平沢唯「桜が散った頃に」 キョン「俺達は出会った」 1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/20(木) 18:45:46.32 ID:laz91LuJ0 丘の上に建つ高校へと続く長い坂道に、一人の男子高校生の駆ける姿があった。 ぜえぜえと、荒い呼吸をしながら坂道を駆け上がり校門の近くまでやってくる。 そこで、一人の女子高生の後ろ姿が少年の目に留まった。 女子高生は、校門の前で立ち尽くしていて動く気配がない。 少年は急ぐ足を落ち着かせて、少女を横目で捉えながらゆっくりと歩く。 丁度、横を通り過ぎようとした瞬間だった。 少女は体の向きを反対にして、足を踏み出す。 少年は、その行動に疑問を感じたのか、足を止めたまま少女の姿を目で追った。 そして、少年は少女に声を掛けた。 2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/20(木) 18:46:42.51 ID:laz91LuJ0 キョン「目の前だろ」 唯「え?」 キョン「遅刻するぜ」スタスタ 唯「あ、待って」 キョン「なんだ?」 唯「い、一緒に・・・」 キョン「一緒に?」 唯「一緒に行ってくれませんか?」 キョン「・・・同時に歩けば、自然とそうなるんじゃないか」 唯「そっか・・・」 キョン「行くぞ」スタスタ 唯「・・・」スタスタ 11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/20(木) 18:51:37.72 ID:laz91LuJ0 キョン「じゃあ、ここまでだな」 唯「・・・」 キョン「じゃあな」スタスタ 唯「あ・・・(行っちゃった)」 教室 澪「遅刻だぞ」 キョン「そうだな」 澪「そうだなって、昨日もだろ。少しは早起きをしたらどうだ?」 キョン「それが出来たら、遅刻しないだろ」 澪「確かに」 キョン「納得しとる」 12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/20(木) 18:57:57.53 ID:laz91LuJ0 紬「えっと、キョンくん」 キョン「委員長か」 紬「遅刻は極力しないように」 キョン「ごめんなさい」 澪「ムギには弱いよな」 キョン「そんなことはないが」 澪「どうだか」 キョン「・・・平和だな、今日も」 澪「平和が一番だ」 15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/20(木) 19:01:29.61 ID:laz91LuJ0 澪「また買い食いか」 キョン「悪いか」 澪「別に・・・」 紬「澪ちゃん、お弁当作ってあげたら」 澪「なんで私が!?」 紬「素直じゃないんだから、フフ」 澪「勘違いしないでくれムギ」 紬「勘違い楽しいわね♪」 澪「はあ」 18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/20(木) 19:04:31.03 ID:laz91LuJ0 キョン「さて、今日はどこで食うかな。ん? アイツは今朝の・・・一人でなにしてんだ」 中庭 唯「・・・」 キョン「よお」 唯「・・・」モグモグ キョン「無視することないだろ」 唯「・・・」モグモグ キョン「隣良いか?」 唯「・・・」モグモグ キョン「勝手に座るぞ」 22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/20(木) 19:10:37.79 ID:laz91LuJ0 キョン「一人でなにしてんだ?」 唯「わたしに話し掛けないほうが良いよぉ」 キョン「どうしてだ?」 唯「わたし、評判良くないからぁ」 キョン「評判ねえ・・・」 唯「・・・」 キョン「お前、名前は?」 唯「平沢・・・唯」 キョン「俺の名前は」 谷口「キョン、ナンパか?」 キョン「そんなんじゃねえ」 唯「キョンくん?」 キョン「まあ、原作の都合上だ。それで構わない」 唯「・・・」 憂「お姉ちゃん!?」 24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/20(木) 19:13:39.00 ID:laz91LuJ0 唯「あ、憂」 キョン「・・・妹?」 憂「お姉ちゃん、大丈夫なの?」 唯「う、うん。平気だよ」 憂「・・・あの」 キョン「俺?」 憂「お姉ちゃんに関わらないで下さい」 唯「憂、この人は」 憂「行くよ、お姉ちゃん」ガシッ 唯「あっ」 キョン「(なんだあれ)」 27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/20(木) 19:19:12.04 ID:laz91LuJ0 キョン「なあ、澪」 澪「これはこれは遅刻魔さんが、何の用ですか?」 キョン「俺は常習犯じゃないんだが」 澪「それで用件は?」 キョン「平沢唯って知ってるか?」 澪「平沢唯? 知らないぞ」 キョン「同学年の女子なんだが」 澪「なんで、キョンがその女子のことを聞くんだ?」 キョン「ちょっと気になったもんでな」 澪「き、気になる!?」 キョン「ああ」 澪「(キョンに好きな人が出来た!?)」 キョン「委員長にでも聞くとするか」 29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/20(木) 19:22:30.18 ID:laz91LuJ0 澪「ムギ!」 キョン「なんでお前が張り切ってるんだよ」 紬「どうかしたの?」 澪「平沢唯って誰だ?」 紬「平沢・・・ああ、あの娘ね」 キョン「知ってるのか?」 紬「ええ、知ってるけれど。どうして?」 澪「情報を下さい!」 紬「うーん」 34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/20(木) 19:26:19.66 ID:laz91LuJ0 紬「一年の三学期に転校してきたの」 キョン「転校?」 紬「ええ。それで、妹さんが現在一年生」 キョン「(あの気の強そうなのか)」 澪「他には?」 紬「あまり学校には来てなかったような」 キョン「来てない? どうして?」 紬「そこまでは・・・ごめんなさい」 キョン「(だから、校門の前であんな風だし、昼も一人)」 澪「(可愛いのかな?)」 紬「?」 42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/20(木) 19:31:34.42 ID:laz91LuJ0 放課後 キョン「・・・」 澪「キョン」 キョン「なんだ?」 澪「部室、来ないか?」 キョン「・・・ま、暇つぶしにはなるか」 澪「暇つぶしなら来なくていいけど」 キョン「真面目な部活動をしに行くか」 澪「よろしい」 文芸部室 キョン「よ、長門」 長門「・・・」コク 澪「有希はいつも早いよな」 長門「・・・」コク 46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/20(木) 19:36:14.37 ID:laz91LuJ0 澪「はい」スッ キョン「なんだこれは?」 澪「昨年、文化祭に出した文芸部の作品だ」 キョン「ほお、こんなもん作ってるんだな」 澪「こんなもんで悪かったな」 キョン「いや、そういう意味で言ったんじゃねえよ」 澪「わたしは何を読むかな」 長門「・・・」ジーッ キョン「ん?」 長門「・・・」 キョン「(見られてたような気が・・・気のせいか)」 48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/20(木) 19:39:57.22 ID:laz91LuJ0 澪「じゃあ、今日はここまでしよっか?」 長門「・・・」コク キョン「じゃあな」 澪「ま、まだ帰っちゃ駄目だ」 キョン「終わりなんだろ?」 澪「そうだけど・・・」 長門「さよなら」 澪「あ、また明日」 キョン「・・・やれやれ、さっさとしろよ」 澪「わ、分かってるよ!」 51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/20(木) 19:44:35.12 ID:laz91LuJ0 翌日 キョン「なあ、宿題やってないんだが」 澪「自業自得だ」 キョン「澪さん、お願いします!」 澪「どうしよっかなー」 キョン「いやあ、澪さんは本当に優しいし可愛いしで最高だ」 澪「(可愛い・・・)///」 谷口「朝っぱらから夫婦喧嘩見せ付けんなよな」 キョン・澪「誰が!?」 谷口「・・・」 55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/20(木) 19:49:22.39 ID:laz91LuJ0 中庭 キョン「よお、今日も来てるんだな」 唯「あ、キョンくん」 キョン「よっこらせ」 唯「・・・」 キョン「平沢は何組だ?」 唯「D組・・・」 キョン「Dか・・・(何、話せば良いんだ)」 唯「・・・」 キョン「部活とかやってるのか?」 唯「なにも・・・わたし、ドジだから」 キョン「・・・」 60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/20(木) 19:55:38.96 ID:laz91LuJ0 キョン「転校生なんだってな」 唯「うん・・・」 キョン「・・・文芸部って知ってるか?」 唯「文芸部?」 キョン「ああ。良かったら来てみないか?」 唯「・・・でも、わたしは」 キョン「別に本を読むだけでも、座ってるだけでも良い」 唯「・・・」 キョン「無理にとは言わないが」 憂「お姉ちゃん!」 キョン「じゃあな」スタスタ 憂「またあの人」 唯「・・・」 憂「お姉ちゃん、気軽に話しちゃ駄目だよ。誰一人信用なんかできないんだから」 65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/20(木) 20:07:35.33 ID:laz91LuJ0 放課後 キョン「じゃあ、部室行くか?」 澪「どうしたんだ急に?」 キョン「さあな」 澪「怪しいな」 キョン「先、行くぞ」 澪「ま、待て。わたしも行く」 文芸部室 澪「えーと・・・どちら様で?」 唯「平沢唯です」 キョン「来たみたいだな」 澪「(この娘が平沢さんか)」 長門「・・・」 キョン「部長、頼んだぞ」 70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/20(木) 20:18:24.87 ID:laz91LuJ0 キョン「あとはよろしく」 平沢「・・・」 澪「帰るのか?」 キョン「俺は必要ないしな」 澪「・・・駄目だ」 キョン「なっ」 澪「平沢さんを連れてきたのはキョンじゃないのか?」 キョン「連れては来てないぞ」 澪「勧誘」 キョン「したかもな」 澪「だったら最後まで付き添え」 キョン「何故、そうなる」 澪「平沢さんも、そう思うよな?」 唯「え、なんの話でしょう」 キョン・澪「(ここに居て聞いてない)」 74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/20(木) 20:27:30.37 ID:laz91LuJ0 キョン「しょうがない。俺は座ってればいいよな」 長門「・・・」 唯「・・・」 澪「まずは自己紹介だけど、この娘が」 長門「長門有希」 平沢唯「よ、よろしくお願いします」 澪「そんな畏まらなくていいよ」 キョン「そうだぜ。こっちはゴキブリとでも呼んどきゃいいさ」 澪「誰がゴキブリだってー」 キョン「お前以外にいないだろう」 澪「・・・わたしは、秋山澪。文芸部の部長だ」 唯「へえ、部長さん」 澪「あなたが、平沢唯さんだよね」 唯「は、はい」 澪「じゃあ、活動内容を――」 76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/20(木) 20:36:06.82 ID:laz91LuJ0 澪「今日はここまで」 キョン「やれやれ、やっと帰れるか」 澪「平沢さん」 唯「はい?」 澪「電車通勤?」 唯「ううん、徒歩・・・」 澪「おっ、もしかして――」 唯「うん」 澪「じゃあ、一緒に帰らないか?」 唯「良いの?」 澪「良いのって、平沢さんが良いなら」 唯「わたしは良いけど」 澪「じゃあ、決まりだな」 キョン「お先」 澪「あ・・・(なんだよ、待っててくれてもいいじゃないか)」 78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/20(木) 20:40:31.20 ID:laz91LuJ0 昇降口 澪「D組なんだな、平沢さん」 唯「うん」 憂「お姉ちゃん!」 唯「憂」 澪「お姉ちゃん? ああ、妹さんか。わたしは」 憂「お姉ちゃんと関わらないで下さい!」 澪「へ?」 憂「お姉ちゃん、心配したんだからね」 唯「ご、ごめん」 憂「早く、帰ろう」ガシッ 唯「あ・・・」スタスタ 澪「・・・(わたし、なんかしたかな?)」 93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/20(木) 21:54:03.56 ID:laz91LuJ0 翌日 澪「キョン」 キョン「なんだ?」 澪「昨日の帰りさ、平沢さんの妹に会ってね」 キョン「妹・・・ね」 澪「わたしが悪いみたいに言われちゃったよ」 キョン「ああ、関わるなってか?」 澪「なんで分かるんだ?」 キョン「俺も前に言われたからな」 澪「なるほど。でも、なんであんなキツイ感じなんだろ」 キョン「(そういや、誰も信用出来ないとか言ってたな)」 澪「でも、平沢さん自体は悪い娘じゃないよな」 キョン「ああ」 97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/20(木) 22:06:48.35 ID:laz91LuJ0 中庭 キョン「よお」 唯「あ、キョンくん」 キョン「元気か?」 唯「うん。あ、昨日はありがとう」 キョン「礼を言われることはしてないと思うんだが」 唯「でも部活紹介してくれたし」 キョン「そうだが・・・どうだった? 文芸部は」 唯「えっと、よく分からかった」 キョン「・・・聞きたいことがあるんだが」 唯「なに?」 101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/20(木) 22:27:42.29 ID:laz91LuJ0 キョン「妹があそこまで他人に過敏なのはなんでだ?」 唯「・・・」 キョン「言いたくないなら、言わなくて良いが」 唯「わたし、前の学校でイジメられてた」 キョン「イジメ?」 唯「うん。憂はそれを見てたから、わたしを守ろうとしてるんだよ」 キョン「それで転校して現在も他人を拒んでいるのか」 唯「でも、わたしはそこまで思ってなくて」 キョン「と言うと」 唯「今でも友達とか作りたいし」 キョン「ふむ」 唯「キョンくん」 キョン「ん」 唯「友達になってくれる?」 110 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/20(木) 23:21:57.74 ID:laz91LuJ0 キョン「友達ってのはなるもんじゃないだろ」 唯「どういう意味?」 キョン「気づいたら、友達になってるんじゃないか」 唯「そっか」 キョン「今から、正式な友達ということでいいか」 唯「え、あ、うん」 キョン「ところで、妹は昔はあんなじゃないんだろ」 唯「うん」 キョン「イジメを知って変わったか・・・」 唯「わたしの所為だよ・・・」 キョン「ネガティブになるなよ。要は、平沢が楽しそうにしてれば安心するんじゃないか?」 唯「楽しそう?」 キョン「そうだ」 117 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/20(木) 23:48:01.86 ID:laz91LuJ0 キョン「・・・部活やってみたらどうだ? 文芸部に限らずだ」 唯「・・・うーん」 キョン「好きなことに近いことをやればいい」 唯「ごろごろするのが好きかなぁ」 キョン「それは・・・何部にも通ずる気がしないな」 唯「・・・」 キョン「特技は?」 唯「ごろごろー」 キョン「やる気ないだろ」 唯「そ、そんなことないよぉ」 キョン「とりあえず、妹を変えるには平沢の生活が重要だ。その方法としての部活動に参加というのも一考した方がいいな。家に帰って悩め」 唯「なんか、難しいねぇ」 キョン「相談したいことがあったら、昨日の文芸部の奴でもいいから頼れよ」 唯「うん」 119 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/20(木) 23:54:52.86 ID:laz91LuJ0 翌日 唯「バンド!」 キョン「はあ?」 唯「かっこいいよね、バンド!」 キョン「ちょっと待て、お前楽器出来るのか?」 唯「・・・無理」 キョン「だと思ったよ」 唯「・・・」 キョン「そういや、うちの学校って軽音部なかったよな」 唯「そうなの?」 キョン「ああ・・・で、なんで急にバンドなんて言いだしたんだ?」 唯「えっとぉ、テレビでね――」 キョン「影響受けすぎだな」 唯「駄目かな?」 キョン「駄目じゃないが。なんだ、本気でやりたいのか?」 唯「うん」 123 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/21(金) 00:04:11.99 ID:Oq28J/B10 キョン「じゃあ、軽音部作ればいいんじゃないか」 唯「作る? 誰がぁ?」 キョン「お前が」 唯「わたし!? 無理無理、無理だよぉ」 キョン「・・・手伝ってやるよ」 唯「本当?」 キョン「だが、俺は意見を出すだけだ」 唯「うん、ありがとう」 125 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/21(金) 00:05:53.90 ID:Oq28J/B10 キョン「まずは部室の確保とメンバー集めか。部室は、使ってない音楽室があるな」 唯「そうなんだ」 キョン「問題はメンバーだな」 唯「はい!」 キョン「なんだ?」 唯「わたし、一人目でぇ。キョンくんが二人目でぇ」 キョン「勝手に入れるな!」 唯「じゃあ、退部届を」 キョン「まだ入部してねえよ!」 唯「してなかったのぉ!?」 131 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/21(金) 00:11:56.11 ID:Oq28J/B10 キョン「心当たりの人間を当たるか」 唯「居るの?」 キョン「数人な。話の続きは明日にしよう」 唯「うん」 キョン「じゃあな」 唯「あ、これ」 キョン「なんだこれ」 唯「あんぱん!」 キョン「見れば分かるが、くれるのか?」 唯「うん」 キョン「・・・貰っとくよ」 唯「また明日だよぉ」 132 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/21(金) 00:15:16.62 ID:Oq28J/B10 翌日 澪「で、話ってのは?」 紬「わたしも?」 キョン「実はだな。協力をして欲しいんだ」 澪「協力?」 キョン「軽音部に入って欲しい」 紬「軽音部って、今は無いよね」 キョン「作るんだ。だから、メンバーが必要なんだが」 澪「わたし、楽器なんて出来ないぞ」 キョン「そう・・・だよな」 紬「わたしは、吹奏楽部だから」 キョン「うぬぬ」 澪「・・・」 137 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/21(金) 00:22:20.27 ID:Oq28J/B10 澪「平沢さんか?」 キョン「ん、まあ、そんなところだ」 澪「・・・分かったよ。文芸部にいつも居る必要はないし、ちょっとくらい興味もあるし」 キョン「俺はお前を信じてたぜ」 澪「嘘つけ」 紬「あの、わたしは偶にで良ければ頑張ってみようかな」 キョン「本当か? これで、三人か」 澪「キョンはやらないのか?」 キョン「俺には無理だ」 澪「最初から諦めてたら、出来るもんも出来ないだろ」 キョン「女子三人の中ではやりたくねえ」 澪「どういう意味だ」 キョン「澪、放課後付き合えるか?」 澪「文芸部に行く時間を残してくれれば」 キョン「放課後に会議をしよう」 142 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/21(金) 00:27:01.03 ID:Oq28J/B10 中庭 唯「あ、キョンくん」 キョン「メンバー二人発見だ」 唯「嘘! 本当に?」 キョン「ああ。放課後、詳しく詰めたい部分があるんだが時間あるか?」 唯「大丈夫だよ」 キョン「お前、弁当は?」 唯「買い食いです」 キョン「俺もだ」 唯「買いに行かないと」 キョン「そうだな。早くしないと、レインボーヒトデパンしか選べなくなる」 151 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/21(金) 00:35:13.22 ID:Oq28J/B10 放課後 仮部室 澪「で、何をするんだ?」 キョン「委員長はいないが、パート決めってのはやっていた方がメンバーを探すにしてもいいだろう」 唯「パート・・・」 澪「平沢さんは、やりたいパートあるのか?」 唯「ギターボーカル・・・」モジモジ キョン「今なんと・・・」 澪「・・・ああ、ギターね」 唯「じゃかじゃーんって」 キョン「澪は?」 澪「わたしは・・・目立つの嫌だからベースとかかな」 キョン「っ全国のベーシストを敵に回したな」 澪「うっ」 キョン「となると、ドラムがいればいいが委員長は・・・」 澪「似合わない・・・」 キョン「だよな」 唯「じゃかじゃーん♪」 155 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/21(金) 00:41:23.88 ID:Oq28J/B10 澪「た、楽しそうだな」 唯「う、うん。こういうの久しぶりだから」 キョン「部が出来たら、もっと楽しくなるんじゃないか」 澪「出来たらな」 キョン「ネガルな」 唯「大丈夫。絶対に出来るよ。キョンくんがいるし」 キョン「人任せにするなよ。・・・で、ドラムとか人材いないよな」 澪「うーん。張り紙したら、どうだ?」 キョン「張り紙か・・・効果は期待出来ないが、やらないよりはいいか」 澪「デザインは任せろ」 キョン「平沢とお前に任せた」 158 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/21(金) 00:45:45.94 ID:Oq28J/B10 翌日 放課後 仮部室 澪「じゃあ、文芸部に行くから」 キョン「ああ」 唯「ばいばーい」 キョン「来ないな、やっぱり」 唯「まだ、一日だし」 キョン「そうなんだがな」 ガララ ?「うわあ、暗いなあ」 キョン「えっと、どちら様で?」 ?「張り紙を見てさ。ここって、軽音部だよね?」 159 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/21(金) 00:48:43.91 ID:Oq28J/B10 キョン「そうだが」 律「わたし、二年の田井中律。入部したいなぁって」 唯「入部?」 キョン「えっと、張り紙みたよな?」 律「見たけど」 キョン「ドラムだぞ」 律「ドラムだな」 唯「わはぁ♪」 キョン「運が良いな俺達は」 律「???」 161 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/21(金) 00:55:32.54 ID:Oq28J/B10 律「じゃあ、平沢さんがギターでボーカル?」 唯「うんうん」 キョン「楽器初心者だがな」 律「気にしなくていいよ。わたしも、一年の頃に少しだけやってただけだから」 キョン「やってた?」 律「そう。軽音部でね」 キョン「へえ」 唯「で、次は何をすればいいのかな?」 キョン「部を認めてもらわないといけないな。申請書みたいなのがあるんじゃないか」 律「面倒くさいなぁ」 キョン「いや、そのくらい何でもないだろ。・・・部長をどうするかだな」 律「わたし、やりたい!」 キョン「平沢?」 唯「どうぞどうぞ」 キョン「弱気だな、おい。じゃあ、田井中さん頼んだ」 律「任せなさい!」 166 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/21(金) 01:10:54.51 ID:Oq28J/B10 キョン「明日は休みだし、楽器でも買ったらどうだ?」 唯「楽器?」 律「平沢さんはギターだね」 唯「えっと、五千円ぐらい?」 キョン「コメントをどうぞ」 律「スーファミのカセットが一、二本買えるものから、上は・・・果てしない」 唯「?」 キョン「高いってことだ」 唯「はあへえ」 律「明日、一緒に楽器店に行こうか?」 唯「あ、うん・・・」 キョン「ちょっと、外すわ」 律「ねえねえ、平沢さんて何組?」 キョン「(大丈夫だよな・・・)」 168 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/21(金) 01:13:51.12 ID:Oq28J/B10 文芸部室 ?「では、これで失礼しますよ」 キョン「?」 ?「こんにちわ」 キョン「こ、こんにちわ(誰だ?)」 ガチャ キョン「あれ、澪がいない」 長門「・・・」スッ キョン「あっちってことか?」 長門「・・・」コク キョン「どうも」 338 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/08/21(金) 21:52:46.80 ID:WpIH+xMz0 仮部室 澪「あれ、どこ行ってたんだ?」 キョン「・・・お前を呼びに行っていたんだよ」 澪「何か用か?」 キョン「明日」 澪「楽器を見に行く」 キョン「知ってるなら言わせるな」 澪「さあ、集合場所とか決めるか」 339 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/08/21(金) 21:58:25.74 ID:WpIH+xMz0 キョン「自己紹介は済んだのか?」 律「とっくに。なあ、唯ぃ」 唯「う、うん」 キョン「(もう、名前で呼んでるのか。まあ、今の平沢にはああいう積極的なタイプの方がいいか)」 澪「明日は、キョンも行くだろ」 キョン「俺は行かんぞ」 澪「どうせ暇だろ、外に出ないとニートになっちゃうぞ」 キョン「家にいるだけでニートかよっ! てか、俺が暇なの前提なのな」 澪「暇だろ」 キョン「・・・暇だ!」 澪「決定だな」 341 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/08/21(金) 22:06:00.12 ID:WpIH+xMz0 翌日 唯「あ、あの、ありがとうございます」 紬「ううん」 唯「あ、アルバイトでもして返します!」 紬「そう? じゃあ、お願いね」 唯「はい!」 律「唯だけずるいなぁ」 キョン「(委員長、ギタープレゼントとはやるな)」 澪「でも、これからが大事だ。練習しないことには、演奏できないしな」 キョン「気長に頑張れよ」 律「そうそう。直ぐには上手くなんてならないんだからさ」 唯「わたし、頑張るよ!」 紬「あの、わたしは何すればいいの?」 キョン・澪「(忘れてたっ!?)」 345 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/08/21(金) 22:21:22.14 ID:WpIH+xMz0 キョン「委員長は、出来る楽器とかあるか?」 紬「バンド形式だから・・・キーボードで良いならなら、出来るけど」 澪「き、キーボード良いんじゃないか」 キョン「そこまで、難しくなさそうだしな」 紬「家にあるのを持ってくれば良いのね」 律「家にあるのかよ」 唯「お金持ち?」 紬「そんなことないけど」 キョン「で、これからどうすんだ?」 澪「うーん。遊びにでも行くか」 律「お、良いねぇ」 澪「平沢さん、行きたい所とかあるかな?」 唯「わ、わたし! えっとぉ・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 澪「あ、いや、無いならいいんだ」 346 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/08/21(金) 22:27:01.26 ID:WpIH+xMz0 キョン「ゲーセンとかどうだ?」 律「うわあ、センスねえ」 キョン「は、はっきり言うじゃねえか」 律「女子四人で行くところが、ゲーセンって」 唯「い、良いよ、ゲーセン!」 律「あれ?」 澪「良いのか?」 唯「うん」 澪「ムギも良いか?」 紬「わたし、ゲーセンって所行ったことないの」 キョン・澪・律・唯「(御嬢様だーーーーーー!?)」 347 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/08/21(金) 22:33:46.21 ID:WpIH+xMz0 ゲーセン 律「レースゲームやろうぜ」 キョン「やる気満々かよ!」 律「来たら楽しまないとな」 澪「いろは坂のキョン、出番だぞ」 キョン「いつから俺は走り屋設定になったんだよ」 紬「私達は、後ろで見てるから」 キョン「しゃあない。俺のドリフトを見せてやる」 律「わたしに勝てると思うなよ」 348 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/08/21(金) 22:40:04.03 ID:WpIH+xMz0 ギュイイイイイイイイイイイイイイイン 澪「キョン、負けてるぞ」 キョン「言われんでも分かってる!」 律「あはは、楽勝だなあ」 キョン「まだだ、まだ終わらんよ」 唯「キョンくん頑張って!」 キョン「うしっ、任せとけ!」 ガタン 律「うわっ、ミスった!」 350 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/08/21(金) 22:45:30.49 ID:WpIH+xMz0 キョン「ま、落ち込むな。相手が悪かったんだよ」 律「いや、途中まで勝ってたし」 紬「ねえ、これはなに?」 澪「それはプリクラだよ」 紬「これがプリクラ・・・。やらない?」 律「お、やろうやろう」 律「冴えないおっさんは来ないのか?」 キョン「俺は外で待機だ」 澪「四人で良いよ」 唯「え、でも」 澪「いいから」 唯「・・・」 紬「なんか凄いね」 律「じゃあ、唯がボタン押してな」 唯「これだよね・・・ほいっ!」 351 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/08/21(金) 22:51:14.97 ID:WpIH+xMz0 律「上手く撮れてるな」 紬「凄い凄い♪」 澪「そんな凄いか?」 紬「ええ。あ、キョンくんも撮ったら?」 キョン「いや、興味ないんで遠慮しとくよ」 紬「澪ちゃん、一緒にやってあげたら」 澪「はあ? なんで私が?」 紬「ほらほら」 澪「お、押すなって」 紬「キョンくんも早く」 キョン「だから、俺は別に」 紬「ねっ?」 キョン「・・・はあ、やれやれ」 352 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/08/21(金) 22:53:56.81 ID:WpIH+xMz0 澪「ち、近い!」 キョン「んな事言っても、狭いんだから仕方ないだろうが」 澪「///」 紬「(澪ちゃんも素直じゃないわね)」 律「なあ、あの二人付き合ってるの?」 唯「!?」 紬「ううん。付き合ってはないけど」 律「ふーん」 唯「(でも、仲良さそうだなぁ)」 353 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/08/21(金) 23:00:52.18 ID:WpIH+xMz0 翌々日 部室 キョン「ううううん?」 唯「駄目だ・・・全然弾けない」 澪「まだ、始めたばっかだから仕方無いよ」 律「まずは、運指とコードを覚えること」 唯「指が届かない・・・」 律「慣れだよ慣れ」 キョン「・・・(この部、大丈夫なのだろうか?)」 コンコン 澪「ん?」 憂「失礼します」 357 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/08/21(金) 23:16:08.47 ID:WpIH+xMz0 唯「憂・・・」 キョン「あ・・・ああっと、何の用で?」 憂「お姉ちゃんを返して貰いたくて来ました」 澪「返すって・・・」 憂「お姉ちゃん、騙されちゃ駄目だよ」 唯「・・・」 憂「一緒に帰ろう」ガシッ 唯「・・・」 358 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/08/21(金) 23:17:28.80 ID:WpIH+xMz0 憂「・・・お、お姉ちゃん? どうしたの? 帰ろうよ」 唯「憂、もう大丈夫だよ」 憂「何・・・言ってるの?」 唯「今度は大丈夫だから」 憂「嘘! お姉ちゃん、騙されてるんだよ」 唯「ううん。わたし、やりたい事見つかったんだよ。みんなとバンドやるんだって決めたの」 憂「・・・この人達が、信じられるの?」 唯「うん!」 憂「・・・・・・そっか・・・ふふ」 360 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/08/21(金) 23:24:45.41 ID:WpIH+xMz0 憂「お姉ちゃんは、もう私なんかいらないんだね」 唯「憂?」 澪「(笑った?)」 憂「わたしはお姉ちゃんの事だけを考えてきたのに・・・。お姉ちゃんは私のことなんかどうでもいいんだね」 唯「ち、違うよ!」 澪「ま、まあ、落ち着こう」 憂「わたし、死ぬからっ!!!」 キョン・澪・律「(ええええええええええええええええええええええええええ)」 憂「じゃあね、お姉ちゃん」タッタッタ 唯「え、ちょっと、憂!」 澪「え、本気なのか、今の!」 律「ヤバイだろ、明らかに目がマジだった」 362 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/08/21(金) 23:31:13.17 ID:WpIH+xMz0 キョン「追いかけた方がいいよな?」 澪「そ、そうだな」 律「どこに行ったのかな?」 澪「屋上はないから、飛び降りは出来ないな」 キョン「まだ校外には行ってない筈だ。俺は校門に行ってみる。澪達は一階付近に張っててくれ」 澪「分かった」 唯「憂・・・」 378 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/08/22(土) 02:30:23.29 ID:lQjRhI5N0 キョン「ハアハアハアハア・・・いないな」 澪「キョ―ン!」 キョン「どうだー?」 澪「こっちにはいないみたいだー!」 キョン「もう出ちまったのか・・・」 律「どうだった?」 澪「駄目だ」 唯「・・・」 その時、車のクラクションが鳴り響いた。 律「近いぞ!」 キョン「まさか!」 澪「とりあえず、行ってみよう」 381 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/22(土) 02:41:55.39 ID:lQjRhI5N0 坂の中腹だった。そこには、破損した車と共に平沢憂の体が転がっていた。 唯「憂! 憂!」タッタッタ 澪「嘘・・・だろ」 律「ま、まだ生きてるかも!」タッタッタ キョン「(最悪な自体になっちまった。・・・俺の所為なのか? 俺が平沢に肩入れしなければ こんなことにはならなかったんじゃないか)」 ドクン ドクン ドクン ドクン キョン「(なんだ、頭が痛い!)」 ドサッ 澪「え? キョン! どうしたんだ! キョン! キョン!」 キョン「(あれ、俺はどうしちまったんだ・・・とても・・・眠い・・・)」 385 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/22(土) 02:53:37.09 ID:lQjRhI5N0 キョン「(ん、ここは・・・部室?)」 憂「わたし、死ぬからっ!!!」 澪・律「(ええええええええええええええええええええええええええ)」 憂「じゃあね、お姉ちゃん」タッタッタ 唯「え、ちょっと、憂!」 澪「え、本気なのか、今の!」 律「ヤバイだろ、明らかに目がマジだった」 キョン「(ちょっと待て、何がどうなってやがる。さっきと同じ状況じゃねえか。・・・てことは、 また事故が起こるのか・・・)」 キョンは部室を飛び出す 澪「おい、キョン!」 キョン「絶対に止めてやる!」 451 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/08/22(土) 18:26:06.69 ID:lQjRhI5N0 逸る心音と乱れた呼吸を繰り返しながら、坂を駆け下りた。 事故が起こる場所に長門有希が立っていた。 キョン「長門・・・。そうだ、いつからここにいるんだ?」 長門「五分前」 キョン「うちの学校の女子がここ通ったか?」 長門「・・・」フルフル キョン「そうか・・・良かった」 長門「聞いて欲しい」 キョン「え、ああ、なんだ?」 長門「涼宮ハルヒ」 キョン「は?」 長門「思い出して」 キョン「思い出す?」 長門「・・・」スタスタ キョン「・・・(すずみやはるひ? 思い出して? 何のことだ一体)」 453 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/08/22(土) 18:36:05.24 ID:lQjRhI5N0 長門の言葉の意味を反芻していると、女子が一人走ってきた。 キョン「妹! 待て!」ガシッ 憂「は、話して下さい!」 キョン「話し合おう! だから、落ち着こうな!」 憂「話すことなんかぁっ!」 ゲシッ キョン「いっ! ま、待て、待ってくれ!(駄目だ、このままじゃ繰り返しになっちまう)」 車の走行音が聞こえてくる。 遠のく憂の姿。 キョン「くそがああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」 455 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/08/22(土) 18:47:22.54 ID:lQjRhI5N0 キョン「(間に合え! 間に合ってくれ!)」 神の悪戯なのだろうか。 タイミング良く突っ込んでくる車。 それを待ち構える憂。 先程の結果に、限りなく近づいていく。 車と憂の距離は四メートル程しか離れていなかった。 鳴り響くブレーキとクラクション。 キョンの両腕には、憂の体が確かに抱えれていた。 457 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/08/22(土) 18:57:40.42 ID:lQjRhI5N0 キョン「はぁはぁ・・・」 憂「・・・・・・」 車は何事も無かったように、通り過ぎていってしまった。 キョン「大丈夫か?」 憂「・・・どうしてですか?」 キョン「へ?」 憂「何で助けたんですか?」 キョン「・・・その、なんだ、平沢の悲しむ顔が見たくなかっただけだ」 憂「・・・う、ううっ」ポロポロ キョン「な、何故泣く?」 憂「ごめんなさい・・・わたし・・・」 唯「憂!」タッタッタ 澪「キョン! 大丈夫か?」 キョン「ああ、一応な」 律「良かった、二人とも無事みたいだな」 458 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/08/22(土) 19:03:55.22 ID:lQjRhI5N0 唯「憂・・・」 憂「ごめんね、ごめんね、お姉ちゃん」 唯「なんで謝るの?」 憂「酷い・・・事言っちゃった・・・」 唯「気にしてないよ、憂」ギュッ 憂「ごめんね・・・」 憂はひたすら涙を流した。 唯は、正面から優しく抱きしめた。 459 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/08/22(土) 19:12:30.54 ID:lQjRhI5N0 憂「お姉ちゃん?」 唯「なぁに?」 憂「この人達は、お姉ちゃんの友達だよね?」 唯「うん! そうだよ!」 憂「本当に?」 唯「えっと・・・」キョロキョロ キョン「この前言っただろ」 澪「妹さん、私達は唯の友達だよ」 唯「みたい」 憂「そっか・・・・・・良かった」 唯「憂、だからね。私は大丈夫だから」 憂「・・・うん!」ニコ キョンにとって、初めてみる憂の笑顔だった。 460 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/08/22(土) 19:15:45.16 ID:lQjRhI5N0 翌日 中庭 キョン「よお」 唯「あ、キョンくん」 憂「こんにちわ」 キョン「・・・(変わりすぎじゃないだろうか、元はこうなのか)」 唯「どうしたの?」 キョン「いや、なんでもない」 唯「キョンくん、お昼まだ?」 キョン「ああ。お前は?」 唯「私達もまだだよぉ」 キョン「じゃあ、購買に行くか」 461 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/08/22(土) 19:20:36.99 ID:lQjRhI5N0 購買 ワイワイガヤガヤ 憂「人いっぱいですね」 キョン「来たことないのか?」 憂「はい、いつもはお弁当なので」 キョン「なるほど。・・・今日は弁当じゃないのか?」 憂「は、はい///」 キョン「そうか。えっと、列には俺が並んできてやるから、欲しい物教えてくれ」 唯「あんぱん!」 キョン「と、クリームパンな。妹は?」 憂「お、同じで///」 キョン「了解」 463 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/08/22(土) 19:30:30.67 ID:lQjRhI5N0 中庭 キョン「ほれ」 唯「ありがとう」 憂「ありがとうございます」 キョン「ところで、平沢はなんで買い食いなんだ。妹は弁当なんだろ」 唯「えっと、最近まで学校に行ったり行かなかったりで、毎日作って貰うの悪いから」 キョン「妹が作ってるのか?」 憂「はい」 キョン「ほお(まあ、姉の方は料理出来そうに見えないが)」 憂「お姉ちゃん、口にあんこ付いてるよ」 フキフキ 唯「ありがとう、憂」 キョン「妹の方が姉みたいだな」 唯「ええ!?」 憂「そ、そんなことないですよ」 465 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/08/22(土) 19:40:23.23 ID:lQjRhI5N0 キョン「ふー」 唯「ご馳走様でした」 憂「あ、あの、キョンさん?」 キョン「キョンさん!?」 憂「あ、ごめんなさい」 キョン「いや、別に構わないが。で、なんだ?」 憂「お、お弁当とか作っても///」 キョン「ん?」 憂「良かったら、お弁当とか食べませんか?」 唯「あるのぉ?」 キョン「あるのか?」 憂「今はないです。あ、明日から作って来ますので」 キョン「明日から? いや、なんか悪いし、そんなことしてもらわなくても」 憂「パンとか炭水化物ばかりじゃ、健康に悪いですから。ついでに作ってきます」 唯「???」 501 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/08/23(日) 00:00:55.47 ID:VQjxZlv50 翌日 教室 キョン「もう昼か」 澪「授業中半分寝てた奴が言う科白か」 唯「キョンくーん」 澪「平沢さん、妹さんまで」 憂「お邪魔します」 澪「?」 憂「キョンさん、これどうぞ」 キョン「本当に良いのか? 貰って」 憂「はい」 澪「・・・どういうことだ? キョン」 キョン「え?」 502 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/23(日) 00:02:00.62 ID:VQjxZlv50 澪「なんで、キョンが平沢さんからお弁当を受け取るんだ?」 キョン「それはだな」 憂「わたしがお願いしたんです。いつも購買通いみたいなので」 澪「え? そ、そうなんだ、へえ・・・・・・」 キョン「ありがたく頂戴するわ」 憂「はい」 澪「・・・ごゆっくり!」スタスタ キョン「なんで機嫌悪そうなんだ、アイツ」 唯「ねえねえ、早く食べようよぉ」 キョン「ああ」 505 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/23(日) 00:06:23.48 ID:VQjxZlv50 憂「ど、どうですか?」 キョン「美味いよ」 憂「良かった///」 唯「憂、美味しいよぉ」 憂「ありがとう、お姉ちゃん」 キョン「平沢」 唯「わたし?」 キョン「お前、家でギターの練習してるのか?」 唯「うん。ギー太と添い寝したり服着せたりしてるよぉ」 キョン「練習じゃねえ! ペットか! てか、ギー太ってなんだっ!」 唯「名前だよぉ、可愛いでしょ」 キョン「・・・はあ」 唯「溜息!? え、私なんか悪いこと言った!?」 534 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/08/23(日) 03:07:44.01 ID:VQjxZlv50 放課後 部室 唯「あぅ、指が痛い」 律「その内、指の皮が厚くなるよ」 キョン「なあ澪、コーチが居た方が良いと思うんだが」 澪「コーチか・・・居たら助かるな。でも、ベース経験者なんているのかな」 憂「あのぅ、ギターやってる娘なら知ってますけど」 キョン「本当か?」 憂「でも、他でバンドを組んでるとか言ってました」 澪「偶にで良いから、来てくれたりしないかな」 憂「聞いてみましょうか?」 澪「頼む」 535 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/08/23(日) 03:08:41.14 ID:VQjxZlv50 翌日 朝 廊下を疾走するキョン。 キョン「うおお、遅刻じゃねえか!」 曲がり角を曲がった所だった。 キョン「おわあっ!」 ?「うあっ!」 キョンは女子生徒に勢い余って抱きつき倒してしまった。 ?「痛っ」 キョン「す、すまん、急いでたもんでな」ムギュッ ?「どこ触ってるんですかっ!!!」 瞬間、強烈な平手打ち。 キョン「っい!」 ?「あなた、最低です!」スタスタ キョン「俺の所為なのか・・・・・・俺の所為か。しかし、胸だったのか? 536 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/08/23(日) 03:11:08.06 ID:VQjxZlv50 放課後 部室 澪「えっと、ムギはなにをしてるんだ?」 紬「お茶の準備」 キョン「委員長なのに、そんなことして良いのか?」 紬「息抜きは必要だから」 律「お、なんか、良いかおうぃ」 唯「くんくん、落ち着くねぇ」 澪「やれやれ」 537 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/08/23(日) 03:13:10.06 ID:VQjxZlv50 部室の扉が開く。 憂「お待たせしてすいません。ギター出来る娘連れて来ました」 キョン「あ・・・」 ?「え? ・・・あああああああああ!?」 澪「なに? 知り合い?」 ?「朝の痴漢!」 キョン「誰が痴漢だっ!」 律「ちーかーん! ちーかーん!」 キョン「痴漢コールやめい!」 澪「キョン・・・なにをしたんだ? しっかり聞かせてもらおうか?」 キョン「だから」 ?「わたしの胸を揉みました」 キョン「うわあああああああああああああああああああああ」 540 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/08/23(日) 03:16:26.71 ID:VQjxZlv50 律「痴漢じゃねえか!?」 キョン「揉んではいない」 ?「触りました!」 キョン「・・・・・・触りました、はい」 澪「ほお、後輩に手を出すとは遂に血迷ったか」 キョン「誤解だ! 俺は無実だ。平沢、助けてくれ」 唯「美味しいですね!」 紬「良かったぁ」 キョン「妹!」 憂「キョンさんって、変態だったんですか?」 キョン「なんだ、その憐れみの目は!?」 ?「計画通りですね」 キョン「心の声漏れてますよ!?」 541 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/08/23(日) 03:23:57.58 ID:VQjxZlv50 澪「なんだ、そういうことなら早く言ってくれよ」 キョン「言おうとしてたんだよ」 律「痴漢じゃないのか、残念だ」 キョン「逮捕されろって言うんだな!」 憂「わたしは信じてましたよ」 キョン「・・・はあ、で、名前は?」 梓「中野梓です。わたしで良ければ、力になりますけど」 澪「是非とも頼む。私達、初心者ばかりだから分からないことも多いし」 キョン「ギター弾いてみてくれないか?」 梓「痴漢相手に弾きたくありません」 キョン「おまっ」 梓「嘘です」 キョン「うぬぬ」 900 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/23(日) 23:02:08.68 ID:VQjxZlv50 絶望した。 一人以外。 唯・律・澪・憂・キョン「・・・・・・(う、上手過ぎる)」」 梓「(あれ、期待外れだったのかな)」 紬「すごーい!」パチパチ 梓「どうも」ペコリ 憂「梓ちゃん、そんな上手かったなんて」 梓「そんな上手くないと思うけど」 律「あんた最高だ!」 梓「はあ?」 919 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/23(日) 23:28:48.57 ID:VQjxZlv50 澪「バンドを組んでるんだって?」 梓「今はやってないです」 キョン「てことは、今はギターやってないのか?」 梓「ギター自体は家でやったりしてますけど」 キョン「なんか勿体無いな」 律「だったら、うちのバンドに入れば?」 澪「それは流石に悪い気が」 梓「・・・良いですよ」 澪「本当に?」 梓「新しくバンドを組むまでで良いなら、お願いします」 律「うおお、やったなぁ!」 紬「賑やかになってきたわね」 929 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/23(日) 23:45:43.12 ID:VQjxZlv50 キョン「ま、初心者ばかりで大変だろうがな」 梓「痴漢よりはマシですね」 キョン「・・・お前、自分が後輩なの分かってるか。俺は先輩だ」 梓「痴漢は痴漢ですから」 キョン「結構、根に持つタイプなんだな」 梓「ところで、ギターの方はどなたですか?」 澪「唯、出番だぞ」 唯「わたし? えっと、後じゃ駄目ぇ?」 澪「お茶はあとでな」 唯「はぁーい」 梓「あの、どのくらい弾けるか見せて貰っていいですか?」 澪「それが、まだ弾けるってレベルじゃないんだよ」 唯「えっとぉ、Fコードが押さえられないぐらいなんだけどぉ」 梓「そこからですか・・・」 憂「お、お姉ちゃんは直ぐ上達するよ!」 945 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/24(月) 00:10:55.23 ID:jVef1sHm0 このあと軽音部の面々は、各々が自己紹介をし終えると早速練習に取り掛かった。 中野梓はベースの知識を多少持ち合わせており、秋山澪も梓の教えを受けた。 憂「キョンさん、帰るんですか?」 キョン「俺が居てもしょうがないしな」 憂「そうですか」 キョン「平沢妹は帰らないのか?」 憂「お姉ちゃんを待ってたいので」 キョン「そうか」 憂「あのぅ」 キョン「ん?」 憂「憂で・・・良いです///」 キョン「・・・次からはそうするよ」スタスタ 962 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/24(月) 00:55:53.10 ID:jVef1sHm0 キョン宅 キョン「親父、居るのか?」 シーン キョン「・・・はぁ。また、パチンコでも行ってんのかね」 プルルルルルルル キョン「電話? 珍しいな。・・・・・・もしもし」 キョン妹「あ、キョンくん? 元気にしてたぁ?」 キョン「ああ、元気だぞ。お前はどうだ?」 キョン妹「元気元気! ねえ、今度そっちに行っていい?」 キョン「駄目だ。おとなしくそっちで我慢してろ。こっちよりかはマシだからな」 キョン妹「えええー、お父さんと会いたいのに」 キョン「(あんなのと会わせられるかってんだ)」 972 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/24(月) 01:44:46.31 ID:jVef1sHm0 数週間後 昼の部室 キョン「何故、こんなところで飯を食わなきゃならん」 唯「みんなで食べた方が美味しいよぉ」 澪「わたしは、仕方なくだからな」 紬「ふふふ」 律「いただきまーす」 梓「憂、わざわざ痴漢にお弁当作ってるの?」 憂「うん///」 梓「顔が・・・赤い」 憂「え、嘘、そんなこと///」 梓「(分かりやすいな。でも、あんなの何処が良いんだろ)」 澪「(やっぱり、憂ちゃんはキョンのこと・・・)」 973 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/24(月) 01:54:11.51 ID:jVef1sHm0 梓「・・・・・・痴漢の人」 キョン「澪には、真似出来ない味だな」 澪「なっ! わたしだって、やれば出来るぞ」 梓「先輩」 キョン「なんだ?」 梓「まだ、先輩としか言ってませんが」 キョン「・・・」 梓「キョン先輩」 キョン「はいはい、なんでございますか?」 梓「アドレスを交換しましょう」 澪「・・・(まさか、梓まで!?)」 唯「そういえば、まだ教えてもらってない」 律「わたしも。ま、どうでも良いけどさ」 974 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/24(月) 02:00:50.33 ID:jVef1sHm0 キョン「そういや、そうだったな」 唯「キョンくん、交換しよ」 キョン「ああ」 紬「良い機会だから交換しましょ」 梓「憂もでしょ?」 憂「え? う、うん///」 梓「(なんか可愛い)」 澪「・・・デレデレしちゃってさ」ボソボソ キョン「なんか言ったか?」 澪「なにも」 979 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/24(月) 02:11:16.08 ID:jVef1sHm0 キョン「憂ちゃんで最後だな」 憂「はい///」 唯「憂、顔赤いよ。熱でもあるの?」 憂「だ、大丈夫だよ」 唯「・・・」 澪「はあ・・・」 律「なんで溜息吐いてるんだ?」 澪「いや別に」 紬「澪ちゃんも、お弁当を作ればいいじゃない」 澪「なんでわたしが!」 紬「素直になって」 澪「うっ・・・」 980 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/24(月) 02:16:29.22 ID:jVef1sHm0 夜 唯宅 憂「お姉ちゃん、あんまりお菓子食べちゃ駄目だよ」 唯「うーん」 憂「聞いてるの?」 唯「聞いてるよぉ」 憂「もう」 唯「ねえ、憂?」 憂「なあに?」 唯「憂は、キョンくんが好きなの?」 憂「ど、どうしたの急に?」 唯「そうなんでしょ?」 憂「・・・」コク 唯「そっか・・・。応援するよ」 憂「ありがとう、お姉ちゃん」 983 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/24(月) 02:33:02.88 ID:jVef1sHm0 翌日 部室 律「そういや。もうすぐ、ゴールデンウィークだな」 唯「そっか、忘れてた」 澪「集中的に練習とか出来たら良いんだけど」 梓「そうですね。やれるだけやった方が良いと思います」 律「何言ってるんだよ。どっか行こうぜ!」 唯「どこにぃ?」 律「うーん・・・」 ガチャ 紬「遅れてごめんなさい」 澪「ムギ、吹奏楽の方は良いのか?」 紬「みんなが頑張ってるから、わたしもなるべく一緒に練習したいの」 律「人は多い方がいいし大歓迎だな」 991 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/24(月) 03:14:38.18 ID:jVef1sHm0 紬「憂ちゃん、まだみたいね」 澪「もうすぐ、来るんじゃないか」 律「そういや、最近キョンの奴は放課後は来ないよな」 澪「部員じゃないからな」 ガチャ 憂「こんにちわ」 キョン「おっす」 律「噂をすればだな」 澪「何しに来たんだ?」 キョン「平沢に呼ばれたんだよ」 唯「演奏を見せようと思って、呼んじゃいました」 梓「でも、まともに出来るのないですよね?」 澪「キツイな、梓は」 紬「でも、練習してる曲なら」 唯「うん。少しだけだけど出来るから」 澪「少しだけな」 51 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/08/27(木) 19:33:10.51 ID:D9L0vEs0  演奏が始まった。  唯と澪の手つきが覚束ない。 キョン「(あいつら、見てる方が怖いな)」  憂はしきりに両手を叩いてリズムを取っている。  演奏中、一度だけ唯とキョンの目が合う。  キョンは微笑しながら頷いた。  ジャーン♪ ジャジャン♪ 憂「すごーい♪」パチパチ キョン「まだまだ下手だけどな」パチパチ 澪「余計なことを言うな」 梓「でも、皆さん頑張ってましたよ」 紬「そうね、言う程悪くなかったと思う」 律「私達の初ライブ成功で良いのかな?」 唯「どお? キョンくん」 キョン「ああ、成功だよ」  その言葉に、一同は思わず笑みを零し歓声を上げた。 52 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/08/27(木) 19:35:16.09 ID:D9L0vEs0  ゴールデンウィーク  キョンの下に一本の電話がかかってきた。  発信者は憂だ。 キョン「もしもし」 憂『もしもし、キョンさんですか?』 キョン「そうだが、なんか用か?」 憂『あのですね・・・その、デ・・・』 キョン「デ?」 憂『デートをしませんか!?』 キョン「デート? ・・・・・・それは、俺と憂ちゃんがってことかな?」 憂『は、はい。駄目でしょうか?』  キョンは憂の考えを読み取ろうとした。そして、出てきたキーワードは勘違いで なければ嬉しいものだった。  “憂ちゃんは、俺が好きなのか?” 53 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/08/27(木) 19:39:23.38 ID:D9L0vEs0 キョン「駄目じゃないさ。むしろ、俺なんかで良いのかって思うぐらいだ」 憂『キ、キョンさんが良いんです』  キョン悶絶。 キョン「あ、ありがとう。それで、いつが良い?」 憂『明日で良ければ、明日にでも』 キョン「良いですとも、明日にしよう。待ち合わせの時間と場所は――」 憂『――はい、構いません』 キョン「じゃあ、また明日」 憂『はい。宜しくお願いします』  通話終了。 キョン「・・・・・・まっさか、憂ちゃんがな」  天井を仰ぎながら、デートの様子を妄想するキョンであった。 54 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/08/27(木) 19:45:29.71 ID:D9L0vEs0 唯宅 唯「どうだったぁ、憂?」 憂「うん、明日デートに行くよ」 唯「そっかぁ、良かったねぇ」 憂「お姉ちゃんのお陰だね。ありがとう、お姉ちゃん」 唯「頑張ってね、憂(このまま、憂とキョンくんが付き合ったりとかしちゃうのか な)」  刹那、唯の頭の中でピアノ線が弾かれたような鋭い痛みが襲った。 唯「痛っ!?」ガクリ 憂「どうしたの? 大丈夫、お姉ちゃん?」  痛みは一瞬だけだったようで、頭に違和感も感じることはなかった。 唯「うん、平気(何だったんだろう?)」 56 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/08/27(木) 19:52:55.74 ID:D9L0vEs0  翌日 キョン宅  朝早くに、インターフォンが鳴った。 キョン「誰だ? こんな時間に」  玄関を開けると訪問客の姿はなかった。いや、キョンの目線の高さにはいなかっ たのだ。 キョン「お前、何しに来たんだ?」 キョン妹「遊びに来たの」 キョン「遊びにって、家は遊ぶような所じゃないぞ」 キョン妹「あと、お父さんに会いに」 キョン「駄目だ、帰りなさい」 キョン妹「えー、どうしてぇ?」 キョン「親父は今、いないんだよ(恐らく、パチンコにでも行ってるだろうな。最 後に朝、居間にいるのを見たのはいつだったろう)」 キョン妹「んー、家で待ってる」 57 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/08/27(木) 19:54:51.35 ID:D9L0vEs0 キョン「待て待て、いつ帰ってくるか分からないだろうが(どうする。どうやって 家から引き離そうか)」 キョン妹「帰ってくるまで待ってるよー」 キョン「・・・・・・そうだ、映画館にでも行かないか?」 キョン妹「行きたーい! 連れてってくれるのー?」 キョン「ああ、連れてってやるとも」 キョン妹「やったー!」 キョン「ふう・・・・・・(なんとか、これで大丈夫か)」 キョン妹「早く行こうよー!」 キョン「ちょっと待ってろ。準備をしてくるから(何が面白くて妹と映画なんて観 に行かなくてはならないんだ)」 部屋に戻り、着替えをしていると昨日の約束を思い出す。 キョン「しまった・・・、いや、時間はまだあるから大丈夫・・・だよな」 58 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/08/27(木) 19:56:51.48 ID:D9L0vEs0 唯宅 憂「お姉ちゃん、どうかな?」 唯「可愛いよぉ、憂」 憂「ほ、本当に?」 唯「わたしは嘘吐かないよ」 憂「うん」 59 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/08/27(木) 20:00:57.36 ID:D9L0vEs0  一方キョン達 キョン妹「面白かったねー! キョンくん」 キョン「そうかい(さて、そろそろ待ち合わせ場所に向かわないといけないが)」 キョン妹「もうお父さん、帰ってるかなー?」 キョン「おま、まだ会うつもりなのか?」 キョン妹「だって、会いたいもん」 キョン「・・・・・・(まずい、非常にマズイ状況だ。どうする・・・・・・)」 キョン妹「どうしたのー?」 キョン「ここで待ってろ」 キョン妹「どうしてー?」 キョン「いいから」 60 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/08/27(木) 20:07:04.52 ID:D9L0vEs0 キョン「もしもし」 憂『キョンさん、おはよ・・・じゃなかった。こんにちわ』 キョン「憂ちゃん、すまん」 憂『え、急にどうしたんですか? どうして謝るんですか?』 キョン「実は急用が出来たんだ。だから」 憂『だから、今日のデートは取りやめたい・・・』 キョン「ん、ああ、そういうことになっちゃうな。本当にすまない。どうしても外 せ」 憂『分かりました。・・・・・・失礼します』 キョン「憂ちゃん? ・・・切れた・・・か、そりゃそうだろうな」 61 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/08/27(木) 20:13:50.88 ID:D9L0vEs0 唯宅 憂「・・・・・・」 唯「憂、キョンくんから?」 憂「・・・・・・」 唯「どうしたの?」 憂「ううん、なんでもないよ。ちょっと眠たくなっちゃった」 唯「え、デートは? もうすぐじゃないの」 憂「もういいの」 唯「(どういう意味だろう。昨日はあんなに楽しみにしてたのに)」  結局、キョンは妹の気を家から逸らすことに半日を使い果たした。  そして、ゴールデンウィーク中に憂から連絡が来ることは無く連休は明けたのだった。 64 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/08/27(木) 22:55:02.70 ID:D9L0vEs0 放課後 部室  部室内では軽音部の面々と憂が、ティータイムを過ごしていた。  その部室に、キョンはやってきたのだが。 キョン「よ・・・ぅ・・・」  キョンの目に真っ先に飛び込んできたのは憂の姿だったのだ。 澪「どうした?」 キョン「いや、今日はやっぱりやめとくわ」  閉められた部室扉を見て不思議に思う面々。 唯「(どうしたんだろう? 憂を見て表情が変わった気がする)」 65 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/08/27(木) 23:05:37.82 ID:D9L0vEs0  行く宛てのなくなったキョンは、文芸部の扉を開けた。  特段、用があった訳ではなかったが家に居るよりはマシだと思ったからだ。  室内には長門有希が一人静かに、ハードカバーの本を読んでいた。 キョン「久しぶりだな」 長門「・・・」 キョン「(相変わらず無愛想な奴だな)」  パイプ椅子に座り窓の外を眺めていると、先日の長門有希の言葉を思い出した。 キョン「長門」 長門「・・・」 キョン「この前の、すずみやなんとか」 長門「涼宮ハルヒ」 66 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/08/27(木) 23:28:29.34 ID:D9L0vEs0 キョン「その“すずみやはるひ”ってのは何なんだ? 人の名前だよな?」 長門「あなたとは特別な関係だと思われる」 キョン「特別な関係? 知らんぞ、そんな名前の奴は」 長門「思い出して欲しい」 キョン「思い出せって言われてもな・・・、つまり俺は忘れているってことか?」 長門「正確には違う。だけど、あなたに対しては忘れているという表現が適当だと思われる」 キョン「・・・・・・(コイツ、案外話せるんだな)」 長門「・・・」 キョン「長門とすずみやってのは知り合いなのか?」 長門「そう」 キョン「(誰なんだよ、すずみやってのは)」 67 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/08/27(木) 23:41:17.25 ID:D9L0vEs0  軽音部 唯「ねえ憂」 憂「なに? お姉ちゃん」 唯「キョンくんと何かあったの?」 憂「どうしてそんな事を訊くの?」 唯「キョンくん、憂の顔を見て顔色変わったから」 澪「そうなのか? 気づかなかったな」 梓「なんかあったの?」 律「お姉ちゃん達、相談に乗るよ」 紬「話せたらで良いからね」 68 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/08/27(木) 23:50:04.10 ID:D9L0vEs0 憂「実は・・・連休中にちょっと」 律「ふむ、連休中ね」 唯「デートに行かなかったよね」 澪「デート!? って誰が?」 唯「憂が」 澪「誰と?」 唯「キョンくんと」 紬「いつの間に」 梓「(やる事やってるんだな)」 69 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/08/28(金) 00:09:04.36 ID:5p59iYI0 憂「当日になって、キャンセルになったんです」 唯「どうして?」 憂「急用が出来たとかで」 澪「さ、最低だなアイツ」 律「男じゃねえ」 憂「それで私、一方的に電話を切ってから一切連絡をしてなくて」 律「向こうから謝罪されるのを待つしかないよ」 憂「いえ、電話の時に謝ってくれましたから良いんです。けど、どういう顔して会えば良いか分からなくて」 唯「キョンくんに電話してみよ」 澪「どうするつもりだ?」 唯「ちゃんと話さないと駄目だと思うから。それにキョンくんも話しづらいんだと思うんだ」 紬「唯ちゃんの言う通りね」 梓「憂、電話する?」 憂「・・・・・・うん、してみるね」 76 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/09/03(木) 22:05:20.52 ID:xZqbDmc0  携帯電話を取り出した憂だったが、指先は止まったままだ。 唯「憂、貸してみて」 憂「?」 唯「わたしが話してあげる」 律「唯で大丈夫か?」 澪「なんなら私がかけるよ?」 唯「大丈夫だよぉ。わたしはお姉ちゃんなんだから」  憂から携帯を手渡せられた唯は、キョンの番号にコールした。 梓「まあ、あの人だって話せば分かるでしょう」 澪「女心が分かることは無いと思うけどな」 紬「経験者は語るね?」 澪「ムギ・・・」 紬「ふふ、ごめんなさい」 憂「お姉ちゃんっ!?」  突然の叫び声に、メンバー全員が一斉に声の出所に目を遣った。 77 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/09/03(木) 22:06:41.59 ID:xZqbDmc0  メンバーが目にしたのは、床にうつ伏せに倒れている唯と口に手を当て立ち尽くす憂の姿だった。  携帯電話は開いたまま床に転がっている。 澪「唯! 唯!」  澪が唯に近づいて呼びかけるが反応がない。 律「どうしたんだよ一体?」 梓「息はしてるみたいです」 紬「とりあえず保健室に運びましょ」 澪「そうだな。律手伝ってくれ」 律「わかった」 紬「わたしも手伝うわ」 78 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/09/03(木) 22:07:38.87 ID:xZqbDmc0  唯を運び出そうとするのを横で見ながら梓は憂に声をかけた。 梓「憂、大丈夫?」 憂「う、うん・・・・・・」 梓「(そういや、まだ繋がってるのかな)」  梓は床から携帯を拾い上げると耳に当てた。 梓「(繋がってるけど・・・)あのぅ聞こえてますか?」  相手先からは蝉の鳴声が僅かに聴こえるだけだった。 梓「切りますよ? えい・・・。さ、憂も行くよ」 憂「うん・・・」コク 79 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/09/03(木) 22:08:55.61 ID:xZqbDmc0  保健室 『(――キョン――――くん?――――何処行くの?――――だめだよ―――― お願いだから――――お願いだから――――行かないで――――おね――がい――)』 唯「・・・・・・・・・・・・」  唯は僅かに瞼を上げた。 唯「夢・・・? ・・・・・・変な夢だなぁ」  唯がなんとなく横のベッドを見るとキョンが寝ているのが見えた。 唯「キョンくん? あれ・・・? そういえば私もなんで寝てるんだろう」 憂「あ、お姉ちゃん? もう大丈夫なの?」 唯「憂。わたし、なんでここにいるの?」 憂「覚えてないの? お姉ちゃん、電話かけて直ぐにいきなり気を失ったんだよ。私びっくりしちゃったよ」 唯「・・・・・・覚えてない」 80 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/09/03(木) 22:14:08.46 ID:xZqbDmc0 律「お! 起きてるじゃんか」 紬「良かった、心配したのよ」 澪「まったくな」 唯「えっと、ごめんなさい」 梓「謝ることはないですけど」 唯「ところで、なんでキョンくんもいるの?」 澪「それはこっちが聞きたいんだけど」 紬「唯ちゃんを運んできた時には、ベッドで寝てたのよ」 唯「ふーん」 81 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/09/03(木) 22:16:32.88 ID:xZqbDmc0 憂「・・・・・あれ、お姉ちゃん?」 唯「なぁに?」 憂「電話って繋がったの?」 唯「・・・ごめん、覚えてない」 梓「電話なら、唯先輩が倒れてから確認したけど通じてたよ」 憂「キョンさんの声が聞こえたの?」 梓「ううん、声は聞いてないけど受話器越しに蝉が鳴いてるのは聞こえたから」 憂「そっか・・・」 澪「どうかしたの?」 82 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/09/03(木) 22:17:52.23 ID:xZqbDmc0 憂「変だと思いませんか?」 律「何が?」 憂「保健室に来た時、キョンさんは既に寝てました。梓ちゃんの話だと、お姉ちゃんが倒れると声は聞こえないけど通話状態にはなったままになっていた。そうなると、お姉ちゃんの電話はキョンさんに繋がったってことですよね」 律「んー? それで?」 憂「お姉ちゃんが倒れてから、キョンさんはなんで保健室に来たんでしょうか?」 梓「そっか」 律「分からない・・・」 憂「見た限りでは、キョンさんの周囲に携帯は見当たりません。ということは、通話中に寝てしまったってことはないと思います。推測ですけど、他の場所で電話を取ってから保健室に移動したんだと思います。では保健室に来た理由がお姉ちゃんが倒れたことを知ったからだとしたらどうでしょうか?」 梓「理由としては十分だけど、私達が来た時に寝ていたらおかしいし電話をそのままにしてるのもおかしい」 澪「なるほど、確かにおかしい」 紬「じゃあ、どうしてここに居るのかしら?」 憂「だからおかしいと思うんです」 83 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/09/03(木) 22:19:16.01 ID:xZqbDmc0 『(――――これで良いんだよな――――これで――――間違ってないんだよな――――』 『(――あなたが決めたこと――――私はそれに従う――――)』 『(――そうだな――俺が決めたことだ――――長門――――迷惑かけるな――――)」 『(――――いい――――辛いのはあなた――――)』 『(――――二回目か――――今回で最後にしよう――――三回目はなしだ――)』 キョン「・・・・・・(なんだ今の声は・・・)」 84 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/09/03(木) 22:20:18.33 ID:xZqbDmc0 唯「あ、起きた!」 梓「噂をすればですね」 澪「なんで」 キョン「なんで俺はここにいるんだ?」 澪「はあ? まだ寝ぼけてるのか?」 紬「気分はどう?」 キョン「なんともないが」 梓「あのぅ」 キョン「ん?」 梓「唯さんの電話をとりましたよね」 キョン「あれは妹のだったろ」 梓「そっか。えっと、憂の電話をとってからどうしました?」 キョン「とってからだ? ・・・・・・・・・・・・思い出せん」 澪「嘘じゃないだろうな?」 キョン「なんで嘘を吐く必要があるんだよ」 85 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/09/03(木) 22:21:36.36 ID:xZqbDmc0 梓「それじゃあ、なんでここに居るんですか?」 キョン「それはこっちが聞きたいね。大体、なんでお前らも居るんだよ」 律「唯が倒れたんだよ」 キョン「倒れただ? 本当なのか?」 唯「私は記憶が無いけど、そうみたい」 紬「そうだ。携帯持ってないの?」 澪「キョンだよ」 キョン「俺? ・・・あれ、どこやったんだ」 梓「どこで電話をとったんですか?」 キョン「文芸部室」 梓「そこにあるのかもしれませんね」 86 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/09/03(木) 22:23:15.73 ID:xZqbDmc0 澪「なんで文芸部室に居たんだ?」 キョン「家に帰るのも嫌だったんでな」 澪「まだ・・・・・・あのままなのか?」 キョン「ああ」 澪「そうか・・・」  ベッドから立ち上がったキョンと憂が目を合わせた。 キョン「・・・」  癖が付いたのか目を逸らすキョン。 憂「・・・」 87 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/09/03(木) 22:30:03.24 ID:xZqbDmc0 澪「キョン」 キョン「なんだ?」 澪「デートをサボって何やってたんだ?」 キョン「・・・なんのことだ?」 澪「憂ちゃんから聞いたぞ。急にキャンセルされたってな」 憂「ご、ごめんなさい」 キョン「いや、憂ちゃんが謝ることはないさ」 澪「で、急用ってのは?」 キョン「妹がいきなり家に来たんだよ。それで・・・お前なら分かるだろ」 澪「・・・・・・なるほどね」 88 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/09/03(木) 22:37:20.81 ID:xZqbDmc0 律「え、どういうこと?」 唯「?」 紬「ほら、キョンくんは携帯を取りに行かなきゃ」 律「ええ、今のでいいの?」 紬「ほら、梓ちゃんも行くんでしょ?」 梓「は、はい」 澪「キョンはちゃんと謝れよな」 キョン「分かってるよ、餓鬼じゃないんだ」 憂「・・・」 キョン「本当に悪かった。許してください!」 唯「憂?」 憂「えっと、はい、許します」 89 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/09/03(木) 22:45:26.10 ID:xZqbDmc0 唯「良かったね、二人とも」 紬「それじゃ、文芸部室ね」 澪「だな」 文芸部室 澪「あれ、有希がいない」 キョン「さっきはいたんだがな」 澪「有希になにかしてないよな?」 キョン「するか、んなこと」 梓「これですか? 携帯は」 キョン「ああ、それだそれ」 紬「ということは、ここから保健室に行ったのね」 律「どうやって?」 梓「一番可能性があるのは、誰かに運ばれたってことですね」 キョン「まさかな」 90 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/09/03(木) 22:54:30.72 ID:xZqbDmc0 澪「有希か?」 キョン「流石に無理があるよな」 梓「でも、有希って人がいないんですよね」 キョン「トイレ又は帰ったんじゃないか?」 紬「鍵も閉めずに?」 澪「今日は私が寄る予定だったから、任せて帰ったのかも」 律「あのさぁ」 紬「なにか分かったの?」 律「もしかして、出たんじゃない?」 唯「何がぁ?」 律「ひゅるるるるるー」 澪「ひいいいぃぃぃ!?」ガクブル 98 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/09/10(木) 23:10:07.27 ID:iDGVX4g0 梓「澪先輩って幽霊とか駄目なんですか?」 紬「うん、弱点みたい」 キョン「意外と可愛いところあるよな」 澪「か、可愛いとか言うな!」 キョン「不細工の方が良かったか」 澪「もっと言うなー!」 紬「相変わらず、仲が良いよね」 キョン「誤解を生む発言はやめてもらいたい」 紬「ふふ、ごめんなさい」 律「それで結局、真相は解らずか」 キョン「別に体に異常があるわけじゃないし、深く考えなくても良いだろう」 憂「本当に大丈夫ですか?」 キョン「大丈夫さ」 99 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/09/10(木) 23:13:00.40 ID:iDGVX4g0 澪「じゃあ、部室に戻るか」 紬「そうね、練習する時間が無くなっちゃう」 梓「さっきまでお茶でしたけどね」 律「き、気のせいだろハハハ」 キョン「俺は帰るかね」 唯「ええ、部室来ないの?」 キョン「帰って寝るよ」 澪「こんな時間からか、不規則な生活するなよな」 キョン「分かってるよ」 100 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/09/10(木) 23:16:10.82 ID:iDGVX4g0 ――軽音部室 憂「澪さん」 澪「なに? 憂ちゃん」 憂「さっきの話で気になったんですけど・・・」 澪「さっきの話って、記憶が抜けてたこと?」 憂「いえ、キョンさんの妹さんの話です。澪さんなら分かるってキョンさんは言ってましたけど、どういう意味なんですか?」 澪「うーん、私の口から言うのも・・・ちょっと・・・」 憂「そう・・・ですか・・・・・・」 澪「・・・それじゃあ、帰りにキョンの家に行く?」 憂「え? 家にですか?」 澪「キョンから聞いた方が確実だからさ」 101 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/09/10(木) 23:17:41.82 ID:iDGVX4g0 ――部活動終了後 唯「澪ちゃん?」 澪「んー、なに?」 唯「何処に行くの?」 憂「キョンさんの家だよ、お姉ちゃん」 唯「え、なんで?」 憂「キョンさん、何か隠してるみたいなの」 澪「隠してる訳じゃないと思うよ、他人に言う必要性がないから言わないだけで」 憂「でも、澪さんは知ってるんですよね」 澪「まあ・・・ね」 102 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/09/10(木) 23:20:42.90 ID:iDGVX4g0 唯「澪ちゃんは、いつキョンくんに会ったの?」 澪「一年の時だな、キョンって結構一人で居ることが多くてさ、同じクラスだったし話掛けてみたんだよ。それから、キョンの家の事を知って出来るだけ話相手になってあげようと思った。同情だったのかもしれないけれど、今考えるとそれで良かったかな」 唯「家に何があるの?」 澪「他人からしたら、大した感想も出ないかもね・・・あっ着いた」 憂「ここが」 唯「キョンくんの家かぁ」 澪「寝てないといいけど」 103 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/09/10(木) 23:23:25.34 ID:iDGVX4g0 ――キョン宅 ピンポーン キョン「・・・新聞の集金か?」 ガチャ キョン「お前達、一体何しに来たんだ?」 澪「良い機会だし、キョンのことを知ってもらおうと思って」 キョン「俺のなにを知るんだ?」 澪「とにかく、お邪魔させてもらうぞ」 キョン「遠慮ねえな、お前は」 憂「お、お邪魔してすみません」 キョン「散らかってて悪い」 憂「いえ」 キョン「そこの階段上がってくれ」 104 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/09/10(木) 23:28:02.72 ID:iDGVX4g0 キョン「って、あれ? 平沢?」 憂「お姉ちゃん?」  二階から見下ろす限り、階段の下に唯の姿はない。  キョンは面倒くさそうに、一度上った階段を下りる。  唯の姿は一回のリビングにあった。 キョン「平沢、勝手に人の家の中歩き回るなよ」 唯「あ、うん・・・ごめんなさい」 キョン「部屋は二階だ」 唯「(なんでこんな散らかってるんだろう)」  二人は無言のまま、二階の部屋に入った。 105 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/09/10(木) 23:28:59.15 ID:iDGVX4g0 澪「お父さんは?」 キョン「いないさ」 澪「そうか・・・」 キョン「それで、結局何をしに来たんだ?」 澪「保健室で妹さんのこと話しただろ」 キョン「それがどうした?」 澪「なにか隠してる風に見えたってこと、私は知ってるけどさ」 キョン「隠してるってのは違うぜ」 澪「分かってるよ」 107 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/09/10(木) 23:33:42.86 ID:iDGVX4g0 憂「すみません! 気になったもので」 キョン「・・・大したことじゃないんだよ。母親が別居中でな、この家には飲んだくれで遊び人の駄目人間の方が残っている。で、妹にはアイツと会わせたくなかった。それだけだ」 唯「喧嘩してるの?」 キョン「喧嘩をする気にもならん、そりゃ最初はある程度言ってやったから喧嘩にもなったりしたが、最近はこれっきりだ。いい加減に諦めたよ、勝手にやってくれって感じさ」 唯「散らかってたのも、お父さんが?」 キョン「ああ」 憂「散らかってた?」 キョン「一階は酒瓶やら煙草の吸殻等で一杯ってことだよ」 唯「片付けないの?」 キョン「時々はやるが、いくらやっても捨てられていく一方だしな、流石にやる気も失せる」 108 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/09/10(木) 23:35:52.17 ID:iDGVX4g0 唯「キョンくん、寂しくない?」 キョン「もう慣れたさ、一人だと色々と楽だしな」 唯「そっか・・・・・・」 澪「憂ちゃん、だからデートのことは許してあげてよ」 憂「それはもう・・・はい」 澪「じゃあ、用も無いし私は帰るかな」 キョン「もう帰るのか?」 澪「だって、お父さんが帰ってくる前に帰った方がいいだろ」  その時、階下で扉が開いた音がした。 キョン「帰ってきちまったか」 110 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/09/10(木) 23:39:04.51 ID:iDGVX4g0 澪「お父さんか?」 キョン「恐らくな、俺が様子を見てくるから待っててくれ」  キョンが部屋から出たのを見て唯が口を開く。 唯「ねえ、挨拶ぐらいした方が良いんじゃ・・・」 澪「絶対駄目だ」 唯「どうして?」 澪「いいから、唯達も帰った方がいい」 唯「?」  と、階下から何かが割れたような音が響く。 唯「今の音って・・・」  三人は勢いよく部屋を飛び出した。 111 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/09/10(木) 23:42:50.56 ID:iDGVX4g0 澪「キョン!」  リビングに通じる廊下に、キョンとむさくるしい男が向かいあっていた。  床には何かの破片が散らばっている。 男「ふぉー、一丁前に女を連れ込んで」  男のいやらしい目つきに、三人は後退りした。 キョン「うるせえ、酔っ払いは大人しく寝てろってんだ」 男「父親に向かって、なんてことを言うんだ。そう思わないかね君達」  澪は君達というのが自分達を指しているんだと分かった。 澪「思いません!」 男「ああ、君は前にも来た娘だねー、えっふぇっふぇ」 112 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/09/10(木) 23:56:23.83 ID:iDGVX4g0 キョン「お前らはさっさと帰れ」  キョンが澪達の方を振り返っている間に、男がキョンを横を通って澪達に向かう。 男「今日は三人もいるじゃないか」 澪「い、いやっ!」 キョン「このクソっ!」  キョンが男の背後から蹴りを入れる。 男「うあ!」  男は壁に寄りかかるように膝を崩す。  が、すぐさま立ち上がるとキョンの方を見る。 男「痛いじゃないか! 親に暴力を振るか!」  男は顔を紅潮させながらも、キョンに向かって突進した。  キョンは真正面から突進を受ける。 キョン「澪! 早く帰れ!」 113 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/09/11(金) 00:11:17.14 ID:LgOm9Mk0 澪「っく・・・」  キョンは男と揉み合いの末、床に背中を打ちつけた。 唯「キョンくん!」 男「ヒーローのつもりか! ガキの癖に、カッコつけるな!」  男の蹴りがキョンの脇腹に入る。 キョン「っう! ・・・平沢達も早く」 憂「で、でも・・・」 澪「分かった」  澪は唯と憂の腕を掴むと玄関へと向かう。 唯「澪ちゃん!?」 澪「いいから!」  唯は澪のいつもと違う声にそれ以上は何も言えず、従うことしか出来なかった。  背後からはキョンの呻き声と男の怒声が続く。  澪を先頭に三人は後ろを振り返らず家を後にした。 114 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/09/11(金) 00:22:24.57 ID:LgOm9Mk0 澪「(まただ、またやってしまった・・・)」 唯「どうしたの?」 憂「大丈夫ですか?」 澪「ああ、うん」 憂「・・・助けなくて良かったんでしょうか?」 澪「私達に出来ないよ」 唯「キョンくん、大丈夫かな?」 澪「(前は骨折してた、あの時は)」 憂「私達の所為だよね・・・」 唯「・・・・・・」 澪「(大丈夫かな、キョン)」 115 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/09/11(金) 00:32:24.48 ID:LgOm9Mk0 ――半年程前 キョン宅 澪「へー、ここがキョンの部屋か」 キョン「大した物は置いてないぜ」 澪「でも、男にしては片付いてると思う」 キョン「あのな、男が片付けられないなんて昔の発想だ」 澪「そうか」 キョン「そうだ」  そこに父親がやって来た。 父「お客さんに何も出さんのか?」 キョン「ノックぐらいしろよ」 澪「キョン、そういう言い方は」 父「ほら、さっさと飲み物でも持ってこい」 キョン「・・・ハア」  キョンは一人一階へ降りた。  そう、“一人”で。  キョンがリビングで冷蔵庫を開けた時だった。  甲高い悲鳴が二階から聞こえてきたのだ。 116 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/09/11(金) 01:02:04.65 ID:LgOm9Mk0  キョンの頭に嫌な予感が横切る。 キョン「まさか!」  乱暴に冷蔵庫の戸を閉め、自分の部屋を一目散に目指す。  部屋のドアを開けると、澪はベッドに押し倒され父親が上から覆い被さってる。 キョン「何してんだ!」  父親がキョンの方に顔を向ける。  キョンは、その顔に右ストレートを放った。  父親は衝撃で床に横たわる。 キョン「澪早く!」  キョンは澪の手を握って部屋を出ようとドアノブに手を伸ばす。  だが、逃すまいと父親がキョンの足首を掴んだ。  バランスを失ったキョンはうつ伏せに倒れる。 澪「キョン!」 キョン「・・・澪、悪いな。今日は帰ってくれ」 澪「で、でも」 キョン「すまん、明日缶一本ぐらい奢ってやる」  澪は言われた通りに家を後にした。  翌日、キョンが学校に来たのは四時間目の授業中。  左腕に包帯と固定具という痛々しい姿だった。 119 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/09/11(金) 19:43:15.14 ID:LgOm9Mk0 澪「(馬鹿だ私、最低だ)」 唯「澪ちゃん」 澪「え、あ、なに?」 唯「道こっちだよ」 澪「あ、ああ、ごめんごめん」 唯「・・・・・・澪ちゃん、手を貸して・・・憂も」 憂「はい、お姉ちゃん」 澪「唯?」  唯は両脇の二本の手を握る。 唯「大丈夫大丈夫!」 澪「唯・・・・・・」 憂「・・・・・・うん、大丈夫」 唯「人の手って温かいよねぇ」 澪「そうだな、温かい・・・。それに」 憂「落ち着きますね」 130 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/09/18(金) 00:21:28.98 ID:riOp.360 翌日 キョン「よお」 澪「キョン! ・・・・・・き、昨日はごめん」 キョン「なんだ、らしくないな」 澪「だってさ・・・・・・」 キョン「・・・残念だったな、まったく傷出来てないんだぜ」 澪「う、嘘だろ?」 キョン「とにかく、お前は気にしなくていいんだよ」 澪「(人の気も知らない癖に、まったく)」 キョン「(ま、実際は結構痛いんだが)」 131 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/09/18(金) 00:22:41.81 ID:riOp.360 昼飯 中庭 憂「本当に大丈夫なんですか?」 キョン「大袈裟だよ。それより、いつも弁当作ってもらって悪いな」 憂「いえ、作るの楽しいですから」 キョン「将来、良い嫁さんになれるな」 憂「えっ、あ」  目を逸らして俯く憂。  顔が紅潮している。 キョン「ああ、いや、すまん、特別な意味はないんだ」 憂「そ、そうですよね。わたしったら何考えてんだろ・・・」 132 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/09/18(金) 00:23:44.81 ID:riOp.360 唯「ああ、ずるい! 先に食べてるなんてえ」 憂「あ、お姉ちゃん、ごめんね。キョンさんがお腹空いてたみたいだから」 唯「んー、まあいいけどさ。キョンくん、昨日はごめんねえ」 キョン「もう、その話は終わりだ」 唯「あ、ごめんなさい」 キョン「謝るなよ」 唯「ごめんなさい」 キョン「・・・・・・クク」 憂「フフ」 唯「ええ、何々? なんか私、変なこと言ったかなあ」 キョン「いや、お前はなんも変じゃないさ」 141 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2009/09/21(月) 19:26:22.43 ID:qx0bZwE0 梓「ういー!」 憂「梓ちゃん、どうしたの?」 梓「委員会の仕事で先生呼んでたよ」 憂「そう」 キョン「行ってきな、これは姉に渡しておくから」 憂「はい、すいません」 梓「ごめんね、邪魔しちゃって」 憂「ううん、気にしないで梓ちゃん」 梓「うん。・・・ところでさ」 憂「ん?」 梓「どう・・・なの?」 憂「どうって?」 梓「その・・・あれと」 憂「あれ?」 142 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/09/21(月) 19:35:00.83 ID:qx0bZwE0 梓「キョンさん」 憂「ああ・・・うーん、まだかな」 梓「まだって?」 憂「お弁当は一緒に食べてるけど、それ以外じゃあまり話せてないから」 梓「そっか。でもデートするんでしょ」 憂「で、デート!?」 梓「だって、この前デート出来なかったわけだし」 憂「そっか、そうだよね。しなきゃ駄目だよね」 梓「あ、憂、先生がいるのこっちだよ」 憂「あ、うん」 梓「本当はあっちから誘って欲しいよね」 憂「・・・うん」 梓「でも、あの人はそういうの疎そうだよね」 憂「で、でも、そういう所が良いと思う」 梓「・・・そ、そう?」 憂「うん」 143 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/09/21(月) 19:44:05.24 ID:qx0bZwE0 キョン「はあ・・・ごちそうさん」 唯「食べるの早いねえ」 キョン「お前もだろ」 唯「そ、そうかな」 キョン「箱が小さいとはいえ、先に食べてる俺より早かったじゃねえか」 唯「えへへ、そうだっけ」 谷口「お、キョン、相変わらずだな」 キョン「どういう意味だ?」 谷口「お前ら、いつもここで食ってるだろ」 キョン「まあな」 谷口「そっち、平沢だよな」 唯「・・・」 谷口「お前ら、付き合ってんのか?」 唯「ええ!?」 キョン「なわけないだろう。どうやったらそう見えるんだ」 谷口「逆だ。どうやったらそれ以外に見えるんだ?」 キョン「知らん」 谷口「お前、俺に隠れて部活やってるらしいじゃねえか?」 144 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/09/21(月) 19:51:22.10 ID:qx0bZwE0 キョン「いや、俺は部活やってないぜ」 谷口「軽音部だってな。キョンがねー」 キョン「(この馬鹿、話聞いてねえな)」 谷口「秋山も一緒なんだろ」 キョン「あいつは軽音部だが俺は違う」 谷口「あまりハシャギ過ぎるなよ。じゃあな」 キョン「(アイツは何しに来たんだ?)」 唯「あの人だれ?」 キョン「知らなくていい。それより悪かったな」 唯「え? なにが?」 キョン「何がって・・・・・・まあいい」 唯「えー、教えてよお」 キョン「さ、教室に戻るかね」 唯「あー、逃げる気だ」 149 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/09/24(木) 19:31:00.90 ID:0vdoT8g0 日曜日 駅前  キョンはやや緊張した面持ちで駅へと向かっていた。  平沢憂とのデートの為である。  待ち合わせ場所を遠くから見て、憂の姿を目にすると深呼吸した。  そこから数歩、憂もキョンに気付いたようで顔を向ける。 キョン「すまない、待たせたか」 憂「いえ」 キョン「そうか・・・(なんか緊張するな、いかんいかん)」 憂「あ、あのぅ、やっぱり突然でご迷惑でしたか?」 キョン「どうせ暇だったし、そんなことないさ」 憂「そうですか」 キョン「じゃあ、行こうか」 憂「はい、宜しくお願いします」  二人は改札口を抜けて、ホームに向かった。 151 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/09/24(木) 19:38:07.76 ID:0vdoT8g0  二人が最初に来たのは映画館だった。 キョン「どれがいい?」 憂「そうですねえ、これとかどうですか?」 キョン「痛快不快ホラーって、どっちなんだ(どっちかにしやがれ)」 憂「どっちつかずですね」 キョン「これでいいのか?」 憂「はい」 キョン「んじゃ、チケット買ってくるか」 憂「あ、お金・・・」 キョン「いいよ、奢りだ」 憂「じ、じゃあ、私は飲み物を買ってきます」 キョン「ああ、頼むよ」 152 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/09/24(木) 19:51:04.16 ID:0vdoT8g0  二人はスクリーンから中程のあたりの席に座った。 キョン「もうすぐか」 憂「あの、ホラーとか好きですか?」 キョン「どちらかと云うと、あまり好きな方じゃないな」 憂「え、あ、そう・・・ですか」 キョン「あ、ああ、いや、妹がいるから、あまり観れないってのもあってね」 憂「そういえば、妹さんは違う家に住んでるんですよね」 キョン「ああ」 憂「可愛いですか?」 キョン「さあ、どうなんだろうな。将来が心配になるような頭の持ち主なのは間違いない」 憂「キョンさんの妹さんなら大丈夫だと思いますけどね」 キョン「どうだかな」 憂「・・・フフッ」 キョン「ん?」 憂「お姉ちゃん、この映画観たいって言ってたなって思い出して」 154 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/09/24(木) 20:38:52.35 ID:0vdoT8g0 キョン「あいつ、ホラーとか好きなのか?」 憂「お姉ちゃん、なんでも観るんですよ。でも、アクションものが好きなのかな」 キョン「分かる気がするな」 憂「それで、観てるとき口を開けっ放しなんですけど、その顔がとても可愛いんです」 キョン「へ、へえ。仲がいいよな、喧嘩とかしないのか?(姉妹というのは、こういうもんなのだろうか)」 憂「喧嘩はしません。お姉ちゃん、あまり怒ったりしないし」 キョン「ああ、アイツの怒る顔は想像出来ないな」 憂「怒っても可愛いですよ」 キョン「それ怒ってないんじゃないかな」 憂「いえ、怒ってますよ。だって、ぬいぐるみ投げてきましたから。小さいときですけど」 155 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/09/24(木) 20:39:55.21 ID:0vdoT8g0  映画が始まった。  色んな意味で痛いシーン、明らかに不快なシーンの連続は観るものを狂乱の渦へと誘い込む。  上映終了。 キョン「ふう」 憂「結構長かったですね」 キョン「それもあるけど、画面展開が早いから目が疲れる」 憂「でも面白かったです」 キョン「(女子高生が血みどろの映画を観て面白かったと感想を漏らすのが普通なのかは分からないが、楽しんでくれたみたいだな)」 憂「では、出ましょうか」 キョン「そうだな」  通路に出たキョンは、目の前の通路と似たような光景を思い出した。 憂「どうかしました?」 キョン「なんでもないよ(来たことないんだがな、夢で見たのだろうか)」 156 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/09/24(木) 20:45:57.36 ID:0vdoT8g0  このあと、二人は食事の後に街をぶらついて帰路についた。 憂「今日はありがとうございました」 キョン「俺も楽しかったよ。ありがとう」 憂「・・・それじゃ、失礼します」 キョン「ああ、明日学校で」  憂の背中が夕闇に染まった道から消えるまで見送ってから、キョンも歩き出す。  その時だった。  不注意なのか、ドンと通行人とぶつかる。 キョン「す、すみません」 ?「いてて、もう、ちゃんと前を見て歩いてください」  相手は同い年ぐらい、もしくは年下のような顔をしていて、髪形はツインテールの小柄な少女だった。 159 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/09/24(木) 23:40:05.37 ID:0vdoT8g0  少女はキョンの顔を見遣るとこう言った。 ?「変わらないですね」 キョン「は?」 ?「それではまた」  少女はそれだけ言うと立ち去った。 キョン「(また? それに変わらないってなんだ?)」  そのように疑問はあったが大して深く考えずに、キョンは家に帰ることにした。 160 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/09/25(金) 00:18:41.05 ID:iKIJVI60  次の日からの学校生活もキョンにとっては珍しいものではなく、放課後は軽音部で過ごす日々。  唯達軽音部はそれなりに曲を演奏できるようにはなっていたが、人前で演奏するにはミスが多すぎるし、雑だ。  そして、六月に迫ろうとしたある日。  日常の一部となりつつある、中庭での昼食。  キョンは憂と唯、平沢姉妹と談笑をしていたところをクラスメイトの声によって中断させられた。 キョン「で、なんだって?」 谷口「だからよ、カチューシャした奴知ってるだろ!?」 キョン「カチューシャ? はて、居たかそんな奴?」 谷口「惚けるんじゃねえ、軽音部らしいじゃねえか」 キョン「ああ、アイツか」 谷口「アイツだと・・・妙に馴れ馴れしいな。まさか、お前は俺に内緒で・・・」 キョン「あらぬ方向に話を転換するな」 谷口「だよな! キョンには無理だと思ってたぜ。それでこそキョンだ!」 キョン「(本気で面倒臭くなってきやがったな)」 160 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/09/25(金) 00:18:41.05 ID:iKIJVI60  次の日からの学校生活もキョンにとっては珍しいものではなく、放課後は軽音部で過ごす日々。  唯達軽音部はそれなりに曲を演奏できるようにはなっていたが、人前で演奏するにはミスが多すぎるし、雑だ。  そして、六月に迫ろうとしたある日。  日常の一部となりつつある、中庭での昼食。  キョンは憂と唯、平沢姉妹と談笑をしていたところをクラスメイトの声によって中断させられた。 キョン「で、なんだって?」 谷口「だからよ、カチューシャした奴知ってるだろ!?」 キョン「カチューシャ? はて、居たかそんな奴?」 谷口「惚けるんじゃねえ、軽音部らしいじゃねえか」 キョン「ああ、アイツか」 谷口「アイツだと・・・妙に馴れ馴れしいな。まさか、お前は俺に内緒で・・・」 キョン「あらぬ方向に話を転換するな」 谷口「だよな! キョンには無理だと思ってたぜ。それでこそキョンだ!」 キョン「(本気で面倒臭くなってきやがったな)」 162 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/10/01(木) 22:02:04.59 ID:2oYM0Q.0 キョン「それで、アイツがどうかしたのか?」 谷口「俺達友達だよな、キョン!」 キョン「さて、どうだったか」 谷口「紹介してくれ」 キョン「あ?」 谷口「だから、田井中を紹介してくれ!」 キョン「名前知ってるじゃねえか」 谷口「さりげなく、軽音部の部室に行ければいいんだ。キョン、お前と一緒なら大して怪しまれないだろ」 キョン「そのあと、どうするんだ?」 谷口「そりゃ、決まってるだろ。出来るだけ話し掛けるんだ」 キョン「つまり、お前は田井中と親しくなりたいわけだな?」 谷口「ノーノーノーノノン! それはちっと違うぜ! 俺は田井中と付き合いたいんだ!」 キョン「そう来るか・・・」 163 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/10/01(木) 22:03:04.20 ID:2oYM0Q.0 唯「あ、あのぅ?」 谷口「・・・うおわ! いつからそこに!?」 憂「わたし達、さっきからいましたけど・・・」 谷口「き、聞いてたか?」 唯「うん」 谷口「うわあああああああああああああああああああああああああああああああ」  谷口はあっという間に校舎の中へと消えた。 憂「なんか、悪いことしちゃったな」 キョン「あいつがアホなだけだ」 唯「あの人、りっちゃんが好きなんだね」 キョン「そうなるのか。まあ、俺は知らんが」 164 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/10/01(木) 22:05:11.30 ID:2oYM0Q.0 唯「手伝ってあげないの?」 キョン「手伝うって言ってもなあ。余計なことはしない方が気が病むこともないからな」 唯「今日、軽音部に連れていってあげれば良いんだよ」 キョン「・・・気が向いたらそうするか」 憂「あ、雨だ」 唯「本当だあ」 キョン「戻るか、憂ちゃんごちそうさん」 憂「はい」 唯「キョンくん、教科書忘れたんだよね」 キョン「ああ、今から借りにいっていいか?」 唯「うん」 165 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/10/01(木) 22:06:05.19 ID:2oYM0Q.0 放課後 谷口「上手くいったら、奢るぜ」 キョン「上手くいったらな」 谷口「安心しろ、俺様に任せれば女一人」 キョン「おっ、平沢。おかげで助かった。サンキュー」 唯「落書きとかしてない?」 キョン「俺もそこまで鬼ではないさ」 唯「本当かなあ」 キョン「まだ疑うのか」 唯「あ、落書き発見!」 キョン「お前のだろうが」 唯「バレちゃった」 キョン「バレバレだ。筆跡鑑定の必要が無いぐらいにな」 166 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/10/01(木) 22:07:04.15 ID:2oYM0Q.0  キョンと谷口は部室を目指し廊下を歩いている。 谷口「キョン、お前本当に付き合ってないのか?」 キョン「誰と?」 谷口「さっきの平沢だよ」 キョン「前にも言ったが、ねえよ」 谷口「けど、いつも一緒に居るじゃねえか」 キョン「いつもって、昼時ぐらいだ。なんでもかんでも、そっちに考えるなアホ」 谷口「平沢はどうか分からないぜ」 キョン「どういう意味だ?」 谷口「足りない頭で考えろよ」 キョン「お前にだけは言われたくない科白だな」 167 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/10/01(木) 22:20:29.25 ID:2oYM0Q.0  キョンは部室のドアノブに手をかけた。 キョン「ん、お前だけか」 律「うん」 キョン「澪とか来てないのか?」 律「澪は今日は文芸部に出るってさ」 キョン「なるほどね」 律「誰、そっち?」 谷口「俺は谷口! キョンの友人だ」 律「へー、キョンにも友達いるんだ」 キョン「それなりにな」 谷口「田井中だよな?」 律「んー、そうだけど、よく名前知ってるな」 谷口「あったりまえよ! 学年女子の名前は全て網羅してるぜ」 律「暇人だな、あんた」 168 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/10/01(木) 22:31:02.83 ID:2oYM0Q.0 律「あーあ、今日は帰ろうかなー」 谷口「暇なんだろ? なんか話でもしようぜ」 律「えーと、谷田だっけ?」 谷口「谷口だ! 田から十を抜け!」 律「嘘嘘、冗談だって」 谷口「田井中の場合なら、井中が田舎の字に変えられるようなもんだ」 律「ああ、それ昔よく言われた。田舎田舎って馬鹿にされるんだよ」 谷口「そ、そうなのか、わりい」 律「別に謝んなくていいよ」 キョン「(意外と気が合うのか)」 唯「ただいま到着しましたあ」 169 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/10/01(木) 22:38:09.32 ID:2oYM0Q.0 律「お、唯来たな」 唯「う、うん。ね、ねえ?」ヒソヒソ キョン「なんだ?」ヒソヒソ 唯「上手くいってるの?」ヒソヒソ キョン「予想外に良い感じだな」ヒソヒソ 律「なにしてんの?」 唯「な、なんでもないよぅ!」 キョン「おい、平沢」ヒソヒソ 唯「なに?」 キョン「今日は、こいつら置いて帰らないか?」ヒソヒソ 唯「二人っきりにするの?」ヒソヒソ キョン「そういうことだ」ヒソヒソ 170 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/10/01(木) 22:44:59.56 ID:2oYM0Q.0 キョン「おい、田井中。平沢は急用が出来たらしいぞ。澪もいないし、今日は部活中止にしたらどうだ? 委員長には俺から言っておく」 律「あー、どうしよっか」 谷口「おい、まだ来たばかりだろ」 キョン「お前等は居てもいいけど、鍵閉めはしっかりな。じゃな」 律「勝手だな」 谷口「まったくだぜ」 律「じゃあ、帰るかな」 谷口「(キョン、逆に力が働いてんぞ!)」 紬「うん、解った」 唯「じゃあねー」 キョン「これでいい。じゃ、帰るかね」 171 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/10/01(木) 22:49:08.63 ID:2oYM0Q.0 キョン「そういや、雨降ってるんだったな」 唯「もしかして」 キョン「もしかしてだ」 唯「わたし、持ってるから入って行く?」 キョン「そこらから使ってなさそうな傘を使うさ」 唯「駄目だよお、窃盗罪」 キョン「委員長みたいなこと言うのな」 唯「ムギちゃんに言いつけるよ」 キョン「分かったよ」 唯「素直が一番だね」 172 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/10/01(木) 22:59:20.60 ID:2oYM0Q.0 律「しまった、傘忘れたんだった」 谷口「入るか?」 律「は? ああ、でも相合傘じゃん」 谷口「気にすんなって」 律「・・・しゃあないか」 谷口「田井中、どこか寄ってかないか?」 律「どこに?」 谷口「えっと、どこだっていいぜ」 律「んじゃ、とりあえず駅前に行くか」 谷口「あ、ああ、行こうぜ!」 173 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/10/01(木) 23:05:02.39 ID:2oYM0Q.0 キョン「そういや、憂ちゃんにも言っとけば良かったな」 唯「憂は買い物で先に帰ってるから大丈夫だよ」 キョン「そうか・・・・・・って、忘れてた」 唯「何を?」 キョン「中野がいた」 唯「あ・・・」 キョン「すまん、メールして貰っていいか」 唯「う、うん」 部室前 梓「はあ、やっと終わった。ん、あれ? 開かない・・・まだ来てないのかな」  二十分後 梓「遅いなあ先輩達。あ、メールだ。・・・・・・言うの遅いですよ、先輩」 180 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/10/08(木) 22:47:23.61 ID:OW4WMUs0 翌日 教室(朝) 谷口「よっ、キョン」 キョン「おう、なんかいつにもまして元気だな」 谷口「キョン、お前のお陰で田井中といい感じだったぜ」 キョン「そりゃあ、良かったな」 谷口「期待しといてくれよ。俺達、絶対気が合うから」 キョン「何の期待だ?」 谷口「彼氏彼女の期待だ」 キョン「なるほど」 澪「キョン、おはよう」 キョン「よう谷口の奴な」 谷口「待てキョン! それは企業秘密だ」 キョン「なんだ、別に構わないだろう?」 谷口「いいから黙っとけって」 181 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/10/08(木) 22:49:47.54 ID:OW4WMUs0 澪「なんの話だ?」 谷口「キョンの彼女の話だ」 キョン「おい、話の矛先をこっちに向けるな」 澪「・・・あっそ」 谷口「あれ、興味ねえのか?」 キョン「当たり前だろ、お前みたいに他人の交友関係に興味のある奴ばっかじゃねえんだよ」 谷口「おい、キョン」 キョン「あ?」 谷口「いい加減に気付いてやれよな」 キョン「何の話だ?」 谷口「さあな」 182 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/10/08(木) 23:05:41.80 ID:OW4WMUs0 放課後 軽音部 澪「なあ、なんで谷口まで付いてくるんだ?」 谷口「いいだろ見学ぐらいしたって」 キョン「(正直、アホの相手はしたくないのだがな)」 唯「あ、アホの谷口くんだぁ」 谷口「ああ?」 唯「ご、ごめんなさい!」 谷口「そこまでビビらなくてもいいだろ」 唯「ごめんなさい!」 谷口「俺が悪かった・・・」 183 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/10/08(木) 23:22:41.13 ID:OW4WMUs0 紬「あれ、谷口君」 谷口「ああ、委員長も軽音部だったよな」 紬「うん。そうだけれど、なんで谷口君がここにいるの?」 澪「見学だってさ」 紬「そう、ゆっくりして行ってね」 谷口「さすが委員長、懐が深いぜ」 律「おーす・・・・・・」 谷口「おっ・・・す」 キョン「おい、澪」  キョンは小声で澪に話し掛けた。 澪「な、なんだ?」 184 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/10/08(木) 23:53:55.25 ID:OW4WMUs0 キョン「実は谷口の奴、田井中に好意があるらしくてな」 澪「はっ、嘘だろ?」 キョン「それが本当なんだよ」 澪「律も可哀相に・・・」 キョン「いや、意外とあいつら気が合うみたいだぞ」 澪「まさか、それはないだろう」 キョン「ま、一応、あいつにもチャンスを与えてやってくれ」 澪「しょうがないなあ」 キョン「今度、谷口に奢ってもらおうぜ」 澪「それも有りだな」 185 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/10/09(金) 00:00:15.67 ID:dKGGa0M0 澪「そういや、キョンはどうなんだ?」 キョン「どうって?」 澪「憂ちゃんだよ・・・」 キョン「ああ・・・」 澪「ああって、上手く行ってないのか?」 キョン「どうだろうな」 澪「そんなんで大丈夫なのか? 付き合ってるのに」 キョン「いや、俺と憂ちゃんは付き合ってはないぞ」 澪「え? どういうことだ? 別れたのか?」 キョン「元々、付き合ってたわけじゃないからな。一度、デートはしたが」 澪「でもさ、憂ちゃんはキョンのことが好きなんだよ」 186 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/10/09(金) 00:02:37.82 ID:dKGGa0M0 キョン「やっぱり、そうなのか?」 澪「うん、そうだと思う」 キョン「・・・・・・」 澪「なんかあったのか?」 キョン「いや・・・なんでもない」 澪「そう・・・・・・あのさ、今度の」 梓「内緒話ですか?」 澪「あ、梓!?」 キョン「いつ来たんだ?」 梓「今です」 187 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/10/09(金) 00:06:57.43 ID:dKGGa0M0 梓「それでなんの話ですか?」 キョン「なんでもねえよ」 梓「酷いです。除け者扱いなんて」 澪「大した話じゃないんだ」 梓「そうですか・・・」 谷口「うわっ、おまえ砂糖入れすぎだろ」 唯「わ、しまった!?」 律「唯、ちゃんと飲むんだぞ」 唯「だっ、大丈夫、わたし甘党だからっ」 紬「無理しないでね」 192 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/10/15(木) 20:11:40.77 ID:6qbuj3U0  その後も、谷口と田井中律は順調に交際を続け周囲も認めるカップルになった。  キョンはと云うと、日常の一部と化した平沢姉妹との昼食をこの日もとっていた。  しかし、一ヶ月前とはどこか違う雰囲気を纏っているのを平沢唯は感じていた。  それが何なのか。  唯は解っていた。  キョンと憂の間に、見えない溝みたいなものがあるのだ。  だが、その溝が何故出来たのか、それだけは唯にも分からないのであった。 193 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/10/15(木) 20:20:38.00 ID:6qbuj3U0 唯「もうすぐ、夏だよねえ」 キョン「ああ、そうだな」 唯「でも、まだ蝉の声を聞こえないね」 キョン「そんなもんだろ」 憂「お、お姉ちゃんは夏駄目なんだよね」 唯「だ、駄目じゃないけどさ、暑いのは嫌だよねえ」 キョン「夏なんだから暑いのは当たり前だろ」 憂「お姉ちゃん、夏になると家でだらだらしてるの多いんだよね」 キョン「ああ、想像に難くないな」 唯「固くない?」 キョン「お前の頭は固いな」 194 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/10/15(木) 20:38:30.98 ID:6qbuj3U0 唯「二人はどっか行かないの?」 キョン「まあ、暇はあるだろうが・・・」 唯「折角、休みが沢山あるんだから遊ばないと勿体無いよ」 憂「お姉ちゃんはしっかり勉強しないと」 唯「憂は堅いなあ」 キョン「お前が緩過ぎなんだよ」 唯「それで、海とかどうでしょう」 キョン「海ねえ・・・」 唯「駄目なの?」 キョン「いや、駄目じゃないが」 唯「じゃ、プールとか? ね、憂」 憂「う、うん」 キョン「ごちそうさん。美味しかったよ」 憂「はい・・・」 唯「(なんだろう、変な感じ・・・・・・)」 195 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/10/15(木) 20:56:52.73 ID:6qbuj3U0 放課後 軽音部室 唯「あのね、ちょっと御相談が」 律「おっ、なになに? 唯にしては珍しい感じじゃん」 紬「何かあったの?」 唯「そのね、私のことじゃないんんだけどさ」 律「あ、もしかして好きな人でも出来たのか?」 唯「違うよお」 紬「そんなっ、世紀の大失恋なんて!? 唯ちゃん、嗚呼! なんて酷い!」 律「おーい、そこ。勝手に他の世界に行くなー」 196 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/10/15(木) 20:58:18.42 ID:6qbuj3U0 澪「で、なんなんだ? 私達でいいなら相談に乗るぞ」 唯「うん。実はさ、キョンくんと憂の事なんだ」 梓「あー、なるほどですね」 律「なんだよ、梓は知ってるのか?」 梓「見当はつきますね」 澪「あの二人になんかあったのか?」 唯「あったというか、ないというか。なんか、変な感じ」 澪「抽象的過ぎる。もっと、詳しく言ってみてくれ」 唯「キョンくんと憂、あまり話さないんだあ。前は憂からもっと話してたのに、最 近は全然」 澪「(やっぱり、キョンの奴はなんかあったな)」 198 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/10/15(木) 22:53:01.63 ID:6qbuj3U0 紬「どうしたんだろうね、キョンくん」 律「この前会った時も相変わらず冴えない顔してたのにな」 梓「それはそれで問題ですけどね」 澪「唯、とりあえず様子を見た方が良いと思うぞ」 唯「なんでえ?」 澪「だって、外野が色々と動いて変になったらマズイだろ」 律「うんうん」 梓「憂もあんな人選ばなければいいのになあ」 澪「え?」 梓「だって、あの人男らしくないと思います」 紬「そんなことはないと思うけど」 梓「もっと他に良い人がいると思いますけど」 律「まあ、確かにねえ。憂ちゃん、可愛いからキョンじゃなくてもいるよなあ」 澪「・・・・・・」 199 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/10/15(木) 23:17:43.85 ID:6qbuj3U0 澪「キョンにだって良い所はあるよ!」 紬「澪ちゃん・・・」 律「何そんなに向きになってるんだよ」 澪「別に向きになんて・・・。それより、唯」 唯「ほ?」 澪「唯はまだ何もしなくていいぞ。取敢えず、私がキョンと話してみるよ」 唯「でも・・・」 澪「大丈夫だって」 唯「うん・・・」 澪「よしっ、じゃあ練習」 律「えー、もうちっと休もうよ」 澪「だーめーだあ」 紬「梓ちゃんも」 梓「あ、はい(なんか悪いこと言っちゃったな)」 201 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/10/15(木) 23:35:15.83 ID:6qbuj3U0 唯宅 夜 唯「ふはー、食べたあ食べたあ」 憂「お姉ちゃん、食べてから直ぐ寝ると牛になっちゃうよ」 唯「大丈夫だよお、食べても太らないから」 憂「お姉ちゃん、外でそのことをあまり言わないでね」 唯「どうしてぇ?」 憂「どうしてって・・・。と、とにかくあまり言わないでね」 唯「ふぁーい」 唯「(家だといつもの憂なんだけどなあ、やっぱりキョンくんの前だけなのかなあ)」 憂「おねーちゃーん! お風呂沸いたよー!」 唯「(まあ、澪ちゃんは大丈夫だって言ってたしね)ほいほいさ」 209 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/10/16(金) 21:14:55.77 ID:YvXsiUE0  翌日 放課後 教室 澪「キョン、ちょっといいか?」 キョン「なんだ? お前に食わせる餌はないぜ」 澪「私をなんだと思ってるんだ・・・。そうじゃなくてさ、ここがちょっと話しにくい 」 キョン「話しにくい? 何の話だ?」 澪「良いから、もう少し人が居ない所に行くぞ」 キョン「手短に頼むぜ」 澪「キョン次第だ」 210 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/10/16(金) 21:15:50.36 ID:YvXsiUE0  中庭 キョン「流石に放課後となると人も疎らだな。で、話ってのは?」 澪「憂ちゃんの事だ」 キョン「またそれか」 澪「またって・・・そういう言い方ないだろう」 キョン「で、続きは?」 澪「唯がさ、キョンと憂ちゃんの仲を気にしてるんだよ」 キョン「アイツが? なんでだ」 澪「端から見てて、憂ちゃんとぎこちない感じがするんだって。実際のところ、どうなんだ?」 キョン「・・・否定は出来んね」 澪「だろう。前もそうだったけどさ、なんか思うところがあるんじゃないか?」 キョン「・・・・・・お節介だな」 澪「そう思う。けど、心配・・・だったから」 211 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/10/16(金) 21:17:15.35 ID:YvXsiUE0 キョン「俺が悪いんだがな」 澪「うん」 キョン「俺と憂ちゃんは合わないんじゃないかって思えてきてな。恐らく憂ちゃんもそう感じて来てるんじゃないかね」 澪「合わないってどういう風にだ?」 キョン「ほら、お前も知ってる通り俺は結構いい加減だからな、憂ちゃんみたいに真面目な娘は勿体無いって感じだな」 澪「それだけ?」 キョン「もっと言うと、落ち着かない」 澪「落ち着かない?」 キョン「ああ、それにどう接して良いか分からない。今まで女子との付き合いなんてなかったからな、とても良い付き合いが出来るとは思えん。だからな、近いうちに話そうと思ってる」 澪「・・・そっか、そういうことか」 212 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/10/16(金) 21:18:59.68 ID:YvXsiUE0 キョン「何も言わないのか?」 澪「言わないよ。キョンが決めたことなんだ、私がとやかく言うつもりは無い」 キョン「そうかい。なんか、お前と居ると落ち着くな」 澪「は、はあ!? い、いきなり何言い出すんだよ!」 キョン「何をそんな慌ててるんだ?」 澪「・・・べ、別に! 私は部活行くからな」 キョン「へいへい、さっさと行け」 澪「ったく」 キョン「なあ」 澪「うん?」 キョン「サンキューな、スッキリしたぜ。お前のお陰だ」 澪「今度奢ってもらうからな」 221 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/10/21(水) 23:00:09.45 ID:SlO9FV.0  軽音部室 澪「遅れてごめん」 唯「あ、澪ちゃん」 谷口「なんだ、キョンの奴は一緒じゃないのか?」 澪「なんでお前が来てるんだよ」 谷口「そういう言い方ねえだろ。俺はこいつの彼氏なんだぜ」 律「ば、馬鹿、わざわざ言わなくていいだろ!」 梓「もう皆さん知ってますから安心してください」 紬「ふふ、りっちゃん照れてるのね」 律「て、照れてなんかないぞ!」 谷口「いやあ、俺の彼女は照れ屋みたいだな」 律「か、帰れえ!」 谷口「ちょっ、ままった、おいいいいいいいいいいいいいいいいい」 222 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/10/21(水) 23:01:05.33 ID:SlO9FV.0 律「ふう、邪魔者はいなくなった」 澪「全く騒がしい」 紬「でも、仲が良くて羨ましいよね」 梓「先輩、順調なんですか?」 律「わわーわー、もういいから!」 澪「唯、ちょっとこっち来て」 唯「ふへー」 律「ああもう、今度から立ち入り禁止にしよっかなー」 紬「そこまでしたら可哀想じゃない」 223 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/10/21(水) 23:07:57.98 ID:SlO9FV.0 唯「なぁに澪ちゃん」 澪「さっき、キョンと話して来たよ」 唯「キョンくんと? あ、そっか昨日のか」 澪「分かったよ、仲がぎこちない理由が」 唯「なんだったの?」 澪「でも、唯には言えない」 唯「ええー、そんなあ」 澪「唯には辛いかもしれないけどさ。キョンの事を悪くは言わないでくれ。頼む」 唯「ふぇ、どういう意味?」 澪「ごめん、私の口からはこれ以上言えない」 唯「よく分からないけど、キョンくんのこと悪く言うわけないよぉ」 澪「(唯に本当の事言ったら怒るかな?)」 唯「澪ちゃん?」 澪「れ、練習するか練習!」 224 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/10/21(水) 23:09:27.26 ID:SlO9FV.0 数日後 中庭  キョンは憂の目の前にしていた。 キョン「座ってくれるか」 憂「はい・・・」  二人はベンチに並んで座った。 キョン「その・・・だ。今日呼んだのは――」 憂「分かってます。キョンさんが言いたいこと」 キョン「分かってるってどうして?」 憂「分かりますよ。お昼がいつも一緒ですから、気付きます」 キョン「・・・・・・すまない」 憂「謝らないで下さい。私がもっと頑張らなきゃいけなかったんです」 キョン「そんなことはないさ。憂ちゃんは十分頑張ってたぜ、弁当だって作ってくれたしな」 憂「それだけです、それだけ・・・」 225 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/10/21(水) 23:10:59.73 ID:SlO9FV.0 キョン「それだけって・・・そんな言い方しなくていい」 憂「・・・・・・」 キョン「・・・それで、はっきりしとかないとな。憂ちゃん。俺は憂ちゃんを好きにはなれない。すまん」 憂「はい・・・」 キョン「・・・・・・」 憂「ありがとうございます」 キョン「え?」 憂「このままの状態で話せなくなる方が怖かったですから。はっきり言って貰ってスッキリしましたし、明日からは笑顔で会えます」 キョン「・・・そうかい。ありがとう、これからも宜しく頼むよ」 憂「はい。では、これで」 キョン「ああ。気を付けてな」 228 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/10/22(木) 23:44:45.05 ID:WiH31620  軽音部室 キョン「よお」 唯「あれ、キョンくん」 律「珍しいなあ」 キョン「来ちゃ悪いのか?」 律「そんなことは言ってないけどさ」 紬「ごめんなさい、遅れて」 キョン「あれ、澪の奴は来てないのか?」 律「そういや、梓の奴も来てないな」 キョン「ま、いいか。委員長、お茶貰っていいか?」 紬「今、いれるね」 唯「あ!?」 キョン「ん?」 唯「な、なんでもない」 229 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/10/22(木) 23:53:37.54 ID:WiH31620 澪「ふー、ごめん遅れて」 梓「すいません」 律「なんだよ、仲良く二人揃って」 梓「偶然、一緒になったんです」 澪「あ、キョン」 キョン「あ?」 澪「どうだ調子は?」 キョン「(これは暗号だな)良好だよ」 澪「そうか、よ、良かったな」 唯「???」 澪「そういやさ、律って有希と同じクラスだったよね」 律「有希? ああ、うん」 澪「最近、学校来てるよな?」 律「来てないよ」 澪「うえ!? そうなのか?」 律「一週間前ぐらいからかな。休みだしたけど」 230 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/10/23(金) 00:05:29.30 ID:3fokMKk0 キョン「どうかしたか?」 澪「さっきまで文芸部に居たんだけどさ。有希が全く来ないんだよ。今日は来てないんだなと思って閉めて来たんだけど。まさか、そんなに休んでたなんて」 紬「風邪かしら?」 キョン「夏風邪には早いぜ。それにアイツは顔に出さないから気付くのも難しいな」 澪「理由聞いてないのか?」 律「まったく」 澪「最近の教師は冷たいというかなんというか」 唯「澪ちゃん、なんかおばさん臭いねえ」 梓「先輩・・・」 唯「ふぇ?」 澪「ゆーいー!」 唯「わ、ご、ごめんなさい!」 232 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/10/23(金) 00:41:57.14 ID:3fokMKk0 キョン「(平沢もすっかり馴染んでるな)」 律「まあ、心配することでもないんじゃないか。本当に風邪かもしれないしさ」 紬「でも、一週間も休んでるんでしょ」 澪「風邪ならおかしくはないけどね。うーん、家も知らないからなあ」 律「大丈夫だって、心配し過ぎなんだよ」 澪「そうかなあ」 谷口「おーっす!」 梓「はあ・・・」 澪「はあ・・・」 キョン「やかましいのが来たな」 律「だ、だから部室には来るなって言っただろ」 谷口「言ってねえ! メールじゃねえか!」 律「ああ、もう細かいよ!」 唯「ははは」  そんなこんなして、軽音部にも夏はやって来ることになるのだった。 233 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/10/23(金) 01:03:31.20 ID:3fokMKk0  七月も半ばに入り、キョン達高校生には夏休みが迫っていた。  そんな日の部室である。 律「お話があります」 澪「嫌な予感がする」 梓「同じくです」 唯「お話ってなあに?」 紬「りっちゃんのことだからインパクトのあって楽しいことね」 キョン「さりげなくハードル上げようとしてくれるな」 律「聞いて驚け! 軽音部は合宿をするぞお!」 澪・梓「え?」 紬「まあ、合宿?」 唯「合宿!? すごいすごい、りっちゃん流石だねえ!」 キョン「(合宿って、軽音部に合宿なんてあるのだろうか)」  ここで、コンコンと部室のドアをノックする音。そして、ドアが開く。 和「ちょっと失礼するわね」 241 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/10/29(木) 19:19:31.12 ID:fjSruTI0 唯「和ちゃん!?」 キョン「のどか?」 澪「誰だ? 唯の知り合い?」 唯「うん。同じクラスで仲良くしてる娘だよお。和ちゃん、どうしたの?」 和「唯、なんでここにいるの?」 唯「なんでって、なんでえ?」 和「だって、ここ一応軽音部でしょ?」 唯「うん、だからぁ?」 和「もしかして部員なの?」 唯「もしかしなくても部員だよぉ」 和「唯が・・・そ、そうなんだ・・・」 唯「???」 和「話だけど、部長はいる?」 律「はいよー! なになにー?」 242 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/10/29(木) 19:26:31.57 ID:fjSruTI0 ――――その後 和「じゃあ、これで」 唯「ばいばーい」 澪「律、なんだったんだ?」 律「・・・よ、よく聞け」 梓「な、なんですか一体」ゴクリ 律「顧問がいないから廃部だってさー!」 一同「・・・・・・」 紬「は、廃部?」 律「いやー、顧問忘れてたなー! あははは!」 澪「忘れてたじゃないだろー!?」 唯「ううう、廃部なんて・・・やだよぉ」 キョン「こらこら、平沢泣くなよ」 梓「えっと、今まで顧問が居ないことに疑問を持たなかったです」 澪「手抜きにも程があるだろお!」 243 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/10/29(木) 19:35:48.97 ID:fjSruTI0 翌日 放課後 部室 さわ子「一体、なんなの?」 律「まま、ここに座って」 紬「紅茶でも如何ですか?」 唯「け、ケーキもあります!」 さわ子「こ、ここ軽音部よね?」 律「固いこと言わずにさー」 紬「ティータイムにしましょう、先生」 キョン「(色々とやり方が間違っている気がするが、まあ致し方ないか)」 律「美味しいっしょ、紅茶」 さわ子「え、ええ」 澪「じ、実は先生にお願いがあるんですよ」 さわ子「お願い?」 律「軽音部の顧問になってください!」 244 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/10/29(木) 19:42:12.19 ID:fjSruTI0 さわ子「ごめんなさい、私は吹奏楽部の顧問を既にしているから無理ね」 律「そ、そこをなんとか」 紬「わ、私からもお願いします」 唯「お願いします!」 澪「先生!」 さわ子「悪いけれど・・・」 梓「あれ、なんだろ? このアルバム」 キョン「ん? 何してんだお前は」 梓「整理してたら、アルバムが出てきたんです」 キョン「アルバムねえって、ぐほっ!?」 唯「キョンくん!?」 さわ子「君、そのアルバムを返しなさい」 澪「あ、アイアンクロー・・・」 246 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/10/29(木) 19:52:04.81 ID:fjSruTI0 キョン「(なんだ、何が起こっていやがる!)」 梓「あれ、写真が落ちてる・・・これ、せん・・・せい?」 さわ子「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」 澪「なっ!?」 さわ子「やめてえええ」 律「ちょ、先生?」 梓「あー、やっぱり裏に名前書いてありました」 キョン「たしかにこの人だな」 紬「へー、先生は昔から美人だったんですねえ」 さわ子「もう、わたしのライフポイントは0よ!」 唯「た、倒した・・・」 さわ子「き、聞かないで、何があったかなんて聞かないで」 キョン「何があったんですか?」 澪「(スイッチ押しちゃったか?)」 247 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/10/29(木) 19:58:19.90 ID:fjSruTI0 さわ子「――ということなのよ」 唯「な、長い話ですね」 律「てか、アホだろ。この人」 紬「先生、私達は秘密は守ります。ですから、先ほどの件お願いします」 澪「(交渉上手だな、ムギは)」 さわ子「ほ、本当に誰にも言わないのね?」 紬「ええ、本当です」 さわ子「解ったわ、顧問になれるように努力してみるわね」 律「よっしー!」 唯「これで廃部にならないで済むのかな?」 キョン「ああ、恐らくな。コイツのお陰だ」 梓「わ、私ですか?」 キョン「だって、そうだろ。こうもタイミングよくアルバム見つけるんだからな」 梓「たまたまですよ」 248 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/10/29(木) 20:13:08.38 ID:fjSruTI0  日は進み、夏休みの合宿当日である。  軽音部メンバーと男二人は合宿地へ向かう電車内に居た。 律「唯、右を取れ!」 唯「え、右って嘘? りっちゃんはそうやってババを引かす作戦なんじゃないの?」 律「そんなわけないだろー」 澪「唯、逆を選んどけ」 唯「じゃあ、左」 律「ちょっ、左は駄目!」 唯「お、セーフ!」 紬「りっちゃん、素直に嘘を吐くから解りやすいのね」 律「うあああああああ、五連敗じゃーん!」 谷口「少しはお前ら手加減してやってくれよ」 唯「あはは、谷口くんはりっちゃんに甘いんだねえ」 紬「ラブラブねえ」 律「うるさーい! 大体、なんで来るんだよー」 谷口「良いじゃねえか別に」 249 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/10/29(木) 20:29:55.47 ID:fjSruTI0 梓「元気ですねえ」 キョン「お前は元気無いのか?」 梓「ありますよ! ありますけど、今からはしゃいでたら疲れちゃいます」 キョン「若いんだから良いんじゃないか。まあ、お前の言いたいことも解るけどな。それより、私服だと随分と印象が変わるな」 梓「へ、変なこと言わないで下さい」 キョン「変?」 梓「と、とにかく、は、恥ずかしいことはなしです」 キョン「???」 梓「それより、その顔の痣はどうしたんですか?」 キョン「ああこれか、ちょいと転んじまってな」 梓「結構ドジなんですね」 キョン「そうかもな」 澪「よっと、お邪魔! キョン、うちの後輩に手を出したりしてないだろうな」 キョン「するかアホ」 梓「ありえないですよ」 澪「冗談だよ」 253 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/10/29(木) 23:47:53.02 ID:fjSruTI0 梓「わたし、ババ抜きしてきます」 澪「・・・で、その痣はやられたのか?」 キョン「ご想像に任せる」 澪「最近はあまり無かったんだろ」 キョン「まあな。暑くなってきて頭がイカレたんじゃないか?」 澪「そんなんで殴られたらたまらないだろ」 キョン「そりゃそうだ」 澪「痛みはないのか?」 キョン「まったくないぜ。むしろ痒いぐらいだ」 澪「冗談ばっかだな」 キョン「この合宿も冗談だと思ってたんだがな」 澪「都合よくムギが別荘持ってたからなー。無かったら中止だったよきっと」 唯「わはー♪ 海だぁー♪」 律「うはぁー! 海だぁー!」 谷口「俺にも見せてくれ!」 律「こらっ! 狭いよ!」 266 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage] 投稿日:2009/11/05(木) 20:09:20.45 ID:Uv3r7/c0  そして、キョン達は別荘に到着。 律「とっても、大きいです!」 唯「おっきいねえ」 梓「でかい・・・」 谷口「俺のよりでかいだと・・・」 紬「ごめんなさい、小さいのしか余ってなくて」 キョン「これで小さいんだったら、俺の家はまさしく小屋だな」 澪「ムギって、やっぱり凄いんだな」 律「は、早く入ろうぜ!」 紬「あ、待って、まだ鍵がかかってるの」 267 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/11/05(木) 20:16:50.85 ID:Uv3r7/c0  一行は別荘内へと足を踏み入れる。 律「唯、海が見えるぞ!」 唯「海だよ、海が目の前だよ、りっちゃん!」 梓「あー、早速騒いじゃってるなあ」 谷口「いやー、委員長についてきてよかったぜ!」 澪「本当、ムギが別荘を持ってて助かったよ。律は無計画に合宿って言ってただけだしさ」 紬「こんな所で良かったのかしら?」 キョン「委員長、少なくともアイツらは満足してると思うぞ」 紬「ふふ、子供みたい」 キョン「俺らもまだ子供なんだがな」 268 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/11/05(木) 20:24:31.66 ID:Uv3r7/c0 律「なあなあなあ、海行こうぜ海!」 唯「うん、そうだよねシーパラダイスだよ!」 梓「何言ってるんですか。ここには遊びに来たんじゃないんですよ」 律「固いこと言わないでさー。ほら、澪もそう思うだろ」 澪「思わない」 律「き、キッパリ言うなー。いいよ、唯とわたしだけで行くから」 澪「だから、駄目だって」 律「いーだ、けちー」 唯「けちー」 谷口「おい、キョン」ヒソヒソ キョン「なんだ?」 谷口「持ってきたよな、例の物」ヒソヒソ キョン「持ってくるか! 大体、俺は来るつもりはなかったんだ。澪に言われて仕方なく来ただけであってだな」 谷口「あんだよ、面白くねえなー。こういう時は定番メニューだろう」 269 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/11/05(木) 20:32:59.85 ID:Uv3r7/c0 キョン「お前の中じゃそうなんだろうな」 紬「何の話?」 谷口「いえ、なんでもないっす」 紬「ビデオカメラ持ってきたの、上手く撮れるかしら」 谷口「ほ、ほー、カメラね。良いんじゃねえか。俺にも使わしてくれよ」 紬「いいけれど」 キョン「いや、委員長貸さなくていいぞ。コイツに貸すと犯罪になりかねん」 谷口「な、何言ってんだよ、そんなことあるわけないだろ」 澪「ムギ、スタジオは見たいんだけどさ」 紬「ああ、スタジオはこっちよ」 谷口「あ、委員長、カメラ・・・」 キョン「諦めろ」 270 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/11/05(木) 21:13:18.79 ID:Uv3r7/c0 紬「ここがスタジオよ」 澪「おお、広いなー」 梓「凄い、このアンプ使って良いんですか?」 紬「どうぞ」 梓「やった」 律「うーみー」 唯「りっちゃん、元気出して」 澪「さあ、練習するか」 梓「そうですね」 律「えー、もう少し休もうよー」 澪「時間が勿体ないだろう。折角こんな綺麗な所でやれるんだし」 律「鬼め」 澪「はいはい、準備始めるぞ」 272 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/11/05(木) 21:53:12.33 ID:Uv3r7/c0  スタジオからドアを挟んで音が聞こえてくる中、キョンと谷口はリビングにいた。 キョン「愛しの彼女の元には行かんのか?」 谷口「追い出されたんだよ、秋山に。邪魔だってな」 キョン「そりゃ残念だったな」 谷口「ちょっと休みたいところだったからいいけどな」 キョン「さて、俺は昼寝でもするかね」 谷口「キョン」 キョン「あ?」 谷口「お前、相手は決まってるのか?」 キョン「相手? なんの相手だ?」 谷口「決まってるだろ、好きな相手だよ」 キョン「好きな相手? 意味が分からないぜ」 谷口「彼女にする相手だ! お前って本当鈍いよな」 273 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/11/05(木) 22:00:28.89 ID:Uv3r7/c0 キョン「彼女にする相手だ?」 谷口「ここに来たのもそれが目当てなんだろう? 秋山か? アイツはやめといた方がいいぜ」 キョン「・・・ああ、そういうことか、わかったよ」 谷口「やっと分かったか、いやー、キョンは本当に鈍いからなあ」 キョン「お前がアホだってことは再認したさ」 谷口「へっ、アホでもウホでもなんとでも言え」 キョン「くだらん話はこれで終わりだ。じゃあな」 谷口「なんだよ詰まんねえなあ、青春を語ろうぜー」 キョン「一人でやってろよ」 274 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/11/05(木) 22:10:56.53 ID:Uv3r7/c0 キョン「邪魔するぞ」  キョンの声は演奏の音の音に混ざって消えた。  軽音部のメンバーは普段の練習以上に真剣な顔付きだ。  キョンは仕方なくドアに寄りかかって、演奏が終わるのを待った。  演奏終了。  唯が一番にキョンに声をかけた。 唯「どうしたの?」 キョン「部屋の位置を教えて貰ってなかったんでな」 紬「ごめんなさい。キョンくん達は二階の部屋なの。待ってて、案内するわね」 律「え、同じ別荘なのか?」 紬「ええ」 澪「どうかしたのか?」 律「・・・・・・」 275 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/11/05(木) 22:17:41.08 ID:Uv3r7/c0  唯「どうしたの?」 律「いやさ、同じ屋根の下に若い男女が一緒に寝泊りするのって問題だよな」 澪「な、何を言い出すんだよ!」 律「大体、なんでアイツらが来てるんだよ」 キョン「俺は寝てるだけだろうから気にするな」 律「来ちまったもんは仕方無いけどさ」 紬「案内・・・していい?」 キョン「お、頼む」  キョンと紬はスタジオを出て行った。 梓「大丈夫ですよ、あの人奥手ですから」 律「お、経験談?」 梓「ち、違います!」 澪「(連れてきたの間違いだったかな?)」 276 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/11/05(木) 22:29:06.79 ID:Uv3r7/c0  それから唯達は練習を続けたが、着いたのが正午過ぎということもあってか、あっという間に夕方になった。  メンバーはリビングに集まっていた。 澪「これから買出し班と残って準備するメンバーを決めたいんだけど。近くに買い物出来るところあるんだよね?」 紬「駅前の近くに」 谷口「りっちゃんは俺と一緒な」 梓「りっちゃん・・・」 唯「とても眩しいです」 律「か・え・れ!」 谷口「怒るなよ」 澪「そういや、キョンは?」 ムギ「まだ部屋に居るんじゃないかしら」 唯「あ、私呼んでくるね」 277 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/11/05(木) 22:48:21.82 ID:Uv3r7/c0  唯は二階に上がると、数ある部屋を一室ずつ見ていった。 唯「部屋多いなあ、もう」  そして、最後の一室。 唯「キョンくん、入るよお」  部屋にキョンの姿はなかった。 唯「あれ、いない? キョンくーん」 キョン「なんだ?」 唯「ふぇ!?」  急に聞こえてきた声に驚いた唯は、後ろを振り返ろうとして足元を崩した。  キョンは反射的に手を差し伸べる。  唯はその手を掴んだが、倒れる唯に引っ張られるようにしてキョンも体勢を崩す。 キョン「おわっ!?」 278 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/11/05(木) 22:58:03.15 ID:Uv3r7/c0 唯「あいたたー」  唯が目を開けると、目の前にキョンの顔があった。  反対にキョンの前には唯の顔。  仰向けに倒れた唯に覆い被さるようにしてキョンは倒れたのだ。  二人は片時の間、見つめあった。  二階の廊下に足音がするのを聞いて二人は目を逸らしたが、足音の主は部屋に入ってくるところだった。 澪「ななな、何をしてるんだ!?」 紬「まあ!?」  澪が勢いよくキョンを蹴り飛ばす。 キョン「ふべしっ!」 唯「あっ」  キョンは部屋の隅へと転がる。 澪「唯、大丈夫か?」 唯「あ、うん・・・」 279 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/11/05(木) 23:12:27.76 ID:Uv3r7/c0  濡れ衣を着せられたキョンは弁明をした。 澪「ご、ごめん。でも、あのシーンは咄嗟にさ」 キョン「俺が平沢を襲うわけないだろうが」 澪「え? あ、ああ、そうだ・・・よね」 キョン「平沢、大丈夫か?」 唯「うん、わたしは大丈夫だよ」 紬「下に降りて話の続きをしましょ」 キョン「話の続き?」 澪「夕飯のな」  話し合いにより、買出しはキョンと谷口、澪と律となった。  唯はさっきのこともあり、澪が居残りを勧められて残った。 280 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/11/05(木) 23:30:47.28 ID:Uv3r7/c0  別荘内 紬「私達は準備をしないとね」 梓「準備って何をするんですか?」 紬「バーベキューのコンロとか組み立てるの。簡単な筈だから私達で平気だと思うけど」 梓「頑張りましょうね、唯先輩」 唯「・・・」 梓「先輩?」 唯「え、なに?」 梓「準備始めますよ」 唯「準備? ああ、そだね」 304 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/11/22(日) 03:25:32.29 ID:votEcEY0 梓「先輩、どうかしたんですか?」 唯「別になにも」 梓「そういえば、さっきは二階で何かあったんですか?」 唯「なんにもないよお」 梓「でも、大きな音しましたし」 唯「ほ、本当になんにもないから」 梓「そうですか・・・」 唯「・・・ねえ、梓ちゃんて好きな人いる?」 梓「ええ!? い、いきなりなんですか?」 唯「はは、顔真っ赤だあ」 梓「そそ、それは先輩が急に変なこと言うから」 紬「楽しそうね、なんの話?」 305 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/11/22(日) 03:27:32.93 ID:votEcEY0  一方、キョン達。 キョン「なあ、俺も必要なのか?」 澪「当たり前だろう、荷物運びは男の仕事だ」 キョン「谷口がいれば十分だろ」 澪「もう来てしまったんだから文句言うな」 キョン「はあ・・・。で、おまえらは楽しそうだな」 律「ななななななな、なんのこと!?」 キョン「顔真っ赤だぜ」 谷口「いやあ、手を繋いでるだけでこれだからな」 律「な、なんだとお、じゃあ離す」 谷口「離さなくてもいいだろ!」 306 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/11/22(日) 03:33:43.47 ID:votEcEY0 律「やーだ、離す」 澪「仲良いね、律達は」 谷口「あったりめえよ! ラブラブだからな」 律「うー」 キョン「なんだそりゃ」 律「い、一応そういうことにしとく」 谷口「一応ってなんだ!? 俺らラブラブだろ?」 律「わー! スーパーまで先に行ってるよー」 谷口「あ、待ってくれよ!」 澪「(端から聞いてると結構恥ずかしいんだよなー)」 307 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/11/22(日) 03:34:44.60 ID:votEcEY0 律「たっだいまー!」 紬「あ、お帰り」 律「じゃーん! 肉だぞお!」 紬「小さいお肉ね」 澪「いや、これでも一番でかいのなんだけどさ」 谷口「早く食おうぜ、腹減った」 キョン「あれ、平沢は?」 梓「そういえば、居ませんね。さっきまで居たんですけど」 キョン「呼んでくるか」 308 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/11/22(日) 03:36:23.11 ID:votEcEY0  洗面所 唯「うーん・・・んんん? うーん? にいぃ・・・うぃぃ・・・。・・・・・・はあ」 キョン「何してんだ、鏡に向かって」 唯「ひ、いつからいたの?」 キョン「いつからって、今だが」 唯「ど、どこから?」 キョン「うぃぃって言ってた時か? うぃぃってなんだ?」 唯「なんでもないよ・・・」 キョン「そうか。飯の準備出来たぜ」 唯「うん・・・」 309 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/11/22(日) 03:38:52.95 ID:votEcEY0 キョン「・・・どうかしたか?」 唯「え?」 キョン「俯き加減なもんだからな」 唯「気のせいだよ」 キョン「気のせいって、現にそうなんだが」 唯「・・・・・・」 キョン「あれか、顔に出来物でも出来たか?」 唯「ああ、うん。そうかな・・・」 キョン「酷くならないうちに薬でも塗っとけよ」  そこまで言ってキョンは、唯の前から姿を消した。 唯「はあ・・・どうしよう、顔見れなくなっちゃったよぅ・・・」 310 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/11/22(日) 03:40:17.01 ID:votEcEY0 澪「あ、唯。もう焼けてるぞ」 唯「うん」 澪「どうかした?」 唯「・・・澪ちゃん、あとで聞いてほしいことがあるんだけど」 澪「聞いてほしいこと? 別にいいけど」 唯「ありがとう」 律「ああ、私の肉とりやがった!」 キョン「早いもん勝ちだろ」 谷口「おい、俺の彼女の肉までとるなよ」 律「だから、わざわざ彼女とか言うなよー」 311 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/11/22(日) 03:41:10.32 ID:votEcEY0 谷口「ふう、食った食った」 律「私もお腹一杯だあ」 紬「私もちょっと・・・このぐらいにしておくわ」 梓「私もです」 唯「おにくぅー♪」 キョン「お前まだ食うのか?」 唯「あと少しだよお・・・え?」 キョン「ん?」 唯「わわっ!」 キョン「あぶっ!」  唯はキョンが近くいたことに驚いたあまり、焼き網に手を当てた。 唯「いっ!?」  一瞬、手が焼ける音が他の音に混じって聞こえてきた。 325 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/11/27(金) 22:51:46.74 ID:hD.j0nU0 キョン「アホ!」  キョンは咄嗟に唯の手首を掴むと、キッチンまで引っ張っていく。 キョン「早く冷やさねえと」  蛇口から流れる冷水が、手の火傷の痛みを唯から一時的に忘れさせた。  しかし、唯が感じていたのは自分の手首を掴むキョンの体温だった。  そして、胸の高鳴り。  それから来る不思議な心地好さに頭を支配された。  一秒が一分に、一分が一時間に感じられるんじゃないかと思うぐらいにゆったりとした時の流れを唯は感じた。 澪「どうかしたのか?」  急に背後からぶつけられた声が唯の頭から、その心地好さを奪い去る。  あとに残るは罪悪感のような不快なものだけだった。 キョン「こいつが火傷しちまってな」 澪「火傷? 唯、大丈夫か?」 唯「うん、平気。大したことないよお」 326 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/11/27(金) 22:53:01.11 ID:hD.j0nU0  時刻は11時。 澪「さて、明日に備えて早めに寝よう。男は上だからな、下にくるなよ」 キョン「わかってるさ。じゃあな、また明日」 谷口「二階にダブルベッドあるか?」 律「あるか! さっさと寝ろ!」  そう言って、キョンと谷口は二階へ。  一階では寝具の準備。 唯「わっ、梓ちゃんが布団に押しつぶされた!?」 律「レスキュー! はやく救助を!」 紬「は、早く助けないと」  布団が生きているが如く蠢いている。  重なった布団を退かすと梓の困り顔が出てきた。 梓「し、死ぬかと思いました」 律「お、大袈裟だなあ」 327 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/11/27(金) 23:08:12.51 ID:hD.j0nU0  準備が終わり、それぞれが布団に入った。  部屋の明かりは既に消え、月明かりだけが部屋を照らしている。  海が近いこともあり、波音が優しく唯達を包み込む。  まもなく寝息が聞こえてきた。 唯「りっちゃん、寝ちゃったね」 紬「疲れてたのよ」 梓「可愛い寝顔ですね」 澪「そういや、唯。話があるって?」 唯「あ、うん」 紬「悩みごと?」 唯「どうかなあ」 澪「とりあえず話してみろよ」 328 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/11/27(金) 23:16:19.67 ID:hD.j0nU0 唯「あのね、いけないことを考えちゃったんだ」 澪「いけないこと?」 紬「まさか、唯ちゃん!? 誰なの?」 梓「いけないことって・・・」 唯「・・・キョンくんのことがね。好きかもしれないって」 澪「え・・・」 紬「・・・」 梓「なるほど」 唯「でもさ。キョンくんは憂が好きだし、憂もキョンくんが好きなわけだし、わたしは応援するって言っちゃったから」 梓「あれ? 先輩、知らないんですか?」 唯「なにを?」 澪「・・・キョンは憂ちゃんを振ったんだよ」 329 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/11/27(金) 23:27:23.68 ID:hD.j0nU0 唯「振ったってどういうこと? キョンくんは憂が好きだったんじゃないの?」 梓「わたしが憂から聞いた話だと、憂から振ったって聞きました」 澪「実際、その場にいたわけじゃないから詳しいことは分からないけど、キョンと憂ちゃんはそんな関係じゃないってのは確かだよ」 唯「でも、憂はキョンくんが好きだったんだよ。自分から振るわけないよ」 梓「それもそうですね」 澪「キョンはね、中途半端な気持ちで憂ちゃんと接するのを申し訳なく思ったんだよ。憂ちゃんは自分に対しての気持ちと、自分から憂ちゃんに対しての気持ちの開きが嫌だったんだと思う」 唯「それじゃあ、憂が可哀想だよ」 澪「唯・・・」 梓「・・・先輩、考えすぎないで下さいね」 唯「もう寝るね。おやすみ」 澪「・・・おやすみ」 梓「おやすみです」 331 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/11/27(金) 23:41:42.88 ID:hD.j0nU0 キョン「んあ、もう朝か? ・・・8時か」  重たい足取りで一階へ下りると、食欲をそそる臭いが薫っていた。 梓「おはようございます」 キョン「ああ、おはようさん」 梓「酷い顔ですよ。顔を洗ったら如何ですか?」 キョン「そのつもりだ」  キョンが洗面所へ向かうと一緒に梓も付いてきた。 キョン「なんで付いてくるんだ?」 梓「実は困ったことがありまして」 キョン「困ったこと?」 梓「あ、どうぞ、顔を洗ってください」  覚めきってない顔をひんやりとした水で洗いながら、梓の声を待つ。 梓「あの、唯先輩のことなんですけど」 キョン「平沢? なんかあったのか?」 332 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/11/27(金) 23:50:43.81 ID:hD.j0nU0 梓「憂を振ったことで怒ってるんです」 キョン「ふー、すっきりした。で、なんだって?」 梓「だから、憂を振ったあなたに怒ってるんです」 キョン「・・・意味がわからん。怒るところがあるのか?」 梓「本気で言ってるんですか?」 キョン「本気もなにもないだろ」 梓「はあ・・・」 キョン「なんだ、文句でもあるのか?」 梓「憂の気持ちが踏み躙られたと思ってるんです」 キョン「ああ、そういうことか。でも、あれは憂ちゃんから振ったんだぞ」 梓「それ、本当ですか?」 キョン「嘘つく必要もないだろ」 梓「憂の立場を考えてそういうことにしてるとか」 キョン「まさか(ぐっ、鋭い)」 333 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/11/28(土) 00:00:39.91 ID:fsGeg9g0 谷口「おまえら、何してんだ? もう飯出来るぜ」 キョン「今行く」 梓「あ、ちょっと待ってくださいよ」 キョン「その話は終わりだ」 梓「どうなっても知りませんよ」  朝食の時間、表面上は至って普通だが、自分と目を合わせないことにキョンは気付いた。  だからといって、特別なにをすることもなく夜まで過ごした。  そして、辺りが暗闇に包まれた頃。 律「肝試しやろうぜ」 澪「なななんで!?」 律「てなわけでさ、ペアなペア」 谷口「勿論、俺達は一緒だ」 キョン「バカップルだな」 律「バカップル、いつかわかれる、バカップル。律、心の一句」 谷口「別れんのかよ!」 梓「でも、脅かし役とかどうするんですか?」 律「まっかせないさい!」 334 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/11/28(土) 00:14:16.29 ID:fsGeg9g0 律「じゃあ、私と谷口、ムギは脅かし役。ペアは梓と澪。唯とそいつとな」 唯「け、決定?」 律「決定」 澪「終わった、世界が終わった」ブルブル 梓「せ、先輩、大丈夫ですよ」 谷口「キョン、チャンスだぜ」 キョン「なんのチャンスだ?」 谷口「暗がりで抱き作戦だ」 キョン「アホか」 谷口「何言ってんだよ、チャンスがあったら掴まなきゃ駄目だぜ」 キョン「お前は肝試しがあるって知ってたのか?」 谷口「まあな、口止めはされてたけどな」 キョン「やれやれ」 335 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/11/28(土) 00:24:24.94 ID:fsGeg9g0  先に律達が森に入って待機することになった。  脅かされる側はそれから10分経ってから1ペアずつ入っていく。  律達が行ってから予定の10分が経過した。 澪「ほ、本当に行くの?」 キョン「なんだ、怖いのか?」 澪「お、お前、わざと言ってるだろ」 梓「だ、大丈夫ですよ。わたしが付いてますから」 唯「澪ちゃん、頑張ってね」 澪「・・・うぐ」 キョン「早く行かないと、待ってる奴らが虫に刺されるぞ」  いやいやながらも、澪たちはゆっくりと森の中へと入っていった。 唯「・・・・・・」 キョン「(まだ怒ってるのか)」  残る二人の雰囲気は最悪だった。 336 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/11/28(土) 00:32:11.36 ID:fsGeg9g0 澪「(ど、どうせ、仕組まれたものなんだから驚かないよな)」 梓「(あの二人大丈夫かな)」 澪「あ、今なんか聞こえなかった?」 梓「え、聞こえませんでしたけど」 ガサガサ 澪「ほ、ほら」 梓「三人のうちの誰かでしょう」 澪「そ、そうだよな」 梓「澪先輩、怖いですか?」 澪「そんんんあんあなこっとおとないぞ」 梓「怖いんですね」  と、澪たちの背後から忍び寄る一つの影。 「みーおーちゃん」 澪「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」  悲鳴はキョンたちのところまで轟いた。 337 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/11/28(土) 00:46:16.50 ID:fsGeg9g0 キョン「い、今のは」 唯「・・・・・・」  それから少しして、唯の携帯が鳴った。 唯「あ、りっちゃん。・・・うん。わかった」 キョン「出発か?」  唯は言葉の代わりに、頷いた。  森の中へ入り、歩いている間も二人の間に会話はない。  聞こえるのは虫の鳴声と足音だけだ。  しかし、堪えかねたキョンは唯に話かけた。 キョン「なあ、なんでそんなに怒るんだ?」 唯「・・・」 キョン「お前、俺と憂ちゃんのことで怒ってるんだろ」 唯「・・・」 キョン「憂ちゃんは、俺みたいなのはお断りだってよ」 唯「嘘・・・」 キョン「あ?」 唯「嘘吐き・・・」 338 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/11/28(土) 00:57:28.21 ID:fsGeg9g0 キョン「う、嘘じゃない」 唯「嘘、嘘ついてる。わたし、わかるもん」 キョン「あのな、何を根拠に言ってるんだ?」 唯「目、目を見れば分かる」 キョン「それだけでわかるわけないだろ」 唯「・・・」 キョン「まあいい。あまり、怒ってばっかだとストレス溜まっちまうぞ」 唯「嫌い」 キョン「え?」 唯「キョンくんなんか大嫌い!」  キョンも驚くほどの迫力で吐きすてると、歩いていた道とは違う獣道に駆けていった。 キョン「おい、平沢! どこ行く気だ!?」  キョンも追いかけるが、暗闇に唯の姿はどんどん溶けこんでいった。 339 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/11/28(土) 01:09:37.71 ID:fsGeg9g0 キョン「クソッ、どこにいきやがった」  辺りを見回しても姿は見当たらない。  唯を探すどころか自分が迷子になってしまったとキョンは思った。  ゆっくり、あてもなく歩いた。  そして、間もなく小さな悲鳴をキョンは聞いた。 キョン「今の平沢か?」  声のした方へ、足元と枝葉に気をつけながら進んだ。  すると、途中で地面が途切れていることに気が付いた。  キョンは下を見下ろす。  そこは小さな崖になっていた。  視界の隅でもぞもぞと動いてる物体を感知する。  唯が崖下に倒れていた。 キョン「平沢!」  キョンは勢いを出来る限り殺しながら、崖を下りた。  340 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/11/28(土) 01:32:11.30 ID:fsGeg9g0 キョン「平沢、怪我してるのか?」 唯「足挫いただけ」 キョン「立てるか?」  唯は立ち上がるが、痛みで顔をしかめると直ぐに座ってしまった。 キョン「駄目か」 唯「・・・」 キョン「とりあえず、帰らないとな」 唯「どうやって?」 キョン「どうやってって・・・さあな。とりあえず、携帯で連絡しよう」 唯「繋がるの?」 キョン「さっきだって繋がったんだから平気な筈だ」  そう言ってキョンは携帯を取り出し、通話ボタンを押す。  澪の番号にかけたが出たのは律だった。  キョンは簡単に事情を話して通話を終えた。 341 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/11/28(土) 01:47:57.65 ID:fsGeg9g0 キョン「・・・さて、少し待つか」 唯「?」  少し経って、小さな破裂音みたいな音が聞こえてきた。 唯「何、今の?」 キョン「打ち上げ花火だ」 唯「花火?」 キョン「音で方向を確認したかったからな」  話をしているうちに一発、もう一発打ちあがる。 キョン「花火は見えないが、音はあっちからしている。これから歩いて、声を探す」 唯「声って?」 キョン「あいつらの声だ。聞こえたら、近くにいるって分かるだろ」 唯「そんな上手くいくかな」 キョン「なるときはなるさ」 342 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/11/28(土) 01:55:14.31 ID:fsGeg9g0 キョン「それで、お前一人じゃ歩けないだろ。背中に乗るか、肩を貸すか選べ」 唯「一人で行けるよ」 キョン「じゃあ、立ってみろ」 唯「・・・いっ」 キョン「無理みたいだな。背中に乗れ」 唯「やだ」 キョン「仕方ねえだろ」 唯「やだ」 キョン「あのな、他に方法があるんだったらいいがないだろ」 唯「それでもやだ」 キョン「どうしてだ?」 唯「だって・・・恥ずかしいもん」 キョン「恥ずかしいって・・・あのなあ」 343 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/11/28(土) 02:02:03.26 ID:fsGeg9g0 唯「わかった、いいよ。でも、その代わり」 キョン「その代わり?」 唯「本当のことを教えて」 キョン「本当のこと?」 唯「憂のこと」 キョン「そのことか」 唯「教えて。そしたら、言う事聞くから」 キョン「・・・構わん。けどな、大して事実に違いがあるわけでもないからな」 唯「うん」 キョン「じゃあ、乗れ。あいつらを待たせるのも悪いだろ。話ながら行こうぜ」 唯「わかった」  唯はキョンの背中に体重を預けて乗る。 唯「お、重い?」 キョン「軽くはないな」 唯「嘘!?」 キョン「嘘だ」 唯「また嘘吐いた」 344 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/11/28(土) 02:09:59.47 ID:fsGeg9g0  キョンは話ながら歩いた。  あの日、憂との会話を出来る限り思い出して唯に伝えた。 キョン「――てなわけだ。納得したか」 唯「ふーん」 キョン「ふーんってなんだ。興味なさそうにしやがって」 唯「ごめん」 キョン「・・・」 唯「あのね、わたし、キョンくん嫌い」 キョン「そうかい。良いんじゃないか、別に」 唯「嫌いでいいの?」 キョン「俺が決めることじゃないだろ。だけどな、俺はお前のこと嫌いじゃないぜ」 唯「好き?」 キョン「嫌いじゃないな」 唯「好きじゃないの?」 キョン「嫌いじゃないぜ」 唯「やっぱり、キョンくん嫌い」 345 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/11/28(土) 02:29:10.00 ID:fsGeg9g0  その後、二人は澪に発見されて無事に別荘へ戻ることが出来た。  残りの日々も、二人はあまり会話をすることはなかった。  そして、キョン達は少しだけ日焼けをして合宿を終えた。  それぞれが合宿から戻り、暫し羽を休めた。  8月に入り、練習も部室でのものになり、合宿での快適さが段段と遠い過去になろうとしていたある日。  唯は憂から遅い告白を受けていた。 憂「だからね、キョンさんのこと悪く思わないでね」 唯「でもさあ」 憂「もしかしたら、キョンさんはお姉ちゃんが好きなのかも」 唯「そそ、そんなことあるわけないよお」 憂「冗談だよ。お姉ちゃんはキョンさん好き?」 唯「嫌いじゃない」 憂「うん。もし、好きになったとしてもわたしのこと考えなくていいからね」 唯「・・・」 346 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/11/28(土) 02:34:55.01 ID:fsGeg9g0 憂「それでね、お姉ちゃん」 唯「なに?」 憂「これなんだけど」  憂は一枚のチラシを見せてきた。 唯「夏祭り?」 憂「うん。みんなで行ったらどうかな? お姉ちゃん、キョンさんと喧嘩したんでしょ」 唯「喧嘩ってわけじゃないけど」 憂「仲直りも兼ねて行こう」 唯「・・・うーん」 憂「浴衣も着て。ね? お姉ちゃん」 唯「・・・うん」 憂「じゃあ、押し入れから浴衣出してくるね」 唯「あ、憂。・・・もう(気が早いな、憂は。夏祭りは3日後なのに)」 347 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/11/28(土) 02:51:32.42 ID:fsGeg9g0  3日後。  キョンは日が暮れた時間に、夏祭りの会場にやってきた。  人は予想以上に多く、出店も様々だ。 キョン「それにしても、この光景どこかで見たことがあるな」  しかし、それがどこで見たなのかは分からなかった。 キョン「まあ、たまにあることだよな」  そう言って、後ろを振り返ると一人の少女と目が合った。  その少女はキョンのもとへとやってきた。 「お久しぶりですね」  その少女もいつか何処かで見たことがあった。 「覚えていらっしゃらないんですか?」  ツインテールの少女。  キョンは目を閉じて、自分の記憶を探った。 キョン「・・・いつだったかぶつかった」 「ぶつかられた側ですね、私は」 キョン「ああ、あの時は悪かった」 「もういいですよ。ああ、そうそう、申し遅れました。私、橘京子って言います」 キョン「たちばなきょうこ」 348 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/11/28(土) 03:00:21.81 ID:fsGeg9g0 橘「なにか?」 キョン「あ、いや、よろしく橘さん」 橘「さんは付けなくていいですよ」 キョン「そうか」 橘「それでは、今日のところはこれで」 キョン「もう? 祭りはいいのか?」 橘「ええ。あなたに会うのが目的でしたから。近いうちにまたお会いしましょう。では」  そう言うと橘はさっさと会場から去っていった。 キョン「俺に会いにきた?」  キョンは橘の言葉を頭の中で反芻したが、これといって何か閃くことはなかった。 谷口「おっす、キョン」 キョン「谷口と・・・バカップルか」 律「バカップルって言うな!」 キョン「他の奴は?」 律「澪達なら入り口の近くにいるよ」 キョン「じゃあ、邪魔者の俺はそっちに行くか」 谷口「おう、俺達はデートだからな」 キョン「やれやれ」 349 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/11/28(土) 03:11:47.56 ID:fsGeg9g0 澪「キョン」 キョン「なんだお前ら、全員浴衣着て」 紬「どうせなら浴衣でって唯ちゃんが。わたし、浴衣を着ることは滅多にないから嬉しいわ」 キョン「委員長は普通に似合ってるぜ」 澪「・・・」 キョン「お前は私服で良いのにな」 澪「なんか言った?」 キョン「似合ってる、とっても似合ってる」 澪「いいよ、お世辞は」 憂「澪さん、似合ってますよ」 キョン「憂ちゃん、良いと思うよ。その浴衣」 憂「ありがとうございます」 唯「・・・」 キョン「・・・え、えーと、お前ら何かやるのか?」 紬「金魚すくいがしてみたいわ」 澪「んー、じゃあ、とりあえず金魚で」 350 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/11/28(土) 03:17:27.64 ID:fsGeg9g0  一行は金魚すくいの出店にやってきた。 紬「難しいのねー」 澪「憂ちゃんは上手いよな」 憂「た、たまたまですよ」 梓「あー、もう遊んでる」 憂「梓ちゃん!?」 澪「あ、ごめん。梓のこと忘れてた」 梓「酷いです! 入り口のところにいなかったから探しましたよ」 紬「本当にごめんなさい」 梓「あ、いえ、そこまで謝られると逆に悪い気がします」 キョン「遅れたお前が悪い」 梓「・・・まあ、いいですけど」 澪「あ、キョン。ちょっと、いいか」 キョン「なんだよ」 351 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/11/28(土) 03:27:48.61 ID:fsGeg9g0 澪「あのな、今日はある目的があって来たんだよ」 キョン「お前もか?」 澪「お前も?」 キョン「いや、こっちの話だ」 澪「それで、その目的ってのは唯と仲直りをさせようってものなんだ」 キョン「んん」 澪「だから、キョンも唯に対してこれまで通りに接して欲しいんだよ」 キョン「といってもな、アイツがあれじゃあ変わらんだろ」 澪「唯は仲直りしたがってるんだよ」 キョン「あれでか」 澪「あれで」 キョン「出来る限り頑張ってみるわ」 澪「頼むぞ」 352 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/11/28(土) 03:38:41.49 ID:fsGeg9g0 澪「じゃあ、ムギと私はちょっと別行動ね」 憂「あ、梓ちゃんも一緒にいこっか」 梓「え、なんで」 憂「だって、同級生なんだし」 梓「んー、まあいいけど」 キョン「(あからさまだな、全く)」 唯「・・・」 キョン「あー、平沢。その、なんだ、中々似合ってるぜ」 唯「まーた、嘘吐いてるね」 キョン「嘘じゃねえよ」 唯「じゃあ、なんでさっき言わなかったの」 キョン「その場の雰囲気でだ」 唯「ふーん、まあいいや。行こう」 キョン「え?」 唯「折角のお祭りなんだから楽しまないとね」 キョン「・・・そうだな」 353 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/11/28(土) 03:52:47.29 ID:fsGeg9g0  それから二人はまるで今までの険悪な雰囲気が嘘のように祭りを楽しんだ。 唯「ちょっと休憩」 キョン「綿飴食いながらな」 唯「いる?」 キョン「いや」 唯「おいしいのに」 キョン「お前のだ。自分で食え」  その時、夜空に光の花が咲いた。  大きくはないが、視界一杯に広がってゆく。 唯「今度は見れたね」 キョン「ああ」  唯は空を見上げながらキョンの手を握る。  キョンは気付いて唯を見たが、空を見上げる横顔があるだけだったので仕方なくそのままにした。  花火が打ち終わると、唯はキョンの顔をじろじろと見始めた。 唯「キョンくん、顔真っ赤だね」  そう言って唯は笑う。 キョン「あのなあ、からかうなよな」 唯「これで今度のことは許してあげます」 キョン「全く、わがままな御嬢様だ」  こうして、夏は過ぎ去っていく。 354 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/11/28(土) 04:01:41.89 ID:fsGeg9g0  9月になって新学期の開始。  それに伴い、キョン達のクラスに転校生が二人入ってきた。 古泉「初めまして、古泉一樹と申します。よろしくお願いします」  一人はハンサムで高身長の男子学生。  前に会った気がしないでもないとキョンは思った。  そして、もう一人。 橘「橘京子です。仲良くして下さると嬉しいです」  あの少女だった。  先日の夏祭りで会った少女が自分のクラスに転校してきたことにキョンは驚いていた。  キョンを不明な不安感が強烈に襲った。  昼休みになると、古泉が話しかけてきた。 古泉「お久しぶりです」 キョン「え?」 古泉「前に文芸室の前で会ってますよね」 キョン「そうだったか?」 古泉「まあ、一度会っただけですからね。覚えてなくても仕方がないでしょう」 355 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/11/28(土) 04:12:29.46 ID:fsGeg9g0  キョンは古泉の笑顔が気に食わなかった。  まるで、自分は全て知っているとでも言いたそうな笑顔だ。 キョン「なんで、こんな時期に転校してきたんだ?」 古泉「事情がありましてね。大変なね」 キョン「聞かないほうが言いんだろうな。ま、興味もないが」 古泉「話す時が来たら話しますよ」  続いて橘が話しかけてきた。 橘「こんにちは」 キョン「ああ。橘だっけ? 転校はあの時には決まってたんだろ」 橘「ええ」 キョン「教えてくれても良かっただろうに」 橘「楽しみは取って置こうと思いましてね」 キョン「それにしても驚いた。二人も転校してくるなんてな」 橘「彼も同じ高校なんですよ」 キョン「ほお」  世の中には不思議なことがあるもんだとキョンは思った。 356 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/11/28(土) 04:25:46.38 ID:fsGeg9g0  放課後、キョンが軽音部の部室にいると古泉と橘が文芸部に入部したことを澪から聞いた。 キョン「変わり者もいるもんだな」 澪「なにが?」 キョン「文芸部だよ。過疎だった部に一気に二人も入るなんてな」 澪「でも有希にとっては嬉しいことだと思うけど。私だって、毎日行けないし」 キョン「そういや、長門は大丈夫だったんだよな」 澪「うん。夏休み中に連絡が来たよ。やっぱり風邪だったんだってね」 キョン「そうか」 紬「紅茶、どうぞ」 キョン「どうも」  扉が開く。 律「ちわーす」 唯「はあ、お菓子ぃ」 梓「お菓子食べたら練習ですよ」 澪「遅かったな、三人とも」  キョンは紅茶の香りを嗅ぐ。  それはいつもと変わらない慣れ親しんだ紅茶の香りのままだった。 369 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/05(土) 00:13:27.80 ID:hERCOzY0  軽音部は近く行われる文化祭でのライブについて、話し合いを行っていた。 澪「んー、じゃあ曲順はこれでいいよね」 律「異論なし」 紬「わたしも」 梓「同じくです」 唯「うん」  キョンは話を聞きながらも、窓の外を眺めていた。 澪「なにボーっとしてるんだ?」 キョン「いや、暇だからな」 澪「そう」 キョン「ああ」  キョンは隠し事をしていた。  ここ最近、妙な不安感に襲われていることを。 370 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/05(土) 00:16:18.72 ID:hERCOzY0  次の日も、また次の日も平凡な日常に変わった出来事はなにもない。  変わらないという意味では、キョンの不安感も消えることはなかった。  だが、文化祭まで一週間後まで迫った日。  部室で五人と一人がいつものティータイムを楽しんでいる時だった。  キョンを猛烈な目眩が襲う。  それはいつか経験したようなものだった。 キョン「っう」 唯「キョンくん?」  唯達がキョンにあれこれ問い詰めていたが、キョンの耳には届かない。  底知れない闇に引っ張られ、頭の中が渦巻くようにぐるんぐるんと大きく回っている感覚。  自分が苦痛によって顔を歪めてるかどうかさえ、今のキョンには分からない。  分かるのは、目の前が真っ暗で五感全ての感覚が失せていくことだけだった。 371 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/05(土) 00:17:30.37 ID:hERCOzY0  キョンが目を開けると、テーブル向かいに梓の顔があった。 梓「どうかしましたか?」 キョン「・・・」  周囲を見渡すと他の部員はテレビドラマの話をしている。  先ほど、心配そうに顔色を窺ってくれた唯もキョンの目眩なぞ知らんとばかりに話に加わっている。 キョン「(寝てたのか、俺?)」  梓は依然として不思議そうにキョンを見ている。 キョン「なんでもない」 梓「顔色良くないですよ、大丈夫ですか?」 キョン「平気だよ」 梓「そうですか」 372 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/05(土) 00:18:53.91 ID:hERCOzY0  こんな不可解な出来事はあったものの帰りには気にもしなくなっていた。  それでも、時折襲われる不安感だけは頭の隅へ追いやることはどうしても出来ない。  この日、キョンは家へ帰ると家中が真っ暗で静かなことに違和感を覚えた。 キョン「(おかしいな、やけに静かだ)」  キョンがリビングに入る。  そこに昨日まで散らかっていた部屋は無く、モデルハウスのように綺麗な部屋が存在していた。 キョン「なんだこれ?」  父親の姿はない。 キョン「どうなってるんだ?」  自分の父親が一日経って、急に掃除をし始めるとは考えられない。  じゃあ、誰がこれをやったんだという疑問に行き着く。  だが、キョンは答えを得ることは出来ずに翌日の朝を迎えた。 373 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/05(土) 00:19:50.93 ID:hERCOzY0  どうせギャンブルにでも行ったんだろうとキョンは思っていた。  しかし、朝になっても父親は帰っていなかった。  流石に変に思ったキョンは母親宅へ電話をかけた。  が、受話器から聞こえてきた声は「今、現在、この電話番号は――」というありえないアナウンスだ。  なにかがおかしい。  キョンは胸に痞えた不安感を一層強く感じながらも、学校へと向かった。  学校に行って、家に帰ればどうせ父親も帰ってきてるだろうなどと淡い期待を持って。 374 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/05(土) 00:20:57.60 ID:hERCOzY0  その期待は一時限目の授業中、新たな不安感によって葬りさられることになった。 キョン「席替え・・・したのか?」  キョンは隣席の澪に話かけた。 澪「席替え? してるわけないだろ」 キョン「だよな。じゃあ、なんで谷口の席にあいつが座ってるんだ?」 澪「谷口? 誰?」 キョン「あのな、そういう冗談は可哀想だぜ」 澪「冗談じゃなくてさ、谷口って誰なんだよ」 キョン「アホで軟派な谷口君だ」 澪「・・・何組?」 キョン「もういいって冗談は」 澪「冗談じゃないぞ、本当に誰なんだよ谷口って」 375 名前: ◆l7YGBOVhE2[] 投稿日:2009/12/05(土) 00:21:51.70 ID:hERCOzY0  授業が終わると真っ先に紬の元へと向かう。 紬「どうかしたの?」 キョン「委員長、谷口がアホなのは知ってるよな」 紬「谷口? えっと、どなた?」 キョン「なんだ? 今日はエイプリルフールじゃないだろ。委員長ぐらい本当のことを話してくれていいだろ」 紬「なにを言ってるのか・・・」 キョン「だからな、谷口だっ!」  キョンは苛立ちのあまり、机を思い切り叩いた。  これには紬も驚いたようで、いつもの穏やかな表情を硬くした。 澪「おい、キョン。どうしたんだよ?」 キョン「クソッ!」 376 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/05(土) 00:23:01.08 ID:hERCOzY0  次の授業が終わると、今度は律の元へと向かった。 キョン「(アイツなら分かるはずだ)」  しかし、頭のどこかで谷口がいないという事実を認めてもいた。  いるという事実ではなく、いないという事実を確認する為に行くのだという思いが頭の中を駆け巡る。 唯「あれ、キョンくんだ。どうかしたの? あ、辞書忘れたとかかなあ?」  キョンは唯を無視して教室に入り、律の机の前に立った。 律「ん、なんだよ」 キョン「谷口・・・」 律「へ?」 キョン「谷口だよ・・・谷口・・・知ってるだろ」  律はキョンの顔を見、その背後にいる唯の顔を見て、もう一度キョンの顔を見た。 律「知らないよ・・・谷口なんて」 377 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/05(土) 00:24:51.86 ID:hERCOzY0  キョンが自分の教室に戻ると古泉が話し掛けてきた。 古泉「おや、顔色が優れませんねえ。具合でも悪いのですか?」 キョン「さあな」 古泉「気をつけてくださいね」  古泉を無視して自分の席へ座る。 キョン「(分からん。親父がいなくなったと思ったら、谷口まで。何がどうなってるんだ? あんな馬鹿を忘れるわけがない。田井中まで忘れちまってるし)」  とてもじゃないが授業を受けられる気分ではなかったキョンは保健室で落ち着くことにした。  保健室で空いていたベッドに入り、隣のベッドを見遣ると長門有希が本を読んでいることに気付いた。 キョン「(保健室に来てまで本を読んでるのか)よお」  長門は頷くだけだ。  キョンはそれを見て、体をベッドに寝かせた。  また長門の方を見てみる。  長門が読んでいるのは、どうやら夏目漱石らしい。 378 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/05(土) 00:26:41.46 ID:hERCOzY0  キョンは放課後、軽音部へは寄らずに帰宅した。  ライブを控えて練習にも熱が入っているところを邪魔するのも気が引ける。  というのは表向きな理由で、本当は軽音部の面々が谷口のこともあり変わってしまったように感じられたからだ。  家に戻っても父親はいなかった。  深い溜息ばかり吐く。  体内に篭る悪いものを吐き出すように出来るだけ大きく溜息を吐いた。  それでも、最悪な心境が変わることはない。  ただ、時間が過ぎてゆくだけ。  いつのまにか、キョンは深い眠りについていた。 379 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/05(土) 00:28:05.56 ID:hERCOzY0  翌日、キョンは更にあることに気付く。  橘京子がいなくなっていたのだ。  最初はただの欠席かと思ったキョンだったが、谷口の時と同じようにして他の生徒が橘の席に座っていたのを見て確信した。  古泉に聞くと、引越しをしたという返事が返ってきた。  このタイミングでの出来事にキョンは恐怖を感じた。  橘京子はなにか知っているのではと疑いもした。  しかし、追求する術もないし、根拠もない。  時間の流れに身を預け、無為な毎日を送ることしか出来ない自分に、キョンは憤りを感じた。 380 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/05(土) 00:29:17.32 ID:hERCOzY0  文化祭の三日前。  キョンは軽音部に無理に連れていかれて、部の演奏を聞かされていた。 澪「どうだった? 第三者の意見を頼む」 キョン「良いんじゃないか」 梓「なんかテキトーですね」 律「もっと、的確なアドバイスとか出来ないのかよ」 キョン「悪いな、生憎俺は音楽センスなんてものが皆無だからな」 紬「やっぱり、自分達で納得がいく演奏をするのが一番のようね」 律「そうだな。満足出来たらそれで良しか」 キョン「俺は必要ないみたいだし、帰っていいか?」 唯「待って」 キョン「ん」 唯「一緒に帰ろう」 389 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/07(月) 00:15:58.64 ID:w9fKUdc0  結局、唯を待って最後までキョンは軽音部に居座った。  今は商店街を唯と二人で歩いている。 唯「迷惑・・・だったあ?」 キョン「いや。それより、行きたい場所ってのは?」 唯「あ、うん。楽器屋さんなんだけどね」 キョン「楽器屋? なら、一人で良いんじゃないのか?」 唯「ううん、キョンくんが必要なんだよ」 キョン「必要ねえ」 唯「行けばわかるよ」 390 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/07(月) 00:17:39.52 ID:w9fKUdc0 キョン「で、何か買うのか?」 唯「うん。これ」  そう言って唯が指したのはピックだ。 キョン「ピック?」 唯「うん。キョンくん、好きなの選んで」 キョン「なんでだ?」 唯「いいからいいから」 キョン「じゃあ」  キョンは適当にピックを取って唯に渡した。 唯「これで良いの?」 キョン「ああ」 唯「ほんとにぃ?」 キョン「・・・こっちにするか」 391 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/07(月) 00:18:44.57 ID:w9fKUdc0  ありがとうございましたー、と若い店員の声を背中に受けながら店をあとにする。 キョン「くれるんじゃないのか?」 唯「あげるよ。でも、まだ駄目なんだよね」 キョン「どういう意味だ、そりゃ」 唯「気にしない気にしない」 キョン「買っといてそれか」 唯「あ、鯛焼き食べていこうよ」  目の前にある鯛焼き屋から香ばしい匂いが香る。 キョン「まあ、小腹も空いてるしいいか」 唯「ふんふん、甘いもの補給しないとね」 キョン「部室で食ったばかりだろ。それにあんまり食うと太るぜ」 唯「わたし、太らない体質だから大丈夫」 392 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/07(月) 00:19:39.45 ID:w9fKUdc0  鯛焼きを買い、少し歩いて見つけたベンチに二人で座る。 唯「はむっ」 キョン「なんだ、はむって?」 唯「おいひぃおとだほ」 キョン「美味しい音?」 唯「美味しいものを食べるときに鳴るんだよ」 キョン「鳴るというか、出してるじゃねえか」 唯「気にしない気にしない」  そう言って、鯛焼きに齧り付く唯をキョンは見る。  子供みたいに思い切りよく、美味しそうに食べる姿にキョンは思わず口元に笑みを浮かべた。 唯「ん、なひわはっれるの?」 キョン「食べながら喋るんじゃありません」 393 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/07(月) 00:20:41.05 ID:w9fKUdc0 唯「ふう、美味しかったねえ」 キョン「久しぶりに食べると美味いな」  唯の口の周りに餡子が付いているのをキョンはみた。 キョン「餡子付いてるぞ」 唯「え、まだあった」 キョン「ああ」 唯「ティッシュ、ティッシュ」  そう言って鞄の中をごそごそと探す。  キョンはその一つ一つの動作に子供っぽさを感じて、また口元を緩めた。 唯「取れたかな?」 キョン「ああ」 394 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/07(月) 00:22:12.14 ID:w9fKUdc0  そのままベンチで話をしていた。  突然、唯が体をキョンにくっ付けてきた。 キョン「なっ、くっ付くなよ」 唯「ちょ、ちょっとだけ。寒いから」 キョン「なら、帰るぞ」 唯「ちょっとだけだから、お願い」 キョン「・・・・・・わかったよ」 唯「うん」  何故、唯がこんなことをするのかキョンには分からなかった。  男女の友達がこんなことをしないだろう。  するのはそれ以上の関係ぐらいなものだろうと考えた。 395 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/07(月) 00:23:18.86 ID:w9fKUdc0  辺りも暗くなり街灯の光も強く認識出来るようになっている。 キョン「帰らないのか?」 唯「お、お願いがあるんだけどね。聞いてくれるかな?」 キョン「お願いって?」 唯「め、め、目を見て欲しいんだあ」 キョン「目?」 唯「目」 キョン「こうか」  キョンが唯の目を見る。  唯もキョンの目を見る。  二人は一瞬だけ見つめあった。  というのも、唯が直ぐに目を逸らしてしまったからだ。 396 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/07(月) 00:24:20.89 ID:w9fKUdc0 キョン「どうかしたか?」 唯「ううん、もう一回」  またも同じだ、唯は直ぐに目を逸らす。 キョン「なあ、なにしてんだ?」 唯「もう一回」  このやり取りを五回程続けた。 キョン「新手の遊びかなんかか? いい加減に帰ろうぜ」 唯「最後にもう一回だけ」 キョン「仕方無いな」 397 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/07(月) 00:27:24.72 ID:w9fKUdc0  今度は唯もキョンの目をしっかりと見据えた。  キョンは唯の目を見つつも、時折いろんなところを見た。  意外と広い額、細い眉、淀みのない黒い瞳、小さな鼻、これまた小さな唇。  これらが全て、この小さな顔に揃ってることに不思議な感動を覚えた。  段段とお互いの顔の距離が近づいていく。  しかし、息が感じられるくらいの距離になって、キョンは顔を離した。  唯もそれを見て足元に目を逸らした。  二人とも何も言わなかった。  無言のまま座りつづけ、先に口を開いたのはキョンだった。 キョン「帰るか」  唯はただ頷き、立ち上がった。 398 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/07(月) 00:28:34.11 ID:w9fKUdc0 唯「ごめん・・・なさい」 キョン「なにが」 唯「・・・さっきの」 キョン「・・・いや、お前が悪いわけじゃないだろ」 唯「嫌・・・だったよね」 キョン「嫌とかじゃなくてだな。ただ」 唯「ただ?」 キョン「・・・・・・餡子」 唯「え?」 キョン「餡子、口についてるぞ」 唯「嘘!? さっき、取ったのに」  本当は怖かった。  何かが変わる気がして、キョンにはあの不安感と同じくらいにそれが怖かった。 399 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/07(月) 00:30:56.76 ID:w9fKUdc0 唯「キョンくん、最近元気ないね」 キョン「そうか? 変わりないぞ」 唯「まぁた嘘吐いてるね。わたしには分かるんだよお。なんか違うもん」 キョン「気のせいだろ」 唯「・・・わたしね、キョンくんがいたから軽音部のみんなとも友達になれたし、毎日を楽しく過ごせるんだよ。だからね、今度はわたしがキョンくんの力になりたいなって」 キョン「何を勘違いしてるんだ? お前はやれば出来るんだよ。今までやらなかっただけだろ。俺がどうとか関係ないぜ」 唯「ううん、キョンくんのお陰。本当だよ。・・・だから、困ったことがあったら相談してね。わたしじゃ駄目かもしれないけど、話を聞くだけならわたしだって出来るから」 キョン「ああ、困ったことがあったらな」 唯「約束だよ」 キョン「約束するよ」 422 名前: ◆l7YGBOVhE2[] 投稿日:2009/12/26(土) 17:17:16.01 ID:7jV6JVE0  文化祭前日。  放課後、キョンは部室に向かった。  自分を取り巻く環境も気にはなっていたが、軽音部を晴れ舞台を見届けたかったのだ。  部室では既に練習が始まっていた。 さわ子「あら、あなたも来たのね」 キョン「ええ、ちょっと。その手に持ってるのはなんです?」 さわ子「これ? 見れば分かるでしょ、衣装よ!」 キョン「衣装って・・・仮装パーティじゃないでしょうに」 さわ子「何言ってるの、可愛い女の子には可愛い衣装を着せなきゃ勿体ないでしょ! 馬子にも衣装ってことね」 キョン「誤用ですよ、それ」 さわ子「あなたもなにか着る?」 キョン「いえ、遠慮しときます」 423 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/26(土) 17:18:11.60 ID:7jV6JVE0  練習中に新たな訪問客。 和「ちょっと失礼するわ」 律「あれ、何か用?」 和「体育館の下見を順番にやってるのよ。前以ってプリントが配られてるでしょ」 律「そうだっけ?」 澪「わたしは貰ってるぞ、部長」 律「ははっ、偶々配られてなかったんだなー」 和「それじゃ、あなた達の番だから来てちょうだい」 澪「わかった」 424 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/26(土) 17:19:19.11 ID:7jV6JVE0 梓「先輩、みなさん先行っちゃいますよ」 唯「こほっこほっ! えっと、先に行ってていいよお」 梓「そうですか」 唯「あっ、キョンくんは待ってね」 キョン「なんかあるのか?」 唯「うん、渡す物があるから」 キョン「渡す物? 今日は誕生日じゃないぞ」 唯「あった! これこれ。このまえのピック」 キョン「なんだこれ」 唯「穴を空けて糸を通してペンダントっぽくしてみたの。憂がね、教えてくれたん だあ。ちょっと下手かもしれないけど」 キョン「なるほどな。貰っていいのか?」 唯「うん」 425 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/26(土) 17:21:21.06 ID:7jV6JVE0  そのあと、キョン達は体育館の舞台に上がり進行の仕方等の説明を聞いた。 梓「楽しみですね、明日」 唯「こほっ! そうだねえ、緊張してきたかも」 紬「わたしも少ししてきたかもしれない」 梓「大丈夫です。それなりに練習してきたんですから」 唯「・・・」 律「ああもう! 話長いんだよなー」 澪「部長なんだから我慢しろ」 キョン「終わったのか?」 澪「うん」 律「あれ、唯?」 426 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/26(土) 17:22:19.77 ID:7jV6JVE0 紬「唯ちゃん?」 唯「なにぃ?」 梓「先輩、顔が少し赤いですね」 唯「うん、なんだか熱いんだよねー」 律「まさか、熱出てるとか!?」 澪「唯! ちょっと、じっとしてろ」 キョン「どうだ?」 澪「熱いな、多分熱がある」 紬「保健室に行きましょう」 唯「大袈裟だなあ、大丈夫だよお」 澪「今は言うと通りにしろ」 427 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/26(土) 17:23:21.35 ID:7jV6JVE0  保健室で体温を測ると、熱が38度あることが分かった。  そのため、唯は一足先に帰宅して明日に備えることになり、何故かキョンが家まで付いていくことになった。  唯はキョンの腕にしがみ付くようにしながら、歩いていた。 キョン「お前、本当に大丈夫か?」 唯「このぐらいヘーキヘーキ」 キョン「家に帰ったら憂ちゃんにしっかり事情話して看病してもらえよ」 唯「りょーかいです」 キョン「ほら、着いたぞ」 唯「もう着いちゃったの?」 キョン「もうってなんだ。さっさと家の中に入れよ」 428 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/26(土) 17:24:32.43 ID:7jV6JVE0  キョンは唯を部屋まで連れて行き、ベッドに寝かす。 キョン「じゃあ、あとは憂ちゃんにやってもらえよ」 唯「ねえ、熱うつしてもいい?」 キョン「うつせるもんならうつしてみろ」 唯「駄目かな?」 キョン「駄目もなにも無理だからな」 唯「キス・・・すれば」 キョン「あ?」 唯「キスすればうつせるよ」 キョン「何言ってんだ」 唯「はぁ」 429 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/26(土) 17:26:01.88 ID:7jV6JVE0 唯「ねえ、キョンくんが好きだっていったらどうする?」 キョン「こんなときに言うことじゃないだろ」 唯「こんな時だから言うんだよ・・・・・・」 キョン「平沢?」 唯「なんか自分の体じゃないみたいに熱いし、明日になったら壊れてるんじゃないかってぐらい頭も痛い。それに、なんか怖いし」 キョン「熱があるから変なこと言ってるだけだ。ああ、お前は元々頭は良くないなハハッ」 唯「・・・嘘じゃないよ、好きなのは」 キョン「・・・いいか、今すべきなのは明日の為に休むことだ。あんだけ練習したんだ、熱なんかでライブ出来なかったら勿体ないだろ。話なら元気になったらいくらでも聞いてやるよ」 唯「本当?」 キョン「ああ。だから、今は休め」 唯「うん・・・」 430 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/26(土) 17:27:02.60 ID:7jV6JVE0 キョン「じゃあな、俺は帰るぞ」 唯「ありがとお」 「おねーちゃん、ただいまー」 キョン「憂ちゃん、帰ってきたし安心だな」 憂「あ、キョンさん。どうして家に?」 キョン「平沢が熱出しちまってな、送ってきたんだよ」 憂「お姉ちゃんが!?」 キョン「だから、看病よろしく頼む」 憂「はい! わざわざ家までありがとうございました!」 431 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/26(土) 17:28:11.69 ID:7jV6JVE0  キョンは家に帰ってから唯から向けられた言葉を思い出していた。 キョン「まいったぜ・・・まさか、アイツがあんなこと言うなんて思わなかったな」  唯の部屋でのやり取りが鮮明に蘇ってくる。  長いやり取りではなかったが、言葉に込められた意味の重さはいままで一緒にいて一番重いものだ。 キョン「嫌いじゃないんだがな・・・どちらかといえば・・・好き・・・なのか俺は」  自問自答。 キョン「大体、明日ライブだろうに。何を考えてるやらあいつは。ま、終わってからゆっくり考えりゃいいか」  適当なところで考え事に限をつけ、部屋で休むことにするキョン。  途中、誰も居ない玄関に目をやった。 「クソ親父、早く帰ってこい」 432 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/26(土) 17:29:10.28 ID:7jV6JVE0  翌日、文化祭当日。  気温は九月にしては若干低く、天気も雨だ。  キョンは珍しく朝早くに学校に登校した。  勿論、軽音部に行くためだ。  部外者なのだが、ここまで来たら近くで見届けたかった。  部室には既に一人を除いてメンバーが揃っていた。 キョン「平沢は・・・いないな」 澪「あっ、おはよう」 キョン「よお」 律「朝早いな」 キョン「それなりに楽しみだからな」 律「おうおう、楽しみにしとけ。本番も楽しんじゃえ」 433 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/26(土) 17:30:07.09 ID:7jV6JVE0 紬「唯ちゃん、来られるかしら?」 澪「メールはきてないけど」 梓「先輩がいないと・・・」 キョン「大丈夫だって、アイツならそのうちひょこっと現れるさ」 澪「今はそう思うしかないよな。そのうちがライブ後じゃないといいけど」 律「まま、まだ時間もあるしリラックスしようよ」 澪「そうだな」 紬「朝のティータイムは如何ですか? 温まりますよ」 律「賛成!」 キョン「俺も」 澪「梓は?」 梓「賛成です」 434 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/26(土) 17:31:03.04 ID:7jV6JVE0  機材の搬入を午前中に済ませ、あとは出番を待つだけだ。  文化祭自体は既に始まっており、メンバーも自分のクラスの催しの為に一度教室へ戻ることに。  唯は12時を過ぎても現れなかった。  午後の催しが始まり、軽音部に再びメンバーが集まる。 律「ふー、なんかやる前に疲れたんだけど」 紬「梓ちゃんは文化祭初めてだけれど、どう?」 梓「楽しいです。ライブもありますし、普段と違いますから」 澪「若いな」 キョン「おばさんかお前は」 澪「な、おば、おばさんとか言うなよ!」 律「よっ! おばさん!」 435 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/26(土) 17:32:04.76 ID:7jV6JVE0 さわ子「みんな、生きてるー?」 律「シンデマース」 澪「先生、唯がまだ」 さわ子「そう」 梓「まだ、時間はありますよね」 さわ子「正直、厳しいかもしれないわね」 梓「で、でも開演までに来れば」 さわ子「電話、繋がらないのよ」 キョン「今、こっちに向かってるなんてことはないんですか?」 さわ子「それは分からないけど、昨日の熱を考えるとどうしてもね」  と、その時ドアの開閉音。 唯「おまたせー」 436 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/26(土) 17:33:14.29 ID:7jV6JVE0 澪「唯!」 さわ子「唯ちゃん、熱はもう平気なの?」 唯「まだ少しはあるけど、少しくらいならへーきです。へへ」 梓「よかったあ」 律「よし、漲ってきたぞお!」 キョン「平沢、お前本当に大丈夫なんだろうな?」 唯「うん」 紬「唯ちゃん、無理しないでね」 唯「ありがとう、ムギちゃん」 さわ子「ああ、私の晴れ舞台が・・・」 律「いや、あんたのじゃない・・・」 437 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/26(土) 17:34:10.28 ID:7jV6JVE0  和に呼ばれ軽音部は講堂に向かう。 律「いよいよかー」 梓「なんか緊張します」 澪「・・・」 紬「澪ちゃんも緊張してるのね」 キョン「分かりやすいな」 唯「キョンくん」 キョン「ん」 唯「ちゃーんと見ててね」 キョン「ああ。焼き付けておくよ」 唯「よく聴くんだよ」 キョン「記憶に残る演奏をしてくれよ」 唯「うん」 438 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/26(土) 17:35:28.21 ID:7jV6JVE0  キョンは舞台袖には入らず、会場の後ろの方の席に座って待つことにした。 キョン「(それにしても意外と人が入ってるな)」  予想以上の観客数に驚く。  軽音部の前の催しが終わり、舞台のカーテンが閉まる。  唯達は舞台上に上がった。 梓「唯先輩、本当に平気ですか?」 唯「へーきだよお」 さわ子「みんな準備はいい?」 紬「私はいつでも」 澪「わ、わたしも」 律「澪、無理するなよ」 澪「だ、大丈夫だよ! 律こそ慌ててリズム崩すなよな」 律「へーんだ! そんなことするかい」 さわ子「みんな位置について待機。頑張ってね」 439 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/26(土) 17:37:33.88 ID:7jV6JVE0  軽音部による演奏とアナウンスが入り、カーテンがゆっくりと開いていく。  そこにはメンバーの緊張しながらも嬉しさを滲ませた顔があった。  ただ、キョンには唯の顔が若干赤みを帯びて見えた。 唯「こんにちわ! 軽音部です。私達軽音部は4月から練習してきて、やっと今日ライブをすることが出来て嬉しいです。ちょっと緊張もしてるんだけど、今日は精一杯演奏するので楽しんでください」  唯のMCが終わり、短く拍手が沸き起こる。 憂「キョンさん、隣良いですか?」 キョン「え? あ、憂ちゃんか。いいよ」 憂「なんか、緊張しませんか?」 キョン「少し。俺が緊張しても意味はないんだけどさ」 憂「お姉ちゃん、まだ完全には熱引いてないんですけど、どうしても行くって止めても聞かなくて」 キョン「今日の為に頑張ってきたからね」 憂「あ、始まります」 440 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/26(土) 17:38:36.83 ID:7jV6JVE0 唯「カレーのちライス!」  律の掛け声から、五つの音色が弾き出される。  気持ちのいいアップテンポの曲。 キョン「(今更だが、澪のセンスには色んな意味で脱帽だな)」 唯「アツアツお皿――」 憂「(お姉ちゃん、頑張れ!)」  ある意味でぶっとんだ歌詞が唯の口から歌になっていく。  紬のキーボードが冴え渡る。 唯「カレーCHOPPiLiライスTAPPULi!!!」 441 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/26(土) 17:39:38.68 ID:7jV6JVE0  二曲目、わたしの恋はホッチキス。  印象的なギターリフから始まる曲だ。 唯「なんでなんだろ――気になる夜――」  唯の声が歌詞の当事者になったかのようにシンクロしていく印象をキョンは感じた。  キョンの隣では憂が体をゆらゆら揺らしながらリズムを取っている。  澪のコーラスがボーカルに厚みをもたらしていて、サビでは特に効いていた。 キョン「(よくこんな短期間でここまで出来るようになったよな)」 442 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/26(土) 17:40:48.17 ID:7jV6JVE0  曲が終わり、拍手が起こる。 唯「えっと、次の曲で最後なんですけど、そのまえにメンバーを紹介します」  唯がメンバーを一人ずつ名前を呼び、各自それぞれ簡単に短いフレーズを聞かせる。 唯「私はこのみんなに出会えてよかったし、みんなのことがとっても大好きです。みんなが居たからここにも立てたました。だから、澪ちゃん、りっちゃん、ムギちゃん、梓ちゃん、ありがとう」  唯がメンバーを逡巡し、それに答えるように頷くメンバー。 唯「今、ここにいる全ての人達と軽音部のみんな、そして、私が大好きな人の為に歌います。ふわふわ時間!!!」  律の掛け声から梓のストロークがリズムよく始まる。  そこに澪のベース、紬のキーボードが加わり、唯のギターも重なる。  唯達に緊張は既になく、体全体で演奏を楽しんでいるのがキョンにはわかった。  会場からリズムに合わせての手拍子も微かに聞こえてきた。 唯「キミを見てると♪ いつもハートDOKI☆DOKI!!」 443 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/26(土) 17:42:34.54 ID:7jV6JVE0  唯の嬉しそうな顔にキョンと憂も自然と口元に笑みをこぼす。  メンバー全員が今にも笑い出しそうな、今だけの特別な時間。  歌のタイトルのとおり、ふわふわした高翌揚感でも味わうように体でリズムをとって音を発している。  キョンの目にはステージ上に幸福感が漂っているようにさえ見えた。  だから、キョンには目の前で起こる出来事を茫然と見送ることしか出来なかった。  突然、ハウリングが起こり機械音が会場に轟く。  そして、何事かと思う間もなくキョンの視界の中で唯は力なく床に崩れ落ちた。  瞬間、この世の音が止んだ。 444 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/26(土) 17:43:26.97 ID:7jV6JVE0  誰かの悲鳴が響き渡ると同時にいくつもの音が重なって蘇った。 憂「お姉ちゃんっ!?」  憂が舞台へ向かって駆け出す。  メンバーは既に唯の周りに集まり、なにやら喋りかけていた。  直ぐに舞台袖からさわ子やら運営の生徒やらも飛び出してくる。  キョンはというと、その場でただ愕然として突っ立っているだけだった。  ざわめく会場。  駆け回る進行や運営に携わる生徒達。  その中でキョンと唯だけが静を保っていた。 445 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/26(土) 17:45:21.55 ID:7jV6JVE0  唯が病院に運ばれた後、人気のない階段で休むキョンに澪が歩みよってきた。 澪「キョン」 キョン「お前か・・・」 澪「行かなくていいのか?」 キョン「まだ片付けが終わってないだろ」 澪「そんなの私とムギに任せていいのに。だから、先に行っていいぞ。私達だってあとから行くから」 キョン「だったら俺だって一緒に行くさ」 澪「いいから唯の顔を先に見に行って来てくれよ」 キョン「憂ちゃんがいるしあとでもいいだろ」 澪「行ってきなよ。唯だって目を覚ましてキョン居てくれた方が嬉しがるよ」 キョン「・・・ふぅ、わかったよ」澪「じゃあ、またあとで」 キョン「ああ」 澪「(全く、素直じゃないな。ま、それはわたしも一緒か・・・)」 446 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/26(土) 17:46:53.78 ID:7jV6JVE0  キョンが病院に着いた頃には、既に唯は病室に移された後だった。  病室に入ると、スツールに座って唯の顔を眺める憂の姿があった。 キョン「憂ちゃん、平沢は?」 憂「お姉ちゃん、意識が戻らないんです。それに気絶の原因が、お医者さんにもよく解らないそうで」 キョン「わからないって、ただの熱じゃないのか?」 憂「わかりません・・・」  憂の背中が微かに揺れる。  続けざまに咽び泣く声が聞こえてきた。 キョン「憂ちゃん」  憂の肩にキョンの手が乗る。  その小さな肩は何かに怯えるように震えていた。 447 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/26(土) 17:47:46.96 ID:7jV6JVE0  憂「わたし、一度家に戻りますね。キョンさんは良かったらお姉ちゃんのそばに居てあげて下さい」  キョンは頷き、憂が部屋を出て行くのを見送った。 キョン「さて、お前は何やってんだ?」  スツールに腰を下ろし、唯に語りかける。 キョン「ったく、最後の最後でやりやがって、一生もんの恥じだぞ、あれじゃあ」  唯はスースーと寝息を立てて、穏やかな顔で眠っている。  キョンはやることもないので、唯の寝顔をぼんやりと眺める。  やがて、瞼がゆっくりと閉じていき、キョンの意識はぼやけて泥のように溶けていった。 448 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/26(土) 17:48:48.06 ID:7jV6JVE0  誰かに肩を揺すらされてキョンは目を覚ました。 澪「お前が寝てどうするんだよ」 キョン「ん、ああ、寝ちまったのか俺」 紬「唯ちゃん、なかなか起きないわね」 律「唯のことだから、お腹空いたら起きるんじゃないか」 梓「一時はどうなるかと思いましたけど、問題なさそうな寝顔ですね」 澪「そういや、憂ちゃんは?」 キョン「俺が来てすぐに帰ったぞ」 澪「そっか。憂ちゃんもびっくりしただろうな」 律「ものすごいスピードでステージに走ってきたもんな」 キョン「姉想いなんだよ」 449 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/26(土) 17:50:00.38 ID:7jV6JVE0 キョン「で、どうだった? ライブの感想は」 律「まあ、最後はあんなだったけどさ。楽しかったよ」 澪「そうだな。意外と人の入りが良かったから緊張したけど」 梓「またやりたいです」 紬「そうね、わたしも楽しかったからもう一度やりたいわ」 澪「じゃあ、また練習頑張らないとな」 紬「唯ちゃんも元気になってからね」 律「でも、ちょっとだけ遊ぼうぜー」 澪「なんだそのテスト明けみたいなセリフ」 律「ライブ明けだから」 梓「あの、一応病院なんでもう少し声量を考えたほうが」 律「だーいじょーぶだって」 「お静かに!!!」 律「あぅ・・・」 450 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/26(土) 17:51:13.99 ID:7jV6JVE0 澪「そろそろ帰るか」 キョン「もう帰るのか?」 澪「だって、ここに居ても仕方無いだろ。明日になったら唯も起きてるだろうし」 キョン「そうか」 澪「キョンは?」 キョン「俺は・・・もう少しここに居るよ」 澪「そう。じゃあ、唯が目を覚ましたら連絡よろしくな」 キョン「おう」 紬「これ、唯ちゃんに渡して」 キョン「ああ、起きたらすぐに食わせるよ」 律「わたしは投げキッスを置いてくか」 キョン「起きたら投げ返されるぞ」 梓「では、あとは任せます」 キョン「また明日な」 451 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/26(土) 17:52:04.05 ID:7jV6JVE0  結局、この日は唯が目を覚ますことはなかった。  面会時間が終わってしまったので、キョンは帰ることにした。 キョン「どれだけ寝るんだか」  独り言をそれだけ言って、病院をあとにした。  家は当然のように無人でキョンの帰りを出迎える。 キョン「ふう、疲れたな」  リビングのソファーに勢いよく体を倒すと、目を閉じて今日起こったことを思い出す。  楽しそうに音を奏でる軽音部の面々。  ステージで横たわる唯。  救急車に乗り込む憂。  病室で見た唯の穏やかな寝顔。 キョン「飯でも食うか」  キョンは、今日の出来事が自分の中で何かに引っかかっていることが気になっていた。 452 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/26(土) 17:53:01.05 ID:7jV6JVE0  翌日、唯は登校していなかった。  憂は登校していたが、いつもの元気がないのは明らかだった。  放課後の練習は勿論なくなり、メンバーとキョンは憂と一緒に病院へと向かった。  ベッド上の唯は依然として眠っていたままだ。 律「あれ、憂ちゃんは?」 紬「お医者さんの方へ、話を聞きにいくって」 澪「なんかの病気なのかな?」 梓「そんな、だってこの前元気だったじゃないですか?」 澪「でも、熱だけでこんなに寝てるっておかしくないか?」 紬「あまり悪い方に考えない方がいいと思う」 律「そうそう、澪は一々心配性なんだよお」 梓「そうです。先輩は病気にかかるタイプじゃないですよ」 453 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/26(土) 17:54:03.36 ID:7jV6JVE0 梓「あっ、憂。どうだった?」 憂「うん。もうすぐ起きるから心配しなくていいよって」 梓「そっか」 憂「みなさん、ご心配させてしまってすいません」 律「なーに、言ってんの。私達の事なんか気にしなくていいよ」 澪「うん、憂ちゃんこそ無理しないようにね」 紬「私達に出来ることがあったらなんでも言ってね」 梓「と言っても、もう起きるだろうけど」 憂「はい、ありがとうございます」  憂がお辞儀をして顔を起こすと、たまたまキョンの顔を目に入った。  キョンは一人窓際に居て、ベッドに寝る唯を見ている。 454 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/26(土) 17:55:22.78 ID:7jV6JVE0 澪「キョン、どうかした?」 キョン「いや、なんでもない」  キョンが見ていたの唯ではなく、布団からはみ出して死人のように力なく垂れ下がった唯の左腕だった。  唯自身により動いたものなのか、それとも他人、すなわち看護士やらによって動かされたものなのかキョンは疑問に思った。  何故そんなこと疑問に思うのかキョンには分からなかったが。 憂「あの、みなさん。ここで待っていても退屈だと思うので、外に行っていただい ても構いませんよ。お姉ちゃんが起きたら、ご連絡しますので」 律「たしかに大人数でじっとしてるのも辛い」 澪「じゃあ、私達は外で待つか。唯には悪いけど」 梓「私は残ります」 紬「私は外で待つわね」 澪「キョンは?」 キョン「俺も外で待つよ」 455 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/26(土) 17:56:45.32 ID:7jV6JVE0  澪達と病室を出たキョンは、いつのまにか澪達の姿を見失ってしまった。  頭の中で先ほど見た唯の左腕が鮮明に脳裏に焼きついてフラッシュバックして気をとられていたたのだ。  見失ったといっても入り口に行けば合流出来る筈で、キョンは入ってきたときに歩いた通路を探す。  見つけた。  入り口に向かって歩く。  だが、前方から歩いてきた人物の顔を見て歩みを止めた。  古泉一樹。 古泉「こんにちは」  学校で見せるものと寸分も違わぬスマイル。  軽く応えてさっさと外へ出ればいい、キョンはそう考える。  しかし、キョンの足はそこから動かなかった。  本能的にこの男と話をしなければならない、そう感じていたからだ。 古泉「お話があります」 456 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/26(土) 17:58:06.47 ID:7jV6JVE0  古泉に連れられ、もう一方の出口から病院を出た。  携帯の電源は切ってあるので澪達の邪魔が入ることはない。  病院の敷地内にあるベンチに二人は座った。  ここに来てキョンは分からなくなった。  なんでこの男と俺が話さなきゃならん。  なんも話すことなんかないじゃないか。  嫌だ。  不吉な予感がする。  怖い。  こんなところに居たらダメだ。  そう思ってキョンはベンチから立ち上がろうと下半身に信号を送ろうとした。  しかし、新たな来客らしい人物に気が付き動きを止める。 457 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/26(土) 17:59:21.89 ID:7jV6JVE0 キョン「長門・・・」  キョンと古泉のもとへ、長門有希が歩み寄る。 キョン「なんでここに居るんだ? 部活はどうした? ああ、そうか。お前も平沢のお見舞いに来たのか。澪から教えられたんだろ」  長門は顔を横に振る。  違う。 キョン「じゃ、なんだ。お前通院でもしてるのか」  頷かない。  沈黙。 古泉「あなたは未だに自分が誰か思い出していらっしゃらないみたいですね」 キョン「なんだそれ? お前の話ってのはそんなファンタジーなことなのか? それなら俺はさっさと帰るぜ」  帰りたい。  一刻も早くこの場から立ち去りたい。 古泉「涼宮ハルヒ」 458 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/26(土) 18:00:30.44 ID:7jV6JVE0 キョン「え?」 古泉「涼宮ハルヒ。ご存知ですか?」 キョン「すずみやはるひ? 誰だそいつは」 古泉「そうですか。さて、どこからお話しましょうか。どうすればあなたの理解を得やすく、ショックを最小限に抑えられるのか中々に難しいですからね」 キョン「何が言いたい?」 古泉「我々は未来から来ました」 キョン「は?」 古泉「どう思いますか?」 キョン「んな、アホらしくてなんとも思わん」 古泉「まあ、今のは嘘です。本当は我々は宇宙人だと言いたかったんですよ」 キョン「・・・・・・」 古泉「おや、驚きのあまりに声を失ってしまいましたか」 キョン「殴るぞ」 古泉「そこは変わってないみたいで安心しますね。ああ、今のも嘘です」 459 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/26(土) 18:01:42.04 ID:7jV6JVE0 古泉「我々は超能力者なんですよ。一気に身近になったと思いませんか?」 キョン「思わないね、超能力者なら超能力を見せてみやがれ」 古泉「承知しました」 キョン「え?」  古泉は急に立ち上がると、その場でなにやら精神を集中するみたいに直立不動になる。  そして、キョンは目を疑うことになる。  古泉一樹は地上から数センチだが浮いたのだ。 キョン「なっ!?」 古泉「長門さん、あなたも」  キョンは長門を見る。  長門もやはり浮いている。 460 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/26(土) 18:03:27.13 ID:7jV6JVE0  ピアノ線のようなものがあるわけでもなく、何もないところで二人の高校生はたしかに宙に浮いていた。  キョンはそれを認めざるおえなかった。 古泉「もう一つご覧頂きましょう」  古泉は地面に足を着けて、再び直立不動になる。  すると今度は一瞬にして古泉の体が赤い球体上のものに変化してしまった。  キョンは驚きのあまり声が出ない。 古泉「どうです? お分かり頂けましたか。我々が只者じゃないということが」  キョンはただ頷く。  古泉は元の体、人型に戻ってベンチに座る。 古泉「もう一つ、我々は異世界人だと言ったら驚きますか?」 キョン「異世界・・・」 461 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/26(土) 18:04:28.31 ID:7jV6JVE0 古泉「ええ、異世界から僕と長門さんはやってきました」 キョン「異世界ってパラレルワールドとかのことか? それで俺に世界の危機が迫っていることを教えにきたとか言うんじゃねえだろうな」 古泉「パラレルワールドではありませんし、あなたに世界の危機をお伝えする気もありません。ただ・・・」 キョン「ただ?」 古泉「平沢唯さん・・・でしたか?」 キョン「平沢!?」 古泉「あなたは彼女のことをどう思っておいでですか?」 キョン「お前には関係ないだろ」 古泉「ええ、たしかに僕には関係ありません。しかし、あなたには関係がおありでしょう」 キョン「何が言いたい?」 古泉「彼女が目を覚ますことはありません」 462 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/26(土) 18:05:32.10 ID:7jV6JVE0 キョン「おい、そんな嘘に騙されるとでも思ってるのか?」 古泉「嘘だと断言出来ますか? 先程の超能力を見たでしょう」 キョン「・・・もういい、話は終わりだ。付き合ってられるか」  立ち上がる。 長門「待ってほしい」  長門の声にキョンは停止する。 長門「あなたにとって大事なこと」 キョン「そんなこと信じられん」  キョンはそのまま右足を踏み出そうとした。  が、身体が動かない。  何らかの力により、再びベンチに座らされてしまった。 463 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/26(土) 18:06:42.53 ID:7jV6JVE0 キョン「お前ら!?」 古泉「ご安心下さい。あなたを傷付けるつもりはありません。とりあえずは我々の話をお聴きして貰えれば良いのですが」 キョン「・・・・・・いいぜ。話がしたいなら好きなだけ話せばいいさ。俺には関係のない話だ」 古泉「わかりました。では続きを。最近、あなたの身の回りで何か変わったことはありませんでしたか?」  変わったこと。  親父が失踪し、谷口も消えた。  古泉、橘の転入。  平沢が倒れる。 古泉「恐らくあなたの頭の中でいくつか浮かんだと思いますが、それらは偶然ではありません」 キョン「まさか!? お前の仕業か?」 古泉「関係ないのではなかったんですか? んっふ、すいません、怒らないで下さい。それらは僕らの手によるものではありません。どちらかというと、あなた自身が招いた事象と言っていい」 キョン「俺自身・・・」 464 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/26(土) 18:07:44.56 ID:7jV6JVE0 キョン「どういうことだ?」 古泉「まず、あなたのご家族とご友人がいなくなったのはこの世界の住人ではないからかと思われます。 キョン「んなことあるか! なら俺は誰の子供だ!」 古泉「無論、あなたの知っているご両親の子供です」 キョン「なら」 古泉「まだわかりませんか?」 キョン「解らないね、解りたくもねえ」 古泉「・・・つまりですね、あなたもこの世界の住人ではないということです」 キョン「なにを・・・」 古泉「僕と長門さんはあなたを迎えに来たんですよ。本物の世界から偽物の世界に やってきたのもその為です」 キョン「偽物・・・」 465 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/26(土) 18:08:49.98 ID:7jV6JVE0 古泉「ええ、正しく虚構の世界と言っていいでしょう」 キョン「ちょっと待て、本物とか偽物とかそんなのあるわけねえだろ。俺はこの世界で生きてきた。あいつらと・・・平沢達と楽しくやってきたんだぞっ! あいつの手の感触だって歌声だって全て本物だ!」 古泉「この空間は少々特殊でしてね。現実世界と殆ど変わりない空間です。ですから内から見る世界は本物にしか見えないのも無理はありません。」 キョン「空間ってなんのことだ?」 古泉「現実世界が1から10まであるとしたら、この空間は1から2または3までと言ったところでしょうか。あなたの見る世界が全てなんですよ。それが何故かわかりますか?」 キョン「・・・・・・」 古泉「この世界があなたの夢の中だからです」 キョン「夢・・・」 古泉「今のあなたは夢を見ている」 キョン「夢じゃない、これは本物だ・・・。大体、夢ならお前らがなんで居る」 466 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/26(土) 18:11:21.02 ID:7jV6JVE0 古泉「そこがこの世界、空間の不思議なところなんですよ。ただの夢ではない。では何故この可笑しな夢を見ているのか、原因を知りたくはないですか?」 キョン「・・・」 古泉「本物の世界での四日前のことです。あなたととある女性が交通事故に遭われて、お二人とも意識が中々戻らない。そこで、僕と長門さんがあることに気が付きました。あなたの意識を元に異質な空間が発生している。関係性を調べようと、僕と長門さん、橘京子を含む三人で空間内の調査を行いました。その結果、夢に類似した空間であり、この存在があなたの意識覚醒の妨げになっているという結論に至った。しかし、我々の力による覚醒よりもあなた自身による自発的な覚醒が望ましいことには変わりが無い。ですから、僕達は多少の猶予を持って様子を窺っていたんです。そこに問題が起きました」 キョン「・・・」 古泉「あなたと共に事故に遭った女性。涼宮さんが目を覚ましましたんです」 キョン「すずみや・・・はるひ・・・」 古泉「何が問題かと言いますと、あちらの世界でもこちらと同様、あなたは女性受けが良いんですよ。涼宮さんもあなたとはそれなりに親密な関係におありでしてね。その涼宮さんがいつまでも目を覚まさないあなたを見て、精神状態に異常を来たすのはよろしくないんです。そうなる前に我々がやるべきことは、夢見るあなたを半ば強制的に起こさなくてはならず、このようにあなたと接触をしている。以上があなたが知るべき真相です」 キョン「真相・・・」 古泉「ええ、残念ではありますが」 467 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/26(土) 18:12:33.20 ID:7jV6JVE0 キョン「なんで、なんで平沢は目を覚まさない・・・」 古泉「これはあくまで僕の推測に過ぎませんが、彼女は涼宮さんと対になっていたのではないかと思われます。何故そうなったかは解りません。ですが、涼宮さんが目を覚ました時に平沢さんが倒れたと仮定すると一番納得しやすいんです。となると、涼宮さんが覚醒している状態で平沢さんが目を覚ます可能性は低いと考えられます」 キョン「(なんで、なんでこうも簡単に納得しまっているんだ俺。否定すりゃいいのに・・・・・・クソッ!)」 古泉「お気持ちは解ります。ですが、あなたは戻らなければならない」 キョン「んなこと、んなこと知るかっ! 俺はこの世界で生きてんだ!」 古泉「違います。あなたはこの世界を彷徨っているだけです」 キョン「違わねえ!」 古泉「違いますよ。仕方がない。長門さん、お願いします」 キョン「おい、なにする気だ」 古泉「あなたに思い出してもらいます。元の自分を」 キョン「・・・やめろ!!」 468 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/26(土) 18:13:28.63 ID:7jV6JVE0 キョン「・・・・・・」 古泉「お元気ですか?」 キョン「古泉・・・お前」 古泉「お久しぶりです。あなたの記憶が戻った今、残りの時間はあまりない筈ですから、さよならの挨拶をするなら急いだ方が良いですよ」 キョン「クソッ!」  キョンは一目散に病院へと駆け出す。  身体の拘束力も解けていた。 古泉「あまり、嬉しくない役まわりになってしまいましたね」 長門「彼の為」 古泉「ええ」 469 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/26(土) 18:15:21.39 ID:7jV6JVE0  キョンは看護士から注意を浴びながらも、唯の居る病室目指して息を荒げながら廊下を駆ける。  思い出した。  思い出してしまった。  キョンは自分が何者か理解してしまった。  それでも、この世界で過ごした時間を失ってしまうことが信じられない。  走っている間にも、今までの出来事の数々が脳裏に浮かび上がる。  やっとの思いでついた病室の前。  扉を開く。  憂はいない。  あるのはベッドにいる唯の身体だけだった。 470 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/26(土) 18:16:36.86 ID:7jV6JVE0  キョンはベッドの横に立つ。  先程の古泉の言葉がキョンの頭の中に流れる。  ――彼女が目を覚ますことはありません。  キョンはスツールにどすっと力なく腰を下ろす。  自分に突きつけられたあまりにも一方的で理不尽な現実が憎い。  その一方で自分が夢から覚めないといけないことも理解していた。  自分の前に笑顔を振り撒く唯が存在し、ちょっと前までは言葉を交わしたことは夢であろうとこの身で感じられた。  こんな夢は悪夢だ。  やり場のない怒りがキョンの中で蠢く。  誰の所為でもない。  キョンは、自分自身が招いた事態だということがなにより悔しかった。 471 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/26(土) 18:18:01.82 ID:7jV6JVE0  キョンは首に掛けていたピックのペンダントを手にとる。 「(これだって、ちゃんとこの手の中にあるのにな)」  この世にキョンと唯の二人しかいないんじゃないかというほど、病室が静かに感じられた。  もしくはそうなのかもしれない。  夢の終わりがそこまで近づいていて、自分のいる空間だけが残っているのかもしれない。  キョンはそう思った。 「・・・笑っちまうよな。これ、夢なんだぜ」  その声は僅かに震えていた。 「まだ、お前に返事してねえのに」  唯は応えない。 472 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/26(土) 18:20:08.19 ID:7jV6JVE0 「好きだ・・・俺も好きだぞ・・・」 「ったく、なんでこんな時まで寝てんだ。人が折角返事をしてやってるのに。少しはこっち見てくれたって良いだろうに」  キョンは唯を見ていない。  視線の先にあるのは薄汚れた床だ。  キョンのズボンに何かがこぼれ落ち、染みをつくる。 「あれ、なんで泣いてんだ俺は。ハハッ、これは汗だ汗。目から汗がさあ・・・」  我慢出来ず、両手で顔を覆う。  指と指の隙間から嗚咽が漏れ出す。  好きな女の前で泣くことは恥ずかしかったが、それでも涙を堪えることがキョンには出来なかった。 473 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/26(土) 18:21:02.90 ID:7jV6JVE0  何も考えられなかった。  ただ、自分が泣いているのだということだけが頭を支配していた。  だから、キョンは自分の頭になにやらが当たっていてもすぐには気付かなかった。  自分を慰めるように、何かが頭に優しく触れた。  気付いて、ハッと頭を起こす。  唯の右手がなにかを探すように宙を泳いでいた。 「平沢!?」  キョンは反射的に唯の顔を見るが、目は開いていなかった。  起きてはいない。  でも、右手はこうやって動いている。  夢ではあっても意思を持って動いている。 474 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/26(土) 18:22:32.58 ID:7jV6JVE0  キョンは唯の右手を握り、片方の空いた手を上から包むように重ねる。  すると、微弱な力ではあるが唯の右手が握り返してきた。  唯の手の温もりが、また一層とキョンの中の夢と現実の境界を曖昧にする。 「平沢。俺はここにいるぞ! ここにいる!」  恐らく声は届いていない、それでもキョンは声をかけ続けた。  自分でなにを言っているのかわからなくても関係はなかった。  声をかけなければいけない。  ただ、そんな気がした。  少し経って沈黙し、息を継いだ。 「平沢。俺は帰らなくちゃならないんだ。悪い。折角逢ったのにな。俺だって、帰りたいわけじゃないんだが」  そこまで言って言葉を詰まらせる。 475 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/26(土) 18:24:33.04 ID:7jV6JVE0 「・・・・・・これで最後じゃない。また会おうぜ。それまでのしばしのお別れだ」 「夢の中で逢えたら空だって飛べるし、飛べたらどこにだって行ける。だから、絶対に・・・顔出せよ」  そう言って唯の手を口元に寄せて、手の甲に軽く唇をつけた。 「悪い、反則だな。・・・・・・じゃあな、もう時間がないらしい。なんでか知らんが分かっちまうんだ」  唯の手をベッドの脇へと戻すと、背を向け扉へと歩き出す。  夢の出口の一歩手前で立ち止まる。  そして、振り返る。 「次、逢う時は桜が咲いてるといいな」  ――うん。いっぱーい咲いてたら良いねえ。  多分、唯は笑いながらそう答えるんだろう。  桜と同じような、くしゃくしゃで満開な笑顔で。 476 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/26(土) 18:25:39.02 ID:7jV6JVE0  キョンは唯に微笑み返し、扉の取っ手に手をかけた。  これで夢は終わる。  扉がずれる。  目を開けていられないほどの強烈な光がキョンを襲う。  まるで宇宙を漂うよっているかの如く方向感覚を失っていく。  頭がぼんやりしてくる。  足元からほどよい温もりが伝う。  いつの間にか景色は変わって、海の中にいた。  深い深い海の底から白い光が浮いた海面へと頭が飛び出す。  世界がおかえりと出迎える。  夢は終わりを告げた。 477 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/26(土) 18:26:51.66 ID:7jV6JVE0  無機質な天井がキョンを見下ろしていた。  キョンの頬を涙がつつつと伝う。 ハルヒ「キョン!? キョン!? ・・・どうして泣いてんのよ? どっか痛いわけ?」  キョンの視界は水面のように涙で揺れていた。 ハルヒ「待ってなさい、みんなに起きたこと知らせてくるから」  キョンは夢の記憶がどんどん欠けていくのを感じた。  自分は忘れないと思っていても、記憶は遥か彼方へ遠ざかっていく。  忘れない。  忘れない。  キョンは心の中で平沢唯の名を呟きつづけた。 478 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/26(土) 18:28:32.17 ID:7jV6JVE0  時は過ぎ、季節は変わった。  キョンはとっくに退院し、普段どおりの学校生活を送っている。  夢の記憶も今では軽音部のメンバーの名前しか覚えていない。  退院したキョンはすぐさまノートに夢の詳細を書こうとしたが、思い出せたのはそれだけだった。  顔もどうだったか思い出せない。  他に覚えていることといえば、平沢唯という女の子を好きだったということだ。  何故、自分は夢の中の女の子を好きになったのだろうか。  キョンは時々そんなことを考える。  理由は結局分からないのだが。 479 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/26(土) 18:29:34.73 ID:7jV6JVE0  教室での授業合間の短い休み時間。  席で窓の外をぼんやり眺めるキョンの姿。  この時もたまたま、五人の名前を頭に浮かべていた。  平沢唯、秋山澪、田井中律、琴吹紬、中野梓。  ――どうして夢に出てきたであろう人間に、名前がしっかりとあるのか不思議でならない。  それに顔だって覚えてはいないがあったはずだ。  どこかで会ったことや見たことがあるのだろうか――。  そこまで考えて、思考は停止する。  と、キョンの背中を突付くシャープペン。 ハルヒ「ねえ、あんた予知夢とか見たことある?」  面倒そうに振り返るキョンを、眉間に皺を寄せたハルヒが待ち受ける。  ――そうか、予知夢だったら面白いかもしれん。 480 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/26(土) 18:30:29.68 ID:7jV6JVE0  ハルヒと予知夢についてだらだらとトークするキョンに男子生徒二人が近づいてくる。  谷口。国木田だ。 谷口「キョン、ちょっと聞いてくれよ」  悪いニュース。  良いニュース。  普段はどちらでもないことの方が多いのだが。  ――今回はなんだか良いニュースな気がするな。  理由もなくキョンはそう思った。  キョンは何となく外に目を遣る。  秋の足音はすぐそこまでやってきているようだった。  おわり 481 名前: ◆l7YGBOVhE2[sage] 投稿日:2009/12/26(土) 18:32:24.99 ID:7jV6JVE0  というわけでやっと完結致しました。長い間辛抱強く読みつづけてくれたかたには本当に感謝しています。ありがとうございます。  さて、スレ立て当時頭にあったものとは90度近く話しが変わっていまして、このように微妙なクオリティになってしまったことは申し訳ない気持ちで一杯です。  最後のシーンのところは、無名の作品のキョン「放課後ティータイム?」の冒頭に続くようになっています。世界観は違いうので形だけですが。  そしてご存知の方がいれば良いのですが、そのキョン「放課後ティータイム?」の続編というか完結編を近いうちにやりたいなと思っています。  どこでやるかは未定ですが、見かけたら支援していただけたらと思います。  保守ばかりさせて本当に申し訳なかったです。  では、よいお年を。