古泉「雨が、止まなければいいのに」 1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/01(日) 10:19:42.19 ID:I2a9acLH0 灰色の、宙と大地の際に僕は立つ。 光が見える。 青く燃え立つ、神々しくその偉容を僕らに見せ付ける、涼宮ハルヒの使徒であり分身とも呼べるそれ。踊るように腕を振り抜き、建物を貫き、創造主は被造物を破壊する。 神の人は美しい。 僕はこの閉鎖空間に侵入するとき、いつも郷愁にかられる。来るべき場所に来た、ここが僕の還るべき場所だとさえ思う。それは錯覚だろう、誰に言われるまでもなく分かっているのだけれど。 この閉鎖された世界が、僕には愛しくてたまらない。 骨を埋めるときは、この冷たい空の下がいい。出来れば雨が降っている日に。 閉鎖空間が解けて、銀色の雨が降り注ぐなかに、この瞼を閉じることさえ出来たなら……。 3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/01(日) 10:21:17.26 ID:I2a9acLH0 ……… …… 水溜りを踏む。 スーパーで夕食の材料を買い込み、帰宅の途中。路上を打つ雨から身を護るため、ビニール傘を広げ、街灯の下を渡っていた。 枝葉に生きる糧を恵む雨というよりは、凍て付かせるための寒の雨。 雨は降り始めからおよそ七日に及んでいた。長い長い、冬の雨。 『長門は、雨は好きか?』 「彼」がふと思いつきのようにわたしに訊ねたとき、わたしは「わからない」と答えた。そのときは本当に、わからなかった。 好悪の識別を即座に行えるほどの経験が、わたしにはなかった。 今は――どうだろう。 4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/01(日) 10:23:45.01 ID:I2a9acLH0 『雨は、好きですか?』 闇に降る雨に、わたしはそっと眼を閉ざす。 その水の音色さえ、心地いいと想うこと。……わたしにそれを語ったのは、普段はあまり会話することのない、古泉一樹だった。 『時折思うんですよ。雨が止まなければいいのに、と』 『なぜ』 わたしの問いに、古泉一樹は静かに笑み、首を振るばかりだった……。 5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/01(日) 10:25:27.69 ID:I2a9acLH0 月のない、雨に遮られた視界。 身を切るような突風が降り、腕から提げたビニール袋をかさかさと揺らす。 意図的な調整を行わない限り、わたしの身体も平均的な人間の体温に準じる。わたしはそっとニット帽子の先を摘み、縫い付けられた『snow&love』のロゴを正面に向くよう修正した。 これは、涼宮ハルヒと朝比奈みくるから贈られたものだった。 冷え込む日には暖かくすること。 防寒に優れた白いコートを、手編みのマフラーを、絹の手袋を、毛糸の帽子を、ファーの耳あてを……。 一つずつわたしは彼等に与えられ、教えられた。人に接し、人のように生きるということの意味。 彼等を想うと、それだけで暖かく膨らむ心。 ――『恋しい』と、呼ぶ感情のこと。 思うだけで幸福であることがある。 わたしは幸福だった。この寒空の、雨の夜にさえも。 7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/01(日) 10:28:07.03 ID:I2a9acLH0 『一つ頼んでもいいですか?』 ……ふと、昔のことを思い出す。あれは、やはり、雨の日だった。 水の音に耳を澄ましながら、その細い糸のような記憶を辿りながら歩むうち、わたしは眼を見開いた。 雨天のさなかの偶発的な接触。 ――彼は傘を、差していなかった。 濡れ鼠となった身体。降るに任せ、濡れるに任せている。 髪も爪先も水に浸りきった姿で……古泉一樹は人通りのない路上を、当て所なく歩いていた。 8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/01(日) 10:32:53.80 ID:I2a9acLH0 外灯に浮かび上がる、白い顔。 彼の面は、笑みを形式化している常の振る舞いとは別人のように、生気が薄かった。 力を喪った足取り。疲れたような眼差し……。 「……長門さん」 古泉一樹はわたしに気づき、立ち止まる。 わたしは手持ちの傘を高く掲げ、彼へと差し出した。 安物の傘は、わたしと彼から雨を遮蔽するには小さい。持ち上げては見ても、彼の背は雨に打たれる。 古泉一樹はすみません、と小さく謝罪した。 雨音に掻き消されそうなほどに、微弱な声色だった。 9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/01(日) 10:38:08.13 ID:I2a9acLH0 「傘は」 「……今日は、たまたま、持っていなかったんですよ。突然降り出したので、雨宿りの暇もなくて。暫く濡れていたら、快不快の段階を通り過ぎてしまったので、いっそのこと濡れたまま帰ろうと……」 言い淀み、視線が逸れる。急いでいる様子が見られなかったところからみても、発言内容に齟齬がある。 何かあると察した。けれど、不躾にそれを問い質すことは憚られた。 古泉一樹とわたしは、「彼」とわたしほどに、「彼」と古泉一樹ほどに、私的な会話を交わしたことがない。 日常的な挨拶や非常時の連携ならば、可能な範囲という程度。 ……部外者には、然程親しくもないわたしには、言いたくないことだろうか。 11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/01(日) 10:39:36.56 ID:I2a9acLH0 「――このままでは風邪を引く」 「大丈夫ですよ。家に帰ったらすぐ、シャワーを浴びますから」 古泉一樹は明らかに憔悴している。 このまま別れたのでは、恐らくわたしはその選択に悔いを残す。来た道を引き返そうとする彼を、わたしは自然と引き止めていた。 「……来て」 「え?」 「わたしの家」 茫然とわたしを見つめ返す、無防備な茶の瞳に出遭う。 その瞳孔に映り込んだわたしの姿に、わたしは少しだけ、満足した。 14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/01(日) 10:51:46.30 ID:I2a9acLH0 ……… …… 本日の閉鎖空間処理は、一時間を要した。 涼宮ハルヒの前触れのない怒りは、雲を突き破る雷鳴の如しだ。 それでも、今回の負傷者は一名。一月前に比べたら格段の進歩だ。 ……まあ、その負傷者というのが、僕なんだけれど。 「あんた、いつになったらその無茶な戦い方をやめるのよ」 森さんがぼやきながら、僕にテーピングを施してくれる。 苦笑すると、「反省の色が見えない!」とぴしゃりと怒られた。酷いなあと更に笑ってしまうと、森さんの機嫌は上乗せして低空飛行だ。 15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/01(日) 10:54:29.77 ID:I2a9acLH0 「ついつい、あの空間内にいると加減を忘れてしまうんですよ」 「神人の反撃を考えて攻撃しなさいよ。結成したばっかりで纏まりを欠いてる超能力者の中で、あんたは唯一といっていい攻撃特化の能力者なんだから」 「……ハイ。わかってます」 ぺろ、と舌を出す。森さんの苦渋がより深くなった。いや、どちらかというとこれは呆れ顔だ。 「あんたねえ。人が真面目に話してんだから……!」 「僕だって真面目に考えてますよ」 「じゃあまずその笑い顔を何とかしなさい!痛いときは素直に痛がる!」 「この笑顔は昔からの癖みたいなもの……って、ててて、いた、痛いです痛いです」 なんて横暴な人だ。もう少し労ってくれたらいいのに。 17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/01(日) 11:04:41.74 ID:I2a9acLH0 思わず憮然とした僕に森さんは笑い、 「そーそー。そういう顔してなさいよ。いつも訳知り顔の笑顔じゃなくてね」 その笑顔が心からほっとしたような、優しい微笑みだったからだろうか。 取り損ねた小骨のように、喉に何かが……痛みを伴って、引っ掛かった。 「……どうしてそんな風なんですか、森さんは。僕がどんな顔しようと勝手じゃないですか」 「気持ち悪いじゃない、同年代の男が辛いはずの任務にニコニコしてるなんて」 酷い言われ様だけれど、森さんの瞳は僕を案じてのものだろう、憂いを帯びている。 「私達は涼宮ハルヒに選ばれた。それは、確かなことよね。誰だってこんなこと、やりたくないはずだわ。 だけど皆世界のためと割り切って戦ってくれてる。 ………あんたは違うでしょ?」 19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/01(日) 11:25:24.10 ID:I2a9acLH0 「………」 「あんたはこの任務に苦しさだとか、重荷だとかを感じてない。寧ろ喜んでる。 だから、心配なの。なんだか……危うく見えるから」 森さんの推察は正鵠を射ている。 僕は日々の神人狩りに何ら痛痒を感じない。恐怖も覚えない。ただ全てが美しいと思うだけだ。 僕が此処にいられることを、幸福だとも思っている。 傍からすれば、異常なことなんだろうけれど。 僕は造物主も、その造物主が創り給いし被造物も、それを破壊する者でさえ愛している。 23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/01(日) 11:41:17.49 ID:pF3ybHL+0 注意書きを忘れていました オリキャラが登場します 24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/01(日) 11:45:59.72 ID:pF3ybHL+0 「あんたは強いから、滅多なことなんてないと思うけどね」 森さんは最後にハイ終了、と処置を終えた僕の腕を叩いた。 「……有難うございます」 皮膚の削げ落ちた、赤い跡の残る腕をさすり、僕は微笑んだ。 僕の神と閉鎖空間を愛するこれは破滅的思考だろうか、と考えることがある。 別に世界の終わりの瞬間を見たいわけではない。 僕は世界を愛着しているし、決して生まれ変わらせたいわけでもないのだ。 ただ、……僕は生きていくことそのものを止めてしまいたいと願っていたころ、この力に目覚めた。 僕の人生をこの力と涼宮ハルヒが変えたのは確かなことなのだ。 25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/01(日) 11:49:08.55 ID:pF3ybHL+0 この力を与えられて絶望した者がいるのと同じく、この力を与えられて希望を見出した人間もいる。 僕は……涼宮ハルヒのために死にたいと思う。 28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/01(日) 12:02:08.76 ID:pF3ybHL+0 ……… …… わたしが古泉一樹を近場のマンションまで連れて行き、お湯を沸かし、バスタオルを用意し、着替えを準備するまでの間。 リビングに上がって待つように指示すると、古泉一樹はわたしの言葉にすんなりと従ったものの、一言も発さず、無言のままでいた。 常ならば流暢な語り口で、返答を期待する素振りもなくわたしに語り掛ける古泉一樹の変調。 涼宮ハルヒに纏わる事象ならば、思いつめる前に相談が持ちかけられているはず。 古泉一樹は非常時に、他勢力への、わたしや朝比奈みくるへの協力要請を惜しむことはない。 世界改変のこと、機関内部での混乱、わたしに思いつく限りのことは、「異常なし」と思念体からも結果報告が来ている。 だから、おそらく、問題は古泉一樹個人のもの。 ……わたしが、聞けることだろうか。こればかりは分からない。 人間の心の距離ほど、測ることの難しいものはなかった。 31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/01(日) 12:15:51.24 ID:pF3ybHL+0 「………飲んで」 コーンスープを注いだマグカップを手渡すと、バスタオルを羽織って蹲っていた古泉一樹が、ようやく「……ありがとうございます」と小さく応じる。 「……寒い?」 「いえ、平気です」 かぶりを振る古泉一樹の、濡れ髪から雫が散り、絨毯に染みを作る。 わたしは目線をこれ以上逸らさせないように、肩に手を添えた。 「わたしには、そうは見えない。……何故、雨に濡れていたの」 「………」 「わたしには、言いたくないこと」 それならばわたしに、聞く権限はない。 かつての冬の日、あなたがわたしの感情に踏み込まないでくれたことを、わたしは忘れていない。 古泉一樹の事情がわたしに話せないような深刻なものなら、わたしは古泉一樹が風邪を引かないよう計らった後、何も聞かずに彼を送り出す。 そう決めて、一度だけ訊ねた。 35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/01(日) 12:24:08.93 ID:pF3ybHL+0 「あなたが抱え込んで、苦しい思いをしないのなら、話さなくて構わない。 ……もし、あなたが打ち明けることで、少しでもあなたの気が楽になるのなら」 「彼」のように上手く言えているか、あまり自信はない。 わたしは切れ切れの想いの端を繋ぐように、古泉一樹の眼を見、わたしの声を渡した。 「……わたしに、あなたを助けさせてほしい」 屋根からベランダを打つ雨垂れの音。 雨の音が聞こえている。 些少の沈黙。 古泉一樹は、はっきりと微笑んだ。 「……本当に、変わりましたね。長門さん」 38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/01(日) 12:32:35.90 ID:pF3ybHL+0 手伝いに借り出されました 少し空けます すみません 43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/01(日) 13:07:53.03 ID:pF3ybHL+0 予測していなかった言葉だった。 わたしは瞬き、古泉一樹はバスタオルを握り締めて、仄かに目尻を下げる。 「見違えるくらいに、今のあなたは、僕には眩しい。――以前のあなたの否定ではないんです。これがあなたにとって褒め言葉になるのかは分かりませんが、長門さんは……とても、人らしくなった」 「……そう」 自覚している。 彼らと共に過ごすうちに、変えられていったもの、変えていったもの。 わたしはこれを喜んでいいだろうか。 単なるインターフェース用端末が、わたしの望む恋しい人々に、ほんの僅かにでも近付けているのならば。 古泉一樹は息をついた。溜め込んだ億劫を吐き出すように。 「……あまりに情けなくて、長門さんにお話しするのは……気が引けるのですが」 あんなに優しい言葉を貰ったのでは、口を噤んでいるわけにもいかないと、古泉一樹は弱々しく呟く。 47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/01(日) 13:24:22.89 ID:pF3ybHL+0 「今日は、命日なんです。……僕の、大切な人の」 マグカップに口をつけて、喉を温かな飲み物で潤した後。 穏当な笑みと共に、彼は切り出した。 「聞いていただけますか、長門さん。――僕が超能力者になった、『きっかけ』の話を」 彼の声は普段の調子を取り戻し始めている。 雨の音が耳を撫でる。 視界が白んだ雨の日に、零れ落ちた赤い花……。 わたしは、過ぎる一つの記憶を思い返しながら、聞かせて欲しいとだけ、彼に答えた。 50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/01(日) 13:39:24.67 ID:pF3ybHL+0 ……… …… 僕は幼い頃より雨が好きだった。 晴れの日が好きな人間は多いだろうけれど、僕のように胸を張って雨が好きという人間は稀だと思う。 自分は雨男ないし雨女であると称する人の意図するところ、雨とは大概は自虐の言葉だから。 僕は自分が雨男だとは思わないけれど、もし本当に僕の通る所全てに雨が注いでくれたらどんなにいいだろうと、常々思っていた。 「俺は、どちらかというと……雨の日は憂鬱だなって思う」 きゅ、と眉を顰めて、僕の長々しい話を最後まで聞いていた幼馴染は、僕を見上げて言った。 「雨が降ると寒いし、外に出られないから遊べないし。灰色の空を見てると、なんだか怖くなるから」 「どうして?」 「灰色って、視覚的には黒に近い色だから。縁起のいい色じゃないし。……悪いことが起きそうって思わない?」 僕は笑った。 四つ年下の、いつも威勢はいいこの子供は、変なところで理屈っぽく怖がりだ。 57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/01(日) 13:50:20.42 ID:pF3ybHL+0 「雨は古来から穢れを払うものともされていますから。それこそ、雨は天から齎される恵みだったんですよ。縁起付けられてきたところを踏まえれば、決して不吉なものじゃない」 「それは知ってるけど」 「僕は、そんな風に君が怖がる気持ちが逆に分かりませんね」 「……昔から兄さんは、屁理屈得意だよね」 失敬な。 僕が反論しようとしたところで、胸ポケットに入れてある携帯が鳴り響いた。 取り出すと、案の定「機関」からだ。 「……何?またアルバイトなの?」 「はい」 「最近、なんか多くない?やたら怪我もしてるし……危ないアルバイトじゃないよね」 弟分として可愛がってきたその子が、僕を心配している表情は、嬉しくもあり辛くもあった。 僕が閉鎖空間で戦っていることなど、勿論この子は知る由もない。 62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/01(日) 13:57:35.01 ID:pF3ybHL+0 「ふふ。僕がそんなに危険な仕事に精を出す人間に見えますか?」 「……見えない。寧ろ業務が楽で自給の高い仕事を選んでるイメージ」 僕を何だと思ってるんだこの子は。 ちょっと心がグラついたけれど、ここは耐えておこう。僕のことを真剣に考えてくれているのは確かなのだから。 「……でしょう?だから、心配するようなことは何もありませんよ。怪我は、仕事でよくミスをするせいですから」 「本当に本当?」 「本当に本当です」 こういうとき、地の顔が笑顔で良かったとつくづく思う。表情の変化を悟られずに済む。 ……嘘なんて、吐かないにこしたことはないのだけれど。 67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/03/01(日) 14:15:38.70 ID:pF3ybHL+0 念押しに一応は納得したのか、一度は落ち着いた少年は、けれどもそれで会話を終わりにはしなかった。 「わかったよ。でも、何か辛いことあったら、俺にも相談してよ。兄さん」 この年頃の子にしては背の高い方だろう、それでも僕とは随分開きのある背丈を、ぴんと伸ばして。 「勉強とか色々兄さんに面倒見て貰ったでしょう。夏休みの宿題が終わらないときも、三日付きっきりで手伝ってくれたよね。 他にも、怪我してゴールできないかもって思った陸上競技のとき、俺を負ぶって最終コースまで走ってくれたりとか……。たくさん、本当にたくさん助けてもらったから」 だから今度は僕が兄さんを助けるから、そう言って小さく照れたように笑う。 僕は、……そのひたむきで清らかな瞳が、眩しく愛しかった。 「ありがとうございます」 胸が熱い。 子供は子供なりに、見ている世界がある。それは僕とは決定的に違うだろうけれど。 「……だけど、その熱意は他のところに使ってください。僕は、君からもう十分、貰っていますから」 涼宮ハルヒの他に僕をここまで生かし続けた存在があったとしたら、それは。 きっと目の前の少年のことに、他ならない。 70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/03/01(日) 14:27:09.42 ID:pF3ybHL+0 ――僕は彼と別れ、機関の召集命令に基づいて本部へと赴いた。 「機関」。正式名称は別にあるが、公表はされていない。 原型となる枠組みは更に数十年前より、まったく別のことを目的にしてあったらしいが、現在の機関の発足は実質数ヶ月。 所属員も増加の一途を辿り、足並みを揃えるのは難しい。 統率が取れているのは僕を含め、超能力者所属の一派くらいかもしれない。 少なくとも僕らの目的意識は明確だからだ。涼宮ハルヒの生み出す神人狩りと、世界の保全。 78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/03/01(日) 14:49:41.45 ID:avrPZ5FV0 今回も閉鎖空間処理かと思ったが、そうではないらしい。 会議室に集められ、久しぶりに勢揃いとなった総勢十名ほどの超能力者たちは、各々席に付いて森さんの指示を待つ。 壇上に立つ森さんが、プリントを手に取った。 「今日は緊急に、皆に報せたいことが出てきたのでここに集まって貰いました。配った資料を見てちょうだい」 資料にプリントされているのは女学生の顔写真と現在住所。 見慣れない単語が眼についた。 「T・F・E・I……?」 「対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェース。例の宇宙人組織の派遣部隊よ」 室内がざわめく。 この、一見少女のような見目形の子たちが、宇宙人に類する存在だということ。 世界の危機に実感を持って対処してきている超能力者たちでも、驚きを隠せずにいた。 85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/03/01(日) 15:08:25.50 ID:avrPZ5FV0 「見た目は可愛い女の子たちだけど、騙されないで。どんな力を秘めているか計り知れないわ。 向こうはどうやら静観を保つようだけど、接触は危険と考えて、迂闊に近付かないようにね」 森さんの声に、戸惑い気味の仲間たちもばらばらと頷きを返す。 僕は資料を何度か読み返し、そこに記されていた情報を頭に叩き込んだ。といっても、それほど綿密に調べ上げられた情報があるわけでもないようだ。 分かっているのは名前、性別、住所、観察された行動についてのみ。 朝倉涼子。 長門有希。 分譲マンションの708号室に在住。505号室に在住。滅多に姿を現さない。詳細不明。捜査を継続中……。 さすがに宇宙人相手の調査となると、諜報員も大変だろう。下手をすれば後ろから刺されかねない。 眼鏡姿の知的な少女の写真を見、僕はふと思った。 ―――宇宙人は、雨が好きだろうか。 93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/03/01(日) 15:34:54.99 ID:avrPZ5FV0 機関の召集から三日。連日連夜の発生が嘘のように、奇跡的に閉鎖空間は発生せず。 ……その晩は、雨が降った。 雨の日は、傘を差さずに出歩くことも多い。水の感触を直接肌で味わえるのがいいと思う。 僕は鼻歌交じりに、小雨を浴びながら夜の町を歩いていた。 一見は黒一色の空も、雨雲がかかっている時には濃密な灰色を含んでいるのが見て取れる。 それはさながら閉鎖空間の中を散歩しているようで、森さんには趣味が悪いと罵られそうだが、僕には心地いい時間だった。 隔絶された僕一人の世界を、雨音のみを頼りに進む。 96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/03/01(日) 15:45:06.43 ID:avrPZ5FV0 とん。 思わず足を止めたのは、まるで考えもしていなかった相手に出くわしたからだった。 雨中に建つ、看板の色が剥げかけたコンビニ。 住宅街にあるコンビニにしては広めのスペースがとられた駐車場に、車は一台も停まっていない。 そしてそんな寂しい軒下に立つ一人の少女。眼鏡をかけた、北高の制服の。 「……長門有希」 僕が漏らした声を聞き取ったらしい、少女の瞳がすいと僕を向く。 冷や汗が流れた。 出来得る限り接触しないように、というお達しではあったけれど、まさかこんな所で遭遇するなんて想定外だ。 98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/03/01(日) 15:56:44.09 ID:avrPZ5FV0 ………だが、反射的に身構えた僕とは対照的に、宇宙人の娘は何処までもマイペースだった。 此方を一瞥した後は、特に何もすることなく視線を元に戻し、立ち尽くす。 僕に対して何を言うこともなければ攻撃に出るといった様子も見られない。 彼女はのんびりと雨に降られない位置に立っているだけだ。 森さんの話していた通り、基本的に静観というスタンスで、機関員を無闇に敵対視しているというわけでもなさそうだった。 ……僕は心底安堵した。得体の知れない相手という印象は拭えていない。 この場は早急に立ち去るのがいいだろう。 踵を返し、細かな雨を身に受けながら、僕は長門有希に背を向け走り去った。 彼女の視線が此方を追いかけて来る様子は、ついぞなかった。 109 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/03/01(日) 17:08:49.07 ID:Gpkw5in30 二度目の接触は、それから数月後の話になる。 雨季は過ぎて夏を迎え、閉鎖空間の頻度が上がり、一日に一度ないし二度の出動という状態が続いた。 休む間もない、働き詰めの毎日だった。 元々体力はある方だったこと、神人狩自体に楽しみを見出していたこと、他の人と比較して自由時間が多かったこと。 好都合が重なり僕はそれほど苦ではなかったが、他の仲間たちにとっては相当キツい毎日だっただろう。 定職に就いている壮年の能力者などは、長年勤めてきた会社を辞めざるを得なかったようだ。 給金は機関から支給されるといっても、やり切れないものがあっただろう。その人は愚痴一つ吐かなかったが、その背が何処か孤独だと僕は思った。 若輩の僕に、掛けられる言葉はない。胸中を察して黙ることが、僕に出来る最善だった。 111 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/03/01(日) 17:20:27.26 ID:Gpkw5in30 日照りが強くなり、暑さに体力を削られ、疲弊の色が濃くなり始めた頃。 久しぶりの雨天となった。 「明日試合なのに……」 ぼやいた弟分は、窓越しに空を見上げてから、僕を振り返り溜息をつく。 「ずっと晴れてたから油断してたよ。これなら照る照る坊主でも作っておくんだった。……兄さんは嬉しそうだね」 「僕は雨が好きですから」 「俺も、最近分からなくはないよ。雨もいいかなと思うようになった」 「へえ?」 「でも、普通の日だけね。明日は困るよ。一度だけ打席に立たせてくれるってコーチが言ってたのに」 拗ねたような口振りは、まだまだ子供っぽさが抜けていない。彼はここ数ヶ月で更に背を伸ばしていて、僕は何とも面映い気持ちになる。 この分だと、抜かされる日もそう遠くないかもしれない。 112 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/03/01(日) 17:31:10.01 ID:Gpkw5in30 「そうだ、今日、ご飯食べてく?母さん達が、兄さんがまともな食事を取ってるか心配だって」 「心遣いは嬉しいですが、遠慮しておきますよ。今日も……」 言った傍からだ。手持ちの携帯が鳴った。 子供が沈黙し、「気に食わない」と明示した不満顔を僕に向ける。 「――アルバイト?」 「そのようです」 閉鎖空間だろう。僕は椅子に掛けてあったコートを羽織り、すぐに発とうと立ち上がる。 裾を鷲掴みにしたのは、さっきまで窓際にいた子供だった。瞬発力に目を見張る。 「ねえ、おかしいよ。幾ら生活費を稼ぐためって言ったって働き過ぎだよ。そんなに貯めてどうするのさ、学校も行ってないのに!」 「………事情があるんですよ」 「体ボロボロにしてまで働かなきゃいけない事情って何?母さんも父さんもおかしいって言ってるよ! 足も腕も包帯だらけじゃないか。俺、相談してって言ったよね。俺そんなに頼りない?」 113 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/03/01(日) 17:37:19.86 ID:Gpkw5in30 駄目だと思った。……この子の眼は、真っ直ぐに過ぎる。僕の誤魔化しなど容易く見破るだろう。 嘘を吐くのは心苦しいが、真実を語る訳にもいかなかった。 僕が選んだのは、僕の為を思って必死になってくれている少年の腕を振り解き、外へと走ることだった。 「兄さん……兄さんの馬鹿野郎!」 後から響いた声は、聞こえなかったふりをした。 116 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/03/01(日) 17:46:32.51 ID:Gpkw5in30 閉鎖空間処理を終えても、すぐに帰る気にはなれなかった。 帰りの車も断って、久方ぶりの雨の中を僕は散策することした。 嫌われてしまったかもしれない。だけど、その方がいいのかもしれない。 水を浴びて冷えていく思考に、このまま瞼を閉じて動かなくなりたいと思う。 彼の幼い優しさを踏み躙ったことを恥じた。自己嫌悪が降り積もって、聊かも気分は晴れてくれなかった。 目的もなくふらふらと歩き回り、――気付けば、いつかと同じコンビニに辿り着いていた。 そしてそこに、以前と同じ宇宙人も、立っていた。 118 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/03/01(日) 17:58:34.76 ID:Gpkw5in30 自棄になっていた所為もある。頭の螺子が何本か外れていたのだろう。 僕は軒下で、この前から今日まで人形の様に此処に突っ立っていたのではないかと疑いそうになるほど、一寸の変化もない少女を見つめた。 白い頬、皺一つない制服、曇りのない眼鏡、完璧な無表情。 それらのパーツを順々に見つめてから、僕は手を上げ、朗らかに声を掛けた。 「今晩は、宇宙人さん」 不審者と取られかねないくらい陽気に、大きな声で、彼女に笑い掛ける。 彼女の反応は薄かった。 瞳がちらりと僕を見て、細められる。それが彼女のどういう意思表示だったのか、残念ながら僕にはまるで量れなかった。 122 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/03/01(日) 18:10:36.34 ID:Gpkw5in30 「前もあなたとは雨の日にお会いしましたね。これは希少ですよ。何故なら今日は二十三日間、全く雨が降らなかった後の降水日であり、その丁度雨となった日に僕とあなたが二度目の邂逅を果たしたわけですから。 運命的じゃないですか。あなたは僕のことを知らないかもしれませんが僕は知っています。というのは写真越しにという意味なんですけど。ああこれはどうでもいいか。ともかく今日は雨で、あなたは前も今日も外出していた。 ということは僕と同じ嗜好の持ち主ということかはたまた偶然が成せる業なのか雨が僕らを引き合わせたという――」 「………」 宇宙人の娘は、僕を蟻を見るような無感情さで見ている。 僕は肩を落とした。気を張った分、力が抜けた。 何をやってるんだ、僕は。――馬鹿じゃないのか。 124 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/03/01(日) 18:21:18.56 ID:Gpkw5in30 「……すみません、意味の分からないことをグチャグチャと。というか、あなたは何をやってるんですか」 「………」 「買い物ではないですよね。雨宿りですか」 「………」 「誰かを待っている?」 「………」 いずれも沈黙。答えてくれる気はないらしい。 僕は息をついた。 「夏場とはいえ、雨は冷えますから、風邪引かないように。ええと……長門さん」 宇宙人は風邪を引くのだろうか。僕の知識にはない。 この場にいても埒が明きそうにないと判断し、立ち去る際に、僕は思い付きを少女に投げ掛けてみた。 「雨は、好きですか?」 宇宙人の少女からの答えは、やはり得られなかった。 126 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/03/01(日) 18:34:25.02 ID:Gpkw5in30 涼宮ハルヒの精神状態には波が見られ、安定しないまま短い秋を越し……暦は、長い冬に移り変わる。 幼馴染とはあの日以来、疎遠になった。僕も関係の修復を望まずに居て、頻繁に互いの家を行き来していた交流も絶えた。 野球部のレギュラーになるんだと励んでいた、あの笑顔を見られなくなったこと。 神人狩りに借り出されるよりも余程、その事実が僕には痛かったけれど。 元気でやってくれているなら、それでいい。 僕は時折地元の中学に足を伸ばし、グラウンドを遠目に眺め、フェンス越しに少年を見守った。 130 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/03/01(日) 18:47:37.78 ID:Gpkw5in30 機関員としての仕事も疎かには出来なかった。 冷え込みが厳しくなってくるのと比例するように、閉鎖空間の出現が激化した。 神人の数が増すこともあり、夜通しで何とか退治を間に合わせる有様だった。 怪我で出動できない超能力者も居り、僕は彼らの代替に組み込まれ、24時間体制で任務につく。 森さんは僕に一分でも一秒でも休むようにと口を酸っぱくしていたけれど、僕は聞かなかった。 そんな風に休んでいられる状況ではなかったのだ。 「心配のし過ぎですよ、森さん。まだ行けますから」 「馬鹿言ってんじゃないわよ!片足骨折、右肩脱臼で、どうやって闘うって言うの。神人に縊り殺されるのがオチだわ!」 「攻撃形態に移れば怪我はどうってことないですし、今僕が行かないと戦力が足りませんよ」 皆へとへとなんですから。大丈夫、前より避けるの上手くなりましたし。 笑う僕の胸をどついて、森さんが泣いた。 「あんた……ホント、バカだわ……!」 183 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/03/01(日) 21:30:00.46 ID:lJuv6iHh0 負傷したために離脱し、最初の半数となった超能力者での神人狩りは熾烈を極めた。 仲間が吹き飛ばされそうになるのを時に支えてフォローし、瓦礫の合間を潜り抜けて一撃を食らわせる。 神人のゼリー状に輝く腕から逃れ、粉微塵になるまで丸くスライスする要領で胴体を切り裂いていく。 花火が弾けるように、パラパラと音を立てて神人を構成する粒が散っていく。 僕はそれを、夢の雨のようだと思った。 閉鎖空間至上、恐らく処理までに最長の時間。 全力を賭した。 罅割れた世界の美しさに見惚れるうちに空間は崩壊し……命を拾った僕たちは、朝焼けの雨の中を、佇んでいた。 186 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/03/01(日) 21:36:22.89 ID:lJuv6iHh0 『山は越えた』。その報告に皆、雪崩れ落ちた。 涼宮ハルヒの激情は収まりを見せ、暫くは大丈夫だろうと推測された。身も心もズタズタになった超能力者同士で抱擁を交わしあい、よかった、俺たちは生きていると咽び泣いた。 僕は更に左腕を折り、背骨に罅が入り、頬は切り傷だらけになっていたが……ともかく、無事だった。 森さんにはビンタされたが、それさえも大したことではなかった。森さんは今度は、嬉し泣きをしていたから。 ――僕は、多分、閉鎖空間の中で、死んでもいいと思っていた。 それを望む心は、生への渇望と表裏一体だ。使命を果たして死ねるならそれもいいと……。 けれど生還し、光のなか、降り注ぐ雨がたまらなく愛しい。 あのまま死んでいたら、この優しい雨には出遭えなかったのだと思えば、生き延びられたことを深く感謝した。 196 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/03/01(日) 21:59:42.35 ID:lJuv6iHh0 不眠不休だったせいで、家にも暫く帰っていなかった。 比較的軽傷で家族のいる超能力者たちを労う意味で、僕らにも一時的に帰宅許可が下りた。 「機関」も偶には粋な計らいをするものだと、僕は同僚たちと笑いあった。 僕に家族は居ないが、どうせなら病院でなく落ち着いた自分のベッドで眠りたい。 だがそれを要請すると、森さんに大変な剣幕で怒られた。 「入院蹴って自宅静養?あんた舐めてるの?あんた自分の怪我がどんだけ酷いか自覚ある?下手したら死ぬところよ?」 「大丈夫ですよ。暫くの間、涼宮ハルヒの精神は安定することが見込まれてるんでしょう? 一晩自分の家でぐっすり眠ったら、明日にはちゃんと医師の治療を受けて入院しますから」 「……あんたの『大丈夫』は世界一信用できないのよ」 げんなりした調子だった森さんは、けれど、僕一人が病院に縛り付けられるのは哀れだと思ってくれたらしい。 諦めたように笑った。 「本当なら今回も疑うところだけど。しゃーない。今回は特別に許可したげるわ。あんた、よくやったから」 太っ腹ですね、と声を掛けたら腹を蹴られた。 「その代わり、明日は迎え寄越すから、絶対遅れないで病院直行するのよ。いいわね?」 「……はい」 201 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/03/01(日) 22:17:09.20 ID:lJuv6iHh0 ……僕はそこで、森さんと別れた。それが最後だなんて、思いもしなかったけれど。 僕は車で送るという新川さんの申し出を断り、「今日は歩いて帰りたいんです」と手を合わせて見逃してもらった。 僕の雨好きは、機関内では割合知られた話だ。風変わりな奴だと物珍しがられていた。 身体はあちこちガタが来ていたし、包帯だらけ、松葉杖をつかないと満足に歩けないような酷い姿だったけれど。 今は、こんなに綺麗な雨が降っている。 204 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/03/01(日) 22:25:55.54 ID:lJuv6iHh0 寄り道をして帰る余裕はあるだろうか。くたくたの身体は足腰が辛い状況で、引き摺るように歩くのが関の山だった。 出来れば、あの寂れたコンビニに立ち寄りたい。 あの宇宙人の娘がまたいたら、今度は質問の回答を聞きたかった。 『あなたは、雨が好きですか?』 今なら答えてくれるような気がするのは、僕の心が美しい雨に洗われて、清清しくあるからだろうか。 考え事をしながら大通りに出て、――僕は、横断歩道の向こう側に、一人の少年の姿を見た。 208 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/03/01(日) 22:37:55.55 ID:lJuv6iHh0 思考が働かなかった。機関本部からやや離れた位置とはいえ、彼の自宅から近い距離では決してない。 どうしてここにいるのか。 立ち竦んだ僕に相対するように、彼もその表情が驚愕に染まり、目が大きく見開かれる。 全身包帯だらけの僕のこの格好を見れば当然かもしれない。 お互いが顔を合わせるのは、どれだけぶりだったろう……その再会に、相手が信じられないような大怪我をしていたら、僕だって我を失うに違いない。 だが今は、明らかにマズかった。 彼は僕に視線が釘付けになり、一目散に走り出す。僕めがけて、僕の名を呼びながら、顔を悲痛に歪めて。 周りが見えていない。駄目だ。制止の声を上げるが、彼には恐らくそれも聞こえていない。 彼が走り出た道路に、猛スピードの車が走りこんでくるのが視界の端に映った。 212 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/03/01(日) 22:47:02.06 ID:lJuv6iHh0 駄目だ……! 飛び出てしまったことに気付いた幼馴染が、ヘッドライトを目の当たりに、道路の真ん中で硬直する。 その瞬間、僕は走り出していた。 その瞬間、僕の身体は何の制約もなく自由だった。怪我も骨折も腕に固定されたギブスでさえ、僕を阻むものにはならなかった。 手を伸ばし、僕よりも小さなその身体を庇い込む姿勢を取りながら、僕は彼の名を叫んだ。 「―――― 一樹ぃ……っ!!」 216 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/03/01(日) 22:58:59.64 ID:lJuv6iHh0 僕のたった一人の幼馴染は、――古泉一樹は、僕の腕の中で身を固くした。 僕が感じた最後の手の感覚は、彼を抱きしめた、その実感がすべてだった。 その間、一秒もなかっただろう。 僕は車体に壊れた玩具人形のように跳ね飛ばされて、僕の意識はばらばらに千切れ―― ――銀色の雨の視界を最後に、ブラックアウトした。 242 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/03/01(日) 23:43:29.10 ID:lJuv6iHh0 ……… …… 時計の長針が、十五度傾いた。 「……僕の大切なその人は……兄さんは、事故で亡くなりました」 古泉一樹は正座をし、静穏であることを己に課しているようだった。 亡き人を想って。 もしかしたら雨の中で、泣いていたのかもしれない。 「彼は僕の家の隣人でした。彼はさる事情から家族が居なくて、一人暮らしで……。学費が払えないからと高校に進学しなかった為、最終学歴は中卒でした。でも、とても頭のいい人だったんですよ。 僕は小さい頃から、いつも彼が遊び相手でした。僕は一人っ子でしたから、彼は僕にとって気のいい兄貴分だった。いつも丁寧な人で、兄貴という柄ではなかったので、僕は『兄さん』と呼んでいましたけど」 「………」 「彼が超能力者だったことを知ったのは、彼が……僕を庇って車に轢かれて死んだ、その晩でした。 ――僕が、『能力』に目覚めた日のことです」 253 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/03/02(月) 00:02:16.46 ID:oEBiUdv20 古泉一樹はマグカップからスープをもう一口啜り、苦々しく笑った。 「超能力者の数は増減しない。一人が消えたら補充される。兄さんが死んだその代替は、僕に宛がわれたんです。 初めて閉鎖空間を目の当たりにして、僕は恐ろしさのあまり正気を失うかと思いました。引き篭もった僕を、連れ出したのが『機関』……今お世話になっている、森さんたちでした」 「――あなたはそこで、知った」 「……はい。兄さんがずっと世界のために戦っていたこと、そのためにあんなにボロボロになっていたこと……総て教えられました。 でも、僕のせいで、……兄さんは死んでしまった」 ずっと兄さんを尾行していたんです、と古泉一樹は俯き、声を震わせた。 「あんなに怪我をするようなアルバイトをしてるなら、その場所を突き止めて、雇い主に直接文句を言ってやろうと思った。 兄さんは大概車で送迎されていましたから、ナンバーを覚えて、何度も何度も方面をさ迷って……。失敗しても繰り返し、道を歩いてる人に聞き込んで、場所をずっと辿っていた。 それが、たまたまあの日でした。偶然にも、機関本部の方向に行き当たったんです」 だがそれは、古泉一樹にとって最悪の結果を招くことになった。 彼の愛する人は失われ、ごく普通の中学生であった古泉一樹は、超能力者として生きることになった。 「超能力者になったことには、悔いなんてありません。当時の僕にとってそれは、僕が死なせてしまった兄さんのためにできる、唯一の罪滅ぼしだった。 でも、僕には怖いことがまだありました」 261 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/03/02(月) 00:19:15.26 ID:oEBiUdv20 雨が降り続いている。屋外で、雨音以外の総てを掻き乱すように。 古泉一樹は儚く微笑んだ。その笑い方とよく似た姿を、わたしはいつかに、眼にしていた。 「――僕や僕以外の人が、兄さんを忘れてしまうことを、僕は恐れました」 「……なぜ」 「兄さんには家族がいなかったからです。身柄を引き取る人もいなかった。兄さんを語り継ぎ、彼はこんな人だったのだと、思い出にして生きていく人間が居なかったんです。 兄さんとの思い出の写真すら、僕の手元には一枚も残っていなかった。 僕は兄さんを忘れたくなかったし、兄さんを知っている人に彼を……忘れて欲しくなかった。 だから僕は、これまでの古泉一樹を捨てました」 わたしに悲しげに笑む、古泉一樹。 雨音。 ……くるくる舞う、赤い花。 「僕は死んだ兄さんを忘れないために、兄さんのようになろうと思いました。 そうやって、二年間、生きてきた。それなのに……」 272 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/03/02(月) 00:34:14.97 ID:oEBiUdv20 嗚咽が声に微かに混じる。古泉一樹は、膝の上に拳を握った。 「――もういい、って。そう、森さんが言うんです」 森園生。わたしにも面識がある、「機関」所属の古泉一樹の上司。 「兄さん」と同年代であったという、その女性。 「もういい、あんたは十分兄さんの役割を果たしてきた、だからもう兄さんの代わりにならなくてもいいって。 また、元の『古泉一樹』になって生きればいいって……!」 震える手でカップをテーブルに置き、古泉一樹はそのまま涙の浮かべた眼を隠すように、掌で覆った。 「そんなことをしたら、兄さんが本当に死んでしまう……。それでも、森さんはそうしろって言うんです! そうでなきゃ、あんたを守ったあいつが浮かばれないって。 僕は……どうしたらいいのか、もう、何も、わからないんです……」 282 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/03/02(月) 00:45:54.29 ID:oEBiUdv20 古泉一樹が雨に打たれながら、傘も差さず、弱り切っていた理由。 ……わたしは、漸く理解した。 今の「古泉一樹」は、古泉一樹の敬愛した兄と、古泉一樹自身を元に形作られていた。 その哀悼の日に、古泉一樹は半身を失った。森園生の、恐らくは古泉一樹を案じるが故の労わりの言葉によって。 その仮面自体が己の存在価値と定義付けていた古泉一樹は、仮面をなくしてしまえばいいのだと言われ、もがき苦しんでいる……。 289 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/03/02(月) 00:58:58.74 ID:oEBiUdv20 わたしは人のように感情の機微に長けているわけではない。 だから、その悲しみの幾らかを古泉一樹の内面から汲み取り、把握することはできないけれど。 ――わたしにしかできないことも、確かに、この世界には存在している。 「……わたしに、あなたの苦しみを解することはできない。だが……」 あの日あの瞬間。 光に満ちた雨の日。 『一つ頼んでもいいですか?』 わたしは、かつてのあの青年の微笑を、声色を記憶にある通りに、トレースした。 「あなたに伝えることならできる」 294 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/03/02(月) 01:09:05.52 ID:oEBiUdv20 ……… …… 水に濡れていた。頬を、髪を、流れていく水が気持ちいい。 雨が降っているというのに――なんて、明るい空なのだろう? 僕はふと眼を開けた。ぽっかりと広がる白い空から、降り注ぐ銀色の雨……。 閉鎖空間が崩壊する寸前の、眩い光の色に似ている。 僕は仰向けになっていたが、両足も両腕も全く感覚がなかった。雨が降っている筈なのに、その物音すらしない。 そろりと視線を動かし、血が溢れてやまない腹部を確かめた。 ……ああ、これは多分、助からないな。 痛みがないのも、そういうことなのだろう。 身動きが取れないので状況が分からなかったけれど、路上なのは間違いない。 彼は―― 一樹は、どうなった? せめて無事かどうかだけでも知りたかったのだけれど、身体は麻痺したように繋がりが感じられず、瞼は徐々に重くなっていく。 303 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/03/02(月) 01:21:28.05 ID:oEBiUdv20 眠気を気力のみで追い払おうとする間に、僕は、その無感動な瞳に出会った。 ―――三度目の邂逅。 口元が自然と綻んだ。 「今日は、コンビニ前じゃないんですね……長門さん。出張、サービスでしょうか」 「………」 「僕今、動けないので。いつ、き……僕よりも若い、少年……その辺りに、いませんか」 「………」 「無事、ですか?」 「………」 車との接触の際に、何かが焼ききれてしまったのか。自分の声もぼやけたようで判然としないが、ともかく、覚えている唇の動きだけで意見交換を試みる。 宇宙人の少女は僕を覗き込み、『無事ですか』の言葉に、微かに首を上下に揺らした。 僕はそれで、……それだけで、心底、救われた。 307 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/03/02(月) 01:28:42.41 ID:oEBiUdv20 古泉一樹のことを、僕は彼が生まれた頃から知っている。 両親がまだ存命だった頃。ふやけたスポンジのような肌をした、泣き虫な赤ん坊の重たさを噛み締めた。 ハイハイをしているところから、僕の後ろをついてまわっていた。 タッチが出来るようになって、一緒にサッカーをしたり、キャッチボールをやった。三輪車から二輪車に乗り換えるとき、後ろを支えたこともある。 僕が図書館に行くと、字もろくに読めない内からついてきて、絵本を開いて散らかして。片付けるのはいつも僕の役目だった。 喧嘩もしたけれど、あの子の無邪気さが、聡明さが、両親の死後も僕を生かし続けた。 「よかった……」 目が急激に熱くなり、涙が溢れた。 一樹。よかった、君が無事で居てくれて。 311 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/03/02(月) 01:39:27.36 ID:oEBiUdv20 僕はもう助からないだろうけれど、君にはどうか幸せに生きて欲しい。 ああでも、僕が彼を庇って死んだことを、一樹は負い目に感じるかもしれない。 彼は優しい子だから、自分のせいだと自身を責め続けるに違いない。 誤解も、結局解けないままだった。 僕は彼を悩み苦しませたいわけじゃない。 もう少しだけ。終わる前に言葉を、一樹に伝えることができたら……。 宇宙人の少女が、瞬き少なく、僕を見下ろしている。 静謐な顔には何も浮かんでは居ないけれど。 僕は一縷の望みをかけて、その物静かな宇宙人に告げた。 「一つ頼んでもいいですか?」 メッセージを、彼に。 315 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/03/02(月) 01:50:44.97 ID:oEBiUdv20 ちゃんと思った通りの言葉を話せたかどうか、自信はなかった。 けれど僕は、雨の日に決まって遭遇する不思議な宇宙人のことを、心から信じる気になっていた。 きっと彼女なら、僕の条件通りに、一樹に伝えてくれるだろう……。 強烈な眠気が押し寄せてきて、僕は瞼を開けていられなくなった。 長門さん、有難う。 森さん、ごめんなさい。 一樹、 「雨が……止まなければ、いいのに……」 雨に打たれて赤い花が散っていく、水が路面に張り巡らされ光輝く、空に散らされた水滴が虹を生む。 僕は雨の中、ひっそりと笑った。 335 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/03/02(月) 02:28:59.20 ID:oEBiUdv20 ……… …… 時計の長針が、二十度傾いた。 ……わたしが、彼から与えられた全てを伝え終えた後。 古泉一樹は放心していた。 後から後から溢れていく涙が、頬を伝う。聞き逃すまいとした言葉たちを、反芻しているのだろうか。 わたしはこのメッセージをいつ受け取ったのかを、彼に語らなかった。 『一樹が、もし、僕のことで悩んでいるようだったら……そのときに』 その条件付は、当時のわたしには判断の厳しい内容だった。「実行できる」と判断したのは、わたしが仲間……涼宮ハルヒ、「彼」、朝比奈みくる、古泉一樹らといった友人たちとの経験を得ていたからに他ならない。 人の心。古泉一樹を愛した者たちの心。 今このときに伝えることが正しかったのか。指針の媒体を感情に委ねるということの難しさは、未だに付き纏うけれど。 342 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/03/02(月) 02:37:47.76 ID:oEBiUdv20 「有難う、ございます……長門さん」 仮面を外して。 今この時に顔をくしゃくしゃに歪めて泣く、古泉一樹。 「兄さんの気持ちは、……よく、わかりまし……たから…っ…!」 堪え切れない大粒の涙を、ぼろぼろと溢れさせて、体裁も繕わずにただ子供のように泣く。 わたしは彼の肩を抱いた。 古泉一樹は、わたしの肩に額を押し当て、泣きじゃくりながら繰り返した。 ごめんなさい兄さん、 ごめんなさい兄さん、 ごめんなさい、 ごめんなさい…… 354 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/03/02(月) 02:47:38.70 ID:oEBiUdv20 君が君を許せないとしたら、僕は、どうすればいいでしょうか。 一樹、人一倍優しい君の笑顔は、僕を幸せにしてくれました。 君は僕にとって、弟みたいなものです。血の繋がりがない間柄で、こんな事を言うのはどうかなとも思うんですけどね。 君が僕を「兄さん」と呼んでくれたから。 僕は君の兄らしくあろうと、生きていくことができました。 一樹、君は僕が君を「僕の自慢の弟」と誇ることを、許してくれるでしょうか。 もし許して貰えるなら、僕は君の兄として、君が何の瑕疵に苛まれることもなく幸福に生きてくれることを望みます。 君が「兄」と慕う僕の幸せを願ってくれているように。 人は……家族が悲しみに暮れている姿なんて、見たくないものなんですよ。 357 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/03/02(月) 02:53:17.47 ID:oEBiUdv20 わたしは瞼を閉じた。 胸のうちに、伝えたメッセージと同じく、彼の一瞬の心までもが残留しているような気がした。 だから、こんなにも暖かく、寂しいのではないだろうかと。 雨の音色と共に、古泉一樹の泣き声を聞きながら、わたしは黙祷する。 赤い花に彩られて、雨に眠ることを選んだ人。 ―――おやすみなさい、いい夢を。 363 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/03/02(月) 02:59:06.17 ID:oEBiUdv20 …… ……… ………… 灰色の、宙と大地の際に僕は立つ。 光が見える。 青く燃え立つ、神々しくその偉容を僕らに見せ付ける、涼宮ハルヒの使徒であり分身とも呼べるそれ。踊るように腕を振り抜き、建物を貫き、創造主は被造物を破壊する。 神の人は美しい。 僕はこの閉鎖空間に侵入するとき、いつも一人の肉親を思う。あの人の墓標に来た、ここが彼の眠る場所だとさえ思う。それは錯覚だろう、誰に言われるまでもなく分かっているのだけれど。 この閉鎖された世界が、僕には悲しく愛しい。 彼が骨を埋めた、この冷たい空の下。彼は雨を愛していたから、出来れば雨が降っている日に。 閉鎖空間が解けて、銀色の雨が降り注ぐなかに、彼の笑顔を思い出すことが叶うなら。 365 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/03/02(月) 03:09:30.63 ID:oEBiUdv20 僕はそっと、彼女と手を繋いだ。 雨は柔らかく、大地を潤すために降り注ぐ。 「雨が、止まなければいい」 どうぞ、雨を愛した人のために。 今は。今だけは―――あの人のために雨よ降れ。 終わり 372 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/03/02(月) 03:12:42.28 ID:oEBiUdv20 遅くなってすみませんでした。支援&保守ありがとうございました。 オリキャラメイン過ぎるのでもっと最初に注意書きをしておくべきでした。 ご不快になった方が居られましたらすみません。 近頃のシリアス系古泉SSの作者様方に敬意を込めて。