ハルヒ「私がやるわよ!」長門「どうぞどうぞ」 1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/02/20(月) 05:35:45.60 ID:pndlCu8FO 「あなたには無理。彼が命を落とすことになる」  そう言うと、長門は俺のベルトに手をかけた。  ハルヒの思い付きでキャンプに訪れた孤島で相も変わらぬ不思議探索に出るはめになった。くじ引きでハルヒと長門と 俺がジャングル探検の第一陣に決まった。にやけた超能力者と可憐な未来人を残して行くことには心穏やかでなかったが 、いざとなれば駆けつけますよ、と胸に呟いてしぶしぶ出発した。  ジャングルと呼ぶにはささやかな茂みに分け入って五分、股間に切り込むような痛みに俺はうずくまった。 9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/20(月) 05:49:28.34 ID:pndlCu8FO  色の薄いチノパンの股間にうっすらと血が滲んでいる。何が起こっているのか分からないまま、俺が呆然としていると、 茂みに視線を走らせた長門が、直立に近い姿勢のまま右に飛んだ。次の瞬間には手に赤い蛇を持ち上げていた。 「アマゾンアカクサリヘビ。神経毒と出血毒を持ち、神経毒の一部は心臓毒として働く」  長門は、口をほとんど開けず早口に言った。  神経毒、出血毒、心臓毒。俺、どうなっちまうんだ。最初焼けるように熱かった股間が、今度は冷たく痺れ始めていた。 12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/20(月) 06:01:49.68 ID:pndlCu8FO 「ちょっと有希!どういうこと?心臓毒って。キョン、キョン!!」 「神経毒は文字通り神経を破壊して、全身麻痺で死に至る。特に心臓毒は血流によって心臓に運ばれ、 洞を麻痺させ拍動を停止させる。言わば、即効性の猛毒。成人男性は平均十分で死亡する」  表情ひとつ変えず、この宇宙人は俺に死の宣告をしたって訳だ。長門の透き通った肌が俺の視野の中でぼやけ始めた。 「ちょ…やだぁ!キョン死んじゃ駄目よ、命令よ!船を呼び戻さなきゃ、携帯、携帯」  うろたえて見せるハルヒがいつもの二割増しで可愛く見える。重症だな。 13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/20(月) 06:21:40.24 ID:pndlCu8FO  携帯が使えない孤島を選んだのは、ハルヒ、お前だぞ。何だろう、何だか身体が地面に沈み込みそうだ。 「本来鹿児島と沖縄県境のこの島には生息しない毒蛇。血清は入手できない。何故アマゾンの固有種がここに生息しているのか疑問」  ハルヒは携帯を地面に叩きつけて、地団駄を踏んだ後、駆け寄って俺の頭を抱いた。膝枕の格好だ。 「キョン、あんたが死ぬ訳ない。私が何とかする。有希、どうしたらいいの!どうしたらいいの!」  覆い被さるハルヒの髪が額をくすぐる。鼻先に押し付けられたり離れたりする胸の、張りのある柔らかい感触と、 洗濯洗剤と汗の匂いが交じり合って、ぼんやりした意識に流れ込んできた。不謹慎だが、悪くない。こんなときじゃなきゃ、もっと良かった。 14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/20(月) 06:38:18.58 ID:pndlCu8FO 「冷静になってほしい。四分二十一秒経過した。緊急の処置を施す外ない」  宇宙人の口から丁寧なカウントダウンを聞いても、俺は不思議と動じなかった。 「どうするの、手伝うから!どうするの、助けて助けて」 「あなたにはできない」  そう言うと、長門は俺のベルトに小さな手をかけた。ハルヒの膝頭をチノパンがするすると下りていく。 続いて、黒いボクサーパンツと腹の皮膚の間に長門の細い指が滑り込んだ。長門はこれも躊躇なく引き下げると、 頭を俺の下半身に寄せながら、歯並びの良い桜色の唇を開いた。 「ちょっと有希…何…するの」 17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/20(月) 06:53:45.58 ID:pndlCu8FO 「吸引法を施す。直接吸い出すのが現状では有効。少なくとも、毒を減らすことが可能」 「ちょ、吸い出すって、口で…?」 「六分五十一秒経過した。あなたがするなら構わない、どうぞ」  ハルヒがかぶりを振る振動が、俺の腰の辺りに移動したハルヒの膝頭から伝わった。 「見ない方がいい」  そういうと、長門の頭が俺から見えない位置に下がっていった。直接地面に下ろされた俺の後頭部が石を挟んで じゃりじゃり音を立てた。もうちょっと膝枕しててくれよ、ハルヒ。  次の瞬間、感覚を失った下半身に軽い圧力が伝わってきた。 25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/20(月) 07:40:22.17 ID:pndlCu8FO  ごくり。ハルヒが喉を鳴らした。俺の聴覚も触覚も平時並みに回復しているようだ。 意識がはっきりすると、今度は包み込まれる初めての感触と熱とが意識を支配し始めた。長門、だめだ。 「…キョン、大丈夫!?」  ハルヒの視線は八割方俺のそこに向けられたままだった。長門、だめだ。 俺はせり上がってくるものを必死にこらえた。投げ出された俺の頭部に今頃気付いたハルヒが、再び膝枕をしてくれる。 長門の形の良い頭が視界に入った。小刻みに上下している。だめだ、ハルヒ。今それを見たら、俺は。  さっきまでの毒とは違うものが脊髄を痺れさせ、脳を突き上げた。長門、だめだ。甘美な痙攣が俺の身体を駆け上った。どくん。  俺は長門の清潔な口に、完全に毒を吐き出した。 28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/20(月) 07:57:51.12 ID:pndlCu8FO  はあはあ。ゆっくりと頭をもたげた長門と目が合った。長門の透き通る肌は何事もなかったように白く、無表情だった。 「今のびくんて何、キョン!」  俺は痺れた頭にハルヒの柔らかな太腿を感じ、かすかな体臭を感じた。 「今のびくんびくんて何、有希!」 「…問題ない。毒は完全に吸引した。その反射的な身体反応に過ぎない」 「大丈夫なの、キョン」  ハルヒは目の前で起こったことを長門の説明通りに解釈したらしく、今は俺の額を光沢のある黒髪で くすぐりながら、涙を溢れさせている。ハルヒのこの単純さは最大の美徳だ。 「よかった、よかったぁ…。キョン、キョン!死んだら許さないんだからね」  そう言うと、ハルヒは再び洗濯洗剤と汗の匂いを俺の鼻先に押し付けた。 32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/20(月) 08:30:47.07 ID:pndlCu8FO  俺はハルヒに抱きつかれながら、肩越しに長門を見やった。長門は剥き出しの俺の下半身を一瞥すると、 人差し指でちょんとつついてから手際良くボクサーパンツとチノパンを引き上げた。  ハルヒがベースキャンプと名付けた、テントを三張りした場所に戻ると、天使の笑顔がカレーの匂いとともに俺たちを迎えてくれた。 その横にあるにやけ顔については、割愛したい。  俺のチノパンの血痕を見た朝比奈さんが貧血を起こすひとくだりの後、昼食となった。 「大したことないのよ。キョンが内股を蛇に咬まれてね」  内股と言ったのは、ハルヒなりの長門への配慮だろう。 「止血して休憩して、はい終わり。応急処置は有希がしたんだけどね」  長門は小さく頷いた。毒蛇は、長門が頭を潰して藪に捨てた。こうして、あの茂みで起こったことは 朝比奈さんの貧血とともに些細な日常にすり替えられた。 33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/20(月) 08:47:47.54 ID:pndlCu8FO  朝比奈さんと古泉が作ったカレーは豚三枚肉の甘口おふくろカレーだった。 「これはこれで」  長門は以前滔々と語った本格カレーへの固執はどこかへしまって、おふくろカレーを山盛りのライスと 一緒に三杯胃袋に流し込んだ。朝比奈さんはただにこにこと長門を眺めていた。長門の唐突さや機微の不足も 好意的に見れば、屈託なさに映る。朝比奈さんも今は長門への恐怖心を忘れているようだ。  俺は次々とカレーライスが流し込まれる、桜色の唇をちらちらと盗み見た。長門の舌先が唇を拭うのを見るにつけ、 俺の中の感触の記憶が再びせり上がってきて、俺は目を逸らした。 40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/20(月) 09:34:29.21 ID:pndlCu8FO 「遅い!九分十五秒かかってる。何してたの!」  ハルヒも長門の唇をちらちらと見やり、俺の目を見やった。  太い枝に張ったタープの下では天使と超能力者が早くも夕食の準備にとりかかっている。見ようによっては 初々しい新婚のようだが、もうあまり気にならなかった。 「不思議探索第二陣は中止したわ。蛇がいたら、危険だし。それに、みくるちゃんじゃ古泉くんを助けられないしね」  ハルヒの語尾は、角があるように聞こえた。何をカリカリしてやがる。 「夕飯まで寝るから、起こさないで。起こしたら、夕食抜きだからね!」  俺に夕食準備の応援を命じると、ハルヒは団長居室兼倉庫のテントにひとり潜り込んだ。密かに張り切っていた、 料理の腕前披露は次の機会に先送りしたらしい。 (ちょっと更にスピードダウンします。すみません) 46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/20(月) 11:16:10.35 ID:pndlCu8FO 「んっふ、災難でしたね。災厄体質を遺憾なく発揮してますね」  うるさい、その綺麗な指を付け合わせにしてやろうか。古泉は、 無言の俺を微笑で見つめた。  朝比奈さんは部室でお茶を淹れているときにも増して甲斐甲斐しく、 クーラーボックスから取り出した肉を切り、野菜を切りしている。 「夜はBBQですよ、いっぱい食べてくださいね。うふふ」  俺は、長門とは違ってふっくらした朝比奈さんの唇を、血の滴る肉を 串刺しにしながら横目に見ていた。朝比奈さんの唇はどんな感触だろうか。 「しかし、涼宮さん、妙ですね」  何がだ。 「いつもなら率先して料理に加わる筈です。彼女の特製料理を中止して テントにこもるなんて、不自然じゃありませんか」  今日はその勘は働かさなくていい。 49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/20(月) 11:37:33.50 ID:pndlCu8FO 「そうですか?いつも通りカリカリして…」  出かけた言葉を飲み込んで、朝比奈さんは手元の作業に集中した。  監督然とした長門が二冊目を読み終える頃、下拵えは終わった。 あれでも読書スピードは人間並みに落としているらしい。いつもはハルヒが 長門にも指示を出すのだが、今日は放置されていた。古泉はいつも通り笑みを 顔に貼り付け、朝比奈さんはいつも通り長門に遠慮していた。俺はと言えば、 古泉や朝比奈さんの前で長門に話しかけるのは茂みでの出来事の一端を さらけ出すようで、出来ずにいた。 「長門、ハルヒの様子を見てきてくれないか。起きてるようなら、連れてきてくれ」  長門は読み終えた本をつるんとした膝から、今し方まで座っていた段ボール箱に 移すと、足音を殺すような足取りで団長居室兼倉庫テントへと滑って行った。 57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/20(月) 12:44:51.63 ID:pndlCu8FO くだんのテントに目をやった。団長の威厳とでも言うのか、重苦しいオーラ に包まれている。その入り口のジッパーを半周開けたところで、一瞬長門が 静止した。ように見えた。 「起きてこられますかね」  古泉の意味のない問いに一顧を与えて、再びテントの方に顔を向けると、 長門が今度はとぼとぼと戻ってくるところだった。 「まだ眠っている。火を起こし終わったら、もう一度確認する」 長門の宇宙の漆黒を写し込んだ瞳が、心なしか陰って見えた。 (加速できそうにないので、落としてください。ぼちぼち書きますので) 62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/20(月) 13:34:02.06 ID:pndlCu8FO  俺たち三人が設営したBBQ用コンロに向かってディレクターチェアに 腰を下ろしたハルヒは、いつも通り雄弁だった。長門はときどき自分用の大きな紙皿に串焼きを山盛りにしては、自陣と定めた 段ボール箱に戻りちょこんと腰を下ろした。次に読む予定の本が数冊、 箱とぴったり平行に積み上げられている。  いつもと違うのは、ハルヒがどこかに隠していた奉行ぶりを発揮して、 朝比奈さんと古泉、そして俺の紙皿に取り分けてくれていることだろう。 「ごめんね、準備手伝わなくて。食べて、食べて。私の奢り、なんて」  不足分を出資したのは、古泉だ。正確には、にやけ顔が所属する機関だ。 そのおかけで食材はふんだんな量があり、長門の四次元胃袋も満たされつつある。  それにしても奇異なのは、ハルヒが俺の紙皿に頻繁に取り分けてくれることだ。 いつもなら、昼間の失態を理由に夕食抜きを宣告されても不思議ではない。 俺の取り分は、古泉の紙皿よりも明らかに高く保たれていた。 64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/20(月) 13:49:05.22 ID:pndlCu8FO  ふぅ、食った、食った。満足しましたよ、朝比奈さん。あなたの手汗が 極上の調味料です。 「んっふ、半分は僕の手汗ですよ」  それを言うなら、三分の一は俺の手汗だ。 「美味しかったわね!私、ちょっと休むわ」  そう言い残すと、ハルヒはそそくさと団長居室兼倉庫テントに潜り込んだ。 長門は本を膝に載せたまま、俺たち三人にぼんやりと視線を泳がせていた。 県境に浮かぶ島は零れ落ちそうな、満天の宝石製テントを身にまとっている。 俺は空の深い闇を見上げ、妙に居心地の悪い満足感を覚えていた。 68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/02/20(月) 14:13:57.26 ID:pndlCu8FO 「妙ですね」 男子団員用テントの低い天井を見上げながら、古泉が呟いた。  何がだ。 「いえ、涼宮さんですよ。今日はやけに素直です」  素直?どこがだ。たまに大人しくしているだけだろう。 「普段ならあなたへの好意を裏返しにしか表現できないのに、です」  好意?何を言ってるんだ。 「やはり、気付いていないんですね。そこは構いません。いずれにせよ、 午前の探索から帰って以降、正確には夕方テントから現れて以降、 彼女の様子は微妙に変わった」  気にしすぎだ。あいつの身勝手な心の機微など知らん。古泉の端正な姿に 比例した、美しい声を聞きながら、俺は眠りの淵へ転げ落ちた。