手を引く朝比奈さんは、いつになく全開のようだ。

51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 04:06:11.62 ID:gc1gskJs0

ハルヒ、古泉、朝比奈さんによる臨時家族は、
和気藹々と浮き輪貸出し場に出掛けてしまったので、
暇が出来てしまった俺と長門は受付前のベンチに腰掛けていた。

そういえば、俺はシュプールに来るのはこれが初めてなんだよな。
記憶によると確か中学の頃にオープンするということで大々的に広告を行っていて、
割と小さなこの街ではそれなりに話題となっていたんだっけ。

こういう地方でのレジャー施設は大概衰退の一途を辿り経営不振に陥るものだと俺は思うが、
意外にも閑古鳥が鳴くどころか、雑誌などでも紹介されて人気も出て来ているらしい。
ただし、プールの話題ではなくそこに付随しているレストランの味が評判となっている訳だが。

そうそう、この施設の構造はというと、
一階部分がプールや更衣室、一部が屋外プールというふうにメイン機能を占めており、
二階部分がエントランス、レストランや割かし広いゲームセンター、土産物売り場に宴会場その他諸々となっているらしい。
ちなみにこれは今俺の前にある看板から得られた知識だ。

何となく受付の方に目をやると新しく来ていた二人組の男女客が、
「ここがシュプールか……ようやく辿り着けた」
「ええ、もう二度と戻ってこれないかと思ったわ」
などと意味不明の会話をしていたので俺は目を逸らすことにした。
あの二人に係るとなんとなく危ない、そう感じたからだ。


その後は有希のハイテンションな会話に付き合わされ、
暫くすると疑似家族三人組が何故かバナナボート片手に帰ってきたため、
俺達は更衣室を目指し階段を降りていくことになった。

52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 04:10:22.70 ID:gc1gskJs0

これまた割かし広い更衣室。
といっても当然男女で別々となっている為に、
「古泉、お前はここへ来た事はあるのか?」
などと野郎相手に当たり障りの無い会話をする羽目となっていた。
「いいえ、僕は今回が初めてですね」
というなり、

パシーン!

「真っ裸で自分のケツを叩くなケツを」
「すみません、癖なものでして」

古泉に粗末な物を見せつけられ早くも気が滅入ってしまった俺は、
ただ淡々と着替えを済ませて着衣をコイロッカーの中へと仕舞い、プールへと急いだ。
背後からは、

「待ってろよー我が娘よー」

という訳の分からないことを口走り古泉が追い掛けてくる。
いや、ただ単に進行方向が被っているだけなのだが……

畜生、古泉の笑顔がいつもより怖いぜ。
頼むから俺とこいつだけの二人っきりにしないでくれ。

俺は一刻も早く皆と合流したい一心で歩を進めていた。

53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 04:13:45.96 ID:gc1gskJs0

着いた先はこれまた割かし広いプール。
と描写を怠け過ぎるのもあれだなと思ったので、辺りを万遍なく見渡した。

ふむふむ……

中央プール、流れるプール、ジャグジー、ウォータースライダー、滑り台……
その他諸々に意外と遊具があるもんだな。

それにこの気温の為か、年の頃が同程度の人も結構いるようだ。

そういえばハルヒ達はまだ着替え終わっていないのだろうか?


さてと、それでは――


A.俺は施設に着目し、それらを注意深く観察していった。

B.俺は訪れている人達に着目し、それらを眺めていった。

◆C.俺は訪れている人達の中でも女性に限定し、綿密に描写を始めた。

D.暇だったので古泉と全力全開のラジオ体操を始めた。

54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 04:18:02.73 ID:gc1gskJs0

「さぁ、一緒にラジオ体操でも如何でしょうか?」
古泉が肩に手を回してきたので、俺は無言で振りはらった。
「暴力かいな……」
何故か訛り気味に呟くとがっくりと肩を落とし、
壁際スレスレの位置で腕を交差させつつ屈伸を始めていた。

作りの良い顔立ちでブーメランパンツを履き、一人でラジオ体操を踊る。
なんともシュールなものだな。


まあいい、それよりも……

俺は辺りを見渡していく。

C……D……C……Bか……

ふん、どいつも小物だな。
もう少し気合いを入れてだな……おっと?

プールドーム内を鷹の眼で睨み利かせていた俺は、
こちらとは正反対の位置にある場所で見知った顔を見つけた。
距離にして約100メートル強か、よし。

55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 04:22:04.13 ID:gc1gskJs0

俺は観察を始める。

ふむふむ、普段の控え目な容貌とは裏腹になかなかの大きさ。
意外とスタイルも良いんだな。
今は無きかつての長門のような白い肌も備えており、肌にもツヤがある。
水を掛ければ金属のように弾きそうだな……ちょっと水の掛けっこでもしてみたいなぁ。
そして思わぬハプニングで水着がヒラリ……彼女は戸惑いつつも……

あれ、そういえばあの人の名前は何だっけ?

「みどり……みどり……くぼたみどり……」
いや、それは別人だな。
えっと確か、そうだ!

「真緑さん」


――喜緑です


その声を認識した時には、彼女は俺の耳元でそっと囁いていた。

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 04:23:58.79 ID:gc1gskJs0

「いつの間に!?」
「厭らしい視線を感じたもので」
彼女の眼からは溢れんばかりの冷酷さが見て取れた。
不味い、話を変えなければ。

「奇遇ですね、お譲さん。わたくし達もSOS団の面々と行楽しておりましてな」
ホッホッホ、と俺が極めて紳士的な対応を心掛けていると、
「夏の日差しは危険ですからね、気を付けてください」
皮肉を残し、そのまま素通りされてしまった。

このままじゃいけない、このままじゃ。

そう考えた俺は――


A.「すみませんっしたー!」
   体育会系ばりの勢いで謝った。

B.「誤解だよ!」
   言い訳を考え付き、誤魔化すことにした。

◆C.「好きだ!」
   俺は自分がわからなくなった。

D.「お譲さん、水の掛け合いでも如何かな?」
   俺は紳士的変態行動に望みを託した。

57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 04:27:02.49 ID:gc1gskJs0

「好きだ!」
考えるよりも早く、その言葉を口にしていた。

「はぁ、夏の暑さにでもやられたんですか?」
うんざりといった様子で彼女が振り向くが、そんなもの関係無いぜ。
「俺は真緑さんが大好きなんだ!」
「喜緑です」
「喜緑さんが大好きなんだ!」
「嘘よっ!」

喜緑さんは両腕で胸を抱くようにすると、悲痛な叫びを上げた。

「男なんてみんなそうよ! 私、私……部長さんのこと信じてたのに!」

部長か。
そう、コンピ研のえーっとえーっと……

「コンピ研の部長がどうした!?」
俺も全力で言葉を返す。
「”僕は一人しか愛せない、ならば僕は二次元世界の住人を愛する”って言ったきり……!」

ほろり、と真緑さんの頬から涙が零れ落ちる。
なんて奴だ! こんな可憐で純粋な少女を泣かせてしまうなんて!

「俺は、俺はそんなことしない!」
「……」
「本当だ!!」
「……」

その後、貴方の名前はなんでしたっけと聞かれた。

58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 04:29:29.57 ID:gc1gskJs0

翌日。

「ふーん……で、これはどういう事よ?」
ハルヒが目を線にして呟いている。
「世の中不思議なことは沢山ありますしね」
古泉も俺の方へ微笑みを送ってくる。
「でも賑やかなのはいい事だと思いまぁす」
朝比奈さんはお六人分の茶を配りつつ笑っていた。
「……」
相変わらず無言で見つめてくる長門。

そして――

「えっと、今日からSOS団へ入団する事になった喜緑 江美里です。よろしくお願いします」
彼女は深々と頭を下げている。

俺はその横に立って、
「と言う訳だ、みんなよろしくしてやってくれ」
まるで転校生の紹介を行う先生の如く、その言葉を締めくくった。

「うふふ、キョンくん」
「なんだい江美里」
「これからよろしくね」
「ああ、俺は君を愛し続けると誓ったんだからな」

こうして俺達SOS団は新たなスタートを切ったのだ。


                                             終

59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 04:30:32.89 ID:gc1gskJs0

              真夏の大気篇

              『喜緑江美里』

60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 04:32:14.21 ID:gc1gskJs0

●フローチャート

0.朝のひととき
     |
1.マインスイーパー
     |
8.思い当たる要因  A  B  C
                    |
                    |
13.傾向と対策    A  B  C
              |
              |
16.有希の提案    A  B  C  D
                 |
     「−−−−−−−−」
17.キョンの提案
    |
    |
23.喫茶店の外で   A  B  C  D−−−−¬
                 |             |
                 |          『まな板の怒り』
35.プールでの観察  A  B  C  D
                     L−−−−−−−−¬
                                  |
                               喜緑さんへの回答  A  B  C  D
                                                  |
                                                  |
                                               『喜緑江美里』
『到達数』
終:2  完:0

61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 04:33:44.92 ID:gc1gskJs0

ということでようやく前回の所まで追い付けた訳ではあるけれど、
誰も居ない予感に早くも悪寒

68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 07:29:58.70 ID:gc1gskJs0

保守はありがたいんだけど、
これは選択肢によって動的に物語が変わるから書き溜め不可なんだ
できれば以下三択から選んで貰えるとありがたい


A.最初の選択肢(>>23)から別の物語でやりなおす

B.今進んでいる話の途中>>53からやり直す

C.任意の場所からやり直す(安価指定)

69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 07:34:44.74 ID:GSpo+xmc0

Aをロードしたいぜ!

70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 07:42:48.12 ID:gc1gskJs0

>>23
そんな事を俺に聞かれても自分自身にだって訳がわからない。
少なくとも今朝の教室でハルヒと顔を合わせた時には、
普段通りの強気で冷酷で自己中心的なままであったはずだ。

となると原因はそれ以降に起こり得たのだろうか?


俺は――


A.「しかし特に、これといって思い当たる節はないんだ」
  と本音のままに答えた。

B.「そういえばさっき、パソコンの中にあったharuhiフォルダが消えちまってな」
  何故かその事が思い浮かんだ。

◆C.「夏の大気にやられたに違いない」
    俺は訝しげに窓の外の風景を見渡した。

>>71

71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 07:44:30.01 ID:GSpo+xmc0

B

73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 07:56:41.52 ID:gc1gskJs0

説明しろと言われても俺にすら原因がわからないんだよ。

俺はすぐさまそう答えようとした。
だがしかし、
「そういえばさっき、パソコンの中にあったharuhiフォルダが消えちまってな……」
何故かその事が思い浮かび、それを古泉に告げていた。

「haruhiフォルダ、というのは?」
古泉が真剣な面持ちで訊ねてくる。
その隣に居た朝比奈さんも、俺の顔を興味深げに覗き込んでくる。

「ああ、haruhiフォルダというのはだな……」
と説明しようとしたところで踏みとどまる。

ちょっと待てよ俺。
俺しか知り得ないであろうあのファイル群を皆の前へひけらかすのか?
幼児期のハルヒの写真なんかも入っているというのに?

……いや、アレを用意したのは俺ではない。

従って俺が引け目を感じる必要はない。
ああ、そうさ。

俺はパソコンの前へ立つと、スクリーンセーバーを解除し操作を始めた。

74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 08:12:14.73 ID:gc1gskJs0

カチカチ、カチカチ
素早く幾度もダブルクリックを繰り返し、埋もれたファイル群のさらに奥へと潜っていく。
「やけに手慣れてますね」
ほっとけ。
古泉の茶々を軽く受け流し、
「これだ」
やがて辿り着いたのは”mikuru&haruhiフォルダ”だけが存在している場所。

「あたしの名前と……涼宮さんの名前?」
疑問顔の朝比奈さんは放っておき、
「ここに”haruhiフォルダ”というものがあったんだが、何かの勢いで消えちまってな」
俺が言うと返す刀で古泉が、
「そこにはどんなファイルが? どうやって消えました? 誰が作ったんですか?」
矢継ぎ早に質問を重ねてくる。

「まず俺が作ったものではない。昨日までは何も無かったんだよこの場所には。
 それが今日こうして部室へ来た所、新しく作られていてな……」
「中身は見ましたか?」
「ハルヒ自身の写真が収められていた。
 朝比奈さんと同様のコスプレ衣装から始まり、ハルヒの幼少時代……俺が最後に見たのは幼稚園時代までか」
「なぜ、消えたのですか?」
「いや、その、まあなんと言うかだな。それに目を通していたところ急にハルヒの奴が部室に入ってきてな……」
「それで?」
こいつは俺の戸惑いなど一切考慮しないんだな。
「それで言い表しようの無い焦りというか罪悪感というか、
 そういうものに襲われて”閉じる”を連打したところエラーが発生したみたいで」
「それでデータが飛んでしまったと?」
「ああ、その通りだ」

それだけ答えると尋問から解放された。

75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 08:21:49.59 ID:gc1gskJs0

古泉は顎に手を当てじっと一点だけを見つめている。

一般人である俺には解り様が無くとも、
非一般人の古泉になら何かしらの手がかりが掴める可能性も大いにある。

俺は淡い期待を寄せてその姿を凝視していた。

静まり返る室内。

ハルヒが立てる寝息だけが繰り返し静かに響いている。

朝比奈さんもハルヒの頭を撫でつつ、古泉の顔色を窺っているようだ。

そのまま……
長々と、体感の時間にして約3分程度だろうか。
黙考し続けていた古泉がついに口を開いた。

「いや、無理っす」

そして再び室内は沈黙した。

76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 08:33:11.91 ID:gc1gskJs0

「あれだけ引っ張って置いて何も無いのか?」
「すみません、推測を行うにしても判断材料が少なすぎます」
確かにその通りではあるが。

朝比奈さんは緊張から解かれたのか、
「可愛いからこのままでいいんじゃないですか?」
などと提案している始末だ。
別に貴女がたがそれでいいのであれば、俺も一向に構わないのですけどね。
そうはいかないでしょう色々と。

などという俺のぼやきを掻き消すように、
「残念ですが、こういう局面で頼りになりそうな相手は一人しか思い辺りませんね」
古泉が肩を竦めている。
「ああ、確かに一人しか思いつかないな」


俺は――

A.「やはりパソコンといえば、コンピューター研究部の部長だな」
  俺は自信満々に言った。

B.「やはり長門か」
  俺は静かに口を開いた。

C.「意表を突いて谷口とかどうだ?」
  俺は軽い口調で伝えた。

>>78

78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 08:38:34.39 ID:yroKM8nfO



79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 08:49:06.50 ID:gc1gskJs0

俺はニヤリと笑い、一拍の間を置いたあと口にした。

「意表を突いて谷口とかどうだ?」

それを聞いた古泉は和やかに笑い、
「貴方がジョークを言うのは珍しいですね」
椅子の背もたれに深く身を預けた。

釣られて俺も、
「だろう? なかなか自信はあったんだぜ?」
ハハハ、とどこぞの国のハートフルな家族を翻訳したような笑い方で和む。

「では、もう一度お聞きしましょうか?」
「おう」
「こんな時、誰を頼るべきだと思いますか?」


俺は――

A.「オーケイ、コンピューター研究部の部長なんかどうだ?」
  手近に居そうな人材を試してみようと思った。

B.「長門しかいないだろう」
  俺は確信を持ちながら答えた。

C.「さらに意表を突いて国木田とかどうだ!?」
  俺は古泉を指差しながら叫んだ。

>>82

82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 08:55:17.86 ID:F4OgfEqe0

C

85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 09:08:44.58 ID:gc1gskJs0

「そうだな……」
俺は視線を落とし、二拍ほどの間を置いたあと――

「さらに意表を突いて国木田とかどうだ!?」
イヤッホーウィ!
と付け加えつつ、古泉を指差した。
もちろん、指パッチンも忘れてはいないぜ?

「国木田……ああ、貴方のクラスの友人でしたか?」
古泉は肩を揺らし笑いを抑えている。
「ああそうだ、ああいう普段は目立たない奴ほど、意外と出来るのかもしれないぜ?」
「くっくっく……」

やがて古泉は笑いを抑えきれずに大声で笑いだした。

「だろ? はっはは、よーしそうと決まれば早速――」


――ふざけないでください!


直後、部室のテーブルが吹き飛んでいた。

「……あなたはいつもそうだ、僕の、僕達の気苦労も知らないで」
古泉は震える拳を握りしめ、その顔は俺が初めて目にする色に染まっていた。
そうだ、俺はかつて目にした事がなかった。
こいつが、この温厚なスマイル・イエスマンが、

こうにも怒りを露わにする場面を。

86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 09:14:25.87 ID:gc1gskJs0

「……ふぇ?」

今の衝撃でハルヒが目を覚ましたらしい。
古泉はハルヒの方をチラリと見遣ると、

「……貴方は、何もわかってはいない」

吐き捨てるように呟いたあと、乱暴に部室から出て行ってしまった。

「ねぇねぇ、古泉くんどーしちゃったのぉ?」

ハルヒが無邪気にも辺りを見回していたが、
俺と朝比奈さんは言葉すら発せず、まるで氷のように固まっていたのだった。

87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 09:16:04.15 ID:gc1gskJs0

               ― 光 陰 篇 ―

88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 09:18:37.88 ID:gc1gskJs0

あーいやだいやだ
今回はこういう話を書く予定は無かったんだけど・・・

まあいいや、人少ないし
だけどエンディングまで見た後で後悔しないでね

90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 09:26:03.32 ID:gc1gskJs0

呆然と部室に残されていた俺達であったが、
空気が落ち着いてきたのを皮切りに、俺が口火を切っていた。

「すみません!」

同時に朝比奈さんに向かって深々と頭を下げる。

「え……あの……」
戸惑う彼女と、
「しゅみません!」
意味も無く俺の仕草を真似るハルヒ。

だがそんなハルヒに構ってはいられない。
すぐさま、
「俺はそのほんの冗談のつもりでその……」

言い訳なんて見苦しいにも程がある。
解っちゃいるさ、そうさ解っちゃいるよ。

だけど普段温厚な古泉のあまりの剣幕に俺は正直ブルっちまっていた。
何かしらの言葉を吐き続けていなければ、この空気に耐えられそうに無かった。

だから、俺は朝比奈さんに頭を下げた。

彼女に申し訳なかったから。
そして、自分自身が許せなかったから。

91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 09:32:47.01 ID:gc1gskJs0

「えっと、その、先ずは頭をその、上げてください」
朝比奈さんがしどろもどろに告げている。

確かに俺みたいな奴にこんな事をされても迷惑以外の何者でもないだろうな。
仮に今まで俺みたいな野郎共の誘いを断り続けていたとしても、
朝比奈さんが何の躊躇も感じずに切り捨てるなんてこと、出来るはずがない。

俺は頭を上げ、倒れていたテーブルを元の位置へと戻してから席に着いた。

「あの、お茶、淹れますね」

言うなり朝比奈さんがパタパタと給湯の準備を始める。
その姿が、いつもより頼もしく見えた。

「あっ」

パリン

すまん、前言撤回だ。

ともかく、新たに棚から出された湯呑みを前に、俺達は再び策を練る事となった。

92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 09:43:17.43 ID:gc1gskJs0

「あの、あたし思うんです」
朝比奈さんが思い切った表情を向けてくる。
「言ってください」
俺は先を促す。
「このまま涼宮……ハルヒちゃんを、一人で家に置いていいのかどうかっていう事です」
「確かに、不審がられるかもしれません」
「それだけでは無いんです、あの、もしかするとこれが何かの策略だったとする可能性がその……
 なんというんでしょうか、上手く言えないんですが……」
その言葉から内容を察し、俺は口にする。
「つまり、この現象を起因として何かを引き起こす、或いは既に何者かの策略に落ちている可能性があると?」
「はい」

その線は限りなく大きい。
そもそも、これまでも何かが起こる度に火消しを行ってきたんだから。

……俺以外の、SOS団員達がな。

一瞬感慨に耽っていた俺の虚を突くように、
「あの、あたしの家に涼宮さんを泊めようと思うんです」
朝比奈さんがぎゅっと握った両手を机に乗せていた。
「それはいい案だと思います」
即座に返答した俺に対し、
「で、その……良かったらキョンくんも……ね?」

意味深に視線を伏せる彼女の意図を読み解くのに、俺はたっぷり40秒を要した。

94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 09:51:42.74 ID:gc1gskJs0

俺は首を真横に、手をフリフリ、おまけに言葉と体全体を使って断っていた。

「でもその、何かに備えて男手というかなんというか、そういうのがあったほうが……
 それにハルヒちゃんもキョンくんと一緒のほうが落ち着くと思いますし」

などなどの理由を並べられるが、それでも無理は無理というものだ。
まさかこんな俺みたいな奴が歩く御神体の家に寝泊まりするなど以ての外。

「誘うならもっと役に立つ人間を……」

そこまで言い掛けて気付いた。
そうか、その役に立つ男手である”古泉一樹”を追い払ったのは俺か。

なんてロクデナシなんだよ俺は。
こういう場面まで来て結局他人任せなのか?
結局、俺は傍観者のまま解決への手引きはSOS団員任せなのか?

俺は、それでいいのか?


俺は――


A.いや、駄目だ。
  俺は朝比奈さんの提案に乗る事にした。

B.それでも無理な物は無理だ。
  俺は朝比奈さんの提案を断った。

>>96

96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 09:56:21.46 ID:86DWmXG90

A

97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 10:05:49.34 ID:gc1gskJs0

俺はこのままでいいのか……?

いや、答えは決まっている。

「朝比奈さん、俺で良ければ尽力させてください」
俺は一言一言ゆっくりと吐き出し、意志を伝えた。

朝比奈さんの顔色が安堵と歓喜のものに変わり、
「ありがとうございます!」
深々と頭を下げられた。

嬉しかった。
こんなにも頼りにされているという想いが、ただ新鮮だった。

ハルヒは相変わらず頬杖をついたまま俺と朝比奈さんを見比べており、
そんなハルヒに向かって俺は、
「今日からよろしくな」
出来るだけの笑顔を作って友好を示したのであった。

今回は、今回こそは……
俺自身の力でこの怪を解き明かしてみせる。

心の中で俺は、そう強く決意した。

99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 10:16:56.44 ID:gc1gskJs0

「そうと決まれば、早速お買い物に行きましょう!」

やけに張り切る朝比奈さんに連れられて、
俺とハルヒも足早に後を着いている。

とうに部室は後にして、朱には染まらないほどに傾いた日の中を並んで歩く。
この時間帯だというのに暑いの何のと言いだす程に俺は空気が読めない訳でもないので、
ただ何気ない談笑を交わしつつ登ったり降りたりする街の中を進んでいた。

「あの、そう張り切らなくても……」
「いいえ駄目ですよ、折角三人もいるんだからね!」
「だからね!」
復唱するハルヒまでもを味方につけた彼女を止められる人間は居るのだろうか?
いや、居ない。

などと無駄に反語を用いていた俺であるが、やがて一つの問題点に気付いた。
「ハルヒの家には、どう話を付けましょうか?」
彼女はあからさまに”しまった”という表情を覗かせた。

やれやれ、前途多難だなこりゃ。

しかしこういう場面でこそ俺が活躍するべきだろう。

「ハルヒ、ちょっといいか」

首を傾けて疑問を表すハルヒに、俺は仕込みを教え込んでいた。

101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 10:31:49.87 ID:gc1gskJs0

スーパーに到着すると、

「では、朝比奈さんは夕食の準備をお願いします」
「それじゃ、そっちの方は頼みますね」

軽くウィンクを残し、買い物カゴ片手に雑踏の中へと消えていった。

出来る事ならば存外に庶民的な朝比奈さんと共にあれこれ悩みたいものだったが、
今の時間帯を考えるにもうすぐ空は暁に染まり、やがては日が暮れてしまうだろう。

そうなって怪しまれる前……じゃなかった、心配を掛ける前に、こっちのほうを片付けておかないとな。

「いいかハルヒ、教えた通りにやるんだぞ」
そういって俺の携帯電話を手渡す。
「うん!」
「うん、じゃない。わかったわ、だ」
「わかったわ!」

一応体は元のままなので意識させれば元のハルヒの声が出せる事は分かった。

最終的なチェックを行った後、俺はダイヤルを始めた……

103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 10:37:13.22 ID:gc1gskJs0

「お父さん、あたし今日泊まってくるから」
繋がると同時にだろう、ハルヒが口を開いた。
よしよし、いい調子だぞ。
「……え? そりゃ友達の家に決まってるでしょ?」
うんうん。
「誰って、キョンに決まってるじゃない」
「って、うぉーい!」

「どうしたのキョン?」
「馬鹿……」
小声で呟いた時には遅かった。
ハルヒの耳元にある電話からはガミガミと声が漏れ聞こえてくる。

「キョンくん、代わってって」
ハルヒが元の口調へと戻ってしまったのでこれ以上話させてもボロしか出ないだろう。

「やれやれ……」
俺は最終手段を用いることにした。

105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 10:45:37.11 ID:gc1gskJs0

「あの、お父さん」
「貴様にお父さんなどと呼ばれる筋合いはない」
仰せのとおりです。
しかしその程度で諦める俺ではない。
「実は、SOS団の活動の一環としまして合宿を行う事と――」
「そういう話は本人から聞いておらん! 一週間前までには話を通せと教育しておる!」

どこの波平さんだよ。
という言葉は勿論声には出さず、
「ですが娘さんがリーダーを務めておられますし、その娘さんたっての希望で――」
「え、そうなの?」
こらハルヒ、余計な事を。

「こら貴様、うちの娘とはどういう仲だ? 場合に寄っちゃあ許さん」
ゴゴゴゴゴ、と電話越しに伝わってくる凄まじい気迫。
雑踏に溢れるこのスーパーの前という空気すら重みを増したように感じる。

やれやれだぜ、こうなりゃあの手だ。

「あ、あれ……オカシイですね……」
「なんだどうした? 何が可笑しい?」
「いや……あの……あ、こりゃ電波が……」
「待て貴――」

ツー、ツー、ツー、ツー、

「ふぅ、任務完了」
呟きすぐさま携帯電話の電源を切った。

107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 10:53:03.43 ID:gc1gskJs0

その後は二人とも近場に腰を据え、スーパーに出入りしていく男女の数を数えて、
朝比奈さんが返ってくるまでにどちらがより近い数を予想できるかなんて遊びで暇を潰していた。

「お待たせしましたぁー」
買い物袋を両手に抱えているところを見るに、大分張り切っていらっしゃるようだ。

「いよっし、あたしピッタリ賞だよ?」
確かにハルヒはピタリと数を言い当てていた。
それがハルヒに備わる力なのかどうなのか、そんな所が俺には解るはずもないがな。

俺は腰を上げると、
「荷物なら俺が持ちますよ、お世話になるのでこれくらいさせてください」
半ば強引に買い物袋を受け取った。


手持無沙汰となった所為だろうか、
朝比奈さんは代わりにハルヒの手を繋ぎ、
「さぁ、こっちのほうです」
俺を先導して歩き始めたのだった。

108 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 11:04:18.22 ID:gc1gskJs0

つくづく情けない奴だな、俺は。
両手に抱えた買い物袋は予想に反して重く、またその道のりも長く険しかったのだ。

よって俺の体は汗にまみれ、荒々しく肩で息を吐くほどに疲労困憊することとなっていた。

「あのー、小さいほうを持ちましょうか?」
「いいえ、それは断じて許されません」

男のプライドというものだ。
例え相手が朝比奈さんでなくとも、女性に力仕事で情けを掛けられるほど男にとって悔やまれるものは無い。

そうやって心なしかボヤけてくる地面を眺め歩いていた時の事だった……

「うわぁ、きれーい」
朝比奈さんに続き、
「ほんとだぁー」
ハルヒの声。

なにかあったのかと二人の様子を探ると、二人とも空を見上げていた。
俺もその視線の先を追って――


――そして見た。

空が紫色に、いや、極めて蒼に近い色に染まっていたのを。
雲が、遠くの山が、街が、そして俺達が……

全てが蒼一色に彩られている。

思わず疲れも忘れて無言で足を止めてしまう程に、俺達はその光景に見惚れていた。

109 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 11:07:39.33 ID:gc1gskJs0

相変わらずゆっくりした進展ですまんね
これでも不必要な無駄は省いているつもりなので、長い目で見て貰えると嬉しいかな

それから、ちょっと指が疲れたで少しだけ間を置かせてもらう

113 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 11:59:25.57 ID:gc1gskJs0

昼と夜が見事に調和を保つこの僅かな一時。
仄かな蒼によって光と陰が曖昧に混ざり合っているこの光景。

まるで全てが溶け出しているかのような、そんな不可思議な感覚すら覚えてしまう。

その世界のなかを俺たち三人だけが歩いていた。

「こうやっていると、家族、みたいですよね」
”家族”にイントネーションを置き、朝比奈さんがぽつりと呟いた。
その声色には何処と無く伝わってくる翳が含まれており、
「何か、あったんですか?」
俺は知らず知らずのうちにその言葉を口にしていた。

それから暫くの間、朝比奈さんは俯いて黙り込み、
俺はその朝比奈さんやハルヒ、そして辺りの風景を代わる代わる眺めていた。

すると……

「ほら、あたしって普通じゃないでしょう?」

落としていた視線を俺の眼へと向け、そう一言だけ告げられた。
幻想的な光が映し出す彼女の瞳の色はとても寂しく、冷たさすら感じられるものだった。

114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 12:00:30.22 ID:gc1gskJs0

その姿を見ていた俺は、何故だろうか。
何かをしなければという気持ちに駆られた。


俺は――


A.「俺で良ければ、聞かせてください」
   力になりたい一心で、真剣な眼差しと共に朝比奈さんへと告げた。

B.「……」
   俺は口を紡ぎ、何も言わなかった。

C.「そういうのは無しで、楽しくいきましょう」
   俺は明るく振る舞った。


>>117

117 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/07/28(月) 12:29:02.67 ID:lFOUPAdU0

A

118 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 12:48:15.57 ID:gc1gskJs0

「あの、朝比奈さん」
俺は一呼吸分の休符を置いてから、
「俺で良ければ、聞かせてください」
ゆっくりと告げた。

「でも、その……」
朝比奈さんはこちらの様子をチラチラと窺っているハルヒを気にしている。
だが、そんなことは関係ない。
「未来人、ってことなんでしょ」
朝比奈さんがハッと息を呑んだが、ハルヒは無反応のまま小首を傾げている。

「俺じゃ、駄目でしょうか? それとも物理的に話すのが無理なんですか?」

何をやっているんだ俺、これではまるで尋問じゃないか。
そう思い、
「いえ、やっぱり話したくなければいいです」
曖昧に笑って誤魔化すことにした。

しかし朝比奈さんは思いを決めたように頷くと、
「少しだけ、身の上話になるけれど、いいですか?」
俺が頷くと淡々と語り始めていった。

119 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 13:00:42.16 ID:gc1gskJs0

「あたしはね、いえ、あたしのような人はね、皆一人なのよ」
俺は無言で彼女の仕草と声に注目する。

「キョンくんなら、ここまで言えばその理由はわざわざ言わなくても分かって貰えるとは思うんだけど、
 敢えて言うね。
 そういう特定の繋がりというものは枷にしかなりえないの」

ハルヒも何かを感じ取ったのか、朝比奈さんの手をぎゅっと握ったまま黙り込んでいる。

「あたしはあたしに利があるように動いているの。勿論あたし一人の為じゃあないわ。
 あたしとギブアンドテイクの関係が成り立っている人達も含めた総利が行動理念なの」
そこまで口にした直後、
「え、あれ? なんで喋れるんだろう?」
朝比奈さんが辺りを見回しつつ明らかに動揺していた。

俺には朝比奈さんの禁則判定基準は分からないが、
普段の朝比奈さんなら既に四禁則くらいは出ていそうな頃合いである。

「大丈夫ですか?」
俺の問いに、
「いえ、喋れるのなら多分大丈夫だという事なんだと思います」
胸に手を当て何やら考えていた。

121 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 13:14:27.80 ID:gc1gskJs0

再び落ち着きを取り戻した朝比奈さんはそれで歯切りが付いたのだろう。
次から次へと語り出していった。

「別に何とも思っていなかったんです、そういうものだと思っていましたし。
 利があるから動くべきだ、というのはあたしの中では当たり前の物だと概念付けられていましたから。
 それでもこの時代に来て色んな人と係って、そしてSOS団に入って色々な事を体験して……」

一瞬だけ目を伏せた後、
「それで、こうやってキョンくんやハルヒちゃんに出会って、
 そうこうしているうちに、なんだか懐かしくなっちゃって……」

なんでだろうね?

朝比奈さんはそう続けていた。
俺の見間違いでなければ彼女の瞳が潤んでいるように見えた。

俺には朝比奈さんの言葉が本当なのか、
或いは嘘なのか見抜く判断材料の欠片すら持ち得ていない。
だからこう聞くしか無かった。

「SOS団は好きですか?」

彼女は一瞬の間すら空けずに答えた。

「はい、好きです」

それで充分だった。

123 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 13:29:59.40 ID:gc1gskJs0

「じゃあ、これから数日の間……いや数日間かどうかは解りませんけど……
 ハルヒが元に戻るまで家族ってことでどうでしょうか?
 俺が親父役で、朝比奈さんが母親役で、ハルヒが子供役って事で」

「みんな年の頃は同じに見えますけどー?」

「だからこそSOS団らしくて面白いと思うんですよ」

「ハルヒは別にいいよ!」

「お前には聞いちゃいない」

「キョンくんひどいよぉー!」

「はいはい、拗ねないの、よしよし」

「みくるちゃんはやっぱり優しいね!」

「なんという母親っ子だ、お前はもう少し歯応えのある奴に育て」

「言いすぎだと思いますよ、それは」

「……すみません」

「……ごめんなさぁい」

124 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 13:32:34.52 ID:gc1gskJs0

では、ひとつだけ約束をしてください。

これから数日間だけの決まりでいいです。

その間は本当の家族のように過ごしてみたいんです。

出来るだけ一緒に居て、出来るだけ喧嘩をせず、出来るだけ仲良く過ごす。

これだけです。

どうでしょうか?

本当ですか?

やったぁ!

……あ、すみません。

コホン、ではそういうことで。

よろしくお願いします。

125 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 13:47:00.01 ID:gc1gskJs0

朝比奈さん宅に着いた時、既に辺りには夕闇が訪れていた。

未来人が住む家というとどうも高級感に溢れるマンション、
例えば長門が住んでいる所のような物を想像していたのであるが、
現実はそれとは正反対のようで住宅街の一角にある普通の一戸建てが彼女の住まいだったようだ。

「一人で住んでいるんです」

言うなり鍵を開け、暗く風景に溶け込んでいた家に明かりを灯した。

「よっと……」

俺は掛け声一つに買い物袋を廊下にあげる。
自身の両手を見ると、手に食い込んでいたビニールの跡が赤く走り、チリチリと痛みすら感じていた。

そのまま近場に腰を落ち着けていると朝比奈さんが、
「そういえば、キョンくんは家の方へ連絡はしたんでしょうか?」

しまった!

「そういえばまだでした」

アハハ、と笑いつつ携帯電話を取り出す。
まあ我が家は俺が一日程度帰って来なくとも気にはしないとおもうけどな。

そして俺は電源を入れた。

126 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 13:51:06.65 ID:gc1gskJs0

何気なくメールの受信から始めると……
新着108件?

誘われるままにメールBOXを開いた瞬間――


古泉一樹
古泉一樹
古泉一樹
古泉一樹
古泉一樹
古泉一樹
古泉一樹
古泉一樹
古泉一樹
古泉一樹
古泉一樹
古泉一樹
古泉一樹
古泉一樹
古泉一樹
古泉一樹
古泉一樹
古泉一樹
古泉一樹
古泉一樹
古泉一樹
古泉一樹
古泉一樹

131 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 14:00:55.43 ID:gc1gskJs0

俺は反射的にメールBOXを閉じた。

やがて朝比奈さんは夕食の準備をすると告げ台所へ立ち、
俺はその隣に位置する床張りのダイニングルームのテーブルに腰を落ち着けメールの件を考えていた。

何のつもりだあの野郎?
何か、あれか?
部室の出来事を根にでも持ちやがったか?
にしても手段が陰湿すぎやしないか?
確かに俺に非があるとは言え……

待て、疑うのはまだ早い。
これには何か意味のあるのかもしれない。

そう思い立ちメールの内容を探っていくが……

一通目、Toが俺で、Fromが古泉で、本文は空。
二通目、Toが俺で、Fromが古泉で、本文は空。
三通目、Toが俺で、Fromが古泉で、本文は空。
四通目、Toが俺で、Fromが古泉で、本文は空。

ハルヒが覗き込んでは、
「うわぁ、人気者じゃーん」
なんて言っているがちっとも嬉しくなど無い。

そのまま作業を続け、半分ほどを潰した所で俺は携帯電話の電源を切った。
結局、それまでの全てが空メールだったからだ。

132 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 14:16:01.49 ID:gc1gskJs0

仕方がないので俺は朝比奈さん宅にある、いわゆる”家電”を使わせて貰い、
無事に自宅へと連絡を入れる事が出来た。

その際一番に電話口に出たのは俺の妹で、
「あーキョンくん? へぇー彼女? ねぇ彼女? 私も今から行っていい?」
などと非常にネチネチとしつこかったので、
『谷口の家へ泊まると伝えておいてくれ』
適当にあしらって早々に退散させて頂いた。

そうこうしている間に、キッチンからハルヒと朝比奈さんの楽しげな声が聞こえくる事に気付いた。

再びダイニングルームに戻ると……

「うわぁー冷蔵庫の中に、もやしがいっぱぁーい」
「安くて美味しいじゃないですか」
「あたしきらーい」
「好き嫌い言うんじゃありません」

などと駄々を捏ねる子を諭す母親ぶりに早くも板が付いていたようだった。

いやいや待て待て、
「朝比奈さん、ハルヒに料理をさせていいんですか?」
「あたしもそう思ったんですけどぉ、ハルヒちゃん料理も上手みたいで……」

手伝って貰ってます、と笑顔の朝比奈さん。

いやその笑顔は心底安らぐから良いとして、どこまでスーパーマンなんだよハルヒは。

俺は再びその神性を垣間見た気がした。

133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 14:29:28.75 ID:gc1gskJs0

まあ幸せ家族計画だかなんだか知らんが、
互いに協力すると誓いあった矢先で一人だけ無粋に座っておくわけにもいくまい。

「朝比奈さん、暇なのでお風呂でも洗ってきます」

などと告げるなり、俺は早々に風呂場へと向かった。

士気上昇を兼ねて何となく、
「パパ頑張っちゃうぞー」
なんてセリフを言ってはみたが、
こんなことを口にする奴は世界を探しても三人も居ないんじゃないかと思う。
少なくとも俺の通う学校には居ないだろう。

そしてゴシゴシと……
自宅でやるよりも入念に力を込めて仕事をこなしていく。

その肉体労働に集中していると、自然と頭のほうが別の事へと向いていく訳である。

134 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 14:30:04.89 ID:gc1gskJs0

そうだ、俺が考えていたのは――


A.そういえば長門はどうしているのだろうか?
  すぐさま電話を掛けようと考えた。

B.谷口にアポ(アホでは無い)を取っとかなきゃ不味いよな。
  念には念をの精神で、電話を掛けることにした。

C.古泉のあのメールには、一体何の意味が?
  やはりあの事が気に掛かった。

D.この風呂、三人で入るには狭すぎるな……
  どうやって入るべきかを真剣に悩み始めた。

>>137

137 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 14:31:58.69 ID:86DWmXG90

C

139 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 14:44:44.94 ID:gc1gskJs0

やはり気に掛かるのはあの事だ。
古泉のメール、その一点に尽きる。

俺は風呂掃除を早めに切り上げると、
携帯電話の電源を再び入れてメールを覗き込んでいく。

もしかすると、もしかするとだ。

俺が見なかった半分側に重要な機密事項が仕込まれて居て、
それを隠すために空メールで偽装した、なんて事も考えられる。
木を隠すならば森の中などと良く言うもんだしな。

よって、今度は反対側から探っていく。

空、空、空、空、空、空、空、空、空、空。
空、空、空、空、空、空、空、空、空、空。
空、空、空、空、空、空、空、空、空、空。
空、空、空、空、空、空、空、空、空、空。
空、空、空、空、空、空、空、空、空、空。
空、空、空、空。

はい、俺の思い違いでした。

140 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 14:45:48.05 ID:gc1gskJs0

それによくよく考えてみると、108通という数自体が気味悪い。
人の欲だかなんだかの煩悩の数と一致している。

ああつまりあれか。
僕はこんなにも煩悩に塗れてますよ、という意思表示か?


……いや、流石にそれは曲解しすぎだろう。


あいつはそんな人間ではない、何故かそういう確信めいたものがある。
或いはただ単に俺がそう信じたいだけなのかもしれないが。

つまり答えは単純にして明快。

俺が古泉に電話を掛ければ良い、それだけだ。

143 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 14:58:17.35 ID:gc1gskJs0

俺は思い付くよりも早く、古泉一樹のメモリーを呼び出しダイアルを……

掛けたつもりだった。

が、掛からない。

耳から離しディスプレイ上を覗くと圏外の文字が表示されていた。

なるほど、風呂場の壁は厚いからな。

実際の理由は分からないが、先ほどメールの受信を行った玄関へ行けば繋がるのは確かであろう。
そう思い玄関へ移動した俺は、ある意味予想通りと言うべきか立ち往生することとなった。

圏外。

どういう事だ?
この辺りの中継局は時間帯で動いているとかそういうシステムか?

だが俺も諦めはしない。

今度は朝比奈さん宅の受話器を取り上げ――

そのまま受話器を置いた。

畜生、何故だ?
何故、電信音がしない?

つまりこれは……電話回線が切られているという事なのか?

145 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 15:05:49.22 ID:gc1gskJs0

俺はすぐさま線を辿っていく……

有る。
とすれば外か?

すぐさま玄関で靴に履き替え――


A.しかし俺は躊躇し、そのまま鍵を掛けて台所へと戻った。

B.扉を開け放ち、外の様子を窺った。

>>148

148 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 15:09:42.01 ID:DwLeJ+s50

1

149 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 15:17:44.02 ID:gc1gskJs0

罠だ。

直感的にそう感じ取った。

大体このタイミング電話線が切れる事自体おかしい。
俺達が家へと帰り付き、それからすぐに妹へ掛けた時には確かに繋がっていた。

それが今になって繋がらない?

明らかに意図的な何かを感じる。
もしかすると……そう、誰かを誘き出そうという罠。

この場合、自宅に連絡を入れなければならない可能性の高い俺か、或いはハルヒ。

……いや、それは考えるすぎか?
自然的な何かによって引き起こされた偶然という可能性もゼロじゃあない。

が、しかしだ。

ハルヒの現状。
古泉のメール。
そしてこの事態。

全てが偶然で片付けられるほどに、俺はおめでたいやつではない。
気を付けておくに越したことはないだろう。

俺は入念に玄関の二重鍵とチェーンを掛けるとすぐさま台所へと戻った。

152 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 15:35:05.08 ID:gc1gskJs0

ダイニングルームに戻るなりキッチンから、

「御飯できましたよー」
「できたよぉー」

お前等はもう少し危機感を持ってくれ。
と言おうかと迷ったものだが、
無駄に恐怖を煽って恐慌状態にでも陥られると却って危険なのかもしれない。

それが狙いの可能性もある。

……畜生、推測しか出来ないのが悔しいぜ。
どこぞの機関やらスーパー宇宙人ならば顎の一刳りだけで解決しそうな問題なのに。

などと無いもの強請りをしたところで、連絡手段の断たれた今では事態の進展などある訳も無い。
俺に出来る事はせいぜい油断をしないことくらいだ。

それにしてもこうなると解っていたのなら、予め長門にでも相談しておくべきだった。

長門?
そういえばあいつは今日部活に顔を出さなかったな?
何故だろうか?

いや駄目だ、疑問ばかり浮かべたところで埒があかない。
とにかく今は目の前のことに集中しよう。

153 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 15:36:57.93 ID:gc1gskJs0

ここまで書いて冒頭部に長門を出して居なかった事を再確認 まる

155 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 16:02:53.82 ID:gc1gskJs0

「二人で作りましたー」

朝比奈さんがお盆に載せて運んできたのはスープだった。
仄かな琥珀色の液体の中に、キャベツやニンジン、ベーコン、そして大量のもやしが入っている。
つまりは野菜スープのようだ。
コンソメの香りが心地良く、やはり上品な方が作られた創作物はまた上品なのである。
などという格言を生み出させんと俺に感慨を与え……ああ、こんな事考えてる場合じゃねぇや。

ダイニングテーブルに配膳を行っている朝比奈さんの遥か後方で、
何やらもたもたと鍋からお椀へと注いでいたハルヒが、波に揺れる船のような形でようやくにしてそれを運んできた。

「ミネストローネー」
赤銅色のスープの中にはニンジン、キャベツ、ジャガイモ、タマネギ、そしてやはり大量のもやしが入っている。
っていうかそこ、使ってる素材が明らかに使い回しな上に何故汁物に拘る。
あともやしは混ぜればいいってもんじゃあないだろう。

とはいえブイヨンベースのややキツい香りは真に食欲誘われるもので、
何より料理などインスタント物しか作らない上にその手順すら端折る俺にとって、
朝比奈さんとあとハルヒの手料理を食べられるこの事態は正に何物にも替え難い至福の一時となる事に間違いない。

などと実に長々と語ってしまう程に俺は感激していた。
改めて考えてみると、この状況は一般男子高校生が決して体験することのできないほどに貴重なものではないのか?
なにしろ銀河一お美しい朝比奈さんと、あとハルヒなのだから。


おっとと落ち着け、自我を保て。
油断はするなよ俺。

などと考えつつも、ちゃっかり御代わりまで御馳走になっていたのは言うまでも無い。

156 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 16:18:20.40 ID:gc1gskJs0

わいわいと会話を交えながらの夕食は実に楽しく、
「あ、それでは洗い物は俺がやっときますんで」
と強引に女性陣二人組を先にお風呂へと押し込んだ現在までの時間の経過速度は、
普段の体感から比べると実に3.5倍だか4倍だかに感じられ、
それによって養われた俺の精神力的な何かは正に最高潮に達していた。

つまり俺は今、鼻歌一つでも歌いたいような気分であった。
のだが……

カチャカチャと音を立てながら食器同士が擦れ合い、その音が静かな室内に響き渡る。

意味も無く背後を振り返る。

再び洗い物を開始する。

またも背後を振り返る。

その繰り返しだった。
誰かが近くに居なくなった途端、こうも面白いほどに不安に陥るとはな。
我ながら情けない。

三国志で例えるならば文醜なみに謀略に引っ掛かり易いともいえる。
いや、却って分かり難いな。

ともかく洗い物を終えた俺は、
居間へと戻りゴロンと寝転がって朝比奈さん達の登場を今か今かと……

158 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 16:28:37.79 ID:gc1gskJs0

――ハッ!

すぐさま身を起こした。

見回す。

ここは何処だ?
ここは……そうか、朝比奈さんの家か。

納得すると再び片頬を畳へと付け……

「しまった!?」

完璧に寝入っていた。
畜生、何をやっているんだ俺は。
役立たずにも程があるじゃないか。

丁寧にも俺の背に掛けられていたタオルケットを、反射的に三つ折りに畳んでいく。

今何時だ?
時計は、時計は……そうだ、テレビを付ければいい。


直後、テレビ画面左上に映し出されていた時刻にも、確かに俺は驚いていた。

ああ驚いていたさ、予想以上にしっかりと睡眠を取っちまってたからな。

だが何よりもそのニュースの内容。

それに対し、俺は自我を失いそうになるほどの衝撃を受けていた。

161 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 16:53:51.50 ID:gc1gskJs0

見出しはこうだった。


バラバラ殺人”かまいたち事件”。


『上空の美樹本さーん! 現場の様子は如何でしょうかー?』

アナウンサーの呼びかけ、それにリポーターの回答。

テレビ画面j上には6:45の時刻と共に、上空を飛ぶヘリコプターからの映像が映し出されていた。

紺色の瓦で覆われた住居。
その隣には赤茶けたトタンの屋根。

知っている、そのトタンの建物は、倉庫なんだよな?

さらに画面がアップ。

紺色のほうの建物、その二階部分。
その窓を覆うように真っ青なビニールシート。

これは……これは、嫌だ、聞きたくない。

しかしアナウンサーは淡々と告げていく。

被害者は……

163 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 16:55:13.22 ID:gc1gskJs0

『被害者は谷口――』


その日、谷口が死んだ。


まるでかまいたちにでもあったかのように全身を切断され、ひと目では判断できない状態だったという。

驚くべき事に、命を落としたのは谷口だけに留まらなかった。

谷口の家から1キロは離れた地点にある国木田の自宅、その自室。

そこで国木田が発見された。

言うに及ばず、バラバラに切り裂かれ、原形を留めていない姿でだ。

182 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 21:58:09.15 ID:gc1gskJs0

淡々と繰り返されるニュースを呆然と眺めていた。
それから程無くしたころに、俺の頭の中である直感が働いた。

まさか、朝比奈さんの達の身にも何かが?

限りなく悪い予感。

居間を飛び出し廊下へ出て見回しつつ頭の中を整理する。
この家の地理状況は分からないが、
ぱっと見と昨夜の分の情報で一階には風呂場、ダイニング・キッチン、居間、座敷などが少なくともある。

となれば寝室は二階にあると考えるのが妥当。

階段を素早く上り、手当たり次第に扉を開いていく。

ガチャ。
空室か。

ガチャ。
この部屋は物が雑多に積まれているだけ。

ガチャ。
カーテンが引かれ薄暗いだけで何も無い。

残るは……廊下の突き当たりにある一つの扉。

残るはここだけか。

184 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 22:09:23.88 ID:gc1gskJs0

いやに緊張する。
その理由を探そうとするがその要因の欠片を上手く掴めない。

いや、一つだけ掴めた。
今まで様々な目には遭って来てはいたが死人が出た事などなかったのだ。
朝倉の件はそれに近いが、あまりに突拍子も無かったから含めて考えてはいない。

それが今回、俺の身近にいる……
クラスメイトに毛が生えた程度の仲だったが畜生、あの二人が命を落としている。

お前等には悪いが俺はいま一時だけ、そのことを忘れさせてもらう。

息を整える。

ノブに手を掛ける。


そして――


A.「朝比奈さん、大丈夫ですか?」
  俺は声を掛けつつ戸を叩いた。

B.「朝比奈さん、入ります」
  声と同時に扉を開けた。

C.「……」
  何も言わずにゆっくりと扉を開いた。

>>187

187 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 22:17:08.67 ID:2Wj8KGX70

A

188 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 22:35:20.42 ID:gc1gskJs0

「朝比奈さん、入ります」
そのままノブを捻って中に入る。

部屋の奥のベッドの上、そこに彼女は居た。
そのすぐ隣で抱き合う形となってハルヒも添い寝している。

手足が無かったりはしないかなどと不吉なことを考え、
その様子を注意深く観察していくが……

薄いピンク色のネグリジェ姿の朝比奈さんに特に異常は無く、
朝比奈さんから借りたのか、半袖にハーフパンツ姿のハルヒにも特に異常は見当たらなかった。

大丈夫のようだ、体が僅かに上下しているところからも常態であると解る。

「あの、朝比奈さん。起きてください」
返事が無い。
「朝比奈さん、起きてください!」
やや強めの口調で言い直すと、
「ひゃい……」
と呟いて顔をこちらへと向け……

そのまま沈黙した。

190 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 22:40:46.27 ID:gc1gskJs0

それからようやくして、
「えっ、キョンくん!? なんでここに!? 今何時ですか!?」
「すみません色々あって……あ、時間は7時、5分前ってところです」
慌てふためく彼女に告げると、
「いえ、あの、いつもは6時30分くらいに起きるんですけど、そのたまたまなんです。
 疲れてたみたいで、そうだ、いつもはこんなんじゃないんですよ!」
意味不明に支離滅裂に何か言い訳のようなものを聞かされる。
そのやり取りの合間もハルヒの奴はスヤスヤと寝息を立てているようだ。

はぁ、などと曖昧に返事をしていると、
「ごめんなさいすぐに支度しますから、その、とにかく着替えますから……!」

バタン。

そのまま押されるようにして部屋から追い出されてしまった。

まあともかく、何事もなくて良かったと俺は胸を撫で下ろしていた。

191 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 23:00:44.00 ID:gc1gskJs0

昨夜はそのまま寝てしまったんだったな。
そう思い立ちシャワーを浴びようと風呂場に向かう。

やがて脱衣籠に脱いだ服を放りこもうとして、そこで気付いた。

そういえば俺、着替えを持って来ていないぞ。
カッターシャツは脱いでいたが、その下に着ているシャツは汗ばんでいる。
これは一旦、家に帰らなければいけないな。

今後のプランを軽く計算しつつ風呂場の扉を開けると、
「むおっ」
と口で表してしまうほどに湿気が籠っていた。

気持ちの悪い感覚を早く消したかったので、そのまま蛇口を捻り熱いお湯を頭からかぶる。

ザァー……

という音は、自然と意識の覚醒を促す作用があるのか、
俺は頭が冴えわたっていく感覚を覚えていた。


……谷口達のことを、どう伝えるべきだろうか。
体を伝う水に身を委ねつつ、俺はそればかりを繰り返し考えていた。

193 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 23:18:24.49 ID:gc1gskJs0

結局俺は特に策も持ち得ないまま、朝比奈さんに事実を告げていた。
偶然にもつけたテレビからいきなり不幸が流れ出して来るより、
俺の口から細部は隠してただ、”死んだ”とだけ伝えておくほうがいいと思ったからだ。

それから各々が準備を行い、登校することとなった。

三人で肩を並べて歩く場面を見られたりすればどういう噂が立つか……
などと野暮なことに気を配っては居られなかった。
そもそも学校中は今、別の話題で持ち切りであることに違い無い。
そんなことはいいんだ。

そんなことより俺が引っ掛かるのはなぜ谷口が殺されたのか……
そしてそれ以上に谷口達の殺され方なんだ。

全身をバラバラに切断だって?
隠蔽などの意図がある場合にはまだ行動理由が解るが、
なぜ自室に置いてわざわざ小分けにする必要があるんだ?

いや、そうではない。
少なくとも普通の人間にはこの犯行は不可能だとしか思えない。

これは何を意味しているんだ?
一体、俺はどうするべきなんだ?

いや、相手がまたも人外だとするとだ。
それは必然的とも間接的ともハルヒに繋がり、さらに、その近くに居る俺へとも繋がる。
もしかするとあの時、俺が冗談で古泉に言った言葉が起因しているのか……?

くそ、何がどうなっているんだ、畜生。

194 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 23:31:06.08 ID:gc1gskJs0

昨夜の残りは平らげてしまったので、
今朝の朝食はトーストと目玉焼きとサラダ、それにもやしと簡素だったな……
などと現実逃避しそうになっていた心を奮い立たせ、
「朝比奈さん、それにハルヒ」
それぞれがそれぞれに口数少なく歩いていた中、俺は二人に訊ねる事にした。

「なにか、気になる事とかないか?」

朝比奈さんは俺の質問の意図を察してくれたようで、
すぐに、じっと視線を落として考え始める仕草を見せた。
ハルヒもハルヒで明るかった表情(ハルヒには谷口達の事を話していない)を顰め、
朝比奈さんと同じような動作を見せ頭を捻っていた。

何らかの手掛かりでもいいので得られないだろうか。
そんな僅かな期待に思いを寄せ、俺は二人が口を開くのを待っていた。

197 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/28(月) 23:47:03.59 ID:gc1gskJs0

やがて朝比奈さんは、
「あたしが気になるのは秘密が喋れるようになっていたことでしょうか?
 その、本当に自分でも驚いてますし……」
秘密と言うのは”禁則事項”の隠語なのだろう。
「他には?」
俺は促す。
「え、その……他には別に……」
「些細な事でも構いません」

その問いに額を抱えるようにしていた彼女は、
昨日はもやしが普段よりも安かったとか、今朝遅く起きたのは疲れていたからだとか、
服が一着無くなっていたようなとか、下着泥棒が居るのかなだとか、そういえば教科書も無くなっていたようなとか、
長門や古泉はどうしたんだろうとか、玄関の鍵は掛けたっけとか、そういえば電気は……

実に些細すぎる不審な点を次から次へと口にしていた。

「ありがとうございます」
俺は取り敢えずその音による波状攻撃を制し、
「ハルヒ、どうだ?」
頬に手を当てていたもう一人に促した。

彼女はひとしきり唸った後、
「みくるちゃんの寝顔が可愛かったよ!」
場に不釣り合いな満面な笑みを浮かべていた。

まあ、ある意味ではその空気の読めなさに救われたような気がするのも事実であるが。

198 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/29(火) 00:04:00.20 ID:8AfCEni90

やがて程良く歩き、同じような学生で溢れている場所まで来た所で、
「すみません、一旦家に帰って着替えてきます」
俺はそれだけを言うと二人の元から走って離れた。

ここまで来れば何かに襲われるの心配も無い……
いや、俺達が襲われるかどうかは全く以って定かではないが、
少なくともこの真昼間の人通りが多い場所で何かを起こすほど”ソレ”も馬鹿ではないはずだ。

とはいえソレが何なのか、人なのか、単数なのか、はたまた複数なのかすら知り得ないが、
日照時の明るさが心を自然と平静に保ってくれるためか、不思議と嫌な感じはしなかった。


そのまま俺は軽く走るようにして普段の登校路を時間までもを遡るように逆走し、家の前にまで辿り着いのだ。


それから家の戸を開き、ただいまーと口にしようとした俺だったが、
その動作は扉の向こう側に岩のように待ち構えていた人物によって一瞬で制止させられ、
代わりに、

「おかえり、少し話を聞かせて貰っていいかな」

玄関に腰掛けていた男が悠々とした動作で警察手帳を俺の目の前へと突き出したのだった。

201 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/29(火) 00:38:45.44 ID:8AfCEni90

小林二郎。
男はそう名乗った。
年齢は45で階級は巡査部長だ、と手帳を見せつつ説明している。

先に情報をひけらかすのはこちらの情報を引き出す為のテクニックか?

などと訝しげにしている様子を嗅ぎ取ったのか、
「君が昨夜何をしていたのか訊ねたい、嘘は身の為にはならないよ」
朗らかな笑顔を向けてくる。

小林の肩の向こう側、
つまりは玄関から上がった先で俺の母親が心配そうにこちらの様子を窺っていた。

そうか、そういえば昨夜俺は谷口の家に泊まると嘘を吐いていたから……
しかし極力、朝比奈さんの事を口にしたくはない。
はっきりとした理由は特に無いが、未来人である彼女に迷惑がかからないだろうか?
少なくとも一般人である親を巻き込むべきことではない。

となると、どうするべきか――

A.「とりあえず、俺の部屋へ行きませんか?」
  部屋へ誘う事にした。

B.「学校が始まりますし、今急いでいるんです。後にしてください」
  俺は踵を返すことにした。

C.「俺は何もしていないし何も知りません」
  適当にあしらうことにした。

>>207

207 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/29(火) 00:51:11.30 ID:/ri8tpcW0

A

204 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/29(火) 00:43:24.25 ID:8AfCEni90

この辺からようやく前半のgdり具合が活きてくるけど、
ちょっとだけ席を空けにゃならないので何となーく怪しい点などに目でも付けてみるといいかも

214 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/29(火) 03:40:35.12 ID:8AfCEni90

やはり俺の部屋だ。
少なくとも、ここで話をするより断然ましだろう。

仮に刑事だけになら朝比奈さんと俺の”一般的”な関係を明かしても守秘してくれる可能性が高い。
そもそも未来人が居るなどという今の俺ですら信じ難い状況は、
普通の頭をしていそうなこの刑事にはこちらがわざわざ話すまでもなく疑問にすら持たないだろう。

……この刑事が、一般人なら、な。

「よくわかんないんすけど、ここじゃ面倒なんで俺の部屋でいいですか?」
努めて一般的な高校生を演じてみる。
「分かった」
小林刑事が短く答えた。

そのまま二階へ上がろうとしたが、やはりと言うべきか母親まで着いてきている。
何と言って追い払おうかと考えていると、
「お母さん、すみませんが我々にも捜査上の掟というものがありまして……
 話を伺う場合には一人一人、別々に、というのが決まりなものでしてね。
 なあに心配は要りません、我々は全ての可能性を探っているだけですので」
俺の代わりに、しかも割と説得力を感じさせる物言いで追い払ってくれた。
やはり手帳を持った人間がこういう事を口にすると印象が違うな。

しかし、一人一人を別々に聞いていく、
というのは複数犯を補導した後の取り調べの場合ではなかったか?

そんな疑問が浮かんだがここで蒸し返して親に不審がられるほうがよっぽど不味い。
俺はそのまま振り返らずに自室へと案内することにした。

216 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/29(火) 03:52:45.07 ID:8AfCEni90

「いやぁ、こんな忙しい時間帯にすまないね」
小林刑事は俺の部屋へ入るなり部屋全体を見回していた。
「いえいえ、仕事なんですから仕方ないことだと思いますよ」
俺も友好的に返す。

大丈夫だ、別に焦る必要など無い。
そもそも俺は何も後ろめたいことなどやってはいないのだ。
ただ谷口の家へ泊まる、という仮初の嘘が招いた結果なのだろうから。

だけれど朝比奈さんの家へ宿泊していた、
なんて事は男子高校生の身としては極力隠しておきたいものだけどな。

刑事という生き物は仕草や目の挙動、息使いなどからも嘘を見抜くと利く。
ペースに乗せられないようにする為にも俺が主導を握らなくては。

だから――


A.「あのー、実は家に着替える為に戻ってきたんですよ」
   服を着替えることにした。

B.「暑いですね、麦茶でも持ってきます」
   疑問文では無く、強制の意を込めて言った。

C.「では早いところ本題に入ってください、無遅刻記録は破りたくないので」
   早々に話を切り上げる呈で挑発的に挑んだ。

>>218

218 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/29(火) 03:57:38.32 ID:OSuUXZ1eO

A

219 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/29(火) 04:07:11.00 ID:8AfCEni90

危うく当初の目的を忘れてしまうところだった。
思い出した途端、身に付けていた服がやたらジメジメとするものに感じられて来る。

「あのー、実は着替える為に家へ戻ってきたんですよ」
「おーそうだったのかい」
小林刑事は顎に手をあてたまま、わざとらしく目を見開いた。
俺は構わず、
「先に着替えてもいいですか?」
返事を聞くよりも早く服に手を掛け強制の意を示す。
どーぞどーぞ、などと呑気な彼を残し黙々と着替えていると……

「なかなかいい体つきじゃあないか」


俺は――


A.「SOS団という部活動で日々鍛えられていますから」
  思い付く要因を答えた。

B.「別に、特に運動をしている訳でもないので生まれつきです」
  そのまま受け流した。

C.「えっ……」
  なんでだろう、不覚にもドキリとした。

>>222

222 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/29(火) 04:12:50.02 ID:aD6BVbwT0

C

224 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/29(火) 04:24:38.36 ID:8AfCEni90

「えっ……」
俺は思わずドキリとした。

小林さんの優しい声色。
包容力に溢れた肉体。
そして知性。

改めて認識し、意識して眺めるとまるでそれはパーフェクトな人間。
宇宙人、未来人、超能力者……

それらを越える神秘が今俺の目の前に有る。
ついに俺は長い間追い求めて来たであろう不思議を見つけてしまったのだ。

俺のめくるめく思考と歓喜を知ってか知らずか、
小林さんはシャツのボタンをひとつひとつ外していき――


――如何かな?


何もかもを温かく包みこむオーラを放っている。

「はい……喜んで……」

即座に俺は、彼の全てを受け入れていた。


                                   終

225 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/29(火) 04:24:58.31 ID:8AfCEni90

                − 光陰篇 −

              『求めていた不思議』

230 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/29(火) 04:33:25.83 ID:8AfCEni90

急にうほっというレスがきたので


でも、ここまで来て投げたりはしないので、5分後に粛々と再開という事で

235 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/29(火) 04:39:20.10 ID:8AfCEni90

危うく当初の目的を忘れてしまうところだった。
思い出した途端、身に付けていた服がやたらジメジメとするものに感じられて来る。

「あのー、実は着替える為に家へ戻ってきたんですよ」
「おーそうだったのかい」
小林刑事は顎に手をあてたまま、わざとらしく目を見開いた。
俺は構わず、
「先に着替えてもいいですか?」
返事を聞くよりも早く服に手を掛け強制の意を示す。
どーぞどーぞ、などと呑気な彼を残し黙々と着替えていると……

「なかなかいい体つきじゃあないか」


俺は――


A.「SOS団という部活動で日々鍛えられていますから」
  思い付く要因を答えた。

B.「別に、特に運動をしている訳でもないので生まれつきです」
  そのまま受け流した。

◆C.「えっ……」
    不覚にもドキリとした。

>>236

236 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/29(火) 04:40:52.13 ID:OSuUXZ1eO

B

238 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/29(火) 04:50:39.23 ID:8AfCEni90

「別に、特に運動をしている訳でもないので生まれつきです」
無駄に情報を与えないように努めたほうがいいな。
俺は考え、受け流すことにした。

「ところで、先ほど君が言っていた事だけど」
小林さんが在らぬ方向を向いたまま語りかけてくる。
「服を着替えに、だったかな?」
「はぁ……」
なんだ、何が言いたい?

「となると、昨日はよっぽどお急ぎの用だったんだね。家に帰る暇も無いくらいに」
さらにこちらを向き直り、
「君が割と几帳面な性格だということは、既に親御さんからも聞いているよ。
 見たところこの部屋も纏まりがあって統一感が感じられるようだしね」

こいつ……。

俺の睨み付ける様な心内とは裏腹に、彼は和やかに微笑んでいた。

240 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/29(火) 05:05:28.51 ID:8AfCEni90

「昨夜、どちらに居られたのですかな?」
いやに丁寧な口調で語りかけてくる。
「谷口の家には行ってませんよ」
俺は答える。
「おや、谷口君の事を知っていたのかい」
「ええ、ニュースで見たので」

その後彼は一拍を置き、
「無惨だったなぁ、私も長年刑事をやっているが、あんな仏さんは見たことがなかった」
思い出すように床を見つめていた。
「どういう状態だったんですか?」
なにか手掛かりが掴めるかもしれない。

またも彼は一拍を置いてから低い声で、
「ほぅ、こういう事に興味がおありかな?」


A.「いえ、そういう訳じゃ……」
  俺は深入りは不味いと思い、遠慮した。

B.「友人の事ですから、聞かせてください」
  俺はやはり聞いておくべきだと考えた。

>>242

242 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/29(火) 05:06:55.42 ID:/ri8tpcW0

B

245 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/29(火) 05:27:36.34 ID:8AfCEni90

「友人の事ですから、聞かせてください」
手掛かりは少しでも得たい、やはり聞いておくべきだ。

「なるほどな」
小林刑事は三度ほど頷くと語り出した。

「全身がバラバラなんだよ、それも極度に鋭利な刃物で一太刀のもと斬り伏せたかのようにね。
 仮に素人が日本刀なんかを扱ったとした場合、
 何度も斬り付ければ必ず斬り抜けなかったりして体がズタズタになるんだ。
 しかしそういう痕跡が全く見当たらない。
 それでいて全身を大きな関節毎、つまり膝や肘や首だね、に刻み分けられているんだから――」


――僕は正直、本当に”かまいたち”のような物の怪や、
   人間じゃ無い何か、或いはそれに準ずるモノが犯人じゃないのかとすら感じている。


「こういう考え方、刑事としては失格だろうけどね」
苦みを含んで笑っていた。

俺はその話に、いや、小林刑事の語る姿を凝視していた。

本場ものの刑事に人外なんて言葉を吐かせるとは、
これはいよいよ俺達SOS団が相手にしてきたような怪現象で確定するべきなんじゃあないのか?
それとも本当に”かまいたち”なるものが現れたとか?

今のハルヒが果たしてそれを望むとは思えない。
あいつは突飛な行動とは反して、案外常識的な思考を持っていたはずだ。

だとすれば何だ、宇宙人だか未来人だか超能力者だかの目論見のもと動いているのか、この事態は?

261 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/29(火) 06:52:01.65 ID:8AfCEni90

被害者は谷口以外にも国木田が居る。
となれば、その辺りから複数犯なのかどうかが割り出せるかもしれない。

「谷口と国木田、両方とも同じ手口だったんですか?」
俺は率直に訊ねた。
「その通りだな、国木田君もばっさりと細切れに……バラされていたよ」
「なにか違いなどは?」
「違い? ……そうだな。
 手口自体に変化は見られなかったが、谷口君のほうは部屋全体が荒らされていた。
 遺体の破片が散乱するとと共に、まるで地震でも起こった後のように部屋全体がひっくり返っていたよ。
 国木田君のほうはまるで眠ったままバラされたかのように大人しく、
 その様はベッドの上に広げられた人間ジグソーパズルが完成した状態だったという所だ」

どう考えても異常すぎる。
だがしかし何とか複数犯なのかどうかを見分けるくらいは出来ないだろうか?
となれば……そうか。

「二人ともに関する、大体の犯行時刻などは?」
「深夜だというのは確定済みであるが、遺体の状態が酷過ぎる為に大体2時以降だとしか……
 だが谷口君のほうが先にバラされており、国木田君がその後のようだ。
 時間にして半時から一時間程度の開きが見受けられている」

谷口の家から国木田の家まで約1キロ。
走りで移動したとしても10分もあれば余裕の距離。
そんなに開きがあるんじゃ、判別には使えないか、くそ。

247 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/29(火) 05:41:24.47 ID:8AfCEni90

俺が黙って考え込んでいたところ、
「じゃあ、私はこれで御暇するとしよう」
小林刑事が立ちあがっていた。

「ちょっと待ってください、さっきの質問に俺は答えてませんが?」
冷静に考えればしないほうが良かったであろう質問を俺が口走ると、
「朝比奈みくるさんの所へ遊びに行っていたんだろう? うむ、感心はしないが解らないでもないぞー」
ニヤニヤと今度は高らかに笑っていた。
「どうして……?」
「君は携帯電話を所持しているだろう? それがどうやって通信を行っているか考えた事はないのかい?
 携帯電話というものは微弱な電波を常に発信しているから時間帯毎の行動が解るんだよ。
 そして我々には捜査上の理由で利用する権利もある。悪いが予め調べさせてもらっていたんだ」

道理で俺の親を追っ払ってくれた訳かよ。
嫌な所で気が利く人だ。

「ともかくだ、先ほど言った通り君にあの犯行が行えるとはとても思えないしな。
 とはいえこちらも手詰まり状態で全ての可能性に探りを入れなきゃならん。
 ……そうそう、これからは偽証の電話で親御さんを心配させないようにするんだぞ、少年」

それだけを口早に告げると、
「うートイレトイレ」
彼はトイレを求めて小走りになっていた。

249 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/29(火) 05:54:43.00 ID:8AfCEni90

すっきりした顔でトイレから出て来た小林刑事に麦茶を手渡す。

「すまないねぇ、夏場の捜査は身に堪えてな」
ぐいっと腰に手をあて、喉を鳴らして一気に流し込んでしまった。
「大丈夫ですか、お腹冷やしますよ?」
「心配ご無用、私はまだまだ若いからな!」

この人は案外お調子者なのかもしれない、なんて今更にして思ったりな。

シャツをパタつかせていた小林刑事は思い出したように、
「そうそう、そういえば私の娘が居るんだがな、それが君の妹さんと同じ学校、同じ学年なんだ」
変な所で繋がっているものだなと俺は何故か感心しつつ、
「そうなんですか」
と極めて有り触れた常套句を返す。
「”真理”っていうんだ、”しんり”と書いて”まり”だな。いい名前だろう?
 こういう仕事柄あまり構ってやれなくてな、良かったらお兄ちゃんも遊んでやってくれ」

その後も暫く、
『将来は山小屋にペンションを構えて宿泊施設でも作りたいと思ってるんだ』
などという自分語りに捜査の時以上に熱を入れ将来設計象を聞かされていた。

250 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/29(火) 06:05:15.47 ID:8AfCEni90

「それじゃあ、お世話さんでした。捜査のご協力に感謝しとります」
小林刑事が母親に頭を下げ、俺も、
「それじゃ行ってきます」
共に玄関を跨いだ。

外は登校時間をとっくに超えており、
遠くから10時を告げる鐘の音が俺の無遅刻記録が敗れ去った事を告げていた。

「まあそういう事でだ、私は街の平和を守るのが仕事な訳だな」
「それはもう三回目ですね」
「そうだったかな?
 まあいい、だからもし君が犯罪に走るようであれば、妹の友人であっても容赦はしないぞ?」
おっさん臭く微笑みながらも眼には鋭い光が灯っているその問いに、
「肝に銘じておきます」
片手を挙げつつ笑いながら答える。

そして別れようとした時――

「そうだ、その朝比奈さん宅に他に人はいなかったのかのかい?」

小林刑事が訊ねて来た。

251 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/29(火) 06:06:19.79 ID:8AfCEni90

俺は即座に判断し、


A.「涼宮ハルヒも居ました」
   正直に告げた。

B.「いえ、他には居ませんでした」
   ハルヒに関しては隠した。


>>258

258 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/29(火) 06:22:45.13 ID:zMBFKkAx0



262 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/29(火) 07:04:28.76 ID:8AfCEni90

>>258

やはりここまで来て嘘は吐けない。

「涼宮ハルヒも居ました」
俺は正直に告げる事にした。

「ほう、三人連れだったのか」
小林刑事は一頻り唸りを上げた後に、
「すずみや……はるひ……」
その言葉を確かめるように首を捻っていた。

「では、俺はこれで。暑いので体の方には気を付けてください」
軽い会釈を送る。
「私はまだまだ若い! 君こそ暑さに頭がやられないようにな!」
彼は再び朗らかな笑みを零していた。


その後お互いが背を向けるような形で別れ、
ようやくして俺は、学校へと登校できるようになったのである。

266 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/29(火) 07:31:05.39 ID:8AfCEni90

学校へと到着したのが10時20分少し前。
このまま授業中の室内へと飛び居るのは些か躊躇われたので、
俺は10時50分からの3校時目と4校時目の合間休みまで時間を潰すことにした。

といってもアテなど無かったので、結局は部室へとやって来た訳である。

生徒が出払って見事に静まり返っている部室棟の空気に若干の恐怖感を抱きつつも、
俺が俺による俺の為に淹れたお茶を啜り……
で、やっぱり汗を掻くから飲むのは止めた、なんてやり取りを交わしていた。

一人で。

本当は部室に来れば長門の姿を見つける事が出来るんじゃなかろうか、
などという一縷の望みを勝手に託していたのだが、その俺の考えはどうやら甘かったようである。

当然の如く手持無沙汰となってしまった俺は、
「この暑さの中でマインスイーパーなんてないよなー」
という一人ツッコミを入れつつもパソコンを起動させていた。

298 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/29(火) 15:51:20.08 ID:8AfCEni90

俺の視線は闇色のディプレイ左上端に釘付けとなっていた。

電源を入れたのにハードディスクが回転する音が漏れてこない、
なのに簡素な文字だけがディスプレイ上に、ただ静かに、浮き出てくる。

それが一文字一文字形となっていく度、
俺の中に強烈な既視感と、そして安堵感が込み上げてきていた。


YUKI.N> pass word :


居た。
やはり長門は居てくれた。

なぜ長門本人から直接ではなく、こうやって廻りくどい手段なのかは不明であるが、
この仕掛けは彼女本人のものとみて間違いはないだろう。


すぐさまその文字列を意味として読み取っていく。
パスワードを要求されているらしいな、と俺が気付くのにコンマ5秒も要しなかった。

俺はすぐさま――

299 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/29(火) 16:00:18.96 ID:8AfCEni90

――sleeping beauty


一文字一文字確認し、慎重に打ち込んでいく。
いつぞやの時のように、もしかすると実行は一度きり、なんて事態に備えての俺なりの配慮だ。

やがて己自身が打ち込んだ文字列を眺め、スペルミスが無い事も確認した。

俺は待ち望んでいた人物の登場に、文字通り心の底から安心していたのだ。
たった一日ぶりでさらには文字だけの触れ合いだというのに、懐かしさをも感じ取るほどに。

ようやっと決心がついた俺は、逸る気持ちを抑えてエンターキーを押した。

302 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/29(火) 16:11:38.56 ID:8AfCEni90

YUKI.N>貴方がこれを読んでいるということは、既にわたしは居ない事になる。


俺は点滅するカーソルが一気に叩きだした文字列に目を瞠った。
俺がこれを読んでいる時に、長門が既に居ない?
つまり今現在、長門は居ないのか。

……なんだって?

不吉な予感が俺の全身を包みこんでいく。
まさか長門が……?


YUKI.N>この文章は、わたしによって予め仕込んであったもの。
      従って貴方がこれを見るまでの間にいくらかのタイムラグが発生している事を考慮して欲しい。


淡々としたテンポで文字が表示されていく。

そして長門が、文章を通して語り始めた。

304 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/29(火) 16:24:52.38 ID:8AfCEni90

今回の件と密接に係わりがあるのは涼宮ハルヒの症状。

古泉一樹は、早々に涼宮ハルヒを正常に戻すべく貴方に提案していた。
わたしも、わたしが率先して解決を図るべきだと考えていた。

しかし貴方は違った。

敢えて力を持たない一般人のクラスメイト二名の名前を挙げ、古泉との交渉を破局させた。

その真意はわからない。
けれど、わたしは貴方の考えに乗ってみるべきだと考えた。
元来わたしや情報統合思念体は、涼宮ハルヒを観測することが目的なのだから。

わたしが有事の際、涼宮ハルヒ以外に起こり得た異常を修正するのは当然のこと。
それは今までに降りかかってきた様々な出来事と、その解決法から貴方自身も知っているはず。

でも、涼宮ハルヒ自身に起こり得た問題は扱いが難しい。
例外の観測、それは情報統合思念体にとって非常に有用。

だからわたしは、わたしという個体は


そこまで来て点滅するカーソルが立ち止まり、伴ってここまで連続的に表示されていた文字列の更新が滞った。
それにより俺は、どうやらこの文字列群は長門がリアルタイムで打ち込んだものであり、
何らかの手段でその様を録画したものを表示しているらしいということに気が付いた。

306 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/29(火) 16:36:47.32 ID:8AfCEni90

だからわたしは、わたしという個体は迷った。


古泉一樹は世界が平穏であり続ける事を行動理念としている。
従って、すぐにでも元の涼宮ハルヒに戻すことを望んだ。
だからこそ貴方との意見の相違による衝突が起こることとなった。

古泉一樹は貴方との交渉と提案が決裂に終わった後も、自身なりの対策を練っていた。

やがては冷静になり、あなたと再び連絡を取り、事態の終息を図ろうとした。


でも、わたしがそれを阻止した。


わたしは貴方に賭けたのだから。
また、情報統合思念体にとってもそのほうが都合が良かったというのも要因の一つ。
わたしが干渉せずに観測に徹していたのもそれが理由。

それがこのような不測の事態を招く一つの要因となった。
正確に言い変えるならば、わたしが貴方に表立って協力していれば犠牲者は出なかった可能性が高い。


もし、初めの時点でSOS団という組織的活動を行う方針であったならば、
他にも方法があったのだと考えられる。
今より遥かに安全に、そして犠牲者を出さずに問題を解決する方法が、有り得たのかもしれない。


もう、遅いけれど。

308 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/29(火) 16:56:30.12 ID:8AfCEni90

今回の現象の引き金は、SOS団が創設されたその瞬間から既に始まっていたのかもしれない。

わたしには、わかる。
説明は出来ないけれど。

しかし、その人物の行動理念。
それがわたしには理解できる。と、わたしは考えている。

だからわたしは、わたしの時同様の対策をとる事とした。

選ぶのは貴方。
その先にある結末も貴方次第。


事態が急を要す様になった今、わたしが力を貸せないというのは本当に残念。
せめてもと思い情報統合思念体の意向に背いてまで行動した結果、わたしはこのような状態となってしまった。
わたしの力を以ってしても彼等の生命を守る事すら出来なかった。
そればかりではない。今回のわたしの一件を皮切りに、情報統合思念体もこの事態から手を引こうと考えるはず。

それほどまでに危険だということ。

それほどの相手だったということ。

309 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/29(火) 17:01:23.99 ID:8AfCEni90

最後にわたしは、ヒントだけでも残せればと考えた。


鍵は貴方の身近に有る。
そしてそれとは別の要因、それによって貴方は命を落とす可能性が非常に高い。

その時が本当の意味での最後。
全てが終わってしまうとき。


この事態を解き明かせるのは貴方の他には居ない。
例え”他の何か”が事の真相に気付けたとしても、それを解決する事はできない。


わたしが、殺されたように。


気を付けて。

さよなら。

312 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/29(火) 17:09:27.73 ID:8AfCEni90

『さよなら。』

その文字の末尾で点滅していたカーソルが消えた。
続く様に画面全体の文字が薄れていく……


まるで、何かが抜け落ちていくみたいに。


俺はじっと画面を見つめ続けていた。
長門から与えられたヒント一字一句すらをも見逃す訳にはいかない。
彼女の想いを無駄にする訳にはいかない。


程無くして室内には休み時間を告げるチャイムが鳴り響いたが、
俺は椅子に腰かけたままその場を動く事ができなかった。

314 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/29(火) 17:37:00.36 ID:8AfCEni90

教室の扉を開けた瞬間、
室内から漏れて来た陰湿な空気を肌で感じ、思わず逃げ出したくなってしまう。

デカデカと嫌でも目に入ってしまう、二つの黄色いアクセント。

谷口と、国木田の机上に添えられた、菊の花。

もう4校時目が始まる寸前だというのに、
教室のなかからはざわめき一つすら湧いてはおらず、
それぞれが淡々と次の授業に向けての教材を準備したり、
意味も無く文房具を眺めたりといった状態だった。

ハルヒもその重苦しい空気を嗅ぎ分けていたのか、
「遅かったね」
俺を見つけても一言だけ呟くだけで俯いてしまった。


その後、チャイムの音色のすぐ後に岡部が登場し、
委員長の声でクラス連中と共に開講の挨拶を始める。

そのクラス全体が翳りを帯びた決まり文句を交わしたことによって、
俺はいよいよ谷口と国木田、そして長門が死んだという事を実感していた。

315 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/29(火) 17:47:34.74 ID:8AfCEni90

鬱々とした50分間を終え、昼休み開始とそれによる空腹で僅かに活気づいたかなと思えてきた頃。

キーンコーンカーンコーン。

次いで俺の名前と、俺宛に家から電話が掛かってきているという内容の呼び出し。
どうやら職員室まで来いということらしい。

心配そうに眺めてくるハルヒにちらりと流し目を送ると、
「ちょっとだけ行ってくる」
極力音をたてないように立ちあがり教室を後にした。

ハルヒには、『学校ではあまり喋るな』と今朝のうちに吹きこんでおいた。
元々不審者認定済みで避けられ気味のあいつにとって、
今さら無言になったからといって特別不審がられるようなことはないだろう。

それに朝比奈さんが迎えに来てくれるよう打ち合わせも済ませておいた。
なんたって彼女が言うには、
『出来るだけ一緒に居て、出来るだけ喧嘩をせず、出来るだけ仲良く過ごす。』
なんだからな。

317 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/29(火) 17:57:26.94 ID:8AfCEni90

「待たせやがって」
受話器を受け取り耳に当てるなりキツい男の声が突き刺さって来た。

誰だこいつは?
少なくとも俺の家族のものではない。

「あの、どちらさんで――」
「ワシを忘れたのか貴様」
俺の質問にフライング気味で答えた相手。
その”貴様”というフレーズで思い出した。
「ハルヒのお父さんですか?」
「貴様にお父さんなどと呼ばれる筋合いはない」
やはりあの人か。

電話越しの相手の人相を予想しつつも、俺は思考を巡らせていた。

どうして電話越しで、しかもハルヒに愛称で呼ばれただけでしかない俺の身元がバレたんだ?
俺はその疑問に対するピースを思考の底から探り始める。

318 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/29(火) 17:59:56.56 ID:8AfCEni90

何か、何か――

そうか。

小林刑事だ。


――そうだ、その朝比奈さん宅に他に人はいなかったのかのかい?


その問いに俺はなんと答えた?


――涼宮ハルヒも居ました。


これだ。

俺の事を探っていた小林刑事の事だ。
裏を取る為に俺の身近に居た人間を探るのは必然とも言える。

俺の家を訪問し、俺の家族と俺自身への問答を行ったのと同様に、
次はハルヒとその家族へ対し同じ行動をとったんだ。

その考えに至った時、俺の背中から嫌な汗が噴き出していた。

319 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/29(火) 18:09:23.16 ID:8AfCEni90

くそ、あの人が良さそうな柄故に俺の事を漏らしたのか、
それともあの親父の押しが強かったのか……

いや、それはもう悔やんだ所で仕方がない。
問題は今この時、発せられたばかりの一言なのだ。

『ともかく今後一切、娘には近付くな』

不味い。
予想以上にドツボに嵌まった。

初見時に電話を切ったりハルヒに騙させようとしたりと、
とことん悪い印象を与えていたことも今さらながらに後悔しちまう。

よし、この際、俺の親にハルヒと共に朝比奈さん宅に宿泊した事実が露呈するのは目を瞑ろう。

だが、今ハルヒと別れ離れになるのは極めて危険だ。
それにあの状態にあるハルヒを、丸っきり事情を呑めていない一般人にどうこう出来る訳がない。


クソッ、あの時みたいに電波の所為にでもして逃げたいぜ。
仮にそんな事をすれば相手は俺の家にずっと居座り続けるのが目に見えているからやらないけどな。


何にせよハルヒが俺の目の届かない場所へと連れて行かれちまうのは回避しなければ。

323 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/29(火) 18:24:41.67 ID:8AfCEni90

だが何と答えればいいんだ?
こいつは昨日のやり取りからも相当の堅物だと容易に想像できる。

正直に攻めるか、奇を衒うか、嘘を吐くか、実力行使か。


どうするべきなんだ――


A.「実は娘さんが大変な状況にありまして……」
  ハルヒの状態を正直に伝えた。

B.「今回のSOS団の活動上、どうしても家には帰れないんですよ」
  SOS団というという名の重さに賭けてみた。

C.「実は昨日、僕が近くに居たのは偶然で、ハルヒは女性の家へ遊びに行ってたんです」
  朝比奈さんへとパスすることにした。

D.「何と言われようとも聞き入れるきはありません」
  断固として拒否し、真っ向勝負に出た。

>>328

328 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/07/29(火) 18:29:30.65 ID:Dp6GFre10

D

331 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/29(火) 18:59:42.57 ID:8AfCEni90

「お父さん」
「やかましい」
「申し訳ないのですがこちらにもちゃんとした理由があるんです。
 だから何と言われようとも聞き入れる気はありません」

断固として拒否する姿勢で構える。

「……なんだと?」
相手の声のトーンがさらに一段階落ち、
「貴様は自分が口にしている言葉の意味がわかっているのか?」
怒りの色を孕んでいるのが十二分すぎるほど伝わってくる。

しかしここでは退けない、退ける訳が無い。
なんとしてでも俺の力で事態を進展させなければならない。

「お願いします、数日間だけ時間をください」
「駄目だ」
「そこをなんとか」
「くどい」

職員室中の教師が何事かと俺の様子を窺ってくるが、構っちゃいられない。
命を落とした奴らの分も俺がやらなければならないんだ。

その後も終始詰問口調のやり取りは続いていたが、
昼休みが終わりを告げる頃になると、
「貴様、覚悟しておけよ?」
猛獣が唸るような声で吐き捨てると一方的に電話を切られた。

332 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/29(火) 19:13:23.54 ID:8AfCEni90

俺が教室の前まで戻ってきたとき、
正面衝突しそうなタイミングで朝比奈さんが室内から出て来た。

「おっと、すみません」
「わっ……キョンくんか、びっくりしましたぁ」

間延びした口調で答えているが、何処となく固い雰囲気を感じるような。

俺が部室パソコンの長門によるメッセージと、ハルヒ父からの電話、
どちらから先に伝えようか迷っていると、

「あの、古泉くん見掛けてはいませんよね?」

先に質問を投げかけられた。

「いや、見かけてません。今朝、朝比奈さんと別れた後刑事がうちに来てまして……
 その後も色々あったもので校内を自由に歩く時間すらありませんでしたし」

俺は掻い摘んで話しつつも、
昨日の古泉の行動や長門のメッセージから得られた情報を照らし合わせて奴の事が気になっていた。

すると朝比奈さんは、
「そうですか。古泉くんね、学校へ来ていないみたいなの」
眉を潜めつつ小声で囁いていた。

333 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/29(火) 19:23:58.07 ID:8AfCEni90

「それは一体――」

何故ですか、と続けようとした瞬間チャイムが鳴った。

朝比奈さんは慌てて、
「次体育の移動だー急がないとー」
キョロキョロと仔猫のように周りの様子を見回していた。

俺は手短に注意を喚起しようと思いつつも、
「朝比奈さん、長門にも色々あったみたいですから注意しておいてください」
敢えてソフトな表現で留めておいた。

「それじゃあまた放課後ですね」
振り向きざまに小さく手を振り跳ねていく彼女を見送ると、
俺は疲労と、単純に昼食を抜いたことによる虚脱感から席に到着するなり突っ伏すこととなった。

335 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/29(火) 19:42:20.26 ID:8AfCEni90

そのまま5校時目も過ぎ去り6校時目となり、
そして何無く放課後へ突入する……と俺は考えていた。

だが、予想というものは大概にして裏切られるものであるらしい。

「ちょっと……」
授業中も半ばだというのに、この時間帯に居るべきでない英語教師の可奈子さんが教室の外から手招きしていた。
俺の方を向き、さらには小さく俺の名を読んでいる所からして間違いなく俺宛てへの用事だろう。

教壇で授業を取仕切っている男性教師に目配せし、こっそり立ち上がって外へ出る。

すぐさま俺は、
「何かあったんですか?」
静まり返っている校内や廊下に配慮し遠慮がちに訊ねた。

「来客みたいよ」
「はい?」
「だから君に会いに来てる人が居るんだって」
「はぁ……」
「怖そうなおっさんで、正直ガミガミと煩いのよ。今すぐ君を連れて来なきゃ訴えるとかなんとかもうね……」

ド畜生、などと小さく呟いている。

「とにかく応接室まで行ってね」

告げるなり即座に背を向けて去っていく背中を眺めつつ、俺は早くも嫌気がさしていた。

351 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/29(火) 21:57:48.76 ID:8AfCEni90

応接室の思わず歴史を感じさせられるような扉の前で俺は息を整えている。

電話口の相手はどんな奴だったんだろうという1割ばかりの好奇心と、
どう考えても面倒な事態にしかなり得ないだろうなという99割の辛労感。
合計1000%が俺へと圧し掛かってくる。

じゃあ、行きますか。

「失礼しまーす」

ガラス張りのテーブルを”コの字型”で挟む形で、黒い皮椅子が向かい合わせられている。

入口側の俺から見てその上端部分に俺を睨み付けるようにしてスーツ姿でビッシリと決めた父様と思しき人物が鎮座なされており、
右端部分にはなんと、校長が腰掛けていた。
今にも掴みかかってきそうなお父様に対し、校長のほうは相変わらずの笑顔を浮かべている。
そういえば俺は校長が笑っている顔しか見たことないな、等とどうでも回想の中へ瞬時に耽ろうとしていたが……

「まあキョンくんや、こちらへ座りなさい」

校長が”コ”の下端部分を差したので俺は軽く頭を下げてから歩き、
さらにそこへ腰掛ける前にも、
「どうも」
なんていう間の抜けたような挨拶を俺は振りまきながらその場へ腰掛けた。

目を合わせるが相手は何も言い出さない。
電話越しにぎゃあぎゃあ騒ぎ立てていた時の様子とはまた違って、
声の剣幕とは異質の凄まじい威圧感を眼力に乗せて放ってくる。

そのまま暫くの間、お父様の質量すら感じさせる視線の波が、俺の全身を刺し貫いていた。

356 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/29(火) 22:17:12.28 ID:8AfCEni90

「説明してくれ」
目的、
「理由とやらを」
次いで主部。

前置き無しの本題か。
流石はハルヒの親父だけあって単刀直入の語源というにも相応しい。
性別の違い上か、容貌からはハルヒの面影を探すことはできないものの、
その強い意志を感じさせる眼光や整った顔立ちからは、
やはり涼宮親子なのだという事実を俺に感じさせてくる。

校長が薄い笑顔のまま交互に顔を窺っている中で、
俺は両掌をふとももに乗せ背筋を張った状態で硬直していた。

しまった、説明しろと言われてもどうやればいい?

まさかSOS団の創設理由から始まり、これまでの奇々怪々、宇宙人・未来人・超能力者、
それらを実演し納得させた上で説得しろというのか?

……ああ、ああそうだ。まだ無理だとは口にはしない。

だがしかし、だ。
それを仮に納得させる事が出来たとした場合、それはそれで弊害が発生するんじゃないのか?

この人はハルヒの親父で、恐らくは一般人なのだろう。
そんな人間に、ましてやハルヒの隣で肩を並べて成長してきた人間へ……
全てを話してしまっていいのだろうか?

357 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/29(火) 22:25:06.53 ID:8AfCEni90

やはり、こうするしかない――


A.「わかりました、話します」
   俺は奇々怪々を実演してくれそうな仲間を集めてくることにした。

B.「いえ、話せません」
   俺はきっぱりと断ることにした。

C.「まずは涼宮ハルヒさんの状態を見てください」
   俺はハルヒを連れ来て、その症状の面から理由を偽装し訴えることにした。


>>361

361 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/29(火) 22:30:40.59 ID:tkjLfhwv0



363 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/29(火) 22:38:53.77 ID:8AfCEni90

やはり、方法は一つしか無い。

「わかりました、話します」
俺は覚悟を決め、半ば睨み返すように告げた。

「ほう」
相手は僅かに声と動作に変化を見せ、
気のせいなのかもしれないが挑発的な色を帯びてきたようにも見受けられる。

だが何とか話を聞いてくれそうな雰囲気ではある。
ここまでの掴みは兼ね兼ね良好なのかもしれない。

後はSOS団の各々である非一般人メンバーを……


ここにきて俺は、自身の目論見に大きな誤算があったことを悟った。

367 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/29(火) 22:56:43.33 ID:8AfCEni90

まずは万能なのではないかと思われる宇宙人、長門有希。
あの超絶ホームランバットや運動能力、理すら捻じ曲げる力。
アレがあれば……

しかし先程の部室の件で、もう彼女は存在していない事を俺は知っている。
さらにそれらに属する他のインターフェースも手を引くという言葉から察して接触できる可能性は限りなく低い。

次に閉鎖空間への侵入を行う事が出来る超能力者、古泉一樹。
誰も居ない灰色の世界”閉鎖空間”へと進入し、そこで光の玉となって神人を倒す力。
その一部始終と神人の暴れ狂う姿を見せつけててやれば……

しかし先程の朝比奈さんからの情報で、あいつが学校へ姿を現していない事を俺は知っている。
さらに俺の携帯電話へ何の連絡も寄越してこないという一抹の不安も孕んでいる。

となると最後の頼みの綱は時間移動を可能とする未来人、朝比奈みくる。
しかし、些か頼りないというのは失礼だが、懸案すべきなのは昨日の蒼の夕陽の中で彼女が発した一言。


――え、あれ? なんで喋れるんだろう?


どうしようもない不安を感じる。
根拠は無い、が……

禁則事項を制限する力と共に、もし彼女の時間移動を行う力までもが失われていたとすれば?

俺は硬直した動作のまま、心臓が荒れ狂いそうになるのを必死に抑え、妙案を思い付けないだろうかともがき続ける。

370 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/29(火) 23:14:54.50 ID:8AfCEni90

一瞬シャミセンの事が頭を過ぎったが、あいつは最早ただの一般的な猫に過ぎない。
珍しいオスの三毛猫という希少価値はあれども、とても納得させるだけの要因とは言い難い。

カマドウマやその他の不思議……
様々な非日常が頭の中を右から左へ過ぎ去っては行くが、そのどれもに共通するのが――


――証拠が無い。


当たり前だ、証拠を残すとハルヒに勘付かれる恐れがあるからな。
実にSOS団員達はよくやってくれたよ、俺は見ているだけだったがな。

今回に至ってはそれが悉く裏目に出ている。


だが、もう後には引けない。


俺が取るべき行動は――


A.古泉と連絡を取とうと試みる。

B.朝比奈さんに時間移動を行ってもらう。

C.校内を徘徊する。


>>373

373 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/29(火) 23:25:09.90 ID:IPmEdbY20

なんか2人とも当てにならなそうだからC

375 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/29(火) 23:36:05.31 ID:8AfCEni90

「少し、準備が必要なので待っていてください」


俺は立ち上がると応接室を飛び出し、走りだす。

目的地、及び目的は定まってはいない。
正しくアテが無い。

生徒達は授業中の為に廊下はしんと静まり返っているので、
俺の上履きが立てる忙しい音だけが残響を立てながら辺りに拡がっていく。

何か、何か不思議が起こってはくれr無いだろうか?

何か……頼む。
俺に不可思議が降りかかってきてくれ。


やがて10分ほど掛けて校内の殆どを走り回り、俺の息が完全に上がってしまっても結局収穫はなかった。

元々人通りの少ない空き教室の前の床へ座りこみ、がっくりと項垂れ、
床にうっすらと反射している自身の酷い顔を眺め、そして俺は気付いた。

皮肉にも、たった一人で行ったこの僅かな時間ばかりの不思議探し。
俺はこの時、初めて心の底から不思議を望んでいた。

376 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/29(火) 23:37:31.42 ID:8AfCEni90

収穫は無いが、しかし諦める訳にもいかない。

次にとる行動は――


A.古泉と連絡を取とうと試みる。

B.朝比奈さんに時間移動を行ってもらう。


>>380

380 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/29(火) 23:42:01.47 ID:/ri8tpcW0

A

383 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/29(火) 23:52:36.79 ID:8AfCEni90

「頼む、古泉」
俺はかつてのニヤけたスマイルを心の中で思い浮かべ、
携帯電話のダイヤルを始めた。

静かにコール音が鳴り……

長い長い間を置いたあと、
「はい」
繋がった。
「俺だ、古泉か?」
すぐさま確認をとる。
「どうも、古泉です」

心成しかいつもの演技臭い声と比べ元気が無い。
まずは色々と謝ったり長門の事を伝えたかったが、今はそれよりも他にやる事がある。

「古泉、今から閉鎖空間を見せて貰えないか?」
「それはまたどうして?」
「ハルヒの親父が学校へ来ていてな。
 奴に超常現象の類いを見せつけ信用を得なきゃ、この後ハルヒが不味いことになる」

俺は目的以外を極限まで省き伝えた。
すると、

「……」

黙考。
珍しいこともあるもんだな、などと俺が考えていると、
「無理です」
短く告げられた。

384 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 00:01:35.11 ID:6VpeRoWA0

「何故だ?」
「閉鎖空間は任意に発生させる事ができませんので、僕の独断では不可能です」
いつもの古泉の調子に戻ったのを電話越しに感じる。

「なんとかならないのか?」
「なりませんね、何しろ涼宮さんの精神状態が”いやに安定”している為か発生する予兆すらありません」

いやに安定、にアクセント。

「他にお前が超能力者だと証明する方法は?」
「……残念ながら」

なんという事だ。
落胆から来る思考回路の変遷か、俺の興味が別の方向へ向いていた。

「おい古泉、お前学校へは来ているのか?」
少しの間のあと、
「いえ」
短い返答。
「いま何処に居るんだ?」
「……答えられません」
「それはまたどうしてだ?」
「……それもまだ、答えられません」

沈黙が訪れるかと思われた時、

「ただ……」

再び古泉が電話越しに呟いていた。

385 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 00:15:02.29 ID:6VpeRoWA0

「今夜、貴方に大事な話があります」
「俺に?」
「はい、貴方”だけ”にです」

またもアクセント。
それが意味するところはつまり、
「俺に一人で来い……と?」
「その通り、察しが良くて助かります」

一人で、か。
その部分を俺は反芻した後、
「しかし朝比奈さんやハルヒと離れるのは俺としては不味い」
半分の本音と、半分の別の意を込めてそう口にした。

「貴方が一人で来て貰えないと言うのなら、僕も姿を現しません。
 はっきり言いましょう、これは僕にとって非常にリスクの高い賭けなのですよ」

「……考えておく。すまないが今は超常現象を探す為の時間が惜しい。
 後から追って連絡を入れるが一応、場所と時間を聞かせてくれ」

「今夜0時ちょうど、場所は北高の学食で」

警備委員は、だとか学食で、とかいう部分にいちいちツッコんではいられない。
奴の事だから何らかの手を回してそれくらいは空けておくことだろう。

「わかった、じゃあな」

俺は通話を終えた。

389 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 00:31:41.53 ID:6VpeRoWA0

さてと、最後に頼れそうな相手は朝比奈さんだけか。

時間を確認すると授業終了まであと1、2分という所のようだ。
古泉と思った以上に話してしまったようだが、
授業終了後の隙を突いて朝比奈さんを引っ張れると考えればいい時間の使い方をしたとも思える。

俺が空き教室前から朝比奈さんの教室まで移動している間に、丁度チャイムが聴こえて来た。

すぐさま廊下にまで溢れて来た喧騒に紛れ、朝比奈さんの元へ辿り着き、
「ちょっと来て下さい」
外へと連れ出し、人の少ない場所を意図的に選んで歩きながら状況の説明を行った。

「あたしが涼宮さんのお父さんを……」
朝比奈さんが確認するような仕草と共に、頼りなさげに呟いている。
「ええ、出来ますか?」

俺の問いに俯き黙ったままの彼女。

それを見て俺は、望みが断たれた事を悟った。


その後、TPDDを失っているのだと囁くように教えられた。

390 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 00:45:05.98 ID:6VpeRoWA0

カチャリ……

再び古めかしい大扉を開き、俺は応接室へと戻って来た。
「失礼します……」
俺の後ろからは朝比奈さんが静かに、連れ立って入室してくる。

「彼女が、何か?」
待ちくたびれたという面持ちで、通称お父様が朝比奈さんのナリを探っている。
朝比奈さんは彼の眼光に怯えるように視線を逸らしていた。


そして俺は元居た席へと、朝比奈さんはその隣へとそれぞれが腰を落ち着けた。

直後から訪れる無言。

結局だ。
結局、彼の目の前で実演させられる証拠を用意する事が出来なかったのだ。

ならばどうするか?


何とかして説得するしか無いに決まっている。

391 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 00:53:53.71 ID:6VpeRoWA0

どのように説得を行うべきだろうか?


そう――


A.「今のハルヒは常態ではありません、俺達が居ないと駄目なんです」
  ハルヒに表れている症状と、その解決法を探っていると話す。

B.「かまいたち事件のことは、ご存じですか?」
   かまいたち事件と、それの解決の糸口がハルヒにある事を話す。

C.「証拠はありませんが、今まで色々な不思議を体験してきました」
   今までのSOS団のことを話す。


>>395

395 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 01:05:27.31 ID:peWaBHSF0

B!

399 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 01:28:12.02 ID:6VpeRoWA0

そう、これしかない。

「かまいたち事件のことは、ご存じですか?」
俺は相手の眼を直視し、一言ずつ確かに告げた。

「昨日の、あのバラバラ殺人のことか?」
相手はまさかこの話が出てくるとは思っていなかったのか、ぴくりと眉を動かした。
それから腰を据えるように座りなおし、こちらを睨みつけてくる。
その眼に更に強い意志が宿ったように見えた。

俺は続ける。

「かまいたち事件を解決する糸口は、ハルヒにあります」

それだけを口にして、俺は相手の言葉を待った。


空気が粘性を帯び、重みを増したようなその中で。
俺達は、相手の次の言葉を待っていた。


「それは、どういう理由からだ?」


来た。
そして俺は告げた。

それは――

>>411 (フリー選択、但しハルヒに解決の糸口がある理由に限る)

411 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 02:07:32.31 ID:Aa3NEn1t0

次に狙われる可能性が高いのがハルヒ
つまりハルヒを見張ってれば犯人も捕まる可能性が高い

でいいんじゃね?
俺はもう寝るから保守宜しく

414 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 02:26:53.67 ID:6VpeRoWA0

「それはですね……」

俺は言葉を頭の中で整理し、淡々と告げた。

「かまいたち事件で次に狙われる可能性が高いのがハルヒなんです。
 つまりは、ハルヒを見張っていれば犯人が捕まる可能性が高いんです」

「何故、うちの娘が狙われる?」
当然の質問だ。

「……わかりません。ですがハルヒが普通とは違うというのは確かな事です。
 そしてそれが、次のかまいたち事件の被害者として狙われる要因です」

貴方にはわからなくとも俺には解る。
誰かに言わせればハルヒは神で、他の誰かに言わせれば自律進化の可能性で、
また他の誰かに言わせれば時間の歪みを生じさせる原因。

本当のところは知ったこっちゃないが、
ハルヒが何らかの利害関係に巻き込まれて狙われる要因は大いにある。

事実、今回はハルヒ自身に変化が及んでいる。

俺はそう考えを纏め、

「俺達をハルヒの側に置いてください、必ずハルヒを守って事件を解決させてみせます」

締めくくった。

417 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 02:46:06.30 ID:6VpeRoWA0

「たかだか高校生ごときが探偵の真似ごとか?」
”お父様”は鼻で笑い頬を歪めた。

しかしこんな所で折れる訳にはいかない。
俺は点を線で繋ぐように説明していく。

「笑いごとではありません、今回の事件の手口と被害者を考えても見てください。
 谷口と国木田は、俺やハルヒと同じクラスに所属しています」

長門の事は……朝倉の時同様証拠が残らないだろうから伏せておく。、

「つまり、次に狙われる可能性が高いのが同クラスに所属するハルヒなんです。
 そのうえ犯行の手口が極めて惨忍であり、少ない人数では防げません」

次々と思い付く限りの要因を挙げていく。
黙って聞いていた相手だったが、

「ほう、うちの娘が次に狙われる可能性が高いという点に関しての無根拠には目を瞑るとしよう。
 では何故、亡くなられた国木田君や谷口君の次に娘が繋がる?」

「それは……クラスの中心に居るのがハルヒだし、
 同じくハルヒが中心に居るSOS団とも彼等は繋がっていました」

「そのSOS団のメンバーは?」

「ハルヒに俺と、隣の朝比奈さん、古泉一樹と長門有希です」

「では、君達が狙われる可能性も高いんじゃないのか?」

418 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 02:53:06.70 ID:6VpeRoWA0

それは確かにその通りだが。

俺は発想を切り替える事にした。
事件の真相を探るのが目的では無い、ハルヒを手元に置ければいい。
超常現象絡みからのアプローチが出来ないのならば、何らかの手段で納得させればいいだけだ。

長門は消されちまったし、古泉は現在身を隠している。
これらを行方不明だということにでもすれば……
SOS団に残るメンバーはハルヒ、俺、朝比奈さんの三人。

これに俺達二人と、同時にハルヒの身を守るということにでっちあげれば……?


A.その作戦で話を通してみる。

B.嘘は吐かずに通す。


>>421

421 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 02:57:21.29 ID:bHOQKLVQ0

じゃあA

422 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 03:11:13.53 ID:6VpeRoWA0

「聞いてください、まだ被害者は居るんです。
 SOS団に所属する長門有希と古泉一樹です」

「……なに?」
俺の言葉に相手が初めて僅かばかりの動揺を見せた。

俺は畳み込みに掛かる。

「この二人とは現在連絡が取れなくなっています」

「……」
黙り込み訝しげな視線を送ってくる。

「だから次は、残っている俺達三人のうち誰かが狙われる可能性が高いんです。
 だからこそ三人が一箇所に固まっておくのがベストだと考えています」

「待て、何故そいつらが行方不明だと断定出来る?
 そもそも、かまいたち事件の被害者ならば行方不明ではなく全身をバラバラに切断されているはずだ。
 犯罪者の心理など理解はできんが、そうやって派手な殺し方を見せる相手が何故行方不明という手段を使った?
 そうじゃないというのならば、かまいたち事件と繋がるように納得の行く説明を出せ」

「それは……」

424 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 03:23:00.18 ID:6VpeRoWA0

俺は口籠ってしまった。
これ以上の理由や解決手段を考え付かなかったから。

お父様はというと、
「最近の高校生はくだらん妄言やタチの悪い脅しを掛けてくるもんだな。
 ゲームだかマンガだかの影響かは知らんが、学校側も教育をちゃんとして貰えないものか」
校長へ向かって吐き捨てる。
その後もグチグチと小言を言われ、立ち尽くす俺と朝比奈さんの横で校長が何度も頭を下げている。

俺はこの光景を眺めつつ、内心から湧き上がる感情を抑えるのに必死だった。

なんで信じてくれない?
目の前には、世の中にはこんなにも不思議が溢れているのに?
なぜ、自身の眼で確かめもせずに否定しようとする?
身の回りのあらゆる場所に不思議が潜んでいたというのに?

そうだ、やはりこの人は一般人なのだ。
かつての俺が今あげた疑問を鼻で笑い真っ向から否定していたように、
今俺の前に立ちはだかっている人間は、過去の俺自身なのだ。

畜生。

だがそんなことを解ってはいても、命を落とした長門、そして谷口や国木田。
それらを上手く活かせなかったことと、それらを物ともしない相手の物言い。
そして、まるで長門や古泉、朝比奈さんなどの非一般人のSOS団メンバーを侮辱しているという事実。

それらの要因以外に、俺自身の疲れなどもあったのだと思う。
俺はこう考えていた。

お前なんか、死んじまえ――

427 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 03:32:46.11 ID:6VpeRoWA0

ハルヒは喚いていた。

『いやだぁー! みくるちゃん達と一緒に居るの、離れたくないの!』

まるで子供のように。

俺と朝比奈さんが、地面へと根をおろす枯木のように成り果てている前で、

抵抗を見せるハルヒをお父様が力尽くで車に押し込み、そのまま走り去って行ってしまった。

俺達はもう、ハルヒをどうすることも出来ないと悟り、

やがてどちらからとも無く別々の方向へ歩き始め、疑似家族は僅か一日と持たずして解散となってしまった。

428 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 03:40:39.68 ID:6VpeRoWA0

夜。

おかしい……なぜ古泉が電話に出ない……?

ベッドの上に寝転がったまま窺うと、時刻はとっくに午前0時を廻っていた。

俺は家に帰り付いたあと古泉との話に備え軽く仮眠をとり、
かれこれ21時程度から何度も何度も連絡をとろうとしている。

いつぞやのメールBOX一杯の『古泉一樹』。
あれを今度は俺が実践しているのだ。
なるほど、奴も今の俺と同じ心境だったのかもしれない、などと意味も無く感心していた。

もういい、今夜はもう遅い。
このまま、寝てしまおう。

俺はそっと目を閉じると、そのまま眠りへと落ちて行った……

430 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 03:48:04.24 ID:6VpeRoWA0

「おはよう」

突然の声。
俺は目を開ける。

「一日ぶりだな」

その人物は告げる。
事態を飲み込めない。

辺りを見回す……

夜が明けていた。
ここは俺の部屋?

起きぬけ直後の頭と体をベッドから起こし、そのまま腰掛ける。

それから俺はその人物へと向き直り、咄嗟に言った。

「なぜ、貴方がここに?」

「それは昨日言ったばかりだろう?」

地味なシャツを着込んだ男、小林二郎刑事だった。

432 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 03:58:05.11 ID:6VpeRoWA0

「手短に言うからな」
刑事は咳を一つ吐くと、
「昨夜、涼宮さん宅で惨殺死体が発見された。
 手口はかまいたち事件と同様に、両親とも全身を細切れにされ判別も出来ないような状態で亡くなっていた」

涼宮さん宅……
「ハルヒは!?」
「涼宮ハルヒさんは見つかっていない、忽然と姿を消したので今の所、行方不明とされている」

なんてこった、やっぱり次の被害者はハルヒだったんじゃないか!

「それからな」
まだ続くようだったので思考を停止し言葉に注目すると、
「古泉一樹くんもどうやら行方不明のようだ」
「え……」

どういうことだ?

「そして最後になるが――」


――朝比奈みくるさんが殺害された。同様にバラされた状態でな。


俺は声を発する事ができなかった。

435 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 04:12:15.12 ID:6VpeRoWA0

「……残念だよ、君はそういう人間ではないと考えて居たんだが」

小林刑事の言葉の真意がわからない。
寝ぼけているわけではない、まるで小林刑事の言い方だと俺が――

「君の周りでは不可解が多すぎる、どう考えても君を疑わざるを得ない。
 谷口君、国木田君、長門有希、古泉一樹、朝比奈みくる、涼宮ハルヒ、その両親……
 SOS団とやらのメンバーの中で残っているのは君だけだし、全ての人物と繋がりがある。
 さらには長門有希や古泉一樹の行方不明の事実を誰よりも早く知っていた」

深い悲しみと憐れみを帯びた目で彼が俺を見つめてくる。
いや、睨んでいる。

「ち、違います、俺は……」

「夜が来る度に人が切り刻まれて死んでいく。
 巷では”かまいたちの夜”なんて俗称まで付けられる始末だ」

言葉を一旦切り、こめかみを抑え、そして小林刑事が告げた。

「続きは、署のほうで聞かせて貰おうか」


俺の両手には、朝日を浴びて輝く銀の輪が掛けられていた。


                                             終

436 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 04:12:56.84 ID:6VpeRoWA0

               − 光陰篇 −


               『かまいたちの夜』

443 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 04:28:28.70 ID:6VpeRoWA0

- Tips -

選択肢を選んだ際、キョンはそれに準じた行動を取ります。
その度々にもっともらしく理由を付けていますが、
それは自身で行動に正当性を持たせているだけで、それが必ずしも正しいとは限りません。
別の選択肢を選んだ際には、またその選択肢に準じた理由を付けて行動します。

従って、文中の「これしかない」、「間違い無い」などのフレーズはぶっちゃけ信用なりません。
推理などにおいても誤った推理を行えば、それに応じた結果が得られることになります。(ゲームじゃないからこそ出来る仕掛け)

というか推理間違いはやめて。
謝った推理を「”それが正しい”と信じ込んだキョンの気持ち」になって書くのは面倒くさすぎなの。
さらに言うと>>415>>412の案をパクらせて貰いましたサーセン。

456 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 06:05:29.23 ID:6VpeRoWA0

それじゃあそろそろ再開しようか
早いうちに終わらせとかないと伏線忘れちゃうからね

再開地点は>>391からでいいかな?

458 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 06:18:44.71 ID:6VpeRoWA0

>>390
>>391

どのように説得を行うべきだろうか?


そう――


A.「今のハルヒは常態ではありません、俺達が居ないと駄目なんです」
  ハルヒに表れている症状と、その解決法を探っていると話す。

◆B.「かまいたち事件のことは、ご存じですか?」
    かまいたち事件と、それの解決の糸口がハルヒにある事を話す。

C.「証拠はありませんが、今まで色々な不思議を体験してきました」
   今までのSOS団のことを話す。


>>461

461 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 06:32:09.27 ID:YhvumuSj0

C

462 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 06:44:37.90 ID:6VpeRoWA0

「すみません、証拠を集めてこようとおもったのですが明確に示せる手段がありませんでした」
俺は正直に話した。

相手である”お父様”はと言うと、ほら見ろと言わんばかりに笑っている。

しかし俺も怯みはしない。
証拠が無いのならこうするしかないし、既に覚悟は決めていたからだ。

俺は大きく息を吸うと、

「ですが、俺達が今まで行ってきたSOS団の活動内容を聞いては頂けないでしょうか?」

一息でハッキリと言葉にした。

相手は暫くの間、俺の眼を睨むように静止した後、
「まあ、折角待たされたのだからな」
椅子に深く座りなおしていた。

463 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 06:54:30.03 ID:6VpeRoWA0

「俺達SOS団の活動内容は御存知でしょうか?」

お父様はその問いに僅かに眉を動かすと、
「訳のわからなんことをやっているんだろう?」
一瞬だけ視線を逸らし呟くように言った。

「はい、その通り訳の分からない事だらけですよ。
 ハルヒはいつだって思わず笑い飛ばしたくなるような空想ばかりを口にしていました。
 入学時の自己紹介に至っては『宇宙人や未来人、超能力者よ集まれ』って言ってましたしね」

「あいつ……」
視線を落とし顔を顰めている。
俺はその姿には構わずに、

「それから半ば無理矢理に入団させられて、俺達は実に色々なことをやらされました。
 不思議を探し歩いたり、野球大会に出たり、自主映画撮影を行ったり、旅行に行ったり……
 正直うんざりしていたんですけど、それでもハルヒはいつだって真剣に、そして強引に取り組んでいたんです」

464 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 07:04:40.43 ID:6VpeRoWA0

「強引、ねぇ」
やれやれといった様子で相手が頬を掻いていると黙り込んでいた朝比奈さんが、
「涼宮さんは強引ですけれど、でも、ちゃんと皆のことも考えてました」
上手い具合にフォローを入れてくれた。

俺はその流れのまま続ける。

「ハルヒの行動や言っていることは本当に支離滅裂なんですが、
 それでもあいつの只管前へ進もうとする推進力には驚かされていたんです。
 だからこそ団員達も着いて来たんだと今にして思います」

眼で質問を促すがアクションが無さそうだったので再び、

「世の中、探してみれば案外不思議なことがあるんですよ。
 俺もハルヒに出会うまでは鼻で笑い飛ばしていたんですけど、
 でも実際に色々な体験をしてきてそれを信じざるを得なくなったといいますか……
 いえ、実際問題としては、俺もまだ信じ切ってはいないんですが」

どっちなんですか、と朝比奈さんに突っ込まれる。
朝比奈さんこそどっちの味方なんですか。

466 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 07:20:22.82 ID:6VpeRoWA0

「いつまでもそんな子供染みた夢物語を見ている訳にも行かないだろう?」

御尤もな意見だ。
それには俺も全力で同意したい。

だが、
「仰る通りだと思います。
 俺自身もそう思ってましたし、今でも正直『またハルヒの奴が面倒を』なんて毎回感じています。
 ですが夢物語が本当に存在しえないという証拠はありますか?」

「そんな物は無いに決まっている」
「ですが証拠は無いんですよね?
 次いでお聞きしますが、貴方は本気で不思議という物を追掛けたことはありますか?」

「そんな事はしない」
「だったらやっぱり、本当に奇々怪々が存在しないという証拠もない事になります。
 俺達SOS団はそういったものが本当に有るのか無いのか……
 いや、内部で色々と意見の相違はありますが、大体そういうコンセプトで活動しています」

朝比奈さんも言葉の代わりに頷いている。

「こういう事を言うとなんですが、そういう時のハルヒはいつだって楽しそうにしていたんですよ。
 常に笑って、常に先を目指して、常に何かを見つけ出そうとしていた。
 それで俺も割と最近になって気付いたんでが……」

視線を再び交わらせてから、

「俺自身、結構楽しいと思っていたみたいなんです」

俺は本心を告げた。

468 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 08:00:15.31 ID:6VpeRoWA0

ここまで来てようやくお父様の表情に変化が見られた。
何かしらの疑念を抱いている、そんな顔だ。

俺がその顔から内情を読み解こうとしていると……

「話に上がったSOS団という集まりだが、君達の話を聞くだけでは今一つ分からないな。
 仮にその摩訶不思議とやらが相手だったとしても、やはり自身の眼で確認するまでは信じないんだろう?
 百聞は一見にしかずと言うものだ。
 だったら、君達の活動が目に見える形、記録として残っているものは無いのか?」


「ふむ……」


今まで空気と化していた校長が唐突に声を漏らすと立ち上がり、
「ちょっとだけお待ちくりゃれ」
誰にともなく言葉を残し、何やらごそごそと棚を漁り始めた。

校長はその作業を行いつつも、
「みくるしゃん、テレビをこちらへ」
背中越しに朝比奈さんへ指示を与え、
「んっしょぉー……」
朝比奈さんが素早く、車輪付き台座+テレビをこちらへと向けていた。

やけにチームワークがいいな。

などと感心していたら、校長はデジタルビデオカメラを手に抱えて歩いて来た。

470 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 08:14:56.59 ID:6VpeRoWA0

『みくるちゃん! もっと照れをなくしなさい! 自分を捨てるのよ!
 役にハマってなりきればいいのよっ! 今のあなたは朝比奈みくるじゃなくて朝比奈ミクルなのっ!』

テレビから流れ出す弾むような声が室内を幾重にも木霊していた。
画面上では黄色いメガホン片手に”監督”腕章を付けたハルヒが踊るように指示を飛ばしていく。

『いくわよーっ! アクション!』
ハルヒの声、
『ひい……ひい……』
そして二丁拳銃の殺し屋、朝比奈ミクル。


なんとも懐かしい映像だ。
しかし監督であるハルヒが移り込んでいるので、これって編集済みのマスターテープではなくソースか?
なぜこんなものを校長が?

そんな疑問が湧いて出たものの、
俺は暗がりの中でぼんやりと映し出されている懐かしい光景に、目を奪われていた。

471 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 08:22:24.38 ID:6VpeRoWA0

俺は懐かしさに浸っては居たが、それはやはり始めのうちだけで、結果的にはやはり退屈だった。
しかしそんな光景をこの”お父様”はただじっと眺めていたようだ。
俺は暇だったので彼の様子に注目していたしからな。

「そろそろいいですかな……」

校長が簡易ビデオ鑑賞会の中断を促し、
無駄に引かれていたカーテンもサッと開け放たれた。

お父様は画面上が青一色に染まっても腕を組んだまま視線を動かさない。
俺達もその独特の空気のなかへ巻かれ、言葉を発さないどころか息すら潜めていた。


まさか今の出来そこない映画の品評会でも始める気か?


そんな野暮なツッコミを考え付こうとした頃、彼は口を開いた。

474 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 08:48:56.29 ID:6VpeRoWA0

「まさか娘がこんな奴だったとはな……」

誰に向けてもいない独白。
それに続き、

「結論から言わせて貰うとだ、自分には娘の考えている事がわからなかったんだ。
 何時だったかの何処だったか……ある日を境にハルヒは大きく変わってしまった。
 それ以前の明るい性格とは真逆の、常に退屈でつまらなそうで、そして笑わない。
 気付いた時には、親子なのに談笑すら交わさなくなっていた」

俺の頭の中では、ハルヒと出会って間もない頃のあの光景、
過ぎ去り行く電車の脇でハルヒが語っていた場面がフラッシュバックしていた。

「ある日というのは、野球観戦の日、じゃないんですか?」

俺自身極めて無意識に近い状態で紡いだ言葉に、彼は一瞬だけ視線を絡めてから、
「そうだったような気もする」
遠く、壁の向こうを見ながら同意の色を示していた。

「そんな娘が学校で訳のわからない集まりを作ったり暴れたりしているのは何となく知っていた。
 だが訊ねる事はしなかった。
 どうせ訊ねた所で答えてはくれないだろうと考えていたしな」

最低限の躾などはしていたんだが、まあ解り易く言えば放任だな、と苦笑いしていた。

いつぞやの旅行などで見せた、たまに礼儀正しいハルヒはこの親にして有ったのか。
考えつつ俺も苦笑いしていた。

475 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 08:59:23.54 ID:6VpeRoWA0

「危ないと思っていた。
 多分、このまま放置しておくと娘は不味い方向へ転がっていくんじゃないかと……
 いわゆる世間でいうところの不良だとかなんとかそういう方向へ行くんじゃないかと。
 変な奴に捕まったらコロッと騙されてしまうんじゃないのかなんてな」

と言って俺の方を睨んでくる。
あの節はどうも、なんて言ったら殴られそうだ。

「貴様……いや、君の話を聞いて思いのほかしっかりとコンセプトの活動だと思った。
 自分も若いころは野球に打ち込んだものだが、そういう活動と何ら変わらないことともな。
 それにこれまでの話を聞いて、それなりに信用が出来そうな人間の集まりだとも分かった。
 まあ娘がやっていた行動の理由には納得いかないが理解はしよう。
 何よりこんなに楽しそうにしている姿は久し振りに見たというのが一番の驚きだ」

「それじゃあ――」

「だが待て、不思議だとか奇々怪々だとか伝説だとかは断じて信じた訳ではないからな。
 そして結論から言うと娘をお前には渡さない」

ツンデレだった。

「ではこれで失礼させて貰う」

そのまま素早く席を立とうとするのを廻り込んで止めに入り、

「待ってください」

480 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 09:17:12.03 ID:6VpeRoWA0

意外にも止めたのは朝比奈さんだった。

「なんだ?」
彼の相変わらず鋭い眼光は生まれつきなのだろう。

「あ、あの、涼宮さんをあたしの家に泊めて貰えませんか?」

確かに男の俺が頼むより成功率は高いと思える。
ここは応援するしかない。

「最初から引っ掛かっていたのだが、何故、そうまでして外泊に拘る。
 まるで人に見られると困る、というふうにすら見受けられるが?」

「えっとそのぉ……」
朝比奈さんが早くも口籠りモードに入ると、
「ではこれで――」

彼が隙を突いて応接室の扉に触ろうとしたところで、

「――あ、キョンくん……だったかな?」

振り返り、

「不思議なんてものは信じないが、もし見つかった時には教えてくれよ?」

それだけを言い残して足早に立ち去って行った。
これでまた、俺を仇名で呼ぶ自分物が増えた訳だな。

そういうふうに心の中でぼやきつつも、
事態が良好な方へ進展しているらしい感触を味わっていた。

517 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 17:14:29.14 ID:6VpeRoWA0

「って、何で娘が子供っぽくなっとるんじゃーい!?」

俺達がハルヒを連れて来た途端、お父様が盛大に叫んでいた。

「それは俺達にもわからないんですが……」
俺と朝比奈さんが顔を見合わせていると、
「不思議だな」
彼がぼそっと呟いた直後、
「いや違うぞ、今のは一般的な感想という意味での不思議だからそういう意味ではない」
別に聞いてもいないのに訂正し始めていた。

しかしここまで来たら正直に話すしか解決手段はないだろう。
俺は覚悟を決めたことを朝比奈さんに頷いて伝え、

「お父さん、伝えておかなければならない事があります」

「……なんだ?」

貴様にお父さんなどと、のフレーズをついに克服したことを実感しつつも俺は、

「ハルヒの身には今現在、大変なことが起こっているんです、たぶん」

証拠は無いが今までの人々から得た根拠がある。
とにかく、先へ進まなければ。

522 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 17:30:20.06 ID:6VpeRoWA0

俺達は応接室を出た先の廊下の一角で言葉を交わしている。
6校時目終了直後に始めたお父様との問答だったが、
既に掃除タイムもHRタイムも終了しており、辺りは放課となっていた。

俺は人通りの少ないこの付近一帯を歩いて行る人達に一頻り視線を滑らせた後、

「最初に申し上げました通り、今の俺達には”不思議”の証拠を実演する手段がありません。
 ですのでこれから話す事にも証拠が提示出来ず、ある意味では推測に毛の生えた程度にしかすぎないのですが――」


――ですが、大切な仲間達から受け取った情報です、聞いて頂けませんか?


お願いします、と朝比奈さんが繋げる。

お父様は俺達二人の顔を交互に窺った後、

「まあ、確かにいつものハルヒと明らかに違うのは確かだしな。
 ゼロから進むよりは何かしらの手掛かりになる可能性もあるので聞かせて貰おう」

腕を組んで鼻を鳴らした。

523 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 17:37:26.27 ID:6VpeRoWA0

「かまいたち事件のことは、御存知ですか?」
俺は相手の眼を直視し、一言ずつ確かに告げた。

「昨日の、あのバラバラ殺人のことか?」
相手はまさかこの話が出てくるとは思っていなかったのか、ぴくりと眉を動かした。
それから腰を据えるように座りなおし、こちらを睨みつけてくる。
その眼に更に強い意志が宿ったように見えた。

俺は続ける。

「かまいたち事件を解決する糸口は、ハルヒにあります」

一瞬、言葉の意味が理解できなかったのか戸惑いを露わにした後、

「それは、どういう理由からだ?」

彼は俺の瞳を覗き込んでくる。

526 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 17:51:30.72 ID:6VpeRoWA0

朝比奈さんに頼んでハルヒを遠ざけて貰い、俺とお父様によるサシでの会話。


俺は長門がディスプレイ上に残してくれた文字を、
谷口や国木田がその身を刻まれながらも残してくれた情報を、

それらから、ただ一つの確かな答えを導き出した。

「今回の事件、常識の範疇ではとても説明できないからです」

一般人にとって、明確にして意外なのかもしれない盲点。
超常現象、或いはそれに準ずる”何か”が犯人などと誰が信じてくれようか?
いや、それ以上に……

……違う、何を考えているんだ俺は。
心の中で拡がりそうになった疑念を振り払う。
今は、そっちのほうに気を回している時ではない。
俺はお父様が口を開くよりも早く、

「俺達は様々な不思議を追いかけてきました。
 そしてそれだけ危険な目にも遭ってきました。
 本当に、本当に証拠を提示する手段が無いのが辛いのですが、
 そういう場数を踏んできたからこそ確信が持てているというのが本音です」

俺にも確証はないさ。
いつだって宇宙人、未来人、超能力者なんかが得意げに放った電波情報を受信する側だったしな。

でもな、そいつらの情報が今まで解決の手引きとなって来た事は確かなんだ。
だからこそ、今回もハルヒが係わっている事は間違いないんだ。

528 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 17:59:46.70 ID:6VpeRoWA0

「場数を踏んできた、か」
お父様が訝しげに頷いている。

そう、この人の心が最初に比べれば軽くなったといえど、
何の判断材料も無しでは信じて貰えないことくらい俺もわかってる。

長門も古泉の正体を知らない彼に示すには、実証的なデータは一つしかない。

「小林刑事を、御存知ですよね?」

ここで初めて相手が驚いた顔を見せ、
「どうしてそれを?」
やや大きく開いた瞳で覗き込んでくる。

「いえ、朝方俺のところへ彼が見えられまして、事件のことを色々と聞かせて頂いたんです。
 まあその後に俺がハルヒのことを告げたところ、俺の家から”貴方が”俺宛ての電話を掛けて来た。
 その辺りからの推測に過ぎません」

「……なるほど」

納得した彼の様子を確認し本題に入る。

529 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 18:13:48.72 ID:6VpeRoWA0

「殺された谷口と国木田の遺体、どのような状態だったか御存知ですか?」

俺が訊ねると彼が顔を大きく歪めて、
「こんな閑静な街で不愉快な話だよ全く。
 確か全身がバラバラなんだろう? ニュースで見ていたからな」

という事は小林刑事に事件の内容までは訊ねていない訳だな。
大方、ハルヒの名前と俺の名前が出た瞬間、電話口での見幕よろしく掴みかかったのだろう。

俺は周りには聞こえないように気を付けつつ、

「全身を間接毎に細切れにされ、その上で部屋内に放置されていたんです。
 小林刑事が言うには『ただの一回すら』斬り損じは無く、全て一太刀の元に切断されたという話です。
 そして谷口と国木田の殺害手段は全く同じものでした」

俺は知っている。
最初に殺された谷口の部屋だけが何故か荒され、そして国木田のほうの部屋は綺麗なままだった理由を。

長門だ。

あいつは犯人と戦おうとした。
自身が撒いた種を刈りとろうとする為に必死で谷口を守ろうとした。
かつて朝倉に襲われた俺の命を救った時のように。

長門は部屋内の施設をぶち壊す勢いで戦ったのに、辺りの人が駆け付けて来た様子は無い。
何故かって?
駆け付けて来ていれば転がっているはずだぜ、他にも死体がな。

つまり情報閉鎖を行い、その上で争ったというのは自明だ。
そしてそれから導き出される答え、それが出来るのは――

532 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 18:27:52.28 ID:6VpeRoWA0

俺はお父様へ向けて事細かに説明していた。

運びもしないのに遺体をバラす利点が無いことを。
谷口を殺し、バラした上で国木田を殺すまで僅か半時から1時間ほどしか掛かっていない事を。

とにかく事態が異常であることを伝え、
それに対抗する為に俺達が動いているという事を必死で訴えた。

そして……


――わかった。


お父様が静かに頷いてくれたのだ。
しかし当然というべきか、彼は俺の言葉を鵜呑みにした訳でも無く、

「俺は超常現象ミステリーも信じない。だが、君達のことはいくらか信じている。
 それにハルヒもこういう状態だから仲の良い君達が居てくれると安心するだろう」

僅かな微笑みを見せながら彼は呟いた。
条件は互いに譲歩した結果、ハルヒの家に泊まりこむという事になったのだが……

「それともう一つお願いがあります、俺は今夜どうしても行かなければならない場所があります。
 ですので男手代わりに小林刑事を泊めて頂けないでしょうか?」


俺は行かなければならない、事の真相を確証へと変える為、古泉一樹の元へ。

539 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 19:13:26.07 ID:6VpeRoWA0

ようやくだ、ようやく足並みと舞台は整ったのだ。
後は朝比奈さんの協力と、俺の行動と、古泉一樹の持っている情報。
これら三位が一体となって初めて、この一連の騒動は終結を迎えるはずだ。


ここから先、ミスは許されない。


俺は離れた位置に居る朝比奈さんとハルヒの元へと行き、
「朝比奈さん、俺、夜は古泉の所へ行ってきます」
目的を告げた。
「なら、あたしも――」
「駄目です、俺一人ではないと古泉は来ないと言っていますし、何より」
ハルヒの頭の上に手を乗せ、
「こいつを一人にしておく訳にもいかないでしょう?」
頭の上に乗せられた手を見上げようとしていたハルヒは、
「キョンくんとみくるちゃんも一緒に居なきゃやだ! 家族なんだよ?」
やはり駄々を捏ねていた。

俺はハルヒの両眼を射抜くように捉えた上で、
「ごめんなハルヒ、でも今日だけはどうしても外せないんだ。
 それでも朝比奈さんは居てくれるし、俺もちゃんと戻るし、本当の家族だってお前には居る。
 だから俺が帰ってくるまで暴れずに大人しくしてろよ?」

できるだけ棘を抜いて気持ちを言葉へと変えていく。


ハルヒはただ、俯いていただけだった。

541 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 19:31:24.95 ID:6VpeRoWA0

『キョンくん、気を付けてね』

朝比奈さんはそれだけを残してハルヒ達と共に帰って行った。

「さてと……」

俺は誰も居なくなった廊下で、誰にともなく呟いた。
いま俺は何となく校舎の上階へと上り、外を、街を、眺めている。

日が傾きかけているようだ。

夏日だけあって日照時間が長いとはいえ、
やはり時間の経過と共に落ちて行く光量は明確に認識できるほどに早い。

間もなく、太陽の光に照らされていた全てが、
昼と夜が混在する時間を経て、やがては陰へと変わっていく。


その景色の中で、俺は長門の平坦な声とあの文字の内容を反芻していた。

542 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 19:38:42.25 ID:6VpeRoWA0

『今回の現象の引き金は、SOS団が創設されたその瞬間から既に始まっていたのかもしれない。
 説明は出来ないけれど。わたしには、わかる。
 その人物の行動理念。それがわたしには理解できる。と、わたしは考えている。
 だからわたしは、わたしの時同様の対策をとる事とした』

これは紛れも無く、あの消失騒動の一件を指した言葉に違いない。


『選ぶのは貴方。
 その先にある結末も貴方次第』


光と陰、表と裏。
最初から孕んでいたのに見えなかった問題、それが根本に係っているのだという予感がある。
ここからどういう結末へと俺は辿り着くべきなのか。

頭を軽く振るようにして、再び染まっていく太陽を眺める。


今日の黄昏時はどんな色に染まっていくのだろうか?


俺と朝比奈さんとハルヒ、その三人で歩いていた時の光景を浮かべていた。

545 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 19:55:39.43 ID:6VpeRoWA0

午前零時。

完璧な闇色に染められ、静まり返っている校舎は、
弱々しいスポットライトがある校門の位置から眺めていても、不気味さを感じらずにはいられない。

予想通り僅かに開けられていた門の隙間を縫って、俺は校内敷地へと進入する。

右手と左手、両方にそびえる黒い校舎。
それに挟まれた位置にある中央通りを抜けて玄関前へと向かい、

キィ……

これも予想通り、問題無く開いた。

呆気なく、そして難無く校舎内へと入り込んだ俺。

廊下に上がる際、靴は脱いだが足音が立つのは何となく憚られたので裸足で進む事にした。

暗がりの中では物の輪郭が掴み辛い。
どれがどれで、なにがどこまでなんなのか、不鮮明に塗れたそれらがより恐怖心を煽り立ててくる。
これが何度目かの夜間校内探索といえど、慣れないものはやはり慣れない。

ともかく、古泉が居るのは学食。
ここより、上階だ。
階段を上ってすぐ先にあるスペース、そこに学食がある。

物音一つすらしない夜の校内。
その理を乱さないように、俺もただ静かに歩み続けた。

547 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 20:05:26.32 ID:6VpeRoWA0

――やぁ、どうも

俺が約束の場所へ辿り着いた時、そいつはすぐさま声を掛けて来た。

俺が来るとでも解っていたかのように、

湯気を立てるコーヒーカップ片手に中央の席へと腰掛けていた。


「懐かしいフレーズだな、古泉」
「ええ、僅か一日ぶりだと言うのにね。
 それだけ我々SOS団の活動は日常と化していたのでしょう」

言ってコーヒーを啜る古泉の対面席へと、俺は腰掛ける。
そこには既に湯気を立てるコーヒーカップが用意されていたからだ。

「貰うぞ」
「ええ、どうぞ」

一口啜る。

「クソ不味い」
「これは手厳しいお方ですね」

カチリ、コチリ……

学食に掛けてある古めかしい時計、それが静かに刻んでいた。

548 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 20:15:48.08 ID:6VpeRoWA0

「では、そろそろ」

コトリ。
古泉が置いたカップから静かな残響が生まれた。

「ああ、そうだな」

コトリ。
俺もそれに倣う。

「どういうふうに、お聞きしたほうがいいのでしょうか?」

俺は頬杖をついたまま、無言で先を促す。

「涼宮さんの身に降りかかっている原因と、それの解決法か……
 或いは”かまいたち事件”の犯人から、でしょうか?」

俺は静かに口を開いた。

「犯人から、にしようか」

「ではお聞きしましょう、”かまいたち事件”の犯人は誰ですか?」


犯人は――

>>570-575 (フリー選択、ただし人名に限り、安価の中で挙げられた数が多かった人物に決定)

570 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 21:48:41.39 ID:ThwfSybt0

朝比奈で!!!!1

571 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 21:49:34.53 ID:psZU04eE0

谷口と国木田殺されてるから、古泉で

572 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 21:49:40.57 ID:8FSJ8gIJO

古泉

573 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/07/30(水) 21:49:40.57 ID:tsLJnPMC0

GJ

574 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/07/30(水) 21:50:16.24 ID:tsLJnPMC0

誤縛

575 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 21:50:46.38 ID:Aa3NEn1t0

>>569

今まで一度も出てない人もいるし、案外その人が犯人だったりしてな


例えば鶴屋さん

589 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 22:08:16.34 ID:6VpeRoWA0

俺は目の前の相手を見据え、口を開いた。

「犯人は、お前だよ。古泉一樹」

カチリ、コチリ……

時計が歩を刻む音を立てていく。
やがて30秒ほどが経過したが、
目の前の人物は微動だにせず、薄い笑みを張り付けている。

「それは僕が人殺しだという、貴方が導き出した解答なのでしょうか?」

そのままの顔での質問、

「ああ」

俺もそのままの顔で回答。
相手は溜息を吐くと、

「やれやれ――」

古泉の手がさっと引かれ、

――ある意味、正解ですかね

立ち上がると同時にナイフを突き出してきた。

593 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 22:09:04.51 ID:6VpeRoWA0

キラリ、と月の光を受けて鈍く輝く凶器。
パッと見でも刃渡り20数センチはあろうかというサバイバルナイフ。

それが俺の心臓目掛けて迫って来る……


俺は――


A.後ろへ引けば机を盾にかわせる。
  咄嗟に飛び退いた。

B.これでいいんだ。
  そのまま微動だにしなかった。

>>600

600 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/07/30(水) 22:12:33.84 ID:NkMuc0cf0

A

602 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 22:22:18.87 ID:6VpeRoWA0

やはりこいつが犯人だったか。
俺達の前へ姿を見せず、ずっとフリーの状態で活動できたのはこいつ以外には居ない。

俺は机を両手で押しつけると同時に、その反動で後ろへと飛び退く。

――ヒュッ

押し込んだ机でバランスを崩し、すんでの位置で古泉のナイフが直進動作を止めた。

「こんな所で死ねるかよ!」

言いつつ即座に椅子を掴み――

「この殺人鬼が!」

体制を整えようとする古泉の顔面目掛けて投げ放った。

大した傷は与えられないだろうが、相手が怯んだ一瞬の隙を突いて俺は駈け出す。

そのまま暗がりを伸びる廊下の中を俺は全力で駆け抜ける。

背後からは古泉が煌めく凶器片手に追いかけてきている。


死ぬものか……こんなところで死んでたまるか……!

無我夢中で振り向きもせずに、ただ闇の中を走り続けていた。

605 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 22:29:58.91 ID:6VpeRoWA0

「はあ……はあ……」

気付けば、辺りには誰も居なかった。
俺は今、見通しが利くであろう校舎3階の教室前廊下のほぼ中央に居る。

理由としては、下手に袋小路に逃げ込み詰んでしまうより、
こうやって選択肢の多い場所を頼りに動く方がいいからだ。

へへ、古泉ごときに将棋じゃ負けねぇぜ。

恐怖よりも、今回の一連の事件の犯人が分かった事による安堵感と、
古泉から逃げ切ることが出来たという些かの優越感のほうが上だった。

いや、ある意味俺はここ二日ほどで恐怖による耐性がついたのかもな。

「ふう……」

ある程度息が整ってきたようだ。
これでまた追われても走れる。

それじゃあ、小林刑事に事の顛末を報告しにでも――


――アアアアアァァァァァー……!


その時だった。
闇に紛れ、遠くから悲鳴が聞こえて来たのは。

606 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 22:34:03.26 ID:6VpeRoWA0

何だ今の声は?

男の声?

それも、古泉のもののような?

何だ一体、なんなんだ?

何故、俺を殺そうとした奴が悲鳴を?


疑問符ばかりが浮いてくる。
いかん、冷静になれ。


これはきっと――


A.「罠に違いない」
  俺はそのまま学校を後にした。

B.「確かめなければいけない」
  俺は声の方へ進んでいった。
>>615

615 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 22:36:47.65 ID:psZU04eE0

B

621 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 22:43:04.88 ID:6VpeRoWA0

「確かめなければいけない」

俺は自身を奮い立たせるように独白した。

そうだ、その通りなのだ。
ここで古泉を逃してしまえば、奴は”機関”をあげて俺を襲おうとしてくる。

朝比奈さんはPTDDを扱えず、長門がおらず、ハルヒも常態でない今。


一番力を持っているのは……古泉だ。


俺は声のした方をへと進んでいく。

とはいえ、暗がりの校舎は迷路のように入り組んでいるうえ、
おれの靴下越しの僅かな足音すら反射するほどに音のする位置が不鮮明。

もし、あの声が古泉の演技だったとした場合不意打ちもあり得る。

角や影に潜んでいるかもしれないという事態に備え、
十分に注意を張り巡らせつつ時間を掛けて進んでいく。


そうやっているうち、結局、俺は学食へと戻って来て――

625 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 22:50:17.34 ID:6VpeRoWA0

――そして見た。

暗がりのなか、僅かに注いでいる月明かりの下で……

何かが散らばっていた。

床には光を反射する液体がぶちまけられている。

それに目を凝らしていくと――


右手。

上履きを履いた左足。

細い部位。

判別不明な何か。

最後、離れた位置に――


古泉一樹の頭が転がっていた。


全 身 を 間 接 毎 に 切 り 分 け ら れ 、

ま る で そ れ が 古 泉 の モ ノ だ と は 判 別 出 来 な い よ う な 形 で

辺 り に 散 ら ば っ て い た 。

631 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 22:54:27.46 ID:6VpeRoWA0

その後、俺はとてつもない恐怖心と身の危険を感じ闇雲に走った。

気付けば家まで辿り着き、布団の中に包まって震えていたほどに。

ただ、早く夜が明けて欲しい。

きっと、今晩のことは夢だったのだ。

気のせいだ。

俺はなにも見ていない。

だから、俺が殺されなければならない理由もない。

頼む。

頼む誰か。

嘘だと言ってくれ。

夢だと言ってくれ……

635 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 23:03:20.66 ID:6VpeRoWA0

翌日。
その日は快晴だった。

「キョンくん居ますかぁ?」
階下からの朝比奈さんの声と共に、
「キョーンくーん、遊びにきたよ!」
ハルヒの声が木霊している。

俺はベッドから身を起こすと、ゆっくり階下へと向かった。
顔を合わせるなり、

「うわ、ひどい顔ですね」
朝比奈さんが驚いたように言い、
「学校休んじゃ駄目だよー?」
ハルヒが続けていた。

「すまん、ちょっと疲れててな」
俺がそれだけを言うと、
「古泉くんも死んじゃったんだってね……学校中が大騒ぎでした」
朝比奈さんが内心を察し、状況を伝えてくれた。

「SOS団、とうとう俺達だけになっちまったな」
その呟きを拾うように、
「はい……」
朝比奈さんが続ける。

俯いていた俺に朝比奈さんが言った。
「でも、あたし達は家族だって言ったでしょ?
 SOS団の名誉に賭けて、亡くなられた人たちの分も、せめて解決まで辿り着くべきです」
ねっ、と力なく笑っていた。

641 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 23:10:30.62 ID:6VpeRoWA0

次の日の朝。

小林刑事が死んだと妹宛てに伝えられた。

以前彼が話していた娘の”真理”を通して妹へ伝わったのだろう。

あれからも日が立つに連れ、人が死んでいく。

同様の手口で、全身を切り刻まれてだ。

もはや”かまいたち”の名は全国的に知れ渡ってしまった。

俺達はというとその影に日々怯えていたが、互いに助け合いながらなんとか生き延びている。

でも……死んでいった仲間達には悪いが、俺はもう手を引かせて貰うよ。

ごめんな、皆。

さよなら。


                                                  終

643 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 23:10:56.55 ID:6VpeRoWA0

               ― 光 陰 篇 ―

               『かまいたち症候群』

651 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 23:17:02.70 ID:6VpeRoWA0

− Tips −

最終推理に至っては、”選択したからその人物が犯人”というふうな分岐は行いません。

従って、間違った相手を疑った場合、そのまま間違った結末へと辿り着き、

何らかの行動理念を持っている相手の場合は、その理念とキョンの行動に呼応した行動をとる事になります。

少々禁じ手ですが、BADを重ねて推理材料を得るのも手段のうちです。


(犯人分岐には、一部例外を含みます。シナリオを根本的に揺るがす例外を選択すれば大きく分岐する可能性があります)

653 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 23:20:24.37 ID:6VpeRoWA0

BADエンドを書くのが楽しいから困る
一応BADエンドも、完結ENDした場合に矛盾が発生しないように作ってる

「あーなるほど、だからか」
と思って貰えるといいな

658 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 23:24:29.94 ID:6VpeRoWA0

それじゃあ再開地点を決めてくれ
やっぱり推理からかな?

663 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 23:27:53.78 ID:bHOQKLVQ0

>>658
推理からというと>>548からかな
俺もそこからがいい

667 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 23:31:24.53 ID:6VpeRoWA0

「では、そろそろ」

コトリ。
古泉が置いたカップから静かな残響が生まれた。

「ああ、そうだな」

コトリ。
俺もそれに倣う。

「どういうふうに、お聞きしたほうがいいのでしょうか?」

俺は頬杖をついたまま、無言で先を促す。

「涼宮さんの身に降りかかっている原因と、それの解決法か……
 或いは”かまいたち事件”の犯人から、でしょうか?」

俺は静かに口を開いた。

「犯人から、にしようか」

「ではお聞きしましょう、”かまいたち事件”の犯人は誰ですか?」


犯人は――

>>670-675 (フリー選択、ただし人名に限り、安価の中で挙げられた数が多かった人物に決定)

670 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 23:32:48.77 ID:bHOQKLVQ0

ksk

671 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 23:34:03.44 ID:psZU04eE0



672 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 23:34:51.19 ID:aPFQmrJ00



>>668
忘れてたw

673 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 23:35:00.04 ID:ThwfSybt0

朝比奈

674 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 23:35:10.24 ID:bHOQKLVQ0

ハルヒ

675 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 23:35:45.71 ID:x55m96T/0

>>668
バッドエンドって>>641
なら違うと思うんだけどなあ 「俺達」って書いてあるし
でもこれはキョンと妹とかキョンとハルヒとかなんだろうか

朝比奈みくる

686 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 23:44:10.92 ID:6VpeRoWA0

「犯人は……」

俺の言葉に古泉が息を呑むのが分かった。

「俺だ」

沈黙。

そして、

「はい? それは一体どういう?」

困惑顔の古泉。

俺はそれを見ながら――


A.「あれ、俺は一体何を?」
   自分自身に恐怖を感じた。

B.「わからないのか? だから犯人は俺だよ」
   さらに続けた。


>>690

690 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 23:45:26.67 ID:HnyEpGya0

A

694 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 23:50:26.42 ID:6VpeRoWA0

『あれ、俺は一体何を?』

そう言おうとしたつもりだった。

しかし――

「古泉、お前って奴は自分勝手だよな」

何だ、これは?

古泉も”俺”の言葉にさらに困惑している面持ちで、

「自白、ですか? 僕はてっきり――」

俺の体が動いた。

ズボンの裏ポケットへ手を滑り込ませている。

そのまま手を古泉の首元目掛けて――

「じゃあな、古泉」

――いつの間にか握られていたナイフを突き刺した。

700 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/30(水) 23:58:21.51 ID:6VpeRoWA0

「はあ……はあ……」

何故だ?
何故、俺は古泉を殺した?

目下には首元を抉られた古泉が転がっている。
青白い月の光に彩られて、蒼白な顔面が何とも美しい。

待て、これは何だ?
一体何なんだ?

俺は古泉の死体を”分解”していく。
肘を、足を、手を、そして首を……

やめろ、やめてくれよ!
俺はこんなことはしない!
こんなの俺じゃ無い!

やがて事細かに分解し終えると、それを離れた位置から眺める。
飛沫散った血の結晶が、地面にアートを作り上げていた。

「美しい」

俺は思わず見惚れてしまう。
俺は強引に目を逸ら――見惚れてしまう。

歩き出す、立ち止ま――歩く。

闇の中を、俺は歩いているようだった。

703 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/31(木) 00:03:21.11 ID:jHHtrnph0

俺は歩いているようだ。
闇の中の街を。

辺りを見回していた。
人影が無いか探しているのだろう。

見られたら困るからな。

それを観察していると、どうやら人通りの少ない道を歩いているようだった。

おっと、こんな時間に酔っぱらいかよ。
だがナイフは服の内側に隠したし、体の血も軽く洗い流したあとジャージを拝借して着替えたんだぜ?

そうだ、俺は着替えていたんだな。
道理で動き易いと思っていたんだ。

そのまま夜の街を歩いて行く。
目的地は、当然――

707 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/31(木) 00:10:04.69 ID:jHHtrnph0

谷口の奴も国木田の奴も、そして古泉の奴も……

どれもこれもがうざったい。
友達――うざったい。

邪魔するな、クソが。
てめぇは寝てろ。

嫌だ、断る。

へぇ、今日はやけに粘るじゃないか。
どうしたんだ? 何かあったのか?

お前こそ誰だ!?
というよりこの状況を説明してくれ、誰か!

うるせぇんだよ、カス。

なんだこれは、
今度はこういう乗っ取り的な超常現象のお出ましなのか?
長門、古泉、朝比奈さん……誰でもいい、説明してくれ。

SOS団だっけか?
ハッ、お前もつくづくおめでたい奴だな。
真夏の大気にでも頭をやられたんじゃねぇのか?
そんな奴ら、そんな超常現象、ある訳ねぇんだよ。
解ったらさっさと寝てろ、カス。
お前が寝なきゃ俺の時間がやってこないだろうが。

……俺の、時間?

712 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/31(木) 00:18:39.82 ID:jHHtrnph0

まーだ気付いていないのか。
やれやれ。
まあお前がそんなにオメデタイ奴だから俺が居られる訳だけどな。

どういう、事だ?

こういう事だよ。

『俺は扉を開け放つと「ただいまー」と明るく声を掛けた』

待て、今すぐここか――

『「おかえりーキョンくん、遅かったんですね」
 啓子が声を掛けて来たので、
 「すみません、色々立てこんじゃってて」
 と俺は笑いかける。』
逃げてくれ、朝比奈さん。

アホか? こいつは啓子だろ? 何も見えてないのか?
まぁいい、さぁて、他の奴等は寝てるようだな。
美味しく頂いちまうとする――

やめ――ない。

『夜食の準備に取り掛かるためか、
 振りむこうとしたその背中に向かって俺はナイフを突き立てた』

今すぐやめろ!

いや、断るね。

717 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/31(木) 00:23:30.34 ID:jHHtrnph0

血だ。

そうだぜ、血だぜ? 怖いだろ?

恐い。

だろうだろう?

嫌だ、見ていたくない……

だったらまた増やそうぜ? 他の奴らもブルって消えちまったしな。
それとも、そろそろ俺に渡してくんねぇかな?

恐い。

このまま入ってると、まだまだ怖い思いをすることになるぜ?

わかった……出て行くから……

そうか、そりゃよかった。

今すぐ出――


                                        終

718 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/31(木) 00:23:56.20 ID:jHHtrnph0

               ― 光 陰 篇 ―

               『ダブル・キャスト』

722 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/31(木) 00:26:27.23 ID:jHHtrnph0

− Tips −

もし、見ている視点の人が狂っていたとすれば、

得られていた情報はすべて”偽り”である事になります。

”俺”が俺じゃなかった、という設定だからこそ成り立つエンディングの為、

本編の正規ルートとは一切関係ありません。

730 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/31(木) 00:32:42.17 ID:jHHtrnph0

それじゃあ、そろそろ時間切れが来そうなので正規ルートでやろうかね
間に合うかどうか心配だけどさ

っていうか、妹篇やりたかったのに・・・・


今から正規ルート書き上げてくるけど、
ちなみに犯人は誰だと思うか書いてくれるとこっちも楽しめる

761 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/31(木) 01:12:26.26 ID:jHHtrnph0

正直、書きたかった古泉BADとキョンBADが出来て俺は満足

ただ問題は。一番力を入れていた解決ENDが時間無さ過ぎてトチらないかという点

765 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/31(木) 01:18:42.82 ID:jHHtrnph0

「そう、犯人はハルヒだ」

古泉がぴくりと眉を動かした。
それから俺の方を睨むように窺い、

「それは、どういう根拠があってですか?」
その顔からは笑みが消えていた。

「根拠か……そもそも根拠と言うべきほどでもなく、消去法だよ」
「消去法と言いますと?」

「ああ、長門が殺されたのが一番の要因だ。
 これが未来人や、ましてや閉鎖空間外の超能力者であるお前にやれるか?」
古泉は暫く考える素振りを見せた後、
「恐らく……いえ、確実に無理でしょうね」
肩を竦めた。

「もし無関係の一般人レベルの殺人狂が犯人なら長門が動く訳もないし、
 そもそも全身を細切れに、それも”斬り損じ無し”で連続殺人なんて一般人にゃ不可能だ。
 仮に何らかの”新たな不思議”が犯人だったとしたら、俺達SOS団……
 いや、俺抜きのお前等で動いていたはずだろう?」

何も言わない古泉の様子からして、この指摘は図星なのだろう。

「ですが、貴方と鈴宮さんは一緒に居たはずでは?」
「ああその通りさ、だが色々と腑に落ちない点があることに気付いてもしやと思ってな」

古泉が興味を示したように身を乗り出したので、
「というかお前、ハルヒが犯人だって知ってたんだろ?」
俺はそう言ってやった。

766 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/31(木) 01:19:39.26 ID:jHHtrnph0

「その前に、貴方が涼宮さんを疑った理由から聞きましょう」
「まず第一点。
 これがそもそもの理由だがさっき言った通り長門をやれるのはハルヒしか考えられない。
 この考え方が根底にあったからこそ、色々と気付けたんだよ。
 他にも、そもそもハルヒの状態が普通ではない点や、
 ハルヒの現象を解く事がかまいたち事件の解決法だ、なんていう考えてみりゃ直接的なヒントがあったりもした。
 だがまあ、物理的におかしな点も挙げていくか」

そうだ――
1.俺と朝比奈さんが怯える中で、ハルヒは一切の不安感すら現わさなかった。
2.朝比奈さん宅に泊まった時、俺は細心の注意を払っていたにも関わらず寝入っていた。
3.同じく朝比奈さんも翌日寝過ごし、その際「今日はたまたまなんです」と答えていた。つまり彼女は普段寝過ごさない。
4.昨晩の料理はスープがあるのに何故かもう一つ”スープ”を作り、さらにハルヒが注ぎ分ける際にやたらモタついていた。
5.事件の翌朝、朝比奈さん達が風呂に入ったのは昨晩だったというのに、俺が風呂に入る際に湿気が籠っていた。
6.朝比奈さんに気に掛かる点を訪ねた際、”服が何故か一着無くなっていた”と答えた。
7.ハルヒは朝比奈さんの「みくるちゃんの寝顔が可愛かった」と言った、つまりハルヒは朝比奈さんが寝ていた時間に起きていた。

「これらから考えたんだよ俺は。
 大方、ミネストローネに睡眠薬でもぶち込み深夜のうちに殺害してきたって筋書きなら不可能じゃないってな。
 その後汚れた服は捨て、朝方のうちに風呂で血を洗い流し、朝比奈さんの隣へ戻ったって所か? 良く寝てたしなあいつ」

「なるほどね」
「何がなるほどだ、全然解決しちゃいないだろうが。
 俺は可能性を挙げただけで信じちゃいねぇよ、ハルヒが犯人だなんてな。まあその為にお前が居るんだろうが」

掴みかかろうとする俺に対し古泉が、
「僕が知っているのは彼女の”動機”、あなたが知っているのは彼女の”証拠”です。これら二つが合わせ鍵なんですよ。
 とにかく、事の顛末を事細かに話してください。僕の思う”動機の推理”が正しいかどうかを判別できます」

――そしてその時、涼宮さんが本当に犯人なのかが決定します。

769 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/31(木) 01:26:21.15 ID:jHHtrnph0

そして俺は、全てを話し始めた。

古泉と喧嘩別れしたあの日の後、俺達がどういう行動を取ったのかを。

一緒に帰り、スーパーへ行き、両親との会話、そして――


――蒼の黄昏の中での”疑似家族”の話。


そこを話した瞬間、
「やはり……」
古泉が呻きを漏らした。
「なんだ? もういいのか?」
「いえ、続けてください。なあに安心してください、逃げも隠れもしませんよ僕は。
 貴方が話してくださった後で僕の推理、僕が身を隠した理由、そして――」


――僕が貴方を殺そうか迷っていた理由


古泉はナイフを取り出すと、机の上に差し出す。

「すべて、お話します」

淡い月明かりの中で、ナイフは美しく輝いてた。

771 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/31(木) 01:30:36.78 ID:jHHtrnph0

俺の話が終わりを迎えると、古泉は意味深に何度も頷いていた。
時々、
「なるほど……」
という呟きを洩らしては頬を掻く仕草を見せている。

やがて――

「単刀直入に言いましょう、この一連の事件の根本的原因は我々にあります」

それを皮切りに静かに語り始めた。

775 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/31(木) 01:38:45.23 ID:jHHtrnph0

 涼宮さんは最初から気付いていたんですよ、我々SOS団の正体全てに。
 そしてその上で知らない素振りを続けていたんです。
 そう、”いつか僕達が自分を受け入れてくれるはずだ”と信じてね。
 だけどそれは起こり得なかった。
 僕は隠そうとしました。それは朝比奈さんや長門さん、そして貴方自身も例外ではありません。
 涼宮さんは神人が出現するほどに暴れ狂う精神を必死に抑え続けていた。
 だけどそれにすら限界が訪れた。
 いや、いつ張ち切れてもおかしくはなかったと言うほうが正しいでしょう。

 いいですか、何ですら原因となり得たのです。

 まずはその形が極度のストレス性の退行、及び人格変容となって現れました。
 本来の涼宮さんとは正反対の、ひたすら人に甘えようとする性格を持つ幼い人格です。
 そんな折、貴方がたが涼宮さんの目の前で”朝比奈さんが未来人である”と言う事を露呈させた。

 ……ショックだったでしょうね、信じていた貴方にすら裏切られたのですから。
 さらには”家族”などという強いつながりを持つ概念に彼女を巻き込んでしまった。
 常に孤独と疎外感を抱えていた彼女にとって、これほどまでに望んでいた関係はなかったことでしょう。

 そうですよ、仮にそれを邪魔する人物が現れる度、消し去ろうとするほどにね。

 もうこの世界は、いえ、彼女が敵意を持った相手は尽く破滅へと追いやられることでしょう。
 なぜならば彼女は全てを超えた力を持っています。
 彼女が望めばどんな犯罪をも完全犯罪と化し、また殺意を抱かれた相手は如何なる手段を以ってしても逃れ得ません。

 現に、あの長門さんですら易々と殺害されたように。

 喜ぶべきは、いや全然喜べる事態ではありませんが……彼女はまだ常識の範疇にあるということです。
 ”魔法なんか使えっこない”、だから”刃物”という極めて現実的で直接的な手段で制裁を下すのです。
 もちろん、一度出会えば命を落としたも同然でしょう。

777 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/31(木) 01:48:43.51 ID:jHHtrnph0

「絶対の殺意、というものです」

古泉が締めくくった。
しかしまだ数々の疑問点が残る。

そういえば……
俺が学校へハルヒを連れてきた際、あの谷口と国木田の菊の花を見た後だ。

『ハルヒには、『学校ではあまり喋るな』と今朝のうちに吹きこんでおいた。
 元々不審者認定済みで避けられ気味のあいつにとって、
 今さら無言になったからといって特別不審がられるようなことはないだろう』

さらに、ハルヒの”お父様”から聞かされた言葉。
『結論から言わせて貰うとだ、自分には娘の考えている事がわからなかったんだ。
 何時だったかの何処だったか……ある日を境にハルヒは大きく変わってしまった。
 それ以前の明るい性格とは真逆の、常に退屈でつまらなそうで、そして笑わない。
 気付いた時には、親子なのに談笑すら交わさなくなっていた』

その後の、
『最低限の躾などはしていたんだが、まあ解り易く言えば放任だな、と苦笑いしていた』

様々な”点”が鮮明に映像として浮き上がってくる。
確かに繋がる。
だが……

「なぜ、谷口や国木田が殺されなければならない?
 それに古泉、お前が身を隠す理由にも説明がつけられていないぞ?」
「あなたは、最後まで涼宮さんを信じ切りたいのですね」

古泉が悲しそうに呟いていた。

785 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/31(木) 01:56:38.07 ID:jHHtrnph0

「端的に言いましょう、谷口さんと国木田さんが死亡したのは貴方の所為です。
 ……いえ、人の所為にするのはよくないですね。僕の所為なんですよ」

弱々しい光が宿る眼を左右に揺らした。
堪らなく弱々しいその姿に気圧されそうになりつつも、俺は言葉を紡ぎ出した。

「何故だ?」

古泉はあからさまな溜息を吐き、それから答えた。

「貴方と涼宮さん、そして朝比奈さん。
 この三人は涼宮さんにとって決して裏切ることのない仲間、”家族”です。
 あくまでも涼宮さんがそう思いこんでいるだけ、と補足しておきましょう。
 もし約束を破っていたりすれば……恐らく貴方や朝比奈さんも……」

「黙れ」

「すみません、ですが現実を受け止めてください。
 では僕や第一の犠牲者の説明を行います」

淡々とした語りは続いている。

789 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/31(木) 02:02:57.92 ID:jHHtrnph0

彼女の精神は不安定だった。
生まれたばかりの人格でしたから。

そんな折、微睡のなかで谷口さんと国木田さんの名前を聞いた。

直後、僕が怒りをあらわにし、机を蹴り飛ばした。

呆然とする貴方と朝比奈さん。


さて、どうでしょう?
貴方が今、この場で現場へと入り込めばどう判断しますか?

ましてやその後、貴方と朝比奈さんは”家族”という関係を誓った。

さあ、貴方ならどちらを”敵”と看做しますか?


――簡単です、僕ですよ。


抱かれているんです、僕は涼宮さんに一番最初の時点で”絶対の殺意”を。
彼女の前へ出ればその”常識的思考”に巻き込まれどのような人物ですら一般人に成り果てます。
さらに涼宮さんは相手を”確実に殺害する”という確信と共に、”家族を守る”という信念を持っています。

敵である僕と、その争いの要因となった”谷口”、”国木田”というキーワード。
それが最初の事件の真相です。

793 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/31(木) 02:10:34.71 ID:jHHtrnph0

古泉は語り終えると、がっくりと項垂れた。

「僕は迷いました、どうすればこの状況を抜け出せるのか。
 死ぬ気で、いや、無我夢中で考え続けましたよ……
 やがてあなたに助を請おうとした時、何故か連絡がとれなくなってしまった。
 まさか長門さんが妨害していたとはね……」

108通のメールか。
俺の元へ届いたあとに咄嗟に内容を空文字に書き換えていたんだろう。
その後、電話線も切られたしな。

「そこで考えたのです、こうやって身を隠しつつ貴方が解決へ向かってくれることを。
 出来るだけ連絡も避け、携帯電話も極力手放すように心掛けていました。
 涼宮さんが携帯の電波発信を利用して探る手段を使う可能性も否めませんでしたしね」

小林刑事が言っていたな。
携帯電話は微弱な電波を云々と。

「そしてもう一つ、最後の手段。
 貴方が事の真相に気付けず迷宮入りするようであれば――」


――貴方を殺害して、涼宮さんの出方を伺おうかと思っていました。

794 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/31(木) 02:16:41.94 ID:jHHtrnph0

キラリ。
ナイフが妖しく存在を主張していた。

「事態が良い方に転がる理由なんて何一つありません。
 ですが、確実に訪れる死を待つなんて、そんなこと僕にはとても耐えられませんでした」

こいつ……
こいつは俺が朝比奈さんやハルヒ達と仮初の家族団欒に勤しんでいる陰で、
ただ一人恐怖と闘っていたというのか……。


「ですが、結果的に言えば良かったと思います。
 これで少しばかりですが希望が見えてきましたので。
 限りなく低い可能性ですが、ですが解決へと向かう可能性が」

古泉が、あの古泉が。


涙をこぼしていた。


「長門さんや谷口さん、国木田さんには本当に悪い事をしたと思っています」

聞き取り辛い声で、古泉は吐き出していた。

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/31(木) 02:37:32.31 ID:jHHtrnph0

「では、最後の解決策を貴方に告げます。
 非常に残酷な手段となりえますが、涼宮さんに対抗できるのは貴方だけなんです。
 彼女は唯一、どんな状態、どんな状況下でも貴方だけには手を下さない。
 それは貴方に深い信頼を寄せているからです。
 だからこそ、貴方だけが殺意を抱かれる心配が唯一なく、彼女に対抗できるんです。
 いいですか、一度しか言いません――」


――涼宮ハルヒを殺してください。


言うなり、古泉が俺の右手にナイフを握らせた。

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/31(木) 02:47:23.79 ID:jHHtrnph0

右手には確かな感触。

淡い光の中、曖昧な暗がりのなか、確かに光るその手ごたえ。

俺だけが、ただ唯一の解決手段だって?

それがこのナイフだというのか?

「ここで彼女の息の根を止めておかなければ、
 彼女はありとあらゆる”敵”を駆逐し続けます。
 夜が来る度に怪物”かまいたち”へと化し、
 誰もが決して解き明かす事の出来ないバラバラ殺人を生み出し続けます。

 やがて……やがては、貴方や朝比奈さんすらをも手に掛けるでしょう。

 そして全ての支えを失った後、
 世の中は”かまいたちの夜”がさも当然の世界に成り果ててしまいます」

古泉が臍を噛み切るほどに顔を歪め、説明を終えた。

これが、こいつのこの説明を聞く姿を見るのはこれで最後になるのかもしれない。

俺は確証も無く、しかしそういう確信を得ていた。

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/31(木) 02:49:58.70 ID:jHHtrnph0

A.涼宮ハルヒを殺す。


B.涼宮ハルヒを殺さない。


>>30-35 (多数決性)

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/31(木) 02:55:40.46 ID:Wpsl1XBZ0



31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/07/31(木) 02:55:53.22 ID:h7ibQ3t80

これは一回BAD見ないとトゥルーに行けないゲームなんだよ!!!

それでもB

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2008/07/31(木) 02:57:19.84 ID:rMdJ5mWb0

A

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/31(木) 02:57:41.88 ID:1yG6FHTn0



34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/31(木) 02:58:26.59 ID:TrIwgjbrO

B
何か解決策はあるはずだ

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/31(木) 03:00:47.71 ID:dBMG25MSO



36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/31(木) 03:15:29.95 ID:jHHtrnph0

――コトリ

俺は静かにナイフを元の場所へと戻す。
「無理だ、俺にはハルヒを殺すことなど出来ない」

本心を告げた。

そうだ、ハルヒを殺すなんてとんでもない。
出来る訳がない。
確かに強引で放漫で勝手な奴だったが、
それは周りの環境が……いや、俺達が追い詰めていたんだ。
それにあいつにだって可愛いところはあるんだぞ?
お前は知らないかもしれないけどな。

願うだけで何をも実現させてしまう力、
そんなものをハルヒが持ってさえいたからこそ殺人が成り立ってしまった。


全ての要素が、ハルヒを追い込もうとしていたんだ。
まるで最初から……SOS団の設立時点から仕組まれていたかのように。


だったら、一人くらい味方が居てもいいだろう?

例えハルヒが全世界を敵に回したとしても、絶対に裏切らないような奴が居ても。


「これが、俺の考えだ」

古泉は黙りこみ、再びコーヒーへと口を付けていた。

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/31(木) 03:24:48.49 ID:jHHtrnph0

「そうですか」

もはや湯気すら出ないコーヒー片手に、古泉が笑う。

その笑い顔があまりにも翳っていた。

「すまん……古泉。それで、お前はどうするんだ?」
「さて、どうしましょうかね」

古泉は机上のナイフへと手を伸ばし、
それを自身の目前に立て光を煌めかせていた。

数瞬の後……


――カラン


床の上に舞落ちたそれは、数回跳ね踊った後、命を失った。

「それで、いいのか?」
「僕には無理ですよ、殺人なんて。
 涼宮さんの話を通して、そして僕自身が歩んできた軌跡を顧みるととても……」

「すまない」

「いえ、僕の事は気にしないでください――」


――これでいいんです。全部、これで。

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/31(木) 03:35:15.28 ID:jHHtrnph0

「お前、初めから覚悟を決めていたんだな」

俺がゆっくりと声をかけると、
「んっふ、さぁ、どうでしょうかね?」
いつか見た笑顔で答えていた。

時刻は深夜1時30分。
俺達以外の誰もが居ない校舎。
いつかハルヒと走り回った閉鎖空間のように静かなこの空間。

「久しぶりに、と言っても僅か数日ぶりですが、オセロでも一局打ちませんか?」

「ああ、俺も久しぶりにやりたいと思っていたんだ」

古泉が並べている間に、手近に置いてあったポットを使い、
二人分のコーヒーを淹れなおした。

「さて、では僕から先に打たせてもらいましょうか」

「構わないからさっさとやってくれ」


ただ静寂だけが存在している中で。
俺と古泉は下らない談笑を交えつつ、盤の奪い合いに勤しむ。


この日初めて、俺は古泉にゲームで負けた。

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/31(木) 03:44:49.82 ID:jHHtrnph0

コツン……コツン……

遠くから足音が響いてくる。
壁を跳ね、床を跳ね、天井を跳ね、それが俺達の元へと伝わってくる。

キーンコーンカーンコーン……

午前2時ちょうどを鐘が告げている。

「解り易いようにね、チャイムを入れておきました」

古泉が一言だけ呟くと、またも椅子に腰かける像へと戻った。


夜が来る度に人が死ぬ。

その身をひと目では判別不可能なほどに切り刻まれ、

間接毎に切り分けられていく。


コツン……コツン……


やがて足音の音量が最大へと到達し――

「かまいたちの夜の、はじまりですね」


廊下の影から、ハルヒが現れた。

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/31(木) 04:00:22.02 ID:jHHtrnph0

「お久しぶりですね、涼宮さん」

和やかに笑い掛けた古泉、

の眼前に既に迫っていた。


一瞬だった。


先ず、首が飛んだ。

返す刀で右手、さらに振りおろし右肘、そのまま一回転し右肩。

次に反対側。

腰、右太股、左太股、右膝、左膝。

最後に屈むように薙ぎ払い、両足首が千切れ飛んだ。


刹那の解体劇。


キャストであるハルヒは静かに立ち上がると果物ナイフの血を払い、
再び闇の中へと消えていった。


鐘の残響だけが未だ鳴り響く中で、
俺は一人椅子へ腰掛けオセロ盤を眺め続けていた。

47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/31(木) 04:10:47.54 ID:jHHtrnph0

「おはようございます、朝比奈さん」

愛らしい寝顔を覗かせていた彼女に、俺は努めて優しく声を掛けた。

「……ふぇ?」

焦点の定まらない眼で俺を捉えようとしている。

「えっ、キョンくん!? なんでここに!? 今何時ですか!?」
「時間は7時、5分前ってところです」
慌てふためく彼女に告げると、
「その、あの……いつもは6時30分くらいに起きるんですけど、その……」
「たまたま、なんでしょう?」
「はい、たまたまです」

この生活を始めてからもう何度も耳にしたセリフ。
どうやら彼女は側に人間が居ると存外にして自堕落になるらしい。

「ごめんなさいすぐに支度しますから、その、とにかく着替えますから……!」

バタン。

やはり、そのまま押されるようにして部屋から追い出されてしまった。

「先に下に降りてますからね」

そう声を掛けてダイニング・キッチンへと向かう。

51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/31(木) 04:22:18.47 ID:jHHtrnph0

「朝飯はまだなのか?」
「うるさいわねっ! 作って貰えるだけありがたいと思いなさい!」

刺々しい声が返ってくる。

「お前が自分からやりたいって言いだした癖に、何を勝手な」
「こういうのはね、互いに助け合う心が大切なの。それくらいも解らないの?」

「へいへい、わかってますわかってます。食器程度なら俺が出すさ」
「ついでにゴミ袋を買ってきてよ」
「どういうついでだ」
「今日はゴミ拾いの日でしょう? やっぱり相互扶助だと思うのよね、なんでも」
「そうかい」
「あんたまさかサボろうなんて魂胆じゃないでしょうね?」
「しねーよ、但し多数決だから朝比奈さん待ち――」

「おはようございまぁす」

「みくるちゃん! 手を挙げて!」
「え……? はい?」
「はい決まりー!」

「……」

「えと、なんなんですか?」
「朝飯でも食べながら説明しますよ」
「はあ」

52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/31(木) 04:32:21.56 ID:jHHtrnph0

「よう、不思議は見つかったのかい?」
「お父さんもゴミ拾いに?」

「貴様、やけに馴れなれしいではないか」
「んっふ、冗談ですよ」

「何だその笑い方は気持ち悪い」
「まあ旧友のちょっとした癖です、どうやら移ったようでして」

「ふん、まあいい、今日も張り切っていくぞ」
「いやに気合いが入っているんですね……」

「貴様等が離れて暮らしているせいだろうが!」
「大声で叫ぶのはやめてください……」

「ふん」
「はあ」


「お父さーん! 久しぶりっ!」
「どうもぉ」

「いやぁ、やはり二人とも可愛いねぇ」

それから俺達は連れ立って河原を歩き続けていた。

53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/31(木) 04:46:12.75 ID:jHHtrnph0

世の中は平和だ。

奇怪な事件も起こらなければ、不可思議な現象も起こらない。

もちろん宇宙人、未来人、超能力者、異世界人、なんてものもいない。

日が昇ってまた沈むように、街の流れも淡々と進んでいく。

俺達はといえば、いつかの黄昏の中での約束を今も継続しているし、

お父様や北校の仲間達も変わらない雑踏の中を歩いている。

そうそう、暫く前に刑事が一人惨殺されたらしいが、

偶にならそんな事があってもおかしくはないだろう。


この平和な時間が永遠に続きますように。

俺はただそれだけを願い、前だけを向いて歩くのだ。


この、家族達と共に。

54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/31(木) 04:47:40.22 ID:jHHtrnph0

               − 光 陰 篇 −

               『 ア カ ル イ 世 界 』


                   完

57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/31(木) 04:55:01.54 ID:jHHtrnph0

という事で長々とお付き合い頂き誠にありがとうございました
即興でこういうのやるのは辛いって解ってるのにやっちゃうマゾさ
たまらんね

保守してくれてた人と読んでくれた人達に感謝します

68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/31(木) 05:24:31.73 ID:jHHtrnph0

−Tips−

●選択肢が追加されました。


・奮闘篇が追加されました。

・夏カビ篇が追加されました。

・焼失篇が追加されました。

・真緑篇が追加されました。

・団結編が追加されました。

70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/31(木) 05:26:33.76 ID:jHHtrnph0

小鳥のさえずりが聞こえてくる。

その音色は爽やかな朝の雰囲気を作り出そうと働いているはずではあるが、
実際問題として今の状況はそんな空気とは甚だ言い難い。

暑い。
いや、熱い。

時刻はまだ朝の7時を少々回った程度のはずなのに、
この焼けつくような熱気はなんなんだ?

などと考えていても仕方がない。
刻々と時間は迫っており、そろそろ身を起こさねば俺の無遅刻記録に瑕が付いてしまう。
それにこのまま布団にくるまっていれば人間の蒸し焼きの完成だ。


よし――


A.「今日も面倒そうな一日の始まりか」
   俺は呟き、ベッドから身を起こした。

B.「もう少し寝ておいても構わないよな……」
   俺は再び目を閉じた。


>>74

74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/31(木) 05:29:38.52 ID:QW+Rw4250

んじゃA

78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/31(木) 05:33:15.21 ID:jHHtrnph0

それから時間が飛んでその日の放課後の事である。

「みくるちゃんがメイド服着たらすごくかわいいと思うんだ!」
無駄な元気と弾む声を振り撒いているのは涼宮ハルヒ、いや、自称ハルヒちゃんらしい。


俺は――


A.「そうだなー、確かに朝比奈さんなら似合いそうだ」
  朝比奈さんが着こんでいるシーンを想像しつつ答えた。

B.「いや、そのキャラ気持ち悪くね?」
  つい本音が出てしまった。

>>80

80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/31(木) 05:36:07.67 ID:QW+Rw4250



83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/31(木) 05:43:05.23 ID:jHHtrnph0

「いや、そのキャラ気持ち悪くね?」
つい本音が出てしまった。

「な、なに言ってるのーキョンくーん?」
「正直、癪に障る」
俺が言うと、
「涼宮さん……」
朝比奈さんがハルヒへ本気で心配そうな視線を向けている。

「だいじょーぶだよぉー……」
「おいおい、声が元に戻り掛けてないか?」
「そんなことないよ? あたしはいつだってこうだよっ!」

「涼宮さん……」
ついに朝比奈さんが目頭を押さえてしまった。
「気にしないで下さい朝比奈さん、こいつはいつもネジが足りてませんので!」
ハンケチを取り出し彼女の涙を拭っていると、

「ねぇ、キョン」
”ハルヒ”に声をかけられ、
「なん――」

「ぐふっ!」

振り向こうとした俺の腹部へ強烈なブロー。
そしてその痛覚を最後に俺の意識は……


                                        終

87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/31(木) 05:47:05.47 ID:jHHtrnph0

もうっ!
まったくもって解ってないんだから!

今は妹系ロリキャラが来てるってこの週刊スイーツに書いてあったのに、
ここまで完璧にキャラを作ったあたしに見向きもしないなんて……


いえ、そうでなくちゃいけないわ。

簡単に靡く様な男なんて腐るほどいる。

あたしは実力でキョンをこの手にしてみせるの。


ふふふ……覚悟してなさいよ?

みくるちゃんに有希も、あたしの本気ってものを見せつけてやるわ!

88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/31(木) 05:47:26.98 ID:jHHtrnph0

               − 奮 闘 篇 −

92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/31(木) 05:54:18.75 ID:jHHtrnph0

先ずは流行の先取りチェックよ。
やっぱり女の子ってものは常に新しい物を手に入れて行かなきゃならないの。

そうやってどんどん更新し続けなきゃ、
気付いた時にはオレンジジュースの底で溜まっている何か白い粉みたいな事になるわ。


……うん、比喩って難しいね。


とにかく!

あたしは流行の先取りをしたいと思ったわけ。


となるとやっぱり――


A.「週刊スイーツしかないわねっ!」
  コンビニまで毎秒10mの速さで走る事にした。

B.「キてる人を観察して、それをアレンジするのよ!」
  古典からの発展という技法を編み出した。

C.「ライバルさえ消えれば……」
  ぶつぶつと呟き始めた。


>>94

94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/31(木) 05:56:39.83 ID:QW+Rw4250



95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/31(木) 06:01:01.95 ID:jHHtrnph0

「キてる人を観察して、それをアレンジするのよ!」
あたしは高らかに宣言した。

「おい……」
「ああ……」

「なによアンタ達? なんか文句ある訳?」
あたしはすぐさまその二人組に声を掛けた。

「いえ、まさか」
「ええ、そのまさかですよ」

そうだよね、あたしの悪口なんて言う人いないよね。
「ふんっ!」
だからボディブローを放った。

「ぐふっ!」
「がっは!」

さあて、こんなのに構っている時間なんてないわ。

とにかく校舎内を徘徊しましょ、そうしましょ!

97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/31(木) 06:07:37.84 ID:jHHtrnph0

第一観察対象。

鶴屋。

あたしは物陰に潜み、彼女の教室を覗き込んだ。
放課後だというのにまだ自身の席に居るようで、友達数人と談笑している。

あたしは意識を集中させる――

聴こえる……聴こえる……この距離なら聴こえて当然……
まるで鉛筆をへし折るかの如く……コーラを飲んだら……

「そうにょろよ!」

聴こえて来た!

「この前ね、小麦粉が安かったんだよっ! とりあえず捏ねて見たけど案外使い道なかったりしてさ!
 しょうがないからカレー粉やお酒なんかも混ぜて魚の餌にしたりね?」


――これだ!


これは間違いない、新しい。

あたしは勝利を確信しつつ、家路につくことにした。

100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/31(木) 06:15:42.08 ID:jHHtrnph0

翌日。

「ねぇキョン、消しゴム貸してよ」
前の席に座っていたキョンへと声を掛けると、
「……ん? ああ、いいぞ」
満面の笑みで貸してくれた。

キョンが再び前へと向き直ったのを確認してから、

「よいしょー!」

消しゴムを机の端から端まで滑らせ、

「もういっちょー!」

さらに往復させ、

「まだまだー!」
「おい」

「それぇーっ!」
「角を削るな」

――パコン

キョンの缶ペンで頭を軽く叩かれた。

「ハルヒの頭は空のペットボトルを叩いたような音を立てた」

なんか独白してるみたいだけど、要するに軽いってことね。

101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/31(木) 06:25:57.05 ID:jHHtrnph0

「学食に行くわよ!」
ぎゅっと腕を掴み取る。
「待て、引っ張るな……って、ちょっと上履き脱げた、上履き脱げたから!」
「裸足でやれ」
「……」


学食はやたらめったら賑わっていた。

全く、あんたら弁当でも持ってきなさいよ。
うんざりしつつも、
「ねぇアンタ達、この席あたしのとこだから」
丁寧にいなしていると、
「お前は何処まで自分勝手なんだ。あ、すみません気にしないでください」
まったく、キョンは押しが弱いのよねぇ。

「座れそうにないからパンでも買っていこうぜ」
「はぁ……まあいいわ」
「何でいつも偉そうなんだよ……」
「はぁ? あたしが――」


――待てよ。


偉そう、いつも偉そう、いつも……

これだ!
ギャップ萌えという言葉を聞いたことがある。
これは使えるはずに違いない。

102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/31(木) 06:29:24.45 ID:jHHtrnph0

つまり、あたしがこうすればギャップが出るはずよ。


A.「……」
  眼鏡を掛けて無口もいいわね。

B.「おはようございましゅ」
  下っ足らずな喋り方ね。

C.「んっふ、どうも」
  常に笑顔を振りまくべきだわ。

>>105

105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/31(木) 06:35:41.49 ID:Ho1B1ojZO

どれでも駄目な気がするが A

107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/31(木) 06:41:23.67 ID:jHHtrnph0

パンを齧りつつ、辺りを見回す。

どこかに眼鏡でも落ちてないかな……

注意して良く見ると、なんと足もとに眼鏡が落ちていたことに気がついた。

まさに天の助けってやつね。

それを掛けるなり、
「……」
口を噤み只管パンを齧る事だけに集中する。

ぱくぱくぱく。

「……」
「……」

キョンも静かにパンを齧り続けている。


そしてそのまま昼休みは終わった。

111 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/31(木) 06:49:48.98 ID:jHHtrnph0

放課後となり、部室の扉を無言で開ける。

奥の方に有希、右手側にみくるちゃん、あたしの後ろからキョン。
うん、全員揃ってるわね。

なんて考えていたら、
「こんにちわぁー」
みくるちゃんが笑い掛けて来たので、
「そう」
短く返してみた。

あれ、このキャラ何処かで見たことあるような。
まあいいわ。

それを確認すると、あたしの席である机の上に腰掛け、
「……」
やっぱり口を噤んでみる。

「お茶です」
「ありがとうございます」
「……」
「……」

そのまま部活の時間は過ぎ去っていった。

113 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/31(木) 06:59:52.67 ID:jHHtrnph0

「あ、あのー……あたし先に帰りますね」
みくるちゃんが声を上げると、
「わたしも」
有希が開いていた本を閉じ、音も無く立ち去って行った。

そして部室内に残ったのはあたしとキョンの二人だけ。

何気にまだ眼鏡を掛け続けていたあたしが黙っていると、
「お前、ちょっと今日は輪を掛けて変じゃないか?」
キョンが顔を覗き込んできた。
「別に」
またも短く答える。
「いや、お前に長門の真似は似合ってないから。怒っているようにしか見えん」
「そう」
「……」

長い沈黙。

「俺、何か悪いことでもしたか?」
「……」
「な、なぁハルヒ?」
「……別に」

「いつものままで可愛いんだけどなぁ……」


えっ!?

114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/31(木) 07:00:38.40 ID:jHHtrnph0

あたしは咄嗟に――


A.「な、なに言ってるのよ! ほら、さっさと帰るわよ!」
  今すぐ帰ることを主張した。

B.「へ、変な事を言わないでよね!」
  ちょっとだけ頭に来た。

C.「べ、別にアンタの為だとかそんなんじゃないんだからねっ!」
  アンタの為ではないことを強調した。

>>116

116 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/31(木) 07:07:11.27 ID:QW+Rw4250

全部ツンデレじゃねーかw
Aで

118 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/31(木) 07:16:24.37 ID:jHHtrnph0

「な、なに言ってるのよ! ほら、さっさと帰るわよ!」
「いや、なに言ってるってそのままなんだが」

「そのままもこのままもないのっ!」
「意味が分からん」

足早に部室を後にすると、
「おい、ちょっと待てよ! って鍵、鍵……おーい!」
走って追いかけて来た。

「何故、こうもお前は扱い難いんだ」
「そんなこと聞かれても答えられる訳ないじゃない」

「はぁ……なぁハルヒ」
「なに?」

「俺達、付き合ってるんだよな?」
「ま、まあそうなるわね」

「じゃあなんでお前はこうにもガードが硬いんだ?」
「そんなこと知らないわよ!」


走り出したあたしの後ろから、キョンが必死に追いかけて来ていた。

そんな彼を見ていると、やっぱり悪い気はしない。

なんてね、冗談なんだからね、勘違いしないでよね。

119 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/31(木) 07:16:55.31 ID:jHHtrnph0

               − 奮 闘 篇 −

              『ツンデレなあたし』


                   完

120 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/31(木) 07:23:45.21 ID:jHHtrnph0

という訳で、ここらでお開きにしたいと思います

誰か暇な人が居たらかまいたち形式に挑戦して貰いたいな
読む側に回ってみたいしね

そいじゃ長々と乙だぜ、楽しかった



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