涼宮ハルヒの選択


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7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 13:40:23.30 ID:J4dircPH0

プロローグ


僅かな暇も与えまいとひっきりなしに飛び込んでくる非常識的出来事は
容赦なく俺の自由な時間を蹂躙し強奪し、それはもう暴虐の限りを尽くしていたのだが、
その元凶たる我がSOS団団長涼宮ハルヒは俺とは脳内構造が真逆のようで、
状況の不可思議性に1マクロの猜疑心も抱くことなく日々を愉しんでいた。
時は金なりと古人は言った。が、それは大きな間違いである。何故かって?
俺がハルヒに搾取された時間を換金したらそれこそ零が幾つあっても足りないに違いなく、
例えその金額をハルヒに提示したところで、消費分が還ってくることは未来永劫ありえないからだ。

―――――
―――――――――
――――――――――――――

なーんて長ったらしい口上を垂れていたのが、昔の俺なんだよな。
昨年の春から、俺がため息をつく機会はめっきり減っていた。
別に聖人君子の如き強靱かつ柔軟な精神力を手に入れたわけではない。
周りの環境が変化し、自然と俺の心の湖が波立たなくなっただけのこと。
宇宙人による異空間転送も、超能力者共による拉致も、未来人と時間を超えたことも、
いつも事件の渦中にいた神様が、俺を振り回していたことも……

今ではもう、遠い昔の記憶だ。
俺は至って平凡な毎日を送っている。

三年の春。俺たちは、受験期を迎えようとしていた。

「でさー、今度街の方に新しいカフェオープンするらしいんだけど」
「宿題終わってねえんだ、見せて見せて!」
「じゃあ今日は久々に歌いにいきますか」

HRが終わり、教室が喧噪に包まれる。
俺はそれをぼうっと眺めていた。ハルヒというと授業が終わるやいなや

「ちょっと用事あるから!」

と一言残して教室を飛び出していき、その消息は未だ不明である。
ちょっとニュースのリポーターっぽく言ってみたものの、
ハルヒの失踪など日常茶飯事なので、誰の関心も引くことはできないだろうが。

「さて、と―――」

首の骨をならして立ち上がる。時間はまだ3時過ぎ。
これからどうしようか?

>>38


38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/05(水) 19:05:46.30 ID:uLe3zonzO

 


空白=睡眠という解釈でいく
寝るか。特にすることもないし。
俺は立ち上げた腰をまた椅子に沈ませて、睡眠をとることにした。
受験期に突入した男子高校生が放課後机に突っ伏して寝るのもどうかと思う。
が、昨日のお花見大会での疲れが若干残っていたようで、
俺は至極スムースに夢の世界へと誘われた。

――――――――――――――――――――――――

「……さい……きなさいってば!」

声が聞こえる。耳慣れた団長様の声。
細く細く目を開けてみれば、憮然とした表情でこちらを見下すハルヒいた。
結構怒ってるな、これは。

俺は目を

1、閉じたまま眠っているフリをした
2、開けて謝った

>>56


56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/05(水) 19:16:08.41 ID:ZeR9wZkz0

おちんちんMAXする


と、俺がどう反応しようかと迷っていた時だった。
ドクン、と心拍が跳ね上がり、下腹部に血液が収束していく。
くそ、何故こんな時に俺の愚息は元気MAXになりやがるんだ――!!
言葉による目覚ましをあきらめたのか、俺の横ほおをぺちぺちとしてくるハルヒを意識しないようにして、
なんとか血気だった下半身を鎮めようと集中する。この時点で俺の意識は覚醒度100%な訳だが、
冷静にハルヒと向き合える自信はない。ていうかこの意味不明な状況をハルヒに悟られてみろ。
羞恥で死ぬ自信があるぜ。

「どうしたの? なんかあんた変よ?」

が、ハルヒというと俺の異変に感づき始めたようで、残された余裕はもう僅か。

「……よ、ようハルヒ」

咄嗟ににへら笑いを顔面に貼り付けて、俺は面をあげた。

「……………」

不審者を見つめるような視線。俺の心はもうずたずただが、ひとまずあの異常事態には気づかれていないようだ。

「起きたら色々文句言ってやろうと思ってたんだけどね。
 いいわ、帰りましょ。もうこんな時間だし」

ふと教室の時計を見れば針はちょうど6時を指していた。3時間も寝てたのか、俺。

「早くしないと置いてくわよ。昇降口で待ってるからね」

すぐ行く、と返して俺は帰宅準備を進めた。窓の外には、既に夜の帳が降りていた。

――――――――――――――――――――――――――――

昇降口には、ハルヒ一人の姿しかなかった。他の部員に関して尋ねてみると
ぶっきらぼうな口調で「先に帰ったわ」とのこと。
長門と古泉が二人っきりね。美形の超能力者にめらめらと殺意が沸いたが、
ま、あいつがいくら話題を振りまいたところで長門からまともな返答をもらえるとは思い難い。
古泉の困惑した表情が目に浮かぶね。いい気味だ。
……えー、誤解なきように断っておくが、これは決して長門に対する恋愛感情故の嫉妬ではなく、
なんと比喩すればいいのか迷うが、つまり娘に対する保護精神みたいなモノと思ってもらえばいい。

「さっきからずっとブツブツ呟いてるけど、端から見てたらものすっごく気持ち悪いわよ」
「なんでもない。忘れてくれ」

そして俺と言えば、結局ハルヒと二人で下校していた。
この辺りは良い感じに外灯が少なく、道を通る車もまばらで雰囲気は満点だ。
がしかし、その雰囲気が役立つのは仲むつまじいカップルに対してだけで、
俺とハルヒにとってはまとわりつくような薄暗さでしかない。
にしても―――今日のハルヒはやけに静かだな。

「…………」
「…………」

ハルヒが一方的に喋りまくるのを、飛ぶ口角泡を躱しつつ話の内容を聞き流しつつ相づちを打ってやり過ごすのが
これまでの下校風景だった。そりゃ機嫌悪いときはぶすっと押し黙ってるハルヒだが、今朝挨拶を交わしたときから
今の今まで、ハルヒは普段通りだったはずなのだが。

ここは

1、俺から話題を振ってみる。
2、黙って歩を進める  >>67までに多かった方


65 名前:ポニーテール仮面[] 投稿日:2007/12/05(水) 19:51:13.20 ID:ipQNly280

キョンはハルヒを選ぶべき。キョンにはハルヒを幸せにする義務がある。私と言う固体もハルヒたちには幸せになってほしいと望んでいる。

と言うわけで2

66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/05(水) 19:51:23.79 ID:VVLrfLSXO



67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/05(水) 19:52:26.92 ID:Cc4X4NaQ0

1かな。


口を開きかけて、閉じた。沈黙を破ろうとして意気込んだのはいいが、肝心の話題が見当たらない。
尤もハルヒが興味を示すような話題を俺が提供できた試しはなく、

「どーでもいいわ。そんなこと」

と一蹴されて、現在同様、沈黙に帰結するに違いないが。
二年前の入学式当日に比べれば、ハルヒは確かに"普通"の女の子に近づいたと言える。
が、根はまだまだ世界の不思議を追い求める爆弾女。嵐の前の静けさ、というやつなんだろう。
いやはや、こうして前もってハルヒの暴発を予知できるとは、俺も随分と適応したもんだ――
と楽観的思考を並べてみたところで、それ如何に虚構じみているかは、俺が一番よく知るところなわけで。
伏せがちな目に、若干引き結ばれた唇。薄闇に浮かんだ色は、元気溌溂なハルヒのそれよりも、くすんで見えた。
その様子は、俺に二年前のハルヒの独白を連想させて、

「なあ、ハルヒ……「ねえキョン。あんたは今、楽しい?」

掛けた言葉は、ハルヒの言葉にかき消された。
今が楽しいか、だって?

「そうだな。刺激がないと感じることもあるが、俺は十分に楽しいと思ってるぜ」

正直に思ったことをいってみる。俺が鈍いことは俺自身が一番よく知ってる。
ハルヒの質問の真意を深読みする必要もないだろう。

「ふーん。そうなの、それならいいんだけど」

ハルヒは意味深な表情で、返事と言うよりは独り言を言うように呟いた。
首を傾げる俺と、また無言状態に逆行したハルヒ。結局分岐路で別れるまで、俺たちは黙ったままだった。

見慣れた街並みを通り過ぎ。俺は安全無事に帰宅した。
飛びついてきた妹に淑女の嗜みを諭しつつ、家族との団欒的夕食を終えて、
一日の疲労を洗い落とすようにゆっくりと湯船につかり、ほくほくと湯気を上らせながら自室に籠もる。
春の晩は涼しく、熟睡には申し分のない気温である。俺は今日は早めに寝ようとベッドに潜り込み、

「キョンくーん、電話だよー」

という妹の呼びかけで、うつらうつらとした微睡みから引きずり出された。
時刻はもう丁度いい具合になっており、夜更かしをする気がないやつならベッドに潜り込む時間である。
やれやれ。少しはこっちの身のことも考えてほしいもんだ。

「もしもし――」

電話をかけてきたのは
>>75

自由記入「     」


75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/05(水) 20:32:08.58 ID:XpZHBCRpO

佐々木


「やあ、久しぶりだね。僕の推量が正しければ、君は微睡んでいた頃合いだ。
 まず睡眠の邪魔をしてしまったことで君の気分を害してしまったことを、謝罪しなければいけないね」

この俺のモノローグとタメをはれるほどに長広舌、そして一人称が「僕」でありながら、
声質は紛れもない女性のモノであるという特徴を踏まえて、相手はまず間違いなく佐々木である。

「はぁ、別に謝らなくてもいいからさ……名前くらい名乗ったらどうなんだ」

分かっていても聞いてやる。

「――相変わらず底意地が悪いなあ、君は。
 やっぱり起こしてしまったことを根に持っているのかい?」
「いいや。それで夜分遅くに何用だ?」
「いや、特に用件はないんだよ。久々に旧友の声が聞きたくなってね。昔はよくとりとめもない話をしたものだ。
 それとも何かな?君は親友の電話を無碍に切り捨て布団を被ると言うのかい?」
「分かった分かった。雑談でもなんでもしてやるよ。正直、そこまで言うほど眠くなかったしな」

教室で3時間も寝だめしていたことは内緒である。
佐々木は俺の返事を快諾と解釈したのか、「くっくっ」とうれしそうに喉を鳴らして、

「そうそう、君とはまだウッティン博士の提唱したM理論の考察について煮詰めていなかったね――」

ハルヒとはまた別ベクトルにぶっとんだ話題を持ち出して来やがった。

―――――――――――――――――――――――――――――――――

「というわけさ。興味深い話だろう? 僕の知識欲はもうこれまでにないほどそそられてね」
「あー、俺もそう思う」

一時間後。佐々木の脳内源泉は、枯渇することをしらぬかのように話題を噴出し続けていた。いい加減、子機を持つ腕が痛くなってきたぜ。

しかし佐々木から電話という事態は結構レアである。
例を挙げれば長門が微笑を零すくらいに(俺の表情判別眼は二年の間に爆発的進化を遂げた)珍しい。
佐々木の話が小休止に入ったところを見計らい、俺からも何か尋ねてみることにした。

「なあ佐々木」
「うん?」


1、もう眠いからまた今度にしようぜ
2、自由記述「             」

>>84


84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/05(水) 21:04:03.96 ID:uLe3zonzO

 


先ほどと同じく空白=睡眠という解釈で

思考が、纏らない。言葉を掻き集めようとしているのに、まるで指から抜け落ちるように
文章が完成しない。不自然に思えるほどの眠気を感じた俺は、なんとか

「おやすみ……」

と子機に投げかけてから、睡魔に屈服した。

『――おやおや――もう寝てしまうのかい?』

とぎれとぎれに、佐々木の声が聞こえる。
話し込むうちに消灯しベッドに寝ころんだ状態になっていたので、
後は切ボタンを押すだけなのだが。睡魔はもう、俺に僅かな身動ぎも許しちゃくれなかった。

『――少し無理を――せていた――だね――』

もし。もし俺があと、数秒起きていられたならば。
普段とは違う佐々木の、

『おやすみ―――キョン』

慈しむように柔らかい女性の声が、聞こえただろう。

――――――――――――――――――――――――――――――――

翌日、目覚めもよかったせいで(そりゃ昨日あれだけ寝たんだから当然か)上機嫌で投稿した俺は、
いつものハイキングコースで谷口と出会った。右肩上がりだったご機嫌グラフは、現在凋落を記録している。
あー……朝から面倒なやつと出会っちまった。俺もつくづく運がない。
朝の正座占いはチェックしない俺だが、まず間違いなく俺の正座は12位だろう。

「ようキョン。機嫌よさそうだな。いいことでもあったのか?」

お前の目は節穴か、なーんてありきたりな科白は胸にしまっておく。

「別に朝から何もねえよ。まあ昨日はそれなりに気分は良かったけどさ」

昨夜の電話を思い出す。朝目覚めた時に脇に転がっていた子機を見て、
勝手に寝てしまったことを後悔していたが、なんとなく、佐々木は怒っていないような気がしていた。
それにしても久しぶだったな。しょっちゅうは願い下げだが、たまにならああいう交流も悪くはないと――

「うおっ! 何すんだいきなり」

後ろから羽交い締めにされる俺。犯人は言わずもがな、アホの谷口だ。谷口は俺から離れるとふふんとそっぽを向き、

「別に」

俺のもの真似をしているつもりなのだろうか。あのな、俺はそんな仏頂面してねえ。

「お前朝からのほほんとしすぎ。なんかさ、お前最近、どっか抜けてるような気がするんだよなー」
「失礼なやつだな。朝は誰でも血圧低いんだよ」

谷口の戯れ言を適当にあしらって、徒歩に専念することにする。
お前はそこでずっと俺のもの真似してるがいいさ。

「おいおい待ってくれよキョン。親友おいてくとか冗談きついって!」


今から思えば。谷口の言葉は戯言でも虚言でもなく、見事にそのときの状況を穿っていた。
誰もが気づくような、違和感。異変。異常。
ただ、その時の俺があまりに緊張感を失っていて、目を逸らしていて、気づくまいとしていただけのこと。

さてHR10分前というベストタイムに教室に着いた俺は、
登校中に考案したHR前の雑談用話題のどれからハルヒにぶつけてみようかと思惑を巡らせて、

「キョーンー……なんであたしのメール無視したのよ!」

用意した話題すべてが水泡と帰したのを悟った。
いやー、あの、ほら、ハルヒ。まずは冷静になろう。激昂した状態で議論なんてできるわけ――

「うるさい。ほら、ちゃんと説明しなさい。聞いたげるわ。ただし……」
「ただし……?」

獅子に睨まれたドブネズミのような心境で復唱する。

「嘘ついたら殺すわよ」

昨日の怠慢(帰宅してグダグダ→電話→即就寝)がこんなところで俺の精神をすり減らすことになるとはね。
流石に丸半日メールを無視されたらハルヒも怒るよな。おそらく、いや間違いなく俺の携帯のメールボックスは
20件分ほどハルヒの未開封メールで占拠されているに違いない。
ここは――

1、いいわけする(高度な)
2、いいわけする(低レベルな)
3、正直に昨夜のことを話す
>>110までまでに一番多かったのを取る


104 名前:ポニーテール仮面[] 投稿日:2007/12/05(水) 21:48:44.96 ID:ipQNly280

懸命だな。
では、キョンらしく1で。・・・いや、3かな?

105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/05(水) 21:49:18.81 ID:hN8nwEG8O

3

106 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/05(水) 21:49:38.78 ID:PThGRXRjO



執筆スピード早すぎるだろ常考

107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/05(水) 21:50:57.94 ID:fX61220j0

3かな
キョンなら素直に話すんじゃないだろうか

108 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/05(水) 21:51:20.32 ID:iMAbem8ZO

1

109 名前:ポニーテール仮面[] 投稿日:2007/12/05(水) 21:52:14.09 ID:ipQNly280

うかつにぺらぺら話してハルヒの機嫌を損ねるのがキョンと言う生き物だ。

・・・が、嘘をつくよりはダメージは軽減されるだろうな。

110 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/05(水) 21:53:06.09 ID:ShWwqgNqO

3


下手に嘘をつくのはよくない。昔の偉い人は言いました。
一度嘘をつけば、その嘘がばれないようにするために嘘を重ねなくてはならないと。
ま、そんな一般論はともかく、教室の張り詰めた空気は刻一刻と息苦しくなっているし、

『さっさと宥めろよキョン』
『早くしないと涼宮さん切れちゃうじゃない』

クラスメイトからの無言の圧力に俺は圧死寸前だ。言い訳を考えている時間なんて一秒もない。
俺はありのままの事実を述べることにした。哀しいかな、これがSOS団平団員の使命なのである。

「――――というわけだ。ま、昨日は忙しかったんだよ」

ハルヒはしばらく俺の話に静かに耳を傾けていたが、「佐々木」の名前が出た辺りから
ゆっくりと表情をゆがませはじめ、終には怒気全開の微笑というなんとも複雑な表情を浮かべてこうのたまった。

「あ、あらそうだったの。それじゃ、し、仕方ないわよね。
 何しろ大事な親友佐々木さんからの電話だもんね」
「ハルヒ……無粋な質問かもしれないが、一応聞いておく。怒ってるか?」

数瞬の間。

「……あたしが怒ってると思う?」
「いいえ思いません」

俺は機械仕掛けの人形のように体を前方方向にロールさせることを余儀なくされて、
結局HR前の雑談は叶わず、いそいそと授業に備えることにした。

午前の授業中、ずっと背中にシャープペンシル突きが浴びせかけられていたことは、言うまでもないだろう。

滞りなくHRが終了し、放課後が訪れる。
今日も授業は早めに終わり、まだ時間は3時を少し回ったくらいだ。
受験生ってのはいいね。勿論のこと、俺にこの放課後を勉強に回す気は毛頭もないんだが。

「昨日はあたしがいないからさぼったみたいだけど、今日はそうはいかないわよ」
「分かってるって。あ、ちょっとばかし片すから、時間かかるかもしれん。先に行っててもいいぞ」
「その手には乗らないわよ。見張っとくわ」

俺の信用も奈落に落ちたか。まあいい。
見つめられているというのは落ち着かないが、朝の分も何か話してみよう


1、なんで昨日元気なかったんだ?
2、朝のこと、ほんとに怒ってないのか?
3、昨日の終業前、教室抜け出して何処行ってたんだよ?
>>125までに多かった方


120 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/05(水) 22:18:30.37 ID:iMAbem8ZO

3

121 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/05(水) 22:19:29.73 ID:fX61220j0

どれも興味深い3択だな
しかし話の流れ的には3が一番だろう

122 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/05(水) 22:20:26.84 ID:r8swOcWJ0

4 ここでいきなりフラグブレイカー鶴屋さん登場 

123 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/05(水) 22:20:38.51 ID:qvhkx5OOO

ここは1で

124 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/05(水) 22:20:46.54 ID:shgFtu60O

3!3!

125 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/05(水) 22:20:47.33 ID:iY/MTkxC0

まさかココまで伸びるとは

1


「昨日の終業前、教室抜け出して何処行ってたんだよ?」

胸の中で燻っていた疑問を、片手間に聞いてみる。昨日の授業終了前。
だん、と大きく椅子を引いて、毅然とした態度で教室を抜け出していったハルヒは、
何かに突き動かされているような感じだった。

「ああ、あれねー……」

ハルヒは逡巡するように語尾を伸ばしてから、

「大したことじゃないわよ」

抑揚のない、静謐の声で"あんたとは関係ない"と言った。
それはまるで、ハルヒではない、別人が話しているような酷薄さで。

「ハル………ヒ………?」

鞄をのぞき込んでいた顔を上げる。
俺の視界で、こちらの作業を逐一観察している少女は――やはり、ハルヒだった。
同時にがやがやとした喧噪が、今更のように耳朶を震わせる。

「もう、何時までかかってんのよ。古泉くんと有希、きっともう待ってるわよ?」
「悪い悪い。今終わった」

連れだって文芸部室に向かう。横には昨日の静けさが嘘のように明るいハルヒがいて。
俺の中に生まれた懐疑は、自然となりを潜めた。

申し訳程度にノックして、

「入るわよー」

恒例の爆発音と共に、ハルヒが文芸部室のドアを蹴り開けるハルヒ。
よもや文芸部室のドアは木製なんかではなく、オリハルコンかそれに準ずる未知の金属物で
できているのではないかと首を捻っていた俺に、湯飲みが差し出された。

「……どうぞ」

清冽な水を連想させる、透き通った声。ありがとな、長門。

「かまわない」

朝比奈さんが卒業してからというものの、SOS団部室のメイドは、専ら長門に一任されていた。
あのメイド服などの衣装は現在大切に保管されており、残念ながら長門は制服のままである。
ま、長門にはメイド服よりも、もっと似合う衣装があるからいいんだけどさ。
ちなみにときたま古泉がお茶煎れを担当しているが、俺はその度に「今日は来なければ良かった」と後悔に苛まれている。
閑話休題。

「昨日は無断欠勤。今日は重役出勤ですか」
「うるせえ。こっちもいろいろあるんだよ」

右手で口元を押さえつつ左手に指導書を持ち、眼下に広がる盤面を睥睨する古泉が話しかけてきた。
このままじゃ将棋につきあわされて一日が終わるのは目に見えている。
俺は――
>>150 自由記述「        」 


150 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/05(水) 23:09:44.49 ID:ZeR9wZkz0

チン毛MAXもっさりビューティー、
股間にアジエンス使ってんだぜwwwセレブっしょwww


古泉に勝負を申し込まれるのを覚悟しつつ、詰め将棋の行く末を見守ることにした。
本来なら今日課題として出されたレポートを仕上げるなり、本棚から本を拝借して読書に勤しむ方が
余程建設的なのだが、まあぼんやりとしている時間も長い人生に於いて大切な事だ、と勝手に理由づけてみる。

「ふむ……これは興味深い」

呻吟している。あのデフォルトが余裕綽々の古泉が、片手の本を凝視しながら呻いている。
興味深いとな? 回答の差し手が見事すぎるということだろうか。

「僕も一度はこういう体験をしてみたいものです」

独り言は続く。たまりかねた俺は、慎重に席を立って古泉の後ろに回り込んだ。
古泉は魅入っているのか、こちらに気づいたそぶりは見せない。
何だ。何が古泉を感嘆させている?

「――――――!!!」

驚きのあまりに、呼吸ができない。
まず一目で分かったのが、古泉が手にしているのが将棋の指導書でも何でもなく、週刊誌系の薄っぺらい雑誌ということだった。
だが、俺の驚愕は見開きのページに掲載された写真に集約される。
もしゃもしゃの縮れ毛が、これでもかと言うほどに泡立ち白泡の固まりと化していた。
横には「巷で噂のアジ○ンス! 高級感溢れるコイツで、毎日洗ってセレブ気分だぜ!」という文字がデカデカと踊っている。

「これは……間違いなくチン毛MAXもっさりビューティー……しかもアジエンスで丸洗い……セレブ…すぎる……」

言い表しようのない虚脱感が俺を包んでいた。
古泉がこんなものを読んでいること以上に、この発想にたどり着けなかった自身への失望が――

「いやぁ、アフロをアジエ○スで丸洗い。いいですね。あなたも読んでみますか?
 これは僕が定期購読している髪型専門誌なんですが、今月はアフロ特集でして」 

所定位置のパイプ椅子に戻り、お茶を一口飲んで古泉と真正面から向き合い

「誰にでも間違いはあるよな」
「ええ、人間誰しも、早とちりしてしまうことは多々あると僕は思っていますが」
「ありがとう、お前はとてもいいやつだ」

共通認識に達したところで、落ち着きを取り戻した。

さて、

1、もうそろそろ部活が終わる時間だ
2、誰かに話しかけよう 名前自由記入(ただし部室内にいる人間のみ)  >>181までに多かった方


179 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/06(木) 00:07:10.15 ID:+XO7UC290

自分に語りかける

180 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/06(木) 00:07:56.59 ID:QIFLmb450

その場でうんこ

181 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/06(木) 00:08:40.81 ID:PVhY/F4e0

ハルヒ


落ち着いたところで、部室全体を軽く見渡している。
長門はメイド仕事を淡々とこなした後定位置に座って本の虫になっていて、
ハルヒはカタカタと軽快にタイピング音を響かせていた。
何時も通り。朝比奈さんが欠けたこと以外は、一年前と変わらない平和な光景がある。

ハルヒは佐々木たちとの一騒動の後、めっきり閉鎖空間を発生させなくなった。
涼宮ハルヒの精神分析医と自負する古泉医師から詳細は聞かされていないので、
直接的な理由は俺の知るところではない。
だが、閉鎖空間が発生しなくなったことは事実で、古泉がそれに駆り出されることがなくなったのも、また事実。
騒動から一ヶ月した辺りに、古泉がぽつりと

『いざ閉鎖空間が発生しなくなると、寂しいものですね。
 3年前は、毎日のように鳴り響く携帯が煩わしくて仕方がなかったのに』

と漏らしていたが、本心は現状に安堵しているはずだ。
そして、衝突後硬直状態にあった天蓋領域と情報統合思念体も今では調停らしきものを結んだらしく(長門談)
長門は涼宮ハルヒの観察役として、俺たちと時間を共にしている。
あれから、半年近くが過ぎた。未来的宇宙的超能力的出来事が、一つも起こらないままに――

だが、依然ハルヒが神様的能力を保持していることに変わりはない。
ただ行使していないだけ。でも「行使しないこと」がどれだけ難しいかは、一番近くにいた俺が、一番よく知っている。
その精神的な成長は、素直に褒めてやるべきだろう。

「さっきからずっとディスプレイ眺めて、何してるんだ?」
「ふふー、秘密よ、ひ、み、つ。完成したら見せてあげるけど今はダメ」

後ろからのぞき込んだ俺に、悪戯っぽく舌を出して画面を覆うハルヒ。
ま、大方HPのリニューアルだろうし、ここは一つ、先達としてアドバイスでもしてやるとするか。

ハルヒが犯していそうな単純ミスを、思いつく限り列挙していく。
勿論それは俺が一度突き当たった問題であって、俺にホームページ作成の才能があるわけではない。

「な、何バカなこといってんのよ。
 あたしがそんなミスするわけないじゃない。
 あたしのプログラムは完璧よ――あ」

ふっ。勢いに乗って喋りすぎたな。ともあれ、これでハルヒがHPを弄っていることは明白になった。

「見せてみろ。俺が荒直ししてやるから」

しぶしぶといった風にキーボードを明け渡すハルヒに、変にいじったりしないと約束して、
俺はソースコードの修正を開始した。一つ、二つ――ん、結構あるな。
肩に顎を乗せているハルヒに、間違っている部分について丁寧に説明してやる。

「おいおい、スペル間違ってるじゃねえか」
「煩いわね! これでも頑張ったんだから」

結局、最後まで修正してやることになってしまった。

「ふぅ、こんなもんか。後はハルヒがやるんだぞ」
「分かってるわよ。ほんとは全部一人でやるつもりだったんだから」

だがしかし。ハルヒに教え事をするのも悪くはない。
万能のこいつにちょっとした優越感を味わえる上に、

「でも………ありがと」

滅多に聞くことのできない、お礼を賜ることができるのだ。
報酬なんてそれで十分さ。教授した疲れも妥当だと言えよう。

パタンという音が響く。長門が小さな手に似合わぬハードカバーを携えて、

「……下校の時間」

抑揚のない、しかしよく通る声で下校宣言をした。
長門の口数は、日に日に、目に見えないような遅々とした速度ではあるものの、
確実に増えている。この下校宣言も、その成果と言えるだろう。

――――――――――――――――――――――――――――――――

「それでは、さよならですね」

「………また明日」

分岐路にさしかかるごとに、一緒に歩いていた影が減っていく。

「じゃねー。寄り道しないで帰りなさいよー」

お前は俺のお袋か。
じゃあな、と右手を軽く振ってやる。
暗褐色の夕陽を背に、ハルヒの後姿が小さくなっていく。

トントン

その時だった。肩の振動に振り返れば、そこには

1、別れたはずの古泉がたっていた 2、橘京子がたっていた
>>200までに多かった方


196 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/06(木) 00:59:32.39 ID:DVpbTWFw0



197 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/06(木) 00:59:49.99 ID:mteKImFg0

古泉

198 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/06(木) 01:00:18.62 ID:+XO7UC290

古泉

199 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/06(木) 01:00:27.50 ID:DL3rKH250

1で。 鶴屋さんでないの?

200 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/06(木) 01:01:02.81 ID:eeE3VnsXO



なんで安価小説でこんなにクォリティ高いんだw


ついさっき別れたはずの古泉が、当たり前のように佇んでいた。

「うわっ、なんでお前がここにいるんだよ!」

飛び退く俺と、悪びれた風もなくニコリとする古泉。

「驚かせてしまってすみません。どうしてもあなたと二人で話がしたかったものですから」

斜陽でくっきりと浮かび上がる、シャープな顔立ちとスラリとした体躯。それに芝居がかった口調も加えると、
古泉はまるで俳優のようだ。その実態は、本人に無断で一般市民をストーキングする変態野郎なんだが。

「電話じゃ駄目だったのか。文明の利器は利用しなくちゃ意味がないんだぜ」
「いえ、直接でないと意味がないのです。何しろ、彼女に関係することですから」

一瞬だけ。古泉の能面から、アルカイックスマイルが剥がれた気がした。俺は緩んでいた気を若干引き締めて、

「ふうん、ハルヒ絡みね。久しぶりじゃねえか。もう半年になるのか?」
「ええ、そうですね。勿論水面下では例の一件の事後処理が成されていましたが、
 彼女と、それを取り巻く人間、つまり私たちが共通の問題に直面するのは、約半年ぶりといえます」
「立ち話もなんだし、場所、移さないか」
「近くに行きつけの喫茶店があります。静かで密談には最適かと」

古泉に案内されるがままに、とっぷりと日の暮れた街並みを歩いていく。
悠々と歩を進める背中を追いながら、俺は古泉の言葉に、どうしようもない不安を抱いていることを自覚していた。
どうしてだ? 半年前から何も変わらず、安寧を保ち続けた俺たちが、何故?
SOS団の誰もが、充足した毎日を送っていると信じていた。それをとりまく環境も、人々も、変わらなかったのに、どうして―――

注文したコーヒーが運ばれてくるまで、古泉は本題については緘黙したままだった。
微笑を浮かべたまま、取り留めもない話(それでも谷口トークよりは数倍マシだ)を投げかけてくる。
喫茶店に付くまでの足取りからするに、切羽詰まった状況でないことは理解していたが――悠長すぎないか、おまえ。

「いえ、決して現況を楽観視しているわけではありませんよ。
 事がまだ、急を要する段階ではないだけのこと。それと、恐らく勘違いしているようですから断っておきますが、
 今回お話がしたかったのは、我々機関の不手際故の事後処理についてではありません」

ハルヒに関する話題において古泉は嘘をつかない。虚飾もしない。
だから、俺はその言葉を聞いて僅かながらに安堵した。それを悟られないようにして、本題に入る。

「それで……俺たちが半年ぶりに直面した問題ってのはどういった類のものなんだ?」
 少なくとも俺には、あいつとの関係に罅を入れた憶えは微塵もないぜ」

俺が早口になっているのは、分かっていた。
しかしそんな俺とは対照的に、古泉は上品な仕草でコーヒーに口を付けてから

「落ち着いてください。まずは僕の話を聞いていただきましょうか。閉鎖空間の発生原理を、あなたは憶えていますか?」

愚問だな。忘れてる方がどうかしてる。
ハルヒの機嫌が悪くなったとき、自分の思い通りに行かなくなったときに閉鎖空間は発生する。

「ご名答です。では、昨年の春の一件の後、閉鎖空間の発生率が零に等しくなったのは何故でしょう?」
「それは……あいつが精神的に成長したからじゃないのか」

この世の中のつまらなさを理解した上で、そこに小さな愉しみを見つける。
そんな"当たり前"のことを、ハルヒがようやく受け入れたからじゃなかったのか。
古泉は過去を反芻するかのように、目を細める。

「ええ、そう考えるのが合理的です。機関の見解も同じでしたよ。閉鎖空間の修正作用が発見されるまでは、ね」

修正、作用……? 新出単語に戸惑う俺。数学に比べりゃ現国の成績は良かったんだがな。

「破壊されることだけを目的とした閉鎖空間が、何を修正するっていうんだ」
「誤謬がありましたね。修正、というよりは瞬間的な自己消滅と言った方が適切でしょうか。
 彼女は閉鎖空間を発生させているわけじゃない。
 発生しようとしている閉鎖空間を押しとどめているのです。勿論のこと、識域下でですが」

閉鎖空間は発生する前に封じ込められている。だから表面上はハルヒの精神は安定している。そういうことか?

「ええ」

古泉はコーヒーに視線を落としたまま、あっさりと同意した。
そう簡単に頷いてもらっても困るね。お前の言っていることが正しければ、

「ハルヒは毎日を楽しく思っていない、という結論に至るんだが」

ハルヒが毎日に我慢していたとは思えなかった。
周囲への物腰が柔らかくなったことと、行動に冷静さが伴うようになったこと以外は、出会ったときから何も変わっちゃいない。
100Wの笑顔も健在だしな。

「それは極論ですよ。落ち着いてください。
 閉鎖空間の発生規模は4年前に比べれば月と太陽ほどの違いがありますし、
 彼女が"叶うはずのない"欲望――宇宙人と邂逅を果たしたいなど――を抑圧するのに、ストレスは付随していません」
「なら、どうして閉鎖空間が瞬間的に消滅するとはいえ発生するんだよ」

間髪入れず質問を返した俺に、古泉は苦笑しつつ

「それが分からないからこそ、あなたにお話を伺いたかったのです」

……ははあ、そういう訳か。二年前から相変わらずのその問題丸投げ姿勢には、呆れを通り越して感服するね。

「まあまあそう仰らずに。彼女と心理的な距離が一番近いのはあなたです。
 あなたの視点から見て、何か気づいたことがあれば教えていただきたいのですが」

俺は数刻前の古泉と同様、グラスに視線を落とした。
どうやら無意識の内に飲み干していたようで、溶けかけの氷が積み上がっている。

ハルヒについて心当たり、か。

そういや―――

1、今朝はメールのことでこってり絞られたっけ
2、昨夜の帰り道で、「今が楽しい?」なんて聞かれたな
3、別に心当たりはないな

>>298までに多かったので


294 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/06(木) 16:45:12.01 ID:5lIYIJ/t0

>>293
2

295 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/06(木) 16:46:17.16 ID:XHwaLHLd0

1

296 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/06(木) 16:47:31.88 ID:eeE3VnsXO

ここは2だろ

297 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/06(木) 16:50:10.65 ID:+XO7UC290



298 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/06(木) 16:50:28.85 ID:WLxbJ9UG0

まあ2だな


「昨日の夜、あいつと一緒に帰ったときのことなんだが……」

俺は心に小さく巣くっていた疑問を、打ち明けてみることにした。
やけに元気がなかったハルヒ。妙に居心地が悪くなって、声を掛けようとしたときに、
「今が楽しい?」なんて抽象的な質問をされたんだっけ。

「それで―――あなたはどう答えたのです?」

ふと視線を上げた先。古泉はいつになく真剣な面持ちで、話の続きに耳を傾けていた。
こんなに眼光が鋭い古泉を見るのは久方ぶりだ。
昨夜の会話には、何か重要な意味が込められていたのかもしれない。

「嘘偽りなく答えたよ。
 刺激がちょっと足りないと思うことはあるが楽しいと……って、どうしたんだよ古泉」

蒼い眼光が一層強くなる。それは長門の視線のように無感情で、その実俺を咎めていた。
しかし瞬きした直後にはいつもの細目に戻っており、表情から、ましてや視線からなど、微々たる負の感情もくみ取れない。
古泉はそれからしばし沈思黙考した後、

「それでは――二つ目にして最後の質問です。あなたにとって、彼女とはなんですか?」

シリアスな雰囲気を一転させる、とんでもない質問をしてきやがった。コーヒーを飲み干しておいて良かったぜ。
もし口に含んでいたら、古泉のビューティフェイスがコーヒー塗れになっていただろうからな。

「き、急にそんなこと聞かれても返答に困る」

どもる俺。我ながら情けないほどの耐性のなさだ。
だが勝手に焦っている俺をよそに、古泉は大真面目な顔で復唱した。

「あなたにとって彼女は、神ですか。友人ですか。それとも―――特別な存在ですか」

俺はあいつとの距離を測ることを、無意識の内に避けていた。
世界を思うがままに書き換えられる、神の如き力を持った少女。
俺はそいつと出会ってからというものの、今の今までずっと共に毎日を過ごしてきた。
それは何故だ。神のご機嫌をとらなければ世界が破綻するから?
済し崩し的に友人関係という既成事実が完成したから?
それとも―――備わった能力なんて関係なく、俺にとって掛け替えのない、大切な存在だから?

カラン。小気味よい音とともに、グラスの氷が瓦解する。

「古泉、俺は――――」

1、あいつは神で、俺はただ、そいつに近くにいることを許された凡人だと思ってる。
2、最初は鬱陶しかったが、今じゃ俺を愉しませてくれる良い友人だよ
3、俺はいつのまにか、あいつなしじゃ毎日を楽しめなくなっちまった。だから、掛け替えのない、大切な存在だ。
※ルート分岐  ハルヒルート(まあこれが一番ノーマル)or他の人
>>324 までに多かったので決めます


305 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/06(木) 17:44:00.70 ID:eeE3VnsXO



なんかマジでノベルゲーやってるみたいだ

306 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/06(木) 17:52:17.18 ID:P5irAd6D0

今追いついた

ここは3だろ

307 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/06(木) 17:52:27.28 ID:S9yL8A9z0



308 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/06(木) 17:53:15.24 ID:oKXfilSj0

3!なんといっても3!

309 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/06(木) 17:57:20.31 ID:HTqoqBiEO

お前らハルヒ好きだな〜


3

310 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/06(木) 17:57:25.95 ID:5lIYIJ/t0

最初はヒロイン攻略でしょ
ってことで3

311 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/06(木) 17:58:03.83 ID:XHwaLHLd0

2だと思った俺はもう駄目かもしれない

だけど、僕は空気を読めなくてもいいんだ!!

312 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/06(木) 17:59:47.45 ID:L3S5RWlP0

3

313 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/06(木) 18:04:03.81 ID:4a/tHXrN0

3だな

314 名前:ポニーテール仮面[] 投稿日:2007/12/06(木) 18:06:31.57 ID:OwF4xvah0

ソロモンよ!私は帰ってきた!!!
愛と勇気だけが友達さ!!

ポニーテール仮面ただいま帰還!!!

315 名前:―愛に囚われし愚者―ポニーテール仮面[] 投稿日:2007/12/06(木) 18:09:07.91 ID:OwF4xvah0

とりあえず、ハルヒの幸せを願って3

316 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/06(木) 18:17:14.66 ID:/YKtWrRnO



317 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/06(木) 18:17:30.58 ID:RVGM/Grf0

圧倒多数によりハルヒルート決定
まあ最初はメインヒロイン攻略だよな


飯食ってくる 7時くらいに戻ってくるぜ

318 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/06(木) 18:18:12.06 ID:uBdPH21WO



319 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/06(木) 18:18:28.62 ID:OG9K5x6JO

これはこのスレじゃ完結しないんじゃね?
全然いいけど
3!

320 名前:―愛に飢えた野獣―ポニーテール仮面[] 投稿日:2007/12/06(木) 18:19:56.15 ID:OwF4xvah0

7時・・・今は6時20分・・・

それまで保守だな

321 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/06(木) 18:20:27.08 ID:anDbLizxO

何?まだこのスレ残って……

3でしょ

322 名前:311[] 投稿日:2007/12/06(木) 18:22:18.68 ID:XHwaLHLd0

待ってくれ俺をそんな冷たい目で見つめないでくれ!!
俺はこう・・・あんまり直接的に言うとガチホモ嫉妬ルートかと・・・

保守

323 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/06(木) 18:27:47.26 ID:WLxbJ9UG0

良かった皆3で
3だよ3!!

324 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/06(木) 18:28:21.34 ID:UnSgCWK00

だれかこのスレ落ちても保管しといて


「古泉、俺はさ――――」

第一印象は最悪だった。SOS団なんて珍妙な組織に引っ張り込まれ時なんか、
どれだけHR前に話しかけたことを後悔したか知れない。

「いつのまにか――――」

だが、悔悟心は消えていった。SOS団には俺が子供の時に夢見ていた幻想が、現実化していた。
超能力者、未来人、宇宙人、ひいては神様にまで振り回されて。
いやいや引きずられていたはずの俺は、いつしか、自らの意志で関わりを持つようになった。

「いや、ほんとにいつのまにこんな風になっちまったのかわかんねーんだけど―――」

中庸平凡といった言葉が似合う俺を、こっち側に無理矢理引き込んだのはあいつだ。
でも、俺にフツーに暮らすよりもずっと充実した日々を贈ってくれているのもあいつだ。
認めるのは悔しいが、

「あいつなしじゃ毎日が楽しくないんだよ――――」

だがしかし。俺を飽きさせぬ摩訶不思議体験はハルヒの神様パワーだとしても、
そのパワーの持ち主に対する気持ちは掛け値なしの、純粋な気持ちなわけで……まあ、要するに

「俺にとってあいつは、孤高の神様でもただの友人でもない、特別な存在なんだ」

……いっちまった。こんな芝居じみた科白は古泉の専売特許だってのに。
古泉は俺の答えを聞いてからは黙ったままで、なにやら考え事をしている様子。
俺はといえばあんなことを口走ってしまった後悔の念でいっぱいで、
もうまもなく脳内で、脳内人格による"大反省会"が開かれようとしていた。

「ふふ……どうやら僕は、あなたを見くびりすぎていたようですね」

しかし議長が議員のカウントを始めたところで、反省会は頓挫する。

「あなたの意志は十分に伝わりました。これで僕も、あなたにヒントをあげることができます」

瞑目から覚めた古泉は、意味ありげな笑みと共に、そう宣った。……ヒント?

「ええ、涼宮さんを葛藤から救い出すためのヒントです」

ここで俺は、ある矛盾が生じることに気づいた。ちょっと待て。
出題する側は答えが分かっていなきゃ、ヒントなんて余裕かます以前に出題できないはずだ。

「答えならとっくに分かっていますよ。
 客観的な視点とは、主観者よりも多彩な推論が立てられるのです。
 先ほどの質疑応答で、僕は抱いていた仮説に、確かな確証を持ちました」
「ほう。ならご託はいい。さっさと解決方法を言え」

俺なりに精一杯強面をつくって、超能力野郎を脅迫する。だがそれは軽くそれを受け流し、

「あなたが自発的に理解しない限り、意味はありません。それは僕の強制になってしまう」
「時間的な余裕はあるとしても、だ。もし俺が何時までたっても気づけなかったらどうするつもりなんだよ」

お馴染みのポーズをとったまま、古泉は続ける。

「その心配はありえませんね。彼女の生成された瞬間消滅する閉鎖空間は、
 機関の戦闘員が侵入するのがやっとなくらい矮小なものです。放置しても、現界にはなんら影響はありません」
「……騙してたのかよ。一人で焦ってた俺は、なんだったんだ?」
「おや、僕は一言もタイムリミットがあるとは言っていませんが。
 それに――彼女の中に蟠りがあると知った今、あなたにそんな縛りは意味がないのではありませんか?」

「ぐ……」

痛いところをついてきやがる。だが、先ほど「ハルヒは俺にとって大切な存在だー」と豪語した俺に、
上手い返しは見あたらない。

「じゃあヒントでいい。教えてくれ」
「まあヒントというわけでもありませんが。
 彼女の行動の一つ一つに、目を向けてあげて下さい」
「は……?」

あまりに大雑把なヒントに、拍子抜けする。

「そして、あなたと出会った当初の彼女と、どう変わったのか。それをもう一度再確認してみてください」
「そんな適当なことでいいのか」
「ええ、構いません。十分です」

………。それきり喋ろうとせずにこちらをニコニコと見つめる古泉に、俺は1分間だけ付き合って、

「あー、俺、帰るわ」

コーヒー代を置いて席を立った。不完全燃焼感が拭えないが、もう話すことは何も残っていない。
もし俺が佐々木なら、知的トークで深夜まで盛り上がれるんだろうけどな。

「じゃあな」

新しいコーヒーを注文した古泉を捨て置いて喫茶店を後にする。春先だというのに、夜風は秋風のように冷ややかだ。
ふと空を見上げれば。菫色に染まった空に、不定期に瞬く、寂しげな外灯があった。

――――――――――――――――――――――

「ふぅ」

二杯目のモカを一口。長広舌の所為で乾燥した口内が、温かい味で満たされていく。
美味しい。素直にそう思える味だ。それでも昨年卒業した、朝比奈さんのそれには遠く及ばないが。

必要なファクターは既に出揃っていた。
後は、そう――不器用な彼女と、鈍感な彼が如何に誤解なく歩み寄れるか。
相互理解さえしてしまえば、後は済し崩し的に事は進む。僕の補助は無用になる。
これでもう、表面的に僕ができるのは静観だけとなった。
例えイレギュラー因子が登場したとしても、僕に手出しをする資格はない。
まあ……彼は自分の気持ちには正直な人だから、この想定こそが無意味なのだろうけど。

カラン。残ったモカは四分の一ほど。

もし彼が彼女の蟠りを重要視していなければ、僕はどういった反応を返していたのだろう。
明確な答えを貰った今となっては、仮定が難しい。
けど、一つだけ自信を持って言えることがある。例え返事が快いものでなかったとしても。
―――僕はSOS団の一員として、彼らの仲を取り持つよう努力したのではないかと思う。

摩擦することのないすれ違いを傍観するのは、あまりにも辛すぎるから。

――――――――――――――――――――――――――――――

遅くなったことに関して、家族の反応は様々だ。
「連絡しなさいよ」と小言を漏らす親。俺が帰ってきたことにも気付かずに爆睡しているシャミセン。
そして最愛の妹はというと――

「ただい「キョンくんおかえりー! ずっと待ってたんだよー!!」

なあ妹よ。俺はときどき、お前が何歳か分からなくなる。

さて。俺は風呂に入ったあと、居間でTVを鑑賞している。
だがどれもこれもつまらない番組ばかりで、チャンネルが定まらない。
ここは――

1、メールのチェックでもするか。昨日はそれを怠って災難にあったわけだし。
2、古泉の話について俺なりに考えてみよう。
3、久々に妹と遊んでやるか。
>>352までに多かったの


350 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/06(木) 20:37:54.29 ID:+Nu3vrWmO



351 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/06(木) 20:38:04.28 ID:eeE3VnsXO

文才があふれてますね



352 名前:ポニーテール仮面[] 投稿日:2007/12/06(木) 20:38:21.49 ID:OwF4xvah0

3もいいかもしれんがここはあえて2で。
…う〜む一番書きにくそうだな。ごめんよID:RVGM/Grf0さん。

353 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/06(木) 20:39:17.31 ID:eeE3VnsXO

間違えた





1+2+3まとめてやってやんよ
古泉の話を、もう一度俺なりに整理してみよう。
ハルヒは昨年の春の一件の後、閉鎖空間を発生させなくなった。
俺はそれを、ハルヒの外面的印象から、精神的に成長したのだと決めつけていた。
だが、それは俺に都合がいいだけの、なんとも勝手な解釈だった。
閉鎖空間は発生していた。だが、瞬間的に抑圧されて消滅し、機関の観測員に発見されずにいたのだ。
この特殊な閉鎖空間(以後、便宜上「特殊閉鎖空間」と呼ぶ)を機関が認知していなかった理由は、もう一つある。
それは特殊閉鎖空間の規模が、あまりに矮小であったこと。4年前の最盛期と比べると、それはとてもとても小さなものらしい。
偶発的にでも発見されたのは、奇跡的なことだったということだ。
が、発見されたところで、機関のお偉いさんにはその発生原因が突き止められなかった。古泉は俺に助力を求めた。
その結果。古泉は特殊閉鎖空間のタネが分かったらしいが、質問された俺はといえば、さっぱりである。
古泉はハルヒの動向に目をむけろと言っていた。過去のハルヒとの違いが、答えにつながるらしいが――
まったく、古泉も具体性に欠けるヒントをくれたものである。
ちなみにこの事態の解決にタイムリミットはない。
特殊閉鎖空間が拡大する蓋然性は無に等しく、放置していても現界に影響はないからである。
要するに。ハルヒの蟠りを解消するか放置するかの判断は俺に一任されている、ということになる。

「キョーンーくんっ!」

と、俺が思考に耽っていたときのことだった。油断していた俺はその掛け声に気づき遅れ、

「ぶへぇあ」

見事にボディプレスが脇腹に決まり、情けないうめき声を上げる俺。
早速マウントポジションをとった妹が、小悪魔的冷笑を口端に浮かべる。怖い。怖いよMy sister。
妹の愛らしい手は近場にあった小型の直方体をつかむと、一気に俺の顔面に振り下ろし、

「はい。携帯ふるえてるよー。キョンくんってば、ぼーっとしすぎ」

携帯を胸に落として去っていった。兄からの忠告だ。
ワンピース型のパジャマでマウントポジションはやめたほうがいいぜ。その、色々と問題がある。

「えーなんでー? あ、眠いからねるね。おやすみー」
「ああ、おやすみ」

妹に夜の挨拶を返して、携帯のディスプレイに目を向ける。新着メール一件、か。

誰だろう。俺は携帯を持ちながらもメールを多用する人種ではないので、
こちらから発信しない分、発信されることもないという結構寂しいメールライフを送っている。
例外はいるものの、あいつを除けば暇つぶしにメールを送ってくるような暇人はいない。
いるとすれば、歴とした用件を携えているやつだけだ。
片手でボタンを操作して、俺はメールボックスを開けた。

送信者の名前は――

>>375 自由記入「      」


375 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/06(木) 21:18:35.64 ID:13Aa5Xu60

ハルヒ


「ハルヒ……」

送信者の名前が、ぼう、とディスプレイに表示される。
一覧を見る限り、本日のハルヒからのメールはこれが初めてのようだ。
俺は今頃夢の世界をはね回っているであろう妹に、心中で謝辞を述べた。
さんきゅ、お前のおかげで早期発見することができたぜ。

4/24
from:ハルヒ
subject:
今起きてる?
起きてたら絶対メール返しなさいよね

スクロールバーはない。用件は記載されておらず、俺が起きているかどうかの確認らしい。
それにしても……素っ気ない文章だな。絵文字を使用しているのが唯一の救いだ。
初めてメール交換したときなんかは、あまりに殺伐とした文章で辟易したもんだった。
疑問符や感嘆符は使用されているものの、顔文字や絵文字が一切使用されていなかったのである。
後日伺えば、曰く、余計な装飾は不要とのこと。
あれからあいつに絵文字による感情表現の大切さを説いてやって、次第に絵文字をつけるようになったんだっけ。
と、閑話はここまでにしておいて。

to:ハルヒ
subject:
ああ、起きてるぜ
昨日はマジで悪かった
それで、今日は何の用だ?

送信ボタンをプッシュする。送信中...という文字が表示されて、俺のメールはハルヒの元へと旅立っていった。
便利な時代になったもんだ。どんなに離れていても簡単にコミュニケートできるなんて、古人は想像もしなかったに―――
ヴー、ヴー、ヴー……送信終了から約40秒後のこと。どうやらハルヒは、俺にモノローグを吐露する寸暇も与えてくれないみたいだ。

from:ハルヒ
subject:
用なんて何もないわ
メールしたいからメールしたの

用件ないって、お前な。
メールしたいからメールしたいって、目的と手段がごっちゃになってないか?

to;ハルヒ
subject:
まあ予想はついてたけどな
要するに暇なんだろ?
俺で良ければ話し相手になるぜ

送信、と。そして携帯を脇に放り投げた30秒後に、携帯が着信したことを誇張する。
ハルヒの反射神経が天性のものであることは重々承知していたが、幾ら何でも早すぎる。

from:ハルヒ
subject:
あんたは大きな勘違いをしてるわね
キョンが話し相手になるんじゃなくて
あたしがキョンの話し相手になってあげるの

あー…こんな簡単に伝家の宝刀を出さざるを得なくなってしまうとは、俺も修行不足ということか。
急激に衝動が込み上げ、俺はそれに流されるままに、
「やれやれ」
深〜い溜息をはき出した。ハルヒ節ここに極まれり、だな。
さて、この我が儘な団長様を愉しませるには、どんな話題が良いだろう?

>>445 自由記入「      」


445 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/06(木) 23:41:55.54 ID:eeE3VnsXO

今度の休日は遊びにいこうぜ


携帯片手に、しばし思案する。
ふと焦点をずらせば、なんとなしに流していたTV番組が特集をやっていた。

『――いよいよ開場が明日に迫った――たくさんの入場客で賑わうと予想され――』

都会近くに建設が進められていたテーマパークの話は、谷口に聞かされて知っていた。
なんでもどこかの財閥が巨額の資金を擲って建造した「金にものをいわせた娯楽施設」らしい。
一瞬脳裏を、麗しい翠緑髪を靡かせた、ハルヒに勝るとも劣らない明るさの先輩がチラつく。まさか、な。

……いや待てよ。一昨日夜桜を見せにもらいに行ったとき

「今度うちの家の一大プロジェクトが完成するにょろ。その時はみんなで遊びにきてほしいっさ」

とかなんとか言ってなかったか? 自然、俺はニュースキャスターの声に、耳を欹てた。

『――――鶴屋財閥は推定で――億円かけたと言われおり―――』

ビンゴ。

「マジかよ……」

嘆息する。
鶴屋家の総資産額は日本の国家予算を遙か眼下に、どこかの大国と渡り合えるほどなんじゃないだろうか。
でもま、丁度良い話題が見つかったもんだ。早速ハルヒに、知っているか聞いてみよう。

to:ハルヒ
subject:
鶴屋さんの家が造ってるっていうテーマパークのこと、知ってたか?
なんでも明日が初開場らしいんだが

from:ハルヒ
subject:
あ、あんた……それわざと…じゃないわよね
キョンだもんね
この前あれだけ誘ってもらったのに忘れたの?

愕然とする。くそ、俺の脳はもう寿命が近いということか。
だがしかし、ハルヒが知っているなら話ははやい。

to:ハルヒ
subject:
すまん、忘れてたみたいだ
ところで……どうだ? 今度行ってみるっていうのは
折角誘ってもらってるわけだし

送信、っと。女の子をデートに誘う、なんてシチュエーションはどきどきモノの筈なのだが、
なかなかどうして、今の俺は落ち着いていた。
古泉の言葉を反芻する。ハルヒの動向に注目しろ、と古泉は言った。
それがハルヒの蟠りを氷解させる、足がかりになると。
ならば、テーマパークで遊ぶのはそれを確認する絶好の機会である。ヴー、ヴー……
お、返ってきた返ってきた。二つ返事でOKしてくると有り難いんだが。

from:ハルヒ
subject:
あたしは構わないけど
他のみんなも誘うの?

長門と古泉の顔が、眼窩に浮かぶ。俺としたことが、完全に他のSOS団メンバーを失念していた。
ここは――1、他のメンバーも誘おうか
       2、二人きりで行こう        >>490までに多い方


483 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/07(金) 00:23:43.07 ID:u8DCXcX4O



484 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/07(金) 00:23:44.83 ID://6UsQ4q0

2

485 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/07(金) 00:23:51.50 ID:kIywUJmOO



486 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/07(金) 00:23:59.94 ID:ynMXANjg0



487 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/07(金) 00:24:15.65 ID:XgP2eEfI0



488 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/07(金) 00:24:34.16 ID:Ds8bZv2YO

それでもある程度推測することは可能だろ
さっきのチソ毛のように話を別の方向に持って行くなりだな
しかしそれも含めて才能だ、この1には頭が下がる
携帯厨はこの辺で引き下がります

489 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/07(金) 00:25:04.69 ID:9MaUaj5g0

個人的には2だけどキョンなら1

490 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/07(金) 00:25:12.61 ID:XarJ5EtbO




to:ハルヒ
subject:
二人きりで遊びに行かないか
古泉はともかく、長門はあまりああいうトコ好きじゃなさそうだし……
久々にお前と俺だけってのも悪くないと思うぜ?

気恥ずかしくて長門の喧噪嫌いを引き合いに出したが、本意は三行目に集約されている。
確かに二人きりという条件は、ハルヒの様子を観察するのに役立つだろうが――
いつしか俺は、ハルヒと二人で遊びにいくということが、何よりも愉しみになっていた。俗に言う「目的のすり替わり」である。
携帯を放り投げてから、3分後。若干の間隔を開けて返ってきたメールを、急ぎ開封する。果たしてハルヒの返事や如何に?

from:ハルヒ
subject:
ま、それも悪くないかもね。
行くのは……土曜日がいいわ
どうせ知らないだろうから教えてあげるけど
明日はプレオープンで、明後日から本格的に稼働するの
それに合わせておっきなセレモニーもやるそうよ

……どうやら喜ばしいことに。ハルヒも乗り気なようである。
結果的に部活は休んでしまうことになるが、団長直々のずる休みだ。
団員が咎められるわけもない。俺はSOS団公認の休日を、ハルヒと愉しむとしますかね。

to:ハルヒ
subject:
へえ、セレモニーか……ますます楽しみだ
詳しい話はまた明日聞かせてくれ
もう時間も遅いしな   おやすみ

携帯をポケットにしまって、体を起こす。
食べた後すぐに横になっていた所為か、全身が鉛のように重かった。
牛になるといういう寓話は、存外、嘘でもないのかもしれないな。

自室にたどりついた俺は、倒れ込むようにベッドに沈んだ。
白塗りの天井は消灯しているのに薄明るく、ふと、光源の探して視線を彷徨わせる。
淡朦朧とした光の正体は月光だった。窓外は暗闇に包まれていて、その中心で半月が煌々と輝いている。
雲はなく、しかし星もなく、月だけが昇っている空。ただただ索漠とした印象の、幻想的な風景が広がっている。
だから。微睡みの中で聞こえた

「おやすみ、キョン」

という声も、きっと、夢想の一部に違いない。


薄目に時計が映り込む。午前7時過ぎか……まだ時間的な余裕はたっぷりあるな。
寝返りを打って布団を頭から被る。本当はつい数分前から覚醒していた俺だったが、
窓から差し込む朝日に当てられて、ぐずぐずと起きるのを躊躇っていた。
春眠暁を覚えず。俺がその例に違わず春の眠りを満喫して何が悪い。

「キョンくーん、朝だよー!」

だが残念なことに。

「やっぱり寝てるー」

それを許さぬ小悪魔が、家に一匹棲んでいる。

「もう、しょうがないなあ」

面倒だ、という割に声が弾んでいるのは、俺の幻聴ではない。
と、次の瞬間に飛び跳ねる音がした。一、二、三――今だ!
思いっきり身を捻って、体ごと脇に転がり落ちる。
それと同時に、俺が寝ていた場所で

「あむっ……んー、んー」

というくぐもった呻き声が聞こえた。
立ち上がって確認すれば、そこには案の定、毛布に絡まって足をばたばたとさせている妹の姿が。
良い具合に絡まってるじゃねえか。何時もやられっぱなしだと思ったら大間違いだぜ。
俺は、

1、いい機会だ。ちょっと苛めてやろう。
2、急いで支度するか。たまには早く登校するのもいい。
>>593までに多かった方


591 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/07(金) 15:17:43.58 ID:s1dcvMpyO

2

592 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/07(金) 15:23:34.14 ID:d8XhuRqC0



593 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/07(金) 15:25:00.26 ID:KWJMKkIU0

2かな。ハルヒの驚いた顔が見れるかも試練


「さらば妹よ。お前の兄に生まれてよかったぜ」

と嗚咽混じりに言い残し、支度をすることにした。
たまには早朝に登校するのも悪くない。普段とは違ったやつらと会えそうだしな。
妹は――まあそのうちこの家の誰かに救助されるだろう。それまで春眠のありがたさを味わっているがいいさ。
蛇足だが。妹が次の朝から、変則的かつ強力無比なニードロップを仕掛けてくるようになることを、その時の俺は知る由もなかった。

――――――――――――――――――――――

歩きなれ過ぎて、眼を瞑ったままでも歩いていけそうなハイキングコースを、今日も歩く。
朝の冴えた空気は心なしか美味しく感じられ、淡い陽光は徐々に体温を上げてくれる。
うん、今日の滑り出しは快調だ。
たまに見かける北高の生徒は、時間帯が違う所為だろう、知らない顔ぶればかりだったが、
その中に後輩らしき男女の連れを発見して、俺は後ろからその様子を眺めていた。幽かに声が聞こえてくる。

「もう――って言ってるでしょ!」
「わりぃわりぃ―――だったんだよ」

漠然と。その知らないはずの二人を、よく知っているような予感がして。
郷愁の念にも似た、妙な情動に襲われた――その時だった。

「なーに朝っぱらから辛気くせぇ顔してんだよ、キョン!」

ドン、と背中に衝撃を受けて前のめりになる俺。相手が一瞬であの野郎であることを理解し、

「やれやれ」

面倒なヤツにあっちまった、と言葉ならずとも身振りで表現する。これも一重に、古泉演技指導教官の教授の賜である。

「ひでぇ………お前がそんな冷酷なやつだとは思ってなかったぜ」

が、存外谷口は俺の演技を真に受けたようで、壁に向かってさめざめと泣いている。
分かった。俺が悪かったから、いい加減近隣住民の方々が奇異の視線を向けていることに気づいてくれ。

「にしても、二日連続でお前に出会うとはな」

谷口と朝一緒になることなんて、多くて週に二回程度。
二日連続なんてのは入学当初から記憶を洗っても、数えるほどしかない。
そんな俺の感想に、哀咽から立ち直った谷口は、

「なに寝ぼけたこといってんだよ。俺は大抵この時間帯だ。
 今朝あったのは、お前が妙に朝早くに登校してきたからだろ?」

的確な指摘に得心する。

「まったくお前の言うとおりだ」

しかし谷口は、俺が先刻の非礼を詫びる前に

「おうよ。ま、そんな勘違いはいいとして、なんで低血圧のお前がこんな朝早くに――」

不自然に語尾を切って俺の後方三十メートルあたりに眼を凝らし

「あー、俺先に行くわ。俺はこう見えても空気の読める男なんだよ」

足早にハイキングコースを上り始めた。ニヤニヤと、性根の悪そうな笑みを残して。
学校に用があったのかもしれないな。アホの谷口の行動一つ一つに濫觴を求めていたら、キリがない。
適当に思考を切り上げて、さっさと学校に向かうことにする。
だが、ふと背後まで迫っていた足音がやんだのが気になって、俺は首を捻った。

「こんなとこで何してんの、あんた」

整った目鼻立ちにセミロングの黒髪、そしてこれ以上にないほどに目立つ黄色いカチューシャ。
果たしてそこには、ハルヒが仁王立ちで佇んでいた。
これは毎度感じることなんだが、結構な身長差があるはずなのに、それを実感できないのは何故だろう。
威厳の差か?

「いや、さっきまで谷口がそこにいたんだが……」
「朝っぱらから谷口に捕まるなんて、あんたも災難ねー」

まったくだ。早く起きられて、喜んでた矢先にこれだもんな。

「そういえばあんたがこんな時間に登校するなんて珍しいじゃない。丁度いいわ。一緒に行きましょ」

極自然に、並んで歩き始める俺とハルヒ。

「―――それでね、有希ったらこの前――信じられる?――」
「――ほんとかよ――――俺も居合わせたかったな―――」

とりとめのない会話は続く。すぐに枯渇するかと思われた会話の種は、
しかし途切れることもなく。俺とハルヒは、穏やかな朝の登校風景を描いていた。
ふと。眼窩に、先ほどの後輩たちの会話が再生される。
今の俺たちはあの二人に似ているようで、何処か違っていた。
そう、それは――分かってしまえば失笑してしまいそうなほどあっけなく、
同時に、切欠がなければずっと正体が掴めないような違和感。

「……まだ完全に起きてないんじゃないの? しゃんとしなさいよね、しゃんと」

ハルヒの声に我に返る。特にわけもなく、ハルヒの凛とした声なら、どんなに眠い朝でも眼が覚めそうだな、と思った。

――――――――――――――――――――――――――――――――

いざ到着してみれば、校舎の壁に設置された時計の針は、
俺が想定していた到着予定時刻よりも、随分若い数字を指し示していた。
自然と、しゃきしゃきと歩くハルヒに歩調を合わせていたのだろう。

こんな時間に登校するのは特別な用事があるヤツか、誰かと適当にだべりたい暇人と相場が決まっている。
従って昇降口から教室にかけての廊下に人影は少なく、俺は新鮮な校内の一面を垣間見ることができた。
しかし――厳粛な雰囲気漂う廊下と対照的に、無駄に活気があるのが俺たちのクラスなわけで。

ドアを開けた瞬間。がやがやとHR前のお喋りに勤しんでいたクラスメイトたちの視線が、こちらに集中する。
なんだこの生暖かい視線は。気にせずお喋りに戻ってくれていいんだぞ。

「えー、おはよう、涼宮とキョン」

と、ドアを開けて硬直している俺たちの元へ谷口がやってきた。
お前、一度通学路で会っただろ。その仰々しい口調は何なんだ。

「俺がこういうことを言うのもあれなんだが」

谷口はニヤニヤ笑いを隠そうともせずに口を開き、

「お前らさ、朝から熱すg「黙りなさい」

叩き潰すような詰斥の元に沈黙した。
ハルヒの顔は先ほどまでの微笑のままなのだが、なんというか、凍っている。
いつものハルヒなら、谷口の戯言をまるで羽虫を扱うように無視するんだが……何か気に障ることでも含まれていたのだろうか。
それからハルヒはずんずんと席に向かい、拗ねたように窓に視線を投げて頬杖をついた。

谷口はまるで冷凍保存されたマグロみたいに大口を開けたまま硬直している。
んー、前衛的なオブジェに見えんこともないな。このまま教室に飾っておくのもいい。
がしかし、芸術性は皆無な上とても邪魔なので解凍してやることにした。

「おい、起きろ谷口」
「……はっ! 涼宮のヤツ、あんなに怒らなくたっていいのによー」

あのな、冗談半分でもあいつをからかうのはやめてくれ。
そのしわ寄せは後処理は、全て俺にまわってくるんだよ。しかも1.5倍増しで。

「へいへい」

……もう何も言うまい。
さて。HR前の雑談は恒例行事なわけだが、今日はHRまでまだまだ時間がある。
ここは―――

>>647
行動対象自由記入(学校にいるであろう人物名に限る)「      」


647 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/07(金) 20:08:06.55 ID:8b/1eH6L0

ハルヒ


早朝という慣れない時間の潰し方を、暗中模索する。
SOS団部室には誰もいないだろうし(ひょっとしたら長門が読書しているかもしれないが)
朝練で扱かれている部活の中に、俺の知り合いはいない。グラウンドに行っても無駄だ。
こんな平凡極まる北高の屋上、体育館裏、無人のプールサイドで超常現象が起るはずもないし。
ハルヒなら行きそうだけどな。それに第一、俺はアクティブな人間じゃない。

かくして。俺は体を捻らせて壁に背中を預け、

「おい、ハルヒ」

恒例のHR前雑談20分拡大版を企画したのであった。

「なあに?」

グラウンドを走る人影を追いかけていた瞳が、こちらに動く。
ハルヒの言葉遣いは柔らかかった。谷口の意味不明な失言も、既に記憶の彼方だろう。
だが……特に話のタネは用意していないし、雑談といっても登校時に語り尽くしたしな。
何について話そうか?

1、そういや朝一緒に登校するの、久々だったよな
2、明日のテーマパークの件について、話し合おう
3、さっきはどうしたんだ 谷口、固まってたぜ?
>>657


657 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/07(金) 20:25:51.51 ID:d8XhuRqC0




ここは何か建設的な話題を―――することもないか。
一見非生産的な行動が、後々意味を成すことは多い。俺の人生史がそれを証明しているからな。
うーん……ついさっきハルヒが最強の威圧感を以て谷口を黙らせたワンシーンについて、徹底リサーチしてみるか。

「さっきはいきなりどうしたんだよ。谷口のやつ、彫刻みたいに固まってたぜ?」

質問はシンプルかつ相手が答えやすいようするのが基本だ。
そして俺の質問は、まさにそのテンプレートの的を得ていた。

「…………」

だがハルヒはそれに答えることなく、ぷい、と顔を逸らしてしまう。
不味いな、雑談の出足からくじかれた。どうやらハルヒの怒りは、まだ鎮火されていなかったようである。
ちょっと聞いてみるつもりが、燻っていた火に油を注ぐ結果となってしまった。

「おい、まだ谷口に怒ってるのか?」

反応はない。堪りかねて、ふくらんだハルヒの頬を押してみる。
いい加減こっち向きやがれ。

「な、ななっ……!」

するとどうだろう。RPG的な表現をするならば効果は抜群といった風に、ハルヒはびくりと身を震わせた。
あ、いや、そこまで脅かすつもりはなかったんだが。

「あんたって本当に……」
「本当に?」
「…………ばかね」

俺の頭中に疑問符が席巻する。理不尽な暴言には慣れちゃいるが、脈絡もなしに馬鹿とは傷つくね。

ま、ハルヒが忘れたがっていた事柄をぶり返したのは良くなかったかもな。
猛省とまではいかないが、反省してしかるべきは俺だ。

時間を確認すれば、まだHRまでには10分ほどの猶予が残されていた。
何か話すにしても、あと一つぐらいが限度だろう。

1、そういや朝一緒に登校するの、久々だったよな
2、明日のテーマパークの件について、話し合おう
>>686


686 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/07(金) 20:58:47.97 ID:3oGbPqZq0

王道で2


「あ、そうだ。昨日言ってたテーマパークについて、詳しく教えてくれないか」

昨夜十分に話し合えなかったことを煮詰める必要がある。
ハルヒは心なしかむすっとしているように見受けられたが、予想に反してすぐに言葉を返してくれた。

「詳しくって言われてもね。何が聞きたいの?」
「ほら、どんな遊具があるとかさ」
「そうねー……中にあるのは、既存の遊園地と大差ないって話よ?」

その言葉に小さく落胆する。俺としては、新感覚の次世代アトラクションなんかを期待していたんだが。

「安心なさい。その代わりね、どの遊具の作りも半端な出来じゃないわ。
 あれだけお金を注ぎ込んだんだもの、完成度はそこらの比じゃないんじゃないかしら」

超高速な三次元的移動を可能にした最新型ジェットコースターや、
ホラー映画よりもリアリティのあるお化け屋敷。むくむくと想像がふくらんでいく。

「ほう。杞憂だったみたいだな。でもあれだけ注目集まってるんだし、当日は滅茶苦茶込んでるんじゃねーのか」
「それはあたしも予想済みよ。酷ければ何時間も待たされるかもしれないわ」
「ま、5つでも楽しめたら良い方か。セレモニー当日だし、高望みはしないほうが―――」
「何言ってるのよ」

ハルヒが俺の悲観的予測に口を挟む。
殊勝な笑みが、ハルヒの表情に浸透していく。
ああ、鈍い俺でも分かるぜ。お前はこういいたいんだろう?

「全部制覇するに決まってるじゃない!」
「全部制覇する、に決まってるよな。お前なら」

重なる声と声。分かってるじゃない、と団長様は団員の聡明さにご満悦のようだ。恐悦至極に存じます。

それから俺たちは明日の待ち合わせ場所と時間について話し合い、
結論が出たまさに絶妙なタイミングで担任岡部が姿を現し、HR前の雑談は幕を閉じた。

――――――――――――――――――――――――――――――

時は変わって昼休み。ぐぅ、と情けない音が鳴る。
睡眠導入剤という名の鋭利なナイフを手にし、執拗に俺に群がる睡魔どもを追い払うことによって退屈な授業を凌ぐ、
という矛盾だらけの午前中を終えた俺の胃袋は、消費したカロリーを求めて悲鳴を上げていた。
まあ待て。すぐに炭水化物をこれでもかというくらいに放り込んでやるからさ。
机を合わせて手を合わせれば、お待ちかねの昼食タイムだ。

「あー、腹減った。なんで数学の授業はあんなに腹が減るのかねえ」
「谷口、それはね。授業に対する意識の持ち方によって変わってくると思うよ」
「まさに国木田のいうとおりだ。俺が言えたもんじゃないが」

谷口がこの世の何処から掻き集めてきたのか不思議になるくらいに多量の無駄情報を披露し、
それに国木田が的確なつっこみを返し、時たま俺が口を挟むという、二年前から少しも変わらぬ食事風景が展開される。
だが本日の主題提起は谷口ではなかった。国木田は、鯖の皮を丁寧に剥がしながら、

「今日ってあのテーマパークのプレオープンだよね」

それを聞いた谷口は、さも無念そうな表情を形作り苦言を呈す。

「そうなんだよなー。何も平日にプレオープンしなくってもいいのによぉ」
「あのテーマパークが狙ってる顧客年齢層は学生じゃないんだと思うよ。入場料が若干他のトコより高いし」

会話には参加せず黙々と口にご飯を運ぶ俺。
下手に加わればうっかり明日のことについて口を滑らせてしまいそうだ。
そう考えて、口を食べ物で塞ぐことにしたのである。だが空気の読めなさに関してはピカイチの谷口。
俺の急所をつく、見事な一撃を繰り出してきやがった。

「なあ。お前らは明日の予定、もう入ってるか?」
「僕はないけど。キョンは明日はアレで無理でしょ?」

もぐもぐとコロッケを咀嚼しながら首肯する。
アレとは勿論SOS団の活動のことだ。ナイスフォロー、国木田。

「………うーん、男二人でテーマパークは流石にねえしなあ……」

煩悶する谷口をおいて、俺と国木田は箸を動かすことに専念する。
どうやら危ない橋は無事に渡り終えられたみたいだな。もし明日のことが谷口にバレたら、どうな凄惨なことになるか想像もしたくないね。
だが。常に俺の期待の光を塗りつぶすのが、谷口なわけでもあって。
もうそろそろ違う方向へと話が向かい始めるかと胸を撫で下ろしかけた、その時だった。

「いいこと思いついたぜ」

谷口は得意げな視線をあたりに振りまくと

「キョン、お前涼宮つれてこれないか。俺と国木田もクラスの女子誘ってみるからよ。
 どうだ。涼宮が嫉妬しない上に、男女比率三対三の完璧なプランだろ?」

そして国木田も追い打ちをかけるように、

「僕がクラスの女子を誘うのが決定事項なのは納得がいかないけど、確かにその計画なら問題はなさそうだねぇ」

二人揃って俺の返答を待っている。逃げ道はない。有り体だが、絶対絶命の大ピンチという訳だ。
よし、ここは――

1、言い訳(ハイレベル)しよう
2、言い訳(低レベル)しよう
3、素直に明日の予定を打ち明けよう
安価>>728


728 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/07(金) 22:29:07.74 ID:8b/1eH6L0




数秒間の思考の末、最善の選択肢を選び出す。
俺が穴だらけの言い訳をしたところで、谷口&国木田コンビには砂上の楼閣に違いない。
ならここは無駄なあがきはせず、正直に話すのが得策か。

「実は……明日は先約があるんだ」
「へぇ、どんな?」

寸暇も与えてくれない谷口。諦観した俺は、洗いざらい話すことにした。
もうどうにでもなれ、だ。

「ハルヒと二人で行くって約束してるんだよ。
 例え向こうで鉢合わせても、悪いがお前らとは別行動になる」
「……………」
「……………」

だがしかし、俺の決死の告白に対する二人のリアクションは、なんとも乏しいものだった。

「えーっとだな。俺、失言しちまったか?」

錯覚に陥る。あちこちから愉しげな談笑が聞こえてくる教室内で、
あたかもこの一角の空気だけが、お通夜のそれに変質してしまったかのような。

「ねぇ谷口。どうやら君の提案は、キョンには無用の代物だったみたいだね」
「……なあ国木田。お前はずっと俺の友達だよな………」

雨霰の冷やかしを覚悟していた俺は、意気消沈した谷口と、それを慰める国木田に声を掛ける術を持たなかった。
食い終わった弁当箱を片付けて、席を立つ。最早ここにいる意味はない。
谷口の口から漏れる呪詛のような恨み言が一過性のものであると信じて、俺は午後の授業に備えることにした。

――――――――――――――――――――――――――――――

切れ長の眸子に、懊悩の色が浮かぶ。
退けば死の口に飲み込まれ、待てどもいずれは同じ運命を辿ることとなる。
ならば、残された手段は一つ。口元にあてられていた指先が、
漠然とした不安をを振り切るように「進軍」を命じる。
それは一見、勇猛果敢な強毅の一手のようで―――しかし。

「俺の勝ちだぜ古泉。後はどうあがこうと、お前の王将は詰む」

計算し尽くされた敵陣へと飛び込む、無謀の一手であった。

「おや。確かに詰んでいますね。投了です」

古泉は悔しそうな風もなく、投了を宣言する。こうしてまた、俺の対戦歴に価値のない白星が追加された。

「何度も言ってる気がするが………お前、俺に勝つ気ないだろ」
「いえ、決してそんなことはありませんよ。僕の胸中はいつもあなたへの憧憬と嫉妬でいっぱいです」

なんとも白々しいね。
俺がお前に勝利して快哉を叫べたのは精々最初の一、二回で、その後は勝った気がしないんだよ。

「精進しましょう」

アルカイックスマイルでそう言われてもな。まあいい。
数年後相まみえたときに俺が圧勝しているイメージは想像に難くないが、期待しておくとしよう。

午後の授業とHRを消化しハルヒと共に文芸部室に到着した俺は、現在古泉と将棋に興じている。
だが実際は"興じている"とは言い難い状況であり、古泉には悪いが別のことで時間を潰したい気分だ。
そうだな、たとえば――――

行動対象指定安価(校内の人間のみ)>>773「         」


773 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 00:04:53.73 ID:dwO/hJCF0

長門


最近は何かと忙しく、ほとんど長門に構ってやれなかった。
勿論この「構ってやれなかった」は居丈高な意味ではなく、
自分から他人に接触しようとしない長門に話しかけてやれなかった、という意味だ。
荷物棚からチェス盤を引っ張りだし始めた古泉はどうするかって? 捨て置くに決まってるだろ。

「なあ長門。今、話せるか?」

長門はコクリと数センチだけ頷いて、本の頁から顔を上げた。
読書を中断させられたことを怒っているのか、俺の声に耳を傾けてくれているのかは分からない。

「その本、この前図書館で借りたやつだよな」
「そう」
「もう読み終わりそうだな」
「あと少し」
「どうだ、読書家のお前から見て、それは面白かったか?」
「……わりと」

サクサクと会話は進む。

「その本の続編が出たらしいぜ。知ってたか?」

長門はフリフリと首を振った。ボブショートの麗髪が揺れる。

「もしその本がここにあったら、読みたいか?」

長門は小さく首肯した。それは数ミクロンでも数ナノでもない、確かに視認できる頷きだ。
そしてそれを確認した俺は、満を持して鞄の中から一冊の本を取り出した。

「それは……」
「この前図書館で見掛けてな。借りてきたんだよ」

長門の元に歩み寄り、本を差し出す。

「読み終わったら俺に返してくれればいいからさ」

カーディガンに半分包まれた手が、本を受け取ろうと手を伸ばす。
その時だった。開けていた窓から、一陣の春風が吹き込み――――
パラパラと、長門が読んでいた本の頁を勝手に捲っていく。
なのに長門は頁には委細構わず、受け取った本を手に俯いていた。

「おい長門―――」

慌てて声をかけても、反応はなく。
ただならぬ様子に不安に駆られた俺は、とにかく頁を抑えようとして屈み込み、


「ありがとう」


消え入りそうな長門のお礼を聞いていた。
再び顔を上げた長門と、俺の視線が交錯する。……確かに聞こえたぜ、長門。

「また図書館行くときは遠慮なく誘ってくれ」

最後にそれだけ言い残し、俺は長門の下を離れた。
時間と共に口数が増えているとはいえ、長門の言葉はとても短い。
洗練された言葉といえば聞こえはいいが、必要最低限の文節のみというのはやっぱり味気ない。
だが―――俺は思うのだ。
琥珀色の瞳に滲む1pxの暖色や、空気に溶けてしまいそうなほどに小さなお礼。
長門の感情の機微は、触れにくいからこそ価値があるんじゃないか、ってな。

思わぬ長門の返礼に幸福感に満ち満ちつつ、席に戻る。
テーブルには、一人寂しくパチパチと詰め将棋を嗜んでいる男の姿があった。
その男――古泉だが――は俺を哀切の滲む瞳で一瞥し、

「…………」

無言で駒を進める作業を再開した。なんというか……寂寥感が半端ない。
俺が罪悪感に囚われて声を掛けようとしたその時、

「コホン」

わざとらしい咳払いが聞こえてきた。

「えーっと……今日はみんなにお知らせがあるの」

ハルヒが立ち上がって演説モードになっている。

「明日は特別にお休みにします。各々自由に休日を愉しんでもらって結構よ」

チラリ、と俺を一瞥して、ハルヒはそう宣言した。
そういやこの二人にも明日の活動中止を連絡する必要があったんだよな。
もし忘れていれば、明日長門と古泉は喫茶店で待ち惚けをくうことになっていただろう。
フェミニストにして団長至上主義の古泉は、

「了解しました。僭越ながら、丁度僕も明日は静養したいと考えていまして」

と心にもないであろう返事をする。副団長の鏡だね。
毎週の恒例行事であり、発熱していようと町内探索を敢行するハルヒが
突然理由もなしに活動中止を宣言しても、一切動じない。

古泉は流し目をこちらに送り、詰め将棋を再開した。
明日の特別休暇が俺に関係していることは、既に見抜いているのだろう。

「ごめんね。じゃ、そゆことだから」

古泉の了承を受けてハルヒが座る。
こういう場合、長門は基本的に返事を返さない。暗黙の了解というやつだ。
だが―――

「………して?」

今日の長門は、何かが違っていた。恣意的な独断専行を許さぬ鶴の一声。
PCに意識を沈ませていたハルヒが、ぎょっとして顔を上げた。

「……どうして?」

誰が想像できただろう。滅多に語尾に疑問符をつけない長門の問いかけもさることながら、
たった四文字の言葉に激しく動揺しているハルヒを。

「あ、あのね、有希。別に明日の休みに意味はないの。だから有希も気にすること――」
「あなたの言動はとても不自然」
「ぐっ……」

ハルヒが長門にやりこめられている様は見ていて面白い。俺はといえば、古泉と共に傍観に徹している。

「あーもう! どうだっていいじゃない。気まぐれよ、気まぐれ」
「なら質問を変える。明日の行動予定を教えて」

ほう、長門のやつも強気に出たな。
ハルヒも正直に明日のことを話してしまえば楽になれるだろうに。

微温的なハルヒの返答の穴を、長門は正確無比な指摘で打ち抜く。
そんなループが5分ほど続き。
困憊したハルヒが、アイコンタクトを送ってきた。翻訳するとこうだ。

"ちょっとキョン! あんた黙って見てないでなんとかしなさいよ!"

んー、どうするかな。こんな長門は初めてだし、もう少し眺めていたいんだが。
百獣の王が愛らしいひよこにぼっこぼこにされてるみたいで微笑ましいし。
相手が俺なら無理矢理俺の意見をねじ曲げ、
古泉なら華麗にスルーするハルヒも、従順な長門に反旗を翻されると弱い。
ここらで一つ―――


1、助け船を出してやるか
2、ハルヒが根負けするまで眺めていよう
>>890


890 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 11:36:57.34 ID:yctAho950

1


助け船を出してやるか。この調子じゃ下校時間まで続きそうだし。

「なあ長門。なんでそんなに拘るんだ?」

間に割って入った俺に、長門は拗ねたように手を握りしめて、

「ただの興味」
「何故ハルヒの予定なんかに興味があるんだ?」
「…………」

長門は答えない。やれやれ、いつから長門は反抗期に突入したんだ。
性格変異を目的とした生命情報素子にでも罹患したのか?

「長門。まあ聞いてくれ」

相変わらず口を閉ざしたままの長門に、持論をぶつけてみる。

「人間誰しも、それぞれ自分だけのプライベートを持ってるんだ」
「…………」
「そんでもって、大抵は本人が許さない限り、それには干渉しちゃいけない決まりになってる」
「…………」
「関心を持つのと、立ち入ることは違う。お前だって自分の行動予定を逐一俺に監視されてちゃイヤだろう?」
「…………」
「だからもうかんべんしてやれ。ハルヒも困ってるしさ」

数秒の沈黙。長門は視線を下げたまま、分かった、と呟いた。
しぶしぶといった風ではあったが、納得してくれたことに違いはない。偉いぞ長門。
俺は無意識の内に手を伸ばし、長門の頭を撫でていた。ぽふぽふとした感触が心地よい。

………あれ? おかしいな。何か、有象無形の刃物が俺の背中に突き刺さってるよ?

振り向けば。腕を組み指をトントンとさせているハルヒと目があった。
ジト目怖い。もしかして俺の出した助け船、喫水線下回ってたり?

「あー、まあ納得してくれたみたいで嬉しいぜ」
「……そう」

逃げるように定位置に舞い戻る。ハルヒの依頼通りにミッションコンプリートしたってのに、このやるせなさはなんなんだ?

「意図していないから恐ろしいですね。逆に賛嘆に値します」
「……??」
「いえ、こちらの話ですよ。お気になさらず」

首を傾げた俺と意味深な言葉を零す古泉、
そして依然顔色の優れないハルヒとどことなく嬉しそうな長門がギクシャクしたまま、本日の活動は終わりを告げた。

――――――――――――――――――――――――――――――

昇降口で皆と別れた俺は、一人寂しく帰路についていた。ハルヒは

「ちょっと用事があるの。でもあんたはついて来ちゃ駄目」

と笑顔で釘を刺して走り去ってしまい(怒っているわけじゃなさそうだったが)、古泉は

「僕も所用がありまして」

と通学路から外れた道に消えてゆき、長門に至っては昇降口に姿を見せなかった。なんでも生徒会室に用があるんだそうな。
というわけで――真っ直ぐ帰宅するか寄り道するかは俺の自由だ。
1、腹減ったし真っ直ぐ帰ろう
2、自由記入(SOS団メンバー以外でも可)→「    」のことが気になるな
>>927


927 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 12:43:56.04 ID:DhE5DLAC0

長門


ふと、無性に長門のことが気になった。
生徒会室という単語から連想できるのはペルソナ被った生徒会長ぐらいで、少なくとも良いイメージはない。
長門ならあいつの居丈高な物言いに露程も不快に感じないだろうが、やはり不安は残る。
余計な甲斐性かもしれないが。俺は長門の様子を見に、学校に戻ることにした。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

下駄箱には長門の下靴があった。綺麗な書体で、漢字が二つ並んでいる。
ホント、几帳面だよな。俺なんて中学の頃から持ち物に名前を書くことが億劫になってたってのに。
ともあれ長門が生徒会室に在室中だということは分かり、記憶を辿りつつ足を進める。
生徒会室の近くに人気はなかった。壁一枚を挟み、中の様子は伺えない。
だが――日頃の所行が良い所為か、はたまた気紛れな神の計らいか。ドアは薄く開いていた。

「――――でしょう――わたしは―――」
「―――そう―――」

黄昏時の空気を、細い声が伝ってくる。途切れ途切れで会話内容を把握することはできないが、人がいるのは確かなようだ。
瞬間、俺の脳内で悪魔と天使の言論合戦が幕を開けた。お馴染みのアレだ。察してくれ。

『覗いて視野狭窄に陥れば、誰かが廊下を歩いてきても気づけない。不審者扱いさるぜ』 確かにそうだ。リスクは高い。
『欲望に忠実になれ。好奇心に従えばいいんだよ』 好奇心に忠実に、か。魅力的な響きだね。
『中にいる誰かに盗み聞きがばれたらどうする』 ああ。その可能性は十分にある。
『うるせえ黙れ。なら黙って帰るのかよ、情けねえ』 一理ある。ここまで来て引き返すのもな。
『俺の合理的な意見が聞けねえのか』 おいおい性格変わってないかお前。
『化けの皮剥がれたなこの野郎。今日こそ決着をつけてやる―――』 あのー……俺は放置っすか

天使と悪魔は暫く舌鋒鋭く論じていたが、やがてもみ合いになり両成敗で消滅した。さて、どうしたもんかね。

1、危険を承知で覗いてみよう
2、ま、険悪な雰囲気でもなさそうだし帰ろう   >>960


960 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 13:24:05.44 ID:1tjvDIlL0

当然1


覗くか。立ち去るか。その二択を天秤に乗せてみた。
ここで踵を返しちまうと、往復分の足労は一体なんだったのか分からなくなる。
長門の所用の正体が掴めないまま家に帰ってもやもやするより、
リスクを承知で覗いてみた方がいいのではないだろうか。

順調に錘が、右皿――覗くほう――に積まれていく。

女子更衣室を覗くという「共学高校三大禁忌」の一つを犯しているわけでもなし、
ただ長門の様子を確認するだけなのだから、盗み聞きの罪にも問われまい。

最後の錘が積載される。いよいよ右皿の底は地面につかんとし――

俺はそっと足を忍ばせて、ドアの隙間に右目を近づけた。
一気に狭まった視界に、滅多にお目にかかれない生徒会室内の様子が映り込む。
応接用の、高級そうな二対のソファ。その手前の方に長門がちょこんと座っていた。
そしてそれに相対するように座っているのが、喜緑さんである。

「あなたらしいですね。それで彼は、なんと?」
「………何も言わなかった」
「落ち込む必要はありません。大丈夫ですよ。それは感情による行動抑止の典型的なパターンです」
「わたしは落ち込んでなどいない」

様子を伺うだけのはずが、つい聞き入ってしまう。しかしそれも仕方がない。
長門を対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェース(最近やっと噛まずに言えるようになった)扱いするのは
気が引けるが、喜緑江美里さんとのツーショット、つまりTFEI同士が和やか(?)に会話しているというのは、かなりレアなシーンなのだ。

「―――そうですか――てっきり――」
「―――あなた――話には――不確定条件が――含まれて――」

俺が息を潜めているとはつゆ知らず、二人の会話は続く。

しかし主語が曖昧な会話の概要を、半ば強制的に途中参加した俺が掴めるわけもない。
これ以上覗きを続けても収穫はないだろう。しかし見納めに、と軽い気持ちで生徒会室を見渡した俺は、

「苦労してそうだな、あの人も」

まるで反抗する部下悩んでいるマフィアのボスのように、
左手で髪を掻き上げながら煙草をふかす、会長の御姿を見つけたのだった。
ペンを握った右手は書類審査でもしているのだろう、せわしなく動いている。
……そりゃそうだよな。書記が仕事ほっぽり出して、組織のよしみとはいえ、お喋りに勤しんでいるんだから。
ちなみに会長は留年しながら生徒会長を続行している。
色々と根回しがあったに違いないが、学校側もよく了承したもんだ。
喜緑さんはというと……卒業後も何事もなかったかのように3年生を続けており、
それに異議を唱える者はいない。つくづく思う。情報操作って便利だよな。

「あー、喜緑くん。最終下校時刻は過ぎている。そろそろお暇してもらった方が―――」
「何かいいましたか、会長?」
「いや、独り言だ。彼女の相手を続けたまえ」

すっかり尻にしかれてる会長に内心で苦笑しつつ、俺は再び視線を長門に向けた。
と、その時だった。カチャリと陶器がふれあう音が響き、

「お代わりの紅茶でもいれましょうか」

喜緑さんが優雅な物腰で立ち上がる。そして目を凝らさなければ絶対に見逃してしまうようなタイミングで、
こちらに向かってウインクした。一気に肩の力が抜ける。なんだ、気づかれてたのか。

"わたしは気づいてますよ。彼女が気づくのも時間の問題でしょう"

そんな意図を感じて、俺は今度こそ立ち去ることにした。

すっかり日の落ちた坂道を下っていく。
生徒会室を覗いたことによって得られた眼福は、朝比奈さんのコスプレとはまた違った趣向のものだった。
例えるなら、仲の良い姉妹の掛合いを見掛けた時のような、そんな幸福感だ。
TFEI同士は互いの私生活に干渉しないのか不明だったが、
どうしてなかなか、良い感じに親睦を深めあっているようじゃないか。
長門も「生徒会室に用事」なんて堅苦しい言い方じゃなくて、軽く「喜緑に会いに行く」と言えばいいのにな。

あとこれは余談だが……ハルヒと古泉は昇降口で別れた後、一体何処にいったんだろう?

――――――――――――――――――――――――――――――――――

「すごぉい、見て見てキョンくん!」
「ほう、手品か」
「キョンくんはできないのー?」
「残念ながらな。期待に添えなくてすまんが」

現在時刻10時半。
俺は欠伸をかみ殺しながら、マジック番組に夢中になっている妹の相手をしている。
良い子は寝る時間であり、明日にハルヒとの約束を控えている俺としては今すぐにでもベッドに向かいたいのだが、

「ねぇねぇ。あれって練習したら誰にでもできるようになるのかなー」

俺のあぐらの上に鎮座した妹は就寝のそぶりを全く見せず、膠着状態が続いている。
懐いてくれているのは純粋に嬉しい。
だが、中学生にも関わらず大人びた一面をチラリとも見せぬ妹が、兄としては少し心配です。
夜は更けていく。俺は――

1、妹に明日の予定を説明しておこう。朝振り切っていたら遅刻しそうだ。
2、もう夜も遅い。妹を寝かしつけるか
3、TVを見る気は失せている。メールチェックでもしよう

>>228までに多かった方


225 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 20:05:52.05 ID:rw0T3klA0



226 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 20:05:58.16 ID:dwO/hJCF0

2

227 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 20:06:03.26 ID:OVEvZWQoO

3

228 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 20:06:04.58 ID:jfeWkqVoO

3


どうせ誰からも来ていないだろうが、一応メールチェックしておくか。
邪魔になって机の上に放り投げていた携帯を取り、問い合わせてみる。

ヴー、ヴー……

おかしい。明日の集合場所と時間については今朝ハルヒとじっくり話し合ったし、
谷口と国木田には明日は一緒に行けないと釘を刺してある。
俺に用がある人間を、想像することができない。受信ボックスを開く。
そこには、

1、麗しの未来人の名前があった
2、幾度となくお世話になった、機関のあの人の名前があった
3、テーマパークを建設した財閥の、令嬢の名前があった。

>>238までに多かったの


233 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/08(土) 20:18:16.04 ID:ggM3cgZd0

2

234 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 20:19:31.66 ID:LaiyV6SSO

3

235 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 20:20:04.01 ID:TfHsX+Au0



236 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 20:20:08.51 ID:7FqznmZLO

3が妥当だがあえて1

237 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 20:20:40.98 ID:TfHsX+Au0



238 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 20:20:57.47 ID:i6dl3gwiO

3


「朝比奈さん……」

朝比奈みくる。その響きはとても懐かしく、自然と、俺に一年前の日々を想起させた。
あの天使のような笑顔にどれだけ助けられたことだろう。
部室のドアをノックすればメゾソプラノの声と共に出迎えてくれて、
玉露のように味わい深いお茶を毎日のように俺の湯飲みに注いでくれたっけ。
一緒に時間の壁を越えたことも、一度や二度ではない。
特殊能力のない俺はあの人の力になれなかったが、
それでも、その思い出は今でも瑞々しく、大切な記憶として残っている。
コスプレ衣装も、卒業前には軽く20着を超えていて。
卒業パーティの時にファッションショーみたく全部着替えて見せてくれた。
そして、別れの時が来て―――――――

柄にもなく、俺は感慨に耽っていた。懐古するのは後でいい。
メールを開ける。電子情報なのに、実際に手紙を開けるような期待感があった。

from:朝比奈さん
subject:お久しぶりです
キョンくん、元気にしていますか
古泉君や長門さん、そして涼宮さんは、変わっていませんか?
ほんとはもっと色々書きたいのに、無理を言ってこのメールを送らせて貰っているので
本題に移らなきゃいけません。久しぶりなのに、残念です。

明日、キョンくんは涼宮さんと約束をしている筈ですよね。
それで詳しくは言えないんですけど、下記の言葉を覚えていて欲しいんです。
絶対に役に立ちますから。

"F7"

それじゃあ、またね

F7――――この英数字の並びに心当たりはなかった。
朝比奈さんが時間の壁を越えてでも伝えたかったことだから、
何かしらの意味が含み隠れていることは間違いないんだが……

「とりあえず返信しておくか」
「誰とメールしてるのー?」

TVに興味を失くしたのか、妹が振り返る。
こいつは憶えているだろうか――朝比奈さんとのとの思い出を。

「大切な先輩とだよ」
「名前は〜?」
「禁則事項だ」

むぅ、と頬をふくらませる妹の脇を抱え上げ、二階へと運んでいく。
妹は最初はシャミセンのようにされるがままだったが、やがて気恥ずかしくなったのか

「自分であるけるもん」

と階段を駆け上っていった。
しかし慌てた所為だろう、最後の一段で足を踏み外して、しこたま頭をぶつけている。栗色の髪が、ふわりと靡く。
――――刹那の、既視感。

「おいおい、怪我してないか」
「いったーい……でも大丈夫だもんね〜。てへっ」

ドジっ娘の資質アリだ。それを自在に操れるようになれば、この世の男はお前にイチコロだぜ。
妹のおやすみにおやすみを返し、俺も寝ることにした。

消灯して眼を閉じる。すぐにでも訪れると覚悟していた睡魔は一向に足音を鳴らさず、
俺は眼窩に、懐かしの光景が投影されるのを止める術を持たなかった。

『はぁい、キョンくん。今日はいつもと一味違いますよ。みくるオリジナルです!』

俺は未だに、あなたのお茶を超える飲料に出会っていません。

『ふぇぇええ、こんな服きれましぇーん……露出が多すぎますぅ……』

ハルヒの我儘にも随分困らされましたよね。あのコスプレ衣装は文芸部室で、今でも新品同様に保管されているんですよ。

『なっ、ななな長門さん! 今度街に新しい洋服屋さんができたんですけど……その、わたしと一緒に……』

いつのまにか長門ともうち解けてましたっけ。あいつはあなたの名前を耳にすると、必ず寂しそうに眼を伏せます。

走馬燈のように情景が移り変わり、そして最後に―――泣き笑いの朝比奈さんが現れる。

『ふぇ……ぐす……本当に、……本当にありがとうございました……みんなに会えて、ひくっ…良かったです……』


寝返りを打って、もう一度眼を瞑り直す。込み上げた想いは許容量を超えて横溢する。

「また、会えますか」

無意識に零したその言葉を最後に、俺の意識は暗闇に落ちた。
脇で震える携帯には、気づかぬまま。


当たり前の話だが。返信した宛先は、既に存在していなかったのだ。

朝日がカーテンの隙間から漏れて、瞼の裏が白く染まる。
まるで深海で留まっていた気泡が水面に浮上するような、穏やかな目覚め。
薄目を開けて携帯を見れば、そこには確かに4/26と表示されている。約束の日だ。
時間にはまだまだ余裕があった。ベッドから抜け出した俺は特に慌てることもなく、ゆっくりと準備をすることにした。
だが、その前に――

「まったく、こんな深夜に誰が送ってきたんだ?」

日付を確認したときに発見した、新着メール受信の表示。
受信時刻は0:24であり、丁度俺が眠った直後に来たことになる。
朝食代わりの総菜パンを頬張りながら、片手間にメールを開いてみる。

「……なんだ」

別に未知のメールに心躍らせていたわけじゃあないが、あまりにもつまらない内容に溜息をつく。
果たしてその内容は、宛先が存在しないことを示すエラーメールだった。
しかし俺には昨晩誰かとメールした記憶はなく、それを証明するかのように昨夜のログは真っ白である。

「サーバーのミスってやっぱあるんだなあ……」

と。携帯会社の怠慢に愚痴っていた時だった。

「痛っ……なんだ?」

"――絶対に役に立ちますから 憶えていて欲しいんです――"

ザー、というTVの砂嵐のような音が頭蓋骨の中で残響し、急性の偏頭痛が、一瞬だけ俺を襲っていった。
おかしいな。睡眠は十分で精神的肉体的両面で疲労はなく、コンディションは抜群のはずなんだが。
しかし頭痛は一過性のものだったようで、俺は特に気にとめることなく、朝食を続けることにした。
これくらいで頭痛薬を服用しているようじゃ、俺の精神はとっくにパンクしてる。

さて。俺的に一番良いと思う服を選び、髪を軽く整えて鏡の前で風貌を確認すると、
どこか冴えない男が、胡散臭そうに片眉を釣り上げてこちらを見つめていた。誰だコイツは。俺は知らないぞ。
だが、俺の十八番「現実逃避」も、真実を写す鏡には全くの効果ナシである。
でもまあ、これが俺ができる最大限のお洒落なんだし。もしハルヒに

「あんたふざけてんの? 出直してきなさい!」

なんて文句を言われてもしょうがねえよな。
腕時計を見る。8:30に駅前で、というのが約束の内容だった。
まだかなり余裕はあるが……たまにはハルヒを待ちうけるのもいいだろう。
俺は家人にいってきます、と言おうとして、

「ん………」

寝ぼけ眼を擦りつつ階段を下りてきた妹に気がついた。
非常に不味い。ここで妹に捕まったりしたら、まず間違いなく遅刻するだろう。
ハルヒの底冷えした冷笑が眼に浮かぶ。だが、家人に黙って外出するのも気が引けるしな。

よし、ここは――

1、行ってきますと叫んでダッシュだ。
2、穏便にことを済ませよう。妹には悪いが、帰ってきてから謝ればいいし。

>>397


397 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/08(土) 23:33:14.94 ID:Y5EEHvyI0

1


ここは――思いっきり叫んでダッシュだ。
下手に隠密行動したところで、嗅覚鋭い妹に効果はない。
俺は軽く息を吸い込み、

「行ってきます!」

近隣住民の方々もびっくりの大声で出発を告げ、玄関を飛び出した。
自己最短記録で愛機に跨り、初速から超スピードで駅前に向かう。
景色が流れていく。振り返っても妹が追いかけてくる気配はない。
ははっ、流石のあいつも、ここまで来たら追いつけまい。俺はしてやったり顔で、軽快にペダルを漕いでいた。
―――風を切る音に混じる、眠そうな声を聞くまでは。

「キョンくんどこ行くのぉ〜?」

…………まじかよ。
のど元まで迫り上がった溜息を飲み込んで急ブレーキ、180°ドリフトからUターン、自宅に逆行する。
腰に巻き付いて離れない妹を、家においてこなければならない。
約束の時間には大丈夫かって? 間に合うわけねーだろこんちくしょう。

――――――――――――――――――――――――――――――――

「それで―――もう言い訳は終わりかしら」

虚心坦懐の面持ちで、ハルヒはばっさりと切り捨てた。ここまで信じてもらえないと、いっそ気持ちがいいね。

「言い訳言い訳って、ほんとの話だっつーの」
「妹ちゃんを素材に嘘つくなんて、信じらんないわ」

現在俺は周囲の視線を一身に受けながら、ハルヒの機嫌修復に奮闘中だ。
予定の急行は既に駅を発っており、次の普通電車までは数分の間隔がある。

「遅れたのは悪かった。この埋め合わせはあっちでちゃんとするから、機嫌直してくれよ」

手を合わせて懇願する。だがそんな俺には目もくれず、

「それも怪しいわね。あたしを待たせるならまだしも、予定時刻に遅れる時点で意識の低さが伺えるわ」

ぷいっ、と顔を背けるハルヒ。やっぱ月並みな科白じゃ駄目か。
俺がどう宥めようかと頭を抱えていると、背広を着た若い男が生温い流し目を送ってきた。
さっきから俺たちの脇を通り過ぎるやつらは、揃いも揃ってこんな視線を向けてくる。
それはクラスメイトがたまに見せるそれと酷似していて、俺は視線を向けられる度に、
通行人とクラスメイトが不可視の共通意識で繋がっているんじゃないかと不安になる。

「どうやったら許してくれるんだ?」
「自分で考えないと意味ないでしょー」

ハルヒは俺の甘えを許さない。物腰は柔らかくなっているから、あともう一押しってところなんだが。
――よし。ここは逆転の発想で、別の感情でハルヒの怒りの噴出口を塞いでしまおう。

1、相変わらず綺麗な髪だ
2、良い服だな。いつも制服だから新鮮だぜ
3、もしかしてメイク……してるのか?

>>470


470 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/09(日) 00:25:11.99 ID:NRYBZl+GO

2


「そ、そういや今日の服、よく似合ってると思う」
「急に何言い出すの?」
「なんかこう、ほら、少女のあどけなさの中に、一抹の大人っぽい女性の雰囲気があるというか」

ダメダメだ。ハルヒみたく毀誉褒貶に慣れていないので、ついどもってしまう。
駅に到着したときに一度見たが、もう一度隈無く見直してみるか。あ、そこ、変態とか言うなよ。

えーっと……黒のチュニックブラウスに、ふんわりとした新雪を連想させる白のウールコート。
春らしいピンクのフレアスカートからすらりと伸びた足は、レザーのロングブーツに収まっている。
軽く開いた胸元に光るダブルモチーフのネックレスが印象的、ね。

なんだ。言うことは一つじゃないか。別に小難しい文句を考える必要はない。
こういうのは勢いが大切で、思ってることをそのままそのまま言えば大抵なんとかなる。

「だからさ、俺が言いたいのは……」
「はっきりしなさいよね。もにょもにょ言ってても聞こえな――」

うるさい。お前が静かにしないから言えないんだろ。だから、俺が言いたいのは――

「お前がとんでもなく綺麗で、そいつと一緒に一日過ごせる俺は幸せ者だな、ってことだ」

一気にまくしたてる。鏡がないから分からないが、たぶん、いや確実に俺は赤面している。
こんな機会は初めてなんだ。少々の初心さは多めに見て欲しいね。俺の賛辞をもろに浴びたハルヒはと言えば、

「え、あ、その」

などと言葉を紡げず、先刻の俺以上に返答に窮していた。混乱した小動物みたいで面白い。
素のままでも十分な秀麗さを誇るハルヒだが、案外直球の褒め言葉を受けた経験は少ないのかもしれないな。

僅かに髪から露出した小柄な耳が、赤く染まっていく。ハルヒはそれから視線を滅茶苦茶な軌道で泳がせたあと、

「あ……あんたもかっこい―――」

俺に何か言いかけて、その直後ホームに進入してきた電車の音にかき消された。
無機物に殺意を覚えたのはこれが初めてかもしれない。
何故ブレーキの摩擦時にあんな甲高い音が鳴るのだろう。今日も普遍の物理法則に憤りつつ、

「それじゃ、行きますか」
「うん」

俺とハルヒは、並んで電車に乗り込んだ。
車内は、座る場所がちらほら見当たるくらいに空いていた。
テーマパークの正式オープン当日ということで満員を想定していたのだが、
大半の客は一本逃した急行に、ぎゅう詰めになって運ばれていったのだろう。
まさに災い転じて福となる。俺の日頃の善行を、神様は見てくれていたのだろう。いや、冗談抜きで。

「……………」

ハルヒは車窓を飛びすぎる風景を眺めていた。
沈黙が俺たちの間に影を落としていたが、それは温かく、居心地の悪いものではなかった。
なんとなしに、俺も風景を見るフリをして、窓に映ったハルヒの姿を眺めてみる。
そこで、さっきは服ばかりに着目して見抜けなかった、ふたつのことに気がつく。
ハルヒは薄化粧をしていた。黒髪も、まるで一本一本梳ったかのように艶やかだ。
そう、思わず理性を投げ捨てて、触れたくなるほどに―――

「あ、キョン! 見えてきたわ。あれじゃない? っていうか、あれしかあり得ないわよね」

ハルヒの指さす先。そこには、俺が知っているどの遊園地よりも豪奢な造りのテーマパークがあった。
遠目でもその違いは一目瞭然だ。久しく忘れていた高揚感が、俺の中に生まれ始めていた。

「ある程度は覚悟してたんだけど、すっごいわね……」
「あぁ……俺の予想を遙かに上回ってる」

人混みに揉まれつつ、最寄駅から徒歩10分。俺とハルヒは二人揃って、嘆息の溜息を吐いていた。
といってもそれは駅からテーマパークまでの道に等間隔に植えられた桜や、凱旋門と比べてもほとんど遜色のない入場門に対してではない。

『いつまでかかってんだ、遅ぇーんだよ!』
『子供がいるんですが、この近くにトイレは――』

俺の視線の先には、まるで砂糖に群がる蟻のように入場門に殺到する群衆の姿があった。
喧々囂々の大混雑である。キャトルズ・ジュイエのシャンゼリゼ通りでも、ここまでの群衆は拝めないだろう。
警備員が個々奮闘しているものの、波となって押し寄せる大群にはあまり功を奏していないようで、

『おい――君たち―――さい!』
『列なんて――どうでも―――なぁ―国木――?』

え? 一瞬だけ、喧噪の中によく知っている声が混じっていた気がして視線を転がす。
既に声主は人波に消えていた。気のせいだったのかもしれない。

「どうする? このままじゃ全部のアトラクションまわるどころか、入場するのもままならないぜ」

ハルヒに問いかける。群衆に興味を失い、意気消沈しているかに思われたハルヒは、

「そうね、確かにこのままじゃ人混みに揉まれて一日が終わっちゃうわ」

しかし大胆不敵な笑みを浮かべ、

「普通の入場方法で入るなら、ね」

まるで大人を出し抜く子供のように、悪戯っぽくそう言った。

「その言い方からするに、普通の入場方法以外の方法があるみたいだが……初耳だぞ、俺は」
「あんたねぇ、こんな簡単なこと考えなくても分かるでしょ?」

眉を顰めて呆れるハルヒ。その物言いが気に入らなくて、俺は足りない頭を絞る。
前売券はとうの昔にsold outしている。当たり前だ。
俺は気に留めていなかったが、完成が近づくにつれ世間では随分と有名になっていたからな。
とすれば、俺たちが通常方法以外で入場するには、非公式な方法を用いることになる。
例えばそう、テーマパークのオーナー、もしくはそれに準ずる人物とのコネクションを使うとか――そこまで思考を進めて、答えに気づく。

「あぁ、鶴屋さんに頼んだのか」
「よくできました」

光栄だね。だが、その小学生の先生を彷彿とさせる口調はよさないか。

「あたしね、昨日鶴屋さんに会って今日のことを話したの。
 前日いきなり押しかけても無理かな、って半分あきらめてたんだけど……
 流石はSOS団名誉顧問ね、二つ返事で特別優待チケットをくれたわ」

バッグの中を漁っていた手が止まる。
そしてハルヒは、まるで神秘的な宝物を掲げるように、二枚の紙片を取り出した。

「じゃじゃーん。これで優待パスが貰えるはずよ。あたしに感謝しなさいよね、キョン」
「感謝してるに決まってるだろ。」

素直に謝辞を述べる俺。実際、これがなけりゃ俺たちは延々と待たされることになっていただろうからな。
しかしここで引っかかるのが、昨日の下校時、ハルヒが俺を引っ張っていかなかった理由である。
どーだっていいと言えば別にどーだっていいことなんだが………
1、やっぱ気になる。聞いてみよう
2、折角ハルヒが用意してくれたんだ。さっさと入場するか。  >>40までに多かったの


36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/12(水) 21:00:19.65 ID:3S0MSM/R0



37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/12(水) 21:00:19.81 ID:9tU75C5OO



38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/12(水) 21:00:51.59 ID:t95O7jXQO

1

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/12(水) 21:01:06.63 ID:fc6ubvUJO

これは2でしょ!

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/12(水) 21:01:50.04 ID:IH8EySHC0




……やっぱ気になる。ハルヒらしくない行動には、たとえ小さくとも必ず意味がある。
ハルヒの精神分析医古泉には敵わないものの、俺にだって行動分析くらいはできるのさ。

「適当に聞き流してくれてもいいんだがな。昨日帰るとき、なんで俺に着いてくんな、って言ったんだ?
 鶴屋さんに説明するの、お前じゃ大変だったんじゃないのか?」

入場口に向かいながら尋ねてみる。
ハルヒが群衆を割ってずんずんと歩を進める様はモーゼの奇蹟の再現みたいで圧巻だったが、
あれほど密集していた群衆が何故いとも簡単に割れたのかは、疑問にする方が野暮というものだろう。

「あたし一人で十分だと思ったからよ。二人で行く必要性はどこにも見当たらないわ」

実に合理的な意見だ。でも同時に、一人だけで行く理由も見当たらないな。

「……………」

俺の詭弁に腹を立てたのか、ハルヒはぶすっと押し黙った。後ろ姿なので表情は伺えない。
もしかしたらあの後私用があって、その所為で俺と一緒になりたくなかったのかもしれないな――
と、自責の念に苛まれてけていたその時だった。

「へ、変に誤解されたら困るでしょ。こんなこといちいち気にするなんて、馬鹿じゃないのあんた」

前方から声が飛んできた。声質に怒気は含まれておらず、俺はほっと胸を撫で下ろす。
にしても変な誤解って何だ? 聡明な鶴屋さんのことだ、誤解なんて生まれようもないんだが。

「なあハルヒ――」
「連絡が行っていると思うんですけれど……ええ、そうです」

しかし水を向けたときには既に時遅し。ハルヒは制服に身を包んだ受付の人に、先ほどの紙片を見せていた。
やがて新しい二枚の紙片が、俺とハルヒに手渡される。楽しい一日を、という声を背に。俺たちは、終にテーマパーク入場を果たしたのであった。

「……………」
「わぁ……………」

テーマパーク内に入場してから数分後。
俺とハルヒは、今度こそ感嘆の息をついていた。
まず最初に目に入るのが、踏破できるか不安になるほどの敷地の広大さである。
入場門を背にして左手に臨む山はとても険しく、教えて貰わなければ誰が人工物だと思うだろう。
縦横無尽に張り巡らされた曲線は、ジェットコースターのレールだろうか。あんな軌道が有り得るとすれば、の話だが。
右手に臨むのは、これまた巨大な湖である。湖面は快晴の空を反射して、きらきらと覗色に輝いている。
その情景は、魅入ってしまうほど綺麗に澄んでいて、大自然の湖と比べても遜色がないほどに雄大だった。
大きな波紋を残しながら湖面を散歩している客船には、多くの船客の姿がある。
そして遙か前方に――入場客を待ち受けるようにして傾斜している、自然の丘があった。
距離があるせいではっきりと視認できないが、奥には廃屋に近い古い建物が見える。あれもアトラクションの一つなのだろうか?

「とりあえずどこ行くか決めましょ。効率よくまわっていかないと、時間なんてあっという間だし」

無料配布のフィールドマップが広げられる。
アトラクションを示す赤点はそれこそ無数に点在し、非常に盛況しているセレモニー当日、
待ち時間を考慮すれば全部まわる事なんて夢のまた夢なのだが……
ハルヒと俺には、そんなアノマリーをいとも簡単に解決する、魔法のチケットがあった。
言わずもがな、先ほど紙片と交換した「特待パスポート」である。
説明は不要だろうが、このパスポートさえあれば、俺たちは待ち時間を吹き飛ばして全てのアトラクションを体験することができる。
これでますます、鶴屋さんには頭が上がらなくなったな。

「ねえキョン、あんたは一番最初に行きたいところってある?」

さて――瞳を小さな子供のように輝かせているハルヒが俺の返事を待っていることだし、
そろそろ、記念すべきテーマパーク第一号のアトラクションを決めるとしますか。

「なあハルヒ(    )はどうだ?」    >>84 自由記述 ただしテーマパークにありそうなのに限る


84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/12(水) 22:06:36.07 ID:fc6ubvUJO

おばけ屋敷


「ハルヒ、幽霊屋敷なんてどうだ? ほらこれ、Hill of deadlineってやつだ」
「この丘の上にあるヤツかしら」

フィールドマップから丘の方へ視線を移し、目を細めるハルヒ。
この距離じゃ見えないだろうに。ハルヒはしばし緘黙した後、

「最初から幽霊屋敷に行くってていうのはどうかしら」

躊躇の気配を見せたハルヒに、加虐心がそそられる。なあ、お前もしかして――

「さっさと行くわよ!」

唇を堅く引き結んで、奮然と歩き始めるハルヒ。お前の意気込みはよく分かったよ。
でもな、一応いっとくと、直通の巡航バスのバス停はそっちと真逆方向だぜ。
いや、お前が丘まで踏破するというのなら止めはしないんだが。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

バスの凝った内装に感心しつつ、窓から見えるテーマパークの景観に今一度感動しつつ、
ほぼ無振動の快適なバスの旅を終えた俺たちは、

「……まるで何処かの廃墟をそのまま運んできたみたいね」

快晴の空の下だというのに、まるで豪雨に打たれて崩壊寸前のような廃館の前に佇んでいた。
内奥から滲み出るような不気味さ。ここら一帯だけ、空気が重い。バスに引き返す客もいるほどだ。
間近に見るまでは屋敷攻略の自信に満ちあふれていた俺だったが、今ではその気概も衰えつつあった。
なあハルヒ、確かに一発目からお化け屋敷は難があったのかもしれん。俺は一時撤退を進言しようとし、

「ふぅん、面白そうじゃない」

それが不可能になってしまったことを悟った。
後悔先に立たず。調子に乗って幽霊屋敷を提案した十数分前の自分を説教したい。
お前はいったい、何を考えていたのかと。それからハルヒ大胆不敵な笑みを覗かせて、

「ここまできたら引き返せないわ。
 そうね、あたしたちが最短でこの館を攻略するのよ。
 幽霊やお化けなんてぶっ飛ばしてやるわ。所詮つくりものよ。つ、く、り、も、の」

廃館の入口に向かって歩き始める。仕方なく後に続く。
どれだけ幽霊屋敷が不気味であろうとも、怖いモノ好きの人間はたくさんいるようで、
入口には末尾が判別できないほどの行列ができていたが、

「おふたりですね。それでは此方の道をお進み下さい」

係員に誘導されるまま、俺たちは一秒も待つことなく館の中に足を踏み入れることができた。
無防備な俺の背中に、何百本という鋭利な視線が突き刺さる。ちらっと振り向けば、そこには恨めしげにこちらを見据える待機客が。
……そう怒るなよ。俺だって順番を譲ってやりたいくらいなんだ。
ま、仮初の非日常性に嬉々としているハルヒが、考えを改めてくれるのは万に一つもありえないんだけどさ。

「それでは、ここからは自由にお進み下さい。無事の帰還を」

中央ホールのようなところで、係員が足を止めた。先導は終わりのようだ。深々と一礼して去っていった。

「なんかリアリティあっていいわね。それっぽい雰囲気が出てるわ」

二人きりになったホールで、ハルヒが呟く。所々破けた壁紙の上には、絵画がいくつも飾られていた。
性質の悪いことにどれもこれも人物画だ。絵の中の瞳が動くはずないのに、監視されているような錯覚に陥る。
先に進もう。留まっていても仕方がない。閉ざされた来た道とは別に、ドアが3つ並んでいる。
マンションのドアのような、金属質のドア。押しただけで脆く壊れてしまいそうな木製のドア。そして比較的真新しい、真鍮製のノブがついたドア。

「どれにしようか迷うわ。キョン、あんたが決めていいわよ」

気色の違う三つのドアを前に、気軽に選択権を譲渡するハルヒ。
決めるのはいいが、後で文句言っても受け付けないからな。

ここは―――


1、マンションのドアのような、金属質のドア
2、押しただけで脆く壊れてしまいそうな木製のドア
3、比較的真新しい、真鍮製のノブがついたドア


に進もう。

>>125


125 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/12(水) 23:11:01.94 ID:VBw1a2P+0




ここは真ん中の、押しただけで壊れてしまいそうなドアにしよう。
大きく亀裂の入ったからは今にも屍の手が突き破って来そうだし、
ドアノブの鍵穴からは怨霊の息づかいが聞こえてきそうだし、これぞ幽霊屋敷、って感じがする。
さっきまで怖じ気づいてたのにどういった心境の変化だ、と思われた方もいるだろう。
その方の為に説明するならば、恐怖心なんてのは、心のあり方によっていくらでもコントロールできるのだ。
最悪の未来を予測するから、あり得ない平穏無事な道程を期待するから、怖くなるのである。
だから俺は気持ちを切り替えて、飄々とした態度で幽霊屋敷攻略に臨んでいる―――というのは勿論嘘。

「じゃあこのボロいヤツにしようぜ」
「そうね、あたしもそれがいいな、って思ったの。じゃ、行きましょう」
「どうした、足が止まってるぞ」
「あたしはあんたの後ろでいいわ。後方警戒は任せなさい」

先行させようと背中を押すハルヒに、形だけの抵抗を見せて、

「それじゃ、開けるぞ」

俺はゆっくりとドアノブを回した。ギィィ、と独特の嫌な音を響かせてドアが開く。
広がった視界に洋風の広間が現れる。傷んだソファとテーブルは壁際の暖炉に照らされて、橙色に染まっていた。
あくまで憶測だが、談話室、といったところだろうか。

「洋館、って感じね。でもこの部屋からどこかに通じるドアはないわ」
「何処かに隠し扉があるんだろ」
「あら、考えてることは一緒だったのね」

探偵よろしく視線をあちらこちらに走らせるハルヒ。
でもなハルヒよ、実際に部屋のオブジェに触らず見ているだけならそれは調査じゃない。ただの観察だ。

「う、うるさいわね。そういうのはあんたの仕事でしょう」

そうかい、と返してもう一度部屋を見渡してみる。闇雲に調べてもキリがない。
最初の部屋からどん詰まり、ってことはないだろうから、隠し扉を見つけるヒントがあるはずだ。

まずは――


1、テーブルの上の写真立てに注目する。
2、ガラス張りの棚に注目する。
3、本棚に注目する
4、暖炉に注目する

>>145


145 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/13(木) 00:24:52.58 ID:Zd1ynlc90

1+2 = 3


壁にはたくさんの書物が陳列されている本棚があった。
背表紙は俺の知らない言語で書かれており(少なくとも日本語や英語ではない)なんの本かは分からない。

「でもま、中身見たら何か分かるかもしれないし」

一冊抜いてみる。抜いた刹那は身構えたものの、何かが作動した気配はなかった。
今ちょっと警戒してたでしょ、なんてからかってくるハルヒはおいといて本を開く。
相変わらず中の頁も俺の知らない数式と文字ばかり。既知の情報は何もない――と、本を閉じかけたその時だった。

「なんだよこれ……」

俺の目にとまったのは、一枚の挿絵だった。
複数の動物の特徴を継ぎ合わせたような怪物が、苦しそうに悶えている。
キメラ、か。耳にしたことはあるが、そんな空想の産物が、何故こんな学術書に?
俺はしばらくそれに魅入っていたが、

「なんか見つけたの?」

ハルヒの弾んだ声で、我に返った。慌てて本を元の位置に戻す。

「いや、特に手がかりはなかったぜ」
「そう。あ、今思い出したんだけどね。この館主の設定に、何かの研究してる、ってのがあったのよ。
 どんな研究してたのか、キョンは興味ない?」
「いや、別にないな………」

いやな妄想を振り払いつつ、俺は手がかり探しに戻ることにした。

1、テーブルの上の写真立てに注目する。
2、ガラス張りの棚に注目する
3、暖炉に注目する        >>155


155 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/13(木) 00:39:56.69 ID:ewtkYurM0




視線を手近なものに移す。ハルヒの座るソファの前――
傷だらけのテーブルの上には、暖炉の炎に煌めく写真立てがあった。
セピア調のぼろぼろの写真が入っている。

「相当昔の写真でしょうね、それ」
「みたいだな。これに写っているのは誰なんだろう?」

ハルヒは暫く考え込むそぶりを見せてから

「ここの館主じゃないの。一人暮らしだったみたいだけど」
「どうしてそう思うんだ?」
「だって。ソファとテーブルは一組しかないし、暖炉も部屋全体を暖めるには不十分な大きさだわ。
 一人が近くに寄って暖を取るぐらいしかできないでしょうね」

ふむ。ハルヒの推理はもっともだ。
淡泊なアンティークから推測するに、館主――いや博士と呼ぶべきか――は奥さんも子供もいなかったのだろう。
研究に人生を注ぐとは、なんともストイックな生き方だね。寂しい人生と言えばそれまでだが。
設定上の人物に想いを馳せながら、俺は最後に残していたガラス張りの棚をチェックすることにした。
ガラス扉はロックされていて開くことはできないものの、収納されているモノを見ることはできる。

――綺麗なコーヒーカップが三つに、ポットが一つか。

「………ん?」

突如、強烈な違和感が俺の脳髄を走り抜ける。おかしい。
決定的な何かが俺に異常を伝えている。いくつもの情報が、錯綜する。
廃墟となった館。一人暮らしだった博士。小さな暖炉。3つの綺麗なコーヒーカップ。そして館の何処かで行われていたという研究――
全てが、繋がる音がした。未だに答えが分からないのか、不思議そうに首を傾げているハルヒに教えてやる。

「研究室への入口はこの裏だよ。手伝ってくれ、俺だけじゃ少し重い」

「どうしてそんなことが分かるわけ? ちゃんと説明しなさいよ」

俺が隠し部屋を見つけてしまったことが不満なのか、ハルヒは頬をふくらませている。
教えを請うときは行儀良くするもんだぜ。ま、元より全部説明するつもりだったんだから結果に変わりはないが。

「博士は何かの研究をしている。でもその研究内容は明かされていない。どうしてだと思う?」
「さあ。生涯をかけた研究だもの、発表したくなかったんじゃないの」

ハルヒは投げやりに答えつつ、ガラス棚の左側に手を添えた。

「違うよ。恐らく博士は、発表できないような研究をしていたのさ」
「発表できない研究って……」
「それは後で教えてやる。
 博士は一人暮らしだ。それはあの褪せた写真と、この部屋のオブジェがほぼ証明してるよな」
「ええ、それはあたしにも分かったわ」

と、ここで俺は先ほどのハルヒよろしく、ジェスチャーで探偵を演出しながら、

「じゃあ何故、一人暮らしの博士の館に、コーヒーカップが3つもあるんだ?
 しかも一度も使われていない、綺麗なままで」
「あ!」

驚きにぱかーんと口を開くハルヒ。大口開いてることを指摘しつつ、俺は棚をゆっくりとスライドさせた。

「このガラス棚は、研究室への隠し扉を隠すためだけに設置されていたんだよ」

最後によいしょと押し切って、棚を完全に元位置からずらす。果たしてそこには、壁に窪むような形で奥に続く道があった。
暖炉の炎が届かない、薄闇の世界への入口だ。俺はハルヒの耳元に、声を殺すようにして囁いた。

「ここから先が本番だ。博士が研究してたのはな、たぶん人体実験だ。研究室にはキメラが待ってるかもしれないぜ?」

びくり、と身を震わせるハルヒ。いつのまにか俺の心に巣くっていた恐怖心は消えていた。
そしてその代わりと言っちゃあなんだが、ハルヒが怖がる様子を見てみたい、なんて背徳的感情を抱いている自分がいて。

「行こう。来た道は閉ざされてるんだ、脱出するには進むしかない」
「ええ、そうね……」

先刻同様俺を先頭に、隠し通路に足を踏み入れる。
僅かな感触を腕に感じて振り向けば、ハルヒが小さく袖をつまんでいた。

「どうしたんだ、今になって怖くなったのか?」
「暗いからはぐれないようにしてるだけよ。SOS団団長のあたしに、怖いモノなんてないわ」
「そうかい」

拗ねたように顔を背けるハルヒに、不意打ちを食らう。
庇護欲をそそる仕草は朝比奈さんの専売特許だったのにな。

「安心しろ、俺が――」

虚勢を張っているハルヒを宥めようと、俺が声をかけようとしたその時。
後ろから微弱な光をもたらしてくれていた暖炉の炎が、急速に弱まっていき……フッ、と消える。
そして同時に……カーペットをずるずると這い回るような音が聞こえてくる。暗闇の中でも分かるのは、それが人間じゃない、ということ。

「――ッ」

ハルヒの袖をつまむ力が、一層、強くなった。

「パニックになるな。俺が先導してやるから」

ぎゅっと目を瞑っているハルヒにそう言い聞かせ、壁伝いに通路を進んでいく。
這いずる音は、だんだんこちらに近づいてきていた。
足下に気をつけながら10mほど歩いたとき、俺の手が、壁とは違う金属製のドアに触れた。
独特のザラザラとした感触。表面は酷く錆び付いている。

「先に入れ」
「え………なに、きゃっ!」

重いドアを押し開き、驚きに目を見開いたハルヒを放り込む。後で「女の子を手荒に扱うな!」などと小言を食らうのは必至だが、
男の俺が先に安全圏に逃げ切る事なんてできないし、こうするしかなかったんだ――って、俺は一体誰に弁解しているんだろうね。

「ハッ………ハッ………」

喘ぐような呼吸音とともに、這いずる音が間近に迫ってくる。
だが、いよいよ俺の立ち位置に接するといった刹那――追跡の気配が一転し、静寂が訪れた。
ここで相対しているのが捕食者なら、とっくに襲われて血肉を貪られている距離。暗闇に慣れてきていた目を、更に凝らす。

「……なるほどね」

――――――――――――――――――――――――――――――

錆び付いたドアを開けると、脇から白い何かが飛び出してきてきた。幽霊みたいに顔を青白くしたそいつは、一瞬でドアを閉鎖した後、

「もう、なんですぐにこっちに戻ってこなかったのよ!」

どうやら一人にしてしまったことにご立腹のようである。悪い悪い、ちょっと手間取ってな。でも団員の身を案じるなんてお前らしくないじゃないか。

「俺が怪物に丸呑みされたんじゃないか、とかゾンビに襲われてるんじゃないか、なんてB級ホラーレベルの想像でもしてたのか?」

「そんな子供みたいなこと考えるわけないでしょ!
 第一ね、化け物なんて生物学的に存在し得ないし、幽霊とか霊障の類は科学的に解明できるってこの前TVで……」

舌鋒鋭く「お化けはいない」と主張するハルヒに、俺は辟易せざるを得なかった。
あれだけ常日頃から盲目的に未確認生物の存在を信じているお前が、こうも簡単に持論を曲げるとはね。

「お前この前まで幽霊がいたらいいわね、とかなんとか言ってなかっけ?」
「それはあくまで希望的観測よ。いたらいいな、とは思うけど」

最近修得した現実的観念を披露されても、正直どう反応すればいいのか困るね。
お前の言い分を吟味すれば、お前はお化けを信じていないが故に、この状況に全く恐怖を抱いていない、ということになるんだが。

「あったりまえじゃない。何度も言うけどね。あたしに怖いモノなんてないのよ」

ハルヒは中空を睨みつつ、自分に言い聞かせるようにいった。

「大した自信じゃねえか……でもさ、ハルヒ」

袖をつままれたまま言われても、説得力は皆無なんだよな。今更ながらに、それを指摘する。

「…………!!」

途端、ハルヒは放り捨てるように俺の腕から離れた。おいおい、何もそこまで過剰反応することねえだろ。

「もしかして無意識下の行動だったのか?」
「………」

ハルヒは喋らず俯いている。無言を貫き通す所存のようだ。
素直になれない団長様にやれやれ、と溜息をつきつつ、俺は辺りを見渡した。
談話室の隠し通路からドアを抜けた先。今現在俺の視界は、闇に塗り替えられた白で埋め尽くされている。

白い壁。白い床。白い天井――。俺は知った。
夥しい白色がもたらすのは清冽さでも清潔さでも清廉さでもなく、純粋な嫌悪感なのだと。
天井に蛍光灯は等間隔でならんでいるものの、それら例外なく切れていて、
光源といえば非常用の常夜灯のみ。緑色の光が、不気味に廊下を照らしている。

「まさに秘密の研究室、って感じだな」
「そうね……」

リノリウムの床が、乾いた足音を反響させる。
ハルヒの口数は目に見えて減っていた。いつの間にか俺の袖は再びハルヒのものになっていたが、
ここでハルヒをからかうほど、俺は鈍い男ではない。もしこれ以上ハルヒの矜持を傷つけたら、二度と口聞いて貰えなさそうだし。

さて―――どこに進もう?


1、通路を直進した先に、非常灯に照らされたドアがある。脱出できるかもしれない。
2、通路はこの先二手に分かれている。右に行こう。
3、通路はこの先二手に分かれている。左に行こう

>>95


95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/13(木) 21:29:59.30 ID:C83CHjHqO




白い通路を進むと、三叉路となっていた。
非常灯に一際明るく照らされたドアが、直進したところの突き当たりにある。
左右に分かれた通路は左右対称に設計されたのだろう、見た感じまったく同じで、違いが分からい。

「隠し通路を見つけるのにもあれだけ手間がかかったんだ。ここにも仕掛けが容易されてるに違いない。
 とりあえず虱潰しに調べてみようぜ」

左の通路に進むことにする。論理的根拠は何もない、ただの勘だ。乗り気になってきた俺とは対照的に、

「脱出できそうな扉があるのにわざわざ行くことないじゃない? ほら、あたしはもう十分楽しんだし……」

ハルヒは全く気乗りしないようだったが、

「じゃあ一人で待ってろ。すぐに戻るから」
「行くわ」

考えを改めたのか、俺の"後方警戒"を担当することを勝手に決めて袖をつまみなおした。
どうやらハルヒの脳内では「ひとりぼっち>畏怖対象との邂逅」という不等式が完全に成り立っているようだ。

―――――――――――――――――――――――――――――――――

「―――なによ、これ」

ゴクリ、と生唾を飲み込む音。それはハルヒの白皙の喉から漏れ出したものだ。
瞳孔を大きく開いて、ハルヒは白骨死体を眺めていた。
その様子は一見、眼前の光景に魅入っているようだったが、俺にはハルヒが今にも逃げ出したがっていることが分かっていた。

「どうも殺されたみたいだな。こいつが博士の死体かどうかは判別できないが」

骸骨は壁に凭れるようにして眠っていた。辺りにこびり付いた血痕は、死体の死因が自殺でないことを物語っている。

左の通路の先にあったのは、博士の私室だった。
ドアには鍵がかかっていようだったが、ドアノブごと破壊されていたので進入することができた。

「日記、か?」

白骨死体から目を逸らし、机の上に置かれた本を手に取る。
先ほどの談話室で手に取った専門書と違い、筆記された文字は全て英語だったが……
残念なことに、俺は英語が得意なわけでもない。最後の頁の走り書きに至っては、文字かどうかも疑わしいほどに歪んでいた。

「やつが逃げ出した、ってどういうことかしら」

突然、俺の肩から身を乗り出してハルヒが言った。あぁ、お前ならこの程度の筆記体は読めて当然だよな。
博士の研究は人体実験に関することだった。ということは、逃げ出したっていうのはその実験体のことだろうか。
しかもこれは憶測だが、博士を殺したのも、その実験体だったりしてな。

「縁起でもないこと言わないでよね」

俺から体を離して、部屋の入口に向かうハルヒ。日記を閉じて、その後を追う。
逃げ出したというヤツとは十中八九談話室に潜んでいたやつだろう、という推理は内緒にしたまま、俺はハルヒに袖を貸した。


博士の私室を出て三叉路に戻ってきた。未調査の道は、来た道を背にして直進と右折の二つ。

ここは――

1、直進しよう。非常灯に照らされたドアがある。
2、右の通路を進もう。

>>128


128 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/13(木) 22:36:51.40 ID:WDm6l/dUO

1


俺がどちらの道に進もうかと思い悩んでいると、ふいに袖が強く引っ張られた。
ちょっと待て、せめてゆっくり歩いてくれないか。幾度となく引き伸ばされている服の繊維が悲鳴を上げてるんだ。

「駄目よ、もうたくさんだわ。あたしは十分楽しんだし、あんたも十分楽しんだでしょ!」

ハルヒは俺の懇願を一刀両断した後、三叉路の真ん中の道を確固たる目的の下行進し、

「これでこの廃館ともおさらばね」

希望に満ちた様子でドアを開けた―――はずだった。
がちゃがちゃ。無情な金属音が、非常灯に照らされた空気を伝わってハルヒに届く。

「あー、非常に残念なんだが……ハルヒ、これを見てくれ」

コンコン。俺は右手の甲で通路の側面に設置されたディスプレイをたたき、

「ロックされているみたいだ。ほら、ランプが赤だろ。
 コンピュータで制御されてるだろうから、お前の十八番、蹴破りも効果は薄いと思うぜ」
「そのコンピュータってのは何処にあるのよ……」

絶望感に苛まれた、乾ききった声。俺は自分が非道いなあ、と自覚しながらも淡々と推量を述べた。

「調べてないトコは一つだ。右の通路の先――恐らく研究室だが、そこにコンピュータがあるんじゃないかと予想するね。俺は」

ハルヒを半ば引きずるようにして、右の通路を進む。
予想通り、この隠しフロアは三叉路の真ん中の道を中心にして、左右対称に設計されていた。
もっとも――研究室の中までが、博士の私室と同様であるとは考えられないが。
研究室の前で足を止める。厚みのあるドアは、十数cmほど開いたままになっていた。
物音を立てないよう、慎重に足を踏み入れる。

「惨状ね……滅茶苦茶だわ」

果たして。研究室の中は、まるで台風に直接曝されたみたいな様相を呈していた。
研究に使用されていたと思われる器具――試験管や三角フラスコなど――は尽く破損していて原形をとどめておらず、
貴重な書類と思われる紙束は、机の上に散乱している。ラボの側壁の三分の二ほどを占めるガラスには、幾本もの罅が入っていた。
ガラスはくすんでいたが、辛うじて向こうを透視することができた。正方形の空間が広がっている。
そしてその空間の側面には三つの窪みがあり、鉄格子がはめられていた。

「どう、コンピュータは見つかった?」

控えめなハルヒの声。作り込まれたディティールに感心していた俺はざっと研究室を観察し、

「ん……ああ、これのことじゃないかな。ご丁寧にプログラムまで起動されてるし」

YesとNoが表示されているウィンドウを指さした。光源の曖昧な閉鎖空間のようなこの研究室で、ディスプレイだけが機械的な光を放っている。

「押してみろよ」
「あんたが押しなさいよ」
「いや、遠慮しとく。俺はまだこの研究室に興味があるし」

俺は内心でハルヒの反応を心待ちにしながら、期待に胸を高鳴らせていた。
おそらく。この先に待ち受けるのは、オーソドックスなストーリーに沿ったありがちな展開だ。ハルヒもそれは重々承知しているはず。
だが、俺にはすぐにここを脱出する気は毛頭ない(ということにしている)。
一向に解除プログラムを起動させようとしない俺に痺れを切らしたハルヒは――必然的に、己の手でマウスを動かすことになる。

「押すわよ。押したらすぐに走るからね」

小さな手が、まるで爆発物に触るようにマウスを動かし、カーソルがYesに重なる。

「…………」

カチリ。承認を示す画面が表示される。異常事態は起らない。

「杞憂だったみたいね。それじゃちゃっちゃと脱出しましょ」

ハルヒは安堵の溜息をついて余裕の態度を取り繕うとし、

「な、なにあれ――」

表情を凍り付かせたまま、ガラス壁を呆然と見つめていた。ほう、ようやくのおでましか。
鉄格子から解放された異形の獣が――ガラス越しで輪郭は曖昧だが――最短距離を駆け抜けてこちらに向かってくる。

「キョンっ!」

ミシリ、という心許ない軋みを上げて、ガラスが揺れた。衝突したそれは跳ね返り、再び距離をとって突進する。
防護ガラスの耐久値は計りかねるが、精々あと数度の衝突持てば良い方だろう。

「…………やだ、やだぁ」

と。俺は今更ながらに、俺の腕にしがみついているハルヒに気がついた。
それはまるで、寓話のお化けを畏れる子供のように。純粋に庇護を求めるハルヒに、心が揺れ動く。

「ここにいてもいずれガラスは破られる。さっきの扉に戻ろう」

狂ったような奇声を上げている獣の輪郭を背に、俺たちは研究室を後にした。ドアを堅く閉めた瞬間、ガラスの破られた音が壁越しに空気を震わせた。

―――――――――――――――――――――――――――――――

「はぁ、はぁっ………」

扉まで全力疾走した所為か、ぷつりと緊張の糸が切れた所為か。
ロックが解除された扉の向こう側で、俺は呼吸が荒いハルヒの背中をさすって、息を整えるのを手伝ってやっていた。
扉はといえば、ハルヒに神速で密閉された後、微動だにしていない。"怪物"もあきらめたのかも知れないね。

「はぁ……もう大丈夫よ。ありがと」
「この下がたぶん出口だ。もう歩けるか?」

こく、とハルヒは頷いた。繋いでいた手を引いて、終わりの見えない階段を下っていく。
何故腕に絡ませていたハルヒの腕を解いて、手を引く形になっているのかといえば、
密着率の高いその手法のまま歩けばハルヒの女性を誇張する部分が俺の腕に当たってしまい、
折角の廃館攻略達成という穏やかな雰囲気を邪念が破壊してしまう危険性を多々孕んでいるからで――話が横道に逸れた。
軌道修正を試みる。

「お前的には、このお化け屋敷はどうだった?」
「……こんなに怖い思いしたのは久しぶりよ。あたしが小学校低学年の時に見た悪夢よりも怖かったわ」

答えは聞かずとも分かっていた。一度さらけ出した後は自分の気持ちに正直なのが、ハルヒである。
この期に及んで強がっていたら、それはそれで尊敬するけどな。

「ねえ。あんたは怖くなかったの?」

階段が中盤にさしかかったとき。ハルヒは拗ねたように唇を尖らせて呟いた。
廃館に入ってから出るまでを反芻する。館探検に恐怖を伴っていたのは――実質、隠し通路を抜けるまでだった。
談話室と隠しフロアを結ぶドアの前。そこで這いずってこちらに近づいてきたモノを確認したとき、俺の中の畏れは消えた。
立体音響、特殊加工されたシリコンに、再現度の極めて高い血痕、
そして絶妙のタイミングを以て登場した、実験生物の挙動を再現する移動機械。冷静に観察すれば、その正体は暴かれているも同じだ。

「じゃあ……あのガラスにもなんか仕組みがあったわけ?」

氷解しない疑問を、次々に俺にぶつけてくるハルヒ。
くもったガラスは実験動物に扮した移動機械の不自然な挙動を誤魔化すためだ。
輪郭が朧気なら、パニック状態の人間はほぼ確実に最悪の方向に勘違いするだろうしな。

「あたし、あんたの洞察力を過小評価してたみたいね」

珍しく俺を褒めたハルヒに驚いて視線をやると、頬が上気していた。

「そう……これは団長としてなんだけど……頼れる団員になったというか、なんというか……」

しかも羅列された言葉は支離滅裂だ。自然、俺は優しく声を掛けた。どうした、まださっきまでの興奮が抜けきってないのか?

「前言撤回。あんたはどうしようもなく鈍くて、唐変木で、朴念仁よ」

あまりの温度差に背筋が震える。俺は心配したつもりだったのが、ハルヒには余計な一言だったらしい。
ハルヒの体が纏っていた婉然な空気は塵と消え失せ、今では静かな怒りの炎が燃えていた。
まったく……あの小さな子供のように愛らしかったハルヒは、一体何処にいったんだろうね?
にしても、だ。階段を下りながら、思考に耽る。
もし仮にこのやけに凝った廃館のギミックを解明できていなかったとしても――俺には泰然自若と超常現象を受け入れる自信があった。
確かに未知への畏怖はあっただろうが、いざ異形のモノと相対すれば、落ち着いて行動を選べたはずだ。
俺には一般人とは決定的に違う部分がある。それは、圧倒的な経験の差だ。外宇宙生命体(カマドウマ)と邂逅を果たしてみろ、
あんな実験動物なんて可愛いモグラに見えるね。俺を驚かそうなんて、並の魑魅魍魎じゃ永劫叶わない夢だろうさ。
だからさ、ハルヒ。洞察力とかそんなの関係なく……俺はいつだって、お前を守ってやることができるんだぜ?

「もうそろそろか」
「長かったわねー……なんか一日分の気力を使い果たしたみたい…………でも、」
「でも?」
「なんだかんだ言って、楽しかったわ」

人工ではない、透き通った光が眼下を照らしている。俺たち二人は、喜び勇んで出口に走った。
周囲の客の視線も気にせずに、随感の思いで新鮮な空気を吸い込む。乾いた空気に傷んでいた肺が、蘇る。
廃館攻略を開始してから40分、俺たちはようやく脱出した。―――繋がれた手は、そのままに。

出口付近で一礼してくれた係員に会釈を返して、俺たちは人並みに溶け込んだ。
時刻は11時前。高く昇った陽の光に、瞳孔が収縮する。横を見れば、ハルヒも眩しそうに目を細めていた。

「意識してなかったけど、かなり歩いてたみたいね、あたしたち」
「丘の麓まで下ってきたわけか……」

後方に視線をやれば、小さく廃館が見えた。入口に立った時と変わらぬ不気味さを醸している。
今頃館主は、ハルヒと俺の反応に思い出し笑いしながら、新たな侵入者を迎えているのだろう。

「次はどうする? 想像してたより一発目が凄かったから、休憩してもかまわないけど」

ハルヒらしくない消極的な意見に、一瞬面食らった。
俺は肉体的精神的ともにまだまだ元気いっぱいだが、お前が小休止したいなら全然構わないぜ。

「それでこそSOS団員第一号ね。あたしはちっとも疲れてないわよ」

当たり前でしょ、と言わんばかりに胸を張るハルヒ。
俺は幽霊屋敷でのハルヒの恐がりっぷりをからかおうとして、閉口した。
どうせからかうなら、古泉や長門の前での方が二倍楽しめそうだ。リスクも二倍になる諸刃の剣だが。

さて――
片手で器用に広げられたフィールドマップに、視線を落とす。

次は何処へ行こう?

1、アトラクション自由記述「」
2、ん? マスコットキャラクタに人だかりができている
3、小腹が空いたな。何か買うか。

>>305


305 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/14(金) 19:24:11.11 ID:TGKVEg+m0

2


現在地から徒歩三分以内で尚かつ二人で楽しめそうなアトラクションを検索していると、
いきなりフィールドマップが取り上げられた。なんだ、気になるアトラクションでも発見したのか?

「キョン、あの人集りはなにかしら? 気にならない?」
「見せ物屋か、マスコットキャラクターでも現れてるんじゃないか」

こういった催しは神出鬼没だ。よって、現れた瞬間に人々の注目の的となる。
ハルヒはしばらくぴょこぴょこ背伸びをしていたが、肝心の人集りの中心までは見えなかったようで、

「行くわよ。アトラクションは逃げないけど、ああいう面白そうなことは追っかけなくちゃ逃げてくからね」

俺の手を引いて駆けだした。
人集りの中心がこちらに気づいて逃げ出すわけもなし、なにも全力疾走することないだろうに。
しかしそんな諌言虚しく、ハルヒは遠巻きの人たちをなぎ倒しながら(語弊があるが概ね正しい)人混みに接近していく。
俺はハルヒという名の暴走機関車に撥ねられた人々に冥福を祈りながら、
はて、このテーマパークのマスコットキャラクターはなんだったっけなあ、なんてことをのんびりと考えていたのだった。

――――――――――――――――――――――――――――――

「めがっさにょろにょろ!」

『キャーカワイイー!!』
『にょろにょろだってー口癖なのかなぁ?』

……………………………。
さて。まず俺が衝撃のあまり状況描写をおろそかにし、長門並みの三点リーダ羅列してしまったことを、深くお詫びしたいと思う。
明晰な方ならもうお分かりだろう。人混み最前線に駆けつけた俺たちが目にしたもの。
それは、鶴屋さんをそのままデフォルメしたとしか考えられない、人懐こい笑みを浮かべたマスコットキャラクターであった。

「鶴屋さんのお父さん、かなり子煩悩な方なんでしょうね」
「言えてる」

いったいこの世の何処に自分が建設したテーマパークのマスコットに、
愛娘のデフォルメキャラクターを選ぶ親がいるのだろう。ま、現在俺はその実例を目の当たりにしているわけだが。
ハルヒといえば唖然とした面持ちで、マスコットキャラクターが愛嬌を振りまく様子を眺めている。

「今日は楽しんでいって欲しいにょろ!」

わぁーい、と歓声を上げて握手を求める子供たち。評判は上々のようである。

「中に入ってるの、本物の鶴屋さんかしら」

周囲に拾われない程度の声量で、ハルヒが尋ねてきた。
へぇ、純粋無垢な子供たちの夢を破壊する気はないようで安心したぜ。

「あたしだってそのくらいの配慮はできるわよ! それで、あんたはどう思う?」
「口癖が偏ってる気がするな。先輩は"にょろにょろ"ばっか言ってるような人じゃない」

「にょろ」を語尾につけるだけなら、素人のバイトにでもできる。
声で判断できれば楽なのだが――ぬいぐるみを隔てているせいかくぐもっていて、判別材料としては不安が残る。

ここは――

1、下手に声をかけるのはよそう。周りには俺たちと鶴屋さんの繋がりを知らぬ子供たちもいるわけだし
2、折角会えたんだ。特待パスポートのお礼も兼ねて声を掛けてみよう


>>330


330 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/14(金) 20:15:34.84 ID:jOT5HJbX0




折角の機会だ。特待パスポートのお礼も兼ねて声を掛けてみよう。
俺は子供たちがマスコットキャラクターから離れた頃合を見計らい、

「もしかして、鶴屋さ――ぐむ」

ぬいぐるみの柔らかい感触に押しつぶされた。
やわらけーあったけー……って、あれ、いつまで抱きしめてくれてるんだろう、
すいません息できません、窒息する、いやマジで死にますって!?

「キョンくん、ちょっと声が大きすぎるっさ。あたしが入ってることは皆には秘密なんだよっ?」

意識が朦朧としかけたその時、鶴屋さんの囁きが聞こえてきた。解放される。
外見ではいい大人がマスコットキャラクターにハグされている風に写っていたんだろうが、実際は圧死寸前だった。
周囲の子供を顧みない浅はかな行動に、しばし恥じ入る。ハルヒに偉そうな口聞いていた自分が馬鹿みたいだ。

「なに一人で堪能してるのよ! 抜け駆けはよくないわね」

ハルヒが、俺の手を引き戻した。マスコットを先行体験してきた俺にご立腹のご様子だ。

「で、どうだったの? 鶴屋さんだった?」
「分からなかったよ。ま、もしそうだったとしてもこの状況じゃどうすることもできないだろうさ」

適当に嘘をつく。ハルヒは不服そうに溜息をついた。昼から客足が増えれば、鶴屋さんは更に多忙を極めることになる。
とてもじゃないが、先輩に俺たちと個人的なお話をしている時間はとれないはずだ。
しかし――俺が謝罪と感謝の意を込めて頭を下げ、この場を立ち去ろうとした時だった。

「そこの二人ちょっと待つにょろ。写真を撮ってあげるにょろ!」

慌てたような声が大きく響く。足を止めて振り返れば、マスコットキャラクター――いや、もう鶴屋さんと呼ぶべきだな――が、こちらに手招きをしていた。

俺たちと鶴屋さんの間に道ができる。くりくりとした無機質な瞳が、真っすぐにこちらを見つめている。
ハルヒは最初、その突然の申し出を訝しがっていたが、

「いい機会だわ。撮ってもらいましょ、キョン」

やがて持参のデジタルカメラをマスコットに手渡した。定番品といえば定番品だが……用意周到だね、まったく。

「それじゃあ並ぶにょろ」

もふもふのぬいぐるみハンドが、器用にカメラを構える。
が、もともとカメラが苦手な俺だ。3秒もしない内に、大量のダメだしを食らってしまった。

「きみ、もう少し笑顔をつくるにょろ! 体もこわばってるにょろよ?」

これでも精一杯なんですよ、とアイコンタクトを送る。
限界なのは事実だった。元々俺は写真写りが悪い。下手に作り笑いしても悪化するだけなのである。
首を捻る鶴屋さん。テレパシーが通じたかどうかは定かではないが、俺に無理矢理笑顔を作らせることは諦めてくれたようだ。

「うーん……じゃあ……もっとくっつくにょろ。隙間がないくらいが望ましいにょろね」

えっと、何を仰っているのかよく分からないんですが。
言語処理能力が著しく遅滞化した頭で横に視線を移せば、ハルヒは黙ったままシャッターの音を待っている。なーに私は余裕です、みたいな風に構えてるんだよこいつは。

「もどかしいにょろ!」

と、ぐずぐずしている俺を見かねたのか、鶴屋さんは一旦構えを解いて此方にずんずんと近づき、
これ以上にないくらいにぎゅっと俺たちをくっつけた後、目にもとまらぬスピードでシャッターを押した。
――俺がハルヒの白皙の項に見惚れていた、そんな刹那に。

「それじゃこれは返すにょろ。楽しい一日を過ごすにょろ〜」

デジタルカメラがハルヒに返却される。
お礼を告げる間もなく、鶴屋さん扮したマスコットキャラクターは人集りに飲み込まれていった。
この分じゃ今日が終わる頃には、鶴屋さんはくたくたになっているんじゃないだろうか。

「……あ」
「……あ」

今更ながらに、体が密着していることに気づき、おずおずと距離をとる俺たち。
ぼっ、と顔が火照る。これじゃあ余計に意識しているみたいだな。
鶴屋さんの介添えがあったにせよ、体を押しつけちまったことを、ハルヒが不快に思ってなければいいんだが。

「こ、幸運だったわね。滅多にないわよ、初日に写真撮って貰えるなんて」
「あ、ああ。是非さっきの写真は現像して俺にも一枚くれ」

ぎこちない会話を紡ぎつつ。俺とハルヒは次のイベントを探して歩き出した。


時刻はもう昼前だ。ここは――

1、昼飯を食べよう。
2、ミニアトラクションならまだ一つくらいいけるかもしれん 自由記述「(大型アトラクションは不可)」

>>369


369 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/14(金) 21:42:20.12 ID:KwxtyfII0

2で二人乗りボート的なものに


テーマパークのレストランやファーストフードが混雑するのは、主に昼前からお昼時にかけてだ(俺調べ)。
それに今日の胃袋は機嫌がいいのか、せっかちに食べ物を要求してこなかった。後回しにするか。
腹が減っては軍はできぬと言うが、腹が減っていない状態で食べて、美味しく味わえなくては本末転倒だろう。

「あと一つくらい楽しまないか。幽霊屋敷とマスコットとの邂逅で午前中を終わらすのは勿体ないし」

先に昼食をとりたいのなら別だが、と付け加えるのも忘れない。ハルヒは逡巡する素振りを見せた後、

「そうね、あたしとしてはもっと早くにお昼とっておきたかったんだけど……今からじゃもう遅いわよね」

俺の提案に賛成した。早速マップで、近場のアトラクションを探してみる。
付近にはアトラクションを示す点がまばらにあった。
だがしかし、どれも最低必要時間が30分以上と記載されていて、それらを候補から除外していくと、

「ボートしかないな。お前さえ良ければ、これにしよう」

かくして。午前最後のアトラクションは質素なボートでの湖遊覧という、パッとしないアトラクションに決定された。
まあハルヒが不満じゃないのなら――質素だろうが簡素だろうが、俺はなんでもいいんだけどさ。

――――――――――――――――――――――――――――――

何処までも続く湖の上を、ボートが波紋を残して滑っていく。
乗り始め、まるで沈溺したカナヅチの腕みたいに水飛沫を飛び散らせていたオールは、
コツを掴んでからというもの、しっかりとした手応えを俺の手に、水を押し返している。

「気持ちいいわねー。本物の湖の上にいるみたい」

思わず伸びをしてしまいそうになるくらいに、長閑な蒼穹の下。
ハルヒは日光を乱反射する湖面に瞳を輝かせながら、俺はマイペースにオールを手繰りながら、
他のボートが一隻も見当たらない湖を自由気儘に愉しんでいた。

当初は興味本位でオールを握っていたハルヒだったが、
数分もたたない内に投げ出し、今では俺が船頭の役割を果たしている。
オールを漕ぐのは一見単調な作業のようで、その実、奥深い。
お前も根気よく続ければ、ボート漕ぎの極致に至れたかもしれないぜ。

「いやよ。力仕事はあんたに任せるわ」

即答。ま、答えなんて聞く前から分かってたけどな。

「団長は敬ってしかるべき存在よ。団員は団長から仕事を全部奪う気概でないとね」
「へいへい。ボート漕ぎも団員その一の悲しき宿命ってわけか」

独りごちた俺に微笑んで、ハルヒはボートから身を僅かに身を乗り出させた。
湖底は覗き知れないものの、湖水には濁りが全くといっていいほどない。
ハルヒもそれを知っているのか、二指で静かに、湖面を弄んでいる。
ぱしゃぱしゃという断続的な水音と、ぽかぽかとした陽気が、睡魔の活動を活発化させる。
ボートが湖の中心に来た辺りで、俺はオールを漕ぐ作業を中断した。
なに、ここまでせっせと漕いできたんだ。ちょっと小休止したところで文句は言われまい。
ぐっ、と大きく背伸びをし、これまた盛大に一つ欠伸をする。こんなぽかぽか陽気、昼寝しない方がどうかしてるさ。

「ちょっと休憩させてもらうぜ――」

俺はハルヒにぶつからないように足を投げ出そうとし、

「うおっ、冷てぇ!」

ぱちゃ、という音とともに、ひんやりとした感触を顔面に浴びた。清らかな冷たさに、容赦なく眠気が吹き飛ぶ。
ぱちくりと目を瞬かせている俺は、さぞかし間抜けに見えたことだろう。

「だーれーが、寝てもいいって許可したのよ」
「これは俺の独断だ。人の睡眠欲にまでけちをつける気なのか、お前は」
「あたしを退屈させる行為を敢えて実践するなんて、大した度胸じゃない」

これだけならギスギスとした掛合いだが、攻撃的な科白を吐き合いながらも、
俺たちは互いに冷笑を湛えていた。ゆっくりと湖面に卸していた右手が、水に浸かる。
そして空気に入り交じっていた感情が、飽和状態を超過した瞬間、

「さっきのお返しだ!」

俺は指先に付着した水を、ハルヒの方へ投げかけた。同時に、ハルヒからも水飛沫が飛来する。

「何がお返しよ! まだ目が覚めきってないんじゃないの?」

応酬に次ぐ応酬。俺とハルヒは、それからしばらく飛沫を掛け合った。
服を濡らさないよう節度はわきまえてあるが、しかし幾度となく繰り返されれば、投擲した総量は両手一杯に湛えた水と等しくなる。
3分後。至る所を濡らした俺とハルヒは、手を掴みあった状態で息を切らしていた。

「……ここらで休戦しないか」
「えぇ……そうね……少し熱くなりすぎたわ」

ぽたり、と髪から雫が落ちる。ぬれた髪のハルヒはいつになく煽情的で、俺は咄嗟に掴んでいた両手を話して、顔を背けた。
行き場の失った手にオールを握らせて、

「そろそろお昼に集中していた客も店を出始める頃合いだ。腹減ったし、戻らないか」
「うん。あんたの所為でこんなになっちゃったけどね」

俺はハルヒの皮肉を一身に受けながら、ボート置き場に向かって漕ぎ始めた。
ボートの軌跡を印づけるように、波紋が続く。乗り始めと同じく、雲一つない蒼穹。
視線を下ろせば、汲々と俺を見つめるハルヒがいた。漠然とだが――午後は、もっと楽しくなる予感がした。

――――――――――――――――――――――――――――――

「はむはむ、そこらのファーストフードなんかより、はむはむ、比べものにならないくらい美味しいわね」

なあハルヒ。これは常日頃から妹に口酸っぱくして言っていることなんだが……
食べ物をを口いっぱいに頬張りながら感想を述べるのはやめた方がいいぜ。
料理人からすれば直感的な感想は嬉しいだろうが、正面で食事を共にする俺にとっちゃ、絵的に厳しいものがあるんだよ。

「はむ……細かいことは気にしなくていいのよ」

ごくり、とスパイシーチキンサンドを嚥下して宣うハルヒ。
満腹感に綻ばせたハルヒを見ているうちに、行儀の教授をする気が失せてしまうのは何故だろう。
サーモンサラダサンドイッチの肉厚を堪能しながら考える。が、俺が最後の一口を食べ終える直前に、

「あむっ」

どんな手品を使ったのだろう、俺の手に収まっていたサンドイッチは、跡形もなく消失していた。

「サーモンも美味しかったのね。次に来たときはこれにしましょう」

下手人に反省の色はなく。俺は自然と言葉を失った。憐れサーモンサラダサンドイッチ、ハルヒの胃袋で成仏するがよい。

昼時を過ぎたファーストフード店で、俺たちは遅めの昼食をとっていた。
腹が減っていた分、サンドイッチとホットレモネードは至高の美味に感じられたが、
サーモンサラダサンドイッチの半分と、ホットレモネードは現在進行形でハルヒの口に吸い込まれている。
じゅごご、と低俗な音が鳴る。まったく……お前の胃袋はブラックホールか。

「ごちそーさま。この値段でこの美味しさは今までになかったわね」

満足げに完食宣言したハルヒに辟易する。お代が誰の財布から支払われるか知っての発言なのか、それは。

店内の軽快なBGMに見送られる形で、俺とハルヒは外に出た。
現在時刻、2時13分。午前中に幽霊屋敷という大物を消化した所為で、まだ二つしかアトラクションを巡れていない。
実質、これで俺たちが一両日中にテーマパーク内全てのアトラクションを巡れる蓋然性は無に等しくなったわけだが、

「さ、次はどこに行くか決めましょ」

あくまでハルヒの姿勢に変転はなく、できるだけ多くのイベントを体験するつもりのようだ。
品定めするように、フィールドマップ内の赤点を睥睨している。


さて――次はどこに行こうか


>>525  自由記述(大型・小型なんでも可)


525 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/15(土) 01:27:01.82 ID:l2eE1+I5O




午前は幽霊屋敷にボートと静的なものばかりだったから、午後は動的なアトラクションにしよう。
絶叫系の代名詞、ジェットコースターなんてどうだ?

「あんたからそんな科白が出るなんて想定外だわ。
 そういうのは苦手っていうイメージがあったんだけど」

それは酷い偏見だ。ジェットコースターやスライダーみたいな急落アトラクションは大得意なんだぜ。
ま、それも幼少の頃からずっと、絶叫系こよなく愛していた妹に随伴させられたが故に得た耐性なんだけどさ。

「ふーん、じゃあ遠慮する必要なかったのね。
 キョンがどうしてもイヤだっていうなら、今日は勘弁してあげるつもりだったのに」
「本当か? 俺がいやいや首を振っても首根っこ捕まえて引きずっていくつもりだったんじゃないのかよ?」
「それこそ酷い偏見だわ」

呆れたように息を吐いたハルヒを尻目に、ジェットコースターに位置づけされるアトラクション名を探す。
……入場時の予感は当たっていた。高く聳える山の中心に、若干大きな赤点がある。
小見出しの文句は以下の通りだ。
"未体験の疾走感がここにある! 次世代型ジェットコースター『乙』"
漢字一文字で乙。実にシンプルな名前だね。
鶴屋財閥の期待に添えようと不眠不休で制作活動に勤しんだであろう制作者には悪いが……あんたのネーミングセンス、かなりキてるぞ?

「ここからだと、若干距離があるな」
「いい腹ごなしよ。早歩きでも構わないくらいだわ」

そうかい。胃袋の中で踊るサンドイッチを慮りつつ、俺たちは歩き出した。

だがしかし。使い古された言い回しだが――俺は想像もしていなかったのだ。
「乙」という一風変わった名前が意味する、後に絶叫系最強の名を欲しいままにしたジェットコースターの全貌を。

――――――――――――――――――――――――――――――――

「鶴屋財閥の財力は伊達じゃないわね。どう見ても本物じゃないの」

悠然と構える山の天辺を眺めながら、ハルヒは言った。
衒いのある笑みはまさに"好敵手に不足なし"といった感じであり、十分な自信が窺える
並の絶叫好きなら尻尾を巻いて逃げ出すような迫力に、ハルヒは一歩も動じていなかった。
無論、それは数多の絶叫アトラクションをこなしてきた俺にも言えることで、俺は至極冷静に「乙」を考察していた。
遠目に見えた曲線の交差は、やはりレールだった。
険しい山の壁面を這うように張り巡らされている。目で追うだけでも眼精疲労になりそうだ。
山の構造はプリンみたいな細身の台形状で、乗車スペースまでのエスカレータは内部に設置されている。
だが――既存のジェットコースターをグレードアップさせただけのこのコースには、別段高揚感が沸いてくることもなく、
なんらかの仕掛けがあるには違いないと予想している分、突然の変則的挙動にもさして驚くことなくコースが終わってしまいそうな気がする。

「二名様ですね。それではこちらへ……非常用エレベータをお使い下さい」

相変わらず、万能チケットの効力は絶大だった。
一般用のスロープを使うことなく、山の中腹あたりの乗車スペースにまで一気にワープする。
無線で話は伝わっていたようだ。係員はエレベータから現れた俺たちに一礼すると、

「ご自由に乗車席をお選び下さい。次着までには時間があります」

ここまで優遇されると謝りたくなってくる。

「どうする? あたしとしては一番前がいいんだけど」
「そうだな、俺の希望は――」

1、一番前がいい(身構え不可)
2、一番後ろがいい(身構え可)
>>670


670 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/15(土) 18:04:01.70 ID:RlhQ+ZKt0

1いいいいいいいいいいいいいいいいいいいい


「―――俺も一番前がいい。後ろも後ろで別の落下感が楽しめるが、最初だしな」
「決まりね。あ、来たみたいよ!」

意見が合致した絶妙のタイミングで、乗車スペースに機体が滑り込んできた。低い駆動音が反響する。
だが、固定具を外されて乗客が次々に降りていった――その時だった。
あるはずのものが欠けている。そんな違和感が俺に危険信号を告げていた。
そしてその違和感に、ハルヒはいち早く気づいたようで、

「フツーさぁ。もっと余韻醒めやらぬ、って感じよね。みんな、不自然なまでにテンションが低いわ」
「確かに。付添人に立たせて貰ってるやつもいるしな」

違和感の正体は、乗客全体に言える憔悴っぷりだった。絶叫系の醍醐味は、スリルによる一時的興奮である。
大抵の場合、隣同士で「すごかったなー」なんて有り体な感想を述べながら降車するもんなんだが――

「乗車下さいませ」

係員の機械的な声に、俺は思考を中断した。
恐らくさっきの乗客はジェットコースター慣れしていない初心者か中級者ばかりだったのだろう、と勝手に結論づけて最前列に座る。
続けて、俺の右隣にハルヒが座る。発車を心待ちにしているのだろうか、ハルヒには落ち着きがない。手と手は、今にも触れそうな距離。

「なあハルヒ、もしお前が怖いんなら、」

刹那、体の内側から引っ張られるような感覚が俺を襲う。
俺が冗談半分本気半分に言いかけた科白は、強制的に流された。

「――なに――?」
「――なんでも――ない――!」

乗車スペースを飛び出す。風と高い日差しに目が眩む。
高揚感に瞳を燦然と輝かせているハルヒを尻目に――俺は右手を引っ込めた。

レールの機会補助による急加速の後に待ち受けていたのは、これまた重力に任せた急降下だった。
速い。まだまだ許容範囲内だが、序盤でこのスピードは異例だ。

「キャ―――!!!!」

黄色い悲鳴が後方から飛んでくる。右隣のハルヒといえば、俺の予想に寸分違わぬ澄まし顔。
急降下のお次は急上昇だ。強烈なGが体にかかる。空気が一気に質量を帯びたような錯覚に陥る。

「ねぇ――見て―――!」

興奮した声に振り向くと、そこには100万ドルの夜景に勝るとも劣らぬ絶景が広がっていた。思わず息が漏れた。
テーマパーク内を一望できる、束の間の俯瞰視点。固定具がなけりゃ、ハルヒのデジカメに納めていたところだぜ。

「――――うぉっ!」

が、そんな感想を述べるまでジェットコースターが待機してくれるわけもなく、

「――――ひゃうんっ!」

再び疾走を開始する。乗車前に見ていたレールを、実際に走り抜けていく。
気がふれたかのような激しいアップダウンに、壁面をなぞるような高速蛇行。
どれも今までのジェットコースターの常識を無視した軌道ばかり。まるで滅茶苦茶だ。

でも……俺は認めなくちゃならない。

「キョン――これ―――すっごく――おもしろいわ――!!」
「ああ―――こんなの――初めてだ―――!!」

今までに乗ったどのジェットコースター、いや、どの絶叫マシンより、この「乙」の方が文句ナシに面白い。
「乙」はその垢抜けない名前とは裏腹に、とてつもないスリルと疾走感を持ち合わせている。制作者様、どうか先ほどのご無礼をお許し下さい。

だが。喜楽の時は速く、怒哀の時は遅く流れるのが、時間の道理というものである。
あれほど張り巡らされていたレールもあっという間に走り過ぎ、

「――ふぅ、もう終わり?」
「――そうみたいだな」

徐々に減速していく機体に、ハルヒは不満そうに零す。

「もっと乗っていたかったわ。短すぎるわよ」
「お前の感想には同感だがな。俺たちがマイノリティであることを忘れちゃダメだ」

後ろを見てみろ、と顎で示す。振り返ってから数秒後、

「……一般の人にはちょっとスリルが強すぎたのかしら」

ハルヒは得心したように頷いた。
あれほどうるさかった黄色い悲鳴は、中盤あたりから尻すぼみになり始め、終盤あたりまでくると完全に沈黙していた。
見なくても分かる。後部座席では阿鼻叫喚の地獄絵図とまではいかぬとも、疲弊しきった乗客が困憊の呻きを漏らしていることだろう。

「そういうことだ。俺たちにはあのチケットがあるから、心ゆくまで何度も乗ることができる」

ハルヒは胸元のチケットホルダーを見下ろして微笑んだ。そう、今日だけじゃなくて、俺たちはいつでもこれるんだ。
俺はハルヒにそれを伝えようとし―――ガチリ、という撃鉄が落ちるような音に身を震わせた。

「今の音、なに?」
「分からん。歯車と歯車が噛み合ったような音に聞こえたが」

得体の知れないギミックが作動している事は確かだ。「乙」め、最後の最後に大仕掛けを残していやがったな。
360°全方向に移動しても大丈夫なよう、身構える。
だがそんな警戒を馬鹿にするように、コースターはゆっくりと、山の斜面に添って上昇し始めた。

いつ上昇専用レールから脇に逸れて、湧水が山壁を滴り落ちるがごとく落下を始めないかと身構えること十数秒。
コースターは終に、山の天辺――台形状なので、その上辺に当たる水平部分――にまで到達した。
序盤の絶景を超える偉観がここにある。
碧空との距離が、日常よりも近い。雲の切れ目から降り注ぐ日差しは、テーマパークの施設とそれを取り囲む自然を彩っていた。

「綺麗ねぇ……」
「めちゃくちゃ高いところにいるんだぜ、俺たち」
「うぉー、最高じゃん!」

屍と化していた後部座席の乗客も、にわかに生気を取り戻していた。
へぇ、最後の最後に眼福の贈り物か。制作者も粋な計らいをするじゃないか。

「なぁ、ハルヒ……って、どうしたんだ?」

同意を求めた先に返事はない。ハルヒはまるで眼軸を瞬間接着剤で固定されたかのように、レールの先を見据えている。
その様子を訝しんだ俺は、その視線をゆっくりと辿り、

「は?」

人間が理解不能な状態に陥ったときに漏らす感嘆詞ベスト3に入る言葉を漏らして絶句した。
山頂から水平に飛び出したレールが、途中で消失している。いやそれでは誤謬があるな。レールは元から存在しちゃいなかった。
10mほど飛び出したところで、意図的に途絶えさせられている。まるで海賊船に取り付けられた、投身台のように。
ハルヒの左手が、ぎゅっと俺の右手を握りしめた。コースターの直進は止まらない。
コースターは順調にレールに沿っていき――終に俺たちは、上空百十数メートルの高所に置いてきぼりにされた。

「あたしたちどうなるの? こんな高いところ、落ちたら死んじゃうわ!」

パニックに陥りかけているハルヒを宥めようと科白を探すが見当たらない。くそ、とにかく今は、可及的速やかにここから脱出を――
だが、俺が思考を纏める間もなく、「乙」のギミックが作動する。碧空が地に、地上が天に。風景が180°逆転した。
とてつもなく嫌な予感が――俺の脳裏を駆け抜けた。

咄嗟に本能が俺の空間把握能力に予防線を張るものの、間に合わない。
この後の進行ルートを予想するのは簡単だ。
反転したコースターはこのまま山壁を抉るように山の中に進入し、
滑らかな曲線を描きつつ出発地点へと戻って、ある漢字一文字を作り上げるに違いない。

「は……はは……感服するぜ……」

名は体を表すと言うが、乙、まさにその通りじゃないか。
諦観した頭で、俺は制作者に心からの拍手を送っていた。がくん、と体が揺れる。
焦らしタイムは終了したみたいだな。そろそろ、地獄への直行便が出発する時間だ。
鏡がないので分からないが。宙ぶらりんになったまま、俺は悟りを開いたような爽やかな笑みを浮かべているんだと思う。

「いやぁぁあぁぁああぁぁぁぁ!!!」

止まっていた時間が動き出す。どこか遠くで――
よく知っている団長様の、しかし滅多に耳にできない叫び声を聞きながら、俺は意識を失った。

――――――――――――――――――――――――――――――

頭が、痛い。
力の入らない瞼を少しずつ開ける。視界はまるでデタラメだった。
色という色が、ミキサーで攪拌されたみたいにぐるぐるとまわっている。
TFEI同士の攻性情報戦にでも巻き込まれているのか、俺は。

「…………だい……うぶ…かしら……」

どこか憂いを帯びた声が、濁った視界を若干クリアにする。
ふと、視界の端をハルヒの心配そうな顔が掠めた気がして、急速に意識が回復していく。
そうだ、俺は「乙」に乗って、最後の仕掛けで見事に意識を奪われて――情けない姿、ハルヒに見せちまったんだっけ。
でもいつまでも目を瞑ったまま自責していてもしかたがない。俺はハルヒに貶されるのを覚悟して、


1、一気に体を起こした
2、おそるおそる体を起こした


>>751までに多かったの 


750 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/15(土) 21:12:27.61 ID:fADiFG3LO

2

751 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/15(土) 21:12:37.52 ID:uSlW1qMZ0

2


俺はハルヒに貶されるのを覚悟して、一気に体を起こした――はずだった。
ごちん。鈍い音が、鈍痛とともに頭蓋骨内で反響する。しかし悲劇は終わらない。
地面に転がり落ちた俺は、美しく舗装されたアスファルトに強かに後頭部を打ち付け、
よもや陥没骨折しているんじゃないかという激痛にのたうち回りながら、

「いってぇええぇぇぇぇええぇぇえ!」
「痛いのはこっちよ! よくも頭突きなんか食らわしてくれたわね、このバカキョン!」

ハルヒの怒声に、自分の愚かさ加減を知った。
どうやら俺は、俺の顔を覗き込んでいたハルヒに正面衝突する形で頭を上げてしまったようである。

「すまん、まさかお前が目の前にいるとは知らず――」
「言い訳無用よ! まったく、団長であるあたしの恩を仇で返すだなんて、どーいうつもり?」

覚醒の絶叫から一転、平謝りに徹する俺。
ハルヒは烈火の如く怒っている。そうだよな、恩を仇で返したら怒って当然だよな、って

「ちょっと待て、俺はさっきまで失神して寝てたんだよな?」
「そうよ! だからあたしが膝枕してあげてたのに……あ」

怒気で飽和していた大気が緩む。ばっ、と口を覆い隠したハルヒは、しかし既に手遅れであると知暁したのか、

「あんたが失神なんて情けないことするからいけないのよ。はぁ〜あ、テンション下がるわね、もう」

まるで台本を読み上げるようなたどたどしさでそう言い終えて、くるりと俺に背を向けて、足早に歩き始めた。
酷ぇ。こっちのコンディションはまだ完璧じゃないってのに、放置していきやがった。
ハルヒの酷薄っぷりに溜息をつきつつ、先ほどまで寝ていたらしいベンチに視線を移す。
一枚の濡れたハンカチが落ちている。額に手をやれば、僅かな湿り気があった。
どうも、俺がハルヒに手厚い看病を受けていたというのは本当のことらしい。意識がなかったのが悔やまれるね。
ハンカチを拾って立ち上がる。さあ――あの感情表現が苦手な、心優しい団長様の背中を追いかけないと。

「……もう3時か、はやいもんだな」
「結構ジェットコースターで時間使っちゃったからね。誰かさんのせいで」
「はいはい、俺が失神しなかったらまだまだ時間があったって言いたいんだろ」
「ふふ、よくわかってるじゃないの」

「乙」降車後、俺たちはテーマパーク内を散策していた。
ハルヒの適当にぶらつきましょ、という提案が根因だ。
中央の噴水近くでドーナツワゴンを見つけて買い食いしたり、
再び見掛けたマスコットキャラクター「ちゅるやさん」に
好物らしいスモークチーズを与えたりと(中身は交代しているようだった)、
アトラクションなしでも、俺とハルヒはテーマパークでの時間を充実させていた。

「そろそろ歩き疲れたわね」

そんなわけがないだろうに、ハルヒは白々しく弱音を吐く。

「なんあらおんぶしてやってもいいんだぜ?」
「冗談きついわね。あ、でもお姫様だっこなら、王女気分になれていいかも」
「へいへい、それは恥ずいからまた今度な」

取り留めもない会話。それでも俺は感じていた。
ハルヒとの距離が、朝よりもずっと狭まっているということに。

さて――そろそろ散策も飽きてきた。この王女様と共に、夜までの時間をどうするか考えるとしよう。

1、アトラクション自由記述「」
2、アイスクリームが売られている。買ってみよう。
3、ん? どこからか視線を感じる。
>>830


830 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/15(土) 23:09:11.15 ID:kMzRaSTG0

1.こいずみくんライド


「どう、次に行くトコは決まったの?」
「…………」

次なるアトラクションを検索していた俺が、あり得ない名前の3Dシューティングアトラクションを見つけてそれを睥睨しはじめ、はや30秒が経つ。
"魔の手から地球を救え!こいずみくんライド☆"
平仮名表記というところを遊び心と感じるか一部の関係者を困惑させるための曖昧さと感じるかは、人それぞれ。
そして悲しいかな、俺は後者に分類される。「ちゅるやさん」と同じく可愛らしくデフォルメされた青年のキャラクターが、俺の懐疑に更に拍車を掛けていた。
眼を閉じれば眼窩で、イケメン超能力者が「ええ、僕がモデルなんですよ」と爽やかに謳っている様がエンドレスリピートされる。
訳もなくむかついて、俺は無性に、このアトラクションの詳細を確かめたくなった。

「もう、キョンってば! あたしの質問に――」
「お前、シューティングは得意か? そもそもお前、ゲーセン行ったことあるのか?」
「失礼ね! ゲーセンくらい行ったことあるわよ。シューティングゲームは、そうね、一度か二度くらいなら経験があるわよ」

胸を張って経歴を述べるハルヒ。分かった、つまりほぼ未経験ってことでいいんだな?

「どうしてそうなるのよ。あんた、あたしの射撃の腕をなめてるんじゃないでしょうね」

ハルヒの射貫くような瞳に、泳いでいた俺の視線が束縛される。
いや、お前の反射神経は誰もが認めるところだが……あんまり銃の扱いに長けた女の子なんていないだろ?

「それじゃ、その例外を今から示してあげるわ。さ、早くそのシューティングアトラクションに行きましょ!」
「道なりに進めば見えてくるはずだ。それなりにデカい建物らしい」

ハルヒは今までの散策モードを解き、意気揚々と俺の手を引いて「こいずみくんライド☆」に歩き始めた。
どうやら俺は、ハルヒの急性行動喚起爆薬の導火線にうっかり火をつけちまったらしい。
この状態になったハルヒを止める術はなく、あとは引きずられるままに身を任せるしかない。
にしても――この「☆」が語尾につくだけで、どんな硬派なネーミングでも幼児向けのアトラクションっぽくなるのはどうしてだろう。
読む者の言語処理能力を一時的に退行させる、魔的な秘密が含隠れているのかもしれないね。
閑話休題。

近未来を思わせるサイバネティックかつインテレクチュアルな建造物が見えてきたのは、それから間もなくのことだった。
なんてったって目立つ。だが、周囲のアトラクションが翳むくらいに存在感を顕わにしているのは、その前衛的な建築手法ではなく――
建造物の上で燦然と輝く、デフォルメされた古泉の巨大看板であった。これから陽が沈むにつれて、ネオンが点灯すんだろう。
もし俺がモデルなら、全財産をかけてでも取っ払いたい代物だ。よく了承したな、あいつも。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「貴重品はこちらで預からせていただきます。立体ゴーグルを各自お取り下さい」
「はーい。でも貴重品まで預かる必要があるのかしら?」

ハルヒの余計な質問に、係員は懇切丁寧に返答した。

「ゲーム中はプレイヤーが無防備なる可能性が高いのです。安全にご協力下さい」

待ち時間が3時間30分のところを待ち時間0分で通過した俺たちは、制服の毛色が若干他のアトラクションと異なった係員に、奥のブースに通された。
外面と同様内装も凝っていて、四面の壁の境界から専用リクライニングチェアまで、あらゆるオブジェクトが滑らかな流線型だった。
古泉主体のアトラクションにしては、勿体ないくらいの完成度である。
そして、まるで本当に未来の宇宙船に乗り込んだような気分になったのは俺だけではなかったようで、

「さっさと始めましょ。このゴーグルを付ければいいのよね?」

ハルヒが新しい玩具を与えられた子供のように、声を弾ませて聞いてきた。

「そうだ。チュートリアルが始まるから、最初は何もしなくていい」

せーの、と息を合わせて3Dゴーグルを付ける。暗転する視界。しかし幾ら待てども、肝心の映像が投影されない。
だが、俺が痺れを切らしてゴーグルを外そうとしたそのとき、

「こんにちは。このゲームの管理人、いちゅきです!」

意図的に変調された古泉の声が、俺の耳に届いた。崩壊しそうになる腹筋を必死に支えつつ、ハルヒの反応を耳だけで伺う。
どうやら笑いをこらえているわけでも驚きにたじろいでいるわけでもなさそうだ。意外と元が古泉だって気づかれないもんなんだな。
それで……えーっと……いちゅきくん、だったかな? 早速だが、このゲームの概要を説明してくれないか?

「このゲームは多人数参加型シューティングアクションです。
 他ブースに存在するプレイヤーと共に、地球の制服を目論む悪の巨人を倒すのが、このゲームの目標となります」

ザー、と視界にノイズが走ったあと、デフォルメされた古泉(ええい面倒だ、以下いちゅき)が現れる。
そいつは現実世界の古泉と同じく長広舌を垂れ始めたが、要約すると、こうだ。
人々が寝静まった夜。悪の巨人は街を壊すために眠りから目覚める。
それと同時に選ばれし者が覚醒し、街の破壊を阻止すべく、戦闘機「こいずみくん☆」を駆使して巨人と戦う――というのが一応のストーリー。
どう見ても流用だが、この際気にするのはよそう。
そして選ばれし者である俺とハルヒが、そのこいずみくん☆を操作するわけだが、

「勝手に要約されては僕の立場がありません。
 つまり、射撃役と移動役は別々になります。二名以上の場合は移動役は一人、残りは射撃役となります。
 丁度あなたたちは二人ですので、分担してください」

割り込んできたいちゅきに悪態をつきつつ、俺はハルヒに水を向けた。

「どうする? 俺はどちらでもいいが」
「んー、そうねえ。あたしも最初は撃つ方が楽しいかなって思ってたんだけど、
 3D空間を飛び回るっていうのもいいかも。キョンが決めていいわよ」


じゃあ俺は――

1、射撃担当
2、移動担当
>>900までに多かったの


892 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/16(日) 01:48:57.89 ID:vESNfxU7O

乙(ジェットコースター的な意味で)
1

893 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/16(日) 01:49:03.81 ID:GrfRnymV0



894 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/16(日) 01:49:25.22 ID:CnLnAFbe0



895 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/16(日) 01:49:46.27 ID:wkzKCFgoO

1

896 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/16(日) 01:50:47.08 ID:uyw6G47yO

乙!
安価は1だ!

897 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/16(日) 01:50:49.32 ID:+bkTi/Ic0

やっぱ撃つのはハルヒだろということで2

898 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/16(日) 01:50:50.01 ID:PhqAMlp9O

2!

>>890乙!!
俺も明日バイト7時上がりだ

899 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/16(日) 01:51:38.05 ID:ODHM1w1Y0

復活ktkr
2で

900 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/16(日) 01:51:50.09 ID:mJduV3rtO

1


じゃあ俺は――射撃を担当しよう。
中学校時代、シューティングゲームの覇王とまで謳われた国木田。
学校帰りにゲーセンに寄ったことは数知れず。その国木田に鍛え上げられた腕が鳴るぜ。

「あんたってシューティングゲーム得意だったの?」
「まあな。自称中級者上級者には一日の長があるつもりだが」

ハルヒは珍しく感心しているのか、ふーん、と細い息を漏らした後、

「じゃあ攻撃は任せるわ。あんたの働きには期待しているからね」

居丈高にそうのたまった。もう対巨人兵器戦闘機「こいずみくん」の船長になったつもりなのか?
二人しか乗組員はいないんだ、ヒエラルヒーなんてあってもなくても一緒だと思うんだが。

「気分よ気分! さ、それじゃ早速ゲームを始めましょ」
「了解しました。それではゲームを起動します」

親しみやすい口調から一転、懐かしい仰々しい口調になって、いちゅきが画面脇に退いた。
ゲームでよく見掛ける「Now loading...」の文字列が流れていく。そして――

轟音をかき消す轟音。空気を震わす衝撃の波。画面一杯に飛び交う紅玉。
天にも届かんばかりに聳え立つ巨人が、鈍い動きで長い腕を振り下ろし、

「きゃっ!!」
「うおっ!!」

俺たちの初期位置であるタワーの、二つ隣にあった廃ビルを吹き飛ばした。
鼓膜が張り裂けそうな爆風とともにコンクリート片が吹き荒れ、思わず顔を背ける。

「どうです、まるで現実世界をトレースしたようでしょう?」

気取った抑揚の声が聞こえてくる。そちらの方に視点を捻ると、
どういう理屈かは知らないが、とにかく3D化されたいちゅきが気障なポーズで佇んでいた。
先ほどまでのカジュアルな服装からインストラクタータイプにドレスアップされているものの、
それでも間抜けさが拭えないのは俺の腰程度までしかない身長故か。

「とても失礼なことを言われた気がしますが、説明を始めます。
 まず、専用チェアの肘掛けにあたるマニュピレーターに手を当ててください」

言われた通りに手をあてる。ひんやりとした感触が両手を包んだ。例えるなら、固めのゼラチンか。
興味本位で動かしてみると、前後左右に視点が動いた。ほう、主観視点のゲームが、さらに直感的になったような操作感だな。
FPSゲーム慣れしていなさそうなハルヒが気になって耳を欹てると、

「すっごいわね! えっと、こうしてこうしたら……」

早くもゲームの仕様に順応しているようだ。無用な心配だったな。
暴れ続けている巨人と、その周囲を高速で飛び駆けている機体群をバックに、いちゅきは説明を続ける。

「プレイヤー操作に関してはお分かりいただけましたか?
 それでは次に、対巨人兵器こいずみくんの初期機体タイプを選択していただきます」

いちゅきの可愛らしい指が、パチリと鳴った。
なんでもありの3D空間。燐光が弾けた後、俺の眼には三台の「こいずみくん」がまるで最初からそこにあったかのように映っていた。
カラーリングは青、赤、黄の三原色だった。もしかして、ゲームシステムは従来のそれを採用しているのか?

「ええ。もうお分かりかと思いますが、赤は攻撃力重視、青は敏捷性重視、黄は中立的な性能となっています。ご自由にお選びください」
「あたしは断然、攻撃重視の赤ね。回避よりも先に相手を叩き潰すのよ」

俺の隣で危険思想を仄めかすハルヒはおいといて。この選択は、この先のゲーム進行に大きく影響を与えそうだ。
ここは――「    」のこいずみくんに乗ろう
>>58  赤、青、黄のいずれかを記入


58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/16(日) 20:14:29.48 ID:hhwEe9dr0

●<赤


ここは赤のこいずみくんに乗ろう。いくらゲーム内で直感的な操作が可能だとしても、超初心者の俺とハルヒの操作はしばらく不安定だ。
精密な動作や高度なテクニックを要求する敏捷タイプは、まず使いこなせない。
だから俺は、少々無様でもバシバシ攻撃できるタイプの方が楽しめるんじゃないか、と考えたのだ。
奇しくもハルヒの意見と合致してしまったわけだが、ま、俺の選択理由はハルヒのに比べて至極合理的なんだし、
ハルヒの気も害せずにすんだのだから一石二鳥ということでよしとしよう。

「それでは搭乗下さい。近づいて決定ボタンです」

マニュピレーターを動かす。途端、視点が切り替わって、気づけば俺は、後部のコックピットに乗り込んでいた。
遅れてハルヒも乗り込んでくる。二人揃ったのを確認して、各種ディスプレイが点灯しはじめた。

「無事搭乗できたようですね。次に、こいずみくんの操作方法を――」

機体の壁を透過して、いちゅきの姿がインストラクションを続行する。
が、俺ははやくも、いちゅきの話に耳を傾けるのをやめて、憐憫の視線を送っていた。
お前の講説はありがたいんだが、生憎俺には必要ないし、うちの船長にはちょいと長すぎたみたいだ。
懲りずに続けるのは構わないが……お前、そこにいたら轢かれるぜ?

「ふむふむ、このペダルがアクセルでこっちのレバーがブレーキね。レーダーも良好、と」

ハルヒは順調に点検を済ませていく。腹に響くような駆動音が、耳元で鳴る。臨場感は抜群だ。

「え、ちょっと待ってください! まだ説明が終わってません!」
「んー、それね。もういいわ」

すっかりいちゅきに関心をなくしたハルヒに、アクセルが踏み込まれる。当然のこと、出力は全開で。

「そんな、あ、滑走路はこっちです―――ご、御武運を――お祈り―――」

景色が加速する。途切れ途切れのいちゅきの言葉に見送られて、俺たちは夜の街に飛び出した。

巨人を中心にして広がる広大なフィールド。その遙か上空を、俺たちは戦闘に加わらず飛翔していた。
発進時の機体の不安定さは、チェアからは微振動として、画面からは不規則な揺れとして表現されていた。
恐らく、こいずみくんが被弾、もしくは衝突したら、もっと激しい振動が返ってくるのだろう。

「キョン……あたしたち、空を飛んでるわ……雲も、月も、本当に本物みたいね……」

美麗なグラフィクスに陶酔しているハルヒをよそに、俺は試し打ちをしていた。
通常射撃ボタンでは、中くらいの紅弾が発車される。レバー脇に設置されたスイッチは押しても反応がなく、どんな役割を果たすのか分からない。

「あと一分くらい、いちゅきの説明聞いてりゃよかったかもな」
「その内分かるでしょ。それより、そろそろ巨人をぶちのめしにいかない?」

ハルヒが操縦桿を片手で持ちつつ振り向いた。明らかに浮き足だっている。ま、それも当然か。
廃ビルから飛翔して3分後には、プロ顔負けのアクロバット飛行を可能にしているんだもんな。
末恐ろしい才覚だよ、まったく。

「それじゃ、行きますか」
「いい? やるからにはトップの成績を上げるまで射撃の手をゆるめちゃダメだからね!」

機首が傾き、自由落下を開始する。平和的観光の時は終了し、激しい戦火の中に飛び込む時間だ。
厚い雲を抜けた先。そこには青白い燐光を放つ、巨人の頭があった。
遠目でも覚悟していたが、いざ接近するとその巨大さに気圧されそうになる。
だが――こっちには巨人なんかとは比にならないくらいに心強い同乗員、いや船長がいる。

「撃って、撃って、撃ちまくりなさい!」

照準は元より外しようがなかった。いっぱいにトリガーを引く。
甲高い音と共に、大量の紅弾が直線を描いて飛んでいく。1、2、3...Hit。

「やったわ、直撃よ! でも……あんま効いてないみたいね」

落胆したハルヒの声が、前部から届く。

「もっと近くで撃たないと、威力が減衰するのかもな」

吸い込まれるようにして巨人に落ちた紅弾は、しかし線香花火の終わりのように、火花を上げただけだった。
接近してからの射撃か、もしくは弱点を突いた射撃でないとダメージを与えることはできないようだ。

「面倒ね。ま、そっちの方がやりごたえあっていいけど」

だが、不利な条件と知って尚、ハルヒの姿勢に変わりはない。
そしてそれは俺にとっても好都合だ。弱点を発見するには危険を冒してでも接近しなくちゃならない。
巨人の攻撃にパイロットが怖じ気づいてるようじゃ、とても満足には攻撃できないからな。旋回していた機体が、再び降下を開始した。
街の風景が鮮明になり、他の「こいずみくん」が視認できる距離で、機首が持ち上がる。強烈なGに揺れる画面で、照準を定める。

「さあキョン、思う存分やりなさい。あの土手っ腹に大穴を開けてやるのよ!」

フルバーストで、紅弾をぶち込んでいく。ディスプレイ右脇のログに、Hitの文字がひっきりなしに流れていく。
今度は遠距離射撃とは違う、確かな手応えがあった。巨人が苦悶の咆哮を上げる。

「よし、効いてるぞ!」

と、俺が快哉を叫んでいたその時だった。宵闇が、影で一際暗くなる。俺が上を見上げたとき、既に巨人の豪腕は差し迫っていた。
……油断していた。こんなに上手く行くはずがなかったんだ。開始してから五分、俺たちはまともな戦果も上げられぬまま――

「なーに弱気になってんのよ」

ハルヒが弱気になった俺を一喝し、操縦桿をいっぱいに傾ける。巨人の腕は俺たちを掠めて、後方にあったビルにめり込んでいった。
まさに間一髪。事前にアクセルを踏み込んでいなけりゃモロに食らっていたはずだ。なあ、お前もしかして、巨人の攻撃を読んでいたのか?

「ふふん、あたしを誰だと思ってるの? 天才パイロット涼宮ハルヒよ!」

その言葉で、俺は自分の愚かさ加減を知った。

「はは、ほんとに馬鹿だな、俺は」

自虐的な嘲笑。ハルヒは持てる力を遺憾なく発揮して、射撃を補助してくれている。
そう、最初から俺は被弾を気にせず、撃つことだけに集中すれば良かったんだ。

「これからは遠慮なくいくぜ!」
「次に手を緩めたら許さないんだから!」

規範法則限界の急旋回から、巨人の体躯に張り付くような軌道を描き、振り払う手を躱しながら、サテライト飛行へ。
その間、紅弾はミリ単位で調整された軌道に沿って、巨人の間接部分を容赦なく穿ち爆砕する。
トリガーを引くごとに昔の勘を取り戻していく俺と、操縦桿をきるごとに飛行軌道の鋭さを増していくハルヒ。
天井知らずに、ポイントが加算されていく。

「そこよキョン。もう少しで膝が崩れるわ」
「オーケー。二度と立てなくしてやる」

回避と攻撃が一体となった、鮮やかなヒットアンドアウェイ。他のこいずみくんが距離を置くまでに、俺たちの攻撃は凄まじかった。
そして――ゲーム開始から20分。巨人は、その惨憺たる巨躯を横たえて、燐光となって消滅した。
気づけば、俺たちのこいずみくん――名称・SOS――の獲得ポイントは、全体プレイヤーの2位にまで上り詰めていた。

―――――――――――――――――――――――――――――――

「1位ってどの機体なのかしら。気に入らないわね」

マニュピレーターから手を離しつつ、ハルヒが言った。
現在、巨人を倒し一躍有名となった俺たちは、高々度でこいずみくんを遊覧飛行モードに切り替えている。
眼下ではグレードアップした巨人が復活しているが、今は放置しておいて構わないだろう。

「世の中は広いんだ。俺たちを超える腕前のチームが存在していてもおかしくないだろうさ」
「だって悔しいじゃない。あんたには競争心ってものがないの?」
「あのな、これはプレイヤー同士がポイントを競うゲームじゃないんだ。協力して巨人を倒すゲームだろ?」

俺自身忘れかけていたゲーム概要を、悪ガキを諭す先生のように言い聞かせる。
折角安穏とした3D空間ぶらり旅を満喫してるってのに、1位と決闘したいなんて言い出されちゃ堪らないからな。

「んー……じゃあ初心者をちょっと教育してあげるっていうのは、」
「駄目だ! 一度でもプレイヤーキルしてみろ。俺たちの評判は地に墜ちるぞ」
「いいじゃん、暇なんだしー」

分かったのか分かっていないのか、ハルヒは唇を尖らせて、外の景観を眺める作業に戻った。
しかし――このゲームプログラムが巨人狩りだけのものなら、
退屈のあまり俺がハルヒの暴論に賛同してしまう可能性がないとも言い切れない。
俺はコンソールを叩き、暇つぶしにプレイヤーリストを閲覧することにした。

Raven....Oracle....Jack/O.....Nineball....

どれもこれも知らない名前ばかり。ま、それも当然か。俺たちだってこいずみくんに搭乗してから識別名を入力したんだ。
既知の名前があるはずない。俺はリストを閉じかけて、

「おいハルヒ、一位が誰か分かるかもしれないぜ」

並び替えができることを発見した。ファンクションキーを操作し、ランキング表示に切り替える。
ハルヒが勢いよく振り向く。ディスプレイに四つの視線が集まる中、スクロールが始まる。十位、五位、三位、二位・SOS、そして――

「WAWAWAってなんだ?」
「WAWAWAってなによ?」

俺たちは、仲良く揃って同音同句の疑問を口にした。WAが三つ。命名者の真意が、読み取ろうにも読み取れない。

「特定の人間だけに分かる、何かの暗号かしら」

口元に手を当てて、ハルヒが推量を述べる。

「一理あるな。でも、WAWAWAの英字六つじゃ、暗号の籠めようがないと思うんだが」
「確かに無理があるわね。籠められたら籠められたらで凄いけど」

的確な俺の反論に、機内に沈黙が降りる。やがて解読を諦めたハルヒが、がしがしと髪を掻きむしって、

「WAが三つで[わわわ]……あーもう、理解不能だわ。もうちょっと捻りなさいよ、馬鹿じゃないの?」

悪癖を発揮し始めた。まあ、お前の歯に何かが挟まったようなむず痒さは分からんでもないが、

「こいつにはパイロットのセンスがあっても、ネーミングのセンスは最悪だったんだろ」
「じゃあ、適当につけたのかもね」
「その可能性が高い。ま、どっちにせよ、命名者が馬鹿であることに変わりはなさそうだ」

議論の焦点は、いつの間にか名前の真意解読から命名者への暴言大会にシフトしていた。
が、その謂われない誹謗中傷が電子情報となって届いたのか。はたまた安全区域で機体を遊ばせている俺たちを偶然見掛けたのか。

『馬鹿で悪かったな! お前ら、好き勝手罵りやがって』

強制的に通信回線が開き、元悪徳消費者金融の変声機使用済みボイスそっくりの声が聞こえてきた。
不味いな、もしかして今までの会話全て、丸聞こえだったりしたのだろうか。俺は一瞬、建前の謝辞を述べようとし、

「あんた誰よ! こっちはのんびりゲーム楽しんでるのに、邪魔しないでよね!」

挑発的な怒鳴り声にかき消された。威圧者に対する反抗姿勢は折り紙付きのハルヒである。だが、相手も黙って引き下がるような小心者ではない。

『俺か? 聞いて驚け! 俺はWAWAWAのキャプテンだぜ!』

「へぇそうなの。だから?」

だがしかし、口喧嘩では古今東西無敵を誇るハルヒ。
反抗されようものなら、反抗意志がなくなるまで打ちのめすのがこいつのやり方だ。

『だからって、ええと、だから………』

超高速ジャブで相手を困惑させ、追撃をたたき込んでいく。

「はっきり喋りなさいよ、情けないわね! あんたそれでも男なの?」
『男に決まってんだろ、俺のナンパ歴をなめんじゃねえぞ!』
「あたしナンパする男って大嫌いなのよね。軽いっていうか馬鹿っぽいっていうか」
『あ、また馬鹿って言ったな!』

キャプテンの切ない叫びが、スピーカー越しに響く。激昂しているのは明瞭だ。
ハルヒは止めに、冷艶な猫なで声でこう言った。

「あんたの言葉全てが馬鹿っぽいのよ。底が知れるわね」
『うわぁぁぁあぁぁぁぁぁぁあぁぁ』

なあハルヒ。もうそこまでにしておかないか。相手も十分反省しているみたいだし、
つーか、元はといえば俺たちが喧嘩売ったようなもんなんだし。

「あんたが言うならやめるわ」

素直に身を退いてくれたハルヒに安堵する。俺は三点リーダを垂れ流している通信を遮断しようとして、

『うちのが好き勝手に喋ってごめんなさい。僕らの用件は口論じゃないんだ』

どこか聞き覚えのある、幼い声音を聞いていた。いかに高性能な変声機であろうとも、声の特徴全てを隠蔽できるわけではない。

「口論じゃないとすると、何なんだ?」
「純粋に、君たちと腕を競いあいたくなったんだよ。ログイン時間は互いにほぼ同時刻。
 ポイント獲得効率においてはこちらの方が若干上回っているけれど、実力は大差ないと思うんだよねぇ」

数値上では計れないことがある。だから実際に戦闘をして、どちらが上か確かめたいと?

「そういうこと。勿論、この戦闘において君たちには何のメリットもない。ハイリスクノーリターン。
 僕の完璧な恣意的申し出だよ。賞品を用意できたらいいんだけど、賭け試合以前に、PKが禁止されているからね、このゲーム」

不合理だよねぇ、とさも残念そうにシステムへの不満を零す、第二の搭乗員。
先鋒のお調子者は自分がキャプテンだと豪語していたが、実質の指揮官はこいつと見てまず間違いないだろう。

「どうだい? 僕の我侭を聞いてくれるかなぁ?」

軽く放り投げられた挑戦状。だが、この三年間培ってきた俺の第六感が、そこに乗せられた覚悟の重みを告げていた。

「少し時間をくれ。こっちで相談するから」
「いいよ。なるべく早く返事が欲しいな」

スピーカーに暫しの別れを告げて、俺は前部座席に身を乗り出した。

「どうする? 面倒なことになっちまったけど、受けて立つか?」
「相手に不足はないわ。でも、あんたが気乗りしないなら蹴ってもいいわよ。わざわざ他のチームと揉めることもないんだし」
「えらく消極的じゃねえか。あれだけ退屈退屈って喚いてたのに」

こいつにとってはまさに千載一遇のイベントのはずだ。だが、ハルヒは煌々と夜空を照らす人工の月を瞳に浮かべつつ、

「あまりこのアトラクションだけに時間を使うことはできないわ。よ、夜のイベントだってたくさんあるんだし……」

俺は―――「     」   1、受けて立ってやる! 2、ハルヒの意向を尊重しよう  >>205までに多かったの


194 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/17(月) 01:40:03.99 ID:1vMtrr88O

1

195 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/17(月) 01:40:12.30 ID:0qBAdE52O

1

196 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/17(月) 01:40:29.10 ID:yfpp92G30

2

197 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/17(月) 01:40:29.56 ID:6OVHxgza0

1 のバトルで

198 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/17(月) 01:40:32.48 ID:Op7L+s3x0

1

199 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/17(月) 01:40:57.68 ID:A2Q8sigt0

うはwwwww明日起きられねぇwwww

おやすみ


明日は夜7時過ぎに

人集まるといいなー

200 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/17(月) 01:42:00.98 ID:rzK+Ap9x0

2

201 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/17(月) 01:43:29.58 ID:jzHAwdRj0



202 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/17(月) 01:43:31.90 ID:LdNjvqn80

ハルヒのために2

203 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/17(月) 01:44:07.75 ID:MesIzPG00



204 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/17(月) 01:44:29.34 ID:79hI5x8+O

2

205 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/17(月) 01:45:11.81 ID:Bozg/kJh0




トップランカーからの誘いを受けて、若干なりとも浮き足立っていた思考が冷えていく。
相手の、どちらが上なのか明確にしたい気持ちはよく分かる。
でもそれはあくまで、相手側の都合だ。受けて立ってやる義務はない。

「悪いが、今回はパスさせてもらう」
「キョン……」

ハルヒが、息を呑んでこちらを見つめる。いや、これはだな。
予約済みのディナーショーに夜影に映えるアトラクションと、夜のイベントは盛りだくさんだ。
お前の言うとおり、一つのアトラクションで時間を潰しすぎるのもどうかと思ったのさ。

『どうしてだい? こういった科白は好まないんだけど、もしかして怖いのかな?』

挑発にしては随分やんわりした物腰だな。
俺の意志を挫きたいなら、せめて臨戦態勢の森園生さんレベルでないと埒外もいいとこだぜ?

「畏れをなして逃げ出したとでもなんとでも思ってくれて結構だ。
 こっちにも予定があってな、いつまでもこいずみくんライド☆にかまけてる余裕はねえんだよ」

きっぱりと挑戦状受諾不可を表明する。それを聞いた相手の男は、

『どうせ――がダダこねんたんだ――くそ――』
『これで良かったのね―――争い――よくないのね――』

しばらくWAWAWAチームの面々とプチ議論をしているようだったが、

『そこまで言うなら諦めるよ』

やがて、心底残念そうにそう呟いた。
ネチネチ嫌味を言われるんじゃないかと気構えていた分だけ、拍子抜けする俺とハルヒ。

『君たちにも予定がある。熱くなりすぎて、そんな当たり前のことを失念していたよ』
「分かってくれたならいい。またの機会にでも対戦しようぜ」

社交辞令の挨拶を投げ返す。すると男は、スピーカー越しでも聞こえるように大きく溜息をついて、

『迷惑をかけてごめん。それじゃまたね、キョン』

最後の最後に――超ド級(死語か?)の爆弾を残して一方的に通信を切りやがった。

「おい待て、なんで俺の名前を知ってる!?」

個人情報を握られているという不安が、自動的に声のトーンを跳ね上げる。
が、既に通信は完全に切断されており、俺の声は虚しく機内に響くのみ。

「あんたをキョンって呼ぶのって……限られた人間しかいないわよね」

ハルヒは我が身のことのように表情を翳らせている。お前は余計な心配しなくていいんだ。
ほら、もしかしたら俺の知人だったのかもしれん。
大人数が集まる人気アトラクション内で遭遇する可能性はまさに天文学的確率だが、絶対ないとも言い切れないしな。

「違うわよ、あたしが心配してるのは――」

がしかし、俺のフォローはハルヒの心中を穏やかにするには微々たりとも役に立たなかったようで、

「ああもう、なんでこうなるのかしら!」

苛立ちを隠そうともしないまま、出発地点へと機体を下降させはじめた。
俺のことを知っている人間がいたことで不快指数が上がるのは俺であってもハルヒではあり得ないのに、何故こいつが苛立っているんだろう。
煮え切らない疑問が、胃に耽溺していく。轟という風を切る音や窓外の風景が、急に、色褪せて感じられた。

――――――――――――――――――――――――――――――

さて、3Dゴーグルから解放された俺とハルヒが、網膜に映る現実の非現実っぷりと三半規管の麻痺によって
慢性的な地震に襲われている通路を互いに支え合いながら進み、こいずみくんライド☆の正面玄関まで辿りつくと、

「こんにちわ……じゃなくて、こんばんわなのね。キョンくんと涼宮さん」
「よう、待ちわびたぜ。お前らには言いたいことが山ほどある」
「キョンの断り文句が虚言だったのか、疑いをかけ始めていたところだったんだ」

よく見知った面々が、それぞれ別の感情を胸に秘めて待ち受けていた。胃に溜まっていた不安が、瞬間的に氷解していく。

「野暮な質問だとは思うが、一応聞いとく。WAWAWAってのはお前らのチーム名か?」
「スタイリッシュかつハイテクなフォルムを連想させる、最高にイかした名前だろ? 俺が名付けたんだ――」

無駄に外来語を頻用する谷口は華麗にスルーして、

「そうだよ、勝負を持ちかけたのは僕だ。
 中学時代からキョンがどこまで成長したのか確認したかったんだけどねぇ」

国木田が仮想空間での未練を垂れ流す。
そして最後に半歩退いていた阪中さんが、

「あのね、最初に気づいたのはあたしだったの。SOSっていったら、涼宮さんとキョンくんの二人しかいないもんね」

得意げに発見時の感動を披露してくれた。
つまり――俺たちの活躍の一部始終を見届けた後、谷口が勝手に首位権限で自動音声加工の通信を開き、
平和主義者の阪中が制止するにも関わらず、国木田が中学時代のシューティング魂を再燃させて俺に非公式試合を申し込み、
俺がそれを蹴った、と。事の顛末はそういうわけか?

「概ねそれで合ってるよ。ほんと、キョンが僕の申し出を断るとは予想外だったんだけどさ」

そう恨めしげな眼でこっちを見るな。俺だって、お前と白黒つけたい気持ちは山々だったんだが――

「分かってる。予定があったんでしょ? 無理をいったのは僕なんだし、気に病むことはないよ。ゲーム中でも言ったけどね」
「ああ、キョンは悪くないぜ。"予定"があったんだからな。
 ところで、涼宮のやつはどこ行ったんだ? さっきからあいつの姿が見えないんだが」

会話に割り込んできた谷口に辟易しつつ、俺は周囲を見渡した。
確かに言われてみれば、正面玄関まで肩を支えてやっていたハルヒは先ほどから気配を絶っている。
さっきまで隣にいたはずなんだがな。俺は古泉ばりに肩を竦めて

「さあな、トイレにでも行ったんじゃ、」

最もありえそうな消息理由を述べようとし、

「あ、涼宮さん、キョンくんの背中に隠れてるのね!」

服の背面部分を急激に引っ張られ、後ろにひっくり返りそうになった。
首をいっぱいに傾けて背中を見ると、俺の服を両手で握りしめ、身を縮めているハルヒの姿が。何やってんだお前は。

「改めてこんばんわだな、涼宮。散々俺のネーミングを馬鹿にしてくれた分、しっかりお返しさせてもらうぜ」

谷口がいやらしく口端を歪める。ビクリと身を震わせたハルヒは、まるで親鳥の庇護なしでは生きられぬ雛鳥のようだ。
妙に高圧的な谷口と、萎縮しているハルヒ。立場が、日常と完全に逆転している。

「さてさて、俺の純粋な好奇心から生まれ落ちた疑問にきっちり回答してもらうぜ。
 なぁに、考える時間が要らないくらい簡単な質問だ」
「な、何よ……」
「何故お前らが二人っきりでここにいる? あの妙ちきりんな活動の一環なら、他のメンバーもいるはずだろ?」

言って谷口は、俺に「黙ってろ」と目配せした。こんな問答に何の意味があるんだか。時間の無駄だとしか思えないね。

生意気な口調に激怒したハルヒに、こてんぱんにされる谷口を予見する。

「それは……キョンが……たまには、二人でって……」

だが。ハルヒの口から漏れ出たのは、通常時の覇気が数百倍にまで稀釈化された弱々しい一言のみであった。

「ほう。それでお前は了承したわけだ。二人で。テーマパークに。デートしようっていう誘いにな?」

もうそこらへんにしといてあげなよ、という国木田の制止も聞かず、谷口は続ける。

「お前らっていつも一緒だよなー。学校でもプライベートでもさ。
 俺、お前らのことを見る度に勘違いしちまいそうになるんだよな。もしかしてお前ら――おっと、危ない。この先は口が裂けても言えねえ」

谷口は際限なく調子に乗っていく。俺は普段と明らかに様子が違うハルヒが気になって、

「おい、どうして何も言い返さないんだ――」

再び首を捻ったまま驚愕のあまり硬化していた。ハルヒは、まるで重度の黄熱病に罹患したかのように顔を紅く染めている。
外気との気温差で、肌が過敏に反応したのだろうか。ポケットにつっこんでいたおかげで暖まっていた両手で、ハルヒの頬を包み込む。

「大丈夫か? 寒いんなら言えば良かったのに、なんで黙ってたんだ」
「え……あ……うん」

しどろもどろに返事をするハルヒ。その声は細く、今にも消え入りそうである。
どうやらここらで、谷口に熱〜いお灸を据える必要があるみたいだね。
制裁、粛正といった役所は本来俺にまわってくることがなく(主にハルヒ担当)、今回はかなり希少性の高いケースなのだが、
会話の流れからするにハルヒをこんな風にしちまった責任の一端は俺が担っているみたいだし、
懲らしめる対象が谷口であることが、行為後の後腐れのなさを裏付けしている。例え思う存分やっても、お咎めを食らうことはないだろう。

「ところで谷口。昨日の話では男女比率1対1といった話だったが、女子は阪中一人だけみたいだな」

出来の悪い小学生でも分かるぜ。現在の男女比率が2対1という数学的矛盾にな。

「とすると普通に考えて、お前らのどちらかが、誘いをかけてフラれたこということになる」

俺は明日の天気予報を尋ねるように、すっかり菫色に染まった西空を眺めながら、

「あー、阪中。お前は国木田と谷口、どちらに誘われたか憶えてるか?」
「えーっと……」
「言うな阪中! こいつは極悪非道な犯罪者予備軍だ、うかつに口を滑らすと――むごむご」

出し抜けに支離滅裂な言葉を吐き出し始めた谷口を、後ろから羽交い締めにする。さあ、続きをどうぞ。

「国木田くんが誘ってくれたのね。明日一緒に行こうって。あたし、とっても嬉しかったのね」
「阪中さんは以前からこのテーマパークに行きたがってたからね。丁度いいと思ったんだ」

にこやかに会話を紡ぎはじめた国木田と阪中。その微笑ましい光景を見遣りつつ。
俺は静かに、今となっては浜辺に打ち上げられた海月のように消沈した谷口に、止めの剣を突き刺した。

「ということは、だ。誰一人として女子を誘えなかったのは、谷口――お前ということになる。
 いや、誘ってはみたが誰にも承諾してもらえなかった、といった方が語弊が少ないのかもしれないが」
「wawa......wawaa.....wa........wawaaa.........wawawa.....」

壊れたラジオと化した谷口。国木田と阪中の手によって、不燃物処理場へと廃棄されるのは時間の問題だろう。

「仇は討ったぞ、ハルヒ」

もう大丈夫だぞ、と背中に隠れていたハルヒに呼びかける。
精神的ダメージによって事実上沈黙した谷口を見て、ハルヒは少しだけ微笑んだ。

「あ、ありがと。でも、あんたにしてはちょっとやりすぎかもね」

完熟林檎のようだった頬は白磁の色を取り戻していた。
見た感じ、熱はもう引いている。異常事態は一時的なものだったみたいだな。
俺は、もう一度頬を包もうと上げかけていた手を下ろし、

「お前ら三人は、これからどうするつもりだったんだ?」

阪中と談笑している国木田に水を向けた。

「僕たちはこれから夕食を取ろうかと考えていたんだよ。
 本当はもう少し遅くてもよかったんだけど、君たちが早々にゲームをやめちゃったから」

はいはい分かった分かった。いい加減しつこいぞ。今度お前と来たときは、心ゆくまで勝負してやるから。

「ルソー、ちゃんとご飯食べてるかな……」

夕食という単語を耳にした阪中は、遠い目で豪邸にいる愛犬のお食事事情を気に掛けていたが、

「そういえばキョンくんと涼宮さんは、もう食べるところ決まってるの?」

はた、と名案を思いついたように瞳を輝かせて、

「決まってないならあたしたちと一緒にどう? きっと、皆で食べれば楽しいのね!」

刹那――微妙な空気が流れた。国木田はフリーズドライされた野菜のように人懐こい笑みのまま静止し、
谷口は精神的大ダメージから立ち直れていないのかうんともすんとも言わず、ハルヒは酸欠状態に陥ったかのように口をぱくぱくとさせている。
阪中のお誘いは純粋に嬉しい。だが、俺たちは特待パスポートのおかげでディナーショーを予約してあることになっている。
予定の変更は俺とハルヒ次第。さて、どうしたものか――

1、ディナーショーに行こう。鶴屋さんの計らいを無碍にはできない。
2、阪中たちとどこかで適当に食べよう。また何かの拍子に、ハルヒが真っ赤になりそうで不安だが…   >>200までに多かったの


185 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/18(火) 00:58:30.16 ID:GJ/U0fPh0

これは1だろ…

186 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/18(火) 00:59:54.90 ID:FfaGoj3A0

1で

187 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/18(火) 00:59:57.74 ID:NPYLVpNL0



188 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/18(火) 01:00:23.91 ID:QbuP4+VA0

1以外ありえない

189 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/18(火) 01:00:33.89 ID:4NlXlU+m0



190 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/18(火) 01:00:35.32 ID:FAHE6gZI0

1だろう

191 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/18(火) 01:00:45.89 ID:+BViWJXYO

ここはあえて・・・
やっぱ1で

192 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/18(火) 01:00:48.67 ID:bGPcAidW0

1いやあえて2

193 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/18(火) 01:01:13.10 ID:O37uFNX3O

1

194 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/18(火) 01:01:15.46 ID:Tfjh1AvDO

さすがに1だな

195 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/18(火) 01:01:36.40 ID:7IJ6u6IJO

2にしようと思ったがやっぱ1

196 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/18(火) 01:01:45.80 ID:s01rChzj0

1しかなさげ

197 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/18(火) 01:02:03.90 ID:qzIx/DTO0

どう考えても1

198 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/18(火) 01:02:10.72 ID:214ANLH/0

1

199 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/18(火) 01:02:36.31 ID:oKoB8J7LO

1

200 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/18(火) 01:02:38.40 ID:y3Rrb9ekO




「誘いは嬉しいんだが、ディナーショーを予約してるんだ。ここからは別行動ということになる」
「折角会えたのに。でも、それなら仕方ないのね」

納得したように頷く阪中。微妙に張り詰めていた空気が、徐々に呼吸しやすい空気に回帰する。
と、それに従って金縛りからとけたのだろう、国木田は引きつった笑みを解凍しながら、

「キョンと涼宮さんが予約しているのって、中央ホールのディナーショーのこと?」

頭に引っかかっていたものを取るようにそう尋ね、

「中央ホールで6時から、って書いてあるわ。ショーの内容は記載されていないけど……」
「すごいよ、本当に凄い!」

ハルヒがディナーショー開催位置を復唱した瞬間、驚嘆の声を上げた。そしてチケットが自分のものでないことに気づくと、

「いいなぁ。君たちが羨ましいよ。もし持っているのが君たちじゃなかったら、外聞をかなぐり捨ててまで手に入れたい代物だよ、それ」

羨望の視線を俺に、憧憬の視線を胸元のチケットホルダーに向けてくる。
高級料理のオンパレードであることは想像に難くないが、そこまで価値のあるものなのか? ショーの内容は未発表なんだぜ?

「キョンは情報誌とか読まないんだよね。いいかい、今日そこでライブするのは――」
「そろそろ行くのね。あたし、お腹空いちゃった」

気になる部分で、阪中が会話を分断する。だが、その催促ももっともだ。
ふと空を見上げれば。菫色だった空は紺碧に塗り替えられていて、
仮想空間とは違う現実の月は、時間と共に確実に存在感を増し始めていた。夜の帳が、降りようとしている。

「それじゃ、そろそろ僕たちは行くよ。また学校で」
「wawa......waa....wa........じゃあな、キョン」
「寂しいけど、バイバイなのね」

じゃあな、と軽く手を振って別れを告げる。
最後まで壊れたままの谷口が少し気がかりだったが、明後日あたりには完全に自己修復しているだろうし、
俺があいつ言葉責めをしたことは悔悟すべき事柄じゃない、と割り切ることにした。

「俺たちも行くか。中央ホールまでは遠いから、今から向かえば丁度開演時刻の30分前ってところだ」
「………え、なに?」

ハルヒは三人が雑踏に紛れた方に、目を奪われていた。双眸はまるで寝起き時のようにトロンとしている。
まだこいずみくんライド☆の感覚が抜けきっていないのか? なんならもう10分くらい休憩してもいいが。

「ううん、もう大丈夫よ。さっきはなんて言ったの?」
「時間が迫ってるし、そろそろディナーショーに行かないか、と」
「そうね。でも30分も時間あるなら、ちょっと寄り道していってもいいかも」

こいずみくんライド☆前からは、それぞれ東方面と南方面に通じる大きな通路が、二本に分かれている。
寄り道せずに直行するもよし、開演時間ギリギリまで寄り道していくもよし。だが……こういう二択ってのは決めるのが難しい。
寄り道すれば思わぬ出会いがあるかもしれないし、早めにホール前に行けばバンドの人たちと会えるかもしれない。
どちらにするか悩んだ挙げ句、俺はハルヒに選択権を譲渡しようとし、

「キョンが決めて良いわよ。あたしはそれに従うわ」

例によって例の如く、俺の判断力に一任された。ここは――


1、まだ時間はある。寄り道しよう
2、寄り道せず、真っ直ぐホールに行こう
3、ハルヒは少し眠そう(?)だった。ベンチで休憩しよう

>>255までに多かったの


249 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/18(火) 02:27:21.13 ID:bGPcAidW0



250 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/18(火) 02:27:53.88 ID:pJCOJbmkO

3

251 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/18(火) 02:27:59.02 ID:Pzf5bCR60

>>248
乙です。

252 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/18(火) 02:28:08.89 ID:6EoWwGt3O

3で

253 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/18(火) 02:28:22.76 ID:7IJ6u6IJO



254 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/18(火) 02:28:43.42 ID:9/M/tfeuO

3

255 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/18(火) 02:29:46.25 ID:6cg0hYbZ0




「それよりお前、疲れてるんじゃないのか? さっきも顔紅かったし」
「いきなり何よ。あたしはちっとも疲れてないし、顔も全然紅くなんか――」

ごにょごにょと否定するハルヒの手を引いて、近場のベンチに座らせる。
強引な形になったが、これもお前の身を慮っての行動なんだ。批判は受け付けないぜ。

「こんなとこでじっとしてるなんて勿体ないわ。何考えてるわけ?」

激しく抵抗するとまではいかないものの、脚をパタパタとさせるハルヒ。
そのなんでもないような仕草に、息が詰まりそうになる。あぁー、その。ここで誤解なきようにするには、
休憩所望の人間が溢れている夜のテーマパーク内で、ゆとりを持って座るためだけにベンチを専用することはまず不可能であり、
よって零に等しくなったハルヒとの距離のせいで揺れる艶美な脚線が網膜に映り込んだのは不可抗力であったと弁明しなければなるまい。
俺は湧き出ようとする劣情を押しとどめるべく瞑目し、

「じゃあ、これならいいか? 俺が休みたくなったんだんだ。こいずみくんライド☆で疲れたんだよ」

先ほどの提案は「俺の我侭」だということにした。これならハルヒは俺の提案を無碍にはできまい。
他人の懇意を尊重するようになったハルヒの心理の逆利用。二年前には想像だにしなかったそれを、俺は識域下で実践していた。

「よくぬけぬけと心にもないことを言えるわね。いいわよ、あんたがそういうなら座っててあげる」

しょうがないわね、と溜息をついてハルヒは脚の動きを止めた。二重の意味で安堵する。

「もう知ってるヤツには会いたくないわね」
「どうしてだ?」
「だって面倒じゃない。まあそれでもアホの谷口よりは万倍マシだけど」
「夜になっても人は減るどころか増えてるんだ。また誰かと鉢合わせするかもしれないぜ」
「その時はダッシュで逃げるわ。あんたも一々声かけちゃ駄目だかんね」

極度に既知の人物との接触を避けるハルヒに、吹き出しそうになる。お前、誰かに弱みでも握られてるのか?

「まあ、そんなもんかしら……」

語尾を曖昧にしたまま、ハルヒは顔を渋めて空を仰いだ。
手持ちぶさたになった俺も、空の代わりに雑踏へ視線を落とす。
刻々と時間は過ぎていく。老若男女の人波は、夜の食事場を求めて走り回っていた。
如何に巨大テーマパークといえども、内包できるレストランやファストフードの数には限度がある。
夜と昼の境界にあたるこの時間帯。
有名店は言わずもがな、さほど注目されていない店でも、その店外には長蛇の列ができているに違いない。

「食事一つするにも一苦労だな。俺たちは並ぶ必要ない分ゆっくりできるが」

感想を投げつつ、右隣から消えた気配を辿る。灰色のコートの男性が、雑踏の中に消えていった。
一人、また一人と、ベンチから人が消えていく。それと比例するように、雑踏の人影は増していった。

「大都会の大通りの再現みたいだ。いや、それ以上か」

混沌としてきた雑踏から、焦点を引き下げる。
ベンチに座り続けているのは、既に俺たちと3組のアベックのみになっていた。
四つの椅子に四組の男女。一組あたりが占有できるスペースにはかなりの余裕がある。

「ハルヒ、狭かったらもっとそっちによってもいいんだぞ」

十秒後。待てど暮らせど返事は帰ってこない。
無視されるなんて心外だね。微動だにしないのがそのまま意思表示ってことでいいのか?

「おいハルヒ、」

困惑した俺は左に首を捻ろうとし――初めて肩に重みを感じて、ハルヒの無言状態の理由を知った。
やれやれ、俺の直感も捨てたもんじゃないってことか。やっぱりおまえも疲れてたんじゃないか、この嘘つきめ。
ハルヒの耳にそっと囁く。すぅすぅと幽かに寝息を立てるお姫様は、くすぐったそうに身動ぎした。

――――――――――――――――――――――――――――――

『わざわざベンチで見せつけやがって、殺ス、コロス、ころ――』
『挑発なのか? それは俺たちへの挑発なのか?』
『く、悔しくないもんね、お、俺は、うわあぁぁぁぁああ』

道行く男性グループからの怨嗟の視線照射を防ぎはじめて、はや30分。
にわかに活気を失った雑踏から腕時計に目をやると、時間は丁度良い頃合いになっている。
そろそろ歩き始めないと遅刻するかもしれない。だが――

「すぅ、すぅ」

ハルヒは俺の焦燥を露ほどにも知らず、定期的に寝息を漏らしていた。熟睡している。

「ここまで気持ちよさそうに眠ってられちゃ、起こす方は辛いよな……」

独りごちる俺。
世の中の母親の気持ちを少しだけ理解できたのはいいが、ここからどうするかが問題だ。
朝が弱い人間は目覚まし時計で起きるというのが一般的常識だが、妹の物理的攻撃による起床が日常的な俺は、
いざ起こす側となっては果てしなく無力である。声を掛けて起こすべきか、揺り動かして起こすべきか。
どちらの方がハルヒにとって良い目覚めとなるのか、全然分からない。

「んー、むにゃむにゃ」

心地よさそうに寝言を漏らすハルヒ。……こっちの気苦労も知らないで。
ま、朝からずっと歩き回って休憩もなしにアトラクションを乗り継いできたんだ。
この睡眠で少しなりとも疲れが取れたんなら、俺はちっとも迷惑に感じたりしないんだけどさ。
だが――。タイムリミットは差し迫っている。もう、問題を遷延することはできない。

俺はハルヒを、  1、揺り起こすことにした 2、声を掛けて起こすことにした    >>435


435 名前:くびきりうさぎ ◆CWqpjLFVQc [] 投稿日:2007/12/18(火) 21:19:10.75 ID:K/kIRIztO

当然2


「おい、起きろ。これ以上眠ってたらディナーショーに間に合わなくなるぞ」

俺は数瞬悩んだ挙げ句、声を掛けて起こすことにした。耳元に口を近づけているので、周りには拾われない程度の声量だ。
だがそんな俺の配慮も虚しく――ハルヒは鬱陶しそうに寝言を漏らすのみだった。

「……るさい……わね……」

俺の聴覚神経が正常ならば、確かに今、うるさいと聞こえたんだが。逸る気持ちを抑えつつ、もう一度声を掛ける。

「おい、起きろってば――」
「……うるさいわね」

ええいこいつめ、人を馬鹿にしてからに。

「起きろって言ってるだろ。いい加減にしないと放ってくぞ」

心にもない脅しをかけてみる。と、頑なに瞑られていた瞼が、ゆっくりと開いていく。
そして瞳が半分ほど顕わになった頃、ハルヒは俺の肩から頭をもたげて

「ん……おはよう、キョン」

よう、目覚めはどうだ。一から状況説明する必要がありそうか?

「えっと……こいずみくんライド☆に乗って、ベンチに座って、その後……」

転た寝してたんだよ、随分気持ちよさそうに眠ってたぜ。ディナーショーの夢でも視てたのか?
寝起きの耳には届いているかも怪しい、からかいの言葉。
だが――それはハルヒにとっては覚醒剤にも等しい効力を持っていたようで、
ぽやぽやしていたハルヒの表情は、急速に通常時の隙がないそれへと変貌していく。
羞恥に顔を染めてぐしぐしとよだれを拭うハルヒは、まるで父親に自室を覗かれた思春期の女の子みたいで可愛らしい。

「あたし、いつから寝てたの?」
「さあな、気づいたときには熟睡してたから」
「不覚だわ………テーマパークに来てるのに眠っちゃうなんて」

いいんじゃないか。3Dゲームってのは視覚に負担をかけやすいんだ、脳が休息を求めてもなんら不思議はない。

「でも、あんたに退屈させちゃったし」
「別段退屈でもなかったぞ。お前の寝顔を観察するってのも有意義な時間の過ごし方だと、」

途端、ハルヒはキッと俺を睨付け、

「今すぐ従前30分間の記憶を消しなさい」

そいつは無理な相談だ。お前の無防備な寝顔は網膜に焼き付けて脳内アルバムに永久保管済みだからな。

「ッ!! あんたにはデリカシーってもんが、」
「冗談だよ、冗談。ま、写真に納めたいほどレアな一面を垣間見ることができて嬉しかったのは事実だぜ」

寝顔の一つや二つ別に恥ずかしがることでもないだろうよ、とのらりくらり弁解しつつベンチを立つ。
ハルヒもそれに追随するが、平衡感覚が取り戻せないのか、足下が覚束ない。

「御手をお貸ししましょうか、お嬢様?」
「結構よ」

強がるハルヒに苦笑して、俺は中央ホール目指して歩き始めた。歩調は遅めの、散歩するような速度。
ディナーショーの開演時間には、このペースではとても間に合わない。だが執事たるもの、常に優先すべきはお嬢様だ。

「ゆっくり行こうぜ。ちょっとくらい遅刻しても入れてもらえるだろ」

やがて隣にハルヒが並ぶ。依然唇は僅かに引き結ばれていて、頬も若干ふくらんでいたが――俺には分かっていた。それが、ハルヒなりの照れ隠しだということに。

――――――――――――――――――――――――――――――

ところで、ディナーショーという単語を聞いて皆さんは何をイメージするだろうか。
食事は勿論のこと、味覚以外でお客を愉しませる方法についての話だが。

一概にディナーショーといっても、親子連れに受けがいいマスコットキャラクターの喜劇や
中年の方々に人気の艶美なダンスショーなど、年齢層に適したイベントによってこのカテゴリは細分化されている。
そしてその中でも最もポピュラーなのが、有名バンドによる生演奏だ。
演奏するバンドにもよるが、若者の間では圧倒的にこのタイプのショーが好まれる。
その理由は一概には言えないが、慣れ親しんだ音楽に浸りながら束の間の大人気分を味わえるという魅力が主だろう。
さっきから他人事みたいにディナーショーのカテゴリを分析している俺だが、もしどのタイプを選びたいのかと聞かれれば、
俺だって一般的な若者の例に漏れず即答でライブを聴きながらのディナーを所望するさ。
まあもっともその願いも、目まぐるしく移り変わる視覚情報に翻弄されるよりも
ライブ演奏をBGMとして聞き流しつつ本命の料理を愉しみたい、という屈曲した持論から来ているんだが――

「本当にFrom bubbleが来てるだなんて……」

今現在、俺は口をあんぐりと開けた(比喩ではなくマジで)ハルヒの横で、
超有名jazzバンド「From bubble」の演奏に聴き惚れていた。ちなみにこのバンド名を知ったのは、ついさきほどのことである。
だが、空気にアルコールを攪拌させるような流麗な旋律と、アコースティックギターを手足の延長のように扱う神技に、
俺は入場してから5分後には、すっかりFrom bubbleの虜になっていた。
とてもじゃないが、これを聞き流しつつに食事を愉しむなんてことはできそうにない。……嘗めていた。
バンド演奏をBGMにする、とかなんとかほざいていた過去の自分が、最高に馬鹿げて感じられる。

「……それでは、しばらくは食事をお楽しみ下さい。後ほどある主要曲の演奏までには、まだ40分ほど時間がありますので」

主奏者らしき人物が一礼するのを見て、初めて一曲目が終わっていたことに気づく。
テーブルを見れば、並べられたオードブルには殆ど手が付けられていなかった。
主奏者含めバンドメンバーは全員ダークグレーのホンブルグを目深に被っていた。素顔を完全に確認することはできない。
やがて繊細なクレシェンドとともに、上品なjazzが流れ始める。こちらは一曲目とは違い、完全にBGMとして弾かれているようだ。

「これは国木田が羨むのも頷けるわね。吃驚したわ。鶴屋財閥のテーマパークだから何でもありだとは思ってたけど」

ハルヒが、ほう、と嘆息を漏らす。まだ余韻から醒めやらぬ状態で発音したせいで、頬杖は今にも崩れそうだ。

「実際に耳で聞いてこのバンドの凄さは十二分に理解したつもりだが、そんなに有名なのか?」
「有名なんてもんじゃないわよ。jazzバンドの代名詞ね。普段あんまり音楽を聴かないあたしでも知ってるのに」

呆れたようにこちらを見るハルヒ。時代の流行に疎いことをここまで後悔したのは初めてなんだ。
とりあえず明日には発売中のCD全てを購入する所存だから、もっと詳細を教えてくれないか。

「いい? From bubbleは徹底的に正体不明のバンドなの。
 分かってるのは、奏者が全員初老の男性であることぐらい。顔も帽子で半分隠れてるしね」
「週刊誌のカメラマンに盗撮された経歴もないのか。余程ガードが堅いんだな」

ハルヒはほくほくとしたムール貝のブルギニヨンバター焼きを口に運びつつ、

「そりゃもう、音楽関係者でさえ知らないって噂よ。本当の顔を知ってるのなんて家族ぐらいじゃないかしら。
 まさに秘密のベールに包まれてるって感じだわ」

秘密のベールか、魅惑的な響きだね。これ以上情報の収穫は見込めないと判断し、俺もオードブルに手をつけることにする。
フォークとナイフの使い方は学習済みなので、食事行程に支障はない。スモークサーモンのキッシュを二口サイズに切り分けて、口に運ぶ。
スモークの芳ばしい旨みと狐色に焼けたホワイトソースの甘みが、口蓋で自己主張しあい、やがて交ざり合う。
使い古された例えだが――舌が蕩けそうなほど旨い。ま、当たり前のことなんだが。
改めて、周囲を見渡してみる。モルタル塗りの壁に、淡い暖色の照明。
そこにjazzの旋律が絶妙のテンポで融け、まるで街外れのバーのような妖しいムードが漂っていた。
ホール内で唯一のティーンエイジャーある俺とハルヒは、もう幾度となく、他の客からの奇異の視線に曝されている。

「俺たち、浮いてるよな」
「わかりきったこと言ってもしょうがないでしょ。鶴屋さんの采配がなかったら、多分一生かかってもこんなディナーショーに出席できないわよ」

まったくだ、と首肯して、俺は再びナイフを操ることに専念することにした。
身分不相応とか場違いとか、一々気に病む必要はない。来た以上は存分にディナーショーを楽しまないとな。

―――――――――――――――――――――――――――――――

オードブルがなくなる直前、メインディッシュがウェイターによって運ばれてきて、テーブルの上は一気に賑やかになった。
フレッシュフォワグラのソテーも和牛フィレ肉のポアレもレンズ豆のポタージュもどれもこれもが所見であり(当然だ)、
俺はついテーブルマナーを忘れてその殺人的な美味しさを堪能しそうになっていたが、

「はしたないですわね、もっと落ち着きをもって味わいなさい」

まるでどこぞの上流貴族みたいに完璧なナイフ裁きを見せるこいつは、一体何者なんだろうね?
お前には一入の感慨による食欲暴走といった生理的反応がないのか。俺たちは最高級フランス料理を賞味しているんだぜ。

「それとこれとは関係ありません。どんな味であろうと動じない。それが淑女の嗜みというものではありませんこと?」

さいですか。すっかり役になりきっているハルヒに緘黙しつつ、俺はグラスに手を伸ばした。
持ち上げて、軽く傾ける。グラスの中で踊る琥珀色の液体は、白ワインではなくただの水だ。
未成年は飲酒不可。こればっかりは、鶴屋さんもどうにもできなかったようである。
ま、こんなとこでハルヒに飲酒されちゃ、泥酔状態のハルヒがもたらす惨状の事後処理を担当するのは必然的に俺になるわけで、
結局水で良かったという結論に帰結するには帰結するのだが、

「水はねぇよ。せめてジュースだろ」
「いいえ、これで良いのです。あのような甘味著しい低俗な飲み物では、高尚なフランス料理が汚されますわ」

………やれやれ、お嬢様になりきるのも大概にしとけよ。生徒会長みたいにペルソナに食われることになったら厄介だからな。
だが。俺は心中で諌言を呟きつつも、この口調に得体の知れない感情が生まれ始めているのを感じていた。嘘だ、俺は認めないぞ。俺がお嬢様萌えだったなんて――
ここは話題転換に限る。まだFrom bubbleの主演奏までには時間があるし、小話くらいはできるだろう。

話題提起>>586まで多かったの 1、俺たちが去年の文化祭でしたjazz演奏、憶えてるか? 2、ちょっとアルコール頼んでみようぜ 3、From bubbleについてもっと聞きたい


580 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/19(水) 02:51:04.48 ID:NdH32dHq0

2で

581 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/19(水) 02:51:25.57 ID:NdH32dHq0

乙です

582 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/19(水) 02:51:36.59 ID:1g6H+BM+0

1

583 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/19(水) 02:51:49.27 ID:dTWsLg0N0



1

584 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/19(水) 02:52:04.25 ID:bF0u/uJE0

1に1票

585 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/19(水) 02:52:59.05 ID:FLsfXcxn0

1

586 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/19(水) 02:53:02.05 ID:orbBZ6tn0

乙!!2で


ナイフとフォークを置いてBGMのjazz演奏に耳を傾ける。
そうしていると、眼窩に去年の文化祭の光景が映し出されてきた。気がつくと、俺はハルヒに水を向けていた。

「去年の文化祭でのjazz演奏、憶えてるか?」
「あったりまえじゃない。昨日のことのように思い出せるわ」

憤慨したようにハルヒは言い切った。そして反芻するように中空を視線を浮かべながら、

「みくるちゃんがトランペットで、古泉くんがドラムで、有希がアルトサックスで――あたしがヴォーカルで、あんたがギターを担当したのよね」
「その通りだ。今だから言えることだがな、よく発表まで漕ぎ着けたと思うよ。あのときはマジで切羽詰まってたし」
「あら、あたしは最初から成功すると思ってたけど? 実際の演奏もほとんど完璧だったしね」

私的満足度100%のハルヒに、どうだか、と頭を振って目を閉じる。
昨年の10月中旬。その時の記憶は、今でも瑞々しいまま脳梁の引き出しに仕舞われている。
例によって例の如く、God knowsのカバーをやりたいと言い出したハルヒが引き金となって、jazzバンド「Type SOS」は急遽結成された。
経験もあってjazzのリズムにいち早く適応したハルヒと、あらゆる基礎技能が神クラスの長門を除いたメンバーは、練習の度に慣れない楽器と悪戦苦闘していた。
朝比奈さんがトランペットのピストンをパフパフ弄ったり、古泉がスティックの構造把握に勤しんだり、
俺がギターの不自然でない持ち方の研究に励んでいたりしたところを、一体何度ハルヒに見つかり厳酷な指導を受けたことか。
演奏発表の3日前には何とか形になり、前日には普通に聞ける程度になり、当日に一応の成功を納めることができたのは、間違いなく長門のアドバイスのおかげだ。
ハルヒは余裕だったと吹聴しているが、あのときは本当にやばかった。発表当日帰宅後、連日の練習の過酷さに寝込んでしまうくらいに。
ま、それでも後日のハルヒの笑顔を見ると、ギターの技術を習得できたし充実感は有り余るほど得ることができたし、結局はバンドを結成して良かったな、と思えてしまう俺がいたんだが。

「でもね――」

と、俺が懐古していると、出し抜けにハルヒがニヤつきながら、

「一人だけ、いつまでたっても上手にならないヤツがいたのよね。
 みくるちゃんが同情しちゃうくらいへたくそなのよ。流石のあたしも、これじゃ文化祭当日までには間に合わないかも、って思うくらいに」


その言い方が気になって、記憶の糸を辿る。
古泉はきちんと練習時間に比例して上手くなってたし、長門は元から完璧に演奏できていたし、朝比奈さんはなんとか期限内には吹けるようになっていた。

「……お前の考え違いじゃないのか?」

ハルヒは俺の言葉を無視して続ける。

「んでもって、そいつは意地っ張りで強情で、なかなか人に教えを請おうとしないの」

大馬鹿だな。人間誰しも一度は、形振り構わず頑張るってことを経験しなくちゃならないってのに。

「あんたもそう思うでしょ? このままじゃダメだー、って分かってるのに、プライドが邪魔してたんでしょうね」

お前に矜持云々を指摘されるようじゃ、そいつは相当頭の硬いやつだということになるが、長門朝比奈さん古泉の三人にその特徴は該当しない。
足りない頭を絞ってみても答えは一向に見当たらず、率直に尋ねてみることにする。

「なあ、それは誰のことを言っているんだ?
 俺の記憶が劣化せず、また何者かに改竄されていないとするなら、誰一人としてそんなヤツはいなかったはずだぜ?」
「質問を変えるわ」

心底疲れた表情で、ハルヒは溜息とともにはき出した。

「発表前日まであたしの個人レッスン受けてたのは誰だったか、よーく思い出しなさい」
「……あ!」

初秋の夜長。音楽室での記憶が、一気に蘇る。
最終下校時刻を過ぎた校内で、ハルヒに見守られながらギターの弦を弾いていたのは――

「俺のこと、ね。でも随分酷い言い草じゃねえか。ちゃんと俺は間に合ったぜ」
「あたしが付きっきりで教えてあげたおかげでしょー。まったく、あたしが教授を申し出るまで、ずっと一人で悶々してたんだから」

ハルヒは優雅にグラスを左右に揺らしながら、

「みくるちゃんに聞かされたときは焦ったわよ。
 あんたが有希の正確無比な指摘で上達しないこと以前に、練習がうまくいかないことを隠してたってことに」
「知られたらお前が怒ると思ってたんだろうな、その時の俺は。
 問題を先延ばしにしても何の解決にもならないことは、分かりきっていたはずなんだけどさ」

そして事実、その日から俺はハルヒに、強制的に個人レッスンを受けさせられることになった。

「あんたってば、全然あたしの言うこときかなかったわよね」
「お前の教え方は上手かったけど、俺にはちょいとレベルが高すぎたんだよ」
「あら、あたしは懇切丁寧に教えてあげたつもりだけど?」
「音楽に関する才能で、お前の基準と俺の基準には元から雲泥の差があったんだ。溝が生まれるのは必然だったんだよ」

当時の思い出話が尽きることはない。
焦燥感を滲ませるハルヒと理解力に乏しかった俺は、何度も何度も衝突した。
今から思えばハルヒの教えに素直に従っていれば良かったのだが、
悲しいかな、人とは享受される側であるにも関わらず反発の姿勢をとってしまう生き物なのである。

「一人でやる、ってお前を突っぱねたこともあったな」
「それであたしも、じゃあ勝手にやりなさいよ、って音楽室を飛び出したんだっけ。売り言葉に買い言葉ね」

唯一無二の、俺だけを見てくれる先生のいなくなった音楽室で。
俺は開け放たれた扉から目を背け、黙々と独り練習を再開しようとしたが――

「でも、やっぱ独りじゃダメだって気がついて」

いつの間にか、俺の指はハルヒの携帯電話に電話を掛けていた。

「本当にびっくりしたわよ。だって通話ボタンを押した瞬間、あんたったらいきなり謝ってくるんだもの」

ふふ、と微笑するハルヒに、つい顔を背けてしまいそうになる。
当時の衝動的な行動をありありと思い出して赤面しているのを悟られたら、もっと弄られそうだ。
俺はハルヒの関心を逸らすべく、

「俺だってびっくりしたぜ。速攻で切られて電源OFFにされるかと覚悟してたのに、すぐに戻ってきてくれたんだからさ」

俺の謝罪後のハルヒの行動を、無脚色のまま陳述することにした。再び先生と生徒が揃った音楽室で、
あたしも言い過ぎたわ、なんて控えめなハルヒの言葉から反省会が始まったんだっけ。

「あ、あたしも悪かったと思ってたのよ。でも、あのまま電話してこなかったら本当に帰るつもりだったんだからね?」

今度はハルヒが恥ずかしそうに目を伏せる。一時的に形勢が逆転した。
俺が電話した3分後に音楽室に姿を見せたことから、俺はハルヒが校内の何処かで隠れていたんじゃないかと踏んでいるのだが、
ま、ハルヒが帰路についていたと主張している以上、追求することもないだろう。

「その後の練習は、至極順調に進んだよな」
「どっちが言い出したのかは思い出せないけど、あんな方法があったなら、最初から試していればよかったわ」

悔しそうにハルヒが呟く。それから俺とハルヒは同時に顔を見合わせて、

「あたしが歌うのに合わせた途端、一発で綺麗に弾けるんだもの」
「今までの練習はなんだったんだ、って思えるくらいに上手く弾けたよな」

これまた同時に、苦笑を零した。
ま、その練習法による上達効率上昇も、論理的に考えれば当然のことなんだが。
俺は絶望的にjazzのテンポを取るのが苦手だった。音楽とは、譜面通りに弾いても修得するものではなく、感覚として掴むもの。
jazzはその最たるジャンルの一つだ。ハルヒの歌声を注意深く聞き取ることで――俺はようやく、jazzを理解することができたのである。

「次の日のリハーサルで皆に驚かれたっけ。長門まで目を丸くしてたもんな」
「要はきっかけだったのよ。あんたは誰よりも練習してたんだし」

「そ、そうか?」

妙に俺を立てるハルヒに、戸惑いを隠せない。
俺は胸の辺りで生まれたむず痒い感情を殺すように、グラスの水を飲み干して、

「いや、きっかけ云々以前に、やっぱりお前のお陰だと思う。
 お前の個人レッスンがなけりゃ、お前の歌声でテンポをとれるようになっていなけりゃ、当日は失敗していただろうし」
「そんなことないわよ。あんたの努力が報われたのよ」

しかしやはり俺を立てるハルヒに、違和感を感じていた。
ハルヒの双眸には、決心しては躊躇ってを延々とループしているような、そんな逡巡の光が揺蕩っている。
――こいつ、酔ってるのか?
水で酔う人間は俺が知る限りいないが、ハルヒがこの妖しいムードに当てられた、という可能性は十分にあった。
ハルヒは芯が強いように見えて、その実、雰囲気に流されやすい。舞い降りるはずのなかった沈黙が、会話の隙間に潜り込んでくる。
これは良くない兆候だ。どことなく嫌な予感がした俺は

「そういやこの前――」

即席の話題転換を画策し、

「ねぇ、あたしずっと言い忘れてたんだけど」

ハルヒの独白に、言葉を遮られていた。従来とは一線を画した真剣な口調に、口をつぐむ。

「ほんとは、もっと早くに言わなくちゃいけなかったんだけど……」

BGMが遠のいていく。口の中はさっき水で潤したばかりだというのにからからで、固唾を呑もうにも呑めない状態だ。
やがてハルヒの薄桃色の唇が、小さく動く。だが、ハルヒの喉から声が漏れる直前―――

「大変永らくお待たせいたしました。これより、From bubbleの主演奏を開始しいたします。」

司会者の明朗な声が響き渡った。静逸を保ちつつお喋りを愉しんでいた客たちの視線が、一斉にステージに集中する。
加速度的に、ホール内が喧噪に包まれていく。From bubble再登場の期待に、ディナーに参加している人間全員が浮き足立っていた。

「あ――」

ふと、ハルヒの言葉の続きがいつまで立っても訪れないことに気づく。戻した視軸の先、そこには、

「いよいよねー、愉しみだわ。最初の一曲で確信したんだけどね。
 あたしFrom bubbleの曲は全て網羅してるんだけど、CDとライブじゃぜんっぜん音質とか色々違うのよ」

――さっきまでの様子が、まるで虚構だったかのように明るいハルヒがいた。
表情に決意の色はなく、声音に不安の震えはなく、双眸に躊躇いの光はなく。
すっかり"From bubble登場を待ち望んでいる"状態に戻ったハルヒに、戸惑いを隠せない。
独白の結末を尋ねるべきなのか、それとも虚飾に隠れたハルヒに合わせるべきなのか。思惑を廻らせる。

「どうしたの? なんか浮かない顔してるわよ?」

ここは、

1、さっき、何を言いかけてたんだ?
2、なんでもないって。演奏、楽しみだな

>>825 までに多かったの


820 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/20(木) 00:33:12.29 ID:aeSEotib0

1

821 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/20(木) 00:33:16.21 ID:RAIUMl640



822 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/20(木) 00:33:50.14 ID:Rco0oUnh0



823 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/20(木) 00:34:04.76 ID:Ptx+AaXY0

1

824 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/20(木) 00:34:22.73 ID:AT3G1sXeO

2

825 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/20(木) 00:34:25.22 ID:2nIxgMzC0




ハルヒの態度が変質したからといって、中途半端に諦めることはできない。
それがもし重要な事柄なら、後で後悔に苛まれるのは間違いなく俺だろうしな。
質問に質問で返すのは御法度だが、この際どうでもいい。

「さっき、何を言いかけてたんだ?」

脈絡を無視した俺の問いかけに、ハルヒは最初、豆鉄砲を食らった鳩のように体を硬直させていたが、

「き、気紛れよ気紛れ」

明らかに挙動不審な動作で、首をステージの方に捻った。あれだけ焦らしといて逃げる気か?そうは問屋が卸さないぜ。

「教えてくれ。このままじゃ気になって、演奏がまるで耳に入ってこない」

質問から逃げ出さないように、ハルヒの撫で肩に手を添える。
俺らしからぬ大胆な行動だが、無意識下での行動なんだし多めに見て貰えるとありがたいね。ハルヒは数秒俺の左手に視線を落としていたが、

「……言い忘れてたの。あたしの我侭きいて、jazzバンド作りに協力してくれて……」

やがて、肩をぴくりと震わせて、

「……ありがとう、って言わなきゃならなかったのに……」

辺りの喧噪に押しつぶされてしまいそうなほど幽かな声で、そう言った。
緊張に張り詰めていた心の糸が、ぷつりと切れる。あのな――なんだって今頃、そんなことを言い出すんだ?
添えていた手を下ろし、懊悩に耽る俺。ハルヒの精一杯の謝辞をどう扱えばいいのか、さっぱり分からない。

「だって、あんたとはあの時たくさん喧嘩したし、無理もいっぱい言ったでしょ?」

僅かに尖った唇で、拗ねたような口調で、ハルヒは続けた。ルージュが、輝度を増した照明に妖しく煌めいている。

「……だから、あたしはあんたに感謝してるって言ってるの」

そう言われてもな。先ほどから俺の脳裏を掠めるのはその場凌ぎのしょうもない科白ばかり。
気の利いた受け答えなんぞとてもできそうになく、下手に口を開けばハルヒの謝辞を無碍にしてしまいそうだ。

「んー、とだな。お前の迷惑をかけたという気持ちはその、見当違いで――」

だが、俺がもごもごと口籠もっている間に、

「演奏が始まったわ。聴きましょ、キョン」

美しい旋律が、ホール内に響き始める。From bubble主演奏第一曲目が始まった。
ハルヒは既に俺への独白から気持ちを切り替えたのだろう、目線をステージに合わせたまま逸らさず、
その姿からは"言わなきゃ良かった"という悔悟的なメッセージが容易に受け取ることができる。
――あぁ、またやらかしたのか俺は。
昼行灯の俺が迷ったときにできることなんて唯一つだ。余計なことを考えずに気持ちをそのまま言葉にする。
そしてそれは、今一生懸命捻り出した事じゃなくて、去年の文化祭ライブ終了後に感じたことでも良かったのさ。

「俺だって最初は面倒だとかだるいとか思ってたけどさ――」

音という音を支配されたこの空間で、俺の言葉が届くかどうかは分からないが。
顔をステージに向けて、視線をハルヒのそれと平行させたまま言う。

「――皆の前で演奏して、拍手を貰ったときの達成感は最高だった。だから感謝しなきゃいけないのはお前じゃなくてこの俺だ。
 お前がバンド結成するっていいださなかったら、俺はギターを触ることもjazzに親しむこともなかったんだから」

案の定、返事が返ってくることはなかった。
ふと流し目を送った先で、ハルヒは頬を僅かに綻ばせていたが、十中八九、ライブ演奏に感動しているんだろう。
心中で己の愚昧っぷりを罵りつつ、俺も演奏に耳を傾けることにする。
一曲目と同様に。聴く者全てを引き込むような誘惑の旋律が、耳朶を震わせた刹那――俺はFrom bubbleの虜になっていた。

――――――――――――――――――――――――――――――

主演奏開始から1時間後。
オーディエンスの期待値を遙かに上回るjazz最高峰と言っても過言ではない演奏を存分に堪能し、
他の聴衆同様恍惚としていたハルヒを現実へと引き戻しつつ拍手喝采のステージに拍手を加えた俺は、
ゲリラ企画されたfrom bubbleメンバーとの握手会を経て、ホール外に足を踏み出していた。
ひんやりとした夜気に首を竦める。

「時間も忘れるとはこのことか」

腕時計の短針と秒針は、現在時刻が9時ちょっと前であることを示していた。
ホールに入場してから出るまでに、3時間近くもの時間が経過したことになる。
辺りはすっかり暗くなっていた。空は墨汁を流したように黒く、その上に幾つもの星が瞬いている。
いくら仮初めの自然に囲まれているとはいえ、テーマパークは都会の一端にある。
こんなに空が綺麗に澄んでいるというのはまずあり得ないんだが――と空を仰ぎながら訝しんでいると、

「あぁたのしかった。最高だったわね」

ふいにハルヒが話しかけてきた。なんだ、握手された時の興奮で舞い上がったまま
もう地上に戻ってこないと踏んでいたのに、随分と早いお帰りじゃないか。

「最後の握手会は皆に自慢できるわよ〜。国木田は泣いて羨むでしょうね」
「ホール内の人間は、誰も握手会があることを知らなかったみたいだな」
「あったりまえじゃない。前代未聞よ、前代未聞。from bubbleメンバーと握手できるなんて」

ついさっき温かい掌に包まれた右手を、今一度見直してみる。
ホンブルグから覗いた白髪混じりの髪と、俺の手を握った掌に入った幾筋もの皺は、
ハルヒの情報通り、メンバーが初老の男性であることを証明していた。

「にしても、あんたって運良いわよねー。握手するとき、主演奏者の人と会話できたんでしょ?」

一生分の運全部使い果たしちゃったんじゃないの、と怖くなることをいうハルヒを流しつつ、
握手をしている間の、ほんの僅かな時間に交した科白を想起する。

『どうか彼女を大切に。人は失ったとき、初めて喪失の悲しみを知るのです』
『は、はぁ……』

吟遊詩人みたいな台詞回しに対して咄嗟に口から出た言葉は、辛うじて了承の意を伝える間投詞。
ハルヒは羨んでいるが、実際は会話を紡げていたかどうかも怪しいもんだった。
だが、俺にとってはそんなことより、

「なあ、あの人を知っているような感じしなかったか?」

間近で風貌を観察したとき、マイク越しではない声を聴いたときに感じた既知感が、どうにも頭の隅に引っかかっていた。
紳士的な風格に懐かしさを感じたのは、俺だけではないはずだ。お前も何か――

「もう一度言うけどね。超有名スターでしかも正体が完全秘匿されているfrom bubbleの主演奏者と、
 一般ピープルの中でもさらに格式高い中庸性を確立しているあんたが面識あるわけないじゃないの」

ハルヒはまるで夢見る子供に現実の厳しさを教えるように断言した。ま、常識的に考えりゃそうだわな。
冷静になってみれば、俺とあの人の間に接点があるとは、俺が実は地球人ではなく異世界人だった、なんて空想以上に考え難い。
途中、俺がフツーであることを嘲笑するような文句が混入していた気もするが、
それを指摘するとまた話がややこしくなりそうなので、華麗にスルーするとして。

「相当ディナーショーで時間を使っちまったが、今からどうする?」

長いことジーンズのポケットに押し込められ、くしゃくしゃになったマップを広げる。

1、にわかに、人混みの流れが速くなった。何かのイベントがあるのだろうか?
2、アトラクション選択へ                                     >>32までに多かったの


28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/20(木) 20:37:56.62 ID:rQvngZUh0



29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/20(木) 20:38:07.77 ID:zNuwY0AJO



30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/20(木) 20:38:14.54 ID:DPsCMGeNO



31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/20(木) 20:38:21.37 ID:5tmMdJokO

1

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/20(木) 20:38:49.23 ID:1ZluKgm9O

1


幽霊屋敷、ジェットコースター、ボートにこいずみくんライド☆とくれば、
残された主要アトラクションは観覧車と豪華客船による湖上一周ぐらい。
時間的に後者の客船は運休しているから、ここは観覧車での高所観光がいいだろう。
消去法により済し崩し的に決ってしまったが、夜の観覧車はロマンチックなこと請け合いだ。

「観覧車はどうだ。夜だから景色は綺麗だし、お前の要望にも添えると――」

俺は自信を持って次のアトラクションを提案しようとし、

「急に人が増えたわね」

眉を顰めて群衆を見つめるハルヒが、俺に興味を失っていることを知って愕然とした。
jazzを口ずさんでいたハルヒの唇は、考え込むように添えられた手によって塞がれている。
おいおい……人が増えたことなんてどーだっていいだろ。
テーマパーク内のスピーカーから流れ出す曲はノクターンへと移り変わり、
ありとあらゆる建物はイルミネーションによってライトアップされ、
テーマパークを囲むように設置されたライトは、夜空へとハイビームを放っている。
時刻はもうすぐ9時だ。大方、子供連れの客が退場しようと、門に駆けつけてるからじゃないのか?

「9時……9時……あ!」

俺の小言が聞こえたのか、はたまた燦然と時間を示す柱時計に気づいたのか。
9時という時間を連呼した後、ポン、と手を打つハルヒ。
しかしその軽快な仕草とは裏腹に、先ほどまでの思案顔が渋面へと変わっていく。

「もう、どうしてこんな大切なことを忘れてたのかしら!!」

その言葉を最後に、ハルヒは近場の係員の元へと駆け出していった。
そして係員と二言三言交すると、パタパタと礼をしてこちらに駆け戻ってくる。何をそんなに慌てているんだろうね、こいつは。

だが――ハルヒを窘めようとしていた俺は、次に聴いた言葉に、一気に余裕を突き崩されることになる。

「はぁっ、9時からね、はぁっ、丘の上で花火があるのよっ!」

息を切らしながら、ハルヒは活性化した群衆の根因を伝えた。
鶴屋財閥が総力を注ぎ込んで建設したテーマパークの正式オープン当日だ、
その規模は既存のテーマパークの花火がただの火遊びに見えるくらいに、豪華絢爛なものとなるに違いない。
あぁ、どうしてこんな大事なことを忘れていたんだ――ディナーショーに現を抜かしていたとはいえ、
テーマパーク恒例の夜のイベントを失念してしまうなんて。

「とにかく、急いで場所取りにいかないと」
「もうほとんど埋まっちゃってると思うわ。それでも行ってみる価値はあるけど」

ハルヒの手を引いて、南へ走り出す。
花火を一番綺麗な角度で観賞できる場所の条件には、適度な距離と遮蔽物のない平面空間の二つがある。
そしてこのテーマパーク内でそれがぴったり当てはまるのは、入場門から少し進んだところにある大きな噴水広場のみ。
腕時計を見る。9時までにはもう、幾許も時間は残されちゃいない。場所を取れる可能性は限りなく零に近い。

「―――はぁっ――はぁ――っはぁ―――」

でも。諦めようなんて台詞は絶対に口にできなかった。
焦燥と不安に顔を翳らせながらも、慣れないブーツで一生懸命に走るハルヒに現実を諭すのは、
純真無垢な子供にサンタはいないと伝えるのと同等に酷く、愚かなことだと思ったからだ。

噴水広場に近づくにつれて、群衆の密度が増していく。
結末がすぐそこにあるのにも関わらず頁をめくるのを躊躇ってしまうような、
物語の終末を読み終わる時に感じる畏怖感が大きくなっていく。
その感覚を振り払うように、人混みをかきわけて道を進む。

そして、終に俺たちは辿り着いた。否――広場前の群衆の壁に、それ以上の進行を阻まれていた。

広場を中心にして同心円状に広がる壁に、綻びはない。
間に合わなかった。覚悟していたことだが、その現実が重く俺とハルヒにのしかかる。

「――――ッ」

隣で唇を噛み締めるハルヒに、なんと言葉をかけていいのか分からなった。
華やかなノクターンやイルミネーションが、セピア調に褪せていくような錯覚に囚われる。
広場の中心で談笑する家族連れやカップルに、抱いてはいけないと知りつつも、どす黒い羨望と嫉妬を抱いてしまう。

「すまん、ハルヒ。俺がもっと早くに気づいてりゃ、ディナーショーが終わった後すぐにでも駆けつけられたのにさ」

居心地の悪い沈黙に居た堪らなくなって、自分の非を挙げていく。
そんなことをしても現況は好転しないと分かっているのに、俺の舌は止まらない。

「元はと言えば、具体的なプランを決めてなかった俺が悪いんだ、だから、」
「もういいわよ、キョン」

と、花火開始5分前を示すアナウンスが響いた時だった。顔を伏せていたハルヒが静かに俺を制止し、

「花火なんて、また今度来たときに観られるでしょ?」

見てるこっちが辛くなるような、哀しい笑顔を浮かべた。言葉のニュアンスは花火を軽視するもの。
だが――常日頃から鈍感鈍感と罵られている俺だって見抜けるぜ。お前は、本当は今夜の花火を、滅茶苦茶楽しみにしてたんじゃないのか。
いくら毎夜花火があるといっても、今夜の花火は特別だ。正式オープンに伴う、それはそれは盛大な花火になるだろう。
それを見逃して、お前は本当に後悔しないのか?

「だって………だって仕方ないじゃない! 観賞席は満席で、他の微妙なとこも全部埋まっちゃってるに決まってるわ!
 これ以上どうすればいいって言うのよ!! 諦めるしかないじゃない!!」

前触れもなく。ハルヒの叫喚が、広場前に響き渡る。

「ハルヒ………」

大きく見開かれた双眸は、薄闇でも分かるほどに潤んでいた。

「せっかく、キョンと一緒に見られると思ってたのに……なんで……」

そうしてハルヒは、再び視線を地面に落とした。
後ろの騒ぎに一瞬振り返った群衆も、すぐに視線を空へと移す。
男女の連れが揉めていたところで、こいつらにとっては何の影響もないんだろう。
それは極めて普通な反応だ。もし仮に俺が場所取りに成功して、
後ろで場所を取れずに嘆いている人間を発見しても、場所を交代するという愚挙には出ない。

「…………」

終わりの見えない沈黙が影を落とす。
二年前なら。ハルヒは環境操作能力を識域下で駆使して、
群衆を丸ごと何処かに瞬間移動させるか何かしていただろう。
でも、今俺の隣で大人っぽく着飾っているハルヒは、二年前のハルヒじゃない。
識域下であるにせよ私利私欲のために能力を使うことをやめ、普通の女の子になろうとしているハルヒだ。

「くそ―――」

もう一度花火を観られる場所を思索するが、見当たらない。
役に立たない頭に心底嫌気が差す。
こんな時になって初めて、俺は自分の無力さを思い知る。いつだってそうだ。
今にも哀咽を漏らしそうになっているハルヒを、俺は傍観することしかできない――と、その時だった。
電流のような火花が頭の中で散る。頭を抱え込まなければ、苦悶の叫びを上げてしまうほどの激痛がこめかみに走る。

1、何か、何か大事なことを忘れている気がする。思い出さなくちゃ一生後悔しそうな、大切な何かを――
2、こんな時に頭痛かよ。俺はこの状況をなんとか打開しなくちゃならないってのに         >>110までに多かったの


97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/20(木) 23:18:52.97 ID:UGOama640

1    F7の出番か?

98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/20(木) 23:19:07.91 ID:8NUdLtoG0

1

99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/20(木) 23:19:10.37 ID:QTMi8i+AO

111111111
そんな気分

100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/20(木) 23:19:17.23 ID:ueHNJKnG0

1

101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/20(木) 23:19:38.00 ID:n1jo0eL20

>>49でキョンがいいかけたアトラクションを!!

102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/20(木) 23:19:44.62 ID:ZT6cQJBr0

1だろ常考

103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/20(木) 23:19:47.95 ID:0I0mQXQn0



104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/20(木) 23:20:04.83 ID:2+uq21TPO

1歯科

105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/20(木) 23:20:36.13 ID:DrtYMC9a0



106 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/20(木) 23:20:48.49 ID:DPsCMGeNO

乙! じゃあ1で

107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/20(木) 23:20:49.27 ID:gRfY2nKbO

どっち選択しても同じ展開になりそうだけど1

108 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/20(木) 23:20:49.94 ID:jr78i2oU0

1だ

109 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/20(木) 23:21:00.74 ID:j2aeS0g2O

ついにみくるのメールがああああ

1 1

110 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/20(木) 23:21:01.98 ID:rn8Y29Kc0

今追いついた



何か、何か大事なことを忘れている気がする。
思い出さなくちゃ一生後悔しそうな、大切な何かを。
砂嵐のような頭痛を乗り越えて、隠された記憶を手探りで探し当てる。
刹那――ノイズとノイズの隙間に、麗しの先輩の微笑みが現れた。


覚えていて欲しいんです
絶対に役に立ちますから

"F7"

それじゃあ、またね


頭痛が急速に引いていく。どうしてこんな大切なことを忘却していたのだろう。
先輩からのメッセージを一時ならずとも丸一日忘れていただなんて、自分で自分のニューロン構造が信じられない。
だが、自己嫌悪に陥り始めた俺に、眼窩に投影された朝比奈さんは語りかけた。優しく慈悲深い、天使のような声が響く。

『ふふ、忘れちゃってたことを責める気はありません。それは必然だったから』

ありがとうございます、朝比奈さん。情けないですね。
あなたが未来に帰った後も、俺はあなたに助けられてばかりいる。

『さあ、今は早く、涼宮さんを喜ばせてあげて』

はい、と俺が首肯した瞬間、朝比奈さんの姿は再びノイズにかき消されたが――
俺は最後の大きなノイズが走る直前、朝比奈さんのメッセージを眼窩に刻みつけていた。
『F7』 もう、二度と忘れたりしませんよ。

瞼を開く。酷い頭痛が駆け抜けた直後の景色は、どこまでも鮮やかで、華やかだった。

瞼の裏で煌めいて存在を主張する、F7という英数字。
頭に火花が走った途端に、事態を解決する答えが思い浮かぶというのは出来すぎた話だ。
得体の知れぬ英数字は、それだけなら意味を成さない。元よりあるモノに付加させて初めて、意味を成す。
そう、これはヒントなんだ。いつも俺を優しく見守ってくれている誰かが、窮地に立った俺を助けるために送ってくれた、救済のメッセージ。
それに何を組み合わせて思考を再構築するかは俺次第だ。思考停止に陥っていた頭が、急速に回り始める。

「………F7は、場所を示している?」

もしこの英数字が現況を好転させるためのものとするならば。
それは広場以外の場所を示唆する、ということに他ならない。フィールドマップを開く。
丘、噴水、中央ホール、山、湖――F7が関係する文字はない。
俺の考え違いだったのか、とマップを閉じかけたその時だった。
彷徨っていた視線が、英字と数字の並びに止まる。

横方向にA,B,C,D,E,F,G......
縦方向に1,2,3,4,5,6,7,8.....

それは、マップ内での場所を座標指定するための数字だった。
F7に該当するブロックを指で辿る。果たしてそこには、湖の畔と森が、水色と淡緑で表現されていた。
高台も何もない平らな場所だ。周囲を森に囲まれている所為で、見通しも悪い。
もし、F7のブロックにマップから窺い知れぬ未確定要素がなければ。俺はハルヒを今以上に哀しませるという、大罪を負うことになるだろう。
だが――この閃きに、賭けてみる価値はある。

俺は緘黙したままのハルヒの手を握って、

「ハルヒ。もしかしたら、とびっきりの花火が観られるかもしれないぜ」

根拠もなければ確信もない、虚構に化けるかもしれないことを口にした。
伏せられていた瞳がこちらに動く。そこに光が灯り始めたのを見て、俺はもう、後には引けないことを確信した。

「ほんとなの?」

引き結ばれていた唇が戦慄く。

「ああ、俺を信じてくれ」

ハルヒの双眸を真っ直ぐに見据えて、断言する。こいつの懐疑はもっともだ。
手詰まりの状態から一転、噴水広場以上の観賞スポットを用意する、なんて言い出されても、
普通は呆れ果てた憐憫の視線を送るか、一笑に臥して相手にしないに違いない。

「こんなところに居てもしょうがないわ」

だが、ハルヒは違っていた。俺の瞳を覗き込み、そこに欺瞞の色がないと知ると、

「行きましょ――あたしは、あんたについてくから」

俺が一方的に握っていた手を、指を絡めるやり方で繋ぎ直した。小さな手に、確かな力が籠もる。

「少し走るぞ。足は大丈夫か?」
「まだまだ持つわ。あたしを誰だと思ってるわけ? 」

殊勝な笑みを浮かべるハルヒ。余計なお世話だったな、と苦笑して、俺は群衆の壁から踵を返した。
俺たちと同じく立ち往生していた客は、反対方向へと進む俺たちを注視することもなく、広場への進入を試みている。
腕時計を見れば、時間はいつ花火が打ち上げられてもおかしくないほど差し迫っていた。
進めば進むほど人が疎らになる道を、駆け抜けていく。春の夜にしては肌寒い夜風に、頬が上気する。
ふと隣を見れば、ハルヒはさっきまでのメランコリー状態が演技だったかのように目を輝かせていた。
瞳にはテーマパークの装飾が、きらきらと映り込んでいる。と、俺は自分の視界にも異常が起っていることに気がついた。

火照った頭で考える。最初に走り抜けたときは、あれほど色褪せて感じられたのに――いったいどういう理屈なんだろうね。
七色に光り輝くイルミネーションと仄かな夜想曲に彩られた大通りが、なんとも幻想的な風景に映るのは。

大通りから分岐した小道に入る。
等間隔に並んでいた外灯が、湖に近づくにつれて、一つ、また一つと減っていく。
ささやかに活気があった大通りと違い、小道には人の気配がほとんどなかった。
そしてその道は、湖の畔を覆い隠すように生繁る、暗い森へと続いていた。

「――はぁっ、――この中にあるのよね?――っはぁっ――」
「――そうだっ―――あと少しで――はぁっ――到着だぞ――」

酸素を欲しがって朦朧とする頭で、マップを思い描く。F7ブロックまではもうすぐだ。

「――急ぎましょ――」
「―――あぁ――――」

一瞬のアイコンタクト。ハルヒの足はとっくに限界を迎えているはずだった。そこにかかる負担、苦痛は計り知れない。
だが、その痛みをおくびにも出さずに、ハルヒは走る速度を上げていった。

カーテンのように視界を阻む木々や、進入してきた人間を惑わすように蔓延る暗闇。
いざF7ブロックに到達しても、中々湖の畔は見えてこなかった。
方角のみを頼りに、不完全に舗装された道を走る。

F7には何もない
無駄足だった 悪足掻きだった 無意味な努力だった
何故あんな妄想を信じたんだ?

自虐的な嘲笑が、脳裏を掠めては消えていく。
弱気になる自分を叱責して、俺はハルヒの手を握りなおした。
あれほど折重なっていた木々が、どんどん疎らになっていく。
暗闇の先で、仄かな光が瞬いているのが見える。限界まで酷使していた足に、ラストスパートをかける。

そして俺たちは辿り着いた。―――湖の畔に悠然と浮かぶ、客船の下に。

345 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/21(金) 21:06:24.00 ID:Dhb0fEf90

「―――っはぁ、キョン――これって……」

巨大な船体を仰ぎながら、ハルヒが言った。

「――はぁっ、――……昼間湖の上を遊覧していた客船みたいだな」

全体像が把握できない所為で一際大きく見える客船は、無人のようだった。
不気味ではない、心を落ち着かせるような静けさが、客船の周囲に漂っている。

「あんたが言ってた観賞スポットって、これのことだったの?」

心なしか弾んだ声に、俺は無言で頷いた。動悸が収まってくるにつれて、この客船がここにある理由が分かってくる。
客船による湖上遊覧は、午後7時の時点で終了していた。
豪奢な装飾ゆえに、湖の上に放置していても十分映える客船だが、
今日は初運用だし、点検も兼ねて人目に付きにくい場所に安置されることになったのだろう。
そしてそれは俺たちに好都合なことに、

「煌びやかな装飾はこの暗闇じゃ意味ないが――」
「――とびっきりの望楼として、客船を使うことができるわ!」

俺の言葉の末尾を、ハルヒが引き取った。
苦痛に歪められていた顔は、喜色満面に塗り替えられている。
その笑顔に、つい全ての問題が解決したような気になってしまうものの、まだ難関は残っていた。
確かに高見台は発見できた。だが、どうやってこの客船に乗船する?
船体と俺たちの位置の間には若干の距離がある。
係員もいなければ整備員もいないんだ、湖を泳いで船壁をよじ登らない限り、乗船は――

「可能よ、だってタラップが降りてるもの」

ととと、とハルヒが桟橋を歩いていく。暗闇に目を凝らせば、そこには確かに、地上と客船を繋ぐ道ができていた。

やれやれ。ここまで段取りがいいと、本当に神様を信仰してもいいような気分になってくるね。

「あんたも早く来なさいよ。忍び込んだところで咎められるわけないわ。
 タラップを直し忘れていた、テーマパーク側の不手際ね」

鶴屋財閥が構築した管理体制なんだ、そんなミスを犯すわけないだろうに、
と内心思いつつも、階段の一段目に足を掛けているハルヒの下へ向かう。
ふいに閃いたヒントを解読してF7ブロックまで赴くと、
まるで乗ってくださいと言わんばかりにタラップを展開している客船があった、
なんていうのは今一度考察しても出来すぎた話だと思う。
でも現実としてそうなっている以上……俺にできるのはハルヒの望みを叶えてやることだけだ。

――俺と一緒に花火が観たい――

泣きそうになるほど切望していたことが、もう、ハルヒの目の前にある。

「ちょっとそこで待っててくれ」

細波立つ湖面の上を、一足先に渡り終えて、

「――足許にお気をつけて、お乗り下さいませ」

俺は恭しく一礼し、手を差し伸べた。俺の船上員のような態度に、ハルヒは最初目を丸くしていたが、

「ありがとう。助かるわ」

衒いのない微笑を浮かべて、俺の手を取った。もう何度も繋いでいるはずなのに。
初めて手を取り合ったような興奮が、俺の理性に襲いかかる。一気に掌が汗ばんでいく。
顔が熱い。火照っていることを悟られたくなくて、俺はハルヒを甲板へと案内することにした。
――掌に滲んだ汗が、俺一人だけのものであると錯覚したまま。

―――――――――――――――――――――――――――――――

船の構造を確かめつつ上層部に歩を進めた俺たちは、さして迷うこともなく甲板に出ることに成功した。
真っ新な甲板に、二つ分の足音が響く。眼はすっかり暗闇に慣れていた。
夜空を反射した黒い湖面には、やはり夜空と同じように、宝石のような星々が鏤められていた。
これを拝めただけでも客船に進入した価値がある。そう思えるほどに、その光景は美しかった。
だが……

「遅いわね。もうとっくに始まっててもいいくらいなのに」

手摺りに体を預けながら、ハルヒが不平を零した。もう何度となく見た腕時計を、もう一度確認する。

「時間はもう9時をまわってる。遅れてるな」

恐らくは一般人の想像もつかないほどに入念なチェックが重ねられてきたであろう、花火の打ち上げ台。
発射予定時刻を超過している原因は別のところにあるのではないか、と見当をつけながらも、俺は適当な嘘を並べた。

「もしかしたらさ。俺たちがスタンバイするのを待っててくれたのかもしれないぜ」
「そうね、」

だが、ハルヒはその言葉を真に受けたようだ。

「本当に、あたしたちのことを待っててくれたのかも―――」

穏やかな声で、俺の言葉を繰り返し、

「―――あっ」

まるで初めて雪の結晶を見た赤児のように、喉を鳴らした。
黒洞々とした満天に、大輪の花が開く。遠雷のように低い音が、数秒遅れて鳴り響く。

儚く散った先の花火を忘れさせるように、打ち上げられる花火は大きく、華やかなものになっていった。
赤、青、黄、緑――いくつもの色彩が、一瞬だけ光り輝いては消えていく。

「……………」

お互いに言葉を発しない。いや、それでは語弊がある。俺には発することができなかった。
どこか思い詰めた瞳で花火を見つめるハルヒには、たとえどんな言葉を掛けても水を差すことになりそうだったからだ。
俺の手を下にして重ねられていたハルヒの手に、熱が籠もる。
ふと夜空から視線を降ろせば、ハルヒはぎゅっと、俺の手を握りしめていた。
撫子色の唇は、喉から出ようとしている言葉を堰き止めているように軽く嚼まれている。

「―――ッ」

本能的に眼を逸らす。心の準備が出来ていない俺が
見てはいけないものを偶然見てしまったような、そんな罪悪感に囚われる。
思考の逃げ場所を探して、俺は古泉の台詞を反芻した。

"彼女の行動の一つ一つに、目を向けてあげて下さい"
"あなたと出会った当初の彼女と、どう変わったのか"
"それをもう一度、再確認してみてください"

テーマパークで夢中で遊んでいるうちに、記憶の彼方へと押しやっていた主目的。
今日一日をハルヒと過ごして。俺は、ハルヒの蟠りを氷解させるファクターを揃えることができたのだろうか。
いや――元より出揃っていたファクターを、理解できるようになったのだろうか。
やけに現実味を失った花火の音を聞きながら、ハルヒの行動を反芻する。

駅前で息を切らせた俺を出迎えてくれたのは、艶やかな衣装を身に纏ったハルヒだった。
こいつが、何処で購入したのか疑問になるような奇抜柄のTシャツや上着を着なくなったのは、
俺と二人で出掛けるときに限って、薄くメイクをしたり髪を綺麗に整えてくるようになったのは、いつからだろう。

初っ端の幽霊屋敷。偽りのお化けに怯えたハルヒは、躊躇うことなく俺の腕を取った。
袖をつまむのにも抵抗を見せていた昔のハルヒと比べれば、随分と自分の感情に素直になったと言える。

気分転換にと推したボート。
静的なアトラクションは好まないかと予想を付けていたのに、ハルヒはその案を笑顔で受け入れてくれた。
湖の真ん中で眠気に襲われ、独り勝手に昼寝しようとした俺に、ハルヒは拗ねたように水飛沫をかけてきたんだっけ。
もし二年前なら、俺は問答無用でびしょびしょにされていただろうな。

ジェットコースター下車直後。不甲斐なく失神してしまった俺を、ハルヒは介抱してくれた。
俺が目を醒ました後は、素っ気ない態度に戻っていたが……普通膝枕は、介抱する人への優しさがなければしないもんだ。

シューティングゲームの途中に受けた挑戦に、ハルヒは消極的だった。
昔の好戦的なハルヒなら、夜のイベントなんてそっちのけで首位プレイヤーと交戦していただろう。

偶然にも鉢合わせた、谷口国木田阪中の三人組。
さっと俺の背中に隠れたハルヒは、谷口のからかいに言い返すことができなかった。
俺と一緒に遊びに出掛けていることを指摘されて、何故ハルヒはあんなに恥ずかしがっていたのだろう。
いや――いつからだ。ハルヒが俺と街を出歩いているところを知人に見つかる度、恥ずかしがるようになったのは。

ディナーショーのjazz演奏。
それに喚起されたのか、ハルヒは一年前の文化祭での我侭を謝罪してきた。
俺が忘れていたことを、ハルヒはずっと心に留めていた。
咄嗟に言葉を返せなかった。ハルヒに振り回されるのが日常だったのに、それをハルヒ自身に否定されたような気がしたから。

花火が一番綺麗に見える場所だと信じていた、噴水広場前で。
俺と一緒に花火を観たかった、と呟いたハルヒは諦観していた。
叶わないと知って泣きそうになるほどの願いも、ハルヒに環境操作能力を行使させるまでには至らなかった。
空想の出来事を現実化させるならまだしも、広場に少しスペースを空けるくらいなら、良心は咎めなかっただろうに。

そして、花火を除く上記の行動全てに、総じて言えることがある。
ハルヒは俺の意見を、自分の意志よりも尊重していた。
アトラクションを決めるとき、二択から選択しなければいけないとき――
あらゆる局面で、ハルヒは己の一存で行動を決定しなかった。
一見、俺はハルヒに追従しているようで、自由にテーマパーク内での活動を取り決めていたのだ。


夜空の彩りをより一層増していく花火に目が眩む。隣のハルヒが、口を開く気配があった。


現在と過去を照らし合わせてみれば。ハルヒの俺に対する姿勢は
団長と団員という関係性を超えて、俺が見過ごしている間に大きく変化していたのだ。
それは今日の記憶だけでなく、過去数日の違和感が付きまとう記憶と照合しても辻褄があう。

昨日早朝、通学路を歩いていた時に見掛けた、後輩の男女の理由なき諍い。
その光景は今の俺とハルヒと似ているようで、違っていた。
その後教室で谷口にからかわれたとき、ハルヒは一旦拗ねたように窓外を睨んでいたが、
いざ俺が話しかけると愛想良く返事をしてくれた。まるで先ほどの出来事で怒っているのを、俺に知られたくないという風に。

いつからかは忘れたが、ハルヒが俺に理不尽な情動を投げかけてくることはなくなっていた。
例え腹の虫の居所が悪かろうと、ムシャクシャした気分でいようと、俺に向けるのは常に平常時の顔。
顰めた顔に仮面をして、時には笑顔の仮面を被ってまで、俺に不機嫌を悟られまいとするようになっていた。


「ねぇキョン……あたしね……」
湖面を震わせていた号砲の音が、遠のいていく。


そんなことを露程にも知らぬ俺は、毎日が平和に廻っていると信じて疑わなかった。
非日常的事象は起らなくなりハルヒとの関係は至極円滑になっていると、盲目的に安堵していた。

だが俺の楽観的思考の枠外で、ハルヒには蟠りが生まれていた。
生じては瞬間的に消滅する、過去の閉鎖空間と比較すれば圧倒的に小さな、特殊閉鎖空間。
それは非日常的な現象を望むハルヒが、己の普遍性に我慢ならずに発生させたものじゃない。
ハルヒは既にフツーの日常に適応している。だから、その根因は別のところにあるということになる。

古泉は言った。
機関はこの特殊閉鎖空間への対策を放棄し、
ハルヒの蟠りを解消できるのは俺しかいなくなったのだ、と。
それは裏を返せば、俺に特殊閉鎖空間発生の原因があったということにはならないだろうか。

もしかしたら――ハルヒの思い遣りや、俺への負担をかけまいとする心配りは、
同時にハルヒの欲求や希望を、抑圧することになっていたのかもしれない。
それが刹那的なストレスとなってハルヒを襲い、特殊閉鎖空間を発生させていた可能性は十分に考えられる。

でも。もしそうと仮定するなら、俺は一つの根本的な矛盾と相対しなければならない。
今までの関係でも良かったはずだ。ハルヒが自分勝手な願い事を言い出して、俺がそれを辟易しつつ嘆息しつつも叶えてやって、の繰り返し。
ハルヒが自分の意志を殺してまで、俺と良好な関係を築こうとする理由が、存在しなかった。


「……いつかあんたに言おうと、決めてたことがあるの」
声は細波のように消え入りそうだった。


――いや。その矛盾を解消できる仮説は、あるにはあった。
しかしそれはあまりに利己的で恣意的で身勝手な仮説だ。
ハルヒは「恋愛感情は病の一種」と常日頃から謳っていたが、
もし、万が一にもハルヒが俺に恋愛感情を抱いているとするのなら、先の矛盾は綺麗さっぱり消滅する。

経験が浅い、というかナシの俺が偉そうなことを言えたものではないが……
一般的に好意を向けている相手に、自分の意志を曲げてでも喜んでもらいたいのは、当然のこと。

通常の閉鎖空間を発生しなくなった理由を、俺はハルヒが精神的に成長したからだと決めつけていた。
しかしこうは考えられないだろうか。
外面上は"平穏無事な日常を望んでいる"というスタンスで過ごしてきた俺。
俺に好意を抱き始めたハルヒは、それを無意識下で感じ取り、俺の思考を世界に反映させた。
その結果、非日常的な事象は一切発生しなくなった。そして副次的に、ハルヒが自分の意志を抑えてまで俺に合わせるようになった。
この推理が当たっているとするならば、いつかの帰り道での「今が楽しい?」という問いかけの説明がつく。
あの質問は――ハルヒの深層意識が、俺が何も起らない世界に、俺の意志を優先するハルヒに、
満足しているのかどうか確かめたかったが故の質問だったのではなかったか。


「ずっと、ずっと怖くて言い出せなかったんだけど……」
一言一言噛み締めるように、言葉が紡がれていく。


はは。失笑してしまうほどに自己中心的な暴論だ。
憶測に憶測を重ねただけの世迷い言。こんな妄想しているとハルヒに知られれば、俺は間違いなく軽蔑されるだろうな。
でも――もし仮に何千億分の一の確率で、この仮定論が当たっているとすれば、俺は今すぐにでもハルヒの蟠りを溶かせるということになる。
ハルヒが俺に恋愛感情を抱いているか抱いていないかなんて別にして、自分の気持ちを口にすることは可能だ。
例えそれが、思い切り的外れなことだったとしても。俺の気持ちをハルヒに伝えることは無駄にはならない。

俺は――

1、俺はわだかまりを抱えたままでも、俺の意志を尊重してくれるハルヒを選ぶ
2、自分を抑えているハルヒなんかいらない。俺は我侭な、いつも俺を振り回してくれる自由奔放なハルヒを選ぶ。

ラスト安価

>>610までに多かったの


601 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/22(土) 03:10:21.04 ID:6pPIsVLs0

俺は2。やっぱり俺の中のハルヒは2

602 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/22(土) 03:10:21.45 ID:HMTrS8Zz0



603 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/22(土) 03:10:53.73 ID:Vlq3422BO

俺の美麗なる保守を魅せる時がきたか…


ほぉぉう!しぃぃぃゅううう!!!

604 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/22(土) 03:10:58.40 ID:brmZCByWO



605 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/22(土) 03:11:06.86 ID:evqUjG150

22222222222222222222

606 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/22(土) 03:11:08.04 ID:0d7PSPfd0

・・・2!!

607 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/22(土) 03:11:12.13 ID:Sj3yx8Wa0



608 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/22(土) 03:11:14.78 ID:T+dfyt/m0

1

609 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/22(土) 03:11:19.23 ID:++OkguY70

2

610 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/22(土) 03:11:24.99 ID:l6Rcc23D0

2だあああああああああ


俺は――自分を抑えているハルヒなんかいらない。
迷惑を顧みないで周囲を振り回す、自由奔放なハルヒを選ぶ。


「もしあんたさえ良かったら……」
空を映していた瞳が、俺を映す。


必要以上に気を遣ってくれるハルヒとは、一緒にいて心地よかった。
例え表面上はつっけんどんでも、その裏で俺を一番に思っていてくれるハルヒに、満足感を得ていたりもした。
だが、それは俺の一方的な優しさの甘受に過ぎない。二人の関係が強くなるときに、どちらか一方に負担が押しつけられることはあってはならない。

だからさ、ハルヒ。お前ばかりが我慢する必要なんて、最初から全然なかったんだ。
お互いに距離を近づけて、衝突して、どちらかが妥協して、再び距離を近づける――それが本当の関係の深め方だろう?


「あ、あたしと、」
「待ってくれ」

ハルヒの独白を遮る。

「どうしても今、言っておきたいことがあるんだ」

大きく見開かれた瞳には、不安と期待の色が入り交じっていた。

「いつの頃からかは忘れたけどさ。俺ってお前から、理不尽な暴力や暴言を受けなくなったよな。
 昔はお前にあんなに振り回されてたのに、今じゃ、すっかり平穏な生活を手に入れちまってる」
「……………」

「機嫌損ねる度に時間構わずメールを送ってくることも、
 相談事ができた次の瞬間は吹っ掛けてくることもなくなった。
 そしていつの間にか、お前は、俺に悩み事を打ち明けなくなっていったよな」

解消されることのない負の感情は、どんどん鬱積していく。

「お前は認めないかもしれないが……お前は俺に気を遣ってくれるようになった。
 滅茶苦茶な我侭をいうこともなくなったし、感情の捌け口にすることもなくなった。
 それどころか、俺の意見を優先するようにまでなってくれていた」

鬱積したそれらは、しかし処理されることもなく。

「お前が無条件で不機嫌な自分を曝していたのは、もうずっと前のことだ。
今俺の目の前にいるのは、無条件で笑顔を見せてくれるハルヒだよ」

許容値を超えてはあふれ出し、許容値内に戻っては、再びあふれ出すを繰り返していた。
それをハルヒは訴えようとしなかった。黙ったまま、別の自分を演じていた。

「―――なあ。お前、無理してないか」
「それはちがっ、………」

勝手に喋り始めた唇を、人差し指で塞ぐ。

「今から言うことは全て俺の独り言だ。だから、お前が聞きたくなければ耳を塞いでいてもいい。
 でも一つだけお願いがあるんだ。俺が話すのを、止めないでくれないか」

数秒の間をおいて、ハルヒが首肯する。人差し指に、柔らかい感触が伝わってきた。

「こんなことを言うのは最初で最後だぞ。あのな、これは最近気づいたことなんだが――
 どうも俺は平穏無事な生活よりも、お前に振り回されている方が性に合っているらしい」

「……………」
「中身のない話題で長電話に付き合わされるのも、くだらん相談メールで熟睡中に起こされるのも、
 俺の知らぬところで機嫌を損ねたお前を宥めることも、俺は全然苦にしちゃいなかった」

冒頭で独り言だと断った割に会話口調になっているのは、ハルヒが耳を傾けてくれていると確信しているからだ。
そして事実、ハルヒの唇は俺が言葉を重ねるごとに、熱を帯びていった。

「お前の傍若無人で自分勝手な願望を叶えてやるのも、ありえねーってくらいに滅茶苦茶な我侭を聞いてやるのも、
 俺は全然嫌じゃなかったんだよ。いや、むしろ率先してその役割を引き受けていたと言ってもいい」

人差し指を離し、

「どうしてだと思う?」

真っ直ぐにハルヒを見据えて問いかける。

「……分からないわ……」

そう言うと、ハルヒは俺の視線から逃げるように俯いた。髪から覗いた耳は、朱に染まっている。
答えが分かっているのに答えないなんて卑怯にもほどがあるね。
結局、俺がハルヒの代わりに模範解答を言わなければならなくなったじゃないか。

「それはな。俺が苦労すればするほど眩しくなるお前の笑顔が、
 無条件で見ることができるそれとは比べものにならないくらいに好きだからさ」

息を詰まらせたハルヒに構わず、解答文を読み上げていく。

「だからハルヒ――お前は好きなだけ俺に我侭をぶつけて良かったんだよ。
 団長様の願いを叶えるのが、団員その一である俺の宿命だ。
 その平団員のためにお前が我慢するだなんて、愚の骨頂だとしか言いようがないぜ」

悩みごとができたら遠慮なく持ってくればいい。
最低な気分なときはそいつを俺に押し付けろ。
他人に迷惑を掛けるのを自重しても俺を振り回すのを躊躇うな。
俺に叶えられる範囲の願い事が出来たらまっすぐ突っ込んでこい。
ただし、ブレーキをかけようとかクッションを間にはさもうなんて余計な配慮は要らないぜ。

「どんなに突拍子な望みを抱えたお前でも、真正面から受け止めてやるからさ」

最後に後で回想したら間違いなく赤面モノの台詞を吐いて、言葉を切る。
そして今更ながらに、台本が用意されていたわけでもないのに"伝えたいこと"をすらすらと綴ることができた自分に驚いた。
頭の天辺から足先まで全身が火照っている。脳髄は、沸騰しているんじゃないかと疑えるくらいに熱い。

「とまあ、俺の独り言はここまでだ。
 同時に、俺が言いたかったこともこれで全部言い終わったことになる」

"独り言"が終わっても、ハルヒは面を上げようとしなかった。
俺のあまりに気障な台詞廻しに失笑しているのか?
と、そんなあり得ない懐疑心が膨らみ始めた、その時――

「……、ひくっ、馬鹿……じゃないの…ひくっ……」

嗚咽混じりの罵倒が聞こえてくる。
お前は知らないかもしれないが、脈絡のない中傷は結構心にくるんだぜ。

「ひくっ……思い上がりも、……いいとこね……ひくっ……………」

確かにお前を顧みない、俺の欲求を満たすためだけの独白だったな。
もしさっきの独り言がただの見当違いだったなら、どんなに蔑まれても俺は反論できないだろうさ。

「……その大馬鹿に、……命令、…するわ……ひくっ……」

有無を言わさぬ命令口調。やっぱりお前はこうでなきゃな。
「もしあんたさえ良ければ」なんて下手に出た嘆願は、お前に似合わないんだよ。
叶えたいことがあるなら、声を大にして命令すればいい。
何度も言ってるだろ? お前の望みとあらば、俺はなんでも叶えてやるってさ。
腰をかがめて、ハルヒに顔を近づける。

「さて、その命令とはなんなんだ?」

伏せられていた顔が上がる。双眸は熱く潤んでいた。懐かしの殊勝な笑顔に、一筋の涙が零れ落ちる。
そして――ハルヒは飛切りの我侭を口にした。

「あたしと付き合いなさい! い、言っておくけどあんたに拒否権は、」

やれやれ。久々に本気の団長命令だから、どんな無理難題かと思っていたら――

「お安いご用だ。なんなら、一生幸せにしてやると誓ってもいいぜ」
「え――」

即答した瞬間。堰を切ったように、ハルヒの双眸から涙が溢れ出す。

「……こんなに嬉しいのに、ひくっ、……なん、で……」

突然の感情の横溢と、それにリンクした涙の理由が分からないのだろう。
ハルヒはコートの裾で目をぐしぐしと擦りはじめた。
それに見かねてハルヒの両手を掴む。案の定、メイクは台無しになっていた。

「み、見ないで」
「どうして?」
「……あたしの顔、今酷いことになってるから……」
「へぇ、だとしたら俺の眼は検査の必要があるだろうな。だって俺の目には、世界で一番可愛い彼女が映ってるんだからさ」

元々紅かった頬が、さらに紅潮していく。
唇は言葉を探すように戦慄いている。その様子が、堪らなく愛しい。
劣情とは別の、純粋な愛情からくる衝動に突き動かされる。
刹那の逡巡もなく、俺はハルヒの矮躯を抱き寄せて――

「―――!!」

震える唇に、自分のそれを押し当てた。元々大きな瞳が、さらに大きく見開かれる。
密着している体が、繋がっている唇が、熔けているように熱い。
最初驚愕に彷徨っていた視線は、やがて蕩けるような甘いものへと変わっていく。至近距離で見つめ合う。

『どうしていきなりこんなことしたのよ?』

口吻に理由が欲しいのか?
そうだな、強いて言うなら、俺はお前に疑心を抱かれたくなかったんだ。。
お前の告白を受け入れたのが、団長命令による強制的なものではなく――
俺の意志によるものだと、知ってもらいたかったのさ。
お前のことが好きでもなんでもなけりゃ、俺は絶対にキスしたりはしない。
これは二年前の、世界を救うためのキスとは違う。純粋な欲求からきた、極めて自然なキスだ。
恋人同士がキスをするのに明確な理由が必要か? 要らないだろ。
だから……お前は何も考えずに俺を抱きしめ返せばいいんだよ。

『キョンのくせに生意気ね。言われなくてもそうするわよ』

俺のアイコンタクトに、ハルヒの目が細められる。
やがておずおずと背中に回ってきた手に、俺は幸福感を噛み締めようとし、

『でも、やられっぱなしはイヤ』

啄むように動くハルヒの唇に、なされるがままになっていた。

まったく――俺の不甲斐なさに嘆息を禁じ得ない。
キスの主導権も握れないようじゃ、この先が思いやられるね。
行為に夢中になっているハルヒから、夜空へと視線を逸らす。
と、その時だった。


最後の花が瞬く夜空に、麗しの鐘音が鳴り響く。
その音はまるで、望楼で愛を確かめあう俺たちを祝福するかのように、
儚い夢の終わりを少しでも遷延しようとするかのように、澄み渡っていた。
何故だろう。聳え立つ時計台の鐘楼は、霞んでよく見えなかった。


「あむ……っん……」

しかしその違和感も、激しさを増したハルヒのキスに埋もれてしまう。
まるで俺の存在を確かめるように舌で唇をなぞるハルヒに、理性が奪われていく。

朦朧とした意識で予想する。
明日からハルヒは、気兼ねなく俺を振り回すようになるだろう。
恋人関係というアドバンテージをフルに活用して、赤面必至の要求を重ねてくるかもしれない。

だから。この鐘音が鳴りやむまで、俺は、ハルヒの甘える姿を目に焼き付けておこうと思う。
夢幻のようなこの夜に、ハルヒに告白し告白されて、恋人同士になったことを―――ずっと、忘れないために。


-haruhi route end-



涼宮ハルヒの選択 - Endless four days - 2nd route

麗しの鐘音が鳴り響く。
遙か遠くの鐘楼は真昼の陽炎のように、あるいは真夜中の朧月のように霞んでいる。

「――あたしね――今――なの――」

ふと、懐かしい声がした。

「――だから―――ずっと―――」

誰かを呼び止めようとしていたそれは、遠ざかるように小さくなっていく。

「―――一緒――――に―――――」

再び独りになった、誰か。やんでいた鐘音が、慰めの鐘音が鳴り始める。
耳障りな音の源を確かめたくて、もう一度鐘楼を凝視する。
聳え立つ時計台の頂上。力無く揺れる鐘の下には、四柱の一つにもたれる人影があった。

―――――――――
――――――
―――

「…………なんだ、メールかよ」

寝惚け眼を擦り擦り、ぶるぶると痙攣する携帯を黙らせる。
こんな中途半端かつ最も安眠していたい時間にメールを寄越す人間は一人しかいない。
涼宮ハルヒ。我らがSOS団団長様にして宇宙人未来人超能力者から一目置かれる神的存在、つーか神。
さてその神様が、一般ピープルの中でも最たる凡庸性普遍性中庸性を誇る俺に、こんな早朝から何の用なんでしょうかね?

ハルヒの片仮名三文字と、律儀に毎日変更される日付――4/23――の文字を一瞥し。
期待半分、失望半分の心持ちで、俺はメールを開封した。

――――――――――――――――――――――――――――――

「おはよう、キョンくん。今日は自分で起きられたんだねー、えらいえらい」
「お褒めに与り恐縮です」

何故妹の高慢な物言いに付き合ってやっているかといえば、
それにはマリアナ海溝より深くオリンパス山より大きな理由がある、というわけでもない。

「何か学校に用事あるのぉ〜?」
「別に」

素っ気なく返事すると、妹は口をぷくりと膨らませて、

「キョンくん冷たぁ〜い。どうせハルにゃんに呼び出されたんでしょー」
「いんや、違うね。学校の所用でだ」

妙に勘が鋭い妹にたじろぐ俺。

「ふぅん。ほんとかなぁ〜?」

やれやれ。いつからお前は母親並の甲斐性を発揮するようになったんだ。
お前は俺専属の起床係に留まってりゃいいんだ。余計な勘ぐりはいらねぇんだよ。
機械的に朝食を食べ終えて席を立つ。

「あ、ちょっと待ってキョンくん―――」
「良く嚼んで食べるんだぞ」

朝の慌て時にも妹への心配りを忘れぬ良き兄を演出しつつ、俺は玄関を飛び出した。
蒼穹からさんさんと降り注ぐ陽光が眩しい。今朝の天気予報によると、終末まではぽかぽか陽気が持続するのだとか。
普段は天気予報を信じていない俺だが――特に根拠もなく、今回の予報は当たるという確信があった。

下履きまばらな昇降口から、今年から場所が変わった教室へ赴く。
ハイキングコースでの珍獣谷口との邂逅事件を、ごっそり割愛した理由はシンプルだ。
酒の肴どころか水の肴にもなりそうにない下世話トークに、週刊誌コラムよりも価値のない無駄情報。
賢明な方なら俺の気持ちを察してくださっていることだろう。あぁ、最高につまらなかったさ。
教室の框を踏むと、そんな俺の暗澹たる気分を知ってか知らずか、

「おはよう。キョン」

ハルヒが満面の笑顔で、おいでおいでと手招きしていた。
それに誘われるまま、指定席に腰を落ち着ける。

「指定時間ぴったりに到着するなんて、なかなかやるじゃない」
「意図的に時間をずらしたわけじゃねえよ。そっか、ギリギリだったんだな」

眠気を一切感じさせぬ快活なハルヒに、こいつに睡眠の概念はあるのかと疑いを掛けながら今朝のメールを反芻する。
"起きてるならすぐに学校に来なさい! 以上"
この上なく簡潔で別解釈ができない文章に、俺は溜息をつきつつ跳ね起きるという奇妙な目覚めを体験した。
直ぐさま理由を問いただしても返信は梨のつぶて。結果、俺は昨夜の疲れが取れぬ体に鞭を打ってここまで早朝出勤してきたわけだが――

「で、どんな用事だったんだ?」
「え? 別に特に用事はないけど?」

は?
疑問符に疑問符で返すのは憚られるが、致し方ない。

「用事がないのに俺を呼んだって、いったいどーいうことだよ?」
「だーかーら。特に理由はないって言ってるでしょうが。朝早く起きちゃって、暇になりそうだから呼んだのよ」

団長直々の呼び出しよ、と偉ぶるハルヒに、言葉を失う。溜息を禁じ得ないね。
ここまで理不尽な呼び出しを食らったのは何時以来だろう。

―――――いや待て、現況をよく見直してみろ。
これは一見、我侭女に振り回された男子生徒の不幸な早朝風景だが、
視点を変えれば、ほうら、貴重な朝の校内を満喫できる素晴らしき余暇に様変わりしたではないか。
この数年間で培ったポジティブシンキングを遺憾なく発揮する。ハルヒは俺を

「どうしたのあんた……大丈夫?」

と不審がっているが、そんなことは些末な問題だ。この際プライドは抜きだぜ。
さて、この有意義な時間をどう過ごそうか?


1、当初の目的通り、ハルヒの暇つぶしに付き合ってやるか 聞きたいこともあるし
2、人物指定安価(北高に無関係な人は不可)「   」が気になる

>>292


292 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/26(水) 21:38:19.68 ID:KGbVCw.0

1


がしかし、幾重のフィルターをかけたところで、HR前の休憩時間はそれ以外の何者でもなくて。
あれほど盛っていた気概は早くも衰え、俺は無意識のうちに水を向けていた。無論、ハルヒに。

「昨日の部室でのことなんだがな。古泉がまた勝負をしかけてきやがったんだよ」
「いつものことじゃない」
「いや、それが昨日はちょっとばかしいつもと違っててさ――」

頬杖をついて窓の外に視線を投げ、話に耳を傾けているのか判別つきにくいハルヒと、
壁に背中を預け、教室の他生徒たちの動向を観察しながら話題を振る俺の
噛み合っていないようでしっかり噛み合っている会話は、それから数十分ほど続いた。
と、教室内に人が溢れ始め、恒例の微温視線がこちらに飛び始めたときのことである。
俺はふとした拍子に、思考の端っこに隠れていた疑問を引っ張り出した。

「なあ。お前が今朝みたく寝てる俺を起こすのって、かなり久しぶりのことじゃないか?」

突然の話題転換にハルヒは数秒面食らっていたが、

「そうかしら。あー……、そう言われてみればそうかも」

納得したように首を何度か縦振りし、

「なんでかしら。あたしがあんたに遠慮するはずがないんだけどね」

余計な言葉を語尾にくっつけて首を捻った。それに釣られて、俺も後頭部をガラスに当てる。
無視してもなんら支障ない疑問だが、それ故に解明できないとむず痒く感じられる。
時期を特定できないものの、いつのまにか、ハルヒが俺に我侭をぶつけてくる機会は激減していた。
どうしてこんなに分かりやすい間違い探しを、ずっと放置していたのだろう。
常日頃から騒がしいハルヒが静かになろうものなら、誰よりも早く気づける自信があったんだが。

「でもま、今気づけたんだしどうでもいいじゃないの。あたしもついつい忘れちゃってたんだと思うわ。去年は忙しかったしね」

投げ遣りな言葉。しかしそれには、俺の懐疑を封さつする妙な説得力があった。

「お前が気づいてなかったんなら、黙ってれば良かったな」
「墓穴を掘ったわね。これからは積極的にあんたを振り回してやるとするわ」

お前の私的願望を叶えるくらいなら骨を折ってやってもいいが、超常現象は勘弁願いたいね。
振り回すなら振り回すで、周囲に迷惑を掛けない程度にパワーセーブしてくれ。

「あんたが迅速かつ的確に行動すれば他の団員に被害は及ばないわよ?」

【被害】なんて単語が出るとは驚きだ。お前も自分が台風であることを自覚してたんだな。

「いちいちうるさいわね! とにかくあんたはこれからもSOS団平団員としてせっせと働くの」
「へいへい、肝に銘じておきますとも」

わざとらしく頭を振って、古泉よろしく肩を竦める。
隣の団長殿が喜色満面であることは想像に難くなかった。
大方、明日からにでも夜中に携帯が絶叫し始めることだろう。
いい迷惑だが――これがいつもの日常だったんだから、ある意味では元の状態に戻った、とも言えるけどさ。

「起立」

凛とした委員長の声が響き渡る。どうやらお喋りが過ぎていたみたいだね。
俺たちは条件反射的に席を立ち、自動的にHR前の雑談も終了した。
席についてからの出来事は特筆すべきことでもないので省略したいところなのだが、
惰性で俺が意識を失うまでを描写しきってしまうことにする。
担任岡部の明朗な話が数分あって、1時限目の授業に備えた俺は、いざ授業が始まってから数分で訪れた睡魔にあっけなく侵攻を許した。
俺の対睡魔防壁は基本耐久値が著しく低い。それが早起きしたことによって攻められる前から罅だらけになっていたのだ。抵抗しただけ名誉の敗北と言えよう。
加速度的に意識が薄まっていく頭の中。俺は内側に敏感になった感覚で、小さな音を聞いていた。
それはパズルがはまるような、或いは鍵が一つ開いたような、気持ちの良い音だったが――その全体像を掴む前に、俺の意識は途絶えていた。

――――――――――――――――――――――――――――――

時は変わって昼食時、いや正確には昼食後の昼休み。
昼飯恒例のメンバーと袂を分かち、暖かな陽光に包まれた絶好の昼寝タイムを満喫しようと机に突っ伏し早10分。
眠気は一向に襲ってこなかった。午前中に眠りすぎたんだろうか。
机に無造作に突っ込まれたノートは98%が白紙で構成されており俺の推測を裏付けてはいるが、
それを現実と認めたら認めたで俺の学習状態の穴がポロポロとまろびでてくることになるわけで、判断材料として採用するわけにはいかない。
しかし、かといってこれ以上机に突っ伏すわけにもいかず……数分堂々巡りを続け、俺は思考を投擲した。

「さて、どうすっかなー」

ハルヒは学食へダッシュしたきり戻ってこない。文芸部室もといSOS団本拠地でよろしくやってるのかもしれないね。
長門にお茶を煎れて貰ってご満悦のあいつが目に浮かぶ。
と、俺が重い腰を上げようと、力を入れた時のことだった。

「おいキョン、お前そんなとこでのほほんとしてないで、こっちこいよ!
 今度の土曜に正式オープンするテーマパークの特集記事があるぜ」

谷口のお呼びに首を捻る。教室の一角で、なにやら談義をかもしている一群があった。
そのテーマパークとやらはクラスメイト共通の注目事項であるらしく、雑誌は男女ともに仲良く回し読みされている。
今雑誌を興味津々の様子で読みふけっているのは――阪中か。
あいつがテーマパークなんて娯楽施設に興味あったとは甚だ意外だ。
が、いつまでもここで昼休みの身の振り方を悩んでいてもしかたがない。時間は有限なのである。

ここは――
1、文芸部室に行こう 長門やハルヒ(ついでに古泉)がいるかもしれん
2、テーマパークね……初めて聞いた気がしないな
3、場所自由指定(ただし知人がいそうなところに限る)「   」に行こう

>>376


376 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/26(水) 23:22:36.38 ID:tVa.2u2o

2


「その記事、ちょっと俺にも見せてくれないか」

普段は谷口情報に猜疑的な俺だが、ソースが目の前にある以上信憑性は高い。
俺が一群に近づくと、クラスメイトたちは既に記事を読み終わっていたらしく

「はいどうぞ。キョンくんもこういう施設に興味あるの?」

阪中がはい、と雑誌を手渡してきた。

「まあな。好きこのんで出掛けようとは思わないが、参考程度に見ておこうと思ってさ」

古泉直伝の柔和な笑みで雑誌を受け取る俺。
が、しかし。この情報もいずれハルヒのデビルイヤーに絡め取られて
特別不思議探索という名の遊覧に引っ張られていくことになるだろうし、
予備知識を蓄えておいて損はないだろう、というのが本当の理由である。非常に悲しいことだが。
家族との関係を壊さぬように嘘をつく安月給のサラリーマンみたいな心情で頁を捲っていると、
お目当ての特集記事が現れた。次世代型ジェットコースター「乙」に、3Dシューティングアクション「こいずみくんライド☆」……なんだこりゃ。
とくに二つ目のアトラクションのマスコットキャラなんて、どうみても古泉じゃねえか。

「どうだ、すっげー面白そうだろ?」
「既存のアトラクションもかなりグレードアップされているみたいだよ。
 もちろん、新開発されたアトラクションも必見だけどねえ」

感想を待ち望む4つの視線。しかし俺にはどうにも、このテーマパークに新鮮味を感じることができなかった。
デジャヴとはまた違う、そう、まるで夢の中で体験したような既知感。
俺が反応を示さず、膨れあがってきた違和感と格闘していると、

「なんでぇ、もっとキョンが驚くと思って持ってきたのによ。……もしかしてお前知ってたのか?」
「その可能性は十分に有り得るよ。だってキョンはあの先輩と深い仲だし」
「ふ、深い仲ってどういうことなの? あたしはそんなこと初耳なのね!」

谷口、国木田、阪中の三人衆が沸き立ち始めた。
しかも阪中の激しく誤解を招く言動に、クラスメイトどもが集ってくる始末だ。
おーい、何俺を捨て置いて勝手に話進めてやがる。あの先輩って誰のことだよ。

「鶴屋さんのことさ。あの人、SOS団の面々とは特別親交が深いんだろう?」

鶴屋さん? 国木田の口から飛び出た人物名に眉を顰める俺。
すまん、話の流れが掴めん。このテーマパークと鶴屋さんに一体どんな関係があるんだ?

「キョン……君はまだ夢見心地から抜けきっていないんじゃないかなぁ。
 鶴屋さんはテーマパークを建設した鶴屋財閥の令嬢だろう?
 それとも、直接話を窺ってないの? それなら仕方ないけど」

国木田が言い終わる前に、俺は記憶の頁を破れんばかりの勢いで捲っていた。
目当ての頁はすぐに見つかった。昨夜、そう、ほんの昨夜じゃないか。
遅咲きの桜舞い散る木の下で、鶴屋さんはテーマパークについて確かに俺たちに話していた。
こんな印象深い出来事を忘れるなんて、俺の海馬の一部は壊死でもしているんじゃないだろうか。

「思い出したぜ。鶴屋さんから話は聞いてた。そっか、明明後日にはオープンなのか……」
「だってさ、谷口。キョンが驚かないのも無理ないよ」

意気消沈した谷口の肩をポンポンとたたく国木田。俺はしばしその風情に青春の1ページ的何かを感じ取っていたが、

「キョンくんって鶴屋さんとそんなに親密な仲なの?」

阪中を筆頭とする女子群の、リサーチ対象を見つけたリポーターもかくやという好奇心に
嘆息することとなった。どうしてこいつらはなんでもかんでも色恋沙汰に発展させようと目論むのかね。
ほら、男子共も非難の視線を送ってきているじゃないか……あれ、なんでその標的が俺なんだろう。痛い、とても視線が痛いです。

「ハルヒの関係でちょっとばかし付き合いがあるだけだ。お前らが思うような深い関係じゃねえよ」

近いようで遠く、遠いようで近い。鶴屋さんの卒業で益々あやふやになってしまったその距離を、俺は暫定的に「遠い」ということにした。
SOS団としての親交は疎遠になるどころかむしろ親密になっているとも言える位だが、
俺個人が鶴屋さんとどこまで親しくなれたかは計りかねる。例え一年でも、歳の差は不可視の距離を生むのだ。
それは今となっては未来に還った朝比奈さんが、存分に証明している。ああ、何度彼女が同年代であったらと妄想したことだろうか。

『えー、キョンくん適当いってるんじゃないのー』
『そうだよー、ホントのトコ教えなさいよー』

俺の拙い返答に満足行かなかったのか、女子群はそれからもやいのやいの問い詰めてきたが、

「たっだいまー。有希のお茶もどんどんみくるちゃんのそれに近づいて―――何やってんのあんた達」

ごくり、と生唾を嚥下する音がハモる。

『いや、これは……』
『ちょっとした疑問を解消しようと……』

喧噪から一転、春風も凍てつくような静謐さを取り戻した教室内で、
ハルヒだけが自在に行動できていた。つかつかつか。
どこぞの大企業の社長秘書官のように、硬い足音を響かせてこちらに一直線に歩いてくる。
ハルヒは俺の首根っこを掴むとそのまま俺の席に放り投げ、
ハルヒ自身も席について優雅に足を組み、これまた優美な動きで指を重ね合わせると、

「さぁキョン。さっきあの子達となに仲良くお喋りしてたのか、話して貰いましょうか?」

とても柔らかな微笑をお浮かべになって、情報開示を要求なされました。
滅茶滅茶な敬語口調になっているのは些末なことだ。今はどのようにこの窮地を乗り切るか。
断頭台に首を固定されたマリーアントワネットの心境を味わいながら、俺は生贄を探して視線を辺りに走らせた。
だが。船の転覆をしった鼠が如し――クラスメイトたちは一人残らず別教室への待避を完了していた。薄情な奴らである。
結局俺の手に残ったのは薄っぺらい週刊誌と怒り心頭のハルヒのみだ。まったく……なんでいつもこうなるんだろうね。未知の法則か何かで定められているのか?

――――――――――――――――――――――――――――――

「この上なく春麗らかな午後ですね。午睡したくなる欲求に駆られます」

チェス駒を指先で弄びながら、爽やかフェイスの超能力者が詩を謳うように言った。
その様があんまりにも芝居がかっていたので、

「眠っても良いぞ。なんならもう二度と目覚めなくてもいい」
「おやおや、悪辣ですね。僕が永久の眠りについては、あなたは哀しむのではありませんか?」

まさか。諸手を挙げて快哉を叫んだ後、お前の遺骸をカスピ海上空から降下させてやるさ。
憐れ古泉、海洋生物の糧となって地球を廻るが良い。

「これは手厳しい。迂闊に転た寝もできないということですか」

古泉は片手を顎に添えた後、しかし特に気にした風もなく駒を再配置し始めた。
やれやれ。あと何度敗北を喫せば埋まらない実力差を知暁してくれるんだろうね、こいつは。
気分転換に視線を窓際の方へやると、液体窒素で凍結保存させられているといわれても
百人が百人頷くような静謐さでハードカバーを読む長門の姿があった。
しかしこれは毎度思うことなんだが、頁を捲る所作を、もちっと柔らかくはできないもんなのかね。
いくら発言量が増えたと言っても、行動が着いてこなくちゃ意味がないと思うぜ?

「……………」

そんな俺の感想が通じてか。長門が俺を瞳に映した。
しばしのアイコンタクト。しかしその間に意識がやりとりされることはなく、長門はすぐに視線を本へ戻した。
そういやあの本ももうすぐ読み終わりそうだな。明日にでも続編、持ってきてやらないと。
と、俺が長門の読書量に感嘆していると、今更ながらにけたたましく鳴り響き続けるキーボードタッチに気がつく。
言わずもがな、下手人はハルヒだ。まったく、こいつには静かにタイピングするという概念が存在しないのだろうか。
このペースじゃ母音のキーが吹っ飛ぶまでに、そう時間はかからないだろうさ。

ぐるりと団員の様子を確認してから、再び手元に視線を落とす。
長門の煎れてくれたお茶を一口啜って、俺は至福の美味を味わった。
朝比奈さんの玉露にはまだ及ばないものの、それでも十分な甘露となりつつあるお茶。
頑張れ長門、お前がお前自身の究極の味を見出すまで、俺はずっと試飲役を務めてやるから。

さて、実のない閑話はここまでにしておいて。
率直に告白すれば、俺は退屈を持て余していた。
長門は本の世界に埋没し、ハルヒはHP改修に躍起になっていて、
古泉は結果の見えた勝負をしかけてくるのみ。
レポートでもやったらどうだ、という至極まともなアドバイスがどこからともなく聞こえてきたが、
生憎、その意見に従うことはできない。何故かって?
レポートの第一問目からいきなり座礁に乗り上げたってのに、どうやって難問もとい海獣ひしめく荒海を航海しろというんだ。
どんな優秀な航海士でもコンパスを放り投げるだろうよ。ま、例外はいるにはいるんだが。


ここは――

1、ハルヒ
2、長門
3、古泉
4、人物名自由安価(誰でもおk キョンのモノローグで語る)

1、2、3を選んだ場合、すぐにまた話題選択安価があります

>>462


462 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/27(木) 01:43:33.55 ID:Jwo3d3Mo

ちゅるやさん


他のメンバーは一様に忙しそうにしているし、ここは瞑想に耽るとしよう。
麗らかな春の午後。太陽はのどかに下界を照らし、時折吹き込む春風はこの上なく快い。
素晴らしき瞑想日和(?)である。ついさっきこれと酷似した見解を述べていたヤツがいる気もするが、
きっと俺の記憶違いだ。体重をパイプ椅子に預けて目を閉じる。

瞼の裏に再生されたのは、昨夜の記憶だった。
鶴屋家の敷地内、古風な日本庭園の一角でお花見は開かれた。
次々と振る舞われる高級日本料理に舌鼓を打ちつつ、一夜限りの禁酒解禁によって
注がれたこれまた高級な日本酒(醸蒸多知だったけか)を嗜みつつ、
鶴屋さん含むSOS団メンバーは夜遅くまで桜を観賞したんだっけ。

『あ、あたしは遠慮しとくわ。度数かなり高いんでしょう?』

鶴屋さんがぐいぐいと酒を勧めるのを、ハルヒが丁重に断って。

『さっぱりとした風味のようで、後味は奥ゆかしくまろやか。とても美味しいですね』

誰も聞いちゃいないのに、古泉が料理一つ一つを絶賛し。

『………………ぷはぁ』

一瞬で自分の料理を平らげた長門は、一升瓶片手にウワバミっぷりを披露して。

『おいお前ら、あんま騒ぎしゅぎんなよぉ』

すっかり酒に言語視野をやられた俺は、
舞い散る撫子色と、それを浴びる鶴屋さんの着物姿に見蕩れていた。

『あらあら、呑みすぎはいけないよっ。百薬の長も毒になるっさ』

『いやぁ、俺はそれほどいただいてましぇんから』
『顔真っ赤にして言われても説得力ないねぇ』

俺が注がれるままに呑んでいたことを知った鶴屋さんは、
すぐさま俺の手から杯を没収し、水の入ったグラスを持ってきてくれた。

『キョンくんには代わりにこれを呑ませてあげるにょろ』

そして、受けとろうと伸ばした俺の手をするりと躱し――

『……ぷはぁ。自分で飲めますって』
『いーのいーの。後輩の世話を焼くのは楽しいもんなのさ』

まるで酔い潰れた夫を気遣う良妻のように、グラスを口元で傾けてくれた。
焦点が合わない視界いっぱいに、鶴屋さんが映り込む。
後ろで綺麗に纏められた髪や、露わになった白いうなじ。
清廉な性格を表すように真っ直ぐな目鼻筋は、ハルヒのそれとはまた違う美貌を形作っている。
俺が酔いの抜けきらぬ頭で、ぽけーっと鶴屋さんを眺めていると、

『まだ酔いが醒めないのかいっ? 今日は家で休んで「なにのほほんと昼寝してんのよっ!」

頭蓋を割れたかと思うほどの怒声に、瞑想モードが強制解除される。
起きちゃだめだ、俺。曖昧だった記憶があともう少しで蘇るんだぜ。
慌てて心頭滅却雲煙過眼等の四字熟語を唱えて、瞑想に戻ろうと尽力する。
だが我らがSOS団団長に、団員の怠慢を許す慈悲深い心はこれっぽちもなかったようで、

「気色の悪いニヤニヤ笑い浮かべて。ずいぶんと楽しい妄想に励んでいたみたいね」
「人聞きの悪いことを言うな。人の回想を邪魔しやが――痛っ、やめ、まひへひゃめろって」

俺の横に回り込むと、万力でほっぺたを抓り上げてきやがった。なんてことしやがる。

「悟りはもっと清らかな面持ちで開くものよ。さあエロキョン、何を考えていたのか白状なさい!」

エロキョン言うな。俺がえっちい妄想していたことは決定事項なのかよ。

「それは今から決める事よ。あんたがずっと黙ってるつもりならそう判断せざるを得ないけど?」

くそ、これで黙秘権を行使する道は断たれた。
ハルヒ一人にどう思われようと勝手だが、団長から変態の烙印を押されるとなると
長門や古泉の俺を見る目が変わってしまう恐れがある。

『………へんたい』

くっ、これはこれでまた魅力的なものがあるが――っていかんいかん。
マジでアブノーマルな趣味に目覚めちまうとこだった。

『ふふ。ようこそ、変態の世界へ』

全裸に葉っぱ一枚の古泉が、脳裏を掠めていく。
偏見で塗り固められたその古泉は、非現実的なようで現実的だ。やべ、吐き気が襲ってきやがった。

「あと三秒以内に言わなかったら私刑だかんね。いーち、」

カウントダウンを始めたハルヒ。
昨夜の花見を思い出していたことは別に話してしまっても構わないだろうが、
鶴屋さんに水を呑ませてもらったくだりは、割愛した方がいいような気がする。第六感的に。
でも、あやふやな記憶を補完するためには順序よく話していく必要がある。とすると、必然的にそのくだりも話さなくちゃならないわけで――

1、昨夜の花見を思い出してただけだよ
2、いや、昨日鶴屋さんに水呑ませて貰ったあとの記憶があやふやでさ。お前ら知ってるか?
>>597までに多かった方


589 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/27(木) 20:29:14.40 ID:Kd6kNmo0

2

590 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2007/12/27(木) 20:29:56.44 ID:rT6SNh6o



591 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/27(木) 20:30:19.11 ID:b/5HU3o0

2

592 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/27(木) 20:30:36.61 ID:H8e5.sDO



593 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/27(木) 20:30:43.77 ID:VNaixAE0

1

594 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2007/12/27(木) 20:30:51.08 ID:mLWRfqE0



595 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2007/12/27(木) 20:30:56.57 ID:21bNH6Q0

うーむあえて2で

596 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/27(木) 20:31:12.97 ID:zXC6HGk0



597 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2007/12/27(木) 20:31:21.72 ID:rT6SNh6o

2と書きながら迷ってるから1も一票


「にーい、むぐっ」

口を塞ぐ。

「待った。話すからカウントダウンはナシだ」

どうせ三つ目のカウントダウンは一瞬で終わらせようと企んでいたに違いない、
二つ目で止めた俺に、ハルヒは長い睫毛を瞬かせていたが、

「それじゃ洗いざらいぶちまけなさい」

やがて、成人雑誌を隠し持っていた弟を問い詰める姉のような態度で、脇のパイプ椅子に腰を下ろした。
その不貞不貞しさにに呆れつつ、口火を切る。

「俺が回想してたのは昨夜のお花見のことだよ。
 酒の所為か、どうも記憶が曖昧でな。ばらばらに散った記憶を集めてた、というわけだ」
「確かにあんた、かなり酒入ってたもんねー。強くないのに無理するからよ」
「反省してる。でもやっぱ、記憶が曖昧なままっていうのは気持ち悪い。
 かなり酔ってた俺の他は、禁酒してたお前にほろ酔いの古泉に酒豪の長門と、みんな記憶は確かだろ?
 もしよかったら終盤あたりの出来事を教えてもらいたいんだが」

下手に出て頼んでみると、

「いいわよ。あたしは一滴も呑んでないし」
「いいでしょう。僕も若干酔っていましたが、記憶には自信がありますので」

ハルヒはあっさり承諾してくれた。横から古泉も加わってきたが、役立ちそうなので文句はナシだ。

「それじゃ聞くぞ。鶴屋さんは、泥酔した俺を見かねて水を持ってきてくれたよな?
 そっから後のことが聞きたい。たしか、鶴屋さんが俺に何かを提案してくれたような気がするんだ」

「あぁー、あのときの。あれはねぇ……」
「あれは?」

期待を胸に復唱する。

「あれは……、鶴屋さんはあんたになんて言ったのかしら……」

が、明瞭な頭脳と正確な記憶を持つハルヒは、わざとらしく口籠もり、

「ごめん、ちょっとあたしも思い出せな――」
「鶴屋さんはあなたに、鶴屋家での宿泊を提案されたのですよ。
 あの状態で帰路に着くのは、危険だと判断されたのでしょう」

代わりに古泉がスラスラと答えを述べた。
切れていた記憶が回復していく。あぁ、確かにそんなお誘い受けたっけ。
それで、俺はその提案を断ったんだよな。次に目覚めたときは自宅だったし。

「厳密に言えば違います。最終的に鶴屋さんの提案を断ったのは、涼宮さんと長門さんの二人ですよ」

ハルヒと長門? 思いがけぬ名前の登場に困惑する。
その本人達に視線をやれば、ハルヒは我関せずといった風に明後日の方向を眺め、
長門は頑なにハードカバーを読み続けていた。二人ともどことなくぎこちない。

「涼宮さんは『団長として団員が迷惑をかけることを無視できない』と主張され、
 長門さんは『自宅に二日酔いに良く効く薬がある』と主張されまして」

古泉は眼精疲労を労るように目頭を押さえながら、

「結局間をとって、僕があなたを家まで送る、ということになったんですよ。
 まったく……酔臥していたあなたを運ぶのは、大変骨の折れる作業でした」

むむ。意識が朧気なときに貸しを作るなんて卑怯じゃないか?

「心配なさらず。当然、ノーカウントですよ。
 もっとも、あなたには数え切れないほどの借りがあるので、
 一つや二つ貸しを作った程度では、到底相殺しきれないないでしょうが」

如才なく微笑む古泉から目を逸らしつつ、

「でもま、運んでくれてありがとよ。もし一人で帰っていたら、道ばたで脱水症状起こしてかもしれねぇ」
「これは珍しいですね。あなたからお礼を賜るとは」

もう一度二人を観察する。

「〜♪〜〜♪〜♪〜〜」
「…………」

プログラミングに戻って口笛を吹きはじめたハルヒと
通常時と比較して1.5倍の速さでページを捲る長門は、依然ぎこちないままだった。
当時のこいつらの思惑を窺い知ることができないが……まぁ、醜態をさらしていた俺に何か思うところがあったのだろう。
情けないとか。放置しておけないとか。鶴屋さんの手を煩わせたくないとか。
想像したら悲しくなってくるね。ここらで一服するとしよう――と、俺が煎茶に手を伸ばした時のことだった。

昨夜犯した、致命的にではないにせよ十分悔悟するに値する失態に気づく。
古泉曰く、俺は宴会がお開きになったときには既に酔臥していたらしい。
ということは、他のメンバーがしたお礼を、俺は一言も述べないまま去ってしまったことになる。
鶴屋さんのことだ、俺が辞去しなかったことを不快に思ったりはしていないだろうが、
あれほど豪勢な宴会を楽しませて貰った挙げ句一言のお礼もなし、というのは相当常識外れの行為である。
近々、できれば今日にでも鶴屋家を再訪する必要がある。社会常識云々以前に、そうしないと俺の気が済まない。

決意と共にお茶を飲み干す。
すると、どの角度から湯飲みの煎茶残量を計測したのか、

「……もう一杯、いる?」

長門が尋ねてきた。どうやら朝比奈さんのメイド魂は
時空の壁を超えて、しっかり受け継がれているようだ。感涙を禁じ得ないね。
でもな、長門。今日呑んだ分でも既に5杯を超えているんだ。
これ以上呑んだら俺の胃袋は水風船よりもたぷたぷになって破裂してしまうだろうよ。

「遠慮しとく。もう十分味わったから」
「……そう」

寂しそうに目を伏せた長門に、一種の罪悪感を憶えつつ。
俺は時計を見上げた。午後4:30という微妙な時間が、短針と長針で表示されている。
団活終了まではまだかなり時間がある。
誤解なきようにいえば、俺はSOS団の活動をうとんでいるわけではない。
がしかし、あまりに恒例化された団活――ボードゲームに読書にPC弄り――に退屈しているのも確かだ。
この鬱屈した心情を晴らすには、メンバーとの直接接触ぐらいしか手段は残されちゃいない。
ここは誰に話しかけようか――

1、長門
2、古泉
3、ハルヒ

>>755


755 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/28(金) 00:06:10.52 ID:nq7xLpU0




ここは長門に話しかけよう。さっきの寂しげな伏目も気になるし。
それにいっつも本の世界に埋没している長門の邪魔をするのは、
背徳感にも似た妙な喜悦感があるしな。水の向け方次第じゃ無視されるかもしれないが、
最近は口数が増えてきたし、大抵の話題なら返事をしてくれるだろう。

「なあ、長門」
「…………?」

ボブショートの髪を僅かに揺らして、長門がこちらに振り向く。
琥珀色の瞳には、迷惑そうでも鬱陶しそうでもない、純粋な期待の色が浮かんでいる。
話題は一切考えちゃいない。即席で何かを用意する必要がある。

ここは――


自由記入「      」について


>>790


790 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2007/12/28(金) 00:20:41.68 ID:rtezjjAo

ちゅるやさん関係の話題


ここは、鶴屋さん関係の話題でいくか。
数学教師が言ってたじゃないか、疑問は出来た瞬間に氷解させるに限る、と。

「古泉に聞いたんだが……昨日の夜、
 俺が鶴屋さんに迷惑かけそうになってたのを止めてくれたんだってな」

コク、と首肯する長門。

「どうしてだ?
 もしお前に甘えてりゃ、俺はお前に物凄く迷惑かけてたかもしれないんだぜ?」
「………迷惑ではない」
「それじゃ答えになってねえよ」

二日酔いに良く効く薬。それが自宅にあるから、俺を預けて欲しいと長門は言った。
だがお前の情報操作をもってすれば、俺の血液中からアルコールを飛ばすなんて造作もないことだ。
俺をわざわざマンションに連れて行く必要はなかったはずだろう?

「わたしはあなたを介抱することを迷惑だと思っていない」
「だから答えになってないって。もっと別の方法が――」
「……言い方を変える」

長門はまだ下校時間にもなっていないというのに本を閉じ、しかとこちらを見据えてこう言った。

「………わたしはあなたを介抱したかった。
 あのままではきっと、あなたは二日酔いに苦しんでいた」
「長門……」

今更ながら、今朝の目覚め時に頭痛を伴っていなかったことを思い出す。
二日酔いに良く効く薬があるというのは虚偽だったのだろう。第一、未成年の長門がそんな薬を所持しているとは思えない。
長門は古泉に俺を任せた後で、俺が二日酔いにならないよう魔法を掛けてくれたに違いない。

「わり、俺、勘違いしてた」

長門の思い遣りを曲解した俺はとんでもない大馬鹿野郎だ。
こいつの魔法がなけりゃ、俺は今朝から激しい頭痛と嘔吐感に襲われて、
ハイキングコースの中盤辺りで野垂れ死んでいたに違いない。さんきゅな、長門。

「………いい」

長門はしばらく俺のテレパシーに付き合ってくれていたが、
二、三度瞬きすると、本の世界に戻っていった。会話の糸が切れる。
三度の飯(カレー)より本が好きな長門だから、長時間引き留めておけないのは仕方ない。
でもなんとなく、長門との絡みを終わらせたくなかった。
湯飲みを見る。空っぽだ。腹に手を当てる。たぷたぷだ。
長門との交流と胃の健康。常識的に考えれば、当然選ぶべきは後者であろう。
だがそれは、あくまで健康を第一とした場合の選択だ。たとえ胃が破裂しようとも――俺は、長門の奉仕を選ぶっ!
俺は相応の覚悟を持って高々と挙手し、

「お茶、もう一杯もら――」
「じー」
「え?」

ジト目のハルヒに、追加オーダーを中断させられていた。
どうしたんだ、右の頬だけご褒美貰えなかった子供みたいにふくらませて。

「じー」

何か欲しいのか? 今現在、俺の財布は閑古鳥どもの合唱広場と化しているが、
アイスバーかポテトチップス程度なら奢ってやってもかまわないぜ。

「……はぁ。別に何も欲しかないわよ。あたしはそんな即物的な人間じゃありませんよーだ」

右頬のみならず、左頬にも空気を送り込むハルヒ。
あの両頬を思いっきりプレスしたらどうなるんだろう。そんな悪戯心を押さえ込みつつ、

「ならジト目をやめてもらおうか。集中できないんだよ」
「よくいうわ、常に意識散漫なくせに。いいわ、分かったわよ。やめてあげる」

ハルヒは口をすぼめると、

「いっつも有希が優遇されてる気がするわ」

と意味深な発言を残してPCディスプレイに身を隠した。
声音に棘はなく苛ついてる様子でもなかったから、放っておいもよさそうだが――
行動学の権威古泉教授は、今の遣り取りに感じるところがあったようで、

「ふむ」

自説を根底から覆された学者みたいに呻吟していた。
眼光は鋭く、チェス駒を透かして別の何かを捉えているかのよう。
表情は常のアルカイックスマイルを消し、滅多に見せない素顔を露呈している。

「不可解だ。最初から僕の杞憂だったのか……いや、そんなことはあり得ない」
「おい。何か悩みがあるなら相談に乗ってもいいんだぜ?」
「ありがとうございます。実は、今日の団活が始まったときから感じていたことなのですが、」

ここで。やっと古泉が、俺の顰め顔に気づく。

「口が滑っていたようですね。忘れて貰えると助かります」
「そりゃ無理な相談だな。お得意の力で記憶消去したらどうだ?」
「何度も説明したと思いますが、もう一度言いましょう。不可能です。
 もしそんなことができるのなら、僕が不定期なバイトに駆り出されることもありませんでした」

テンプレート化した説明文句。
それを全て言い終える頃には、古泉は平常時のスマイルを貼り付けなおしていた。

「ま、俺はチンパンジー並に記憶能力が乏しいんだ、明日になったら綺麗さっぱり忘れてるだろうさ」
「ええ、言われてみればそうでした」

おいおい、今のは否定するところだろ。しかし古泉はその科白を華麗にシカトし、

「準備が整いました」

テーブルのチェス盤を指差した。
盤上には、数ミリのズレも見当たらない緻密さで駒が配置されていた。
お前の準備作業もいよいよ機械じみてきたな。

「今度こそ雪辱を晴らさせてもらいますよ」
「俺には見えるぜ。数分後に降参している、お前の憐れな姿が」

渋々、といった風にルークを動かす。古泉とのテーブルゲームは、
いわば学習機能のない機械を相手にしているようなものだ。
はっきりって楽しくない。そう、楽しくないのだが――
暇を持て余しているときに誘われると、つい駒を動かしてしまう。
そして決まって後で後悔するのだ。どうしてあの時勝負を受けてしまったのか、と。

――――――――――――――――――――――――――――――

「それでは、ここで失礼します」
「…………」
「じゃあね。古泉くんは頼りになるから大丈夫だと思うけど、気をつけて帰りなさいよー」

団員各々の事情によって、本日は昇降口前での解散となった。

夕陽に熔けていく二つの人影。それをぼうっと眺めながらも、俺は心中穏やかでなかった。
なんでも長門と古泉の二人は用事があるんだそうで、しかもその帰路は途中まで一緒なのだという。
パーフェクト美男子の古泉と、清楚で小柄な美少女の長門。
余りある身長差から、周囲の目には先輩と後輩の下校風景にしか映らないに違いないが、
伏目の長門に饒舌に語りかける古泉は初心な彼女を気遣う優男という光景に映らんでもなく、
要するにあの二人が交際しているという、天地が引っ繰り返っても起きえぬ誤解が生じる蓋然性が――

「――くッ」
「ちょ、なに痙攣してんのよ! 救急車呼ぶ?」

大きく手を振っていたハルヒが、俺の顔を覗き込んできた。

「いや、救急車はいい。よくある発作だよ、発作」
「発作?」

心配そうな表情が一転、訝しげに歪む。
ふっ。お前には理解できんだろうな、愛する娘を不逞の輩から守ろうとするこの温かい父性が。

「……まぁいいわ」

ハルヒは軽く溜息をつくと、

「不審者が出てるって噂、あんたも知ってる?」

ふいに真面目な声色になってそう言った。

「いや、初耳だが」
「だと思った。最近ね、北高生ばかりを狙う変質者が出没してるらしいのよ」
「変質者ね。レインコート姿のおっさんくらいしかイメージ沸かないんだが」
「あんたの変質者像なんか誰も聞いてないわよ。それが、今まで誰もその不審者を見たことがないんだって」

ちょい待ち。その話には矛盾がある。

「誰もそいつの姿を見たことがないのに、何故不審者だと分かるんだ」
「小さな足音がするのよ。一人で下校している時に限って、その足音がついてくるの。
 でも、意を決して振り返っても誰もいないの。で、尾行された人は飛び上がって家にダッシュするってわけ」

ほう、見えない尾行者ね。幽霊みたいだな。

「でしょでしょ? それであんたはどう思う?」

ふむ。もし実体があるなら、そいつは余程尾行に手慣れているということになるが――
現実的に考察するなら、ストーカーにつきまとわれているという妄執に取憑かれた
女生徒たちが作り上げた、空想上の不審者ってところか。つまり存在しない不審者に皆怯えているんだよ。

「それはあり得ないわ。だって……」

俺が罠に填ったことがそんなに喜ばしいのか、

「だって?」

ハルヒはわざとらしく引きをつくり、

「……尾行されているのは、全員男子生徒なんだもの」
「男子生徒ぉ!?」

俺の反応をたっぷり愉しんだ後、解説を再開した。

「誰も実際に襲われていないから、そいつに特殊な趣味があるってことはないみたい。
 不審者の徘徊理由に関しては『誰かを捜しているんじゃないか』っていう意見が大多数ね」

北高の男子生徒に用があるんなら、平日の学校の門を叩けばすむ話なのにな。
闇雲に尾行して怪しまれるよりも、そっちの方がずっと効率的かつ平和的だ。

「推測で罵倒するのは憚られるが、そいつはちょっと頭が弱いと思う」

俺は同意を期待したが、ハルヒは会話に一拍間をおき、

「さあね。もしかしたら、不審者の正体は北高男子の一人に思いを寄せている、シャイな女の子かもしれないわよ?」
「ありえねー。そんな女の子が尾行技術マスターしてたら普通引くって」

可憐な少女が電柱から電柱へ、壁から壁へと隠密移動を繰り返していく様を想像して、噴き出しそうになる。
俺は一頻り笑いをかみ殺してから、

「……で、お前はこの噂を聞いてどうするつもりなんだ? そいつをひっつかまえて尋問するのか?」

半ば答えが見えていた質問をした。だが――

「今回は諦めるわ」

あまりに率直な否定に、脳が一時停止する。

「確かに噂の真相は解明したいけど、あまりにも手掛かりがなさすぎるし。
 そんなことに時間を割くより、他の面白いことを探求する方がいいと思うの」
「意外だな。またあの腕章つけて探偵ごっこを始めるんじゃないかと覚悟していたのにさ」
「安心しなさい。探偵ごっこよりももっと面白いことであんたを振り回してあげるから」

ふと隣を見れば。オレンジに染まった校舎をバックにして、同じく西日に照らされたハルヒがニコニコと笑っていた。
その表情に、遠慮や配慮の感情は一片もなく――俺は最後の科白が、本心からのものであったことを知る。

「ははっ、そうだよな。それでこそお前だ」

安堵の溜息が零れる。不審者の話題に花を咲かせている内に、俺たちは校門前まで歩を進めていた。

場の流れに従うのなら、ここはハルヒと二人で帰るところなのだろう。
が、鶴屋さんへのお礼、長門と古泉の謎の所用、北高男子を狙う不審者と、
放課後の活動予定候補は枚挙に暇がない。ここは――


1、鶴屋家を訪問しよう(二日目も可)
2、ハルヒはああ言っていたが、不審者のことが気になるな…
3、古泉の所用とはなんだ?
4、長門の所用とはなんだ?


>>30までに多かったの


20 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [] 投稿日:2007/12/28(金) 18:15:21.79 ID:Du1ZdVQ0

1

21 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/28(金) 18:16:10.87 ID:v86djoAO

1

22 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2007/12/28(金) 18:16:20.61 ID:Kp0nFMDO

1しかない

23 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2007/12/28(金) 18:16:21.10 ID:6xaVXIE0

4

24 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/28(金) 18:16:42.03 ID:CajzQgDO



25 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/28(金) 18:16:44.11 ID:Qe6n4ago



26 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/28(金) 18:16:49.66 ID:QHKgIIAO

3

27 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2007/12/28(金) 18:16:53.28 ID:0m223s20

2

28 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[undefined] 投稿日:2007/12/28(金) 18:17:18.45 ID:Kn.XT4U0

4

29 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/28(金) 18:17:58.62 ID:kHU6X3I0

4

30 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/28(金) 18:18:13.21 ID:wqpWsp.0

1


鶴屋家を訪問しよう。言いそびれていたお礼を今度こそ伝えないと。

「ハルヒ、今日は一人で帰ってくれないか。用事思い出したんだ」
「あんたもなの? 団員みんながバラバラに帰るなんていつ以来かしら……」

不満そうに鞄が揺れる。その仕草が可笑しくて、

「どうしたんだ。一人で帰るのが寂しいのか?」
「ばっ、馬鹿いってんじゃないわよ」

見え透いた強がりに苦笑しつつ、ハルヒを元気づけてやる。

「偶然予定が重なっちまったのさ。明日からはまた皆で一緒に帰れるんだし、そう落胆するな」
「うん……じゃあ、また明日ね」

ハルヒは最後に明るい笑顔を見せると、駆け足でハイキングコースを下っていった。
不審者の件が気になるが――男子生徒しか狙わないという情報を信頼するなら、
ハルヒが襲われることはないだろう。というより、あいつのことだから襲われても返り討ちにしてそうだ。

校舎の壁時計は午後5時過ぎを示していた。古泉と長門の早退で、一時間近く解散が早まったことになる。
校舎から振り返ると、遠くの方に、黄色いカチューシャが見て取れた。
周囲には数名のクラスメイトがいて、時折、楽しそうに言葉を交している。
二年前とは違う和やかな風景。ふいに、安堵感と寂寥感がごっちゃになった妙な感情が込み上げてきて――
俺は足早に、しかしハルヒに追いつかないように加減して、ハイキングコースを歩き出した。

混濁した情動の正体は、結局分からずじまいだった。

―――――――――――――――――――――――――――――

巨大な門に設置されたインターホンを押してから、既に10分が経過しようとしていた。

『やあやあ、キョンくんじゃないかっ。すぐに行くから待ってるんだよっ』

防犯カメラに写った俺を見て、鶴屋さんはそう言った。
がしかし、目的の人が在中している事実に胸を撫で下ろせたのも最初の数分だけで、
あれから門は一向に開く気配を見せぬまま、俺の眼前に立ちはだかっている。

「なにやってんのかなあ、鶴屋さん」

覗色から淡紫へ色を変える空を眺めながら、思う。今の俺は不審者だ。
日本屈指の御屋敷の前で身分不相応な男が長いこと突っ立ってたら、そいつはもう間違いなく不審者だ。
あと数分もすれば通行人の一人が然るべき公的機関つまり警察へと通報し、
近くの駐在所で油を売っていた中年警官二名が現場へ急行、鶴屋家への不法侵入を試みていた
不審人物を捕縛し、俺は相互不信化社会を嘆きながら投獄されるのである、ああ、なんて悲劇だろう――
と、つまらない妄想ストーリーはさておき。いよいよ本当に、屋敷の厳かな雰囲気に気圧されつつある俺だった。
もしかしたら鶴屋さんはインターホンに返事をしたきり、俺のことを忘れてしまったのかも知れない。
あともう一度だけインターホンを鳴らして、それでも鶴屋さんが出てこなければ大人しく帰ろう。
しばしの逡巡を経て、インターホンへと手を伸ばす。と、俺の指がボタンに触れそうになった、その時だった。
ドスン、という閂が落ちる音が響く。次いでギコギコと軋みを上げて門が開き、

「遅れちゃってすまないねぇ。とりあえず上がんなっ。お酒はないけどお茶ならあるからさ」

鶴屋さんが現れた。装いは着物姿に袢纏という鶴屋流ラフスタイル。
だが、いつも無造作に引っ詰められている髪だけは、今は綺麗に結わえられていた。

「それじゃ、お邪魔します」
「遠慮しないの。こっちこっち」

ぴょんぴょん跳ねていく鶴屋さんに追従する。屋敷につくまで、俺は夕暮れ時の日本庭園に目を奪われていた。
朱色に染められた桜には、昨晩の夜桜とはまた違った美しさがある。鶴屋さんはもうこんなの見飽きているんだろうな。
ふと、そんな当たり前のことを考えて。俺は自分と先輩との経済的距離を、痛感した。

俺が通されたのは、寒い冬の日に朝比奈さんと訪れた庵だった。
最後に見たときから変わらぬ家具や畳に、二年前の記憶が前触れなしに蘇る。
一人勝手にノスタルジックな気分になっていると、鶴屋さんが袢纏を脱ぎながら

「今日はどうしてうちに寄ったんだい? 忘れモノでもしたのかなっ」

ずばり聞いてきた。

「いえ、まあ忘れモノといえば忘れモノなんですが……」

お茶をできるだけゆっくり啜って思考タイムを稼ぐ。
練りに練ってきた科白は、それを書き連ねた紙ごとどこかへ吹き飛んでいた。

「んーっ、ちょいと話しにくいことなのかなっ?」

いえ、そういうことでもないんですよ。

「昨日の夜、俺、かなり酔ってましたよね」

俺は前置きはなしにして、本心のまま謝罪することを決めた。
遠回しに言ったところで、慧眼持ちの鶴屋さんには無意味だ。
まごついている間に言いたいことを逆に言い当てられてしまっては元も子もない。

「俺、酒弱いのは自覚してたのに、度数高い酒をがぶがぶ呑んで、
 挙げ句の果てには帰り際の記憶がないくらいに酩酊しちまって……」
「あの時のキョンくんは、めがっさ気持ちよさそうだったなあっ」
「それで、そのまま古泉に連れてかえってもらって……」
「うんうんっ、あの時は結構揉めたんだよねー」

錯覚だろうか。偶に挟まれる相槌はとても楽しそうだ。

「俺、鶴屋さんにまだ言ってないんですよ」
「ふぇえっ? 何をだい?」

ぐい、と俺を覗き込む鶴屋さん。
袢纏を脱いだことによって露わになった肩口から目を引きはがしつつ、

「その」
「んんっ?」
「お礼を、まだ言ってません」

今回の訪問の核心部分を口にする。
鶴屋さんは切れ長の睫毛をぱちくりさせているが、ここで止まるわけにはいかない。

「あんなに御馳走になったのに、勝手に飲んだくれて帰ってしまって……
 遅れましたが、言わせてください。昨夜は本当にありがとうございました」

姿勢を正して頭を下げる。あとは鶴屋さんの返事待ちだ。
門前からここまでの態度から考えて、鶴屋さんが俺の昨夜の失態を咎めているということはまずありえない。
だから今更のこの謝辞も、笑って流してくれるだろう――俺は、そう考えていた。
10秒後。黙りこくったままの鶴屋さんを不審に思い、恐る恐る顔を上げる。
すると机を挟んだ向こう側には、ふるふると双肩を震わせる鶴屋さんの姿があった。
あれ、これってもしかして、激昂三秒前だったり?
肩の震えが全身に感染していく。楽観的にことを考えていた過去の自分を罵倒しつつ、俺は厳しい叱咤に身構えた。
だが――

「あははははははっ、駄目、もう堪えきれないよっ」

昂然と面を上げた鶴屋さんは、お腹を抱えて爆笑し始めた。

想定外の反応に激しく戸惑う俺。反射的に尋ねてしまう。
あのー、すいません。今の話、そんなに面白かったですか?

「はぁっ、はぁ……笑いすぎて涙が出たにょろ」

鶴屋さんは乱れに乱れた呼吸を整えてから、

「キョンくんがいやに真面目な顔してると思ったら、
 そんなことで思い悩んでたなんてねっ。あんまり可笑しくて、笑いを堪えきれなかったのさっ」
「そんなこと、ですか。俺は結構気にしてたんですけどね」
「ごめんごめん。でもね、あたしはそんなことちーっとも気にしてなかったんだよっ。
 前にも言ったと思うけど、あたしは楽しんでいる人を見るのが、楽しんでいる人の傍にいるのが好きなんだっ」

着物の袖で目尻を拭いつつ、

「だからキョンくんはなんにもも気にしなくていーの。
 キョンくん、ハルにゃん、有希っこ、いっくんは昨晩楽しんでくれただろっ?
 あたしはそれを見ることができて、ものすっごく嬉しかったんだ。
 だからお礼を言わなきゃいけないのはあたしの方だいっ」

そう言うと鶴屋さんはコホン、と咳払いをして、
半ば崩れ気味だった正座を修正すると、

「ちょ、待ってくださ――」

制止する間もなく、鶴屋家次期党首の名にそぐう完璧な所作でお辞儀した。

「――――」

目の前の鶴屋さんの別人っぷりと、お礼を返されてしまった自身の不甲斐なさの両面で、言葉を失ってしまう。

結局。俺の舌が機能を回復し始めるまで、鶴屋さんは頭を下げたままだった。
しどろもどろになりながら説得を試みる。ただし、小声で。

「こんなところ誰かに見られたら、俺の命が危ないですよ!」
「そうかなあっ。家人が客人をもてなすのは当然のことだよっ」
「とにかく駄目なものは駄目なんですって」
「しょうがないなあっ」

なんとか頭は上げてくれたものの、鶴屋さんは依然、慇懃な佇まいを崩そうとしない。
それどころか眼を細め、小さく舌を覗かせる始末である。
先輩相手にこんな言葉を遣うのは憚られるが、やむを得ん。
この人―――確信犯だ。

「どうしたら元の鶴屋さんに戻ってくれるんですか?」
「そうだねぇ。昨日聞けなかったSOS団の内部事情をリークしてもらう、なんてのはどうだいっ?」
「内部事情をリークって、要するにメンバーの近情が知りたいと?」
「そうだよっ。あたしに言えないような秘密があるなら別にいいけどねっ」
「いえ、そんなんでいいなら喜んでお話しますよ」

あなたは名誉顧問ですし、と付け加えるのも忘れない。
すると鶴屋さんは、あっさり次期党首モードを解除し、

「じゃあ、まずはハルにゃんのことから聞きたいなあっ」

世界最高峰のストーリーテラーを前にした聴衆のように瞳を輝かせた。
両手は指先だけ重ね合わせ、机に半ば身を乗り出すようにしている鶴屋さんは随分リラックスしているように見える。。
SOS団メンバーの近情を知ったところで、一体どうするのか。その意図はさっぱり掴めないが、
とりあえず命の危機は去ったのでよしとしよう。鶴屋さんにお辞儀されているところを他の家人に見つかってみろ、
俺はまず間違いなく刎頸に処され、その首は髑髏になるまで庭先に飾られていたに違いない。恐ろしや恐ろしや。
が、交換条件を飲んだ以上、俺に生の充足を得ている暇はなく――

「ハルヒですか…、」

幼女時代の妹を連想させるわくわく顔の先輩に、

「そうですね。最近はあいつも、クラスメイトとフツーに話すようになりました」

俺は慎重に言葉を選びつつ、口火を切った。

――――――――――――――――――――――――――――――

「ふぅ……」

カラカラに渇いた喉をお茶で潤す。
巧妙な相槌のせいか、はたまた気の緩みのせいか。
俺の口は蛇口が吹き飛んだ水道のように、ドバドバ情報を垂れ流していた。
今振り返ると、大半がどーでもいい情報だったように思える。
鶴屋さんは嫌な顔一つせず聞いてくれていたが、もし俺が鶴屋さんの立場なら、
「お前喋りすぎだって。落ち着けよ」と窘めていただろう。俺は軽く自己嫌悪に陥って、

「すいません、俺ばっかり喋ってしまって」
「んなことないよっ。あたしはみんなのことが知れて大満足っさ」

次の瞬間には、鶴屋さんの朗らかな笑みに救われていた。
ほんとう、あなたは広い器量をお持ちだ。
生まれてこの方一度も人を不快にしたことがないと言われても信じますよ。

「でもま、随分長いこと話を聞かせてもらってたみたいだけどねー」

と、鶴屋さんが障子を見て言った。視線を辿る。
鈍い赤に染まっていた障子紙には、暗褐色が広がっていた。
――もう夜、か。
本来の目的は果たしている。これ以上居座り続けたら迷惑だろう。

「そろそろお暇します。つい長居してしまいました」

腰を上げる。だが、最後の一礼をする直前、

「おやおや、もう帰るのかいっ?
 折角あたしも話を用意してたのに、それじゃパァになっちゃうねぇ」

素っ頓狂な声が、俺を引き留めていた。

話を窺いたい気持ちは山々なんですけど、迷惑なんじゃないですか。
俺んちは半放任主義なので夕飯抜けても大丈夫ですが、
鶴屋さんちはそうもいかないでしょう?

「迷惑かどうかはあたしが決めることだよっ。
 夕食までにはまだまだ時間あるしねっ。
 それにね、いざとなったらキョンくんも食べていけばいいっさ」

いやいや、二夜連続でお世話になったら俺の立場がありませんよ。
昨日の不逞を詫びにきたのに……これじゃ夕食泥棒みたいじゃないですか。
狼狽する俺をよそに、鶴屋さんは湯飲みにお茶を注ぎながら、

「いーのいーの。
 皆で一緒に食べた方がご飯はおいしいのっ。
 先輩の言うことは素直に聞いたほうがいいにょろよ〜?」

猫なで声で追撃してきた。否応なしに心が揺さぶられる。
卑怯な人だ、こんな時に限って先輩権限を使用するなんて。

ここは――

1、夕食はナシにしても、先輩の近況を窺おう。
2、二夜連続外食は妹の機嫌を損ねそうだ。またの機会にしよう。

>>297までに多かった方


290 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/29(土) 15:15:19.22 ID:HHfmjpA0



291 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/29(土) 15:15:37.83 ID:4VXOIkQ0

1

292 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2007/12/29(土) 15:15:42.97 ID:f08gG0so



293 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2007/12/29(土) 15:15:51.19 ID:9KsD96DO

1

294 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2007/12/29(土) 15:15:59.74 ID:7qODi8Qo



295 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/29(土) 15:16:16.92 ID:MR0.Aaw0



296 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/29(土) 15:16:27.40 ID:eb.3MvY0

1

297 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/29(土) 15:16:35.19 ID:MR0.Aaw0




わざわざ再確認してもらう必要はないと思うが言っておく。
俺は押しに弱い。果てしなく弱い。確固たる意志はあるにはあるが、
絶対譲れない部分以外での押し引きには簡単に負けてしまうのだ。優遊不断というやつである。
だから俺をよく知る鶴屋さんに、俺が言いくるめられるのは時間の問題だったと言える。

「ほら、もう一度座るっさ」
「は、はい……」

再び腰を降ろす。ただし、

「二夜連続で外食したなんて妹に知られたら、自宅で俺の居場所がなくなります」

晩餐のお誘いについてはきっぱり遠慮しておいた。鶴屋さんはそれには答えず、

「何から話そうかなっ。うー、いっぱいありすぎて取捨選択ができないよっ」

悩みに耽るハルヒのように中空を睨み、
古泉お得意のポージングを決め、長門みたく沈思黙考すると、

「それじゃあ、大学のことから話そうかっ。
 退屈だからって居眠りしたら許さないよっ?」

底抜けに楽しげな笑顔で、新しく始まった大学生活のことを話し始めた。
まったく……そんな不躾なことしませんよ。

「――でね、その子がいうには――――それを聞いたら――」

そうですね。ニュアンス的には、居眠りしない、じゃなくて居眠りできないといったところです。

「――我慢できなくて――大笑いしっちゃってねっ―――」

だって、あなたは聞き上手であると同時に……飛切りの話し上手じゃないですか。

――――――――――――――――――――――――――――――

宵闇に包まれた幽邃の地に、心地よい音が響き渡る。
カランコロンと下駄を鳴らして先導する鶴屋さんは、石畳の位置を全て把握しているようだった。

「いやぁ、あたしもキョンくんに負けず劣らず喋っちゃったなぁ。
 キョンくんは聞き上手だねっ」

庵を出たきり口を緘していた鶴屋さんが、前を向いたまま言った。
俺は冷静に語尾部分を否定してから、

「お互い様ですよ。それに、俺は鶴屋さんの話聞いてて楽しかったし」
「ふふっ、嬉しいこと言ってくれるじゃないかっ。
 でもホントに退屈しなかったのかい?
 あたしの大学のことなんて、キョンくんにはぜーんぜん関係ないことだったのにさっ」
「無関係ってことはないですよ。話は面白かったですし……
 なにより、鶴屋さんの大学生活が順調そうで安心しました」

鶴屋さんが一番語りやすそうだったのは、やはり大学についてのことだった。
新しくできた友人、お嬢様大学故に厳格な教授、帝王学経済学の奥深さ。
話の合間に見え隠れする、大人びた鶴屋さんに戸惑うこともあったが――

「それに、初めて大学っていう場に興味を持てました。
 俺が来年進学できるかどうかは微妙なところですけどね」

半ば真意混じりの冗談に、鶴屋さんはくすくすと微笑を零しつつ、

「だいじょーぶだいじょーぶ。
 キョンくんにはSOS団があるじゃないかっ」

よいしょ、と閂に手を掛けた。訪問したとき同様に、ギシギシと音を立てて門が開いていく。

屋敷側から覗いた外の風景は、まるで別世界のようだった。
不定期に瞬く外灯や傾いだ電柱。普段見過ごしているものが、急にくすんで見える。
いやいや、眼を醒ませ。俺はその俗世側の人間だろう――と俺が恒例の葛藤に苦しんでいると、

「寂しいなあっ。ホントにご飯食べてかないのかいっ?」

ぐらつく心をなんとか支えて、

「お気持ちだけ頂戴します」
「んー、残念無念っ。ま、無理に引き留めも意味ないしねっ。次の機会を楽しみにしとくにょろ」

門外へ一歩踏み出す。
屋敷と外界隔てる透明の壁を越えて振り返れば、
やはりそこには鶴屋家次期党首に似付かわしい、着物姿の御仁があった。

「今日はありがとうございました。
 本当は謝るだけで帰るつもりだったのに、つい長居してしまって」
「あははっ、もうその科白は聞き飽きたってば。真っ暗だから気をつけて帰るんだよっ?」
「大丈夫ですよ、安全運転で帰りますから。……それじゃ」

愛機に跨る。最後に会釈してから、俺は緩慢な動きでペダルを踏み込んだ。
しばらくしてから振り向くと、鶴屋さんはまだ門前で佇んでいた。大きく手を振っている。

「ばいばーいっ! 気が向いたらいつでも寄ってきなっ!」

その純粋な厚意に、思わず心が温かくなって。
気づけば俺は、思いっきり手を振り返していた。角に差し掛かり、鶴屋さんの姿が見えなくなるまで。


人気のない道を走る。何気なく空を見上げると、
夜空よりも先に、一つの外灯が目に映り込んだ。
死際の心臓のように瞬くそれは、その比喩通り、あと数日で事切れることだろう。
ペダルを漕ぐ足に力を込める。さあ、早く帰ろう――急がないと、家族団欒の晩飯にありつけない。

――――――――――――――――――――――――――――――

風呂から出て気分爽快、ここはビールでもグイッといって春の夜長を満喫しようと
実に親父臭い思考で冷蔵庫を開けると、棚には麦茶ボトルしか陳列されていなかった。

「シケてんなあ」

と文句を言っても麦茶が赤ワインに変質するわけではない。
ボトルの中身をコップに注ぎつつ、冷蔵庫の蹂躙者を呪う。
ビールがないことに文句はなかった。俺は未成年者で、元より家中で飲酒しようとは考えていない。
だが――ジュースや牛乳まで消えているとは一体どういうことなんだろうね。
俺が風呂上がりに飲むと知りつつそれらを欲望のままに飲み干すとは、
犯人は相当肝っ玉の据わっているヤツか、後先のことを考えていないヤツということになる。
俺は脳内データベースに問い合わせ、前科持ちの家人を検索した。
0.3秒で顔写真がピックアップされる。あどけない笑みの少女。間違いない、今回もこいつの仕業だ。

「ふんふふんふふーん♪」

と、その時だった。今し方特定したばかりの容疑者が、

「ぎゅーにゅーぎゅーにゅー飲っみたっいなー」

オリジナルソングを口ずさみつつ現れる。
無垢な視線。無邪気な笑み。
どんな大罪にも恩赦を下させるその武器は、しかし俺には通じない。
牛乳ならあるんじゃないか? 冷蔵庫を開けてみろよ。

「わぁーい……あれぇ、ないよー?」
「おかしいな。朝見たときにはあったんだが」
「あ! おもいだしたぁ。夕方、のどかわいたからぜんぶ飲んじゃったんだー。てへっ」

悪びれた風なく頭をコツン、とやる妹。
物心ついた頃から変わらぬその仕草に頭を抱えつつ、

「俺になんか言うことないか、おまえ」
「んーと……ぎゅうにゅう買ってきて?」

コップを持つ手がプルプルと痙攣する。
こいつめ、本来なら慕うべき兄を従者か何かと勘違いしてからに。

「あのな。俺だって牛乳飲みたかったんだぞ。
 それを他の家族のことも考えないで飲み倒しやがって」
「だってぎゅうにゅう好きになったんだもーん」
「なんだって牛乳が好きになったんだ?」
「それはねー……・」

妹は人差し指を顎に当てて思案顔を作ると、

「ひみつだよっ」

きゃいきゃい叫びながら居間に駆け戻っていった。
やれやれ。兄に隠し事をするようになるとはね。
妹の思春期突入に複雑な感情を芽生えさせつつ、俺はコップの残りを飲み干した。


麦茶はやっぱり不味かった。

鶴屋さんへの謝罪という懸案事項を解消した俺は、
現在、たまった宿題を減らそうともせずのんびりとTV観賞に勤しんでいる。
お袋は町内会だかなんだか忘れたがとにかく外出していて、家には俺と妹の二人しかいない。

ここは――

1、自由記入「     」から電話がかかってきた
2、妹に牛乳好きになった真意を尋ねるか
3、自由記入「     」についてモノローグ

>>410


410 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/29(土) 20:43:58.54 ID:HNu6E220

1 長門


TVを見始めてから約一時間。
番組は情報発信系からバラエティへシフトしていた。
お袋が帰ってくるまで後15分もない。俺はそろそろ自室に籠もろうと立ち上がり、

Prurururu,Prurururu.....

携帯の着信音に足を留めた。メールではなく電話を使うあたり、
急用、もしくは口頭で伝えなければならない用件ということだが……こんな時間に誰だ?
ディスプレイを確認する。果たしてそこには、事件の節目に電話をくれる、親切な宇宙人の名前があった。
刹那、背筋に緊張が走り抜ける。俺は廊下に出てドア塞ぎながら、携帯を耳に当てた。

「もしもし。何かあったのか?」
「……………」

ひたすらな沈黙。
そして、待つ側にとっては無限に思えるような時間を経て、

「……相談がある」

長門は緊迫感のまるでない、平坦な声で呟いた。
張り詰めていた緊張が溶けていく。俺は心中ホッとしつつ、ちょっとからかってみることにした。

「相談って……あの相対して談話するの相談だよな?」

さて、どうでる長門?

「………今のは、冗談?」

ほう、やるじゃねえか。だが、相手に確認してちゃあまだまだだぜ。
そういうときは逆に冗談を言い返してやるのさ。いいか、次からはそうするんだぞ?

「………がんばる」

健気な長門の返事に涙を拭いつつ、

「して、その相談とやらは何なんだ?」

話を前に進める。

「………………」

再びの沈黙も、今度は気にならない。
俺はなめていた。長門の穏和な話し口調から、
精々、俺の家に一時保管してある分厚い本の催促か、
図書館デートのお誘い(無論、両方とも前歴はない)だろうと、高を括っていたのだ。

「……朝倉涼子を復活させてもいい?」

だから次に長門が言葉を発したとき、

「は?」

俺は、喉を絞められた鶴みたいな声を上げてしまった。
朝倉を? 復活させる?
脳裏を幾つもの記憶が掠めていく。
AAランク+と評された端麗な容姿。情愛溢れる黒い瞳。
笑うと綺麗に形を変える唇。そして――夕陽に、或いは月光に煌めくナイフ。
心臓が早鐘のように脈打ち始めたのが分かる。俺は胸を押さえながら、

「い、いきなりなに言い出すんだよ。
 あいつは砂塵になって消えちまったはずだろ?」
「……情報統合思念体ならパーソナルデータの修復は可能」

マジかよ。初耳だぞそんなの。

「……悪戯に警戒心を与えたくなかった」
「そーいうのは話しといてくれた方が良い。人間、パニック回避には前もっての覚悟が一番なんだ」

事前情報なしに登校して教室にいる朝倉を見掛けたら、それこそ卒倒する自信がある。

「それで。なんで今更になって復活させたいんだ?」

当然、俺が納得いくような理由が用意されているんだろうな。
あいつは二度も殺人未遂を重ねてる。その内一度は別世界の朝倉の所業だが、
俺にトラウマを植え付けていった点ではどちらも一緒だ。
ゴミ箱に放り込んだファイルを元に戻すみたいなノリで復活されちゃ困るね。

「………理由はある」
「じゃあ早いとこそれを教えてくれ」
「………それは………」

口籠もる長門。どうしたんだ、お前らしくもない。

「……………」
「おい」

と、俺が長すぎる沈黙に苛つき始めたときだった。

「………あなたはそれを聞いて怒らない?」

躊躇いがちな問いかけが、貴重な長門の感情発露がスピーカー越しに響く。

「怒らないって。だから早く続きを教えてくれ」

だが――俺は焦燥故に、それを軽く流してしまった。
今振り返っても思う。このときの俺は人類最低の大馬鹿野郎だった、と。

「………わたしの中に、不明なエラーが蓄積している」

エラー、だって?
長門の告白に抱いたのは、怒りとは似ても似つかぬ純粋な驚きだった。

「……そう。正確には、メモリ空間に不定期に蓄積したエラーデータが許容量に近づいている」

淡々と事実だけが述べられていく。

「発生当初、そのエラーは増大と減少を繰り返していた」
「プラスマイナスゼロにはならないのか」
「最近では均衡が崩れ増大傾向にある。許容量を超過した場合、異常状態は必至」

久々に耳にする無機質で温かみのない単語群。
俺は長門が人間ではなく、情報統合思念体によって作られたアンドロイドであることを再認しながら、

「そいつはつまり、あの冬の日と同じことをお前が起こしちまうってことか?」
「………可能性がある。だから朝倉涼子を一時的に監視役として復活させる」
「何もわざわざあいつを復活させなくても、喜緑さんがいるじゃないか」

ハルヒが能力行使をやめるようになってから、思念体は穏便派が主流になったと聞いている。
長門の個人的な申請にも喜んで力を貸してくれると思うぜ。

「既に喜緑は監視者として動いている。情報統合思念体はそれでも不十分だと判断した」

黄緑さんでもカバーしきれないって、そんなにヤバイ状態なのか?

「状況は一刻を争うものではない。多角的な監視は、異常事態の未然防止確率を高めるため」
「だからって、元急進派の朝倉を復活させる理由にはならないだろう。
 穏便派から新しいTFEIを派遣してもらうことはできないのか?」

無自覚の内に、どうあっても朝倉を復活させまいとしている俺だった。

エラー、だって?
長門の告白に抱いたのは、怒りとは似ても似つかぬ純粋な驚きだった。

「……そう。正確には、メモリ空間に不定期に蓄積したエラーデータが許容量に近づいている」

淡々と事実だけが述べられていく。

「発生当初、そのエラーは増大と減少を繰り返していた」
「プラスマイナスゼロにはならないのか」
「最近では均衡が崩れ増大傾向にある。許容量を超過した場合、異常状態は必至」

久々に耳にする無機質で温かみのない単語群。
俺は長門が人間ではなく、情報統合思念体によって作られたアンドロイドであることを再認しながら、

「そいつはつまり、あの冬の日と同じことをお前が起こしちまうってことか?」
「………可能性がある。だから朝倉涼子を一時的に監視役として復活させる」
「何もわざわざあいつを復活させなくても、喜緑さんがいるじゃないか」

ハルヒが能力行使をやめるようになってから、思念体は穏健派が主流になったと聞いている。
長門の個人的な申請にも喜んで力を貸してくれると思うぜ。

「既に喜緑は監視者として動いている。情報統合思念体はそれでも不十分だと判断した」

黄緑さんでもカバーしきれないって、そんなにヤバイ状態なのか。

「状況は一刻を争うものではない。多角的な監視は、異常事態の未然防止確率を高めるため」
「だからって、元急進派の朝倉を復活させる理由にはならないだろう。
 穏健派から新しいTFEIを派遣してもらうことはできないのかよ?」

無自覚の内に、どうあっても朝倉を復活させまいとしている俺だった。

「無駄な情報操作は避けるべき。朝倉涼子なら帰国という形で潜入できる」

今現在、悠々自適な高校ライフを送っている喜緑さんは、
かなり恣意的な理由で情報操作している気がするけどな。
そんな胸中の呟きが聞こえたのか、

「………彼女の情報操作には意味がある、と思う」

長門は困ったようにそう言って、

「あなたは朝倉涼子の復活に反対?」

恐らくは今回の電話の核心であろう質問をしてきた。

「修復後の朝倉涼子から、急進派のプログラムは除去されている。
 あなたへの殺害意志はない。穏健派として、監視役の役割を果たすだけ。
 危険はない。わたしが保証する」

その畳みかける口調に、ついさっき観たテレフォンショッピングを思い出す。
俺は無感情を装いながら、

「俺が反対したところでどうにもならないのに、そんな質問意味ねぇよ。
 お前がおかしくならないのが第一優先事項だろ」
「………それは違う。あなたが了承がしなければ朝倉涼子は復活できない」
「どうしてだ」
「朝倉涼子のデータ修復には、バックアップ元であったわたしのログが必要不可欠。
 わたしは思念体と約束を交した。あなたが了承しない限り、わたしはログを呈示しない」

スピーカー越しに届く声は少し揺れていた。
ふと、眼窩に受話器をぎゅっと握りしめている長門の姿が映し出される。

さて―――どう答えたもんかね。

復活した朝倉に危険はないらしい。つまりただの可愛い女の子だ。
人畜無害な笑みを浮かべて委員長の座に再臨し、長門のエラーが解析されるまで監視役を果たす。
だが、俺の心的外傷はそんな言葉で癒されるほど浅くない。
教室で、廊下で、帰り道で。俺はあいつと顔を合わせる度に、身震いする羽目になるだろう。
正直言ってあいつはもう、俺の中では恐怖の偶像となりつつあるのだ。
怖い。マジで怖い。そう、復活なんてどうあっても許せるコトではないのだが――
長門がわけのわからんエラーで悩んでいるのも、それと同じくらいに不愉快なコトだった。
前回の突発的異常事態に比べ、今回は事前に不明なエラーの蓄積が分かっているから良かったが、
それはあくまでも不幸中の幸いで、事態は刻々と深刻化している。
現況は喜緑さんだけでもカバーできるそうだが、監視役はやっぱ多い方がいいに決まってる。

「………あなたの気持ちを聞かせて」

長門、俺は――

1、お前に異常が起らないなら、喜んで朝倉の復活を祝ってやるさ。
2、あいつとは嫌な思い出が多すぎる。すまんが、復活は了承できない

>>27までに多かったの


15 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/30(日) 02:19:43.57 ID:vLW5aDE0



16 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [] 投稿日:2007/12/30(日) 02:20:16.19 ID:N6TtFGs0



17 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/30(日) 02:20:19.34 ID:zGhSXKI0

1

18 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [] 投稿日:2007/12/30(日) 02:20:20.03 ID:.I5TFd60

1

19 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/30(日) 02:20:40.62 ID:PIejhsE0

1 作者乙だぜ

20 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2007/12/30(日) 02:20:44.14 ID:Hls6hyAo



21 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/30(日) 02:20:46.79 ID:n9MS/OU0

2

22 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/30(日) 02:20:57.13 ID:Z23EqiQ0

2

23 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2007/12/30(日) 02:21:16.03 ID:beHoCYSO

迷うが1

24 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/30(日) 02:21:20.99 ID:n7SsDes0

2

25 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/30(日) 02:22:25.93 ID:BZBM9.AO

1

26 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2007/12/30(日) 02:22:50.67 ID:wmopsMDO

1で 明日も楽しみにしてるよー

27 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/30(日) 02:23:26.16 ID:O/QGRyw0

1


「………あなたの気持ちを聞かせて」

決め手はその言葉だった。
あくまで俺の心情を汲もうとする長門の優しさに、
ぐずついていた思考が冴え渡っていく。

「はっ。何くだんねーことで悩んでんだ、俺はよ」

いいか。長門がエラーに侵されてんだぞ。
あの冬の日の異常事態に似たことが起こるかもしれねぇ。
またこの世界が、別世界に書換えられちまうかもしれねぇんだ。
俺はそんなの嫌だね。俺はこのネタに満ちた世界が大好きだ。平穏な世界よりもずっとな。
そしてそれは長門も同じなんだ。何故そんなことが言えるかって?
アホか。長門が深層意識でこの世界を不快に感じていたら、エラーが蓄積していることを
情報統合思念体に告白するわけがねえんだよ。黙ってるはずなんだ。
黙りこくって、エラーが蓄積してるのを他人事みたいに分析して、そんで最後には一人勝手に暴走するはずなんだよ。
長門はこの世界を気に入ってる。分厚い本を読んで、ハルヒに時々弄られて、週末に俺と図書館に行くことに満足している。
だから自ら防止策をとった。情報統合思念体に、他TFEIによる自己監視を申請した。
思念体は喜緑さんに監視者の役割を与え、次いで朝倉を監視者にするべくデータ修復しようとした。
だが長門はストップをかけた。

何故? どうして?

答えはとってもシンプル。朝倉を畏れる肝っ玉の小さい貧弱男が一人近くにいるからさ。
本来なら第一に優先すべき思念体への修復協力よりも、長門はビビり野郎の意見を尊重した。
馬鹿な話だ。まったくもって合理的じゃない。

なあ長門。お前は本気で、俺がごねたら朝倉修復をやめるつもりだったのか?
これから先も喜緑さんのバックアップだけに頼るつもりだったのか?
もしそうならお前はとんでもねぇ愚か者だぜ。いいか、良く聞けよ?
俺はな、お前自身を犠牲にした上での優しさなんて要らねぇんだよ。
ちょっと我慢するだけで済む問題なんだろ? それなら俺は、

「喜んで朝倉の復活を祝ってやるさ。
 俺なんかにはこれっぽっちも遠慮する必要ないぜ」

「……本当にあなたは後悔しない?」

意志に揺らぎがないことを示すために声量を上げて、

「後悔しない」

断言する。

「……そう。データ修復はすぐにでも可能。
 明日にはあなたの教室に朝倉涼子が転入することになる」

明日って……随分はやいんだな。
二年前の事件の時に完膚無きまでに消滅させられてたから
復活には時間がかかると予想していたんだが。

「時間はかからない。恐らくあなたの言う復活とは再構成のこと。
 今回はわたしのログを元にして、朝倉涼子を新規に作成する」

ふーん。じゃあ解りやすく言い換えると、
明日会う朝倉は二年前に削除された朝倉本人ではなく朝倉のコピーなんだな?

「そう。消去される直前までの記憶は継承している」

俺は叶わぬ願いだと知りながらも訊いた。

「どうせなら記憶なしの状態で復活できないのか?」
「できない。何故ならクラスメイト等の既知人物に対する会話に整合性がとれなくなる」

……だよ、な。
OK、この件に関しては了解したよ。
明日朝倉に再会を果たしたら、平常心を心懸けて旧知の友のように挨拶してやるさ。

「……………重ねていう。彼女に危険はない」
「他ならぬお前の言うことなんだ。信じるさ」
「………ありがとう」

長門はそれきり言葉を返さなかった。
なんとなく通話を切らずに、明るい居間と薄暗い廊下の対比を観察する。

『ありがとう』

頻用されて意味が薄れたその言葉も、長門の唇を通すだけで本来の重みを取り戻す。
まるで魔法みたいだな――興奮が冷めた頭で、俺は映画撮影時の長門を回想していた。
時間だけが無為に消費されていく。

「……………」

そして、三点リーダが100個分並んだ頃。長門が受話器を置く気配がした。


1、「待ってくれ。無粋な質問、していいか?」
2、「……おやすみ」


>>192までに多かったの


183 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/30(日) 22:42:16.02 ID:n7SsDes0

1

184 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2007/12/30(日) 22:42:22.75 ID:wdGjt1ko



185 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/30(日) 22:42:23.24 ID:x4hH32Y0

>>179
危うく吹く所だったぜwwwwwwwww

186 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/30(日) 22:42:29.37 ID:xmmOJhUo



187 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2007/12/30(日) 22:42:31.18 ID:bhbThLwo

ここは1だな

188 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/30(日) 22:42:32.68 ID:BzhOWDk0



189 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2007/12/30(日) 22:42:38.84 ID:5YszTbI0

1

190 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2007/12/30(日) 22:43:09.93 ID:HEEVunYo

もう1でいいよ

191 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2007/12/30(日) 22:43:16.18 ID:BB8afF2o



192 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2007/12/30(日) 22:43:16.67 ID:x4hH32Y0

1


カチャリ。子機と本体が触れあう音がする。だが完全に通話が途絶える直前に、

「待ってくれ」

俺は長門を呼び止めていた。
人間にはあり得ない反応速度で、長門が受話器を静止させる。

「無粋だってことは分かっているんだが、質問していいか?」
「…………」

沈黙を肯定と判断して、俺は燻っていた蟠りを告げた。

「再修正プログラムは、使えないのか?」

二年前の冬の日。暴走した長門に対して用いた短針銃。
急拵えであったにも関わらず、銃から発射されたプログラムは抜群な効果をもたらしたよな。
今回はあの時と違う。お前は不明なエラーの蓄積を、情報統合思念体に告白した。
情報統合思念体が本気を出せば不明なエラーなんて一瞬で――

「それはできない」

遮った声は、まるで人工音声のように無感情だった。

「……わたしは誕生してから今までの間に莫大な経験値を獲得した。
 初期デバイスからかけ離れたわたしを、思念体が解析することは不可能」
「そう、なのか」

想像できていた答えだった。俺に考え至れたことを、長門や情報統合思念体が考案していないわけがない。

だが――今の言葉を鵜呑みにするなら、無視できない疑問が浮かび上がることになる。

「お前らのエラー解析の仕方は、多分どんなに根気よく説明されても理解できないだろうから訊かないけどな。
 お前の親玉にも解決できない問題を、お前は一体、どうやって解決するつもりなんだ?」
「……………」

数瞬の沈黙を経て。
スピーカー越しに、すぅ、と息を吸い込む音が聞こえ、

「もうっ、いつまでキョンくんでんわしてるのー?」

ドンドンと振動を伝えるドアに、俺は文字通り飛び上がった。
やれやれ、長電話しすぎたか。俺が時間を忘れていたことを後悔していると、妹はドア叩きによる説得を諦め、

「テレビみててもつまんないよぉ〜キョンくんいっしょじゃなきゃおもしろくない〜」

結構な声量で駄々をこねはじめた。
やがてB級ホラーの演出が子供のお遊戯に見えるくらいに、ドアノブが激しく回り始める。
と、俺が頭を抱えていたその時だった。
廊下の薄闇に光明が差す。メシアが帰還を果たしたのである。
俺はドアから背を離し、

「妹よろしく」

何事かと目を丸くしているお袋に妹を一任すると、一目散に階段を駆け上がった。
自室に立て籠もり、再びドアを背にして様子を伺う。

「……あのねー、キョンくんが女の子とず〜っとでんわしてたんだよー……」

あいつめ、あたかも俺が不純異性間交友をしているかのように吹聴しやがって。
溜息をつきつつ、携帯を耳に当て直す。しかし――

ツー、ツー……

スピーカーから流れ出るのは、無機質の極みとも言うべき電子音だった。……あぁ、無情。

俺は窓の外を一瞥してから、携帯をベッドに放り投げた。
今夜はもう遅いしリダイヤルはやめておいた方がいいだろう。訊く機会は幾らでもあるしな。
適当に明日の支度をしてベッドに倒れ込む。消灯してすぐには寝付けなかった。
印象深かった出来事が、スライドになって眼窩に投影されていく。
夕陽に染められたハルヒ、大人びた着物姿の鶴屋さん、不明なエラーが蓄積していると告白してきた長門。
最初距離をとっていたそれらはやがて一つに重なりはじめ――
完成形を見届ける前に、意識は眠りに落ちていた。


その夜、不思議な夢をみた。
真っ赤に染まった教室で、朝倉が微笑んでいる。
俺は訊いた。
"何故お前がここにいる?"
朝倉は答えた。
"さあ。どうしてだと思う"
俺は考える。だが、あと少しで答に辿り着くといったときに、
"ふふ、時間切れ"
朝倉が音もなく俺の前に移動していた。
腹に違和感が生じる。手を当てると、掌は夕陽よりも鮮やかな朱に染まった。痛みはない。
"ごめんね"
視線を戻すと、朝倉は微笑みながら泣いていた。
あらゆる事象が矛盾していた。俺はこれが夢であると認識した。
"これは、未来のひとつなの"
俺は耳を塞いだ。そして、夢の記憶が消えますようにと祈った。

翌日。
春の朝日に淡く白んだハイキングコースに相応しく和気靄然と歩を進める他の北高生徒とは対照的に、
俺は腸チフスとコレラとペストと重症急性呼吸器症候群を同時併発したのではないかと思えるほど
惨憺たる気分で足を引きずっていた。胃袋に無理矢理押し込んだパン一切れは早くも消化不良を起こし、
昨晩見た夢(内容は憶えていない)は繊維の硬いほうれん草みたいに思考回路に挟まって正常な情報伝達を阻害している。
一言で言えばコンディションは最低だった。正直な話、今すぐ踵を返して自宅に引きこもりたいね。

『課題やった?』
『全然。もうあきらめてる』
『休み時間に死ぬ気でやったら間に合うって』

また一人、また一人と後輩たちが俺を追い越していく。
四月上旬の頃はおどおどしていた一年生も、
今ではすっかり高校の雰囲気に慣れてそれぞれの高校ライフを獲得していた。
入学当初の高校に対する、期待と不安が入り交じった感覚。俺の今の心境はそれとよく似ていると思う。
クラスの中心的存在で誰からも慕われる委員長と、ナイフを片手に婉然と微笑む殺人鬼。
その二面性を知っていてしかも一度刺された経験のある俺に、復活した朝倉をフツーのクラスメイトとして扱うことができるのか。
朝倉の記憶がどうにもならないんなら俺の記憶を改竄してくれと長門に頼めば良かった。いや、それは無理な相談か――
なんてことを考えていると、

「よっ。辛気くせぇ顔してどうしたんだ。風邪でも引いたのか?」

谷口が現れた。いつもながらに脳天気な顔してやがる。

「ま、どうせ後で分かることだろうがな、」

俺は一瞬朝倉のことについて口走りかけて、

「いや、なんでもない」

すんでの所で思い留まった。
あいつは昨日帰国したという設定だ。今話せばどうして俺がその情報を知りえたのか後々ややこしいことになる。

「先に行っててくれ」

谷口は哀頽のジェスチャーを取った後、

「はいはい分かりましたよ。でもよ、急がないとマジ遅刻するぞ」

すったかと他の生徒を追い越して走っていった。
腕時計を見て、駅に逆戻りしそうなほど遅滞化していた歩行ペースを若干早めることにする。
俺は豆粒になった谷口の背中に語りかけた。
たまには役に立つこと言うようになったじゃねえか。
そんなお前に朗報だぜ。あと30分もすれば、AAランク+の失われし美少女と再会を果たすことができるだろうよ。
担任岡部と共に現れた朝倉に、クラスは感動と興奮に沸き返り――

「あ……!」

そこまで言って、ある可能性に気がつく。
どうして今の今まで失念していたんだろうね。自分のことでいっぱいいっぱいだったからか?
いるじゃないか。朝倉の失踪に、ある意味谷口より注目していたヤツが。

「………長門には悪いが、やっぱ面倒なことになったなあ」

溜息を地面に吐き出しつつ、山のてっぺん目指して歩く。
折角速めた歩行ペースは、新たな懸案事項によって元の速さに戻っていた。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

さて、重い足取りで教室の框を跨ぎハルヒの水向けに上の空で返事をしつつHRを迎えた俺は、
これから十七年余の人生で最も予想の外れる午前中を体感するとは夢にも思っちゃいなかった。

「あー、皆にとても良い話がある。この度、うちのクラスに転校生がやってくることになった」

担任岡部がドアを開けると、爆発的にクラスが沸き返った。
随感の面持ちで教室に足を踏み入れた朝倉は、人懐こい笑みそのままに今回の帰国についての説明を含めた
これからよろしくね、といった感じのありきたりなスピーチをし、新設された席――教室の後方右側――に腰を下ろした。

「休み時間までは静かにな」

岡部の一言で騒がしかった教室が沈静化する。
退屈な連絡事項が話されている間、俺は朝倉を盗み見ていた。
長い黒髪、太い眉、深い黒色の瞳、綺麗な唇。どのパーツをとっても、朝倉は以前の朝倉だ。
いや、正確に言うと体の部分部分は成長していたけれども。
朝倉は俺に一瞥もくれずに、岡部の話に耳を傾けていた。なんらかのアプローチを仕掛けてくるかと身構えていたが、
気が早すぎたということか。俺が一人になるまでは接触してこないつもりなのかもしれない。
俺はそれから暫く盗み見を続けていたが、同じく朝倉に視線を向けていた谷口と目が合って顔を背けた。

抑圧されていた所為もあるのだろう、際限なく高まっていた教室内のボルテージは、

「起立、礼」

現委員長の一言で、一気に破裂した。どっ、と朝倉の元に人が集中する。

『あっちでの話、詳しく聞かせてよ?』
『二年ぶりだよね。会いたかったんだ〜』
『朝倉さん、久しぶり!』

口々に質問を浴びせかけるクラスメイトに、朝倉は丁寧に応対していた。
二年間の空白期を感じさせぬその語りに、俺は記憶が継承されているという長門の説明を思い出した。

「――お父さんの仕事でね――しかたがなかったの――」

よく通るメゾソプラノの声が教室の端まで届いてくる。
クラスの半数以上が密集した一角を、俺は自席でぼんやり眺めていたが、

「朝倉も大変ねー。戻ってきた途端質問攻めに合うなんて」

後方から飛来したハルヒの声に、ガクリと頬杖を崩された。
どうしてお前が大人しく席に収まっているんだよ。
お前もあの一群の中に混じっているとばかり思っていたんだが。

「あたしが席に座ってるのがそんなにおかしい?」

振り向く。ハルヒは訝しげな表情で首を捻っていた。

「いやだってお前、朝倉がいなくなったときはあんなに騒いでたじゃないか」

これは事件よ、なんて言い出して朝倉のマンションまで押しかけたことは未だ記憶に新しい。
あれほど行方を追っていた張本人と再会できたんだ。
お前のことだから当時の疑問を解消すべく、他のクラスメイトを蹴散らしてでも朝倉を質問攻めするんじゃないかと――

「あのね、あたしだってもう子供じゃないの」

まだ成人してないから子供だろ、というツッコミを飲み込んで相槌を打つ。
するとハルヒは一歩先のカリキュラムを学習している塾生みたいな得意顔で

「それぞれの家庭には事情があるんだし、無闇やたらに首を突っ込むのはよくないわ。
 確かに朝倉が突然戻ってきたことは気になるけど、ほとぼりが冷めてから訊いてみるつもりよ」

ハルヒらしからぬことを堂々と宣った。

「…………」
「…………?」

ややもすればハルヒの精神状態を大きく揺るがしかねないこの一大事件を、ハルヒは淡々と処理している。
今しがたの言葉が真実か否かは判別できないが――ここはその言葉を信じて安堵するとしよう。
こいつの妙な心理変化は古泉に尋ねるに限る。俺は暫くハルヒの顔を観察してから、そうか、と返して体を捻りなおした。


休み時間が終わって一時間目。新たな転校生を迎えてから初めての授業は英語だった。

順当にクラスメイトが当てられていき、やがて朝倉の番になる。

「Unfortunately, since I intended to make payment.....」

可愛らしい唇が指定された英文を読み上げる。完璧な発音だ。
カナダで二年過ごしただけあって、さらに研きがかかっているような気がするね。
英語教師の絶賛とクラスメイトの羨望の視線に、朝倉ははにかんで席についた。
俺はそれを冷めた目で見つめていた。基礎学力なんて情報操作でどうとでも弄れるんだ。
どうせ二年前と同じように、高校三年の学習要項程度は余裕でこなせるようプログラムされているに違いない。
だが――俺は次の3コマで、その考えが偏見による思いこみであったと知ることになる。


二時間目の数学の授業。無作為に、或いは故意に当てられた朝倉に絶対の期待を寄せていたクラスメイトは、

「……分かりません」

手をもじもじさせてそう答えた朝倉を、呆気にとられた表情で見つめていた。

「ま、まあ、あっちとこっちじゃ勉強の進み具合に違いがあるからなぁ」

数瞬の間をおいて数学教師がフォローを入れたが、微妙な空気は変わらない。
それもそのはず、教師が質問したのは割と難しめの問題についてだったが、
基礎的な学習を済ませていれば十分答えられる問題だったからだ。もっとも、俺には到底理解できない質問だったが。

三時間目の現国でも、朝倉の不思議なミスは目立った。

「……わ、分かりません」

それが重なるにつれて、朝倉が答えに詰まるのは二年のブランクが原因だ、
ということで教師とクラスメイトの見解は一致したようだったが、
それを余所に、俺は一つの仮説を打ち立てていた。今ここで共に授業を受けている朝倉は、二年前消滅した朝倉のコピーverだ。
なら、こいつの学力は高校一年の春から一切向上していないことになるのではないか。
いや待て、それならそれで矛盾が発生する。北高にTFEIが潜入する上で基礎学力は高い方が良いに決まってるし
二年前の状態でも朝倉は国立図書館並の知識量を蓄えていたはずだ。もし今回復活させる上で情報統合思念体が
朝倉に手を加えていないとしても、朝倉が勉強についてこれない理由が見当たらない。

「――ョン、キョンってば。次、体育だよ」

国木田の声で我に返る。熟考に耽っているうちに、三時間目は終わっていた。

「朝倉、可愛くなったよなぁ」

女子長距離走の様相をガン見しつつ、谷口が恍惚と呟いた。
ぽかんと開いた口からは今にも魂魄が漏れ出しそうで、俺はなんとなくその呟きを拾い上げてやることにする。

「再評価するとどうなるんだ。前回のAAランクプラスを上回るのか?」
「ったりめぇよ。伝説のSランクにも手が届くくらいだぜ……」
「お前の判断基準を共有することはできないから、是非ともどこがどう可愛くなったのか端的に教えてくれ」
「全部だ」

重症だな。俺は谷口に愛想を尽かして、休憩時間を一緒に潰す相手を探そうと辺りを見渡した。
そして男子の約九割が朝倉の魅了で廃人になってしまったことを理解した。
皆、ダウナー系のドラッグをキメたみたいに力無くへたり込んでいる。
虚ろな瞳が追っているのは幻覚の妖精さんではなく、とてとて走る朝倉だ。

「駄目だこいつら」

と、俺が男子クラスメイトの様子に危険を感じ始めた時のことだった。国木田が俺の横に座り込み、

「キョンは自分を保っているみたいだねぇ。
 谷口は……もうすっかり朝倉さんの虜になっちゃってるなぁ」
「お前はまともそうで安心したよ」
「僕の好みは年上だからね。それでも、久々に会った朝倉さんにはかなり心を揺らされたけど」

コンクリートを行進する黒蟻を眺めながら、何気なさを装って俺は訊いた。

「朝倉ってさ。二年前と比べてどこが可愛くなったんだ?」

すると国木田はさも失望したように溜息を吐いて、

「君の観察眼は相当曇ってるよ。
 本気で、彼女が獲得したあの崩壊美とも言うべき儚げで頽れそうな可憐さが分からないのかい?」

分からないな。殺人鬼フィルターを通しているからだろうか、
外見上の秀麗さを理解することはできても、内面的な変化はどうにも窺い知ることができない。
現に俺はまだ一度もあいつと言葉を交していないし、さっき整列したときも無意識の内にあいつを避けていた。

「例を用いて説明してもらえるとありがたいんだが」
「仕方がないなぁ。でも君は運がいいよ。
 彼女のことを一番よく知っている僕にそれを尋ねたんだから」

いつしか陶然とし始めた国木田に憐憫の感情を抱きながらも、俺は続きを促した。

「いいかい? 二年前の彼女は才色兼備で容姿端麗と、まさに非の打ち所がない美少女だった。
 でもそれ故に、ちょっと、ほんのちょっとだけ近づきがたいイメージがあったんだ。
 女神を想像すればちょうどいいと思うよ」
「それで?」
「ところが。二年ぶりに帰ってきた朝倉さんからは、そのイメージが払拭されていたんだよ。
 以前は模範解答の連続だった数学が分からなかったり、現国の朗読で滑舌が乱れたり。
 要するに親しみやすさが増したってことかなぁ……あ、女子の長距離走、終わったみたいだよ」

男子共が嬉々として立ち上がる。俺は半ばつられる形でその視線を追ってみた。
するとそこには――

「………はぁっ、はぁ……」
「朝倉さん、大丈夫?」
「うん、……はぁっ……平気だよっ……はぁ」

地面にペタンと座り込んだ朝倉を、数人の女子が取り囲んでいた。
黒髪は艶やかに乱れ、頬は桃色に上気し、唇からは熱い吐息が漏れている。
情報制御空間で俺を殺そうとしたときはどんなに瞬間移動しても汗一つ流さなかったのに、
5km走っただけでこの消耗具合―――どう考えても演技だ。それも迫真の。

「茶番だな。まったく、朝倉も何考えているんだか」

俺は失笑した。そして恐らくは俺と同じ感想を抱いているであろう国木田の方に視線を戻した。


俺以外の男子は全員悶絶死していた。

――――――――――――――――――――――――――――――

譫妄状態の男子共に肩を貸してやって余計に疲れた体育が滞りなく終了し、昼休みが訪れる。
だが俺は弁当箱を取り出さずに、机につっぷして体力を回復しながら今後の朝倉への対応を検討していた。
脳内に保守派と革新派のデフォルメキャラが登場する。

「いつまで彼女のことを避け続ける気ですか?」 あいつに近づくとトラウマが疼くんだよ。
「朝倉は何もアクション起こさねぇしほっといていいんじゃねえの?」 俺は保守派に賛成だぜ。
「長門さんのエラーについて話し合うべきことがあるでしょう!」 う、確かにそうだが話をするきっかけがないんだ。
「だーかーら。俺らが難しいエラー解析の話聞かされたって意味ねぇだろ」 だよ、な。意味ないよな。
「逃げるんですね?」 そ、それは違う。
「怖いんですか?」 お、俺は怖くなんかないぞ。
「あなたは畏れている。惨めに躰を竦ませて怯えている。
 それは裏を返せば、長門さんの言葉を信用していないということです」 うるさい!

革新派の猛追に耐えきれなくなった俺は、つい声を荒げてしまった。
クールになるんだ。ゆっくりと深呼吸をして目を開ける。
するとちょうど、制服に着替えなおした女子たちが教室に戻ってくるところだった。
中心にいるのは勿論朝倉で、仲良く他の女子とお喋りしている。午前中の間に、朝倉はすっかりクラスに馴染んでいた。

「キョン、はやくこっち来いよ」

女子の帰還がトリガーとなって、彼方此方で昼食が始まる。
俺は谷口に生返事をして、弁当箱を片手に立ち上がった。

ここは――
1、いつもどおり谷口たちと弁当をつつこう。朝倉に話しかけるのはもう少し先延ばしだ。
2、部室で食べよう。あそこなら朝倉も来ないだろうしな。
3、朝倉に話しかけよう。いつまでも懸案事項を遷延することはできない。

>>547までに多かったの


539 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2008/01/08(火) 00:11:32.16 ID:awb3aOYo



540 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/01/08(火) 00:11:37.52 ID:RT5AHkAO

A

541 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2008/01/08(火) 00:12:09.54 ID:ImzQsGwo

KOOLwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww



542 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/01/08(火) 00:12:13.97 ID:WJhOPMs0

2

543 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2008/01/08(火) 00:12:18.26 ID:IQ6F5cSO

3

544 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/01/08(火) 00:12:19.22 ID:7n56z1g0

2

545 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/01/08(火) 00:12:19.53 ID:td/Yxlko



546 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/01/08(火) 00:12:28.24 ID:YHxhScDO



547 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/01/08(火) 00:12:28.66 ID:29uNWaQ0

3wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww


が、俺の足は谷口の方向とは別の、朝倉がいる女子グループへ向かっていた。
深層意識がそうさせているのだろうか。足は機械的に俺を移動させ、いよいよ朝倉との距離が3mに縮まる。
科白はまったく考えていなかった。台本は真っ白で、何について切り出せばいいのか分からない。
クラスメイトが密集するこの場で情報統合思念体なんて電波なことは言えないし、
二年前のあの日について語るにも朝倉が殺人未遂犯だなんてショッキングな事実を公表するわけにはいかない。
結局思考がまとまらないまま、俺は自分の足で朝倉の前まで連れてこられた。

「どうしたの? 何か用?」

俺に気づいた取巻きの一人が尋ねてくる。軽快な口調とは裏腹に、
目にはさっさと部外者を排斥したいという暗い願望が浮かんでいた。

「えーっと……、」

朝倉と二人で話がしたい。そう言えば済む話なのに、口から出るのはその場繋ぎの情けない言葉のみ。
朝倉が視界の外に追いやっているとはいえすぐ傍にいるという事実に、手汗がじっとりと滲んだ。
しかし取巻き達は俺の悲惨な内面状況を慮ることもなく、

「ねぇ、あたしたち今からお昼ご飯食べようと思ってるんだけど」

白地に棘混じりの言葉を浴びせかけてくる。
ええい、こうなりゃもう破れかぶれだ。俺は思春期真っ直中の恋する少年を模倣して
朝倉の手を強引に掴んで教室の外に飛び出ようと決心し、

「わたし、約束してたの忘れてたわ。今日は彼と一緒にご飯を食べるつもりだったの」

涼やかな声に蛮行を思い留まった。俺は貯蓄してあった勇気を全部はたいて声主を見た。

すると驚くべきことに、
朝倉が元委員長にあるまじき行為――即興の嘘――を並べ立てて、弁当を片手に立ち上がっている。
あのうすみません、彼って誰のことですか?

「ごめんね。また今度一緒に食べましょう?」

朝倉は女子グループの皆さんにぺこりと頭を下げると、

「それじゃあ、行きましょうか」

極自然な動作で俺の手を引いた。
情報操作的にではなく精神的に左手の指先から体が硬質化していくのが分かる。
展開が早すぎて脳の処理が追いつかない。
が、どうやら俺に朝倉と手を繋いで教室を闊歩する権限が認められていないことだけは確かなようで、

『――――なに調子ぶっこいてんの?――――』

教室内には、煉獄の蒼炎即ちクラスメイトの熱視線が俺を嬲ろうと渦巻いていた。
焼かれるのはご免なので、朝倉の手を逆に引く形で教室を脱出する。

「もう、強引なのね」

愉しそうに朝倉が笑う。廊下に出た瞬間、後方で悲痛な叫び声が木霊した。

「俺たちは友達じゃなかったのかよ! どこ行くんだよキョン!」

知らねぇよ。こっちが訊きたいくらいだ。
俺は滅裂な思考のまま走り出した。とりあえず『人目のない場所』を念頭において。

――――――――――――――――――――――――――――――

雲一つない青い空。眠気を誘う柔らかな日差し。
食事をするには絶好の場所である屋上で、しかし俺は重苦しい沈黙を紡いでいた。

「んむ……この卵焼き、とっても美味しいわ」
「……………」
「こっちの鮭もご飯に良く合うし」
「……………」

朝倉を人気のない屋上に連れ込んだのがつい五分前のことだ。
あれから朝倉は女子グループへの宣言通り、可愛らしくラッピングされた弁当箱の包みを開けて昼食を取り始めた。
極度の興奮状態にあった俺は十数秒その様子を第三者的に傍観し、
どんな心理が働いたのかは不明なものの朝倉の隣に座って質素な弁当をつつくことにした。
端からはさぞかし仲睦まじいアベックに見えていたことだろう。が、そんな平和的食事風景がいつまでも続くはずがない。
思考がクリアになるにつれて俺は徐々に隣人の素性を思い出し、
ちまちまと口に運んでいたおかずはたちまち喉を通らなくなって今に至る。

「屋上で昼食をとるのもいいわね。あ、でも夏はかなり暑くなりそう――」
「なぁ、朝倉」

既に役割を果たしていなかった箸を置いて、俺は終わりの見えない独り言を遮った。
すると朝倉は子犬のようなくりくりした瞳をさらに丸くして、

「なぁに?」

純粋な疑問をソプラノに乗せてきた。
俺は脳内悪徳業者から勇気を借りて一気に訊いた。法外利息は承知の上だ。

「なぁに、じゃねえだろ。俺にはお前に話さなくちゃならないことが幾つもある。
 それと同じで、お前にも俺に話さなくちゃならないことがあるんじゃないのか」
「……………」

長門に負けず劣らずの三点リーダが続く。それから朝倉はやんわりと微笑み、

「あなたを殺して涼宮ハルヒの出方を見る」
「じゃあ死んで」
「死になさい」

なんて猟奇的殺人的科白の代わりに

「それは違う。あなたがわたしに問いかけることはあっても、わたしからあなたに話すことは何もないわ」

まるでこの会話を予め想定していたかのような自然さでそう言った。

思わずキョトンとしてしまう。
もし誰かが屋上の一角を隠し撮りしていたら、
そこには谷口も吃驚のアホ面で朝倉を見つめる男子生徒が映っていたことだろう。

「えぇっと、だな。それはつまり、お前は俺に一切興味がないと解釈してOKなのか?」
「そういうこと。わたしが再構成された理由は唯一つ、彼女の監視それだけよ。
 新しい命令がない限り、あなたに自発的に接触するつもりはない。
 でもまあ……潜入して半日も経たない内に、あなたと接触しちゃったわけだけど」

それが嘲弄に聞こえて、俺は柄にもなく唇を尖らせた。

「はん、矛盾してるな。お前は今自発的に接触する意志がないと言ったが、
 俺たちが今こうしているのも、お前が取巻き連中に嘘ついてまでして俺を教室外に連れ出したからだろ。
 まったく、おかげで俺の集団リンチは確定事項だぜ」

すると朝倉は小鳥の囀りのように清涼なクスクス笑いを響かせて、

「だって……あなたったらずっと独りであたしの前に突っ立ってて、なんだか可哀想だったから。
 確かにわたしに"TFEIとして"あなたと接する気はなかったわ。
 でもね? 困っているクラスメイトを助けるのは、元委員長として当然のことでしょう?」

随分と義理堅い宇宙人なんだな。
ま、過程がどうであれ二人きりで話をする場が設けられたのは事実だ。その配慮には感謝してやるよ。

「素直じゃないのね」

生憎俺は鈍感でね。感情表現が苦手なのさ。
こちらを覗き込んでからかう朝倉に、国木田の親しみやすさUP説を想起しつつ。
俺は質問事項を脳梁に並べて、どれから尋ねようかと吟味した。

ここは――

1、お前は二年前のあの日を憶えているか?
2、長門の監視について詳しく聞かせてくれ
3、若干、復活前の朝倉と仕様変更があるみたいだが……

>>680


680 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/01/08(火) 22:45:36.72 ID:yDuWhXU0

3


ここは――午前の授業の端々で疑問に感じていたことを尋ねてみるか。

「今回再構成されるにあたって、仕様変更はあったのか」
「最初の質問から安全確認?
 あなたらしいわね。でも安心して。
 わたしの情報操作にはプロテクトがかけられていて――」
「はいストップ」

先走り始めた朝倉を静止する。
俺が訊きたいのは情報操作的なコトじゃなくてだな……
基礎学力や基礎体力のパラメータについてなんだ。
数学の授業でお前は答えに詰まっていたし、体育の授業では息を切らせていた。
以前のお前なら有り得ない失態だ。あれは演技だったのか?

「ん……」

先ほどまで会話のイニシアチブを掌握していた朝倉が急に俯く。
俺はそれを不審に感じたものの、

「もしも情報統合思念体がお前の基礎能力を改竄したのなら、それには理由があるはずだよな」

好機とばかりに追及した。すると朝倉は困ったように視線を泳がせて、

「あれは……基礎能力の減退はね……わたしが一つだけ思念体に要求したことなの」

俺の予想の遙か斜め上の事実を告白してきた。

「わたしには有機生命体特有の概念や感情に興味があった。
 情報統合思念体全体の調査対象だからではなく、一つの個体としてその正体を知りたかった。
 いうなれば、オリジナルのわたしが削除されるまでに抱いていた"夢"みたいなものかしら」

思念体にそうプログラムされていただけかもしれないけどね、と寂しげに微笑む朝倉。
俺はしばし逡巡してから質問を続けた。

「それとお前が能力を格下げすることにどんな関係があるんだ」
「あなたたち人間と対等に位置することで、新たに得られる情報があるのではないかと推測したのよ」
「ほう、それで成果はあったのか」
「ええ。莫大な未獲得の経験値を得ることができたわ」

パッと顔を輝かせる朝倉に、一瞬の眩暈が俺を襲う。
危ない危ない。こいつの場合、こういう何気ない仕草が致命傷になるんだ。

「羞恥によると思われる体温上昇や、酸素の不足による心拍の加速化――
 どれもこれも初めてのことだらけ。まるでわたしが人間に生まれ変わったみたいで、とても新鮮だったわ」
「へぇ……」

その試みの所為でどれだけの男子が悶死することになるか、こいつは露程にも危惧していないに違いない。
俺は無垢とは無知という名の罪であるという名言を反芻しつつ、次の質問に移ることにした。
朝倉の仕様変更の理由は存外なモノだったが、長門の前例がある分、納得してやれんこともないしな。

腕時計に目をやると、朝倉と密談する猶予はもうあまり残されていなかった。
あと一つの質問ぐらいでで弁当を包み直さないと、午後の授業をバックレることになるだろう。


ここは―――

1、お前は二年前のあの日を憶えているか?
2、長門の監視について詳しく聞かせてくれ

>>749までに多かったの


741 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2008/01/09(水) 00:29:32.22 ID:uyvX516o



742 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/01/09(水) 00:30:02.91 ID:77lpv5.0

1

743 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/01/09(水) 00:30:26.32 ID:Z7T726AO

2

744 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/01/09(水) 00:31:08.48 ID:WOC2WJ20

1

746 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/01/09(水) 00:31:22.26 ID:qep84RA0



747 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2008/01/09(水) 00:31:42.16 ID:JCpS/6Uo



748 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/01/09(水) 00:31:55.18 ID:3v5XzYDO

2

749 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/01/09(水) 00:32:34.40 ID:Z7T726AO




ここは――後回しにしていた本題に移ろう。
長門のエラー蓄積は朝倉復活の直接的な起因でもあり、いうなれば朝倉の存在理由である。
俺は核心に触れることによる朝倉の豹変に怯えつつも、虚勢を張って訊いた。

「……長門の監視について詳しく教えてくれないか」

すると朝倉は1ナノも顔のパーツを動かすことなく――つまり朗らかな笑顔のまま――質問を返してきた。

「あら、長門さんからはわたしが復活することしか聞かされていなかったの?」
「大まかなことは知ってる。
 あいつに不明なエラーが発生していることや、それがバグのトリガーとなる可能性、
 そしてお前が監視者として復活させられるまでの経緯……」
「なぁあんだ、ほとんど知っているんじゃない。それならわたしが話すことは極々限られてくるわよ」
「何でもいい。今はあいつに関する情報が少しでも欲しいんだ」
「ふふ、随分彼女のことを心配しているのね?」

情報提供をのらりくらり遷延する朝倉にイライラが募ってくる。
お前には理解できないかもしれねぇけどな。
人間ってのは、身近な人間が窮地に陥ってたら助けずにはいられないもんなんだ。
そしてそれは相手が宇宙人でも同じで、しかも長門は二年間一緒に過ごしてきた仲間ときてる。
俺があいつを心配するのは当然のことなんだよ。

「ふぅん」

なんだその人生経験の甘い坊やを窘めるお姉さんのような溜息は。

「気にしないで。ただ……あなたがちっとも変わっていないことが分かっただけよ」

「失敬な。俺だってお前の不在期間に少しは成長したつもりなんだが」

なんとも説得力のない自己主張。それを朝倉は華麗に流して、

「………じゃあ、長門さんの監視方法について説明するわ。
 監視の理由や、他の監視者についてのことを除けばわたしが話せるのはそれくらいだし」
「監視方法、ね。喜緑さんの監視じゃ完璧にカバーできないっていうのが、
 距離的時間的な意味でないことは承知していたんだが、一体どうやってるんだ?」
「あなたの想像通り、四六時中ぴったりくっついているような原始的な方法ではないわ。そうね、分かりやすく例えるなら……」

朝倉は腕組みをして中空をにらみ、

「あなたたち人間が使うパーソナルコンピューターは、インターネットを介して繋がっているでしょう?
 それと同じようなもの。仕組みはあなたには理解できないから割愛するけれど、TFEIもリンクしているのよ。
 だからわたしは長門さんをモニタリングできる。彼女の行動、その行動原理、取得情報――それら全てをリアルタイムで参照できる」
「便利な能力だね。もっともその徹底した監視方法じゃ、プライバシーもへったくれもなさそうだが」
「プライバシー? あなたも長門さんと同じコトを言うんだ。
 彼女はその言葉を引き合いに出して、トイレと入浴時だけはモニタリングを停止するように要請してきたわ」

途端、俺の脳内でよからぬ化学物質が分泌され始める。
まずい。非常にまずい。いくら長門が沈黙の美少女だからといって
普段窺い知れぬプライバシーを想像して悦ぶのは絶対の禁忌だ。これじゃ谷口と同類になっちまう。
俺は硬く拳を作ってからそれを頭の高さまで持ち上げ、

「――ッ」

思い切り頭に叩きつけた。激しく頭蓋が揺れて、妄想.exeが強制終了される。

「データベースには高度な知性を持つ有機生命体各個人の私生活上の自由、とあるけれど
 わたしにはあまりその概念が理解できないの」
「ま、まあ、それはたくさんの人間と触れあう中で自ずと理解できてくるんじゃないか」
「……本当かしら?」

朝倉が眉を傾けて訝しむ。俺は可及的速やかに軌道修正を試みた。

「きっとそうだって。そんなことより今の話を聞いて思ったんだが、
 TFEIがリンクしてるってことは、長門は喜緑さんとも繋がっているんだよな?」
「ええ、その通りよ」
「なら喜緑さんだけでカバーできない理由は何なんだ。
 長門は多角的な監視が必要になるとかなんとか言っていたが、それだけの情報量を
 リアルタイムで監視できるなら一人で十分事足りるだろ」

「事足りないわ」

即座の否定。俺は間髪入れずに訊いた。

「どうしてだ」
「あのさあ。あなたはTFEIが別TFEIをモニタリングすることを、
 友達同士がずぅっと携帯電話で連絡をとりあうのと同じようなものだと考えているんじゃない?」
「う……」

図星だった。

「やっぱりね」

俺が言葉に詰まったのを見て取った朝倉は、
携帯電話を高翌齢者に解説する携帯ショップ店員のような物腰になって、

「どんなに高性能なTFEIでも、他のTFEIをモニタリングするとそれなりの負荷がかかるの。
 特に長門さんの場合は初期モデルと比べて大幅に進化を遂げているから、データの遣り取りにも一苦労なのよ。
 それに加えて今回の監視は精密度が重視されているから、モニタリングする情報量は莫大になるし」
「……お前らも結構苦労してるんだな」
「そうよ。でもまあ、わたしと喜緑さんで分担するようになってからは幾分余裕ができたみたいだけど」

一人で監視していたときは物凄く大変だったでしょうね、と先輩TFEIを思い遣る朝倉。
なんでもかんでも情報操作で解決できると思っていた分こういう苦労話はとても新鮮で、
俺は思わず「へぇ」などの感嘆詞を吐こうとし、

「――あなたはまだわたしが怖い?」

瞬きのうちに距離を埋めた朝倉に、戦慄していた。
近い。擦れ合うといったレベルではなく、俺の右肩に朝倉の左肩がぴたりと触れている。

「ど、どうしたんだよ藪から棒に」
「喜緑さんだけでカバーできないのか、とあなたが訊いてきたとき、
 わたしはその質問に純粋な猜疑以上の意図が含まれていると感じたわ。
 そうね――それを言語化するなら、わたしが監視者として復活した現実を否定したい、といったところかしら?」

衣擦れの音が耳朶を刺す。上目遣いの双眸が俺の眼球を固縛する。
相手が普通の女子であれば一瞬で陥落しているというこの状況下で、俺の胸は焦燥に焼かれていた。
否応なしにフラッシュバックする忌まわしい光景に、心拍が跳ね上がっていく。

「有機生命体の恐怖という感情は未だに理解できないわ。
 オリジナルのわたしが長門さんに削除された時でさえ、
 わたしが得たのは任務が遂行できなかったことによる内罰的考察のみだった」

朝倉の声が遠い。

「死という概念はそのまま恐怖に直結していて、臨死体験による恐怖はトラウマとなる。
 そんな話を彼女がしていたわ。トラウマ――ギリシャ語で"傷"という意味らしいけれど、
 やはり肉体損傷を畏れていないわたしにはその概念が分からない」

視野が黒に塗りつぶされていく。

「――――あら、ごめんなさい」

と、いよいよ意識が朧気になりはじめたところで朝倉が腰を上げた。
圧迫感が消えて呼吸ができるようになる。俺は肩で息をしながら、それでも朝倉の独白に耳を傾けようとした。

「でも、あなたがわたしに恐怖を抱く条件が存在するなら、わたしはそれを回避することができる。
 情報操作はしない、というよりできないし、昔のわたしと違って今のわたしは佩刀していない。
 なんなら身体検査でもしてみる?」
「いや……遠慮、しとく……」
「ふふっ、あなたならそう言うと思った」

朝倉は悪戯っぽく微笑みながら、

「今のわたしはね、あなたに簡単に組み伏せられるか弱い女の子なんだ。
 急進派の影響がないからあなたへの殺害欲は一切ない。原始的な手段を用いてあなたを傷つけたりはしない。
 自分で言うのもなんだけど、わたしは安全よ」

ああ、それなら昨晩長門から嫌と言うほど訊かされたよ。
それで……さっきからゴチャゴチャといったい何がいいたいんだ、お前は。

「だからぁ、要するにわたしを怖がらないで欲しいってこと。
 無理に親しくしてとは言わない。でも、わたしを避けるのはやめて。
 そしてできるなら、初めて会った頃のように普通にお喋りして欲しいな」
「へ?」
「お願い。約束して?」

合掌してウインクする朝倉。
刹那のデジャヴが脳裏を駆け抜けたが、俺はそれに委細構わず首肯を返していた。

「え、あ、うん……それくらいなら」
「ほんとう?」
「あ、ああ」

済し崩し的に約束が交される。

「よかったあ!」

朝倉が眩い笑顔を作って小さく快哉を叫ぶ。
その様子を視界の端に捉えながら、俺は索漠とした違和感を感じていた。この会話、何処かおかしくないか。
決定的な矛盾があるはずなのにその正体が分からない――と俺が拙い思考回路故の葛藤に悶えていると、

「ん……あれ……?」

朝倉の寝起きみたいな声が聞こえてきた。
いつしか明瞭になった視界の真ん中で、朝倉がぐしぐしと目を擦っている。

「ご、ごめんなさい。わたし、ちょっとぼうっとしていたみたいで……」

何を言っているんだろうね、こいつは。
ついさっきまで、お前はあんなに饒舌に喋っていたじゃないか。

「わたしが饒舌だなんて……あなたは何を言っているの?」
「それはこっちの科白だ。脅迫的に俺に約束を取り付けたこと、もう忘れたのか?」

やれやれ、といった風にこめかみを抑える。
質問に質問を重ねられた朝倉は、しかしそれに憤慨することもなく、

「約……束……? わたしは今の今まで、モニタリングを分担することによる処理軽減について話していたはずよ」

右手の人差し指を顎にあてて、視線を碧空に投げながら平然と答えた。
わけのわからんことを言うな、いくら生後1日だからといって冗談が過ぎるぜ、と言いたいところだが―――
ここ数年で培った俺の表情見識眼力は、朝倉が嘘をついていないと告げている。
朝倉がド忘れした可能性は……ないよな。こいつに限ってそんな間抜けを犯すとは考えられないし。
なら、俺が朝倉に情動を煽られた所為で白昼夢を視ていたというのだろうか。いや、それはもっと考え難い。

「……………?」
「……………」

疑問符を頭の上に浮かべる朝倉と、緘黙し懊悩に耽る俺。
そんな奇妙な膠着状態はしばらく続き、

「もうこんな時間。わたし、先に教室に戻ってるわ」

涼やかな予鈴に終止符を打たれた。
朝倉が弁当を片手に歩き出す。俺は数秒呆けていたが、朝倉がドアを開けた辺りで呼び止めた。

「おい待てよ! 話はもう終わりなのか?」

余りに中途半端すぎる。

「終わりよ。あとはほとんどあなたの既知情報だろうから、伝達したところで意味がないわ」

「既知情報かどうかなんて一度聞いてみなきゃわかんねぇだろ。
 それに昨日の夜、長門に聞きそびれたことが、」
「あのさあ」

朝倉はしつこく言い寄る男をあしらうように飄々と言った。

「わたしは監視者として必要な情報しか与えられていないわけ。
 だから、あなたがもっと今回の騒動の背面に首を突っ込みたいなら、
 直接長門さん喜緑さんに本人に訊くことをお勧めするわ。
 二人とも同じ学校にいるんだもの、それはとても容易いこと」
「…………」

正論すぎて辟易する。
そりゃまあ、お前の言うとおりそれが一番確実な方法なんだろう。
でも長門の言葉を引用するわけじゃないが、ある事象を考察するとき、
複数の意見を統合することによって多角的な解釈が可能になったりするじゃないか。

「あんまりわたしを困らせないでよ。あなたにも話せることと話せないことがあるでしょ」

朝倉は俺に寸暇も与えず続ける。

「とにかく話はこれでおしまい。
 でも、最後に一つだけ確認したいことがあるの。
 長門さんは確かに自分の口で、不明なエラーが蓄積しているとあなたに言ったのね?」

俺はその質問の意図が掴めないままに首肯した。

「ふうん」

朝倉はそれからしばし瞑目して、

「分かったわ、ありがとう。………じゃあね」

どんなに魅惑耐性のある男でも一瞬で撃沈させられるに違いないウインクを魅せて、屋上を立ち去った。

俺は完全に朝倉の気配が消えてからもしばらく屋上で時間を潰すことにした。
明らかになった監視事情、朝倉の一時的な変異と記憶喪失、未だ不明瞭な事態解決の糸口。
懸案事項は山ほどあるが、とりあえずそれらを脇に置いて空を仰ぐ。

雲一つない青い空。眠気を誘う柔らかな日差し。

訪れたときと何一つ変わらない風景に心癒されながら、俺は最優先課題の攻略に頭を捻った。
さて――恐らくは話し合いの余地なく斬り掛かってくる悪鬼ひしめく教室に、どうやって潜入しようか。

放課後。俺は八つ裂きにされることもコンクリート詰めにされることもなく、
ハルヒ――いや守護神とでもいうべきか――と肩を並べて部室棟へ足を運んでいた。
俺の生存理由など省略して然るべきことかもしれないが、悪戯に衆目を集めている
ハルヒにガッチリ掴まれた右手から気を紛らわすためにも回想シーン的なものを挟むことにする。

つい数時間前のことである。極限まで悋気と嫉妬が蔓延し
地獄への廻廊的様相を呈していた廊下を渡りきり、這々の体で教室もとい地獄への扉を開けた俺は、

『よう。落ち込んだときはお互い様だぜ?』
『慰めてやるからこっちこいよ。まったく、お前も無茶するよなあ』

優しい言葉とは裏腹に晴々しく嗤笑する男子たちに迎え入れられた。
予想と全く違う対応に戸惑いつつ朝倉の姿を探すと、女子グループの中心で質問攻めにあっている。
時折、取巻き達が黄色い声を上げる。俺はニマニマ笑いがとまらない男子共と好奇心旺盛な女子を交互に見比べて悟った。
ああ――俺は朝倉に告白して玉砕したことになっているのか。
非常に忌々しいことだが、俺が逆の立場になった時のことを考えればそれも致し方のないことである。
いやむしろこれは幸運なのかもしれない。
こいつらが勝手に勘違いしてくれているおかげで俺は社会的に抹殺されずに済んだわけだしな
……と、俺が周囲の皮肉を聞き流しつつ胸を撫で下ろしていると、

『……………』

ある時を境に、教室内が油を流したように静まりかえった。
俺を含むクラスメイト全員の視線が、一点に集約する。

「ん、どうしたのみんな。あたしが学食行ってる間に何か面白いことでもあったの?」

黄色いカチューシャの少女は、あどけない笑みを浮かべて首を傾げた。
その時俺は知った。自分が、幸運という言葉では片付けられないほどの僥倖に恵まれていたということに。

それからの顛末は皆様方の予想通りである。
共通意志の元に結束したクラスメイトたちは速やかに平常時モードへと移行し、
自然、自分だけ疎外されたと被害妄想に陥ったハルヒは一直線に俺の元に向かってきた。

「どういうことよ。なんであたしだけが仲間外れなわけ!?」
「さ、さあ。どうしてだろうな」

むくれ顔で詰問してくるハルヒに後退る。だが俺の背中が教室の端に張り付く直前、救世主は現れた。

「……あ! ほら、もう授業始まるぞ」
「むぅー」

ハルヒが渋々といった風に席に戻る。
それから放課後までの二時間、俺の上着はシャーペン攻撃の雨に曝されることになったのだが――
根拠もへったくれもない噂話でハルヒの機嫌が奈落の底に落ちるよりは遙かにマシだったと言えよう。上着の一枚や二枚安いもんだ。
それにいざ使い物にならなくなっても、古泉を通して機関に頼めば支給してくれそうな気がするしな。

とまあそんなわけで、幾つもの奇跡が重なったおかげで、今俺は生きている。
放課後辺りにはハルヒの頭から昼休みの一件は姿を眩ましSOS団についてのワクワク感が空いたスペースを席巻している、といった具合だ。
ちなみに冒頭でハルヒを守護神と呼称したのには理由がある。
いくら俺が玉砕したという設定になっているにせよ、変態的な朝倉ファンの方々の間では
俺が朝倉と手を繋いだだけでも万死に値するという見解が大半を占めているようで、窓外から、或いは廊下の影から時折刺すような視線を感じるのだ。
がしかし、流石にハルヒが隣にいる瞬間を狙って闇討ちしようとする肝の据わった輩はいないようで、
俺は守護神ハルヒの庇護のもと、生の充足を得ているというわけである。

閑話休題のつもりが随分長くなっちまったが――そろそろ到着か。軽く耳を塞いだ刹那、お馴染みの炸裂音が響き渡った。

「やっほー! 有希、お茶お願いね」
「……もう煎れてある」
「やるじゃない。でも、もし温かったりしたら罰則よ?
 そうね、この前買ったビキニタイプのニャンニャン衣装でも着て貰おうかしら――」

ハルヒが繋いでいた手を乱暴に解き、団長席に歩みよって湯飲みを取った。
そして例によって例の如く、なみなみと注がれていたお茶を一気のみする。

「………熱い。美味しいわね」

姑みたいなニマニマ顔から驚嘆の驚きに目を丸くしているハルヒを見遣りつつ、俺もパイプ椅子に座ってお茶を頂くことにする。
熱い。そして旨い。飲まなくても分かっていたことだった。長門がヘマるはずがないんだ。

長門の功績がまるで我がことのように誇らしくなった俺は
是非ともこの感慨を共有しようと俺の正面を定位置としている超能力者を探し、

「今日はあいつ、遅いんだな」

初めて古泉の不在に気がついた。

「おかしいわね。今日は古泉くんもあたしたちと同じ時間に授業が終わるはずなんだけど」

ディスプレイ越しにあまり心配していなさそうな声が届く。テーブルの端っこには、
持ち主の不在を寂しがるかのように、あるいは関心を向けられていないことを哀しむように無秩序に駒を散乱させたチェス盤があった。
そんなに哀愁を漂わせるなよ。どうせあいつが来た途端嫌でもお前で興じることになるんだからさ。
心中でチェス盤に慰めの念を送りつつ、朝比奈さんがいた時のことを回想する。
古泉が遅刻したときは、専ら朝比奈さんがボードゲームの相手になってくれていた。
最弱王古泉と違って朝比奈さんの実力は俺よりも少し弱いといった程度で、それなりに拮抗する勝負が多かった。
あぁ、懐かしの日々――だが朝比奈さんはもういない。一人でチェスはできない。
古泉なら教本片手に一人遊びに興じられるだろうが、俺はあまりそういう地味な一人遊びに熱中できない性質なのだ。

結局、手持無沙汰になった俺が辿り点いた結論はいつもと同じだった。

1、みんな自分のことで忙しそうだが、団員の誰かに暇つぶしを手伝ってもらうとするか。→長門
2、みんな自分のことで忙しそうだが、団員の誰かに暇つぶしを手伝ってもらうとするか。→ハルヒ
3、古泉の行方が気になるな
4、モノローグ対象人物自由指定「     」

>>907


907 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/01/12(土) 02:16:59.44 ID:8R5MX62o

4 鶴屋さん


昨日の鶴屋家訪問を反芻する。

俺の謝罪を真摯に(?)受け止めて逆にお辞儀を返した鶴屋さんは
いかにも次期党首然としていて、何も知らない第三者の視点からは
俺と鶴屋さんの関係がさぞかし不思議なものに映ったことだと思う。
俺みたいな一介の高校生が、社会に足を踏み入れつつある鶴屋さんと気軽に談笑できる理由。
それは、鶴屋さんがSOS団とそこに所属するメンバーを特別に眷顧しているからに他ならない。
だからもてなしは常に一流だ。鶴屋さんは「お茶しかないけどねっ」なーんて謙遜していたが、
実際に運ばれてきた緑茶は、日頃からお茶を嗜んでいる俺の肥えた舌をも唸らせる妙味だった。
それは高級茶葉を使用したからだけではなく、鶴屋さんが今まで培った技巧を凝らし、心を籠めて煎れてくれたからこそできた味だ。
今俺の手にある煎茶も確かに旨いが、あの緑茶と比べたら――

「……………」

長門の瞳が、いつもより鋭利な琥珀色の瞳がこちらに動く。

「……………」

この比較は封印するとしよう。
勘違いされそうなのでことわっておくが、決して外部圧力がかかったわけじゃないぞ。
ええとそれから……鶴屋さんは俺にSOS団の近況報告を催促した。
あの時は歯止めが利かず、ついつい喋りすぎてしまったが……
今から思えば、俺の心は鶴屋さんが「うんうん」と相槌を打つ度に、堆積していた感情を吐き出していた。

こんなことを堂々と言うのは憚られるが……恐らく鶴屋さんは、俺にとって最高の相談相手なんだと思う。
SOS団の内情をよく知っていて、でも一定の距離を保っていて、
どんなにシリアスな話も笑い話に変えてしまえるような深い器量を持っている。
そんな彼女に俺が多くを語ってしまったことは、ある意味必然だったのかもしれないな。

「……ん」

回想を中断して背伸びする。
小さく開けられた窓から吹き込む風を胸一杯に吸い込むと、初春の香りが失われつつあることが分かった。
ホワイトボードのスケジュール表は今が四月末であることを示している。
俺は早々に晴れ舞台を下りてしまった桜を思い出して少し切なくなった。
この街でまだ満開の桜が拝めるのは――鶴屋さんちの日本庭園くらいだろう。
ふと、耳に昨日の去り際に聞こえた言葉が蘇る。

『気が向いたらいつでも寄ってきなっ!』

鶴屋さんに話したいことはまだたくさんあった。
鶴屋さんはああ言っていたことだし、ここはその御言葉に甘えて、通りがかったのを言い訳にお邪魔するわけには――
って馬鹿か俺は。厚かましいにも程がある。
将来に向けて日々勉学に励んでおられる鶴屋さんを三日連続で邪魔すれば、
俺は朝倉ファンに闇討ちされるよりも早く鶴屋家の暗部に謀殺されること請け合いだ。

俺は今度こそ昨日の回想を終わらせてすっかり温くなった煎茶を飲み干した。
胸のあたりに生じた錘は、流されずに留まったままだった。

――――――――――――――――――――――――――――――

1、みんな自分のことで忙しそうだが、団員の誰かに暇つぶしを手伝ってもらうとするか。→長門
2、みんな自分のことで忙しそうだが、団員の誰かに暇つぶしを手伝ってもらうとするか。→ハルヒ
3、古泉の行方が気になるな

>>52までに多かったの


43 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2008/01/12(土) 19:04:00.68 ID:wO8ePEDO

2

44 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2008/01/12(土) 19:05:05.27 ID:z0qxn.go

朝倉派だけどここは1しかないか・・・

45 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/01/12(土) 19:05:44.50 ID:8R5MX62o

2

46 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [] 投稿日:2008/01/12(土) 19:06:56.70 ID:F9yuJ2Y0

2

47 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2008/01/12(土) 19:07:25.78 ID:xLuwtuYo



48 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/01/12(土) 19:08:20.08 ID:89mvEmg0

3

49 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/01/12(土) 19:08:24.14 ID:HPsOLLU0

1
>>44よお俺

50 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2008/01/12(土) 19:09:05.01 ID:XhrWmUAO

1

51 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2008/01/12(土) 19:10:18.65 ID:.zEk7oko



52 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [] 投稿日:2008/01/12(土) 19:11:24.57 ID:z1JvdaI0

3


――――――――――――――――――――――――――――――

「お前ら、今暇か?」

本棚から取ったハードカバーの頁を数枚捲り、
机にびたりと張り付いて睡魔召還の儀を執り行い、
鞄からレポート課題を取り出してペンを握った後ものの数秒で挫折した俺は、
最後に私事に没頭しているお二方に問いかけた。
するとハルヒは俺の予想に寸分違わぬ、まるでチンパンジーが人語を喋ったところを目撃したような顔で

「暇なわけないじゃない。どうしたの?
 あんたの用事があたしの関心を引くもしくはSOS団存続に関わる緊急のものなら話ぐらい訊いてあげるけど?」
「残念ながらそれらには該当しないな」
「あっそ」

実に素っ気ない返事を残してディスプレイに視線を戻した。
忙しさゆえかいつもより酷薄なハルヒの態度に辟易しつつ、反応が梨のつぶてである窓際を窺う。
長門と目が合った。あー、お前はいつもどおり読書に励んでいるみたいだが……?

「……用件を言って」
「たまにはテーブルゲームでもどうかなと思ってさ。
 お前が嫌なら全然断ってくれてかまわないんだが、どうだ?」

長門は五つほど三点リーダを並べてから答えた。

「いい」

はて、この"いい"とは肯定と否定、どちらの意味なんだろうか――
と俺が久々に長門の返答を吟味していると、長門は徐ろに立ち上がり、

「……あなたの暇つぶしに協力する」

古泉の指定席に腰を下ろした。
どういった魔法だろう、テーブルの端に追い遣られていたチェス盤は、
いつのまにか整然と駒が並べられた状態で俺と長門の間に移動していた。

――――――――――――――――――――――――――――――

俺が長門とチェス勝負を初めて十数分後。
チェス専用スーパーコンピューター「Deep blue」のスペックを余裕で超過し
世界チャンピオンを赤子の手を捻るように倒すこと間違いナシの実力保持者長門に対し、
俺はそれなりに拮抗した勝負を繰り広げていた……というのはもちろん誤謬で、
実際は長門が持てる知力を大幅にセーブし手加減しているが故の拮抗状態だ。
もっとも、長門が俺を弄して悦楽するという嗜虐的趣向を秘めている可能性は完全に否定できないが――

「………うぅむ」

悩み抜いた末に最善手と思しき手を指す。
が、俺が手を引っ込める前に、

「あなたの番」

長門は次の一手を指し終えていた。毎度のことだが、なんつー速さだ。
しかも適当に駒を動かしているようでしっかり先を読んでいるから性質が悪い。

「定石を打ち合う序盤はもう終わってるんだし、そんなに慌てなくてもいいんじゃないか」
「わたしは落ち着いている。あなたがもっと速く指すべき」

無茶言うな、といいかけて口を噤む。
序盤は本のように、中盤は奇術師のように、終盤は機械のように。
上記はチェスの格言だが、あらゆる局面を瞬間的に処理できる長門にはやはり無縁の代物なのだろう。
俺は煮詰まった思考を一時緩めて、閑話を提供することにした。

>>80

1、昨晩の電話で聞きそびれたことを聞こう
2、朝倉との接触について話すか


80 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/01/12(土) 20:55:50.23 ID:AmI/h2s0

1


「ところで、昨日の夜は悪かったな。妹の邪魔が入っちまってさ」
「………気にする必要はない」
「電話、途中で切れちまったけど、あれはお前が切ったのか?」

長門は躊躇いがちに首肯した。
おいおい、別にお前を咎めているわけじゃあないんだぜ。
誰だって受話器の向こうから奇声が聞こえてきたら受話器を取り落とすだろうよ。
ただ、もしかして俺が妹から逃げた弾みに切っちまったんじゃないかと心配していただけさ。

「………そう」

長門の唇から細く安堵の息が漏れる。
小さな誤解が解けたのを確認して、俺は会話を再開した。

「昨日は中途半端に電話が切れちまったから、今、続きを聞かせてくれないか?」
「…………」

しかし長門は言語機能を失ったかのように口を緘したまま目を伏せている。
情報統合思念体が解析できないようなエラーを、一体どうやって解析するつもりなのか。
その疑問は昨夜からずっと頭の隅に引っ掛かっていた。
だから面と向かって尋ねたことによってすぐにでも答えを得ることができると思っていた俺は、
困ったように首を僅かに傾げる長門に、苛立ちを感じざるを得なかった。

「ハルヒに聞こえるのを危惧してるのか?
 大丈夫だ、小声で話せば集中してるあいつには聞こえねぇよ」
「…………」
「それともなにか話せないような理由が――」
「……後ろ」

長門の瞳孔がナノ単位で開かれる。

あぁ、鈍さに定評のある俺でも簡単に知暁できるね。こいつは最高によくない前兆だ。
俺は戦慄に躰を縮めつつ表情識別眼よりも気配察知能力を
レベルアップさせておけばよかったと後悔しつつ、何気なさを装って振り向いた。
ハルヒがいた。気難しそうな能面を貼り付け、腕組みをしてこっちを見下ろしている。

「忙しかったんじゃなかったのかよ?」

なんとか声は裏返らずにすんだものの、
どういった類の話題で盛り上がっていたのか追及されれば躱しきる自信はない。
それ以前に先の会話を傍聴されていたとしたら、その時点でジ・エンドだ。
俺が死刑判決を待つ容疑者のような心境でいると、ハルヒはへの字に歪めた唇を動かして、

「パソコンの方は一段落したのよ。
 だからちょっとあんたを見にきてやったんだけど……有希相手にチェスしてたのね」
「あ、ああ。それが長門のやつ、滅法強くてさ」
「有希がテーブルゲームに強いのは知ってるわ。どれどれ、あたしに見せてみなさい」

もう一つパイプ椅子を持ち出せばいいものを、その手間を惜しんで俺の指定席に割り込むハルヒ。
俺は狭いのと体側面に密着したハルヒによってリビドーが煽情されるのとでパイプ椅子からの脱出を試みたが、

「ちょっと、何処行く気よ!
 いくらあんたの頭じゃ勝ち目ないからって中盤での投了は許さないわ」

問答無用でパイプ椅子に引き戻された。

「あたしが協力してあげるから、最後までやるの。有希は二対一でも構わないわよね?」
「……かまわない」

お前も何了承してんだよ。フツーそこは卑怯だとか姑息だとかいって試合放棄するところだろ。
がしかし、そんな俺の心の叫びが現実に響くことはなく、

「有希もなかなかの曲者じゃない。でもその程度じゃ前年度チェス世界チャンピオンのあたしに勝つことはできないわよ」
「あなたの話は虚構。成績自慢ならわたしは秒間二億手先を読めるコンピューターを最短手で撃破できる」

最早突っ込む気力まで失せてきた俺だった。
ハルヒに情報統合思念体等の電波ワードを拾われていなかったことは
喜ぶべきことだし、上手い具合に注意をチェスに逸らせたのは幸運だったが――

すっかり自分が蚊帳の外に置かれたことを自覚し、頬杖をつきつつ思う。

昨夜の妹といい屋上での予鈴といい今しがたのハルヒといい、
どうして俺が核心に触れようとするたび邪魔が入るんだろうね。

「ぼけーっとしてないであんたも一緒に考えなさい!」
「俺はとっくに戦力外通知されたとばかり思っていたんだが」
「んなわけないでしょ。あたしはあそこがいいと思うんだけど……」

分かった。お前の言い分は分かったから、
躰をもぞもぞさせるな。内緒話をして耳に息をかけるな。そんでお前専用の椅子をもう一つもってこい。

「やだ、面倒だし」
「………やれやれ」


一人退屈を持て余していた30分前に帰りてぇ。
上辺でそんなことを願いつつも、俺は心の奥底では騒がしくなった現況を愉しんでいた。

時折俺たちから目を逸らす長門に、抑圧された感情の発露に、少しも気づかぬまま。


――――――――――――――――――――――――――――――

「終始手に汗握る展開でした。
 あのような名勝負に立ち会えたことを僕はとても光栄に思います」

黄昏時の昇降口で、靴に手をかけながら古泉が言った。
俺は先刻のチェス盤を想起しつつ、

「よく言う。途中から急に現れたかと思ったら散々戦局を引っ掻きまわしやがって」
「僕としては長門さんに最善の助言を呈したつもりでいたのですが……」
「あいつに助言なんて余計なお世話なんだよ。
 お前が口挟まなきゃ、俺たちはあと20手早くチェックメイトをかけられてたな」
「ふむ、そこまで貶められては僕も矜持が保てませんね」

言葉とは裏腹に、整った顔立ちは巧笑を浮かべた。
俺は反省の色が見えぬ超能力者に愛想を尽かして昇降口を出た。
ハルヒは一人、校門に向かう他の生徒たちを眺めていた。長門の姿はない。
なんでも今日は生徒会室に用事があるのだそうで、一緒に帰れないんだそうだ。
その旨を聞いたハルヒは生徒会長の御姿を思い出したのか苦虫を噛み潰したような顔をしていたが、

『大した用件ではない』

という長門の言葉に三人での下校を決断した。
ちなみに俺は精々支給される予算についての連絡だろうと見当をつけていたので、さほど心配していなかった。
長門に手出ししようものなら瞬間的に蒸発して存在を完全抹消されること請け合いだしな。いやマジで。

「手間取ってしまってすみません」
「全員揃ったわね。じゃ、帰りましょ」

ハルヒが自分を真ん中に、右を俺、左に古泉を並べて歩き出す。
これでハルヒがドレスに着飾り俺と古泉が黒スーツに身を固めていたら
傍からは社長令嬢をガードするSP二人、といった具合に映っていることだろう、
なーんて実にくだらない仮想をしながら左の会話を傍聴する。

「―――不審者が――らしいんだけど―――古泉くんは会った――ある?」
「――――ませんね―――接見したいとは―――いるのですが―――」

二人は昨日聞かされた不審者の話題で盛り上がっていた。
北高周辺の情報は根こそぎ手中に収めているであろう古泉が、
あたかも初耳であるような驚嘆の演技をしている様に胸中でエールを送りながらも、
俺は首を反対方向に捻った。

一時の栄華を極めた桜の樹が、自身の薄命を嘆くように残りの花弁を散らしていた。

「…………」

微塵の前触れもなく、ここ最近の記憶がフラッシュバックする。
朱墨に染められた満開の桜、鶴屋さんとの紡いだ温かな会話、
監視者として再臨した朝倉、未だ解明されぬ長門のエラー、そして―――

俺は足を止めた。何故だろう。
このままハルヒたちと家路を共にするつもりだったのに、
表層とは違う内奥の意識が『直感で動け』と告げていた。

ここは――

1、鶴屋さんの家に行こう。社会常識が欠落した行動なのは承知の上だ。
2、生徒会室に行こう。あの人なら、欠けていた情報を埋めてくれる気がする。
3、ハルヒたちと帰ろう。現時点で急を要することは何もない。

>>184までに多かったの


165 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/01/13(日) 14:42:05.17 ID:ZffTkYDO



166 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/01/13(日) 14:42:32.97 ID:0r8ajoDO



167 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/01/13(日) 14:42:38.16 ID:pEUuoRE0

2

168 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/01/13(日) 14:42:39.06 ID:GcJdIQgo



169 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2008/01/13(日) 14:42:42.98 ID:HYQnVa6o

2

170 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2008/01/13(日) 14:43:29.76 ID:FxBxePw0

2

171 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2008/01/13(日) 14:43:45.41 ID:dmq0mISO

2

172 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/01/13(日) 14:44:07.17 ID:FMIipcso

1

173 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/01/13(日) 14:44:36.67 ID:D2sS80s0

2しかない

174 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/01/13(日) 14:46:08.78 ID:5pQziYDO

2

175 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2008/01/13(日) 14:46:48.74 ID:dXwjCWEo

2

176 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2008/01/13(日) 14:47:31.54 ID:mFHvP860



177 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2008/01/13(日) 14:48:29.85 ID:fvg/e0Io



178 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/01/13(日) 14:50:43.35 ID:04.yO2g0

1

179 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/01/13(日) 14:51:10.14 ID:zDVKv1M0

いくらなんでも安価遠すぎる
2で

180 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [] 投稿日:2008/01/13(日) 14:51:48.89 ID:HaVS4S20

2しかないだろ

181 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/01/13(日) 14:53:27.25 ID:eJl7tJ.0

2

182 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/01/13(日) 14:53:48.08 ID:04.yO2g0

もう2決定じゃねーかwwww鶴屋さん派すくねーwwww

183 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2008/01/13(日) 14:55:28.42 ID:WDbHc2DO

2!

184 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/01/13(日) 14:57:29.82 ID:6dsG9Uco

2


昼休み。詰め寄る俺に対して朝倉は、『詳しいことを知りたいなら長門さんと喜緑さんに訊けばいい』と突っぱねた。
そして現在、都合のいいことに生徒会室にはその二人が揃っている。
いや正確には生徒会長が同席している可能性が高いが……それは瑣事だ。どうでもいい。

「どうしたの? 桜見つめて感傷に浸るなんてあんたには似合わないわよ?」

急に足を止めた俺に、ハルヒがいつもの調子で訊いてきた。
俺は一か八かの賭けに出ることにした。

「教室に教科書忘れたことにたった今気づいたんだ。
 俺は取りに戻るから、先に帰ってていいぞ」

口で嘘を並べながら目で困惑ぎみの古泉にアイコンタクトを送る。
たのむ古泉、察してくれ。

「忘れものぉ? そんなのどうだっていいじゃない」
「どうだってよくねぇよ。あれがなきゃレポート課題ができない」
「どうせ家帰っても勉強しないくせに。もうここまできたんだし、今日は帰りましょうよ」
「いやだからそういうわけには、」
「つべこべ言わずに一緒に帰るの! これは団長命令よ。絶対服従なのよ。逆らったら私刑だかんね」

怒濤の攻めに決心が揺らぎそうになる。だが、俺の決意があと少しで陥落するといったところで、

「涼宮さん。これはSOS団副団長としての申し出なのですが、
 先のお話で登場した不審者の出没場所を僕に案内してもらえないでしょうか?」

ハルヒの矛先が反らされる。グッジョブ古泉。
現れた助け船に、藁をも掴む思いでしがみつく。

「んー………」

ハルヒはそれからしばらく俺と古泉とを見比べていたが、
やがてこんなことにムキになっている自分に羞恥を感じたのだろうか、明らかに不満足そうな渋面で頷いた。

「分かったわよ。先に帰ってるわ」

「それではあなたもお気をつけて。
 噂によれば一人での下校は不審者の追跡対象となりうるそうですから」
「ご心配なく。知ってるよ」

二人に別れを告げて踵を返す。行き先は勿論教室ではなく生徒会室だ。
俺は助け船のお礼に今度新しいボードゲームを持参してきてやろう、なんて考えながら元来た道を逆行した。

校舎は夕陽に染められていた。"あの日"よりも淡い橙色だ。
昇降口で長門の在校を確認し、生徒会室への廊下に進む。
と、その時だった。廊下の薄闇のように、淡朦朧とした疑問が浮かぶ。

はて――"あの日"って一体、いつのことだったっかな。

さして重要ではない、しかし軽々しく捨て置くこともできない記憶の混濁。
結局それは廊下の最後の角に差し掛かる頃になっても氷解することなく、思考の隙間に埋もれていった。

キィ、という耳障りな音がシンとした廊下に響き通る。
最後の角を曲がろうとしていた俺は、本能的に躰を壁に押し付けた。
確証は持てないが、今の音は生徒会室のドアが開扉された音だ。顔を半分だけ出して様子を窺う。
どうしてこんな隠密行動をとっているのかは俺自身分からない。

「――――です――――だから―――」
「―――が――――――ある――――」

果たして生徒会室前に佇んでいたのは喜緑さんと長門の二人だった。
団活が終わって帰路に着き、俺が再び校舎にUターンしてくるまで
さほど時間は経過してしていないはずなのだが、長門の所用とやらはもう終わってしまったのだろうか。
二人は言葉を交しているが、声はその細さ故に聞き取れない。
と、俺がどうしたもんかなぁと二の足を踏んで様子を見守っていた、その時だった。

「――――必要は――ない――」

長門が喜緑さんに何かを告げて返答を待たずに歩き出した。
一瞬こちらに向かってくるかと焦ったが、その方向は逆だった。
意図的ではないにせよ、盗み聞きしてしまったことによる後ろめたさはある。
俺は罪の発覚を免れたコソ泥のように額の汗を拭い、

「――――――」

刹那後にはこちらにチラリと振り向いた長門に、戦慄を覚えていた。
気づかれたか? いやこの距離だ、隠れている俺を察知するのは至難の業だろう。
だが相手は長門だぞ、俺がここで盗み聞きしていた可能性は十分にある。

長門の視線を受け止めた眼球の奥が痺れを訴える。
一瞬だけ見えた長門の表情は、一年前のまだ表情識別眼が未熟な俺でも
分かるくらいに怒っていた……いや、苛立っていた。
あの風光を比喩するなら、普段はとっても仲良しな姉妹がいて、
珍しく妹が姉に持論を反対されて拗ねている、といったところだろうか。
いささかディティールに凝りすぎた気がしないでもないが。
そういえばおおよそ礼儀正しいとは言えない辞去を賜った喜緑さんは
どうしているんだろう。俺は廊下から長門の気配が消えたことを確認して身を乗り出した。
喜緑さんがいた。目と鼻の先10cmの距離に。

「こんにちは。それとも今はこんばんわ、でしょうか」
「……それはこの際気にしなくていいかと」

俺としてはあなたが携帯を使うような感覚で情報操作をしていることの方がよっぽど遺憾ですよ。
喜緑さんは窓外の黄昏時の風情を眺めて、

「やはりこんばんわの方が適切でした。
 ところで、生徒会室に何か御用ですか」

睡蓮を連想させる微笑みを浮かべた。
長門と入れ違いになってしまった所為で当初の計画は瓦解していた。
……ここは単刀直入に用件を伝えるべきなのだろうか。
と、呻吟する俺を見かねたのか、

「立ち話もなんですし生徒会室にいらしてください。美味しい紅茶があるんです」
「御言葉に甘えさせてもらいます」

即答した。お茶を誘われてそれを了承するのは極々自然な流れであって、
誘ってくれた人が滅多にお目にかかれない生徒会書記兼美少女TFEIとくれば尚更断る理由がなくなる。

さて。
喜緑さんの白皙の御手によって校内三大聖地にいざなわれた俺は、
デスクに足を投げ出し紫煙をくゆらせている生徒会長殿との対面を果たした。
その様はどこからどう見ても悪徳企業の重役かマフィアのボスそのものだ。
ただし、会長の右手にペンが握られデスクに審査書類が山積していなければの話だが。
会長が書類に没頭したまま言った。

「あー喜緑くん。かねがね尋ねようと思っていたのだが――」
「失礼します」

存在を主張する。会長と喜緑さんの間の私事に関することを勝手に耳にするのが憚られたからだ。
会長は憮然たる表情で面を上げた。

「キミは確かSOS団のメンバーの一人だったな。
 学内改革による恩恵を得られぬ三年生に進級したキミが、この生徒会室に何の用だ」

相も変わらぬ居丈高な語調に威圧されるものの、ここで踵を返すわけにもいかない。
だが俺がもっともらしい来訪理由を陳述する前に、

「応対はわたしがします。会長は引き続き、書類審査をしてください」

俺の背後から喜緑さんが現れた。会長の雰囲気が一気に引き締まる。

「そうだな。私がわざわざ手を煩わせることもあるまい」
「はい。それではこちらにかけて少々お待ち下さい。すぐに紅茶を煎れてきますから」

横柄な口調のまま喜緑さんの言葉に従う会長。
生徒会執行部筆頭と生徒会長の不思議な関係に思いを馳せつつ、俺は高級ソファに腰掛けた。
そういえば昨年の春と比べてこの部屋にもかなり備品が増えたな。
このソファもそうだが、書類棚の上に乗せられたくまのぬいぐるみや可愛らしいピンクのポットなど、
モノによっては生徒会室にまったく相応しくないものまで自由に置かれている。
SOS団の私物が散在する文芸部室をあれほど非難していた会長氏が、よくこの状態を認可したもんだ。

「熱いうちにどうぞ」

カチャリという陶器が触れあう音。
いつの間にか喜緑さんが正面のソファに座り、上品な仕草で紅茶を味わっていた。
できるだけその所作を模倣してカップを手に取る。落ち着いた芳香が鼻腔を擽った。
口に付けると、フルーティーな風味が口蓋いっぱいに広がった。これは……レディグレイですか?

「正解です。あなたは紅茶に詳しいんですね。意外でした」
「立場柄、お茶関係に通暁せざるをえないんですよ。
 生憎俺には紅茶を嗜むような高尚な趣味はありません」

喜緑さんは俺の現実的な返答に気を害することもなく続けた。

「わたしは紅茶が大の好物なんです。
 往々にしてフレーバーとは低品質の茶葉に付加価値するための手法と見受けられがちですが、
 人工的に着香されたものを除けばフレーバーティーとはとても上品な味わいで、
 特にダージリンセカンドフラッシュを使用したアールグレイは―――」
「喜緑さん」
「はい、どうかしましたか?」

うーん、自覚がなかったのか。相当の紅茶好きだな。
でも俺がここに訪れた理由は紅茶談義に花を咲かせるためじゃない。
俺は早くもティーポットに手を伸ばしている喜緑さんにツッコムのを諦め、カップを置いて姿勢を正した。

1、さっき長門と何を話していたんです?
2、長門のエラー解析について訊きたいことがあるんですが
3、朝倉の復活について私見を聞かせてください

>>238までに多かったの


229 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2008/01/13(日) 22:50:28.55 ID:Zu57ZVIo



230 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/01/13(日) 22:50:55.14 ID:ahK5yoA0

3

231 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2008/01/13(日) 22:51:29.21 ID:HYQnVa6o



232 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [] 投稿日:2008/01/13(日) 22:51:54.81 ID:H4ioquI0



233 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/01/13(日) 22:52:21.76 ID:xYfwY2AO

2

234 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/01/13(日) 22:53:28.85 ID:KRHnJmY0



235 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2008/01/13(日) 22:53:39.72 ID:6blgk02o



236 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2008/01/13(日) 22:54:23.04 ID:ZhXq/6AO



237 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2008/01/13(日) 22:54:24.15 ID:9//w/Vgo



238 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/01/13(日) 22:56:01.32 ID:pEUuoRE0

2


「俺が今日、生徒会室に来た理由をお話します」
「気が早いんですね。もう少し紅茶を味わってからでも遅くはないと思いますけど」

そう言った喜緑さんは、本心から俺の生徒会室滞在の延長を望んでいるようだった。
俺は煩悩を断ち切って訊いた。

「そういうわけにもいきません。長門について、いえ、具体的にはあいつの中に蓄積した――」

が、俺が全てを口にする前に、

「慌てないでください」

唇に人差し指をあてて顔を近づけてきた喜緑さんに、緘黙を余儀なくされた。
香水によるものかはたまた元から躰に纏っているものかは判別できないが、
嗅ぐ者を幻惑させるような芳香に思わずクラリとする。
その妖艶な仕草は以後封印すべきです。清純なあなたのイメージが汚れますよ。

「会長、少し席を外してもらえないでしょうか」
「私に隠れて密談かね?
 生徒会長としてその行為は感心できんが……」

喜緑さんが笑顔のまま会長氏を見た。煙草の先端が蒸発した。
どうやら最新型TFEIの視線には熱線に等しいエネルギーが籠めることが可能なようだ。めもめも。

「よかろう。ただし20分までが限度だ。書類審査を中庭ですることはできんのだからな」

会長が立ち上がる。俺はその威厳に満ちつつも寂獏感たっぷりの背中を見送った。
頑張ってください、俺は影ながらにあなたを応援していますから。

「これで傍聴者はいなくなりました。続きをどうぞ」
「えーと、長門の中に蓄積したエラーの解析方法について説明してもらえないでしょうか」

近づけば遠ざかり、手を伸ばせば阻まれた疑問の答え。
そこに到達するのが一筋縄ではいかないことは既に十分承知していた。
だから喜緑さんが表情を曇らせて黙っても俺は落胆しなかった。

「別にその仕組みを俺が理解できなくてもいいんです。
 それともなにか話せない理由でもあるんですか?」

喜緑さんは曇っていた表情を穏やかな春空に回復させつつ、

「あなたにエラーの解析方法を伝えることに躊躇はないんです。ただ………」
「ただ?」
「長門さんは――長門さんはそれを、あなたに伝えなかったんですか?」

俺は再三に渡る質問がうまいこと妨害されたことを語った。
最初に訊いた電話は妹との一騒動の合間に切られ、
復活した朝倉に尋ねたら詳しいことは長門と喜緑さんに訊けと言われ、
文芸部室で改めて長門に尋ねたら今度はハルヒに会話を遮られた。
まったく、今思い返してもむしゃくしゃするほど俺はお預けを食らっているね。
話を聞き終えた喜緑さんは、まるで担任教師に指摘されて初めて
学校では自己主張に乏しい娘の側面を知った親みたいな顔つきをしていたが、

「やはり彼女はあなたが論理的思考の段階を踏むことを畏れていたんですね。」

やがてそう呟いた。ろんりてきしこうのだんかい?
すみません、いきなりそんな言葉を使われても意味が不明なんですが。

「今のは忘れてください」

喜緑さんは一拍間を開けてから、

「長門さんのエラーを解析しているのはわたしです」
「あなたが長門のエラーを?」

自分で言うのもなんだが俺の疑惑はもっともだ。
情報統合思念体が解析不可のエラーを、どうしてその配下にあるTFEIが解析できるんだ?
そんな俺の心情を悟ってか、喜緑さんはとても分かりやすい説明してくれた。

「わたしは対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェースとして彼女とほぼ同列の進化を遂げています。
 だから彼女のエラーを複雑な変換を経ずに解析することが可能なんです。
 あなただって、遠い親戚よりも身近な家族のほうが行動原理や感情変化をより深く察することができるでしょう?」

確かに言われてみればそうだった。
人間という有機生命体と干渉し経験値を得たことによる独自の進化は、
何も長門だけに許された特権ではなく、喜緑さんに起こっていたとしてもなんら不思議ではない。
古泉は喜緑さんを長門の「お目付役」と称していたくらいだし、
俺だって長門のことを一番良く知っているTFEIが誰かと訊かれたら間違いなく喜緑さんを挙げただろう。
喜緑さんの比喩を流用するわけじゃあないが、ある意味では
長門の姉的存在である喜緑さんがエラー解析に携わっているというのは当然の結果だ。
だが――それを認めてもなお矛盾は発生する。
答えを得てもそこが終着点ではない。疑問の探求とは往々にしてそういうものである。俺は追加で訊いた。

「なるほど、納得できました。
 では、あなたが再修正プログラムが組めない理由はなんです?」

喜緑さんは紅茶のカップに視線を落として答えた。

「わたしの処理能力では長門さんのエラー解析速度に限界があるんです。
 不完全なプログラムは彼女のエラーを助長するだけにすぎません」
「再修正プログラム完成の目処は?」
「まだ立っていません。
 ……本来、再修正プログラムとはエラーを確認したTFEI自身が組み上げるものなんです。
 情報統合思念体が作り上げたTFEIは大抵のエラーに自己対処出来るように作られています。
 よく病魔に冒された人間は自分のことは自分が一番良く分かっていると言いますが、
 わたしたちの場合はまさにそれが嵌入します」
「でも長門はそれができないんですよね」
「はい。長門さんは自ら外部、内部ともに同期を拒否するシステムプロテクトを構築していますし、
 わたしたちが未来に同期して長門さんの暴走の顛末を知り、それを現在の長門さんに伝えることもできません」

前者は長門から直接聞かされた分理解は容易い。
だが後者の理由はすんなり耳に浸透してはくれなかった。

「どうして長門に伝えることができないんですか」
「その情報そのものがバグのトリガーとなる蓋然性があるからです」

喜緑さんは言い聞かせるように続けた。

「あなたの眼には、長門さんのエラー解析にわたし一人で取り掛かるのが
 遅々とした対処行動に映るかもしれません。でも、これが最も効果的な方法なんです」

「そうなん……ですか」

漆黒を流し込んだような憂いの瞳が、真っ直ぐに俺を見据える。
今度は俺がカップと眼を合わせる番だった。
情報が頭中で錯綜している。一度整理してみよう。
長門のエラーを解析しているのは喜緑さんだ。
長門の近親者的立場にある喜緑さんは、情報統合思念体よりも
スムースにエラーを解析することができる。だがその処理速度にも限界があって、
今すぐに再修正プログラムを構築することはできない。時間がかかる。
そこで思念体は暫定的に監視者を設置することにした。
初めは喜緑さんがエラー解析と監視を並列して行っていたが、
今日から朝倉がバックアップを務めるようになった。
以上が事件の概略だ。

―――いや待て。まだ補完すべきところがあるんじゃないのか。

警告の囁きが思考を侵してくる。俺はそれを無視して明るい調子で訊いた。

「このままエラーの解析を続けていけば、いつかは再修正プログラムを構築することができるんですよね」
「それは保証します。必要なのは時間なんです………紅茶のお代わりはいかがですか?」
「あ、はい。お願いします」

喜緑さんは軽く髪を耳にかけてからティーポットを手に取った。赤銅色の液体が静かに流れ落ちる。
角のない所作に見蕩れているうちに、カップには紅茶が一杯目と同じラインまで注がれていた。

「どうぞ」

微笑と共にカップが差し出される。双眸から憂いの色は消えていた。
俺はカップに口を付けた。液体が喉を滑り落ちるごとに、あらゆる懸念は既往のものであるかのように感じられた。
紅茶が半分になったころには、先程の囁きは完全に沈黙していた。

これで――懸案事項の解消は終わりだ。
喜緑さんに話を窺ったことによって、長門のエラーに関して頭を悩ます必要はなくなった。
後は雑談するなり紅茶談義に花を咲かせるなりして、自由に喜緑さんとの時間を愉しむとしよう。
お暇するという選択肢はないのかって?
んなもんあるわけねーだろ。対面するのでさえレアなシチュエーションなんだ。
折角得られた対談の機会をポイと投げ出すなんて庸愚の極みだね。

「まだ時間は大丈夫ですか?」
「はい………」

喜緑さんは数秒瞑目し、

「大丈夫だと思います。
 会長はまだ屋上で黄昏れているようですし、わたしたちの密談を咎める者はいません」

常に清く正しい学校生活を心懸けましょう。
俺は今まで蔑ろにしてきたその訓辞を改めて胸に刻み直しつつ、口火を切った。

1、さっき長門と何を話していたんです?
2、朝倉の復活について私見を聞かせてください
3、ずっと知りたかったんですけど……どうして会長はまだ学校に留まっているんですか?

>>331


331 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2008/01/14(月) 22:20:10.17 ID:1k87uSMo




「そういや、どうして長門は生徒会室に寄っていたんですか?」
「わたしがそうするように連絡したからです。
 表向きの召還理由は文芸部への支給予算に関する最終確認ですが、
 実際は先程の件についてのちょっとした意見交換です」
「先程の件というと、長門のエラーに関してですか?」

一瞬だけ喜緑さんの表情に影が差したように見えたが――錯視だろう。
現に喜緑さんは一点の曇りもなき微笑を浮かべている。

「はい。といってもわたしが彼女の行動方針を確認したかっただけで、
 全然大げさなものではなかったんですけど」
「それは直接会って話さなくちゃいけないものだったんですか?」

朝倉はTFEIは互いにリンクしていると言っていた。
詳細は知らないが、莫大な情報を遣り取りできるなら意思疎通くらい余裕でできるに違いない。

「絶対の必要はありませんでした。
 でも実際に相対することによって情報を得ることには意味があるんです。
 人間の中にも、メールよりも電話、電話よりも直接会って話すことに重点を置く人がいますよね。
 それと同じです」

猛省する。今しがたの質問は無粋極まりなかった。
TFEI同士の肉声によるコミュニケートに意味がないと決めつけているようなもんだ。
が、適当な謝罪文句を構成しきる前に、眼窩に怒気を孕んだ長門の視線が蘇った。
俺は自然と訊いていた。

「去り際の長門の様子、なんかおかしかったですよね?
 表現しにくいんですけど、不機嫌っていうか拗ねてるっていうか……」

「あなたには長門さんの喜怒哀楽が分かるんですか?」

この三年間で俺の表情識別能力は一つの究竟に達しつつあったが、
遠距離での完全な識別はまだ如何ともし難いので謙遜しておく。

「ええ、少しくらいなら」

すると喜緑さんは教会で懺悔する罪人のように頭を垂れて、

「それなら誤魔化すことはできませんね。
 彼女は……あくまで推測ですが、怒っていたのではないかと思います」
「珍しいですね。ここんとこ発言量が増えていたとはいえ、
 あいつがあからさまに感情を露わにすることなんて滅多になかったんですけど」
「責任はわたしにあります。わたしは彼女の意見を尊重することを忘れていました。
 何が最善策で何が妥協策であるかは、当事者の彼女が決めるべきことだったのに……」

呟きがカップの端に落ち、滑落して紅茶に沈んでいく。
喜緑さんは長門とは極々近い派閥である穏健派に所属しているから、
本来意見対立は起こらないはずだ。しかも喜緑さんは"お目付役"として
何度も長門の静かな怒りを鎮めてきた実績がある。
長門が喜緑さんに真っ向から反抗するほどに譲れない行動方針とは、一体なんなんだ?
疑問を敬語に変換してから口にする。だが喜緑さんはかぶりを振って、

「ちょっとした意見の食い違いです。あなたが気に病むことはありません」

割とはっきりした干渉拒否を俺に告げた。
身近なTFEI同士プライベートで諍いが起こることもあるんだろうが、今の言い方には少し傷ついたね。
明後日からの二連休には感傷旅行に出掛けるとしよう。そうだな、できるだけ自然豊かで大きな湖のあるところがいい――
と俺がいじけていると、喜緑さんは俯いたままクスリと笑みを零した。

「それにしても、盗み聞きとはあまり感心できない趣味です。
 一人の女子生徒として、生徒会執行部筆頭として、あなたには処罰が必要かもしれません」

「え?」

戸惑いを隠せない。
よもやこのお方の口から"処罰"などという物騒な単語を聞く日がやって来ようとは。
半日常的にハルヒの私刑(主にシャーペン攻撃)を受けている俺でも喜緑さんの処罰内容が想像できない。
うーん、いったいどんな罰が下されるんだろう。そこ、卑猥な妄想は自重しろよ。

「あなたには明日の放課後、生徒会室に寄ってもらいます」
「その時に処罰が下されると?」
「はい」
「あのー、校則には盗み聞きが違背行為にあたるとは何処にもないんですけど」
「安心してください。わたしがたった今作りました」

俺は生徒手帳の校則欄を確認した。
"盗み聞きは重罰に値する"
あぁ、確かにあるな、ってそんな馬鹿な校則があってたまるか。
まったく……どこまでフリーダムなんだろうね、このTFEIは。

「一応訊いておきます。強制ですか?」
「強制です。拒否権はありません」

確固たる口調に辟易した俺は、カップに手を伸ばした。
若干冷めた紅茶を喉に流し込みながら窓に視線を移すと、外にはすっかり夜の帳が降りていた。
どうやら俺と喜緑さんは随分長いことお喋りに興じていたらしい。

「お代わりは――」
「もう結構ですよ。俺は十分味わいましたから」

このまま厚意に甘えていたら10杯くらい呑んでしまって、
以後レディグレイを胃が受け付けなくなりそうだ。
処罰も食らったことだしそろそろお暇するとしよう。
それにこれ以上の滞在は屋上で項垂れているであろう会長を精神的に凍死させることに繋がりそうで怖い。
残りの学校生活を円滑に過ごすには余計な恨みは買わないに限る。俺はすっかり重くなってしまった腰を上げた。

「今日はありがとうございました。美味しい紅茶まで御馳走していただいて」

「いえいえ。私のお話で満足していただけたならよかったです」

言って喜緑さんも腰を上げる。
俺は見送りを遠慮したが、喜緑さんは生徒会室までトコトコ足を運びドアまで開けてくれた。
廊下に足を踏み出すと、シンとした夜気に覆われた。寒い。
紅茶でぽかぽかしていた体が急速に冷めていくのが分かる。

「いつのまにか夜になっちゃいましたね」
「わたしも驚いています。
 あなたと会話した時間は、いつもよりも早く経つように感じられました」

恐らくは自覚なしの喜緑さんに失笑してしまいそうになる。
今の科白はもっと大切にとっておくべき科白でしたよ。
例えるなら、うら若き女性が想い人にそれとなく気持ちを告げる際に遣うような。
俺は笑いを噛み殺しつつ最後に会釈しようと振り向いた。そして見た。
ウェーブがかった細髪を透いた先――。
ティーポットの横で一つのカップがポツンと、蛍光灯の冷淡に照らされているのを。
俺と喜緑さんのカップは応接机の上にあるし、会長のカップはデスクの何処かにあるだろう。
となると、あれは長門の使用したカップということになる。

「…………ん?」

その時だった。

狭められた視界。
言葉を交わす二人のTFEI。
耳障りのない陶器が触れ合う音。
見つかってから生まれた明確な罪悪感。

さっき生徒会室を訪れたときよりも強烈な既視感に襲われる。
脳裏に鮮やかなイメージが浮かぶ。

比較的いつもよりリラックスした感じの長門に、喜緑さんが饒舌に語りかけていた。
まるで俺が居合わせていなかった時間の生徒会室の情景を再生しているみたいだ。
がしかし、それが実際に一時間前かそこらにあったことでないことも自明なわけで、
自然と俺の脳味噌は、何の指令も与えられていないにも関わらず勝手に憶測を構築しはじめていた。

喜緑さんは今日だけでなく……以前から長門と面談を重ねていた? 何のために?
喜緑さんの言葉を鵜呑みにするなら『長門の行動方針の確認及び意見交換』のためにだ。
しかしそれなら何度も面談する必要はないし、そもそも行動方針の確認とは余りにも穿ちすぎている。
喜緑さんは「ちょっとした意見の食い違い」と言っていたが、長門がどうしても譲れなかったこととはいったい――

「どうしたんですか?」

不意に喜緑さんが首を傾げる。

「………あ……いえ、なんでも………」

俺は急に気恥ずかしくなって、沸騰していた思考を冷却した。次いで顔を伏せる。
憶測に憶測を重ねた疑惑ほど自身を滅ぼす結末を生む。
デジャヴが出所の情報なんて谷口コラムよりも信用が置けないってのに、何を熱くなっていたんだろうね。
バカバカしい。俺は可及的速やかに先程のイメージを消去しようとし、

「…………」

見上げた先の喜緑さんの令色に、やっぱりそれを思い留まっていた。
先程の不可思議なデジャヴに関係なく、この人はまだ、俺に伝えていない情報を残していると感じた。

―――収集した情報には、まだ補完すべきところがあるんじゃないのか。

警告の囁きが再開される。

1、俺は無意識に避けていた。それは単純な、しかし罪深い"訊き忘れ"だ。
2、長門のエラーは喜緑さんに任せていれば自動的に解決される。結論は既に出ている。

ルート分岐安価

>>440までに多かったの


429 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2008/01/15(火) 22:57:36.98 ID:cgVsirso



430 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2008/01/15(火) 22:58:12.45 ID:hvCTXWQo

1

431 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/01/15(火) 22:58:19.84 ID:7WTCrR.0

1

432 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/01/15(火) 22:58:25.72 ID:lk.ACFUo

1

433 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2008/01/15(火) 22:59:02.24 ID:xeV.ITso



434 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/01/15(火) 22:59:15.21 ID:.nozn6s0



435 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2008/01/15(火) 22:59:15.75 ID:4qNtrzwo



436 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/01/15(火) 22:59:52.22 ID:OynTuLY0

1

437 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2008/01/15(火) 23:02:12.92 ID:cW2lkcSO

1

438 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/01/15(火) 23:02:45.37 ID:Kp.Nu0Y0

1

439 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2008/01/15(火) 23:03:27.36 ID:gVfw8UDO

1
これは1だろw

440 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2008/01/15(火) 23:03:40.06 ID:iOtE4QEo


圧倒的だな


既に紅茶の甘い香りによる介在はない。
囁き声は砂漠に降る雨のように思考回路に浸透していった。
そして俺は気づいた。
欠けていた情報は意図的に隠蔽されていたわけではなく、
俺自身が得ることを無意識に避けていた、ということに。
それはとても単純で、同時にとても罪深い"訊き忘れ"だ。

「……喜緑さん」

言い訳の方法はいくらでもある。

或いは、その情報は自動的に与えられるはずだったのに与えられなかったから。
或いは、朝倉復活への対応で精一杯で頭が回らなかったから。
或いは、切迫感が無いことによって事を楽観視できる状態が出来上がっていたから。

でも――もしこれらの要因が意図的に作り出されたものだったとしたら?

最後に一つだけ訊いてもいいですか」
「………はい」

喜緑さんの表情が諦観に歪む。
俺は感情を殺して訊いた。

――――――――――――――――――――――――――――――

「ただいま」

言った直後に身構える。が、どんなに待っても突き当たりのドアは開かない。
リビングに足を進めると、テーブルの上に一人分の食事が並んでいた。
妹はTVに夢中だ。どうやら家族団欒の夕食はとっくの昔に終わっていたらしい。

「いただきます、と」

合掌してからラップの包みを開ける。
途端、焼き魚の芳ばしい香りが広がったが、食欲は沸かなかった。
それは口に運んでも同様で、美味しいはずの食べ物は冗談のように味気なかった。
味蕾神経が狂ってしまったのだろうか――そんなことを考えながら
遅々と箸を動かしていると、妹が牛乳&コップともども現れて正面の椅子に腰を下ろした。

「キョンくん、いつかえってきてたのー?」
「ついさっきだ」
「ふーん。気づかなかったぁ」

両手をチューリップの形にして顔を支える妹。
新しい友達とはうまくいってるか? 先生には叱られてないだろうな?
等々いくらでも話題提起はできたはずだが、口から出たのは

「…………」

凋んだ風船のヘリウムガスみたいに虚しい三点リーダのみだった。
が、そんな情けない兄貴を見て機転を利かせようとしたのだろうか。妹は思い出したように手を叩くと、

「そういえば、きのうの夜にキョンくんに電話があったんだよ〜」
「誰からだ?」

「おんなのひとー」

俺が訊いてるのは性別じゃねえよ。名前だ、名前。

「わかんなぁい。だってそのひと、すぐに電話切っちゃったんだもん」
「電話を切られる前にきいとかなくちゃ駄目だろ。
 そいつは俺に用があったんだよな? どうしてすぐ俺にパスしなかったんだ」

妹は飄然と答えた。

「キョンくんとってもいそがしそうだったから。
 伝えに行こうとは思ったんだよー? でも、ケータイのほうのでんわをじゃまするのもどうかな、って」
「お前の葛藤は嬉しいけどな。
 せめて携帯の方が終わってからでも教えてくれればリダイヤルできたのに、」
「…………」

軽蔑の視線が俺に突き刺さる。
昨夜携帯が鳴ってからベッドに潜り込むまでの行動を反芻する。
長門と長電話して、それに抗議してきた妹をお袋に預けて、自室に駆け上がって――
あぁ、妹が第二の電話を俺に伝えるチャンスは何処にもないじゃないか。
俺は謝罪の印に妹のコップに二杯目の牛乳を注ぎつつ、追加で訊いた。

「そいつの声や口調に憶えは?」
「んーん。あたしがその人の声を忘れてるかのうせいもなきんしもあらずだけどね〜」

急に難しい言葉を遣いだした妹に感心するのは後回しだ。
ふむ。俺の知り合いで女と言えば、SOS団の二人と現クラスメイトの女子、中学校時代の女友達くらいしか浮かんでこないが……
って結構な量だな。妹が知らないもしくは声を忘れているand俺に用件があるという条件を付加しても、絞り込むのはかなり難しそうだ。
ここは潔く諦めるか。そのうちまた掛け直してくるかもしれないし。

「今度掛かってきたときは名前を控えておいてくれ」
「うん、わかった!」

席を立って台所に食器を運ぶ。
またお袋に迷惑をかけてしまうことになるが、今の俺が食器洗いをしても
皿の一枚や二枚簡単に割ってしまいそうで、結局はお袋に任せるという結論に帰結する。

「どこいくの〜?」

俺はドアノブにかけていた手を止めた。
さっきまで牛乳をコクコク呑んでいた所為だろう、妹の口の周りには見事な白髭ができている。

「もう二階に上がるつもりだが」
「じゃあおふろはいらないの? キョンくんきたなーい。ふけつー」
「おまえな……」

こういった暴言のレパートリー増大が、
妹の語彙強化を素直に喜べない所以である。まったく、誰に似たんだか。

「人様のこと不潔だの汚穢だのいうな。
 今日は疲れてるんだよ。明日の朝にでも入る。これでいいだろ?」
「朝におふろなんてむりに決まってるよ。
 キョンくん、あたしなしじゃ一人で起きられないのに」

殊勝な笑みが童顔に浮かぶ。
いたずらに不快指数を上げられた俺は、
最後に髭を撫でるようなジェスチャーを見せて居間を出た。
後ろから声が聞こえてきてもお構いなしで階段を駆け上がる。
――今頃あいつはぐしぐし口の周りを擦っているところだろうな。
してやった感とともに自室のドアを開ける。


薄闇と静寂。


虚構の糸が、ぷつりと切れる音がした。

押え込んでいた感情が汪溢しはじめる。
独りになった瞬間すぐこれだ。喜緑さんとの最後の会話がエンドレスリピートされる。
ははっ、一種の拷問だよな。考えなくちゃならないことは分かってる。
停滞することによって失われる時間の大切さも理解してる。でも――思考が追いつかない。
俺の稚拙なニューロン構造じゃ、最善策を選びとることは疎か選択肢を用意することさえできやしない。
俺は上着を脱いで椅子に腰を下ろした。帰り道に外灯を見て気を紛らわしていたのと同じように窓に視線を移す。
深い紺色の空に昇っていた月は、丁度薄い雲に覆われていくところだった。
携帯を開いてメモリを検索する。濃さを増した暗闇に、ぼう、と青い光が滲む。
しばらくすると目的の名前が見つかった。
俺は眼を閉じた。そして白じむ瞼の裏に先刻の情景が投影されるのを、拒むことなく受け入れた。

俺は感情を殺して訊いた。

「もし再修正プログラムが完成する前に
 長門がバグを引き起こした場合……あいつはどうなるんですか」

もっと早くに知ろうとしなければいけないことだった。

喜緑さんがエラーを解析して再修正プログラムを構築する。
監視者である朝倉と喜緑さんは長門を随時監視する。
特殊能力の欠片もない一般人である俺は、それを黙って傍観しているだけでいい。

巧すぎる話だ。
物事が何でも簡単に解決するわけがない。こいつら宇宙人に関する揉め事は特にな。
万事上手く済めばめでたしめでたしだ。だが予定外の事態が起これば結末は変わる。
安泰な日常に回帰するはずだった結末は、予測不可能な方向へと収束しはじめる。
そんな当然のことから俺は眼を背けていた。与えられた希望的観測が全てだと信じていた。
計画が破綻した場合のことなんて考えもしなかった。
いや、例え計画が破綻したとしても何かしら平和的な代案があるだろうと思考を捨てていた。
それはまるで――現実を畏れる小さな子供のように。
喜緑さんは淡々と言った。

「長門さんは然るべき方法によって処理されます」

動悸がする。聴きたくない。だが行動は意志と相反して、

「具体的に教えてくれませんか」

漠然とした予感が生まれてくる。悪い予感だ。
ありえない、そんなはずがないだろう――いくら否定してもそいつはひたすらに最悪の結末を囁きかけてくる。
一瞬の間があった。そしてその囁きは、喜緑さんの唇を透して現実の響きとなった。

「……彼女に暴走の兆しが見られた瞬間、彼女は削除されます。
 情報統合思念体は検討を重ねた結果、
 自律進化の可能性である一体のTFEIを捨て、自身に蓄積した莫大な情報を維持する道を選びました」

「…………そんな…………」

予期していたのに。思考が、地面に叩きつけられた銀細工みたいに砕け散る。

削除。

無機質な響きだ。不必要になったモノを廃棄する。
ただそれだけの意味を表す言葉が、こんなにも残酷だなんて知らなかった。
俺は放心していた。やがて芽生えたのは、怒りにも似た興奮だった。
長門を削除する? 冗談じゃない。
諧謔を弄するのも大概にしてくださいよ。
そんな生徒会執行部が弱小部を廃部にする感覚で
削除されたら長門の立つ瀬がないしあいつを知る人間みんなが困る。俺は畳み掛けた。

「長門は情報統合思念体にとって唯一無二の存在でしょう?
 削除なんて短絡的すぎやしませんか。せめて拘束とかもっと穏便なやり方があると思うんですが」
「彼女がバグを起こした際に時間的余裕はありません。
 削除と拘束、どちらが容易かつスムースに実行できるかはあなたもご存じのはずです」
「なら今から拘束すればいいじゃないですか。
 あいつの人権は無視されたも同然の扱いですけど、それでも削除よりはずっといい」
「できません。拘束行為そのものが彼女のバグを誘発させる可能性があります。
 思念体は長門さんの削除を決定しましたが、あくまで自律進化の可能性を捨てたわけではないんです。
 わたしたち監視者には、彼女がバグを起こすその瞬間まで観測することを義務づけられているんです」

爪が肉に食い込むことも構わずに拳をつくる。痛覚は既に別の感覚に凌駕されていた。
反吐が出る。あいつはこの三年間ずっと親玉のために働いてきた。
それをなんだ。ちょっと使えなくなったからって猶予も与えずに消しちまうのか。
しかも消すその直前まで役に立ってもらうなんて外道にもほどがある。
三流小説の悪役幹部でもここまで酷薄な態度を部下にとることはないだろう。
つまり一言でいうなら、情報統合思念体、お前は上司失格ってこった。
俺は一頻り心中で悪態を吐いた後、冷静を心懸けて続けた。

「長門を傷つけることを肯定するわけじゃありませんけど、
 機能停止にまで追い込めば削除の必要はないんじゃないですか。
 度合は違えど、結果的に長門の暴走は止まります」

「それもできません。
 繰り返しますが、情報統合思念体の出した結論は"削除"なんです。
 二年前の暴走時、思念体は事態の不透明性と原因と思しき彼女のエラーが想定可能であったことから、
 酌量処分として任務の続行を彼女に命じました。
 ですがそれは彼女に再度異常が発生しない、という前提での暫定的処分です」
「それじゃあ理由になってないですよ。
 今のところ長門はバグを起こしていない。前回は世界の書換えという大それた暴走でしたけど、
 今回のバグがどんな影響を長門に与えるかは、まだ分からないじゃないですか」

世界改変のような深刻な暴走かもしれないし、図書館の不法占拠みたいな矮小な暴走かもしれない。
どちらにせよ、それが分からないうちから削除を決定するなんて理不尽極まりない。
情動で塗り固めた冷静さが剥落しそうになる。それと相称するように反論の韻は平坦だった。

「あなたの持論はもっともですが、それで思念体の意向を翻すことができるとは思えません。
 鑑みてください。
 彼女は一度実際に世界を書換え、思念体を消滅させているんです。
 確かに彼女の暴走には様々な可能性があります。
 あなたの言うように些事で終わるかもしません。
 ですがその想定は同時に、再び彼女が思念体の消去に乗り出す可能性も示唆しているんです」
「……あいつにそんな思想があるとは思えない。
 日常に不満があるようには見えませんでしたし、むしろあいつはこの頃になって
 以前よりずっと愉しんでいるみたいで――」
「保証はありません。
 思念体は長門さんという名の崩壊因子を内包することを一度は許しました。
 しかし二度目はない。それが思念体の最終見解です」

何が最終見解だ。検討の余地は完全になかったのか。
情報統合思念体ほどの知性の塊が、こんな安直な解決方法しか選べないなんておかしいだろ。
俺は昂ぶった感情をそのまま言語化しようとした。
だが口はパクパク開閉するだけで言葉を発しなかった。まるで鉄のようだと思った。
理路整然とした喜緑さんの言葉に綻びはない。どの角度から穿とうとしても跳ね返されるだろう。

――どうすればいい。

どうすれば理論武装した喜緑さんを、ひいては頑迷な思念体を説得できる?
一秒毎に焦りが増していく。
長門の削除を容認することは絶対にできない。
だが思念体の考えを覆すだけの説明をすることができないのもまた事実だ。
刹那、脳裏に黄色いカチューシャの団長様が浮かぶ。もう形振り構っていられなかった。

「もし長門がいなくなったら、ハルヒが黙っちゃいませんよ。
 ハルヒなら地の果てどころか宇宙空間にまで飛び出してでも長門を捜し出そうとするでしょうね。
 ただでさえそれなのに、もし長門が消されたと知ったらどうなるか。俺は想像したくありません。
 そしてそれは、あなたや情報統合思念体も同じはずだ」

理論的説得と対極に位置する感情的脅迫。
言い終えた後、俺は奇妙な感覚に包まれていた。
ハルヒを引き合いに出した時点で情報統合思念体に勝ち目がないことは明白だ。
なのに俺の心は自信を回復しないまま、喜緑さんを介した思念体の言葉を待っている。
漠然とした不安を払い落とすように、俺は脅し文句を続けた。

「俺にこういう科白が似合わないことは知ってます。
 でも言わざるをえません。普段ならハルヒの諫め役である俺ですけどね……
 長門が消えたら、俺だってハルヒと一緒に暴れますよ。なんなら"切り札"を使ってもいい」

あいつにはこう言うだけで事足りる。

『俺はジョン・スミスだ』

ハルヒに刺激を与えるにはこれで十分、いや十分すぎるくらいだ。
情報フレア、正規手法による世界改変――それがどんな結果を生むかは分からないが、
情報統合思念体に不幸がもたらされるのはまず間違いない。

「俺は前にも一度、今言ったことをあなたの親玉に伝えました。長門を介してね。
 だから今度はあなたの口から、二年前のことを忘れちまった大馬鹿野郎に伝えてください」

そこで一旦言葉を切ってから、

「俺はおまえが長門を削除することを絶対に許さない、とね」
「……………」

言葉を探る風でもなく言い淀む風でもない、ひたすらな沈黙。
俺はそれを説得成功故の沈黙だと判断した。―――勝った。
強引であることは否めないがこれは俺の完封勝利だ。そう思った。
振り返ってみれば、俺が今回の件で"長門の削除"という選択肢に
思い至らなかった根因は、二年前の脅迫、ただそれだけに尽きる。
ハルヒという絶対最強の切り札をチラつかせることは、
一見単純な障壁のようで、その実、盤石の楯となって思念体の悪行を抑止していたのだ。
そしてそれは長門がSOS団の一員である限り、ずっと崩れることがない。
俺は盲信していた。
例えこの先何が起ころうとも、ハルヒの暴走防止>長門の削除という不等式は永久に不変なのだと。

「―――思念体はあなたの言葉を忘れたわけではありません」

ふいに、抑揚のない声音が耳朶を刺した。
高翌揚感が砂塵に帰す。確固たる自信が喪失されていく。

「二年前と今では状況が違うんです。
 あなたの脅迫は既に意味を失っています。
 長門さんが消えるのを涼宮ハルヒは静観するでしょうし、
 あなたは彼女に対して環境情報操作能力を喚起させることもありません」
「どうして………どうしてそんなことが断言できるんですか」
「思念体が既に予防措置をとっているからです。
 それによってあなたが先程口にした行動は完全に意味を失うでしょう」

機械的な言葉に欺瞞は見受けられない。
激しく動揺していることを隠して俺は言った。

「思念体が用意したからには相当上等な予防措置なんでしょうね」
「いいえ、仕組みはとても単純です。
 長門さんは表向きは長期出国という形であなたたちの前から姿を消します。
 しかし朝倉の場合とは違い、長門さんには涼宮ハルヒを納得させるだけのファクターを用意してもらいました」

動揺した心からどす黒い感情が溢れ始める。
そのファクターはどうやって用意させたんだ。
まさか嫌がる長門に強要したんじゃないだろうな。
俺や古泉の身の安全を保証する代わりに、みたいな卑劣な手で――。
脳内に荒唐無稽な想像が浮かぶ。
しかし、あくまで口先は冷静を保っていた。

「どれだけ長門に協力させても無駄ですよ。
 あいつは長門を連れ戻しに行く。絶対にね。いつもあいつの傍にいた俺が言うんだから間違いありません」

継ぎ目を見取れないほど流麗に反論が紡がれる。

「確かにその蓋然性は大いにあります。
 だからあなたの力をお借りしなければなりません。
 彼女の環境情報操作能力の発現を直接止められるのは、あなただけですから」

嗤笑する。声高に笑うのではなく、唇を歪ませて、だが。
喜緑さん、あなたはとっても重要な前提条件を忘れていますよ。
俺は情報統合思念体の削除計画に協力する気は毛頭ない。
ハルヒの能力発現を止める? ありえないですね。
むしろ先頭に立ってハルヒの導火線に火を灯しますよ。
俺は明らかな敵意を持って意思表示した。それが、数刹那後に掻き消されるとも知らずに。

「あなたは必ず涼宮ハルヒを諫めます」

喜緑さんは同じ言葉を繰り返した。そして――

「何故ならそれが彼女の、長門さんの望みだからです」

絶句する。

頭の中で興奮した"俺"が叫んだ。

望み? どういうことだ。
長門が自分の消滅を受け入れ、延いては俺がハルヒを止めることを認めるわけがないだろう。
あいつには未来がある。鬱な性格から少しずつだけど前進して、
最近は口数も増えてきて、人並に感情を発露するだけの性格も獲得して
ますます毎日が愉しくなってきているはずなのに、そんな破滅的な願望を抱くわけがねぇんだ。

次に冷静な"俺"が未来を見据えて言った。

ハルヒは一年前の一件からこっち、能力を行使することをやめている。
古泉の話じゃ閉鎖空間もまったく現れていないらしい。
つまりハルヒの精神は極めて平静な状態にあるわけだ。
そこで俺があいつに『俺はジョン・スミスだ』と告白すればどうなるか。
答えは火を見るよりも明らかだ。ハルヒが再び能力を発現し、平穏だった日常は崩壊する。
しかもハルヒを焚きつけたからといって、首尾良く長門を取り戻せるかどうかは分からない。
最悪の場合、今の世界が消し飛んでしまう可能性もある。

最後に現実的な"俺"が誰ともなしに呟いた。

長門の二度目のバグがどんな事態を引き起こすかは予測不可能だ。
それがこの世界に、いや俺たちにどんな影響を及ぼすかはあいつ本人でも分からない。
きっとあいつは怖かったんだ。
平和に回っているこの世界が、崩壊因子となりうる自分のせいで何度も危険にさらされることを。
だから最期まで思念体に隷従することを決めた。
自分が削除された後も平穏な日常が流れ続けて欲しいと、自分を探そうとするハルヒを俺に抑えて欲しいと願った――。

どれくらいの時間が経ったのだろう。やがて俺は溜息とともに吐き出した。

「卑怯ですよ……そんなこと聞いたら、俺は長門の望みに従うしかないじゃないですか」

「先見の明をお持ちですね。
 長門さんはあなたの時折発揮される洞察力をとても高く評価していました」

そりゃ良かった。ま、ほんとに時折だから誇れるもんでもないんですけど。俺は訊いた。

「あいつの望みを、今、俺に話して良かったんですか」
「本当は彼女が削除された後、迅速にわたしが口頭で伝える手筈になっていました。
 彼女は現時点であなたが削除に関する事項を知ることを阻害していたようですが、わたしに制約はありません」

その言葉で確信する。
あいつは、俺がこの領域まで思考の段階を踏むことを遅延させたかったのだ。
再修正プログラムが間に合わなくなって自分が削除される、その時まで。
もしエラーの解析方法を知れば、その方法――喜緑さんによる解析――の速度限界に気づく。
そしてその発見はそのまま、エラー解析が間に合わなかった場合の長門の処理方法についての疑問へシフトする。

長門は最初の電話時、会話の途中で受話器を降ろした。
きっと妹とのゴタゴタなんて、所詮ただの言い訳でしかなかったんだ。
昼休み、朝倉は追及しようとする俺に「あなたにも話せることと話せないことがあるでしょ」と言って踵を返した。
それは、自分にプロテクトがかけられていることの暗示ではなかったか。
部活で改めて尋ねたとき、長門は俺の関心をハルヒに逸らした。
上手くなったもんだよな、昔はあんなに不器用だったのにさ。

――とにもかくにも非道い話だ。

最悪の場合、俺はあいつが消えたという事実を噛み締めたまま途方に暮れ、
しかし喜緑さんから伝えられた長門の"願い"に縛られたまま、
感情的に行動しようとするハルヒを押さえつけなくちゃならなかった。
本当なら今すぐ長門の部屋に猛ダッシュしてあいつを怒鳴りつけてやるところだが……

「長門は情報統合思念体の意向に同意した。
 ハルヒが長門を捜して放浪しないように細工をするのも、
 削除後に喜緑さんの口から俺にあいつの遺志が伝えられるのも、
 全てあいつが自分で決めたことなんですね?」
「はい」

短い返答。俺にはそれで十分だった。
見当違いの相手に敵愾心燃やして、俺が長門を護るんだと勢い込んで――ただの独りよがりじゃねえか。
俺はその背景にある長門の心情を、半分も理解してやれていなかったんだ。

ずっと伏せていた顔を上げる。瞳に流れ込んできた情報に温かみは皆無だ。
框を隔てた向こう側。廊下の宵闇に侵された白い空間で、喜緑さんが変わらぬ姿勢で佇んでいた。
双眸には暗い色が滲んでいる。俺はその理由を知りながらも訊いた。

「長門を削除するのは……あなたですか」
「はい、正確にはわたしと朝倉で情報結合の解除を申請し、彼女のパーソナルデータを完全に抹消します」

今まで事務的だった口調が、辛そうに歪む。
それが演技なのか長門を失うかもしれない事実への純粋な感情故のものかは判別できなかった。
監視者。
これもまた、長門の言葉によって先入観を植え付けられたことによる思いこみだ。
監視者=削除者であることは、事態の濫觴を遡れば当然だった。
朝倉が復活した理由は単一だと誰が言った。
あいつは今のところ穏和な顔で長門の監視を続けているが、
長門にバグの兆しが見られた途端、あの狡猾な微笑とともに削除に動き出すに違いない。喜緑さんのバックアップとして。
昨夜、長門は是非を尋ねた。もし、その時に今回の真相を把握していたら――
果たして俺は、長門を破滅させるかもしれない死神の復活を許しただろうか。
ふと、喜緑さんの右手でナイフが燦めいた気がした。注視する。勿論そんなものはなかった。
だが再修正プログラムが間に合わなければ、今の錯視は現実のものとなって長門に襲いかかるのだ。
それを止める術はない。古泉レベルの超能力も行使できない俺は、
たとえ運よく長門と削除者二人の間に割り込んだとしても一瞬で爪弾きにされてしまうだろう。
背中に悪寒が走る。気持ちの悪い汗が滲む。
喜緑さんは悪くない。そう思っていても、長門の削除を犯すかもしれない目の前のTFEIと隣接することができない。
俺は一歩後退った。すると喜緑さんは、まるで失恋した少女がせめて自分を嫌わないで欲しいと懇願するかのように俺を見上げて、

「……色々と思い悩むことはあると思います。
 ですが明日、生徒会室にもう一度足を運んでください。
 これは生徒会執行部としてではなく、彼女の一人の友人としてのお願いです」

俺は了承を示す言葉を探した。
だが憔悴しきったシナプスが探し当てたのは、保留を表す別れの言葉のみだった。

「――帰ります」

早足に生徒会室前を後にする。
振り返ることはなかった。ただ、俺の背中を見つめる喜緑さんの哀切の眸子を
猜疑の目で見てしまうことが怖かった。

帰路の分岐の一つで俺は足を留めた。
この先を進めば、長門と朝倉が暮らす高級分譲マンションがある。
長門は俺が全て知ってしまったことを知らない。
今の俺が赴いたところでできることは何もない。
感情だけで長門の意志をねじ曲げることはできない。
それは結果的に長門の決心を冒涜することになる。
俺はしばらく逡巡した後、結局帰途につくことにした。
そして最高に冴えない頭で、情報統合思念体でさえ辿り着けなかった
長門を削除しないで済む方法を何度も何度も模索した。
するとどういった理屈だろう。あれほど長かった通学路はあっという間に踏破され、俺は玄関の前に立っていた。


俺が答えを得るには、道程はあまりに遠すぎた。


――――――――――――――――――――――――――――――

携帯を机の上に置いて、半ば倒れ込むようにベッドに沈む。
堂々巡りの思考の再開は明日にしよう。
自分にそう言い聞かせて、波立っていた心の湖に静謐を取り戻す。
白塗りの天井は消灯しているのに薄明るく、俺はふと光源の探して視線を彷徨わせた。
淡朦朧とした光の正体は月光だった。窓外は暗闇に包まれていて、その中心で半月が煌々と輝いている。
雲はなく、しかし星もなく、月だけが昇っている空。ただただ索漠とした印象の、幻想的な風景が広がっている。
だから。微睡みの中で聞こえた

「―――おやすみ、キョン」

という声も、きっと、夢想の一部に違いない。

――――――――――――――――――――――――――――――

人間とは不思議なもので、悩み事に没頭するほど雑事をテキパキとこなすことができる。
その言葉が人類全てに当て嵌まるかどうかは定かではないが、少なくとも俺はそれが適用される人間の内の一人だった。
朝。妹にボディプレスを食らう前にベッドから躰を起こし、間違って箸を咀嚼することなく朝食を終え、
スウェットの上に制服を重ね着することなく身支度を調えた俺は、ゆったりと愛機に跨った。
客観的な視点からなら、それはとても優雅な登校風景に映ったことだろう。
でも実際は違った。冒頭通り、俺の頭が昨夜の会話のことで埋め尽くされ、
日常生活の行動全てが自動化されていただけ。断じて覚醒作用のあるクスリを服用したわけではない。
緩傾斜の坂道を上りながら思うのは、通学路への愚痴ではなく長門のことだ。

―――不明なエラー――再修正プログラム―――監視者――削除―――

春の空気に全然似付かわしくない単語が、脳裏に浮かんでは沈んでいく。
病的なまでにスムーズな教室までの行程と同じく、思考は病的なまでにループを繰り返していた。
俺は正常な意識を置いてきぼりにしたまま教室のドアを開けた。
すると、まるで俺が来ることを心から待ち望んでいたような愛情に満ちた声が届いた。

「おはよう!」
「……あぁ、おはよう」

どう比べても不釣り合いな返事。
眠いわけじゃない。ただ、その時の俺にとって挨拶なんて恒例行事はどうでもよかった。
声音からして女子だろうが、俺に挨拶してくれるなんて変わったヤツもいるもんだなあ、などと思いながら
俺は自席に足を運んだ。しかしその途中で足が強制的に縺れさせられた。
堪らず蹈鞴を踏む。誰だ? 言いかけて口を噤む。こんな子供じみた嫌がらせをするやつは一人しかいない。
俺は溜息と一緒に欠伸をした。すると俺に足を掛けた犯人――谷口――は悪びれた風もなく俺を睨め付けて、

「寝惚けるのも大概にしろよ、キョン。
 朝倉の元気いっぱいの挨拶を無碍にするなんて、おまえも随分と偉くなったもんだよなぁ?」

と言い、親指を立てて肩口から覗く男子軍団を指差すと、

「あんまり無礼が続くようなら、朝倉親衛隊が黙っちゃいないぜ」

大仰な口調でそう宣った。やれやれ……いつか結成されるとは予想をつけていたが、朝倉帰国二日目で結成されるとはね。

俺はわざとらしく肩を竦めて言った。

「怖いな。じゃあお前らの前では迂闊に朝倉に近寄れないというわけか」
「おうよ。特にキョン、お前はブラックリストに載ってるから気をつけた方がいい。これは親友からの忠告だ」

俺も甘い男よ、と自己陶酔する谷口。
組織構造、プロパガンダ、ヒエラルヒーの有無などなど、
"朝倉親衛隊"について訊きたいことは結構あったが、谷口に教えを請う自分を想像すると
虚しくなったので諦める。俺は谷口曰く「俺に元気いっぱいの挨拶をした」らしい朝倉を目で探した。
……いた。教室の一角で、女子達と情報交換に勤しんでいる。
情緒豊かな表情、巧みな相槌。
それらが織り成す会話に取巻きは大満足のご様子だ。時折、朝倉の形の良い唇から笑みが零れる。
そしてそれは、不意に俺の方へ向けられた。

「――――――!!」

大蛇に睨まれた子鼠のように身震いした俺を、もう一度朝倉がクスリと嗤う。
硬直した目を動かそうと瞬きすると、朝倉は談笑の輪に視線を戻していた。

「でよ、メンバーはいまんとこ13人で………」

内部情報をリークする谷口を余所に考える。
あの笑みは、対角線上にいた取巻きの一人に向けられたものだったのかもしれない。
或いは、純潔な親しみが籠められた微笑を俺が悪い方向に曲解してしまっただけなのかもしれない。
でも――その可能性を抜きにしても、俺には朝倉の心象悪化を止めることができない。
たとえどんなに俺を傷つけないと主張しようとも、長門に暴走の兆しが見られた瞬間、長門を抹消しようとするのは朝倉だ。
二年前。あいつは俺を排除するために、大量の槍で間に立ち塞がった長門を串刺しにした。
長く伸ばした腕で長門の小さな躰を貫いた。
顔に降りかかった鮮血の温かさと感触は、今でも肌が憶えている。

あの時は長門が崩壊因子とやらを仕込んでいたから
朝倉は返り討ちになったが――人間よりもずっと優秀なTFEIが轍を踏むとは考えがたい。
それに何より、長門は削除者に対して抵抗しない。
もし仮にバグのせいで長門が反撃を起こしたとしても、
喜緑さんと朝倉の二人を同時に退けることは叶わないだろう。

ふと、眼窩に情報制御空間の光景が映し出された。
傷つき、たくさん血を流した長門が倒れ臥す。
攻性情報を使い果たし、自己修復もままならない長門に影が差す。
朝倉だ。大きく振りかざしたナイフは、一直線に長門の喉元に向かって――
馬鹿なことを考えるのはやめろ。長門の削除は許さない。
俺は昨日、喜緑さんに、その背後にいる思念体にそう断言したじゃないか。
悪い夢を忘れるときにするように頭を振る。最悪の結末は予想せずにすんだ。

「……というわけだ。どうだ、お前も入りたくなってきただろ?」

我に返った瞬間に聞こえてきたのは谷口の熱弁だった。
おいおい、ブラックリスト入りしてる俺に勧誘をかけてもいいのかよ。

「やめとく。俺の所属する組織はSOS団だけで十分だしな」
 あとお前、その親衛隊とやらに一つ重大な欠陥があるのには気づいてるか?」
「欠陥だぁ? んなもんあるわけ――」
「お前らは朝倉が好きだから親衛隊を結成したんだよな。
 なら、お前らは同時にライバルなわけだ。誰が最初に朝倉の心を射止めるか競争だな」

最初はいい。だが、誰かが先走って告白しようものなら――
一瞬で組織は崩壊、仲間意識は敵対意識へと様変わりし、親衛隊員は互いにバチバチと火花を散らしあうことになるだろうぜ。
今から哀れんでやるよ。ま、精々頑張るといいさ。

「う、うそだ……」
「マジだよ。つーかこんなの、少し考えたら分かる話だろ」

厳しく現実を突きつける。それから谷口は譫言のように「嘘だ」をくり返していたが、やがて

「WAWAWA分からず屋〜」

と叫びながら国木田の元に駆け込んでいった。
こちらに苦笑する国木田に同じく苦笑を返して、今度こそ自席に向かう。

三年間俺の後方を指定席にし続けてきた少女は、
俺の接近にとっくに気づいているはずなのに窓外観察に汲々としていた。
俺は話しかけた。とにかく今は、隙あらば浮かび上がろうとするさっきのイメージを忘れてしまいたかった。
よう、ハルヒ。今日はご機嫌斜めなのか?

「あんたがあたしの精神状態を一目で読み取れるようになったことは褒めてあげるわ。
 でもね。もうちょっとオブラートに包む努力をしたらどうかしら」

ハルヒは頬杖の上の横顔を微動だにさせず、
大きな瞳をこちらに動かして憤慨を表現した。
そりゃ三年も一緒にいたら嫌でも分かるさ。
それで団長様、恐縮ですが不機嫌の理由をお聴かせ願えないでしょうか?
俺の問い掛けにハルヒは数秒硬直していたが、
やがて頬杖を解いて体ごとこっちに向くと、

「最初にいっとくけど、あたしは別に不機嫌なわけじゃないの」

と断りを入れてから、

「団員の素行不良に辟易してたのよ。
 あんたいつから朝倉と仲良くなったの?
 あの子が日本に帰ってきてからまだ三日と経ってないのにさ」

辟易するのは俺の方だ。
まず俺は朝倉とはこれっぽっちも仲良くなんかないし、今のところ親密になる予定もない。
それに素行不良とはなんだ、素行不良とは。
俺が朝倉と仲良くなったらSOS団に害悪が及ぶっていうのか?

「だって………」

と、言い淀むハルヒ。

「だって?」

オウム返しに尋ねると、声のトーンはぐっと小さくなった。

「だって、朝倉は顔立ちも整ってて胸もおっきくてスタイルもよくて、
 帰ってきたら前よりもかわいらしさ50%増しで……」

くぐもりすぎて何を言ってるのかさっぱり分からん。俺は復唱を依頼した。
が、ハルヒは机にびたーんと張り付いて倦怠感を演出しつつも、

「とっ、とにかく! あたしは団員の不純異性交遊は認めないからね!」

結構真剣味のある声音でそう言った。はいはい。
確か恋愛は精神病の一環なんだったな、お前の持論によると。

俺は美少女たちに囲まれながらも色恋沙汰とは無縁だった
これまでの高校生活と、残り僅かな青春時代を憂いて言った。

「百も承知だ。お前が眼を光らせている限り、俺に誰かと恋仲になる機会が訪れないってことはさ」
「ふぇ?」

すると今し方の科白に不可解な点でもあったのだろうか、特大の瞳がパチリと瞬く。
否定の仕草と言えなくもない。俺はまさかな、と思いつつ、

「ん、前言撤回してくれるのか。そういやもうお前の脳内学会で新説が発表されてもいい頃合いだよな。
 異性との清廉なお付き合いは学生の本分である、とか。
 恋愛によって生まれる感情の奔流は非日常的出来事によって得られる感動に匹敵する、とか」

ハハハ、と冗談めかして笑う。だが反響は至って真面目なものだった。
ハルヒはまるで占いはインチキだと決めつけていたのにも関わらず駅前の易者に心を見透かされてしまった現実主義者のように
ビクゥ、と肩を震わせて、

「あ、えと、さっきのはね……なんというか、その、あんたがあまりにも素直だったから……
 じゃなくて、……ほら、あたしの考え方もそれなりの変化を遂げたっていうか、……ううん、やっぱり今の嘘」

お前は何度語尾に否定語をくっつけたら気が済むんだ。

「……あんたも、その、SOS団の一員である前に男子生徒なわけで……、
 いや勿論あたしからしたら平団員もいいとこなんだけど……」

ハルヒはそれからしばらくゴチャゴチャになった科白を組み立てていたが、
やがて面倒になったのだろう、出し抜けに顔を上げた。

「つまりあたしは――!」
「HR始めるぞー」

まさにジャストタイミング。
ハルヒの演説の腰を折った回数は数知れず、
北高でもっとも空気の読めない熱血教師、担任岡部の登場だ。

「起立」

凛とした委員長の声に、憮然とした態度で立ち上がるハルヒ。
ははあ、これはHRが終わった瞬間に襟首つかまれて椅子ごと体を反転、
先程の話の続きを聞かされるパターンだな。
岡部の話が終盤に差し掛かったあたりで俺はせめて頭を机の角にぶつけないようにと首を引いた。
が、HRが終わり、一時限目が始める直前になっても襟首は掴まれない。
我慢できずに振り向く。
ハルヒは授業の準備を終えて窓の外を眺めていた。冷たい目がじろり、とこちらを見遣る。
俺は安堵と失望が交ざった複雑な気分になって首を捻りなおした。

つくづく思う。……どうして俺の悪い予感ってやつは、どうでも良い時に外れてここぞという時に当たるんだろうね。

――――――――――――――――――――――――――――――

さて、高く昇ったお日様の陽気と数学教師の起伏のない講説が
睡眠導入剤を満遍なく散布し、教室が睡魔の温床と化した三時間目中盤のことである。
学習意欲のないクラスメイトがばったばったと睡魔にやられていく中、俺は意識を保っていた。
といっても、黒板の内容を理解しようとしながら頭の隅で長門について考えを巡らすというのは
俺のシングルコアの処理能力ではいっぱいいっぱいの並列作業であり、
居眠り.exeなんて起動しようものなら一瞬でフリーズ、俺は二度と再起動されることなく机上死するに違いないからで、
実際のところはかなりの瀬戸際だ。後ろの方に耳を欹てると、

「すぅ、すぅ」

と、幽かに寝息が聞こえてくる。なんとも心地よさそうな響きだね。
いっそのこと俺も昼休みまで惰眠を貪ってやろうか――と自棄な頭で考えた、その時だった。

1、携帯が鳴った。授業中に古泉からメールなんて珍しいね。
2、………朝倉の方から視線を感じる。
3、背中に鋭い痛みが走る。どうした、寝てたんじゃなかったのか

>>773までに多かったの


765 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2008/01/23(水) 22:54:40.56 ID:YuiUz..o



766 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2008/01/23(水) 22:55:11.31 ID:8XZKxPAo



767 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2008/01/23(水) 22:55:46.67 ID:zPVsgsSO

1

768 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2008/01/23(水) 22:56:45.70 ID:WWYYyDAo

ここは……悩ましいな。


769 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/01/23(水) 22:56:48.57 ID:cuK04EDO



770 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/01/23(水) 22:57:19.01 ID:PIrK2pM0

2だ!

771 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [] 投稿日:2008/01/23(水) 22:57:28.95 ID:2JAFWGc0

悩むな・・・・
3ではなく


772 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2008/01/23(水) 22:57:44.45 ID:8j7yLmAo

2

773 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/01/23(水) 22:58:16.00 ID:wFaENIAO

1


ポケットがぶるぶると震えだす。授業中はマナーモードが基本だ。
俺はさして慌てることもなく、教室の空気を一切乱していないことを確認してから緩慢に携帯を黙らせた。
サブディスプレイにはメール一件の表示。
いったい誰だなんだろうね、俺が授業中だと分かっていてメールを寄越すような非常識野郎は。
ジャンクメールの類なら一瞬で削除してやるからな。
心中でぼやきつつ携帯を開く。

from:古泉

朦朧としていた意識が若干回復した。
古泉からメールとは珍しい。しかもあいつは本年度から理系街道まっしぐらの特進クラスに在席している。
名門大学合格者を増やすべく躍起になっている教師たちの眼を盗んでまでメールしてくるとは、
余程切迫した用件なんだろうか。俺はメールを開けた。――眩暈がした。

subject:お話ししたいことがあります
我々機関が情報統合思念体等の宇宙的存在と折衝を重ねていることは
既にご存じですよね。一昨日のことです。
僕は長門さんと帰路を共にし、そこで以前削除されたパーソナルデータが復活する可能性を知らされました。
驚愕でしたよ。一度削除されたTFEIが再び現れるなど、前代未聞でしたから。
――――――――――――
       中略
――――――――――――
僕としては昨夜の内に済ませておきたかったのですが
電話やEメール等を媒介するよりも実際に話す方が良いと思いまして、
こんな時間にメールを送らせていただくことになりました。
お昼休みに中庭で待っています。よければ昼食も持参してください。
それでは後ほど。

夥しい文章量。まったく、下スクロール長押しでENDバーまで10秒以上かかるなんて小論文を軽く超越してるじゃねえか。
これだけの文字を打ち込むのにあいつはどれだけの時間を要したんだろうな。ラスト二行で十分だってのにご苦労なこった。

溜息を吐きつつ携帯を閉じる。
すると勢いが強すぎたのか、パチン、と鋭い音が鳴った。
教師の視線が突き刺さる。
なんでもありませんよ。それにたった今寝れない事情が出来たんで、午前中は真面目に授業を受けるつもりです。

「はは……」

と愛想笑いを浮かべて姿勢を正す。
後ろの団長様といえば相も変わらず夢の中で妖精と戯れているようで、深い寝息を立てている。
今年は受験だというのにこの余裕綽々っぷりはなんなんだろうね。忌々しい。
俺はいよいよ一つの大きなピクトグラムに見えてきた数字と記号の集合体を睨みながら、
買ってからというもの、インクの減りが芳しくないペンを握った。
黒板を写す気は毛頭無いが、それでもぐーすか寝息を立てている谷口よりはマシだろう?

――――――――――――――――――――――――――――――

古泉が俺の姿を認めた後、切れ長の目を細ませて言った。

「やぁ、お待ちしていましたよ。
 どうしてなかなか、あなたも時間厳守を心懸けるようになったんですね」

なんだその俺がつい先日まで遅刻魔だったような物言いは。

「皮肉に聞こえるから毀誉褒貶ははっきりしろ」
「これは失礼。ですが、あなたが予想以上に早く来てくださって喜んでいるのは事実ですよ。
 お話する時間を気にせずに済みますし、何より……
 独りで長時間中庭のテーブルを占有するというのは、憐憫の衆目を集めかねません」

どうぞあなたもおかけ下さい、と椅子を勧める古泉。
その様はどう見ても常に心配りを忘れない模範的優等生で、
俺はさり気なく白い歯を覗かせるアルカイックスマイルとそれを湛えるに相応しい端正な顔立ちに
激しく嫉妬しながら訊いた。

「お前が独りで飯食ってたら逆に女子共が勝手に沸いてくるだろうさ。
 樹液に集る昆虫みたいにな。ところで、話したいことってなんなんだ」
「概要はメールに記載したので、単刀直入に申しますと――「待て」

緩やかに静止する。

「あのメールは最初と最期の数行にしか目を通してない。詰め込みすぎなんだよ。
 お前さ、メールでも長広舌になる癖、どうにかした方が良いと思うぞ」

古泉はがっくり肩を落として、

「以後留意します」

と言い、しかし反省する風もなくテーブルの上で指を絡ませると、

「では、メール内容を更にかいつまんで説明するとしましょう。時間は有限ですから。
 一昨日、僕が長門さんと帰路をともにしたことは、まだあなたの記憶に新しいと思います。
 あの時僕は彼女から、新規TFEIが北高に配属される可能性を聞かされました」

元より機関と情報統合思念体にはパイプがあったことを知っていた分、
古泉が事前に朝倉復活の情報を手にしていたことに驚きはなかった。
だがこれはメールの冒頭部を読んだ時にも感じたことなんだが、
どうしてそういった情報が組織の末端部で遣り取りされるんだろうな。
俺は未だに機関や思念体の内部構造を把握しちゃいないが、
フツー組織というものは上層部が先に情報を手に入れてから、末端構成員に伝達されるもんだろう?

「語弊があったようですね。
 長門さんが僕に涼宮ハルヒの精神状態に関する考察を尋ねられた、と言った方が正しいかもしれません」

古泉は右手の人差し指をこめかみに当てて、

「彼女は危惧していました。
 朝倉涼子の転校は得てして、未開の湖畔の如き静逸を保つ涼宮さんの心境を乱す恐れがあるのではないか、とね」

納得する。ハルヒの突拍子な行動、消沈した気概を誰よりも素早く分析できるのは古泉だ。
朝倉復活による影響を計るにはお前を介するのが最適だったということか。

「理解が早くて助かります」
「で、お前はその質問になんと答えたんだ」

「………」

三点リーダが三つ分くらい流れた。
その刹那に古泉は思案顔を爽やかスマイルの裏側に仕舞い込んで、

「絶対の保証はできないが問題ない、と答えました。
 前述したとおり、涼宮さんは表面的な性格変化はなくとも、
 内面は"普通"の女子高生のそれに近づきつつありますからね。
 朝倉涼子の再登場程度では、彼女の心を乱すことはできないと推論したんですよ。
 これは過大評価ではなく、僕の正直な気持ちです。
 そしてその推量が正しかったことは、あなたもご存じの通り、二十四時間内に証明されました」

自分に言い聞かせるような大きめの声でそう言った。
閉鎖空間に敏感な古泉が言うなら間違いない。
これで、ハルヒが上辺で無反応なフリして実は動揺してる、といった可能性は潰えることになる。

「ところで」

と、古泉はまるで友人の恋愛遍歴を穿り返す性悪男のような笑顔になって訊いてきた。

「朝倉涼子とは上手く折り合いをつけることができましたか?」
「どういう意味だ」
「彼女は一度ならずとも二度もあなたを殺そうとした。
 両方とも未遂に終わっているにせよ、
 あなたには彼女との再会に、相当の抵抗があったのではないかと想像したまでですよ」

胸中を見透かされたような気分になって、良い具合に風化した木製テーブルに視線を降ろす。
朝倉が転校してから二日。長門のお墨付きがあり、
また"自分は安全だ"と告げてきた朝倉が二年前の朝倉とは別モノであることはもう理解していた。
だが、あいつとの会話に緊張が伴わないかと訊かれればそれはNoで、
できれば必要以上の接触は避けたいというのが本当のところだ。
それに……いくら改心したといっても、長門がバグを起こした瞬間に、あいつは――

「すみません、不躾な質問でした」

後悔を帯びた声に我に帰る。……気にすんな。
お前にPTSD患者に接するような態度を取られることの方がよっぽど俺の矜持が傷つく。

「しかし――」

と、言い淀む古泉。その"らしくない"執着に苛立ちを覚えて、
俺は自動販売機で購入した缶コーヒーのプルタブを開けつつ、

「朝倉とは割り切って付き合っていくつもりだ。
 そりゃあ正直な話、最初は滅茶苦茶ビビったけどさ。
 いつまでも拒絶反応起こすほど俺はヘタレじゃないつもりだぜ。
 ……さ、話を進めてくれ」

そう言って、口元で缶コーヒーを傾けた。
手によって遮られていた視界が開けたとき、
影が差していた古泉の顔には完璧なアルカイックスマイルが再塗布されていた。
絵に描いたように均整のとれた唇が動いた。

「あなたはずっと朝倉涼子を畏怖していた。少なくとも三度目の邂逅を望まない程度には。
 何度もお聞きしますが、それは確かですね?」

首肯する。

「昨日、朝倉涼子は帰国子女として北高に再潜入しました。
 しかし涼宮さんと同様、あなたの情緒にも乱れは見受けられませんでした」

古泉は絡み合わせていた指の二つを手の甲から離し、

「とすると、あなたは事前に彼女の転校に関する情報を得ていたということになる。
 貶めるわけではありませんが、あなたには高位の宇宙的存在とコミュニケーションする手段がない。
 必然的に、その情報源は身近なTFEIだという結論に至ります」

必要以上に回りくどい台詞廻しに、苛立ちを通り越して呆れ始めた俺だった。
推理小説で名探偵に追い詰められる犯人のような気分だよ、まったく。

「ですが――」

と、不意に古泉は仮初の困惑顔を作って言った。

「ここで疑問が生じるんですよ。これまでの行動を鑑みれば……
 情報統合思念体がTFEIを介し、事前に朝倉涼子の転校をあなたに知らせるとは考えがたい。
 何故ならあなたは既に幾度も修羅場をくぐりぬけてきたわけですし、
 例え彼女を見て恐れ戦いたとしても、それが涼宮さん、
 延いてはクラスメイトを含む枠外の人間に影響を及ぼす可能性は皆無だからです」

そうだな。もし仮に何も知らされていなかったとして、
俺が現実逃避に走るあまり卒倒しても誰も介抱してくれないに決まってるよな。

「少々焦点がズレていますね。
 まあ良いでしょう。とにかくあなたは事前に情報を得た。身近なTFEI、つまり――長門さんから」

事実確認ばっかで眠たくなってきた。ほとんど義務的に首肯する。

「では長門さんが自らの意志で、その情報をあなたに伝えた理由とは何でしょう? 以下は僕の憶測ですが……
 彼女は慮っていた。朝倉涼子がトラウマを持つあなたに与える心理的影響を懸念していた。
 だから彼女はあなたに、あなたが安心し、納得するだけに足りる朝倉涼子の復活理由を述べた。
 どうです、ここまでに間違いはありませんか?」

あぁ、間違いないぜ。お前の言うとおりさ。
あいつは復活の理由を伝えるどころか、俺が承諾しなければ朝倉を復活させないとまで譲歩してきた。
もっともその時の長門の説明は完璧じゃなくて、後々に喜緑さんによって補完されることになるんだけどな。
そう言いかけて口を噤む。
―――長門はさもそれが当然の行為であるかのように、俺に朝倉の復活理由を教えてくれた。
が、今一度考えてみるとおかしな点がある。
あいつが、自分が削除される可能性を俺に辿り着かれたくなかったのなら、
"朝倉が復活する理由はわからない"とか"思念体の実験的復活"とかいくらでも嘘をつけたはずだ。
俺はただ、"復活する朝倉に危険はない"と伝えられさえすれば大丈夫だったんだから。
頭中の疑問格納スペースがまた一つ埋まる。俺は惰性で首肯した。
すると古泉はアゲハ蝶を捕獲した蜘蛛の如き笑みを浮かべて、

「そうですか。では、ようやく本題に移ることができますね」

と言い、

「単刀直入に窺いましょう。
 朝倉涼子が復活した理由とは何ですか」

表情とは正反対の、虚偽を許さぬ口調で問いかけてきた。

喉を流れ落ちていたコーヒーが逆流する。
今更その質問かよ。状況によっては削除者となることならまだしも、
朝倉が"長門のエラーを監視するため"に再構成されたことは、
とっくにお前や、その大本である組織の掌中にあると思っていたんだが。
俺は噎せ返りながら聞いた。

「えっと……お前は一昨日、長門に相談を受けたんだよな。
 あいつはその時、お前に朝倉の復活理由を伝えなかったのか」
「ええ、何も。
 彼女は僕の推量を聞いた後、物言わぬ貝のように口を閉じられまして。
 執拗に問いかけても返事は梨の礫、
 仕方なく僕は諦めて、お互い無言のまま分岐路まで歩を進めました」

長門はお前の長広舌に辟易したんだよ、きっと。

「それは有り得ません。量より質。
 彼女と言葉を交わす上で、それが最も重要視されることはとっくに学習済みですから」

ジョークを真面目に返されて戸惑う俺を余所に、
古泉は思考に耽るとき特有のポーズをとって続けた。

「次の日――つまり昨日ですが――僕は朝倉涼子の転校を知った後、
 喜緑さんと朝倉さん本人に、直接事態の説明を求めました。
 しかし彼女らは口を揃えて仰いました。
 組織内部の事情が関係しているから情報呈示できない、とね」

僕も随分TFEI三人娘から嫌われたものです、と肩の高さまで手を挙げて苦笑する古泉。俺は訊いた。

「お前には話せなくても、機関には情報がいっていたんだろう?」
「えぇ、もちろんです。
 訳あって一度削除したTFEIを再構成し北高に潜入させるが、現在の勢力図を乱すつもりはなく、
 また涼宮ハルヒに実験的接触するつもりもないので黙認して欲しい。
 それが情報統合思念体からの連絡内容でした。かなり要約しましたが」

と、ここに来て喉が渇いたのか。
古泉は俺が待ったをかける間もなく俺の缶コーヒーを勝手に飲み始めた。
この野郎、涼しい顔して俺のカフェインを略取しやがって……!
俺はすぐさま奪い返そうとして、やっぱり自制することにした。
この件は後で猛抗議するとして、今は情報統合思念体が機関に対し、
何故明確な理由を告げずに、黙認して欲しいと伝えたのか考えるのが先決だ。
これまで二つの勢力は、円滑な協力関係を築いてきた。(古泉談)
なら何故情報統合思念体は情報を出し惜しみする必要があった?
長門のエラーが原因だと伝えれば余計な機関の詮索や衝突を生まずに済む。
それをしないということは、情報呈示することによる機関の反応の方が
思念体にとっては不都合だ、ということだろうか。
三秒じゃそこまで考えるのが精一杯だった。古泉は缶コーヒーを初期位置に戻すと満足げに喉を鳴らして、

「話を続けます。機関の上層部はその連絡を受けた後、
 情報統合思念体の要望通り黙認することを決めました」

随分あっさりと決まったんだな。

「一昨日の22:43頃に突然、構成員の一人を介して連絡が入り、
 機関が検討の機会を設ける間もなく、朝倉涼子は涼宮さんの前に姿を見せた。
 そして事実、彼女の精神に揺らぎは生じなかった……。
 済し崩しに上層部の見解は"TFEIの再配属を黙認する"方向で一致したんです」
「どうしてお前はそれに従おうとしなかったんだよ。
 上司の意向に逆らってまで情報収集に勤しむなんて疲れるに決まってるのにさ」

古泉は事も無げに答えた。

「直感ですよ。あんな超常空間に二年もいれば、否応なしに第六感が冴える。
 その感覚はあなたもよくご存じでしょう?」

否定できない。俺は無言で耳を傾けた。

「朝倉涼子の復活の裏には、後々機関、いえ、SOS団に関わる大きな理由が存在する。
 僕はそう推理しました。論拠の欠片もありませんがね」

「大した推理だな」
「僕もそう思います。ですが、あながちその推論は暴論でも空論でもないようにも思えるんですよ」

古泉は静かに目を伏せて、

「僕は機関から独立して情報収集に当たった。
 結果は先程の通りです。
 その時は手詰まりに陥ったかに思えましたよ。
 しかし僕は、あなたが情報を得ている可能性に考え至りました。
 そしてあなたは僕の予想通り、
 長門さんから、個人的に、朝倉さんが復活した理由を聞かされていた」

話し初め、古泉が誘導尋問紛いのことをしていた理由にようやく気づく。
大方こいつは俺が長門から口止めされてやしないかと疑っていたんだろう。周到なヤツだ。
と、俺が舌を巻いていると、おもむろに古泉は伏せていた目をこちらに向けた。

「さぁ――そろそろ答えてください。
 朝倉涼子が復活した理由とは何ですか」

蒼く鋭い眼光が眼球を差す。目を逸らしてしまいそうになる。
俺は……

1、詳しいことは知らない、朝倉が安全であると聞かされただけだと答えよう。
2、エラーのことだけ話す。長門が話さなかったということは、古泉に自分の削除をその時まで知られたくなかったということだ。
3、全て話す。長門が削除されずに済む方法に関して何か助言してくれるかもしれない。

安価は>>905までに多かったの


897 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/01/26(土) 23:35:39.08 ID:rETHJwAO

2で

898 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2008/01/26(土) 23:36:00.84 ID:iBBgugko



899 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2008/01/26(土) 23:36:07.69 ID:.6qaeK.o

1

900 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2008/01/26(土) 23:36:45.68 ID:fnd4HdAo



901 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/01/26(土) 23:37:00.26 ID:TuAh69ko



902 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/01/26(土) 23:37:47.27 ID:6dIRawDO

2

903 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2008/01/26(土) 23:37:48.42 ID:pCWDeWgo

2

904 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/01/26(土) 23:38:14.00 ID:9jYVKJgo

2だな

905 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/01/26(土) 23:38:38.50 ID:NgHJnuk0

2


情報統合思念体の意志を尊重するならここは口を噤むべきなんだろうが、
そんなことをしたら先程の会話の辻褄が合わなくなって余計に怪しまれる。
下手に誤魔化しても古泉の炯眼には通用しないだろう。
ここは洗いざらいぶちまけてしまおうか……と安直な思考に走り始めたその時、
黄昏時の帰路を古泉と連れだって歩く長門の姿が脳裏に浮かんだ。
情報統合思念体は別にして。長門が何も話さなかったのは、
俺と同様、古泉に自分の削除を、その時まで知られたくなかったからかもしれない。
とすると俺がしようとしているのは、長門の予想の範疇を超えた情報流出ということになる。
それが二大勢力の関係性、そして長門の描いた未来図に
どんな影響を与えるかも分からないまま、全てを話してしまってもいいのか。

――――答えはNoだ。

古泉になら長門を削除されずに済む方法の手掛かりを見つけることができるかもしれないが、確証はない。
情報は古泉を通して機関に伝わる。機関の上層部が長門の消滅をどう捉え、
またそこからどんな行動に出るかは予測がつかない。ここで賭けにでるのは危険だ。

「いいぜ、話してやるよ。
 これは朝倉が復活する一日前、つまり一昨日の夜のことなんだが……」

俺は口火を切った。もっとも話すのは『長門に不明なエラーが蓄積している』ことをアレンジした情報だけだが。
如何に鋭い直感といえども、あくまで勘。
拙い説明で古泉の探求心を満足させられるかどうかは分からないが、
それ以上を追及されることもないだろう。俺はそう、高を括っていた。

――――――――――――――――――――――――――――――

「再修正プログラムの完成の目処は?」
「まだ立っていないそうだ」
「完成までに彼女の不明なエラーが許容量を超えた場合の対処方法は?」
「さ、さぁな、そこまでは知らない。でも解析作業は着々と進んでいるから俺たちが心配することはないだろう」

シームレスに繰り出される質問。俺は高校三年の春にして、
この超能力者が秀才という言葉では片付けられないほど優秀な頭脳を持っていることを悟った。
古泉は寒気がするほど淡々と質問から得た情報を分解、再構築し、

「バグの症状が確定していない以上、対処は即時的な手法が取られると考えた方がいいですね。
 とすると長門さんの機能停止、もしくは削除が有り得ますが――いや、それでは涼宮さんの精神に著しい影響を与え、
 環境情報操作能力を喚起させる可能性がある。思念体はリスクを最小限にしようとするはずだから
 もっと穏便な手法を用いると思考するのが妥当か」

こちらにニコリとした笑顔を向けた。

最後の最後で推理と事実は乖離したが、
もし長門と思念体がハルヒに対策をとっていることを教えていたら、
古泉の解は完璧だったに違いない。
俺はいつもの気怠そうな表情を取り繕ってから言った。

「俺も同じ考えに行き着いたよ。
 だから静観することにしたんだ。
 二年前の時と違って今度は事前にエラーの発生が分かっていて、
 その解析も順調ときてる。俺や機関が出る幕はない。そうだろ?」
「確かに。また、それなら思念体が情報呈示を拒んだことにも頷けますね。
 いたずらにTFEIの不具合を公表せず、
 自己解決してから既往の件とすれば、余計な干渉を受けずに済む」

と、古泉は絡め取るような視線を外すと、

「やれやれ」

俺の常套句を平然とパクり、

「結局は杞憂だったということですか。
 すっかり事件の真相を暴く探偵役になりきっていましたが、
 どうやら僕は、三流喜劇の道化師よりも酷い醜態をさらしていたようだ」

芝居がかった科白を長々と吐いて、

「この件からは手を引きましょう。
 勿論、今お聞きした情報は機関に持ち帰らせて戴きますが、
 あなたと同様、上層部の意向は"静観"のまま微動だにしないと思われます」

諦めたことを強調するかのように溜息をついた。

その様子を逐一眺めながらも、俺は古泉の言葉に確信を持てずにいた。
このアルカイックスマイルに何度騙されてきたことか。
古泉の口先と内心が真逆であった前例は数知れず。
自然、俺は古泉の本心を見透かそうと目を細め、

「長門さんの不明なエラーの原因とは一体何だったのでしょうか。
 今となってはそれだけが唯一、僕の興味をそそります」

席を立ちながらの一言に、意識を持って行かれていた。
長門のエラーの原因。
そりゃあいつが「不明」というからにはとことん「不明」なんだろうさ。
二年前の不明なエラーは抑圧された感情によるものが原因だった、と俺は考えている。
長門に直接訊いて確証を得たわけじゃないけどな。
だが今回のエラーはそれとは別モンだ。あいつはもう、陰気で鬱な性格を克服してる。
遅々としたスピードでだが、確実にあいつは感情を表に出すようになってきているんだ。
だからこそ俺には不明なエラーの原因が分からない。
あいつが現在の状況の何処に不満を感じているのか、全然思いつかない。
閉じた瞼の暗闇の中。長門の姿の輪郭が、はっきりしてはぼんやりするを繰り返していた。
と、沈黙を続ける俺に痺れを切らしたのか、

「こんなことが出来たら苦労しない、と笑われてしまうかもしれません。
 ただ待つだけで事態が解決するというのなら、このような思考自体が無意味なのかもしれません。
 ですが言わせてください」

軽い語調とは裏腹に、抑揚のない声が響く。

「彼女のエラーの発生原因を潰してしまえば、
 再修正プログラムの完成を待たずとも、この件は解決できるのではないでしょうか。
 もっとも、情報統合思念体ほどの知性を持つ存在が手を拱き
 長門さんと同じく独自進化した喜緑さんに解析を任せるほどのエラーだ。
 一筋縄ではいかないに違いないですが――」

そこで言葉は一旦途切れ、

「高次の知的生命体が我々人類にとっては未知の物理法則を易々と理解できたように、
 数多の制限に縛られた有機生命体の方が解を得やすい事柄も、多々あるのではないか。
 僕はそう考えてしまうんですよ。ふふっ――戯言でしたね、忘れてください」

はっとした。俺はずっと"長門が削除されない方法"に固執していた。
だが、もし最悪の結末を迎える前に、長門のエラーを許容量を超えるまでに消滅させることができたら?
あいつがバグることはない。監視者も削除者も存在意義がなくなる。
今現在、あいつのエラーを消滅させるべく頑張っているのは喜緑さんだ。
それは彼女が長門と同様、感情を獲得した人間に近しい存在だから。

うんざりする。思考放棄していた自分にだ。

長門の心に刺さった棘。
それ自体を消滅させることはとてつもなく難しいらしい。情報統合思念体でさえ苦戦するほどに。
だが棘を抜くだけなら――感情に通暁した人間の方が適しているんじゃないだろうか。
自惚れているわけじゃないが、誰よりも長門の機微に触れられる俺になら、
あいつのエラーの発生原因を突き止められるかもしれない。
古泉の言うとおり一筋縄には行かないだろう。でも、それでもやってみる価値は十二分にある。
「長門に不満は見受けられないないから、エラーの発生原因は分からない」だって?
ロクに考えもせずに何を馬鹿なことを口走っていたんだろうな、俺は。
未来に起こりうる長門のバグや削除なんて関係ない。
長門は不明なエラーが蓄積していると言った。
なら俺は先ず何よりも、あいつのエラーの発生原因を調べようと躍起になるべきだったんだ。

「――――っ」

深く内省して瞼を開く。
穏やかな春風が広葉樹を揺らして、木漏れ日がテーブルの対面に、綺麗な模様を描いていた。
超能力者の姿は既にない。予鈴が静かに鳴り始めた。
ありがとよ、古泉。お前にとっては蛇足でも、俺にとっては最高の助言だったぜ。

手つかずの総菜パンを手に席を立つ。もし古泉に全てを――
長門が自ら削除を受け入れ、事後に俺がハルヒを宥めることを望んでいると
話していたら、古泉とその背後にある機関は、どうするつもりだったのだろう。
また一見無矛盾なこの説明に納得したかに見えた古泉は、
あのペルソナの裏で、長門の不明なエラーは放置しても構わないと、本当に結論付けたのだろうか。
疑問は尽きない。……だが道標はできた。これでメビウスの輪から抜け出せる。
朝からこっち、頭の中にどんよりと広がっていた雲から、天使の梯子が降りてきたような気がした。
立ち去り際、俺はテーブルの上の缶コーヒーを思い出した。
耳元で軽く左右に振ってみると、小さく水音がする。
中庭の一角には屑籠が設置されている。
俺は結構な距離があるにも関わらず、思い切り缶を投げやった。
何故そんな勿体ないことをしたのかって?
俺には古泉と間接的にであるにせよ唾液交換する趣味はないし、
缶コーヒー如きに貧乏性を発揮するのもどうかと思ったからだ。
それになんとなく、今なら一発で入れられるような気がしたのさ。
優美な放物線を描く缶コーヒー。その行方を最後まで確かめることなく、踵を返す。

数瞬遅れて――カコン、という小気味よい金属音が響いた。

――――――――――――――――――――――――――――――

午前中一睡もしなかった代償のツケを午後にしっかりと支払い、
俺は3時間分の記憶の空白を抱えたまま放課後を迎えた。
終礼が終わるや否やハルヒは余程団活を心待ちにしていたのだろう、
収納のプロも唖然の手早さで荷物を纏め、ついでに俺の私物の整理整頓もやってのけると、

「さっ、急ぐわよキョン。今日は重大発表があるの!」

瞳を紅玉のようにきらきら輝かせてそう宣った。
重大発表。こいつと出会って間もない頃の俺なら、
ハルヒが口にする危険Wordベスト3に入るそれを聞いた時点で
自身の暗澹たる未来を想像し憂鬱になっているところだが、
久しく耳にしていなかった分、好奇心が膨れてくる。俺はオウム返しに訊いた。

「重大発表?」
「そ。勘のいい古泉くんならもうあたしの発表を予見してるかもしれないけど、
 あんたは想像もしてないでしょうね」

そりゃ平団員の俺が聡明な副団長様に敵いっこないさ。俺は少しムッとして、

「また面倒事じゃあないだろうな」
「違うわ。それを聞いた瞬間、団員はみんな狂喜乱舞するに違いないもの」
「へぇ、楽しいことなのか」と俺。
「すごく楽しいことよ」とハルヒ。

おもむろにハルヒの手が俺の右手に伸びる。
俺は咄嗟に両手をポケットに突っ込んだ。危ない危ない、あと一瞬判断が遅れていたら
俺は否応なしに捕縛され、SOS団発足当初を彷彿とさせる浮き足立ちのハルヒに文芸部室へ連行されていただろう。
ハルヒは怪訝な顔になると俺の顔を覗き込み、

「どうしたのよ。早く行きましょうよ。
 時間は有限なのよ。悠長に教室で時間なんか潰してたら、有希や古泉くんを待たせることになるわ」
「いや……それがさ」
「それが?」

言い淀む俺と、追及するハルヒ。
俺が渋っているのには理由があった。

『明日、生徒会室にもう一度足を運んでください。
 これは生徒会執行部としてではなく、彼女の一人の友人としてのお願いです』

昨日、生徒会室を去り際に言われた言葉。
それが俺に文芸部室にまで一直線に足を運ぶことを躊躇わせていた。

喜緑さんとは今まで、折に触れて接触を繰り返してきた。
睡蓮のような優しい笑み、春陽影のように柔らかい物腰。
俺が喜緑さんに対し、好印象を抱いていたことは確かだ。でも――。
あの人は分岐する未来の一つで、長門を削除しようとするかもしれない。
その可能性が、喜緑さんに再接触を要求された事実に警鐘を鳴らしていた。
喜緑さんは悪くない。削除者という役割は、長門の望みが、思念体の意向が彼女に与えたものだ。
そう頭で理解していても、心に浮かぶ猜疑を拭い去ることができない。
と、その時だった。顔のすぐ近くに気配を感じて、俺は視線を上げた。
するとそこには、間隔5cmという至近距離でこちらを睥睨する女子生徒が。
おいおい、クラスメイトにキスしてると思われたらどうするんだよ。いくらなんでも近すぎるぜ。
不機嫌そうな顔が一転、朱紅に染まる。やべ、ちょっとデリカシーがなさすぎたかも。

「あんたねー……」

条件反射的に身構える。
しかし激昂するかに思われたハルヒは腕組みし、
右手の人差し指で左の二の腕をパーカッションしながら、

「今朝からずっと何悩んでるの?
 珍しくあんたが起きてると思って横から覗き込んだら、
 授業なんて上の空で悶々としてるし、昼休みが終わって午後の授業が始まったら、
 思い出したように爆睡し始めるし、今は今でまたあの悶々顔に戻ってるし」
「別に何も悩んでねえよ。お前の思い違いだ」

俺は自分でも不自然に思えるほどの速さで即答した。

「ホント?」
「ホントにホントだっての」
「嘘っぽいわ」
「嘘っぽい根拠を言え」

口が裂けても長門の件については話せない。
ハルヒはそれから怪訝な顔で俺の疑似アルカイックスマイルを凝視していたが、
やがて聞き出すことは無理だと判断したのだろうか、

「もういいわ。時間の無駄よ」

と捨て台詞を吐いて引き下がった。
ハルヒが腰に根を生やした俺をおいて、大股で歩き出す。
俺は――

1、文芸部室に向かおう。喜緑さんと会う気にはなれない
2、生徒会室に向かおう。約束は約束だ。

>>30までに多かったの


21 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/01/27(日) 21:35:15.75 ID:Dv14IgDO



22 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2008/01/27(日) 21:35:43.04 ID:Xrof8Roo



23 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/01/27(日) 21:35:56.87 ID:WF1s012o

2

24 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2008/01/27(日) 21:36:26.06 ID:YvTm8EDO

これは2

25 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/01/27(日) 21:36:51.44 ID:Pt0MBDIo

2で

26 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/01/27(日) 21:36:54.11 ID:2jGi.Rw0

あえて1

27 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2008/01/27(日) 21:37:12.13 ID:JhOnWj6o



28 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2008/01/27(日) 21:38:01.33 ID:W.sq9FMo

2

29 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2008/01/27(日) 21:38:15.03 ID:Q1aaxWAo



30 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/01/27(日) 21:38:32.83 ID:kFzRuuc0

2


生徒会室に向かおう。保留にしていたとはいえ、喜緑さんの要望を無碍にすることはできない。
あの人が無意味な用件で俺を呼び出すとは考えがたいし、
『彼女の一人の友人としてのお願いです』という言葉も気になるしな。
もし喜緑さんが「処罰を言い渡します♪」なんて言い出したら、
その時はその時で、丁重かつ迅速に辞去すればいいだけのことだ。
俺は黄色いカチューシャに向かって投げかけた。

「あー……、所用があるから、先に行っていてくれないか」

すると絶賛不機嫌中らしいハルヒは無言でツカツカと歩を進め、
しかし教室のドアを開けたあたりでピタリと挙動を止めると、

「……どれくらい遅れるの?」
「ちょっとだけだ。多めに見積もっても20分くらい」
「何度も言うけど、今日は重大発表があるのよ。もしそれ以上遅れたら――」

分かってるさ。

「私刑、だろ?」

科白を奪われたハルヒは、しばらくそのまま硬直していたが、やがて

「そうならないように急ぎなさいよね」

とぽそぽそ呟くと、ダダッと廊下を走っていった。
さぁて、ちゃっちゃと用件を済ませて、ハルヒの重大発表とやらを拝聴するとしますかね。
綺麗に纏められた荷物を手に腰を上げる。
教室を出際、朝の時同様に

「バイバイ」

と別れの言葉が聞こえたが、俺は体の姿勢をそのままに片手を上げて返事とした。
生徒会室の門を叩いた後の第一声は何が良いだろう、
喜緑さんに普段通り接することができるだろうか――などの懸念で席巻された俺の頭では、
まともに声紋認証を働かせることができなかったからだ。

――――――――――――――――――――――――――――――

さて、それから数分後に事件は起こった。急展開である。
俺が生徒会室前に立った瞬間独りでにドアが開き、
ああまるで自動ドアのようだなと感心していると、死角から現れた黒い影に首根っこを掴まれ、
俺は拉致シーンお決まりのクロロホルム使用済みハンカチで口元を覆われることを覚悟し、

「またお前か……いい加減にしてくれ。
 これ以上うちの書記の機嫌を損ねられると俺の身がもたなくなる。
 お前らはそんなに俺の胃に穴を開けてぇのか」

ドスの利いた、それでいて哀切漂う心中吐露を聞いていた。解放される。
辺りを見渡すと、どうやら生徒会室には俺と会長の二人しかいないようだった。
あのーすみません。俺、喜緑さんに用があるんですけど。

「てめぇ、さっきの話を聞いてなかったのか!」

素の自分をさらけ出して詰め寄ってくる会長にたじろぎつつ俺は反論した。

「いきなり拉致紛いのことされてそんなこと言われても、何が何だか分かりませんよ。
 俺には喜緑さんを意図的に不機嫌にした憶えはないし、それに『お前ら』ってどういうことですか?」
「自覚がないとはお前も相当鈍感だな。
 お前らっていうのは、アレだ。ほら、あの脳内お花畑女のグループに所属してる長門有希とやらも含めてってことだ。
 あいつはここ最近頻繁にここを訪れてる。そしてその度に――」

とそこで会長はクシュン、と盛大にくしゃみをし、

「俺が山積した書類の審査やら仕分けなどの雑務を任されるというわけだ。
 やってらんねぇぜ。しかもお前の場合はもっと酷い。
 喜緑め、俺に盗み聞きのつもりがないことを知ってる癖に室外退去を命じやがって。
 おかげで俺は風邪を引いた。長門と話すときは俺の同室を認めるってのに、どういうわけだ」

さあ、俺に聞かれてもね。本年度から学年上では会長と同等になり、少し調子に乗っている俺だった。

お前らの世間話に興味はないがな、と断ってから会長は内ポケットから煙草を取り出し、

「喜緑はお前が帰った後、とても哀しそうな顔をしていた。
 それは例えば、自分のしていることが正しいのかどうか判断しかねているような――。
 俺にはそれが我慢ならん」

煙を明後日の方向に吐き出した。俺は副流煙を懸念しつつ訊いた。
昨日あなたは結局いつ屋上からの帰還を果たしたのか、という質問は自重しておくとして。

「えらく細かい比喩ですね。どうしてあなたにはそれが我慢できないんですか」
「喜緑はいつも自分の行動に確固たる自信を持っていたのに、
 それが揺らぐことによって、俺に不都合なことがたくさん起こるからだ。
 長門がここにやってくるようになってからというもの、あいつは思い悩むことが多くなり、必然的に俺の負担は倍加した。
 何故この俺があいつのために紅茶を買いに行かなくちゃならねぇんだ。
 どうして俺があいつの書記としての仕事を請け負わなくちゃならんねぇんだ。
 俺はあいつの代理人かっつーの」と会長。

俺はテンポ良く相槌を打った。

「でもあなたはそれを快く引き受けていますよね。それは何故?」
「俺が喜緑に惚れているからだ。
 もしなんとんも思ってなかったら俺は即刻こんな高校生活を放棄していたに違いねーからな」

仰天告白したことにも気づかず会長は続ける。

「初めて顔を合わせてから、もうかれこれ一年になるが……
 あれほどガードの堅い女は他にいねぇだろうな。
 愛想のいい笑み浮かべた裏で、しっかり周りの人間との距離を測ってやがる。
 大抵の女は俺がちょいと気をかけるフリをしただけで落ちるがあいつは別格だ。
 ま、それでこそ攻略のしがいがあるってもんだが――」

と、そこまで言って自分の多大な失言に気づいたのだろう。
会長は電光石火の勢いで俺の胸ぐらを掴むと、

「何言わせんだこの野郎。
 いいか、今のは虚言だ。妄語だ。絵空事だ。
 分かったなら頷け。分からないなら俺自らお前の記憶消去を手伝ってやる」

極道の方々も失禁すること請け合いの眼光で睨め付けてきた。
煙草の灯が目と鼻の先にある。俺は素直に首肯した。
本気の森さんを知った俺に恫喝は効かないが、みすみすほっぺたに火傷をもらうのも癪だからな。
後々、目聡いハルヒに言及される危険性も含めて。
すると会長は

「話を元に戻すぞ」

と言い、俺を乱暴に突き放して、

「お前らはあいつの情緒を乱す。
 役職以外の喜緑に用があるなら生徒会室の外で済ませろ。
 ただでさえ留年したという事実に懊悩している最中だというのに、これ以上心配事と厄介事のタネを増やすな」
「―――遅れてしまってすみません。先生の都合で授業が延長されてしまったんです」

まるで最初からそこにいたかのような違和感のなさで、背後から凛と声が響いた。
そういえば会長の留年理由をまだ訊いていなかったなぁ、などと悠長なことを考えてた俺は直ぐさま振り返り、
ドアの前で佇む喜緑さんを認めてからこれまたすぐに会長に視線を戻す。懸念は杞憂にすぎなかった。

「早速だが君に客人だ」

喜緑さんは俺と会長を交互に見比べて、

「わたしがいない間、会長が応接を?」
「そうだ。生徒会の在り方や今後の学校運営の希望など、建設的な意見を多く得ることができた」

あの小言のどこが建設的だったのだろう。
しかし俺の視界には、感情を露わにする哀れな留年生の代わりに
どこまでも鉄面皮な生徒会長の御姿がある。達人級の早業だった、と表現する他ない。

「さあ、彼の相手をしてやりたまえ。
 わたしは教員室に用事がある。数分で済むだろう」

会長はそう言うと、俺に一瞥をくれてから足早に生徒会室を後にした。
実に手際がいいね。ドアが閉じられる直前、喜緑さんが

「それなら後でわたしが――」

と声をかけたが、会長の耳には届かなかったらしい。
今一度生徒会室を見渡すと、静かに微笑を浮かべる喜緑さんの他には誰もいなかった。
さて、これでようやく当初の目的を果たせるわけだが。
昨夜の会話が尾を引いて躰を緊張感がかすめる。
俺が言葉を探していると、喜緑さんはその場から一歩も動かずに、

「あなたなら約束を守ってくれると信じていました。
 もし忘れられているようなら帰路で偶然を装って接触するつもりだったんですけど、要らぬ心配だったようですね」

サラリと怖いことを言い、

「昨夜の時点で詳細が決まっていたら良かったんですが――。
 あなたには今夜、何か予定がありますか?」

脳内スケジュール帳を紐解くと今日の欄は真っ白だった。俺は質問を深読みせずに答えた。

「ありませんけど」

すると喜緑さんは破顔して、

「なら大丈夫ですね。一度帰宅された後、あなたに来て欲しい場所があるんです」

どこからともなく現れた万年筆とメモ帳。
長門のマンションの部屋番号――知らない数字の並びだ――が綴られる。
紙片を受け取って再度眺めてみても、その数字に憶えはなかった。
それにしても達筆だな。俺のミミズがのたうったような文字とは大違いだ。

――って、感心している場合じゃねえ。
麗しい先輩から目的不明のまま場所だけを告げられて、
そこに何の疑いもナシにホイホイ足を運ぶのは、後先を考えない間抜け野郎のすることである。
俺は「別段意識していませんけど」といった風を装い尋ねた。

「ここで何があるんですか」
「秘密です。着いてからのお楽しみということで」

ふふ、と艶笑する喜緑さん。
秘密と言われてもな。いつもの俺なら得意のポジティブシンキングでえっちぃ妄想を膨らませるのだが、
如何せん今は長門の件と関連づけて、その言葉の裏側を洞察しようとしてしまう。
返答に窮する俺を見かねたのか、喜緑さんは

「無理強いはしません。あなたがどうしてもわたしを信用できないというのなら、無視しても結構です。
 ですが、その選択をした場合、あなたは必ず後悔することになると思います」

譲歩のようで強制を示す追撃をしかけてきた。あっさり突き崩される俺。

「分かりましたよ。でも一つだけ訊かせてください。
 その部屋がだいぶ前の事件の時みたいに局地的非侵食性融合異時空間に通じているとか
 ドアを開けた瞬間情報制御空間に飛ばされるとかの危険はないんですよね?」

プライドを保つための質問は、しかし喜緑さんにとっては予想外だったようで、

「ふふっ、面白い人。いえ、先程の言い方では誤解されても仕方ないかもしれませんね。
 訂正します。わたしはあなたに来て欲しいんです。それに、決してあなたが不愉快になるコトは起こりません」
「じゃ、今から夜を心待ちにしときますよ。
 あなたがそういうのなら、そのイベントとやらはきっとすごく楽しいんでしょうから。
 ―――で、俺が呼び出された理由はこれだけですか?」

喜緑さんは首を僅かに傾げて言った。

「ええ、これだけです」

正直拍子抜けだった。おっと、勘違いするなよ。
それは俺がマゾヒズムに開眼し、
昨日申し渡された『処罰』を心待ちにしていたからでは断じて無く、
昨夜の再現とも言うべきこの状況下で、
喜緑さんが長門の件に再び触れるのは必至だと思っていたからだ。
自然な微笑を湛える喜緑さんに対し、精一杯無表情を形作る俺。
会話に空白が生まれる。昨夜に全ての情報を呈示し終えたが故の沈黙か――?
そんな邪推をしてみたところで、俺に水を向ける勇気が残っているはずもなく。

「それじゃあ……失礼します。喜緑さんもお仕事があるでしょうし」

言いながら足を動かす。
が、俺がドアの前に立ち塞がる形で佇む喜緑さんを迂回しようとした刹那、

「待ってください」

喜緑さんが視線で俺を静止させた。そして時計も見ずに、

「今は三時過ぎです」

と言い、

「紅茶は如何ですか?
 もちろん今日はレディグレイとは違った種類のものを煎れるつもりです。
アップルシナモンも持ってきたんですよ。少しはお茶会らしくなると思って」

承諾してもらうことが前提の笑顔をこちらに向けてきた。
ここは――

1、遠慮しよう。ハルヒの重大発表とやらに間に合わないし、何より長門のことが気になる。
2、御言葉に甘えよう。俺が喜緑さんに勝手に抱いている抵抗感を、さっさと拭うためにも。

>>150までに多かったの


144 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2008/01/31(木) 21:17:04.62 ID:GL8SPqM0

1

145 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2008/01/31(木) 21:17:28.82 ID:6SX1QsYo



146 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/01/31(木) 21:18:08.06 ID:uBERH2AO



147 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/01/31(木) 21:18:38.04 ID:0jSiNYAO

2

148 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/01/31(木) 21:19:07.57 ID:bwMkjW20



149 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/01/31(木) 21:19:17.03 ID:LFShPag0



150 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2008/01/31(木) 21:19:36.27 ID:zpOUV4go

1


喜緑さんはもうすっかり俺をお茶友に認定してくれたようである。……が、しかし。
普段なら喜んで首を縦に振るところでも、今は遷延不可のタイムリミットがある。
もしここで御言葉に甘えて紅茶を一服、ゆるゆると雑談に流されてしまえば、
ハルヒの重大発表を聞き逃し、加えて昼休みに決心したコト――長門のエラー原因究明――を実行する機会が減ってしまう。
俺は心を鬼にして、

「すみません、実はハルヒのやつに――」

用件を済ませた後は迅速に文芸部室にくるように言いつけられていることを伝えた。
すると物わかりの良い喜緑さんは肩を落とし、

「そうなんですか。では、また別の機会に。わたしは放課後は大抵ここにいます」

お誘いを受けるのはやぶさかでないんですが、その度に会長を邪険に扱うのはやめてあげてください。
あの人、高慢ちきで厚顔ですけど、あなたの言葉や行動に対しては結構繊細みたいですから。
そう言いかけて口籠もった。無粋な真似はよせ、と自戒する。

「どうかしましたか?」
「いえ、何でもないっすよ。やば、もうとっくに20分すぎてる」

喜緑さんが身を引いた。俺は軽く会釈をしてから、生徒会室を後にした。

「今夜の約束、忘れないでくださいね」

廊下を出た瞬間、まるで耳元で囁きかけるように聞こえたこの言葉は……やっぱ幻聴の類じゃないんだろうな。

――――――――――――――――――――――――――――――

「遅い!」

鼓膜を突き破らんばかりの一喝。
頭蓋を右から左へ筒抜けする教師たちの怒鳴り声と違って、
ハルヒのお叱りが脱脂綿に滴下した液体の如き浸透力で髄脳に染み渡るのはどういった理屈なんだろうね。
これは毎度思うことだが、いっそ教師になればいい。

俺は愛用パイプ椅子に腰を落ち着けながら弁明した。

「まぁまぁ、そう怒るなよ。時間もほとんど間に合ってるしさ……」

しかしハルヒは団長席を立ち、俺の隣のパイプ椅子にどっかと座り込んだかと思うと、

「絶対間に合ってない!
 あたしが与えた猶予は20分だったから……」
「4分28秒52の遅刻。プランク単位での計測も必要?」と長門。
「さっすが有希ね。でも単位は秒までで十分よ」

なぁ、長門。如何に的確かつユーモア溢れる秀逸な相の手であろうと、
ハルヒには無駄な加速燃料にしかならないことくらい分かってるはずだよな?
俺は非難を籠めた視線で窓際を見遣った。口を緘した文芸部員はこちらをチラリと見ようともしなかった。
なんともはや、冷たいね。

「――さあキョン、何かあたしたちに言うことがあるんじゃないの?」

いつぞやの元気注入時のようにジーッと俺の瞳を凝視してくるハルヒ。はいはい観念しましたよ。

「俺が悪かった。今日はえーっと、その、団長様から重大発表があるのにみんなを待たせちまってさ」
「謝罪文句としてはギリギリ及第点だけど、まぁいいわ。
 団員の怠慢は団長の責任だし、これからはもっと厳しくしていかなくちゃね」

ハルヒのニマニマ笑いによって背筋を走った悪寒に堪えていると、
テーブルの上に俺の湯飲みを見つけた。中には緑茶がなみなみと注がれており、
白浪から立ち上る湯気からそれが熱々であることが分かる。
はて、長門はいつお茶を煎れてくれたんだろう。俺はとりあえず一口分を喉に流し込み、

「………なんだその高級ドッグフードを目の前に、
 美人のお姉さんに抱きかかえられて足をバタつかせているミニチュアダックスフンドを見るような目は」
「あなたは本当に直喩がお好きですね。もっと簡潔に、同情と羨望が半々の視線、と表現されてはどうでしょう」

珍しく右手でチェス駒を弄んでいない古泉に気がついた。
羨望については解せないが、同情される覚えはないぞ。
最近はとんとご無沙汰だったが、ハルヒの横暴っぷりに振り回されるのには慣れているんだ。

「ははあ、あなたは一つ勘違いしていますね。
 僕は同情の対象があなたであるとは一言も言っていません」
「ならその対象を言え」

古泉は俺の左隣と窓際を交互に見比べ、
まったく責任感の感じられない薄い笑みを浮かべると

「できません。諸所の事情でね。
 しかし僕が答えを言わずとも、消去法で考えていけば答えはすぐに出るでしょう。
 それともなんですか。その方法でさえ思い浮かばなかった、と?
 なるほど、それならあなたにも同情の余地がある」

うぜぇ。どれくらいうざいかというと、小学生時代、
無垢な俺の話題提起を「だから?」「で?」の二つで徹底的に潰してきた同級生よりもうぜぇ。
俺は古泉を睨め付けつつ、気分を落ち着けようと手でお茶を探した。
が、いつまで経っても湯飲みの感触が見当たらないので視線をズラすと、
ハルヒがごくごくと飲み干していた。やがてぷはぁ、と満足そうな溜息が漏れる。

「それじゃみんな揃ったことだし始めるわ。
 今更だけど、今日は団長であるあたしから発表があります」

演説前に喉の調節をするのはフツーだが、
どうしてこいつは自分のお茶よりも人のお茶の方から先に飲んでいくんだろうね。理解に苦しむ。
俺の心中を察することなく、ハルヒは団員の顔を眺め回して言った。

「その内一つは嬉しいことで、もう一つは楽しいことなんだけど……
 みんなはどっちから先に聞きたい?」
「どっちもほとんど一緒じゃねぇか」と正論を述べる俺。
「悩みますね。僕は涼宮さんにお任せしますよ」とフェミニスト全開の古泉。
「……………」と三点リーダでハルヒに選択を委ねた長門。

この三人の中で誰が冷ややかな視線に曝されたかは言わずもがな。
ハルヒはふむ、と考え込むフリをして、

1、楽しいことから話し始めた
2、嬉しいことから話し始めた

>>221


221 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/02/02(土) 22:37:20.21 ID:m8IXCeA0

2で


「じゃあ前者から話すわ。順序的にも話しやすいし。
 あ、でも話す前に一つだけ忠告。最後まで静かに聞くこと。
 質問は後で受け付けるわ。特にキョンは狂喜乱舞して部室の備品を壊さないように」

んなことしねぇっての。
ほら、勿体ぶらずにさっさと言え。
お前が地球外生命体とのコミュニケートに成功したとか
昨晩寝てる間にESPに覚醒したとかなら俺もそれなりに喜んでやるからさ。

「もっと現実的なことよ」

ハルヒは不敵な笑みのままに言った。

「みくるちゃんが帰国するらしいの」

へぇ、朝比奈さんが帰ってくるのか。
そりゃ確かに素直に喜べる知らせだな。お前が重大発表と銘打っただけのことも………え?
あたかも文芸部室内の空気が根こそぎ奪われ、思考が丸ごと真空状態に投げ出されたかに思われた。
朝比奈さんが今年の春で北高を卒業し、アメリカの名門大学に留学したというのは表向きの設定だ。
実際はハルヒの監視という任期を終えて、この時間平面上から元の時間平面に帰還した。
未来の時間管理局とやらがどんな組織構造かは分からないが、
今までの前例を鑑みるに、ちょっと遊びに行ってきます、みたいな理由で時間渡航することを許すとは考えがたい。
つまり朝比奈さんは、何かしらの事情を携えて"帰国"を果たしたことになる。俺はオウム返しに訊いた。

「……朝比奈さんが帰ってくる?」
「ふふん、驚きでまともに言語中枢が働いてないって顔してるわね。
 昨日の夜にみくるちゃんから電話で連絡があったの。
 急な用事で帰国することになったんだけど、もし時間に余裕ができたらあたしたちとも会えるんだそうよ」

前もって連絡してくれたら色々準備できたのにねー、と喜色満面のハルヒ。
俺はそれにちぐはぐの愛想笑いを返し、横目で残りの団員二名の様子を窺った。

長門は本を閉じてその上に両手を重ねたまま、
いつもの無表情で耳を傾けている。
ただしこちらに向けられた琥珀色の瞳だけは、
ハルヒの言葉の真偽を確かめているといった風で、いつになく透き通っていた。
テーブルの正面に視線を移すと、古泉はちょうど口元を塞いでいた右手をどけるところだった。

「あれからもう二ヶ月ですか。光陰矢の如しとはよくいったものです」

補足しておくと、古泉のいう"あれ"とは朝比奈さんのお別れパーティのことだ。
古泉は常の爽やかスマイルに深みを持たせた顔で、

「朝比奈さんのことは今でも鮮明に思い出すことが出来ます。
 いやぁ、こんなに早く再会できるなんて、今から心が躍りますね」
「でしょでしょ?」

そこでハルヒは俺の方を見て、

「キョンは照れてるのか静かだけど、古泉くんは自分の気持ちに正直で助かるわー」

それはお前が古泉の神がかった演技に騙されてるだけだろうが。
俺は黙って団長と副団長の遣り取りを眺めることにした。こういう時は口を噤んで古泉に全部任せるに限る。

「そんな古泉くんに朗報よ。みくるちゃんが時間をとれるとしたら、明日なんだって。
 良かったわね、これで心が躍り続けで過労死することもないわ」
「明日ぁ!? いくらなんでも急すぎないか」

自戒は10秒と持たなかった。

「キョンうるさい。最初にあたしが言ったこと、もう忘れちゃったの?
 質問はあとに――」
「恐縮ですが、僕も彼と同感です。
 どういった経緯で彼女が帰国したのか詳しく説明していただけないでしょうか」

僅かに真剣味を含んだ声が割り込んできた。
まったく、副団長殿のメリハリの付け方にはいつも舌を巻かされる。
ハルヒは椅子にきちんと座り直して、

「……あたしも詳しくは知らないのよ。
 なんかみくるちゃん、大学の研究の調べ物で、日本に戻らなくちゃならなくなったらしいの。
 最初は急がしくて、どうせ会えないなら連絡しないでおこうと思っていたらしいんだけど、
 明日一日だけならなんとかなるかもしれないってことになってあたしに電話してきた、ってわけ」

一気にぶちまけた。その話を非常識的単語を置き換えるとこうなる。

朝比奈さんは時間管理局(今更だがこの呼び名は便宜的なもので正式名称は知らん)の任務を帯びて、
再びこの時間平面を訪れた。最初はその任務が忙しすぎて俺たちとの再会を諦めていたが、
いろいろあって、明日一日だけなら俺たちに時間を割けるかもしれなくなった。

かなりテキトーだが間違ってはいないだろう。
複雑めの表情を一瞬のうちに笑顔に塗り直した古泉が言った。

「なるほど、研究の資料収集ですか。しかし一つ気になることが。
 情報化社会の現代、必要な情報は望めばいつでもどこでも手に入れることができるはずです。
 それなのに彼女が日本にわざわざ足を運ぶ理由とはなんなのでしょう」

ぐるり、と切れ長の双眸が意見を求めて部室を眺め回す。
ミステリアスな雰囲気が漂いつつあったが、しかし刹那後にはハルヒによって吹き飛ばされた。

「別にどうだっていいじゃない。
 あたしたちにとって大切なのは、みくるちゃんと再会できるということよ」
「まさにそのとおりでした。
 どうも僕には話題の焦点をズラしてしまう悪い癖があるようです」
「そんなことはみんなとっくに知ってる」

と、疎外気味だった俺は会話への参加を試みた。

「なぁ、ハルヒ。
 帰国経緯は脇に置いておくとして、明日はどうやって朝比奈さんを迎えるつもりなんだ。
 お別れパーティのときみたいな催しは今から準備しても間に合わないし、
 かといっていつもどおりの不思議探索に加わってもらうだけってのもお前が許さないだろ?」
「心配ご無用。ちゃーんと考えてあるわ」

チッチッチ、と人差し指を左右に振るハルヒ。

「明日は鶴屋さんちが造ったテーマパークに行こうと思うの。
 これならあたしたちが何か用意する必要はないし、いつもの不思議探索よりずっと楽しめるでしょ?
 ちなみに、重大発表の内の楽しい方がこれだったのよ」

一昨日辺り谷口らに見せられた特集記事を思い出す。
えーと、明日が正式オープンだったっけ。
お前が何も言わないから、てっきり混雑を避けてある程度ほとぼりが冷めてからかと思っていたんだが。
俺は朝比奈さんが未来から時間渡航してくることを忘れたまま訊いた。

「それ、朝比奈さんにかなりのハードスケジュールを強いることになっちまわないか。
 明日のテーマパークは滅茶苦茶混んでるだろうし、帰国した直後の体には堪えるんじゃ、」
「それもきちんと考えてあるわよ」

ハルヒはテーブルの上に投げ出した鞄から5枚の紙片を取り出して、

「これなーんだ?」
「テーマパークにお馴染みの優待チケット……に見えるな」
「ただの優待チケットじゃないわ。どんな待ち時間も一発スルーの最強チケットよ!」
「おいおい――」

そんなものを一体何処で手に入れたんだ、と問い質しかけて、
俺はSOS団最強のスポンサーを失念していたことに気づいた。
あの人のことだ、突然のハルヒの我儘にも二つ返事でOKしてくれたに違いない。
また今度お礼言わなくちゃな。

「どう? これならみくるちゃんもあたしたちも、
 ストレスフリーで快適かつ待ち時間で疲れることなくアトラクションを楽しむことができるわ」

「勿論あたしは一日中遊ぶつもりなんだけど、一応聞いとくわ。
 明日の夜に予定がある人はいるかしら? 古泉くんはどう?」
「僕は一日中空いています。
 偶然にも予備校が教員研修で臨時休業中なんですよ」

古泉は即答した後、俺にしか見えない角度で唇の端を歪めた。
何の意思表示かは分からないが、とりあえず気持ち悪いので見なかったことにする。

「有希は?」
「……問題ない。明日は一日中ひま」
「そう。それにしても古泉くんも有希も、SOS団の活動を断った試しがないわよねー。
 古泉くんはルックスもいいし性格も清涼感があって優しくて、
 有希は口数少ないけど寡黙な美少女って感じなのに……二人とも誰かと付き合ってたりしないわけ?」
「交際の申し出を受けたことは何度かありますが、
 多忙を理由に断っているうちに、すっかり女性陣から一線を引かれてしまいましてね。
 最近はバイトも減り、そろそろ伴侶を見つけてもよいと思った頃には受験生になっていました」

笑わるぜ。お前がこの一ヶ月で少なくとも5人の新入生後輩女子から告られたという情報は
北高男子ネットワークに流出済みだっての。それにお前ぐらいの頭脳なら受験なんて片手間にクリアできるだろ。
――と、俺が平凡及び平凡以下なルックスの男子生徒一同の想いを代弁しようとした、その時だった。

「恋愛関係を強要されたことはある」

寡黙な美少女と評された長門が、こいつにしては大きめの声で、
まるで誰かに自分の身の潔白を証明するかのように断言する。

「……しかしそれらは一方的なもの。わたしは例外なく断った」

―――長、門?
本日二度目の、空気の流動が停止した錯覚に囚われる。
長門が自分の被告白履歴を語るのは、そこら辺の女子が恋バナに花を咲かせるのとはわけが違う。
いちはやくフリーズ状態から回復したハルヒが訊いた。

「め、珍しいわね。
 有希がこういう話をしてくれるだなんて……。
 告ってきた男の中に、一人くらい付き合ってもいいなぁって思えるヤツはいなかったの?」

どもっているあたり、こいつもまさか長門が返事をしてくれるとは思っていなかったのだろう。
質問の仕方もかなり慎重だ。長門はフリフリかぶりを振った。
先程の発言同様にダイナミックな動きで。

「そ、それはどうしてかしら?
 も、もしかして他に好きな人がいるから?」

その質問が終わった刹那、俺を耳に全神経を集中し限界まで可聴域を広げ、
どんな呟きも聞き漏らすまいとした。正面を見ると、古泉までもがポーカーフェイスはそのままに耳を欹てていた。

「……………」

沈黙が会話に舞い降りる。
無限に続くかと思われたそれは、

「わたしは――」

しかし長門の細々とした声に破られて、

「なーんて、有希の心を射止められる男がいるわけないわよねー、あはは、はは……」

ハルヒの豪快な笑いによって覆い尽くされた。
こいつめ、よくも良いところで止めやがったな。

「マジ空気読めよ……」
「くそ、あともう少しだったのに……」

歯軋りがハモる。古泉、今ならお前と結託してやってもいいと思えるぜ。
でも――。憤慨する自分とは別に、長門の好きな人を知らなくて良かったと安堵している自分もいて。
結局は寸止めさた方が幸せだったのかもしれない。
もし長門の挙げたヤツが、どこぞの馬の骨ともしれぬ不逞の輩であったなら――
俺は数時間以内に憤死していただろうからな。

細目で長門の様子を窺うと、長門はハードカバーに没頭していた。
やはりというべきか、先程の話題を煮詰める気はハルヒの横槍によって失せてしまったらしい。

「話を戻すわ」

と、ハルヒが気を取り直して言った。
当然俺は前の二人と同様に水を向けられることを期待した。

「あたしはいつも土曜日は予定入れてないし、
 古泉くんと有希もオッケーなのよね。うん、それじゃあ明日の集合時刻だけど――」

あー、久々の感覚だね。
このまるで息をするような自然さでシカトされ蔑ろにされた時のやるせなさ。

「ちょっと待て。俺には土曜日の予定の有無を尋ねないのか?」

するとハルヒは、まるで噛み癖のある飼い犬がまさに予想通りのタイミングで噛みついてきたのを確認し、
お叱りという名の虐待を加えることに喜悦しているといった風に表情を歪ませて、

「あんたが土曜日暇なのは既定事項だから必要がないのよ。
 それに――あんたには休日を一緒に過ごす彼女なんていないでしょ?」

勝手に決めつけてんじゃねぇよ。俺は反論しようと不思議探索以外での休日の過ごし方を模索した。
しかし悲しいかな、俺が今までずっと土曜日をSOS団の活動に献上し、
また彼女と甘い休日を過ごす機会に恵まれなかったことは紛れもない事実なわけで、

「そりゃまあ、確かにお前の言うとおりなんだけどさ……」
「なら話に水を差さないでちょうだい」

俺を返り討ちにしたハルヒは、再び全体を見渡して明日の予定の詳細について語り始めた。

結局、話はそれから20分くらい続いた。ハルヒが集合時間と集合場所を宣言したのち、
やれ最新型アトラクションだの、やれ謎に包まれたディナーショーだのテーマパークについて熱弁をふるい、
しなくてもいいのに古泉が相槌をうってやったからだ。勿論そのくだりの描写は面倒なので割愛する。


「――話すことはこれくらいね。あ、今夜中に明日のことについて纏めたメール送るから」

最後にハルヒがそう締めくくりミーティングは解散と相成った。
とはいうもの、ハルヒが定位置の団長席に戻っただけで他のメンバーの位置に変わりはないんだが。

――――――――――――――――――――――――――――――

さて残す本日の主要イベントは喜緑さんに言い渡された帰宅後の約束のみとなり、
俺はそれまで焦って精神を摩耗させることもあるまいと、緑茶をちびちび呑みつつ長門を観察していた。

"そんな悠長に構えていていいのか?"

なんて厳しい意見が飛んできそうだが、まあ聞いて欲しい。
いくら最悪の未来が用意されているとはいえ、
ここで俺が自分の才量もわきまえずに先走って自爆したら元も子もない。
表向きは普段通りに過ごし、裏で長門のエラー発生原因について考察するのが、
パトロンも特殊能力もない俺ががとれる最善手なのではないか。
朝からこっち、ずっと空回りしていた俺の思考回路はいつしかそんな結論を出していた。
時間の経過や古泉からの助言、そして部室でなんの変哲もない長門を見たことが、
長門の件に関して暴走気味だった頭に、鎮静剤を投与するに値する役割を果たしてくれたらしい。

「…………………」

どこまでも起伏のない緘黙の上を、ページを捲る音が単調に奏でられていく。
今日も今日とて、指先と目線以外は微動だにしない読書スタイルを貫き通す長門。
所作に不和はなく。表情に乱れはなく。双眸が映すは整然とした文字列のみ。

一昨日の電話を初めとする長門に纏わる話が、
全て俺の空想であったのではないかと思えるくらいに窓際の少女は"いつも通り"だった。

「あなたの番ですよ」

親切心に満ちあふれた声が意識をゲーム世界に連れ戻す。

「あぁ」

俺は上の空で答え、マウスを動かしてディスプレイの中の石を摘んだ。
適当なところでドラッグを解除すると、石が位置を補正されて設置された。
自動的に石が裏返っていき、盤面は一気に黒優勢になる。
オセロがデジタル化したことに対する感動はなかった。
理由は単純、リアルからバーチャルの世界に移行したところで
古泉の弱さは不変だし、半年ほど前にコンピ研から再度強奪され、
それ以来へボい処理ばかりさせられている最新型ノートパソコンが不憫でならないからだ。

「そう来ましたか………。
 今の一手は、この試合で僕が勝利する確率を二割弱にまで落としました」

そんなややこしい確率を瞬時に計算できる割に、
何故テーブルゲームのロジックを解き明かせないのか理解に苦しむ。

「角を三つとられていますが、勝機とは自ら作り出すもの。
 さぁて、本番はここからです。これから最高の逆転劇を展開して見せますよ」

ねぇよ。この状況からどうやって勝つつもりなんだ。
俺は早期投降を促そうとしたが、それよりも早く古泉はカーソルを動かした。
石は見当違いなところに置かれて、局面に与えた影響はほとんどなかった。
俺は溜息を吐こうとした。しかし小さなポン、という電子音にそれを思い留まった。
ディスプレイの右下にチャットメニューのようなものが表示されており、メッセージが届いていた。

from:古泉
お手柔らかにお願いします^^

内容は果てしなくどうでもいいが――この機能は密談にうってつけといえる。
傍目にはオセロをしているようにしか見えないからカモフラージュもばっちりだ。

to:古泉
却下だ^^

俺は以上の通りに打ち返してから目頭を押さえた。
――さて、これからどうしたもんかね。
成すべきことは明瞭なのに、それに辿り着くのを妨害するように、
あるいはそれを暈かすかのように、不可解な出来事が散在している。
取捨選択をミスるわけにはいかない。ここは――


行動対象自由安価(部室内の人物)

>>360


360 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[] 投稿日:2008/02/06(水) 20:59:06.10 ID:ITLM.k2o

長門


やはり長門のエラーの原因解明が、何よりも優先するべき事柄だ。
再度窓際をチラ見する。長門は30秒前と寸分も姿勢を変えることなく読書に勤しんでいた。
しかしそれも、今一度考えてみれば当然のこと。
普段から情緒変化を表に出さないこいつが、
俺には自分が削除される可能性があることを、古泉には不明なエラーについてさえも悟られまいとしているのだ。
距離をとって眺めただけで手掛かりを発見できるかも、と期待する方が失礼だろう。
かくして。
俺は盤石の砦に罅を入れるに足りる話題、もしくはそれに準じるものを探し、
結果、もっとも適当であると思えるアイテムを鞄の中から見いだした。
あんまり効果はなさそうだが、まぁいつか渡そうと思っていたモノだし。
長門が喜んでくれるなら、それはそれでよしとしよう。
チャットメニューに

to:古泉
しばらく長考してろ

と打ち込み、ノータイムで急所に石を放り込んでから、

「なあ、長門。今話せるか?」

控えめに訊いてみる。すると長門は視線を文字の上に踊らせたまま、

「………少しならいい」
「すまん、読書の邪魔しちまって。
 ところでさ、俺の記憶が正しければ――お前の今読んでるその本は、この前図書館で借りたやつだよな?」
「そう」

指差す俺を見ようともせずに、コクリと首肯した。
俺はどこか台本を読んでいるような作業感を感じつつも続けた。

「もう読み終わりそうに見えるが」
「……………」
「どうだ、それは読書家のお前から見ておもしろかったか?」
「……わりと」

長門の受け答えがいつにも増して無機質に感じられるのは俺だけではないはずだ。
……ただの思い違いだといいんだが。俺は若干の寂しさを胸に立ち上がり、

「それなら俺の足労も無駄じゃなかったってことか。
 良かった良かった。実はその本の続編、つい最近図書館で見つけてさ――」

窓際のパイプ椅子に歩み寄って、

「ちょうどいいと思って借りてきたんだ。
 読み終わったら俺に返してくれればいい」

ほらよ、と本を差し出した。
ここに来て初めて面を上げた長門が、本と俺の胸当りを交互に見比べる。
表情に揺らぎはない。しかし――これは決して思い上がっているわじゃないんだが、
気紛れに開く隻眼が、長門の無表情が無感動とは違う、
むしろ相反する感情がせめぎ合っているが故の表情だと告げていた。
カーディガンに半分覆われた手が、すっと伸ばされる。

その時だった。

まるで計っていたかのようなタイミングで、一陣の春風が窓から吹き込んでくる。
そしてそいつはそのまま、長門の本の頁をメチャクチャにしようとして、

「危ねー。あとちょっと遅かったらどこまで読んだかわかんなくなってたな」

頁を押さえつける、大きさの異なる二つの手にそれを阻まれた。
手の甲から伝わる長門の手の平の感触が心地よい。あぁ、まるで子猫の肉球みたいだ。
俺は瞬間的に加速した思考でそんなことを考えていたが、理性が追いつくのにそう時間はかからなかった。
俺は何だ? 平々凡々の一般人だ。
目の前の少女は何だ? 対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェースだ。
ならどうして、俺は長門よりも早く春風の悪戯に気づくことができた?
俺には予知能力なんて便利な力はないし、ハルヒのような超人的な反射神経も持ち合わせていない。
まったくもってわけがわからん。説明しろと言われても、無意識の内に体が動いたとしか――

誰に状況説明を求められているというわけでもないのに、
弁解の科白を口の中でもぐもぐしながら視線を上げる。絶句した。
夜深の闇を凝縮し、その上に星を幾つかちりばめたような瞳が目の前にある。

「―――あ」

次の刹那、俺は自分の口から飛び出る言葉の奔流を、
理性を総動員して封さつしなければならなかった。
俺はこの"長門"を知っている。忘れるはずがねぇ。
二年前に改変された別世界で――長門はごくごく普通の、寡黙な文芸部員として生きていた。
その長門は俺が良く知る長門よりも少しだけ情緒豊かで、感情表現は苦手だったけれども、
誰にでも分かるような反応を示してくれた。
そう、例えば……羞恥に頬を染めたり、目の焦点を適当なところで固定して、周囲に気を払っていないフリをしたり。
そして今現在俺が懐かしさのあまり放心しているのは、まさにその例を、眼前の長門が再現しているからである。
ほんのりと色づいた頬、春風が吹く前に何か言いかけてそのままの唇、
抑えた頁の反対側の文字を頑なに映す双眸……
俺は屈み込んだまま、下から覗き込むように長門を観察した。
何か長門らしからぬ反応を期待したものの、

「………もう大丈夫。手をどけて」

いつもの半分くらいの声量が、耳に、延いては脳梁に追憶を促す。
手をどけて? お前さ、それお願いする前にすることあるだろ。
まず"お前の手"からどけてくれ。じゃなきゃ俺の手が脱出できん。

「うかつ」

堅い言葉とは裏腹に、優しく手がスライドされる。
俺は言い表しようのない名残惜しさに歯噛みしつつ体を起こした。
レアなんてレベルじゃない。こんな長門は、余程上手くファクターが組み合わさらない限り相対することができないだろう。



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