佐々木「キョン、もうすぐ日本シリーズ第六戦が始まるよ」 1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/11/07(土) 18:06:02.95 ID:ruPjOg990 「ただいま」 「キョンくんおかえりー。あれれ? また佐々木ちゃんとデート?」 「そうさ、妹くん。日本シリーズが終わってしまえば、キョンに会う口実もなくなってしまうからね。今のうちってわけさ」  佐々木、デートネタには食傷気味だからスルーするとはいえ、なんだよ『今のうち』って……。 「佐々木、別に用事がなきゃ会わないような間柄でもないだろ。野球が終わったらそれまで、みたいな言い方するなよ」 「あたしももっと佐々木ちゃんと遊びたい〜」 「妹くんにまでそう言われてしまうと辛いところだね。まぁ僕としては嬉しい反応ではあるが」 「それなら俺に勉強教えてくれよ。お前が教えてくれるならどんな大学にだって入れそうだしな」 「ふむ。他者への教授によって自身の理解度も上がるというし、悪くない提案だ。考えておこう」  しかし、乗り気であるような回答とは裏腹に、佐々木の顔には寂寥の色が滲んでいた。ったく、なんて顔してんだよ……。 3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/07(土) 18:07:26.63 ID:ruPjOg990 「しかし、キョン。こんなものをもらってしまって良かったのかい?」  妹にせがまれ、本日の戦利品を披露させられていた佐々木が、申し訳なさそうに口を開いた。  『こんなもの』というのは、誕生石をあしらったシルバーリングのことである。  ガキ向けのショップで購入したものだから高いものではないが、高校生にとって安くない買い物であるのもまた事実だ。  佐々木が気にするのも当然だろう。でもな、佐々木、金に意思はないが、使う人間には意思ってものがあるんだよ。  ハルヒのコーヒー代として消えるより万倍有意義な買い物だったさ。――長門や朝比奈さんは別としてだが。 「別に構わねえよ。ただ俺はプレゼントに詳しくなくてさ、もし失礼があるようなら外してもらっていいからな」 「失礼だなんて、そんなわけないじゃないか!」  珍しく佐々木が声を張り上げていた。 「すまない、僕としたことが少し昂奮してしまったようだね……。でも、キョンからのプレゼントは本当に嬉しかったのだ」 「男の子から、このような贈り物をもらうなんて初めてのことだったし、それに――」  薬指に嵌められた指輪を見つめながら、言葉を続ける佐々木。  その表情はどこかはにかんでいるようで、見ているこちらまでムズムズとした気持ちにさせてしまう。 「それに、成人するまでに誕生石の指輪をプレゼントされた女の子は、幸せな結婚ができるのだそうだ」 「できるだろ」 5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/07(土) 18:08:54.43 ID:ruPjOg990  思わず即答しちまった。  だってそうだろ? 才色兼備を地で行く奴なんだ。世が世なら、かぐや姫以上の求愛を受けてもおかしくないはずだ。 「キョン……、それはどういう意味だい……?」  どういう意味も何も、そのまんまだよ。佐々木は幸せな結婚ができるってことだ。  しかし、こいつは自信に欠けるところがあるからな、もう少ししっかりと言った方がいいのかもしれない。  俺の意見なんて大して役に立たないと思うが、それでも他者からの率直な意見が後押しになったりするもんだからな。 「佐々木、お前は幸せな結婚をして、幸せな家庭を築くよ。俺が保障してやる」 「……うん」  どういうことだろう、先ほども赤面していた佐々木が、ますます顔を赤らめている。  佐々木、大丈夫か? 耳まで真っ赤だぞ。 「え? あ、僕は大丈夫だよ。あ、あのさ、キョン……、その……これからもよろしくね……」  この場面で「ありがとう」ならまだ理解できるが、佐々木はどうして「よろしく」なんて返事をしたんだろうか……。  ま、せっかくいい空気になったんだから、話を合わせた方が得策だよな。というわけで、俺こそよろしくな、佐々木。 「もしもしハルにゃん!? たいへんだよ! キョンくんがね、佐々木ちゃんにプロポーズしちゃったの!」  どうして妹までおかしくなってるんだ……? 6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/07(土) 18:09:34.53 ID:ruPjOg990 ※このスッドレは『涼宮ハルヒの分裂』に登場した僕っ娘『佐々木さん』がファイターズを応援するスレです。 ※原作『涼宮ハルヒの分裂』までのネタバレがあるかもしれません。アニメだけしか観ていない人はご注意ください。 ※話の流れは実際の試合展開に順じます。   → フジテレビ系列の地上波などで視聴できるようです。 【主な登場人物】  ・佐々木さん:北海道日本ハムファイターズファン  ・キョン:読売ジャイアンツファン 10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/07(土) 18:14:44.45 ID:ruPjOg990  リビングのソファに腰を落ち着けた俺たちだったが、表情はなぜか優れなかった。  まぁコアラのような体勢で俺にしがみついているのはいつも通りなのだが……。 「佐々木、どうかしたのか?」 「どうもしないさ。ただ――」  そうつぶやいた佐々木は、俺に絡めた腕に一層力をこめる。 「ただ、これで終わりかもしれないと思うと、少し苦しいのだ……」 「日本シリーズは終わるかもしれないが、別にこれで何もかもが終わりってわけじゃないだろ」 「うん、そうだね……」 17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/07(土) 18:20:51.41 ID:ruPjOg990 一回表 公0−0巨 チェンジ P:武田勝 坂本 二飛 松本 二ゴ 小笠原 右飛 「先発はダルビッシュじゃないのか」 「順当に武田勝だったね。僕としてはほっとしているよ」 「第二戦で好投してたじゃねえか、それなのに出なくて安心したのか?」 「無理をして選手生命が短くなってしまっては元も子もないのだ」 「それに……、ほら、武田勝もきちんと抑えてくれたよ」 「なるほどな……」 22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/07(土) 18:25:08.83 ID:ruPjOg990 一回裏 公0−0巨 無死一塁 P:東野 賢介 右安 「ふふ、早速ヒットとはいい展開だね」 「だから札幌はイヤなんだよ……」 「僕は嬉しいよ。この大音声の応援は心強いのだ!」 25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/07(土) 18:27:13.53 ID:ruPjOg990 一回裏 公0−0巨 一死一塁 P:東野 森本 捕邪飛(バント失敗) 「ふむ……、バント失敗とは稀哲らしくもない」 「こっちとしては助かったけどな」 「僕としてはジャンプを阻止されてしまったことが辛いよ」  ぴょんぴょん跳ね回る佐々木が見られないのは、俺もちょっと残念だけどな 31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/07(土) 18:29:38.14 ID:ruPjOg990 一回裏 公0−0巨 ニ死一ニ塁 P:東野 稲葉 みのさん 信二 投手強襲安打(東野うずくまる) 「稲葉は調子悪そうだな」 「東京ドームのホームラン以来ヒットが出ていないのではないだろうか……」 「次は四番の高橋か……って、おい」 「起き上がれないようだね……、少し心配だよ」 「大丈夫なのか……?」 41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/07(土) 18:33:37.44 ID:ruPjOg990 一回裏 公0−0巨 ニ死一ニ塁 P:東野 → 内海 スレッジ 「おいおいおい、ピッチャー交代かよ」 「ふむ、東野投手が心配だよ……」 46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/07(土) 18:35:31.62 ID:ruPjOg990 一回裏 公0−0巨 チェンジ一ニ塁 P:内海 スレッジ 一ゴ 「いろいろあったが、なんとか抑えてくれたか」 「なんとも見ごたえのある試合だね……」  まったく、俺も同感だよ……、一回からなんて試合してんだ……。 54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/07(土) 18:41:30.56 ID:ruPjOg990 ニ回表 公0−0巨 一死二塁 P:武田勝 ラミレス 二ゴ 亀井 中二 「亀井はよく合わせたな」 「そうだね、ツーベースでもそうなのだが、その前のインコースも巧く捌いていたね」 「亀井には期待できそうだな」 「一昨日の悪夢が蘇るよ……」  佐々木、顔を青くするにはまだ早いぞ。 61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/07(土) 18:43:45.96 ID:ruPjOg990 ニ回表 公0−1巨 ニ死ニ塁 P:武田勝 谷 投ゴ 阿部 中二(フェンス直撃) 「よし、これならランナーは……あれ?」 「すげえな、三塁に進んじまった」 「ランナーに目を向けていたというのにね……」 「そして、阿部か――よっしゃ! ナイスヒットだ!」 「先制されてしまったか……、困ったものだね……」 63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/07(土) 18:47:10.25 ID:ruPjOg990 ニ回表 公0−1巨 チェンジニ塁 P:武田勝 スンヨプ からさん 「三振かよ、もう一点欲しかったところなんだけどな」 「こちらとしては一点で済んでよかったと喜ぶべきなのだろうね」 「東京ドームだったら阿部の2ランだったろうしなー」 「やれやれ、札幌でよかったよ……」 66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/07(土) 18:50:03.98 ID:ruPjOg990 ニ回裏 公0−1巨 一死一塁 P:内海 小谷野 右飛 糸井 左安 「小谷野もそうだが、糸井も当たっているね」 「連打にならなくて良かったぜ……」 「先制されてしまったのだ。なんとしても追いついて欲しいところだね」 69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/07(土) 18:52:03.53 ID:ruPjOg990 ニ回裏 公0−1巨 チェンジ一塁 P:内海 鶴岡 みのさん ニ岡 中飛(松本好守!) 「見逃し三振で落ち込む坂田師匠もかわいいな」 「キョン、僕を差し置いてそのような発言は得心できかねるよ……」  佐々木、怖い顔してるぞ……。 71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/07(土) 18:53:39.43 ID:ruPjOg990 ニ回裏 公0−1巨 チェンジ一塁 P:内海 ニ岡 中飛(松本好守!) 「しっかし、松本よく捕ったな」 「後逸すれば間違いなく一点入る状況だからね。これは褒めるしかないよ」 「松本だけはエラーしてなかったしな。よくやったぜ!」 76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/07(土) 19:00:38.95 ID:ruPjOg990 三回表 公0−1巨 チェンジ P:武田勝 古城 遊直 坂本 右飛 松本 二ゴ 「三凡かよ」 「うん、勝の調子もまずまずだね。連打に注意すれば充分勝機はあるよ」 「最終戦までいったらおもしろいな」 「ふふ、敵チームとは思えない発言だね」 「うるさいぞ……」  俺だってこうしてるのは嫌いじゃないんだよ。 82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/07(土) 19:05:09.30 ID:ruPjOg990 三回裏 公0−1巨 ニ死一塁 P:内海 賢介 左飛 森本 二ゴ 稲葉 右安 「うん! 稲葉さんに当たりが戻ったね!」 「第二戦でもツーアウトからだったからな……、ここは抑えてくれ……っ!」 「ふふ、信二は好調なのだよ、キョン」  そんなに嬉しそうな顔をするな、佐々木。 84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/07(土) 19:06:53.32 ID:ruPjOg990 三回裏 公0−1巨 チェンジ一塁 P:内海 信二 遊ゴ 「ふむ、なんとも残念な当たりだ」 「緊急登板だった割に、内海もよく投げてくれてるぜ」 「こちらとしては歯がゆい限りだよ……」  そんなに悲しそうな顔をするな、佐々木。 86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/07(土) 19:08:56.24 ID:ruPjOg990 四回表 公0−1巨 一死 P:武田勝 小笠原 右飛 「ああっ!」 「よし、入れっ!」 「ふぅ……、稲葉さんが捕ってくれたね……」 「東京ドームだったらな……」 「札幌でよかったよ……」 89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/07(土) 19:10:48.75 ID:ruPjOg990 四回表 公0−1巨 ニ死 P:武田勝 ラミレス 中飛 「ドームだったらっ!」 「札幌でよかった……」 96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/07(土) 19:14:16.41 ID:ruPjOg990 四回表 公0−1巨 チェンジ P:武田勝 亀井 遊直 「また三凡かよ」 「こちらとしては三者凡退とは思えない攻撃を見せられた気分だよ……」  佐々木がそれだけ衰弱してるんだもんな、日ハムとしては冷や汗ものだったのかもしれない。 109 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/07(土) 19:24:16.16 ID:ruPjOg990 四回裏 公0−1巨 ニ死二三塁 P:内海 スレッジ からさん 小谷野 よんたま 糸井 左安 鶴岡 犠打 「やったやった! よく打ったよ糸井!」 「次は坂田師匠か……。って、ワンナウトから送りバントかよ!」 「前打席のニ岡は芯で捕らえていたからね。タイムリーを期待したいよ!」 113 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/07(土) 19:28:11.56 ID:ruPjOg990 四回裏 公0−1巨 チェンジ二三塁 P:内海 ニ岡 二ゴ 「よっしゃ! 内海よくやった!」 「そんなぁ……」  佐々木がえらく凹んじまったな。すこし慰めておくか……。 「むぅ……」  子供にするみたいに頭をなでたから起こられるかと思ったんだが、意外にも受け入れられたようだ……。 119 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/07(土) 19:33:03.29 ID:ruPjOg990 五回表 公0−1巨 チェンジ P:武田勝 谷 三ゴ 阿部 一ゴ スンヨプ 左飛 「なんかあっさりすぎないか……?」 「勝っているのだから別にいいではないか」  別にいいってひどい言い方だな……。 「――それより、先ほどのをもう少し続けてもらいたい……」  からかい半分に撫でたんだが、気に入られてしまったようだ……。 121 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/07(土) 19:34:23.74 ID:ruPjOg990 五回裏 公0−1巨 無死一塁 P:内海 賢介 右安 「よし! 賢介よく打ったよ!」  佐々木の髪ってサラサラなんだな。 123 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/07(土) 19:35:20.38 ID:ruPjOg990 五回裏 公0−1巨 一死ニ塁 P:内海 森本 犠打 「うん! 稀哲いいバントだよっ!」  髪からいい匂いがするな、これってシャンプーの匂いか? 134 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/07(土) 19:39:00.47 ID:ruPjOg990 五回裏 公0−1巨 ニ死ニ塁 P:内海 稲葉 みのさん 「うう、稲葉さんドンマイだよ……」  佐々木がテレビを見て何か喋っているが、どうにも佐々木の髪から目が離せない。  これが髪の魔力というものなんだろうか……。 150 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/07(土) 19:44:49.50 ID:ruPjOg990 五回裏 公0−1巨 チェンジニ塁 P:内海 信二 みのさん 「そんな……、信二まで見逃し三死んだなんて……」  それなりのピンチだったようだ……。危ねえ、佐々木の髪に惹きつけられて気付かなかった……。 「佐々木、まだまだ中盤だ。そんなに落ち込むなよ」  あくまで佐々木を慰めるために、頭を撫でてるんだからな。  決して髪に触りたいとかいう下心があるわけじゃないんだ。 153 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/07(土) 19:50:58.00 ID:ruPjOg990 六回表 公0−1巨 ニ死一塁 P:武田勝 古城 一ゴ 坂本 二飛 松本 左安 「よし、これで三凡は免れたな」 「えっ、あぁ、ホントだ……」  佐々木、頭を撫でられてるからとはいえ、お前までぼんやりするんじゃない……。 169 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/07(土) 19:53:06.05 ID:ruPjOg990 六回表 公0−2巨 ニ死二塁 P:武田勝 小笠原 右安(稲葉ジャッグル) 「ヒットか、これで一三塁――って、マジか。こりゃラッキーだ」 「そんな、稲葉さんがジャッグルするなんて……」 「流れはこっちにあるみたいだな」 「ただでさえ悪い流れなのに……」 173 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/07(土) 19:55:18.68 ID:ruPjOg990 六回表 公0−2巨 チェンジ二塁 P:武田勝 ラミレス 一邪飛 「…………」  好きな選手のミスで失点したということもあり、佐々木はかなり落ち込んでしまったようだ。  佐々木、もう少し元気出してくれよ。俺は頭を撫でてやることしかできないがな。 176 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/07(土) 19:58:42.13 ID:ruPjOg990 六回裏 公0−2巨 一死 P:内海 スレッジ 一ゴ 「ここで内海を交代とはね」 「抑えてたってのに代えるのか、なんかもったいないな」 「流れを変えるきっかけとしてもらいたいところだね」  これで流れが変わったらシャレにならないぞ……。 181 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/07(土) 20:00:57.29 ID:ruPjOg990 六回裏 公0−2巨 一死一塁 P:内海 → 豊田 小谷野 中安 「よしっ! 小谷野はいいね!」 「おいおい、マジかよ……」 183 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/07(土) 20:02:36.59 ID:ruPjOg990 六回裏 公0−2巨 ニ死一塁 P:豊田 糸井 右飛 「おいっ!」 「ああ、伸びなかったね……」  外野フライで焦っていた佐々木の気分が少しわかった気がするぞ……。 187 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/07(土) 20:04:32.15 ID:ruPjOg990 六回裏 公0−2巨 ニ死一ニ塁 P:豊田 鶴岡 右安 「やったやった! 鶴岡が続いたよっ!」 「坂田師匠のくせにやるじゃねえか……」 「ふふ、キョンの好きな鶴岡に打たれたのだ、悪い気分ではないだろう?」  それとこれとは話が別なんだよ……。 198 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/07(土) 20:09:45.41 ID:ruPjOg990 六回裏 公0−2巨 チェンジ一ニ塁 P:豊田 ニ岡 二ゴ 「ヒット八本で無得点とはね……、お手上げとはまさにこのことだ……」  佐々木らしくもないな。お前はすぐに悲観するが、勝負を諦めたりしなかっただろ? 「まったく、キョンに諭されてしまうとはね。ありがとうと言わせてもらうよ」  俺だって昨日は諦めなかった。そして逆転してくれたんだよ。  って、自分で悪いフラグを立ててる気がするな。何やってんだよ……。 201 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/07(土) 20:11:57.18 ID:ruPjOg990 七回表 公0−2巨 一死ニ塁 P:武田勝 亀井 右安 谷 犠打 「よし! ナイスバントだそ、谷!」 「なんとしても抑えてもらいたいところだよ」 207 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/07(土) 20:16:33.45 ID:ruPjOg990 七回表 公0−2巨 チェンジ三塁 P:武田勝 阿部 一ゴ スンヨプ 二ゴ 「うん、よく抑えたね」  流れから見ればあっさり追加点でもおかしくなかったんだけどな。  ま、佐々木に聞かれたら欲張りすぎだって窘められそうだから黙っておくか。 216 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/07(土) 20:22:28.20 ID:ruPjOg990 七回裏 公0−2巨 二死 P:山口 賢介 右安 森本 一併殺 「いい流れだね。ここは是が非でも点を取らなければ!」 「山口だって実績があるんだ。抑えてくれるはずだ」 「そんな……、併殺だなんて……」  この試合の流れを象徴してるみたいだな。 220 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/07(土) 20:27:08.62 ID:ruPjOg990 七回裏 公0−2巨 チェンジ P:山口 稲葉 投ゴ 「うん! 稲葉さんドンマイドンマイ!」  明るく振舞う佐々木だが、無理をしているのは明白で少し痛々しく感じられてしまう。  立場上、俺ができることは少ないが、やれることはやっておかないとな。 「あっ……」  佐々木の柔らかな髪が掌に心地よい感触を与えてくれる。  うん、佐々木も少し落ち着いてくれたようだ。 227 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/07(土) 20:32:50.53 ID:ruPjOg990 八回表 公0−2巨 ニ死一ニ塁 P:武田勝 古城 左飛 坂本 中安 松本 犠打 小笠原 敬遠 「ラミレスとの勝負を選んだのだね」 「小笠原には前の打席でヒット打たれてるしな」 「ふむ、ここでピッチャー交代なのだね」 「しかし、こいつもよく投げてたな」 「うん、勝には心からの拍手を送りたいよ」 239 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/07(土) 20:38:42.60 ID:ruPjOg990 八回表 公0−2巨 チェンジ一ニ塁 P:武田勝 → 江尻 ラミレス からさん 「江尻はよく抑えてくれたよ。望みが繋がる三振だね」 「そうだな」  敵チームとして憎まれ口を叩きたい場面でもあるが、さすがに憚られた。  こいつだって、今にも千切れそうな一縷の望みを頼りに、気を張っているんだろうから。 252 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/07(土) 20:44:55.44 ID:ruPjOg990 八回裏 公0−2巨 無死一塁 P:山口 → 越智 信二 中安 「信二はよく打ってくれたね、不調のスレッジではあるが、なんとしてもつないでもらいたいところだよ」 「越智だってやってくれるさ」  今にも壊れそうな佐々木を前に、そう言うのが精一杯だった。 260 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/07(土) 20:47:40.74 ID:ruPjOg990 八回裏 公0−2巨 一死一塁 P:越智 スレッジ からさん 「三振は残念だが、小谷野も糸井も当たっている。期待できるよ」 「おう」  佐々木が震えてるな。寒いわけじゃないんだろうが……。 287 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/07(土) 20:54:40.06 ID:ruPjOg990 八回裏 公0−2巨 ニ死一ニ塁 P:越智 小谷野 からさん 糸井 よんたま ニ岡 → 坪井 「糸井はよく見たね」 「ここで代打か」 「ふむ、ピッチャーも代わるようだね」 「誰が出てくるんだ……ってクルーンかよ、なんとも言えないところだな」 「この試合がどうなるか、クルーン次第といったところだね」 302 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/07(土) 21:00:08.94 ID:ruPjOg990 八回裏 公0−2巨 チェンジ一ニ塁 P:越智 → クルーン 坪井 二ゴ 「…………」  佐々木も言葉が出ないようだ。  日本シリーズが終わっちまうのは俺だって寂しいさ。  でもな、お前との関係はこれで終わりじゃないだろ? だからそんな顔するなよ。 322 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/07(土) 21:06:15.02 ID:ruPjOg990 九回表 公0−2巨 チェンジ P:江尻 → 林 亀井 一飛 谷 からさん 阿部 からさん 「ったく、なんて球投げやがるんだ……」 「…………」  佐々木は変わらず硬い表情のままで俺にしがみついている。  まだ一回あるんだ。しっかり見届けようぜ。 338 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/07(土) 21:08:19.33 ID:ruPjOg990 九回裏 公0−2巨 無死二塁 P:クルーン ニ岡 左二(代走:村田) 「おいおい、マジかよ……」 「……ぁ」  佐々木、まだ簡単に終わらせてくれないみたいだぞ。 347 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/07(土) 21:10:28.31 ID:ruPjOg990 九回裏 公0−2巨 一死三塁 P:クルーン 賢介 一ゴ(進塁打) 森本 → 稲田 「よし、まずワンナウトだ……」 「…………」  佐々木の瞳に力が戻ってきたようだな。 374 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/07(土) 21:13:22.15 ID:ruPjOg990 九回裏 公0−2巨 一死一三塁 P:クルーン 稲田 よんたま 「ここでフォアはまずいだろ……」 「稲葉さん、がんばって下さい……」  ここで稲葉って、なんつー巡り合わせだよ……。 407 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/07(土) 21:16:57.23 ID:ruPjOg990 九回裏 公0−2巨 ニ死ニ三塁 P:クルーン 稲葉 みのさん(紺田二進) ※稲田 → 紺田(代走) 「稲葉さん……」  稲葉の調子が悪かったのには助かったな。しかし、高橋だって怖い相手だ……。 467 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/07(土) 21:22:08.18 ID:ruPjOg990 九回裏 公0−2巨 試合終了 P:クルーン 信二 からさん  勝ったか。最後まで冷や汗ものだったな……。 「キョン、おめでとう」 「ありがとな、佐々木」 「キョン……。キミと一緒に観る事ができて本当に楽しかったよ。ありがとう」 「礼を言うのはこっちだって同じだっての。俺も楽しかったぜ、佐々木」 「うん……、でも楽しい時間もこれで終わりだと思うと……、僕は……」  泣くなよ佐々木。  ……いや、俺の胸なんかでよかったら、好きなだけ泣いてくれ。  優勝したのは嬉しいが、俺だって寂しいんだ。俺の分まで泣いてくれよ。 498 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/07(土) 21:33:51.23 ID:ruPjOg990 お疲れ様でした! CS第二戦から始まった佐々木ちゃんのファイターズ応援記でしたが、 ジャイアンツの日本一で幕切れとなりました。 やはり巨人は強かったですね。 ファイターズもよく戦ったのですが、第一戦と同じようにあと一本に泣きました。 それだけ巨人の守りがしっかりしていたということなのでしょう。 歯がゆい展開もありましたが、緊張感の絶えない試合ばかりで、とても楽しませていただきました。 ジャイアンツファンの皆様、日本一おめでとうございます。いい試合をありがとうございました。 最後になりましたが、ご支援ありがとうございました。 自己満足から始めたスレでしたが、皆様のご支援のおかげでここまで続けることが出来たと思います。 自分だけでなく、たくさんの方々に楽しんでいただけたこともまた、とても嬉しかったです。 最後まで本当にありがとうございました。またいつかお逢いできる日を楽しみにしております。 ※ここからはSSパートになります。野球とは関係のない話題が続きますので、苦手な方はご注意ください。 ※また、SSパートは書き上がっていない為、ところどころでお時間を頂くかもしれません……。 513 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/07(土) 21:40:14.56 ID:ruPjOg990  試合終盤から悲嘆にくれていた佐々木であったが、やっと落ち着きを取り戻したようだ。  訊けば、ファイターズの負けよりも、俺との観戦が終わってしまうことが悲しかったというのだから、  なんともかわいいじゃないか。俺の胸なんかでよかったら、いつだって貸してやるさ。 「さて、賭けは僕の負けだ。キョンのお願いを聞こうではないか」 「佐々木、そのことなんだが……」  実を言うと、佐々木に対する要求が全く思いつかなかった。  女の子相手にどんな要求をしたらいいのか悩んだというのもあるが、  一番の理由は佐々木と応援した日本シリーズが面白すぎて、考える暇がなかったってのが正直なところだ。  思いつかなかったと告白するのも罰がわるい。佐々木の案を参考にしてみるか。 516 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/07(土) 21:45:18.47 ID:ruPjOg990 「佐々木はどんなお願いをするつもりだったんだ?」 「そうだね。僕たちの母校へ行こうか」 「そんなお願いだったのか? ずいぶんと――」 「今のはキョンに対するお願いではないのだよ。ここではなくあの中学校で話したくてね」  なるほど、ここには家族の目だってある。あまり邪魔されたくないってことなんだろうな。 「わかったよ。それじゃいつもみたいに家まで送っていくが、その途中で寄るとするさ」 「ありがとう、キョン」  そう答えた佐々木は、なぜか寂しげな色を滲ませていた。 521 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/07(土) 21:51:13.12 ID:ruPjOg990  夜の学校というものはやはりどこでも薄気味悪いものだ。  けれど佐々木は臆した様子もなく、校庭を一望できるベンチに腰をかけていた。  肩が触れる距離に座る佐々木が、やや低いトーンで口を開いた。 「僕の告白を聞いて欲しい。そして――。いや、その先は話が終わってからにしよう」  告白という単語を聞いて、少しばかり胸が躍ってしまったのは、健全な男子高校生として正常な反応であると思いたい。  ただ、佐々木のことだ。そういった意味合いではなく、悩みか何かを告白するってことなんだろうな。  俺が力になれるかわからんが、精々がんばらせてもらうさ。親友としてな。 524 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/07(土) 21:55:42.90 ID:ruPjOg990 「恋心なんてものは、遠い国のおとぎ話だと思っていた」 「小学校高学年の頃だったろうか、仲良くしていた男友達から告白されたことがある」 「その時の僕は恋愛なんてわからなかった。だからその子とはそのままの関係でいたかった。だから僕はこう答えたのだ」  ――友達のままでいよう、とね。 「それが告白を拒絶する常套句だと知らずにそう言ってしまった。無知ゆえの罪とはいえ、残酷なことをしたものだ」 「その後のことはキョンの察する通りさ、その子とは気まずくなり、厚かったはずの友誼も霧消してしまったのだ」  自嘲するように吐き出された溜息は、霧のように白く漂い、しかし瞬く間に消え去ってしまう。 「それからも何度か同じようなことがあった。その度に友人を失った僕は、やがて恋愛感情そのものを忌避するようになってしまった」 「だから僕は対抗措置を講じた。同性に対しては女言葉を、異性に対しては男言葉を用いることにしたのだ。恋愛感情を抱かせないようにするためにね」  なるほど、佐々木が堅苦しい口調をするのにはこんな理由があったのか……。 「効果は想像以上であったよ。完璧な相手を求めがちな思春期において、僕の言葉遣いはさぞかし奇異に映っただろう」 「僕に告白するような男子はいなくなり、僕は求めていたものを手に入れることが出来たのだ。――その当時は、ね」  どうしてだろうか、求めていた状況を得たというのに、佐々木の表情は曇ったままだ。 528 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/07(土) 22:00:56.50 ID:ruPjOg990 「中学三年生の時にとても面白い男の子に出会った。ファニーというよりは、インタレスティングといった表現が似合う男子生徒だ」 「僕の奇矯な振る舞いをありのままに受け入れ、堅苦しい話も興味を持って聞き入ってくれる」 「僕が求めていた最高の友人になる。そんな予感が芽生えたよ。そして、それは程なく実感へと変わった」  なんて羨ましい野郎なんだ。羨ましすぎて殺したくなっちまうぜ。 「その親友との交流は何より楽しかった。あまりに楽しくて、僕は気付かぬうちに病気になってしまったのだ」 「それに気付いたのは高校が始まってまもなくのことさ」 「念願の志望校に合格することはできたが、その代償としてかけがえのない存在を失ってしまったことに気付かされたのだ」 「授業が終わる度、放課後を迎える度に、彼の姿を探している自分がいたのだ。気兼ねなく喋れる同性の友人がいたというのにね」  佐々木、お前の代わりに俺がそいつを殺してやる。リボルヴァーを空にしたって気が収まりそうにないぜ……。 531 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/07(土) 22:05:32.56 ID:ruPjOg990  佐々木に鈍感と言われた俺にだってわかる。  その親友というのは俺のことだ。  そして、野球観戦の時から言っていた病気というのも、恐らくは佐々木やハルヒ以外病気と思わないものなのだろう……。 「僕はね、自ら忌避していた恋愛というものに罹患してしまったのだ」 「そして、幾人もの想いを拒みながら、僕は僕の想いを遂げようと願ってしまった。まったく、強欲もいいところだよ」  返す言葉の見つからない俺を前に、佐々木は自らの願いを告白した。 「僕のお願いはこうだ。僕の告白を聞き届けて欲しい。白痴のような僕が懊悩した末に辿り着いた、陳腐な愛の言葉を聞いて――」  ――そして、断って欲しい。 535 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/07(土) 22:10:16.55 ID:ruPjOg990 「佐々木、どうしてだ」 「どうして断って欲しいなんて言うんだ」 「僕が……、この僕が幸せになっていいはずがないじゃないか。幾人もの想いを拒み続け、無垢な魂を傷つけてきた僕が」  うるさいぞ、佐々木。 「恋をして、僕は知ったのだ。自分がどれほど残酷な仕打ちをしてきたのか、 「そしてそんな想いを忌避した自分が、気まぐれに幸せを手に入れていいはずがないんだ!」  佐々木、口を塞げ。 「いやだ、僕はずるい。こんなことを言ってキョンの気を惹こうとしているだけかもしれない」  お前は軽口こそ叩くが、嘘は言えない奴だ。そんなことがわからないとでも思ってるのかよ。 537 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/07(土) 22:14:39.21 ID:ruPjOg990 「僕はこんな自分が嫌いだ! キョンに慰められ、優しさを向けられていることに安寧を感じてしまっている自分が許せない!」  うるせえ、俺はお前が好きなんだよ。 「佐々木、お前への罰ゲームを決めた」 「キョン、こんな時に何を――」 「俺はお前のことが好きだ。誰よりも一緒に居たい。だから、俺と付き合ってくれ。それが俺の願いだ」  佐々木、お前が俺との友誼を楽しいと感じてくれていたように、お前と一緒に居た時間は何よりも楽しかったんだ。  野球の結果に一喜一憂する姿に、あの時のお前が見せなかった瑞々しい感情が、俺の心を強く惹きつけてしまったんだよ。 「キョンは……、ずるいよ」 「ああ、そうだな。俺は最低の人間だ。嫌がるお前を無視して、交際を強要してるんだ」 「悪いのは全て俺だ。俺と付き合うことでお前がどんな感情を抱こうとも知ったことじゃない。だからな、佐々木――」  ――もう自分を責めるのはやめてくれ。 541 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/07(土) 22:18:41.80 ID:ruPjOg990 「俺がもし、お前に振られた男だったらな。お前には幸せになってもらいたいって思うぞ」 「それに、俺が原因で佐々木が幸せになれないなんて知っちまったら、その日のうちに頭を撃ち抜いて死ぬぜ」 「嫌なら断ってくれて構わない。ただ、もしも俺のことを憎からず想ってくれているなら……、俺の願いを叶えてくれ」 「僕は、神様なんかじゃないよ……。その力はあるかもしれないが、神格を持つに足りうる資格がないのだ……」 「だって、自分の想いを捨てられないのだ! そんな僕がのうのうと幸せを――んむっ!」  佐々木、お前があんまりうるさいから口を塞がせてもらったぞ。少々作法がなっていなかったけどな……。  佐々木が静かになるまで、唇に柔らかな感触を感じていた。離す時に感じた佐々木の熱い吐息は一生忘れられそうにもない。 「キョンは本当にずるいよ……。僕が求めていることを全部してくれるのだから……」 「だから、断れないじゃないか……。だって……、だって僕はキョンのことが本当に好きなのだ」  ったく、素直じゃねえな。それでいいんだよ。 547 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/07(土) 22:23:50.49 ID:ruPjOg990  それから次の週の土曜日、俺と佐々木は二人で街中へと繰り出していた。 「キョン! 二人で歩く時には車道側に立って女の子を守るものなのだよ!」  まったく……、うるさいぞ佐々木。 「付け加えるならば、愛する人の傍にいるときにはもっと楽しそうな顔をするものではないか?」 「佐々木、ちょっと静かにしてくれ。あんまり喋るようだと、また口を塞ぐからな」 「ふむ……」  なんでそこで考え込むんだよ。イヤな予感しかしねえぞ……。 「これほどうるさくしても、まだあの手段を講じてくれないのか」 「ならばもっともっと口うるさく喋らなくては――んむっ!」  これで満足か? まったく、街中でなにやらせてんだよ……。 「自分で望んだ事とはいえ、さすがに恥ずかしいね……」  だったらやらせるなよっ!  それからのことを少しだけ語ろうと思う。 549 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/07(土) 22:25:07.37 ID:ruPjOg990  俺と佐々木は付き合うことになった。親友としてではなく、恋人として。  罪悪に苛まれる佐々木を説得するためとはいえ、賭けの賞品として関係を強要したのだから、最悪この上ない。  SOS団の面々にはまだ話していないが、朝比奈さん以外すでに知っていることだろう。  それでも何も仕掛けてこないのだ。ならば、こちらから動くしかないんだろうな。あー、めんどくせえ!  ――桜舞い散る春に始まった二つの未来を巻き込んだ騒動は、『鍵』と祀り上げられた俺にその全てが委ねられた。  そして、どちらの未来も切り捨てられなかった俺は、二つの未来を融合させるという第三の選択を行った。  つまり、ハルヒの能力の半分を佐々木に委譲するという、日本人らしい玉虫色の解決に逃げたのだ。  そのおかげで、今でも朝比奈さん謹製のお茶を堪能できるし、クソ生意気な藤原のツラも拝める。  未来のことは未来人に任せりゃいいんだよ。そもそも一介の高校生には重過ぎる命題なんだ……。  未来を選ぶってことは、もう一つの未来を消すのと同義だ。私立の進学校へ入学したら、親友を失うって寸法さ。 「キョン、その表現は正確性を欠くね。僕は確かに親友を失ったが、より大切な存在を得ることが出来たのだよ」 「そうだったな。お前は親友のままで居る未来を捨てて、恋人になる未来を選んだんだからな」 「ふむ、キョンにしてはなかなかアイロニーを含蓄したいい返しをしたね」  お前はお前で、ちょっとしたことで照れなくなったな。あの頃のお前はもっと可愛げがあったぞ。ま、今のお前の方が好きだけどな。 551 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/07(土) 22:26:55.74 ID:ruPjOg990  見慣れた場所、見慣れた四人の他に二人のメンツ。内訳は四人が私服で二人が制服。もう一人のいけ好かない野郎は喫茶店にいるのだろう。  今日はSOS団と佐々木団(仮)の合同研修の日。ハルヒと佐々木に無理を言って、スケジュールをあわせてもらったのだ。  この場で俺たちの交際を告白しようという算段でやってきた俺ではあったが……、さっそくハルヒがお冠のご様子だ。 「ちょっと、キョン! 遅刻とはいい度胸ね。あんだけ言ってるのに最後どころか時間オーバーするなんて――」 「あら、その子は確か……」 「ああ、佐々木だ。こいつは俺の……」 「恋人」  なんの衒(てら)いもなく、佐々木が今日の本題を言い放ってしまった。  パリパリという、空気が凍りつく音が聞こえた気がする。  さて、ここで問題だ。俺の寿命はあと何秒だ? 制限時間は俺が死ぬまでだ。なるべく早く頼む。 555 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/07(土) 22:29:13.82 ID:ruPjOg990  ――ああ、そうだ。俺が喋れる間に二人の神様モドキについて話しておこう。  先述のように、ハルヒの力の半分は佐々木に委譲された。これで佐々木も神様モドキへの昇格したのだ。  まぁモドキというだけあって、その力は全盛期のハルヒとは比べるべくもない。  応援してるチームを日本一にできないくらいなのだ。程度は知れたものだろう。  ついでにハルヒが衝動的に世界を改変するようなこともなくなったらしい――今のところは、という但し書き付だが。  未来は安定し、世界に平和が訪れたようだ。ま、だからこそ、俺が好き勝手できたってわけなんだがな。 「ちょっとアンタ! そんなことが許されると思ってんの? 団長の許可なしに団員の不純異性交遊は認められないわ」  誰か決めたんだよ、そんなこと……。 「涼宮さんの言い分は尤もね。それじゃ賭けで決めましょうか」  誰が決めていいって言ったんだよ! そんなこと! 「面白い話じゃない。それでどんな賭けなの?」 「ふふ、野球で決めましょう。自分の応援するチームが日本一になったら、キョンをどうにでもできるってことでどうかしら?」 「いいわね! 乗ったわ!」  すまんが二人とも、俺の意見を無視して事を進めないでもらいたい……。 557 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/07(土) 22:30:25.64 ID:ruPjOg990  その後は酷かった……。  ハルヒと佐々木だけには留まらず、長門や朝比奈さん、果ては周防や超能力者コンビまで賭けに参戦したのだ……。  橘は俺から佐々木を守るだなんて息巻いてるし、古泉は古泉でいつものアルカイックスマイルを浮かべるだけだ。  ったく、ハルヒだけならまだしも、こんだけの人数なんだ。負ける可能性だって出てくるだろ……。 「……おい、そんな賭けしていいのかよ? もし負けたら――」 「その時は、キョンに判断を委ねるさ。僕はキョンを愛しているが、自由まで縛りつけたくはないのだ」 「それにね、心配など無用なのだよ。キョンだって良く知ってるだろう?」  ああ、よく知ってるよ。あのニ週間で充分に思い知らされたからな。お前のファイターズは―― 「僕のファイターズは最強なんだからねっ!」  ま、俺の次にだけどな。                               <おわり> 570 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/07(土) 22:36:42.32 ID:ruPjOg990 以上、SSパートでした。 分裂以降の話ということで、独自の解釈を多分に含んでしまいました。 他にも違った、それでいてしっくりとくる解釈もあるかと思いますが、大目に見てくださいませ。 というわけで、佐々木ちゃんのファイターズ応援記は一先ず終わりです。 ご支援いただきました皆様、本当にありがとうございました。 またいつか、お逢いできる日を楽しみにしております。 お付き合い頂き、本当にありがとうございました!