涼宮ハルヒのなく頃に 1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/12/18(金) 20:06:54.35 ID:0le9/LTW0 前話↓ http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1261048895/l50 世界がこむらがえりを起こしたような事件から約一年。 未来人、宇宙人、超能力者などなどが集うこの妙な集団も何の代わりもなく行動力抜群の女団長に従って過ごす日々を送っていた。 まぁ、冬の雪山で新・宇宙人に監禁されたり、いけすかないキザな未来人と遭遇したり、 中学の時の同級生を神だと崇拝する超能力者に我が団のマスコットを誘拐されたりなど、イベントには事欠かない年だったがな。 そうこうしながらも、わりと気の緩みがちな二年目の高校生活はある圧倒的な存在によってハラハラの連続であっという間だった。 ようやく落ち着いたかと思えば、北風が勢いよく吹く、寒々しい季節になり、100Wの笑みで「今年もやるわよ!鍋パーティー」などと発言するやつがいるのだから事件が起きないはずもない。 しかしだ、今年起こった事件の原因は、団長でもなければ、未来人、宇宙人、超能力者のいずれでもない、これまでで最も悪質な事件であった。 2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/18(金) 20:09:52.12 ID:0le9/LTW0 12月17日(THU) どんよりとした曇り空が冬の寒さをより強いものにしていた。 放射冷却なんていう言葉はおよそ1月の中頃までは縁のない話だろうし、そもそもこの中途半端な寒さで雨でも降れば誰かさんの機嫌がマイナスのメーターを振り切りそうだ。 どうせ降るなら雪が降ってくれ。 早朝の強制ハイキングコースを歩きながら俺はそんなことを思った。 「おっす、キョン。今年も涼宮たちと何かするんだろ?」 挨拶代りに、おそらくクリスマスの予定を聞いてきたのは谷口だった。 何かするのか?さぁな、ハルヒに直接聞いてくれ。 「とぼけんなって、あの一年中何かしら事件を起こす女がクリスマスに何もしないわけがないだろう」 やれやれ、全くその通りだろう。 「今年も鍋パーティーをやるとか言ってたな」 俺はそれをいかにしてごく普通の鍋物にするかで頭がいっぱいだ。今年もあの陽気な上級生を頼るべきだろうか。 「なぁ、それに参加させてくれよ。涼宮はどうでもいいんだがな」 「言っておくが、朝比奈さんに何かしたらすぐに追い出すからな」 俺がそう忠告すると、分かってないな、といった風に首を動かす。 「あの人には強力なボディーガードがついてるだろ、あの」 なるほど、鶴屋さんのことか。あの人はいよいよそういう役回りらしい。 「だが、長門、だったか?あいつはどうだ」 谷口は自慢げに人差し指を立てて説教を始めた。 「あんまりしゃべらねぇし、何考えてるかわかんねぇけど、顔は他の女子に比べていいからな・・・オぶッ」 「お前の気持ちはよく分かった。今年は出禁にしてやるからな」 カバンを顔面にクリーンヒットさせて俺はレッドカードを谷口に叩きつけた。 「くそ、お前だけであのハーレムを独占するつもりか」 残念ながら男は古泉もいるんだよ。 「さてはお前涼宮だけでは飽き足らず他の女も・・・おい、待てよ」 俺は谷口の言葉を無視して、慣れた坂道を登って行った。 3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/18(金) 20:12:20.66 ID:0le9/LTW0 「うーん、クリスマスに鍋パーティーか」 国木田と抱き合わせで潜りこもうという作戦か、谷口は国木田にそんな話をしていた。 「今年はもう予定があるんだけどな」 指をあごにあてて、考えるように空を見ていた国木田はのんびりとそんなことを言った。 「なんだ?彼女か」 「うん」 谷口の問いにあっさりと頷く国木田。谷口はわなわなと震え 「キョンに続いてお前まで俺を裏切ったのか!」 「あ、じゃあ今年は出来なかったのか」 国木田は少し驚いたようにそう言った。流石に少しイラッと来たぞ、俺も 「でも、キョンには涼宮さんがいるじゃないか」 だからハルヒはそんな関係じゃない。どちらかというと加害者と被害者だ。 「ふーん」 国木田は納得したように首を縦に動かすと 「でも、彼女クリスマスはバイトだって言ってたから良ければ参加したいな」 余裕たっぷりに笑顔で俺にそう言う国木田の横で恨めしそうに谷口が呟いた。 「もう死んじまえよ、お前ら」 5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/18(金) 20:15:27.93 ID:0le9/LTW0 その日の放課後、俺はいつものように部室へと向かい、鍋パーティーへの参加希望があったことをハルヒに告げた。 「ふーん、まぁいいわ。鍋運んだりとか、男手はあったほうがいいものね」 と少し不満そうに了承した。 メイド服でせっせと問題集を解く朝比奈さんもそれを聞いて顔を上げ 「あ、鶴屋さんも参加したいって言ってました」 と、愛らしい笑顔で友人の参加を希望する。今日も素敵です、朝比奈さん 「鶴屋さんは名誉団員だもの。でも、受験とか大丈夫なわけ?」 ハルヒの心配ももっともで、そもそも朝比奈さんがこんなところに今メイドルックでいることこそが不安でしょうがない。 「あ、それは大丈夫だって言ってました」 まぁ、あの先輩は受験がどうこうであわてるような人ではないだろう。どんな一流大学にもあっさりと受かってしまうに違いない。 「それなら今年もにぎやかになりそうね」 満足げに笑うハルヒに一抹の不安を覚える。 くれぐれも普通に、だ。頼むから 奥で古泉が「善処します」とアイコンタクトを送って来た。 やれやれ。やつにできるのはせいぜい今年は夜に部室で鍋パーティーを開く許可をあの生徒会長から持ってきてもらうくらいだろう。 6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/18(金) 20:17:11.19 ID:0le9/LTW0 12月18日(FRI) 目が覚めると雨は降り続いていた。 憂鬱な気分に目をこすりながら俺は顔を洗い、いつものように支度を済ませて出かける。 傘をさしていても、着ているコートに風で飛ばされた雨粒が斑点を作っていた。 「おっす、おはようさん」 嫌にさわやかな笑みを浮かべて、足元を濡らした谷口が話しかけてきた。 「どうだった?参加出来るのか?」 こいつはそんなことを楽しみに、そんなさわせそうな顔をしているのか。 「ちゃんと働くこと、だとさ」 ため息交じりにそう言ってやると谷口は鼻歌でも歌いだしそうな上機嫌だった。 「それで、教えろよ」 声をひそめて谷口が俺に囁く。一体何をだよ 「何を、って。きまってるだろ?」 一体なんだって言うんだ 「長門だよ。あの無口な美少女の好きなものを教えろって」 さあな、意外と奇妙な生命体に興味を持つかも知れんぞ 「なるほど、そんな趣味もあったのか」 俺はそんな話聞いたこともないがな 「じゃぁ、一体何がいいんだよ」 しつこいクラスメートの顔が近くなる。やめろ、俺にそっちの趣味はない。 「本じゃないのか?あいついつも何か読んでるからな」 顔を払いのけるようにして俺がそう教えるとあっさりと身を引いて 「よし、それなら後は買うだけだな。国木田にでも聞いてみるか」 と言って、クラスを見渡す。 7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/18(金) 20:19:25.02 ID:0le9/LTW0 「おい、国木田相談があるんだよ」 「ん?なんだい?」 カバンを置き荷物を整理する国木田に谷口が話しかけた。 「なぁ、お前面白い本とか知らないか?」 「へぇ、谷口が本に興味を持つなんて珍しいね」 国木田が少し驚いたような表情でそう言った。 「違う違う、俺じゃなくて人にやるんだよ、クリスマスだしな」 谷口が得意げに言うと、国木田が納得したように頷いて「なるほどね」と笑みを作っていた。 「なんかないのか?こう、渡しただけで『この人凄く知的、カッコイイかも』とか思わせるようなモンは」 あはは、と国木田があきれたように笑う。 「でも、それ内容聞かれた時どうするの?読まないんでしょ」 同感だな。そんな書物をコイツの頭で理解できるとは思えない。 「それは、その、あれだ」 谷口は続ける。 「適当に難しそうなこと言ってりゃ何とかなるだろ」 「なるほどね」 国木田は意味なく笑って「あ、そうだ」と何かを思い出したように 「昨日雨だったからか、車が歩道に突っ込んできてさ。危うくひかれるところだったよ」 と言った。笑い事じゃないな。俺も気をつけよう。 始業まであと二分か 俺は、今日何かあった気がするんだがなんだったかな、などと考えながら時間割を眺めて使う教科書以外を空のカバンに放り込んだ。 8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/18(金) 20:22:49.71 ID:0le9/LTW0 「それじゃ、各自にやりたい鍋物のアンケートを取るわ」 ハルヒはそう言って六等分されたA4サイズのコピー用紙を俺たちに渡す。 「ただし、これだ!っていうインパクトを必ず付けること」 ハルヒの無茶ぶりを無視して俺は素直に「すきやき」とだけ書いた。 まぁ、使うのは鉄鍋だし間違ってないよな。 ちなみに長門は「たこ鍋」 朝比奈さんは「甘味鍋」 古泉は白紙だった。 「全員書き終わったわね。それじゃ、この箱の中に入れて」 そう言ってハルヒは黒塗りの段ボール製『?』BOXをたたく。 どこかのクラスが文化祭のときに使ったものをがめてきたらしい。 それぞれが順番に箱の中に二つ折りにした紙を入れる。 「それじゃ、この六枚の中から一つを選んで今年の鍋物のメインとするわ」 「おい、ちょっと待て」 ハルヒが何か不正をしそうな気もするが、それ以前に 「SOS団は5人だろ」 「あたしが一枚多く入れたのよ。文句ある?」 さも当然と言わんばかりに鼻を鳴らしてハルヒが言った。 「文句言ってないで、それならあんたがくじを引きなさいよ」 乱暴に『?』BOXを押し付けるハルヒ。 俺はしぶしぶ箱の中に手を突っ込み引き当てたのは 9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/18(金) 20:26:15.66 ID:0le9/LTW0 『闇鍋』 だった。 「はい、それじゃ、闇鍋に決定」 お、おい、ちょっと待て 「何?文句あるの?選んだのはあんたでしょ?」 くそ、反論できない。 「日曜日に買い出しに行くからいつもの場所にいつもの時間に集合すること」 団長は業務連絡的にそう告げた。 その日一日中ハルヒが不機嫌で、俺はいかにして闇鍋を普通のものにするかで頭を抱えていた以外はおおむねいつも通りだった。 この日までは。 いや、実際にはすでに事件は起こっていて、全てが始まり始めていたのだ。 そんなことには気づけないまま、俺は夕方には降りだしていた雨が軒を打つ音を聞きながら眠りについてしまった。 10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/18(金) 20:29:35.24 ID:0le9/LTW0 12月19日(SAT) 「なぁ、キョン。いい加減教えてくれよ」 谷口がしつこく俺に長門の趣味を訊ねてくる。 よもやこいつも長門が神々しい女神に見えるなんて言い出すんじゃないだろうな、などといらぬ不安を抱いていた。 「しつこいぞ、俺もあいつのことはさっぱりなんだ」 分かるのはせいぜい、他のやつには分からないだろう感情の機微を読み取れるとか、長門のトンデモ属性ぐらいだ。 「ったく、頼りの国木田も今日は来てないしな」 谷口がそう言って国木田の席を見る。 もう二限目も終わったんだぞ、とぼやく谷口に少しでも自分で探そうとしてみたらどうだ、と言ってやりたかった。 結局放課後になっても国木田は現れず、その理由は帰り際に重々しく、担任の口から発表された。 「突然で悪いが、実は昨日国木田が事故にあって亡くなった」 しん、と一瞬の静寂の後、クラスにいた全員が思い思いの疑問を担任にぶつける。 俺は、担任の言ったことの意味に気付くのに、皆より5秒ほど遅れ、それでも一体何が起こったのか正確に理解できなかった。 俺はとっさに後ろを見た。 ハルヒも俺同様、担任の言った言葉の意味が理解できていないらしく、眼を大きく見開いていた。 「昨日の帰りに、階段から転げ落ちたらしい。足元が滑りやすくなっているからな。各自気をるけるように」 質問の波にのまれながら担任はそれだけを言うと教室を出た。 後に残されたのは、ざわめきの集まりだった。 11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/18(金) 20:33:35.85 ID:0le9/LTW0 「まったく、信じられない!死んだのよ!人が!」 ハルヒハその日一日中ご立腹だった。何に対してかと言えば、帰り際のあの担任岡部のそっけない態度であり、 もう一つは、少なからずハルヒには親しい部類の人間に入るだろう国木田の死が納得いかないらしい。 「残念ですが、亡くなってしまった以上、生き返ることはありません。彼女もそのことを一番よく理解しているのでしょう」 古泉が、神妙な面持ちで俺に耳打ちをしてきた。 あぁ、分かってるさ。あいつが死人を蘇らせちまうような奴じゃない事くらいな 「しかし、雨が降っていたとはいえ非常に残念です。彼は僕の数少ない友人でもありましたので」 笑っていない古泉の顔が、心に妙なもやもやを起こした。 俺自身、国木田が事故で死ぬなんて夢にも思っていなかったせいもあるだろう。 なんでこんなことに 俺がどうにかできたことではないのだろうが、悔しくて仕方がない。そんな気分だ。 「こんなときになんですが、このことで僕はバイトにかなければならなくなりました」 古泉は囁くようにこう言い残した 「彼女のフォロー、よろしくお願いします」 ハルヒは、団長席にあぐらをかいて、文句を怒鳴り散らしながら窓の外を見ている。 まだ灰色の雲が分厚く残っている。それが一体誰の何を隠しているのか。 俺は一度、古泉と一緒に部室を出ることにした。 12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/18(金) 20:36:20.02 ID:0le9/LTW0 バイトへ向かう古泉を見送り、部室に戻るとハルヒは帰り支度を始めていた。 朝比奈さんも長門も先に帰ってしまったらしい。 「ほら、何ぼさっとしてるの!帰って用意するわよ」 ハルヒは不機嫌そうに俺に向かって、カバンを投げつける。 「多分、お通夜は今晩でしょ」 元気なく、少しうつむいてハルヒが言った。 なるほど、そういうことか 思わず、笑みがこぼれた 「何笑ってるのよ」 悪いなハルヒ。今俺はお前のおかげで少し気が楽になっちまった。 その晩、国木田宅に向かうと、SOS団のメンツを始め、谷口、鶴屋さんとも顔を合わせることになった。 「なんていうか、こういう湿っぽい雰囲気は苦手なんっさ」 困ったような笑顔を俺たちに見せる上級生はそれだけで頼もしく 「う、うっく」 我慢しきれず、涙をこぼし始めた上級生を優しくなだめるハルヒを見て、あぁ、国木田お前は幸せ者だよ、などと言ってやりたい気分になった。 「ったく、なんで死んじまったんだか」 谷口も普段は見せないような真剣な表情だった。 「たかが、たかが階段から落ちたくらいで、死ぬのかよ」 ドン、ブロックの壁を叩いて谷口はどこかへ歩いて行った。 そういえば、あいつはいつも国木田と居たな。その分、いなくなったのが信じられないのだろう。 こんな光景を見てようやく、夕方には他人ごとだった現実が色をつけ始めた。 「ほらっ、キョンくんも元気出してっ!そんなんじゃ彼も安心できないよっ」 鶴屋さんは笑顔だったが、表情は硬い。こういうときにどうすべきかを知っているから、進んで笑っているのだ。 俺は、真似して笑顔を作ってそれに答えた。 13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/18(金) 20:40:14.54 ID:0le9/LTW0 「それじゃっ、皆気をつけてっ!」 鶴屋さんは朝比奈さんと一緒に、残りは途中まで一緒に、文字どうりいつも以上に周りを気にかけながら帰宅をする。 「なんで死んじまったんだよ」 目を真っ赤にはらして、まるで酔ってでもいるかのように谷口はそれだけを繰り返す。 ハルヒは、誰も近づくな、というオーラを出しながら先頭を歩き、その後ろを長門と古泉のペアが何やらこそこそと話しながら歩いている。 「谷口、元気出せ。その、なんだ」 慰めの言葉というのはこういうときのためにあらかじめ用意しておいたほうがいいのかもしれない。 とにかく、俺以上に、いや、俺たちのクラスで一番落ち込んでいるであろう谷口になんと言えばいいのか皆目見当もつかなかった。 「元気出せ?どうやって」 悔しそうに、そんな表情で谷口は俺をにらむ 「死んだんだぞ、国木田は」 分かってる、分かってるんだ。そんなことはわかってるんだよ、谷口 「それなのに、あの上級生は・・・あの……」 何かを言いたそうにもぞもぞと口を動かして、俯く。 「」 「谷口!」 直感的に、谷口が何か言おうとするのを止めた。 「あの人はあの人で、俺たちを元気づけようとだな」 「分かってるよ、それくらい」 そう返事をした谷口は反省するように視線を落とし、 「悪かった」 と、呟いた。 もしかしたら谷口は、俺が感じたような悔しさを誰よりも感じているのかもしれない。 14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/18(金) 20:42:48.69 ID:0le9/LTW0 やがて、皆と別れ俺とハルヒだけになる。 「もうこうなると鍋パーティー、なんて気分じゃないわね」 ハルヒがボソリと呟いた。 「そりゃ、そうだよな」 俺は小さくうなずく。 鍋パーティー、か。 まったく、去年は楽しい思い出だったのにな。 参加する予定だった国木田の事故でそれすらも哀しいものになってしまった気がした。 15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/18(金) 20:46:19.37 ID:0le9/LTW0 12月20日(SUN) 結局、鍋パーティーの買い出しは中止になり、俺は何もする気になれず家の中にいた。 しかし、打ちどころが悪かったとはいえ、人がそんなに簡単に死ぬものだろうか。 そもそも、国木田はそんなにどんくさい奴じゃなかったはず・・・ 外ではまだ雨がしとしとと降り続いている。 全く嫌な気分だ。 外出する気になれなかった俺はそのまま寝転がって一日を過ごした。 16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/18(金) 20:50:20.78 ID:0le9/LTW0 12月21日(MON) 翌日、クラス内を気まずさと、暗い沈黙が支配していた。 花の置かれた国木田の席が、『僕はもういなくなりました』と言っているようだ。 あまりのショックにか、谷口は学校に姿を見せていない。 もうすぐHR始まっちまうぞ。 心の中でそう呟いて俺は谷口と、国木田の席を眺めていた。 「おい、全員席について静かにしろ」 チャイムがなるより早く担任がクラスに入って来た。 教卓に立つと、クラスを見渡して、二人を除いたクラスメートが席に着いているのを確認し 「昨日から谷口が行方不明になっている。心当たりのある奴はいないか?」 ……なんだって? 頬杖から頭を話すと、後ろからブレザーの裾をつかまれた。 『どういうこと?』 ハルヒの目が言葉もなく訴えている。 俺にもわからん 軽く首を振って、仕草だけでそう伝えた。 結局有益な情報のないまま、HRは終わり、クラスメートの欠けた一日は、妙な違和感だけを残して終わりを告げた。 「変、絶対変よ」 放課後、部室でハルヒが繰り返しそうぼやく。 「アイツ、友達が死んだだけで失踪するような奴だった?」 いや、俺はあいつがそこまで弱い人間だとは思わない。 ハルヒの問いかけにそう答えたかった。 「もしかして、谷口、誰かにさらわれたんじゃ……国木田の一件だってなんかおかしいし」 朝比奈さんは不安そうに、古泉は困ったように首をすくめ、長門は無表情で俺を見る。 「考えすぎだ。あいつはそのうちひょっこり現れるさ」 ハルヒにそんな気休めを言って落ち着かせる。 思いきり抱きしめてやったら、こいつは怒るだろうか? そう思うくらいハルヒはどこか弱々しかった。 17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/18(金) 20:54:36.28 ID:0le9/LTW0 12月22日(TUE) 今日も谷口は姿を現さない。嫌な胸騒ぎがする。 「放課後、職員室に来るように」 俺は、HRの後、担任にそう言われた。 谷口や国木田と最も親しかったのは俺だから、何か知っているんじゃないかと踏んだんだろう。 俺は何も知らない。知らないが、あいつの行きそうな場所くらいは心当たりがある。 その情報を提供するだけで、俺の役目は終わるはずだった。 「と、言うわけだ。団活には少し遅れる」 俺はハルヒにそう告げた。 18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/18(金) 20:56:36.12 ID:0le9/LTW0 そして放課後、俺は職員室に立ち寄った。 「谷口からの連絡は一切ないんだな」 岡部はまるで刑事にでもなったように俺にそんな事を訊ねた。 「全く。何なら携帯を見てもらってもいいですし、俺自身あいつが何してるのか気になります」 「だろうな、すまなかった」 岡部は頭を抱えて、悩むしぐさをする。 「それからな、鶴屋はお前の知り合いだったな」」 重々しいため息 「な、何かあったんですか」 心臓の打つ音が速くなるのを感じる。なんだ、この胸騒ぎは 「昨日の夜、教室で首をつっているのを警備員が見つけたらしい」 は? 「国木田に彼女がいたと聞いたが、お前何か知らないのか?」 知るも知らないも、全く意味がわからない。あの鶴屋先輩が?なんで? 「国木田に彼女ができたらしい、という噂を知っているやつはいても相手は知らないんだそうだ」 そりゃそうだ、俺だって知らない。 「そして、上級生の鶴屋が遺書もなく自殺。おかしいだろ」 そうか、あの二人がつきあって いや、それでもおかしいじゃないか。 あの鶴屋先輩が自殺? 担任からの質問も理解できないほどに俺の思考は混乱していた。 「あと、朝比奈だが、今回のことでかなり落ち込んで今日は学校を早退した。見舞いに行ってやれ」 「はい」 ようやく最後のセリフだけは理解できた。、 当然だ、あの先輩が一番親しくしていたのはおそらく彼女だろう。大いに落ち込んでいるに違いない。 俺は、このことを伝えてハルヒがどんな反応をするかが不安だった。 20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/18(金) 21:00:27.72 ID:0le9/LTW0 「変、絶対変よ」 ハルヒは、俺の話を聞くなり興奮してそう言った。 俺だっておかしいと思う。 国木田の事故から谷口が失踪、鶴屋先輩の自殺 どれを取ってもおかしい。 「誰かいるのよ!犯人が」 「いや、待て、落ち着けハルヒ」 犯人、と聞いてもピンとこない。俺も混乱していて我を忘れていたが、そもそも犯人なんているのか? 「まだ、本当に殺されたとは限らないかもしれない」 「でも、鶴屋さんが自殺だなんてっ!」 「そう、そこが盲点なんだ。もしかしたら俺たちが想像していた以上に落ち込んでいたのかもしれん」 そうだ、あんなに気丈にふるまっていたのはもしかしたら……。 「だとして、今一番落ち込んでるのは誰だと思う?」 ハルヒにそう諭す。 「お見舞いに行こう、朝比奈さんの」 ハルヒは、少しうつむいて涙を拭うしぐさをして 「そうよね、それが団長の役目だもの」 と、気の強さの混じる言葉で頷いた。 22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/18(金) 21:04:00.99 ID:0le9/LTW0 朝比奈さんの家に行くのはこれが初めてかもしれない。 俺とハルヒと長門は朝比奈さんの家の前に来ていた。 古泉は例によってバイトで休みだ。放課後部室に顔を出してすらいない。 教師の話によれば、地方から親元を離れて一人暮らしをしている、というのが建前なのだそうだ。 未来はそんなに田舎なんですか?朝比奈さん 俺はそんなことを思いながら部屋のドアホンを押した。 ピンポーン ・・・ 返事はない。 ピンポーン ・・・・・・ 寝て、るのか? 「キョン、あたし管理人さん呼んでくる。嫌な予感がするのよ」 あぁ、俺もだハルヒ。なんだこの胸騒ぎは 「いや、待てハルヒ」 俺は走り出したハルヒを呼びとめる。 「長門、頼む」 俺は小さく長門にそう言ってドアノブを回した。 ガチャリ。 部屋のカギが開く音をきいてノブを引いた。 「開いてる」 実際には長門が開けたのだろうが。 23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/18(金) 21:07:07.59 ID:0le9/LTW0 「朝比奈さん、大丈夫ですか?」 「みくるちゃん、いるなら返事して」 あのおっちょこちょいの先輩のことだから、ドアホンの音をきいてあわてて着替えていたらとも思ったが、部屋の中は電気すらついていない。 「朝比奈さん、入りますよ」 俺は一気に部屋の奥に進み、朝比奈さんの姿を見つけた。見つけたのだが 「キョン、うっく、くん。ごめんな、ひっく、しゃい」 パジャマ姿で、泣き顔を鼻水と涙でぐしゃぐしゃにした朝比奈さんが枕を抱きしめてそこにいた。 「もう、みくるちゃん、心配するじゃない」 朝比奈さんの無事な姿を見つけてハルヒがため息をついた。 「うぅ、っく、こんな、っ、見せたら、心配だ、思って」 しゃくりあげながらなんとか話す朝比奈さんは、また泣き出してしまった。 「ほら、よしよし。つらいことがあっても、あたしたちがいるから」 ハルヒが、まるで姉、というより母親のように朝比奈さんをなだめていた。 「あたしは、つるゅ、さんのこと、気づいてあげられ…ひっく」 このかわいらしい上級生も、そのことがショックだったのだろう。 鶴屋さん、どうしてあなたは何も言わずに・・・ それが悔しくて悔しくて仕方がなかった。 24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/18(金) 21:10:35.11 ID:0le9/LTW0 12月23日(WED) 翌日は祝日で、それでも俺は部室に来ていた。 目的は朝比奈さんを元気づけるためであり、せめて俺たち5人だけでも鍋パーティを開いて、二人を弔おうという趣旨だ。 本番は明日なので今日は前準備。 しかし、いつもなら気づいたらそこにいるはずの長門の姿がなかった。 「おかしいですね」 古泉が首をかしげる。 「もしかして、また熱でもだしたとか?」 ハルヒも心配そうだ。 俺だって心配だ。あいつも困った時に助けを持てまない癖があるからな。 不安になった俺たちは、長門の家に向かうことにした。 25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/18(金) 21:13:00.66 ID:0le9/LTW0 相変わらずオートロック式の豪勢なマンションだ。 管理人室で、『友人が約束の時間になっても現れないので心配になってやってきた』と鍵を借りる。 ハルヒは簡単な事実に、さらに簡単な本人の性格を伝えるだけで普通は手に入らないマスターキ−を手に入れた。 ピンポーン 一応呼び鈴を鳴らす。当然返事はない 「有希、入るわよ」 鍵を開けて中に入る。もしかしたら入れ違いになった可能性もないわけではないが長門に限ってそれはないだろう。 それに、部室には念のため古泉を残している。何かあったら連絡が来るはずだ。 そして、扉を開け、中に入る。 先頭にハルヒ、続いて俺、そして朝比奈さんだ。 なんとともシンプルなリビングにたどり着いて、俺は足を止めた。 「みくるちゃん、来ちゃだめ!」 「朝比奈さん、すぐに救急車を!」 俺とハルヒは同時に叫んだ。 あり得ない。こんなことありえるはずがないんだ・・・。 あまりしゃべらない小さな口がだらしなくひらかれて、そこからはあふれんばかりの吐しゃ物が。 そして、力なく横たわる体の血の気は失われ、白く透き通るような肌色は冷たく、散乱した白い錠剤が何が起こったのかを説明しているような状況。 唯一の救いはラベルの『睡眠薬』の文字だったが、この状況はあまりにもおかしい。 すぐにそばに寄るが、呼吸も、心臓の音もなかった。 ハルヒは口元を覆って、崩れ落ちている。 間違っても朝比奈さんがこれを見ることがないように、俺は長門の上にシーツをかぶせた。 26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/18(金) 21:16:34.32 ID:0le9/LTW0 12月24日(THU) X'mas eve 長門は、すでに中毒死していた。 そのことはその日のうちにニュースとなり、北高の一連の不可思議な死亡事故と並べられ、報道された。 俺はそれをテレビで見て、強烈な吐き気を感じていた。 なんだ、この状況は? 国木田が死に、谷口が消え、鶴屋さんが死に、そして長門までもが死に。 まて、長門が死ぬはずないじゃないか。 あいつは情報なんたら体なんて大層なものが作った宇宙人製アンドロイドだぞ。 そうだ、夢なんじゃないか。 力なく笑ってみたが、夢でない事は痛いほど理解できた。 そうだ、古泉、あいつなら… 古泉が知らなくても、あいつのいる『機関』は何か知っているはずだ。 こんなふざけたことをできるのは誰だ? 真っ先に長門と敵対する日本人形のような宇宙人の顔が浮かんだが、そんなはずはないと自分に言い聞かせる。 長門以外を殺すメリットが分からない。 それとも混乱に乗じて? 古泉を呼び出すはずのコール音をききながら様々な考えを巡らせる。 テレビが、近所の雑木林のボヤ騒ぎを報じていたが、知ったことではない 27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/18(金) 21:19:53.53 ID:0le9/LTW0 『トゥルルルル』 『カチャ』 繋がった 「もしもし?」 『もしもし、古泉一樹君のお友達でしょうか?』 知らない男の声がした。誰だ?お前は 『私、警察のものなんですが』 ヤメロ 『ニュース、ご覧になりました?』 ヤメテクレ 『次のニュースです。あ、いえ、ここで速報です』 俺は、それを見てしまった。 『同校に通う生徒にまたしても被害です』 映し出された顔写真は、見慣れた笑顔で、下に刻まれた名前は『古泉 一樹』で間違いなかった。 『被害にあった男子生徒は、通り魔にあったものとみられ、体にはナイフで刺した後が数か所と暴行を受けた形跡があり』 淡々とそんなこと言われて信じられるものか、あいつはどえらい組織がバックにいる超能力者だぞ いや、あいつはうちの団長のご機嫌取りの副団長なんだ。 そいつがどうして… 『もしもし?もしも―』 プツン 俺は電話を切っていた。 その場に両膝をつく 28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/18(金) 21:22:50.11 ID:0le9/LTW0 直後に、携帯がメールを受信した。 『Eメール;涼宮ハルヒ』 その名前を見て思う。 あいつはこのことを知っているのか? 力を振り絞り、メールを開いた 『今夜9時に部室に来なさい。これは団長命令よ』 ・・・なんだって? 「ふざけているのか?」 いや、知らないだけかもしれない。 俺はハルヒの携帯に何度も電話をかける。 出ない。 仕方ないのでメールを送ったが 『いいから、学校に来なさい。来ないと死刑』 と、送り返されただけだった。 死刑?ふざけるな そんな言葉、今、使えるのかよ 俺は怒りを抑えきれず、床を思いきり殴りつけてしまった。 30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/12/18(金) 21:25:52.40 ID:0le9/LTW0 閉ざされた校門によじ登り、校舎内への侵入に成功すると、俺はまっすぐに部室棟を目指した。 この学校の警備はずさんじゃないのか? 敷地内にある明りは俺の持つ懐中電灯だけのような気がする。 とにかく、ハルヒにはきついお灸をすえてやらねば。 あんなふざけたメール、二度と打てないくらいに説教してやる。 してやるはずだった。 「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ」 この声、朝比奈さんだ! 俺は必死に走って声がしたほうに駆けよる。 廊下は暗い。明りは俺の持つ小さなものだけ。 そして、部室のある廊下を照らして、 赤い液体が広がるのと、横たわる小さな体のそばに、去年を境に見ることのなかった人影があった。 「朝倉、なんで」 俺は、足が震えるのと、手に力が入らなくなるのを感じる。 ゴトン、足元に懐中電灯が落ちた。 「みーつけた♪」 狂ったような笑顔が見えた気がする。 気がするのは、その言葉をきくのと同時に、背中に強い衝撃を感じたからだ。 そのあとのことはよく分からない。 ただ朝倉がものすごい勢いでこちらに向かってきていた。 ―柊―