涼宮ハルヒのなく頃に 1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/21(月) 22:13:03.53 ID:aDZVfuVg0 前々話↓ http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1261048895/l50 前話↓ http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1261134414/l50 世界がこむらがえりを起こしたような事件から約一年。 未来人、宇宙人、超能力者などなどが集うこの妙な集団も何の代わりもなく行動力抜群の女団長に従って過ごす日々を送っていた。 まぁ、冬の雪山で新・宇宙人に監禁されたり、いけすかないキザな未来人と遭遇したり、 中学の時の同級生を神だと崇拝する超能力者に我が団のマスコットを誘拐されたりなど、イベントには事欠かない年だったがな。 そうこうしながらも、わりと気の緩みがちな二年目の高校生活はある圧倒的な存在によってハラハラの連続であっという間だった。 ようやく落ち着いたかと思えば、北風が勢いよく吹く、寒々しい季節になり、100Wの笑みで「今年もやるわよ!鍋パーティー」などと発言するやつがいるのだから事件が起きないはずもない。 しかしだ、今年起こった事件の原因は、団長でもなければ、未来人、宇宙人、超能力者のいずれでもない、これまでで最も悪質な事件であった。 ※お詫び >>1が昨日オヤシロ様の祟りに遭い、失踪しました 今日から、>>1に代わって>>1の友人がお送りいたします。 規制に巻き込まれるとかorz 2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/21(月) 22:14:12.71 ID:aDZVfuVg0 12月17日(THU) どんよりとした曇り空が冬の寒さをより強いものにしていた。 放射冷却なんていう言葉はおよそ1月の中頃までは縁のない話だろうし、そもそもこの中途半端な寒さで雨でも降れば誰かさんの機嫌がマイナスのメーターを振り切りそうだ。 どうせ降るなら雪が降ってくれ。 早朝の強制ハイキングコースを歩きながら俺はそんなことを思った。 「おっす、キョン。今年も涼宮たちと何かするんだろ?」 挨拶代りに、おそらくクリスマスの予定を聞いてきたのは谷口だった。 何かするのか?さぁな、ハルヒに直接聞いてくれ。 「とぼけんなって、あの一年中何かしら事件を起こす女がクリスマスに何もしないわけがないだろう」 やれやれ、全くその通りだろう。 「今年も鍋パーティーをやるとか言ってたな」 俺はそれをいかにしてごく普通の鍋物にするかで頭がいっぱいだ。今年もあの陽気な上級生を頼るべきだろうか。 「なぁ、それに参加させてくれよ。涼宮はどうでもいいんだがな」 「言っておくが、朝比奈さんに何かしたらすぐに追い出すからな」 俺がそう忠告すると、分かってないな、といった風に首を動かす。 「あの人には強力なボディーガードがついてるだろ、あの」 なるほど、鶴屋さんのことか。あの人はいよいよそういう役回りらしい。 「だが、長門、だったか?あいつはどうだ」 谷口は自慢げに人差し指を立てて説教を始めた。 「あんまりしゃべらねぇし、何考えてるかわかんねぇけど、顔は他の女子に比べていいからな・・・オぶッ」 「お前の気持ちはよく分かった。今年は出禁にしてやるからな」 カバンを顔面にクリーンヒットさせて俺はレッドカードを谷口に叩きつけた。 「くそ、お前だけであのハーレムを独占するつもりか」 残念ながら男は古泉もいるんだよ。 「さてはお前涼宮だけでは飽き足らず他の女も・・・おい、待てよ」 俺は谷口の言葉を無視して、慣れた坂道を登って行った。 3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/21(月) 22:15:28.15 ID:aDZVfuVg0 「うーん、クリスマスに鍋パーティーか」 国木田と抱き合わせで潜りこもうという作戦か、谷口は国木田にそんな話をしていた。 「今年はもう予定があるんだけどな」 指をあごにあてて、考えるように空を見ていた国木田はのんびりとそんなことを言った。 「なんだ?彼女か」 「うん」 谷口の問いにあっさりと頷く国木田。谷口はわなわなと震え 「キョンに続いてお前まで俺を裏切ったのか!」 「あ、じゃあ今年は出来なかったのか」 国木田は少し驚いたようにそう言った。流石に少しイラッと来たぞ、俺も 「でも、キョンには涼宮さんがいるじゃないか」 だからハルヒはそんな関係じゃない。どちらかというと加害者と被害者だ。 「ふーん」 国木田は納得したように首を縦に動かすと 「でも、彼女クリスマスはバイトだって言ってたから良ければ参加したいな」 余裕たっぷりに笑顔で俺にそう言う国木田の横で恨めしそうに谷口が呟いた。 「もう死んじまえよ、お前ら」 4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/21(月) 22:16:15.83 ID:aDZVfuVg0 その日の放課後、俺はいつものように部室へと向かい、鍋パーティーへの参加希望があったことをハルヒに告げた。 「ふーん、まぁいいわ。鍋運んだりとか、男手はあったほうがいいものね」 と少し不満そうに了承した。 メイド服でせっせと問題集を解く朝比奈さんもそれを聞いて顔を上げ 「あ、鶴屋さんも参加したいって言ってました」 と、愛らしい笑顔で友人の参加を希望する。今日も素敵です、朝比奈さん 「鶴屋さんは名誉団員だもの。でも、受験とか大丈夫なわけ?」 ハルヒの心配ももっともで、そもそも朝比奈さんがこんなところに今メイドルックでいることこそが不安でしょうがない。 「あ、それは大丈夫だって言ってました」 まぁ、あの先輩は受験がどうこうであわてるような人ではないだろう。どんな一流大学にもあっさりと受かってしまうに違いない。 「それなら今年もにぎやかになりそうね」 満足げに笑うハルヒに一抹の不安を覚える。 くれぐれも普通に、だ。頼むから 奥で古泉が「善処します」とアイコンタクトを送って来た。 やれやれ。やつにできるのはせいぜい今年は夜に部室で鍋パーティーを開く許可をあの生徒会長から持ってきてもらうくらいだろう。 5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/21(月) 22:17:13.77 ID:aDZVfuVg0 12月18日(FRI) 目が覚めると雨は降り続いていた。 憂鬱な気分に目をこすりながら俺は顔を洗い、いつものように支度を済ませて出かける。 傘をさしていても、着ているコートに風で飛ばされた雨粒が斑点を作っていた。 「おっす、おはようさん」 嫌にさわやかな笑みを浮かべて、足元を濡らした谷口が話しかけてきた。 「どうだった?参加出来るのか?」 こいつはそんなことを楽しみに、そんなさわせそうな顔をしているのか。 「ちゃんと働くこと、だとさ」 ため息交じりにそう言ってやると谷口は鼻歌でも歌いだしそうな上機嫌だった。 「それで、教えろよ」 声をひそめて谷口が俺に囁く。一体何をだよ 「何を、って。きまってるだろ?」 一体なんだって言うんだ 「長門だよ。あの無口な美少女の好きなものを教えろって」 さあな、意外と奇妙な生命体に興味を持つかも知れんぞ 「なるほど、そんな趣味もあったのか」 俺はそんな話聞いたこともないがな 「じゃぁ、一体何がいいんだよ」 しつこいクラスメートの顔が近くなる。やめろ、俺にそっちの趣味はない。 「本じゃないのか?あいついつも何か読んでるからな」 顔を払いのけるようにして俺がそう教えるとあっさりと身を引いて 「よし、それなら後は買うだけだな。国木田にでも聞いてみるか」 と言って、クラスを見渡す。 6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/21(月) 22:18:16.19 ID:aDZVfuVg0 「おい、国木田相談があるんだよ」 「ん?なんだい?」 カバンを置き荷物を整理する国木田に谷口が話しかけた。 「なぁ、お前面白い本とか知らないか?」 「へぇ、谷口が本に興味を持つなんて珍しいね」 国木田が少し驚いたような表情でそう言った。 「違う違う、俺じゃなくて人にやるんだよ、クリスマスだしな」 谷口が得意げに言うと、国木田が納得したように頷いて「なるほどね」と笑みを作っていた。 「なんかないのか?こう、渡しただけで『この人凄く知的、カッコイイかも』とか思わせるようなモンは」 あはは、と国木田があきれたように笑う。 「でも、それ内容聞かれた時どうするの?読まないんでしょ」 同感だな。そんな書物をコイツの頭で理解できるとは思えない。 「それは、その、あれだ」 谷口は続ける。 「適当に難しそうなこと言ってりゃ何とかなるだろ」 「なるほどね」 国木田は意味なく笑って「あ、そうだ」と何かを思い出したように 「昨日雨だったからか、車が歩道に突っ込んできてさ。危うくひかれるところだったよ」 と言った。笑い事じゃないな。俺も気をつけよう。 始業まであと二分か 俺は、今日何かあった気がするんだがなんだったかな、などと考えながら時間割を眺めて使う教科書以外を空のカバンに放り込んだ。 7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/21(月) 22:19:11.83 ID:aDZVfuVg0 「それじゃ、各自にやりたい鍋物のアンケートを取るわ」 ハルヒはそう言って六等分されたA4サイズのコピー用紙を俺たちに渡す。 「ただし、これだ!っていうインパクトを必ず付けること」 ハルヒの無茶ぶりを無視して俺は素直に「すきやき」とだけ書いた。 まぁ、使うのは鉄鍋だし間違ってないよな。 ちなみに長門は「たこ鍋」 朝比奈さんは「甘味鍋」 古泉は白紙だった。 「全員書き終わったわね。それじゃ、この箱の中に入れて」 そう言ってハルヒは黒塗りの段ボール製『?』BOXをたたく。 どこかのクラスが文化祭のときに使ったものをがめてきたらしい。 それぞれが順番に箱の中に二つ折りにした紙を入れる。 「それじゃ、この六枚の中から一つを選んで今年の鍋物のメインとするわ」 「おい、ちょっと待て」 ハルヒが何か不正をしそうな気もするが、それ以前に 「SOS団は5人だろ」 「あたしが一枚多く入れたのよ。文句ある?」 さも当然と言わんばかりに鼻を鳴らしてハルヒが言った。 「文句言ってないで、それならあんたがくじを引きなさいよ」 乱暴に『?』BOXを押し付けるハルヒ。 俺はしぶしぶ箱の中に手を突っ込み引き当てたのは 8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/21(月) 22:20:07.95 ID:aDZVfuVg0 『マロニー鍋』 だった。 「はい、それじゃ、マロニー鍋に決定」 お、おい、ちょっと待て 「何?文句あるの?選んだのはあんたでしょ?」 それはそうだが、一体なんだよマロニー鍋って 「あんたマロニーを知らないの?あの透明の白いやつよ」 そのくらい知ってるがまさかそれのみとかじゃないだろうな。 「日曜日に買い出しに行くからいつもの場所にいつもの時間に集合すること」 団長は業務連絡的にそう告げた。 その日一日中ハルヒは不機嫌で、俺はいかにしてマロニー鍋にほかの食材を加えるかで頭を抱えていた。 コイツのことだ、本当にやりかねんぞ、マロニーのみの鍋なんて。 肉なんていう贅沢は言わんが、せめて野菜くらい入れたいもんだ。 やれやれ 俺は大きくため息をついた。 9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/21(月) 22:22:05.38 ID:aDZVfuVg0 12月19日(SAT) 「なぁ、キョン。いい加減教えてくれよ」 谷口がしつこく俺に長門の趣味を訊ねてくる。 よもやこいつも長門が神々しい女神に見えるなんて言い出すんじゃないだろうな、などといらぬ不安を抱いていた。 「しつこいぞ、俺もあいつのことはさっぱりなんだ」 せいぜい、他のやつには分からないだろう感情の機微を読み取れるとか、長門のトンデモ属性ぐらいにしかな。 「なぁ、国木田。もうお前だけが頼りなんだよ」 谷口はとなりで微笑んでいた国木田の肩をつかむ 「そうだなぁ、『人間失格』なんてどうだい?」 ナイスチョイスだが、国木田。お前は一体いつから毒舌キャラになったんだ? 「お前は俺のことをそんな風に思っていたのか」 谷口がうなだれる。 「違うよ、内容はなかなか知的でためになるよ」 国木田は手を振ってそう言った。 「それが嫌なら、夏目漱石なんてどう?『坊ちゃん』とか『こころ』とか」 「『こころ』?何かそれ、知的だな」 谷口が意外なところに食いついた。 知ってるか、それ、三角関係から主人公の親友が自殺する話だぞ。 「そういえば、昨日の帰り雨だったでしょ。それで危うく階段から落ちるところだったよ」 国木田が些細な不幸自慢をしているのを聞いて何か引っかかりを感じた。 そういえば、今日、何かなかったか? いや、何かあるのは明日だろう。鍋の買い出しだ。 「人が多くてぶつかってよろけたのも原因なんだけどね」 俺の頭の中はすでに、どうやって普通の鍋物にするかでいっぱいだった。 10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/21(月) 22:24:14.21 ID:aDZVfuVg0 何事もなく授業は終わり、放課後部室に行くとハルヒは大層ご機嫌だった 「それじゃ、明日鍋の材料の買い出しに行くわ。 今回も鶴屋さんがスポンサーになってくれるらしいから大いに期待しなさい あ、でもきちんと参加費は出すこと。おんぶだっこじゃSOS団の名が廃るわ」 こんなどうでもいい団体の名が廃ろうが俺にはどうでもいいことだが、確かにあの先輩だけに金を出させるというのも気が引ける。 その提案には賛成だ。 「あと、各自好きな材料を選んでいいけど、バランスを考えなさい。マロニーばっかりとかそんなんじゃだめよ」 お前に言われたくないね。 俺は上機嫌な団長が延々と明日の計画をくっちゃべっているのを聞きながら、野菜を買うか、肉を買うかで大いに悩んでいた。 11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/21(月) 22:25:27.96 ID:aDZVfuVg0 12月20日(SUN) 朝九時にいつもの場所。俺はいつもより早く出かけた。 今日のメンバーはいつもの五人だけではなく、国木田、谷口、鶴屋さんを含めた八人と言う大所帯だ。 「おっそーい!罰金よ、罰金」 それでも、そこに着いたのはビリ直前で、谷口以外は全員その場に到着していた。 朝比奈さんといつも一緒にいる鶴屋さんはまぁ、いいとして、国木田、お前は何故俺よりも早くここにいる。 わざわざ集合時間20分前に出てきたってのにこのざまだ。 それから少しして、谷口も現れ、集合時間よりもかなり早いはずの全員集合に 「お前ら一体いつから待ってたんだよ」 と、さんざん文句を並べるハルヒへの苦情を俺に向かって愚痴って来た。 頼むからそういうことは直接本人に言ってくれ。 まぁ、それからの買い物はごくごく普通に、といった感じだ。 いつものように不思議探索、なんてこともなく、ハルヒは朝比奈さんや鶴屋さんと楽しそうに談笑し、 谷口は長門に積極的に話しかけてはいるがかわされ続けている。 俺と国木田、古泉の三人はのんびり会話しながらその様子を見ていた。 食品売り場では、それぞれが思い思いのところへ行き、買い物用のカートに乗せる。 そのカートの番は俺の仕事で、その隣でハルヒがえらそうに腕を組み、買うか否かの許可を出していた。 ハルヒ、俺は白菜の入っていない鍋なんて見たことはないし、白ネギじゃなく長ネギを使うやつなんて聞いたこともなければ、ホウレンソウなんてものを突っ込むのなんて見たくもない。 「いいのよ。普通の鍋じゃ意味がないの」 これならまだ『マロニー鍋』のほうがましだったかもな 野菜ばかりが詰め込まれる買い物かごを見て俺はせめて豚肉だけでも入れてくれと心から願うばかりだった。 12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/21(月) 22:27:09.00 ID:aDZVfuVg0 あらかた買い物が終わって、女性陣はさっさと洋服屋に入って行った。 残った男四人で休憩用の長椅子に腰かける。 「全く、買い物が好きだよ。女ってやつは」 谷口がぼやく。 「長門のやつも、何話してもウンでもスンでも言わないし。ありゃ脈なしだな、完全に」 少しでも脈があると思ったお前が凄いよ。 「やっぱり朝比奈さんかねぇ。かわいいし、優しいし」 谷口が深くため息をつく。 「あの先輩さえいなけりゃなぁ」 あの人がいてもいなくても結果はかわらんだろう。 俺はその事実をどうにかしてコイツに教えてやりたがったがやめた。勝手にしてくれ。 女性陣が紙袋を持って現れ、この日の買い物は終了となった。 「よし、そんじゃ帰るか」 荷物は鶴屋さんが預かってくれることになり、間もなくやって来た黒塗りの高級車に材料やらを詰め込んで俺たちはお役御免となる。 谷口が大きく伸びをして、 「あー、疲れた」 と大げさに言った。 俺も疲れたよ、国木田や古泉もだろうな。 「それじゃ、国木田。帰ろうぜ」 「ゴメン、谷口。僕これから用事があるんだ」 帰りだそうと三歩歩いた谷口は、足を止めて明らかに嫌そうな顔をする。 「なんだ?用事って」 「うーん、ナイショ、かな?」 「ふーん」 目を細めて、けっ、と地面をけた後踵を返して 「どうせ彼女とデートだろ?せいぜい楽しんで来い」 と、一人寂しそうに帰って行った。 「うーん、違うんだけどなぁ」 国木田は困ったように笑って、頭をかいていた。 13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/21(月) 22:29:08.63 ID:aDZVfuVg0 12月21日(MON) 学校に着くと珍しくあのやかましいやつがいなかった。 「おはよう、キョン。谷口まだ来てないみたいなんだ」 あぁ、見りゃわかる。珍しいな 「でしょ?成績は悪いけど遅刻だけはしなかったからさ」 あと2分でHR開始だ。風邪か? 俺はこの時そう思っていたが、谷口が現れない理由は、朝のHRで明かされた。 「谷口が昨日出かけて家に帰ってないそうだ。何か知っているものはいないか?」 …なんだって? 「先生、谷口が帰ってないってどういうことですか?」 手を挙げて発言したのはハルヒだ。 「いや、友人と出かけてから行方が分からないという話でな」 どうやら担任も詳しくは知らないらしい。 俺はハルヒのほうを向き、ハルヒの表情に責任感から来る真剣さが現れる。 それを見て俺は、同じく手を挙げて発言する決心をした。 「昨日谷口と出かけてたのは、俺達です。」 担任が少し驚いたように俺たちを見る。 「僕も一緒にいました」 国木田も俺たちに続いて名乗りを上げる。 教室が騒がしくなり、どよめく。 「あとで職員室に。そこで詳しいことを教えてくれ」 担任はそう言って話を終わらせようとしたが、教室内の騒ぎがおさまることはなかった。 14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/21(月) 22:31:36.49 ID:aDZVfuVg0 「変よ、事件の匂いがするわ」 担任による事情聴取が終わった後、ハルヒはいつぞやの『名探偵』腕章を腕に巻いて腕を組んでいた。 「まぁ、今回は確かにな」 いくら谷口でも親に心配をかけるようなことをするはずがない。 谷口は誘拐されたのか、あるいは・・・。 一つの可能性として部長氏のときのように、知らない間にトンデモ事件に巻き込まれているのかもしれない。 後で、長門と古泉あたりに聞いてみるか。朝比奈さんは例によって何も知らないだろ。 俺はハルヒの的外れな推理を聞きながら、一体谷口はどこへ行ってしまったのかと考える。 この時はあまり実感がわかなかったが、確かに事件は始まっていた。 それはこの日の放課後に知ることとなる。 15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/21(月) 22:32:38.94 ID:aDZVfuVg0 「長門、ちょっといいか?」 この日の活動が終わった後、俺は長門が帰るのを追いかけて谷口のことを聞くことにした。 「分からない」 簡潔な長門の返事を聞いて俺は、不安になる。 「分からないって、どういうことだ?」 長門なら宇宙人的な力でなんとかしてくれるものと思ったのだが、完全に当てが外れてしまった。 「最近、情報統合思念体とのコンタクトに原因不明ノイズが入ることが多くなった」 つまり、それはどういうことだ? 「情報統合思念体との情報交換ができなくなり、事実上独立したユニットとしての行動しかできなくなる可能性がある」 そして、長門は黒曜石の瞳で俺を見て 「その場合、低確率で退行現象が起きる」 つまりどうなるんだ? 「去年の大規模なバグの際にあなたが遭遇した『長門有希』と同じものになる」 つまり、世界改変なしで、あの長門が現れるってことだな 「そう」 長門の返事はいつもの長門のように無機質で、そんなことが起きているとは全く思えない。 「その確率はあくまで無視できるレベル。もし、情報統合思念体との接続が完全に切れた場合でも活動維持に関しては大した問題にはならない」 良く分からんが、今までのチートじみた能力は使えなくなるが、お前が消えることはないんだな。 コクリ、と小さくうなずく。 SOS団の戦力的にはかなり惜しい気がするが、まぁ、もしかしたら長門が普通の人間のようになる日が来るかもしれないのだ。 それはいいことなのかもな、と思い、その日は帰ることにした。 しかし、俺はこの考えがいささか甘かったのかもしれないと後々思うことになる。 16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/21(月) 22:34:29.00 ID:aDZVfuVg0 12月22日(TUE) 翌朝、学校に行くと谷口だけでなく、国木田の姿もなかった。 「まさか本当に謎の組織に誘拐されてるわけじゃあるまいな」 いや、むしろそうであってくれ、と思う。どうにもいやな胸騒ぎがする。 この胸騒ぎの原因はその日の放課後に、担任から発表されることになった。 「国木田が、亡くなった」 帰りのHR。悔しそうに、重々しくそう告げた担任の言葉を理解するのに10秒かかった。 「睡眠薬を大量に飲んで中毒死したそうだ」 睡眠薬を大量に?それじゃまるで自殺じゃないか・・・ 俺はこの国木田の死に不信感を覚えながら、あえて後ろを見るようなことはしなかった。 ハルヒが何かブツブツ言っている。一体お前は何を考えているんだ、ハルヒ 17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/21(月) 22:35:13.19 ID:aDZVfuVg0 「変、絶対変よ」 ハルヒは、興奮してそう言っていた。 俺は、あの後職員室に呼ばれ、国木田に最近変わった様子はなかったかと聞かれた。 一応、最近彼女ができたらしいことと、谷口が消えたあの日、誰かと約束があったことを伝えるにいたった。 担任は手で頭を支えて「わかった、もういいぞ」と厄介払いするように俺を職員室から追い出した。 「国木田が自殺するようには思えない。そう見せかけた殺人よ!そうに決まってるわ!」 ハルヒが鼻息荒くそういうのを、朝比奈さんが怯えながら聞いている。 長門は無表情。古泉は何かを真剣に考えているようだった。 「とにかく、その犯人をSOS団で見つけてとっちめてやる!」 ハルヒ、そこは大人しく警察に任せておけ。俺たちの出る幕じゃない 「僕もそう思います。涼宮さん、ここは警察の力を信じましょう」 古泉も珍しくハルヒをなだめる。 「警察の中にも『機関』の協力者はいますから。何かあればすぐにお知らせできると思います」 あとで、古泉がそう耳打ちした。 「仕方ないわね、とにかく今日は解散!あとで国木田の家に行くわよ。お線香くらい上げないと」 そうか、今日が通夜か。 「それじゃ、またあとで」 ハルヒがそう言ったのを合図に全員がそのまま帰宅。 そのはずだった 18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/21(月) 22:36:41.49 ID:aDZVfuVg0 「いた、キョン。お前どこに行ってたんだよ、探したぞ!」 クラスメイトが俺の姿を見つけて息を切らしながら続ける。 「鶴屋って上級生、お前の知り合いだろ?」 ドクン、心臓が打つをとが速くなる。 「そうだが、それがどうした」 「どうしたもこうしたも、落ちたんだよ、階段から」 とっさに朝比奈さんのほうを見た。みるみる血の気が引いていく。 「しかも、ピクリとも動かないでぐったりしてんだよ。血は出てなかったけどさ」 「みくるちゃん!」 ハルヒが朝比奈さんを呼ぶ声と同時に、どさりと人の崩れる音が聞こえた。 「救急車で運ばれたんだ…こ、っこっちにも担架!救急車」 またクラスメイトがどこかへあわてて走り去っていく。 ハルヒに支えられた朝比奈さんは、ショックのあまり気を失ってしまったらしい。 何がどうなったんだ? 俺は今何が起こっているのか必死に考えていた。 19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/21(月) 22:38:21.36 ID:aDZVfuVg0 その日の夜、鶴屋さんのことは朝比奈さんと古泉に任せ、俺とハルヒは国木田の通夜に参加していた。 長門は自宅待機だ。こう物騒だと夜で歩くのは危ない。それがハルヒの判断だった。 「……」 いつもは何かにつけて怒りをあらわにしゃべっているようなハルヒもかなり堪えているらしい。 長門にも勝るとも劣らない無口ぶりで終始俯いていた。 「ハルヒ、家まで送っていく」 「ありがとう」 交わした会話は、こんな短いやりとりと 「キョン」 「なんだ」 「その、死んだら許さないから」 と、送り終わった俺に、まるで戦場へ赴く恋人に言うようなセリフを聞かされただけだった。 そう簡単に死んでたまるもんかよ。 俺は二度朝倉に殺されかけたことを思い出しながら、周りに気をつけて帰宅した。 しかし、気をつけるべきは俺ではなかったのかもしれない。 20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/21(月) 22:40:30.70 ID:aDZVfuVg0 12月23日(WED) 祝日で学校もないのに早くに目が覚めたのはおそらく鶴屋さんや、国木田、谷口の身に起きた不可解な事件のせいだろう。 これらの事件は、ニュースになり、朝何となくつけて見ていたワイドショーでも取り上げられていた。 そして、谷口は『不明』のまま、鶴屋さんは『重体』から『死亡』に表示が変わっている。 助からなかったのだ、いや、即死だったらしい。 昨日、古泉からその件に関するメールが届いていた。 階段から落ちただけで人は死ぬんだな。 俺はそんなことをぼんやりと考えていた。 すると 『また、この生徒の死亡事故で病院に来ていた男子生徒と女子生徒が交通事故に巻き込まれたことが警察から発表されました』 俺は、思わず手に持っていたパンを落とし、ポカン、と口を開いてテレビ画面を見た。 21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/21(月) 22:42:09.20 ID:aDZVfuVg0 古泉  一樹  ≪死亡≫ 朝比奈 みくる ≪重体≫ おそらく、古泉がとっさに朝比奈さんをかばったのだろう。だが、重体だ。 鶴屋さんのことを思い出し、背筋が凍った。 俺は急いで部屋に置いたままの携帯を取りに行き、着信に気付く。 『着信:涼宮ハルヒ』 俺は急いで通話ボタンを押す 『おっそーい!こんな時によくものんびり寝てられるわね!いいから何も言わずに今すぐテレビをつけなさい!今すぐによ!』 言われなくてももう起きてるし、もうそのニュースも見た。 『どういうこと?あの二人が交通事故って!疑惑が確信に変わったわ!これは間違いなく殺人事件よ』 ハルヒは怒りが爆発したといわんばかりに、受話器の向うからまくしたててくる。 「ハルヒ落ち着け。俺達で犯人を捕まえようなんて考えるなよ」 『そんなこと言ってる場合?いい、団員が殺されたのよ、それを黙って見てろだなんて』 「いいから落ち着け!お前は犯人を捕まえてどうする気だ」 『っ!、そ、それは』 「ほら見ろ。下手に探しまわって自分が殺されるようなことになったら目も当てられん」 『・・・』 決して無言ではなかったが、何か言いたそうなもごもごという音が聞こえた後 『分かったわ、大人しくしてる』 と、聞き分けのいい返事が聞けた。かなり譲歩して、そんな口調だったが。 そして、俺とハルヒはお互い家を出ない約束をした後電話を切った。 もちろん明日の鍋パーティーは中止だ。 それよりも俺は、長門の無事が気になって仕方がなかった。 22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/21(月) 22:44:22.71 ID:aDZVfuVg0 12月24日(THU) X'mas eve 平日だが、昨日からすでに冬休みに入っている。 今日も朝から『謎の高校生連続怪死事件』が取り上げられ、新聞の紙面を賑わせている。 ハルヒはちゃんとおとなしくしているだろうか。 そう考えて、携帯を取り出しハルヒにメールを送ってみる。 しばらくして返信が帰って来た。 『From:涼宮ハルヒ 当然よ。代わりに暇で暇で死にそうだわ』 ハルヒらしい一文が帰って来た。 やれやれ ここ最近の事件でかなり落ちていた気分が少し楽になる。 俺は『大人しくしてろ』という文を打った後、しばらく悩んで 『ありがとう』 と加えたのだが、恥ずかしくなってやっぱりやめた。 このまま無事に、今日が終わればいい。 コンビニにケーキでも買いに行こうと思ったが、流石にそれはやめておくことにした。 23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/21(月) 22:46:32.34 ID:aDZVfuVg0 その日の夜9時に携帯電話が鳴った。 『Eメール:長門有希』 長門からメール?一体なんだ? 俺は、メールを開いて驚いた 『助けて、殺される』 たった二つの単語が、恐ろしく緊迫した状況を伝えていた。 長門が俺に助けを?一体どうして? 『最近、情報統合思念体とのコンタクトに原因不明ノイズが入ることが多くなった』 その言葉がよみがえる。 長門が俺に助けを求めなければならないケースが一つだけあるじゃないか 『低確率で退行現象が起きる』 『去年の大規模なバグの際にあなたが遭遇した『長門有希』と同じものになる』 もしかしたら、長門は本当にヤバイ状況にあるのかもしれない。 俺は急いで上着を羽織って自転車にまたがり、全速力で高校へ向かった。 途中、携帯を部屋に置き忘れていたことに気付いたがもう取りに戻っている暇はない。 長門、無事でいてくれ 頭のなかにはそれしかなかった。 24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/21(月) 22:48:04.08 ID:aDZVfuVg0 閉ざされた校門によじ登り、校舎内への侵入に成功すると、俺はまっすぐに部室棟を目指した。 この学校の警備はずさんじゃないのか? 敷地内にある明りは俺の持つ懐中電灯だけのような気がする。 まず部室棟を目指したのは、長門が隠れている可能性が一番高いからだ。 とにかく、犯人より先に長門を見つけないと。 俺は念のために廊下の掃除用具箱から箒を一本手に取り、あたりを見回す。 誰も、居ない? 慎重に上の階に進み、部室の近くまで来た。 「キョン!いるなら返事しなさい」 下から大きな声が聞こえる。ハルヒ? あの馬鹿、なんで 「どこにいるのよ、暗くて怖いんだから早く出てきなさいよ、バカ」 大きな声を出すな。犯人に見つかる 俺は部室に行くのをあきらめて先にハルヒのもとに向かうことにした。 今犯人の注意を一番引きつけているのは間違いなくハルヒだろう。 うまくいけばそこで犯人と出くわせる。やりたくはないが、仕方ない。 俺は箒を構えたままハルヒのもとへ向かった。 25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/21(月) 22:50:44.35 ID:aDZVfuVg0 「何で来たんだ、馬鹿」 「な、なんでって、決まってるじゃない」 少し離れた位置からハルヒにそう声をかけるとハルヒはすぐにライトを向けた。 「っ!キョン、後ろ」 ハルヒがライトの位置をずらす、俺はとっさに箒を構えた。 「!!朝倉?!」 あの朝倉が、ナイフを振りおろし、それを偶然にも箒の柄が受け止めた。 朝倉は、一歩後ろに下がり間合いを取る。その隙に俺はハルヒのもとへたどり着く。 「あれ、朝倉さん?」 ハルヒの表情は怯えきっていた。 「くそっ、話は後だ、逃げるぞ」 相手が人間じゃない事を知っているから逃げ切れるかさえ不安だった。 「……」 朝倉はナイフを構えながらも、襲ってはこない。もしかしたら、チャンスなのか? 「キョン、一体どういう…」 「だから説明は後だ」 すぐにハルヒの手を引いて走る。そこの校舎の角を曲がればすぐに校門だ。 迷ってる暇はなかった。が、 27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/21(月) 22:52:00.43 ID:aDZVfuVg0 「………っ」 曲がった瞬間に腹に、強い衝撃と燃えるような熱さを感じた。 「キョン、キョン!どうして」 ハルヒの声が遠くに聞こえる。誰に刺された?朝倉か? 「ふふふ、みーつけた♪」 どの方向からか、朝倉の声が聞こえる。 当然じゃないか 長門の調子をおかしくさせたり、長門を危機的状況に追い込むことができるやつなんて、他にいないだろ? そうか、犯人は…… 確証の持てない“俺の推理”は、犯人を確認することができないまま、全てとともに終わりを告げた。 ―柊―