キョン「お前が好きだ」 1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/21(月) 00:58:39.22 ID:xXPwKUhl0 君に気になる相手がいたとする。 それなら、早めに行動するべきだと忠告しておこう。 さもなきゃ、とんでもなく後悔するハメになるかもしれない。 そう、俺のようにな。 2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/21(月) 00:59:57.23 ID:xXPwKUhl0 その日もSOS団の活動は滞りなく行われていた。 俺は古泉とチェス。 長門はいつものように読書。 ハルヒはなにやらパソコンを弄っていた。 「ほんっとアクセスが増えないわね〜」 そんな事をブツブツと呟いている。 それはあれだ。つまり大衆にとって、そのサイトは足を踏み入れたいと言う魅力に欠けているということだろう。 俺が作っておいてなんだが、そいつは一言で言ってセンスが足りん。 だがもちろん、そんなことは口には出さなかった。 3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/21(月) 01:00:34.97 ID:xXPwKUhl0 「朝比奈さん、遅いですね」 「そうだな」 いつもなら1番に部室に来て、メイド姿で俺たちを待っていてくれている筈の朝比奈さん。 こんなに遅れるのは珍しい。まぁ、掃除当番か何かだと思うが。 「む〜…」 不機嫌そうにキーボードを叩くハルヒ。 今日はまた1段と不機嫌だな。 不機嫌と言えば… 「そういえば古泉…」 「閉鎖空間でしょうか?」 小声で古泉が答える。 まだ口に出しちゃいないのに。エスパーか、お前は。 4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/21(月) 01:02:25.15 ID:xXPwKUhl0 「ご心配なさらずとも、閉鎖空間は発生していません」 「そうなのか」 「涼宮さんもああ見えて、非常に精神面が成長しているのですよ」 ハルヒの精神面の成長? 俺には全くわからんな。 「この際です。あなたもご一緒に成長なさってはいかがですか?」 古泉が微笑む。 「…どういう意味だ?」 「彼女のお気持ちには気づいてらっしゃるんでしょう?」 その言葉に少し心臓が反応した。もちろん表には出さなかったが。 「何のことだかさっぱりだな」 6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/21(月) 01:05:24.75 ID:xXPwKUhl0 「よろしいんですか?」 古泉、お前は何を言いたいんだ? 「人の気持ちはいつ、どんなきっかけで変わってしまうかわかりませんよ」 そう言って古泉が笑う。 「手遅れになってからでは遅いのです」 「関係ないだろう、俺には」 そうは言ったが、古泉の言葉は想像以上に俺の胸に深く突き刺さっているようだった。 何事も失ってからでは遅い。それはわかる。 「いずれにせよ、あなた次第だと思いますよ」 ボードに置かれたルークが俺のキングに襲い掛かる。 「あなたが男である以上、ね」 7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/21(月) 01:07:33.05 ID:xXPwKUhl0 「遅くなりました〜!!」 勢い良く扉が開き、朝比奈さんがやって来た。 汗をぐっしょりとかいている。 「みくるちゃん!遅かったじゃない!」 「ふえぇ、何故か教室を大掃除することになっちゃったんです〜…」 息も絶え絶えの朝比奈さん。 その疲労度が見て取れる。 「お疲れ様です朝比奈さん。喉は渇いていませんか?」 そう言ってお茶を差し出した。 部室に来る前に偶然買っておいたお茶だ。 「よかったらどうぞ」 8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/21(月) 01:11:23.39 ID:xXPwKUhl0 「あ、ありがとうございます!」 いえいえ、いいんですよ。 これくらい、いつも朝比奈さんのお手製のお茶を飲ませて貰ってることを考えれば安いものです。 「ちょっと待ちなさい!」 「!」 叫んだのはハルヒだった。 俺たちの方へツカツカと歩み寄ってくる。 「キョンの飲んでたお茶なんて何が混ざってるかわかったもんじゃないわ。みくるちゃん、これあげる!」 そう言ってさっきまで飲んでいたジュースを差し出す。 流せばいいのはわかってるが、ひっかかるな。 「おいハルヒ、何か混ざってるとはまた酷い言い草だな」 9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/21(月) 01:14:12.60 ID:xXPwKUhl0 「はい、みくるちゃん」 俺の言葉を無視して半ば無理やりに朝比奈さんにジュースを持たせる。 「あ、ありがとうございますぅ」 困り顔になる朝比奈さん。 当然の反応だ。 「さてみくるちゃん、さっさとそれを飲んでお茶を注いでちょうだい!」 何なんだお前は。 傍若無人という言葉がここまで似合う人間もいないな。 「おっと、それでは僕たちは外で待機していましょう」 そうだ、お茶を注ぐとなればその前に朝比奈さんの着替えタイムがあるんだった。 正直なことを言えばここでそれを見ていたいが、もちろんそんなことは出来ない。 10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/21(月) 01:17:50.12 ID:xXPwKUhl0 外に出ると、先に外に出ていた古泉が不思議そうな顔をしていた。 「どうした、古泉」 特に興味もないが、聞くだけ聞いてみる。 「いえ、先ほどまで扉の前に誰かがいたような気がしまして…」 そう言って階段のほうを見つめる。 「…気のせいだったようです」 気のせいか。俺もそうだと思うね。 こんな得体の知れない集団に近付こうとする人間がいるとは思えん。 12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/21(月) 01:21:18.74 ID:xXPwKUhl0 「まったくハルヒのやつめ…」 朝比奈さんの着替えを待つ傍ら、そんなことをぼやいてみる。 そんなに俺のお茶が汚く見えるってのか? 「彼女はそういった意図を持って言った訳ではないと思いますよ」 なんだ古泉、ハルヒを庇うのか。 「いつかも申し上げたかと思いますが、彼女の行動には全て意味があります。 今回のそれも、実に少女らしい思いをもって行われた行動なんですよ」 「意味がわからん」 いや、わからないフリをしているわけじゃあないからな。 「…そうですね。この際ですから言っておきましょう」 突然、古泉の顔から笑みが消えた。 「涼宮さんに好意を寄せる男性がいるようです」 14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/21(月) 01:25:54.91 ID:xXPwKUhl0 なんだって?古泉はなんて言った? ハルヒに好意を寄せる男がいる? 「馬鹿か、そいつは」 つい言葉に出てしまった。 だってそうだろう? ハルヒの内面を知れば、そんな恐ろしい考えを持つアホはいないと断言できる。 確かにその内面を知らなければ、相当の美人に見えるのかもしれんが。 「本当にそうお考えなんでしょうか?」 顔が近いぞ、古泉。 「失礼。…実は閉鎖空間こそ発生していませんが、僕には何か嫌な予感がするのですよ」 いつもの笑顔が薄れ、不安げな顔をする。 「あなたにも御自分の考えをハッキリさせる時が来たんじゃないかと、僕は考えます」 真剣な顔で俺を見る。 何も言えなかった。 15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/21(月) 01:29:34.58 ID:xXPwKUhl0 結局その日、ハルヒはずっと不機嫌だった。 それは自分自身に向けられているようにも感じられた。 夜、布団に横になって考えてみる。 俺もハルヒも、本当の事を素直に言えずに相手の文句を言ってばっかりだ。 ハルヒ、もしかしたら俺たちは似たもの同士なのかもしれないな。 「気持ちをハッキリさせる時…か」 古泉の言葉が頭の中を回る。 失ってからじゃ遅い。 その通りだ。 小さな決意が俺の中に生まれようとしていた。 16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/21(月) 01:32:32.18 ID:xXPwKUhl0 ・ ・ ・ 「決意をした途端にこれだもんな…」 布団の中で寝返りをうつ。 もう3日も布団から離れられていない。 突然熱を出してしまい、休養を余儀なくされたからだ。 ピピッ! 体温計が鳴る。 36.7度。これなら明日には学校に行けそうだ。 「ハルヒ、待ってろよ」 ゆっくりと起き上がり、手元にあったお茶を飲む。 その時俺は、その後起こる出来事を全く予想できていなかった。 17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/21(月) 01:35:22.79 ID:xXPwKUhl0 翌日、それは突然告げられた。 『涼宮ハルヒが新しい世界を構築。この世界から消えてしまった』 信じられなかった。 なんでだ、何が不満だったっていうんだ。 だが、神はまだ俺を見捨てちゃいなかった。 古泉の力で、俺がその世界に踏み込むことができるらしい。 全ては俺次第、ということか。 ハルヒ、何としてでもお前をこの世界に連れ戻すからな。 18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/21(月) 01:38:58.21 ID:xXPwKUhl0 俺は辺りを見回した。 どうやら無事、ハルヒの作った新世界とやらにたどり着けたらしい。 景色を見る限り、もとの世界と大差はないように感じられる。 俺のいた世界には今、ハルヒがいない。 それは、その世界がいつ無くなってしまってもおかしくないということを意味する。 あいつが何故こんなことをしたのかはわからんが、何としても捕まえなきゃな。 俺の行動1つに世界が掛かっているんだ。 さて、何から始めるべきか。 20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/21(月) 01:41:53.77 ID:xXPwKUhl0 そうだな。まずはこの世界のどこかにいるはずのハルヒを見つけることが最優先だろう。 そう考えて走り回っていた俺は馴染みのある建物を発見した。 北高だ。 いや、町並みが似ているなとは思ったんだが、ここまで一緒だとはな。 しかも下校時間なのか、続々と生徒が校門を出てくる。 こんなにも完成した世界になっているとは驚きだ。 ハルヒがいるとすればこの北高だろう。 なんとなくそんな気がしたが、このまま踏み込んで大丈夫なんだろうか? ええい、まずは情報収集だ。 俺は校門から出てくる一人の生徒に近付いた。 21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/21(月) 01:44:49.65 ID:xXPwKUhl0 「あ、あの!」 声をかけられた生徒が驚いたような反応をする。 「すいません、お伺いしたいことがあるんです」 「な、なんでしょう?」 怯えた目で俺を見つめる女生徒。 この際だ、仕方ないだろう。 「涼宮ハルヒを知ってますか?」 女生徒が目を丸くする。 さぁ、どうなんだ? 「…知ってます」 「この学校に通ってるんですか?」 「ええ」 22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/21(月) 01:48:07.79 ID:xXPwKUhl0 良かった。いてくれたか。 「どうも!」 女生徒にお礼を言うと、俺は急いで旧文芸部室に向かった。 ここにハルヒがいると言うのなら話は早い。 説得して、それで終わりだ。 だがそんな思いと裏腹に、部室には誰もいなかった。 もしかしたら、ここではSOS団なんて存在しないのかもな。 「何をしているんだい?」 俺に声をかける男子生徒。 確か、隣の部室の部長さんだ。 「いえ、ハルヒを探しているんです」 「団長さんを?」 この言葉に心が躍る。 どうやらSOS団は存在するらしい。 23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/21(月) 01:51:14.15 ID:xXPwKUhl0 部長氏からハルヒが帰るのを見かけたという情報を得た俺は慌てて下校ルートに向かった。 見かけたのは数分前らしいから、まだ追いつけるかもしれない。 ここまで、この世界はもとの世界と違いがないように思える。 だが、これがハルヒの作り上げた世界である以上、何らかの変化がある筈だ。 そう、ここはもとの世界ではダメだとハルヒが諦めた願望を実現した世界なんだ。 校門前の坂をを下りきったところで、見慣れた黄色のリボンを見つけた。 見つけたぞ、ハルヒ。 だが、その光景に俺は声をかけるという選択肢を忘れてしまった。 ハルヒが男と腕を組んで歩いていたからだ。 24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/21(月) 01:53:39.22 ID:xXPwKUhl0 自信があった。 何となく、ハルヒは最終的に俺を選んでくれると思っていた。 だからこそ俺は、数日前に決意したんだ。 「なんだこりゃ」 思わず呟いた。 ハルヒと腕を組む仲。奴隷と女王様か? いや違う。認めるべきだろう。 明らかに目の前の男とハルヒは恋仲にある。 25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/21(月) 01:56:29.94 ID:xXPwKUhl0 頭が混乱する。 それほどまでにコイツは俺にとって見たくない光景だったらしい。 追いかけて声をかけるか? でもなんて? 邪魔だ、と一蹴されるかもな。 なんだハルヒ、お前はこんなことのために世界を作り上げたっていうのか? ダメだ、このままじゃあ。 元の世界のためにもハルヒには帰って来てもらわなきゃならない。 道を先回りする。 何とか、男の顔くらい確認しておこうと思ったからだ。 27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/21(月) 01:59:09.89 ID:xXPwKUhl0 先回りは成功した。 この道は1本道だから、必ずあの二人はここを通る。 電柱の影から様子を伺う俺の前を二人が通過した。 …嘘だろ? 体が動かない。 それほどまでに俺の目の前で起こった出来事は衝撃的だった。 俺はハルヒと腕を組んで歩いている人間を知っている。 いや、誤魔化しだな。本当はそんな気がしていた。 「ねぇキョン、今日は家に寄ってもいい…?」 29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/21(月) 02:01:59.25 ID:xXPwKUhl0 「い、家か!?」 なんだこれは。 「い、いきなりはやっぱりダメよね…」 どうなってる。 「いや、ダメということはないぞ!」 夢なら覚めてくれ。 「ホントに!?」 頼むから。 「まぁ、家にはもう妹が帰ってるだろうけどな」 30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/21(月) 02:04:27.05 ID:xXPwKUhl0 「そ、それはそうよね」 そんなことを話しながら去っていく二人。 あんなに素直で、赤い顔をしたハルヒを俺は初めて見た。 なんだよ、俺はどうすればいい。 決意だってしたんだ。 なのに、何でこんな事になった? 時間を戻せるのなら戻したかった。 こうなる前に出来ることがあったはずだ。 『手遅れになってからでは遅いのです』 部室で古泉が話していた内容が頭の中をグルグルと回っていた。 32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/21(月) 02:07:41.86 ID:xXPwKUhl0 どれだけそこに立ち尽くしていたかわからない。 空っぽになってしまった気分だった。 「ハルヒ…」 力なく呟いた。 もう届くことはないのか…。 ふと、目の前を見知った顔が横切った。 長門だ。 「な、長門!!」 慌てて声をかける。 俺は知っている。あいつはなんだって出来るんだ。 33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/21(月) 02:10:53.96 ID:xXPwKUhl0 呼び止められ、俺を見つめる長門。 この世界にもお前はいたんだな。 もしかすると、朝比奈さんや古泉もいるのかもしれない。 「は、話があるんだ!聞いてくれ!」 長門の返事を待たずに俺は喋り続けた。 それほどまでに俺の気は動転してたんだろう。 もとの世界のこと、この世界に来た経緯、全て話した。 長門は黙って俺の話を聞いていてくれた。 「だから、長門、協力してくれ!頼む!」 37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/21(月) 02:15:16.64 ID:xXPwKUhl0 長門は無表情のままだった。 何を考えているのかわからない。 「な…長門?」 暫しの沈黙の後、長門が喋りだした。 「あなたの主張は、涼宮ハルヒを自らの世界に連れ戻しに来たということ」 「そ、そうだ、そうなんだよ!」 わかってくれたか、長門。 頼む、助けてくれ。 「それが真実ならば、私はあなたの手助けをすることは出来ない」 「な…!?」 「あなたの世界に涼宮ハルヒを渡すということは、この世界の消滅を意味するから」 38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/21(月) 02:18:46.41 ID:xXPwKUhl0 頭をガツンと殴られたような気分だった。 そのまま長門が歩き去って行く。 俺はただそれを眺めていた。 長門の協力は得られないだって? いや、むしろ、協力どころか長門が敵に回ってしまいかねない。 「はは…」 八方塞とはこの事を言うんだろうな。 俺は絶望のままに、公園のベンチに一人座って一夜を過ごした。 40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/21(月) 02:21:42.42 ID:xXPwKUhl0 朝が来た。 ゆっくりと起き上がる。 この季節の朝は冷え込む。 体が熱っぽい気がするな。 ハルヒ達は昨日、家で何をやっていたんだろうな。 …いや、恋人同士が家でやることなど、だいたい想像がつく。 嫌だ。 そんなの嫌だ。 ハルヒ、頼むよ。 こんな結末、あんまりじゃないか。 涙が出てきた。 41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/21(月) 02:24:28.38 ID:xXPwKUhl0 こうなって、今まで以上に自分の気持ちがわかった。 俺はハルヒが好きなんだ。 何で、何でなんだ。 コイツがお前の望んだ世界なのか? もっと早く、思いを伝えておけば良かった。 悔やんでももう遅いのはわかってるがな。 ベンチに座ったまま1日が過ぎてゆく。 太陽が完全に沈みこんでしまう直前に、一人の男が俺を訪ねてきた。 「どうも」 古泉だった。 43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/21(月) 02:27:56.91 ID:xXPwKUhl0 「長門さんからお話を伺いました」 そう言って俺の横に座る。 「あなたは別の世界からいらっしゃったそうですね」 いつも通りの笑顔だ。 「興味が湧いてしまったのです。あなたの世界に」 どうやら古泉は俺の話を聞きに来たらしい。 それならば、と俺はいろいろ話してやった。 この世界も、もとの世界と大して違いはない。 ただ1つを除いてはな。 45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/21(月) 02:31:15.01 ID:xXPwKUhl0 「そうなんですか…」 古泉が顎をさする。 何かを考えているようだった。 「それだけの用事のために、お前はここに来たのか?」 「いえ、実はお伝えしようと思った事がありまして」 俺に向き合う古泉。 その表情から、何か重要な事を伝えようとしているのがわかる。 「伝えたいこと?」 「ええ…」 「なんだ?」 「いえ、大変言いづらい事なんですか…」 ばつが悪そうに頬をかく。 「無いんです」 47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/21(月) 02:35:10.01 ID:xXPwKUhl0 「…何がだ?」 古泉、結論から話すのは止めろ。 「無いんです。あなたのもといた世界というのが」 「…は?」 なんだ、古泉は何を言ってるんだ? 「先ほど、長門さんに情報統合思念体にアクセスし頂いて、あなたが元々いたと言う世界というのを調べて貰ったんです」 嫌な汗が出てきた。 「ですが、見つかりませんでした」 鼓動が五月蝿い。 「あなたの世界は涼宮さんを失ったことで消滅してしまったようです。残念ながら」 48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/21(月) 02:39:04.66 ID:xXPwKUhl0 「ば、馬鹿な!?」 古泉に掴みかかる。 「僕としても、どうすることも出来ません」 そう言って俯く。 ふざけるな。俺の世界が消えた? それはこの世界がハルヒを奪ったせいだろう。 返せ。 返せ。 ハルヒを、俺の世界を、返せよ!! 49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/21(月) 02:42:21.63 ID:xXPwKUhl0 「お、落ち着いて下さい」 そう言って古泉が俺の肩を抑える。 落ち着く?無理に決まっているだろう。 「離せ!俺は…俺はなぁ…」 怒りか、悲しみか。 今俺に湧き上がる感情に名前が付けられない。 ハルヒももういない。 帰る場所も無い。 そんな俺に何が残る? 言ってみろよ、古泉。 50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/21(月) 02:44:43.10 ID:xXPwKUhl0 「解決策を見つけましょう」 息を整えながら古泉が言う。 俺はというと、全身の力が抜け、ベンチにへたり込んでいた。 「解決策だと?」 「ええ。長門さんや朝比奈さんの協力を得られれば、きっとどうにかなる筈です」 気休めだな。古泉。 これはハルヒが望んだことによって生まれた結果だ。 それをお前らに、どうこうできるとは思わん。 52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/21(月) 02:47:57.65 ID:xXPwKUhl0 「…勝手にやってくれ」 無気力。何をする気も起きない。 「…お気持ち察します」 察する?そんなの無理だね。 今の俺の感情は、俺にしかわからない。 「とりあえず、今回の件についてはこれから僕らも色々と調べさせていただきます」 古泉が立ち上がる。 「必ずや、あなたのお力になりますよ」 そう言って、去っていった。 53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/21(月) 02:50:20.06 ID:xXPwKUhl0 その夜も、俺はベンチにもたれ掛かっていた。 このまま死ぬまでここにへばり付いているのか。 滑稽だな、と思った。 あの夜、いろいろなことを考えて、やっと実行する決意がついたって言うのに。 やっぱり俺は主人公になんかなれないらしい。 喉を潤そうと水道の蛇口を捻る。 そういえば、ここに来てからろくに何も食べてない。 そう考えて体を起こすと、公園の入口に見知った二人が入ってくるのが見えた。 腕を組んだハルヒたちだった。 54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/21(月) 02:52:48.31 ID:xXPwKUhl0 慌てて身を隠す。 そうだな、ベンチの裏の木陰でいいだろう。 幸せそうな笑顔を浮かべる二人。 頭がどうにかなってしまいそうだった。 もしかしたら、あそこにいたのは俺だったかもしれないんだな。 今さら『もしも』の話なんて、意味が無いのはわかっているが。 そこで誤算が起こった。 二人が俺の目の前のベンチに腰を下ろしたのだ。 55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/21(月) 02:56:06.18 ID:xXPwKUhl0 なんてこった。 これでは身動きが取れない。 見つかってしまってはおかしなことになるだろう。 「この公園、街灯が幻想的でなかなかいいな」 「でしょ?あたしが見つけたんだから!」 会話の内容もしっかりと聞こえてくる。 聞きたくない。耳を塞いでしまおう。 だが、それは無意味だった。 二人は目の前で、ゆっくりと唇を重ね合わせた。 56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/21(月) 02:59:11.99 ID:xXPwKUhl0 見たくなかった。 苦しい。 胸が焼けそうだ。 「…キョン、あたし、初めてだったんだからね?」 そう言ってハルヒが自分の唇を撫でる。 「…俺もだ」 ハルヒの肩に腕を回す。 「あたしのこと、大切にしなきゃ許さないんだから」 やめろ、やめてくれ。 「任せとけ」 もう1度口付けをする二人。 消えてしまいたいと心から思った。 58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/21(月) 03:03:09.73 ID:xXPwKUhl0 暫くして、二人は去っていった。 体が動かない。 抜け殻になっちまったみたいだ。 冷たい風が吹く。 俺の中にどす黒い感情が湧きあがって来るのがわかる。 お前だけいい思いをするなんて許せない。 ぶち壊してやる。 61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/21(月) 03:08:14.61 ID:xXPwKUhl0 その後のことはよく覚えていない。 翌日、俺はどこからかナイフを調達してきていた。 校門の前に潜み、2人が到着するのを待つ。 そうだ、俺がこんなに苦しい思いをしてるのはあの2人のせいなんだ。 殺して、スッキリしよう。 暫くして、2人が仲良く登校して来るのが見えた。 そんな顔してられるのも今のうちだぜ? 俺は力強くナイフを握り締めた。 64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/21(月) 03:11:29.54 ID:xXPwKUhl0 「うわああああああああ!!!」 校門前に現れた二人に勢い良く襲い掛かる。 驚いた顔をする二人。 いい顔だ。 ナイフを振り下ろす。 あいつの腕に突き刺さった。 腰を抜かしてへたり込むハルヒ。 目の前の光景が信じられないんだろう。 ナイフを引き抜くと、勢い良く鮮血が流れ出した。 どうだ、痛いか? 次は外さん。 俺はもう1度ナイフを振り下ろした。 66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/21(月) 03:14:27.10 ID:xXPwKUhl0 「な…」 俺のナイフは、アイツを捕らえることが出来なかった。 長門がその手で止めてしまったからだ。 「は、離せ!!」 止めるなよ。 殺すんだ。 全部、盛大にぶち壊すんだ。 長門が呪文を唱える。 「く…くそっ!」 意識が遠のいていった。 67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/21(月) 03:17:14.54 ID:xXPwKUhl0 目が覚めると、そこはSOS団の部室だった。 体を椅子に縛り付けられている。 「…くっ」 ダメだ、相当キツく縛ってあるらしい。 「お目覚めですか?」 古泉が目の前に現れる。 そこに笑顔は無かった。 「…」 「ふえぇ…」 長門と朝比奈さんも現れた。 長門は無表情。 朝比奈さんは怯えた目をしている。 68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/21(月) 03:21:16.83 ID:xXPwKUhl0 「二人は別室に待機していただきました」 古泉が話しはじめる。 「まさかこんな事になるとは…」 知ったことか。俺の気持ちがお前にわかるのか? 「あの後、あなたの事をしっかりと調べさせていただきました」 離せ。殺すんだ。あの二人を。 「なぜ我々も気づかなかったのか、溜息しか出ません」 そう言って頭を抱える。 「自分がさも異世界人であるかのようなお話をしていましたが… なんてことはない。あなた、近所の高校の田中信二さん、ですよね?」 71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/21(月) 03:24:43.79 ID:xXPwKUhl0 汗が噴出す。 「そう、噂では涼宮さんに好意を寄せているとか」 ある日偶然見かけた北高の女生徒。 俺は涼宮ハルヒに一目ぼれをした。 何とかして、近付きたいと思った。 何か気を引くネタは無いものかと、幾度もSOS団の部室の前に忍び込んで中での会話に聞き耳を立てていた。 そこで聞こえてきたのは耳を疑いたくなるような話。 古泉一樹、長門有希、朝比奈みくる、涼宮ハルヒの正体。 いけると思った。 そうだ、俺が異世界人になるんだ。 そうやって涼宮ハルヒの気を引くんだ。 そんなストーリーをあの夜作り上げた。 自分でもビックリするくらい、その役柄を練りこんだ。 何を聞かれても異世界人でいられるようにした。 だが、翌日から熱を出し、家から出られなくなった。 あろうことか、その隙にキョンとハルヒがくっついちまいやがったんだ。 それに気が動転したのだろうか。俺は自分の作った役柄にのめり込み過ぎたらしい。 74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/21(月) 03:30:51.82 ID:xXPwKUhl0 「うかつ」 長門有希が呟いた。 「我々の事を知っている素振りにすっかり騙されてしまいましたからね…」 古泉一樹が溜息をつく。 「あの、この人、どうするんですか…?」 朝比奈みくるは不安げに俺を見ている。 「ふむ、全て消し去る以外にないでしょう」 哀れむような顔だ。 「この男の記憶も、彼らの記憶も改竄する」 そう言って長門有希が近付いてくる。 「はは…ははは…」 涙が出てくる。 結局俺は何も出来ない。ただのピエロだったんだな。 75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/21(月) 03:34:00.85 ID:xXPwKUhl0 ・ ・ ・ 俺は病院で手当てを受けていた。 「キョン、大丈夫?」 横でハルヒが心配そうに見つめている。 記憶はハッキリしないんだが、どうやら俺は暴漢に襲われたらしい。 それで、こんな傷を負っちまった。 「それでは後日、抜糸にいらしてください」 お医者さんに礼をいい、俺たちは病院を後にした。 77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/21(月) 03:36:56.06 ID:xXPwKUhl0 「でも、ホントによかった」 横でハルヒが呟く。 「何がだ?」 「キョンとこうして付き合えるなんて思わなかったから」 そう言って俺の腕に手を回す。 そうだな。実際、古泉の一言がなければ俺は告白なんぞしてなかっただろう。 それほどまでに、俺はその言葉に焦りを感じてた。 「なかなかキョンの気持ちがわからなくて。それであたし、考えたことがあるのよ」 腕を掴むハルヒの力が、少し強くなる。 「あたしを熱狂的なくらい好きな男が現れたら、あんたもライバル心を燃やしてくれるんじゃないかって」 ハルヒは今まで以上に眩しい笑顔をしていた。 おしまい 82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/21(月) 03:49:28.36 ID:xXPwKUhl0 以上です。遅くまでお付き合い頂き、ありがとうございました! わかりにくい話ですが、矛盾は脳内保管をお願いします。