キョン「そうか、あれからもう10年も経つのか 1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/04/07(土) 02:33:12.72 ID:XwJG8KmA0 ――起きなさい、キョン。  聞き覚えのある声が耳に届く。俺は目を開ける。 「おお、ハルヒか。おはよう」 「………………………………」 ハルヒは何も喋らずに、俯いている。 「どうしたんだ?ハルヒ」そう呼びかけるとハルヒは俺に 笑顔を向けてきた。屈託の無い笑みに俺の顔がほんのり紅潮した。 「おはよう、キョン。また後でね」 そういってハルヒは俺を残して、後姿を見せつけながら走っていった。 4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/04/07(土) 02:33:57.70 ID:XwJG8KmA0 ○ 目を開けるとじわっと嫌な汗が吹き出た。 夏だというのに律儀にも布団をしっかり被っていた。足で 私はそれを蹴っ飛ばした。 喉が酷く渇いている。確か冷蔵庫に麦茶があったはずだ。 自室を後にして冷蔵庫のある一階に降りた。 佐々木「おはようございます。大分汗をかいているようですね」 キョン「ああ、何か懐かしい夢を見ていたようでな。魘されていたのかも しれない」 佐々木「懐かしい……夢。まあ昼食でもとりながらゆっくり聞かせて下さい」 キョン「は?もしかして今昼か?」 7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/04/07(土) 02:34:20.98 ID:XwJG8KmA0 佐々木「そうですよ。あまりにも貴方が起きるのが遅いから」 キョン「そうか……あ、麦茶をくれ」 佐々木「はいはい。テーブルに座って待ってて下さい。持っていきますから」 キョン「至急、頼む。死にそうだ」 妻が持ってきた麦茶を一瞬で飲み干す。起きたばかりなので 喉に不快な感覚が訪れる。唾のせいだ。 13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/04/07(土) 02:38:56.04 ID:XwJG8KmA0 佐々木「ごめんなさい、今日はまだ買い物に行ってないの。素麺でいいかしら」 キョン「ああ、構わんよ。腹が空いて死にそうだ」 程なくして素麺が食卓に並んだ。並んだと言うほどあるわけでもないが。 文句もない、素麺をずるずると啜る。 佐々木「そういえば、さっきの夢って?」 キョン「…………ああ、夢、夢な。ええっと……」 すっかり忘れていた。 18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/04/07(土) 02:48:14.80 ID:XwJG8KmA0 ミスった。 キョン「えっと……誰かが話しかけてくるんだ。起きろって」 佐々木「はあ」 キョン「それで、あの、あれだ。走っていく」 佐々木「どうにも要領を得ませんね、『誰かが』の部分を教えてください」 19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/04/07(土) 02:48:30.10 ID:XwJG8KmA0 キョン「……誰かが、女の子だったな。どうにも名前が思い出せない」 佐々木「ふうん、何歳くらいでした?」 キョン「背丈はそうだな、中学生か高校生ぐらいだったはずだ。何歳かは はっきりと分からん」 佐々木「昔の同級生ってことは?」 キョン「……ああ、ああ!北高の制服だった」 佐々木「じゃあ長門さんや朝比奈さんかもしれませんね」 21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/04/07(土) 02:51:39.70 ID:XwJG8KmA0 その台詞を聞いた私は妙に変な感覚に陥った。 何かが欠けている。決定的な何かが。 キョン「違う、朝比奈さんや長門ではないんだよ……多分」 佐々木「じゃあ鶴屋さんですかね」 キョン「それも違う……」 ――だとしたらあいつしかいない。 だがあいつとは誰だ?皆目検討もつかない。 佐々木「じゃあ――――」 24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/04/07(土) 02:57:06.32 ID:XwJG8KmA0 佐々木「私には分かりかねますね……」 どきっとした。もしかしたら教えてくれるんじゃないかと思った。 しかし、その人物の名は出てこない。 残念という気持ちと、そして何故かほっとした気持ちになった。 佐々木「食べ終えたので、先に片付けますね。これから夕飯の買い物に 行ってきます」 キョン「……ん、ああ。行ってきなさい。私は今日は少し友人の家に尋ねようかと思う。夕飯は遅くなるようであれば先に食べててくれ」 佐々木「待ってますよ、では行ってきます」 25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/04/07(土) 03:00:52.84 ID:XwJG8KmA0 行ってらっしゃい、と妻を見送る。 素麺はすっかりのびてしまっていてあまりおいしくなかった。 啜り終えると私も出かける支度をした。 一体夢の正体は何だったのだろうか。 それはもう分からない。ただ、突き止めなければならない気がしている。 頭を悩ませながら私は家を後にした。 26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/04/07(土) 03:06:17.12 ID:XwJG8KmA0 ○ 高校生からの付き合いである坂道を上る。汗がポタポタと落ちる。 溶けてなくなってしまいそうなほどだ。 上りきったところでこれもまた高校生からの付き合いである友人の家に着く。 家のチャイムを鳴らすとインターホンから陽気な声が聞こえてくる。 鶴屋『はいはいっ、誰でしょう――ってキョン君!?今開けるから待ってて!』 ドアが開いて入ると待っていたのは陽気な声の主ではなかった。 国木田「やあキョン。久しぶりだね」 28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/04/07(土) 03:10:45.25 ID:XwJG8KmA0 国木田「あがるかい?麦茶ぐらいなら出すよ」 キョン「ああ、助かる。外はまるで砂漠のようでな。まいっちまった」 玄関をあがりお邪魔させてもらう。中は広い。 国木田「鶴屋、キョンに麦茶をだしてやってくれ」 鶴屋「はいはい、今持ってくよっ!」 キョン「こんにちわ、鶴屋さん。久々ですね」 鶴屋「うんうんっ!ほんとだね!といっても数ヶ月くらいだったかな?」 30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/04/07(土) 03:14:44.43 ID:XwJG8KmA0 キョン「あれ?そうだったかな……まあ久々であることには変わりないですよ」 国木田「会う度に話が長引くからね、キョンは。会う度の密度が濃くて久々に感じ ないんじゃないかな」 キョン「そうかもな。下らない話ばかりだが」 国木田「おいおい、それはないんじゃないの?で、今日は何の用だい」 キョン「今更だが、お前は世界の不思議について記事を色々書いているだろ」 国木田「ああ、まあね。高校生の時鶴屋の屋敷にあったものに興味が湧いてね。 それからどっぷり嵌ったさ」 32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/04/07(土) 03:19:00.78 ID:XwJG8KmA0 キョン「そこでだ。夢に関して何か知ってる事はないか?」 国木田「……夢?専門外だ。例えばどういう夢だ」 キョン「急に高校生の頃の同級生の夢をみたんだよ。だが私はそいつが 誰だか思い出せなくて困っているんだ」 国木田「ふうん。その人物、何かするのに思い出すのが必要なのか?」 キョン「あ、いや、それがどうにも分からない。はっきりしないが思い出さないと まずい気がするってだけだ」 33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/04/07(土) 03:23:37.89 ID:XwJG8KmA0 国木田「なんだそれは。要領を得ないぞ」 キョン「今朝、というか昼に妻にも話したがそう言われてしまったな」 国木田「夢とは違うが妖怪の話ぐらいなら」 キョン「妖怪?今日はお前のカルト話に乗る気分じゃないんだよなあ」 国木田「そうじゃない、君の夢に関係しそうな妖怪だ。大体妖怪なんて 実際は居ない。問題が起きたら脳が勘違いしているか何かしらが原因なんだよ。 その原因が分からないので妖怪に例えているんだ」 キョン「脳関係はさっぱりだぞ私は。まあいい、とりあえず聞かせてくれ」 34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/04/07(土) 03:27:35.87 ID:XwJG8KmA0 国木田「とりあえず聞きたいことがある。君は昨日何をしたか覚えているかな?」 キョン「昨日……昨日、か」 そんなものすぐ思い出せる、と思った。ところが一ミリも思い浮かばない。 これはどういうことだろうか。 いつ寝たのかすら覚えていない。 キョン「すまん、分からん。どうやら昨日は余程疲れていたらしい」 国木田「……ふうん、そうかい。じゃあ一昨日、さらに前、思い出せる日を 言ってみな」 35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/04/07(土) 03:32:35.77 ID:XwJG8KmA0 一昨日、一昨日は……?三日前、四日前…………。 ?????????????????? ??? ??? ??? ?????? ??? キョン「く、国木田?今日は何月何日だ?今日は……三年生だよな……?」 国木田「落ち着け。今日は8月の末だよ。三年生?分からん。とりあえず はっきりしたね」 妙に落ち着いてる国木田を見ていると気味が悪い。 36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/04/07(土) 03:38:53.79 ID:XwJG8KmA0 国木田「突然の記憶障害がある。それだけははっきりとしているね。そして 謎の夢だ同級生の夢。靄がかかっていてただの夢なのに気になる。どうにも関係が ないとは言い難いね」 キョン「――――分かるのか、お前には」 国木田「まさか。全く分からない。あ、そういえば妖怪、妖怪の話だったね」 キョン「今はんなもんどうでもいいだろ!」 国木田「いやいや、そう怒るなよ。焦る気持ちは分かるよ。記憶がないんだもの。 だけど君は人物については記憶が妙にはっきりしているよね」 37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/04/07(土) 03:45:39.29 ID:XwJG8KmA0 確かにそうだ。私の妻は同級生の佐々木だ。 そしてここにいるのは国木田、私の中学からの親友。 そしてその妻の鶴屋さん。 国木田「人物だけがはっきりしていることから分かる事は生きてる世界線が 変わってしまったんじゃないかということだ」 キョン「どういうことだ?」 国木田「今僕達の居る世界をbとしよう。君が居た世界をaとする。君はなんらかが 原因でaの世界からbの世界に来てしまった、ということだ。僕は君がただ単に記憶障害を起こしただけだと思ってるけどね」 39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/04/07(土) 03:51:00.76 ID:XwJG8KmA0 キョン「そんな馬鹿なことがこの世にあるか。後者のがまだマシだぜ」 国木田「僕もそう思うよ。しかし敢えて現象に名を付けるなら枕返しなんて妖怪が ぴったりだね。ああ、冗談だよ勿論。居るわけないし」 キョン「全くもって笑えない冗談だな。……つーかどうすりゃいいんだよ。 妖怪にしろ、病気にしろ、何かしないといかんな」 国木田「まずは病院からだと思うよ。妖怪なんて後々」 当然の意見だった。 国木田「そうだ、君にピッタリな医者を知っているよ。今名刺を持ってくる」 41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/04/07(土) 03:58:25.48 ID:XwJG8KmA0 そう言うと国木田はすぐ傍にあった棚を漁り出した。 終いには鶴屋さんを呼び付け、大捜索。 私はなんだか恥ずかしくなってきた。 20歳……歳すら分からない。重症だこりゃ。 探している間私のほうは記憶を漁る。 正確には漁る事すらできなかった。頭が痛い。 日付や暦に関してはお手上げ。漁る事自体、記憶がないので出来なかった。 問題は人物のほうだった。漁れば漁るほど覚えがない。 なかでも一番驚いてゾクッとしたことがある。 ――結婚した覚えがない。これが恐ろしい。 私が…………私が、俺が、俺が知っている妻……いや、佐々木は。 42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/04/07(土) 04:03:28.07 ID:XwJG8KmA0 国木田「おうい、おうい。何ぼうっとしてるんだよ。見つかったぞ。ちょっと 折れてるけど文字は読めるだろ」 呼ばれてハッとした。考えるのを俺はやめた。……うん?いや、私は。 キョン「……あ、ああ。ありがたい。今日は帰るよ。なんだかどっと 疲れた。明日には病院を尋ねてくるよ」 国木田「そうかい。治ったらまた来なよ」 キョン「ん、ああ、そうする」 玄関で二人に礼をして、私は家を後にした。……うん?いや、俺は。 43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/04/07(土) 04:11:30.67 ID:XwJG8KmA0 やばい眠い疲れた 続きまた書くわ寝る起きたら書くよ スレあったら途中から書くけど多分落ちるからまたスレ立てるね とりあえず乙