古泉「僕と一週間だけお付き合いしていただけませんか?」 1 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[sage] 投稿日:2011/09/24(土) 00:58:04.42 ID:oWZkPBpE0 今更ながらハルヒシリーズにハマった新参者ですが、 まとめサイトのSSに触発されて自分も書いてみたくなりました。 投下ペースは未定ですがなんとか完結させたいと思います。 3 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[sage] 投稿日:2011/09/24(土) 01:05:43.10 ID:oWZkPBpE0 今日も毎週恒例の不思議探索が行われようとしている。 ペア決めのくじ引きの結果、僕は午前中涼宮さんと二人で回ることになった。 ―――それにしても、今日は暑い。 焼けるような日差しは容赦なく地上の僕らまで降り注ぎ、じりじりと肌に浸透していくのがわかるようだ。 このままこの炎天下で探索を続けたら二人揃って熱中症コースは間違いない… なんてことまで考えだしたとき、そんなに広くない質素な公園に差し掛かり、そこにちょうど良い感じで暑さを凌げそうな日蔭のベンチを見つけた。 僕が、あそこで座って一休みしませんかと提案してみると彼女も丁度この暑さで参ってきていたようであっさり賛成してくれた。 公園の入口の自販機でお互い冷えたジュースを適当に買って、ベンチに並んで腰かける。 ひとまず早急に喉の渇きを潤そう。缶のプルタブを開けて、一口飲むと冷たい炭酸の爽快感が一気に駆け抜けた。 ふと、何の気もなしに右隣に座っている彼女の方を見ると、オレンジジュースを一心に喉へ流し込んでいて、その動きに合わせるように首筋の汗がすーっと伝い下りていく。 どうしたものか、ほんの一瞬、その様子がやたらと眩しく感じてしまった。 「どうかした?いくら古泉くんでもこのジュースはあげないわよ」 彼女が僕の謎の視線に気づいてしまったらしい。 「い、いえ。なんでもありません」 慌てていつもの笑顔を取り繕う。 まさか、ついあなたに見とれてしまいました、なんて言えるはずがない。 それにしても、僕はなぜ今こんなに焦っているうえにそれでも彼女の方を見てしまうんだろう? もしかしたらこの暑さにやられて、少しどうにかしてしまったのかもしれない。 そう、この暑さのせいで―――… 「涼宮さん。あなたが好きです」 やっぱり僕はどうにかしてしまったみたいだ。 7 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[] 投稿日:2011/09/24(土) 01:11:55.65 ID:oWZkPBpE0 「…え!? なっ、突然… 古泉くん、本気なの…?」 ぐびぐび飲んでいたジュースを思わず吹き出しかけるほど驚いている。まあ普通そうなるでしょうね… ですが僕だって、自分の口からこんな突拍子もない台詞が飛び出てきてしまった理由を知りたいんですよ。 一体いつの間に僕は涼宮さんを好きということになっていたんだ? 「ええ。僕は今これ以上ないぐらい本気です。」 口をついて出てくる告白の言葉。こんな時でも日頃身についてしまった癖なのか口調はいたって冷静だ。 「…古泉くんは、あたしにとって大事なSOS団のメンバーよ。  でも、その…恋愛の相手として見ることは…できないわ」 ああ。やはりこうなりましたかーーー なぜ自分が涼宮さんに告白しているのかすら理解できないが、 不思議な事にこのような結果になることは何となくわかっていたような気がした。 「いいんです。僕もそう言われる覚悟はしていましたから」 「そっ、そういうわけだから…ごめんなさい。」 それにしても、ほぼ無意識だったとはいえ告白した相手にこうもばっさりふられるというのは結構辛いものがありますね。 彼女が謝る姿というのは大変貴重なものですが、よりによってここでそれを見ることになるとは…なんとも残念です。 …といった思想を巡らせていると、再び僕の口は意識に反してどこから湧いて出たのかわからないことを勝手に喋りだした。 8 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[sage] 投稿日:2011/09/24(土) 01:20:08.56 ID:oWZkPBpE0 「…でも、ひとつだけお願いがあります」 何度も言うようだが、こんなことを喋っている僕自身この先何を言うのか全くわかっていない。 「僕と一週間だけお付き合いしていただけませんか?」 ……な、なんですと? 「…え、でも…」 「本当に1週間だけでいいんです。もちろんそのことは他の方々には知られないように務めさせていただきます。  そして期限が過ぎたら、あなたのことはすっぱり諦めて、元のSOS団団長と副団長の関係に戻ります。」 なんとまあ強引な頼みごとを必死になってしているんでしょうね僕は。 「…古泉くんは、それでいいの?」 「はい。必ず約束は守ります。どうか、お願いします。」 「う〜ん……わかったわ。でも、本当に一週間だけだからね。みんなにも内緒よ」 「ありがとうございます。」 ああ、これで僕と涼宮さんは晴れて期限付きの恋人同士になってしまったようです。 ーーーしかし、この時の一番の謎は、流されるままにこんな状況に置かれてしまって 訳もわからず戸惑う自分が思考の大半を占めていた一方で、 ほんの少しばかり、何ともいえない幸福感を噛みしめている自分も頭の片隅に居たということでしょうか。 11 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[] 投稿日:2011/09/25(日) 01:34:15.33 ID:o604NshS0 ありがとう。それと、多分投下は夜〜深夜が主になると思います。 集合時間も近づいてきたのでそろそろ待ち合わせ場所に戻ることにした。 今日の朝同じ場所に集まったときは、単なる団長と副団長の関係でそれ以上でも以下でもなかったのに、 それからまもなく人知れず恋人関係に突如昇格を果たした僕らの間にはなんとも言えない空気が流れていた。 それでも彼女は他の団員の前ではそんなそぶりを一切見せず、 午後のペア決めのくじ引きのときもいつも通りの団長ぶりを発揮していたので僕はちょっとだけ安心した。 僕のせいでSOS団の活動に支障をきたすようになってしまっては困りますからね… 14 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[] 投稿日:2011/09/25(日) 17:35:41.83 ID:o604NshS0 「…古泉一樹」 隣を歩く、北高セーラー服を着た小柄な女子が僕の名前を呼ぶ。 その漆黒の瞳はまっすぐこちらを見据えている。 「はい、なんでしょう?」 「あなたの役割は涼宮ハルヒの監視のはず」 「ええ。おっしゃる通りです」 「しかし現在、あなたたちの関係は恋人同士にある」 「これはこれは…」 参りました。どうやら長門さんには隠したところで全てわかってしまうようです。 しかしこの人、一体どこまで把握しているんだ? まさか僕がうっかり口走ってしまった恥ずかしい告白の一部始終も知っているんだろうか? 「いやぁ、困りましたよ。どうしてこんなことになってしまったんですかね」 「…あなたの気持ちについては私には理解しかねる」 至極、ごもっともです。 「情報統合思念体はこの件に関してはしばらく様子を見るように言っている」 「つまり僕と涼宮さんがお付き合いしても、今のところ特に問題は無い、と?」 「そういうことになる」 これはひとまず良かった、と言えるんですかね。 15 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[] 投稿日:2011/09/25(日) 18:38:31.01 ID:o604NshS0 「ひとつ忠告しておく」 あなたからそのような言葉を聞くと、なんだかこの後とてつもないことが待ち構えてるような気がしてしまうのですが。 「……早く目を覚ました方がいい」 …おやおや。随分と面白いことを言うようになったのですね。 万能を誇る宇宙人にとっても、やはり日頃の涼宮さんは『観測対象』という概念を抜きにしても驚異的な存在に映っていたということでしょうか。 「あなたが推測しているような意味ではない」 「ご忠告、感謝します。ですが僕は彼女の扱い方などは充分心得ているつもりですので、その点に関してはご心配には至らないかと。」 「…そう。」 長門さんは短くそれだけ呟くとどこか諦めたかのように視線を逸らしてしまった。 しかしまたすぐにこちらをじっと見つめて、 「……それでも、あなたを心配している」 ―――だいぶ日が暮れてきていたのに、外はまだ不快なほど蒸し暑かった。 16 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[sage] 投稿日:2011/09/25(日) 19:03:51.09 ID:o604NshS0 一応、今日はここまでです。 読んでくださってる方ありがとうございます! 書き溜めていないので大分スローペースな更新になると思います。 もし読み辛いところやこうした方が良い等ありましたらどんどん指摘して下さい。 24 名前:1[] 投稿日:2011/10/08(土) 02:08:45.22 ID:UmbcEV1+0 さて、これからの一週間僕と涼宮さんは恋人同士として過ごすことになったのだが、生まれてこのかた女性とお付き合いした経験など皆無だったので彼氏としての振る舞い方なんて知る由がなかった。 それでも自分から、半ば無意識だったとはいえ交際を申し込んでしまったからには相手を楽しませる義務がある――いや、前言撤回です。やっぱりこれは義務なんかじゃない。 僕は常に彼女の”機嫌を損ねない”ように努めてきたはずだったのに。いつからでしょうか? 僕が彼女を”楽しませたい”と思うようになったのは。 悶々と過ごした土日が明けて、月曜日。放課後になっても気温と湿度がもたらす不快指数は下がることを知らないようだ。 部室のドアを開けるとまだ僕以外には一人しか来ていなかった。 団長席にどんと腰かけている彼女と短いあいさつを交わして自分もお決まりの位置に座る。 そこで、他の部員がいないこの状況ならちょうど良いと思い、この休み中考えに考え抜いて導き出した”楽しませる方法”を提案してみることにした。 「涼宮さん、今度の休日にデートしませんか」 「デート?」 「はい。この沿線に水族館があるんですが、なんでも最近リニューアルオープンしたそうで展示数が国内最大級の規模になったそうです。  話題性も申し分ない上に涼むこともできてちょうど良いと思うのですが……いかがでしょう?」 ええ、必死になって絞り出したわりにはなんてありきたりなプランなんだろうと自分でも呆れてしまいます。 「それってやっぱり、古泉くんと2人だけで、ってことよね?」 そう尋ねてきた表情には、今まで見たことのない明らかな困惑の色があった。 「僕としてはそのつもりでいたんですが」 「……うん。そりゃそうよね。あたし達付き合ってるんだし。いいじゃない水族館、行きましょう!」 「それなら良かったです」 思わず安堵の言葉が漏れる。涼宮さんはそんな僕に笑いかけてくれたがそれはいつも見せる笑顔とは微妙に違っていた。 理由はわかっている。何か彼女の心にひっかかっているものがあるとするならば、それは恐らく”彼”の存在なんでしょう。 だけど今は何となくそんなこと考えたくなかった。だから僕は気づかないふりをした。 25 名前:1[] 投稿日:2011/10/08(土) 18:18:12.37 ID:UmbcEV1+0 「それではデートの日程ですが……困ったことに次の土曜日しか出かけられそうにありません」 土曜日というと、いつも通りでいけば毎週恒例の不思議探索が行われるはずである。 しかし一週間だけという約束で交際している僕たちにとっては、その日が恋人最終日だった。 「なんせ平日は学校がありますし、放課後に2人で出かけても良いのですが、他の方々の目を盗んで抜け出すのは少々難しいかと」 「まぁ、それもそうね」 「それでも僕は……何と言いましょう、あなたとお付き合いしているということをどうしても実感したいんです」 もはや完全に僕の我儘だった。SOS団副団長たるものが活動そっちのけでデートのお誘いを持ちかけるとは……我らが団長様にも呆れられてしまったかもしれません。 と自らの言動を憂いていたところに何も知らない他の団員たちが続々とやってきた。 「うぃーっす。掃除当番で遅れた」 「……掃除当番」 「すみません〜、二者面談があって遅くなりましたぁ」 すぐにお茶淹れますね、と朝比奈さんは部室へ来て早々に準備を始める。これで先程の話は一時中断です。 ここからは普段と何ら変わらないSOS団。今日は彼とボードゲームでもしましょうかと、僕が棚にしまわれていた大きめの平箱を取り出そうとしたときだった。 「みんな、悪いけど今度の不思議探索は団長不在のため中止よ。なんでもその日あたしにど〜〜しても外せない用事が入ったの。  だけど休みだからって怠けてないでちゃんと各自面白いこと見つけてくるのよ!」 涼宮さんはビシッと人さし指を差してそう言い放った。その指の示す先が僕に向かっているように見えたのはきっと目の錯覚だろう。