ハルヒ「ラベンダーに幸あれ」 1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/26(火) 21:49:17.91 ID:56N462mWO 休日の不思議探索。 俺は今、生きてきた中で最も残酷であろう光景を目の当たりにしていた。 高速で去っていく自動車。 目の前で、宙に舞うよく知る女性。 その女性のか弱い体が、鈍い音を立て地面に打ちつけられると同時に、俺は叫んだ。 「佐々木ぃぃいぃ!!」 2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/26(火) 21:52:31.87 ID:56N462mWO 無我夢中で、佐々木の元へと駆け寄り頭を持ち上げると、何やら手に生温さを感じる。 一瞬で、それが血の生温さなのだと理解した。 「佐々木! 佐々木! 返事をしろ!」 「キ、キョ…ン……ご…めん…ね…」 問い掛けに佐々木は、震えたか細い声で応える。 4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/26(火) 21:54:46.56 ID:56N462mWO 「い、今、救急車を呼ぶからな!」 慌てて携帯を取り出し、番号を入力しようとするが、手が震えて上手く打てない。 「糞、早く早く早く」 何とか電話を掛け、救急職員の質問に急かす様に答える。 今度は指示に従い、応急処置をしなくてはいけないらしい。 5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/26(火) 21:57:33.86 ID:56N462mWO 佐々木を見ると、既に虫の息の状態にいた。 動悸が激しくをなる中、職員に状態を説明し指示を仰ぐ。 「何をすればいい? 早くしないと! 佐々木が……佐々木が!」 『落ち着いて下さい』 落ち着ける筈が無かった。 6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/26(火) 22:01:29.07 ID:56N462mWO 動悸が増し、不安や恐怖に悲しみと様々な感情が、自分の体を思考を弄ぶのだ。 職員が何やら言ってるが、耳には入らなかった。 何故、佐々木がこんな目に遭わなくちゃいかん。何をしたと言うのだ。 7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/26(火) 22:05:03.60 ID:56N462mWO 堪えていた涙が、目の前の血の様にとめどなく流れると共に、俺の視界が紫色に染まり、その場に力無く倒れ込む。 佐々木の手元から仄かにラベンダーの匂いが香り、横に望む佐々木の顔は、この世の悲しみを表しているかの様に冷たく感じられる。 そして、もう恐らく助からないのだと、そう感じた。 8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/26(火) 22:06:59.10 ID:56N462mWO そして、もう恐らく遠くから、サイレンの音が微かに届く。 助かるのか? 助かるのか? と何度も問い続ける。 誰に? 自分に? それとも神に? 神なんて居やしないさ。 彼女をこんな目に合わせる神なんて、まともじゃない。 9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/26(火) 22:09:21.20 ID:56N462mWO 神……ああ、一人居るのを忘れていたな。 神なのに、数える単位が一人なんて笑えるだろ。 さっきまで、神と一緒にいた筈だ。 力を振り絞り、神がいるであろう方向を見てみる。 その瞬間、俺は神と目が合った。 そして、神は何やらを叫んだ。 10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/26(火) 22:13:14.82 ID:56N462mWO 何と叫んだかは解らなかったが、神の顔が恐怖で歪んでいるのが見える。 そういや、未来の朝比奈さんに何度目かの気をつけて下さいを、先日言われたばかりだったな。 サイレンの旋律が近づいて来た。 この音色は、天国又は地獄からの迎えなのかもしれない。 旋律が止むと、意識が底の見えない暗闇に溶けていくのが分かった。 11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/26(火) 22:15:36.12 ID:56N462mWO 今日から、高校生活が始まる。 入学式を終え、教室に戻りクラス全員の自己紹介の時間だ。 「東中出身、涼宮ハルヒ。 よろしく!」 後ろを何となく振り向くと、えらい美人がそこには居た。 12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/26(火) 22:18:56.16 ID:56N462mWO 翌日 キョン「(まあ、健やかな高校生活を送る為にも、仲良くなっておいた方が良いだろうな。前にどこかで、会った事がある気がするしな)」 ハルヒ「……」 キョン「えっと、涼宮さんだったか」 ハルヒ「何か用?」 キョン「いや、特に用がある訳じゃないんだが」 ハルヒ「用がないなら話しかけないで」 キョン「スマン(触れない方が良いみたいだな)」 キョン「(国木田がいるのがせめてもの救いだぜ)」 14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/26(火) 22:21:57.58 ID:56N462mWO 夜 自宅 キョン「(佐々木に電話するか)」 prrrrrrrr カチャ キョン「よお」 佐々木『やあ』 キョン「今、平気か?」 佐々木『構わないよ』 キョン「どうだった今日は?」 佐々木『特別な事は何も無いよ。 退屈な儀式を行い、ロボットの様に過ごした1日だね』 キョン「そうか。 友達は出来たか?」 佐々木『くっくっ、心配してくれてるのかい?』 キョン「ま、まあ一応な」 佐々木『キョンはどうなんだい?』 16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/26(火) 22:26:31.78 ID:56N462mWO キョン「俺は残念ながらまだだ。 後ろにいる女子に話しかけたら、用がないなら話しかけるなって言われたくらいだ」 佐々木『早速、浮気かい?』 キョン「ち、違う。そういうのじゃない!」 佐々木『くっくっ、解ってるよ。キョンにそういう事は出来ないだろうからね』 キョン「お前なぁ」 佐々木『僕達の関係を考えれば、今の会話も自然なものだと思うね。 キョン、くれぐれも気をつけてね』 キョン「解ってるさ。ところで、週末は会えそうか?」 佐々木『どうだろうね。まだ、スケジュールが決まってないんだ』 18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/26(火) 22:28:23.23 ID:56N462mWO キョン「まあ、学校に慣れる時間も必要だしな」 佐々木『時間が作れそうなら、僕から連絡するよ』 キョン「ああ。じゃあ、今日はこんな処にしとこう」 佐々木『おや、僕の声が飽きたのかい?』 キョン「いやいや、そんな事はないぞ。 佐々木の声なら、何時までも聴いていたいからな」 佐々木『くっくっ、恥ずかしい台詞は禁止だよキョン。 こっちまで、恥ずかしくなる』 キョン「スマン」 19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/26(火) 22:30:18.55 ID:56N462mWO 佐々木『じゃあね、キョン。しっかり高校生活を送るんだよ』 キョン「親みたたいだな」 佐々木『キョンの親は、僕には荷が重いよ』 キョン「そうかぃ」 佐々木『おやすみなさいキョン』 キョン「おやすみ佐々木」 22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/26(火) 22:34:59.41 ID:56N462mWO 翌日 キョン「なあ、涼宮(きっと、昨日は機嫌が悪かっただけだよな)」 ハルヒ「何?」 キョン「ああ、えっと」 ハルヒ「あんた、宇宙人?」 キョン「え?」 ハルヒ「もしくは、超能力者とか?」 キョン「(何を言っているのであろうか、この女は)どういう意味だ?」 ハルヒ「違うなら話しかけないで」 キョン「(俺が悪いのか? 訳わからん)」 24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/26(火) 22:37:54.40 ID:56N462mWO 休み時間 谷口「お前、涼宮を狙ってるのか?」 キョン「はあ?」 谷口「悪い事は言わねぇ、やめとけ」 キョン「(止めとけも何も、俺にそんな気は皆無なのだが)」 国木田「キョンは、昔から変な女が好きだからね」 キョン「誤解を招く様な事言うな」 谷口「顔は悪くないんだがな、性格がキツいのはマイナスポイントだな。それに、かなり変人だしな」 キョン「(確かに、黙ってれば男がホイホイ寄ってくるレベルだろうな)」 25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/26(火) 22:40:54.01 ID:56N462mWO 谷口「涼宮なんかより、朝倉を見てみろ」 キョン「ん?」 谷口「顔もスタイルも性格も完璧だぜ。まあ、お前には縁のない女だろうがな」 キョン「そうだろうな」 とまぁ、この3馬鹿、いや2馬鹿と1人の勉強の頭は良い奴で、普通の高校生活を送っていたのである。 26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/26(火) 22:42:51.75 ID:56N462mWO そして、あっという間にGW。 俺は、1人の女性を待っていた。 キョン「(ちょっと、早く着いちまったな)ん?」 ?「この手は誰か分かるかぃ?」 キョン「誰だろうなぁ? 誰かさんの手が邪魔で前が見えん」 ?「声で判断して貰いたいものだね」 キョン「久しく会ってないからなぁ」 ?「電話で声を聴いてるだろうに」 キョン「そうだったか?」 ?「こうしてるのも辛いんだよキョン」 キョン「もしかして、佐々木じゃないか?」 佐々木「正解! 一度、この遊びをしてみたくてね」 27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/26(火) 22:46:04.69 ID:56N462mWO キョン「どうだった?」 佐々木「予想以上に、羞恥を覚えるね」 キョン「やられる方もな」 佐々木「嫌かい?」 キョン「嫌じゃないがな」 佐々木「では、偶にやる事にしよう」 キョン「で、今日は何処に行くんだ?」 佐々木「歩きながら考える事にすればいい」 キョン「そうだな」 28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/26(火) 22:49:17.08 ID:56N462mWO 佐々木「なかなか時間を作れなくて悪かったね」 キョン「いや、佐々木には佐々木のすべき事があるからな」 佐々木「そう言ってくれると助かるよ」 キョン「どうだ、あの喫茶店で話すというのは?」 佐々木「キョンがそれで良いなら」ニコ キョン「///(佐々木の笑顔には、ドキッとさせられるな)」 30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/26(火) 22:52:13.91 ID:56N462mWO 喫茶店 キョン「佐々木」 佐々木「ん?」 キョン「そ、その服似合ってるな」 佐々木「くっくっ。キョン、そんな気を利かせなくても良いのに」 キョン「似合ってるのは本当だ」 佐々木「キョンに言われてもねぇ」 キョン「酷いなぁ、おい」 佐々木「そういう自分も、結構頑張ったんじゃないかな?」 キョン「まあ、多少はだな」 佐々木「つまり、君は今日の事を特別に認識していてくれた訳だね」 キョン「当たり前だ。 約1ヶ月ぶりに会う訳だかららな」 31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/26(火) 22:55:11.17 ID:56N462mWO 佐々木「嬉しいよキョン。 素直に君の服装を、褒める事は出来ないけどね」 キョン「駄目か?」 佐々木「いや、似合ってるさ。 けど、そうではなくて……」 店員「お待たせしました。 ―――ごゆっくりどうぞ」 佐々木「見た目は、食欲をそそるね」 キョン「あ、ああ。 甘い物好きなのか?」 佐々木「乾ききった喉を潤す水の様な存在だね。 僕も一応女性だからね、食べ過ぎる事はないけど」 キョン「辛い物は?」 佐々木「辛い物も平気さ。ただ、度を超えたのは頂けないね。キョンはどうなんだい?」 キョン「俺も両方問題はないな」 33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/26(火) 23:00:18.69 ID:56N462mWO 佐々木「くっくっ」 キョン「どうした?」 佐々木「いやね、キョンがパフェを食べてる姿を想像してね。余りに似合わないものだから、くくっ」 キョン「笑い過ぎだ(佐々木が、こんなに笑うのも珍しいが)」 佐々木「失敬」 キョン「まあ、佐々木が笑うのを見れたのは悪い気がしないね」 佐々木「また、君はそうやって恥ずかしい台詞を吐くね」 キョン「一応言い終わってから、いつも後悔してるんだ」 佐々木「後悔をする必要はないが、相手を選ぶべきだね。 僕以外の人に、言う様なら気をつけた方が良い」 34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/26(火) 23:03:27.21 ID:56N462mWO キョン「おいおい、佐々木相手だから言えるんだぜ」 佐々木「そうかい、安心したよ」 キョン「安心?」 佐々木「キョンは面白いね」 キョン「んぁ?(相変わらず、佐々木はよく解らんな)」 佐々木「それにしても、お互いの事を知らな過ぎるね僕達は」 キョン「これから、知っていけば良いさ」 佐々木「そうだね」 35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/26(火) 23:06:08.74 ID:56N462mWO 帰り 佐々木「今日は、楽しかったよ」 キョン「なら良い」 佐々木「そういえば、僕達はキスもまだだね」 キョン「え?」 佐々木「そんな、驚く顔をする事ないだろう? 僕達は、世間一般で云う恋人同士なのだから。 いや、アベックかな?」 キョン「そこは恋人で」 佐々木「いや、夫婦か」 キョン「飛躍し過ぎだ」 佐々木「冗談だよ」 キョン「じゃあ」 佐々木「試してみるかぃ?」 キョン「……良いのか」 37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/26(火) 23:11:08.99 ID:56N462mWO 佐々木「君が同意するなら」 キョン「俺は構わないが(てか、したい)」 佐々木「では、目を瞑ってくれたまえ」 キョン「こうか?」 佐々木「そのままだよ……ん?」 キョン「ん? 何だこの指は?」 佐々木「キョン、唇が荒れてる……」 キョン「……スマン」 佐々木「又の機会にしよう。次までにエチケットを学んどいてくれ」 キョン「ああ(あああぁぁぁ、何をやってんだ俺は)」 佐々木「その代わりに、手を繋ごうか?」 キョン「ん、そうだな」 佐々木「キョンの手は温かいね」 40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/26(火) 23:16:52.12 ID:56N462mWO キョン「そうか? 佐々木「うん」 キョン「佐々木の手も温かいぞ」 佐々木「ねぇ、キョン」 キョン「ん?」 佐々木「僕は、キョンにリードして貰いたいんだよ」 キョン「スマン……次からは頑張ってみる」 佐々木「うん」 そんな事もあって、気分が良かったのだろう。 GW明けの教室で、涼宮ハルヒに話しかけていた。 キョン「毎日髪型を変えるのは何でだ?」 ハルヒ「いつ気付いたの?」 キョン「ちょっと前だな」 41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/26(火) 23:20:48.45 ID:56N462mWO これが、キッカケというものなのかは知らないが、席替え後も前後の席になり、部活(同好会未満なので、正式な部活ではないが)の立ち上げまで手伝わされ入団までしてしまったのだ。 入団というのは名がSOS団と言う為で、活動内容は宇宙人や未来人、異世界人や超能力者と遊ぶ事らしい。 42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/26(火) 23:24:50.12 ID:56N462mWO 俺は関わった事を若干後悔したが、放課後の余暇を潰すには丁度良いかもしれないという理由で現在に至る訳だ。 残念ながら佐々木とは、あれ以来会えていない。 次いでに、宇宙人等とも遭遇せすだ、当たり前だがな。 北口駅前 ハルヒ「じゃあ、くじ引きするわよ」 休日になると、不思議探索と称した集まりをするのだ。 はっきり言って、時間の無駄使いなのだろうが、この集まりに俺は居心地の良さを感じ始めていた。 43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/26(火) 23:28:27.74 ID:56N462mWO キョン「あ……」 ハルヒ「じゃあ、三人はそっちをお願い。 しっかり探すのよ、みくるちゃん」 朝比奈「は、はぁい」 古泉「両手に花とは、正にこの事ですね」ニヤ キョン「嫌味に聞こえるぞ」 古泉「そうですか? 涼宮さんと二人で、羨ましいですがね」ヒソヒソ キョン「じゃあ、代わってくれ」 古泉「遠慮しておきます」 キョン「やれやれ」 ハルヒ「キョン、行くわよ」 キョン「ああ。 じゃあな、古泉」 古泉「ええ」 44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/26(火) 23:33:39.94 ID:56N462mWO ハルヒ「ああもう、出てきなさいよ不思議め」 キョン「簡単には出て来ないから不思議なんだろ」 ハルヒ「そんな事分かってるわよ。 あんたもしっかり探しなさいよね!」 キョン「分かってるよ(やれやれ、いい加減に佐々木が恋しくなるね)」 キョン「なぁ、ちょっと休まないか?」 ハルヒ「ったく、しょうがないわねぇ。 ちょっとだけよ」 キョン「ああ。 あのベンチに座ろうって、あ!」 ハルヒ「はぁ、全く役立たずよねキョンは」 キョン「ハルヒ待て!」 ハルヒ「え?」 俺は慌てて、ハルヒの腕を引っ張る。 45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/26(火) 23:38:44.97 ID:56N462mWO 案の定、ハルヒは俺と抱き合う形になってしまった。 ハルヒ「あ…ああ…あ…///」カァァァ ハルヒの顔が自棄に赤い。 ハルヒ「ちょちょ、ちょっとあんた離しなさいよ!」 キョン「す、すまん」バッ ハルヒ「いい、いきなり何すんのよ変態!」 キョン「変態…って、そのベンチがペンキ塗りたてって書いてあるから、引っ張っただけだ! 他意は無い、断じて無い」 ハルヒ「あ、そういう事」 キョン「せっかく助けたのにそういう事で済ますのか、お前は」 ハルヒ「団員何だから、団長を守るのは当たり前じゃない」 46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/26(火) 23:44:12.43 ID:56N462mWO キョン「そういうショッカーが属してそうな組織に、入った覚えはないんだがな」 ハルヒ「戯れ言はいいわ! はい、休憩終了!」 キョン「おいおい、まだ全く休憩してないだろ。 お前と話してたお陰で、余計に疲れた位だ」 ハルヒ「と思いましたが、あたしも鬼じゃありません。 特別に褒美を挙げるわ! 付いてきなさい!」 キョン「結局、歩くのかよ」 ハルヒ「置いていくわよ」 キョン「(笑顔で言うなよ)」 それにしても、先ほどのベンチ、紫色とは悪趣味である。 48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/26(火) 23:47:51.06 ID:56N462mWO 喫茶店 キョン「不思議探しはいいのか?」 ハルヒ「団員に、褒美を与える為なんだからいいのよ」 キョン「随分都合がいいな」 ハルヒ「うるさいわねぇ、黙って待ってなさいよ」 キョン「あいよ」 ―――― 店員「お待たせしました〜ごゆっくりどうぞ」 ハルヒ「どう?」 キョン「どうって?」 ハルヒ「あたしがこれ、奢ってあげるのよ! 少しは嬉しがりなさいよ」 キョン「そうだな、明日は古泉でも降るんじゃないか?」 ハルヒ「もういいわ、さっさと食べるわよ」 キョン「オーケー」 50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/26(火) 23:50:38.25 ID:56N462mWO キョン「ご馳走さん。 本当にいいのか? 奢りで」 ハルヒ「二言はないわ」 キョン「そうか」 ハルヒ「ねぇ」 キョン「なんだ?」 ハルヒ「前から思ってたんだけど……」 キョン「ん?」 ハルヒ「あたし達……前に会った事ない?」 キョン「!?」 ハルヒ「……」 52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/26(火) 23:52:57.37 ID:56N462mWO キョン「俺もお前に、以前に会った事がある気がすると思ってた」 ハルヒ「本当?」 キョン「ああ、だが記憶が定かじゃない」 ハルヒ「あたしも……」 キョン「まあ、すれ違ったとかだけかもな」 ハルヒ「すれ違っただけで、そんな気にかかるものかしら?」 キョン「そう言われるとそうだな」 ハルヒ「もっと、違う……」 キョン「……お、もうすぐ集合時間だぞ」 ハルヒ「あ、本当だ。 先に出てて」 キョン「ああ」 53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/26(火) 23:57:34.80 ID:56N462mWO 後日 部室 ハルヒ「キョン、棚の上に置いてあるの取りなさい」 キョン「その位自分で取れよ」 ハルヒ「雑用の仕事まで奪ったら、可哀想でしょうが」 キョン「古泉の方が近いだろ」 ハルヒ「古泉君は良いのよ古泉君は」 古泉「んふっ、らしいですよ」 キョン「なんだそりゃ」 ハルヒ「早く取りなさいよ」 キョン「自分で取れ」 ハルヒ「あたしは……届かないのよ」 キョン「……ぷっ」 54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 00:01:00.33 ID:pu1DNVGxO ハルヒ「な、何よ!」 キョン「いや、お前も可愛いところがあるもんだなと思ってな」 ハルヒ「な、か…可愛い……」 古泉「おやおや」 キョン「ほら、ん? どうした顔隠して」 ハルヒ「な、何でもないわよ! そこに置いといて」 キョン「……」 翌日 教室 ハルヒ「キョン!」 キョン「なんだ?」 ハルヒ「部室で食べるわよ!」 キョン「なんで、わざわざ部室なんだ?」 ハルヒ「良いから早く来なさいよ!」 キョン「やれやれ」 56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 00:04:45.52 ID:pu1DNVGxO 部室 ハルヒ「という訳で、あたしが惨めな団員の為にお弁当を作ってきました」 キョン「誰が惨めだ誰が。それと、どういう風の吹き回しだ?」 ハルヒ「ご褒美よご褒美!」 キョン「この前貰っただろ」 ハルヒ「何よ素直に受け取りなさいよね!」 キョン「つまり、俺に弁当を2つ食えと言うんだな?」 ハルヒ「そ、そうよ文句ある?」 キョン「はぁ……わぁったよ」 ハルヒ「安心しなさい。あたしも一緒に食べるから」 キョン「じゃあ、貰うぞ」モグモグ ハルヒ「どう?」 57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 00:12:36.38 ID:pu1DNVGxO キョン「意外とイケるな」 ハルヒ「意外って、料理出来ないと思ってた訳?」 キョン「まあな。でも良く考えたら、お前は万能だし意外でもないか」 ハルヒ「あたしだって、料理ぐらいするわよ」 キョン「それより、お前も食べるんだろ? 俺一人じゃ、流石にキツいぞ」 ハルヒ「はいはい、いただきまぁす」 ―――― ガチャ ハルヒ「!?」 長門「……」 スタスタ ガタン 長門「……」ペラ ハルヒ「ゆ、有希。これは、その、キョンに餌を与えてるだけでね」 長門「……何?」キョトン キョン「長門はもう昼飯済ませたのか?」 長門「…」コク キョン「そうか」 58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 00:16:48.29 ID:pu1DNVGxO ハルヒ「ちょっとキョン! なんで、あたしの横で食べてんのよ!」 ゲシッ キョン「うぉわ! 何しやがる! お前が勝手に横に座ったんだろうが」 ハルヒ「気のせいよ気のせい! ねぇ、有希も食べる?」 長門「……」 ハルヒ「良いのよ、当たり前じゃない!」 長門「そう」 ハルヒ「はい、キョンの分は終わりよ! 返しなさい!」 キョン「ほらよ」 ハルヒ「やっぱりキョンより有希に、お弁当作って来るんだったわね」 キョン「初めからそうしろよ」 ハルヒ「あ、有希。あたしも食べるわよ」 59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 00:22:02.96 ID:pu1DNVGxO キョン「ふぅ」スタスタ ハルヒ「ちょっとキョン! 何処行くのよ」 キョン「俺は食い終わったし、教室に戻るわ」 ガチャ バタン ハルヒ「はぁ……」 長門「?」キョトン 放課後 部室 ハルヒ「今日はもう解散にします」 朝比奈「お疲れ様です」 古泉「では、僕等は先に失礼しましょう」 キョン「ああ」 ハルヒ「キョン! 明日、遅刻したら死刑だからね」 キョン「相変わらず、なんで俺だけなんだ?」 ハルヒ「あんたが、一番遅刻してるからよ」 キョン「はぁ」 朝比奈「あ、あのぅ」 キョン「すいません。今、出ますね」 62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 00:28:29.02 ID:pu1DNVGxO 自宅 prrrrrrr キョン「ん?」 カチャ 佐々木『ちょりーす』 キョン「なんですとぉ!」 佐々木『くっくっ、驚いたかい?』 キョン「あ、ああ」 佐々木『なら、恥を忍んでやったかいがあったよ』 キョン「わざわざ悪いな」 佐々木『いえいえ、どう致しまして』 キョン「ふわぁぁわぁ」 佐々木『眠いの?』 キョン「まあな」 佐々木『悪いね』 キョン「いや、構わないさ」 佐々木『キョン』 キョン「ん?」 65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 00:31:21.50 ID:pu1DNVGxO 佐々木『明日なんだけど』 キョン「明日?」 佐々木『久しぶりに会わない?』 キョン「あ、明日か……」 佐々木『何か用事ある?』 キョン「い、いや大丈夫だ」 佐々木『良かった』 キョン「何処行きたい?」 佐々木『キョンと会えるなら何処でも良いよ。それに……』 キョン「それに?」 佐々木『今度は、キョンがリードしてよね』 キョン「そうだったな」 ―――― 佐々木『では、おやすみキョン』 キョン「おやすみ佐々木」 66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 00:33:39.28 ID:pu1DNVGxO prrrrrr キョン「ハルヒか」 ハルヒ『何?』 キョン「あ、明日なんだけどな」 ハルヒ『遅刻したら死刑よ! 以上』 ツーーー キョン「切りやがった!」 prrrrr ハルヒ『何? まだ何か言いたい事ある訳』 キョン「明日、用事が有ってな」 ハルヒ『用事って何?』 キョン「その、デートだ」 ハルヒ『は?』 キョン「だから、デートだ」 ハルヒ『あんたがデートなんて、誰が信じるのよ! もう少し、上手に嘘をつきなさいよね』 キョン「本当だって」 ハルヒ『切るわ』 ツーーー キョン「……まあ、学校で言えば良いよな」 70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 00:38:16.07 ID:pu1DNVGxO 翌日 駅前 キョン「ん? 佐々木もう来てやがる(ちょっくら、脅かすか)まずは」 prrrrrr 佐々木『おはようキョン』 キョン「おはよう佐々木。実は、寝坊しちまってな」 佐々木『はぁ……しょうがないなキョンは』 キョン「スマン、直ぐ行くから待っててくれ」 佐々木『分かったよ』 キョン「じゃ」 カチャ キョン「(よし、次はどう脅かすかだな)」 選択 1.背後から首筋に息を吹きかける 2.背後から佐々木の目を手で覆う 3.背後から胸を…… >>72 75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 00:48:05.17 ID:pu1DNVGxO キョン「よし、後ろから」 佐々木「……」 キョン「(気付いてないな)」 そろ〜りそろ〜り 佐々木「……」 キョン「(今だ!)」 その瞬間、触る前に佐々木の裏拳が飛んできた。 キョン「ぐはっ!」 佐々木「あれ、キョン何してるんだい? 来てるなら来てると、言って欲しいね」 キョン「(ありえねえだろ)すまん」 キョン「佐々木「で、何処に連れて行ってくれるのかな?」 キョン「じゃあ、とりあえず電車に乗るぞ」 ガシッ 佐々木「あ…///」 77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 00:50:51.31 ID:pu1DNVGxO 電車内 キョン「40分程で、着く筈だ」 佐々木「楽しみにしてるよ」 キョン「ところで」 佐々木「キョン、人の足をじろじろ見ないでくれ///」 キョン「いや、靴だ」 佐々木「え? ああ、靴ね。偶にはこういうのを、履いてみても良いかなと思って」 キョン「……」 佐々木「……似合ってない?」 キョン「え、ああ滅茶苦茶似合ってる」 佐々木「そう」 キョン「あ、ほら席空いたぞ」 佐々木「僕だけ座るのも悪いよ」 キョン「良いんだよ、ほら」 佐々木「うん」 78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 00:53:16.51 ID:pu1DNVGxO 駅 キョン「悪いな、歩かせてばっかで」 佐々木「この位は問題ないよ」 キョン「もう少しだ」 ロープウェー乗り場 佐々木「もしかして、ハーブ園?」 キョン「ああ。駄目か?」 佐々木「ううん。行った事ないし、花は好きだから問題ないよ」 ゴンドラ内 キョン「なぁ、もしかして高い所は苦手か?」 佐々木「何を言ってるんだい。僕は別に」 キョン「さっきから、握力が増してるぞ」 佐々木「それは///」 キョン「でも、そこまで高くないだろ」 佐々木「だから、別に高い所は苦手じゃない」 キョン「じゃあ、なんだよ」 79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 01:00:57.08 ID:pu1DNVGxO 佐々木「その……ゴンドラが揺れるのが」 キョン「ああ、そっちか」 佐々木「でも、キョンが一緒だから平気だよ」 キョン「何を持って平気なのか解らんが」 佐々木「肩、借りるよ」 キョン「お、おい///」 俺の肩に佐々木の頭が乗っかり、柔らかそうな髪から石鹸の匂いだろうか? 甘い香りが、鼻をくすぐる。 キョン「け、景色は見ないのか?」 佐々木「今だけは、こうさせてくれ。景色は帰りに取っておこうね」 82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 01:07:12.02 ID:pu1DNVGxO ハーブ園 キョン「ハイキングコースで来る事も出来るんだが、流石にキツいと思ってな」 佐々木「この靴じゃね」 キョン「時間もかかるしな」 佐々木「お、ラベンダーが一杯だよキョン」 キョン「丁度、時期らしい」 佐々木「うん、良い香りだ」 キョン「どれどれ」 83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 01:10:53.77 ID:pu1DNVGxO 佐々木「ラベンダーの香りは、気持ちを落ち着かせてくれるんだよね」 キョン「まあ、言われてみれば気がしないでもないな」 佐々木「それにこの香りを覚えてれば、今日の事も記憶に残るしね」 キョン「それ、なんだっけな」 佐々木「プルースト現象だったかな。嗅覚から思い出す記憶は、他の五感からのものより正確だとも言われてるね」 キョン「ほぉ」 佐々木「お、こっちは違う品種みたいだ」 キョン「それにしても、この匂い何処かで嗅いだ気がするな」 佐々木「ラベンダーぐらい、誰でも嗅いだ事あるよ」 キョン「何か、嫌な記憶な気がする」 84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 01:14:11.87 ID:pu1DNVGxO 佐々木「どんな?」 キョン「よく思い出せん」 佐々木「……じゃあ、今日の記憶でそのまま上書きすれば良い」 キョン「……そうだな」 レストラン 佐々木「このハーブティー、なかなか美味しいよ。ほら、キョンも飲んでみて」 キョン「ああ……香りが凄いなコレ」 佐々木「ハーブティーだからね」 キョン「それにしても、ハーブ尽くしなメニューばかりだな」 佐々木「幼少期に来て、トラウマになる子供もいそうだね」 キョン「流石にそれはないだろ」 佐々木「そうかな」 キョン「そうじゃないか」 87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 01:18:32.39 ID:pu1DNVGxO ゴンドラ 佐々木「来て良かったよ」 キュン「そうか」 佐々木「キョンにしては頑張って考えたね」 キョン「佐々木のイメージに合うと思ってな」 佐々木「どんなイメージか気になるな」 キョン「聞くなよ」 佐々木「くっくっ、じゃあ止めてあげる」 キョン「そうしてくれ」 佐々木「……キョン」 キョン「ん?」 佐々木「僕と居て楽しいかい?」 キョン「楽しくなかったら、横にはいないさ」 佐々木「そう……」 88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 01:21:55.35 ID:pu1DNVGxO 北口駅前 ハルヒ「じゃあ早いけど、今日は解散よ!」 朝比奈「お疲れ様でしたぁ」 長門「……」 古泉「お疲れさまです」 ハルヒ「帰りましょ」 キョン「そこはだな――」 佐々木「くっくっ――」 ハルヒ「あ!」 キョン「ぬわ!」 佐々木「?」 90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 01:25:36.36 ID:pu1DNVGxO 古泉「僕等は帰りましょう」 朝比奈「そそ、そうですねぇ」ガクブル 長門「そうする」 ハルヒ「……」 キョン「……」 佐々木「キョン、知り合いかい?」 キョン「あ、ああ。同じクラスの涼宮だ」 佐々木「なる程、あなたが涼宮さんね。キョンから良く聞いてるよ。佐々木です、宜しくね」 ハルヒ「あたしはSOS団、団長の涼宮ハルヒよ! はじめまして佐々木さん」 佐々木「ああ、SOS団ね」 ハルヒ「あら、知ってるみたいね」 佐々木「キョンから聞いてるからね」 91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 01:29:16.07 ID:pu1DNVGxO キョン「じゃあなハルヒ。俺達は」 ハルヒ「待ちなさい。佐々木さん、ちょっとキョン借りるわよ」 佐々木「ええ」 ガシッ ハルヒ「来なさい」 キョン「引っ張るなコラ」 キョン「なんだ!?」 ハルヒ「あれが彼女なの?」 キョン「ああ、そうだ」 ハルヒ「何よ、可愛いじゃないの」ボソボソ キョン「何か言ったか?」 94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 01:35:21.48 ID:pu1DNVGxO ハルヒ「あんたね、彼女居るなら居るって言いなさいよね!」 キョン「何故、言わなきゃならん」 ハルヒ「団長は団員の生活実態を、把握しなきゃいけないでしょうが」 キョン「訳わからんぞ」 佐々木「涼宮さん」 ハルヒ「あ! はい」 佐々木「これからキョンの家に行く所だったの。良かったら一緒にどうかな」 キョン「おいおい」 ハルヒ「良いの?」 佐々木「あなたと話したいと思ってたからね。キョン良いよね?」 キョン「……ああ」 佐々木「では、行くとしよう」 96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 01:38:33.46 ID:pu1DNVGxO キョン宅 キョン妹「あれぇ、キョン君が女の子と一緒だぁ。どうしてどうしてぇ?」 ハルヒ「あんた、妹いたのね」 キョン「ああ」 佐々木「やあ、久しぶりだね妹さん。」 キョン妹「佐々にゃんだぁ」 佐々木「くっくっ」 キョン「こらこら、ちゃんと挨拶しろ」 キョン妹「てへ」 ハルヒ「あたしは、涼宮ハルヒ。よろしくね妹ちゃん」 キョン妹「じゃあ、ハルにゃんだぁ」 キョン「やれやれ。俺の部屋は上だから」 98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 01:41:47.91 ID:pu1DNVGxO キョン部屋 ハルヒ「あんたと違って、可愛いわね妹ちゃんは」 キョン「俺が可愛くてもしょうがないだろ」 佐々木「お邪魔するよ。久しぶりだね、キョンの部屋に入るのは」 キョン「そうだな」 佐々木「涼宮さんは、良く来るの?」 ハルヒ「あたしは初めてよ」 佐々木「そう」 ハルヒ「佐々木さん、気をつけた方が良いわ。エロキョンの事だから、部屋でいやらしい事する気だった筈よ」 キョン「なっ!」 100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 01:44:37.34 ID:pu1DNVGxO 佐々木「くっくっ、キョンはそんな積極的じゃないよ。それとも、涼宮さんの前じゃ積極的なのかな?」 ハルヒ「え? ああ、そうでもない…かな」 佐々木「でしょ。もっと積極的になって欲しいくらいだよ」 キョン「悪かったな」 ハルヒ「まあ、アホキョンには無理だわね」 佐々木「くっくっ、そうかもね」 102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 01:48:44.99 ID:pu1DNVGxO 意外だった。何がって? それは、佐々木とハルヒがすっかり意気投合している事だ。 俺は殆ど蚊帳の外で、たまに話を振られては一言喋って終わりという有り様である。 まあ顔だけ見れば美人な女性二人を、遠目に眺めてるのも悪くないがな。そんなこんなで、二人も帰宅する時刻である。 キョン「送って行こうか?」 佐々木「いや、涼宮さんも一緒だから問題ないよ」 キョン「方向違うだろ」 佐々木「今日は電車で帰るから」 ハルヒ「任せときなさい」 キョン「メチャメチャ不安だな」 103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 01:50:18.84 ID:pu1DNVGxO ハルヒ「じゃあね」 佐々木「……」 キョン「どうした佐々木?」 佐々木「……じゃあね、キョン」 キョン「あ、ああ」 風呂から上がり、長門から借りていた小難しい本を呼んでいると、メールの着信音が聞こえてきた。 差出人:佐々木 件名:今日は、ありがとう 本文:お疲れ様、キョン。涼宮さんに会えて良かったよ。 彼女は、実に魅力的だね。 返信無用 佐々木がメールなんて、初めてだな。 顔文字が無いのが、如何にも佐々木らしい。 返信無用と、ご丁寧にも書いてあるので、返信はしないでおこう。 104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 01:55:04.13 ID:pu1DNVGxO 翌々日 教室 キョン「よぉ」 ハルヒ「……」 キョン「どうした? 元気ないな」 ハルヒ「一昨日は悪かったわね」 キョン「一昨日?」 ハルヒ「あたしの所為かも……」 そう言うと、ハルヒは教室から出て行った。 キョン「何の話だ」 105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 01:58:45.27 ID:pu1DNVGxO 放課後 古泉「今日の涼宮さんは、大人しいですね」 キョン「だろ。朝から、あの調子だ」 朝比奈「あのぅ涼宮さん」 ハルヒ「何?」 朝比奈「体の調子でも、悪いんですかぁ?」 ハルヒ「そうよ、悪い?」 キョン「だったら、家で寝てた方が良いんじゃないか?」 ハルヒ「……」ポロポロ 朝比奈「ふぇぇ、涼宮さん」 107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 02:01:12.93 ID:pu1DNVGxO キョン「俺……何か悪い事言ったか?」 古泉「さぁ、どうでしょう」 ハルヒ「やっぱり、帰るわ」 スタスタ ガチャ バタン 朝比奈「どうしたんでしょうかぁ、涼宮さん」 キョン「……」 長門「美味しい」モグモグ 古泉「長門さん、僕の分も残しておいて下さいね」 108 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 02:04:28.66 ID:pu1DNVGxO 自宅 キョン妹「ん〜キョンくん、もう寝ちゃうの?」 キョン「勉強です」 キョン妹「キョンくん、えら〜い」 キョン「やれやれ」 とは言ったものの、ハルヒの涙が気になるな。 一昨日と言えば、佐々木とハルヒが家に来た日だ。 だが、帰る際のハルヒは普段と変わらない様子に見えた。 つまり、何かあったとしたら、それ以後と予想出来るな。 となると、佐々木が何か知ってるかもしれん。 電話してみるか。 110 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 02:07:47.40 ID:pu1DNVGxO prrrrrrr キョン「よぉ。今、大丈夫か?」 反応が無いが、受話器越しに吐息の音が聴こえる。 キョン「佐々木?」 佐々木『キョン……』 キョン「どうした? 元気無いじゃないか」 佐々木『すまない』 キョン「別に、謝る必要は無いが」 佐々木『……』 キョン「佐々木?」 佐々木『もう電話しないで……』 自分の耳を疑った。恐る恐る、言葉を返す。 キョン「どういう……意味だ?」 佐々木『そのままの……意味だよ』 キョン「俺、何かしたか?」 佐々木『……』 111 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 02:10:40.32 ID:pu1DNVGxO キョン「……答えろよ」 佐々木『忘れて……』 ぷつりと一方的に切らた。 すぐさま、リダイヤルをする。 が、なかなか繋がらない。 『《おかけになった番号は――》』 クソッ! もう一度、リダイヤルだ。 『《ツーーツーー……》』 話し中……じゃないな、着信……拒否か。 「やっちまった」 原因は解らんが多分、俺の所為なのだろう。 馬鹿な俺でも、佐々木が言いたかった事は理解出来る。 ドラマ等で観る別れ話を、直に体験するとは夢にも思わなかったな。 ベッドに力無く倒れ込む。 目の前の天井が、いつもより高く感じるのは気のせいか? 「はぁ」 いつもより、苛立ちが籠もった溜め息を吐く。 余計に、自分の愚かさを実感するね。 114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 02:13:30.01 ID:pu1DNVGxO ――しばらく、自分の落ち度を考えていると、ハルヒの朝の言葉を思い出した。 「確か、自分の所為だとか……まさか、ハルヒの奴!」 停電から電力が復旧したかの様に、脳が活動再開し思案に落ちる。 当然だが、ハルヒの奴が関係してるのは間違いないのだろう。 こうなったら、明日はとことん問い詰めてやる。 118 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 02:26:27.85 ID:pu1DNVGxO 翌日 教室 朝 キョン「オイ、ハルヒ!」 怒気を込めた声で言う。 クラス中の視線を背中に感じるが、知ったこっちゃない。 ハルヒ「な、何?」 小動物が驚いた様に、目を丸くして俺の方を見る。 キョン「お前、佐々木に何した?」 ハルヒ「……ごめん」 そう言って、俺から視線を逸らす。 キョン「どういう意味だよ?」 ハルヒは、無言のままだ。 120 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 02:30:24.92 ID:pu1DNVGxO 谷口「まあまあキョン、落ち着けって」 キョン「お前は黙っててくれ」 谷口「オイ! そんな言い方ねえだろ」 キョン「言えよ、ハルヒ!」 ハルヒは、窓の外を見たまま震えた声で言う。 ハルヒ「話すわ、放課後。良いでしょ、それで」 冷めた態度に一瞬ムカついたが、この場は力が入った拳も抑える事にする。 それから放課後まで、俺とハルヒは一言も言葉を交わさなかった。 121 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 02:32:42.54 ID:pu1DNVGxO 放課後 中庭 俺達を見下ろす空は、心とは正反対に、夏を感じさせる程の青空だ。 忌々しい。 キョン「話して貰うぜ。場合によっては、殴るかもしれん」 ハルヒ「分かってるわ」 朝と違って、毅然とした声だ。 中庭にズンと居座る木の下に、二人とも腰を下ろす。 学校の様々な生活音をバックに、お互い無言のままだった。 しばらく続いた、その沈黙を破ったのはハルヒである。 ハルヒ「話す前に訊かせて、もう別れたの?」 キョン「電話した時に、別れ話みたいなものはされたな」 ハルヒ「そう……。じゃあ、話すわね」 キョン「ああ」 122 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 02:34:51.77 ID:pu1DNVGxO 結果から言えば、ハルヒが何をした訳でも無かった。 俺が知る限り、ハルヒは詰まらない嘘をつくような性格ではない。 恐らく、真実なのだろう。 話の内容はこうだ。 あの日、俺の家を後にし、佐々木とハルヒは雑談しながら駅に向かった。 電車内で佐々木が突然、それを告げたらしい。 佐々木「涼宮さんは、キョンの事をどう思ってるのかな?」 この質問に、ハルヒが返答に困ってると。 佐々木「キョンにはね、引っ張ってくれる人が必要なんだ」 と、続けざまに言われたそうだ。 127 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[さるさん喰らったぜ] 投稿日:2009/05/27(水) 03:01:41.61 ID:pu1DNVGxO ハルヒが、意味を問うと佐々木は。 佐々木「涼宮さんになら、キョンを任せられる」 ここで、ハルヒは悟ったらしい。 佐々木が、俺と別れるつもりだと。 拡大解釈過ぎだと、俺は思うがな。 そして、ハルヒとの別れ際。 佐々木「任せたよ、涼宮さん」 そう言い残したそうだ。 キョン「話は分かったが、ハルヒが謝る必要がどこにあるんだ?」 ハルヒ「本気で言ってるの?」 キョン「本気だ。マジだ」 ハルヒ「あの日、あたしがキョンの家に行かなければ、こうなる事も無かったわ」 キョン「何故?」 128 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 03:06:57.41 ID:pu1DNVGxO ハルヒ「つまりよ。佐々木さんは、あたしにキョンを任せたのよ」 キョン「任せた? 何を?」 ハルヒ「か、彼女のポジ……ション」 キョン「は?」 ハルヒ「あんたの、彼女よ」 開いた口が塞がらないとは、この事だな。 キョン「ハハハ、冗談キツいぜ」 ハルヒ「そうなんだから、仕方ないじゃない」 キョン「まあいい、それは解った。ハルヒが家に来たから、こうなったのか?」 ハルヒ「そうだって言ってるでしょ」 キョン「そこが分からん。何故?」 ハルヒ「うっ……それはよ」 キョン「ああ」 129 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 03:12:24.45 ID:pu1DNVGxO ハルヒ「あたしが」 キョン「うむ」 ハルヒ「彼女に相応しいから?」 キョン「ナイナイ」 ハルヒ「否定早いわねぇ」 キョン「当たり前だ」 ハルヒ「つまりよ、あたしと話さなかったら、あたしにあんな事言えなかった訳」 キョン「はぁ」 ハルヒ「只、あたしは二次的な要因に過ぎないと思う。所謂引き金を引いただけ」 キョン「原因は別にあるって事か?」 ハルヒ「そう」 キョン「……」 131 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 03:18:15.93 ID:pu1DNVGxO ハルヒ「ごめん」 キョン「謝るのは俺の方だ。疑ってしまったしな、悪かったハルヒ」 ハルヒ「ううん。それより、何か心当たりないの?」 キョン「……さっぱりだ」 ハルヒ「じゃあ、家に直に行くとか」 キョン「実は、家の場所知らないんだ」 ハルヒ「最悪ね」 キョン「最悪だ」 ハルヒ「そういえば、佐々木さんとどうやって知り合ったの?」 キョン「同じ中学で、学習塾も一緒だったもんでな」 ハルヒ「だったら、この学校で中学の同級生いるわよね」 キョン「……国木田か」 132 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 03:25:58.53 ID:pu1DNVGxO prrrrrr 国木田『もしもし』 キョン「今、平気か?」 国木田『大丈夫だよ。珍しいね、電話なんて』 キョン「訊きたい事があるんだ」 国木田『訊きたい事?』 キョン「佐々木の家の場所知らないか?」 国木田『佐々木……ああ、同級生の佐々木さんかぁ。知ってるけど』 キョン「教えてくれ」 国木田『どうして?』 キョン「その、用がな……」 国木田『アハハ、訊かない方が良かったね。場所はね』 国木田『――を行った所だよ』 キョン「なんとなくだが、解った。ありがとう国木田」 国木田『うん』 133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 03:30:16.30 ID:pu1DNVGxO ハルヒ「解ったの?」 キョン「ああ。だが、家に行くのはありなのか?」 ハルヒ「行かないと、本心は分からないでしょ」 キョン「そうかもしれんが……」 ハルヒ「今日は、SOS団には来なくて良いわ。だから、行って来なさい」 キョン「……スマン。じゃあ、行ってくる」 いつもの調子に戻ったハルヒに見送られ、佐々木の家へと歩みを進める。 134 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 03:36:04.43 ID:pu1DNVGxO 日が落ち、辺りが暗くなる中、なんとか佐々木の家を見つけ出した。 佐々木は、帰ってきてるだろうか。 どう話そうか。 そんな事を考えていると、足音が聞こえてきた。 チラッと、足音がする方に視線を向けると、目的の人物を視界に捉える。 キョン「佐々木……」 佐々木「な、何のようだい?」 キョン「なんのって……」 佐々木は、俺の反応を無視し、門の簡素な錠前をガチャンと外す。 キョン「話してくれても良いだろ」 軽く溜め息を吐き、視線をこちらに向ける。 佐々木「話す事なんて無いよ」 キョン「何かあるだろ」 137 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 03:41:10.24 ID:pu1DNVGxO いつの間にかポツポツと降って来た雨粒が、顔に当たる。 昼間の快晴が、嘘のようだ。 佐々木「強いて言うなら、もう目の前に姿を見せないでくれたまえ」 ドキッとする程に、冷たい口調だ。 キョン「随分な言い方だな。理由を教えてくれないか?」 俺に背中を向け、少しの沈黙の後、微かに震えた声で答える。 佐々木「君が嫌いだからだよ……」 好意を持つ相手からだけに、応える一言だ。 138 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 03:47:57.30 ID:pu1DNVGxO 佐々木「君の顔は、もう見たくない」 キョン「なっ」 佐々木「雨足が強くなる前に、帰った方が良い」 そう言い残し、そのまま家の中へと姿を消した。 一般的には、振られたという事なのだろう。 佐々木の、冷たい顔と声がリフレインして頭から離れない。 次第に雨足が強くなる中、俺は呆然として突っ立ったまま二階の窓をしばらくの間、見つめる。 もしかしたら、佐々木の顔が見えるかもと、淡い期待があったからだ。 しかし、実際には激しく降る雨音が虚しく聴こえるだけで、目の前の光景は変わらい。 流石に、寒くなって来たので帰ろう。 今は、何も考えたくない。 元来た道を戻ろうと、水を吸って重くなった足を動かす。 ふと、振り返り、もう一度二階の窓を見ると、カーテンが揺れた気がした。 140 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 03:58:04.98 ID:pu1DNVGxO 翌々日 教室 谷口「よぉ。詰まらなさそうな顔してんな」 ハルヒ「……」 谷口「無視かよ! あのなあ、キョンが居なくて元気ねぇのは分かるけどよ」 ハルヒ「……」 谷口「返事ぐらいはしろよな」 ハルヒ「ごめん」 放課後 朝比奈「キョンくん、今日もお休みなんですかぁ」 古泉「淋しい限りです」 長門「心配」 ハルヒ「あ、明日になったら、ひょっこり来るわよ」 古泉「だと、良いですが」 ハルヒ「さぁ、みくるちゃん! お着替えの時間よ」 朝比奈「ふぇぇ〜!!」 143 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 04:05:19.61 ID:pu1DNVGxO 翌日 教室 ハルヒ「来たわね!」 キョン「よぉ」 国木田「もう風邪は平気なの?」 キョン「ああ」 谷口「涼宮なんか、お前が居ないからしょげてたぜ」 ハルヒ「そ、そんな事ないわよ! アホの嘘よ!」 キョン「……」 ハルヒ「?」 谷口「大丈夫か? まだ、治ってないんじゃね?」 キョン「平気だ」 国木田「無理しない方が良いよ」 キョン「ああ」 144 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 04:11:22.94 ID:pu1DNVGxO 放課後 部室 朝比奈「キョンくん、遅いですねぇ」 古泉「出席はされたんですよね?」 ハルヒ「うん」 古泉「まだ、体調が万全ではないのかもしれませんね」 ハルヒ「そうね」 次週 教室 ハルヒ「キョン」 キョン「なんだ?」 ハルヒ「えっと、ちゃんとテスト勉強しなさいよね」 キョン「ああ」 ハルヒ「なんなら、教えてあげても良いわよ」 キョン「いや、一人で頑張るさ」 ハルヒ「そう」 ハルヒ「ねぇ」 キョン「今度は、なんだ?」 145 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 04:14:06.88 ID:pu1DNVGxO ハルヒ「その……どうなったの?」 キョン「何がだ?」 ハルヒの訊きたい事は、理解していたがとっさに聞き返してしまった。 ハルヒ「佐々木…さん……」 気を使ってるのだろう。ハルヒにしては、言葉尻が弱い。 だが、何故だかハルヒには話したくなかった。 邪険にしたい訳じゃなく、惨めな自分を認めたくないからか、素直に話す気持ちにはなれなかった。 キョン「旨くいったよ、お前のお陰だな」 147 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 04:20:40.44 ID:pu1DNVGxO しかし、ハルヒは疑り深い目で俺を凝視する。 お前ヒラメみたいだな。 我慢出来ずに、視線を逸らす。 この時ばかりは、自分の嘘つきスキルのレベルが残念でならないね。 ハルヒ「あんた、嘘下手よね」 勝ち誇ったように眉尻を上げ、口元に笑みをもらす。 今にも、フフンと鼻で笑いそうだ。 今更、嘘を繕った所で傷口を広げるだけだろう。 ここは、大人しく負けを認めとく。 キョン「ああ、良く分かったな」 ハルヒ「あたしに嘘をつくなんて、10億年早いのよ」 キョン「そうかい」 149 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 04:25:01.97 ID:pu1DNVGxO ハルヒ「で、駄目だったのね」 キョン「はっきり言うなぁ」 ハルヒ「話してみなさいよ」 タイミングが良いのか悪いのか、予鈴が鳴る。 キョン「昼休みに話すさ」 ハルヒ「楽しみにしてるわ」 人の失恋話を楽しみとは、言ってくれるぜ。 150 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 04:31:23.70 ID:pu1DNVGxO 昼休み 中庭 ハルヒ「ふ〜ん、そう」 キョン「ああ」 ハルヒに、先頃のあらましを話した。 思い出してみると、改めて惨めに感じるね。 淡泊な感想を述べて以来、ハルヒは黙ったままだったので、俺は閉じていた瞼を開きハルヒの方に顔を向ける。 驚いたね。鼻息を感じる距離に、ハルヒの顔があったからだ。 キョン「おわっ!!」 思わず、後方に仰け反る。 キョン「な、なんだっ!」 ハルヒ「別にぃ……、あたし、教室に戻るわね」 しおらしい声で言うとハルヒは、どことなく元気の無い背中を見せながら去っていった。 訳が分からん。 152 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 04:35:31.93 ID:pu1DNVGxO 翌日の放課後、教室には俺とハルヒだけが残っていた。 話があるからと、ハルヒに前もって言われたのだ。 ハルヒは、着席せずに窓枠に両手を載せ、外の景色を眺めていた。 日光で少し茶色くなった黒髪が、風を受け踊っている。 「で、話ってのはなんだ?」 自分の席に座りながら、訊ねた。 ハルヒは、外を見据えたまま口を開く。 「あんた、もう諦めたの?」 「何の話だ?」 「佐々木さん」 その僅か五文字の言葉が、教室の雰囲気を一変させた気がした。 「どうなの?」 153 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 04:44:55.71 ID:pu1DNVGxO 佐々木の名前が出てくるのは、予想外だったので返事に窮する。 「いや、そう云う訳じゃないが……」 頭の中が、ゲームセンターで流れるBGMや効果音の様に、佐々木の事で錯綜していた。 「じゃあ、元通りになりたい?」 「そりゃあ、出来たらな」 「でも、その為に何かした?」 痛いところを、衝いてくる奴だ。 そう、俺は確かに何もしていない。 何故か? 恋愛経験が浅い俺には、この状況でどうしたら良いのか分からないからだ。 「どうせ、何したら良いか分からないとかでしょ」 ハルヒは、心を読めるらしい。 156 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 04:48:18.41 ID:pu1DNVGxO 「図星って顔してるわね」 参ったな、表情筋を鍛えておけば良かった。 長門や古泉に、コツでも教わろか。 「あたし、思うのよ」 外に向けていた顔を此方に向け、真剣な眼差しで言う。 「あんたは、怖がってるだけなんだって」 「怖がってる? 俺がか?」 「そう。 会っても、更にキツい事言われたら嫌だとかね」 そう言われると、そうなのかもしれない。 ただ単に、目の前の事から逃げてたって事か。 よくある話ではあるね。 「要は、勇気無しの根性無しね!」 ああ、俺も同意見だ。 158 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 04:53:24.24 ID:pu1DNVGxO 「だがな……」 ドンッ! ハルヒが、自分の机に勢いよく両手を置いた音だ。 「だがとか、けどとか、そんな後ろ向きな言葉は要らないのよ! あんたが、佐々木さんを好きかどうかそれだけなの!」 眉を釣り上げ、怒気が籠もってるであろう目で俺を睨む。 「好きなんでしょ」 「好きに決まってる」 即答した。 そりゃそうだ、嫌いになったのは佐々木の方であり俺じゃない。 「……よりも」 ハルヒが何か言葉を発したが、よく聞き取れなかった。 160 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 05:07:49.74 ID:pu1DNVGxO 「いいわ、合格」 何が合格なのだろうか。 入試の結果では無い事は、明らかではある。 「キョン、佐々木さんにストレートにアタックしなさい! 粉骨砕身、当たって砕けろよ!」 「砕けるのかよ!」 「冗談よぉ、冗談」 いつもの様な、朗らかな声だ。 全く冗談に聞こえないのは、ハルヒだからだな。 「今から、佐々木さん家に行きなさい。 六割の確率で勝てるわ!」 「六割って、案外低くないか?」 「じゃあ、七割で良いわよ」 全く持って、適当である。 162 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 05:11:51.83 ID:pu1DNVGxO 「今からか?」 「善は急げよ、ノロキョン」 どこぞのウイルスみたいな呼び方は、止めて貰いたい。 まあ、今日ばっかしはハルヒの熱弁に応えて頑張ってみるか。 俺は、席を立って鞄を取る。 「そうだな、じゃあ行ってみるとするか」 「うん……」 急にしゅんとなったな。 「どうした?」 ハルヒは、体の向きを再び窓に向けると、目を瞑って答える。 「別に、何でも無いわよ」 「そうかい」 俺は、色濃いコントラストが効いた教室の出口に向け、二歩三歩と歩きだす。 「キョン」 「ん?」 「頑張ってね」 163 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 05:16:40.34 ID:pu1DNVGxO その短い言葉に、今まで感じる事がなかった優しさを感じる。 ハルヒが、頑張って等と云う所謂、応援メッセージを言うなんて信じられんが、聞き間違いではない。 「ああ」 とまぁ、適当返事をするのが俺だ。 ハルヒの神経を疑う事はせずに、教室を後にした。 164 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 05:23:13.54 ID:pu1DNVGxO 「キョン」 少女はそう呟き、振り返る。 そこに、キョンという名の人物の姿は既になかった。 「やっと行ったわね」 その事実に納得した様に言うと、窓枠に右手を載せ、はぁ、と大きな溜め息を吐く。 「何やってんだろ、あたし」 少女の眼下を、男女で二人組の高校生が手を繋ぎながら歩いて行く。 「バッカみたい」 それを見ての感想だろうか、文句を垂れる。 少女は、その後も何か考え込む様子で、窓辺で外の風景を眺めていた。 166 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 05:27:50.16 ID:pu1DNVGxO 教室の時計の針が四時を回る時、少女が口を開く。 「あれ? なんで……」 頬を、眼から流れる透明な液体が伝う。 「ハハッ、あたし馬鹿みたい」 両手で、その液体を拭いながら言う。 「責任取りなさいよね、バカキョン。 って言っても無駄か……」 教室は、少女の微かな声が聞こえるだけで、彼女以外の人影は無い。 少女は快晴に唯一浮かぶ、一塊の雲を見据え願い事を祈る様に囁く。 「ラベンダーに幸あれ」 169 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 05:35:37.26 ID:pu1DNVGxO 十七時前には、佐々木の家に着いた。 日がまだ在るので、前回は気付かなかった、玄関脇の紫に気付く。 佐々木は、既に帰宅してるだろうか? テスト勉強の期間が被ってれば、居てもおかしくないが。 家の前で待つというのも、近所の目が気になるしな。 腕を組み、ウルトラマンのタイマー程の時間、思案する。 うむ、一応、確認してみるか。 茶がかった門を開け、数歩進むと外からは見えなかった、色とりどりの花を咲かせている花壇が、目に付く。 玄関前に到着。 深呼吸を一度行い、自分の中に迷いが無いのを確認してから、呼び鈴を鳴らした。 カチャッ、という音がインターホンから漏れる。 『どちら様?』 厳格さを持った、キリッとした声だ。 母親だろうか。 名前を告げ、知り合いだという事を伝える。 『ちょっと、お待ち下さい』 170 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 05:41:42.28 ID:pu1DNVGxO どうやら家には居るらしいが、会ってくれるだろうか。 そんなネガティブな思考回路に、スイッチし始めようとした、その時である。 正面の扉が開いた。 「いらっしゃい」 声の主は、口元に微笑を浮かべている。 若干、嫌な予感がした。 勘違いであって欲しいと思いながら、案内に従って二階に続く階段を上がる。 数ある中の一室の前で、歩みを止めドアを開けると、どうぞと伏し目がちに言いながら、右手を部屋の中へ向けた。 女子の部屋に入るのは、久しぶりだ。 171 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 05:47:42.59 ID:pu1DNVGxO 部屋の中は、年頃の女性にしては落ち着いていた。 一面をピンクが支配してる訳でもなく、化粧品やバッグ等が散乱してる訳でもない。 参考書等が陳列された本棚に、プリントや教科書が積まれた勉強机があるだけ。 唯一女の子らしいのは、ベッド上にある一体のクマのぬいぐるみぐらいだ。 いや、高一女子の部屋に入った事が他にある訳じゃないので、これが普通なのかもしれないが。 ドアの閉まる音がしたので、振り返る。 そこに立つ佐々木は、俯き黙ったままだ。 ここは俺が、話を切り出してみる事にする。 佐々木の名前を、半分程まで言いかけた時だ。 「ごめんなさい!」 俺の声に、佐々木の声が被さる。 眼前には、大きく頭を下げた姿が。 お陰で、へっ? っとマヌケな声を出してしまった。 172 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 05:52:27.44 ID:pu1DNVGxO 頭上にハテナマークを、三つ程出していると。 「怒ってる……よね?」 話の流れが、全く掴めないのは俺だけか? 「その、この前の事……」 この前の事とは、何日か前の軽い別れ話を指しているのだろう。 つまり、それに対しての謝罪という訳か。 しかし、何か違和感がある。 「怒ってはいないが」 「本当かい?」 驚き混じりの目を向け、言う。 「ああ」 佐々木は安堵の表情を浮かべると、クマのぬいぐるみを抱えて、俯きながらベッドに腰をおろす。 174 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 05:59:24.60 ID:pu1DNVGxO ちょっとした沈黙が訪れるが、佐々木がそれを破る。 「キョン、嫌いだってのは嘘だよ」 その言葉には、別段驚かないね。 頭のどっかで、分かってた気がしたからだ。 「質の悪い嘘だな」 少し、意地悪に答える。 「ごめん。むしろ、キョンの事は……す、す」 「好きだ!!」 これは、俺の台詞だ。 佐々木は面をハッと上げ、俺を凝視する。 「好きだ! 佐々木」 我ながら臭い台詞だと思うが、今は許せ。 その決まり文句の反応は、以外なものだった。 くつくつ。 佐々木は、笑っていた。 「笑うなよ」 175 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 06:06:47.53 ID:pu1DNVGxO 「だって、くっくっ」 ゲラゲラと笑うでなく、喉をくすぐる妖精が出てくるのを、堪えるように笑う。更には、涙を流しているようだ。 「泣くなよ」 「ぼ、僕は泣いてなんかっ!」 思わず俺も笑ってしまった。 「笑わないでくれ」 「お相こだろ」 「それもそう……だね」 177 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 06:13:05.33 ID:pu1DNVGxO ――佐々木の隣に、腰掛ける。 「話すよ」とは、佐々木。 俺は、あの日の原因となる話を聴いた。 話はこうだ――初めてのデートを終えた後のある日、母親に訊かれたのだそうだ。 異性と交際してるのかと。 佐々木が平然と肯定すると、母親の態度が変わって縁を切れと言われたらしい。反論は出来なかった。 何故なら母親は、所謂、教育ママでレールを勝手に敷くタイプの人らしい。 良い教育を受け良い大学に入る。 それが佐々木に課せられた使命であり、異性の存在は目標達成の妨げになるという考えだ。 古臭い考えなのかも知れないが、少なくとも俺は間違った考えと断言はできないね。 又、大学生になれば疎遠になるという言葉も、佐々木にトドメを刺した一つだ。 母親に、少なからず恩義を覚えている佐々木は、従う事以外に選択肢を考えられなかった。 179 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 06:17:16.09 ID:pu1DNVGxO 二回目のデートで、話に聞いていたハルヒに出会う。 ハルヒは予想以上に魅力的に映ったらしく、俺と同じ北高に居るという条件からも、彼女に相応しいと思ったそうだ。 俺の失恋後の、ダメージを考えての行動だったという事である――以上が、あの日の行動になった訳だ。 「それで、心変わりした訳は?」 「口止めされてるのだけどね」 180 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 06:20:57.54 ID:pu1DNVGxO そう言うと、一息間を持たせて続ける。 「涼宮さんが、家に来たのだよ」 ハルヒが? ホワイ? 何故? 「色々とキツく言われたよ。お陰で、親に自分の考えをはっきり述べられたし、納得して貰えた。そして、また君と顔を会わせられた」 「何を言われたんだ?」 「それは涼宮さんに悪いから、黙秘させて貰うよ」 と言って、穏やかに微笑む。 まあ、アイツなりに協力してくれたんだろう。 殆ど他人の家に、堂々と乗り込む度胸は見習いたいね。 「キョンは、結構な浮気症だね」 「ん、どういう意味だ?」 「さぁ」 また、くつくつと笑う。 181 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 06:23:52.86 ID:pu1DNVGxO 「それと、今度は僕の番だ」 わざとらしく咳払いを一度すると、横に座る俺の目を真っ直ぐに見つめて、口を開く。 「好きだよ、キョン 」 この後、俺達は初めての……なんて事は一切無く、遅くならない程度に帰宅した。 183 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 06:29:03.26 ID:pu1DNVGxO 翌日、現在は既に今日であるが、北高へと続く長い坂道を登っている所だ。 「よっ、キョン」 声をかけてきたのは、アホの谷口である。 「よう、谷口」 歩きながら、適当に返事する。 「それにしても、暑いよなあ」 「ああ」 七月にもなっていないのに、太陽は手加減無しに地表を照りつける。 もう少し、力を温存しても良いだろうに、本番はまだ先だぜ。 谷口の無駄な話を適当に聞き流し、エアコンが無い熱波の攻防最前線である、校舎内へ辿り着く。 この暑さでのテスト勉強は、苦行でしかないな。 184 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 06:34:19.89 ID:pu1DNVGxO 教室に入ると、席で外を眺めているハルヒが視界に入る。 鞄を机の脇に掛け、ゆっくりと自分の席に座る。 「よぉ、今日も暑いな」 「うぅん」 やる気のない返事だ。 昨日の件もあるし、お礼の一言でも述べとくかね。 「なぁ、ハルヒ」 「何?」 「ありがとな」 ハルヒは、俺に視点を合わせニィッと笑う。 「お礼したいなら、あたしを団扇で扇ぎなさいよ」 やれやれ、なかなか贅沢なお返しを望みやがる。 まあ、今日ぐらいは我慢するさ。 185 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 06:37:51.00 ID:pu1DNVGxO 七月のとある日である。 俺は今、北口駅前の待ち合わせ場所に向かっていた。 自転車を適当に停め、SOS団の集合場所でもある場所まで歩く。 遠目に目当ての人物を捉えた。 早く来たつもりだったのだが、これでも遅いらしい。 十メートル程の距離まで近づくと、相手も気付く。 彼女はラベンダーに似た色の服を着て、穏やかで優しさを持った微笑みを見せる。 http://nagamochi.info/src/up11890.jpg 「早いな」 「君が遅いのだよ」 「すまん」 「まあ、僕も先ほど着いたばかりだけどね」 186 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 06:42:27.63 ID:pu1DNVGxO さて、今日はすべき事を心に決めて来たのだ。 佐々木の、淀みの無い瞳を見据える。 「ん?」 首を傾げる佐々木の両肩に、両手を置き。 俺は少し腰を曲げ、佐々木の健康的な色をした唇に、視線を集中させ自分の唇と重ね合わせる。 今までに味わった事の無い、柔らかさを感じた。 味も良く解らん。 良くある台詞だが、いつもより時間の流れを遅く感じるね。 その夢空間を、車のクラクションがぶち壊す。 クソッタレが! 唇と肩に乗せていた、両手を離す。 187 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 06:44:49.26 ID:pu1DNVGxO 佐々木は俯いていた。 しかし、いつぞやの俯きとは違い頬を赤らめてだ。 恐らく、俺も似たような事になっているだろうね。 佐々木は顔を上げ。 「卑怯だね、キミは」と言うと両手を俺の首に絡め、もう一度くちづけをする。 今度は、キスの味がした。 END 191 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 07:00:35.32 ID:pu1DNVGxO 皆様、お疲れ様です。 最初は会話文だけで書いていて、途中から地の文追加したりして纏まりが無くなってしまいました。(修正が面倒でした、スイマセン)。 次回は、もう少し短いのを書きたい。 拝読、ありがとうございました。 あと、良かったら夜まで残しておいてくれると嬉しいぜ。 無理だろうが 253 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/05/27(水) 22:39:58.15 ID:pu1DNVGxO α―7  翌日。火曜日の放課後。 今のところ、我がSOS団の部室扉を開いた人間は、ここに居る団員のみであり、つまり昨日の一年坊共はまだ誰一人来てないのである。 その事もあり、ハルヒは口を尖らせ愚痴を団員達に吐いているのだ。まあ、殆ど俺に向けてだがな。 目の前のハンサム野郎は、五目並べに似たゲームを一人やってるし、文芸部部長の長門は分厚い本の活字に目を追い、朝比奈さんは何やらのカタログを見ている。残る俺が暇でボンヤリと過ごしている所に、ハルヒの担当が回ってくるのは当然だ。 ハルヒは一通りの愚痴を零し、入団試験の作成作業に戻る。最初からそうしてくれ。 そして、俺が古泉の遊びに仕方なく付き合おうとした、その時だ。 部室扉をノックする音が聴こえて来た。 257 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/05/27(水) 23:04:33.94 ID:pu1DNVGxO その音にハルヒは一瞬目を輝かせたかと思うと、シャーペンを鼻の下に挟みふんぞり返る。面接官になったつもりだろうか、えらく態度が大きい。 「キョン、開けてあげなさい」 渋々腰を上げドアを引くと、現れたのは昨日既視感を感じた女子生徒だった。「こんにちは」と挨拶をし、余裕を持った物腰で会釈する。 「待ってたわ」 ハルヒがいつもより低い声で言う。面接官ごっこは、続行中らしい。 女子生徒を室内に招き入れ、パイプ椅子に座らせる。相変わらず、一年生の割には落ち着いた態度だ。 普通この意味不明な組織に来たら、挙動不審になってもおかしくない。俺もそうだったしな。 ハルヒが女子生徒を、舐め回す様に品定めしているので突っ込んどこう。 「入団試験はしないのか?」 263 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/05/27(水) 23:58:59.86 ID:pu1DNVGxO 「今しようと思ってた所よ。じゃあ、名前教えてくれるかしら?」 女子生徒は、教会のシスターのような声で言う。 「藤原美咲です」 瞬間、古泉の顔が変化した気がしたが気のせいだろう、それにしても藤原ってまさかな、あのムカつく野郎とは全く似てないし無関係だろうな。 「SOS団の活動目的を言ってみなさい」 女子生徒は間髪入れずに、「宇宙人や未来人や超能力者を探し出して一緒に遊ぶこと、ついでに異世界人も」 まるで台本があるかの如くにスラスラ言い切った。ハルヒと長門、古泉以外は、答えられそうにないものをだ。 ハルヒも少し驚いた表情を見せたが、直ぐに机の上からチラシを持ち出す。 「良いわ、次は筆記試験よ」 入団までの道程は長いようだ。 しかし俺は何故だかこの女子生徒が、入団試験に合格する気がしていた。 もう落として良いよ