のび太「ドラえもん、僕を未来の果てに連れて行ってくれ」 1 名前: ◆X8KlsgV1bEbb [] 投稿日:2013/02/08(金) 20:32:59.55 ID:gwMbi0L50 くだらない人生だ。 勉強もろくにできない、ましてや運動すらできない。 食って、飲んで、寝る。 食って、飲んで、寝る。 食って、飲んで、寝る。 「えっと、当然のことだろうけど、君の産まれた未来では僕は既に死んでいるっていうことだよね?」 「そりゃそうだよ」 餡子のたっぷり入ったおやつのどら焼きを頬張りながら青い狸の形相をしたロボットは言う。 しかし、今の僕にとっては、彼がロボットであるという認識は随分と遠のいていた。 いまとなっては僕にとって彼は、親友とも呼べる存在にまで変化していたのだから。 僕が小学生の時、遠い未来から来た、そのロボット、ドラえもんは中学生になった今も尚、僕の目の前にいる。 2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/02/08(金) 20:34:31.84 ID:gwMbi0L50 のび太「そうだよね・・・じゃあ、なんで僕は今、生きているの?」 ドラえもん「どういうことだい?」 のび太「いや、なんか上手く言えないんだけど・・・こう、君の世界では死んでいるはずの僕が、また別の君の世界じゃ生きているっていう・・・」 ドラえもん「例えば、そこにある目覚まし時計が壊れたとしたら、君は壊れる前の目覚まし時計と壊れた後の目覚まし時計を知っていることになる。そういうことじゃないか?」 のび太「うーん、そ、そうなのかなあ・・・」 中学三年にもなって、丸眼鏡をかけて、おかっぱのままの僕は最近になって度々このような疑問と質問を抱えるようになった。 相変わらず成績もよくないせいで現実逃避しているのか、それともちょっずつ考える力がついてきたせいか。 窓の外は橙に染まり始めていた。 ドラえもん「そんなことよりのび太君!勉強をしっかりしないと、しずちゃんと同じ高校へは行けないぞ」 のび太「無理無理、僕が幾ら勉強した所でしずちゃんと同じ高校へなんて進学できないよ」 投げやりな所は相変わらずだ。 5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/02/08(金) 20:38:12.51 ID:gwMbi0L50 いつなっても鳴りやまない目覚ましを背に、いつもなら眠り続ける僕だったが、その日はなぜか素直に起き上がることができた。 のび太「ん・・・今日は珍しくちゃんと起きれたな」 いつもなら開かないはずの瞼もどうやら今日はしっかりと開いている。 頭もなんだか冴えている感じがしている、彼なりに。 ドラえもん「ん。今日は珍しくしっかり起きているようだね、朝ごはんできたよ」 階段をあがってきたドラえもんが言う。 のび太「今、いくよ」 ドラえもん「朝ごはんって言っても、たかだかトーストだけどな」 のび太「いってきまーす」 「いってらっしゃい、のびちゃん」 走らなくたって始業時間には間に合うはずなのに、何故か僕は走った。 なにかが僕を走らせた。 きっと理由もないんだろうけど。 しずか「あら、のび太さん、今日は遅刻じゃないのね」 そのおかげあってか、登校中のしずちゃんと出会うことができた。 6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/02/08(金) 20:40:22.73 ID:gwMbi0L50 のび太「僕がいつも遅刻している風に言わないでよ」 しずか「いつも遅刻してるじゃない。遅刻は悪いことよ」 のび太「ごめん」 出会いがしらの意中の女性に説教をされている自分が惨めに思えた。 やっぱり僕の日常はだいたいこんな感じで、いいことはなかなかない。 悪いことがあれば、いいことがあるっていうけど、僕はなかなかそれを実感しない。 しずか「私ね、目指す高校のランクを一つ上げようと思っているの」 のび太「えっと・・・もうひとつ上って女子高しかないよね?」 しずか「そう、女子高」 のび太「そっか、がんばってよ」 内心ショックだった。そりゃ当たり前だ。 仮にも、僕に学力がついたらしずちゃんと同じ高校へいけたかもしれないけれど。 女子高じゃ、僕がのび子とでも名前を変えて、いや、性も変えて、でもしないと一緒には通えない。 しずか「のび太さん、勉強して私と同じ高校に来るって言ってくれてたから・・・」 のび太「気にしないでよ、僕なんかじゃ行けないから。しずかちゃんが行きたい所に行けばいい」 しずか「でも、これでも私信じてるのよ。のび太さんがもしかしたら私の行く高校と同じ所に来てくれるかも、って」 なんでこんな事を言われているのか、さっぱり分からなかった。 しかし、なにか胸に疼くものがあったのは確かだった。 7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/02/08(金) 20:42:00.52 ID:gwMbi0L50 学校では生物の授業が行われ、教師は面倒くさそうに教科書をつらつらと読んでいた。 僕は、その教師よりも面倒くさそうに、でも、なんとなく耳だけを傾けながら窓の外を眺めていた。 ふと教師の言葉が鼓膜から思考回路へ侵入してくる。 どうやら遺伝の話をしているようだ。 「まあ、つまり・・・人間というのはプログラムされているようなもんなんだが・・・先生はいつも思うんだよ」 黒板に雑に書かれた二重螺旋が描かれたチョークの痕をぼんやりと眺める。 8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/02/08(金) 20:45:20.98 ID:gwMbi0L50 「宇宙が生まれて、地球が生まれて、人類が誕生して、遺伝子がずっと受け継がれて君達にもそのほんの一部が必ず宿っているんだ」 僕は少し耳を傾ける。 「不思議じゃあないか。ずっとだ、ずっと絶えることなく受け継がれてきたんだぞ?」 誰もその問いには答えようとしない。 ただ、心なしか少しずつみんなが話を聞き始めている気がした。 「そして、また不思議であり、怖いのが、人類はどこへ進むのか、ということだな」 「永遠という言葉ほど恐ろしく神秘的なものはない」 10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/02/08(金) 20:50:23.88 ID:gwMbi0L50 僕は駆けていった。 朝の登校時より早く。 足の遅い僕が早く、早く、と家路を急いだ。 のび太「ただいまッ!」 ドラえもん「おかえり。ママなら買い物だよ」 のび太「ドラえもん、真剣な話があるんだ」 ドラえもん「なんだい?」 のび太「僕を未来の果てに連れて行ってくれ」 ドラえもん「ハァ?」 のび太「終わりだ、終焉だ。世界の終わりに僕を連れて行ってくれ」 少しだけその場の空気が冷たい静寂に包まれるのが分かった。 13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/02/08(金) 20:55:15.08 ID:gwMbi0L50 ドラえもん「おいおい、突然どうしたんだい。勉強しなよ」 のび太「違うんだ、だっておかしい・・・おかしくはないかも知れないけど、おかしいじゃないか!」 ドラえもん「なにがだい?」 のび太「僕に終わりがあるように、君に終わりがあるように、地球に終わりがあるように、世界にだって終わりがあるんだ」 ドラえもん「なるほど」 のび太「そして、また何事もなかったように、何かが始まるかもしれないけど、とにかく終わりは来るはずなんだ」 僕は話を続けた。 ドラえもんはいつだって僕の話を聞いてくれる。 そんな心強いパートナーに僕の一抹の不安を打ち明けた。 14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/02/08(金) 20:57:23.43 ID:gwMbi0L50 感情の赴くままに僕は語る。 胸に渦巻く不安を取り払うように。 しかし目の前に未来から来た人間がいるという“異常さ”に僕の頭はますますおかしくなりそうだった。 のび太「だって人類は進歩するんだ。完成された未来へ向かうために1%から2%に、それが何れ10%にそして90%になるだろう?」 ドラえもん「そうだね」 のび太「そしたら、いつかはなにもかもが、人類としての完成された形、つまり100%、完全な社会になるって考えてもいいんじゃないか?」 ドラえもん「そうかもしれないね。まあ、でも君の云う完成形ってのは誰も知らないわけだから、曖昧な話だ」 のび太「まてまて、話はここから。で、君のタイムマシンってあるだろう?」 ドラえもん「あるよ」 18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/02/08(金) 21:02:55.28 ID:gwMbi0L50 のび太「それで未来の果てまで行けたなら、“進歩した今”が見れるわけだから“進歩した今”を現在に持って来れたら“進歩した今”へと移り変わる。つまり、すべての現在が“進歩した今”になるってことじゃないか」 ドラえもん「ああ、なるほどね。そういうことが言いたいわけか」 のび太「未来の技術をすべて過去へ持って来れたら、人類としての進歩は終わってしまう」 ドラえもん「ほおほお」 のび太「それなのに何故君は生きているんだ。なにを求めて人類は生きているんだ?っていうかわざわざ過去に来るなよ!未来にいけよ!何か問題があるなら、必要なものがあるなら、タイムマシンで未来に行けば、すべてが手に入るじゃないか!」 ドラえもんは暢気にお茶を啜っている。 こんなの、おかしいじゃないか。 のび太「なあ、ドラえもん、終焉を見せてくれ。そこになにがあるんだ?」 19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/02/08(金) 21:06:26.70 ID:gwMbi0L50 一呼吸おいて、ドラえもんはいつにも増した真剣な目つきで僕の感情に応えた。 ドラえもん「そうだな、まず・・・その考えはあながち間違いじゃない、ということだけ言っておくよ」 のび太「うん」 ドラえもん「僕もそう思う。タイムマシンができた以上、現在で問題になっていることはいずれ未来で解決している。もしくは破綻して再生が始まる」 ドラえもん「だったらタイムマシンで未来に行けば、すぐ解決する。求める技術、思想、計画がすべて手に入る」 のび太「未来の最果ての技術をすべて手に入れたら、現在もまた未来の最果てとなり、それ以上・・・それ以降はもう、やることがない」 ドラえもん「その通りだな」 22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/02/08(金) 21:10:22.22 ID:gwMbi0L50 ごはんよーという声が一階から聞こえる。 いつの間にかママが帰ってきて、尚、夕飯も作り上げてしまったようだ。 美味しそうなデミグラスソースの匂いがする。 ハンバーグかオムライスか、そんな事を考えた。 ドラえもん「けどね、未来の果てに行くことは政府が禁じているんだ。僕には行き方すら分からない。ルートを知らない」 のび太「・・・」 ドラえもん「はじまりも然り、だ」 のび太「そんな政府のルールなんて知るもんか!行けばいいじゃないか!」 ドラえもん「無茶言うなよ。見つかったら僕は、その場で粉々だ」 「それに・・・」と付けたしドラえもんは言った。 ドラえもん「僕だって知るのが怖いのさ。すべてを終わりを」 23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/02/08(金) 21:14:17.62 ID:gwMbi0L50 美味い。このデミグラスシチューは美味い。 予想外だったけど、美味い。 「のびちゃん、勉強の調子はどう?」 のび太「え、ええ・・・まあまあだよ」 ドラえもん「変な事ばっかり考えて勉強なんかしてないよ」 「あら。応援してるからね」 のび太「ありがとう」 シチューを食べ終えて、僕はドラえもんの手をひいて二階に上がろうとした。 するとドラえもんは面倒くさそうな顔をして僕の方を見た。 ドラえもん「なんだよ、僕はサザエさんが見たいのに」 のび太「未来でも過去でも行って見てこいよ」 ドラえもん「まーだ、そんなこと言ってるのか。飽きないねえ、君は」 のび太「おかしいじゃないか!未来にも過去にも自由にいけるヤツがこれから始まるアニメが見たい!?どうかしてるぜ!」 ドラえもん「もう止めよう、考えたって無理だ。君にも僕にもいつか終わりは来る。それだけだよ」 のび太「だったら死ぬまで足掻いてやりたい、僕はそういう人間だ」 ドラえもん「そんなヤツだったか?その気を受験勉強にまわしてくれよまったく」 24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/02/08(金) 21:17:13.31 ID:gwMbi0L50 のび太「タイムマシン、借りるよ」 ドラえもん「君の操縦の仕方じゃ、行けないとこにも行けないだろ。ついていってやるよ」 のび太「・・・ありがとう」 ドラえもんも同じ疑問を抱いているからだろう、僕のわがままに今回は従ってくれた。 最近は秘密道具もあまり貸してくれなくなったドラえもんだけに少し嬉しかった。 ドラえもん「ただ、このタイムマシンは一定の過去と未来にしか行けない」 のび太「道が塞がっているっていうこと?」 ドラえもん「簡単に言えばそうだけど、そういうんじゃない」 のび太「?」 ドラえもん「円環になっているんだよ。このタイムマシンの在る世界は」 のび太「ふむふむ」 ドラえもん「だから、未来の果てとか、過去の果てとか言ったってそれがどこかも分からないし、少なくとも理論上は存在しない」 のび太「言っている意味が、まったく分からない」 ドラえもん「僕も分からないが、それ以上は考えない様にプログラムされている気もするんだ」 僕は大きなため息をついた。 25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/02/08(金) 21:22:06.99 ID:gwMbi0L50 タイムマシンで時空をふらふらとドライブしながら僕らは会話した。 のび太「つまり、宇宙とか、なんていうんだろう。時間、そう時間だ。時間も円環になってるってことかな?」 ドラえもん「そうかもしれないね。だから終焉に近付いた未来の先では、また始まりに戻るんじゃないかな」 のび太「なんとなく、それは分かった。つまり未来の果てっていうのは過去の始まりに繋がってるのかな」 ドラえもん「そうかもしれない。ま、それだったらタイムマシンが完成した時点で総てが崩壊しても変じゃないんだけど、作る時に誰かが何かを考えた・・・いや、仕組んだんだろね、おかげ僕と君は繋がっている」 のび太「じゃあ、もともとの始まりはどこにあったんだ?無から有へ変わる瞬間」 ドラえもん「止めよう。僕は分からない。ほら、どんなにタイムマシンで走っても、終わりとか始まりとか、なさそうにないだろう?」 確かにそうだった。 タイムマシンで一時間程ドライブしているつもりだが、景色は変わらない。 なんだか感覚が麻痺してきた。 ドラえもん「こんなこと言うのはあれだけど」 「僕が生きているのも君が生きているのも、ただの偶然で、ただの本能で、それ以上の事を考えるのは無意味なのかもしれない」 28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/02/08(金) 21:26:08.85 ID:gwMbi0L50 その夜、僕は中々眠れなかった。 怖かった。 僕が生きていることは、生きているなんて大それたことじゃなくて、将棋の駒ですら意味を持ってそこにあるというのに、それ以下なのか。 最後に全部終わってしまうのか。 次の日、僕は目覚めた。 その日は寝起きが悪かった。 案の定、遅刻だった。 しずか「また、遅刻か」 のび太「うん」 しずか「そんなんで私と同じ高校なんか行けるの?」 のび太「・・・」 しずか「ごめん。私、のび太さんとは同じ高校には行けない。女子高へ行きます」 30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/02/08(金) 21:28:18.77 ID:gwMbi0L50 ずっしりと胸に重いものがのしかかった。 のび太「なに言ってるんだよ。僕ら、付き合ってるわけでもなんでもないじゃないか。遠慮することない」 しずか「遠慮するわ。のび太さんには分からないかもしれないけど」 彼女が呑み込んだ言葉がなんだか分からなかった。 しずか「なんで、なんで、のび太さんは努力しないの!」 のび太「ど、努力はしてるよ」 しずか「本当に?私、いつも見てるよ。ここ最近の授業だっていつも上の空じゃない!」 しずちゃんが突然怒り出した理由がまったく分からない。 どうせ死んだらみんな一緒なのに、なにを必死になっているんだ。 君と僕が同じ高校へ行こうが、行かなかろうが、未来の人類にとっちゃなんの意味もない、ましてや宇宙にとっては。 しずか「私はあなたが私と同じ高校に行くって言葉、信じてた」 のび太「ごめん」 しずか「・・・頭冷やしてくるわ」 31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/02/08(金) 21:33:24.32 ID:gwMbi0L50 その日、家に帰るとドラえもんが待っていた。 ドラえもん「突然だけど、僕は帰ることにしたよ」 のび太「え、ええっ!?」 ドラえもん「驚いたかい?大丈夫、君の事が嫌いになったわけじゃない」 のび太「まてまてまてまてまて。ちょっと待ってくれ。いや、本当にちょっと待ってくれ」 僕は頭を冷やそうと深呼吸を繰り返した。 すると、ドラえもんはそっとその理由を僕に告げた。 ドラえもん「君が昨日僕に投げかけた疑問を追い求めたいんだ」 34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/02/08(金) 21:38:16.18 ID:gwMbi0L50 ドラえもん「君が昨日僕に投げかけた疑問を追い求めたいんだ」 のび太「そ、そうかい・・・じゃあ、そのうち帰ってくるんだね」 ドラえもん「たぶんね、君のダメっぷりは相変わらずだけど、そんなことはどうでもいいんだ」 のび太「どうでもいいって・・・まあ、ドラえもんはドラえもんの生きたいように生きたらいいけど」 ドラえもん「どうでもいいってそういう意味じゃないぞ」 カタカタと風が窓を叩く音がする。 いつだったか見た日と同じ夕焼けが僕の部屋をオレンジに染める。 子供達の笑い声が外から聞こえた。 ドラえもん「僕はこれからの君を信じている、君ならきっと上手くやっていける。だから、しばらくサヨナラするんだ」 40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/02/08(金) 21:45:12.67 ID:gwMbi0L50 ドラえもんの説明によると、ドラえもんの考えるタイムマシン、四次元世界の仕組みはこうだった。 円環になっている、という説は確かにそうかもしれないが、その円環の中にもいくつも枝分かれしているルートがある。 そのいくつかのルート、というのは、つまり平行世界(パラレルワールド)のことらしい。 僕が明日死ぬ世界、生きる世界、しずちゃんにフラれる世界、フラられない世界、地震が起きる世界、起きない世界。 そういういくつもの可能性が並行して枝分かれしている。 しかし、それは最終的に円環となっている、というのが未来の考え方らしい。 41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/02/08(金) 21:47:07.64 ID:gwMbi0L50 また、そのいくつもの平行世界、時間軸には、区切りがついているらしい。 「映画のフィルムってあるだろう?あれは1:00とか1:30とか時間でコマ切りになっているの、分かるかい?ああいう風に、四次元世界の時間軸も区切り、言い換えれば境界線があるんだ」 ドラえもんはそう言った。 その時間軸の境界に、ロックがかけられている場所がいくつかあるらしい。 それをドラえもんは知っていた。 つまりそのロックをなんとか潜り抜けていけば、世界の果てに辿りつくのではないのかと。 僕らの想像する終焉に。 44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/02/08(金) 21:51:14.59 ID:gwMbi0L50 ああ、信じるとか、信じないとか、いったいなんなんだよ。 結局、人生なんて在って無かったようなもんなんだぞ。 最初から何も無かったようなもんなら、なにしたって無駄じゃないか。 ドラえもん「何度も言うが、君はいま受験生だ。目の前にやるべきことがある」 のび太「でも」 ドラえもん「でも、じゃない。やれ、とにかく目の前にあることをやれ」 のび太「・・・」 ドラえもん「勉強だけじゃない。恋愛だってそうだ。君はいつもしずちゃんに甘えてばかりだ。突き放された今も、どうでもいいと思っているだろ?」 そう思うと、僕の胸はぎゅっと何かに鷲掴みにされて、いますぐ向かいたい場所が心に浮かんだ。 行かなくちゃ。 僕は部屋を飛び出した。 「ひょっとしたら人生ってそういうもんかもしれない。じゃあね、また会える日まで」 45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/02/08(金) 21:52:09.97 ID:gwMbi0L50 その瞬間は、そう思っていた。 本能に騙された、と言ってもいいだろう。 人を思う感情、好き、という感情こそが、すべてなのだと。 もうそれ以上は要らないと、思っていた。 しかし、思っていたより夢から覚めるのは早かった。 49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/02/08(金) 21:55:27.08 ID:gwMbi0L50 夢から覚めたのは、しずちゃんと付き合いだして3年が経ったころ、同じ高校へいき大学受験へと準備を進めていた頃だった。 別に愛がくだらないものだとは思わないけれど、彼女の抱く幻想にも飽き始めていた。 そして、帰ってこないアイツのことを思った。 しずか「ねえ、どうして最近相手してくれないの?」 のび太「いい加減、僕らも大学受験に向けて準備した方がいい」 しずか「じゃあ、私、のび太さんと同じ大学へ行くわ」 のび太「そうか。僕は量子力学を学びに行きたいんだ」 しずか「それってどこの大学・・・?」 のび太「××大だよ」 しずか「・・・わかったわ、私もそこへ行く」 それからは、とにかく勉学に没頭する日々が続いた。 高校受験の時、あの時は、しずちゃんのレベルに合わせる為に一生懸命勉強したから、勉強そのものは苦痛ではなかった。 それに自ら抱く死への恐怖と比べたら、勉強は容易なものだった。 そんな中、アイツが帰ってきた。 50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/02/08(金) 21:59:07.40 ID:gwMbi0L50 「やあ、久しぶりだね」 「随分と帰ってくるのが早かったんだね」 夕食を食べ終え、机に向かってしばらく勉強を続けた後、休憩時、床に寝転がって漫画を読んでいた時だった。 アイツが、いや、彼が、ドラえもんが机の引き出しから飛び出してきた。 僕はたいして驚きもせず、かといって喜びの表情も見せず、冷静に対応した。 ドラえもん「少しは喜んでくれてもいいと思うんだけど」 53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/02/08(金) 22:02:54.03 ID:gwMbi0L50 のび太「もちろん、嬉しい。が、それ以上に君が帰ってきた結果が怖いのさ」 冷静に対応しているつもりであったが、脈拍は上がっていた。 ドラえもん「君はさっき“帰ってくるのが早かった”と言ったが、タイムマシンの存在を忘れたのかい?」 のび太「ああ、そうだったね。君が100年旅をしていようが、僕が小学生の頃に帰ることだってできたか」 54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/02/08(金) 22:07:06.74 ID:gwMbi0L50 ドラえもん「そういうことさ。ただ君が、夢から覚めるまでの猶予を考えてここに来た。どうやらタイミングはばっちりだったようだね」 のび太「ああ。しずちゃんは今でも好きだが、かといって僕は恋愛に生きて、恋愛に死ぬ気はさらさらないなと思ったよ」 ドラえもん「はは、面白いことを言うね。いずれ子供も作る癖に」 のび太「かといってそういう幸せに甘んじて、自らの死を納得させたくないのさ」 世間話はこれぐらいにしよう、さあ、結論を聞かせてくれ、と僕は言った。 ドラえもん「結論か・・・まあ、簡単に言えば、世界の終焉はなさそうだ」 のび太「はあ!?」 思わず大きな声が出てしまった。 ドラえもん「がっかりさせる結果で申し訳ないが、僕だって万能なロボットじゃない。できることと、できないことがある」 60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/02/08(金) 22:18:49.44 ID:gwMbi0L50 のび太「なにができて、なにができなかったのか、説明してくれ」 ドラえもん「う〜ん、簡単に言えるようなことじゃないんだけど、少なくともロックのかかった平行世界へ向かうことはできたんだ」 ドラえもんの話によると、時間軸ごとにロックのかけられた枝分かれした平行世界をいくつか進んでいくことはなんとかできた。 しかし、その枝分かれしている方向が果たして世の最果てかどうか?というのはドラえもん自身にも分からず、闇雲に進んでいくことしかできなかった。 ただ一つ言えるのは、ロックがかかっている道ほど、重要な未来、禁じられた未来への道であることは間違いがない、ということだ。 その結果、ドラえもんは世界の終焉を見た、という。 ドラえもん「なにが起きていたのか、正直言葉にはできないが、そこは人類の終焉だった」 のび太「じゃあ、そこが終焉なんじゃないか」 ドラえもん「君は馬鹿になったのか!?僕らが探しているのは、人類の終焉じゃない、技術、未来としての“最果て”だ。確かに、例えば核戦争で終焉を迎えた人類だってそう簡単にはいけないが、問題はそこじゃない」 のび太「たしかに僕らが人類のいなくなった未来を見たところでどうしようもないか」 ドラえもん「そういうことだ。僕らが見たいのは、そういう数々の問題をクリアして、辿りつく人類の完成形だ」 ドラえもん「しかし、どこへ行っても、人類は中途半端だった!中途半端な技術を持ったまま人類は終焉を迎えた!」 ドラえもん「あっちの平行世界では電話がやたらと発達しているが満員電車に乗るいまの窮屈な交通手段のまま、こっちの世界では交通手段が発達しているが電話の技術はストップする、どれもがバランスよく技術の発展する未来へはなかなか辿りつけない」 65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/02/08(金) 22:27:05.98 ID:gwMbi0L50 のび太「確かに人為的な何かで壊滅的状況に陥った未来を知っても、それは僕らにとって予防や対策にしかならないからな」 ドラえもん「僕らが抱いている疑問は、最果ての未来を知った時、現在は最果てになるのか?じゃあ、現在が最果てとなった時、時代はどう進むのか、ということだ」 ドラえもん「その癖、人類は完成形に近づくこともなく、争いを起こしたりなんだりで、勝手に終わってしまった。そしてまた始まる」 のび太「うん、そうだね。満足する人類の未来へ行くことは容易ではないんだね」 ドラえもん「そこで僕はひとつの答えを出したよ」 のび太「ああ、僕も、なんとなくわかってしまったよ」 僕らは最果てには決して辿りつけない。 69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/02/08(金) 22:33:28.56 ID:gwMbi0L50 ドラえもん「平行世界が枝分かれしていくつも終焉に向かっている以上、どのルートがどこまで続いているか、というのは僕らには分からない」 ドラえもん「そして、人類が終焉を迎えるときはいつだって、突然だ。決して技術の進化が、これ以上なく止まって、終わる、ということはないんだ」 のび太「僕も似た様なことを考えていた。僕らがどんな風に進化しても、技術が終焉を迎える前に、人類が終焉を迎えてしまうんじゃないか、って」 ドラえもん「たぶん、人間は技術の終焉を求めるよりも前に、命の永遠、言い換えれば思考の永遠を求めるはずだ」 どんなに生活が便利になることよりも、いずれ僕らは死んでしまう。 なら、永遠の思考や命を手に入れる方が手っ取り早い、技術の進歩なんて、その後で考えればいい。 だから、人間の進化の行く末は・・・。 ドラえもんは一呼吸置いてから、彼なりの結論を述べた。 「つまり、ロックがかかっているずっと向こう側で待ってるのは、ただ終焉を待つだけの永遠の思考の世界だと思っている」 73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/02/08(金) 22:40:29.79 ID:gwMbi0L50 ドラえもん「それが仮想の世界でなのか、いま僕らが生きているような形で生き続けられるのかは知らないけどね」 のび太「そこへ、連れていってくれ」 ドラえもん「もしかしたら僕がその型なのかもしれないよ?僕は半永続的に生きることができる。そういう永遠の思考を手にした人類が、娯楽として、こうやって余生を過ごしているのかもしれない。しかし、それ以上を考えない様にプログラムされてね」 のび太「おいおい、つまり最終的には人類は考える力を持たずにただただ娯楽として生き続けるってこと?」 ドラえもん「そうじゃない世界もあるだろう。だから、僕はそれを探しに行こうかと思っていた」 ドラえもん「しかし、まさか、君から「連れていってくれ」なんて答えが出るとは。永遠は、すなわち死と同意であるから、別れを言うつもりで来た、という方が正しいか」 のび太「君だけに行かせるわけにはいかない」 ドラえもん「まあ、君が仮に僕に巻き込まれ死んでも、巻き込まれ死なない君も平行して生きるわけだから」 のび太「果たして人類の終焉とは、思考の永遠であるのか、そうかどうか、確かめに行こうじゃないか」 75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/02/08(金) 22:41:46.89 ID:gwMbi0L50 __     ̄ ̄ ̄二二ニ=- '''''""" ̄ ̄            -=ニニニニ=-                           /⌒ヽ   _,,-''"                        _  ,(^ω^ ) ,-''";  ;,                          / ,_O_,,-''"'; ', :' ;; ;,'                      (.゙ー'''", ;,; ' ; ;;  ':  ,'                    _,,-','", ;: ' ; :, ': ,:    :'  ┼ヽ  -|r‐、. レ |                 _,,-','", ;: ' ; :, ': ,:    :'     d⌒) ./| _ノ  __ノ 82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/02/08(金) 22:48:17.87 ID:gwMbi0L50 オチがないんで納得いかない点も多々あると思いますが つきあってくれた人、読んでくれた人、読んでくれる人 ありがとうございました!! 2chという場なので、あえて自分なりの考えだけ書いて決定的な結末は用意せず終わりにしました