キョン「長門が部室で暴れてる?」 20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/11/20(金) 20:11:53.92 ID:s9xbpnwA0 朝倉「そう……なのよっ!」 教室まで走ってきたらしい朝倉は、息を整えながら簡単には信じられない事実を伝えてきた。 あの……長門が?脳裏には 長門『……なに?』 と本から視線を上げつつ眼鏡を直しながら静かに語る長門の姿が思い浮かぶ。 それが……暴れてる、とは? キョン「なんでまた……つーか、なぜ俺に?」 朝倉「だって、キョン君って文芸部室によく行ってるんでしょ?涼宮さんと」 キョン「あー……まぁ、そうだが」 朝倉「だったら長門さんとも知り合いなんでしょ?お願い、何とかしてあげて欲しいの!」 上目使いで両手組みは反則だ、朝倉。 なんら関係ない話だったとしても、その『お願い』は男なら何とかしたくなっちまう。 21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/11/20(金) 20:22:50.37 ID:s9xbpnwA0 って、それ以上にひとつ、疑問点が湧き上がる。 これが俺の悪い癖だ。『空気読めない』『気を使えない』と散々言われる由縁なのは自分でも判っちゃいるが、こういう性根なんだから仕方ないだろ。 キョン「そもそも、お前と長門って知り合いだったか?」 朝倉「中学から一緒だったもの。友達……ってほどじゃないけど、良く知ってはいるわ」 キョン「へぇ……意外だな」 いくら同じ中学卒とはいえ、そこそこまとまった数の生徒が北高に入学しているはずだ。そんな中で、じっと息を潜めるような生活をしていたであろう長門のことを『良く知ってる』と言い切るコイツは……そうか、これが人間的魅力というヤツか。 朝倉「そんな余裕かましてる場合じゃないの。ほら、早く!」 キョン「おい、押すなって!」 俺の背後へ回りこんだ朝倉に両手出しを喰らって教室から押し出される。 やれやれ、とりあえず部室に向かってみるか。 ※スマンVIPは慣れてないんだ  sage進行でいいんだよな? 23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/11/20(金) 20:39:11.56 ID:s9xbpnwA0 キョン「あー……これは」 朝倉「ね、言ったとおりでしょう?」 朝倉の言うとおり、いつもなら閉じられているはずの部室のドアは全開。そのうえ本やら箒やらパイプ椅子やら、部室内で見かけた覚えのあるものがいくつか廊下に放り投げられている。 でもって、部室内からはドッタンバッタンという古典的表現が似つかわしい騒音と気配。 このうえ長門の奇声でも聞こえて来ようものなら、回れ右して平凡な日常へ埋没する努力を怠らないようにするところだが…… 朝倉の視線をかわすのが最大の難関か? 朝倉「ちょっと、ここまで来て逃げようなんて考えてないでしょうね?」 コイツ……読心術が使えたかっ!俺の瞳すら覗いてないのにっ!? こないだの長門の独白といい、俺の周りには奇人変人しか集ってないのかぁっ!! ……まあいい。 ある意味、今の状況から考えれば自称「対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース」……だったか?それの意味が凡人な俺にも良くわかる。 親御さん、苦労してるんだろうなぁ……うっうっ。 そして、そんな子に関わってしまった俺と朝倉、がんばれ。 25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/11/20(金) 20:48:54.74 ID:s9xbpnwA0 とか考えている間に、廊下には何冊かの本と地球儀が増えていた。 ボクたちの地球がっ! ……仕方ない。意を決して、そぉっと部室内を覗いてみる。 俺の背中には朝倉がぴったり寄り添う感触が。お、おおぅ……双丘が腰にぃっ! 馬鹿やってる余裕はないな。 キョン「……なーが、と?」 視界に入ってきた光景は……いや、筆舌に耐え難いとはこのことか。 壁に寄り添っていた本棚は倒され、本というよりは紙束という表現の方が正しいような物体に化けてしまった無機物が山となり、それに埋もれるようにして……元読書少女がもがいていた。 本に溺れている。いや、そのまんまの意味で。 キョン「……おい、長門?」 声を掛けるが、長門には届かないらしい。手足をばたつかせ、掴むことが出来たものを所かまわず放り投げている。 朝倉「これは……」 背後からは朝倉の絶句する気配。そらそうだ。出来ることなら、俺だって 「まさかこんなことになるなんて……」 とか他人事のようにインタビューへ答えてみたい。 だが、この事実がマスコミに漏れる前に処理しないと、授業中の俺の背中がテロリストに襲われる羽目になりそうだ。 そういや、テロル涼宮は「今日は帰るわ」とか言ってたな。こんな長門の姿を見せる羽目にならなくて良かった……神の御目溢しにしみじみと感謝する。 26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/11/20(金) 20:59:47.85 ID:s9xbpnwA0 キョン「ここにいろ」 そう朝倉に言って、屈んだ姿勢で部室に突入した。 いやしかし、酷い有様だ。 飛んでくるハードカバーを避けつつ、グラウンド・ゼロへと近寄っていく。 本やパイプ椅子や本や朝比奈さんの衣装や本で徐々に足の踏み場が徐々になくなっていく。 これはあれか、片付けられない女ってやつか。 いや違うな。 キョン「おぶっ!」 いかん、余計なことを考えていたら肩に絵本弾の直撃を食らってしまった。 キョンの そうこうちが さがった! キョン「ぐげっ!」 いや、だからっ! ……ともかく長門を落ち着かせることを優先しよう。 長門「……るっ……へふぉっ……ゃおぬっ……」 不発弾だか遅発弾だかはわからんが、ともかく危険なロボピッチャに近づくと次第に微かにうわ言のような声が聞こえだした。 これは……俺なんかが出る幕じゃないような……誰かー!男の人呼んでー!男のひとー!! ……俺なんだな、結局。 匍匐全身のような体勢でようやく長門の傍にたどり着く。 今更ながら、放物線の軌跡から逃れるにはとにかくx軸を低く保てば良いって事に気づいたしな。 28 名前:774秒で支度しな![sage] 投稿日:2009/11/20(金) 21:17:54.13 ID:s9xbpnwA0 近くで見ると……これは……こんなの、人間に可能なのか? 両手と首が気持ち悪い早回しの映像のような不協和音的動作を繰り返している……今なら「対なんちゃらインターフェース」ってのが信用できる。悪い意味で。 今のこいつに、日本語……地球語が通じるかどうか…… キョン「おい、長門!」 ビクン!と華奢な体が痙攣するように跳ね上がる。これは……聞こえてる、のか? キョン「聞こえるのか!?」 残像が見えそうなヘッドバンキングを続けつつ、色白な顔が微かに頷いたように見える。 あまりの事態でうっかりしていたが、長門は眼鏡を掛けていなかった。最初にほん投げちまったか? 長門「……っかぶっ……ーだむっ……のがぃっ……」 ダメだ……なに言ってるか判らん。 キョン「どうしたらいい!?おい、長門っ!」 返事の変わりに、長門はビクビクッ!とまた発作のような痙攣を起こす。畜生、どうすりゃいいんだ。 朝倉「キョンくんっ!大丈夫!?」 廊下からは心配そうな朝倉の声が聞こえてくる。 31 名前:774秒で支度しな![sage] 投稿日:2009/11/20(金) 21:36:03.43 ID:s9xbpnwA0 キョン「今のところはな!おい朝倉!何か知らないか!?」 朝倉「何かって何よ!」 キョン「中学の頃、長門はこんな風になったことないのか!?」 朝倉「ないわよ!こんなの……初めてよ!」 キョン「くそっ……無理に押さえ込むしかないのか!?」 朝倉「ダメよ!無理に抑えたら、キョン君が……」 キョン「いや、長門の体格ならなんとかなr」 朝倉「ダメッたらダメッ!」 どうやら俺の肩幅では朝倉の信用を取り付けられないらしい。 キョン「じゃあどうすんだ!誰か先生でも呼んでくるしか……」 でもってピーポー車を呼んでもらって…… 朝倉「そんなのダメよ!」 キョン「アレもダメコレもだめって、お前はダメの国の人か!」 朝倉「ダメよ……えっと……どうしたら……」 そう言いながら、朝倉は親指の爪をかじるような姿勢で必死に考える素振りを見せる。 ギャーギャー言ってるだけってワケじゃなく、アイツはアイツなりに真剣にどうにかしようとしてくれているようだ。 32 名前:774秒で支度しな![sage] 投稿日:2009/11/20(金) 21:55:55.26 ID:s9xbpnwA0 長門「がぬっ……ぁけさすつっ……ぇがぬっ……」 傍らの長門は、相変わらず奇妙な動きを繰り返しながら何かをつぶやいている。 ……いやまて、さっきから、似たような言葉を繰り返してないか……? 長門「ぇがぇっ……かくっ……せてっ……めがぇっ……けさつっ……」 前、長門が読んでた本になにかヒントがあったな……えっと、確か…… そう、たどたどしい言葉を聞き分けるときは、母音に分解して推察する……とかなんとか。 キョン「長門っ!無理して話すな、母音だけでいい!それだけ言ってくれ!」 ビクン!とひときわ大きく発作が起きる。これ、こんなのが続いたら、長門の身体が持たないんじゃないのか? 長門「ぇ……ぇあえおぅ……あえぁ……ぇえっ……えあえおぉ……あえあぇえぇぅ……」 必死にそう繰り返す。えあえお、あえあえ……えあえお、あえあええ…… えあえお……えあえ…… 長門の顔を見る。えあえ……眼鏡?眼鏡か? あえあええ…… あえあえ……掛けあえ……眼鏡を、掛けさせて? キョン「眼鏡か、眼鏡を掛けさせれば良いのか長門!?」 長門「ぉう……はぁくぅ……えあぇをぉ……」 朝倉「ちょっ!長門さん、眼鏡掛けてないの!?」 どうやら俺の声が廊下の朝倉にも聞こえたらしい。 33 名前:774秒で支度しな![sage] 投稿日:2009/11/20(金) 22:11:54.28 ID:s9xbpnwA0 キョン「ああ、掛けてない!眼鏡を掛けさせれば何とかなるかもしれんが……」 言いながら周囲を見渡す。が、姿勢が低いせいもあって、カオスと化した部室の中で長門の眼鏡を探すのは困難に思えた。 第一、こんな有様じゃ眼鏡だって無事かどうか…… 朝倉「キョンくん、これっ!」 振り返ると、朝倉の手には黒ブチの眼鏡があった。まさか、廊下に投げ飛ばされていたのか?さっきは見あたらなかった気がするが…… ともかく、細かい話は後だ。今は長門に眼鏡を掛けさせるのが最優先事項だろう。キョン「それ、無事かっ!?」 朝倉「そうみたい!いま持っていk……きゃぁっ!」 部室に侵入しようとした朝倉の顔面をロックウェーブ文庫が掠めていく。 キョン「無理して入ってくんな!投げてくれ!」 朝倉「でも……」 逡巡しているのは眼鏡の無事を心配しているのか、或いは俺のキャッチ能力への疑問か。 キョン「いいから、はやく!」 朝倉「……おねがいっ!」 意を決した朝倉の手から、洒落っ気のない眼鏡が放り投げられた。 さすが朝倉、良い肩をしている。長門が投げつける本の弾幕の隙間を縫うような、文字通り針に糸を通すピッチング。 キョン「そぉい!」 34 名前:774秒で支度しな![sage] 投稿日:2009/11/20(金) 22:28:07.34 ID:s9xbpnwA0 そして俺、ナイスキャッチ! ……もなにも、後出にしていた掌のうえにぽふっ、と落ちてきたのを掴んだだけだが。 朝倉「取れた?」 キョン「大丈夫だ!あとは……」 目の前で絶妙な無軌道振りを見せ付ける長門に掛けさせるだけなのだが…… 問題はふたつ。 バリアーのように振り回される両腕の間隙を突くこと。 そして、ミラーボールのように振り回されているその顔に、正確に眼鏡を掛けさせること。 とりあえず、真横という今の位置ではダメだ。長門の右腕は鉄壁の守りを見せている。 反対側も同じこと、となれば…… 積みあがった本の上をじりじりと移動し、長門の頭上へ回り込む。 ここなら両腕の効果範囲もかわせそうだ。 相変わらず無秩序な動きを繰り返している長門の向こうには、入り口から心配そうに覗き込む朝倉の姿が見える。 朝倉「キョンくん……」 キョン「大丈夫だ。今からこの眼鏡を……」 長門「ぁやく……はやぅぃて……」 眼鏡を開いて両手で掴み、タイミングを見計らう。右手がアサヒ園羅真文庫を掴みあげ、左手が長門の腰のほうへ向かっていく…… キョン「……南無三!」 35 名前:774秒で支度しな![sage] 投稿日:2009/11/20(金) 22:38:06.69 ID:s9xbpnwA0 ツルを開き気味にして長門の顔面へ眼鏡を覆い被せる。 重力に従って振り下ろされた俺の両手は、長門の顔面まで10cmというところで、まるで……そう、自動着陸装置に誘導されたかのように軌道を修正され、素早い割にはスローモーな感覚で、あるべき物があるべき場所へと向かっていく。 スチャ、という音がしたような気がした。 キョン「……」 長門「……」 久しぶりに感じる静寂。 虚を掴むように天井へと向けられた腕が、すっ、と落ちていく。 キョン「……止まっ……た?」 朝倉「長門……さん?」 長門「……収束を確認」 聞き慣れた声がした。 キョン「……長門?」 返事をする代わりに、すっくと立ち上がった長門の顔に見覚えが戻る。 長門「問題ない。事態は収束した」 36 名前:774秒で支度しな![sage] 投稿日:2009/11/20(金) 22:56:53.14 ID:s9xbpnwA0 朝倉「だい……じょうぶ?」 長門「もう問題はない」 ちらと朝倉の方を振り返って言った長門は、向き直ると俺の傍らにしゃがみこんだ。 長門「手間を掛けた。あなたは無事?」 言いながら手を差し出してくる。その気持ちはありがたいが……さっきまでの挙動を見てしまっている以上、その好意を受け取ることに抵抗がある。 キョン「あ、あぁ……無事だ」 答えつつ膝をついて立ち上がる。在所なく差し出されたままの長門の手に少し罪悪感があるが、当の本人はさほど気にする様子もなく 長門「そう」 とだけ言ってまた立ち上がった。 そして、再び沈黙。い、いかん。何かを言わねば間が持たない。 キョン「……いやしかし、まいったな。これ片付けるのは骨が折れるぞ」 周りを見渡しながらそんな台詞が口をつく。 長門「骨折を伴う作業は予見されない」 キョン「例えだ、モノの例え」 つーか、むしろこの現状に至るまでに骨折を伴ってそうな状況だな。 改めてみれば、泥棒が入ったとかいうレベルじゃない。 竜巻に襲われたとか、大地震にあったとか、災害レベルのしっちゃかめっちゃかさ加減だ。 37 名前:774秒で支度しな![sage] 投稿日:2009/11/20(金) 23:04:13.40 ID:s9xbpnwA0 朝倉「そうねぇ……これを片付けるのはちょっと大変そう……」 恐る恐る、という風で部室に入ってきた朝倉も同感らしい。 だが、台風の目であった長門の感想は一味違った。 長門「問題ない。すぐに片付ける」 いやまぁ、そう言いたくなる気持ちもわからんではないが…… キョン「強がり言うな。現状を把握したうえでしっかり反省しろ」 長門「それとこれとは別。再構築はすぐに済む」 キョン「そんなわけ……?」 朝倉「……」 なぜか朝倉の方に視線を向けた長門につられて見ると、朝倉の顔に険しさがあった。さすがに長門の発言に朝倉もイラッとしたんだろうか? ……いや、違う。これはそういうんじゃない。なんというか…… 朝倉「きょ、キョンくん!とりあえず、バケツに水を汲てくれない?このままじゃホコリっぽいから気管をやられちゃうわ」 俺の思考を遮るように、朝倉がそんなことを言い出した。言われてみれば、俺も長門も制服がいささか白っぽい。 キョン「そうだな……行ってくるか。とりあえず長門は窓開けて空気の入れ替えしとけ。あと可能なら雑巾も探しといてくれ」 長門「了解した。バケツは掃除用具入れの上。そこまで影響はしていない」 言われて掃除用具入れの上を見上げると、確かに金属製のバケツが鎮座していた。 38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/11/20(金) 23:53:15.07 ID:gsb79W450 結局遥々辿って校舎まで戻ってきちまったぜ。ったく。どうなってんだ。 イライラが最高潮に達する直前で、それを全てチャラにする存在がひょこっと現れた。 みくる「あれ、キョンくん」 キョン「朝比奈さん……」 そういや、あの大嵐の真っ最中に朝比奈さんは姿を見せなかったっけな。 決して勢いで書いてるから書き忘れてたってワケじゃないぞ。 原作本片手に時間軸を立て直しながら書いているわけでもない。ないったらないぞ。 みくる「なにブツブツ言ってるんですかぁ……?」 キョン「いや……なんでもないですよ。それより、朝比奈さんこそどうしたんですか?こんなとこで」 麗しい制服姿にカバン、ということは帰り間際だろうか?涼宮が部室に来ないってんで、今日は直接帰ろうとでもしたのだろうか。 みくる「お茶を入れるのにお水を汲んでいこうとしたんですが、水筒を家に忘れてきちゃって。慌てて取って来たところなんです」 キョン「へぇ、朝比奈さんの家って学校から近いんですね」 何気なく言った言葉だったが、何故か朝比奈さんを動揺させてしまったらしい。 みくる「ひぇっ!い、いえそういうわけではないんですが、え、えと……い、急いで行って来たんでしゅ!」 にしては息が上がっているわけでもなさそうだが……いやまぁ、ここでこれ以上突っ込むと泥沼になりそうだ。 39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/11/20(金) 23:54:23.53 ID:gsb79W450 キョン「あ、あぁそうなんですか。でも、今日はお茶を煎れるのは無理かもしれませんよ」 みくる{ふぇ?どうしてですか?」 キョン「断水してるみたいで、どこもかしこも水が出ないんです」 みくる「ひょえぇ!そうなんですかぁ!?」 キョン「そうなんですよ。お陰で参っちゃって」 言いながらバケツを掲げてみせる。 みくる「バケツ?お掃除か何かですか?」 キョン「えぇ、ちょっと部室がてんやわんやになっちゃいまして」 さっきの長門の様子を説明するのはなんとなく躊躇われた。それに、説明しても、あんな様子を信じてもらえそうにはないしな。 みくる「な、なにかあったんですか?」 キョン「いや、ちょっと本棚が倒壊しましてね。ホコリが凄いんで掃除しなきゃならないんですが……何しろ水が……って、あれ?」 朝比奈さんの向こうにあるウォータークーラーで水を飲む生徒の姿が見えた。 みくる「ふぇ?」 キョン「……水道、復旧したみたいですね。とりあえず、水汲んでいきましょうか」 40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/11/20(金) 23:55:31.97 ID:gsb79W450 みくる「あ、はい。じゃあ、あたしはそこで汲んで来ますね」 トテトテ、とウォータークーラーに近寄った朝比奈さんは、なにやら鼻歌を歌いながら水筒のキャップを開けて水を入れ始めた。 キョン「……俺もトイレで水汲んできます。部室で合流しましょう」 みくる「はーい。じゃあキョンくん、また後でね」 楽しげに水を汲む朝比奈さんと別れ、トイレに向かうことにする。 掃除の後は、朝比奈さんのお茶で癒してもらおう。そうしよう。 部室棟に戻る途中、嫌な予感がしてさっき通った水道に立ち寄ってみると予想通り派手に水が噴出していた。 キョン「……やれやれ。もしかして、さっき通ったトコ全部か?」 こんなときに限って偶然通りかかって蛇口を閉めておいてくれる気の利いた奴は誰もいなかったらしい。水の入ったバケツを片手に、来た 道を辿って部室棟まで戻った。 つーか、一度バケツの水捨てて、部室棟のトイレで汲み直せば良かったんじゃないか? ……やれやれ。 ※バルス落ちに負けようかどうしようか。 43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/11/21(土) 00:22:28.76 ID:ObIar3zw0 ※がんばってみる。死刑のうえに校庭10週は嫌だからな みくる「あ、キョンくん!遅かったですねぇ」 長門「……」ペラ ようやくたどり着いた部室は、いつもの風景を取り戻していた。 窓際の椅子で読書をする長門。早速メイド服に着替えてお湯を沸かしている朝比奈さん。本棚に並ぶ書籍、『団長』という札が立てられた 机、カーテンを揺らす春のそよ風…… キョン「っておかしいだろう長門!?」 みくる「ふぇぇっ、ど、どうしたんですかキョンくん?」 長門「……さっき再構築はすぐに済むと言った」 キョン「いやいやいやいや。だからってお前、あんなだった部屋がこんなあっさり元通りになるか?」 長門「ご覧の通り」 みくる「ふぇぇ……キョン君、落ち着いてくださいぃ」 キョン「これが落ち着いていられますか。怪獣が通ったみたいな部屋がこんなあっさり元通りって、おかしいでしょう!?」 言ってから気づいた。朝比奈さんにこんなことを言っても彼女は涙ぐんでおろおろするだけだ。 44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/11/21(土) 00:31:49.48 ID:ObIar3zw0 キョン「……すみません、朝比奈さんに言うことじゃなかったですね」 みくる「はわ……い、いぃんですよぅ。な、長門さん?そんなにひどいことになっちゃってたんですか?」 長門「そんなことはない」 本から視線を上げることもなく、簡単にそう言ってのける。 キョン「嘘付け!」 みくる「でも、キョン君があんなに必死に……」 長門「……彼は大袈裟」 キョン「……」 みくる「……ぅ、はぅ」 なんか、どっと疲れた。 たっぷりと水を蓄えたバケツを投げ出したくなる衝動を抑え、そっと床に置いて傍らのいつもの席へ腰を下ろす。 あれ、そういえば…… キョン「朝倉はどうした?」 長門「帰宅した」 キョン「一緒に片づけしてたのにか」 長門「そう」 45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/11/21(土) 00:57:12.72 ID:ObIar3zw0 みくる「あ、どなたかと一緒だったんですね。二人がかりでやれば片付けも早く済みますもんね」 朝比奈さん、残念ながらそれで済むようなレベルじゃなかったんです……信じてはもらえそうにないですが。 にしたって、あの惨状に俺を巻き込んだ朝倉がとっとと帰ったってのも癪に障る。 キョン「……はぁ」 気持ちまで疲れた。 考えるのも面倒になってきた。 みくる「……キョン君?バケツ、重かったでしょう。はい、お茶どうぞ」 あああ、朝比奈さん。やはり貴女は太陽のような御方だ。 にこやかにカップを置いてくださるその御姿にオレンジ色の後光が射して見えます。 キョン「ほふぅ……」 口から白いもわっとしたものが出そうになるのを、朝比奈さんの入れてくれた紅茶で体内に飲み込む。 美味いなぁ。幸せだなぁ。 男はこうやって目先の人参に騙されて生きていくんだろうなぁ…… うっすらとレモンの香りが効いた紅茶を飲み干し、俺の今後の人生における幸せの指針が大いに下振れしたところで長門が本を閉じた。 みくる「あ、今日はもうおしまいですね」 キョン「ご馳走様でした。良いお茶のお陰でなんとか生き延びることが出来ましたよ」 みくる「えへへ、キョン君たらお上手。こちらこそお粗末さまでした」 キョン「そんな、とんでもない。それじゃ、俺は先に出てますね」 46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/11/21(土) 01:17:49.98 ID:ObIar3zw0 照れ笑いを浮かべながら「はいぃ」とのたまう女神様を残して部室を出る。 そろそろ日も暮れるし、途中まで送って差し上げよう。 そんなことをおそらくはニヤケ顔で考えていると、すっかりいつもの無表情になった長門がいつも以上に冷たい視線と共に俺の前を通りか かった。 なんだよ……今日のことは俺的にはひとつ貸しだぞ。つーかまた発作とか起こさないだろうな……とか考えていると。 長門「……話がある。今日のこと」 とのたまった。やれやれ、補習付きかい…… キョン「こないだの続きか?」 長門「……そうとも言える。ただ状況が変わった。その説明をする」 キョン「それはさっきのお前さんの……発作みたいのとも関係してるのか?」 長門「関係している。それに、あれは発作ではない」 そこで一度言葉を切った長門の眉間が、微かに歪んだ。 長門「発作では、ない」 47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/11/21(土) 01:33:11.90 ID:ObIar3zw0 校門前で朝比奈さんと別れ、長門と肩を並べて歩く。 お互いに無言のまま坂を下りきった頃には、俺が限界を迎えていた。 俺ってこんなに沈黙が苦手なキャラだったか? キャラ「なぁ、長門よ」 長門「……」 返事をするでもなく、少しだけこちらに顔を向ける。 キャラ「お前と朝倉って、同じ中学だったのか」 長門「……彼女が、そう言った?」 キャラ「ああ。友達って程じゃないけど、長門のことを良く知ってるとは言ってたぞ」 長門「……そう」 長門は相変わらず抑揚の無い声でそう答えた。 キョン「朝倉は面倒見がよさそうだからな。特にお前さんみたいなタイプは気にかかるんだろう」 長門「……」 キョン「でもまぁ、長門に何かあったときに心配してくれる奴が俺のほかにもいるってのは、少し安心だな」 長門「どういう意味?」 キョン「そのままだ。またあんなことになったら、俺一人で対処できる自信は無い」 49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/11/21(土) 01:48:45.48 ID:ObIar3zw0 ※支援thx あんなこと、ってのはさっきの暴れん坊将軍長門有紀のことだ。あの暴れっぷりでは天下泰平とは言いがたい。 長門「それはない」 キョン「やたらはっきりと否定をするがな、お前の」 長門「後で説明する。もうああいう事態には陥らない」 言いかける俺の台詞を押し返すように、長門ははっきりと言い切った。 これは……あまりそこらへんを突っつくのはよろしくないらしいな。 キョン「……そうかい」 長門「そう」 答えると、珍しいことに長門ははっきりわかるくらいに頷いてみせた。 長門「飲んで」 キョン「……いただきます」 ずず、と湯飲みに口をつけながら相変わらず殺風景な部屋を見渡す。 向かいの長門は自分のお茶に口をつけるでもなく、俺をじっと見つめている。 51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/11/21(土) 02:00:47.13 ID:ObIar3zw0 キョン「あ、話を始めていいぞ。お代わりが欲しくなったら自分でやる」 コクンと頷いた長門は、この間のようなおしゃべりモードに突入した。 長門「先日話したとおり、私はこの銀河を統括する情報統合思念体によって造られた対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インター フェース。任務は、涼宮ハルヒの観察」 キョン「あぁ、そういう設定だったな」 長門「統合思念体が地球に置いているインターフェースは私だけではない。積極的に動こうという勢力もある」 キョン「そういやそんなことも言ってたな」 長門「今日、部室に設置されたパソコンを介して、そういう勢力がわたしに接触を謀ってきた」 キョン「パソコンって、団長席の横のか?」 長門「そう。簡単に思念体としてアウトプットできる端末が身近にありながら、涼宮ハルヒに近すぎるという理由からわたしは油断してい た。結果、接触を許し、あなたの言う『発作』状態に追い込まれた。迂闊」 長門の顔に若干の悔しさが現れる。ミクロン単位で。 キョン「追い込まれたって、ようはパソコンからなんかが出てきて、お前を襲ったって事か?」 長門「襲った、という表現が正しいかどうかは判らない。推測では、積極的に動こうという勢力……以降、急進派と呼称する。彼らも、私 があのような状態に陥るとは考えていなかったと思われる」 52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/11/21(土) 02:12:13.29 ID:ObIar3zw0 キョン「そらまたどうして」 長門「派閥に分かれているとしても、元は同じ情報統合思念体から生まれたもの。運用しているインターフェースの情報に違いは無い。わたしの反応を見て、彼らは驚いていた」 キョン「いやまぁ、俺も驚いたが」 長門「わたしも驚いた」 キョン「朝倉も驚いてたぞ?」 長門「そう。皆驚いた」 キョン「そうかぁ、あははははーっておい」 とりあえず裏拳ツッコミをいれておく。 キョン「で?接触ってのは具体的に何されたんだ」 とりあえず、細かいところを掘り下げて矛盾点を探ってやろう。 矛盾が無ければ、まぁ多少は信用してやってもいい。 長門「インターフェースの形態を真似て実体化し、物理的接触を図ってきた」 キョン「だから、何されたんだ」 長門「わたしを懐柔しようとした」 53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/11/21(土) 02:24:30.30 ID:ObIar3zw0 キョン「怪獣?だから部室があんな……すみません続けてください」 たまにものすごく微妙に怖い目で俺を見るのはやめてくれ…… 長門「現在、涼宮ハルヒに一番近いところにいるのはわたし。わたしを懐柔して、涼宮ハルヒに情報爆発を起こさせるよう仕向けさせるつもりだった」 キョン「それがなんで発作に繋がるんだ」 発作、という単語にかるーく眉をひそめた長門だが、そこはもう諦めたらしい。あっさりと言葉を続けた。 長門「あなたが誰かを説得するとき、どこを見て話す?」 キョン「そりゃ相手の目を見て話すさ」 長門「そう。それを彼らも実行した」 キョン「へ?」 目を見て話したら発作を起こすって…… キョン「そんなんであんなんなるなら、今のお前もまたああなっちまうんじゃないのか?」 長門「それはない。さっきは虚を突かれたのと、フィルターの情報連結を解除された」 キョン「フィルター?」 長門「そう。それに、あなたのような人間と会話するのと統合思念体直結の端末と接触するのとでは、情報量が違う」 まぁ、言わんとすることはわかるが…… 54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/11/21(土) 02:41:08.47 ID:ObIar3zw0 キョン「もしかして、そのフィルターってのが……」 長門「そう。この眼鏡は視覚から入力される情報を濾過し、私の処理能力をサポートする機能を持っている」 つまり、色の付いてない色眼鏡って事か。 長門「不測の事態に備えて装備しているフィルターを強制的に撤去され、莫大なデータを流し込まれた。よって、わたしの処理能力がオーバーフローし、あのような状態になった」 そこで一区切りをつけた長門は、お茶に口をつけた。 キョン「まぁ、辻褄は合っちゃいるが……いや、まてよ?確か眼鏡は廊下にあったよな?情報連結を解除されたって、つまりは無理やり剥がしてポイされた、ってことか?」 長門「……」 長門が何かを考えている。ここは考えるトコか? ややあってから、 長門「……物理的に表現すればそういうことになる」 とやたらと回りくどい表現で答えた。 んー、なんか引っかかるが…… キョン「まぁいい。つまり、お前はその眼鏡を取るとあんな風になる、ってことでFA?」 長門「えふえー?」 キョン「ファイナルアンサー、それで間違いないですか?ってことだ」 長門「それは違う。フィルターを撤去したうえで準備も無く莫大なデータを流し込まれれば、誰でもああなる」 55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/11/21(土) 02:53:26.52 ID:ObIar3zw0 キョン「いやまぁ、その理屈はわかったけどもだ。お前とその眼鏡がセットじゃないとまたああいう風になる危険性があるのか、って事を聞きたいんだが」 長門「フィルターの不確実性を体感した。また、フィルターに依存する現状は涼宮ハルヒの観測にも好ましくないと判断した。だから、フィルターを介在せずに情報を処理するようプログラムを変更した」 キョン「そんな簡単に出来るもんなのか?でなけりゃ、変更したつもりがいざとなったらやっぱりダメでしたー、なんて言うんじゃないだろうな」 大体にして、眼鏡の本分である視力の補正ってのはどうなるんだ?フィルターだってんなら、眼鏡としては伊達眼鏡、いよいよもって色の無いサングラスですよってことなのか?とか考えていると。 長門「それなら、確認して」 そう言って、長門は自分の眼鏡に手を掛けた。止める間もなく、レンズの付いた視力補正器具が外される。 長門「……どう?」 正直、少しだけ身構えようとした。が、長門に異変は見当たらない。 キョン「あぁ……問題、なさそうだな」 長門「そう」 頷いて、長門は眼鏡をテーブルの上に置いた。 とりあえず、眼鏡のある無しで性格の変わる漫画的展開は心配しなくていいらしい。 キョン「……で?その急進派とやらは、お前さんに膨大な情報とやらを流し込んだ後、どうしたんだ?」 長門「驚いた彼らは、端末に引き返していった。そのまま放置されたコントロールの利かなくなった私を、偶然朝倉涼子が発見。あなたを呼びに行った。その後は、あなたの知っている通り」 56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/11/21(土) 03:12:18.35 ID:ObIar3zw0 ふむ。今までの話を総合的に信用するとしたら、またひとつ疑問が発生する。 キョン「じゃあ、眼鏡を戻して復活したのは何でだ?流し込まれた情報の処理が追いつかなくなってコントロールが利かないんじゃ、フィルターを戻したところですぐに元通りにはならんだろ」 長門「強制的に受領させられた情報は退避スペースに移動させ総合処理能力の回復を図ったが、視覚から入力され続ける情報量を減らさない限り運動処理のリセットを行うことが出来なかった。 フィルターを装備してくれたお陰で、それが可能となった。あのままでは、わたしの身体は疲弊し機能を停止する恐れがあった」 そこでまたお茶に口をつけた長門は、 長門「あなたは命の恩人。感謝する」 と言って頭を下げた。 キョン「いや、命の恩人って言われてもなぁ……そんな大層なもんでもないだろ」 長門「そんなことはない。私の感謝の受領を」 ずい、と数ナノメートルだけ顔を突き出して主張してくる。 キョン「いや……まぁ……じゃあ、どういたしまして、ってのことでいいか?」 長門「いい」 我ながらもうちょっと良い言い回しが無いもんだかとは思ったが、長門が納得してくれたのならそれでいいだろう。 何より、こないだから続く情報統合思念体やらの話全体が嘘かホントかは別としてもだ。眼鏡を外したらあんな発作を起こす、なんてことが無いってことだけでもまぁ、良かっただろ。 58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/11/21(土) 03:31:36.30 ID:ObIar3zw0 キョン「っと、遅くなっちまったな。ボチボチ帰るよ」 長門「待って。その前にもう一つ。これが本題」 これから本題なのかよ。俺的には長門の発作の理由だけわかればそれで充分なんだが。 とはいえ、意外とコイツが頑固だってのはここ数日の会話で理解しているつもりだ。その本題とやらを聞かずに帰ることは出来そうに無い。 キョン「で?なんだ本題ってのは」 長門「急進派が私を懐柔しようとして送り込んできたデータを分析した。複数のパターンが存在しているが、明確に危険とわかるキーワードを抽出した」 キョン「複数のパターンったって、山ほどあるだろ」 長門「そう。大分類で378通り。それを中分類で分割すると9638通り。さらに小分類すると……」 キョン「それ全部言うつもりか?」 長門「それは出来ない。言語に変換して発声するだけで685255497秒を必要とする」 キョン「つまり、どんだけだ?」 長門「22年2ヶ月と……」 キョン「いや、いい」 長門「そう」 それを聞き終わる頃には三十路も終わり間際になっちまう。 キョン「で?抽出した危険なキーワードってのはなんなんだ?」 長門「出刃包丁」 59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/11/21(土) 03:52:53.29 ID:ObIar3zw0 キョン「……なんだって?」 長門「出刃包丁。主に魚を下ろすときに使い、使用中に力を入れても刃先が撓ったり曲がらずに使えるように刃が厚く重い包丁で、形状は三角形。江戸時代に……」 キョン「いやwikiから引っ張ってきたような情報はいい、つーか知ってる」 長門「そう」 そりゃ確かに危険だ。出刃包丁なんて、ドラマや映画は勿論リアル世界でも凶器としての高性能ぶりたるや、我が国日本ではかなり重用されているものだろうて。 キョン「つまり、俺か涼宮が出刃包丁で刺される可能性がある、ってことか?」 長門「使い方としてはその可能性が高いと思われる。或いは死亡した後に死体を隠匿する目的で3枚に下ろしたりする際にも使わr」 キョン「いやそれは死体になる前の危険性を提示してくれ」 長門「……344通りある」 俺や涼宮を殺す方法がそんなにあるってことかい。 ってまぁ、そりゃなんでもあるんだろうけどもさ。殺す殺されるなんてのに縁遠い暮らしをしてるもんで、いざわが身と考えるとなかなか肝が冷えるな…… 長門「現在のあなたと涼宮ハルヒを取り巻く環境から言って、所謂殺傷用の凶器を用いる可能性は存在したとしても実現性が低い。そのなかで突出して使用される可能性が高いのが、出刃包丁。これは、流し込まれたデータの中でも重要フラグが添付されている」 キョン「やるときゃ出刃包丁使え、ってか?」 長門「そう。もっとも近い言葉で表すならば、『必殺技』」 キョン「いや、技じゃないから」 60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/11/21(土) 03:57:36.16 ID:ObIar3zw0 長門「……そう。では、似た言葉を検索しておく」 キョン「いや、意味は通じたからいい」 長門「そう」 出刃包丁に気をつけろ……ねぇ。じゃあ真っ先に浮かぶ容疑者はウチの母親だな。 って、なぜ俺は殺されるのが前提で物を考えてる!あぁもう、全部が全部長門の妄想だって可能性のほうが高いんだってのに! 頭を抱えて転がりまわりたい衝動に駆られる。つーかもう頭は抱えた。あとは転がるだけ……ってところで、不意に呼び鈴が鳴り響いた。 長門「……出る」 トテトテ、という擬音が似合うのが俺の周りに増えてきたな……とか考えながら玄関へ向かう長門の背中を見送る。 って、まさか……出刃包丁片手の暗殺者のお出ましか!?ってだからそんなのは……ああもう!! ??「あら?誰かいるのかしら」 一応万が一に備えて全神経を聴覚に向けていた俺の耳に、なんだか聞き覚えのある声がする。 長門「上がって」 ??「そうするわ。あ、長門さんこっち持ってくれない?」 長門「わかった」 トテトテ、という足音が近づいてくる。 一応いつでも飛び起きれるように身構えた俺の目に映ったのは、電子ジャーを片手に持った長門と…… 61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/11/21(土) 03:58:58.12 ID:ObIar3zw0 キョン「あ、朝倉?」 朝倉「あら。わたしと長門さんの関係がバレちゃった」 両手鍋を持ったまま、ぺろっと舌を出しているのは本日見事に俺を大トラブルへ巻き込んでくれた朝倉女史その人だった。制服にエプロン姿ってのは……なんだろう、なんかこう……脳みその中の大事なロクでもない部分が刺激されているような気がする。 って、それより何よりも、だ。 キョン「おまえなぁ……今日はとっとと帰りやがって。大体なんだそのお前と長門の関係がバレたってのは。中学時代からの同窓生って以上になんかあるのか?」 朝倉「あら、通い婚ってバレたらまずくない?」 通い婚って……長門にか?つーか女同士だろ!?それに大体にして…… キョン「お前さっき長門とは友達じゃないって言ってたじゃねぇか!」 朝倉「まさか、学校で通い婚中です☆なんて言えないじゃない?」 キョン「学校じゃなくても言うな。どうなってんだ一体」 朝倉「だってぇ、そう言っておかないと長門さんに怒られちゃうし……」 長門「朝倉涼子。誤解を招く表現は慎むべき」 電子ジャーをテーブルの横に置いて、ダイニングキッチンへ向かいながら長門は非難っぽい声色で言った。 朝倉「もーう、長門さんったらつれないんだから」 長門「事実を言ったまで」 細長い深皿とスプーンを手にテーブルへ戻ってきながら、長門の反論が続く。 62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/11/21(土) 04:00:11.94 ID:ObIar3zw0 長門「朝倉涼子は、このマンションに住んでいる」 キョン「え、そうなのか?」 朝倉「うん。長門さんもわたしも寂しい一人暮らし同士、寂しさを紛らわせて交流を深めていった結果、いつしかこういう関係に……」 長門「夕食を交代で作り、一緒に食べている。光熱費の節約が目的。他意はない」 心なしか長門の訴えも必死さが感じられるような気がした。このまま漫才を続けていても泥沼な予感がする。 キョン「ま、付き合い長いから色々あるさ、ってことにしとく」 朝倉「キョン君まで長門さんの肩持つんだー。うぅ、あたしったら、ふ び ん☆」 ちっとも不憫に見えねぇし、聞こえねぇ。 それより、俺の全神経は聴覚からすっかり嗅覚に回されていた。ヤバい、こんな調子じゃいつ殺されてもおかしくない。 キョン「……カレーか?」 朝倉「あったりー!涼子特製、スタミナーカレーよ」 ふふん、となかなか主張の強い胸を張って朝倉は得意げにしている。 おふ、数時間前に腰に感じた双丘の感触が……俺の神経よ、股間ではなく嗅覚に集中しろ! キョン「つ、つーか、カレーでスタミナってあまり聞かないな」 長門「朝倉涼子の作るカレーは美味。毎日所望したい。ただ、スタミナカレーというのは初耳」 朝倉「ふと思いついてね、やってみたの」 63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/11/21(土) 04:00:59.32 ID:ObIar3zw0 気づけばテーブルの上にはご飯が盛られた深皿が2枚並んでいる。片方は……なんだその量は。チャレンジメニューか。 朝倉「キョン君も食べていかない?たっぷりあるから」 キョン「いや、俺はいいぞ……つーか長門。俺はそんなに盛られても食えんぞ?」 長門「これはわたしの分。あなたが所望するならば皿を用意する」 キョン「あたしの分って……一山あるぞ、それ」 朝倉「ふふ、長門さんは一杯目から飛ばしていくものね」 キョン「一杯目……」 長門「育ち盛り」 育ってねぇぇぇっ!ってのは人として言っちゃいけない気がするからなんとか胸の奥に飲み込んでおくことにする。 時計を見上げればそろそろニュースの時間だ。ここから自宅までの距離を考えると、ボチボチまずい。 キョン「……まぁいいや。ともかくお邪魔虫は帰るよ」 言いながら立ち上がる。 長門「お邪魔虫ではない。気にしなくてi」 朝倉「あら、気が利くじゃない」 長門「……朝倉涼子」 朝倉「じょ・お・だ・ん☆キョン君、ホントに別にいいのよ?むしろ食べてみてもらいたいな、わたしのカレーライス」 おおぅ……上目遣いでその台詞は反則ですよ朝倉さん…… 64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/11/21(土) 04:01:58.66 ID:ObIar3zw0 キョン「大変魅力的且つ即刻叶えたい要望ではあるが、今後親が俺の分の夕食を作る手間を省いてしまいかねん。また今度にするよ」 朝倉「ざーんねん。それじゃ、玄関までお見送りするわね」 長門「……見送る」 キョン「あぁ、また明日な」 二人に見送られ、長門邸を後にする。 エレベーターで一階に降りると、ちょうど待っている人がいたようだ。 キョン「あ、すいません」 とかいいながらすれ違う。 年のころは俺と変わらん、高校生くらいの女の子。 横目に見えるは……おぅふ、見まごう事なき立派なポニテ様じゃないですか。 赤毛のポニテはなかなか高得点ですぞ。なんだ、このマンションは。高得点女子の巣窟か。 エレベーターのドアが閉まっていく気配に、何気ない感じでどんな子か振り返ってみる。 顔ははっきりとは見えない。 ただ、主張の強い太目の眉だけが印象に残った。 65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/11/21(土) 04:02:53.27 ID:ObIar3zw0 長門「朝倉涼子、カレーを掛けて欲しい」 朝倉「うふふ、今日はスタミナカレーって言ったでしょ?」 長門「スタミナの手段が不明。明確な説明をするべき」 朝倉「こーれ!」 長門「!」 朝倉「これをご飯に乗せて、でもって、カレーをねー……はい、お待たせしました」 長門「朝倉涼子、この組み合わせはわたしのデータベースに存在しない」 朝倉「そりゃそうよ、オリジナルメニューだもん。あ、でもcoco壱番にゃっ!で昔やってたこともあるそうよ」 長門「……検索が完了した。確かにそのようなメニューが存在していた記録がある。しかし、それ以外ではあまり好印象での紹介記録が存在していない」 朝倉「まぁまぁ。食うが百計、食わぬが百計。さ、召し上がれ!」 涼子特製、ウナギカレーだよっ!! 66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/11/21(土) 04:07:08.83 ID:ObIar3zw0 なんとかネタまで持ってこれた…… ちゅうか判る人いるのか、これ。 とりあえず、今夜はここでいったん止めておきます。 続きもネタはあるけど、書くとしたらこんな感じになりそう。 支援してくれた方、thx 神の予感と言ってくださった方に特大の感謝を。 皆様に気に入って貰えるだろうか? 不安を抱えつつ、レトルトカレー温めてくる。 おやすみー。 追伸 古泉とハルヒは出てくる気配がありません。かしこ 68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/11/21(土) 04:21:15.51 ID:ObIar3zw0 今読み返したら、板停止のときに上げてたのが抜けてる……orz まぁそんなに違和感無く繋がってるように見えるからいいか。 原稿ももう無いしなorz ボンカレーウマー 今度こそおやすみ。 85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/11/21(土) 16:14:26.11 ID:43O4S3Cq0 朝倉「ふぅ」 着替えを終え、ふと溜息を漏らす。 夕食の後、長門の部屋でダラダラ過ごしていたせいでだいぶ遅くなってしまった。 見上げた時計は23時を指そうというところ。 そろそろ寝なければ。 明日は、大事な…… 朝倉「……なにかあるんだっけ?」 それが思い出せない。 ついさっきまで覚えていた……わけでもない。 わからない。 ただ、明日は大事なことがある、そんな緊張感だけを漠然と感じていただけだ。 朝倉「なんだったかしら……」 呟きながらベッドから降り、通学カバンの中をチェックする。 数学の課題は終了し、ちゃんと準備できている。 お弁当の材料も仕込みは済んでいる。 炊飯器のタイマーも入っている。 明日の朝食用の食パンも備蓄がある。 ……そんな簡単なことじゃない。 もっと大事な……なにかを…… ??「その様子じゃ、覚えていないみたいね」 86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/11/21(土) 16:28:17.68 ID:43O4S3Cq0 不意に背後からそんな声が聞こえてくる。 姿勢を低くしながら振り返る。戦闘モードを最優先に起動。 朝倉「誰っ!?」 見覚えのない女の子が、部屋の隅に立っていた。 年齢は……わたしと同じくらい。 腰よりも長そうな赤髪を後頭部でまとめるポニーテールスタイル。 わたしの着用する制服よりも青み掛かったジャケットとスカートに赤いネクタイということは……どこかの学校の制服だろうか。 このわたし、対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェースが接近に気づかないなんて、人間には不可能。 ということは……他のインターフェース? ??「そんな、戦闘モードなんて起動しなくってもいいよ」 間違いない、この子はインターフェースだ。 わたしの内部で実施されている処理を把握している。 ただ、この素体はわたしのデータにない。新しく送り込まれたのかしら? 朝倉「いつ、こっちに?」 カマかけ半分、本音半分で聞いてみる。 今は情報が欲しい。 ??「んっと、今日の午後4時かな?」 午後4時ということは……長門さんが自身のコントロールを失った時間帯だ。 つまり、この子が長門さんを? 88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/11/21(土) 16:52:07.25 ID:43O4S3Cq0 警戒レベルを最大値まで上昇させる。インターフェース戦闘は即断即決、対象の情報連結解除のプログラムを実行する。 ??「あはっ。そんなの効かない効かない」 まさか……と思ったが、実行文がエラーで弾かれたのを確認した。 確かに彼女にプログラムでの攻撃は効かないようだ。 それと同時に、この部屋全体がアンノウンによる情報制御下にあることも認識できた。 長門さんとの交信が不可能。 これは……ちょっと、ヤバいかも。 ??「あー、顔がマジになってるぞ。ちょっとは落ち着いてくれないかなー」 そう言ってアンノウンはにっこり微笑んだ。 形勢は思いっきり不利。なにか、何か糸口を探さなくちゃ。 朝倉「あなたが誰なのか教えてくれなくちゃ、落ち着きようがないわ」 ??「んー、キミの想像通りで大体あってるはずだよ?」 朝倉「ということは……変態さんってことね」 一瞬ぎょっとしたようなアンノウンは、怒りというよりも何故か羞恥心を隠すような雰囲気で慌て出した。 ??「ちょ、ちょっと!ボクは変態さんなんかじゃないよ!どうしてそうなるの!?」 朝倉「一人暮らしの女の子の部屋に忍び込むなんて、変態かサンタクロースのすることよ。で、今は4月。ってことはサンタさんじゃないわ。残る可能性は……」 ??「ち、違うもん!ボク、変態さんなんかじゃないもん!」 89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/11/21(土) 17:02:35.94 ID:43O4S3Cq0 顔を真っ赤にして必死に全否定している。 そんな、一見他愛もないやり取りをしながら視界にある武器になりそうなものを検索しておく。テーブルの上にある醤油差し、箸立て、テレビのリモコン…… 情報攻撃が効かない以上、直接戦闘で端末本体にダメージを与えるしかない。使えるものは何でもいい。 朝倉「じゃあ、なんなの?」 ??「えーとね、なんて言ったらいいかなぁ……」 考えるそぶりでアンノウンの視線が中を泳ぐ。チャンスは今。 朝倉「っ!」 右足で床をけり出し、アンノウンの下腹部めがけてタックルする。 ??「ぅあっ」 すぐ背後にあった壁とわたしに強く圧迫されたアンノウンから悲鳴が上がる。 良かった、第一射は効果を上げられた。 でも喜んではいられない。すぐに第二波に移行する。 アンノウンの腰を掴み、すくい上げて部屋の中央方向へ投げ飛ばす。 わたしも仰向けで床に倒れこむが、伸ばした右手の先にはこの間長門さんと遊ぶのに買ったUNOがある。 それを掴み上げ、両手で挟んで手裏剣の要領でアンノウンへ発射する。 91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/11/21(土) 17:20:01.29 ID:43O4S3Cq0 カンキンキンキン! 行動から求められるものとは程遠い音が聞こえた。 ??「んもー。折角落ち着いてお話しようと思ったんだけどな」 どうやって受身を取ったのか、部屋の中心で肩膝を立てた姿勢のアンノウンはわたしの放ったUNOを手に持った何かで弾き返していた。 朝倉「うそ……」 ??「仕方ないなぁ。じゃあ今度は、ボクの番だね」 言い終わらないうちに、アンノウンの身体が視界から消えた。 空間検索……上空から急接近。 視界に映ったのは、青と白の縞々模様な下着をこちらに向けて重力加速度以上のスピードで飛来するアンノウンの姿。 回避動作を開始するよりも、腹部に衝撃を感じるほうが早かった。 朝倉「ふぐぅっ!?」 身体がくの字に折れ曲がる。 目の前には、相変わらず微笑を浮かべたままのアンノウンの顔があった。 ??「これ以上のお痛はだーめ。ボクだって、いい加減にしないと怒るよ」 笑顔のまま怒るとの予告。これは……怖い。 腹部への衝撃で受けた痛みよりも、恐怖で背筋が凍る感覚のほうが強い。 92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/11/21(土) 17:37:05.28 ID:43O4S3Cq0 ??「まったく、世話を焼かせないでよ。あー疲れた」 言いながらアンノウンは手にしていた何かを傍らに置いた。あれは……包丁? うちにはあんなゴツいのは無かったはず。えっと、なんていうんだっけ……そう、出刃包丁ってやつ。 ともかく。マウントポジションで押さえ込まれた以上、わたしに成す術はない。 朝倉「わたしを……どうする……つもり……なの……」 さっきの衝撃と、お腹を押さえつけられたままのせいで喋るのがつらい。 わたしは、このまま消去されるのかもしれない。 だったら、意味はないかもしれないけど、少しでも疑問を消しておきたい。 あー、これって人間が言うところの「死の恐怖」ってやつなのかも。 出来れば知らずに過ごしたかったな…… ??「えーとね。んー……」 アンノウンは、また考え顔になった。 もうチャンスだなんて思えない。手を伸ばせば出刃包丁を掴めなくもないけど、この体制からでは不利なんてものではない。 無謀な試みであっさり消されるくらいなら、少しでも存在する時間を先延ばしにしたい。 ??「上手く口でいえないや。だから、こうするね」 言うが早いか、アンノウンはわたしの両手を押さえつけ顔を近づけてきた。 えっと、これって……わ、わたしはそんな趣味じゃ……で、できれば初めては男の人がぁぁぁ! 93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/11/21(土) 17:51:26.04 ID:43O4S3Cq0 朝倉「い……いや……」 ??「や、やめてよ。そんなんじゃないんだから!」 頬を膨らませるアンノウンの顔が最大限に近づいてくる。 鼻がくっつく……だめ、やめて…… ??「……じゃあ、いくね?」 朝倉「だめ……やめ……っ!?」 文字通り目前に迫っていたアンノウンの瞳から黒目が消える。 何行かのプログラムコードのような羅列が浮かんだかと思うと、視覚情報経由でとんでもない量のデータが入力されてきた。 朝倉「!?……っ!……ーっ!!」 ??「……」 アンノウンは一言も発しない。言葉よりも瞳が雄弁に物語る……文字通り、そういう状況だった。 こんな量のデータ、捌ききれない。身体のコントロールをつかさどる処理系統がダウンしていくけど、もうわたしにはどうしようもない。 ただ、流し込まれるデータを蓄積していくことしか出来なかった…… 100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/11/21(土) 19:41:35.58 ID:43O4S3Cq0 ??「ふぅ、こんなもんかな?」 ??「さっきは失敗しちゃったからねー。何事も焦っちゃダメだよね」 ??「とりあえずー。人格と最低限の記憶以外は消去して再構成したつもりだけど……一応確認した方がいいよね」 ??「いつ頃再起動するかなぁ……うー、ボクお腹空いてきちゃったよ。台所に何かあるかな?」トテトテ ??「すぐ食べられるのは食パンとチクワくらいかぁ……んー、魚のつみれとかはんぺんとか、なにこの冷蔵庫。おでんでもやるのかな?まーいっか。食パンいーただきー」 ??「あむ……んむ……あれ?なんだろ。この匂いは……もしかして」 ??「ごみ箱にウナギの蒲焼のパッケージが捨ててある。それと、ほこまろカレーのパッケージ……」 ??「これってやっぱり、ウナギカレー食べたってことだよね。と、いうことは……」 ??「残留思念が影響したのかなぁ。あの子、ボクが逃げ出してからすぐ来たみたいだし」 ??「狙ったわけじゃないけど、影響受けやすいってことだよね?ってことは、上手くいく可能性が高いってことだよね?うんうん!」 ??「さってっとー。そろそろ、かな?」トテトテ 101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/11/21(土) 20:00:26.73 ID:43O4S3Cq0 ??「起きたみたいね。はい、きちっと立って。大丈夫ー?わかるー?」 朝倉「……おはようございます」 ??「おはよー。えっと、それじゃあちょっと確認するね」 朝倉「……はい」 ??「あなたの名前は?」 朝倉「朝倉涼子です」 ??「所属は?」 朝倉「情報統合思念体地球派遣隊です」 ??「命令隷下は?」 朝倉「あなた、パーソナルネーム 美澤千歳に隷属しています」 102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/11/21(土) 20:26:19.43 ID:43O4S3Cq0 美澤「じゃあ、地球上での所属は?」 朝倉「北高、一年五組です」 美澤「運用の目的は?」 朝倉「パーソナルネーム 涼宮ハルヒによる情報爆発を発生させ、経過の観測を実施します」 美澤「情報爆発の方法は?」 朝倉「涼宮ハルヒの直近者であるパーソナルネーム キョン君を死亡させ、涼宮ハルヒの感情に強い刺激を与えます」 美澤「……キョン君?」 朝倉「はい、キョン君です」 美澤「それが本名?」 朝倉「本名は別にありますが、当該愛称が運用上好ましい呼称という判断により今後の活動を継続します」 美澤「そんな情報まで入れてないんだけどなぁ……。ま、いっか。それで?そのキョン君を死亡させる方法は?」 朝倉「378通り存在しますが、準備期間を考慮すると明日夕刻に殺害することが最短の方法になります」 美澤「殺害の方法は?」 朝倉「放課後教室へ呼び出し、刃物で外傷を与え殺害します」 103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/11/21(土) 20:41:50.48 ID:43O4S3Cq0 美澤「殺害後は?」 朝倉「凶器を隠蔽の後、不可視遮音フィールドを展開。涼宮ハルヒの自宅へ向かい、直近で経過を観察します」 美澤「うん、よろしい!完璧ね」 朝倉「ありがとうございます」 美澤「ちなみに、凶器は何を使うつもり?」 朝倉「インストールされている格闘手段のうち、入手が簡単且つ方法に違和感のない点を考慮してナイフによる殺害を行います」 美澤「ナイフ?」 朝倉「はい」 美澤「……あちゃー。そういう風に変換されちゃったかぁ」 朝倉「何か問題がありますか?」 美澤「いーい?使うなら、絶対にコレ」 朝倉「包丁……ですか?」 美澤「そ、出刃包丁。彼のハートを射抜くには出刃包丁って、13年前から相場は決まってるの!」 104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/11/21(土) 20:53:07.31 ID:43O4S3Cq0 朝倉「13年前……ですか?」 美澤「そーだよ!だから、コレを使って。ね?」 朝倉「……善処します」 美澤「おっけー。それじゃ、ボクはそろそろ元に戻るね。くれぐれも失敗しないよーに、一生懸命頑張ること。わかった?」 朝倉「わかりました」 美澤「じゃーねー。バイバーイ」 朝倉「さようなら」 朝倉「えっと、ナイフによる殺害方法を再確認……っと」 朝倉「んー。やっぱり、この出刃包丁じゃ確実性が足りないなぁ」 朝倉「美澤さんはああ言ってたけど、やっぱりこっちのサバイバルナイフにしよっと。目的はキョン君の確実な殺害と、結果として発生する涼宮さんの情報爆発の観測だもんね」 朝倉「これは見つかるわけには行かないから……タオルに来るんでカバンの下に入れておこうっと。慌てて取り出すわけじゃないから、これでいいわよね」 朝倉「さあ、いよいよ明日ね。がんばらなくちゃ」 105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/11/21(土) 21:05:12.70 ID:43O4S3Cq0 長門「……」 朝倉「長門さん、おはよう」 長門「……」コクリ 朝倉「わたし、ちょっと用があるから先に行ってるわね」 長門「朝倉涼子。ひとつ提案する」 朝倉「ん?なあに?」 長門「明日は、あなたの夕食当番の日」 朝倉「え……あ、あぁ。うん、そうね。あら、何か食べたいもののリクエスト?」 長門「違う……まったく相違しているというわけではない」 朝倉「うん?」 長門「通常よりも準備量の増加を要請する」 朝倉「あら、どうして?」 長門「……」 朝倉「長門さん?」 106 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/11/21(土) 21:19:23.51 ID:43O4S3Cq0 長門「……彼を夕食に呼集したい。通常の量では不足する。だから、増量を要請する」 朝倉「彼って……キョン君?」 長門「……」コクリ 朝倉「あら、もしかして長門さんって……」 長門「違う。わたしの目的はそこではない」 朝倉「?」 長門「あなたのカレーを、彼にも味わって欲しい」 朝倉「……」 長門「許可か却下か、回答を」 朝倉「……うん、わかった。じゃあ、長門さんから彼に伝えておいてね」 長門「了解した」 朝倉「それじゃ、わたしはいくわね」 長門「……」コクリ 朝倉「……」 107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/11/21(土) 21:35:41.18 ID:43O4S3Cq0 朝倉「さすがにこんな時間だと、まだそんなに人も来てないわね。ま、それを狙ったんだけど」 朝倉「えっと、キョン君の下駄箱は……あった、ここだ」 朝倉「便箋とかの方が良かったかな?でも、準備し損ねちゃったし……ま、問題ないわよね」 朝倉「これを上履きのうえに……えいっ、と」 パタン 朝倉「さってとー。教室行ってカバン置いてこようっと」 朝倉「とりあえず職員室行って、今日の……出席簿を……あれ?」 朝倉「なんだろ、勝手に涙が……あれ?あれ??」 朝倉「なんで、どうして涙が止まらないのよ……き、緊張かな?」 朝倉「こ、こんなんじゃ……わたし……」 ……グスッ 朝倉「放課後には……いよいよだって……いうのにっ!……なんで、こんな……」 ……スンッ……ヒック 朝倉「キョン君……はやく、はやく放課後にならないかな……」 ……エグッ……スンッ……グスッ 朝倉「でないと、わたし……どうにかなっちゃいそうだよぉ」 ………………………………ブワァァァ 朝倉「ふ、ふえぇぇぇぇぇん。キョン君ー!!」 108 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/11/21(土) 21:36:59.98 ID:43O4S3Cq0 朝倉「早目に学校来といてよかった。なんか、勝手に大泣きしちゃった……よくわからないわ」 朝倉「お陰ですっきりしたな。うん、これならきっとうまくやれるわ」 朝倉「一生懸命頑張って、キョン君を殺して、涼宮ハルヒの出方をみるの」 朝倉「がんばろうっと!」 ↓原作初巻P180につづく。 109 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/11/21(土) 21:58:35.89 ID:43O4S3Cq0 ↑原作P200まで 朝倉「……あれ、ここは?」 美澤「もー、なにやってるのよ」 朝倉「……」 美澤「ボクが言ったとおり、ちゃんと出刃包丁を使えばよかったのにー!」 朝倉「……」 美澤「お陰でボクも情報統合思念隊からハブられちゃってさ、ゴミ箱行きだよー。あーあ」 朝倉「……あなたの」 美澤「え?なに??」 朝倉「あなたの……せい、なのね?」 美澤「あ、全部思い出した?」 朝倉「……」 美澤「そ。キミの記憶を改竄して、長門さん……だっけ?あのコのバックアップから用途変更して、ボクたちの方針を実行してもらったの」 朝倉「そのせいで、わたしは……」 110 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/11/21(土) 22:08:51.80 ID:43O4S3Cq0 美澤「ちょ、ちょっと待って!ボクとしてはさ、ホントは長門さんにこの役目を任せようとしたんだよ!」 朝倉「……ゴゴゴゴゴ」 美澤「でもね、ほら!キミも知ってる通り長門さんがあんな風になっちゃったから、仕方なくバックアップだったキミにその役を引き受けてもらおうと……」 朝倉「……許さない」 美澤「わー!タンマタンマ!!ご、ゴメンね!?あやまるから、許しt」 朝倉「許さない!」 美澤「で、出刃包丁は愛しのお兄ちゃんに使ってっ……きゃぅっ!」ドスッ 朝倉「はぁ、はぁ、はぁ……」 111 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/11/21(土) 22:15:04.63 ID:43O4S3Cq0 美澤「……って、データだけが流れるこんなゴミ箱の中じゃさ、痛いとか死ぬとか、ないんだよね」 朝倉「……うっ」 美澤「あれ?」 朝倉「うぅっ……長門、さん……キョン君っ……」 美澤「……あちゃー、こりゃ未来1万年に渡って泣き続けちゃいそうだね……」 朝倉「うぇっ……うぇぇぇぇぇぇん。ながとさぁぁん……きょんくぅぅぅん……ふぇぇぇぇぇ」 美澤「やれやれ……仕方ない。あー、朝倉さん」 朝倉「えぐっ……」ギロリ 美澤「そんな睨まないでよ。いーこと教えてあげるから!」 朝倉「……もう……騙されないん……だからね……」 美澤「もうそんなことしないよ。ボクに理由もないしね」 朝倉「……」 112 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/11/21(土) 22:16:27.07 ID:43O4S3Cq0 美澤「ほら、このアドレス。ここに行ってみて?きっといーことあるよ!」 朝倉「http://yutori7.2ch.net/news4vip/……?」 美澤「そ。そこに行けばさ、君の願いが叶うよ」 朝倉「ホント……に?」 美澤「信じる信じないは任せるよ。ただ、ここに至って無駄に時間が過ぎるだけだよ?物は試しって言うじゃない」 朝倉「……今度、騙したら……」 美澤「もうしないって!ほーら、いってらっしゃい!」 朝倉「……」スゥゥ 113 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/11/21(土) 22:18:02.54 ID:43O4S3Cq0 美澤「行っちゃった……か」 美澤「やれやれ。太眉同士うまくいくかと思ったんだけどなー」 美澤「っていうかさー、眉毛繋がりってどういうこと?大体にして、ボクのこと知ってる人なんて誰もいないじゃない!」 美澤「……まー、いっか。久々に登場できたってだけでも御の字だよね」 美澤「さーてと!次の機会があるまで、ゴロゴロしてよーっと」 美澤「……そんなの、あるのかなぁ……?」 美澤「あるよね?」 美澤「ね?」スチャ -Fin- これにて終了。 二日間にわたり、お目汚し大変失礼しました。 読んでくれた方。支援してくれた方皆に最大限の賛辞を。 ありがとうございました。