キョン「コーヒー飲むと甘いチョコが食べたくなるな」 1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/03/14(水) 18:17:39.03 ID:Xi578nDv0 長門は言った。 (長門「バレンタインデーが、どのようなイベントかわからなかったため調べてみた」) ということは、手作りのチョコがどんな意味を持つのか、理解していたはずだ。 わざわざカカオ豆から作る程のチョコ。 鈍感だと言われる俺でも、込められた気持ちに気が付いてしまった。 だが特に返事を求められたわけでもないし、後々ほじくり返すこともないだろう。 バレンタインデー翌日、俺は昨日のことを、そんな風に楽観視していた。 2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/03/14(水) 18:19:41.96 ID:Xi578nDv0 前編 長門「甘いチョコレートにはコーヒーが良い」 http://logsoku.com/thread/hayabusa.2ch.net/news4vip/1329223121/ (http://www.vipss.net/haruhi/1329223121.html) 5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/03/14(水) 18:23:16.13 ID:Xi578nDv0 教室で昼飯を食いながら、昨日の出来事を国木田と谷口に話したわけだが。 国木田「ありえない、それはありえないよキョン」 谷口「最低だ。あの長門有希がキョンに惚れてること、キョンの鈍感が度を越していたこと、ダブルで最低だ」 そんなに俺はダメか。 国木田「長門さんの気持ちを何だと思ってるの、キョン?」 国木田「キョンが受け容れようが拒否しようが僕には関係ないけど、返事を返さないなんて最低だよ」 キョン「だが待てよ。直接告白されたわけでもない、俺の単なる勘違いかもしれんのだぞ」 国木田「勘違いかどうかは関係ないよ」 国木田「彼女を悲しませるか、キョンが恥をかくかだよ」 谷口「そうだぞキョン、今がチャンスだ、あの日の放課後のように押し倒せ」 キョン「谷口が最低なことと、国木田が男前なことは分かった」 6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/03/14(水) 18:26:28.56 ID:Xi578nDv0 それから1ヶ月、明日はホワイトデー。 1ヶ月前のジョークにボケで返すことになるのか。 それとも……。 いまだ、俺の中で答えが出てこない。 いや、もう答えは出てる。 だがしかし……。 7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/03/14(水) 18:30:14.13 ID:Xi578nDv0 あの日のあいつのセリフの真意に気がついてから。 あの日までの俺たちの関係は少しだけ、少しだけ変わった。 8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/03/14(水) 18:33:35.39 ID:Xi578nDv0 ある日の放課後、文芸部室。 キョン「よ、よぉ長門、元気……か?」 長門「……そこそこ」 キョン「そ、そうか、まぁその、風邪とか、そういうのには気を付けろよ」 長門「……地球上の身体的な病気に関しては問題ない」 キョン「……!精神的には問題があるってことか!?またバグとか……!」 長門「……停滞と進展を同時に望む私がいる。ただし、バグではない」 長門「言葉では上手く説明ができない。論理的な理解をすることは不可能」 キョン「……?要するに俺ではどうしようもないってことか?」 キョン「俺にできることがあったら何でも言えよ?」 長門「……」 長門はそれまで読んでいた本に視線を落とした。 10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/03/14(水) 18:36:30.78 ID:Xi578nDv0 長門にはいつも世話になっている。 俺たちが出会う3年前から、すでに世話になっている。 ややこしい話だが、あいつにとってはそのはずだ。 出会ってからいろんなことがあった。 ハルヒのせいで事件が起こるたび、長門がなんとかしてくれた。 長門がいなければ今頃は、世界が崩壊していたかもしれん。 世界が崩壊とは言い過ぎかもしれないが、少なくとも俺の命は危うかっただろうな。 事件のたびにバグを溜め、年末には暴走までしてしまった。 あの暴走は、長門の望んだ世界の一部だった。 あの世界の文芸部室で出会ったあいつは、この世界のあいつとは違う。 だが、バレンタインデーのあいつを考えれば、別世界のあいつのことも少しだけ、わかる。 11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/03/14(水) 18:40:17.12 ID:Xi578nDv0 長門は、暴走前から、俺のことを……? いやいや、そもそも、そうと決まったわけじゃない。 だが実際そうだったら俺はどうしたらいい? 古泉も、朝比奈さんも、俺のことをハルヒに取って必要だと思っている。 俺が長門と親密な関係になったとき、ハルヒはどういう態度を取るんだろうか……。 などと寄り道だらけの考え事をしていると。 13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/03/14(水) 18:43:17.05 ID:Xi578nDv0 キョン「あぁもう、めんどくせーな!」 つい口に出てしまうわけだ。 教師「悪かったな面倒な授業で。放課後、職員室にこい」 キョン「すんません……」 やれやれだ。 ハルヒ「馬鹿」 言われんでもわかってる。 14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/03/14(水) 18:47:13.97 ID:Xi578nDv0 放課後の文芸部室。 職員室で有難い説教を右から左へ聞き流しつつ、この2人に相談することを決めた。 何やら用事があるとかで、諸悪の根源はさっさとお帰りになっていたし。 何か問題でも発生したのか、それとも気を利かせてくれたのか、長門もいなかった。 とにかく好都合だ。 キョン「古泉、朝比奈さん、ちょっと話が」 古泉「ふぅ、前日にしてようやく僕たちの出番ですか」 朝比奈「待ちくたびれましたね」 キョン「なんだ、2人ともわかってたのか」 古泉「えぇ、あなたの態度は非常にわかりやすいですからね」 16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/03/14(水) 18:52:34.79 ID:Xi578nDv0 古泉「ホワイトデー目前といえば、というお悩みです」 古泉「まぁ、もうちょっと早い方が良かったとは思いますが」 朝比奈「お返しのプレゼントで悩んでるんですよね?」 朝比奈「私はそのへんのスーパーに売ってるお菓子で構いません」 キョン「……」 古泉「僕もそれで……おや、違ったようですね」 一度腹にくくったものを出しそこねると、もう一度言い出すときになぜか勇気がいる。 知らなかったぜ。 だが誰かに相談しないと、俺にはもう答えが出せないんだ。 キョン「実はな……」 17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/03/14(水) 18:55:54.18 ID:Xi578nDv0 俺はバレンタインデーの出来事を2人に話した。 古泉は驚く素振りを見せつつも余裕の表情で話を聞き。 朝比奈さんは顔を赤くして俯いて聞いていた。 答えをどう出すべきか悩んでいること。 どの答えが正解なのかがわからないこと。 そもそも、長門の言葉と態度に対する俺の解釈が正しいのか。 18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/03/14(水) 18:59:00.19 ID:Xi578nDv0 朝比奈「返事を先延ばししすぎです!もっと早く相談してもらえたら……」 古泉「そうですね、彼女があまりにも可哀想です」 そうか、俺の解釈は間違っていなかったんだな。 キョン「それで、機関と未来人の考える最適解を聞きたいわけだ」 朝比奈「……!」 朝比奈「キョンくんは、それを聞いてどうするつもりですか?」 朝比奈さんが、真顔だ。 19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/03/14(水) 19:01:55.03 ID:Xi578nDv0 朝比奈「もしも私たちが否定すれば、キョンくんは長門さんを拒否するんですか?」 朝比奈「もしも私たちが賛成すれば、キョンくんは長門さんを受け入れるんですか?」 キョン「あの、朝比奈さん、ちょっと落ち着いてください」 古泉「いえ、朝比奈さんが言いたいことは僕にもわかります」 古泉「あなたは、涼宮さんが起こす事件に度々巻き込まれました」 古泉「おそらくこれからもそうでしょう」 古泉「それに加えて、僕や朝比奈さんの仕事にも巻き込まれる」 古泉「年末にはついに長門さんの暴走にも巻き込まれました」 古泉、何が言いたい。 20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/03/14(水) 19:05:50.90 ID:Xi578nDv0 古泉「あなたは、人のせいにしたいんですよね?」 古泉「自分で選択するのが怖いから」 古泉「結果を見るのが怖いから」 古泉「責任から逃れたいんですよね?」 責任か……。 古泉「時々こぼしていたじゃないですか」 古泉「普通の高校生らしい生活がしたいと」 古泉「いいじゃないですか、長門さん」 古泉「魅力的な方だと思いますよ?少々無愛想ですが」 21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/03/14(水) 19:09:12.96 ID:Xi578nDv0 そうだったな。 またハルヒか、ハルヒのせいで、ハルヒのせいだ。 いつもそうやって考えていたな。 朝比奈「私たちは、いつだってあなたに押し付けてしまいます」 朝比奈「私たちも一応、責任を感じているんです」 朝比奈「だから、今回はキョンくんが望むようにして欲しいと思います」 古泉「その結果、巨大な閉鎖空間が発生したとしても、まぁ森さんがなんとかしてくれるでしょう」 古泉「長門さんにも借りがありますし、たまにはあなたのお好きなようにしてください」 古泉、それじゃお前の借りは返せてないぞ。 古泉「色々と言ってしまいましたが、こんな所が僕の本音です」 22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/03/14(水) 19:11:59.94 ID:Xi578nDv0 古泉「いつぞやの放課後のように、今回は教室ではなくこの部室で、彼女を抱き寄せてみてはいかがですか?」 朝比奈「あ、その話、私も聞きました」 朝比奈「意外とキョンくんも手が早いんですよね」 ちょっと待て。 何か見えない悪意の存在を感じる。 どこで聞いたんだ2人とも。 古泉「野球大会に参加した際に、あなたのご友人から」 朝比奈「鶴屋さん経由で」 この殺意はおそらく気のせいではあるまい。 23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/03/14(水) 19:16:23.91 ID:Xi578nDv0 相談が終わったことを感じ取ると、自然と帰宅する流れになった。 古泉は人を待たせているとかで学校内で、朝比奈さんとは駅で別れた。 俺はあの日のお礼を買うために、少し電車に揺られる。 ホワイトデーのプレゼント自体は、実はバレンタインデーにすでに決めていた。 長門に貰ったチョコを食べながらコーヒーを飲んでいるときに、ふと思いついたんだ。 とはいえ種類が豊富過ぎてどれが良いものかわからない。 長門のように原料から用意するような知識も技術もない。 こんな時はプロに頼るしかないだろう。 24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/03/14(水) 19:20:05.22 ID:Xi578nDv0 そんな訳で数分電車に揺られた俺は、とある高級デパートにたどり着く。 地下1階、デパ地下というやつだ。 正直言って高校生には関係ない場所だと思っていたが、案外そうでもないらしい。 佐々木「やぁ、キョン。こんな所で君に出くわすとはね」 目の前の友人が一般的な高校生と仮定した場合の話だが。 佐々木「いきなり失礼だな。僕はこれでもかなり一般的な高校生のつもりなんだが」 一般的な高校生はコーヒー豆とにらめっこしないだろう。 佐々木「くつくつ、コーヒー豆は笑わないよ」 佐々木「それより、君がコーヒーに興味を示した事に驚きだ」 26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/03/14(水) 19:24:01.31 ID:Xi578nDv0 佐々木「なるほど、バレンタインのお返しに、ね」 良い案だと思ったんだ。 佐々木「あぁ、僕もそう思うよ。キョンらしくない、素敵なプレゼントだ」 刺々しいな。 佐々木「小さな嫉妬心だ、気にしないでくれ」 佐々木「もし良かったら、そのプレゼント選び、僕に手伝わせてくれないか」 キョン「悪いな。時間が掛かりそうだが、いいのか?」 佐々木「なに、自分の分を選ぶのとそう手間は変わらないさ」 28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/03/14(水) 19:26:50.83 ID:Xi578nDv0 プロに頼るつもりではあったが、初対面のプロよりも親友の方が頼りになる。 信頼度の違いだ。 佐々木「甘いチョコレートに合わせるなら……この辺かな」 キョン「違いがさっぱりわからん」 キョン「産地でそんなに変わるもんなのか?」 佐々木「大違いさ。生育状況でも変わってくる」 佐々木「もちろん、焙煎具合でも変わるから、組み合わせは無限大だ」 そんなの趣味にしたら一生楽しめそうだな。 佐々木「あぁ、僕もそう思う。なかなか良い趣味だろう」 皮肉ったつもりなんだがな。 29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/03/14(水) 19:31:38.20 ID:Xi578nDv0 よくよく考えてみれば、豆だけを用意してもコーヒーは飲めない。 結局その場で佐々木に見立ててもらい、必要な道具も購入した。 さすがにミルまで買えるような懐事情でもないので、コーヒー豆は挽いてもらった。 キョン「今日はありがとな」 キョン「豆選びどころか淹れ方まで教わっちまったな」 佐々木「君と長門さんのためだ。僕の知識と技術が役に立つなら、いくらでも付き合うさ」 キョン「そのうち何かで借りは返す」 佐々木「くつくつ、期待しているよ」 佐々木は本当にいいやつだ。 なぜ俺なんかと仲良くしてくれるのか、不思議なくらいに。 佐々木「それじゃ、またその内に」 キョン「あぁ、またな」 俺たちは地元の駅で別れ、それぞれの帰路についた。 30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/03/14(水) 19:35:22.80 ID:Xi578nDv0 翌朝。 つまり、ホワイトデー当日。 歩き慣れた坂道を登っている。 心拍数が上がっているのは、おそらく坂道のせいだけではないだろう。 谷口「よ、キョン!返事思いついたか!?」 顔面を思い切り殴りたい衝動を必死で抑えこみ、完全無視を決め込む。 今日は一切こいつとは口をきかん。 谷口「なんだよ、連れねーなぁ……」 32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/03/14(水) 19:40:35.60 ID:Xi578nDv0 教室の定位置、自分の席にかばんを置いて一息付いていると国木田が話しかけてきた。 国木田「キョン、覚悟は決めたのかい?」 お陰様でな。 国木田「その選択が間違いではないことを祈るよ」 国木田「たとえそれが間違いでも、必ずキョンの成長につながるはずだしね」 キョン「お前、達観してんな……」 谷口「人生の余裕だろ。国木田この間からなんか仲の良い子がいるとか……」 キョン「なんだと!?」 びっくりしすぎて思わず谷口に口をきいてしまった。 33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/03/14(水) 19:44:11.85 ID:Xi578nDv0 国木田「あはは、実はね、キョン」 国木田「バレンタインに、お気に入りの彼にチョコをプレゼントしたんだ」 国木田「そしたら彼がとっても喜んでくれて……それで……」 国木田「昨日もね、放課後に手をつないで一緒に……」 あーあーあー。 聞きたくない。 もう聞きたくない。 回れ右してあっち行け変態。 妙に長門の味方すると思ったらそういうことだったのか。 34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/03/14(水) 19:48:28.35 ID:Xi578nDv0 ハルヒ「おはようキョン」 キョン「あぁおはよ……って何だそのでかい風呂敷は」 キョン「また部室に物を増やすつもりか?」 ハルヒ「馬鹿ねー。ホワイトデーのプレゼントに決まってるじゃない」 ハルヒ「これは鶴屋さんに貰ったチョコのお礼。中身は秘密よ」 中身よりもピンク色の生地に鮮やかな青い小さい花が大量に刺繍されたその風呂敷の方が気になるがな。 ハルヒ「うるさいわね、人のプレゼントに文句つける気?」 その風呂敷もプレゼントの一部なのかよ。 手作りだったらセンスを疑うぜ。 あ、もしかして昨日早く帰ってたのはこれのせいか。 ハルヒ「そうなのよ、花が107個だったのがやっぱり気持ち悪くて最後に1個足したのよ」 知らん。 35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/03/14(水) 19:55:08.18 ID:Xi578nDv0 午前中の授業は全部寝た。 期末試験が終わってからの授業は教師側も割とラフだ。 とりあえず静かにしていれば何も言われない。 当然、午後の授業もすべて寝た。 朝の国木田やハルヒとのやり取りのおかげで、気持ちはだいぶ落ち着いていた。 36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/03/14(水) 19:59:05.65 ID:Xi578nDv0 放課後、文芸部室。 のドアの前。 プレゼントは持ってきている。 忘れ物はない。 言いたいことはきちんと整理してある。 HRをサボって来ているから、邪魔も入らない。 深呼吸を2回して呼吸を整え、3回ドアを叩く。 が、返事がない。 もう3回ドアをノックし、ドアを開いて中の様子を見る。 37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/03/14(水) 20:03:17.90 ID:Xi578nDv0 いない。 当然だ。 HRをサボったのは俺だ。 長門はきちんと授業に出ているし、HRにも参加している。 良いことだ。 悪いのは俺だ。 仕方ない、ハルヒが帰るまで、待つしかないか。 38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/03/14(水) 20:06:39.70 ID:Xi578nDv0 定位置に座り、溜息をつく。 安堵の溜息だ。 こんなに緊張したのはいつ以来だ。 うるさい足音と声が聞こえる。 朝比奈さんと、ハルヒだ。 ハルヒ「だからね、みくるちゃん……」 朝比奈「えーそうなんですか?」 もう面倒くさいから俺は寝たふりだ。 机に突っ伏す。 39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/03/14(水) 20:10:46.46 ID:Xi578nDv0 ハルヒ「あらキョン、帰ったんじゃなかったのね」 ハルヒ「HRサボって部室で居眠りとはいい度胸だけど、今日は許してあげるわ」 朝比奈「でも着替えるからさっさと出てってくれませんか?」 俺は寝てるんです。 ハルヒ「……」 朝比奈「……」 キョン「おはようございます、出ますね」 俺が空気に耐えられなかった。 40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/03/14(水) 20:14:37.79 ID:Xi578nDv0 いつものメイド服姿の朝比奈さんだな。 エプロンの柄がデジャヴしてるがきっと気のせいだろう。 あんな悪趣味な柄に見覚えはない。 小さな花が煩悩の数だけ刺繍されていそうだが、きっと気のせいだ。 ハルヒは満足気な顔をしているし、朝比奈さんもいつもどおり困惑している。 古泉の笑顔が若干ひきつっているのもいつもどおりだ。 長門がいないことだけが、俺を不安にさせた。 41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/03/14(水) 20:19:58.23 ID:Xi578nDv0 ハルヒ「ふぅ……。たっぷり堪能したし、今日は帰るわ!またあしたね!」 何を堪能したのかさっぱりだったがとにかく解散だ。 古泉と朝比奈さんは長門のことを気にしているらしかった。 古泉「長門さんには返事を?」 キョン「まだだ。今日ここでするつもりだった」 朝比奈「今日も来なかったですね、長門さん……」 何かあったんだろうか。 心配になった俺は、とにかく帰り支度を済ますと長門のマンションへ向かった。 43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/03/14(水) 20:25:05.00 ID:Xi578nDv0 マンションのロビー。 長門の部屋を呼び出すと、繋がったようだ。 すぐに扉が開く。 エレベーターを待つのもまどろっこしく、階段を駆け上がる。 そして。 長門の部屋の前。 さっき部室の前に立ったときと同じように、鼓動が強く、速くなるのを感じた。 深呼吸で気持ちを整え、呼び鈴を……。 45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/03/14(水) 20:30:14.76 ID:Xi578nDv0 押す前にドアが開いた。 無言でドアを開いた長門と目が合う。 長門「……」 口を開こうとするのだが、なぜか開かない。 開いたはいいが、言葉が出てこない。 昨日の夜、枕相手に何度も練習したじゃないか。 46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/03/14(水) 20:34:31.78 ID:Xi578nDv0 そのときは突然来た。 ドアを支えていた長門がドアを手離し。 倒れこむように、俺に抱きついてきた。 キョン「な、長門!?大丈夫か!?」 長門「大丈夫。だけど、大丈夫じゃない」 長門「……もうちょっと、このままで」 47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/03/14(水) 20:37:37.05 ID:Xi578nDv0 それからどれほどの時間をそうしていただろうか。 かなり長かったような気はするが、廊下を誰も通りかからなかったのは長門の力だろうか。 しばらくたってから長門から解放された俺は、部屋に招き入れられた。 長門「お茶を入れてくる」 キョン「いや、ちょっとまってくれ」 長門「……わかった」 もう、俺の腹は決まった。 さっきので完全に心は固まった。 長門、お前の、あの日の言葉、あの日の行動。 すべてを俺なりに解釈した返事だ。 49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/03/14(水) 20:41:53.17 ID:Xi578nDv0 昨日買ったコーヒーを淹れ、話をした。 長くいろんな話をした。 長門の想いと覚悟について。 長門も、親玉からの命令と自分の想いの間でどうしたら良いのかわからなくなっていた。 そんな中知ってしまったバレンタインデーというイベントの意味。 一度踏み出してしまったら、そこから自我が抑えられなくなったそうだ。 ホワイトデーが近づくにつれ、抑制が効かなくなり、学校も休むことに。 通りで最近部室にいなかったわけだ。 長門「あなたは、こうして私のところへ来てくれた」 長門「あなたを見た瞬間、私は理解した」 長門「これはバグではなく進化、心の底から」 長門「私は、あなたを……」 50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/03/14(水) 20:45:10.52 ID:Xi578nDv0 キョン「ダメだ、長門」 それは、俺の口から言わせてくれ。 分の悪い賭けかもな。 あいつがこのことを知ったらどういうことになるやら…。 だがこれが俺の選択なんだ。 キョン「ありがとう、長門」 キョン「俺は、長門が……」 52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/03/14(水) 20:49:11.65 ID:Xi578nDv0 三学期最終日、ハルヒは目立った事件を起こしていない。 気がついていないということはないだろう。 古泉や朝比奈さんが上手いこと言いくるめてくれたんだろうか。 2人揃ってにやけ面で腹立たしいのが唯一の弊害か。 国木田も幸せそうだ。 時折財布の中に忍ばせた写真を見てにやけているが、その写真のイケメンに見覚えがありすぎてこれからの態度に困る。 谷口はこれからも一生シングルでいてくれ。 谷口「俺やっぱ涼宮でいいわ」 ハルヒ「そこの焼却炉で焼死してくれたら考えてもてもいいわよ?」 幽霊ならとりあえず誰でもいいってことだな。 53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/03/14(水) 20:52:28.65 ID:Xi578nDv0 放課後、長門の部屋。 あの日以来、SOS団の活動から解放されると毎日、俺は長門の部屋に来る。 そしていつものように俺がコーヒーを淹れ、まったりと2人の時間を過ごす。 長門「美味しい、ありがとう」 そう言って読みかけの本を読み始めるのもいつもの長門だ。 あの日にコーヒーを持って行って以来、長門はコーヒーに興味があるようだ。 たまに佐々木と一緒に3人で買いに行くこともある。 部屋には佐々木と長門が選んだミルまで置いてある。 ドイツの、刃が、豆が、とあれこれ説明されたが俺にはわからん。 こだわりと自己満足の世界であるということはなんとなく理解した。 54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/03/14(水) 20:55:16.34 ID:Xi578nDv0 キョン「なぁ、長門」 長門「何?」 キョン「コーヒー飲むと甘いチョコが食べたくなるな」 長門「それは、お菓子?それとも私?」 キョン「何言ってんだ長門……」 長門「ジョーク」 心臓が止まりそうな冗談を言うようになった長門も、案外悪くない。 キョン「なぁ、またチョコ作ってくれよ」 長門「わかった」 長門「なら、もう一度コーヒーを淹れて欲しい」 あぁ、もちろん淹れるさ。 濃いめ砂糖抜きミルク入りでな。 55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/03/14(水) 20:56:04.13 ID:Xi578nDv0 おわり 61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/03/14(水) 21:23:50.22 ID:Xi578nDv0 戻ってみたらレスついてんじゃねーか 前後編どっちもレス少なくて寂しかった 本当のクソスレには荒らしも湧かないってことを理解したわ