キョン「桜か……、綺麗だな」 1 名前: ◆c0qiswY6P.[] 投稿日:2009/04/06(月) 15:12:05 ID:2p688f3M0 同じ場面のSSをカップリング別に投下みたいな感じで 更新がゆっくりになるのはおkとの事なので遅いと思われる 何か間違いがあったら教えてくれると助かります 2 名前:にょろーん名無しさん[] 投稿日:2009/04/06(月) 15:13:02 ID:2p688f3M0 *1 「桜……ふふっ、綺麗ですねぇ」 栗色の髪を風になびかせながら、朝比奈さんは呟く。 その小さな手には卒業証書とバラの花束が握られている。 ――今日は北高の卒業式。 そして、朝比奈さんが元の時間に戻ってしまう時でもある。 「そうですね」 少し先を歩く朝比奈さんを見ながら、俺は桜に視線を移した。 花びらがひらひらと川に落ちて浮かぶ。 もう、2年か。 俺がハルヒと出会って、そして部室で朝比奈さんを見たときから2年が過ぎた。 時間って言うのは本当に不思議だ。ここどこですかぁ?と涙目で呟く朝比奈さんが、昨日のことのように鮮明に思い出せる。 「少し座ってお話しましょうか?」 朝比奈さんがふと天使のような微笑みを見せて、ベンチを指差す。 「余り時間はないんだけど少しだけ、ね」 その言葉に俺は頷いて、朝比奈さんの隣に腰を降ろした。 3 名前:にょろーん名無しさん[] 投稿日:2009/04/06(月) 15:14:16 ID:2p688f3M0 「キョン君とお話したのはここでしたよねぇ。ふふふ、懐かしいなぁ」 ベンチを、桜を、流れる川を、愛おしそうに見つめながら朝比奈さんが呟いた。 そうでしたね。カメを流したり空き缶でイタズラしたり。 そういやあのカメと男の人は元気だろうか。あの不幸な男の人はもう未来の奥さんと仲良くやってんのかな。 「キョン君……」 そんな事を考えていると、肩にほんのりと何かが触れた。それが朝比奈さんのおでこだと気づくのに時間はかからなかった。 あの時の、なんとも言えないむずがゆい感触がよみがえる。 「少しだけ、こうさせてください」 今にも消えそうな声で朝比奈さんが言う。 俺は何も言わず、変わりに手を朝比奈さんの頭に乗せた。 朝比奈さんの体温を感じながら、2年間の思い出が走馬灯のように俺の頭の中を駆け回った。 メイド服でお茶を入れてくれた朝比奈さん。バニーガールで校門前でビラを配ったり ある時は戦うウェイトレスになったり、巫女さん姿でお経を唱えたこともあったっけ。 4 名前:にょろーん名無しさん[] 投稿日:2009/04/06(月) 15:15:40 ID:2p688f3M0 朝比奈さんは今どんな顔をしてるんだろうか。 泣いているのか、それともあの天使のような微笑みをしているのか。表情は見えない。 そして、俺もそんな朝比奈さんを見つめながらどんな顔をしているのだろうか。 「……ありがとう、キョン君。もう充分です」 朝比奈さんが顔をあげる。 その抱きしめたいくらい可愛らしい顔に、涙のあとはなかった。 ――強くなりましたね、朝比奈さん。 「寂しいけどこれでお別れじゃない。 だってわたしはまたキョン君たちに会えるんだもの」 そうでしたね。そっちの俺によろしく伝えておいてください。 「ふふっ、わかりました。それじゃあ……」 そう言って朝比奈さんがベンチから腰をあげる。 その瞬間、言葉では表現しきれないような寂しさを感じた。 そんな俺を見て朝比奈さんはほほ笑みながら 「キョン君、そんな顔しないで。ね」 子供をなだめるように、座ったままの俺の頭をよしよしと撫でた。 5 名前:にょろーん名無しさん[] 投稿日:2009/04/06(月) 15:16:39 ID:2p688f3M0 「朝比奈さん……」 正直に言っちまうと、俺は今すぐにでも泣いてしまいそうだった。 こらえるように唇を噛みしめる。 「……これはキョン君が持っててください」 そんな俺に、朝比奈さんはにっこりと笑って卒業証書と花束を俺に手渡そうとした。 バラの香りが鼻を刺激する。 いやいや、こんな大切なもの俺が持ってちゃ駄目ですよ朝比奈さん。 「ううん。キョン君に持ってて欲しいの」 そう言って、俺の胸に押しつけるようにして渡された黒い筒と花束。 それと朝比奈さんを交互に見る。朝比奈さんは俺にお茶を渡した後のような笑顔だった。 分かりました。 俺が責任もって大事に保管しておきますよ。他の誰にも渡したりしません。 「それじゃあ。キョン君、――またね」 走りだす朝比奈さんの細い腕を、つい掴もうとのばしてしまう。 しかしその手はただ空気を掴んだだけだった。 6 名前:にょろーん名無しさん[] 投稿日:2009/04/06(月) 15:18:21 ID:2p688f3M0 「朝比奈さん!!」 気づいたら俺は朝比奈さんの後ろ姿に叫んでいた。 朝比奈さんがゆっくりと振り返る。 伝えたいことはたくさんあるのに、喉に何かが詰まってしまったように言葉が出てこない。 「キョン君」 朝比奈さんの、あの甘くて凛とした声が耳に届く。 「わたしはキョン君が、―――…」 そう言って再び走り出す朝比奈さんの背中を、俺はずっと見つめていた。 そしてその姿が見えなくなったと同時に優しい風が吹いた。 ひらひらと肩に乗った桜の花びらを手にとる。 どこかから、声が聞こえてくるような気がした。 大好きでした、と。 終わり 7 名前:にょろーん名無しさん[] 投稿日:2009/04/06(月) 17:52:36 ID:2p688f3M0 *2 「桜……、いつ見ても綺麗ですね」 僕は問いかけたつもりだったけれど返事はない。予想はできていたけれど。 TFEI端末にも、何かを見て美しいと思うことはあるのだろうか。 そんなことを思いながら、隣を歩く小柄な彼女に目を移した。 「………」 沈黙はいつものこと。 初めの頃はそんな度を超えた無口なところに戸惑っていたけど今はもうすっかり馴れてしまった。 まぁそんな所も、彼女の一つの魅力であるのだけれど。 今日は不思議探検の日だった。 そういや彼女、――長門さんと2人でペアになったのは初めてかも知れない。 「結構歩きましたしね、座りましょうか?」 僕はそういいながら長門さんを見る。 桜に向けられていた視線が僕に移り、注意していないと分からないようなぐらいの頷きをした。 そんな長門さんに笑いかけながらベンチに座る。この笑顔もすっかり癖になってしまった。 8 名前:にょろーん名無しさん[] 投稿日:2009/04/06(月) 17:54:01 ID:2p688f3M0 4月の空に太陽が差す。春は僕も好きな季節だ。 花びらがひらひらと舞い、長門さんの膝に落ちた。 長門さんはその花びらを手に取ってまじまじと見つめる。 「桜がお好きなんですか?」 僕の問いかけに、彼女は頷いてから 「綺麗」 澄んだ声でそう呟いた。 今日、図書館ではなくてあえて散歩を選んだのは正解だったみたいだ。 そうですか、と笑うと長門さんは僕をじっと見据えて 「あなたは?」 抑揚のない声で言った。 今日は珍しい日だ。長門さんが僕に問いかけをするなんて。 「僕も好きですよ。こんな美しいものが見れるなんて、日本に生まれてよかったなと思います」 桜にもいくつか種類がありますが、やはり僕はソメイヨシノが好きですね 散ってしまうのも早いですけどね」 そう。と長門さんが言い、手に持っていた花びらを落とした。 9 名前:にょろーん名無しさん[] 投稿日:2009/04/06(月) 17:55:33 ID:2p688f3M0 しばらく、僕と長門さんの間に沈黙が流れる。 僕も長門さんも喋ろうとはしない。けれど、長門さんの考えていることが僕には分かる気がした。 彼ほどではないけれど、僕だってずっと見てきたはずだ。 「――…幸せそうでしたね、二人は」 僕の言葉に、長門さんは少し時間をおいて頷いた。 彼と涼宮さんが交際を始めたのは、先週の事だった。 涼宮さんが彼の制服の襟をつかんで部室に引っ張ってきて、 『あたしたち、付き合うことにしたから!』 そう高らかに宣言した。 彼は少し赤くなっていたけれど、まぁそう言うことなんだが……と呟いていた。 僕はおめでとうございます、と言った。 長門さんもおめでとう、と言った。 僕は涼宮さんが好きだった。 でも僕は彼のように鍵ではなかったし、涼宮さんの気持ちが僕に向いていないことを知っていた。 そしてきっと、長門さんも彼のことが好きだったと思う。 彼を見つめる視線が、優しいものになっていることに僕は気づいていた。 10 名前:にょろーん名無しさん[] 投稿日:2009/04/06(月) 17:56:35 ID:2p688f3M0 「やっとと言う感じでしょうか、彼も涼宮さんも恋愛に関しては鈍感でしたからね」 これでいいんだ。そう、これでいい。 あの日からずっと、僕は自分に言い聞かせてきた。 今まで僕は――…古泉一樹はそんなやつだっただろう? 長門さんからの返事はなかった。 彼女はただ何かを考え込むように黙っていた。 春の風が爽やかに駆け抜ける。 朝比奈さんが卒業した今、不思議探検は二人ずつに分かれて行われている。 彼と涼宮さんは、今ごろデートを楽しんでいるのだろうか。 11 名前:にょろーん名無しさん[] 投稿日:2009/04/06(月) 18:12:06 ID:2p688f3M0 「機関の人間としてはね、助かりましたよ。 これでしばらく閉鎖空間も落ち着いてくれることを祈っています」 口から滑るように言葉が出てくる。 自分の意思と違う事を言うのも、もう慣れてしまったのかもしれない。 地面の花びらに向けられていた目が、ゆっくりと僕に移された。 瞳の中に僕が映っているのがうっすらと見える。 なんとなく、目をそらしたくなるのは何故だろうか。 「あなたとして」 「はい?」 突然長門さんの口から出た言葉に、僕はクエンスチョンマークを浮かべていた。 長門さんは少し考えるような素振りを見せ 「古泉一樹として、あなたはどう思っている」 何もかもを見透かしたような目を、再び僕に向けた。 12 名前:にょろーん名無しさん[] 投稿日:2009/04/06(月) 18:32:34 ID:2p688f3M0 ああ、そうか。 長門さんの目を見るのが嫌だったのは、僕の内面を見られているような気がしたからだ。 やはり僕が気づいていたのと同じで彼女も気づいていたのだろう。僕の気持ちに。 「恋をすると綺麗になると聞いたことがありますが…… 涼宮さんは本当に素敵な方になられました。彼と出会ってからね。 僕は、そんな彼女が好きでした。『彼のことが好きな彼女』が」 長門さんの方を見ることもなく、僕は続ける。 「彼と涼宮さんが交際関係になったのは、もちろん僕としても嬉しいです。 二人の友人として、そしてSOS団副団長としてのね。 これからも見守らせていただきますよ、それが僕の使命ですからね。 ですが――……」 僕は言葉をとめた。 この先の言葉が思いつかない。彼女の言葉を借りるならば、上手く言語化できないというところだろうか。 「長門さんも、好きだったのでしょう? 彼が」 僕は先ほど言葉をかき消すように隣にいる彼女に聞いた。 今にも消えそうな声だと、自分でも思った。 14 名前:にょろーん名無しさん[] 投稿日:2009/04/06(月) 18:56:05 ID:2p688f3M0 「彼と一緒にいるとエラーが止まない。どれほど処理してもそれは蓄積する。 私はそれが好きという感情だという事を理解した。 彼と涼宮ハルヒが結ばれた時、私は嬉しいと感じた。 けれど、それ以降もエラーは止まない。解析は不可能」 長門さんが途切れ途切れに言った。 これほどお喋りな長門さんを、僕は初めて見た気がする。 「そうですか……」 僕が言った言葉にそう。と言ってから長門さんはまた桜を見た。 だんだんと日が暮れていく。おそらくもう少ししたら集合時間だろう。 それが分かっていても、僕はベンチから動くことができなかった。 おそらく、僕と長門さんは同じ気持ちを共有しているんだろう。 言葉でうまく表すことのできない、解析不可能の感情。エラー。 15 名前:にょろーん名無しさん[] 投稿日:2009/04/06(月) 19:16:31 ID:2p688f3M0 どれだけそうしていただろうか。 沈黙を破ったのは、長門さんのほうだった。 「……時間」 「時間、とは」 「集合時間まで後20分。時間に遅れないためにはそろそろ戻ったほうがいいと判断する」 ああ、と呟いて腕時計を見ると丁度約束の時間の20分前だった。 もちろん長門さんが時計など一切見ずに言ったのは言うまでもないだろう。 「どうする」 長門さんが僕を見据える。 「どうしましょうか」 僕はそう言って笑う。 16 名前:にょろーん名無しさん[] 投稿日:2009/04/06(月) 19:18:54 ID:2p688f3M0 「……あなたに任せる」 長門さんの声が耳に届く。 言い方は素っ気ないけれど、何故だか暖かく感じたのは何故だろう。 「それでは、もう少しだけこうしていましょうか」 このままでは遅れてしまうだろう。普段の僕なら考えられない判断だ。 そんな僕の言葉に 「了解した」 とだけ言って、また長門さんは桜を見る。 その瞳に映るのは桜か、それとも――… 夕日の差すベンチに二人、わずかな隙間に花びらが舞い降りた。 終わり 17 名前: ◆c0qiswY6P.[] 投稿日:2009/04/06(月) 19:28:23 ID:2p688f3M0 とりあえずキョン×みくると古泉×長門は終わりかー SS書いたことなかったから誤字なども多いと思われるがそこは目を瞑ってもらえると嬉しい そしてVIPの規制解除マダー 19 名前: ◆c0qiswY6P.[] 投稿日:2009/04/07(火) 11:13:25 ID:kmm83dJ20 *3 「桜……、綺麗ね」 七月の太陽の下、桜がひらひらと舞っている。 どう考えても桜の咲く季節じゃないけど。 ではなぜ桜が咲いているのか?――…簡単だ。あたしが『咲いて欲しい』と思ったから。 今は夏休み。 キョンが田舎のばーちゃんに会いに行くとかなんだか用事があるみたいだから、SOS団の活動はしばらく休み。 ほんっとダメな雑用係ねー。帰ったらまたたくさん奢らせてやるんだから。 後ろの方にはテレビカメラとキャスターがいて、『七月に桜が満開で…』とかなんとか喋ってる。 そういや前もこんな事あったわね。あれは秋だっけ? 20 名前: ◆c0qiswY6P.[] 投稿日:2009/04/07(火) 11:13:52 ID:kmm83dJ20 「涼宮さん」 そんな事を考えていると、後ろからあたしを呼ぶ声。 振りむかなくても分かる。だって呼んだのはあたしなんだから。 「あら古泉くんじゃない。桜を見に来たの?」 「はい、なんだか急に見たくなりましてね。気づいたらここに立っていましたよ。 そうしたら涼宮さんを見かけたもので」 「へー、"偶然"ね」 「秋……映画を撮ったころにもこんな事がありましたね。 いったいどうしたんでしょうねぇ?」 困ったように笑う古泉くん。やっぱり笑顔の似合う人だとあたしは思う。 どうしてか、それはあなたが一番分かってるでしょ?古泉くん。 21 名前: ◆c0qiswY6P.[] 投稿日:2009/04/07(火) 11:15:00 ID:kmm83dJ20 あたしは全部を知っている。 でもあたしが知っていることを、みんなは知らない。 古泉くんは、有希は、みくるちゃんは、そしてキョンは……あたしが知ってるって言ったらどうする? 「これは異常現象ね! 調査の必要性があるわ! そうね……今日は二人で調べましょうか。たまには団長と副団長でってのもいいでしょ」 あたしの言葉に、古泉くんはいつもの笑みを見せながらかしこまりました。と言った。 古泉くんは何があってもあたしの言葉にノーとは言わない。 だからこそ、本当はどう思っているんだろうと気になってしまう。 あたしは怖い。 みんながあたしから離れてどこかに行ってしまうことが。 22 名前: ◆c0qiswY6P.[] 投稿日:2009/04/07(火) 11:44:17 ID:kmm83dJ20 『ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者などがいたら、あたしのところに来なさい』 あの日、あたしが言った言葉を頭の中で繰り返す。 その言葉に前の席に座るキョンがぽかんとアホみたいな顔しながらあたしの方を見て…… もうあれから一年以上も経ったのね。 楽しかった。あたしは本当に楽しかった。――だからこそ不安になる。 みんなは楽しいと思ってくれたんだろうか? もし能力なんか何もなくて普通の人間でも、あたしと一緒にいてくれる? そう思った時とてつもない不安に襲われた。 中学の頃、つまらない日常にあたしはずっと退屈していた。 どうしてあたしの周りはこんなにつまらない事ばっかりなんだろう。何か面白いことの一つや二つ、起きてくれたら…… なんて、そんなことばっかり考えていた。 でももしかしたら……あたしは寂しかったのかもしれない。 あたしはずっと求めていた。あたしのとって楽しい生活を。 そしてやっと手に入れたあたしのSOS団。 いつかすべてが終わっても、あたしたちはずっと一緒に―― 23 名前: ◆c0qiswY6P.[] 投稿日:2009/04/07(火) 12:08:53 ID:kmm83dJ20 「……古泉くんに」 「僕がどうかしましたか?」 「今日、古泉くんに会えたらいいなって思ったのよ」 突然のあたしの言葉に、古泉くんが一瞬驚いたような表情を見せた。 でもすぐにそれはいつもの微笑みに変わる。 「そうですか、それは光栄です。 桜……綺麗ですね。思いつきだったんですが来て良かったです」 この騙し合いが、いつ終わるのかはわからないけれど 今は何も考えないでいよう。 「そうね、それじゃあ行きましょう!」 だって、こんなに桜が綺麗なんだから。 終わり