キョン「ペルソナ!」 1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/17(金) 20:52:08.88 ID:pcos3fpb0 鶴屋「やあやあみくる」 鶴屋「長門っち長門っち〜」 鶴屋「はーるにゃーん」 鶴屋「はろーいっちゃん 鶴屋「やあやあキョン君キョン君……」 鶴屋「誰もいねえwwwwwwwwwwwww」 3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/17(金) 21:03:09.67 ID:pcos3fpb0 ……… さて。11体のシャドウを倒した俺たちの前に、突如として現れた巨大な赤い塔。 その上方に、俺たちではない人間の反応を見つけた俺たちは その人物に逢うため、天高く聳えるモナドの塔へ挑み始めた…… そして、今。 俺たちの目の前には、こちらへ向かって爆走する斗うメイドさん・森園生さんと その背後を大変グロテスクに演出する、大鎌を携えた死神の姿がある。 おかしいな。予定なら、森さんがあの死神を、どこか俺たちからは無害な場所へと誘導してくれるはずだったのだが。 ああ、こういう事態をどう呼ぶか、俺は知っている。 作戦失敗。 「仕方ありません、戦いましょう!」 手の中の機関銃を持ち直しながら、古泉が言う。 しかし、それに猛烈に食いかかるのが、岳羽さんと伊織の二名。 「だから、あいつはそういうレベルじゃあないのよ! 捕まったらまずやられるの!」 「あの死神をどうこうできるのは、昔あいつがよくやってたなんかすげえアレぐらいなんだって!」 「え……えっと、じゃあ、僕らも、逃げます?」 古泉のその一言を皮切りに。 その場の九人が、一斉に背後を振り返り、全速力で駆け出した。 ああ、みじめとでもなんでも言えばいいさ。 13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/17(金) 21:21:59.60 ID:pcos3fpb0 しかしながら。不運なことに、俺立ちの立つこのフロアは、果てしなく一本道の続く迷路の如きフロアだった。 逃げ場も隠れ場もない上に、このまま進めば、反対側の行き止まりへと追い込まれてしまうだけだ。 これ、なんて死亡フラグ? それにしてもだ。追いついた森さんを加え、総勢10名で全力疾走しているわけだが その中で、まず、戦闘経験豊富なS.E.E.Sの5人は当然、敏捷性にも長けている。 更に、森、古泉の両名もまた、普段から閉鎖空間で馴らしているだけの運動力はある。 朝倉は基本的に身体能力はチートである。 残るは俺と俺の妹。しかし、その一方である俺の妹の体は今、前方を駈ける天田少年の背中にある。 そして最後に残った俺はというと。特に運動不足ではないものの、身体能力は悲しいほどに一般人レベルであり。 必然的に、背後に忍び寄る死神の手は、真っ先に俺に届いた。 「キョンくぅん!」 俺の体が宙に浮いたことに、一番初めに気づいてくれたのは、我が妹だった。 一瞬遅れて、俺は今、自分がどういう状況に晒されているのかを把握する。 骨がむき出しとなった死神の手が、俺の着る制服の首根っこを掴み上げたのだ。 これは、後ろからいきなり、鎌でばっさりとやられなかっただけ、マシと思うべきなのか? 死神の腕がぐるりと動かされ、俺は死神の方向を向かされる。 眼前に、白骨を模した仮面。 双眸の向こうに広がる闇が、俺の顔を、何かを確かめるかのように、じっとりと見つめている。 「……」 声は出ない。ただ、全身から冷たい汗が噴出している。 二つの空洞は、まるで時を止められてしまったかのように、俺を見つめ続けている。 しかし、奇妙なことに。その視線(?)から、俺の命を奪おうとする意思が、まったく感じられないのだ。 鈍感には定評のある俺が言ったんじゃあ、信用されにくいかもしれん。しかし、これは本当だ。 こいつは決して、俺を殺そうとはしていない。 18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/17(金) 21:40:46.54 ID:pcos3fpb0 『……』 それは数分間ほどであっただろうか。 やがて、死神は、切られていたスイッチを入れなおされたかのように動き出し 眼前にぶら下げた俺を、もう飽きてしまった。とでも言わんばかりに、地面に放り出した。 「だっ、大丈夫ですか」 真っ先に、古泉が駆け寄ってきてくれる。手には、引き金に指をかけた状態の機関銃を構えて。 その他、数名も覚悟を決めたらしい。皆が召喚器を構える音がした。 しかし、そんな一同の意思とは裏腹に。 まるでスクリーンに映した映像が消えてしまうかのように、俺たちの目の前から消えてしまった。 「……え、何、これ、何だったの?」 呆然としながら、岳羽さんが呟く。 しかし、おそらくその質問に答えられるものは、この場にはいないだろう。 10人が10人とも、呆気に採られた表情で、ぼんやりと中空を見つめていた。 『……あっ、あの、ペルソナの反応が消滅しました……撃破、したんでしょうか?』 忘れていた頃に、山岸さんからの通信が届く。 「い、いえ、俺たちは、何もしてないんですけど」 『えっ……そうなんですか? てっきり、キョン君かアイギスが倒したのかと……』 アイギスならまだしも、俺にそんな度量があるはずもない。 放り出されたときに打ち付けた背中をさすりながら、俺は山岸さんに、事の顛末を簡単に説明した。 21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/17(金) 21:58:11.95 ID:pcos3fpb0 『……不思議です、今まで、そんな事一度もなかったのに』 山岸さんは一瞬、俺たちと同様に考え込みそうになったが、その直後 『と、とにかく、ご無事で何よりです。また死神が出現しないとも限りませんし、先に進みましょう!』 どこかしらキツネに抓まれたような気持ちを引きずったまま、俺たちは、たったいま逃げ帰ってきた道を改めて辿り、先ほど死神の居た突き当りを左に曲がった。 案の定というべきか、そこには新たなフロアへと続く階段がある。 とにかく、過ぎたことをどうこう振り返っても始まるまい。 この塔があとどれほど続くのかは知らないが、おそらく、俺たちは未だ全体の半分も上っていないだろう。 『例の人の気配は、少しづつですが近づいています。もうすこし近づけば、場所も特定できると思うんですが』 突如として現れたモナドの塔に、突如として現れた謎の人物の反応。 俺には、その正体不明の人物が誰であるか、大体のめぼしは付いている。 おそらく、古泉や朝倉、森さんも、それは同じだろう。 「引き続き、ナビをお願いします」 空中に向かって一言を投げかけ、俺は階段を上り始めた。 23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/17(金) 22:16:41.82 ID:pcos3fpb0 ……… それから、どれほどの時間が経っただろうか。 おそらく、時計がもう一回りするほどの時間は経過したのだと思う。 もう数十度目となる、階段を駆け上がる作業を終えたとき。俺たちの目の前に、其れまでとは違う光景が広がっていた。 「これは……何でしょうか」 360度を赤い壁に覆われた、何もない、床と壁のみの空間。 そこには、天井すらなく、変わりに、真っ暗な闇が、果てしなく高くまで続いていた。 「頂上……なのか? おい、風花?」 『あっ……い、いえ。かなり上層ではあるようですが、頂上ではありません』 頭の中の山岸さんが言う。しかし、目視できる範囲に、階段や、上階へと続く経路は見当たらない。 25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/17(金) 22:33:52.08 ID:pcos3fpb0 『! えっ、これ……何?』 不意に、山岸さんの声がゆれる。 「どうしたんですか、風花さん?」 『そ、そのフロアに……皆さん以外に、一人! 人間……いや、ペルソナ? わかりません、こんな反応、初めてです!』 その一言を合図に、それぞれが周囲に視線を張り巡らせる。 ……探すまでもない。その反応の持ち主は、いつの間にか、俺たちの目の前に立っていたのだから。 「うそ」 朝倉の口から、そんな言葉が零れだす。 ああ、俺もウソだと思いたい。 まさかこいつが、俺たちの前に立ちはだかる日が来るなんて、思いたくなかった。 「……エラー」 26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/17(金) 22:41:03.91 ID:pcos3fpb0 一見すると、そいつは俺の記憶の中のそいつと、なんら変わりない姿で、俺たちの前に立っていた。 冷たい口元も、どこか眠たそうな瞳も、俺にとっては見慣れた、そいつの当たり前の表情だ。 しかし、違う。そこにいるのは、俺の知るそいつではない。 そいつの中に、俺の知らない何かが入っている。 「有希ちゃん?」 沈黙で張り詰めた空間に、火のついたマッチを投げ込むように、妹がその名前を口にする。 長門は、誰も存在しない空間を見つめながら 「エラー」 と、もう一言呟いた。 それは、長門の理性が発している、俺たちへのメッセージなのだろうか。 「……長門、何が起きてるんだ」 俺は、目の前の冷たい表情の内側に、ほんの少しでも、俺の知る長門の要素が残っていることを信じ その小さな体躯に向けて、訊ね掛けた。 その声でようやく、長門の視線が、俺の視線と重なる。 28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/17(金) 22:51:25.45 ID:pcos3fpb0 「……私の中に、ある、要素、イレギュラー」 覚えたての日本語を持て余した異国人のような口調で、長門が言葉をつむぐ。 「思考、それ、奪い、シャドウ、涼宮ハルヒの、力、カギ、貴方、倒させ」 でたらめに散らばったパズルのピースのような言葉たちが、俺たちの元へ転がり込んでくる。 バラバラなその単語の連なりから、辛うじて一つの事実が読み取れる。 やはり、あの満月のシャドウを倒すことは、俺たちにとって正しい道ではなかったのだ。 しかし、それを倒させるように仕向けたのは…… 「……"あなた"だったのね、私たちを騙してくれたのは」 朝倉が、膨れ上がる怒りを押さえ込みながら、目の前に立つ、そいつに向けて、声を投げかけた。 その、直後。 長門が、笑った。 「約10件の不要なプロセスを確認」 今の今まで、ぎりぎりのところで意識を持ちこたえていてくれた長門が、ついに力尽きたのだろう。 目の前に居るそいつは、もう長門ではない。 長門の姿をした、何か。俺たちと敵対する、正体不明の何かだ。 「消去する」 その一言と同時に、長門の体を、見慣れた青白い光が包み込んだ。 29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/17(金) 23:02:11.84 ID:pcos3fpb0 「サマエル」 長門の頭上に現れたそいつを前に、俺たちはまず、そのペルソナとしての体躯の巨大さに息を呑まされた。 天田のカーラ・ネミや、岳羽さんのイシスも、ペルソナとしては派手で、巨大な外見をしている。 しかし、長門のペルソナは、それらをはるかに上回る。前兆は20メートルを下らないだろう。三対の巨大な羽根を目一杯に広げれば、横幅も15メートルはありそうだ。 流れる血液をそのまま皮膚へと変えたような、真紅の体を持つ、巨大な竜。それが、長門のペルソナだった。 『ひあっ! き、聞こえますか、キョン君、みなさんっ!』 不意に、頭をよぎる場違いな声。朝比奈さんだ。 「どっ、どうしたんですかっ!?」 『すみません、あの、山岸さんのペルソナの力じゃ、そこまで届かなくて……わ、私のペルソナならできちゃったみたいでっ!』 何と言うことか。 中身は異なるとはいえ、まさかのVS長門戦を、朝比奈さんの単独ナビゲーションのもとに行えというのか。 それ、かなりやばくね? 33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/17(金) 23:21:20.33 ID:pcos3fpb0 『え、えっと、その、その人から! 長門さんから、じゃなくて、上の人からっ』 「落ち着いてください、みくるさん」 やけに冷静な声が、混沌を更に入り組ませる朝比奈さんの嬌声を一蹴する。 「そ、そうよ。落ち着いて、わかることだけ話してくれればいいから!」 続けて、両手で弓矢を引き絞りながら、岳羽さんが言う。 それでようやく、落ち着きを取り戻したのか 『は、はい! あの、前のその人は、とりあえず、えーっと……あ、熱いのを感じます!』 などと、曖昧かつ前衛的なナビゲーションをしてくれた。 長門の頭上のペルソナが動き出したのは、丁度、朝比奈さんの声が止んだ瞬間だった。 巨大な体を、まるで小さな虫のようにのた打ち回らせ、長門のペルソナが吼える。 すると、体の前に光の輪が発生し、それが薄い膜のようなものとなり、長門と、そのペルソナの姿を包み込んだ。 34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/17(金) 23:26:53.40 ID:pcos3fpb0 『ラクカジャ』 長門の声によく似た、しかしいくらか濁った声が、そう一言呟く。 同時に、長門の体が、黄金色の光に包まれる。 『マハラギダイン』 そこから間を置かずに、すぐにペルソナがもうひとたび吼える。 速い。一瞬のうちに、いくつもの行動を取ってくる。 ペルソナが首を振るうと、そこから赤い閃光が放たれ、俺たちを襲う。 選考の触れた場所から炎の柱が立ち上り、連続して発生するそれは、やがて炎の壁となり、海となった。 「きゃあぁっ!」 朝倉が身を焼く炎に声を上げ体を竦める。まずい。回避行動をとる余裕さえなかった。 いつもなら、アイギスが迅速なマカラカーンでフォローしてくれるはずなのだ。 と、炎を必死でかいくぐりながら、アイギスを見る。 アイギスは俺の視線に気づくと、何かを悟ったように 「すみません、カルティケーヤにしてしまいました」 と、言った。 できれば今度から、そういうのは一言相談してからにして欲しい。 35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/17(金) 23:34:29.26 ID:pcos3fpb0 『ええっと、朝倉さんが、危ないです! すごく、、その、ダメージが大きいです!』 朝比奈さんが声を上げる。しかし、回復をしようにも、現在も炎の海は絶賛営業中であり、俺たちはそちらの始末に手一杯なのだ。 「シャミ、おねがい!」 刹那、炎の海から飛び出した妹が叫ぶ。現れた猫男爵ヘリオスが、俺たちの体を光の壁で包んでくれた。 それでようやく、全身にまとわり付く炎から開放される。 「メディアラハン!」 すぐさま岳羽さんが、一同のダメージを癒す。 そこに追い討ちをかけるように、再び長門のペルソナが体を振るわせる。 魔法の壁がある分、今度はこちらも多少は強気だ。 あわよくばカウンターを返してやろうと、召喚器を構える。 『メギドラ』 こんちくしょう。 38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/17(金) 23:49:06.97 ID:pcos3fpb0 「メタトロン、緊急回避であります!」 長門のペルソナが起す爆発が、俺たちの体を焼こうとした寸前、アイギスが叫んだ。 刹那、アイギスの体から……これまた、長門のものに負けないほど、巨大なペルソナが現れる。 巨大な翼を持った巨人の如きそいつが、両翼で地表を撫でる。 「のわぁっ!?」 直後、突風が巻き起こり、俺たちの体は空中へと吹き上げられる。 その瞬間、地表で爆発。その爆風が、俺たちの体を更に煽る。 気が付けば、俺たちは長門のペルソナの顔面と並ぶ高度に到達していた。 目に入った地上の遠さに、一瞬背が涼しくなる。しかし、これはある種チャンスだ。 「ペルソナぁ!」 空中でご丁寧に召喚器を構えている余裕はない。 巨大な体躯とは裏腹に小さい、長門のペルソナの頭部をにらみつけながら、俺はペルソナを呼んだ。 『ゼロスビート』 幸運なことに、現れたのは例のタトゥーのペルソナ(名称、今のところ未定・不明)だった。 オレンジ色の光の帯が無数に放たれ、それが長門のペルソナの体に被弾する。 39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/17(金) 23:57:39.48 ID:pcos3fpb0 「ワオオオン!」 「ウェルギリウス、ガルダイン!」 「ベアトリーチェ、ニブルヘイム!」 「レーオポルト、ゴッドハンド!」 「シャミ、やっちゃえ!!」 俺に続き、召喚器フリーのペルソナ使い達が、次々と空中でペルソナを召喚する。 ちなみに、明確な技名をぼかした二名が放ったのは、俺の見た限り、コロマル氏はアギダイン、妹のペルソナはメギドラを放った。と、思う。 兎も角、俺たちの攻撃は、残さず長門のペルソナに叩き込まれた。その攻撃に、真紅の巨体がうねり、喘ぐ。 できるならもう何発か攻撃を叩き込んでやりたいところだった。が、贅沢は言っていられない。打ち上げられた俺たちの体が、重力によって、再び地面ね到達しようとしているからだ。 「マハガルダイン!」 「ガルダイン!」 「竜巻!」 考えることは皆一様だ。岳羽さん、古泉、俺とが一斉に、疾風の魔法を、地面に向かって放つ。 以前、中庭に飛び降りた時と同じ要領だ。 地表で巻き起こされた三つのつむじ風が、俺たちの体を、重力から僅かに開放してくれる。 41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/18(土) 00:01:38.33 ID:W39N/MaM0 どすん。 「ぐふっ」 風によって大部分が軽減されたとはいえ、やっぱり痛いものは痛い。 打ち付けられた背中を気にしながら体を起すと、目の前に、うずくまるアイギスの姿があった。 そうだ。思えば、俺たちを上空を打ち上げたアイギスは、地表に残ったまま、長門のメギドラをもろに食らっているのだ。 「アイギス、大丈夫!?」 すぐに岳羽さんが駆け寄り、彼女の体に回復を施す。 「無茶しないでよ」 「すみません。ですが、有効だったようです」 そう言って、アイギスは長門のペルソナを見上げる。 痛みに体を震わせ、辺りの空中を切り裂いて回る長門のペルソナ。 思えば、こいつは先ほどから、一度として、長門の体の中へ帰る様子がない。 「こいつ、本当にペルソナなの?」 俺の心中に浮かんだものと同じ疑問を、岳羽さんが口にする。 42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/18(土) 00:07:57.51 ID:W39N/MaM0 「う……」 そのうめき声は、アイギスと同じく、地表に立ち尽くしていた長門から発せられたものだった。 思えばこいつは、自らの体と同等の存在であるペルソナへの攻撃に加え、先ほどの地上に向けての疾風魔法三連発のダメージも食らっているのだ。 長門のバイタリティの程度は計り知れないが、それでもかなりのダメージがあるだろう。 事実、その体には無数の傷が付き、疾風魔法によって、カーデガンのあちこちに切り傷ができていた。 「な、長門さん」 俺たちから少しはなれた場所へ着陸していた朝倉が、困惑したようにその名を呼ぶ。 その目を見て、俺の心にもまた、形容しがたい罪悪感のようなものが芽生える。 「長門」 目の前のそいつは、長門の姿をした何者かなのだ。 頭の中ではわかっている。しかし――― 「……サマエル」 長門が呟き、赤い竜が吼える。 『神の悪意』 44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/18(土) 00:14:19.26 ID:W39N/MaM0 ……次の瞬間。 赤竜の目が、奇妙な光を発し、そこから閃光が迸り、地表を襲った。 「うおっ!?」 どこかで、誰かが――多分伊織だ――が声を上げる。 閃光は俺の体にも届いた。しかし、明確なダメージは感じられない。 「何よ、これっ!?」 すぐ傍で、岳羽さんが叫ぶ。 同時に、体に感じる違和感。 頭がくらくらし、体中が痺れたような感覚。 そして直後に、体の中に、巨大な鉛を詰め込まれたような、凶悪な吐き気が俺を襲った。 溜まらず、その場にうずくまる。胃の中身をぶちまけそうになるのを、寸でのところで堪える。 なんだ、こりゃ。 「アイ、ギス」 すぐ隣にいたアイギスの名を呼ぶ。 しかし、アイギスは答えない。視線をそちらへ向けると、アイギスは苦しそうに、両手で胸を押さえながら、地面に力なく倒れている。 やられてしまったわけではない。しかし、どうやら眠ってしまっているようだ。 何だ。俺たちは、何をされたって言うんだ。 46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/18(土) 00:22:08.55 ID:W39N/MaM0 続いて、アイギスをはさんだ向こうに居たはずの岳羽さんを見る。 彼女もまた、苦しそうに胸を押さえながら、顔を真っ赤にし、必死で呼吸をしている。 しかし、眠ってしまっている様子はない。 その向こうには、朝倉の姿が見える。朝倉はというと、やはり同様に、苦痛に顔をゆがめながら、長門に向けて、なにやら口をぱくぱくと動かしている。 何なんだ、この凶悪な攻撃は。 「エラー、消去」 ふと、長門の声がする。 『メギドラオン』 今度は、誰の助け舟も入りはしない。巻き起こされた爆発が、容赦なく俺たちの体を襲う。 熱く、痛い。体の中で、ペルソナが喚いている。 50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/18(土) 00:34:07.46 ID:W39N/MaM0 ……流石に、今のやつは効いたな。 最早頭がくらくらする、などというレベルではない。立っていることも難しいレベルだ。 現に、俺はその爆裂に耐え切れず、コンクリート(だと思う)の床の上に背を投げ出してしまっている。 ちくしょう。此れで終わりなのか。 必死の思いで首だけを起し、俺は長門を見る。 力なく、それでも二本足で立つ長門は、焦点の合わない瞳で、空中を見つめていた。 やっぱり、違う。こいつは、長門じゃあないんだ。 もう、長門もやられちまったんだろうか。もしかしたら、俺たちがやられちまった暁には、この長門のように、わけのわからん意思に精神を食われ よくわからん、凶悪なペルソナもどきを背負わされる羽目になるんだろうか。 長門。お前はどこに居るんだ? 長門を見ていたはずの俺の視界に、妹の姿がある。 何やってんだ、お前。こんな時に。 妹は、いつも俺をベッドから叩きだすときのように、俺の体に跨っている、 一方の手は俺の胸の上に置かれ、もう一方の手は……例のバスの時刻表を握り締め、それを天高く振りかざしている。 まさか、そいつで俺をたたき起こそうってのか。馬鹿言え、そんなもんを食らったら、逆に昇天しちまう。 ああ、こいつも何かおかしくなっちまってるのか。 終わりか、これで。ついに。 俺たちは、何とたたかっていたかもわからないまま、ここでやられちまうのか。 あいつにも。 ハルヒにも逢えないまま。 まさか、ハルヒも、この長門のように、やられちまってるんだろうか。 だとしたら、辻褄も合うな。イカレちまったハルヒの意思で、俺たちはこの影時間に引き寄せられ そこで、無駄な戦いをした挙句、このわけのわからん塔の中で殺されちまう。 このまま? 妹のバス停を持つ手が、徐々に俺に近づいてくる。 その様が、やけにスローモーションで見える。 51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/18(土) 00:37:11.72 ID:W39N/MaM0 ……ハルヒ。 お前が望んでるのか。 違うよな、こんな結末は。 どんな滅茶苦茶な奴に頭をやられたって、お前がこんなのを望むはず、ないよな。 しかも、岳羽さんや伊織たちをも巻き込んで。 なあ、ハルヒ。 そうなのか? 違うだろ? 未だ、俺は、その答えを聴いてないんだ。 ハルヒに逢って、訊かなきゃならないんだよ。 本当のことを。 やられて、たまるかよ 「ペルソナ!」 叫んだ瞬間。妹の体が、俺の視界から消える。 換わりに、青白い光と共に……青白い彫刻のような何かが、俺の視界に踊り込んでくる。 何だ、こいつは。見覚えがない。 『メサイア』 ああ、そうか。 こいつも、俺のペルソナなのか。 『メシアライザー』 53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/18(土) 00:43:10.89 ID:W39N/MaM0 その声と同時に、彫刻ペルソナ……メサイアとか言ったか。そいつの体が光の固まりに変わり、やがて、風船が弾け飛ぶ様に弾け飛ぶ。 その欠片が、俺の体に、すぐ隣の、アイギスと岳羽さんの体に降り注ぐ。 余った分は、空中を舞い、どこかへと飛んでゆく。多分、このフロアのどこかに居る、皆のもとへ向かったのだろう。 ふと、気づく。頭の痛みも、吐き気も、体の痺れも無い。 体を起そうとすると、いとも容易く起き上がることができた。 隣を見ると、同じように、アイギスと岳羽さんが体を起している。 前方には、先ほど俺の体の上に居たはずの妹が、やはり何もわからないと言った顔で、しりもちをついている。 「……エラー」 とても小さな、長門の声がする。 長門は空ろな瞳で、誰かを……ああ、俺か。俺を見つめたまま、ぼんやりとその場に立っている。 その頭上に、体をくねらせる赤い竜がいる。 倒せる。 両足で地面に食らい付き、立ち上がる。体が軽い。 自分の思ったとおりの言葉が、口をついて出る。 「ペルソナ!」 パリン。青白い光。 『メギドラオン』 背後に現れた白い彫刻が、叫ぶ。 メサイア。 54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/18(土) 00:46:11.89 ID:W39N/MaM0 俺のほかにも、数人が攻撃を放ったらしい。 爆発、雷鳴、火柱、氷柱、バス停。 それらが一斉に、長門の頭上に巣食う赤い悪魔へと牙を向く。 地表に立つ長門が、目を剥き、胸を押さえる。 長門。今助けてやるから、一瞬だけ、我慢してくれ。 「ペルソナ!」 続いて、その名を呼ぶ。 『地母の晩餐』 大地が割れた。 56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/18(土) 00:56:12.86 ID:W39N/MaM0 もともと何も無い空間だった、ということもあり、目覚めたとき、その場に広がっていた荒廃した空間に、違和感は覚えなかった。 その空間の周囲を囲うように、倒れている仲間たちの姿があり、その中心に、同様に倒れた長門の姿があった。 「長門」 その名を呼びながら駆け寄る。 その体の上に、あの赤いペルソナの姿は無い。 「有希!」 俺とほぼ同時に、長門の元にやってくるのは、朝倉だ。 長門の体を抱き起こす役目は、朝倉に譲ってやることにする。 「有希、有希!」 力ないその体を揺さぶりながら、何度もその名前を呼ぶ。 数度目に、朝倉がその名前を呼んだとき。 長門が、目を開けた。 「……朝……倉」 「有希? 有希、大丈夫!?」 言うが早いか、朝倉はベアトリーチェを召喚し、長門に回復魔法を施す。 しかし、長門は一向に、体力が回復した様子を見せない。 57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/18(土) 01:02:31.48 ID:W39N/MaM0 「長門」 恐る恐る。といったように、俺は長門に声をかける。 長門は、俺の顔と朝倉の顔を交互に数度見比べたあと 「……この、先に」 と、呟いた。 この先。俺はその言葉を聞き、周囲を見渡す。 意識を取り戻し始めた面々とは別に、部屋の一部に、天井の闇へと上る光の帯を放つ、正方形の台があるのが見て取れた。 「居る、涼宮ハルヒ……私は、食われ、貴方たちに、涼宮ハルヒの力を……やつに食わせる、術を、犯させた」 もう疑う余地は無い。こいつは紛れも無い、俺たちの知る長門有希だ。 瞳は空ろであり、言葉は力ない。しかし、誰かに意識を乗っ取られたような存在じゃない。 「あの光の先に、ハルヒが居るんだな」 「そう」 と、僅かに肯きながら言ったあと 「……涼宮ハルヒも、また……心を食われ……の……奴隷に」 長門の言葉はあまりにも僅かで、掠れていて、聞き取ることが出来ない。 長門。お前をあんなにしちまったのは、一体どこのどいつなんだ。 教えてくれ、長門。 「……奴……は…………混沌……ハルヒ……助け……」 58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/18(土) 01:08:26.10 ID:W39N/MaM0 混沌。 その言葉を残した直後、長門は役目を終えた天使か何かのように、音も立てず、静かに目を閉じた。 「有希?」 朝倉が、その名を呼ぶ。 「ウソでしょ、有希! 起きてよ、ねえ、有希!」 幾度もその名前を呼ぶ。しかし、長門は目覚めない。 「ウソよ、そんなの……有希……有希いい!」 朝倉が、力なく崩れた長門の体を抱き、その名前を叫ぶ。 程なくして、目覚めた面々が、俺たちのもとへ駆け寄ってくる。 「キョン、その子は……」 言葉を濁らせながら、伊織が言う。 「俺たちの、仲間だよ」 「そ、か……」 一瞬の伊織との問答を終えた俺は、新しく発生した、上部への経路を見る。 この先に、ハルヒが居る。 59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/07/18(土) 01:12:01.90 ID:W39N/MaM0 『来なさいよ』 ふと、頭の中に、そんな声が聞こえた気がした。 ……言われんでも、今行くさ、 道はたった一つ。 俺たちに、もう、選択肢などは残されていないのだから。 つづく