みくる「交換しませんか?」 1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/22(日) 17:45:15.32 ID:xN24393J0 「……はぁ」 季節が冬へと移ろうする秋の夕方、涼宮さんが憂鬱そうに溜息をついた。 キョンくんや古泉君、そして長門さんは用事があるみたいで遅れている。 だから室内にはわたしたちしかいない。 涼宮さんはパソコンの画面を見ながら頬杖をつき、右手で忙しくマウスをカチカチとクリックしていた。 最近の涼宮さんはこんな具合にボーっとしていることが多い。 いつものようにメイド服に着替えたわたしは、ボーっとしている団長に質問をした。 「どうかしたんですかぁ?」 涼宮さんは、ギロッと音が聞こえてきそうな目つきでわたしを見る。 「ひぃっ」 蛇に睨まれた蛙。思わずわたしは後ずさり。 4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/22(日) 17:49:20.27 ID:xN24393J0 「別にどうもしないわよ」 あからさまにどうもしないわけがない雰囲気で、再び視線をパソコンに戻した。 「……はぁ」 そして溜息をもう一つ。 また聞いて不機嫌にさせるのも嫌だから、黙って編み物の本を読んでいることにした。 しばらく沈黙が続き、先に痺れをきらせたのは涼宮さんだった。 「何の本読んでるの?」 いつの間にか椅子から立ち上がりわたしの前に立っている。 「えっと、編み物の本ですよぉ」 「ふ〜ん」 5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/22(日) 17:54:34.80 ID:xN24393J0 ジーっと本を見下ろしてくる。そして次にわたしの手元の編みかけの毛糸を見る。 「何編んでるの?」 「マフラーです」 「誰かにあげるの?」 「はい」 と、返事をした直後、涼宮さんの眉がピクッと動いた。 「……誰に?」 そう聞いてきた声は、どこか恐る恐ると言った感じの少し弱い声だった。 「鶴屋さんと交換するんです」 わたしはそうにこやかに答える。これから寒くなる前にお互いで作りあってプレゼントしあおうという、鶴屋さんの提案だった。 6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/22(日) 18:00:24.06 ID:xN24393J0 元々こういうゆったりと時間が流れるような作業は好きだったから、わたしはそれに快諾した。 「そっか」 どことなーく安堵の表情の涼宮さんがそう答えた。 わたしは手元に視線を戻すと続きの作業を始めた。その間も涼宮さんはわたしの近くの椅子に腰を下ろし、わたしの手元と本を見ている。 「それって難しいの?」 不意にそう聞いてきた。 「ふぇ?」 わたしの口から咄嗟に出たのは返事とは言えないものだった。 「ふぇ?、じゃなくて難しいのか聞いてるの、よ」 そう言い、最後にデコピンをされた。 7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/22(日) 18:05:59.64 ID:xN24393J0 簡単ではない、だけど何でも卒なくこなす涼宮さんなら難しくはないと思い、わたしはおでこを擦りながら、そうでもない、と告げた。 「ふ〜ん」 そしてまた気まずい沈黙が訪れる。 視線と沈黙に気まずくなったわたしは、涼宮さんに提案をした。 「やってみますかぁ?」 多分興味があったんだと思う。その証拠に、 「え?いや、あたしは……別にあげる相手もいないし、ただ黙々とやってるからちょっと気になっただけよ」 と、少し気恥ずかしそうにそっぽを向いて言い、 「……でもみくるちゃんがどうしてもって言うなら、やってもいいわよ」 と、付け加えた。 やりたい本心を隠しきれてない涼宮さんに少し笑ってしまう。そしてそれに気付いた涼宮さんに、 「何が面白いのよ?」 と言われ、セクハラまがいのお仕置きをされてしまった。 8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/22(日) 18:11:42.24 ID:xN24393J0 わたしは予備に持っていた編み棒を涼宮さんに渡し、二人で本をにらめっこしながら進めていった。 思ったとおり涼宮さんの手際はよく、すぐに上達していった。 それでも作り始めてから三十分くらいで皆が来てしまったために作業は中断になった。 ドアをノックする音がすると、涼宮さんは慌てて手に持っていた編み棒と毛糸を自分の鞄に隠した。 あの様子だとさっき作っていたのはやり直しかもしれない。 そして皆が入ってきてから手招きでわたしを呼び、 「さっきのは内緒よ?絶対誰にも言っちゃダメなんだから」 と、ヒソヒソ声で言い、 「でも、また後で続きやるわよ」 と、付け加えてからくすぐったそうに笑った。 わたしも笑って頷き、SOS団のみんなにお茶を淹れる準備を始めた。 11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/22(日) 18:17:26.77 ID:xN24393J0 それからというもの、放課後になると二人で編み物をするのが習慣になり、最近では鶴屋さんも一緒にやっている。 そんなある日の一コマ。 「それにしてもハルにゃんに、こーんな乙女チックな趣味があるとは思わなかったっさ」 そうイタズラっぽく鶴屋さんが涼宮さんに聞いた。 少し、ほんの少しだけ顔を赤くした涼宮さんがそれに反論する。 「そういう鶴ちゃんだって」 「あたしはいいんだよ。だってみくるにあげるし。ねーみくる?」 「あ、あはは」 わたしは苦笑いが精一杯。 12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/22(日) 18:23:50.36 ID:xN24393J0 「で、それは誰にあげるの?」 あぁもう、鶴屋さん。それは聞かない約束なのに。 「……誰でもいいじゃない」 耳まで赤くして、涼宮さんはそう返した。キョンくんや古泉君の前ではこういう顔は見せない。 わたしもここ最近になって初めてみた表情だ。 鶴屋さんは、涼宮さんをからかうようにニヤニヤ笑いながら作業を続ける。 きっと鶴屋さんやわたしが気付いていることは、涼宮さんは知っていると思う。 「涼宮さん、そこほつれてますよ?」 「あれ、ほんとだ」 「ハルにゃん動揺してるのかい?」 「違うわよ!」 15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/22(日) 18:29:03.59 ID:xN24393J0 そしてまたある日の一コマ。 わたし達がマフラーを作り始めて少し経った頃、新たな仲間が増えた。 この日は鶴屋さんが用事があって来られないということもあり、二人で進めていた。 「ゆ、有希!?」 正面に座っていた涼宮さんが、突然わたしの方を見ながら長門さんの名前を呼んだ。 「ひぃっ!?」 わたしは振り返ると同時に驚き、小さな悲鳴をあげてしまった。 扉が開いた音すらしてないのに、後ろで長門さんがわたしをジッと見下ろしていた。 「ちょっと驚かさないでよ有希!いつの間に入ってきたのよ!」 長門さんは、ゆっくりと視線を驚いている涼宮さんに向けると、 「さっき」 とだけ言って、同じく驚いているわたしを、正確にはわたしの手元にあった編みかけのマフラーに目を止めた。 17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/22(日) 18:37:33.86 ID:xN24393J0 「それは?」 一言で言ってしまえば、わたしは長門さんがあまり得意ではない。 「え?あの、その」 言葉に詰まっていると、涼宮さんが代弁してくれた。 「編み物よ。最近みくるちゃんや鶴ちゃんと一緒にやってるのよ」 「そう」 また一言だけ言ってマフラーを凝視する。 ……もしかして、 「あ、あの、長門さんも……やりますか?」 興味があったのかな? そう思ったわたしは、長門さんの無言のプレッシャーに耐え切れず、そう聞いてみる。 18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/22(日) 18:44:30.78 ID:xN24393J0 「……」 長門さんは、わたしと涼宮さんの顔を交互に見てから、何も言わずに小さく頷く。 「まったくしょうがないわね。有希、やり方わかるの?」 今度は小さく首を横に振る。 涼宮さんは長門さん手招きして自分のところに呼ぶと、道具を渡して一から教え始めた。 ちなみに涼宮さんが使ってるのは、後日自分で買ったもので、その予備を貸してあげている。 実は少し前から涼宮さんは長門さんを誘ってみたいと言っていた。 もしかしたらこういう小さいことでも、涼宮さんの未来を手繰り寄せる力が発揮されているのかもしれない。 長門さんの上達は早いというものではなかった。教えたことは忘れないし、ミスもしない。 一度始めたら最後、誰かが止めるまで続けっぱなしだった。 もともと部活が始まるまでの短い期間が編み物の時間に当てられている。 でも長門さんなら、わたし達が一つ編む間に三つくらい作れそうな気がする。 21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/22(日) 18:52:41.93 ID:xN24393J0 そして涼宮さんが作り始めてから三週間くらいがたった。 「出来た!」 そう言いながら涼宮さんは、完成したばかりのマフラーをかかげた。 シンプルイズベスト。 涼宮さんのマフラーは薄い青色で統一された、初めてとは思えない出来のものだった。 「むむ、あたしの方が先に始めたのに負けちゃったよ」 鶴屋さんは悔しそうに涼宮さんをジト目で見て呟き、長門さんはその様子を一瞥すると、PCの画面に映っている画像をマフラーの柄にする続きを始めた。 「お疲れ様です」 わたしは涼宮さんより少しだけ早く編みあがっていたから、ここにいる四人分のお茶を淹れていた。 「我ながら初めてにしては良い出来ね……、どうみくるちゃん?」 「ふふ、涼宮さん嬉しそうですね」 わたしは、涼宮さんの前にお茶を置きながらそう言った。 23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/22(日) 18:57:52.96 ID:xN24393J0 完成したマフラーの出来を確かめるように、自分の首に巻きながら涼宮さんが答えた。 「あたしのことはいいのよ、このマフラーよ!変じゃないわよね?ね?」 「はい、見た目も綺麗だし、とっても暖かそうですよぉ」 そう言うと涼宮さんは、嬉しそうにはにかんだ。 「みっくるー、あたしもすぐに仕上げるから待っててね」 わたしはその声に振り返ると、鶴屋さんの言葉に頷いた。 わたしと鶴屋さんはお互いに作ったマフラーを交換する約束をしている。 長門さんはきっと興味があったから。 じゃあ涼宮さんは? また視線を涼宮さんに戻す。 28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/22(日) 19:03:12.41 ID:xN24393J0 「そのマフラーはどうするんですかぁ?」 涼宮さんが誰のことを気にかけているかは周知の事実。 それが分かっている上での質問をした。 一応はわたしが上級生なんだし、これくらいの意地悪もたまにはしてみたい。 「……これはね、その」 顔を赤らめながら、言い訳のように言葉を選んでいく。 長門さんも鶴屋さんも、もちろんわたしもその続きを期待しながら待つ。 「……げるのよ」 か細い声で呟く。 31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/22(日) 19:09:14.68 ID:xN24393J0 「ハルにゃん聞こえないよ」 わたしが知っている中でも、一、二を争うくらい楽しそうに微笑みながら鶴屋さんが追撃する。 「……う、うちの団員にマフラーもしてないやつがいるから、その、あげるのよ」 目線が合わない。なんだか聞いてるこっちが恥ずかしくなってくる。 「でも別に変な意味はないのよ風邪でもひかれるとこれからの冬の団活に影響が出るからであって雑用だから体が資本というかでもバカは風邪ひかないっていうから別にいいかなぁとか 思ったんだけど団長として団員のために一肌脱いでやるのも大切というかいつも奢らせてるしたまには飴でも与えないとダメというか」 何を言っているか分からないくらい早口でまくし立てる。 こんなにしどろもどろな涼宮さんは初めて見た気がする。 後ろではその様子を見ている鶴屋さんが、涙目になり声にもならない様子でお腹と口を抑えて笑っている。 33 名前:>>あれ?隙間空いちゃった。[] 投稿日:2009/11/22(日) 19:14:29.12 ID:xN24393J0 「と、とにかく!好きとかそういうのじゃないんだから、変な勘ぐりはしないでよ!?」 真っ赤な顔をした涼宮さんは、わたし達を睨みつけるようにそう言った。 わたしはブンブンと首を縦に振り、長門さんは小さく頷く。 鶴屋さんは目尻に溜まった涙を拭いながら親指を立てた。 涼宮さんはそのまま立ち上がると、窓を開けて外を見ていた。 この時期に外気に触れるのはとても応える。でも頭に上った血を下ろすにはちょうどいいかもしれない。 そしてその日の帰り際、わたしは涼宮さんの耳元で小さく呟いた。 「キョンくん、貰ってくれるといいですね」 瞬間、振り向いた涼宮さんは何かを言いたそうに口をパクパクさせてから、 「……うん」 と、小さく返事を返した。 マフラー作りを始めてからの涼宮さんは『普通の女の子』だった。 こんなことを言ったら怒られるかもしれないけど、わたしはそう思った。 35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/22(日) 19:21:12.31 ID:xN24393J0 次の日の放課後、例によって古泉君とキョンくんは今日も来れないらしい。 なので、わたしと鶴屋さんと長門さんは三人でお茶をすすりながら涼宮さんを待っていた。 それはもちろん、マフラーの結果報告を聞くためだ。 長門さんが本を読み、わたしと鶴屋さんが談笑をしていると、部室の扉が開いた。 涼宮さんだ。しかし様子がおかしい。元気がない。そして、 「ハルにゃん、それって……」 鶴屋さんの指摘、それは涼宮さんの首に巻かれている自作のマフラーのことだった。 「……ダメだった」 肩を落とした涼宮さんがそう言う。 キョンくんが?ウソ?とても信じられなかった。 「ちょっとお姉さんがキョンくんぶっ飛ばしてくるよ」 ニコニコしながら鶴屋さんが立ち上がった。 40 名前:>>37 ない[] 投稿日:2009/11/22(日) 19:27:06.24 ID:xN24393J0 「あわわ、だめですよぉ〜鶴屋さん!」 ズンズンと扉に向かっていく鶴屋さんを後ろから引っ張った。 「大丈夫だよみくる?すぐ終わるから」 わたしが止めたことを不思議そうに首を傾げる。 「そ、そういうことじゃなくてぇ」 目が笑っていない。 必死に止めているわたしの後ろから声がした。 「鶴ちゃん、大丈夫だから気にしないで。皆が想像してるのとは……ちょっと違うから」 「どういうことですかぁ?」 涼宮さんが自嘲的な笑みでことの流れを話してくれた。 47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/22(日) 19:41:30.76 ID:xN24393J0 朝の教室に行くとすでにキョンくんがそこにいて、その首にはすでにマフラーが巻かれていた。 そして涼宮さんがそれをどうしたか聞くと、昨日の夜に妹から貰ったと言う。 そのマフラーは手作りで、断ることも出来ずに今日してきたとのことだった。 妹ちゃんを責めるわけにはいかないから、マフラーを渡すのを諦めて今に至る。 「というわけで、誰が悪いとかそういうのじゃないから」 と言って席を立ち、扉に向かう。たしかに誰も悪くない。しいて言うなら間が悪かったということだと思う。 「ハルにゃんもう帰るのかい?」 「そうするわ。なんか話したらどっと疲れた」 49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/22(日) 19:49:35.53 ID:xN24393J0 涼宮さんが扉に手をかけると同時に、長門さんが本を閉じる。 解散の合図。 「じゃあ、わたし達も一緒に帰りますね、いいですかぁ?」 「……別にいいわよ」 溜息をつきながら涼宮さんが同意する。 「着替えたらすぐに行くんで、先に行って待っててもらってもいいですかぁ?」 「なるべく早くね」 そう言って涼宮さんが先に出て行った。 わたしは鶴屋さんと長門さんのほうを向くと、一つの提案をした。 51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/22(日) 20:00:15.86 ID:xN24393J0 学校の帰り道、四人で坂を降りていく。 綺麗な夕日も、この日ばかり哀愁が漂っている。 わたしは意を決して寂しそうな背中に近づいた。 「あ、あのぉ、涼宮さんのそのマフラー……わたしにください」 わたしは涼宮さんにそう言った。 「えっ?みくるちゃんは鶴ちゃんと交換するんでしょ?」 驚いた顔の涼宮さんが、自分のマフラーを手で隠して言った。 「いいわよ、別に。せっかく出来がいいんだから自分で使うわ」 いつものような笑顔を作る。 でもそれは、寒くなる季節に比例するように、少しだけ陰って見えた。 「それなら心配は無用っさハルにゃん!」 割って入るように言ってきた鶴屋さんが笑いながら続けて言う。 「どっちにしろみくるのマフラーはあたしが貰うからね!」 52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/22(日) 20:07:39.65 ID:xN24393J0 涼宮さんが先に下駄箱に向かっている間、わたしは部室で鶴屋さんと長門さんに相談した。 「あの、マフラーを皆で交換しませんか?」 「皆?」 鶴屋さんが首を傾げながら、そう言った。 「はい。鶴屋さんには申し訳ないんですけど」 わたしが言っているのはつまり、鶴屋さんとの約束を破りたい、ということ。 「なるほど。皆で交換すれば、傷心のハルにゃんも報われるってわけだね」 「多分、……そうだったらいいなぁって」 怒られるかもしれないと思っていたわたしの背中を、鶴屋さんがパンパンと叩き、 「みくるはやっぱりめがっさ優しいね。それでこそあたしのみくるっさ!」 と、笑顔で言った。 53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/22(日) 20:13:47.56 ID:xN24393J0 「い、いいんですかぁ?」 わたしはおそるおそる聞いた。 「あたしは構わないよ。長門ちゃんもいいよね?」 「いい」 と、小さく頷きながら言ってくれた。 わたしは二人に、泣きそうになりながら感謝を言った。 「気にしなくていいんだよみくる?」 そう言って鶴屋さんが笑う。 長門さんは鞄と、自分の作ったマフラーを持って、扉の前で待っていた。 「それじゃあハルにゃんも待たせてることだし、さっさと行こっか!」 「はい!」 55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/22(日) 20:23:11.90 ID:xN24393J0 >>54 最初でも言われたけど力量不足でした。みくる視点だと何故か多くなる。 「そういうわけなんです。だからそのマフラーをわたしにください」 そう言いながら、涼宮さんの首に巻いてあるマフラーを取る。 「そのかわりハルにゃんには長門ちゃんからマフラーをプレゼントするよ」 鶴屋さんは長門さんを手招きで呼ぶ。 「有希の?」 「そう」 涼宮さんの言葉に答えるように、長門さんは自作のマフラーをその首にかける。 結果としては、わたしのが鶴屋さんに、鶴屋さんのが長門さんに、長門さんのが涼宮さんに、そして涼宮さんのがわたしに、こういう形になった。 57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/22(日) 20:30:59.48 ID:xN24393J0 「……あ、ありがと」 「おっとお礼ならみくると長門ちゃんに言うんだよ。みくるのマフラーが手に入った鶴屋さんは実害ゼロだからね」 「みくるちゃん、有希、その、ありがとね」 とても気恥ずかしそうに、夕日があっても分かるくらいに頬を赤くした涼宮さんがお礼を言う。 長門さんが小さく頷く横で、わたしはボロボロと泣いてしまった。 「え!?なんでみくるちゃんが泣くのよ!?」 「だってぇ、ひっく、だってぇ〜」 なにに感極まったのかは分からないけど、涼宮さんになだめられながらも一人でその場で泣いてしまった。 61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/22(日) 20:39:12.58 ID:xN24393J0 「それにしても有希、随分らしくない柄ね」 嬉しそうな涼宮さんは、自分の首に巻かれたマフラーを手に取ってそう言う。 長門さんが熱心に編み続けていたその柄は、黄色の下地の上に白くて可愛いうさぎがあしらわれたものだった。 「でもポカポカする。ありがとね、有希」 「そう」 無表情なままの長門さんに、わたしは質問をする。 「そのマフラーの柄って何なんですかぁ?」 「雪うさぎ」 長門さんは一言呟くと、心なしか少し自慢げに私たちを一瞥した。 「あの冬に雪で作るやつかい?」 「違う、菓子」 「福岡のお土産のですかぁ?」 「そう、菓子」 どちらも似ているけど、長門さんはお菓子であることを譲れないみたい。 62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/22(日) 20:46:08.01 ID:xN24393J0 「あたしのだって結構良い出来だろ長門ちゃん」 長門さんにマフラーを渡した鶴屋さんがそう聞いた。 「割と」 薄い緑色で作られた少し短めのマフラーを触りながら長門さんがそう返す。 「それをどう捉えていいか、鶴屋さんには全然分からないよ」 口を尖らしている鶴屋さんとは違って、長門さんは鶴屋さんから貰ったマフラーを首に巻き、まんざらでもなさそうな雰囲気だった。……多分。 「わたしのはどうですかぁ?」 まだ鶴屋さんに感想を教えてもらってなかったわたしは、自分から鶴屋さんに催促してみる。 「ん〜?フッカフカだよ〜、これがあれば今年の冬は安泰だね!」 その言葉にわたしは嬉しくなる。 63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/22(日) 20:56:11.51 ID:xN24393J0 それになんだかみくるの匂いがして、めがっさ幸せな気分だよ」 「へ、変な事言うのはやめてくださいよぉ〜」 鶴屋さんはわたしの反論を無視しながら、感心したような顔でしきりに頷きながらこう言った。 「こんなの男の子にあげたら過剰なフェロモン臭でイチコロだろうね」 「そ、そんなつもりはないですぅ!!」 無性に恥ずかしくて耳まで熱くなる。 65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/22(日) 21:04:25.01 ID:xN24393J0 「朝比奈みくるの体温の上昇を確認」 と、無表情の長門さんが言うと、 「みくる、あんまり興奮するとまたフェロモンが出ちゃうよ?」 と、意地悪な微笑を浮かべた鶴屋さんが繋げ、 「なに?みくるちゃん盛ってるの?発情期?」 と、邪悪な笑みの涼宮さんがとどめを刺す。 ……わたしはマフラーの出来を確認しただけなのに。 67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/22(日) 21:09:48.21 ID:xN24393J0 前を鶴屋さんと長門さんが歩き、わたし達はその後ろを追いかけるように歩いていた。 さっきから鶴屋さんがちょっかいをかけては、長門さんに冷たくあしらわれている。 そしてそれが面白いのか、さらにちょっかいをかける。これの繰り返し。 「ところでみくるちゃん」 「はい?」 「そのマフラーどんな感じ?」 わたしは首に巻かれたマフラーに頬擦りをする。 「暖かくて、優しい香りがします」 笑いながらそう言うと、 「そっか、良かった」 と、涼宮さんもはにかみながら言った。 68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/22(日) 21:20:13.52 ID:xN24393J0 そして数日後の放課後。 部室にはまだわたしと涼宮さんだけだった。 マフラー作りが終わったせいか、二人ともなんとなく手持ちぶたさでぼーっとしている。 「……今年の冬って去年より寒いらしいわね」 携帯電話をいじりながら、涼宮さんはぼそっと言った。 「天気予報でもそう言ってましたぁ」 朝のニュースを思い出しながら、自分で淹れたお茶をすすりながら答える。 「きっと手と足とかも冷えるわよね」 「そうですねぇ」 じゃあ冬に備えてふかふかの靴下も買わなきゃなぁ。 「……あたしまだ毛糸余ってるのよね」 涼宮さんは少しダルそうにそう言う。 「わたしもですぅ」 そしてまたひと口すする。お茶が美味しい。 69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/22(日) 21:30:00.20 ID:xN24393J0 そして少しの沈黙の後、 「……あいつ、手袋はしてなかったわよね」 「そうだった気がしますよぉ?」 何を言おうとするか分かる。 「しかたないわね」 その声にヤル気が入る。 「ふふ、今度は先を越されないようにしないとダメですね」 涼宮さんは、分かってるとばかりに不敵に微笑み、 「そうと決まったら早速行動よ!みくるちゃん本貸して!」 「はぁい」 そしてわたしは編み物の本を渡した。 天気予報のお姉さんが言っていたより今年の冬は少しだけ暖かくなる、そんな気がした放課後のひとときだった。 「これでおしまいになります。皆さん、ここまで読んでいただきありがとうございました。えっ?彼の台詞?ははっ、そんなもの存在しませんよ。別に見たくもないでしょう?と言って も僕自身、これで出番は終了なんですけどね。>>45さん、申し訳ないですが森さんからは僕が頂きました」 〜Fin〜