涼宮ハルヒの誘惑


メニュー
トップ 作品一覧 作者一覧 掲示板 検索 リンク SS:ハルヒ「最近あたしのSSスレ少ないわね」

ツイート

1 名前: ◆KMIdNZG7Hs [] 投稿日:2008/05/21(水) 16:02:58.98 ID:ICLcajwP0

放課後になるといつもの習慣というか帰巣本能というか足が自然と向かう場所がある。

言わずもがなのSOS団の部室だ。正確には文芸部の部室なのだが、この学校で文芸部の存在を覚えている奴なんているのかね?

今日はハルヒが担任の岡部から進路指導とやらで呼び出されているので一人で部室に向かう。

部室のドアの前に立ち、これも習慣となったノックをして、返事があってから部室のドアを開けるのだが今日はなぜか返事がない。

長門の三点リーダの返事でも長門検定一級を自負する俺になら分かるのだがそれすらない。

つまり現時点でこのドアの向こう側には誰もいないのだ。

珍しいこともあるもんだと思いながらドアを開け、いつもの自分の席に着く。

が、

目の前に古泉がいないのでボードゲームもカードゲームも相手がいないのでやることができない。

まさか古泉の真似をして一人で詰め碁というわけにもいくまい。

やってできないことはないだろうが古泉の趣味に自分から擦り寄るのはなんとなく腹ただしい。

うん、俺って普通の人間が経験できないような事を経験してきた割に器が小さいな。

自分で認識してちょっとへこむ。

仕方がない。ハルヒもいないことだし久々にネットサーフィンでもしてみますかね。

2 名前: ◆KMIdNZG7Hs [] 投稿日:2008/05/21(水) 16:04:23.54 ID:ICLcajwP0

PCを起動させ立ち上がるのを待つ。ブラウザを立ち上げると我らが団長殿が描かれたSOS団のロゴがこれ見よがしに画面に現れる。

ま、実際は長門に描きなおしてもらっているんだがな。

しばらくカチカチと文字通り電脳世界を彷徨っていたのだが、一般的というか、必然というか、健全な肉体を持つ高校生なら当然といっても過言でない、とい うかその通りなのだが、アダルトサイトに行き着く。

グラマラスなボディやスリムな裸体を眺めていると、ついつい普段接している女性陣の顔とその服の下を想像してしまう。

特にハルヒには押し倒されたりヘッドロックをかけられたりしているのでそのときに不可抗力で体に押し付けられるふくらみは体感済みだ。

バニーガールでどこが出てへこんでいるかは目でも確認済みだしな。

どかぁん!

文字通り爆発させるような音を立てて部室のドアが開いた。

誰が入ってきたかは言うまでもあるまい。ハルヒだ。

我ながら神速でブラウザを閉じる。うむ、すごいぞ俺。

「あー!もぅ!岡部のヤツ!腹立つ!ちょっとキョン!なに勝手にあたしの席に座ってるのよ!!!」

いかんいかん、岡部への怒りがこっちにまで波紋を広げそうだ。おとなしく席を立つ。

とりあえず、ハルヒの様子からエロサイトを閲覧していた事はばれてないようだ。

「いい?!SOS団の団長はわたしなの!そして団長の席はわたしの席なの!勝手に座ることは許さないわ!」

3 名前: ◆KMIdNZG7Hs [] 投稿日:2008/05/21(水) 16:04:53.31 ID:ICLcajwP0

両手をあげて降参のポーズ。まるで古泉の仕草のようだ、しかしここは従順に降参の意を示しておいたほうがいいことは経験則から確実である。

「あんた、何してたの?」

「いや、特に何も。電脳世界を彷徨っていただけだ」

「ふぅん、ま、いいわ。お茶」

「朝比奈さんが来るまで待て」

あのお方の煎れてくれたお茶のほうが俺の100倍はうまいことは地球上の誰もが認めるで…はい、煎れます。

ハルヒの一瞥に負けた。

「ほらよ」

「んぐっんぐっ」

もう、飲んじまいやがった。かなり熱いと思ったのだがハルヒの口内と喉は耐熱加工でもしてあるのかね。

かちゃりとドアが開いて天上の福音が聞こえた。「あの、遅れてすみません」

SOS団の天使、あなたの愛らしさは地球を救います。

とたとたといった仕草で朝比奈さんが小走りに部室に入ってきた。

「あ、キョンくんがお茶煎れてくれたんですか?ごめんなさい、ありがとう」

いえいえ、朝比奈さんのためならお茶の一服や二服。

4 名前: ◆KMIdNZG7Hs [] 投稿日:2008/05/21(水) 16:05:29.21 ID:ICLcajwP0

「あの…」もじもじ

なんでしょう?

「着替えますから…」

回れ右。

っとドアを開けたところで長門と出くわした。

「よう、珍しく遅かったな」

「…掃除当番」

なるほどね。やはりたまには掃除当番になるんだな。長門と入れ替わりに廊下に出る。

ドアにもたれて待っていると廊下の向こうから見慣れたニヤケ面が片手をひょいと挙げて近づいてきた。

「朝比奈さんの着替え待ちですか?」

ああ、お前も今日は遅かったな。

「HRが長引きましてね。この前行われた全国模試の結果、僕のクラスの平均点が担任の癇に触れたようで全員でお説教でした。」

テストの点なんぞ、個人の問題のような気がするがな。

「僕もその意見には賛成ですよ。」

5 名前: ◆KMIdNZG7Hs [] 投稿日:2008/05/21(水) 16:05:54.90 ID:ICLcajwP0

などと古泉としばらくなんでもない話をして待っていた…

が…

いくらなんでも着替えが長すぎないか?そろそろ不審に思い始めた時、廊下に電子音が響きわたる。

ピピピ…ピピピ…!

古泉の携帯だ。嫌な予感が暗雲のごとく湧き上がる。

ディスプレイを見た古泉の表情からニヤケ顔がさっと消える。暗雲から雷が走っているのが見えたぞ。

「なんの連絡かお聞きになりたいですか?」すぐにニヤケ顔に戻ったものの幾分ひきつっている、古泉もその引きつりを隠そうとしてないようだ。

「なんとなくわかるが、言ってみろ、いや、言わなくていい、閉鎖空間だな」

「ご明察、この扉の向こうで何が行われているか早急に確認する必要があります」

俺はもたれていたドアからゆっくりと背中をはがし振り返る。ドアの隙間から黒い蒸気が噴出しているのが見える、気がする。

さながら地獄の扉といったとこだろうか。いや、妙な描写はいい。とにかくこのドアの向こうで何が起こっているか確かめねば。

ドアをノックしてみる。

「あのー、朝比奈さん着替え終わりましたか?」

ドアの向こうから

6 名前: ◆KMIdNZG7Hs [] 投稿日:2008/05/21(水) 16:06:27.05 ID:ICLcajwP0

「えっ、いや、まだ…ですけど、あのっちょっと」「入っていいわよ」

朝比奈さんのわたわたした言葉にハルヒの不機嫌120%な声がかぶる。

古泉をちらりと見ると目礼してお先にどうぞのジェスチャー。

このやろう、俺は爆弾処理班じゃねぇぞ。心の中で毒づきながら地獄への扉を開ける。

はてな?どういった状況だ、これは。

ハルヒがPCの画面を見ながらなにやら怒ったような苦笑いのような複雑な表情を浮かべている。

朝比奈さんがその後ろに立って画面をみているが、顔を真っ赤にして両手を頬に当てている。

長門も珍しく本を読んでおらず朝比奈さんの隣に立って画面を見ている。

相変わらずの無表情だが…なんとなく興味深げに見ているような気がするが。

はて?長門の興味を引くような情報がネット上にあるとは思えんのだが。

「ほぉ・・・」

閲覧が終わったらしくハルヒがこちらを向くと同時に朝比奈さんがため息というか吐息というか熱っぽい息を吐いた。

両手はまだほほに当てたまま俺にちらちら視線を飛ばす。

長門は等速度運動で移動し、いつもの椅子に座って本を広げた。が、そのまま俺に顔を向けた。なんで?

7 名前: ◆KMIdNZG7Hs [] 投稿日:2008/05/21(水) 16:06:59.78 ID:ICLcajwP0

「ねぇキョン」

なんですか、この女性3人に尋問されるような空気は。

「あんたブラウザに履歴って残るの知ってる?」

ぐぉ!しまった!とたんに顔面蒼白になるが自分の恥部を知られた思いにすぐ赤くなる。

なんちゅうこっちゃ、異性に自分の性癖の一端を知られるのは体がきりもみするくらい恥ずかしい。

俺の態度と表情、それに女性陣の反応を見てどうやら古泉は状況を悟ったらしい。

なんだその同情と哀れみと自愛に満ちた様なにやけスマイルは。お前も男だろうが。

しかし見ていたサイトが悪かった。いわゆるコスプレサイトとでも言うのだろうか。

女性が制服やら衣装やらをわざわざ着てから、服をはだいたりあられもない姿をとるというサイトだ。

内容はエアーコンダクターからナース、OL、女教師、バドガール、レースクィーン、等々、等々。

悪いことにその中には部室のハンガーにかかっている衣装と被っているものがあった。

具体例を挙げるならバニーガール、メイド、ナース、はもう言ったか。いやそんなことより。

とにかくこれでは俺が今まで朝比奈さんを劣情の目で見てきたようではないか。誓って言うが朝比奈さんで変な気になったことは…あったかな。

「あんたもこういうの見るんだ。というか趣味なんだ。」

8 名前: ◆KMIdNZG7Hs [] 投稿日:2008/05/21(水) 16:07:19.77 ID:ICLcajwP0

ぬおぉ!ハルヒの一言一言がきつい!どうやって切り抜けようか!こういうとき嘘をつくとドツボにはまる、しかし開き直るのも厚顔無恥だ。

「いや、それはあれだ。そのまぁ」

「まぁ何?」ハルヒが笑顔で怒っている。おまえはデビュー当初の竹中直人か。

「キョン君って、あの、ああいうのが好きなんですか?」朝比奈さんが頬を赤らめながら目線をハンガーから俺に移す。ひぇえ!誤解しないで下さい!

「………」長門が目をそらした。照れてるのか?アンドロイドに羞恥心ってあるのか?それとも軽蔑されたのか?マジか?!

「彼も高校生ですし、異性に興味を持つのは成長過程で至極当然な生理現象ですよ。ご両親もご子息の健全な成長を喜ばしく思っている事でしょう。」

古泉がなんだかよくわからんフォローをしてくれるが同い年に言われると腹立つぞ。

「もちろん、僕も興味はありますよ」スマイルゼロ円。

そういう同じ側に立つフォローをしてくれ。

古泉が味方に立ってくれたおかげでハルヒは口をむにむにさせていたが。

「あんたの性癖に口を出すつもりはないけど、みくるちゃんと有希に変な気を起こしたらダメだからね!」

いや、起こしたことはない、起こすつもりもない。たまたまネットを徘徊してたら行き着いたんだ。

というか、その言い方だとお前になら変な気とやらを起こしても良いのか?

「んなっ!」うわっ一瞬で顔が赤くなった。怒りながら笑ったり赤くなったり器用なヤツだな。

9 名前: ◆KMIdNZG7Hs [] 投稿日:2008/05/21(水) 16:07:48.79 ID:ICLcajwP0

そういえば鶴屋さんがハルにゃんにならおいたしてもいいとか何とか言ってたのを思いだす。なぜここで思いだす?

「と、とにかく風紀の乱れは絶対に許さないって事よ!分かったわね!」

鼻先にびしっ!っと指を突きつけられて、コクコクとうなずいた。

他にどうしようもなかろう?

-----------------------------------------------------------------------------------

全員で校門をくぐり下りのハイキングコースをスタートする。

いつものように、ハルヒと朝比奈さんが先頭、次に長門、最後に俺と古泉が歩く。

結局あれから朝比奈さんはメイド服に着替えなかった。というかハルヒが着替えさせなかった。

そんなことしたら余計に意識してるみたいじゃないか。だれが意識してるかは俺もよく分からん。

「しかし、今日は失態でしたね」

ぐぬぬ、言われるまでもねぇよ。

「もし、どうしても我慢できないようであれば僕に相談してください」古泉が耳元に口を寄せてささやく。

一瞬で血の気が引いて距離をとる。古泉はのどの奥でおかしな笑い声を上げて。

「お相手するのは僕ではありませんよ。機関のつてでその分野のプロフェッショナルを派遣させます」

11 名前: ◆KMIdNZG7Hs [] 投稿日:2008/05/21(水) 16:08:18.57 ID:ICLcajwP0

森さんの顔を思い浮かべてしまった。そんな俺の顔を見てまたおかしな笑い声を上げやがる。

「残念ながら森さんはそのような役どころではありません」

とにかくごめんこうむる。お前にはおろか機関にまで余計なしかも恥の極地のような借りを作りたくない。

古泉はそのままくすりと笑うと黙って前を向いて歩き始めた。

いつものとおりハイテンションのハルヒの話にくすくす笑いながら朝比奈さんがその隣りを歩いている。

そしてそれを見つめているのかいないのか無口な長門が続いている。

そのとき、誰もが予想していないことが起こった。大したことではないのだが、いや、個人的には大したことなのだが。

ハルヒは願望実現の力があると色々な人間が言っているのだが、これもあいつが望んだからなのか。

風が吹いたのである。吹き上げたのだ。

俺の前を歩いていた三人の娘さんが腰の周りにまいた布をふわりと持ち上げるくらいに絶妙なタイミングと角度で。

つまりハルヒ、朝比奈さん、長門。この三人のスカートがめくれたのだ。

ハルヒは、スポーティな紺色一色。動きやすそうだな。

朝比奈さんは、純白でふちにレースがあつらえてある。意外に大人っぽいな。

長門は、水色地に青の横ストライプ。中学生のチョイスだな。

12 名前: ◆KMIdNZG7Hs [] 投稿日:2008/05/21(水) 16:08:36.43 ID:ICLcajwP0

どれも歩いているときなので少しよじれてヒップの割れ目とラインが微妙に出ていたのがすごく「こらぁ!エロキョン!」

うわーものすごい怒声。なんか近づいてきてる気がする。

朝比奈さんは前と後ろを押さえて顔真っ赤。時すでに遅しの行動だがかわいいのでそのままでいてください。

長門はスカートを押さえもしないで直立不動。そりゃ風は一瞬で止んだけどさ。ちょっと恥ずかしがる方が愛嬌があっていいぞ。

?なんだこの目の前に現れたこぶしは?

☆ ☆ ☆

一瞬意識が飛んだ。とっさに古泉が支えてくれなければ後頭部を打撲していたに違いない。

「きょ!今日は、かわいくないやつだから見ちゃダメぇ!」

ぐおおおぉおお、頭がくらくらする星が飛んでる地面が揺れるひざが笑う。

「なに?かわいいやつだったら見てよかったのか?」

「えっ…まぁキョンだったら…」

朝比奈さんが息を呑むのが聞こえた。

ぐぐぐああああああああ、まだくらくらする。ハルヒのヤツ何て言った?

「え?聞いてなかったんですか?」

13 名前: ◆KMIdNZG7Hs [] 投稿日:2008/05/21(水) 16:09:10.40 ID:ICLcajwP0

古泉が呆れ顔で聞いてくる。いや、なんか会話したきがするが頭がくらくらして覚えてない。うーいてー。

すでに三人娘は坂を下っている。

くそ、お前も見たはずなのになんで俺だけ殴られるんだ?見ただろ?

「ええ、眼福でした」

このやろう、お前は帰りに犬のくそでも踏め。

「遠慮しておきます」

しかしハルヒは何て言ったんだ?

「近々わかると思いますよ」

なに?また何か悪巧みでも思いついたのか?死刑になりたくないぞ。

「死刑にはならないと思いますがあなたにとって試練になることは間違いなさそうです」

やけに楽しそうなのと少し憂いを含んだ表情を浮かべながら古泉がハンサム顔で空を見上げる。

「僕から超能力が消えるのも遠くないのかもしれません。宜しくお願いしますね」

なんのこっちゃ、お前にお願いされてもあまり嬉しくないな。お前の為の俺の頑張りなんぞあまり期待するなよ。

くすりと古泉は笑うとそれ以上何も言わなかった。まったく、何か含んだ笑いだな。

14 名前: ◆KMIdNZG7Hs [] 投稿日:2008/05/21(水) 16:09:35.42 ID:ICLcajwP0

いつもの分かれ道でいつもの様にそれぞれ別れる。

おーいてて、ハルヒのヤツ思いっきり殴りやがって、くそっ。一人になった途端痛みが増してきた。

目の下を押さえながら歩いていると角を回った途端に現れた人物にぶつかりそうになる。

「え?な、長門?マンションに帰ったんじゃないのか?」

「私の座標位置をずらした」

なに?座標位置とな?もしかしてそれはテレポートというヤツか?お前もう何でもありだな。出来ない事を教えてくれ。

黙って長門は手鏡を俺に手渡した。なんだこれ?

「手鏡」

そりゃ見りゃ分かる。俺に渡した意図を聞きたい。これ長門の私物なのか。意外と古風な趣味をしているな。ちゃんと彫刻で掘ってあるもようが椿の花のがらで

「自分の顔を見て」 はい。

覗き込んで驚く「うぉ、腫れたなぁ」

「あなたが明日もその顔だと、涼宮ハルヒが罪悪感を抱きかねない。治療する。」

そういうと長門は少しひんやりした小さな手で俺の顔を挟み込んで自分の方に引き寄せた。

え?ちょっと長門さん?

15 名前: ◆KMIdNZG7Hs [] 投稿日:2008/05/21(水) 16:09:55.55 ID:ICLcajwP0

目の下の腫れた所に長門が唇をあてる。うわぁ、柔らかいなぁ。やっぱり長門も息をしてるんだ。顔に超至近距離でかかる吐息がくすぐったい。わーいい匂い。

やばいなんかハルヒの言っていた変な気になりそうだ。

腫れている箇所にそって長門が唇を優しくずらしていく。

動いてゆく唇の質感とさらさらとなでてゆく髪の感覚が挟んだ手はやわらかく息がうわぁうわぁ!なんか色々やばいっすお母さーん!

実際には3秒も無かったのだろうが脳がスパーク寸前の俺にはかなり長く感じた。

「おわり」

そっけなく離れる。

「す、すまないないつも手間をかけさせて」心臓は爆発寸前だ。呼吸も少しならず荒くなっちまったぜ。

「いい」

すっと俺の手元を指差す。

「返して」

あ、あぁすまない。長門に手鏡を返す。

受け取るとそのまま幽霊のように歩き出した長門の背中に慌てて声をかける。

「あ、ありがとうな、長門」

16 名前: ◆KMIdNZG7Hs [] 投稿日:2008/05/21(水) 16:10:26.82 ID:ICLcajwP0

くるっと長門が振り向いた。

何か言いたそうだな。というか表情を我慢しているのか?あれ?以前にもたしか…この表情の変化は…もしかして。冗談をおっしゃいますか?

「噛んだ方が良かった?」

今ので良いです。

-----------------------------------------------------------------------------------

ぐあー!誰か時間を戻してくれ!

朝比奈さんに頼んで時間遡行をしようか、長門に頼んで関係者全員の記憶を改竄してもらおうか。

しかし頼むときのことをシミュレートしてみるとこれまたアクロバティックに体がよじれる。

「俺が見ていたエッチなサイトの…」ぬおおぉ!羞恥で悶え死ぬ。

よりによってコスプレサイトを閲覧するとは我ながら迂闊すぎる。

恥辱にまみれて死んでしまいそうだ。そうだいっそのこと誰か殺してくんねぇかなぁ。

朝倉の顔が頭の中にフラッシュバック。

生きよっと。

自室のベットの上で部屋着に着替えた後、後悔と恥ずかしさにもんどりうって悶えていると妹がやってきた。

17 名前: ◆KMIdNZG7Hs [] 投稿日:2008/05/21(水) 16:10:51.68 ID:ICLcajwP0

「キョンくんごはんだよー!何してるのどたんどたん響くよ〜」





飯食って一息ついて落ち着いた。我ながら単純だ。さて、気になる事があるぞ。

俺が廊下で待っている時にハルヒはコスプレサイトを見て閉鎖空間を発生させた。

なぜだ?

古泉が言うには閉鎖空間はハルヒがストレスを発散させる為に生み出しているらしい。

つまりハルヒはコスプレサイトを見てストレスを感じたという事だ。

自分では朝比奈さんを着せ替え人形みたいにしてコスプレさせているのにだ。

じゃあ、コスプレに性的な要因が絡んでくると不機嫌になるのか。

いや、それもないな、以前朝比奈さんにきわどいポーズをとらせてその写真をSOS団のHPのトップに載せようとしていたくらいだからな。

うーん、どうにもピンと来ないな。

その時、携帯が鳴った。ディスプレイには古泉と出ている。

「どうした。神人狩りは終わったのか」

18 名前: ◆KMIdNZG7Hs [] 投稿日:2008/05/21(水) 16:11:10.22 ID:ICLcajwP0

『実はその神人であなたの耳に入れておいた方が良いと思う事がありましてね』

「聞きたくないな」

『まぁそうおっしゃらずに。以前あなたを閉鎖空間にお連れした時に現れた神人は覚えておいでですか?』

「忘れたい記憶だ」

『あの神人にむりやり性別をつけるとしたら男性か女性、どちらです?』

「性別も何ものっぺらぼうのつるぺったんだったろうが」

『ええ、ですからどちらです?』にやにや顔が目に浮かぶようだ。

「とりあえず胸が無かったから、無理矢理判断するなら男だろう」

『今日の神人には胸がありました。それに髪もね』

「どういうことだ?」

『相変わらずののっぺらぼうではあったんですが、明らかに胸のふくらみや体のライン等は女性の特徴を持ってましたよ』

「それで、俺にどうしろというんだ?」

『いいえ、どうも。ただあなたの耳に入れておいた方が後々お役に立つのではないかと思いましてね。僕の独断です』

「………」

19 名前: ◆KMIdNZG7Hs [] 投稿日:2008/05/21(水) 16:11:37.76 ID:ICLcajwP0

『さて、それでは失礼しますね。そうそう髪ですがポニーテールでしたよ』

言いたい事だけ言って切りやがった。何なんだいったい。神人が女になったところで俺にさほど影響があるとは思えん。

古泉は俺に何を期待しているんだ?俺が神人について考えたところでろくな知恵なんぞ浮かばん。自分で断言してやる。

大体においてハルヒの精神分析は古泉の専売特許だろうが。あいつが嫌になって俺にその役どころを丸投げしようとしているのか?

んなわけない。あの解説好きが自らの役所を手放すとは思えん。

どうにも腑に落ちない古泉の話だったがなんだか考えるのも面倒くさくなってきた。

散々恥ずかしがって悶えたので疲れた。寝る。うーん、いい性格してるぜ俺。

古泉、お前が俺に何を期待しているかはさっぱりだが今日は絶対にこたえる事はなさそうだ。

別に早急に対応しなければいけないことでもないだろう?

-----------------------------------------------------------------------------------

「きゃー!!!!!!」

なんだ?!女の悲鳴で飛び起きる!

とたんに正面にいる悲鳴を上げたであろう人物が目に入る。ハルヒ?!

目の前にいるハルヒは慌ててシーツを使い体に巻き付けている。

20 名前: ◆KMIdNZG7Hs [] 投稿日:2008/05/21(水) 16:11:57.01 ID:ICLcajwP0

巻き付けたシーツを内側からぎゅっと握り、顔だけ出している。なんちゅう格好だ。おでんの巾着みたいだぞ。

「ちょっと!隠しなさいよ!!」ハルヒが真っ赤になって視線をそらす。

自分を見下ろして驚いた。パンツだけしか身に着けていない。うわわ!

しかし隠せといわれてもシーツはハルヒが包まってるし他に着るものは…。

…ここはどこだ?

閉鎖空間…なのか?いや、部屋だ。丸い部屋だ。しかも天井はドーム状になっている。言ってみれば閉鎖空間型の部屋だ。

大きさは閉鎖空間ほどではない。学校の教室4つ分くらいの広さだろうか。部屋にしてみたら大きい部類だな。

壁も床も天井もうすいピンク色の毛足が長い絨毯が敷き詰められ覆われている。明かりは天井全体が光っているようで目に付く光源はない。

そして何より他には何も無い。ドアも窓も換気口すらもない。出ることも入ることもできなさそうな部屋だ。

シーツが一枚あるだけでそれはハルヒが今使っている。

室温は暖かいのでパンツだけでも体が冷える事は無いのだが、いかんせん身の置き所が無い。

周囲の状況を確認して座り込む。お、この絨毯肌触りが良いな、うん、すごくいい。そのままごろんと上を向いて寝転ぶ。

うん、気持ちいいぞ。我ながら妙に落ち着いていることに呆れてしまう。

さて、どうしようか。するするとハルヒが目線をあさっての方向に向けながらシーツを引きずってきた。

21 名前: ◆KMIdNZG7Hs [] 投稿日:2008/05/21(水) 16:12:19.51 ID:ICLcajwP0

「ねぇ、ここどこなの?」わからん、俺が聞きたい。

「あたし前にもこんなことあったの。というか夢を見たことがあるのよ。」

「その時はあんたと二人で夜の学校に閉じ込められて青い巨人が出てきてすごくわくわくしたわ」

「でもキョンったら元に戻ろうとか言って…」言いよどんだ。

うむ、それ以上言及しないでくれ。

ハルヒは俺の頭の横に背中を向けて座り込む。

そのときシーツがふわりと持ち上がって中が見えた。予想はしてたがハルヒも下着だけだった。

ピンク地の花柄がちりばめてありふちにはその花柄の花びらをかたどったレースが編み込まれてある。部屋の色とよくマッチしているな。

そしてそのままシーツは俺も一緒に覆う。

つまりシーツの中に入ってしまった。のだがハルヒは俺の状態に気がついていないようだ。

「おいハルヒ」

「何よ」まだ気づいていないらしい。

「見えてるぞ」

後ろを向いたのだろう。程よくくびれたウエストと健康的な背中がよじれるのが見える。とたんに跳ね上がるように離れた。

22 名前: ◆KMIdNZG7Hs [] 投稿日:2008/05/21(水) 16:12:39.10 ID:ICLcajwP0

「な、な、な、な!」真っ赤になって絶句して俺を踏み潰そうと足を上げた。

きれいに伸びた脚がシーツを割って持ち上がる。慌てて避けようとした時、割れたシーツの奥が見えて目どころか意識も一緒に奪われる。

避ける動作がピタリと止まってしまった。

ハルヒが俺の視線に気がついてさっと体を隠す。俺は下着姿を下から見上げたことで恥ずかしくなってようやく視線をそらす。

「はぁ…」

ハルヒが立ったままため息をついた。

「あんたそんな格好で寒くないの?」おかげさまで寒くは無いな。

「寒いって言いなさいよ」なに?

「寒くないの?」





「…さむい」

「ほ、ほらっ仕方ないわね!」ハルヒがバッとシーツを広げた。一瞬、女神という言葉が浮かんだ。

恥ずかしげに膝をこすり合わせて怒ったような顔で目を閉じ横を向いて両腕を広げている。

24 名前: ◆KMIdNZG7Hs [] 投稿日:2008/05/21(水) 16:13:00.76 ID:ICLcajwP0

女性らしい女性しか持ち得ない体の曲線を正面から見せられて俺がたじろいだ。

「いや、ハルヒ…あのだな…」

「寒いんでしょ」頬どころか肌が少し上気してないか?

「は、恥ずかしいんだから早く!」言われて飛び起きる。

向き合ったはいいのだがどうにも近寄りがたい。その…きれい過ぎて。

「もぅ!」キッと俺を見据えるとたたっと走りこんで優しく体当たりしてきた。反射的にハルヒの体を抱き止める。

ハルヒが両腕で俺を抱きしめるようにシーツで包み込む。

結果としてお互い抱きしめ合う様な格好になるわけで…しかもお互いほぼ裸体。

肌と肌が触れ合う面積がこれまでと段違いだ。ハルヒの香りが一瞬遅れてふわりと鼻腔に届いた。なんか落ち着く。

しばらく、と言ってもどれくらいだろう。俺はハルヒを感じていた。

黒い髪の毛と頬に触れるそのつややかさ。

ふれあっている箇所の温度と肌のきめの細やかさ。

それにふくらみが俺のあばら辺りを押している。

「ねぇ…キョン…」小さな声で俺を呼ぶ。

47 名前: ◆KMIdNZG7Hs [] 投稿日:2008/05/21(水) 19:23:57.60 ID:ICLcajwP0

少し体を離して俺を見上げる瞳は潤んでいて頬は桜色に染まっている。

なんて綺麗な瞳で俺を見つめるんだ…

『ハルにゃんならおいたしてもいいにょろよ』

うおぉ!俺はなんつータイミングで思いだすんだ!

恥ずかしい事にどうしたら良いか分からん。呼ばれて返事をする語彙すら消滅している。

下着姿の同級生に抱きつかれて潤んだ瞳で見つめられながら呼ばれた時には何て返事すれば良いんだ?

俺はただハルヒの光り輝く黒曜石の様な瞳を見つめ返した。それしかできなかった。

ハルヒはすっとその綺麗な瞳を閉じた。あ、もうちょっと見ていたかったかな…。

そしてトン、と俺の胸板におでこをあててきた。そのまま頬を俺の胸にあてる。

俺はどんな顔していたんだ?ハルヒは今どんな顔しているんだ?

48 名前: ◆KMIdNZG7Hs [] 投稿日:2008/05/21(水) 19:24:38.95 ID:ICLcajwP0

「…くすっ」あれ?ハルヒ笑った?

「すごいドキドキしてるわね」いやもう色々と脳内物質が分泌されているからな。

ぱさっ…

ハルヒがシーツを離した。けど俺の事は離さない。俺も腕をほどかない。

もはやお互い意識的に抱き合っている状態である。

ハルヒが俺を離した。そして俺の腕の中でくるりと180度回る。ハルヒが俺に背中をむけてもたれかかってくる。

思わずほどこうとした俺の腕にハルヒが手を添えた。そしてそっと自分の体に巻き付ける。

ハルヒのむき出しになった肌に俺の手から腕から全てが触れる。

暖かい、そしてなんて柔らかいんだ。改めて男と女の違いを思い知らされる。

何が何だか分からなくなる。もっとハルヒを感じたくて俺は自分の意志でハルヒを抱きしめた。

49 名前: ◆KMIdNZG7Hs [] 投稿日:2008/05/21(水) 19:25:18.69 ID:ICLcajwP0

ぎゅっ…

途端ハルヒが俺の腕をほどいてすたすたと歩き出す。

そしてくるっと振り返った。

「ほ、褒めなさい」両手をグーにして腰にあてて片足に体重をかけたポーズをとる。

「綺麗だな」意外にも思っている事がすんなり言えた。

「なっ!」ハルヒが両手で自分を抱きしめる。

「それにかわいい」感情が素直に言葉になった。

「っ!」今度は頬に両手をあてる。

そこまで言って俺の語彙は底をついた。言った内容に自分でも猛烈に照れる。ぐおぉ。

言われた方はもっと恥ずかしかったらしい。もじもじしていたがこちらに向かって走ってきた。

117 名前: ◆KMIdNZG7Hs [sage] 投稿日:2008/05/22(木) 04:43:17.21 ID:dR7RNs4F0

一瞬俺に飛び込んで来てくれるのかと期待したのだが違った。

まるでホームスチールするごとく頭から俺の後ろに落ちていたシーツの下に飛び込んだ。

が、シーツに隠れたのは上半身だけで下半身は未だにシーツに潜ろうとジタバタしている。

俺からしてみたらお尻がシーツから飛び出してふりふりしているわけだ。もう目のやり場に困るとはこの事だろうね。

いや、さっきから困ってはいるのだが。

仕方がない、シーツの端をつかんでふわりと綺麗なお尻にかけてやる。その時に俺も一緒にシーツの中に入った。

ごそごそと上にほふく前進。ハルヒの顔の横に到着。

白い光の中でお互い見つめ合う。沈黙の妖精が通り過ぎていく。

「ま、枕が欲しいわ」ふいにハルヒが言う。

シーツを丸めようか?

118 名前: ◆KMIdNZG7Hs [sage] 投稿日:2008/05/22(木) 04:43:57.54 ID:dR7RNs4F0

「やだ」

じゃ、我慢しろ。

「やだ」

どうしろと言うんだ?

ポンポン ハルヒが自分の頭があった場所を軽く叩く。

ビスケットが2つ?

「もぉ!団員なら団長の為に体を張りなさい!」

ハルヒの意図に気がついたがそれは恥ずかしいぞ。しかし気づかないふりも唐変木すぎる。かといって俺に選択肢がある様な状況ではない気がする。

どうにでもなれ、と左腕をハルヒの頭の下に入れてやる。

もぞもぞとハルヒが俺に近寄って来て体を密着させて頭を腕に乗せた。

119 名前: ◆KMIdNZG7Hs [sage] 投稿日:2008/05/22(木) 04:44:34.55 ID:dR7RNs4F0

髪がさらさらと流れ落ちる。俺は右手をハルヒの上に置いた。

一瞬ハルヒの体が硬直した。しかしゆっくりと力が抜けていく。安心した様な息をハルヒが静かにはいた。

ハルヒがちろっと俺を見上げた。がすぐに顔をうずめた。

顔のすぐ下にハルヒの頭がある。当たり前のように髪の中に鼻をうずめてしまった。

ハルヒの匂いだ。少し甘くてそして、なぜこんなに落ち着くんだろう。

目を閉じて肺一杯にハルヒを吸い込んでみる。あぁこのままでもいいな。ぼんやりそんな事を思った。

ハルヒの呼吸が寝息になってきた。俺もそれにつられるように眠気がおそってくる。

古泉の言っていた女の神人がなぜか頭をよぎる。黄色いリボンが揺れる。花柄の下着。美しい曲線。断片的なイメージが浮かんでは消える。

眠りにつく前にもう一度ハルヒを抱きしめたい。俺は両手でハルヒを抱きしめながら眠りに落ちていった。

-----------------------------------------------------------------------------------

120 名前: ◆KMIdNZG7Hs [sage] 投稿日:2008/05/22(木) 04:45:04.92 ID:dR7RNs4F0

部屋が明るくなってきた。朝か…。ぼやけた意識で思う。

そして、もぞもぞと手を伸ばして柔らかくて暖かいハルヒを探す。ハルヒをさがす?!

がばっ!一気に意識が覚醒状態になる。

俺の部屋だ。

足元でシャミセンがぐぐーっと伸びをしてまた丸まった。

「おい、シャミセン、俺は昨日の夜ずっとここにいたか?」

耳をぴくぴくさせただけでもちろん返事はしなかった。

シャミセンの代わりに目覚まし時計がアラームを鳴らしだした。今日はすんなりベットから起きられそうだな。

しかしまだハルヒの重さと色々な感触が体に張り付いている。というか体が忘れられない。きっちり記憶している。

潤んで輝く瞳、健康的な背中、女らしい曲線、腕枕したときの重み、髪の匂い、抱きしめて感じた暖かさ、そしてやわらかさ。

121 名前: ◆KMIdNZG7Hs [sage] 投稿日:2008/05/22(木) 04:45:30.10 ID:dR7RNs4F0

『は、恥ずかしいんだから早く!』

妄想の中のハルヒが再び下着姿で腕を広げて俺を呼んでいる。思わずそのハルヒを抱きしめようと俺から近寄る。

「あれー?キョンくんが一人で起きてる。えらいねーシャミ」

ベットの上で飛び上がるほど驚いた。ぐがげぎが!

「あはははー!ぐがげぎが♪ぐーぅがぁげぇぎぃがぁがぁがぁ♪」妹がシャミセンを抱えて部屋を出て行った。

うぁー。まだ動悸が治まらん。やれやれ。

とりあえず顔を洗い歯を磨く。鏡を覗いたら妙な顔をした自分がいた。

てめぇ、少しばかりにやけてないか?

朝飯を食っていつものごとく学校へ向かう。

歩きながら考える。まるでギリシャの哲学者のようだが内容は下世話なもんだ。

122 名前: ◆KMIdNZG7Hs [sage] 投稿日:2008/05/22(木) 04:46:04.65 ID:dR7RNs4F0

夕べの記憶は夢…ではないだろうな。

現実だとしたらあそこはどこだったんだ?閉鎖空間とも違っていたし。ハルヒの意図はなんだったんだ?

なんにせよいつものごとく巻き込まれたことには間違いない。巻き込まれた本人が現状を客観視しようとしても難しかろう。

説明してくれそうな人物には心当たりがあるし放課後部室で聞けば良いだろう。

哲学者の真似はやめだ。なによりこの坂をのぼりながら脳みそにまで負担をかけるのは心身ともに疲弊する。

教室について自分の席に着く。ハルヒはもう座っていた。

憂いた顔で頬杖をついて窓の外を見ている。

なんというか、自然と頭の中に昨日の下着姿と目の前のハルヒを重ね合わせてしまう。

無言でいるのも自分で意識しているのを認めるようでくやしい。

「よぉ、眠れなかったのか」

134 名前: ◆KMIdNZG7Hs [] 投稿日:2008/05/22(木) 08:10:40.41 ID:dR7RNs4F0

「え?眠れたわよ。あんたに…」

目線が重なった途端、ぼぉんという擬音が聞こえそうな勢いでハルヒが赤くなる。つられてこっちも昨日の記憶がさらにまざまざとよみがえる。

「なんでもない!」

やはりハルヒも昨日の記憶はあるようだ。幸いまた夢だと思ってくれているようだから俺が意識しないようにしなければ。

昼休み、説明してくれそうな人物その1が向こうから近づいてきた。古泉がにこやかに片手を挙げる。

「少しお時間をいただいて良いですか?」周りの一部の女子が古泉を見て浮かれたような声でささやきあいだす。

「場所を変えよう」俺は席を立ち教室を出た。

屋上までつづく階段の踊り場まで来る。かつてハルヒにネクタイをひっぱられながらSOS団創設の協力を強制させられた場所だ。

なつかしいな。んなことはともかく。

「ありゃなんだ?」

135 名前: ◆KMIdNZG7Hs [] 投稿日:2008/05/22(木) 08:11:17.09 ID:dR7RNs4F0

「その質問は僕がしようと思っていたところですよ」くすりと古泉が笑う。

ということはやはり閉鎖空間じゃなかったんだな?

「閉鎖空間の別バージョンとでもいいましょうか。とにかくいつものストレス発散の閉鎖空間ではありませんでした」

確かに灰色でもなくて無機質な印象もなかったな。神人も…まぁいなかったし。

そういや赤い光を見なかったな…。

…!

「お前、中にいたのか?!」思わず語気が強まる。

「いいえ、入ってません」ほっとする。

「侵入しようと試みてはいたんですがね」なに?

「以前涼宮さんとあなたが閉鎖空間に閉じ込められたというか、アダムとイヴになった時、僕は仲間の全ての力を借りてやっともぐりこみました」

136 名前: ◆KMIdNZG7Hs [] 投稿日:2008/05/22(木) 08:11:47.73 ID:dR7RNs4F0

そんなことを言っていたな。アダムとイヴは余計だ。

「失礼。しかし昨夜の閉鎖空間は違っていました。どんなことをしても侵入できなかったのです」

そりゃよかった。

よくよく考えたらあんな状態を他人にみられるのはとてもじゃないが恥ずかしい、いや腹ただしい。

ん?なぜ俺は腹が立つ?ハルヒの下着姿を誰かに見られると思ったら腹が立ったぞ。

ここは恥ずかしいの感情だけが立つところじゃないのか?

「あの中でなにがあったんですか?」古泉が聞いてくる。

ないない何もない、特に何もない。

ハルヒと二人だったのは認めるが特別なことは何もなかったぞ。そう、何もなかった。

最初驚いて、適当にしゃべって、寝たら元通りになってただけだ。

137 名前: ◆KMIdNZG7Hs [] 投稿日:2008/05/22(木) 08:12:45.49 ID:dR7RNs4F0

俺の超簡易な説明をそれでも興味深げに聞いていた古泉は少し考えた。

「神人を消すと閉鎖空間も消滅することはご存知ですよね」

ああ、ご存知だ。

「あの閉鎖空間はいつものとは違い大きくなりません。そしてお話を伺うに神人も中には存在しない」

ああ、神人はいなかった。ま、言う必要もないから黙っているが、…女神はいたぞ。

「なので閉鎖空間を消滅させる方法が分かりません」

別に大きくならないなら害はないんじゃないか?そのままにしておけよ。

なぜか俺はあの空間がとても大事な気がしてつい擁護にまわる。

俺の態度を見て古泉がしたり顔でにっこりする。何をさとりやがった?

「危険がないと判断できればそのままでも構わないと僕も思います。しかし」

138 名前: ◆KMIdNZG7Hs [] 投稿日:2008/05/22(木) 08:13:19.28 ID:dR7RNs4F0

しかし?

「中の状態を確認しないことにはその判断は出来かねる、と考える上の人間もいるんです」

頭のかたい上司だな。害のないものは放っておけよ。

パンドラの箱をしらんのか?藪をつついて蛇どころか鬼が出てきたような史実は数多く存在するぞ。

「まったくそのとおりです。ですから中の様子を安全に確認するには戻ってきた人物に聞くことです。もちろんその人物が信用に値する人格の持ち主であることは大前提です。そして私はあなたがそうだと思っているんですがね」

持ち上げてもこれ以上の情報は提供できないぜ。それにお前の言う人格者はお人よしと同義に聞こえる。

次には、なのでどんな空間だったか教えてくれませんか?とでも言いそうだな。

「なのでどんな空間だったかおしえてくれませんか?」にこやかに復唱するな。

とにかくあれには危険はない、お前の頭の固い上司にそういっておけ。

話は終わりだ。俺は階段を降りはじめた。廊下での別れ際、古泉がこう言った。

139 名前: ◆KMIdNZG7Hs [] 投稿日:2008/05/22(木) 08:13:41.04 ID:dR7RNs4F0

「あの空間はいったいいつ消滅するんでしょうね。それじゃ」

知るかそんなこと。何より今俺はあの空間がとても大事にした方がいいような気がしている。いや、大事にしたい。

何より誰にも迷惑をかけていないんだ。そっとしておいてくれ。

-----------------------------------------------------------------------------------

放課後、やっぱり自然と部室に向かう。何なんだろうね。習慣になっちまってる。

今日はハルヒは掃除当番なので少し遅れてくるだろう。

部室の前に立ちドアをノックする。

「はぁい、どうぞ」朝比奈さんが返事をしてくれた。

入ると昨日とは違い既に古泉も長門もいた。

「今お茶入れますね」メイド服の朝比奈さんがぱたぱたとお茶の用意をしてくれた。

164 名前: ◆KMIdNZG7Hs [] 投稿日:2008/05/22(木) 14:33:13.94 ID:H5oAZNUQ0

よかった。昨日の今日だから着替えてなかったら変に意識してしまうところだった。着替えてくれてありがとう朝比奈さん。カチューシャがよくお似合いです。

ことん、朝比奈さんがにっこりしながら俺の前にお茶を置いてくれた。湯飲みから昇る湯気に心が温まる。

ぱたん。長門が本を閉じた。

部活終了の合図…じゃ、無いよな。

小さな音なのに何故か室内に緊張した空気が漂う。

朝比奈さんは小動物のごとく敏感にその空気を感じ取ってお盆を抱きしめ壁際にすすすっと引いた。あら壁の華。

古泉は完全に傍観者を決め込んでやがる。にやけ顔がむかつく。

長門のダイヤモンドダストの目が正面から俺を見つめた。体温が下がる気がする。

説明してくれそうな人物その2だが、こうも正面からこられて正直腰が引けてます。

「本日未明 午前1時32分18秒から1時間26分46秒の間、涼宮ハルヒとあなたの存在を確認できなくなっていた」

165 名前: ◆KMIdNZG7Hs [] 投稿日:2008/05/22(木) 14:33:55.01 ID:H5oAZNUQ0

ニュースを読み上げるみたいに言わないでくれ。

「昨晩できた閉鎖空間の内部を観察することが情報統合思念体にも不可能だった」

なに?神と言って差し支えないような長門の親玉にも侵入できなかったのか。

「現状ではあの空間の内部情報を持ち帰ることができるのは涼宮ハルヒとあなただけ」

見られていないのをほっとするのと同時に宇宙の中で俺とハルヒしか入れないあの部屋がますます貴重なものに感じる。

「どうやら本当に完全な不可侵空間のようですね」古泉がにこにこしている。

「情報統合思念体はあの空間の内部情報を手に入れたがっている」うげ。なんつーピーピングトムだ。

「私という固体もあの不可侵空間の内部を知りたいと思っている」

こら長門、女の子がはしたないぞっ。

「………」

166 名前: ◆KMIdNZG7Hs [] 投稿日:2008/05/22(木) 14:34:28.67 ID:H5oAZNUQ0

いや、特にたいした空間じゃないぞ、ほんとに。こら古泉なにを笑っている。

俺は閉鎖空間、というかあの丸い部屋の様子を、部屋の様子だけを、古泉にしたよりも少し詳しくわたわたしながら長門に伝えた。

「ふわ〜不思議なお部屋ですね〜」お盆を抱きしめたまま俺たちの話を聞き入っていた朝比奈さんがため息とともに感想を述べる。

いや、興味を持つようなもんでもないですよ。絨毯の肌触りは秀逸でしたが、観光名所になりそうな特徴は皆無でしたから。

というわけだ。納得してくれたか? ちら。

ダイヤモンドダストがまだこっちをみてるよ〜。冷や汗が背中を伝わる。

「内部での涼宮ハルヒとあなたの行動を知りたい」ぐぼはっ!

言わなければいけないか?

「あなたに言う義務はない。あなたはあなたの思う通りに行動してよい」

お言葉に甘えさせていただきます。言えません。

167 名前: ◆KMIdNZG7Hs [] 投稿日:2008/05/22(木) 14:34:52.07 ID:H5oAZNUQ0

「残念です」古泉お前はだまってろ。

「あなたの言う丸い部屋はまだ存在している」そうなのか?古泉のほうを見るとにこやかに頷いた。

しかし存在していてもなにも問題はないだろう?部屋が悪さをするわけではないだろうに。

「場所に問題がある、出現した場所が地球で言うエネルギーが飽和状態になっている場所だった」

なんだ?火山の噴火口とかか?

「ここですよ」古泉の人差し指が垂直に下をさしている。

「今まで飽和状態だったところの位相空間に突然出現したんです。出現した閉鎖空間の中に今まであったエネルギーが流れ込めればそれ程でもなかったんでしょうが、いかんせん外からのありとあらゆる侵入を絶対に許さない閉鎖空間でした」

古泉の説明を聞いて、お湯がいっぱいの風呂に飛び込む絵が浮かんだ。ざばー!

で、どうなるんだ?

「あふれ出したエネルギーが予測不可能な振る舞いをこちらの位相でする可能性がある」事実を冷静に長門が言う。

196 名前: ◆KMIdNZG7Hs [] 投稿日:2008/05/22(木) 18:26:33.79 ID:H5oAZNUQ0

具体的には?

「わからない」背筋が凍った。長門にわからないと言われると絶望を味わえるな。

ニヒリストを気取っているヤツは長門の前に10秒も立たせればコロリと宗旨替えするだろう。

古泉、お前昼休みにこんな事一言も言わなかったな。

「実体験に勝る言葉はありません。現実がどのように歪められているかあなたに直接経験していただこうと思いまして」様になる肩のすくめ方。

「そうすれば閉鎖空間を閉じようとする意図にも少しはご尽力をいただけるかと」にこり。

お前はあの部屋が消えなくてもいいと言っていただろうが。

「ええ、危険が無いと判断できればという条件付きですけどね」政治家の答弁みたいな受け答えだな。お前が立候補しても俺の投票は期待するなよ。

「ちなみにそのお茶」俺の未来への宣言をさらりとかわして古泉が俺の前に置いてある湯のみを指差す。

「飲んでみて下さい」

197 名前: ◆KMIdNZG7Hs [] 投稿日:2008/05/22(木) 18:27:04.31 ID:H5oAZNUQ0



頬をたらりと汗が伝わる。

今までの前振りを考えるとどうしてもこのお茶が普通であるとは思えない。

お茶を煎れてくれた朝比奈さんを見る。このお茶になにか細工は…

ふるふる。お盆を抱きしめながら巻き毛が左右に揺れる。

「い、いえ、私は何も、普通にいつも通り煎れただけです。特にこれと言って。あの、本当です」

いや、すみません、朝比奈さんを疑ったわけではないんです。ありがたく頂きます。

色、普通。

匂い、特に変とも思わない。

手に取る。覚悟を決めて一口含む。

…味、うまい。いつもの朝比奈印の味がいたします。

198 名前: ◆KMIdNZG7Hs [] 投稿日:2008/05/22(木) 18:27:38.96 ID:H5oAZNUQ0

ただし、…不自然に温度が高い。

煎れてもらってそれなりに時間が経っているのに煎れたての様な湯気を上げている。

「如何です?」古泉が晴れやかに聞いてきた。

結構な御点前で。

「お粗末様です」朝比奈さんが慌ててぺこりと頭を下げる。

「このようにエネルギー保存の法則が崩れかけています。今はこちら側の空間ではこの部室だけですがそのうち影響は校舎の外まで波及すると思われます」

文字通りの茶番を朝比奈さんとやっている場合ではない気がしてきた。朝比奈さんは大まじめに受け答えしてくれたみたいだが。

「長門さん、最終的にはどのくらいまでこの影響は広がりますか?」

「この街の郊外付近まで波及すると思われる」やぁ日本全体とかじゃなくてよかったよかった。

「長門さんは先ほどからお茶に口をつけていませんね。何か問題でも?」

199 名前: ◆KMIdNZG7Hs [] 投稿日:2008/05/22(木) 18:28:05.26 ID:H5oAZNUQ0

古泉の言葉に朝比奈さんがびくっとする。

「あ、あの、何か不手際がありましたか?」おずおずと朝比奈さんが聞く。

長門は自分の前に置かれていた湯のみを持つと中が見えるように朝比奈さんに傾けてみせた。

朝比奈さんが口に手をあてて悲鳴を押さえ込んだ。

必然的にお盆が床に落ちる。からからからから…

あれだけ傾けたら中身がこぼれそうなものだが、なぜだ?

長門がすーっと腕を動かして俺にも中身が見えるようにしてくれた。

見事に凍っていた。おいおい、冷気がこぼれているぞ、そのお茶何度なんだ?

「マイナス183.5度」

再び朝比奈さんが飛び上がって後ざする。

204 名前: ◆KMIdNZG7Hs [] 投稿日:2008/05/22(木) 18:41:10.86 ID:H5oAZNUQ0

床を見つめて泣きそうな顔。潤んだ大きな瞳の見つめる先には先ほど落としたお盆が…まだ回っている。

からからからからからからからからからからからから…

止まりそうで止まらない。おいおいおい、明らかにおかしいぞこれは。自分が培ってきた常識とやらがぐらぐらと揺れ出すのがわかる。

古泉がお盆に近づいてひょいと持ち上げた。

「今、この部屋でなら簡単に永久機関が実現できそうですね」さすがの古泉でも浮かんでくる苦笑を押さえる事が出来ないようだ。

お盆をくるりと回すと朝比奈さんに手渡す。おっかなびっくりに朝比奈さんが受け取った。

「あ、あの、こんな状態の時に涼宮さんが部室に入って来たらどうなるんですか?」朝比奈さんがおそるおそる疑問を口にする。

「予測不可能」長門が宣言する。

どっかーん!

部室のドアがぶっ飛びそうなほど勢いよく開いた。長門を除く全員の心臓が跳ね上がったと思われる。少なくとも俺のは飛び上がったぞ。

255 名前: ◆KMIdNZG7Hs [] 投稿日:2008/05/23(金) 15:41:03.20 ID:lFbbKj+y0

「おっまったせー!!」ハルヒ!

待ってねぇ!というかぶっちゃけ今は部室に来て欲しくなかったぞ。

しかもなんつータイミングで入ってくるんだよ。長門の宣言直後だ。文字通り何が起こるか分からん。

って!もう起きてるー!!!!

朝比奈さんが硬直する。

ハルヒが自分の席に向かって歩いてゆく。その通りすぎた空間に言葉にできない様な魑魅魍魎が浮かんでは消え、浮かんでは消えている。

筆舌に尽くしがたいぞこれは。かろうじて認識できるものでも、くじら、カーペット、手、犬の首、巨大なろうそく、下駄箱、救急車、無茶苦茶だ。

全く何の脈絡もなく無秩序にありとあらゆるものがいびつな形で互いに混じり合い、喰らい合いながら空中に飛び出しては溶けてゆく。

しかも全く音を立てない。誰かが見た酷い悪夢を何種類もぐたぐたに混ぜ合わせて無理矢理見せられているようだ。

ハルヒ自身は自分の真後ろの事なので全く気がついていない。いや、これは気がついてもらっては困るのだが。

256 名前: ◆KMIdNZG7Hs [] 投稿日:2008/05/23(金) 15:41:29.05 ID:lFbbKj+y0

しかしこれには度肝を抜かされた。俺だけではなくさすがに古泉もそうらしくいつものスマイルも貼り付けたようだ。

ハルヒが椅子に座る。途端に悪夢が覚めたように百鬼夜行はなりを潜めた。

どうやらハルヒが移動すると現れるようだな。ほっとする。じっとしていろよハルヒ。

ハルヒがPCの電源を入れた。一瞬でPCが立ち上がる。

「あら?今日は早いわね」PC空気読め!ひいた冷や汗がまた噴出す。

「キョンも見習いなさい。あたしは打てば響く様な団員が好きよ!」

無機物を見習えと言われても素直にうなずく気にならんわい。が、今は状況が状況だ。素直に首を縦に振っておく。

「みくるちゃんお茶」ほっ…、PCの異常スペックアップに疑問をもたないでくれた。密かに胸を撫で下ろす。

「あ、はい!」魑魅魍魎に完全に骨抜きにされた朝比奈さんがハルヒの言葉にぴょこんと飛び上がってお茶を煎れる。

そしてお盆に乗せて歩き出そうとして立ち止まった。俺、古泉、長門の3人がお盆に乗っている湯のみを注目していたからだ。

257 名前: ◆KMIdNZG7Hs [] 投稿日:2008/05/23(金) 15:41:52.89 ID:lFbbKj+y0

朝比奈さんに目配せ。(大丈夫ですか?変なものになってませんか?)

珍しくアイコンタクトが通じたようだ。こくこく。壊れた人形のようにぎくしゃくとうなずいてくれた。

朝比奈さんがゆっくり湯飲みの中を確認。うわぁ泣きそうな顔になっちゃった。

あぶなっかしく片手でお盆を持ち、人差し指を俺に向けてくるくると回した。

田舎のトンボとりを思いだすな。いや、どうでもいい。

どうやら湯のみの中のお茶の渦が止まらないとみた。

どうする?長門を見る。

ナノ単位でうなずいた。大丈夫という意味にとるぞ。いいな?

古泉を見てみる。アルカイックスマイル。役に立たんやつめ。

朝比奈さんにうなずき返す。(大丈夫です。そのまま持っていってください)

258 名前: ◆KMIdNZG7Hs [] 投稿日:2008/05/23(金) 15:42:24.69 ID:lFbbKj+y0

メイド服の未来人は良いんですか!?とばかりに大きな目を丸くする。

朝比奈さんがものすごく緊張しているのが手に取るように分かる。お願いします、こぼさないでくださいよ。

回り続けるお茶が湯飲みの外に出たらどんな振る舞いをするのか想像もできない。したくない。

本日この場においてはどじっこメイドは封印してください。

そんな周囲の心配なぞ露知らず、ハルヒはネットサーフィンをしている。

クリックすると一瞬で画面が表示されている。完全にストレスゼロの表示速度。さぞかし快適なネット環境だろう。

「おおおお待たせしました」

ハルヒの机の上に恐る恐る朝比奈さんが湯飲みを置く。ちゃぽん。

ゆっくり置いたにもかかわらず、お茶が跳ね上がる。ちゃぽん。また跳ね上がる。

朝比奈さんがまたこっちを見る。口をぱくぱくさせながら顔をふるふると左右に振る。

294 名前: ◆KMIdNZG7Hs [] 投稿日:2008/05/23(金) 20:47:00.24 ID:lFbbKj+y0

言わんとする事は正確に分かります。

(わ、私もうだめです)

いくら何でもお茶が勝手に跳ねるのはまずすぎる。朝比奈さんに下がってとジェスチャーしながら俺はハルヒの湯飲みを取ろうと立ち上がった。

が遅かった!ハルヒが湯飲みを持ってしまった!

ぐびぐび。とん。

大丈夫か?気がついたか?固唾を呑む。

「明日の市内パトロールだけどこの方法を取り入れてみようと思うの」

ハルヒがディスプレイを指差す。

「良いんじゃないか」お茶が気になってろくに見ずもせずに返事をしてしまった。

「へぇ、珍しいわね。あんたがすんなり賛成するなんて」

295 名前: ◆KMIdNZG7Hs [] 投稿日:2008/05/23(金) 20:47:25.46 ID:lFbbKj+y0

ディスプレイを確認するふりをして湯飲みを覗き込む。飲みきっている。気づかれなかったみたいだ。

安堵しながら改めてディスプレイを見てみる。

なんだこれは?方違え?

「簡単に言うと、どこかに向かう時それが悪い方向だったらいったん別の場所に行きあらためて最初の目的地へ向かうのよ」

おいおい、陰陽師のブームはもう去ってるぞ。

「何言ってんの?ブームの問題じゃないわ。我がSOS団は現代はもちろん過去から未来までもの知恵を集結して活動するの!」

ハルヒが立ち上がって俺に指をつきつけながら言う。

「考えてみたら不思議なものが常識的な行動をとるわけないのよ。不思議なものは不思議な行動をするから不思議なの。」

説得力がある様な無いような理屈だな。

「いいキョン?まっすぐな道をまっすぐ歩くのは不思議じゃないの」

296 名前: ◆KMIdNZG7Hs [] 投稿日:2008/05/23(金) 20:47:49.34 ID:lFbbKj+y0

そりゃそうだ。

「まっすぐな道を横切ったり昇ったりひっくり返ったり消えたりするのが不思議なものよ。簡単でしょ」

完璧な理論。まいったか。と言わんばかりのハルヒ。

両手をぐーにして腰に手をあて片足に体重をかけて…あれ、このポーズは丸い部屋で…

!!!!!!!

ハルヒの後ろに俺が現れた!!しかも裸!!!腰から下は透明になって消えているから幸いにして見えない。いや、何が幸いなんだ、いや幸いだろう。

すーっとハルヒの背中に向こうの俺が近づく。

志村うしろー!

違う!そこの俺、自重しろ!

向こうの俺が、魂の底から愛しく想う人を守るように優しくハルヒを抱きしめようとする。

297 名前: ◆KMIdNZG7Hs [] 投稿日:2008/05/23(金) 20:48:12.33 ID:lFbbKj+y0

まずい!ハルヒの視界に入る!

しかし視界に入る寸前、向こうの俺はハルヒを抱きしめる直前で空中に溶けた。

「ん…!」ハルヒが声を出す。

ハルヒが腰にあてていた手を胸の前に持ってきた。右手を胸の上で握り、左手で押さえている。

?!見えなくなっただけで抱きしめられたのか?くそっ!…あれ?なぜ怒る?

ハルヒが俺をまっすぐ見つめてきた。あ、閉鎖空間で見せてくれた輝く黒曜石の瞳…。そして何かを確かめるように後ろを振り返る。

また、俺を見る。そして振り返る。

俺を探しているのか?

ハルヒを安心させたい。

他の事は頭から綺麗にすっとんだ。大丈夫だ、俺はここにいるぞ。ただハルヒへの想いに突き動かされて俺は一歩ハルヒに近づいた。

298 名前: ◆KMIdNZG7Hs [] 投稿日:2008/05/23(金) 20:48:33.48 ID:lFbbKj+y0

はっとしたようにハルヒが俺を見つめてくる。あの時と同じ瞳だ…。見とれた。意識がふらりとした。俺の中で周りの景色がゆがむ。

違う!実際に歪んでる!



丸い部屋のなかだ!いや、部室に戻って来ている。

一瞬だが確かにあの丸い部屋に移動した。振り返り朝比奈さんと古泉の表情を確認する。確信。部員全員で一瞬だったが移動したんだ。

カメラのフラッシュが光る位の時間だったが移動したのは確実だ。まずいぞ、ハルヒをどうやってごまかす?

ぱたん。

長門が本を閉じた。

「じゃ、明日は駅前に9時集合よ!遅れたら罰金だからね!」

え?いいのか?今の現象にハルヒがつっこまない。正直つっこまれたら困るんだが。

299 名前: ◆KMIdNZG7Hs [] 投稿日:2008/05/23(金) 20:48:59.32 ID:lFbbKj+y0

「今までは探すルートを決めてなかったけど、明日はあたしがルートを決めてくるわ。その通りに動けば必ず不思議なものは見つかるはずよ!」

まるで今の事が無かったように振る舞っている。不思議な事は今ここであったろうに。

まぁ疑問に思わないのであれはそれでいい。しかし…なぜだ?

「あ、あ、あの、じゃ、じゃぁお着替えしますね」朝比奈さんがまだ驚きから立ち直れていない顔で言った。

俺と古泉はとにかく回れ右をした。

廊下に出てドアを閉める。

「見たか?」

「はい、おっしゃっていた丸い部屋ですね」

「ハルヒはなぜ気がつかないふりをしたんだ?」

「あの完全不可侵空間は涼宮さんが望んだからできたものです」

301 名前: ◆KMIdNZG7Hs [] 投稿日:2008/05/23(金) 20:49:22.80 ID:lFbbKj+y0

それは言われるまでもないぞ。

「最も注目すべき特徴は外からの侵入を一切許さないということです」

長門の親玉すら不可能だったらしいからな。

「つまり誰からも見られない場所。見せたくない場所。涼宮さんにとってあそこは秘密にしておきたい場所なんですよ」

それで?

「自分の秘密の場所を指差して『今の見た?!』というのは自分自身に対してあまりにもデリカシーのない態度だと思いますよ」

なるほど、ハルヒが気づかないふりをしたのはわかった。だがそんな秘密にしておきたい場所ならなぜ俺たち全員が一瞬と言えど入れたんだ?

「それは」

がちゃり。

「さっ帰るわよ!」

308 名前: ◆KMIdNZG7Hs [] 投稿日:2008/05/23(金) 21:15:13.64 ID:lFbbKj+y0

いつもの様にハルヒと朝比奈さん、長門、俺と古泉の隊列になって校門をくぐる。

その時、古泉がヤツらしからぬ素早い動きで校舎を振り返った。

古泉の勢いにつられて俺も振り返る。そして古泉の視線の先を追う。

「溢れ出しました」なに?!

SOS団の部室があるあたりから巨大な蒼い手が空に伸び上がる。

「神人の腕です」解説どうも。

古泉と俺はハルヒを確認する。いつも通り朝比奈さんと笑いながら話している。

長門がすっと前に出てハルヒと並んだ。朝比奈さんと長門でハルヒを挟んだ状態だ。

瞬間に理解する。長門はハルヒに後ろを向かせないようにしてくれる!

古泉が自分の手をはっと見る。「能力が使えます」やれ!

309 名前: ◆KMIdNZG7Hs [] 投稿日:2008/05/23(金) 21:15:30.25 ID:lFbbKj+y0

そのとき神人の腕が驚く程の速度でSOS団に掴み掛かって来た。

古泉が飛び上がりながら赤い光球に変身し、文字通り光速の動きで頭上まで迫ってきた神人の腕をみじん切りにする。

蒼い光の破片が消えてゆく空中で人間に戻りながら着地。変身してから戻るまで2秒なかったぞ。流石に感嘆。

ごうぅ!

上から風が吹き付けて来た。腕は消滅させても腕が動かした空気は止められなかったらしい。

「きゃっ」「わっ」「…」

頭上からの風という自然界ではありえないであろう現象に前を歩いていた三人は、いや二人は驚きの声を上げていた。

古泉はゆっくり立ち上がり前髪をピンとはねた。もちろんその下にはいつものスマイルを浮かべている。

けーっ格好良いことですこと!

---------------------------------------------------------------------

370 名前: ◆KMIdNZG7Hs [] 投稿日:2008/05/24(土) 03:09:15.14 ID:izVncKCt0

いつもの分かれ道で皆と別れる。

俺は角を曲がって最初の電柱にもたれて携帯をとりだした。

別にかけるわけじゃない。

ぶるるる…

誰からかかってきたか確認もせずに出る「公園だな」

『話が早いですね。お願いします』

いつもの公園に行くと古泉、朝比奈さん、長門が待っていた。

「朝比奈さんには校舎を出た時に何があったかは既に伝えてあります」

こくり。朝比奈さんが愛らしくうなずいた。

「さて、問題は明日です」

371 名前: ◆KMIdNZG7Hs [] 投稿日:2008/05/24(土) 03:09:35.86 ID:izVncKCt0

市内の不思議探索だな。

「そうです。長門さん、部室からあふれたエネルギーは今どのくらいまで広がりましたか?」

「市街地をすでに覆った。明日の午前9時36分に最大に広がりそこから縮小していく」

「完全に探索の時間と重なりましたね」

ということは?

「今までSOS団の不思議探索は不思議なものを見つけられませんでした。しかし今回ばかりは本当に不思議なものを発見してしまう可能性が出てきました。いえ、可能性が出てきたのではなく、涼宮さんが本気で不思議を望んだんです」

どうするんだ?不思議を発見させるのか?阻止するのか?

「笑って済ませられるような害の無いものであれば僕は問題ないと思いますが、部室で起きたような現象などは発見するべきではないと思います」

どうだ、長門、明日の探索で部室レベルの現象は市街地でも起きるのか?

「エネルギーは均一に分散するわけではない。局所的に集まり偏在する。極大値を取っている場所では部室レベルと同等の現象が起きると予測される」

372 名前: ◆KMIdNZG7Hs [] 投稿日:2008/05/24(土) 03:10:05.08 ID:izVncKCt0

じゃ、エネルギーが薄いところを狙って歩けば大丈夫ってことか?

「エネルギーはおおよそ道に沿って移動する」

道っておいおい、歩くからどうしたってエネルギーのあるところに突っ込んでいく事になるじゃないか。

「という事は部室レベルの現象が起きる極大値をとる場所というのは交差点と考えてもいいのですか?」

「いい」

なんてこった。明日は角を曲がる度にびくびくしなきゃならんのか。

………ちょっと待て。ハルヒもそうだが、この街で暮らしている人もあの手の現象を目の当たりにする事になるのか?

「なると思われる」

それまずくないか?おまけにその現象に対処している姿もみられちゃまずいだろう?何とかならないのか。

「交差点となると人の目が多すぎます。神人の出現も狩っている姿も隠すのはほぼ不可能でしょう」

373 名前: ◆KMIdNZG7Hs [] 投稿日:2008/05/24(土) 03:10:23.54 ID:izVncKCt0

ハルヒがそれらの騒動を見たら…大喜びするだろうな。

明日でこの世界とお別れか〜。ウェルカムトゥワンダーワールド♪

冗談じゃねぇぞ。

「あの…」

今まで成り行きを黙って聞いていたSOS団のマスコットがおずおずと手を挙げた。

俺と古泉と長門の3人に注目され、もじっとする。

「人がいなくなればいいんじゃないでしょうか?」

???????

「長門さん、この街すべての人達に何らかの理由をつけて明日一日だけ街の外にお出かけしてもらう事はできますか?」

珍しく瞬きをしてから長門は答えた。

374 名前: ◆KMIdNZG7Hs [] 投稿日:2008/05/24(土) 03:10:45.02 ID:izVncKCt0

「可能」

いやいや、それをやったらゴーストタウンでしょうな。そっちも怪しいですよ。

「事情を知っている人たちに街の住人をやってもらうんです」

「なるほど、それなら可能ですね」

合点がいったように古泉が長門に話す。

「機関を総動員します。長門さんのお仲間にもご協力願います」

長門がうなずいた。こく。

驚いた、機関とTFEI端末団の協力作戦だ。

「ちょっと皆さん待ってください」

古泉はそういって携帯電話でどこかに連絡を取りはじめた。

14 名前: ◆KMIdNZG7Hs [] 投稿日:2008/05/24(土) 16:42:41.73 ID:o1n19yb90

しばらくするといつぞやどこかで見たような黒塗りのタクシーが公園の入り口に止まった。

古泉の促しでそろってタクシーに近づく。

降りてきた運転手は、白髪白髭で年齢不詳の名執事、新川さんだった。

俺たちににこやかに笑いかけながら新川さんはさまになる慇懃な一礼をした。

「皆様、お久しぶりでございます」

「新川さん、お手数かけます」

「なんのなんの、世界を救うとなればこの新川、骨身を惜しみませんぞ」

言いながらトランクをあけキャンプで使うようなテーブルセットとジェラルミンケースを運び出した。

てきぱきと公園の一角にテーブルといすを組立てる。

「ささ、皆様方、お席が用意できましたぞ」

15 名前: ◆KMIdNZG7Hs [] 投稿日:2008/05/24(土) 16:43:01.25 ID:o1n19yb90

孫娘を見る眼差しで朝比奈さんと長門に椅子を引いてあげる。朝比奈さんは恐縮しながら、長門は無表情に対応。

古泉と俺は自分で席に着いた。

ばさり、と新川さんがこの街の地図をテーブルの上に広げる。

「さて、長門さんの協力で普通の人達の目を心配する必要が無くなりました。我々が唯一気にしなければならないのは涼宮さんだけです。極端な事を言えば涼宮さんの真後ろで神人を狩っても見られなければいいんです」

古泉が赤ペンを取り出し長門に差し出す。

「長門さん、明日エネルギーが極大値を取ると予想される箇所に点を打ってみて下さい」

長門が赤ペンをうけとりテーブルの上の地図に印をつけ始める。

ちょん、ちょん、ちょん、ちょん、ちょん、ちょん、…

おいおいおいおいおい殆ど全ての交差点じゃねぇかよ。

「大丈夫です。全ての箇所が常に極大値を取り続けるわけではありません。時間が経つにつれてその位置は変化してゆくはずです」そうですよね?と古泉が長門を見る。

17 名前: ◆KMIdNZG7Hs [] 投稿日:2008/05/24(土) 16:43:19.64 ID:o1n19yb90

長門がうなずく。

「さて、部室を出る前に涼宮さんは明日は自分がルートを決めると言いました。涼宮さんはどのようなルートを選ぶと思いますか?」

あの女の事だ、出鱈目に選んだとしてもピンポイントでその時に極大値を取る交差点を選び続けてくるんじゃないか。

「はい、僕もそう思います。それを踏まえて長門さん、明日涼宮さんが選ぶであろうルートを描いてみて下さい」

長門が駅前から線を引き始める。ぱっと見には全くのランダムに道を選んでいるように見える線だ。かなり複雑怪奇に曲がりくねっているな。

ペン先が駅前まで戻ってきて長門は赤ペンのキャップを閉め古泉に渡す。

「ありがとうございます」にこりと古泉が長門から赤ペンを受け取った。

「明日の組み分けですが、僕と長門さんの組、涼宮さんと朝比奈さんとあなたで組むようにしましょう」

なぜだ?

「僕たちは先回りして涼宮さんが角をまがる直前までに不思議を押さえ込みます。あなたと朝比奈さんは何とかして涼宮さんの足止めをして下さい」

18 名前: ◆KMIdNZG7Hs [] 投稿日:2008/05/24(土) 16:43:39.17 ID:o1n19yb90

朝比奈さんと顔を見合わせる。あいつを足止めって…。

「大丈夫になったら連絡を入れます」

角を曲がる毎に携帯なんて不自然すぎるぞ。

「これをお使い下さい」新川さんがそう言ってジェラルミンケースを開ける。

そして取り出したものは…なんだ?

「小型の骨伝導マイクとスピーカーです」新川さんが俺の手の上に直径1cmにもならないような小さな丸いものを置いてくれた。

「このパッチで耳の後ろにお張り下さい」肌色の丸いシールだ。

シールの上にスピーカーを乗せ、耳の後ろに張り付ける。

「マイクは奥歯の内側に、歯にかけるようにしてご使用下さい」歯列矯正みたいな器具にさっきの黒い丸がついている。

んがががと口を開けてセット。

19 名前: ◆KMIdNZG7Hs [] 投稿日:2008/05/24(土) 16:44:11.55 ID:o1n19yb90

古泉がインカムをつけて席を離れる。

『どうです?聞こえますか?』

驚く程鮮明に聞こえる。しかし俺たちが独り言を言っていたらおかしくないか?

『無声音でしゃべって下さい。それでも音は拾えますから』

古泉が席に戻って来た。

タイミング良く新川さんが全員に紅茶を振る舞う。新川さんがこころなしかわくわくしているように見えるぞ。

俺の視線に新川さんが気がついて「胸、躍りますな」ウィンク。やっぱりわくわくしてた。

全員に紅茶が行き渡ったところで古泉が立ち上がる。

「未来人発案の宇宙人と地球人の共同作戦です。世界の為に頑張りましょう。乾杯!」

「乾杯!」

20 名前: ◆KMIdNZG7Hs [] 投稿日:2008/05/24(土) 16:44:40.55 ID:o1n19yb90

………だれも紅茶に口をつけない。

俺の紅茶はぐつぐつと煮えたぎっている。

朝比奈さんは「きゃっ!きゃっ!」紅茶が跳ねてます。

長門は…ひょいと中を俺に見せてくれる。はい、凍ってますね。

新川さんは「ほっほっほっ」楽しそうですね「回ってますな」そうですか。

もうこうなると気持ち悪いとかじゃなくて好奇心の方が勝る。

古泉のはどうなっているんだ?

くるっとカップをひっくり返す。

でろ〜ん

うわっ、お前の気持ちわる!

-----------------------------------------------------------------------------------

131 名前: ◆KMIdNZG7Hs [sage] 投稿日:2008/05/25(日) 02:57:07.04 ID:8xHBgJ460

-----------------------------------------------------------------------------------

「朝比奈様もお使いください」そう言って新川さんは俺と同じ骨伝導マイクとスピーカーを朝比奈さんに手渡した。

「え?あ、はい」ちょっと驚きながら朝比奈さんが受け取る。

「長門様もお使いになられますか?」「いい」「かしこまりました」

「それと…」新川さんは俺に近づいて封筒をくれた。

なんですか?これ?

「経費でございます」にこり。

え?見て良いですか?「もちろんです」

うわっ、一万円札が10枚くらい入ってる。

「全額使い切っていただいても一向に構いませんので、ご遠慮なさらないように」え、いや、それは、その、どうも。

「朝比奈様、ご所望の品などございましたら明日おねだりしてみてはいかがですかな?」

132 名前: ◆KMIdNZG7Hs [sage] 投稿日:2008/05/25(日) 02:57:24.29 ID:8xHBgJ460

「え?いいんですか?気になる茶葉があるんですけど手が出なくて…」

朝比奈さん、明日世界が終わりそうなんですが…。

「長門様も是非」

長門がきょとんとした顔でこちらを見て首をかたむける「いいの?」

世界が終わってなけりゃいいよ。

「さて、それでは私はこれで失礼します。明日晴れるとよろしいですな」

そうですねー。

全員でテーブルセットを片付けてタクシーのトランクにのせる。「やや、これはこれは恐縮です」

新川さんがバタンとドアを閉めて窓を開ける。「皆様のご健闘とご活躍をお祈りしておりますぞ、では」

軽いエンジン音を響かせ新川さんのタクシーは走り去った。

133 名前: ◆KMIdNZG7Hs [sage] 投稿日:2008/05/25(日) 02:57:46.36 ID:8xHBgJ460





俺は古泉に向き直った。「今更なんだが、古泉」

「何でしょう?」さっきの質問に答えてくれ。

「なぜ秘密にしておきたい場所に全員で入れたか、ですか?」そうだ。

「ここで話しても構いませんか?」

ん?周りを見渡す。俺と古泉と朝比奈さんと長門しかいない。

「構わないぞ」

古泉はどこから説明しようかという風に人差し指を眉間に当てた。そして手を元に戻しながら話し始めた。

135 名前: ◆KMIdNZG7Hs [sage] 投稿日:2008/05/25(日) 02:59:29.31 ID:8xHBgJ460

「校舎を出たとき神人の腕に襲われました。あれは正確に言うと溢れたエネルギーが閉鎖空間のように振舞ったからなんです。
つまり現れた神人の腕も涼宮さんのストレスではなく、エネルギーが真似をしていたんです。
その振舞いのおかげで僕もあの場で能力を使うことができました」

なるほどな。じゃ明日お前が街で能力を発揮できるのはエネルギーが閉鎖空間の真似をしている場所のみということか。

「そうなります。それ以外の振る舞いをしている箇所は主に長門さんたちに対応してもらうつもりです」

で、なぜ移動した?

「あの丸い部屋は涼宮さんが許可しないと入れません。そして出るときもそうです。なのに我々は一瞬とは言え入り出てきました」

そうだな。

「つまりあの一瞬、涼宮さんは勘違いしたのだと思われます」何を勘違いしたんだ?

「自分のいる場所が丸い部屋だと勘違いしたんです」さっぱりわからん、なぜ勘違いしたんだ?

136 名前: ◆KMIdNZG7Hs [sage] 投稿日:2008/05/25(日) 02:59:49.09 ID:8xHBgJ460

「想像するに…」古泉はいったん区切って朝比奈さんと長門を見た。?…何を気にしてやがる?

「丸い部屋で起こった出来事と酷似する出来事があの時起こったからです」

!!!!

あの時ハルヒが丸い部屋と同じポーズを取ったのをみて俺は丸い部屋を思い出した。

俺の丸い部屋の記憶をエネルギーが真似をして俺が取った行動を模倣したんだ。

ハルヒはまるで俺に抱きしめられたかの様に錯覚し…。

「いや、古泉さすがだ。全くだ。なるほどな。よし、明日に備えて帰るか!」

「キョン君、裸で抱きしめたんですか?」ぐおおぉおぉおおぉおおおお!!!!!

「ちゃんとパンツは履いてました!!」





137 名前: ◆KMIdNZG7Hs [sage] 投稿日:2008/05/25(日) 03:00:05.50 ID:8xHBgJ460

のぉおおぉおおおおぉおおおおおぉぉおぉおお!!!!!!

ドツボにはまる、墓穴を掘る、やぶへび、自業自得、因果応報、えとせとらー!!!!

古泉が苦笑している。そりゃするわな。

俺の壊れっぷりに同情したのか朝比奈さんが慌てて話してくれる。

「でもでも、あの、あの時の、あの、キョン君に抱きしめられたときの涼宮さん」

はい?

「すごく綺麗でした。同性の私でもうっとりするくらいに…」にっこり

何だかありがとうございます。もう明日になる前に疲労困憊です。

その後すぐに解散し、俺はかなりのダメージを抱えながら家に帰った。

玄関に置手紙。

『今日の夕方から田舎に行ってきます。
 明日の夕方には帰ります。
 シャミの世話と火の元と戸締りよろしくね』

ながとぉ…夕飯くらい作らせてから出発させてくれ。

新川さん、すみません。前日から経費使わせてもらいます。

19 名前: ◆KMIdNZG7Hs[] 投稿日:2008/05/25(日) 21:55:35.16 ID:qn.YkYso

-----------------------------------------------------------------------------------

『おはようございます。お目覚めですか』

「うわわわわ!」驚いてベットから飛び起きる。

古泉のくすくす笑いが耳に響く。

昨日コンビニ弁当を食べるのに気になったので口の中のマイクは外したのだが耳のスピーカーを外し忘れていた。

男の声でモーニングコールされるとこんなにショックだとは知らなかったな。

ショックを引きずりながら机の上に置いたマイクを口内にセットする。

『ご機嫌はいかがですか?』不愉快だ。

『そういうと思ってましたよ。では後ほど駅前で』

今日さぼっていいか?

『ダメです』だよなー。

20 名前: ◆KMIdNZG7Hs[] 投稿日:2008/05/25(日) 21:55:59.05 ID:qn.YkYso

乗る時にいつも空気を入れようと思うママチャリに乗って駅前までこぎだす。

一見いつもと変わらない街並みだが…これ目に付く人たちって全員、宇宙人か超能力者なんだよな…。

車も普通に走ってるし、買い物してる人もいるし、家族連れもいれば、学生だっている。

うーむ、今この街にいる普通の人間が俺だけと考えると…。

かえって自分が特別な存在に感じるのは気のせいじゃないよな?

駐輪場に自転車を置き集合場所に向かう。

「お気をつけて」駐輪場のおじさんに挨拶される。

うわっ!新川さん!違和感無かったですよ。

「職業訓練の賜物でございます」機関って駐輪場のおじさんの訓練もするのか?

新川さんに会釈して歩き出す。

21 名前: ◆KMIdNZG7Hs[] 投稿日:2008/05/25(日) 21:56:18.99 ID:qn.YkYso

いつもと変わらない様に見える駅前の雑踏の中、いつものごとく既に全員そろっている。

「おっそーい!!!!」宇宙で一番不思議なヤツが怒鳴っている。時計を見ると10分前。

「今日こそ不思議なことが見つかるっていうのにあんたはたるんでるわ!」ハルヒが眉毛を吊り上げながら怒る。

見渡せば超能力者と宇宙人がそこらじゅうに溢れているぞ、普通の人間の俺がこの街では不思議な存在だ。

…俺なんでここにいるんだろうね?普通の人間がここにいること自体普通じゃないよな。えーっと…普通ってなんだっけ?

「さっ!まずは作戦会議よ!」

意気揚々といつもの喫茶店に入りテーブルに着くとハルヒはこの街の地図を2枚取り出した。

「これが今日移動するルートよ!」自信満々にテーブルに広げる。

やっぱり、と思って良いよな?昨日長門が描いたルートと一緒だと分かる複雑な線が地図に描き込まれていた。

「このルートを一組はこっちからスタートして駅前に戻ってくる。もう一組はそれとは逆のルートをたどるの」

22 名前: ◆KMIdNZG7Hs[] 投稿日:2008/05/25(日) 21:56:38.00 ID:qn.YkYso

もう一組は先行するんだがな。

「不思議だってまさか挟み撃ちされるとは思ってないわ!そこをすかさずふん捕まえるのよ!」

部室での現象を思い出してみるに、捕まえられる不思議って大したことない気がするな。

「ルートの中間地点がこの交差点のはずよ。そこでいったん現状を報告しあいましょう」

ちゅごごごごごごご・・・・!!

店内に響き渡るほどの勢いでハルヒは運ばれてきたアイスコーヒーを飲み干した。

他の部員がまだ飲み終わってないと見るとさらにグラスを傾けて残った氷を噛み砕いた。

ごりごりばりばり!

何となく噛み砕いている音が、早くしなさいよ!と聞こえたので俺もコーラをすぐに飲み干した。

「さっ!引いて!」

23 名前: ◆KMIdNZG7Hs[] 投稿日:2008/05/25(日) 21:56:59.49 ID:qn.YkYso

ハルヒが爪楊枝を五本握り締めて突き出してきた。

結果がわかっているから興味が持てなくて皆が引くのを目の端で見ながら宇宙人と超能力者の街並みを眺めてみる。

窓際を色々な人が通り過ぎる。OL風の女性がにこやかに俺に手を振りながら通り過ぎた。

も、も、も、森さん!

「この組み合わせね!しゅっぱーつ!」

高らかに宣言してハルヒが伝票を俺に押し付けた。

-----------------------------------------------------------------------------------

さぁ、いよいよだ。

第何回かは数えてないから知らないがSOS団の市内不思議探索パトロール。

みんなで不思議を見つけないようにしよー。おー。

24 名前: ◆KMIdNZG7Hs[] 投稿日:2008/05/25(日) 21:57:23.09 ID:qn.YkYso

俺このモチベーションで大丈夫か?

長門と古泉はハルヒから地図を受け取り俺たちとは逆周りのルートをたどり始める、ふりをするために歩き出した。

「みくるちゃん、あなたは目が大きいんだから目を皿のようにしておけば必ず不思議なものは目に飛び込んでくるわ」

「は、はい」朝比奈さんは一生懸命に目を見開いた。この人に冗談って通じるのかな?

ハルヒは朝比奈さんと腕を組んではしゃぎながら歩き始めた。

ハルヒの後姿を眺めて丸い部屋でその背中を抱きしめたのを思い…だそうとして止めた。俺がやったことを客観的に見せられるのはもうごめんだ。

最初の交差点だ、比較的車の通りが多く歩行者信号は今赤になっている。

『その交差点にエネルギーが集まり始めています。なるべく早く通り過ぎてください』古泉の声が聞こえた。

いや、早くったってお前。ハルヒは朝比奈さんとしゃべりながら車道のぎりぎりに立っている。

38 名前: ◆KMIdNZG7Hs[] 投稿日:2008/05/26(月) 02:56:36.38 ID:fGWztV.o

俺はハルヒと朝比奈さんの少し後ろに立ち、道路の向こうにある歩行者信号を見た。早く変われ!

にゅるん…白い影が俺の目の前に立ち上がる。うぉ!

厚みが無く紙が立ち上がったようだ。形が…歩行者信号の青の中に描かれている人物だ!

歩き出した!(こ、こ、古泉!)『落ち着いてください』

パーン!!!破裂音一閃!!!

俺の後ろにいつの間にかいたOL風の森さんが鞭で青信号の人物を真っ二つに引き裂いた。

俺に微笑しながらくるりと後ろを向いてすたすたと歩き出す。

「何今の音!?」「びっくりしましたぁ〜」

二人が驚いて振り返る。俺も仕方なく「な、何の音だろうなぁ?」後ろを向いた。

なんと車がパンクして運転手が困っていた。

39 名前: ◆KMIdNZG7Hs[] 投稿日:2008/05/26(月) 02:57:04.42 ID:fGWztV.o

すげー、コンビネーション。

「パ、パンクの音だったらしいな。おい、青だぞ」

俺は二人の背中を押すようにして横断歩道を渡り始めた。

(おい古泉、次の交差点は大丈夫だろうな)

『少し時間稼ぎしてください。今対処中です』

朝比奈さんも、どうしましょうと俺を見る。何か無いか?

周囲を見渡してハルヒが食いつきそうなものを必死で探す。

「あんた何きょろきょろしてんの?」「お前の食いつきじゃなくて、不思議を探して見回してたんだ」

「へぇ〜あんたもようやく団員の自覚が出てきたじゃない。結構結構!さぁ!どんどん行くわよ!」

そういうとハルヒは朝比奈さんを引きずるように大またで歩き出した。

40 名前: ◆KMIdNZG7Hs[] 投稿日:2008/05/26(月) 02:57:20.92 ID:fGWztV.o

『時間稼ぎをお願いしたんですが…』(わかってる!)

「は、ハルヒ!クレープ食べないか!朝比奈さんは食べたいですよね?ね?ほら!俺は食べたいぞ!ほらこのビルの1階にクレープ屋が入ってる!ラッキー!食ってみようぜ!」

「何よ今ほめたらもう不思議探さないの?だからいつまでも平団員なのよ!言っとくけどね食べたいって言い出したのはあんたなんだから、あんたが奢りなさいよ!」

『お見事です』文句と賞賛を同時に聞く機会なんてもうないだろうな。

ハルヒはバナナもチョコもイチゴもナッツもソースもトッピングできるものをすべてのっけた。だれかこいつに遠慮って言葉を教えてやってくれ。

朝比奈さんはストロベリー。はむっと食べる姿が小動物を連想させる。幸せそうに食べますね〜。奢ったかいがあったというものです。

俺は朝飯のかわりだと思い、ツナとソーセージとサラダが巻いてある甘くないやつにした。

『もう大丈夫です』店の前に出してあったベンチに座わり食べ終わるころに古泉が話しかけてきた。

「さぁいきましょう!」クレープでご機嫌になったハルヒが更なるパワーアップをして立ち上がった。

古泉たちの活躍でようやく安心して交差点にくることができた。俺はハルヒに渡された地図を見る。次はここを右か…。

41 名前: ◆KMIdNZG7Hs[] 投稿日:2008/05/26(月) 02:57:39.12 ID:fGWztV.o

「ここを左に行きましょう」

「ん?お前が描いてきた地図には右にルートが描いてあるぞ」

「何言ってんのよ。臨機応変よ。不思議がいつまでも同じところにいるわけないわ。不意をつくの不意を。そうしたら向こうだってあわくって尻尾出すわ!」

そう言ってハルヒは朝比奈さんを引き連れて左に曲がっていった。

(おい!古泉!ルートを外れたぞ!)

『さすがは涼宮さんですね。クレープ屋で当初の時間とずれたためルート上の交差点ではエネルギーは極大値をとりません』

(じゃ、左にいくと…)

『しばらくの間エネルギーが極大値を取り続ける交差点があります。すごいですね涼宮さんは』

(感心してる場合か!何とかしろ!)

『もちろん努力はしますが、間に合わなかった場合は最後の手段を使ってください』

(なんだ?)

『トークでごまかしてください』

(できるかボケー!!!!!!)

51 名前: ◆KMIdNZG7Hs[] 投稿日:2008/05/26(月) 20:30:29.64 ID:VeHcMp.o

『とにかく対処する交差点を一から組立て直しですので次の交差点はあなたと朝比奈さんで何とか切り抜けて下さい。可能な限りサポートはしますから』

超能力者と宇宙人の連合軍すらひっかきまわす女、涼宮ハルヒ、恐るべし!

そいつを無力な未来人と無能な一般人の二人で何とかしろとおっしゃいますか?

朝比奈さんは冷や汗をかきながら俺をちらちら見てくる。

今入って来た路地は商業ビルの裏通りみたいな道なので両脇に店なんて皆無だ。

どうする?どうする?どうするーー?!!!

「ハルヒー!!!」

俺は後ろから朝比奈さんもろとも抱きついた。

「きゃー!」「きゃー!!」はぁーもにぃー。

「こんのぉおお!!!場所をわきまえなさーい!!!」

52 名前: ◆KMIdNZG7Hs[] 投稿日:2008/05/26(月) 20:30:46.87 ID:VeHcMp.o

振り向きざまの渾身の右ストレート!!

ぐはぁ!

「もぅ!バカキョン!!みくるちゃん、こんなアホ放っといて行きましょ!!」

ぐるぐる回る空に古泉の声がこだまする。『努力は認めます』

「ま、待てハルヒ…」『結果は出ませんでしたが』

そして俺は息絶えた…がくり。

おしまい。

ってわけにいくかー!!!

急いで立ち上がり二人を追いかける。

走ったが既に二人は交差点の光景に目を奪われている所だった。横に並んだ俺もその光景には驚いた。

53 名前: ◆KMIdNZG7Hs[] 投稿日:2008/05/26(月) 20:31:07.23 ID:VeHcMp.o

大名行列が行軍してる。

しかも鎧や装飾等かなり凝ってある。まるで本物の鉄やらなめし革で作られているようだ。武具とか本物じゃないのかこれ?

うわうわうわうわ!!!よく見たら武具を着込んで歩いているの人間じゃないぞ!

猿やらウサギやら亀やら狐に狸、まるで鳥獣戯画の大名行列だ。

こ、これをごまかせというのか!

しかも大名行列の後には阿波踊りの一軍がえらいやっちゃとついて来ている。

さらにその後にはリオのカーニバルがサンバでマンボして近づいてくる。

だが奇妙な事に阿波踊りもサンバ隊も全員色とりどりの仮面をつけている事だ。

「これ何のイベントかしら?キョンあんた知ってる?」

「い、いや、俺もこんなイベントがあるなんて知らなかった」何かあるとは知ってたけどな。

54 名前: ◆KMIdNZG7Hs[] 投稿日:2008/05/26(月) 20:31:54.05 ID:VeHcMp.o

「事前に知っていればこれに参加しても良かったかもね。うーん、古泉君とか知らなかったのかしら」

(おい、古泉お前に矛先が向きそうだぞ)『フォローをお願いする次第です』

「どれに参加するんだ?大名行列か、阿波踊りか、サンバか?」

ハルヒが俺にくるっと向き直り、腰に手をあて下から睨みつける。

「なあにあんた?あたしとみくるちゃんと有希のサンバ姿がみたいの?」

「なぜそうなる、そうは言ってない」「見たくないんだ」「…みたいです」

はるひが胸をそらせ勝ち誇った「ふっふーん」なぜに?

その時サンバ隊の一人が仮面をひょいと持ち上げて俺に笑いかけてまた仮面を戻した。

も、も、も、森さん! …めっちゃノリノリですね。

63 名前: ◆KMIdNZG7Hs[] 投稿日:2008/05/27(火) 03:15:37.53 ID:IqPS/Ego

大名行列、阿波踊り、サンバ隊は賑やかに交差点を曲がっていった。

もしかしてエネルギーが大名行列で、それを仮装行列に見立てるために機関とTFEI端末団が阿波踊りとサンバ隊をやったのか?

森さんがサンバ隊にいたから、もしかして長門が阿波踊りの中にいたのかもしれない。うーん、想像できんが…。想像すると面白い。

ハルヒは特にこの不思議を追いかけるでもなく見送った。

「この仮装行列のイベント企画したのどこの商店街かしらね?後で古泉君に調べてもらいましょう」

ほっ…とりあえずハルヒの中では仮装行列に落ち着いたらしい。これ神人系だったらアウトだったな。

「次はこのアーケードを通り抜けましょう!これだけ人もお店もいっぱいなんだもん!何かあるはずよ!」

ハルヒは自由気ままに行く先を決め、朝比奈さんと腕を組みアーケードの中に入っていく。

(古泉、このアーケードは大丈夫だろうな?)

『多分大丈夫です』

64 名前: ◆KMIdNZG7Hs[] 投稿日:2008/05/27(火) 03:15:56.86 ID:IqPS/Ego

(多分って何だ、多分って)

『涼宮さんとわれわれ機関とTFEI端末の皆さんがエネルギーに干渉するので変位がカオス状態になっているんです』

(どういう事だ?)

『天気みたいなものです。1分後の天気はだれでも予測できますが、1日たつとちょっと難しくなります。1ヶ月後の天気なんて予測不可能といっても良いでしょう。このように時間経過につれて状態が加速的に分からなくなるのをカオスといいます』

(解説ご苦労。で結局エネルギーの変化はどれくらい前にならないと分からないんだ?)

『およそ30秒前です』

(何?!じゃぁ30秒で対策を練らないといけないってことか?!)

『そういう事です』

(どうすんだよ?)

『急いでどこかに入ってください!!』

65 名前: ◆KMIdNZG7Hs[] 投稿日:2008/05/27(火) 03:16:19.78 ID:IqPS/Ego

(どうした?!)

『エネルギーの波がアーケードの奥からそっちに向かってます!あと10秒!』

(てめぇ!30秒っつたろ!)

『8』うおぃちょっとまて!

『7』どうすんだ?!

『6』朝比奈さんと目が合う。

『5』大きな瞳に決意の色!

朝比奈さんがハルヒの腕を引っ張った!

「きゃっぁ!ちょっとみくるちゃん!」

「涼宮さん!お願いこのお店付き合ってください!」

66 名前: ◆KMIdNZG7Hs[] 投稿日:2008/05/27(火) 03:16:37.18 ID:IqPS/Ego

「わかったから引っ張らないで!」

二人は目の前にあった店に入っていった。ほっ。朝比奈さんナイス。

いったい何が来るんだ?俺はそう思いアーケードの奥を見た。

二人が店に入った途端かなりの速度で米?が流れてきた。

足首まで米の流れにうまって気がついた。

蛆だ!!!!

全身の毛が逆立ち精神が引きちぎられそうになる!!

「うわぁわわぁあああ!!!」

脊髄反射で後ろに飛ぶ。店の入り口にかかとを引っ掛けてしまい、そのまま店内にもんどりうって転がり込んだ。

「いらっしゃいませ」

67 名前: ◆KMIdNZG7Hs[] 投稿日:2008/05/27(火) 03:16:55.44 ID:IqPS/Ego

ひっくり返っている俺に全く動じず女性の店員さんがにこやかに迎えてくれる。

「何?あんた見たいの?」真上からハルヒが腕を組み仁王立ちで見下ろしている。

周囲の商品は女性用の下着だらけ…。

ランジェリーショップでひっくり返っている男。俺はそれを聞いたら変質者か変態だと思うね。

慌てて立ち上がり目のやり場に困ってしまった。どこに視線を置いても恥ずかしい。

男にとってこれほど居心地の悪い店もないだろう。店の外で待とうと思ったのだがアーケードの恐怖を思い出して体がこわばる。

(古泉、波はどれくらいで通り過ぎるんだ?)

『8分ほどかかります』ランジェリーショップに8分…俺にとっては永遠に等しい時間だな。

『ですので涼宮さんを8分以上店内に止めて置いてください』

(この店で男の俺がどうやって引き止めるんだ?)

68 名前: ◆KMIdNZG7Hs[] 投稿日:2008/05/27(火) 03:17:13.10 ID:IqPS/Ego

『見立てて差し上げたらいかがです?』

(お前今日を俺の命日にしたいんだろう)

『まじめに意見したつもりですが?』しれっと言いやがる。

「あれ?朝比奈さんは?」

「試着室、あたし外で待ってるわ」ハルヒが言った途端に体で反射的に進路をふさぐ。

「なによ?」完全にけんか腰。

「いや、その、なんだ。あれだよ。ほら、な?あっそうだ!ハルヒお前あれ似合いそうだぞ!」

俺は適当に店の奥のほうを指差した。ハルヒもその方向を振り返って見る。

俺の人差し指の延長線上に首と手足がないマネキンが真っ白い下着を着けてポーズを取っていた。

マネキンを見ていたハルヒが俺に向き直った。

69 名前: ◆KMIdNZG7Hs[] 投稿日:2008/05/27(火) 03:17:31.80 ID:IqPS/Ego

「き、キョン、あ、あんたああいうのが好きなの?」顔真っ赤。つられてこっちの顔も赤くなるのが分かる。

突然、丸い部屋での下着姿を思い出し、思い出の中のハルヒに目の前の白い下着を着せてみた。うん、悪くない。いや、いいな。

って俺は何を考えているんだろうね!?自分の脳みそを疑うよホントに。

「ま、まぁ、キョンがどうしてもっていうなら、そりゃ考えないこともないけど」横を向きながらふくれっつら。

いや、どうしてもっつーかあれだよ。

「どうぞご試着してください」仕事早っ!

店員さんがにこにことハルヒに今までマネキンが着けていた下着を渡した。

この手回しのよさ、長門のお仲間さんに違いない。

ハルヒは店員さんから受け取った下着を持って朝比奈さんの隣の試着室に入った。

と思ったらカーテンから顔だけだし、頬をピンク色に上気させながらこう言った。

「ここじゃ、見せないからね」

103 名前: ◆KMIdNZG7Hs[] 投稿日:2008/05/29(木) 01:04:44.50 ID:Wc65iVko

光る黒曜石の輝きを再び俺の脳裏に焼き付けハルヒは顔をひっこめた。

ふぅ…なんか暑くなってしまった。頭の中では黒曜石がまだ光っている。

くすりと店員さんが笑い、俺に向かってオッケーサイン。

足止め成功…って事かな?ども。

店員さんが二人の試着室の前に行き「いかがですか?」と声をかけている。

朝比奈さんとハルヒ、二人がフィッティングすれば軽く8分を超えるだろう。とりあえず目の前の危機は回避したかな。

店内の時計を見てそろそろ昼時になりつつあるのを知った。

(おい古泉、そろそろ落ち合うか?)

『そうですね。では喫茶店で指定された交差点で長門さんと待っています』

今アーケードはどうなっているだろうと外を覗いてみたら蛇の流れになっていた。しかも赤い蛇。

この流れはとことん悪趣味だな。

「きゃぁ!涼宮さん!」「ちょっとみくるちゃんサイズ合ってないじゃない!もっと大胆なのにしちゃいなさい!」

どうやらハルヒが朝比奈さんの試着室に侵入したらしい。

ハルヒと朝比奈さんがきゃいきゃい騒いでいるのを背中で聞きながら俺は午後はどうなるんだろうとため息をついた。

きめ台詞言って良いよな?

104 名前: ◆KMIdNZG7Hs[] 投稿日:2008/05/29(木) 01:05:06.80 ID:Wc65iVko

やれやれ。





会計時、二人はそれぞれの下着を包装してもらって受け取った後、ハルヒが俺を手招きした。

「みくるちゃんとあたし持ち合わせないからあんた払っておいて」

それだけ言って朝比奈さんの手を引いて店の外へ出て行った。朝比奈さんがひっぱられながらぺこぺこしてるのが印象的だ。

レジの金額を見て驚いた!女の下着はなんでこんなに高いんだ?俺なんかしまむらで3枚980円だぞ。

新川さんが経費をくれなかったら確実に銀行に走らなければならなかったところだ。

俺は金輪際ランジェリーショップには足を踏み入れない。心に決めて外へ出たらハルヒのほうから言い出した。

「そろそろ待ち合わせの交差点に行きましょう。有希と古泉君が何か見つけたかもしれないわ!」

交差点へ向かう途中もハルヒは朝比奈さんにあそこの路地が怪しいとか今通り過ぎた男はカツラだとか言いたい放題言っていた。

カツラは不思議じゃねぇだろう、むしろそっとしておいてやれ。

…カツラの超能力者?カツラの宇宙人?…不思議かもな。ハルヒのせいで思考が変なほうに飛ぶ。

(おい、古泉、待ち合わせの交差点は大丈夫だろうな)

『大丈夫だと思われます』

(あやふやな言い方だな)

105 名前: ◆KMIdNZG7Hs[] 投稿日:2008/05/29(木) 01:05:28.28 ID:Wc65iVko

『大きな波は通り過ぎた後です。小さなさざなみは起きるかもしれませんが、その程度なら大丈夫でしょう』

ほんとかねぇ。

交差点につくとニヤケスマイルとサイレントドールがこちらを向いて待っていた。

「この一本裏に穴場的なうどん屋があるの、そこにいきましょう」全員そろったからなのかハルヒがご機嫌で先頭を切って歩き出した。

その直後、ハルヒが通りすぎた空間に青い人影ががふわりと現れた。大きさは通常の人間サイズだがこれは…神人だ!

しかもゆっくりとではあるがハルヒに向かって手刀を振り上げる!

やばい!現象はさざ波かもしれないが破壊力は抜群だ!夢だと思っている閉鎖空間を間違いなく連想する!

すぐそばでベビーカーを押していた女の人がベビーカーから突然赤ちゃんを抱き上げ、腰だめにした。

腰だめにした?

腰だめにする間に赤ちゃんがぐにゃりと変形し自動小銃になり、女の人はギラリと微笑むと神人に向けてぶっ放した。

ダダダダダダダダダダ!!!!!!

神人がずたぼりになり空中に溶ける。

あれ?撃ち終わってもまだ聞こえる。

ダダダダダダダダダダ!!!!!!

振り向くとストリートドラマーがど派手なアクションでドラム缶やらペンキ缶などを打ち鳴らしていた。

106 名前: ◆KMIdNZG7Hs[] 投稿日:2008/05/29(木) 01:06:53.11 ID:Wc65iVko

またしてもこんなごまかし方!

女の人はベビーカーを押して悠然と俺たちとすれ違う。

にっこり。

も、も、も、森さん! …今度は宇宙人の母親ですか。

「ふーん、ストリートパフォーマンスも良いわね。キョンあんたなんかできる?」

できる訳ねぇだろ。

「無芸ねー。SOS団の一員なら何かしら身につけなさいよ。芸は身を助けるっていうじゃない」

身を滅ぼすとも言うがな。というかいつからSOS団はストリートパフォーマンス集団になったんだ?

店に入って席に着くとすぐにハルヒは古泉に仮装行列の一件を問いただしている。

古泉は相変わらず無害な笑顔を浮かべながら「調べておきましょう」などと調子のいい事を言っている。

俺は帳尻合わせに奔走するのはごめんだぞ。

・・・

「午後は全員一緒に回りましょう!」

それを聞いて俺は古泉を見る。先回りして対処しておかなくても平気なのか?という意味で目配せしたつもりだが…。

いつもどおりに肩をすくめた。

107 名前: ◆KMIdNZG7Hs[] 投稿日:2008/05/29(木) 01:07:14.41 ID:Wc65iVko

こいつは…いつもどおりのリアクションだから結局何がいいたいかさっぱりだ。

「有希は古泉君になにか買ってもらったりしたの?」デートじゃねぇぞ。俺たちの先回りして超常現象を抑えてたんだ。

てな事をいつか言える日がくるんだろうか。

長門は月見うどんをちゅるんと口にいれ。ゆっくり首を左右に揺らした。古泉は苦笑。

「駅ビルの7階8階に大きな本屋があるわね。あそこ行ってみましょう!」

あれ?もう不思議探索は終わりか?

「そうね。また今度探しましょう。それに駅ビルの地下にみくるちゃん行きつけのお茶屋さんがあるし。午後はSOS団の備品購入よ!」

超能力者と宇宙人連合…肩すかし。

さすが…ほかに言葉が思いつかん。まぁ、午後は交差点でびくびくしなくてもいいみたいだ。

午前中で胃が痛くなっていた俺にとっては朗報に間違いない。

・・・

駅ビルに向かう途中、先頭を揚々と歩いていたハルヒが突然長門に向き直った。

「…?」

さすがの長門も疑問系の沈黙。

同じように俺も古泉も朝比奈さんもクエスチョンマークを頭から出した。

108 名前: ◆KMIdNZG7Hs[] 投稿日:2008/05/29(木) 01:07:37.11 ID:Wc65iVko

「さっきみくるちゃんの下着選んであげたんだけど、有希のも選んであげようか?」にっかり1000Wの笑顔!

俺はさっき二度とランジェリーショップには足を踏み入れないと誓ったんだ。

古泉、お前行け。

「一蓮托生という言葉ご存知ですか?」知らん知らん。

「では、毒食わば皿までとか?」知らん知らん。

「何してんの!行くわよ!」俺の誓いは3時間と持たず破られた。

更衣室からきゃーきゃーと嬌声が上がる。ま、主にハルヒだけだが。

「有希!いいじゃない!あなたぺったんこなのは下着が悪かったからよ!」「長門さん、素敵です…」

こんな会話を聞かされていては男二人は沈黙するしかないわけで。

変に口を開くと変な話題になりそうだし、かといって黙っていると耳をそばだてているようで決まりが悪い。

どうにもこうにも居心地が悪すぎる、これは絶対に慣れることができない感覚だ。

「じゃーん!どうよ!」ハルヒが鬼の首を取ったかのように長門を更衣室から連れ出した。

いつもの制服姿だったが…あー、まぁなんというか直接的な表現ははばかられるんだが、制服を下から程よく押し上げてますね。ええ。

しかも全然不自然じゃない。魅力アップとはこのことだろうか。横から見たら明らかに、その、…ある。

「これ、パットで底上げしてるんじゃないのよ?ちゃんと100%有希のお肉なんだから!有希ったらブラの正しいつけ方知らなかったの」

109 名前: ◆KMIdNZG7Hs[] 投稿日:2008/05/29(木) 01:07:50.05 ID:Wc65iVko

そんなこと俺たちに解説されてもいかんともしがたい。何よりますます居心地の悪さが募る。半分罰ゲームだぞこれ。

「有希って色んな事知ってるのに自分の事はからっきしね!」ハルヒが楽しそうに長門を鏡の前で回している。

「今まで着てた下着は袋に入れてもらってこれこのまま着けて行っちゃなさい!」

勝手に決めてハルヒは朝比奈さんを引っ張って出て行く。こら古泉てめぇ!自然についてゆくな!

朝比奈さんとハルヒの下着を買ってやって長門のを買わないわけには行かないだろう。

自分でがまぐちを出そうとしていた長門にそう言って俺は金を払った。

俺を見上げながら長門が小首をかしげる「いいの?」

いいさ、経費だ。気にするな。

長門の表情が…あれ?これは?もしや?

「見る?」

見ません。

128 名前: ◆KMIdNZG7Hs[] 投稿日:2008/05/30(金) 02:14:53.81 ID:t21LEX.o

多分冗談を本気と殆ど変わらぬ顔で言って長門が店を出る。

俺も出ようとしたところで店員さんに呼び止められ商品の袋を手渡される。あれ?っと思い中を覗いたら下着が…。新品には見えないぞ?

「長門さんが今まで身に着けていらっしゃったものですわ」にっこり。

うわわ、脱ぎたてを見てしまった。長門が着けてた下着は、いやどうでもいい、恥ずかしすぎる。妹とあんま変わらない様な、だからいいってば。

上下セットを買ったんだな。いや、もうほんとにもういいから。俺は誰に言い訳しているんだろうね、ホント。

照れ隠しに憮然とした顔で店を出て長門に渡す。微妙にうなずく表情に微かな感謝と…さらに僅かな…これは恥じらい?

「いっきましょー!」

左手に長門、右手に朝比奈さんという両手に花状態のハルヒは後ろから見てても分かるくらいご機嫌オーラを発揮していた。

「もう大丈夫だろうな?」

「涼宮さんの目的が不思議を探すのではなくてみんなで遊ぶになったらしいので多分大丈夫だとは思うのですが」

また、多分か、今日のお前の発言で信用できる言葉は殆どないな。

「恐縮です」全然恐縮してない顔で古泉が答える。

「しかし肝を冷やした午前中でしたね」それには同意する。

要所要所で森さんを見かけたんだが機関にはあんな衣装が常備してあるのか?

「さて?」すっとぼけやがる。

129 名前: ◆KMIdNZG7Hs[] 投稿日:2008/05/30(金) 02:15:20.35 ID:t21LEX.o

まぁ別に真剣になって問いつめなければいけない事でもないけどな。

街並を眺めてみてどことなくすれ違う人や目に付くお店の人などがほっとしているように感じるのは俺の先入観からか。

「エネルギーの方向も段々部室に向きつつありますし、夕方には市内からはほとんどエネルギーは部室に戻ります」

ん?消えないのか?

「こちらの位相で具現化したりしたものは消費されましたがまだまだあちらがわにはありますからね」

やれやれ、部室はまだ魔境になる可能性はあるのか。何とかしろよ。

「おや、何とかしていただけるのだと思ってました」またもや意味深な笑い方。

駅ビルに着くまでは特に何も無く、ハイテンションなハルヒに朝比奈さんと長門が引っ張られて、それを俺たちが追いかけるという事が続いた。

「まずはお茶屋さんね!みくるちゃんと一緒に行くと親父さん鼻の下のばしてお茶菓子出してくれるからそれを食べてから色々見て回りましょ!」

堂々と人の親切を当てにする発言をするなよ。

ま、ハルヒの言ったとおりになったんではあるがな。

「あ、あの。キョン君いいですか?」朝比奈さんがそう言って所望したのはさすがにお小遣いでは手が出ないであろう金額の茶葉だった。

親父さんが俺たちにお茶とお茶菓子を振舞ってくれたのも上客に対する扱いプラス朝比奈さん効果だろうと思われる。

言うまでも無く朝比奈さん効果の方が大きいんだがな。

「さて、有希は本が見たいわよね?」出されたお茶を遠慮なく飲み干しお代わりまで要求した団長は長門の希望を聞く。

130 名前: ◆KMIdNZG7Hs[] 投稿日:2008/05/30(金) 02:15:42.00 ID:t21LEX.o

こくり。

てなわけで全員で7階まで移動。ここは7階と8階が本屋になっていて8階は一部がCDとDVD売り場になっている。

長門は洋書、朝比奈さんは料理コーナー、ハルヒは自然科学、古泉は参考書、うげ、に散れて行った。

俺は今週の週刊誌はコンビニで読んでしまっていたので古泉に8階へ行く旨を告げ一人でエスカレーターを上った。

特に買うつもりは無かったがCDコーナーを見て回る。

部活帰りの女子高生と思われる集団が黄色い声を上げて邦楽のコーナーにいた。長い袋を全員持っていたから弓道部かな?。

一通り見て回ったところでそろそろ皆と合流しようと階段へ向かった。

下から上がってくるサラリーマンがいた。



やばい!本能的に感じた。見た目でもやばい!

抜き身の日本刀を引きずりながら階段を上がってくる。そいつが俺をにらんでいる。白目がない、目が真っ黒だ。

闇が人の皮を被って歩いているようだ。しかも口からは黒い呼気を漏らしている。どう見たって人間じゃない。

敵意というよりも明確な殺意を肌が感じる。

逃げるの一手。

ハルヒがいなくて良かったと頭の隅で思いながら今来た通路を猛然とダッシュした!

131 名前: ◆KMIdNZG7Hs[] 投稿日:2008/05/30(金) 02:16:02.75 ID:t21LEX.o

かかかかかか!!!!

不気味な声を上げながらサラリーマンが追いかけてくるのが分かる!

ざざっ!

俺が走りすぎた後、サラリーマンの前に何人かが立ちふさがる気配がした。

?!

振り向くと先ほどの女子高生5人が矢の陣形を取ってサラリーマンに向かって弓を引いている。

「てぃ!」

先頭の女子高生の号令一喝!5本の矢がサラリーマンの眉間、喉、心臓、鳩尾、胃に突き刺さった。

完全に致命傷のはずだがそれでも平然とこちらへ向かってくる姿は悪夢の現実化だ。刺さった箇所から黒い煙のようなものが立ち上がっている。

先頭の女子高生は長い袋から日本刀をとりだすとすらりと引き抜いた。八双に構える。

残りの女子高生は再び弓矢をつがえて引き絞る。

日本刀を構えたリーダーが再び号令を飛ばす「てぃ!」

ひゅん!

矢の飛ぶ速度と変わらないと錯覚するほどの踏み込みの速さを見せリーダーが日本刀でサラリーマンに切りかかる。

ぎぃん!

132 名前: ◆KMIdNZG7Hs[] 投稿日:2008/05/30(金) 02:16:16.57 ID:t21LEX.o

新たに4本の矢を体に受けながらもサラリーマンはリーダーの攻撃を持っていた日本刀で切りかえした。

だがリーダーの大刀を受けた隙を狙い、一人の女子高生が小刀で地面すれすれを飛ぶようになぎ払っていた。

ぶちゅん!

サラリーマンの足首が切断される!ぶわっと黒い煙があふれ出した。

それでもなおバランスを崩しながらもこいつは俺に向かってくる!なんだこいつ!

リーダー格の女子高生が上段に構え、気合一閃。サラリーマンの脳天に日本刀を打ち下ろした!

その攻撃を受けようと自分の刀の峰に手をあて頭上に構えたサラリーマンだったが、女子高生の腕前と刀の方がヤツよりも上回ったらしい。

サラリーマンの日本刀ごと叩き割り、女子高生の振り下ろした必殺の刃はヤツの腰の辺りまで食い込んで止まった。

ぶしゅぅ!

膿がつぶれるような悪意ある音をたててサラリーマンは空中に解けていった。

女子高生たちは何事も無かったように弓と日本刀をしまい、そのまま階段から降りようとする。

「あ、ありがとう!」完全に遅れたタイミングで俺は彼女たちの背中に声をかけた。

リーダーが振り返り、にっこり笑いブイサイン。

も、も、も、森さん! …女子高生の意味あったんですか?

143 名前: ◆KMIdNZG7Hs[] 投稿日:2008/05/30(金) 17:23:58.97 ID:TzEfKDco

新川さんはですね〜
最初は大名行列のシーンで浪人で出てもらうつもりだったんです。
で、二刀流でばっさばっさと格好良く不思議現象を切り捨ててもらうって予定だったんですが、どうしてもハルヒの目の届かない場所で戦闘をしないといけなくて、でも目が届かないなら放っておいてもいいわけで…。
ゲームの隠れキャラ的に登場してもらいたかったんですがね〜。
-------------
新川さんは表情は好々爺としながらも眼光鋭く大刀と小刀を見事に使い分け前後左右の現象を切り結ぶ。
口元にわずかな微笑みをたたえながらする獅子奮迅の活躍は達人という評価すら低い評価に感じてしまう程だ。
-------------
こんな感じで活躍して欲しかったんですが、あっはっは。;;
てなわけで森さんだけにご登場いただきました。森さん扱い易いんですよ。謎の美女ってどうにもでなりますからね。

149 名前: ◆KMIdNZG7Hs[] 投稿日:2008/05/31(土) 02:57:41.05 ID:GDA8ZWEo

森さん達が階段から姿を消したのと入れ替わりに古泉が珍しくこわばった顔でエスカレーターを駆け上がってきた。

おい、エスカレーターは走るな。

「無事だったようですね」俺の顔を見てほっとする。あぁ、また森さんに助けられた。それよりも、だ。

「襲ってきたものの正体とわけ、ですか」話が早くて助かる。古泉は一息ついてから話し出した。

「あれもやはり部室から溢れたエネルギーです。ただし敵対勢力が意図的に歪めてあなたを狙うようにしましたがね」

おいおいおい、なぜ俺が狙われる。と言いかけて言葉に詰まった。

『あなたを殺して涼宮ハルヒの出方を見る』

朝倉の言葉が思い出される。

「不思議探索中は気をつけていたんですが探索を終了してエネルギーが引いてしまった後を狙われるとは思っていませんでした」

森さんがそばにいてくれて助かったぜ。

「私は始末書ものです」肩をすくめた。

敵対勢力っていうのは長門の別派か?

「いえ、今回は我々機関の敵対勢力です」そりゃますます始末書の内容が賑やかになりそうだな。

もう今日は襲われることは無いだろうな?

「そろそろ街の人たちは順番に入れ替わり始めている頃です。なのでまずあの手のモノには襲われないでしょう」

150 名前: ◆KMIdNZG7Hs[] 投稿日:2008/05/31(土) 02:58:00.69 ID:GDA8ZWEo

最後にこんなイベントが待っているとは思わなかった。しかしハルヒの目の前ではなかったので自分の命が狙われたわりには俺は落ち着いていた気がする。

人間の慣れって恐ろしいな。そんなことをつくづく思いながら古泉と階段を降り、長門所望の洋書を買った。

これって備品と考えていいのか?まぁ長門自身が備品みたいに最初から存在したからいいか。いいのか?

朝のスタート地点に戻ってきて、何も見つからなかったにしてはハルヒはご機嫌で言った。

「今日は手応え感じたわ!すぐそばに何かいるって感じ。このまま続ければSOS団は必ず世界に名をはせる不思議発見をするわ!」

うーむ鋭い女だ。

「じゃ!解散!」

おニューの下着が入った袋を振り回しながらハルヒはハイテンションのまま後ろも振り返らず帰路についた。

「おい、古泉」俺はそう言って耳の後ろと口の中からスピーカーとマイクを外し渡した。

「あ、あのお洗濯してお返ししますね」朝比奈さんはマイクを洗濯するつもりらしい。

「そのままで結構ですよ」古泉が笑いながら朝比奈さんのマイクとスピーカーを俺が使っていたものと一緒にしてハンカチにきれいにくるんだ。

「さて、我々も帰りますか、さすがに今日はいささか疲れました」

「じゃぁキョン君、古泉君、長門さんお疲れ様でした」お行儀よく頭をぴょこんと下げて朝比奈さんも帰ってゆく。

「…」長門も首の角度をわずかに前に倒し、くるりと回るとマンションに向かって歩き出した。

「しかし、あの空間はいったいいつ消滅するんでしょうね。それじゃ」

151 名前: ◆KMIdNZG7Hs[] 投稿日:2008/05/31(土) 02:58:36.11 ID:GDA8ZWEo

別れ際にまた屋上への踊り場で言った台詞を口にして古泉も歩き出した。

…今回ばかりは俺もそう思う。あの丸い部屋はどうやったら消滅するんだ?

自転車に乗り家に帰ると妹含め家族は既に帰ってきていた。

夕飯を食べて風呂にのんびり入ったら今日はもう何もする気がなくなった。

今日は殺されかけたんだ、休息が必要なのは自問しなくても当然だ。

あー、とにかく寝よう。

俺は早々に布団を被りベットに横になった。

大名行列も神人も蛇の流れも敵対勢力の暗殺者も、夢の中までは追ってこないだろう…。

-----------------------------------------------------------------------------------

まぶしいな…。部屋の明かりをつけたまま寝たんだっけ?

もぞ…また起き上がって明かりを消すのが面倒くさかったので布団を被ろうと手探りする。

手の届くところには無い。

…ん?

この手触りは……!丸い部屋だ!

伸ばした手に忘れがたい肌触りのよさを感じて飛び起きる。

152 名前: ◆KMIdNZG7Hs[] 投稿日:2008/05/31(土) 02:58:58.66 ID:GDA8ZWEo

最初に目に飛び込んできたのは白。一瞬目が見えなくなったのかと思った

完全に白なので遠近感が狂ったらしい。

だが部屋の中央にシーツで巾着になっているハルヒを見つけて安堵する。

どうやら丸い部屋は内装工事が入ったらしく以前と違い真っ白な絨毯で埋め尽くされていた。

あれ?

手で絨毯の感触を確かめていたら俺が寝ていたのとは別の場所、となりの絨毯が温かい。まるで今まで誰かがそこで寝ていたようだ。

ハルヒが寝ていたのか?

「ようやく起きた?」あぁ、起きた。

ハルヒが目線をそらして聞いてきた。うん、今日も俺はパンツだ。なんでだろうね?

「お前ずっとそこに座っていたのか?」「そ、そうよ、ここに座っていたわ、座っていたんだからね!」へいへい。

部屋を見回して思いついたのでハルヒに聞いてみた。

「ハルヒ、白なのか?」

「!」

白い下着なのかという意味で聞いてみたのだがビンゴだったらしい。

座ったままシーツをぎゅっと握りしめちょっと飛び上がった。

153 名前: ◆KMIdNZG7Hs[] 投稿日:2008/05/31(土) 02:59:18.69 ID:GDA8ZWEo

「見たの?!」

「いや、まだだ」

「まだって言うな!」うー…。

ハルヒが赤くなりながらうなってる。が、うなりながらも立ち上がった。まだシーツを頭からかぶり胸の前で握り締めている。

「こ、これキョンが似合うって言ったのよ」

そう言って両手は胸の前のまま、シーツを放した。

シーツは下に落ちず、ハルヒの頭から左右にきれい割れてその下に隠されていた女神の体を俺の目にあらわにした。

胸の前で両手を握り頭から白い布が広がっているのを見ると、その、服装としては全然違うんだが、花嫁、という単語が連想された。

おいっ俺は何を連想しているんだ?!どうにも脳のシナプスが変なところに接続するな。

ハルヒが黙って俺を見つめている。ハルヒだけに立たせているのが悪い気がして俺も慌てて立ち上がる。

正面からハルヒを見つめた。

黒曜石の輝きが一層光を増して俺の中のその奥にまで飛び込んでくる。距離はあるのにハルヒが目の前に立っているような錯覚さえする。

魂に刻まれる感覚、けどけっして不快ではない、むしろ好ましく感じ俺は自らハルヒの視線を受け入れた。

「…て」ハルヒが頬を染めながら、しかし視線はまっすぐのまま、なにかつぶやいた。

え?

154 名前: ◆KMIdNZG7Hs[] 投稿日:2008/05/31(土) 02:59:36.06 ID:GDA8ZWEo

「…にきて」

なんだって?

「迎えに来て!」

もう!といわんばかりにハルヒが言う。

さすがに聞こえた。

俺はなにやら厳かな気分になりながら、そして下着姿のハルヒに近づくという理由以上になぜか緊張しながら一歩目を踏み出した。

足の裏の絨毯の感触が心地よい、真っ白な世界の中、純白の下着を身にまとった輝く黒い瞳のハルヒにゆっくりと近づく。

近づくにつれハルヒが腕をゆっくりと左右に広げて俺を受け入れる準備をする。

俺も自然と両手を広げながらハルヒをつかまえる様に近づく。

シーツが落ちる。

ハルヒが下から抱きつく。俺はハルヒを抱きしめる。

決して忘れることができなかったハルヒの感触が今、再び俺の腕の中にあった。

185 名前: ◆KMIdNZG7Hs[] 投稿日:2008/06/02(月) 00:14:28.36 ID:WuHXdKoo

欠けていた半分同士がぴたりと収まった気がする。まるで戻るべき場所に戻ってきたかのようなこの安心感。

俺はハルヒにまわしている腕に力をこめる。ハルヒも応えるように俺を引き寄せた。

ずいぶん長い間そうしていた気がする。お互いの体温が溶け合い同じになった頃、ゆっくりと俺たちは体を離した。

「何か言うことがあるんじゃないの?」ハルヒが伏し目がちに怒ったような顔で言う。頬はもちろん桜色。

「あー、そうだな…」まぁ言うことは決まっているんだが、それだけに照れが入る。

ハルヒが俺の言葉を待っているのが分かる。体温は上がり心拍数も上昇の一途だ。

「その、…よく似合ってる。綺麗だ」ぐぬぬー!言っちまった!なんでこんなに照れるんだ?!恥ずかしくて仕方が無い!

言われたハルヒもやはり恥ずかしかったらしい。嬉しそうな顔を怒り顔で隠そうとしたものの上手くいかず、その表情すら見られるのも恥ずかしいとみえて俺に背中を向けてしまった。

無言でハルヒの背中に立っているのもおかしな気がする。

こういうときの自然な行動って…多分…こうだよな?

俺は一歩ハルヒに近づき後ろからゆっくりとハルヒの体に腕を回した。一瞬部室で見た俺を思い出す。あんな風に抱きしめているんだろうか。

ハルヒは俺の腕を自分の体に密着させるように手を添えてきた。

…ことん。

ハルヒがあごを上げ頭を後ろに倒し、俺にもたれかかる。

「はぁ…」

186 名前: ◆KMIdNZG7Hs[] 投稿日:2008/06/02(月) 00:14:54.90 ID:WuHXdKoo

ため息とも吐息ともつかぬ、普段よりも温度の高くなった息をハルヒが口を小さく開けてもらした。

部屋と同じ白い時間が流れる。

「夢を見てるの…」

「あたしは今、夢を見てるの…、誰にも話せない夢を見てる…」

自分に言い聞かせているのか今を確認しているのか、普段のハルヒからは想像もつかない静かな口調で話す。

だが今の俺にはその声が心地よい。目を閉じ、ハルヒの体温と匂いと肌触りとそして声を感じる。

「今は夢じゃない…」俺は言った。

「覚めれば夢になる、けど見ている今は夢じゃない」

ハルヒがゆっくり、とてもゆっくりと俺に向き直る。

俺の首に手をかけて下からしっかりと見つめてくる。

黒曜石の輝きがなおいっそう増す。ハルヒは俺の首の後ろで組んでいた手を俺の頬に移動させる。

両手で俺の顔をやさしく挟み込み少し自分に近づけた。

「あんたは私の知っているキョン?それともここだけのキョン?」

俺は…、俺は…、…。

今のハルヒに応えられる言葉を俺は…持っていない。

187 名前: ◆KMIdNZG7Hs[] 投稿日:2008/06/02(月) 00:15:18.35 ID:WuHXdKoo

俺の答えを待っているのか、自分で答えを見つけようとしているのか、ハルヒは自分の魂をかけて俺の魂と向き合った。

あまりにも純粋な想い、それが痛いほど分かるだけに応えられない俺は、この俺は、あろうことか…目を閉じてしまった。

………。

ハルヒが一歩後ろに下がった。自然に俺の頬からも手は外れる。

恐怖が沸き起こった。離れた距離は高々数十センチ。しかし俺には無限の距離をとられた気がした。

半分恐慌状態になりながら目を開ける。ハルヒは目の前にいた。

だが今俺から抱きしめてもさっきまでの距離には二人はならないと確信めいた直感がよぎる。

ハルヒは少しうつむいて頭をちょっと横に傾けた。

黒髪が下に向かい綺麗に下がる。

手櫛で何度か髪をすく。

そうしてハルヒは自分の髪の毛を一本だけつまみ上げて、抜いた。

俺の左手を取って自分の胸の前まで持ってくる。

そして自分の髪を俺の左手の小指に巻きつけて結んだ。

「もしも夢の続きが見られるなら…まだ見てもいいのなら…この続きを目が覚めても見させて」

…!

188 名前: ◆KMIdNZG7Hs[] 投稿日:2008/06/02(月) 00:15:42.70 ID:WuHXdKoo

「この髪の事をキョンが忘れても、私は覚えているから」ハルヒはそう言って無限大の距離をゼロにしてくれた。

そして俺にそっと抱きついてきた。

優しくやさしく、決して強くは無い力で、けれどすべてを受け入れる包容力をもって俺を抱きしめてくれる。

(私を忘れないで、私はここにいる、あなたの腕の中にいるから)ハルヒの気持ちが俺に流れ込む。

言葉を持たない俺は、ただハルヒを抱きしめた。すまない!

(分かってる!もちろん分かってる!間違いなくお前はここにいてくれる!俺は忘れない!)

「キョン…痛いわよ」

ハルヒの静かな抗議の声にも抱きしめることが止められず俺は腕に力をこめた。

くすりとハルヒは笑うと俺の頭を優しくなではじめた。

安心感が水のように広がる…。

俺は腕にこめていた力をようやく抜くことができ、ハルヒと見つめ合った。

「落ち着いた?」からっとした笑顔でハルヒが聞いてくる。

「あ、…あぁ」落ち着いたよ。

「痛かった」まんざらでもなさそうな顔で苦情を述べる。

「すまん」ろくな言葉が出やしない。

189 名前: ◆KMIdNZG7Hs[] 投稿日:2008/06/02(月) 00:16:07.59 ID:WuHXdKoo

「だっこ」再び俺の首の後ろに手を回したハルヒが思わぬことを言ってのけた。

えーっと、あれか、だっこって抱き上げることだよな。おんぶじゃないもんな。

「早く!」顔はやっぱ赤いのな。

よし、覚悟は決めた。行きます!

俺は屈んで片手をハルヒの両膝の裏に入れ、もう片手を背中に回して立ち上がる。

両腕にかかるハルヒの重さが今の俺には心地いい。

「歩いて」ハルヒは笑いながら俺に頬を押し付けた。

「以外に揺れるわね、それともあんたの抱き方が下手なの?」遊園地のアトラクションの感想みたいな事を言う。

知るか、こんな抱き方したことなければこのまま歩いたこともないわい。

しばらくハルヒにあっち行けこっち行けと言われるままに白い丸い部屋を歩いた。

「シーツはどこ?」

うーむ、そこらじゅう真っ白だから部屋の端に来ると全然分からない。

「多分真ん中あたりだろう」

「そこまで走って!」

足に力を入れハルヒを抱えて走り出す。

190 名前: ◆KMIdNZG7Hs[] 投稿日:2008/06/02(月) 00:16:31.56 ID:WuHXdKoo

「きゃっ!わっ!」自分から言ったものの予想以上に揺れるらしくてハルヒは俺に必死でしがみついてきた。

よし!シーツ発見!

「もうちょっと壊れ物扱いしなさいよ」ぶつぶつ言いながら俺から降りる。

ばさっ…

シーツを広げるとハルヒはその下にもぐりこみ、顔の上半分だけだして言った。

「腕まくら」

はいはい。

俺もハルヒの隣にもぐりこみ腕を伸ばそうとした。

ぽんぽん。

ハルヒが自分の胸の前辺りの絨毯を軽く叩く。ん?

「してあげる」

どかぁん!俺の顔が音を立てた位に真っ赤になるのがわかった。いや、その、なんだ、俺は、まぁ、あれだよ、なぁ。

俺が動けなくなっているのを見るとハルヒは俺に近寄ってきた。

俺の頭を両腕で抱え込むと俺の顔を自分の胸の谷間に押し付けた。

うわっっ!

191 名前: ◆KMIdNZG7Hs[] 投稿日:2008/06/02(月) 00:16:56.81 ID:WuHXdKoo

や、やわらかい!いい匂い!ちょっと待て!変になる!脳の神経細胞が焼き切れる!

ハルヒがゆっくりと俺の髪をなで始めた。

途端にパニックが急速に静まる。

安堵と安心、心地よさが全身にいきわたる。

「ここにいた事を、忘れないで…」

ハルヒがそっとつぶやいた。

俺はハルヒに髪をなでられながらこれ以上は無いというくらいの充足した眠りにつき始めた。

ハルヒ…もう一度、抱きしめさせて…くれ…。

-----------------------------------------------------------------------------------

携帯の呼び出し音で目が覚めた。

『古泉一樹』

このやろう、時と場所をわきまえろ。

しかも電話に出た途端わけの分からん事を言いやがった。

『おかえりなさい』

何言ってやがる今何時だと思っているんだ。

192 名前: ◆KMIdNZG7Hs[] 投稿日:2008/06/02(月) 00:17:21.05 ID:WuHXdKoo

『何時だと思います?』

「…何時なんだ?」

『午前4時半を少し回ったところです』

「夜明け前じゃねぇか」

『一言労いの言葉とお礼を述べさせていただこうかと思いまして』

いらんいらん、お前からのそんなものをもらっても嬉しくない。

『丸い部屋が消えました』

なに?!

俺はようやく周囲を確認し今いる場所が自分の部屋だと認識する。

『どうされたかは分かりませんが、これで僕の肩の荷もおりました。ようやく寝られます』

こいつはどうやら今日も今日とて丸い部屋に侵入しようとしていたらしい。

「なぜ消えた?」俺は聞いた。

『さて、あなたの方がよくご存知のはずでは?』

今回ばかりはおとぼけは無しだ、お前の考えを聞かせてくれ。

古泉は少し間を置いて話し始めた。

193 名前: ◆KMIdNZG7Hs[] 投稿日:2008/06/02(月) 00:17:48.32 ID:WuHXdKoo

『結論から言ってしまうと、あの部屋は役目を果たしたんです』

どんな役目だ。

『涼宮さんにとって誰にも見られたくなかった事ができたんでしょう』

俺は左手を見る。ハルヒの髪が小指に結んであった。

…古泉の言っていることは、違う。直感的にそう感じる。

「古泉、もしもだぞ、夢の中で手にしたものが現実に現れたらお前はどう思う?」

古泉は沈黙した。

『その夢を現実だと認識します。涼宮さんもそう認識すると思いますよ』鋭いやつめ。

「相手が夢と違っていたら?」(俺が指に髪を巻いてなかったら?)

再び沈黙…。

『あれは夢だからで一蹴するでしょう、ただし』

ただし、なんだ?

『涼宮さんにとって「ただの夢」と割り切れる程度の事でしたら、あの丸い部屋はまだ消えていないはずです』

今度は俺が沈黙した。

『夢か、現実か、選択を任されましたね?』血の気が引いた。

194 名前: ◆KMIdNZG7Hs[] 投稿日:2008/06/02(月) 00:18:20.03 ID:WuHXdKoo

古泉の声が悪魔的に聞こえる。

『丸い部屋が消えた理由はそれでしたか。もし夢の通りのあなたが涼宮さんの前に現れたら』

室温が下がった気がする。寒い。

『勘のいい彼女の事です。連鎖的に今まで夢だ催眠だで片付けてきた事も現実だと認識し』

古泉は冷静に続ける

『その結果、世界の物理法則は崩壊するでしょう』

現在の世界の終焉を古泉は淡々と述べた。

『また夢とは違った、つまり現実どおりのあなたが目の前に現れたら、涼宮さんはその事に絶望してこの世界の改変を始めるでしょう』

俺は左手の小指を見つめ続ける。

『涼宮さんはあなたに世界の行方の選択を託したんです』

どくん!俺の心臓がひとつ大きく脈打った。

『物理法則の崩壊した世界に全人類を引き連れてゆくか、それとも世界を再構築させるのか、あなたにお任せしましたよ』

俺は古泉に返事をすることができなかった。

『それでは失礼しますね。朝早くに失礼しました』

古泉が電話を切っても俺はしばらく動けなかった。

217 名前: ◆KMIdNZG7Hs[] 投稿日:2008/06/02(月) 20:55:56.02 ID:WuHXdKoo

ハルヒに夢は夢だと説き伏せたとしてもハルヒにとってこの世界が色あせた世界になることは間違いない。

ハルヒは世界に、何より俺に落胆するだろう。ハルヒの気持ちを正面から刻み込まれた俺には丸い部屋での事を無かったことにするなんて…できない。

だからといって全人類それぞれの意図もあり人生もあるのに、その全てをハルヒのためだけに完全にぶち壊し方向修正していいのか?

俺は夢の中の俺になればいいのか、現実の俺になればいいのか。

ハルヒに夢の続きを見せたい…という気持ちはある。だが天秤にかけるにしては向こうの秤に乗っているものがあまりにも重過ぎる。

『キョンくん、がんばるにょろよ、人類の未来は君の肩にかかっているのだっ!』

いつか鶴屋さんに言われた言葉を思い出す。

鶴屋さん、本当に世界が俺の肩にのしかかってきましたよ。

けど…はっきり言って重みでつぶされそうです。

俺は全人類の未来が結ばれた左手の小指を夜が明けるまで見つめ続けた。

-----------------------------------------------------------------------------------

その日は一日中考え続けた。それでも時間が足りなかった。俺は全人類の人生を左右してもいい程の権限を持っている人間なのか?

権限云々じゃない。俺に世界の進路を決められるような判断ができるのか?

俺はお前にどう応えればいい?なぁハルヒ…。

今日は妹に変呼ばわりされてもろくな反応ができない。

218 名前: ◆KMIdNZG7Hs[] 投稿日:2008/06/02(月) 20:56:16.67 ID:WuHXdKoo

だが、どうしたって時間は刻一刻と過ぎ、太陽は傾き、そして夜になった。

明日には学校だ。ハルヒと一緒にとった眠りとは程遠い浅い落ち着かない眠りに俺は落ちていった。

-----------------------------------------------------------------------------------

朝だ…。ほとんど眠れた気がしない。

だが情けないことにいつものルーチンワークで体は自然にいつもどおりの行動をとる。

ベットから起き上がり、顔を洗い歯を磨き、味の分からない朝飯を食べる。

玄関で靴を履く足がすでに鉛のようだ。

俺は学校への坂道の一番下から校舎を見上げた。

遠い、遠すぎる。今日ほどこの坂が苦痛に感じたことはない。

それでも俺は律儀に一歩一歩足を前に進め坂を登り始めた。

俺は自分の左手を見る。小指にはまだハルヒの髪が結んである。

この左手はなんて重いんだ。このまま地面に沈んでも不思議じゃない。

俺は自問する。

お前は世界を左右できるほどの人間か?お前が人類の未来を決めてもいいのか?

俺の答えは…

219 名前: ◆KMIdNZG7Hs[] 投稿日:2008/06/02(月) 20:56:38.88 ID:WuHXdKoo

……

………

…………

ノー!だ。

俺は人類の行方を左右できるような人間じゃない!そんな判断も出来ない!

できるとしたら…俺自身がどうしたいかだけだ!

俺は決心し、ハルヒの髪の毛を解きポケットに入れた。

俺は、俺にできることは…行動するだけだ!

教室でHRが始まるのを待っていると時間ぎりぎりにハルヒが教室に入ってきた。

ハルヒが俺を呼んだ「ねぇキョン」

俺は振り向いた。ハルヒの目が俺の目から左手へと移る。

泣くのか?!一瞬そう思わせるほどハルヒの顔に落胆の表情が浮かびあきらめへと変わる。

ハルヒの目の中で燃えていたシリウスの輝きが急速に冷えてゆく。

「なんでもない」

まるで入学当初のような、他人を拒絶し世の中全てに悪態をついていた頃のハルヒがしゃべっているようだ。

220 名前: ◆KMIdNZG7Hs[] 投稿日:2008/06/02(月) 20:57:01.14 ID:WuHXdKoo

授業中も休み時間もハルヒは他人との関わりを一切遮断し完全に孤高になっていた。いや、なりたがっていた。

昼休み、いつものごとくハルヒは教室から出て行く。

その後すぐに古泉が教室の入り口に現れた。

俺は何も言わす屋上への階段の踊り場へ向う。

「閉鎖空間の発生がこれまでとは桁違いです」

何の前置きもなく、古泉がいきなり話し出した。

「このまま神人が暴れ続け閉鎖空間が発生し続けると今日の夕方には世界の表と裏が入れ替わります」

俺は黙って古泉の話を聞いた。

「あなたの出した結論はこれでしたか」

責めるわけでもなく、問いただすわけでもなく、古泉は本当にいつもどおりのスマイルでなんでもない事の様に言う。

「それじゃ、向こうの世界で、もしまたお会いできたら、その時はまたよろしくお願いしますね」

いつぞや聞いたような台詞をまた言い残して、古泉はまったくいつもどおりの歩調と後姿で去っていった。





221 名前: ◆KMIdNZG7Hs[] 投稿日:2008/06/02(月) 20:57:21.07 ID:WuHXdKoo

放課後。

ハルヒが席を立った。俺も席を立つ。

掃除当番のクラスメイトたちが椅子と机を教室の端にずらし始める。

「ハルヒ」俺は呼び止めた。

「何よ」自分以外のものは全てくだらないと決めている口調と表情。

俺はハルヒに近づいて手を伸ばす。

ハルヒが怪訝そうな顔をして俺の行動を見つめる。

「何!」

「動かないでくれ」

俺は口調こそ荒げなかったが全身全霊でハルヒに頼んだ。

ハルヒの動きが止まる。俺はゆっくりとハルヒの髪に触れ、そのうちの一本を摘み上げて… 抜いた。

「いたっ!」

驚いてハルヒが後ろに下がる。目には完全に怒りの炎が燃え上がっている。

「何のつもり?!」

俺は黙ってハルヒの目の前に今抜いた毛をたらしこう言った。

222 名前: ◆KMIdNZG7Hs[] 投稿日:2008/06/02(月) 20:57:47.98 ID:WuHXdKoo

「結んでくれ」

炎が蒸発し黒い瞳が大きく開かれる。ハルヒが口を開けて硬直した。

「ここに結んでくれ」俺は左手の小指を立ててハルヒの前に差し出した。

ハルヒがロボットのような動きで自分の髪の毛を受け取る。

そして俺を見つめる。俺も見つめ返す。

見る見るうちにハルヒの瞳が輝きだし丸い部屋で見せてくれた俺の奥底にまで入ってくる光を放ちだした。

「なんで?…あんたキョンなの?…どうしてこんなことするの?」希望と不安と喜びとちょっとの恥ずかしさを混ぜてハルヒが聞いてくる。

「いや、何となくだ。けど、やってくれたら何か面白いことが起きそうな気がしないか?」

ハルヒはゆっくりとそしてしっかりと俺の左の小指にまた髪の毛を巻いてくれた。

俺はハルヒにその小指を見せながら言った。

「なぁハルヒ。SOS団はおもしろいな」ハルヒの瞳の輝きが増す。

「今度の市内不思議探索はついに何か見つかるかもしれん」全身からやる気のオーラが立ち上り始める。

「それか土日使って合宿とか行ってみないか?また古泉に企画やらせて」黒曜石が爛々としだす。

「これからも、きっと何か面白いことが起きるぜ」爆発するようなハルヒのやる気。

「行こう!!」

223 名前: ◆KMIdNZG7Hs[] 投稿日:2008/06/02(月) 20:58:00.37 ID:WuHXdKoo

俺はハルヒの手を握り、教室を飛び出しSOS団の部室まで走り出した。

俺は確信している。ここが一番面白い!

ハルヒが傍若無人に振る舞い、朝比奈さんがわたわたして、古泉が太鼓もちをして、長門が傍観して、俺が尻拭いやら後片付けやらフォローやらで冷や汗をかいている、ここが一番面白い!

この決断は前もしたじゃないか、おれはここが好きなのだ。ここにいたいのだ。物理法則の崩壊も再構築もごめんだ!

「まいったか!俺はSOS団の団員だ!」

「何言ってんの!わたしは団長なんだからね!」

引っ張られていたハルヒが速度を上げて走っている俺に並ぶ。

ハルヒを見ると、瞳の中にアンドロメダ星雲を100万個詰め込んだような輝きを放ちながら眉毛を吊り上げ笑っている。

ハルヒの気持ちが今の俺には正確に分かる。

ここが一番面白い!

そしてハルヒも俺のこの気持ちを分かっていると断言できる。

俺とハルヒは手を握りあい、同じ気持ちでSOS団の部室まで全力疾走した。


                                    Fin

228 名前: ◆KMIdNZG7Hs[] 投稿日:2008/06/02(月) 21:14:13.25 ID:WuHXdKoo

自分でも呆れるほどの遅筆にもかかわらずVIPから読んでくださった方々、wktkしてくださった方々ありがとうございました。
しかしwktkされると怖いですね。そのプレッシャーに押されてかき続けたような感じです。
仕事中にもちょこちょこ書いたりしてました。そのためはっきり言ってこの一週間、私の仕事の能率は確実に落ちてました。
これが査定に響いたらwktkした人は良心の呵責に押しつぶされてくださいwww
とにもかくにもありがとうございました。

さて次回のネタはこれ。

『僕の姉さんはVOCALOID』

一人っ子だった僕に突然姉さんが出来る事になった。
なんとその人は緑の髪のVOCALOID!しかも僕の学校の音楽の先生に赴任!
少年とVOCALOIDを取り巻く青春はちゃめちゃ活劇!乞うご期待!



ごめんなさい、うそです。

では名無しにもどります。
本当に皆さんありがとうございました。ノシ



ツイート

メニュー
トップ 作品一覧 作者一覧 掲示板 検索 リンク SS:美緒「妙なモノが釣れたんだが…」芳佳「食べましょう!」