周防九曜「―あなたは――いいわね…」 104 名前:orz[sage] 投稿日:2010/04/29(木) 14:36:08.34 ID:MO5HMfwI0 1 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日: 2009/07/25(土) 21:05:24.62 ID:Qs6SS+KPO 周「―どうせわたし達は――日向の道を――歩けない…」 橘「汚してやります、太陽なんて」 105 名前:orz[sage] 投稿日:2010/04/29(木) 14:38:39.69 ID:MO5HMfwI0 キョン「うお、九曜か」 周「――」 キョン「いつからそこにいたんだ?佐々木は一緒じゃないのか?」 周「――もう――佐々木も涼宮も――ないのよ…」 キョン「何をわけのわからんことを言ってやがるんだ?お前は佐々木付きの宇宙人だろが」 周「――あなたは――いいわね――どうせわたしなんて…」 キョン「(相変わらずパーフェクトに無意味な台詞をはく奴だな…)俺に用事があるのか?」 周「――」 キョン「頼むから少しは会話を成立させようとしてくれ」 ?「無理は言わない方がいいよ、キョン」 106 名前:orz[sage] 投稿日:2010/04/29(木) 14:39:28.72 ID:MO5HMfwI0 キョン「誰だ?…って、なんだ、佐々木か」 佐「やあ、キョン。どうやら困っているようだね」 キョン「おう、悪いがこいつをどうにかしてくれ、俺ではコミュニケーションがとれん」 佐々木「確かにキョンには荷が重いかもね、くつくつ」 周「―今――笑ったな…?」 107 名前:orz[sage] 投稿日:2010/04/29(木) 14:40:28.77 ID:MO5HMfwI0 目の前で起きたことが俺には信じられなかった。 だってそうだろう? 周防九曜が佐々木を蹴り飛ばしたんだぜ!? 佐「痛い、突然何をするの、九曜さん?」 周「――」 佐「ふふ、仕方ないわね…少々手荒な真似をするとするわ。キョン、離れていてくれたまえ」 俺は理解できないながらも佐々木の言う通りにしようとして 佐々木の"変化"に目を見開いた。 108 名前:orz[sage] 投稿日:2010/04/29(木) 14:41:24.83 ID:MO5HMfwI0 古泉曰く十人中八人が振り向く美人の容貌がはがれおち、俺の親友は緑色の怪生物へと姿を変えたのだ。 佐「あまりじろじろと見ないでくれたまえよ、キョン」 怪物は俺の親友の声で喋る。 佐「さて、九曜さん、一緒に来てくれる?」 周「――」 九曜は突然手の平を宙にかざす。 すると、どこからかバッタのようなものが跳んできて九曜の手の平におさまった。 109 名前:orz[sage] 投稿日:2010/04/29(木) 14:42:43.67 ID:MO5HMfwI0 と、突然突風が吹き、九曜のスカートが捲くれあがった。 うん、俺は勿論スカートの中身をしっかり脳に焼き付けたね。 スカートがおさまったとき、九曜は俺をじと目で見ていた。 そんな顔も出来たんだな。 周「――変――態…!」 仕方ないだろ、俺だって男なんだから魅惑の黒い布切れに目を奪われることだってあるさ と誰にでもなく言い訳をする俺に電子音声が聞こえた。 『Change!KONBU-Hopper!』 俺はまたしても九曜の姿に目を奪われることになった。 110 名前:orz[sage] 投稿日:2010/04/29(木) 14:47:54.70 ID:MO5HMfwI0 九曜は俺の目の前で変身したのだ。 その姿は日曜朝に放送している某特撮番組のヒーローを彷彿とさせた。 佐「マスクドライダーシステムか…」 周「――」 元佐々木の顔(?)がぐにゃりと歪み、その姿が更に変化した。 緑色の皮が崩れ落ち中から何かが出てくる。 と思った瞬間、忽然とその姿が消えた。 そのことに俺が驚いたとほぼ同時に 『Clock up!』 再び電子音声が聞こえた。 振り向くと元九曜の姿も消えており、辺りに何かがぶつかるような音が頻りに響いた。 111 名前:orz[sage] 投稿日:2010/04/29(木) 14:49:04.02 ID:MO5HMfwI0 佐「ぐぁっ」 悲鳴と共に怪生物が空から降ってくる。 地面にたたきつけられた白色の怪物は、佐々木の姿へと戻った。 佐「くつくつ、これほどとはね」 周「――」 『Rider Jump!』 キョン「!!九曜、やめ」 『Rider Kick!』 ろ、と言いかけた俺の前で佐々木の身体が肉片へと変わった。 九曜の放った蹴りが、佐々木の肢体を爆散させたのだ。 112 名前:orz[sage] 投稿日:2010/04/29(木) 14:49:49.38 ID:MO5HMfwI0 目の前の光景が信じられなかった。 佐々木が周防九曜に殺された。 もはや原形を留めていない肉塊は、それが俺の親友だったと理解するには生々し過ぎた。 周「――」 九曜は変身を解くと、俺に背を向けて歩きだした。 キョン「待てよ…」 九曜の歩みは止まらない。 キョン「待てって言ってんだろ!」 九曜の姿が遠ざかっていく。 キョン「周防九曜ぉぉぉ!」 九曜の姿は消えていた。 始めからどこにもいなかったかのように 後には俺と、生温かい肉だけが残された。 113 名前:orz[] 投稿日:2010/04/29(木) 15:00:26.43 ID:MO5HMfwI0 その後のことはよく覚えていない。 黒服の男達が佐々木の死体を処理し、俺を車で家に送ってくれた、とおぼろげな記憶はあった。 森さん達に会った気はしないから、あれはもしかしたら橘の方の組織だったのかもな。 114 名前:orz[] 投稿日:2010/04/29(木) 15:03:26.75 ID:MO5HMfwI0 ?「キョンくん、おっはよー!」。 キョン「ぐはぁっ!」。 妹のフライングボディプレスで俺は目を覚ました。 今日の痛みは格別だ。たまたまか狙ったのかはしらんが妹の膝が俺の鳩尾にヒットしてやがった。 妹よ、この起こし方はやめてくれ。そろそろ本気で洒落にならん。 妹「あー、キョンくんパジャマ着てないー」 俺は自分の格好を見遣る。洋服のまんまだ。えっと、俺は昨日どうしてたんだっけ、確か外出して …そうか。 116 名前:orz[] 投稿日:2010/04/29(木) 15:09:25.24 ID:MO5HMfwI0 寝起きで頭が鈍っていた、というより無意識にその現実から意識を遠ざけようとしてたんだろうな。 でもこうして思い出せた。 忘れようがない、あの滲む赤色の温かさは。 昨日、佐々木が死んだ。俺の目の前で、九曜に殺された。 妹「キョンくん、どうしたの?」 キョン「なんでもないぞ、気にするな」 妹に心配をかけるわけにはいかない、せめて見かけだけでもしゃんとしないと 妹「なにか悲しいこと、あったの?」 まったく、我が妹ながらその察しのよさには敬服するね、誰に似たんだか。 妹「あのね、お姉ちゃんが言ってたよ、男とは燃えるもの、泪を油に変えて心をたぎらせろ!って」 キョン「確かに漢字は似ているが」 随分な無茶を言う、どこの姉ちゃんかは知らないが。 118 名前:orz[] 投稿日:2010/04/29(木) 15:13:15.86 ID:MO5HMfwI0 だが、その通りだ。 嘆いていても何も始まらない。 キョン「ありがとな」 そう言って、俺は妹の頭をなでてやった。 妹は嬉しそうに顔を綻ばせていた。 その笑顔に元気をもらい、俺は行動を起こす。 まずは何が起きているか、事態を把握することだ。 佐々木――人間が化け物に変わり、九曜が変身する。 明らかな非日常、その元凶は何か。 気まぐれな神様の世界改変か、異星人の情報操作か。 とにもかくにもこういうときはまず 『DATTE〜Yatterannaijan』 丁度タイミングよく俺の携帯が鳴り出した。 見ると、見慣れた電話番号表示。 まったく、うちの宇宙人様は頼りになるね。 「長門か?」 だが、返ってきた声は俺をぞっとさせるものだった。 「やっほー、お久しぶり、キョン君」 癒えた筈の腹の傷が痛みを訴える。 朝倉、なんでお前がそこに居やがる? 「なんでって聞かれると…うーん、禁則事項?」 「お前がその言葉を使うな、それは朝比奈さんの台詞だ」 「ツンツンしてるわねー、ひょっとしてキョン君、わたしのこと嫌い?」 突然自分をナイフで刺した奴を嫌いにならない奴がいたら見てみたいね。 「そこでチェス盤をひっくり返す?」 「返すな。長門に替われ、俺が用があるのはお前じゃない」 「うん、それ無理」 119 名前:orz[] 投稿日:2010/04/29(木) 15:16:01.99 ID:MO5HMfwI0 「長門さん、敵に負けちゃったっぽいから」 「長門が…負けた?」 嘘だろ!?俺の知る限り長門はSOS団最強のチートキャラなんだぜ? 「長門は…」 「無事、ではないわね、今、長門さんは自分の情報を再構築中なの。その間の代行がわたしってわけ」 「そうか…」 しかし今回の騒動の元凶は長門を上回る相手か…となると敵はやはり天蓋領域の…! 「朝倉」 「様をつけろよこのデコ助野郎」 こいつ、キャラ変わってねえか? 「朝倉様」 「気持ち悪いからやっぱり呼び捨てでいいわ」 …この野郎! 「朝倉、長門を倒した奴はどこのどいつかわかるか?」 「知らないわ、わたしが再構築・再起動されたときには、長門さん、すでに倒れていたんだもの」 「そうか、俺は今回の騒動の元凶に心当たりがある」 「本当?」 「ああ、そいつは」 「キョンくーん、お客さんだよー」 ちょっと待ってくれ、妹よ、今非常に大事な話の最中なんだ。 「みくるちゃんがクッキー焼いて持ってきてくれてるのー」 「悪い、朝倉、またかけ直す」 120 名前:orz[] 投稿日:2010/04/29(木) 15:17:16.93 ID:MO5HMfwI0 「ちょ、キョン君!その娘たぶんワ-」 などと言う朝倉の電話を切り、居間へ駆ける俺。 軽蔑しないでくれよ、愛くるしい天使が至上のお菓子を持って訪ねて来て下さったんだ。 全身全霊でお出迎えするのが礼儀ってもんだろう? 「おはようございます、キョンくん」 「おはようございます、朝比奈さん」 ああ、その姿を見るだけで俺の心は癒されます。 具体的には夏休みの開放感を如実に現したそのノースリーブの服からちらちら見える脇乳にげふんげふん。 邪まな心を振り払い、朝比奈さんに座布団を進める。 「ありがとうございます、キョンくん」 ああ、その笑顔さえあれば俺はどんな奴を相手にしても戦えます、ついでに脇乳も見えれば百人力げふんげふん。 「キョンくん、誰かと電話してたんですか」 「ああ、」 朝倉と、と言いかけてやめた。 正直に全てを話すにはまだわかってない事が多過ぎる。 「長門とですよ」 「そうですか…長門さん、元気でしたか?」 妙な事を聞くな?朝比奈さん、なんとなく長門がまずい状況にあるのを察しているのだろうか。女の勘は鋭いっていうからな。 「元気でしたよ」 「そうですか…」 不意に朝比奈さんが立ち上がった。おトイレですね、なら廊下を出て右に 「キョンくん、ごめんなさい」 「え?」 瞬間、朝比奈さんの背中から何かが伸びてきて、俺の胸を引き裂いた。 咄嗟に一歩下がったのが幸いしたのだろう。 傷口は皮を薄く切った程度だ…だが 121 名前:orz[] 投稿日:2010/04/29(木) 15:20:25.74 ID:MO5HMfwI0 「避けないで下さい、キョンくん」 背中に触手を生やした朝比奈さんが言う。 その表情は本当に申し訳なさそうで、俺の知ってる朝比奈さんそのもので 「ごめんなさい、キョンくん」 繰り返されたその言葉と共に突き出された触手を避けることが俺にはできなくて… 触手が俺の体を突き刺す……前に刀によって切り落とされていた。 「キョンくんはあたしが守る」 その紫色の刀を握っていたのは俺の妹だった。 『Stand by!』 刀が電子音声を発すると、苦痛に歪む朝比奈さんにさらにどこからか現れた蠍が襲い掛かり、肢体を切り付けた。 俺はその光景から目が離せなかった…主に切れた衣服の隙間から覗く桃色の下着から。 「変態!」 誤解だ、妹よ!いや確かに見てたけど、見えてしまったんだからしょうがないだろ!?不可抗力ってやつだ と必死で虚空に言い訳する俺に 『Hen-Shin!』 という電子音声が聞こえた。 妹の方を見た俺の視界に飛び込んできたのは異形の戦士の姿。 妹よ、最近の学芸会の衣装って凝ってるものなんだな、今度兄にも作り方とその早着替えの仕方を教えてくれ、などと俺が考えていると 「マスクドライダー…システム!」 妹を見た朝比奈さんが忌ま忌ましげにそう呟いた。 そういう表情も意外と似合うんですね、朝比奈さん。俺、Mに目覚めそうです。 などという俺の現実逃避は、当の朝比奈さんの愛くるしい髪がはげ落ち容貌がそげて白い怪物が姿を現したことで砕け散った。 122 名前:orz[] 投稿日:2010/04/29(木) 15:23:37.51 ID:MO5HMfwI0 トラウマになりそうなその光景に固まる俺 と、突然その怪物が姿を消した。 「きゃあっ」 見ると、コスプレした妹が姿の見えない何かに殴られ続けているかのように宙を舞っている。 弱ぇ。 「ごめんなさい、妹ちゃん」 怪物はまた突然姿を現し、朝比奈さんの天使声でそう言うと、コスプレ妹に向けて触手を放った。 「負けないもんっ」 妹がそういうと、なんと妹のコスについているコードが触手のように伸び、怪物の触手を相殺した。 妹よ、そのうねるコードはとてもじゃないが正義の味方の武器には見えないぞ。 「キャストオフ」 『Cast off!』 「痛えっ!痛えっ!」 電子音声と共に何かが俺んところに飛んできたぞ!? 『Change!Scorpion!』 妹の恰好が今度は紫色のスマートなコスへと変わっていた。 早着替えも可能とは、本当によくできた学芸会衣装だな。 「クロックアップ!」 『Clock up!』 「!!」 朝比奈さんと妹が同時に姿を消した。 辺りに耳をつんざくような金属音がこだまする。 「うぐぅ」 くぐもった声とともに倒れて先に姿を現したのはコス妹の方だった。 やっぱ弱ぇ。 123 名前:orz[] 投稿日:2010/04/29(木) 15:27:19.07 ID:MO5HMfwI0 「終わりです、妹ちゃん」 怪物がとどめとばかりにコス妹に襲い掛かる。 「危な」 「くっ、ライダースラッシュ」 『Rider Slash!』 い、と俺が言い終わる前に怪物は両断されていた。 妹の無事に俺はほっとする が、"それ"を見た瞬間、再び俺の心は凍りついた。 怪物の姿が、朝比奈さんの姿へと戻っていたのだ。 勿論、その身体は真っ二つのまま。 「キョンくん、怪我なかった?」 仮装を解いた妹が駆け寄って来る。 大丈夫だぞ、お前の衣装が飛んできたときに出来た痣以外はな、などと言う軽口は俺の口からは出なかった。 「なんで…殺したんだ?」 代わりに漏れたのはそんな言葉。 「え?」 「なんで!!殺したんだ!?」 自分でもぞっとするくらいの怒気を孕んだ言葉だった。 妹は俺の目をまっすぐに見つめて、言った。 「すべてのワームはあたしが倒すの」 …わけがわからない。 何を言っているんだ?妹よ、それが朝比奈さんを殺す理由になるのか? 俺の頭は冷静さを欠いていた。 足元に、朝比奈さんが、二度と笑顔を見せてくれないその容貌が、二度と繋いでくれないその腕が、二度と温かさをくれないその身体が横たわっていて 気がつくと、俺の両手は妹の首を絞めていた。 124 名前:orz[] 投稿日:2010/04/29(木) 15:31:22.81 ID:MO5HMfwI0 妹が苦しんでいる 朝比奈サンハモット苦シカッタンダ 早く手を離さないと 朝比奈サンヲ手ニカケタ妹ハ許セナイ このままじゃ妹が死んでしまう 朝比奈サンハモウ死ンジャッタョ 俺の手に力が篭る。 妹の苦悶の表情が更なる苦痛に歪み 「あぁぁあおおああ!」 妹の絶叫と共に俺は弾き飛ばされていた。 壁に打ち付けられた俺は妹の方を見遣る。 そこには、白い蠍を模した怪物が佇んでいた。 ああ、妹よ、お前も"それ"だったんだな 霞がかった思考で俺は納得していた。 "それ"はそうしなきゃならないんだろう? これまで九曜、そして妹がやってきたことを思い返す。 そう、これを使うんだったな。 俺の手には闇色の甲虫が握られていた。 「…変身」 『Hen-Shin!』 「…キャストオフ」 『Cast off!』 力無く呟く俺の言葉に、おどろおどろしい電子音声が応える。 『Change!Beetle!』 「ああぉおあ」 叫び声と共に怪物が襲い掛かってくる。 俺はその攻撃の尽くを軽くいなしてやった。 126 名前:orz[] 投稿日:2010/04/29(木) 16:00:06.13 ID:MO5HMfwI0 本当、弱いな、こいつ (「しかたないじゃん〜キョンくんの方が年上だもん」「格ゲーは集中力がものを言う、年は関係ないぞ」) こいつのパンチやキック、俺に一回も、当たってないぞ (「貸してみろ、俺が当ててやる…ほれ」「ありがとっ!キョンくんは射的の天才だね」) 攻撃、俺に全然、届いてないじゃん (「届かないなら俺に言えよ」「それくらいなら自分でとれるもん」「あのな、兄なんていくらでも頼っていいもんなんだぞ」) そろそろ、終わらせるか (「もうちょっと、もうちょっとだけ」「しょうがねえな、ほれ」「わーい、キョンくんの肩車、たっかーい」) 『one, two, three』 「…ライダー、キック」 『Rider Kick!』 俺の蹴りが怪イモ物ウトを射抜 「がはっ」 かなかった。何が起きたのか、俺は壁へとたたき付けられていた。 あまりの激痛に、次第に意識が遠のく。 朧げになって消えていく俺の視界には、銀と赤の甲冑に身を包んだ戦士が映っていた。 128 名前:orz[] 投稿日:2010/04/29(木) 16:05:15.88 ID:MO5HMfwI0 〜interlude〜 闇夜の静けさの中、あたしは目を覚ましました。 「痛たた、妹ちゃん酷いです〜」 右半身を起こしながら言います。 「確かに、真っ二つは無いですね、ふふふ」 離れたところに横たわった左半身が笑います。 「今度ちゃんと注意してみましょう、人を斬っちゃ駄目ですって」 「聞いてくれるといいですね」 「大丈夫ですよ、妹ちゃん、根は素直ないい子ですから」 「ふふっ、そうですね」 会話の後、あたしは身体をくっつけようとしたのですが、うまくいきませんでした。 しかたないので、二体の独立した身体に擬態し直しました。 ただ、うまくやったつもりなのに左半身さんの方がやや大人びた身体になってしまったのは不思議です。 〜interlude〜終 「キョン、次はこの店に行かないか?なかなか美味しいアイス屋らしいよ」 佐々木、あまり俺の右腕にしがみつくな。言いにくい部位が腕に当たっている。 「くつくつ、君とこうしていることが僕には至上の喜びなのさ」 いや、何だ…その、照れる、な。 「キョンくん、その次はこのお店に行きましょう、有名なケーキ屋さんなんです」 ああ朝比奈さん、その、俺の左腕に絡みつかないでください。柔らかくて大きいものが当たってます。 「?、何のことですか?」 世の男子高校生ならば誰もが夢見る状況が俺の身に起きているのはなんて心地なんだろうね。 「男子高校生?夢?」 朝比奈さん、そこはわからなくていいです。 幸せという言葉では現しきれない喜びを享受している俺に 「―あなたは――いいわね――どうせ――わたしなんか…」 その宇宙人は夢の終わりを告げた。 129 名前:orz[] 投稿日:2010/04/29(木) 16:08:41.42 ID:MO5HMfwI0 「あ、目が覚めたみたいね」 「ここは…」 見覚えがある部屋だ。 「長門さんのマンションよ、おはよう、キョン君」 「あ、ああ、おはよう、朝倉」 「キョン君の家に行ったら居間がぼろぼろになってて心配したわ、キョン君も妹さんも大した怪我がなくてよかったけど」 「そうか…俺」 朝比奈さんに襲われて、妹に助けられて あれ?その後どうしたんだったか? 「気絶してた二人をわたし一人でここに運び込んだんだから、感謝しなさいよ」 ああ、すまなかったな。 感謝の念がこもってない礼ね、と不服そうな朝倉に俺は尋ねる。 尋ねずにはいられなかった。どうしようもないことなのにな。 「朝比奈さんは…」 「…」 それはそうだろうな、いくら情報統合思念体でも死んだ人間を生き返らせることなんて出来ないよな。 「運がよければ、生きているかもしれないけど」 宇宙人流の慰めってのはなかなか無茶なものだな。真っ二つにされたんだ、生きているわけないだろう? 「ワームに擬態された人は、大抵が擬態されたそのときに殺されるから」 ん?ワーム?擬態?朝倉、一体何を言ってるんだ? 131 名前:orz[] 投稿日:2010/04/29(木) 16:17:28.35 ID:MO5HMfwI0 俺はワームってやつについて朝倉から小一時間レクチャーを受けた。 「まとめると、ワームは地球外生命体。人間に擬態する。脱皮すると超高速で動く、ってところかしら」 とんでもなく厄介な奴らだな…そいつらに佐々木や朝比奈さんは… 「ワームと戦うにはタキオン粒子を用いるのが有効なんだけど、それを人間が扱えるようにしたのがマスクドライダーシステムね」 なんだそりゃ。 「妹さんが持っていたそれよ、貴方の話からすると周防九曜さんが持っているのも多分同じね」 情報統合思念体ってやつは凄いな、お前ら何でも知ってるんじゃねえか? 「何でもは知らないわよ、知っている事だけ。システムについては妹さんのそれを借りて解析したの」 「マスクドライダーシステムでワームと戦う、か」 丸っきり特撮番組の世界だな… ん?ワームと戦う? 「朝倉、お前、電話で敵が何なのかわからないっていうようなこと言ってなかったか?」 「ええ」 「長門を倒したのはワームじゃないのか?」 「ワームはこの地球に現れる前にも、宇宙には実在し、そのことを情報統合思念体は把握していたの。 ワームのことを、その対策法まで含めて既に知っていたわたし達が、ワームに倒されると思う?」 「思わんな」 こいつらにとって情報は最大の武器だ。倒し方が宇宙に情報流出している地球外生命体など朝倉や長門にとっては恐るるに足らんだろう。 「長門さんを倒したのは、ワーム以上の何かよ、多分」 「…」 長門を打ち破った相手――それは 「天蓋領域…周防九曜ってことは考えられないか?」 「有り得ない話ではないけれど…それだとワームが地球に現れた原因と長門さんを破った敵とは関係性がなくならない?」 長門と拮抗できるのは俺の知る限り九曜くらい…しかし九曜はワームを倒していた、つまり今回の騒動の原因は九曜ではない…のか。 132 名前:orz[] 投稿日:2010/04/29(木) 16:36:41.54 ID:MO5HMfwI0 うん、わからんな。 とにかく長門の回復を待つしかないか、朝倉、長門は今何処に? 「その襖の向こう…って、キョン君、見ちゃ駄目!」 朝倉の忠告の前に俺は襖を開いてしまっていた。 うん、人の言うことは聞かないといけないな。 確かに見たら色々と人間を駄目にするような光景が広がっていたよ。 長門は自らの身体情報の再構築中だった。 つまり身体が出来かけだったわけだ。 ああ、ばっちり見えたさ。 心臓やら脳やら眼窩に沈んだ目の玉やら。 再構築は是非外皮からすべきだな、今度長門には言っておこう。 「もう、女の子のあられもない姿を見るなんて、キョン君ってエッチなのね」 見えたのは服の下でなく皮膚の下だがな。 鼻から血でなく口から何かが流出しそうな刺激的映像だったぜ。 134 名前:orz[] 投稿日:2010/04/29(木) 16:41:39.47 ID:MO5HMfwI0 ピンポーーン 突然インターフォンが鳴った。 「ふゎ、キョンくん、お客さーん?」 今のベルで妹も起きたらしい。 眠そうな目を擦りながら布団から起き上がった。 「誰かしら」 朝倉は襖を閉めると、警戒しながらインターホンのモニターを見た。 俺も朝倉の隣からモニターを覗く、と俺は目を見張った。 モニターには、二度と会えないと思っていた天使の姿が映っていた。朝比奈さんだ。本物の朝比奈さんだ。生きていて、くれたんだ。 俺が感動の再会に向けてマンションのセキュリティドアを開けようとすると 「待って」 朝倉からストップがかかった。なんだ、野暮な奴だな。 「わたしがまず様子を見に行くわ、あなた達はここにいて」 心配性な奴だな。朝比奈さんに擬態したワームは倒したんだから今玄関にいるのは本物の朝比奈さんだろ? 「一応の用心よ」 そう言って朝倉は出て行った。 やれやれ。 俺はちょっとだけ伸びた朝比奈さんとの再会に備えて部屋を片付けようとして 窓ガラスの割れる音を聞いた。 135 名前:orz[] 投稿日:2010/04/29(木) 16:42:48.50 ID:MO5HMfwI0 キョン君はちょっと抜けてるところがあるからわたしが気を張らないとね。 わたしは一階に降りてロビーのガラスドア越しに朝比奈さんに姿を見せた。 朝比奈さんは軽く驚いて会釈をした。 ああ、そうか、彼女の中でわたしは転校したことになってたんだっけ。 わたしは彼女に怪しいところがないか調べようと近づいて、 長門さんの部屋の方から窓ガラスが盛大に割れる音がしたのを聞いた。 思わず部屋の方を振り向いたわたしを、今度は横からの衝撃が襲う。 「くっ」 見ると、玄関にいた朝比奈さんが触手を開放しロビーのドアを粉砕していた。 「よかった〜、上手くいくかどうか心配だったんですよ〜」 「何が?…まさか!」 「陽動です」 136 名前:orz[] 投稿日:2010/04/29(木) 16:44:08.33 ID:MO5HMfwI0 長門の部屋の窓ガラスを粉砕して現れたのは朝比奈さん(大)だった。 「こんにちは、キョンくん」 天上人のような至高の微笑みにも、今は挨拶を返す気になれない。 だってそうだろう?こいつは明らかに俺の知る朝比奈さんじゃない。 「挨拶くらいしてくれてもいいのに…ちょっと拗ねちゃいます」 「キョンくんはあたしが守…きゃんっ!」 妹が格好よく俺の前に歩み出ようとして、扇風機のコードに足を引っ掛けて盛大にすっ転んだ。 妹よ、少しは落ち着いて行動しろ、あと黒いパンティはお前にはまだ早いと思うぞ。 「変態!」 いや!見たけど興奮してないし!ていうか妹の下着見て興奮する兄がいるわけないだろ!なあ! 誰にともなく同意を求める俺の耳に電子音声が響く。 『Hen-Shin!』 「キャストオフ!」 『Cast off!』 「痛たた!痛たた!痛たた!」 俺にぶつかって来る物体の数が昨日より多いぞ!? 朝比奈さん(大)もコス妹に応えるかのように異形の姿へと変わった。 「ライダースラッシュ!」 『Rider Slash!』 先手必勝とばかりにコス妹は必殺技をぶっ放す。 あー、もしかするとこのパターンは 「にゃああああ!?」 やっぱり。 戦いの序盤で繰り出す必殺技は破られる法則…案の定技を放ったコス妹は逆にすっ飛ばされていた。 見ていた限り、どうやら技を吸収して返されたらしい。 「妹さん、人を斬ったりしたら駄目ですよ」 今の貴方はどう見ても人ではありませんが… 天上人ボイスに心の中で突っ込みをいれる俺。 138 名前:orz[] 投稿日:2010/04/29(木) 16:48:23.06 ID:MO5HMfwI0 挨拶は返せないが突っ込みは返せるとは流石だな、俺。 いや、自賛してる場合じゃない。 ワーム対策の切り札であるタキオン粒子を使った技が弾き返されるとは… 妹一人では荷が重い かといって朝倉は一階に向かったまま、今は下の朝比奈さん(小)に… 「じゃあ、とどめ、行きますね」 「うん、それ無理」 いつかも聞いたその言葉と共に無数のナイフが現れ、怪物と化した朝比奈さんに雨のように襲いかかった。 「お待たせ、キョン君」 「お、おお」 朝倉、味方になるとこんなに心強い奴だったんだな。 「気をつけろ朝倉、あいつは、タキオン粒子を凝縮した技を弾き返せるみたいだ」 と、先程朝比奈ワームへと降り注いだはずのナイフが束になって朝倉に返ってきた。 「そういうことはっ、速くっ、言いなさいっ、よっ」 朝倉は隙間を縫うようにして全てのナイフを避けて見せた。 朝倉の息があがっている。 調子が悪いのか? 「ロビーのワームを凍結するのに大分手こずったからね。流石にまずいわ、一旦退却しましょう、キョン君は妹さんをお願い」 139 名前:orz[] 投稿日:2010/04/29(木) 16:49:37.28 ID:MO5HMfwI0 俺はのびているコス妹を担ぐ。 以外と軽いんだな、このスーツ。 「こっちは準備OKだ」 「オッケー、長門さん、ちょっと我慢してね」 朝倉は左手をかざして怪物の光弾を防ぎながら、長門を担いだ。 「よし、退きゃ…」 朝倉の声が突然途切れた。 「なんで…?」 驚きと疑問の声が朝倉から発せられた。 俺はあまりの事態に、言葉を失っていた。 朝倉に担がれた長門、その手が、朝倉の脇腹を貫いていたのだ。 長門が腕を引き抜くと朝倉の体は力を失い、床へ崩れ落ちた。 140 名前:orz[] 投稿日:2010/04/29(木) 16:50:40.47 ID:MO5HMfwI0 わたしの体は床へと崩れ落ちた。 身体に力が入らない。 長門さんがわたしの背から離れ、立ち上がる。 「朝倉!」 キョン君がわたしを呼ぶ声が聞こえた。 「ごめんなさい、長門さん、お手を煩わせてしまって」 「…いい」 長門さんの半分だった顔が、欠けていた身体が修復されていっていた。 「再構築はすでに完了していた。カモフラージュのため身体の一部を不可視にしていただけ、問題ない」 どういう…こと… 「でもよかったですね」 「バックアップである朝倉涼子がまだ使えたのは幸い…お陰で"彼女"から暫く身を隠すことができた」 わたしは、長門さんにまた呼ばれて、必要とされて、今度はその信頼に答えよう、今度こそは頑張ろうって 柄にもなく、張り切って 「じゃあお二人、連れていきましょうか」 「…(コクリ)」 「ちょ、離せ、お前ら!朝倉!朝倉ぁ!!」 キョン君の声が遠ざかって行く。 こんなのって、こんなのってないんじゃないかな? あんまり…よ 142 名前:orz[] 投稿日:2010/04/29(木) 17:01:22.71 ID:MO5HMfwI0 二人が連れていかれ 後には静寂だけが残った わたしの体は活動を停止した 静かに、ただ横たわるだけ 誰も守れなかった 誰も守れなかった 誰も守れなかった 誰も 誰も 誰も 光の雫が、落ちた。 143 名前:orz[] 投稿日:2010/04/29(木) 17:10:48.67 ID:MO5HMfwI0 「くそっ、離せ、離しやがれ」 「キョンくん、お痛は駄目ですよ」「はわわわ、大人しくしてくださ〜い」 長門達の皮を被ったワームに引きずられ、俺はどことも知れぬ道を歩いていた。 ロビーに凍結されていた朝比奈ワームを長門ワームはあっさりと解放していた。 どうやらオリジナルの長門と同じ力を持っているようだ。 「朝倉…」 俺達を守ろうとして散った女の子の事を思い出す。 「はわわわ、どうしましょう、キョンくん、朝倉さんが恋しいみたいです〜」 「ならわたしが今から部屋に引き返して擬態してきましょうか?」 と、先頭を歩いていた長門が足を止めた。 「どうしたんですか、長門さん?あ!」 朝比奈さん達も何かに驚いたかのように足を止める。 俺は彼女達の視線の先にあるものを見ようとし、それを見つけ、息を飲んだ。 朝倉が立っていた。 脇腹の部分が破れた服をそのまま着て 腰には不思議な形のベルトを締めていた。 「人と人との信頼をも利用するワーム…」 朝倉が、言う。 「わたしは絶対に許さない!」 虚空から蒼色の甲虫が飛来し、朝倉の手に止まった。 朝倉は甲虫を掴んだ手を掲げて ビリッ 何かが破れる音がした。 145 名前:orz[一つ賢くなった] 投稿日:2010/04/29(木) 17:19:45.18 ID:MO5HMfwI0 まあその、なんだ、脇腹がえぐられたってことはその近くにあるスカートの腰周りが綻んでいることもあるわけで 綻んだスカートを穿いて身体を大きく動かすようにポーズをとったら、スカートに変な力がかかって、破けることも、あるわけで はらり、と朝倉のスカートが地面に落ちたのだった。 あらわになる魅惑の水色パンティー。 やっぱり朝倉さんは最高です。 「変態!」 いや違う!パンツ見たけど! 俺は決して最高だむふふなんて思ってないぞ!パンツ見たけど! 今のは誰かの電波を受信しただけなんだ!だからそんなに俺を睨まないでくれ、朝倉!パンツ見たけど! 俺は変態じゃないんだー! などと、毒電波を発した誰かに抗議する俺の耳に 『Hen-Shin!』 という電子音声が聞こえた。 朝倉の方を見遣ると、そこには公道で下着を晒してしまった憐れな少女の姿はすでになく、 代わりに銀と青の甲冑に身を包んだ戦士が立っていた。 「やっ!」 朝倉の掛け声と共に、戦士の肩に付いている銃器が火を噴いた。 放たれた光弾は俺の両脇にいた朝比奈さん(大および小)の顔面に命中し、頭部を消し飛ばした。 いや、いやいやいや、威力ありすぎだろ。 戦慄しつつも、俺はこれ幸いとその場を逃げ出す。 「キャストオフ!」 『Cast off!』 「痛たた!痛たた!痛たた!」 朝倉の体から弾け飛んだ装甲、全部俺に当たってないか!? 『Change! Stag Beetle!』 電子音声と共に、朝倉の姿は青き戦士へと変わった。 146 名前:orz[] 投稿日:2010/04/29(木) 17:24:53.34 ID:MO5HMfwI0 「クロックアップ」 『Clock up!』 朝倉の姿が消えた、クロックアップだ!これで勝てる! しかし、俺の予想は裏切られる結果となった。 長門が虚空に手を突き出し、握り拳を上に向けたかと思うと、次の瞬間朝倉は吹き飛ばされていたのだ。 何が起こったのかわからない。 朝倉はその後何度もクロックアップしたが、何度やっても結果は同じだった。 長門が握り拳を上に向けた瞬間、朝倉が吹き飛ばされていたのだ。 「無駄」 またしても、青い戦士が弾き飛ばされる。 青い戦士は這いつくばったまま、睨みつけるかのように、真紅の瞳を長門へと向ける。 その姿を見た長門は、 「弱すぎて、話にならない」 と、少しだけ――ほんの少しだけ唇の端を綻ばせた。 「――今――笑ったな…」 その静かに響いた声の持ち主は、長門と朝倉の間に立っていた。 いつからそこに立っていたのか…まるで初めからそこにいたかのように、底無しの闇のような漆黒を纏った女――周防九曜はそこにいた。 「…天蓋領域」 長門が呟く。 「えぇ?周防さんですか?」 ガバッと、さっきまで倒れていた朝比奈さんが体を起こして驚いたように声を上げた。 顎から上が吹き飛んだままだというのに、一体どうやって声を発したんだろうね。 元が天使みたいな容姿であるだけに、頭部が損壊した今の御姿は一層グロテスクだぜ。 148 名前:orz[] 投稿日:2010/04/29(木) 17:30:49.03 ID:MO5HMfwI0 九曜が長門に向かってゆっくりと歩き出す。 その異様な気配に圧されたのか長門は半歩引いたが、思い直したかのように九曜を睨み、拳を握り締め上側に向けた。 さっき朝倉が吹き飛ばされたときと同じ動作だ。 だが周防は何事もなかったのように歩を進めている。 長門はさらに半歩下がった。 長門は相当うろたえていたように見える。 勿論その表情の変化は微々たるもので、俺以外の人間には長門の動揺はわからないかもしれんが。 何故?と問いたそうな顔をして朝倉を見、そしてちらりと俺の方を見た。 ん?敵である九曜が前にいるのにそれから目を反らして朝倉や俺を見たのか? 疲弊した朝倉、ましてや非戦闘員の俺は驚異ではないだろう? …そうか、あれは何かを確認したんだ。 第三者を見て測れるもの…あいつらワームにとって戦闘時の一番の関心事…己が種族の優位性…それが無くなれば動揺せざるを得ないもの…つまり、己の速さを。 仮定する…長門が拳を上に向ける動作は、あいつ自身のクロックアップのスイッチだ、と。 その速さは朝倉のそれを上回っていた為に、朝倉を何度も退けることができたのだろう。 ならば先程の長門の動揺はそれが九曜に通じなかったこと。 俺の様子を確認したのは長門自身がクロックアップできているのかを確認するため。 俺の動作が止まって見えていれば長門はクロックアップできていることになる。 だが長門は俺に見える速度で俺の方を振り返った。 つまり、長門と俺は同じ時間の流れの中にいる… 長門はクロックアップできていない。 九曜が長門のクロックアップを封じたのか? ならば九曜は と、再び長門が拳を上に向けた。 そして次の瞬間には周防の体は後方に吹き飛ばされていた。 あれ?違和感を覚えつつ、俺は九曜の姿を見遣った。 九曜は上体を起こすと、何故か俺の方を見、何事かを囁いた。 149 名前:orz[] 投稿日:2010/04/29(木) 17:32:55.78 ID:MO5HMfwI0 九曜、俺に告げたいことがあるならもっと大きな声で言ってくれ、何を言っているのかわからん。 なんか『考えないで』と呟かれた気はしたが一体何の事だ?俺何か考えてたっけ? あれ…?さっき俺は何かを考えていたような… う〜む、思い出せん… 長門が九曜に向かって歩き出す。 怯んでいたさっきとは違って随分と強気だな。 九曜が立ち上がると、その右手にはいつしかも見た飛蝗が握られていた。 長門はそれを見て焦ったかのように自分の拳を上に向け、次の瞬間には九曜の体は散々に傷付いていた。 しかし今回九曜は倒れてはいなかった。 その外見をボロボロにされていても、仁王立ちを崩していなかった。 その千切れた衣服の隙間から少女らしい膨らみかけの柔肌を晒していても、なお… 「――変態…」 ごめんなさいっ見入ってました。 心の中で素直に謝る俺の耳に 『Hen-Shin!』 という電子音声が聞こえた。 九曜の身は装甲に包まれていき、緑色の戦士の姿へと変貌する。 『Change!KONBU-Hopper!』 変身を完了した周防はすぐに次の動作へと移る。 「――ライダー――ジャンプ…」 『Rider Jump!』 周防は天高くへと跳び上がった。 その姿はみるみると小さくなり、ついに俺の目には見えなくなる。 …跳びすぎじゃないか? 俺は周防の跳んで行った空を見遣りじっと待つ。 一向に帰ってくる気配がない。 朝比奈さん(いつの間にか顔を復元していた)も最初は警戒して空を見遣っていた。 が、数分も経つとおろおろと困ったような様子で俺に目線で何か訴えてきた。 150 名前:orz[] 投稿日:2010/04/29(木) 17:37:07.33 ID:MO5HMfwI0 どうしたらいいのかわからないというお気持ちは察しますが、俺に助けを求めないで下さい…仮にも敵なんですから。 それに俺だってどうしたらいいかわからない。 既に周防が跳んでから数十分が経っている。 ヒーロー番組ならもうエンディングテーマの流れ終わった頃合いだ。 登場人物が延々と空を仰ぐだけの30分…間違いなく番組に抗議が殺到するね。 それでも長門は虚空をじっと見上げていた。 やれやれ、お前の辛抱強さには感心するね。 …さらに一時間が経った。 「キョンくん、お茶はいかがですか?」 「すみませんがお気持ちだけ頂いておきます」 痺れを切らした朝比奈さん(小)と朝比奈さん(大)はティータイムを始めていた。 「そうですか…」 俺の返事に肩を落とす朝比奈さん(小)。 擬態とはいえしゅんとする朝比奈さんを見るのは心が痛むね。 長門の方は相変わらず空を見上げている。 「長門よ、そろそろ休んだらどうだ」 ついつい俺はそんな台詞を口に出してしまっていた。 長門は俺の言葉に振り返り 俺は目の前の光景に目を見開いた。 ほんの一瞬前まで長門が立っていた場所は深いクレーターと化していたのだ。 そしてその中心にはあの緑色の戦士…変身した九曜が佇んでいた。 長門の姿はどこにもない。 九曜が長門を倒した…のか。 151 名前:orz[] 投稿日:2010/04/29(木) 17:40:03.91 ID:MO5HMfwI0 「これは…分が悪いですね、逃げましょう」 言うがいなや、朝比奈さん(大)は逃走する。 「はわわわ、待って下さ〜い」 出遅れた朝比奈さん(小)は、ペこりとこちらに軽く頭を下げてから、大慌てで朝比奈さん(大)の後を追った。 九曜は二人を追撃する気は無いようだった。 佇んだまま二人の後ろ姿を見送ると、変身を解除し、俺の方に歩いて来る。 「――怪我――無い…?」 「ああ、大丈夫だ」 「――そう…」 九曜は相変わらず無表情なままだったが、心なしか安堵したかのように見えた… ていうか俺よりお前の方がボロボロじゃねえか。 あの名門校の制服が今は見る影もねえぞ。 九曜は自分の服には無頓着なようで、今度は路上に放り出されたまますやすやと眠っている我が妹の方へと歩いていき、妹をその背に担いだ。 背負われた妹の姿が、周防の量が多過ぎる髪の毛に覆われて殆ど見えなくなる。 妹が髪の毛のお化けに捕食されたたように見えたぞ。 「あなたが、周防九曜さん?」 いつの間にか、変身解除した朝倉が俺達の元に駆け寄っていた。 「一応、挨拶から。初めまして、わたしは朝倉涼子よ」 朝倉は警戒心を緩めずに、周防を観察するようにじっと見つめる。 周防はまじまじと朝倉を見つめ返すと 「――貴方の――胸――とても――大きいわね…」 パーフェクトに無意味な台詞を吐いた。 152 名前:orz[] 投稿日:2010/04/29(木) 17:45:43.74 ID:MO5HMfwI0 「なっ、何を言っているのよっ」 訂正、朝倉の顔を赤らめる程度の意味・効果はあったらしい。 「――綺麗な――ぽつぽつ…」 乳首か?乳首が浮かび上がっているのか? 俺は朝倉の胸を凝視しようとして 「見るなー!」 朝倉の右ストレートを喰らった。 その後少しだけ打ち解けた朝倉と、九曜、未だ眠る我が妹、俺の四人はその後九曜の隠れ家へと案内されたのだった。 「成程ね、周防さんがあのワームを倒した方法はわかったわ」 すげえな朝倉、今の九曜の説明を理解するとは。 一緒に聞いていたが俺は露ほどにも理解できなんだぞ。 「えーっとね、くよーちゃんは有希ちゃんが感知できないほど遠く空高くでクロックアップしてから、一直線に落ちてきたのー。有希ちゃんが接近に気付いたときには、もうよけるのも間に合わなかったんだねー」 なっ?!妹よ、お前も今の説明を理解したというのか!? 「どうやら妹さんはキョンくんより頭がいい、というより感受性が強いみたいね。周防さんのようなタイプとはお話ししやすいのかも」 「――妹――萌え…」 「だいじょーぶ、キョンくんもそのうちできるようになるよー、たぶん」 どさくさに紛れてあほなこと抜かしてんじゃねえ昆布! 「――昆布――違う…」 「ひどーい」 「女の子に向かって暴言なんて…キョンくん、覚悟は出来ているのかしら」 うお?何でお前ら結託してやがるんだ?!なんなんだこの疎外感は… 「キョンくんには後でお詫びに何か奢ってもらうとして」 NOとは言えない空気だな。 153 名前:orz[] 投稿日:2010/04/29(木) 17:49:36.57 ID:MO5HMfwI0 「周防さん、今の世界の状況について、知っていることを教えてくれないかしら」 「――少女は――望んだ――異形の潜む――非日常――悪鬼を――絶つ――英雄…」 あ〜、またハルヒの奴がなんかしたのか。 怪物を倒すヒーローになりたいってところか、まったく子供かお前は。 「――が――少女は――力――映し取られた…」 …おいおい、それって 「世界を元に戻す方法は?」 朝倉が聞く。 「――不可能…」 俺達は息を飲んだ。 「――再改変は改変――少女の鏡に――削除される――この世界は――戻るべき姿を――失った…」 「お手上げってことか…」 最初と違って九曜は判り易く説明してくれた。本人曰く、会話レベルを幼児対象レベルにまで落としたとのこと。天蓋領域の会話レベル設定が狂ってるのだろうに、俺が幼児並の理解力しか持ち合わせてないみたいに言うなよな。 それはさておき、九曜の言説からすると、幾度ものハルヒの世界改変から俺達が帰還できたのはハルヒ自身が心のどこかで戻るべき日常を持ち続けていたからとのこと。 だがハルヒの世界改変能力を奪い取ったワームにとってはこの世界こそが己の日常。 俺達が世界を元に戻そうとする行為は改変とみなされ無効化される、か。 「周防さん」 朝倉が口を開いた。 「あなた、嘘をついていない?」 「ついていない」 俺は面食らった。 朝倉の質問もそうだが、九曜が即答したことに。 154 名前:orz[] 投稿日:2010/04/29(木) 18:00:10.47 ID:MO5HMfwI0 「そうかしら」 「…」 「再改変が不可能なら、あなたは何故鍵――キョンくんを助けたのかしら」 「――ライダーは――人間を――ワームから守る…」 「質問を変えるわ。ワームにとって都合の悪いマスクドライダーシステムが何故この世界に存在するのかしら」 「――不明…。――擬態した瞬間の――少女の――嗜好――引き継いだ――可能性――倒されるべき――敵…」 「涼宮さんに擬態したワームが自分達の戦う悪としてライダーを欲したってことか…」 うーん、と朝倉は捻る。 「本当に世界の再改変は無理なの?」 「――この世界に――存在する――誰であろうと――不可能…」 「そう…」 朝倉は長考に入る。 「――」 九曜は朝倉の出す結論を待っているようだ。 「腑に落ちないけれどまあいいわ、今日の話し合いはこんな所にして、休みましょう」 「――」 「周防さん、お風呂借りていいかしら?」 「――(コクリ)」 「ありがとう。あ、キョン君」 「ん?」 「覗いちゃだめよ」 「誰が覗くか!」 ふふ、と笑って朝倉は脱衣所へ消えて行った。 やれやれ。 155 名前:orz[] 投稿日:2010/04/29(木) 18:05:43.70 ID:MO5HMfwI0 朝倉の後に俺が風呂に入った。 風呂上がりの朝倉の目元が赤く腫れていたのは見ていて痛々しかったな。 俺の後には妹が九曜と風呂に入った。 その後は九曜が番をするというので、俺達三人は寝室で寝かせてもらうことになった。 「悪いな」 「――問題――ない…」 その台詞に、俺は失った仲間のことを思い出し、顔を伏せた。 「――瞳――綺麗な――ままで…」 九曜はそう言ってから、居間へと戻った。 ひょっとして今俺は励まされたのか? 開けっ放しの襖の向こうを見遣る。 九曜は薄明かりの下、正座で本を読んでいた。 その姿は、あの九曜独自の異様さが薄れており、あまつさえ幻想的で美しくもあった。 そんなことを考えている内に俺の瞼も限界を迎え、俺は眠りへと落ちて行ったのだった。 156 名前:orz[] 投稿日:2010/04/29(木) 18:11:28.59 ID:MO5HMfwI0 〜Interlude〜 わたしが土の上で動かなくなった猫を見ているとき、彼女はやって来た。 「…」 わたしが傍に立つ彼女を見ずに猫を観察していると、彼女は言葉を発した。 「それは、死んでいる」 「――死…」 その概念は知っている。何らかの原因により生命と呼ばれる物の活動が止まること。 彼女は死とは何かについて言説を述べた。 そんなこと、わたしは既に知っていた。 死の概念・情報は既に習得している。 ただ、この動かない猫を観測する際、観測者である自分にノイズが生じたことを感知したのだ。 そのノイズを定義付ける為に、わたしは猫を見続けていた。 「あなたは、悲しみを感じている可能性がある」 「?」 わたしは初めて彼女の方を振り返った。 新しい概念…その悲しみというものの情報を得るために。 「インターフェイスに感情は俯瞰しづらい。わたしは彼の叙述に基づき、ある特定の状況下においてわたし自身に生ずるノイズが感情であると仮定した。わたしに長期間接近していた生命が死を迎えたとき、わたしはノイズを得た。」 「――猫は――わたしの手から――餌を食べていた…」 10日前、超能力者の女が猫に餌をやっているのを見た。 女はわたしに餌のやり方を教え、私もこれを実行した。 女の方はその後ここには現れなかったが、わたしは24時間おきにここに足を運び、猫に餌を与えた。 そして現在――1時間27分前、猫がここで動かなくなっているのをわたしは発見した。 158 名前:orz[] 投稿日:2010/04/29(木) 18:18:01.03 ID:MO5HMfwI0 悲しみを伴う死には弔いをすべきと彼は述べた…そう言って彼女は猫の墓を立てた。 わたしはそれを手伝い、彼女に倣って拍手をしてからお辞儀をした。 「――」 闇の中でわたしは夢から覚めた。 待機モード中にデフラグをしていると過去の回想が夢見として行われることがある。 今日の回想はわたしと彼女の初期接触だった。 ふと手に違和感を覚え自分の手を見遣る。 予期した通り、手の先から灰化が起きていた。 自己情報の統制を行い、灰化を抑える。 少し彼らに情報を漏らし過ぎたか。 そのせいでこれまでよりも強く、この世界が異物であるわたしを排除しようとしているのだろう。 「――まだ…」 消えるわけにはいかない、彼女との約束を履行する為に。 わたしはわたしの使命を再確認し、それを厳重に保存した。 〜Interlude〜終 159 名前:orz[] 投稿日:2010/04/29(木) 18:23:45.70 ID:MO5HMfwI0 「キョンくーん、朝だよー」 「ぐはぁっ!」 妹よ、頼むから普通の起こし方を覚えてくれ、今回のフライングボディプレスは結構効いたぞ。 目覚めた俺を朝倉の手料理が出迎えてくれた。 「簡単なものしか作ってないけど」 いやいや、鯵の開きにほうれん草のお浸し、冷や奴、味噌汁に御飯、デザートに杏仁豆腐というのは十二分に豪勢だと思うぞ、朝倉よ。 「それで、今後の方針なんだけど」 朝倉が箸を進めながら気楽な感じで言う。 「ワームの本拠地に乗り込んで、殲滅するのはどうかしら」 おいおい 「いくらなんでも無茶が過ぎるだろ」 「そうかしら」 「…」 「…」 朝倉の奴目がマジだな。有無を言わせない雰囲気を発してやがる。 「だいたいワームの本拠地ってどこだよ」 「これから探すわ」 「どうやって」 「ワームを捕まえて在りかを吐かせるわ」 「…敵はハルヒの力を持ってるんだぞ、対抗できるのか?」 「…」 「…それに、首尾よくワームを全滅させた所で、もう元の世界には」 「わかってるわよ!そんなこと!!」 朝倉が怒鳴る。 妹がその声に驚き、怯えるように俺の服の裾を掴んだ。 「…ごめんなさい、でもわたしはワームが許せないの」 「朝倉…」 160 名前:orz[] 投稿日:2010/04/29(木) 18:29:47.25 ID:MO5HMfwI0 気まずい雰囲気のまま朝食が終わった。 「ちょっと食料の買い出しに行ってくるわ」 「一人で大丈夫か?何なら俺がついて行くぞ?」 「大丈夫よ。…でも…そうね、何かあったときは連絡するから、助けに来てくれると嬉しいかな」 「お、おう」 俺は顔を赤らめた。 朝倉の笑顔って意外に破壊力でかいんだな。 「ん?」 九曜が朝倉の袖を引っ張っていた。 「――短気――損気…」 「ありがとう…わたしは、大丈夫よ」 そう言って朝倉は九曜の髪を撫で、玄関を出て行った。 「ありがとうございましたー」 景気のいいレジ打ちの声を背に、わたしはスーパーを出た。 手にはなかなかに重たいビニール袋。 周防さんの家の台所は調味料が充実していないので一式買い込んだのだ。 「周防さん、か」 出掛ける前、周防さんの一言で自分が大分冷静になった気がする。 あのときわたしは単独でワームの本拠地を探ろうと本気で考えていた。 周防さんの言葉がなければ、もしかしたらわたしは後先考えない行動を起こしていたかもしれない。 再起動してからの自分はどうも制御の効かない衝動に駆られることが多いのだ。 162 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 18:33:51.59 ID:MO5HMfwI0 わかっている。 これはあの長門に扮したワームが、わたしを再構成する際データを改竄した所為だ。 わたしが今、キョンくん達を…仲間を大切に思う気持ち。 仲間の信頼に応えようと頑張る心。 これらの感情は全てあのワームが自身を守るべくわたしに設定したものだ。 だからわたしは許せなかった、ワームが。 長門に扮したワームが死んだとき、わたしは悲しみを覚えた… わたしの心が、改竄されたものであることを思い知らされたのだ。 清々してしかるべきなのに、胸にぽっかりと大きな穴が開いたのだ。 (「――貴方の――胸――とても――大きいわね…」) わたし本来の心なんて、ぽつぽつと、点在するくらいにしか残っていなかった。 (「――綺麗な――ぽつぽつ…」) 「…はは」 周防さん、全部お見通しだったんだ。 だから、自棄しそうだったわたしを思いとどめた。 わたしの身を、案じたのか。 「綺麗…だってさ」 帰ったらご馳走を作らなきゃね。 でも素直になるのもしゃくだから昆布料理にしてやろう。 …塩味になりそうだけどさ。 164 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 18:37:45.97 ID:MO5HMfwI0 「おやおや、随分と大荷物ですね」 突然話しかけられて、わたしは振り向いた。 声の主は軽薄そうな笑顔を顔に貼付けた高校生だった。 「どうも、お久しぶりです、朝倉さん」 男子生徒、古泉一樹は微笑を崩さずに挨拶をしてきた。 「お久しぶりね、古泉君」 挨拶を返しながら、私は彼がワームでないかスキャンした。 反応がない、どうやらただの人間のようだ。 「わたしに何か用かしら」 「美しい女性に声をかけるのに理由がいるでしょうか」 イラっと 「あら嬉しい」 「よろしければどうです?少しお茶でも」 「ごめんなさい、友達を待たせているので」 「その友達とは、"彼"と妹さん、そして周防九曜さんですか?」 空気が凍った。 165 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 18:41:50.88 ID:MO5HMfwI0 「すみません、僕は化かし合いが苦手で。単刀直入に言います。"彼"を僕達に渡して下さい」 この男はワームの味方? 人間なのに? 「流石に素直に渡してはくれませんか…」 いつの間にか古泉君の右手首に銅色のカブトムシがとまっていた。 「変身」 『Hen-Shin!』 古泉君の姿が銅色の戦士へと変貌する。 『Change!Beetle!』 「クロックアップ」 『Clock up!』 「な?!」 驚いたわたしは次の瞬間体をぼろぼろにされていた。 「正攻法ではあなたのような地球外の方相手に勝ち目はないので、先手をとらせてもらいました」 そう言って古泉君はまたクロックアップし、再びわたしの体が裂かれる。 わたしも情報を制御し作り出したナイフの雨で反撃を試みるが、それ以上に古泉君の攻撃の方が速い。 古泉君のクナイによって、既にわたしは両手両足を切断されてしまっていた。 「すみません、とどめです」 殺られる?! だが終焉の刻はまだわたしには訪れなかった。 古泉君がわたしから遠ざかり腕を押さえていたのだ。 その腕にはわたしのナイフが装甲をつき破って刺さっている。 わたしの攻撃が当たったの? そんな感じはしなかったけど… 167 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 18:47:55.48 ID:MO5HMfwI0 でもこの隙を見逃すわたしじゃない。 急いで肢体を修復し、ゼクターを構える。 「変身!」 『Hen-Shin!』 「キャストオフ!」 『Cast off!』 私から弾け飛ぶ装甲は、全て古泉君にあたり、その動きを牽制した。 『Change!Stag-Beetle!』 「クロックアップ!」 『Clock up!』 わたしはカリバーを手に、電光石火の連撃で古泉君を切り付ける。 「がはっ」 やれる! 「ライダーカッティング!」 『Rider Cutting!』 わたしはカリバーを合わせて作った大挟みで古泉君の胴を捉えた…が 「きゃあ!!」 突然の衝撃がわたしの体を襲い、わたしは体を支え切れずに不様に地面を転がる。 「そこまでよ!」 よく通る女性の声…ってこの声は! わたしは記憶にある声の主…さっきわたしを止め、今高台に仁王立ちしている少女の姿を見て目を見開いた。 「このあたしが来たからにはあんた達の好きにはさせないわ」 少女は不敵な笑みを浮かべ私を見下ろす。 「いくわよ、変身!」 「嘘?!」 『Hen-Shin!』 少女の体が黄金色の装甲に包まれていく。 辺り一面に蒼い薔薇が舞い、金色の戦士が降臨した。 169 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 19:00:12.22 ID:MO5HMfwI0 「とうっ!」 掛け声と共に少女が高台から飛び降りる。 次の瞬間にはわたしの装甲は残骸と成り果てていた。 何をされたのか全くわからない。 「つまんない」 わたしを痛め付けた少女が呟いた。 「何よあんた、全然弱いじゃない。古泉くんを負かす相手だからてっきり強いと思ったのに」 少女は不平を足れる。 「まあいいわ」 少女がそう言った刹那、わたしの体はさらに弾き飛ばされていた。 もはやわたしの変身は解けており体には力が入らない。 「あたしたちSOS団に喧嘩を売った相手には全力で答えることにしているの」 わたしが少女を睨みつけると 「諦めて下さい」 いつの間にか古泉君がそばにやって来ていて、そう告げた。 「涼宮さんを太陽とするこの世界では、あなた方は日陰者、悪なんです」 古泉君は蔑むような…哀れむような微笑を浮かべていた。 「――今――笑ったか…?」 170 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 19:06:11.11 ID:MO5HMfwI0 闇の底より響いてきた声の主は、まるでこの世界に落とされたインクの雫のように、異様な雰囲気で立っていた。 そしてその傍らにはもう一人、見覚えのない女の子が添っていた。 「――どうせわたし達は――日向の道を――歩けない…」 「汚してやります、太陽なんて」 二人の少女が順に言う。 その手には翠色、そして茶色のバッタが握られていた。 「――変身…」 「変身」 『『Hen-Shin』』 『Change!KONBU-Hopper!』『Change!Punch-Hopper!』 電子音声と共に二人はそれぞれ翠色、灰色の戦士へと姿を変える。 「行きます」 灰色の戦士が古泉君に殴り掛かり、古泉君は後退する。 「やれやれ、あなたもライダーに選ばれていましたか」 「そういうことです」 「抵抗は止めて大人しく彼を引き渡してくれると嬉しいのですが」 「お断りします(AA略)」 「相変わらず頑固ですね」 「貴方に言われたくありません」 「そんなに"彼"を手放したくありませんか」 「ええ、鍵を間違った神様には渡せません。彼にとっては佐々木さんこそが相応しい伴侶なのです」 「…しかし彼女はもう」 「ええ、ワームに殺されました。」 灰色の戦士が古泉君に拳を叩き込む。 172 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 19:12:28.67 ID:MO5HMfwI0 「くっ」 「私の組織も解散しました。酷いものでしたよ、組織の末路は。優先されたのは弔いよりも責任のなすりつけ合い。そして内輪もめ。最期に組織の半分はワーム側に寝返り、もう半分をワームに売り渡したんです。親しかった人に裏切られ、命を失いかけるのは地獄でしたよ…?」 戦士の拳はなおも古泉君を打ち付ける。 「今のあたしは敗軍の兵、いわば仕えるべき主を失った従者。だからこれはあたしの個人的な我が儘なのです。」 一際重そうな一撃が、古泉君の体躯を吹っ飛ばした。 「あなた達に、佐々木さんの嫁は渡しません!」 嫁…?いや、夢の聞き間違いよね…多分、おそらく、きっと。 「ちょっと古泉くん!何やってんのよ!」 涼宮さんの恫喝が飛ぶ。 「いやはや、面目ありません」 「いいわ、ここはあたしに任せて下がってて。」 「すみません、涼宮さん」 古泉君が後退し、金色の戦士が前に歩み出る。 「覚悟しなさい、あんた達全員速攻でぶっ飛ばして、すぐにキョンを返してもらうから」 「くっ…クロックアップ!」 「――クロック――アップ…!」 『『Clock up!』』 灰色の戦士と周防さんがクロックアップに入る。 しかし次の瞬間、二人はその装甲をボロボロに砕かれ膝をついていた。 「そんな…あたし達のクロックアップより速いなんて…!?」 「――悪寒――的中…」 戦慄する二人に、金色の戦士が歩み寄って来る。 「さあ、キョンの居場所を教えてもら…!?」 金色の戦士が突然足を止め空を仰いだ。 174 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 19:19:44.43 ID:MO5HMfwI0 「――ァァァァッシュ!」 『Rider Slash!』 空から変身した妹ちゃんが落ちてきて金色の戦士に斬り掛かった。 しかし金色の戦士はそのヤイバーを白刃取りで捉える。 「奇襲とは卑怯ね、でもこんなことであたしは」 「キョンくんっ!今っ!」 瞬間、世界が真っ白になった。突然の閃光が視界を焼いたのだ。 「痛っ」 わたしは瞳孔を調節し 「朝倉!お前も乗れ!」 声に促されて彼の駆るバイクに跨がった。 「――撤退…!」 「はいです!」 周防さん達もいつの間にか現れたバイクに跨がりわたし達に続く。 「こらーっ!待ちなさーい!」 金色の戦士は明後日の方向に向けて声を張り上げていた。 178 名前:〜Interlude〜[] 投稿日:2010/04/29(木) 19:24:24.21 ID:MO5HMfwI0 「あーもうっ!腹立つー!」 「閃光弾とは予想外でしたね」 「あーのアホキョンっ!敵に協力してどーすんのよっ!!」 涼宮さんの機嫌は目に見えて最悪です。 まったく、あなたという人は彼女の機嫌を損なうことにかけては天才的な腕を発揮しますね。 「涼宮さーん」 「みくるちゃん、とみくるちゃんのお姉さん?」 「こんにちは、涼宮さん」 朝比奈姉妹(ということになっている)は同じ型のバイクに乗ってきていた。 「ちょっとみくるちゃん、どうしたのそのバイク?!」 「はわわわ、これは、ですね〜、あの〜、その〜」 「僕が頼んだんです。これからのSOS団に必要かと思って、知人に譲ってもらう予定だったものを、朝比奈さん達に受領しに行って貰ったんですよ」 「そうなの?」 「ええ」 勿論嘘です。朝比奈さん達はライダー討伐の帰り。確かパンジーとかいう男とコンピ研の部長でしたか。バイクはその戦利品の一つでしょう。 「よし!じゃあ早速キョン達を追いましょう!」 「え?!」 「会長であるこのあたしに逆らうなんて言語道断よ!絶対に逃がさないわ!とっちめて必ず罰ゲームを味わわせてあげる!さあ、行くわよみんな!」 「「「お〜!」」」 ご愁傷様です。どうやら涼宮さんの目的はあなたの救出からあなたへのお仕置きにすり替わったようですよ? 僕は息をまく涼宮さんの姿を見つめ、ひとりごちる。 「…たとえその正体が何者でも、それが涼宮さんである限り、僕は彼女を守らざるを得ないんです…」 179 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 19:29:25.75 ID:MO5HMfwI0 「ちょっと!キョン君運転出来たの?」 俺の背に捕まっている朝倉が叫ぶ。 俺達は現在バイクを駆り街道を全速力で逃走しているのだ。 「よくわからん!自転車の要領で何とかしてる!」 「大丈夫なの!?」 「知らん!!」 「知らんって…一旦止めて」 「駄目です!」 同じくバイクで並走している橘が叫ぶ。こちらは周防を後ろに乗せており、その周防は妹を抱き抱えている。 変則三人乗りだ。 「相手が涼宮さんならきっとすぐ追ってきます。今はできるだけ速く遠くへ!」 「おう!」 「それにしてもまったく!なんであなたまで来るんですか!敵の狙いはあなたなのですよ!?」 「そんな事わかってるぞ!」 「あなたはアジトで留守番してればよかったのです!」 「んな事できるか!」 仲間のピンチに駆け付けないでいられる男がいるわけないだろう。 180 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 19:36:27.68 ID:MO5HMfwI0 「…馬鹿ですね、大馬鹿です!…でもあなたのそういう所、好きですよ!」 「な?!」 「おやおや、橘さんもキョンくんにほの字かにょろ?」 「そんなんじゃないです!佐々木さんの伴侶に相応しいという意味なのです!」 「そうかい!」 全く、誤解を招く発言は控えてほしいね、一瞬顔が熱くなっちまったぞ。 「いや〜キョンくん、もてもてだぁねい?」 ほら見ろ。鶴屋さんも誤解した…って 「鶴屋さん!?」 「お久しぶりっさ!」 いつの間にか、鶴屋さんが俺の右隣、橘の反対側をバイクで並走していた。 その手には銃が握られていて まずいっ! 俺は急ブレーキをかける、が間に合わない。 銃声が轟き、俺のバイクの車輪に衝撃が走る。 バランスを崩した車体ごと俺と朝倉は横転した。 「キョンくんっ」 妹達が俺を呼ぶ声が遠ざかる。 181 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 19:42:21.20 ID:MO5HMfwI0 「くそっ」 俺の方は全身を強く打ったものの、何とか生きている。流石に死ぬかと思ったけどな。 「ごめんね〜、後で手当てしてあげるから勘弁っさっ」 バイクを降りた鶴屋さんが近付いて来る。 誰かが地面を這いつくばったままの俺を守るように俺の前に立った。 視線を上げて見える水色のパンティー…朝倉だ。 「変態」 弁解する気力もない俺の耳に 『Hen-Shin!』 という電子音声が届き、朝倉が青の甲冑を纏う。 「キャストオフ」 『Cast off!』 弾け飛んだ装甲の一個は俺に当たり(意外にもあまり痛くなかった)、残りは鶴屋さんの背後にあったバイクに命中。車体が火に包まれた。 「最初から全開かい?受けて立つっさっ」 鶴屋さんの持っていたグリップにトンボが止まる。 「変…」 そのとき鶴屋さんの背後で燃えていたバイクから一際大きい炸裂音がし、爆風が鶴屋さんのスカートを捲り上げた。 「…態!」 正直そそりました、と内心で宣う俺の耳に 『Hen-Shin』 という電子音声が聞こえ、鶴屋さんの身は水色の甲冑に包まれた。 「キャストオフ!」 『Cast off!』 鶴屋さんの一声と共に、その装甲が弾け、こちらに飛んで来る。 朝倉はこれらをよけた為、その全てが俺に当たる。 「あ痛っ、痛っ痛っ」 朝倉よ、俺を守る気あるのか? 183 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 19:48:41.14 ID:MO5HMfwI0 「さあさあ、始めるっさ」 「…」 対峙する両者。空気が張り詰める。 「ストーップ!」 馬鹿でかい声が二人の動きを止めた。 おいおい、この声ってまさか。 「このあたしを抜きにして始めようとするんじゃないわよ!あたしも混ぜなさい!」 トレードマークのカチューシャと腕章を身につけ満面の笑みを浮かべた女――涼宮ハルヒがそこにいた。 「よいーっす、ハルにゃん!追い付いたにょろ?」 「お蔭様で。足止めありがとう、鶴屋さん」 手の平を合わせ挨拶するハルヒと鶴屋さん。 「キョンくーん」 その時、先に行ってしまっていた妹達が戻ってきた。 「――涼宮――ハルヒ…」 「うわっ、勢揃いじゃないですか」 ハルヒの方を振り返ると、古泉と朝比奈さん(大および小)までやって来ていた。 何とか上体を起こした俺を守るように妹、周防、橘、朝倉が、その向かい側にはSOS団の連中が並び立つ。 「行くわよっ」 ハルヒが金色の甲虫を構える。 古泉の奴は銅色の甲虫を、朝比奈さん(小)は銀色の甲虫を、朝比奈さん(大)は蜂を手にした。 妹、周防、橘の元にも蠍とバッタがやって来る。 戦いの予感に大気が奮えているかのように感じる。 その場にいる者の闘気がまるで荒れ狂う風を呼んでいるようだ。 そしてついに緊張が頂点に達した瞬間。 突風が、その場にいた全員のスカートを捲りあげた。 184 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 19:53:04.59 ID:MO5HMfwI0 「――「「「「「「変態!」」」」」」…」 『Hen-Shin!』 ああそうさ!全員の下着、しっかりとこの目に焼き付けたさ!悪いか!? ついに開き直った俺の耳に電子音声が轟く。 「「キャストオフ!」」 『Cast off!』 妹と朝比奈さん(大)の装甲が雨霰と俺に降りかかる。 「痛え、痛い痛い痛い」 ごめんなさいマジ勘弁して下さい赦して下さい。 必死に謝る俺をよそに戦いの火蓋がきって落とされた。 が、戦力差は圧倒的だった。 ハルヒの奴が強すぎるんだ。 朝倉が一人で朝比奈さん(大小)を、橘が古泉を、妹が鶴屋さんの相手をしている。 そして周防がハルヒの相手をしているのだが、ハルヒは度々周防のマークをかわして朝倉、橘、妹に攻撃を加えるのだ。 周防も善戦するが、如何せん基本スペックが違い過ぎる。既にその装甲は砕けボロボロになっていた。 それでも周防はハルヒに食らいついていく。 「しつこいわね!」 『Rider Beat』 一際重そうなタックルが周防を吹き飛ばし、ついに周防の変身が解けてしまう。 攻撃が装甲を貫通していたらしい。周防の体は既に傷だらけだった。 185 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 20:00:17.53 ID:MO5HMfwI0 「「周防さん!」」 朝倉と橘が周防を助けに走る。 「鬱陶しい!」 『Maximum Rider Power』 「「きゃあぁぁ?!」」 ハルヒの回し蹴りが二人を薙ぎ倒す。 衝撃で変身が解除された二人は、胸に大きな裂傷を抱えていた。 まずい。 あの傷、朝倉はまだしも、橘にとっては致命傷になりかねない。 俺は橘達の方に駆け寄ろうとして 「おとなしくして下さい」 背後から伸びてきた朝比奈さん(大)の腕に拘束された。 「このっ」 「動かないで下さい、キョンくん」 「キョンくんっ」 妹が叫び、朝比奈さん(大)に飛び掛かる。 「キョンくんはあたしが守る!」 『Rider Shooting』 しかし電子音声と共に放たれた凶弾が妹の体を撃ち落とす。 「にゃあっ!?」 「妹ちゃん、人質を取られたら動いちゃ駄目っさ」 魔弾の射手、鶴屋さんは妹を諌める。 「キョンくんっ…はっ…あたしが…守るっ」 変身を解かれた妹は傷だらけの体を引きずるようにして、なお俺の方へ歩いて来る。 その姿はあまりにも痛々しかった。 187 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 20:06:29.22 ID:MO5HMfwI0 「妹ちゃん、お痛もいい加減にして!」 朝比奈さん(小)が妹をひっぱたいた。 その姿は、実妹を叱る姉のようだ。 「目を覚ましなさい」 朝比奈さん(小)が妹の額に手をかざした。 「い、いやあぁぁぁ!やだあぁぁ!キョンくーん!!」 俺は妹の"変化"に目を見張った。 悲鳴と共に妹の体躯は膨れ上がり、白色の蠍型の怪物へと変貌したのだ。 妹が、ワーム?! 「キョンくん…」 所在なげに俺の方を振り向く化け物。 嘘だ!嘘だ!嘘だ!妹が妹がワームだなんて! 「何をショックを受けてるんですか?」 古泉が言う。 「あなただって…」 「――駄目…!!」 古泉の言葉を遮るように、裂傷まみれの周防が俺の方に駆け寄ろうとする。 「…ワームでしょう?」 古泉はそう告げた。 188 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 20:14:49.75 ID:MO5HMfwI0 「俺が…ワーム…?」 「ええ」 「何を言ってやがる、俺は人間だ」 「…」 何だよ古泉、その哀れむような目は。 周防、お前が無口なのは知っているけどさ、こんなときくらいは何か言ってくれよ。 「…」 橘も息も絶え絶えでこちらを見、悲しそうな顔を向けている。 なあ、何がそんなに悲しいんだよ。 「朝倉」 朝倉の方を見た俺はその表情に驚いた。 憎悪と敵意に満ちた双眼。 怯んだ俺の視界を、緑色の物体が掠めた。 「何だ、これ?」 緑色の物体は手だった。 その手を手首に、腕に、肩に辿ると…それらは、俺の体に繋がっていた。 「!!」 違う、俺は! そう思った瞬間、緑色の手はよく見る俺の手へと形を変えた。 「さっきのが、あなたの正体です」 古泉が、闇色の甲虫を俺に差し出す。 「大丈夫、僕等はあなたの味方です。僕等は今までもこれからもずっと、あなたの仲間ですよ」 古泉のいる向こうを見る。 ハルヒが、朝比奈さん達が笑顔で俺を待っていた。 「…そうか」 おかしいと思ったんだよ。 周防と橘は本来ならSOS団の対抗勢力、そして朝倉は俺を殺そうとした前科がある、俺の敵だ。 加えてワーム側にいたのは親友とSOS団のメンバー、鶴屋さん、そして俺の妹も… 189 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 20:19:16.40 ID:MO5HMfwI0 俺がどちらにいるべきかなんて、ちょっと考えれば判ることだったんだ。 俺は古泉の手から闇色の甲虫を受け取る。 「変身」 『Hen-Shin』 俺の声に電子音声が応える。 「キャストオフ」 『Cast off』 凶々しい電子音声と共に、俺の鎧は赤黒い装甲へ変貌する。 『Change! Beetle!』 俺は周防達を振り返る。 「さあ、キョン、とどめよ!そいつらをがつんとやっちゃいなさい!」 ハルヒのヤジが飛ぶ。 俺は自分の右手に力を込めて 191 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 20:23:22.27 ID:MO5HMfwI0 ハルヒをひっぱたいた。 「え?」 甲冑に包まれたまま、キョトンとするハルヒ。 俺はハルヒをじっと見つめる。 「なっ…何するのよアホキョン!!」 腹部に重い痛み。 こいつ、本気で殴りやがった。 「俺は、やらない」 「はぁ!?」 「俺は、こいつらを、守る」 「何言ってるの?あんたはワームなのよ!?あたし達の仲間なの!そいつらは敵なのよ?!」 「たとえ、ワームでも!俺は同じ時を過ごした仲間を守る!」 「何考えてんのよ、あんた!?」 「そして、俺は…」 俺の言葉は止まらない。 「…みんなが笑い合える日常に、還るんだ」 「馬鹿ね、そんなのはオリジナルのキョンの思考の残滓よ」 「それでも…これは今の俺自身の望みなんだ」 「そう、だったら…」 刹那、ハルヒの正拳が俺の体躯を弾き飛ばした。 「そんなワーム要らない…消えなさい」 うずくまる俺。 192 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 20:31:53.50 ID:MO5HMfwI0 その前に白い影が、俺を守るように立った 「何のつもり?」 「キョンくんは、私が守る」 蠍型の怪物、俺の妹が俺を庇っていた。 「兄妹そろって人間の記憶に引きずられるなんてね…まったく、そんな心、偽物だっていうのに」 あーあ、とハルヒが呆れるように肩をすくめたそのとき 「おばあちゃんが言っていた…」 唐突に、どこからともなく声が聞こえた。 「誰?」 ハルヒがわななく。 「…本物を識る偽物は、本物を超えられる…なんてな」 気が付くと妹のさらに前に、銀と赤の混じった甲冑を纏った戦士が立っていた。 「あんた誰よ!?」 「通り過がりのジョン・スミスだ、覚えておけ」 ジョンと名乗った戦士は俺を振り返って告げる。 「お前の気持ちはお前のもんだ。その心、大事にしろよ。」 そう言ってジョンはハルヒに向き直る。 「邪魔よ、あんたも消えなさい」 「嫌だね、どうしてもってんなら力付くでどうぞ」 193 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 20:35:30.68 ID:MO5HMfwI0 「…クロックアップ」 『Hyper Clock up』 「ハイパークロックアップ」 『Hyper Clock up』 両者がクロックアップに入る。 二人とも動きが速過ぎて、目で追うのがやっとだ。 力はほぼ互角のようだが… その刹那、ハルヒの一撃に、ジョンが躯のバランスを崩す。 好機とばかりに、ハルヒはジョンにショルダータックルで突っ込んでいく。 「…マキシマムライダーパワー」 『Maximum Rider Power!』『One Two Three』 なんと、体を崩したはずのジョンがチャージを始めていた! 「ハイパーキック」 『Rider Kick!』 カウンターで蹴りを決めるジョン。 ハルヒの体が空を舞い、その変身が解ける。 「今だ、周防!」 ジョンが叫ぶと、次に周防の声が辺りに響いた。 「――来て――長門――有紀…!」 周防の足元には血の色をもつ魔法陣のような何かが広がっており、そこから人型…長門が現れた。 「協力、感謝」 「――いい…」 長門と周防が何事かを呟くと、風が吹き荒れ、倒れたハルヒから"何か"が長門に流れ込み始めた。 194 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 20:40:32.01 ID:MO5HMfwI0 「させません」 朝比奈さん(大)が周防達の邪魔をしようと向かってくる、が 「な!?」 「すみません、朝比奈さん」 なんと古泉が朝比奈さん(大)を牽制していた。 「何をするの、古泉君!?」 「僕は涼宮さんの味方です…でも、それ以上に」 古泉が俺の方を振り向く。 「あなたの味方なんですよ?」 ゾワっと。 頼もしい台詞なのに悪寒がするのは何でなんだろうな。 「はわわわ、鶴屋さん〜、何で邪魔するんですか〜」 「風は気まぐれっさ〜」 朝比奈さん(小)の方は鶴屋さんが足止めしてくれている。 「奪取、完了」 「――再編――準備…」 風が止み、長門の体から光が広がり始める。 「Wrrryyaaaaa!!」 突然響いた唸り声の主は、ハルヒに擬態していたワームだった。 既にそいつはハルヒの皮を棄て、コオロギに似た怪物へ変化していた。 対抗するように、ジョンがどこからか巨大な剣を取り出す。 「あれ?!」 「にょろ?!」 朝比奈さん(大)と鶴屋さんの変身が唐突に解け、ジョンの剣に蜂、蠍、トンボが集まる。 『Kabuto Power! Thebee Power! Drake Power! Sasword Power! All Zecter Combine!』 ジョンが虫にたかられた剣を構える。 ってあれ?なんかあんたの体、透けてないか!? 196 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 20:45:14.02 ID:MO5HMfwI0 「くそっ、限界か」 「Wrrryyaaaaa!!」 怒声と共に向かって来るワーム。 「キョン、あとは頼む!」 ジョンは俺に剣を託すと、 忽然と姿を消した。 おいおい、この剣の使い方くらい教えてから行けよ。 「改変を開始する」 「――カウント――ダウン…」 長門と周防が再改変プログラムを走らせる。 なおも向かってくるワーム。 ―3― 俺は剣を深く握る。 剣のグリップが倒れ、銃の形になった。 ―2― 俺は照準をワームに向ける。 『Maximum Hyper Cyclone』 ―1― 放たれる光弾がワームを包む。 あれ?そういえば改変が終わったら、ワームである俺はどうなるのかな? ―0― まあいいか…みんな、じゃあな。 197 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 20:50:36.55 ID:MO5HMfwI0 でっていう。 「カブトって歴代ライダーで最高よね」 「おいおいハルヒ、そういうことは全仮面ライダーを全部見てから言えよ」 「む〜、それもそうね、じゃあ今度SOS団で全仮面ライダー観賞会を開きましょう」 「何でそうなる…」 与太話を繰り広げるハルヒと別れ、俺は駅前のアイス屋に向かう。 そこに待っていたのは 「…」 「――」 並んでアイスを舐めている長門と周防だった。 「何で仲良く並んでアイスなんか食べてるんだ、お前らは」 「契約履行」 「はぁ?」 長門の返答に首を傾げる俺。 「まさか、あの時周防に協力させた代償か?」 「…(コクリ)」 天蓋領域ってのは安い報酬で動くんだな。 「アイスを奢ることが報酬ねぇ」 しかし長門はこれに首を振った。 「ん?報酬はアイスじゃないのか?」 「…違う」 「――でえと…」 周防、よく聞こえなかった、もう一度言ってくれ。 「――報酬――デート――すること…」 訂正、聞きたくなかった、もう二度と言わないでくれ。 天蓋領域ってのは心底よくわからん。 突っ込みを諦めた俺は今回のことについてあらましを聞かせてもらった。 200 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 21:14:34.29 ID:MO5HMfwI0 まず俺達が世界を元に戻した方法だが、予想通り神の力を長門に移して改変を行ったとのことらしい。 あの世界ではハルヒに擬態したワームにとって都合の悪い力は感知されたら消される。 長門はその宇宙人パワーを消されないために、ワーム達との戦いに敗れたように見せかけて異相空間に逃げた後そこで待機し、あの瞬間周防による召喚で一発逆転を狙ったとのこと。 自分が深手を負わしたワームが自分に擬態して朝倉を利用するのは誤算だったらしい。 周防はその宇宙人パワーを秘匿することで持ち続けた。 俺と会った時真相をなかなか告げなかったのは宇宙人パワーを隠す為だったらしい。 時々はその宇宙人パワーを発揮していたようだが。 そういえばこいつの変身後だけダサ…変わった名前だったな。 KONBUなんたらっていう…あれに何か意味はあったのかね? 「――昆布――最強…」 …天蓋領域はわけわからんな。 「アフターケア」 長門が奇妙な銀色のカブトムシと白色のカブトムシを差し出してくる。 「やれやれ」 こんなことだろうと思ったけどな。 じゃあちょっくらもう一人の俺を手助けに行ってきますか。 「――協力――感謝…」 「どういたしまして…っと、そうだ」 俺は一言告げてから立ち去ることにする。 「後ろのそいつも、元気でな」 言って、俺は旅立った。 201 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 21:17:51.55 ID:MO5HMfwI0 「気付いてたか〜」 「…驚嘆」 「俺の外見、結構変えてたのにな〜、何か鋭過ぎないか、あいつ」 「――うん――たん…」 「その返答は意味不明だぞ、周防」 "たん"しか合ってねぇ。 俺は長門達のテーブルに移り、さっきまであいつが腰掛けていた席に座った。 「何で俺。残ったんだろうな」 「…不明」 「再改変の実行手が安易にわからないなんて言うなよ」 「…」 「記憶があいつに引き継がれたなら、俺は消えてもよかったんだがな」 「不可」 「――不可…」 「冗談だよ、あいつが俺を認めてくれたから俺はここにいる。俺はこの命を、大事にしたい」 「…」 「じゃあ行くわ、妹も待ってることだし」 窓の外を見ると、妹がはしゃいで手を振っていた。 兄妹そろって遺してくれるなんて、出血大サービスだな、長門よ。 あなた達が協力してくれなければ再改編は不可能だったから、と長門は言った。 そのお礼ということか? 203 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/29(木) 21:23:31.04 ID:MO5HMfwI0 あの世界では死んだキョン―鍵の代わりになるキョンの擬態がワームと周防達とのどちら側につくのかが重用だったらしい。 俺はワームであることを自覚してなおこっちを選んだ、ある意味裏切り者なわけだが。 もふもふとアイスを頬張っている周防と長門を見る。 まあ、こんな幸せそうなこいつらを、こいつらのこれからの日常を取り戻せたのなら、俺の選択も間違いじゃなかったの、かもな。 「またどこかで会うようならよろしく頼む」 「…」 「ああ、この姿は変えないつもりだから、安心してくれ。あいつの姿を参考に、自分なりにアレンジしたものでさ。気に入ってんだ」 「――疑問――ある…」 「…何故、女性の姿?」 「ああ、だって…」 俺、私は席を立ち、長門と周防に手を振る。 「…私、もともとは雌だったからな」 終