佐々木「キョン、ファイターズの開幕第二戦が始まるよ」 1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/21(日) 12:57:46.93 ID:4ysFSYWG0 「――ということなんだけど、どうかな? 長門さんは可能だと思う?」 「不可能であると推察される」 「そっか、でもどうしてなのかな……?」 「あなたがそれを実行するには、三点の懸念事項が予測される」 「一点目は、範囲の問題」 「実行範囲を我々が活動する惑星全体に及ぼすには、絶対的にエネルギーが不足している。これは範囲を限定することにより回避可能な事象ではあるが、そうした場合二点目の懸念事項が発生する」 「二点目は、実行することによって発生する情報齟齬」 「限定された範囲である実行区画とそれ以外の時空間に情報の齟齬が発生する。これは情報統合思念体からの支援を得ることにより、わたしの情報改変能力によって齟齬の解消を図ることが可能となる」 「三つのうち、二つの問題はクリアできるんですね。……でも、どうして長門さんは不可能だと思うんですか?」 「三点目は――」 「――それを実行するためには、あなたがそれを心から願わなければならないという点」 「わたしはあなたにそれが可能だとは思えない」 「あなたがなぜこのようなことを望むのか。理由を聞かせて欲しい―― 2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/21(日) 12:58:32.83 ID:4ysFSYWG0  なんだかいい匂いがする。甘くて優しくて、それでいて胸の奥底を焦がす蟲惑的な匂いだ。  そしてあたたかい。ぬるい春の日差しのように、自分と世界との境目を曖昧にさせるあたたかさだ。  魂が抜け出てしまったような浮揚感さえ感じてしまう。もしや知らぬ間に天国という場所に召されてしまったのだろうか。 「やぁキョン、お目覚めはいかがかな?」  天国とは個々の好みさえ仔細に応じてくれるところであるらしい。佐々木に瓜二つの天使様が声を掛けてくださっておられる。 「キョン、寝ぼけるのも大概にしたまえ。……ぼ、僕がキミにとっての天使らしいということについて否やはないが」 「んぁ?」  目の前に佐々木がいた。そしてこのカメラアングルには既視感があるな。 「キョンがあまりにも気持ちよさそうに寝ているものだからね。起こすのは忍びなかったのだよ」  その判断に謝辞を贈るのは吝かでないのだが、今の俺にはまず確認しなければならないことがある。 「佐々木、この体勢はなんだ?」 「知らないのかい? 膝枕だよ。『他人の膝を枕にして横になること。多くは男が女の膝を枕にすることにいう』という意味だ」  いや、俺が訊いてるのは膝枕という単語の意味じゃなくて、どうして俺が膝枕をされているかということなんだが……。 3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/21(日) 12:59:16.33 ID:4ysFSYWG0 「ふふ、キョンの寝顔があまりに無防備だったからね。間近で鑑賞したくなっただけさ」  俺の寝顔なんざ鑑賞に値するとは到底思えないんだがな。 「それに、一度でいいからこういうことをしてみたかったのだ。朝比奈さんに先を越されてしまったのは少し悔しいがね」 「…………なんのことだ?」 「キョン、証拠は挙がっているのだよ。少しでも罪悪感があるのなら、もうしばらくこうしていたまえ」  二年間の高校生活でいろんな経験をしてきたつもりなのだが、寝起きに禁錮刑を科せられるのは初めてだ。  抵抗する権利のない俺ができることと言えば、この光景が俺たち以外の目に留まらないことを祈るのみだ。 「…………」  視界の端で妹がさかんに携帯のシャッター音を響かせている気がするのだが、何も見なかったことにしよう……。 4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/21(日) 12:59:59.02 ID:4ysFSYWG0 ※このスッドレは『涼宮ハルヒの分裂』に登場した僕っ娘『佐々木さん』がファイターズを応援するスレです。 ※原作『涼宮ハルヒの分裂』までのネタバレがあるかもしれません。アニメだけしか観ていない人はご注意ください。 ※話の流れは実際の試合展開に順じます。   → NHKBS1・CS「GAORA」・パ・リーグライブTV(ストリーミング配信)にて視聴可能です  ※パ・リーグライブTV URL:http://pa.tv-live.jp/isp/yahoo/index.php 【主な登場人物】  ・佐々木さん:北海道日本ハムファイターズファン  ・キョン:読売ジャイアンツファン 5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/21(日) 13:04:31.71 ID:4ysFSYWG0 一回表 公0−0鷹 一死一塁 P:武田勝 本多 三ゴ 川崎 右安 「今日の先発は武田勝と大隣か」 「そうだね。左同士の対決になる」 「そういや昨日は、お前のチームの左打者が左の杉内に抑えられてたな」 「糸井以外は打てていなかったね。稲葉さんの快音を聞きたいものだよ」 6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/21(日) 13:07:36.11 ID:4ysFSYWG0 一回表 公0−0鷹 チェンジ P:武田勝 オーティズ 遊併殺 「うん! さすが勝だね!」 「それにしても川崎は調子いいな」 「そうなのだ。走られる前に抑えることができてよかったよ」 7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/21(日) 13:12:05.68 ID:4ysFSYWG0 一回裏 公0−0鷹 ニ死 P:大隣 賢介 中飛 ニ岡 遊ゴ 「杉内と比べるとさすがに見劣りするな」 「先発ローテーションを任される良いピッチャーなのだけれどね」 「そうだな。もうツーアウトだ」 「キョン、何か言ったかな……?」  いてぇ、耳を引っぱるな! 8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/21(日) 13:15:28.24 ID:4ysFSYWG0 一回裏 公0−0鷹 チェンジ一塁残塁 P:大隣 稲葉 右安 信二 からさん 「やったぁ! 稲葉さんがヒットを打ったよ!」 「昨日はノーヒットだったしな」 「ふふ、稲葉さんはさすがだね! 昨日の悪い流れを引きずっていないよ!」  佐々木、嬉しいのはわかるがあまり暴れないでくれ。  視界がグラグラゆれるんだ。 12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/21(日) 13:23:47.63 ID:4ysFSYWG0 ニ回表 公0−0鷹 チェンジ P:武田勝 小久保 遊ゴ 多村 遊ゴ 李 からさん 「左の先発って、勝以外にどんなのがいるんだ?」 「あとは八木くらいかな。昨年は藤井くんがいたのだけど移籍してしまったからね」  ああ、藤井はFAでウチに来たんだったな。 「その藤井なんだが……」 「いや、僕は気にしていないよ」 「彼が居るべき場所に行くことができるなら、移籍だって悪いことじゃないさ」  どうした佐々木、えらく殊勝……というか達観した台詞だな。 17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/21(日) 13:34:44.69 ID:4ysFSYWG0 ニ回裏 公0−0鷹 チェンジ P:大隣 糸井 からさん 小谷野 右飛 中田 みのさん 「中田か、昨日はしぶとくヒット打ってたな」 「うん、あのタイムリーは中田本人よりも周囲の方が喜んでいたのではないかな」 「って、ここは見逃し三振か」 「まだ伸びしろが残っていると思うことにするさ」  佐々木、その台詞はベテラン向けの言葉だと思うんだが。 18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/21(日) 13:41:39.56 ID:4ysFSYWG0 三回表 公0−0鷹 チェンジ P:武田勝 長谷川 遊ゴ 松田 からさん 田上 二ゴ 「すげえな、ここまで三人ずつで終わらせてるのか」 「そのようだね。川崎にヒットを打たれたもののしっかりと投げているね」 「今日は投手戦か」 「キョン……、『今日は』とはどういう意味なのだい?」  佐々木、顔がちょっと恐いぞ……。 19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/21(日) 13:44:04.56 ID:4ysFSYWG0 三回裏 公1−0鷹 一死 P:大隣 大野 中飛 金子 左ホームラン! 「しっかし、大隣もよく抑えてるな」 「このままズルズルと回を重ねてしまうと……やったぁ! すごいよ金子!」 「ここでホームランかよ」 「ふふ、さすが恐怖の九番金子だね! この先制点は大きいよ!」 20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/21(日) 13:46:41.57 ID:4ysFSYWG0 三回裏 公1−0鷹 一死ニ塁 P:大隣 賢介 二内安 ニ岡 (WP → 賢介ニ進) 「うん! 賢介にもシーズン初安打が出たね!」 「ふふ、このまま稲葉さんに回ってくればジャンプができるよっ!」  佐々木、膝枕をした体勢で、どうやって稲葉ジャンプをするつもりなんだ……? 21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/21(日) 13:48:34.75 ID:4ysFSYWG0 三回裏 公1−0鷹 ニ死三塁 P:大隣 ニ岡 一ゴ(進塁打) 稲葉 「♪ラー ラララーラーラーラーラー」(ギシギシ)  佐々木、まさか膝枕したままソファーで跳ねるとは思わなかったぞ。  首が折れそうだ……。 22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/21(日) 13:52:02.31 ID:4ysFSYWG0 三回裏 公1−0鷹 ニ死一三塁 P:大隣 稲葉 よんたま 「フォアか、勝負を避けたみたいだな」 「むぅ……」 「高橋だって四番なのにな。左の稲葉を歩かせて右の高橋で勝負ってすげえな」 「ふふ、それだけ稲葉さんがすごいってことなのだよっ!」  お前の稲葉信望もすごいぞ……。 23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/21(日) 13:55:20.26 ID:4ysFSYWG0 三回裏 公1−0鷹 チェンジ二者残塁 P:大隣 信二 捕邪飛 「う〜ん、信二の調子があまり良くないようだね」 「タイミングが合ってないみたいだな」 「そうだね、少し心配だよ」 「まぁ先制できたんだし、充分だろ」 「うん! 勝の調子もいいようだし、このままリードを守って欲しいね!」 24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/21(日) 14:01:23.32 ID:4ysFSYWG0 四回表 公1−0鷹 チェンジ P:武田勝 本多 中飛 川崎 二ゴ オーティズ 三ゴ 「武田勝はずいぶん安定してるな」 「好調の川崎もインコースのストレートで詰まらせていたね」 「得点直後の回をしっかり抑えてくれたのだ。安心して見られるよ」  俺としてはもう少し打たれてくれたほうが面白いんだがな。 25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/21(日) 14:07:18.49 ID:4ysFSYWG0 四回裏 公1−0鷹 ニ死一塁 P:大隣 糸井 中飛 小谷野 右安 中田 二飛 「うんうん! 小谷野は巧く合わせたね!」 「中田の前にはずいぶんランナーが出るな」 「小谷野の調子がいいからね。小谷野の勢いに続いて欲しいところなのだけれど……」 「打ち上げちまったか」 「強いスイングだったのだ。打ちにいった姿勢は評価されるべきだよ」 26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/21(日) 14:10:44.34 ID:4ysFSYWG0 四回裏 公1−0鷹 チェンジ一塁残塁 P:大隣 大野 右飛 「今日のスタメンマスクは坂田師匠じゃないんだな」 「ピッチャーによって、鶴岡と大野を使い分ける感じだね」 「そうか……」 「キョンがどうしてそこまで肩を落とせるのか、僕には不思議でならないよ……」 27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/21(日) 14:16:30.63 ID:4ysFSYWG0 五回表 公1−0鷹 チェンジ P:武田勝 小久保 三直(小谷野FP!) 多村 二飛 李 右飛(大ファール) 「李は調子悪いみたいだな」 「そうだね、昨日今日とヒットが……ひぃっ!」 「すげえな。フェアかと思ったぞ」 「あ、あなどれない相手ということだね……、ハハ……」  ダレてた佐々木にはいい薬になったみたいだな。 28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/21(日) 14:23:06.27 ID:4ysFSYWG0 五回裏 公1−0鷹 チェンジ P:大隣 金子 からさん 賢介 左飛 ニ岡 ニ邪飛 「しっかしサクサクだな」 「…………」 「あれ? 佐々木どうした?」 「……すぅすぅ」  おい、寝るな……。 29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/21(日) 14:26:48.29 ID:4ysFSYWG0 六回表 公1−0鷹 一死 P:武田勝 長谷川 遊ゴ 「佐々木」 「うぅん……」 「佐々木、起きろよ」(ゆさゆさ) 「だ、だめだよキョン……、僕たちはまだ未成年なのだ……」  佐々木、お前はどんな夢を見てるんだ……? 30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/21(日) 14:29:59.30 ID:4ysFSYWG0 六回表 公1−0鷹 チェンジ P:武田勝 松田 遊ゴ 田上 遊ゴ 「うぅん、キョン……、そんなことをしては……」  佐々木の夢の中の俺は、いったい何をやらかしているんだ……。 「非実在青少年の規制に抵触してしまうではないか……」  ほんとに何やってんだよっ! 31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/21(日) 14:32:24.23 ID:4ysFSYWG0 六回裏 公1−0鷹 一死 P:大隣 稲葉 右飛 「佐々木、稲葉の打席だぞ」 「ええっ! それは本当かい?」  一発で目が覚めたな。 32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/21(日) 14:37:28.74 ID:4ysFSYWG0 六回裏 公1−0鷹 チェンジ P:大隣 信二 二ゴ 糸井 三邪飛 「うぅ……」 「攻撃の糸口すら掴めない感じだな」 「リードはしているのだけれど、最少得点差だからね。追加点が欲しいよ」  この展開のままだと、一発でひっくりかえされそうだしな。 34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/21(日) 14:41:32.50 ID:4ysFSYWG0 七回表 公1−0鷹 ニ死 P:武田勝 → 江尻 本多 投ゴ(バント) 川崎 一ゴ オーティズ 「川崎も抑えたか、本当につけいる隙がないな」 「うん、このままの調子で……あれ?」 「おいおいおい、ここで代えるのかよ」 「一発のあるオーティズとはいえ、完璧に近い投球をしていた勝を下げるべきだったのだろうか……」 「まぁ結果はそのうちわかるだろ」 「そうだね、ファイターズにとって悪い結果にならないことを祈るのみだよ……」 35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/21(日) 14:45:11.39 ID:4ysFSYWG0 七回表 公1−0鷹 ニ死一塁 P:江尻 オーティズ 左安 「ひぃぃっ!」 「ずいぶん危ないところに投げるな……」 「ヒットで済んでよかったよ……」 「次もヒットで済むとは限らないけどな」  佐々木、すまん。ほんの出来心だったんだ。だからそんなに耳を引っぱらないでくれ……。 36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/21(日) 14:47:41.66 ID:4ysFSYWG0 七回表 公1−1鷹 ニ死ニ塁 P:江尻 小久保 右二タイムリー! 「……」 「江尻は何しに出てきたんだろうな」 「それは僕が一番訊きたいよ……」 37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/21(日) 14:51:43.94 ID:4ysFSYWG0 七回表 公1−1鷹 チェンジニ塁残塁 P:江尻 多村 遊ゴ 「追いつかれちゃった……」 「まぁ逆転されなかっただけラッキーだったって思おうぜ」 「うん……」  佐々木もかわいそうなんだが、勝ち星を消された武田勝もかわいそうだな……。 38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/21(日) 14:56:45.84 ID:4ysFSYWG0 七回裏 公1−1鷹 ニ死一塁 P:大隣 小谷野 中飛 中田 からさん 大野 左安 「中田はいいように手玉に取られてるな」 「これも経験のうちだよ。いずれは教科書通りの攻めにも対応してくれるさ」 「そうだな――おお、ヒットが出たか」 「ツーアウトだけど、さっきホームランを打った金子だからね! 期待したいよ!」 40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/21(日) 15:04:24.97 ID:4ysFSYWG0 七回裏 公1−1鷹 チェンジ一塁残塁 P:大隣 金子 遊ゴ 「金子もよく粘ったのだけれどね」 「大隣もいい球投げてたからな、仕方ないだろ」 「うん、次は一番から始まることだし、切り替えるさ」 「ふふ、それに稲葉さんにも打席がまわることだしねっ!」  まったく、お前の頭のなかは稲葉ばっかりだな。 41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/21(日) 15:07:40.70 ID:4ysFSYWG0 八回表 公1−1鷹 無死一塁 P:江尻 → 建山 李 よんたま (代走:明石) 「ノーアウトのランナーか、ちょっと厳しいな」 「しかもストレートのフォアボールだったからね、ちょっと心配だよ……」  しっかし、ホークスのブルペンとは大違いだな。 42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/21(日) 15:14:19.69 ID:4ysFSYWG0 八回表 公1−1鷹 ニ死ニ塁 P:建山 長谷川 投犠 松田 からさん 「空振り三振か」 「制球が定まらないようだったけれど、ここで持ち直してきたようだね」 「ツーアウトまでこぎつけたって感じだな」 「あとひとつで抑えられるのだ。なんとしても踏ん張って欲しいところだよ」 44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/21(日) 15:17:31.82 ID:4ysFSYWG0 八回表 公1−1鷹 チェンジニ塁残塁 P:建山 田上 からさん 「やったやった! よく抑えたね!」 「連続三振か、最初のフォアボールが嘘みたいだぞ」 「シーズン初の登板だったからね、建山も緊張していたのではないかな?」 「十二年目のベテランでも緊張するとは、なんともかわいいではないか」  佐々木、ベテランにいう言葉じゃないからな。 46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/21(日) 15:20:33.10 ID:4ysFSYWG0 八回裏 公1−1鷹 一死二塁 P:大隣 賢介 左飛 ニ岡 左二 「大隣はまだ投げるのか」 「一発は打たれたが好投しているからね、代えづらいのではないだろうか」 「まぁ目の前であんな交代見せられちゃな」 「キョン……、それはどういう意味なのだい……?」 「さ、佐々木! ニ岡が打ったぞ!」 「もう! キョンのバカ!」  ニ岡に感謝しなきゃならないな……。 47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/21(日) 15:23:41.66 ID:4ysFSYWG0 八回裏 公1−1鷹 一死二塁 P:大隣 → 摂津 稲葉 ジャンプ中 (代走:ニ岡 → 紺田) 「♪ラー ラララーラーラーラーラー」(ギシギシ) 「♪ラーラーラー ラーラーラー ララララー イーナーバー!」(ギシギシ)  佐々木、ジャンプをするときくらい膝枕をやめてもいいんじゃないか?  側頭部にお前のふとももががんがん当たってるんだよ……。 49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/21(日) 15:30:15.79 ID:4ysFSYWG0 八回裏 公1−1鷹 チェンジ二塁残塁 P:摂津 稲葉 からさん 信二 投ゴ 「稲葉さん……」 「あんまり調子よくないみたいだな」 「うん……、ここまであっさりと空振りしてしまう稲葉さんなんて珍しいよ」  稲葉の調子が上がってくれば佐々木の機嫌も良くなるんだろうがな。  活躍する稲葉を見ると軽くムカつくのはなぜなんだ。 50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/21(日) 15:36:26.95 ID:4ysFSYWG0 九回表 公1−1鷹 チェンジ P:建山 → 宮西 本多 からさん 川崎 からさん オーティズ 中飛(糸井好捕!) 「宮西は調子がいいみたいだな」 「うん! 江尻、建山と立ち上がりの調子が良くなかったからね、宮西の好投がより栄えるよ!」 「しかも糸井のファインプレーまで出たぞ」 「ふふ、いい流れで九回の裏を迎えることが出来たね! このままサヨナラさ!」 51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/21(日) 15:41:15.31 ID:4ysFSYWG0 九回裏 公1−1鷹 一死一塁 P:摂津 糸井 二ゴ 小谷野 よんたま ※オーティズ → 城所(中)   長谷川(中→左) 「ランナーが出たな」 「糸井は凡退してしまったけれど、小谷野はよく選んだよ」 「そして中田か」 「ここまであまりいい内容ではないからね。結果を出して欲しいところだよ」  ここはちょっと見ものだな。 54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/21(日) 15:48:58.24 ID:4ysFSYWG0 九回裏 公1−1鷹 一死満塁 P:摂津 中田 よんたま(代走:村田) 大野 → 坪井 死球 「うん! よく見たね!」 「落ちる球もよく見逃してたな」 「ヒットを打つだけが彼の役目ではないからね! ふふ、いい仕事をしてくれたよっ!」 「一打サヨナラで坪井か……、ここでデッドボールかよ」 「うんうん! いい展開だねっ! さぁ金子、決めてくれたまえ!」 58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/21(日) 15:55:30.06 ID:4ysFSYWG0 九回裏 公1−1鷹 チェンジ満塁 P:摂津 金子 二併殺 「……」 「フォアで終わるかと思ったんだがな」 「………」 「佐々木? どうした?」 「…………」  どうやら緊張の糸が切れたようだ。 59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/21(日) 15:59:53.71 ID:4ysFSYWG0 十回表 公1−1鷹 一死 P:宮西 → ウルフ 小久保 中飛 「このウルフってやつは新しく入ってきたのか?」 「うん、今期加入の新外国人選手だ。ブルージェイズから移籍してきたようだね」 「ストレートが動いてるみたいだな」 「そうだね、ムービングファーストボールを中心に――ひぃぃっ!」  心臓に悪い当たりだったな……。 61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/21(日) 16:03:48.24 ID:4ysFSYWG0 十回表 公1−1鷹 チェンジ P:ウルフ 多村 右飛 明石 遊ゴ 「多村の当たりもヒヤっとしたが、きっちり抑えたみたいだな」 「あわやホームランという当たりをされてしまったが、ウルフもいい投手なのだよ」 「今期加入の三外国人選手は、明日先発のケッペルを中心に粒揃いなのだ」  なるほどな、それじゃ交流戦に向けて警戒しておくとするか。 63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/21(日) 16:08:34.77 ID:4ysFSYWG0 十回裏 公1−1鷹 一死ニ塁 P:摂津 → ファルケンボーグ 賢介 からさん 紺田 右安 稲葉 (紺田ニ盗成功!) 「ファルケンボーグって、スローカーブでもストライクが取れるのか」 「うん、カーブがアクセントになっていて、なかなか打ち崩しにくいのだ」 「なるほど、それじゃこいつも……って打っちまったか」 「おおっ! 紺田くんナイスヒット!」 「そして稲葉か」 「ふふ、稲葉さんならここで決めてくれるさ!」 64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/21(日) 16:11:09.17 ID:4ysFSYWG0 十回裏 公1−1鷹 チェンジニ塁残塁 P:ファルケンボーグ 稲葉 左飛 信二 からさん 「うぅ、前進守備の上を越えそうだったのに……」 「しかし、稲葉の当たりは全部野手の正面に行っちまってるな」 「当たりが悪くないだけに悔しいね。フォームを崩さなければいいのだけれど……」 「そして高橋も三振か」 「本当に点が入らなくなってしまったね……」 66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/21(日) 16:14:12.08 ID:4ysFSYWG0 十一回表 公1−1鷹 一死 P:ウルフ → 武田久 長谷川 中飛(糸井好捕!) 「ここで武田久かよ」 「こういった場面で使わない手はないからね」 「最終回はどうするんだ?」 「ふふ、久なら二回だって投げられる。それにまだまだピッチャーは残っているのだ!」 67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/21(日) 16:16:14.61 ID:4ysFSYWG0 十一回表 公1−2鷹 一死 P:武田久 松田 中ホームラン! 「えっ……」 「入っちまったか」 「そんな……、久がまたホームランを打たれるなんて……」  そういや日本シリーズの第五戦でも打たれてたな。 68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/21(日) 16:19:33.78 ID:4ysFSYWG0 十一回表 公1−2鷹 チェンジ P:武田久 田上 二ゴ 本多 投ゴ  ここまでピッチャー交代が裏目にでるのも珍しいな。 「…………」  さすがに声に出して言えないが……。 72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/21(日) 16:27:51.68 ID:4ysFSYWG0 十一回裏 公1−2鷹 試合終了 P:ファルケンボーグ → 馬原 糸井 二ゴ 小谷野 左飛 村田 二ゴ 「負けちまったか」 「うん……」 「おしかったな。勝てそうだったんだが」 「うん……」  さすがにこの負け方はショックだよな。  なぁ佐々木、明日も一緒に応援してやるから元気出してくれよ。 76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/21(日) 16:38:50.49 ID:4ysFSYWG0 お疲れ様でした! 昨日に引き続き、いい流れを引き寄せられないまま終わってしまった感が拭えません。 また、大隣の好投や、摂津の粘りには正直なところ感服してしまいました。 毎度同じような言葉になるのが心苦しいのですが、ご支援ありがとうございます。 また明日もスレ立てしようと思います。よろしければお付き合い下さいませ。 79 名前:おまけ[] 投稿日:2010/03/21(日) 16:52:03.48 ID:4ysFSYWG0 「佐々木、ちょっと待っててくれ。今自転車を出してくるから」 「キョン、そんなに僕と一緒に居たくないのかい?」  いつものように佐々木を送り届けるため、門扉の外へ愛車を運び出そうしていたのだが、なぜか佐々木が制していた。  いきなり何を言い出すんだ。そんなことあるわけがなかろう。 「自転車など使ってしまえば、二人の時間が減ってしまうではないか」 「それにもう春は目前なのだ。散歩するにはちょうどいい季節なのだよ」  確かに同じ学区だからな。自転車じゃすぐに着いちまうか。  とは言ってもな、夕方にもなればさすがに冷えてくる。これでもお前の体を心配してるんだ。  それに今日はアホみたいな強風だって吹いてるだろ? 心配性の俺としては、小柄なお前が魔法の国へと吹き飛ばされやしないか気が気じゃないんだよ。 「ふふ、ならばこうすれば良いのだ」  そう答えるや否や、佐々木は俺の腕に絡み付いてきた。  佐々木、俺の家の前でそんなことをされると、さすがにご近所さんと顔を合わせづらくなるんだが……。 「何を言っているのだ。これから僕の家まで行くのだから恥ずかしいのは一緒だよ。それに僕たちは恋人なのだ。何をためらうことがあるのだい?」  まったく……、昨日といい今日といい、いつにも増して甘えん坊だな。春の陽気にでも当てられたのか? 81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/21(日) 16:53:55.09 ID:4ysFSYWG0  佐々木の家まではほぼ直線だ。  住宅街の細い路地をのんびり歩いていると、不意に佐々木が立ち止まってしまった。 「引越しのシーズンなのだね」  佐々木が見やる方向を眺めると、引越し業者のロゴをでかでかとペイントしたコンテナ型のトラックが駐車されていた。  この近くにある私立の総合大学に合格した新入生なのだろう。 「そういえば朝比奈さんは三年生だったね。進路はどうしたのだい?」 「ああ、朝比奈さんは近くの名門私立に進学したぞ」  朝比奈さんは意外にも(と言っては失礼千万なのだが)成績優秀なお方だったようで、二月を待たずして合格通知を手にされていた。  しかもこの地方では名門と謳われる大学に余裕を持って進学されたのだから、もっといい学校を受ければよかったのではないかと老婆心を抱いてしまったほどである。  謙虚にも『わたしの目的はこの時代に生きることではありませんから』と宣(のたま)った朝比奈さんの神々しさに、痛みすら覚えるほどの眩さを感じたのは俺だけではあるまい。  なぜか耳まで痛かったけどな。 「ここからすぐ近くではないか。なるほど、大学に進学されても朝比奈さんとの友誼は途絶えることがないのだね」  それについてはもろ手を挙げて喜んださ。卒業と同時に未来に帰るんじゃないかって予感がしてたからな。  毎日のように部室へと顔を出すのは難しいと思うが、これからも朝比奈さんのご尊顔を拝めるのだ。まったく、SOS団様様だよ。 83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/21(日) 16:56:24.18 ID:4ysFSYWG0 「そういや佐々木はどこの大学を目標にしてるんだ?」 「そうだね、東京か京都かな」  佐々木が発した単語は地名を指すものではないのだろうな。さすが灘高生といったところだろうか。  やれやれ、我が恋人の優秀さを改めて認識した俺が無力感に打ち負かされて、首を括るロープを探し出したとしても無理からぬことと許してほしいもんだね。 「そして、キョンも僕と同じ大学に行くのだ」 「無理言うなっ!」 「無理ではないさ。あと一年もあるのだ。可能性は大いにあるよ」 「キョン、まずは想像してみるのだ。僕とキョンが同じキャンパスで学んでいる姿を」 「ふふ、一緒にアパートを借りて同棲生活をするというのもいいね」 「手狭なアパートで身を寄せ合って暮らすのだ。夜は布団を並べ、川の字になって寝たりしてね」  おい、川の字で寝るには一人足りないぞ。 「それならば子供を設ければいい、ついでに学生結婚というやつも経験しておこうではないか。ふふ、なんとも昭和の薫りがするね。文京区にはぴったりの生活だと思わないかい?」  あいにくと俺には近代文学の素養がなくてな。コメントは差し控えさせてもらうぜ。うっかり乗り気であるような台詞を吐こうものなら、俺の未来が決定してしまう。  ――小心者の俺に、佐々木の期待を裏切れるような図太い神経は搭載されていないのだ。 85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/21(日) 17:01:56.45 ID:4ysFSYWG0 「そして五月には親子三人で東京ドームへと野球観戦に行くのだ。対戦カードはファイターズ対巨人でね」 「座席はもちろんビジター側の……ううむ、それでは稲葉さんを間近に見ることができないか」  それはそれで魅力的な未来ではあるんだが、ひとつツッコんでもいいか? お前の中の稲葉は、あと何年現役を続けるつもりなんだよ。 「ふふ、そして大学を卒業したら、なるべく残業のない会社か自治体に勤めるのだ。子供との時間を大切にし、なるべく家で過ごす。ふむ、家にいるのであれば作家なんて職業もいいかもしれないね」  中河も顔負けの未来予想図だな。でも悪くない、いやそれどころかすごく良いと思うぞ。 「ふふ、こんな未来が訪れるといいね」  そうだな、せいぜいがんばらせてもらうさ。 「キョン……、期待しているよ……」  なぜだろうか、今の佐々木は地に足のついていない妄想語りをしていたときと違った表情を見せている。  なにか気がかりなことでもあるのだろうか? まさか俺の成績を危惧したものではないと思うのだが……。 「さぁキョン、僕たちに立ち止まっている時間はないのだよ」  ――そして、もうすぐ…………  なぜだろうか、つぶやくように吐き出された言葉は、夢の中で聞いたあの声にそっくりだった。                                     <つづく>