ズッコケ恐怖の雛見沢 1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/09(水) 22:26:47.74 ID:xXYtFc0I0 のどかな田舎町。まわりには田んぼしか無いバス停に3人の少年が降り立った。 「スゲー田舎だな。俺、こんなところで3ヶ月も過ごせるのかなあ?」 一番最初に我先とバスから飛び降りた色黒の少年が、どんぐりのような目をギョロギョロとさせながら辺りを見わたす。 「ここってケーキ屋さん無さそうだよねえ…。持ってきたお菓子、あとちょっとしか無いんだけど、無くなっちゃったらどうしよう…」 デカイ図体に、パンパンに膨らめたこれまた大きなリュックサックを背負った少年が妙な心配をしてみせた。 「なに言ってんだい、モーちゃん。ちゃんとお店はあるって言っただろ?そりゃお洒落なケーキ屋さんみたいなところは無いかもしれないけど、そういう店だって隣の興宮に行けばあるだろうし…ハチベエくんもだいたい失礼だよ。いいかい、僕らはお世話になる身なんだからね」 ラッキョウにメガネをかけた少年が、眠そうな目をしばしばさせながら、二人をたしなめた。 「ハカセよう、なんだかバカに眠そうだけど…どうしたんだ?」 「ん?いやね、なんかさっきのバスの中で、ずーっと誰かが呟いてるのが聞こえた気がして、寝ようと思ってたのに眠れなかったんだよね」 ハカセと呼ばれたラッキョウ少年が、色黒目玉ギョロギョロ少年に答えた。 「ははは、なんだそりゃ。いや待てよ、案外幽霊かもしれないな。こういうところっていかにも出そうじゃんか」 色黒の少年が両手を前に出してうらめしや〜のポーズをすると、太っちょ少年が金切り声をあげた。 「やめてよハチベエちゃん!本当に出たらどうするの」 「へっ、幽霊なんて出るもんか、なあハカセ、こいつにゲンジツってやつを教えてやってくれよ」 ハチベエと呼ばれた色黒少年が振り返ると、ハカセはなにやら思案にくれていた。 あの声…なんて言ってたんだろう…めん…さい…ご…んな…い… 「ごめんなさい」かなぁ…。 時は昭和58年8月。 この田舎町ではひぐらしが元気に鳴いていた。 8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/09(水) 22:33:51.51 ID:xXYtFc0I0 「えー、それでは転入生を紹介します」 まだ少女と呼んで差し支えないようなあどけない表情を持った女教師がそう言うと、ガヤガヤと五月蝿かった教室は、なおいっそう五月蝿さを増した。 「転校生だって!」 「男の子かなあ、女の子かなあ」 「なんでも瀬戸内のほうから来たらしいよ」 好き勝手にしゃべる子供たちを、一際年上の少女が止めにかかる。 「はい、傾注傾注〜。先生が紹介してるんだから静かにしな」 この少女のカリスマ性は確かなものであったようで、あれほど騒がしかった教室は途端に静かになった。 それを見てほっとした様子のまだ若い教師は、入り口を振り返った。 「それでは入ってきてください。転入生の山中くん、奥田くん、八谷くんです」 22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/09(水) 22:40:15.51 ID:xXYtFc0I0 紹介された三人はおっかなびっくりとしながらも教壇に立った。 先生「えー、三人は稲穂県のミドリ市からこちらに転校してきました。 皆さんも知ってのとおり、2ヶ月前に起こった地震の影響で、ミドリ市ではまだ学校が機能していません。 そのため、三人は復旧が見込める3ヶ月の間、こちらで皆さんと一緒に勉強することになりました。 それでは…ええと、山中くんから自己紹介をしてくれるかな?」 31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/09(水) 22:49:30.58 ID:xXYtFc0I0 先生の指名を受けた山中少年はゆっくりとクラスを見わたしてから喋りだした。 「えー、ミドリ市からやってきた山中です。こちらには僕の祖母の実家があるというご縁があって、お邪魔させてもらうこととなりました。短い間ですがよろしくお願いします。 ミドリ市の学校ではハカセと呼ばれていたんで、みんなもそう呼んでください」 ハカセがそんな風に自己紹介をしたので、続くハチベエ、モーちゃんも同じようにそれぞれのニックネームを披露する。 「へえ、ハチベエにハカセにモーちゃんかぁ。確かにその方が呼びやすいね! どうだろう諸君、我々も親愛を込めて、彼らをニックネームで呼ぶことにしようじゃないか」 先ほど騒がしいクラスを静めた少女がそういうとクラスのあちこちから 「意義無し!」「そうしよう!」 などの声が飛んだ。 「あ、アタシは魅音っていうんだ。クラスの委員長やってるから、困ったことがあったらなんでも相談しな」 少女は三人にそう言うと、ニッコリと笑顔をみせた。 「おい、モーちゃん、あのお姉さんスゲー美人だな。こりゃいいところに転校してきましたよ、ヒヒヒ」 到着したときは雛見沢を腐していたハチベエが調子のいい事を言う。 40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/09(水) 22:58:04.76 ID:xXYtFc0I0 お察しのとおり、まったく書き溜めが出来ておりません。 その上、PCのエラーが起こってしまい、不必要に皆さんをお待たせしてしまっているのが現状です。 文章力がまるで無い上にそんなこんなでグダグダですが、予想以上の反響にビックリしています。 なんとか頑張りたいと思いますので、その辺りはご容赦ください。 44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/09(水) 23:04:15.19 ID:xXYtFc0I0 休み時間。 授業が終わると、クラスの生徒たちは我先と3人のところに集まってきた。 「ねーねー、ミドリ市ってどんなとこ?」 「海があるんでしょ?いいなあ」 「前の学校だと何が流行ってたの?」 3人はたちまち質問責めにあう。 「うへえ、俺も注目されるのは嫌いじゃないけどよ、こうもよってたかって質問責めじゃまいっちまうぜ」 ハチベエがちっとも困ってないような顔をしつつ、後ろのモーちゃんを振り返ると、なんとモーちゃんはさきほどのきれいなお姉さまとにこやかに談笑しているでは無いか。 しかも魅音の周りで一緒に楽しそうに会話に参加している生徒たちも、いずれ劣らぬかわい子ちゃん揃いときている。 53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/09(水) 23:12:45.24 ID:xXYtFc0I0 このモーちゃんという男、不思議と異性に好かれる運命にあるのだ。 女好きのハチベエとしては、さすがにこれでは面白くない。 質問してくるチビ共を無視して、かわい子ちゃんたちとの談笑に乱入した。 「なーなー、なんの話してるの?」 するとショートカットに白い帽子を被った少女が振り返って答えてくれた。 「えーとね、部活の話してたの。あっ、あたしはレナ。よろしくね、ハチベエくん」 レナと名乗った少女も、魅音に負けず劣らず可愛かった。 どっちのお姉さまも捨てがたいなあ…。どっちと交際したらいいんだろうか? ハチベエが馬鹿な思案にくれていると、そのグループ唯一の男の子がハチベエの目の前に来ていた。 「なーに難しい顔してんだ?俺は圭一っていうんだ。 ところでお前らよー、俺らの部活に入らないか?女の子ばっかりで野郎のメンバーも欲しいと思ってたところなんだ」 58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/09(水) 23:20:36.82 ID:xXYtFc0I0 その後、メンバー全員の自己紹介をしてもらい、その日の放課後、三人は彼女らのいう「部活」に参加することになった。 「とりあえずは仮入部ってとこだけどねー、ウチらの部活はハードだよ、ククク」 魅音はおっかなびっくりになっている三人を見渡す。 「3人の先輩の圭ちゃん、今日の部活は何にする?」 なにやら含むところのあるような目線で圭一に尋ねる。 「そうだなあ…これで部活もメンバーが多くなったことだし、多人数でも出来る遊びの定番、ジジ抜きはどうだ?」 圭一は無難とも安直とも思える提案をした。 「よーし決まった!今日の部活はジジ抜き!異議がある人いる?」 「異議なーし」 3人もみんなに倣い、そう答えた。 「言っとくけどねえ、うちらの部活は常識にとらわれてちゃ勝てないよ」 61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/09(水) 23:32:28.34 ID:xXYtFc0I0 こうしてジジ抜きが始まった。 初めのうちは一進一退の攻防だったが、気がつけば3人でドベ争いのデットヒートを繰り広げる展開になってしまった。 「おかしいなあ、こんなに負けるわけが無いんだけどねえ」 ハカセがずれたメガネを直しながら首を傾げると、モーちゃんも同意する。 「そうだよねえ、僕、けっこうトランプ強いはずなんだけど」 「君の言ってるのは単なるオカルトだろ?そうじゃなくて、運のみのゲームのジジ抜きで、ここまで負けるのは確率的にありえないって言ってるんだよ。それにいいかい」 そう言ってハカセはモーちゃんの耳元に顔を近づけ、小声で続けた。 「実はさっきから、僕は隣の、そのまた隣の人から引いたカードを引くってのを続けてるんだ。 こうするとそのカードは隣の人も、そのまた隣の人もペアになってるカードが無いって事だから、つまり、普通に引くよりも自分のところでペアになる確率が高いんだ。 それなのに何度やってもカードは減らないし、最終的にはハズレを掴まされている。これっておかしいと思わないか?」 ハカセが眉間に皺を寄せ、難しい顔をして話していると、ハチベエから声が飛んだ。 「へっ、おかしいもんか。ようするにこいつらがインチキしてるってだけだろ?」 「ちょ、ちょっとハチベエくん、何もそんな大きな声で…」 ハカセが慌ててハチベエをなだめようとするが、火がついてしまったハチベエは止まらない。 「どうなってんだよ、お前ら!そんなインチキばっかして楽しいのかよ!」 64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/09(水) 23:42:34.68 ID:xXYtFc0I0 「はん、見当ハズレの事ばっかり言う坊や達だねえ…まっ、こっちのイカサマに気づいたってことだけは評価してやるよ。」 魅音は悪びれもせずに言った。 「イ、インチキを認めるのかよ!それじゃお前らの負けだろ!」 ハチベエが激昂したが、魅音はそんなことでは怯まない。 「会則第一条! 狙うは1位のみ!いい加減なプレイは許さない!!! そして会則第二条!」 魅音が朗々と言うと、沙都子がそれに続いた。 「会則第二条 勝利のためにあらゆる努力をする事が義務付けられているのですわ! インチキだの、卑怯だのってのは敗者のたわ言ですわ、ホーッホッホ」 3人はいまだ納得が出来なかったが、とりあえずそういうもんかと思い直し、3人でドベ争いをするのだった。 67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/09(水) 23:54:56.34 ID:xXYtFc0I0 帰り道。 「しっかしスゲエところだよなあ…。小学生も中学生も同じクラスだなんて」 「うん、そうだよね。人数が少ないんじゃつまんないだろうなあ」 ハチベエが言うとモーちゃんも素直に感想を漏らす。 「だけど、かえって勉強できるんじゃないかなあ。わからないところはどんどん先生に質問できるだろ?」 と、これは学習熱心なハカセの意見。 「だけど野球も出来ないし、サッカーだって無理なんじゃないの?一、二年のチビと一緒にやるなんてしまらねえからな」 「だから部活があるんじゃないの?カードゲームなら学年関係無いし」 三人が少数学級の是非について討論しているとき、横の方で物音がした。 70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/10(木) 00:06:46.42 ID:iqCps3yI0 見るとそこは三人が到着したバスの停留所があり、その中から異様な姿の人影が顔を出している。 百歳くらいかと思うような、腰のまがった老婆だった。 白というよりは黄色に変色した髪を振り乱し、身体にはようやく着物とわかるボロをまといつけていた。そしてクツには、不釣合いなゴムの長靴を履いているのだ。 老婆は、長靴をパコパコと鳴らしながら三人の方にやってきた。 そしてヤニの溜まった目でジロリジロリと三人の顔を眺め回していたが、やがてハァっと溜息をついた。それから口の中でモグモグと呟いた。 「お前たちゃあ、呪われてる」 老婆の言葉は、そう聞こえた。 72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/10(木) 00:13:47.34 ID:iqCps3yI0 「恐ろしいことじゃで…またぞろ、オヤシロさまの亡霊が迷い出てくるぞ」 三人はあっけにとられて老婆を眺めていた。 「おい、この婆さん、ここがおかしいんじゃないのか?」 ハチベエが頭を指差しながらハカセにささやく。 「あの、お婆さん、僕らはここに来たばっかりで、この街とは縁もゆかりも無いんですけど…」 ハカセが遠慮がちに言った途端、老婆が不意に怒鳴り声をあげた。 「バカタレ!お前じゃ、お前がオヤシロさまを呼び寄せた張本人じゃぞ!」 あんまり大きな声だったので、三人とも飛び上がってしまった。 「お、お婆さん、オヤシロさまって何ですか?」 ハカセが、いくぶん気味悪げに老婆に尋ねる。 「なに?オヤシロさまを知らん?おみゃあは雛見沢のものじゃねえの。 だけど一度こっちにやってきたの。それでオヤシロさまが出てきてしまった」 老婆はこちらにまったく理解できない会話を繰り返す。 「悪いことは言わん、早う町へいね。オヤシロさまがさ迷いでん前に戻るがええ。 ええか、さっさと雛見沢から出ていけ。わかったの」 老婆は回れ右すると、バス停の方によたよたと歩き出した。 パコリ、パコリという長靴の音を聞きながら、三人はただただ顔を見合わせるばかりだった。 74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/10(木) 00:31:29.98 ID:iqCps3yI0 夜。三人は現在身を寄せている公由家の寝室で話していた。 昼間会った老婆のことは気になっていたが、なんとなく公由のお爺ちゃんには話しづらかった。 ちなみに公由家の党首である公由喜一郎は、ハカセの母方の祖父である。 地震で学校が休校となった際、ハカセを誘ってくれたのが喜一郎だった。 喜一郎の「とにかく一度、こっちを見に来なさい」という言葉に釣られて遊びに行った際、喜一郎の熱心な説得があったのだ。 雛見沢には子供が少ない。だから雛見沢の子供たちは、教育の面でかなり不利な面がある。 そこでハカセという町の学校に通う子供とコミュニケーションをとらせたいと思ったようだ。 「学校が直るまでの間、なんとかこちらに来てもらえないか」 最初は渋っていたハカセだったが、喜一郎の「もしなんだったら、友達も誘っていいから」という言葉で行く気になり、いつもの仲良しメンバーに声をかけた…という次第。 78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/10(木) 00:37:30.43 ID:iqCps3yI0 「へっ、単に頭がパーな婆さんってだけだろ。そろそろ暑くなってくる季節だし、ああいうのが出てくるんだよなあ」 ハチベエはいつものように悪態をついてみせたが、ハカセは押し黙っていた。 「どうした、ハカセ、腹の調子でも悪いのか?トイレで出してきな。スッキリするから」 このハチベエという少年、どうも発言が下品でいけない。 しばらくの間黙っていたハカセだったが、やがて言葉を選ぶ様に話し始めた。 「あのお婆さん…単に狂ってるってだけじゃなくて…何かを知っているんじゃないかなあ?」 それは自分に言い聞かせているような口ぶりだった。 81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/10(木) 00:43:34.73 ID:iqCps3yI0 「いいかい、あのお婆さんの言った事、覚えてる? もちろん大半はちんぷんかんぷんだったけど、僕に対して『一度こっちに来たせいで、オヤシロさまが出てきてしまった』って言ったんだよ。 それって僕がこの前、こっちに来たときの事だろ。 僕が来たなんて知らないはずのお婆さんが、どうしてそんなこと言えるんだい?」 ハカセはいつになく真剣な表情をしている。 「そんなこと言ったっけか?おいモーちゃん、覚えてるか?」 「ううん、どうだったかなあ?ぼくはお婆さんの食べてたおにぎりが、美味しそうだなってことしか覚えてないや」 モーちゃんは、いついかなるときでも食い気が記憶の中心にあるのだ。 82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/10(木) 00:48:48.18 ID:iqCps3yI0 「ハカセは気にしすぎだよ。あ、ひょっとするとこの前来たときに見たんじゃないの? あの婆さん、バス停に住んでるみたいだったし、そんときにお前を見かけた…うんうん、そうに違いない」 ハチベエは自分の自説に納得したようで、満足気に頷いた。 「さ、あんなヘンな婆さんの事は忘れて、今日はとっとと寝ようぜ。田舎の朝は早いからなあ」 ハチベエが言うとモーちゃんも 「そうだね。早く寝ないとお腹空いちゃうし」 と、変なところで同意した。 ハカセはまだ昼間の老婆が気になっていたが、考えても仕方がないので眠ることにした。 83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/10(木) 00:55:29.82 ID:iqCps3yI0 ごめんなさい…ごめんなさい… 誰かが謝っている気がする。そういや前にも誰かに謝られた気がしたけれど、あれはいつの事だっただろう… 「――ん…朝かあ」 ハカセは目を覚ますとまず、枕元にあるメガネをかける。 これをかけないと頭が回らないというか、一日がやってこないような気さえするのだ。 「変な夢だったな…。なんだろ、ごめんなさいって…」 メガネをかけ、幾分回転し始めた頭で考えていると、母屋の方から声がした。 「正太郎、朝飯が出来てるぞい」 喜一郎爺ちゃんだ。 「はーい、いま行くよー」 ハカセは慌てて服を着替え、朝飯の並ぶ食卓に向かった。 85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/10(木) 01:05:20.41 ID:iqCps3yI0 朝飯の席。 ハカセは昨日からの疑問を、喜一郎にぶつけてみることにした。 「おじいちゃん、オヤシロさま、って知ってる?」 我ながらヘンな質問だな、と思いながらだったが、喜一郎の答えは意外なものだった。 「知ってるも何も。雛見沢の人ならみんな知っとるよ。正太郎、お前にも説明してやったことあるじゃろ」 喜一郎はそう言うが、ハカセはまったく覚えていない。 「オヤシロさまっていうのはな、この雛見沢の守り神なんじゃよ。 昔、この雛見沢に沼から鬼が湧いてきたことがあっての。里の人々を困らせていたんじゃ。 そのとき現れて人々を救ってくれたのがオヤシロさまで、以来、この雛見沢ではオヤシロさまをお祀りしておるんじゃよ。 そうそう、もうすぐ神社で祭りがあるんじゃが、そこの神社がオヤシロさまをお祀りしている神社での、そこで神聖な儀式もあるから、是非行ってみるといい」 喜一郎の言葉に、ハカセはますます混乱するのだった。 91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/10(木) 01:21:51.13 ID:iqCps3yI0 その日の授業中、ハカセは終始上の空だった。 授業と言っても、ほとんど自習に近い体裁だから、それでもあまり問題にはならない。 ハカセの頭の中はオヤシロさまのことでいっぱいだった。 休み時間にハチベエたちから声をかけられても生返事。 昼休みにお弁当を食べていても一人言葉少なげ。 そうしている内に放課後がやってきた。 92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/10(木) 01:22:44.77 ID:iqCps3yI0 「さあ、今日の部活はなにをしよっかあ…ってあっるれぇ?ハカセ、なーんか元気ないじゃない?」 魅音がいつになく上の空でいるハカセを訝しがる。 「ハカセも、そんな日もあるのです。魅ぃ、ハカセもこんなんだし今日は部活止めにしませんですか?」 梨花が気を使ってそう言うと、魅音も同意した。 「そだね。部活メンバー一人でも欠けちゃ、面白くないもんね。 残念だけど、圭ちゃんをズタボロにするの巻、は次回にとっとくとするかぁ」 「何ィっ!おい魅音、そりゃこっちのセリフだぜ! 次を楽しみに待ってろよ!死ぬほど恥ずかしい罰ゲームで後悔させてやるからな!」 魅音が軽口を叩くと、阿吽の呼吸で圭一も乗ってきた。 二人とも、元気の無いハカセを少しでも元気づけようとしてくれているのだ。 ハカセにはその心遣いが嬉しかったが、それに素直に答えられない自分が歯がゆかった。 「ゴメン、みんな…」 そう言うのが精一杯だった。 93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/10(木) 01:27:12.32 ID:iqCps3yI0 「ねえ、ハカセくん、今日部活やらないことだし、放課後ちょっとレナに付き合ってもらえないかな、かな?」 レナが声をかけてきた。 正直なところ、オヤシロさまとあの老婆について、もうちょっと考えていたいところだったが、一人で考えていても限界がある。 道々、レナに聞くチャンスもあるなと思い、ハカセは了解した。 「いいですよ。ところでどこに行くんですか?」 「ふふふ、内緒だよー。でも、とってもいいところだよー。ハカセくんもきっと気に入ると思うな☆」 レナは本当に嬉しそうにそう言う。 そんなレナを見ていると、ハカセも何故か嬉しくなるのだった。 94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/10(木) 01:40:13.11 ID:iqCps3yI0 レナについてきて辿り着いた場所はゴミの山だった。 ゴミ山。粗大ゴミの不法投棄されて、そのまた上に粗大ゴミが…という繰り返しを経て出来たであろう、ゴミ山としか言い様のない場所。 「こ、このゴミの山が目的地だったんですか?」 ハカセが遠慮がちに言うと、レナは答えた。 「はうっ、ゴミ山じゃないもん! レナにとっては、レナにとっては…!たっ…宝の山なんだよ、だよ!?」 レナは目をキラキラと輝かせている。 「そんじゃあ、かぁいいモノを見つけに行ってくるから、もし一人で取るの大変なものがあったら協力してね…はっ、早速かぁいいモノ発見!おっ持ち帰りィ〜!」 レナは目を輝かせながら、宝(?)探しに飛び出してしまった。 ま、いっか。 とりあえずいままで起こった事を整理してみよう。 ええと、まず最初のきっかけはあの老婆だよなあ…。 ハカセが一人、考えていると、 カシャッ! 突然鋭い光と共に、シャッター音があたりに鳴り響いた。 96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/10(木) 01:44:58.03 ID:iqCps3yI0 え?なに? ハカセがビックリしていると、物陰から一人の男が顔を出した。 「ははは、ゴメンゴメン、ビックリさせてしまったかな?」 見ると筋肉質なガタイのいいオジさんが、カメラを構えて立っていた。 「いや、脅かすつもりは無かったんだ…君は雛見沢の人かい?」 筋肉質の男は続けざまにそう言った。 ―!この人、雛見沢の住人じゃないのか。 ハカセが考えていると、さらに男は話を続けた。 「僕は富竹。フリーのカメラマンさ。雛見沢にはときどき来るんだよ」 98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/10(木) 01:54:01.06 ID:iqCps3yI0 最初はあっけにとられていたハカセだったが、このやけに親しげに話してくる男に段々と怒りが湧いてきた。 「写真を撮るならちゃんと被写体に一言、声をかけるのが礼儀なんじゃないですか? 少なくとも、その写真の肖像権は僕にありますよ」 ハカセは随分とキツい物言いをしたつもりだったが、富竹と名乗った男はまったく堪えていない様子だった。 「ははは、ゴメンゴメン、君は随分と難しい言葉を知ってるんだねえ。 普段は野鳥を撮るのがメインでね、そうするとどうしても許可を取るって事が出来ないんだよ。 …いやいや、許可を得る前にシャッターを押したことは謝るよ。 夕日にたそがれる少年が、あまりにも絵になっていたんで、つい、ね」 パシャリ。 そう言いながら、富竹はなおもシャッターを押す。 99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/10(木) 02:00:03.82 ID:iqCps3yI0 「ハカセくーん、待たせてごめんねえ。もうちょっとで終わりにするからー!」 レナがブンブンと手を振りながらこっちに向かって叫んでいる。 「彼女はあんなところで何をしてるんだい?」 自称・カメラマンは興味深げにハカセに尋ねた。 そりゃこっちが聞きたいセリフだよなあ。 ハカセはそう思ったが、この男にはちょっと頭にきてたところもあったため、つんけんと適当なことを言うことにした。 「さあ…宇宙人に会ってるか、さもなければ昔殺して埋めた、バラバラ死体でも確認してるんじゃないんですか?」 適当なことを言って煙に巻こうと思ったハカセだったが、その後富竹が言った言葉に凍りつくことになる。 「……嫌な事件だったね」 101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/10(木) 02:16:23.29 ID:iqCps3yI0 「えっ?それってどういう…」 ハカセが言いかけると富竹は当たり前の話をするみたいに続けた。 「腕が一本、まだ見つかっていないんだろ?そういや殺害現場はこの辺だったらしいね」 殺人事件?この雛見沢で? 「あの、富竹さん…それって一体なんの…」 ハカセのセリフは、戻ってきたレナによってそこで打ち切られた。 「ハカセくん、お待たせー!待ったかな?…かな?」 胸に壊れた炊飯器を抱えてレナが戻ってきた。 「ちょっとレナさん、それって何に使うんですか?」 思わずハカセが尋ねると、遠くで声がした。 「それじゃあ僕はこの辺で。驚かせて悪かったね、『ハカセくん』」 気がつけば富竹さんは随分と遠くまで行ってしまっていた。 もっと聞きたいことがあったのに。 103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/10(木) 02:18:07.87 ID:iqCps3yI0 帰り道、レナに聞いてみることにした。 「あの、レナさん、ちょっと聞きたいんですが、昔、ここでバラバラ殺人事件ってあったんですか ?」「知らない」 え? 驚くほど早い返答だった。 いや、それは返答というより、はっきりとした拒絶。そう言ったほうがいいぐらいの態度。 転校してきて以来、こんなレナの態度を見るのは初めてだった。 ハカセが呆気にとられていると、レナはフォローするように続けた。 「実はね、レナも去年まで余所に住んでたの。ハカセくんたちと一緒だね。 だからね、それ以前のことはよく知らないの。ごめんね」 「あ、そうだったんですか。それは知らなかったなあ」 とぼとぼと歩きながらハカセは答えたが、明らかに変なレナの態度に不信感を募らせるばかりだっ た。 一体全体、この雛見沢という村には何があるんだろう…。 ハカセは考えても考えても答えの出ない事を、帰り道中ずっと考えていた。 105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/10(木) 02:33:48.82 ID:iqCps3yI0 「それでお前、いままでレナさんと二人っきりでデートしてたのかよー。ずりいなあ」 公由家に帰ってきて、二人に事のあらましを説明すると、ハチベエは食ってかかってそう言った。 「別にデートってわけじゃないよ。それよりおかしいと思わないかい、いいかい、もしバラバラ殺人なんて大事件があったら、こんなに小さい村じゃ大騒ぎに決まってるだろ? 普通に考えたら、何年も語られるような事件だよ。それなのに僕らはそれについて何にも聞いていない。 お爺ちゃんもお母さんも、そんな話したことが無いんだ。これってちょっと普通じゃ無いと思うな」 ハカセは眼鏡をかけ直しながら言った。 「ううん、確かになあ…ハカセの言うとおりかもしれない。うん、こりゃ面白くなってきましたよ。ちょうど退屈してたところだったんだ。俺たちでそいつの謎を暴こうぜ」 ハチベエが乗り気になったのを見て、モーちゃんが金切り声をあげる。 「やめてよハチベエちゃん!ねえハカセちゃん、そのバラバラ殺人ってのを言ってたのは富竹さんだけなんだろ? その人の作り話ってことは無いのかなあ?」 怖がりがモーちゃんだが、指摘は意外に鋭い。 107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/10(木) 02:41:21.69 ID:iqCps3yI0 確かにバラバラ殺人について話していたのは富竹さんだけである。 そもそもこの人の完全な創作で、単にハカセを担いだだけって可能性も否めない。 「うん、それはその通りなんだけどね。ただ、バラバラ殺人についてレナさんに聞いたときの反応が不自然だったんだよ。 もし、バラバラ殺人なんて話が本当に初耳だとしたら、むしろ興味を持って聞いてくるだろ? 自分も転校生っていうんなら尚更そうなんじゃないかな。 興味を持たないまでも『え?なにそれ?』って反応になるのが普通なんじゃないの。 それを『知らない』って即答えるのって、どう考えてもおかしいよ」 ハカセは帰り道中、ずっと考えていたことを二人にぶちまけた。 108 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/10(木) 02:51:16.75 ID:iqCps3yI0 「確かにハカセの言うとおりだぜ。そうなるとレナが怪しいな。 よし、明日、学校で俺が問い詰めてやるから楽しみにしてな。 なあに、年上って言ったって女だろ、余裕だよ」 どうもハチベエは短絡的すぎる。 「別に僕は、レナさんが犯人だなんて思っちゃいないよ。 ただ、何かを隠してる…いや、レナさんだけじゃなくて、村ぐるみで何かを隠しているんじゃないかな。 余所者には知られたくない何か。バラバラ殺人だけじゃなくて、例のオヤシロさまの話もそうだよ。 お爺ちゃんの話だとこの村の守り神ってことだけど、あの婆さんの話を聞く限りじゃどう見ても悪霊の類だろ? この辺も、なんか秘密があるんじゃないかなあ」 ハカセがとりなすと、ポテトチップスの袋をバリバリと破いていたモーちゃんが言った。 「そういえば今日の休み時間、クラスの小さい子たちが変なこと言ってたよ。 今年も鬼隠しがあるのかなあとかそんな感じだったかな。 ぼく、気になって聞いてみたんだよね。鬼隠しってなんだい?って。 そしたら『なんでもないよ!』って驚いたみたいにどっか言っちゃったんだよねえ。 ハカセちゃん、ハチベエちゃん、鬼隠しって聞いたことある?」 143 名前:1 ◆or0XnlxUXQ [] 投稿日:2009/09/10(木) 12:29:13.42 ID:iqCps3yI0 そうか、じゃあ一応トリップをつけときます。 もし別のスレでお会いした際にはよろしく。 157 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/10(木) 17:56:29.17 ID:iqCps3yI0 ハチベエもハカセも、しばし顔を見合わせていたが、その内ハチベエがつぶやく様に言った。 「オニカクシ?なんだよ、それ」 「神隠しっていうのなら知ってるけど、鬼隠しっていうのは聞いたことないね」 ハカセもそれに続く。 「神隠し?おっ、それって名前が似てるじゃないか。それってどういうものなんだ、ハカセ」 「うん、神隠しって言うのはね。『天狗隠し』とも言うんだけど、ある日突然、人間がパっと消えてしまう現象を言うのさ」 「消えるって、いなくなっちまうのか?」 「そうさ、日本の古い言い伝えだけどね」 「やめてよハカセちゃん、だいたいそれ、大昔の話なんだろ?現代じゃ関係ないじゃない」 モーちゃんは図体はでかいものの、肝っ玉は人一倍小さく出来ているのだ。 159 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/10(木) 18:07:21.54 ID:iqCps3yI0 「たしかにそういう話ってのは、たいていがインチキだったりするからな」 ハチベエがわけ知り顔で頷いてみせたが、ハカセは口をとんがらかせて反論した。 「いや、そうとばかりは言えないよ。世界各地で突然、行方不明になっちゃう話はけっこうあるんだな。それもちゃんと日付まではっきりしている話が山ほどあるんだ。 例えば1519年10月、マニラ知事官邸を警備中の兵士が、いつの間にかメキシコの宮殿前に立っていたって記録がある。1万4千4百キロの距離を飛び越えたってことだな。 この事は二ヵ月後、マニラから出た船によって確かめられている。 他にも1913年、作家のアンブローズ・ビアスが行き止まりの洞窟に入っていったきり、二度と姿を現さなかった。 さらに1937年12月、長江の橋のたもとで兵士三千名が…」 ハカセの話はどうも、長くなりすぎるきらいがある。 161 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/10(木) 18:16:36.78 ID:iqCps3yI0 「だいたい僕らが新学期そうそうに行った江戸時代、あれだってあのまま帰ってこれなかったら神隠しだって言われてたんじゃないの」 「わかったわかった、確かにそうだよな。神隠しはわかったけど、そんじゃ鬼隠しってなんなんだ? モーちゃん、他になんか情報は無いのかよ」 「うーん、そうは言ってもねえ…あ、そうだ!たしかナントカサマの祟りとか言ってたなあ」 「モ、モーちゃん、それってオヤシロさまって言ってたんじゃないのか」 「いやハッキリと聞こえなかったから…でもそうかもしれない。ここに来てから、他に似た名前って聞いてないもんね」 「ということは、鬼隠しの鬼っていうのが、オヤシロさまの正体だって可能性が高いかな」 二人の話を聞いていたハカセが、まとめるように言った。 165 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/10(木) 18:34:37.62 ID:iqCps3yI0 「鬼っていうのはね、怖い化け物のイメージでもあるけど、同時に神秘的な存在の代表でもあるんだ。 さっき言った天狗のことを指して鬼と呼ぶこともあるし、ある宗教で神様として扱われている神が、他の宗教では鬼として扱われていることもある。 この雛見沢って村は鬼信仰があったんじゃないの」 ハカセは再び博学なところを見せてみた。 「だけどよー、ここの連中が信じてるのが鬼だったとして、じゃあ鬼隠しってなんなんだ? 連中の態度からして、聞いても素直に教えてくれるわけないだろ」 「うん、確かにそれはそうなんだよね…よし、明日は土曜日で半ドンだろ? 午後に興宮の図書館に行ってみないか?ここの歴史を調べてみたら、何かわかるかもしれない」 169 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/10(木) 18:47:01.85 ID:iqCps3yI0 そして翌日。 ハカセにとって今日ほど授業が終わるのが待ち遠しい日は無かった。 キーンコーンカーンコーン やれやれ、やっと終わったぞ。 ハカセは授業が終わるやいなや、ハチベエに声をかけた。 「ハチベエくん、そんじゃ急いで帰って、それから出発だよ」 「わりい、さっきチビどもに野球を教えてやるって言っちゃったんだよ。 そしたら今日試合だから是非出てくれってせがまれちゃってさ。断るに断れないんだ。 悪いけど今日は、モーちゃんと二人で行ってくれるか?」 「なんだよ、それ…しょうがないなあ、そんじゃモーちゃん、急いで帰ろうか」 ハカセが傍らを振り返ると、モーちゃんは梨花ちゃん、沙都子と和やかに談笑している。 「ゴメン、ハカセちゃん。梨花ちゃんと沙都子ちゃんが美味しいケーキ屋さんを教えてくれるって言ってくれてて。 なんでも、今日行くとタダになるチケットがあるらしいんだ。 図書館はまた今度ってわけにはいかないかなあ?」 171 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/10(木) 18:57:32.22 ID:iqCps3yI0 まったく、この二人は約束をなんだと思っているんだろう。 ハカセは憤慨しながら一人で公由家に帰った。 だいたい、この村の人間は隠し事をしてるって話を暴こうとしているのに、 その村の人間たちと仲良く遊ぶ用事を優先して、昔からの親友の約束を反故にするというのがどうかしている。 「まあいいや、僕一人で探そう。だいたい、あの二人は図書館には向かないからな」 ひとりごちたハカセが公由の家に着き、玄関を開けようとした、その瞬間、 ペタリ 足音が聞こえた。 ハカセは思わず振り返ったが、そこには誰もいない。 「おかしいなあ、さっき足音が聞こえたと思ったんだけど…。 おっといけないいけない、早く図書館に向かわないと」 173 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/10(木) 19:14:10.80 ID:iqCps3yI0 ハカセがやってきた興宮の図書館は、予想に反して随分と立派な建物だった。 まだ新しいのかきれいだし、規模も蔵書もミドリ市の図書館よりも大きく見える。 「これなら目当ての本もいろいろとありそうだな。それにトイレも…」 ズッコケシリーズを愛読していた方はご存知であろうけど、ハカセにはあるクセがある。 それは勉強するときや本を読むときに、トイレに篭るという、あまり人様に自慢できないようなクセだった。 ハカセにとってトイレの個室は集中力を高める別世界であり、聖域なのである。 ところがこっちに来てからというもの、ハカセはトイレに篭れないでいた。 それは公由の家が和式便器だったからだ。 まさか和式に中腰になりながらでは、算数ドリルは出来ない。 雛見沢に来てからどうも勉強に集中できない気がしてたけど、それはトイレに原因があるのではなかろうか。 かようにハカセは考えていたのである。 しかし、いま目の前にある建物は、その造りからして現代的であり、トイレも洋式である可能性が高い。 これはハカセにとっては嬉しい誤算だった。 しかも都合のいいことにいつもの二人はいないときている。 いかに仲のいい二人の前でも、図書館の本を持ったままトイレに篭るのは気がひける。 ひょんなことから絶好のチャンスがやってきたと、ハカセはにんまりとしたものである。 175 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/10(木) 19:29:00.03 ID:iqCps3yI0 図書館の中はまるで別世界のように涼しく、外の茹だる様な暑さを忘れさせた。 さて、まずは民俗学の本を…いやいや待て、この村の歴史が先決か。 ハカセがブツブツと呟きながら歩いていると… ドンッ! 「キャッ、びっくりしたー」 誰かにぶつかってしまった。 「す、すみません、お怪我はありませんか?」 ずり落ちた眼鏡を直しつつ、慌ててぶつかった先を見ると、そこにいたのは都会的で綺麗な女の人だった。 「ふふふ、大丈夫よ。でも気をつけないね」 女の人は涼しげに笑いながらそう言った。 はあ、この村にもこんな綺麗な人がいるんだなあ。 ハカセが妙な感心をしていると、女の人が何かに気づいたように言った。 「あ、もしかして君が山中くん?」 176 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/10(木) 19:36:51.53 ID:iqCps3yI0 「はい、僕は山中ですけど…ええと、失礼ですがどちら様ですか」 「あらあらあら、ごめんなさいねえ。そうよね、私がまだ自己紹介してなかったわね。 私は鷹野三四。雛見沢にある入江診療所で看護婦をやってるわ」 三四と名乗る看護婦は、自分の髪をくるくると弄びながら、楽しそうに話している。 「ふふふ、なんで私があなたのこと知ってるか、理解できないって顔してるわね。 こんな小さい村だからね、新しく引っ越してきた人の事はすぐに噂になっちゃうのよ。それに――」 そこで三四は顔を随分と近づけてきた。甘い香水の香りがハカセの鼻をくすぐる。 「――やってきたのが、あの御三家の公由家のお孫さんって聞いたら、すぐにでも覚えるわよ」 三四はからかう様な、どことなく含みのある様な微笑を浮かべながら、ハカセにそう言った。 179 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/10(木) 20:10:04.93 ID:iqCps3yI0 三四の香水は麻薬か何かなのだろうか。 そう思えるほどに、気がつけばハカセは身体がコチコチに固まっていた。 ややあって、 「御三家?なんですか、それ」 搾り出すようにそれだけ言うのが精一杯だった。 「御三家も知らないの?困った坊やねえ。公由家の孫、それも跡取り候補だって言うのに」 御三家?跡取り?なんのことだ?サッパリ話が見えてこない。 「あら、その本……雛見沢の歴史に興味があるのかしら?」 三四はハカセの手に持った「雛見沢の歴史」という本をチラリと見た。 「ええ、歴史はそもそも好きなんで…いま調べたいのは、どちらかといったら民族学ですけど」 ハカセの口から民俗学という単語が出た瞬間、三四の目が光った、気がした。 「ふふふ、勉強家なのね。じゃあついてらっしゃい、お姉さんがいいことを教えてあげるから」 三四はそう言うなり、踵を返して歩き出してしまった。 ほっとくわけにもいかないし、しょうがなく後を追いかけると、そこは図書館の一角にある休憩コーナーだった。 181 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/10(木) 20:23:45.97 ID:iqCps3yI0 「はい、お姉さんの奢りよ」 三四はハカセに紙カップのジュースをよこしてきた。 「まさかさっきの場所で話を始めるわけにはいかないでしょう?」 「ええ、そうですね、本を読んでいる方の邪魔をすることになっちゃいますもんね」 ハカセが答えると三四はさもおかしそうに笑った。 「そういうことじゃないのよ。あんなに人の多いところで 物 騒 な 話 をするわけにはいかないってことよ」 物騒な話?どういうことだ? 「ええと鷹野さん…は民俗学の話をしてくれるんですよね?それがなんで物騒な話なんですか?」 「それはね、この雛見沢の歴史そのものが物騒だからよ」 三四はなおも、おかしそうにこちらを見ている。 183 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/10(木) 20:39:36.69 ID:iqCps3yI0 「山中くんはオヤシロさまの祟りって知ってる?」 !! いままで調べようとしていた単語が三四の口から出てきた。 「いや、聞いたことはあるんですけど…意味はまったく知りません」 ハカセはそれだけ言うと、口をつぐんだ。ここは思い切って聞いてみた方がいいんじゃないだろうか。 ハカセがそれについて聞こうか聞くまいかと悩んでいると、三四は話を続けた。 どうやらこちらが聞かなくとも、勝手に喋ってくれるつもりらしい。 「昔ね、この村にある底なし沼から鬼が出てきたことがあったのよ。人喰い鬼ってやつね。 沼から這い出てきた鬼たちは、里に降りると次から次へと村人たちを食べて言ったわ。それも生きたまま、臓物を引き抜いて、ね」 なにがおかしいのか、三四はさも楽しそうに語っている。 「人間も黙ってやられてるわけにはいかないから、敵の鬼の子供を捕らえては撲殺してたりしてたの。 こうなると、もうどっちが鬼なんだかわからないわね。 そんなとき、鬼の中からもう人間を食べるのはやめよう、と言い出した人物がいたのよ。それがオヤシロさまね。 オヤシロさまは人間と鬼の間に立って、両者のいさかいを静めたの。 そしてそれ以来、鬼たちは沼の底に戻り、オヤシロさまは鬼たちが二度と出てこない様、見張りとして村に残った。 これがいまも村人に祀られているオヤシロさま」 186 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/10(木) 20:59:28.02 ID:iqCps3yI0 三四はなおも続ける。 「こうして村の守り神になったオヤシロさまだけど、神様と言ったって、もともとは人喰い鬼。 何年かに一度、どうしても人間を食べたいって欲求を抑えられなくなっちゃうらしいのよ。 ―そしたら、どうすればいいと思う?」 三四はハカセに尋ねてきた。 「どうすればって…」 「簡単な話よ。誰かを犠牲にすればいいってわけ。これがオヤシロさまの祟り。 そして誰かが死んだあと、オヤシロさまの怒りを鎮めるために、生け贄を沼に放り込んだ。これが鬼隠しね」 またしても気になっていた単語が出てきた。 鬼隠し。つまりは村人の崇めているオヤシロさまというのは、必ずしも尊敬だけされる対象じゃない。 それどころか恐れられていて、それゆえに崇め奉っているというのが真実ということなのか。 バキッ…バキッ… ハカセが三四の話に聞き入っていると、床に何かを叩きつけるような音が聞こえてきた。 図書館だってのに、常識のないやつもいるもんだ。 ハカセがあきれて物音の方を見たが、そこには人っ子一人いなかった。 あれ?おかしいな…。 「ちょっと、聞いてるの、山中くん」 ちょっと怒ったような三四の声に、ハカセは慌てて三四の方を向いた。 190 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/10(木) 21:14:06.33 ID:iqCps3yI0 「ついでに言えば、もうすぐある綿流しのお祭りってのは、もともとは腸流し、 つまりオヤシロ様の指定した人間を「鬼隠し」し、鬼ヶ淵村民の前で拷問を加え腹を裂き、鑑賞し、 その肉を食すって儀式だったそうよ。どう?ゾクゾクしちゃうでしょ」 三四はどうも、この手の話が好きな人間の様だ。 「これが今なお続く、雛見沢の伝説。そしてここ数年の事件の元になっている伝説よ」 三四はそう締めくくり、目の前のジュースを一口飲んだ。 「あの…ここ数年の事件ってなんのことですか?」 「あはは、それも知らないのか。やあねえ。雛見沢連続怪死事件。通称、オヤシロさまの祟り。 ニュースの少ないこの村のトップニュースよ。 綿流しのお祭りの晩、誰かが死んで、誰かが消える。つまり、オヤシロさまの伝説そのままのことが起こってるってわけ」 192 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/10(木) 21:19:13.74 ID:iqCps3yI0 そこからの三四の話は、理解出来る範囲を超えた話だった。 4年前から続く、連続怪死・失踪事件。 その詳しいあらましを、三四は情景描写たっぷりに語ってくれた。 「あら、気がついたらもうこんな時間。そろそろ戻らなくっちゃ。それじゃ山中くん、じゃーねー。またデートしましょ」 三四はウインクをすると、そそくさと図書館を出て行ってしまった。 「もう夕方か…僕もそろそろ戻らなくっちゃ。…あ、そうだ」 ハカセはここにきた「もうひとつの用」を済ませるためにトイレに向かった。 トイレは残念ながら 和 式 だった。 194 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/10(木) 21:30:53.44 ID:iqCps3yI0 次の月曜日。 学校に行くと、何やら騒がしい。 なにがあったのかと尋ねると沙都子が学校を休んだとの事。 「ふーん、沙都子ちゃん、ケーキ食べ過ぎちゃったのかなあ。無料だったもんね。 僕も日曜日はさすがに動けなかったよ」 モーちゃんはとんちんかんな心配をしてみせる。 「へっ、そりゃお前はそうだろうけどよ、沙都子に限ってそりゃねえだろ。 あ、そうだ、きっと金曜日の部活でハカセに負けたのがショックだったんだな。あいつプライド高いもんなあ」 ハチベエが軽口を叩く。 そりゃ一体どういう意味だとハカセが食って掛かろうとしたとき、梨花がこちらを見てキッと睨んだ。 「これは…そんな馬鹿らしい話じゃない…なにも知らないあなた達に、馬鹿みたいな事を言われたくはない!」 いつもの梨花ちゃんとは思えぬ、強い口調でそう言ったので、三人はぽかーんと口を開けたまま、押し黙ってしまった。 197 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/10(木) 21:49:26.46 ID:iqCps3yI0 「なるほどね、そういう事情があったのか」 次の日。今日も沙都子は学校に来ていない。昼休みになって、三人は魅音たちから今回の沙都子欠席についての事情を聞いた。 「だけどそれって、ええと、児童虐待っていうのになるんじゃないのか?」 圭一が誰とも無しに言う。 「うん、そうなんだけどね。さっきも言ったとおり、今までが今までだから、児童相談所はまともに取合ってくれないんだよ」 魅音は悔しそうに唇をかんだ。 「だけど児童相談所はそれが仕事だろ?通報があったら、徹底的に調べりゃいいじゃねえか」 「その辺はお役所仕事、ってやつでねー。まったく頼りにならないったらありゃしないよ」 みんながどうすればいいのか、思案にくれていると、教室の扉が開いた。 ガラガラッ 「沙都子!」 「皆さん、ご心配をかけましたわ。単なる風邪ですの。そんなに心配なさらなくても結構ですのよ」 口ぶりだけはいつもどおりの沙都子だったが、声の調子がそれを単なる空元気だと伝えていた。 見れば、体中のあちこちに青アザや切り傷がある。 198 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/10(木) 22:01:22.29 ID:iqCps3yI0 「くそう、これをほっとけっていうのかよ」 その日の放課後、部活を「家事の手伝いがあるから」という理由で帰った沙都子を除いた部活メンバーは、 これからの進退について話し合っていた。 「あんなになっちまってる沙都子を見て、見捨てられるなんて仲間じゃねえぜ!」 「そんなことわかってるよ!…でも、どうしたらいいっていうの?」 圭一と魅音はさっきからずっと、同じ言い合いをしている。 そんな中、おずおずとモーちゃんが話し出した。 「あの…ぼくもね、昔虐待されてたんだ」 思わぬモーちゃんの告白に、一同はビックリした。 「虐待されてた、って言ってもホント赤ちゃんの頃だからね。 しっかりとは覚えていない、いやまったくと言っていい程覚えていないんだけど… それでもなんとなく、お父さんを思い浮かべると、凄い怖かった印象しか出てこないんだ」 モーちゃんには父親がいない。モーちゃんが小さい頃、離婚をしたからである。 しかし、その理由が虐待にあったとは、ハチベエとハカセも初耳だった。 「ぼくは母さんがいてくれたから助かったけど、沙都子ちゃんはそうじゃないだろ? だったら、僕らが助けてあげなくちゃいけないと思うんだよ」 モーちゃんは静かに、しかし力強くそう語った。 「確かにな…さっきの圭一さんのセリフじゃないけど、ここでほっといたら男がすたるってもんだよな。 なあハカセ、お前のいつもの悪知恵を出してくれよ」 ハチベエは褒めてるんだか貶してるんだかわからない物言いで、ハカセに言った。 「そんなこと言ってもねえ…あっ、そうか!大丈夫だよ、ハチベエくん。我に勝算アリだ」 ハカセはニヤリと笑って見せたものである。 202 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/10(木) 22:16:27.64 ID:iqCps3yI0 「圭一さん、ちょっと…」 ハカセは圭一に何やら囁いた。 「そんなことでいいなら、いくらでも協力するけどよ。でも一体、それが何になるっていうんだ?」 圭一は首を傾げる。 「まだどうなるかわからないですけど、それがこちらの勝利の鍵になるはずです。なんとしてでもお願いします」 ハカセは一方的に圭一に頼み込むと、今度は魅音を振り返った。 「魅音さんと梨花ちゃんは、知恵先生と校長先生に、これまでの話をしっかりと伝えておいてください。 なお、先生には今日中に沙都子ちゃんの家を訪問する約束と、児童相談所への通報の約束もとりつけておいてください」 そして今度はハチベエとモーちゃんを振り返った。 「さあ、僕らは急いで家に帰ろう。明日までにやんなくちゃいけないことがある」 「お前、どうするつもりなんだ?」 ハチベエの問いにも答えず、ハカセはとっとと帰り支度を始める。 「話なら帰りに道々するからさ、とりあえず今は急ぐんだ。ほら、行くよ、ハチベエ君、モーちゃん」 205 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/10(木) 22:30:55.91 ID:iqCps3yI0 帰り道、ハチベエ達はハカセの計画を聞いた。 「お前がそんなこと考えてたとはなあ…しかし上手くいくのか、それ」 ハチベエはなおも不安の様子だった。 「上手くいくのか、じゃなくて、上手くいくようにするしか無いんだよ。 僕たちの頑張りに、沙都子ちゃんの未来がかかってるんだから」 三人は公由の家に帰ると、喜一郎に頼んで馬鹿でかい模造紙を何枚も貰った。 そしてそれを床に広げると、マジックで丁寧に書き込みを始めた。 「へへへ、コイツを見たら、児童相談所の人間もビックリするぜ、なんせプラゼンだもんなあ」 「ハチベエくん、プラゼンじゃ無くてプレゼン。それにこれはあくまでもわかりやすく説明するためだけじゃなくて、その後のためにやってるんだよ」 「わかってるって。とにかく目を引くように書けばいいんだろ?」 ハカセの案はこうだった。 電話しても埒の明かない児童相談所に直接乗り込んだところで、話をするだけでは結果は見えている。 だったら企業に倣い、今回の件をわかりやすくまとめてプレゼンテーション方式で説明しようというのだ。 それでも無視されるようだったら…?それならそれで、考えがある。 「おーい、正太郎!お前に電話じゃぞい」 「はーい、いま行くよ…あ、圭一さん?頼んでいた件はどうですか?」 「おお、バッチリだぜ。特にエンジェルモートでは、仲間のピンチだって言ったら、そこにいた人全員が協力してくれるってよ」 圭一の声は弾んでいる。 「さすがは圭一さん。もうちょっと早く生まれていたら、革命家になれたかもしれませんね。あ、それじゃまた」 207 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/10(木) 22:43:51.66 ID:iqCps3yI0 翌日。学校に馬鹿でかい模造紙を抱えたままやってきた三人は、やってくるなり部活メンバーに囲まれた。 「知恵先生はちゃんと訪問して、児童相談所にも言ってくれたみたいなんだけど…やっぱり相談所は様子見みたい」 「くそっ、やっぱりそうか。だいたいなんなんだ、たいした相談もできないくせに相談所って。 これなら俺たちがやってた電話相談所の方がまだマシだぜ、なあモーちゃん」 ハチベエは気色ばむ。 「やっぱりそんなところか…みんな聞いてくれないか。僕ら三人は、今日の放課後、児童相談所に行こうと思う。 部活メンバーもみんなも付いてきてほしいんだけど、いいかな」 「いいも何も。仲間のピンチに協力するのは当たり前だぜ、なあみんな」 ハカセの問いに、圭一が元気よく答える。 他のメンバーも一様に乗り気だったが…梨花だけはあさっての方向を向いていた。 「梨花ちゃん、よろしく頼むね」 ハカセがあらためて声をかけてみるも、こっちを向かない。どうしたことだろうとハカセが回り込もうとすると、梨花は静かにこう言った。 「…どうせ無駄なこと…でもいいわ、付き合ってあげる。暇潰しにはなりそうだし」 208 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/10(木) 22:56:39.41 ID:iqCps3yI0 放課後。辿り着いた児童相談所は興宮の一角にあって、人々を圧倒するような、息が詰まるような建物だった。 「うへえ、警察みたいな建物だな。これからこの中に入るのかよ」 ハチベエがみんなの気持ちを代弁したが、ハカセはどこ吹く風、まるで平気そうな様子だった。 「ほら、こっちが入り口みたいだよ。早く行こう」 「ええと、北条沙都子さん…についての陳情、ですか。少々お待ちください、いま係の者を…」 言いかけた受付の人の言葉をハカセが遮る。 「あ、出来れば責任者、それもこの施設の最高責任者に当たる人を連れてきてください。 これはワガママで言ってるわけでは無く、そうじゃないと話にならないと確信しているからです。 もっとも、直接担当している方のお話も聞きたいんで、一緒に連れてきてほしいところではありますが」 どう見てもただの小学生にしか見えないハカセの、あまりにも偉そうな物言いに、受付嬢は戸惑っている。 「ええ、そういうことはこちらとしましてもなかなか…あ、とりあえず代表の方の名前を書いて頂けますか?」 ハカセは名前の欄に大きく「山中(公由) 正太郎」と書いた。 218 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/10(木) 23:28:25.10 ID:iqCps3yI0 ややあって、相談所の職員がハカセのもとにやってきた。 「はじめまして。興宮相談所 係長の谷中です。こちらは今回の件担当の川上です」 二人はハカセに名刺を差し出した。 「係長さん、ですか。僕は所長とお話をしたいと申し上げたつもりだったんですが」 ハカセは一歩も譲らない。 「いえ、こちらとしましても、そのー、山中さんのご希望に出来る限り沿いたいと思ってはおるのですが、何分にも所長は席を外しておりまして。 今回のところは、私が代理としてお話を聞かせていただくということでご容赦願いたいと… もちろん、所長には今日の山中さんのお話は、全て伝えておきますので、ええ」 「そういう事なら仕方ないですね。ところで、お話させていただく部屋として、ホワイトボードか何かがある部屋を希望したいのですが」 「それは大丈夫ですよ。…おい、第三会議室を開けとけ」 係長は近くにいた職員に命令する。 「おい、どうなっちゃったんだよ、ハカセのやつ」 「うん、ハカセちゃん、なんだかすごい偉そうだよね。でも係長さんもそれに素直に従ってるし」 ハチベエとハカセがヒソヒソと話していると、二人の肩に誰かの腕が乗っかった。 「ククク、あたしにはハカセのやろうとしてることがわかったよ。 ハカセは、自分の持ってるカードは全て使おうと思ってるんだ」 腕の主は魅音だった。 「カード?それって一体…」 「さっき、名前を書くときに、でっかく『公由』って書いてただろ?この町じゃ公由の名を出せば、大抵の人はビビるからね。 それに直系に跡取りがいない公由家にとって、ハカセは跡取り候補の筆頭。 つまり未来の公由家党首なんだから、そりゃ相手の対応も違ってくるよ」 魅音はそう言ったあと、誰にも聞こえない大きさの声でこう言った。 「でもそれは、あたしだって一緒のことなんだけどね…ゴメン、沙都子」 220 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/10(木) 23:34:53.64 ID:iqCps3yI0 そして会議が始まった。 前日に一生懸命製作した模造紙を前に、ハカセが熱弁をふるう。 公由の名前を出したせいか、それなりにちゃんと聞いてくれてはいるが、それにしても糠に釘、どうにも手ごたえが無い。 ハチベエなぞはイライラとしていたが、カッとなったところをレナに止められた。 「駄目だよ、ハチベエくん。いまはハカセくんを信じよ?」 プレゼンが半分を過ぎた頃、ハカセが圭一になにやら目配せをした。 「あ、わりい、ちょっと俺トイレで抜けるわ」 圭一はそそくさと外に出て行った。 223 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/10(木) 23:49:07.88 ID:iqCps3yI0 ハカセ渾身のプレゼンも終盤に差し掛かり、最初はちゃんと聞いてくれていた職員もアクビをしだす始末。 メンバーの誰もが敗戦濃厚を確信するなか、ハカセが言った。 「……僕たちの訴えは以上です。係長さん、どういう対策をとってくれるのか、返答をお願いしたい」 「…大変貴重なご意見、ありがとうございました。当方としましては、貴重なご意見をいただいたということで、 今後も北条さんの家庭をしっかりと見守りたい、ええ、こういう風に考えています」 「それは、当面の対策は一切無い、という事ですよね?それで何か事故等があった場合、相談所は、いえ、あなた個人は何か責任をとってくれるんでしょうか?」 「事故だなんてそんな。ねえ、そういうんじゃなくて、ちゃんと見守りますよ、と。こう言ってるわけです」 「それってまるっきり質問に答えてないですよね?相談所というところは、質問に答えないというマニュアルでもあるんですか?」 まったく噛み合わない質疑応答に、魅音が噛み付いた。 「いやそういうわけでは…ただ、我々は、無責任な事は言えない立場なんです」 「その結果、責任は取らないっていうんじゃ笑わせてくれますよね」 ハカセが皮肉たっぷりにそう言った。 「まあいいや。ところで係長さん、これを見てもらえますか」 ハカセは長方形の紙を、テーブルに置いた。 それは名刺だった。 230 名前:1 ◆or0XnlxUXQ [] 投稿日:2009/09/11(金) 00:06:48.38 ID:T56VgVTN0 「ミドリ日報 デスク 西野 克正」 名刺にはそう書いてあった。 「なんですか…ミドリ日報?新聞社ですか?」 「ええ、僕が以前住んでいた町の地方紙です。以前、いくつかの件でお世話になったことがあった方で、 以来、何かあったら知らせてくれって頼まれているんですよ」 西野記者はハカセたち三人が以前、一人暮らしのお婆さんを助けた際に仲良くなった間柄だ。 ハカセは話を続ける。 「ミドリ日報は地方紙ですが、資本は中央の朝読新聞です。つまり、朝読新聞の地方特派員の役目も果たしてるってわけです。 西野記者が言うには、いまは東京に事件が集中してるって時代でも無いそうでして、いつも中央に上げるニュースを探して奔走している状態だそうです」 ハカセの話は先が見えない。いったい何を言おうというのだろう…? 234 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/11(金) 00:13:44.99 ID:T56VgVTN0 「あ、そうそう。朝読新聞では毎年、スクープ大賞という賞を設けていましてね。 各地方紙から集められたニュースの中から、センセーショナルで社会的な事件をスクープした記者が表彰されるんだろうです。 去年はたしか…某市の教育委員会で横行していた選挙への協力体制のスクープが大賞でしたかね」 そこでハカセは一段、声を大きくして言った。 「じゃあ今年は、地方の閉鎖的な山村で起きた差別と、その差別のために一人の少女を見殺しにした児童相談所、ってニュースでどうですかね」 242 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/11(金) 00:24:49.31 ID:T56VgVTN0 「み、見殺しだなんて人聞きの悪い…そんな、ねえ」 職員はあたふたとしていた。 「さあ?どう取るかは新聞社次第ですから。ところで気づいてます?あなた方がアクビ交じりに見ていたこの壁に貼られた紙、 これってそのまま、新聞社に提出する資料になるんですよ…モーちゃん、ハチベエくん」 ハカセが声をかけると、ハチベエたちは待ってましたとばかりに、持っていたもう一枚の模造紙を広げた。 「この紙ではこの村でのいわゆる御三家と呼ばれる旧家の、圧倒的な支配体系の構図を説明しています。 僕も公由家の人間ですが、こういった事がニュースになって、御三家が不利な立場になろうと一向に構わないと思ってます。 ですが、あなたたちはどうですか?マスコミを敵に回して、尚且つ御三家も敵に回すことになってもよろしいんですか?」 245 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/11(金) 00:32:50.28 ID:T56VgVTN0 職員たちはついに黙ってしまった。ただただ、額を流れる汗をハンカチで拭っている。 ハカセはトドメとばかりにこう言った。 「あ、後ろのカーテン、開けてもらっていいですか?きっと面白いものが見れると思いますよ」 気がつけばハカセがこの場を支配していた。 そのハカセの発言に抗えるはずもなく、職員の一人がカーテンを開ける。 「な、なんじゃこりゃ〜!!」 職員は驚きのあまり、尻餅をついてしまった。 慌てて係長も窓に駆け寄る。 「こ、これは…一体……」 「ハハハ、驚きましたか?そこに集まっている人は、みんな北条沙都子さんを救いたいと思っている方々です」 見れば建物の入り口のところに大勢の人たちが集まっている。 みんなハチマキやタスキをかけていて、中には「沙都子ちゃんを返せ!」「児童相談所の怠慢を許すな!」等と書かれたプラカードを持っているものまでいる。 そしてその中心には、圭一がいた。 「さすがは圭一さん、予想以上の人数だ」 251 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/11(金) 00:42:29.17 ID:T56VgVTN0 「ご覧になりましたか。どうです?新聞を飾るには絶好の写真になると思いませんか」 職員たちは押し黙っている。自分たちでは責任のとることの出来ない事態になっているからだ。 「…我々は、あなたたちを脅迫したいわけではありません。ただ、協力してほしいんです。 沙都子ちゃんは先ほど言ったとおり、自分から助けを求めることをおそらくはしません。 でも、それでは手遅れになってしまうんです。どうか、出来る限りの協力を…!」 それはもう作戦でもなんでもない、ハカセの心からの叫びだった。 10秒、20秒、無限とも思える時間が流れる。 そして― 「…わかりました。今すぐに、出来るだけの協力をすることを約束します」 「か、係長!そんなこと言っていいんですか!」 「馬鹿野郎!俺はな、世の中の泣いている子供たちを助けたくて、この仕事に就いたんだ! ここでこの少女を救えなかったら、こんな仕事してる意味がねえだろうが!」 ハカセの魂の叫びに呼応したのか、係長も男気を見せてくれた。 そして― 257 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/11(金) 01:04:20.57 ID:T56VgVTN0 ――それから先はあっという間だった。 警察に事前に連絡をとって、北条家の周りを固めてもらった上で、沙都子に電話。 そこで沙都子のSOSサインを受けて、警察が突入、鉄平は現行犯逮捕となった。 沙都子はまだ青アザは痛々しいものの、すっかり元気になってまた梨花とともに暮らし始めた。 すべてが順調にいっていて、そのせいかハカセは、それまで気になっていた雛見沢連続怪死事件のことも忘れていた。 そんな調子だったから、児童相談所からの帰り道、足音が一つ増えていたことにもまったく気がつかないでいた。 そして昭和58年の綿流しの晩がやってきた。 ズッコケ恐怖の雛見沢 肝試し編 完 260 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/11(金) 01:07:40.81 ID:T56VgVTN0 〜エピローグ〜 「今回もまた、駄目だったわね」 「あうあうあう〜、だから言ったのです、期待してはいけないと」 「でも、初めてじゃない?あの子たち三人が来たのって」 「そうなのです、今までの世界ではあり得ないイレギュラーだったのです」 「今回の世界、私は鉄平が帰ってきたときに、全てを諦めてしまった。 多くの世界でそうであった様に、もうこの世界は終わりだと確信していたわ。 ところがあの子たち、特にハカセはそれをいとも簡単にぶち破ってくれた。 もっとも、この世界の崩壊の原因もハカセにあったっていうのは皮肉な話だけどね」 「あうあう、私のせいなのです、ごめんなさいなのです〜」 「うざったいから謝らないでくれる?…ところで一体、どうしてあの子たちは来たのかしらね?」 「どうも三人の住む町に地震が起こったとき、ここに来るようなのです。 この100年の間、この時期に稲穂県に地震が起こったことはなかったので、それ自体が稀なケースなんじゃないでしょうか?」 261 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/11(金) 01:12:56.42 ID:T56VgVTN0 「あの子たちは運命を打ち破る力を持っている。だけど、その力を借りるためには、あの子たちが不幸な目に遭わないといけないって事ね」 梨花は皮肉交じりにそう言う。 「あうあう、そんな言い方、やめてくださいなのです、梨花はそんなこと思う人じゃなかったはずです」 「冗談よ、冗談…でもね、羽入。私、ちょっとわかった気がするの。 私はこの雛見沢で100年の時を過ごしてきて、当然、ほとんどの事を把握しているわ。 そんな私でも投げ出したくなってしまう、今回の様な事が起こったとき、救ってくれたのは、この世界についてほとんど無知な人間だったってことよ」 262 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/11(金) 01:24:00.13 ID:T56VgVTN0 梨花は続ける。 「私と比べてたらこの世界についても、雛見沢という村そのものについてもまったく知らないあの子たちは、 当然、出来ることは私に比べたら遥かに小さいわ。 でも、100年の間、一度も解けなかった錠前を解いたのは、その小さな力だったのよ。 だったら、またあの子たちが来る世界の望むのではなく、私自身がその力を持つように努力すべきだと思うの」 「あうあう、梨花が言っていることは正しいとは思うのですが、そのう、あまり努力したり、期待しすぎると、失敗に終わったときのショックが大きいのです」 「うっさいわね、それ以上私の気分を害すると、キムチに辛子をかけて食べるわよ? …さあ、そろそろ次の世界に行くわよ、羽入。 次の世界におそらく彼らはいない。だけど、もうそれを望みはしないわ。 奇跡は誰に頼るでもなく、自分たちで起こせるものだって気づいたから」 そういうと梨花はワインを飲み干した。 「もっとも、あの子たちにはもう一度会いたいものだけどね。  そう、出来れば昭和58年7月以降の世界で」 266 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/11(金) 01:28:03.25 ID:T56VgVTN0 この物語は、以上でとりあえず終わりです。 最後、だいぶ端折っちゃいましたが、3人組が悲惨な目に遭うシーンを書きたくなかったんで、こういう形をとらせてもらいました。 だったら最初からバッドエンドにするなよ、って話ですけどw ここまで読んでくれた方、そして途中保守してくれた方、本当にありがとうございました。 SS書いたの初めてだったんですが、こうして一応、完結まで書くことができ、望外の幸せです。 最後に。 ズッコケの名シーンをもっと織り込みたかったんですが、力不足のために叶いませんでした。 スレタイから、そういうのを期待して開いてくれた方には申し訳ありませんでした。 268 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/11(金) 01:29:54.26 ID:T56VgVTN0 追記。 ズッコケと銘打ちながらも、ひぐらしを知らないとわからない話になってしまいました。 その辺に関しても、申し訳ないとしか…いや、ほんとすみません。