古泉「授業中、不意に勃起することってありますよね」 1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/06(日) 02:11:34.16 ID:CGW3F3JQ0 「授業中、不意に勃起することってありますよね」 古泉君がぽつりと言った。 キョンは掃除当番、有希は図書室へ、みくるちゃんは進路指導。 つまり団室にはあたしと古泉君の二人きり。 皆が来るまで、あたしはネットサーフィン。 古泉君はボードゲームをいじっていた。 そんな時、彼はそう言った。 相手は……そう、あたししかいない。 いつものアルカイックスマイルを浮かべながら、古泉君は続ける。 「あれ、困るんですよね」 「僕はトランクスを着用しているんですが、大体70%の確立ではみ出るんです」 「するとどうでしょう。先っぽがズボンの裏側に、直に触れてしまうんですよ」 「いやはや、困ったものです」 困ってるのはあたしだ。 6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/06(日) 02:18:23.90 ID:CGW3F3JQ0 けれど古泉君が悪意をもってこんな話題を振ってくることがありえるだろうか? 答えはノー。 多分、暇な時間を持て余してるあたしたちにとって、他愛の無い世間話のつもりなのだろう。 問題は内容がセクハラでしかないことくらいかな。 でも。 古泉君と世間話なんてした事なかった。 あたしは意外な新鮮さを感じていた。 たまには、普通の会話もいいかもしれない。 「はみ出るって、右? それとも左?」 9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/06(日) 02:24:30.71 ID:CGW3F3JQ0 古泉君は少し考えてから言った。 「左、ですかね」 あたしは更に問う。 「なんで左なの? 右の時はないの?」 団長席に向かうように座りなおした古泉君の目。 それは心なしか、今までに見た事が無いような、真剣さが見えたような気がした。 「僕の陰茎は、曲がっているんです」 その後の僅かな沈黙。 それに耐え切れず、あたしは言葉を紡ぐ。 「曲がってるって……病気、とか?」 少しデリカシーが無かったかもしれない。 もし、本当に病気なら軽々しく触れてほしくはないだろうから。 けれど、古泉君はいつもの笑顔で言った。 「いえ。病気ではありません」 「昔からの習慣、恐らくはそれで曲がってしまったのでしょう」 「習慣?」 「はい。自慰行為……俗に言う、オナニーですね」 13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/06(日) 02:37:05.69 ID:CGW3F3JQ0 「オナニー?」 「はい」 古泉君はボードゲームの駒を一つ掴み、あたしに見せる。 「この駒は、傷んでいます。それは僕と彼が、毎日のように触り、時には床にぶちまけたせいでもあります」 「それと同様のことなのですよ」 「陰茎も、長く弄る事によって、その形を変えていきます」 あたしの目に映る駒。 それと古泉君の陰茎に、そんな共通点があったなんて。 「でも古泉君。人の身体は、陰茎は、駒みたいなモノじゃないわ」 「生きてる人間の、その一部が、そう簡単に形状を変えるものなの?」 視線を机に移した古泉君は、顎に指を当てる。 まるで難事件に出くわした名探偵のように。 「人の身体と、その駒と、違いはあるのでしょうか」 「駒は一見、独立した存在に思えますが、あくまで駒、です」 「この、ボードゲームの中でしか、いえ中でこそ駒でありえるのです」 「その意味では、僕の陰茎は、この駒と同じと言えます」 あたしが覗き込んだボードゲームの板の上には、たくさんの駒がばら撒かれていた。 古泉君が触っていたのだから、規則性はあるみたいだけれども、それらからは何故だか悲しさが伝わってくるようだった。 17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/06(日) 02:50:37.38 ID:CGW3F3JQ0 「僕の陰茎は、非常に長い間、弄られています」 「無論、弄ったのは僕ですが」 「そう、初めて自慰行為……いえ、オナニーと言いましょう」 「オナニーを覚えたのは小学6年生の夏でした」 古泉君は駒をボードゲームの上に戻し(ああ、それはとても彼らしく、在るべき場所へという仕草だった)、両手の指を組み合わせた。 「夏休みに入る直前の事でした」 「僕は友人と市民プールに遊びに行ったのです」 「更衣室で水着に着替え、さあ泳ごうと飛び出しました」 「すると、ちょうどそこには人がいたのです」 「ぶつかったの?」 「はい」 どちらかと言えば苦笑に近い古泉君の顔からは、誰にも話したことの無い彼の昔の体験を恥じるような、そんな印象を与えた。 「読めたわ」 「そのぶつかった人が綺麗なお姉さんか何かで……古泉君は、そこで性に目覚めたのね」 「残念ながら不正解です」 古泉君は楽しそうに笑って指を立てた。 「僕がぶつかったのは、中年の男性。しかも太っていて頭髪も薄かったのです」 あたしは予想(まあ、あくまで誰にでも思いつくような陳腐なものだったが)を否定され、少しムッとした。 「じゃあ、その禿げ親父に欲情してもよかったんじゃない?」 27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/06(日) 03:01:58.04 ID:CGW3F3JQ0 ちょっと突飛な意見に、大きく否定するかと思ったあたしの心は良い方へ裏切られた。 「それも良かったかもしれません」 晴れやかな笑顔を崩すことなく言いのけた古泉君は、女のあたしでも、軽く嫉妬を覚えるくらいに艶やかな雰囲気だった。 「しかし。実のところ当時の僕は大人の男性に良い思いを持っていなかったのですよ」 「それって……」 「小学校の、担任の教師の方ですがね」 「僕を、そういう目で見ていたのです」 首筋に冷たい缶ジュースをくっつけられたような、そんな感触がした。 目の前の、笑顔が。 もしかすると、辛い思い出を隠す為のものだとしたら? そんなあたしの考えは、古泉君には容易に推測できたらしい。 「いえ、ご心配無く」 「結局のところ、大した被害はありませんでしたから」 「せいぜいが、放課後の体育館に呼び出され、身体の色々な部分を弄られた」 「それくらいです」 あたしは安堵の息をついた。 「じゃ、貞操は守られたわけね」 「挿入までは、されなかったんでしょう?」 33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/06(日) 03:17:32.85 ID:CGW3F3JQ0 「まあ、そうですが」 古泉君は目を瞑ると、記憶の底から何かを掘り返すような表情をした。 「自分の担任の陰茎を、口に頬張らせられるのは、今考えると屈辱的ですね」 普通なら、口に出すのも嫌だろう、精神的障害を、さらりと喋ることが出来るのは、やはり彼が出来た人間だからだろうか。 「何だか、悪いことを思い出させてしまったようね」 「いえ。僕にとって、これは既に克服した事実ですから」 足を組み、両手をアメリカ人のように広げた古泉君は言う。 「今の話は、僕のオナニーとは直接は関係ありませんよ」 「言ったでしょう? 市民プールでの出来事が、初めてのオナニーへと繋がるのです」 あたしは席を立ち、冷蔵庫へ歩いた。 みくるちゃんがいれば、お茶を入れてくれただろうけど、今ここにはいない。 だからあたしは、冷蔵庫からメッコールを三本取り、一本を古泉君に渡した。 彼は律儀に礼を言い、心地よい音を立て缶を開けた。 あたしも同じく缶を開ける。 古泉君は二口ほど飲んで、缶をもてあそんでいる。 あたしは一気に飲み干し、もう一本へと手を伸ばす。 だけど、メッコールはあまり好きではない。 41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/06(日) 03:35:37.68 ID:CGW3F3JQ0 「プールでぶつかった中年男性の身体の脂が、僕の身体にこびりつきました」 「当時の僕には、それは嫌悪感でしかなく、ほとんど半狂乱になってプールに飛び込みました」 「おかしなもので、水に入ると嫌な感覚はほとんどなくなり」 「すぐに僕は、泳ぎを楽しむ、その本来の行動を始めました」 メッコールを一口飲む、古泉君。 彼のその口に、自らの陰茎を頬張らせた教師は、今は一体どうしているのだろうか。 その教師の事は口に出さず、古泉君の話を聞く。 「友人は、どうやら離れたところで泳いでいたらしく、あたりにはいませんでした」 「まあ、プールという限定された狭い場所、それも何度も通ってましたから、迷子の心配もありませんでした」 「僕は一人で古式泳法を楽しんでいました」 古式泳法とやらが何なのか、あたしは知らなかった。 古泉君によれば、戦国の時代に鎧を着こんでいても泳げるという技術だそうだ。 「そこで、僕は運命の出会いをしたのです」 「水面に浮かぶ、塩素臭にまみれながらも、なお本来の香りを放つ、あれを」 「もしかして」 「ええ。生理用品……ナプキンでした」 「誰のモノなのか、分かったの?」 「いいえ。見渡す限りには、無論女性は存在しましたが、特定するのは不可能でした」 「しかし、僕はそのナプキンを迅速に確保し、水泳パンツの中に秘匿することに成功したのです」 44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/06(日) 03:53:51.95 ID:CGW3F3JQ0 古泉君の顔は、まるでその当時に戻ったかのように純真さを感じさせる笑顔だった。 「で、そのナプキンを獲得した後、どうしたの?」 「無論、急いで帰宅しました」 「友人が残っていることも忘れ一目散に、ね」 「自宅には、都合の言い事に誰もいませんでした」 「両親は共働きで、僕はいわゆる『鍵っ子』だったのです」 「オナニーには都合が良い環境ね」 「ええ。僕は湿った水着を洗濯機に放り込むと、戦利品であるナプキンを両手で捧げ持ちました」 「ちょうど性教育で学んでいましたし、興味も大きい時期です」 「その湿った物体が、女性の経血を吸い取っていることは、充分に理解していました」 「また、その頃にはオナニーのやり方も知っていました」 「雑誌か何かで? それとも友達から?」 「いえ……実は先程の、担任の男性教師から、ですね」 「彼は己の目の前で、僕にオナニーを強制しました」 「もちろん、敏感な時期でしたから射精はしましたが……精神的には辛いものでした」 「しかし……しかしです!」 「僕はナプキンを獲得したのです!」 「女性が、その生理時に使用する! しかもあそこの部分に当てるモノ!」 「実物には、まだまだ赤い痕跡が残っており、鼻を近づけると鉄の匂いがしました!」 「これで僕はオナニーをする! 男性相手ではなく、強制されるのでもなく、僕が、僕の意思で、オナニーをする!」 「ナプキンを天に捧げ持ち、僕はいつしか涙を流していました!」 47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/06(日) 04:03:38.19 ID:CGW3F3JQ0 「僕は僕は僕は!」 「チャックを下ろす時間も惜しく半ズボンを脱ぎ去り! ついでにブリーフも脱いでいました!」 「小学校6年生の陰茎は、小さなものでしたが、確かに勃起していました!」 「そして、そして僕は右手をその陰茎に伸ばし!」 「思いっきりしごいたのね」 「……」 「笑わないで下さいよ」 「僕が陰茎を握り締めたその瞬間」 「物理的な摩擦は殆ど無かったのにも関わらず、僕は」 「射精してしまったんです……!」 「……」 「……」 「……ぷっ……ふっくくく……くくくくくく」 「あはああははははっはっはあはははっ!」 「ふ……ふふふ……」 「くっくっくっ……はははあっはははははは!」 あたしたちは、笑った。 何故だろう。悲しいはずなのに、人は笑うのは。 それは、辛さを少しでも紛らわせるためなのかも知れない。 あたしたちは、笑いながら泣いていて、泣きながら笑っていた。 50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/06(日) 04:15:48.29 ID:CGW3F3JQ0 数分後、気だるい気分を従えて、笑いは収まっていた。 それはあたかも、オナニーをした後のようだった。 「まあ、当時は小学生です」 古泉君は言う。 「一度出したくらいでは収まりませんでした」 「あの教師に教わったとおりに、しごき、しごき、しごきまくりましたよ」 「ナプキンも、嗅ぐ、舐める、しゃぶる、身体に擦り付ける」 「色んな使い方をしました」 「さぞ気持ちが良かったんでしょうね」 「ええ」 「ただ、やはり快楽は罪ですね」 「それから僕は、オナニージャンキーになりました」 「中学に上がっても、毎日六回のオナニーは欠かしませんでした」 「ただ……惜しむらくは片方の手しか使わなかったことでしょうね」 「僕の陰茎は、大きく左に曲がり、そして皮も被ってしまいました」 「包茎はあんまり関係無くないかしら?」 「ふふっ。これは手厳しい」 「ただ……後悔はしていませんよ」 「何せ、高校生の現在でも、いえ寧ろ今こそオナニーの絶頂期にあるはずですから」 「授業の合間の小休み時間。その少しの時間でも、トイレでしごいているんです」 58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/06(日) 04:33:20.22 ID:CGW3F3JQ0 古泉君は、少し思案した後、こう言った。 「ここまで話したんです。これを見て頂けますか?」 「古泉君のオナニー?」 「まさか! 僕はそこまでの変態ではありませんよ!」 「見て頂きたいのは、これの事です」 彼は制服のポケットから小さな袋を取り出した。 そしてあたしにそれを手渡す。 「中を?」 頷く古泉君の気持ちを思い、またあたしの予想を確かめたくもあり、袋を開いた。 それは古びて、干からびていて、まるでゴミにしか見えなかった。 けど、あたしには分かっていた。 ――そう、ナプキンだった。 五年もの間本来の用途ではない目的に使用されたナプキン。 見た目こそクズだけれど、そこには黄金の精神を培ってきた、古泉君の想いが詰まっているのだ。 64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/06/06(日) 04:41:08.88 ID:CGW3F3JQ0 「ねえ。これ」 「なんでしょう?」 「見て……マジックで名前が書いてある」 「おや! 全く気がつきませんでした!」 「え……と。かすれてて読みにくいですね」 「読んであげる。『涼宮ハルヒ』……そう書いてあるわ」 「え……」 彼と目が合った。 あたしは、微笑んだ。 彼は、いつでも微笑んでいる。 そして今は、時の思いがけない巡り合わせに、身体の、いや心の底から笑いがこみ上げて来る。 笑いながら泣く。泣きながら笑う。けど、悲しさなんて欠片も無い。 今日、皆が来たら。 まずはそれぞれの初オナニーから聞かせてもらおう。 そして、笑い、泣き、あたしたちの絆は強くなる。 団室の、扉が開いた。 「キョン! あんたの初めてのオナニーの話を聞かせなさい!」  fin 68 名前:南部十四朗 ◆pTqMLhEhmY [sage] 投稿日:2010/06/06(日) 04:44:30.06 ID:CGW3F3JQ0  皆様、どうもありがとうございました。  なお、この物語は半分はフィクションです、念のため。  では、おやすみなさい。