みくる「ハー、ダルいなぁ……」 1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/22(月) 14:15:13.79 ID:rRUQhICoO 夏の日の夜、さっき通った夕立がコンクリートを濡らす匂いが清々しい。地面の熱を奪ってくれたお陰で不愉快な暑さは遠く身を潜めた。 ハルヒ「今日も充実した活動だったわ!」 長門「……」 何か反応しろよ、長門。お前が反応しないと、私が反応しなきゃいけなくなるっつの。 みくる「ふふ、楽しかったです」 甘ったるい声をだすのは本当に面倒臭い。 3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/22(月) 14:18:21.23 ID:rRUQhICoO 上層部の命令とはいえ、このブリっ子演技は辛すぎる……。キャラ設定が苦しすぎだっつの。こんな脳内花畑女が現実にいるわけないだろハゲども。 それに私の実年齢をちゃんと考えろよ。制服着てて花畑女演じてるとコスプレっぽくて凄まじく恥ずかしいんだよ。 涼宮も何が充実した活動だよ。だべってただけだろ……。コッチはとっとと家帰ってドラマ見ながらビール飲みたいんだよ。 4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/22(月) 14:20:09.33 ID:rRUQhICoO みくる「今日も楽しかったです」 ハルヒ「みくるちゃんももう少し気の利いた発言しなさい。普通すぎ!」 みくる「ごめんなさい……」 あーイライラする。煙草吸ってリラックスしたい。ニコチン分が足りねー。 煙草吸いたくてもコイツらの前じゃ禁則事項が禁則事項で無理だからなぁ。 まあいいや、何にせよ、早く家帰ってリラックスしたいんだよ……。 涼宮、キョンの近くにできるだけ長くいたいからってタラタラ歩くのいい加減止めろ。ウザい。 5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/22(月) 14:23:16.16 ID:rRUQhICoO 何の変哲もない住宅街をタラタラタラタラタラタラ歩く。せまっくるしい家々の間を抜け、寂しい十字路、やっと別れ道だ……。 ここで長門たちとはバイバイだ。少しだけだが気がゆるむ。 キョン「朝比奈さん、お疲れ様でした」 いい挨拶だ、キョン。お前はすぐに涼宮に敬語の使い方か子供の作り方を教えろ。 アイツも敬意か男のどちらかを知れば大人しくなる。 古泉「お疲れ様でした」 古泉、お前には特にコメントはない。スマン、悪意はない。興味がないだけだ。 長門「……」 喋れ。 6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/22(月) 14:26:56.74 ID:rRUQhICoO ハルヒ「さあ、帰りましょう!みくるちゃん!」 なんでコイツと帰りが一緒かな……。まあ長門でも古泉でも嫌だけどさ。 ハルヒ「でねキョンが……」 みくる「はい……」 ハルヒ「そしたらキョンが……」 みくる「はい……」 ハルヒ「ところがキョンは……」 みくる「ですよねー……」 キョンがいなくなりゃキョンの話ばかり。しかも歩きは滅茶苦茶早くなるしさ。 長門、古泉、すまない。前言撤回だ。やっぱりコイツと帰るのが一番イヤだよ……。 8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/22(月) 14:31:42.20 ID:rRUQhICoO しばらく話してやっと、私のエデン、桃源郷、ユートピア、ニューアトランティス、魂のオアシスこと駅についた。 よっしゃー……。涼宮とやっと別れられる……。 ハルヒ「バイバイ、みくるちゃん!」 まだダメだ。まだ笑っちゃいけない。 みくる「さようならぁ!」 涼宮が私に背中を見せる。加速する背中、小さくなる背中、そして、消失する背中。 溢れる笑み。 みくる「いよっしゃぁぁぁぁぁ、お仕事終了!」 実際はここから電車とバスに二時間以上乗って北高関係者と遭遇しないであろう 我が家に帰る手間はあるが、涼宮と別れりゃ終わったようなもんだ……。 15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/22(月) 14:35:28.79 ID:rRUQhICoO 電車に乗り込む。北高から大分離れてから、iPodで大好きなL.A.GUNSを聞き始める。やっぱりL.A.GUNSはいいよな、若いよ。 コブクロとミスチルが好きってことになってるから、学校近くでチャラい聴く洋楽なんざ禁則事項。 未来に押し付けられたキャラ設定の遵守はただただ面倒くさい。 窓の外を流れる『大昔』の景色と私の過ごした『時代』の間には、相変わらずちっとも繋がりが見いだせない。 つながりがないという不安がより郷愁を募らせる。 22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/22(月) 14:39:42.38 ID:rRUQhICoO 帰りの電車ではいつも開放感と同時に寂寥感が込み上げる。 みくる「お母さん、心配してるかな……」 心配してないはずはないだろう。 私をエージェントに選定した上層部に、泣きながら直談判した母だ。 父親を早くに亡くし、母一人子一人で過ごしてきた日々が頭の中を流れる。 自分を慈しみ、全てを私に費やしてくれた母。 次々にフラッシュバックする記憶 の群れが胸にゆっくり深く突き刺さる。 私は未来に母親を置いてきぼりにしてしまった。 その未来を守るためとはいえ、罪の意識は拭えない。 胸の傷に記憶の潮水が染み渡る。 痛いよ。お母さん。 23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/22(月) 14:42:03.79 ID:rRUQhICoO 自分が今何をしてるかもわからない苦しいだけの曖昧な感覚、 何度も登下校した経験がなんとか私を帰宅させる。 みくる「ただいま……」 設備ばかり立派で、体温を感じさせないオートロックマンション。 その五階、角部屋の513号室、私の巣に向かって言う。 湿った悪臭、ビールの空き缶、ぐちゃぐちゃの灰皿、敷きっぱなしの布団、 生ゴミ臭い台所、 脱ぎ散らかした服、迎えてくれるのは彼らぐらいなのに、律儀に帰りを告げる。 みくる「今日は久々に黒ビールにしよう……」 エアコンをつけ台所に向かう。普段、酒とつまみに占有されている冷蔵庫をゆっくりと開ける。吹き出す冷気が心地いい。 25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/22(月) 14:47:50.91 ID:rRUQhICoO みくる「げー……………………」 普段は酒で賑やかな冷蔵庫も、どうやら今は閑古鳥。 そういえば最近、面倒で買い物行ってなかったかな……。 酒が飲みたい。晩飯もない。そうともなれば仕方あるまい。 長い髪をまとめ、早々にジャージ姿、未来で偽造した免許証を財布に忍ばせ、近くのコンビニに向かう。 みくる「行ってきます」 バーカ、誰もいないっつーの。 わかってるよ。 じゃあ、どうして挨拶なんかする? それを認めてしまうのが寂しいから……。 キャッ、言っちゃった。 たとえ夏でも一人芝居は寒い。 32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/22(月) 14:55:46.36 ID:rRUQhICoO みくる「あちー」 コンビニでいつもの弁当と酒、タバコを買う。 この時間のバイト、金髪の店員はやる気なさそーにレジを済ませる。 ガキっぽいの前にしても身分証明書の提示なんて概念、彼の頭にはないんだろう。 まあ、こっちとしては気楽でいいけどよ。 少年少女の不良化を助長してるぜ、金髪兄ちゃん。 36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/22(月) 14:58:51.57 ID:rRUQhICoO コンビニを出て、店先でとりあえず一服。 未来じゃ禁製品のタバコと酒、正直、購入には最初は背徳感と怖さがあった。 けれど、今となっては彼らが生きがいになってしまっている。 甘美な誘惑、とろける快感、そして何より現実が私から遠ざかってくれる。 紫煙が気分を落ち着かせる。ついでにカップ酒をあける。 ああ、酒は毒だ、だから飲まずにいられない。 39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/22(月) 15:01:47.64 ID:rRUQhICoO 吸い殻を踏み潰し、カップ酒をゴミ箱に投げ込む。両手には黒ビールとつまみの山。 みくる「ひょひょ、お楽しみはこれからだ……」 あっ、そうだ。TSUTAYAでドラマも借りていこう。 酒を飲みながら見るドラマ、虚構は史上最強の気慰みだと思う。やっぱり、こんな日は金太郎かな。 42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/22(月) 15:04:19.75 ID:rRUQhICoO マンションの近くのTSUTAYAまで足を伸ばす。入り口ではアニメキャラの立て看板。 いかにも頭の悪そうな茶髪女がギター抱えてお迎え、バカバカしい。女は男の人形じゃねえ。 大きくて、実体のない、もやもやした不快感。DVDを探しに店内に進む。 白石「しゃーせー」 真面目臭い学生バイトが律儀に頭を深々下げる。コイツ、いいように使われて終わるタイプだろうな。 みくる「さ、さ、サラリーマン……と」 若手には申し訳ないが、金太郎は高橋が一番。サラリーマン金太郎をカゴに入れて店内を徘徊する。 44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/22(月) 15:09:23.64 ID:rRUQhICoO アニメコーナー、子供向けアニメに混じって娼婦みたいな格好させられた少女がジャケの作品が山のようにある。 みくる「ガキをネタにして、腐った国だよ……」 自分も大した人間じゃないのに、一丁前に蔑みをおくる。 こういうのを同族嫌悪って言うのかもしれない。 46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/22(月) 15:12:38.43 ID:rRUQhICoO レジにカゴをのせ、ポイントカードと小銭を並べる。 愛想よく笑う店員にブスッとした私。 白石「こちら二点っすね、返却は来週になります。600円です」 終始ニコニコしやがって、くたびれた私をバカにしてんのか? 店員の健全さと明るさをたたえる瞳はまぶしく、無性に腹が立つ。 店員が青いケースを手渡す。できれば若さも渡して欲しくなった。 空調の効いた店内を後に出口に向かう。深夜10時、こんな時間でもそれなりに蒸すんだな。 眉毛予報士によると明日土曜日は終日雨らしい 。ちょうど良い。涼しくなる。 団活もないし、久しぶりにゆっくりできるな。良いこと尽くしだ。 47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/22(月) 15:16:49.51 ID:rRUQhICoO 「うおおおおおおおおおおおおおおお、唯ちゃああん、結婚してくれええええええええ!」 うわっ、なんだよなんだよ。店を出てすぐの立て看板にマンションの方から走ってきた男が急に抱きつきやがった。 「すまん、眉毛とデコは忘れるからさ!眉毛とデコは忘れたからさ!結婚してくれ!」 なかなか高い身長。しわしわのシャツを寸足らずなジーンズにインサートして、白の靴下を殊更に強調したギークファッションで奴は叫ぶ。 立て看板で隠れて顔は見えないが、キョンや古泉と会ったら浄化されてしまうような化け物フェイスなんだろう。 49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/22(月) 15:23:49.82 ID:rRUQhICoO 「梓にゃんと澪ちゃん……?えっ、えっと梓にゃんと澪ちゃんはね……」 おいおい、立て看板と楽しくお話かよ。キチガイの考え方は理解できない。 「わかった、澪ちゃんは捨てよう!澪ちゃんは要らない!澪ちゃんは要らない子だから!」 さらに熱をあげる演説、いや、会話か。ヒートアップしすぎて土下座してやがる。 立て看板に土下座、新橋の酔っ払いサラリーマンみたいだな。 53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/22(月) 15:28:22.96 ID:rRUQhICoO 「梓にゃん……だと……!?」 土下座野郎の声の調子が変わった。見てる方からすれば意味不明エンドレス一人芝居だが、どうやら急展開らしい。 「ちょっと待ってよ……!梓にゃんは妹みたいなもんでさぁ……!」 怖れ半分怒り半分といったところか、強気な語気と下手な言葉遣いを交差させる様がつくづく気持ち悪い。 「あちゃー、言っちゃったねー……!唯ちゃんも言っちゃったねー……!」 立て看板に怒りだした。イッちゃったのは君の頭のほうだと思うんだけどなー……。気持ち悪いよー……。 56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/22(月) 15:33:40.22 ID:rRUQhICoO 「何だって?梓にゃんと唯ちゃんどっちを取るかをきめろだって?」 何だって、じゃねえよ。立て看板はさっきからタダの絵だよ。 しゃべることは愚か眉一つ微動だにしないよ。 「……うん。ごめん…………」 ところがここで一気にトーンダウン。完全に聞き手モードに突入。なんか反省してる。 独り言のステージなんざとっくにぶち破って、脅威の独り会話だよ。 たかだか立て看板の絵に大真面目に聞き手に回ってるよ。 そして男は立て看板に抱きつくのをやめて、ゆっくりと離れていく。店内の強烈な明かりが キチガイ野郎を照らし出しす。 え? 62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/22(月) 15:38:14.46 ID:rRUQhICoO 急に両手の酒やつまみ、DVDの重さが帰ってきた。多分これは私の現実への強制送還に伴うものだろう。 犯人が意外な人物、なんてのは小難しい推理小説だけで十分だ。現実はシンプルな方がいい。 古泉「バイバイ、唯ちゃん!」 こいつの胸くそ悪い笑顔で、キャラクター設定に忠実に行動しなきゃいけないこと、 正体がバレたら禁則事項が禁則事項とかどうでも良くなった。 もやもやーっとした空気、もやもやーっとした感情、もやもやーっとした全部、爆発させよう。 みくる「気持ち悪いんじゃああああああああ、古泉いいいいいいいいいいいいいい!」 叫びながらの飛び膝蹴りを古泉の顎に直接ブチ当てる。悲鳴すらあげることもなく気絶する古泉。 69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/22(月) 15:47:18.20 ID:rRUQhICoO みくる「公衆の面前で何やってんの……?」 失神した古泉を叩き起こしてマックに引きずってきた。 コーヒーを挟んで二人席に座る。ビールが温くなっちまうよ、ったくよお。 Mr.シャツインはさっきから終始ビクビクしてやがる。思ったより情けねえなコイツも。 古泉「申し訳ありませんでござる……」 みくる「ござるってなんだよ、ござるってよぉ!お前調子乗んなよぉ!」 普段の数百倍は情けない今の古泉がますます萎縮する。 古泉「せっ、拙者……、オフのときは話し方が変わってしまうでござる」 みくる「お前はるろうに剣心か?」 少年のような嬉しそうな笑みと少女のような繊細な羞恥が浮かぶ。 古泉もこんな表情するのか……。 古泉「小学生のときに格好いいと思って真似したら抜けなくなってしまったでござる……」 立て看板の件といい、コイツは救えねえ。 70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/22(月) 15:50:30.45 ID:rRUQhICoO みくる「で、何やってたの……?」 古泉「あっ、朝比奈氏、なんかキャラ違いませんでござるか?」 なんで無理矢理ござる言おうとするかな。 この文章にござるは不自然だろハゲ。 みくる「馴れ馴れしく朝比奈氏とかやめてくんない?それとこれとは今は別の話ってわかんないの……?」 古泉「申し訳ありませんでござる……」 みくる「とっとと何やってたのか言え、あとござるを今すぐ止めろ」 古泉「そのー、拙者ー」 みくる「拙者もやめろ」 古泉「その、デートをしてました……///」 72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/22(月) 15:52:07.05 ID:rRUQhICoO 気付いたら古泉に目潰しをしかけてた。なんか指がぬるぬるする。本当にコイツは人をいらいらさせる才能があるな……。 古泉「痛いでござる!痛いでござる!」 みくる「ござるをやめろ……!」 古泉「もっ、申し訳ありません……」 徐々にキチガイをノーマル古泉に矯正することに成功しつつある。 本当にコイツは人をいらいらさせやがんな。 みくる「何してたんだ?」 古泉「ですからデートを……///」 気付いたら指がまたぬるぬるしていた。人間に無意識で目潰しさせるとは、大した奴だ。 73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/22(月) 15:55:05.80 ID:rRUQhICoO 古泉「痛いですから、マジで痛いですから!」 みくる「お前を見てるこっちの心が痛くなんだよ!真面目に答えろ!」 真面目といった刹那、あたりの空気は急変した。 古泉「真面目?ははは、面白いことを言いますねえ……」 急にキチガイ土下座野郎からいつもの余裕たっぷりナイスガイ古泉に変貌しやがった。 この奇妙としか言いようがない態度の変化は何だ?急激に古泉の身体に自信が取り戻されていく 78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/22(月) 15:59:50.52 ID:rRUQhICoO 古泉「僕の唯ちゃんへの愛が、不真面目なものだとでも言いたいんですか?」 …………………………。 みくる「古泉、ちょっと表出ろ」 古泉「へ?」 有無を言わせずに古泉を店裏に連れ出す。 とりあえず、軽ーく、先輩の指導をしてやった。 81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/22(月) 16:02:15.52 ID:rRUQhICoO 古泉「本当に調子乗ってすいませんでした……。」 店裏での先輩の指導を終えて店内に帰る。 大丈夫、バレないように顔は殴っていない。 みくる「何してた?」 古泉「はい、店先で唯ちゃんに愛を伝えていました」 愛を伝える……。どうやら現代日本では立て看板に抱きつくのは告白らしい。 みくる「唯にゃんって立て看板のことか?」 古泉「いいえ、唯ちゃんは女神です」 とりあえず店裏に連れてく。 82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/22(月) 16:03:46.27 ID:rRUQhICoO 古泉「誠に申し訳ありませんでした……、調子に乗っていました……」 ったく、思わず顔も殴っちまった。 みくる「で、何してたんだ?」 古泉「はい、愛しの唯ちゃんとデートしていました」 みくる「矯正の必要があるな……」 店裏。 88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/22(月) 16:19:26.75 ID:rRUQhICoO 店裏、手が痛いから、とりあえず近くにあった箒も使って指導した。 古泉「誠に申し訳ありませんでした!」 やっと真人間に近づけたらしい。嬉しくて涙流してやがる。 左頬が腫れ上がってるが、まあ仕方ないよね。 みくる「何をしていたんですか?」 キャラクター設定通りの朝比奈みくるで質問する。 鞭ばかりじゃコイツもくたびれるだろう。 古泉「はい、立て看板に抱きついていました!」 鞭が効いたのか、しっかり真人間モードで返す。古泉、お前に日本語が通じて私は嬉しい。 みくる「どうしてですか?」 古泉「はい、私はアニメキャラが現実に存在して恋人一歩手前という妄想を補完するために立て看板に抱きついていました!」 大声でそんな悲しいこと言うなよ。なんだか恥ずかしいを通り越していたたまれない気持ちになってくる。 なんとなくコイツを危険視していた過去の自分が馬鹿らしくなる。キャラ設定も忘れ力無く笑う。 91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/22(月) 16:24:47.04 ID:rRUQhICoO みくる「ハハハ。古泉って、そういう奴だったんだな」 古泉「すっ、すいません。僕も隠したかったわけじゃないんです……」 みくる「どうせ機関だろ……、馬鹿馬鹿しい……」 古泉「なっなっ、なぜぇっ!ええっ!どっ、どど、どうしてわかるんですか!?」 驚きすぎだっつの古泉……。 コイツ、私が思ってる古泉一樹とは全然違うな。 完璧さなんて微塵もない。情けなくて下らなくてつまらない私みたいな人間だ。 みくる「まあ、事情なんてどこも似たようなもんなんだよねえ……」 古泉がその言葉に反応し、私の格好とビニール袋、TSUTAYAのケースを注視する。 古泉「そういうことですか……」 みくる「そういうことだよ……」 古泉「ハハハ……」 古泉も力無く笑う。一人で背負ってるつもりだった重荷を共有していた。 気の抜けるような安心感。 93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/22(月) 16:27:59.94 ID:rRUQhICoO さっきからコイツはこっちに情けないところ見せっぱなしだな。 けど、いまだに古泉の顔とスタイルにオタクファッションというのが馴染まない。 みくる「そのオタク界のエリートにしか許されないようなハイセンスな格好はなんだよ?」 古泉「私服です。普段の団活の服は森さんがレンタルしてくれた服なんですよ」 みくる「ハハ、センスないねぇ」 ともに苦笑い。 古泉「朝比奈先輩はなんでジャージ姿で?」 みくる「この方が落ち着くんだよ……。あのフリフリは全部未来からの指令で着てるだけでさ……」 96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/22(月) 16:31:56.53 ID:rRUQhICoO 古泉「ジャージ姿もよくお似合いですよ」 みくる「褒めてるつもりかよ……」 古泉「すいません。とにかく人を褒めるように訓練してきましたので……」 悔しそうな、申し訳なさそうな顔で謝る古泉の顔。 未来で劇団員や演出家からキャラの演技を教授された自分が重なった。 みくる「お前も色々と苦労してるんだな……」 古泉「ええ、かなり」 予想外の答え。 私が知っている古泉なら、それほどでもとかなんとか言ってはぐらかすはずなんだがな。 今ここにいる古泉は、少なくとも私には仮面を被っていないんだろう。 99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/22(月) 16:36:19.46 ID:rRUQhICoO 古泉「朝比奈先輩。学校って楽しいですか?」 これまた予想外の質問。そんなこと考えたことなかった。鶴屋はいい奴だが、周りの女子や男子にはとくに関心もない。 毎日、仕事だから行く。仕事だから授業受ける。仕事だから団活する。単なるルーチンだ。 みくる「まあまあかな」 良くもなく悪くもない、というよりも私は仕事に価値基準を持ち込んだことはない。 みくる「お前は……?」 100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/22(月) 16:38:39.06 ID:rRUQhICoO 古泉「僕は毎日苦痛で仕方ないです……」 つらそうな顔。本当に今日のコイツは予想外のオンパレードだよ、全く。 みくる「意外だな、お前ってクラスの人気者じゃないの?」 古泉「だから大変なんですよ……」 おい、全国の便所飯フリークどもに土下座しやがれにやけ面イケメン野郎。 古泉「毎日毎日、好きでもないバンドの新譜をチェック。ファッション誌に目を通して、ドラマも見逃さない……」 ああ、つまり…… 古泉「人気者になるための努力が辛いんです。根暗なのに派手目な人ともはなさなきゃいけないし」 深く重く暗く沈みこんだ表情が悲しさを伝える。 102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/22(月) 16:42:24.69 ID:rRUQhICoO みくる「そういやさ、何でこんな遠くまで来たの?この近くに住んでるわけ?」 古泉「いいえ。私的な行動の際、北高から距離をとらないと、関係者に見つかってしまいますから……」 だから、北高のきの字も出ないようなここら辺まで来たってわけか。 みくる「まあ、距離とっても見つかっちゃったんだけどね」 古泉「予想外ですよ……。ここら辺に住んでるんですか?」 みくる「うん、近くのマンション」 古泉「朝比奈先輩……。ここからじゃ朝めちゃくちゃ早いじゃないですか……」 みくる「馴れりゃ、どうってことないよ」 古泉「大人ですねー。僕は未だに毎朝森さんに起こしてもらってます」 104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/22(月) 16:48:05.43 ID:rRUQhICoO みくる「ブフォッ!」 コーヒー吹いちまったよ……。 みくる「お前、あのメイドさん、森さんと暮らしてんのか?」 古泉「はは、変なこと言わないでください。毎朝森さんが起こしに来るんです。仕事ですから」 みくる「だ、だよねー」 久々にびっくりしちまった。若い二人がどどどど同棲してんのかと思ってびっくりした。 口の悪さのわりにはピュアな私のハートには同棲話なんて兵器はあまりにも危険度が高すぎる。 古泉「ここだけの話なんですけど、実は僕、アニメが大好きなんですよね」 107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/22(月) 16:51:31.52 ID:rRUQhICoO みくる「うん。さっき知った」 お前がアニメ好きなんてこと、立て看板に抱きつく行為だけで十分わかるよ。 古泉「いや、萌えアニメばかりじゃなくて、キスダムとか11eyesとかも見るでござるよ!」 テンパったように急にまくし立てる古泉。 別にお前が萌えアニメばかり見てるなんて言ってない。 みくる「ござるって言ってるぞ」 古泉「すいません、興奮してしまって」 興奮すると語尾にござるがつく超能力者なんて誰が得すんだか……。 みくる「つまり、お前は萌えだけじゃなく純粋にアニメが好きなんだな?」 幼さに満ち満ちた笑みで古泉がこちらを見る。 古泉「大好きです!」 オタクだからだろうか、それともありのままでいるからだろうか。 純真な眼差しにキュンときた。 コイツ可愛いなマジで。 109 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/22(月) 16:56:25.86 ID:rRUQhICoO 古泉「でも、機関的にはNGなんですよね……アニメ……」 みくる「そうだろうねー、だってキモいし」 古泉「キモくないでござ候!!」 みくる「いや、そういうのがキモいって」 気付いたら二人とも笑ってた。自分を隠さず、生で人と話をするのは久々だ。 ああ、清々しい。ああ、気持ちいい。 こんな感動、自分はとっくになくしたもんだとばかり思ってた。 122 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/22(月) 17:47:17.57 ID:rRUQhICoO 古泉「たまーに、思うんですよ。自分がオタクだって知らせたいなーって」 みくる「んなことしたら、懲罰房行きなんじゃないか?」 確かに私もさらけ出した生活がしてみたい。だが、その決断はリスクが大きすぎる。 古泉「んっふ、森さんの家の座敷牢に閉じ込められてしまいますね」 みくる「座敷牢……。変わった環境だな……」 古泉「未来人に言われたくありませんね」 みくる「ハハハ、ヒドいなー」 ああ、古泉との会話がこんなに楽しいなんて想像したことはなかった。 124 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/22(月) 17:52:45.33 ID:rRUQhICoO 古泉「本当は僕、オタク友達作って、劇場版なのはとか見に行きたいんです」 みくる「私も、土日はドラマのDVDでも見ながらボーっとしたいよ」 古泉「涼宮さんと活動するのも勿論楽しいんですよ。いや、もしかしたらアニメなんかより貴重な体験かもしれません」 みくる「まあ、寝ても覚めても、オンリーワンな感じの体験の連続だよな」 古泉「でも、それを楽しむのは僕じゃない。『古泉一樹』なんです」 みくる「言いたいことはわかる。本当の私たちは作られた私たちを見てるだけ。本当は……」 古泉「僕たち蚊帳の外ですよね……」 みくる「私たちってSOS団の一員っていえるのかな?」 涼宮ハルヒは、そしてキョンでさえ実際の私たちを知らない。虚像しか知らない。 125 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/22(月) 17:59:47.87 ID:rRUQhICoO じゃあ実像ってなんだなんて聞かれても答えられない。けれど私たちは虚像なんだ。そこにない何かなんだってことはわかる。 古泉「どうなんでしょう……」 SOS団は苦楽をともにした仲間だ。でも、私たちのような道化を仲間と呼べるだろうか。 自分はいつも端から、冷たく、羨ましそうに、憎しみを抱いて、憧れて見ているだけの人間でしかないのに。 みくる「私たちはきっと……」 弾んでいた会話が跳ねるのをやめた。私たちと店員しかいない店内が静まり返る。 静寂は突如破られる。 127 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/22(月) 18:01:48.43 ID:rRUQhICoO 古泉「あああああああああああっ!やばいいいいいいいいいいでござるっ!」 みくる「へ?どっ、どうしたの?」 古泉「終電逃しちゃったでござる!!」 古泉が指差す時計は既に深夜二時、いつの間にこんなに時間がたったのだろう。 古泉「森さんに怒られちゃうでござる……、座敷牢は嫌でござる!絶対に嫌でござる!」 電車もバスもとっくに営業をやめている。ここら辺には宿の類はない、どうやら古泉も詰んだな……。 古泉が急にこちらを真剣に見つめてくる。深く嘆願するような哀しい目。一呼吸おいて切り出す。 古泉「朝比奈先輩、泊めてください!」 129 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/22(月) 18:08:16.51 ID:rRUQhICoO みくる「ブフォッ!」 またコーヒー吹いちまった……。ふざけんな、こちとら生まれてから26年間、 男に我が家の門をくぐらせたことはないんだよ。 みくる「そっ、外で寝ればいいでしょ!」 古泉が呆れたような、少しばかり馬鹿にするような溜息をつく。 古泉「僕みたいなチキンが外で寝れるわけないでごさ候!」 みくる「ふざけんな、絶対に泊めないからな!」 古泉「嫌でござる!蚊に刺されたりしたらどうするでござる!怖いでござる!」 みくる「ござるござる五月蝿いんだよ!」 急いでマックから飛び出す。後ろから古泉の悲鳴にもにた呼び止める声が聞こえる。 玄関ぐらいなら入れてやろうかな……。 完 134 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/22(月) 18:11:51.47 ID:rRUQhICoO 最初からずっと即興だから指が痛いんだよ!仕方ないだろ! 話の筋も考えないで勢いで始めた結果がこれだよ!悪かったな! 保守してくれた人ごめんなさい、指も頭も限界なんです 許してください