長門「…エヴァには私が乗るわ」


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2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/02(月) 15:19:36.02 ID:cT1Qm0n80

 蝉時雨、雲ひとつ無い晴天と呼ぶに相応しい空の下
しかしそんな出かけ日和であるのにも関わらず街は閑散として
人っ子一人見えない。

「…二駅も前でとまるとはついてないな」

 リニアの駅からでると、太陽が鋭い光を浴びせてくる俺はそれを遮るように手を翳す
ポケットから携帯を取り出して記憶した番号にかけて見るものの
聞こえてくるのは無機質な非常事態宣言の勧告のメッセージ

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/02(月) 15:28:24.49 ID:cT1Qm0n80

「電話も通じやしないか」

 当然か、そもそも俺がこうして日の当たるところに居ることの方がよっぽど異常な事だ。
この周辺の半径5kmにも及ぶ地帯に住む人間は誰彼かまわず、一人残らず
地下約数十メートルの分厚い金属で囲まれたシェルターの中に居なくてはならない。

「…しゃあない、歩くか」

 本来なら俺だって乗ってるリニアがとまった時点でシェルターに非難すべき
だったのだろうけど……。俺はポケットの中で若干皺くちゃになった封筒を
多少の躊躇を交えて取り出す。

『とっとと来い  byハルヒ』


 ずいぶん前に引っ越し、しばらく音沙汰なしになっていた自分の友人からの
あまりにも理不尽な内容の手紙、俺はそれをみて大いにため息をつく

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/02(月) 15:38:19.78 ID:cT1Qm0n80

 変わってない事に安心したり、早々に面倒ごとに巻き込まれる予感に辟易したり。
しかし湧き上がった郷愁と一緒に入ってた片道切符に押されるように長期休暇を
利用して俺はここにきた。

「しっかし急がないと、待ち合わせの時間まであと1時間切ったか」

 つまりそれは目的地にそれまでにつかなくてはならないということ。
そして目的地はリニアで行くはずだった二駅先の第三新東京市
こうなるとこっちについてから昼食を食べるくらいの余裕を持って動いていたのが幸いか
走れば10分程度の遅れで済むだろう。

  パシュッ

 そんなまるで空気の漏れるような、なにか薄い軽いものが破裂したような
まるで拍子抜けするような音がした。といっても俺が音を認識するとほぼ同時に
俺の目の前を音の原因の鉄の塊が音速を超えて飛んでいった。それは兵器。

「ミサイル!?」

 音速を超えるということは物が通り過ぎてから音が来るということで
俺はなんの用意も無く、その轟音に身をさらす事になった。耳をつんざくようなという
形容がそのまま使われる場面を、俺はハルヒに怒鳴られること意外で初めて感じた

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/02(月) 15:56:25.70 ID:cT1Qm0n80

 ビリビリとシャッターの閉まった商店街は衝撃に更に音を重ね
俺の頭上を飛んでいったミサイルはリニア駅の周辺で一番でかい
デパートの裏手の方で爆発をしたらしく建物の上から横から赤い炎と
黒い煙と灰が舞っていた。俺は頭を抱えていた両手を離して建物の裏に
ミサイルが向かった先に足を進めた。


「……なんだよ、あれ?」

 化け物、怪獣、モンスター。なんと例えてもそいつの一片を掠っていて
しかし全然本質を貫いては居ないよ自分でも確信できた。異様で異形な"者"
それがミサイルの雨のなか悠々と歩を進めている。

 そしてその周りには先ほどと同じミサイルを幾つも吐き出す最新鋭の戦闘機が
数十機と小蝿のようにそれに群がっていた。

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/02(月) 16:07:41.65 ID:cT1Qm0n80

 頭も首も無く、人間なら胸の辺りになるだろう場所に
その大きすぎる体躯には似合わぬ小さな仮面のような顔が存在していた
戦闘機はミサイルを飛ばし、その全ては巨人の身体に打ち込まれて
周囲に粉塵と轟音をまいて爆発するが、しかし巨人に外傷があるようには見えない

「税金の無駄遣いか?」

 あまりにもあんまりな光景は一周して平静を呼んだのだろうか。俺は払ってない癖に
偉そうに行政に文句を呟いてみる。と戦闘機の一つが巨人の手によって軽く叩き落される
それはまるで蚊が飛んでいたのに気がついて追い払うような非常に人間的な日常的な仕草で
しかし億単位の値段の戦闘機があしらわれる。

「…っておいおいおいおい!」

 巨人がじゃまっけに思ったのは戦闘機だけでなく暢気に観戦していた俺も含まれるのか
叩き落された戦闘機はまるまま俺に向かって墜落してきた。

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/02(月) 16:20:05.87 ID:cT1Qm0n80

 鼓膜が破れると思った。顔に熱風と呼ぶには強すぎる風と
飛んでくる金属片が顔に切り傷を作る。…だがいくらまってもそれ以上の衝撃は来なかった。

「ん〜、速く乗ったほうがいいと私的には思うのだけどどうだろう?」

 声が聞こえた。まったく聞いたことの無い声がいきなり前方から聞こえ
俺は強く閉じていた瞼を開き声に目を向ける。

 赤い車が運転席のドアを開けてそこに停まっていて、運転席には声の主だろうか
少し幼い感じのする女の人がドアに手を掛け俺に向かって困ったような笑みを浮かべていた。

「乗る?乗らない?」

 俺はそこでようやくポケットに入れていた封筒に手紙と共に入っていた写真に思い至り
近づいてくる巨人を視界に映して急いで車に乗り込んだ。

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/02(月) 16:30:36.99 ID:cT1Qm0n80

「泉こなたって言うんだけど…一応知ってるよね?」
「はい」

 助手席に身を埋めバックミラーで少しずつ遠ざかっていく巨人を確認しつつ
俺は答える、彼女は俺と今日待ち合わせしていた。ハルヒがよこした迎えの人だ
手紙と共に写真が入っていた。長い特徴的な青い髪、俺よりずっと低い身長に幼い顔
車を運転している以上俺より年下って事はないと思うんだが…

「泉さん聞きたいことがあるんですけど」
「ん? 呼び方はこなたでいいけど、年も大して変わんないしなに?」
「…いや、今まさに年に関して聞こうと思ってたんですけど」
「19」

 二つ上だった、いやまぁ順当なあたりだとは思うが。しかし外見からは絶対に判断できないだろう
…しかしハルヒがよこした人って事は関係者なのだろうか? 結局あいつは今一体何をしていて
なんのために俺を呼んだのか俺は知らない

「しかし、意外とマイペースだね。聞きたいことは他にある筈だろうけど」
「いえ、整理できてないだけです」

 大体あんなよくわからないいきなりの街中での戦闘に頭がついていってる筈が無い
下手に質問してもそれでまだ初対面の人間に俺という人間を判断する情報を与えてもつまらんし
聞いてもうまく理解できないだろうしな、当面は保留だ

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/02(月) 16:38:25.82 ID:cT1Qm0n80

「あれ?」

 離れていく巨人をもう一度確認しようとミラーを確認すると俺は違和感に思い当たり
無意識に声を上げてしまった。こなた…さん(これに関しても保留だ)は俺の声に反応し
前方不注意にならない程度に俺に顔を向ける。それに対して俺は違和感の理由をそのまま
彼女に教える。

「戦闘機が化け物の周りから居なくなってる」

 あんだけ無駄に弾薬をつかい攻撃を続けていた戦闘機が今は一機たりとて飛んでいない
あれほど執拗に飛んでいたのになぜ? と思う前に

「えぇ! うっそぉ!?」

 今度は確実に前方不注意になるだろう後ろを振り返って巨人を自分で確認して
その後に彼女は車を近くの丘の影に道路の中央分離体を乗り上げて車を勢いよく移動させた

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/02(月) 16:49:12.29 ID:cT1Qm0n80

「伏せて」

 と言おうとしたことはわかった。が残念なことにそれはまったく功を奏さず
俺と彼女は車ごと爆風と轟音と吹き飛んでくる多種多様なものに転がされた。
天井に頭をぶつけ、シートベルトに首を絞められ車が動きを止める頃には額から血がにじんでいた。

 会話をしていたわけではなかったので舌を勢い余って噛み切るようなへまはしなかったが
しかし車を一時的非難に使った場所は砂が多く服の中に入り口の中は切れてじゃりじゃりした
車はどうやら上下逆の状態で動きを止めたらしく頭が打撲とさらに血が降りてくることによって
やけに朦朧としている。

「大丈夫?」
「なんとか、一応、まがりなりに、奇跡的に、大丈夫です」
「結構やばい状態なのは理解できたよ」

 事故したときにシートベルトは場合によっては拘束具になると聞いたが
まさに今回がその通りで俺達は車を起き上がらせるために窓から出ようとしたのだが
実際にまどから出るまでに10分近く消費した

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/02(月) 16:57:27.87 ID:cT1Qm0n80

「いっせーの、せ!」

 車に背中を当てて足を踏ん張り起き上がらせるために
四苦八苦する俺とこなた(この時点でさん付けする意思はなくなった)だったが
しかし俺は運動不足の高校生、こなたは実年齢はともかくこの場合は身体の方が重要で
それに関しては絶望的で、従って車を起き上がらせるのは苦難を極めに極め。

「よし、ちょっと待ってて」

 しばらくしてこなたは額の汗をぬぐいながらそういって五分ほど場から離れ
そして、どっかから別の車を持ってきた。

「この車で引っ張って起き上がらせよう」

 そういって車のトランクからフックを引っ掛けて赤いひっくり返った車を起き上がらせる

「その車で行けばいいんじゃ?」
「ダメ、その車は私のマイカーなんだよ。ボロボロになったけどまぁ君を連れてくる道中だから必要経費で修理するの」
「そっすか」

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/02(月) 17:07:05.47 ID:cT1Qm0n80

「よし、改めて行こうか」

 すっかり無残な姿になった車に乗り込み誰も居ない道路をまた走らせる
俺は割れてミラーが使い物にならなくなったため、同じく使い物になっていない窓から
身を乗り出して先ほどの大爆発が起こったところを見やる。

 そこはまるで隕石でもぶつかったのかというような勢いで地面は抉れ
先刻まで俺がいた駅やその周辺の建物も根こそぎ消え去っていた
そしてその中心に腕が千切れて表面が溶けたような巨人が
しかし屹然と大地に立ち上がっていた。

「……さっきの爆発もあいつに対する攻撃だったのか」
「ま、そゆこと。国連の切り札だよ」
「ずいぶんとリスクのでかい兵器だな。しかも目標殲滅できずか」

 多少嫌な、皮肉な言い方になったかもしれない。だが自分達も一緒に殲滅されかけ
しかも結局効果なしでは恨み言の一つも言いたくなる。俺は車に身を戻し風でおかしくなった
前髪を手櫛で整えつつこなたに目を向ける。

 こなたは俺の言葉になぜか悲痛な面持ちで俺を見る

「………あれで倒せればよかったんだけどね」
「まぁそれなら簡単に済みますからね」

 なんとなくそんな表情が見たくなくて、適当に返す。しかしこなたの顔は更に暗くなり
ポツリと小さくつぶやく

「それも……確かにそうなんだけどね」

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/02(月) 17:29:14.88 ID:cT1Qm0n80

 それからなにも言わないまま、いや、正確には色々言葉はあった
だがあんなものは会話とは呼べない、互いに何か他に考えて意味もない言葉の応酬があっただけだ
まぁとにかくしばらく車を走らせカートレインに乗せて車ごと地下に潜る
確かジオフロントだったか、人間以外に作られた人工の巨大な地下空間。

「ここにハルヒが居るのか」

 小さく声が漏れる、自分にも聞こえるか聞こえないかの声量だったが
しかしそれを目ざとくこなたは拾い答える

「そうだよ、すぐには無理かもしれないけど会えるよ」
「えっと、こなた……さんも」
「こなたでいいって言ったじゃん」

 ……普通はそういう場合本当に呼び捨てで呼ぶってパターンはなかなか無いのだが
今回はまぁ例外だったらしく、俺の先ほどまでの脳内葛藤は無意味だった

「こなたはあいつと一緒になにをやってるんだ? あいつは俺になにをさせたがってるんだ?」
「ん〜。それはなかなか卑怯な質問の仕方って気付いてる? 気付いてるんだろうね
 そうだね私はハルちゃんと”一緒に”なにかをしては居ないよ。だから君になにをさせたがってるのかは私は言えない」
「知らないじゃなく言えない?」
「そ」

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/02(月) 17:40:46.85 ID:cT1Qm0n80

 カートレインは音も無く、すべるように移動し、やがて橙に染まるジオフロントが見えた。

「これがジオフロント、名前は知ってるでしょ?」
「…あぁ、こんなに綺麗なんだ」

 夕焼けのような色合いがどこまでも続く広大な空間、地下とは思えない光景だった
だがそれに浸るほどの時間はなく、すぐにトレインのゲージが視界を遮った
金属同士が触れ合うガシャっという音がして動きは止まり一定方向にかかり続けていた軽いGが
車を降りてもまだ違和感として残り足がふらつく

「んじゃ車は後で申請書出して直してもらうとして…、私達は本部に向かうとするかね」

 俺は機械に飲み込まれ見えなくなった車を思い出し
直すより買ったほうが安いんじゃないかという言葉をギリギリで飲み込んでから
別の言葉を、質問を口にする

「本部って?」

「SOS団本部だよ、キョン君」

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/02(月) 17:48:19.87 ID:cT1Qm0n80

一話終了

というか少し区切りがいいから一息つくよって話
紅茶でも飲んでくるけど続き必要? 軽くばてて来た

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/02(月) 18:57:30.12 ID:cT1Qm0n80

 SOS団、というネーミングには失笑を禁じえないが
いやはやしかし少なくともその情けない名前をハルヒの独断によって付けられたこの団体は
結成から三年程度しか経っていないにもかかわらず公的機関として確固として存在している
非公式の公的団体―というのがこなたの説明だったが意味のかぶりと矛盾が観測されるその言葉が
しかし言い間違いやら言葉不足といった類ではないことだけは理解できた。

「んっと……こっちの道は…さっきいったから」

 腰まで届く非常に長いブルーの髪を片手で弄りながら長い無機質な廊下を立ち止まって
地図と道とを見比べするこなたとその後ろであきれ返ってる俺。状況を説明するのは非常に簡単だ
単純極まりない、一言で済む。いいか? 言うぞ? ――迷った。

「あれ、こっちだっけ? でもあっちのエレベーター乗ったらCブロックだよね……」
「なんで2ブロック隣のケージとやらに移動するだけでこんなに時間食ってるんだ?」

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/02(月) 18:57:43.64 ID:cT1Qm0n80

 ただでさえリニアが停まったり爆発で吹き飛ばされたりと時間は失いすぎているというのに

「ま…まぁ、こっちから行くのが無理ならあっちに来てもらえばいいんだよね!」
「ケージに来てもらうんのか? 流石ハイテク」

 違う違う、とたたんだ地図をパタパタと振ってこなたは笑って携帯を取り出した。
まぁ誰か道案内を呼ぶつもりなのは理解できた、というか本来なら
その道案内役としてのこなたが居たはずなのだが。とため息を小さくつく

「あっ!」
「なんだ!?」

 こなたは俺に苦笑いを向けて自分の携帯を俺に向ける。それは多分あの大爆発の時だろう
液晶は粉々になり携帯電話としての使用は不可能になっていた。俺は咄嗟に自分の携帯を取り出す

「俺のは大丈夫だな…」
「貸して」

47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/02(月) 19:40:16.95 ID:cT1Qm0n80

カチッカチッカチッ

「……」
「……」
「……」

カチッカチッカチッ

「………ごめんなさい、えみりさん」
「わからないならもっと速く連絡すること時間の無駄、そもそも地図を持っててなんで迷うの?」
「……」

 狭い個室、硬く閉ざされた扉の上では針が大量に並んだアラビア数字の上を踊り小刻みに音を立ててる。
個室は現在ジオフロント内の地面を0として地下63メートル
階層ではなくメートル表記のエレベーターを俺は始めてみた

「だってここって迷路みたいで」
「迷路みたいだろうとなんだろうと形が固定されてる以上一月もあれば道は覚えるでしょ、普通は」

 普通はを強調していう”えみりさん”俺はまだ正式に自己紹介をしてもらってないので彼女が一体
こなたとどういう関係でここでなにをしてるのかは知らない、そもそも苗字もまだわからない。
ただ力関係は彼女のほうが上っぽい

53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/02(月) 20:02:32.84 ID:cT1Qm0n80

 喜色満面の『喜』に色の『緑』
江ノ島の『江』に美しいの『美』そして千里の道も一歩からの『里』
あわせて喜緑江美里18才女性、というのが彼女がこなたを一通り叱咤した後に
俺にしてくれたテンプレートな自己紹介の内容だった。

「よろしくキョン君」
「えっとよろしく喜緑さん」

 この人には一生タメ口になる日は来ないだろうと嫌な予感めいたものを感じながら
俺はここでまたというかやっと一つ不思議な点に気付いた
ここでも、先ほどこなたとあったときも俺は自己紹介なんかしちゃいない
ある程度の情報はリークしてるのかと思ったが、それなら俺をローカルなあだ名で呼ぶ理由が無い
やはり冷静なつもりで混乱してたのだろう、思い返せばこなたにも何回かキョンと呼ばれた覚えがある。

「あの…」
「つきましたよ」

 不思議というよりむしろ不審と評すに値することに俺は質問をしようと口を開くがそれを遮るように
喜緑さんは穏やかな口調で言葉を紡ぐ、と同時にチンと安っぽい音がして扉が開く

59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/02(月) 21:08:09.27 ID:cT1Qm0n80

 誕生日パーティーか? ケーキが見当たらないが迷ってるうちに蝋燭が燃え尽きたのか?
なんて事が頭に浮かぶ、エレベータの扉が開いた先は完全な暗闇だったから
唯一の光源はそのままエレベータの内側のライトのみでそれも時間が少したって
扉が静かに閉じればそれすらもなくなる、暗闇はいくら経ってもなれる様子も無い
当然だ、ここは地上とは違う。人工の光が無くなれば目が慣れて見えてくるような少量の光すら残らない

「動かないでね危ないから」
「はい」
「泉さんもね」
「…はい」

 喜緑さんは暗闇の中右往左往してる俺となぜか(と言っても迷子になったのを見た今はその理由も
わかるというものだ、正直自分の命の恩人という畏敬の念も大半が効力を失っている)こなたにも声をかける。
カンカンと足音と思わしき音が少しずつ自分から遠ざかっていく、止まる。

 バッと舞台にセットされてるような丸く大きなライトがあたりを一気に照らす。
視界がいきなりの強い光に白く染まり、咄嗟に手で目を庇う
瞼の上からやってくる鋭い光に少しずつ瞳孔が開き、いわゆる明順応をしてくのを感じ
ゆっくりと目を開く

「……ロボット?」

62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/02(月) 21:59:14.39 ID:cT1Qm0n80

 俺は確かに身長は高いほうじゃない、大体170ちょい程度だ
だがその俺と同じくらいの瞳をもった人型のなにかの全長はいったいいかほどの物だろうか
目の前の紫という奇天烈なカラーリングのそれは眼光鋭く俺を映す
これは、今日一番の驚愕だった。
これが現実か? ありえない、足元がふらつく眩暈がする
次々に展開されるこの一連の流れに認識が追いついて来ない
俺は感情が表情として現れることが少ないとよく言われる人間だが
しかし俺の今の顔を第三者として観測できたならそれは非常に不様に狼狽してる様が手に取るようにわかるだろう

「それはロボットじゃないわよ」

 ともすればそのまま足元の金属製のタラップに崩れそうな俺を
なんとか持ちこたえさせたのは冷ややかで鋭い、懐かしい声だった

「久しぶりね、キョン」
「ハ…ルヒ…か?」

 肩まで朱色の液体に使った巨大なロボットの顔、それの更に上
天井から迫り出したガラス張りの部屋かなにかに、ハルヒは腕を組んで底意地の悪い笑みを満面に湛えて
俺を見下ろしていた。口調、態度、声や表情、年を重ねた分だけ外見に差異は見えても
それは紛うことなく涼宮ハルヒだった

「話したいこともあるし、再開を喜びたい気持ちも山々なんだけど。正直時間が無いのよね予定よりずっっと!
 だから手短に話したいの悪いわね」

73 名前:見てくれてる人がいることに感動した![] 投稿日:2008/06/02(月) 22:22:58.98 ID:cT1Qm0n80

 「あんたはその人型決戦兵器初号機、エヴァンゲリオンに搭乗して
 神人と戦ってもらうわ」

 見えないがインカムでも付けてるのだろうか左右からグワングワンと聞こえるハルヒの声
それはどこまでも平静で冷静で、そして俺にとって誰に言われるどんな言葉よりも冷酷だった

「神人って……、なんだよ」
「察しはついてるでしょう?」

 俺が必死に会話を伸ばそうと、決断せずに要るために時間を稼ごうとした質問
しかしそれもあっさりと切り捨てられる、つまり、俺に化け物と戦えって言ってるのだ。ハルヒは。

「冗談だろ」
「んな訳ないでしょ」

 俺の無駄な抵抗は一笑に伏される。一蹴される。笑っちまいたくなった
久しぶりに懐かしい友人と会える、そう浮かれていたのか俺は
あぁそうだ、わかってる。あいつは俺に期待に過去に一度でも答えたことは無い
それが意識的でも無意識下のことでも。あいつは常に俺の期待を裏切り続けた
いい意味でも悪い意味でも。今回は悪く転がっただけだ。そうだろ?

76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/02(月) 22:35:15.43 ID:cT1Qm0n80

「あんた言ってたじゃない、不可思議な現象に立ち会って
 漫画的アニメ的なヒーローになりたい、誰にもできないことをしてみせるって」
「…それは!」

 確かに言っただが、それが実現するなんて誰が思う?
そんなのは多感期の誰にでも起こる万有感、自分が特別だと思い込む万能感
子供の頃見た有象無像な夢が、幻想が、夢想が、誰が現実になると心のそこから信じきる?
ヒーローになりたいウルトラマンでも仮面ライダーでも戦隊物でもいい
そんなものはフィクションであってフィクションでなくてはいけないんだ

「でも、あんたは確かに言った。一度口にした言葉は戻らない
 そして今実際にあんたにしか出来ない、あんただから出来るファンタジーが目の前に現れたのよ」

 やりなさい、そう目で、態度で、言うハルヒ。
こなたや喜緑さんは居なくなっていて、この場には俺とハルヒだけになっていた。
訳がわからない、度を越えてる、何故俺じゃなくちゃいけない、俺ならできると何故言える?
いきなり見たことも無い巨大な兵器に乗せられて、見事操縦できて見事勝利を収められるのは漫画やアニメやゲームだけだ
俺が無理やり乗せられて、あんな爆発のなか余裕で生き残ってた化け物に喧嘩挑んだところで
待ってるのは勝利なんかじゃない、確実な俺自身の死だ

77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/02(月) 22:44:27.45 ID:cT1Qm0n80

 ガシャンと勢いよく尻餅をつく。
といっても俺がこの会話によって腑抜けて力抜けたわけじゃない。それにはまだ早い。
それとはべつの理由で俺はタラップにしがみついて倒れこんでる
ロボットが浸ってる紅い液体は波立ち飛沫がかかる、天井からはパラパラと細かい塵が降り
照明はぐらぐらと揺れ影がそれにあわせて不気味に形を変える
爆破音と強い衝撃がここを襲ったのだ。
まったく爆発だのなんだのって言葉を爆竹レベル以上で使ったのは電子レンジで卵を温めた以来初めてだ

「ほら、キョン。敵さんが気付いちゃったわよ」

 強い、震度にすれば5強はありそうな揺れの中しかしハルヒは少し身じろぎしただけで仁王立ちのまま
俺に愉快そうに笑みを強めて揶揄するように言う

「このままだとみんな死ぬわよ、あんたもこなたもえみりも、もちろん私も」


『どうする? みんなで死ぬか、戦うか』

78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/02(月) 22:50:08.24 ID:cT1Qm0n80

 「主電源接続」

 「全回路動力伝達」

 「第2次コンタクト開始」

 「A10神経接続異常なし」

 「初期コンタクト全て異常なし」

 「双方向回線開きます」

 「シンクロ率39パーセントで固定」

 「ハーモニクス全て正常値」

 「エヴァンゲリオン初号機リフトオフ」

81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/02(月) 22:58:47.85 ID:cT1Qm0n80

 周りがなにを言ってるのか理解が出来なかった。
ただ自分がこれ以上ない大きさの選択肢を選び終わってしまったのは感じた
強い血の臭いに嫌悪感を超えて吐き気すら催しながら俺は歯を食いしばる

 結局俺は流されるまま流されてここに座っている。
どうにか落ち着こうと目を閉じる、が周りの景色は消えない
むしろはっきりと目を閉じたことで細かいところまで、一気に視力がよくなったように周囲がよく見える

曰く、このロボットは俺の思うように考えるままに動く
もう一つの自分の身体のようなものだということだけは教えてもらった
だからどうしたという話だ、いきなり乗って動かすというまず漫画補正の第一前提はまぁ解けた
操縦する必要なんて無く考えるだけなら動かすことくらいはできるのだろう、きっと。
なら次の問題だ、勝てるか否か。

「……はぁ」

ため息をつく、吐息は目の前をこぽこぽと気泡になって浮かびそれもまた溶けて消えていった
なんの単語の頭文字なのかは知らないがLCLとか言う呼吸できる液体
鉄の臭いなんて周りくどいいいかたをしないでそのまま言うなら血の臭い
これが原因だ、気持ち悪い、気持ち悪い。

82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/02(月) 23:18:17.26 ID:cT1Qm0n80

 息を吐けば気泡となる液体の中に浸かりきり。考えただけで動くでかいロボに乗って人類の敵と戦う
なるほど単純明快な話の流れだ、間違いなく俺が主人公のストーリーだ。
だが、このまま発進してうまく敵を倒して自分が生き残れればという条件が付けられれば
それはたちまちただの俺視点の悲劇にもなれない戯曲だ。
ならば俺は道化か、玉の変わりにロボに乗り猛獣と対するピエロか?

 「エヴァンゲリオン初号機、リフトオフ」

 言葉と同時に反作用で身体が前に放り出されそうになる。シートベルトは無いのだろうか
後方に動いてるらしいと自分とロボの視界で把握する。背中が壁に触れて固定される。

「ほら、ちゃんと座って。舌かむよ」

 空気中、というかこの液体中に四角いウィンドウが現れてこなたの少し険しい顔が映る
俺は言葉の意味を図りかねたが先ほどの移動でずれた身体を深くシートに沈める
と同時に首が取れるんじゃないかと思うほどの勢いで上に打ち上げられる
重力が数倍になったのではと感じたその時間が20秒ほど続いた後に
今度は全力疾走してる途中で服の襟を捕まれたように下に引っ張られる

 鞭打ちになるんじゃないかと思うほどの衝撃に、もしこれが液体がなくて普通に地上に居た場合だったらと
この血液のにおいする液体の存在理由をはじめて体感し、前を向く

 緑の巨人が待ちくたびれたように比較的低いビルに腰掛けていた
吹き飛んだはずの腕はなんの問題も無く二本揃ってるし、全身ケロイド状態だったのも綺麗さっぱりだった


「修復機能つきの化け物をどうやって倒せばいいんだよ…?」


俺の頭には既にBADENDの文字が浮かんでいた

83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/02(月) 23:21:13.79 ID:cT1Qm0n80

えっと、確かアニメ一話がこのあたりで終わりだったよな?

数時間後にはバイトがあるんで今日はここまでで
明日もスレが残ってたらバイトから帰ってきて寝るまでは続けるつもり

スレが無かったら…
気が向いたら立てるかもしれない


長時間ありがとうございました
明日も平日だしゆっくり寝てください

108 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/03(火) 12:39:41.34 ID:HR2PHSuS0

「いい、まずは歩くことだけを考えるんだよ。自分の身体を動かすのと同じイメージ」

 そんなこなたの台詞がシートの横のスピーカから漏れる。
そして最後まで肩に接続されていた安全装置も外され、完全なスタンドアローン状態
緑の巨人は相変わらずビルの上に退屈そうに腰掛けていて、いきなり攻撃を仕掛けてくることはなかったが
…しかし

「歩くことだけっつっても…」

 感覚で行ってる、無意識下の行動を意識的にやるってのは難しいぞ
えっと…、
右足の踵を上げて、つま先を地面から離す。腿をあげて前方に向けて体重を移動させ
元の位置より前の座標の地に足を置く。
頭の中で行動を文章にして順番に意識する、とロボの右足はゆっくりと前に進み勢いよく地面に足跡を残した

「よし、次は反対だ」

 スピーカから突然わっと声が上がる、歩いたという事実に対する歓喜の声らしいが
しかしなんだ、このロボはクララか? 動くことは当然の前提としてそこにあるものじゃなかったのか?
俺はいきなり無関係の一般人である俺に戦えと言って乗せられたことに続き
この一連の流れが本当に偶然やらなんやらで適当に出来上がった結果だということを肌で感じた

109 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/03(火) 12:52:44.35 ID:HR2PHSuS0

 右、左、交互に足を前に出しゆっくりと、だが確実に俺は神人に近づいていく

「…あっ……れ?」

 気がついたらコンクリートの地面にヘッドパッドをかましていた
額に疼痛を感じ押さえるとロボットの手も不器用な動きを見せる。

「大丈夫!?」
「一体どういうことだ? なんか急に感覚が変になっていつのまにか転んだ…」

 又も操縦席にウインドウが開きこなたが血相を変えて声をあげる

「自分のペースをイメージしすぎたんだよ、最初にゆっくり一つ一つの動作をイメージした時は平気だっただろうけど
 エヴァがキョン君のイメージ通りに実際に動くまでにはタイムラグがあるんだよ、それを修正しないで
 自分のイメージを先行させすぎればズレは大きくなっていくよ」
「あれだ、子供と一緒に歩いてるときに子供にあわせる感じか」

 なるほど、わかりやすい。が、扱いにくい
こんなものはわかったところで対応できる性質の事ではないだろう

「とにかく早く起き上がって!」
「わかってる」

 まず両掌を地面につける
上半身を起こして膝を曲げて前に
両腕を突っ張って上半身を立て、膝を伸ばして立ち上がる

 イメージ、イメージ、イメージ

110 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/03(火) 13:00:22.71 ID:HR2PHSuS0

「え?」

 起き上がって神人を見る。つもりがすでにそこにはビルしかなかった
俺がぶっ倒れてる様に戦闘意欲を削がれたか?
しかし元から戦う気があったようにも見えないが…
とそんな悠長なことを俺は考えていたせいで、だから反応が遅れてしまった

 しかしただでさえしようと思ってから動くまでに時間がかかるらしいのだ
だったらどちらにしろ間に合わなかったのだろう、でもそれでも心構えくらいは出来た筈だった
ミシッと強い圧力をかけられて何かが軋む音、続いて左腕の痛み

「……っつ!」

 神人は別にどこかへ行ったわけじゃなかった、いや移動は確かにしていたが
それはあくまでも俺に対する戦闘行為の一環だったらしい
コクピット越しの自分の視界でなくロボを通した視点
それには紫色の細い腕が後ろから緑の蔦の様な腕に今にも握りつぶされようとしているのが映っていた

112 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/03(火) 13:06:29.92 ID:HR2PHSuS0

「いってぇ! くそっ、どうなってんだよ、こんなの聞いてないぞ!」

 ギリギリとミシミシとロボの腕が嫌な音を立て
それが自分のことの様に鈍く痛い

「嘘だろ?」

 あまりの痛みに自分の視界で自分の腕を見る
そこには肘から手首にかけてぐるぐると”蔦のような何か”に締め付けられてるように
腕が圧迫されて鬱血していた。

 俺はどこかでまだ安心してる面があった。
もし負けても自分がいる操縦席みたいなこの棒が壊されなければうまくすれば死なないんじゃないかと
時と場合によっちゃこの中に居るほうが安全だと勘違い、錯覚してる自分が居た
だが、こんな、攻撃食らったら自分にバックしてくるシステムだなんて聞いてない
これじゃ、ロボが完膚なきまでに壊されて操縦席が無事でも
結果的には俺は死ぬじゃないか

「うわぁぁっっっ!」

115 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/03(火) 13:36:02.80 ID:HR2PHSuS0

 折れた、それはいともあっさりと
ポキッとかベキッとか、そんな”らしい”音は立てず
ただただ折れた感覚があった
別に骨を折ったことが無いわけじゃない
まがりなりにも17年生きてきた、事故の一つや二つくらいある

でも、こんな悪意と殺意と敵意と
そんなものに囲まれて腕を折るために折られた事なんて始めてだった
喧嘩もまともにしたことねぇんだぞ!?

「しっかりして! 自分の身体じゃない、それは歩いたり転んだりと同じように感じるだけ!
 キョン君の腕は折れてなんかないよ! イメージを持って!」

「キョン君! ちょっと聞いてる!?」

116 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/03(火) 13:44:57.30 ID:HR2PHSuS0

「落ち着け! 馬鹿キョン!」

 痛みと共に現れたリアルな死という事実
混乱し動揺し狼狽し、そんな俺を正気に戻したのは結局誰でもないハルヒの声だった

「あ……あぁ、大丈夫だ。少し取り乱した」
「少しどころじゃなかったよ…」

 そうだ、まだ俺はなんとか生きてる。
後ろから伸びてる手は折れた腕を執拗に締め付けるが大丈夫
気をしっかり持てば我慢できない痛さじゃない

「俺の腕自体はなんの問題もないんだったよな?」
「そうだよ」
「だったら…」

 俺は右腕で左腕を絡んでいる神人の腕の上からしっかり掴む
痛みは当然増えるが元から意識してれば大丈夫だ、歯を食いしばれば問題ない
左腕を身体を捻じる様にして内側に引き込む
腕を掴んだままの神人は当然引っ張られてロボの背中にぶつかるぐらい接近する

「痛みに耐えさえすれば普通に動かせるって事だろ!」

 声を荒げる、怒鳴る。そんなの自分が今まで数えるくらいしかした事の無い行動だ
俺は接近した神人に向かって折れた左腕で裏拳をかます

117 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/03(火) 13:52:22.98 ID:HR2PHSuS0

 そのまま肘で殴って殴って殴った
正直やっぱり裏拳は相手に与えるダメージよりこっちのバックの方がでかい
自分の腕が折れてなくても痛みで心が折れそうだった

「キョン君! 肩のでっぱりわかる? そこにナイフがあるから使って!」
「ナイフ!?」

 肩のところのってコレか。さっきから後ろの神人を確認する際視界に入ってじゃまだと思っていたが
そんな隠し武器が入っていたのか
俺がそれを意識すると顔の横にナイフがシャコッと現れた
思うように動かない、動きが遅いロボに苛立ちを感じつつ
俺はそれを右手で抜き取り、左腕に以前絡みついた緑の腕を切り落とす

「痛い!」

 とこいつが言ったかどうかは知らないが、俺の腕を折ってくれたお返しだと思え
俺は開放された腕を神人から遠ざけるように右回りで一回転して
神人に対し正面向いてやっとのこと対峙した

118 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/03(火) 14:02:38.95 ID:HR2PHSuS0

 ナイフを構える
なんていっても俺は別に切れたナイフと呼ばれたことなんてない普通の中高生時代を過ごしてきた
だからナイフなんて物を手にしたのは初めてで
構えたなんていっても適当に右手で掴んで振りかざしてるだけだったりする

だがナイフなんてものがこんな非日常の怪獣とウルトラマンみたいな戦闘に使用されるとは思わなかった
バタフライナイフを持ち歩く中学生じゃないんだからこんなんで強くなったような気は毛頭しないのだが…

119 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/03(火) 14:12:44.25 ID:HR2PHSuS0

 神人は斬られた腕から青い血と思わしき液体を垂れ流していたが
その量も少しずつ減っていく、そういえば自己再生ができるのだったか
このままお互い見詰め合ってても俺が与えたダメージが回復するだけで
俺には何の利も無い、ハイリスクノーリターンだ

「わぁぁぁぁっ!」

 視界が上下に激しく揺れるゴツク硬い足がコンクリートの破片を巻き上げて
最初の歩いていたのとは比べ物にならないスピードで神人に接近する
走り出すのには時間がかかったが走り出しさえすればこのロボットは風のように走った

 タイムラグを考えてまだある程度距離がある段階でナイフを振りかざして、そして振り下ろすイメージ

123 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/03(火) 14:53:17.46 ID:HR2PHSuS0

 衝撃はあった、手ごたえというかとにかく振り下ろした先になにかがあって
それにナイフは完璧なタイミングでヒットした
遅すぎて身体で体当たりを先にかますことも、早くて空振る事も無く見事にナイフはあたった
でも、刺さらなかった。神人の体には一ミリの傷も付けることが出来なかった
そして当然ナイフの方に意識をやっていた俺はナイフを振り下ろした後も走るのをやめるのを忘れていて

 それにそのままの勢いで結局は全身で体当たりを食らわした
正八角形の薄く紅く光る半透明の薄い壁にぶつかった
額どころか膝も肘も、ナイフをその壁に阻まれていた右手は変な風に捻じれ手首を痛め
反動で後ろに不様に尻餅をついた

「なんだこれ!?」

 倒れることの危険性はもう左腕を代償に十分知った俺はすぐに立ち上がる
といってもその気になればいくらでも攻撃できるような動きだが
鼻も打ったらしく後からツンと鼻腔を刺激する痛みを感じながら後退して距離をとる
その間もその発行するスケルトンの壁は不気味に宙を漂い神人の緑の体を照らす

125 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/03(火) 15:11:08.60 ID:HR2PHSuS0

「やっぱり奴らも持ってたの!?」

 こなたの声、画面は出ていないで声だけだスピーカーから聞こえる
どうやら俺に話しかけてるわけじゃなく咄嗟にでた声がここにも聞こえてきたということだろうが

「やっぱりってなんだ? このバリアみたいなのの存在を知ってたのかよ!?」
「可能性だけど」
「ふざけんなよ……」

 折角どうにかなりそうだったというのに
どうしろっていうんだよ…、ん? ちょっと待てよ

「奴らもってこのロボットも同じの使えたりするのか?」
「……可能性だけど」
「本当にふざけんなよ!」

 畜生、役にたたないにも程があるぞ
可能性とかなんだとか、無限の可能性ってありがちな言い方を許してもらうならそれこそなんでもありになっちまうじゃないか

126 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/03(火) 15:22:02.00 ID:HR2PHSuS0

 イメージだろ? いいさ貧困な想像力を総動員してやろう
どうせそんなに苦労しないさ、きっと。
目の前に実物があるんだ無から有を出すわけじゃない
頭の中だけで絵を描くんじゃなくてトレースだ、簡単の筈だろう

「壁、自分を守る自由自在な壁、強固な壁」

 目を閉じて自分の視界を閉じてロボの視点で、浮遊する正八角形を睨む
イメージ、ならシチュエーション、ポーズも手助けになるんじゃないか?
俺は両手を体の前に持ってきて胸の前で合わせる
数瞬たった、敵の前にある奴に比べればぼんやりと薄い弱弱しいものだったが
それは確実に存在を形作る

 俺はナイフを掴みなおしてもう一度神人に接近する
同じタイミングでナイフを振りかざし振り下ろす
ただし、それはさっきと違い刺すのではなく斬る動作


はたしてナイフは分厚いゴムを切るような抵抗を受けながら緩慢な動きでその発光する壁を切り裂いた

129 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/03(火) 15:35:43.83 ID:HR2PHSuS0

「ざまぁみろ!」

 半ばほど切り裂いて霞のように掻き消えた壁を越えて
俺は左腕で顔と思わしき仮面を掴み地面に叩き伏せる
神人はぱちくりとその仮面にあいた二つの穴を瞬かせる
このとき俺はアドレナリンの異常分泌による作用かなんなのか
左腕の痛みは完全に麻痺し、気分は非常に高揚していた

 顔を掴んだまま、ナイフを握った右手で二度三度殴りつけ
腹部になにやら思い切り弱点らしき赤い球ころが引っ付いてるのに気がつく
俺はそこめがけてナイフを振り上げて、一拍おいて感覚と実際の動きを合わせて振り下ろす
が、やはりそれは弱点だったのか神人はこれまでにない程の気色悪い脈絡の無い動きで
マウントポジションの俺を振り払おうとし、ナイフはずれて押さえていた顔の目と目の間
眉間と思わしき部分に刃渡りの半分程度を埋めた

 顔から青いぬめった液体が溢れ出し、ナイフは甲高い音を立てて火花をまわりに散らす
刺さったナイフと化け物の傷と血を見て俺はナイフを左手に持ち替え顔を刺したまま
右手を先ほどナイフを取り出したのと別の肩のボックスに伸ばす
二つあるのだからナイフも二つあるだろう、なんてそんな冷静な考えは無かった
その瞬間はただの反射というか、そんな感じでの行動だった

132 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/03(火) 15:42:50.50 ID:HR2PHSuS0

 パシッと吐き出される二本目のナイフを青い血で気味悪く汚れた右手で掴み
今度こそと振り上げ、一拍置いて振り下ろす
二度目の正直というか、目測誤らず二本目のナイフは紅球に突き立つ
顔の部分よりもずっと頑丈で刃先しかその球体に刺さらなかったが
火花は比べ物にならないくらい飛び散り、また神人の暴れようは最高潮に達した
俺は多分先刻のハルヒさながらの凄惨な笑みを浮かべていただろう状態で
左手も二本目のナイフの柄に添えて全体重をかけるように力を込めた

 しばらく四肢をバタつかせ悶えていた神人はしかし紅球からでる火花の量が減るのと
まるで比例するかのように力なくなり、やがて球体が光をなくし灰色の塵となると同時に完全に動きを止めた

134 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/03(火) 15:53:51.74 ID:HR2PHSuS0

「はぁ……はぁ…」

 全身の倦怠感、両手にこびり付いた血液の感触
いまさら戻る左腕の鈍痛、人間のと違う少し甘く生臭いそれでもそれとわかる神人の血の臭い
この短時間でずいぶんと慣れてしまった動きで俺は神人から離れ立ち上がる
神人が死に間際に暴れた際に抉れ倒壊した周囲のビルや道路
後ろを振り返れば一定の間隔でついてる大きな足跡

「キョン君!? キョン君! 返事して、大丈夫!?」
「こ…なた、か。問題ない、何も、ない。生きてるさ、無事戦闘終了だろ?」
「よかったぁ」

 目の前に現れるウインドウにもそれが当然様に会話を交わす

「いま地図を送るから、きた時と同じルートで回収するから。…行ける?」
「……余裕」

 非常に体が熱い、この俺を包んでる血の香りの強い液体には俺の汗が混じってるのだろうかとか
多少思考をそらしやっと生き残った実感を感じつつ、送られてきた簡単な地図を見て
足を動かそうとして…動かなくて

足元を見た、そこには俺が倒したはずの緑の巨人の腕と似た蔦のようななにかが幾重にもまきついていた


そして、目の前が真っ白になった

136 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/03(火) 16:04:49.73 ID:HR2PHSuS0

 次に俺の意識が戻ったのは見たことも無い場所だった
まぁ見たことも無くても想像はいくらでもできるというものだ
真っ白なシーツの布団に入って真っ白な部屋に居る俺
窓は少し開き木が風でゆれ葉の擦れる音がさわさわと聞こえ
真っ白なカーテンが風に揺らめく

こんな汚れやすい色で完全に統一した部屋なんてのは病院以外俺には思いつかない
この時点で二つの仮説を俺は立てていた

一つは昨日(俺の感覚的にだが)の出来事が事実だったということ
もう一つはあれが完全に俺の脳内の出来事でここは精神の病院だという可能性

138 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/03(火) 16:12:23.19 ID:HR2PHSuS0

 出来れば前者であって欲しいものだと思いながらとりあえずはベットから起き上がる
わずかだが消毒液の匂いがするのに気付く、精神病院は消毒液の匂いするのだろうか?
どうだろう、行ったことが無いからわからないがこの匂いはなんとなく外傷関係じゃないかと
少し希望が見えた気もしてベットから降りる、ご丁寧にサンダルまで真っ白だった

 無駄に広い病室の扉をできるだけ音を立てないように開いて廊下に出ると
学校の廊下のようにたくさんの窓があってその一つをあけてサッシに肘をかけ
外の空気を肺いっぱいに吸い込む

ふと思い出して長い患者服の白い袖を捲くるが左腕にはなんの痕跡も残ってなかった

140 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/03(火) 16:37:34.37 ID:HR2PHSuS0

「目を覚ましたって聞いて飛んできました」

 捲くっていた袖を戻し、窓の外を眺め黄昏て数分たったか
青く長い髪を後ろでくくった姿でこなたが
膝上の丈のベージュの短パンとTシャツという非常にラフな格好で現れた
落ち着いた状態で見ればやはり彼女の体型の未熟さがよくわかる
最初はずっと車に乗ってたし途中からわけのわからない事象の連続でちょいと
俺の認識能力が低下してたのかそこまで気にしてなかったが
あぁ、こうしてみると俺より二つ年上だというのに俺の胸までもないその身長ははやり少々異常だ

「なぁこなた」

「なに?」

「あれは本当のことだったのか?」

「あれは事実だよ、キョン君。君はエヴァ初号機に乗って神人と戦闘し勝ったんだよ」

「今日は?」

「ん? 大丈夫あれは昨日のこと、普通に睡眠時間程度しか経ってないよ」

「そうか…」

141 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/03(火) 16:43:14.05 ID:HR2PHSuS0

「で、君に会わせたい子が居るんだけど、会ってくれるかな?」

 こなたは若干の逡巡を感じさせてからそう言った

「会わせたい奴?」

「うん、多分だけど…会っておいた方がいいと思う」

 曖昧でいまいち掴みにくい台詞だった
こなたはしかし俺がなにか質問しようとしたのを感じたのかなんなのか
さっと踵を返してなにも言わずに歩き始めた
俺はサンダルの歩きにくさに気をつけながらとりあえず後を追うことにした

144 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/03(火) 17:12:38.90 ID:HR2PHSuS0

―――


「ズズッ……はぁ〜」

 暖かい缶コーヒーを飲み、革張りの長いすに腰掛て観葉植物とにらみ合い
自販機がいくつか置いてある小さな休憩所
そこで俺はこなたの奢りのコーヒーを啜りながら時間を潰していた
壁にかかってる白い掛け時計は5分程度時間が経過したことを報せる

「……会わせたい奴ね」

 あの後こなたはここで俺に待ってるように言って
また忙しなく正反対の廊下を通ってどっかに行ってしまった

「ズズッ……」

 残り少なくなって冷えたコーヒーを一気に飲み干して空になった缶を手の平で転がす
しかしそれにもすぐ飽きて立ち上がり自販機の隣のゴミ箱に捨てる
歩くたびにサンダルのかかとがカコカコとうるさい

147 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/03(火) 17:24:41.81 ID:HR2PHSuS0

 革張りの椅子にまた座りなおして
自分のサンダルの音以外に足音が聞こえるのに気付く
いや、そりゃここは病院なんだし自分以外にも入院患者や見舞い人とか医者にナースも居るだろうし
むしろいままで誰も通らないことのほうが不自然だったのだと
廊下側に向けてた背を振り返り確認する

「……」

 無表情な女の子がゆっくりとした足取りで俺の方に向かってきてる
いや正確には多分この休憩所なのだろう、俺は昨日ここに来たばかりの新入りなのだから
当然顔見知りなんて居ないし俺を見かけたからといって話しかけてくるような人は居ない
たまに初対面の人にも旧知の友のように話しかけてくるフレンドリーな人種も居るが
少なくともそんな雰囲気とその女の子は対極に位置してると言っても過言ではない

150 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/03(火) 17:47:25.05 ID:HR2PHSuS0

 俺は顔を観葉植物に戻し両腕に体重をかけて後ろに少し傾く
こなたは一体何をやってるのか、時計の長針はさらにメモリ7つ分進んでいる
もしかしてこなたは観葉植物に視線のみで穴をあけさせようというのだろうか
とまたしても新しい足音がした、小走りでうるさったい、明らかに病院という場所を無視した足音
これは確実にこなただろうと振り向く

「のぅ!?」
「……」

 先ほどの無表情少女が真後ろに立って俺を見下ろしていた
驚くほど色が白く、薄い眼鏡越しに見える瞳は漆黒と表現するのが適切のような眼だった
だが一体なんでこんなに俺に接近してるんだろうか?
もしかして俺がいま座ってるところはこの少女の指定席で俺が勝手にそこに座ってしまったのだろうか
なぜか自分には非が無いはずなのにすみませんと頭を下げそうになった

151 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/03(火) 17:57:43.06 ID:HR2PHSuS0

「ちょ、ちょっと有希! スタスタ勝手に行かないでってば!」

 目の前の少女にほぼ全視界を奪われてた俺はその声に我に返って
体を少し傾けて少女の横から顔を出して後ろを確認する
声の主はつまるところ先ほどのうるさい足音の主で
それは勿論と言うかこなただった

「よう、ずいぶん息が荒いな」
「あ、あはは」
「……」

 こなたは後頭部を照れくさそうに掻いてから
深呼吸の後に咳払いをして

「えっと、この女の子が長門有希。キョン君と同じエヴァのパイロットよ」
「俺と同じって、…そもそも俺ってパイロットだったのか?」
「あら、聞いてない? まぁその辺の詳しい話とかも追々するよ
 住む所とかも色々決めることもあるしね」
「住む所…、はぁ!? どういうことだ!?」
「第二新東京からここまでは近いようで遠いからね、有事の際は当然一刻を争うし
 そんな時にはリニアは動かないしね」

 流されに流されてる感じだった、まるで流木の如しだ
ってかそもそも俺以外にもできる奴居るんじゃん
ハルヒのやろう、何が俺にしか出来ない俺になら出来ることだよ
のせられた…

152 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/03(火) 18:01:18.85 ID:HR2PHSuS0

「まぁ細かい事は置いといて、とりあえずキョン君が初号機のパイロットで
 この子は違う機体の専属パイロットなの! わかる?」

 どうやらあながち俺はのせられたわけじゃないのかも知れない
俺は単純すぎる俺に少々の呆れる

「えっと……よろしく、長門さん」
「……よろしく」

 なんとなく握手のつもりで俺は手を出すが、長門さんとやらはその手を一瞬みて
『なんのつもり?』といった感じで俺を見てきた、いや台詞は単に俺の想像だが
しかし一気に俺のモチベーションが下がったのは確かだった

俺は俺に呆れる!

156 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/03(火) 18:34:34.40 ID:HR2PHSuS0

「え〜有希はキョン君と同じ17歳なので、まぁ仲良くしてください、うん」

 適当な言い方だ大雑把ともいう
俺はとりあえず宙ぶらりんになってる右手をそっとしまって
「へぇ同い年ねぇ」と、呟きながら近すぎる距離を少し離すために
椅子から立ち上がって向かい合う
……こなたと交互に見てみる

「え? 同い年、なんだっけ?」

「……えぇ」

「ちょっと待ってキョン君、なんで私と見比べた?」

「いや、外見年齢を…」

「なに私はふけてると?」

 いや、それは無い、絶対にない
お前は実年齢の半分で通せる、十分

160 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/03(火) 18:59:35.76 ID:HR2PHSuS0

―――

 足元にジオフロントと大きなピラミッドのような形の本部施設が見える部屋
どんな構造になってるのだろうかと、首を傾げつつ未だ痛む頬を摩る

「んじゃ、まずはキョン君の今後についてね」

 見かけによらぬ凶暴さを文字通り痛感させてくれた青髪少女は
平然と話を始める

「とりあえず住居に関しては第三新東京内にある職員用の住居になると思う
 既に第二の前の家から荷物は送られてる筈だから、後は学校の転校手続きと
 あ、これキョン君の正式なカードこれがないと本部に出入りできないからね
 それでキョン君にはしばらくは初号機専属パイロットとして登録されるから
 給料は結構いいはずだから、で、このカードは身分証明書にもキャッシュカードにもなるからね
 あとはさっきいった学校に関しては第三新東京市立第壱高等学校ってところになるからよろしく」

 矢継ぎ早に、まるでテレビアナウンサーの試験でもやってるのかという速度で
書類に眼を通しながら色々と大事なことを軽く言い流すこなた

「あ〜、事後承諾にも程があらぁな…」

161 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/03(火) 18:59:53.33 ID:HR2PHSuS0

 聞こえるか聞こえないかの声で呟いてため息をつく俺
どうせ無理やり途中で止めさせても事態はとまりはしないのだろうことは明々白々だ
俺は少し大人になったってことで
「でも、最低限確認ぐらいする暇はくれよ」って話でやっぱりこなたの話を遮る
自分の住む場所がわからなくて見知らぬ町を放浪するのは嫌だ

「とりあえず、この地図のこの場所に俺は引越しってことだろ? 荷物は移転済みと」
「そ」
「敷金礼金とかは?」

 俺は一人暮らしだ

「カードカード」
「あぁこの中ね、しかしキャッシュカードか。給料ってどれくらいなんだ?」
「パイロットは基本的に一尉と同じ扱いって事で最低でも毎月50はあるよ
 で、当然命を張ってるので出撃した際は当然ボーナスがつくよ」

 それぐらいは当然か、月50万で命を懸けるなんて誰がやるという
そもそもじゃあいくらなら妥当かってのもない、金でどうこうの話じゃないはずだろ
あぁ、平和ボケした意見なのはわかってるさ

162 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/03(火) 19:11:39.21 ID:HR2PHSuS0

「いま、キョン君のそのカードには1500万入ってるよ」
「…は?」

 カードを弄くってた手を止める
急に桁が二つ増えたぞ、一般市民はなかなか手にしないぞそんな金額
なんか一気に敷金礼金気にしてる自分が阿呆らしく思えた
いや、それは現金か。たくさん手に入ったからって今までの価値観を早々に捨てるのは馬鹿だ

「すでにキョン君には単体でエヴァ初号機で出撃して作戦を成功させ敵を殲滅させてるからね」

 成功報酬1200万+突然の事態での引越しやらなんやらでの生活費が300万だそうだ
ちょっと、待て。そういえばすっかり忘れてたが

「なぁちょっと話が変わるんだが、俺は本当にあの神人とやらを退治できたのか?」
「ん? どしたの急に」

 そうだ、なぜ忘れてたんだろう。
結局倒したと思って、帰ろうと思った時に足に何か絡み付いて
目の前が真っ白になって…、あれで倒したとなんで思ってたんだろう
あれは確実に攻撃の類で、その後の記憶が無いならまた自己修復して暴れてた可能性だってあったじゃないか

「あぁ、記憶の混乱か…、精神汚染の危険性は無いって言ってたしそのうち思い出すだろうけど…
 ん、あれはそうだね攻撃というより道連れかな。あいつは最終的に
 身体の一部を自爆させてキョン君を道連れにしようとしたんだよ」
「……」
「でもキョン君が発生させたATフィールド、…あのバリアの事ね。
 あれが爆発を抑えて、結局何事も無く終了。その後キョン君は自力でエレベーターで戻ってきたんだよ」

 そうだったのか、記憶が無いのでいまいちリアリティが無いが
しかしそんな気もしなくも無い

163 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/03(火) 19:19:04.30 ID:HR2PHSuS0

「ふぅ……」
「とりあえず納得できた?」
「あぁ、とっとと次いこう」

 ――あとの会話は少し省かせてもらう
内容はカードはクレジットカードにもなるという追記
高校の方の転入試験は免除であるという事
この後正式な退院手続きをした後に直ったばかりのマイカーで住居に案内してくれるということ
最後にエヴァについてやこの施設等見たこと知ったことは機密事項であり
パイロットである俺には守秘義務が課せられるとのこと

まぁこの四点程度だろう
しかし本当にあの車の修理費を経費で落とさせたのだろうか
こなた、中途半端な恐ろしさだ。七味唐辛子と偽って一味を渡すぐらいの恐ろしさだ
かけてしまった後では遅い

167 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/03(火) 19:56:05.05 ID:HR2PHSuS0

――

 爆発を受ける前よりも綺麗になってる車内
修理じゃなくて本当に隠れて新しいのと入れ替えたんじゃないだろうかと
微妙な猜疑心に駆られながら、俺は窓から入る風を浴びて
いまだにほぼ無人状態の街をのんびりと走る

「途中で買い物していこう」

 ハンドルを握ってる手を離して、ポンと手を打つこなた
そのいいこと思いついたみたいな表現はいいからとっととハンドルを握れ、マジで
こんなのに権力持たせていいのかと真剣に悩み
さらに有事の際、つまりは俺が出撃する際にはこいつが直属の上司として俺に命令を出すというのだから恐ろしい
だが当人は俺の葛藤なんてどこ行く風で商魂たくましいスーパーに車を止める
…しかし青い瞳に青い髪のこなたの愛車は真っ赤なセダン

「あれか、お前は要するに反骨精神が旺盛なのか?」
「はい? いきなりどしたの?」
「ん、車のカラーの話」
「あぁ……、ん〜まぁなんか似たような色ってやじゃない?
 白とか黒ならなんでも会うけど、あれって汚れやすいしね」
「ふぅん、まぁ俺にはわからんな車は。バイクバイカー」
「あぁ、バイクもこっちにきてる筈だから安心してちょ」
「了解」

170 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/03(火) 20:04:20.32 ID:HR2PHSuS0

「いらっしゃいませー」

 自動ドアが開くと同時に威勢のいい声で出迎えられた
なんだ気持ちのいい接客だなおい、新しい家に向かう途中の道のスーパーなら
近いだろうから買出しはここを利用しようか

「はいはい、いいからいくよ〜。食べたいものでもある?」
「お前が作るのか?」
「歓迎会ッスよ、好きなものをお姉さんが作ってあげよう」

 最高に似合わない台詞だった。が、俺はそれを口に出しはしない
頬に紅葉みたいなのはギャグ漫画の王道だが俺はギャグ漫画には関与したくない
無駄に痛い目見るばかりだ、絶対死ぬような事態が日常茶万事なのはごめんこうむる

「俺は好き嫌いないしな…」
「嫌いなもの無いのはいいけど好きなもの無いのはつまらないよ、君」

 んじゃ、まぁこういうときの定番カレーかな、とこなたはジャガイモを手に取り
いくつか見比べてから俺に籠を持ってくるように促して野菜エリアを見回り始めた

173 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/03(火) 20:16:54.18 ID:HR2PHSuS0

 入り口に重なってるカゴから一つとりついでに他のコーナーを回りながら遠回りで野菜コーナーに向かう
生鮮食品、冷凍食品、缶詰やらレトルトカレーとか一人暮らしには色々手間のかからないものが必要だったりする

「遅い」
「スマン、流石にそんなに食材を持ち運ぶとは思ってなかった」

 手に取ったりはしなかったもののキョロキョロと真新しいスーパーをうろついてこなたと合流したら
こいつは人が来るまで待つという選択肢はなかったのか
ジャガイモ、玉ねぎ、ニンジン、キャベツ、万能ねぎ、ピーマン、もやし等々
およそカレーには必要なさそうな野菜までも大量に保有していた
これはカゴは一つでは足らないかもしれないと思う勢いだ

「あとは肉とルーと、…小麦粉炒める?」
「いや、変に手を加える必要はないさ」
「だよねー」

 一気に重量を増したカゴを俺に押し付けて俺が先ほどまでうろついていた方に
さっさと進むこなたとそれについていく俺
肉は鳥か豚か牛か。意表をついてシーフードか
まぁシーフードならジャガとニンジンはいらんか

176 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/03(火) 20:28:40.64 ID:HR2PHSuS0

 結論

「全部入れようぜ!」 byこなた

 ということでチキンカレーでもポークでもビーフでもない
いうなればミートカレー? あぁでもミートてひき肉だな
まぁいいや、とにかく肉々しいカレーになりそうだった
そしてバーモンドカレー中からを2パック(1パックで12皿)と更にカップラーメンをいくつか買って
本日の買い物終了
締めて4089円なり

安い? まぁ新首都だしその他もろもろ考えれば安いか
こなたは財布から5000円札を取り出して支払いを済ませ店をでる
曰く「あんまりカードを人に見せないほうがいいよ」とのこと
暴力団の刺青じゃないが、持ってるだけでこれは下手な国家権力
まぁ警察の手帳とかよりも威力を持つらしい、特にその直接的恩恵を受けてるこの街では

184 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/03(火) 21:48:11.92 ID:HR2PHSuS0

 つまり、俺もとっととどっかのATMなりなんなりで金を下ろさねばならないということだ
クレジットカードとして機能するなら硬貨や紙幣をもつ必要はないと思っていたのだが…
まぁ別にいいんだけどさ、クレジットカードって使ったこと無かったから使ってみたかったんだよな

「ふぅ…」

 窓から顔を出す、緑がまったく見えない道路
似たり寄ったりの形のたくさんの建物
一度迷ったらなにを目印に行動すればいいのやら

「ちょいと寄り道おけ?」
「もうなんでもおーけーだよ」

 遠心力がかかって車は曲がる
機械的な街からゆっくりと遠ざかり少しずつ常緑樹が生え
土が見えて山が見える

185 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/03(火) 21:49:22.51 ID:HR2PHSuS0

「どこに行くんだ?」

 聞く

「あの山の向こうまで」

 なんとなくロマンティックなかほりのする台詞であった

192 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/03(火) 22:29:07.63 ID:HR2PHSuS0

 「見て見て」

 こなたは車から降りるなり走り出し
山の頂上付近にある小さな広場で手を振りながら俺を呼ぶ
ぴょんぴょんとジャンプして、まるで子供そのものの姿

「こんどはなんだってんだ?」

 たった二日しかも実際に会話をしてる時間なんて片手で数えられる程度のはず
なのにもうこいつの行動に慣れたというか変にリアクションを取るのを諦めたと言うか
こなたは腰程度の高さの柵につかまり下を見下ろす
俺も近づいてそれを真似る

「なんか、寂しい街だな」

 太陽に照らされて、紅に染まる町は等間隔で並ぶビルと
離れた場所にポツポツと並ぶ住宅
ここから見える範囲が広い分、そのポツネンと取り残されたような街が寂しく映る

「そうでもないよ」

196 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/03(火) 23:00:13.18 ID:HR2PHSuS0

 こなたの、少し誇ったような声を皮切りに
低いサイレンが、腹に響くような音が広がる
同時に装甲の様に建物と建物の間にあったスペースが大きく口を開ける

「…すごいでしょ?」

 俺の顔を横目で見て、楽しそうにこなたは言葉を紡ぐ
だけど、俺にはそれに答える暇は無かった
目の前で、空いたスペースから次々に立ち並ぶ種々様々な建築物、建造物

「ビルが、生えてくる…」
「これが対神人戦用要塞都市、第三新東京市」

 サイレンが鳴り止む頃にはそこは暗くなってく街に人口の光を灯し
色々な大きさの建物が立ち並ぶ首都としての街が出来上がっていた

199 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/03(火) 23:01:56.33 ID:HR2PHSuS0

「いまはどう? 寂しい街だと思う?」
「…いや」

 面白い街だと思う、綺麗な街だと思う
やはりこれが戦うために作られたならそれはそれで――やっぱり少し寂しい気がする
でも、今はそんな本音を言う場面じゃないだろう

「住み心地の……よさそうな街だよ」
「うん、保障するよ」

 それからこなたは夕日が沈み、空が紫になるのを待ってから口を開いた

「キョン君」
「うん?」
「君はさ、巻き込まれたって思ってるかもしれないし
 戦ったのもいやいやかもしれない。」
「……」

「でもこの景色を守ったのはキョン君なんだよ。胸を張ればいいよ」

 ありがとう、と言おうと思ったけど
やっぱり俺はそんなキャラじゃないしそんな改まる場面でもないと俺は思い直し少し軽い感じで

「さんくー」

225 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/04(水) 06:46:18.07 ID:Azoh56qS0

 ここが新しいおうちですよー
と、車に揺られて山からさらに十数分
こなたの間抜けな声に引かれて窓から顔を出し
見えたのは明らかに庶民には手の届かないようなマンションだった
っつかさっき山から見て一番でかかった建物だと思われるのだが

「や、家賃はいかほど?」
「ん? 寮みたいなもんだからそんなん気にしなくていいらしいよ
 社員特典的な?」

 つくづく桁違いだと思いながらとりあえず顔を引っ込めてこなたが駐車場に車を停めるの待つ
顔を出しっぱなしにしてたら危うく額が削れるところだった

226 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/04(水) 06:52:01.72 ID:Azoh56qS0

「おぉ、俺のバイクがある」

 車から降り、マンション入り口に向かう途中で見慣れたバイクを発見
もちろんマイバイカー(比較級)排気400ccのCB

「ん、ちゃんと荷物全部届いてるみたいだね」

 俺の肩をポンと叩いてこなたは自分のカードを取り出して入り口の扉についた
ゴツイ機械にそれを通す、一瞬後電子音がして扉が左右に開く
セキュリティは万全か、俺は一定の速度で首を振る監視カメラを眺めつつ
自分のIDカードを取り出して扉に差し込む

227 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/04(水) 07:06:29.78 ID:Azoh56qS0

 先ほど買い物した荷物を全て俺が持ってエレベーターで8階へ
昨日今日と上下方向の移動が激しすぎる

「ここだよー」

 エレベーターを降りてすぐの道を直進したつきあたりの場所
そこがどうやら俺の新居となるらしい
玄関の前には大量の段ボール箱が……大量の…

「いや、いやいやいやいや」

 これは大量すぎる、俺はこんなに私物を所有した覚えは無い
そもそも俺には物欲とか占有欲とかその手の欲求は比較的薄いほうで
家具を除いて自分が愛着を持って長期間所有してるのは書物の類しかない
だが、それも俺の身長を超えるほどの積載量には到底及ばない

「どしたのよ?」

 こなたは荷物の前で顔をしかめて立ち止まる俺に不審気に声をかける

「いや、荷物が多すぎるだろ」
「あ、そういや言い忘れてたね〜」

 後頭部に手を当てて、たはー、と愉快気なため息を漏らす
確信犯だ(わざと誤用するのがコツ、だそうだ)と俺は理解した
……関係ないがここで確信したと言葉を重ねて見ようかと思ったがやめた

228 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/04(水) 07:12:55.28 ID:Azoh56qS0

 こなたが次に言う言葉が俺には手に取るようにわかる

「私もここに住むのだよ」

 だ・か・ら、と一文字ずつ区切ってこなたは俺の腰から俺のIDカードを取り出し
自分のと二枚俺に見せるようにしてからまず自分のカードを扉についた
マンションの入り口と同じ機械に通す


「私のカードで鍵を閉めることも開ける事もできるし」

 緑のランプと赤のランプが交互に点灯する

「勿論キョン君のカードでも同じ、他の人のでは開かないこの二つのカードのみで施錠開錠ができますっと」

 どうよ? といわんばかりに無い胸をそらしフンと鼻息をつくこなた
一体こいつはなにをそんなに誇らしげにしてるのだろうか
俺と自分の年齢とか性別とかその辺を理解できてるのだろうか?
それともなにか、このマンションはそんなに飽和状態に人間が詰まってるのか?

230 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/04(水) 07:22:46.14 ID:Azoh56qS0

 手に荷物を持ってなかったら手刀の一つも入れる場面だが
しかしこなたは不意に笑みを消して俺に詰め寄る

「ずっと、一人暮らしだったんでしょ?」

「……」

「ここでも一人暮らしするつもりだったんでしょ?」

「……家族なんか、居ないからな」

 自然と口調が暗くなる、触れて欲しくないと、思う

「一人は、寂しくない?」

「…人間はなんにでも慣れるんだよ」

「それは、違うよ」

 こなたは、呟く

「寂しいことには慣れないよ、人間はそれを我慢することに慣れるだけ」

「だからどうした?」

 だから、どうした。

232 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/04(水) 07:27:02.98 ID:Azoh56qS0

「だから、私が家族になったげようと行ってるんだよ」

 それはまさしく、不意打ちだった
なぜだろうか、普段おちゃらけてるからいきなりの真面目な台詞に心打たれたのだろうか
…冗談じゃない、俺はクールだ。 だから俺は泣かない
目を擦って誤魔化そうとしたけど、荷物が邪魔だったから
俺は上を向いてみた、涙がこぼれない様に。口笛は吹かないけど。

「私は先に晩御飯作ってるから」

 こなたは俺の手から荷物を勝手に奪って家に入っていった。


 廊下の照明が、やけに目に沁みた


昔の友人にいきなり呼び出され、半強制的にエヴァとか言う巨大ロボに乗せられて
化け物に殺されかけて、目が覚めれば病院で。

233 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/04(水) 07:28:15.54 ID:Azoh56qS0

第三にきて、初めて俺は人と触れた気がしたように思う

『人間が泣けるのは、そのまま泣く為なんだから我慢しなくていいのよ』

そういってたのは誰だったか
俺は少しだけ、何年ぶりかの涙の味を感じた

234 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/04(水) 07:33:09.58 ID:Azoh56qS0

 俺は目頭を押さえて深呼吸してもう一度廊下の照明に目を向ける
あぁ、気まずいな。それに格好悪い。

「やっぱりヒーローなんて俺には無理だな」

 苦笑い、の後、俺は玄関に足を向ける
圧縮空気の抜ける音がしてから、こなたの料理してる音がいい匂いとともに微かに聞こえる
息を吸って、吐く

「ただいま!」

 こんな台詞を言ったのももう何年ぶりか

「おかえり!」

 こんな台詞が帰ってきたのは何年ぶりだったのか


 俺は泣いたり笑ったり、これのどこが感情を表に出さない奴だと少し自分に呆れた

235 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/04(水) 07:33:38.97 ID:Azoh56qS0

アニメ二話あたりまで終了

254 名前:寝ようと思ったけど寝れないよ![だから続けるよ!] 投稿日:2008/06/04(水) 09:48:23.05 ID:Azoh56qS0

 家の間取りは3LDK、洋室二部屋に和室が一部屋
洋室一部屋と和室は6畳、もう一つの洋室は8畳
キッチンはピカピカシンクのシステムキッチンでリビングダイニングは12畳位

「風呂とトイレは?」
「別々」
「ですよねー」

 よかった、ユニットバスだった場合
どちらかが風呂に入ってるときにもう片方はトイレに行けない
特にその被害に会うのは俺
しかも普通のラブコメならドキドキうれしはずかしハプニングだが
ことが俺とこなたの場合になるとハラハラロリコンで即逮捕だ

259 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/04(水) 10:15:48.56 ID:Azoh56qS0

 リビングダイニング、まぁ合わせて居間と呼ばせてもらうが
とにかくその広い居間には備え付けの家具だろうか四人がけの洋風木製テーブルがある
当然椅子も洋風木製のチェアが四脚
それに俺とこなたは向かい合って座り、こなた作のカリー(洋風)を食べていた


実は関係ないと思ってた野菜も全部まとめて鍋で煮込むぜー


なんて言うこともなく普通にうまかった
…訂正、かなりうまかった

「が、それにしても作りすぎ感は否めないな」
「あはー、カレーって作り置きがきくからついたくさん」

 新しいキッチンには寸胴鍋一杯の肉々しいカレーが威圧感たっぷりで雄々しく佇んでいる
しかし作り置きがきくといっても限度がある、常夏の国日本ではカレーの放置は実はかなりヤバイ
たくさん作れば作るほど、万一の際の被害は甚大である

「きちんとかき混ぜて火を通して、それでも明後日以降は凍らして保存しよう」
「…了解」

 いきなり生活感溢れる冷蔵庫の中身である

260 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/04(水) 10:18:53.29 ID:Azoh56qS0

「さて、キョン君」

 スプーンを置いて急に真剣な面持ちになるこなた
俺は口に含んでた分をゆっくり咀嚼してから飲み込み
スプーンを置いて次の言葉を待った

「私達が共同生活を送るにあたってまず決めなくちゃならないことがあるよね」

 …それは俺も後で切り出そうと思ってたことだ
ふん、なるほどこなたも考えてはいるということか

「家事の分担………か…」
「……そう、その通りだよエジソン君」
「…ワトソンだ」

262 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/04(水) 10:23:40.34 ID:Azoh56qS0

閑話休題

「まぁ、俺も来週から学校だったか?」

「そうだよ」

「こなたのほうもSOSの方で仕事あるだろ?」

「まね」

「ふん、こういうのはわかりやすいのがいいよな」

 一々、洗濯とか掃除とか食事とかを分けて更に平等になるように日や週でバランスとるのは
ちょいと面倒だ、手間がかかるし覚えるのも時間がかかる
こなたの料理の腕を見る限りその他の家事が壊滅的ということは無いだろう
俺だって数年間一人暮らししてたという自負はある

「俺は月水金」
「私は火木土だね」

 よし、平等。


「日曜は?」

263 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/04(水) 10:26:19.39 ID:Azoh56qS0

「…えぇい! なぜ一週間は7日かな?」
「偶数だとやりやすいのにね〜」

 まぁ、待て。落ち着け、クールに、クールにだろ? おじさん
…いや、俺がおじさんという呼称を持ってる人間に快く思ってる奴は一人もいないがな

「よし第一、第三日曜日は俺だ」
「第二、第四は私だね」

 よし、平等。


「……第五日曜日は?」

264 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/04(水) 10:29:28.50 ID:Azoh56qS0

「畜生! なぜ一月は毎回微妙な日にちの並びなんだ!?」

「どうせなら全部の月を28日か35日にすればいいのにね。私前者希望」

「馬鹿者、月刊誌が薄くなるぞ」

「週刊誌の年間発行数も減るね!」

 閑話休題、ってか話しズレ過ぎだって……


結局、毎日交互でよくない? というこなたの発言がでるまで十数分俺は悩んだ

265 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/04(水) 10:46:05.60 ID:Azoh56qS0

 カレーをよそった皿は水につけとくか
とっとと洗ってしまうかしないと、皿に色がつくし油は染み込むし非常に汚れが落ちにくくなる
俺はそんな基本的な知識を元に皿を早々に洗おうと
こなたの分も引き上げて流しに持っていったのだが
しかし結局洗わずに水に浸けて放置している

 なぜか? 理由は至極簡単だ
俺は引越しをしたわけだ、ここに
で、いまは晩飯を食うような時間であってつまりは夜だ
人間夜は寝るものだ、寝るのに必要なのは布団だ

――布団はどこだ?


答え、ダンボールの中


自分で荷造りしたならともかく
何者かによって勝手にまとめられた俺の私物
しかもダンボールにはマッキー等でなにか目印になるようなものが書かれた痕跡は無い


結果、一つ一つ確認する羽目になった
ってか敷布団とかをダンボールに入れるんじゃねぇよ、常識ねぇのか?
あぁそれとも嫌がらせか? ハルヒの

266 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/04(水) 10:51:43.30 ID:Azoh56qS0

 8畳の洋室の方はこなたにあけ渡して
俺は6畳の方の洋室を使うことにした(これは単に俺が今まで狭いワンルームで生活してた所為で落ち着かなかったからだ)のだが
……今度ベットを買おうと切実に思ったりした
洋間に布団を敷くのはなんとなく間抜けだ

「…服」

 違う

「…小説」

 違う

「……CD」

 これも違う

「………写真集」

 いや、いやいや違う

「…………下着類って!」

 しまった、すっかり失念してた。
俺の私物を全て持ってきたのなら当然こういった物も含まれて当然か!
畜生、見ず知らずの誰かに俺がどんなエロ本を持ってるのかまで完全に知られてると思うと
ぞっとしない話だぜ

267 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/04(水) 10:56:46.56 ID:Azoh56qS0

 コンコンと開いてるドアを叩いて
こなたが頭の上にバスタオルを乗せて立っていた

「なんだ?」
「先にお風呂もらうよん」
「おぉ、勝手にしろ」

 ――風呂か、熱いシャワーでも浴びたい気分だ
全身の嫌なものを根こそぎ洗い流してくれるような気がするから
カレーも食べて汗もかいたしな
しっかし、男女で同じ屋根の下ってのにまったく色気の感じない生活になりそうだ

「…まぁ退屈はしないだろうな」

 気を取り直して俺はダンボールを空ける作業に戻る
いくらこなたが早く出てきたとしても、風呂上りにまたこんな作業するのは嫌だからな
布団を見つけてあけたダンボールを片付けなおさなくては風呂には入れない

269 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/04(水) 11:24:06.01 ID:Azoh56qS0

「よし」

 無い←結論

 全てのダンボールを空けて中から出てきたのは
結局私服と本とか諸々だけだった
仕方あるまいと散乱した中身を一時的に戻して
ダンボールを重ねて押入れに叩き込む
明日明後日は家具を含めて色々買い物で忙しくなりそうだった

俺はとりあえず今日はリビングにある備え付けのソファで寝ることにして
埃っぽくなった自分の体に辟易しつつ、台所でうがいをすることにした、まる。


追記 結局俺の布団やらはこなたの方に行ってたらしく後日キチンと出てきた

271 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/04(水) 11:42:22.86 ID:Azoh56qS0

――――


 第壱高校2年A組
同じパイロット(まだ実感無いが)仲間の長門さんとやらも居るという
俺がこれから通うクラス、これから担任となる先生が俺に少し待ってるように行って
教室に入っていった、この後呼ばれて中に入って自己紹介
転校なんてのは初めてじゃないが、やはり多少緊張するな

「あ、入ってきてくれ」
「はい」

 呼ばれて少し抵抗のある引き戸を空けて中に入る
と同時に30人程度の人間が視界に入る――

「はぁ!?」

なんて風に危うく叫ぶところだった。
が、何とかそれを飲み込んでできるだけ平然と冷静に、自分の名前と前の学校とか適当に言って
最後に「よろしくお願いします」とテンプレートで終える

担任教師に空いてる席に座るように指示されて、いくつかある空席の中でもっとも「奴」から遠い席に座る

272 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/04(水) 11:48:00.71 ID:Azoh56qS0

 「奴」は悠然と腕を組み、背中越しにも鋭い視線を飛ばしてくる
誰かって? これって説明が必要なのか?
俺はできれば避けたいのだけれど…

しかし言わなければならないのなら仕方ない
あぁ、想像通りだ。正解だよ、よかったな。
涼宮ハルヒ閣下様々だ

奴は教室の中心の席に座り俺に圧倒的なプレッシャーをかけてくる

これが第三に来てすぐだったなら、俺は一も二もなくあいつに話しかけていただろうし
席だってあいつのすぐ隣の席に座っていただろう事は想像に難くない
だがいまは状況が違った

「どんな顔して話せばいいんだよ」

 ボソッと無意識に呟く俺、だが幸いなことに窓側最前列というこの席
風の音にうまくかき消されたのか隣の席の女生徒に不振な目を向けられることはなかった

314 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/04(水) 21:37:42.86 ID:Azoh56qS0

>>272

 ため息をつく回数が極端に増えたと思う
幸せとかいう曖々昧なものに執着は無いがせめて不幸にはなりたくない
自分の使ってるバックから端末を取り出して机にある学校のケーブルとつなぐ

ポーン

 つなぐと同時に小さく軽快な電子音が端末から鳴る
……メール、か?
この学校用の端末は基本的には普通のノートパソコンと昨日は変わらないのだが
企業用のパソコンが黒を基調にしたのが多いのに対して、学校用端末は赤やオレンジといった
わりと目立つ色が採用されている。
俺の使ってる端末は第二の時の奴だが色はここと同じ赤だった

この端末という奴には、だが一つだけ普通のノートパソコンと違う点がある
それがこのケーブルだ
これにつなぐとインターネットとは違うブルートゥースかなんか、まぁ至近距離間での無線が可能になる
普通は教室内、最大で学校内
教師の端末から教科書と、テスト時はそのまんま用紙のテキストが送られてきて
それをみながら授業を受ける

で、無線で繋がってるためその範囲内ならこういったメール等のやりとりも
プロテクトをかけなければ、いきなり転校してきた奴にでも送れるわけだが――

317 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/04(水) 21:43:03.92 ID:Azoh56qS0

『ねぇ、あの紫のロボットのパイロットって本当? YES/NO』

 ……機密事項だだ漏れじゃねぇか!
俺がわざわざ口を滑らすまでもなくばればれだぞこなた!
だがしかしここで首を縦に振るわけには、いかないんだろうな…

『NO』

ポーン
ポーン
ポーン

 三通連続できたぞ!? なにがやりたいんだろうか
俺はUSBマウスの微妙な動きの悪さにイラッときながらそれを開く
………全部違う奴からの送信だといういうことが判明した

この端末のメールやチャットには二つのやり方があって
見る人間を限定できる個人回線と範囲内の人間が全員除けるフリーの回線がある
まぁ、どちらも教師からは見られるのだが

319 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/04(水) 21:47:22.69 ID:Azoh56qS0

『本当なんでしょ? YES/NO』

 これは最初のメールの相手
後ろを振り返る、窓側最前列はそれだけで教室の全容をほぼ把握できる
って、待て! フリー回線ってことはハルヒにもモロバレじゃないのか!?
なんつー危ない真似をしてくれてんだこの教室の連中は…

『NO』

ポーン

『嘘つくなってば!』

『白状しちゃったほうがいいんじゃない?』

『あのロボットの名前なんて言うの〜?』

『必殺技とかあるの?』


その他諸々、クエスチョンマークが文末につくメールばかりが山のように…

322 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/04(水) 21:51:26.70 ID:Azoh56qS0

『嘘ついてるでしょ YES/NO』

『NO』

『ロボットと関係ないならあのSOSとか言うのの関係者? YES/NO』

『NO』

『じゃあなんでこんな時期に転校してきたの?』

『NO』

『……今まで言ってたの全部本当? YES/NO』

『NO』


「あ、やべっ」

323 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/04(水) 21:56:02.77 ID:Azoh56qS0

 俺は頭を抱えたくなった
馬鹿すぎる、こんな典型的な引っ掛けに見事に足を掬われた
いや、ただ単に俺がNOと打ち込み続けるのは別に大した問題じゃなかった
つまりそれは俺が画面を見もせずただNOといってるだけで無視してることが伝わるからだ

 だが、それに対して俺がつい口走った「やべっ」
もうコレは俺がその質問でミスをしたことをバラしたことになる
一瞬、教室のざわめきが無くなり。虫の羽音すら聞き分けられそうな静寂が訪れ

教室内の大半の生徒が一気に俺に詰め寄ってくる

 ――醜態だ

325 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/04(水) 22:12:14.98 ID:Azoh56qS0

「やっぱりパイロットなんだろ!?」

 開口一番そう言ってきたのはショートカットの女の子
口調が荒っぽいのが逆に似合っている

「いや、だから違うって言ってるだろ」

 心なし弁解に力がない

「だってやべっつったじゃん!」
「いや、それは無意識的なもんで俺がなにか隠してるというわけに直接繋がるわけじゃないだろう」

 わいわいと俺を囲むように集まる暇な生徒共
お前ら授業に集中しろよ、不真面目だぞ。観点別評価の授業態度でCを貰ってろ
俺はそれで留年だ、俺じゃないけど。

329 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/04(水) 22:24:51.42 ID:Azoh56qS0

「みさちゃん、落ち着いて」
「あに言ってんだよあやの! あやのが一番気になってるくせに!」

 前髪をかちゅーしゃであげたおとなしそうな女の子と
先ほどから俺に怒鳴ってくる八重歯の鋭い強気な女の子
なぜか二人がいい合いを始めるが他の連中は気にした様子も無く
俺に顔を寄せてくる
……ん? このクラスは男女比が偏ってるのか?やけに女生徒が多いが…


「”だってあやのの兄貴はこの間の騒ぎで!”」
「みさちゃん!」


 おとなしい子が怒ると怖いというが一気に周りが静かになった
いつの間にか俺は蚊帳の外になり、全員の視線の中心はその髪の長い女の子にかわった

「あ…ごめん、みさちゃん」
「いや、私も無神経だった」

353 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/04(水) 23:17:52.29 ID:Azoh56qS0

「なぁ…もしかして、この間の騒ぎって」

 嫌な予感というか、すでに確信とも言えるような感覚が脊髄の中心を貫くようにあった
あのエヴァのパイロットに関心を持ってることと、途中までだったがショートカットの子の台詞
もう式はほぼ完成してる

「怪獣騒ぎのことよ」

 ロングの子も観念したというか、元々さっきの状態で誤魔化せるとも思ってなかったようで
ため息をついてポツッと呟く、だが、それだけ
それ以上はなにも言わなかった。周りに人も多すぎるし俺もパイロットだと隠してるこの状態で
流石に言えないだろう

だが、さっきの式の最後の変数にそれを代入すればもう答えはでたも同然だ

356 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/04(水) 23:22:34.46 ID:Azoh56qS0

「あの、えっと、あんたは…」

 椅子から立ち上がって、去ろうとする彼女を呼び止める
が、名前がわからず。またなんで呼び止めたのかもいまいち理解できてなく
俺はそのままぐちゃぐちゃと何事か言って動けなくなる

「峰岸よ、峰岸あやの。あやのでいいから」
「私は日下部みさお!」

 俺の意図が若干でも伝わったのか
あやのは少し疲れたように苦笑しながら自己紹介をする
それに八重歯の元気っ子も続く

「じゃ、じゃああやの、そのだな、実は本当に俺は…」

「こるぁ! キョン!」

357 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/04(水) 23:27:35.29 ID:Azoh56qS0

 本当のことを言おうとした、まだ本人の口から聞いたわけじゃないから
ただの俺の勝手な行動だが、でもそれでも多分俺の中の過程は正しい
誤差があってもそれが最悪のパターンか否か、後遺症が残るかどうかとかその位だろ
そして、その違いで態度を変えたりするのは不実だ
彼女には本当のことを言わなくちゃいけないと思った

だが、


「ちょっとこっち来なさい」

そういってハルヒに転校初日の授業中にも関わらず廊下を引きずられて思う
なぜ、あの場で言おうとしたのかと
ハルヒが居るのをなぜ忘れてたのかと
もう少し間を空けて、峰岸あやの本人だけにそっと言えばよかったんじゃないかと


俺は、徹頭徹尾馬鹿だった

358 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/04(水) 23:34:39.25 ID:Azoh56qS0

「馬鹿なキョンに質問、あんたは今どういう立場にいるか」

「エヴァのパイロットでSOS団の職員」

「正解、その2機密とはなにか」

「きわめて重要な秘密」

「正解、その3守秘義務とはなにか」

「…秘密を守る義務」

「正解、その4そもそも秘密とはなにか」

「隠して人に見せたり教えたりしないこと」

「正解」

360 名前: ◆7SHIicilOU [] 投稿日:2008/06/04(水) 23:43:40.10 ID:Azoh56qS0

 学校の屋上
出ることが許可されてる学校なんて珍しいものだが
この高校は比較的校則がゆるいのか、鍵もかかっていなく
校則をやぶることなく俺とハルヒは屋上でこんな問答を続けてる

ここでよくあるパターンは今後仲良くなるキャラが実は隠れてついて来てて
秘密を知ってしまうってのがありがちだが、その辺ハルヒは抜かりない
キチンと確認したうえでの上記のやりとりである
っていうか、この学校でのハルヒの立ち位置はなかなか特殊なようで
先ほど俺を連行したときも俺の周囲の生徒はモーゼの如く二つに分かれて道を作り出した

365 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/04(水) 23:52:03.16 ID:Azoh56qS0

 まぁつまりはそもそも好奇心程度で追いかけてくる奴は居なかったということだが…

「いや、ハルヒ。お前の言いたいことはわかる。隠せる状況だったにも関わらず
 転校初日に自分からバラそうとしたんだからな」

「…ふん、一応私だって話は聞いてたわ」

 あの騒がしい中自分の席に座っててよく聞こえたものだ

「この間の戦闘で一般市民が巻き込まれたのは私も報告を聞いて知ってるわ
 それが峰岸の兄弟だったとは初耳だったけど」
「俺は市民が巻き込まれたこと事態寡聞にして知らなかったぞ」

 そもそも全員非難してたんじゃないのかよ?
なんで巻き込まれるようなところに居るんだ?

366 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/04(水) 23:58:10.55 ID:Azoh56qS0

「まぁ、つまりはそこよ」

 ハルヒは屋上をグルッと囲む形になってる作に寄りかかって続ける

「普通に非難してれば巻き込まれる筈が無いんだからさ
 あんたは峰岸に罪悪感だがなんだかを感じたっぽいけどさ
 結局は自業自得よ、ほっときなさい」

 あんたがみんなにちやほやされたいなら勝手にすればいいわ
ハルヒはそう締めくくって屋上の鉄ごしらえの扉に足を進める

「確かに、その兄貴が興味本位とかで顔を出して結果瓦礫の下敷きになった。
 それでそいつが俺に殴りかかってくれば俺だって自業自得だと殴り返すさ」

 俺は誰にとも無く呟く、正直ハルヒが耳を貸すとは思ってなかったし
独り言のつもりだったのだが、予定外にハルヒは足を止めてこちらを伺うように目線を合わせてきた

385 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/05(木) 06:37:25.74 ID:a8Wm69rA0

「でもよハルヒ、あやのの方には責任無いだろ
 家族が巻き込まれて、それで知りたいと思ったあやのの行動は間違いか?」

「同情と思いやりが違うように、家族愛と逆恨みも別物よ」

 ハルヒはそこで一拍おいて頭を振ってから

「でもま、いいんじゃない? 峰岸一人に言うくらいなら、多めに見てあげる
 あの子も口は堅いほうだし分別も他の連中よりずっとつくわ」

「いいのか?」

「勝手にしろって言ってるの、結果それであんたが誘拐されても
 それこそ自業自得ってことよ」

「誘拐って…」

386 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/05(木) 06:40:27.52 ID:a8Wm69rA0

「冗談だと思ってる? あんた自分がどんだけ貴重な人材かわかってるの?」

 ハルヒは目つき鋭く俺に問う

「あんたはこの地球上に存在する65億の人類の中で、たった3人だけのエヴァのパイロットなのよ?」

 3人、1人は俺でもう1人は長門さんとやら
ならばあと1人居るのか

「自分の立場、よくそのつるっつるの脳みそに刻み付けときなさい」

ハルヒはそれだけ言い残して、今度こそ屋上を去っていった
腕時計を見ると、もう既に一時限目はあと数分で終了する
丁度いいのだろう、鐘がなったら教室に戻ろう

それまでは、とりあえずどうやってあやの一人を呼び出して
どんなふうにそれを告げるかを考えよう

394 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/05(木) 08:22:36.33 ID:a8Wm69rA0

 授業の鐘が鳴ったのと同時に屋上の重い扉を押し開けて校舎内に戻る
ざらざらとした感触に手の平を見るとよほど錆び付いていたのだろう手が赤錆で酷く汚れていた

「……」

 それは、一瞬、何かを思い起こさせたが、
すぐに消えていった

396 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/05(木) 08:25:10.23 ID:a8Wm69rA0

 教室についてからはカラカラでバッでザワザワだった

398 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/05(木) 08:29:07.82 ID:a8Wm69rA0

 …まぁ詳しく説明すると
俺は教室につき、多少の気まずさを感じながら一時間前と同じように扉を開いた ここがカラカラ
すでに休み時間だし廊下にも生徒がチラホラ見え、少しでも人少ないといいんだがと思いつつ
中に入ると、全員が全員そろっていて。まるで自習中にふざけてたら教師が来た的に
勢いよく俺の方を向いた これがバッの部分

そして、全員がまた俺の周囲に集まってきて
なにやら一斉に、やれ大丈夫だったかとか、無神経に聞いてごめんとか、涼宮と知り合いだったなんて知らなかったんだ!とか
まぁ、色々言われた ザワザワ

400 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/05(木) 08:35:59.34 ID:a8Wm69rA0

 涼宮はこの学校での番長のようなものらしい
結局クラスメート達は一同みなさっきは私達(俺達)が悪かったと言って
そして少し同情的に肩をぽんと叩いて離れていった

 涼宮の影響力は確かに偉大であり、多分今後ロボネタでなにかしら問い詰められることは無いだろうと
状況改善に少しだけ涼宮は献上した形になるのかもしれないが

だが、まぁ、そもそも問い詰める必要がないと思われてるのかもしれない


その日から俺があれのパイロットであることはこのクラスでは半ば暗黙の了解になった

401 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/05(木) 08:40:38.21 ID:a8Wm69rA0

 さて、涼宮の行動が逆に答えになってしまったロボット問題
クラス的には解決したかのように見えたが、俺的にはこれからが問題だった

峰岸あやの
むしろ今回の場合は悪化したともいえる
当人以外のルートで真実が明るみに出た場合はいまさら「実は…」なんていってもお寒いだけだし
どうにも対応に困る形になった

クラスに露見する前ならば、どうにか別の誤解を恐れない形で個人的に呼び出せばよかったものの

「ごめん」

一度買った不信感はちょいと面倒なファクターを俺にかけてくれることになった

404 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/05(木) 08:48:21.20 ID:a8Wm69rA0

 俺はかばんを持ってそそくさと教室をでていくあやのに盛大にため息をついて
あの場での涼宮の行動が本当に最善だったのかと頭を抱えてみる
転校初日から相当に奇異な行動をとって
これからの学園生活に方にも支障を来たすこと請け合いだ

「よっ、キョン」

「……えっと?」

 八重歯の女の子がなんのようか声をかけて来た
えっと、名前なんだっけか

「日下部みさおだっつっただろ?」
「あぁ、日下部な思い出したよ。そんな怒るな、こっちは三十人の名前を覚えるんだぞ? 一人覚えりゃいいそっちとは違うんだ」

 しかし日下部か、あやのの親しい友人と思わしき人物だが

「怒ってないのか?」
「なにを?」
「お前の友達を怒らせたし」
「私には関係ないだろ?」

 意外ににドライだった
この手の口調やら性格は俺も好ましく思う性質のもので
友情とか人情とかに厚い感じだと思ってたが…

405 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/05(木) 08:56:49.52 ID:a8Wm69rA0

「ん、少し冷却期間が必要なんだよあやのはさ」
「冷却期間?」

 つまり、今は加熱してると…
人間が感情面で熱くなると表現されるパターンはいくつかあるが
まぁこの場合は考えるまでも無いだろう、軽くて怒り強くて憎悪

「べつにさ、お前がロボットのパイロットだって事にいまさらびっくりしないさ」

 元々あのまま涼宮が居なくても絶対隠しきれてねーし
白い健康的な歯を見せて笑う日下部は、やはり少し路線が違う
俺の初めて会うタイプの人間かもしれない
…いやそもそも一見あった程度でその人間をどうこう言おうなんてのは厚顔無恥通り越して
ひたすらに愚かだ

「あやのだって私だって、メールで聞いたりする以前にすでに、こう、インスピ的なもんでさ。確信しちゃってんだよ
 ただ、わかってても、それが目の前に居ると対応ができないっつうの?
 見ると聞くとは大違いって奴かな、少しあやのも混乱してんだよ」

 大丈夫、あやのはわたしと違って頭いーから、お前の事情もわかってくれるって。
日下部は多分その台詞が言いたかったのだろう。満面の笑みで俺にそう言い放った

406 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/05(木) 09:04:32.39 ID:a8Wm69rA0

 でも、『わかる』と『理解する』は違う
ましてや立場の違う人間の、伝聞での情報なんて一見どころか一聞にすらならない

「もしなんかあったらわたしが仲立ちしてやるしさ」

「…なんで」

 いきなりそんな話を持ちかけてくれるのだろう
自分の友達が嫌う人間に自分から話しかけて、あまつさえ仲立ちしてくれると
そんな下手を打てば友達が自分すら嫌ってしまうようなことを
なんで初対面の俺にしようとする?


「だって、お前いい奴じゃん」

425 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/05(木) 11:48:49.21 ID:a8Wm69rA0

>>406

 なにを言ってるんだこいつは
俺がたったいま、初対面の人間のことを主観で決めないように自分に言い聞かせたと知っての行動か

「キョンさ、あの時自分から言おうとしたろ? まぁ涼宮にとめられたけどさ
 でも、涼宮が気付いたこと、間近で顔を見てたわたしが気付かないと思ったか?」

 …どうだろう、突然言われたら思ったかもしれないが
いまなら特に疑うような気分にはならんな


「あやのだって、気付いてるはずなんだよ
 だってのにさっきは話を最後まで聞かないで逃げちゃったからな

 わたしはあやのの友達だから、間違ったときは助けない
 間違ったことも教えてやんない」

 それに教えなくてもすぐ気付くしな
そう、へへっと照れくさそうに笑い、頬をかく日下部
なんだろう、その笑みを見てるとなんか変な気分だ
わりかし珍しいコンディションだなこれは

俺はこいつと友達になりたいと心から思った

426 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/05(木) 11:55:32.75 ID:a8Wm69rA0

 思ったことを素直に口にだしてみた
すると日下部はきょとんとして

「なに言ってんだ? わたしとキョンはもう友達だ」

 漫画とかでよくある状況、こんなことがあるものかと思ったこともあったが
しかし、嬉しいものだった

「んで、わたしとキョンが友達なんだ、友達の友達は友達! キョンとあやのも友達!
 だから、そうだな仲立ちってのは取り消し」

 二人の仲直りを手伝うだけだ
日下部はピースを作り宣誓する様に手をかざして俺に言った

「じゃ、明日は仲直りしろよー、バイビー」

 すたこらさっさと教室を駆け足で去っていった
…しかしバイビーは無いな

428 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/05(木) 12:07:00.28 ID:a8Wm69rA0

 ピピピピピッ

携帯の着信用の電子音がなる
自分が普段使ってる携帯じゃない

「……っ!」

バックの内ポケットから携帯をとりだし画面を見る
番号は表示されず、でるのは着信中の文字のみ
当たり前だった、この携帯にかけてくるのはSOSの関係者のみ
一々番号を通知するまでも無い
だが、この携帯がなるのは非常時のみじゃないのか!?
警報はなってない、あたりにも異常はないと思うのだが

「もしもし!」
「あ、キョン君、ちゃんと携帯持ち歩いてるね〜」

 慌ててでて、聞こえてきたのは暢気なこなたの声だった
非常事態とは対極にある人間が出すような声色だ 

446 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/05(木) 13:17:26.23 ID:a8Wm69rA0

「…なんのようだ? 緊急事態ってわけじゃなさそうだが、いまじゃなくちゃいかんのか?」

 なんとなくフェイントというか罠にかけられた気分で
少し口調にそれがでてしまったのだが、しかし当のこなたはまったく気にした様子も無く

「ん〜、というかあれだね、むしろいままでやってこなかったのが遅かったくらいだよ」
「は?」
「まぁとにかく家に帰らないで、今からこっちに来てくれる? まだ学校にいるはずだよね?」
「あ、あぁそうだが。なんだ、携帯に発信機でもついてるのか?」
「まぁまぁ、半分あたりだね。 とにかく急いでね〜、帰るの遅くなるからさ」

 了解、と言って通話終了
緊急事態ではないが、でもそれなりにSOSに関係する重要な用事があるらしいことはわかった
ま、神人が来ていないのならいいさ
肩にカバンを背負う。……端末は置いていこう、みんな持ってるものだから盗む奴なんか居ないし
宿題もでてないからな、問題ない。意外と重いんだよコレ

450 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/05(木) 13:36:36.61 ID:a8Wm69rA0

 二階にある二年の教室をでて廊下を左に、階段を下りて下駄箱へ
そういえば三階建ての建物のため下から1.2.3.なのか上から1.2.3.なのかどっちなかわからないな
…どっちだろう

カタッ

「ん、あぁ長門さんか」
「……」

 そういえば同じクラスだったか、速攻で起きた騒動とハルヒの存在でかき消されてた

「そういや、長門さんは呼び出し食らったのか?」
「……長門」
「ん?」
「長門でいい」
「え? あ、あぁわかった」

 なんだろう、この街ではさん付けなどを嫌う傾向があるのか?
それとも単にフレンドリーなのか? いや、でも長門にそんな感じはないから、やはりさん付けがやなのだろう

「で、長門は呼び出しあったか? 俺はさっきこなたから連絡があったんだが」
「…泉三佐から? 私には無いわ」
「そっか、ふぅん なんなんだろうな。まぁいいやサンキュ」
「サンキュ…」
「ありがとうって事だよ」

 俺はスニーカーを取り出して変わりに上履きをしまい
地面をつま先で小突きながら下駄箱を出た

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/05(木) 21:30:25.79 ID:a8Wm69rA0

「……エヴァは大量の電力を消費するから基本で62秒
 内部電源をフルに活用しても最大で5分までしか動けない、と?」

 ジオフロント内部、ピラミッドさながらの本部の会議室で俺とこなた
さらに喜緑さんを交えてちょっとしたお勉強タイム

「そういうことになるね」

「5分て…見たことも無い化け物との戦闘をそんな短時間で終了させられるわけ無いだろ」

「そうね、だからアンビリカルケーブルというのを使うの」

「アンビリカル…へその緒か」

「YES、中途半端な知識の具合がグーだねキョン君」

「お前は黙ってろ」

 中途半端って言うんじゃねぇ
確かに浅く広い知識は逆に躓きやすくはあるが、キチンと気をつけられれば十分役に立つぞ

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/05(木) 21:40:40.02 ID:a8Wm69rA0

「このアンビリカルケーブルは、基本的にエヴァの腰部に装着する
 いわゆるコンセントのようなもの、特殊な状況でなければエヴァはこれをつけて出撃するのが常だから
 まぁその状態なら残り時間を気にする必要はないわ」

 喜緑さんは長い白衣を着て、だてかどうかよくわからんが
フレームの細い眼鏡もかけてホワイトボードの前で伸縮する銀の棒を持って話す

「戦闘中が敵の攻撃でケーブルが切断されないように注意するように
 神人はほぼ半永久的な行動が可能だから、ケーブルが外れて内臓電池が切れればエヴァは無力よ」

 神人を前にしてこちらが行動不能になる、それはつまりイコールで地球の終わりを意味する
…らしい

「第三新東京、またジオフロント内には
 だからそういった場合に備えて、いくつかぱっと見はただの建物の兵装ビルと呼ばれる物が
 各所に設置されてます」

 喜緑さんは俺に一枚の地図を渡す、俺はそれを受け取り目を通す
それは第三新東京の地図で、所々に赤くマジックで印がつけてあった

「一応エヴァの中のモニターでも確認できるけど
 確認しながらよりは覚えたほうが戦闘は円滑に進められるから覚えといてね」

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/05(木) 21:41:14.44 ID:a8Wm69rA0

 ……つまりはそういうことだった
こなたが俺をわざわざ緊急用の携帯で呼び出した理由

  ”勉強会”

確かに初搭乗からすでに学校の一日目が始まるまでの間に
一週間が経過、次の敵がいつ来るかわからない状態でこれは流石に十分に遅いといえた

「…ん? この青い印はなんなんですか?」

 誰に対しての発言かは口にしては居ないが
反応したのは喜緑さんだけでこなたは別の書類に今は目を通してる
―敬語の時は喜緑さん、タメの時はこなたとなんかわかれてる感じだ

「あぁ、それは簡単に言えば武器庫みたいなものよ
 基本的にエヴァ初号機に装備されてる武器は肩のウェポンラックのプログレッシブナイフだけ
 それ以外の武器は各自敵に合わせて自分の判断で取ることになるわ
 出撃の際にも持ってけないこともないけど、銃は弾切れとかあるからね
 代えはいくらでも必要なのよ」

 なるほど、つまり前回の戦闘でもし俺がそれを把握できてればもっと有利に戦闘が進められたということか
こりゃ、とっとと頭に叩き込まないとな。自分の命をかけてまで怠けるほど俺も怠惰な人間じゃない

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/05(木) 21:41:32.05 ID:a8Wm69rA0

「……しかしライフルやナイフはある程度そのままでわかるけど
 わけのわからない名称の武器も多いな…その辺の説明もいいですか?」

 続けて喜緑さんに質問をする
こなたでもいいが、聞いたところによるとこなたは作戦部長で喜緑さんは技術部長
武器等は喜緑さんの設計がほとんどらしいから、ここでは彼女に聞くのがベストだろう
その辺はこなたもわきまえてるらしく、横から口を挟むことも少ない

「そうね、まず近接用の武器。つまりはプログナイフやカウンターソードとかね
 あとは中、長距離、パレットライフルやハンドガンといった銃火器ね
 まぁ、一応いまある武器全ての説明はするけど」

「習うより慣れろっていうじゃん? あとでシミュレーションとかするから」

 シミュレーション、ってことはエヴァに乗ってなんかやるのだろうか

「そうだよ、まぁ仮想空間でのデモンストレーション見たいな感じ」

 こなたはそれだけ言ってまた書類に目を戻す
いまは本当にとりあえず場に居るだけらしい

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/05(木) 21:56:45.24 ID:a8Wm69rA0

「―――まぁこんなものかしらね」

 軽く説明、のわりには既に時計の短針が一週してしまった
しかし剣に斧に薙刀にナイフに槍に近接の武器は一通り揃ってるらしい
また銃火器も、いわゆる拳銃、バズーカ、ライフル、更にはガトリングまで
なるほどうまく使えればかなり戦局に影響を及ぼしそうな面子である

「でも、あくまでも敵は神人よ
 対人戦とは違うから、武器があるといって油断しないようにね」
「了解」

 喜緑さんとの会話はそれで一旦終了、彼女はホワイトボードに書かれた
マーカーを消す作業に移ってしまった
…しかし喜緑さん、意外と絵心がある
設計図を描いてるだけはあって、武器の形状の詳細まで記憶してるのだろう
消えていくボードの上に描かれた武器の絵は非常にわかりやすかった

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/05(木) 22:03:27.44 ID:a8Wm69rA0

「さて、じゃあ話も終わったみたいだし
 ここからは私の出番だね」

 一時間書類を読み続けるという、意外にも集中力があるというところを見せられた後
こなたはその書類を乱雑に重ねてまとめあげ、ついてくるように、と言って部屋を出て
俺もそれに続く

「シミュレーションってなにをするんだ?」

「ん〜、前回の戦闘での経験を活かす為に
 まずはキョン君にはエヴァに乗ってもらい、シンクロをしてもらう
 あとは第三新東京の街並みを再現した仮想空間で仮想の敵と戦ってもらう
 その仮想空間には当然、さっき喜緑さんから教えてもらった兵装ビルとかもあるから
 色んな武器を使って効率よく敵を叩く練習、その他武器の場所ケーブルの交換等
 とにかく本来なら実践の前にやるべき訓練をやるんだよ。
 これからは毎日とは言わないけど出来るだけ多く来て訓練に参加してちょ」

「了解」

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/05(木) 22:14:56.40 ID:a8Wm69rA0

 シンクロってのはどうやらエヴァと搭乗者の同期のようなものらしい
シンクロ率ってのがありそれがエヴァと搭乗者の一体化のレベルを表す
俺のが現在45%

100%を完全にタイムラグなしで自分の体と同じように感じて動かせるとしての45%
こなたの説明は単純だったが故に喜緑さんとは別のベクトルでわかりやすかった

「単純に考えてシンクロ率は高いほうがいいの
 それだけ動きがスムーズになるわけだからね
 いまのキョン君じゃ攻撃を目視してから避けようとしたのじゃ遅すぎる
 45%は半分程度の反応速度になるわけだからね
 反応速度が高くなれば物が避けやすいのは至極当然の事
 またATフィールド、この間のバリアの事ね。
 あれもシンクロ率に比例してずっと強度があがる」

 そこでこなたは一区切りおいてから
ただし、と長い髪をかきながら続ける

「キョン君も知ってのとおりエヴァに乗って戦ってる際に受けたダメージは搭乗者にフィードバックされます」

「あぁ」

 腕を折られたあの感覚は流石にもうしばらくは夢に出そうだった

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/05(木) 22:21:32.75 ID:a8Wm69rA0

「エヴァとのシンクロ率の向上は、だから一体感の向上と同一
 つまりシンクロ率があがれば上がるほど、帰ってくるダメージもでかくなるの」

「…ちょ、ちょっと待ってくれ。じゃあ俺があの時折られた腕の痛みは」

「あの時点でのシンクロ率は40%
 痛みも、四割と見るのが妥当だろうね
 まぁ私が体感したわけじゃないから、どうにも断言できないけど」

 意図的に腕を折られるのがそこまでのダメージになるってのか?
おいおい、嘘だろ。あれで四割って、十割のバックになったら―本当に俺の腕が折れるのか?

「その可能性は十分にあるわ」

 喜緑さんの再登場だった
白衣と眼鏡を外して服装はスーツに変わっていた
どうやら形から入るタイプらしい

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/05(木) 22:33:06.63 ID:a8Wm69rA0

「実例があるわけじゃないけど、でも100%以上のシンクロをしてる状態の搭乗者は
 エヴァの肉体の一部というレベルまで昇華されるの、その状態でエヴァの本体に損傷があれば
 搭乗者の体に実傷があってもおかしくないわ」

「つくづく、こえぇな」

 軽口のつもりで言ってみたが、どうにも力ない
とんだもんに関わった

「でもま、シンクロ率がそこまで上がれば
 そのバックを考慮してありあまる能力の向上が見越せるわ
 攻撃をそもそも受け付けないほどに強靭ならば、ダメージなんて気にする必要なんてないもの」

「ま、そゆこと。とりあえず話はズレちゃったけどそろそろインダクションモードに入るよ」

 言われる、と同時にエヴァの操縦席(エントリープラグと言うらしいがちょいとまだ名前に慣れない)の壁面が
狭い灰色の実験室の映像から変わって、暗い夜の第三新東京市に変わる
月も無く星もない、コンピュータに作られた仮想空間
ピッとスピーカから音がして横を見ると、カウンターが現れて5:00と表示される

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/05(木) 22:45:21.99 ID:a8Wm69rA0

「では作戦内容を説明します
 EVA初号機はC-3ブロックまで移動、のちにケーブルの手動接続
 さらにD-3ブロックの兵装ビルからパレットライフルを装備し
 現れる目標に対し三点バーストで攻撃、撃破」

「了解」

 ガシャン、と最終安全装置が外されて
固定されて伸ばされた背中が開放され、同時にカウンターが動き始める
頭の中の先ほどまでの会話で芽生えた恐怖心やその他の邪魔な感情
それらが全て消え去り思考が一気に冴え渡る
現在位置はE-4、C-3は東に2ブロック南に1ブロック行った先
直線距離にすれば約370m
人間の最高の反射速度は0.1sec
曰く一般の人間の平均はそれを大幅に下回る0.5sec程度
さらにエヴァのタイムラグで二倍プラスα
つまりは約1秒

 振り向き、目的の電源ビルを正面に構え一直線に飛ぶ
ビルの上に着地、少し間をおいて前転しビルとビルの間に下りる

「…だめだな、一秒ビルの上で突っ立てたらいい的だ」

 次、ビルとビルの合間を縫うようにして曲がり、進み、曲がり、進み

「…これもダメだ、走り続ければ早いが、小刻みに方向転換すと時間がかかりすぎる」

 すでに三十秒

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/05(木) 22:53:53.29 ID:a8Wm69rA0

 しかしLの字で直線直線と移動すればやはりそれはそれで危険だ
背中を狙われたら反応できないし
それに前回の戦闘で俺は走った後とまれずに敵のフィールドに体当たりをかました
前回の経験を活かすならもっと効率的なやりかたを模索しなくちゃいかんな

「……」

 膝を曲げて、腰を落とし、上体をかがめ、跳ぶ
風を切り、立ち幅跳びの要領で、しかし距離はそんな物の比ではない

 だがさっきと同じ事を今度もやったわけじゃない

今度はビルの上に着地するのではなく”ビルとビルの間に着地する”
その反動でかがんだ体制のまま、また跳ぶ
着地、跳ぶ、着地、先ほどまでとは比べ物にならない速度で進む

少し離れた場所にある、窓も何もないビル
俺はそれに手を掛けてシャッターを開け、中にあるケーブルを背中に繋いだ

88:88.88

カウンターは止まる

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/05(木) 23:06:10.22 ID:a8Wm69rA0

「よし、次! D-3に行ってライフルの装備!」

「了解」

ケーブルをビルからあるだけ引っ張り出し、隣のブロックに移動
今度は飛ばず走らず、ゆっくり慎重に進む
ビルの横から顔を出して前方確認、後にすばやく次のビルへ
大体一分半、武器の入ってると思わしきビルに到着
同じようにシャッターを開いて中からパレットライフルを手に取る

プラグ内に武器の名称と残弾数が書かれたウインドウが出てくる

「うん、ずいぶんスムーズにできるじゃん
 じゃあ模擬戦闘に入るよ」

言うが早いか近くにあったビルが一つ
十字架の炎を浴びて灰になった

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/05(木) 23:25:16.12 ID:a8Wm69rA0

「…おいおい、こんな攻撃食らってないぞ?」

 ビルの隙間から確認したのはこの間の緑の巨人だったが
しかし俺はあいつがこんな破壊力のあるビームをだしてるところなんて見て無いぞ

「うん、この間のキョン君との戦闘じゃ使われなかったけど
 街を歩いてるときになんどか使ってたんだよ、あとでVTR見る?」

「いや、いい。……やっぱり見る」
「おっけ、じゃあ適当にやっつけちゃってよ、攻撃してくるけどあくまでも練習
 二,三回攻撃があたれば倒せる設定になってるから」

「了解」

 左手をライフルの銃身下にあるマガジンにかけ、右手を引き金に
顔をビルから二度だしてタイミングを計りジャンプをしながら
確認した敵の座標に弾を撃ち込む、三発打ち込んだら一拍次にまた三発
劣化ウラン弾特有の砕けた粉塵を撒き散らしながら、着弾

43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/05(木) 23:30:39.53 ID:a8Wm69rA0

 緑の巨人はあっけなく爆発、消滅した

「次!」

 またも自分の近くのビルが爆散
振り向いて、間に障害物がない直線に敵を確認
三発打ち込んで横のビルに隠れる

『Boo』

 小ばかにしたアルファベットが三つ
どうやらヒットしなかったらしい

「もう一度、目標をセンターに入れて」

 ビルから飛び出して、正面から銃を向ける

「スイッチ!」

 火薬の音、手にかかる反動の負荷
弾は複数飛び出し、偽の神人に吸い込まれて敵を消し去る

47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/05(木) 23:43:38.14 ID:a8Wm69rA0

 その後、さらに3体の敵を始末したところで
パレットライフルの弾もタイミングよく終了

「あがっていいよ」

 とのこなたの言葉に従って本日の訓練を終えた
プラグからでて肺から液体を吐き出す、嘔吐とは違う気持ちの悪さ
喉の痛みに鼻の奥や気管やらあちこちが痛く、強く咳き込む

「いや、いやいや、凄いじゃんキョン君。パーペキだよ
 命中率も八割そこそこだし、子供の時から訓練を続けてるようなテスト結果だよ!」

 プラグから階段を降りるといきなりこなたがやってきてまるで自分のことのように笑っていた

「いやー、気体の大型ルーキーだね」
「そうか、その言葉をそのまま受け取ると俺はどうやら人間じゃないようだな」

 期待な

49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/05(木) 23:48:00.17 ID:a8Wm69rA0

「あ、そうそう、キョン君に合わせたスーツができたから」

 これ、とビニールでパックされた紫色のなにかを渡された

「…こんな派手な色のスーツで成人式行ったら、モラルのない若者と思われるぞ」

「そのスーツじゃないって」

 どうやらこのスーツとやらは、LCL内でのシンクロを円滑に行うための物で
次の実験からはこのスーツを着て行うように、だってさ

「それっていまできたのか?」
「いや、ちょい前」

 だったら、今回の実験の前に渡せ
おかげでまた学生服をクリーニングしなくてはならない
Yシャツはなんか赤っぽい色が若干ついちゃってるし

50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/05(木) 23:57:25.24 ID:a8Wm69rA0

「まぁまぁ、とりあえずシャワー室行ってくれば?」

 私もいまの実験のデータを文章にして喜緑さんに渡して終了
片手を軽く振ってまた去ってしまうこなた、どうにも忙しい奴である

「ふぅ、ま、言われたとおりにシャワー浴びてくるか」

 口の中に血の味が薄く残ってるのも
体から血の匂いがするのも、俺はごめんこうむる


「…今日の晩飯どうするかな」

いまいちシリアスになりきれない俺だった

81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/06(金) 14:18:35.26 ID:D+krSwg+0

――

 赤いこなたの愛車は第三新東京のハイテク都市を縫うように走る
この間とは違いたくさんの車が走り、歩道では人が歩き
店は開いて買い物客が見える、建物はネオンを光らせ眠らない街の様相を呈してる
だが、そんな明るく眩しい夜のここでも、月ぐらいは見える
仮想空間には無かった太陽の光をその身に浴びて輝く月は鋭く光っていた

「…さむ」

 自分のバイクでこなたの車のあとを追うようにして走る俺
LCLを洗い流すために浴びた先ほどのシャワーで湿った髪が
夜の風を時速80kmで正面から受けて体温を奪う
もう少し丁寧に乾かしてけばよかったと思う

84 名前:ふにょぐみうめー[] 投稿日:2008/06/06(金) 14:25:05.95 ID:D+krSwg+0

 しかし、本来なら学校帰りに直行した俺は歩いてバスで帰る筈だったのだから
こんな事態予想できるわけがないのだ、もしくはこなたの車に乗ってくか
だがこなたは

「私の方も同じタイミングでいつも終わるわけじゃないから
 一人で帰れないと困るっしょ?」

 と言われてジオフロントから上にあがり
駐車場に行くとなぜか俺のバイクがごく当たり前のように置かれていた

「横乗ってくより自分で運転したほうが覚えるしね! バスより楽っしょ」

 確かにバス代も毎日となれば馬鹿にならないが
なんでお前は許可も取らずに人のバイクを動かすかな?
俺は比較的気にしないが、人によっては留めてる自分のバイクに跨られるだけで
そいつの顔面にこぶしを打ち込む奴だっているだろうに
なぜ自分の車を大事にしててわからないかな、その辺は考慮しようよ

85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/06(金) 14:34:32.40 ID:D+krSwg+0

 信号で止まる、間に入ってきた車の脇を進んで
こなたの車に追いつく
すると助手席側の窓が降りて、こなたがにへっと笑みを浮かべる

「よう、青になると同時にスタートでどう?」
「路上レースを挑むな国家公務員」
「いけずだね」
「そもそも道がわからないからお前が先導してくれないと困るっていってんだ」

 俺は会話のために空けたメットのシールドを閉めて信号が青になると同時にアクセルを入れる

「あっ! こらキョン君!」
「馬鹿め、勝負を挑んだときから勝負は始まっているのだ!」

 そもそも実はさっき通った道にこの間のスーパーがあったから
ここからなら道はわかるのだ、さらに言うとあのマンションはこの街最大の建物で
すでに頭が見えている、方向がわかれば後は適当に行っても帰れる
俺はスタートダッシュで距離を稼ぐ、バイクが車に勝つには結構根性が居るのだ

86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/06(金) 14:35:36.93 ID:D+krSwg+0

だがこなたは

「私の方も同じタイミングでいつも終わるわけじゃないから
 一人で帰れないと困るっしょ?」

 と言った
俺はそれに従いジオフロントから上にあがると

この辺はこう変更しないと文法が変だな

89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/06(金) 14:40:54.48 ID:D+krSwg+0

「やぁ、狼少年」

「待たせたなセリヌンティウス」

「卑怯者め」

「お前も近道しただろうが」

 結局俺の方が少し遅れてついた
まぁ地の利といった奴か、こなたが引っ越してきたのは同じ日だが
しかしその前からこの街には毎日のように来ているのだ、わき道の一つくらいなら知ってるか
ヘルメットを脱いでバイクにかけて、二人でエレベーターを使って帰宅

「あ」
「ん?」
「飯どうするよ?」

 こなたは顎に手をやって

「冷凍カレー?」
「やっぱりか」

94 名前:落ちてた?[] 投稿日:2008/06/06(金) 15:12:34.83 ID:D+krSwg+0

―次の日、朝の6時半の目覚ましのベルを止めて
さらに五分後にセットした携帯のアラームも解除する
洗面所で顔を洗って歯を磨いて、部屋に戻って制服に着替える
そしてこなたの部屋に向かって寝てるこなたを叩き起こす

 起きたのを確認した後、今度は朝食作成にまわる
パンをトースターにセットして冷蔵庫から卵パックを取り出す
後ろでドアが開いてこなたが部屋から出てくる

「スクランブルエッグと目玉焼きどっちがいい?」
「混ぜたほう」
「了解」

 卵をパックから3つ取り出して残りをしまう
ボールの中に卵を3つとも割りいれて、さいばしで白身と黄身が混ぜる
フライパンはこの間に火にかけて熱しておいて
水をかけたらすぐ蒸発するくらいになったら火を弱めて、油をひく

95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/06(金) 15:13:06.75 ID:D+krSwg+0

 そこにほどよく混ぜた卵を投入
そのまま薄く広がって、薄焼き卵にならないように
はしでかき混ぜ、塩コショウを固まってきた卵にふる

「トースト焼けてるから皿にだしとくよー」
「頼む」

 髪を適当に整えて服を着替えたこなたが現れて
食器棚から皿を机に並べてトーストを上に二枚ずつ重ねる

「熱いの通るから避けろ」
「へーい」

 俺はフライパンを持ってこなたがだした皿の中の小さめの二つに
スクランブルエッグをまぁほぼ同量になるようにわけ
フライパンをコンロに戻す

「こなた、マーガリンと一緒にウィンナー取ってくれ」
「ウィ」

 フライパンをまた火にかけて
その上に皮付きウィンナーを数本転がす
机ではこなたがマーガリンを熱いトーストに塗って
溶けたマーガリンがふんわりと甘い匂いを広げる

97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/06(金) 15:13:42.04 ID:D+krSwg+0

 先ほど卵をのせた皿に今度はウィンナーを追加して
今日の朝食は簡単洋風で完成

「いただきます」
「ん」

 サクッと音を立ててトーストを齧る
狐色に焦げ目がついて、内側はふわふわで最高の焼き具合だった
俺はそのトーストにスクランブルエッグを少しのせて
マヨネーズを少量かけて食べる。至福。

「いやいやいや、そこは醤油でしょ…」

 こなたが口を挟んできた

「いや、マヨネーズは比較的なににかけても美味いが卵には特に合うんだ」
「この紛い物の日本人め!」

 いきなり贋作扱いだった。まさか髪の毛も瞳も青いちびっ子に人種を否定されるとは思ってなかった
ってかそもそもトーストを食らいながら何を言ってるのだろうか
ならば明日からこいつには小麦を摂取させないようにしなくては

「……ごめん、言い過ぎました」
「よろしい」

99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/06(金) 15:23:02.08 ID:D+krSwg+0

「そもそも、味覚なんて個人的な趣向が激しくでてるんだから
 他人に自分の好みを押し付けるのは傲慢だぞ」

「反省はしている、でも後悔はしてない」

 パキッと音を立てて割れるウィンナーの皮
続いてパンを食べて牛乳を少し飲む

「ご馳走様」
「お粗末さまでした」
「…それは作った側が言うんだ」
「知ってる」

 この野郎…
俺は食器を流しに置いて、部屋からカバンを持ってきて玄関に向かう
こなたは今日は遅出なのでまだ食ってる

「ごみ捨て頼むぞ」
「承知!」

100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/06(金) 15:29:01.54 ID:D+krSwg+0

「さて、当面の問題はあやのにどうやってあやまるかだが」

 というか、どうやって機嫌を取るかってことに近いな
俺の方に非があってそれであやのを怒らしたわけじゃないからな
それなら逆にわかりやすいのだが…

いや、やっぱ俺が悪いのか。意図的でなくても俺は加害側か
気が重い、が日下部とも口頭ではあるが約束をしてしまったからな

102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/06(金) 15:45:09.70 ID:D+krSwg+0

 教室の扉を開く
まだ顔も名前も一致するしない以下のレベルのクラスメート達が声をかけてくる

「よ、キョン」
「おはよう、キョン」
「キョン君おはよー」

 たった一日でここまで根付いてしまった
俺は一応適当に返答しつつ、席について速攻で頭を抱えた
なんで昨日の今日で俺のあだ名がここまで広がってるんだ?
自分からは言ってないぞ、ってかそういや日下部も昨日俺のことそう呼んでたな

103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/06(金) 15:47:36.76 ID:D+krSwg+0

「あぁ、ハルヒか」

 答えはすぐにでた
昨日俺がクラスの連中に詰問を食らってる際にハルヒが俺を怒鳴りつけたときに
そういえばキョンという単語を使っていたな
それでか…

「…そういや、そのハルヒは今日は休みか?」

 振り向いてもハルヒは居ない
まぁ病欠ってわけじゃないだろうから、仕事があるのだろう
あいつもあんな組織のトップだ……

世界は終わってる

106 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/06(金) 16:04:23.03 ID:D+krSwg+0

「よぉ、キョン! 元気ねぇな、あやのにふられたか?」
「いや、まだ今日は会ってないな。ってかその言い方やめろ
 一日で誰かを口説くような軽薄な奴だと思われたらどうする」

 俺は硬派なんだ、軟派なイメージを抱くような発言は控えてもらおう

「まぁなんでもいいけどさ、友達同士が仲良くないのはつまらないからな」

 友達ね…

「こういうのに第三者が介入すると余計面倒になると聞けけれど
 あんまりにもあやのとうまくいかなかったら言えよ」

「おぉ」

107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/06(金) 16:11:13.32 ID:D+krSwg+0

 ピピピピピッ
携帯が鳴った、どちらかなんて考えるまでもない
俺は話してた日下部を少々乱暴にどかしてバックから携帯を取り出す

「もしもし」
「キョン君! 至急学校からこっちに向かって!」

 ガタッと、机にぶつかりながら立ち上がる
周囲の目が一気にこちらに向く

「なんだ! なにがあった!?」
「神人が現在進行中、エヴァの出撃要請がきてるの!」
「警報鳴ってないぞ!」

 という俺の台詞とどっちが早かっただろうか
街中に設置されてるスピーカーからサイレンがなり
シェルターへの非難を促す

「くそっ!」

 携帯を乱暴に切ったポケットにしまう

「キョン、また化け物か?」
「あぁ、全員シェルターに非難しろ!」

 俺の電話を聞いてた連中は大体が状況を察知して
クラスの委員長が先導して非難準備を始めていた

114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/06(金) 16:32:33.87 ID:D+krSwg+0

「キョンさん」

 と、俺の視線に気がついたのか委員長がこっちに歩いてくる

「委員長」
「岩崎です、みなみでいいです」

 やっぱりファーストネームで呼ぶのはデフォなのか

「クラスのみなさんは私が責任を持って非難させますから
 だからキョンさんは気兼ねなくお願いします。

 そして、…あの……がんばってください」

「キョン! がんばれよー」
「負けるなー」
「かっこいいところ見せてくれよ!」

 クラスの連中は俺の肩をたたきげきを入れてく

「あの、みなさんは並んでください。急いで」

116 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/06(金) 16:36:35.25 ID:D+krSwg+0

「おら! いいんちょ困ってんだろ! とっとと行けよ、キョンも急げっつの!」

 日下部がクラスメートを追っ払い

「じゃ、あとは頼んだぜー」

 そう軽く言って
自身も廊下に出ていってしまった


「はっ、こりゃ意地でも勝たないといけないな」

 もう巻き込まれたなんていってられない
俺は戦うために走って本部に向かった

118 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/06(金) 16:42:20.65 ID:D+krSwg+0

「状況は!?」

 慌しい発令所の大きなモニターには羽もロケットもついてないのに宙に浮かぶ
不気味な二本の触手を持つ生物が映っていた
モニターの向こうのその生物は表面にミサイル等の爆撃や砲撃を食らっているのに対し
まったくの無傷まったくの無関心でここに向かって前進している

「キョン君! 遅い!」
「スマン」

 学校から歩いていける距離では当然無く、バスも動いてないため
走って家まで帰ってバイクに乗り換えてからここに来たのだ

「いま戦自が攻撃を仕掛けてるけど、効果はなし
 現在エヴァの起動シフトに移ってるから、キョン君はこの間のスーツに着替えてエヴァに搭乗して」
「了解」

119 名前:ぬくもりてぃに泣いた[] 投稿日:2008/06/06(金) 16:45:36.18 ID:D+krSwg+0

 プラグスーツ、と呼ばれる首の下からつま先まで一つになってる
全身を覆うゴムのような不思議な素材の服
説明書を軽く目を通してそれに着替え右手首にあるボタンを押す
すると、だぼだぼだったスーツの余計な空気が抜けて完全に体にフィットする

「…よし」

 着替えをロッカーに叩き込んで
ダッシュでエヴァの待機してある場所へ移動する

120 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/06(金) 16:48:29.21 ID:D+krSwg+0

 プラグの中、足元に溜まってくLCL
目を瞑り顔まで上がってくるそれを受け入れて、肺の空気を押し出し
LCLを代わりにとりこむ

 「主電源接続」

 「全回路動力伝達」

 「第2次コンタクト開始」

 「A10神経接続異常なし」

 「初期コンタクト全て異常なし」

 「双方向回線開きます」

 「シンクロ率45.2%で固定」

 「ハーモニクス全て正常値」

121 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/06(金) 16:54:32.91 ID:D+krSwg+0

 シンクロを開始した瞬間、いつもよりも少しだけ鮮明にエヴァの存在を感じた
スーツの効果だとしたら、なるほど大したものだ
プラグ内がガラス張りのように周囲の映像を映すと同時に
もはや恒例となるウインドウが開いてこなたの顔が映る


「現在目標はG-9エリア内を進行中
 予想移動ルートを送るから確認しておいて
 また、今回は出撃するポイントはE-3エリア
 そのポイントまでの予想到達時間は10分
 ここまでOK?」

「大丈夫だ」

「出撃したポイントの左右に兵装ビルがあるからそこで武装すること
 また、万一のために近くの電源ビルも確認すること」

「了解」

「兵装ビルに入ってる武器はシミュレーションと同じパレットライフル
 わかってるだろうけど、弾の着弾による弾幕に気をつけるようにして
 まずは様子見だから」

「了解」

123 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/06(金) 16:58:29.64 ID:D+krSwg+0

「エヴァンゲリオン初号機、発進準備」

 エヴァの周囲を固めるように会ったたくさんの拘束具が
ゆっくりと離れていき、後方に引っ張られるように移動
前回と違う射出口にセットされる
上部のハッチが一つずつ開いていき、長い上に向かう道ができあがる

「発進!」

 重力が一気に強くなるような錯覚を受ける発進
下に押し付けられ、俺の体が強くシートに埋まる

126 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/06(金) 17:10:17.12 ID:D+krSwg+0

「…っ」

 上に跳ね上げられる衝撃が最後に強く走って
地上にでる、どうやら今度の射出口はビルに偽装してあるようで
初号機の最終安全装置がはずされると同時に前のシャッターが上下に開いて街にでる
俺は目の前のビルに手を掛けて中からライフルをとりだして装備し
代えのマガジンを肩のウェポンラックにしまう

「地図」

 俺がつぶやくと目の前に簡易化された第三の地図が現れる
それには今までの神人の移動経路と
台風のようなだんだん大きくなる移動範囲予想図が描かれていた
それは一定時間ごとに更新され、範囲予想図は少しずつ細くなり
移動経路は長くなる

「現在位置F-5……ここに居たら素通りされちまうな」

 ケーブルを射出口から引っ張り出して銃を構えて移動を開始する
最初の作戦内容にあったもう一つのライフルを無視する形になるがしかたない
流石に両手に機関銃を持ってのビル越え移動は危ない、バランスが取りにくいイメージがある
エヴァを動かす中でイメージは重要だ

出来ないイメージが浮かぶような行動はできるだけ慎まないと、一気に不利になる

128 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/06(金) 17:16:08.08 ID:D+krSwg+0

 俺が、というか初号機がF-3、E-3と移動を終えて
長さの足りなくなったケーブルを入れ替えようとしたとき
そいつが俺の前に現れた

「…こちら初号機、目標を肉眼で確認」
「攻撃開始」
「了解」

 シミュレーションと同じようにビルの影からタイミングを計り
宙を浮かんでる気持ちの悪い敵に発砲する
三発撃ってビルに隠れて一拍、そしてまた三発撃って隠れる

「ダメージは確認できず」

 何故だろうか、こちらの攻撃に効果が見られないという事実
それに焦るどころか気分が高揚してくる自分が居る
頭の中で考えていた細かい作戦や慎重に動いていた心が薄れて
全身が熱くなるような錯覚を得る

130 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/06(金) 17:20:13.48 ID:D+krSwg+0

 ビルから飛び出す
宙に浮いていた体制を変えて地面に平行になっていた体は
地に足をつけるような体制になっていた

「好都合」

 つぶやき、引き金を引く
劣化ウラン弾は全て大きくなった的に吸い込まれる
狙ったのは、前回の敵と同じ腹部にあった紅球
非常に硬い球体にあたった弾は粉々になり周囲は灰色の煙で満たされる
俺は武器の詳細ウインドウを見つつ、残弾が数発になったところで左のウェポンラックから
ナイフの横に入れたマガジンを取り出し


敵に放り投げた

131 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/06(金) 17:27:27.55 ID:D+krSwg+0

 初号機の腕力で投げ出されたマガジンは高速で粉塵の中心に向かう
俺はその飛んでいった弾倉を残ったライフルの弾全てを使って打ち抜く
火薬の詰まった弾を大量に同時に爆発した威力は相当のもので
熱せられた空気が膨張し、その後冷えて爆心地に戻り上空に舞う
いわゆるキノコ型の爆発が小型ながら観測できた

132 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/06(金) 17:33:10.51 ID:D+krSwg+0

「ちょ、ちょっと! キョン君なにしてんの!」

 スピーカからこなたの焦ったような声
独断専行を戒めるというより、ただ単に展開についてこれてない
だが俺はそれに答えず爆発の中心を見続けた
作戦って言うのはいま持てる全力で
その状況下での最良の行動を行い最善の結果を収めるための過程を表したものだ
刻一刻と変わってく戦況についてけないなら、それは作戦指揮官失格だぞこなた

「まだ、殲滅を確認してない。落ち着いてくれこなた」

 俺はそれだけ言って通信を一時的に遮断する

133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/06(金) 17:38:44.56 ID:D+krSwg+0

 キラッと何かが光った気がして後ろに跳んだ

「しまっ……」

 アンビリカルケーブルを入れ替えずに戦って居たため長さが足りず
後ろへの跳躍が中途半端になった、腰にロープを巻きつけて
その反対を大樹に巻いた状態で走って、ロープが張り詰めたときのように
腰が抜けるような衝撃を受けて予定の半分も移動できずに道路に横倒しになる

 しかし怪我の功名か
転んだ初号機の上空を白く光る、細く長い何かが通過し
そして爆発の中心に戻っていき、その途中で帰りの駄賃とばかりにケーブルを叩ききっていった

「やっぱあの程度じゃだめか」

 愚痴っぽく、ケーブルが切れたのをいい事に
後転して距離をとりずいぶんと短くなってしまったケーブルを腰から引き剥がす

134 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/06(金) 17:45:51.18 ID:D+krSwg+0

 爆煙の晴れた場所には周りの焼けたビルの中
無傷で浮かぶ気持ち悪い両生類のような敵とその前に存在するA.T.フィールド

 武器はもうない、そもそも本体にあたって効果のなかった武器が
A.T.フィールドを前にしては、もうあってもなくても変わりやしない
今度こそナイフを取るためにウェポンラックに手を伸ばす
黒く分厚い刃が、手に取ると同時に浅く振動し仄かに発光する

「いくぞぉぉ」

 ナイフを低く構えて走り、自分のフィールドのイメージを強く
相手を切り裂くイメージを強く持つ

が、そのナイフは敵に刺さることはなく、フィールドに触れることすら適わなかった

136 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/06(金) 18:00:51.57 ID:D+krSwg+0

 ナイフは道路に刺さり、俺はまた不様に地に伏せていた
今回は仰向けでなくうつ伏せで

「なんだ!?」
「キョン君! 足!」

 こなたの声が、いつの間に繋ぎなおしたのか通信で入ってくる
言われて足を見てみると地面から生えた白い鞭のような物に足を絡め取られている
それは敵の身体に生えていた触手の片割れ
もう一度神人に目を向ける

「ちっくしょう、なんて触手系のありがちな攻撃方法だよ」

 その長い触手は足元の道路に穴を穿ち
地面を進み初号機の足を捕らえたらしい
神人は一瞬間を置いて、動き出した。触手を動かし隠す意味がなくなったからか
触手が道路を壊して一つの道を作りながら隠れてた部分の姿を現す
初号機の足から奴の身体まで伸びている白い触手

137 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/06(金) 18:05:53.97 ID:D+krSwg+0

 神人は鞭のようにその触手をしならせて
初号機の身体を持ち上げ、ジャイアントスイングのように円を描き振り回される
一周、二周、三周

五週を越えたあたりで数えるのを止めた
遠心力は高まり、足に絡まる触手をはがすために上体を起こすこともままならない

「うっ」

 頭を先にして回されてるため遠心力で血液が頭に向かう
眼球が圧迫されて、気分が悪くなる
吐き気とともに戦闘意欲が少しずつ失せていく

141 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/06(金) 18:28:51.70 ID:D+krSwg+0

 しゅる、となんの前振りもなく触手が放される
空中で回っていた初号機は慣性の法則に則って放された位置から斜めに飛んでいく
また慣性の法則は質量が大きなものほど強く作用する
結局初号機が地に再び戻ったのは数ブロック離れたB-1エリアの小さな山だった
背中を山に叩きつけて、それでもまだなくならないエネルギーが山を初号機の形に陥没させる

「…くそ」

 ふらつく頭で立ち上がろうとして
視界に映ったのは学校、第壱高校の校舎だった

「あぁ、もう! こういうの人間強度が下がるっていうんだぜ!?」

 勢いよく起き上がり、衝撃でぼろぼろになった山の欠片を
こちらに向かってくる神人に投げつけるが、それは初号機と敵の距離の半分を行ったあたりで
触手に粉砕される

143 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/06(金) 18:32:47.96 ID:D+krSwg+0

 あと残る武器は右肩に収納されたナイフ一本のみ、取りに行こうにも
敵がそう簡単に通してくれるとは思えないし、そもそも内部電源はあと三分しかない

「ちょっとキョン君タンマ!」
「なんだ!?」

 切羽詰った声に反応するも、できればまた切りたかった
タンマでカウンターは止まりはしない

「その学校の校舎の屋上に民間人が確認されたの!」
「はぁ?」

 敵から目を逸らすのが致命的なのはわかっていたが
それでもこの間の戦闘のこと、あやのの兄弟が怪我したことを思うと見ないわけにはいかなかった

145 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/06(金) 18:48:26.92 ID:D+krSwg+0

「峰岸あやの16歳、第壱高校の2-A生徒
 キョン君のクラスメート?」

「あぁ、そうだ」

 なんであやのはこんな所にいるんだとかはとりあえず置いとく
俺はあやのを右手を伸ばして掴んだ
いまは戦闘中だ、しかも形勢はきわめて不利

「おい、このままじゃ戦えないぞ! どうすりゃいい!?」
「エントリープラグに入れるのが一番安全で手っ取り早いんだけど…」
「けどなんだ!? 早くしてくれ時間が無いんだ!」
「プラグ摘出中はエヴァは無防備になるんだよ!
 フィールドも当然張れなくなっちゃうし」

 白い触手は会話中も容赦なく襲い掛かる
学校をつぶさないように踏みとどまって、フィールドで防ぐのにも限度があるし
そもそもフィールドが無くなったら確実にその間にしとめられる
しかしこのままでも削り殺しだ

「えぇい、ままよ!」

 こんな言葉を使う日がくるとは思わなかった
俺は声を上げて、敵に背を向けて山を登って反対方向に逃げる
戦略的撤退だ

146 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/06(金) 18:54:07.94 ID:D+krSwg+0

 エヴァの最高速はかなりのものだ
あの敵は触手は音速だが、本体がトロくさい
ならば残りの一分半使えば距離は相当取れる
なんとかケーブルを繋ぎなおしてあやのをプラグに入れる程度の時間は稼げる! 筈!

「キョン君、一番近い電源ビルはA-1にあるから方向変えて!」

 俺の意図を理解したらしいこなたはすぐに指示を出してきてくれた

「了解!」

 手のうちにある少女がこの動きに耐えられるか懸念もあったが
しかし多少は我慢してもらわないことには助けることも出来ない

「あった」

左手一本でケーブルを取り出し接続し振り向く
まだ神人との距離はある

147 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/06(金) 19:10:58.01 ID:D+krSwg+0

 初号機の右手を首の辺りに動かして手のひらを上に向ける

「初号機を現状でホールド、エントリープラグを緊急射出!」

 内部のモニターが全て消えて金属の壁に戻り
プラグが排出されてハッチが開く
俺はシートから離れて肩のところの手に乗り困惑するあやのを手で呼びつける
LCLが肺に溜まってる状態では通常の大気中で呼吸も会話もできない
あやのはしばらく躊躇した後に肩を伝ってプラグに入ってきた

「水!?」
「すぐに息が出来る」

148 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/06(金) 19:11:15.65 ID:D+krSwg+0



「再起動開始」


 プラグのハッチが閉まり再入されて壁面はまた外の景色を映す
―結構危機一髪だった

「あの、キョン君……」
「うるさい、話はあとだ」

 おずおずと何かを言おうとするあやのを押しとどめて
俺は目の前の敵に集中する、話したいことがあるのはお互い様だが、いまはそのときじゃない

「電源はなんとか間に合ったが…」

 先ほどまであやのを掴んでいた右手を少しずらしてラックからナイフを取り出す

「武器はやっぱりこれだけか」

 深く、腰打めにナイフを構えて跳躍
真っ向から行けば、直接襲ってくる単調な触手をフィールドではじき返し
そのままの勢いで敵のフィールドを真上から両断する

150 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/06(金) 19:21:23.91 ID:D+krSwg+0

 切り下げたナイフを返す刀で紅球に下段から袈裟に切る
瞬間吹き出る大量の緑がかった青い火花が散る

「わぁぁぁぁぁっ!」

 なにが起こったのかわからなかった
あと何秒か紅球を切り続ければ勝てたと油断でなくただ事実として認識した瞬間だった
左腕が、肘と手首の中間の辺りを切られてその先が地面に落ちた

 痛み、痛み、痛み
ホワイトアウトしかける視界に、あやのの存在を思い起こし
自身を鼓舞するように声を上げて右手だけでナイフを強く押し付ける

152 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/06(金) 19:27:09.81 ID:D+krSwg+0

 触手がフォンとうなりをあげて周囲を舞う
自分のフィールドは展開されない、どうやら敵のフィールド消すと自分のも構築できなくなるらしいが
いきなり腕を切り落とされると思わなかった
掴まれたりが多くてまさかここまで切断力のあるものだと考えから外していた

触手はさらにうねりを大きくして、初号機の首に絡みつく

首がしまり、呼吸が詰まる

「キョン君!」

 呼んだのはあやのかこなたか、呼び方だけでは区別がつかなかったが
確認する余裕なんてなかった

ナイフにこめる力が徐々に減っていく気がする、気をしっかり持て
締められてるのは俺の首じゃない、呼吸が出来ないはずがないだろ

「くぅ…」

 少し呼吸が楽になるがしかし左手の痛みも常軌を逸してる
骨が折られた事なんて些事にしか思えない痛みが続く

157 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/06(金) 19:34:10.48 ID:D+krSwg+0

 時間がどれほどたったのか、流れが酷くゆっくりに感じる
俺が死ぬか神人が死ぬか、これは確実に殺し合いだった
一介の高校生から確実にずれた存在に自分が居ることを認識しつつ

 俺は、紅球が砕ける音を聞いた
ガラスが割れるような、小さな音がして球体は色を失い
初号機の首から触手が力なく離れた

「かはっ、げほ!げっ、はぁはぁ……」

「キョン君大丈夫!?」

 また聞こえた俺を気遣う声、今度はこなたの声だと理解できた

「すぐに初号機のシンクロをカット! 回収班急いで!」

 と続いて聞こえた声のあと、俺の全身の打ち付けた痛みや呼吸不全に似た症状や
切断された左腕の鋭痛が全て薄らいだ
流石にシンクロを切ったからと言って脳が感じた痛みは完全に消えることはなく残滓は残っていたが

164 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/06(金) 19:48:41.52 ID:D+krSwg+0

「キョン君」

 スピーカ越しでない肉声
あやのの、震えた声だった

「あぁ、話すことがあるだろ? お互いさ、回収される内に話とかないと
 回収されたと同時に非難義務や極秘事項を知ったことでの説教やらなんやら食らうだろうからな」

 こなたはともかくハルヒが青筋を立てて怒鳴り散らす様が目に浮かぶ
…多分俺も一緒に怒られるんだろうな、もしかしたら喜緑さんにも怒られるかもしれない

「あの、…ごめんなさい」

「…なにが?」

「邪魔しちゃって」

「別にいいさ、結果どうにかなったからな」

 途中で頓挫しかけたのを立ち直らせたのは学校とお前だし、とは言わない
言うべきこと、言わないで置くべきこと

167 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/06(金) 20:18:23.39 ID:D+krSwg+0



「でもあやの、お前の兄貴は戦闘に巻き込まれて怪我したんだろ?
 それなのに自分が同じ穴の二の舞になってどうする」

 同じ穴のむじな、二の舞

「…」

 突っ込みどころか反応すらなかった
切ない

「私はね、ちょっと後悔してたんだ
 …ううん、いまキョン君が戦ってるのを見たからそういってるだけだね
 ただ、避難しないで屋上に行ったときは単に興味本位だった」

 訥々と話し始めるあやの
俺はなにもいわない、相槌を入れるべきなのと、そうでないものの違い
話上手。聞き上手。

169 名前:非難→避難[] 投稿日:2008/06/06(金) 20:34:54.70 ID:D+krSwg+0

「べつにね、キョン君にロボットのパイロットって聞いたのは
 責めるとか怒るとか、そんな事じゃなくて。ただのクラスメートとしての興味
 だって私のお兄ちゃん、怪我っていっても骨折程度だし。本当に自業自得なんだもん」

「…」

「それに、あの場に居たのはお兄ちゃんだけじゃなくて私も
 キョン君があの時戦ってたとき、見てたんだよ」

「…俺は、まぁ見てのとおりこのエヴァのパイロットだ」

「うん、知ってる」

 隠そうとしてたのバレバレだよとくすくす笑うあやの

178 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/06/06(金) 20:54:05.89 ID:D+krSwg+0

「ただね、目の前でみたから知っちゃったの
 他のクラスメートの子は、あの化け物とロボットのことをまるで映画の中みたいに思ってる
 まるでイベントみたいに楽しんでる子だっているのよ?
 でも、私はそんな風に思えない。ちょっと間違えば死んじゃうんだってわかった」

「…」

「だから、目に焼き付けておきたかったの
 私達の居る場所を壊す奴らを」

 あやのは、強い眼で俺を見た
射抜くようなというか、ハルヒがいつだったか幼いころ俺に見せた強い眼にも似たなにか
俺は何を言おうとしたのか口を開こうとしたとき
がくんとプラグ内がゆれて、ハッチが開いた

「回収班か」
「タイムオーバーだね」

 シートから離れてハッチに向かうあやのに
俺は


「あやの」
「なに?」
「お前の世界も、おまえ自身も、お前の周囲の誰も。壊れないさ」


『俺が守るから』

250 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/07(土) 13:00:23.91 ID:23gODHC20



「俺が守るから、かキザな台詞だね〜同居人」
「やかましい居候、聞き耳は感心できないな」

 渡されたタオルで頭を拭く
回収班の車で本部に向かう、エヴァはべつにあとで回収

「でキョン君は、私も守ってくれるのかな?」

 人差し指を唇に当てて上目遣いで俺を見つめてくるこなたに

「キョン」
「え? なに?」

 俺はこの街で知ったローカルルールをあだ名に応用して言ってみた

「キョンでいいさ、君は要らない。家族にそんなものは必要ないだろ」
「……了解、じゃあ私のことはハニーでいいよ」
「黙れ」

 結構本気で言った台詞を茶化され、ため息をついて横を見ると
先ほどのわざとらしい笑みとは違う
少し困ったような、照れたような、だが自然な笑みを浮かべたこなたがいた

253 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/07(土) 13:07:49.94 ID:23gODHC20

「とりあえず、シャワー浴びてくるように
 で、着替えて帰ってて。私は報告書とかまとめないといけないからね」

「わかった。飯は作って置いとくから、温めて食えよ?」

「んふ〜、やさしいねキョンは。家族愛!」

「やかましい」

 本部についてすぐの会話
戦闘報告とか、壊れた建物や道路の再建築
前回と違い自爆しなかった神人の死体の処理
戦闘に使われた武器や薬莢の回収
こなたを含めた本部の連中の仕事はむしろこれからだそうで
俺はそんなことはお構いなしに今回も無事生き残ったことを素直に喜びつつ
熱いシャワーを頭から浴びてLCLを流す

254 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/07(土) 13:16:30.49 ID:23gODHC20

 30人は入るだろう広いシャワールーム
人数の多い運動部とかが重宝しそうなここも
俺以外の人間が使うのを見たことがない
パイロット専用なのだろうか、だったらなんていう場所の無駄使いだ
…でもだったら長門が使ってる可能性もあるのか、流石にLCLでずぶぬれの状態で
私服に着替えるのは嫌過ぎる

…俺は最初私服でプラグに乗っていたんだがその辺は無視
ん、まてよ、じゃあ長門もスーツあるんだろうな?
ってかあいつは他の機体のパイロットといってたが、その他のエヴァと言うものを俺は見たことがない
本当にここにあるのだろうか、化け物相手に騎士道精神気取っても意味がない
1on1でやる必要なんかないんだから他にあるなら同時に行くべきだろ
なら動かせない理由でもあるのだろうか?

「えぇい、面倒だ。明日かまぁその辺でこなたに直接聞けばいいだろう」

 ごちゃごちゃしたことは今は考えたくはない

256 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/07(土) 13:33:17.14 ID:23gODHC20

「そういや、あやのはどうしたんだろな」

 こってり絞られた事はまぁ確実だろうとは思う
まぁおかげで俺は喜緑さんにエヴァの腕をちょんぎったことを
笑顔で愚痴られないで済んだわけだが

「あの人怖いんだよ…」

 非常に魅力的な笑顔で延々と独り言の愚痴に近い文句を連ねてくる
初対面でのタメ口になる日は来ないだろうという予想は
ほぼ的中したといって過言でないだろう

 ロッカーから制服を取り出して、プラグスーツを脱ぎにかかる
そういやこの更衣室も俺以外が使ってるのを見たことが無い
まぁ大してここに居るわけじゃないから単にタイミングの問題かも知れんが

 手首のボタンを押して空気を入れ、だぼだぼになったスーツを脱ぐ
着るときは簡単だが、脱ぐときは手の部分とかが張り付いて
無理に脱ごうとすると裏返しになるので困る

258 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/07(土) 13:50:11.94 ID:23gODHC20

 パシュ、と圧縮空気が抜ける音
オート開閉式のドア、つまりは普通に自動ドア
逆に言えば風だのなんだので勝手に空く筈の無いドア
俺は脱ぎかけのスーツを掴んだままとっさに音のした方に顔を向ける

「……」
「……は?」

 あやのがドアの向こうに手の甲をこちらに向けて顔の横辺りに掲げて立っていた
まさに今からノックするような体制だ
俺はこの時点で大体の状況は把握できた、つまりはあれだ
確認のためのノックをしようとしたんだが、そこは自動ドア
自動ドアにノックするまで近づけば基本的にセンサー式ならば勝手に開いてしまうだろうということだ

「……キ、」
「あ、ちょ!」
「キャー!!」

 キャーは着替えてる側の俺の発言だろう

274 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/07(土) 15:10:25.57 ID:23gODHC20

「…ふぅ、入ってきていいぞ」
「う、うん」

 俺が許可を出して、それからドアをあけて入ってくるあやの
あれからキャーキャー言うだけのあやのに慌てて背を向けて
ドアから離れろと何度か言って追い出して。着替えて。
…やってらんねぇ

「ドアノブがない事に不審を抱かなかったのか?」
「全然気がつきませんでした…」
「大体、更衣室って書いてあんだからもう少し配慮ってもんを…」
「えっと、それは泉さんだっけ? あの人に案内してもらって”ここに居るから”って言われたから」
「ほっほう」

 あいつの晩飯になにか混入させてやろうか
鷹の爪とか唐辛子とか一味とか

275 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/07(土) 15:16:09.18 ID:23gODHC20

「だがこんな早くによく開放してもらったな」

 正直もっとかかると思ってたし、終わってからは家に強制送還されるとも思ってた
まさかこんなあっという間に、しかも本部内を歩かせるとは…

「うん、最初はね、髪の長いお姉さんに正座させられて怒られてたんだけど」
「髪の毛が緑色のかかった?」
「うん」

 間違いなく喜緑さんである

「でも涼宮さんが、―涼宮さんもここの関係者なのね? 知らなかった」

 ってか一番偉い人である

「で、涼宮さんが。『今日見たこと、あった人間、その他諸々口外するな、わかったら言ってよし』って」
「それは…」

 予想外だった、まさかハルヒがそんなことを言うとは
真っ向から怒鳴ると思っていたが、変わってないようでこの三年でずいぶんと変わったのか

276 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/07(土) 15:40:46.51 ID:23gODHC20

「で、さっきキョン君に言い忘れたことがあったから」
「俺に言い忘れたこと?」

 俺はプラグ内の戦闘後の短いロスタイムに交わした会話を思い出す
…こなたに言われた所為もあるが、思い返すとこっぱずかしい台詞を言ったものだ

「ありがとう」
「…」
「守るって言ってくれてありがとう」
「…謝られるよりよっぽど気分がいいな」
「えへへっ、…あともう一つ」
「ん?」


「お友達になりましょ」

 あやのはそういって俺に右手を差し出してきた
俺はいつだったか、長門に自分がして無視されたことを思い出しながら
しかし俺はそれを強く握り返した

「あぁ、だが日下部によると俺達はもうとっくに友達らしいぜ」
「友達の友達は友達、でしょ?」

277 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/07(土) 15:49:34.58 ID:23gODHC20

 こうして俺とあやのは”仲直り”を果たした訳だ

「そういやあやの、お前の家はどこだ?」
「え? なんで」
「学校からそのままここに着ちまっただろ?」

 自転車通学らしいが、それは学校に置きっぱなしだし
俺がエヴァに乗せてジオフロントの本部に直行したので
ここからあやのは徒歩で家に帰らないといけないわけだ

「俺が送ってってやるよ」
「送るって…なにで?」
「バイク」

278 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/07(土) 16:01:14.64 ID:23gODHC20

――

「あっはっは! で、しかも明日も送ってくって言っちゃったの?」

「やかましい、少しボリューム下げろ。音割れしてるぞ」

「うん、私的見解を述べさせてもらうとそれは耳鳴りだねキョン」

 けらけらと腹を抱えて笑うこなたを残して、少し回想
あれから俺はタンデムに使う予備のヘルメットを被らせ
少々以上に怖がるあやのを後ろに乗せてすっかり夕暮れの色になった街を送っていったわけだが
俺は家の場所を知らないし肝心のあやのは

「もっとゆっくりー!」
「きゃー!」

 文字通りというか、見たとおりというか話にならなかった

279 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/07(土) 16:07:53.17 ID:23gODHC20

 で、想像以上に時間を食ってちょっと大き目の一軒家に到着
あやのを配達したその場所は意外と自宅のでかマンションの近くだった
丁度学校とあやの邸の中間あたりにでかマンションがある感じで

「ありがと、キョン君」
「いや構わないが、しかしここから徒歩で明日学校は面倒だろ」
「…まぁ仕方ないよ、明日は早起きするわ」

 で、ここが問題のシーン

「なんだったら明日も学校まで送ろうか、俺の家そこのマンションだし」

「え? 迷惑になっちゃうよ」
「俺からした提案だ、乗るか乗らないかでいいんだよ。自分の楽なほうを選べばいい」
「…じゃあお願いしてもいい」
「あぁ」
「ごめんね」
「そうじゃないだろ?」
「ありがとう」
「どういたしまして」

 はい、ここまで回想
最後の方が台詞だけなのはやっぱりなんかこっぱずかしいからだ
本当は完全カットしたいぐらいだってのに…

281 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/07(土) 16:17:19.66 ID:23gODHC20

「しっかし、転校してから派手だね〜
 初日はハルちゃんに連れてかれて
 二日目は来て早々に戦闘
 明日は女の子を後ろに乗せてバイクで登校ですか?
 あっはっはっは!」

「……」

 うるさかった、非常にうるさかった
だが事実なので反論できなかった、自然眉間に皺が寄る
しかも遅くなると言ってたくせにもう帰って来てる所為で食事に香辛料をそっと追加するという
ささやかな嫌がらせもできなくなった
俺のストレスは溜まる一方です

「ってかバイク登校ありだっけ? あの高校って」
「知らん」

 屋上を平気で弁当食べる場にしてる高校だ
結構問題ないと思うのだが

「…あれ? もう弁当食べるようなことあった?」
「人から聞いた」

 今日は一応持ってったのだが食わなかったしな
明日の弁当の中身はどうするか…毎日となるとそう凝る事もできないしな

286 名前:昼食マルゲリータ298円[] 投稿日:2008/06/07(土) 17:16:48.18 ID:23gODHC20

「まぁ基本夕食の残り+朝食に使った食材でなにかって感じかな?」
「なにが?」
「弁当の中身、お前の分も作ってやろうか?」

 俺の当番の時だけな

「うにゃ、頼もうかな。食堂もあるけど手作りのほうがやっぱりいいもんだしね」
「つってもあんまり手の込んだことはしないからな」

 ストップ過剰な期待
なんか手のひらのマークと一緒な感じで

287 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/07(土) 17:24:06.46 ID:23gODHC20

「あんがと。で、お返しに一つ」

「なんだ?」

「今日の戦闘でキョンは学校から自宅へダッシュ、のちにバイクで本部へ行ったわけですが
 学校に最初からバイクで行けばそんな問題はなくなるわけですよ」

「…ほう」

「もしバイク登校が本来ダメでも私が話をつけてやりましょう」

「それは弁当のお返しにしては釣りがでるような話だな」

「なに、お弁当は毎回ですが。私のこの行動は一回やれば終了なのでね」

 ついでにこの会話、こなたは笑うのをやめてから
テーブルに置いてある浅漬け(俺の自作)を爪楊枝でつつきながら
俺は笑ってる間に机を離れて台所にたって交わしている
念のため。

292 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/07(土) 18:33:07.18 ID:23gODHC20

さて、あとはまぁ追記みたいな感じになるか
その日はまぁ適当に就寝して
次の日の朝、普段どおりに起きて顔を洗って歯を磨いて制服に
こなたも昨日に引き続いて戦闘の事後処理のため早めに起こす

朝食は先日と打って変わって和食風に
茶碗にご飯をよそって、わかめと豆腐の味噌汁
昨日とは違う漬物(きゅうりとかぶ、たくあんは個人的理由で無い)
さらに目玉焼きというチョイス
毎日一つ卵を食べるのは健康によろしいそうで

ゴミをまとめてカバンと一緒に担ぎ
こなたと同時に家を出て施錠し
俺はゴミを捨ててバイクに跨り、こなたは車に乗って別れる

295 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/07(土) 18:45:48.11 ID:23gODHC20

「よう」

 ちょいと格好つけてあやのの家の前まで行ってみると
あやのはすでに玄関の門の前で俺のことを待っていた

「後ろ空いてる?」
「お前のために空けといた」

 なんとなく自分の被ってるフルフェイスのメットをあやのに押し付けて
予備のヘルメットを被る

「ではしっかりつかまってくださいねお姫さん」
「らしくない」

 くすくすと手を口に当てて笑うあやのをみて
なにも言わずに発進させてそのまま学校へ向かう
きゃーきゃー言って自分にしがみつく女の子を乗せてバイクで学校に行くのは
確かになかなか刺激的で新鮮ではあったが


「なぁキョン、仲直りしろとは言ったけど、仲良くなりすぎじゃないか?」

 変な誤解も招く羽目になった。お粗末。

309 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/07(土) 20:30:32.45 ID:23gODHC20

さて、今のところ
アニメ時系列での第三話まで終了したわけで
ちょいとハーフタイムを入れるね


その間なんか質問とか意見とか批評とか感想とかあったら聞くよー

個人的に一番最後のが気になったからこんなこと言い出したとか言わないよー

328 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/07(土) 22:13:01.45 ID:23gODHC20

「…うめぇ! キョンの弁当は毎度美味いな!」
「どうも」

 前回の敵襲が木曜日、それから一週間たっての今日が金曜日
あやのと”仲直り”したその木曜日から今日まで
今のところ毎日昼食を三人で取っている

「自分で作ってるのよねキョン君」
「あぁ、なんか流れでそのまま毎日作ってる」

 結局バイク登校に関してはこなたの力を借りることになったし
まぁなんというかあいつを俺が起こしてる以上
あいつが俺より早く起きることは無いわけで…

「お前らは?」
「私も自分で作ってるお弁当よ、みさちゃんもそうよね?」
「おう、自分の好きなもんばっか入れてる」

 なるほど、それであの弁当か
どうにも日下部は調理実習の班を組みたくないタイプらしい
ちょっと眼を離してるうちに自分が好きだという理由で味噌汁に肉団子をいれそうだ

330 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/07(土) 22:27:53.24 ID:23gODHC20

「文字通り肉汁…」
「ん? どうしたのキョン君」
「いやなんでもない」

 俺はからっぽになった弁当をカバンに仕舞って
空を見上げてみる、太陽がひたすらに核融合反応を続けていた
エネルギーを地球に分けてあげてください

「暑いな…」

331 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/07(土) 22:36:19.53 ID:23gODHC20

 風が吹くし、屋上という場所は比較的涼しいのだけど
雲ひとつ無い晴天の空を見てると自然と額に汗が浮かぶ

「あれだ、海とかプールとか生きたくなんよなー」

「俺はどちらかというと山とか行って木陰ですずみたい派だな」

「あ、私も登ることを考えなければそっちの方がいいかも」

「土日で行くってのもありだな…」

 この手の会話は続ければ続けるほど行きたくなるしやりたくなるし欲しくなる 

333 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/07(土) 22:48:33.23 ID:23gODHC20

「えぇ〜だから登るのどうすんだよ! 普通に登ったら疲れるじゃん」
「俺はバイクで行くっていう方法がある」
「卑怯者、私達を置いてきぼりにするか!」
「じゃあ私はまた後ろに乗せてもらおう」
「あやの〜」

 楽しい会話だった

「ほら、話は中断、もう教室に戻らんと午後の授業遅れんぞ」
「うぃ〜、どこでもいいから遊びに行きたいな〜」

383 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/08(日) 11:03:56.16 ID:h5DsrxYQ0

「あっ! そうだ」

 校舎に入る扉に手をかける前で日下部のでかい声に止められる

「どした日下部、くだらない事言って俺達を授業に遅らさせたら極刑だぞ」
「いや…飛ばしてるなキョン、まぁあれだ私もバイクは持ってないけどさ
 ちょっと時代遅れなもん持ってるんだよ、それ使ってみようと思って」
「…前時代的とな?」

 なんだろう、キックボードとかか?
あれでバイクについてくるつもりなのか?
…死ぬぞ

「いや、だからちげーし…」
「とっととしろ、くだらない話でなくてもお前の所為で遅れたらヘッドロックをかましてやる」

 俺がそういうと日下部はニヤッと笑ってこそこそ近づいて
何事かを耳打ちした

「ほう、面白そうだな」
「だろ?」
「あぁ、俺がその役をやってみたいくらい面白そうだ」

 これは明日行くしかないだろ―

386 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/08(日) 11:15:26.01 ID:h5DsrxYQ0

 廊下をとがめられない速度で早歩きして
教室までの道程を短縮する俺達三人
日下部は教室の扉が見えるとさらに加速して扉を

ガラッではなくバーンッと勢いつけてあけた

「セーフ!」

「なにがセーフやあほんだら、よくみて発言せい。そもそも鐘はとっくになっとったやろ!」

 あの後、話を終えて屋上の扉に手を掛けた時点で鐘がなり
三人で顔を見合わせた後できるだけ早く来たのだが
まぁ、ダメだったか

「ちぇ、今回に限っては大丈夫だと思ったんだけどなー」

「俺もだ、油断していた」

「私も…」

 そうだ、鐘が鳴っても五割以上の確立で俺達は間に合っていたはずだったんだ
いま壇上で俺達の遅刻を咎めてる先生こそ、この学校一番の遅刻魔なのだから
鐘がなった時点でいたことなんて二割程度(ずっと彼女の授業を受けてる奴談)らしいので
まぁその辺の油断はしかし仕方の無いことだろう。合掌。

387 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/08(日) 11:20:18.83 ID:h5DsrxYQ0

「なんで今日に限って遅くないんですか…」
「ひきょーもの!」

 いや、それは意味がわからない
ってか言ってしまえば俺の発言も無理を言ってる

「はっはーん、屋上で談合してるお前らがみえたからわざわざダッシュ決めたんや!」

 子供のようにつまらないことを得意げに話すえせ関西弁の彼女
黒井ななこ 2X歳 独身は金髪のポニーテールを振りながらけらけらと笑う
基本的に話しやすく、いわゆる最近の友達先生という奴なのだが
少々幼稚なところがある。
そのポニーは俺にとって学校での数少ない心の拠り所になっては居るけれど

391 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/08(日) 11:51:28.43 ID:h5DsrxYQ0

「あの、三人とも、えっと、席に座ったほうが…。先生もそろそろ授業の方を…」

 委員長が流石に見るに見かねてか席から立ち上がっての発言
えっと…岩崎さんだっけか、おとなしめの外見通りの性格なのだろうか
注意する声にいまいち迫力が無い

「あぁそうだな、おら日下部とっとと席につけ」
「そうよみさちゃんいつまでも立ってちゃダメよ」

 そっと自分達は席についての発言である

「え? あっ、ひでぇ!」

 ダダダと走って最後尾の席について

「よし、初めていいぞせんせー」

 ついでにこの時間は歴史

392 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/08(日) 11:55:51.18 ID:h5DsrxYQ0

 残り時間は35分と言ったところ
まだ十分に授業をできる時間だろう
俺は端末を開いて授業用の頭にスイッチを切り替えた―

394 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/08(日) 11:58:35.87 ID:h5DsrxYQ0

――

 「よし、準備はOK」

適当な私服に着替えて財布と携帯二つ
あとは音楽プレーヤーをポケットに入れてバイクの鍵を人差し指でくるくる回す

自分の部屋の机には一枚の書置き

『探すな危険』

395 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/08(日) 12:04:54.93 ID:h5DsrxYQ0

 正直、遊びに行くって事でもっとも面倒なのはこなただった
クラスメートであるあの二人と遊びに行くわけで
それを説明すれば確実にあいつは邪推してその持ち前の好奇心で下手すると追尾してくる可能性がある
しかし自分の立場を考えるとなにも言わずに外出するのもはばかられたので
この一枚の紙である

「行ってきます」

 寝てるこなたに一応一言告げてから家を出る
本日は晴天なり、否本日も晴天なり
俺はエレベーターで一階へ

「いよう!」
「おはようキョン君」
「うっす」

 淡い色のワンピースに麦藁帽子という夏らしい姿のあやのと
…あやのと

396 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/08(日) 12:13:55.55 ID:h5DsrxYQ0

「なんだよー」

 ヘルメットをして肘と膝にプロテクターをつけて
ローラーブレード履いてる日下部だった
いや、予定通りなのだがどうにも場違い感も否めない

「よし行くぞ」
「あれ、ヘルメットは?」
「いらんだろ」

 この服装のあやのにメットをかぶせて後ろに乗せるのが少し惜しくなっただけだったりする
日下部は駐車場のアスファルトの上のゴロゴロと…

「おい、それうるさいぞ」
「仕方ないだろ」

 バイクに跨り後ろにあやのが横のりする、男なら一度はやってみたいシチュエーションだ
後ろにつかまったローラー少女が居なければだがな

400 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/08(日) 12:34:18.30 ID:h5DsrxYQ0

「よし、キョンレッツら号だ」

「意味がわからん」

 ゆっくりと駐車場の出入り口まで進む
このマンションに出入りする人間は酷く少ないことは最近わかったことだが
かといって外の道路に行き来が無いわけじゃ決して無い

「日下部、やばくなったら手を離せよ。俺もすぐ止まるから」
「おっけだって、自転車で押されるよりはバランス取れるって」
「ならいいが…」

 まぁスピードは抑え目にしとくのが吉だろう
ここは最新鋭の都市であるからして道路は酷く綺麗でほとんど劣化してない
まぁだからこんな荒業を考えたわけだが

「しっかりつかまれよ二人とも」

 いって俺は公道にバイクを進めアクセルをふかした

405 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/08(日) 13:17:14.12 ID:h5DsrxYQ0

 バババババ
ゴロゴロゴロ

「いやぁ、ミラーに写ってる光景が面白すぎるだろ…」
「ふふっ」

 麦藁帽子を片手で押さえてもう片方の腕を俺の腰に回し俺にもたれるあやの
後ろにはフェンダーの辺りをつかんで滑らかに舗装されてる道路の上を引きずられる日下部

「おぉ! キョンこれおもしれーぞ!」
「そうか、よく手が疲れないと感心してやってもいいぞ」

 目的地は結局当初の予定通り山へ
といっても近くの俺が先の戦闘で陥没させた山でなく
ここらで少し有名な観光場所である山だ

「おっと」

 信号が黄色に変わったので減速する
べつに普段は気にしないが現状では安全思考にならざるを得ないだろう
いや本当に

408 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/08(日) 13:29:11.46 ID:h5DsrxYQ0

「ねぇキョン君」

 あやのが信号で止まったのを待ってた様に声をかけてきた
いや実際まってたのだろう、走行中はうるさくて喋れないし
俺も注意力散漫になること請け合いだ

「なんだ?」
「お昼どうするの?」
「ん〜、登ればなんかあるだろ」

 するとあやのは、そういうと思ってた、といって
肩にかけてたバックを俺に示して

「お弁当作ってきた、キョン君もみさちゃんもよく食べるから足りるかわからないけど」
「おぉ、凄いな。実はちょいちょいお前の作った弁当は食べたいと思っていた」

 これは正味かなり思ってた
学校の昼食のたびに見るあやのの弁当は非常に素晴らしい出来だと思えた
中途半端に料理をする人間として一度教えを乞いたいものである

410 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/08(日) 13:45:33.86 ID:h5DsrxYQ0

「キョン! 青!」
「お、おぉ」

 気がつかなかった
俺はアクセルをふかす、この道を真っ直ぐいってあと十分程度で目的地だ

411 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/08(日) 13:50:59.85 ID:h5DsrxYQ0

――

「そういや、お前その装備をしたまま登るのか?」

 バイクから降りて停めながらの台詞
山の半ばまでをバイクで登り、残りをのんびり頂上まで歩くのだが
しかしローラーブレードで登るのは無茶があるだろ
坂を上ろうとして下っていきそうだ

「いや、ここに置いてく、靴持ってきたし」
「ならいいが」

 靴に履き替えてる日下部を置いて先に行動を起こす俺とあやの
少しまわりを見渡すだけで、なにやらもう店とかが色々あるのが見える
傾斜があって高度がたかいだけの田舎町の様呈だ

422 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/08(日) 14:48:31.81 ID:h5DsrxYQ0

「結構色々あるのね」
「だが飲食店ならともかく雑貨店とか百均とかあるとな…」
「あれだろ? …まぁ色々入用なんだよ!」
「なにもないなら思わせぶりな発言するな」

 追いついた日下部と三人で軽い傾斜の坂を登る
木は大量に生えて風にあわせて葉がさざめく
ひんやりとした空気が避暑地的だ

「まぁ水筒とかよりいまはペットボトルのご時世だからな」
「私は水筒持って来たよ」
「わたしも」

 ピンクの可愛らしい水筒となんと迷彩柄の水筒
どっちがどっちかなどは考えるまでも、ましてや俺が教えるまでも無いだろう
当然だが魔法瓶だろう、でなければあっというまにぬるくなってしまう

423 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/08(日) 14:54:53.04 ID:h5DsrxYQ0

「中身は?」

 聞いてみる、外見同様中身にも個性が出てるのもまた歴然としてるだろう

「紅茶」
「カルピス!」

 紅茶は全然問題ない、アイステーだ
だがカルピス…小学生の遠足の定番とは違うぞ
飲めば飲むほど喉が渇いてしまうじゃないか
と、そこで日下部は急に走り出す
俺とあやのはしかし突然の日下部の行動に驚くような学習機能の無い精神は持ってないので
あるいて追いかける
日下部は雑貨屋の前で止まって商品を掲げながら

「キョン! バトミントンやろうぜ!」
「馬鹿か、なぜ涼みにきて運動しないといかんのだ」

 晴天のなか運動する気分のよさはわかるが
だがしかしいい汗をかきに来たわけでは決して無い
俺はバトミントンが個人的にかなり好きであるが
だからこそいざ始めたらかっぱえびせんになることは確実だ。やめられないとまらない。

「麻薬だろ」
「ん?」
「なんでもない」

431 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/08(日) 15:27:14.16 ID:h5DsrxYQ0

「んじゃソフトボール」
「より疲れるものに!」
「じゃあ卓球」
「卓が無いぞ!?」
「じゃあどうすりゃいいんだよぉ〜」
「俺がわるい方向に!?」

 店頭で漫才をやってる俺達だった
ってかどうするんだよこの空気
え? なにあの人達? みたいな
仕方ないなにか買っていこう
俺は水筒持ってきてないから飲み物でも

「どうしたー?」
「いや、俺も自分の分の飲み物を…」
「私の水筒でよかったら」
「ん〜、炭酸気分」
「じゃあ無理よね」
「あぁ」

478 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/08(日) 21:50:42.97 ID:h5DsrxYQ0

「まいどー」

 ジンジャーエール500mlで157円為り

「神社を応援?」
「違う、ジンジャーは生姜だ」

 確か、うろ覚えだが

「じゃあ生姜を応援?」
「それも違う、直訳というか超訳の域だ」

 緩やかな坂道を歩きながらの行程
いつだったか、どっかの山の地獄坂とかいうのを登った覚えがあるが
しかし比べ物にならない程の快適な道である

481 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/08(日) 21:55:11.55 ID:h5DsrxYQ0

「いい天気だな〜」
「そうね」
「…」

 さて…、この辺りでちょいと語ることがなくなってくる
頂上についたならともかくそれまでの移動中にそこまで語るべき物語もなかなかあるはずがなく
そもそもそんな移動にまでハプニングにまみれてしまう様な人生など俺はごめんである
精神の磨耗速度がアスファルトでドリフトした後輪タイヤよりも早くなる
ということでここから少し簡略かした状態で語りさっさと頂上へ到着したいと思う

482 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/08(日) 22:02:00.75 ID:h5DsrxYQ0

 頂上までの行程
その1、日下部はなにかしらの店が見えるたびにそれに走り寄り時間を潰そうとする
その2、それ以外の場面では明らかに発言に覇気が無い
その3、あやのの麦藁帽子が一度ならず飛び、それを取るために俺が一度ならず跳んだ
その4、俺のジンジャーエールは半分以上を日下部に飲まれた

以上が山頂の自然公園に至るまでの主な日常的なできごとだ

「おぉ! キョン見てみろよ、川が流れてるぞ!」
「自然公園だからな」
「おぉ! あやの見てみろよ、リスが居るぞ!」
「自然公園だからね」

 この辺も描写は必要ないだろ
台詞だけで思う存分情景が浮かぶ

483 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/08(日) 22:16:25.90 ID:h5DsrxYQ0

 頂上は公園になっている
ということは一般的な思考を持っていれば推理できると思うが
来るときに使用した道のように木が生い茂りまくってるわけじゃなく広場になっている
木陰が出来るほどに木が生えてる公園ではキャッチボールもできやしない
フライングディスクを投げれば即行方不明だ

「お、小魚も居るみたいだな」

 川は公園の中央を走り、大き目の石で脇を固められている
川幅は大体一メートル弱ってところで、人工の川だと思われるが
しかしメダカの様な小さな魚が結構うろついていた

「キョン! このリス人懐っこいぞ!」

 日下部は早速半野生動物とフレンドリーに遊んでいる
本人も犬みたいな奴だからな

…いや、犬に安易に近づいたら食われるだろリス
警戒心がなさすぎる

487 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/08(日) 22:28:28.19 ID:h5DsrxYQ0

「あら、ここから見ると虹ができてる」

 あやのは小さめの噴水を眺めてにこにことしている
噴水はテーマパークにありそうなちゃちな丸い形式の奴だったが
しかし場所と雰囲気の所為かなにやら少し厳かなものを感じないでもない

「俺もちょっと歩き回ってみるか」

 川に沿って少しぶらついてみる
腕時計を見ると正午を少し回った辺りで
どうやら太陽の機嫌も最高潮で虫眼鏡があればバグジェノサイドも可能の熱量

「お、上流の方はまた森林地帯か」

 丁度いい、涼しげな木陰の中川にそって歩くのもいいものだろう
一昔前なら夜に蛍が居そうな風景

489 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/08(日) 22:38:10.07 ID:h5DsrxYQ0

「…」

 その先、川の中心辺りにある岩に腰掛けてる人物が居た
木陰の隙間から射す日光に照らされながら、風にさざめく水と葉の音のなか
ポツンと取り残されたように、小さな存在感を持たせ
ふと、妖精か何かと誰かが呟けばそれが真実になるような儚い感覚

「長門…か?」

 俺は以前に一度彼女と会ったことが無ければ
自身がその想像に飲み込まれていた可能性を慮りながら声をかける

「…なに?」

 川縁に靴を置いて、素足を水流にさらし
岩の上で読書に勤しむ彼女の邪魔をしてしまったことにちょいと後悔しながら
しかし反応をしてもらった以上ここで去るわけにも行かず話を続けようとする俺

492 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/08(日) 22:49:16.09 ID:h5DsrxYQ0

「よく来るのか?」
「…」

 本に目を戻しながらなにも言わずに頷く長門
どうにも無口な性質らしい

「俺は今日始めてきてさ、結構いい場所だなここ」
「…えぇ」

 今度は返事があった、俺は少しでも会話として成立させようと
どうにか頭を巡らす

「長門は一人か?」
「…」
「そうか、歩いてここまで来たのか?」
「…」
「あぁ、ここに直通バスがあるのか…」

 そういえばそれなりに有名だとか言ってたな
上野動物園前みたいなノリか

494 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/08(日) 22:54:42.50 ID:h5DsrxYQ0

「なんの本を読んでるんだ?」
「…」

 本を持ち上げて背表紙を俺に見えるようにかざす長門

「英語の本か、原文で読むのか」
「…」 コク

 博学のようである
その題名は俺のボキャブラリー内にあるものだったし
それでなくても長門とは似た立場でありながらほとんど話したことが無いので
もう少しだけ会話をしていたかったが、しかしこれ以上読書の邪魔をするのもはばかられたので

「ほう、まぁ俺はそろそろ行くから。 邪魔して悪かったな」

 そういってさらに上流に向かおうとしたのだが

「…いい」

 足をすぐに止めた

499 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/08(日) 23:11:41.24 ID:h5DsrxYQ0

「…ん?」

 どこか逃げるようにその場を去ろうとした俺は肩透かしを
食らったような感じで振り向いて長門を見ると
長門は本をばたんと閉じて、細い折れそうな足で水を掻き分けて
靴を置いてある川縁に座りなおし

「べつに、どこかに行こうとする必要は無い。ここが気に入ったなら居ればいい」
「あ、あぁじゃあそうするよ」

 俺は長門から人一人分距離を空けた隣に腰を下ろす
ふと手を伸ばし川の水に手を触れると思った以上に冷たく心地よかった

「…気持ちいいな」
「冷たい」
「それが気持ちいいんだよ」
「冷たいは気持ちいい?」
「それは極論だが…」

 話が少しだけスムーズに行われてる

500 名前:>>496>>497お前ら愛してる![] 投稿日:2008/06/08(日) 23:18:40.08 ID:h5DsrxYQ0

「長門は、俺と同じなんだよな」
「…?」

 俺の方に目を向けて首をミリ単位で傾げる長門
向けられた漆黒の瞳に戸惑いながら、それでも目を逸らさないように

「ほら、エヴァのパイロットなんだろ?」
「…そう」
「長門の機体って…」
「凍結中、来週にその零号機の再起動実験が行われる」

 零号機、初めて聞いた言葉
名前から推測するに初号機の前の機体だと言うのは理解できる
しかし再起動実験とは起動させる実験、しかも二回目以上
つまり何回かは起動に失敗してると言うことか?
なるほど、今まで戦闘に参加しなかった理由が漠然と見えてきた

「そっか、がんばれよ」
「なにを?」
「実験」
「…」

 …そろそろ面倒な会話は切り上げるか
ハンドル操作を間違えると気分が沈みかねない

503 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/08(日) 23:25:03.29 ID:h5DsrxYQ0

「…長門、目を瞑ってみてくれ」
「…?」

 言われた通りに目をつぶる長門
純粋なのかなんなのか、俺が悪人だったらこの時点でバットエンド一直線だ
だが俺は当然悪人でない、悪戯好きではあるが

「…」

 目を瞑ったままの長門に気付かれないように川に手を入れて
長門の顔の前にもってって、水飛沫を顔に飛ばす

「…っ!?」
「ははっ!」

 驚いたような表情で眼を白黒させる長門
少し間をおいて濡れた俺の手を見て、俺を軽く睨んでくる
だが怒ってるわけではなく呆れてるというのが近い感じ

「たまにはそんな表情するといいぜ」

 俺はそういって今度こそその場を歩いて去った
俺はどうにも長門を少しばかし誤解してた面があったらしい
長門は無口な普通の女の子だった

518 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/08(日) 23:58:39.67 ID:h5DsrxYQ0

「おう、キョンどこ行ってたんだ?」

 日下部は俺が広場に戻るなり開口一番俺にそう聞いた
そういえば長門と日下部やあやのは俺よりよっぽど長くクラスメートやってるわけだが
なんとなく長門とあったことは伏せといた
言えば日下部の事だ、騒がしく長門を探しに行くだろう
俺が長門のことを吹聴したと思われるのも嫌だし
そもそもこれ以上長門の時間の邪魔をしたくはない

「上流に旅してた」
「優雅に旅してたのか?」
「上流階級の上流じゃない」

 長門の時とは反対にこいつと話してるとなぜか自分の知能指数が下がった気がする

519 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/09(月) 00:04:24.67 ID:iaBm5NrB0

話してるだけで自分を馬鹿だと自覚させるとは
そういう意味では日下部はなかなかに稀有な人材のようだった

「そろそろお昼時よね、お弁当食べましょ」

 あやのがそう切り出し
俺はなるほど、確かに日下部がどこ行ってたと問いたくなるほどには
長門とともに時間を過ごしていたことになる
すでに一時をすこし過ぎている

「なら少し移動して影のあるあたりの芝生で食うか」

 ついでに広場は全面芝生、念のため。

521 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/09(月) 00:17:10.06 ID:iaBm5NrB0

 あやのは用意周到でレジャーシートも持っていたらしく
二畳程度の大きさのそれを芝生に広げ、隅に飛ばないように水筒を置く

「わたしのも置いとくな」
「俺のペットボトルはすでに中身がないな」
「飲んだ!」
「この野郎…」

 トライアングルを作るように座る俺達
俺は胡坐をかいて、あやのは正座を崩したような女の子座り
日下部は…

「なんで体操座りなんだ?」

 その格好での弁当が食いにくさは折り紙つきだ

「へへー、なんとなく運動会を思い起こしまして」
「運動会…ね」

 そんなものもあったなとかいうレベルの俺
誰かと弁当を食った記憶の無い俺にはこの環境から運動会を思い起こすことは無い

522 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/09(月) 00:28:25.35 ID:iaBm5NrB0

「しかしこりゃまた気合の入った弁当だな」

 重箱は普通遊びにいったときの弁当として現れることはないだろ
ってかよく持ち運んでたな、意外とあやのは体力があるらしい

「二人ともよく食べるから張り切っちゃった!」
「張り切りすぎだろ…、これは一日仕事だぞ」

 確かにいまの空腹具合をと面子を考えれば問題ない量だが
それにあやのが作った料理だそれでなくとも残すわけにはいかん

「あやのの料理はうめーからな」
「ありがとうみさちゃん、ほら食べて食べて」

 にこにこと本当に笑顔を絶やすことの無いあやのは
俺と日下部に早く食べるように勧める
自分の作った料理を他人に食べさせるときの
こう…形容しがたい気分はしかし俺にも親しみのあるものだったので
言葉に押されるままにいただきますと言って箸を手に取った

563 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/09(月) 11:27:13.95 ID:iaBm5NrB0

>>522
 …どれから手をつけるか一瞬迷うものの
しかしそれは迷い箸という礼を欠いた行動であることを知識として一応ながら知っていた俺は
とりあえず手近にあるアスパラの肉巻きに箸を伸ばす
本当に色々なおかずがある、和洋折衷と言うか和洋中

「…やっぱりというか、うまいな」
「えへ〜、よかった。人に食べてもらうのって結構緊張するわね」
「あやのならそんな心配とは無縁だと思ってたな」

 正直羨ましい
俺ではこうは行かない、やはり本格的に教えを乞うことを選択肢に入れておくべきか…

564 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/09(月) 11:37:16.33 ID:iaBm5NrB0

「たけのこー」
「…これはなんだ? 煮付けてあるのか?」
「うん、醤油とだしとみりんと…塩かな?」

 ほう、なるほどそれでこの味か

「しかしあやの」
「なに?」
「この場にちょっと散らし寿司はがんばりすぎだろ」

 あやのが現在最下層に位置する重から取り分けてる散らし寿司
既製品と勝負? ドンとこいや! と言わんばかりのそのできばえは流石と感嘆の一息だが
しかし友人同士の外出でこれは本当に一日作業だ

「なんか…ね、つい」

 そう困ったような笑いを漏らすあやのに言いたいことも多少あったが
しかし美味そうなことに変わりなく、俺は素直に渡された分を口に運ぶことにした

565 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/09(月) 11:45:26.51 ID:iaBm5NrB0

 それからは非常にのんびりとした時間だった

「お茶飲む?」
「…? もらう」

 シートに置いてある水筒とはべつの水筒をとりだすあやの
曰く、紅茶じゃあわないじゃない
だそうである、あやのはあれだ、他人とかに気を配りすぎて自身の体調管理がおろそかになって
がんばってがんばってがんばって、急にばたんとなりそうな雰囲気の人間だ
…そうならないように俺がしないといけないな、友人として

「あやのー! これうまいぞ、もっとくれ!」
「はいはい」

 その第一段階として日下部をもっと大人しくさせる必要がありそうだ
まるで親子のようなやりとりは見ていて心和むところもあるのだが
しかし今日はやけに耳鳴りの回数が多い

566 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/09(月) 12:03:11.46 ID:iaBm5NrB0

「おい日下部」
「なんだ?」
「もう少しボリューム下げろ、野生動物がお前の声を威嚇だととってみんな居なくなる前に下げろ」

 この風景は基本的に鳥の声が聞こえるような場面であって
決して遊園地の絶叫マシーン付近ではない

「いや、だってこれ美味いって、キョンにもやる」
「もらう、が、話を逸らしてやるつもりは無いぞ」
「お前はなにが不満なんだ!」
「その声がでかいと言っているんだ!」

 変なテンションになりかける前にここで一時中断
日下部がよこしたものを食べる

「あっ、うまっ」
「だろ?」
「あぁ、だがそこで胸を張るべきなのはあやのであってお前ではない」

571 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/09(月) 12:25:36.20 ID:iaBm5NrB0

――

「ご馳走様でした」
「ごちそさま!」
「お粗末さまでした」

 綺麗にからっぽになった重箱(やはりこれを素直に弁当箱と呼ぶのは抵抗がある)を前に礼をして
俺は芝生に横になる、食った後に転がると牛になる? 知ったことか
親が死んでも食休みだ馬鹿野郎

「いや、腹いっぱいだ」

 少しだけ傾いた太陽を観測しつつ流れる雲を目に映す
晴天とは空に対する雲の割合が一割未満の場合を指すため
空を眺めていて、あの雲はなんの形だ見たいな事をするほどの雲は無い

「キョン寝るなよー」
「ちょいと無理な相談かもしれないな」

 いや、まだ問題ないが、このままぽかぽかと寝転がって日光浴をしていると
本気で眠くなりそうだった。猫の気分。

572 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/09(月) 12:36:18.85 ID:iaBm5NrB0

「てぃ」
「つめて!」

 なにか投げられる
投げられたものを見ると、氷
日下部が水筒に入って溶け残ってた氷を投擲してきたらしい

「お前な…」

 投げられた氷を投げ返す
なにかを投げるということは投げ返される危険性があるということだ
して、俺が投げ返した氷は見事日下部の額にクリーンヒットさせ砕けた

「いって……いやほんとに」
「知らん」

 微妙に濡れた手をはたきながら
さて、これからどうするかという方向へ話を進めてみる
別に丸一日外で遊ぶ必要もないし帰るなら帰ってもいいのだが
しかし中途半端ではある

574 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/09(月) 12:57:58.96 ID:iaBm5NrB0

「しっかし、二人乗り+αの移動方法であまり移動したくないのも事実としてある」
「どした」
「このあとどうするかと思ってな」
「…帰るのか?」
「別に予定はないから夕方くらいまでなら私は大丈夫よ?」
「あやのんちは門限あるからな」

 門限とはまた今時のそこらの高校生には絶対に無い概念だろう
あってもスルーだ

「何時まで?」
「7時」

 中学生でも余裕で遊んでる時間だ
なるほど古風な両親なのか、単純に小さなころの制限が続いてるのか
俺が少しばかし頭を悩めていると日下部が立ち上がり選手宣誓よろしく

「わたしカラオケ行きたいです!」

 宣言した

599 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/09(月) 14:26:43.59 ID:iaBm5NrB0


「ただいま」

 7時20分自宅到着
IDカードスラッシュ!
ピッという音とともに開錠されてドアが開く
最初はハイテクだと感心したこれも、今じゃ結構慣れてしまった

「あれ、電気がついてない」

 ドアが開いて中に入るといつもなら見える居間の蛍光灯の光が見えない
まだ仕事から帰ってないのかと思ったものの、しかしこなたの仕事用の革靴はある

「こなた〜?」

 呼びかけるも返事はなし
とりあえずスイッチを入れて照明をオンにする

”入るな危険”

 そんな文字が踊った紙がこなたの部屋の扉に張ってあった

600 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/09(月) 14:33:52.85 ID:iaBm5NrB0

「…っのやろう、拗ねてんのか?」

 ノックノック、しかし反応なし
扉の下から光が漏れてるのが見えるし居るのは確かのはずだが…

「おい! こなたなにやってんだ?」

 返事なし、なにやらごそごそやってる音は聞こえたものの
そもそもとして返答する気がゼロのようだ

「お〜い、拗ねたスネオ君?」
「うるさいやい!」
「なにしょぼくれてんだよ」
「しょぼくれてないよ! 拗ねても無いよ!」

 んだよ、元気じゃん

602 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/09(月) 14:51:20.36 ID:iaBm5NrB0

 あれだ、あれだ、反抗期だ。多分。
きっと起こしてもらえずしかも放置を食らったことに気を悪くしてるのだろう

「俺が悪かったよ、今度はお前も誘うしさ。でも俺のクラスの連中だし
 お前を連れてくわけにはいかんだろ」

「けっ、そんなことわかっとるわい
 私がお気に召さんのは、言わんで言ったことじゃい
 つまりそれってあれじゃん? 私がついて行くって言うと思ってたわけじゃん?」

「…」

 なるほど、怒りの根幹はべつのところか

「いや、それに関してはまったく俺がわるかったよ」
「明日の晩飯はキョンが作れよー」

 明日はこなたの当番日

「しゃあねぇな、好きなもん作ってやるから出て来い」
「妥協案呑んだからってえらそうにすんなよなー」

 ドアが開き、こなたがこっちを向いてるのが見えた…のは一瞬で
次の瞬間には顔にクッションが飛んできた

615 名前:>>612ごめん、殺しちゃった[] 投稿日:2008/06/09(月) 15:43:05.37 ID:iaBm5NrB0

―――
「長門のIDカード?」

 俺は喜緑さんの皿にシチューをよそう手を止めて聞きかえした

「そう、これはキョン君の分ね。先日カードの更新があったんだけどあの子に渡すのを忘れていて」
「長門の…ね」

 先日の公園での会話を回想

「だが何で俺に頼むんですか?」
「明日は有希の実験があるのよ、だから今渡しとかないと明日締め出し食らっちゃうの」
「なるほど」

 実験、再起動実験だったか?
そういえば零号機のカラーとか外見とかってどうなんだろうか、初号機がそれなりに派手だからな
似た感じなのか、どうだろうか。しかしここで聞くのもまずいな
俺は長門とあの日あってないしその辺の会話もしていない
つまり俺は長門に関しての情報はまったく持ってないのが前提として現在ある

616 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/09(月) 15:50:26.01 ID:iaBm5NrB0

 今日は火曜日
あの時は土曜日で長門は来週と言っていた
多分、間違いないのだろうとは思うが
しかし聞きたくても聞けないっていうこの中途半端感は嫌だな

「いや、今日渡さないといけないのはわかりますけど。なんで俺に?
 長門もパイロットならここに住んでるんですよね?」
「キョン、それは違うよ?」
「は?」
「有希はね、開発地区のマンションに住んでる」

 開発地区、それは逆を返せばいまだに工事中で
煌びやかな中央地区とは対をなす廃墟のような場所も少なくない
しかもあの辺りのマンションと言えばd地区のものだろうが
あれは小学生が『お化けがいるんだぜー』と半ば以上本気で言っている辺りだ

「なんでそんなところに?」
「本人が希望したんだよ」
「長門が?」
「ここはうるさすぎるですって、彼女には」

 こなたと喜緑さん、二人は俺よりも長く長門と付き合ってるはずの二人
しかしその顔には、この間まで俺がしていた長門という個人に対する誤解の色が見え隠れしていた
あの子は仕方がないと、問題児を見てみぬ振りするような色が

625 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/09(月) 16:06:19.88 ID:iaBm5NrB0

「わかりました、つまり明日本部に向かうまで、放課後までには渡せばいいんですね」
「そうよ、頼んだわねキョン君」
「了解です」

 ふと、カードの写真に目をやる
無表情な長門の顔……、こりゃ誤解を招いても仕方が無いか

「なにぃ? キョンは有希みたいのがお好み?」
「お前よりは女の子らしいのは確かだな」
「ひどっ!」

 こなたの相手は面倒だ
無視すれば角が立つし、まじめに受けても馬鹿を見る
適度に流すのが何事も一番である。まる。

「ま、とにかくせっかく作ったんです冷める前に食べてください」

 カードは一先ずポケットにしまい
俺はとりあえず夕飯に思考を切り替える
冷めたシチューは上顎にざらざらしたのが残るんだよな

627 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/09(月) 16:27:11.12 ID:iaBm5NrB0

「これキョン君が作ったの?」
「えぇ、一応ここに来るまでは一人暮らしで自炊してましたから」

 クロワッサンをちぎりながらシチューを食べる喜緑さん
こなたはもう慣れたが彼女に食べてもらうのは初めてで
多少戸惑う、喜緑さんはお世辞とか言わないタイプっぽいし
悪ければ一言で切り捨てそうだ

「…とても美味しいわ、泉さんは毎日食べてるのね。羨ましい」
「ん、交代制で交互に作ってるんだけどね」

 こなたはスプーンを銜えながら喋る
言葉を口にするたびに銀のスプーンが上下して非常に目障りである

「あら、じゃあ私は運が良かったのね」
「それはどういう意味?」

629 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/09(月) 16:46:49.97 ID:iaBm5NrB0

「さぁて、どういう意味かしらね?」
「なら私の料理を今度食べさせてあげるよえみりさん」
「あれ、遠慮させてもらうわ。仕事に支障が出るから」
「私とキョンは二日に一回は食べてます!」
「免疫ね、人間の身体の神秘は科学じゃ解明できないところまで発展してるのよ」
「えみりさん!」
「うふふふ」

 …その間俺はただただ黙々と食べることに専念させていただいた
いや、喜緑さんも食べる手を止めてるわけじゃない
ただ同時にこなたをいじくって遊んでるわけだが
しかし、喜緑さん。あやのと似たような温和な雰囲気を持ちと同じような笑い方をする彼女は
心根が少々強靭だった、結構この人毒を吐く

「…ご馳走様」
「あれ、キョンもう食べ終わったの?」
「すでに結構時間が経ってることを時計を見て確認して、それでももう一度同じ台詞を言ってみたら褒めてやる」

「私もご馳走様、美味しかったわキョン君。またご馳走してくれる?」
「えぇいいですよ」

 本音を言うとこなたと同席してない状況でという条件をだそうと思ったが自重

669 名前:書き始めと中断の唐突さに定評のある俺[] 投稿日:2008/06/09(月) 21:25:41.03 ID:iaBm5NrB0

>>629
「d地区、か」

 長門は一体なにを思い、なにを考えてあんなところに住もうとしたのだろうか
まるで誤解を自ら招くようなその行動の裏に何があるのか

「もしくはなにもないのか」

 まぁなんだっていいさ誰に聞けるわけも無い
特に本人なんかに聞けるはずも無い事だ、俺はただ明日長門にカードを渡せばいいだけだ
…だがとりあえず、なにをするよりも先にだ

「この二人を止めないといかんな」

 まったくこなたも喜緑さんも仲がいいのか悪いのか…

673 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/09(月) 21:36:43.31 ID:iaBm5NrB0

 ・

 ・

 ・

 工事をする重機の重低音が響き
時折金属がぶつかり合う甲高い音がそれに混ざる
罅割れたコンクリートで視界を埋めるほどに乱立する劣化したマンション
この一室に長門が一人住まいを構えている

「403号室……どこの棟だよ」

 長門の住んでるところがd地区のマンション403号室だというのわ聞いたが
しかしこれだけ複数同じ形をした長方体が立ち並ぶ荒土ともいえる中
その番号にあう部屋は棟の数と等しくある筈だ
時間が限られてるこの状況で、その数は途方も無い数字と取れる
一時間、大体あとその程度で長門は家を出て本部に向かい実験となる
それまでにこの広大な面積の住居から一室を探し出さなくてはならない

681 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/09(月) 21:50:54.78 ID:iaBm5NrB0

「無理だ」

 考えるまでも無い、見えるだけで20棟はあるこの中から
たった一つを見つけるのは困難を極める
虱潰しをするには時間が足りない
ローラー作戦は人手と時間が第一前提なのだ

「ちくしょう、電話して聞くか……」

 それが最善だろう、このまま渡せずに居たら
長門は締め出しをくらい、実験に間に合わず
またそれで喜緑さんにどやされるのは俺で
再起動実験が遅れれば戦闘に支障が出て、それで困るのもまた俺だった

15 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/09(月) 22:13:17.22 ID:iaBm5NrB0

「なにしてるの?」

 学校帰りに直で来てたため
バックから携帯をとりだそうとしていた俺はしかしその行動を中途で止める羽目になった

「長門」

 俺はそのままバックから手を離す
もう携帯を取り出す必要は無い

「私になにかよう?」

 まるでここに居ることが長門関係の事柄に直結してるような物言いだったが
多分その通りなのだろう、思うにここには長門以外の住人なんて
それこそ小学生の言う”お化け”程度になってしまうだろう
だからその長門の顔見知りがこの辺りを歩いていれば
順当に考えて自分に用事があると思うのが普通か

26 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/09(月) 22:31:33.93 ID:iaBm5NrB0

「これ」

 俺は携帯の変わりにカードを二つポケットから取り出す
えぇと、長門のはこっちだ

「IDカード、更新して新しいのを渡し損ねたからって喜緑さんが」
「そう、わざわざごめんなさい」

 長門はそういって俺の差し出したカードを取る
その手にはビニール袋がカバンと一緒にぶら下がっていて

「買い物してきたのか?」
「…夕食と明日の分」

 それは見たことのあるスーパーの袋だった
透けて見えるのは、レトルトのカレーやなにやらジャンクフードの類

28 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/09(月) 22:38:41.24 ID:iaBm5NrB0

「…」

 べつに俺は女の子だから料理ができるべきといは言わない
俺は基本的に男尊女卑とまでは言わないが、あぁいう形をなしてた時代が一番良かったと思ってる人間だ
女権拡大? 吐き気が出る。
必要なのは性別に対する平等でなく実力に対する平等性だ
男はできて女はできない、そういったものに割り込んでなんだというのだ
できる女が居ればそれに対して平等でこそあれ、”女”と言う物に平等である必要なんて無い

―閑話休題

 しかし、俺も同い年の連中よりは料理に一言持つ身
育ち盛りのこの年齢でその食生活は少し見過ごせないものがあるのも事実だ
せめて最低限の自活は女としてでわなく、人としてできて欲しいというものまた本音
言わないだけで考えてないわけじゃない

「長門、今日あの実験だろ?」
「えぇ」
「俺も訓練あるしさ、一緒に行っても構わないよな?」
「……構わないわ」
「よし! じゃあ!」

 俺は、長門に少し遠くに停めてあるバイクを指差した

33 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/09(月) 22:52:24.32 ID:iaBm5NrB0



「ついたぞ」
「…」

 本部の駐車場、黒塗りの車が多いなか
こなたの赤いセダンや俺のバイクが目立つ
長門は着いて俺のヘルメットを返してから口を開かない

「バイク初めてか」
「…」

 頷く長門
まぁそりゃそうか、この年で免許持ってるって言ったって原付とかばかりだしな
俺は意外と少数派、現在取ろうとしてる進行形が多数派

34 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/09(月) 22:56:40.58 ID:iaBm5NrB0

 長門はスタスタとゲートに行ってしまい
俺は少し慌ててそれに続く、更新してもらったカードを通して
金属製の単体で1tあるんじゃないかというゲートが上下に開く

「長門の零号機って俺見たこと無いんだが…どんな感じなんだ?」
「感じとは?」

 ここで俺は質問を質問で返すな!
ということも出来たがしかしそんなキャラじゃないので自粛

「あぁ…色とか、形とか。…基本特徴?」
「角が無い」
「へぇ…」

 いや! べつに俺だって角が基本アビリティと思ってないぞ!?
う〜ん、確かに初号機との相違ではあるがしかしまったくつかめない

「ま、見ればわかるって奴だな」
「百聞は一見にしかず」
「そ、それだ」

36 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/09(月) 23:04:03.98 ID:iaBm5NrB0

 ま、それも今回の実験が成功し
次回以降の戦闘に零号機が参加すればの話だ
どうせ今日は見れないだろうからな、俺なんかをそんな実験に混ぜてくれるとは思えない

「…」
「…」

 二人で黙って本部の長い廊下を歩く
俺はシンクロ、ハーモニクステストの後
インダクションモードというコンスタントに行ってるルーチンをこなすために模擬体のあるボックスへ
長門はどこかの実験室だろうとは思うが、詳しくはわからない
ただ今のところ道は同じようである

81 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/10(火) 09:20:47.95 ID:S0x1ckku0

>>36

「あれ、キョンじゃん、有希と二人で珍しい」

 ふいに後ろから声をかけられる
本部内で俺に個人的に声をかける人間は限られているが
しかしその中でも俺を呼び捨てにするのはこなただけだ

「カードを渡したついでにな、俺も訓練でも受けようかと」

 なんとなく、やましいことも無いのに言い訳がましい口調になりながら説明する俺
まぁ実験を覗けやしないかと言う企みがあるのは事実だったのだが
こなたはだがそんな俺の心中を垣間見たかのように

「ん? 実験見てけばいいじゃん」

 そう非常に軽い口調で言った

「いいのか? 関係ない人間入れて」
「関係なくないでしょ、同僚の実験だよ?
 それにエヴァの搭乗準備やシンクロを客観的に見ることなんて無かったでしょ?
 これもいい勉強だと思えばいいよ」

 そういえばそうだな
俺がエヴァに乗るとき周りでどんな風に事態が進行してるのか
俺はまったく知らない、無知は罪だと言う

90 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/10(火) 09:35:33.39 ID:S0x1ckku0

「ならばお言葉に甘えさせてもらうさ
 実際零号機とやらを見てみたかったし」
「ならCブロックの第一起動実験室にゴーだよ」
「わかった」

 起動実験室、つまりは起動実験専用のルームがあるのか
ならば起動に失敗することは成功する確率と比べて良くて五分悪ければ…
とまぁそれぐらいであると最初から織り込み済みか…
今回、本当に実験は成功するんだろうか?

「んふー、心配げだねキョン。眉間に皺が寄ってるよん」
「起動実験室と言う部屋があるだけでそれに足るだろう、つまり俺だってあの時起動させられなかったかも知れんわけだ」
「そうだね、あのときの初号機の起動確立がどれくらいだったか知りたい?」

 あまり聞きたい事柄ではないのは確かだ
真実が想像よりよかったなんてことは、決してありはしないのだから

「オーナインシステムと呼ばれたんだよ」
「は?」
「0.000000001% それがあの時の初号機の起動確立だよ
 起動させられなかったじゃないんだよ、本当。あの時起動できたのは奇跡としか言いようが無いんだよ」

95 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/10(火) 09:45:18.35 ID:S0x1ckku0

「そうか…」

 そりゃずいぶんと酷い数字だった
十億分の一? 飛行機事故に会う確立のさらに百分の一位か?
はっ、なら一つの宝くじで一等を当たられるじゃないか

「ま、いまは定期的に起動してるしキョンとの相性もいいみたいだしね
 安定してるよ、ほぼ100%と言っていいくらいにね」

 フォローなのかなんなのか、まぁいいさ
実際問題動きませんでしたなんて謝られてもどうしようもない状況だ
あの時動かなければ逃げられたのかとも考えたりはしない
動かなければあの場のみんなが死んでいただけだ

105 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/10(火) 10:08:56.74 ID:S0x1ckku0

 パシュッともはや聞きなれた圧縮空気の音が聞こえる
音につられて振り返ると、長門が居なかった
”更衣室”いつぞやの思考を思い出す、どうやら長門も自分のスーツがあるらしいが

「ん、先に私たちは行くことにしようか、実験室と搭乗場所は別の部屋だし」
「わかってる」

 なにも言わずに行ってしまった長門に感じるものを覚え
しかしとりあえずはこなたについて先に進むことにした

106 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/10(火) 10:16:19.98 ID:S0x1ckku0

「第一次接続開始」

「主電源コンタクト」

「稼動電圧臨界点を突破」

「フォーマットフェーズ2に以降」

「パイロット零号機と接続開始」

「回線開きます」

「パルス及びハーモニクス正常」

「シンクロ問題無し」

「オールナーブリンク終了、中枢神経素子に異常なし」

「再計算、誤差修正なし」

108 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/10(火) 10:25:57.82 ID:S0x1ckku0

「チェック2590までリストクリア。」

「絶対境界線まで後2.5、1.7、1.2、1.0、0.8、0.6、0.5、0.4、0.3、」

「0.2、0.1、突破。ボーダーラインクリア」

「零号機起動しました」

 分厚い一メートルを超える防弾防圧防熱ガラス
その向こうに見えるオレンジのような、山吹色の零号機
単眼のその特殊な顔、シンプルと言うか同じ意味でも単純と少し乱暴な意味を含ませたイメージ
痩身の初号機よりさらに華奢な造型は本当に戦闘に耐えうるのか不安になる

「これが零号機…」
「そう、初号機の前の機体だよ」

 なるほど、ある意味零号機は正しい形だろう
この機体の外見的、性能的欠点を補った結果初号機になったと考えるならば納得できる形状ではある

109 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/10(火) 10:36:42.19 ID:S0x1ckku0

 しかしそれはつまり性能的に初号機の方が上だと暗に明に示している
素人考えではあるものの、しかし後続機が旧型より性能が劣るようではこの世は回らない
そのスマートと言うより人間で言うなら病的な細さは一種の恐怖すら煽る

 その瞳に淡く宿った光が零号機が起動に成功したことを表してると如実に表し
決して誤作動を起こさず、長門の意のままに動くと理解しても覚える嫌悪感
それは生物的に下位である俺の本能なのか

「うん、問題なし。これで神人の研究に精を出せるわ」

 この実験を取り仕切っていた喜緑さんは顔を綻ばせている
彼女にはないのだろうか、この異端で異常で異形な存在への先天的恐怖というものが
わかっている、俺のいまのこの感情は一種の感傷だということを
それでも、恐怖を覚えない彼女達にすら、恐怖を覚える

110 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/10(火) 10:48:45.02 ID:S0x1ckku0

 ここで違和感を感じる
この状況にではなく自分自身の中の感情に
零号機に俺は今現在恐怖心を進行形で煽られてる
だが、”エヴァ”に恐怖を覚えてるわけじゃない
初号機に対し俺はむしろ逆の安心感、安定感を覚えてすら居る

 そうだ、異常といえばそれが異常でなくてなんだというのだ
なぜ俺は腕を折られて、切り落とされ。たった二回戦っただけでその二回ともで死に掛けてる中
俺はなんでこの状態に安穏と構えていられる?
どうして俺はこの状況に心のどこかで納得している?

 初号機になぜ俺はこんなにも馴染んでしまった?

112 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/10(火) 10:57:53.72 ID:S0x1ckku0

「キョン…どしたの?」

 こなたが俺の不審に気がついたのか声をかけてくる
人に言っておきながら、お前の眉間にも皺がよってるぞ

「この時間の流れの中での自分と言う一個単体の存在理由を考えてた」
「なに? 自分探し?」

 ずいぶんと軽い感じの物にさせられた
まぁ軽い物言いをあえて選んだのだが…
だがしかし、今回の実験はこのまま四肢の動きの調整
動作の伝導率等を調べて終了だが、俺にはベクトルの違う部分で見つかったものもあった
正直、洗脳の類でもかけられていた主人公が一気に記憶を呼び覚ますような感覚だった

113 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/10(火) 11:12:04.68 ID:S0x1ckku0

 べつに俺はそんなことされてないと断言できるが
しかし最初に乗ることを拒否してたらそういう可能性もあったともまた断言できる

どうせ俺が現実から目を背けて、ここに居場所を作ろうとしたとかそんなことだろうとも言える
ここで戦う日々と、前の第二の生活は、俺にとってなにが変わったと言うわけでもない気もするし
ならば単に慣れとか習慣の問題かもしれない
…ただ、零号機はそれでも一つ教えてくれた

『異常で異形で異端で、世の中の異変であるのは俺も同じ』と言うことに
わかったことでなにかが変わるわけじゃない
ともすればわからないほうが幸せだったこと、でも知らずに居る訳にもいかないこと

俺はもう一度認識する、俺がしてるのは化け物との殺し合いだということを
こなたと家族ごっこして、クラスメートと遊びに行って

「俺は馬鹿か…」

121 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/10(火) 11:25:31.12 ID:S0x1ckku0

 急転直下、ちょっとした好奇心が世界に対する猜疑心を再発させた
こんな展開ちっとも待ってなんか居なかった
あぁ、なんで

「なぁこなた、なんで現実ってのは厳しいんだろうな?」

 独り言に近い、自嘲に近いその質問は特に答えを期待してたわけじゃないが
しかしこなたは予想に反して真面目な顔をして答えてくれた

「逃げるから、目を背けるからだよ。
 だからいざ直視すると辛いんだよ
 べつに現実ってのは厳しくないしやさしくもないものだよ?

 いつも見てれば、そのうち”見慣れて”くるよ」

 それは俺の心を読んだような、やっぱり厳しく辛辣な言葉だった

「なんで、お前はこういう時は真面目なんだろうな」
「家族のことだから」

 俺はいま確実にここに居る、そう諭された気分だ

122 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/10(火) 11:32:10.42 ID:S0x1ckku0

「ごめん、こなた」

 俺はそういった。
一ヶ月一緒に暮らしてたこの帰還を俺はごっこと称した自分の曲がった心根を見透かして
なお俺のことを考えてくれる家族に俺は謝った。
こなたはなにも言わず、ただ俺の額にでこピンを食らわせて笑った

125 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/10(火) 11:57:45.93 ID:S0x1ckku0

 レッドランプが光り警報
後にスピーカーから少し割れた音声が流れる

『未確認飛行物体が遠野沢上空に出現』


「総員第一種警戒態勢!」

 こなたは作戦部長として切り替えて周りに指示をだし
実験は中断されて零号機の瞳の光は落ちる

「初号機を360秒でだしなさい、D-6エリアのカタパルトで急いで!
 零号機は現状待機、ホールドしときなさい」

 一瞬動揺にしたかに思われた実験室
ハルヒがいつ現れたのか後ろで怒鳴りつけて周囲を黙らせる

「なにしてんのよ? 出撃よ、聞こえなかった?」

 戦闘時のハルヒは、正直目を合わせたい相手じゃない
俺は一瞬仰け反ったあとに歯を食いしばり更衣室に駆ける

126 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/10(火) 12:06:11.32 ID:S0x1ckku0

 紫を基調とし所々に一部緑や黒が入った初号機と色を同じくする俺のプラグスーツ
ラバー製のような肌触りだがゴムのように伸縮するこれに身を包むのももうかなりの数になる

「くそっ!」

 ロッカーに拳を叩きつけ、痛みとロッカーの扉にゆがみが残る
俺は更衣室からまた脱兎のごとケージに向かい
初号機に乗り込み、三回目の戦闘に躍り出た

132 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/10(火) 12:58:55.45 ID:S0x1ckku0

「エヴァンゲリオン初号機発進」

 この台詞もすでに三回目
すぐあとにやってくる重力に耐えつつ俺は地上に出る

「リフトオフ」

 肩の接続部分が外れ、俺は単身敵に向かう
結局長門のは間に合わなかったのか…、と思いつつ敵を分析する
正八面体のクリスタルのように輝く無機質な…身体?
これは本当に生命体と呼べるものなのかどうか疑問が残る、というか疑念しかわかない

「キョン聞こえる?」
「オーライだ」

 一箇所にとどまるような不様はせず
アンビリカルケーブルの残量や途中の遮蔽物を考えながら常に移動する

「突然あらわれた敵で出方がわからないからまずは様子見で近くの偽装ビルからライフルを取って威嚇射撃」
「了解、だがこの距離からだとぎりぎり届くかどうかだぞ」
「パレットライフルじゃない、遠距離用のの武器だから大丈夫」
「おっけ」

133 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/10(火) 13:09:30.72 ID:S0x1ckku0

 言われたとおりの武装ビルから緑の長砲身のライフルを取り出す
弾は12発装填で手動単発射撃またオート連射も可能
ロングレンジからの攻撃には最適かもしれん

「基本は狙撃用のG型装備を使うんだけど、それじゃ接近戦に対応できないからね」
「了解、まぁ自力であわせるさ」

 的は十分すぎるほどにでかい
俺は足元の色が違うタイルを踏みつけて緊急用装甲をだして
それに隠れてでかぶつを狙った

149 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/10(火) 15:16:49.89 ID:S0x1ckku0

「キョン! 避けて!」

 というこなたの声が聞こえた。だが時既に遅し
引き金を引かんとしたタイミングにキラリと光ったのが見え
次の瞬間にはライフルが溶け、装甲板が溶けて
俺の身体が一気に溶岩に飛び込んだかのように灼熱した

「があぁぁぁぁぁ!」

 全身の血液が沸き立つような感覚
熱く、熱く、熱く、そして熱かった

『LCLの冷却循環システムを最大に! 加熱を最小限に抑えて! キョン聞こえる!?』

 目が眩むような閃光の中、俺はやっと状況を飲み込んだ
敵の攻撃、レーザーかなにか強力な攻撃を食らい続けてると遅ればせながら理解した

 まずい、LCLが攻撃の熱でぐんぐん湯になっている
俺は咄嗟の判断で叫ぶのを止めて口を硬く閉ざす
沸騰したLCLが肺に入れば俺は死ぬ
熱く、声を上げなければ堪えられないようなこの状況を
しかし俺はどうにか理性でとどめる

150 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/10(火) 15:25:23.06 ID:S0x1ckku0

 俺は続けて目を瞑る、死の淵で目を閉じるのは恐怖以外の何者でもないが
しかし眼球もまた熱でやられれば失明は確実だ
目を閉じてもまだエヴァの目がある

 ぐつぐつと、ぐらぐらと茹だる液体の中
釜茹地獄は八大地獄のどの階層だったかと過ぎる

『キョン! まだ意識あるね!? 射出口に退避して!」

 俺はうなずくこともままならず、ただただ言葉に従って後退した
胸部の内側から来る焼けた鉄をねじ込まれる様な未曾有の感覚
死ぬ、戦闘で危機一髪で死ぬところだったのは毎回だが
これほど強く死ぬということ、命が無残に塵砕かれる感覚
そんなものをここまで体感したのは初めてだった

「…ぐぅ……ぅぅっ!」

 うなり、歯を食いしばる口からはLCLよりもなお濃い紅い液体が混じる
転がるように、というよりまさに足が持たずに転んだ
おかげで巨大ビーム砲が胸部から斜めに肩から後方へずれる
その軌道がまた激痛すら感じぬ邪悪な熱を帯びて
俺はそのまま這い蹲って射出口の入り口を壊し
自由落下に身を任せてその長い縦の空間をすべり落ちた

193 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/10(火) 21:03:37.92 ID:S0x1ckku0

>>150

 ガシャンと普段出撃の際に昇る分を落下した衝撃を受け
俺はカタパルトを一台破壊して本部になんとか帰還した

『生命維持機能最大域にあげて!』

『パイロットの脳波乱れてます、心音微弱…いえ止まりました!』

『心肺蘇生急いで!』


 おいおい、心臓止まってるって死んでんじゃないのかよ俺
なって薄れる意識の中聞こえる声に思いつつ、スーツが強く胸部を叩く勢いで
こんどこそ俺は気を失った

196 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/10(火) 21:08:06.67 ID:S0x1ckku0

>>193




「……」

 目が覚める、意識がゆっくりと覚醒していく
やけに重い瞼を無理やりこじ開けると真っ白い天井が俺を見下ろしていた
見たことのある、白い空間

「…病院か」

 どうやら助かったらしい
全身が動くたびに起こる衣擦れに痛みを感じるあたり
軽微な火傷は負ってるみたいだが、この程度なら問題ない

197 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/10(火) 21:13:15.12 ID:S0x1ckku0

 真っ白なカーテン真っ白なシーツ

「…」

 パタンと、本の閉じる音
長門が、ベットから少し離れた位置にパイプ椅子を置いて座っていた
ご丁寧にパイプ椅子の通常青の合成革までホワイティング
お前らは悪魔をそこまで恐れるのかと

「いたのか…」
「推奨する」

 長門は静かに閉じた本の背表紙を撫でながら呟く

「なにをだ」
「食す事を」
「…なにをだ」

 同じ言葉を連続して口にする俺

286 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/11(水) 04:49:05.32 ID:y+CzFFri0

>>197

 「食事」

 長門が一度喋るのを止め、本からやっとのこと目を離して俺の右手側
長門からみて俺を挟んだ反対を指差す
そこにはアルミ製の薄いプレートに乗った
味も素っ気も無い事務的な食事、ただの栄養補給に主観をおいた病院食

「食いたくないな」
「…そう」

 ぱさっ、ともう言うことはなにもないと言うように本を開く
…ロシア語の本、ドフトエフスキーの原文写本か
カラマーゾフの兄弟、だったか。ずいぶんと前に読んだ覚えがある
日本訳になってないだけでずいぶんと厚さに差がでるものだ

289 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/11(水) 05:13:06.55 ID:y+CzFFri0

>>286

「でも空腹を覚えているのは確かの筈
 現在時刻は午後6時、日付変更とともに再度作戦実行
 食べる事を推奨する」

 …当然か、俺はあの時敵を倒せず不様に逃げ帰っただけだ
いまもまだ敵は上空に平然と浮かんでいるのだろう

「…状況を、教えてくれ長門」
「あなたが後退した後、神人は現在ジオフロントの直上、第三新東京市の上空にて停止
 身体の形状を一部変えて今は22層ある装甲を破壊中」
「敵の戦力とかはあれからなにかわかったのか?」
「…」

 長門は一旦黙り込む、あまり長い言葉を喋ると息が詰まるのだろうか
まぁ俺もべつの意味で現状に息がつまりかけてはいるのだが

291 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/11(水) 05:56:33.47 ID:y+CzFFri0

「あ、起きた?」

 扉が開きいつもとは違う軍服に身を包んでるこなた
この状況を打破してくれるのかと思ったが
これではちょいと無理がありそうだ
少なくともふざけられる雰囲気ではない

「よかった、心配したよキョン。
 …その調子じゃどうにも有希から話をうまく聞けてないみたいだね」
「あぁ、とりあえず作戦ってのと敵に関してわかったことを簡潔に頼む」
「おっけ、…よかったよ。
 実はもう乗らないって言うかと思ってた」

 こなたは少し目を伏せて
無理やりに笑みを浮かべて言う
対して長門が本から目を上げて俺達を伺うようにしていた

「今回は本当に私のミス、まだ時間はあったのに焦って…
 キョンは既に二体も敵を倒してるからって油断してその場任せにさせちゃったね
 ごめんなさい」

292 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/11(水) 06:13:00.91 ID:y+CzFFri0

「あまり、気に病むな」

 俺は今生きてる、どうにか生きてる
…そう生きてるじゃないか。昔とは違って俺は生きてると自分に言える他人に言える
最初に変えてくれたのはこなただった
なら俺はこなたに生まれさせてもらったようなもんだ

「俺は、気にしてない。お前の所為だなんて思ってない。
 お前は次を考えていろ、ちゃんと次は俺も仕留める」

 奴のあのレーザー攻撃はわかってればどうにかなるような
そんなちゃっちぃもんには見えなかったし、次も避けられるとはあまり思えないが
しかしそんなことは言ってられないだろう

324 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/11(水) 14:51:31.05 ID:y+CzFFri0

>>292
「作戦は午前零時丁度決行」

 長門は本を捲くる手を止めずに言う
目は本の上の活字の上を行き来しながら
しかし口は淡々と作戦概要を話す

 こなたから聞いた話によるとあの敵は空中要塞そのものらしく
一定距離内の邪魔なものをあの波動砲さながらの攻撃を消滅させているという
”破壊”でなく”消滅”というその言葉選びのチョイスがすでにその威力を物語っている
また威力偵察のための無人戦闘機が導き出したその一定距離の範囲は約半径30km
その結界とも言える範囲外には攻撃は届かないのかと言えばそうではなく
自走式の長距離砲を使用して範囲外からの攻撃を試みた際に
強力なA.T.フィールドを展開、攻撃をまるで輪ゴム鉄砲のようにあしらい
後にしっかり”消滅”させたらしい

 伝聞の情報のためいささか頼りない説明になってしまったが
しかし頼りないだけでこれは事実だ

325 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/11(水) 15:02:34.55 ID:y+CzFFri0

 つまり結界内に入り接近戦に持ち込もうとすればアウト
しかし少し距離を置いた程度では相手の攻撃は届きこちらは届かない
あの攻撃が届かないほどに離れればこちらに攻撃手段は無い
「無敵要塞、しかも浮遊城かよ」というのが俺の感想

 RPG要素が多いことであるが
しかしたった一つだけ攻撃手段があるとこなたは言う
それがいま長門が読書の片手間にスケジュールを説明している
作戦、『ヤシマ作戦』(こなた命名)だった、個人的には与一がヒット






 ファースト並びにサードチルドレンは本日17時30分ケイジ集合
 18時00分エヴァンゲリオン初号機および零号機起動
 18時05分出動、同30分二子山仮説基地に到着
 以降は待機、明朝日付変更と同時に作戦決行

326 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/11(水) 15:07:58.10 ID:y+CzFFri0

 現在17時31分 ケイジ

「初号機とキョン君にはG形装備に初号機を換装した上で砲手を担当してもらい
 零号機と有希には防御担当をしてもらうわね」

 喜緑さんは眼鏡を片手で押さえながら書類を読み上げる
白衣が揺れる

「防御担当って…一体どうやって?」


 こなた提案の作戦は単純なことだった
相手の攻撃の届かない場所から攻撃するだけという俺が頭をよぎらせたものだった
ただ違うのは俺は攻撃手段が見つからず、こなたは他所から調達してきたこと
しかし万一のための防御担当ということだが
あの攻撃を一体どう防御しろというのか?
俺の疑問に喜緑さんは親指で後ろを指してひどく簡潔に述べた

「盾でよ」

328 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/11(水) 15:21:48.82 ID:y+CzFFri0

 宇宙船の底に取っ手をつけて電磁コーティングした急造の盾
口にすると酷く適当で荒く乱暴であるが、しかしあの敵の攻撃に17秒持つとらしい
そして攻撃、敵のあの強力な攻撃すら届かないと計算された距離から攻撃できる武器を
こなたがどこから持ってきたのか?

 俺が始めてここにきたときに吹き飛ばされた地雷の持ち主だった
陽電子砲、ポジトロンライフルという名前のそれをこなたは超法規的機関の力を利用し
半強制的に徴発、エヴァ仕様に改造してこの作戦の攻撃に当てた
そして日本中の電力をかき集め敵のフィールドを超長距離からぶち抜いて
敵そのものを破壊することの出来るエネルギーを作り出す
大胆不敵電光石火とはこのこと

「陽電子は地球の重力や自転、周囲の磁場等が関係して直進しません
 だからその誤差を修正するのを忘れずに」
「まぁマークが重なった時に撃つっていういつもの形式でいいんですよね?」
「そうよ、ただ計算に多少の時間がかかるわけ。正確にはわからないけど3秒程度
 さらに充填、ヒューズの交換、冷却。一発撃つのに約21秒はかかるからそのつもりで」

 盾は17秒しか持たないって言ってたじゃないか
それで防げる内になるのか?
少なくとも、一発目を外したら二発目は時間的に不可能だ

329 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/11(水) 15:28:12.55 ID:y+CzFFri0

「厳しいな」
「かなりね」

 二発目は考えないほうがいいのだろう
一発目に撃った陽電子の反応によって計算は更に時間がかかるし
そもそも一発目を外した場合、狙ってるのが都市上空の神人である
都市は俺の手によって壊滅しかねない

「自分とその周りだけでも一杯一杯なんだよ、お前らのことなんて背負えねぇぞ俺は」

 やりきれないが、しかしやらなくちゃならない
俺は足を突っ込んだ、もう抜けない
喜緑さんは腕の細い腕時計をみ、それから

「時間よ、二人とも準備して」

 いつも変わらない温和な笑顔を崩さずにそういった

335 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/11(水) 16:14:39.30 ID:y+CzFFri0

 陽はとうに落ちきってる11時30分現在
電気を集めて停電してる街は完全な暗闇に包まれている
二機のエヴァと俺達が居るタラップだけがライトで無為に照らされて
まるで自分達がスポットライトをあてられて舞台に居る錯覚すら起こす
台本のないストーリーなんてありきたりで陳腐な言い回し俺は好きじゃないが
しかしいま演じてるものをなにと評するかと問われれば似たり寄ったりの言葉しか浮かばない

「長門、は、なんでエヴァに乗ってるんだ?」

 このまま暗闇を見ていると、下手すると無意識に立ち上がり
この数十メートルあるタラップから身を躍らせてしまいそうで
俺はなんとなく、ただ聞くタイミングがつかめないでいた質問を長門にしてみる

「怖いと、思わないのか?」

337 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/11(水) 16:23:47.84 ID:y+CzFFri0

「わからない」

 怖いということがわからないのか
怖いかどうかがわからないのか
俺には判断しかねる答えだった

「あなたは怖い?」
「俺は、怖いよ」

 山を越えて向こう、街に鎮座する敵に恐れを抱き
またそれと正面切って戦うことの出来るエヴァに恐れを抱き
自分自身もまた戦わないといけないという状況に恐れを抱き

「俺は怖いものばっかりだ」
「怖いは、嫌?」
「嫌だな、痛いのも嫌だし、本当は戦うなんてしたくもないんだ」

 俺は戦いに慣れるのがなによりも一番怖い

339 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/11(水) 16:41:08.93 ID:y+CzFFri0

 違うな、俺は戦いにはとっくに慣れてる
戦いに慣れ親しむのが怖いんだ

「…」
「ん?」

 長門は何か言いたげに
そして俺を珍しく興味を持ったような目で見ていた
べつに読心術をできるわけなんてないのに
俺は自分に毒づいて

「でも俺は自分の周りの人間を守りたいから」

 少し強引に話をまとめてかかる

341 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/11(水) 16:47:41.60 ID:y+CzFFri0

「私は…」

 俺が自分のことを少しだけ語ったことに対する返答か
長門は迷いを見せて口篭った物の訥々と喋りだす

「私は、守りたいと思う気持ちがわからない」
「私は、怖いという感情がわからない」

 まるで読み聞かせの朗読のようなゆっくりとした速度で
長門は言葉を紡ぐ


「私には…”なにもない”」

 ピピピッ、とスーツの機能であるアラームがなる
零時五分前の合図だ

344 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/11(水) 17:26:49.74 ID:y+CzFFri0

「作戦決行」

 ぼそっと呟いて立ち上がる長門
待機したままの零号機に乗り俺に振り返る

「あなたは大丈夫、私が守る」

 俺のはっきりとそういった長門の表情は
角度の問題か暗くて読むことができなかった
俺は、一拍置いて、プラグに乗り込んだ






345 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/11(水) 17:33:50.24 ID:y+CzFFri0

「キョン、用意はいい?」
「問題ない」

 自分がいつも使ってるヘルメットのような
頭から顔の上半分までを覆う標準をあわす為のG型狙撃用ソケット
その隅に見える小刻みに変動する数字はことが順調に進んでることをあらわしている

「世界中の電力がいまキョンの腕の中にある。任せたよ」
「…あぁ」

 俺に任せとけ! なんて熱い台詞を吐けるほどに俺は今の状況を楽観視していない
山にうつ伏せになり長い砲身のポジトロンライフルは電力が集まり熱を発する
横に長門の零号機が中立ちになり盾を持っていつでも俺の前に飛び出せるように待機している
狙うは一点、敵の中心にあると思わしきあの紅球

346 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/11(水) 17:41:44.06 ID:y+CzFFri0

『目標を中心に広範囲に高エネルギー反応!』

 発射可能まであと7秒
スピーカーから臨時発令所の声が聞こえる
…間に合うか?

 敵はその正八面体の身体を質量保存の法則を超えて形状を変化させる
立方体になり、周囲に針を伸ばすうにの様な球体になり
やがて上下二つに分かれて小さな正八面体が一つの頂点を合せ浮かぶ
その中心が白く淡く輝き、ゆっくりと光度を増す

「発射!」
「あたれぇぇぇ!」

 声と同時に逆三角の形をしたマークと
三角形の頂点から中心まで線を描いたような逆Y字が重なり電子音が鳴る

349 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/11(水) 17:59:35.21 ID:y+CzFFri0

 俺は重い引き金を引き、強い衝撃が肩と顎にぶつかり後ろに跳ね上がりそうになる
が、そのおかげで見えてしまった
敵が完全に同時でレーザーを撃った所為でその二つの攻撃は
お互いに干渉試合お互いを引き寄せて反発して、軌道はズレにズレて
まったく関係ない位置に着弾して火を吹き上げる
不幸中の幸いか、都市内に着弾することはなかった

「しまった!」

『第二射急いで!』

 声に反応して撃鉄を起こしヒューズを新しいのに入れ替える
同時にライフルに籠もっていた熱気が湯気となって周囲に散る

『再充電開始!』

『銃身冷却開始! 全冷却システム出力最大へ』

『第七次最終接続、全エネルギー再度ポジトロンスナイパーライフルへ』

350 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/11(水) 18:08:49.21 ID:y+CzFFri0

『目標内部に再度高エネルギー反応!』

 敵はさらにその身体を地面に繋がった一部を除いて
形状を変化させる、溶けるように、溶けるように
そして宝石のような形状になる、宝石のもっともありがちなカット
上部が平たく下部が細くなり鋭く尖る形状
その尖った部位をこちらに向けて、尖った部分がゆっくりと均等に七つに開く
まるで口のように、まるで花が開くように開放された部分に先ほどと同じように光が集まっていく

「再計算はまだか!?」
『あと19秒!』

 なら間に合うか?
盾は17秒、現在19秒-α
ぎりぎりではあるが先に撃たれてもなんとか二射目が撃てる

 バッと零号機が盾を構えて初号機の前に出てくる
そして盾にぶつかり弾ける敵の陽電子砲

「長門!」

 通信は繋がってるはずだが、しかし返事は無い
返答する余裕がないのだろう

352 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/11(水) 18:16:49.03 ID:y+CzFFri0

 その間にも盾はみるみる内に溶けていく

「くそっ! あれじゃ17秒も絶対に持たないぞ!」
『敵の攻撃の出力が計算を遥かに上回ってるの!』

 盾が手抜きだって訳じゃないってことか…
まだか……残りの数秒が長い
敵の攻撃が誤差修正の計算に影響を及ぼしてるのか
予定以上にかかりマークがやっとのこと重なる

「いけぇぇ!」

 二度目の引き金を引く、零号機の横をとおり敵の攻撃の残滓を切り裂いて
陽電子は空中要塞へ一直線へ向かい、貫通する
敵は甲高い叫びのような音を立て宝石の形を壊し、元の正八面体に戻る
その中心には、太い穴があいて向こう側が見えていた

353 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/11(水) 18:25:22.60 ID:y+CzFFri0

「まだだ!」

 敵の攻撃がやみ、長門の零号機は崩れる
盾は完全に消滅してしまい、零号機の表面も溶けている
だが、仲間を振り返るのは敵を殲滅してからだ
だから今はまだ”その時じゃない”

 敵の中心に空いた穴からは無傷の紅球が半分顔を出してるのが見えた
俺は初号機を立ち上げ、ライフルを投げ捨てて山を走り下る
黒板を引っかくようなひたすらに高い叫びをあげ続ける神人

「うるせぇ! ソプラノ歌手にでもなってろ!」

 耳を鋭く刺す声に痛みすら覚えつつ
俺は一気に敵まで距離をつめる

355 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/11(水) 18:36:13.70 ID:y+CzFFri0

 ゆっくりとであるが修復しつつある貫通した穴
俺はそれをこじ開ける様に無理やりフィールドを中和して右の腕を穴にねじり込み
そのまま地面に穴を開けてジオフロントの直上に接近してたそれを蹴りで叩き折り
本体を地面に叩き伏せる

「見つけた!」

 硬い球体をつかんだ感覚を得、俺はそれを力任せに引っこ抜く
神人は一層高い声をあげてそしてその後に完全に沈黙した
右手に残る完全な状態の紅球は過去の二体の物のように黒ずむことなく
紅いほのかな輝きを保っている

『ちょ、ちょっとキョン君!』

 喜緑さんからふいに通信が入る
やけに焦ったような初めて聞く声色で、次にウインドウが開きやはり焦った様子の喜緑さんがうつる

『そのコア壊さないように回収して欲しいの! すごい研究材料よ!』

 俺は右手の紅球をつかむ力を強める
それを見て取った喜緑さんがさらに焦ったように俺を捲し上げる

『あのね? えっと、気に障った?
 ほら、その、敵の知るのは兵法の基本で
 お願いだから壊さないで!』

 喜緑さんがだだっこだった
やべぇ可愛い

357 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/11(水) 18:43:49.93 ID:y+CzFFri0

『えみりさん! そんな場合じゃないでしょ!』

 こなたの叱責を食らった
いや、実際は俺は食らってないのだが考えてたことを垂れ流しにしてれば
確実に俺のほうが怒鳴られていた

 だが実際そんな場合じゃない
俺は紅球を手近な武装ビルの前に置いて山に駆け戻る

「喜緑さんコアそこに置いときましたから!」
『ありがとうキョン君!』
『だから!』

 山の山頂に横になる零号機
人間ならばケロイド状態になる火傷
溶けた機体から蒸気が吹き出ている

358 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/11(水) 19:03:21.33 ID:y+CzFFri0

 俺は初号機で零号機のプラグが入ってるところを覆う部品を引き剥がす
同時にエントリープラグが強制射出されて中からLCLが吐き出される
それを確認して俺は初号機から降りてプラグに駆け寄る

「長門!」

 加熱したハッチがスーツ越しに手のひらを焼く
この中に長門がいると思うと焦りが強くなる
ハッチのバーが一周し開くと中からも熱い水蒸気が上がる
ホールドされたコクピットがずれ長門のぐったりした体が横たわってるのが見える

「おい! 大丈夫か!?」
「…」
「長門!」

 声を二度三度かけると長門はゆっくりと身体を起こす
頭を振って額に手をあててからこちらを向いて

「問題ない、…が」
「どうした!?」
「眼鏡が壊れてしまった」

 LCLに熱で歪んだ眼鏡が静かに沈んでいた

362 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/11(水) 19:10:43.85 ID:y+CzFFri0

「無いほうが可愛いと思うぞ」
「…そう、あなた」
「なんだ? やっぱり怪我してるか?」
「私はしてない、でもあなたはしてる」

 長門はゆっくりと身を乗り出してハッチに手を掛けてる俺に顔を寄せる

「泣いてるのは、痛いから」

 長門は俺の頬に人差し指をあてがい
そっと俺の顔を撫で、そして離れていく長門の指

「濡れてる」
「LCL…だろ?」
「違う、だって、あなたは辛い顔をしてる
 どこか痛い?」

 長門は首をかしげ、眼鏡がない所為で俺の顔が見えないのか
さらに顔を近づけて問う、息が俺の首にかかる距離

363 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/11(水) 19:15:45.32 ID:y+CzFFri0

「心が、痛かった、かな」
「心?」

 精神的面で薄弱、人間強度
俺は、他人に協調する

「長門があの攻撃を食らって、もしかしたら死ぬかもしれないと思ったら。痛かった」
「なんで?」
「長門が好きだからだよ、大切だから、辛いんだ」

 俺は長門の腕を引っ張ってプラグの外に連れ出し
そして月と星だけしか光の無い街に向かって山を下っていく

「それにさ、長門になにもないなんて、そんなことないんだよ」
「なぜ? なぜそんなこと…」
「少なくとも俺が居る、俺はお前を感じて思っている
 それはなにもないことか?」

 長門は立ち止まりかぶりを振って答える

「違う」

364 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/11(水) 19:21:23.57 ID:y+CzFFri0

「だからなにもないなんて言っちゃダメだ。それは…」

 それは俺だけの言葉だ、なにもないってのは俺のことだ
だからその立ち位置は誰にも譲れない

「あなたは、とても感情が豊かね」

 長門は立ち止まったまま俺の顔に手を伸ばして
また触れてきて、そして少しだけ羨ましそうに言う

「その逆は言われたことがあるけどな」
「笑い方を、教えて欲しい」

 それは逆を返せば笑うことを知らないということ
ならば教えてやる、俺は長門がないなら与えてやる

「いいとも」
「どうやって私は笑えばいい?」


「長門、その表情が、笑ってるって言うんだ」

 満月より少し欠けていて月を背景にして
薄く微笑む長門は、多分、俺がいままでみた光景で、一番美しいものだった

366 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/11(水) 19:23:16.01 ID:y+CzFFri0

 決戦
   第三新
       東
        京
         市
              了

436 名前: ◆7SHIicilOU [] 投稿日:2008/06/12(木) 11:22:23.65 ID:aAtjSqn/0

頭痛
右足の捻挫の悪化
左足のこむら返り

なにこれ? 死ぬよ? 俺

437 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/12(木) 11:37:22.53 ID:aAtjSqn/0

 レーザーカッターの、なんというのだろうか?
チィィィというかシィィィというか、歯と歯の間から細く息をだすときの音のような。
そんな高く鋭い音、どうじにあちこちで大量に飛び散る白い火花
そうか、火花って普通は白いもんだよなと。確認。
しかしずいぶんと高性能小型化である
あんなものが平然と数十台単位でここには存在してるのか

以下、こなたとの会話の一部抜粋

「ん、今までも結構使われてたんだよ?」
「例えば?」
「敵の攻撃受けて壊れたエントリープラグから気絶したキョンを助けるためにプラグに穴あけるのに一昨日使った」
「…」


 このカッターは俺の救助に一役買っていたらしい
見たこと無いどころかもろ恩恵に授かってる形だ

438 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/12(木) 11:46:27.50 ID:aAtjSqn/0





 現在、郊外で前回前々回と倒した神人の処理を行ってる現場に居る
最初の敵が来てから一ヵ月半かなり短いスパンで続いた敵の襲来に対し
若干処理が追いついてない感じは否めず
かといって化け物の遺体を眺めながらの日常生活は不健康極まりないので
二体とも都市内で倒したあと、俺が初号機でずいぶんと離れた位置に動かし
その周囲を囲むように急造の建物を建ててその中で作業をしている
…しかし蒸れる、プレハブのこの建物の壁は非常に薄くまた年中夏の日光を程よく吸収し過熱する
その中でこれだけの人数が火花を散らして作業をしてるのだ

「暑い…」
「こんじょだこんじょ!」
「お前はNHK見ててもなんの違和感も無いな」
「うるせぇ!」

 こなたをからかうテンションもダウン、それでもからかわないという方向に向かないのは俺だが

439 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/12(木) 11:56:17.74 ID:aAtjSqn/0

「しかし、これは本当にすごいわ。改めて御礼を言いたい気分よキョン君」

 喜緑さんは自身もヘルメットをかぶり神人の体を触って
子供のようにはしゃいでいる、といっても声質や表情等は別段違いが見えないのだが
それをして、なおわかるほどに態度が陽気である

「生きたコアの完全なサンプル、これは素晴らしいの一言よ」

 前回の敵から俺が剥ぎ取った紅球はそちらの世界では
そうとうに価値のあるもの(この言い方はいささか以上に不遜であるがしかし俺は他にこれを表す言葉をもたない)で
これを元に神人の情報がいままでと比べ物にならないくらい手に入るというらしい
最初は喜緑さんも前々回の両生類野郎の体から研究を進めていたのだが(この辺が処理に時間のかかっている理由である)
このコアのおかげでいまは用済みになってさっさと削られ切られていく

440 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/12(木) 12:04:23.94 ID:aAtjSqn/0

「で、その素晴らしい研究素材から一体どんなことがわかりましたかね、えみりさん」
「泉さんに話したところで到底理解できるとは思えないけれどね」

 この二人は本当に仲がいいのか悪いのかわからない
ちょいちょい口喧嘩未満の言い争いをしているのを見かけるが
よくつるんでるのもそれと同じくらいの遭遇率で見かける
昼時の食堂にいけば大抵二人は一緒に食事をしている

 まぁとにかく今回も適当に数分で言い合いは終了
えみりさんはタラップを降りて悠々とこちらに歩いてくる
小さなこの言い争い、俺の確認できる範囲での戦績
こなた全戦全敗、喜緑さん全戦全勝
平然とこちらにあるいてくる喜緑さんに対してこなたは少し髪が跳ねてる

443 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/12(木) 12:13:01.34 ID:aAtjSqn/0

「確かにコアは情報量としては破格の素晴らしいものだけど
 でもそれを理解できるかはどうかはべつなの」

 喜緑さんは俺達を素通りして、近くの椅子を持ってきてパソコンに向かい
そしてそう俺達に前置きしてから話を始める

「コアや、その前の神人の身体を構成する物質からわかったことといえば
 まだほんの少し、十の内の一もわかってないの
 だからその辺を前提として話半分程度に聞いてね」

 人の言うことは話半分に聞けというが、しかしということは四半分になるのだろうかと
くだらない、一種揚げ足取りになりかねないような突っ込みは自重

「まずわかったことは神人を構成する物質は波と粒子二つの性質を持つということ」
「…それって光って事ですか?」

 自分の知ってる情報にヒットする件数が数件
その中で現状にもっともマッチしたものを発言してみると
喜緑さんは一瞬驚いたような顔を見せた後、顔を綻ばせて
「そうよ」と意味ありげに頷いた
(個人的に意見を言わせてもらうならこれは話をわかる人間に説明するという科学者や研究者の特性のようなもので
 こなたや俺が言ってることを理解できないならそれをすごいとも思わないだろうという辺りからの反応だと伺える)

444 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/12(木) 12:25:05.64 ID:aAtjSqn/0

「でも、その光の特性をもってるけどならば量子力学が適応されるわけでもないの
 ただこの構成素材は素粒子に近いということもわかった」

「素粒子で光の特性、なら光量子がもっとも近いと思うのは素人考えですかね?」

「ううん、間違ってるわけじゃないの。でもそれするとこの不安定の塊のような変動を観測することはありえないの」

「変動? 確かに光量子は崩壊因子のない安定した素粒子ですけど」

「そもそも、私達の科学や常識とは一線を駕しているのよ。
 あくまでも近いのであってそのものじゃない」

「似て非なるものはあくまで非なるものですか」

「そういうことね」

 この間こなたはただひたすらに意味深に頷いていたが
たぶん理解できてないのだろうと俺は推測する
少々以上に興味をそそられる話題で、いつか喜緑さんとこういった話を詰めて行きたいとも思うが
しかしそれはこなたの居ないときだ

445 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/12(木) 12:33:33.38 ID:aAtjSqn/0

「まぁわかってるのは本当にそれくらいね
 …これを見てくれる?」

 喜緑さんはそういっていくらかキーをタッチすると
モニターに映される映像が切り替わった
『601』

「素数…ですけど、これがなにか?」
「解析不能のコードよ、これ以上のことは本部のスパコンを使っても進めないの」
「要するにわけわからんってことでしょ?」
「要約しすぎのぶっちゃけすぎだ!」

 ここまでの解析でも十分すぎるほどダイナマイト賞だ
俺はべつにこなたの事を無学だと一笑に付すつもりは無いが
しかしだからといっていまの発言は正直頂けないものもある

446 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/12(木) 12:47:17.02 ID:aAtjSqn/0

「まったく、馬鹿は黙ってればばれないのにおしゃべりだから泉さんは困るわね」

 手に負えないと肩をすくめる喜緑さん
小さな言い争い、またも俺の確認できる範囲での原因は
ほぼ喜緑さんである、なんだかんだで楽しんでるのか。その方面で俺と同じ人種なのか
一層語り明かしたい気分である

「あんたら、なにやってんの?」

 不意にかけられた声に俺は心臓が二ミリほど縮んだ気がした

「ハルヒか」

 長い髪を後ろでに縛ってお下げにしてるハルヒが
腰に手を当てて俺に鋭い目を向けている

「誰だと思ってた?」

 不満げな声、さっきの俺の台詞が癇に障ったのだろうか

「お前の声を聞き違えるか」
「そう」

 事実を口にすることで変わることもある
俺の答えに満足したようにハルヒは嫌らしく笑う 

447 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/12(木) 12:55:12.66 ID:aAtjSqn/0

「あれね、前回手に入れた完全なコアのサンプル」

 二体の神人の動かぬ身体から少し離れた位置にある巨大な球体
それは見方を変えて大きさを無視すれば紅く輝くルビーのようで
あるだけで壮厳な雰囲気すら与えられる

「へぇ、やるじゃんキョン。まぁ狙ったわけじゃなくて結果なんでしょうけど」
「まぁな、一番早いパターンを選んだだけだ。べつにサンプルとか研究とかは頭に無かった」

 同じように目線をずらし発光するその球体を眺めると
なぜか喜緑さんが口を挟む

「キョン君、あんなに知識あるのに興味ないの?」


  それは、こいつと俺がそろってる場面では、タブーだ
  一瞬フラッシュバックするのは幼少時代の天狗になってた自分
  そして小学校5年生、こいつと出会い交わした事

「……ない、ですよ。俺は、…ただの聞きかじりですから」

449 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/12(木) 13:05:41.83 ID:aAtjSqn/0

「私と話しがあんなに合うのに? もったいないわねそれは
 個人的に話し込みたい位なのに」

 喜緑さんは尚も食いつく、勘弁してくれと懇願したいくらいの暗い気分
口惜しそうな表情を見せる彼女にそういった意図はないのをわかってなお

「キョンがどんな知識を披露してくれたのか、…そうね興味あるけど
 でもえみり、その話はあとで二人でしてちょうだい」
「わかりました」

 ハルヒが一言いうと引き下がる喜緑さん
だが、俺としてはもうどうしようもない
こいつの前でいま喜緑さんがもらした言葉、あれだけでハルヒは全てを察するだろう
ハルヒは長い黒髪をかいてため息をつく

「なんかタイミング悪いわね私、あまり機会が無いから少しあんたと久しぶりに話したい気分だったんだけど
 まぁその調子じゃ…無理よね? 私はもう行くわ」

 俺の考えていたどのパターンとも違う行動をとってハルヒは早々に帰ってしまった
残されたのは状況を理解できてないこなたと喜緑さんと、

そして俺だけ

452 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/12(木) 13:26:57.52 ID:aAtjSqn/0

 二人ともなにも言わない
俺とハルヒの間になんかしらの禍根があることだけは覚ってくれてるが
しかしこの場にそれがなんの助けになるだろう
いっそ話をふってくれたほうが誤魔化しようもある
あいつがいないのであれば適当にお茶を濁すことだって出来るのに
沈黙は八方塞りだ

 コーンと金槌の音がして、レーザーカッターが火花を散らす中
俺はしばらく立ち尽くしていた






453 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/12(木) 13:33:57.04 ID:aAtjSqn/0






「なんで俺が一緒にいかないとならないんだ?」


 自宅で朝食をこなたと二人で食べている時の話
こなたはトーストを齧りながら
「今日旧東京に行かないといけない事情があるんだけど、キョンもついてきて」
と、軽く言われてしまった

「J.A.って聞いたことある?」
「あぁ、民間企業が作った巨大人型自走兵器とか言う奴だろ?」

 エヴァを意識して作ったのがよくわかる汎用兵器

「正確には日本重化学工業共同体って奴なんだけどね、それの起動実験が
 旧東京の再開発臨海の国立第三試験場で行われるの」
「はぁ、それに付き合えと?」
「イエス」

454 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/12(木) 13:41:04.97 ID:aAtjSqn/0

「その日本重化学工業共同体ってのは曲者でね
 民間で独自に作り上げたってことになってるけど」

 どうでもいいが暢気に朝食を食べながら、頬にパンカスつけて話す事柄ではない
俺もまぁハムエッグを適当につつきながら聞いてるのだが

「けど?」
「実際は日本政府が確実に後ろに居る筈」

 なるほど、見えてきた
現状神人に対応できるのはエヴァだけ
そしてそれを唯一保有するSOS機関の専横行動
まぁ目の上のたんこぶではある
だから神人、そしてエヴァに対抗できる兵器を作ってSOSの特権や超法規的処置を弱めようってのか

「大体そんなところ、実際はそのJ.A.なんてのはお話にならない出来なんだけどね
 それでもこっちを快く思ってない連中はたくさんいるし、そいつらは性能が劣ってようとなんだろうと
 J.A.をめちゃくちゃ持ち上げるだろうね」
「安易な行動だな」

455 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/12(木) 13:48:13.17 ID:aAtjSqn/0

「で、それに対する手ってのを裏方で打ってるのか」
「そ」

 まぁパイロットである俺が出張る理由は二つ
そのままパイロットの視点からの経験によるJ.A.の脆弱性の指摘と
こちらが本命だろう、エヴァを動かしてその場に居る人間に圧倒的性能差を見せ付けるってあたりだろう
そんな政府が絡むような大掛かりなできレース、それはそれは国の重鎮が集まっているだろうし
当然記録機器もそろってることだろうしな
実際の戦闘は放送等が圧力によってできないからな
これはむしろうまく事が運べばSOSにとっての利点はでかい
少なくとも日本国内にはそのエヴァの有用性とJ.A.の無能性が伝わる

「俺が思うに喜緑さんたちが手回ししてそのロボットを操作不能、さらには暴走させると思われるんだが?」

「正解、そして颯爽とエヴァが登場しあっという間にそれを鎮圧せしめる」

「は、それこそできレースだ」

「まぁそうでもしないとこちらとしても色々苦しくてね
 特にあのボロットの建造費に相当資金持ってかれてるし」

456 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/12(木) 13:54:25.62 ID:aAtjSqn/0

「いいさ、俺はそういうわかりやすいの嫌いじゃないぜ」

 パンに残ったハムエッグを乗せて一口で食らう
やっぱり卵料理はマヨネーズが基本だろ?

「だろうと思ってわざわざ正面から極秘事項を教えてあげたんじゃん」

「俺のことをよくわかってることで」
「家族だからね」

 そう嘯くこなたは俺と同じく楽しそうだった
自信満々にわざわざ俺達をその場に呼んで行う起動実験が
むしろただのかませ犬的行動に終わり結果こっちの利になる
持ち上げて落とすのは基本だ

「それに、実際見てみたいしな、その新兵器」

461 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/12(木) 14:24:33.20 ID:aAtjSqn/0

――

 巨大人型自走兵器 JET ALONE 通称J.A.
エヴァに取って代わる神人撃退想定巨大陸戦兵器J.A.は
その形態をエヴァ同様人型にすることによって汎用性、弾力的運用が可能
動力源は胸部内臓の原子炉でケーブル等の外部接続なしで連続150日の運用が可能
遠隔操作により運用されるJ.A.は特定のパイロットを介さず発令所から直接的に操作する

その他諸々色々種々様々
手元に置かれた書類とふんぞり返って壇上でプロジェクターを使って説明する
時田とかいう男の話を混ぜた大体の説明

「しかし、扱いがこうも違うと俄然楽しくなってくるな」
「だよね〜」

 団体ごとにテーブルを分けられ、その中心に俺達のテーブルが置かれていて
他のテーブルには豪勢な食事が並ぶ中このテーブルにはSOS団一同様と書かれたプレートのみ
どこまで笑わしてくれるのやらだ

477 名前:ごまかしごまかし[] 投稿日:2008/06/12(木) 16:21:15.56 ID:aAtjSqn/0

「なにか質問はありませんか?」

 不愉快な笑顔でマイク越しに拡大された声を放つ時田
それの視線の先はまぁ考えるまでもなく俺達、特に技術関係担当の喜緑さんに向かっている
わざわざ乗るまでも無いことだが、しかしここで黙って逃げたととられるのは殊更不愉快だった
喜緑さんも同様な思考の流れを辿ったのか静かに手を上げ立ち上がる

「核分裂炉を内蔵してるとありますが、しかしそれはメルトダウン等の危険性があり
 万一の際には周囲に放射能汚染の恐れもあります」

「その危険性は十分に考慮しています、原子炉は6本の制御棒で完全にその危険性を回避できるよう
 設計されています、そしてそれを入れてありあまる程の行動面での利益があります
 多量の電力を消費し、それですら数分と動かぬロボットよりは汎用性に優れると考えます」

「操作面での問題もあります、遠隔操作では有事の際の一刻を争う事態に素早い判断を下せません
 対神人の接近戦を視野に入れてるならばその一秒の遅れは致命的となりますが」

「パイロットの精神汚染の危険性、現場での独断専行
 さらには暴走による市街の破壊。命令系統が崩れ思うように動かない道具は必要ないでしょう?」

「ですが実際の戦闘の際でJ.A.では神人に対し有効打を入れることは不可能です
 これはEVAの特異性特殊性から神人と唯一渡り合える兵器としてなりたっているのは」

478 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/12(木) 16:29:35.52 ID:aAtjSqn/0

「A.T.フィールドですか?」

 喜緑さんが一瞬言葉に詰まる
極秘情報だだ漏れじゃないか、こりゃやっぱり情報をリークしてる奴が居るな
俺は横目で周囲をうかがう、ニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべてるのも結構な数に上る

「そうだ」

 言葉に詰まった喜緑さんに代わって俺が立ち上がる
まったく平均年齢18歳の俺達三人に対してずいぶんとクールな歓迎だ
こんなガキに国どころか世界を動かす世界最強の兵器が握られてるのだから
気持ちはわからないでもないがな

「そちらの開発したJ.A.が150日の単体連続行動が可能で
 我々のEVAが内蔵電源では5分という短時間しか動けないのは確かだが
 何事も長ければいい、大きければいいってわけじゃない」

「君は…、あぁ有名なあのエヴァンゲリオンのパイロット君だね」

 馴れ馴れしい奴だ

「あんたらが150日かけてやる仕事をこちらは5分で片付ける
 それだけだ、短時間で出来ることを時間をかけてやるのはただの間抜けだ
 それどころかエヴァが数分で勝利した過去の神人ですら
 J.A.じゃ150日どころか150年かけたところで倒せやしないさ
 ご存知のA.T.フィールドでな、しかしあんたのところのねずみはいささか以上に間抜けだな?
 あるとわかってようと対処法が不明じゃお話にならないな」

480 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/12(木) 16:37:40.44 ID:aAtjSqn/0

「A.T.フィールドはEVA以外の兵器で対応するためには
 フィールドを破壊せしめる破壊力を持って攻撃をしなければならない

 なぁおっさん、じゃああんたのところのJ.A.って奴はもちろんN2爆雷やN2地雷よりよっぽど高い破壊力を保有してるんだろう?」

 俺は喜緑さんの多分言いたかったことを適当に代弁する
俺は一介のパイロットだ、同じ事を言うにも彼女には高い立場に居る故に発言の自由が狭い
だが俺には関係ないね
時田はマイクをつかんでいた手の指が白くなる程握り締め
何度か口を開きかけたがとうとううめきしか聞こえなかった

「そもそも攻撃云々の前にそのJ.A.は奴らの攻撃を避ける事や耐えることができるのか?
 二番目にきた奴の鞭は俺もあとで知ったが音速を超えていた
 それをご自慢のJ.A.はよけられるか? 無理だろうな、遠くで眺めてるあんたらが攻撃を見て
 命令を出すころにはロボットの腕なんかちょん切れてるだろうよ


 …まぁ、おしゃべりはこれくらいにして。とっとと起動実験始めようぜ?
 まずは歩けるかどうかを確かめてやるよ、転んだら言えよ? EVAだ起こしてやるさ」





484 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/12(木) 16:55:12.48 ID:aAtjSqn/0





「いやぁ、スカッとするねぇ」
「本当ねキョン君やるときはやるのね」
「むかつく奴に嫌がらせするのは好きだ」

 ドーム形状の会場の側面、分厚いガラスで仕切られ外の様子が見える
二つの大きな建物に挟まれるように不細工なロボットが立っている
俺達はガラスに群がりカメラを構える凡弱達から離れた壁に背を向けて
三人で談笑していたところだ

「さて、そろそろ始まるみたいだぜ」

 J.A.の起動フェイズが始まりにわかに慌しくなってく発令所
「起動、前進微速」の声が聞こえて歯並びの良すぎるつぶれたかえるのようなロボットが歩き出す
(この際かえるに歯がないという突っ込みは禁止だ、比喩表現に突っ込まれると立つ瀬が無い)
ぺらい竹の蛇のおもちゃのようにいくつもの部品が繋がった腕がへろへろと動くさまはどうにも迫力にかける

485 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/12(木) 17:07:44.78 ID:aAtjSqn/0

「データの改竄での異常行動はいつごろ起こす?」
「起動し数分後よ、まぁそれまでは適当に観察してましょう」

 まるでキチンと前に進み歩いたことを誇るかのように
自信に満ちた表情で順調に稼動するJ.A.を見やる時田
ふん、その顔も数分でおさらばだ
先刻まで散々おちょくってくれたお礼はさせてもらう
俺は他人に悪戯したり馬鹿にするのは好きだが逆は嫌いだ
まぁ人間は基本的にそういうふうにできてるがな

「全長はエヴァより少し大きいくらいか」

 それでもとりあえずは観察、外見的情報を頭に入れておく
一応SOSが手を打った程度の性能があることは確かなのだから

「後ろのあの棒が言ってた制御棒だね」
「部屋に入ろうとして頭はぶつからないけど後ろの荷物が引っかかってひっくり返るパターンだな」
「転んだらあの手じゃ立ち上がれないよね〜」

 どうにも真剣味にかけるのは仕方が無い

486 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/12(木) 17:13:24.89 ID:aAtjSqn/0

「原子炉内部の温度が予定より2.7%上昇、なおも進行中」
「冷却材を5%増やして移動速度を軽微にして様子見」
「効果ありません、6.9%更に上昇」

 発令所がうるさくなってきた
見ればJ.A.の移動速度があがって心無しこちらに接近してきている

「そろそろ始まりか?」
「そうね、登場準備しておいてねキョン君」
「了解です」

 俺はその場から足早に去り裏の諜報部員の黒塗りの車に乗る
目指すは近くに停めてある貨物運搬用のVTOL機
ついでのこの車には残念だが空を飛んだり海に入ったりするボタンはついてない、NOTゴーゴー

503 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/12(木) 18:39:50.87 ID:aAtjSqn/0

「エントリー開始、初号機。サードチルドレン
 起動フェイズを3番から27番まで省略、コード05281769
 エヴァンゲリオン初号機起動」

 既に待機中だった初号機に俺は手早くスーツに着替えてプラグに乗り込む
出張先のためシャワーがなく、帰りはプラグに乗ったままになるのが憂鬱だが
まぁ仕方あるまい、せっかくこの間新調した正装をぐちゃぐちゃにするほうが欝だ

「エヴァンゲリオン初号機、発進します」

 コンテナを手動で空け外にでながら言う
充電は完璧、さらに肩部のバックパックにバッテリーを装着
実はこの緊急バッテリーをつければ、バッテリー30分+内蔵電池5分で
合計35分の作戦行動が可能になる。まぁJ.A.の出番は一生無いって事で

505 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/12(木) 18:52:41.29 ID:aAtjSqn/0

 実験発令所のドームをとっくに通り過ぎ
間抜けながらもそこそこの速度で前進するJ.A.を肉眼で確認
結構な距離があり、小さくなってる後姿に向かって俺はクラウチングスタートの格好でダッシュする
目測で大体J.A.の三倍近い速度でかける初号機
一瞬で通り過ぎたドームはなにやら半壊状態であり、崩れた瓦礫からこなたと喜緑さんが
慌てふためく周囲に我関せずで平然と残った壁に寄りかかり立っている

「しかし、早く捕まえないと俺の勇姿が誰の目にも映らんな…」

 と俺の発言を聞きつけたわけではないだろうが
数機のヘリが上を飛んでるのを見つけた
J.A.の暴走にそれを食い止めんとするEVA、しかも今回に限り報道規制無し
本来はJ.A.の起動実験を取るはずのカメラがここで役に立っている

506 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/12(木) 19:00:48.70 ID:aAtjSqn/0

 一気に近づいてきた背中にさらに加速する

「よし、ちょいと試してみるか!」

 走りながら上下に動かしていた右腕をJ.A.に向けたかざす
そしてJ.A.の前にA.T.フィールドを出現させる
J.A.はフィールドに体当たりを正面からかまして
その場で手をじたばたさせるだけでフィールドは毛頭揺らがない

「これでA.T.フィールドに対してJ.A.が役に立たないこともカメラにきちんと映ったと」

 あとはその場の地面を削るだけのこの役立たずの後ろについてる巨大な取っ手をつかんで
それを引っ張り地面に叩き付ける、オートバランサーがついてるといってもあくまでも一般行動での範囲
他方からの強力な衝撃を加えられればあっとゆうまにこの様だ
俺は地面に張り付いたこいつをさらに上から踏みつける
完膚なきまでに壊してもいいが、それだと放射性物質が散布されてしまう

515 名前:初めて維新を読んだときは震えたね[] 投稿日:2008/06/12(木) 19:14:55.92 ID:aAtjSqn/0

「えぇと確かあくまでもエヴァがこいつを止めたことにしないといけないから
 外部からとめる条件があるって喜緑さんが言ってたな」

 俺は足元で蒸気を噴出して暴れる無力な金食いロボを見下ろす
さっきまでつかんでたその背中の辺りで出入りする制御棒を見る
えっとこれを中に全部力ずくで折らないように挿入すればいいんだったか

「とりあえず裏返すか」

 顔の熱放射スリットの辺りを踏みつけていた足を一旦離して
蹴りを入れて裏返してもう一度踏みつけ六本の制御棒をつかんで中に戻す
…結構硬いぞこれ、六本入れるのは少し骨だな

519 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/12(木) 19:26:47.84 ID:aAtjSqn/0

>>515
「…よし」

 六本の制御棒を入れ込むとやっとJ.A動きがとまる
手間だけはかけさせてくれる奴だった
あとはJ.A.を両手で持ち上げてドームにまで戻る
…非常に重い、一体なんで出来てるんだこいつ?
俺はやっぱり地面に置きなおして背中の取っ手をつかんで引きずることにした

 地面に広いへこんだ道を作りながら運ぶ俺
あぁ、重くて引きずることに変えたところも撮られたのだろうか?
それは少々格好悪いな





520 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/12(木) 19:40:00.37 ID:aAtjSqn/0





「次はもうちょいマシなプログラムを組んでください」

 俺は濡れた前髪をうっとうしく思いつつ
呼びつけられたのでエヴァから降りてスーツのままでこなた喜緑さん両名とともに
時田と向き合っていた

 結局データの改竄、暴走、鎮圧のあとデータは通常の物に戻されて
今回のことは重化学工業共同体のプラグラム面での不手際が原因ということになった
傑作とこなたに評されたJ.A.を引きずって初号機がここに到着した際の時田の呆けた表情は見れなかったが
まぁ先ほど馬鹿にされた事のお返し程度はしといたし、しばらくは大人しくしてるだろう

521 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/12(木) 19:45:05.27 ID:aAtjSqn/0

「今回のことは神人との戦闘で無いから戦闘報酬はでないけど
 特別出動の、まぁボーナス的なのはつくからね。
 まぁ神人戦でのアシスタント報酬の更に半分くらいだけど」

 とは帰りのVTOL機内でのこなたとの通信会話
ついでに神人戦闘出撃に一回で200万、成功報酬1200万、アシスタント報酬600万だ
…十分に法外な額である、これまでで三回の戦闘勝利の報酬四回の出撃と月の給与
俺の口座はすでに俺が今まで見たことの無い額になっている
いつ死ぬかわからないからと豪遊するか、あるかもしれない将来のために貯蓄しておくか
意外と悩みどころであったりする

522 名前:あと二時間程度か…[] 投稿日:2008/06/12(木) 20:05:27.15 ID:aAtjSqn/0

「ふう…」

 ため息、こぽぽっと音を立てて気泡が浮かび。やがて消えていく
もはや慣れきって感じなくなったLCLの血に似た匂い
目をつぶるとコンテナの暗い鉄壁が見える
目を閉じると見えるというこの不安定感に満足して
俺は残り数十分のフライトを浮遊感だけ体感した

533 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/12(木) 21:17:57.26 ID:aAtjSqn/0

――

「はい、ご苦労様でした」

 本部についてケイジから本部内に戻る俺
シャワーを浴びて全身のLCLを流して更衣室でタオルを首にかけて
半裸の状態でいたところにきたこなた
(あえて説明するまでも無いことだとは思うが万一の誤解を恐れる俺は
 この場合の半裸が上半身裸の状態であることを明記させていただく)

「なんのようだ?」
「ほほう、キョンは意外と身体を鍛えておりますな」
「な・ん・の・よ・う・だ?」

 話をはぐらかして俺をじろじろ見てくるこなたにわざわざ区切って問い続けると
こなたは頬をかいて少し黙る

「んにゃ、なんかさっきからテンション低いじゃん? 啖呵切ったときは溌剌だったのに」
「…べつに俺はお前のように常に高いわけじゃないんでな、燃料切れだ」

 単に、俺は悪戯は好きでも悪巧みは嫌いだったってだけの事
ちょいと後味が悪いと思っただけだが、まぁ言う必要はないだろうて

543 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/12(木) 21:42:14.29 ID:aAtjSqn/0

「じゃあ燃料補給をしませう!」
「ごめんこうむる、俺は一日にハイテンションになれる時間が決まってるんだ
 それを超えてハイテンションになると身体が灰になる」
「ジャスト一分だ…」
「もういいから、着替えるからでてけよ。ってかいままでなに平然とそこにいるんだよ」

 正直付き合いきれんときがある
俺はロッカーを空けてTシャツを取りだして着る

「…だから行けって」
「別に上にシャツ着るだけだったらここでる意味なくない?」
「この野郎…」

 結局でてきやしなかった
あくまでもその辺の一線というものをこいつはわかっちゃいない
まぁ俺も逆パターンになっても毛頭劣情を抱きはしないがな

5 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/13(金) 09:09:49.77 ID:VcIM5nOM0

―――

「そ、でっかい海にくりだしてビックな船にのらないかって事だ」

 俺は窓際最前列を維持してる自分の席で
あやのとみさおにこなたから提案された話を身振り手振りで説明してた

「はぁ〜、すっげぇなあやの!」
「いいの? なにかまた事情があって行くのに私達が混ざって邪魔にならないかしら?」

 単純に喜ぶみさおと伏目がちに気を使うあやの
対照的な二人の反応だった、まぁ予想通りだが


「いつだったか、言ったろ? 俺が提案してるんだ、自分のやりたいほうを選べって」

6 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/13(金) 09:14:06.21 ID:VcIM5nOM0

・・・
・・


「は? 先週に続いてまた出張?」

 今朝の話である、納豆をかき混ぜながらテレビを見ていた俺は
またもこなたの発言を呆れた声で反復した

「ん、ちょいと違うんだけどね。今回は出迎えみたいなもの」
「出迎え? なんのだ?」

 俺の作ったあさりの味噌汁を口付け、わざわざ意味ありげに一拍おいてからこなたは
意地悪そうな笑みを浮かべて俺に言った

「太平洋に弐号機とセカンドチルドレンを迎えにだよ」

7 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/13(金) 09:21:58.29 ID:VcIM5nOM0

「セカンドチルドレンか…」

 そういや世界に三人とか言ってたな、俺と長門ともう一人
そのもう一人とその機体が日本に太平洋渡ってどんぶらこっことやってくるわけだ

「それってやっぱりここに配属されるのか?」
「そうだよ、現状で戦闘に参加できる全ての機体とパイロットがここに揃う訳だよ」

 なんか日常的にかかわってるから忘れがちだが
エヴァは基本的に現代の科学の枠を超えた最強兵器だ、それを三機独占
そりゃ日本政府も焦ってあんなJ.A.なんてものを作る訳だな

「現状でって事は他にもあるのか? ってか弐号機はどこからくるんだ?」

 どこの国からくるのかは知らんがそうとう渋っただろう事は想像に難くない
ここ以外の唯一戦力となる機体だったわけだろ?

「現在はアメリカで3号機と4号機が建造中、弐号機はドイツからくるの」
「ってことはパイロットもドイツか、ってかその二つの国には支部があることになるな」
「結構幅広いよ〜うちの組織」

8 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/13(金) 09:33:21.43 ID:VcIM5nOM0

「ドイツか…そういやドイツに知り合いがいたっけな」
「おやキョンも意外とネットワークが広いようで」
「けっ」

 個人的感情を抜きにすれば尊敬に値するが
しかしあの男の『個』は非常に俺が嫌悪するタイプだ
まったくつまらないものを思い出してしまった

「で、まぁとりあえずパイロット同士の顔合わせってことでキョンも強制連行ね」
「はぁ!? じゃあ長門も行くのかよ?」
「いや? 万が一に備えてパイロットのうち一人は待機」
「じゃあなんで俺なんだよ?」
「有希はコミュニケが苦手だからね」

 俺は中腰になりかけた体制を戻し
椅子に深く腰をかけて朝食に手を伸ばし平静を保ってみせる

「ま、そんなわけでとりあえず今日は学校に行って明日向かうから
 なんだったらあの正反対の二人組みの友達もつれてきていいよ
 あぁ、どっちかは彼女かな? いんや〜キョンはもてもてですにゃー」
「黙れ」

11 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/13(金) 09:53:00.77 ID:VcIM5nOM0


・・
・・・

で、面倒だからそのまま当日


「ほう、あれが太平洋艦隊か」
「そ、で、そこにいる一際でかいのが旗艦のオーバー・ザ・レインボー」

 またとんでもない船を足にしたもんだ
どうせまた嫌味言われるんだろうな…、この面子だし

「でけー! あやのでけーぞ! 戦闘機も一杯あんぞ!」
「そうねぇみさちゃん、あまり身を乗り出さないようにしないとヘリが傾くわよ」
「でけー」

 一人で四人分うるさいみさおとそれを適当にもほどがあるあしらい方のあやの
こなたは普通にしてるし軍服着てるが外見上12歳、こなたと二人はごめんだから
言われたとおりにこの二人を連れてきたのだがこれはむしろまずかったかもわからんね

12 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/13(金) 10:12:09.56 ID:VcIM5nOM0

 ゆっくりと分厚い甲板が近づいてくる
先ほどこなたが行ってた虹の名を冠する巨大な船の広い甲板の上にヘリは着地する
(この場合着”地”といっても地上どころか土の欠片すら見えない海上であることは言わなくてもわかることなので突っ込み禁止だ)
日に焼けた厳つい海兵(今回は杞憂に終わったが俺はもし彼らがセーラーを着用してたらその場で帰る気だった)が
作業してる中ヘリから十代の子供が数人出て行くのは少々気まずいところがあり
特にこなたはやけに視線の的になっていた、決していい意味ではなく

「とりあえずは艦長に会いに行って弐号機の引渡しの書類等色々手続きを済ませるから」
「了解」

 あたりをきょろきょろするみさおとそれと一緒に歩いて
時折シュールな突込みを入れるあやの、今日は少しあやののモチベーションが異常だ

「あらこなた、久しぶりね」

 こなたが分厚い書類をぺらぺらと捲くってる隣でボケッと周囲を見渡していると
不意にどこからか声をかけられた

16 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/13(金) 10:26:18.95 ID:VcIM5nOM0

「お! かがみ、見ないうちに大きくなって」
「あんたはまったく変わらないわね」

 紫の長い髪を潮風になびかせて
薄い空色のワンピースを着てこちらに歩いてくる少女

「おいこなた…」
「そ! この子がセカンドチルドレンの弐号機専属パイロット柊かがみだよ」

 バサッと書類の持った手を向けて紹介された少女は
なにやら尊大な態度で腕を組んでこちらを無遠慮な視線で見てくる

「どれがサード?」

 どれ呼ばわりだった、無遠慮な上に無思慮らしい
しかしいつのまに合流したのだろうか真後ろにあやのとみさおが居て
紹介された少女を眺めていた

17 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/13(金) 10:31:40.10 ID:VcIM5nOM0

「俺だ」

 その態度も視線も口調もどことなく気に入らない俺は
それ以上無遠慮な視線に晒されるのはごめんだと前に出て自分から名乗る
俺は短気ではないが気に入らないことは多い

「はぁん、あんたがあのサードチルドレン?」
「残念ながらお前とコソアド語で喋れる間柄になった覚えは無いが
 しかしサードチルドレンは俺だ」

 品定めするような視線が俺の体を上下する
非常に不愉快極まりない、一瞬で悟った、俺はこいつと仲良くなれない

「普通ね」
「お前は自分のことを特別だと思ってるのか? おめでたいな」
「はぁ!? ちょっと喧嘩売ってんの」
「さぁな」

 自然口調が喧嘩腰になる
人間の恋愛関係と同じ様に、相手が自分を嫌ってるという事実だけで人は相手を嫌えるのだ
一度両者がそれを自覚すれば後は連鎖だ、スパイラル

19 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/13(金) 10:44:12.17 ID:VcIM5nOM0

「ちょ、ちょっとキョン君。落ち着いて…ね?」

 あやのが後ろからそっと耳打ちしてくる、吐息がこそばゆい
俺はそれにほだされたって訳じゃないが少し警戒レベルを落とそうとする
が、

「なに、あんたの彼女? わざわざ連れてきて束縛癖のある男って最低」
「どうしても来たいっていうから連れてきてあげたんだよ」

 売り言葉に買い言葉
俺は耳打ちするまで近づいていたあやのの肩を抱き寄せて
両腕で強くホールドする向かい合って抱き合う形になった俺は
あやの肩にあごを乗せて、柊とそのまま睨み合う

「あ、あの! キョ、キョン君、そういうのは、いきなり、えと…えっと!」

 あやのがテンパッてるがちょいと見ないふり

21 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/13(金) 10:57:28.19 ID:VcIM5nOM0

「はいはい、ストップストップ
 私は艦長さんに会いに行きたいんだけど〜?」
「…わるい、行くか」

 こなたが両手を叩いて中断させる
俺はあやのを離して後頭部をかきながらそれに続く
まぁ文字通り手打ちって奴だ

「ちょっと、待ちなさいよあんた!」
「待つわけねーだろ、俺はお前に会いに着たんじゃねぇの」

 片手をひらつかせて艦内に入る
甲板の照り返しと無駄に元気な太陽のダブルの所為で中が暗いこと暗いこと
明順応より暗順応の方が遅いからな、ちかちかしやがる

22 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/13(金) 11:08:30.72 ID:VcIM5nOM0

・・・
・・


「ガールスカウトの集団が見学に来たのかと思ったが
 どうやらそれは違うようだな」

 艦長に会って早々言われた台詞がこれだった
まったくごもっともな意見だがしかし真っ向から言われると少々対応しずらい
こなたはしかしそれには反応せず
「まずこれに目を通してください」といって持ってた分厚い書類を手渡す
お前の所為でこの手段の外見的平均年齢が一気に下がってることを認知してもらいたい
こなたが年相応の二十歳前後の外見であればまだ少しはマシだっただろうに

「弐号機の機体引渡し、また権利の移譲
 電源ソケットの配置緊急時のマニュアル…ふん、貴様らのおもちゃにはずいぶんと金がかかっとるな
 しかもそのうちの一機に対してずいぶんの護衛じゃないか」

 …なぜ俺のほうを見て言う

23 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/13(金) 11:16:00.72 ID:VcIM5nOM0

「弐号機の兵器としての重要度を考えれば
 これでもまだ不足してると言えますけれど」

 こなたは続けて言う
おいおい、もう少し口の利き方に気をつけてくれ
この太平洋艦隊旗艦の艦長となれば大将、中将の将官になるんだぞ?
新生組織の軍的官位になればただの佐官程度のこなたが
そんな口を利いていい相手じゃないんだ…
頼むからもう少し穏便に、あぁ胃が痛い

「…君」
「はい」

 なぜ俺がそこで呼ばれる?
勘弁してください俺みたいな一般パイロットからしたらあなたは本来雲の上の人なんですよ?
軍人の意識がほぼない俺だがしかし緊張して死ぬ

24 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/13(金) 11:23:15.81 ID:VcIM5nOM0

「この子供はなんだね?」

 …なんと、俺はここでやっと把握したぞ
どうやらガールスカウトという言い方からもこなたはただの関係者と思われている
俺は責任者じゃない

「泉こなた二佐です。SOS組織での作戦立案戦闘指揮の担当で今回の責任者です
 俺はエヴァンゲリオン初号機の一介のパイロットです階級は一尉です」

 ついでに補足、二佐は中佐、一尉は大尉に値する
階級でいうと単純にこの艦長はこなたの五段階か六段階程度上だ
本当こなたの様な態度を平然と取っていい相手じゃない

26 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/13(金) 11:42:32.89 ID:VcIM5nOM0

「…ほう、そうだったのかすまない
 となると君があの有名な、ほう、なら君はいくつだったね?」
「17です」

 かけられた声に多少強張りながらも答えると
艦長は一瞬呆気にとられてから豪快に笑った

「はっは! 君は、そうか大人びているというより、老齢してるな雰囲気が!」
「…恐縮です」
「ふむ、君の組織は嫌いだが君は気に入った
 だが太平洋艦隊の名にかけて日本につくまで弐号機は我々が護衛する
 問題はないかね?」

 最後の質問はこなたに向けて
こなたは少し逡巡した後静かに「はい」とうなずいた

・・
・・・

28 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/13(金) 11:47:40.63 ID:VcIM5nOM0

「お前本当ふざけんなよ! 俺を胃潰瘍にさせるきかよ!?」
「いや、そんなつもりはないんだけどさ
 高圧的態度には屈しない精神で」
「実際めちゃくちゃ偉いんだよ!
 しかも旧大戦の英雄艦だし、当然のプライドもある
 それがエヴァを運ぶために総動員させられてるんだ、嫌味の一つ二つで済むなら安いもんだ!」

 艦内食堂で軽食を取りながら俺はこなたに声を荒げる
流石に勘弁してもらいたいにもほどがある
こいつはずっとこんな調子だったのか? 周囲の組織から嫌われるもんだ

「あやのー、ジュースがさっきより薄くなった」
「氷が溶けたからね」

 こいつらは全然先ほどのやりとりを得ても変わらない
俺は手元の紙コップに入ってるコーヒーを飲み干して息をつく

29 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/13(金) 11:53:56.13 ID:VcIM5nOM0

「サード、ちょっといい?」

 しばらくは船の上、日本につくまであとしばらくは船上見学でもぶらりとするかと思い
とりあえずはあやのとみさおが一息つくまでまとうと椅子の背もたれに寄りかかると
後ろからまたも声をかけられた
俺はそのままぐいっと背中を反らして後ろを見ると
やはりセカンドが腰に手を当てて先ほどの話じゃないが高圧的態度でたっていた
こいつは俺より偉いわけじゃない

「なんのようだ?」

 相手によって態度を変えるのが賢い人間 by俺

「私の弐号機を見せてあげようと思ってね」

 俺は反らしてた体を戻してこなたにいまだにのんびりとした感じの両名を頼んで
椅子から立ちあがりセカンドこと柊に向き合った

「付き合おうじゃないか」

30 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/13(金) 12:09:18.32 ID:VcIM5nOM0

 一番最初に作られたらしい零号機
次に作られたのが俺の初号機
そしていまのところ最後に作られた弐号機
零号機を見たときその初号機との外見的特長の相違がよくわかりまた
どう改善されたのかもそこそこ理解できる作りだったが
しかしならば初号機から弐号機はどのようにバージョンアップしてるのか?

 …目が四つになってた
なんだろうか、零号機単眼、初号機双眼に続いて弐号機は…四眼?
改善点は特に目に重視されるのだろうか?
そもそもじゃあこのエヴァとシンクロしたら視界はどのようになるのだろうか
興味は尽きない、…ついでに色は赤でこれまた更に派手になっていた

31 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/13(金) 12:16:05.92 ID:VcIM5nOM0

「プロトタイプの零号機やあんたのテストタイプの初号機とは違う
 エヴァンゲリオンの本物なのよこの弐号機は」

 ということはアメリカで製造されてるという3号機4号機も目は四つなのだろうか?
興味は尽きない、が、柊に対する苛立ちも尽きない

「へぇ、ずいぶんと綺麗な機体だな
 真っ赤なカラーコーティングも完全に濡れてるし」

 俺はまず一度弐号機に近づいて色々な角度から見ながら
その弐号機を褒める、持ち上げて落とすのは基本だからな
柊はそれに気を良くした様に橋の上でふんぞり返る
…あぁ説明不足か

 ここはいま先ほどの船とは違うエヴァを積んでる別の貨物船で
エヴァは横たわるように収納され、そこには液体が溜まっている
で、液体の上をあるくためにドラム缶と木の板という簡易型の橋がエヴァと通路の間に架かっている

32 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/13(金) 12:22:56.05 ID:VcIM5nOM0

「いやぁ、まったく傷一つ無いな」
「あったりまえじゃない!」

 上記のようなやりとりを幾度か行う
…そろそろか、俺はタイミングを計って話題を変えずに柊を落とすことにした

「俺の初号機は傷だらけでさ、所々色がはげてるんだよ
 メンテはするんだけど間に合わなくってな」

 柊は褒められて気を良くしたのか俺の話にも静かに耳を傾けている
このあたりも計算どおりである、自分が褒められたわけじゃないのにな

「第三新東京市はまだ開発してないところもあるから戦闘中に砂や石がぶつかって細かい傷が耐えないし
 この間なんて敵の攻撃食らって装甲とけちまうしよ
 流石に弐号機はまだ”一度も戦った事無い”だけあって綺麗だよなぁ?」

 つまりはそういうことだ、戦う兵器であるエヴァが綺麗ってことは実践にでていない
ただのお飾りにすぎない、これからはこの間の戦闘で改修された零号機どうよう前線にでるんだろうが
いまのところ戦闘未経験なのだったらそこをつついてやれ

33 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/13(金) 12:31:21.25 ID:VcIM5nOM0

 こなた曰く、こいつはポッとでの俺が神人を三体倒していることに腹を立て
さらに長いことパイロットやってるとう自負やらなんやらが偉そうな態度に繋がってるという

「ま、まぁでも私が日本に行けばあんた達はお払い箱よ
 私がいままでどれだけ訓練したと思ってるの? 私にお任せよ」

「おや、ドイツ暮らしの長い柊さんはどうやら日本の言葉とかには詳しくないようだ
 1回の実践は100日の訓練を超えるというのを知らないのか?」

「いるのよね、まぐれで起動できて勝てたからって自分の実力だと思う
 勘違い男ってどこにでもさ」

「あぁ居るな、レーシングゲームで自分はうまいと思っちゃって実際の車乗って
 大事故起こして死んじまう馬鹿な勘違い女ってどこにでも」

「それにパイロットが優秀で機体の性能までも高いんだもの
 私が居ればもうこれからの敵は雑魚よ雑魚」

「確かに優秀なパイロットだ、自分のが一番と妄信して他を見ない上に
 結局性能あるマシンもクラッシュさせちまうんだからな」

43 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/13(金) 13:59:31.98 ID:VcIM5nOM0

>>33

「まぁお前が自分のことをエリートとか思ってるかどうかは知らんし
 弐号機がどれほどすぐれてるかなんて知らないけど
 俺はすでに三体もの神人を倒してる、零号機のパイロットだって一緒に出撃した
 …お前は?」

「そんなの結果論だわ、ドイツに来てれば全員私が一人で倒してたもの」

「は、そんな夢想、空想のなかならなんだっていえるよな?
 人間がなにを一番重んじるか知ってるか? 結果だよ
 結果よければ全てよしっていう言葉があるくらいな」

「だからこれからは私が一人で倒してやるわよ!」

「それも無理だ、三機あるのに戦力を出し惜しみするわけ無いだろ?
 戦闘があるとしたら常に三機だ」

 言い合ううちに柊はだんだんと近づいてきて
いまや俺の胸に人差し指を突きつけて俺を食い殺さんばかりの剣幕である
たーのしっ

47 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/13(金) 14:10:25.17 ID:VcIM5nOM0

 柊はその距離のまましばらく俺を睨んでいたが
一旦離れて深呼吸をしだした、あれだけ浅い息を繰り返せば過呼吸になる

「いいわ、あんたがそんなにいうなら直接バトルよ」
「バトル? 悪いが俺には白兵戦のスキルはあまりないぞ」

 武器なしの格闘や短剣術程度なら多少は心得があるが
しかし自信を持ってできるってレベルじゃない、師範に筋がいいと言われる程度だ

「違うわよ、私達はパイロット。なら種目は決まってるでしょ?」
「シミュレーションか……」

 インダクションモードに代表されるような仮想空間でのシミュレーション
市街の再現、シンクロ率の反映された動き、模擬体の神経接続を利用した実際と同じ身体の感覚
実際の搭乗に限りなく近づけたシミュレーション
それは二人以上のパイロットが居れば同時のフォーメーション練習等にも使える

もちろんパイロット同士の模擬戦闘にもだ

48 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/13(金) 14:17:14.95 ID:VcIM5nOM0

 まさかただの道中の船に二人分のシミュレーション設備があるとは…
正直まったく思ってなかった、あの艦長だって嫌ってたし

「艦長はいい人よ、ただSOSの組織のあり方が気に入らないって言ってたけど」
「そういえば組織事態は嫌いだが俺のことは気に入ったって言ってくれたな」

 エヴァの機体から少し離れた一室がシミュレーションルーム
中は想像以上に広くこんな広さシミュレーションに必要ないだろというほどだった

「娯楽が少ないからね、私が仮想空間でエヴァを操縦するのをゲーム画面感覚で見てたりするのよ」
「おいおい…」

 海兵さんはずいぶんと陽気だった

「だったら一人でのろくさ動く敵を片付けるより俺達の戦いのほうが見ごたえはありそうだな?」
「そうね、私達の勝敗をきちんと見てもらわないとね。あんたがごねたら嫌だもの」
「言ってろ自信過剰女」
「えぇ言わせてもらうわ勘違い男」

 ちょっと待ってなさいと言って一回部屋からでて人を集めてくるらしい柊
俺はその間に本部のと少し違うシミュレーションシステムを見回していた

49 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/13(金) 14:23:07.45 ID:VcIM5nOM0

―――

「ルールの確認するわよ?」
「あぁ」

 見慣れた光景、星と月と太陽が無い第三新東京市の仮想空間で
相手の声だけが聞こえる状況

「場所はあんたの得意な第三新東京市。電源、武装、兵装、装甲、各ビルの位置は実際の位置と同一」
「最初のお互いの位置は初号機A-2ブロックで弐号機はG-9ブロック
 バックパックにバッテリーを標準装備で全種の武器使用可」

 お互いに交互にルールを言い合う
今のところ齟齬は無い

「勝利条件は相手のエヴァの行動不能」
「敗北条件は自機の行動不能」

「ドゥーユーアンダスタン?」
「アーユーレディ?」

 GO!

51 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/13(金) 14:30:36.76 ID:VcIM5nOM0

 エントリープラグの壁面を模した画面に開始を表す文字が浮かび
低いアラートがなる、カウントはバッテリー含めて35分
初期装備はB型装備の標準武器、つまりナイフのみ
どっかの武装ビルで武器を手に取るか先にケーブルを繋ぐか
だが相手の位置がわからない状況でケーブルに繋ぐのは自身の束縛
バッテリーはケーブルに繋げば同時にチャージできるんだし

「いまは武器を取って攻撃あるのみ!」

 俺は身をかがめて全力でA-4ブロックまで移動
シミュレーションのシステム越しに後方から野太い声援やらが聞こえるのが熱いね
…あった、俺は武装ビルからこの間のキラキラ野郎を攻撃するのに使おうとした
緑の長距離用ライフルを取り出す、よくわからない敵にはまず様子見から
換えの弾もとってパックにしまう
あとは接近戦用の武器も腰のホルダーにしまっておきたい所だ
長短どちらも応対できるのが一番望ましい

「それに使ってみたかった武器もあるしな」

 仮想空間ならなかなか使えない最近作られたばかりの量産性の低い武器も使える

52 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/13(金) 14:42:49.43 ID:VcIM5nOM0

「初号機はカウンターソードとマゴロクターミネーターソードを手に入れた!」

 ファンファーレの音は自分で口ずさむ
そして別の武装ビルからとりだしたそれらを腰にかける
これで武装は完璧だ、まず移動、発見と同時に遠距離武器で発砲
まぁあちらもエヴァならフィールドで防がれるだろうが目くらましや威嚇にはなる
で、相手が気付いたら接近戦へ変更
ライフルの射程の長さだったら気付かれたことに気付いて武器を捨てて
それからカウンターソードを構えてもまだ間に合うはずだ

「あとは弐号機がどこにいるか索敵しなければならんな」

 …俺は一度ライフルを真上に向けて手動で発砲する
火薬の爆発音と弾丸が昇っていく軌跡、たぶん弐号機にも聞こえただろうし見えただろう
このままこの広い市街をうろつくよりこの方法のほうが早く決着が尽くし俺のほうが有利だ

53 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/13(金) 15:03:26.28 ID:VcIM5nOM0

「さぁて、やってくるかこないか」

 あっちが武器をなに装備したかでまた変わってくるんだよな
G-9ブロックは開拓中の多いエリアであるから逆にこの地形を知らなくても
あの辺りにたってる立派なビルはみんな戦闘関係のビルだとすぐわかる

 そもそも新型なのだから標準武器の方にも違いがあると考えていいだろうしな

「くそ、こういうスナイパーな行動は長門の役割だって」

 俺が若干のジレンマを感じ始めたころ
ビルとビルの間の若干の隙間から赤い機体が見えた
やっぱりあの色は目立つ、…初号機に負けず劣らず目立つ
多分あっちからも観測されたんだろうな

 俺は見えたときに弐号機が動いてた進行方向と逆の方向に走る

54 名前:時間が悪いなぁと思うわけよ[] 投稿日:2008/06/13(金) 15:22:08.40 ID:VcIM5nOM0

 銃声、とともに俺が先ほどまで居たところの前にあった
ビルの一つが跡形も無く破壊された
俺は疾走する脚を一旦とめてそのまま跳躍する
ライフルを右手で構えて、少し遠くに見える赤い的に標準もろくにあわさずに放つ
片手で適当に打ったために反動で後ろに回転しながら地面に着地

 歓声がうるさくなってきた

「やっぱ飛びながらじゃダメか、オートでやろうもんなら後ろに本当に飛んじまう」

56 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/13(金) 15:38:15.99 ID:VcIM5nOM0

 多分弐号機は連射の利くパレットライフルだと思うんだが
となるとこっちのライフルが届いてパレットライフルが届かない丁度の距離を作らないと危険だな
考えてるうちにまたビルが崩れていく
横に薙ぐ形で連射してるのかだんだんこちらに近づいてくる

「だったら…」

 前方に勢いをつけて跳躍、そのままライフルを手動で三発撃つ
弐号機は横にすばやく移動してそれを避けてビルの裏に隠れる
俺はライフルの反動と跳躍の向きがうまく相殺されたおかげでその場に下りる
まぐれだったが次はうまくいくかわからない、まぁ次やって大丈夫なら実践でもできるな

 俺は崩れたビルの破片を左手に掴んで弐号機が隠れたビルに回りこみ投げつける
弐号機はパレットライフルを持ってる腕でそれを払って砕き、こちらに銃口を向けてくる
俺はそのまま前転して頭が地に付いたときにライフルを地面に置き去りにする
頭上ギリギリを劣化ウラン弾が粉塵をまいて着弾する
前転の起き上がりざま、俺は脚を伸ばして飛び跳ね起きの要領で弐号機の腹にドロップをねじ込む

「しゃぁ!」

58 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/13(金) 15:48:54.13 ID:VcIM5nOM0

 衝撃で後ろに吹っ飛び、弐号機も手からライフルを離す
こっからは接近戦、俺は体制を整え立ち上がりながら腰のマゴロクソードを抜き構える
剣道は少しだけかじったことがある。左手を鍔の下、右手を柄尻につけ
立ち上がる弐号機の首元に先端が重なるように

 バク転を決めてその場から距離をとる弐号機は
左肩のウェポンラックからプログナイフを取り出す

「…形状が俺の初号機のナイフと違うな」

 俺のはアーミーナイフのような形状なのに対して弐号機のはカッターナイフそのものだった
たしか『PK-02』とか言う新型のプログナイフだったか
カッターと同じく替え刃がある変わりに俺の『PK-01』プログナイフより強度が劣るらしいじゃないか
だがやっぱり装備に若干の違いがあることはわかった
ナイフが替え刃式ってあたりが、右のウェポンラックがナイフじゃない可能性を高く肯定してるな

「要注意って…」

60 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/13(金) 15:56:09.08 ID:VcIM5nOM0

「―ことか!」

 マゴロクソードを手首のスナップで向きを変え
剣道のすり足で距離を縮めて逆袈裟に切り上げる
弐号機はプログナイフで受け止めるのでなく横からナイフをぶつけて軌道をずらして来た
その所為で軸がぶれて予定よりやや高めを切り上げた
ソードの下をくぐって弐号機がナイフを構える

「ちっ」

 マゴロクソードをとめて、向きを変えて、振り下ろす
その動作の間に俺の腹には穴が開いてしまう
俺は柄尻を掴んでいた右手だけを離して
さらに腰から脇差程度の長さのカウンターソードを抜刀する
腰に水平に収納していたカウンターソードを逆手で抜刀しながら身体をひねってまわるように
弐号機のエヴァに共通した細い首を狙う

 ギィン、としかしそれも弐号機にはとどかなかった
弐号機が左腕でカウンターソードを先ほどと同じように
水平に弐号機の首を刎ねようとする刃を下から殴りあげたのだ

62 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/13(金) 16:19:50.73 ID:VcIM5nOM0

 このままだと腹にナイフを突き立てられる俺は仕方なく
距離をとるために後転し、起き上がり二本のソードをまた鞘に仕舞った
そして変わりに一本ナイフを取り出して腰溜めに構える

「バッテリーの残量も少ないんでな…」

 跳躍しナイフを振り上げると弐号機も顔前にナイフを横に構える
俺はそれを見てからナイフを振り上げたまま首にローキックの要領で
腰を捻って蹴り倒す
あとはとどめとナイフをもう一度振り上げる

「な…?」

 右腕に五本の黒く太い針が突き刺さっていた
じんわりとした痛みの所為で動きが鈍る
とっさにナイフを弐号機に投擲するが肩に傷を作るだけで…

64 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/13(金) 16:29:21.68 ID:VcIM5nOM0

―――

「だぁぁ! なんだよあれ!?」
「弐号機の標準装備のニードルガンよ」
「なんだそりゃ? 規定外だろそんな新兵装」
「でも標準装備よ、べつに私がなにかしたわけじゃないもの」

 シミュレーション室で言い合う俺と柊
結局あの後しばらく戦闘を続けたものの、あの攻撃でみそがついたのか
最終的に両者電源切れで俺の判定負け

「判定負けとか…一番納得いかない負け方だ・・・

65 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/13(金) 16:40:22.19 ID:VcIM5nOM0

「ま、結果が全てっていうなら私の勝ちよね」

「始終俺が攻めてたがな」

「過程より人間は結果を重視するんだし」

「お前がその理屈を認めた場合、結果はやはり俺が
 三体の神人を倒したというところに舞い戻ってくるぞ?」

「…ま! さっきのは引き分けでいいわよ!」

「そうか、そこまでして俺の過去の戦果を認めたくないと」

67 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/13(金) 17:08:11.64 ID:VcIM5nOM0

 足元に衝撃、水が跳ね上がる音、同時に爆発音

「水中衝撃波か!」
「敵って事?」
「他に何がある!? 神人だろうよ!」

 俺は波に揺れる船に足元をふらつかせながら、シミュレーション室をでる

「こっちよ!」

 柊の声に引かれて通路を駆ける
やがて海が見えるところにあたり身を乗り出して外の様子をのぞく
海を縦横無尽に行き来する黒い影、そして沈んでいく護衛艦が一隻

「今度は水中戦かよ…」
「弐号機で出撃するわ!」
「だがB型装備だろう!」

 B型装備はベーシックの頭文字をとった装備
つまりは基本装備、水中戦闘は常識的に考えて基本に含まれない

68 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/13(金) 17:33:19.35 ID:VcIM5nOM0

「なんとかなるわよ!」

 そういう柊の目は正しいはずの俺がたじろぐほどのものだった
…ちぇ、らしくもなく熱いじゃねぇか

「まぁ確かになんとかなるならないじゃなくて、しなくちゃならない状況なのは確かだ」

 それでも俺は先急ごうとする柊を止める
こいつは少々ばかり冷静にならないといけない

「俺もVTOLに積んである初号機ででる
 お前は先に弐号機で頼んだぞ!」
「そんなの! 私一人で…」

「柊! 状況を考えろ!」

 柊の言葉にかぶせる様に怒鳴る俺
全身を強張らせ黙る柊を俺はしばらく見つめる

「…わかったわよ」
「よし、頼んだぞ」

71 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/13(金) 17:52:25.59 ID:VcIM5nOM0

「こなた!」

 オーバーザレインボーに戻りこなた達と合流する
こなたは流石にすでに状況を察してるようで頷いて俺にラッピングされたスーツを投げ渡してきた

「弐号機はいま起動してる!」
「おっけ!」

 一言だけ言葉を交わしてから俺はそのまま走り出す
…と、すぐに呼び止められた

「少年!」
「艦長!?」

 艦の司令室からでてきた艦長だった
艦長は俺に親指をぐっと立てて

「決して死ぬんじゃないぞ」

 といってくれた

「了解!」

 俺は見よう見まねの敬礼でそれに返し
今度こそ初号機に向かって走り出した

86 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/13(金) 18:54:59.75 ID:VcIM5nOM0

「エントリー開始、初号機パイロット、サードチルドレン
 起動フェイズを4番から25番まで省略、コード12582652」

 武器は無し、場所は水中、戦闘時間は5分のみ、敵はまだ見ぬ魚型水中戦主体の神人

「不利すぎるだろ…」

 一応持ってきた電源ソケットを背中に差込み甲板から水中を見る

「弐号機の状況は?」
「だめね、敵を捕らえられてないで攻撃されては逃げられて」

 典型的なヒット&アウェイだ、このままじゃ削り殺し状態だ
俺は釣竿のリールのようになってるソケットからケーブルを引っ張り出して
弐号機の影が見える付近の海に飛び込む

112 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/13(金) 21:10:39.59 ID:VcIM5nOM0

>>86
 初号機の巨体が海に飛沫を上げて沈む
大量の気泡が青い海水に混じり視界を埋め尽くす
エヴァの装甲の隙間などに海水が入り込みしばらくの間気泡が出続けて
やっと視界が戻るころには相当沈んでいて
コバルトブルーとセルリアンブルーの狭間の色がゆっくりと流れていた
太陽の光は海面の揺れと同時になびいてキラキラと反射する
戦闘中という非常事態を忘れさせる美しさに一瞬目を奪われるが

「くそっ、なにやってんだよ柊」

 弐号機はすでに動きを止めて、無抵抗のまま神人に攻撃を受けている
分厚い数十枚の装甲が攻撃を多少の傷のみで終わらせてるが数を受けてはいずれ終わる
俺は身体を捻って弐号機の横にならび肩に手をかけ直接通信を開く

113 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/13(金) 21:16:54.89 ID:VcIM5nOM0

「おい馬鹿! さっきのシミュの動きはどうしたよ!?」

 返事は返ってこない、攻撃を食らって気絶したとかくだらねぇ落ちじゃねぇだろうな…
俺は一時弐号機との通信を切って周囲を警戒しつつ司令室との通信を開く

「こなた、弐号機の様子が変だがなにか異常があったのか?」
「わからない、ここは本部と違うから細かい判断ができないよ
 ただかがみの方になにかあったんだと思うけど」

 くそ、面倒だな
敵の攻撃を警戒しつつ弐号機のお守りもしないといけないのかよ
俺はもう一度弐号機と通信を開く、声だけじゃ埒が明かん
ウインドウをよういた回線を使ってさい通信

「おい柊! 死にたいのか!?」
「…いや」
「柊?」

 様子がおかしい、操縦桿から手を離して自分の身体を抱くようにしている

115 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/13(金) 21:24:16.31 ID:VcIM5nOM0

「おい! なにをやってるんだ、望みの実戦だぞ!?」

 かろうじて光が届く程度の暗い水深で
ほぼ勘で敵が来るのを感じて俺は右手をかざしてフィールドで防ぐ
敵は大きな口を開けて突進をしてきた格好のままフィールドに衝突
また暗い海に消えていった

「こんなの、訓練と全然違う…」
「あたりまえだ! いいからとっとと動け、足手まといだ!」

 俺は向きを変えて弐号機と背中を合わせるようにしてナイフを取り出し構える
少なくとも警戒する方向は減る、こいつの戦闘意欲の有無に関わらずとりあえずは壁だ

「こんなに怖いと思わなかった、こんなに痛いと思わなかった、こんなに冷たいと思わなかったの」
「黙って構えろ! フィールドを張るだけでいい、それだけでも俺がやりやすくなる!」
「できない…」

 冗談じゃねぇ、なんのための訓練だ実戦の恐怖を感じなくさせる精神面の訓練は基礎じゃないのか?

「なまいってんじゃねぇぞ! やれ!」
「できないのよ! 私はエヴァでA.T.フィールドを張ることなんて出来ないの!」

118 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/13(金) 21:29:44.56 ID:VcIM5nOM0

 柊はウインドウ越しに怒鳴る
目に涙を浮かべながら俺に怒鳴りつける

「そもそもエヴァがフィールドを張れるなんて誰も思ってなかった
 あんたがやるまでずっと”理論上は”っていう言葉がついてただけ
 それは神人以外ではあんたしかできないことなのよ!」
「なんだと?」

 おいおい、まじかよ?
知らないぞそんなこと、そういや長門と零号機が張ったところも見なかったな
言われてみればあの形状変化の幾何学的な奴と戦ったときも
盾だけじゃなくてフィールドも同時展開すればよかったのに長門はしなかった

”できなかったから”ってことなのか?

「まぁいいさ、そんだけ怒鳴る根性あって敵に向かう根性ねぇって事はないよな?」
「…」
「せめて武器を構えろ、前を向け、敵の接近を知らせろ。その程度でいい」

121 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/13(金) 21:37:07.75 ID:VcIM5nOM0

 初号機の後ろで弐号機が動くのを感じた
よし、まだやれる。

「しかし問題は思いっきり相手に地の利があって俺達のアウェイだってことだよな」

 ここは地ではなく水であるがしかしそんなことを訂正するつもりはない
意味が通ればいい、そういった諺や格言や比喩や揶揄に修正を加えてたら
俺の人生は手間がかかってしょうがなくなる

 だが本当にまいったものだ、この地に足つかない浮遊感
四肢を動かすたびにある空気の数倍の抵抗、まとわりつく感覚
特にエヴァの感覚を通して伝わる冷たい水の感覚が嫌だ
人間は基本的に水は怖いんだよ、目をつぶれば自分がこんな深海に裸で居るような気分ですらある

「…まぁならば地に足つけちまえって話か」

 俺はこなたとの通信を開いて、アンビリカルケーブルを限界まで伸ばすように頼んだ

123 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/13(金) 21:44:40.34 ID:VcIM5nOM0

「柊、いまある不安定感のうちの一つだけ俺が解除してやる」
「…え?」

 俺がそういうと柊は不可思議そうに声を上げる
こなたはどうやら俺の指示通りの行動を早急に行ってくれたらしく
ケーブルの余ってる長さを全て伸ばされて、俺達は自身の重量と重力によって沈み始める
つまりは”海底”に向かって段々と近づいていく
ここはもうすぐ日本につく程度には陸に近い比較的浅いあたりで
どうやらケーブルの長さが足りなくなることなく海底につくことが出来た

 つま先で床を叩くように海底の土を蹴り上げる
あまりの暗さになにも見えないが、しかし敵とお互いの機体の位置だけはレーダーでわかる
そしてそれさえわかれば問題ない

「柊、今度は戦えよ?」
「…うん」

 大丈夫そうだな、俺は一応頭部についてる非常用のライトをつける
ほんの一部だが周囲が照らされて、続いて弐号機もライトのスイッチを入れる
地に足つけるために海底に行って、今度は暗闇が怖いじゃ話にならない

127 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/13(金) 21:56:07.31 ID:VcIM5nOM0

>>123
「現在レーダーに反応無し、距離は大体500以上って所か」

 一応柊にも聞こえるように言ったのだがしかし返答は無い
まったくとことんやりにくい、これが長門と零号機ならもっと息があうのだろうな
だが無いものねだりをするほど俺も愚鈍じゃない

「反応あり!」

 柊の声が入る
俺は一瞬遅れたのに対しすぐに柊は反応した
それほどまでの情けない姿ではなく、戦闘に集中しだしてるってことだ

 レーダーを見ると白い点が高速でこちらに迫ってくる
これはかなりの速度だな、レーダーもなしにライトだけを頼りに仕掛けてきたか

130 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/13(金) 22:02:47.69 ID:VcIM5nOM0

 くそ、早い。攻撃は間に合わないな

「A.T.フィールド!」

 もう一度フィールドを発生させて俺の目の前で動きを止める
しかし今度はそのまま方向転換することなく体当たりをフィールドにしている
だが、こっちとて今は地に足ついてる。宙ぶらりんじゃ無理だったがここなら…
俺はA.T.フィールドを解除して減速した神人を両手で捕まえる

「ここなら踏ん張れるんだよ!」

 海底の土が重量と勢いに負けて大きく陥没する
先ほどライトで口の中が照らされて紅球が見えたのだが
しかしこれでは攻撃の仕様がない、頭突きで攻撃したらこっちのほうが痛そうだ

「柊! 俺が抑えとくからお前がやれ!」

 指を硬い皮膚にめり込ませて力ずくで動きを止める
だが急がなければこの捕まえ方だと逃げられる
抱え込もうとしたものの俺の腹が食いちぎられる危険性もある

「了解!」

132 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/13(金) 22:10:10.04 ID:VcIM5nOM0

 弐号機がすばやく近づいてナイフを構える

「口の中にコアがある」
「コア?」
「赤い球体の形したこいつらの弱点だよ!」

 俺を噛み砕こうとしてなんども開閉する口から
鋭く鮫のように二重になってる鋸の様な歯が覗く
だが柊はなかなか攻撃をしない、相手は捕らえてるのだからなにを迷う

「片手じゃこいつの口の動きをとめられない!」

 そういうことだった、ナイフでこいつのコアを破壊するためには
片手でナイフを握り、振りかざして切りつけるか突き刺すかしないといけない
だが片手でこいつの口をこじ開けるのは無理だろう
物理的にも力的にも

133 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/13(金) 22:15:38.27 ID:VcIM5nOM0

「…なら別の武器だ!」

 俺は攻撃から逃れようととうとう方向性を変えた動きをする神人をどうにか捕まえながら怒鳴る
柊はだがしかしうまく理解できてない

「単純なことだ、片手で開けないなら両手で口の上下を掴めばいい!」
「だからそうしたら攻撃ができないじゃない!」

 あぁ、冷静さを欠いてる奴に少ない情報での察し合いに似た会話は
逆に時間を浪費するだけなのか、理解した

「お前の弐号機は右のウェポンラックになにが入ってるんだよ!?」
「あっ!」

 やっと気付いたようだった
柊はナイフを収納しなおして両手で口を掴んで少しずつこじ開けていく
神人は俺を喰うことを目的から外した時から弱点の紅球を隠すように
口を頑なに閉ざしてしまっているので少々骨だ

134 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/13(金) 22:21:42.44 ID:VcIM5nOM0

「うわぁぁぁ!」

 柊が叫んだのが聞こえたと同時に弐号機が両腕を広げ
神人の武器と弱点を兼ね備えた口を豪快に開く
こんなでかい口、エヴァも一飲みって感じだな
俺は勝負が決まったのを確信してそんなことを考える

 弐号機は開いた口に上半身をねじ込み紅球に右肩のラックを当てる
バイバイ神人、俺は内心でそう別れを告げる
弐号機の肩からパシュっと音がして七本のニードルがゼロ距離で紅球に刺さる
ガションと薬莢がでて、再装填しもう一発、装填しさらに一発
計三回、二十一本のニードルで剣山になった紅球は輝きを失い
神人も完全に沈黙した

 俺は画面の向こうで荒く息をつく柊をみてから
なにもいわずウインドウ通信を切って司令室に連絡しこなたに引き上げてもらった

146 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/13(金) 23:06:53.42 ID:VcIM5nOM0

 ケーブルを逆巻きして引き上げられる二機のエヴァ
本当につりみたいだと思いながら腰を引っ張られる俺達
初の水中戦で魚類相手によく勝てたと感心しつつ
ゆっくりと明度を増してく水中で見えてくる赤いカラーの
淡く光る海水と対を成す様な弐号機を見る

「…ごめんなさい」

 いきなり柊の声が聞こえた
通信なのはわかるがまさか向こうから繋いでくるとは思わなくて動揺してしまった

「大言壮語の身の程知らずもいいところだったわ
 結局あんたにおんぶ抱っこで足手まといになって」

 俺は口を挟まない、フォローするとこしないとこ
今回は柊に非があるのは事実だし、戦闘中の戦意喪失は本当に致命的なミスだった
俺達だけじゃなく海上の全ての人間が死ぬところだったんだ
それにエリートだの何だの、矜持が高い人間が謝ってるんだ最後まで聞くのが礼儀ってもんだろう

153 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/13(金) 23:21:08.22 ID:VcIM5nOM0

「あんたに迷惑をかけた
 私の不手際でみんなを死なすところだった…」

 ごめんなさい、最後にもう一度謝って沈黙する柊
ここからが俺が喋る場面だ
もう海面までそう距離も無い、言葉を選んで伝えたいことを伝えてきりよく終わらせないとな

「過程はどうあれ結果は敵を倒して、誰も死ななかった」

 柊は答えず俺の言葉に耳を傾ける
スピーカー越しのサウンドオンリー回線だが、それくらいはわかる

「だが、もう一つの結果として今回の戦闘の結果として俺はお前を助けて借りをつくった」
「…うん」

 小さく頷く声に覇気が無い、まぁ素直に受け入れてるのでそれはとりあえず無視

「それでもお前は今回実戦を経験したんだ
 つまりいままでの訓練に匹敵するくらいの経験を積んだ
 だから、次の戦闘では俺に借り返せよ?」
「うん、わかった」

 これで俺からの言うことは終了だ
まったく疲れたが、しかし今回は少し俺の予想が外れたな…


柊とは仲良くなれそうだ

4 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/14(土) 18:55:30.88 ID:T/nzulnO0



「この間は悪かったな、まさかあんなことが起きるなんて思わなかった」

 学校のHR前の時間
俺は先日の事態について頭を下げる
結局二人を戦闘に巻き込んでしまう結果になった
俺が誘わなければうまく俺達ができなくても
零号機と長門が殲滅してくれる
そうすれば二人には危険がなかった筈なんだ

「いんや〜、面白かったぜー。絶対普通じゃ乗れないかんな!」
「私は色々言いたいこともあるけど、まぁちゃんと無事だったんだからいいわ」

 あやのはため息をついて、日下部は俺の背中を叩きながら笑う

「いてぇよ馬鹿」
「あっはっはー、この間お前が海に飛び込んだときに頭うったんだぞー!」

 …べつの事で少し怒ってらっしゃった
バシバシと俺の背中に平手を叩きつける日下部、正直結構痛い

5 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/14(土) 18:55:45.32 ID:T/nzulnO0

「みさちゃん落ち着いて…、ちょっと衝動的に行動しすぎよ」
「まったくだ、背中が紅葉型にへこむ」

 今回は甘んじて受けるがしかしYシャツ一枚で平手はキツイ
打撃と違ってあとにジンジンと引っ張るダメージなんだよ
SOSの方で格闘訓練等で最近体力をつけてるからまだ耐えられるが

「…お前、力強いな」
「はっはー」

 と、ちょっち話し込んだというかじゃれすぎたというか
まぁ時間を潰し過ぎた様で

「おらー座れ、2馬鹿+優等生」
「座れってよ2馬鹿」
「え! みさちゃんはともかく私が馬鹿!?」
「わたしは馬鹿でもいいけど、キョンが優等生なのは断固却下だ」

6 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/14(土) 19:02:11.20 ID:T/nzulnO0

「だからとりあえず座れっていってるだろ!」

 短気な担任教諭である
仏の顔は一度で終わってしまった

「へ〜い」
「すみません」
「うっす」

 三者三様の返事をして席にようやっと座る
しかし今日はまた珍しく遅刻しないどころか鐘が鳴る直前には教室に入ってくるとは
一体なにがあるのだろうか、なんかしらのイベントがあると思うのだがどうだろう

「正解や、まぁイベントっちゅうか…転校生って奴や」
「転校生?」

 俺もちょいと前までその肩書きを持っていたのだが
この短期間に二人も同じクラスに転校してくるか?
このクラスが他のクラスより生徒数が少ないって訳でもないだろうて

8 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/14(土) 19:13:30.52 ID:T/nzulnO0

「んじゃ、入ってきていいで〜」

 黒井担任にいわれて扉が静かに開くと
薄紫の特徴的な髪の毛の少女が入ってきた

 なるほどこれは流石に遅れるわけにはいかんな先生よ
柊は先の大声でのやりとりで俺の存在に気がついていたのだろう
気まずげに小さく手を上げた

「…やっ」
「…よぅ」

 後ろを振り向くと長門はやはり関係なしに本を読んでいた
ピアノのソロ演奏の楽譜、んなの見て面白いのか?
ずいぶんと雑食派らしい

11 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/14(土) 19:24:21.19 ID:T/nzulnO0

「やっぱり知り合いか自分」
「えぇ、まぁ察しの通りでして」

 日下部とあやのもこの間会ったばかりの人物が
いきなり転校してきたことに多少驚いているようだ

「まぁええわ、とりあえず岩崎、柊のことしばらく頼むで」
「あ、はい、わかりました先生」

 若干居辛そうにしてた柊は
黒井担任に席を教えてもらうとさっさとそこに移動して座った
どうにも捉えにくい性格である
船での時はあんなに堂々としていたのに

13 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/14(土) 19:35:51.82 ID:T/nzulnO0

――

「よぅ、一昨日来たばかりでよくこんな早く転校できたな」

 第二から第三に引っ越しただけの俺は
しかし初登校したのは二週間程度立ってからだったぞ

「まぁ私がこっちにくるのは結構前から決まってたことだしね」
「先に手続き済ませたのか……」

 そのまえのそんなことできるのか?
できるんだろうなぁ、あぁ面倒くさい

「で、ファーストって誰? 同じクラスなんでしょ?」
「あぁ…まぁそうだ」

 俺はこいつを長門と引き合わせることに若干、やめといたほうがいいんじゃないか?
と、頭をなにかがよぎったものの
しかし同じチルドレン同士結局会うんだし、背中を預けるもの同士早めに交流を持っとくべきだろうと

「あそこで本を読んでる奴だよ」

 長門を指差した

16 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/14(土) 19:47:49.59 ID:T/nzulnO0

「おい長門! ちょい来てくれ」

 俺が半分仕方なく呼ぶと長門は本をボムッと閉じてこちらを向いた
あくまでもこっちにわざわざきたり、立ち上がったりしないあたりが
程よく長門加減である

「なに?」
「いや、こいつが柊かがみって弐号機のパイロット。昨日正式配属された件お前も聞いてるだろ?」

 長門は一拍置いて、なんだそんなことか、と言わんばかりに
顔を背けてまた本を開いた、なんというなんという

「えぇ」
「だからさ少しチルドレン同士仲良くっつうか、少し交流をだな」
「それ、必要?」
「あぁ」

 ってかお前はもう少しそれ以外にも人間関係を構築しろ
頼むから、あと少しだけでいいから

18 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/14(土) 19:54:50.17 ID:T/nzulnO0

「長門有希、零号機のパイロット。よろしく」

 一応柊の方を向いてそう長門が一言いって
また本に目を戻す、一時は少しだけこいつのことがわかった気がしたのだがな

「はぁ、変わった子ね。本の虫っていうかさ」
「否定はしないが俺からしたらお前も変だ」

 後半は心の中でだけ言っておく
これ以上一日の受動打撃数を増やしたくは無い
そもそもなんだそのカウント

「ま、あんたもしばらくよろしく」
「あぁ、とっとと借り帰せよ?」
「わかってるわよ!」

19 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/14(土) 19:59:02.22 ID:T/nzulnO0

 とまぁ前置きはこれくらいか
とりあえず長門と柊両名の顔合わせが済んだ事と
柊が2-Aに転校してきたことがわかればいいさ

 ついでに、さきほどのあたりで柊がエヴァパイロットで
あることも周知の事実になったわけだが
俺の時のハルヒの行動があったためか今回は騒ぎになることなく終了した

21 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/14(土) 20:05:18.13 ID:T/nzulnO0

―――

「で、いきなりこれか…」

 海からまるで大の字のような格好で上陸してくる敵
俺と柊はその敵と向かい合って迎撃に当たっていた
ついでに零号機は改修作業は終わったのだが
今回の作戦が本部を離れての戦闘となるため待機だ
しかし、毎度面白い形態をしているな…

「弐号機行きます!」

 スピーカーを通して声が聞こえる
弐号機はソニックグレイブというプログナイフと同じ刃の構造をしてる薙刀を構えて
敵に先んじて攻めに行く

「おい柊!」
「借りはとっとと返さないと気がすまないのよ!」

23 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/14(土) 20:12:35.89 ID:T/nzulnO0

 あの馬鹿、変な風に気負いやがって
口調では強気だが前回の戦闘を気にしてるのがみえみえだった

「ちっ、初号機フォロー入ります!」

 仕方なくパレットライフルを構えて威嚇射撃をする
弐号機に当てては元も子もないので敵に対する命中率は保障できないがな
海に着弾し縦に幾つも水柱が上がる、ウラン弾は環境汚染が激しいんじゃなかったかねぇ
まったく結局遠回りに自滅してるきもしなくもない戦い
ふと俺が気が抜くと同時に弐号機から柊の声が聞こえる

「うぉりゃぁ!」

 音も無く両断される神人、切れたところからピンクの目に鮮やかな肉が
痙攣しビクビクと波打っている様が見て取れる
今回は失敗せずにうまく事を運べたのかと一息つきかけたとき
俺は敵に紅球が二つあるのに気がついた
それはうまく左右に分断された肉体に一個ずつ配置される形になり
俺をひどく落ち着かない気分にさせた

24 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/14(土) 20:18:29.99 ID:T/nzulnO0

「ふぅ、これで借りは返したわよね?」

 そういって武器を下ろして
こちらに戻ってこようとする弐号機に向かって俺は怒鳴る

「まだだ、……まだだ柊!」
「え?」

 なんの事かわかってない様子の柊、こいつは紅球に気付いてない
俺の声を受けて漫然と振り返る弐号機の向こう

「なにこれ!?」

 神人は両の傷口から新たに手と足を生やし
プラナリアよろしく二体に分裂しやがった
俺は構えたままのパレットライフルを右の赤い一体に放ち
今度は複数の弾を確実に着弾させる
すると過去にこの武器を使ったときのように硬い神人の表面に砕けることなく
むしろ敵の腕と思わしき部分が粉々に散っていった

28 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/14(土) 20:32:44.12 ID:T/nzulnO0

「なっ!」

 千切れ飛び、幾分短くなった腕が
しかし数瞬後にはトカゲの尻尾のようにお手軽に回復した

「キョン! 一時後退!」
「了解」

 弐号機は接近で二体に囲まれ先ほどまでの余裕をなくして
薙刀を無闇に振り回す、その一閃が敵の紅球の中心を分かつが
しかしそれすらも効果が無くすぐに直ってしまう

「柊、後退だ。一旦引くぞ」
「う、うん。わかった…きゃぁ!」

 通信を入れたタイミングが悪かったか
俺に返答した一瞬の隙を突かれて敵二体に接近される
すぐにフォローをしようと発砲するもあまりに弐号機に近すぎて攻撃がしにくい

34 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/14(土) 20:48:20.71 ID:T/nzulnO0

「いやぁぁぁ!」

 弐号機はもうどうにもならんと俺がパレットライフルを捨てて
代わりにナイフで接近して敵を引き離そうとしたが
しかし距離が違いすぎた、俺が走って近づかなくてはならんが
奴らは弐号機に手を伸ばすだけで済むんだからな

 そして二体の敵は弐号機の四肢を掴み力強く放り投げた
エヴァの100メートル近い全長のさらに数倍の高さまで上げられた弐号機
俺はナイフを仕舞いなおして敵に注意をしつつ
落ちてくる弐号機を

「…ぉもっ!」

 なんとか受け止めた、が装甲同士が激しくぶつかり小さく火花が散った
腕が痺れ、海岸の柔らかい地面が陥没する

「くっ、弐号機回収、初号機も帰還します!」

 足元のパレットライフルを再度拾って片手で機銃射撃を行いつつ
俺は弐号機を担いで早急に撤退した

36 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/14(土) 21:08:09.18 ID:T/nzulnO0

 初号機、弐号機の両機撤退後
一時的処置としてN2爆雷を敵上空から投下
敵表層部の29%の焼却、効果としては一週間の足止めに成功
後に入った情報によると敵は二つの紅球でお互いを補完しあい
片方が破壊されてももう一つで修復するという相互干渉形態らしい
その自己再生能力の高さが他の神人に比べて非常に脆い理由

「で、その修復をさせないためには両方を同時に破壊すればいいわけよ」

 とこなたの談
つまりは片方が片方を回復させるなら双方に同時にでかい破壊力のダメージを与え
回復の隙を与えずに撃破という形らしい

37 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/14(土) 21:16:23.74 ID:T/nzulnO0

 しかしそうはいってもやっぱり簡単なもんじゃない
千分の一秒でも誤差が生じればそれは成功せずその隙間で回復を行われるらしい
二体に分裂した際の二つの紅球に攻撃
こちらも動いてあちらも動くその状況下でタイミングを
コンマ秒まで揃えるのは至難の業の粋すら超える

「というわけで、ユニゾン」
「「ユニゾン?」」

 我々は現在こなたが家に呼んだ柊を含めた
三人で作戦概要説明会を開いていた

「そ、ユニゾン。二人の息を揃えて完全な一心同体で二箇所のコアの同時加重攻撃、これで決まり!」

 そう息巻くこなたと置いてけぼりの俺と柊
こなたはどうにも説明不足になりがちだ

39 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/14(土) 21:22:46.65 ID:T/nzulnO0

・・・
・・



「はぁ!? 二人で一週間一緒に住むってこと!?」
「そだよ、私の方も忙しくてしばらくキョン一人だし丁度いいっしょ」

 こいつは説明が足りないというより知能が足りない

「お前さっきの説明のどこに俺とこいつが同居しないとならん理由があった?」
「つまりは生活リズムの時点からあわすんだよ、体内時計とかね
 精神面での一体も大事だしそれには四六時中同じ空間に居て生活するのが一番」

 こなたはそういっておもむろに指を鳴らす
と、SOSのスタッフが数人やってきてなにやら居間に機械をセットし始める

「この最新ユニゾンマッスィーンで二人の呼吸を一週間でパーペキにしてもらうよん」

 こなたの笑みはどうにも迫力に欠けるあくどさがあった

41 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/14(土) 21:38:24.44 ID:T/nzulnO0

「まぁ、物は試しだ」
「…そうね、もうなにもしない内から疲れたわ」

 そろってため息をつく

「そそ、その調子」

 この野郎…、なにか言ってやろうと思うもののしかしそれを抑えて
とりあえずは機械に向かう、どうやらツイスターゲームの要領で
複数のランダムに光るボタンを両手両足を使用して押していくものらしいが

「じゃ、ミュージックスタート」

 こなたがいつの間にか用意したコンポから流れる音楽
これに合わせて実際の戦闘もこなさないといけないらしい
とことんやってられん

42 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/14(土) 21:44:13.57 ID:T/nzulnO0

――

「…ロボコンじゃないか」
「ボタンはとりあえず押しまくったわよ」
「引けないからな」
「そうね」

 惨々たる結果だった
ってか音楽のタイミングが悪いんだ
音楽もボタンが光るタイミングも計れば四拍子なんだが
トン、トン、トン、トンとなるボタンに音楽が半拍子ずれて重なって流れてくる
 トン、トン、トン、トン

 上記の感じ
その結果なんと俺は今までの人生で一度もとったことも見たことも無い点数を取ってしまった
いくらゲームとはいえショックである

「この音楽に合わせたダンスの振り付けもあるからそれも練習するよ!」

 勝利の道はベクトルの違う方向で最も辛く険しくなりそうだった

48 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/14(土) 22:05:15.58 ID:T/nzulnO0

「とりあえず、今日はここに描かれてる振り付けを覚えること
 んで音楽を常時流して身に染み込ませる事!」

 こなたは数枚に及ぶ振り付けを印刷した紙を俺達に渡す
棒人間もどきが紙上で踊っている
これを踊れというのか、俺と柊が?

「一週間ぶっ通しで練習、学校は公的事情による欠席になるから
 出席日数は気にしなくていいよ、じゃあ私は仕事あるから!」

 ……いい逃げしやがった
こなた、作戦が終わったら一発殴ってやる

「結構長いわねこのダンス」
「…お前も真面目に読んでるなよ」

 目を皿のようにして振り付けに目を通す柊

50 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/14(土) 22:12:41.65 ID:T/nzulnO0

「また、失敗しちゃったからね」
「はぁ?」

 さっきの事か、焦ってまだ攻撃パターンも不明の相手に対して
早急すぎる接敵行動、そして殲滅できずに撤退

「また、あんたに借り作っちゃった」
「お前を受け止めたことか? あの程度気にすんな、細々したのは忘れて行動あるのみだ」
「ごめん」

 俺はいつだったかあやのとした会話を思い出す
やっぱり俺は謝られるよりこういうシーンでは礼を言うほうが双方ともに気分がいいと思う
とりあえず振り付けの紙に目を落とし会話を中断、明日以降に備える

54 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/14(土) 22:34:23.81 ID:T/nzulnO0

――

「う〜ん、なんっていうかさぁ、息があってないんだよ
 かがみは一歩引いてる感じ、キョンは飛ばしすぎなんだよ」

 一日中同じ曲をエンドレスで聴いて、ツイスターゲームやって
残りは音楽と合わせてダンス&ダンス&ダンス
パラッパラッパーよりも踊ってる気がする

「そうは言ってもな、実際ビデオ見てみてもわかんねぇんだよ
 こう、漠然と違うってのは俺もわかるけど」
「そうね、抽象的なマーブル模様の情報なのよ」

 訓練開始から三日
音楽が耳について離れなくなり
振り付けも頭にほぼ叩き込んだ現状
本格的にダンスの練習を開始したわけだが

55 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/14(土) 22:45:19.27 ID:T/nzulnO0

「そうねぇ、二人とも個人で見ればダンスは凄い綺麗にできてるのよね」
「はっはー、キョンがダンスとか似合わねー」

 こなたがいまいち揃い切らない俺と柊にゲキを飛ばし
なぜかあやのと日下部、長門にさらにはみなみまでもいた
人口密度が激しく上がっている我が家、男が俺だけというのが…

「…これって二人の息を合わせる訓練なんですよね」
「そうだよん」

 みなみがそろそろと手を上げて発言する、学校じゃないんだが

「つまりダンスの完成度は関係なくて、ダンスを利用して動きを合わせるんですよね?」
「…そういうことだ」

 今度答えたのは俺、人数が多いと説明が忙しいが
とりあえずみなみはその俺の発言を聞いて首をかしげる

「つまりあれよ、二人はダンスの動きの向上だけでお互いを意識できてないのよ」

 言葉の選択に苦労するみなみに代わって今度はあやの
みなみもどうやら長門ほどじゃないが口下手の傾向があるらしい

56 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/14(土) 22:56:02.05 ID:T/nzulnO0

 だがしかし、なるほど多少なりとも思うところがないでもない
お互いを意識していないわけじゃないが
しかしそれはユニゾンのパートナーというよりライバル的な
相手よりうまくという考えに似たものだ
…合うはずがねぇな、柊にはそういう初対面に抱いた感情がいまだにある
長門ならどうだろうか? いつだったか川縁で話し合った時のあいつとだったら…

「いや、そういやなんで俺と柊なんだ? 零号機も長門も健康そのものだろう」
「ん? そういやそうね、最初の出撃がキョンとかがみだったからそのまま移行したけど
 ユニゾンに関してはシンクロ率の上下は今回あんま気にしなくていいしね」

 長門は自分に話が振られて、さぁなにをしてるのだろうかと言えば
まぁ考えるまでも無く読書中だった、なにしにこいつはこの場に居るのかまったく理解できない

「ちょいと有希、かがみとタッチ」
「了解」

67 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/14(土) 23:45:49.45 ID:T/nzulnO0

 柊が言われてTシャツの裾で額を拭きながら後退
その際にへそが見えたが俺は紳士なので当然じろじろ見たりしない、鉄則
そして代わりに制服姿の長門横に並ぶ、身長は長門のほうが低め

「長門」
「なに?」
「振り付けわかるよな?」
「大丈夫」

 小さく頷く長門、俺にしか聞こえない声量で小さく音楽のイントロを口ずさみ
人差し指はまっすぐ伸ばした脚の横で四拍子を刻んでいる

「じゃあ行くか」
「えぇ」

「じゃあスタート」

 こなたがいうと同時にスイッチを入れて音楽が流れ出す





70 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/14(土) 23:54:06.92 ID:T/nzulnO0

 両手を上にあげて、手の平を重ねて突き出すように前に
右腕左腕の順で腕を横に伸ばして降ろす
足を交互に踏んで足幅を広げて、降ろした腕を肘を抱えるように右左の順で内側へ
右足を一歩後ろに引いて、その場で一回転
振り返りざまに左手を突き出して終了

 ぱちぱちと手拍子が数人分、柊は壁に寄りかかり俺と長門をじっと見ていて
壁から背中を離してあごに手を当てる

「んー、やっぱり私達の時と違うわね」
「あぁそうだな、長門があわしてくれてるのがわかるんだよな」

 俺は特になにを変えたつもりは無い、ただ長門が合わそうとしてるのがわかって
それを少し意識しただけだったが

「やや、有希は流石に練習してないからダンスの完成度ならかがみの方が上なんだけどね」
「見ててこっちの方が気持ちいいんですよね」

 こなたとあやのの台詞

72 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/14(土) 23:59:19.66 ID:T/nzulnO0

「…そうですね、柊さんとキョンさんのは社交ダンスというか
 綺麗なんですけど少し違う感じなんです、あってるんだけど合ってないというか」

 柊がゆっくりと険しい顔でこっちに歩いてくる
長門をチラッと一瞬横目で見た後、俺に向かって手の平をかざす

「今度は私とチェンジよ」
「了解」

 俺も手をだして柊と軽くハイタッチ
長門は俺と柊の間に一回視線をやってから
何事も無かったかのように踊ってる途中でずれた立ち位置を直す
特にこれといって不満は無いようだ

「こなた、始めてくれ」
「あいよぅ」

 長門と柊か、普段話したことのないペアでいきなりのぶっつけユニゾン
結構興味が湧くもんだ、俺はフェイスタオルを二枚持ってきて一枚を首にかけて
汗を拭いながらなんとなく空いてたみなみの横に腰を下ろす

76 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 00:11:41.80 ID:5U9Obh6v0

「ほぅ…」

 現在演技中、だが先ほどまで俺と柊でやってた奴のビデオと比べた差は歴然だった
ダンス自体の上手さ、巧さ、技術という面ではない感性的な合致

「なぁみなみ…」
「はい、なんでしょう」
「さっきの俺と長門のもあんな感じだったか?」
「…そうですね、息が合ってるのを見てる側も理解できるというか」

 そうか、やっぱり長門か
シンクロ率や戦果とはべつの所、…長門はすげぇな
人の心や動きに合わせられると言うのは、相手を理解しきらないと無理だ
そして俺の考えや柊の心にしっかり合わせられる長門は、やっぱりちょいと感情表現が苦手な女の子だ
どうにかして周りとのコミュニケーションを取らせてやりたいな

79 名前:今日は寝ないで仕事行くよー[] 投稿日:2008/06/15(日) 00:18:15.83 ID:5U9Obh6v0

「ほぃ、終了。お二人ともよくできました」

 音楽とともに動きをとめて息をつく二人
俺はタオルを長門と柊に渡す
二人ともそれを受け取って、並んで座る
このユニゾンを通して少しはこの二人も距離を短くしてくれればいいんだがな
しかしこの広い居間もこれだけの人数居ると手狭に感じるな
まったく、みんなが帰った後が寂しいじゃないか

「ねぇキョン」

 タオルで身体を拭いてた柊は、一息ついて俺に話しかけてきた

「なんだ?」
「ファースト、凄いわね」
「だな、俺達にぴったりあわせてしかも見てただけなのに振り付けも完璧だ」

 それどころか、いまタオルで額を拭いてる長門は
踊ることを楽しんでいるようにすら見えた
表情の差異は見えないのだが、しかし雰囲気というかなんというか

84 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 00:30:14.02 ID:5U9Obh6v0

「で、どうするの?」

 こなたはコンポ(コブラ)に肘をついて俺達に聞いてきた
この場合の俺達は、俺と柊と長門の三名が含まれる
長門も一度タオルを持つ手を止めて、柊と俺は目を見合わせる
このとき、この訓練を始めて初めて(なにやら変な一文になってしまったが)
お互いの意思が完全に繋がった気がした

 俺と柊は、少しそのまま見詰め合ってから
伝わったお互いの考え通りの行動を起こすために立ち上がり
左右対称にこなたに向かって指を突きつけて


「やっぱりこのままでいい、このままコンビを入れ替えるのはなんか負けた気がするから」

90 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 00:41:40.98 ID:5U9Obh6v0

 こなたはステレオで言われた台詞に
ニッと口の端をあげて、そういうと思った、と笑った

「柊、どうせやんなら踊りもユニゾンも完璧だ」
「あったりき、ツイスターゲームで100点とりまくりよ」

 柊と向かい合って拳を軽くぶつける
長門はそんな俺達を見ていたが、すぐに本を取り出してまた読書に入ってしまった
こころなしか満足げに見えるのは俺の目の錯覚だろうか?

「じゃあさ! 今日中に二人が100点取れなかったら今日はキョンちで晩飯ごちになるからな!」
「おっ、いいじゃん楽しくて。今夜は焼肉パーティでもするかい?」

 と突然無茶をいいだす日下部とそれに便乗するのがこなただった
焼肉はいいんだが臭いがつくのは嫌なんだが…

「じゃあお肉たくさん買ってこなくちゃね」
「いいんちょも混ざるだろ」
「…えっと、いいんですか?」
「おっけー、おっけー」
「お前が許可するな日下部」

91 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 00:49:29.14 ID:5U9Obh6v0

 わいわいとにわかに慌しくなる室内
長門だけは相変わらず本を読んでいるが
しかしあやのやみなみまで話に乗っかって本格的にパーティーをやる運びになってる
…この人数でやるなら明日は一日ファブリーズしなけりゃいかんだろ
俺は息をついて、勝手に話を進めてる連中を放ってツイスターゲームの電源を入れる

「まぁ適当にやりましょうか」
「そうだな」

 横に並ぶ柊と共に肩を軽く竦めて
しかし今夜は祭りの後の寂しさを感じずに居られそうだと
俺達はまた一から音楽と賑やかな声に合わせて訓練を始めた

93 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 00:59:38.49 ID:5U9Obh6v0

――

「まぁ心機一転がんばろうって言ったその日に満点取れるはず無いよねー」

 そういいながらこなたは国産牛を口に運ぶ
しばらくもぐもぐと咀嚼して、もってる箸を俺に突きつけて

「んにゃ、それでも点数はあがったし目に見えて変わった点もあるんだからそんなへこむ事無いんじゃない?」

 結局あれから2時間ぶっとうしでやったのだが
100点をとることはできずに終了、もはや満点とってもとらなくても焼肉はやることになっていたが
それじゃ罰はどうするかってことで、こなたが指名した
果てなく高い国産和牛を俺と柊の自腹で大量購入する羽目になった
こなた、柊、長門、日下部、あやの、みなみ、俺
計七人が満腹になる量の肉となればただでさえそれ相応の金額になるというのに

「ちくしょう、なにが100g980円だ馬鹿野郎」

 我が家のエンゲル係数はあがる一方です

「エンジェル係数?」
「俺とお前の二人暮しのこの家に子供は存在しない」
「…実は、最近アレがこないの」
「そもそもお前はまだ初潮が来てないんじゃないか?」
「死ね!」

 殴られた、こなただけじゃなくて柊にも殴られた

96 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 01:12:04.79 ID:5U9Obh6v0

「キョン君、デリカシーがないよ…」
「はっはっは! キョンさいこー!」

 どうやらさっきの発言は紳士じゃないらしい
どうにも思ったことをそのまま口にするのはいかんな…当然か

「って、あ! お前ら喰い過ぎだ!」

 いつの間にかずいぶんと減っている
俺はまだほとんど食ってないのに!

「あんた金あるでしょうが」
「お前もパイロットだろ! しかも俺よりずっと長期間!」
「戦闘報酬のことを考えなさいよ!」

 あぁ…、あぁ?
そういや最近口座いじってないな、最初に引き抜いた数百万でここ数ヶ月生活してるからな

「あんたね…」

98 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 01:29:40.07 ID:5U9Obh6v0

「確か二匹目の敵を倒したときが最後だな」

 二千万程度あったっけか

「その時点で十分金あるじゃないの」
「馬鹿野郎、一生というロングスパンで見るなら足りんぞ!
 老後に苦労するのはごめんだからな!」
「…あんたポジティブね」
「おうよ」

 あれから四回の出撃と二回敵を殲滅してるから…

「大体キョンの今の口座残高は6000万程度だよ」

 おや、存外結構あるもんだな

「…へ? いまのがキョンの全財産て訳?」
「おう」

 日下部がまわりを代表して俺に言う
柊とこなたと長門を除いた、まぁ一般人の三人には途方も無い額だからな

99 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 01:34:03.38 ID:5U9Obh6v0

「よしキョン! お前わたしを養え!」
「なぜ俺はこの年で扶養家族を持たなくちゃならない!」

 ただでさえ手間のかかる子供が既に一人居るというのにだ
俺は肉をかっくらう青髪少女を見つめる
こなため、気付いてるのかいないのか、がんがん喰ってやがる

「…なくなるまえにとりあえず食おう」

 金の有無の前に空腹感だ
腹が減って眠れないのは嫌過ぎる

「だったらもっとかいたしてくりゃいいじゃん!」
「俺は、金を手に入れたからって金銭感覚を無くす奴が大嫌いなんだよ」

 まったく、悪銭身につかずって言葉はその辺から来てる
大金を手に入れたからって調子に乗ればすぐなくなっちまうんだからよ

100 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 01:46:03.04 ID:5U9Obh6v0

「まぁ言いたいこともわかるけど、ケチと節約は違うわよ?」

「この人数に国産和牛を奢っといてケチ呼ばわりされるとは…」

 絶望した! 遠慮の欠片も無い友人に囲まれた自分に絶望した!

「ってか、お前ら肉しか食ってないけど米食えよ!
 炭水化物とれよ! 血管詰まるぞ!」

 こんだけ美味い肉なんだからご飯のどんぶり一杯程度どーんといけよ
日本人なんだからさ、欧米じゃないんだから肉のみはあかんてば

103 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 01:52:53.55 ID:5U9Obh6v0

――

 とかなんとかいいながらも、最終的には満腹な俺だったりする
賑やかで楽しくはあったがしかし次回以降なにか大人数でやる場合は
こういう不平等がでないようにしないといけないな
誰か鍋奉行を仕立て上げないと

「あぁ、もう九時じゃん」

 日下部がやったら牛になると言われる行動を平然と他人宅でやりながら
たまたま掛け時計が目に入ったのだろう、現在時刻を口にする
…しかしもうそんな時間か、女子高生が同じクラスの男子の家で遊んでる時間じゃないだろ
こいつらみんなして寛いでるけど、お前ら帰れよって話だ

110 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 02:06:12.13 ID:5U9Obh6v0

焼き鳥も焼肉も塩派の俺は
中学時代はおやじくさいと言われたことがある

米6:肉4ぐらいの割合
豚ロースを分厚く切って直接鉄串に指して火であぶるのが美味い
味付けは塩コショウのみ

175 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 13:20:15.68 ID:5U9Obh6v0

>>103
「今日キョンちにとまっていい〜」

「あぁいいじゃんいいじゃん、とまってけばー?」

「えぇ? でも私着替えもってきてないし」

「気にしない!」

「おいこなた! 勝手に話進めんな!」

「いいじゃねぇかよキョン、修学旅行ののりだぜ〜」

「だぜ〜」

「お前らキャラかぶってんだよ!」

177 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 13:24:52.58 ID:5U9Obh6v0

「岩崎さんも泊まってく?」

「えぇと…」

「いいんちょもとまっちゃえ!」

「焼肉も含めて流されに流されてるぞ俺…」

「…」

「長門は?」

「ここにいる」

「…あぁ! もう! 好きにしてくれ!」

178 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 13:33:03.11 ID:5U9Obh6v0

「ってことでキョンは部屋に戻っとけ!
 わたし達はここで雑魚寝すっから」

「酷い仕打ちだ…」

「一応みんな女の子だしね」

 男と女が一対一ならまだしも、ここまで勢力差があるとただただ辟易するだけである
まぁとにかく、とにかくである!
流れのままに流されて焼き肉パーティの次はパジャマパーティ(死語)だった
俺は一人自室で就寝、しかも布団は女子`S(複数形)に巻き上げられてしまった状態で

「この野郎、所によっては冬というものがいまだ存在する中この仕打ち…」

 俺は一人床に転がって涙を流した

244 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 23:21:42.56 ID:5U9Obh6v0

>>181は無いことで新しく>>178からで

―――

「ま、なんとかロボコンからロビンちゃんにはなれたな」
「あんたのその比喩っていうの? やめた方がいいわよ」

 六日目、明日にあの分裂野郎との二度目の戦闘を控えた今日
俺達は最後の通し練習を終え、居間の椅子に座って100点と言う表記と
その周りを装飾してる点滅するライトが眩しいツイスターゲームもどきを見ていた

「はぁ、しかし長かったな」
「そうね、心機一転始めてから三日目にしてやっと。
 明日に戦闘備えたギリギリのギリだものね」

 現在時刻9時前、戦闘直前の待機等を考えるとそろそろ体力的に寝ないといかん時間だ

248 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 23:47:23.82 ID:5U9Obh6v0

「お腹へった〜、なにか食べましょ」
「そうだな、なにか作るか」

 ”作る”と言う俺と”食べる”と言う柊
それだけでもうこの一週間の日常がよくわかるというものである

 しかしなんかさっぱりしたものを食いたいな
そうめんじゃ腹持ちが悪いしここは冷やし中華でもするか

「柊、冷蔵庫に卵とハムはあるか?」
「え? ちょっと待ってて。 え〜と…、卵はあるわね、ハムはこの間使い切ったんじゃなかった?」

 ごそごそと冷蔵庫に近寄って扉を開け、中を探る柊
俺のほうが若干近いがことが料理関係になると
柊は役に立たないので比較的俺の言うとおりに動いてくれる

「あぁ、炒飯に使ったんだったな。卵はいくつある? あとキュウリは?」
「四つあるわね、きゅうりはあるわ。三本」
「じゃあハムと麺を買ってくれば問題ないな」

253 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/16(月) 00:08:15.38 ID:CBrbc5jt0

「冷やし中華でもやるの?」

 俺が聞いた材料からしっかり今日の夕飯を把握した様子の柊
料理は作るほうの知識は無いくせに…食い意地がはってるのかなんなのか

「スーパー閉店までもギリギリね」
「まぁ飛ばせば間に合うだろ」

 ヘルメットを掴んで食器棚の横にかけてある鍵を取って玄関へ
本当に急がないといかんと思っていると柊が

「私が行って来るわよ」

 そういって俺のヘルメットをふんだくる

「なんだ? 免許持ってるのか?」
「原付だけだけどね、でも自分のバイクくらい持ってるわよ」

 初耳だった、買い物は一気に済ませる俺としては
いつも買い物はこなたの車か自分で行ってたからな
柊と暮らし始めてからの6日間は特に柊に買い物を任せられないという事実も手伝って
そういえば全然こいつと家を同時にでたことはなかったか

254 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/16(月) 00:19:11.14 ID:CBrbc5jt0

「どんなん?」
「マグナ50」

 普通にスクーターとかじゃ無かった
どうやら柊はずいぶんといい趣味をしてるようだ
…嫌味ではなく

「行ってきまー」
「らっしゃ、…場所わかるよな?」

 俺のメットを担いで玄関をでる柊に
ふと疑問を感じて質問する、だから買い物は俺が一人で行ってるんだって

「…えっと?」
「あぁ、………俺が行く」

257 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/16(月) 00:30:29.99 ID:CBrbc5jt0

「大丈夫大丈夫!」
「残念だが地理に関しては根性論や精神論は適応されないぞ」

 あと、人のヘルメットを振り回さないように
几帳面や潔癖じゃないが、だがそれはものを大事にしないのとイコールではないぞ

「だいじょぶだって! あれっしょ、こなたとここに来た時に通ったスーパー!」
「そうだが、少し道を間違えてるうちに閉まっちまうなんてことないだろうな」

 この言い合いの時間も果てしなく無駄な時間である
普通に俺が行けばよかったじゃないかよ

「いいから! 買い物は私に任せてあんたは今ある材料でできることやっといて!」

 バシュと閉まるドア、ご注意くださいだコラ

「まったく…、卵を焼いてキュウリを切ったら実は麺変えませんでしたにならんでくれよ?」

 意地っ張りというか頑固というか、一種考えなしとも取れる行動に呆れながら
俺は閉まったドアにため息をついて台所に引き返した

…あと事故もしないでくれよ?

268 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/16(月) 01:12:09.02 ID:CBrbc5jt0

「まぁ仕方ない、とりあえずはやることやるか」

 これ以上遅くなると作るのも面倒になるしな
柊も俺に買出しも調理も任せるのが少しだけ悪く思っての行動だろう
ならば少なくとも俺は口出しをしないほうがいい
今日はあいつに任せて自分のことをやろう

「とりあえず卵ときゅうりな」

 俺は卵を4つあるだけ取り出してすすいだボールに全部割りいれる

「おっ」

 その一つが双子の卵だった、一つ一つは小さいけどお得な気分だった
で、それを菜ばしで黄身と白身をかき混ぜ、油の引いたフライパンに薄く広げる
厚いところのないようにフライパンを傾けて前面に薄く薄くとゆっくりとのばしてく
卵は弱火でやらないとすぐ焦げるからな

 あとはきゅうりのへたを切り落として
まずは三本全部を斜め切りをして、さらにそれを縦に細く切っていく

273 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/16(月) 01:30:31.26 ID:CBrbc5jt0

 切ったキュウリをざるに入れて水にさらす
その間にまたフライパンに戻りまな板に上に薄く焼いた卵を
そっと破れないように箸で移動させ、また油を少し引いて二枚目を焼く
あとは二枚目が焼けてから卵を金糸卵のより少し太い程度に切ればこの二つはオーケー

「あとはハムと麺がくるのを待たなくちゃいかんな」

 時間的にそろそろ帰ってきてもいいんじゃないかと思うんだが
…そういえばかがみは冷やし中華のごまと醤油をどっち買ってくるだろうか?
俺は胡麻派なんだが、醤油を買ってこられたらちょっとショックがでかい
食べないわけじゃないが食べたいものと中途半端に違うものを食べるのは
逆に嫌な感じだ、どうせなら全然違うものの方が諦めがつく

「カレー食べようとしたら、あっ、福神漬けが無い! …まぁ仕方ないか。見たいな」

 少しだけローテンションになる、俺は福神漬け使わないけどな
ついでに福神漬けとは、そのまま七種類のものが材料として使われてるから
七福神から福神漬けらしい、豆知識

352 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/16(月) 15:27:45.67 ID:CBrbc5jt0

>>273
「ただいま〜」

 どっちになるか俺が本格的に悩む前に柊が帰ってきた
ナイスタイミングとこれはいえるのだろうか?
もうちょい早く帰ってきてくれれば疑問を浮かべることも無くだな…
いや、そのパターンで醤油だったら余計にえ〜ってなるな

「やぁ柊、丁度良かった聞きたいことがあってだな。
 いやまったく些細なことなんだが冷やし中華の味はなにかな?」

 俺は不自然にならないように玄関から入ってきた柊に
さりげなく胡麻か醤油かを聞く、あくまでもさりげなく

「え? 私醤油好きだから―

 ちょっと待て、それはバットエンドルートだ、誰も幸せにならない選択だ

 ―両方買ってきたわよ」

「やっふぅ!」

 ナイス柊! 今度から柊に買い物を任せても大丈夫だと俺は判断した

355 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/16(月) 15:47:42.82 ID:CBrbc5jt0

「は、はぁ? どうしたのあんた?」
「いや、俺はいたって普通だが」

 むしろ好調ですらある、校長絶好調
俺は柊からマイヘルメットと買い物袋を受け取り
メットは所定の位置に、そして袋の中からハムと冷やし中華の麺…

「三人前×2だと……?」

 ごまと書かれた奴と醤油の奴、が一つずつ
これはいい、だがしかしその一つが三人前とはこれいかに
計六人前ではないか

「両方の味を買おうとしたらこういうことになりました」
「明日も冷やし中華をしろって…そういいたいのか!?」

 いくらなんでも三人前は多いだろ
二人前は余裕だが三人前は無理だ、普通に

356 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/16(月) 15:56:52.72 ID:CBrbc5jt0

「…まぁいいか、とりあえず内二つは冷蔵庫に入れといて四つだけ茹でるか」

 残ったのは明日戻ってくるこなたにでも食わせてやればいい
もう本当に時間が無いんだからな、遅くなりすぎだ

「そういやちゃんとスーパーについたんだな?」

 すっかり忘却してたが、目的地に着かないという可能性が
今回かなりの割合をしめていたのだ

「なんとかなったわ―」

 こなたにここへ連れてこられた時の一回見ただけの場所に
しっかり制限時間内に到着できるということは、実は記憶力がいいのだろう

「―勘でね!」
「やっぱりダメだ!」
「なによ!? しっかり役目は果たしたわよ!」
「お前もういいよ! 勘でドイツに帰れよ!」

361 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/16(月) 16:38:57.28 ID:CBrbc5jt0

―――

「二人とも準備はいい?」
「おっけ」
「大丈夫よ」

 紅と紫の二体のエヴァそのプラグ内で作戦実行を待つ俺と柊
両機はカタパルトにセットされて街に再進行している敵が
規定の位置にまでやってくるまでの数分の会話

「二人とも、少し眠そうだけど…昨夜はお楽しみでしたか?」

 色々あった昨夜、俺は結局ほとんど寝ることができなかった訳で
それに目聡く気付いたこなたはニヤニヤと下卑た笑みを浮かべ
オヤジのようなことを言う

「…さぁな」
「んなわけないでしょ?」
「二人とも乗り悪いな〜」

 戦闘前にノリノリの方が嫌だろうが
そんな奴に世界は任せたくない

362 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/16(月) 16:44:29.28 ID:CBrbc5jt0

「…世界ね」

 ふと自分の独白に平然と混ざった責任に自嘲交じりの表情になる
俺は、平常で平静で平穏で平和で、安定で安穏で安静で安全な

総じて”平安”なそんな毎日があればそれでいいのに
不特定多数の全地球人の命なんて…正直どうでもいいってのに
なんで俺は自分の命を懸けて戦ってるんだろうか

「きたよ」

 一気に引き締められた思考
こなたがいうのと同時にプラグ内にいつもの第三の地図
そして敵の現在地が描かれている

「んじゃ、さくっと行くか柊」
「そうね、62秒の間にね。キョン」
「ん?」

 キョン、こいつが俺のことをそう呼んだのはそういえばこれが初めてだった

365 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/16(月) 16:55:42.48 ID:CBrbc5jt0

「ミュージックスタート」

 カタパルトが射出され上部に向かってエヴァ二機が高速で打ち上げられる
普段されてる肩部の拘束が無く地上に出ると同時に慣性でそのまま上空へ飛ぶ
そしてスピーカーからもはや耳にタコの音楽が流れる
同時に柊の思考が聞こえる気がした、次にどんな行動を取るかがわかる
相互リンク状態の意識

 眼下に存在する二体の倒すべき敵
俺達はその二体の敵と一定の距離を持ち左右対称に着地する
そして武器庫から同時にライフルを取り出し俺は左の柊は右の一体に射撃を開始する
腕、脚、頭部、胴体、紅球、着弾地点までもが揃った攻撃に
神人は果たしてこちらの狙いに合わせるように、左右対称に飛び上がる

 俺と柊は後転からバク転に繋ぎ更に敵から距離をとる
敵は一瞬前まで俺達が居た地点を切り裂いて動きを止め
俺達と対峙する

366 名前:初→   ←敵1 敵2→   ←弐 [] 投稿日:2008/06/16(月) 17:03:09.00 ID:CBrbc5jt0

 そして予定通りの形になったこの陣形
俺と柊が遠距離で向き合い、その間に二体の神人が
背中合わせに俺達と向かう、四体の巨人が一列に並ぶ

 そしてその中心を線対称に俺達は動き出す
ライフルを捨て、目の前の敵に走り向かい
俺は右手で弐号機は左手でプログナイフを構える
敵は俺達がシンメトリーに動くさまを見て同じく完璧なリズムで動きをあわせる

 腕で俺達のナイフを払い腹部に体当たりをかまされ
俺たちは後ろに宙返りしナイフを投擲し再度距離を詰める

 行くぞ柊!
 わかってる!


 声が無くともそう意思疎通が行えたと思った
そして攻撃、接近し敵に回し蹴りをして吹き飛ばす
続いて掌底を食らわして宙に浮かす

367 名前:地面 弐→←敵2敵1→←初 空[] 投稿日:2008/06/16(月) 17:12:48.11 ID:CBrbc5jt0

 空中で跳ね上がった二体の敵が背中同士をぶつけて動きを止める
弐号機が上げた腹部を下に向けた状態の緑の敵とその背中に乗るように重なる
もう一体の赤い色の敵、今度は動きが同じでも上下での同動作
一体がうつぶせになりその背中に仰向けになるもう一体

 そして音楽のクライマックス、敵の更に上空に飛ぶ初号機で跳躍し弐号機と完全に動きを合わせる
弐号機は少し足を浮かして頭よりさらに高く脚を上げて紅球を
俺はその動きを上下逆に地に頭を向けて脚を振り”降ろす”して紅球を

 音楽の終了と同時につま先で打ち砕いてやった

372 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/16(月) 17:27:55.63 ID:CBrbc5jt0

 ガラス球が砕けるような軽く繊細な音が聞こえた気がする
そして閃光、白く染まる視界、爆発
逆さまに空中に居た俺はその間も真っ白な世界を自由落下し
地面についた小さな衝撃を感じた
…こんなに小さいものか? と疑問感じたのも束の間

「これで貸しは一つ返したわよ」

 開けてきた視界にはすぐ近くに弐号機の顔があり
柊の少し得意げな声が聞こえた

「…さんくー」

 どうやら俺は弐号機に抱えられる形で受け止めてもらったらしく
少し以上に気恥ずかしい状況で俺は、いつだったかこなたに使った
ふざけた感じの礼で返すことにした

388 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/16(月) 18:37:58.73 ID:CBrbc5jt0

>>372

「おかえりー」

 例によってびしょぬれの前髪を払いながら
いい加減痛みも感じず違和感と嫌悪感程度で
肺からLCLを吐き出せるようになった自分に色々思ってるとこなたがケイジに現れて
拍手を叩きながら景気よく話しかけてきた

「おう」
「まぁ予定調和って感じよね」

 それに対し俺達の対応は結構冷ややかだった
そんなことより早くシャワーを浴びさせてくれってのがあるからな
この状態で乾くのだけは確実に避けたいものだ

391 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/16(月) 18:55:08.84 ID:CBrbc5jt0

「うにゃにゃ、最後の決めのシーンのブイがあるけど
 あれは凄いね、映画のアクションを超えるね!」

 なにがやりたいのか、非常に楽しげにまくしてくる
音楽にあわせてアクロバティックな戦闘をしたのがそんなにお気に召したのだろうか?

「まぁCGじゃねぇからな」

「流石にただの映画には負けたくないわよね」

 こっちは命をまるまま、そのままの意味で懸けてるのだ
俺は映画に命を懸けてる! と熱血な監督が言ったところで
映画を取れなかったら実際に死ぬようなわけではないだろう
映画を取れないと死ぬとかどんな珍病だよ…

393 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/16(月) 19:22:49.96 ID:CBrbc5jt0

「いんやー、凄かったよ!
 本当に映画だよ、マトリックス見たいな感じだけどスケールが違うよね!
 でかいでかい! で最後も完全に決まったわけじゃなくて
 こう仲間の絆見たいのが見えたあたりいいよねぇ」

 大声で先ほどの戦闘を語り続けるこなた
最後のあたりは特に聞きたくない
格好がつかなくてしょうがない

「あと借りは一つよね?」

「あぁそうだな、もう俺は先にシャワー浴びてくるからな?」

 もう本当に適当に言い切ってその場を去ろうとする俺
まったくどいつもこいつも…

「当然のように戦闘は録画してあるけど見る?」

「…あぁ」

 まったくどいつもこいつも俺も…

398 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/16(月) 20:12:38.74 ID:CBrbc5jt0

マグマダイバーの予定を繰り下げて

急遽番外編をやりたいと思います

404 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/16(月) 20:31:06.05 ID:CBrbc5jt0

番外編 No.1

チルドレンのOne Day

「…いや、普通に一日でいいんじゃないか?」

「それだと格好がつかないじゃん〜」

「まぁ私はなんだっていいけどね」

「……」

「長門もなんか言ったらどうだ?」

「そう…」

405 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/16(月) 20:43:34.60 ID:CBrbc5jt0

 土曜日曜祝日、これらが共通してイコールで結ばれるものはなにか?
それは学校が無い、つまりは世間一般に休日だということだ
土曜日に関しては中途半端な感覚もあるが
しかしまぁ今回は学校が休みかどうかだけが問題なので無視する

「で、そして今日はその休日に分類される日曜日」

 一般普遍な学生ならばみながみな喜んで家で寛いだり
外出して友人と遊んだりと青春を謳歌する休日

 しかし俺は一男子高校生でありながら第三新東京に来て以降
休日を休日としてのんびり過ごしたことなど皆無に近かった

407 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/16(月) 21:05:55.40 ID:CBrbc5jt0

 それはなぜか?
学校が休みの時にここぞとばかりに多種多様な訓練が丸一日詰められるからだ

「きっつ…」

 朝は8時から12時まで基礎体力増強のトレーニング
昼になり1時までは昼食を食って少し休憩して
シミュレーション訓練、シンクロやハーモニクスの計測
インダクションモードでの射撃訓練等を夕方までこなす
そして大体5時から7時くらいまでは直接の白兵戦闘訓練

 現在は基礎体力トレーニング中なのだが
しかしこれが一番キツかったりする

409 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/16(月) 21:12:30.04 ID:CBrbc5jt0

「はぁ…はぁ…」

 水着姿で仰向けになり荒く息をつく俺
視界に映るのは無機質な室内プールの天井と蛍光灯
そして聞こえるのはクロールで水を掻き分け飛沫が飛ぶ音

「……はぁ……ふぅ」

 身体を鍛えるといってもべつにマッチョな筋肉質にするわけじゃない
ただ全身の筋肉をバランスよく鍛え上げて
ある程度の格闘が出来る程度の体力、また敵の攻撃を耐える耐久力
それらをつけるためのものに過ぎない
そして全身運動といえば水泳ということで

「泳ぎは苦手科目の一つだぜ…」

 ようやっと起き上がり全身を倦怠感につつまれながら
50メートルの広いプールを、競うように泳ぐ柊と長門を眺める

「ようやるよ、本当」

411 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/16(月) 21:22:45.17 ID:CBrbc5jt0

 片や力強く前に進む感じ
片や無駄な力を抜いてスッと前に進む感じ

 どちらがどちらかなんて説明する必要あるか?

 ほぼ同時に端についてその場でターンしてさらに反対へ泳ぎ始める
今度はバタフライだった、平泳ぎに背泳ぎに
一往復するたびに泳ぎを変えての四往復、一人メドレーだった
順番がややおかしめではあるが

 俺は立ち上がり二人を背にしてその場から離れて
ボトルに入れてきたスポーツドリンクを飲む
一日の訓練では2リットルでは足りないくらい飲んだりする

「これを毎日ってんだからな」

 白兵戦闘訓練、シンクロ訓練は休日に詰め込まれるが
体力をつけるトレーニングは毎日やらなければ意味がないと言うことで
この数時間の水泳は時間を少し短くして夕方から最近は毎日やっている

414 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/16(月) 21:29:22.40 ID:CBrbc5jt0

 少し塩分を感じるようなスポーツ飲料で喉を潤して
もう一泳ぎといった所でばしゃっと二人が水から上がった音が聞こえる

「あぁ、もう! ファーストってなんでそんなに早いわけ!?」
「…知らない」

 また柊が負けたらしく、ぶつくさと文句を垂れる柊と
それに対応してると言っていいのか悩むような返事を返す長門

「まぁ、そんなに気にするなよ柊」

 柊と長門にそれぞれのボトルを放り投げて険悪になるまえに中断させる
中間管理職じゃねぇんだからもっとその辺の対人関係は個人で調節してもらいたいとも思う

「ってかあんたよキョン! あんたが一番異常なのよ!」

 柊は俺を指差して怒鳴り、長門は受け取ったボトルを両手で掴みながら飲む
ってか唾を飛ばすな馬鹿が

415 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/16(月) 21:37:42.76 ID:CBrbc5jt0

 ついでに、補足になるかわからないが一応
長門は薄い水色のワンピースタイプのAライン水着を着用
対して柊はツーピースのセパレーツ水着を使用、こちらも薄い感じの赤に近い桃色

「で、俺のなにが異常だって?」

 柊は俺に指を向けたままの体制で続ける

「なんであんたはそんなに早いのかって聞いてんのよ!
 私達が一往復残ってるのに」

 …まぁ、あれだ
冒頭の文章だと俺が単にサボってると思われてたかも知れんが
真相はそういうことだった、柊と長門と同時に俺も始めて
同じように四パターンの泳ぎで往復を行って一人先にプールサイドに上がって倒れてたわけだが

「私達が遅いってわけじゃないのよ、あんたが異常に早いのよ
 なにあんた、オリンピックでる?」

「いや、そんなわけがないだろ…。長門もなんか言ってやってくれよ」

「…あなたと同年齢同身長同体重の水泳の日本記録タイムを上回ったタイム、異常といわざるを得ない」

418 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/16(月) 21:41:54.97 ID:CBrbc5jt0

「…いやぁ」

 なんと長門にも比較的長い文章で言われてしまった

「あんたほんと毎回思うけどよくそれで苦手だなんていえるわね」

「いや、本当に水泳は嫌いなんだよ」

 ただ嫌いで嫌いで、早く終わらせようとしたら
本当に早くなっただけで、あぁ、好き物こその上手なれってのは案外嘘だな

「私運動系は自信あったのにね…」
「いや、柊は早いよ本当」
「喧嘩売ってる?」

 上の人間が下を褒めると嫌味になる
自分が上と思うほど傲慢ではないがしかしどうにもやりにくかった
本音が言えないってなんだよ

420 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/16(月) 21:54:53.19 ID:CBrbc5jt0

 ビーッと終了の合図がスピーカーからなる昼食の時間である
俺達は顔を見合わせてから三々五々シャワー室に向かって身体を流し
塩素にやられた目を洗ってから更衣室で着替えて食堂に向かう

 プールはケイジの近くにあり
食堂は本部の中心、フロア4の中央ブロックにある
俺達は付近のエレベーターを使って上の階層に向かうんだが

「あのっ! 待ってくださいぃ」

 と舌っ足らずな声が聞こえて閉まりかけた扉をボタンを押して開きなおす
するとすぐに三人の人物がエレベーターに乗り込んでくる

「助かったよキョン」

 厚い書類を持ってため息をつく女性のかわりに
後ろに居た一人が俺に礼を言ってくる

「気にすんな国木田」

423 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/16(月) 22:00:44.47 ID:CBrbc5jt0

「朝比奈さんも大丈夫ですか?」

 書類を両腕で抱えるように持つ彼女も国木田も
そしてあともう一人もみんな十代半ばを過ぎた程度


 いつだったかその平均年齢18歳という組織の体系に
ついてこなたと議論を交わしたことがあったが
そのときこなたが言ったのは組織としての纏まりを優先した形だということだった

 つまり、実力があり経験豊富な人間を入れれば
当然そういった人間は重要なポストに置かれる
そうすれば必然的にその人間の組織での発言力はかなり大きくなる
ハルヒはそういった組織の二分化を避けたというのだ

 トップよりも発言権を持った人間は居てはならない
だから同年代の人間を集めて一どころか零から組織を立ち上げた
三年間一つのことを毎日訓練していけばどんなジャンルのものでもそれなりに出来るようにはなるし
ハルヒは実力よりもまず組織が一枚岩になることを選んだのだった

427 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/16(月) 22:09:44.71 ID:CBrbc5jt0

「はい、大丈夫です。わざわざすいませんキョン君」

 調子を戻した朝比奈さんが頭を下げ
俺は気にしてないと手を軽く振って答える
それよりも気にしなくてはならないのが最後の一人の少女だった

「…ようパティ」
「ひさびだねキョン先輩!」

 短い金髪と蒼い目をした少女はルーズリーフをわきに抱えて
片側の空いた腕を俺の首に絡めてくる

「やめてくれないかパティ」
「ノンノン、エレベーター狭いからこうやってくっつくのは間違いじゃないよキョン」

 定員は13人だ、半分に満たない人間で手狭さを感じるときは
きっと全員が関取に違いないだろう

「んふ〜、キョンは最近ワタシに愛に来てくれなくてとても寂しかったよ〜」

 会いにの間違いだと訂正していいのか迷うほどあからさまな間違いだ

「間違いじゃないヨ! ワタシとキョンは愛しあってるんだから」
「いい加減にしてくれパティ…」

434 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/16(月) 22:30:38.39 ID:CBrbc5jt0

「ははっ、キョンはもてもてだね」
「笑えねぇよ国木田」

 そんな誤解で他人から恨みなんか買いたくないぜ俺は

「でお前らはどこに行くんだ?」
「食堂だヨ、キョン先輩達も訓練の休憩でそろそろだろうと思って」

 ってことはここで遭遇するのは狙ってのことかよ
仕組まれてたってことか

「はいはい、もういいからみんなで食堂行きましょ」
「そうだね」

 他人のことと半分以上どうでもいいっていう雰囲気がでてる
柊と国木田はそういってもはや諦観しつつある
長門は元より関係ないと割り切ってるし朝比奈さんは完全に戦力外だった

「ったく、パティくっついたままだと降りれないし危ないから離れてくれ」
「代わりに明日放課後デートしてくれるならいいヨ」
「わかったからよ…」

435 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/16(月) 22:42:49.49 ID:CBrbc5jt0

 今の会話や呼び方からわかるようにパティは俺の後輩になる
つまりは第壱高校の一年なわけで16歳という色々と真っ盛りな年齢である

…しかし今で16歳だから若輩といわれようと
国木田と朝比奈さんと三人で俺達のEVAの起動の進行や敵の観測とう
本部の指揮系統ではこなたや喜緑さんのすぐしたにつく
重要な場所のオペレーターをやっているのだが

 三年前、パティはたったの13歳
その年齢の彼女は一体なにを思いなんのためにここに居たのだろうか?
俺にはわからないが、それでも彼女の今のような無垢な表情を見ると
どうしても邪険には扱えないものがある

 いや、それは誰に対しても同じなのだが
しかし俺よりも年下というファクターがそうさせるのか
パティには余計につい構ってしまうのだ

 まぁそしてこんな風に今度は逆にアプローチを受けてるわけではあるが…

437 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/16(月) 22:55:05.93 ID:CBrbc5jt0

「さて、食事だ」

 一日訓練を受ける休日には欠かせないエネルギーチャージだ
ガソリンを入れなければどんな優秀なマシンも走らない
まずはここから全てが始まるといっても過言ではない

「えっとぅ…私はA定食で」
「僕はB定」

 本日の日替わり
A定食は焼き魚と味噌汁にほうれん草の胡麻和えとかぶとキュウリの漬物で
和食のフルコースといっても過言ではない、780円とリーズナブル
B定食は生姜焼きと豚汁でご飯は大盛り
がっつり食べたい男性向け、同じく780円

「パティは?」
「ワタシはキョンと同じの!」
「…」

 どうしよう、適当にカツ丼にでもしようかと思ったが
しかしパティが同じのを食べると多少悩まざるを得ない
10代の女の子が食べる昼食として適していて俺も満腹になれるもの…
時期的にうなぎはどうだろうか? いやいや、それもどうかと思うなどんぶりものは今日は却下だ

「私はカレー」
「塩とんこつラーメン大盛り」

 …そんなに悩むこと無いかもしれないと二人を見て思い直した俺は
とりあえず普通にB定食にした

510 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/17(火) 14:46:50.30 ID:SUERJV3G0

>>437

「生姜焼き一枚頂戴」
「贈呈じゃなくて交換だったら考えないでもない」

 六人掛けのテーブルに座り談笑しながらの昼食
ここの食堂は流石に結構広く、学校の体育館よりも広い気がする
色々と食券機だとか椅子や机があるので、それらを全てどかせばもっと広く感じるだろう
あぁ、天井は普通の階層と同じで体育館のように高くは無い


 席順!
基本的な六人掛けとして三人と三人が向かい合う形である
応用編として二人×二人のさらに短い辺の部分に一人ずつってのもあるがな
で、俺はその片方の真中
正面に柊が居て右にパティ左に国木田が居る、長門と朝比奈さんは柊の左右(俺から見て)である

「でもカレーと生姜焼きって交換しにくいわよ」
「明らかに枚数決まってるのとそうでないのの差だな」

 ステーキとサイコロステーキみたいな
…わからんか

513 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/17(火) 14:57:23.39 ID:SUERJV3G0

「ま、あれよ。好きに取ればいいじゃない、丁度いい程度に」

 そういって柊は生姜焼きをすばやく一枚持っていってカレーライスのライスの部分に乗せ
その皿をこっちに寄せてきた

 ここで俺はつりあいの取れる方法として生姜焼きをとりかえすという
行動をとってもいいわけだ、完全に損得無し、これだ
だがそうすると場の空気というものが壊れる、え?なにこいつ…、と思われたらたまらん
ということでカレーを適度にいただこうと思うのだが…

「貴様は箸でカレーを掴めというのか? 和洋折衷にしても無理があるな!」
「あぁ、そういえばそうね…」

 柊は一度皿を手元に戻し、嫌な笑いをしている
含み笑いを堪え切れずに口の端が上がってるのがバット
で、柊は何をするのかと思いきやカレーをスプーンで自ら掬って

「はい、あーん」
「なっ!?」

 悪魔的な行動を取りやがった!
こいつは俺の身の破滅を招くハルマゲドン(災悪)だっぜ
ここで一口俺がその誘いに乗ればたちまち俺の立場は転落し
友人達の目の前でバカップル的行動を取った奴として広まってしまう
だが、じゃあいいよ、ってすると柊は一人で得した上に俺をからかってご満悦になってしまう

514 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/17(火) 15:11:08.70 ID:SUERJV3G0

「…あぁ」

 俺は結局、柊からスプーンを受け取って
自分で食ってスプーンを返した
これによって先ほど懸念した二つの危険性は消えた
これでいいんだ、これで

「キョンはチキンだね」
「…なんとでもいえ」

 国木田は顔は温和だが口は周りのことが一歩引いて言わないことも普通に言う奴だ
基本的に自分の思ったことは言うっていうスタンス
いや、まぁ自分でもわかってるけどさ!

「いいんだこれで、世界は丸くていいじゃないか」
「ま、私はなんだっていいんだけどね」
「キョン先輩! ワタシもあーんってしてもいい?」

 今度はお前かパティ、精神の磨耗が激しくて前が見えないよ俺は
だがしかし

「お前と俺のは同じのだが?」
「オウ! こんなことなら別々にしとけばよかったネ!」

 同意を求められても困る

515 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/17(火) 15:26:58.82 ID:SUERJV3G0

「…ごちそうさま」

 そんなこんなをしてる内に長門は一人ラーメンを完食
結構な量があったのにさくっと食べちまったよ

「おら、お前もさっさと食べろ」

 休憩の時間が終わったら食い終わって無くても訓練だ
長い間ずっとプラグに座ってLCLに浸かって無くてはいけないんだからな
いまのうちに食いだめしとかんといかんのだ

「そうだね、僕らもそろそろ第二会議室にいかないといけないんだ」
「お前らも大変だな」
「キョン達パイロットほどじゃないよ」

516 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/17(火) 15:48:58.04 ID:SUERJV3G0

――
「ん、五分の遅刻だねぇ」

 第三実験室、分厚い強化ガラスの向こうに液体に浸かる三本の計測用プラグ
俺達はプラグスーツに着替えてその場にいたわけで

「もういいから早く乗ってくれる?」

 笑顔の素敵な喜緑さんは本当に怖かった
俺達は本気で慌ててプラグに乗りエントリーを開始した
足元から這い上がってくるLCLに自然に息を吐き肺に入れる事にも慣れて
全身が常に液体の中にあると言う環境にも慣れてしまった

「はい、じゃあ全員集中してね」

 こなたの軽い声に合わせてプラグ内部の壁面が外界を映すようになり
シンクロ率、ハーモニクス、A10神経接続、等の計測が始まる

518 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/17(火) 16:30:12.81 ID:SUERJV3G0

 ガラスの向こうで慌しく機械をいじる人達
その中にはさっき食事をした三人も含まれている
というかあの三人が居なければ喜緑さんを除いた
ほとんどの人間に本部のスパコンは扱えない

「キョン君とかがみはまだいけるわね」

 スピーカー越しに小さく声が聞こえて
ぐっと全身にかかる圧力が増えたような錯覚が起こる
いや、錯覚ではなく現に息苦しさを多少覚える

「プラグ深度もう10下げて」

 歯を無意識に食いしばる
目が内側から押されるような圧迫感
全身に射出されるときとは種類の違う圧力
毎度ながら気分が悪くなる計測だ

519 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/17(火) 16:33:09.13 ID:SUERJV3G0

「……」
「………」
「…」

 ぶつぶつとスピーカーの向こうで話している声が聞こえるものの
しかしそれの意味を辿るほどに俺は余裕が無かった
そのまま数分、数十分と計測は続けられ

「上がっていいわよ」

 その声が聞こえたときようやく張っていた気がほぐれ
同時に身体にかかってる圧力が消え去り
ノーマルな状態に戻った

520 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/17(火) 16:54:44.02 ID:SUERJV3G0

「指がふやけるわよねこれ」

 両手をかざしながらぶつぶつと文句をこさえる柊
プラグから降りて実験室のケイジに上がると大抵柊はなんかしら文句を言っている

「まぁ、これに関しては諦めるしかないな」
「あぁもう、嫌だ嫌だ」
「…」

 俺は、長門が文句を言ってるのを見たことが無いな
でも言わないのと思わないのはやはり違うし、どうなんだろうかそこんとこ

「なぁ長門」
「なに?」

 俺達の一歩先を歩く長門を呼び止めて実際に聞いてみる
案ずるより生むが安しというからな

「お前は気にしないのか、そういうの?」
「…指が気持ち悪い」

 よくみるとまっすぐ下に伸ばした手を小刻みに動かして指をいじっている

「そうか、だよな」
「なにそれ、私の時と対応がずいぶん違うけど?」
「仕方ないだろ、お前の文句とかに一々付き合ってたら日が暮れる」

521 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/17(火) 16:59:56.96 ID:SUERJV3G0

「どういうことよそれ!?」
「言のままだ、つっかかってくるなよ。とっとと戻らないとなんか言われるぞ」

 俺はまだなにか言おうとする柊を無視し
長門に続いて実験室に戻るエレベータに乗り込んだ

「早くしないと扉閉まるぞー」
「閉めたら殺す」

 凶暴な女だった
日本には言霊というものがあると教えてやらねばならんらしい

「ったく、あんたって底意地悪いわよね」

「お前は表面から底まで完全に真っ黒だがな」

「あんた本当喧嘩売ってんでしょ?」

「売るなんてとんでもない、無料贈呈だ」

「のしつけて返すわよ」

523 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/17(火) 17:45:35.29 ID:SUERJV3G0

「はいはい、三人ともこっちきて」

 エレベータから降りると同時にこなたが手招きをして
俺達をよびつけ、それぞれの計測結果のデータを通知表のように
一枚ずつ渡していく

「シンクロ率72%のハーモニクス69」
「私は78%の72」

 極秘とかトップシークレットとか書いてあるにも関わらず
平然ともらった直後に数値を言い合う俺と柊
やはり通知表のノリである

「まだ抜けないか…」
「あたりまえでしょ、ってかそれでもあんたの伸び具合異常よ」

524 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/17(火) 17:55:32.49 ID:SUERJV3G0

「ま、この辺から壁にぶつかるっぽいけどね
 過去の例が少なすぎてなんともいえないけどさ」

 とこなた、まぁたった三人の結果じゃなんともいえないのは事実だろうが
それでも耳を傾けておくべきだろう

「ってことは柊もその辺の壁越えちゃった系?」
「なにその喋り方? …でもまぁそうね、70前後から一気に動かなくなったわね」

 長門はどうなのだろうか?
ってかさっきから俺長門のことばっかだな、自分から話してくれないから仕方ないが
とりあえず長門に聞いてみた

「…ダメ」

 見せてくれなかった

532 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/17(火) 18:28:23.75 ID:SUERJV3G0

「もういいから、少し休憩して格闘戦闘訓練を一時間位こなしたら今日はあがりだよん」
「了解、だがなんだずいぶんと巻いてるな」

 巻く、業界用語での短縮するとかの意味だったか

「ん、ちょいと近くの浅間山にね。緊急の呼び出しがあってね〜
 いや、来週の予定なんだけどさ」

「それに、あなたたちも修学旅行が近いでしょう?
 休みの日が全部訓練じゃ準備もできないでしょうと思ってね」

 修学旅行、そういえばそんなものもあったな
みなみが迫るその日に興奮するクラスの連中を静めるのに苦労していたのを覚えてる
そういやすっかり忘れててなにも支度してないな
色々と持ってくものもあるだろうて

536 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/17(火) 18:35:14.33 ID:SUERJV3G0

「ということで、普段がんばってる君達のために明日から
 ちょいとロングな休暇をだしてあげようと思ってね」

「もちろん、有事の際には呼びだされるけれどね」

 しかし驚いた、まさか修学旅行に行っていいといわれるとは
正直思ってなかったのだ、柊とも修学旅行の行き先が沖縄に決まったときに
確か一度話したことがあったが、多分そんな遠くに行った時に敵が攻めてきたら
対応できないだろうから、どうせ戦闘待機かなんかになるだろうと高をくくっていた

「これは、正直嬉しいな」
「あんたね…嬉しいなら嬉しそうにしなさいよ」

 してるんだけどな・・・

537 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/17(火) 18:48:45.01 ID:SUERJV3G0

「まぁとりあえず、新しい服とか水着でも買おうかな」
「そうかい」

 水着はさっきのでいいんじゃないか、とかは言わない
女ってのはどうにもイベントごとに新しいのを買わないといけない性質らしい
下手にそういうこというと無駄に、わかってない! 見たいな事を言われた挙句に
最終的に俺が悪いとされて謝らされかねない
悪くないのに謝るなんて絶対嫌だ

「ファーストも付き合いなさいよ、あんたもうちょっと服装に気を使ったほうがいいわよ」
「…」
「わかった!?」
「わかった」

 こういう所は柊のいいところか
ちょくちょく口喧嘩してても、仲が悪いわけじゃないんだよなこの二人

「あんたも勿論くんのよ?」
「はぁ?! なんで俺が?」

538 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/17(火) 18:53:40.65 ID:SUERJV3G0

 女の買い物に付き合うことほど退屈でしかも苦労することは無い
荷物は持たされ世辞は言わされ、さらには奢らされる
しかも女性用水着のコーナーなんぞに俺が行けば精神面でも着実にダメージは蓄積する

「却下だ」
「なんでよ、三人で買い物済ませば楽じゃない
 私修学旅行なんてしたこと無いから勝手がわからないのよ」

 外国には修学旅行というものがないのか?
聞こうと思ったがやめといた、なんかしらの理由や事情はあるんだろうしな
嘘じゃないのがわかればそれでいい
――だが

「俺も行ったことなんて無いさ」

 しかも飛行機に乗ったことすらない

3 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/17(火) 21:41:47.24 ID:SUERJV3G0

・・・
・・

「これはどう?」
「…わからない、けど少し派手」
「これは?」
「布の面積が少ない」

 第三新東京市の中心にあるデパート
その四階で水着を選ぶ柊と長門
俺は少し離れたベンチで缶コーヒーを飲みながらその光景を眺めていた
ベンチで、俺の隣に座しているのはいくつかの買い物袋

「予想通りというかなんというか…」

 まったく期待を外さない奴らだ

8 名前:番外編がそのまま本編に繋がるという脅威[] 投稿日:2008/06/17(火) 21:51:42.55 ID:SUERJV3G0

「あんたもなんか買ったら?」
「女性用の水着売り場で買うものなんてない」
「ばか、そんなこといってないでしょ」

 長門の身体の前に色々な水着を当てて模索していた柊が
呆れたように俺の方を向く、その手に持っていた水着が俺の視界に映るが
しかし俺はその水着をきた長門の姿なんて毛頭想像なんてしていない
紳士だからな

「まぁ服にこだわるもんも無いしな、俺は適当でいいよ」

 どうにも服とか靴とかそういったものに金を使う人間の気が知れない
否定はしないが理解できないんだよな

「んなこといってないで少しはいい服着なさいよ、外見に気を使えばもっとモテるわよ?」

 腰に水着を持ったまま手を当てる柊
レモン色のビキニは柊に似合う気が……、いや、妄言だ

「…俺に世辞言ってもしょうがねぇぞ?」
「あんたね…」

10 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/17(火) 22:01:43.81 ID:SUERJV3G0

「まぁいいわ、勝手にしなさい。私がいうのも癪だしね」
「なにをだ」
「知らない」

 と、コーヒーが切れてしまった
まだ二人がどれを買うか決めるのには半刻はかかるだろうし
もう一つ冷たい飲み物でも買ってくるとしようかね

「炭酸お願いね!」
「…レモンティー」
「はいよ」

 奴隷根性染み付いてんじゃねぇぞ俺
すぐ横の自動販売機、略して自動売ならぬ自販機に向かった

11 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/17(火) 22:07:35.79 ID:SUERJV3G0

「俺も炭酸にするかね」

 炭酸は運動する人間は摂取しないほうがいいとか言ってたなそういえば
運動部の連中はみんな炭酸を禁じられてるとか
まぁ隠れて飲んでるのが大半だろうが

「でも関係ないか」

 ファンタを二本とレモンティーを俺は手早く買って戻る
二本以上買うと腕で挟んで持ち歩く形になるが
半袖だと二の腕とかが冷えて非常に痛くなるからな

 そういえば午後ティーでアロハレモンティーとか言うのがいつだったかあったな
椰子の木のマークが書いてあるペットボトルのキャップを
ナンバープレートのネジの所にはめてくっつけるのをよく見かけた
どこに行ってしまったんだろうかあれは

13 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/17(火) 22:18:42.13 ID:SUERJV3G0

「ほら、買ってきたぞ」

 同じ場所で同じようにたってる二人に声をかける
違うのは水着の種類だけ

「投げてー」

 両手を上げて投げるように言う柊に俺はファンタとレモンティーを投げる
まぁ投げたところで休憩所以外の店内は飲食禁止だがな
というか炭酸を投げろとはなかなかに後先考えてない行動といえる

「…オレンジ、あんたの持ってるグレープと交換しなさいよ!」
「なぜ!? これは俺のだ!」
「ばかね、こういうときに交換に応じてあげると好感度があがるわよ」
「俺のお前に対する好感は地に落ち行くばかりだな!」

 といいつつ渋々交換に応じる俺
別にオレンジを渡してグレープを持っていたのは取捨選択の結果であって
俺の好き嫌いじゃない

14 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/17(火) 22:25:33.35 ID:SUERJV3G0

 と、言うことでベンチに座りなおし買い物袋と語り明かすとするか
俺は結局舞い戻ってきたファンタオレンジのプルトックに手を掛ける

「ぶわっ!」

 Tシャツと顔がハイパーオレンジタイムだった
まぁ俺が柊に渡した一回、そして戻ってきた一回で計二回宙に待ってるのだ
炭酸はいつになくハイテンションな状況であろう
しかも沈静化をまたずして俺が蓋を開けちまったのだ
結果俺の顔に災悪というなの炭酸飲料がぶちまけられた

「…くそ」

 俺は缶に残った少ない希望を飲み干して缶を握りつぶす
やりきれないにもほどがある

「丁度いいじゃない、私が見立ててあげるから新しいの買って着替えちゃいなさいよ」

 にやにやと笑いながら近づいてくる柊
もしかして全て計算だったのか? こいつ、つくづく恐ろしい女だ

プシュ!

「あぅっ!」

 そうでもないな

16 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/17(火) 22:50:01.65 ID:SUERJV3G0

――

「だから、あんたはTシャツばっかじゃなくてもっとおしゃれなのを着ればいいのよ」

「Yシャツは学校で間に合ってるぞ」

「よくみなさいよ、こんな柄物のYシャツ学校では着ないでしょうが!」

「ドラマでは着てる奴なんか五万といるぞ」

「生徒が五万人の学園物なんてドラマ聞いたこと無いわよ!」

「怒鳴ると額に皺寄るぞ」

「殺すわよ!」

17 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/17(火) 22:52:55.52 ID:SUERJV3G0

 まったく声がでかい奴だ
柊はもう少し自制心を持ったほうが言いと
俺は耳を押さえながら切実に思うね
煽ってるのも俺だがな

「まぁ、どっちにしろ着替えなくちゃ気持ち悪いからな。
 じゃあその選ばれたYシャツを買っていくか」

「大仰な言い方しないでよ」

「選ばれてしまったYシャツを買っていくか」

「可哀想みたいな言い方しないでよ!」

 どうすればいいのだろうか
注文の多い柊である

18 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/17(火) 22:59:46.34 ID:SUERJV3G0

「とりあえず買うか、いくらだ?」
「イチキュッパ」
「…安いのか?」
「普通」

 本当にわからん感覚だが、まぁいいさ
わざわざ俺を罠にかけてでも見繕ってくれたんだからな、買うさ

「ちょっと待ちなさいよ、他にも買うべきでしょ
 修学旅行は3泊4日よ?」

「…わかったよ、もう任せた
 残りも適当に選んでくれ、俺には無理だ」

 早々に諦めて
自分の用は済んだとばかりに紅茶を飲む長門と共に
ベンチに座り込む

115 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/18(水) 12:53:12.14 ID:ihVVmV7V0

>>18

――

「ただいま」

 どすどすと荷物を担いで歩く
いつの間にか結構な量になってしまった

「ただいま〜、その二つの袋は私のオンリーだから部屋に持ってといて」
「あいよ」

 柊の部屋、なぜそんなものが我が家にあるのかといえば
この間の戦闘で二人で過ごした一週間の後にそのまま空いてる一部屋に
引っ越してきやがったからに他ならない

119 名前:ただいま[] 投稿日:2008/06/18(水) 13:16:26.24 ID:ihVVmV7V0

「長門も玄関につったってないで入ってこいよ」
「…おじゃまします」

 ずっと玄関に立っていた長門はやっと靴を脱いで部屋に上がってくる
どうにもきょろきょろと忙しなく目線をあちこちに動かして
こういうことに慣れてないのだろうことが見て取れる

「まぁ座れよ長門」

 言いながら俺が座ってる椅子の隣の椅子を引く
それをみて長門は一瞬逡巡した様子だったが、結局そこに座った

「荷物は、どうする? 明日届けようか?」

 買い物が終了した時点で俺は確かそういった
長門の荷物は柊のおかげというか所為と言うかでずいぶんと膨れ上がっていたからな
だがその答えはNOだった、理由は言わなかったが
しかしこうやって接することが多くなって会話が増えたことと、あの家のことを思えば納得できる
柊は長門の家のことを知ってるのかどうかわからんが
うちに来ればいいと、誘って今日はお開きになりながら誰一人分かれてないという状況になった

120 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/18(水) 13:23:25.38 ID:ihVVmV7V0

「キョ〜ン」

 自分の部屋の入って俺が運んだ荷物をかきだしながら
空いたドア越しに柊の間延びした声が聞こえる
俺は机にうつ伏せになって今日の疲れを癒しながら答える

「なんだ〜?」
「こなたは今日何時ごろ帰ってくるって〜?」
「しら〜ん、どうせそのうち帰ってくるだろ〜」

 傍から聞いたら間抜けな会話であろうが
しかし家が結構広いので普通に話す声量程度じゃ聞こえないし
大声で言い切る形にすると怒鳴ってるように聞こえてしまうのだ
だからやむなし

「今日の晩御飯どうするの?」
「スパゲッティ」
「スパニティ?」

 無理があった

121 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/18(水) 13:48:26.22 ID:ihVVmV7V0

「私ホワイトソースが好きよ」
「奇遇だな俺もだ」

 ということで今夜はスパゲティに決定である
材料はあっただろうか? 牛乳も麺もあるがチーズやその他もろもろの具が無いだろう

「…もう一度買い物行くの面倒だな」

 俺は携帯をとりだしてメールを打つ
For こなた 題名 無題
本文: ホワイトスパゲティやるから具とか買ってきてくれ

「送信っと」

 これでよし
大体今が7時前程度だからあと一時間足らずで帰ってくるだろう

124 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/18(水) 13:55:34.47 ID:ihVVmV7V0

「テレビでもつけるか」

 リモコンを操作してテレビをつける
ニュース番組とかじゃなくてもっと適度な番組はないかね
バラエティじゃなくて流し見できるようなの

「あぁ、テレビつけるならMステにしてよ」
「俺…、音楽番組嫌いなんだよな」

 部屋から戻ってきて空いてる椅子に座りながら言う柊
さりげなくチュッパチャップスを咥えてる

「俺にもくれ」
「何味がいい? ファーストも一本選んでいいわよ」
「どんなのがある?」

 聞くと柊はズラッと机に多種多様な飴を展開させやがった
こいつのポケットは四次元に繋がってるということでいいのだろうか?

「プリンにバニラに苺ミルクにチョコバニラに…」
「甘い奴ばっかじゃねぇか!」

 俺は飴はすっぱい系の方が好きなんだよ、小梅ちゃんとかのど飴だったらVC3000とか

125 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/18(水) 14:11:16.72 ID:ihVVmV7V0

「…これ」
「ん、プリンね」

 長門は甘いのばかりでも気にしてないみたいだが
しかし俺はどうにも甘ったるいのはなぁ

「どうすんのよ?」
「じゃあ無難にバニラ」

 結局貰った
なんか一人だけってのもなんかだしな
口元寂しいんだよ、煙草でも咥えてれば格好がつくのにな
そういえば最近はめっきり酒とか煙草に触ってないな

「なぁ柊」
「今度はなによ」
「健康な高校生らしく酒の一つでも買って宴会でもやるか」

 こなたもどうせ反対しないだろう、ってかのってくるだろう
あいつも未成年だから飲めば共犯だしな

127 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/18(水) 14:14:37.61 ID:ihVVmV7V0

「長門も入れて三人、もしくはこなたも入れて四人で飲み明かし」

 明日学校とかは考えない
若さゆえの過ちというものは後先を考えてはいけないのだ
たとえその結果揃って二日酔いの寝不足で明日を迎えようと

「いいわよ」
「よし、長門もいいだろ?」

 柊を仲間に加えればあとはなし崩し的に行くだろう
論理はともかく勢いがあればこの手のはなんとかなる
国際交流とかもぶっちゃけ勢いだ

「なにが?」
「だから宴会よ、みんなで騒いで遊ぶだけよ」

 少し情報に改竄がしてあるが間違っては無い、真実を一部隠してるだけだ

128 名前:俺よりもIDにVが多い奴居る?[] 投稿日:2008/06/18(水) 14:19:25.63 ID:ihVVmV7V0

「…やる」
「じゃあそうと決まればコンビニで適当に買ってくるか?」

 氷結とか比較的美味いよな
あとはカクテルパートナーが安くていいか?

「コンビニってワイン売ってたっけ?」
「ワイン? あぁ、ドイツ民め」

 日本人の感覚だとワインなんて宴会ででてきやしないぞ
よっぽど金持ってる成金的な連中が似合いもしないのにグラス持ってる様なイメージだ

「普通にチューハイでよくないか、あとはウイスキーとか」
「別にあんた達はそれでいいだろうし、私も別に嫌なわけじゃないけど
 少しだけワインが欲しいのよ、それじゃないと始まらない感じ」
「ふぅん、やっぱりわからない感覚だがな」

 となるとちょっと離れた酒屋でも行くべきか?
どっちみち量買うとコンビニだと高いしな

129 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/18(水) 14:39:16.10 ID:ihVVmV7V0

「たっだいま〜、お父さんが帰ってきたよ〜ん」

 俺と柊でどっちが買い出しに行ってくるかじゃんけんで決めようと言い出し
あいこを5回繰り返していたときにこなたが買い物袋をひっさげて帰ってきた

「おかえりー」
「おぉ、帰ってきたか」

 両手に買い物袋を持ってこなたは台所にてこてこと現れる
しかし一体何を買ってきたのだろう、頼んだ具は大した量はないのだが

「とりあえず頼まれた鮭とか粉チーズとかね」

 そういってこなたは俺に二つの内の小さい方の袋を渡してくる

「あぁ、悪いな。で、そっちの袋はなんだ?」
「気になる?」
「まぁな」

130 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/18(水) 14:52:00.75 ID:ihVVmV7V0

 俺はとりあえず鮭(生食用)とチーズと生クリームとをしまう
乳製品も生魚もこの年中夏の国では一刻一秒が危険なのだ

「実はお父さん今日は有希もいるだろうと思って」

 いいながらごそごそと袋からスナック菓子の大袋がどさどさでてくる
だが、まだ半分残ってる

「今日は夜通し騒ごうと思って」

 袋にまた手を突っ込んで動きを止め
俺達の反応を窺うように意地悪げな笑みをこぼす

「酒飲もうぜー!」
「ナイスだこなた!」
「ワインもあるってわかってるじゃない」
「勿論かがみの分だよ〜」

 その後でるわでるわで大量の菓子と酒を机に並べるこなた
そして上がるテンション
翌日まで飲み倒した俺達は結局揃ってぶっ倒れることになり
学校を無断欠席させていただいた

追記
 長門はざるです

144 名前:マグマダイバー[] 投稿日:2008/06/18(水) 15:46:34.11 ID:ihVVmV7V0

――――

「えっと、こっちがキョンの分でこっちがかがみの分。ついでにこれが有希の分」

 こなたが三枚のフロッピーを机に置いて一枚一枚を指差しながら言う

「この間のテストって所か?」
「正解」

 やっぱりか、どうせそんなことだろうとは思ってたがな
しかし成績も点数も筒抜けか、別に隠そうと思うほどの点数じゃないしな

「かがみはやっぱり国語が苦手っぽいよね。
 あとどんな教科でも文章題になると正解率が下がってるね」
「仕方ないでしょ」

 言語の差、と言ってもここまで違和感無く日常的な日本語を使いこなしてるだけでも
十分とも言えるんだがな、俺は逆にドイツに行っても上手く喋れるかは自信が無い

145 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/18(水) 15:53:31.64 ID:ihVVmV7V0

「まぁ有希とキョンは問題ないよね、学年トップです」
「…ん? そうなのか? 張り出されたりしないからわからんが」

 長門がトップなのはわかるけどな
それに柊だって読めれば一気に点数だってあがるだろうし
…べつに俺が凄いって訳じゃないしな
俺は、高校での授業なんて二度目みたいなものだからさ

「どしたの?」
「いや、なんでもないさ」

 ハルヒ、お前はいまどんな問題を解いてるのだろうか
きっともうお前は俺には理解できない問題と向き合ってるんだろう

「とりあえずかがみには漢字の読み書きを少しやってもらうかんね」

「まぁ、仕方ないわよね。いつかはやんなきゃいけないし
 出来るのに読めないから点数低いってのも嫌だしね」

 柊はそういってこなたから中学生用のドリルを受け取った
…中学生用の部分が読めてるのか読めてないのかはわからないが
しかしまぁ、こなたがこれを買ったのか? 本来の年齢とは逆の方向でこれを買うのかと思われたろう

146 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/18(水) 16:23:09.76 ID:ihVVmV7V0

「そいじゃ、お父さんはお仕事行って来るからお留守番してなさいね」
「休みじゃなかったのか?」

 確かそう聞いていたのだが、俺の間違いだっただろうか
まぁ仮に休みだとしても何かあれば簡単になくなるような休みだろうしな
偉い立場の人間は大変ですな

「ん、浅間山の観測所でね溶岩の流れの中に不審な影が発見されたとかでね
 一応調べてみることになったんだよ」

 そういえばこの間そんなも言ってた気がするな
浅間山、現在も元気に活動中の活火山だったか
だから噴火の兆候とかがすぐにわかるように観測所が立てられてるのだったが
しかしこれで本当に神人を見つけたとなったらどうするのだろう
打って出るのか?

147 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/18(水) 16:34:06.73 ID:ihVVmV7V0

「まぁ杞憂で終わるといいんだけど、万一に備えて自宅待機しといてくだせえ」

「あいよ」

「わかったわよ」

「かがみは勉強するんだよ?」

「わかってるわよ」

「私は物分りのいい子供を持ったねぇ…」

「はいはい」

「いいから行って来い」

「私は物分りのいい親に冷たい子供を持ったねぇ」

「はいはい」

「とっとと行け」

148 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/18(水) 16:45:17.15 ID:ihVVmV7V0

 パシュと扉の閉まる音

「ふぅ、静かになったな」
「ま、ね」

 ドリルをパラパラとめくる柊

「なんだいきなり始めるのか?」
「ん、まぁわざわざ買ってきてくれたんだしね」
「真面目だな」
「あんたが不真面目なのよ」

 まったくその通りだった
俺はさっそくテレビをつけてゲームの配線を行っている
さっきから完全に黙って存在が認識されない長門にも手伝わせてな

「ってかここでやらないでよ気が散るでしょ?」
「お前が自室で勉強しろよ」
「それはそれで寂しいじゃない」

 こいつは一体なにを求めてるんだろうか

150 名前:日常パートのネタ切れた、早く戦闘に入んないかな…[] 投稿日:2008/06/18(水) 17:13:41.35 ID:ihVVmV7V0

―――

「今日はここまで」

 柊がそうやって机にドリルを投げるまで一時間程度
その姿は宿題を終えた学生以外の何者でもない

「そうか、なら柊も混ざれ」

 長門と一対一は正直きつい
容赦がないんだ、本当、ボロボロ

「なにやってんの?」
「桃鉄」
「あ、知らないわ」
「じゃあフィーリングで」
「無理言わないで」

 仕方ない、とりあえずここは敗北して柊が出来ないからという理由をつけて
べつのゲームに変えよう、そうしよう

151 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/18(水) 17:32:50.57 ID:ihVVmV7V0

「格闘系ってあったっけ?」
「ないこともないってレベルだな」

 そもそも俺とこなたが使ってるゲーム機である
俺もこなたもRPG派だ、俺がFFでこなたがドラクエ
また例外でガンダムの連ザとかのアクションもあるけどそれも最近はおざなりだ

「あとは、パズル系とか…」
「シューティングは?」

 俺がいじってるソフトを入れてるケースを後ろから覗き込む柊

「俺もあいつも不得手だ」

 そういうとあからさまに肩を落とす、どうやら得意らしい
今度二つくらい買っといてやるか…

「とりあえず複数人で出来るのとなると限られるよな」

 格闘はこなたのジャンルだが仕方ない
現状で長門にやられっぱなしよりはいいか

152 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/18(水) 17:46:09.55 ID:ihVVmV7V0

 チャ〜〜♪と音が聞こえた
その瞬間からの俺達の行動は早かった
全員が全員常に持ち歩いてる色違いの同じ携帯を
俺と長門はポケットから取り出し、柊は机に置いてあったそれをすばやく手に取る

「全員か?」
「そうみたいね」
「…」

 誰かの、という特定でなく全員の携帯に連絡がある
ということは、もう考えるまでも無く事態は切迫してきていて俺達の出番だということ
杞憂で終わることなんてなかったんだ
俺が他の二人の代わりにでる、スピーカーにして聞こえるように

「もしもし?」
「あぁ、キョン? ちょっちまずいことになってね」
「浅間山…か?」
「そう、不審な影ってやっぱ敵さんっぽいんだ」
「わかった、今向かう」

154 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/18(水) 17:59:07.27 ID:ihVVmV7V0

 俺は鍵とヘルメットを取り一つを柊に投げ
もう一つを長門に渡す

「悪いが緊急事態だ、長門は後ろに乗ってくれ」
「わかった」

 柊も原付だがまぁ60位まではでるだろう
ギリギリまでは頑張ってもらう

「行くぞ」

 携帯をポケットに戻して靴を履いて家を出る
まったくもう少し遊ばしてくれよ

155 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/18(水) 18:08:24.52 ID:ihVVmV7V0

―――

「これがこんどの神人ね…」

 床に映像が開き、胎児のような様相の敵が映る
丸くなって未完成の生々しい形が拡大された写真はどうにも長時間眺めてたいとは思えない

「そうよ。まだ蛹の状態だけどね」

 喜緑さんは白衣に眼鏡のいつもの姿で立って写真を見下ろす
しかしこれがこのままの形で浅間山の溶岩の中を漂ってるというのか
気持ち悪い想像をしてしまったじゃないか、馬鹿野郎

「で、今回の作戦はこの神人の捕獲」

 コードA-17とかさっき言ってたが、つまりはこちらからアプローチをかけると言うこと
そのアプローチのかけ方の詳細が捕獲か、…とそこで柊が手を上げる

「失敗した場合は?」
「殲滅を作戦目標に切り替えてもらうわ、他に質問は?」
「作戦担当は誰になるんですか?」

 まさか全員でもぐるわけには行かないだろう 

156 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/18(水) 18:15:59.05 ID:ihVVmV7V0

「弐号機とかがみに担当してもらうわ」
「わたし?」

 柊は驚いたように目を見張る
というよりまんま驚いてるようだった、溶岩にもぐるのが嫌なんだろうか

「私はなにをすればいいでしょうか?」

 続いて長門も手を上げて発言する
今回の作戦はどうにもみんなアグレッシブだった

「今回の作戦はEVAに特殊装備のDタイプをつけるんだけど
 プロトタイプの零号機は特殊装備は規格外になるんだ」
「いたのか国木田」
「まぁ、一応ね」

 しかし零号機はこの間溶けた装甲を直すついでに初号機とかと同じ標準装備の
新しい型に改修したのではなかったか? では初号機も規格外なのだろうか?

「そうだね、他の特殊装備はともかく。
 このD型装備は現状ではプロダクトモデルの弐号機にしか適合しないんだ」

 消去法、か。柊が嫌がりそうなパターンだな

157 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/18(水) 18:24:53.50 ID:ihVVmV7V0

「で、初号機はどうすればいいんですか?」

 浅間山は少し遠いし本部待機になるのだろうか?
しかし過去に無いこちらから打って出る、しかも捕獲作戦に弐号機一体というのも不安が残る

「今回、弐号機が浅間山に潜り、零号機、初号機の両機
 またファーストとサードの両チルドレンは浅間山ふもとで有事に備えて待機してもらいます」
「本部には待機させないんですか?」

 これはこれでギャンブル的な選択だと思う

「過去の例から神人が二体襲ってきて例は無いわ
 可能性としては考えられるけど、今回の作戦の重要度と天秤にかけた結果
 現状でだせる機体はすべて出撃させることになったの」

 なるほど、まぁすでに命令はでてるわけだし
俺みたいな素人が細々考えるようなことはもう計算済みか
ならば俺は従うだけだ

「もういいかしら?」
「はい」

177 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/18(水) 20:53:03.12 ID:ihVVmV7V0

「じゃあ三人ともプラグスーツに着替えて
 かがみは耐熱用の特殊スーツが用意してあるからそれを」

 そう言われて作戦会議室からでる俺達

「特殊スーツってどんなんだ?」
「さぁ? 生地が厚いんじゃないかしら?」

 耐熱構造って言ってもそもそも顔はむき出しだし
どんなもんなんだろうか? ヘルメットでもついてんのかね?

178 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/18(水) 20:57:39.82 ID:ihVVmV7V0

――
「俺のは普通っと、まぁ当然か」

 男子更衣室を使うのは俺だけで
こんな広い場所を貸切るのは逆に落ち着かないものがある
俺はいつもと同じように紫と緑の初号機カラーのスーツに着替えると

「キャーッ!」

 と、外から柊の高い声が聞こえてきた

「なんだなんだ!?」

 慌てて外に飛び出して、引き続いて柊の声が聞こえる
ケイジの方向に走って向かう

「…なにかあった……のかって、これは酷い」

 なにかあったってレベルじゃない、笑いの渦が俺を巻き込む
俺がたどり着いたケイジにはダンゴムシと化した弐号機と柊が居た

179 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/18(水) 21:09:40.26 ID:ihVVmV7V0

「ぶっひゃっひゃ、かがみんさいこー!」

 腹を抱えて笑うこなた、そこまであからさまじゃないがしかし確実に笑ってると思われる喜緑さん
球体から手足と頭を出してぎゃーぎゃー騒ぐ柊、長門、俺

「はっはっは! 叫び声が聞こえたからなにかと思ったら…はっは!」

 最初は堪えようとするもののしかし結局噴出してしまった
それに気がついて柊がこっちに詰め寄ろうとするのだが
短い足を懸命に動かして歩くさまは余計に笑いを誘ってくれる

「ちょっと! いい加減にしなさいよ!」

 俺がさらに笑っったことにさらに怒る柊、もはや悪循環である
やめてくれよ、本当。窒息しちまうよ、こなたが

「あっ!」

 そんな歩きにくい格好で走るものだから柊はつまづいた

つまづいて、転んで、そして転がって、俺とこなたが笑い死ぬ

181 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/18(水) 21:37:19.46 ID:ihVVmV7V0

「…邪魔」

 通路にいた長門が転がってきた球体(柊)で目の前をふさがれたため
それを両手でつきとばしどかす

ゴロゴロゴロ

「だっはっは!」
「有希、やめてぇ〜あっははっは!」
「あんたら後で覚えてなさいよ!」

 転がりながら怒鳴る柊、滑稽ここに極まれりである

「お〜こわ、怖いから起こすの手伝ってやんねぇ」
「あっはっは、かがみん起きれないね」

 じたばたと両手を動かすもののしかしそれは丸く膨らんだ前面が邪魔で届かない
ぐらぐらと振動でシーソーのように身体が揺れるだけである

「はっはっは! はぁーはぁー…はぁ……死ぬ」

182 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/18(水) 21:45:08.14 ID:ihVVmV7V0

 一周りしてなんとか笑いが収まってくる
壷にはまってしまった、こういうのは二度目三度目の波が平然とやってくるから気をつけないと
普通なら面白くなくても、このテンションのときだとなんでも爆笑になる

「もう嫌だわ…」

 誰よりも早く爆笑の渦から抜け出した喜緑さんに起き上がるのを手伝ってもらい
ようやっと立ち上がった柊はげんなりとした表情でそう呟く

「じゃあ止める?」

 ふぅーと荒く息をついて腹を抱えて目じりの涙を拭いながらこなたが問う
柊はしかしそれにすぐに真剣な顔で

「嫌よ、私にしかできない、私ならできることから逃げるなんて絶対嫌」

 そう強く言った
それはいつだったか俺が初号機に乗るきっかけとなったハルヒの台詞と被さって
俺の顔から笑みを消した

183 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/18(水) 21:54:16.39 ID:ihVVmV7V0

「よし、じゃあ行くか柊。俺は俺の出来ることをお前のために今回はやるさ」

 頭のスイッチを切り替えて真面目モードに変更する
目の前に敵が迫ってるわけじゃないから実感が無かったが
しかしだからといってふざけていいわけじゃない
いくら柊がダンゴムシでも……

「…ぶっ」

「ねぇ、いま吹いたでしょ?」

「なにを言ってるんだ? そんなわけないだろ、作戦実行時刻が迫ってるんだからとっとと行くぞ」

「ねぇいまさら誤魔化してもさっき爆笑した件についてはそれ相応のお返しするからね」

187 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/18(水) 22:13:41.81 ID:ihVVmV7V0

――
浅間山火口付近
エヴァの感覚を通じて熱気が全身に伝わってくる
白い雪だるまになった弐号機とダンゴムシになった柊が
この熱気の根源である煮え立つ溶岩の中に突入するのかと思うと
見てるだけで全身が粟立つ

「かがみ、準備はいい?」
「いつでも」

 火口の上から中心にレーザーが打ち込まれ
五本の冷却液を注ぐケーブルにつながれた弐号機がゆっくりと下降していく
その上に影が一瞬重なり、俺は視線を上に向ける
そこには見たことの無い爆撃機が巡回していた

「あれは…?」
「空軍が空中待機してるのよ」
「えっとぅ、この作戦が終わるまでなんですけど…」

 ぽつりとこぼした呟きに喜緑さんと朝比奈さんが答える
それは…、つまり後始末って事か?

「そうゆうことよ」
「私達が失敗したときにN2爆雷を使って神人を熱処理するんですぅ」
「ここら一帯の土地と私達を含めてね」

196 名前:俺「へ……んた…い?」[] 投稿日:2008/06/18(水) 22:42:00.14 ID:ihVVmV7V0

「…やっぱりか」

 まぁそんなところだろうな
とりあえずはこの作戦を上手く処理できれば気にすることじゃない
作戦を失敗しなければいいんだから

「そういうことよ、私が失敗するわけないじゃない」

 キョン! と柊が俺を呼びつけ、俺が目を向けると
粘度の高い溶岩にすでに半身浴をしてる状態の弐号機が
俺に親指を立ててまるでターミネーターUの様に沈んでいった

「私に任せときなさい」
「おうよ」

197 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/18(水) 22:48:14.67 ID:ihVVmV7V0

 『D型装備、異常無し!』

『進路確保問題無し』

『深度170、沈降速度20、各部問題なし。CTモニターに切り替えします』

 スピーカーから聞こえるオペレーターと柊の声
俺と長門はいまはしばらく待機、いや最後まで待機であることが望ましいのだが…

『深度600、650』

 『900、950、1000、1020、安全深度をオーバーしました』

『――深度1300、目標予測地点です』

『かがみ、なにか見える?』

 『反応無しね、対流が早すぎるみたい』

198 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/18(水) 22:53:52.92 ID:ihVVmV7V0

『目標の移動速度に誤差が生じてるようですよ?』

『…再計算急いでくれる国木田君、かがみは続けて沈降よろしく』

『深度1350、1400』

『エヴァ弐号機、プログナイフ喪失』

『深度、1580。目標予測修正地点です』

『…くっ! 見つけたわ!』

『目標を映像で確認』

『捕獲準備』

『接触のチャンスは一度しかないからね、気をつけて』

『わかってるわよ』

『目標接触まで、後30』

199 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/18(水) 22:57:29.32 ID:ihVVmV7V0

『相対速度2.2、大丈夫ね軸線に乗ったわ』

『電磁柵も展開に問題なし、目標捕獲しました』

『これより弐号機浮上します』


「…ふぅ」

 無意識に張っていた緊張を少し緩める
浮上し始めればなんとかなる、あと少し上がってくれば俺も関与できる位置になる
敵の位置も弐号機の手の中だし、峠は越えたって所だろう

「柊大丈夫か?」
「当たり前よ、こなたがこの近くに温泉があるって言ってたからあとで行きたいわ」
「なら今日も宴会だな」
「おいしいもの食べたい」

200 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/18(水) 23:01:29.36 ID:ihVVmV7V0

 一気に饒舌になった柊
やはり柊も緊張が解けたようだな

「とっとと帰りやがれくそ」

 俺は空を見上げていまだに一定速度で巡回する爆撃機を睨みつける


『なにこれ!?』

 スピーカー越しに柊の叫び声
一体何があった、ここに来て起こるアクシデントってなんだ?

『まずいよ、奴さん羽化を始めたようだね!』
「羽化!? ってことは完成体になるってことか!」
『そういうこと! かがみ、キャッチャーを破棄して神人の殲滅を最優先にして!」
『了解!』

201 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/18(水) 23:12:14.27 ID:ihVVmV7V0

 殲滅ってナイフが無いだろうが
と、俺が思うより早く長門が零号機に標準搭載されたばかりのプログナイフを
腕を振り上げて力強く溶岩に叩き込む

『ナイフ到達まであと210』

『早く来ーい!』

 やおら騒がしくなる周囲のスタッフ達
しかしナイフを長門が投擲した今、弐号機が敵を殲滅するか
上まで引きずり出すかしないと俺達はどうしようもない

「待つのは苦手なんだよ俺は…」

万一の事があればB装備のまま溶岩に飛び込む事も考え
俺は火口に近づき下に居るはずの弐号機に集中する

297 名前: ◆7SHIicilOU [] 投稿日:2008/06/19(木) 15:25:08.69 ID:61t8triI0

>>201

 ……ィィィィイイン
周囲を巡回していた爆撃機が地上の様子を見て
さらに低空飛行に切り替え初号機の頭上を通り風を裂くエンジン音が大きく聞こえる

「…お前の出番はないってんだよ!」

 たかる蝿を追っ払うように手をふると
爆撃機は一時的に高度をあげるものの、依然先ほどよりも低い高度で巡回し続ける

「きゃあ!」

 スピーカーから続く柊の高い声

『弐号機、左脚を神人口内にとらわれました』

 回りくどい左足を食われた宣言
くそ、まだ浮上しきらないのか?

299 名前:遅れてごめんなり[] 投稿日:2008/06/19(木) 15:36:16.43 ID:61t8triI0

>>297

『冷却ケーブル、1番から3番まで切断されました!』

 溶岩内での活動を維持するための冷却剤を投与するケーブル
それと同時にケーブルは命綱の役割を持っている
そのケーブルが全てでなくても切断された?
しかも現在は弐号機だけじゃなく神人もぶらさがっている分の重量がかかっている

「だぁぁあ!」

 だから俺はその報告が聞こえた瞬間に火口で待機していた初号機を操作して
俺はそのまま溶岩内に身を投げ込んだ
粘度のある液体とも固体とも言えない気持ちの悪い物が全身にこびり付く感触
そして特殊装備越しでない熱が全身を襲う

「くぅ、…柊! どこだ!?」

 透明度120lという視界のなか浮上寸前のはずだった弐号機を探す
まだケーブルは生きてるからその直下に居るはずだ

300 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/19(木) 15:43:58.16 ID:61t8triI0

「キョン!? あんた、なにやってんのよ標準装備のままで!」

 弐号機の白い特殊D型装備の姿を見つけ
千切れかけてるケーブルよりも上部を掴んで
神人が未だ噛み付いてるままの弐号機の腕を引き寄せる

「ヒーローっつうのはな、自分を省みないもんなんだよ」

 全身を隈なく刺す熱は痛み以外のなにものでもなかったが
しかしそれを口には出さないようにする

「…らしくないわよ馬鹿」
「重々承知の上さ、じゃ一気に引き上げるぞ?」
「へっ?」

 ノロノロと巻き上げる速度が果てしなく遅くなったケーブル
これに任せていては時間がかかってしょうがないし、爆撃機のことも気になる
俺は上部を掴んでいた腕に力をこめ、ケーブルの切れ掛かってるところを完全に切り取る

「長門! 行くから受け取れよ!」
「了解」

303 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/19(木) 15:59:11.57 ID:61t8triI0

 完全に引きちぎられたケーブルについた弐号機と神人
それを引き上げ、もう一度降ろして勢いをつけて

「うらっ!」

 纏めて上に投げ飛ばす、弐号機と足にしつこく噛み付く神人は
俺が投げ上げた分では火口を越えるまではいかないので
同じく火口で待機していた零号機が手を伸ばしてフォローをし、引き上げる

あとは俺が残ったケーブルに捕まったまま引き上げられて
堂々と溶岩から搭乗するこの片手でケーブル掴んで現れるところ
ここを逆再生すれば完全にターミネーター

装甲やなんかから溶岩がしばらく零れ
エヴァの節々が灼熱に発光している
弐号機も、初号機も、

304 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/19(木) 16:04:38.60 ID:61t8triI0

「…っ!」

 ケーブルから飛び降りて火口に着地すると
嫌な予感というか、虫の知らせ的なものが背筋に飛び込んだ
べつに溶岩内からでて外の空気が冷たく感じるからじゃない
もっと嫌な、冷や汗がでるような感覚

 咄嗟に上を見上げる、と自分の視界でなくエヴァ越しの視界で見えた
先ほどとは比べ物にならない点にしか見えない位置に移動した爆撃機
そしてそこから投下される

  N2爆雷

「この野郎! 長門! 柊! 二人とも伏せろ!」

 叫ぶ、絶叫に近いような自分の台詞
二人どころか俺以外だれも気がついていない

俺は初号機を火口に立たせて上空に手を向ける

「A.T.フィールド全力全方位展開」

305 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/19(木) 16:10:24.57 ID:61t8triI0

 その動作に遅れてドーム上に広がってく俺のA.T.フィールド
長門も柊も、こなたも喜緑さんも、朝比奈さんや国木田やパティも
まだ話したことの無いスタッフたちも全員覆うような大きなフィールドを作る

 目に見えて大きくなる爆雷がフィールドにそっと触れる

閃光、爆音、地鳴り、衝撃

 地に立っていたスタッフはみな倒れ、地に伏せ
たくさんの機械やそれを運んだ車は転がり地響きに合わせて地を跳ねた

「ぐぅ…っ」

 両足が上からの衝撃に沈む
山の欠片が溶岩に幾つも落ちて小さく波紋を作る
そしてそれもやがて止み、フィールドの周りを覆っていた爆煙が失せる

 見えるのは空と自身が落とした爆雷の成果を確かめんと近づく爆撃機

爆撃機、爆撃機、俺達を皆殺しにしようとした、爆撃機

306 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/19(木) 16:15:15.62 ID:61t8triI0

 真っ白だった、なにも見えなかった
ただあれを破壊せしめんと思った
俺はみんなを守るためのフィールドを消し、地面を強く蹴って宙に飛ぶ
爆撃機は爆雷が受け止められなんの成果も果たさなかったことに驚愕したのか
その場でホバリングしていた、絶好だ

 だが、まだ高さが足りない
これじゃあの爆撃機に少しばかり届かない
俺はA.T.フィールドを空中に、地面に平行になるように展開
それを踏み台にして更に上に跳ぶ

 左肩のウェポンラックからナイフを取り出し正面に見える爆撃機に振り下ろす

『キョン、ダメ! それにも人は乗ってるんだよ!?』

 こなたの声が、聞こえた

309 名前:うるさい!うるさい!うるさい![] 投稿日:2008/06/19(木) 16:27:51.65 ID:61t8triI0

 ナイフは爆撃機のすぐ横を通り過ぎる
音速を一瞬超えるナイフに、触れてはいなくとも爆撃機は大きく機体を揺らし
慌ててその場から飛んで逃げ帰っていった

「くそっ」

『ちょっとキョン! そんなもんいいからこっち手伝ってよ!」

 地面には足を食われたままの弐号機が
神人の口にナイフをつき込んで千切られぬように奮闘していて
零号機が暴れる敵を抑えて、その身体にナイフを突き立てるのだが
どうにも弾かれてる様だった

「そんな溶岩の中で泳げて口がある頑丈さだけが取りえの神人なんかよ…」

 俺は足場としていたA.T.フィールドを解除しそのまま重力に任せて神人に向けて落下する

「長門、どいてくれ」

 急降下しながら神人に被さるようになってる邪魔な零号機をどかしてもらう
俺はナイフを手放し落下エネルギーをそのままに拳を神人のコアにたたき付けた

「身体なんか無視してコアをぶっ潰せばいいじゃねぇか」

 初号機の拳はコアをぶち抜いて地面に突き刺さり
ささやかなクレーターを作り出した

312 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/19(木) 16:38:02.37 ID:61t8triI0

―――

「くぅぅ、沁みるぜぇ…」

 溶岩にB型装備のままで特攻した所為で
フィードバックにより全身に火傷とも言えない軽度の熱傷ができてるらしき
肩まで使った温泉がヒリヒリと沁みた

「この広い露天風呂を貸切ってんだからすげぇよな」

 浅間山付近にある温泉宿
それを完全に簡単に貸し切ってしまうのだからな
しかも俺達チルドレン三人とこなたや喜緑さん達だけの為に

「この温泉は火傷とかにもいいっぽいからゆっくり浸かりたまへ」

 とのこなたの発言をありがたくいただいて気分よく
夕焼け空の露天風呂を楽しんでいる俺だった

314 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/19(木) 17:08:02.01 ID:61t8triI0

「うぇいうぇい、寛いでるねぇキョンやい」

 引き戸の開く音、足音、こなたの声
咄嗟に慌てて立ち上がりかけて、それを更に慌てて押しとどめる
俺は温泉にタオルをつけるような無粋な真似はしない
つまり立ち上がればテレビではモザイクが入り、外人女性のわーぉと言う声が入るものが見えてしまう

「…混浴だったか? ここ」

 男湯と書いてあった気がしたのだが…
いやそれも出入り口が別というだけで中は同じという構造なのか?
くそ、確認しとけよ俺
…いや、そもそもこうなることが想像できる人間なんて居るはずも無く
ならば確認しようとする思考にいくこともない、ならばここで後悔する必要もないはずだ
問題は俺が居るのに入ってきたあいつなんだから

「いや、男湯だけど貸し切りだし」
「おまえっ!」

 なんていう暴動にでやがってんのこいつ?

316 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/19(木) 17:18:44.25 ID:61t8triI0

「いやいやね、家族の親睦を深めようとだね」
「むしろ気まずくなるから! なんとも言えない溝ができるのが目に見えてるから!」

 いつもなら頭を叩いて放り出すところだが
俺の格好とこなたの格好(予想、想像ではなく予想)を考えると迂闊な行動は取れない

「あんた、慌ててすぎじゃない?」
「お前もいんのかよ!?」
「有希もいるよ〜」

 柊も長門も、こいつら真性のアホだ
なにこれ、こいつら俺をのぼせさせようというのか?
マグマの次は温泉でじわじわといたぶる気ですか?

「まぁ、折角の水入らずだしさ
 今日は一泊してくから少しゆっくり話そうよ」

 そういってこなたが背中を向けてた俺の視界に入る
温泉はお湯だから水入らずとか言ったら蹴っ飛ばそうかと思ったがそこまでは言わなかった

「…まて、風呂に入るときは身体をお湯で流してタオルは湯につけるな
 話はまずそこからだ」

 俺は江戸っ子じゃないがその辺気にするタイプ
騒ぐガキには怒るタイプ

332 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/19(木) 18:23:21.31 ID:61t8triI0

>>316

 ふと、こなたが含み笑いをしながら俺の後ろに近づいてきて

「キョン〜、それはつまりタオルで隠すなと?」
「いや! そうじゃない、言葉の綾って奴だ!」
「私は気にしないけど?」
「俺が気にするんだよ!」

 後ろ向きのまま怒鳴る俺
このままでは流石に絵的にまずい、色々と

「まぁいいからいいから」

 チャポと水の音がしてこなたがすぐ隣に浸かって来る
頭にタオルをのせて、だ

「ちょちょっ! 本当にまずいって!」

334 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/19(木) 18:30:10.14 ID:61t8triI0

「あんたは動揺しすぎ!」

 桶で思いっきり殴られた

「お前記憶喪失になったらどうする!」

「あら、あんたの頭に記憶を留めておくなんて高等技術があるの?」

「俺が入ってるのわかっててわざわざこっちに入ってくるようなエキセントリックな思考の持ち主に言われたくねぇ!」

「なんであんたが入ってるからって遠慮しないといけないのよ?」

「お前は羞恥心というものが欠けてるな!」

「あんたには平常心が欠けてるわよ」

「欠けもするわ!」

「静かにしろ!」

339 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/19(木) 18:42:07.34 ID:61t8triI0

―――

 大きな露天風呂、俺が先ほど居た入り口側の楕円形の底辺部分に
こなた、長門、柊が寛ぎ。そして俺は右側の第一コーナー付近に外を見ながら浸かっている
夕日は既に半分以上沈み、月が自己主張を始める中
湯気に揺られて俺達は結局この陣形でこなたの言ったように訥々と会話を続けていた

「キョンてさぁ、いつだったか知識について喜緑さんに言われたとき覚えてる?」

「…突然だな?」

「こういうときじゃないと触れられないと思ってね」

「まぁ、な」

 長門はいつものこと、柊も黙って聞いている様子だった
…見えないけどな、見てないけどな、見ないけどな

「でもさ、どうせ調べてんだろ? 俺の過去のことも全部」

 そもそも、誰あろう全ての張本人がトップの組織だ
真っ黒もいいところだろ

341 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/19(木) 18:57:40.53 ID:61t8triI0

「まぁね、でもさぁ、家族のことだもん。本人の口から聞きたいじゃん」

 家族ね、こなたはその台詞が俺に対して非常に卑怯な言葉だと気付いてるのだろうか?
気付いていて、わざと使ってるのかと疑いつつ、そうでなければいいと希望も持つ

「俺の知識は全てハルヒの受け売りだ、全部、徹頭徹尾、欠片も漏れなく」

 喜緑さんと話した時に使った知識も、学校での成績の元も
全てあいつに教えてもらったことだけ

 俺とあいつが始めて出会ったのは小学五年だったか
始めてであった時、あいつは他の連中が掛け算とかをやってるなか
一人ノートに向かってなにを書いていたのか俺は知ってる
天才と呼ばれるのにふさわしいのは俺じゃなくあいつだと知ったあの時
あいつは俺に色々な知識を吹き込んで、植え付けて
中学二年、三年前に、始めてわからないことができたといって俺の前から消えた


 でも俺があいつのことで一番に思い出すのはやっぱりあの日
あいつが一度だけ涙を見せた日、倒れ付し痙攣する数十人の同級生と一人の教師
俺は手に持っていたモップを放り投げて頬についた血を拭って
そしてあいつと三言交わして、俺はあいつとキスをした

344 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/19(木) 19:03:20.81 ID:61t8triI0

「…嫌な思い出って訳じゃない、でも思い出したくないことだ」

 あいつの浮かべる凄惨な笑みは未だに変わらず脳髄に刻まれて
あの日のことは全部、色あせないフィルムとして確実に存在する

「そっか、ごめんね」
「いや、お前が知ってることを俺が肯定しただけだ」

 湯で顔をニ,三度くりかえし叩く
前は毎日のように思い起こしたあの日のことを
それでも今では夢に見ることも少なくなった

「私はね、妹がいるのよ」

 静寂になりかけたとき、柊が次いで喋り始める
誰が聞いたわけでもない、多分柊が弐号機にのるわけを
ただただ話し始める、どうせ聞いたままだと平等じゃないとかいいだすのだろう

「つかさって言うんだけどさ、たった一人の肉親なのよ」

345 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/19(木) 19:14:14.13 ID:61t8triI0

 肉親、大事なもの、大切なつながり
俺にはわからないが、しかしその”妹”を話すときの柊の顔は穏やかで

「ドジでお馬鹿な妹でさ、何も無いところでよく転んでたわ」

 微笑を浮かべて湯を見つめながら語る柊
人は、未来を思うとき空を見上げ、過去を愁いときに足元を見るという
柊はなにを思い出しなにを愁いているのだろうか?
俺にはわからない

「買い物に行かせると毎回違う関係ないものも買ってきちゃうしね」

 微笑が、崩れた気がしたが
しかし日は沈みきり月の世界となった闇の中、濃い湯気も重なって
細かい機敏が読み取れない

「でもね、私がエヴァのパイロットになるっていったら凄い反対したの」

346 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/19(木) 19:24:31.33 ID:61t8triI0

 明日は新月だろうと思われるほど、月は細く鋭く冷たく光っていた
俺は自身が語っていたときにみながしたように
口を挟むような無粋な真似はせず、ただ耳を傾ける

「妹は一人だけど、本当は私は姉も二人居たのよ」

 死んじゃったけど、と付け加える柊
笑みが崩れた原因はこれだろうか、…いや邪推はしないほうがいいか

「でさ、妹がいうのよ”私を一人にしないで”って
 ”もしお姉ちゃんまで居なくなったら私はどうすればいいの?”って涙目で聞いてくるのよ」

 こなたは俺のことと同じように柊のことも調べてるのだろうか
このことを柊はどんな気持ちで語り、こなたはどんな気分で聞いてるのだろうか
俺達が戦ってる中本部で居る、こなたはどんな気持ちで俺達の戦闘を見てるのだろうか

「結局、私は妹を置いて日本にまで着ちゃったんだけどね

355 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/19(木) 20:51:22.89 ID:61t8triI0

「妹を守るため、か?」

 ここで俺はようやく口を挟む
俺がいつかハルヒに言われた台詞、そして柊が数時間前に言った台詞
『自分しかできない、自分ならできること』

「そうよ、私が弐号機に乗って戦えばあの子を守れる
 一人になるのが嫌なのは、あの子だけじゃないもの」

 だから、戦いに恐れを抱き、震えていたのに
それでも未だにこの場に立ち続けてるのか、戦う理由か

「みんな色々あるよね、誰にだっていまなにをしてるか、その理由や原因があるんだから」

 こなたが最後に締めるように一応の年長者として言う

356 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/19(木) 20:58:31.64 ID:61t8triI0

「私達は、化け物と戦ってる
 実際に戦ってるのはキョンや有希やかがみだけどね
 それでも私達が負けたら世界がなくなるという事実の元戦ってる」

 …それだ、俺がいまいち実感できない

「俺は、見ず知らずの他人の為に戦ってるつもりは無い
 バイロンの台詞じゃないが、俺は自分の周りの人間の為に世界を失おうと
 世界の為に自分を含め、お前達を失いたくは無い」

 それは、酷く気障で恥ずかしく赤面ものの、しかもありがちな台詞であったが
だけど偽らざる俺の本音であることもまた事実だった

「…結果でいい」

 長門がここで始めて口を開く
言葉が足りなく、いまいち意味が伝わりにくかったが
それをフォローするように柊が続ける

「そう、自分の周りを守るついでに世界も守っちゃえばいいのよ
 世界はおまけで守ってやるつもりでいいのよ、それでも結果は同じ」

357 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/19(木) 21:06:47.72 ID:61t8triI0

「結果的に世界を救っちゃいました、ってか?」

 ずいぶんと世界は軽く扱われてるものだと思いながら
しかしそれが真実で真理で真相なのかもしれないとも思う
環境だとか資源だとかいったところで
マスコミが嘯く世界感は非常に薄い弱い、薄弱なのだ
大きすぎて、感知できないものはどうしてもおざなりになる

「愛・自分博でいいんじゃないのってことだね」

「まぁみんな一杯一杯なのよ」

 思ってることをただ吐露するかのような会話
キャッチボールでなく同じ的に向かってボールを投げてるような
一体感と共に若干噛み合ってない感じ

「やれることをやりましょう、それでダメなら足掻きましょう、それでもダメなら黙りましょう」

 ジタバタするしか手が無いならジタバタすればいいじゃないか

359 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/19(木) 21:33:23.93 ID:61t8triI0

「そろそろ、のぼせる前に上がろうか?」

 こなたが言って立ち上がる
慌てて俺は会話の間に向けてた視線を逸らす
正直一番長く入ってる俺はすでにのぼせかけて頭に血が行ってるのだが
しかしとりあえず全員がここをでてくれるまでは俺はまたなくちゃならん

「男だねぇキョンさんや」
「いいから行ってくれ、ここでのぼせて鼻血でもだしてみろ
 べつの意味で取られることは請け合いだ」

 それはなによりも避けなくてはならない

「まぁ、じゃあ先行ってるよ、食事も部屋にもう来てるだろうから宴会準備しとくよん」
「頼んだ」

 …ん?

「部屋って?」
「当然私達の部屋だよん」

 どうしろってんだ

367 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/19(木) 21:51:36.42 ID:61t8triI0

―――

「遅かったわね」

 温泉からあがり、旅館の浴衣に着替えて
聞いた番号の部屋に向かうと同じく浴衣姿の喜緑さんに迎えられた

「あれ? いつの間に…」
「ここ露天以外にも温泉いくつかあるのよ?」
「あぁそうなんですか」

 湿った髪をまとめて湯上りで桃色に少し色づいた肌が非常に色っぽい
喜緑さんは個人的に好みなんだよな…、ベスト3な感じ
細かいことはプライバシーなので言わないけど

「まぁとりあえず入ったらどう? みんな始めちゃってるわよ」
「そうしますよ」

 言葉に押され中に足を踏み入れると
ものの数分しか温泉出るタイムラグなんてなかったのに
それなのになんでこんなに部屋は宴会開始二時間後なのだろうか

371 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/19(木) 22:17:34.30 ID:61t8triI0

「本当助かったわ、私一人じゃ相手しきれないもの」

 部屋に入ってすぐ動きを止める俺の後ろで
ため息をついて腕を組む喜緑さん
腕を組むとどこが強調されるかよく考えてみよう

「おっそーいぞぅ、キョンの助」
「だれだそれは…」

 すでに性質の悪いよっぱらいそのものの姿のこなた

「素面だとこれの相手はきついですよ喜緑さん、もう酒に飲まれましょう」
「…そうみたいよね」

 長門の周囲にはすでに空いた一升瓶が数本
俺はそれをどかしてとりあえず場所を作り
喜緑さんと座り、船盛りの刺身に手をつける

「あぁ美味いな! まったく! こなた俺にもくれ」
「なんだい、自棄酒かい未成年」
「お前も未成年だ!」

372 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/19(木) 22:29:28.88 ID:61t8triI0

「キョン君私にもくれる?」
「どうぞどうぞ、もうガンガン行きましょう」

 長机に並ぶ瓶の数
この場に居る五名が全て10代とわかって旅館側はだしてるのだろうか?

「すったふー、もっと持ってきてくれる〜?」

 こなたが口に手を当てて人を呼んで更に追加する
明日の片付けが酷く手間がかかりそうである
まぁ、宴会なんてそんなもんだろ
俺は自身をそう納得させてもうただ楽しむことに専念した


 落ち? 長門を含めた全員が二日酔いになってもう一泊していった事以外ないし
その程度はとうぜん読めてるだろう?

410 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/19(木) 23:43:50.12 ID:61t8triI0

本日の料理


[こなた編]

「起きろこなた、今日は休日出勤だろ?」
「うぅん…?」

 朝、いつものようにこなたを叩き起こす
これの所為で休日だろうと関係なく俺は起きなくちゃならない
まったく規則正しい生活である、望んでいないのにだ

「おはようキョン、今日もいい男だね」
「お前は親戚のおばさんか、いいから起きろよ」

 布団から起きて寝癖で跳ねてる青い髪の毛をそのままに
目を擦りながら起きてくるこなたに顔を洗うように言って
俺は台所に戻る、どうにも母親気分である
火にかけっ放しの卵を見ると、ナイスタイミングだったようで
こなた好みの半熟目玉焼きになっていた
俺はそれを先に火を通しておいたウィンナーの乗った皿に移して
茶碗にご飯をよそってテーブルに置いておく

414 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/19(木) 23:49:03.97 ID:61t8triI0

>>410


「いんや、目覚めすっきりだねキョンキョン」
「一昔前のアイドルになった覚えは無いな、いいから食えよ」
「いただきまーす」

 今日はなにかの会議があるとかで俺や柊は学校は休みだが訓練も無し
こなただけが朝から出勤となっている
がつがつと飯を食べるこなたに、よくもまぁ寝起きであぁも食えるもんだと感心しつつ
俺は昨日の夕飯の食器洗いに専念する、本当に専業主婦かってのな

「ん、ねぇねぇキョン」
「なんだ?」
「ご飯になにやら混ざっているけれど?」

 おっ、気付いたか
実は五穀玄米とかご飯と一緒に炊く奴を入れてみたのだ
自分ではまだ食べてないがなかなか良さそうで、早速使ってみたのだが

419 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/19(木) 23:53:05.80 ID:61t8triI0

>>414

「身体にいい感じだね、私は気に入ったかな?
 でもかがみんとかはどうだろう」
「あぁ日本人じゃないしな、ただでさえ米よりパンはだからな」

 まぁいやなら適当にトーストに合うもの作ってやればいいしな
…あと米を口につけるな

「ん? とって〜」
「自分でとりなさい」
「はっはー、了解だねお母さん」
「勘弁してくれ」

 こなたは口に米をつけたままもぐもぐと、がつがつと朝食という概念を根底から覆すような食いっぷりで
なんと三杯おかわりした、ってかもっと端的に言うと炊いた分全て食いやがった

「ごちそうさまー! ではいってきまーす」

 そして食い終わると同時に鞄を持って制服姿で家を出ていった
会議中に腹が痛くならないといいんだがと俺は懸念しながら
とりあえずはこなたが食った朝食の食器を片付けて一緒に洗うことにした


本日こなたの朝食 目玉焼き ウインナー 五穀米四杯

   完食

421 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/19(木) 23:55:37.88 ID:61t8triI0

>>419


[かがみ編]


 食器を洗い終え、いくら休みといえ二度寝するのももったいないと思い
ソファに腰掛けて暇潰しに小説を読みながら
BGMとしてニュースを小さな音で流してる今は大体正午少し前
こなたも居ないし柊も未だに寝てるという圧倒的静けさにいささか退屈を感じる俺
冷蔵庫の中身もずいぶん減ってきたし、どうせだから買出しにでも行こうかと
小説をわざと強く閉じてバタンと音を立ててみる

「ふぅ、冗長すぎる時間も問題だな。タイムイズマネーな、金も時間も持て余すほどもつと困りもの」

 新人のアナウンサーが所々噛んでるニュースをリモコンで消して
俺は小説を片付けようと自室に戻る
最初は三つある部屋の6畳の洋間を使ってた俺、現在その部屋は柊にとられて俺は6畳の和室に移動
まったく世知辛い世の中だと、鍵付のドアがふすまに早変わりした自室に入る

「……おい、なにをやってるお前」

 いつの間に起きたのか柊が俺のベットの上で俺の秘蔵の×××を読み漁ってた

「あぁ、あんたって結構特殊な趣味があんのね、笑っちゃった」
「人の趣味趣向に口出しするなって言われなかったか!? とっとと出てってくれ!」

 俺は柊の手から本を奪い取り、小説と共に本棚に戻す
小説と違って×××は少し個性的な仕舞い方をしなくてはならないが秘密だ

426 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/20(金) 00:00:48.58 ID:Z6mtfnpF0

>>421

「お腹減ったのよ、もうお昼じゃない」
「こんな時間までグースカ寝てた癖に図々しい、そもそもそれが何で俺の部屋を漁る理由になる!?」

 俺は本棚に背を向けて柊から距離をとりつつ声を荒げる
しかし柊はのほほんとした様子で肩をすくめて、別に好奇心の賜物ね、とつぶやいて
俺の部屋を足早に去っていった、それを追うように俺は居間にでる
本当に俺の部屋にも鍵が欲しいです、女だからって理由で俺の鍵付の部屋を奪いやがって

「なんか作ってくれない? お腹本当に減ったのよ」
「わかったから忘れてくれさっきのは」

 あとで部屋に戻ったら場所を変えようと本気で思いつつ
俺は柊に昼食を作ってやることにした

「なにがいいんだよ?」
「フレンチトースト」
「了解」

 本日卵を使った料理二品目である
俺は牛乳、上白糖、卵を取り出してボールに順に入れて混ぜる
新鮮な卵の橙と牛乳の白が混ざりクリーム色になる
そこに砂糖を目分量でスプーンを使って入れてさらに混ぜ
8枚切りの食パンを四等分に切っていく
田んぼの田の感じで切っていく
あとは切った食パンを混ざった液体に浸けて、染み込ませ
油の引いたフライパンで焼くだけだ
柊一人分なら8枚切りを4枚程度で十分だろう

427 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/20(金) 00:01:05.11 ID:Z6mtfnpF0

>>426

「柊、見てるだけじゃなくてせめて皿くらいだそうな」
「はーい」

 返事だけはいい奴だ、…これも苦労性の母の台詞の気がするぞ
まぁいい、とりあえず俺は柊のだした皿を受け取ってそれに焼けた食パンを乗せる
この状態でフレンチトーストに食パンはクラスチェンジを果たした
やったな食パン、あとは猛獣に食われるだけだぞ

「ほれ、簡単手軽なフレンチトースト350円だ、コップ一杯のミルクもついてこの値段だ」

 非常に格安である、喫茶店行って見ろ
コーヒーにトースト二枚ついて500円は余裕で超えるぞ
まったく良心的だな、母親だけだから両親じゃないけど

「…うまくねぇよ!」
「え? キョン料理に失敗したの?」
「そうじゃねぇよ! フレンチトーストは美味く出来たよ!」

 俺はつけてればエプロンを叩き付けたい気分になった
つけてないけど、つけないけど

「…まぁよくわかんないけど、いただきまーす」
「召し上がりたまえ」

 俺はため息をついてなんでこいつが起きただけでこんなに疲れるんだろうと思いつつ
とりあえず自分用にカフェオレを一杯入れて一息つくことにした

本日かがみの昼食 フレンチトースト 完食

429 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/20(金) 00:08:20.99 ID:Z6mtfnpF0

>>427

[長門編]

 こなたから今日は遅くなるとの電話があったので
俺は疲れたから晩飯は適当でいいだろうと
柊とトランプをやっていて、全然買い物のことを忘却していたわけで

「今日の晩御飯どうするの?」
「あっ」

 柊に聞かれるまですっかりさっぱりだったりした
まさか柊に助けられるとはと思いつつも
結局は食い意地の張ってるだけの柊に決して礼を言うことなく
俺は、じゃあそろそろ行くか、と平静を装って慌てて家を出た
朝食と昼食でほぼ食い物は使い切ったのでちょっち食糧事情が切迫してるのだ

「まだ空いてるのは確実だがどうするか、ご飯炊いてないんだよ」

 パスタとかの麺類かパンを買っていくかするとしよう
俺はバイクに跨りいつものスーパーに向けてアクセルを吹かした

432 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/20(金) 00:10:53.48 ID:Z6mtfnpF0

>>429


「パスタとミート缶の楽さはこういうときに役に立つわけだが」

 俺は必要なものを買って適度なスピードで公道を走らせていた
ふと、いつもと違う道を通ろうと思いわき道にそれると
大きな公園があって

「長門じゃないか、なにしてるんだ?」

 俺はブレーキをかけてふらふらと歩いてる長門に声をかける

「なにやってるんだ?」
「晩御飯」

 長門はそういって出来合いの弁当の入ったビニール袋を持ち上げて見せる
そういえばこいつはあのでかいボロマンションに一人暮らしだったかと思い
自分のバイクにかかってる袋を見る

「長門、後ろ乗ってけ、大したもんじゃないが弁当よりは美味いもん食わしてやるよ」

 そういって長門にヘルメットを渡して後ろに乗せ
俺は自宅に向かってもう一度バイクを発進させる

433 名前:改行が多すぎます[] 投稿日:2008/06/20(金) 00:14:55.34 ID:Z6mtfnpF0

>>432


「で? ファーストを拉致してきちゃったと」
「嫌な言い方するなよ、お前も長門がどこに住んでるか知ってるだろ?」

 夜の公園を一人であるいて、コンビニの弁当をあの家で一人食べてる姿を想像してみろ
絶対に俺は長門をそのままにしておけない

「まぁ私はちゃんと自分の分の夕食があればいいんだけどね?」
「わかってるよ、長門もちょっと座って待っててくれ」

 俺は寸胴鍋を取り出してそれに水を入れて火にかける
蓋を閉めないとガスが無駄になるので注意
…で、ある程度沸いて来たら塩を適量水に入れて
沸騰と同時にパスタ(300g)を手首のスナップで広がるように鍋に放り込む

「あとは茹で上がったらざるに上げて、マーガリンを混ぜ、さらにもってソースをかける」

 忙しいお母さんにぴったりのスパゲッティミートソースのできあがりだった

434 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/20(金) 00:19:28.84 ID:Z6mtfnpF0

>>433


「ほら、たんと食え」
「…あんたの分は?」
「あとで食うさ」
「…そう」

 二人分しか買ってこなかったんだよ、なんていう必要は無い
まぁ代わりにもらった長門の弁当でも食うさ
と俺は早速寸胴鍋とざるを洗う作業に入り思う
…明日の朝はどうしたものかね?


本日長門(&柊)の夕食 スパゲッティミートソース 完食

436 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/20(金) 00:21:35.08 ID:Z6mtfnpF0

>>434

[キョン編]

「腹、減ったぜぇ」

 夜中、空腹で目が覚める
いくらよく食べるといっても長門も女の子
考えてみれば一日なにもくってない俺には流石に足らないにも程がある
無理やりベットに入って眠ってみようとしたがこの有様

「最低にローって奴だぜ」

 水でも飲んで腹を膨らませようかと俺は部屋をでて台所に向かう

「やっ」
「…帰ってたのか」

 こなたがテレビを小さな音量でつけて台所でボケッとしていて
俺が来た音に気がついて顔を上げる

「まぁね、しかしキョンも早起きってレベルじゃない時間帯に起きるね」

 現在時刻午前3時、なんとも言いがたい時間帯である
明日起きれるだろうかな?

「ってか冷蔵庫の中なにもないじゃん、帰ってきて何か食べようと思ったら空っぽなんだもん」
「あぁそうなんだよ、俺も空腹で目が覚めたところでな」
「へぇ、じゃあなんだったら食べる?」

438 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/20(金) 00:22:19.90 ID:Z6mtfnpF0

>>436

「仕方ないから一人で飲み明かそうと思って」
「付き合うさ、今日はなぜだか休みで訓練無いのに疲れてな」

 ビールの缶をぶつけあってつまみのスナックをつまむ俺とこなた
小さな声で囁く様に今日あったことについて会話をしながら
やがて本来なら寝てる時間帯のためにやってくる眠気に襲われるまで
俺達はずっと話し込んでいた

439 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/20(金) 00:22:40.67 ID:Z6mtfnpF0

>>438


『なによこいつ、こんな所で寝ちゃって』

『ん? あぁ寝かせといたげてよ』

『……まぁいいけど、こいつも馬鹿よね?』

『そういわずにね、今日は私がご飯作ってあげるよ』

『元は交替じゃなかったの?』

『はっはー、何のことだかねぇ』


 俺は、どことなくいい夢を見た気がした

本日(?) キョンの夜食 プライスレス 

441 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/20(金) 00:24:07.00 ID:Z6mtfnpF0

勢いで書いてたら
スレはもんはんで勢いついてて
俺、なにしてるんだろ…ってなりつつ終了


…なにしてるんだろ

158 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/06/21(土) 19:53:52.72 ID:NkZ8Tog0

 長門ごめんの話、少しだけ修正版


「遊園地行こうぜ!」

 こなたが目を光らせて意気揚々とそういいだしたのはいつのことだったか
その日は俺も柊も予定があったために強制的に却下にされたそのこなたの案だったが
しかしそれからしばらくたった今日、学校も休みで訓練も無し(こなた権限)でこなた当人も急ぎの仕事は無い
という状況でこなたが今一度言った

「だからみんなで遊園地行こう!」

 その手には複数の遊園地のチケット、一日フリーパス
ここらでは少し前に話題になった遊園地で、いまも根強い人気は相変わらずらしいが

「みんなとは…誰のことを表すんだ?」
「私達と学校のみんな」

 こなたはもう少し言葉の意味を察する努力をするといい

「だからその私達と学校のみんなを詳しく言えといってるんだ!」
「私じゃん? キョンにかがみにみさおちゃんにあやのちゃんにみなみんにパティも」

 七人、学校の遠足の班の人数にも多いぞ
一人はみ出るのがいるから一つの班だけ周りより一人多い班みたいな

「ってかすでに上記の面子にはキョン以外声かけて用意してもらってるよ!」
「用意周到って言うか俺からしたら万事休す!」

 逃げ場は無いと言うことか! これは腹を括るしかないな…
まぁそもそも嫌がる理由なんてあんまりないんだがな
あるとするならば―

159 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/06/21(土) 19:55:25.09 ID:NkZ8Tog0

「絶対にお前か日下部かパティの人の話を聞かないトリオの誰かが一度は迷子になるな」

 多人数での行動、しかも人口密度の高い場所で、という状況が重なると
必ずお調子者や抜けてる奴とか話し聞かない奴が迷子のおばかちゃんになる
しかもこの三人は全員が話し聞かないお調子者で少し抜けてるという凶悪なコンボである

「まったく、キョンは保護者に向かってなんということを」
「ほ…ご……しゃ?」
「なんだよぅ?」
「いや、…別に」

 今の面子自分で言うのもなんだが
この七名の保護者の立場に居るとすればそれは確実に

160 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/06/21(土) 19:55:52.88 ID:NkZ8Tog0

「確実にあんたが保護者よね」

 全員を遊園地の入り口前で整列させて迷子になった時の対応法を話していると
柊が呆れたようにため息をついてそういった

「でも、キョン君の電話番号、実は始めて知ったかも」
「そういえば柊とこなた以外教えてなかったな」

 有事の際は俺の携帯にかけるように全員に個人用の携帯電話番号を教える俺
あやのがにこにこと笑って携帯を眺めている

「まぁあとは離れ離れになったらその場所を動かないってのが鉄則だな」

 双方動くと遭遇率が極めて低くなるからな
俺はそれだけを最後に言って締め――


「おいこなた、俺も人のことは言えないが。そういえば長門は…」

「……、エンジョイしようぜ!」

「おいこな―」

「今日は一日楽しむぜ!」 

161 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/06/21(土) 19:56:18.80 ID:NkZ8Tog0

 一人で先に園内にダッシュしてしまうこなた
あの野郎、俺も今まで気付かなかったけど

「あの子だったら来ないって言ってたわよ」

 罪悪感にやられかけていた俺に柊が助け舟を出してくれた

「昨日こなたに話聞いたときに面子聞いたのよ
 で、ファーストを素で忘れてるっぽかったから私が連絡入れたのよ」

 それで電話を入れてみたらその日は予定があるから無理と丁重に断られたそうだ
既に他の連中にも連絡が言ってるため仕方なく長門には悪いと思いつつ柊もそのまま参加したとのこと

「言ってくれよ」
「ごめん、あんたなら気付くと思ってたんだけどね」

 耳が痛かった、まるで中耳炎のように!
だがしかし訓練も学校もないのに長門の用事とはなんだろうか?

「さぁ、私は連絡をして、断られて、予定があると言われただけよ」
「ほぅ」

 まぁいいさ、柊が連絡してくれていたのならよかった
それでも罪悪感がないわけでもないが、とりあえずは楽しもう
俺は思考を切り替えて自分も入場することにした

162 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/06/21(土) 19:57:27.22 ID:NkZ8Tog0

「えっとまずはフリーフォール?」

「初っ端からそれはないだろ」

 とは言ったものの俺も遊園地という場所には比較的疎く
こういう場所での行動パターンなんてものはまったくインプットされてない
入ってないものを出すことはまぁ捏造しない限りできないので
俺はこの場では完全にフィーリングに任せて動くことになる


「ジェットコースターの種類が多いらしいからコンプしようぜ!」
「おぉいいねぇ!」
「でも勝手に行っちゃダメよ?」

 日下部とこなたの似たものコンビは早々に暴走しかけてるし
学校なら日下部のブレーキになるあやのもなぜかみんなで集まってるときは
どうにもアクセルにジョブチェンジしてる感じである
いや、とめてはいるんだが、帰りの会で「私は止めました」というための止め方だ
本気で止める気が無い

「まぁでもいいんじゃないの? みんなで楽しめれば問題ないんだから
 あんたがずっと眉間に皺寄せてたらダメよ、みんなあんたを頼りにしてるんだから」
「お前な、頼りにしてるっていっても、俺たち忙しいから教室の掃除頼んだぜ! な! みたいな感じだぞ」

 今日の俺の比喩の方向性:学校ネタ

163 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/06/21(土) 19:59:11.21 ID:NkZ8Tog0

「でも、午前中はガーッと遊んでごはんたべてからゆっくり周るってのも正攻法よ?」
「…そんなものか?」
「そ、せっかく早い時間に着たんだから人が居ないうちに人気のアトラクション乗っちゃいましょ」

 俺の肩をバシンと叩いて柊は並んで歩いてるこなたと日下部の間を通るようにして
二人と肩を組んで三人四脚よろしくで一番近くのコースターに走っていった

「おいおい、ボケとノリが多すぎる、俺には突っ込みきれんがな」
「なら一緒にのっちゃいえばいいんじゃない?」
「…あやの」
「その方が楽しいわよ?」
「まぁ、周りを見失わない程度には遊ぶさ」

 俺とあやのはいまだ後ろでのんびりあるいてるみなみとパティを呼び
早速見失い始めてるこなたと日下部を追いかけることにした

164 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/06/21(土) 19:59:38.76 ID:NkZ8Tog0

「おーい、いまなら待たないで即行で乗れるって!」
「はようせい!」

 ぴょんこぴょんこと飛び跳ねてうるさい連中である
人がもっと増えてきたときにやられればひたすらに目立つだろう
まぁ見つけやすいのは助かるけれどもな

 追いついた俺達は本当に人の居ないジェットコースターの駅(?)に入る

「一つに二人か、…じゃあ一人余っちまうな」
「じゃあワタシとキョンが隣同士で他の人は好きにすればいいヨ」

 いきなり俺の腕に自分の腕を絡めてくるパティ
勢い余って前に倒れそうになるのをどうにか踏ん張る
加減を知らない奴だ、俺の腕が肩から持っていかれたらどうする
ちょっとしたおふざけのつもりが大事になることなんていくらでもあるんだぞ
かばん持ちでランドセルを五個持たされた状態で転んで腕を折った奴を俺は知ってる

「なら私がひっとりで先頭!」
「あ、いいな〜」
「早いも勝ちー」
「子供だ…」

 こなたが先頭のコースターの真中に陣取る
ベルトじゃなくて上から端から端までを押さえるバーが降りてくるタイプなのでそれも可能なのだ

165 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/06/21(土) 19:59:57.65 ID:NkZ8Tog0

 ということで先頭がこなた、次に俺とパティ、その次に柊と日下部で最後にあやのとみなみ
あやのと日下部がコンビ解消したのには少々驚いたが
しかし新コンビの方もなかなか様になってるとも思う

「ではいってらっしゃいませ」

 とスタッフの声と一緒にコースターがゆっくりと加速する
こなたが両手をあげてぱたぱたするのが視界に入って邪魔である

「おいこなた、手をあげるのは上昇したあとに急降下するときだけにしろ」

 後ろから頭を叩き文句を言う俺
常に手を上げて馬鹿ですか、子供め

166 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/06/21(土) 20:00:27.82 ID:NkZ8Tog0

「なんだよー別にいいじゃんかよ」
「お前ちっこいから中途半端な位置を手がぷらぷらすんだよ」
「なんだと!?」
「よくコースターに乗れたな、もっと勢いのある絶叫系コースターだったら身長制限に引っかかるんじゃないか?」
「130cm以上あれば問題ないでしょう」
「あれ、お前130もあったのか? 初耳だな」
「ムキーッ!」

 絶対に反撃を受けない状況でこなたをからかうのは非常に楽しい
振り返ればできないこともないだろうがこなたも
流石にジェットコースターでそこまで行動起こすほどお馬鹿では無かろうて
はっは、愉快愉快

「くそぅ、降りたら目にもの見せてやる」
「はっは、そろそろお望みの急降下地点だぞ」

 カラカラとチェーンで引っ張り上げられて
もう少しで山なりのレールの頂上付近になる
ふと、右手をパティに強く握られる
そういえばさっきから黙ってるなとパティの顔を窺おうと顔を向けて

「いっやふぅ!」
「のわっ!」

 タイミングよく降下するコースターに首が一気に後ろに持っていかれそうになる
同時にさらに右手を握る力が強くなるパティ

167 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/06/21(土) 20:14:40.65 ID:NkZ8Tog0

「おい、まさかパティこの手の苦手か?」

 これは比較的ゆるい方のジェットコースターだと思うが
身長制限もないし子供でも乗れるのだから

「え? そ、そんなことな…」
「やふー!」

 引き攣った笑みを浮かべるパティ
そういえばこなたと日下部に混ざって騒ぐのがいつものパターンなのに
今回は柊がその位置にいてパティはみなみやあやのとゆっくりしていた
その辺に俺ももう少し早く気がつけばよかったが…

「いやーほぅ!」
「うるせぇ!」

 こなたが前で大声を上げて最高にエンジョイしてやがる
嫌な有言実行だった

168 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/06/21(土) 20:34:45.14 ID:NkZ8Tog0

 ゆっくりと減速、停止
バーが上に戻り乗ったときとは反対にでてコースターから降りる

「なんで最初に言ってくれなかったんだよ?」
「キョンが居れば大丈夫だと思ったんだけどネ」

 すでに普通の笑顔に戻ってるパティ
当然のように俺の手を握ったまま歩いてる
正直止めて欲しいのだが、しかしどうにも言い辛い場面である

「…あぁ、でもあいつらしばらくこの手のを乗りまわすつもりだぞ?」
「なんとかなる!」

 なせば成るといってもなぁ

「まぁ無理だったら無理と言えばいいさ、…それに」

 どうやらもう一人この手のが苦手の人物も居るみたいだしな

169 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/06/21(土) 20:43:49.77 ID:NkZ8Tog0

「大丈夫かみなみ?」
「…その、えっと、なんとか」

 なんでどいつもこいつも無理して黙って乗るのかな
言えよ、本当にさ

「おいこなた、このまま連続でハイ&ローなコースターを繰り返していたらこの二人はやばいぞ」

 それに俺も最後まで付き合えるとかわからん位だしな
本来なら二手に分かれるなり、あいつらが乗ってるときに下で待ってるとかもすればいいのだが
…どうにも騒がしい連中が纏まって視界から消えるのは不安でならない気がする

「じゃあハイ&ハイは?」
「死人が増えるな」
「俺の屍を超えていけ!」
「俺はそんなにかっこいいこと言わなくていいから生きたい」
「情けない!」
「ならお前はコーヒーカップを一人で勢いよくやってろ、五回位」

 最悪の気分になるだろうて
確実に吐くぜ

2 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/22(日) 16:46:09.91 ID:ASPw0qKN0

――

 暗く長い廊下を抜けて一つの扉を空ける
そこには、広く、広く、広い部屋が文字通り広がっていた
壁は一面黒い無機質なコーティングをされており
向かった正面のみが一面のガラス張りになっている
調度品などほぼ無く、そのガラスの少し手前の位置
俺と正反に大きなデスクと革張りのチェアがあるだけだ
そして窓から入る月の光に三人の人物のシルエットが浮かぶ

 この部屋の主であり俺が会いにきた一人が
その社長の座るような黒くシックな椅子に座し
他二名は一人が従うように後ろに立って
もう一人はガラスに手を当て外界を見下ろしている
俺はその片方の見知った顔に少々驚きつつ
しかし口にも態度にも出さず目的の人物と話すため距離を詰める

4 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/22(日) 16:48:21.86 ID:ASPw0qKN0

「よぉハルヒ」
「キョン、なんか久しぶりの気がするわね、ほぼ毎日学校で顔を合わしてるのに
 二日酔いならぬ三日酔いの調子はどう?」
「おかげさまでお前の声が脳髄にガンガンとビートを刻んで聞こえるさ」

 俺の答えに腕を組んで椅子に体重をかけ
軋みと同時に意地の悪い、捻じ曲がった笑みを浮かべるハルヒ

「…ここに来てから、お前のその表情ばかり見てるな」
「へ?」

 俺は昔の、地面に足をつけ両手を広げて世界を照らす太陽を見上げて
まるで大輪の花のように、向日葵の様に笑うお前が好きだった

 だが今は、自らが高い場所に上り鋭く輝く月を背後に世界を見下ろして
まるで悪魔のように、凄惨で残酷な天使の様に笑うんだな

「今のお前は、正直好きになれないよ」
「そう、ならやっぱり私達は似たもの同士だわ」
「…」
「私はあんたのことが嫌いになれないもの」

 最初は、同属嫌悪に近かった
 次は、傷の舐め合いだった気がする
 いつかは、恋愛感情も抱いてた
 今は、どうなのだろうか?

5 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/22(日) 16:49:15.91 ID:ASPw0qKN0

「そんなことを話しに来たわけじゃないでしょう?」

 外を眺めていた一人が振り向きながら俺に笑いかけてくる
柔和な笑みが、しかし月の逆行で影になる

「どうもお久しぶりです」
「古泉、お前ドイツででかい組織ににスカウトされたとか言ってなかったか?」
「ここがそうですよ、この組織が世界にまたがる大企業でなくてなんだというんですか」

 ヘラヘラ笑いながら肩を竦める古泉
行動全てが芝居掛かっているこいつは、前から苦手だ

「知り合い?」
「わかってるだろ」
「全知全能じゃないわよ」

 だが、それになろうとしたのは誰で
いまもなろうとし続けてるのは誰だったか、俺は頭を悩ますつもりは無い

「まぁならいいわ紹介の手間が省けるわ
 でもこっちの人とは流石に知り合いじゃないでしょ?」

 ハルヒは親指で古泉とは反対側に居る一人の人物を指差す
それを自己紹介しろという風にとったのか、同時にその人は一歩前に出て会釈をする

7 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/22(日) 16:50:56.93 ID:ASPw0qKN0

「初めまして、森園生と申します」
「…あぁ、初めまして」

 俺も一応の礼儀として会釈を返す

「森さんはこの組織内で私の次に偉いナンバー2なんだからもう少し頭下げてもいいわよキョン」

 そうだったのか、なら一介のパイロットの俺
階級としてはたかが一尉の俺に自己紹介だろうと簡単に頭を下げてはいかんのではないか?
こいつらが階級的にどうなるのかは知らないけどよ
まぁいい、とりあえずは古泉だこいつがここに入ったのはいいとして
いつの間に日本に渡来してきやがったのか…

「ん、ドイツ?」

 近日同じ所から大々的に太平洋艦隊を利用して来日してきた奴が居た

「お前もあの船に乗ってたのか」
「ご察しのとおりです」

 あの場に居たということはあの戦闘に居合わせている筈だ
こいつがこの組織に関わっていてオーバー・ザ・レインボーに乗っていたというのが真実なら
戦闘時になぜこいつは俺達の前に姿を現さなかった?
表せられなかったのか? …怪しさ大爆発だなおい

9 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/22(日) 16:55:20.58 ID:ASPw0qKN0

「どうやら頭の回転数は以前より落ちてないようで、…少々困り気味ですね」
「ふん、まぁいい。今回はお前と探りあいをするつもりで来た訳じゃない」
「もちろんです、久方ぶりの邂逅の筈ですからね」

 もう一度肩をすくめ俺と話すために狭めた距離を再度取りガラスに寄りかかる
多分相当な分厚さを誇るガラスなのであろうとわかっていても
俺にはそんな恐ろしいことできないと思う

「ハルヒ」
「なによ? 修学旅行が明後日なのに仕度しなくていいわけ?
 あんたってずいぶん手際が良くなったのね、班長さん」
「この間のA-17の発令、N2爆雷の投下命令、――両方お前の指示だな?」

 ハルヒの言葉には耳を貸さずに間髪要れずに続ける
それに対してハルヒの態度は冷ややかを超えて冷淡であった

「当然よ、私の許可無くそんなことする奴が居たら頭を叩き割ってやるわ」
「…そうか」

 それだけ、それだけわかればいいんだ
嘘をつかれた訳でもなく、言い訳を紡ぐ訳でもなく
真実を隠す訳でもなく、御高説を垂れる訳でもなく

10 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/22(日) 16:58:05.87 ID:ASPw0qKN0

「ん? 班長?」
「あんたと私は同じ班よ、知らなかったの?」
「………そうか」

 俺は今度こそ背を向けて扉に向かって歩き出す
もう聞きたいことは聞いて言いたいことは言ったんだ
手際が良くない俺はとっとと残った修学旅行の作業を行わないといけないのだ
余計に神経使うことが増えたから胃痛薬でも入れとくか

「最後に一つ聞くわキョン」

 あと一歩で扉のセンサーが俺を感知して自動的に開くというところで
ハルヒの声が俺の動きを止める

「あんたはなんでエヴァに乗ってるの?
 複数存在する理由の中でなにが一番強い?」

 俺は、
 ・ ・ ・ ・
「今はまだ、お前との約束だ」
「…そう」

 俺は、部屋を出た

14 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/22(日) 17:09:27.40 ID:ASPw0qKN0

――

「おい、お前ら騒ぎすぎだぞ! お前らが暴れた所為で飛行機が墜落したらどうする!?」

 飛行機内部、離陸寸前というタイミング
俺は少々以上に人生の初フライトに神経質になっていた
飛んでるときはいいが、離陸と着陸が一番怖いというじゃないか

「あんたね、落ち着きなさいよ。エヴァでアクロバットやるのは平気で飛行機はダメってこと無いでしょ?
 そもそもあんたVTOL機とかはあれフライトじゃないの? なに? 小さいと平気な訳?」
「そんな矢継ぎ早に言うなよ、まるで責められてるみたいだ」

 こう戦闘機とかエヴァ用の貨物機とかと違って
運転してる人間も見えないし知らない奴だし、なんか漠然とした不安があるんだ
VTOL機は離着陸も静かでゆっくりだしさ、上下移動じゃん
飛行機って地面に特攻するように着陸するんだぜ? 怖いだろ普通

「なさけない男」
「情け深い男ではあるぞ」
「毛深い?」
「一部だけ取るんじゃない!」

 いきなりなんだそれ、俺はなんでいきなり自分の毛深さを誇ってるんだよ
知らないよそんな奴、友達になりたくない奴の上位認定だ

15 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/22(日) 17:20:55.64 ID:ASPw0qKN0

「あぁもう、あんたも十分うるさいわよ、黙れ馬鹿」

「団長さんはずいぶん口が悪いわよね、慎みってのを持ったら?」

「セカンドはもっと目上に対する態度を覚えなさい」

「ここではただのクラスメイトよ」

「なら副委員長に対する態度を覚えなさい」

「委員長さん、涼宮さんに委員長に対する口の聞き方を教えてあげてください」

「…え、あの、その」

「おい! そこでみなみにふるなよ」

16 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/22(日) 17:21:21.44 ID:ASPw0qKN0

 滅茶苦茶だった、どうにも柊とハルヒは馬が合わないというか反りが合わないらしい
確かに性格的に気が強い二人ではあるが…
というか基本的にこの班は全員個性が強い、俺が居ない間に組まれたらしいが
意図的というか恣意的というか、他の連中の悪意を感じるわけかただった

「おぉー、あやの見ろよ! すっげーな!」
「みさちゃんが窓を塞いでるから見えないわ」

 いつものコンビ

「あの、二人とも落ち着いてください」
「ごめんね岩崎さん、ただ涼宮さんがちょっとね」
「…ふん」

 ど突き合いコンビ+委員長

「…頼むから席にちゃんと座ってくれ」

 そして俺
なんかこれいつものメンバーというか
他のクラスメートがこいつらの面倒を俺に丸投げしただけだろ
この面子の班長って、なに、この三日間で精神過労で倒れるぞこの野郎

18 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/22(日) 17:34:39.08 ID:ASPw0qKN0

「ほれ、騒いどらんとちゃんと座り。そろそろ離陸するから危ないで」

 黒井教諭がそれぞれのシートベルトのチェックやらなんやらをしに
巡回中、離陸直前と聞いて尚更ダウナーになる

「おら日下部! 人の話をちゃんと聞け、座れって言ってんやろ」
「うーっす!」

 誰だ一番騒がしくて能天気な子を窓際の席に置いたのは
目的地に着く前に疲れそうなテンションを維持しちまってるぞ

「…みなみが同じ班なのがせめてもの救いだよな」

 今回左隣の席に座ってる一番の常識人であるみなみに声をかける
自己主張することがあまりないが、この面子の所為で彼女は本当に普通人だ

「わたしには少し荷が重いですよ」

 いや、俺にも重いから、一杯一杯だからな
持つというより乗っかってるに近い、耐えるのが限界

「でも…」
「ん?」
「一緒に持てば少し軽いです」
「…そうだな、頼りにしてるぞみなみ」
「はい」

19 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/22(日) 17:43:28.43 ID:ASPw0qKN0

 こっちを向いて少しだけはにかむみなみ

「中々見ないその表情に胸キュンのキョンであった」
「なに勝手に独白に変なもん混ぜ込んでんだ日下部!」

 いや確かに可愛いとは思ったが、胸キュンは死語だ
チョベリバなみに死語だ

「いや、でもそんな表情だったってキュン!」
「俺のあだ名が一層可哀想なことになった!」

 最悪の呼び方だ、なんだキュンって
いっそ殺してくれ

「いいんちょもそう思うよな?」
「えっと…」

 そこでみなみにふってやるなよ
困ってるじゃん、俺と日下部の間を視線がうろちょろしてるぞ

「はいはい、くだらないラブコメやってなくていいから」
「やってないからな、勘違いもほどほどにな
 で、日下部も座れな、あとで文句言われるの俺だから」

 本人に言っても意味がないとみなされてるから俺に苦情が来る
言われるうちが華というがなら日下部はもう見放されてしまったのだろうか
…それも可哀想だな、うん

20 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/22(日) 17:59:31.41 ID:ASPw0qKN0

 機内アナウンスが離陸開始を告げる
流石に騒がしかった機内が一気に静まりかえり
ジェットエンジンの音が徐々に大きく聞こえてくる
ゆっくりと機体が前方に動き出し滑走路を進む
この辺りからまた機内がざわめく
体育館で全員が座ってる時に隣の奴と小さな声で喋ってる時位にぼそぼそと聞こえる
なんか、「いま静かになるまでに五分かかりました」とか先生が言って来る感じ

「いやいやいやいや」
「なにようるさいわね」
「いやいやいや、怖いって」
「羊でも数えてなさい」

 眠くなったらどうする
眠っていて気付かない間に死んじまうと悪霊になるんだぞ
知ってるのかよ、そこんとこ

 ぐいっと引っ張られるように加速してく機体
あぁ、やばい離陸するぞと思う、いや本当になんで怖いのかわからんけど

「離陸終わったわよ?」
「…そうか、やっぱり大した事無かったな」

 ははは、と乾いた笑いを上げる俺
いやまったく困ったもんだね、ははっ

22 名前:最初のシリアスムード? なにそれ、美味しいの?[] 投稿日:2008/06/22(日) 18:13:13.18 ID:ASPw0qKN0

「おぉ、あやの! 飛んでるぞ!」
「そうね、飛行機だもの」
「UNOやろうぜ!」

 前後の台詞に一貫性がない日下部だった
しかし横と前の席に座ってるこんな状況でどうやってやるんだ?
飛行機の座席って中学の時の新幹線のように回転するのか?
…それはないだろう

「じゃあババ抜き」
「それならなんとかなるか」

 全員にカードを配りさえすればいいんだからな
山札とかがなければあとはどうとでもなる
…捨てるカードはどうなる?

23 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/22(日) 18:13:32.16 ID:ASPw0qKN0

「誰かに渡せばいいんじゃね? そうすれば闇のゲーム化することもないっしょ」
「あぁ確かにな」

 闇のゲーム、本来最後にJOKERのみが残るはずのババ抜きにおいて
誰かが間違えて二枚そろえずに出してしまうことによって起きるあまりのカード
決してそろうことなく延々と引き合うその姿は傍から見れば道化(JOKER)そのものという
悲しき血塗られ仕組まれたゲームなのだ
だがそれも確認者を作れば回避できる

「じゃあキョンがやれよ」
「はぁ? そこは言いだしっぺの法則の適応をだな」
「わたしだと見落とす可能性があるぞ」
「くっ!」

 自分の信用のなさを逆に利用するとは、あなどれない

26 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/22(日) 18:26:04.19 ID:ASPw0qKN0

「あ、なら私がやります」
「いいんちょ?」

 少し手を上げて言うみなみ
日下部は突然のみなみの珍しい行動に面食らったようだったが
すぐにかばんからトランプを取り出して手渡した
みなみを受け取ったそれを手際よくきってそれぞれに配り
まぁ適当な雰囲気でゲームが始まることになった

 飛行機でも酔うってことあるのかね?

27 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/22(日) 18:37:22.18 ID:ASPw0qKN0

「ついたわね、日本の南国に」
「あっという間だったな」

 まさしくあっというまだった気がする
ゲームに熱中しすぎたのだろうか

「琉球の中心地那覇か」

 当然俺達が住んでる第三より南な訳で
日光は景気よく降り注ぐし、太陽は破壊的なまでに元気だが
しかし湿度が低いお陰か不快指数の高い暑さじゃない

「サウナみたいなものよ、あれって気温というか室温は100℃に近いらしいわよ」
「湿度が高かったら全身に重症の火傷を負うな」

 だがじゃあ焼け石に水ぶっ掛けるのはどうなんだろう
めちゃくちゃ水蒸気じゃないか、湿度高いというかそのものだぞ

「だから場所によるんでしょうね、そういうのない場所は高いんじゃないの?」
「…そうか」

 そういや平然とハルヒと話してるな
先日あんなことを話したばかりだというのだが
場所というかそのステージの違いか

「とりあえずまずはホテルに行きましょうか」
「あぁ、荷物ももう行ってるらしいしな」

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/06/22(日) 20:49:24.26 ID:ASPw0qKN0

 白い一般的なそれより大き目のホテル
学校も無理をしたものだと感心しつつホテルにチェックインする

「403号室だそうです」
「鍵はみなみが受け取ったのか?」
「あ、はい、どうしますか」
「いや、みなみが持っててくれ」

 ざわざわと、がやがやと私服の高校生の集団があちこちに見える
本来平日の三日間を利用してるから他の客の姿は極端に少なく
いや貸切のようなのは悪くない、それに迷惑かける対象が少ないのは楽だ

「中学のときはホールの所に全員分の鞄がタグ付で置いてあったんだけどね」
「どうやら部屋に運んであるらしいな」

 まったくご苦労様なことだ
四階だの五階だのに百人近い人間の三泊分の荷物を運ぶとは
かなりの仕事量だったろうにな

「じゃあ早速部屋いこーぜ!」
「みさちゃん、多分そっちの階段じゃないと思うわ」

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/06/22(日) 20:56:27.06 ID:ASPw0qKN0

「遅い」

 みなみが鍵を開けて部屋に入ると
なぜか既に長門が中で茶を啜っていた

「お前…いつの間に、ってかどうやって中に入ったんだよ!
 いま鍵開けたんだぞ!」
「あんた馬鹿? 鍵って中から閉められるのよ?」
「なっ! 知らなかったぁ!」

 ちっくしょう、大馬鹿かましたぞ俺…

「いや、それって結局解明できて無くないか!?」

 いま鍵が閉まってたのはいいとしてもだからどうやって入ったのか全然わかってないからそれ

「手品」
「手品ってたねあるもんだろ!?」
「ピッキング」
「夢も希望も無い真実!」

 知らないほうがよかった事実!

49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/06/22(日) 21:19:26.33 ID:ASPw0qKN0

「あんたって冗談通じないのね」
「え、冗談だったか今の」

 いや、まぁ普通はそうとるよな
だけど他に解釈の仕様も無かったしさ

「窓から入ったんじゃないの?」
「いや、もっと危険だからそれ」

 出来るだろうけど、長門ならできるだろうけどさ

「まぁいいわ、私にもお茶淹れて頂戴有希」
「わかった」

 ポットからお湯を入れて茶を入れる長門
他の連中も別段普通に中に入り自分の荷物を確認してる
…俺だけがおかいしのか?
変人の国では常識人こそが変人か

55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/06/22(日) 21:54:59.83 ID:ASPw0qKN0

「この後どうするんだっけ?」

 スケジュールをまったく把握してないことがばれる日下部の発言だった
俺は一応せめて班長として頭に入れた今日の予定を仕方なく告げる

「今日は比較的自由行動だな7時に夕食があるからそれまでに集合すれば自由
 明日は班毎に組んだスケジュールで市内を回り
 水族館やら美術館やらを覗く、後日レポートの提出があるから気をつけろよ?
 で、明後日は午前が自由で午後3時に飛行機で帰還って感じか」

 ということで今はまだ正午程度、慣れない飛行機や
ホテルまでの移動があったにしてもまだまだテンションがあがりゆくところである
市内探索をしてもいいし、沖縄の海も見に行きたいものだ

「泳いでいいのかな?」
「自由時間内で遊泳していい範囲ならいいんじゃないか?」

 知らんけど、一応自由とついてるんだ
女神の松明の名の下に好きに泳ぎ回るがいい
俺は見るだけでいい、いや、花火をやるのもいいかもしれない
絶対持ってきてる奴いるだろうし、そこらで売ってるだろう

58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/06/22(日) 22:09:13.39 ID:ASPw0qKN0

「なら暗くなったら花火やろうぜ!」
「酷く身近にいたなぁ…」

 まぁいい、手間が省けるさ
それにこういうところはなんでも高いのがセオリーになってる
缶ジュース200円は馬鹿にしてるだろ
あとロングビーチ内のマクドナルドとかケンタとか
足元見やがって、見たと同時に砂浜の砂で目潰ししてくれる

「でもあんまり遅くまで外でれないんじゃないの?」
「確かに花火が綺麗な夜になることにはホテル内に居ないとまずいだろ」

 消灯10時って近頃の高校生を舐めてるだろ
その時間からが遊び時だ、補導されるけど

「ならベランダでやったらどうだ?」
「…見つかったら怒られるんじゃ」
「いや、でもどうにかなるんじゃないか?」

 カーテン閉めて全員外に出てればばれないだろ、多分
折角目の前に花火があるんだ、やらないのもあれだろう
健全な高校生として間違ってるぜ

59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/06/22(日) 22:18:19.97 ID:ASPw0qKN0

「もう、花火の話はあとでいいじゃない、いまは昼にしかできないことをやりましょ」

 あやのが少し怒ったように眉を寄せて言う

「そうだな、昼飯もまだだしな」
「なんか沖縄ならでわの物食べたいわね」
「チャンプルー系?」
「そういうの、ゴーヤとかヤンバルクイナとか」

 天然記念物級の珍しい鳥を食う柊だった
イリオモテヤマネコも食っちまうんだろうか?

「ヤママヤー」
「ん?」
「イリオモテヤマネコの呼び方」

 沖縄の言葉だろうか、うちなんちゅとかシーサーやいにーびとか
ここは本当に日本とは思えない言葉で正直独語や英語より俺には難解だ

62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/06/22(日) 22:39:55.70 ID:ASPw0qKN0

「西表島にも確か行けるわよね?」
「まぁな、コースに入れてる連中もいただろう」

 その代わりそれだけで明日の自由時間をかなり使ってしまうので
数まわるのは厳しくなる、そのため俺達は西表島はスルー
興味はあるがしかしどこもかしこも知らない場所なのだから
一々金も時間もかけて離れた小島に行く必要もないだろうと思うし

「じゃあ少しあたりをうろついてみましょうか」
「だな、土産屋とかもよさげなの見つけておかないと三日目になって適当なもの買うのも嫌だしな」

 こなたや喜緑さん達に渡す土産とか色々あるのだ
結構人数がいるから被らない様に変なものにならないように慎重に選ぶ必要がある
特にこなたは何度も土産を頼むと懇願していたからな
適当にするのはこちらの心情的にも嫌だし、あとからこなたに文句言われるのも嫌だ

 まったく上げる側なのに文句言われる心配をする羽目になるとは

63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/06/22(日) 22:53:10.41 ID:ASPw0qKN0

「ってか柊や長門とかも土産頼まれてたろ? ハルヒは?」
「私は部下連中には一通りあげるつもりよ
 森さんとか古泉君とか、オペレーターの子とか、こなたや江美里にも」

 …こなた、みんなから貰うのかよ
ちょっとその辺抑えとけよ自分を

「土産代も馬鹿にならんな」
「私達は家族に買ってけばいいだけだけどね」
「いんや、仕事で人間関係が増えると大変ですなぁ」

 お前達も二年後には社会人だということを忘れるなよ
大学行ったら行ったでやっぱり高校までとは比べ物にならない人間関係の構築をせなければならんというし

「まぁいいじゃんか、土産をやろうと思える人が多いのは悪いことじゃないべ?」
「……確かにな」

 ここにくる少し前の俺ならば、確かに土産なんかやる奴一人足りとて居なかっただろうしな
家族や友達や同僚や、そういうのが増えたのは確かに喜ばしいことか

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/06/26(木) 17:51:18.21 ID:FlF9QZG40

―――

 さー、と火薬と火花が流れる音と
それにあわせて緑や赤や千差万別な色とりどりの光が周囲に舞う

「すっかり子供ね」

 少し離れたところで、ハルヒはおかしそうに笑う
俺はハルヒと手持ち花火を振り回す連中の中間の位置でバケツを守護してる

「いいんじゃないか? たまにはこういうのも」
「なら、あんたもやればいいじゃない」

 たくさんあるんだからなくなるには時間かかるわよ? と
そう俺に言って顎で花火の山を示すハルヒ

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/06/26(木) 18:03:37.81 ID:FlF9QZG40

「遠慮しとくよ」
「あらなに? ビビリなわけ?」

 花火を怖がるとか、子供じゃないんだからと
言おうとして、子供という言葉が表す範囲に少し戸惑う
先ほど子供だからはしゃぐと言って、次に子供だから怖がるといって

「まぁ、天邪鬼で矛盾することも平気でやってのけるのが子供だからな」
「あんたも天邪鬼よね」

 そうだろうか? そうなのかも知れない
けれど今は俺が天邪鬼かどうかは幸いにして考える必要の無い場面だった

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/06/26(木) 18:21:32.15 ID:FlF9QZG40

「キョン、これ面白いぞ!」

 日下部が一つ、カラフルに色が変わる花火を持ってやってくる
どうにも思考能力が幼稚らしくその七色の火花が思いっきり俺にふりかかる

「あつっ! 半袖にそれは危険極まりない!」
「あっ、わりぃなキョン」

 わりぃ、じゃねぇよ! 失敗失敗みたいに舌出すな馬鹿
いいから早く花火をどっかに向けろ、じゃないとバケツを頭から逆さに被せるぞ

「ほら、も少しあんたも考えたら?」
「あ、あぁ、でも終わっちゃったぞ?」
「終わるまで俺に火花をかけ続けたということでもあるな」

 あとで風呂に入りなおしたいものだが
しかし入浴時間が決まってたりするからな
隠れて行くのは面倒だな、見つかったとき色々

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/06/26(木) 18:34:14.14 ID:FlF9QZG40

「ハルヒももう少し早く日下部を止めてくれよ」
「あら、なに勘違いしてるか知らないけど、私はあんたに言ったのよ?
 日下部が馬鹿なのはわかってるんだから自分が動きなさいよね間抜け」

 酷い言われようだった、だがしかし俺がその場に固定されてる訳じゃないんだから
確かに俺が逃亡すればよかったのは歴然たる事実だ

「本当にあんたって馬鹿ね、相当の馬鹿よ
 降りかかる火の粉を払い除けもせず甘受してるなんて生物としての危機管理にかけてるわ
 ただちょっと身を捻れば逃げられるというのにそんなことも考え付かないなんて
 もしかしてあんたってマゾヒストの気があるんじゃないの?
 だったら私がこうやってあんたに説教してるのもあんたは喜んでるのね、おぞましいわね」

「お前の口から出る言葉はまるで花火だな!」

「なに? 華々しく儚い?」

「人に向けちゃいけないって言ってんだよ!」

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/06/26(木) 18:42:19.56 ID:FlF9QZG40

「おぉ、キョンいま上手いこと言ったな!」
「お前はもうあっちで花火やっててくれ!」

 正直花火をやってないのに汗をかいてきた
水の入ったバケツに足を突っ込んで見るか?
試しに俺は指を突っ込んでみる、まだ花火は投下されてないから綺麗です

「…温いな」
「あんたなにやってんの?」
「わからない」

 なんだかこうしなくちゃいけない気がしたんだ
そろそろそんな時期だと、そう思ったんだ

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/06/26(木) 18:49:33.28 ID:FlF9QZG40

「…これ」

 ふと自分自身の謎めいた行動に頭を抱えてる俺の元に
長門がなにやら珍しい小走りで近づいてきた

「あぁ、線香花火な」
「…」
「やってみるか?」
「…」

 小さく頷く長門、しかし線香花火とは
期待を裏切らないチョイスである、本当に

「どれ貸してみろ、このままじゃなくてほどかないとダメだぞ」

 一度十本の束で火をつけたこともあるが
大変な目にあいました、でかい火球ができてあっというまに落ちた
残ったのは虚しさのみという

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/06/26(木) 19:55:23.53 ID:FlF9QZG40

>>15
「…」
「ほら」

 二箇所をとめてるテープを剥がしてうち一本を長門に渡す
俺はポケットからライターを取り出して火をつける
これは結構危ないんだけどな、花火から逃げようとして斜めにすると
ライターの炎に指をあぶられるという二重の罠

「…」
「あぁ違う違う、火をつけるのは反対だ」

 ありがちなミスを犯しかける長門
へろへろしてる方が持ち手なのだ線香花火は
わざわざ俺が間違えないように渡したにも関わらず向きを入れ替えやがって

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/06/26(木) 20:07:32.62 ID:FlF9QZG40

「…」

 ちりちりと、ぱちぱちと、はらはらと、ぱらぱらと

ゆっくり火花を散らして大きくなっていく紅い玉

 ちらちらと、ぱたぱたと、きらきらと、さらさらと

俺とハルヒの更にあいだで
華々しく明るく開く火の花から離れて一人
長門が静かに黒い瞳に火球を映す

「…綺麗」
「そうだな」

 ぽつり呟いて反対の手で花火に指を伸ばす長門

「触るなよ?」
「…………わかってる」

 本当に純粋で、少し無知な長門に自然と笑みがこぼれた

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/06/26(木) 20:18:57.03 ID:FlF9QZG40

「…いや、本当に触るなよ?」
「………わかってる」

 少しだけ残念そうに指をようやく引っ込める長門
ケラケラとそのやりとりを見て笑うハルヒ

「んだよ?」
「あんた達って親子?」

 肩をすくめてヘラヘラとシニカルに笑うハルヒに
答えず長門に目を戻す、火球から飛び散る火花は相当少なくなり
そろそろ落ちるだろうと俺が思うと同時に静かに音も無く儚く地面についた

「もう一つやるか?」
「…やる」

 名残惜しそうに先の無くなった線香花火を見る長門に
先ほどバラした線香花火を手渡す

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/06/26(木) 20:24:03.49 ID:FlF9QZG40

「…ってかなんか煙いな」

 風に流れてやってくる煙が一気に量を増した気がする
俺は長門から目を離して…なんだあれ?

「おい、お前らなにやってんだ!?」
「キョン! 袋が燃えたぜ!」
「いいから消せ! 焦げ跡がついたらどうするんだ!」

 あくまでもホテルの広いテラスだということを忘れてはならない
しかも修学旅行中の隠れてやってる火遊びだということも
こいつらはなんだ、停学の一つも食らいたい年頃なのだろうか
バケツを持ってきてすっかり煤けた水を少しかける
一気にひっくり返して燃えカスが広がったら余計に片付けに手間が掛かるので慎重に

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/06/26(木) 20:39:08.82 ID:FlF9QZG40

「おまえら…柊やみなみもいんのになにやってんだよ」
「いやぁ、面目ないわ」
「本当に跡形もねぇよ」

 どうやら白いタイルが黒く煤でやられることも無く
一応ゴミをきちんと片付ければばれないレベルだ

「とりあえず汚い水は流して周囲に灰が残らないように
 ゴミはビニール袋三重にして明日にでも捨てること」
「う〜っす」
「だるそうに返事すんな!」

 まったくどいつもこいつも俺にお母さん的発言をさせるんじゃねぇよ

「長門、線香花火も終了だ。片付けに入るぞ」
「ん」

 聞き分けがいいのは長門だけか?
というか、見るとすでに線香花火をやりきっていた
って、線香花火の火が下に落ちればそれは当然…

「うわぁぁぁ!」

 なんてこった! タイルがそれこそ焦げる!
俺としたことが! なんてこった、これは言い訳が聞かない!

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/06/26(木) 20:46:23.03 ID:FlF9QZG40

「うっさいわね、あんたが一番うるさいんじゃない?」
「いやだって線香花火…」
「あんたと違って私はその辺の手際はいいのよ」

 袋に入ってる厚めの型紙が下に引いてあった
しっかりばっちり、あら素敵!

「あぁ、それはそれはよかった、まったくお母さん寿命が縮まったよ」
「あんたって、ちょくちょく自分でネタ挟むわね」

 どうでもいいけど、っと吐き捨てるように言われてしまった
いや、だってそうでもしないと焦った自分が恥ずかしいじゃないか

「班長、片付け終了しました!」
「汚れた水を流してバケツの洗浄も終了したわ」
「はいはい、あとは空気入れ替えて匂い消せば大丈夫か」

 目が煙でしょぼしょぼする

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/06/26(木) 21:22:39.81 ID:FlF9QZG40

「でも思ったより虫寄ってこなかったわね」
「花火の煙は虫除けにもなるからな」

 部屋に戻って窓を網戸にして開け放す
布団は既に敷いてあるがにおいついてないだろうな

「今何時だー?」
「えっと、十時ちょっとすぎた頃ね」
「ならトランプ麻雀やろうぜ!」

 布団の上にトランプを広げて次の遊びを提案する日下部
正直見てるだけで疲れた俺としてはちょっとばかしハードなのだが

「保護者が先にねちゃダメでしょう?」

 とハルヒが横になって欠伸をしながらそう言った所為で
結局付き合う羽目になった、なんで修学旅行の夜ってこんなに無駄に夜更かししたがるのだろう
眠いのに

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/06/26(木) 21:30:24.47 ID:FlF9QZG40

「…眠い」

 なにが悲しくて眠い目擦ってトランプ麻雀なんだよ?
頭が回んなくて負けが続くぞこの野郎
ノーレートじゃなかったらかなりの損失を被ってる

「ストレートで上がり! ツモのリーチの一発!」
「あー、はいはい四点か? なら柊だけ二点払いな俺とみなみは一点」

 ハルヒとあやのは既に就寝、現在午前1時
家でのんびりしてるならともかく心身ともに疲れた俺は早く寝たいんだが
ただでさえ早寝早起きの習慣がこなたと柊の所為でしっかり身についてるというのに

「眠い、ぞ」
「キョンさっきからそればっかだな!」
「むしろ俺としてはこの状況に憤りを感じる所だよ
 俺に大声を上げる場面じゃ決して無いということを明言するぞ」

 俺が可哀想だ

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/06/26(木) 21:36:41.23 ID:FlF9QZG40

「長門、タッチだ。ルールは大体わかったろ?」
「問題ない」

 ルールを知らないという理由で感染していた長門と急遽抗体
…眠気で頭がまわらん所為で文章がちょっとあやふやだった

「初心者でも手加減しねーぞ!」
「…」

 あとは勝手にやってくれと言った感じで俺は布団に横になる
明日も一日こんな面倒に付き合うと思うとそれだけで倦怠感が襲ってくる

「長門なら手加減しなくても十分いい勝負するだろうさ」

 俺はそれだけ言い残して眠るように死んだ
じゃなくて死んだように眠った

43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/06/26(木) 21:45:10.71 ID:FlF9QZG40

――

 チュンチュンとかジリリだとか
朝に聞こえてくるよくある音で目が覚めることはなかった
鳥にも目覚ましにも日光にも起こされるわけでもなく
俺は

「オラおっきろ!」

 という掛け声と腹部に強い衝撃を受けて目が覚めた
目が覚めた瞬間にまた気を失うかと思ったが
もしそんなことになればさらなる暴力が俺を襲うと
一気に強制的覚醒を促がされた脳みそが危険信号を出して
ぎりぎりで俺は二撃目を受ける前に起き上がることに成功した

「日下部、常人ならそれは死ぬ」

 ボディボールよりきつい、腹部に力入れてないどころか
完全に全身が弛緩しきってる睡眠時にニードロップを腹部に入れるのは
内臓に非常に優しくない起こし方だ、俺に恨みでもあるのか

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/06/26(木) 21:51:06.02 ID:FlF9QZG40

「いや、涼宮が一度声かけて起きなかったらそうやって起こせって言ってた」
「…あんちくしょう」

 だが、どちらにしてもそれを素直に実行する日下部はやはり俺に恨みがあると見える
水月を強打すれば呼吸困難になるし、普段から訓練を受けるようになってなければ
本格的に俺は全力でやり返しにかかるほどの怒りに駆られるほどのダメージを受けていただろう
いや、そもそも反撃を考えられないほどに重傷になったか

「とりあえず、二度目は無いと思え」

 というか二度目は本当に俺が死ぬ
俺に命に二度目は無いという感じ

「なんだよ狭量だな、仏は三回許してくれるぞ」
「お前な、人は死んで初めて仏になるんだぞ、人間に色々求めすぎだ」

 そもそも仏そのものを作ろうとしたんじゃないかお前は

47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/06/26(木) 22:00:27.11 ID:FlF9QZG40

「おぉ、仏の母か?」
「ほっとけないほどの馬鹿だ」
「無理ないか?」
「うるさい」

 腹部の疼痛を押さえつつ起き上がる
なんだ俺以外にもまだ寝てる連中ばかりじゃないか
ってか誰一人まともな形で寝ていない、布団がきちんと並んでる分余計壮絶だ
斜めになったり横になったり重なってたり

「スタッフの方々にはただただ頭を下げるばかりだ」

 とりあえず、服が乱れてるのが非常に俺の視界内で主張してるので
そっと吹っ飛んでる布団(そのまま文字通り)をかけてやる

「キョンはぶっきらぼうにやさしいな」
「違うわ、無表情にやらしいのよ」

 現れて早々にとんでもない発言を落とすハルヒ
直下型ボムだ、ファットマン

48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/06/26(木) 22:06:52.37 ID:FlF9QZG40

「どこ行ってたんだ?」
「麻風呂」
「どんな風呂だよそれ…」
「間違えたわ浅風呂よ」
「半身浴か、健康的なことだ」

 正解は朝風呂な、そもそもとして問題が成り立ってないがな

「しかしその様子だと日下部はキチンと実行したようね」
「あぁお前の所為で最高の目覚めだったぞ」
「昨日に続いて新しい性癖も目覚めたでしょ?」
「それはないな」

 なぜこいつは俺に変な属性をつけようとするのだ
俺は基本的におとなしくて、黒髪で長い、…こう大和撫子的なのがタイプであって
破天荒タイプノーサンキューだ

「どうでもいいけど、他の連中も起こしたら?」

 もう7時だ、朝食はまだ時間あるし自由行動まではさらに時間があるが
そこは女の子である、麻は―じゃなかった朝は色々と仕度があるだろうて

49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/06/26(木) 22:21:13.32 ID:FlF9QZG40

「よし、日下部起こしてやんなさい」
「らじゃー」

 今にも異議あり! と叩きつけそうな感じで片腕を勢いよく伸ばす
それに続いて日下部が力の入ってない敬礼をして
いまだに惰眠を貪ってる連中に朝の鐘を鳴らしに向かう

「おっきろ!」
「――!」

 俺の時と比べて(といっても実際に食らったときは寝てたのでほぼ推測だが)威力はかなり低めだが
それでも起こし方は基本的に変わらない様子で、柊が次の餌食となり
どうにも年頃の女として思慮にかける呻きがあがった(後の講義により細かい描写はカットされました)

「おはよう、いい日和だな柊」
「最高の朝よ、まぁあんたよりはましっぽいけど」

 さすが柊、他に起きてる人間の俺とハルヒと日下部という面子を見て
大体の事情を察したらしい、自分も食らったにも関わらず俺に同情的な目を向けてくる

51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/06/26(木) 22:36:13.64 ID:FlF9QZG40

「これで、全員起きたわね」

 腕を組んで窓から入る朝の風に体を預け
ハルヒは平然と茶を啜りながら言う
ついでに残りのあやの、長門、みなみ(あいうえお順)は普通に起こされた
普通に蹴り起こされたのでなく、普通に声をかけられて起こされた

「ちょっと、なんで私は攻撃的起こし方なのよ!」
「性格的にも肉体的にも丈夫だからだろ?」

 女子の中で唯一文字通りというか見たとおりにたたき起こされた柊を流しつつ
欠伸を噛み殺して部屋を出る、どうせ時間かかるだろうし
俺も半身浴をしてくるとしようかね

52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/06/26(木) 22:43:59.48 ID:FlF9QZG40

「おぉキョン、昨日はご苦労さん。今日も大変やろうががんばってな」
「はは、教師にそんなことを言われるとは思ってませんでしたよ」

 廊下を出てすぐに担任の黒井教諭と遭遇した
というか缶コーヒーを持って壁にもたれてるところを見ると
どうにもここで張ってたっぽいな

58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/06/26(木) 23:10:16.86 ID:FlF9QZG40

「あんな、この学年――というかもはや学校全体でみても
 トップクラスの問題児を集めたメンバーで構成されてる班やんか?
 めっちゃ苦労してるだろうと教師一同みんな憐憫の情を持つで、ほんま」

「ならフォローしてくださいよ」

 ってかやっぱりそこまであの連中は酷いのか
クラス単位ではないだろうとは思ってたが学年どころかまさか学校単位と成るとはな
つまるところ、あの最新鋭都市内で唯一の学校であることを考えれば
そのまま直であの都市内でもっとも問題児と直結するわけだ

「いやぁ、あれをとめられるんわ自分だけやわ」

 正直うちらも見守るのが精一杯で、そういって目をそむける黒井担任
俺だって止めるなんて無理だっての、精々ブレーキをかけて減速させるのが手一杯だ

「まぁまぁ、だからせめて悪ふざけも多めにみよ思ってな」

 …ん? 嫌な方向に話が進む予感だぞ?

「昨日の花火はみいひんかったことにしといたるわ」
「――っ! それで十分です! あざーす!」

 つい体育会系のノリになってしまった
しかしバレバレだったか、ちくしょうめできる限り誤魔化したつもりだったが
まぁ他の部屋の窓から顔出せばもろバレだもんな

59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/06/26(木) 23:22:57.06 ID:FlF9QZG40

 ふぅ、しかし額に汗をかいたぜ
風呂が恋しい、冷たいシャワーでも浴びたい気分

「まぁあんま暴れない過ぎないようにな」
「…俺に言われても困りますがね」

 ブレーキ役にも限界がある
回転数が上がりすぎたあいつらに無理にブレーキをかければ摩擦でそのまま身を削ることになる
全身磨耗しきって最終的にはブレーキとしての役割を果たせなくなってしまう

「力加減が大事やねんな」
「その辺の匙加減が本当に大変なんですよ」

 匙を投げたいくらいに、とは言わない
黒井先生に中途半端なことをいうとなんかまずい気がする
関西弁使うんだもんな、ノリでぼけたら説教くらいそうだ

61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/06/26(木) 23:27:40.82 ID:FlF9QZG40

「ん、まぁ言いたいことはそれだけやな
 じゃあ今日も一日ぐいっと行こう」
「ファイトを何発してもまだ足りない位ですよ」

 右手を拳に握って正面から軽くぶつけて別れる
友達先生は気軽で良いのだがどうにも態度は気楽だ

「がんばれ自分、というか負けるな俺って感じで」

 ファイト、オーなのですよ
俺は誰もいない廊下で小さくガッツポーズを入れて
浴場に向かった

260 名前: ◆7SHIicilOU[] 投稿日:2008/06/27(金) 20:26:29.62 ID:iVXjcOk0

―――

「申請通ったよ〜」

 修学旅行二日目の自由時間が始まって早々に鳴動した俺の携帯
他の連中が見慣れぬ店の品々に目を奪われてる間に
俺はそれを取り出して画面をみて名前を確認すると
まぁ予想通りというか、いまこの面子でいるなか他にプライベート用の携帯を鳴らす奴がいないというか
泉こなたの名前が光っていて、一体何事かと俺がもしもしと電話に出ると
開口一番そういわれた

「…もうか? ずいぶん早かったな三日と経ってないだろ」

「そうなんだけどね、いやぁすんなり通ったよ。
 ハルちゃんが手回ししてくれたんだろうけど、基本的にえみりさんの管轄だからねぇ
 正直もっとかかると思ってたけど、まぁこっちに帰ってくる頃には全部終わってるよ」

「そうか、ありがとな」

「優しい―――

「申請通ったよ〜」

 修学旅行二日目の自由時間が始まって早々に鳴動した俺の携帯
他の連中が見慣れぬ店の品々に目を奪われてる間に
俺はそれを取り出して画面をみて名前を確認すると
まぁ予想通りというか、いまこの面子でいるなか他にプライベート用の携帯を鳴らす奴がいないというか
泉こなたの名前が光っていて、一体何事かと俺がもしもしと電話に出ると
開口一番そういわれた

「…もうか? ずいぶん早かったな三日と経ってないだろ」

「そうなんだけどね、いやぁすんなり通ったよ。
 ハルちゃんが手回ししてくれたんだろうけど、基本的にえみりさんの管轄だからねぇ
 正直もっとかかると思ってたけど、まぁこっちに帰ってくる頃には全部終わってるよ」

「そうか、ありがとな」

「優しい子を持ってお母さん幸せ―」

 中途で切ってやった
…優しいね、特徴がない奴の長所を無理してあげたんじゃねぇんだ
無個性をフォローされちゃってさ子を持ってお母さん幸せ―」

 中途で切ってやった
…優しいね、特徴がない奴の長所を無理してあげたんじゃねぇんだ
無個性をフォローされちゃってさ

261 名前: ◆7SHIicilOU[] 投稿日:2008/06/27(金) 20:26:56.42 ID:iVXjcOk0

バグっとるがなww


―――

「申請通ったよ〜」

 修学旅行二日目の自由時間が始まって早々に鳴動した俺の携帯
他の連中が見慣れぬ店の品々に目を奪われてる間に
俺はそれを取り出して画面をみて名前を確認すると
まぁ予想通りというか、いまこの面子でいるなか他にプライベート用の携帯を鳴らす奴がいないというか
泉こなたの名前が光っていて、一体何事かと俺がもしもしと電話に出ると
開口一番そういわれた

「…もうか? ずいぶん早かったな三日と経ってないだろ」

「そうなんだけどね、いやぁすんなり通ったよ。
 ハルちゃんが手回ししてくれたんだろうけど、基本的にえみりさんの管轄だからねぇ
 正直もっとかかると思ってたけど、まぁこっちに帰ってくる頃には全部終わってるよ」

「そうか、ありがとな」

「優しい子を持ってお母さん幸せ―」

 中途で切ってやった
…優しいね、特徴がない奴の長所を無理してあげたんじゃねぇんだ
無個性をフォローされちゃってさ

262 名前: ◆7SHIicilOU[] 投稿日:2008/06/27(金) 20:35:42.28 ID:iVXjcOk0

「なんの話してたのよ」

 携帯をたたんでポケットにしまうと柊が顔をこちらに向けず
背中越しにそんな言葉を放ってきた

「長門の申請、もう通ったってよ」
「ふぅん、よかったじゃない」
「明日あっちに帰る頃にはもう準備も終わって直で行けるそうだ」
「結局隣の404号室になったの?」
「多分そうじゃないか? 流石にこっちは満員だ」

 申請、それは長門の転居届けの事だ
あんな寂しい所に一人暮らしなんて俺だって嫌だからな
どうせ警護するなら一箇所にすればいいし
長門がわざわざあそこに住み続けるのは不自然だ
柊もドイツにいて、俺も来る前ならまだわかる
あそこに近づく人間なんて少ないから警護も簡単だろう

だが今は違う、状況も環境も違う
多感期の女の子である長門を一人であんなところに置く理由なんてある筈がない

263 名前: ◆7SHIicilOU[] 投稿日:2008/06/27(金) 20:43:58.97 ID:iVXjcOk0

「ふぅん、なら私はそっちに行こうかな?」

 柊がちんすこうの箱を斜めにかざしながら呟く
俺はその横で同じく明日買ってく土産を吟味していた手を止めて
柊の方を見る、少々視線に不審気な物が混ざってしまった

「…なんでだ?」
「だって三人と一人に分けるより二人と二人の方が良くない?」

 確かにその通りではあるが、俺が驚いたのはそんなことじゃない
長門と一緒の共同生活することを自分に良しとしたということに
最初に抱いていた長門に対する苦手意識や何やらを今では感じていないということに

「どうせ寝たり着替えたりするの以外はそっちに居座るでしょう?
 私もできないし、ファーストだって料理なんてできそうにないからご飯だってそっちで食べるし」

「食費は出せよ? ただでさえお前とこなたの二人でエンゲル係数が高上してるんだ」

「エンジェル係数?」

「こなたと同じ間違いするんじゃねぇよ!」

264 名前: ◆7SHIicilOU[] 投稿日:2008/06/27(金) 21:28:07.15 ID:iVXjcOk0

「で、あの子にはもう言ったの? 喜ぶんじゃない?」

 私にはいまいちどころかいまにほどわからないけど、と肩をすくめたあと
呼んでこようか? とみさおに連れまわされて目を白黒させる長門を指差す

「いや、いい」
「サプライズ?」
「そういうこった」

 たまには長門を驚かせてみたいと思ってな
どんな表情をしてどんな言葉を口にするのか
まるで悪戯をしてるときのように高翌揚するものがある

「まぁなんだっていいけどねぇ」
「しかし長門がきてもお前が移動しちまうんじゃ、賑やかになるのか寂しくなるのかわからんな」
「ともかく、その話はあとでいいでしょう? いまは課外授業中よ」
「また変な言い回しをしおって…」

 太陽がまぶしいぜこの野郎

269 名前: ◆7SHIicilOU[] 投稿日:2008/06/28(土) 18:28:33.88 ID:l/Zif7U0

>>264

 空を見上げながらふらふらと歩いていると
人に危うくぶつかりそうになり、肩を捻ってそれを避ける、三人組か

「おっと…ん?」

 すれ違ったのが一般的な学生服のズボンとYシャツ姿だったため
ついそのすれ違った人物を目で追ってしまったのだが

「おいおい、財布落としてるぞ…」

 革財布がアスファルトに落ちていた
この班は俺が現在しんがりを務めているのですれ違った奴らのだろうと
俺はとりあえずそれを拾って、声をかける

270 名前: ◆7SHIicilOU[] 投稿日:2008/06/28(土) 18:43:26.96 ID:l/Zif7U0

「おい兄さん、これあんたのじゃないか?」

 財布を見えるように掲げると
多分同年代の、つまりは男子校生が足を止めてこっちを振り返る

「これは確かに僕の財布ではあるが
 僕は兄さんじゃない、一応まがりなりにも氏名というものがある」

 俺に近づいて財布を受け取りながらそう呟く男
方言というかもはや外国語の域の言葉は混ざってないしイントネーションも正しい
やはり俺達と同じ修学旅行生か? ってか一応ってなんだよ、そこはれっきとしたと言うべきじゃないのか?

「そうかい、あんたはどうか知らないが、俺は死神の目なんて持ってないんでね
 すれ違った人間の名前なんてわかりゃしないんだよ
 それともなんか? あんたは逆に俺が財布を落としたのを拾ったら名前で呼んでくれるのかね?」

「それは僕かならどうするかということか?
 …そうだな、僕が君の財布を拾ったならこう呼ぶさ

 なぁ? キョン」

272 名前: ◆7SHIicilOU[] 投稿日:2008/06/28(土) 18:55:46.86 ID:l/Zif7U0

 財布を受け取るだけにしては時間がかかってることを怪しんで近づいてきた向こうの連れ二人
そして先ほどまで俺の一歩前を歩いていたみなみもやっとこ気付いてあの問題児集団も戻ってくる
むこうの連れも二人とも女子高生で、計10人の高校生がこの場に集まり内8人が女子という

「……なんだ、お前は?」

 本当に死神の目を持ってるわけではなかろう
キョンというおよそ人名として使われることの無い単語で呼ばれてるのだ
そりゃ多少目立ちもするし少し観察すれば俺がそのキョンであることもわかるだろう
だが、俺達は店舗で立ち止まってたわけじゃない
先ほどは前方に行進中だったのだ、しかもすれ違い
さらに言うなら、向こうから話しかけて来たならともかくこっちからコンタクトを取ったのだ

「事前知識さ」
「隠す気はさらさら無い様だな」

 知っていた、という事か?
ちょっと前なら昔の知り合いとか、親戚とかを脳内で総洗いするところだが
しかし今はそんな必要はない、こいつらからはバットエンドしか得られないと直感が言ってる

「そう警戒しないで貰いたいね、どうこうするつもりはないさ」

 さて、どうしたものかね

273 名前: ◆7SHIicilOU[] 投稿日:2008/06/28(土) 19:16:05.61 ID:l/Zif7U0

「はい、問題起こすのが好きなんですかねぇ藤原君は」

 向こうの女子、ツインテールと黒髪ロングの二人
そのツインテの方の女の子が俺と向かい合ってた男の後頭部をはたく

「ふん、ただの偶然だ。俺からアプローチをかけたわけじゃない」

 常に真っ向から睨む様だった目を離し腕を組む男

「ごめんなさい、藤原君はどうも人を挑発するのが得意でぇ
 …へぇ、かっこいいですねあなた。でも流石に女の子連れすぎですよ?」

 男を押しのけ前にでてくる女の子
もしかしたら一番普通の女の子っぽい口調と態度だったが
しかしどうにも気を抜けそうに無いきがする

「私は橘と言います、彼が藤原君で、そっちの子が周防さん
 意図した結果ではありませんがそれも重畳、顔合わせが早々にできたのはいいことです」
「顔合わせ?」

 なんだ、新しいチルドレンとか関係者か?
だがしかしそれならハルヒが知らないはずはない

「あらら、ちょっと口を滑らしちゃいましたね…」
「ふん、もう気が済んだろう? もう行くぞ」

275 名前: ◆7SHIicilOU[] 投稿日:2008/06/28(土) 19:48:23.42 ID:l/Zif7U0

「待ってくださいよ、人間、第一印象の次に別れ際の印象が大事なんですよ〜?」
「あきらめろ、この場ではどうあがいたところでその男の警戒心を解くことはできんさ」

 はっ、よくわかってることだが
しかしその台詞は再見を確信してるとしか思えんな
いや、それはもう規定事項ととっていいんだろうな
俺達にとってもこいつらにしても

「あう、藤原君がいけないんですよ〜?
 私が財布落としてれば普通に仲良くなってまた会えたらいいねっていう
 旅行先でできた友達的に話が進んだと思います!」

「無茶いうなよ」

「そうすれば転校したときに、感動の再会、○○ちゃん久しぶりーバージョンになったのに
 このままじゃ宿命の再会、ここで会ったが百年目バージョンになってしまいます!」

 なんだかテンションが高い子だ
こんなのが通常の女子高生というジョブなのだろうか?
苦手かもしれない

279 名前: ◆7SHIicilOU[] 投稿日:2008/06/28(土) 21:01:44.04 ID:l/Zif7U0

「ん? 転校?」

 気になる単語がでまくりだ
情報が短時間で流れすぎてるな
色々とままならないだろうそれでは

「…馬鹿が」
「あぁぁぁ……、聞かなかったことにしては?」

 どうするか、実際忘れるなんてのは無理だし
ここで聞かなかったことにするなんていっても意味があるとは思えないが…

「まぁ、聞き流したってことにしとこう、一応」
「本当ですか!? 助かります〜」

 一応を強調したつもりんなんだけどな…
面倒事が友達の面倒事と一緒に面倒事に面倒事を乗せてやってきた感じだ

「まだ話し終わらないの?」

 ハルヒが一番早く限界が来たようで、とうとう口を挟んできた
と、同時にツインテの女の子が少しだけゆれた気がした

「あんた達もこいつになんの用があるのか”皆目検討がつかない”んだけど
 いい加減切り上げてくれないかしら?」

「…、ごめんなさい、長時間彼氏を借りてしまって
 もう私達の用事はあらかた済んだのでここらでさようならということで、それではキョンさん、また会いましょう」

「機会があればな」

280 名前: ◆7SHIicilOU[] 投稿日:2008/06/28(土) 21:25:59.57 ID:l/Zif7U0

 去っていく三人組の背中を見やりつつ

「さて、ちょっと考慮すべき事態だよなこれは」

 そういえば最後の一人は結局始終口を閉ざしたままだったな
またあいつらと接触するのは正直かったるいなぁ

「はいはい、先急ぐわよ
 あんたの偽善心で半刻も時間を消費したわ」

 偽善心って、まぁその通りだが
善も偽善も悪も偽悪もそんなもの位置づける必要なんてあるのかね?

「班長さん、いい加減スイッチ入れ替えないと強制的にブレーカー落とすわよ」
「それは勘弁だな」

281 名前: ◆7SHIicilOU[] 投稿日:2008/06/28(土) 21:58:12.24 ID:l/Zif7U0

「ほらキョン! 終わったなら早くいきましょ!」
「わかってる、今行くよ」

 気になるのは事実だし忘れるのは無理だろうが
だがいまはあんな奴らのことは一時忘れて
折り返し地点を過ぎた残りの修学旅行をゆっくり楽しむことにしようじゃないか

「ばーかばーか」

「…お前はいきなり幼稚になってなんのようだ」

「ふん、意識しなくちゃ物事を楽しめないあんたに渇入れてあげてんのよ」

「そりゃ、ずいぶんとありがたいことで」

 あーぁ、三泊程度じゃなくてもっと長い間旅行してぇな

…こいつらとさ

282 名前: ◆7SHIicilOU[] 投稿日:2008/06/28(土) 22:28:11.68 ID:l/Zif7U0

―――

「お疲れ〜」

 大荷物抱えて家に入り一息つくと
こなたが台所で悠々と茶をすすって迎えてくれた
ボストンバックを床に放り投げる

「おやおや、ちゃんと有希もいるね? じゃあこれ」

 両手で俺達に比べて比較的小さめのバックを持ってる長門に
こなたや俺や柊がもってるのと同じカードキーを手渡す

「隣の404号室がこれから有希のお家になりますんで、これからよろしくね!」

 お隣さんね、そういやここにきて結構経つが
やっぱり他に誰かが出入りしてるのを見てないな

「あぁ、そうそうこなた」
「なにかな?」
「私もファーストのところに移動するから」

 あぁそういやそんなこと言ってましたね
この家がも少し広ければ四人でもなんとかなるが…
いや四人家族なら問題ないんだが、あくまでも同居という形だからな
分割した個人スペースは欠かせないしな

283 名前: ◆7SHIicilOU[] 投稿日:2008/06/28(土) 22:49:57.61 ID:l/Zif7U0

「ふぅん、どんな風の吹きとばしか知らないけどさ、好きにするといいよ?」

 吹き飛ばすなよ、相手のモンスターが入れ替わるだろうが
吹きまわすんだよ風を

「三人と一人に分けるのも心地悪いしね、まぁ最終的にはただのなんとなくなんだけどね」
「ほうかい、寂しくなるねぇ。家族がお隣さんにジョブチェンジとは…
 世知辛い世の中の風土を感じるよねぇ」

 あんま関係ないと思うな風土とかそういうの
大仰な言い方するのが最近の流行なのかね

「それにどうせご飯はこっちで食べるんだしね
 学校とか訓練は家にいないし、大して変わらないでしょ? 寝る場所と荷物の置く場所の違いよ」

「そういう割り切った考えが寂しいっていうんだよぅ…」

 ってか本来の中心にいるべき長門がただカードをみつめてるだけで何も喋ってないぞ
もう少し展開の速度を落とせよ、長門にはハイスピードだ

285 名前: ◆7SHIicilOU[] 投稿日:2008/06/28(土) 23:38:29.46 ID:l/Zif7U0

「ありがとう」

 文字通り、蚊の鳴くような声でぼそっと呟く長門
柊も、こなた、俺も動きを一時止めて
そしてもっとも早く戻ったこなたが

「にゃはは、これで有希も家族だよ」

 そういって長門の頭をなでる
といってもまぁこなたの方が若干身長が小さいので様にならないのが残念だが

「…家族」
「そ、家族」

 カードと、そして俺達を見回す

「まぁ、そういうことだからさ。これからよろしくな長門」
「…よろしく」

297 名前:◇7SHIicilOU[] 投稿日:2008/06/29(日) 08:33:46.12 ID:SvNvhUg0

>>285

「荷物まとめて…、あんた荷物を移動させんの手伝いなさいよ」
「唐突に厚かましいなお前は、もう少し低姿勢でも罰は当たらないでもないぞ」
「それってあたるんじゃない?」
「…」

 日本語は難しかった。
しかもちょっと前まで日本外に住んでた人間に指摘されてしまった。
もう日本人としてやってけ無いかもしれない

「まぁ私が隣に移動すればあの洋間にあんたも戻ればいいじゃない」
「ビバ! ご近所引越し!」

 そういえばそうだ
柊があの部屋を空けてくれるならばわざわざ移動したあの和室から戻れるのだ
ベットの足で畳の目がめくれないか心配することもないのだ

「…庶民的な悩みね」
「そのまんま庶民だからな」

298 名前:◇7SHIicilOU[] 投稿日:2008/06/29(日) 08:39:39.96 ID:SvNvhUg0

「ちょ〜っち待ってくんないかな?」

 両手を忙しなくぱたつかせてこなたが会話の流れを遮る。

「一体なんだ?」
「ってか、その前に忘れてるものあるでしょう?」

 なんだろう?
…夕食の準備?

「あれだよ! ギブミー!」
「あぁ、悪い。いまチョコ持ってないんだ」
「違う! お土産ですよ諸君!」

 そういや忘れてたね、大事の前の小事というか
土産なんていつでも渡せるものより、先に引越しのことに意識を持ってかれてたぜ

「私には重大事ですがな」
「じゃあ超大事の前の重大事だな」
「言葉で遊ばなくていいから」

 俺からそういうのを取ったら本当にただのナレーターに成り下がっちまうぞ
もうちょっと楽しみを別のベクトルに派生させろよな

301 名前:酉入れるのめんどいんス ◆7SHIicilOU[] 投稿日:2008/06/29(日) 09:11:57.36 ID:SvNvhUg0

「まさか、忘れたといかいうんじゃないでしょうね!?」
「お前は姑かよ…」

 ボストンバックから適当に沖縄方面の和紙で包まれた菓子折りをとりだし
それをこなたに放り投げる

「ちんすこう? あぁよく聞くよね、50回言わせたり」
「50回言わせてどうなるかは聞かないけどな
 あんだぎーよりはいいと思ってな」

 さーたーあんだぎーならホットケーキミックスがあれば作れる品物だ
ちょちょいと練った生地を油で丸く揚げてやればいい

「ありがとう、美味しく食べさせてもらうよ」
「俺も食ったが茶請けにいいと思うぞ」

 甘すぎずに日本茶に合う感じだった
柊はあんまり好きじゃないようだったがな

302 名前: ◆7SHIicilOU[] 投稿日:2008/06/29(日) 09:33:42.64 ID:SvNvhUg0

「とりあえず私のも渡しとくわ」
「韻を踏んだねかがみん」
「…やっぱり自分で食べるわ」
「わぁ! わぁわぁ! なに、なにが気に障った?」

 土産物を頭上に持ち上げる柊とそれを跳ねてとろうとするこなた
心和む微笑ましい光景であった

「まぁ、とにかくだ。既に隣に長門の荷物は運ばれてるんだろ?」
「イエスアイアム」
「…柊は流石に今日はこっちで寝て、明日以降荷物まとめるんだろ?」
「できればそのまま持ってくのがいいんだけどね、出し入れが大変だもの」

 中身の入った本棚や洋服ダンスを運ばされる俺はもっと大変だが?
そこんとこちょっと考えてくれてもよさそうなものだと思うよ、俺は

「じゃあ、長門もその荷物を隣に運んどけよ
 今日から住むお前の新しい新居を見に行って来い」
「私も住むけどね」
「お前は万年居候か」

303 名前: ◆7SHIicilOU[] 投稿日:2008/06/29(日) 09:49:34.01 ID:SvNvhUg0

「その言い方やめてくんない?」
「事実を端的に表したまでだ」

 この403号室は本来俺の家だからな、忘れかけてたけど
言うなればこなたも居候である、忘れてたけど

「にゃはは、でも、家族だから!」
「家族だからって適当ぶっこいてんじゃねぇぞ
 家賃はゼロだが電気代はお前の所為でそうとうあがってるんだぞ」

 パソコンにテレビにDVDとか多種多様な電気機器が四六時中稼動してるのを俺は知ってる
自宅に持ち帰った仕事だとか、DVDは戦闘のVTRを見直してるとか言ってるが
実はただのこなたの趣味趣向の賜物であることも俺は知ってる

「んだよぅ、高給取りの癖にー」
「お前は月給は俺達の倍あるだろうが」

 実はこなたも相当金持ってる、あまり表に出ないけど
ってか俺達が月給以外で相当な額を平然と貰ってるから目立たないだけか
俺はいま貰ってる金はできるだけ貯めておきたいんだよな
いつまでもこの場所にいられるわけじゃないし、敵も近いうちに来なくなる
その後普通に就職するのかどうかは知らないが、少なくとも今とは比べ物にならない程ランクは下がる
若いうちに贅沢すると心に贅肉がつくもんだ、絞るのが大変な心の贅肉を俺は絶対につけたくない

311 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/06/29(日) 20:52:46.87 ID:SvNvhUg0

>>303

―――
・・・
・・



「橘京子は今日朝七時に起きて、キョン君のためにこの制服を着ました! 似合う?」

 俺の机の前でくるりと一回転してみせるツインテ少女


…え?

314 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/06/29(日) 21:14:43.34 ID:SvNvhUg0

 修学旅行が休日に一部重なったため、週末あけての月曜日が振り替えで休み
次の火曜日から学校が再び開始され、俺は配達されたいちご牛乳を飲みつつ
朝の短い静かな時間を満喫していた

 あと五分もすれば柊が長門をつれてやってくるし
こなたも起こさなくてはならない、この短い時間が朝の至福だった

 そうして一日を始めて朝食をのんびり作り
とうとう四人掛けの椅子全てが埋まることになり
テレビで戦略自衛隊がなにやらいつぞやのJ.A.に続くなにかを作ってるとか言うニュースを見て

 そして、よし学校に行こうと登校して
あやの達と談笑し、黒井担任にいつものようにからかわれ
静かになった教室に続いて入ってきた三人組

見慣れた…三人組

315 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/06/29(日) 21:25:40.26 ID:SvNvhUg0

「…本当に転校してきやがったよ」

 人の机の前にやってきて、この間と違うこの高校の制服を来た三人
不機嫌な顔をした男と、無表情な黒髪の女と、このツインテ少女
どっかの誰かさんたちに負けないくらい個性的な奴らだ

「で、似合うかな?」
「あぁ、はいはい、似合う似合う、制服は誰が着ても似合う似合う」
「ひどっ! そこはかとなくひどいよ!」

 普通の反応だった、拳や膝が飛んでくることの無いただの突込みだった

「転校早々うるさいぞ、そのツインテールを抜いてやろうか」
「やめてよ! あたしのチャームポインツなんだから」

 しかしなんだ、柊のときも思ったがこのクラスに集中してる転校生
俺を含めてどいつもこいつも一般人じゃないみたいだし、どうにもなんかありそうだな
こなたに今度さりげなく問い詰めてみるかね
あっさり口を割りそうなのはこなたか……あとはパティくらいだが
パティはそもそもその手の情報を知ってるかどうか怪しい立場だからな

316 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/06/29(日) 21:48:15.50 ID:SvNvhUg0

「ふん、久しぶりだな哺乳類」

 黒井先生に指定された席に移動する――藤原だったか?
まぁいい、野郎の名前なんてものに記憶容量を割くのも馬鹿らしい
とにかくそいつの席が俺を先頭とする窓際の列だったようで
通り際に足を止めて声をかけてきやがった
あの黒髪の方はまだ会話したこと無いので判定できないが
ツインテの少女と比べるとやはりこいつには敵愾心の欠片を常に感じる

「…そのようだな、生ごみの塊」
「相変わらず女に囲まれてるようで」
「お前、眼鏡でも買ったらどうだ? 少しは目つきよくなるだろう」
「ふん、生まれつきだ」

 それはそれは生意気なガキだったのだろう
こいつをそのまま縮小したのを想像すると本当に顔を顰めたくなる

「お前はどうにも僕達を嫌っているようだが
 僕らは別にお前らに危害を加えるつもりは毛頭ない、それだけは念頭に置いて貰いたい
 何度も同じ事を言うのはごめんだが、俺の目つきは生まれつきだ」

「…まぁ、適当にクラスメートとして接するさ」

323 名前:投下速度が落ちたなぁと思う ◆7SHIicilOU[] 投稿日:2008/06/30(月) 08:22:37.40 ID:kLzjwwo0

「トライデント?」
「性格には陸上軽巡洋艦のトライデント級だ
 J.A.の実質後続機とも言える機体でパイロットが操縦する形式に変更され、実戦配備も目前らしい」

 屋上の錆付いた柵によりかかる俺と柊
空は若干曇り空で、いまにも神様が如雨露を振りかざそうとしているようだが
しかしかといって屋内でするような会話じゃない
…木は森の中で騒がしい場所というのが本来の正攻法だが
周囲に話題の中心人物、しかもスパイと思わしき人間がいるなかするよりはいい
ここなら見晴らしもよく監視の連中もキチンと仕事をしてるだろうしな

「あいつらがそのパイロットってわけ?」
「確証は無いがな、だがタイミングや状況等を鑑みるに多分そうだ
 あのクラス、俺達パイロットが集められた2-Aに三人まとめてやってきたってだけでも怪しさ大爆発だってのに
 前から俺達のことを知っていたし、転校してきたのもなんかしらの関連があるだろう」

 新しいチルドレン等のSOS関係者ではないのは確定済み
それで俺達のことを知ってる同い年の三人組
同時に完成したパイロット式の戦略自衛隊の兵器

「少年兵って法律上問題があるでしょう?」
「俺達も一応軍人扱いのパイロットだ、お互い様さ」

324 名前: ◆7SHIicilOU[] 投稿日:2008/06/30(月) 08:32:09.99 ID:kLzjwwo0

 そもそも戦自というのが圧倒的に怪しいじゃないか
あの連中にはそうとう嫌われてるしな

「で、そのトライデントってどんなの?」
「俺に聞かれてもな…」

 正直よくわからん、俺のカードはレベル3
一般的な職員のレベル2に比べれば高い閲覧権限があるといってもそれは比較的というもの
もう少し折り入ったことを調べるのであれば
せめてオペレーターズの持ってるレベル4、できればこなた達のレベル5は欲しい所だ
俺の権限でSOSのコンピュータから手に入る資料なんて
存在の確認がされてることと、それがパイロット式の新型戦闘兵器であり
試作機が三体すでに完成してることぐらいの端的な情報しか手に入らない
――これでも学校の端末からがんばった方だがな

「ま、俺達の味方じゃないだろう事は確実か」

「でも神人迎撃を目的としてるんでしょう? 見方を変えなさいよ敵の敵は味方とも言うわよ?」

「…その考え方も間違いじゃないが、しかし個人戦じゃないんだよ
 個人の思想や見解、信望や敵意等の単純なものじゃなく、これは組織間の事だ
 ハルヒ達がどうだか知らないが戦自は味方にはつかないさ」

 どころか、漁夫の利を得ようと神人との戦闘に無理やり介入し
双方を消そうとする可能性が一番でかいとすら思うがね俺は

326 名前: ◆7SHIicilOU[] 投稿日:2008/06/30(月) 09:01:13.90 ID:kLzjwwo0

「三体の試作機ね」
「そうだ、”三体”のだ」

 これも俺が疑う理由、偶然の合致というのは簡単だ
大数の法則をだすまでもなく
この程度は物事を意識した途端にそれに関連する事柄がやけに目に付くようになるのと同じで
人間が20人集まれば50%の確立で誕生日が同じになるようなものだ
…だがしかし、やはり気にならないわけじゃないし
他の情報と組み合わせることによってやはり猜疑心は高まる一方

「…そういえば三体のってことで思い出したけど」
「なんだ?」

 手のひらを拳で叩いて、いま思い出したと強調する柊
どうにも会話にそういった細かなジェスチャーを盛り込むのが好きらしい
会話なんて本の片手間におこなったりする俺はそれでちょいちょい、ちゃんと聞いてるかといちゃもんつけられる
どうして会話を視覚的に行わなくてならないのか俺は時々悩む

「アメリカの第一と第二支部で開発されてた3号機と4号機が徴発されたらしいわよ」
「…決まったのはいつだ?」
「さぁ? 話してるのを耳にしただけだもの、知らないわよ」

 また重要なイベントが一つ時期が重なったか
まるで物語が加速してるようだ、部分的に早送りされて無理やりタイミングを合わしたような
…帳尻がズレてる感覚が否めない

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/06/30(月) 20:12:25.21 ID:lCHySY2R0

「パイロットが俺達だけって事を考えると気軽に増やせるようなものでもないんだろ?」

 パイロットが何を基準で選ばれているのかは知らないが
しかし17やそこらの子供に命のやりとりをさせるんだ
いざというときの替え玉が居ないのはやはりその基準が厳しすぎるからとしか思えない
俺が一体何をクリアしたのかは知らないが、おいそれと増やせるものではないのだろう

「なら、ここでエヴァを二機も持ってきてどうするつもりだ…」

 宝の持ち腐れっていみではアメリカにあってもここにあっても変わらないと思うが
それとも機体が損傷した際の、エヴァ側の替え玉って事か?
しかし各機体とパイロットは1on1の専属形式、ロボットのように操作するのとはわけが違う
交換はやはり利かないのじゃなかったか

「まぁなんだっていいわよ、私達がやることが変わるわけじゃない」
「負担が減りそうだというだけでも儲けもんか」

 楽観的な考えだが仕方ない、一介のパイロットに上部の判断など伝わってくる筈もなく
ただただ辞令に従ってエヴァに乗るだけにすぎない

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/06/30(月) 20:20:08.35 ID:lCHySY2R0

「なんかあったらその時はそのときで考えればいいわ
 しばらくは仲良くやってましょうよ? 他の二人はともかく橘ってのは個人的に好きだわ」
「へいへい」

 明らかに対立しそうな不良タイプ
圧倒的に馴れ馴れしい友好タイプ
どちらともとれない無口タイプ
どうにも極端でわかりやすく解し難い連中だ
裏があるだろうとおもいっきり思わせる感じで、意識させてボロを出すのを待ってるのか
はたまた裏の裏をかいて――みたいな

「疑り深いんだね〜、キョン君はさ」
「…いつからいたよ?」

 いつの間にか、本当にいつの間にかだ
柊がいるのと逆の方向の俺から見て右手に平然と橘が柵に腰掛けていた

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/06/30(月) 20:33:34.94 ID:lCHySY2R0

 柵に背中を預け、出入り口に目を向けていたにも関わらずに橘の接近に気付かなかった
まるでそこにいるのが当然のように柵に腰掛けて、ぐらぐらと後ろに身を反らす

「落ちるぞ」
「だいじょーぶい!」

 一般的な女子高生にしか見えない、だからこそ大きな違和感がある
まずいな、本当に戦自の少年兵だとか言ったら俺と柊じゃちょいと荷が重い
あちらがなにもアクションを起こしてない状況だし、危害を加えないと入った藤原の言葉に嘘は無い
ならこいつは見張りか? その性格ゆえに行動をともにしても周りからみれば普通に仲良くなったと映るか

「Exactly」
「…なにがだ?」

 流暢な発音でその通りと呟く橘はどうにも古泉を彷彿させる笑みを浮かべ続けている

「私達はトライデントのパイロットですよぉ」
「えっ!?」
「―やっぱりそうか」

 橘の登場から一言も喋らず硬直していた柊がこの台詞で一瞬で解凍された

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/06/30(月) 20:43:11.88 ID:lCHySY2R0

「まったく修学旅行でもそうですが、貴方は私達の予定表を何度も書き直させてくれますね」

 本来ならしばらくは隠してキチンと交友関係を築いてからの筈だったんですけど
そう続ける橘の顔にはしかし困惑や落胆やその手の表情、感情は欠片も見えやしなかった

「予定は未定って言葉知らんのか?」

 左手で柊を制しながら俺は橘から視点を先刻までと同じく屋上出入り口に戻す
あの向こうに残りも居ないだろうな? 三人相手だと武器があったとしても勝てんぞ

「まったくあなたのその技術や思考速度、さらに涼宮さん仕込みの大量な知識
 いささか以上に厄介ですね、本当に参ります」

 口調が少しキツくなったが、こちらが素か
まぁいまどきあんな舌どころか頭まで足り無そうな喋り方を地でする人間は居なかったか
個人的に好きだったのにな…

閑話休題

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/06/30(月) 20:58:28.65 ID:lCHySY2R0

「ハルヒ仕込み?」
「…ちっ、忘れてくれ」

 舌打ちが意識せずにでる
橘の奴、なかなかどうして狡猾じゃないかよ
人のウィークポイントを的確に突いてくる
下手をすればキレられる可能性があるやり方だが
俺の性格じゃ柊が居る場面でそれは自制してしまう

「いいんですけどね、やるべきことができなくなった訳じゃありませんから
 ただ予定がどうにも早送りされてるみたいで気分が良くないんですよ
 誰かに操作されてるというのは考えるだけで嫌になります」

「……同感だ」

 どうにも誰かが裏でタイミングを合わせてる気がしてる
タイミングを合わせて、次になにをするかといったら、GOのサインを出すだけだ
この状況でなにが始まるのか、まったく想像するだけで怖気が走る

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/06/30(月) 21:08:14.21 ID:lCHySY2R0

「三機の試作型トライデント」

 呟いて俺の様子を伺う橘、なにも言わずに出入り口の鉄製の扉を眺める俺に

「三人の転校生」

 さらに続けて話を一人で進めていく
ゆらゆらと柵の上で身体を揺らして、一度後ろに強く反ってから前に軽く飛んで
罅割れた屋上のコンクリートに新品の上履きで着地する

「その二つはイコールで結ばれたわけだよね?」
「…」
「なら同時に起こった、キョン君が不審に思った物は何?
 そしてそれとイコールで結ばれるのは?」
「それは…」

 ツインテールを風になびかせ、後ろでに手を組み俺に詰め寄る橘
―そしてどこからか感じる強い視線、いや、本来目からなにかしらの物が発信されることは無い
瞳は受信機だ、ならば気配とも言えるなにかと言い換えるべきか
とにかく、普段常に感じてる諜報の奴とは違う監視の目
ふん、自分からペラペラと情報を小出しにしてこちらになにかださせるつもりだったか?
…これはまずいな、下手すると狙撃の可能性も視野に入れなくては

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/06/30(月) 21:17:53.00 ID:lCHySY2R0

「キョン君は完璧超人ですか? どうしてどうして、敏感じゃないですか、鋭敏と言ってもいいです
 文武両道、才色兼備、しかも喧嘩も強い、そんなのはアニメの中のチートですよ?」

「そんな台詞はハルヒに言ってやれよ、俺は平凡で凡弱で薄弱な人間さ」

 転校初日から攻めてくるな、まったく
危害は加えないってのは嘘じゃなくとも
しかしボーダーラインはかなりギリギリっぽいな
参った参った、こうなりゃ銃の一丁でも持ってくればよかった
なんのための普段の訓練だよ、射撃訓練結構やっただろう俺

 …だが、喧嘩ね。嫌な言い方してくれるな

「なんだっていいんですけどね、私は今日はさよならです
 今日からクラスメートとして仲良くしたいという挨拶ですよ」

「気持ちだけで結構だ」

「いえいえ、今度キチンと菓子折り持ってお伺いしますよ」

「菓子折りなんてこの間の沖縄で山ほどうちにあるんだよ」

「なら八つ橋はいかがですか?」

「甘いもんはしばらく食いたくねぇな」

24 名前:とんかつとコロッケだった[] 投稿日:2008/06/30(月) 21:32:40.88 ID:lCHySY2R0

 くすくすと、しかし擬音が同じだろうとあやのとは違う含みのある笑い方

「なら仕方ありませんね、今回は諦めましょう」
「そうしてくれ、…用があるなら俺からでむいてやるよ」

 橘は笑い、細めていた目を少し開いて
先ほどとは違う、ただただおかしそうに笑う

「ふふ、ではその日を心待ちにさせてもらいましょう」
「そろそろ授業が始まる、とっとと教室戻るぞ、扉の向こうの奴もな」

 ぎぃ、と扉が開いて太ももまで届きそうな黒髪の少女がこちらを伺っている

「――先、行く」

 初めて聞いたその声は無機質で無感情な平坦な声だった

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/06/30(月) 21:45:00.10 ID:lCHySY2R0

―――

「――でさぁ」
「はぁん、―――ねぇ」

 久方ぶりに洋室に戻った自室
俺はベットに横になりゲーテのファウスト(劇場台本版)を読んでいると
ふと扉の向こうから輩の声が聞こえ、俺は本を閉じて居間にでる

「やぁキョン、今日は色々あったようで重畳だよ」
「くだらない冗長な時間を過ごしただけだ」

 しかし気楽なものだ
J.A.の時と違い工作するまもなく完成しすでに実践使用の前段階まできてしまい
さらにそのパイロット、つまりは戦略自衛隊には情報の漏洩し
しかも同じクラスに転校してきたというこの状況だというのに

「はっはぁん、あれっしょ? 修学旅行に会った子達っての
 いやぁしかし六人のパイロットねぇ、選ばれた戦士が立ち上がる! みたいな?」

「笑えねぇよ、互いの大義が違えばただの敵だ」

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/06/30(月) 21:57:44.56 ID:lCHySY2R0

「大義ね、戦自にそんなものがあればそれだけで感嘆物だよ」
「その辺はどうだっていいさ、べつに俺としてはあいつらが神人を全滅させてくれるならそれでもいいさ
 どうせその他大勢の人間にはどちらも変わらないだろうさ」

 それが出来るならとういう大前提を置いての話ではあるがな
J.A.があれだ、トライデントというのがどんなもんでも高が知れるというものだ

「いやいや、そうといってられないんだよね、実際」
「…結構やばいらしいわよその兵器」

 茶をすすりながら言うこなたと、腕を組んで椅子に寄りかかる柊

「…長門は?」
「あっちでテレビ見てる」
「…そのようだ」

 興味ないのだろうな、長門がなにかに興味を見せた事なんて非常に稀有だ

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/06/30(月) 22:04:57.01 ID:lCHySY2R0

「A.T.フィールドの展開や中和はできないみたいだけど
 しかしそれを抜いてもあの新型人形兵器は前回のあの木偶人形と比べ物にならないよ」

 湯飲みを両手でつかんで中身を飲み干して、ニッと笑うこなた

「まぁ百聞は一見に如かずってね、明日はちょいと付き合ってもらうよ」
「実物でも見に行くの?」

 んな馬鹿な、新兵器を遠足気分で拝めるほど警戒態勢が緩い訳も無いだろう

「いくつか写真や新規の情報、書類も交えての会議をやるからね
 あっちに情報がいくら漏れてるのか知らないけどさ
 でもこっちにもそれ以上の情報が流れてくるんだよね」

「あくどい奴だな」

「私個人の話じゃないでしょ、喜緑さんの領域だもん」

「ハッキングか」

「そ、痕跡も残さずデータを引っこ抜くくらい朝飯前だよん」

 こなたは空の湯飲みを傾けて、その後首を傾げた

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/06/30(月) 22:28:31.81 ID:lCHySY2R0

――

 分厚い装甲がごつごつとした小山のような印象を与える
青、黄、赤と信号色の三機の機体
J.A.と同じく原子炉を内蔵し長時間の単独運用可能
またJ.A.の時に問題点となった遠隔操作ゆえの格闘船での致命的な遅れはパイロットがカバー
エヴァに近い敏捷性も兼ね備え、かなりの重装備

「都市を一つ消す火力には十分だな」

 だが神人相手にはどうだろうか、確かにあの間抜け面よりはよほど使い物になりそうであるが
時間をかければいいというものではないんだ
A.T.フィールドを破壊する火力には、やはり届かない

「でも、三機」
「あぁ三機だ」

 三機の高火力の高機動兵器、こりゃエヴァでも厄介だぞ
3on3になれば問題なく勝てるが二対三だとキツいかもな

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/06/30(月) 22:35:50.74 ID:lCHySY2R0

 足元の大きなモニター
鮮明に映る三色の巨大な機体、暗い会議室

「これが量産されるとなるとキツいな」
「だからイコール、その橘って少女が言いたかったのは別の方向だろうけど
 でもここで一つ繋がってくるものがあるよね?」
「3号機と4号機の徴収か」
「イエス」

 …プロダクトモデルのエヴァが新しく二体配属されて計五体
はっ、世界を悠々と滅ぼせるな

「ってことは、やっぱり戦力の増強か」
「うん、で橘さんが言いたかったのは多分ここだね
 三機のトライデントに自分達がイコールのように二体のエヴァに―」
「―二名の新規パイロットか」

 ポンポンと数珠繋ぎのように面倒事が起きていく
楽しいことだけを紡いでられるなんて思っちゃいないが…

「誰になるんだ?」
「…まだ審議中だよ」

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/06/30(月) 22:48:49.46 ID:lCHySY2R0

「審議中ね」

 そういえば、昨日浮かんだ疑問だがいいタイミングだろう
面子もそろってることだ、聞いてみるか?

「パイロットの、選抜基準ってなんなんだ?」
「…知らない」
「知らない?」

 どういうことだ? 仮にも組織の幹部であるこなたがなに寝ぼけたことを言ってる
それは人の上に立つ者としてやってはいけないこと、言ってはいけないことだ

「全部、有希もかがみもハルちゃんが決めたからね
 そして二人ともエヴァに乗ることができた、キョンもそう
 だから多分これからもそう」

 ハルヒの独断で決められてるというのか?
ふざけてる、徹頭徹尾、あいつは俺を挑発してるとしか思えない

51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/06/30(月) 23:25:19.64 ID:lCHySY2R0

「落ち着きなさいよミットも無い」
「確かにここは球場じゃないからミットもバットも無いけどさ」

 おかげで一週まわってすっかり落ち着いちゃったよ
だがはやりハルヒが何を考えてるのかわからずそれに怒りを感じてるのは事実だ
あいつにはあいつの考え? 知るかそんなの

「まぁいい、その追加戦力はいつくるんだ?」
「さぁて、来週くらいになると思うよ」
「お前の来週は振幅激しいんだよ」
「…そうね四日後になると思うわ」

 いつもあいまいな上にしかもあてにならない発言をするこなた
それに喜緑さんが凛とした声で正確な情報をキチンと教えてくれた

「なんだいなんだい、四日後だって来週だろう!」
「お前は明日から七日後までが来週だからな、一ヵ月以上になれば多少のズレは仕方ないが
 短期間で一日二日の差はでかいぞ」

55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/06/30(月) 23:38:27.37 ID:lCHySY2R0

 ふと、弐号機を始めてみたときを思い出す
3号機や4号機は目が増えてるのだろうか

「なぁ、3号機と4号機の写真とかないのか?」
「ん? あぁあるよ。みくるちゃん、チェンジしてくれる?」
「はい、わかりました」

 普段と違ってきびきびした動きでモニターを操作し画像を入れ替える朝比奈さん
それでも、あれ? とかえっとぅ、とか聞こえてくるのはご愛嬌

「あ、でたでた」

 黒と白の無骨な形状の二体
色が違うだけで形は同じ、顔は通常の双眼で角等の装飾も無い
肩にウェポンラックがあるくらいが共通点で、あとは色彩にしても形状にしてもどうにも同じエヴァとは思えない

「そりゃね、名前の番号みればわかるだろうけど零号機から弐号機までは漢数字でしょ?
 これは日本が製作したからで、3号機4号機はご存知のようにアメリカだからね」

「…ん? まて弐号機はドイツから輸送しただろう」

「それは日本で設計したのをドイツで組み立てただけだよ、基本は日本でね
 だから比較的簡単に手放してくれたんだけど」

 なるほどね、しかし無駄な装飾や彩色はアメリカよりだと思っていたが
その認識をどうやら改めなくてはならんらしい

58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/01(火) 00:00:15.59 ID:PVQBOYgI0

「でもこなた、機体があってもパイロットの方がそんな短時間で使い物になるかしら?
 正直キョンという例外を考えてもすでに定期的に敵が来る中で新兵育てて間に合う?」

 それもそうなんだ、頭数そろっても足手まといじゃしょうがない
現在のフォーメーションを崩せば俺達だってまた陣形等覚えなくちゃならないし
柊も長門も三年前から訓練を受け続けていたんだ
それを新しいチルドレンに一週間二週間訓練させたところで付け焼刃って奴だ

「そうなんだよねぇ」

 こなたは、しかし俺達の不安を払拭するどころか助長する発言をする
こいつは本当さっきからなにをやってるんだという話だ

「でも、乗れる人間が決まってる以上しかたないんじゃないの?」
「判断基準がわからないのに仕方ないとよく言えるな」

 もしかしたら自分が乗れるかもしれないという可能性があるのだぞ?

「いや、それはないよ。 関係者は全て乗ることができない、これだけは確実なんだよ
 それに政府、国連、戦自、その手の国の関係者等も手の届く限りはやってるの
 で、その結果は全員アウト、ただの適当や独断じゃないことは私達は知ってるよ」

「それでハルヒを信用しろと?」

「さぁ?」

64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/01(火) 00:12:49.15 ID:PVQBOYgI0

「でもさ、少なくとも選んだ三人は全て本物だったよ?」

 わかってるさそんなこと、だからむかつくんだよ

「言ってもわからないから言わないだけじゃないの?
 ハルちゃんは本当に凄いからね、なにがじゃなくて全部凄い」

 わかってるさそんなこと、だから悔しいんじゃないか

「今回もそんなところだろうと思うよ
 ダメだったら、そんとき考えなよね、ネガティブ思考はあかんよ」

「…なぜお前はあいつをそこまで信用できる?」

「なんでキョンはハルちゃんをそこまで疑うの?」

 ―一瞬の視線の交錯で俺は負けた
信じるのに理由は要らない、信じることは無償だから
だが疑うのは理由が必要だ、そうではないという理由が必要なのだ

65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/01(火) 00:25:55.60 ID:PVQBOYgI0

「今回の集まった目的はそんな話をするためじゃないしね
 スパコンに手に入った情報から分析してシミュレーションに予想ではあるけど
 とりあえずの模擬戦闘ができるようにしてあるから、有事のために何度かやっといて」

「三賢者だかなんだか知らないが、ずいぶんと凄いスパコンだな」

「スポコン?」

 それは巨人の星とかだからな柊
日常会話は下手な日本人よりも流暢に話すくせになんで時折ボケかますんだよ
スーパーだよ、超だよ、スゲーんだよ

「あぁ、穴に向かって投げて跳ね返った球がまた穴を通って戻ってくるって言う…」
「しっかり知ってる!」

 なんかもうダメだ色々と、俺とか

「…はい」

 と、この悪いというか悪ノリの流れを断ち切って長門が手を上げる

67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/01(火) 00:31:42.42 ID:PVQBOYgI0

 パーン! と張り手を見舞う手を上げるではなく
長門は普通に手をあげただけだ、念のため

「なんの念よ?」

 そんなの俺にわかるわけねぇだろ

「どうしたの有希?」
「……なんでもありません」

 一度あげた手を、二度小さく握り
そして下げ、小さくなんでもないと頭を振る長門
…一体なにがどうしたのだろうか、といぶかしむ間もなく
長門はそのまま一礼して部屋をでて行ってしまった

「キョン、どうしたのかわかる?」
「……そんなの俺にわかるわけねぇだろ」

132 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/01(火) 13:17:00.49 ID:PVQBOYgI0

>>67

「なんでもいいや、もう話は終わったんだし二人とも今日は帰っていいよ」
「あぁ、そうさせてもらうことにするさ」

 少し身体を反らすと背骨が音を立てる

「やめなさいよそれ」
「やらないと気分が悪いんだよ」

 柊と暗い会議室から廊下に出ると等間隔にならんだ蛍光灯と明るい色の廊下の壁の所為で
どうしても目が細くなる、もう少し会議室内を明るくしてもかまわないと思うのだが
しかしそれだとモニターが今度は見づらくて仕方なくなるんだろうな

「あれ? あんたそこに居たの?」

 少し歩いたところの廊下、エレベーターの前のベンチにちょこんと腰掛けていた
なにか用事があったから先んじて一人で行ってしまったって訳じゃないってことか

134 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/01(火) 13:29:20.22 ID:PVQBOYgI0

「よぉ長門、なにしてるんだそこで」
「…待ってた」

 おやおや、おやおやおや?
これは、なんだろうな、相当の予想外だが―悪くは無いよな

「へぇ? あんたどういうつもりよ珍しいわね」
「…べつに」
「いいじゃないか、たまには三人そろって帰るというのもさ
 どっか寄り道してくか? なんか奢ってやらないこともない」

 二つの三角形のスイッチ、上を向いた方のそれを押してエレベータがくるのを待つ
扉の上のデジタルな表記は目まぐるしく変わっていく

「私クレープとか食べたいんだけど」
「ドンと来い」

 クレープ屋の車はなぜかしょっちゅう街を徘徊している
結構同級生などの話題に上がる、美味いクレープとかなんとか

135 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/01(火) 13:53:22.47 ID:PVQBOYgI0

 チンとありがちな軽い音を立ててエレベーターが到着
会話を一時中断して中に入る

「…ラーメン」
「ん?」
「……ラーメンが食べたい」

 あぁさっきの話か、ラーメンねぇ
それだと晩飯になってしまうな、となるとこなたのこともあるし家で作るか?
だが家で作っても中途半端になりそうだな、なんかそれらしいのを食いたい気分ではある
とりあえず俺は承諾し、はてさてどうしたものかと最奥にもたれ考えていると


 ガコン、という歯車の外れた音のようなものが聞こえてエレベータがとまった
…あれ、エレベータ? エレベーター? どっちだったっけか
まぁとりあえずそんな場合じゃない、上部の螺子のような絡繰のメーターは動きを止め
体感的にもとまってるのは確かっぽい

「柊、お前体重何キロだ?」
「殺すわよ? 定員13人って書いてあるしょうが」

141 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/01(火) 14:21:19.04 ID:PVQBOYgI0

「冗談だ、ちょっと時計で時間計ってくれ」
「え? えぇ、わかったわ」

 アナログの時計だがストップウォッチの機能くらいはあるのだろう
柊は少しボタンを操作して針盤を覗き込んでいる

「…長門、可能性としては何が大きい?」

 次に長門に問う、長門は少し目を伏せて考えてから
エレベーター横の非常連絡用のボタンを押す、が反応は無し
二度、三度試したものの同じ

「停電と思われる、このジオフロントの電気回線は正、副、予備の三つがある」
「復旧にかかる大体の時間はは?」
「早ければ3分、遅ければ10分、それ以上は…」

 ―なんかしらの異常事態ということか

「でも、もう既に3分は経ってるわよ」

 復旧の目処はなし

145 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/01(火) 14:31:49.34 ID:PVQBOYgI0

「オーケイ、柊続けて計っててくれ」
「わかった」

 時計は俺と柊で二つ、携帯は非常用のは全員持ってるだろうと
あとは自分のを持ってるが一般の携帯はジオフロントのさらに深部となると使えない

「長門、復旧しなかった場合を想定して話を進めるぞ
 現在のエレベータの位置であるフロア5から発令所まで行くには
 電気で動く扉が複数ある、それを回避して移動する道を知ってるか?」

 長門が俺達の中でここに一番長く居る
もしかしたらその手の非常用経路があるかもしれない
五分、と柊が控えめに呟く―まだ復旧する気配は無いか

「…一つ、通風孔のダクトを使えば発令所に一直線で向かえる」
「なるほど」

 多少手狭だろうが確かに部屋と部屋をつなぎ無数にのびてる通風孔を通れば
時間はかかっても確実に発令所に到着できるだろうが…

「だが通風孔の中で発令所の方向がわかるか?」

 ルートもなにも書かれていないただの細長いパイプ、迷えばそこで終了だ

「……大丈夫、私に任せて」

 長門は、力強くそういった

146 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/01(火) 14:39:31.16 ID:PVQBOYgI0

 俺が下になり、指を組んで腰を落とす
柊が比較的広いこのエレベーター内で少し助走をつけて向かってくる
そしてビーチバレーの感じで俺は柊を上に跳ね上げる

「っせい!」

 両腕を顔のまで重ねてエレベーターの上部ハッチを体当たりで開け
そのまま柊はよじ登っていく
―結局、すでに17分経過した今も復旧の兆しは無い
完全にジオフロントの内部全ての電力供給が消えてるようで電話も通じやしない

「よし、いいわよ!」
「長門」

 今度はしゃがみこむ俺、こういうとき男は若干損な役回りだ、まぁ一概にはいえんが
俺は長門を肩車してハッチから手を伸ばす柊が引っ張りあげる

「ちょっとちょっと! あんためちゃくちゃ軽いけどご飯ちゃんと食べてる!?」

 そうなのだ、長門を肩車して初めてわかった
長門は体重が異様に軽い、羽根のようだなんていう比喩がそのまま当てはまる

149 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/01(火) 14:47:27.90 ID:PVQBOYgI0

「…問題ない」
「問題大有りよ! もっと食べなさいよね!」

 柊が長門を引き上げる際、俺の肩に座っていた長門がさらに上に向かうため
なにやらいけない白い布が視界に入り俺はあわてて視線を逸らす

「なにやってんの?」
「俺はジェントルなのだ」
「…さいってい」

 ちゃんと見ないようにしたのに最低呼ばわりだった
いや、少し見ちゃったけどさ…

「いいからどいてくれよ、俺があがれない」

 ハッチから顔をだして侮蔑の表情で見てくる柊に耐えられなくなり
そういって視界から退いてもらい、俺も助走をつけてハッチに手を掛ける

「いたっ!」

 指を踏まれた、お前骨折したらどうするんだよ

「サッカーをやりなさい」

 どうやらずいぶんとおかんむりのようである

169 名前:結局数時間寝た俺[] 投稿日:2008/07/01(火) 19:24:15.09 ID:PVQBOYgI0

>>149
「…さて、なんにしてもまずは上にのぼらないといけないわけだが」

 流石にこういうこともあろうかとという奴なのか
エレベーターのシャフトにはタラップが設置してある

「あんたが一番上よ」
「わかってる」

 一気に信用ガタ落ちだった、不可抗力という言葉を柊には一度叩き込まないといけない

「しかし結構のぼるなこれは」
「いいからキリキリ昇る!」
「へいへい」

171 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/01(火) 19:38:55.10 ID:PVQBOYgI0

 カツン、カツン、カツンとのぼって行く音
それが三人分輪唱の様に重なる
今回が初使用になるのだろうこのタラップはしかし整備はキチンとしてあり
学校の柵のように錆付いてることは無かった
錆びてると痛いんだよな、手のひらが

「…あそこ」

 長門が指を指したかどうかは知らないが
とにかく音と音の合間に一応聞こえるように配慮したのか少し大きめの声で言った

「…ん、どこだ?」

 タラップの前方であることは確かなのだ、場所がずれてたら出ることができない
だがどう目を凝らしても俺には第一目的とするエレベータの扉を発見できなかった

「私にも見えないわよ?」
「長門は目が相当いいのか」
「…」

173 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/01(火) 19:54:19.21 ID:PVQBOYgI0

 こんな暗いシャフトの中長門の目を頼りにさらに昇り続けて
扉についたのはさらに5分程昇り続けた後だった

「長門、お前、スゲーな」
「こんな所のみつけたの? あんた異常よ」
「あなた達が目が悪いだけ、ゲームのやりすぎ、テレビから離れてない」

 軽口を言いながら、さて扉をどうやってあけるのかと思った
長門はただこの道を指定したが、あけ方も知ってるのだろうか?

「こういった所には非常時開閉用の電池がついている
 扉の横の四角い蓋をはずして中のボタンを押せばいい」
「ふっ…これか?」

 埃をかぶり見えにくくなってる蓋、それに息を吹きかけると
四角い縁がみえる、俺はそこにつめを引っ掛けて中のボタンを押す
すると重そうに扉が緩慢な動きで開いた

176 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/01(火) 20:10:49.81 ID:PVQBOYgI0

「あとは行けるとこまで行って、詰ったらダクトでゴーか」
「言うは安し行なうは硬しって知ってる?」

 それは発音はあってるけど漢字が間違ってるな
言うは易し行なうは難しだ、おしいで8点あげよう

「ま、行ける所までといってもここらは流石に通りなれてるから
 どこで詰まるかは想像できるんだけどさ」

「でも上手く迂回できれば発令所前の扉まではいけそうな気もするのよね
 あまり私服で通風孔は通りたくないわ」

 わかるけど諦めろよ、クレープ買ってやるから
って、長門スタスタ先に行くなよ、お前が頼りなんだから

「…あまり時間が無い」
「時間?」

 なんのことだ? あぁ長門もクレープ食べたいのか、あの車屋台すぐ暗くなるとすぐ居なくなるからな

「………そうじゃない」

 おや、なにやら呆れられてる?

178 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/01(火) 20:31:06.89 ID:PVQBOYgI0

「なんでもいいわよ、急がば回れっていうじゃない」
「言葉自体は間違ってないけど使い方が違うな」

 言い合い、一歩前の長門に任せる形で俺達は追従する

「こっち」
「…ん? こっちじゃないのか?」

 普段は使わない道、そっちはケイジの方の道なのだが
しかし長門の言う通りに歩いてれば問題ないのだろうととりあえずついて行く
すると柊が少し眉を寄せて不機嫌そうにしてるのに気がついた

「どうした?」
「別になんでもないわよ?」

 そうは見えないから聞いたのだが、しかし聞いてすんなり答えるなら
その前に自分から言うだろうとしばらくは静観する事にして
開いた長門との距離を詰める

179 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/01(火) 20:37:07.34 ID:PVQBOYgI0

「こっち」
「おいおい、今度は発令所から離れてるぞ?」
「…問題ない」

 いう長門の表情は少し焦りの様な物を感じる
なんだ? なんでわざわざこんなに曲がりあちこち移動する必要がある?
柊ほどじゃないがそれでも日が浅い俺にはいまいちわからない
その廊下はエレベータに続く先ほどの道に戻ってしまう

「ファーストあんた、なにから逃げてるの?」

 唐突に、柊が足を止めて長門に強い口調で質問する
いやそれはもう詰問と言える勢いで
――逃げる?

「…」

 長門の方を向くが、しかし長門は何も答えない
ただ少し困惑しているようではあったが

182 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/01(火) 20:47:39.16 ID:PVQBOYgI0

「長門?」
「…」

 答えない、か
だが大体の事情は察せられた、というかもっと早く気付くべきだったのだ
この停電が既に42分たってるにも関わらず復旧しない
これはもはや人為的なものが加わってるとしか考えられない
だとすれば関係者内に工作人がいるのか
はたまた侵入者がいるのかは知らないかは知らないがなんかしらの敵対人物がうろついてる可能性がある

「柊、武器とかは?」
「…持ってないわ」

 若干周囲に気を張りながら答える柊
柊もどうやらわかったようだ、決して頭の回転が遅い奴じゃない
俺は腰に手を回してそれを取り出し柊に一つ渡す

「使い方はわかるな? 安全装置は外してあるから気をつけろよ?」
「ちょ、ちょっとこれあんた!」
「静かにしろ」

185 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/01(火) 20:56:41.62 ID:PVQBOYgI0

「長門は?」
「…」

 またも答えず、しかし俺と同じものを腰から取り出す
俺はもう一丁反対に取り出す、昨日の橘のおかげだな
早速役に立ったじゃないか、この装備がさ
グロック17Cは比較的女子供向けの護身的用途を目的とした銃であるが
しかしそれは殺傷能力に欠けるという意味では、決して無い

「柊も次からはできるだけ持っとけよ、この間の三人組のこともあるしな」
「う、うん」

 あぁ嫌だな、白兵戦闘は苦手なんだよ
しかも神人相手じゃなくそのまま対人戦? は、人殺しか

「悪くない」

 両手で構えて腕を伸ばし三度弾と安全装置、照準等を確認する

「…長門、何も言わずに行動を起こす、無言実行が格好いいのは男だけだ
 可愛い女の子はこういうときは素直に頼ればいいんだぜ?
 少なくとも気構えができてれば誰かに遭遇して不用意に近づいて撃たれるようなことは無い」

「…ごめんなさい」

186 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/01(火) 21:11:16.89 ID:PVQBOYgI0

「まぁこんな所で多少訓練した程度の銃の腕前を見せるより
 早々に発令所に行った方が安全なのは確かなのでだ
 とりあえずは少々気をつけて発令所に向かう程度だなやることといえば」

「…違う」

 元来た道を戻ろうとした俺を長門は服の襟をつかんで止めた
ってかちょっとは手加減して欲しかった位の勢いで引っ張られたのだが
ここで咳き込むといきなり俺が情けないのでがまんした

「…可能性で無く、実際に侵入者と思われる人間が三名確認されている
 そっちに戻るのは非常に危険」

 ぼそぼそと、まるで唇の動きで会話を成立させんとしてるような声
しかし、逃げるという柊の表現は正しかったか
実際に長門はその極端にいい目で危険を察知して逃げていたのだ
なんでもっと早く言わなかったとかはいわない、長門なりの配慮の結果なのだろう

「なら、遠回りでもいい、行くぞ?」

 最後の単語は柊に向けて、銃を受け取ってから反応が極端に薄い
まさかこの期に及んで怖気ついたか? いつかの水中戦の様に

187 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/01(火) 21:17:03.49 ID:PVQBOYgI0

「…もうダメ」
「はぁ?」

 様子がおかしい
いや先ほどからおかしいとは思っていたがおかしいの方向性が違う
怯えてるだの恐怖だのからはかけ離れてる気がする

「ちょっと、ファースト…」

 長門を呼んでなにか会話をしていたが
とうとう限界のように柊は

「トイレ、トイレに行きたいの!」


 ―どうにもこいつは雰囲気とか空気を破壊するのがお好みのようだ

196 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/01(火) 21:50:17.54 ID:PVQBOYgI0

――

「はぁ…」

 女子トイレ前で一人待機中の俺
なんとも気まずい状況だった
緊急事態とはいえやっぱりなぁ…

「ごめん、待たせたわね」
「いや、べつにいいけどさ」

 暗いわけだ、誰も居なくて静かなわけだ、――音がね
まぁ口にはしないけど、決してしないけど

「さっさと行きましょうか」
「そうだな」

 言って廊下を進もうとする俺と柊

「…逆」

 本当にまったくだ

210 名前:変態紳士 ◆7SHIicilOU [] 投稿日:2008/07/01(火) 22:58:31.07 ID:PVQBOYgI0

――

「狭いな…」
「仕方ないでしょ」
「…静かに」

 通風孔の網を一箇所ぶっ壊して
匍匐全身というよりもはや這い蹲って
携帯のライトを頼りに前進する俺達

「もっと早く気付けばよかったな」
「まったくよ」

 柊のいまだに消えない猜疑心のせいで道も方向もわからないのに先頭になった俺
後ろの長門にナビゲートしてもらいながらちまちまと進んでる

「長門、左右にTの字でダクトが分かれてる」
「…右」
「了解」

265 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/02(水) 06:13:14.88 ID:GXiX8bDc0

>>210

「下」

 長門が先に進もうとした俺の足首をつかんでそう言った
すでに這いつくばってる状態の俺はおかげで額を叩きつけてゴンと音を響かせた

「下って…、あぁここが発令所の上って事?」
「…いって、多分そういうことだろうが…、出口なくね?」

 長門さん、確かに座標はあってますが三次元的に物を見ると少しずれてますよ?
まぁ人間にあるという体内方位磁針じゃ、方角はわかっても流石にそれ以上は無理か

「壊して下に落ちる穴を作らなくちゃ…、銃で撃ってみたら?」
「おいばかがみ、跳弾して俺達に当たるだろうが」

 それに落ちるじゃなくて降りるといってくれ、間違ってないがなんか嫌だ

「ちょっとばかがみとか言わないでくれる?」
「馬鹿」
「漢字で言わないでくれる? 意味合いが強くなるじゃない」

 なんの会話だよこれ、んなことより早くしたに降りなくちゃいかんのだが

266 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/02(水) 06:17:43.66 ID:GXiX8bDc0

「…」
「ぐぇ」

 長門が俺の足首をさらに引っ張る、というか引き寄せる感じ

「なんだなんだ?」
「本来通風孔は人が通るように出来ていない、一箇所に集まれば三人分の体重で壊れるかもしれない」

 なるほど、考えは理解できたけど先に言ってから行動して欲しいな
いきなり足首を引っ張らなくてもいいじゃないか
それに三人分といっても長門の体重は本当に軽微なものなので数に数えていいものか…
あぁ、柊がいるから大丈夫か、さっきはエレベーター止めてたし

「いって!」
「あんたまだそのネタ引っ張るつもり!?」
「冗談通じない奴はつまらんぞ?」
「あんたの冗談は悪質よ!」

 がしゃがしゃと狭い空間で怒鳴るもんだから響く響く
この声が下に届いて、俺達の存在に気付いてくれればいいんだけどな

267 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/02(水) 06:25:39.55 ID:GXiX8bDc0

「あぁ耳鳴り…」

 自分の声で耳鳴りになってるばかがみ
漢字で書くと馬鹿神、おぉ強そうな感じだ

「…黙って」

 長門に叱責されてしまった
言われて黙り、お互いの吐息の音を感じる程になったとき
ダクトの壁越しに小さな声が聞こえる

「――、接近中!―返す、神人が――在接近――」

 いまいち聞こえづらかったもののなんとか把握できた内容
それは俺達をさらにあせらすに足るものだった

「オーケイ、更なる異常事態だ」

 俺は閉まってた銃を取り出し、離れた位置に向かって撃つ
角度の関係で跳弾したところでこっちに戻ってくることは無い位置に発砲
反響する火薬の爆発音に長門と柊はしっかり耳をふさいでる中
俺は片側の手がふさがってるため直に食らい、頭をふらつかせる
正直無茶したかもしれないが、しかし四の五の言ってる場合じゃない
着弾地点に移動し貫通してないまでもへこんで穴が出来てるところに肘を何度も打ち込む

「丈夫に作りすぎだぜ、これも侵入者対策なのか?」

268 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/02(水) 06:33:04.20 ID:GXiX8bDc0

 ぼやきながら数十発目の肘鉄で小さかった光が徐々に広がっていく
骨に罅とか入ってそうで非常に痛いのだが、それをおしてさらに数度殴りつける

「っし、後は広げるだけか――」
「…やぁ、何者かと思ったよ」

 やはり途中から音で気付かれていたのだろう
この状況で通風孔に人がいるという事実は流石に考慮に当たるらしく
銃を構えたこなたが引き攣った笑みを浮かべていた

「…手伝ってくれ」
「二人もそこにいるの?」
「あぁ」

 どこからか脚立を持ってきたこなたに手伝ってもらいなんとか脱出、到着することに成功した

「危うく撃つところだったよ、銃声までしたんだもんね」
「軽率だったかも知れんがしかし他に手段が無くてな」

 流石に壊れるまで二人と密着してろというのは俺には酷過ぎる

269 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/02(水) 06:41:31.98 ID:GXiX8bDc0

「それでこなた、敵が接近してるってどういうことよ?」

 脚立の途中から飛び降りて問う柊
こなたは腕を組んでコンソールパネルに腰をかけて答える
…ってか本当に暑いな、空調が切れるとここまで空気が淀むのか

「そのまんまだよ、神人が第三に向かって進行中、外の様子がわからないけど
 多分かなり近くまで来てるんだろうね」
「エヴァは?」

 この停電時にエヴァをどうやって起動させるというんだ?
もし起動できなければそのときは…

「大丈夫、もう起動フェイズは終了してるよ
 あとはパイロットが乗ればいつでも発信できる」

 続けて喜緑さんが普段と比べてめちゃくちゃ薄着で現れる
白衣も着てないで、いつもののびる棒もいまは団扇に変わってる
やはり彼女も暑いものは暑いのだろうか

「非常用のディーゼルを使ったのよ、バッテリーも積んでるから35分は動けるわ
 ただ武器の方がパレットライフル程度しか用意できなかったけど」

311 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/02(水) 16:26:11.30 ID:GXiX8bDc0

>>269
「でれるならなんとかなる」
「ナイフもあるしね、まぁ実物見るまでなんともいえないけど」

 それ以上に懸念事項として存在するのは
やっぱりこの流れだとスーツとかは…

「その格好で乗ってもらうことになっちゃうね」
「やっぱりか…」

 仕方ないとわかってても少しショックだ

「だがカタパルト無しでどうやって外に出るんだ?」
「マニュアル発進をしてもらうわ」

 マニュアルって、やったことどころか
ルートを見たこともやり方を聞いたことも無いんだが
一体どうやるというのだろうか?

314 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/02(水) 16:39:03.74 ID:GXiX8bDc0

――

『なによこれ!?』
「スケールが大きくなっただけでさっきまでと変わらんな」

 タラップを使ってがしょがしょとエヴァ三体が狭いシャフトをのぼっていく
先ほどまでの俺達と変わらない、そのまんまの情景だった
あとは横道を通れば完璧だが…

「あったよ…」
『なにが?』

 後ろにいる弐号機からの通信
どうやら見えてないらしいが、壁に刺さっているホッチキスの針みたいな梯子は終了
一旦横道にズレて外に出るそうだが…、それだけで時間が経ってしまいそうだぜ?

『本当に情けない…』
「がまんだがまん」

315 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/02(水) 16:43:42.83 ID:GXiX8bDc0

 四つんばいになってさらに横穴を前進すること1分
さらに縦穴にでたと思ったら―

「気持ちわる!」

 咄嗟に叫んでしまった
丸い縦穴の上部を塞ぐ様に目玉の大群がいた
地上への出口はすぐそこで、こいつが居なければ手を伸ばせばでれるのだが
なんだよこれ、気持ち悪いにも程があるぞ

『どうしたの? 神人居たわけ?』
「あぁいたともさ、柊、ちょっと場所タッチだ」

 横穴と縦穴がぶつかるこの地点
正直エヴァの視界にちらちらこいつが入る
よく状況がわかってない弐号機と位置を変えるとすぐさま

『気持ちわる!』

 大声が飛んできた

316 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/02(水) 16:54:42.30 ID:GXiX8bDc0

「さて、攻撃方法がわからない現状であまりうかつなことはできないな」

 穴にこもって作戦会議、なにやら馬鹿みたいである
土管に隠れてるようにも見えなくないのが余計にダサい、エヴァだし

『でも制限時間があるからね、残り24分』
『…この距離ならライフルの効果があるかも知れない』
「パレットライフルねぇ……」

 今までこのライフルで敵に対して有効打を与えたことがないんだよな
まぁ物は試しだ、と俺はライフルを構えて穴から上半身をだして至近距離の目玉を撃つ
しかし前例に違わず普通にフィールドに防がれてしまった
さらにはウラン弾が砕けて視界は一気に弾幕で塞がれ、横穴にまで侵入してくる始末

「やっちまったな…」

 ぼやきながら引き金から指をはずそうとしたとき
右腕の前腕部が焼けるような痛みが走った
咄嗟に体を引っ込めたが、銃はそのまま縦穴を落下していってしまう

317 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/02(水) 17:03:17.75 ID:GXiX8bDc0

 シュウゥゥゥと焼けるような熔けるような音
目を閉じてエヴァの目を通して見ると腕がまさしくオレンジの液体によって熔かされている
まるで発泡スチロールに油性マジックで線を描いた時の様に触れた部分だけが熔けている

「いってぇ…」
『溶解液があいての攻撃見たいね、地味だけど堅実ね』
「心配の一つもしやがれ」

 唯一の武器であったライフルも落下、ちょっち不味いぜこれ
焼ける腕の所為で注意力が散り、少し焦りがでてくる俺
痛みを堪え様と左手で抑えようものなら、今度は左手の平が熔けるという状況

『ちょっとどいてくれる?』

 握りこぶしを作って、頭を巡らせていると
柊がまるで扉をふさいで話してる同級生にかけるような軽い口ぶりで弐号機を前にだす

『こんな距離に居るんだから、ライフル無くても―』

 いいながら横穴から手をだしてトの字になって横と縦がくっついてる部分を掴んで
逆上がりの様に勢いよく敵を蹴り上げて穴から神人を引っぺがした

320 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/02(水) 17:09:29.44 ID:GXiX8bDc0

『こうすりゃいいのよ』
「大胆だねぇ」

 続いてなにも障害がなくなった穴をでる俺と長門
弐号機も先ほどの蹴りで両足の裏から煙がでているというのに
地面に足を擦るようにして平然と立っている
先ほどのようにダラダラ液体を垂れ流していなかったからいいものの
タイミングが悪ければ直撃だったぞ、ばかがみめ
まったく無茶をする

『男のあんたの代わりに私が無茶したのよ』
「確かにさっきのは情けなかったけどさ」

 あんま危ない真似すんなっての

『しかし、やっぱり気持ち悪いわねこいつ」

 ごそごそと蹴り飛ばされた状態から立ち上がる神人
四本の細長い足を駆使して立ち上がるその様、そして中心の溶解液を出す本体
まるで蜘蛛じゃありませんか

322 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/02(水) 17:17:34.14 ID:GXiX8bDc0

『…居る』

 長門がふと敵とはべつの方向を眺めてぽつりとつぶやく
なにが? と聞こうとして同じ方向をみ、聞くより早く答えがでた
今日、たった数時間前に大きなモニターで見た巨大兵器

「トライデント…か」

 偵察かなんなのか知らないがいつか俺が背中から着地してぶっ壊した山に
三機の内の一機、青い機体がこちらを棒立ちして見ている
正直長門が三人の侵入者と言ってたから、あいつらの関与を考えていたのだが
あそこには一機か、杞憂と考えていいんだろうな?

『プレッシャーかけてるつもりなんでしょ、さっさと倒しちゃいましょ』

 ナイフを構えて勇ましく言う柊
おいおい、今日の柊はやけにたくましいぞ?

326 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/02(水) 17:26:30.04 ID:GXiX8bDc0

 その甲殻類のような本体とは裏腹に非常に脆そうな細い四肢
正直その足を適当にポキッと折るなりなんなりしてしまえば簡単に倒せると思っていたのだが

「…変形?」

 その足を俺達が折る前に折りたたんで、しかし本体は地に付くことなく
宙に浮かぶ半球の本体に四本の短いアンテナがついてるような状態になった
そしてその元脚、現アンテナが高速で回り高度を上げていく

『あ、こら、待ちなさいよ!』

 それを追おうとする弐号機がナイフを持っていない手を伸ばしかける
俺はそれをほぼ反射で止める、敵の周囲に陽炎のようなものが見えたからだ

『え?』

 しかしその声も一瞬間に合わず、敵を中心とした一定の距離内に弐号機の左手が進入する
そして手首から先の装甲が熔けていく

『ぐぅっ…』

 すぐに手を引っ込めるもののしかし俺の右腕のように無残に熔けゆく左手

328 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/02(水) 17:34:20.55 ID:GXiX8bDc0

 敵の本体を中心に一定距離の球体状に広がる陽炎
その範囲内に広がる薄い溶解液、正直俺がそれを確認できたのもただの運だ

「ちくしょう、ライフルはもう無いぞ」

 兵装ビルをぶっ壊して中から武器を調達するという手もあるが…
しかし本部との連絡が取れないいま、下手な行動は取れない
ここが多分C-4か5のブロックであるのはわかるがしかし確定できない以上兵装ビルの中身もわからない
特に最近新しい武器の開発により中身が一掃されてるため覚えなおしなのだ
大量にぶっ壊すわけにはいかん

「っ! フィールド展開!」

 弐号機、零号機も入るほどの広範囲のフィールドを展開する
それと同時に高高度に居る神人からの溶解液が雨のように降り注ぐ
一般住居は全てジオフロント内に引っ込んでるが
それ以外の木造等の旧民家や兵装ビル、武装ビル、装甲ビルとうの装備は軒並み熔けていく

「くそ、二人とも寄ってくれ、流石に広範囲でこの攻撃は持たない…」

329 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/02(水) 17:40:40.19 ID:GXiX8bDc0

『…キョン、どうやったらA.T.フィールドって張れるの!?』

 左手を庇いながら寄ってくる弐号機
そして必死な声で俺に問うてくる柊
…そうか俺が別に一人でやる必要がそもそも無いんだよな

「…イメージだ、自分を守る、強固な壁、形や色、目の前に存在するイメージ」

 俺は敵のフィールドを見てイメージした、そのままトレースするように
柊は、だから多分俺のを見てイメージするのだろう

『…攻撃を防ぐのは私がやる』

 初号機の後ろに膝を突いていた零号機、その中の長門が静かに言う

『イメージ、あなたの様に形を変えたり、応用は出来ないけれど
 このフィールドを維持することくらいならできる、敵は任せる』

 任せる、長門がそういった、任せてとか守るとか自分がなにかを背負う発言をしても
そんなことを言われたことはいままでなかった

「オーケイ、これが終わったら二人にできるまで練習させるからな」

 俺は、高ぶっていく自分の高揚感を感じフィールドに注いでたエヴァの力を外す
フィールドは、消えやしなかった

331 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/02(水) 17:51:01.51 ID:GXiX8bDc0

「柊、一瞬で決めるぞ」
『私が? …おっけ、一発よ』

 俺は自分の周囲にだけ収束したフィールドを張りつつ
腰を落として指を組み、構える
弐号機は零号機が維持するフィールドの下で少し助走をつけてこちらに向かってくる

「ファイト!」
『一発! ってなにやらせんのよ!』

 横穴を這いつくばるのも、タラップをのぼるのも自分自身でもやったこと
なら最後の決めはこれが一番適してるだろうと
俺は組んだ手に乗った弐号機の脚を上に勢いよく跳ね上げた
溶解液の雨の中を一瞬で突破し、空中の神人の本体にクロスした両腕をぶつける
そして体勢を崩した神人に、落ち行く中で弐号機は構えていたナイフを投擲し
一際大きな目玉の中心を貫通し、殲滅した
着地に少々失敗したもののしっかり自分の足で立つ弐号機
零号機もフィールドを解除して立ち上がる
その後、試すように二度三度弱々しいながらもフィールドを自分で展開しているところを見ると
どうやら会得したのだろうと思う
この手のイメージは一度成功すればあとはそれを回想するように思い出せばいいので
もう長門は大丈夫

「ナイスガッツ柊」
『エレベーターの時もそうだったけど、あれ両腕結構痛いのよ? 特に重なってる部分』

333 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/02(水) 18:03:28.35 ID:GXiX8bDc0

 ボテッと落ちてくる神人を受け止めて、酸性雨の中の銅像のようになった道路に放置する
内部電源は残り3分程度、こりゃ電気復旧後の回収待ちだな

 喜緑さん曰く、無から有は生まれない
それは質量保存やエネルギー保存の法則をだすまでもない常識だ
だからA.T.フィールドをアンビリカルケーブル無しで展開するには多大な電力を消費する
単純に計算してもフィールド展開中はカウントが3倍近い速度で減っていく

「…トライデントも帰っていくようだな」

 一部始終を見届けて結局なにもせず帰っていく巨大兵器
俺は誰が入ってるのか知らんがなんとなく青いその機体に向かって初号機の親指を立ててみた
一瞬動きがとまり、そしてぎこちなく片腕を上げ帰っていくトライデント
先ほどの戦闘を撮影して戦自に持ってくのかどうかは知らんが
まぁ勝手にしてくれ、俺達はそんな魂のこもらないただの機械にはこの場所を譲らんさ

『ねぇキョン、もう一回フィールドのだしかた教えて』
「自分を守るイメージだ、強く強固な壁のイメージ、何度も見てるものを頭の中で描けばいいさ」

 残り少ない電池でそういって、俺は回線を切りため息をつく
LCLに溶けきらない二酸化炭素が一瞬気泡となり、やがて消える

342 名前:ωωωωωωωωωωωωωωωωωωωω[] 投稿日:2008/07/02(水) 18:37:41.29 ID:GXiX8bDc0

――

 日が沈み、しかしいまだに復旧することの無い停電は街中を暗闇に染める
結局いまだに来ぬ回収、待ちの中心をエヴァが三体彫像のように立ち
俺達は丘でやけに眩しい星や月を見上げていた

「こんなに多くの星を一度に見たのは始めてだな」

 空気が汚れ、地上が明るく、空から遠い都会に住む俺には
いままでに見たことのない星空

「でも、電気がないと寂しいわよね」

 建物とエヴァのシルエットしか見えない、平原のような丘
ぬれた服も髪も乾ききり、髪の毛が痛みそうでどことなく気になる

345 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/02(水) 18:53:14.55 ID:GXiX8bDc0

「神人…か」

 神の人と呼ばれ、俺達の世界を破壊しようと現れる謎の存在
一体なんであいつらと戦わなくてはいけないんだろうか

「あんたまだそんなこと言ってんの?」

 寝転がっていた柊は上体を起こして俺を睨む

「言ったじゃない、世界とか、人類とかなんてついででいいんだって」

 そうはいっても人間、知覚したものを意識しないなんてのは不可能で
ただでさえ漠然としてる戦いに持ち込まずには居られない

「学校の奴らとかさ、友達とか、なんでもいいじゃない、私達だって」

 柊はボウッと膝を抱えて眼下の街を見下ろす長門の肩を引っ張り
倒れそうになる長門と肩を組んで言う
この二人は、どうなんだろう、家族とは多少なり思ってる

「私達も友達でしょ?」

 だがそういう柊に素直に首肯することがどうにもできなかった

346 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/02(水) 18:57:47.16 ID:GXiX8bDc0

「なによあんた、知らないの?」

 いまいち動けない俺に柊は愉快そうに口の端をあげる

「なら教えてあげるわよ? 私達は背をあわせて戦ってるの、そういうのって戦友っていうのよ?」
「戦友…ね」

 なるほど、戦友ね
陳腐でチープではあるが、しかしなるほどいい表現だった

「私とあんたも、私とこの子も、この子とあんたも、みんな友達でいいじゃない」
「…」
「はっ、荒唐無稽だがしかしわかりやすいなお前は」

 振り回されて首の据わらない子供のようにかっくんかっくんと頭をうごかす長門
苦笑する俺と快活に笑う柊

「いいね、戦友」

 一文字変われば親友ってのは、悪くない

352 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/02(水) 19:47:31.62 ID:GXiX8bDc0

>>346
―――

「第三回定例会議ー」

 どこからか子供の自転車についてそうなラッパをぱふぱふ鳴らす橘
いつの間にかこの六人で飯を食うのも慣れてしまった

「停電? それは聞いていない事項だ、僕は前回の戦闘でエヴァンゲリオンの発進が遅れる可能性があるため
 万一の際は足止めをすること、またお前達の戦いを観察、報告することを命じられただけだが
 …ふん、そういうことか。小細工が好きな奴らだ」

「工作はお前らには関係ないととっていいんだな?」
「そう聞こえなかったか?」

 結局夜中に終わった復旧作業、あとに聞いた話しによると
電気を運ぶ太い配線が数箇所力技によって切断されていたらしい
一応確認してみたが、やっぱりこいつらじゃなかったかとなぜか安堵する
こいつらだとわかれば、この曖昧な状況を打破し敵対となすることができるのにだ

「しかし足止めな、こちらの手を読みたいがしかしそれで神人が暴れても困るということか」

 どうにも虫がいい話である

353 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/02(水) 19:57:56.05 ID:GXiX8bDc0

 現在昼休み、昨日のハプニングや現れたトライデントの話をするために
屋上で昼食をとりながらの会合中
当初はまだしも、あの橘の接触してきた一件から俺は藤原が最も話が通じると考えを変更
こいつを中心に話を進めている

「だが貴様が懸念するような映像や画像は撮っていない、それはそっちから禁止されてるのでな
 いくらこちらが敵対視していようとおいそれと破っていい事ではない」

「マスコミとかにも戦闘中の映像、神人等の存在は圧力かけてるものね」

 もぐもぐと弁当(俺製)を食べながら柊が訳知りに頷く

「まぁそういうわけだ、その場に試作機の機体を持って見物してるだけでも危ない橋だからな」
「戦自の仕業なのは、こちらもわかってるからな」

363 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/02(水) 21:08:15.57 ID:GXiX8bDc0

>>353

「しかし…」

 そこで俺は言葉を区切って藤原の手元をみやる、なんでこいつ

「冷やし中華食ってんだ?」
「コンビニで買った、暑いからな」

 いや、買ったの置いといたら温かくなるじゃないか
温か中華とかまずそうじゃないか

「さっき買ってきたばかりだから問題ない」
「いや、それはそれで問題あるぞ」

 なに抜け出して昼食買ってきてるんだよ
普通に高校生しやがってこいつ

366 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/02(水) 21:23:40.50 ID:GXiX8bDc0

「はいはい、橘京子ちゃんは手作り弁当ですよー」
「へー、女の子らしくていいねー」

 棒読み

「無視するのとどっちが酷いか悩みどころです…」
「そんな二者択一いらんから」

 やはりどうにも対応しづらい感がある
長時間真正面に向き合えん

「ま、今回はお互いの交換する情報はそんなものか」
「ふん、交換といっても俺達は今回のことはほとんど知らんからな、一方的に知ったに近い」
「なら貸しにでもしとけ」

 不機嫌で無愛想ではあるが、こいつとはもしかしたら時間をかければ仲良くなれるかもしれんと
俺は食い終わった弁当を包みなおしながら少しだけそう思ってしまった

369 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/02(水) 21:40:11.48 ID:GXiX8bDc0

この話は終了にしよう
少し続けようと思ったけどgdるからな

ちょっとwikiをいじって来る
まとめを現行に追いつかせてもう少しwikiの存在を普及させないとw

470 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/03(木) 07:04:25.38 ID:N+p+EpEu0

「ヘモグロビームΩ?」
「そう、マステマを超える新兵器」

 我が事の様に胸を張るこなた
俺はその後ろにたつ喜緑さんに質問を続ける

「一体、どんな兵器なんですか?」

 こなたは自分が無視されたことに頬を膨らますが
しかし例によって兵器の開発等は喜緑さんが一切を手掛けてる
彼女に聞くのが普通である

「ヘモグロビンって知ってるわよね?」
「…えぇ、人間の血中に存在する、いわゆる赤血球ですよね?」
「そうよ、そしてこの兵器は神人の体内を巡るその血液内部のヘモグロビンに同様の働きを持つ
 神人の赤血球を死滅させる効果があるの、まぁ彼らの血は赤くないけどその辺は無視してね」

 つまりその兵器を使用すれば相手の体内の血液を機能させなくすることができるらしい
それならばどんなに外見が硬かろうと関係なく内部からダメージを与えることが出来る

「す、すごい発明だ!」


――

という妄想を仕事中に携帯から見て考えてた

523 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/03(木) 18:44:22.28 ID:N+p+EpEu0

―――――

 ヒョウッ、と風の切る音がして俺の眼前を鋭い回し蹴りが通過する、漫画のように髪の毛が
切れるような馬鹿みたいな切れ味は持たないものの、しかしこの勢いでこめかみに
つま先を入れられれば、即昏倒するであろう。それほど強力な蹴りだった。

「ぬわっ!?」

 俺は不様な声を上げて、二歩後退する。教室の扉を開けて早々の攻撃によく反応したと
言ってやりたい物である。がんばったぞ自分。

「おいおい、今日は本当いきなりだな?」

 髪も乱れず、まるで型にはめたような綺麗な制服の着こなしを崩さずに立ってる少女、
そいつはしかしここ数日、俺になにかと唐突な力の行使を行ってくる。

「―」

 周防九曜、と言ったか。会話数はゼロ、今までに声を聞いたのも一回のみという
あの三人組最後の一人、彼女はこの間から何も語らず何も問わずにしばしば戦闘を仕掛けてくる。

525 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/03(木) 19:04:02.61 ID:N+p+EpEu0

「―――。」

 何も言わず、口から漏れるのは次の攻撃の為に息を吸い、貯める。
そしてこんどは正確に側頭部を狙った後ろ回し蹴りが飛んでくる、俺はそれを
ぎりぎりカバンで防いだ後、足首をふくらはぎを掴んで左足で残った一本の足を払う、
こうすれば普通は地面に落下するはずなのだが。

「っぶね」

 人に片足掴まれてる状態でさらに回転し払われた一足を俺の脳天に踵落としの形でよこした。
俺は掴んでいた足を離して距離をとり間一髪でそれを避ける。
…こいつは本当に読めねぇ、なにがやりたくて俺に喧嘩売ってくるんだよ。
周防は起き上がりこちらとの距離を測っているようで、ファイティングポーズを解かない
勘弁してくれって、クラスの連中は最初は激しく反応していたものも、いまでは諦観、静観、傍観してる奴ばかりだ。

 一拍、置いて周防はポケットからナイフを取り出す、訓練に使うラバー性のよく曲がる奴
あれ斬られても痛くないけど、うまく曲がらないように直線で刺されると痛い。

「なんなんだよ…ほんと…」
「男が泣きごと言わない」

 観戦してる柊が団扇片手に茶々を入れてくる、お前がやってみろ。俺は実践訓練とか苦手と幾度言わせる気だ

526 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/03(木) 19:14:33.45 ID:N+p+EpEu0

「ドッカーン!」
「ぐはっ!」

 決め手、後頭部にドロップキック。

「いって…なにすんだよ、ハルヒ」
「あんたね、朝っぱらからなに浮かれてるのかは知らないけど私の通り道塞いでるんじゃないわよ」

 あぁ、登校して直後だったからな、確かに扉の前占拠してたけどさ。
でも口頭注意後に実力行使にでるべきだ、最低限それは守るべきだと思うんだ。
いきなりドッカーンじゃねぇよ、お前はアラレちゃんか、自分の破壊力をしかと見よ。

「後頭部の頭蓋骨が陥没するかと思ったぞ」
「してるわよ? ギャグ漫画じゃなければ死んでたわね」
「ギャグでも漫画でもねぇよ!」

 なにいってやがんのこいつ? この世界にはぴぴるぴるぴるぴぴるぴーとか言う天使居ないからな。
まぁその天使が居なければそもそも死ぬことも無いという事実もあるが。

527 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/03(木) 19:22:36.50 ID:N+p+EpEu0

「なんだっていいけどね、先生も既に来てる中ストリートファイトしてないでよ」
「ストリートじゃないけどな」

 ってか黒井担任がすで居る? 一体どこに…

「なんで先生も観戦してるんですか、止めてくださいよ教師なんだから」
「いや、興味関心があがるかなっておもて」
「観点別評価とかはいいですから、むしろ先生の給料が下がりかねませんよ」

 まったく能天気というか暢気な連中である。
えっと…カバン、カバン。

「――」
「あぁ、サンキュ」

11 名前: ◆7SHIicilOU [] 投稿日:2008/07/06(日) 18:31:05.73 ID:6k0DBi+e0

――
 無口で静かではあるがおとなしいわけでは決してなく
長門とキャラがかぶるような事はないという点では安心の周防

 基本友好的な奴ではあるがどうにもそれに合わせて
こちらから少し近づいてみるとなにやら痛い目を見る羽目になる橘

「あいつらと比べるとやっぱお前普通だな」
「普通という単語は基本良い意味を持った言葉ではないな」

 がちゃがちゃとスティックと三色六個のボタンを両手で操り
画面内のキャラクターを動かして戦う、周囲は多種多様な音が重なり合い
少し離れてしまえば会話も成立しないような騒音
俺と藤原は、現在ゲームセンターと呼ばれる娯楽施設にいた

12 名前: ◆7SHIicilOU [] 投稿日:2008/07/06(日) 18:38:49.05 ID:6k0DBi+e0

「はい終了」
「ふん、やはり苦手だな」

 画面の敗北と勝利の英字
それを確認してからゲーム機から離れると、すぐに別の人間がゲームを始める
ゲーセンに来たことの無いという発言を拾っての今回の行動だったのだが
しかし格闘ゲームなんぞほとんどやったことの無い俺が勝ってしまうほどだ
たまに、本当にたまにだがこうしてる時は普通にこいつらと友達感覚になってしまう

「じゃあなにやるよ?」

 気をつけようとしても、だがしかし自分自身そういうのに慣れていないためどうにも距離が難しい

「あれだな」
「ガンシューティング…」

 そりゃ比較的得意であろう事は予想がつくが

「…まぁいいか」

13 名前: ◆7SHIicilOU [] 投稿日:2008/07/06(日) 18:47:15.37 ID:6k0DBi+e0

 訓練が無い日、ここしばらくはこなた達は3号機4号機のことやら何やらで忙しなく働いていて
どうにも最近は俺達は暇をもてあましていて
その退屈しのぎに俺はよく柊達やこいつらと遊びに行くことが多くなった

「単純に敵に向かって撃てばいいわけだ、足元のペダルを離すと身を隠せる」
「なるほどな」

 見たことの無いもの、触ったことの無いもの、総じて知らないもの
そういったものと接するたびにこいつらは普通の高校生に見える
俺は後ろで観戦決め込み、UFOキャッチャーに寄りかかる

「あっ」
「ん?」

 声がして、あぁどこに行ったかと思った橘は以外とぬいぐるみなんか欲しいのかと
そんなことを思う間もなく制服の襟を掴まれる

「あぁ! もうちょっとで落ちたのにキョン君の所為で落ちた!」

14 名前: ◆7SHIicilOU [] 投稿日:2008/07/06(日) 18:53:49.51 ID:6k0DBi+e0

 ついでに俺の意識も落ちそうになってる

「いや、悪かったけど流石に色々と間違ってる。もう一回やればいいじゃないか」
「お金が無い!」
「…やるから、取れるまで付き合うから」

 だから手を離してください、お願いだから
俺の提案に文字通り、手放しで喜ぶ橘。俺も自分の生還が喜ばしい
硬貨の中で最も価値あるそいつを橘に手渡して
藤原に目を向ければ、なんかどんどんスコアを上げてやがるし
今回はついてこなかった周防は確か柊に連れてかれてるらしいし

本当の立場を考えれば決してあってはいけないことなんだと思っても
俺はこの状況を非常に楽しんでいた

15 名前: ◆7SHIicilOU [] 投稿日:2008/07/06(日) 18:59:34.96 ID:6k0DBi+e0

例えば、学校の昼食
あぁして円を作って並んで弁当を広げるなんてのはありえない
話してることはもうただの世間話にもならない事で、日下部やあやのも一緒になっても
こんな至近にいるという事実そのものが懸念すべきこと

教室で同じ時間を過ごして、授業を聞かずにメールをよこしてきたりする橘や
おきてるのか寝てるのかわからない周防や意外と成績のよろしい藤原

こうしてたまに一緒に遊んで、たまにいっしょに飯食って

だから俺はあんなことになった時、とっさに優先順位を間違えてしまったんだ

あいつらは敵で、柊と長門は仲間で、あやのや日下部は守るべきもので

そんな基本的なことすら忘却するに至ってしまったんだ

…もしかしたら、それさえもあいつらがここに来た理由の中かも知れなかったのだが

17 名前: ◆7SHIicilOU [] 投稿日:2008/07/06(日) 19:13:31.75 ID:6k0DBi+e0

―――

「第二支部の消滅、また4号機の欠番?」
「そう、3号機は無事に先日本部に到着。正式に配属されたんだけどね。
 3号機と4号機は、同じアメリカ内でも第一と第二の支部で、別々に移送される筈だったんだけど…」

 3号機に比べて4号機が遅れるのは元から織り込み済みだったらしく
ぎりぎりのタイミングで新しいなにかを第二支部が4号機に詰め込めこもうとしてたらしい
しかし遅れに遅れた上に、きちんと機能しなく、結局遅ればせながら太平洋を越えて飛んでくる途中
移送中の4号機が撃墜され、また第二支部が消滅したらしい

「爆発とかじゃなくて消滅?」
「そ、衛星からの映像とかもあるけど、ありゃ確実に生存者はいないね」

 第二支部丸々と一緒に数千の人間が消えうせたということだ
まぁそれが3号機がこっちについた前日のことである

とりあえず時系列順に並べる
まずは日本の本部がアメリカの両支部に3号機4号機の徴収命令を出す
第一支部、第二支部は一応承諾し3号機は早期に準備にかかる
しかし第二支部は研究中だったなにかを4号機に乗せる実験を行っているためそれが遅れた
結局実験は失敗、4号機はそのまま日本に送られる
そして第二支部の消滅、4号機の欠番
で、3号機が本部に着く

となる

18 名前:眠い ◆7SHIicilOU [] 投稿日:2008/07/06(日) 19:27:08.84 ID:6k0DBi+e0

「まぁとりあえず3号機だけでも無傷で来たのはよかったよ
 もし二体ともこれなかったらどうしようも無かったもん」
「そうらしいな」

 初号機の腕が切断されたときや零号機が大破したとき等
そういった一定以上の損傷があったときに
5号機や6号機の素体を持ってきて入れ替えたりしてる
なので、もし3号機4号機の両機体がこっちに来なければ
それ以降の量産機が戦闘に耐えられるステージまで完成するのは当分先になるので
ほぼ零号機から弐号機までの三体でこれから戦い続けなくてはならなくなる

「しかし、真っ黒だな」
「真っ黒だよ、向こうはベタ塗りが好きなんだろうね」
「残りも全部そうだとするなら俺達はそうとう機体に恵まれてるな」
「あっはっは、それを喜緑さんに言って上げると喜ぶよ」

 新設のケイジ、他三体と同じく紅い液体に身を浸けている3号機

20 名前: ◆7SHIicilOU [] 投稿日:2008/07/06(日) 19:38:37.67 ID:6k0DBi+e0

「ということでだよ、今度この3号機の起動実験を松代でするから」
「ずいぶん遠いな」
「まぁね、ちょっと神経質になってるんでしょ? 念には念をだよ」

 こいつは当然それに参加するのだろう?
ならばその万が一に巻き込まれるかもしれない訳だ…

「気をつけろよ」
「勿論だよ、まぁ最高の技術部長さんが万全を期してくれるので問題ないっしょ」

 こなたに喜緑さん、オペレータの三人組も行くのだろうし
それで万が一が起きた場合、この本部は機能するのだろうかね
まぁそうならないのが一番だ、二番なんてない唯一の結果であって欲しい

「変わったね」
「…なにがだ?」
「キョンがだよ」

22 名前: ◆7SHIicilOU [] 投稿日:2008/07/06(日) 19:49:20.40 ID:6k0DBi+e0

 どうだろうか、わからない
他人の子は早く育ってるように思えるとうが
それは身近すぎるとゆっくりとした成長に気付かずに慣れてしまうから
そして人間がもっとも身近にあり、もっとも長く接する人間は当然自分自身で

「ほら、いうじゃない。男子三日会わざれば刮目してこれと見ゆべしって」
「さて…ね」

 へらへらと笑みを浮かべながら見つめてくるこなたから
俺は目を逸らして3号機に視線を移す、…そういえば

「パイロットは、そういやどうするんだよ」
「…あ〜」

 今度はこなたが俺から目を逸らす
口をもごもご言わせて辺りをきょろきょろして、非常に挙動が不審である
夜中にやっていれば青い制服着たむかつく連中に職務質問されかねない
―この街ではありえない例えではあるのだが

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/06(日) 20:03:56.21 ID:6k0DBi+e0

「…もう決まってるのか?」

 少し、質問を変えて聞きなおす
するとこなたは肩を落として、あきらめたように答える

「えっと…、まぁそうだよ。キョンの次のパイロット、つまりはフォースチルドレンは決まってる」
「誰だ?」

 こなたは、さらに周囲を見回してから意を決したように俺をにらむ

「キョンには悪いけどそれは言えない、実験が終わって戻ってきたら、教えるよ」
「…そうか」

 こなたは俺の横をゆっくり歩いていって、ケイジからでていった
俺は、もう一度3号機を見上げ、そして続いて外に出た

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/06(日) 20:10:25.28 ID:6k0DBi+e0

――
「違うな…」

 学校の端末とは別のノートパソコンを開き
キーボードの音を響かせながらディスクの中身を読み込み
いざファイルを開こうとすると、パスワードがかかっていた

「…違う」

 俺はこなたからのヒントを合わせていくつか浮かんだそれを次々に打ち込んでいく
すれ違いざまに渡されたディスクと一枚の紙
既にこなたは家をでて、松代に出立してしまっている
ここで俺が誰がパイロットになったのか知ろうとするのはただの自己満足だ

「…日下部、みさお」

 違う、か。しかしこなたも考えたと思う、そのパイロットの名前がパスワードという設定の仕方
もし自分の周りの人間が該当しなければそれでよし
俺に知る権利を与えるのは俺の周囲の人間がパイロットとして選択された場合のみというこのやり方

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/06(日) 20:27:53.24 ID:6k0DBi+e0

 昔の知り合いから、今のクラスの連中まで
俺と同年代の奴を片端から入れていき、とうとう俺の至近の人間にまでそれが及び
そのうちの一人

「…峰岸、あやの」

 パッと現れたのはエラーの文字では無かった
峰岸あやの、生年月日から始まり血液形、家族構成等の表面上の情報
そしてDNAの配合パターン、EVAとのシンクロ率
それは紛う事なく、彼女が、峰岸あやのという人物がフォースチルドレンであることをあらわすファイルだった

「ハルヒ…」

 俺は机を蹴って椅子に乗ったまま後方に移動する
キャスターの音が耳障りだった

「この選択は故意か?」

 夕飯を終えたこの時間、俺しか居ないこの家で、俺に答える人間は当然いなかった

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/06(日) 20:58:48.99 ID:6k0DBi+e0

―――

「あやの休みだってー」

 日下部が、学校について早々の俺に近寄ってきて
無垢な笑顔を浮かべつつそう報告してくる

「…そうか」
「んだよ、テンション低いな〜。あやのが休みってだけでそれか?」
「いや、そうじゃないから」

 知ってる、なんて言うこともできず
適当に応対するものの、しかし今現在彼女が実験に参加し
あやのがこちら側に足を入れてしまったという事実が俺の気分を沈降させていく

「ちょっと、扉のところでたちどまらないでよね」
「…あぁ、すまん」

 柊に言われて席に向かう、ハルヒだったらまたドロップキックを食らってたなと思いながら
そのハルヒもまた当然のように姿が見えなかった

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/06(日) 21:07:35.21 ID:6k0DBi+e0

「…ん?」

 いや、それだけじゃない
疎開で減っていくクラスメート、しかしそれにしても今日は空席が目立つ

「…日下部、タチバナーズはどうした?」
「全員休みじゃねぇの? 来てない見てない、聞いてない」

 つまりいつものメンバーのうち半数以上が欠けてることになるのか
ここに残ってるのは俺と柊と、窓際で本を読んでる長門と、目の前の日下部のみ

「今日は寂しいなぁキョン」
「…そうだな」

 多分、もうあの面子であつまる事は二度とないのだろうと言う予感がした

43 名前: ◆7SHIicilOU [] 投稿日:2008/07/06(日) 23:24:10.76 ID:6k0DBi+e0

 いつもの屋上、寝転がり曇天の空を眺めている
風はヒンヤリと冷たく、心地よいすごし易い天気
大丈夫、あやのがEVAに乗り戦うことになってもやることは同じだと
俺達が戦って勝って、あやのを守っていればいいのだと
そうすればなにも変わらずに居られると、俺は半ば本気で信じていた

「なんのようだよ委員長」

 どれだけ慎重にあけても音のする扉
控えめながらしかししっかり軋んでうるさい音を立てたその扉をあけたのはみなみだった
みなみは風に靡く髪とスカートを押さえながらこっちに歩いてくる

「…授業、サボっちゃダメです」
「でても、何もしないからいいんだよ。委員長がサボるほうが問題だぞ? もう鐘はなっただろう」
「キョンさんの所為ですから」
「じゃあ仕方ないな」

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/06(日) 23:32:41.26 ID:6k0DBi+e0

 なにも言わず、なにも聞かず、なにもせず
みなみはただ横に座って仰向けになる俺を眺めていた
俺はその視線から逃げるように背中を丸める

「大丈夫ですよ、なにも心配することありません」
「…」

 唐突に、風にかき消されかねないような声でささやく
涼やかなその声質は耳心地よく、俺はただその声を聞いた

「なんとなくですけど、事情は察してます。峰岸さんもそうですけど、橘さん達の事とかも」
「…」

 なんとなく、といってもそれなりに根拠あるものだろう
俺は、最初あいつらと話すときにあやのや日下部を一時的に離す為にみなみに頼んだり
その立ち位置からよく頼み事をしていた、そして俺達がEVAのパイロットであることも周知の事実
どうとでも後ろ暗いものは読み取れるのだろう

46 名前: ◆7SHIicilOU [] 投稿日:2008/07/06(日) 23:50:29.76 ID:XLtxdS/rO

「気にして、気になって、それで注意力散漫になってしまえば逆に失敗しますよ」

「……そうかもな」

正直なにがわかったとか言う訳じゃない
ただみなみにこんな風に気を使わせてしまったということに
自分に腹がたった

バイブレーション、携帯の着信
俺は起き上がりポケットから携帯を取り出し耳に当てる」
―緊急収集、俺の動作にみなみはすぐに理解したようですっくと立ち上がった

「私は先に行ってますね」
「みなみ」
「はい?」
「ありがとう」
「どういたしまして」

呼び止めて、そして結局みなみを抜き去って屋上から階段を一気に降りきる
やはり連絡があったようで長門、柊とも合流し、同時に遅れながらサイレンが鳴った

114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/07(月) 13:00:10.46 ID:kMwG3aa20

>>46
―――

 紅、幾度と無くそう俺が比喩してきた夕焼け空が
いまはただ空々しい血液の朱にしか見えない
市街地から離れ、それぞれの特性に合わせた持ち場につき早30分が立つ

 接近戦、近距離攻撃を主とする弐号機と柊。装備はソニックグレイブ
位置は敵が進行してくる経路の最前線

 気配を殺し、一撃必殺を狙い身を潜める長距離攻撃型の零号機は
俺の後方に伏せてG型装備で山に身を隠す、武器はポジトロンライフル

 そして俺と初号機はその中間、戦況に合わせて移行するMF的役割とさらに現場での指揮を担当する
ハンドガンとナイフを双方構えて柊が敵を捕らえるまで息を殺す

117 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/07(月) 13:18:27.70 ID:kMwG3aa20

 現在こなたや喜緑さんなど、主だったメンバーが居ないため
今回の作戦立案、指揮は完全に俺に任された。ハルヒによってな

 そこで過去の戦いから組んだフォーメーションの各自の立ち位置を顕著にして
それぞれを分散、三箇所に配置し、敵を捕らえるということにしたのだが
しかし今回の緊急収集、非常事態宣言は普段と少々味が違った
普段の連中がいないから話がよくわからなかったが
どうやらパターン青が確認されてないらしい

『敵って言っても漠然とし過ぎてるわよね』
「そういうな、相手が敵意を持ってるならばそれは敵だ」

 プラグの中のLCL、その設定水温がいつもより若干低く冷たく感じ
手に握っていた汗がひんやりと周囲に混ざっていく

125 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/07(月) 13:39:58.16 ID:kMwG3aa20

「…ふぅ、どうにも敵を待ち構えるのってのには慣れてねぇからな」

 手を握り締めては開いて、それを繰り返す
このままだと心停止になってしまいそうだと無駄な心配をしていると
柊から音声のみの通信が入ってきて、敵の肉眼での確認を告げる
それとほぼ時を同じくして俺も夕日を背後に迎えた敵の姿を見つける

 悠然と立ち進む敵と呼称されている、俺達がいま戦う相手の姿を見つけてしまった

『あれって、この間の3号機よね?』

 こなた達がいま起動実験し、中にあやのが搭乗している筈の3号機
漆黒の機体が腕をだらしなくぶら下げて、生物的な動きで歩いていた

「ハルヒ…松代の方と連絡は?」
『ここ数時間取れないわ、話によると大規模な事故があったらしいけどね』
「…なんでそれを言わなかった」
『あんたのやることに、なにも変化がないからよ」

 確かにそうだ、事故のこと自体は俺達が関与すべき事態じゃない

「だが!」
『いいから集中しなさい、弐号機が接触したわよ』

128 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/07(月) 13:57:55.01 ID:kMwG3aa20

『でりゃぁぁああ!』

 ハルヒに言われて、その場から移動し対応できる場に移動する
指示を出すために零号機、弐号機ともに繋がりっぱなしの通信からは
怒声のような声が絶え間なく聞こえ、またシルエットが俊敏に動いている
あの中にあやのが乗ってるのかも知れず、また柊と向かい合っているのかと思うと
緊張というのを超え、ただ激しくなる鼓動で自分の心音が聞こえるのみだった
だが、かといっていまこの状況でそれを知らない柊に伝えるのはダメだ
あいつは、戦えなくなってしまう

『キョン、これっ――!』

 爆発音や轟音のノイズの中、音声のみの通信は通話中に電話線を抜かれたような
気味の悪い切断音をさせて消えて、3号機と思わしき機体に弐号機が馬乗りにされていた

「くそっ!」

 俺は隠れてた場所から身を翻して黒い機体に向かってハンドガンの引き金を三度引く
鉄球が大量の火薬に押し出されてまっすぐその機体に飛んでいく

130 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/07(月) 14:19:22.61 ID:kMwG3aa20

 弐号機に食らいついていた敵は後ろに砂煙巻き上げて回避
腕を合わせて四足歩行状態で俺に初めて気付いた様子でこちらをにらんできた

「くそ、弐号機との回線再接続…できないか」

 柊の状態は不明だがそこまで重傷ではないだろう
いまは目の前の敵を倒すこと、そして居るのならば中に居るあやのを助け出すこと
それに集中すべきだ

「長門、援護頼む」

 後方で構えてるはずの零号機に声をかける
が、返答はなし、聞こえてないのか?

「聞こえてるか? 長門―」

 言った瞬間に気を逸らしてしまった、返答の無い零号機を確認しようとした途端に
腹部に強い衝撃が走り、ついでタックルをされてマウントをとられたことに気付く
そして、この敵が3号機であることもまたしっかり確認する

133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/07(月) 14:32:35.23 ID:kMwG3aa20

「長門!?」

 能面のようなエヴァ3号機、しかしどこか雰囲気が違うそれが
肩を揺らして殴りかかってくるのをどうにかガードポジションを維持して防ぐ
しかしこれでは持たない、この位置なら遮蔽物もないし長門が狙い撃ちできる筈なのだが
いつまでたっても期待の援護射撃は来ない

 どうにかこうにか3号機の両腕を掴み一時的に動きをとめて
首を捻って零号機が居る筈の方に目を凝らすと、いつの間にやられたのか
叩き壊されたライフルとともに力なく横たわっている零号機が見える

「ハルヒ! 二人は大丈夫なのか!?」
『問題ないわ、いいからあんたは目の前に集中しなさい』
「だが、これは3号機で間違いないぞ! なんでこんなことになってるんだよ!?」

 大規模な事故、ならこなたや喜緑さんはどうなってるんだよ
絶対死ぬなって言ったのに、あんな事務的な適当な会話を最後にさよならは情緒が無いぜ

『いま救援も行ってる、詳しい報告はあとで来る。本気で集中しないと先にあんたが死ぬわよ』

134 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/07(月) 14:49:11.73 ID:kMwG3aa20

「くそ、大体なんで長門までやられてんだよ」

 膝を曲げて3号機の腹部を蹴り飛ばして起き上がる
もし起動実験中に暴走して、それが事故として処理されてるなら
下手するとあやのは今現在進行形でシンクロしてる可能性もある
あんまり攻撃するのは憚られる

「フォーメーションも装備もあったもんじゃねぇ」

 ナイフで四肢断絶させるわけにもいかないし、拳銃でどたまをぶち抜くわけにもいかない
結局徒手空拳での戦闘に落ち着いてしまった

 背中を山に強かに打ち付けた3号機は顎部のジョイントを破壊し、紅い歯をちらつかせて
下品な笑みを浮かべて腰を沈め、次の攻撃のために入る

地面を陥没させて黒い巨人がその体躯を存分に使って特攻してくる
俺は初号機で真っ向からそれを受け止め、腕を掴み、懐に入り身体を反転させて背中から3号機を背負い投げた

135 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/07(月) 14:57:38.54 ID:kMwG3aa20

 投げた右腕を極めて、3号機の機体を裏返しにする
―エントリープラグが入っている、そしてその挿入口に白い
薄紫のかかった粘液がこびり付いている

「てめぇが元凶か!」

 エントリープラグを抜きさえすれば、あとは普通に戦える
あやのを素早く助けることができると思い手を伸ばす
と、折らない程度に力を加え続けていた右腕が突然軟体動物のような感触に代わり
蛇のように逆に俺の腕を絡めとられてしまった

 獣のような、否、獣そのもののうなり声を高らかに上げて
3号機はお返しとばかりに俺を放り投げ、腹部にドロップキックを入れて吹き飛ばされた
頭が揺れ、視界が三転し。背中強打して呼吸が止まる。
エントリープラグの壁面のモニターが一瞬ちらつき衝撃の強さを物語る

 追撃に備えてふらつきながら立ち上がると、しかし3号機はその場で地面に手をついて棒立ちしていた
…いや、違う、手をついてるんじゃない。腕で地面を突いてるんだ

137 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/07(月) 15:06:45.44 ID:kMwG3aa20

 俺はその場でバク転し、距離をとると
寸前まで居た場所の足場から3号機の腕が現れた
如何なる原理か質量保存に喧嘩を売ってるような長さのその両腕は地面を掘り起こして
ぶらぶらとまさしく木の枝にぶら下がる蛇のような動きで俺をねめつける

「残念だったが、俺はすでにその手の触手攻撃を食らってるんだよ」

 同じ手は二度食わんと、さらに追尾してくる腕を払いながら今度は転じて攻勢に回ろうとする
しかしそれは真正面からの衝撃で体制を崩され失敗に終わった

「がっ…!」

 3号機が地面にもぐらせていたのは腕だけじゃなかった
その脚までもが伸縮自在になり初号機の頭部をカウンター気味に蹴り飛ばしてくれた
脚は前に進もうとし、だが顔面を蹴られ後ろにとぶ初号機はそのまま後頭部を地面に打ち付け
またも3号機に押し倒される形になる

138 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/07(月) 15:13:33.05 ID:kMwG3aa20

「かふっ…」

 のびる腕、それが初号機の首をキツク締め上げ
間接的に俺の首にも締まる後がつき、呼吸ができなくなる

 腕を伸ばす3号機はぎりぎりで俺の手の届かない場所から
下衆た笑みを浮かべ、咆哮をときつつ俺の首を折れる勢いで絞め続ける
もはや声もあがらず死ぬのかと、首に回されてる腕を掴みながら漠然と思い始める

 突然3号機の左腕が散った、血肉が爆散し俺は理由を考えるより先に
両腕で半分になった3号機の腕を引き剥がしにかかる

「長門…か」

 スナイパーライフルに装備を変更して
全身の装甲がぼろぼろになってる零号機がこちらに銃口を向けているのがみえ
次いで千切れ去った腕を即座に修復にかかる3号機の本体が紅い機体に横っ飛びに吹き飛ばされる

「柊も無事だったか」
『あの程度でやられないわよ! 少し気絶してただけよ!』

144 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/07(月) 16:07:05.37 ID:kMwG3aa20

 それは十分やられてるだろうと思いつつ
しかしまだ戦えるということ
先ほどの攻撃で傷ついていても問題ない程度という事実は大いに俺にとってやりやすい
特に精神的な面で、メンタル面で二人が居るということは助かる

 俺は復活した回線で柊に呼びかける

「柊」
『なによ?』
「あれに乗ってるのは、あやのだ」
『…どういうこと?』

 狼狽したり動揺する様子はない、ただの事実確認だ
あとで追求されるかもしれないけれど、いまはそれだけだった

「3号機の起動実験が松代だったんだ、こなたはそれに行ってた。
 で、事故が起きて3号機は敵に乗っ取られた、エントリープラグも確認した」

 長門も、声は出さないが聞いてる気配があった
3号機はいきなり俺達が増え、囲まれたという状況に動く様子は無い
数拍まち、柊から音声だけでない映像回線が開く、意を決した様子で柊は

『助けるわよ?』
「あたりき」

145 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/07(月) 16:16:45.25 ID:kMwG3aa20

 そのやり取りを開始の合図と受け取ったか
俺が柊との回線を音声のみに戻すと同時に3号機が宙を舞った
まったくの予備動作なしでエヴァの体長を超える跳躍をする3号機
奴が向かうのは弐号機、俺に正面を向けたまま後方に跳躍して
そして腹部に爆炎がはぜた

 零号機が精密な動作で銃身をずらして狙った弾は見事に3号機を不様に地に付かせ
中途半端な位置で撃墜させられた3号機は思いっきり這い蹲った状態で弐号機の攻撃範囲に入った

『でりゃぁぁ!』

 殲滅より救出を優先した柊は武器を捨て素手で3号機を押さえにかかる
だが一人では足りない、俺はすぐに弐号機の元に駆けて暴れる3号機の上半身を同時に押さえつける
振りほどこうとかざした左腕は右腕同様に零号機に狙撃されて不気味な花火を夕暮れの空に咲かせた

『キョン! プラグを!』
「わかってる!」

 プラグの周囲を囲ってる粘液を剥ぎ、塞ぐものの無くなったプラグが本部の信号によって強制排出される
プラグ自体に取り付けられたジェットの推進力によって飛んでいくプラグを空中で捕らえて
俺は3号機から即刻退避、零号機のところまで行ってプラグを長門に託す

146 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/07(月) 16:35:28.00 ID:kMwG3aa20

「あとは3号機本体を再起不能に…って」

 一人で押さえてる筈の弐号機と最後の仕上げにかかろうとしたのだが
しかし弐号機は3号機から離れて山に腰掛けてもはや残滓とかした太陽を背にしていて
3号機はすでに完全に沈黙していた

「どういうことだ柊、死んだ振りするまでにこいつらは知恵を持ってるのか?」
『いや、あんたがプラグを抜いてから急におとなしくなって、その後あのネバネバが全部消えちゃったのよ』

 それはどういうことだ?
今回の奴が寄生形の神人であり、実験中の3号機が狙われたという位は想像がつく
ということは、寄生してたのはエヴァそのものでなくプラグ、そして中のあやのということか?
いやまて、しかしあのエヴァの特異な行動、身体の形状変化等は神人のそれそのものだ
ならばエヴァ本体には手付かずという訳でもなかろう―

『一つ、仮定がある』

 突然独り言に入ってくる長門の通信

『神人の体組織を3号機に寄生させ細胞に変化を与えると同時に神人の意識の部分を分けて
 パイロットのほうに取り付かせていた可能性がある』

161 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/07(月) 20:30:58.48 ID:kMwG3aa20

「それじゃあやのは!?」
『わからない、あくまでも仮定であって確証は無い
 すでに本部の人間が回収し治療を受けている、それより考慮すべきものがある』

 これ以上に考えなくちゃいけないこと?

「一体なんだっていうんだ長門」
『私が3号機を捕捉した際、3号機以外のなにかから攻撃を受けた
 いまはその第三者的存在を――』

 初号機と弐号機、両機から離れた零号機の居た筈の方向から爆炎があがり
そして長門との通信が半ばで途切れた、慌ててその場に急行せんと駆ける

「次から次へと…」

 弐号機が先んじて、追って俺が山を越えて二度地に伏せる零号機の元にたどり着く
先ほどのように戦闘復帰することはできないであろう状態にまでなり節々から煙を上げる零号機

163 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/07(月) 20:45:26.90 ID:kMwG3aa20

 そして赤と黄と青の三機の巨大ロボット、トライデント

『なによこれ…どういうことよ!?』
「そういうことだろうよ、いままでが互いの立場を忘れすぎてたんだ」

 零号機を囲むようにして、パレットライフルに似た銃火器を構えた三機
先ほど拾っておいたハンドガンとナイフを構えて
3号機を倒したことで消えかけていた戦闘の意識を戻す
弐号機も、それに同調するようにナイフを取り出して腰を落とす

「相手はただの機械だ、両腕両足ぶっ壊して。あいつ等を引き摺り下ろしてやるぞ」
『……わかったわ』

 いつかのユニゾンのように、タイミングを合わせて地を蹴り三機のトライデントに向かう

「零号機からとっとと離れやがれくそやろう!」

164 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/07(月) 21:03:51.97 ID:kMwG3aa20

 すっかり暗くなり、藍に染まった空の下
一番色的に目立たない青い機体が前にでて肩の装備を展開する
それは薄く広がり突き出した拳はそれをへこますだけで終わる

「…藤原」

 柊の声、ナイフで一閃し奴らの防壁を切断するもしかしその場に既に敵はなく
赤と黄色の二機がシンメトリーに移動しトライアングルに俺達を囲む

「くそ、あいつらの通信回線のチューニングがわからねぇ…
 広域救難信号は繋がってるか? …ダメだ、じゃあ全域の方なら――よし」

 弐号機と背を合わせて間を窺い膠着した状況
俺は決まった周波数でないチャンネルを合わせてトライデントと通信をつなぐ
ノイズが酷いが何とかなる範囲だ

「おい馬鹿ども聞こえるか? 一体なにをとち狂ってこんなふざけた真似し腐ってるんだ?」
『ふん、お前だってわかってるだろう。これが正しい絵面だ、いままでが歪み捻れていただけだ』

 そんなことは、重々承知の筈だったさ。だが、だけど…

「くそっ」

167 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/07(月) 21:23:05.57 ID:kMwG3aa20

 俺達が長距離、中距離、短距離という風に得意な場所があるように
どうやらこの三機は攻守援の三つに役割を分担させているっぽいな
青が守り、黄が撹乱し、赤が決めてくる
性能と実戦経験の差というものか、三対二でも持っているが
なかなかどうして、J.A.とは比べ物にならない代物だ

「人の周りをぐるぐる蝿みたいに…」

 だがパターン化された戦い方は、予想され対策を立てられ、崩される
弐号機と初号機、両方の死角から黄の機体がブレードを振りかざしたのを確認し
左腕と左足、半身にのみハンドガンをぶっ放す
3号機には攻撃してる途中を狙ったにもかかわらず避けられたそれは
しかし黄色のトライデントには見事に命中し
体制を崩したところを命中した腕、脚ともに弐号機のナイフで切り落とされた

179 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/07(月) 22:59:44.73 ID:kMwG3aa20

 一機終了、俺は地面にくたばった黄色のトライデントを足蹴にして
続けて振り向きざまに裏拳を青の機体に入れてそのまま赤の機体に叩きつける
そして踏みつけていた奴を弐号機に任せ、青を受け止めてしまった赤の顔面を握り締め
二機合わせて地面を破壊させ、周囲に砂塵を高く巻き上げさせて埋めてやった

 その場から一時離れ起き上がる二機を眺める
レバーを操作したりしてるのかどうかは知らないが、しかしあくまでも機械
その動作はエヴァのそれを比べるまでもなく鈍重である
仰向けに転がれば即座に両手を頭の横につけて跳ね起きるような真似が出来るエヴァと
段階的に起き上がることしか出来ないこいつ等

 長門だって、不意をつかれやしなければやられることなんか無かっただろうに
しかもすでに一度やられてトライデントの存在をわかっていながら
首を締め上げられてる俺を優先して援護してくれた長門

180 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/07(月) 23:13:41.58 ID:kMwG3aa20

 関節部の駆動音を響かせて立ち上がる二機
まだ戦うか、面倒だな
やっぱりナイフで両腕両足を叩き落すのが一番簡単か

 起き上がったばかりの赤の機体に足払いをかけてまた左半身を地に埋め
背後に立つ青の機体の頭部をナイフで刎ね、胴体を蹴っ飛ばす
先にどちらを戦闘不能にしてやろうかと逡巡すると

『ふん、どうしようもないな。圧倒的戦力差、白旗をあげさせてもらおう』

 まったく変わらない口調で、途切れ途切れに通信が入り
青が諸手をあげた状態でしりもちをついていた
赤も動く様子はないし、黄色いのはいまだに弐号機の足の下だ

「…何故、と遅まきながら聞かせてもらいたいな」

 ハンドガンを両手をあげる青に、ナイフを赤に依然と向けながら
俺が語気を強めて問うと、青の機体の中心部が開いて
藤原が額から血を流しながらひょっこり現れた

『直に話がしたい』

248 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/08(火) 13:59:31.40 ID:afXPoMi00

>>180

――

「あなた達のおかげ、いえこの場合はあなた達の所為ですね
 私達はあなた達の所為で人並みの幸せという知らなくていいものを知ってしまったんです」

 橘は俺の問いに指を突きつけてそういい切った

――

249 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/08(火) 14:05:05.45 ID:afXPoMi00

 すっかり日が落ちて、郊外であるここは街の光もなく
星明りと月光に全ての視界を頼ることになる

「あまり時間がない」

 藤原は額を手の甲でぬぐいながらまずそう切り出した
俺たちは今、据わった状態でホールドさせた初号機の上に集まっている
零号機から長門を連れ出して、三機のトライデントから連中を引き摺り下ろして
初号機の肩や腕に個々人で座るなりなんなりして、この会話が始まった

「ちょっと長い話になりますから、話し終わるまで質問はなしですよ?」
「…わかった」

 橘と藤原と周防、俺と長門と柊
この六人でやる定例会議の最終回だった

250 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/08(火) 14:14:36.61 ID:afXPoMi00

「僕達は戦略自衛隊の少年兵となっているが、しかし表向きにはこの世に存在しない人間だ」

 手の平に腰掛け、足を下に降ろして空を見上げるような体制になり
回想する様に自分達のことを話し始める
存在しない人間、つまりそれは無戸籍で、経歴や過去が白紙であり
誕生日、血液型、出生、両親、その他多種多様な書類上のデータが無いということ
それは割合珍しいものではなく、”あの最悪の災悪”以降そういった存在しない人間というものは激増した

「法律上禁止されている少年兵、しかもそれをあんな機械に乗せるというんだからな
 当然そういった人間の都合がいい、代えも利く、処分も簡単だ
 俺達は、”みんな”そうやって集められてガキの頃から人殺しの訓練を受け続けた」

 みんなというその言葉には、こいつら三人だけじゃない
もっとたくさんの人間が含まれてる気がした、それは多分間違いじゃなく
大勢の透明人間が同じように集められて、最終的にこの三人が選ばれたということなんだろう
処分、嫌な響きなんてもんじゃない、そもそも響きやしない
やわらかいゴム塊をバットで殴ったように、一瞬で消える殴音のような気分だ

251 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/08(火) 14:31:23.45 ID:afXPoMi00

「その想像通りだ、僕達がガキの頃にあそこに連れてこられた時
 総勢50人近い人数が居た、早々に消えた奴もいて半分以上は覚えていないがな
 帰るところなんてない、いるところだってあの場所しかなかった僕達は
 日に日に減っていく仲間達に戦慄を覚えながら死に物狂いで生きるために訓練に励んだ
 そして結果、僕達は今この場にいることができてるわけだ

 この間のあそこに転がってる3号機と同継機である4号機
 その移送中の襲撃、あれをやったのは僕達だ
 …いや、アメリカの第二支部の方は僕達じゃない、あれは偶然の相似だ
 まぁ、とにかく。僕達はトライデントの試作機パイロットに選ばれてから
 色んなところに連れまわされてトライデントを使った活動をしてきた」

 一拍、そこで置く
いままでで一番多く話してる場面がこんなところとはやりきれない
切ないじゃないか、そう思い俺は静かに背を預けていたウェポンラックに後頭部をぶつけてみる
疼痛と小さな音以外なにも変わることはなかった

254 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/08(火) 15:11:55.09 ID:afXPoMi00

「私達の予定表、全部あなた達に崩されちゃって
 結局、台本通りにことが進んじゃったんですよ」

 橘が初号機の腕に立ちながら、攻めるような口調で俺に言う

「あなた達に意図せずに出会っちゃったのも、そうです
 私達がなにか言うまでもなく正体に気付いてしまうのも
 こうやって私達が仲良くなってしまうのも、全部決まってたことなんです
 私達はそれを覆そうとしてたのに、結局なにも変わらず
 だから私達はあなたと剣を向け合う事になったんです」

「僕達がここで君達と戦うことは本来ありえないことで
 僕達は命令を無視し、トライデントを奪取しここで君達を待っていた
 本当はもっと別の形をとりたかったが、最終手段として僕達はこうするしかなかった
 もうじき僕達は処分される、君達の親玉に知りうる限りの、手に入る限りの情報を渡したしな
 トライデントを無断に持ってきたことと合わせて十分に足る理由になる」

257 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/08(火) 15:45:59.52 ID:afXPoMi00

「お前ら、ここで殺されるつもりだったのか?」

 思わず聞いてしまった、こいつらの終わりきったことの感想を吐くような言い方
気だるげな様子でつらつらと語るこいつらには何かを諦めたような
なにより、見慣れた、生きてるのに死んでるような、生気の無い雰囲気が感じられる

「…あぁ。よくある語るまでもない考え方だ
 どうせ死ぬならあんな奴らより、っていうありがちでどうしようもない思考回路だ
 だがそれも途中までだ、べつに命が惜しくなったわけじゃないが
 ただ、お前らの中で敵として、消えていくのが嫌だと思ってしまったからな
 お前が通信を無理やりあんなやり方で開いて、お前の怒り声が聞こえて
 ふん、まったく最後まで計画を粉砕してくれる」

「そんなことを、あなた達と友達のままでありたいなんて
 それもまた贅沢で我侭で、ありがちな願いです。
 でもそんな当たり前を知らなかった私達は、どうしても失いたくないと思った
 あなた達のおかげ、いえこの場合はあなた達の所為ですね
 私達はあなた達の所為で人並みの幸せという知らなくていいものを知ってしまったんです

 恨みますよキョンさん、私はここでこうやって話していて。また生への執着が未練がましくでてきてしまったじゃないですか」

289 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/08(火) 21:42:23.88 ID:afXPoMi00

――

「またずいぶんと面倒なことになってるらしいじゃない」

 腕を三角巾で吊り、包帯で頭を巻いて
松葉杖をつきながら、こなたはようやっとの体で俺達に苦笑を向けた

「まぁな、正直頭が痛くてしょうがない」

 あの後、損傷の少ない青と赤の機体が黄の機体を担いでどこかへ行った
残ったのは四体のエヴァ、それだけだ
主要人物が居ない、しかも松代に救援まで出してる本部の仕事はどうにも効率が悪く
俺たちの話が終わって更に15分してから回収班が到達した
と、言ってもどうやらこちらのやりとりが終わるまでハルヒの命で待ってい感がある

「3号機はしばらく凍結、フォースチルドレンは名目上は正式に着任したもののこれじゃあね」
「…そういやあやのは精神汚染の危険性は無いのか? 神人に寄生された後遺症は?」
「彼女はもう起きてるよ、大丈夫。いまから面会は無理だけど、明日かなんかに来るといいよ」

290 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/08(火) 21:57:25.42 ID:afXPoMi00

「でも、なんであやのなの? 他に居なかったわけ?」
「それは私に聞かれても困るんだよね、ハルちゃんに直接聞いて…
 と言ってもいまは門前払い食らうだろうけどね
 報告は聞いてたけどあの子達もいきなりやってきてまたすぐに居なくなっちゃったねぇ」

 肩をすくめ、そして折れた骨に響いたか顔を顰めるこなた
喜緑さんもそうだったし、他の連中もみんな大なり小なり怪我をしてるが
こなたは中でも重傷側の人間である、にも関わらず適当な処置をしてVTOL機に乗って
本部に戻ってきて、現場の指揮を取っている

「お前も休めよ、事態自体は収まったんだ。全スタッフが戻ってからでも―」
「なにか愉快な勘違いしてるみたいだから言っとくけど、私達は先行して帰ってきたわけじゃないよ
 ここに居る面子が全員、他の松代に行ったメンバーはみんな巻き込まれて死んだよ
 元からあっちの研究員だった人間は除くけどね」

291 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/08(火) 22:16:44.52 ID:afXPoMi00

「…そうか、なら余計に休むべきだな。もう深夜だ、少し横になれ
 他の連中だって戦闘後で疲れてる、明日に回せ」

 とうに日付も変わっている、家には帰れないし
今日は職員用の仮眠室を借りることにするか
起きたらあやのに会いに行って、学校は休みだな

「…でも」
「そんな状態じゃまともに何ができるよ、傷の療養が先だ
 幸い、今回の戦闘は市街じゃないしな」

 なにがそんなにこいつを動かそうとするのか
怪我をして、その日になぜこいつは働こうとするんだ
いつもだってこの時間帯、最低限の行動をした後は次の日以降に回すのが定例だ
発令所だってなんだって半数もスタッフはいないぞ

294 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/08(火) 22:51:29.37 ID:afXPoMi00

「…オーケイ、わかったよ」

 俺の胸部に左手で正拳入れて、こなたは発令所から渋々でていった
俺も仮眠室にとっとと行きたいくらいの眠気は来ているのだが
しかしその前にやることがある、それを疎かにするほど怠け者じゃない

「喜緑さん、いいですか?」

 大きな本部の生体コンピュータ、その一体の影でコーヒーを飲む彼女に声をかける
彼女は白衣にさらに白い包帯を節々に巻いて、髪と顔以外を白で固めきっている
マグカップを持つ、手首から先をぐるぐるに巻く包帯に血がにじんでるのが痛々しい

「なんでしょうか?」

「長門が言ってたんですよ、今回の神人について
 エヴァに寄生するその形態、しかしプラグを抜いた瞬間にその存在が消滅したのを柊が見てた」

「そこから生体部分と精神体部分を分け、パイロットの精神に寄生したという仮説を有希が立てた、と」

「あやのの身体には本当に異常は見られないんですか?」

「まるであったほうがいいような言い草ね」

 空になったマグカップをコンソールに置いて
くすくすと喜緑さんは笑い俺の発言をあげる

296 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/08(火) 22:59:16.27 ID:afXPoMi00

「…どうなんですか?」
「そんな怖い顔しなくてもいいじゃない?」

 マグカップを再び手に取りサイフォンからコーヒーを注ぐ

「飲む?」
「…眠れなくなるので」
「あらそう」

 砂糖もミルクも無しのブラック、飲めないわけじゃないが嫌いだ
甘いほうがコーヒーは好きだと素直に俺は思う
無理して苦いコーヒーを飲んだところで格好いいわけじゃない、問題なのは満足感だと誰かが言っていた

「実際問題として私もその可能性を懸念していくつか検査してみたけど
 まぁそれは杞憂に終わったとみて問題ないわね。
 いまは意識もしっかりしてるし受け答えもできてるわ、ただ3号機に乗っていた間のことを抜いてね」

 真っ黒な、光と対をなす存在を髣髴させる濃い液体
それを彼女はなんの衒いもなく口に含み、笑みを浮かべる
俺は専門家に確認をとったし、これ以上話すことないと礼を言って発令所を出る

300 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/08(火) 23:20:11.10 ID:afXPoMi00

「あぁ、ちょっと待ってくれるかしら?」

 呼び止められてしまった
俺は開いた扉の向こう、薄暗い廊下から今一度発令所に半歩踏み入れ
そこから彼女と向かい合う

「…なにか?」
「自分の仲のいい女の子がフォースチルドレンになったからって、変な気を回しすぎないようにね
 ただでさえ、キョン君は色々と刺されそうな位置に居るんだから」

 どういう意味の忠告なのか、いまいち理解が出来なかった
俺が刺される、とはチルドレンだからか? だがそれなら柊や長門も…
あぁ、そうかそういえば俺はチルドレンでも唯一の男か、あやのも女だしな
そういったことでの危険性のことか? だが今この場でいう意味がわからんな

「…まぁ覚えておきますよ」

 俺はそういって、発令所を今度こそでようとし、またも

「あぁキョン君」
「…今度は何です」
「コーヒー飲んでかない?」
「―貰います」

 喜緑さんは俺の返答を聞いて脈絡なく笑った

303 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/08(火) 23:45:51.78 ID:afXPoMi00

――――

 携帯から柊の手によって入れられた最近のヒット曲が
7時のアラーム設定に従って軽快に流れ始める
結局、仮眠室ではなく、本部内に用意された部屋で寝ることになった
まぁ仮眠でなく朝まで寝るからな

「はぁ…意外としっかり寝れたな」

 新しい白い布団から手を伸ばして携帯のアラームをとめる
正直着うただかなんだかはあんまり入れる人間ではないのでいつもただのアラーム音を使っていたのだが
しかしそれだと耳障り極まりないと柊が勝手に複数曲を入れてくれやがったのだ

304 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/08(火) 23:53:29.56 ID:afXPoMi00

 八畳程度のワンルーム的な部屋、白で統一されつつも
いつぞやの病院の様に病的な(この比喩は些か不謹慎であるがしかし他に表現が見つからない)白さではない
手狭ながらもキッチンあり、冷蔵庫や洗濯乾燥機、シャワーもついているという
中々に性能のいい部屋である、これは本部に泊り込みを多くしたり
また外にでられない有事の際などに使用される部屋であり、基本誰かの部屋という訳ではないのだが

 チルドレンや、こなたや喜緑さんなどの幹部クラスやその直下のオペレータ達等には
こういうように専用の個室が与えられているということを昨夜(といっても今日であるが)聞いて
さっそく使用してみたわけである、チルドレンとして長い、柊と長門は最初から仮眠室でなくここを使って居たということで
そういう便利なものは早く教えてもらいたいと憤慨するものである

「ピンポーン」
「はい、そこ口で言わないように」

 顔を洗い、同じく白いフェイスタオルで顔を拭いていると外から声が投げかけられた
この部屋、外にチャイムなんてものはなく。近づくとノックする前にドアが開くので
まぁこういった方法をするしかないのだが、しかし傍から見たら間抜けだろうと想像できる

306 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/09(水) 00:06:43.09 ID:afXPoMi00

「キョン起きてる〜?」
「お前返事してるのが誰だと思ってるんだ」

 先ほどノックするほどに近づけば勝手に開いてしまうと言ったが
しかしじゃあロックはないのかというとそういう意味ではなく
個室として与えられてるこの部屋は各個人のIDカードを読ませればキチンと施錠できる

「あんたの寝癖凄いわよ」
「うるさい、起きたばかりで顔を洗っただけなんだよ」

 柊はすでに髪も落ち着いていて、起きてからそれなりに立っているのがわかる
俺より三時間くらい早く寝てるからな、それだけ早く起きたんだろう

「そうね6時には起きて、テレビを見てて。あんたの目覚ましが聞こえたから来たのよ」
「ならば寝癖の一つくらい見逃せ、わかってることだろうが」

 言いつつも、櫛を駆使して髪を整えにかかる
いくら相手が柊と言えどもこの状態でいつまでも話すのは気が引ける

308 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/09(水) 00:14:23.89 ID:0e12Bj0k0

「…ん? テレビとな、お前の部屋にはそんなのがついてるのか?」

 俺の個室にはないのだが、なんだその待遇の差
テレビがあるだけで外の情報が入ってくるし、退屈しのぎも容易になる
純粋にうらやましいぞこの野郎め

「なに言ってんのよ、そこの壁のボタン押せばモニターになるわよ」
「なんと、ハイテクだな。アナクロな俺には難しくてわからんよ」

 どれどれ、俺は持っていた櫛で隠れたボタンを押して見ると
果たして壁の一部か黒いモニターになり、そして普通にテレビ放送が映ったではないか
一体どういう構造になってるのかと思いながらも
いやいや充実した一人暮らしのワンルーム生活を夢想して幸福に浸ってみた

「って、そんなことどうでもいいのよ。あやのにもまだしばらく時間待たないとあえないし
 おなか減ったから食堂行こうと思ってね」
「…長門は?」
「私の部屋で待機してるわ、呼ぶだけだからすぐだと思ってね」

 ふむ、ならば談笑してる場合じゃないな
俺は柊を追い出して、一夜のうちにクリーニングされた制服を着て二人と合流した

353 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/09(水) 13:55:59.66 ID:0e12Bj0k0

>>308
――

「起きてからずっとニュース見てたけど
 やっぱりトライデントのことには若干情報を改竄してあるみたいよ」

 食器の擦れる小さな甲高い音
もぐもぐと麻婆豆腐を口にしながら柊が喋る
食べてるときに口を開かないという基本的なマナーも守れないのかと
指摘してやりたかったが、しかし内容に興味があるため今回は咎めない

「ニュースでは戦自が民間企業とかと作ったJ.A.の後続機で
 無人の人型兵器ってなってたわ。それの試作機が何者かに奪われたって」

 確かにパイロット式と言えば、なら誰が乗ってるのかという話になるのは自明
そこでべつの人間をパイロットにしたてあげ、なんてことをやってけば
どこかでボロがでるに決まってる、実際に操縦できるのはあいつらだけなんだから
なら最初に大嘘ついたほうが楽だということはわかる

「じゃあ、まだあいつらは逃げ続けてるのか?」
「多分…」

359 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/09(水) 14:18:08.89 ID:0e12Bj0k0

 いつまでも逃げられるわけがない
それはわかるが、それでもできるだけあいつらには生き延びて欲しいなんて都合のいいことも考える

「…ここだったらさ、法の対応外だし戦自も手出しできないのにね」

 レンゲをつきたてて深く息をつく柊
それは一回提案し、あいつらが迷惑をかけると首を横に振ったこと
これ以上吟味する必要の無い可能性

「まぁ、縁があればどこかであえるだろうし
 お互い生きていても、もう二度と会うことのない連中だっているんだ
 深く考えすぎないようにしろよ」

 俺はそういって焼き魚をほぐして口に運ぶ
そうだ、自分の意思に関わらず、会うときは会うし
気付けば何年も会話してない奴だっていくらでもいる
今回のことだって、事態は大規模だったが
それでもありふれたといえばありふれた出会いと別れの一環に過ぎない

370 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/09(水) 15:07:45.60 ID:0e12Bj0k0

>>359
「あんたって淡白ね」
「そうかも知れんが、だからといって責められる謂れは無い」

 強いて冷たい口調で言葉を続ける
このままこの話題を引き伸ばせば雰囲気が淀む
変なところで感傷に入らないように、こちらが不干渉を決め込むしかないのだ
一緒に悩むのは間違いじゃないが、一緒に落ち込むのは意味のないことだ

「長門ももう食べ終わったか」
「…」

 こいつはラーメンが好きなのだろうか、今日も今日とてラーメンである
ここの食堂ではラーメンしか食ってるのを見たことが無い、ここの味が好きなのか?

「まだ時間もある、部屋で適当に時間を潰してからあやのの見舞いだな」

 なにか買ってくのが見舞いのセオリーだがなにがいいかね
メロンでも買ってくか? リボンでも結んでさ

376 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/09(水) 15:28:01.09 ID:0e12Bj0k0

「花のほうがいいんじゃない?」

 独白に横槍を入れてくる柊
しかしどちらにしても一旦外にでなければ買えない代物である
花屋や八百屋的な素敵な建物がこの神人迎撃用要塞都市の本部に鎮座してるはずが無い

「だが手ぶらってのもやっぱり無い話だよな」
「一回上にあがる?」
「そうするか…」

 現在時刻が8時を少し回った程度
地上に戻って買い物して、ついでに着替えるくらいの時間的猶予は十分にある
制服のままってのも、やはり見舞いには味気ないしな
結婚式や葬式じゃないんだから制服は極力避けていきたいと思う年頃だ

「…そういや携帯を個室に置きっぱなしだったな」
「私なんか財布も置きっぱなしよ、取りに行きましょ」
「…」

 方針が決まったところで最後に柊が両手を合わせて食事を終える
トレーを持って食堂のおばちゃんに一言声をかけて片付け
三人そろって個室に引き返した

377 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/09(水) 15:40:30.39 ID:0e12Bj0k0

―――

 275号室、峰岸あやの
そのナンバープレートと名前を確認してから
俺は息を吐いて二度扉をノックする

「どうぞー」

 一拍おいて聞きなれたあやのの、少し間延びした声
許可を得た俺達はドアを開いて中に入る
目が痛くなるような真っ白い病室も三度目
しかし今回は自分が入ってるのではなく、あやのの見舞いとして

「やぁ」
「…おぅ」

 入院患者の白く薄い服、そこから覗く腕は数日前と比べて細くなってる気がした
あやのは俺達を確認して陽気な感じで手を上げて挨拶をよこす

378 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/09(水) 15:57:26.86 ID:0e12Bj0k0

「これ、見舞いの品だ。心して食えよ」

 結局柊は長門と花の植木鉢を買い
俺は個人で果物の盛り合わせ的なのを買ってみた
結構な値段するんだなこういうのって、知らなかったぜ

「あっは、大げさだよこんなの。ありがとう」
「気にするな」

 受け取って顔を綻ばすあやのに少し安堵しながらベット横の椅子に座る
色々話したいこともあるしな、聞きたいことも言いたいことも

「まぁでも、よかった。すぐに退院できるんだろ?」
「うん、怪我してるわけでも病気でもないからね。体は至って元気なんだよ」

 両手を曲げて元気を強調するあやのに、若干の不審と不振を感じる

380 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/09(水) 16:05:42.96 ID:0e12Bj0k0

「あやの、あんたこれからどうするの?」

 唐突に本題を切り出しやがった、行動が早急過ぎる
確かに聞くつもりはあったがしかし早々に直球を投げる馬鹿があるか

「えっと…」

 あやのは顔を曇らせて俯き、手元の果物のバスケットを指先で撫でる
こうなった以上、こちらからフォローはできない
あやのが口を開くのを待たなくちゃならない

「私はね、一度キョン君が戦ってるのを見て、あのプラグってのに一緒に乗ったことがあったの」

 俺がここに来て、二度目の戦闘の時の話か
これは多分知らないであろう柊、もしかしたら長門に対しても話してるのかもしれない

「だから、他の子達よりわかってるつもりだったの
 本当に簡単に死んでしまうようなことが身近に起きてるんだって、そんな中三人ともが戦ってるんだって」

 あやのはぽつりぽつりと語る
窓から入ってくる風にはためくカーテンの音と、木々の葉が擦れる音がやけに響く

385 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/09(水) 17:13:30.83 ID:0e12Bj0k0

「いまだから正直に言うけど、私は長門さんやかがみが羨ましかった
 私を助けてくれた、守ってくれたキョン君と同じ場に立って戦える二人が羨ましくて
 だから話が来たときもすぐに受けて、純粋に嬉しかったわ」

 戦う人間とは別の、それを待つものの辛さというもの
それはどっかの誰かに一度訥々と教えられた覚えがある
べつにそれがどうとか言うわけじゃないが、まさかあやのがそんな考え方をしてるとは思ってなかった

「でもね、私も全然知らなかったのね
 エヴァに乗って戦うって、あんなに痛いなんて知らなかった」

 …待ってくれ、その発言はまるで―
昨日の喜緑さんから聞いたこととズレてる、その言い方は

「あやの、お前もしかして3号機に乗ってたときの記憶があるのか?」
「…うん、最初はね。うっすらとだったけど、ゆっくりと記憶が鮮明になってくんだね」

388 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/09(水) 17:31:14.24 ID:0e12Bj0k0

「まるで自分の体が勝手に動くようで、気付いたら実験室はバラバラになってて
 私がやったんだって怖くて、怖くて、でも目を瞑っても見えなくならないの
 勝手に歩いて、ずっとずっと長い距離歩いて。気がついたらキョン君たちが居て
 えっへへ、結構痛かったですよ正直」

 ずっと意識があったのか、そして俺の思ってたとおりシンクロをし続けていたのか
それは、怖かっただろうと想像が出来てしまう
自分のいきなり乗せられて、戦わされた事を否応無く思い出す
それでも気丈に笑うことのできるあやのに羨望の念を向けるまでに

「でも、途中から。そうだねキョン君に投げられて腕が伸びた辺り
 自分の体が伸びる感覚なんて多分一生体験しないんだろうね?
 あの辺りからだんだん意識がぼやけて来て、なんか自分の体の境界線が曖昧になってくの
 そして気がついたらスタッフの人に助けられて、病院に検査入院だって」 

391 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/09(水) 17:43:39.89 ID:0e12Bj0k0

 神人という異形の生命体に自分の髪の毛からつま先までを
完膚なきまでに支配されてたあやの、その恐怖
初めての搭乗で敵に犯され、そして死を垣間見た彼女にかける言葉が見つからなかった
あやののいう境界線があやふやになった状況
最終的にはあやのの存在そのものが神人に喰われてた可能性だってある

「私達ちょっと外すわね、あやの」
「…」

 唐突に柊と長門が部屋をでていってしまう
扉が開いたことにより窓から入ってくる風が強くなり
あやのが靡く髪の毛を押さえて俺を見つめてくる

「キョン君が、今回も助けてくれたんでしょ?」
「…結果的にはな」

 いきなりの状況に少々戸惑いながら答える俺
なんで柊たちはでていってしまったんだよ…

392 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/09(水) 17:51:10.39 ID:0e12Bj0k0

「こなたさんにもね、言われたの。べつに止めてもいいんだよって
 でも私は、これからもフォースチルドレンとしてここに居るよ」

 その顔に微笑を湛えながら長い髪を押さえる手を離し
髪の毛が風に任せて跳ね踊り、舞う

「なんでだ、怖いって言ってたのに。なんでまだここに居ようとする?」
「言ったじゃない、私はキョン君と同じ場所に立てるのが嬉しいんだよ」

 自由になった手を俺に伸ばして、
柔らかいその手で俺の手を握るあやの

「俺達と同じ場所に立ってどうするって言うんだよ…」

「ばかね、私はキョン君が好きなの、ずっと一緒にいたいの
 だから待ってるだけが嫌なのよ。知らない? 最近の女の子は積極的なのよ」

 クスクスと笑みを浮かべてから、俺の頬に唇を軽く触れさせる彼女の姿に
俺はようやく喜緑さんの先日の発言の意味を悟った

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/12(土) 19:18:21.65 ID:o5lXrvUr0

 視聴覚室のような狭くパイプ椅子の並んだ部屋
部屋の中心で俺は座り込み、ぶら下がる汚れた蛍光灯に照らされた
埃っぽいその部屋の中を見渡してみる

「…ヒュー」

 声をだそうと思って、しかしそれはかなわず粗末な呼吸音が響くだけ
だから、なにを自分が言おうとしたのか、次の瞬間には忘れてしまった

 扉や窓がなく、前方にプロジェクターが白い幕に古ぼけた映像を流している
右を見れば丁度扉一枚分程度の間を前に空けて短い黒板がチョークで汚れた姿を晒している

「夢だと思えばいいんだよ」

 ここはどこだろうと、再び声の代わりに二酸化炭素を多分に含んだ吐息を漏らすと同時に声が聞こえた

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/12(土) 19:27:09.84 ID:o5lXrvUr0

「心の原風景、それを映し出すのは夢」

 そこで初めて声のだしかたを思い出したように
俺は先ほどまでと打って変わって流暢に言葉を平然と口にする

「誰だ?」

 振り向きながら言った言葉、振り向いた先に言葉の主が居ると思ったから
だがこの狭い空間の中、視界には人間は映らない
なら喋っているのはパイプ椅子かと荒唐無稽な考えを浮かばせかける

「おやおや、流石にそれはないよ。心の原風景とは体験を風景として抽象したもの
 夢とは過去の記憶を整理する行動。君の過去に無機物が喋る記憶が? それともそんな体験をしたことが?」

 その天井にぶら下がる蛍光灯、その天井と蛍光灯の隙間に腰掛ける
年端も行かないような少女

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/12(土) 19:36:46.87 ID:o5lXrvUr0

 明晰夢というのは聞いたことがある
夢の中にいながらにして、それを夢と自覚し、確認することができる状態
だが夢の中の住人にそれを教えてもらう、そんなことがありえるのだろうか
俺自身は現実とも夢とも思っていなく、この状況を漠然と受け止めていたというのにだ

「知らないわよ、そんなこと私に聞かれたってね」

 蛍光灯の少女が掻き消えて、同時に背後から張った声が飛ぶ
それを怠慢な動きで振り向くけば、いつの間にか強気な表情をした同い年くらいの少女が―

「あくまでもこの中は夢、他者の介入の余地が無い完全個人主義の世界なのよ
 私は形が違うあんたということで、結局あんたが私になにかを聞くのは自問自答でしかない」

「俺が知らないことを答えようがないと?」

 シャボン玉のように二人目の少女ははじけて消えた

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/12(土) 19:41:14.69 ID:o5lXrvUr0

「一概にはそうは言えんさ、何事も自分の胸に手を当て考えることで得られるものも、確かにある」

 後ろから手が伸びて、俺の肩をポンと叩いてしゃべる男
ひどく見慣れた声をした男と向き合えば、鏡を見てるように見慣れた顔があった

「俺はお前か」
「俺がお前なんだ」

「なら俺は俺に聞きたいことがある」
「なんでも問えば良いさ」

「俺はなんのために戦ってるんだ?」
「そんなの決まってるさ、自分のためだろう」

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/13(日) 15:57:33.26 ID:qLmmd/4j0

 汗が気持ち悪い、酷く息苦しい
暑く体中にまとわりつく湿気が不快感を煽る

「…夢か」

 布団から起き上がって部屋の中を見渡す
青いLEDの電球が点きっぱなしになっている

 変な夢だったのだと思う
が、それは曖昧で有耶無耶であやふやで
瞬間かすれゆく靄のように輪郭をぼかして記憶から失せる
こういう朝は非常に意識がしっかりして、それゆえにしばらくこの気分を引きずる

「顔でも洗うか」

 寝癖の目立つ髪をかいて立ち上がり
俺はとりあえず洗面所に向かい気分転換を兼ねて顔を洗おうとした

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/13(日) 16:04:55.58 ID:qLmmd/4j0

「えっ?」
「ん?」

 風呂場の前、脱衣所と洗面所にあとは向かいにトイレの扉があるこの空間
俺は壁の磁石にくっ付いてる横に引く大げさなカーテンのようなものを引いた
いくらしっかりしてると言ってもそこは起床直後の頭
脳がしっかり稼働するまでにはあと一刻は必要であろうときであり
しかもここの所は柊も隣に移住したため余計に危険性が減った所為もあり
確認を怠ってしまっていて

「ちょ! ちょっとキョン、バックバック!」
「のわっ!」

 徹夜明けの朝のシャワーを浴びていたのだろうかこなたが風呂上りそのまんまの格好で立っていた
哀れ俺はいきなりの俺の登場に動揺したこなたに張った押されて後方に不様に転んだ

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/13(日) 16:24:13.69 ID:qLmmd/4j0

 シャッと激しく音を立ててカーテンは閉められ
向こうからこなたのまくし立てる声が高らかに朝の空気に響く
当初に懸念したドッキリハプニングをこんな所で果たす羽目になったが

「…すまんこなた、寝起きでちょっと気付かなかった」
「もうホント勘弁してよ! 見た? なんか見た!?」
「……いや、位置が低くてなにも見えなかったな」
「なめんな!」

 おかげで頭の意識レベルが更に二段階程度上がってしまった
俺は尻餅をついた体勢から起き上がって後頭部を掻き
視界に入ったものに思考を巡らせていく
嘘をついたわけじゃない、あいつの裸体など後ろ向きだったため
その長い頭髪が背中一面を覆ってほとんど見えやしなかったのは紛れもない事実だ

「あれは…多分一つの傷なんだろうな」

 台所のシンクで代わりに顔を流しながら、小さな声で呟く
あの長く綺麗な青い髪、しかしそれでも覆い切れなかった肩と腰の傷
あれは恐らく背中を斜めに横断する一つの大きな傷なんだろうな

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/13(日) 16:33:49.11 ID:qLmmd/4j0

 消えない傷…か
女の子だっていうのにまったく、報われないな
家族だなんだって言っても、俺達は互いの過去を知りはしない
俺や柊は確かに書類としての情報、表面上ではあるがはこなたは知っている

 だがこなたの過去や思い出話などをそういえば俺は聞いたことがない
多分柊や長門だって聞いたことはないだろう
ならばあいつが言ったことないという方が正鵠を指してると言えるのだろうか

「まぁ、そういう点じゃ私は確かに不公平だよね。かがみんも温泉の時言ってたけどさ」
「居たのか」

 シンプルな服装、ハーフパンツにタンクトップという格好で
頭にフェイスタオルをのせて髪の毛を拭きながら
こなたはいつの間にかテーブルに体重をかけてのんびりとそこに居た

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/13(日) 16:44:32.52 ID:qLmmd/4j0

「まぁ口では見てないと言ってもね、キョンの観察力は十分にわかってるつもりだし
 いくら寝起きでも思いっきり背中を向けてたからね。気付かない筈はないと思ってたよ」

 だからタンクトップか、そういえばこいつがそんな短いわき腹や肩がでるような服装を
今思えばこの暑い万年夏の国で四六時中袖のあるシャツばかり

「その辺りにも気付く要因はあったよね事実、まぁキョンのことだから男女での警戒とか解釈してそうだけど」

 タオルを置いて髪を後ろで括り、ポニーテールを作るこなた
そしてこちらに歩いてくる姿は、タンクトップの裾や肩の部分から
いままで気付かなかった傷痕が生々しく残っている

「キョンは2歳、私は4歳の頃だよ」
「…二度目か」

 15年前に起こったそれ、ジュラ紀だか白亜紀だかなんだったか
恐竜の時代に落ちたとされ、氷河期の原因となった一つの巨大災害。ジャイアントインパクト
それと同列に並べられて二度目と表されるセカンドインパクト

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/13(日) 16:58:28.55 ID:qLmmd/4j0

 人間の体は大体四ヶ月程度あれば内臓器官を除いた皮膚や髪や爪やそういったものは全部すげかわる
15年前の傷が今尚残っているというのは最低でも筋肉まで届いた、深く致命的な傷

「見てみな」
「…」

 後ろになり服の裾を上げて背中を俺に晒すこなた
そこには大きく凄惨な傷、色が変わり肉が盛り上がり腫れた背中
色が白く湯上りでわずかに紅に染まる背中
そんな傷のない部分の皮膚が艶やかできめ細かく美しいほど
その大きな裂傷の残痕は生々しく映る

「酷いもんでしょ」

 自嘲するように呟くこなた、服を持つ手が、晒される背中が、震えてる
いまにも泣くのではないかと言うそんな不安定さ
手を伸ばし、その傷を、肩から連なる一本の道を、指でなぞっていく

「…ひゃっ」

 顔を洗った水で冷えた手が、風呂上りの暖かなこなたの皮膚に触れ
こなたはわずかに体をよじって声をあげる
残っていた水が傷の上に指の軌跡を作り、やがて消える

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/13(日) 17:36:58.71 ID:qLmmd/4j0

「悪かった」
「べつに不可抗力なのは理解してるよ、それにキョンの事を聞いといて
 話してもらっておきながら隠してた私の方が責められるべきだよ」

 痛々しい、本来人間にはあるはずのない背中の多数の起伏

「私はその二度目で両親を亡くしてね、自分にも消えない傷が残った
 当時4歳だよ? 私は一人じゃ当然なにもできなくてね、親戚のお姉さんに引き取られたよ
 そこに二つ下のゆたかっていう子が居てね、妹みたいに一緒に育ったんだ」

 共通点、そんなものが次々と見つかるこの台詞
俺は傷をなぞる指を止めて、手のひらをその背中に当てる
微かに届く心臓の鼓動が、異常なほど高鳴っているのが手の平越しに伝わる

「べつに珍しいことじゃない、あの日生き残った子供はみんな同じ
 キョンだって当時2歳、記憶が残るギリギリの位置だよね」

「あぁ、だから俺は幸か不幸かあの日のことは覚えちゃいないし、両親の顔だって覚えてない
 だから悲しいとか寂しいとか思うことなんてなかった。
 院の連中はどいつもこいつも似たり寄ったりな環境で、親持ちなんて一人も居ない。羨ましいと思うことすらなかったよ」

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/13(日) 17:50:21.51 ID:qLmmd/4j0

 幼少期を院で過ごした俺。小学校、中学、そして高校
今思えばこの短い人生で初めての家族、友達、仲間

「ごめん、今だからいうと最初は同情だった」

 服から手を離して、腕を下ろし、俺の腕はタンクトップの布に二の腕の先が隠れてしまう

「私と共通するその環境、私はありがたいことに姉さんに引き取られて楽しく過ごした期間
 その間も全て一人で過ごしたキョンに私は同情してたと思う」

 汗ばむのはこなたの背中か俺の手の平か
しっとりと手にに張り付いた背中が、妙に意識される

「でも今は違う、大切な一人の家族だと思ってる」

 その場で反転してこちらを向く、自然俺の腕はずれ
中途半端に腰に触れて、まるでダンスの最中のようだとその感触から思考を逃がす

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/13(日) 18:00:02.24 ID:qLmmd/4j0

「正直さ、俺だって最初はただ迷惑に思ってただけだったさ」

 俺はこなたの水のような蒼い瞳を見返して
独白のように呟いていく、あの時の感情、あの時の思考を
できるだけ思い返して伝わるように
目は口ほどに物を言う、両方から伝えようとすれば、この思いの1/3以上伝わるだろうか

「うるさいし、小さいし、その癖上司とか言われるし
 当番はサボるし、口喧嘩にはちょくちょくなるし。そもそも女だし」

 色んな不平不満を持っていた、なんでわざわざ他人と一緒に暮らさなくちゃならないのかと
喧嘩するたび、嫌な感情を抱くたびに思っていた
でも、いまじゃそれもない。喧嘩しないわけじゃない、呆れ果てて投げ出したくなる時がないわけじゃない

「それでもお前を嫌いとは思わない、でて行って欲しいとか思わない
 居るのが当然ってのが家族なら俺達はすでにこれ以上ないほど家族だ」

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/13(日) 18:14:36.05 ID:qLmmd/4j0

―――

「…というのが事のあらましであって決して俺達は朝から事に及ぼうとしたわけじゃない」

 のんきに茶をすする長門
その隣、俺の正面に座りねめつける様に鋭い視線を送ってくる柊
そして俺と同じく裁判にかけられてる隣のこなた

 いま、我が家の四人掛けの机を使用した家族裁判が行われていた
容疑者俺、共犯者こなた、裁判長柊、陪審員長門、弁護人は無し
かけられた容疑は俺がこなたに対し朝から年頃の男特有の滾る情欲をぶつけようとした事
第一次裁判(柊の脳内会議)での判決は有罪で張り手の刑

 俺は無罪を主張して現在その判決に対し(すでに刑は執行されてるものの)控訴し
先ほどの起きてからの流れをこなたの傷やなにやらを隠しつつ説明していた

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/13(日) 18:32:03.26 ID:qLmmd/4j0

「本当なわけ? こなた」
「マジですよ」

 柊と長門、この二人が朝食を食べるためにいつもやってくるのを忘れてた俺達は
突然の彼女らの来訪にうまく反応することができず
とりあえず傷を隠すためにこなたが髪を解いただけで
至近距離で俺がこなたの腰に手を回した体勢を発見されるに至ったわけで

「そもそも、なんでそこまで疑うのか俺には理解できんな。こいつのどこに俺が劣情を抱くというんだ」
「…まぁそれはそうよね」
「ちょっ! なにその結論!? べつの理由で今度は私が告訴するよ?」

 幾分空気が戻る、少なくとももう湿気た話はさよならだ
くだらない話をする適当に流れる時間それでいい

「…お腹が減った、早く朝食にすべき」

 ズズッとお茶を飲み干して、まさに空腹を訴えられてしまった

「了解、適当にトースト焼いてとコーヒー淹れるさ」

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/13(日) 18:43:12.25 ID:qLmmd/4j0

 四枚切りのパンに包丁で耳の少し内側にと、さらに十字に
あわせて田の状態になるように切込みを入れる
そして表面と切り込みの間にマーガリンをたっぷりと塗って
上からグラニュー糖を結構な量ふりかける
それを人数分×2、つまりはこれで二斤分
八枚切りに直すと一人四枚になるのだが、いやはや家の家族は朝から食欲旺盛なので問題なし

 トースターに二枚ずつパンを入れて
溶けたマーガリンが染み込み砂糖が溶けたらとりだす大体4分程度
その間にレギュラーコーヒーをドリップしてゆっくりと滴る黒い液体を眺める
待つだけのあいつらにはない、俺だけの朝の楽しみである

 独特の濃いコーヒーの匂い、そしてそれに混ざる溶けたマーガリンと砂糖の甘い匂い
ただそれだけで優雅な気分に浸れる身近で小さな幸せ

「あぁ、そういやこんなことを幸せと思うのも心に余裕ができたって事なんだろうな」

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/13(日) 19:24:45.03 ID:qLmmd/4j0

「ほらできたぞ、最初のは少し冷めてるかもしれないが」

 ふかふかと柔らかくなったパンを皿にのせて
湯気の立つトーストを各人に渡していく
そして一旦戻ってコーヒーを四つのマグカップに注ぐ
砂糖少なめミルク多めの長門とその逆の柊
両方多めに入れるのが俺とこなた

「…と、コーヒーは一気に持ってくと危ないよな」

 二つずつ、色の違う揃ったマグカップ
それに入った乳色混ざったコーヒーが波紋を揺らして照明の光を歪める

「ん? なんだ待ってたのか?」

 すでにパンは渡した、もう齧り始めてると思ってたのだが

「とうぜんでしょ、作った人置いて食べるのはレストランだけよ」

 柊が飄々と言う
俺は苦笑いを浮かべたかどうか、コーヒーをこなたと自分の前において
みんなで食べ始めた、少し冷めたパンは砂糖をかけすぎたのか非常に甘かった

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/13(日) 19:47:24.28 ID:qLmmd/4j0

――

 風を切る音、鋭い音と共に勢いをつけた脚が俺の側頭部を狙って上がってくる
同時に上体は下がり理想的な体勢のハイキック
それを俺は体を後ろに反らしてよけて、さらにバックステップを入れて距離をとる
本来攻撃の後の隙に攻撃を入れるのが定石ともいえるパターンだが
しかしこの蹴りは一撃では終わらず、ギリギリで除ければ追撃でいつか食らう

「…っしゃ」

 俺はしゃがみ床に手をついて
片足を伸ばしその場で回転し軸足を払い体勢を崩させる

「っつぅ…」

 脚があがっていたため上体を左半身から打ち付ける形になる
俺はそれを好機と腕をつかみ極める直前に持っていく

「俺の勝ちだ」
「…あぁ、もう」

43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/13(日) 19:58:48.77 ID:qLmmd/4j0

 ピーと笛の音が吹かれて俺は柊の腕を外し
胴着の襟を正して、礼をする
一拍遅れて柊も立ち上がり同じく礼

―――

「あぁ…勝率下がってきちゃったわよ。参ったわね」
「基本的に男と女だ、あまり気にするな」

 格闘訓練、場は本部内唯一の畳を引かれた道場

「でもまぁ、約束は約束だ、炭酸系が飲みたいぞ俺は」
「はいはい、買ってきてあげるわよ」

 首を左右に揺らしてため息をつく柊
対する俺は最近の自分の好調な成績に笑みを浮かべる

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/13(日) 20:14:59.03 ID:qLmmd/4j0

「気持ち悪いから一人笑いはやめたほうがいいわ、これは忠告」

 三ツ矢サイダーのペットボトルで頭を叩かれた
前の買い物の時もそうだったが、どうにも柊は炭酸を乱暴に扱う傾向が見られる

「その発言はともかく、サイダーはさんきゅ」
「はいはい、どういたしまして」

 自分の分のペットボトルを開き炭酸の抜ける音をさせる柊
汗をかいた後は炭酸に限ると、俺も少しキャップを開いて炭酸を逃がす
どうやら噴出の危険性はないようだと確認して残りを開いて口をつける

「さて、私は約束守ったんだから。あんたも約束守りなさいよ」
「はて?」
「この間クレープ奢ってくれるって言ったでしょ」
「…あぁ、そんなこともあったな」
「呆れた、やっぱり忘れてるのね」

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/13(日) 20:33:14.70 ID:qLmmd/4j0

 停電の日にした約束だったか、うろ覚えだ
そういや長門にもラーメン食わせるとか言ったな、明日かなんかの晩飯にするか

「ったく、あんたもう少し記憶しときなさいよ。女の子との約束はなにがなんでも守るのが男の鉄則よ」

 そしてそれを最大に利用するのが女の鉄則ってか?
腕時計を眺めて時間を確認、午後4時
いつもならそろそろ居なくなる時間帯だが今日は休日なのでまだ居るだろう

「…あぁ! もう、あんたわかってないわね鈍感!」
「はぁ?」

 いきなりキレられた、唐突過ぎてただただ惚けるだけだ

「あんたあやのに告られてちゃんと返事するって約束したんでしょ!?」

 聞いてやがったのか…
まぁ様子からみて知ってるだろうとは思っていたがまさか聞き耳立てていたとはな

47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/13(日) 20:42:29.59 ID:qLmmd/4j0

「あんた好きな奴でもいるわけ?」
「いやそういうわけじゃないが」

 炭酸くさい息を吐くんじゃない
なんでそんなに俺は当事者でない人間から追求を受けなくてはならないのか

「ならいいじゃない」
「そうは言っても、軽々しく受けるわけにも行かないしな」

 あやのはいい奴だ、実際身の回りにいる女子じゃ
一番気になってる子ではあるけれど、だからこそ適当にするわけにはいかない
いつでもいいと言ってくれたのを真に受けてるわけじゃない
できるだけ早い方がいいのはわかってる
それでもやっぱり悩まずにはいられない
俺みたいな人間が交際なんてものに頭を悩ます日が来るとは思っていなかったぜ

「…まぁ真剣に考えなさいよ」
「言われなくても」
「ならよろしい」

51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/07/13(日) 21:00:41.07 ID:qLmmd/4j0

「ってかそういえばあやのの退院ってまだなのか? 三日目になるが」
「…あっ! そういや今日じゃない!」
「お前…人の記憶うんぬん言ってる場合じゃないだろそれは」

 二人して炭酸を一気に飲み干して、その刺激に顔を七変化させながら
直属の病院に向かって廊下を走る走る

「あぁ! あんたがごちゃごちゃやってるから忘れちゃったわよ!」
「俺に責任押し付けんな!」

 喧嘩しながら、この流れだと多分あやのに会うのだろう
あの日から話してない俺は答えをこの走ってる間にださないといけない
保留のままで会うわけにはいかない

508 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/07/14(月) 19:25:32.88 ID:FpJwea6o

 そんな止め処ない思考を垂れ流しながら廊下を走っていたのだが
流石に病院内ではそれは出来るはずも無く、だんだんと勢いを落として
焦りながらも歩調を抑えて院内に入る
まだあやのは居るのかどうか、聞くために受付に向かう

「遅いよ二人とも」

 待合室の長い革張りの椅子からぴょこんと飛び降りたあやの
その隣にはなぜかこなたの姿も見える

「…すまん、さっき訓練が終わったところでな。走ってきたんだが」
「せっかく退院したのにまだ病院から一歩もでてないんだよ?」

 頬を少し膨らませて、先日のやりとりなんて微塵も窺わせない自然な態度に
俺も自然と気張ってた感情がほぐれて笑みを浮かべる

「退院祝いになにか奢るから勘弁してくれよ、なんなら今夜うちで飯食ってくか?」

510 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/07/14(月) 19:41:19.68 ID:FpJwea6o

 俺がそう提案してみると、あやのはらしくない意地悪そうな笑みを浮かべる
…いや、傍から見ればそれは温和で柔和な可愛らしい笑みなのだが
しかしその裏になにか隠れていて、しかもそれを隠そうとしていないのがわかる
俺のそんな心中を察したのかどうか、黙って座っていたこなたが立ち上がり笑う

「へっへー、そんな必要はないよキョンさんいぇー」
「どういうことだ?」

 いぇーはスルー、自分の身のために

「キョン君達が遅いから私とこなたさん二人でちょっとこれからのこと話してたのよ」

 これからのこと、その響きはまるで腹の中で小石が弾けるような違和感と予感をもたらしてくれた

「こなたさんとキョン君、柊ちゃんに長門さん、みんな同じあのマンションで暮らしてるのよね?」
「…まさか」
「そのまさかだよキョン、あやのっちがこれから我が家族に加わりますよ!」

629 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/07/20(日) 18:21:02.00 ID:1GjI07Eo

>>510

「…よぉ日下部、今日のお前はずいぶんとご機嫌に見えるが
 それはこの集まってる同級の輩や朝から度々訪れる問者に関連が?」

 昼休み、先ほどから授業間の休息の度に俺の元に訪れる
男女や学年を問わない訪問者がようやく途切れ
俺が自席で一息をついてる際に気付いた普段との違い

「…あはは、キョンの方こそ今日はずいぶんとモテモテじゃないか〜」

 乾いた笑いというのだろうか、いまいち覇気が無い笑いをあげ
目を四方に送らせて俺に向けない日下部
その間にも日下部の周囲を巻いていた同級の連中は距離をとる
あからさまな反応だ、問い詰める側としては楽だが
しかしそれはそれであまり面白みがないな

「ったく、おかげで朝からうるさい連中が集ってきて仕方が無い」

 組んだ腕を解いて額を手の甲で二度、ノックするように叩く

「だって朝からそろって登校してくるから余計…」
「うるさい、というか誰から聞いた? 自分の中だけで納得したことを吹聴してるというなら許さんぞ」
「いや…柊がよぉ」

 あんにゃろうめ、病室からでていったことと合わせて
元より知っていたことは確かであろうが
しかしそれをあっさりと、よりによって日下部に口外するとは

「キョン君お弁当食べよう?」
「…あぁ」

 柊にも一言いってやろうかと思ったが、だがそれはあやのによって未然に防がれてしまった

「じゃあこれ、こうかんこね」
「ん、サンキュ」

 あやのが俺の弁当を作ってきてくれて
そして俺は柊や長門やこなたと合わせてではあるもののあやのの分も作り
それを交換、いやはやなかなか気恥ずかしい

「はいはい、もう一番暑い時間帯なんだから屋上行ってくれよ〜」
「うっせぇ」

 机にうなだれた日下部は、コンビの片割れを俺に奪われた不平を述べて
変わりに柊やみなみと合流して弁当を開く
俺はそれを眺めてから肩をすくめてあやのと二人で屋上に向かった

630 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/07/20(日) 18:31:07.92 ID:1GjI07Eo

「誤差±0.3未満、問題なし」

「A10神経接続誤作動なし」

「シンクロ、EVA起動問題ありません」

「絶対境界線まであと0.2、0.1、突破」

「エヴァンゲリオン3号機オールクリア、暴走ありません」


 いつか、長門の零号機を前に俺が慄いたあのケイジ
いまそこにあるのは黒一色で染め上げられた無骨な機体
一度は敵に乗っ取られたあの機体、数日に及ぶ審査検査調査の元
こうして再起動実験を行われた3号機
彼女には似合わないと思う

「シンクロ率は?」
「37%前後で、脳波心音ともに安定しています」

 こなたの問いかけにコンソールを高速でいじりながら
凛とした声で答えるのは朝比奈さんだった
俺は出入り口付近の壁に凭れてその様子を眺め
まさか一発で起動させてその数値を記録した彼女に感嘆の息を漏らす
だがその俺の態度を憂鬱のため息と勘違いしたのか
ともに実験に立ち会っていた柊が気遣わしげな目を俺に向ける

631 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/07/20(日) 18:32:42.01 ID:1GjI07Eo

「まぁ自分の彼女が優秀なのを素直に喜べないのはわかるけどさ…」

 畑違いな慰めは非常に対応に困る
確かに優秀であればあるほど早期に初陣に向かうだろうが
だがしかしそれも中途なボーダー、ガラス細工に対する扱いだ
むしろ一線を越えた優秀さを見せてくれれば前線にでたほうが命の危険は下がる
本部にいるよりも、動かせるだけの頭数として援護に回るよりも
もっとも安全で確かなのは優秀であり、自らの身を自らで守り
俺はそれのフォローをすればいいという形態、一人で二人は守れない
だから柊の心配は方向性を間違えている、だというのに無下には決して出来ない
少なくとも少なくとも

「俺は箱入り娘を育てる性質じゃないさ」
「?」

 だから俺はも中途なヒントを含めた台詞を軽い調子ではいて
その会話を終わらせてケイジのモニターに集中する
軽いシンクロテスト、起動実験、単純な初期段階は終了し
ホールド状態でプラグを射出し
そのままの状態でシュミレーションの模擬体にプラグを入れ直す

 モニターの向こう、模擬体の頭部と脊髄が実験ケイジにぶら下がっているのを見て
俺はこのエヴァが巨大な人造人間であることを再度認識する
汎用ヒト型決戦兵器人造人間エヴァンゲリオン
最初は完全に機械で、利便性やその名の通り汎用性を高めるために人型を模したのだと思っていた
だがその考えも早期に覆されることになった

 俺が二回目の戦闘、第四の敵と戦った際に初号機の腕をぶった切ったことがあった
激痛に埋もれる感覚の中、視界に移った切断面は紛れも無く筋肉と骨のある腕だった
そしてその後初号機の修復作業に立ち会ったときに見たもの
新しい腕を、筋肉や神経をつなぎ合わせて、傷口を縫合し、繋げる
その作業は大規模なだけの手術だった

632 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/07/20(日) 18:33:50.27 ID:1GjI07Eo

 その巨人の顔、皮を剥いで不気味に筋肉をさらす顔だけの模擬体
それにカメラや器具をつけたシュミレーション
コンソールモニターの向こうでは機体が縦横無尽に3Dの街を駆ける
シンクロ率は37%と最初期の俺と同じくらいで、ハンドガンを武器に
ビルに隠れながら撃ち、そして身を躍らせて敵を殲滅する

 現在のレベルは5、レベル1を立つだけの神人に対する的撃ち
レベル7を実際の神人と同等の戦闘行動をコンピュータがAIで行う七段階設定
その五段階目、大体フルの60%程度
しかも俺が初めて戦った最初期の第三相手とはいえこの動き
真黒、漆黒の機体。3号機。…あやの

「似てるわね」
「そうだね、少し趣き違うけど」

 喜緑さんとこなたの会話がふと耳に入ってくる
お前も聞くべきだというように、急にこの会話だけが傍受できた

「最初の適正テストを考えれば決してありえない数値だよこれは」

「脳波、心音、血圧、その他諸々はすべて正常値で異常は見られない
 そんな一般の女子高校生でありなが。思考判断、反射神経、身体機能、射撃能力等
 戦闘能力に関係することだけが全て飛躍的に上昇しているわ
 戦闘中、これはシュミレーションだけど。
 そういった場面に限った、一時的なバーサク常態化ともいえるわ
 まるで長年訓練を受けた人間みたいな動きをするときがある
 なによりも目を引くのがタイムラグの修正ね
 思ったこととそれに合わせて動くエヴァの身体
 その差に人間は違和感を覚えて流暢な動きを阻害する
 なんかの実験で見たこと無い? 自分の声が遅れて聞こえる中歌えるかって奴
 あれと同じよ、脳の判断を狂わしてまともな行動が取れなくなるの
 でも彼女と彼はそれを修正して違和感を体感的になくしてるのよ」

「そんなことができるの?」

「人間というのはどんなに短くたって思考と行動の間に0.1秒の差異がある
 でもそれは生まれたときから付き合ってるもので人間は自然とその誤差を修正してるのよ」

「それと同じ…と?」

「そうじゃないかしら、どちらにしても戦闘中だけの脳の特殊な反応として見られてるわ」

「…」

633 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/07/20(日) 18:34:05.00 ID:1GjI07Eo

 確かに戦闘で、自分が自分でなくなるような感覚はある
異様に感覚が鋭くなり、直感、第六感のようなものが強くなる
まるで自分が武器になったかのような感覚を降りてから思い返し不審に思うこともあった
長門や柊がともに戦うようになってその傾向は薄れたものの
俺とあやのはその点似ている、戦いに最初の一歩から慣れ親しんでいるようなイメージ

だが性格面だろうか、戦い方で差が一つある

 それは慎重さといえるなにかだ
あやのは大きな隙を見つけてもハンドガンを一発、多くて二発撃って隠れる
完全なヒット&アウェイの形をとっている、いわゆる削り殺しだ
俺は敵に最大のダメージを与えることに専念し
あやのは自機のダメージを最小に抑えることに専念している
戦争は臆病なくらいが一番生き残る、名将とは臆病者のことである
ならばあやのは俺よりも向いてるといえるのだろうか
俺は思考に沈みかけ自分の世界に入ろうとしたところで
終了を伝える喜緑さんの声で我に返った

634 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/07/20(日) 18:34:52.50 ID:1GjI07Eo

―――

「しっかし本当に付き合ってるのって感じよねあんたたち」

 自宅の机、机の椅子がとうとう一つ足りないという事態に陥った現在
しかし新規パイロットの調整に付き合ってるこなたのおかげで
全員が席ついて食事を行っている
今日の夕食は青椒肉絲、たけのこ、ピーマン、豚肉を細く切って
出来合いのタレで炒める簡単手軽で美味しい料理だ
家庭で出来る中華はみな基本的に手順が簡単でそして美味い
よくあるクックドゥの奴を今回は使用したがしかし出来合いとあなどるなかれ
中華で必要なのは万人受けだ、素人が下手なアレンジを加えればたちまちそれは崩れる
自称上級者はなんでも貶したがったりなにかと自分で手を加えたがるから困る
閑話休題、なんの話だったか…、あぁ―そうそう

「べつに極端に態度を変えるほうが気持ち悪いだろ」

 ビッと箸の背を向かいの柊に向ける
ここ最近ですっかり自分達の場所というものが決まってしまっている
俺が玄関から入ってすぐの手前の向かって左側
その隣、奥側には普段はこなた。今日に限りあやのが黙々と箸を口と食事との間で往復させている
向かって右側の手前、俺の向かいには柊がいつもなんかしらの文句を食事時に連ねて
しかめっ面を見せていることが多々ある
…まぁ飯をかっ込んで咀嚼してる時の表情は非常に幸せそうである。まる。

「おかわり」
「…長門は相変わらずよく食べるな」

 マイペースといえば聞こえがいい能天気な長門さん
右側奥の俺の斜向かい、自分の後方2メートル程度
つまり俺からもっとも遠い場所に炊飯器はあるというのに長門は俺に向けて茶碗を差し出す
俺はそれを受け取って椅子を下げてご飯を追加してやるために移動する

「でもねぇ、あんた達はそれにしてもドライよ」

「しつこい。なら俺達が付き合ってる状態で同じ屋根の下にいるのだからと
 こなたが居ないのも利用して夜な夜なやらしー事の三つ位してれば満足か?」

「ごほっ、ちょ、ちょっとキョン君!」

 流石に無反応を決め込めなかったのか、咳き込みながら俺に注意を促すあやの
それに対し柊の対応は非常に冷ややか、俺に侮蔑と軽蔑との入り混じった目を一瞬だが向けてくる
長門は…、山盛りになった茶碗を渡してやるとまた食事に向かった
どうにも脱力系キャラになってしまっている気がする

638 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/07/20(日) 20:12:07.66 ID:1GjI07Eo

「んだよ?」
「あんたってデリカシーに欠けるわね」
「プライバシーの欠片も無い人間に言われたくは無いな
 お前も知っての通り今日一日で何人の後輩同輩に声をかけられたと思ってるんだ?」
「私はあんた達二人の共通の友人に教えてあげただけよ、教えないほうが不実じゃない」

 言いたいことはわかるが…
俺は椅子に戻り大げさに疲れたような態度をして食事の続きを始める

「俺達と日下部やみなみ、双方が笑顔になる道はないのか」
「あんたは可愛い彼女ができて十分幸せだから±ゼロよ」
「わざわざマイナスする必要あったかよ…」

 なぜプラスのままで放っておいてくれないのだろうか
俺は不思議で仕方が無い
それともなにか、こいつは俺の幸せを自分の不幸と受け取るような人間なのだろうか
け…

「なんとやらの小さいとか言ったら容赦なく殴るからね」
「独白に介入するのはやめよう」

 器の小さい女だ、ということにしておこう
と心中それでも一応の訂正を行うと横であやのが額を机に押し付けて
肩を震わして硬直していた(冷静のように見えて若干の矛盾が感じられるあたりに動揺が見て取れる)

「…くくっ、二人ともいつもそんな会話してるの?」

 なんと涙していると一瞬思考が白濁しかけたが
しかしそこはそれ、よぉく観察してみればべつにあわてる類のものではない
たんに俺と柊のやりとりに笑っていただけだった
あやのは笑いで泣ける人間だった

639 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/07/20(日) 20:16:40.08 ID:1GjI07Eo

「羨ましいな」

 俺の心を読まれた台詞かと思ったものの
それはただあやのの素直な気持ちだということに気付き、黙った

「ここにこなたさんが一緒になって、こうやって一緒に暮らしてるんだね」
「…あぁ」

 目尻に浮かんだ水分を指で拭いながらあやのは微かに笑う
俺にはその笑みがどうにも寂しく見えた

「家族…だね、羨ましい」

 兄は? と聞きそうになって寸止めすることに成功した俺
負い目というわけじゃないがどうにも俺が聞くべきことではないと思った
けど、羨ましい。そう俺が誰かに言われるのはさりげなく初めてだった
多分あやのも言うのは初めてで、柊も長門も言われるのは初めてだろうと
視界に映る戸惑ったような反応を見てそう思い

「俺は逆にお前等が羨ましい」

 あやのだけでなく、この場にいる全員
そしてこなたにも向けた台詞を独白と同じ調子で唐突に口にしていた

「そうやって楽しそうに笑えて、戦いの場に立とうとするあやのが」

「恐怖に立ち向かってなにかを守ろうといえる柊が」

「自分というものを確固として確立させている長門が」

「そして俺やこの場にいる全員を家族だとまとめて、中心で笑うこなたが」

 途轍も無く、途方も無く、意味もなく
限りなく、果てなく、切なく
羨ましいばかりで

「でもさ、隣の芝は青いって奴なんだろうな
 隣というより、自分が立っている場所以外が全部青く見えてしまってさ
 あっち向いてもこっち向いても幸せの鳥なんて見つかりやしなかった
 肩に、自分の肩にその鳥はずっとちょこんと座ってたってたのによ
 顔を向けても周りの芝と同化して全然見えやしねぇんだもんよ」

640 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/07/20(日) 20:17:14.75 ID:1GjI07Eo

 まいっちまうよ、あっち行ってこっち行って
どこもかしこも青く見えるもんだから
歩いたその場からさっきまで自分が居た場所まで青く見えてきちまうんだもん
そうだよ、俺はちょっと前の何も知らない自分が一番羨ましかったのかもな
それでも今がよければそれでいいと思えるようになったんだ

「なら、それでいいんじゃないのかな?」

 声に色があるとするならば
それは延々と続く大空と大海のような青、彼女の髪と瞳の色
俺達に家族としての繋がりのきっかけの人物

「なに、羨ましがることなんてないよ。あやのちんはもう私達の家族だから」

 へらへらと笑う小さな家族の大黒柱
それに引っ張られるようにあやのも笑って、俺達も笑った

641 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/07/20(日) 20:25:34.21 ID:1GjI07Eo

「じゃあ長男君早速私にもご飯をくれ!」

「はいよ…って長男君ってなんだよ?」

「早い者順の兄弟構成で!」

「え!? じゃあ私長女?」

「ふふっ、じゃあ私三女なんですね」

「はっはー、これからみんなはキョンの事をお兄さんと呼ぶようにー」

「私お兄ちゃんとラブラブですよー」

「ぐはっ! やられた…」

「近親相姦…」

「ちょっと有希! 唐突になんてこというのよ!」

「じゃあ私とキョンは同時だからお父さんとお母さんって事で!」

「え〜!? キョンとこなたが夫婦ぅ?」

「姉さん女房って流行りジャン?」

「なに言ってんのよあんたは! そもそもそれじゃ兄妹よりも世間的に悪化してるから!」

「気にしない気にしない!」

「お前等な……」

「お兄ちゃん、おかわり…」

「…よーし兄ちゃんが有希に腹八分目の意味を教えてやろう」

「ちょっとキョン! ノってるんじゃないわよあんたも!」

「兄さんを呼び捨てとは感心しないぞかがみ」

「きもっ!」

「あっはっはっはっは!」

2 名前:途中からね[] 投稿日:2008/08/07(木) 21:46:09.60 ID:RRDFR/l80

「柊、突破が増えてるぞ」

 空になったハンドガンの弾倉を取り替え、反対の腕でいまだに迫る敵をナイフで切り払う
胴を両断され空中に鮮血を散らす雑兵

「わかってるわよ、ただこいつら段々強くなってるわよ…」

 俺の前方、最前線で戦ってる紅い機体が黒い敵に圧され始めている
黒い波になって迫る敵を一閃、白い光が後方から飛んで群がっている敵をなぎ払う
長門のポジトロンライフルによる援護射撃
そして中途な位置に進撃してきた余った敵を俺がハンドガンとナイフで滅多にする

 前線で近接武器ソニックグレイブを掲げ
敵を至近で切り刻み数を減らす弐号機

 その後ろで減少した敵を殲滅させるのが初号機で、俺
武器は前述の通りのハンドガンにプログナイフ

 後方で確実にポジトロンライフル、スナイパーライフル等の武器を使い
残った敵を全滅させるのが長門と零号機の役割

「あやの! 新しい弾倉をいくつか投げてくれ!」
「はい!」

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/07(木) 21:46:50.19 ID:RRDFR/l80

 そして最後に零号機の斜め前方で補給と長門の補佐をするのがあやの
3号機の役割だった
投げられた弾倉を受け取り足元の踏ん張ればすぐ陥没するやわらかい地面に立てる
その際に出来る隙は長門がフォローしてくれるのだが…

「くそっ、数が多い」

 ナイフで斬首し、機体に降りかかる紫の血液に閉口しつつ
この状況に俺は危機感を感じずには居られなかった
先ほどまでは接近してきた敵を刻みつつも
前方からこちらに向かってくる途中の敵を撃つ余裕があったが
いまではすっかり銃は突破されて零号機に向かう敵をやっと撃破するために使用している
プラグの端に映る四本のバー、本部のコンピューターが弾き出す
各エヴァの損傷度を表すゲームのようなライフゲージ
柊のそれは相当に減りつつある

「あやの! お前も武器を持て!」

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/07(木) 21:47:29.02 ID:RRDFR/l80

 俺は言いながらナイフを振りおろし、手放す
敵を縦に蹂躙した後にナイフはさらにその奥の敵に深く突き刺さり貫通する
さらに腰のホルダーに掛かっているもう一丁のハンドガンを前方に投げる

「柊、武器を換装して後方に少し下がれ! ツートップで行く!」

 自分の足元に置いてあるカウンターソードをナイフの代わりに蹴り上げ
砂埃とともに眼前に飛ぶそれを右手で受け取り鞘から抜かずにそのまま最近の敵を殴りつける
鞘は砕け中から抜き身の鋭い刀が逆袈裟に敵を割る
少し出来た隙間から足を伸ばして人型をしただけの影のような敵達を蹴り飛ばし
左手に持ち替えた銃で残らず撃ち滅ぼす
俺と柊の間に居るような敵は長門とスナイパーライフルを装備したあやのが消す
おかげでできた一瞬の無敵の空間を跳躍して柊に並び敵を切り、刺し、撃つ
そして俺は三人の仲間に声をかける

「押し返すぞ!」

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/07(木) 21:47:51.94 ID:RRDFR/l80



「なんなんだよこれ!?」

 俺は髪を拭くのも置いておき
第二実験室に乗り込んで声を荒げた
それに対し喜緑さんは愉快気に笑って俺達を出迎える

「残念ねぇ、やっと第二ステージクリアできたと思ったのに」

「作戦部長から言わせてもらうとだねぇ、キョンのやり方はいいんだけど
 ただし一度でも体制が揺らぐと一気に崩れるんだね、再慮の余地あり」

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/07(木) 21:48:53.21 ID:RRDFR/l80

 二人の楽しそうな声と実験室のモニターに映る血文字のGAME OVERの文字が不愉快である

「なんなのよあのシミュレーター、敵が強すぎでしょ」

 最新式のシミュレーター、3号機の正式実戦配備と同時に
試行されたのがついこの間のことで俺達はこれを三度やらされているのだが
未だにクリアをしたことがない、喜緑さんドSなんだろうな

「あら、なにか言ったかしらキョン君、改造しちゃうわよ?」
「本気で勘弁してください喜緑さん、本当に」

 温和で柔和な笑みを崩さずに笑う彼女は怖い

「しっかしなんだね、あやのちんがまだ初心者であることを除いても君達四人でもダメか…」
「そうね、これは新しいチルドレンの訓練用にしようかと思ったけど難しそうね」

 ―結局、あの後緊張で残弾数の確認を怠ったあやのが戦闘中に弾切れを起こし
後方からの攻撃が薄くなった際に敵が後方に到達、そっちに気を奪われ俺と柊も余計に対処がキツくなり
長門が善戦したもののあやのともどもあえなく轟沈し
守るべき街を破壊されて俺達の負け、以前のシミュレーターのレベル7なんかが比べ物にならない難度だった
というか数が多いステージ1と2を合わせて合計千体は正直冒険しすぎだと思う

7 名前:まぁのんびり20分ペースを[] 投稿日:2008/08/07(木) 21:50:03.15 ID:RRDFR/l80

 ほぅ、とため息をつくのは柊

「新しい技術を試さずにいられない技術者の性もわかるけどね
 こっちの身が持たないわよ本当」

「確かにより強い敵との戦いを想定するのは悪いことじゃないが…」

 俺は最後に食らった攻撃、その際に感じた幻痛の名残を抑えるために首をさする
首を跳ね飛ばされる感覚なんて、二度と味わいたくは無い

「まぁま、鍛錬を怠れば危険になるのは自分達だよ?」

 柏手を打ちながら憤慨する俺たちを諫めるこなた
それをジト目で眺めながら嘆息しながら柊は部屋をでていく
俺も適当に片手を上げてそれに続き、長門は無言で俺の隣に並ぶ
あやのだけが一礼してその場を去った

8 名前:新規の部分は目指して生きたい[sage] 投稿日:2008/08/07(木) 21:50:29.44 ID:RRDFR/l80



「両腕を肩からごっそり持ってかれたのよ?」

 タンクトップでむき出しの肩を両手で自分を抱えるように摩りながら柊は言う

「ま、こなたのいうこともわかるがな」
「こうもり」
「なんとでも」

 冷房の効いた本部の廊下では寒々しくすらあるその服装で屹然と歩く柊他三名

「ファーストもあやのも結構やられてたじゃない」
「まぁ…ね」

 腹部を唐突に押さえるあやの
貫通した敵の腕部を回想してるのだろうか?

9 名前: ◆7SHIicilOU [] 投稿日:2008/08/07(木) 21:50:58.14 ID:RRDFR/l80

「いま何時?」
「あぁ…6時くらいだろ」

 いいながら腕時計を見れば
…まぁ大差ない時間だったので訂正はせずに置く

「あぁぁもう! 時間も食うし痛いし面倒だし!」
「叫ぶな」

 あと人の背中を八つ当たりに殴るな
迫りくる攻撃的な拳を払いながらエレベーターのボタンを押す

「なんか奢れ〜」
「却下」

 やたらと絡んでくる柊
そんなに立腹してるのだろうか?
ならばあとで追いついてくる送迎役のこなたで晴らしてもらいたいものだ

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/07(木) 21:59:14.06 ID:RRDFR/l80

「ならギリギリ間に合うかしら」

 なにかを思案するようにあごに手をあてる柊
チンと鳴るエレベーターの到着音にそのままの体勢で乗り込む姿は微妙にシュール

「なにがだ?」
「ドラマ」

 しかめっ面をさせて真剣に悩む姿につい聞くと
思ったよりも数段軽い返答が帰ってきて、俺は思わずため息をつく
その態度に気を悪くしたのか柊は俺の肩を勢いよくスイングして叩く
振りぬかれたその平手は俺の肩に熱い痛みを心地よい音とともにプレゼントしてくれた

「って…」

「あんたねぇ、傍からみたらどうでもよくても。毎週かかさず見てるものを逃したら
 自分に負けた気がするじゃない!」

「録画すればいいじゃないか」

「妥協はもっといや」

「さいですか」

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/07(木) 22:06:36.37 ID:RRDFR/l80

 どうにも柊の判断基準がわからない俺
エレベーターの扉と面する壁に取り付けられた鏡を眺めつつ首をかしげる

「ふふ、キョン君だってアニメとかは欠かさず見てるじゃない」
「まぁ…それはそうだが俺はリアルタイムに拘らんし」

 あやのも見てるのだろうか、返答は冷静に行ったが
声のトーンが若干やや内角高め
とっさに振り向こうとしたのをとめると鏡ごしに素敵に不敵な笑みを浮かべていた

「ま、まぁそれなら急いだほうがいいか」
「そうねぇ」

 クスクスと変わらぬ笑いが末恐ろしい
そこにいる、しかし振り向けないというホラー映画さながらの心境である

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/07(木) 22:18:54.49 ID:RRDFR/l80

「ドン」

 と突然言われて俺は寸前までのあやのとの無言の視線の死戦の影響か

「のわっ!?」

 情けない声を上げてビクッと擬音のでる勢いで肩をすくませた
…その声の出所は長門で、あえていつもよりも平坦な声色をだしてまで俺を驚かせたかったらしい
片時も離さない文庫サイズの小説をつらつら読みながら、顔を上げることなく
さきほどの行動にでたらしい
落ち着けばなにやら俺だけでなくその長門の行動に同じく目を丸くしてる柊とあやの
らしくない行動に俺とは別の意味で驚きを隠せないでいる

「…びっくりさせるな」
「つい」

 ついで心臓を麻痺させようとするんじゃないよこの子は
お母さん心配だよ

「だれがお母さんよ」
「しらね」

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/07(木) 22:33:09.28 ID:RRDFR/l80

 チンという軽い音が再び、そして開く分厚い扉

「やふー! 追いついた追いついた、……どしたの?」
「いや…」

 元気よく入ってきたこなたに俺は残念ながら書ける言葉が浮かばなかった



「いまー」
「ただいま」

 いって家に入るのは俺とこなたのみ
あやのは最初柊が移動したことでズレて、暫定的に空いてるこっちの部屋を使うといってたのだが
『付き合い始めたばかりのドキドキなカップル、しかも高校生を同じ屋根の下に置くわけにはいかない!』
という柊の至極まともな発言により中止、あやのは向こうの家の部屋に自らの居住スペースを作ることになった

 これにこなたは当初ぶーぶー言っていた(理由としてはあくまでもここが本陣の家であってあっちは増収部分だからだそうだ)
しかし保護者という名目を持つ彼女もしばしば長時間仕事で家をあけることを柊はやはり指摘して
(『あんたよく家にいないし朝に帰ってくることあるじゃない! あんたが仕事してる間にキョン達のほうが大人になるわよ!』)
こなたも渋々(台詞を聞いてからは意外と必死に)承諾した

 そのため現在はたった二名で構成されていて
隣の柊、長門スペースのほうが人口が高くなってしまった
実際の生活はほぼ9割がたを彼女らもこっちですごしているがそれでも由々しきことである
(柊に言わせれば俺とあやのが一緒の家のほうが由々しき事態なのだろうが)

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2008/08/07(木) 22:51:37.33 ID:RRDFR/l80

「ふわぁ……」

 自室に入った瞬間にあくびがでた
このままベットに倒れこんでしまえばそれで明日まで寝れそうな気がしたが
実際にやると確実に変な時間に目が覚めてしまうのでやめておく

「それにそうでなくても飯作らないといけないからな……ふわぁ」

 さらにでるあくびで後ろによろける
と丁度膝の裏にベットの端が来てボスッと座り込む
スプリングが軋む音を立てて座ったところが凹む
そしていかんと思いつつもそのまま後ろに伸びながら倒れる
壁際に置かれたベット、向こう側の壁に手の甲を叩きつけてしまいながら
白いシーツに体を埋める

「やっべ、すごい上まぶたと下まぶたが仲良しだ」

819 名前:本来投下するはずだった分[] 投稿日:2008/08/08(金) 09:01:38.16 ID:UcOruZ.o

 不覚だった
本当に寝るつもりはなかったんだ
ただ睡魔という悪魔が俺の肩を引くんだ
なんて起きて早々自分に対しての言い訳をしているのは午前三時
とんでもなく嫌な時間帯だ

「まいった…学校行くあたりの時間に眠くなるぞこれは」

 後頭部をかきながら、渇きを訴える体にしたがって
俺はゆっくり身を起こして水出しの麦茶のいっぱいでも飲みに台所に出る
しかしこんな時間まで寝かしとくとは…
正直油断した理由の一つにもし寝ても腹が減れば起こしにくるだろうという計算があったのだが

「あいつらも寝た…、いやそれはないだろ」

 四人も同時に布団に倒れてつい寝てしまったなんてことはないだろう…
俺は首を振りながらたどり着いた冷蔵庫を開けて冷蔵庫内のオレンジ灯に照らされる

「麦茶むぎちゃ、むっぎむぎー」

 独り言が加速していると自覚しながらもとめる気配はない
どうにもこれは俺の癖という感じだ、自分でキチンと認識してる癖
悪いとは思わない、俺は俺であって―みたいなトートロジーを並べて悦に入る人間ではないが
しかし俺のキャラ付けに一役買ってるのでやはりこの癖は手放せない一種の俺の武器だ

862 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/08/15(金) 18:55:54.95 ID:9Q8RdVco

>>819

 水出し麦茶の需要の高さはこの気候の所為でずいぶんとあがっている
それはまぁ、水だと味気ない、一々ジュース類を買うと高くつくという二つの点からくる
あとは、それ抜きにしても茶というのは日本人の心というものをそこはかとなくくすぐる気がする

「ん?」

 百円均一で買った水色のポットに入った麦茶に手を伸ばしたときに
ふと、ラップに包まれた皿が目に入った
というより目に入るように真中に置いてある
それが俺の分の夕飯だということにすぐに気付く

『お疲れ』
『たまには休みなさい』
『チンして食べること』
『私がみんなに提案したんだけど、感動した? 感動した?』

 そんな書置きを読みながら俺は皿を取り出した状態で
冷蔵庫の扉も閉めないでそのまま立ち尽くしてた

863 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/08/15(金) 19:00:19.69 ID:9Q8RdVco

>>862

「あいつら…」

 後頭部を掻き毟りながら、とりあえずと麦茶を煽り
そして皿をレンジに入れて暖め、食器棚から茶碗を取り出す
がこっと少し音を立ててジャーを引き出して蓋を開ける

「……あいつら」

 俺はパタンと蓋を閉めなおす
チンッと小気味いい音を立てるレンジがいまは恨めしかった

865 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/08/15(金) 19:37:13.68 ID:9Q8RdVco


 こつこつとこなたの足音が響く
金属の板が張ってあるタップダンスもこなせそうなその軍靴の音
こなたは書類を持ち足元の巨大なモニターを靴のかかとで画面を切り替えながら
淡々とした調子で言葉を続ける…が、

「素手で受け止める〜!?」

 作戦指令を受け取る無意味に広く外界を見渡せる部屋
チルドレンである俺達四人と作戦指揮官であり
現時点の本部で最高権限を持つ少女の合わせて五人が一同に会す中
こなたが提案しそして実行される作戦概要を聞いた柊が絶叫した

866 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/08/15(金) 19:37:56.44 ID:9Q8RdVco

「これが現れたのは約六時間前」

 それを意に介した様子も無く、詳細をさらに続ける
モニターに映るのは橙を基調とした気味の悪い化け物

「衛星軌道上に唐突に現れたと同時に、これ」

 合図とともにモニターが切り替わり別の衛星写真が現れる
丸く削り取られた朝鮮半島、大きく揺らぐ日本海

「神人の全長は大よそ3qに及ぶと推測されてる、その体の一端を切り離して投下してるようだね」

 さらに数発、試し撃ちなのかなんなのか
一発ごとに誤差を修正しながら最後の投下は15分前
ここジオフロント直上から大して離れていない位置に落下

「全身爆弾の超巨大神人か…」

 そして次に落ちてくる本体を俺達が受け止めろ…と

867 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/08/15(金) 19:41:21.46 ID:9Q8RdVco

「そういうこと、ここを中心にして神人が落ちた際に本部が壊滅すると予測された
 半径50kmの円形に四機のエヴァを四方に配置、本部のコンピュータの予想落下地点と
 肉眼での確認を合わせて先んじて落下地点に到達、A.T.フィールドで目標を捕捉、撃破します」

「しますって…、実際に行動するのは私達よ? 成功率は?」

「…奇跡は待つものじゃなく起こすものよ」

「っさいあくよ」

 一人悪態を吐く柊であったが、黙っている俺達も概ね同じ意見である
これが初の実戦となるあやのなど、言わないのでなく言えないだけで
見ていて、正直いた堪れなくなる様である

「そう、これは作戦といえない。だから一応遺書を書くこともできるわよ」

 遺書…ね、残酷じゃあないか
そんなものを宛てる人間すら居ないのは皆々承知であろうて
そもそも、結局失敗したらなにもかも終わりなのだろう?

「そんなくだらないもの書くつもりは無いわ」

 まるで唾棄するようにかがみがそっぽを向いて言う
次に爽冷な声で平坦な調子で長門、そして俺と続く
ただ、あやのだその遺書という言葉に戸惑いを隠せないようだったが
俺達が逡巡する間もなくたたき切ったのを見て

「…私もいいです」

 そういった

869 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/08/15(金) 20:01:44.17 ID:9Q8RdVco

 頭を掻いて俺達の言葉を受け止めるこなた
今回の作戦、つまるところ爆弾を抱いて敵と心中しろという
昔の特攻さながらの内容なのである
そんなものを俺達に命令し、実行させるこなたの心中は察するにはあまりある
まぁそれはお互い様なのだろう、かがみを見れば
こちらはこちらであからさまなその態度が余計に指し計れない

「帰ってきたら、ビーフシチュー作っといて!」
「へ?」

 顔はそっぽ向けたまま、片腕だけをこなたに向けて
人差し指をピンと伸ばして、自分の好物の名をあげる
こなたはポカンとそれを見ていたがそれに自分の指を絡ませて

「わかった、指きりね。みんな帰ってくるまでに美味しいビーフシチューを作ってあげよう」

 だからお腹を減らしとくように、と反対の指を自分の頬にあて
柔らかい笑みを浮かべるこなた

871 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/08/15(金) 20:20:37.54 ID:9Q8RdVco

「作戦開始時刻まであまり無いから、プラグスーツに着替えてエヴァに搭乗
 各機指定箇所にエヴァを移動させ、別命あるまで待機」

 かがみに「いつまでそうやってんの!」と言われて指を払われた後
急に真面目顔を繕ってそういい、かかとを鳴らす
同時に会議室の扉が開く

「じゃ、後で」

 かがみがそう言って一番に部屋をでていき
あやのが会釈をして小走りで続き、長門は俺とこなたとの間をしばらく行ったり来たりと見ていたが
二人が見えなくなると長門も行ってしまった

「…悪いね」
「なにがだ?」

 誰もいなくなってから、こなたが呟く
その台詞がなにに対するものなにか、だがいまいちわからなくて俺は返す
こんな命令を出さなくてはいけないことか
そもそもこんなやり方しかできないことか

「正直、キツイんだ。色々…さ」

 圧縮空気が音を立て閉まる会議室の扉
誰も俺に早く来いと声をかけないあたり、俺の行動パターンはどうにもわかりやすいらしい

872 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/08/15(金) 20:38:48.97 ID:9Q8RdVco

 俺は俯き加減のこなたに
さてはてなんと声をかけようとしたのか覚えていない
口を開いたその直後に胸に飛び込んできた長く青い髪が特徴的な少女の所為で
どうにも思考がぶっ飛んでしまったからだろうと推理するが
しかし真偽のほどはわからない

「ごめん…」

 そう言った様に思ったが、残念なことに自信を持ってそういったとは言えない
とりあえず俺はなにを思ったか、頭一つ小さいこなたの頭に手を置いて
しばらくの間黙って、こなたの長い髪を手で撫でてやっていた

 幾許程そうしていたかわからんが
五分を切る程度の時間に過ぎないとは思う
まぁとにかく数分間そうしていた後、こなたは俺の服にごしごしと顔を押し付けて
俺をトンと突き飛ばして照れくさそうに笑う

「えっへへ…」
「…大丈夫か?」
「うん、ごめんね。ありがとう」

 そしてお互い黙る
俺だって照れないわけじゃない

875 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/08/15(金) 21:45:01.52 ID:9Q8RdVco

「ほら、そろそろ行かないと…」

 俺に早く着替えろと急き立てる台詞をいい終えるかどうか
ぽろぽろとまた雫を溢れさせる

「…ごめん、こんな不甲斐無い姿見せて。ごめんね、家族とか言って縛って
 逃げられないようにしてるね私」

 止め処なく溢れる涙、俺はそれに後退して
ピーッとスピーカーから流れる時間切れの音とともに
俺は部屋から逃げるように走った
扉が開き、そしてまた閉ざされる
その時、何か殴音と紙が舞うような音がした気がした

878 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/08/15(金) 22:00:37.33 ID:9Q8RdVco

――

「遅かったわね」

 更衣室前、すでに着替えを終えた三人がベンチに退屈そうに座っていた
うち一名、かがみが先の言葉を言いつつスチール缶を投げつけてきた
咄嗟にそれを受け取ると中身入り、カフェオレと書かれたベージュの色合いの缶

「さんきゅ」
「まっ、ご苦労様ってことで。早く着替えてよね、一時間無いんだから」
「わかってる」

 缶を掲げて、その場で開け、一気に飲んでから更衣室に入る
男のチルドレンが俺オンリーのため俺の貸切である更衣室
基本的にどこを使ってもかまわないのだが、それでもずっと使い続けてる一箇所のロッカー
俺はそこからずいぶんと見慣れ、着慣れてしまった初号機カラーのプラグスーツを取り出す

 裸になり背中のジッパーをあけ、そこから足を入れていく
毎度ながらべろべろして余った部分が張り付いて着るのに時間がかかる
それを我慢して腰まで上げると今度は手を片方ずつ入れて最後にジッパーをあげる
ぶかぶかのこの状態、右手首のボタンを押して空気を排出させる
すると自分の身体のラインが思いっきりわかるくらいぴったりになる

「行くか…」

941 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/08/22(金) 16:35:31.97 ID:nxPOqcEo

>>878

「全員所定の位置についた?」

 本部から離れた位置に電源車両に繋がれたケーブル
電波状況が悪く、神人のだすジャミングの所為で
こなたが発する指令の声が荒れて聞こえる

「…問題ない」
「大丈夫だ」
「おっけーおっけー」
「大丈夫です!」

 三者三様でなく四者四様
本部を中心としてスクエアに広がる各機
クラウティングスタートの形をとり合図の声を待つ

「あやの、大丈夫か?」

 今回が初陣、しかも成功率が当初のエヴァの起動率よりも低い作戦で
俺はあやのに一応再度声をかける

「平気だよ、私だってこの二週間ずっと練習してきたんだもの」
「……ならいいが」
『神人の高度、12,000を切りました!』

 会話に入ってくる切羽詰った国木田の声
あげた視界に入ってくるのは、雲を散らして摩擦で紅く発光する巨大な神人の姿だった

942 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/08/22(金) 17:15:14.91 ID:nxPOqcEo

『エヴァ各機発進準備!』

 こなたの掛け声にあわせて初号機を動かす、クラウチングスタートの体制へ
両腕を肩幅よりさらに広く地面につけ、足を抱え込むように曲げつま先で強く踏みしめる
全身の体重を両手の指先に乗せ、地面がわずかに撓む
目的は地に落ち、全てを焦土に変えんとする神人の下

『用意』

 腰をあげ、さらに両腕に体重を、前に前にと重心を移動させる
前方に転ぶギリギリまで前に持っていった身体を

「スタート!」

 自分の掛声と共にバネとして地面から跳ねる
四機全てがギリギリまで引き伸ばされた弓の弦のように、そしてそこから放たれる矢のように
鋭く空を切り大地を揺らし木々を倒し、街を駆けて敵を捕まえんとする

944 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/08/22(金) 17:32:40.83 ID:nxPOqcEo

『神人落下予想ポイント修正 D-4地区からE-7地区』

 正しくは本部の三賢者とやらの名を冠したスーパーコンピュータの声
(正確には機械の合成音)が神人が落下するにつれて追時予想ポイントを修正する

「ちっ、通り過ぎた!」

 AからHまでのy軸八段階に1から12までのx軸12段階の計96ブロック
そのどこに落ちても敵は本部を丸ごと持っていくことができるが
俺たちはその落ちてくるブロック、その一箇所に集まらなくてはいけない
初号機の足を止め、コンクリートやアスファルトの道路をかかとで削り慣性を押しとどめ
再度反対側へ踵を返すように走り抜ける、一番に目的地につく筈だったのがこれで一番遠くなってしまった

 つまりそれは他の三人を危険にさらすこと
そして一番危険な一人で他の三人が来るまで持ちこたえるという任務を誰かにやらせること

「くそっ!」

 怒鳴る、形だけの操縦桿を握る手が汗ばむ
それに呼応して初号機はさらに加速し隣接する建物を薙ぎ払いながら音速を超えて走る

『キャッ!』

 声が聞こえた

945 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/08/22(金) 17:39:40.17 ID:nxPOqcEo

 視界の端で、躓き這いつくばる黒い機体…あやの

『初号機シンクロ率上昇…120%、160%、まだあがります!』

 さらに初号機が加速した、視界が歪むほど
木々を薙ぎ、建物を払い、地面を砕いてひた走る

『ポイント修正 E-7地区からF-8地区 高度5000を切りました』
「神人肉眼で確認」

 初号機の目越しではなく自身の目でみるその奇抜な造形の敵
落下地点までの距離がさらに伸びたことと併せて焦りが強くなる
向かいから青い零号機、右側遠方からはギリギリ紅い弐号機も見える
……二人とも遠いい、俺もまだ距離はある
このままじゃ失敗する

『シンクロ率200%を超えます!』
『不味い…キョン君、それ以上は危険よ!?』

 喜緑さんの制止の声が聞こえない
見えるのは敵と自分

946 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/08/22(金) 17:46:47.04 ID:nxPOqcEo

 空気が、初号機越しに感じる空気が重く、壁のように硬かった
時速200kmを超えると現れる空気抵抗による壁
それは初号機と神経接続のバイパスを通じて俺の身体に、脳にダイレクトに伝わってきた
頭を強制的に持ち上げられ、前傾に倒した上体がゆっくりと起こされていく

 そしてそれに比例して強くなる抵抗、細い足にかかることの少ないその抵抗が余計に上体とのバランスを崩す
慣性で足が進み空気抵抗で上体が後ろに下がる
気がついたら俺は不様に仰向けに地面にぶっ倒れて後頭部を叩きつけ、一瞬の間意識を失うという情けない有様であった

「っつうぅ…」

 起き上がろうとするもののすでに遅し、間に合わなかったと思った
だがそこはすでに神人の真下で仰向けになった俺に刻一刻と近づく巨大な敵

 他の三機はまだ追いつかない…

「A.T.フィールド全開!」

 咄嗟に俺はその状態でフィールドを展開、起き上がり片膝をついて迫る衝撃に備える
2秒、それが俺が意識を戻してから体勢を立て直しフィールドを張り、神人とぶつかり合うまでの時間だった

953 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/08/22(金) 20:31:03.47 ID:nxPOqcEo

「くっ…」

 関節部分が衝撃に沈む、手首、肘、肩、膝、足首、すべてが軋み音を立て痛みを感じる
両腕から発せられるA.T.フィールドに自由落下で宇宙から飛来する巨体が乗っている
エヴァの視点のすぐまえ、気味の悪い緑色の目玉、出来の悪いピカソとも見紛う

「がぁっ!」

 二の腕の、過負荷に耐え切れなかった筋肉が破裂した
パシュッと音を立ててエヴァの右腕、その腕から体液が流れ出る
足場はエヴァと神人の重量に耐え切れずどんどん崩れていき、バランスを崩しつぶされるのも時間の問題と言える
圧力の所為で破けた眼球の血管が視界を紅く染めていく

『零号機フィールド全開!』
『3号機A.T.フィールド全開!』

 声がした、追いついた3号機と向かいにいた零号機が到着したらしく
その掛声の後、初号機にかかっていた重量が分散されて沈んだ関節が少し楽になる

『大丈夫キョン君!?』
「あぁ…一応」

 視界はまだ紅い

954 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/08/22(金) 20:42:27.08 ID:nxPOqcEo

 零号機と3号機、あやのと長門が着てくれたおかげで
なんとか俺は立ち上がりながら敵を空中で抑える…が

『このままじゃ出力が足りない』

 抑えるだけじゃダメだ、あいつは上に乗っかって俺たちがつぶれるのを待てばいい
一々踏みつける必要は無い、ただ、乗ってるだけ
しかし俺たちはこいつを倒さなくてはならない、完膚なきまでに
この目玉の中にある紅球を破壊しなくてはならない

 しかしそれには長門の言うように出力が足りない
一人が中和し、一人が紅球を壊す…その間耐える力が片腕を失った俺には無い
そして当然、乗れるようになったばかりのあやのにも
A.T.フィールドに関しては同じくらい浅い長門にも無理だ…

「だぁ! 早く来い柊!」
『今行くわよ!』

 俺が肘と手首の間で不自然に曲がった腕を再度動かそうとした時
紅い、全て紅く見える中でもさらに紅い機体がやっとこ現れる

『フィールド全開!』

974 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/08/25(月) 12:42:51.91 ID:gUFEMo2o

>>954

 丘状になってる現場、そこに怒鳴りながら滑り込むように入ってくる弐号機

『零号機中和開始します』

 それを見て取って長門がプログナイフを構えA.T.フィールドの中和作業に移る
A.T.フィールドに超速で振動し発光するナイフをつきたてフィールドに一箇所穴を開けるようとする
が、長門が突き立てたナイフはフィールドにぶつかり甲高い音を立て、根元から折れた

『A.T.フィールドの密度が圧縮されて高まってるみたいね…』
「なにを暢気に!」

 平坦な口調で解説する喜緑さんについ噛み付く
持ちこたえるにしても四機であと数分と持たないであろうことは右腕に走る激痛からも明らか
残った左手も軋み撓み歪んでいる

『このままじゃ…』

 誰かの呟きが聞こえた

977 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/08/25(月) 12:59:21.67 ID:gUFEMo2o

 このままじゃ…その先はなにも言わなかった
言わずもがな、という奴だ
俺が考えていたのと同じこと、この耐久戦は圧倒的に俺達の不利だ
数字的有利なんて物くその役にも立ちやしない
乗ってる側と支える側、考えるまでも無い

「長門、ナイフはまだあるだろ? 再度トライだ」
『了解』

 長門の生真面目な返事に気を落ち着かせつつ俺は思考する
多分、九分九厘の確立で失敗するだろう。一度あることは二度ある二度あることは三度ある
そんな単純思想じゃなく、実際的な問題としての不可能
だから俺は次を考える、別のパターンを考えてみる

 多種の武器はいまさら用意できやしない、受け止めるという前提を考えると武器なんてものは持っていられない
ならば現状、四機の内三機は常に支える側に回らなくてはならないため自由に動けるのは常に一機
武器はナイフのみだが、これはA.T.フィールドを貫通せしめない

979 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/08/25(月) 13:15:36.50 ID:gUFEMo2o

 これもまた当然、俺達四機のA.T.フィールドを同座標に展開しているのだ
さらにこれの向こうには敵だって当然フィールドを無展開って訳じゃないだろう

 キィンと、金属音がして再びナイフが無残に砕け散る
金属片が勢いよく弾ける

『…』

 不穏な空気を感じる、それは発令所からの空気
諦観交じり、諦めの空気が混ざった嫌な空気
わかっていたこととはいえ二度の失敗は十分にモチベーションを下げさせたか…
ミスったな、他の三人も空気に感化されないといいが
そう思い通信を開こうとしたとき

『次はどうすればいい?』
『早くしなさいよ』
『えと…、わ、私はどうすれば?』

 平然と向こうからそう言われた
それは俺を露ほども疑ってなく、先ほどの行為も
そしてこれからやることも見透かしたような、明るい表情で

980 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/08/25(月) 13:44:21.76 ID:gUFEMo2o

 まったくどうにも困った性分でしてね
はぁ、頼られるとどうにかしたくなる

「お前達は、もうしばらく支えてくれるだけでいい」

 いいながら右腕の調子を確かめる、ダメって訳じゃない
高く上がったシンクロ率のフィードバックか、自分の右腕
その手首と肘の中間位置から血が滲んでいるのが確認できたが、その程度
これからの行動になんの支障もきたしはしない

「成功率は多分五分ってところだな、失敗すればさようなら」
『失敗? そんなこと気にしてる暇あったらさっさと行動しなさいよ、正直重いのよ、辛いのよ』
「ははっ、わかったよ」

 正直五分なんてもんじゃない、もっと低い
だが…、まぁお見通しなんだろうな

「ふぅ…」

 嘆息、そして集中
大きく広がるフィールドの中の、自身が干渉してる部分を探す
そして練る、練り上げ形作る、一からそれを

983 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/08/25(月) 14:09:41.43 ID:gUFEMo2o

 煌々と光を放っていたフィールドがほんのり明度を下げる
そして一閃、操っている自分だけがわかる

「…ふぅ」

 成功した、俺が練り上げ形を変えて槍と化したA.T.フィールドは無事に敵の中心の紅球を貫いた
多分、あやのに長門、柊には俺がなにをしたのかわかってないだろう
…発令所は観測できたみたいだな、さっきまでとはべつの意味でてんやわんやしている
しかしA.T.フィールドの攻撃的運用がこうも上手く決まるとは思ってなかった

 想像しだいで形を変える、それならば最強の盾は矛になりうるのではないかと
だが、こうも型に上手く嵌ったかのように成功するなんて…
いや、発言が被ってるな、どうにも興奮冷めやらぬ的な心境らしい俺は今(この辺の文法からも動揺が見て取れる)

『キョン、色々言いたいことはあるけど…、とりあえずお疲れ様。上がっていいよ』

 こなたからの通信俺達はそれを確認して、ひとまず本部に戻ることにした
あとに残ったのは、巨大すぎる奇抜なデザインの不発弾だった

984 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/08/25(月) 14:27:24.34 ID:gUFEMo2o

――

「で、なにをしたのかにゃ?」

 開口一番そう聞かれた
ケイジにでむいてまで聞きにくるとは切羽詰ってるのだろうか
そこまでA.T.フィールドの解明にご執心らしい

「見てわからないのか?」
「意味はわかる、でも原理がわからない」

 喜緑さんがやや語気を強めて問う、これは詰問か?

「いいえ、まだ質問よ」
「…」

 いやに空気が重い、しかも気付かれないとでも思ってるのだろうか
諜報の連中がさりげなく周囲を固めてる
…まぁ、おかげで思考回路は読めた

 思想はともかく思考なら、しかも科学者の思考なんてのは読みやすい
時にロマンチズム、夢想者や理想論を浮かべる人間より面倒な思考を持つ人種ではあるが、今回は楽に読める
つまり、俺は疑われてるようだな、喜緑さんに
初搭乗からフィールドを使いこなし、さらには応用、攻撃…ふぅん、自分達の知らないできないことを平然とやってのけるから怪しいか
嫌な思考回路である、単純明快だが、不快だ

986 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/08/25(月) 14:49:58.14 ID:gUFEMo2o

「単純に聞くけど、A.T.フィールドを攻撃に応用しようとしたのはなぜ?」
「ナイフが通用せず、他に武器がないからですよ。あのままじゃどちらにせよ潰されていたんでね」

 べつにどうしてこんなことをだとか、裏切られたとか、俺を疑うなんてとか
そういった感情は毛頭浮かびやしない、普通に妥当な行動だと思う
疑わしきは罰せずなんてのは綺麗事もいいところ、達観した物言い
実際は疑わしきものは全て火にかけて燃やすのが当然
だから別にどうというわけじゃない、すぐに元通りになる
…かといって、やはり声に不快な気分をあらわにせずにいられるほど俺も人生に見切りをつけちゃいない

「フィールドの形態だって不安定で使用者に左右される、たまたま俺は敵の形を真似て
 他の三人は俺を真似たから同じ形をしているだけで、実際は液体のように形を自在に変えられる
 ならばと思っただけです、それがなにか?」

「…そうね、事実敵はあなたのその機転で倒せたしね。ただ、やっぱり私達には固定観念として多種多様なものが存在してる
 私達にはA.T.フィールドを攻撃に使用しようなんて考える人間は一人もいなかったわ
 ――やっぱり貴方、どこか違うのね」

 最後に捨て台詞のようなことを吐かれてしまったが、それでお終い、お開き
背中越しに手をひらひらさせる喜緑さんに別れの挨拶をつげて俺達はシャワーを浴びに向かう
血の匂いが、水分が飛ぶにつれて強くなっている 

990 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/08/25(月) 15:31:41.54 ID:gUFEMo2o

――

 ざぁぁ、と横に並んだシャワールームから流れる水音
床のタイルにはじけ、傾斜に沿って排水溝に流れていく
髪の毛に絡んだLCLを丁寧に洗い流してく

「結局、なんだったのあれ?」

 隣のシャワールームから声が掛かる
不満と、不信と、不明と、不動と
等分に混ざった声が、広いシャワールームに嫌に響く

「さぁな」
「…淡白」

 うるさい奴だ、髪から手を離して少し湯の温度を上げる

「知らないものは知らないさ、…それに俺達はやることやった。それでいいじゃないか」
「やることやったのに文句言われるのが気に食わないのよ」

 …あれは文句とは一線を臥すものだとも思うが黙る
するとひょいと柊が隣から顔をだす、…ってか覗き込むな

「あんた、あれでいいの?」
「なにがだ?」
「色々、わだかまりが残ったままだとやりにくいんじゃない?」

 …また黙る、長門とあやのは黙って聞いているだけなので
俺が黙り会話を止めると、必然シャワーの音だけが音源となる

991 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/08/25(月) 15:52:40.53 ID:gUFEMo2o

>>990

「ふぅ…あんたって何でもできるけど、そういうところ不器用ね」

 柊が先に折れた、ため息をついて顔を引っ込める

「でも、私はキョン君のそういうところ好きですよ」
「惚気なんか聞きたくないわよ、ねぇファースト」
「知らない」

 …でも実際どうしようかね
喜緑さんとは一度キチンと話した方がいいのかもな
あ〜ぁ、結構好きだったのに喜緑さん、片思いってか

「まぁとにかくよ、作戦は成功したんだし。さっさと帰ってこなたのビーフシチューを食べるわよ!」

 豪快に宣言する柊の声はどうにも虚しくシャワールームに響いて水音にかき消された

9 名前: ◆7SHIicilOU[sage] 投稿日:2008/08/25(月) 16:28:43.74 ID:gUFEMo2o

>>991



 髪を真っ白いタオルを拭う
途中適当に流した所為でタオルが少し紅く染まる
これは…帰ったらもう一回洗髪だな

「キョン! 準備できたわよ」

 隣の更衣室から声をかけられる

「はいはい、今行く」

 ロッカーに湿ったプラグスーツと一緒にタオルを放り込む
明日にはクリーニングされて綺麗になって入ってるはずだ
俺はシャツを着て、鍵を持って外にでる

「ほら行くぞ」

10 名前: ◆7SHIicilOU[sage] 投稿日:2008/08/25(月) 16:48:54.08 ID:gUFEMo2o

>>9

――

「おっかえりー! さっきはなんか悪かったねぇ!」

 俺がカードキーを読みこませて玄関の扉が空気の排出音とともに開くと
そこにはエプロンを着て、おたまを持ったこなたが元気に迎えてくれた

「…お前エプロンぶかぶか」
「キョンの借りたからね」

 デニム生地の厚いそれは少々こなたには大きく、脛の辺りまで体の前面を覆っていた
…おたまが汚れてないところを見るとわざわざ演出のために持ってきたらしい
こいつは一体なにがやりたいのだろうか

「はぁ…まぁただいま」

 言ってとりあえずこなたを押し戻して中に踏み入る
後ろの二人もそれに続く

12 名前: ◆7SHIicilOU[sage] 投稿日:2008/08/25(月) 17:01:58.33 ID:gUFEMo2o

 と同時に、いい匂いが漂ってくる
どうやらこなたはキチンと約束を守ってくれていたらしい

「もちっと待ってね、もう少し煮込みたいから」
「了解」

 リビングにつくとそういわれ、同時に柊は食器を出して
長門はこなたの手伝いに周りあやのはごはんを盛る
普段俺が料理してるときと同じ役割分担

「ならば」

 俺はこなたの役を交代することにして、先んじて席についてテレビをつけた
基本的に料理するのが俺かこなたのためどちらかがやってるときはもう片方は暇なのだ
リモコンを幾度か押して適当なニュースでチャンネルを固定する
最近はいまいち興味をそそる番組が無い

32 名前: ◆7SHIicilOU[sage] 投稿日:2008/08/27(水) 01:58:49.30 ID:jg01RO6o

こなた「祝! パー速次スレ!」

キョン「と、言うことでお送りします三回目」

こなた「お相手は泉こなたと!」

キョン「キョンでお送りしていきます」

こなた「奇跡だよキョンさんや」

キョン「いきなりだな」

こなた「前回でてきたサハクィエル、原作とあまり変わらない展開になってましたが」

キョン「あぁ、実は色々変更する予定だったんだよな」

こなた「あの戦闘での変更点といえばこちら側のアクシデントと」

キョン「俺の行動程度だな」

こなた「でも本当は敵側にも色々変更があったんだよ」

キョン「俺はよく知らないんだがその辺、どういう違いがあるんだ?」

34 名前: ◆7SHIicilOU[sage] 投稿日:2008/08/27(水) 02:05:36.60 ID:jg01RO6o

こなた「実はね」

キョン「ほうほう」

こなた「サハクィエルの形状覚えてる?」

キョン「あ? あぁ覚えてるが」

こなた「あの中心の部分と繋がってる二つの端の部分」

キョン「…?」

こなた「あそこを分離して三つのコロニー落としにしようかと思ってたんだよ」

キョン「…それって」

こなた「そう、左右の部分を一機一つ、そして本体を残った二機で、まぁ初号機と3号機の予定だったんだけど」

こなた「その二機で支えて各個撃破って形にしようとしてたんだよねぇ」

キョン「また描写の面倒そうな…」

35 名前: ◆7SHIicilOU[sage] 投稿日:2008/08/27(水) 02:10:45.88 ID:jg01RO6o

こなた「そ、それが理由かな」

キョン「面倒だから切ったのか…」

こなた「基本的にキョンの一人語りで進行する以上描写に限界がある」

キョン「まぁ…」

こなた「その所為でいままでどれだけ苦渋の決断でさまざまなシーンを切ったことか…」

キョン「いや、知らないが…」

こなた「まぁ敵を分割するなら一箇所に落とすわけにはいかない」

キョン「うん」

こなた「でも遠くにやると描写できない」

キョン「あぁ」

こなた「だから切ったわけ、こうやって言っててももったいないと非常に思うよ」

キョン「そうか…」

69 名前: ◆7SHIicilOU[sage] 投稿日:2008/09/02(火) 05:55:57.64 ID:PUPVMxEo

>>12

 カチ、カチとチャンネルを変えていく中
ふと、戦略自衛隊に関してのニュースが下帯に流れる

「…あいつら、どうしてるのやら」

 死んだのか、逃げてるのか。それとも逃げ切ることができたのか
…一番可能性が高いのは死んだことだ、あれほどの機密と機体を持ち逃げした
存在そのものが戦自にとって毒になるあいつらを易々と逃がすほど戦自は甘くない

 川口湖にN2を実験と称して投下したということが前に一度流れてきた
多分、その湖の底に機体があったのだろうと予想がつく
ならばあいつらはいま、川口湖に沈んでいるというのが最も信憑性がある

「…」

 くだらない

72 名前: ◆7SHIicilOU[sage] 投稿日:2008/09/02(火) 06:04:06.94 ID:PUPVMxEo

「はいどぞー」

 綺麗に並べられる食器達
陶器の触れ合う音は、高く、どこか懐かしい耳心地のよさ

「うまそうじゃないか」
「ふふん、キョンばっか目立ってるけど私だって料理は得意さ!」

 無い胸を張るこなた、腰に当てた手といい
その手に持ったおたまといい、可愛らしいエプロンといい

「…ちびっこ料理人」
「ひどっ! キョンってなにかとひどいよね!?」

 ケラケラと笑う柊、微笑んで俺の向かい隣に腰を下ろすあやの
こなたは自分の場所を俺が使ってるので俺の場所に座る
長門は…マイペースだ

122 名前: ◆7SHIicilOU[sage] 投稿日:2008/09/12(金) 18:09:07.54 ID:DyiflEoo

――

「…」

 無言がこんなにも重く鋭く感じるのは久方ぶりだな

「そう硬くならないでください」
「すいませんね、人見知りする性質でして」
「そうですか」

 反応なし、か。あからさまに茶化した嘘に突っ込まないとは…
ふん、こちらの言うことに重きを置いてないのは半強制連行を授業中に受けたときに承知の上であるが
やはりなにを考えているのかわからない人間は得がたく理解できない

「よろしければ行き先や理由を教えていただきたいんですが」
「できません」
「でしょうね」

 大体この人はどうしてこんな格好なのだろうか
明日以降学校でまたなにやら鞄で頭をフルスイングされる予感だ

125 名前: ◆7SHIicilOU[sage] 投稿日:2008/09/12(金) 18:59:51.35 ID:DyiflEoo

 車のウィンドウ越しに見える景色はゆっくりと街の外に向かっていく様子
俺にはまったく行き先が予想することができない、目隠しやなにやらをされてないことから
知られて困るような場所、つまりは目的地が一般から隠されているというわけではなさそうだが

「緊張ですか? 不安でしょうか? それとも疑心、疑惑?」
「それらいくつかを含みつつ、また別の意図も噛んでます」
「ですか」

 バックミラー越しの視線は穏やかで優しく、また儚げで哀れみすらも混じっていて
それがやけに俺の癇に障り、しかしどうにもその姿や声色には心揺さぶられるものがあり

「あぁ…ったく」
「?」

 どうして、俺は連行される羽目になったのだろう?
…副指令たる森園生さん、彼女に

129 名前: ◆7SHIicilOU[sage] 投稿日:2008/09/12(金) 19:23:43.60 ID:DyiflEoo

・・・
・・


「キョンさん、至急私にご同行していただきたいのですが」

 そう彼女が授業中(ちなみに3時間目、歴史の途中であり、俺は代わりなく惰眠をむさぼっていたのだが)に
前方のドアを大人しめに開いて静々と起きた俺にそう言ったのは遡って20分前程度

 眠っている俺は最後方の廊下側の席を頂いているのだが
前方に座ってるクラスメートの女子に起こされて
衆目の的になってる彼女にそう伝えられたのだった

「どういうことでしょうかね?」

 メイド服という奇抜なファッションで現れた彼女、その彼女と知り合いの俺
どういう関係なのかとクラスの連中が思考を回してるのがよくわかる構図である

「お願いします、なにも言わずにご同行お願いします」
「…わかりました」

 これ以上の会話は無駄と机を立ち上がった俺と、それについてまわる目
…嫌だったなあれは

130 名前: ◆7SHIicilOU[sage] 投稿日:2008/09/12(金) 20:30:50.40 ID:DyiflEoo

「着きましたよ」

 そう声をかけられて思考を中断する
狭い駐車場にぴっちり車をバックで停めるのはメイドのスキルと関係あるのだろうか?
…ないだろう

「ここは?」
「着いてきてください」

 質問はまだ許してはくれないらしい
が、コンクリートや照明に通路の状況を見てそんなに古くはないこと
そして構造からはやはり本部との関連性を見てとれた

「どうぞ」
「…」

 少し小さめのエレベーターに入り、複数あるボタンの下
キーを差し込んで開いた隠しボタンを押して上階に上がる箱
上に参りますとは流石に言わないか…

131 名前: ◆7SHIicilOU[sage] 投稿日:2008/09/12(金) 21:15:05.82 ID:DyiflEoo

 チンとお馴染みの音を立ててエレベータは停止する
止まって、停まる

「こちらへ」
「は、はい」

 動作は、きわめて優雅かつ繊細
ヘッドドレスは不安定ながら頭をさげても動くとはない
しかし彼女はハルヒからは副指令と聞いているし、前回あったときはピシッとしたスーツだった覚えがある
…なぜこんな格好をしてるのだろうか? 聞いたところで答えはないのだろうけど

「またまた久しぶりねキョン、あんたと会うたびに久しいと思うばかりよ」
「…何のようだ」

 通された部屋、無機質で硬質的な部屋に置かれた一つの業務用デスク
皮の椅子に腰を深くかけてそれに向かうハルヒは嫌らしく笑みの一つも浮かべてみる

「あらいきなりそれ? 性急過ぎるのはよくないわよ」
「…」

 書類に目を通しているようだが、その手つきは乱暴で乱雑
わざわざ本部を離れてやるほど重要な仕事というわけではない

「雑事よこんなこと、暇つぶしに持ってきただけ」

 暇つぶしね

143 名前: ◆7SHIicilOU[sage] 投稿日:2008/09/15(月) 18:42:35.84 ID:DDh14LUo

>>131

「で?」

 俺は間髪入れずに問いかける

「まさか雑談に興じるために授業中に強制連行してきた訳じゃないだろう」
「あら? 一応任意同行の形をとってたはずよね?」

 あれを任意と呼ぶのならな
不良がいじめられっ子の肩を強く掴んで、な? って聞くのと似た響きがある
…やだなそれ、俺がいじめられっこか

「まぁあれよね、色々話すにはここは丁度いいのよ」

 そういってハルヒは俺に、わかるでしょ? と笑みを見せる
むかつく笑いだった

144 名前: ◆7SHIicilOU[sage] 投稿日:2008/09/15(月) 19:17:10.39 ID:DDh14LUo

「司令室ってね、意外と邪魔多いのよ? 内線電話は四六時中鳴るしね
 雑務は多いし、人の指示を仰がないと動けない無能さんとか逆に勝手な行動する奴も居るしね
 なんのためにゼロから立ち上げたのかわからないわよね、一枚岩目指してたのにさ
 まぁ思想や理想なんてお題目をあげてる以上それぞれズレが生じるのもしょうがないけどさ
 大体宗教と違ってなにか目に見える教主様が居るわけじゃないんだしさ、そこでの目視は大事よね
「で、話を元に戻すと私は邪魔の入らないところで多少話をしたいな〜、と思ったわけよ
 さっき言ってたけど、理由としては雑談がむしろ一番近いわね
 ん? ねぇそういう嫌そうな表情やめてくれないかしら、気分悪いわね
 もしかしてなに? 幼馴染だとかクラスメートとか言うそういう立ち位置より司令とかそういう肩書きを重視するの訳?
 確かにあれよ、それも私の一面といえばそうだけど。一種のペルソナ?
 そんなのあんただってチルドレンとか常に言われたくないでしょうよ、私とあんたの間に雑談の一つや二つこなす関係性があっても悪くは無いんじゃないの?
「それに修学旅行の時は比較的普通に会話してたじゃない、なによ状況による補正? 地形効果?
 そういう態度の切り替えって対応に困るのよね。…なによ、私が言うなとでも? あんたほんとむかつくわね
 私は昔からこうだったわよ、あんた忘れたとか言わないわよね? むしろそっちの方が不実よ、リアルに
 でもって…、そういえばあれね。とりあえずそこの椅子に座ってくれる? ん、そうよそれそれ
「はぁ…、じゃあどうすればいいわけ? …確かにそれはそうだけど
 学校でのコミュニティに私があんた無しのアローンで混ざれるとでも思ってるの?
 しかもその状態であんたとにこやかにしろと? 普通に学生なら出来たかもしれないわね
 でも状況は違うのよ、あんただけじゃなく部下も居るのよ? できるわけないじゃない、馬鹿?
 あぁもう、帰ろうとするな! 話は終わってないのよ、というか始まっても無いのよ
 これって私とあんたが話すための前座なわけよ? …いや長いとわかってるならもう少し妥協を知りなさいよ
 じゃああれよ、少し私と話さない?」

「…あぁ」

341 名前: ◆7SHIicilOU[] 投稿日:2008/11/12(水) 02:56:44.97 ID:pWffqoSO

頭が痛い、さりとてそれは内側からくる不快なものでは無く、ひたすら沈鬱に際限無く積もるような。
疼痛に似た、一種清々しいまでの痛み。
シンクバンク
しかしそれは思考回路が許容を超え、
シックバック
思考停止を起こしたにすぎない。かように解りやすく言えば俺は激情し、激昂していたわけだ。
短気ではない俺もしかし事ほど左様に年頃で今時のガキであり。


そして、短気でないと、言うことは、決して、我慢強い訳では、――ない。

疼痛はつまり一種偏頭痛。
感情の起伏による血圧の上昇、それにともなう血管による周囲の筋肉の圧迫。
考えが纏まらないのも。そもそも。なにも。考えず。全てを。流れに。
殴ってやらないと。…誰を?
壊さないと。…なにを?

「ぐがぁぁっっ!!!」
咆哮

方向

芳香

ホウコウ?

342 名前: ◆7SHIicilOU[] 投稿日:2008/11/12(水) 03:23:25.46 ID:pWffqoSO

咆哮。

声、俺の喉から発せられてる獣じみたなにか

方向。
ベクトル
俺の方向は一体どこで狂ったのか、これが最良の選択肢の結果だとのたばるのか。

芳香

暖かくも生臭い、錆びた匂い芳香、
血と脳漿とその他体液のカクテルが陶酔すら感じる香水とかす。


白く、白く、白く、そして白かった部屋は、いまや唯一の調度のデスクをえげつない芸術にしたてあげ。
そして同じく部屋の中心に不気味に蠢く何かを残した。
この一瞬を刈り取って、切り取って、千切り取って、抉り取って。
額縁に『至高嗜好』とでも名をつけて部屋に飾りたいと思い。自分の描いた白い部屋の中心のそれらが
まるで日の丸のようだと哄笑した。

539 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2009/01/26(月) 23:25:18.64 ID:36WRxYSO



 水滴が蛇口から落ち、そこから薄い音を立てて波紋が広がる。
それは俺の身体にぶつかり形を変えて静まっていく、
薬湯の元を入れられて緑に染まった湯で満たされたバスタブに
肩まで浸かっている俺は、今日あった出来事を反芻しながら
天井に上がった水蒸気が水に回帰して、再び湯船に戻ろうとする様を眺めていた。

「…」

 思い起こす事の大半は当然、あの愚昧な賢者との邂逅の回孝。
薄桃色の唇から発せられた暴力的で無い暴力と言える何か、それに対する思考だった、
最もそれは考えた所で、その行為は休息と同列に語られる様な
一種愚考とも言える結果しか残しはしなかったのだが

「なぜ…」

 それでも考える。それは別の少数、大半以外の部分での思考。
余暇に孝するただの戯言、虚言、妄言、その内容はいたってシンプル。

「……なんで副指令がメイド服だったんだろう?」

 不思議だった。

540 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2009/01/26(月) 23:35:42.42 ID:36WRxYSO

―――

 風を切る音がした、甲高く、鋭い笛のような音が聞こえた。
が、音というのは現象の結果としての現象であって音が先行する事は無い、
それは基本的な、基盤的な問題であり、音が出るにはなにかその前に動作が在る。

「あがっ……!」

 だから音を聞いて物事に気付いた時には、当然事後ないし進行形
事前なんてことは遠方で爆音がしたようなケースしかありえず、
よって行動を予測して見切るという最善だけで次善は無く。
そのため俺は長門の深く落とした上体に反比例した形で予備動作なしに
綺麗に跳ね上がるその蹴りをこめかみに受けて昏倒した。
しかけた。

543 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2009/01/26(月) 23:59:25.36 ID:36WRxYSO


 蹴りを受けた衝撃で倒れそうになるのを堪えたたらを踏み、とどまる俺。
それを見て取った長門は、回転の勢いをそのままに逆の足の爪先で先程と同座標に
追撃を続けて二撃。カポエラのような動きで俺の側頭部につま先、
さらにまた踵と長門の軽量さを感じさせない強烈な蹴りを食らって、今度こそ本当に俺は倒れた。

「…いっ、つぅ……」
「だいじょび?」
「…なんとか」

 格闘訓練、長門を相手取った俺の成績。56戦56敗、勝率ゼロ。
無残である。が、しかし事実長門は強い、柊も長門に勝ったことはほとんど無いらしい、
まぁ柊は試合ってる所を見せたがらない、ほとんどと言うのが少々怪しい所(まぁ普段の
俺に対する軽佻浮薄さを思えばそれなりに納得である、誰だってこんな小柄の少女に
いいようにやられる様は見られたくないだろう、俺も訓練と言っても
知り合いの女子が、殴り合う姿を観賞する趣味は無いしな)。

 正直、この手の訓練、白兵訓練はつい先日までまったくの一般女子高生だったあやのを除けば
俺は最弱なのだ。こなたなんかは、俺だって数ヶ月前までは訓練とかとは無縁だったのだから仕方ないと言うが
しかし男として情けないと思う気持ちは、確かにある。 そりゃ長門や柊に対して
本気で拳を振るえないという自分の勝手なセーブや言い訳も考えられるのだが。
それがさらに情けない。こなたのフォローを受け入れられず、しかし言い訳するなんて、あまりにもしょぼすぎる。

545 名前: ◆7SHIicilOU[sage] 投稿日:2009/01/27(火) 00:26:20.85 ID:YvMDL2SO


「いんやぁ、しかし随分と打たれ強くなったねキョンは、よく気絶しなかったね? うん?」
「……おかげさまでな」

 やられるだけならまだしも、同年齢の女子に敗北してさらには気絶なんて
絶対にできないという、それもまた情けない男のささやかな意地だった。
こういう中途半端な意地か、また格好悪いと自覚しているのだが、まったくにもまったくだった。
内心にネチネチとある痛みと悔しさで往々と渦巻く不快な気分を、こなたが放った氷嚢で一振、
氷のゴロゴロした感触と右顔面に広がる冷たさでクリアにする。

「基礎体も相当上がったしね、日々精進ね」
「へいへい」

 モバイルパソコンを片手で操作しながら俺と長門に続けてタオルを寄越すこなた、
長門よりもさらにやや身長の低いこいつだが、実際格闘技術は長門よりも高く、俺なんかは
右へ左へぶん投げられる。実戦経験の有無の差は訓練ではやはり埋められない
と言う事を身を持って知った、いい見本で手本だ。射撃の腕前も非常に高く語学も堪能、
喜緑さんみたいに圧倒的な専門家ではないが、しかし泉こなたという人物はその10代という
低年齢も相俟って、こうやって分析するとやはりなにやら素晴らしい、
素直に圧倒されてしまう様なステータスを持つ人間である。
……幼すぎる外見と私生活での適当な振る舞いを知らなければ、…であるが。

「口にでてるよ〜?」
「なっ!? マジか!?」
「…嘘だけど、なにやらお馬鹿さんは見つかったみたいだね?」
「なっー!」

 みたいなことを喋りながら、そろそろ立ち上がる、すると俺を見下ろして居たこなたの顔は
俺の胸辺りまで一気に高度を下げる。…まぁ、実際には俺が高度あげたのだが。
うん、人間の身体と言う物はなかなかどうして伸張性に欠けるのだ、そう簡単に伸び縮みさせるには
怪しい木の実でも食べるしかなかろう。

547 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2009/01/27(火) 00:44:22.08 ID:YvMDL2SO


 しかし、と俺から離れて黙って汗を拭く長門に声を掛けるこなたを見ながら、
もしかして身長と実力は反比例するのじゃないだろうか? などと言う思考が頭を過ぎる。
まぁヒットするゾーンが狭いしな、速いし。

「口にでてるよ〜?」
「こ、今度はそんな手には乗らんぞ!」
「……その理論でいくと、あやのちゃんはそのうちかがみより強くなるねぇ?」
「なっー!」

 今度は本当に口走っていたらしい、しかも恐ろしい事実の発覚。
俺はどうやらあやのの尻に敷かれるのかもしれない。恐怖。

「まったく失礼しちゃうよね、小さい小さいって」
「…事実」
「あのねぇ…ゆきも言われてるんだよ? 悔しくない?」
「別に」
「あっそ…」



549 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2009/01/27(火) 01:13:00.18 ID:YvMDL2SO


 不貞腐れるこなたと、絡まれながらも微動だにしない長門、というより相手にしてないのか。
とりあえず俺はその二人に先んじてシャワーを浴びることにして、その場を去らせてもらう。
いくらタオルで拭いたところで匂いやベタベタした感触はそう簡単にとれやしないからな。

 圧縮空気が流れて扉が自動に開く。道場と言われて畳の敷かれたあの部屋も、出入り口はハイテクだった。
 ヒンヤリとした空気が外にでた直後に身体を包む。急場でない本部は対して人はおらず、
廊下の空気は循環機で、少し肌寒いくらいに保たれている。
それは、まぁ火照った身体も作用してのことだろうけど…。

「ふぅ…、なんか買ってくか」

 訓練道場の前には、気を使った結果なのか、自販機のある休憩所がある。
観葉植物が白い鉢に入って僅かばかりの緑を見せるその場所に訓練で当然渇いてる喉の欲求に従い
ウェアのポケットからIDカードを取り出して自販機に差し入れる、欲しいのは炭酸。
グイッといきたいものである。


561 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2009/01/28(水) 00:49:13.87 ID:YP0XnQSO

>>549

 炭酸の抜ける音、キャップを開けると同時にするその音に爽快さを感じる。

「……ぷはぁっ…、さてと帰るか」

 刺激の強い液体が喉を通り過ぎる感覚に身を震わせて、
タオルでガシガシと髪の毛の水分を拭う。汗でなく、シャワーで濡れた髪は
しかしドライヤーでも使わなければいつまでも湿っていて、このままバイクで帰ると
ヘルメットで髪が変になるな、と少し車が欲しくなる。

「……つまんねぇ理由だな俺」

 グイッとペットボトルの残りを飲み干して、空になった容器を捨てる。

 今夜の夕飯はなににしよう?

563 名前: ◆7SHIicilOU[sage] 投稿日:2009/01/28(水) 01:17:42.85 ID:YP0XnQSO



――――


 ポンと小さく、危うく聞き損ね兼ねない音。
俺がそれに気付いたのは、まぁタイミングが良かったのだろうと思う。
端末用のMMを落としてしまい、それを拾うために顔が、つまりは耳が
ぐっと端末のスピーカーに近付かなければ多分、俺は少なくともその授業中は
このメールに気付くことなんてなかっただろう。

『放課後、体育館裏で待ってます』

 非通知(と言っても教師にはバレバレなのだが)で送られて来たメール。
教室内のBluetoothではなく校内の直接回線からなので差出人に目星が着かない。
……と言うかこれはなんだ? 果し状か? だとしたら古風だが、ハイテク頼りの便りは
果たして古風か?

「あ? さぁ、告白でもしてくるんじゃねぇの?」

 授業後、席の近い日下部に事情を話すと、日下部は面倒そうにそう言った。

「なるほど恋文と言う奴か」
「……まぁそれも間違っちゃいないけど。どうすんだよキョンよぉ。行くのか?」
「まぁそうなるだろうな、無視する訳には行かないだろ」
「彼女いるくせにわざわざ行くのか?」
「無視しろってのか」
「そーじゃねけど」

 机に座って足をぶらつかせる日下部はどうにも不明瞭に言葉を濁す。
らしくないと言えばらしくない。



564 名前: ◆7SHIicilOU[] 投稿日:2009/01/28(水) 01:45:16.05 ID:YP0XnQSO


「いやぁ、流石の私も今回ばかりは燥げないと言うか…
いや、本当、隠しといた方がいいゼ? マジでこえぇからな」

 俺が指摘すると、柊と雑談してる彼女をチラチラと確かめながら、
恐る恐る俺にそう呟く。……そう言う事か。

「あやのは静かに怒るからなぁ…」
「大人しい奴ほど怒ると怖いって言うし、色恋でのいざこざが過去にないから
なんとも言えないけど、やっぱり怒らせない方が…」
「そりゃな、だがあやのがそんな事でどうこう言うか? 二股かけようとしてる訳じゃないんだぞ?」

 俺がそう言うと日下部は大袈裟に首を一回りさせてから
「わかってない!」と机からわざわざ降りて、自分の座っていた辺りを両手でバンと強く叩く。
お前あやのに隠したいのかばらしたいのかどっちだ?

「前者に決まってるだろ! いいかキョン、女の子ってのは恋した男に対しては
平常なんてどっかにだな、ポーンなんだよ」
「そうか、わかったから落ち着け」
「とにかく、さっさとフッときて何事もなかったかのようにだな」

 ……あー、それなんか今更無理っぽいなぁ

574 名前: ◆7SHIicilOU[] 投稿日:2009/01/29(木) 03:17:23.28 ID:BLRUj.SO

>>564

「なぁに話してるの?」
 あれだけ騒げば、親しい人間なら興味持って話しかけて来ても仕方なし。
柊とともにあやのは、予定通りと言っていい位あっさりこの場に現われた。
まぁ俺は日下部の言う程にはあやのがこの事に対してどうこうするとは思ってないし
そもそも隠そうともあまり考えてなかったので、
「あぁ、実は……」と正直に端末画面を指差して話し始めた。
 と言うかどちらにしても隠してる方が後ろめたそうで余計に怒らせるだけだと思うし。

「へぇ、また分かりやすい呼び出しね」

 簡潔にそう感想を言ったのは柊。

「どんな子かしらね? 隠れて見に行って良い?」

 などと続けてみせるあたり、普通に楽しんでる。

575 名前: ◆7SHIicilOU[sage] 投稿日:2009/01/29(木) 03:49:48.46 ID:BLRUj.SO

>>574

 と。唐突に柊はカタカタと俺の端末を弄りだした。

「…いや、なにしてる?」
「いや、返事してあげようと思って」
「なにを勝手に…」

 意味不明な行動をする柊に対し、当然のようにその腕の動きを遮ろうとする俺。
 よりも早く

「やめてね柊ちゃん。キョン君は当然ハッキリキッパリ断るんだし、
返信なんかして希望もたせちゃ可哀相でしょ? キョン君は欠片もその子の好きになるわけがないんだから 」

 恐怖が舞い降りた。


595 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2009/02/02(月) 03:12:37.57 ID:05LhdsSO

>>575

 と言う感じで。あやのに本気で恐怖を抱いた訳じゃ決してないが
しかしまぁ現在俺はあやのと付き合っていて、好いているのは事実で、
俺は当然その呼び出しに応じ、相手に早急に自分の意思を伝え、
さっさと帰ってあやのの機嫌を取る運びになった。

 ……っとストップだ、何故か気付けば女子からのラブレターである事が決定事項で
あるかのようになっている。まだ果し状や悪戯の可能性も捨て切れんと言うのに。
 いや、むしろその可能性の方が高いだろうのにだ、俺がエヴァのパイロット
だと言う事実はこの高校内では自明であるし、それは柊やあやのも同じ事で、
そう言う有名人(笑)みたいな扱いを受けてる奴が気に食わない奴は確実に居るだろう?
少なくともミーハー的に告白を行う女子よりムカついて悪戯を行う男子の方が多そうだ、
外見や勉学や部活で活躍したりなどわかりやすい形で有名なのではないのだから。

 ま、そんな事を思った所で既に事は終わり間際。
後ろの茂み越しに複数の気配を感じつつメールの相手を待つ放課後なのだが。

596 名前: ◆7SHIicilOU[ ] 投稿日:2009/02/02(月) 07:58:32.15 ID:05LhdsSO


「来ないわね?」

 茂みin柊がボソッと呟く。
お前はそれで隠れてるつもりか? 無理矢理お前が連れてきた長門を見ろ、
ほぼ完璧に自然と一体化しているぞ。見習え。

「…だが確かに遅いな」

 長門が暇を持て余して本を読み始める前に来ていただきたい。
本を読み始めたら一区切り付くまで根が張って動かなくなるんだから。

「本当に悪戯だったのかしら」
「なら時間を無駄にしたな」
「私はその方が都合がいいけどね」
「……」

 一見、一人で植物と会話している不信極まりない人物を演じて居る。
あっちもあっちで傍からみたら等しく不信だからまだいいが。…よくないが。

と、

「あの…」

 声を、かけられた。
 知らない、声だった。

597 名前: ◆7SHIicilOU[] 投稿日:2009/02/02(月) 08:22:50.66 ID:05LhdsSO


「……」

 あれ程暇そうに文句をたれ、呼び出し人の登場を待望むような口振りだった柊も
呼び出した女の子(あの時点ではまだ確定できないにも関わらず)に対し
猛烈怒髪(誇張表現)だったあやのも、元から静かな長門は言うまでも無く
ひたすらにその自身の存在を消していた。まるでこの場には俺と目の前の彼女しかいない
とでも言いたいかのように。
戸惑いを隠せない俺に彼女は嬉しそうに

「驚いた?」

 と、やたらと心地よい響きの声で朗々と問う。
まるで思い付きの悪戯の結果を待つ子供のように、だ。

「……まぁ、それなりに」
「あはっ」

 そして、目を輝かせて成功を確認した子供は、朝倉涼子は、楽しそうに快活に笑った。


 

598 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2009/02/02(月) 09:03:49.59 ID:05LhdsSO

さて、これからどういう展開になるのか
ぶっちゃけノリとフィーリングで新たなキャラをだすべきじゃ無いね


どうしよっかな

621 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2009/02/04(水) 22:35:01.32 ID:kHxsbwSO

>>597

 ぱたん。
 軽く、長門の本を閉じる音が聞こえる。
……まさかお前までこっちに興味を示した訳じゃないだろうな?
聞きたいのだが、差出人が来たいまそれは叶わない。
仕方ない、いまは目の前の朝倉に集中にするべき…

「――っ!?」

 キスを、された。
 唐突に、いつの間にか接近していた朝倉に。

「どうしたの?」
「…どうしたもこうしたも」

 背後の茂みが怖いって言う。



623 名前: ◆7SHIicilOU[] 投稿日:2009/02/04(水) 22:51:32.25 ID:kHxsbwSO


「ここに来てくれたってことはいまの彼女から私に乗り換えるんでしょ?」
「いや、そうじゃなくてだな…」

 生徒会書記をやっている朝倉の事は、まぁ一生徒として知っていた。
が、こうして向かい合うのは初めてで。……こんな性格だったのか…
なんと言うか、まぁイメージなんてそんなモノだ

「ん〜? あっ二股かけようとしてる? 私はいいけど」

 そう言ってさらに身を寄せようとする朝倉に俺は死を覚悟した。
いつか喜緑さんに言われた言葉が脳に過ぎる

625 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2009/02/04(水) 23:19:05.99 ID:kHxsbwSO


「いや、だからそうじゃなくてっ!」
「あのね、キョン君はあなたにお断りの旨を伝えるために来たのよ。
朝倉さん生徒会書記をやってるのに回転悪いのね」

 隠れて居たあやのが現われて、俺と朝倉の間に入り込み言う。
そこに普段の柔和な笑みはなかった。

「…あら、そうなの?」「まぁ…そういうことだ」
「わかったら、もう言ってくれるかしら?」
「…なぜ?」

 なぜ俺はこんな険悪なオレンジロードもどきを体感してるのだろうか?
誰か俺にご教授願いたい。

626 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2009/02/04(水) 23:39:36.37 ID:kHxsbwSO


「ふふっ、いいわ。目的の一つは諦める」

 朝倉はふと笑みを浮かべて、俺達から少し距離を取り、
あやのに対し「そんなに怒らないでよ」と苦笑いを浮かべる朝倉。
いや、俺が言うのもなんだがキスしておいてそれは無いだろ…。
もう少し殊勝な態度の一つは取れないものか。逆の立場で俺ならすでにストリートバトルに発展してるぞ。

627 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2009/02/05(木) 00:03:23.07 ID:VeiLBMSO


 一歩。朝倉が首を傾げてから離した距離を詰めた時。
ドンとあやのがその距離以上に俺を押して朝倉から遠ざける
と同時に長門と柊も姿を現して、朝倉に対して構える。

「お、おいあやの。いくらなんでも少し落ち着け! お前らもなんだいきなり!?」

 まさかそこまであやのが怒りに奮えていたのかと思い。落ち着かせようと
手を伸ばした所で、遅ればせながらやっと気付く。
あやのはそんなこととは別の次元で、朝倉と対峙していた。

「あんたこそ落ち着きなさいよ! 言い寄られてパニクってるの?
あんたそいつが今さっき言った言葉をよく考えて見なさい!」

 先程の言葉
゙目的の一つは諦める゙
目的ってなんだ? 一つってまだ他に俺に用事が? それは一体なんだ?

 一歩。自分の意思で俺は前に進む。
俺の前に立つあやのの肩に手をそえて退いて貰い、さらに一歩。

「本題を、聞かせて貰おうか」

628 名前: ◆7SHIicilOU[] 投稿日:2009/02/05(木) 00:21:01.22 ID:VeiLBMSO


 突然草むらから続けて現われた野生の柊と長門に
しかし朝倉は、思えば大した反応を見せやしなかった。わかっていたのかどうかは
俺にはわからないが、普通なら多少は驚く所だろう。

「そうね、あなたと仲良くなれないのは残念だけど本題に入らないとね」

 そう言っておもむろに制服の内ポケットに手を入れる朝倉。
まさかいきなり゙BANG!゙なんてことはないだろうが
朝倉のパーソナルが不明であり、何者かわからない以上流石に身構えてしまう。

639 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2009/02/07(土) 18:57:13.64 ID:Jem5pcSO


初収録前 楽屋

キョン「ふぅ…」

こなた「? どうしたのキョン君」

キョン「あぁ、どうも泉さん。いやぁ台詞が中々覚えられなくて」

こなた「なるほど、長い台詞多いからね〜」

キョン「難しい単語もでてるし…」

こなた「だね〜、私もキョン君程じゃないけど。車運転したり銃撃ったりとかあるし…」

キョン「いままでにない役柄だから、緊張するし」

こなた「ま、お互い頑張ろうね」


 それじゃシーン1行きまーす



キョン「あっ、はい!」
こなた「じゃあ私もスタンバイしとかないと…
最初から語りで大変だろうけどガンバ!」

キョン「了解です」

640 名前: ◆7SHIicilOU[] 投稿日:2009/02/07(土) 19:07:37.46 ID:Jem5pcSO


シーン1

それはまるで蚊が飛んでいたのに気がついて追い払うような非常に人間的な日常的な仕草で
しかし億単位の値段の戦闘機があしらわれる。

「…っておいおいおいおい!」

 巨人がじゃまっけに思ったのは戦闘機だけでなく暢気に観戦していた俺も含まれるのか
叩き落された戦闘機はまるまま俺に向かって墜落してきた。


キョン「……って、あれ?」


 ゴメーン、火薬処理をミスったみたい〜


キョン「へ? あっそう言う事ですか。わかりました」


じゃあ最初からお願い


キョン「はい」

641 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2009/02/07(土) 19:49:11.67 ID:Jem5pcSO


シーン2 泉こなたと会い 本部への道中

「伏せて」

 と言おうとしたことはわかった。が残念なことにそれはまったく功を奏さず
俺と彼女は車ごと爆風と轟音と吹き飛んでくる多種多様なものに転がさ――

こなた「いったーっ!」

キョン「……」

こなた「……あれ? キョン君?」

キョン「……」

こなた「わー! ちょ、ちょっとちょっと! 気絶してるって! ヘルプ!」


642 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2009/02/07(土) 20:07:19.91 ID:Jem5pcSO


シーン6 病院での目覚め 収録前

キョン「こんな患者服着るの初めてだな…」

こなた「入院なんて、あまりしないしね。特に男の人は」

キョン「? 女の方が入院するのか?」

こなた「まぁ一回はみんな経験するよ」

キョン「?」

こなた「ほら出産」

キョン「ぶっ!」

こなた「ちょ、汚い!」


643 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2009/02/07(土) 21:37:37.45 ID:Jem5pcSO


シーン9 説明

キョン「敷金礼金とかは?」

こなた「カードカード」

キョン「あぁこの中ね、しかしキャッシュカードか。給料ってどれくらいなんだ?」

こなた「パイロットは基本的に一尉と同じ扱いって事で最低でも毎月……」

キョン「…ん?」

こなた「ごめん、忘れた…。いくらだっけ? ……あっ50万か。ごめんなさーい」

651 名前: ◆7SHIicilOU[] 投稿日:2009/02/08(日) 14:54:23.69 ID:j8S7YgSO

>>628

 鳥が飛び立ち、地が微かに震える大音量。
サイレンに「非常事態宣言発令」の避難勧告。

「敵か!?」
「でも連絡が…」

 朝倉がなにを取り出そうとしたのかなんてのはこの際忘れる。
それよりいまはこの鳴り止まぬ避難勧告だ。
携帯はうんともすんとも言っていないし、神人の姿も見えないが、
しかしまさか誤報と言う事も?

「悪いが朝倉、話の続きは後でだ! とりあえずは本部に向かうぞ皆!」「う、うん。わかった」
「あんたは先にバイクで行ってなさい、私達は後から追いつくから」

 そう、話がまとまったところで警報がピタと鳴り止む。
なにやらその所為で出鼻を挫かれ、立ち止まってしまう俺達。

「なんだ? 結局誤報か? 三賢者はなにをしくさってるんだ」
「最新鋭都市にも誤報ってあるのかしら?」

 と、誤報の方向で話が固まり始めた時に電話がなる。
――当然緊急用の携帯だ。

「…もしもし」
『キョンいまどこ? って学校か、全員居るね?』
「あぁ…、聞いてるぞ」
『ならよかった、至急全員に来て貰いたい』
「……了解」

 携帯をたたんで、ポケットにしまい。耳を澄して聞いてた三人と
目配せをして再度走りだそうと―

「待って」

 したら、朝倉に呼び止められる。既に避難したと思い込んでいた。
そう何度も戦闘を見学しようとする人が居ても困るんだが。

「ちょっと、聞いての通りよ。さっさと避難しなさい」

 何度も止められて苛立った様子の柊が語気を強めて言う。

「…これを持ってって」
「…これは、手紙?」
「確かに渡したからね」

 朝倉が土壇場で渡したのは、薄い黄色の封筒だった。

652 名前:多丸さん兄弟が多丸三兄弟に聞こえる ◆7SHIicilOU[sage] 投稿日:2009/02/08(日) 16:09:56.53 ID:j8S7YgSO


―――

 結局バスを利用して本部に到着。
IDカードを読み込ませてゲートをくぐるとやおら騒がしくなっていた。

「で、あの封筒の中身はなんだったの? さっき見たんでしょ」
「……さて?」

 柊の追及をいなしてあたりを見渡す。
こなたからの連絡も合わせて考えるに、やはり何か起きてることは確からしい。

「やほ」

 指令室に向かう過程で、多くのスタッフ達とすれ違った後。
こなたが休憩所でベンチに座って俺達を迎えた。

658 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2009/02/10(火) 14:44:55.15 ID:KPNuQgSO


こなた「でさ〜、やっぱり最初は色々――」

キョン「いや、いまもだと思うぞ……」

こなた「NG? みたいなのさ、見直して懐かしくて笑っちゃうよ」

キョン「だな〜………、はい? なんと! おいこなたもう始まってる始まってる!」

こなた「えっ、やば! …ごほん。 こんにちはー! 泉こなたです」

キョン「キョンさんです」

こなた「お久し振りのハピらきSOS会議ー♪」

パフパフー♪

キョン「本日おこしいただいたのは…」

あやの「キョン君のクラスメート兼4thチルドレン峰岸あやのです」

みさお「二人の友達の日下部みさおだぜ」

こなた「こちらのお二方です」

あやの「よろしくお願いします」

みさお「よろしくな」

659 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2009/02/10(火) 14:53:32.50 ID:KPNuQgSO


こなた「はい、じゃあキョン」

キョン「ん?」

こなた「フリップ持って来て」

キョン「……」

ガラガラ
スタスタ

パサッ

キョン「はいよ」

こなた「ありがと。じゃあ早速二人に質問」

みさお「質問?」

こなた「そ、よくあるでしょ? その人の人となりを少しだけ掴むための」

キョン「あれ、いままでそんなのやって……だっ!?」

こなた「はい、じゃ一問一答いくよ」

あやの「あっはい」

みさお「こいやー」

660 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2009/02/10(火) 15:06:48.14 ID:KPNuQgSO

こなた「じぁ、最初は一番上のをペロっと」

キョン「好きな食べ物か…無難だな」

こなた「最初だから」

キョン「…」

みさお「ミートボールとハンバーグ!」

あやの「私は最近カボチャのポタージュとか、和風なのなら茶碗蒸しかしら」

キョン「へぇ茶碗蒸しか…、今度作って見るかな」

あやの「楽しみにしてるわね?」

キョン「あぁ任せろ」

こなた「はいストップ、いちゃつかない」

みさお「ってかわたしはスルーかよぅ」

キョン「ハンバーグとミートボールなんて同じものじゃないか!」

みさお「ち、ちげーよ。ハンバーグとミートボールは全然違うんだってヴァ」

キョン「うるせー! そんなもの、グチャグチャになった卵焼きと
スクランブルエッグ程の違いもありはしない」

あやの「キョン君、その辺でね」

キョン「あぁわかってるよあやの。言い過ぎたな、悪かった日下部」

みさお「こいつら…」

こなた「はい次いこー」

664 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2009/02/10(火) 22:54:41.77 ID:KPNuQgSO

>>660

こなた「じゃあ、二つ目」

キョン「はいはい、ペリペリッと」

こなた「マイブームはなんですか」

キョン「これまた定型文な質問だな…」

みさお「マイブーム……、ってなんだっけ?」

あやの「今自分の中で一番流行ってる物の事よ。好きな事でもいいかしら」

みさお「ほっほう、んじゃあ私から…」

キョン「゙食べる事゙とかそれに準ずることを言ったら殴るからな」

みさお「えぇぇ!」

あやの「ほら、みさちゃん。大きな声出したら聞いてる人が困るわよ?」
みさお「みゅぅ〜、えっと、私のマイブームは…」

キョン「゙寝る事゙も禁止な」

みさお「キョンは私をなんだと思ってんだよぅ!」

665 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2009/02/10(火) 23:05:44.83 ID:KPNuQgSO


あやの「そうね、私は最近はボードゲームにハマってしまって…。色んなのを買っちゃった」

こなた「例えば?」

あやの「ダイヤモンドゲームとか、バックギャモンとか。まとめてできる大きなセットが売ってるんです」

キョン「あぁ、知ってるなそれ。知り合いが持ってた」

こなた「へぇ将棋とかチェスも?」

あやの「できますよ」

こなた「凄いね〜、私はアナクロなゲームは苦手でさ」

みさお「……あれ?」

669 名前: ◆7SHIicilOU[] 投稿日:2009/02/12(木) 22:07:22.91 ID:UsHnGoSO

>>652

「おいこなた、一体今日は誰の誕生日だ? 些か大掛かりすぎるようだが」

 とりあえず質問の形を呈した軽口をたたく。
戦闘配備はされてないようだし。第一その場合は各員持ち場につくときは慌ただしくても、
通路を走る人間はすぐに姿を消すはずだし、
それにこなた自身もこんな所でのんびりしてられる筈が無い。状況が見えない。

「いやぁ、まったくご明察だと言いたいんだけどね」
「…こなた、さっさと呼び出した理由言わないなら私達帰るわよ?」

 短気な柊がすぐにそう言い、こなたが渋面を作る。
それを見て、柊を黙らせこなたに再度、真面目に問う。
「あの警報はなんだ? いまなにが起きてる? 神人なのか?」と、
こなたは

「YES、神人の確認に因るコンピュータが自動的に行った警報だよアレは」

 答えを聞いて、柊が俺の腕を退けて「じゃあその敵は!?」と、
今度は誰も止めず、こなたの返答を待ち。

「いま喜緑さんが孤軍奮闘中……かな」

 絶句した。

672 名前: ◆7SHIicilOU[] 投稿日:2009/02/12(木) 22:52:43.68 ID:UsHnGoSO

>>669

―――

 キリスト生誕の折、マリアとキリストを拝み、金と乳香と薬を捧げた
東方より現われた三人の占術士。
即ちメルキオール、バルタザール、カスパール。
 その名を冠した第七世代人格移植OS、それがSOS本部指令室に鎮座する
巨大なスーパーコンピューターの正体だ。
 MAGIと通称されるそのコンピューターの存在を俺は実はかなり前から、
それこそ設計初期段階から知っていた。

 なぜならそれを設計、完成させたのは現在俺の前でキーボードを高速でたたいている、
喜緑江美里さんと涼宮ハルヒと――――、
そして俺の合計四人であるからして。

 ……いや、それは余談。
非常にくだらない、他人の自慢話や、夢の内容の様につまらない話なので、
これ以上は割愛させていただくが、とにかくその地球上で最高の処理能力を誇る
最強のコンピューターと、耐圧ガラスの向こうで発光するナノ単位の神人が、
現在高度な情報戦を行っている。

「敵、今回の神人はナノ単位の極小サイズ、故にエヴァでの直接迎撃は不可能。
非常事態宣言の警報を中断したのは、神人が既に本部内部に潜入済みで、またその進攻方法が
こちらのコンピューターにハッキングし、本部を乗っとるという過去に例のないパターンのため。
ドゥーユーアンダスタン?」

 と言うのがこなたの説明だった。
するとなるほど、戦闘配備されていないにも関わらず過去にない程に慌ただしい本部。
そのくせ手持ち無沙汰なこなた。警報の発令と直後の解除。全てに対し納得できると言う物だ。


676 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2009/02/12(木) 23:29:01.91 ID:UsHnGoSO



「……じゃあこなたさんはなんで私達をここに呼んだんですか?」

 いままで黙っていたあやのが控え目に聞く。
……そういや何故だ? エヴァでの直接戦闘が無い以上俺達パイロットに出番があるとは思えないんだが。

「ん、そうだね。みんなを呼んだ理由はね」

 そう言って、ハイとプラグスーツを各自に渡すこなた。
こいつは先程言っていた、今回の神人に対しエヴァは使えないという言葉を忘れたのだろうか?
若年性アルツハイマーか?

「失礼な…」
「すまん、だが理由を教えてくれ。どういう事だ?」
「今回の神人は、現在普段テストに使ってる模擬体を侵蝕してMAGIにアクセスしてるの。
だから万一にも、エヴァ本体に手を出されるわけには行かないからパイロットのみんなには
エヴァを地上に射出後、エヴァ内部で待機してもらう。
それに神人がMAGIを乗っ取って最終的になにをするかと言ったら本部の自爆決議、
これはほぼ確定事項だろうとスタッフの意見は一致してる」

 こなたが言うが早いか本部中のスピーカーから、バルタザールによる自爆案の立案されたと放送があり、
こなたは「ほらね?」と苦笑いを浮かべる。

「もしも本部が自爆することになったらエヴァの中が一番安全なんだよ、
12000の特殊装甲とA.T.フィールドがみんなを守ってくれる」


679 名前: ◆7SHIicilOU[] 投稿日:2009/02/13(金) 00:07:06.34 ID:r8VOD6SO

>>676


 まるですでに諦めてるともとれる発言。
いや、わかってる。最悪の事態を常に想定し最善にできるだけ近い策を練るのは
作戦指揮官であるこなたの職務であり、それ以上に家族である自分達の身を案じてくれてる事を、
俺はそのこなたの瞳の色から、切なそうな色合いのそれから痛い程理解できた。
だから、

「……わかった」
「ちょ、ちょっとキョン! あんた、この状況でなにもしないで自分達だけ安全圏に行くことになにも思わないの!?」

 まるで失望したと言わんばかりの声色で俺に向かって声を荒げる柊。
言いたい事はよくわかる。…だが、悪いがここは引いてくれ柊。

「これからスーツに着替えて、ケージに向かう。各自エヴァに搭乗した後
地上にて別命あるまで待機、これが今回の神人に対する俺達にくだされた命令だ柊」

 少し語気が荒くなったかも知れない。
むしろ非常に冷淡な発声になったかも知れない。
とにかく、俺の通常とは違う勢いの発言で柊は気圧された様に黙る。
あやのも、どこか悲しそうな、哀しそうな眼で俺を見ていた。

 ――ただ長門だけが、いつもと違う意味深長な視線を俺に向けていた。

「…わかったわよ」

 数秒の睨み合いの末、柊は足元に目線を逃がして、渋々てそう呟いた。
そして、先程渡されたプラグスーツを強く握り締めて。
「あんたって本当に馬鹿よ」と言って、指令室をでていった。
続いて長門が「また、あとで」と一言残して去り。
最後にあやのが「今晩はおやつ抜きだからね」と言っていなくなった。

 そして、残された俺はこなたに向き直り。

「それで、俺はなにをすればいい?」

685 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2009/02/13(金) 23:20:55.74 ID:r8VOD6SO

>>679

―――

 パイロット不在の初号機。
それと、シンクロしてない状態でただプラグに乗せられた柊達の乗る零号機、弐号機、3号機は
無事ジオフロント内部の地中兼地上へ射出されて待機している。

 そして俺はどうしているかと言えば。
朝比奈さん、国木田、パティのオペレーター達、
そして喜緑さんと協力して神人の対処に追われていた。
――頬に小さな紅葉を携えて、だ。

「……」

 カタカタと言うよりはカカカカッと言う感じの
 音の連続で無く、合わせて一つの音の様なタイプ音。
 ドラムロール。

690 名前: ◆7SHIicilOU[] 投稿日:2009/02/13(金) 23:44:59.79 ID:r8VOD6SO

>>686

 コードの海、踏まずに歩くには足を引きずるしかないような状況。
そこに一つ一つに番号が振ってある大量のキーボードや
記号と英数のみで構成されたメモの山。

 普段は指令室の床下(?)に格納されているMAGIを構築している、中身の部分。
そこにあるメンテナンス用の空間に俺は、俺と喜緑さんはいて、
国木田達はその空間の外でサポートをこなしている。

691 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2009/02/14(土) 00:14:55.90 ID:LTKcvUSO

>>690


 現在、状況は極めて劣勢であると言える。
神業的(笑えない冗談と言える程に適切な表現だ)スピードでMAGIに対しハッキングを行い
本部の掌握を計る神人に対し喜緑さんが行った行動は二つ、
ロジックコードと形成係数進数の変更。

 前者により最初に神人に奪われたバルタザールからメルキオールに対するハッキングの、
後者により神人本体による解析の速度を格段に落とす事ができたが、
それも時間の問題でメルキオールはすでに半分近く神人に犯されている。

 三機のMAGIが全て乗っとられれば当然自律自爆は可決され、
本部は蓋になってる地表を吹き飛ばして無くなるだろうことは明白。

 かの様な生体有機コンピューターであるとされる神人に対して喜緑さんは
ハルヒ、森さん、こなた、オペレーターズ、そして俺に対して、
変わらぬ柔らかな笑みで自らの頭脳により導きだした作戦を述べたのだった。




 曰く「逆ハックを仕掛ける」、と

694 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2009/02/14(土) 15:26:38.41 ID:LTKcvUSO

>>691

 逆ハックとは。
通常自らのコンピューターに不正アクセスしつきた相手に対して行う一種の報復行為であり、
ハッキングを仕掛けて来た相手のコンピューターの破壊を目的にするものだと俺は思っていた。

 まさか向こうから通れてこちらからはアクセスできない理由はない。
一方通行といくら言っていても道があれば通れる。それこそどこへでも、垣根も隔たりもなく、だ。
まぁそれは当然ルールを破るにはそれなりのツールとスキルが必要だが、
ルーツは知らないが喜緑さんにはその圧倒的なスキルが備わっている。


 いる……のだが、まさか神人に対しハッキングを行うなどと言うとは―
前述の通り、神人がこちらに対しハッキングを仕掛けてる以上そこにはネットワーク上の
通路が確実にある訳で、どうしても奴等の進行を妨げられない以上攻勢にでなければならず。


 カタカタと言うよりはカカカカッと言う感じの音が聞こえる。ドラムロール。

695 名前:愛・おぼえてますか? ◆7SHIicilOU[] 投稿日:2009/02/14(土) 17:06:57.49 ID:LTKcvUSO



  コードの海、踏まずに歩くには足を引きずるしかないような状況。
そこに一つ一つに番号が振ってある大量のキーボードや
記号と英数のみで構成されたメモの山。
MAGIカスパール内部のメンテナンス用空間。

 そこで俺は喜緑さんと長いコードでMAGI、カスパール内部の人格構成部分に繋がったキーボードを
無言でたたく作業に集中していた。

「意識を持つ、生きたコンピューターなら、プログラムを書き替えて
本部に進行すると言う意思を消してしまえばいい」

 ハッキングしただけでは問題の解決には当然ならない。のでハッキングしたその先
神人を倒す、少なくとも無力かする作業が必要な訳で、
先程の台詞は喜緑さんがやろうとしていることを乱暴に説明したもの。
つまりは逆ハッキングの先の作業だ。

709 名前: ◆7SHIicilOU[] 投稿日:2009/02/17(火) 00:00:44.12 ID:CnqdJQSO

>>695

「流石ね」

 なにを言われたのか、認識するまで幾許かかかり。
理解した後もその言葉の意図が把握できず、返答に詰まった。

「あなたに苦手な物ってあるのかしら?」

 キーをたたく速度を緩めずに喜緑さんは続けて言葉を発し、
俺はようやく先程の言葉の意味を正確に飲み込んだ。

「まさか喜緑さんみたいな人にそんな事を言われるとは、驚愕極まりますよ」

 同じく、と言うにはタイプ速度に違いがありすぎるが
俺も速度を落とさず、脳内を二つに分けて言葉を練る。

「MAGIの製作初期段階、第七世代としてのコンピューターに人間の人格を移植する。
涼宮さんが発案した試作的初期機の製作のほとんどをあなたが手掛けたと聞いてるわ。
初期規格のOS、人格の移植における被験者の選抜、解析及び構築。これらを行ったとね?
私はあなたに続いた人間よ、当然の感情じゃない? 流石あなただとね」
「買い被りも度を過ぎれば皮肉もしくは嫌味ですよ喜緑さん、
俺はあいつの設計に口出しして、言われた通りに形作っただけです。
素材を、機材を用意されて作り方を横から逐一教わりながら作っただけですよ、
まさか喜緑さんだってエヴァの装備を一人で作る上げる訳じゃないでしょう?
研究者は研究、検証、設計して、人に作らせて評価を得る。
そこには多大の、自らがそれの意味を知らずに組み上げる労働者が存在し、
コレの最初期軌道の時はハルヒが研究者であり、俺はただの労働者ですよ。
あいつもあの頃はただのガキで金なんかあるわけないですからね」

 立て板に水で喋り、想起する。四年前、それ以上になるあの頃を。
だがそれも一瞬の走馬燈、すぐに意識をボードに戻す。
まだ神人にハッキングを仕掛けるどころか、神人に送りつける゙ウィルズも完成していない。

710 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2009/02/17(火) 00:35:39.25 ID:CnqdJQSO

>>709

 こちらからハッキングをかけると言う事は、現在展開されている防壁を全て開放すると言う事で
その状態でカスパールが他の二機に攻撃された場合、せいぜい20秒程度しか持たずに陥落する。
つまり、ハッキングして神人を無力化させるための作業をその20秒間で完了しなくてはならない。

 これは想像以上に骨だ。
と言うか、理論上不可能だ、だから先んじてプログラムの骨組を神人の動きを抑制させてる間に
作っておき、残りをその20秒で入力する。文章にすればさらに困難に思えるな…。
メルキオールがバルタザールにより完全に寝返るまではあと2時間、それまでに
この作業を終わらせて、ハッキングを開始するだけでもギリギリだと言うのに。

「確かに、あなたの名前は表にでてないですけどね」

 先程打ち切った筈の会話を続ける喜緑さんに俺は微かに苛立つ。
自分らしくないが、誰にも触れられたくない過去と言う物がある。
俺にとって生まれてからここに来るまでの全てがそこに含まれる。俺は過去を探られるのが嫌いなんだ。
だから自然、口調が荒れる。

「それがなんだって言うんですか? いまはそんな雑談に興じてる場合ではないでしょう?
あなたとの会話は俺にとって有益ですが、今回ばかりはそうは思えない。核心をのらりくらりと
外しながら外堀を埋めて、冗長ですよ喜緑さん。普段ならまだ許容できますが今の俺には無理だ、
俺は凡人だから焦るんですよ。わかりますか? いまは焦って事を進める場面です、一刻を争う場面ですよ。
あなたにはそれがわからないのですか? それとも俺の過去に、その功績の如何がこの場に
重要な意味合いを持つのですかね、ならば早急に話を進めて帰結させていただきたいものですが」

711 名前: ◆7SHIicilOU[] 投稿日:2009/02/17(火) 00:59:33.77 ID:CnqdJQSO

>>710

「……、ですがそうやってキーボードを叩く姿を見るとやはりあなたは確実に
MAGIの創造主の一人としてあなたは数えられるべきだと思うんですよね。
三賢者の名を借りたこの三位一体のシステム、それを作り上げたのも三人なら、
まぁ確かに語呂がよろしいのでしょうけどね。
でもそれならば何故私がそこに加わっていて、あなたが居ないのか。疑問に思うんですよ。
確かに私はことコンピューターに関しては非凡な能力を獲得してはいますが、
MAGIに関与したのは完成間際の調整や人格移植のデータ作成等だけです。
確かに完成させた者の一人は私でしょう、それは真実です。
しかしそれこそ私はあなたの言う労働者、フェロー、手伝いの追加要員です。
なのに何故あなたがカウントされず私が居るのか、涼宮さんとあなたと彼女は
幼少よりの知り合いで三人とするなら普通は最初からかかわり続けていたあなた達であるのが普通でしょう?
あなたと、涼宮さんと、さ――」



713 名前: ◆7SHIicilOU[] 投稿日:2009/02/17(火) 01:24:29.70 ID:CnqdJQSO


 もはや指は欠片も動かず、ボードの上で握り締められる。
 やめてくれ、何故それに触れる。
 あいつの名前を呼ぶな。
 俺に干渉するな。


 暗い、狭苦しい空間に喜緑さんの分のキータイプの音だけが響く。
それに、俺のの深呼吸が混ざり。別のタイプ音が再び参加する。
さっきの会話はなかった、俺は激昂しない、高翌揚しない、冷静だとアピールするために。
もう、態度から情報は与えない。貴女は、ずるい。卑怯でした。


「……キョン君」
「なんでしょう喜緑さん?」
「前にあなたに一つ忠告したことを覚えているかしら?」

 ……刺されるな、だったか。

「覚えてますよ…」
「そう、頬はもう痛まないかしら?」

 ……喜緑さんは今度は言いたいのだろう、
自分に手伝える事がないかと、柊達に行かせてからこなたに
聞いて際に張られた頬の紅葉はすでに無くなっているが。
それがどうかしたのか?

744 名前: ◆7SHIicilOU[] 投稿日:2009/03/02(月) 00:32:48.94 ID:BmqfBMSO

>>713

 そろばんをやる子供のようにパチパチと音を軽く立ててから、彼女はここで始めてその手の動きを止めた。

「コーヒーでも飲みましょうか」

 連動する俺のボード、その枠の右上にある電卓程度の画面に連なる英数は、
いま行っていたプログラムの完成を意味していた。

「付き合ってくれるかしら? …息抜きに」
「……いいですよ」

746 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2009/03/02(月) 00:45:34.83 ID:BmqfBMSO

>>744

 心地よい痛みと軽快な音。
どうやら俺は頬を張られたらしい、この場合俺は反対の頬を差し出すべきか?
いや、反対はすでにこのたにはたかれた訳で。
ならば喜緑さんは狙ってこっちをはたいたのだろうからまぁいいか。

「…一応聞いてもいいですか?」
「なにを?」
「いま何故平手を食らったのか、ですよ」

 喜緑さんが使うデスク。
発令所の一角にあるそこで、俺は喜緑さんに突然はたかれた。
いや、前フリはあったけれども。

 そして思いっきり振りかぶって振り下ろして振り抜いた喜緑さんは、
すでに俺に背を向けてコーヒーを淹れている。
神人にこちらから攻撃を仕掛けるまで後25分と言った所か。

「私はね、自分のやったことに自信を持てない人って嫌いよ」

 そんな台詞は白い悪魔のパイロットに言ってやれ。
まぁ俺も無理矢理言えば紫の鬼神のパイロットだが、そんな二つ名は無い。

749 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2009/03/02(月) 01:22:17.98 ID:BmqfBMSO

>>746

 熱を持ち、長く痛む頬をさする。
…結構痛かったかな。

「砂糖とミルクは?」
「少しでいいです」
「わかったわ」

 柔和な笑みをいつも浮かべてるからと言って、感情が愉快にニュートラルしてる訳では無い。
むしろこの場合彼女の笑みは古泉の野郎と同じポーカーフェイス、感情を隠すための笑顔で、
ならば喜緑さんのいまの気持ちはどんな言葉で表すのが適当なのだろうか?
俺には計り難い。

「嫌いだからって殴られたんじゃ割に合いませんよ。それに不穏当です
あなたが個人的な好悪意で手を出すとは思えません」

 喜緑さんは、しかし反応せずに熱い珈琲が湯気をあげるマグカップの片方を俺に手渡し。
離れた位置にある椅子に腰掛ける。

「親が子を叱るのは何故? 手をあげて叱るのは何故かしら?
それは子が嫌いだからではないわよね?」

 どういう事ですか?
つまりさっきの行為は愛の鞭であったと言いたい訳ですか?

「子に手を上げるのは愛する者が嫌悪するべき行為を行ったから、
個人を好いて、行為を嫌う」
「罪を憎んで人を憎まずとでも言いたいんですか?」


750 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2009/03/02(月) 01:47:15.95 ID:BmqfBMSO

>>749

「でもそんな事はどうでもいいのよ、つまり私はね貴方はもう少し自分を誇った方がいいと思うのよ。
それは自意識過剰の口だけよりは謙虚な姿勢の方が好ましいけど、
貴方のは謙虚や謙遜とは違うわ。卑屈よ。
何故自分を認めてあげられないのかしら?
貴方は自身を不当に過小評価されてもなにも言わずに受け入れてる。むしろそう望んでる。
私にはそれが酷く醜く映るのよ。もっと胸を張りなさい」

 そこまで言って珈琲を啜る喜緑さん。
自身の価値だのなんだのを彼女に言われるとは思わなかった。
どちらかと言えばそのような台詞はこなたが発するような意味合いを含んでいる。
シャンとしろ、しっかり前を向け。と発破をかけるような物言い。

「あれですか」
「…なに?」
「色々とお見通しですか」
「ふふっ、そうね」

 まったく困った人だ。結局MAGI内部での会話すら全て前フリか。
珈琲を一口含んで、最後にもう一つ質問する。

「喜緑さん」
「今度はなにかしら?」
「つまり、喜緑さんは俺の事を好いてくれてるんですか?」

 喜緑さんは本物の、過去最高の笑顔で。

「そうよ」

 柔らかな微笑みでそう言った。

752 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2009/03/02(月) 02:15:23.59 ID:BmqfBMSO

>>750


――――

 メルキオール、バルタザールの両機が神人の支配下に置かれてついにカスパーに侵攻してきた、
普段地上の戦場をモニタリングしている画面に写されたMAGIの簡略図は
メルキオール、バルタザールの二機が紅く塗りつぶされ、カスパーだけが青く正常であった。

 会話は無く、この場で戦う者は皆黙ってキーを叩く。
防壁を全解除し神人の内部に侵入、ロジック解析に二秒かけて作成した"ウィルス"の最終プログラムに
解析した情報を上書きする修正を加える。時間の残高は十秒を切ったか。
辺りはアラートがあちこちで紅く点滅するため、目が余計に疲れる。

「……っ」

 "ウィルス"の修正完了。
あとは神人に送り込み発動、時間は一秒あるかないか……。



753 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2009/03/02(月) 02:30:36.24 ID:BmqfBMSO

>>752

『自律自爆は解除されました。通常体勢に移行します』

 カスパーの正常部をほんの気持ち残した状態で侵攻は止まり、
やがて赤かった部分は全て青く戻っていった。
そして画面に写された簡略図は消えていき、あちこちで安堵の声が聞こえる。
歓声も、聞こえる。

 模擬体を依り代としていた神人は、しばらく明滅を繰り返したのちに、
静かに暗く発光し、大人しくしている。

「お疲れ様キョン君」

 少し疲れを見せながらも変わらぬ笑みを浮かべる喜緑さん。

「終わった、と考えてもいいんですかね?」
「えぇ、大成功よ」
「でも、危険じゃないですか? 完全に消滅させずに置くなんて」

 神人は死んでいない。
自己消滅のプログラムなんてモノを組み込む事は難しくないのに、
あえて喜緑さんは神人の存在を許している。逆に支配下に置いて今尚この本部内にいる。

「そうね、でもこうしておいた方がいいのよ。後々ね」
「そうですか…」
「ねぇキョン君」
「なんでしょう?」
「珈琲飲むかしら?」
「……いただきます」

756 名前:◇7SHIicilOU[] 投稿日:2009/03/02(月) 03:17:25.36 ID:BmqfBMSO

>>753

―――

 一体俺は一日に何回はたかれれば気が済むのだろう。
いや、この場合気が済まないのは俺でなく柊だったりあやのだったりする訳だ。
俺はとっくにお腹いっぱいだ、もう十分だ。
なのに俺は通算三度目と四度目の平手を連続で頂いた。

「これで少しは気が晴れたわ」

 済んではなかったらしい。

「まったく何考えてるのよあんたは! 一人で残って格好いいかも知んないけどね、
こっちは心配であやのなんか死にそうだったわよ!」

 回収されてケイジに無事戻って来たエヴァ。
俺は柊達を迎えにケイジに赴き、そこで怒鳴られている。

「キョン君、無事でよかった」

 同じく怒っていたあやのも、しかし性格の差かなんなのか。
キッと平手をしたのも束の間、ふにゃと顔を崩して涙を湛えた瞳でよかったと抱き付いてくる。

「すまん、皆」
「今度からは私達にも相談しなさい、独断専行は許さないから」
「わかった」
「……」
「長門も、すまなかった」
「いい」

 腰に手を当て怒るポーズを続ける柊も、
俺に抱き付き嗚咽をあげるあやのも、
ただ無表情にこちらを見る長門も、
心配してくれて、いまを喜んでくれてる。そのことが嬉しかった。
喜緑さんと話した事ででてきた過去の俺が薄れて、これで良いと思えた。
昔がどうあれ、この気持ちを抱えて居られれば俺は戦えると、生きて行けると思った。

 この時の俺は、それが単なる愉快な勘違いであることも、
過去から目を背けていることも、
この気持ちを与えてくれる環境が非常に危ういバランスの上に立っている事すらも、
気付いてなかった。

758 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2009/03/02(月) 22:44:12.69 ID:BmqfBMSO

>>756

―――

 手にかかる強い負荷。
耐え切れず両腕は少し上方に浮上る。そして全身を揺さぶる轟音。
防音性に優れた耳あて越しに聞こえるその音を感じ、
ゴーグルの向こう、人型に空いていく穴を見ながらさらに連続で引き金をひく。

771 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2009/03/06(金) 18:45:19.16 ID:.84IZUSO

>>758

 やがて引き金が非常に軽くなり、残弾が尽きた事を知る。
硝煙の上がる銃口をみ、耳あてとゴーグルを外す。

「凄いねキョン君」

 後ろで眺めてたあやのが今にも拍手でもせんばかりにそう言った。

「って言っても、結局人間相手には撃った事は無いし、的に撃つならあやのだってそのうちできるさ」

 あやのは銃撃が苦手だ、刀剣類の扱いも苦手だし、格闘も苦手だ。
それは当人の素質云々もそうだが、あやのにはそういった物への興味が過去になかったからだとも思う。
男ならどんな形であれ戦いと言うものに憧れたりする。
銃刀剣類に限らずロボットなり変身ヒーローもそうだ、
だから目の前に現われたら多少なり興味は持つし、試したくなる気持ちはある。
俺だって戸惑いの中にもそんな気持ちは確かにあった。
でなければ受け入れることも戦いに勝って生き残ることもできなかっただろう。

 しかしあやのにはそれがない、やらなくちゃいけないからやってるだけ。
義務感や責任感の様なものでは、身に着く速度は遅い。
好き物こその上手なれはそう言う意味だ、好きな物は吸収が早い。

「どうしたのキョン君?」
「いや、なんでもないよ。あやのも少し撃つか?」
「…ううん、やめとく」
「そっか」

772 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2009/03/06(金) 18:56:42.32 ID:.84IZUSO

>>771

 白く長い廊下をあやのと二人で歩く。
足音が、やたらめったらに響く。

「キョン君…」
「ん? なんだあやの」

 喫煙所の自販機で、なにか買おうとしてるとあやのに話しかけられる。
が、先が続かない。

「怖くないの?」
「怖くないよ」

 やっと言葉を口にするあやのに即答する。
そんな事は前から自問自答した、簡単な質問だから、
だけどあやのは即座に答えられた事に少々戸惑っているようだった。

99 名前: ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2009/06/28(日) 20:19:58.97 ID:46A5.Ewo

―――

「あんたさぁ」

 一通り読み終わったのかノートをこちらに返してくる柊、
不備がないか、矛盾はないか、何かしらの指摘をしてくるものと
俺は少々身構えていたのだが、結果柊の口から零れ出たのは一言。

「くらっ!」
「はぁっ!?」
「こんな夜中にこんな作業を一人で黙々とやってるとか根暗君じゃないのあんた?」

 なんか吐き捨てるように言われた。
確かに愉快な作業ではないが、しかし自身も関係してる大事な事ではないのか。
俺はなにやら色々とショックだぞ。おい。

「ってかなに? それをどうすんの?」
「どうするとは?」
「あんたの仮説は、つまるところ各神人の情報のリンクでしょ?」
「まぁ大雑把に言うとな」
「で、それがわかって。どうなるの?」
「次くる敵の予想ができる」
「あんたがわかっただけでどうにかなるわけ?」
「このデータはもう少し加筆修正してから喜緑さんに渡す」
「はぁん。で、あんたの見解では次はどんな奴がくると思うの?」

100 名前: ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2009/06/28(日) 20:21:27.59 ID:46A5.Ewo

947 : ◆7SHIicilOU[saga]:2009/05/17(日) 01:40:04.19 ID:kmLkWB6o

 嘆息をついて、あぁお腹すいた早くなんか食べたいな〜。
みたいな感じで俺に聞いてくる柊。
超投槍、70mは飛んだ、間違いない。
が、しかしまぁ一応聞かれたことには答える、
俺なりの見解と考察を加えた自身の仮説を信じる限り、次の敵は。

「こちらの機体を奪う人質野郎、そしてマクロにミクロときたからな」
「あやのの時と全身爆弾にコンピュータね」
「あぁ。だからそろそろ次のパターンにでるんじゃないかと思ってる」
「次のパターン?」
「つまるところデータだけでなく侵攻も引き継ぐ」

 一体一体で攻め込み倒すことを目指すのでなく
役割分担をして後続に情報だけでなく、
もっと別の物を残すやり方。
俺は少しばかり悩む振りをして、自信ありげに柊に言う。

「つまりは露払い役、邪魔なものを排除して後続が攻め易い状況を作る奴がくると予想するね」

101 名前: ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2009/06/28(日) 21:02:40.00 ID:46A5.Ewo


―――

「総員第二種戦闘配備」

 こなたの声を受けて発令所は騒がしくなる。
先ほどまでの整然とした、水面下での騒がしさとは違う。
恐ろしさに突き動かされる慌しさ。恐慌ともいえる騒々しさ。
辺りにはスピーカーから流れるオペレーターズの声。
そしてモニターに浮かぶ巨大な立方体

「向こうから積極的に攻撃してくるって気配は無いわね」
「そのようだな。ただ移動してるだけに見えるな。
 真下を通る人間にも見向きもしない、のはまぁ過去の奴らにも言える共通の事か」
「で、霜払い説はどうなの?」
「いまはどうにも言えんよ」

 パターンオレンジ。
正体不明を表すパターン色。
神人でも人でも、有機物でも無機物でも生物でもない。
正体不明というかもはや意味不明の存在。


103 名前: ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2009/06/28(日) 21:37:29.38 ID:46A5.Ewo


 全ての辺の長さが同一の面が六つの立体。
正六面体。
無意識だったのか、いまさら自分の胸の中心。
強烈な熱を帯びた鉄棒をねじ込まれた場所を抑えていることに気が付く。
嫌な、事件だったな。なんて。

「正体はわからない、なんていってもあれが神人以外の何者でもないことは明らか。
 そうでないにしても友好的とは思えないしね。
 なので君たちには早速出撃してもらいたいんだけど…」

 街中、ビルをよけて浮遊する立法体が映るモニターを俺は眺める。
すでにパイロットは全員この場にプラグスーツを着て立っている。
出撃自体にも文句は無いし、それが勤めだ。
だけれど、あまりにも。

「なにか異議申し立てはあるかな? …キョンは?」
「情報があまりにもない。兵装ビルなり戦車なり、なんなりでいつもどおり攻撃してみないのか?
 攻撃すれば反撃してくるかもしれないし、それでも無視するかもしれない、
 なんにせよ少しでも相手のでかたが知りたいところじゃないのか?
 まったく情報なしで飛び出るのは些か不安だが」
「私もそれには同感ね」


104 名前: ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2009/06/28(日) 21:51:50.18 ID:46A5.Ewo


 柊だけでなく、長門とあやのも無言ながらに賛成票を投じている。
それを見て取ってこなたはやや困ったように頭をかいてみせた、
その表情には「やっぱり」という色も些少ながら混じっていた。

「そうしたいのも山々なんだけどね…、
 依然復旧率一桁なんだよ。市街の修復にお金も時間もかけすぎてね」
「前回の神人は侵入型だった…って」
「あれですよね? 空から落ちてきた奴…」
「そ、あやのちゃんの言うとおり。彼奴の所為で一面やられちゃったからさ。
 ジオフロントに引っ込んでる部分はいいんだけれど、表面に出てる分はどうしようもないからね」

 兵装ビルは住居ビルと違って戦闘時にこそその意味を成す。
基本的には非常事態宣言中に地下に潜る様な形式ではなく、
そのために全滅したらしいのが現状なのだという。
無人で攻撃する装備が現在のここには無い。
何時如何なるときでも金は大事大事ですか。
タイムイズマネーならば時間も金。二乗に金が浪費されているな。

「じゃあ戦略自衛隊とかはどうなのよ?」

 俺が黙る代わりに柊がでて問う。
答えは聞くまでも無いと思うのだけどね。

「いまは相手は神人ではなく正体不明の浮遊体だからね。
 元々仲が悪いのもあるけど神人相手じゃないのにわざわざ出向いてくれないんだよね〜」
「どうにもお役所仕事的だな。認識されてなくても明らかにあれは神人だろ」
「ぼやいても仕方ないよ。とにかく各機の装備は遠中距離を基本にして様子見のスタンスで」
「了解」

105 名前: ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2009/06/29(月) 08:37:36.54 ID:5kJ82KMo


 きりきりと、こめかみがわずかに痛む。
なんだ、これは?
痛みとは得てして人間にとって肉体的にも精神的にも
強い負荷、ストレス、フラストレーションを加えるものの筈だが、
この痛みになぜか不快感はない。

「じゃ、頼んだよ」
「ん、任せておけ」

 手の甲を軽く三回。
パシパシパシとぶつけてから、
俺はダッシュでケイジに向かった。

173 名前: ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2009/07/07(火) 20:43:00.96 ID:ynoi5Aco

>>105

 もうこうしてエヴァにのって出撃するのも何度目になるのか。
小さな駆動音、全身にかかるエヴァの四肢の感覚、
LCLの匂い、液体に身を浸す感触、
溶けきらず気泡となる吐息、瞼を閉じても見える外界。

「エヴァ各機リフトオフ、目標はA-6ブロックを微速移動中」
「了解、移動を開始する」

 ハンドガンとパレットライフルを装備し、
アンビリカルケーブルを引きずりながら街を走る紫の機体。
目標を中心とした四角形となるようにエヴァを動かす。
俺は目標進行方向の左前方、
以下、零号機弐号機3号機の順で、
左後方、右前方、右後方。


174 名前: ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2009/07/07(火) 20:59:50.74 ID:ynoi5Aco


 時折、思い出したかのように回転する純白の直方体。
縦に横に勢いよく。文字通り縦横無尽に回り回る。

『あの動きキモいわね…』
『なにか意味があるんでしょうか』
「さぁな、長門はどう思う?」
『…不明、しかしここは黙って出方を見るべき』
『私は攻撃してみた方がいいと思うけどね』

 ハンドガンは肩に閉まってあり、
今構えているのはパレットライフル。
射程内ではあるものの、しかし攻撃意思はまだ感じられない。

 ビルに姿を隠し、目標の姿を確認してまた進む。
非難がとっくに済み人の居なくなった街並み、
無音で移動する敵。
どうにも静か過ぎて気分が悪い。

175 名前: ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2009/07/07(火) 21:12:09.71 ID:ynoi5Aco


『ひゃっ!?』

 あやのの焦ったような声、
それと後方からエヴァの聴覚で聞こえる低い接触音。
俺は突然目標が攻撃行動を始めたのかと思い、
武器を構え視界に入ってる直方体に銃口を向けた。

「大丈夫かあやの!?」
『う、うん。ケーブルの長さが足りなくなって転んだだけだから…』
『ちゃんとゲージ見ときなさいよ、驚くじゃない…』

 緊張の後の安堵。
それは弛緩。紛れも無い隙。
それが、長門を除いた三人に、一瞬蔓延した。

『パターン変異! 神人と確定!』

 一瞬だった。
緊張から弛緩して、声を受けて降ろしかけた銃口を再度直方体に向けるまで、
多分あって二秒程。
その間に、敵の姿は、俺の視界のどこからも、雲散霧消していた。

176 名前: ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2009/07/07(火) 21:34:42.02 ID:ynoi5Aco


 次にそいつを発見したのは後方、3号機の方を向いたときだった。
ようやく立ち上がり、ケーブルを外そうとしている、3号機、
つまりは、ケーブルによって逆に、拘束され、動けないあやのの、直上。

「あやのっっ!」

 もはや陣形もなにもない、
全力で身動きできない3号機に向かい走る。
3号機から最も遠い場所に居た零号機が援護に射撃を行う。
パパパと軽い銃声と共に直方形の敵から離れた場所で
幾度となくA.T.フィールドにぶつかり弾ける弾丸。

『くっ、これって…』

 あやのの声。
見れば足元にある真四角の影に足首まで3号機が埋まっている。
これでケーブルの如何に問わず身動きを封じられた。

177 名前: ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2009/07/07(火) 21:42:15.71 ID:ynoi5Aco


 マズいと思った。
ヤバイとも、キツイとも、思った。
あやのはこれでエヴァで実戦にでるのは二度目、
真っ先に標的にされて混乱しやしないかと、錯乱しやしないかと、思った。

『こいつっ!』

 だが、あやのは弱音を言うよりも先に、
泣き言を言うよりも早く、助けを求めるよりも急いで、
自身の所持していたソレッドニードルガンを構え引き金を引いた。
本来火薬でなく電気で弾を無音で打ち出す遠距離から
悟られないように攻撃するための銃で、
細く鋭い銀の針を幾重も打ち出す3号機。
その全てはフィールドで防がれ甲高い音と共に影に埋没する。

『でぇりゃぁぁぁぁ!』

 ついで柊の声。
ソニックグレイブを上段に構え振り下ろす。
遠方からの狙撃、下方からの射撃、上方からの斬撃、
しかし直方体は全てを防ぐ。

185 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[saga] 投稿日:2009/07/09(木) 02:27:17.51 ID:bA.vJb.o


「ふぅん、これがエヴァンゲリオンか……。
 可愛くないなー君、これに私が乗るのかー」


 日光なんて最後に見たのはいつの日か、
暗い暗い地下施設の狭い狭いケイジに搬入されたばかりの私の機体。
映像で見た先達とはずいぶんと造型が違うみたいだけど…。
ま、そのほうが楽しそうでいい。

「しっかし、本当にこのスーツどうにかならないのかにゃー?
 胸はキツイしヘルメットはカッコ悪いし、
 おんにゃのこにこんなメット被せるなんて信じられないよねー」

 誰とも無く呟いてみた。
当然、誰も返事などせず、
ケイジの壁に消えていった。

「早く乗ってみたいなー、仮設五号機」


186 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[saga] 投稿日:2009/07/09(木) 02:43:57.80 ID:bA.vJb.o


「Hey,」
「わかってるってば、もーうるさいなー。
 毎日テストばっかじゃ飽きるってーの」
「Hurry up.」
「にゃーにゃー、いま行きますよー!」

 急かす職員に軽く手を振って先に行かせ、
再度振り返りこれから少しの間付き合っていく相棒を振り返る。
みればみるほど変な形。
シンクロした時の足の感覚が想像できませんにゃ。

「んじゃ、近いうちによろー」

 ひらひらと手を翻して、
私は呆れ混じりにこちらを睨むスタッフの下に向かう。
テストは楽しくないから嫌い。

187 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[saga] 投稿日:2009/07/09(木) 02:57:04.09 ID:bA.vJb.o


―――

「う〜、早く新型スーツこーい!」

 シャワーを浴びながら一人唸ってみた。
胸を中心にしてサイズのあってない硬いスーツの後が
全身に残っている。血がとまってたのとシャワーで暖められて
一気に血流がよくなってるのでやたらピリピリして気持ち悪い。

207 名前: ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2009/07/11(土) 21:55:11.54 ID:Ybw/xbAo

>>177

 高い、金属音。
弾ける火花。
神人がくるりと一回転、弐号機に向かって行うと、
全ての攻撃を防いでいたA.T.フィールドがソニックグレイブだけを支点にしていた
弐号機を吹き飛ばす。

『きゃぁっ!?』

 地に足がついてない状態で力を加えられた弐号機は
大きく吹っ飛んで、狙い通りなのかどうか一直線に
零号機に向かい、受け止められる。

 残ったのは、3号機と、
そしてようやくおいついた俺、初号機。

208 名前: ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2009/07/11(土) 22:02:35.98 ID:Ybw/xbAo


 3号機の足元、真四角の陰に付き刺さる
跳ね返った銀の針。
そして沈み込む3号機の足首から下。

「あやの、大丈夫か?」
『うん、問題ない。ただフィールドが強すぎるみたい、
 近接系の武器で直接フィールドを引き剥がさないと厳しいわ』
「……そうか」

 口調がいつもと違う。
雰囲気が、普段と違う。
それでも、感覚がわかる。
エヴァに乗り、自分が変わるイメージが明瞭に。



209 名前: ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2009/07/11(土) 22:08:21.56 ID:Ybw/xbAo


 ここまで接近すると遠距離用の武器など無用の長物、
離れようにもどうやらこの影はかなり強力な束縛力があるらしい。

「動くのは無理か?」
『無理というか、足首から先、影に埋まってる部分の感覚がない』

 ふと、パレットライフルの弾が切れ、
マガジンを換装しようとしたとき。
神人の不明瞭で不規則で不気味な回転が途切れた。
完全な静止。
その体勢は、いつぞやのビーム砲台を思い出す。
図形、記号、立方体と八面体。

『強力なA.T.フィールドを感知! 危険です!』

 オペレーターの声。
危険なのはわかってる。
なにやら良くない雰囲気だ。
しかし、3号機はこのままじゃ動けない。

210 名前: ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2009/07/11(土) 22:21:54.46 ID:Ybw/xbAo


 立方体が、縦に伸びていく。
周囲の光を捻じ曲げて、淡く七色に光ながら、
その黒く四角い身体をゆっくりと空に向かって伸ばしていく。
じわじわと、じりじりと、ぎりぎりと、
それを同時に、底の部分、底面の部分に対角線を結ぶように
白く、光が漏れる筋が浮かび上がる、
側面も、角にあたる部分が一番上まで白い筋が入っていく。

『アレは……キョン君、早く3号機を引き上げて逃げて!!』

 喜緑さんが叫ぶ、
呆気に取られ、ただ形状を変えていく敵を眺めていた俺は
そこで我に返る。
いまや立方体の敵は直方体となり、
そして筋に沿ってゆっくりと口のように四つの部品に分解しつつある。


211 名前: ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2009/07/11(土) 22:40:17.97 ID:Ybw/xbAo


 中心に空間が空いたプラスのような形態に変わった神人。
俺は3号機の腕を掴んで引き上げようとして気づく。
影が、変わってない。
上空の神人が形が変わったのだから、その下の影も、
当然形が変わってなければおかしい。
そしてそうなれば、影にいたあやのは丁度中心の空間の部分にあたり、
影から開放され、俺が今度は影に捕われるはずなのだが、
あやのは以前影に足を絡め取られたままだった。

「あやの! 腕を!」

 こちらに伸ばされる腕を掴み、
一本釣りでもするようにぐいと引っ張りあげる。
3号機の重量よりもよほど大きな加重に後ろに倒れそうになるが、
どうにか3号機をそのままの勢いで神人から遠く離れた地点にまで
乱暴ではあるが移動させることに成功した。


212 名前: ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2009/07/11(土) 22:45:42.64 ID:Ybw/xbAo










 と、思った。

216 名前: ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2009/07/11(土) 23:23:12.29 ID:Ybw/xbAo


 影から抜け出させることに成功したし、
初号機の頭上を越え、俺が手を離せば、
多少はあやのにもバックがあるだろうが
確実に距離を取れると、思った。

「は?」

 バクン、と。
いつの間にかずいぶんと降下していた神人が、
俺とあやのの頭上にきちんと座標を直して、
開いた身体を元に戻すように、
開いた朝顔の花弁がするすると蕾に戻るように、
勢いよく、素早く、目にも映らぬ速度で、


 掴んでいた初号機の腕ごと、




 3号機が、まるまる、喰われた。

223 名前: ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2009/07/12(日) 01:05:20.18 ID:i2GsaDgo


―――


 ひかりの中で 見えないものが
 やみの中に うかんで見える
 まっくら森の やみの中では
 きのうはあした まっくら クライ クライ

 さからはそらに ことりは水に
 タマゴがはねて かがみがうたう
 まっくら森は ふしぎなところ
 あさからずっと まっくら クライ クライ

 みみをすませば なにもきこえず
 とけいを見れば さかさままわり
 まっくら森は こころのめいろ
 はやいはおそい まっくら クライ クライ

 どこにあるか みんなしってる
 どこにあるか だれもしらない
 まっくら森は うごきつづける
 ちかくてとおい まっくら クライ クライ

 ちかくてとおい まっくら クライ クライ


224 名前: ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2009/07/12(日) 01:14:42.07 ID:i2GsaDgo


「……なにその暗い童謡みたいなの」
「まっくら森の歌」

 影、影、影。
真四角の影。
周囲を取り囲み、たくさんのライトで照らされてるにも関わらず、
確固として、闇の中でなお際立つ黒として存在してる影。

「あんたさぁ……、もう少し元気出せ、ってのは無理にしても
 そんな顔してちゃ普段できることもできないわよ?」
「……わかってる柊」
「エースパイロットがそんなんじゃ、こっちの士気にも関わるのよね。
 シャンとしてなさいよ馬鹿」
「俺はエースなんかじゃないさ……」

 3号機と、初号機の腕を喰らった黒い柱は、
それ以上に黒い、漆黒の、純黒の、究黒の、影へと潜り、
そして消えた。
残ったのは影。
照らしても消えない影。
曰く、あれ自体が、あれこそが、敵の本体で、正体で、胴体で、肉体。
どうしろっていうんだよ……。



225 名前: ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2009/07/12(日) 01:24:39.59 ID:i2GsaDgo


 目の前に、あるはずの入り口。
しかし、あやのが搭乗した3号機を含んだ神人が
影の中にその身を沈ませると同時に、
ただの影のように、触れても殴ってもなにをしても、
もう物質をそこに沈ませることをしなくなった。
ただ、消えない影。
そこに見えるのに、あやのには手が届かない。

近くて遠い、まっくらな影。
そこにあるのがみんなわかってるのに、
その先に行く術を誰も知らない。

 どこにあるか みんなしってる
 どこにあるか だれもしらない
 まっくら森は うごきつづける
 ちかくてとおい まっくら クライ クライ

 ちかくてとおい まっくら クライ クライ

「ちくしょう……っ!」

 自分が傷つくのは、怖くない。
戦いだから、いい。良くは無いけど、仕方ない。
覚悟はしてた、大なり小なり。
自分が死ぬのも、まだいい、いいと思ってた。
死後の世界なんて欠片も信じてない俺は、
死んだその先を毛頭信じてない俺は、
べつに、死ぬことは怖くなかった。

 でも、いまは怖い。
死んだとは決まっていないのに、あやのが居なくなったことがこんなに怖いと知ったいまの俺は、
俺が死んだことで同じ思いをする人間がいるかもと理解したいまの俺は、
死ぬのが怖い。
自分の存在が消えるのが怖いんじゃなく、その後の残された人間に傷を残すんじゃないかと、
ただ、ひたすらに、怖い。
自惚れでも、怖い。

 俺は、戦えないかもしれない。
 そして、それで誰かが代わりに傷つくのも、怖い。
 悪循環、最悪だ。

226 名前: ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2009/07/12(日) 01:39:51.12 ID:i2GsaDgo


 殴られた。
拳で、頬を、思い切り、振り上げて、振り下ろし、振りぬいた、拳。
ガツンと、力強く、圧倒的な、暴力で、殴られた。

「しっかりしろよ! 前を向けよ!
 お前はいままで初号機に乗ってどれだけの事をしてきたよ!?
 よく見ろよ! 今回が特別じゃない! いままでだって毎回誰か死にそうになったけど!
 でもみんな生きてる! 誰も死んでないでここまできたじゃんか!
 諦めんな! ふざけんな! 死んでるかもしれないけど、それって生きてるかも知れないってことだろ!?
 なんで下みてんだよ! まっすぐ立てよ! みんなが助けるために色々やってるなかで
 一番あやおの近くに居たキョンが諦めてどうすんだよ!
 最後まで信じろよ! みんながいままで信じて! 頼って! 信頼してたお前はどこだよ!?」

 柊の、熱い言葉、しかし俺は少年漫画かよ、
とか、そんな捻た感想しかでなかった。
言い返すことも、殴り返すことも、睨み返すことも、なにもせず。
闇夜の中、人工の光で照らされる街を、周囲を見渡して、立ち上がる。

「一回、信じさせたら、最後まで信じさせろよ。
 最後まで、貫いてみせろよ……」
「信じるってのは、裏切られてもいいってことだろ。
 俺は信じてくれとか言ってないし、信じてもらえるようにがんばったわけじゃない。
 ただ、がむしゃらだっただけだ」
「馬鹿!」

 駆け出して、そのまま行ってしまった。
そして俺は取り残された。
柊に、しがらみに、流れに、世界に、なにに? 自分に?

「……いてて」

227 名前: ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2009/07/12(日) 01:49:09.84 ID:i2GsaDgo


「……平気?」
「ん、長門居たのか」
「……」
「ま、大丈夫だろエヴァに乗ってりゃ一時間で治る」
「そう」

 黒い空。黒い影。
そんな中、白を基調にしたプラグスーツを着ている長門は、
少し、浮いて見える。
直立不動、地に対し垂直を保つ長門の姿勢が、
それに拍車をかける。
……少し、腫れてきたかな、頬。

「大丈夫?」
「ん、今度はなにがだ?」
「……色々」
「色々…、ねぇ。大丈夫だったり、そうじゃなかったり、だな」
「そう」
「あぁ」

 悪循環の最悪。
それは取り消すつもりもなく、撤回するつもりも無いが、
しかし収穫もあった。
こなたや、喜緑さん、みんなは司令部で、こんな気持ちで居るのかと、
少し、感慨もあった。

231 名前: ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2009/07/12(日) 09:26:48.18 ID:i2GsaDgo


正確にはエヴァのフィードバック効果
エヴァの破損、ダメージが戻ってくるのと同じように
健康状態のエヴァに長時間乗っていると、
そのエヴァの状態もフィードバックされる
つまりエヴァが負傷、でパイロット健常だと
シンクロ率によってはパイロットも同じ部位に負傷を負うように
パイロットが負傷してるさいに、まったくの無傷のエヴァに乗ると
その健康状態もフィードバックされて通常よりも健康状態に戻るのが早くなる


ついでにそれは肉付きだとかも同時にバックされるから、
パイロットを長時間やってる人間の方が基礎体力や筋肉が強くなるということでもある
いつだったか書いた白兵訓練での実力差は、
身長の低さではなくエヴァに搭乗している期間の順ということである
ま、こなたに関しては幹部の面目躍如ということで

310 名前: ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2009/08/31(月) 00:03:03.28 ID:SuB/RtEo

>>227


 俺や、柊や、長門や、あやのが、
戦ってる間、ただ見守っている、自分達で戦えない
あいつらのその無力感は、きっと今の俺の比ではないのだろう。
いまのいままで、知らなかった。
自分の痛みは我慢できても、他人の痛みは我慢できないということを。
無知だった。無知は、罪らしい。

「長門、あやのは――」
「あなたが、望むのなら、帰ってこない筈が無い」
「……そっか」

 夜風が、中途に火照った身体にひんやりと心地良く感じる。
多量のライトで照らされた影を見下ろす。
あそこにあやのがいる、あの向こうであやのは一人で居る。

「絶対に、助けるから。もう少しだけ、待っててくれよ」

 正方形の影。
照らされて消えぬ影に、
独白のようにそう呟いたと同時に、地が揺れた。
大きな地響き、さらに地鳴りがし、地割れが起こった。

「……な、なんだ!?」
「あれ」

 俺達が居たビルも大きく揺れているにも関わらず、
機材が倒れ音を立ててスタッフが叫ぶ中、
長門は屹然と二本足でたち、一点を指差す。
影の、中央。黒い黒い影の中心から生える、一本の黒い黒い腕を、指差す。



313 名前: ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2009/08/31(月) 00:36:38.55 ID:SuB/RtEo


 それは、見紛うことない。
巨大な、エヴァンゲリオンの腕。
あやのが搭乗しているはずのエヴァ3号機の、
俺が掴んで、守れなかった機体の腕だった。

「う、嘘だろ?」

 震源は、あそこ。
どうやっても干渉できなかった、
あの染みのような消えない影が、歪み撓み拉げて割れていく。
激しい音と揺れを起こしながら。
3号機の腕は、少しずつ姿を現して、肩口まで姿を見せる。

 しかしありえない。
飲み込まれた時点で活動限界まで二分しかなかった
3号機が動いて、残った三機のA.T.フィールドでもなんの変化も与えられなかった
あの影を、あぁも見事なまでに破砕してしまうなんて。

315 名前:今週中に終わらせる ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2009/08/31(月) 00:57:57.44 ID:SuB/RtEo


「どう……、なってるの?」

 唖然とした声が、後方から聞こえる。
先程去った筈の柊の声。
しかし俺はそれに答えることができない。
反対の腕も出現させ、顔も半分程でてきている。
……どうなってるのかなんて、わからない。

『ウオォォォォォ!』

 遠吠えというか、咆哮。
鈍く、普段とはかけ離れた紅い色に光る瞳をギラギラとさせて、
顔を全て影から脱出させた3号機は
野生の動物の如き大声量で吼える。
ビリビリと全身に響くその声は、空に渡って広がった。

「なんなんだよ、これ……?」
「わからない」

339 名前: ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2009/09/05(土) 05:42:34.43 ID:leMMWyso

>>315

「ただ――」

 長門は、続ける。
独白の様に、この大きな叫び声の中。
掻き消されそうな程の声で。

「――あれは、エヴァではなく、神人というべき」

 恐怖、根源的で人間を強く動かす感情。
大いなる恐怖。
俺の、いやこの場にいる全ての人間の心に浮かび上がってるであろう、
目の前の状況、あの巨人に対する恐怖感。
これは、確かに神人だ。エヴァではない。
圧倒的な破壊神だ。

「あんなものに、私達は乗ってるの……?」

 柊の一言が、やけに俺の胸に残った。

341 名前: ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2009/09/05(土) 05:48:50.10 ID:leMMWyso


―――

 ケイジ。
エヴァンゲリオンを格納し、整備し、そして制御する場所。
その一つに、3号機は静かに立っている。
静か過ぎて、怖いほどに、沈黙を保っている。

「……」

 喜緑さんは、ありえないと言っていた。
あの状況下、エヴァ単機での脱出は不可能だと。
否。そもそもとして3号機の活動限界はあの時点でとうに過ぎている。
稼動すること事態が不可能なのだ。
だというのに、3号機は動いた。
動いて、如何なる干渉もできなかったあの影を粉砕し、
脱出してきたのだ。
最も経験の浅いパイロットであるあやのが搭乗する、3号機は。

414 名前: ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2009/09/17(木) 19:39:59.70 ID:tw..3TUo


「いらっしゃーせー」

「え〜っと、おっ、そこのテーブル席空いてるジャン」

「じゃあそこでいいか」

「居酒屋って私始めてなのよね〜」

「わ、私も……」

「まぁまぁくつろぎたまへ、おっちゃん! とりあえず人数分生中ね!」

「えっ? 私はお酒とかあんまり……」

「流石にビール一杯じゃ酔わないだろあやの、
 最初に一口周りに合わせて飲んであとは烏龍茶でいいか?」

「う、うん。長門さんは?」

「ジョッキ大」

「え?」

415 名前: ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2009/09/17(木) 19:44:33.04 ID:tw..3TUo


「でさ! でさ! なに頼む?」

「はしゃぎすぎだこなた、少しテンション落とせ」

「いんやーみんなで飲みに行けるとは思わなくてね〜」

「……まぁあれよね、普通に考えたら思わないわよね。あと数年は」

「気にすんなって柊。家での宴会は参加するくせに」

「あんたはずいぶんと平常営業ね」

「慣れてるからな。第二に居た時は向こうの悪友と一緒にさ」

「へぇ…、そういや私ってあんたの昔話って全然聞いたことないのよね」

「私もないです」

「はいはーい、私も〜」

「お前は知ってるだろうが」

「でもキョンの口から聞いたことはありましぇ〜ん」

「……ま、過去話ってのは俺は好きじゃないからな
 その辺も、こなたは知ってると思うんだが」

「前の学校の事位は別になんのタブーにも触れないでしょ?
 酔った勢いだよ、自分から口にしたんだから言っちゃえ!」

「……まだ飲んでないんだがな」

416 名前: ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2009/09/17(木) 19:54:04.23 ID:tw..3TUo


「お待たせしやしたー」

「おっ、ナイスタイミング! ありがとうおっちゃん!」

「じゃあこれあんた達の分ね」

「うわ、結構一杯……」

「……」

「はい、じゃあ乾杯!」

「かんぱーい」
「乾杯」
「か、かんぱい」
「……かんぱい」

「んっ、んっ……ぷはぁっ!」

「無茶苦茶な飲み方だな、一杯目一杯目」

「ほら、ぐっといきたいじゃん?」

「最初は抑え目にが俺のやり方だ」

417 名前: ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2009/09/17(木) 20:00:14.04 ID:tw..3TUo


「でさー」

「……なんだ」

「さっきの話」

「はぁ……、わぁったよ」

「でも、キョンって本当自分のこと話さないわよね」

「お前らもな。なんだかんだいって
 お互いの根幹に触れる会話は今までしてなかった気がする」

「やってることがやってることだから、昔話が重くなるのは仕方ないことなのかしらね?」

「さてな、俺やあやのは巻き込まれ型でお前らみたいな自主参加型じゃないからな」

「だけど、キョンはあやのとは全然違う色々を背負ってるように見えるわよ?」

「知らないな。とにかく今俺が話すことは前の学校でのこと、だろ?」

「うん、知りたいな。キョン君の前のことを少しでも」

「はいはい、面白くなんてない話だし重要でもない、俺も忘れかけてる話だ」

419 名前: ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2009/09/17(木) 20:11:47.72 ID:tw..3TUo


 向こうでの俺は、まぁ微妙に浮いていた訳だ。
クラスの連中とはそれなりに話すし、
勉強もそこそこできた。運動だってできないわけじゃなかった。
だけどなんだろうか、そこはかとない雰囲気なのか
俺は微妙にクラスで逸れてたんだ。

「はぁん、まぁ想像はしやすいわね」
「え? それは俺が疎外されやすいということが一見してわかるということか!?」
「疎外というよりは、単に疎遠って感じよね。
 あんたって最近はなくなってきたけど、前は結構他人を近寄らせないってのもあったじゃない」
「それはお前が相手だからじゃないのか?
 初対面の辺りのやりとりを思うに」
「あー……」

 とにかく、クラスでは話したりするが
休日にどこかにつるんで行くことはないような
典型的な生活を向こうで俺は送ってたんだな。

「そこらの大学生みたいだね〜」
「うっさい」
「どうせ能動的なコミュニケを怠ってたんでしょ?」
「……それは、まぁ否定はせん」
「あっ、焼き鳥きたよん?」
「刺身は?」
「まだー」

420 名前:腹減ったー ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2009/09/17(木) 20:19:01.08 ID:tw..3TUo


 でもま、それでも一人だけ友達ってのがいてさ。
谷口っつぅんだが、非常に馬鹿な奴で
いっつも女の尻ばっかり追いかけてるような奴だった。
なにせ学校中の女子をデータ化して、
ランクの高い女子の顔と名前を頭にインプットしてるほどだった。

「なんで友達やってたのキョン君?」
「いや……、こう表現すると下衆野朗みたいだけどさ、違うんだ……。
 馬鹿だけど変態じゃないんだ……、ちょっとベクトルがおかしい奴で……」
「ふぅん……。キョン君はそういうデータとか見たりしてたの?」
「え!? いや、し、してない! 毛頭してないぞ!?」
「へぇー?」
「本当! 本当に!」
「ま、信じてあげる」
「……」

 うん。で、そいつがさっきの悪友って奴でさ、
よく学校帰りにゲーセンでぷらついたり、
稀にあいつに付き合って顔見知りがやってる居酒屋で飲んだこともあった。

424 名前: ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2009/09/17(木) 21:35:24.37 ID:tw..3TUo


「そういやキョンってゲーム結構上手だよね」
「長門には負けるがな」
「……そう」
「まぁアレよね、ゲーセンとかでやるとスキルあがるわよね」
「谷口はいつまでたっても微妙だったがな」
「キョン君って昔はちょい悪だったんだ……」
「え、ちょい悪?」
「そんな頃からお酒を飲んで」
「いまも大して変わらんが……」

602 名前: ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2010/01/11(月) 11:12:50.22 ID:M6RAk/Ao


 ケイジ。
エヴァンゲリオンを格納し、整備し、そして制御する場所。
その一つに、3号機は静かに立っている。
静か過ぎて、怖いほどに、沈黙を保っている。

「……」

 喜緑さんは、ありえないと言っていた。
あの状況下、エヴァ単機での脱出は不可能だと。
否。そもそもとして3号機の活動限界はあの時点でとうに過ぎている。
稼動すること事態が不可能なのだ。
だというのに、3号機は動いた。
動いて、如何なる干渉もできなかったあの影を粉砕し、
脱出してきたのだ。
最も経験の浅いパイロットであるあやのが搭乗する、3号機は。


603 名前: ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2010/01/11(月) 11:13:46.98 ID:M6RAk/Ao


「……お前は、どうしたいんだ?」

 あの後、神人を破壊し破綻させた3号機は
街中でその活動を停止させた。
俺自身は詳しいことなど知らないが、
しかし聞いた話によると回収された3号機のエネルギーはほぼ満タンになっていて、
あやのも生命維持になんの異常もなくプラグの中で静かに眠っていたという。

「お前が、なんかやったんだろ?」

 繰り返し、3号機の黒い機体に向かって言葉を続ける。
返答などない。あるはずがない。
それでも聞こえてると確信を持って俺は問いを紡ぐ。

「あやのを、助けてくれたん、だよな?
 ……ありがとう、すまなかった」

605 名前: ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2010/01/11(月) 11:26:11.07 ID:M6RAk/Ao


――――


 拝啓から始まり、早々不一で完とする丁寧な文章が
どこの大型量販店でも小型の文具店でも売っていそうなレターセットの紙数枚に渡って
つらつらと大仰に書き綴られていた。

 他人の手に渡ることも考えての事なのか、
便箋が入っていた封筒にも、また便箋に連なる文面のどこにも
差出人が一体どこの誰なのかは書いては居ないのだが。
けれどボールペンで書かれたのだろうその簡素で他人行儀な文字の羅列は、
俺の心を強く揺さぶるに値した。

 その内容は端的に示してしまえば『生存報告』。
そう。俺と、俺やあやの達と短い時間ながらクラスメートをして、
俺達が操るエヴァと対峙した“トライデント”のパイロット。
藤原達の『生存報告』だった。

 差出人と同様の理由から長い文面ながら、
詳細は全く伏せられて一見ただの文通相手に贈る
少々堅苦しいだけの普通の手紙にしか見えないこの数枚の紙。
しかし何度か目を通せばわかる法則の元、
浮かび上がる単語がいくつもある。

606 名前: ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2010/01/11(月) 11:27:02.07 ID:M6RAk/Ao

 もちろん、ある程度以上見る目がある人間が居れば
この法則などすぐに見破られるかも知らんが、
しかしでてくる単語は抽出すると『修学旅行』『ゲームセンター』『昼食会議』と言った
どことなく懐かしいイメージが髣髴する、当事者しか知らない単語。
そして、拝啓の後の『こちら同様御健勝の程と存じます』という添え句。

 べつに絶対とはいえない。
牽強付会と言われればそれまでの話だ。
けれど俺は、それをあの不器用な連中の生存報告と信じて疑わなかった。
理由などない。根拠などない。
ただ、信じたかった。それだけの話。

 逃げ切れたとは言わないまでも、
現状、俺に手紙を出せる程度には余裕があるのだろうと。
そう信じたかっただけの話。

 さらに幾度かその手紙を読んでから、
俺は皺のついたこの便箋を封筒に畳んで仕舞い直して
机の引き出しに隠すようにそっと入れる。

「朝倉……、か」

 そして馳せるのは、当然連中との邂逅の夢想ではなく。
この手紙を所持し、俺に手渡してきた朝倉涼子という人物に対する想像。
ただ人伝に回されてきただけなのか。
それとも戦略自衛隊の関係者なのか。
もしくは連中がいざという時のために作った第三の協力者なのか。
敵なのか、そうでないのか。
そんなあれこれ。

607 名前: ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2010/01/11(月) 11:30:17.16 ID:M6RAk/Ao


「色々ありすぎて、わけがわかんねぇよ」

 そういって自分の机から離れてベッドに倒れこむ。
使い方が荒い所為かここに住み始めると同時に使い始めた
かなり新しい筈のベッドのスプリングは、俺一人の体重にキシキシと音を立てる。
俺はそれに構うことなく寝返りをして、足を外に放り出した状態で天井と向き合う。

「それに、手紙のことも十分でかいが。
 ……それ以上にやっぱり考えることは今回の敵だよな?」

 自問自答。
投げた言葉は宙に舞って誰にも聞かれること無く霧散する。
手紙を見つけてから、3号機のケイジを離れて一目散に帰ってきた俺。
3号機の暴走ともいえるなにかに驚愕というか困惑というか、
とにかく動揺していた柊や3号機の詳しいデータを取るこなたは
まだこっちには帰ってきていない。
柊はチルドレン用の個室で休息中、こなたは現場指揮を行っている。
あやのはあやので初搭乗に続いてまた検査入院中、
この短期間でもう四人の中で戦闘後の入院回数が最高になってしまったあやの。
守るとか言っておきながらこの有様じゃあ、まったく情けない。

 というか実際俺が今回やったことってなんだろうか?
出撃したエヴァ四機の中で飲み込まれた3号機は無傷、
零号機と弐号機は吹き飛ばされた際の接触だけで実質無傷だし、
俺だけが腕をもってかれて中破。
また戦闘でなにか有効な行動がとれたわけでもないし、
あやのが呑まれたあとは一人で暗くなって柊に怒鳴られて殴られて。
やる気を再燃させたときにはあやのは自力で戻ってきて。

608 名前: ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2010/01/11(月) 11:31:16.50 ID:M6RAk/Ao


「……なっさけねぇの」

 自嘲。いや、慙愧の念に固まったなにかを呟いて、
けれど思考停止だけはせず、さらに考える。
考えなくてはいけない。

 エヴァンゲリオンがケーブル無しで動けるのは最大でも五分。
予備バッテリーを肩部に接続してようやく三十五分。
これは絶対的に変らない。現代科学の限界ギリギリの数値だ。
もちろん、これは戦闘用としてエヴァの機能を全て使用した数値であって、
生命維持モードと呼ばれるエントリープラグ内の最低限の機能のみを使用する
所謂エコモード見たいのに切り替えればバッテリー無しでも十数時間は保つらしい。

 だから影に入ったと同時にケーブルが切断され、
同じタイミングで生命維持モードに切り替えれば
呑まれてから十時間以上たったあの瞬間までに
エヴァの生命維持モードに使用する電力すらなくなるということはない。
そして十数時間維持モードで過ごした後、戦闘モードに再度移行という形を取れば、
ほんの数秒ながらエヴァはまた動かせる。
だから正確に正確には完全に稼動することが不可能と決まったわけじゃない。
ほんとうに微妙なタイミングの問題だが、
可能性は零じゃないんだ、と思う。机上の空論だが。

 まぁその辺のことは喜緑さんとてわかっているのだろう、
わかった上でありえないと言う文言を吐いたのだろうから。
これは多分考える必要性もないほどにミリ単位の可能性。


609 名前: ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2010/01/11(月) 11:32:15.83 ID:M6RAk/Ao


 俺は天井を無為に眺め続けながら次の仮定に入る。
曰くあの影の中、及び神人の内部は二乗してマイナスになる事で有名な虚数で満たされた空間
『ディラックの海』と呼称される別の宇宙時空に繋がってるらしい。
まったく別の、星々など一つも無い、白い無の宇宙。
ならば相対性理論などを例に上げるのはどうだろう?
地球上と宇宙空間では時間の流れは違う、
浦島太郎のお話で七日間で地上が様変わりしたのは
助けた亀は宇宙人で竜宮上は宇宙船だったからなどという話も聞いたことがある。
俺は宇宙に行ったことはないし、相対性理論についてもそこまで詳しくないが、
こちらの十数時間が『ディラックの海』の中ではほんの数秒だったのでは?
という可能性だって見えてきたっていい。
少なくともあの神人の中に広がる宇宙なのだと言う事実が、
どんな可能性も“ありえるかもしれない”と思わせる。
少なくとも、完全に否定しきれない以上
いくら考えたところで答えはでやしない。
一番高い可能性を、一番信憑性の有るパターンを
どうにか導き出したところで、確認はできない。
聞いた話によれば、エントリープラグ内に設置されている内部を録音、録画する
機器は悉く壊れてしまいデータのサルベージは理論上不可能らしく、
あの影に入ってからでるまでにどれほどのタイムラグがあったのか、
それが俺達と同じだったのかズレが生じていたのか、
もはや完全に知るすべはないのだ。

 ベッドから起き上がり、頭を振って細々した思考を散らす。
あやのは無事に帰ってきた。
神人も、消えた。
いまはそれでよしとしよう。
よしと、するしかないだろう。
そう楽観的に思い直して俺は冷たいものを飲む為に部屋をでた。

625 名前: ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2010/01/13(水) 02:03:28.46 ID:C6wEMqco


「暇だな……」

 俺は一人壁に向かって呟く。
こなたは今日も仕事で本部に向かってるし、
柊と長門、そしてあやのは日下部や岩崎と共にショッピングに行っている。
俺も誘われないではなかったが、
女性ばっかりの中に一人飛び込むのも気が引けたし
たまには一人でゆっくりするのもよかろうと思って辞退して
自宅待機をすることにしたのだが。

「暇だ……」

 普段学校は当然のこと、
職場でも家でも大勢と同じ時間を過ごしてる反動か
一人になるや否や暇で暇で仕方がなかったのだ。
ゲームをすると言う気分でもないし、
家事はあいつらが居なければあっという間に終わってしまう。
勉強やなんだってのはあんましたくないし宿題もない、
こんなことならついていけばよかったかなぁと思っていると
不意に自分の空腹感に気がついた。

「……そうだ、カルボナーラを作ろう」

 なんとなく、そう思った。

626 名前: ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2010/01/13(水) 02:10:50.70 ID:C6wEMqco


 思い立ったが吉日。
普段から大人数相手に料理をしている上、
普通の家庭よりでかいサイズの我が家の冷蔵庫には色んな食材が入っている。
それでも念のためと部屋からでて冷蔵庫を覗いてみれば、
きっちり卵もベーコンも生クリームもパルメザンチーズもある。

「こりゃ買い物行く必要もないな。
 ささっと作っちまうか、ちっとばかし遅い昼飯だな」

 早速食器棚の引き出しからパスタを取り出してシンクに置く。
次いで先程述べた食材や調味料など必要な物を並べていく、
当たり前だがこの時間ももったいないので先に中位サイズの鍋に水を張って
蓋をして既に火にかけてある。
よくそのまま沸騰するのを見かけるが、
蓋をしてるほうが当然沸騰するのが早いのでガスの節約になる。

628 名前: ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2010/01/13(水) 02:31:14.15 ID:/TCRYs6o


「よし、準備は完了っと」

 材料や道具を揃え終わり、即座に調理に入る。
お湯がまだ湧いてないのを確認して、
ボウルに卵と生クリームを入れてよく混ぜる。
白身を入れると固まってしまうので入れるのは卵黄だけだ、
ソースに必要なのはコクだからな。

 手早く混ぜて攪拌させた後
それに牛乳と塩、粉チーズを目分量で入れる。
場合によっては黒胡椒も入れるのだが、
カルボナーラは“炭焼き職人”という意味で
個人的には最後の出来上がりに振り掛ける方が好きだ。
職人に振りかかった炭、っていう感じでる。

「っと、湯が沸いたか」

 などとソース作りをしている内に鍋はぐつぐつと音を立て始める。
俺は蓋をとって湯の中に塩を適当に投げ入れてから、
乾麺パスタをサッと入れる。
この鍋の縁を滑るように広げる事ができるまで結構かかった。

629 名前: ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2010/01/13(水) 02:39:50.69 ID:/TCRYs6o


 本来はパスタは一般的なスパゲッティではなく、
幅の広いフェットチーネを、ベーコンもパンチェッタという
塩味の強い生ベーコンを使うのだが。
なにも俺一人の昼食のためにわざわざそんな本格的な物を使うのもあれだし
流石にいくらなんでもそんな専門的な食材は冷蔵庫にはない。
使用用途が限定されすぎるしな。

「えぇっと、湯で時間は10分っと」

 キッチンタイマーをセットして次の仕度。
既に沸騰した鍋は少し火力の弱い方のコンロに移して再度中火程度の火にかけ、
あいた場所にフライパンを置いて強火にする。
そしてある程度フライパンが熱せられたらオリーブオイルを少量垂らして
フライパンの全体に広く伸ばす、と同時にキッチンにいい香りが広がってくる。

「こりゃこなた達がいたら速行で飛びついてくんだろうな……」

 情景が一瞬で浮かび苦笑を湛えながら、
俺はフライパンに刻んだベーコンを放り込み菜箸で軽く炒める。
オリーブオイルの香りにベーコンの焼ける匂いが混ざり食欲をこれでもかと促進させる。

630 名前: ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2010/01/13(水) 02:47:14.33 ID:/TCRYs6o


 あとは簡単だ。
茹で上がったゲッティさんをボウルに移し、
冷める前に熱々のゲッティにソースを手早く和える。
直接火にかけるとやはりソースはぼそぼそになってしまうからな。

「あとは適当な皿に移し変えて、
 挽きたて黒胡椒をたっぷりかけてからベーコンを上にトッピングってな」

 ベーコンの薫香とオリーブオイル、
そして黒胡椒の香りに腹が痛いほど空腹を訴えってくる。
そんなに急かさなくても勿論すぐ食べますとのことよ。

「いただきますっと」

 料理に使用した道具を洗うのは後回し。
出来立てのカルボナーラを食べて胃を宥めるのが先決と
俺は手にしていた得物を菜箸からフォークへと変更させて
早速パクリと一口。

「うまっ! すげぇうまっ!」

 我が意を得たりと言わんばかりに
その一言を最後に黙々と食べ進める俺。
茹でたスパゲッティの量は200g近くあったのだが、
それもあっという間に俺の胃に納まった。


631 名前: ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2010/01/13(水) 02:51:31.53 ID:/TCRYs6o


「ふう、ごちそうさん」

 誰に気を使うでもない昼食は、
調理時間の半分にも満たないうちに完食とあいなり。
達成感というか満足感というか充足感というか、
そんな物に満たされながら俺はしばらく椅子に座って食休みをしていた。
親が死んでも食休みってな。

「ただいま〜、ってなにこの美味そうな匂い!?」
「げっ」

 などとやっているとタイミング悪く柊の帰宅の声がした。
そしてどたどたと荒い足音がしてすぐに居間の扉が開いて
柊がひょっこりと顔をだす。その手には紙袋が二つ。

「カルボナーラ!」

 顔を出して早々いきなり料理名を当てる柊。
お前、いつからそんなキャラになったよ……?

633 名前: ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2010/01/13(水) 02:57:51.65 ID:/TCRYs6o


「ちょっとちょっとちょっと! なに一人で優雅に昼食とっちゃてんのよ!?」

 俺が飯食っちゃいかんのか?

「私達だけ外食するのも悪いと思って早めに切り上げてきたってのに
 ま〜さか一人でずいぶんと手の込んだ料理してたみたいじゃない」
「……別にいいじゃねぇか、たまには」
「私も食べたい!」

 正直な奴だった。
まぁ作るのはいいんだが、スパゲッティとベーコンはもうないぞ?

「あやのも食べたいってさ、ね?」
「え? えぇ〜……と」
「ほら見なさい! あやのも食べたいって!」
「言ってねぇだろ……」

 呆れた声をだしながら俺はこれではまともに食休みなどできないと判断して
さっさと立ち上がり食器を流しに置く。
つーか、普段は俺のことなどお構い無しに外食してるくせに、
今日に限って食ってこないとはどういう了見だ、予知でもしたのか?

「いや、日下部が――」
「私が外食よりもキョンの料理が食いてぇって言った!」
「この野郎!」

635 名前: ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2010/01/13(水) 03:07:56.67 ID:/TCRYs6o


 みたいなやりとりを数回交わした後。
柊が自分が買い物行ってくるから、
と珍しく拝み手までして頼んできたので了承。
全員がゲームをしてる声を背中に受けながら調理に使った道具を全部洗い、
冷蔵庫にある食材を使って先にソースを作っておく。

「まったく……」

 渋々承諾したみたいな感じを作りはしたものの、
実は内心既に「仕方ないなぁ」みたいな。
子供の我侭に付き合う親みたいな感じになっている。
確かに一人で作って食べるのも気軽で且つ自由にできるのでいいのだが、
それでもやっぱり――。

 やっぱり、料理を作って、
そして食べた人達が喜んでる姿がないと、
どこか物足りなく感じてしまうのだ。

「ただいまー! 超特急でスパゲッティとベーコンを買ってきたわよっ!」
「おうっ!」


 カルボナーラの作り方、終わり。

648 名前: ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2010/01/14(木) 05:49:51.48 ID:zrngvBoo


―――

 なにやらずいぶんと久しい気がする学校。
実際には朝倉との一件があってから一週間と経ってない筈なのに
もう一年近く学校に行ってないようなそんな錯覚を覚える。

 まぁ朝倉から封筒を受け取った直後に神人が二連発で来たからな、
なんつぅか錯覚しても仕方ないっちゃ仕方ない。
あっちがこちらの事情なんか鑑みないのはとっくにご存知なんだよ。
などと達観した感じで学校に向かう俺――――と、柊・長門・あやの組。
流石に同居していれば息も合うのかなんなのか、
最近こいつらは俺を放置してやたらと仲良くしている。
……まぁ、長門はあまり騒ぐというタイプではないが
それでもある程度は会話にきっちり参加しているし、
柊とあやののボケとフォローのエンドレスにクールな突っ込みも入れたりしてる。
……穏やかだ。

649 名前: ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2010/01/14(木) 05:56:54.02 ID:zrngvBoo


 そんな感じで、俺が一人先行して歩き
三人が後ろを歩くフォーメーションで登校していると。

「あ、……おはよう」

 交差点。
やはり一年位振りに再会したような感覚を覚えるキャラと遭遇した。
岩崎みなみ、俺達のクラスの委員長さんである。
どこか長門と似通った物静かで大人しい彼女は、
一般的な委員長というキャライメージからはズレるものの
結構しっかりとこれはこれでクラスを纏めている。
……いや、纏めているというか、彼女が右往左往してる姿を見て
みんなが勝手に纏まっているという感じか?

「おはようみなみ。今日はゆっくりなんだな」
「委員長って言っても、そんなにいつも仕事がある訳じゃないから……。
 生徒会長だったら別だけど、集会とか、イベントがない日は結構暇だと思う」
「ふぅん。ま、そりゃそうか。あくまで生徒だしな」

 教師が居るんだから、そこまで多忙になるって訳でもないのか。
あくまでも先生のお手伝いみたいなスタンスだしな、結局。


650 名前: ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2010/01/14(木) 06:12:09.89 ID:zrngvBoo


「おいお前ら、委員長様に挨拶せんか」
「いや、そういうのはちょっと……」

 いまだ騒いでみなみに気づいていない後続に声をかける。
横でみなみが“やめてください”みたいなことを言ってるがスルー。

「んあ? あら、おはよ」
「おはよう岩崎さん」
「……おはよう」

 同様に意に介さない三人の挨拶に、
みなみは少し肩を落としてから返答する。
ここ最近、この三人が異様に親しくなったのと同様に
みなみも最初にあったぎこちなさみたいのが取れたように思う。
特に、前は俺たちに対して引け目があったのかなんなのか
敬語を基本として接していたのだが、最近はそれもめっきりなくなった。
これはみなみが馴染んだのか、俺達が馴染んだのか。

「えと、峰岸さん、身体の方は大丈夫?
 退院したばっかりだと日下部さんに聞いたけど」
「うん、大丈夫。入院って言っても検査だしね」
「そう……、よかった」
「ん?」

651 名前: ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2010/01/14(木) 06:18:22.13 ID:zrngvBoo


 ふと、違和感。

「柊さんに長門さんも、大丈夫?
 この所あんまり学校にも来れてないみたいだし、心配」
「うん、ちょっと待ったみなみ」

 違和感に動かされて、
咄嗟に俺はみなみの台詞を食い気味に言葉を発する。
みなみは当然として、質問に答えようとした柊も
微妙に開きかけた口を閉じてなんのつもりかと俺を見る。

「お前さ、なんか、変」
「へ、へん……」
「あっ、いやそうじゃなくて! こう……、敬語がなくなったのに
 さん付けってのが、違和感あるんだよ」
「あぁ、そういえばそうね。折角タメ口にして距離縮まっても
 “柊さん”じゃねぇ……」
「そりゃ確かに委員長やってれば教卓について、
 クラスメートを敬称つけて呼ぶ機会も多いだろうけど
 別に私語の場合には外してもいいんじゃないか?」

771 名前: ◆7SHIicilOU[saga] 投稿日:2010/02/10(水) 15:41:30.49 ID:PRJ3HqMo

>>651

「えと……」

 突然の申し出に委員長さんは少々戸惑いつつも。

「……わかった。これから気をつける」
「まぁ慣れた呼び方を急に変えるのも大変だろうけどさ
 段々とシフトチェンジして行けばいいんじゃないか?」
「ん、そうする。ありがと、キョン君」
「おぉ」



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