ハルヒ「キョン、起きなさいよ!キョン!!」 1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/12/27(日) 19:09:27.32 ID:fAz6uiqv0 うるさいな・・・・・・まだ寝ててもいい時間だろ。 高校生活1年を経て、俺に身についたものといえば授業の知識などではなく 苦行とも思える坂道を登り続けることでついた平均値以上の体力と、 毎朝目覚まし時計の鳴る時間を無意識に把握できることだ。 やはり、生きることと直結したことは体が否応なしに覚えるものである。 布団を引っぺがそうとするそいつから、俺は外敵から身を守ろうとする亀のごとく 布団をきつく体に巻きつけた。 「キョン、起きなさい!」 まだ、やたたましく騒ぐ奴がいる。 いつもの聞きなれた身内の声じゃない。だが、聞き覚えがないわけでもない。 睡眠と覚醒の狭間を行ったりきたりしている脳みそで、俺はその声の主を思い出そうとした。 こんなにやかましく、甲高い声で、俺のことを気に入ってもいないあだ名で連呼する、女・・・・・・・。 なんの歯車がかみあったのか、俺の脳みそは一瞬にして覚醒した。 ガバッ 起き上がった俺の目に映りこんだそいつは、俺の脳みその中の人物と一致していた。 4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/12/27(日) 19:23:07.68 ID:fAz6uiqv0 「なんで、おまえがここにいる・・・・・・」 「なんでって、起こしに来たんじゃない」 俺の目が捕らえた人物は、涼宮ハルヒだった。 いつも登下校時に見る格好で、なぜかハルヒが俺の部屋に上がりこんでいる。 状況がまったく飲み込めない。どういうことだ。 「起こしに来た?何でお前がそんなめんどくさいことを」 「はぁ?あんた、寝てる間に頭どこかにぶつけたんじゃないの?」 「なんでそうなる。俺は別にどこもぶつけちゃいない」 「今日は10年に一度の寝ぼけのひどい日ね」 「そんな日でもいいから、何でお前が俺の家に俺を起こしに来たのか説明してくれ」 まるで、話がかみ合わない。 ハルヒは起こしに来ることが、さも当然のような顔で俺を見ている。 さんざん人のことをこき使って、自分を起こしに来いというのならまだ納得はいくのだが。 「はぁ・・・・・・わかったわ。いい、こんな説明一回しか言わないから」 「ああ」 「私とあんたはお隣さんで、小学校のころからずっとあたしが起こしにきてたでしょ?」 「・・・・・・・」 「キョン。あんた、ホント今日はどうかしてるわよ?私、部活があるから先に行くわ。遅刻するんじゃないわよ」 ・・・・・・・世界がまた、どうにかなっちまったらしいな。 6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/12/27(日) 19:24:39.11 ID:fAz6uiqv0 みたいなSSが読みたいです (;ω;) 15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/12/27(日) 20:39:42.65 ID:PI1i3drf0 ハルヒが無駄に元気よく俺の部屋を飛び出して行った。 まだ状況がよく飲み込めないのだが、どうせハルヒのやつが世界改変でも起こしちまったのだろう。 風邪をひくかのような頻度で改変を行うのはそろそろやめてほしいのだがなんて言えばやめてくれるのかね。 流石にこう何度もおかしな目にあえば慌てるよりも先に呆れてしまうぞ。 まあそんなことを考えても仕方がない、とりあえずは古泉に連絡して助けを求めるとするかな。 「・・・あれ?」 と思ったのだが携帯の電話帳に古泉の文字はない。 続けて長門と朝比奈さんの名前も探してみるが、残念ながらハルヒ意外にSOS団のメンバーの名前は見つけられなかった。 これはおそらくこの世界ではSOS団が結成されてないことを意味しているのだろう。 「マジでか・・・。」 長門が作り出した世界で味わったあの孤独感を思い出してしまった。 古泉はまた別の学校に通っているかもしれないし、長門はちょっと声をかけられただけで慌てるような女の子かもしれない。 そして、朝比奈さんに話しかけようとするとボディーガードのような鶴屋さんに関節を決められる可能性があるのだ。 「やれやれ・・・」 思わずつぶやいて布団の中で頭を抱える俺にボディプレスをかました妹がいつも通りで安心してしまった。 19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/12/27(日) 21:07:40.23 ID:PI1i3drf0 いつもの坂道の勾配が10度ぐらい上がっているんじゃないかというほど俺の足取りは重かった。 長門の時は教室で朝倉の顔を見るまで世界改変されてることに気づかなかったら良かった。 なのに今回は目が覚めると同時にそのことを思い知らされてしまった。 ハルヒよ、せめて登校ぐらいはいつも通りにさせてくれてもいいんじゃないのか? 「よう、筋肉痛でもなってんのかお前」 朝っぱらからこんなアホな言葉をかけてくるのは谷口のやつしかいない。 妹といい谷口といい、どうでもいいことばかりがいつも通りなのは嫌がらせなのか。 「体力的には全く問題ないが、精神的な問題で誰かと喋ることすらもしんどいんだよ」 「キョンお前とうとう涼宮のせいで精神病にかかっちまったのか」 腹がたつぐらい谷口のアホっぷりはいつも通りのようだ。 谷口に返事はしないで溜息だけをついて悲鳴をあげる足にさらに力を込めた。 できればこのまま坂を登ることだけに集中したかいのだがいくつか気になることを聞いてみることにした。 「ハルヒってお前と中学一緒だったよな?」 「お前ホントに精神病か?涼宮とお前は同じ中学で、俺とお前は違う中学だった。これでわかるか?」 わざわざ分かりにくい言い方するなよ。 どうやらこの世界の改変は中学時代にまで及んでいるらしい。 「ちょっとド忘れしてるだけだ。ハルヒは何部に入ってるんだ?」 「おいおいそんなことも忘れちまったのか。サッカー部でマネージャーやってるだろ。」 マネージャー?あのハルヒが? そんなのオタクがK1やるぐらいありえないことだぞ、どうなってるんだこの世界は。 22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/12/27(日) 21:35:49.43 ID:PI1i3drf0 「なんて顔してるんだお前は」 顔に自信があるわけじゃないが、お前にいわれるのだけは簡便ならん。 とはいえあまりの衝撃に、とても人に見せられるような顔をしていなかったのは事実だがな。 「まだ寝ぼけてるみたいだ気にしないでくれ。ちなみに俺はなんの部活にもはいっていないよな?」 「・・・お前はずっと帰宅部だ。キョン、悪いことは言わない今日はこのまま病院に迎え。」 病院のベッドで一眠りすれば改変前の世界にもどれるってんなら喜んでそうさせてもらう。 しかし、残念ながら俺の経験上その可能性は0に等しいんだ。 そしてその経験は、俺が向かう先は学校だと告げてるんだよ、谷口。 お前は黙って俺の質問に答えてくれ。 「長門有希、古泉一樹、朝比奈みくる、この中に知ってるやつはいるか?」 「どうやったら黙って質問に答えられるってんだ?」 「屁理屈はいいから答えろ。」 「長門有希と朝比奈みくるはしってるが古泉一樹ってのは知らねぇよ。」 なるほど、SOS団は結成されていないがメンバー自体は学校にいるらしい。 長門の時と違ってハルヒも違う学校にいるわけではないから、古泉もいると考えていいだろう。 となると、あと気になることは・・・ 「俺とハルヒは幼なじみなのか?」 「少なくともクラスではそういうことになってるな。まあ俺の私見を述べるとすれば、将来を誓い合った許嫁という可能性も捨てきれないが。」 俺とハルヒが幼なじみか・・・。 とりあえず谷口を殴ってから、改めて世界が改変されていることを実感した。 28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/12/27(日) 22:07:52.97 ID:PI1i3drf0 教室につくとハルヒはいつもの席、つまり窓際の最後尾に座っていた。 ということは俺の席は谷口に聞かなくてもわかる。 「もう目は覚めた?朝みたいに馬鹿な事言ってると谷口にバカにされるわよ。」 「そのおかげでいやっていうほど覚めたから大丈夫だ。」 「そう、ならいいけど。」 席に座って前を向くと、谷口がニヤニヤしながらこちらを見ているのに気づいた。 思わず筆箱からコンパスを取り出して、ダーツよろしくあいつの額に突き刺してやろうかと思ったが 岡部が豪快に教室のドアを開けて入ってきたので実行には移せなかった。 「起立、礼、着席」 すかさず号令をかける女生徒をみて俺は度肝を抜かれた。 こんなやつに二度も再会すると、運命のいたずらというより悪ふざけとしか思えない。 青い髪を揺らして着席するそいつにあっけに取られて起立したままの俺に岡部が声をかける。 「どうした座り方でも忘れたのか?」 教室が笑いに満たされる中、朝倉涼子の無邪気な笑顔に俺は嫌な予感を胸いっぱいに抱えていた。 29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/12/27(日) 22:17:13.36 ID:PI1i3drf0 なんか伏線っぽいこと書いちゃったけどこの先何も考えてないんだぜ、これ 書くの時間かかりすぎだし、正直即興で書くのは無理がある 34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/12/27(日) 23:35:57.89 ID:PI1i3drf0 予想外の朝倉の存在に驚きはしたが、午前の授業は滞りなく進みあっという間に昼休みになった。 休み時間に谷口や国木田に聞いてみたが、朝倉はずっとこのクラスにいたようで再び谷口に頭の心配をされた。 どうやらハルヒがこの西高にいること以外は長門が改変した世界に酷似しているようだ。 さっさと飯を片付けてまずは長門のところにでも行ってみるか。 「・・・あれ?」 今朝のゴタゴタで忘れてしまったのか、鞄の中には弁当箱はなかった。 仕方ない、購買でパンでも買ってくるか。 そう思って立ち上がろうとした俺に弁当箱が差し出された。 「なんだこれは。」 「なにって今日のお弁当よ。」 「それは見ればわかる。なんでお前の弁当を俺に渡そうとしているのか聞いてるんだ。」 「あんたまだ寝ぼけてんの?いいから黙って食べなさいよ。」 無理やり俺に弁当箱を押し付けると、ハルヒは鞄からもう一つ弁当箱を取り出して朝倉の元へと向かった。 そしてあろうことかそのまま朝倉と仲良く弁当をつつき始めたのだ。 はたから見れば女生徒が二人で昼食をとっているだけなのだが、俺には犬と猿が並んでエサを食べているように見えた。 「今日も変わらず愛妻弁当かよ、見せつけてくれるな。」 「涼宮さんの手料理が毎日食べられるんだから羨ましい限りだね」 いつの間にか谷口と国木田が机を寄せていて、すでに弁当箱を広げていた。 まさかこの世界では、俺は毎日あいつに弁当を作ってもらってそれを学校で受け取っているのか? っていうか渡すなら朝に渡してくれよ。 谷口の下品なにやけづらと国木田の微笑ましいものを見るような笑顔が恥ずかしくて仕方がない。 38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/12/28(月) 00:00:14.62 ID:U793m+qO0 ハルヒの弁当だが、簡単に言うとかなりうまかった。 昨晩の残り物を詰めただけのおふくろの手抜き弁当と比べたら雲泥の差だ。 ハルヒは基本何をやっても人並み以上に出来る人間だから、別に驚くことではないのだがそれでも少しびっくりしてしまった。 「結婚式には忘れずに僕たちを呼んでよね」 「でもよ今朝言ってた長門有希と朝比奈みくるは結局なんだったんだ?まさか浮気するつもりじゃねーだろーな」 国木田も谷口も口を開けば俺とハルヒの仲にちゃちを入れるばかりだった。 俺とハルヒが結婚するほど相性がいいとでもこいつらは思ってるのだろうか。 少なくとも俺が結婚したいのはハルヒのようなやかましい女ではなく、朝比奈さんのようなおしとやかな方だ。 というか朝比奈さんがいい、うん。 「お前も素直じゃねーな。それで古泉って男はなんなんだ?」 「なんども言うが今朝は寝ぼけてただけだ、気にするな」 「まあいいけど、あんまり涼宮の前でやかましいとかいうなよ。逃げられちまうぜ。」 もう訂正するのも面倒なので適当に返事をして弁当の残りを一気に片付けた。 事態の進展を得るためにも長門には一刻も早く会いたい。 40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/12/28(月) 00:16:12.96 ID:U793m+qO0 「ハルヒ、これ」 弁道箱を返すタイミングが分からなかったが、早いに越したことはないと思ったので今のうちに返すことにした。 しかしハルヒは少し意外そうにその弁道箱を受け取った。 「いつもみたいに家に帰ってからでいいのに。」 放課後に家で返すことになってるのか、これは失敗したな。 ということは放課後はこいつが俺の家にくるか、俺がこいつの家にいくかのどちらかということか。 普通、ただの幼なじみってだけでここまでするのか? 「たまにはいいだろ。じゃ弁当ありがとう、うまかったぞ。」 「・・・え?あ、当たり前でしょ!な、なによいつもは礼も言わないのに・・・」 「あ、そうなのか?いやでも実際うまかったしな」 「もうわかったってば!何回も言わないでよバカキョン!」 人が礼を言ってるのに赤くなってばかりで、逆に怒られてしまった。 よくわからないが怒ったハルヒのそばにいるとろくなことがないのは百も承知だ。 わが子を見守るような笑みを浮かべてで俺たちのやりとりを見つめる朝倉のことは気になったが、すぐにその場を離れた。 99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/12/28(月) 20:58:51.70 ID:U793m+qO0 文芸部室のドアを開けることをためらうのは久しぶりだ。 あの時は朝比奈さんに強引に詰めよって鶴屋さんに本気で睨まれた後で、泣きそうになりながら長門を訪ねたものだ。 今回はその教訓を活かして、万が一俺のことをしらなくても冷静に対処してくれるであろう長門と最初に会うことにしたんだ。 流石に今回は引っ込み思案な文芸部員なんてベタな設定はやめてくれよ。 あの長門も悪くないが、俺の助け舟となってくれそうなのは俺のよく知っている方の長門なんだからな。 まあそんな無駄なことを考えてないでさっさと中に入るとするか。 ・・・。 ノックをしても中から返事は帰ってこなかった。 普通なら誰もいないと判断するところだが、俺の考える長門ならノックに対して無言で応対することは十分あり得る。 案の定、ゆっくりとドアを開けて中を覗いてみると、いつも通り長門はそこにいた。 つまり長門は窓際のパイプ椅子の座り、太ももに載せたハードカバーの本のページをめくっていたのだ。 そしてその本に向けていたであろう視線を俺の方へと移し、つぶやいた。 「何?」 実に長門らしい一言だ。 この世界で初めて、心から安心できるいつも通りをやっと味わえた気がする。 こちらを見つめる長門の視線はどこまでもまっすぐで、それがまた俺に安心感を与えてくれた。 100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/12/28(月) 21:15:14.47 ID:U793m+qO0 情報統合思念体やら対有機生命体なんちゃらの素っ頓狂な話をするよりも、まずは簡単なことから聞いておくべきだろう。 前のように長門に引かれるなんてのは勘弁だしな。 「突然訪ねてきてすまないが、俺のことを知っているか?」 「知らない。」 前回の長門は俺の存在は知っていたので、この答えは少々意外だった。 まあ何百人もいる生徒の中で、一度も見かけたことすらないやつがいるのは何もおかしくないのだが、 長門に知られていないってのはなかなかショックなものだ。 「じゃ涼宮ハルヒってやつはどうだ?」 「知らない。」 聞いておいてなんだがこれは嘘の可能性もある。 情報統合思念体としてハルヒの観察をしているのは一般人には隠すべきことであり、そのためには知らないということにした方が便利なはずだ。 この世界ではハルヒはおとなしくマネージャーをやっているだけのようだし、部室で本を読むだけの長門がハルヒのことをしらなくても何もおかしくない。 結局のところ、突っ込んだ話をしない限り長門が宇宙人かどうかは判断できないわけだ。 「情報統合思念体、って言葉に心当たりは?」 「・・・ない。」 帰ってきた答えはNO。 眉を潜めて俺のことを見つめる長門の目は、まさしく変質者を見る目だった。 初めて長門の家に上がって延々と電波話を聞かされた俺も、きっとこんな目で長門のことを見ていんだろうな。 いまさらだが謝っておくよ。長門すまなかった、だからそんな目で俺のことを見ないでくれ。 104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/12/28(月) 21:38:23.73 ID:U793m+qO0 ハルヒが存在していることからも今回の改変を行ったのはハルヒだと考えていいだろう。 ハルヒ以外の誰かが行ったのだとしたら、せっかく改変した世界をさらに改変する恐れのあるハルヒを存在させるはずがないからな。 だから、映画のキャスティングを見ればハルヒが長門に対して宇宙人的な何かを感じているのは間違いないので、 もしかしたら長門を宇宙人だとして改変を行った可能性もあると思っていたんだが、考えが甘かったようだ。 ハルヒはSOS団のメンバーのことを完全に普通の人間だと思い込んでるらしい。帰ったら古泉に報告してやろう。 「そうか。すまないないきなり押しかけちまって。」 「・・・。」 長門は何も答えずに俺のことを見る、というよりは見張っているようだった。 まあそりゃそうだ。いきなり押しかけてきて、俺のことを知っているか?なんて聞かれたら怪訝に思わない方がどうかしてる。 長門の視線は気にせず、部室を見渡してみたがテーブルと椅子と本棚があるだけで、俺が初めてここに入った時と全く変わってない。 前回、脱出プログラムを内蔵して俺をたすけてくれたパソコンは存在しない。 そして本棚から取り出した見覚えのある本にも、今の俺にとっては一万円札より重要なしおりは挟まっていなかった。 どうやら今回は正真正銘俺だけの力で問題を解決しなければいけないらしい。 「・・・。」 いい加減長門の冷たい視線にも耐えられなくなってきたし、そろそろ退散するとしようか。 何かしたいことがあるわけではないが他に行くとこもないため、放課後もここに来ることを長門に伝え、俺は教室に戻った。 それを聞いた長門に、うわ・・・、みたいな表情をされたのが軽くトラウマになりそうだった。 106 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/12/28(月) 21:54:34.84 ID:U793m+qO0 「何処いってたのよ」 教室に戻るなりハルヒが聞いてきたのだが、正直に答えて面倒なことになるのはごめんなので適当にごまかしておいた。 ハルヒもそこまで興味はなかったようでそれ以上は追求してこなかった。 その代わり明日の弁当の具材をどうするかについて熱心で、やたらと俺のリクエストを尋ねてはメモに取っていた。 当然その様子はクラス中から見られてるわけで、いい加減谷口のニヤニヤ笑いがわずらわしくて仕方がなかった。 谷口、古泉のさわやかスマイルより不愉快な笑い方がこの世に存在するとは思いもよらなかったぞ。 今すぐにでも谷口の顔面にドロップキックを決めてやりたかったが、ハルヒがあまりにも嬉しそうに話しているのでどうでも良くなってしまた。 こいつが何かをしようとしている時の笑顔ほど、光度が高いものはないからな。 何十億年後には太陽が消滅するらしいが、その時はこいつの笑顔が代わりになることを保証しておこう。 こいつならその時まで生きていてもおかしくないだろう。 クラス中から暖かい視線を集めながら、そんなことを思ったりしていた。 110 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/12/28(月) 22:49:51.10 ID:U793m+qO0 放課後になったが、文芸部室に行く前にとりあえず古泉と朝比奈さんに会っておくべきだろう。 朝比奈さんはおそらく書道部に所属しているはずだろうが、古泉については情報がない。 なので、何処かに行かれる前に教室で会うために古泉を先に訪ねることにした。 自分でも以外だったが、九組の教室に来たことはこれが初めてだった。 というか長門のクラスにも朝比奈さんのクラスに行ったこともないのか。 走ってきたおかげなのか、HRが長引いたせいなのかは分からないが、生徒はこれから帰ろうとしている様子だった。 劣等性である俺には、特別進学クラスであるこの教室に知り合いとなる人物は古泉しかいない。 何処にいたって目立つあいつの顔を俺はすぐに確認することができた。 「よう、古泉。」 「すいませんがどなたでしょうか?どうして僕のことをご存知で?」 荷物をもって教室を出てきたところで声をかけると、当然ながら古泉は困惑していた。 しかし長門や朝比奈さんと違って、こいつにどんな顔をされようが俺が傷つくことはないので そんなことは気にせずどんどん質問をぶつけていこう。 「お前部活かなんかやってるのか?」 「一応サッカー部に所属していますがそれがどうかしましたか?」 なんとこいつはハルヒの前で玉蹴りなんぞに興じているらしい。 そんなイケメンがやるようなスポーツをお前がやったらさぞかし絵になるんだろうよ。 っていうかお前はどこまでも団長に着いていく男なんだな、古泉よ。 116 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/12/28(月) 23:50:07.13 ID:U793m+qO0 教室の出入口で長々と立ち話をするのは他の生徒の迷惑になるので俺たちは場所を変えることにした。 その場所には、古泉が俺にハルヒが神だと言うことを力説した食堂の屋外テーブルを選んだ。 今度は俺が古泉にハルヒが悪魔だと言うことを証明してやろうか。 「それであなたはいったい誰なんですか?」 「お前ハルヒのことは知ってるんだよな?」 「ええ、もちろん。マネージャーとして涼宮さんは素晴らしい活躍をなされていますので。」 さっきから自分の質問は無視されてることを全く気にせず、古泉は俺の質問に答えてくれる。 お人好しもここまでくれば立派なものだな。 少々気の毒になってきたが、俺が誰かなんて質問には答えられない。 ここは涙を飲んで質問を続けていこう。いや、ホントにそう思ってるからな? 「そんでお前はハルヒのことどう思ってるんだ?」 「ですから先程いったようにマネージャーとして、」 「そういうことじゃなくて、部活のことは抜きにしてどう思ってるんだ?」 「それはもちろん一人の女性としても素晴らしい方だと思ってますよ。」 相変わらず憎たらしい笑顔でこっ恥ずかしいセリフをさらりと吐くやつだな。 いちいち手振りを交えて話話すのがサマになっていてそれがさらにまたムカつくぞ。 118 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/12/29(火) 00:34:40.06 ID:K2rQdjes0 「素晴らしいってのは神ぐらいか」 「なかなかおもしろいことを言いますね。確かに女神と言っても過言ではないとも思ってますよ。」 神、という単語に古泉は反応してこなかった。 こいつも長門同様この世界では一般人ってことで間違いないんだろう。 長門が宇宙人じゃなかった時点で、おおよそ予想はついていたが一応確認はしておかないといけないからな。 「あんなやつのどこがいいのか俺にはさっぱりわからんがな」 「あなたは涼宮さんの何を知ってるんですか?」 表情さえ変わらないが古泉の言葉にはトゲトゲしさが感じられた。 古泉が怒ってるとこなんて初めて見たが、なかなかどうして迫力があるじゃないか。 笑顔のまま怒るってのは古泉らしいがな。こんな時ぐらいそのマスクは外してみせろよ。 「少なくともお前よりは知ってるさ。これでもあいつの幼なじみだからな。」 幼なじみになったのは今日からなんだが、なんとなくこいつのことを からかってみたくて、あえて火に油を注ぐようなことを言ってみた。 「なるほど、あなたが・・・」 どうやらハルヒに幼なじみがいるということは知っていたらしい。 ハルヒに忠誠を誓った身としては幼なじみという存在は気にくわないのかもしれないな。 その瞳には明らかな敵対心の炎が燃え上がっているのが見て取れた。 158 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/12/29(火) 15:06:41.49 ID:K2rQdjes0 「僕はただの幼馴染でしかないあなたなんかよりは、涼宮さんのことを理解しているつもりですよ」 「お前が知ってるハルヒはホントのハルヒじゃないんだよ。」 「そういうことは、あなたの知ってる涼宮さんこそが本当の姿だという論拠を示してから言って欲しいものです」 古泉の視線はもはや刃物のように鋭く、まっすぐに俺の目を突き刺してくる。 こいつは心底ハルヒに入れ込んでるらしいな。どこにいってもお前はハルヒを神扱いするのか。 その信仰心が宗教活動にまで発展しないようにしてくれよ。知人がカルト教団の教祖様なんてのはまっぴらごめんだからな。 それはともかく俺は別にお前と喧嘩するために来たわけじゃないんだ、怒らせちまったのなら謝る。 ハルヒが神がかり的な力を持ってることは俺も認めてるんだ。いい意味でも悪い意味でもな。 「いちいち大げさに物を言う方ですね。」 「これでも控えめに表現しているつもりなんだがな。」 「僕も少し熱くなりすぎました。あなたも涼宮さんのご友人ですから、悪い方ではないのでしょう。」 「幼なじみ」じゃなくて「ご友人」などと言ってるのが実に古泉らしい。 「そのうちお前には何か頼みごとをするかもしれない。その時はよろしく頼む。」 「お力になれるかどうかはわかりませんがね。」 差し出された手を握ると、やけに強く握り返してきやがった。 そういうのはスポーツマンシップに反する行為じゃないのか、古泉よ。 サッカーってのは手を使わないスポーツなはずなのに古泉の握力は万力のように強く、俺の手のひらを押しつぶしていた。 160 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/12/29(火) 15:31:25.55 ID:K2rQdjes0 古泉に握りつぶされた手をさすりながら、俺は書道部の部室を訪ねていた。 マイナーな部活のわりには部室として与えられてるのは立派な和室であり、この待遇の良さはどこから着ているのかと首をひねったものだが、 朝比奈さんの隣で鶴屋さんが半紙に絵画のように美しい文字を描いているのを見て納得してしまった。 「すいません、朝比奈さんに用があるのですが。」 やけに静かな部内の空気をできるだけ乱さないようにお願いすると、やはりというべきか鶴屋さんも一緒についてきた。 朝比奈さんはおどおどしながら俺の顔をチラチラと盗み見ているが、 鶴屋さんは先程の古泉のように満面の笑みを浮かべながらも警戒心のこもった視線を俺に向けている。 「君みたいな一般人が学園のアイドルみくるになんのようだいっ?」 あふれるほどの元気よさで質問してくる鶴屋さんは、まるで朝比奈さんのマネージャーのようだった。 前回の様に不躾な態度をとってこの敏腕マネージャーの機嫌をそこなわいように、慎重に言葉を選んで対応する必要があるな。 「ちょっと訪ねたいことがあるんですよ。」 「言っておくけどスリーサイズは教えてあげないからね?わたしだって知らないんだからさっ!」 「あ、いえそういった話ではなくてですね・・・」 どうもこの人と話していると調子が狂うな。 その情報はかなり気になるところだが今は必要ない。元の世界で尋ねてみることにしておこう。 164 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/12/29(火) 15:58:14.09 ID:K2rQdjes0 「朝比奈さんは俺のことをご存じですか?」 「おかしなことを聞く坊やだね。私はしらないけど、もしかして君は有名人なのかなっ?」 「す、すいません・・・ちょっとわからないです・・・。」 長門と古泉に引き続いて朝比奈さんも俺のことを知らなかった。 いや、わかっていたことなのだがそれでもやはり寂しいものだな。 それでも、前回の様に取り乱したりはせず、至って冷静に話を進めるように努力した。 「涼宮ハルヒという生徒のことはどうですか?」 「君、みくるを前に他の女の子の話をするなんて大した度胸じゃないかっ!」 「その方も知らないです・・・。どうしてそんなこと私に聞くんですか?」 本当なら俺だってこんな馬鹿げた質問を何人もの人間にしたくはないのだが、事態を整理するための確認作業として必要なのだ、 といったことを説明したら白い目で見られることは確実なので無視して質問を進めていく。 その間、鶴屋さんから殺気じみた空気が流れてくるのは気のせいだと信じたい。 「時間平面理論について朝比奈さんの考えを聞かせてもらえませんか?」 「あう・・・ごめんなさい全然意味が分からないです・・・。」 「少年よ、そういう質問はみくるじゃなくてこの鶴屋さんにしなよっ!」 これで朝比奈さんは未来からやってきた戦うウェイトレスである可能性は否定された。 ハルヒは朝比奈さんのことをおもちゃだと勘違いしている節があるから少し心配していたのだが、 どうやら朝比奈さんについても常識の範囲内で改変を行ってくれていたようだ。 「それよりさ、そろそろ私たちを連れ出しておいて訳のわかない質問をする意味を教えてくれないかなっ?」 俺が連れだそうとしたのは朝比奈さんだけなのですが、なんてツッコミは許されないんだろうな。 166 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/12/29(火) 16:10:28.73 ID:K2rQdjes0 古泉といい鶴屋さんといい、どうやったら笑いながら怒るなんて器用な真似ができるんだろうか。 ただ古泉とは違って鶴屋さんの笑顔は迫力がそりゃもう規格外だった。 世界広しといえど、笑顔でライオンを退散させることのできる人物はこの人だけだろう。 無論俺はライオンよりも生物学的に劣っていることは明白なので、ない尻尾を丸めて退散することにしようか。 「すいませんちょっと朝比奈さんの気を引きたかっただけなんです。気にしないでください。」 「そんなことでこの私が納得すると思うのかいっ?」 「それではこれで失礼します。あっ、そのうちまたお会いするかもしれませんがその時もよろしくお願いします。」 捨て台詞の様に別れの言葉を告げて俺はその場を走り去った。 もしかしたら鶴屋さんが追いかけてくるかもしれないとは思ったが、どうやら杞憂だったようだ。 無事に文芸部室の前にたどり着いて、朝比奈さんの胸のほくろを確認するのを忘れちまった、 なんて下らない後悔をしているとふとあることを疑問に思った。 この世界に朝比奈さんの胸のホクロは存在しているのか? ハルヒによって改変されたということは、ハルヒが知らない情報は反映されていないはずだ。 しかし俺の目覚まし時計として妹のボディプレスが使用されていることをハルヒは知らないはずなのに、今朝も妹のそれは健在していた。 ってことはだ、ハルヒが勘違いしていることと望んでいること以外はそのまま元の世界のままになってるってことか。 まあ一から世界を作りなおすよりその方が遥かに簡単だろうし、当然っちゃ当然なのか。 こんなことがわかっても、どうせなんの意味もないんだがな。 168 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/12/29(火) 16:39:27.15 ID:K2rQdjes0 部室にはすでに長門が読書をしている姿があった。 部員が一人で本を読む事以外に活動しないんならそれは家でもできるんじゃないのか? そんな長門はノックもせずに入ってきた俺のことを見て、あからさまに嫌な顔をした。 「すまないがまたお邪魔させてもらうぞ。」 「・・・。」 無言の返事は拒否の意を示してるんだろうが、そんなことはお構いなしにパイプ椅子に腰掛ける。 さて、これから俺はどうすればいいんだろうか。 窓際の元宇宙人は今回は何も残してくれていないし、そのかわりとなる何かを元超能力者と元未来人が残してくれているとは到底思えない。 やはり今回は俺自身の力で改変された世界を元に戻さなければいけないらしい。 とはいえどうやってやればいいってんだ。 俺が長門のように脱出プログラムなんてものを組めるはずがないのは試さなくてもわかる。 今まで長門に頼りっぱなしだたツケがこんなとこに回ってくるとはな。 「入部希望?」 今まで俺のことをジロジロと眺めるだけだった長門が尋ねてきた。 そんなつもりは全くないんだが、部室にとどまり続けるにはそういうことにした方がいいか。 「ああ、そうなんだよ。以前から入ろうとは思ってたんだがなかなかふんぎりがつかなくてな。」 「・・・そう。」 「昼休みはすまなかったな。どんな部なのか知りたくて訪ねてみたんだ。」 「・・・いい。」 こちらを見つめる長門の目は、警戒心が解けてきたようだった。 なんだかんだで一人きりで活動するなんて寂しかったんだろうな。 相変わらず無表情なままの長門だが、どことなく嬉しそうに見えた。 170 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/12/29(火) 17:21:18.17 ID:K2rQdjes0 「本、好きなの?」 「え?あ、ああまあな」 「どんな本が好きなの?」 長門があまりにも興味深そうに聞いてくるので思わず肯定してしまった。 俺にとって本は睡眠剤とほぼ同義語なのだが、そうとは知らない長門は、ここぞとばかりに質問をしてくる。 困ったな。子供の頃は絵本を読むのは好きだったが、桃太郎ってのは通用するか? 適当にSFとでも言っておこうかとも考えたが、さらに突っ込んだことを聞かれて答えに困るのは目に見えている。 考えに考えぬいた挙句俺は素晴らしいアイディアを思いついた。 「昔読んだ本なんだがな、世界を思い通りに変えることができる少女が主人公の話なんだ。」 「なんて題名?」 「それがどうも思い出せないんだよな。お前は知らないか?」 「・・・知らない。」 そりゃ知ってるはずないだろうよ、この世界の何処にも存在してないんだからな。 まあ、あえて題名をつけるとすれば涼宮ハルヒの憂鬱、ってのはどうだろうか? 誰か小説におこしてどっかの出版社の賞にでも投稿してみたらどうだろうか。 もしかしたら大賞に入選するかもしれないぜ。 173 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/12/29(火) 17:54:05.57 ID:K2rQdjes0 すいませんそこら辺は大目に見てください 言い訳になっちゃいますが、後先考えずにやってるんでこれからも矛盾とかは出てくるかもしれません 177 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/12/29(火) 18:11:53.23 ID:K2rQdjes0 それから俺は長門に簡単な設定やストーリーを説明した。 長門はその話を食い入るように聞いてくれたが、相当お気にめしたのだろうか。 それなら丁度いい。この様子ならうまくいってくれそうだな。 「それでだな、ハルヒは世界を改変して男はそれに巻き込まれてしまうんだ。」 「・・・。」 「頼みの宇宙人も手助けしてくれないし、男は一人で世界を元に戻さなければいけない。」 「なるほど。」 「・・・とここまでが俺の覚えているストーリーなんだが、どうしても続きが思いだせないんだ。」 要するに、俺は小説の話として現在の状況を説明して長門の助言を仰ごうとしているのだ。 これなら信じられない様な話もフィクションだと受け取ってくれるし、何も不審がられることはない。 我ながらうまいことを考えたものだと思う。 「恐らく、涼宮ハルヒの力を利用して男は世界を元に戻したと思われる。」 「改変された世界で超常的な力を持ってる可能性があるのは涼宮ハルヒだけ。」 「つまり改変された世界をもとに戻すのには彼女の力をもって行うのが合理的。」 「それには具体的な方法は推測できないが、涼宮ハルヒに対して、元の世界のほうが素晴らしいという証明が必要。」 そして長門はお経を読み上げるように俺の期待に答えてくれた。 宇宙的な力がなくてもやはり長門は頼りになるやつだ。無事帰れた暁にはお礼をしないといけないな。 ハードカバーの分厚い本でも用意すればきっと喜んでくれるだろう。 俺の望む答えは十分得られたのだが、長門はさらに言葉を続けた。 「・・・しかし私は男が世界をもとに戻すことが正しいとは思えない。」 179 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/12/29(火) 18:24:00.71 ID:K2rQdjes0 あ、ハルヒって名前は隠すつもりだったのに普通に使っちゃったw これはただのうっかりなんで、この後長門とハルヒが会った時に長門が疑問に思わなくてもスルーして下さい 182 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/12/29(火) 19:13:40.35 ID:K2rQdjes0 長門、お前はいったい何を言い出すんだ。 お前にはさっき説明したろ?男はなんだかんだでSOS団としていろいろな事件に巻き込まれるのを嫌ってはないんだぜ? そりゃ今回みたいに行き過ぎた事件を起こすこともあるが、それでも男はSOS団にいて良かったと思ってるんだ。 未来人の煎れてくれたお茶を飲みながら、超能力者とボードゲームに興じたり、宇宙人の読書している姿を眺めるような時間を求めてるんだ。 「それは男にとっての考えであり涼宮ハルヒにとっては違うはず。」 「彼女が望んだから世界は改変された。つまりその世界は彼女が望んだ世界。」 「男がその世界を否定するなら、それは彼女の望みを否定することと同じ。」 「だから私は、男が世界を元に戻そうとすることが正解だとは思わない。」 ハルヒは思いつきで行動するような能天気なやろうなんだぜ。 今回だってきっとそうに決まっている。少なくとも俺はそう思っていた。 しかし長門の言うようにこれがハルヒにとって心から望んだ世界であったら? 幼なじみの俺とのんびり過ごすようなそんな世界にハルヒが憧れていたのなら? もしそうなのだとしたら、本当に俺はハルヒを否定することになってしまう。 俺は元の世界に戻りたい。それは間違いない。ただ、ハルヒお前はどうなんだ。 お前は宇宙人と超能力者と未来人と異世界人を集めて一緒に遊ぶんじゃないのかよ。 せっかく三人も集めてリーチになったってのにどうしてこんなことするんだよ。 ホントにお前はこんな世界を望んでるのか? 193 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/12/29(火) 21:35:51.66 ID:K2rQdjes0 今日はこれぐらいで帰らせてもらうと長門に告げて、俺は部室を去った。 本当はハルヒの部活が終わった頃を見計らって一緒に帰るつもりだったのだが、到底そんな気分にはなれなかった。 帰り際にサッカー部でマネジャーとして応援をしてるハルヒのことを見かけたが、楽しそうな表情をしていて複雑な気分になった。 それは俺の知っているハルヒの笑顔ではなかった。 認めたくはないがあの笑顔こそがハルヒにとって本当の笑顔なのかもしれない。 やれやれ、どこにでもいる普通の女の子の様に笑うハルヒに、ここまで違和感を感じるとはな。 SOS団の結成を思いついた時のハルヒの笑顔が、今の俺には懐かしかった。 ベッドで寝転びながら漫画を読んでるとハルヒが部屋にやってきた。 制服のまま鞄を持っているところを見ると直接俺の家に来たらしい。 すぐ隣なんだから一旦家に帰ってからくればいいだろう。 「別にいいじゃない。ここはもうほとんど私の家みたいなもんでしょ。」 「お前は何を言ってるんだ。同棲してるわけでもあるまいし。」 「ど、同棲って・・・!バッカじゃないのあんた何言ってんのよ!?」 冗談だってのに顔を真赤にして否定するハルヒはちょっと可愛かった。 ハルヒが幼なじみってのもこうしてみると悪くないもんなんだな。 196 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/12/29(火) 22:09:30.24 ID:K2rQdjes0 それからハルヒは、俺の勉強机をさも自分の物であるかのように使用して、今日だされた宿題をやり始めた。 勉強なら自分の部屋でやれと思うのだが、ホントにこいつはこの部屋を自分の部屋だと思ってるんだろうな。 こういう図々しいところは相変わらず変わってないらしい。 黙々と宿題に取り組むハルヒをじっと見ていたら、いろんなことを聞いてみたくなった。 「サッカー部のマネージャーってよ、楽しいのか?」 「んー楽しいっていうか、やりがいを感じるっていうかそんな感じかしら。」 こいつはもう俺の知っているハルヒなんかじゃないんだな。 とてもハルヒらしいとは思えないその答えに、いまさら俺は驚かなかった。 「お前って毎日楽しいか?」 「何いきなり?まあそうね、特に悩みもないし楽しくやってるんじゃないの?」 「ホントはつまらない日常にあきあきしてるんじゃないのか?」 「だから、楽しくやってるって言ってるでしょ。」 ハルヒは勉強の手を休めないまま答えた。 こいつはこんななんでもない日常に満足してるのか。 「宇宙人とか超能力者とか未来人とか、そういう奴らを集めたらお前何したい?」 「そんなものいるわけないでしょ。」 「例えばだよ。いいから答えてくれ。」 「よくわかんないけど逃げると思うわ。何されるかわかったもんじゃないもん。」 ハルヒ、おまえはもう非日常なんかに興味はないのか。 今のお前を見たらきっとみんなは失望するだろうよ。 201 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/12/29(火) 22:48:00.82 ID:K2rQdjes0 「バカなこと言ってないでたまにはあんたも自分で宿題しなさいよ。」 いつもはバカなこというのはお前なのに、ちょっとまともになってからって偉そうなこと言いやがって。 ふてくされて一人でゲームをやってたら、宿題を終えたハルヒが乱入してきた。 それからはひたすら二人で対戦ゲームをして、夕飯はなぜかハルヒも一緒に食卓を囲み、食べ終わるとやっと自分の家に帰っていった。 ハルヒとふたりっきりでこんなに長い時間を過ごしたのに、まったく疲れてないことが驚きだな。 はっきり言って今のハルヒは、ただのかわいらしい女の子だった。 そんな子が隣にすんでるんだ。これほど素晴らしいことはないはずなのだが、心の底から喜ぶことなんてできないのはどうしてだろうか。 本当ならどうやったらハルヒに元の世界への改変を行わせるかを考えるべきなのだが、さっきから無駄な考えばかりが浮かんでくる。 いや、ひょっとしたら俺もこの世界のことを気に入ってるんじゃないのか? 今までと違うハルヒに戸惑っているだけで、慣れてしまえばあのハルヒを受け入れることができるのかもしれない。 そうだ、この世界はハルヒが望んだ世界なんだ。俺が今だけ我慢すればそれですべてが丸く収まるんだ。 必死に自分に言い聞かせながら、ゆるやかに俺は夢の世界に落ちて行った。 明日もどうせハルヒのわめき声で目覚める事になるんだろうよ。 204 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/12/29(火) 23:18:40.60 ID:K2rQdjes0 「キョン、起きなさいよ!キョン!!」 ふいにやかましい声が活動停止していた脳みそを揺さぶった。 なんだよ・・・というか誰だよ・・・。 まだ休息を欲っしている俺の頭はその声を雑音として処理することにして、 顔の上まで布団を引き上げろと命令した。 「だから、起きろって言ってんでしょうが!!!」 「ごはっ!!!」 腹部への強烈な衝撃が俺の頭の覚醒を促して、目玉が飛び出るんじゃないかと言うほどまぶたを開かせた。 俺の腹にかかとをめり込ませながらこちらを睨みつけるハルヒは加減と言う言葉を知らないようだ。 「お前・・・朝っぱらからなんてことを・・・!」 「あんたが起きないのが行けないんでしょ!毎朝毎朝起こしにくる私の身にもなってみなさいよ!」 ベッドの上で悶絶する俺を残してハルヒは去っていった。 起こすにしてももっと快適に目覚められる方法がいくらでもあるだろう。 まだ妹のボディプレスが残っていることを忘れて、俺は五分ほど腹を押さえたまま横たわっていた。 245 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/12/30(水) 13:00:10.41 ID:YNoc/1aT0 なんだってハルヒは学校まで続くこの厄介な勾配を残すことにしたんだ。 この坂をなくすことを公約に生徒会長に立候補すれば満場一致で当選するのは間違いないくらい、 全校生徒がこの坂に対して不満を持ってるはずだろうよ。 「よお、キョン。なんか忘れてることがあったら今のうちに聞いておいた方がいいぞ。」 毎日谷口と登校時間がかぶるのはどうにかならいないのかね。 こんなやつと肩を並べて学校へ向かうくらいならカカシと肩を組みながら歩く方がマシなんだがな。 「いくらお前が変わってる奴でもそれはやめた方がいい。涼宮のやつがカカシに嫉妬するからな。」 がっはっはっは、と自分のジョークに自分で笑う谷口を見て俺は、 救いようのない馬鹿ってのは存在するんだな、なんてことを考えていた。 「あのな、一般人の代名詞たるこの俺に対して、変わってるとはどういう了見だ?」 「本当の変人ってのは自分が変人ってことに気づいてないもんなんだよ。」 その言葉をそっくりそのままお前に当てはめるとしっくりくるぜ、谷口。 それに、俺が至って普遍的な高校生であることは、とある機関による調査で明らかなんだよ。 ハルヒが今回の改変で、俺のステータスに細工をしていないとすればの話だけどな。 ん?今なにか違和感を感じたぞ・・・?重要ななにかに気づけそうな感じがしたんだが・・・。 必死にその違和感の正体を探ろうとしている俺に谷口がどうでもいい話をしてくるもんだから、 適当に相槌をうっている間に頭の奥へと引っ込んでしまっていた。 251 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/12/30(水) 13:22:44.72 ID:YNoc/1aT0 「今朝の目覚めはどうだった?」 「おかげ様で朝飯抜きダイエットに成功したよ。」 「言っとくけどダイエットてのは体重が減って初めて成功っていえるのよ。」 ああそうですか。 生憎ダイエットに興味はないんで、明日からはかかと落としで起こすのは控えてもらえませんかね。 「それじゃ明日はお腹じゃなくて顔面にお見舞いしてあげようかしら。」 頼むから快適な目覚めを演出する方法を考え出してくれよ。 これ以上話していても明日の寝起きが恐ろしくなってくるだけだな。 俺は席について岡部の登場を待ちながら先程感じた違和感を思い出そうとしていた。 どこだ、どの部分に俺は引っかかったんだ? 普遍的・・・超能力者・・・いや違う、そういうことじゃない・・・。 『今回の改変で、俺のステータスに細工をしていない』 この言葉で初めて違和感に気づいたんだ。そうだ、よく考えろ・・・これは絶対におかしい。 なんでこんなことに気づいてなかったんだ。 どうしてハルヒは俺にだけ改変の影響を与えていないんだ? 長門も古泉も朝比奈さんも、ハルヒ本人でさえSOS団の事を忘れちまってるんだ。 どうして俺だけがそれを覚えている。いや、覚えていられるんだ? ・・・そんなのは簡単だ。 ここまでくれば毎回毎回、定期テストで赤点スレスレで低空飛行を続けている俺にだってすぐわかる。 「ハルヒがそれを望んだからに決まってるじゃないか!」 255 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/12/30(水) 13:46:21.32 ID:YNoc/1aT0 導き出した結論を叫びながら、俺は無意識の内に立ち上がっていた。 いつの間にか岡部が教壇に立っている。HRはすでに始まっていたようだ。 派手な音を立てて起立した俺へと、クラス中の視線が集まる。 全員が間の抜けた顔をしていたが、その中でも谷口の顔は傑作だった。 「お前はこんな世界望んじゃいない!そうだろハルヒ!?」 勢い良く振り返りながらハルヒに問いかけた。 我に返った岡部が何か言ってるが、今の俺には聞こえるはずもない。 いろんなことがどうでもよくなっちまうぐらいに大切なことに気づいたんだからな。 ハルヒは俺に忘れて欲しくなかったんだ。 SOS団で体験したことを、苦労したことを、あいつらと過ごした時間を。 そのすべてを俺にだけは覚えさせてくれた。 これがハルヒからのSOSサインじゃなくてなんだっていうんだ? 「ばっ・・・バカキョン!あんたおかしくなっちゃったの!?とにかく座りなさいよ!」 事態がまったく飲み込めないハルヒが俺に座れと命じる。 いいさハルヒ座ってやろうじゃないか。ただしお前の言うことを聞くのはこれが最後だ。 お前がなんと言おうと、俺はこの世界を元に戻す。 ハルヒ、お前がSOS団を結成しないってんなら、俺が結成してやる。 259 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/12/30(水) 14:15:57.79 ID:YNoc/1aT0 授業がこれほど長く感じるなんてな。 放課後を待ちきれない俺の膝が始めた貧乏ゆすりが机をガタガタ鳴らし、それを聞いたハルヒに殴られる、 といったことを五回ぐらい繰り返してようやく昼休みの始まりを告げるチャイムがなった。 「キョンこれ今日のお弁当。」 ハルヒは昨日のように弁当箱を俺に渡してから朝倉と一緒に昼食をとりだした。 このままなら俺は、これから毎日このハルヒお手製の弁当を食べることができるんだろうな。 けどなハルヒ、お前の弁当を食べてやれるのはこれが最後だ。 蓋を開けて確認した弁当箱の中は、俺の好物で埋め尽くされていた。 おかずを横取りしようと箸を伸ばす谷口の手を叩きながら、その一つ一つを俺は最後の晩餐のように味わって食べる。 朝倉と会話をしながら時折こちらの様子を伺ってくるハルヒは、きっと俺の感想が気になっているんだろう。 心配しなくても、俺のためだけに作られたこの弁当を、俺がまずいというはずなかろう。 この弁当のお礼は元の世界のお前にいってやるからな、ハルヒ。 261 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/12/30(水) 14:42:20.30 ID:YNoc/1aT0 とうとう放課後になった。 これから長門を説得して文芸部室を使用する許可を得て、古泉に頼み込んでその部室に来てもらう。 そして、鶴屋さんを倒してでも朝比奈さんを部室に引きずってこなければならない。 長門と古泉はどうにかなるとして、問題は鶴屋さん立ちはだかる朝比奈さんだ。 授業中に必死になって考えたが結局いい作戦は思い浮かばなかった。 まあいい。当たって砕けろだ。 俺が今行動のお手本としている人物は、後先なんて考えずに突っ込んでいくことをよしているはずだ。 「ハルヒちょっと来い」 「え?なに・・・ってちょっとキョン!?」 ハルヒの手をとって俺は走り出した。 無理やり引っ張られて走るハルヒがギャーギャー叫んでいるが無視する。 せめて手を離せだ?それじゃ聞くがお前はあの時俺の言うことを聞いてくれたのか? お前はやりたいことをやるときには、いつだって他人の意見なんかお構いなしだったろ。 忘れたってんなら思い出させてやるよ。いいから黙ってついてこい。 263 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/12/30(水) 15:05:13.33 ID:YNoc/1aT0 無駄に勢いをつけて押したドアが轟音をたてて開いた。 本を読んでいた長門は驚くこともせずに、これまた無駄に勢いをつけて飛び込んできた俺たちの事をみていた。 「ちょっとキョンここどこよ!」 「文芸部室だ。そして同時に俺たちの部屋だ。」 「はあ?もう意味わかんない!大体ここに連れてきてどうしようってのよ!?」 「いいからお前は黙ってここにいろ。長門、この部屋使ってもいいか?」 「・・・。」 長門は何も答えない。 せっかく俺の評価が長門の中で変質者から部員へとランクアップしそうだったってのに無駄になっちまったかな。 でもお前だって腐っても元SOS団員なんだ。俺の破天荒っぷりを見て何か思い出さないか? 「あなたが何をしたいのか全く分からない。」 分からなくてもいいんだよ。俺だって分からない。 なにするかはこいつが決めるんだからな。だからお願いだ、思い出してくれ。 ここはSOS団の部室なんだよ。 「・・・わかった。好きにしていい。」 そう言ってくれた長門が俺には宇宙人の様に見えた。 普通ならこんな気が狂ってるような奴の頼みなんて聞いてくれないだろう。それなのに長門は了承してくれた。 きっとこいつも頭の片隅のさらに端っこの方でSOS団のことを覚えているんだろう。 ハルヒが残して置いてくれたんだ。俺がSOS団を結成する助けになるようにな。 266 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/12/30(水) 15:29:50.70 ID:YNoc/1aT0 「よう、また会ったな。」 数分後、俺はグランドで練習をはじめようとしている古泉に声をかけていた。 事態が飲み込めずいつまでもわめいているハルヒのことは、逃がさないようにとだけ頼んで長門に任せた。 あの長門に宇宙的な力は存在しないが、それでもきっと大丈夫だろう。 「これはどうも。今日はどういった要件でしょうか?そろそろ練習が始まるので手短に願いたいのですが。」 「そいつは無理な相談だな。それよりハルヒの姿が見えないじゃないか、どうしたんだ?」 我ながら白々しいにも程があるな。自分で連れ去っておいて行方を訪ねるなんてよ。 「それがどなたにも連絡されていないんですよ。今まで無断で欠席するようなことはなかったのですが。」 「それじゃどこにいるか知りたいだろ?」 「・・・彼女に何をしたんですか?」 いいからついてこい、そう言って文芸部室へと古泉を誘導した。流石に他のサッカー部員の目が邪魔だからな。 ただ、練習着姿の古泉が部室で浮いた存在になるのは間違いないので、その前に着替えることを強制しておいた。 そうしてたどり着いた文芸部室の中には入らずに、ドアの前で立ち止まり話を再開する。 中からはハルヒの声は聞こえてこなかったから、長門の説得で観念しておとなしくしているのだろう。 「俺はな、新しく部活を作ろうと思うんだ。」 「そうですか。ご勝手にどうぞ。涼宮さんは中にいるんですか?」 そう急かすな古泉よ。別に人質にとってるわけじゃないんだ。 命の危険はないからあんして話を聞け。 268 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/12/30(水) 16:03:25.61 ID:YNoc/1aT0 「お前マネージャーやってるハルヒのこと好きか?」 「こんな所まで連れてきてそんな下らないことを聞くんですか?」 「いいから答えろ。」 「好きですよ。好きに決まってるじゃないですか。これでいいですか?」 全然良くねえな、古泉よ。 あんな不抜けたハルヒを好きだなんて言う奴にSOS団の副団長は務まらんぞ。 本当にお前はあのハルヒが好きなのか? お前が好きなハルヒはマネージャーなんかクソ喰らえって吐き捨てるような、そんなハルヒじゃないのか? 「僕が知っているのはマネージャーとしての涼宮さんだけですよ。」 いいや違うね。お前は知ってるはずだ。 転校初日の自分を、強引に部室へと招待するようなヤツを忘れることなんかできるはずないだろ。 「あなたの仰ている意味が僕には全くわかりませんよ。」 「なのに・・・なぜかあなたの言うとおりの様な気がします。」 そうだ思い出せ。長門のようにお前だって覚えてるはずなんだよ。 ハルヒはお前にだって残しておいたはずだ、副団長としてのお前の役割を。 「涼宮さんは中にいらっしゃるんですよね?」 その言葉に頷いてやると、古泉はドアを開けて中へ入っていった。 ハルヒの驚く声を聞いたのと同時に、それをなだめる古泉の言葉も聞こえてきた。 古泉、ハルヒの接待はお前の特技のはずだ。 すぐに朝比奈さんを拉致ってくるからそれまでハルヒを頼むぜ。 273 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/12/30(水) 16:45:30.05 ID:YNoc/1aT0 書道部で活動中の朝比奈さんを呼び出すと、当然のように鶴屋さんがついて来た。 しかし今回の鶴屋さんは警戒心丸出しで朝比奈さんの横で腕を組んでいる。 正直それだけで俺は家に帰りたくなるほどビビっていたのだが、そんな訳には行かない。 鶴屋さんに何を言われようとも何をされようとも朝比奈さんを部室へと連れていかねば。 「今日は何の用だい?私たちも暇じゃないからね、手短に頼むっさ。」 「何も言わずに朝比奈さんを貸してもらいたいんです。よろしいですか?」 「そんな事言われても・・・困ります。」 「あのね、君のような奴にうちのみくるはやれないんだよっ。そこんとこわかってもらえないかなっ?」 小細工したってこの人に通用する訳ないので、真っ向勝負を仕掛けてみたのだが速攻で拒否されてしまった。 だが今回の俺は諦めるわけには行かないんですよ。マスコット的存在である朝比奈さんなくして、SOS団は成立しないんですから。 「そんなワケ分かんないこと言われても困るっさね。いい加減諦めてくれないと体に頼み込むことになるよっ?」 「お願いします鶴屋さん!俺達には朝比奈さんが必要なんです!」 「あのう・・・ど、どうして私じゃなくて鶴屋さんの方にお願いするんですか?」 「そんな事言われても無理なものはむりっさ!大体、俺たちってのは誰のことなんだいっ?」 鶴屋さんもよく知っている奴らです。 ハルヒのことですから、あなたにも記憶を残して置いてくれていますよね? SOS団唯一の名誉顧問であるあなたなら思い出せるはずです。 282 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/12/30(水) 17:53:56.64 ID:YNoc/1aT0 「SOS団?名誉顧問?一体なんのことだかさっぱりだよっ!」 鶴屋さん、ハルヒと一緒になって朝比奈さんを弄んだのを忘れるなんてひどいじゃないですか。 どうですか?朝比奈さんも思い出してきませんか? あなたはSOS団の中でも、飛び抜けてハルヒの被害を受けている人間なんですよ。 「えっと・・・そのハルヒって人がなんなんですか?」 あの時もあなたは訳がわからないままハルヒに強引に拉致されたはずです。 そしてあろうことか部室でその胸をハルヒに思う存分もまれたんですよ。 忘れたくても忘れられるもんじゃないでしょう? 「涼宮・・・ハルヒ・・・涼宮さん?」 「もしかしてそれはハルにゃんのことなのかい?」 やっぱりだ。二人ともハルヒのことを忘れちゃなんかいない。 いや誰であろうとも、あんな強烈なやつの存在を忘れられるわけがないんだ。 「朝比奈さん・・・ついて来てくれますか?」 「みくる、わたしもまだ全部思い出せないけど、アンタはこの子についてった方が良いみたいだねっ。」 「・・・わかりました!」 朝比奈さんの手を握りしめ、俺は残された力のすべてを足に込めて走り出した。 転びそうになりながら俺の後をついてくる朝比奈さんを気遣う余裕もないぐらい俺は浮かれていた。 なんてったってこれでSOS団の再結成は実現したといっても過言ではないんだ。 ハルヒよ、後は団長のイスを埋めてやるだけだぜ? 309 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/12/30(水) 20:46:59.64 ID:YNoc/1aT0 「ようわりいな!説得するのに手間取っちまってよ!」 ドアを蹴っ飛ばして部室へと凱旋した。 その際、なにかが壊れる音がしたがそんなことはどうだっていい。 そうさ今の俺にとっては日本列島を真っ二つにする程の大地震でさえ、一円玉をなくすことぐらいのささいな現象に過ぎないんだからな。 「ちょっとキョン何よその子!?」 俺の手を握ったまま精一杯呼吸する朝比奈さんを見てハルヒが大声をあげる。 お前が任意同行と偽って連れてきた朝比奈さんを見たときの俺も、今のお前と同じ気分だったんだぜ。 「ハルヒよ、萌えってのはけっこう重要だなんてことを言っていたやつがいるんだが、お前どう思う?」 「はあ?萌えがどうしたって言うのよ?いいからその子が何なのか説明しなさいよ!」 「それにそいつは、中途半端な時期にやってきた転校生は謎の匂いがするとも言ってたんだ。」 「それって古泉君のこと?っていうかさっきからその子は何なのよって聞いてるでしょ!?」 「さらにこれは俺の考えなんだがな、窓際で黙々と本を読んでる奴は高確率で宇宙人だと思うんだよ。」 「もう何いってるか全然わかんないわ!いいから全部説明してちょうだい!!!」 おいおいハルヒ、ここまでしてやったってのにお前はまだ思い出せないのか? こいつらを集めたのは俺じゃない、お前なんだよ。 思い出せハルヒ。俺の手首をつかんでいる可愛らしい方はSOS団のマスコット的キャラだぞ。 お前の隣で微笑を浮かべてるいけ好かない野郎は副団長で、こんな状況でも本を読んでいる少女はSOS団に不可欠な無口キャラなんだろ? これは全部お前の人選なんだぜ、ハルヒ。雑用係の俺は十分役割を果たしたはずだ。 いい加減お前も自分の役割を思い出してくれよ。 316 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/12/30(水) 21:08:25.54 ID:YNoc/1aT0 「S・・・O・・・S・・・団・・・?」 そう、SOS団だハルヒ。何の略かわかるだろ? 初めて聞いたとき、俺は笑う前にあきれちまうほどバカバカしい名前だと思ったよ。 「世界を・・・大いに盛り上げるための・・・。」 いいぞ、あと少しだ。思い出せ、これは誰のための団なんだ。 もうわかってるはずだ。お前のためにみんなここにいるんだからな。 ハルヒ、お前のおかげでみんなが集まったんだ。 「涼宮ハルヒの・・・団。」 ・・・やっとだ。 このバカはやっと自分のしたことを思い出してくれた。 世界を大いに盛り上げるための涼宮ハルヒの団。 そう高らかに宣言した時のお前は、間違いなく世界の中心に立っていた。 地球が太陽の周りを回るように、世界はお前の周りをぐるぐる回ってるんだ。 俺達に何も言わずに勝手にその場所から離れるんじゃねえよ。 「キョン・・・私・・・全部思い出した・・・。」 325 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/12/30(水) 21:32:53.61 ID:YNoc/1aT0 「私・・・キョンにとって嫌な事ばっかりしてるんじゃないかって気づいたの。」 「それで私、普通の・・・普通の女の子でいられたら・・・キョンは喜ぶんじゃないかって・・・思ったの・・・。」 「ごめん、ごめんなさい・・・。私・・・ただ・・・キョンにに嫌われたくなかったの・・・。」 ハルヒは泣いていた。 いつだって元気でやかましくて、誰が相手でも見境なしに大暴れするあのハルヒが泣いていた。 お前はそんな下らないことで悩んでやがったのか、ハルヒ。 俺をこきつかいながら、そんな無駄な心配をしてたっていうのか。 俺がお前のことを嫌ってるかもしれないって・・・? 「バカ野郎!んなわけあってたまるか!」 気づけば俺は、今まで出したことがないほどの大音量で叫んでいた。 その声はハルヒの肩を小さく震わせて、うつむいていた顔をゆっくりと上げさせた。 「お前が普通の女の子だ?それで一体誰が得するんだよ!?」 「長門も古泉も朝比奈さんも、それに俺だって、お前がどんな事件を起こすのかわからないようなやつだからお前の側にいたんだ!」 「お前はお前の好きなように俺たちを振り回していればいいんだよハルヒ!」 ああもう!大声を出しすぎて息が続かねえ! ゼーハーゼーハーとやかましく呼吸をするが、それでも俺の肺は酸素の要求を取り下げてくれない。 酸欠になるほど言いたいことを言ってやったが、最後にこれだけは言わせてもらうぞ。 「お前は俺たちの団長だろ!?」 333 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/12/30(水) 22:07:20.61 ID:YNoc/1aT0 俺の怒声がやんだ後の部室には、うずくまったハルヒの嗚咽だけが響いていた。 古泉でさえ笑顔を忘れて真剣な顔でハルヒのことを見つめているし、 長門も本を読むのを中断して俺たちのやりとりを見ていたようだ。 朝比奈さんだけははいつも通りで、オロオロしながら泣いてるハルヒと俺のことを交互にみている。 しばらくそのまま時間だけが過ぎていったが、やっと落ち着いたハルヒがしゃべりだした。 「うん・・・そうよね。・・・私あんたのこと見くびってたみたい。」 そうだともハルヒ。お前は知らないだろうが俺はいろんな組織から重要人物としてマークされてるんだぜ? ハルヒは立ち上がって机の方に歩いていくとその引き出しを開けて何かをとりだす。 そのとりだされた物体をみてをみて思わず俺は笑ってしまった。 あいつはちゃんと自分のために鍵を用意してたんじゃないか。 「ハルヒ、ブランクの方は大丈夫なのか?なんならしばらくは俺が代理でやってやるぜ。」 俺の言葉を無視してハルヒはそれを腕につけてから、机の前で仁王立ちした 偉そうにふんぞり返るハルヒの笑顔は、網膜を焦がしてしまいそうなほどまぶしかった。 それは、俺がこの世界でずっと待ち望んでいた笑顔だ。 「みんな待たせたわね!私はここにSOS団の復活を宣言するわ!!!」 鼓膜を破ろうかという勢いで声を出すハルヒは、腕章に書かれた団長の二文字のおかげなのか、やけに輝いて見える。 その姿に安心した俺が気を抜いた瞬間、世界が暗転した。 ハルヒによって再改変が行われてることを理解する暇もなく、俺の思考は停止していた。 340 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/12/30(水) 22:43:14.53 ID:YNoc/1aT0 「キョンくん起きてー?」 せっかくの穏やかな睡眠が間延びした声によって邪魔されてしまう。 静かにしてくれよ、俺はまだ眠いんだ。 「学校遅刻しちゃうよー?ねえキョンくーん?」 たまには遅刻ぐらいしたって罰は当たらないさ。頼むからあと少しだけ寝かせておいてくれよ。 「ねーえ?・・・ねえったら!」 「ごはっ・・・!」 不意に布団越しの衝撃が俺を襲った。 半覚醒した頭が俺の体の上で飛び跳ねる妹の姿を確認した瞬間、俺は水をぶっかけられたような感覚に襲われた。 急いで妹をどかせてから立ち上がり、あたりを見回してみる。 「おい、ハルヒはどこだ?」 「ハルにゃんがどうしたの?」 妹はきょとんとした顔で俺のことを見つめてくる。 今日はハルヒは俺のことを起こしに来てくれなかったのか? 「なんでハルにゃんがキョンくんのこと起こしにくるのー?」 妹は心底不思議そうに聞き返してきた。これはつまり・・・どういうことだ? 寝ぼけたままの頭をフル回転させて考える。ハルヒが俺のことを起こしに来なかったんだ。 ってことはだ・・・俺は・・・。 「元の世界に帰ってきたんだ!!!」 351 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/12/30(水) 23:19:38.79 ID:YNoc/1aT0 俺は学校まで続く長い坂道を力強く歩いていた。 昨日までは俺を体力面と精神面の両方から攻め立てていたこの勾配も、今の俺には敵ではない。 「よう、競歩なんて始めたのかお前」 朝にふさわしいこんな清々しい挨拶をしてくるのは谷口の他にはいない。 いやあ、なにかもがいつも通りで安心してしまうな。 「おう谷口、お前も一緒にどうだ?」 「キョンお前涼宮にでも元気を分けてもらったのか?」 谷口おしいな、正解はその逆だよ。 俺がハルヒに元気を分けてやったんだ。そのおかげで俺は今ここにいるんだぜ? それじゃ改めて元の世界に戻れたことを確認するとしようか。 「ハルヒってお前と中学一緒だったよな?」 「なんだよ今更。そうだよ、一年の最初の頃にさんざん話したろ?」 ああ、はっきりと覚えているとも。 それでももう一度お前の口から聞いておきたいんだよ。 「ハルヒってよ、部活はなにしてるんだ?」 「キョン、俺はあいつが怪しげな活動をやってるって事以上はなにもわからんぜ?」 そうだよな。あいつは何やってるのかわからんようなやつなんだ。 ありがとう谷口。お前のおかげで俺は今、世界は素晴らしいってことを実感しているよ。 357 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/12/30(水) 23:40:59.04 ID:YNoc/1aT0 教室につくとハルヒはおなじみの席に座っていた。 頬杖をつきながらぼんやりと外を眺めていた様子だったが、俺に気づいた途端に元気を爆発させた。 「キョン!あんた遅いわよ!」 「遅いって始業時間には間に合ってるだろうが。」 「どうしてか分からないけどね、私すっっっごくストレスが溜まってるのよ!」 ハルヒは、かつてSOS団の結成を思いついた時のように目を輝かせて俺に詰め寄ってくる。 二日間もお前は普通の女の子の振りをしていたんだ。そりゃあ鬱憤もたまるだろうよ。 「それでね、それを解消するために色々考えたのよ!」 そうかそうか。 いつもの俺ならまた厄介事に巻き込まれるのかと頭をかかえるのだが、今日だけは別だ。 言っておくが、今の俺はお前以上にいろんな物を溜め込んでるんだぜ。 今回ばかりはお前がなにをやらかそうと止める気はないから覚悟しておけよ。 だがなハルヒ、その前にひとつだけ言っておきたいことがあるんだ。 「弁当ありがとう。うまかったぜ。」 マシンガンのように言葉を吐き続けていたハルヒの口が開いたまま停止する。 そして俺の言葉を、原型がなくなるくらい時間をかけて反芻し、それから嬉しそうに答えた。 「あったりまえじゃない!!!」 やっぱりお前にはその笑顔が一番似合ってるな。さあハルヒ、こっちの準備は十分できてるぜ。 今日はなにをやらかすつもりなんだ? 359 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/12/30(水) 23:49:31.67 ID:YNoc/1aT0 よっし終わったあ!!! 今までかいたSSで一番大変だった・・・達成感よりも疲労でいっぱいです 遅筆過ぎて迷惑かけっぱなしでしたが最後までお付き合いしてくださってホントにありがとうございました! まあいろいろおかしいとことかはあるんですけど多少は勘弁してください。 朝倉の伏線を回収してないところとか、ぶちゃけ朝倉必要なかったとことか