古泉「僕の愛したこの世界」


メニュー
トップ 作品一覧 作者一覧 掲示板 検索 リンク SS:長門「甘いチョコレートにはコーヒーが良い」

ツイート

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 11:44:21.50 ID:tnxIRBVCO

古泉「はぁ…今日のところはおしまいですかね」

いつもは柔らかい表情を浮かべるその顔は、
年不相応な疲れを滲みだしていた。

古泉「さてと…帰りましょうか」

森「お疲れ様、古泉。車出すけど家まででいい?」

古泉「あぁ森さん。わざわざありがとうございます」

森「それじゃあ、少しここで待っててちょうだい」


13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 11:45:23.43 ID:tnxIRBVCO


古泉「あ、ですが、明日学校が休みですので公共の機関を使って帰ります」

森「何?私と一緒に帰るのが嫌なの?」

古泉「いいえ、それは光栄な事ですが色々買い出したい物もありますので…」

森「それでも、べつに送ってあげるのに」

古泉「ありがとうございます。ですが森さんの睡眠時間を削るわけにもいかないので…」

森「別に気にすることは無いのに…案外頑固よね、古泉は」

古泉「ははは…すみません」

森「それじゃあアンタも早く帰って身体を休ませるのよ?」

古泉「はい、お休みなさい」

森「おやすみ、古泉」


14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 11:58:43.09 ID:tnxIRBVCO

ちんまりとした女上司を見送った青年になりかけの少年は、
ふぅ…っと一つ溜め息をついた。

古泉「特に買い物なんて無いのですがね…」

疲れて光のないその目は、満月手前の月を眺める。

古泉「たまには一人にもなりたい事もあるんです」

そう小さく呟き、大きく伸びをした。

古泉「さて、帰りましょうか。まだ終電にも間に合うでしょう」

地面に落ちていたカバンを拾い上げ、付いてしまった汚れを払った。

そんな自分の行為を、はたと見つめだした少年は寂しそうにこう吐き出した。

古泉「こんな風に、疲れや悩みも払えたら楽なんだろうな…」

僕は詩人にでもなるつもりか?
と小さく自嘲する少年を見ていたのは、満ち足りない月のみだった。


17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 12:14:17.05 ID:tnxIRBVCO

小さな無人駅で、小さな切符を買う少年。
終電に間に合った事に、若干安堵した表情だ。

古泉「とりあえず終点まで乗れば何とかなりそうですね」

家まで帰る方法を確認する少年を好奇の目で見るのは、
少年と同じ様な疲れを滲み出したスーツを着た幾人かの大人達。
こんな終電間際の時間に制服で出歩くこの少年は、
一体今まで何をしていたのか?
大人達の目はそんな思いをはらませていた。

もう少し時間があれば、お節介な、はたまたお説教好きな大人が声をかけたかもしれない。
が、到着のベルは案外早くに響いた。

少年は鞄をかかえ、のろのろと電車に乗り込んだ。

古泉「終点までだし、一番後ろでいいか」

そんな事を言いながら、先頭のドアしか開かないその車両を、
一番後ろまで黙々と突き抜けていった。



18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 12:32:35.67 ID:tnxIRBVCO

誰もいない最後尾の車両。
一人になりたいと考えていた少年にはうってつけの場所だった。

ふぅ…と少年は再び溜め息を吐き、こめかみを押さえた。
その仕草もまた、年不相応であったが、
似合っていると茶々を入れたくなるくらい少年は疲れた雰囲気を醸し出している。

古泉「全く…彼女は僕をどうしたいのでしょうか…」

小さく漏れだしたその言葉も、普段装っている丁寧な言葉で、
此処まで浸食されているとは…と苦笑を浮かべた。

本当、やれやれだ。
少年の近しい友人のよく使う言葉を借りてみる。
自分にはあまり似合わないことにまたもや苦笑し、
思考の海に潜った。


19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 12:46:51.78 ID:tnxIRBVCO

それは二週間程前のこと。

いつものようにパチリパチリとオセロを打っていた少年。
対戦相手は、これもいつものように少年の近しい友人。

その友人は少年のゲーム運びの下手さに、笑いを通り越して呆れていた。

キョン「だぁ!!お前なぁ、此処に置いたら簡単に俺に角を取られるだろ!?」

古泉「え?そんな事はないでしょう?」

キョン「ほら見て見ろ!!」

そう言って少年の友人はパチリと白の駒を置く。
それに連動してパタリ、パタリと黒がひっくり返った。

古泉「あぁ、そんな所にそんな手があったとは…」

キョン「あぁじゃない、あぁじゃ。ったく、何だってそんなに弱いんだ?」

古泉「さぁ?先を読むのが苦手なんでしょうかね?」

キョン「俺に聞くな!!全く、その賢い頭は何故ゲームに使えないんだ!?」

古泉「それこそ、僕に聞かれても…ですよ」

キョン「ったく。ほら最初から始めるぞ?今度はどこに何が置けるか指導しながらだからな」


20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 13:01:35.03 ID:tnxIRBVCO

少年と友人の関係は良好だった。
初めこそ、慣れない環境とつかめない距離間で、
口には出さずとも戸惑っていた二人だったが、
ようやくお互いの距離間もつかめ、また他には言えない秘密を共有していることから、
ぐっと絆は深まった。

こっぱずかしくて声に出してはいないが、お互いを親友だと認めている。

キョン「だから、なんでそこに置くんだよ!?5枚もひっくり返せるぞ」

古泉「えぇ!?あ、本当ですね。困ったなぁ」

キョン「だから、この場合はこっちかこっちに置くのが最適なんだよ」

古泉「ははーん、そうすれば良いのですね。考えても見ませんでした」

キョン「全く、やれやれだぜ」

そんな二人の少年を、面白くないと見つめる者が居た。

それは、神と呼ばれる少女だった。


21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 13:14:55.37 ID:tnxIRBVCO

どっしりとした椅子に足を組んで座る少女は、つまらなそうに顔を歪めていた。

彼女の視線の先にはオセロを打つ、二人の少年。
あーだこーだ言いながら、それでも楽しそうにオセロを打っていた。

ハルヒ「あんたたち」

少女は声を出す。
その冷えた声に、ハッと顔をあげる少年と、
なんだ?とのんびり顔をあげるその友人。

ハルヒ「あんたたち、仲良いのね」

ぶすっとした表情の少女はそう言ったあと、

ハルヒ「つまんない。帰る」

そう残して部屋を飛び出してしまった。

残されたのは、少年二人。
一人はポカンとした表情で、もう一人は若干青ざめた表情を浮かべていた。


23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 13:32:44.81 ID:tnxIRBVCO

それからというもの、少女は少年達を近寄らせないように動いていた。
初めの方は、少年に対する嫉妬だろうとのんびり構えていたが、
あまりにも執拗過ぎる。

キョン「なぁ、なんか最近ハルヒがおかしくないか?」

古泉「おかしいと言うよりは、僕達の関係に嫉妬しているのかと…」

キョン「なんだそりゃ?」

古泉「多分今まで同性で親友と呼べる方がいらっしゃらなかったのでしょうね」

キョン「今は長門と朝比奈さんがいるじゃないか」

古泉「彼女たちの事は仲間と捉えているのではないでしょうか?」

キョン「そうか」

古泉「もしくは、あなたと仲の良い僕に嫉妬しているのかと。こちらの方が有力ですね」



24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 13:42:08.21 ID:tnxIRBVCO

キョン「別に俺はお前を友人以上の何者にも捉えたことはないぞ!?」

古泉「勿論、僕もですよ。当たり前じゃないですか」

キョン「あぁ良かった。お前に変な趣味が無くて」

古泉「僕だって貴方みたいなもっさい男性よりは、綺麗なお姉さんの方が何百倍も好きですよ」

キョン「俺だってそうだ」

古泉「とにかく涼宮さんは、僕が貴方と仲良くしているのが気に食わないみたいです」

キョン「別にどうだって良いとは思うがな」

古泉「まぁ、普段仲の良い友人が他の人と仲良くしていたら、少し寂しいでしょう?」

キョン「確かにわからんでもないが」

古泉「きっと涼宮さんはその気持ちが強いんですよ」

キョン「そうか…じゃあ、しばらくは様子見だな。直ぐに飽きるだろうさ」

古泉「ええ」


29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 14:03:46.74 ID:tnxIRBVCO

しかし少女の行為は飽きることなく、徐々にエスカレートしていく。

行為自体は些細な事だが、それが毎日積み重なると厳しいものがある。

加えて、毎日大規模な閉鎖空間が発生しているため、少年の睡眠時間は大幅に減っていた。

古泉「…はぁ…」

長門「…大丈夫?」

古泉「へ?あぁ、大丈夫です。ここ最近閉鎖空間が頻繁に出現していまして…」

長門「涼宮ハルヒの心理状態に少し変化がみられている」

古泉「きっと僕に関してストレスがたまっているのでしょうね」

長門「最近の貴方に対する涼宮ハルヒの態度は若干酷いものがある」


30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 14:05:46.32 ID:tnxIRBVCO


古泉「彼女もきっと寂しいんですよ。彼女にストレスを与えないよう、
僕ももっと態度を改めないといけませんね」

長門「……だけど貴方は何も悪くはない」

古泉「ありがとうございます。でも嫉妬とはそういうものですよ」

長門「貴方は悪くない」

古泉「ありがとうございます。…っと、機関から電話ですね。ちょっと行ってきます」

長門「……」

古泉「涼宮さんには休むとお伝え下さい」

長門「…了解した」

古泉「では」

長門「……古泉一樹」

古泉「はい?」

長門「無理はしないで」

古泉「…はい」


34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 14:18:05.78 ID:tnxIRBVCO

寡黙な少女に励まされ、少年は少し嬉しくなりながら玄関へ向かう。

渡り廊下で、こちらに向かってくる男女が見えた。
件の少女と、少年の友人だ。

キョン「おう、古泉。どうした?バイトか?」

古泉「ええ、急に来てくれと頼まれまして…すみませんが今日の団活はお休みします」

キョン「お前も大変だな」

そう少年の友人が言ったところで、少し嬉しそうな声があがった。

ハルヒ「そっか。今日も来れないのね古泉君」

古泉「えぇ、申し訳ありませんが…」

キョン「そう言えば、最近滅多にお前とボードゲームしてないからなぁ」

ハルヒ「大変ね」

古泉「では、すみませんがこれで…」

キョン「おう。お前もあんまり無理すんなよ。夜にメールするわ」



36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 14:24:37.73 ID:tnxIRBVCO

そんな少年の友人の言葉を聞いた少女は、嬉しそうな顔を一変させる。

それを見た少年は、今日も大変そうだ…と頭を抱えそうになるが、
貼り付けた笑顔と共に一礼をしその場を立ち去ろうとする。

すれ違いざま、少年の耳にだけ届くような小さな言葉が聞こえた。


ハルヒ「どうせなら、ずっと来なくても良いのに」


ハッとして少女の顔を見ると、可愛らしい顔を歪ませている。

それは酷い表情だった。



37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 14:42:04.63 ID:tnxIRBVCO

そして冒頭に至る。

放課後から終電間際までかかった神人退治に、身体は疲弊仕切っていた。
また、少女からの敵意に気にしていない風を装っていたが、
やはり心は痛んでいた。

何故彼女は…?僕に何をしたいんだ?
そんな思いがぐにゃぐにゃと少年の頭を蛇行する。

いっそのこと、居なくなった方が楽かとも考えるが、
馬鹿らしい、疲れているなと頭を振る。

こんなことを考えるよりは寝てしまおうと、思考を深い海から引きずり出す。

回らない頭で考える事よりは休息が必要だと、
電車の心地よい揺れに身を任した。

電車の外ではオレンジ色の柔らかい灯りがチラチラと光っていた。



40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 14:59:41.25 ID:tnxIRBVCO

少年の体感にして、一瞬。
時間にしても5分も経たない内に、眠りから無理やり引き出された。

ぼんやりとした頭で、何だ?と考える。

身の回りを確認すると、ポケットの中で何かが震えていた。
確認するまでもなく携帯だと気づくと、直ぐに取り出す。

電話のようだ。

相手を確認すると、先程別れた女上司の名前。
まさか…と憂鬱な気分になりながらも通話ボタンを押した。

古泉「もしもし、森さん?古泉です。どうかしましたか?」

電車内の通話は禁止されているので、小声で対応する。


41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 15:00:05.26 ID:tnxIRBVCO


森「もしもし、古泉?悪いけど今どこ?」

古泉「もうすぐ**駅に着くところです。…もしかして閉鎖空間ですか?」

森「もしかしなくても閉鎖空間よ。その駅に着いたら降りてもらえる?」

古泉「わかりました。場所は?」

森「少し遠いから車を向かわせるわ。駅前で待ってて」

古泉「了解しました」

森「それじゃあ」

プツっと無機質な音を立てて通話が切れた。
同時に、はぁ…という深い溜め息。

古泉「彼女は何がそんなに不満なんだ。今日の団活は僕がいなかったと言うのに…」

そんな愚痴をこぼすが、少年には向かわなければならない場所がある。

電車は滑るように駅に止まると、少年一人を吐き出してまた進み出す。


42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 15:15:34.35 ID:tnxIRBVCO

誰もいない駅前で、少年は一人花壇に座って待っていた。
先程よりも、更に疲弊した状態で。

古泉「このままの状態では、リアルに死人が出ますよ。涼宮さん…」

少年はどうしようもない憤りを言葉にして吐き出すことで、打ち消そうと試みた。
しかし、言葉にすると憤りよりも何故か苦しさが募る。

あぁ、僕は今相当に疲れているなと少年は確認すると、
持っているカバンを抱きかかえ、それに顔をうずめた。

現在機関では、連日する閉鎖空間の発生で多くの負傷者が出ている。
実戦で動ける者が減ってしまったため、それぞれへの負担は大きくなる。

先程の神人退治ですら、倒せるかどうか危うい状態だった。
それがまた直ぐに発生しただなんて…

少年はカバンを抱きかかえたまま、小さくなっていた。
小さくなった少年の頭に久しぶりの感情が顔を出す。

怖い。


47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 15:30:07.55 ID:tnxIRBVCO

自分の感情なのに、少年はどこか客観的に捉えていた。
あぁ、久しぶりだな。と手を挙げて挨拶でもしそうなくらい、実感が無かった。

能力に目覚めて直ぐの頃は、いつも恐怖に満たされていた。
あの良くわからない物に倒されるのではと震えていた。

だが、人は慣れる。

戦い方やコツを学ぶと倒すのが楽しくなった。
小さい頃憧れた戦隊物のヒーローのようになれた気がして、少し嬉しかった。

今では、そんな感情も抜け、ただの仕事の一部だと認識している。
いや、もはや生活の一部か。

そう認識してからは一切顔を出さなくなった恐怖が、
死を少しでも感じた途端、じわりとこみ上げてきた。

古泉「あぁ、僕は今恐怖を感じてるんだ」

本当に感じているのかと疑いたくなるほど、落ち着いた声。
クスクスと笑い声も漏れてくる。


49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 15:44:16.23 ID:tnxIRBVCO

古泉「こんなに怖いのに、何で僕はまた向かうんだろうな」

少年の喉から笑いが溢れる。

古泉「何でだろうな。何で自分の生活を削ってまで戦ってんだろう」

笑い声は誰もいない駅前に響く。

古泉「馬鹿みたいだ」

少年は小さく自嘲した後、カバンに顔をうずめたまま動きを止めた。

このまま一つのオブジェになって少年は動かなくなるのでは?
と不安になってきた頃、近付いてくる音があった。

それは車だ、と認識するや否や、少年はパッと立ち上がりいつもの表情を浮かべる。

ゆっくりと止まった車に乗り込む前、少年は静かに言葉を吐き出した。

古泉「理由がわからなくても、向かわなければいけないんですよね。涼宮さん」



51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 15:58:50.43 ID:tnxIRBVCO

現場に着き、目にした光景はいつもと変わらない、普通の閉鎖空間だった。

神人が居て、周りに紅い球体が飛んでいる。
若干球体が少ないのには疑問を感じたが、
到着が遅れているのだろうと飲み込んだ。

少年も一つの紅い球体に変化し、最前線の現場へ飛び込む。

先ほどの迷いが嘘のように見えるが、きっと惰性なのだろう。
根付いた習慣は直ぐには変えられない。

古泉「さて、早めに倒して今日は早く寝てしまいましょう」

無理やり己を奮い立たせ、少年は向かった。


53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 16:16:26.31 ID:tnxIRBVCO

5、6体程ウヨウヨしていた神人達が残り2体に減った。

さて、もう少しだ。
そう思った少年に青い神人が近付く。

神人は手を挙げ、纏わりつく紅い球体をなぎ払おうとする。
が、機関の者達は慣れたもの。
神人の緩慢な動きを笑うかのように避けていった。

少年は一息ついて周囲を見、ふと気が付いた。
ここは、土日の探索で一度来た場所ではないか?と。

古泉「あれはいつだったかな?」

疲れた頭と身体のせいなのか、余計な事に思考を寄せ始める。
普段ならば戦闘中、集中力を削ぐようなことはしない少年だが、
今日は少しばかり気がそれてしまった。

青い巨人は自身のリーチ内に少年を捕らえた事を確認した。
すうっと腕を上げる。

森「古泉!!!!」

瞬き三つ分、気をそらした時間の出来事だった。


56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 16:32:16.59 ID:tnxIRBVCO

少年は衝撃に目を見開く。
何が起こったかと上を見るが、紅い球体が浮かんでいるばかり。
それでは下、と目を遣ると、

自身の身体を何本もの青い棒状の物が貫いていた。

古泉「…あれ?」

少年は状況把握が出来ていないまま小さく呟く。

少年が、これは何だろうと呟く前にもう一度衝撃が起こる。
今度は少年に刺さる青い棒状の物が抜けていった衝撃だった。

古泉「うわ…穴あいてますよ、これ」

閉鎖空間のおかげか血は出ていないが、幾つか穴の開いた自身の身体は
気持ち悪いことこの上無い。

一体何が自分を貫いたのか?と少年が辺りを見回すと、
答えは直ぐそこにあった。

先を尖らせた、神人の手が少年を貫いたのだ。

古泉「そんな事も出来たのかよ」

どうしようもおかしくて、少年から小さな笑いがこぼれた。



59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 16:45:56.64 ID:tnxIRBVCO

力が抜け、ゆっくりと下降し始めた少年。
その目の先には灰色の空がパリパリと割れていく。

古泉「…まだ全てを倒し終わっては居ないのに?」

少年の疑問に答えるかのよう、残りの青い巨人達は
勝手にぐしゃりと潰れ、全ての動きを止めた。

割れていく空を見上げながら、少年は地面に落ちる。

古泉「いたっ…」

短く声を上げた少年は、立ち上がろうと全身に力を入れるが、
どうも上手くいかない。

あれ?と一瞬思うが、少年は直ぐに理解した。

古泉「もう、立ち上がる力も無いのですか…」

痛みは無いのに…とぶつぶつ続ける少年の見上げる灰色の空が、
完全に割れようとしていた。


60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 17:01:10.99 ID:tnxIRBVCO

パキリと最後の破片が割れ、空に闇色が戻っていく。

同時に少年の身体からは赤い鮮血が噴き出した。

古泉「がはっ…ごぼっ…」

先程開けられた穴から次々と血液が飛び出していく。
痛みは無いが、熱いのが煩わしい。

古泉「(あぁ、やっぱり血は赤いんだな…)」

そんなどうでも良いような事を考えている間にも、
今か今かと順番を待っていた血液は少年の身体から出て行った。

貧血でぼーっとした頭で、きっと助からないだろうなと
少年はぼんやりと考える。

頭の中に走馬灯が駆け巡り出すと、少年はいよいよだなぁと笑う。


目を閉じようとした矢先ポケットの中がブルブルと震えた。


62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 17:10:41.89 ID:tnxIRBVCO

痛みは感じないのに振動は感じるのか…と少年は妙に感慨深くなる。

そのまま放って置いても何ら構いも無かったが、
ふと思い立ったのか、少年は動かない手をポケットに伸ばした。

古泉「(腕を動かすってこんなにも重労働なんですね)」

そんな事を考えながら、無理やり動かした手で携帯を握りしめ、
自分の見える範囲へ移動させた。

少年の血で見えにくい携帯が知らせていたのは、新着のお知らせだった。


5件


少年の元にメールが届いていた。


63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 17:25:17.33 ID:tnxIRBVCO

一件目。少年は霞始めた目で確認をする。

差出人:森
本文:本当は無理をさせたくないのだけれど…
そうも言ってられない状況よね。
今は機関の人数も足りないから、古泉の手が必要なの。
終わったら、今度は嫌って言ってもちゃんと送っていくわよ?
わかった?
お姉さんの言うことは絶対なんだからね(笑)
それじゃあ頑張りましょう。


時間にすると閉鎖空間に入る前なのだが、
センターで留まっていたのだろう。だいぶ時間のたった今に届いた。

古泉「(前にからかってオバサンと言ったことを気にしていたのだろうか?)」

無理やり入れたようなお姉さんと言う単語に、少年から笑いが零れる。

もっとも、零れたのは笑いではなく少年の血だが。

古泉「(全く、自分も相当疲れているくせに、直ぐに周りを心配するんだから)」

それは少年にも当てはまる様なことだが、自分を棚に上げて可笑しそうに、
だが嬉しそうに目を細めている。

古泉「(ありがとうございます。森さん。あなたが上司で本当に良かった)」

少年はゆっくりとメールのページを次に送った。


64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 17:36:14.65 ID:tnxIRBVCO

二件目

差出人:朝比奈みくる
本文:こんばんは、古泉君。
最近部活であいませんね?大丈夫ですか?身体は壊していませんか?
涼宮さんが安定していなくて大変だとは思いますが、
頑張って下さいね?
今度部活にケーキを焼いて持って行きます。
疲れたときには甘いものですよ?
フレーフレー古泉君!!


閉鎖空間内に居たときに届いたのだろう。
あの殺伐とした中で、こんなのんびりとしたメールが届いていたと思うと、
なんだかおかしくなる。

古泉「(この人は本当に砂糖菓子みたいな人だな)」

そのノンビリさにイライラしたこともあったが、
結局のところ、そんな彼女の様子に癒されていた。

古泉「(しかし、僕がこんな状態になることは予定には無かったのですね?)」

もしかしたら生き延びられる…と一瞬考えもするが、
だくだくと流れる血液を感じ、それは無いなと一蹴する。

古泉「(食べたかったなぁ。朝比奈さんのケーキ)」



65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 17:50:16.45 ID:tnxIRBVCO

三件目

差出人:長門有希
本文:大丈夫?今非常にいやな予感がした。
何も無いなら構わないが、一応返事が欲しい。
あまり無理しないで。
SOS団には貴方が必要。


きっと神人に刺される前だろうか?
彼女の注意を無碍にしてしまったと少年は少しばかり落胆した。

古泉「(しかし、あの無機質のようだった長門さんからこんなメールが届くなんて…)」

短いメールだが、あの寡黙な少女の精一杯の心配が伝わってきて、
少年は声を出さず嬉しそうに笑った。

古泉「(色んな場面で長門さんには助けてもらいました。ありがとうございます)」

古泉「(出来ることならもう何回か共闘したかったものです。んっふ)」

笑い声が混じったせいで、咳込んでしまった少年。

ごぽごぽと口から血が溢れた。


70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 18:07:44.01 ID:tnxIRBVCO

四件目

差出人:涼宮ハルヒ
本文:その、ごめんね古泉君。
最近古泉君に酷い態度を取っていたわ。
さっきハッと気付いたの。私何をしていたんだろうって。
キョンと古泉君の関係が羨ましかったのは認めるわ。
それであんな意地悪してただなんて、本当に最低よね。
お詫びに、二週間の団長権をあげる。
私の事もキョンみたいに好きに使って良いからね?
それじゃあ、また学校で!!
ちゃんと部活には来るのよ?


少年は、あぁと気が付いた。
きっと自分が刺された時に涼宮さんは何かを受け取って、
神人を消したのだと。



71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 18:08:30.66 ID:tnxIRBVCO

古泉「(全く、自分勝手な神ですね)」

間接的だが、少女のせいで自分の命を落とすであろう少年は、
意外にも怒りを持ってはいなかった。

こうやって少しずつ覚えていく少女を見守ってきた少年は、
父親のような気持ちに至っていたのだろう。

若干腑に落ちない気持ちを抱えながらも、仕方ないと少年は微笑む。

古泉「(正直貴女を恨んだことは数え切れないほどありました)」

古泉「(だけど、反面、貴女と過ごした日々は非常に楽しかったものですよ?)」

古泉「(今後はもっと人の気持ちが考えられる人間になって下さいね)」

更に目が霞んでいく。
ぼんやりとしか前が見えない。


73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 18:26:53.58 ID:tnxIRBVCO

五件目

きっと彼からだろうな…と思いながら少年はメールを開く。

差出人:****(キョン)
本文:おう、古泉、生きてるか?
バイト大変だろうから、一応部活中はハルヒをなだめておいたぜ。
感謝しろよ?
少しでもその何とか空間が軽くなれば良いんだがな。
あと、家で花札発見したから今度やろうぜ?
もしかしたら、カードゲームだったら対等に戦えるかも知れないからな。
…いや、おまえのゲーム弱さを考えるとそれはないか…。
まぁ、また学校でな。
あんまり無理すんなよ!!
…いや、あんなに可愛い上司のいるお前はもっと無理しても良いのかもな…
この、イケメン!!男の敵め!!
お前なんか苦労しやがれ!!
それじゃあな。また。




74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 18:27:51.56 ID:tnxIRBVCO

古泉「(全く、一番初めが生きてるか?なんて、とんだブラックジョークですよ)」

少年はもう使えない目を閉じる。

こんなときにも鈍感を発揮しなくても良いだろうと、
少年は友人を呆れた顔で思い浮かべる。

一体何を伝えたかったメールなのかはわからない。
最後の方は少年を罵ってすらいた。

古泉「(全く、貴方と言う人は…まぁ、どんな場面でも変わらない、
その変わらなさに救われていたのも事実ですがね)」

古泉「(でも内容がムカついたので、お礼は言いませんよ?)」

古泉「(また会うときまで…)」




76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 18:38:15.72 ID:tnxIRBVCO

全てを見終わった少年は、カタカタと震えていた腕を下ろした。

落ちた腕はベシャッと決して綺麗ではない水音を立てる。

ふぅ…と小さく息をついた。

足先が、出先がビリビリと痺れている。
それに全身が寒い。

古泉「(もうそろそろでお迎えのようですね…)」

そう考えたところで、はたと気付いた。

自分は何故、恐怖を覚えた戦いへ向かっていたのか。
何が自分を駆り立てていたのか。

結局のところ


古泉「…僕…の、愛し…た…この、世界…」

聞き取れない位の小さな声。かひゅうかひゅうと息が漏れている。

古泉「守…り…た、かった、だけ、なんだ…なぁ…」


78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 18:46:36.29 ID:tnxIRBVCO

大層な大義名分なんて持ち合わせていなくて、
ただ、自分が好きで、自分を好いてくれる人が居るこの世界を
守りたかっただけなのだ。

能力を持っているから義務でと言うわけでもなく、
神に選ばれたからと言う大層なわけでもなく、
至ってシンプルで安直な、
だけど優しいそんな理由で少年は戦っていたのだ。

古泉「ほん…とう、ヒーロー…みた、い…ですね…」

最期に気付けた嬉しさか、自嘲したのかわからないが、
少年は柔らかく微笑んだ。



そして、少年の全ては、
動くことをやめた。



83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 19:00:40.90 ID:tnxIRBVCO

〜epilogue〜

キョン「あれ?なんだ長門一人か?」

長門「……」

キョン「おーい、長門?長門さーん?」

長門「……」

キョン「何だよ?どうしたんだ?…って、泣いてるのか!?長門!?」

長門「……」コクン

キョン「どうしたんだ?何が有ったってんだ?なぁ?」

長門「…悲しい事があった」

キョン「あぁ、それでどうしたんだ?」

長門「大事な人が亡くなった」



84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 19:01:25.38 ID:tnxIRBVCO

キョン「お前の親玉さんに何かあったのか?」

長門「違う…確かに此処に存在した人。私達を守るために戦っていた人」

キョン「?」

長門「蘊蓄を語るのが好きで、ボードゲームが下手くそで」

キョン「長門?」

長門「少し気障で、いつも無理をしていて…」

長門「だけど柔らかく優しく笑う人」

キョン「長門…」

長門「確かに存在していたのに…此処に存在していたのに…」

キョン「そいつは俺たちを守るために亡くなったのか?」

長門「私達の世界を守るため、いつも頑張っていた」


85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/13(日) 19:04:53.59 ID:tnxIRBVCO

キョン「そう…か…」

長門「……」コクン

キョン「もっと聞かせてくれないか?その話」

長門「彼の名前は古泉一樹」

長門「彼は超能力者」

長門「SOS団副団長」

長門「そして、私達の大切な人」



〜終〜


89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/09/13(日) 19:12:15.87 ID:tnxIRBVCO

見切り発車とこんな遅筆に付き合ってくれてありがとう。
支援もありがとう。皆、愛してるwww

途中何故乗っ取りしたのかとレスがあったので一言…
タイトルに惹かれて、書けるかな?と思い書いてみたところ、
思いの外筆が進んだからなんだ。
こんなに長くするつもりは無かったのだがな。

とりあえず、場所を作った>>1に感謝


しかし、俺は7時間近くも何をしていたんだ…orz
引っ越し準備しなきゃいけないのに…orz



ツイート

メニュー
トップ 作品一覧 作者一覧 掲示板 検索 リンク SS:キョン「スーパービーダマンとは懐かしいな」