長門「年中発情期」 1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/04(水) 01:00:04.94 ID:jX7dF4sM0 因幡の素兎という昔話をご存知だろうか。 詳細は省略するが、隠岐島から因幡国に渡るため、 兎が海の上に並んだワニザメの背を欺き渡ったが、 最後にワニザメに着物を剥ぎ取られ、 八十神の教えに従って潮に浴し風に吹かれたために身の皮が裂け、 苦しているのを大国主神が救うという話である。 ちなみに、白兎というのは同音であることから来る間違いであり、 正しくは素兎と表記し、毛皮を剥かれた兎という意味らしい。 2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/04(水) 01:01:51.86 ID:jX7dF4sM0 なぜ俺がいきなりこんな話を始めたかといわれれば、そこに意味は無い。 俺だってたまには意味の無いことをつらつらと考えたくもなるさ。だってそうだろう? 学区割り制度に従って地元の公立高校に進学したと思ったら、 涼宮ハルヒという創立以来初であろう超大型台風に直面し、 クジラの浮上を確認しながらも間違って一匹だけクジラの方向に逃げてしまったオキアミのごとく その台風に巻き込まれ、挙句の果てにはSOS団と称する謎組織の一員に加えられた結果、 宇宙人未来人超能力者なる存在との邂逅を果たし、 それらの陰謀に半ば必然的自発的に巻き込まれている真っ只中なのだから。 4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/04(水) 01:05:57.38 ID:jX7dF4sM0 しかし、遺伝子的な進化の可能性が薄いとされているらしい人間でも 環境適応能力というのは大したもののようで、 俺は高校の前に嫌がらせのように長々と立ちふさがる坂道になれるとともに そんな奴らとの生活を楽しんでおり、 次々と飽きもせず襲ってくる事態さえも楽しむ余裕さえ出てきている。 もちろん、自分や周りに危害が加えられない限り、という但し書きは付けさせてもらうが。 6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/04(水) 01:10:25.18 ID:jX7dF4sM0 さて。 遅まきながら状況説明に移させてもらおう。 と言っても、これと言って説明するようなこともない放課後である。 「……」 宇宙人モドキの読書娘であるところの、長門有希は 今日も窓際で枕に出来そうな厚さの少なくとも英語では無さそうな外国語で書かれた原書を、 頁を捲る以外はほとんど身じろぎさえもせずに読みふけっている。 今日の本は珍しく少し派手で真っ黄色の表紙だ。 頁さえも捲らなければ等身大人形として通用しそうなほど無機質無表情である。 この小柄な文学少女が宇宙的最終兵器だとこの学校の誰が思おう。 7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/04(水) 01:16:00.43 ID:RSdyoyGJ0 「お茶のお代わりでもいかがですか?」 「ありがとうございます」 未来人である朝比奈みくるさんはSOS団専属のメイドと化し、 天使のようなスマイルを振りまきながら給仕の真似事をしていらっしゃる。 この文芸部室兼SOS団アジトに飽きもせず毎日顔を出す理由の半分は この笑顔を見るためと言っても過言ではない。 このどう見ても年上に見えない少しおっちょこちょいな先輩はSOS団専属メイドが 天職だとでもいうように放課後はほぼ毎日メイド服を身に纏い、お茶の研究にも余念がない。 俺はこの見目麗しい先輩が将来、蛹が蝶に羽化するように華麗に成長することを知っている。 おっちょこちょいなのはあまり直っていないようだったが。 8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/04(水) 01:21:26.17 ID:RSdyoyGJ0 限定的超能力者である古泉一樹は目の前で俺の将棋相手になっている。 先ほど「長考して構いませんか」と発したきり考え込んでいる。 そんなに考えずとも、どうせまた俺の勝ちだよ。 こいつはレトロなボードゲームを度々持ち込んでくる割にめっぽう弱い。 負けてもニヤケ面のままだから実力ではないのかも知れないとも考えたこともあるが、 こいつのことを考えるくらいならば、朝比奈さんのことを考えていた方が 比べようもないほどの時間の有効活用であることは明白であるため、早々にその考えは打ち捨てた。 長門の微細な表情の変化を読み取れるようになっていると自負する俺でも、 古泉の腹の底は未だに読めないし、野郎の腹の内なんざ読み取れるようになりたくもないが、 もう少し自分の感情に素直になっても罰は当たらないんじゃないかと思う。 まあ、俺がとやかく言う話でもないだろうが。 9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/04(水) 01:27:27.21 ID:RSdyoyGJ0 「おや、あなたの番ですよ」 いつの間に長考を終えたのか、盤面の古泉の駒が一つ動かされていた。 少しぼんやりしていたらしい。長考していた割に凡庸な手だな。 「これは手厳しい。それはそうと、何を考えていたのです?  なにやら、難しい表情をしていましたが。」 「なに、お前が心配するようなことは考えてないさ」 「そうですか、それならいいのですが」 こいつが気にするくらいには、俺は難しい表情をしていたらしい。 古泉のニヤケポーカーフェイスについて考えるのは諦めよう。どう考えても時間の無駄だ。 俺がそう結論付けた時、部室のドアがけたたましい音を立てて開かれた。 10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/04(水) 01:32:07.13 ID:RSdyoyGJ0 「へいっ! おっまちー!」 まったく。こいつはもう少し静かに登場できないものかね。 部室のドアを蹴破らんばかりに開いたのは勿論、我らが団長閣下である。 眉目秀麗、文武両道を地で行きつつも、傲岸不遜にして唯我独尊という 人物を表す四字熟語が褒貶問わず似合う涼宮ハルヒという女は、 突発性の竜巻のように気まぐれに色々と問題を引き起こす。 それで被害を被るのは毎度俺や朝比奈さんであるというのだから、始末に終えない。 11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/04(水) 01:37:07.33 ID:RSdyoyGJ0 そんなハルヒのまわりに何故こんな妙なメンバーが集まっているかと言うと、 こいつに自分の願望を無意識のうちに実現するなどという 唐変木かつ迷惑極まりない能力があるからで、それぞれの思惑を抱えつつも、 このように自分たちでも何をしているのかよく分からない部活を繰り広げているのである。 ここ最近はハルヒや古泉が色々なイベントを企画していたため、 慌しくもある意味で平和なスクールライフを満喫していた。 ハルヒもとりあえず退屈はしていないようで、世界に大きな異変はない。 世界が崩壊するなんてのは、金輪際御免だからな。 12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/04(水) 01:42:03.24 ID:RSdyoyGJ0 ハルヒは鞄をいつもの場所に放り投げると、自身も定位置である 団長と書かれた三角錐とデスクトップパソコンの鎮座する席に着き、パソコンを立ち上げる。 今日も今日とて電脳世界の不思議探索だろう。 そういえば、長門の位置からはパソコンの画面が見えるんだよな。 今度どんなことを調べていたか聞いてみようか。 ハルヒの奴ブラウザの履歴を消してやがるからな。 まあ、いいか。大して興味もないし。 機会があってそのことを覚えていて、尚且つ気が向いたらくらいにしておこう。 14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/04(水) 01:48:14.24 ID:RSdyoyGJ0 「そういえば」 唐突にハルヒが声を上げる。 こういう場合の大半が傍迷惑な思いつきかくだらないことだ。 今回はどちらかといえば後者だったらしい。 「兎って本当に寂しくて死んじゃうのかしら?」 それこそ、ネットで調べれば一発だろうに自分で調べる気はないらしい。 もしかしたら、黙々とした部屋が気に入らなかっただけなのかも知れない。 ハルヒに限って気を回した、なんてことはないだろうし。 16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/04(水) 01:53:12.15 ID:RSdyoyGJ0 「愛玩用の動物というものは飼い主が飼育を放棄すると、死んでしまうものも多いそうです。 デリケートな愛玩用の兎は死に易いのでそういう迷信が生まれたのでしょう」 いつもハルヒの頓狂な発言に突っ込みを入れるのは俺の役目になっているが、 こういう時に真っ先に反応するのはこいつ、古泉だ。 全くこいつのこういう知識は一体どこから出てくるのかね。 19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/04(水) 01:59:18.31 ID:RSdyoyGJ0 「奴らは繁殖能力が高いのに反比例して、生存能力が低いんだろうな」 「ふえぇ。うさぎさん可愛いのに、可哀想です」 可愛らしさで言えばあなたも負けてはいませんよ、朝比奈さん。 あなたが例え兎であったなら、俺は学校にも行かず面倒を見てしまうだろうね。 バニー姿の朝比奈さんを思い出して、つい頬が緩む。 「そう言えば、兎って年中発情期なのよね」 ハルヒがそんなことを言う。 朝比奈さんに向けていた目をハルヒに向けるが、ハルヒの目は未だにパソコンに向かっている。 ハルヒにとっては雑談の域を出ないのだろう。 しかしだな。 21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/04(水) 02:06:49.36 ID:RSdyoyGJ0 「その言い方は、何と言うかエロいな」 「エロいわね。って、何言わせんのよ、エロキョン!」 って、お前が話を振ってきたんだろうが。 「あんたが繁殖能力とかいうからでしょうが!」 「お前が発情期とか言い出したんだろうが!」 その後も売り言葉に買い言葉で口喧嘩にでも発展し、 朝比奈さんやバイトが入らなければ古泉が止めるのが毎度の流れなのだが、 しかし、今回は違った。 次に言葉を発したのは意外な人物だった。 24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/04(水) 02:14:26.51 ID:RSdyoyGJ0 「人間も年中発情期」 な、長門? こいつがこういう流れで口を挟むことにも驚きだが、こういう話題の時に口を挟むとは。 最近めっきり人間っぽくなったと思っていたのだが、やはり宇宙的感性はよく分からない。 「正確に言えば、兎は交尾に反応して排卵する。  そのため受精率も高く、繁殖能力や効率が非常に高い。  それに対して、人間は周期的な排卵を行う。人間の性交は―――」 「長門!」 「有希!」 いつかのように饒舌な長門を止めたのは俺とハルヒだった。 26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/04(水) 02:22:16.52 ID:RSdyoyGJ0 チラリと目を向ければ、古泉はいつものニヤケ面で肩を竦めているし、 朝比奈さんはその愛らしいお顔をリンゴのように真っ赤にして、 声が出せないのか浜辺に打ち揚げられた魚のように口をパクパクと開閉している。 しかし、ハルヒが自ら話題を打ち切るとは。 男子の前で平然と着替え始めていたこいつにも、やっと人並みの恥じらいが芽生えたのか、 はたまた、長門がこういった話題を口にするのが許せないのかは俺の知り及ぶところではないのだが、 どちらにせよ入学当初に比べれば段違いの成長だと言える。 当の長門は、何故話を遮られたのか分からないというように小首を僅かに傾げている。 と言うか、本当に分かってないんだろうな。 30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/04(水) 02:30:20.77 ID:RSdyoyGJ0 やれやれ。 長門に対する情操教育はまた今度するとして、 当面はここでそういった話は出さないように釘を刺しておかないとな。 こんなことでハルヒが機嫌を傾けてしまっては、 流石に古泉といっても少し可哀想になってくるからな。 32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/04(水) 02:32:13.62 ID:RSdyoyGJ0 さて、見てくださっている方には恐縮なのですが、 麻雀のレートを上げられてしまったので其方に集中します。 ここまで見てくださった方、ありがとうございました。 33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/04(水) 02:48:46.59 ID:RSdyoyGJ0 「兎といえば、玉兎なんですが――」 その後、古泉がわざとらしく別の話題をハルヒに振り、 ハルヒもその話題に渡りに船とばかりに飛びついたことで、 文芸部室でそのような会話がなされた名残はまだ少し赤い朝比奈さんの頬くらいのものとなった。 その後、岩のごとき無口に戻った長門のパタリと閉じられた本を部活終了の合図にして、 俺たちは帰り支度を始めた。 36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/04(水) 02:58:25.29 ID:RSdyoyGJ0 最初の頃こそ気を遣ってか、着替えを待たなくていいと言っていた朝比奈さんも、 忠犬のごとく待ち続ける俺と古泉と長門や こいつは朝比奈さんが先輩だということを忘れているんじゃないかと思うようなハルヒの、 「いいのいいの、堅っ苦しいことは言いっこなしよっ!」 といったような発言に押される形で俺たちと一緒に帰ることが多くなった。 そこにたまに鶴屋さんが混ざることで一気に姦しくなる。 37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/04(水) 03:02:49.81 ID:RSdyoyGJ0 女三人寄ればと言うが、ハルヒと朝比奈さんと長門ではハルヒが延々と話して、 たまに朝比奈さんが相槌を打つくらいだからな。 長門は姦しいとは対極の存在だし。 しかし、こいつも自分の得意分野になればそれなりに饒舌になることを、俺は知っている。 俺と古泉は、並んで歩くハルヒと朝比奈さんの後ろをついて歩く長門の、 そのまた後ろに並んで歩き、その間俺はたまに方々から振られる話題に、 適当に答えるというのが最近の下校スタイルだ。 38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/04(水) 03:08:24.97 ID:RSdyoyGJ0 姦しいと言えば、谷口が女が三人寄ればいやらしいとか何とか言っていたな。 まあ、アホのあいつらしいと言えばそうなのだが。 異しことはさて置きつ。 ハルヒのぶっ飛んだ話を持ち出したり、そこに古泉がいらないのに同意をしたり、 そのやりとりに朝比奈さんが右往左往したりしているうちに、分かれ道に到達し、 徐々に人数が減っていく。 当然、最後には一人になり、その道の先には愛しいとまでは思わないものの、 それなりに愛着のある我が家がある。 40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/04(水) 03:15:38.02 ID:RSdyoyGJ0 その我が家での今回の滞在時間は僅か十分程で、妹にごねられながらも、 俺は先ほど来た道を再び辿り、途中からは既に行きなれてしまった、高級分譲マンションへ足を向けた。 もちろん、長門に相談しなければならないような懸案事項があるわけではなく、 部室でのやり取りのことで少し、釘を刺しにきたのだ。 善は急げを地で行くどこかの誰かではないが、こういったことは早くに済ませておいたほうがいいからな。 しかしまあ、俺はどちらかと言えば急がば回れと言うほうだったのだが、人は変われば変わるものだな。 この場合、毒されていると言い換えられるかもしれないが。 44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/04(水) 03:28:27.50 ID:RSdyoyGJ0 既に何度か足を踏み入れたこともあり、 実感はないが、ここで三年間眠り続けていたらしい708号室。 相も変わらず殺風景な部屋だと思うが、同時に長門らしいと言えなくもない部屋でもある。 いつかのようにコタツの対面に向かい合うように座し、お茶の一服で一息ついてから、俺は切り出した。 「ああ、長門。今日のあれは何だったんだ?」 「――あれ」 ミリ単位で小首を傾げる動作がなければ、疑問であるとも気づかないかも知れないような平坦な口調。 できれば疑問のときには、語尾を上げていただきたい。 45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/04(水) 03:34:36.20 ID:RSdyoyGJ0 「ああ、あの兎がどうの人間がどうのってやつだ」 「兎を除けば、哺乳類で年中発情期なのは人間くらいのもの。それは事実」 「まあ、そうだとしても。ああいう話は部室で、特にハルヒの前ではしない方がいい」 「何故」 そう言えば、何でなんだろうな。 恥も衒いもなく、男子の前で着替えていたあいつなら、 こういった話でも不思議なことであれば飛びついていただろうに。 47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/04(水) 03:45:06.54 ID:RSdyoyGJ0 あいつ、ハルヒの内面も少しずつ変わっているのだろうか。 そう言えば、閉鎖空間の発生件数も減っていると古泉が言っていたな。 これで、俺たちの苦労が減ればいいのだが、あの唐変木な能力がなくとも、 ハルヒは十三分に傍迷惑な人間であるということは、高校に入ってから嫌と言うほど味わっているからな。 まあ、この先ずっとああではいられないだろうしな。 と、思考が逸れたが、今は長門の話だった。 48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/04(水) 03:53:28.45 ID:RSdyoyGJ0 「とにかく、どうしてもだ」 「インターフェースであるわたしに芽生える感情は歓迎すべきものだと言ったのは、あなた」 確かに、お前に芽生える感情ならいくらでも歓迎するが、それとこれとは話が違いやしないか。 「違わない。人間の性交は子孫を残すというよりも、感情の交換や確認、快楽を目的としたものが多い」 まあ、否定はできんな。もしかして、好きな奴でもできたのか? 長門が好きになるのはどんな奴なのか俺としても気になるところだ。 50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/04(水) 04:03:48.50 ID:RSdyoyGJ0 「そうではない。恋愛感情に起因する幸福感と性交による快楽は、  脳内物質という観点から見ると非常に類似している。  脳がそれらを勘違いすることによって始まる恋愛というのも、少なからず存在する。  それならば、恋愛感情を理解するには性交が一番早いと考えた」 「なんとなく理解はできたが、何と言うか……そういうのは違うんじゃないか?」 再びミリ単位で首を傾げる長門。 いや待て、ここでそんな不思議な顔をされても困るんだが。 そもそも、論点がずれていないか。 52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/04(水) 04:16:05.37 ID:RSdyoyGJ0 「ずれてはいない。わたしという個体が一番興味を示した感情は恋愛感情。  恋愛感情は、他の動物には見られない特有の感情。  この感情について調べた結果を情報として蓄積してきた。  わたしという個体は情報を蓄積するだけでなく、言語情報として発信することを望んだ」 確かに、消失世界での長門は文学的創作活動をしていたし、 その元となったこいつにそういった類の欲求があったとしてもおかしな話じゃない。 興味を持ったことについて調べていくうちに、突飛な結論に行き着き、 また、その結論部分について調べていくうちに情報が溜まり、調べたことを伝えたくなったと。 53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/04(水) 04:22:37.05 ID:RSdyoyGJ0 「そう」 「なるほど。理解はした。だがな、ハルヒの機嫌を損ねて世界を変えられちまうのは困る。  変えられなくとも、古泉は確実に困るだろうし、俺や朝比奈さんにとばっちりが来るかもしれない。  そうなると、お前も困ることになるかもしれない。話し相手なら俺がなる。  だから、ハルヒの前でそういった話は暫く出さないでくれ」 「了解した」 ふう、これでとりあえず一安心かね。あとで、古泉にも報告しとくか。 「聞いて」 なるほど、早速か。俺は少し抜けていた気を引き締めて長門に向かう。 大半が理解できなくとも、聞いて理解する努力はできるからな。 55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/04(水) 04:32:15.89 ID:RSdyoyGJ0 「対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェースの構成要素は人間のそれとあまり代わりはない。  特に制限などを設けなければ、特定の刺激に対して人間と同じような身体的精神的反応を示す。  つまり、性的な刺激に対しては恋愛感情に似た幸福感を得ることができる。だから」 「いや、理解をする努力はするつもりだったんだが、先刻言ったようにそれは順序が違うだろう。  もし、お前が誰かを好きになったときにそれは言ってやれ」 「あなたはわたしを好きではない?」 こんな場面でこういうことを言うのは反則だと教えるべきなのだろうか。 いつもは無表情無感情に見える長門の顔が、今は何だか寂しそうに見えるのは俺の気のせいだろうか。 57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/04(水) 04:41:18.18 ID:RSdyoyGJ0 「俺はお前のことが好きだ。だが、それはSOS団団員としての好意であって、恋愛感情ではない。  そんな気持ちでお前に手を出したら、ハルヒに殴られても文句は言えないだろうな。  そういうことだ。悪い、長門」 ヘタレと言うなら言え、逃げだと笑うなら笑え。そんなことは俺が一番解ってるさ。 でも、俺は大切な団員を無闇に傷つけたくないんだ。 まあ、そんなのは言い訳に過ぎず、俺はこれまでの奇妙な日常や 居心地のいい空間を壊したくないだけなのかも知れない。 「性交は求めない。ただ、接吻だけでも試させて欲しい」 そこで頷いてしまった俺は、やはり毒されているのか、あるいはこの雰囲気に飲まれているのか。 そっと気配も足音さえもなく近付いてくる長門を俺はどこか呆然とした気持ちで眺めていた。 長門の少し冷たい手が俺の頬に添えられ、長門の顔が近付いてきて―― 59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/04(水) 04:49:49.57 ID:RSdyoyGJ0 ふと気がついたときに、自分が先ほどまで何をしていたか覚えていないという経験はないだろうか。 そういったときは、大抵の人間は妄想という白昼夢を見ていることが多いそうだ。 俺がそうだったと言うわけではないが、先ほどまでしていたことが思い出せないというのは、気持ちの悪いものである。 まあ、周囲を見渡せば何となくだが状況は掴めるが。 俺は長門に今日の部室でのことを注意して、それから一問一答のような雑談を繰り広げた後、 暇を告げて、長門の部屋の入ったマンションを出たところだ。恐らく。 時計を確認すると、存外時間が過ぎている。 家へと歩を進めながらも、ふと考えてしまう。 それにしても、長門はあの殺風景な部屋で三年間も待機していたんだよな。 そして、今もあそこで一人で暮らしている。 ならば、宇宙製アンドロイドであるところの彼女は死ぬほど寂しいと感じることはあるのだろうか。 人肌が恋しくなることがあるのだろうか。涙して目を赤く腫らすことはないのだろうか。 まるで、愛玩用の兎のように。 「人間と同じ組成、つまりわたしも年中発情期……エラー」 一応、了 60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/04(水) 04:56:19.17 ID:RSdyoyGJ0 すみませんすみません、すみません。 最後までお読みくださった方には感謝を。 お目汚しであれば、失礼いたしました。 最後まで読みにくい文章でしたし、後半は書き方が変わって、さらに読みにくかったかも知れません。 拙くてすみません。勉強します。 最後、釈然とされない方、展開が速いと感じられる方いらっしゃいますでしょうが、 それは、>>1が財布的な意味で終了たことが原因です。 仮眠という名の不貞寝をします。 おやすみなさい、ありがとうございました、すみません。